スペイン政府は現地時間3月11日、デリバリープラットフォームの配達員を従業員とする労働改革をめぐり、労働組合ならびに業界団体と合意に達したと明らかにした。
法案が可決されればDeliveroo、Glovo、UberEatsなどスペインマーケットで事業を展開しているプラットフォームに大きな影響が及ぶ可能性がある。
「労働社会経済省、労働組合のCCOOとUGT、業界団体CEOEとCEPYMEはデジタルプラットフォームを通じて消費財や商品の配達、流通を専門的に行っている労働者の雇用形態を確立することで合意しました」と労働社会経済省は声明で述べた。
「最高裁判所の裁定に沿って、合意はデジタル配達プラットフォームを通じてサービスを提供している労働者の雇用の推定を認めます」と付け加えた。
「雇用の推定は、サービスや労働条件のアルゴリズミックマネジメントでこの仕事を管理している企業を通じて有料の配達サービスを提供する労働者に認められます」。
厳密にどのように労働法を変更するか何カ月も交渉してきたが、労働改革での合意は政府がいま立法のプロセスを前に進められることを意味する。
欧州連合もより広範なギグワーカーの待遇を改善するか検討中であり、スペインでの合意のタイミングは特に興味深い。他のEU諸国に先駆けて、ギグワーカーの一部を従業員と認めるスペインの法制化計画はより広い地域政策の形成に影響を及ぼすかもしれない。
デジタル事業の成長のサポートを目的としたスペインにおける広範な改革は、政府が近代化への動きで誰も取り残されるべきではないと述べたために社会をかなり巻き込んだ。
労働改革の合意は、配達員の分類をめぐって近年スペインで展開された数多くの訴訟に続くものだ。裁判所によって訴訟の結果は異なっていたが、2020年最高裁判所が配達員の雇用分類に関する裁判で、スペイン発の配達プラットフォームGlovoの訴えを却下してこの問題に終止符を打ち、欧州の最高司法府への諮問も却下した。
スペインの配達プラットフォームは、計画されている改革が何千人という配達員の収入源喪失という結果を引き起こしかねないと主張した。
スペインでは最大3万人が配達プラットフォームでサービスを提供していると報道されている。
自営労働者によって提供されている労働に頼っているより確立された産業よりも、プラットフォームは政治的に簡単なターゲットとして不公平に標的にされているという非難もあった。
しかしながら配達スタートアップは、配達人を雇うための法的要件が自分たちのビジネスモデルにとって意味すること、あるいは(継続中の)収益性の追求についてあまり主張してこなかった。
スペインの労働改革合意のニュースについて、ギグプラットフォームビジネスモデルに対し長らく批判的だったMangrove Capital PartnersのCEOであるMark Tluszcz(マーク・トルシュチ)氏はTechCrunchに次のように述べた。「我々はギグプラットフォームが各国の法律による大きな構造改革を経なければならないだろうという考えを示してきました。ギグワーカーが従業員とみなされなければ、十分な権利や社会保障を持たない労働者のサブクラスをつくるリスクがあります。パンデミックは明らかに全労働者が保護されていることを確かなものにする必要性を示し、ギグプラットフォームが反対のことを主張するのはますます難しくなっています」
アルゴリズミック管理に要注目
今日発表された改革の合意の興味深い追加構成要素の中で、今後の法制化では労働者を管理するのに使われているアルゴリズムやAIシステムの基準について労働者の法定代理人が通知される必要があると政府は述べた。これは労働条件に影響を及ぼすかもしれない。
ここには雇用へのアクセスに関連している、そして労働者の成績やプロフィールをモニターしている評価制度のためのアルゴリズミックシステムが含まれる、と声明は明確に述べている。
この要素は欧州における最近の数多くの訴訟から刺激を得ているようだ。これらの訴訟は配車プラットフォームのアルゴリズミック管理と、プラットフォームが持っているデータへのドライバーのアクセスにフォーカスしていた。
英国でUberの雇用分類についての訴訟で勝訴した元UberドライバーのJames Farrer(ジェームス・ファラー)氏は、団体交渉のためにドライバーのデータトラストを確立する目的で非営利団体を立ち上げた。英国の最高裁判所はこのほどドライバーは従業員だと裁定した。同氏はまた直近のアルゴリズムとデータアクセスに関する訴訟にも加わっている。
スペインの労組は、プラットフォームと労働者の間にある力の不均衡に取り組むためのツールとして配達人を管理するのに使われているアルゴリズミックルールへのアクセスを要求することで似たような動きを取るようだ。
Uberの広報担当は、スペイン政府の発表に対し次のような声明を出した。
過去数週間、スペイン中の何千人という配達人が、彼らが最も価値を置いている独立性を奪うかもしれないこの提案された規制に反対するために団結してきました。Uberは労働者のフレキシビリティとコントロールを守りつつ、仕事の基準の向上と独立労働者へのより多くの便益提供に完全にコミットしています。当社は独立した労働をなくすのではなく改善するためにスペインの関係団体と協業したいと考えています。
DeliverooもまたTechCunchに次のような声明を送ってきた。
この提案はフレキシブルな業務に価値を置いている配達人、配達サービスの恩恵を受けているレストラン、オンデマンド配達を評価している顧客の利益に反しています。自営業者のままでいたいと抗議活動を行った何千人もの配達人の声は無視されました。
配達プラットフォームは、配達人が追加のセキュリティを持ちつつフレキシブルに働けるようにするために建設的な提案をし、強制的な再分類は配達人の仕事減につながり、レストラン業界にダメージを与え、プラットフォームの運営エリアを制限すると警告してきました。残念ながらこうしたメッセージもまた見落とされてきました。
何も確定していません。我々は引き続き、配達人が求めているフレキシビリティとセキュリティを政府が提供すべきだと主張します。前進する別の方法を模索するために今後もスペイン政府に働きかけます。我々は、配達人に耳を傾けてすぐに再考するよう政府に促しています。
Glovoの共同創業者Sacha Michaud(サシャ・ミショー)氏は以下の声明を出した。
労働省の姿勢はかなり過激で、同様の問題を解決するためにイタリアやフランスのような他のEU諸国が取っている動きと一致しません。
今日、政府は小売業者向けの財政援助11Bについて議論しています。にもかかわらず史上最も困難な経済混乱期の1つであるいま、その同じ小売業者にとって生命維持システムとして機能してきたサービスにさらなる障壁を設け、新たな難題を作っています。法案の通過は配達プラットフォームの運営にマイナスに影響します。
2020年、配達プラットフォームは新型コロナウイルスによってもたらされた多種多様な困難に対応する必要不可欠なサービスでした。そしてパンデミックはすぐに過去のものになるという兆しはありません。当社のパートナーの90%はローカルの独立したレストランや店舗ですが、彼らは生き延びるために当社のもののようなプラットフォームに頼ってきました。
規制は必要ですが、プラットフォームと労働者の両側の意見を考慮する必要があり、いずれもソリューションの一部になるようにアプローチされていません。
ギグワーク改善に関するEUの協議プロセスを前に、Uberはこのところ欧州のプラットフォーム労働者のために規制緩和を求めてロビー活動してきた。汎EUフレームワークの可能性を、現代の労働パターンと調和させるために地域の雇用規則を作り直す機会としてとらえている。しかしこの動きはEUの基準を下げようとしているという批判につながっている。
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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi)