Alchemist AcceleratorデモデイXXV出場19社を紹介(その1)

Alchemist Accelerator(アルケミスト・アクセラレーター)が今年の初めにデモディをバーチャルに移行したとき、Alchemistのディレクターであり創業者でもあるRavi Belani(Ravi Belani)氏は、それはチームがしばらくの間、続けることを期待していた動きだと私に話してくれた。それから半年近く経った今、再びデモデイを開催することになりましたが、まだ新型コロナウイルスの感染蔓延が続いているため、今回もバーチャルでの開催となった。

Alchemistは企業向けアクセラレーターとして、消費者に商品やサービスを販売する企業ではなく、主に他の企業から収益を得るシードステージの企業に焦点を当てている。25回目となる今回の最新のコホートでは、20社近くの企業がプログラムに参加した。内訳は、理学療法機器から営業担当者のためのAIコーチ、ソフトウェア開発者のための生産性向上ツールまでバラエティーに富んでいる。

米国時間9月17日の午後には、ボルボ(Volvo Cars Tech Fund経由)がAlchemistに投資家として参加したことも発表された。両社はボルボの投資額を明らかにしなかったが、これまでの同様のパートナーシップでは、GE(ゼネラル・エレクトリック)やJuniper Networks(ジュニパーネットワークス)のような企業が200万~300万ドル(約2億1000万円〜3億1300万円)程度を投資していた。

これらの企業が世界に進出するのを見てみたいと思わないだろうか。AlchemistはデモデーをYouTubeでストリーミング配信し、現在葉アーカイブを視聴できる。

この記事では、全企業のアルファベット順のリストと、各社が取り組んでいることを簡単に紹介していく。

Anda Technologies

GPS、通話、クイックシンボルベースのメッセージングシステムを内蔵したシンプルなスマートウォッチ。親や介護者がスマートフォンを使いこなせない状況でも連絡を取り合えるようにすることのが目的だ。同社は最初にラテンアメリカに焦点を当て、現在は米国とヨーロッパへのサポートを拡大している。

画像クレジット:Anda Technologies

Botco.ai

会話型マーケティングプラットフォームを開発。具体的には、売上とコンバージョンを増加させるためのマーケティング用のAIチャットボットだ。見込み客は、SMSやメッセージングアプリを使ってボットとチャットすることができ、AIがあなたのビジネスについて知っていることへの理解を深め、それに応えてくれる。

BreachRX

セキュリティ侵害が発生した際の企業の対応を合理化するためのプラットフォーム。対応のプレイブック(セキュリティの手順書)を提供し、適切なチームメンバーにタスクを割り当て、いつ、どのように対応したかを記録するのに役立てる。

ClearQuote

コンピュータビジョンベースの車検システムを開発。ClearQuoteによると、スマートフォンのカメラを使って車両全体を約60 秒でスキャンして損傷の有無を確認し、その場で修理費用を計算することができるという。まずはリース終了検査、中古車検査、レンタカーの返却検査に注力する。

Copilot

AIを搭載した営業マンのための「コーチ」システムを開発。営業マンが電話もしくはビデオ通話をすると、Copilotが会話を分析し、関連情報を含む「キューカード」を生成する。

Evolution Devices

ウェアラブル電気刺激デバイスを開発。脳卒中の生存者や多発性硬化症の人を含む、下肢に力のない人のリハビリテーションプロセスを支援することを目的する。このデバイスは、各ユーザーの歩行パターンに適応し、患者のセラピストにデータ(歩数など)を報告することで遠隔ケアを支援する。

Faucetworks

「人工神経科医」は、患者が救急車で病院に運ばれている間や、神経科医がいない病院で神経学的な緊急事態をより迅速に特定するのを助けることを目的としている。このハードウェアシステムは、患者に一連の質問をしてから、身体検査を行う。

HR Messenger

WhatsAppもしくはFacebook Messenger上で動作するように構築されたHR・オンボーディングチャットボット。スクリーニング前の質問、面接のスケジューリング、紹介依頼などを自動化するのに役立つ。同社によると、KFC(ケンタッキーフライドチキン)やH&Mなどのクライアントと連携しているという。

Hopthru

公共交通機関向けのデータ分析プラットフォーム。公共交通機関がすでに収集しているデータを分析してダッシュボードに接続にすることで、交通機関が路線や乗降客数を改善する方法を見つけるのを支援する。

Hubly Surgical

脳神経外科医が「頭蓋骨穿刺」手術を行うためのスマートなドリルを開発。同社によると、多くの外科医がいまだに基本的な標準的な手回しドリルを使用しており、これが高い合併症率につながる可能性があるという。Hublyのドリルは、ドリルを正確に角度をつけるのに役立ち、外科医がドリルを深く掘りすぎないように作られている。2021年に米食品医薬品局(FDA)の認可を受け、2022年に米国の病院で発売される見込みだ。

画像クレジット:Hubly Surgical

関連記事:Alchemist AcceleratorデモディXXV出場19社を紹介(その2)

画像クレジット:Alchemist Accelerator

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(翻訳:TechCrunch Japan)

ベンチャーキャピタルにおける女性の役割、外国からの投資についてEast Venturesパートナーが語る

Melisa Irene(メリサ・アイリーン)氏が東南アジアで最も評価の高いベンチャーキャピタルのパートナーになるまでの道のりは典型的なものではなかった。

「私はいつも自分がとても幸運だったと思っている」と、2019年1月にEast Ventures(イースト・ベンチャーズ)のパートナーに昇進した同氏は語った。25歳で、ジャカルタに拠点を置く同ベンチャーキャピタルの最初の女性パートナーになった。

筆者はTechCrunch Disruptの最初のオンライン会議で同氏に対し、同氏が謙虚に「幸運な」キャリアだと述べたその内容、若い女性投資家としての経験、東南アジアへ流入する米国と中国のVCマネーの急増、新型コロナウイルスによるパンデミックがEast Venturesにとって何を意味するのかついて聞いた。インタビューの動画は記事の最後にある。

25歳でパートナーに

アイリーン氏は、VCの世界で登り詰めるまでにタイミングが大きな役割を果たしたことを認めた。インドネシアのインターネットインフラの開発は比較的最近である2010年前後に進みだした。先進国の市場と比べると遅かったが、成長は急速だった。East Venturesが東南アジアのeコマースリーダーであるTokopedia(トコペディア)のシリーズAで投資してから5年後の2015年、アイリーンは入社した。

当時、「私は別に多くのインベストメントバンカーと競争していたわけではなかった」という。同氏は大学で会計を専攻し、East Venturesでインターンとして働き始めた。「ベンチャーキャピタルが求めていたのは、速くエコシステムに溶け込める人材だった」。

常識に反して東南アジアの投資エコシステムは女性に対して「非常に友好的」だ。「業界における女性専門家の昇進は歓迎されている。東南アジアで女性がバイスプリンシパルやプリンシパルになるのは珍しいことではない」と同氏は語った。

女性を支えているのは、単に「ジェンダーの多様性」という項目にチェックを入れるためではなく、テクノロジー業界で共感を示す投資家が実際に求められていることの表れだ。

「ビジネスパートナーとして、また時には友人として話したい人もいる。共感は女性が自然に生みだせるものだ」と彼女は付け加えた。

しかし同氏は、「女性の意思決定者の数は間違いなく改善しなければならない」と警告する一方、地域のエコシステムが「それを支持する」とも見ている。

東南アジアのゴールドラッシュ

米国と中国のハイテク大手は近年、約6億7000万人が住みインターネット市場が生まれたばかりの東南アジアへの進出意欲を高めているが、地域のスタートアップに資金を提供することから始めることが多い。投資により、外国の投資家としてどう動けばよいのか情報が得られる。

実際、おなじみの名前はすべてこの地域の新星に賭けている。Alibaba(アリババ)はTokopediaと、そのライバルであるJD.comも投資する旅行ポータルであるTraveloka(未訳記事)に投資した。TravelokaはEast Venturesのポートフォリオにも入っている。Tencent(テンセント)、Google(グーグル)、Facebook(フェイスブック)、Paypal(ペイパル)はすべて、インドネシアの配車サービスを提供する巨人であるGojek(ゴジェック)に投資している(未訳記事)。Gojekはソフトバンクが投資するGrab(未訳記事)のライバルだ。

「スタートアップは巨額の小切手を提示されたら、しっかり前を見て何が最善かを考えなければならない」とアイリーン氏は助言する。「問題は誰もがお金を持っていること。自社はどちらの側につきたいのか、どの企業と協業したいのか、どの企業が戦略的アドバイスを提供してくれるのかを判断する必要がある」。

投資家と創業者が、優先順位をめぐり衝突することは珍しいことではない。 一部の投資家は迅速にイグジットすることを望むが、起業家はじっくりビジネスを構築することを志向する。「そのすり合わせが重要だ」とアイリーン氏は主張する。

東南アジアのテクノロジーの未来

東南アジアでGrabやGojekのようなユニコーンや「スーパーアプリ」が出現した今、既存の大企業が競争をつぶすという懸念が高まっている。East Venturesは、TokopediaやTraveloaなどのスタートアップの一部が巨大企業ヘと成長するのを目の当たりにしたアーリーステージの投資家として、地域の競争について独自の洞察を持っている。

アイリーン氏は、東南アジアのインターネットエコシステムが成熟するにつれ、実際には「次のセクター」のスタートアップに多くの機会があると信じている。

「ユニコーンの周りを見ると彼らをサポートする多くの若くて小さな会社があることに気付く」と同氏はいう。重要なのは、大企業だけですべてを成し遂げることはできず、ニッチな機能のいくつかは専門に特化した小規模なプレーヤーの方がうまく対応できるということだ。

一方で同氏は、規模の経済とネットワーク効果の恩恵が得られる領域で統合は可能であり、そうすべきだと考えている。

「インドネシアは1つの国だと考えられているが、それは違う。インドネシアは最大の群島だ。つまり州によってインフラが大きく異なる。例えば小さな島に銀行の支店を作るのは高くつく。消費者にさまざまな種類のサービスを提供するには、多くのことを集合的に1つの大きなエコシステムによって扱う必要がある」。

最後に避けて通れない新型コロナウイルスの問題がある。多くの投資家と同様、アイリーン氏は暗い時代にも良い面があると考えている。

「新型コロナ前は会社の質を評価することが非常に難しかった。どの会社も多額の資金を持っていて、インフラも非常に良かった。しかし突然、誰が適切な意思決定を行い、誰がどの程度の速さでそれを行い、意思決定の結果がどうなったかを知ることができるようになった。起業家が新型コロナにどう対応しているかを観察すると、彼らの会社について多くのことがわかる」。

カテゴリー:VC / エンジェル

タグ:Disrupt 2020East Ventures

画像クレジット:Melisa Irene, partner at East Ventures

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(翻訳:Mizoguchi

世界中を特別買収目的会社だらけにしたいVCがさらに3つの特別買収目的会社を創設  

特別買収目的会社(SPAC)が世界を支配しようとしている。少なくともパリハピティヤ氏の未来のポートフォリオでは。

Social Capitalの創業者であるChamath Palihapitiya(チャマト・パリハピティヤ)氏は、早くもSPACに3倍賭けしている。この「白紙小切手」とも呼ばれる投資の仕組みは、非公開企業を捕まえて、彼らを公開市場にひょいと載せるものだ。彼の最初のSPACは2020年にVirgin Galacticを買収で、2つめは今週Opendoorを買収した(未訳記事)。後者は、この簡易住宅販売プラットフォームを総額48億ドル(約5020億円)に押し上げる大当たりになった。しかも、キャッシュの出番はほとんどない。彼の3つ目のSPACは2020年4月に公式に資金を調達しているが、まだその発表はない。

その彼が今や、3倍賭けに倍賭けしようとしているようだ。米国時間9月18日にウォール街のベルが鳴った後でこのベンチャーキャピタリストは、3つの新しいSPACをSECに申請した。Social Capital Hedosophia Holdings Corp. IVは公称値3億5000万ドル(約366億円)、Social Capital Hedosophia Holdings Corp. Vは6億5000万ドル(約680億円)そしてSocial Capital Hedosophia Holdings Corp. VIは10億ドル(約1046億円)だ。

公称値は目標だ。各SPACはこれから投資家への売り込みを開始し、公式に資金を調達してから、買収ターゲットの物色を始められる。各SPACはそれぞれ独立した企業であり、同じ投資家を共有してもよいし、完全に独自の投資家を揃えてもよい。

3つの新しいSPACは同じ経営者を共有する。パリハピティヤ氏自身と、HedosophiaのIan Osborne(イアン・オズボーン)氏、Social CapitalのCFOであるSteven Trieu(スティーブン・トライウ)氏、そしてHedosophiaのチーフアドミニストレーションオフィサーであるSimon Williams(サイモン・ウィリアムズ)氏だ。

ただし、それぞれに5人目の取締役いて、たぶんそれが各SPACの戦略の違いを表すことになる。人気のソーシャルネットワークであるNextdoorの共同創業者でCEOのNirav Tolia(ニラヴ・トリア)氏が第4のSPACに加わり、元Facebook(フェイスブック)のエンジニアリングのトップで2020年初めに辞めた(CNBC記事)Jay Parikh(ジェイ・パリフ)氏が第5のSPACに、そして6つ目のSPACには、Twitter(ツイッター)の元CEOで今はベンチャーキャピタリストのDick Costolo(ディック・コストロ)氏が加わる。

TechCrunchも、2020年におけるSPACの加速ペースを話題にしてきた。そしてそれはここでは、Social Capitalという動きをめぐる小宇宙に現れているようだ。パリハピティヤ氏とHedosophiaは、SPACという仕組みに大志を賭けているだけでなく、それらへの資金調達の仕組みを整え、成長に導く道なら何でも歓迎するマーケットを利用していきたいようだ。

関連記事:勢いづくSocial Capital Hedosophiaが4番目の「特別買収目的会社」を申請、500億円超の調達を目指す

カテゴリー:VC / エンジェル

タグ:SPAC

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

勢いづくSocial Capital Hedosophiaが4番目の「特別買収目的会社」を申請、500億円超の調達を目指す

Social Capital Hedosophia(ソーシャル・キャピタル・ヘドソフィア)は、新たな特別買収目的会社のために5億ドル(約523億円)の資金調達を行う計画をSEC(米証券取引委員会)で内々に申請(Bloomberg記事)した。

これはChamath Palihapitiya(チャマト・パリハピティヤ)氏と、同氏の長年の投資パートナーであるIan Osborne(イアン・オズボーン)氏が指揮を執る同社にとって4番目の特別買収目的会社(SPAC)だ。

驚くべきことに、ほかに何十社も計画中だと言われている。自身が共同ホストをつとめる「All-In Podcast」で、パリハピティヤ氏はニューヨーク証券取引所のティッカーシンボルを「IPOA」から「IPOZ」まで予約済みであることを最近明かした。さらに同氏は、それぞれの取引に自身の資金1億ドル(約106億円)をつぎ込んで、出資者候補と意識を共有していることも語った。

どんな筋書きなのか。パリハピティヤ氏はポッドキャストで、連邦準備銀行の経済・金利予測と今後数年間ゼロ金利を続けるという計画を指摘した。「つまり、率直に言って、いかなるタイプであれ短期的インフレの可能性はない」。

それが、「投資家は時間をかけて株式のリターンを得るようになる、なぜなら無リスク金利はゼロであり近々マイナスになるからだ。そしてあなたが資産管理者なら、すべきことはなにか?」。

彼は「あなたはカリフォルニア州の年金システムを運用しているとしよう。何千億ドルもの資金があり、年金が破綻しないように年に5~6%の運用益を出さなくてはならず、政府からは何ももらえない。誰もがその状態にあるとき、あなた著しいロング(買い)になる。だから一般的にこうしたチャンスは買いのチャンスであり、今私は以前よりも強気にでている」と説明する。

実際、非公開株と公開株への投資を比べた場合「乗る価値があるのは公開企業だけだと私は思っている。それは、気を悪くしてほしくないのだが、公開市場で良い株を見つけるのが非常に得意な人なら、Sequoia CapitalやBenchmarkといった最高のベンチャーファンドよりもよいリターンを得られる。多くの人たちがTwitterで、そういうVCたちがアーリーステージ市場でどれほど成功しているかをまくしたてているのを見ているが、どれも小さな金額であ大した意味はない」。

彼が意気盛んなのにはもちろん理由がある。Social Capital Hedosophia最初のSPACは、2017年に資金調達し、最終的に昨年、宇宙旅行会社のVirgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)と合併して現在40億ドル(約4185億円)を少し上回る時価総額を、公開市場の株主たちから得ている。

同社2番目の今年4月に資金調達したファンドは、住宅用不動産売買のOpendoorとの合併を米国時間9月15日に発表した(未訳記事)が、Opendoorは、未だに不確実な経済環境の中で伝統的IPOプロセスで上場することは難しかったかもしれない。

Social Capital Hedosophiaの3番目のSPACは同じく今年4月立ち上げられた。まだターゲット企業を公表していないが「IPO Proceeds(公募で得た手取金)を使って主要拠点が米国以外のテック企業を買収するつもりだ」と同社は明らかにしていた。

SPACは、歴史的には華々しい評判を得てはいないが、ここ最近は多くの投資家の興味を引きつけていることは間違いない。SPCInsider誌によると、2020年だけで100近いSPACが設立され、わずか7社だった10年前から急増している。

Sequoia Capitalは、Zoom、ByteDance、Snowflakiを始め新聞の見出しを飾る会社を数多く抱えている目覚ましい年を迎えているが、同社の米国の責任者であるRoelof Botha(ロエロフ・ボータ)氏は米国時間9月15日のインタビュー(未訳記事)で、SequoiaはSPACを立ち上げることについて、ありそうにないとしながらも「可能性は排除していない」と語った。そして、IPOプロセスを巡って「もっと多くのイノベーションがあるという事実を大いに喜んでいる。それが企業の選択肢を増やすからだ」と続けた。

画像クレジット:Michael Kovac / Contributor / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

PromisePayとUncharted Powerの女性起業家が語るスタートアップおけるピボットのヒント

スタートアップを立ち上げて成長させるのは容易ではないが、新しい事業へ方向転換(ピボット)して同じように成長させるのは、もっと難しいと言われている。しかし、不可能ではない。

PromisePay(プロミスペイ)の創業者でCEOのPhaedra Ellis-Lamkins(フィードラ・エリス=ラムキンス)氏と、Uncharted Power(アンチャーテッド・パワー)の創業者でCEOのJessica O. Matthews(ジェシカ・O・マシューズ)氏は、どちらもそれを経験している。TechCrunch Disruptでは、両者それぞれの、しかしどこか類似性のあるヒントを投げかけてくれた。

以前はPromise(プロミス)の名称で知られていたPromisePayは、保釈金が払えないという理由だけで投獄されている人々の数を減らすことを目的とする保釈金改革スタートアップとしてスタートした。現在は、交通違反の反則金、裁判費用、子どもの養育費などの援助に重点を置いている。

「私たちは、重大な存続の危機に直面しました」とエリス=ラムキンス氏は話す。「Promiseで、私たちは大量投獄を終わらせ、刑務所の受刑者の数を減らすことに注力していました。そのため、滑り出しはとても順調で、収益も上がりました。そして気づいた根本的な問題は、私たちが効率を上げると、司法制度が人々を収監する効率が上がってしまうということでした。

私たちの間違った想定、つまり司法制度を効率化すれば司法制度に捲き込まれる人の数を減らせるという考え方に即した効率化は果たされませんでした。そこで私たちは、このままの会社では安定した成長はないと判断し、投資家に会いに行きました。利益が出ているときにこんな話を持ち出すのは心苦しかったのですが「この方向性では長続きするとは思えない、これは私たちの取るべき道ではないと伝えました」。

投資家に、法執行機関に技術を売る人たちもいるが、Promiseがやりたいのは人々の解放だと話した。彼女は売り込む相手を間違えていたことに気づき始めた。司法刑事制度に捲き込まれた人たちを気にかけているが、彼らはそうではない。そこが齟齬があると主張するクライントに彼女は話を持ちかけていたのだ。エリス=ラムキンス氏は、刑務所や牢獄に売り込みをかけるのをやめたいので、資金は返すと投資家たちに提案した。

そして彼女は、なぜ人は投獄されてしまうのかを考え始めた。「幸運なことに、それが成長を促したのですが、私は貧しい人たちや、黒人やヒスパニックに便乗して会社を成長させたいとは思っていません。なぜなら、ほかにもっといい方法があるからです」と彼女は言う。「しかし、利益を上げている市場を放棄するというのは、その場になると怖いことでした」。

この判断で揉めた投資家が一人もいなかったと彼女から聞いて、安心した。

マシューズ氏も、創設当初はUncharted Playという名称だった自身の会社Uncharted Powerで比較的似たような体験をしたことを話した。彼女の会社の最初の製品は、数時間これで遊ぶと照明を点灯できるほどの電力が充電される発電サッカーボールだ。後に彼女は、この技術を携帯電話に充電ができるベビーカーに応用した。

しかし、Uncharted PlayでシリーズA投資を獲得した後、マシューズ氏は自分の会社はインフラ整備に専念すべきだと気がついた。彼女は、会社の最終目標は生活に必要なインフラを人々に届けることだと考えていた。サッカーボールでそれを実現するのは、どう考えても難しかった。

「私たちは、そうした製品の製造技術を磨き、売り込みをかけて規模の拡大もできるようになりましたが、単に利益と社会的影響力とのバランスではなく、社会的影響力を求めようとしたとき、支えてあげたい人たちと同じグループに自分も属していることを自覚していた私は、成功したら問題は解決されるのかしらと椅子に座ったまま考えてるような気持ちでした」。

マシューズ氏は、それでは問題解決にならないと気がついた。そうして「数百万ドル規模の収益と64%の売上げ総利益率をもたらす製品と別れを告げることになったと」彼女は振り返る。

だが、それが功を奏した。昨年Uncharted Powerは、未来の電力インフラに関する彼女の論文を評価した投資家から追加投資を調達できたのだ。「それは私たちにとって大きな瞬間でした」と彼女は話す。

マシューズ氏もエリス=ラムキンス氏も、インポスター症候群(自己を過小評価してしまう傾向)と成功の評価について人々に語るべき、輝く貴重な体験の持ち主だ。この鼎談で語られたその他のハイライトをまとめてお伝えしよう。

インポスター症候群と代理症候群について

エリス=ラムキンス氏:テック企業は、人間への投資を著しく怠っていると感じています。そのため彼らは何も知らず、企業が成長する中で忘れさられてゆきます。私たちのような企業が他にもあることを知ってもらえるよう、手助けをする義務が私たちにはあります。

マシューズ氏:それはインポスター症候群ではなく、代理症候群です。私もまったく同様に感じるからです。シリーズA投資を獲得したとき、私はすぐに「大変だ、この人たちのお金を無駄にしてはいけない」と思いました。非常に重く感じました。もし私たちが頑張らなければ、それは私たちだけの問題ではなく、私たちに似た人たち全員の問題になると。

成功の評価

エリス=ラムキンス氏:見るべき点として、どれだけテクノロジーが私たちの社会を全般的に改善したかもあります。それが成功の評価です。成功を評価するとき、結果だけを見てはいけません。その影響が実際の利益よりも大きい場合に、10億ドルの利益を上げたり、評価額10億ドルの企業を所有できたりするのだと思います。そこが非常に重要です。

マシューズ氏:「社会的企業」という言い方をやめましょう。たわごとです。企業は企業。問題は問題。問題を基準にした価値システムを作るべきです。ほかにも増して重要な問題というものがあります。それを知ることは、つまり、そのことを誰よりも理解している企業創業者を支援するということです。そうして問題を乗り越えることができるのです。

画像クレジット:Sasha Craig Photography / Christopher Horne

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(翻訳:金井哲夫)

エミー賞俳優のケリー・ワシントン氏がスタートアップ投資家になった理由

「Scandal」(スキャンダル )や「Little Fire Everywhere」(リトル・ファイアー〜彼女たちの秘密)などで知られる俳優のKerry Washington(ケリー・ワシントン)氏は9月15日、自身にとって初となるエミー賞を受賞した(InStyle記事)。そして米国時間9月16日、同氏は主に投資家としてTechCrunch Disruptに登場した。

ワシントン氏のテクノロジーへの関心は2012年のScandalプレミアに遡る。「黒人女性がネットワーク番組のドラマで主演を演じてからおおよそ40年が経っていた」と同氏は述べた。プレッシャーは大きく「黒人女性を自主演に抜擢することでリスクをとった」ネットワークの「バブル番組」だとScandalは考えられた。

そしてワシントン氏は支持を得るために「Barack Obama(バラク・オバマ)氏の2008年と2012年の大統領選キャンペーンでの自身のボランティア経験(Politico記事)、特にソーシャルメディア対応を整理する活動の体験を参考にした」と話した。

「従来のメディアは私たちをサポートしておらず、あるいは社会の反応がどのようなものになるのか待っていて、初めから私たちはドラマを支えるためにテクノロジーの力に頼った」と同氏は話した。「Twitterの世界のおかげで2つめのシーズンに漕ぎ着け、そこから始まったと本当に思っています」。

「どういう理由で自身の資金をスタートアップに注ぐようになったのかについては、より深く関わりたかったから」と語った。

「私が関わるクリエイティブな関係のあらゆることへの関与となると、私は声を出さずに黙って座っていられない。たとえば、キャリアの早い時期にプロデューサーになるという方向に引き寄せられた」と話した。

同様にテックツールを使うことはエキサイティングだったが「さらに多くの株やインプット、クリエイティブな声、テクノロジーそのものに影響を与える能力をどうやったら持つことができるのか理解することは私にとって本当に刺激的だった」と同氏は語った。

ワシントン氏の最初の投資は女性向けのコワーキングスペースThe Wing(ザ・ウィング)だった(Hollywood Reporter記事)。「包括性とコミュニティ、本当にインクルーシブな方法でのアイデンティティの祝福、女性の声のサポート、おなざりにされていた声のサポートというアイデア」へのコミットメントの一環としてだった」と同氏は説明した。

The Wingは成功したが議論も呼んだ。ニューヨークタイムズ紙は「多くの従業員(特に有色人種の女性)が不平等に扱われたと感じた」との記事を掲載した。批判の結果、CEOのAudrey Gelman(オードリー・ゲルマン)氏が今夏社を去った。

論争への彼女自身の反応について質問されたとき、ワシントン氏は「投資家として、有色人種の女性として、私にとってもっと透明性と責任があることが重要だ」と答えた。同氏は、過去数カ月の投資家としての自身の役割は「この移行期におけるリーダーシップをサポートすること」だったと話し、透明性と責任を「心から望む」との意を示した。

他の投資には、セレブリティがテキストメッセージによるファンとの会話を管理できるCommunity(コミュニティ)がある(ワシントン氏はもしあなたが彼女にテキストしたら、本当に返事をするのは彼女自身だと約束した。ただ、彼女は「数え切れないほどの人」とテキストしているため、辛抱強く待ってほしいとお願いした)。また、消費者直結型の歯列矯正スタートアップのByte(バイト)にも出資していて、彼女自身もByteのサービスを使用していると話した。

夢のスタートアップについては、同氏はまだ発表していない消費者直結のファッションスタートアップへの投資があるとし「今のところそのスタートアップが夢のようだ」と語った。繰り返しになるが、こうした投資は全て個人的なものだ。ワシントン氏は今後ファンドを立ち上げたり、ベンチャーキャピタル会社に加わったりするだろうか?

「検討したことはあるが、現時点ではこれまでの投資とより密で、実際的な関係を持ちたい。もっと深く掘り下げることができ、また個人投資家としてより大きな価値をもたらすことができると考えている」と話した。

画像クレジット:Simpson Street

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(翻訳:Mizoguchi

 

Atlassianが自身のエコシステムに投資する52.5億円のベンチャーファンドを立ち上げ

Atlassian(アトラシアン)は米国時間6月16日、Atlassian Ventures(アトラシアン・ベンチャーズ)の立ち上げを発表した。これは、Atlassianのエコシステム全体の中で製品を開発しているスタートアップや、ある程度確立された企業に対しても投資するための、新しい5000万ドル(約52億5000万円)のファンドだ。

Atlassianの経営企画責任者であるChris Hecht(クリス・ヘクト)氏は「ますます多くの顧客が当社のクラウド製品に移行する中で、私たちは顧客のエクスペリエンスを向上させ、すべてのユースケースを満たす、クラウドベースのアプリの堅牢なエコシステムを育成することを通して、顧客のビジネスをサポートすることをお約束します」と本日の発表の中に書いている。「私たちは、マーケットプレイスですでに利用可能な4200本以上のアプリと、提供済みのSlack、Zendesk、GitHubといった人気の高いツールとの統合をとても誇りに思っています。しかし、そうした栄光に浸っている場合ではありません。Atlassian Venturesは、お客様がイノベーションの次の波を加速し、現在と将来の両方でご自身の仕事を管理するために必要となさる、最高のツールと統合に対する継続的な投資を促進して行きます」。

今回のファンドは三方向からのアプローチを採っている。まず同社のクラウド製品向けの製品を開発する初期段階のスタートアップに投資する。同社のクラウド製品向けの製品には、Jira、Confluence、BitbucketTrelloなどが含まれている。

しかし、現在ビジネスの拡大に取り組んでいる既存の企業にも投資を行う。ファンドの規模を考えれば、こうした投資を行うにはほかのVCとパートナーを組むことも当然あるだろう。ヘクト氏はこの例として、Zoom、Slack、InVision、process.st、Split.ioに対するAtlassianの既存の投資を挙げている。

これらの2つのグループに加えてファンドは、クラウドサービスを強化したり、将来の仕事をサポートする新しい製品を作成したりするAtlassian Partner Programのメンバーに対しても投資を進める。

この文脈では、Atlassianが最近そのエコシステムの中でいくつかの企業を買収したことも注目に値する。例えば、Automation for Jiraを開発するCode Barrel(コードバレル)、Mindville(マインドビル)Halp(ハルプ)などだ。

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画像クレジット: Karen Dias/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:sako)

金属3DプリントのDesktop Metalはまさに「金のプリンター」、Kleinerのリターンは投資額の10倍

「金属をプリントする」技術を携えたDesktop Metal(デスクトップ・メタル)は、ひさしぶりにボストンから現れたおもしろいスタートアップだ。3Dプリント市場で大成長する可能性がある。通常3Dプリントでは柔軟性のあるポリマーが材料に使われるため、プリンターが「印刷」できる材料によって、製品のタイプが限られてしまう。なので、数週間前にこの会社がSPAC(特別目的買収会社)の目に留まったのは、ごく自然なことだった。すべてが順調にいけば、2020年末には株式が公開される。

米国時間9月14日朝、Trine(トライン)というSPACとこのスタートアップは、最新の財務と株主に関する報告書を米証券取引委員会(SEC)に提出したが、その内容から大成功を手にするベンチャー投資会社はどこなのかが見えてくる。

まず、2015年のシリーズA以降のDesktop Metalの第一優先株の価格を見てみよう。シリーズA当時は0.53ドルだったが、2019年のシリーズEで販売した株価は10ドルをやや上回るなど、この5年間で急上昇している。

Desktop Metalの株価。

提出された資料(SECサイト)によれば、Desktop Metalの大口の投資会社は、17.66%を所有するNEA、11.59%のLux、11.10%のKleiner、8.89%のGV(元Google Venturs)、6.96%のNorthern Trust、5.89%のKDT(Koch Industriesの子会社)となっている。

Desktop Metalの評価額は、SPACの総合評価額25億ドル(約2630億円)のうちの18億3000万ドル(約1895億円)。この2つの数値の差は、SPACが保有する株式3億500万ドル(約316億円)と、買収の一環として実施される同社への民間投資と手数料やその他の補助的融資を合わせた2億7500万ドル(約290億円)から生じている。

リターンの期待度という面から見るとどうだろう?その提出書類によれば、Desktop Metalは6回のラウンド(シリーズAからシリーズEおよびE-1)で、トータル4億3800万ドル(約460億円)の資本金を調達している。この数値を使った簡単な計算で、個々のファンドが投資会社にどれほどのリターンを提供できたかを大まかに推測できる。

Desktop Metalへの投資額。

投資額の何倍戻ったかという観点で見れば、最大の勝利者はKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)だ。Desktop Metalへの投資総額のおよそ10倍のリターンを獲得した。KlienerはシリーズAの5分の1を提供している。およそ300万ドル(約3億1600万円)だ。シリーズBでは、投資額はおよそ1300万ドル(約13億7000万円)に増強された。その後のラウンドでは、次第に比率が下がってゆく。2040万ドル(約21億5000万円)という投資額の比率が、昔に遡るほど大きくなっているところを見ると、それがリターンの倍率を押し上げていることがわかる。

NEAは、おそらくその資本規模の大きさからすべてのラウンドを通して一定した投資を行っており、最終的な投資額はおよそ5700万ドル(約60億円)にのぼる。シードプログラムから参加し、シリーズAの投資割合は43%としている。NEAは継続してDesktop Metalのすべての成長ラウンドに巨額を投じてきた。最終的なNEAのリターンの倍率は、およそ5.67倍と算出される。

最後に、初期ステージの投資会社の間ではLux(ラックス)が5.31倍を守った。同社も同様に、すべてのラウンドに資金を提供している。ただし、NEAほど積極的ではない。最終的にDesktop Metalに投じた資金は4000万ドル(約42億円)となった。

成長投資企業を目指すGVはシリーズCから参加し、その後のラウンドを通じておよそ6500万ドル(約68億5000万円)を投資。リターンの倍率は2.5倍となっている。Northern Trust(ノーザン・トラスト)はシリーズDからの参加で、リターンの倍率は1.6倍。KDT of Koch Industries(コッチ・インダストリーズ)のKDTの場合は、そのメザニンファイナンスの注入によるリターンが1.44倍という結果になった。

これらの投資会社は、みなSECの基準による5%以上の所有権を持つ者たちだ。4億3800万ドル(約460億円)というDesktop Metalの調達額の中には、資本政策表には公開されていない1億ドル(約105億円)があるため、他にも巨額のリターンを獲得しながシェアの公開義務のないベンチャー投資家がいるようだ。またここでは、これらのベンチャー投資会社が所有する少数の普通株による出資金は計算に入れていない。リターンの倍率に影響するほどの大きな額ではないからだ。

ほんの5年間で評価額を急増させたDesktop Metalは、これらの投資会社に投資に対する確かな内部利益率を与えることになる。

Desktop MetalがSPACを通じて株式公開を行えば、これらすべての投資会社には株式を売却するか、そのまま持ち続けるかの選択肢が与えられる。もしDesktop Metalの株式を持ち続け、同社の業績が順調に伸びれば、株価は劇的に上昇してリターンはさらに押し上げられる可能性がある。もちろん、その逆もあり得る。株式公開をした企業にはエグジットするか、するならいつかを決める自由がある。そしてその判断が、リミテッドパートナーたちの最終的なリターンの額を決めることになる。

だが今のところこれは、ベンチャー投資会社たちが、今回の取引でどれだけ成功できるかを確かめる指標として有効に使える。おそらく彼らは、その3Dプリンターで黄金をプリントできるようになるだろう。

関連記事:金属3Dプリント技術を擁するDesktop MetalがSPACを利用したIPOで2600億円超企業に

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タグ:Desktop Metal 3Dプリント SPAC

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(翻訳:金井哲夫)

ソフトバンク・Zホールディングスとスタートアップのマッチングイベント「Zピッチ」が毎月第2・第4水曜日開催

ソフトバンク・Zホールディングスとスタートアップ企業のマッチングイベント「Zピッチ」が毎月第2・第4水曜日開催

YJキャピタルは9月16日、ヤフーをはじめとしたソフトバンクやZホールディングスのグループ企業とスタートアップ企業との連携強化を目的としたピッチイベント「Zピッチ」を9月16日より隔週開催(毎月第2、第4水曜日)すると発表した。また、本日より「Zピッチ」に参加するスタートアップ企業の募集を開始した。

  • 開催日程: 第1回「Zピッチ」は2020年9月16日18:00~19:00。以降、隔週開催(毎月第2、第4水曜日)
  • テーマ: 第1回は新時代のメディアビジネスの最前線
  • 対象企業: インターネットサービスを中心としたスタートアップ企業
  • ピッチ内容: 事業紹介、プロダクト紹介など
  • 応募方法: 「Zピッチ エントリーフォーム」から応募。ソフトバンクやZホールディングスのグループ企業とのサービス関連性などを基に選考を行い、担当者から応募企業に連絡(枠数の都合から登壇できない可能性あり)

Zピッチは、スタートアップ企業を対象とする、ソフトバンクやZホールディングスのグループ企業への事業連携やプロダクト導入などの機会創出を目的としたピッチイベント。ピッチとは、短時間で自社のサービスや製品を紹介すること。

YJキャピタルでは、過去にもdelyやビジョナルなどへの出資を通じて、Zホールディングスのグループ企業との事業連携機会を創出。

Zピッチでは、ソフトバンクやZホールディングスの各グループ企業の事業責任者、現場メンバーへのピッチを通じてコネクションを形成でき、最終的に事業提携やプロダクト導入に向けた事業当事者間の直接的な事業検討、YJキャピタルからの事業シナジーを加味した出資検討を行うことを目指すという。

YJキャピタルは、Zピッチを通じ広範囲にわたるスタートアップ企業を対象に事業連携の機会を創出し、事業成長スピードを加速させる機会を提供することで、スタートアップエコシステムの拡大を支援する。

ベンチャー業界が新鋭のマネージャーを積極的に迎え入れるべき理由

著者紹介:Noramay Cadena(ノーラメイ・キャデナ)氏は、エンジニアからベンチャーキャピタリストに転職し、現在MiLA Capital(MiLAキャピタル)Portfolia’s Rising America(ポートフォリアズ・ライジング・アメリカ)の投資をリードしている。

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大抵の場合、機関投資家は、外部からベンチャーに踏み込んで来た者よりも、有名企業から独立したマネージャーを好む。そうしたマネージャーたちは、安全でリスクが低い選択肢に見えるのだ。

そうした印象は、魅力的であり、より注目や資本を集めるのに理想的だと表面上見えるだろう。しかし、実はもっと注目されるべき他の方法がある。それは、VC(ベンチャーキャピタル)に自らの資金で参入してきた新鋭のマネージャーを迎え入れることだ。新鋭マネージャーは、その経験や人格を武器に、確立された業界内でも飛躍できる人材である。

自分の経験を大きく踏まえたうえで、その理由をいくつか挙げていく。2015年、私は自分の資金調達プロセスに便乗し、ベンチャーキャピタルの世界に足を踏み入れた。私は以前、航空宇宙関連の仕事をしていたため、元来、飛行機を組み立てながら操縦するような無茶なことが嫌いだ。ところが、ベンチャーキャピタルの世界に入った時はそのような状況だったのである。それまで、私は十年間も衛星を宇宙に向けて飛ばしていたにも関わらず、ベンチャーキャピタルを始めた時には、猛勉強を強いられた。初めてキャピタルコールのメールを送信した時、その場にいたパートナーたちの表情が思いっきりこわばったことを今でも鮮明に思い出す。我々は、まさに飛行機を操縦しながら操縦方法を学んでいる状態だったのだ。

5年後、我々はMiLAキャピタルの初期資金をすべて配分し終え、身近な技術を開発する創設者のためのエコシステムを構築し、22社に投資した。この時に学んだことをときどき思い返すことがあるが、それは今でもとても役に立っている。

それでは、自ら企業を創設した新鋭のマネージャーが優れた候補者であり、迎え入れるべきなのはなぜなのか、主な理由を7つ挙げよう。

  1. 転職前に、自己という揺るぎないブランドと名声を高めてきた。彼らは、企業の体質に同調して言いなりになることなく、自力で自分を開花させたのだ。彼らの配慮に満ちたリーダーシップ、ツイート、創設者との働き方などは、まさに所有財産である。創設者の信頼を獲得し、契約を成立させるには、信頼性が何もよりも重要である。
  2. 生き残るための道として外国人の求人を積極的に活用してきた。プレスリリースや求人版では、一晩であふれるような応募が来るわけではない。チャンスを増やすために、さまざまな組織、大学、他の投資家とのつながりを確立している。
  3. 自分のポートフォリオを進化させ、生き延びるために努力してきた。第一投資に続いて第二投資を受けるために、新鋭のマネージャーは、自らのポートフォリオで成功例を提示する必要がある。つまりそのマネージャーは、創設者がハードルやチャレンジを乗り越えられるようサポートするために、第一線で尽力してきたこと、さらにスタートアップ企業の真のパートナーとして行動するにはどうすればよいかを理解していることになる。
  4. 大きい問題から些細な問題まで気苦労に慣れているからこそ、心配事を軽減するという能力を高く評価しているのである。税金やインターネットの請求書の支払い、インターンを雇うための資金調達、ウェブサイトの更新など、起業には、重大事項と共に、とても細かい作業も伴う。それは、創設者と同じように新鋭のマネージャーは、さまざまな役割をこなし、トイレ掃除や物品購入など、雑事を何でもこなすのに慣れているということだ。
  5. ファンド開発の過程で人格を磨いてきた。新鋭のファンドマネージャーは、必要なことを学び終える前に、仕事をスタートさせてきた。常に学び、実践してきたし、寝ている時でさえ「どうして今なのか」「どうして自分なのだ」と答えもないのに、自問し続けてきた。2019年、First Republic Bank(ファースト・リパブリック銀行)によると、米国に存在するマイクロベンチャーキャピタルの数は1000社に達しようとしており、2015年から毎年100社以上増え続けている。こうした事実にも関わらず、新鋭のマネージャーたちはその中において、個性を発揮し、頭角を現し、自身のコンセプトを証明する機会を勝ち取ったということだ。このようにして、周りに共有できる経験を積み、度胸もついたことだろう。
  6. ベンチャーでのキャリアを築くために、おそらくたくさんのことを犠牲にしてきただろう。ファンドの構築は時間がかかるうえ、見合った報酬がすぐに得られるわけでもない。この事実を受け入れて粘り強く努力できる人は、長期間の見通しを立てる習慣が身についているということであり(これはベンチャーキャピタルで大切なことである)、この業界にコミットしているということだ。多くの犠牲を払い、実生活に関わる影響を過剰に考えてしまわないよう自制しているのである。新鋭のマネージャーは、こうした特質を備えているのである。
  7. マイクロベンチャーキャピタルは、多様性に富んだリーダーをひきつけている。新鋭のファンドマネージャーは、資金の不足を埋めようという熱意に突き動かされて活動している。資金不足は、往々にして性別や人種に関係している。新鋭のファンドマネージャーは、今までにない結果を生み出そうという熱意に満ちたアウトサイダーか、チャンスがあっても能力を出し切れず不満を募らせたインサイダーのどちらかである。これが重要なのは、創設者が選択肢を増やし、投資家を逆指名できることに気付き始めているからである。特に、アーリーステージの投資では、この意識の違いが物を言う。

もっとこのことについて話を広げようと思う。なぜなら、多様性とその多様性の活用は、ベンチャー業界において広がりつつある問題だからだ。現在、ベンチャーキャピタル業界の投資家パートナーの内、80パーセントが白人である。それに比べ、ラテン系はたったの3パーセント、また黒人も3パーセントしかいない(NVCA)。ラテン系と黒人が所有する企業は、ベンチャーキャピタルの集計運用資産の1パーセントにしか関わっていない(Knight Foundation(ナイトファウンデーション)調べ)。NAICの報告によると、多様性のある所有者の企業はかなり優れたリターンを生み出しているにもかかわらず、この数字である。具体的には、そうした企業は中央値15.2パーセントに相当する内部収益率をあげている。対して、NAICのポートフォリオにあるすべてのPEファームでは、3.7パーセントにとどまっている。

私の経験から、多様性を持ったファンドマネージャーは、ウルベンチャーズのミリアム・リビエラのような注目に値する例外を除いては、マイクロベンチャーキャピタルに集中していると言えるだろう。そうしたマイクロベンチャーキャピタルは、持続可能なパイプと基盤の構築、また性別や多様性を考慮し、これまでとは違う投資を行うというビジョンを実現することに没頭している。

多くのベンチャーキャピタルでは、Black Lives Matter(「黒人の命は大切」運動)は肯定され有意義なものと捉えられており、さまざまな内容の議論が飛び交っている。業界は、才能のあるマイノリティの人々による投資の機会をどのように利用するか、工夫を凝らして考えている。サイドカー投資が普及しだし、ピッチコンテストが推進され、ベンチャーキャピタルの求人案内は、より広範囲に掲載されるようになった。最初でつまづく原因が排除され、プロセスの効率や透明性が向上しているのである。

これはとても良いスタートだと思う。こうした変化を持続していくために、2020年以降の投資の方向性を検討している企業は、長期的な視点で今後の過程全体をしっかり見極め、新鋭のマネージャーを探す必要がある。そうしたマネージャーたちはいずれ業界の代表格となり、ベンチャーキャピタルが公平性を重視した、長く存続する企業へと成長するための変革を推し進めていくだろう。

関連記事:「従来型IPOはナンセンス」という説にIPOの専門家が反論

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(翻訳:Dragonfly)

「従来型IPOはナンセンス」という説にIPOの専門家が反論

Lise Buyer(リズ・バイヤー)氏はこれまで13年間、自身のコンサルタント会社であるClass V Group(クラスVグループ)を通じて、株式公開の仕方をスタートアップにアドバイスしてきた。バイヤー氏は同社を創業する前に、はじめは投資銀行家として、その後はGoogle(グーグル)のディレクターとして働いた経験を持つ。グーグルでは、例外的な方法が採用されたことで有名な2004年のIPOの計画立案に携わった。

バイヤー氏が年を追うごとに従来型のIPOを高く評価するようになったのは、おそらくグーグルのIPOが大きな誤解を招いたからかもしれない。バイヤー氏は自身を「コースを何度もプレイして」さまざまな環境で何が起こるかを経営陣に進言できるようになったゴルフキャディーのようだ、と言う。

確かにバイヤー氏は、経営陣が通常のIPO、オークション式、SPAC、ダイレクトリスティング(直接上場)のどれを選ぶかに「関係なく、自分の報酬は変わらない」と言うが、その一方で、直接上場やSPACについては、それを組織する投資家が見せかけてきたほどの必要性はないと思っている。むしろ、従来型IPOプロセスは近年、不当に低く評価されてきたと考えており、おそらくその不評は、憤慨したBill Gurley(ビル・ガーリー)氏という人によってあおられているのではないかと感じている。

(この名前にピンとこない人のために付け加えると、ガーリー氏がパートナーを務める老舗VCが昨年、IPOのことを「悪い冗談」と呼んで公然と反対し始めた。IPO直前の株が銀行から優遇された機関投資家に渡り、その機関投資家がIPO初日に数千万ドル(数十億円)もの利益を得ることがあるが、本来その資金は発行企業のところに行くはずのものだ、というのが同VCの言い分である。ガーリー氏は昨秋、サンフランシスコで「Direct Listings:A Simpler and Superior Alternative to the IPO(直接上場:IPOに代わるシンプルで優れた方法)」という招待客限定のイベントも主催している)。

確かに最近、従来型IPOを選ぶ企業はIPOの引き受け業務を行う投資銀行に付け込まれる「能なし」だと主張する声が聞かれるようになっており、そのことにバイヤー氏は憤慨している。

バイヤー氏は次のように語る。「株式公開にはいろいろな側面がある。この話題が現在のような方向に進んでいるのは非常に残念だ」

バイヤー氏には、従来型IPOに関する上記のような主張が正しいと思えない。その理由として同氏がまず指摘するのは、IPO初日の「高騰」は経営陣も想定しているという点である。同氏はこう説明する。「適正な価格を選ぶのはビル・ガーリー氏ではない。従来のIPOでは銀行が企業に対して『御社は(一株あたり)40ドル(約4240円)の価値があると思うが、IPO価格は(一株あたり)20ドル(約2120円)とする』と言い、それによってIPO価格が決まると考えている人がいるが、そうではない。その考えは間違っている。適正な価格を選ぶのは経営陣である。経営陣は普通、IPO初日のことだけでなくその先のことも考える必要がある。IPO初日に高値になることを望む企業もあれば、そうでない企業もある。それは経営陣が決めることだ」。

バイヤー氏は一例として、ビデオ会議システムの会社であるZoom(ズーム)を挙げる。ズームの株価は去年4月のIPO初日に72%急騰した(このパンデミックの間も急伸を続けている)。同氏によれば、CEOのEric Yuan(エリック・ヤン)氏と役員たちは「株価が跳ね上がることを承知していた」のであり、いずれにしても最初に設定された株価に同意していた。ヤン氏らは、膨れ上がった期待に応えようと競い始めるよりも、現実的で達成可能な期待値を設定したいと思ったのである。

経営陣は「市場が天文学的な金額を支払うことに一時的に積極的になっているというだけで、困難な立場に置かれたくないと思っている。そのように高騰した価格で買う人は、実際には市場のファンダメンタルズを理解していない場合が多い。もし3か月後にその企業がIPO時のクレイジーな期待に沿わない予測を発表したら、経営陣は非常な長期にわたってその状況に耐えていかなければならなくなる」とバイヤー氏は説明する。

同様のケースとして、バイヤー氏はソフトウェア企業のBill.com(ビルドットコム)のことを指摘する。同社の株価は昨年12月のIPO初日に60%跳ね上がった。最終的にどの程度の資金を調達できるか心配だったかもしれないが、同社は正しい判断をし、それによってすぐに報われたと同氏は考えている。

「ビルドットコムの場合、経営陣は需要が供給を劇的に上回ることを知っていたので、IPO価格を大幅に高く設定することもできた」とバイヤー氏は言う。経営陣がそうしなかったのは「株式市場に関して常軌を逸したメッセージを送り」たくなかったからだ、と同氏は続ける。加えて、ビルドットコムはすでに次の株式売却を計画していた。実際6月に、同社のビジネスが加速して株価が上がると、経営陣はずっと多くの割合の株式を、ずっと高い価格で売却した

多くのソフトウェア企業と同様、ビルドットコムもパンデミックの影響で予想外の利益を得たと言われるかもしれないが、バイヤー氏はそうは見ていないようだ。「同社は以前から、価格を抑えた例のIPOによって投資家と親密な信頼関係を築いてきたので、ずっと多くの資金を集め、4か月後にダイリューション(希薄化)を抑制することができた。同社が(IPO初日に)判断を誤って公的年金基金を少し増やしたと誰が批判できるだろうか」とバイヤー氏は語る。

今年最も期待されているIPOの一つがAirbnb(エアビーアンドビー)だが、上記と同じような理由で従来型IPOを選ぶかどうかは間もなく明らかになるだろう。Bloomberg(ブルームバーグ)がちょうど本日伝えたところによると、同社は従来型IPOを行うために、ヘッジファンドの億万長者Bill Ackman(ビル・アクマン)のSPACによる買収を断ったという。

一方で、ビジネスにとって最善の方法を今すぐ決定する必要があるのは、決して宿泊業界の巨人であるエアビーアンドビーだけではない。特にSPACは今、創業者の目にも投資家の目にも魅力的に映っているようだ。バイヤー氏は自身のクライアントについてこう述べている。「6週間前にはSPACのことを考えていなかった人々が、今では周りに影響されて、合弁パートナー兼買収者の候補企業に関する条件やトレードオフについて具体的な評価を行い始めている」。

直接上場は費用が安く済む手法として歓迎されており、先週時点のSEC命令では、企業は直接上場によって資金を集めることができることになっているが、バイヤー氏はSPACや直接上場についてはまだ様子を見たいと考えている。

「最初の募集を含む直接上場では、企業がアドバイザーではなく引受人を参加させるかどうか、それによって費用が従来型のIPOよりも安くなるか、または高くなることさえあるのか、興味深いところだ。どちらの可能性もあるが、まだ結論は出せない」とバイヤー氏は語る。

「繰り返すが、確信があるわけではない。ただ、強い意見によって刷り込まれたものではなく、現実に存在する本質的な問題は何なのかを見きわめるために、今は様子を見守りたいと思っている」とバイヤー氏は付け加えた。

関連記事:データ特化クラウドのSnowflakeがIPOで約2.5兆円の評価、セールスフォースとバークシャーハサウェイも出資

カテゴリー:VC / エンジェル

タグ:コラム IPO

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(翻訳:Dragonfly)

ソフトバンクは評価額約4.2兆円のArm株売却で利益確保か、売却先のNVIDIAはCPU/GPUの超ビッグプレーヤーに

ここ数週間、TechCrunchが追いかけてきた大きな取引はTikTokだったが、実は交渉中の別の大規模な契約があった。

スマートフォンやその他の分野でプロセッサチップの最も重要な設計者であるArm Holdings(アームホールディングス)は、ソフトバンクグループが投資の回収に取り組む中で売却の対象になっている。ソフトバンクグループは、Elliott Management(エリオットマネジメント)などの活動的な投資家を黙らせるために追加の資金を調達も進めている。なお、ソフトバンクグループは、2016年にArmを320億ドル(約3兆4000億円)で買収した。

これらの協議は結論に向かっているようだ。Wall Street Journalは、ソフトバンクグループがNVIDIA(エヌビディア)に現金と株式でArm株を売却することで、同社の価値が400億ドル(約4兆2460億円)になると最初に報じた。 Financial Times紙は米国時間9月12日の午後、さらに取引の概要を確認し、早ければ9月14日の月曜日にも発表される可能性があると伝えた。

NVIDIA、Arm、ソフトバンクグループからの正式な確認を待つ間、いくつかの考えがある。

第1にArmは、現在では年間数十億個もの新しいチップがライセンスの下に製造され、大成功を収めているチップ設計の転換を模索している。5月にTechCrunchが報じたように、同社は新たな成長市場に積極的に参入しており、有名なブランドの成功例をいくつか挙げている。その中にはアップルがMacのラインアップにArmプロセッサーを取り入れると発表したことも含まれている。

ソフトバンクグループは2016年に同社を買収して勢いを取り戻した。前述の400億ドルがArmの現在の実際の価値だとすれば、約4年間で25%の利益を得たことになる。ソフトバンクグループの最近の芳しくない投資実績を考えるとかなりの利益に思えるが、もちろんこのような高価な資産を購入する際には莫大な費用がかかっている。なお、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが公開株を購入したNIVIDIAは、AIやブロックチェーン・アプリケーションによって株価が16倍以上に急上昇している。

第2に取引が成立したとしても、Armにとってはやや静かな決着となる。ケンブリッジに拠点を置き、英国を代表する大学と深いつながりを持つ同社は、 Alan Turing(アラン・チューリング)氏が計算可能性の開発に重要な役割を果たしたコンピュータサイエンスの最前線で、英国の長い遺産の象徴として見られてきた。

Armの売却は、英国政府が欧州連合(EU)との産業政策、特にArmが開発していたチップ技術へのより資金提供を巡って議論する準備をしているタイミングで行われた。もちろん、Armが従業員を移動させることはないが、米国の半導体大手と日本の持ち株会社が同社の株を所有することで、同社の比較的独立した事業は終了することになるかもしれない。

第3として最後に、今回の買収によりNVIDIAは半導体市場で圧倒的な地位を得ることになり、同社の強みであるグラフィックスやAI処理のワークフローとArmのチップ設計を融合させられることになる。おそらく完全な垂直統合にはならないが、この組み合わせにより同社が主要チップメーカー1つとしての地位を強化することになるだろう。

それはまた、Intel(インテル)が、かつては小さかったNVIDIAにどれほどの遅れをとってしまったががわかる。インテルの時価総額は約2100億ドル(約22兆3000億円)で、NVIDIAの3000億ドル(31兆8400億円)よりも少ない。過去数年のNVIDIAの急成長に比べて、インテルの株価は実質的に一直線であり、このニュースはインテルにはあまり歓迎されそうにない。

国際政治が絡み、Armの置かれている微妙な立場を考えると、どのような契約であっても、複数の国で独占禁止法に関する慣習的な審査を受けなければならず、英国では国家安全保障に関する審査を受ける可能性がある。

ソフトバンクグループにとってこれは巨額損失に直面した同社の資産整理の新たな動きだ。そして少なくとも現時点では、同社は勝利を手にしそうだ。

画像クレジット:Kiyoshi Ota / Bloomberg/ Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)

国際的VC・DCM共同創業者デビッド・チャオ氏インタビュー、B2B決済企Bill.comへの28億円投資はすでに1062億円に

日米中の3拠点を持つ国際的なベンチャーキャピタルのDCMの共同創業者であるDavid Chao(デビッド・チャオ)氏は、英語、日本語、および北京語を話す人物だ。それだけでなく、彼は創業者たちと話す術も知っている。

それには大きな価値がある。DCMがクラウドベースのB2B決済企業のBill.comに、ラウンドAから14年間にわたって投資した2640万ドル(約28億円)が、10億ドル(約1062億円)以上になっていることを考えて欲しい。実際、Bill.comが2019年12月に株式を1株22ドル(約2336円)で公開したときは、DCMの持ち分(IPOの16%を占めていた)はそれなりに大きな価値を持っていた。

だが公開後、ウォールストリートが示したデジタル決済とサブスクリプションベースの収益モデルの両方に対する期待によって、Bill.comの株価は1株およそ90ドル(約9554円)に上昇した。よってDCMがここ数週間で、その保有株式の約70%を9億ドル(約955億円)で売却したのは不思議なことではない (DCMはまだ元の持ち分の30%を保有している)。

私たちは米国時間9月11日の午前中に、チャオ氏とBill.comについての話を聞いた。チャオ氏はBill.comの取締役会のメンバーであり、またBill.comの創業者のRené Lacerte(ルネ・ラッセ)氏をチャオ氏は以前にも支援したことがある。また、DCMが現在保有している非常に利益率の高いもう1つの株式、DCMの最新ファンド、そして米中2国の関係が悪化するにつれて、チャオが米国と中国の間をどのように行き来するのかについても話を聞いた。以下の会話は、長さを調整し明確さを高めるために簡潔に編集している。

TC(TechCrunch):最初のラウンドの後、Bill.comの株式の約33%を所有していたようですね。その最初の投資はどうして行われたのでしょうか?ラッセ氏に以前投資したことがあったのでしょうか?

DC(デビッド・チャオ氏):そのとおりです。ルネ(ラッセ氏)はかつてPayCycle(ペイサイクル)という名のオンライン支払い企業を立ち上げました。私たちは彼を支援し、同社は2009年にIntuit(イントゥイット)に売却されました。ルネはかなりのお金を手に入れましたし、私たちもリターンを手にしました。そして、彼は次のことを始めたいと思ったときに、「もっと大きな成果を出せることをやりたい。途中で会社を売ったりしたくない。今度は大きな公開会社にしたいんだ」といったのです。

TC:それが彼の野望だったとすると、なぜ彼はPayCycleを売却したのでしょう?

DC:まあ初めてCEOになった起業家が、大企業から数百万ドル(数億円)を手にするチャンスを提示されたら、会社を売る誘惑に駆られるでしょう。それが大きな理由です。実際それは良い価格でしたし。そのときの会社の位置付けから考えても、それは真っ当な価格でした。

Bill.comはこれとは少し違っていました。上場する前に、良い買収提案がありました。公開の直前にも提案を受けた程です。しかし、ルネは「いや、今回はずっとこのまま進みたい」といったのです。そして彼は自分に対して行った約束を果たしました。14年間にわたるサクセスストーリーです。

TC:DCMはここ数週間でほとんどの所有株式を9億ドル(約955億円)で売却なさいましたね。その結果は、DCMの最近のエグジットと比べてどうでしょう?

DC:実際には、素晴らしいことが最近もう1件ありました。私たちは中国のKuaishou(クアイショウ、快手)という会社に投資していました、それは中国ではBytedance(バイトダンス)のTikTok(ティックトック)にとって最大のライバルです。私たちはその会社に総額で4930万ドル(約52億3000万円)を投資しましたが、現在その株式は38億ドル(約4034億円)の価値があります。同社はまだ株式未公開ですが、私たちは保有株式の約15%を現金化しました、そしてその売却だけで、すでに3000万ドル(約31億8000万円)を手にしています。

TC:持ち株を売却すること、特に会社が上場した後に売却することについては、どうお考えですか?

DC:実際にはケースバイケースです。一般的に、企業が上場したあと、(ポジションを解くまでに)およそ18カ月から3年の時間を要します。2019年に日本では、2つの大きなIPOがありました。1つの会社は時価総額10億ドル(約1062億円)でしたし、もう1つは20億ドル(約2123億円)でした。12カ月株式を持ち続けることもあれば、4〜5年間ある程度の株式を持ち続けることもあります。

TC:日本で新しく公開されたのはどのような種類のビジネスを行っている企業でしょう?

DC:どちらもB2Bです。1つは、ほぼ日本版Bill.comです。もう1つは連絡先管理ソフトウェアです。

TC7月に米国で公開された(Bloomberg記事)LGBTQの出会い系アプリBluedにも、DCMは投資していませんでしたか?

DC:はい、物議を醸したアプリのため、私たちの投資額はそれほど大きくありませんでしたが、おそらく私たちは最初に参加した大手VCでした。

TC:この夏、新たに8億8000万ドル(約934億2000万ドル)のアーリーステージファンドを組成なさいましたよね。

DC:はい、そのとおりです。これは主に、私たちのファンドの多くが好調だったという事実に後押しされたからです。現在、ファンド9にとりかかっていますが、ファンド7は本日、額面上9倍となりBill.comを含むファンド4も3倍以上になっています。ファンド5も同様です。ということで、私たちは順調です。

TC:国際ファンドとして、米国と中国の間の緊張の高まりはあなたのチームにとってどのような意味を持つでしょう、そしてそれはどのように影響しますか?

DC:それは大きな影響ではありません。例えば、現在、半導体企業に投資しているなら、(米国は)外国の資金源からのすべての資金を制限しているため、かなり厳しい時期になると思います。少なくとも、厳しい監視を受けることになります。また、中国の半導体企業に投資した場合、米国では上場できない可能性があります。

しかし、私たちが扱っている業種は主にB2BとB2Cですが、よりソフトウェアとサービスに寄ったもので、それほど大きな影響は受けません。中国における取引の90%は中国内市場に焦点を当てているものです。ですから、私たちにはそれほど影響はないのです。

欧米の投資機関の中には、中国市場に資金を投入しているところがあると思います。それは減少しているかもしれません。あるいは、少なくともやや傍観モードに移行して、中国への投資を続けるべきかどうかを模索していることでしょう。そしておそらく中国の企業については、今後米国などで上場する企業は少なくなるでしょう。しかし、こうした企業の中には、香港で上場できる会社もあります。

TC:米国政府の政策についてどう感じていますか?彼らの振る舞いは理解できますか?不満は感じていますか?

DC:私は忍耐を求められていると思います。なぜなら(発表されて)ニュースになるものと、実際には何が施行され産業界にどのような影響を与えるのかの間に、大きなギャップがあるからです。

カテゴリー:VC / エンジェル

タグ:DCM Bill.com

画像クレジット:Justin Chin / Getty Images under a Bloomberg license.

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(翻訳:sako)

年間売上高11億円のスタートアップがVCからの資金調達に18カ月かかった理由

2006年、Joseph Heller(ジョセフ・ヘラー)氏は中国に行き、そこでそれからの10年間製造業について学んだ。その経験を生かして最終的にThe Studio(ザ・スチュディオ)というスタートアップを立ち上げた。スモールビジネスのアイデアを持つ人々を完全にデジタルな方法で中国のメーカーとつなぐ構想だった。

同氏は2016年までに会社を年間1000万ドル(約10億円)、世界各地に100人の従業員を擁するビジネスに育てた。だがヘラー氏は、米国での資金調達に関して、シリコンバレーにコネがない部外者がドアを開けるのは容易ではないと思った。

同氏は踏ん張り、2018年にIgnition PartnersからシリーズAで1100万ドル(約12億円)を獲得し、ビジネスを拡大することができた。だが同氏は、シリコンバレーのアーリーステージのベンチャーキャピタルから得られる資金と知見が早い段階で手に入れば、もっと上手くやれたのではないかと考えた。

TechCrunchは最近ヘラー氏と会い、外部の支援がほとんどない状態で一から会社をどう立ち上げたのか、その際の資金調達はどう進めたのかについて聞いた。

はじめに

ヘラー氏は中国滞在中、製造業の業界全体を把握し、大手ブランドが中国で何かを製造する支援を行う素晴らしいコンサルティングビジネスを築くことができた。だが、もっとできることがあると考えた。特に大規模な工場などが通常求めるよりもはるかに少ないバッチで、中国においてモノを製造したい中小企業を支援するチャンスがあると見た。

後者ははるかに難しい。ヘラ―氏は、Shopify(ショピファイ)のようなプラットフォームを使ってオンラインで商品販売する中小企業を支援するビジネスチャンスがあるかもしれないと感じた。そうした中小企業は商品を製造する手段を欠いていた。

「誰でもShopifyにウェブストアを開設し、メッセージを受け取るためにInstagram(インスタグラム)を使えるようになったことについて、私はクレイジーだと感じた。小さなブランドでもそうしたものすべてが使えるようになったが、製造においてはそうではなかった」とヘラー氏はTechCrunchに語った。

同氏は、中小企業が中国のマイクロファクトリーにカスタム商品を簡単に発注できるようにする会社を立ち上げるというアイデアに取り組むことに決めた。中小企業に大手ブランドと同様の機会を、ただし少ないバッチで提供するというものだ。このアイデアを具現化したのがThe Studioだ。

「当社は基本的に中国のマイクロファクトリーとの関係構築に専念している。少ないバッチの製造ができるようにマイクロファクトリーをトレーニングし、中小企業がそうしたマイクロファクトリーに発注できるソフトウェアを作った。中小企業は3万点を注文する必要はなく、100点から発注できる」。

画像クレジット:The Studio

ミーティング確保に苦労

ヘラー氏が資金の模索を始めたとき、会社は年間売上高1000万ドル(約10億6000万円)のビジネスに育っていた。VCの関心を引き寄せるのに十分だと確信した。

同氏はThe Studioを苦労して育て上げ、その分野で積んだ何年もの経験を元に健全なアーリーステージ企業に成長させた。そしてマーケットに登場させた。プロダクトとメーカーをマッチングできることを証明し、顧客もついた。資金調達は確実にできるように思われた。

しかし実際には、ヘラー氏はミーティングを確保するのに苦労した。黒人であるヘラー氏は、黒人の創業者はベンチャーキャピタル会社にアクセスするのが難しいかもしれないと話す一方で、コネを持っていない創業者は概してVCにアクセスし辛いという大きな問題の一部だと考えている。

「事業を始める際に、VCへのアクセスを持たない人もいる。これは単に黒人だからという問題ではない。どちらかというと、VCがかなり排他的で、コネを持っている白人が大半を占める傾向にあるからだと思う」とヘラー氏は述べた。

そして「もしあなたがシリコンバレーにいるわけではなく、またかなり排他的なVCクラブに属していないのなら、基本的には資金調達することはほぼ不可能だ。なので(初期の)我々にとっては選択肢にもならなかった」と話した。その代わりヘラー氏は自分の資金で会社を立ち上げたが、ある程度まで会社を育てた時、同氏は外部からの資金を必要とした。そしていい位置にいると確信した。

山を登る

ヘラー氏は、カリフォルニア大学バークレー校時代の知り合いでベンチャーキャピタリストのコネを通じてミーティングを持つことができた。それが他のミーティングにもつながったが、大半は落胆するようなものだった。公平にいえば、誰にとってもこのシステムに入り込んで説得力のあるプレゼンを行うのは難しい。しかしヘラー氏は売上高1000万ドルの事業を構築していた。それは何らかの価値を持つはずだった。

「入り込もうとするシリコンバレーで、私が部外者なのは明らかだった。かなり有能なエンジニアチームを有する売上高1000万ドルの事業だったにも関わらずだ。我々は多くのことを証明した。そしてこう思った。もし私がVCネットワークの一員だったら、もっと早くに資金調達できていたはずだ」とヘラー氏は嘆いた。

同氏は、黒人であることは少なくともVCファームの注意を引くのに苦労した要因であることは間違いない、と述べた。「アフリカ系米国人や他の創業者が、事業を始めるための最初の資金を確保するのは特に難しい。私はかなりの個人資金を使い、時間も費やした。なぜなら資本の中心地から遠く離れていたからだ」。

そのためにここに至るまでの間に何かを失ったかもしれない、と同氏は話す。「良いVCとのコネを持っていて、文字通りプロダクトはなし、あるのはアイデアだけなのにシードラウンドで100〜500万ドル(約1〜5億円)調達できる数多くの創業者を見てきた。そうした選択肢は私にはなかった」。

良い返事を獲得

ミーティングの18カ月後、ヘラー氏はようやくIgnition Partnersから1100万ドル(約11億7000万円)を獲得した。プレゼンをし続けるのには苦労、時間、そしてエネルギーを伴っただけに、Ignitionが最終的に資金を提供したとき、素晴らしい達成感を感じたと述べた。

「これが本当に求めていたもので、資金を注入する価値のある真のビジネスを展開してきたことを証明されたような感じだった」。

パンデミックのために製造にとって2020年は難しいとヘラー氏は話すが、2018年のシリーズAラウンド以来、同社の年間売上高は2000万ドル(約21億円)に、従業員は150人に増えた。

同氏はまた、2020年初めにSuppliedShop.comという新規事業を立ち上げた。かなり小規模の事業者が工場から既存の在庫を購入することができるというものだ。新規事業はすでに前月比50%成長をみせているとのことだ。

ヘラー氏が指摘したように、コネはもちろんものをいう。しかしまた、会社を設立するには度胸、決断力、いいアイデアも必要だ。ヘラー氏が今回のプロセスに持ち込んだのはそうしたものだ。同氏は、ここにたどり着くまでの苦労に目を向けるよりも結果を見た方がいい、と考えている。

「人種差別や本当に苦しいことはある思う。と同時に、変化を起こそうとすることを人々は意識すべきだと思う。私の経験がさらに多くの変化を起こすきっかけになることを願う」と述べた。

カテゴリー: VC / エンジェル

タグ:The Studio 資金調達

画像クレジット:The Studio

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(翻訳:Mizoguchi

DNX Venturesが日米のB2B新興企業を対象に約330億円の3号ファンドを組成

DNX Venturesは8月9日、新たに3億1500万ドル(約330億円)のファンドをクローズしたと発表した。同社はは2011年に設立され、カリフォルニア州サンマテオと日本の東京を拠点に、これまでに100社以上のスタートアップ企業に投資してきた。

同社はDraper Venture Networkのメンバーでもあり、クラウド、エンタープライズソフトウェア、サイバーセキュリティ、エッジコンピューティング、セールス&マーケティングオートメーション、金融、リテールなどの分野に注力している。DNX Venturesが投資する企業は通常、シードプラスまたはシリーズAの資金調達を行っており、「DNXの典型的な投資サイズは、スタートアップのステージに応じて100万ドル(約1億600万円)から500万ドル(約5億3000万円)の範囲である」とマネージングディレクターのQ Motiwala(Q・モティワラ)氏はTechCrunchに語る。

モティワラ氏によると第3のファンドのリミテッド・パートナーは、金融機関、銀行、大手コングロマリットを含む30以上のLPが含まれているという(記事後半にリストを掲載)。同社は昨年、新型コロナウイルスの感染蔓延を始まる前からファンドの開発に着手していた。

同氏は「2008年の世界金融危機や2001年のドットコムバブル崩壊など過去のマクロ経済危機では、起業家が緊急に必要とされるソリューションを構築しながら、ビジネスをより効率的にする方法を模索・革新を続けてきたことを踏まえ、B2Bのスタートアップ企業の見通しを楽観視している」とコメントしている。

例えば同社は、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、エッジコンピューティング、ロボティクスなどの分野に注力しているが、新型コロナウイルスの大流行により、これらの技術はより重要性を増している。さらに、リモートワークの大規模な増加は企業が技術インフラを適応させる必要があることを意味し、同社のポートフォリオ企業である Diligent Robotics(ディリゲントロボティクス)社が開発したロボットは、病院の看護師不足に対応するのに役立つ。

「私たちの全体的なテーマは、建設、輸送、ヘルスケアなどの伝統的な産業のデジタル化であり、セールスやマーケティングの自動化など、顧客へのリーチをより良くする方法に常に関心を持ってきました」とモティワラ氏は説明する。「そして最後の部分は、どのようにして自動化を通じて社会やビジネスをより良く機能させるかということであり、それらはロボット工学やほかのテクノロジーのようなものが必要になるかもしれません」と続ける。

米国と日本のB2Bスタートアップの違いと類似点

DNX Venturesのチームメンバー(画像提供:DNX Ventures )

モティワラ氏はDNX Venturesが9年前に設立された理由の1つとして「日本は企業への投資が非常に強い」ことを挙げた。同社は米国と日本にオフィスを構え、B2Bにフォーカスしながらファンドの規模を拡大してきた。同社のデビューファンドは4000万ドル(約42億円)、2016年に発表された2回目のファンドは1億7000万ドル(約180億円)を超えた。同氏は「3回目のファンドで調達した3億1500万ドルは同社の予想を上回るものだった」と述べている。

「これまで米国のB2Bスタートアップは、日本のスタートアップよりも早い段階でグローバル展開を考える傾向があった。しかし、いまではそれは変わり始めており、日本のB2B企業の多くもさまざまな国への進出を視野に入れて起業している」とモティワラ氏。また、日本のB2B企業の多くは、米国やヨーロッパではなく、インドネシアやマレーシア、シンガポールなどの東南アジア諸国や台湾に進出する傾向があるという。

もう1つの違いは、米国のスタートアップ企業は技術やIPへの初期投資が大きいのに対し、日本では収益を上げて早期に収益を上げることに重点を置いていることだ。これは、日本のベンチャーキャピタルのエコシステムが米国に比べて小さいことが影響しているかもしれないが「この傾向も変わりつつある」とモティワラ氏は言う。

DNX Venturesの投資先企業が海外進出に成功した例としては、機械学習や予測数学のモデリングを利用してマルウェアからデバイスを守るウイルス対策ソフトを開発している米国のCylance(サイランス)が挙げられる。DNX Venturesは、Cylancの欧州と日本での事業立ち上げを支援した。日本側では、DNXの第1ファンドから投資したソフトウェアテスト会社のSHIFT(シフト)が東南アジアで「驚異的に好調」であると同氏。

「投資先企業をブッシュするわけではありませんが、グローバル化という点では米国のスタートアップが日本に進出したい場合やその逆の場合に、はタイミングが合えば支援しています。我々は両地域にチームがあるというメリットを生かしたいと考えています。我々がこれまで目にしてきたのは、米国企業が日本での販売のためにチャネル・パートナーシップを結ぶことが多くなってきていることです」と同氏を説明する。

「日本の企業に同じことを示すのは難しいですが同時に私たちが気付いたのは、日本の企業は米国への進出よりも、フィリピンやシンガポールに進出して事業を成功させているということです」と締めくくった。

【Japan編集部追記】
DNX Venturesの3号ファンドに以下の日本企業が出資している。

  • IHI
  • ENEOS
  • 京セラコミュニケーションシステム
  • 小松製作所
  • Sansan
  • ジェーシービー
  • CCCマーケティング
  • セコム
  • セブン&アイ・ホールディングス
  • 大和証券グループ
  • 高千穂交易
  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構
  • 東京海上日動火災保険
  • 東芝テック
  • 日鉄興和不動産
  • 浜松いわた信用金庫
  • 東日本旅客鉄道
  • 日立製作所
  • 日立ソリューションズ
  • ファーストブラザーズ
  • ポーラ・オルビスホールディングス
  • みずほ銀行
  • 三井不動産
  • その他機関投資家

また3号ファンドではすでに以下に日米の会社への投資を実行済みだ。

日本ファンド

  • アダコテック(異常をほぼ100%検出する検査・検品AIを開発・提供)
  • アルプ(サブスクリプション契約管理・請求管理・決済基盤SaaS「Scaleabse」を開発)
  • イエソド(人事組織情報の管理を含むSaaS統制プラットフォーム「YESOD」を開発)
  • スタディスト(ビジュアルSOPマネジメントプラットフォームを提供)
  • スペースリー(VRコンテンツの制作編集、 用管理を簡単にするVRクラウドソフトを開発)
  • チュートリアル(クラウド型RPA「Robotic Crowd」を提供)
  • テックタッチ(PC画面上に操作案内を表示させ企業のシステム利活用/DXを推進)
  • TableCheck(飲食店向け予約・顧客管理SaaSとユーザー向け飲食店検索・予約ポータルサイトを提供)
  • Resily(組織改善クラウド・OKRコーチサービスを提供)

米国ファンド

  • Creadits(広告クリエイティブに特化したグローバルプラットフォームを提供)
  • Zūm(子供向け自動車配車サービスを提供)
  • Diligent Robotics(看護師補助ロボットを開発)
  • Banzai(イベント集客サポートプラットフォームを提供)
  • Paystand(B2B企業向け決済処理のサービスを提供)

画像クレジット:MR.Cole_Photographer / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)

Do Venturesがベトナムのスタートアップ向けに50億円超のファンドを立ち上げ、NaverやVertexなどの注目LPが支援

新しい投資会社であるDo Venturesは米国時間9月7日、アジアで著名な機関投資家の数名が支援するベトナムのスタートアップ向けファンドの1回目のクロージングを発表した。Do Ventures Fund Iと名付けられたこの投資ビークルは、韓国のインターネット大手のNaver、GarenaやShopeeなどの事業を展開するシンガポールのSea、同じくシンガポールを拠点とするベンチャーキャピタルのVertex Holdings、韓国のアプリ開発会社であるWoowa Brothersなどのリミテッドパートナーとの間で、目標とする5000万ドル(約53億円)の半分以上の資金を集めた。

写真に向かって左から、ベトナムのアーリーステージのスタートアップに特化したVC、Do Venturesの創業者でゼネラルパートナーを務めるVy Le(ヴィー・ルー)氏とDzung Nguyen(ズン・グエン)氏。

Do Venturesは、元サイバーエージェント・ベンチャーズのベトナムとタイのCEOであるNguyen Manh Dung(グエン・マン・フン)氏と、ESPキャピタルのジェネラル・パートナーであったVy Hoang Uyen Le(ヴィ・ホアン・ウエン・ルー)氏によって設立された。最初のファンドは、アーリーステージの企業に焦点を当てつつ、シードからシリーズBラウンドに投資する。

創設者はいずれもベトナムのスタートアップ企業との長年の取引実績がある。グエン氏は、ベトナム最大のオンラインマーケットプレイスの1つであるTiki.vn、フードデリバリープラットフォームのFoody.vn、デジタルマーケティング企業のCleverAdsなどに初期の投資家として参加していた人物だ。一方のルー氏は投資家になる前は連続起業家であり、ファッションEコマース企業のChon.vnやベトナムの不動産コングロマリットであるVingroupが立ち上げたEコマースプロジェクトVinEcomで最高経営責任者を務めていた。

ルー氏はTechCrunchに対して電子メールで「Do Ventures Fund Iは業界を問わないが、投資は2つの層に分けて実行される」と語った。第1層は、教育、ヘルスケア、ソーシャルコマースなど、若いユーザーにサービスを提供するB2Cプラットフォームを開発し、新型コロナウイルスの感染拡大による消費者行動の変化に対応しているスタートアップ。第2層には、第1層の企業にサービスを提供できるB2Bプラットフォームを開発し、データや電子商取引サービスのSaaSソリューションで地域的な拡大を可能にするスタートアップだ。

ルー氏によると、2016年から2019年の間にベトナムでのスタートアップの資金調達額は8倍の8億6100万ドル(約915億円)に増加したという。しかし、ベトナムに特化したファンドはまだ少なく、アーリーステージのベトナムのスタートアップが資金調達のギャップに陥ることも少なくない。

同社の目標の1つは、起業家が新型コロナウイルスの影響を乗り切ることで、感染拡大にもかかわらず企業が成長し続けることができるように支援することだ。

「私たちは、テック系スタートアップが従来のビジネスをより早くデジタル化し、ニューノーマル(新しい常態)に適応できるようにしてくれることを願っています」とルー氏は語る。そして「消費者にとっては、テック系スタートアップが日常生活のあらゆる面で顧客体験を変革し、遠隔地にいる消費者により多くのアクセシビリティをもたらすことを期待しています」と続けた。

Do Venturesは、企業が新しいビジネスモデルを開発するのを支援しながら、ハンズオン型のアプローチで投資を進めていく予定だ。同社は投資先企業の業績データを収集する自動レポートシステムの構築を計画しており、「製品開発、事業組織、サプライチェーン開発、海外展開など、スタートアップ企業の業務を支援することが可能になる」とルー氏は述べている。

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(翻訳:TechCrunch Japan)

投資テクノロジー:根強い富の格差を解消するための第一歩

著者紹介:Dean Sterrett(ディーン・ステレット)氏:LEX Markets(レックス・マーケッツ)の共同創業者兼COO、および製品部長。レックス・マーケッツでは、機関投資家や従来の投資家向けのマーケットプレイスで商用の不動産担保を扱う。

Philip Michael(フィリップ・マイケル)氏:NYCE Companies(NYCEカンパニー)のCEO。ニューヨーク州を拠点に、メディアやフィンテックの投資プラットフォームを展開。

Robinhood(ロビンフッド)の創業者Vlad Tenev(ウラジミール・テネフ)氏は最近、ニューヨークタイムズ紙のインタビューに答え、若年層の米国人が株式市場に参入しなくなったことが「つまるところ社会で今見られている圧倒的な格差につながっている」と指摘した

Thomas Piketty(トマ・ピケティ)氏は自著『The Economics of Inequality』(2015年)のなかで、投資資本の成長率がGDP(および1人当たりの平均収入)の成長率を上回ると収入の格差が広がると論じている。このことを考えると、テネフ氏の主張は的外れである。株式市場への参入は確かに富の形成には欠かせないが、そもそも資本を持っていなければ投資はできないからだ。

社会に根付いた格差に立ち向かうには、体系的な変化(手ごろな価格の医療サービス、職業訓練、賃金の引き上げ、インフラストラクチャの拡大、国政によるその他の取り組みなど)が必要だ。一方、フィンテック業界のイノベーションを活用すれば、ツールを提供して個人レベルの投資で富を築く機会を広げ、こうした政策を補うことができる。こうした進歩は、社会的な変化をもたらすだけの巨大勢力には取って代わらなくとも、個人が直面した障害を取り除く機会の1つにはなるだろう。

時代はフィンテック、そしてミレニアル世代の投資家へ

最近、仲介手数料無料の株式取引を巡って収益モデルの議論が起こっているが、フィンテックの投資アプリが登場したことにより、個人投資家が株式市場に参入する事例が大幅に増えてきた。特に多いのが、期待資産額の面で他の年齢層に後れを取っている若い投資家だ。

Acorns(エイコーンズ)、Public(パブリック)、ロビンフッドといった人気のフィンテックアプリのおかげで、株式市場への投資を検討し始めたミレニアル世代やZ世代の個人投資家にぴったりの隙間市場が生まれたのである。1月から4月にかけて、ロビンフッドの1社だけでも300万件の入金済み口座を獲得し、その平均年齢は31歳となっている

同様の傾向は、従来個人投資家の手に及ばなかったさまざまな資産クラスについても見られている。例えばEY(アーンスト・アンド・ヤング)によると、2016年以降、不動産のクラウドファンディング投資額は倍増し、現在80億ドル (約8500億円) を上回っている。2018年には、米国における商用不動産の価値が約16兆ドル (約1700兆円) に達した。これは、同時期の米国における株式市場のおよそ半分の規模に当たる。

不動産は、富を築くうえで不可欠な資産クラスだ。実に、億万長者の約90%が不動産投資から財産を形成している。この背景として、不動産市場が極めて寡占的であることがいくらか関係していると考えられる。歴史的に見て、不動産市場に参入する機会は裕福な投資家に限られていた。

そこで、いくつかのフィンテック企業が不動産の世界に進出し、資産クラスの獲得機会を広げようと試みたが、この市場を本当の意味で小口投資家に開いた企業は現在に至るまでゼロである。

参入コストを削減

これはつまりどういう意味だろうか。不動産投資の機会さえ得れば誰もが億万長者になれるかというと、そうではないだろう。ただ、経済的に安定するうえで必要なツールや教育リソースを誰もが入手できる環境が整えば、富を築くチャンスは大いに高まる。

経済的な地盤を固めるには、金融リテラシーと機会の獲得が主なカギとなるのである。もう1つ重要な点は、低所得層に付きものの多くのコスト(「貧困税」とも呼ばれる)を排除することだ。

現在、業界全体で仲介手数料無料の取引が推進されているのも、フィンテック業界がこうした参入コストをなくそうとしているためである。10万ドルの取引で10ドルの仲介手数料が発生してもコストは微々たるものだが、100ドルの株式取得で発生した仲介手数料が10ドルであれば、取引コストを相殺するだけでも20%の利益が必要となってしまう。しかし、仲介手数料無料の株式モデルや分割所有の株式モデルは、不動産投資の市場では浸透していない。

従来の資産クラス全体のなかで、不動産はいまだ参入コストが高いままなのである。株式市場の機会は、小口投資家にも広がりつつある。仲介手数料無料および低コストの株式モデルには、この変化を反映させる最大の可能性が秘められている。

今後の動き

不動産とフィンテックが融合するのは時間の問題だ。

この分野は、テクノロジーによって大きな違いを生むことのできる分野の1つである。カリフォルニア大学バークレー校の調査によると、アルゴリズムを使用した融資などのフィンテックソリューションにより、今まで家の購入を難しくしていたハードルを下げることができる。

この調査では、社会に深く根付いた問題がある影響で、世界有数のフィンテック製品でも問題を完全には解決できないことが分かっている。それでも、率の不均衡を3分の1以上解消できるのである。

こうした企業が新たな投資機会を広げ、買い付けコストを削減していくなかで、一般的な米国人に富が分配されていく様子が見られると期待したい。株式投資の根底にある価値を作るのは、彼らなのである。

投資機会が歴史的に限られてきたほか、現在もその機会が欠如していることを鑑みると、財産形成のための新たなツールや金融リテラシー(テクノロジー搭載のうえ、ミレニアル世代にも受け入れられやすいアプローチで)を浸透させることで、参入ハードルの問題を解決し、より安定した投資の機会を拡大できると考えられる。

Stash(スタッシュ)エイコーンズ、およびロビンフッドが全体で2400万人ものユーザー(その多くは重複)を抱えている今、テクノロジー対応の投資から人々の興味が離れることはない。例えば、エイコーンズの平均的な投資家は29歳で、年収は5万ドル (約530万円)だ。公認の投資家は最低年収が20万ドル(約2100万円)のため、従来の投資家像とはかけ離れている。

こうした新しい投資家が不動産やエネルギーといった代替資産の保有に乗り出したとしても、驚くべきではない。重要なのは、機会の獲得、サービス品質、教育、そしてユーザー体験である。

フィンテック業界の創業者は、自社製品で社会にどれほど好影響を与えられるか、過剰評価する傾向にある。我々は2人とも不動産フィンテック企業の創業者であるため、個人間のミクロなレベルで支援を行うことができると信じてはいるが、社会全体を本当の意味で豊かにするには、テクノロジー以外の分野で大規模な構造改革が必要だ。言うまでもなく、テクノロジーだけでは深く根付いた構造は変わらない。しかし、確実にさまざまな機会を広げることができるのが、テクノロジーの力である。

修正:この記事の修正前のバージョンでは、パンデミックの発生後、ロビンフッドで初心者の投資家が600万人増加したとの記載がありました。その後、広報担当者の方から連絡があり、「1月から4月にかけて、ロビンフッドの入金済み口座が300万件増加した」とご教示いただきました。

関連記事:Facebook共同創業者サベリン氏が語る「シリコンバレー後のイノベーション戦略」

カテゴリー:VC / エンジェル

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(翻訳:Dragonfly)

ノーコード開発ツールのスタートアップ重視のAccelの投資戦略を分析する

この記事は株式市場とベチャーキャピタルのトレンドについてのコラムだ。基本的に私のExtra Crunch記事(有料)の再録だが無料だ。

パンデミックを含め大変動が続いたスタートアップのビジネスシーンの中で、私はノーコードないしほとんどコードを書く必要のない開発スタイルを実現しようとするサービスにもっと注意を払うべきだと主張してきた。投資家、起業家、上場企業幹部らとの最近の会話を簡単にまとめると、「ノーコード/ローコード開発がテクノロジー・マーケット全般に急速に一般化しつつある」ということになる。

その理由は、これも多少乱暴にまとめてしまえばこうだ。マーケティング、セールスなど事業部のニーズと実際に内製、外注を問わずソフトウェアを提供する開発チームとの間のギャップがますます広がりつつあるからだ。これはビジネスシーンにおいて大きな頭痛の種となっている。様々な解決法が探られているが、いずれにせよ金がかかる。

そこでノーコード/ローコード開発環境を提供しようとするスタートアップの出番となる。大企業でもこうしたツールを目指す動きが目立つ。これらはユーザー自身がプログラミングの知識なしにソフトウェアを作成できるようにすることが狙いだ。

私は先週、Accelのパートナー、アルン・マシュー(Arun Mathew)氏と話した。Accelは有力ベンチャーキャピタルで、読者が聞いたことがあるようなありとあらゆる会社に投資している。例えばWebflowは8月にシリーズAで7200万ドルの調達に成功しているが、これもマシュー氏がリードしたラウンドだ(Webflowに興味がある場合、われわれの記事はこちらこちら)(いずれも未訳)。

もちろんこれは一例に過ぎない。重要なのはAccelがノーコードスタートアップ重視の投資戦略を作り上げている点だ。マシュー氏によれば、 Accelはスタートアップといってもすでに相当の規模に成長しており市場ニーズへの適合性も実証されているQualtricsなどに多額の投資をしている。Webflowへの投資もこの戦略に沿ったものだという。

しかしマシュー氏は「Webflowは当初から自社をノーコード開発企業と考えていたわけではない」という。Webflowは「Webサイト構築のために非常にシンプルで使いやすいドラッグ&ドロップのテクノロジーを開発した。次にWeb サイトだけでなくあらゆるソフトウェアを開発できるようテクノロジーを拡張した。つまりノーコード開発というトレンドに極めてタイミングよく乗ったわけだ」と説明する。

これに似た経緯でAccelは「ヨーロッパにおいても初期段階、成長段階双方のノーコード開発企業に対する投資を行っている」という(インドでもさらに数件の投資をしている)。ノーコード開発自体を重要な動きであるとみているのは当然だが、投資家の立場から見ると、初めからノーコードであるという理由に基づいた投資ではなく、たまたま優秀な起業家を発見したために行われたものもあった。「われわれが興味を持っていた分野で優れたファウンダーに出会い、彼らのビジョンに共鳴したからでもある」という。

Accelは「ここ1年ないし1年半にノーコード分野のスタートアップ7、8社に投資した」という。この間にノーコード戦略は次第に練り上げられていった。 「現在Accelは世界に10人以上の専任者を置き、時間をかけて有望なノーコード分野のスタートアップを探している」とマシュー氏は付け加えた。

以上、まとめというにはやや長くなったが、マシュー氏との会話はトレンドに追いつく上で非常に参考になった。当初ノーコードとローコード(これも重要だ)をカバーし始めたときにすでに十分な知識があったわけではないが、その後トレンドにだいぶ追いついた。さらにWebflowのラウンドを取材して以後、ノーコード分野のスタートアップに注意を払うことが重要だという考えがはっきりしてきたわけだ。

画像:Nigel Sussman

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滑川海彦@Facebook

Facebook共同創業者サベリン氏が語る「シリコンバレー後のイノベーション戦略」

Eduardo Saverin(エドゥアルド・サベリン)氏が16年前、ハーバード大在学中に同学の学生たち4人と共同でFacebook(フェイスブック)を創業したことを、人々が忘れることはない(そのうちの1人が今でも同社を経営している)。

しかし、サベリン氏は、2009年にフェイスブックの所有株式を持ってシンガポールへ移住する前から、スタートアップへの投資に注目していた。そして、2015年からは、Bain Capital(ベイン・キャピタル)の元コンサルタント兼元副社長で友人でもあるRaj Ganguly(ラジ・ガングリ)氏と共同で創業したB Capital(ビー・キャピタル)での投資活動に集中的に取り組んでいる。

やるべきことはたくさんある。サベリン氏とガングリ氏は現在、3人のジェネラルパートナーと共に、4つのオフィスと2つのファンドで合計10億ドル(約1100億円)以上を扱っている。ちなみにこの2つのファンドはどちらも、経営コンサルタント大手のBoston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ、BCG)と提携している。実は、ビー・キャピタルは、BCGとの関係が深いこともあって、創業当時から、興味深いスタートアップやトレンドを世界中から探し出すことを経営理念としている。これは創業5年の企業としては異例のことだ。例えば、東南アジアで配達サービスを提供するNinjaVan(ニンジャ・バン)、ロサンゼルスを拠点とするスクーター会社のBird(バード)、ワシントン州のベルビューを拠点とする契約管理ソフトウェアメーカーのIcertis(アイサーティス)など、そのポートフォリオを少し見てみただけでも、どれほど広い範囲に網を投じているかがよくわかる。

TechCrunchは今年2月、ガングリ氏にビー・キャピタルのアプローチについて詳しく話を聞く機会があった。さらに先週、同社が中南米を拠点とするスタートアップ(Yalochat(ヤロチャット))への最初の投資契約を締結したことがきっかけで、サベリン氏にインタビューする機会があり、ビー・キャピタルの今後の成長について同氏がどう考えているか、詳しく話を聞くことができた。以下がインタビューの内容だ(長さの関係で一部編集してある)。

TechCrunch(以下、「TC」):ご出身はブラジルですね。

サベリン氏:はい、生まれも育ちもブラジルのサンパウロです。その後、欧米(最初はフロリダ州、続いて進学を機にボストン)に移住しました。現在はアジアに移住して10年以上になります。

TC:中南米企業に投資するのは今回のヤロチャットが初めてだということに驚きました。間違っているかもしれませんが、中南米で時間を過ごし、人脈を築いたことがきっかけになったのですか。

サベリン氏:良いことには時間がかかります。私の場合、エコシステムを理解しないと投資準備ができません。ビー・キャピタルは、本当の意味でグローバルな方法で長期的に投資したいと考えています。そして、1つの国や地域で創業して実績を積み、それを足掛かりとして世界へと拡大するという、ボーダーレスな世界での成長ビジョンを持つ起業家を探しています。ヤロチャット(メキシコシティを拠点とする会話型オンラインショッピングアプリ)の場合、中南米発のビジネスですが、すでにアジアに進出しています。そして、確実に世界の別の地域にも拡大していけるビジネスだと思います。米国企業や中国企業が世界展開する話は有名ですね。ならば中南米企業やアフリカ企業にも世界展開は可能だ、というのが当社の考えです。

私自身も中南米出身で、米国に移住したことがあり、現在はアジアに住んでいます。この経験を通して、世界は同じではないと気づかされました。ビー・キャピタルは会社として「グローバル・ファースト」の方針を持ってはいますが、すべての国や地域が同じだと考えているわけではありません。それぞれの地域における物事の動き方とビジネスの進め方を学び、それに順応し、スキルを磨いて熟達していく必要があります。それが当社の経営理念です。そのため、世界のどこでもすぐに投資を始める、ということはしてきませんでした。

TC:先日ガングリ氏にインタビューさせていただいたとき、ビー・キャピタルは米国内では投資先を探していないのに、現在の投資先の1つに、シリコンバレーにビジネス開発マネジャーと少数のスタッフを置いているスタートアップがあるとお聞きしました。ガングリ氏によると「より高い評価を得るため」とのことでしたが、他の共同創業者も同じようにしているのですか。そもそも、そのようなことは必要なのでしょうか。

サベリン氏:シリコンバレー後のイノベーション戦略については、社内でもよく話題になります。しかしそれは、シリコンバレーを無視すべきであるという意味ではありません。ただ、シリコンバレーは長年にわたりイノベーションの聖地として必要以上にあがめられてきたと思います。起業家にとって非常に重要で、今後も大きな役割を担い続けるシリコンバレーを無視することなんてできません。そのため、ビー・キャピタルはシリコンバレーから完全に目を背けることはしません。ただ、いつまでもシリコンバレーが頂点に君臨し続けるわけではないことを認識することが重要だと考えています。これは、シリコンバレーが衰退していくという意味ではなく、世界の他の場所が台頭してくるという意味です。

シリコンバレーにオフィスを置くべきかどうかという点についてですが、特定のビジネスにとって必要なのであれば絶対にそうすべきです。シリコンバレーは巨大なイネーブラーですが、同時に難しい面もあります。例えば、人材を探している場合、シリコンバレーでは潤沢な資金を持つ企業との奪い合いになります。これは当社が投資している欧州企業の実例ですが、自律運転技術を開発するその企業が人材を探す場合に、欧州とシリコンバレーではどちらが目的を達成しやすいか、かかる費用はどれくらいか、ということを比較検討し、ビジネスを動かすのに必要なボトムラインについて考えると、当然のことながらエンジニア系人材の大部分は創業地である欧州に置くべきだという結論に達します。しかし、この企業はシリコンバレーにオフィスを置いています。その理由は、才能やスキルセットを持つ人材に対して影響力を持つ非常にユニークなエンジェル投資家がシリコンバレーにいるからだと思います。

TC:ビー・キャピタルはかなり大きな会社ですが、巨大な企業というわけではありません。世界中にいる創業者とどのようにスムーズにやり取りするのですか。例えば、ビー・キャピタルは欧州にも中南米にもオフィスを置いていません。この状況は今後変わる予定ですか。

サベリン氏:確かにビー・キャピタルは(欧州にも中南米にも)いわゆる専任スタッフを置いていませんが、それは、パートナーシップベースのアプローチを取っているためです。例えば、当社の主要パートナーの1つであるBCGは中南米各地にオフィスがあり、地元に密着しています。そこから投資案件を紹介されたケースも多々あります。

もっと広い意味で言うと、投資先が見つかる方法はさまざまです。当社と付き合いのある創業者が知り合いの創業者や投資家を当社に紹介し、そこから投資案件が生まれる場合もあります。

TC:ヤロチャットに関心を持った理由は何ですか。

サベリン氏:ヤロチャットはメッセージング業界だけでなく、大企業のイネーブラーになることを目指している企業で、それはビー・キャピタルが真剣に注目してきたモデルでもありました。アジアには、メッセージングアプリと会話型オンラインショッピングのおかげで大企業が今までにない方法で消費者と関わることができるようになっている事例がたくさんあります。このパターンを、メッセージングアプリの利用者が多い世界の他の地域や、中南米の経済国でも展開できないかと考えるようになりました。

例えばブラジルの場合、フェイスブックの利用者数がインド、米国に次いで世界第3位という、巨大なソーシャルメディア市場があります。非常に大きなメッセージングアプリ市場があるということです。

TC:中南米以外で会話型オンライショッピングアプリ事業に投資したことはありますか。

サベリン氏:いいえ、ありません。1つのカテゴリーにつき1社に投資して、その企業が世界展開できるように支援するのがビー・キャピタルの方針です。

TC:でも、ビー・キャピタルは、それぞれの市場の特性が大きく異なるという理由で、2社のスクーター企業(米国のバードとインドのBounce(バウンス))に投資していますね。これは例外ですか。ローカル企業に投資する方が合理的な場合もあるのでしょうか。

サベリン氏:この例に限って言うと、新しいモビリティソリューションのイネーブラーについて社内で話し合っていたときに、インドが抱える問題と必要とされるソリューションは、バードが先進国で解決している問題とは大きく異なると考えました。バードはほぼ世界全域に展開できる企業だと思いますし、グローバルに展開できる能力があることをすでに証明しています。しかしインドのバウンスの場合は少し異なる方程式が必要になりました。なぜならバウンスは非常に低コストのサービスを提供することで公共の交通機関になることを目指しており、それを、数十年にわたって使用され、その有用性が証明されてきたなじみ深いVespas(ヴェスパ)や二輪車タイプのスクーターを使って実現しようとしています。バードとバウンスは、提供するサービスの価格が大きく異なるまったく別のタイプの企業であり、これ以上なく補完し合える関係にあると私は考えています。

TC:ビーキャピタルはインドとインドネシアで数多くのフィンテック企業に投資していますが、銀行・金融サービスがまったく、もしくは十分に受けられない人がインドやインドネシアのように大勢いる中南米ではフィンテックへの投資にさらに力を入れる計画のようですね。このような好機を捉えるために、BCGとの関係はどの程度重要だと思われますか。

サベリン氏:ビー・キャピタル社内に大きなチームを置く予定ですが、イネーブラーとなるのは、当社のスタートアップが他社と関係を築けるように助けてくれる、BCGをはじめとするパートナー企業との関係です。考えてみると、ここ数十年間は消費者インターネットを普及させることに注意が向けられてきた時代でした。次の数十年は従来型の巨大な業界をどのようにデジタル改革していくか、という時代になると思います。フェイスブックやGoogle(グーグル)がはじめに取り組んだ業界、つまり広告業界よりもはるかに大きい業界です。医療、金融サービス、物流、技術イノベーションなどの大型業界に比べれば、広告業界がGDPに占める割合はほんのわずかです。

起業家は、自分が起業する分野に属する大企業と提携せず、大企業ならではの流通網、規制ノウハウ、資本力を活用せずに起業することを考えるべきでしょうか。確かに、物事を進めるスピードは、スタートアップと大企業とでは大きく異なります。しかし、ビー・キャピタルは、業界間の翻訳エンジン、パートナーシップエンジンとなって、ウィンウィンの関係を構築することを目指しています。

これは、学生が寮の部屋にこもって「イノベーションのさらに先を目指し」、世界的大企業を追い抜くという話ではなく、多くの場合は「大企業の資産や流通網、規制対策の実績を活用した方が速いスピードで目的を達成できるだろうか」と考える、という話です。ビー・キャピタルはイノベーションを引き起こそうと努めていますが、ディスラプション(創造的破壊)だけではなく、もっとポジティブでニュートラルな改革を引き起こすことを考えています。それが成功へのヒントになるかもしれません。ただし、語り継がれるようなサクセスストーリーがいつも生まれるわけではありません。でも、イノベーションが(消費者インターネットではなく)従来型の大型業界を変革していく様子が見られるようになれば、それが成功への重要な鍵となるでしょう。

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(翻訳:Dragonfly)

LinkedInのリード・ホフマン氏とZyngaのマーク・ピンカス氏がテック企業を育てるSPACを創設

高名な投資家で連続起業家のReid Hoffman(リード・ホフマン)氏と、Zyngaの創業者であるMark Pincus(マーク・ピンカス)氏、そしてベテランのヘッジファンドマネージャーであるMichael Thompson(マイケル・トンプソン)氏がこのほど立ち上げた特別買収目的会社(SPAC)であるReinvent Technology Partnersが米国時間8月31日に、6億ドル(約634億円)の株式公開を申請した

このSPACは、ホフマン氏とピンカス氏、そして元BHR Capitalのトンプソン氏が、テクノロジー企業と合弁する目的で作った。トンプソン氏が取締役でCEO兼CFOになり、ホフマン氏とピンカス氏は共同筆頭取締役になる。同社はニューヨーク証券取引所にRTP.Uのシンボルで上場する計画だ。Reinvent Technology Partnersが6億ドルを調達したら、その資本は同社の買収企業が決まるまで白紙委任信託に移される。

SPACはブランクチェックカンパニー(blank-check company、白紙小切会社)であり、他の企業を合併または買収する目的のために作られる。SPACは2020年に、ベンチャーが支援する企業の間で、従来的なIPOの面倒な手順を踏まなくても上場できる方法として人気と利用が高まった。過去数カ月で数社のベンチャー支援企業が、従来的なIPO過程の代わりにSPAC企業と合併した。それらは、中古車マーケットプレースのShift Technologies、LiDARのLuminarとVelodyne Lidar、そして数社の電気自動車関連企業すなわちCanooFisker Inc.Lordstown MotorそしてNikola Motorなどだ。

1月のAxiosの記事によると、ピンカス氏とトンプソン氏は、ホフマン氏をアドバイザーとして新たな投資ファンドとして最大で7億ドル(約740億円)を調達中(Axios記事)であり、その対象は事業の戦略的再構築を必要としている上場テクノロジー企業だとされていた。

8月31日の申請書類を見ると、詳細がややわかる。ホフマン氏とピンカス氏とトンプソン氏からなるブレーントラストの考えでは、このSPACはベンチャーキャピタルの新種のパートナーの一種として、これから上場するテクノロジー企業を投資対象とする。

申請書類に含まれているホフマン氏とピンカス氏の書簡を、以下に引用する。

私たちは、ある程度の規模に達した企業がイノベーションを追求し、IPO以降の長きにわたって機能の成長過程を踏んでいけるための、新しいタイプのベンチャーキャピタルが、従来のタイプに加えて必要と考える。

起業家、投資家そして企業の取締役というキャリアの全体を通じて私たちは、一部のテクノロジー企業がなぜマーケットリーダーとしての地位を維持し続けるのか、その理由を学ぶ生徒だった。人はしばしば、これらの企業を外から見てまるで事前に決まっていたかのような完全で邪魔の入らない成長の物語を想定する。しかしながら私たちが理解しているのは、そういう神話のような成長話の背後に、発明と再発明の困難なサイクルがあることだ。発明は企業が新製品を作って関連市場で成長を達成する。Amazon(アマゾン)がAWSを開発したときのように。再発明は企業がコアプロダクトとサービスを適応させて、既存の市場で成長を続ける。NetflixがDVDレンタルからストリーミングに移行したように。

多くの上場テクノロジー企業、特に資本が中サイズのところは、上記のようなサイクルが難しく、十分な数と額の投資家を揃えることが難しい。私たちはZyngaやLinkedInで上場後に発明と再発明のサイクルを追ったが、容易ではなかった。

私たちがこれから作りたい新種のベンチャーキャピタルパートナーは、次の数年間に上場するテクノロジー企業の内の1社を対象とする。それがどこになるか、今からわくわくしているが、成長と大胆さを助け維持していく。しかも大胆さと成長は、四半期ごとの結果報告というプレッシャーの中で維持しなければならない。

私たちの経験とアイデアとインサイトが、市場でトップになる企業を作ろうとする創業者やCEOが、人びとの生活に関わる製品やサービスで他社との違いを作り出そうとするときに役に立つことを望みたい。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa