昨今、グローバルな配送インフラストラクチャに関して、その重要性と各種制約がかつてないほど顕在化している。Amazon(アマゾン)などの企業がドローンを使ってラストマイル配送のスピードアップを図る一方で、Dash Systems(ダッシュシステムズ)はミドルマイル(中間物流)の高速化を狙っている。元は軍の技術である空中投下により、パレット梱包された状態の小荷物を目的地の一歩手前の特定の地点まで運んでしまおうというのだ。この方法なら、アクセスが大変難しい地域への配送も可能となる。
一般に、航空機を使った輸送は4つのステップから成る。まず、配送品が倉庫から空港に運ばれる。次に、大型貨物機に搭載されて、主要ハブ都市に輸送される。ニューヨークからロサンジェルスにといった具合だ。3つ目に、トラックや小型飛行機で配送エリアの仕分け所/配送センターまで運ぶ。最後に、お馴染みの配送トラックで配達先に届けられる。
ダッシュシステムズの創業者兼CEOであるJoel Ifill(ジョエル・イフィル)氏が改善の余地があると感じたのは、この3つ目のステップだ。自身もエンジニアで、軍の誘導爆弾を開発した経験を持つ同氏は、軍の2地点間輸送アプローチから民間業務に生かせる点があるのではないかと考えた。そもそも着陸する必要などあるのか、というのが同氏の発想だ。
「世界中どこでも、翌日配送できるはずです」とイフィル氏は語った。続けて、「”どこでも”には、例えばアラスカ半島の先端も含まれます。航空機をすでに利用しているのに、へき地へのアクセスのために10億ドル(約1034億8700万円)の空港を建設する必要があるのでしょうか?」と問う。
同氏は、軍方式の輸送は必ずしも精度が高くない(スマート爆弾ではなく、空中投下の場合)ことが問題であると指摘し、「ノルマンディー上陸ならそれで十分ですが、郵便局の駐車場に落下させる場合には、話は別です。それで、精度が高くかつ商業ベースで有用なソリューションを考案しようということになりました」。
彼らが思いついた方法は、複数の荷物をスカイダイビングさせると考えれば分かりやすい。これなら1回のフライトで複数の目的地に投下できる。「この荷物をポッドと呼んでいます。ポッドには操縦翼面と尾翼キットが取り付けられていて、速度を落として着陸することができます。どの航空機でも機体後部に積載すれば利用できる、ターンキーソリューションなんです」とイフィル氏は説明する。
現時点でポッド1個あたりの規定積載重量は約22キログラムと、航空貨物としては少なめの容量だが、ポッドの個数については、もちろん何個でも航空機に積み込むことができる。
とはいえ、ポッドは同社が編み出した輸送方式を構成する要素の一部にすぎない。ダッシュシステムズでは、飛行経路の指示を含む、飛行全体の管理を手がけている。つまり、パイロットに正確な目的地を指示するということだ。特別なトレーニングを不要にするため、できるだけ簡単な仕組みになるよう注力したので、パイロットに求められているのは、システムに入力された座標に到達することだけである。また、着陸する必要がないため、1回のフライトで広範囲の飛行が可能だ。同社のシステムが最適な経路を計算し、あとは指定された地点で投下されたポッドが自力で目的地に到達することになる。
この方式により、今までは時間がかかる陸路輸送車両か、高価で燃料喰いの航空機を使うしかなかった中間物流が簡素化されるものと期待される。筆者は、この方式は少しコストがかさむのではと思ったのだが、イフィル氏とBryan Miller(ブライアン・ミラー)氏もその点は十分に理解していた。ミラー氏はダッシュシステムズのCOO兼チーフパイロットで、空軍での軍事オペレーションとエンジニアリングの経験もある。
「航空貨物は、直感的に理解しにくい分野です」とイフィル氏は認める。「貨物重量は全体のわずか0.5パーセントにも満たないんですが、輸送収益では全体の3分の1を占めます。航空貨物が提案する最大の価値は、効率性ではなくスピードなんです。貨物用航空機の平均稼働率は50%にも満たない状況です」。
画像クレジット:Dash Systems
ミラー氏は、アラスカのへき地コミュニティへの配送の難しさと遅さについて指摘した上で、「へき地への輸送市場には簡単に参入できると思います」と述べた。確かに、配送品をアンカレッジ空港から未開墾地にある小さな郵便局に運搬するのは難題である。しかし、アンカレジから航空機を飛ばして、5つの小さな空港やヘリポートにパレット梱包された荷物を投下できたら、通常であれば、たとえ道路が閉鎖されていなくても何十時間もの陸路輸送が必要になるところが、1回のフライトで済んでしまうことになる。それに、これは通常の航空輸送に比べても安全で安い。というのは、アラスカでは霧、凍結、ヘラジカ、風など、さまざまな要因で航空機の離着陸が阻害される可能性があるが、この方式なら空港での離着陸が不要になるからだ。
ミラー氏によれば、米国本土48州にもアマゾンの翌々日配送が不可能な地域はたくさんあるという。それには、上記の4つのステップを実施するためのインフラが整備されてない地域などが含まれる。しかし、もしアマゾンプライムの荷物が貨物便に積まれて、サンフランシスコ国際空港を飛び立ち(こうした貨物便は通常、最大積載量の半分ほどで運航している)、ペタルマ空港までの空路の途中でFedEx(フェデックス)の配送センターの屋上に投下されるとすれば、配送品に関係する全員がお金と時間を節約できるのだ。
商業ベースの契約はすべて順調に進んでいるものの、イフィル氏によれば、この構想が実際に始動したのはハリケーン・マリアがプエルトリコを襲った後だという。ハリケーンで通信インフラが損壊したため、人々に物資が何も届かない状態が約2週間続いた。「何が必要なのか、衛星電話で市長に聞かないといけなかったんです」と同氏は振り返る。しかし、輸送自体はサン・ファン空港から45分程度のフライトで済むものだった。商業ベースの物資の空中投下が既存のシステムに組み込まれていたなら、もっと簡単に救援物資を届けることができただろう。
こうした経緯もあって、ダッシュシステムズは、災害によって一時的に孤立した地域への物資輸送に参入する可能性を引き続き探っていく考えだ。しかし、同社のビジネスを成功させるための中核となるのは、あくまで既存の仕組みを拡張して、遠隔地への配送の簡素化を図る事業である。この点、イフィル氏はフェデックスやUPS(ユーピーエス)などの大手との競合が問題だとは考えていないようだった。
「新しい輸送ルートが開拓されたために、既存のルートが廃止されたことなどありません」と同氏は述べた。この考え方で、おそらくダッシュシステムズは業績を大きく伸ばしていくだろう。イフィル氏は、「当社が対抗しているのは、業界の現状なんです。重力や空中投下に関する特許は取得していませんが、私の知る限り、当社は最先端を走っています」と添えた。
「自社で航空機を所有するつもりはありません。既存の航空会社との協力体制を築きたいと思っています」とミラー氏は述べる。
意外だが、同社の輸送方式で規制関連の障害は少ない。重たい荷物を居住地の近くに空中投下するのだから、認可を取得するのはさぞ大変だろうと思いがちだが、実際にはすべて既存の規制の範囲内に収まっている。重要な点として、ポッドはドローンとはみなされない。そのため、ドローンに必要な登録手続きは不要となる。なお、ダッシュシステムズは、今までのところ、アラスカの試験フライトで約2200キログラムの貨物を投下している。
ダッシュシステムズの800万ドル(約8億2860万円)のシードラウンドは8VCがリードし、Tusk Venture Partners(タスクベンチャーパートナーズ)、Loup Ventures(ループベンチャーズ)、Trust Ventures(トラストベンチャーズ)、Perot Jain(ペロットジェイン)、MiLA Capital(MiLAキャピタル)の各社が参加した。イフィル氏は、調達した資金でチームを拡張し、事業展開とポッドの技術開発をさらに進めることができると述べた。ポッドは現状でも機能を果たしているが、まだ技術の完成には程遠い。ダッシュシステムズはすでに、最初の顧客となる民間および政府機関との契約を幾つか検討中だ。軍では何年も活用されてきた技術とはいえ、同社の編み出した輸送方式が遠隔の拠点や施設で有用性の高いツールとなることは想像に難くない。
ダッシュシステムズについて詳しくは、以下の動画をご覧いただきたい。
Dash Mission Video from Dash Systems on Vimeo.
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(翻訳:Dragonfly)