オーロラ観測ロケット「LAMP」が高速に明滅する「脈動オーロラ」に突入、電子・光・磁場の詳細な観測に成功

2022年3月4日(現地時間)、打ち上げ場所のアラスカ州・ポーカーフラットで観測された脈動オーロラ

2022年3月4日(現地時間)、打ち上げ場所のアラスカ州・ポーカーフラットで観測された脈動オーロラ

名古屋大学は3月29日、名古屋大学宇宙地球環境研究所をはじめとする研究グループが、アメリカのアラスカ州よりNASAのオーロラ観測ロケット「LAMP」を明滅するオーロラに向けて打ち上げ、オーロラの中の電子、光、磁場の詳細な観測に3月5日(現地時間)に成功したと発表した。

これは、名古屋大学(三好由純教授、能勢正仁准教授)、宇宙航空研究開発機構(JAXA。浅村和史准教授)、東北大学(坂野井健准教授)、東京大学電気通信大学(細川敬祐教授)、九州大学からなる共同研究によるもの。ロケット実験にはこの他に、NASA、ニューハンプシャー大学、ドートマス大学、アイオワ大学の研究者も参加している。

オーロラは、宇宙から降り込んだ電子が地球の超高層大気と衝突して発光する現象だが、その中に、高速に明滅する「脈動オーロラ」というものがある。近年では日本の人工衛星「れいめい」「あらせ」による観測などで脈動オーロラの研究が進んでいるが、その発光層の広がりや、明滅と電子との関係、脈動オーロラにともなって降ってくる電子の上限エネルギーについては解明されていない。

脈動オーロラといっしょに降り込むキラー電子の想像図

脈動オーロラといっしょに降り込むキラー電子の想像図

研究グループは2020年、脈動オーロラが起きているときは「キラー電子」と呼ばれる数百キロ電子ボルトの超高エネルギー電子が降り注ぐ現象(マイクロバースト)も同時に起きているという仮説を示したが、脈動オーロラとキラー電子を同時に観測した例はなかった。そこで研究グループは、アメリカの研究者とともに「LAMP」(Loss through Aurora Microburst Pulsation)計画をNASAに提案。採択されると、日米の研究機関でロケットに搭載する観測装置の開発を行った。日本側は、名古屋大学が磁力計、東北大学が光学観測系、JAXAが電子観測系を担当した。

ロケットに搭載されたオーロラカメラ

ロケットに搭載されたオーロラカメラ

2022年2月24日、アラスカ州ポーカーフラットリサーチレンジの射場にロケットをセットし、同時に、アラスカ北方のベネタイとフォートユーコンにもオーロラ高速撮像用のカメラ群を展開すると、脈動オーロラの出現を待った。そして待機すること10日目の3月5日、大きなオーロラ爆発が起こり、それに続いて脈動オーロラが発生すると、ロケットが打ち上げられた。LAMPロケットは脈動オーロラに突入。すべての機器が順調に作動し、「理想的な状態」で観測が行われ、観測データの取得が確認された。今後の詳細な解析により、脈動オーロラの変調機構、キラー電子との関係が明らかになることが期待されている。

現在研究グループは、スウェーデンの次世代型三次元大型大気レーダー「EISCAT-3D」が2023年に稼働を開始するのに合わせて、その視野内に観測ロケットを打ち上げる「LAMP-2」の検討を進めている。


画像クレジット:©脈動オーロラプロジェクト

SpaceXが有人宇宙船「Crew Dragon」の新規製造を終了、今後は製造済み機体の再利用に注力

SpaceX(スペースX)は、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を送迎する宇宙船「Crew Dragon(クルー・ドラゴン)」の新規製造を終了し、代わりにすでに製造済みの4機を再利用することに注力すると、Reuters(ロイター)が米国時間3月28日に報じた

SpaceXでは、改修用にCrew Dragonのコンポーネントの製造を継続する予定であり、必要があればこの宇宙飛行士カプセルをさらに製造することも可能であると、SpaceXのGwynne Shotwell(グウィン・ショットウェル)社長は、ロイターに語った。

Crew DragonはSpaceX初の有人宇宙船で、ISSへの物資輸送サービスに使用されているDragon(ドラゴン)貨物カプセルの設計を流用している。Crew Dragonは2020年のデビュー以来、5つのミッションで人間を宇宙に連れて行った。その中には、億万長者のJared Isaacman(ジャレッド・アイザックマン)氏が出資した初の民間人のみによる有人飛行ミッション「Inspiration4(インスピレーション4)」も含まれる。

また、Crew Dragonは、NASAがISSとの間で宇宙飛行士を往復させるために使用する唯一の再利用可能な乗り物でもある。SpaceXは2014年に同機関と「Commercial Crew Transportation Capability(CCtCap、商業乗員輸送能力)」契約を締結し、6つのミッションを受注していたが、2022年2月にはNASAがSpaceXにCrew Dragonを使う3つのミッションを追加発注している。SpaceXは合計9回のミッションで総額約35億ドル(約4300億円)を手にすることになる。

現在、ISSへの有人宇宙飛行はSpaceXの独占状態にある。Boeing(ボーイング)もNASAからCCtCap契約を獲得しているが、同社の提案する有人宇宙船「Starliner(スターライナー)」は技術的な遅延に悩まされ、テスト飛行さえ中止されている。

SpaceXは、Crew Dragonの生産を終了する一方で、超重量級の次世代ロケットシステム「Starship(スターシップ)」の開発に引き続き力を注いでいく。SpaceXのElon Musk(イーロン・マスク)CEOはTwitter(ツイッター)で、この新型宇宙船の最初の軌道飛行試験を5月に実施することを目指していると語ったが、同社はその前に米連邦航空局から重要な規制上の承認が得られるのを待っているところだ。

画像クレジット:SpaceX

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

SpaceXとノースロップ・グラマンが2026年までISSへの商業補給サービスを行うことに

NASAがSpaceX(スペースX)に新たな注文を出した。

同局は米国時間3月23日、商業補給サービス2(CRS-2)契約に基づく補給ミッション6件を、SpaceXに追加発注したと発表した。

NASAは、ISS(国際宇宙ステーション)への補給サービスを請け負うもう1つの主要プロバイダーで、航空宇宙産業の主要企業であるNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)にも、さらに6つのミッションを発注している。

NASAは2016年、SpaceXとノースロップの両社に、2024年までの商業補給契約を付与した。3番目に選ばれたサプライヤーはSierra Nevada Corporation(シエラ・ネヴァダ・コーポレーション)だ。CRS-2では、各サプライヤーに最低6回のミッションを保証し、さらにNASAが必要に応じて追加ミッションを発注するオプションが設けられている。3社が獲得した契約の潜在的最大値はそれぞれ140億ドル(約1兆7000億円)だが、NASAが支払う最終的な金額は発注数によって異なると、同局は述べていた。

今回の受注によって、CRS-2のミッションは、ノースロップが14ミッション、SpaceXが15ミッション、シエラ・ネヴァダが3ミッションとなり、合計32ミッションとなった。

現在までに、SpaceXはこのようなフライトにかなり慣れている。同社は以前のCRS契約であるCRS-1で、20の補給ミッションを完了させた。NASAの監察官によると、これらのミッションのためにSpaceXに支払われた総額は30億4000万ドル(約3700億円)で、1ミッションあたり約1億5200万ドル(約185億円)になるという。

SpaceXは、同社の「Dragon(ドラゴン)」宇宙貨物船と「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットを使ってISSに物資を届けており、2012年にISSへの最初の補給ミッションを実施して以来、これを続けている。地球を出発した後、Dragon貨物船はISSとランデブーし、自律的にステーションにドッキングする。

SpaceXは、貨物船のDragonをベースにした有人宇宙船「Crew Dragon(クルー・ドラゴン)」を使って、ISSへの商業乗員輸送サービスも提供している。

画像クレジット:SpaceX

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAがSpaceXと並んで有人月着陸船を開発する第2の企業を募集

NASAは、企業に月着陸船を送り込む新たなチャンスを与える計画を発表した。SpaceXがBlue Origin、Boeing(ボーイング)らのライバルを破ってから1年近く後のことだ。

新しい計画の下、NASAは着陸システムの2度目の競争入札を、SpaceXを除く全米国企業に開放する。第2の着陸船の打ち上げは2026年または2027年を目標にしている。Sustaining Lunar Development(持続的月開発)契約と呼ばれるこの2回目の競争の勝者は、SpaceXとともに「月面に立つ宇宙飛行士のための将来の繰り返し可能な月輸送サービスへの道を開く」とNASAは言っている。

これは競争参加者にとって良いニュースであるだけではない。同局はさらに、既存のSpaceXとの契約を拡大し、もう1機の着陸船を製作する計画も発表した。2020年代後半に、無人および友人のデモンストレーション飛行ミッションを実施する。

NASAの3月23日の発表は、アポロ計画以来初めて人類を月に送り出す同局による一連のミッションであるArtemis(アルテミス)プログラムの大がかりな拡張だ。

これは、大きな方向転換でもある。NASAは2021年4月にSpaceXと28億9000万ドル(約3500億円)の単独契約を結んだ後、民間産業、議会の両方から集中砲火を浴び、Blue Originが連邦裁判所でNASAを訴えるところまできている(これは、Blue Originと防衛契約業者のDynetics[ダイネティクス]が、政府説明責任局とともに、異議を唱え、後に棄却されたあとのことだ)。しかし今回、NASAのBill Nelson(ビル・ネルソン)長官は、同局が重視するのは競争を育てることだけだと発言した。

「NASAそして議会も、競争はより優れたより信頼性の高い結果と全員にとっての利益を生むと考えています」と同氏は述べた。「それはNASAの利益であり、米国民の利益です。これは間違いなく、競争が生み出す利益です」。

同局は3月末に暫定提案依頼を公開する、と月着陸プログラム責任者のLisa Watson-Morgan(リサ・ワトソン=モーガン)氏が23日に記者団に語った。これには今春末の最終提案依頼が続き、SpaceXを除くすべての米国企業に参加資格がある。

これまでNASAは、費用がいくらになるのかについて、固定金額契約になること以外は口をつぐんでいる。これは重要であり、なぜなら同局は2021年の月着陸システムの契約に1社のみを選んだ理由の1つは予算の制約のためだとしているからだ。契約金額の詳細は、来週バイデン大統領が会計2023年度予算を発表したあと明らかにされる、とネルソン長官は付け加えた。

「私たちは議会およびバイデン政権両方の支持を得られることを期待しています」と同氏は語った。

更新:Blue Originの広報担当者はTechCrunchに次のように語った「Blue Originは競争に参加する準備が整っており、今後もArtemis計画の成功に全力を注いでいきます。当社はNASAと協力して、できるだけ早い月への帰還という米国の目標を達成するために努力していきます」。

画像クレジット:

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

NASAが火星ヘリコプターの任務を9月まで延長

火星で多忙な1年を過ごしたNASAのヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ、創意工夫という意味)」だが、今後もその勢いが衰えることはなさそうだ。21回の飛行を行った後も、依然として機体は良好な状態にあるため、NASAはその任務を少なくとも9月まで延長することにした。

Ingenuityは2021年2月18日に、NASAの探査車「Perseverance(パーサヴィアランス、忍耐という意味)」とともに赤い惑星に到着した。その元々のミッションは、単に火星の薄い大気圏でヘリコプターを飛ばす能力を実証することだった。3回の飛行でその技術を証明し、地球以外の惑星における初の動力飛行を達成した後、NASAはIngenuityを運用モードに移行させ、さらに2回の飛行を行った。以来、このヘリコプターは16回の飛行を行い、その能力をさらに試しながら、PerseveranceがJezero(ジェゼロ)クレーターを運航するのを支援した。しかし、今は新しいミッションに取り掛かっている。ジェゼロ川の三角州の探索だ。

「ジェゼロ川の三角州探査は、火星における初飛行以来、Ingenuityチームが直面する最大の挑戦となるでしょう」と、NASAジェット推進研究所のIngenuityチーム責任者を務めるTeddy Tzanetosの(テディ・ツァネトス)はプレスリリースで述べている。

この地域は、IngenuityとPerseveranceの両方にとって危険な場所だ。「ギザギザの崖、角度のある地面、突き出た巨礫、砂で満ちたポケット」がたくさんあり、探査車の進路を止めたり、着陸時にヘリコプターをひっくり返す」可能性があると、リリースには述べられている。しかし、これはIngenuityがその偵察能力を証明する大きな機会だ。このヘリコプターによる観測は、Perseveranceがこれから進むべきルートに影響を与えるだけでなく、火星に微生物が生息していた証拠を探し、やがて地球に持ち帰ることができるコアサンプルを採取するという科学ミッションにも関わってくる。さらに、Ingenuityの飛行で得られたデータは、次世代の火星探査機の設計に活かされるだろう。

「1年近く前には、火星での動力制御飛行が可能かどうかさえ、私たちにはわかりませんでした」と、NASAの科学ミッション本部のThomas Zurbuchen(トーマス・ズルブチェン)副本部長は述べている。「今、私たちはIngenuityがPerseveranceの2回目の科学研究活動に参加することを楽しみにしています」。

Ingenuityは現在、当初の飛行区域からSéítah(セイタ)と呼ばれる地域を横断し、それからジェゼロ川の三角州を探索するするために、少なくとも3回は必要なフライトの1回目を終えたところだ。次のフライトはいつになるか、現時点では未定となっている。

「私にとって今度のフライトは、我々の運航日誌への22回目の書き込みとなります」と、NASAジェット推進研究所のチーフパイロットであるHåvard Grip(ホーバード・グリップ)氏は、プレスリリースで語っている。「最初にこのプロジェクトが始まった時、3回も飛べたらラッキー、5回も飛べたら大変な幸運だと思ったのを覚えています。この調子でいけば、2冊目の日誌が必要になりそうです」。

おそらく、NASAはそれほど驚いていないだろう。同航空宇宙局の火星探査機はすべて、当初のミッション期間を大幅に上回る驚異的な寿命を備えている。時にそれは火星の周期で数千日分にもなるほどだ。Ingenuityもそれに倣っているのは当然のことだ。

画像クレジット:NASA/JPL-Caltech

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(文:Stefanie Waldek、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAの超高額な月ロケットが18日に発射場へ移動

最初に発表されてから12年、NASAの巨大な「Space Launch System(スペース・ローンチ・システム)」がついに公に姿を現すことになる。この超重量級ロケットと「Orion(オリオン)」宇宙船は、米国時間3月17日に、フロリダ州ケネディ宇宙センターの発射場へ向けて搬入が開始される予定だ。遅延と費用高騰に悩まされてきた打ち上げシステムにとって、待望の進展だ。

11時間かかると予想される木曜日のロールアウト(移動作業)後、NASAはソフトウェアシステムの検証やブースターの整備など、打ち上げ準備のための多くのテストを実施することになっている。その後、NASAは推進剤を充填した「ウェット・ドレス・リハーサル」と呼ばれる一連の打ち上げ前試験を行う予定だ。Artemis(アルテミス)計画の打ち上げディレクターを務めるCharlie Blackwell-Thompson(チャーリー・ブラックウェル-トンプソン)氏は、米国時間3月14の記者会見で、予定通りにロールアウトが進めば、ウェット・ドレスは4月3日に実施される可能性があると語った。

ここまで長い年月がかかった。米国議会は2010年に、NASAの最初の宇宙輸送システムだったSpace Shuttle(スペースシャトル)に代わるものとして、SLSの開発を同局に指示した。NASAのアルテミス計画の一環として、SLSは人類を再び月に送り込み、さらに将来的には太陽系探査に向かうことも見据えた乗り物として構想されている。

しかし、それ以来、このプロジェクトは度重なる挫折と技術的な問題に直面してきた。1年前、NASAの監察官室は、SLS計画に関連するコストと契約にまつわる厳しい報告書を発表し「コスト上昇と遅延」によってプロジェクトの全体予算が当初の範囲をはるかに超えていることを明らかにした。この混乱で最大の勝者となったのは、間違いなく航空宇宙産業の主要企業だ。特にSLSの開発を指揮するBoeing(ボーイング)や、Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)、Aerojet(アエロジェット)は、監察官室によれば、2019年にSLSの全契約に費やされた総資金の71%を、これらの企業の契約が占めているという。

このようなことがすべて積み重なり、非常にコストのかかるプロジェクトになってしまった。3月初め、NASAの監査役は、最初の4回のアルテミスミッションの運用経費がそれぞれ41億ドル(約4850億円)になると報告した。4回の合計ではなく、1回ずつそれだけかかるのだ。

SLS1基の建設費はその約半分の22億ドル(約2600億円)。NASAの探査システム開発担当副長官であるTom Whitmeyer(トム・ウィットマイヤー)は、この金額について、プロジェクトは「国家的投資」であると記者団に語り、暗黙のうちに見解を示したようだ。

「私の観点から言えば、それは強力な国家的投資で、我々の経済への国際的関与である」と、同氏は語った。

SLSのコストが高いのは、第1段、第2段とも再利用できないため、それぞれのミッションに専用のロケットが必要になることも一因だ。SLSとは対照的に、SpaceX(スペースX)のElon Musk(イーロン・マスク)CEOは2022年2月、同社の超重量級完全再利用型ロケットである「Starship(スターシップ)」の打ち上げコストは、今後数年以内に1回あたり1000万ドル(約11億8000万円)以下になると推定している。SpaceXは2021年29億ドル(約3400億円)の契約を獲得した後、アルテミス計画の一環としてNASAのためにこのロケットの月着陸船バージョンを開発している。

画像クレジット:NASA

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAがSpaceXの商業乗員輸送契約を延長、3ミッション追加で約1036億円

NASAは米国時間3月1日、国際宇宙ステーション(ISS)への乗員輸送サービスを、SpaceX(スペースエックス)にCrew-7、Crew-8、Crew-9ミッションとして正式に追加発注したことを発表した。これによって、SpaceXが受注した商業乗員輸送能力(CCtCap)契約の総額は34億9000万2904ドル(約4018億円)となる。

当初の26億ドル(約3000億円)の契約は、Space Shuttle(スペースシャトル)の退役に伴い2011年に終了した米国の乗員輸送能力を開発するために、2014年にSpaceXが獲得したものだ。この民間宇宙航空会社は、2020年以降、Crew Dragon(クルードラゴン)宇宙船とFalcon 9(ファルコン9)ロケットで、ISSへ向けてCrew-1からCrew-3(+有人試験飛行1回)まで、3回の乗員輸送ミッションを行い、打ち上げを成功させている。

修正前の契約では、SpaceXは2022年にCrew-4とCrew-5、2023年にCrew-6と、さらに3つのISSへの飛行ミッションを受注していた。NASAの声明によると、今回の延長契約は「固定価格、無期限納入/無期限数量」であるとのこと。SpaceXの契約期間は2028年3月31日までとなり、成長中の打ち上げ・宇宙事業会社にとってはうれしい定期収入となった。

NASAの宇宙オペレーション本部副長官を務めるKathy Lueders(キャシー・リーダース)氏は、2021年12月に発表されたSpaceXの契約修正を意向する通知の中で「宇宙ステーションにおける米国の存在感を維持するために必要になったときにすぐに準備が整うように、ステーションへの追加フライトの確保を今すぐ始めておくことが重要です」と述べている。「米国の有人打ち上げ能力は、私たちが軌道上における安全な運用を継続し、地球低軌道で経済を構築するために不可欠です」。

NASAはこの通知の中で、SpaceXが現在ISSに乗員を輸送するために認定されている唯一の米国企業であることを認めた。Boeing(ボーイング)も、2014年にNASAから6回のミッションで総額42億ドル(約4800億円)のCCtCap契約企業として選定されたが、同社のStarliner(スターライナー)宇宙船はまだ人を乗せずに行う無人の試験段階だ。2022年5月に予定されている次のテスト飛行では、Atlas V(アトラスV)ロケットで打ち上げられ、ISSとランデブーする計画になっている。

最終的にNASAは、SpaceXとボーイングの商業乗員輸送プログラムを連携させ、ISSに宇宙飛行士を送り込むことを考えている。スペースシャトルの退役からSpaceXの商業乗員輸送プログラム認定までの間、NASAはステーションへの乗員輸送をロシアの国営宇宙機関であるRoscosmos(ロスコスモス)だけに依存してきた。NASAの監察総監室(OIG)による2019年の報告書によると、NASAは2006年から2020年の間に、RoscosmosのSoyuz(ソユーズ)打ち上げシステムに、1席あたり平均5540万ドル(約63億8000万円)を支払っている。このコストは年々上昇し、2020年には1席あたり8600万ドル(約99億円)になっていたという。同じOIGの報告書では、SpaceXの1席あたりの平均コストは5500万ドル(約63億3000万円)、ボーイングでは9000万ドル(103億6000万円)になると推定されている。

画像クレジット:NASA

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(文:Stefanie Waldek、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Rocket Labのロケット「Neutron」、製造から着陸までを米バージニア州ワロップス島で

Rocket Lab(ロケットラボ)は、同社のロケット製造・発射施設の拡張について最新の状況を発表した。ニュージーランドと米国にある既存の発射場には、引き続き同社の小型ロケット「Electron(エレクトロン)」を配備する。一方、バージニア州では、将来打ち上げる、はるかに大型のロケット「Neutron(ニュートロン)」を格納する新しい施設を建設する予定だ。

Nettronを製造する新しい施設は、NASAのワロップス飛行施設の中にある。施設の28エーカー(約11万3300平方メートル)の敷地には、約25万平方フィート(約2万3000平方メートル)の屋内空間がある。これは大きなスペースだが、当然ロケットも大きい。同社は多数のロケットを製造する予定だ。

ロケットの組み立てだけでなく、それを構成する特殊な炭素複合材もここで製造される。炭素複合材のロールは、いわば「温めたオーブン」から取り出してすぐ、Neutronの周囲23フィート(約7メートル)の胴体を包むことになる。

「ロケット全体をこの施設で製造することを意図しています」とRocket LabのCEOで創業者のPeter Beck(ピーター・ベック)氏は、米国時間2月28日のメディアブリーフィングで述べた。「ステージの直径は非常に大きい。私たちはその意思決定を本当に早く行いました。ワロップスとカリフォルニアの間にある一番大きい橋で直径を測るというようなことはしたくなかったのです」。

ベック氏は、Neutronの仕様が最初に公開された12月に、この大口径の利点を語った。

再利用を前提にゼロから設計されたロケットであるNeutronは、ペイロードを運んだ後にワロップスに戻り、生まれた場所と同じ施設で改修される。打ち上げと軌道上運用センターを含むオールインワンの複合施設は、この地域に何百もの仕事を提供し、宇宙産業におけるワロップスの長年の重要性をさらに強固なものにするはずだ。

バージニア州はワロップスNASAの施設の拡張と改善のために約4500万ドル(約52億円)の資金を計上済みだが、まだ議会で審議中だと、バージニア商業宇宙飛行局の代表Ted Mercer(テッド・マーサー)氏(米空軍少将、退役)は電話で述べた。

「もし議会で承認されれば、1500万ドル(約17億円)は施設の建設に、3000万ドル(約35億円)は新しい発射台の建設に充てられます」とマーサー氏は述べ、発射台はNeutron専用ではなく、多目的であることに言及した。

当然、早く建設すればそれだけ早く試せるため、ベック氏は「我々はすぐにでもにこの地で着工することを望んでいます」と述べた。

画像クレジット:Rocket Lab

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

ロシア宇宙機関ロスコスモスCEO、対ロシア制裁がISS運用に深刻な影響及ぼすと脅迫的ツイート―地上への落下示唆

ロシア宇宙機関ロスコスモスCEO、対ロシア制裁がISS運用に深刻な影響及ぼすと脅迫的ツイート―地上への落下示唆

3DSculptor via Getty Images

ロシアの宇宙機関Roscosmosを率いるドミトリー・ロゴージン氏は、米国政府がロシアに対する制裁を厳しくするとの報道を受けてTwitterで激しくそれを非難、バイデン米大統領が木曜日に、制裁が「ロシアの宇宙計画を含む航空宇宙産業を衰退させる」と発言したことに対して、ロシアの宇宙産業に打撃を与えるようなことがあれば、ISSが米国、欧州、インド、中国に落下することになるかもしれないと述べています。

ロゴージン氏は「バイデン大統領は理解していないかもしれないから、ISSの軌道修正や某国のビジネスマンが軌道上にまき散らしているスベースデブリとの接近を回避するのにはロシアのプログレス補給船のエンジンで行われていると誰か説明してやってくれ」「もし我々との協力関係を損なえば、誰がISSを制御不能にして米国や欧州に落下させるのか、インドや中国に500tもある構造物を落とすのか。ISSはロシア上空を飛ばないからリスクを負うのはお前たちだけだ」とツイートを連投しました。

まるで某SFアニメにある”コロニー落とし”を地で行くようなことをするのかとも思える発言ではあるものの、これがまったくの絵空事かといえばそうでもありません。ISSは低軌道に浮かんではいるものの、地球の重力にゆっくりと引き寄せられており、定期的に軌道を押し上げる必要があります。現状ではその押し上げ操作が、ISSにドッキングしたプログレス補給船のエンジンを使って行われているため、ISSはその巨体を軌道にとどめるためにロシアに頼らざるを得ないのが実際のところです。

このことに対して、SNSではSpaceXのドラゴン宇宙船やノースロップ・グラマンのシグナス補給船を利用してプログレスと同じことができないかとの意見が出ています。現在、ISSにはシグナス補給船がドッキングしており、4月にはこれを使った軌道修正のためのテストも計画されています。ただ、そうしたオプションはあくまでオプション以上の、長期的な解決策としての機能を持つものではありません。

ただ、ロシアもロシアで、ISSでの活動はNASAに大きく依存しています。NASAはISSの電力供給を一手に引き受けており、軌道上の位置制御もNASAの協力の上で成り立っています。つまり、ISSにおいてはロシアも米国も、互いに互いの力を必要としているわけです。

もちろんどちらかが一方的にISSを放棄してしまえばそれを維持することはできなくなりますが、いまのところはバイデン大統領が発表したロシアへの制裁措置も、米露の宇宙での協力関係を崩すことがないように組まれており「RoscosmosとNASAの現場はISSの安全な運用のために各国のパートナーとともに協力を継続している」とNASA広報は述べています。

さらに、もし今後もISSに関する計画が予定どおり行われるならば、やはり米露は協力関係を維持し続ける必要があります。3月18日にはソユーズ宇宙船が3人のロシア人飛行士を乗せてISSへと向かう予定であり、現在ISSに滞在するロシア人飛行士2名、NASA飛行士4名、ESAのドイツ人飛行士1名に合流します。そして、3月30日にはNASA飛行士1名とロシア飛行士2名が地上に帰還します。

ちなみに、ISSはすでに2030年での退役を見据えた時期に入っており、最近ではISSをいかにして安全に大気圏に降下させるかという計画の概要も発表されていました。ただ、その計画はプログレス補給船の推進力を利用することを念頭に作られており、仮に一方的にロシアがISSを放棄してしまった場合は、NASAはシグナスを利用する方向に計画を練り直すことになりそうです。

バイデン大統領は、今後米露関係の「完全な断絶」もあり得ると発言しており、そうなったときはロゴージン氏もISSに関ししかるべき対応を打ち出してくると考えられます。今後しばらくはウクライナで起きていることの一方で、軌道の上にいる人たちのことも頭の片隅に覚えておく必要がありそうです。

蛇足。ロゴージン氏は米国の制裁において金融資産凍結対象とされるロシアの重要人物リストに個人として名前が掲載されているとのことです。

(Source:Via the VergeEngadget日本版より転載)

Astra、フロリダからの初ロケット打ち上げに失敗

Astra(アストラ)は米国時間2月10日、フロリダ州の「スペースコースト」から初となるロケットの打ち上げを行った。これは当初、2月7日に予定されていたが、技術的な問題で中止されていた。二度目の試みとなった今回、ケープカナベラル宇宙軍基地のスペースローンチコンプレックス46から打ち上げられたロケットは、発射台を離れたものの、残念ながらペイロードは軌道に乗らなかった。

同社によると、ロケットは飛行中に問題が発生し、ペイロードを目的地に届ける機会が得られなかったという。これはロケットに積まれていたNASAの4基のCubeSat(キューブサット)が失われたことを意味する。NASAのLaunch Services Program(ローンチ・サービス・プログラム)に基づきこの契約を獲得したAstraは、小型のペイロードを宇宙に届ける低コストの軽負荷ロケットという代替手段の有効性を示すことを目標としていた。

本日の飛行中に問題が発生し、ペイロードを軌道上に届けられなくなってしまいました。

お客様であるNASAおよび小型衛星チームのみなさまに深くお詫び申し上げます。より詳細な情報は、データの確認が完了した後にお知らせします。

Astra

Astraによる打ち上げライブ中継では、ロケットのメインエンジンが切り離され、ブースターと上段が分離した直後に、何か問題が発生したように見えた。上段が制御不能な状態で転回しているように見えたが、その後、映像は切断された。

Astraのアプローチは、スピードと効率を重視し、業界の競合他社よりも大量に小型ロケットを生産することに重点を置いている。以前、AstraのChris Kemp(クリス・ケンプ)CEOは、より低コストのアプローチには、トレードオフとして競合他社よりも高い故障率を負う可能性があることを十分に認識しており、そのことはビジネスモデルに織り込み済みであると、TechCrunchの取材に対してコメントしている

しかし、これでAstraは、比較的近い時期に二度の失敗を経験したことになり、いずれもSPAC(特別買収目的会社)合併によってニューヨーク証券取引所に上場した後に起きている。前回の失敗は2021年8月、同社の最初の公式な商業打ち上げ(米国宇宙軍のためのテストペイロード輸送)で問題が発生し、軌道に到達することができなかった。しかし、Astraはそれから3カ月後の11月、商業ペイロードの軌道投入に成功している。

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画像クレジット:Astra / John Kraus

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が初めて星を撮影、「自撮り」画像も披露

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような複雑な装置は、稼働するまでに少々時間がかかる。2022年1月末に軌道に乗ったものの、まだ起動プロセスの途中にある。米国時間2月11日には、その中で大きなマイルストーンに到達した。ウェッブが初めて星を捉えたのだ。18回も。そしてそれを祝うためにセルフィー(自撮り)を行った。

この巨大な軌道望遠鏡の長年に渡る開発、組み立て、展開についての報道をご覧になってきた方はご存知かと思うが、ウェッブ望遠鏡は基本的に18枚の鏡をハニカム(蜂の巣)型に組み合わせた形状をしており、これが目標物からの大量の赤外線を取り込むのに役立つ。

しかし、それぞれの鏡(さらに前面の副鏡やその他多くの部品)は、反射した像が他の鏡に映る像と一致して重なるように、正確に調整する必要がある。

「主鏡のセグメントが揃っていないので、実際には18個の別々の望遠鏡のように機能しています。現時点では何も調整していないし、焦点も合わせていないため、少しぼやけています」と、ウェッブ望遠鏡の光学素子担当マネージャーであるLee Feinberg(リー・ファインバーグ)氏は、NASAのビデオで語っている(このビデオを見ると、筆者の説明よりもよくわかるはずだ)。

それはちょうど、アニメでよく見るような、意識を失ったキャラクターが目を覚ますと、世界が2重、4重に見えていて、それらの画像を徐々に重なり合って像を結ぶ場面を思い浮かべればよいだろう。この場合、もちろん、望遠鏡は宇宙の中にあるので、よく見えてくるものは(おそらく)星だけだ。

この調整を行うためには、同じような明るさの星に囲まれていない、際立った星が必要だった。そこでチームは、おおぐま座にあるHD 84406と呼ばれる星をターゲットに選んだ。ちょうど宇宙に浮かぶクマの首輪の上に位置する星だ。北斗七星のひしゃくの口にあたる2つの星を思い浮かべて欲しい。HD 84406は、その線を右に伸ばして同じくらいの距離の位置にある。

ウェッブ望遠鏡は、このHD84406の方向に向けて、156通りの方向から10枚ずつ撮影し、合計1560枚、54ギガバイトのRAWデータを取得した。

画像クレジット:NASA

「セグメントの各ドットが空に広がってしまう可能性もあったため、この最初の探索では満月ほどの大きさの領域をカバーしました」と、ウェッブ望遠鏡チームの科学者であるMarshall Perrin(マーシャル・ペリン)氏は、NASAのニュースリリースで述べている。「私たちは探索の初期段階で18個のセグメントすべてからの光を中心部のすぐ近くで発見することができました!これは、鏡の位置合わせとしてはすばらしい出発点です」。

6時間の処理の後、チームは望遠鏡の18枚の鏡でそれぞれ同じ星を捜し出し、それらを1つの画像(上)に組み立て、鏡の位置をどれだけ再調整する必要があるかを示すことができた。ペリン氏がいうように、これらのうちの1つまたは複数が中心から大きく離れていた可能性は十分にあり、その場合はより長く、より大変な鏡の補正作業が必要になる。しかし、これらはすべて中心付近に集まっており、ミラーの展開が非常にうまくいっているということを意味する。

ウェッブ望遠鏡に搭載されているカメラシステムはこれだけではなく、セットアッププロセスもこれだけではない。しかし、今回の成功は、赤外線カメラと主鏡が計画通りに機能していることを示している(まだすべての能力を発揮できているわけではないが)。

幸いなことに、もう1つの機器は十分に機能していたので、最も重要なコンテンツを得ることに成功した。「自撮り」だ。

ウェッブ望遠鏡の18枚の鏡を撮影した「自撮り」(画像クレジット:NASA)

TechCrunchでは、今回のような大きなステップについては今後も取り上げていく予定だが、ウェッブ望遠鏡のすべての動きを追いかけていきたい人は、専用のミッションブログを常にチェックしておこう。

画像クレジット:NASA

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASA、火星からサンプルを持ち帰る宇宙機MAVの開発に向けロッキード・マーティンと契約

NASA、火星からサンプルを持ち帰る宇宙機MAVの開発に向けロッキード・マーティンと契約

NASA/ESA/JPL-Caltech

火星探査ローバーのPerseveranceには、火星の地表にある岩石や堆積物、大気を含むサンプルを採取してパッキングする役割があります。しかしNASAにはまだそれを地球へと持ち帰る手段がありません。NASAはそのサンプルを手に地球へ持ち帰る宇宙機Mars Ascent Vehicle (MAV)の開発製造企業としてロッキード・マーティンを選定しました。

これはNASAの火星サンプルリターン計画において、無人機で地球にサンプルを持ち帰る最初の往復ミッションになります。このミッションではMAVを搭載するサンプル回収用着陸機(Sample Retrieval Lander)がジェゼロクレーター近辺に着陸、Perseveranceが残したサンプルを拾いあつめてMAVに積み込み、発射台としてMAVを地球に向け打ち上げます。

ロッキードマーティンは複数のMAVプロトタイプを用意しテストします。NASAは、ロケットの地上支援装置の設計と開発に加えて、MAV統合システムの設計、開発、テスト、評価を請け負っています。

言葉で説明すればこれだけのことですが、いざ実行に移すとなるとそれは非常に困難なミッションになると予想されます。MAVは、火星の過酷な環境に耐えるべく堅牢に作られ、他のNASAの宇宙機と完璧に連携する必要があります。さらにMAVは2026年までに打ち上げられる予定のサンプル回収用着陸機に搭載できるぐらいのコンパクトさに仕上げられなければなりません。

契約は1億9400万ドルで2月25日からオプション基幹含め6年の契約期間になるとのこと。火星からのサンプルリターンは、地球以外の惑星からの初のリターンミッションになる予定で、成功すれば生命が存在した可能性もある初期からの火星の歴史を明らかにする重要な資料が得られると考えられています。

(Source:NASAEngadget日本版より転載)

NASAの雑誌「Spinoff」は宇宙生まれの技術の民間企業転用例を紹介

NASA(米航空宇宙局)の「Spinoff」は、筆者が毎年楽しみに読んでいる雑誌の1つだ。NASAの研究は、驚くべき、そして興味深い方法で世界に浸透しており、その内容が年に1度発刊される雑誌の中で追跡・収集されている。2022年も、ハイキング用のガジェットから重工業、そしておもしろいことに宇宙まで、あらゆるところでNASAの技術に出会うことができる。

2022年度版でも、さまざまな場所で日常的に使われるようになった技術が多数紹介されており、こちらから閲覧できる(約60ページあるので、コーヒーでも飲みながら、ゆっくりご覧いただきたい)。

筆者は、NASAの技術移転プログラムの責任者であるDaniel Lockney(ダニエル・ロックニー)氏に話を聞いた。同氏は、NASAの技術や研究を有効活用しようとする地上の企業に展開する活動を統括している。

「一般的には、次のようなことが起こります。NASAが何かを開発すると、私のオフィスに報告します。私たちはそれを見て、まず、それがうまくいくかどうかを考えます。そして次に、誰がそれを使うのか、もし使える人がいれば、その人に届ける方法を考えるのです」とロックニー氏は説明した。「私は、できる限り無料で提供するよう試みます。収益を上げるとか、米財務省に何かを還元するとか、そういう方針は持っていません。1958年にNASAが制定した法律には、我々の仕事を普及させるようにと書かれていますが、そこには金儲けについては何も書かれていません」。

その結果、コンパクトで長持ちする浄水器や珍しい機械部品など、宇宙や打ち上げのために必要だったが、地上で再利用できるかもしれない興味深い技術が、安価または無料で利用を許諾されることになった。

ロックニー氏は、最新のライセンス契約の中で、特に興味深いと思ったものを2つ紹介した。

「GM(ゼネラルモーターズ)との提携で『Robo-Glove(ロボグローブ)』を開発しました。これは、宇宙飛行士が着用する機能性グローブで、反復作業時の負担を軽減し、握力を高めます」と同氏は語った。「宇宙遊泳で何かを握ったりするのは、2、3回ならできますが、午後ずっと工具を握っているとなれば負担になります。そうした作業を補助するためにこのグローブを開発しました。今では世界中の工場で使われています」。

画像クレジット:Bioservo Technologies

スイスのBioservo(ビオサーボ)は、ロボグローブのNASA特許のライセンス供与を受け、何年も前からそのコンセプトに基づき試行錯誤を重ね、2021年夏には最新版のアイアンハンドを発表した。その最も一般的な使用例は、手に怪我を負ったために仕事を失うかもしれない従業員が、この手袋を使うことでより早く仕事に復帰でき、また痛み止め薬の服用も減らせるというものだ。

技術供与を受けるのが1社だけとは限らない。ロックニー氏は、NASAが完全に人工的な条件下での精密農業における問題を調べた最初の組織だと指摘した。

「NASAは、長距離宇宙飛行でクルーの健康を維持するために、多くの実験を行っています。その1つが、自分たちの食べ物を育てることです。植物を見ることによる心理的なメリットもあります」と同氏はいう。「しかし、土や水耕栽培のような重い培地を使わずに作物を栽培する方法を見つける必要がありました。水はかなり 重く、大変貴重なものです。また、照明も適切でなければなりませんが、エネルギーを使いすぎるのもよくありません。そこで私たちは、小さなスペースでたくさんの植物を栽培するための農業技術を開発しました。植物のストレスをコントロールすれば、生育条件を正確に調整でき、収穫量も向上します。実際に、根を覆う栄養フィルム、適切なスペクトルの光を照射するLED、そしてもちろん、あらゆるところにセンサーを設置しています」。

「都市部でも同じような状況です。農地の資源を浪費せずに、どうやってこの人口に食料を供給するのでしょうか。しかし、私たちがこの研究を主導したのは、誰もその必要性を感じていなかったからです。結局、宇宙飛行での必要性が直接のきっかけとなったのです。そして今、都会の密集地で垂直農法を行い、実際に野菜を食料品店に提供している会社がいくつかあります」と同氏は続けた。

ここで実際に取り上げた例は、取り組みが始まってまだ日が浅い。しかし、消費者と投資家の双方にとって、海外から何千キロもかけて輸送されたものよりも、数ブロック以内で効率的に栽培された食品を手に入れたいという欲求は明らかに存在する。

NASAの仕事は、生命維持のための産業だけでなく、レジャーにも道を開いている。2022年の「Spinoff」に掲載されたもののうち、少なくとも3つのアイテムは、ハイキングやキャンプなどのアウトドア活動に関連している。1つは、もともと宇宙船の外壁に使われていた薄膜の放射防止材が、超軽量の断熱層として13-Oneなどのジャケットに採用された。90年代に研究されたエアロジェルは、シアトルに本社を置くOutdoor Research(このブランドは、店の前を通るとついつい買ってしまう)の新しいギアに採用された。また、NanoCeram(ナノセラム)と呼ばれる素材は、新しい携帯用浄水器ボトルに使用されている。

スピンオフした技術に関する出版物に載っているとは思えないような新しい応用例として、Astrobotic(アストロボティック)の月着陸船「Peregrine」がある。これまで、このような技術は国が支援するプログラムに限定されていたが、商業宇宙分野が急速に拡大する中、NASAの技術は宇宙を目指す企業にとっても貴重なものになっている。

関連記事:月へNASAの水探索車を届けるためにスペースXがFalcon Heavyロケットの打ち上げを2023年に予定

新しいものばかりではない。中には、何十年も前に開発され、今もなお新しい用途やライセンス先が見つかっていないものもある。

「私たちがすべての作業を終え、商業的なもの、製造やマーケティング、または次の新しい何かを行うパートナーを見つけるまでに、10年はかかります」とロックニー氏はいう。「研究開発のタイムラインは長く、商品化のタイムラインも長いのです。

しかしそれは、たとえ何年も前の論文や材料であっても、常に新鮮なものが出てくることを意味する。2022年の「Spinoff」には、さらに多くの注目すべき技術や企業が掲載されているので、ぜひ一読して欲しい。そして、時間があれば、アーカイブもどうぞ

画像クレジット:NASA/nkd Life

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がラグランジュ点L2軌道に到着、光学機器の調整へ

Steve Sabia/NASA Goddard

打ち上げから1か月を経て、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)がラグランジュ点L2に到着しました。この地球から約150万km離れた軌道で宇宙望遠鏡はこれから約3か月かけて光学系の調整など観測の準備を行います。

L2軌道は太陽からの光が地球の影によって遮られるため、機体を超低温に保つことができます。そのため赤外線機器への熱干渉が発生しにくく、観測に最適な環境が得られます。

観測の邪魔になる要素が少なくなれば、非常に遠い宇宙の観測にノイズが入り込みにくく、地球周回軌道から観測していたハッブル宇宙望遠鏡では得られなかった高精度な観測データの取得が期待されます。JWSTは大きなサンシールドも備えており、機体はマイナス230℃という低温で観測を行うことになります。

計画の変更やトラブルの数々に悩まされ、さらには新型コロナによって開発が幾度となく延期されてきたJWSTですが、打ち上げ以降はこれまでのところ目立ったトラブルもなく、順調に観測に向けた準備が進められているのは喜ばしいことと言えるでしょう。

ハッブル宇宙望遠鏡はそろそろ機器としての寿命が近づいているため、その後継的な立場としてのJWSTには期待が高まっています。

(Source:NASAEngadget日本版より転載)

NASAが「アルテミス1号」にAlexaおよびCiscoのWebex統合、音声操作でテレメトリー読上げやビデオ通話なども可能に

NASAが「アルテミス1号」にAlexaおよびCiscoのWebexを統合、音声操作でテレメトリー読上げやビデオ通話なども可能に

Amazon

NASAは、Amazon、Cisco、ロッキード・マーティンと協力して宇宙飛行士がAI音声アシスタントなど商用技術によって、その活動に利益を得られるかどうかを確認する実験計画「Callisto」を発表しました。

Callistoでは、Amazonの音声アシスタントAlexaおよびCiscoのWebex技術をOrion宇宙船に組み込み、音声アシスタントやビデオ通話およびホワイトボード機能といった商用コミュニケーション技術の宇宙空間での有効性を確認します。

音声アシスタントにビデオ通話といえば、映画『インターステラー』でマシュー・マコノヒー演じるクーパーが、宇宙船に届いた家族からのビデオメッセージを見るシーンが思い出されます。あの場面ではクーパーが「数十年分のビデオメッセージがたまっている」と言うコンピューターに対して「最初から再生しろ」と音声で指示を出し、それを視聴します。

実験ではそれと同じようなことを、AmazonやCiscoの商用技術で実現できないか探ってみようというわけです。

最初の試験飛行は、無人のOrion宇宙船が月を周回したのちに地球に戻るアルテミス1号ミッションで実施されます。無人で行われるため、ヒューストンの宇宙センターにいるオペレーターが、仮想の乗組員として宇宙船に音声コマンドを送信、それが船内のスピーカーで再生され、Alexaがそれに対して期待するように動作するか、Webexを使用できるかなどを確かめるとのこと。Alexaは宇宙船のテレメトリーを監視できるように組み込まれ、飛行士は宇宙船の移動速度や月まで残りの距離をたずねたりすることができるようになるでしょう。

また、ホワイトボードの機能は機内の複数のカメラを使用してテストされ、地上管制からの書き込みが機内できちんと表示されるかを確認します。地上と宇宙で落書きを送りあうのにかかる時間は、管制センターが通信の遅れに対処するための方法を検討することにも役立ちます。

深宇宙ではインターネット接続など利用できるべくもありませんが、AlexaやWebexが機能するには代替の通信ネットワークが必要になります。そのため、惑星間ミッション中の通信に使用されるNASAのDeep Space Network(DSN)が使用されます。

Amazonは、Artemis I の実験で得た知見を元に、将来のミッションのため、また地上のインターネット接続環境がほとんど利用できない人々のためにAlexaに改良を加えるとしています。また仮想乗組員として音声コマンドの送信などを体験する機会を、将来の宇宙飛行士である学生らへのSTEM教育の一環として提供することも考えています。

ゆくゆくは、宇宙船に統合された音声AIアシスタントが、長い深宇宙の旅で暇を持て余した飛行士の会話相手になることも想像できます。しかし飛行士には「何か面白いチャレンジを教えて、とだけは聞くな」とアドバイスしておくべきかもしれません。

(Source:AmazonEngadget日本版より転載)

14年に及ぶ開発期間を経てジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打上げ成功、太陽電池パネルも展開

14年に及ぶ開発期間を経てジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打上げ成功、太陽電池パネルも展開

alex-mit via Getty Images

12月25日、NASAはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を打ち上げました。14年におよぶ開発期間、JWSTと呼ばれるようになる前のコンセプト段階を含めると25年もの歳月をかけて製作された次世代宇宙望遠鏡が、ようやく宇宙へと旅経ちました。

JSWTは、地球から150万kmほど離れた、地球と太陽のラグランジュ点(L2)に近い太陽の軌道を周回する予定です。機体は打ち上げのために折りたたまれた状態から、太陽光発電のパネルを展開し、通常運用形態へと変化します。機体には「これまでにない解像度」の高感度赤外線検出器を備えた4つの科学機器を搭載しており、反射鏡を形成する18ものセグメントの背面には、曲率を調整するための小さなモーターが備えられています。

試運転は6か月におよびますが、その試運転の最後には、最初の観測画像を地上に送信してくる予定です。配信します。

NASA長官のビル・ネルソン氏は「まだ非常に多くのことが動いており、それらが完璧に機能しなければならない。しかし大きな報酬を得るには大きなリスクがあることを私たちは知っている」と打ち上げに際して述べました。

JWSTは幅6.5mの巨大なミラーや4つの超高感度観測機器により、これまで以上に遠くの(言い換えれば時間をさかのぼった昔の)宇宙の観測が可能になるはずです。重要なのは135億年以上も前に起こったビッグバン直後から最初に現れ始めた頃の天体を観測すること。このごく初期の宇宙の天体では核反応により生命に必要不可欠な炭素、窒素、酸素、リン、硫黄といった重元素が作られたとされ、その痕跡をさぐります。

また、もうひとつの大きな目標は遠方の惑星の大気を調査することです。これは、これらの惑星が生命が存在可能か、居住できるかどうかを研究者が評価するのに役立ちます。

また機体はマイナス233℃という著しい低温環境で機能しなければなりません。この非常に低い温度になることで、この望遠鏡が機能するために必要な赤外線の波長で機体が(赤外光で)光らなくなり、非常に遠くから届いた赤外線を高感度にとらえることを可能にします。

なお、記事執筆時点ではすでにJWSTは太陽光パネルの展開を完了しており、電源状況は良好、6つのリアクションホイールも正常に機能して太陽に対する姿勢制御も正しく実行されているとのことです。

(Source:NASA(1)(2)Engadget日本版より転載)

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、悪天候のため打ち上げ予定を日本時間12月25日21時20分からに変更

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、悪天候のため打上げを日本時間12月25日21時20分からに変更

NASA / MSFC / David Higginbotham

NASAは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げを予定していた12月24日から25日に1日遅らせることを決定しました。理由は、今回打ち上げを行うフランス領ギアナ・ギアナ宇宙センター周辺の天候が悪いため。

すでにNASAは打ち上げ準備のレビューをクリア、打ち上げ準備完了の記者会見も済ませており、あとは予定の日時を迎えるだけの状態でしたが、悪天候にはどうしても逆らうことはできません。

新しい打ち上げ予定日時は日本時間で12月25日の21時20分~21時52分の間。ただし現地の天気状況によってはさらに延期になる可能性ももちろんあります。

打ち上げ後、JWSTは地球と太陽からの光(赤外線)を同時に遮光できるラグランジュ点(L2)に配置される予定。世界の天文学研究者らは、そこから宇宙の最も初期の銀河や天体を眺め、ブラックホールを調べ、そして地球にそっくりな、生命が存在するかもしれない太陽系外惑星を探してそれを評価できるようになるのをいまかいまかと待ちわびています。

すでにJWSTはアリアン5ロケットに搭載され、組み立て棟で発射台への移動を待っている状況とのこと。今回の打ち上げまでにはかなりの紆余曲折があり、さらに新型コロナのパンデミックでも遅延を余儀なくされたJWSTだけに、天候もすべて万全の状態で軌道へと送り届けてほしいものです。

(Source:NASAEngadget日本版より転載)

【Max Q】SpaceXが初めて1日に2回Falcon 9を打ち上げ

TechCrunchは、Space 2021イベントを終えたばかりが、宇宙ビジネスに限っては、年末だからといってニュースのペースが落ちることはない。

SpaceXがロケット再利用の新記録を達成、初の1日に2回の打ち上げ

SpaceX(スペースエックス)は、同社のStarlink(スターリンク)衛星の新たな一群を、ヴァンデンバーグ空軍基地の発射施設から米国時間12月18日に打ち上げ、続いてその日の夜遅くにトルコの通信衛星をフロリダ州ケープカナベラルから打ち上げた。これはSpaceXが1日に2回の打ち上げを行った初めての事例だ。また、このStarlinkミッションでは打ち上げロケットのFalcon 9を11回にわたって発射・回収し、SpaceXの打ち上げシステム再利用記録を更新した。

それだけでも十分目覚ましいが、現在SpaceXは、同社の商業再補給サービス(CRS)ミッションの一環として国際宇宙ステーション(ISS)に補給品と実験材料を届けることになっている。予定では米国時間12月21日午前にケープカナベラルから飛び立つ。

画像クレジット:SpaceX

2021年を宇宙投資家の目で振り返る

上に書いたように、我々はTC Sessions:Space 2021イベントを終えたところだが、その中でもスタートアップコミュニティにとって特に興味深かったに違いない話題が、宇宙分野に関心のあるアーリーステージ投資家のパネルとTechCrunchが行ったディスカッションだろう。たとえばSpace Capital(スペース・キャピタル)のファウンダーであるChad Anderson(チャド・アンダーソン)氏は、長年スタートアップに早期投資する中で、宇宙産業が著しく進化してきたことについて語り、現在業界で起きている大きな転換に言及した。Assembly Ventures(アセンブリー・ベンチャーズ)のJessica Robinson(ジェシカ・ロビンソン)氏は、スペーステック(宇宙技術)が他のあらゆる分野に影響を与えその逆も起きていることについて話した。

ディスカッションはTC+サブスクライバー専用サイトでその他の会話とともに公開されている。

画像クレジット:Axiom Space

その他のニュース

Voyager Space(ボイジャー・スペース)はBlue Origin(ブルー・オリジン)のグローバル販売担当VPを新たな最高収益責任者(CRO)として雇った。Clay Mowry(クレイ・モーリー)氏はBlue Originチームのかなり有力なメンバーであり、その以前はArianespace(アリアンスペース)の会長兼社長を務めていた。

NASA(米国航空宇宙局)と各国の提携機関は、民間有人宇宙飛行計画、Axiom(アクシオム)Mission 1の国際宇宙ステーションへの飛行を承認し、2022年2月28日に実施されることが決まった。

ジョージア州カムデン郡のSpaceport Camden(スペースポート・カムデン)は、FAAから正式な打ち上げ許可を受けた。運用に入るまでにはまだいくつかハードルが残っているが、民間打ち上げ会社の新たな打ち上げ場所の選択肢としての役割が期待される。

Rocket Lab(ロケットラボ)は太陽電池、ソーラーパネルその他の宇宙拠点インフラの構成要素のメーカー、SolAero Holdings(ソロエアロ・ホールディングス)を買収する。TechCrunchは先にRocket LabのPeter Beck(ピーター・ベック)氏と、同社の最近の買収ラッシュについて話した(要サブスクリプション)。

The U.S. Space Force(米国宇宙軍)が2歳に!よちよち歩きの武官組織になった。

NASAはJames Web(ジェームズ・ウェッブ)宇宙望遠鏡を米国時間12月24日に打ち上げる予定で、目標打ち上げ時刻は東海岸標準時午前7時20分(日本時間12月24日午後9時20分)だ。フランス領ギアナ、クールーにある宇宙センターから発射され、Arianespaceのロケット、Ariane 5をESA(欧州宇宙機関)との提携で搭載する。

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nob Takahashi / facebook

SpaceX、ブラックホールを観測するNASAのX線偏光望遠鏡を打ち上げ

SpaceX(スペースX)のFalcon 9ロケットが、NASAのX線偏光観測衛星「Imaging X-ray Polarimetry Explorer(IXPE)」を搭載して飛び立った。2017年に最初に発表されたIXPEは、ブラックホールや中性子星などの宇宙線源から飛来するX線偏光を測定できる初めての衛星だ。

冷蔵庫サイズのこの衛星には、光の方向、到達時間、エネルギー、偏光を追跡・測定できる3つのX線偏光望遠鏡が搭載されている。それらすべての望遠鏡からのデータを組み合わせることで、NASAはX線を放出する謎の天体がどのように機能しているのかをより深く知ることができる画像を形成することが可能になる。例えば、超新星残骸の中心で中性子星が高速回転している「Crab Nebula(かに星雲)」の構造をより詳しく知ることができるのではないかと期待されている。

ブラックホールを観測することで、人類がまだほとんど知らない宇宙の領域について、IXPEは科学者の知見を深めることができる。ブラックホールがなぜ回転しているのか、どのように宇宙の物質を飲み込んでいるのかなどの手がかりを得られるかもしれないとともに、新たな発見につながる可能性もある。今回のミッションの主任研究員であるMartin Weisskopf(マーティン・ワイスコフ)博士は、ブリーフィングで次のように述べている。「IXPEは、宇宙がどのように機能しているかについての現在の理論を検証し、磨きをかけるのに役立ちます。また、これらのエキゾチックな天体について、これまでの仮説よりもエキサイティングな理論を発見できるかもしれません」。

SpaceXは今回の打ち上げに、前回のミッションで使用したFalcon 9ロケットを使用した。順調にいけば、ロケットの第1段はIXPEを宇宙に運んだ後、同社のドローン船「Just Read the Instructions(つべこべ言わず説明書を読め)」に着陸する。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Mariella Moon(マリエラ・ムーン)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:NASA

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(文:Mariella Moon、翻訳:Aya Nakazato)

理化学研究所ら日本の研究グループが参加するX線偏光観測衛星IXPE打ち上げ、ブラックホールの詳細な観測が可能に

理化学研究所ら日本の研究グループが参加するX線偏光観測衛星IXPE打ち上げ、ブラックホールの詳細な観測が可能に

理化学研究所(理研)は12月9日、X線偏光観測衛星「IXPE」(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)がケネディー宇宙センターから打ち上げられることを発表した(日本時間9日午後3時に打ち上げられた)。ブラックホールに落ち込む物質の形、ブラックホール周辺の空間の歪み具合、中性子星の強い磁場で歪められた特異な真空などの「これまでの観測とはまったく質の異なるデータが得られる」と期待されている。

これは、理化学研究所開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の玉川徹主任研究員、山形大学学術研究院の郡司修一教授、名古屋大学大学院理学研究科の三石郁之講師、広島大学宇宙科学センターの水野恒史准教授らからなる共同研究。アメリカとイタリアとの国際プロジェクトである「IXPE」衛星に、理研がX線偏光計の心臓部である「ガス電子増幅フォイル」を、名古屋大学が X線望遠鏡の「受動型熱制御薄膜フィルター」を提供している。またプロジェクトには日本から20名を超える研究者が参加している。これによりIPXEは、観測例が極めて少ないX線偏光を捉え「誰も見たことがない新しい宇宙の姿」を明らかにするという。

偏光とは、電磁波の偏りのこと。偏光サングラスは、この光の性質を利用して眩しい光をカットし、風景がはっきり見えるようにしている。同じように、X線偏光を利用することで、X線を放射する天体の詳細な観測が可能となる。X線は大気に遮られてしまうため、宇宙で観測するしかない。そのためX線天文学が始まったのは、人工衛星での観測が可能になった1960年代からのこと。日本ではJAXAの宇宙化学研究所を中心に研究が進められていて、X線天文学は「日本のお家芸」ともいわれている。

試験中の「IXPE」衛星

そんな中で、X線偏光観測の手段として本命視されているのが、NASAマーシャル宇宙飛行センターが中心となって提案されたIXPEだ。この衛星のX線偏光観測能力によって観測できるものには、たとえば、恒星とブラックホールが互いの周りを回っている連星系で、恒星から流れ出した物質がブラックホールが吸い込まれる際に形成されるプラズマの円盤「降着円盤」がある。降着円盤はブラックホールに近づくほど高温になり、ブラックホールの近くではX線を放出する。そのX線の偏光を観測できれば、どんなに高性能な望遠鏡でも観測できない遠くにある円盤の構造が「まるでその場にいるように」観測できるという。

IXPEは、SpaceXのFalcon 9ロケットで打ち上げられ、赤道上空高度600kmの軌道を周回する。最初の1カ月で機能や性能の評価を行った後に観測が開始される。運用期間は2年間となっているが、衛星の機能が維持されているかぎり延長されるとのことだ。

IXPEを載せたFalcon 9は、日本時間9日午後3時、ケネディー宇宙センターから打ち上げら、3時34分ごろに衛星を無事、切り離した。

画像クレジット:NASA / BallAerospace