新型コロナウイルス(COVID-19)をきっかけに自宅で過ごす時間が増えたことで、食事の仕方や内容に注目が集まっている。料理をするのが好きな人であっても、特に忙しい人や料理が得意でない人にとってはなおのこと、美味しいもの、栄養のあるもの、新しいものをいつでも食べられるように工夫するのは難しいだろう。そうした状況に機運を得て事業が好転したスタートアップの1社が2021年2月初旬、事業拡大のための資金調達ラウンドを発表した。
スマートオーブンと食事キットサービスを提供するTovalaがシリーズCラウンドで3000万ドル(約31億円)を調達した。シカゴに拠点を置く同スタートアップの共同創設者でCEOのDavid Rabie(デビッド・ラビー)氏はTechCrunchに対し、今回の資金の大部分は米国西部への生鮮食品の流通を支援する第2の施設を開設するために使われる予定であり、それはおそらくユタ州になるだろうと語った。その他の投資用途には、顧客サービスの改善や人材の獲得などが含まれる。
さらに将来的には調理済みの料理やレシピの選択肢も徐々に増やしていく予定だ。ラビー氏によると、Tovalaオーブンでの調理を目的とした料理づくりのサービスを、一流のレストランやシェフと提携して準備しているという。
「このオーブンがあれば、レストランに近い体験ができると思います」とラビー氏は説明する。「温め直すだけのものではなく、下ごしらえされた食材の提供により、地域のレストランへのリーチを開拓できると考えています」。
資金調達はLeft Lane Capitalが主導しFinistere Ventures、Comcast Ventures、OurCrowd、Origin Ventures、Pritzker Group Venture Capital、およびJoe Mansueto(ジョー・マンスート)氏も参加している。すべてこれまでの支援者だ。
Y Combinator出身のTovalaは、食肉加工大手Tyson(タイソン)をはじめとする興味深い投資家を惹きつけてきた。注目すべきは、2020年6月のシリーズBラウンドで2000万ドル(約21億円)を調達して以来、半年で2回目の資金調達ラウンドとなることだ。
前回のラウンドと同様、評価額は公表されていない。しかし、同社が相当数の実績を上げていることは今回の資金調達で証明されており、同社の価値がいかに上昇傾向にあるかを示している。
過去18カ月の年間収益は10倍に増加し(新型コロナ以前の増加を含む)、従業員数は40%増加、出荷量は300万食を超えている。同社によると、オーブンは毎月平均32回所有者によって使用されている(デバイスが接続されているため追跡可能)。
しかしラビー氏によると、総ユーザー数はまだ明らかにされていないという。
Tovalaのオーブンは299ドル(約3万1200円)で販売されているが、購入後半年の間に11.99ドル(約1250円)の食事(1食につき1人分)を6回注文することを約束すると、通常100ドル(約1万500円)安くなる。Tovalaは現在、そうした食事の義務なしに最大で130ドル(約1万3600円)の割引を提供しており—レストランが休業して家で過ごす時間が増えたことで、食事を考え直す人達の波に乗ろうとしているのかもしれない—オーブンの価格は約170ドル(約1万7800円)程度に下がっているようだ。
オーブンに入れ、付属のつけ合せを添えるだけで完成する同社独自の既製トレイの食事に加え、Tovalaのオーブンを使用して店で売られている何百もの既製食品もパッケージのバーコードをスキャンして仕上げることができる。Tovalaのアプリを使って自分でプログラムして調理したり、それとは別にトースト、スチーム、ベイク、ブロイルなど、通常のオーブンと同じようにTovalaのオーブンを使用したりすることも可能だ。
指1本でタップするだけで食べ物を注文することができるキット食品や宅配食品の数々は、多くの人々の家庭での食事に対する考え方に変化をもたらした。
どれも手軽に食べられるように作られている。しかしTovalaは、より幅広い選択肢の中で特定のニッチをカバーできることを期待して事業を拡大してきた。自宅で調理した新鮮な料理を食べたいが、料理キット会社によってあらかじめ加工された材料があったとしても、そうした料理を準備する時間も関心もない人たちである。
しかしそれはビジネスの一側面にすぎない。Tovalaのオーブンは同社が構築したバーティカルインテグレーションの中心的な部分であり、ハードウェアは売れにくいと言われている中でも依然として事業提案の一部として残していくとラビー氏はいう。
「私たちは高品質の食事を人々に届けるビジネスを進めています。オーブンはそれを実現するための重要な手段です」と同氏は続ける。「私たちはテクノロジーと食品に携わる会社であり、オーブンビジネスから離れることはありません」。
一方で、同社はオーブンを製造する他社との提携も拡大している。
たとえばTovalaはLGと契約を結び、自社のソフトウェアをLG製オーブンに組み込んで、アプリとバーコードスキャンシステムでプログラムできる料理やTovalaの食事キットを作れるようにしている。ラビー氏は、Tovalaのソフトウェアを動かすフルサイズのLG製オーブンは「私たちが参入するような製品ラインではない」ためこの取引は理に適っていると語っている。
LGは出資者ではないとされており、これらの新デバイスがいつ発売されるのかも不透明だ。なお両者の提携は2019年に発表されている。
とはいえ、この提携はインターネットに接続された機器やその周辺のサービスを構築しているハードウェア企業が、次の段階に向けて既存企業とより緊密に連携するというケースの良い例である。
競合となり得る企業を買収するケースは他にもある。BBQ製品大手のWeber(ウェーバー)は2021年1月、以前に投資していたスマートオーブンのスタートアップJuneを買収した。そして2017年にはElectrolux(エレクトロラックス)が真空調理家電のスタートアップAnova(アノーバ)を2億5000万ドル(約260億円)で買収している。
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この種のエグジットはTovalaのメニューにあるかもしれないし、ないかもしれないが、将来的に前菜からメインコースに移行するための選択肢であることは否めない。
今のところ同社は、独立性を維持して成長するという方針だ。ラビー氏によると、Left Laneが興味を示した背景には「家庭でスマート食品を作る」というPeloton(ペロトン)のようなカテゴリー定義の役割をTovalaが担っており、人々の日常の習慣や日課の一部になり得るという考えがあったという。
「Tovalaは、食事のサブスクリプションと接続されたデバイスを組み合わせることで、食品デリバリー業界で見られる他のどの製品よりも高い顧客定着率を達成しており、これまで定着率が低かったフィットネス業界でPelotonが達成してきたことと多くの点で類似しています」とLeft Lane Capitalの共同創設者でマネージングパートナーのJason Fiedler(ジェイソン・フィードラー)氏は声明で述べた。「私たちのチームはカテゴリーを定義する消費者サブスクリプション事業への投資における実績を有しており、Tovalaが次なる大手食品テック企業になる可能性に期待しています」。フィードラー氏は今回のラウンドで取締役会に加わる予定だ。
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)