フェイスブックがインドでコロナワクチン接種場所探しツールを展開、11億円寄付も

Facebook(フェイスブック)はインドの緊急事態に対し1000万ドル(約11億円)の支援を発表し、新型コロナウイルス感染拡大対応で苦戦しているインドでVaccine Finder(ワクチンファインダー)ツールの展開を開始した。

Facebookは、増大する医療用品危機をサポートすべく、病院のベッド数を増やすための5000台超の酸素濃縮機や、人工呼吸器、BiPAP(携帯型人工呼吸器)機器など生命維持装置の提供でUnited Way、Swasth、Hemkunt Foundation、I Am Gurgaon、Project Mumbai、US-India Strategic Partnership Forumといった数多くの組織と提携した。

Facebookはまた、同社のアプリでのVaccine Finderツール展開でインド政府と提携した、とも述べた。17言語で利用できる同ツールは人々が最寄りのワクチンセンターを見つけ出せるようデザインされている。

先週インドは18〜45歳を対象にワクチン接種を開始したが、ウェブサイトはすぐさまダウンし、この年齢グループの大半の人からの予約リクエストは受け付けられなかった。

低コストのISP構築に取り組んでいるバンガロール拠点のスタートアップWiFi Dabbaも、人々が簡単にワクチン接種の空きスポットを見つけられるようにするツールを開発したことも書き留めておく。

しかし、インドが現在直面している大きな問題は、ワクチン不足だ。

Facebookは新型コロナワクチンと予防衛生に関する情報をFacebook上の人々に提供すべく、非政府組織、インドの国連機関に広告クレジットを提供してサポートするとも明らかにした。

さらに同社は、緊急ケアをどのタイミングで探すべきか、マイルドな症状の家庭での対応の仕方についてUNICEF Indiaからのリソースを人々に提供するとも述べた。

世界第2位の人口を抱えるインドでは多くの企業、スタートアップ、起業家、投資家がここ数週間、政府や州政府の準備不足で拡大したパンデミックとの戦いで協力している

Pfizer(ファイザー)は米国時間5月3日、インドに7000万ドル(約76億円)分の医薬品を送ると明らかにした。「インドの新型コロナとの戦いのサポートに全力を注いでいて、社の歴史上最大の人道救援活動を結集するために急いで取り組んでいます」と同社の会長兼CEOのAlbert Bourla(アルバート・ブーラ)氏は述べた。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Facebookインド新型コロナウイルスワクチン

画像クレジット:Abhishek Chinnappa / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

クラウドゲームShadow運営のBladeを仏クラウドホスティングOVHcloud創業者が買収

クラウドゲーミングサービスのShadowを提供するフランスのスタートアップBladeが、裁判所の命令によりOctave Klaba(オクターブ・クラバ)氏のファンドに買収された。クラバ氏はフランスのクラウドホスティング企業OVHcloudの創業者として知られている。同氏はOVHcloudではなく、投資ファンドのJezby Venturesを通じてBlade(とShadow)を買収した。

Shadowはゲーマー向けのクラウドコンピューティングサービスだ。ユーザーは月額料金を支払うことで、データセンター内のゲーミングPCにアクセスできる。このゲーミングPCには自分のコンピューター、スマートフォン、タブレット、またはスマートテレビから接続できる。画面にはビデオストリームが配信され、操作はサーバに中継される。

Google StadiaやAmazon Luna、さらにはNVIDIA GeForce Nowとは異なり、サーバーには好きなゲームをインストールできる。Windows 10のインスタンスはSteamからPhotoshop、Excelまでサポートしている。

フランスのスタートアップ企業であるBladeは、複数の資金調達ラウンドで1億ドル(約110億円)以上を調達してきたが、予約注文に対応できずに自立可能なだけの十分な収益を上げられず、サービスを拡大するための資金を確保できなかった。10万人の有料ユーザーを獲得したにもかかわらず、Next INpactは同社が商業裁判所の管理下に入るしかないと報告した。

複数の企業とグループが買収提案を提出した。特にBladeのJean-Baptiste Kempf(ジャン・バティスト・ケンプ)CTOは他の従業員とチームを組み、Octave Klabaは独自のオファーを提出した。Klaba氏はJean-Baptiste Kempfをのぞく全従業員を雇用する予定だ。

今後数週間で、サービスがどのように変わるのかは興味深い。現在のサブスクリプション価格はヨーロッパで月額12.99ユーロ(約1700円)から、米国では月額11.99ドル(約1300円)からとなっている。この価格でShadowが提供され続けるのか、仕様がどのように進化するのか、または新規顧客獲得のためにサーバを増設するのかどうかは不明だ。

 

カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:BladeOVHcloud買収フランス

画像クレジット:Blade

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(文:Romain Dillet、翻訳:塚本直樹 / Twitter

「常識」獲得に向け少しずつ進化するコンピュータービジョン、フェイスブックの最新研究

機械学習は、やり方を教えるデータさえあれば、あらゆることができる。これは必ずしも簡単なことではない。だから研究者は、AIに少々の「常識」を加える方法を常に模索している。常識があれば、AIが猫だと認識する前に500枚の猫の写真を見せる必要がなくなるからだ。Facebook(フェイスブック)の最新の研究は、データのボトルネックを減らす方向へ大きな一歩を踏み出した。

同社の強力なAI研究部門は、高度なコンピュータービジョンアルゴリズムなどの技術進歩や応用範囲拡大の方法に長年取り組んでいる。着実に前進しており、その成果は一般に他のリサーチコミュニティと共有されている。Facebookが特に追求している興味深い開発の1つは「半教師あり学習」と呼ばれるものだ。

一般にAIの訓練について考えるとき、上述の猫の500枚の写真のようなものを思い浮かべる。こうした画像はあらかじめ選り分けられ、ラベルが付されている(つまり、猫の輪郭が描かれていたり、猫の周りに四角い囲みをつけたり、単に猫が画像の中のどこかにいると示されていたりする)。こうして、機械学習システムが猫の認識プロセスを自動化するアルゴリズムを作れるようにする。当然のことながら、犬や馬で行いたい場合は、500枚の犬の写真、500枚の馬の写真などが必要となる。つまり、線形に応用範囲が広くなる。テクノロジーの世界では決して目にしたくない言葉だ。

「教師なし」学習に関連する半教師あり学習では、ラベル付けされたデータをまったく使用せずにデータセットの重要な部分を理解する。これで単純に明後日の方向に進んでしまうことはなく、そこにはまだ構造がある。例えばシステムに1000個の文(センテンス)を与えて学習させた後、いくつかの単語が欠落している10の文をシステムに提示する。システムはおそらく、最初に見た1000文に基づき空白を埋めるまともな仕事をすることができる。しかし、それを画像や動画で行うのはそれほど簡単ではないし、単純でも予測可能でもない。

だがFacebookの研究者は、簡単ではないかもしれないが可能であり、実際には非常に効果的であることを示した。DINOシステム(DIstillation of knowledge with NO labels「ラベルなしでの情報抽出」の略)は、ラベル付きのデータが皆無でも、人、動物、静物のビデオの中から目的のものを見つけるべく学習することができる。

画像クレジット:Facebook

AIは上記の処理を、1つずつ順番に分析される一連の画像として動画を捉えるのではなく「一連の単語」と「文」の違いのような複雑で相互に関連する集まりとして捉えることによって行う。動画の冒頭だけでなく、途中や最後にも注意を払うことで、AIエージェントは「この一般的な形の対象物が左から右に移動する」という感覚を得る。その情報は他の知識にも反映される。例えば右側にある物が最初の物と重なっている場合、システムは双方の輪郭をパッと見て同じではないと認識する。その知識は他の状況にも応用できる。言い換えれば、AIは「見たものの意味」という基本的な感覚を養う。そして新しい対象物に関して非常に少ない訓練で同じことを行う。

これによりコンピュータビジョンシステムは、従来の訓練を受けたシステムと比べて優れたパフォーマンスを発揮するという点で効果的であるだけでなく、関連づけや説明する能力が高まる。例えば500枚の犬の写真と500枚の猫の写真で訓練されたAIは犬と猫を認識するが、その類似性はまったく理解しない。だがDINOは、具体的にではないが、両者が視覚的に類似し、とにかく車よりも類似していることを理解する。そしてメタデータとコンテキストがメモリで見えるようになる。犬と猫は、犬と山よりも、その種のデジタル認知空間では「近い」のだ。こうした概念は小さな集まりとして見ることができる。下の画像で、ある種の概念同士がどのくらい近接しているのか見て欲しい。

画像クレジット:Facebook

これには、この記事では取り上げない技術的な利点がある。興味がある人は、Facebookのブログ投稿にリンクされている論文に詳細があるので参照されたい。

隣接する研究プロジェクトとしてPAWSと呼ばれる訓練方法もある。これは、ラベル付けされたデータの必要性をさらに減らす。PAWSは、半教師あり学習のアイデアの一部を従来の教師ありメソッドと組み合わせて、ラベル付きデータとラベルなしデータの両方から学習させ、訓練を飛躍的に向上させる。

Facebook自身はもちろん、多くのユーザー向け(そして秘密の)画像関連の製品のために、速く優れた画像分析を必要としている。だが、コンピュータービジョンの世界でのこうした一般的な進歩は、目的が異なる開発者コミュニティでも歓迎されることは間違いない。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:機械学習コンピュータービジョンFacebook

画像クレジット:Facebook

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

地球の電力需要を満たす大きな可能性を持つ地熱テクノロジーでリーダーを目指す「Fervo」

地表の下に蓄えられた地熱を再利用可能エネルギーの生成に使う方法は、環境問題専門家や石油、ガス技術者らの注目を引きつけている未来に向けた新たなビジョンだ。

それは、この技術が温室効果ガスを発生る炭化水素に依存しない発電方法であるからだけでなく、石油とガス産業が長年にわたって磨き続けてきたのと同じ技能と専門技術を使うからだ。

少なくともそれが、石油工学のコンプリーション・エンジニアだったTim Latimer(ティム・ラティマー)氏がこの業界に興味をもち、 Fervo Energy(ファーボ・エナジー)を立ち上げた理由だ。テキサス州ヒューストン拠点の地熱技術開発会社は、あのBill Gates(ビル・ゲイツ)のBreakthrough Energy Ventures(非常に忙しいファンドである)とeBay(イーベイ)の幹部であるJeff Skoll(ジェフ・スコール)氏のCapricorn Investment Groupから資金提供を受けている。

新たに2800万ドル(約30億6000万円)のキャッシュを手にしたFervoが計画、遂行しているプロジェクトの数々は「今後数年のうちに数百メガワットの電力を生み出す」とラティマー氏はいう。

ラティマー氏が発電の環境への影響を初めて肌で感じたのは、テキサス州ウェイコ郊外の小さな町で、米国で作られた最後の石炭による発電所であるSandy Creek石炭発電所の近くで少年時代を過ごしたときだった。

多くのテキサス・キッズと同じく、ラティマー氏は石油一家の出身で、彼が石油・ガス産業で最初の職を得たとき、世界が再生可能エネルギーへと切り替わり、石油産業が友達や家族ともども、取り残される運命になる可能性があることを知らなかった。

それが、Fervoを立ち上げた理由の1つだった、と起業家は語った。

「私にとって、石油・ガス産業で仕事を始めて以来一番大切にしてきたことは、エネルギー転換が起きる中で、化石燃料側にいる人達が将来クリーンエネルギーの仕事に就けるようにすることです」とラティマー氏は言った。「私は石油価格の暴落によって失業したり苦労を強いられている人たちを雇い、私たちの発電所で働いてもらうためのスタートを切ることができました」。

Fervo EnergyのCEOであるティム・ラティマー氏。同社の作業現場で保護帽を被っている同氏(画像クレジット:Fervo Energy)

バイデン政権がエネルギー転換政策の一環として、炭化水素業界の労働者のために職を探すことについて話している今、彼らはまさしくそのとおりのことをやっている。

そして地熱発電は以前ほど地理的制約を受けないため、世界には豊富な資源があり、すでに地質学的作業に依存している地域では高賃金職の可能性もある、とラティマー氏はいう(2020年10月にVoxはこの技術がもたらす歴史と可能性に関する優れた概観を出版した)。

「世界人口の大きなパーセンテージが、実は良質な地熱資源の近くに住んでいます」とラティマー氏はいう。「現在25か国に地熱発電所が設置・運用されており、他に地熱発電が生まれつつあるところが25か国あります」。

実際地熱発電は、米国西部およびアフリカの一部で長い歴史をもっている。自然に間欠泉が湧き、水蒸気噴流が地球から出ていることは、良い地熱資源の明白な指標だ。

「Fervoのテクノロジーは、大規模な展開が期待される新たなタイプの地熱資源の扉を開きます。Fervoの地熱システムは水平掘削、分散型光ファイバーセンシング、先進コンピューターモデリングなどの斬新な技術を使って、反復可能で費用効率の高い地熱電力の提供を可能にします」とラティマー氏がメールに書いた。「Fervoのテクノロジーは、有機ランキンサイクル発電システムの最新技術を組み合わせることで、柔軟な24時間運転カーボンフリー電力を供給します」。

当初、スタンフォード大学TomKat Centerの助成金とローレンス・バークレー国立研究所サイクロトロン・ロード・プロジェクトでActivate.orgから受けた奨学金によって設立されたFervoは、エネルギー省の地熱技術部門とARPA-E(エネルギー省高等研究計画局)から資金を調達するまでになり、Schlumberger(シュルンベルジェ)、ライス大学、バークレー研究所などと提携して業務を遂行している。

この新旧技術の融合は、同社が新たなプロジェクトを開発する可能性を地理的に膨大な地域へと拡大するものだ。

地熱を使って再生可能発電開発ビジネスを推進しようとしている会社は他にもある。エネルギーメジャーのBP Ventures、Chevron Technology Ventures、Temasek、BDC Capital、EversourceおよびVickers Venture Partnersらの支援を受けているEavornなどのスタートアップや、GreenFire EnergySage Geosystemsなどが参入している。

地熱プロジェクトの需要は止まるところを知らず、地熱開発のコスト問題を解決できるスタートアップには巨大な市場が開かれている。Latimer氏によると、2016~2019年には主要な地熱の契約はわずか1件だったが、2020年には業界内で新たに締結された大型電力購入契約が10件あった。

いずれのプロジェクトにとっても、コストは未だに課題だ。地熱発電契約における価格はメガワット当たり65~75ドル(約7100〜8200円)の範囲だとラティマー氏はいう。比較して、ソーラー発電はメガワット当たり35~55ドル(約3800〜6000円)だ。2020年のThe Vergeの報告による。

しかしラティマー氏は、地熱発電の安定性と予測可能性は、無停電電力供給の確保が必要な公共機関や企業にとってコスト差異を許容できるものだという。テキサス州ヒューストン住民として2021年の厳冬で5日間電気のない生活を強いられたラティマー氏にとって、これは身近な体験のある問題だ。

事実、常時利用可能なクリーン電力を供給する地熱の能力は、驚くほど魅力的な選択肢になりうる。エネルギー省の最近の研究によると、地熱は米国電力需要の最大16%を満たす可能性があり、別の推計によると地熱は完全脱炭素電力グリッドの20%近くに寄与する。

「私たちは長年の地熱エネルギー信奉者ですが、業界でイノベーションを起こす理想のテクノロジーとチームが見つかるのを待っていました」とCapricorn Investment GroupのIon Yadigarouglu(イオン・ヤディガロウグル)氏が声明で語った。「Fervoaはその技術力と彼らが先端研究組織と築いたパートナーシップによって、地熱の新たな波における明確なリーダーになるでしょう」。

Fervo Energyの掘削現場(画像クレジット:Fervo Energy)

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Fervo Energy再生可能エネルギー電力地熱

画像クレジット:Universal Images Group / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ユーザー10万人のアジャイルミーティングソフトウェアParabolが約8.7億円を調達

先にアジャイル開発チームに振り返りミーティングソフトウェアを提供するベンチャー企業Parabolは、800万ドル(約8億7400万円)でシリーズAを完了したことを発表した。取引はMicrosoft(マイクロソフト)のベンチャーキャピタル部門であるM12が主導した。この投資には、Techstars、CRV、Haystackも参加している。

TechCrunchは、ParabolのCEOであるJordan Husney(ジョーダン・ハスニー)氏にインタビューし、今回のラウンドと同氏の会社について話を聞いた。私たちは、Parabolが提供している市場がどれほど大きなものなのか、そして同社がサービスを過剰にニッチ化しているのではないかと思っていた。Parabolはまだ若い会社だが、私たちの考えは誤りだったようだ。聞くところによると、ソフトウェア市場は考えていたよりも大きな市場であるという印象を受けた。

Parabolはどのようにして誕生し、どのようにしてターゲット市場を選んだのだろうか。あるいはより正確には、ターゲットとなる市場はなぜParabolを選んだのだろうか。

水平に構築し、垂直に焦点を合わせる

コンサルティングの世界に身を置いていたハスニー氏は、分散したチームが抱えるコミュニケーションの問題を十二分に認識していた。大企業では複数のオフィスを持つことが当たり前になっており、リモートワーカー同士のコミュニケーションは、メールのやりとりか、ミーティングかのどちらかになっていたとTechCrunchのインタビューで答えた。自称「回復期のエンジニア」であるハスニー氏は、ビジネス市場に「構造化されたコミュニケーション」、つまりコードライティングの世界で人気のある、非同期ミーティングの需要があるのではないかと考えた。

ハスニー氏は、プロセスや書面化よりも強力や進化を優先するソフトウェア開発手法であるアジャイル開発の精神を受け継ぎ、開発者ではないビジネスチームにアジャイルワーキングやコミュニケーションの手法を導入するためにParabolを構築した。アジャイルの原則が、ステータスミーティングを通じた開発者の成果の促進に適しているのなら、同じプロセスが他の仕事の場でも通用するのではないだろうかと考えたのだ。

しかし、市場には別の考えがあった。ビジネス界で大成功を収めるには、ハスニー氏がいう「行動の変化」が必要なことから摩擦が避けられず、それは新しいサービスや製品の迅速な導入には致命的だ。Parabolはビジネス界全体でヒットしたのではなく、なんとアジャイル開発チーム自身がParabolのテクノロジーを使い始めたのだ。

Parabolは、その需要を追いかけた。そしてその需要は非常に大きいことが分かったのだ。ハスニー氏は、世界には約2000万人のアジャイル開発者がいると推定しており、そのビジネスによってAtlassianのような企業が巨大な成功を収めている。ベンチャー企業にとっては、長い間泳ぎ続けるのに十分な大きさのプールなのだ。

先ほどのソフトウェア市場の大きさの話に戻ると、Parabolは良い参考になる。Parabolはソフトウェア制作の世界特有の会議スタイルの一部をサポートすることで、本物の会社となりつつあるようにも見えるが、ソフトウェアの市場はとにかく巨大なのだ。

成長

アジャイルソフトウェアチームのサポートを決定した後、Parabolにはすぐに成長が訪れた。2018年と2019年には毎月20%から40%の成長が見られたと同社のCEOは語る。自社を「ロケット」と呼ぶハスニー氏は、ParabolのフリーミアムのGTMモデルを一部評価している。これは、従来の販売プロセスを敬遠する開発者に販売する際の一般的なアプローチだ。

Parabolは、既存の顧客に販売することで、プロダクト・マーケット・フィットを実現した。ハスニー氏自身は、アジャイルソフトウェア開発者の作業サポートツールの需要を過小評価していた。それは開発者らは自分たちのニーズをすでに把握しているだろうと思っていたからだとTechCrunchに語った。

しかし、Parabolが作ったのは単純なツールではない。まず振り返りミーティングやインシデントの事後検証を行うためのソフトウェアで、作業者から「やるべきこと」「やらない方がいいこと」「維持すべきこと」などのメモを収集する。そして、それらのメモはトピックごとに自動的に集約され、その後、ユーザーが投票して変更点や取るべき行動を決定するというサービスなのだ。その結果、開発チームは非同期に同期された状態を保つことができる。

Parabolは2019年11月にシードラウンドを完了し、ちょうど新型コロナウイルス感染症流行に備えた資金を用意するのに間に合った。在宅勤務への急激な切り替わりにより、Parabolのユーザー数は2020年1月には週600人だったのが、同年3月には週5000人にまで増加した。データを自分の目で確認したい場合は、ここに同社による公開データがあるので参照して欲しい。

400万ドル(約4億3700万円)の資金を調達したハスニー氏は、周囲から「今がチャンスだ」と言われ、さらなる資金調達を決意。そして、いくつかの会社の中から選ぶことになり、最終的にはマイクロソフトの資金を受け取ることになった。

そこにはストーリーがある。ハスニー氏によれば、マイクロソフトのM12は、ベンチャーキャピタルのリストの上位にはなかったという。純粋なベンチャーキャピタルではなく、戦略的資本を利用することは1つの選択肢に過ぎず、すべてのベンチャー企業にとって最適なものではないからである。しかし、ハスニー氏たちがマイクロソフトのパートナーと知り合いになり、お互いに調査を行った結果、その適合性が明らかになった。CEOによると、M12の投資チームは、AzureやGitHubなど、さまざまなマイクロソフトのグループに電話をしてParabolに対する意見を聞いたそうだ。彼らは絶賛した。そしてマイクロソフトはこの取引に関して強い内部シグナルを発し、Parabolは自社の投資元となる可能性のある企業が自社製品のヘビーユーザーであることを知ったのだ。

取引は成功した。

なぜ800万ドルで、それ以上ではないのか?ハスニー氏によると、このベンチャー企業の成長計画は資本集約的ではなく、むしろ市場が成長を引っ張っているとのことだ。また、チームは希薄化を意識していると説明する。創業チームが会社を結成したのは2015年で、シードラウンドを完了したのは2019年になってのことだった。当時はひもじい時代だったと同氏はいう。そこまでして得た所有権にはこだわりがあるのだろう。

Parabolは意図的に無駄のない経営を行っている。ハスニー氏は、自身のチームはReid Hoffman(リード・ホフマン)氏のような電撃的な規模拡大の理念には従わず、個人の成長を考えた採用を重視しているという。コラボレーション製品を作るためにすぐに規模拡大する必要はないと、CEOは考えている。

この800万ドルの資金調達により、Parabolは無限の可能性を秘めているとCEOは語ったが、同社はこれを約24カ月間分の資金調達とした。24カ月後には、社員が現在の10人から30人程度に増えていることを期待する。

Parabolは、2021年の収益を4倍にし、2022年にはそれを3倍にしたいと考えている。また、現在10万人のユーザーを2021年中に50万人に拡大し、来年末には100万人にしたい計画だ。目標に対する同社のパフォーマンスから目を離すことができなさそうだ。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Parabol資金調達アジャイル開発

画像クレジット:Chainarong Prasertthai / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Dragonfly)

ディープフェイクのビジネス活用、技術の悪用防止をめぐる戦い

ディープフェイクのビジネス活用と悪用防止をめぐる戦い

アフロ

編集部注:この原稿は、MIN SUN(ミン・スン)氏による寄稿である。同氏は、AppierのチーフAIサイエンティストを務めている。Appierは、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するためのAIプラットフォームを提供している。

顔認識技術を用いて動画内の人物の顔に、画像データの人物の顔を当て込むディープフェイクという技術がある。近年、注目度が高まっている技術のひとつだが、ディープフェイクと聞いてどのようなイメージが湧いてくるだろうか?

おそらく多くの人がネガティブなイメージを思い浮かべるだろう。著名人の顔をアダルトコンテンツにはめ込んだ動画や政治家が問題発言をしている動画が拡散、流通した事件はまだ記憶に新しい。

技術の悪用がメディアに大々的に取り沙汰され、悪評を得てしまったディープフェイクだが、この技術はどんな目的で開発されたのだろうか。

本寄稿では、ディープフェイクの誕生から社会に広まっていく過程、ビジネスにおいて期待されている活用策について、ディープラーニング技術の社会実装を目指す研究者としての立場から考察していく。

ディープフェイクとは?

「ディープフェイク」という単語自体は、ディープラーニングを活用したフェイク画像あるいは動画のことを指し、2017年にRedditに複数のフェイク動画を投稿したユーザーのID「deepfakes」に由来する。この辺りの経緯は、プレプリント含め様々な論文を保存・公開しているarXivにある「Deepfakes Generation and Detection: State-of-the-art, open challenges, countermeasures, and way forward」が詳しい。

近年、大きな注目を集めているディープフェイクだが、実は約20年前に開発された「Synthesis Human Technology」(人物画像合成技術)が技術の根幹を成しており、これら技術そのものは映画業界を中心に以前から盛んに活用されていた。

たとえば、2009年に公開された映画「アバター」は、俳優の表情や体全体の動作を捉え、CGキャラクターを重ねる形で制作されている。しかし、この作業は専用の機材が必要なため、莫大な制作費が発生してしまうという難点があった。

この難点の解決につながるきっかけとなったのが、2012年だ。2012年の画像分類コンテストにおいて、「AlexNet」が活用しているディープラーニング(深層学習)が注目を浴び、第三次AIブームへの期待値が高まり始めた(総務省 平成28年版 情報通信白書「人工知能(AI)研究の歴史」)。そして2015年前後にはAIの社会実装に向けた様々なコンセプトが起草された。

2015年、ワシントン大学のSteve Seitz(スティーブ・セイツ)教授らによって、高価な機材を使うスタジオで撮影を行わずとも表情を重ね合わせられるようになる技術が開発された。

さらに、2016年にはミュンヘン工科大学のMatthias Niessner(マティアス・ニースナー)教授が発表した「Face2Face: Real-time Face Capture and Reenactment of RGB Videos」で技術はさらに進歩をとげ、ノートPCのカメラを使用して3Dの顔をリアルタイムで操作できるようになった。

これらの技術進歩の過程を経て、2017年、「GAN」(敵対的生成ネットワーク。Generative Adversarial Networks)と呼ばれる画像生成技術と上記の技術などを組み合わせた「ディープフェイク」および関連オープンソースソフトウェアが登場するに至った。

これらディープフェイク関連ソフトウェアの登場により、PCにインストールし、動画と画像データを集めるだけでフェイク動画を生成できるようになった。ディープラーニングに関する深い知見を持たずとも利用できるソフトウェアということも相まり、一般人によりフェイク動画が数多く生成されていった。

当初はいたずら感覚で政治家や芸能人が普通であればしないような動きや発言をするフェイク動画が作られていたのだが、活用は悪意ある方向に少しずつエスカレートし、フェイク動画の流通がメディアで大々的に取り上げられ、逮捕者が出るまでに至ってしまったのだ。

ビジネスにおけるディープフェイク活用

ディープフェイクが意図しない形で悪用されているという事実がある一方、ビジネスにおける前向きな活用も進められている。

エンターテインメント領域では、映画制作への活用はもとより、スマートフォンアプリのような個人が利用するサービスとしてもディープフェイクの技術は盛んに活用されている。たとえば、Snapが提供するSnapChatのFace Swap機能では、2人以上が写真に写っている場合、顔をスワップすることが可能だ。また、自身の顔のパーツを有名人のものとスワップすることもできる。

広告分野では、スタントマンの動作にGANで生成した架空の顔を重ね合わせ、仮想モデルのCMを作る取り組みなどが進んでいる。これにより、有名人を起用するコストを抑えることができる。また、仮想モデルは現実には存在しないため、スキャンダルや不祥事によるブランドイメージの毀損リスクを排除することにもつながる。

こうしたビジネス活用の例から分かる通り、ディープフェイクは悪評が先行しているだけで、必ずしも悪い技術ではないということだ。

悪意に対するカウンター

ただ、ディープフェイクを用いた有益なビジネスが生まれているからといってこれまでに根付いてしまった悪評が自然消滅するわけではない。

そのため、近年ではディープフェイクの悪用を検知するための取り組みが産学を中心に進められている。

アカデミックの世界では、ディープフェイクを検知する技術が確立されつつある。2019年ICCV(International Conference of Computer Vision)というコンピュータービジョン領域の国際会議では、90%以上の精度でディープフェイクの動画を検知する技術の開発に成功したとの発表があった(「FaceForensics++: Learning to Detect Manipulated Facial Images」)。

そして、現代における情報拡散の中心であるソーシャルメディアを運営する企業でもディープフェイクの悪用を防止するための検証が動き出している。ソーシャルメディアの代表格であるFacebook(フェイスブック)では、AIを用いてディープフェイクを検知するプロジェクト「Deepfake Detection Challenge」(DFDC)が立ち上がっており、ディープフェイクの検知にAIが有効だという報告も上がっている。このプロジェクトの最終的な結果によっては、フェイスブック上で拡散されている動画がフェイクの可能性があるときに「この動画はフェイクかもしれない」というようなメッセージをユーザーに自動で発信できるようになる。

余談となるが、産学でディープフェイクの検知に関する成果が上がりつつある一方、テキストベースのフェイクニュースに効果的な技術はまだ確立されていない。ディープフェイクには、コンピューターにより検知できる特徴的なシグナルがある。しかし、テキストベースのフェイクニュースの場合、膨大なデータソースから情報を収集し、内容の真偽を総合的に判断しなければならないため、AIによる自動検知が難しいというわけだ。

ディープフェイクの検知技術は年々向上している。しかし、100%の精度で偽物を見破れるわけではない。テキストや画像などの情報媒体も含め、社会に生きる全員が意識的に情報の真偽を判断するためのリテラシーを身に着けていくことが悪意ある情報を駆逐する近道なのかもしれない。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:AI / 人工知能(用語)ディープフェイク(用語)ディープラーニング / 深層学習(用語)

動画クリエイター向けAI作曲サービスSOUNDRAW、楽曲を「選ぶ」のではなく誰もが「作る」時代へ

SOUNDRAWの作曲家による作業風景

動画コンテンツはスマホ1つでいつでもどこでも楽しめるようになり、近年急速に普及している。YouTubeなどの動画サイトや各種SNSで目にしない日はないのではないだろうか。そしてほとんどの動画コンテンツでは楽曲がBGMとして使われている。

現状、動画クリエイターはストックBGM素材サービスから楽曲を探し、動画に合うかを1曲ずつ確認していかなければならない。「動画に合う楽曲を探すのはとても時間が掛かり大変」との声が多いという。

2020年2月に設立したスタートアップのSOUNDRAW(サウンドロー)は従来の「楽曲に合わせて動画を完成させる」といった手順を根本から変える。同社が提供する動画クリエイター向けAI作曲サービスSOUNDRAWは、独自開発したAI技術やアルゴリズムによって楽曲を自動生成し、その楽曲をユーザーが編集して商用利用もできるようにした。

動画クリエイターは動画に合わせて楽曲を「選ぶ」のではなく、SOUNDRAW上で「テーマ」や「ジャンル」などを選ぶことで、曲を作れるようになるのだ。SOUNDRAWの楠太吾代表は「これまで作曲家という特殊能力を持つ人しかできなかった『作曲』を、誰もができるように一般化していきます」と語る。

動画クリエイターなどからの反応も上々だ。2020年6月にベータ版、9月に製品版をリリースし、2021年4月時点ですでにアカウント登録者数は2万人を超えているという。

数多の楽曲から思い通りに編集も可能

自動生成された楽曲を自分好みに編集可能

SOUNDRAWの使い方はシンプルだ。ライフスタイルやビジネスなどの「テーマ」、ヒップホップやアコースティックなどの「ジャンル」といったカテゴリーを選ぶだけで、15個の楽曲が自動生成される。

ユーザーは選んだ楽曲の長さや構成、テンポ、音程などを動画に合うようにカスタムできる。演奏楽器も変更できる上、メロディやドラムといった特定の音を抜くことも可能だ。楠氏は「どんな構成でも、動画に合わせて自由に編集できます」という。

楽曲をダウンロードしたら企業PR動画やCM動画、YouTubeに投稿する動画、ゲームなどに、ロイヤリティフリーで使うことができる。著作権はSOUNDRAWに帰属しており、使用ライセンスをユーザーに付与しているかたちだ。このため楽曲の転売などは禁止している。

SOUNDRAWの会員登録は無料で、月間プランは月額税込1990円、年間プランは年額税込1万9900円。両プランともにAIによる作曲回数無制限、楽曲のダウンロード無制限となる。無料会員は作曲回数無制限と楽曲をキープする機能が使える。SOUNDRAWは今のところPCのみで利用可能だ。

また、SOUNDRAWでは動画編集ソフトAdobeのPremiere Pro、After Effectsのプラグインも開発し、有料会員に無料で提供している。SOUNDRAWはブラウザ版でも使えるが、プラグイン版はより効率よく作業できるようになる。なお、ブラウザ版はSafariでも使えるが、Chromeでの利用を推奨している。

楠氏は「プラグイン版は動画と楽曲を同時に編集できる点が大きなメリットです。楽曲をダウンロードすれば、動画編集ソフト内にインポートされます。そのデータを動画のタイムライン上にもっていくだけで、簡単に音楽と映像を合わせることもできます」と説明した。

楽曲データ量産AI

AI作曲によって自動生成される楽曲の組み合わせは理論上、数億もの数に上るという。「数えるのは途中でやめました」と楠氏は笑顔で話すが、開発に至るまでの2年間はテストをしては壊してを繰り返すなど苦労を重ねてきた。初めは鍵盤をランダムに叩いているだけといったフレーズが生まれてきたという。

楠氏はインプットするデータの質には特にこだわって独自開発を進めた。SOUNDRAWには作曲家が2人おり、インプット用のデータを実際に制作して貯めてきたでは「Melody」「Backing」「Bass」「Drum」と、楽曲を4つの要素に分解し、それぞれAIで生成したフレーズを組み合わせて楽曲を生み出す。

どのような基準で楽曲を作り上げているのか気になるが「あまり詳しくは言えません。ただ、いわゆるヒットソングを学習させているわけではありません」と楠氏はいう。楠氏はSOUNDRAWにおける質の高い楽曲には、独自に作り上げた学習モデルなどが大きく関わっているとの説明にとどめた。

楽曲数の追加と海外進出を

右から3番目がSOUNDRAWの楠太吾代表

SOUNDRAWは数億に上る楽曲の組み合わせを有しているものの、楠氏は「人間の耳で聴くと『どこか似ているな』といったものはどうしても出てきます」と話した。SOUNDRAWは2021年3月1日に3500万円の資金調達を実施し、累計調達額は1億円を超えた。今後は資金調達を元に楽曲数の追加などに力を入れる考えだ。

楠氏は「楽器1つとっても、ピアノならオルガンやエレクトリックといった音色・フレーズの幅などを増やしていくことで、将来的には『聞いたことがある』という状況を回避できるはずです。今は外部人材も加えてチームを作って取り組んでいる最中です」と語った。

また、SOUNDRAWは海外市場への進出も視野に入れている。「これまでは国内を中心にアプローチしていましたが、音楽は非言語であり、デジタルで提供できるため、国境を越えやすい。SOUNDRAWが持つカスタム性やクオリティが高いAI作曲ツールは、海外でもまだ多くはありません。SOUNDRAWは世界で戦うレベルに達していると思っています」と楠氏は意気込む。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:SOUNDRAW音楽日本動画編集

画像クレジット:SOUNDRAW

女性向けソーシャルネットワーキングアプリPeanutがライブ音声ルームを追加

女性向けモバイルソーシャルネットワーキングアプリを提供するPeanutはこのほど、自社の製品に音声を統合し、Clubhouseの成功に続く最新テック企業へと変貌を遂げつつある。母親に焦点を当ててスタートしたPeanutは、妊娠、結婚、更年期を含むすべてのライフステージを通じて女性をサポートしており、ここ数年で大きく成長した。「Pods」と名づけられたボイスチャット機能を通じて、同社のアプリを利用する女性たちが、他のプラットフォームよりもサポート性が高く安全な環境で、より良質なつながりを築くことができると考えている。

もちろん、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、音声ベースのソーシャルネットワーキングへの関心が高まったこともあるだろう。家にこもっていた人々が、かつては対面でのネットワーキングやソーシャルイベントが果たしていたギャップの解消にそれが役立つことを見出したからだ。しかし、音声チャットソーシャルネットワーキングをリードするClubhouseは、同社のモデルがFacebookTwitterRedditLinkedInDiscordなどの企業が採用する機能に変わってしまうのを見てきた。

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これまでに生まれてきた数々のClubhouseのクローンと同様、PeanutのPodsもその基本的な機能を備えており、ミュートされたオーディエンスが話すために事実上「手を挙げる」機能や、絵文字リアクション、会話をモデレートして人々を会話に誘うホストなどの機能もある。同社は今のところ、会話が同社の規約に違反しないことを保証するために、音声ポッドの社内モデレーションを行っている。将来的には、他のモデレーターも追加する予定だ。(同社はアプリのその他の部分を管理するために24を超えるモデレーターに報酬を支払っているが、数日前の時点では、そのチームはまだ音声に関するトレーニングを受けていなかった)。

設計にはClubhouseとの類似点もあるが、Peanutが他のサービスとの差別化を図ろうとしているのは、こうした会話が行われる場所についてであり、安全と信頼を念頭に置いて作られた女性のためのネットワークという要素を重視している。また、影響力を追い求めることが参加の理由ではないネットワークという性質もある。

Peanutの創設者兼CEOのMichelle Kennedy(ミシェル・ケネディ)氏によると、従来のソーシャルネットワークは多くの場合、 いいね!の数、フォロワー数、青いチェックマークの認証バッチの付与といったことに依存しているという。

「ステータスと人気度に基づいています」と同氏はいう。「私たちがPeanutで見てきたのは、女性が互いに心から支えあっているという『思いやりの経済』だけです。『私にはX人のフォロワーがいます』というようなものではありません。私たちにはそのような概念すらありません。『私には支援が必要です; この質問があります、私は孤立しています、あるいは友人を探しています』というようなものです」とケネディ氏は続けた。

Peanut Podsでは、女性が安心してソーシャルネットワーキングを利用できるようにするための安全基準を引き続き強化するとしている。この焦点は特に、他の音声ベースのネットワークプラットフォームでハラスメント受けてきた一部の女性、特に有色人種の女性たちを引きつける可能性がある。

「伝えたいのは、私たちはコミュニティであり、基準を有しているということです」とケネディ氏は強調する。「ユーザーが基準を確保し、その内容をすべての人に通知することで、基準は非常に明確なものになります。意見を述べることはできますが、できないことがここに記載されています【略】ユーザーとして期待されることがここに示されています。それを実行した場合には報奨が与えられ、実行しなかった場合には退去を求められます」。

言論の自由についてはPeanutが語ることではない、と同氏は付け加えた。

「当社には基準があり、ユーザーのみなさまにそれを遵守するようお願いしています」とケネディ氏は述べている。

Peanutは将来的に、この音声機能を利用して、新しい母親を支援する授乳コンサルタントや不妊治療医など、特定の専門知識を持つ人々と女性を結びつけることを目指している。ただしこれらは、スピーカーがドローンを飛ばして繰り返し聴衆を拘束するようなレクチャーとはならないだろう。実際、Peanutの設計ではClubhouseの「ステージ」のようなコンセプトは採用されておらず、発言の有無にかかわらずすべての人に平等な地位を与えるものとなっている。

アプリでは、ユーザーがフォローしているトピックに基づいて興味深いチャットを見つけることができる。そして重要なのは、ミュートすることで他のトピックが表示されないようにできることだ。

Pods機能は米国時間4月27日からPeanutアプリに展開され、200万人を超えるユーザーに提供される。Peanutの他のサービスと同様に無料で利用できるが、将来的には、一部の有料プロダクトと合わせてフリーミアムモデルをローンチする予定だ。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Peanut女性SNS音声ソーシャルネットワーク

画像クレジット:Peanut

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

中国のインディーゲームを世界へ発信、明の鄭和にちなんだ「Westward」が33億円のデビューファンド調達を計画

三国時代の遺跡と今日の製造業で知られる中国の都市「合肥」。この街で、無骨な美学とダークなストーリー展開にファンも多い欧米のロールプレイングゲームを制作する小さなスタジオを発見したMaxim Rate(マキシム・レイト)氏は胸を躍らせた。

「デザインとCGが実にすばらしく、中国で作られたものとは感じさせません」と同氏は話す。

合肥のこの例のような、創業間もない中国のスタジオを見つけ出し、彼らが国際的なプレイヤーを獲得できるよう支援することがレイト氏の使命である。中国の規制当局がゲームパブリッシングに関する規則を強化しライセンスの取得を困難にしているため、小規模なスタジオの多くが苦戦を強いられている。2020年以降、Apple(アップル)は中国当局の要請により中国のApp Storeから何千もの非正規のゲームを引き上げている。このような状況下、若手開発者たちは自国以外の地域に目を向けるようになったのだ。

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「問題は、こういったスタートアップに海外展開の経験がないということです」とレイト氏。

自身も熱心なゲーマーである同氏は、2020年中国のクロスボーダー決済会社を辞めた後、中国のゲームを海外に展開するためインキュベーターと投資を兼ねた会社を立ち上げた。Westward Gaming Ventures(ウェストワード・ゲーミング・ベンチャーズ)と名づけられたこの会社は、明の時代に国の支援を受けて「西海」への航海に乗り出した中国の武将であり探検家でもあった鄭和を着想源としている。

TechCrunchのインタビューに応じた同社は、デビューファンドとして2億元(約33億円)の資金調達を計画していると話している。1スタジオあたり200万〜400万元(約3300万〜6600万円)を目安に今後3年間で資金を投入する予定で、現在幅広いジャンルの20~30チームと交渉中だという。

今回設立されるファンドは「Qualified Foreign Limited Partners(QFLP)」と呼ばれており、同氏によるとこれにより初めて外国人投資家が米ドルおよびユーロで中国のゲーム会社に直接投資できるようになる。QFLPのライセンスを保有している機関は限られており、Westwardはライセンスを保有していないものの、中国の大手金融コングロマリットのプライベートエクイティ部門と提携することで外国人による直接投資の正当性を獲得している。同金融コングロマリットは現時点では企業名を公表していない。

このような複雑な規制を乗り越えるため、Westwardは近年中国と海外のゲーム会社によって設立された最大規模の合弁事業で法的および財務的プロセスを監督したアドバイザーなどからの協力を得ている。企業名は明かされていないが、このパートナーシップも外国企業が中国のゲーム合弁事業の過半数の株主となった初めてのケースである。

中国では付加価値サービスなどの機密性の高い分野への外国投資が制限されているため、多くの企業は複雑な海外法人を設立して海外からの資金調達を行っている。こういった制限により、資金に乏しいスタジオがグローバル市場への進出を支援してくれる外国人投資家を獲得することが難しくなってしまい、結果としてTencent(テンセント)やByteDance(バイトダンス)のような中国の大手企業に買収されるか支援を受けるかという2択を迫られることになる。

中国ゲームの台頭

中国の独立系ゲーム会社が海外資本を獲得するためのハードルを下げるということだけがWestwardの目的ではない。海外展開に向けて入念に準備を整えるというのも同社の仕事である。

「中国のゲームスタジオは規模の大小にかかわらず、海外に進出する際にはユーザー獲得の術として広告に大きく依存していました。ゲームが軌道に乗ることもありましたが、その理由が分からずただテストを続けていました。失敗したスタジオはそのまま諦めてしまうこともあります」とレイト氏は話す。

ゲームの海外展開とは、翻訳して公開ボタンを押し、Facebookで広告キャンペーンを展開するだけでできるような単純なことではない。

そのゲームがRPGなのか、ターゲットとなるユーザーはカジュアルそれとも本格的なプレイヤーなのか、グラフィックはどうするのかなどゲームの開発初期段階に関わり、ゲームのポジショニングをサポートするというのがWestwardの計画だ。また開発者に対しては、ワークスペースの提供、技術支援、マーケティングやローカライズのノウハウの提供、パブリッシャーとの連携、海外での運営支援なども行う予定である。

画像クレジット:Westward Gaming Ventures

投資後のサポートを提供するため、Westwardは同社自身も本拠地としている深セン市にあるゲームのインキュベーター、V+ Gaming Society(V+ゲーミング・ソサエティ)と提携した。

地政学的な緊張が高まるにつれ、中国のテック企業は欧米においてますます多くの課題に直面している。自らを「グローバル企業」と呼ぶ企業も多く、中国のルーツを完全に否定することさえも少なくない。

しかしWestwardは、同社が制作を支援するゲームが非中国のゲームであるなどと言って装う必要はないと考えている。「本当に良いゲームなら、それがどこで制作されたかなんて事はほとんどのプレイヤーは気にしません」。

「むしろ、海外のプレイヤーにも理解できるような中国文化の要素がゲームに含まれていたら良いのではと考えています」。

レイト氏、Edward He(エドワード・ヒー)氏とともに同社のパートナーを務めるAmy Ho(エイミー・ホー)氏によると「中国的」であると同時に文化的な境界線を超えることができた数少ない中国のゲームの1つが「Chinese Parents」だという。このシミュレーションゲームはユーザーに中国での子育てを体験させるというもので、世界的なヒット作となっている。

レイト氏がベンチマークとしたのは、20〜30年前に輸出が開始された日本のゲームだという。「日本的」な精神が宿りながらもグラフィックやゲームデザインは「グローバル化」されたものだ。

Tencentの他にも、新進気鋭のスタジオであるLilith(リリス)やMihoyo(ミホヨ)など、すでに世界的に成功した中国メーカーからのタイトルは存在する。以前はSteam(スチーム)の中国ユーザーの多くが海外タイトルの中国語版を急ぐよう求めていたが、今では欧米のユーザーが中国ゲームの英語版を要求することも珍しくないとレイト氏は話している。

政治的な問題よりも、特に小規模なスタジオにとっては「現地の個人情報保護法を遵守しながら、製品の新バージョン制作に必要なキーデータをいかにして収集するか」が大きな課題だとホー氏はいう。

Westwardは資本の50~70%を中国の機関投資家が占めることになるだろうと想定している。中国からの投資があれば、嫌でもセンサーシップの問題が台頭する。ホー氏はWestwardがスタジオにリソースと資本を提供する一方で、スタジオが投資家の影響を受けないように独立性を確保することに努めると述べている。

うまく進めば、同社のサポートにより中国と世界の文化交流が促進されることになるかもしれない。北京は同国のソフトパワーを輸出しようと試みているが、ゲームがそのパイプとなってくれるのではとレイト氏は考えている。貿易戦争が続く中、中国企業に外国人が出資すれば、中国の「ブランド」にも良い影響を与えるかもしれないと、同氏は期待を膨らませている。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Westward中国ゲームインキュベーター

画像クレジット:Westward Gaming Ventures

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

中国Xpengが展開するLiDARを利用した自律運転EV

Elon Musk(イーロン・マスク)の、LiDAR(Light Detection and Ranging、光による検出と測距)に依存する企業は「破滅する」という発言は有名で、実際Tesla(テスラ)は、自動運転機能は視覚認識で成り立つという信念の元、レーダーを撤去しようともしている。しかし、中国のXpeng(シャオペン、小鵬汽車)は異なる考えのようだ。

関連記事:「LiDARに依存する自動運転車に未来はない」とイーロン・マスクが主張

2014年に設立されたXpengは、中国で最も有名な電気自動車のスタートアップ企業の1つで、設立からわずか6年で上場を果たしている。同社はTeslaと同様、自動化を自社戦略の重要な課題と考えているが、Teslaとは異なり、レーダー、カメラ、Alibaba(アリババ)が提供する高精度地図、自社開発のローカリゼーションシステムの他、さらに最近ではLiDARを組み合わせて道路状況を検知、予測している。

Xpengの自律走行研究開発センターを統括するXinzhou Wu(ウー・シンヂョウ、吳新宙)氏は、TechCrunchのインタビューに応じ「LiDARは、子どもやペットなどの小さな動く障害物や、運転中の誰もが恐れる他の歩行者やバイクに対しても正確に距離を測定し、走行可能な空間を3Dで提供してくれます」と話す。

「LiDARに加えて、位置や速度を示す通常のレーダー、基本的なセマンティック(意味的)な情報を大量に持つカメラがあります」とウー氏。

Xpengは、2021年下半期に納車を開始する量産型EVモデルP5にLiDARを搭載する。この車はファミリーセダンで、Alibabaのマップに掲載された中国の高速道路や一部の都市の道路を、ドライバーが設定したナビに基づいて走行することができるようになる。LiDARを搭載していない旧モデルでは、すでに高速道路での運転アシストが可能だ。

「Navigation Guided Pilot(NGP)」というこのシステムは、TeslaのNavigate On Autopilotをベンチマークとしているとウー氏は話す。例えば車線変更、ランプへの進入、退出、追い越しの他、中国の複雑な道路状況ではよく観られる突然の割り込みに対する操作などを、すべて自動的に行うことができる。

「都市部は高速道路に比べて非常に複雑ですが、LiDARと精密な知覚能力があれば、基本的に3層の冗長性を持ったセンシングが可能になります」。

ADAS(先進運転支援システム)であるNGPでは、ドライバーはハンドルから手を離さず、いつでも車両をコントロールできる状態である必要がある(中国の法律では、ドライバーが路上でハンドルから手を離すことは認められていない)。Xpengの野望は、2~4年後にドライバーを排除すること、すなわちレベル4の自律性に到達することだが、実際の導入は規制次第とのことだ。

「しかしそれについてはあまり心配していません。中国政府はテクノロジーの規制に関して、実は最も柔軟だと思っています」とウー氏は話す。

LiDAR陣営

マスク氏がLiDARを嫌うのは、レーザーを使ったリモートセンシング手法のコストが高いことにある。ウー氏によると、初期の段階ではロボタクシーの上で回転するLiDARユニットに10万ドル(約1090万円)ものコストがかかっていたという。

「今では、少なくとも2桁は低くなっています」と話すウー氏。ウー氏は米Qualcomm(クアルコム)に13年在籍した後、2018年末にXpengに入社し、同社の電気自動車の自動化に取り組んでいる。現在は、Xpengの中核である、500人のスタッフを擁する自律走行研究開発チームを率いており、このチームの人数は2021年末までに倍増するという。

LiDARを搭載した新型セダンについては「次は、エコノミークラスをターゲットにしています。価格的にはミッドレンジと言えるでしょう」とウー氏は話す。

Xpengの車両に搭載されるLiDARセンサーは、深圳に本社を置くドローン大手のDJI(ディー・ジェイ・アイ)の関連会社であるLivox(ライボックス)が提供する。Livoxはより手頃な価格のLiDARが売りで、Xpengの本社かクルマで約1.5時間の広州を拠点とする。

関連記事:テスラの中国ライバルXpengがDJI系列LivoxのLiDARセンサーを採用へ

LiDARを採用しているのはXpengだけではない。Xpengのライバルで、より高価格帯の市場をターゲットにしている中国のNIO(ニーオ)は、2021年1月にLiDARを搭載したクルマを発表したが、このモデルの生産開始は2022年になる予定である。最近では、中国の国有自動車メーカーBAIC(北汽集団)の新しいEVブランドであるARCFOX(アークフォックス、極狐)が、Huawei(ファーウェイ)のLiDARを搭載した電気自動車を発売すると発表した。

マスク氏は最近、Teslaがカメラと機械学習による純粋なビジョンに近づくにつれ、製品からレーダーを完全に撤去するかもしれないと示唆している。マスク氏はTeslaの古いソースコードのコピーをXpengが持っていると主張しており、Xpengに好意的な感情を抱いていない。

2019年、Teslaは同社のエンジニアであったCao Guangzhi(ツァォ・グゥァンヂー、曹廣志)氏に対し、企業秘密を盗んでXpengに持ち込んだとする訴訟を起こした。Xpengは不正行為を繰り返し否定している。ツァォ氏は現在、Xpengに在籍していない。

供給の課題

Livoxは、ドローンメーカーであるDJIに「育てられた」独立した事業体であると主張しているが、ある関係者の話では、Livoxは別会社という位置づけの「DJI内のチーム」にすぎないという。DJIとの距離を主張する意図は、DJIが米国政府のエンティティリストに登録されているためだ。Huaweiを含む多数の中国ハイテク企業の主要サプライヤーがエンティティリストにより排除されている。

さらにXpengは、NVIDIA(エヌビディア)のXavierシステムオンチップ・コンピューティングプラットフォームや、Bosch(ボッシュ)のiBoosterブレーキシステムなどの重要部品を使用している。世界的に見ても、半導体の供給不足は続いており、自動車の幹部たちはチップにさらに依存するようになる自動運転車の将来のシナリオに悩み始めている。

関連記事:Google、Intel、Dell、GMなどテックと自動車業界のCEOたちが世界的なチップ供給不足問題で米政府と討議

Xpengはサプライチェーンのリスクを十分に認識しているようだ。「第一に、安全性は非常に重要です。安全性の課題は国家間の緊張よりも重要です。新型コロナウイルス感染症に影響を受けているサプライヤーもありますし、複数の供給路を検討しておくことは、私たちが非常に重要視している戦略の1つです」とウー氏は話す。

ロボタクシーの攻勢

Xpengは、Pony.ai(ポニーアイ)や広州のWeRide(ウィーライド)など、中国で急増している自律走行ソリューション企業と手を組むこともできた。しかし、Xpengは彼らの競争相手となり、自社で自動化に取り組み、人工知能のスタートアップ企業を打ち負かすことを誓ったのだ。

EVメーカーとロボタクシーのスタートアップ企業の関係について、ウー氏は「自動車用の大規模なコンピューティングが手頃な価格で利用できるようになり、LiDARの価格が急速に低下している現在、この2つの陣営に大差はありません」。

「(ロボットタクシー会社は)量産車の開発を急ぐ必要があります。2年後にはすでに量産可能な技術になり、ロボタクシー企業の価値は今よりもずっと低くなってしまうと思います」とウー氏は続ける。

「私たちは、自動車産業に求められる安全性と検査の基準を満たす技術の量産方法を知っています。これは、生き残りを左右する非常に高いハードルです」。

Xpengにはカメラのみに頼る計画はない。LiDARのような自動車技術の選択肢がより安価で豊富になってきた今、なぜそれを利用せずにカメラのみにこだわる必要があるのか、とウー氏は問いかける。

「私たちは、マスク氏とTeslaに敬意を払い、彼らの成功を願っています。しかし、(Xpengの創業者である)Xiaopeng(何小鵬)の有名なスピーチにあるように、私たちは中国で、そして願わくば他の国でも、さまざまな技術で競争していきます」。

5Gは、クラウドコンピューティングやキャビンインテリジェンスと一体になって、Xpengの完全自動化の実現を加速させることになると思われるが、ウー氏は5Gの利用法についてはあまり詳しく語らなかった。無人運転が可能になり、ドライバーがハンドルから手が離すことができるようになれば、Xpengは車に搭載される「多くのエキサイティングな機能」を探求するだろう。すでにノルウェーで電気SUVを販売しているXpengは、さらなるグローバル展開を目指している。

カテゴリー:モビリティ
タグ:XpengLiDAR中国自律運転電気自動車ロボタクシー

画像クレジット:Xpeng

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

いまビッグテックの評価額はあまりにも大きくて、驚くことさえ忘れてしまう

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。準備OK?ここではお金の話、スタートアップの話、IPOの噂話などをお伝えする。

TechCrunch は、公開市場には力を注いではいない。注目しているのはスタートアップだ。しかし、公開テック企業たちは、時に、より広い範囲のテクノロジー市場がどのように機能しているかに関する、興味深い洞察を提供することができる。だから私たちは、すでにIPOにたどり着いた「元」スタートアップたちにも、MVA(最小実行可能注意)と呼べる程度の注意を向けている。

そこで、ビッグテックたちの登場だ。米国では、その名前はよく知られている。Facebook(フェイスブック)、Alphabet(アルファベット)、Microsoft(マイクロソフト)、Apple(アップル)、Amazon(アマゾン)だ。そして、2021年第1四半期の市場にスタートアップたちの成長が熱かったことを示す一連の結果の中で、ビッグテックたちも 同様に驚異的な結果を残した。彼らの結果に関する私たちの報告はここここで読むことができるが、それはストーリーのほんの一部に過ぎない。

ご存知の通り、ビッグテックの業績は良好だった ── まあここしばらくはずっとそうだったのだが ── しかし、いつものような決算の数字が氾濫する中で、ビッグテックの最近の業績がいかに評価額に衝撃的な貢献しているのかということが忘れられていた。

Microsoftの2020年3月の株価は、1株あたり135ドル(約1万4800円)程度まで下落した。それが今は252ドル(約2万7500円)の価値があり、さらに上昇へ向かっている。同様にAlphabetは1株あたり1070ドル(約11万7000円)程度まで下がったが、現在、検索の巨人は1株あたり2410ドル(約26万3400円)の価値となっている。

巨大な株価評価の結果として、現在Appleが2.21兆ドル(約241兆6億円)、Microsoftは1.88兆ドル(約205兆5000億円)、Amazonは1.76兆ドル(約192兆4000億円)、Alphabetは1.60兆ドル(約174兆9000億円)、Facebookは0.93兆ドル(約101兆6000億円)の価値がある。5社を合わせると8.4兆ドル(約918兆1000億円)くらいだ。

2017の7月を振り返ってみよう、私はそのとき、彼らの総計額が3兆ドルに達したことを書いている。それが2018年半ばには4兆ドルになって 、そして、その後3年かそこらで、それは再び倍以上になったのだ。

何故だろう?

Yahoo FinanceのMyles Udland(マイルス・ウランド)記者は、そのパズルの一部について先週記事を書いている。ウランド記者の記事より:

そして、ほぼすべての収益のストーリーがこの同じ筋に従っているようにみえるが、データもまたこれが私たちの単なる想像ではないことを裏付けている。これまでの企業の収益はこうした期待値から大きく外れては来なかった。

木曜日(米国時間4月29日)に発表されたRefinitivからのデータは、企業が推定値を打ち破った割合を示したが、木曜日の朝までに判明した結果が、期待を上回った規模は記録的なものだったのだ。

つまり各社の収益は、巷の予測をより頻繁に、そしてより大きな差をつけて、これまで以上に裏切っているというのだろうか?そうだとすれば、最近の株式市場評価に対する懸念は減るものと思われる。そしてそれは、なぜスタートアップたちがヨーロッパ同様に、最近米国でも多額の資金を調達できたのか、なぜ非公開市場の投資家がフィンテックスタートアップに多くの資金を注いでいるのかの理由を説明するのに役立つ。そしてそれがおそらく、Zomatoが公開に向かい、私たちがロビンフッドの公開を心待ちにしている理由だ。

これはまるで、市場に参加している企業たちが、絶好調であるかのような現象だ。ただし、終わらないビジネスサイクルはないし、永遠に続くブームもないことは忘れないように。

インシュアテックの状況

さて、フィンテックの資金調達に関するThe Exchangeの最近の記事や、先々週のインシュアテックスタートアップラウンドに関するまとめ記事に加えて、より大きなフィンテック業界の一部として眺めることができる、インシュアテックのスタートアップニッチに関していくつかのメモをお届けしよう。

今回私たちは、Accel(アクセル)のJohn Locke(ジョン・ロック)氏から、最近さらに増資を行ったThe Zebra(ゼブラ)への投資と、インシュアテック業界についての話を聞いた。

私たちはZebraのようなインシュアテックマーケットプレイスが、2020年非常に多くの資金を調達できた理由を質問した。ロック氏によれば、それは「保険会社たちが[…]ついに市場を受け入れ、市場と統合された消費者体験をデザインする意思がある」こと「比較ショッピング」をおこなう消費者が増えたこと、そして成長と収益の質の組み合わせによるものだという。

ロック氏によると、Zebraは「売上は1億2000万ドル(約131億2000万円)以上で、100%以上の成長を続けています」とのことだ。つまり、その気になれば、いつでも公開できるということだ。

しかし、その点についていえば、公開保険会社のなかには株式市場で弱みを見せているものもいくつかあった。ロック氏はそれを懸念しているだろうか?彼は中立から前向きな姿勢であり、彼の会社は「市場のすべての企業がうまく行くとは考えていないが、それでも『インシュアテック』が、今後10年間は既存勢力から市場シェアを奪い続けるだろうと考えている」という。もっともな意見だ。

そしてAccelは、他社同様に、この分野でさらに多くの取引を検討している。ロック氏は、2021年のインシュアテック投資のベンチャー市場は、2020年よりも「間違いなく積極的です」と語った。

その他のことなど

最後に、私たちが取り上げて来なかったことに関するいくつかのメモを:

  • まず、Productboard(プロダクトボード)が7200万ドル(約78億7000万円)のシリーズCを終了した。なによりまず、それは巨大なラウンドだ。第2に、ご想像通り、その取引を主導したのはTigerだ。第3に、この製品管理ソフトウェア会社(Productboard)は現在、約4000の顧客を擁している。それは大きな数だ。この会社を「これから2年以内にIPOを行う会社リスト」に追加しておいて欲しい。
  • 中国の自転車シェアリングスタートアップHello(ハロー)が米国で公開される。米国時間5月3日に、またこの話題に戻るつもりだが、そのF-1申請書類はここにある。2020年の売上高は9億2630万ドル(約1012億4000万円)となり、売上総利益は1億960万ドル(約119億8000万円)になった、これにより、これまでの累積純損失は1億737万ドル(約189億9000万円)となった。びっくりだ。
  • 先週はDarktrace(ダークトレース)が公開された。私がその会社を知っているのは、私が好きなF1チームのスポンサーだからだが、ついに英国上場企業として私たちの世界にも登場した。そして、Deliveroo(デリバルー)が成功したあと、Darktraceの上場の驚異的な成功によって、英国は1週間前よりもさらに魅力的な上場場所になる可能性がある。
  • そして。ついにドローン配達時代やってくるのだろうか?英国で上場しているベンチャーキャピタルグループDraper Espritが、Manna(マンナ)の2500万ドルのラウンドを主導した。Mannaはアイルランドで無人ドローンを使った食事配達を行おうとしている。「Mannaは、より環境に配慮し、より静かで、より安全で、かつより迅速な配送サービスを貪欲に追求しています」とUKTNが書いている

長く奇妙な1週間だった。さて最後にThe Exchange執筆チームの2人目のメンバーであるAnna Heim(アンナ・ハイム)記者のフォローをお願いしておきたい。オーケー!ではまた来週!

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:The TechCrunch Exchange保険株価

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

欧州の金融スーパーアプリへ向けてVivid Moneyが約79.6億円を調達

ドイツのスタートアップVivid Money(ビビッドマネー)は、GreenoaksがリードするシリーズBラウンドで新たに7300万ドル(79億6000万円)を調達した。既存の投資家からRibbit Capitalも参加した。この資金調達ラウンドで、Vivid Moneyのバリュエーションは4億3600万ドル(約480億円)に達した。

Vivid MoneyはRevolutの競合企業と見ることができるが、ユーロ圏向けに特別にデザインされている。同社は銀行インフラにSolarisbankを利用して開発されており、ユーザーはさまざまな方法で送金、受け取り、支出、投資、貯蓄が可能になる。

アカウントを作成すると、DEで始まるドイツのIBAN(国際銀行口座番号)と、メタルカードが届く。カード自体にはカードの情報は記載されていない。すべての情報はアプリにある。他のフィンテックスタートアップと同様、Vivid Moneyを利用すると、アプリからカードをコントロールできる。カードをロックしたりロックを解除したり、GooglePayやApplePayに追加したりできる。

その後、アカウントにチャージすれば、数十の異なる通貨を持つことができる。海外でカードを使って支払う場合、同社は現在の為替レートに少額のマークアップをのせる。通常銀行で適用される為替レートよりも良いレートが得られるはずだ。

このかなり標準的な一連の機能に加え、VividMoneyは端株での株取引を提供している。株式やETFに投資でき、手数料はかからない。同様に、アプリから暗号資産(仮想通貨)を購入、保有、共有することもできる。同社はこれらの機能についてCM Equity AGと提携している。

また、キャッシュバックプログラムと月額9.90ユーロ(約1300円)のプレミアムサブスクリプションもある。有料ユーザーは、無料の現金引き出し枠の拡大、バーチャルカードを作成する機能、追加の通貨のサポート、より良いキャッシュバックリワードの対象となる。

最後に、ユーザーはポケットと呼ばれるサブアカウントを作成できる。あるポケットから別のポケットにお金を移動したり、他のユーザーをポケットに追加したりできる。各ポケットには独自のIBANがある。従い、それぞれのポケットで別々の請求書の支払いを行うことができる。また、将来の買い物のために、カードを特定のポケットにリンクさせることもできる。

Vivid Moneyは、またたく間に多数の機能を追加した。今では銀行口座に多額の資金を預かる。今後、定評ある欧州のフィンテックプレーヤーとの競争の中で、多くのユーザー層を引き付けることができるかどうか注目したい。

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画像クレジット:Vivid Money

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

ZyngaとRollicがハイパーカジュアルゲームメーカーUncosoftを買収

Zynga(ジンガ)は2020年にハイパーカジュアルゲームメーカーRollic(ロリック)を買収した。現在RollicはZyngaの子会社であり、そして4月29日、RollicはUncosoft(アンコソフト)という別のゲームスタジオの買収を発表した。

Rollicと同じく、Uncosoftもハイパーカジュアルなゲームを開発し、トルコ拠点の会社だ(Rollicの場合イスタンブールで、Uncosoftはイズミルだ)。実際、RollicはすでにいくつかのUncosoftのゲームを公開していて、その中で最も知られているのはHigh Heelsだ。High Heelsではプレイヤーは馬鹿げているハイヒールで障害のあるコースに挑む。同社はHigh Heelsが1月の提供開始以来、6000万回超ダウンロードされたと話した。同ゲームは「App Storeチャートのトップに風変わりな喜び」をもたらしたとして称賛されした。

Rollicの共同創業者でCEOのBurak Vardal(ブラク・ヴァルダル)氏は、ハイパーカジュアルゲーム事業に携わっていると、「常に製品指向のチームを探す」と筆者に語った。これはヴァルダル氏がUncosoftのチームに見出したものに感銘を受け、「High Heelsのような新しいタイトル」をうまく制作できると自信を得た、というふうに聞こえる。

「開発スタジオ、そしてパブリッシャーとして共にゲームを制作することで、合併した会社のようにすでに機能し始めています」とヴァルダル氏は述べた。「1日中ゲームデザインについて議論し、戦略を共有し、そして企業がどのように事業を展開するか、創業者はどうなのか、アートのチームはどういう状況なのか、といったことを意図せずに学び始めます」

一方、UncosoftのCEO、Edip Enes Çakır(エディップ・エネス・チャクル)氏は、2つのチームがここ数年協業する中で「前例のない調和」があり、「グローバルなゲームを制作するという当社のカルチャーとビジョンは、RollicとZyngaの専門的ノウハウでもって増大します」と声明文で述べた。

Rollicは実際には、Zyngaのイスタンブールにおける4つめの買収で、イスタンブールやトルコがハブのようになっているのは明らかだ。ヴァルダル氏はRollicがトルコ外にもパートナーを抱えていると指摘したが、トルコが学生の多さゆえにハイパーカジュアルゲームで特に成功していると示唆した。

同氏はまた、他のハイパーカジュアルなゲームも続いて成功するようHigh Heelsが道を示した、との考えも示した。つまり、TikTokだ。

「ゲームのアニメーションとキャラクターメカニックは、我々がTikTokできるもの、と呼んでいます」と同氏は話した。「Z世代に大きなインパクトがあり、TikTokでかなりのオーガニックなリーチがありました。新世代はエコシステムを養うコンテンツを求めています」

買収の取引条件は明らかにされなかった。

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画像クレジット: Rollic

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(文:Anthony Ha、翻訳:Nariko Mizoguchi

エネルギー事業で余った天然ガスを利用し暗号資産のマイニングに電力供給するCrusoe Energy

Crusoe Energy(クルーソーエナジー)の2人の創業者が、今日の地球が直面している2つの大きな問題、すなわちハイテク産業のエネルギー使用量の増加と、天然ガス産業に関連した温室効果ガスの排出に対する解決策を見つけたかもしれない。

エネルギー事業で余った天然ガスを利用してデータセンターや暗号資産のマイニング事業に電力を供給するクルーソーは、事業の拡大に向けて、つい最近ベンチャーキャピタル業界のトップ企業から1億2800万ドル(約139億6396万円)の新規資金を調達したところであり、これはこれ以上なく良いタイミングだ。

温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化をパリ協定で定められた1.5℃以内に抑えることを目指す研究者や政策立案者にとって、メタンガスの排出は新たな注目分野となっている。クルーソーエナジーはまさにこのメタンガス排出を使用してデータセンターやビットコインマイニングへの電力供給を行おうとしている。

メタンの排出量を削減することが短期的に非常に重要である理由は、メタンの温室効果ガスは二酸化炭素の温室効果ガスに比べてより多くの熱を閉じ込め、またより早く消散するからだ。そのため、メタンの排出量を劇的に削減できれば、人間の産業が環境に与えている地球温暖化の負荷を短期間で緩和することができる。

メタンを排出する最大の原因は、石油・ガス産業だ。クルーソーエナジーの共同設立者であるChase Lochmiller(チェース・ロックミラー)によると、米国だけでも毎日約3964万立方メートルの天然ガスが焼却されているという。焼却量のうち約3分の2はテキサス州で、さらに約1415万立方メートルはクルーソーがこれまで事業を展開してきたノースダコタ州で焼却されている。

米国の大手金融機関でクオンツトレーダーとして活躍していたロックミラーと、石油・ガス業界の3代目社長であるCully Cavness(カリー・カブネス)にとって、回収した天然ガスをコンピューターに利用することは、金融工学と環境保全という2人の関心が自然に結びついたものだった。

ノースダコタ州ニュータウン。2014年8月13日、ノースダコタ州ニュータウン近くのフォート・バートホールド・リザベーションにて、3つの油井と天然ガスのフレアリングの様子。1カ月に約1億ドル(約108億9600万円)相当の天然ガスが焼却されるのは、それを回収して安全に輸送するパイプラインシステムがまだ整備されていないからだという。フォート・バートホールドにある近親三部族は、マンダン族、ヒダーツァ族、アリカラ族から成る。ここは、フラッキングと、そこに住む多くのネイティブアメリカンに石油使用による収益をもたらしていた石油ブームの震源地でもある(画像クレジット:Linda Davidson / The Washington Post via Getty Images)

デンバー出身の2人は、予備校で出会い、その後も友人として付き合っていた。ロックミラーがマサチューセッツ工科大学に、キャブネスがミドルベリー大学に進学したときには、まさか一緒にビジネスを立ち上げることになるとは思ってもいなかった。しかし、ロックミラーは大規模なコンピュータや金融サービス業界に触れ、キャブネスは家業を継いだことで、天然ガスの大量廃棄に対処するためのより良い方法があるはずだという結論に達した。

クルーソーエナジーにまつわる会話は、2018年にロッキー山脈にロッキー・クライミングに行った際に、ロックミラーがエベレストに行った話をしたことから始まった。

2人がビジネスを構築し始めたとき、最初に注目したのは、ビットコインのマイニングで発生するエネルギー・フットプリントに対処するための環境に優しい方法を見つけることだった。この試みが、Olaf Carlson-Wee(オラフ・カールソン-ウィー、ロックミラーの元雇用主)が立ち上げた投資会社Polychain(ポリチェーン)や、Bain Capital Ventures(ベインキャピタル・ベンチャーズ)、新たな投資家であるValor Equity Partners(ヴェイラー・エクイティ・パートナーズ)などの目に留まった。

(この試みについては、私が同社のシードラウンドを取材する際にロックミラーが言及していた。当時、私はこの会社の前提に懐疑的で、この事業は炭化水素の使用を長引かせ、政府の崩壊に対する投機的なヘッジ目的以外には実用性が限られている暗号資産を支えているだけではないかと心配していた。しかし、少なくとも私の懐疑のうちの1つは間違っていたと言える)

ヴェイラー・エクイティの広報担当者はメールで以下のように述べている。「持続可能性についての質問ですが、クルーソーには、排出量を実質削減するプロジェクトのみを追求するという明確な基準があります。通常、クルーソーが担当する油井はすでにフレアリングしており、クルーソーのソリューションがなければフレアリングが続くでしょう。同社は、従来のパイプラインから低コストのガスを購入することになる数多くのプロジェクトを断ってきました。その需要と排出量の実質増加を望んでいないためです。さらに、マイニングは再生可能エネルギーへの移行が進んでおり、座礁資産であるエネルギーに対するクルーソーのアプローチは、座礁資産であり限界のある再生可能エネルギーの経済的価値を向上させ、最終的には再生可能エネルギーをより多く取り入れることができます。マイニングは、電力の需要が増加したときに削減できる中断可能なベースロード需要を提供することができるため、全体として、より多くの再生可能エネルギー源をグリッドに追加する動機付けとなる効果があります」。

その後、Lowercarbon Capital、DRW Ventures、Founders Fund、Coinbase Ventures、KCK Group、Upper90、Winklevoss Capital、Zigg Capital、Tesla(テスラ)の共同創業者であるJB Straubel(J.B.ストラウベル)といった投資家が加わっている。

同社は現在、ノースダコタ州、モンタナ州、ワイオミング州、コロラド州で、廃棄された天然ガスを動力源とする40のモジュール型データセンターを運営している。来年は、クルーソーがテキサス州やニューメキシコ州などの新しい市場に参入するため、その数は100ユニットに拡大する見込みだ。2018年の立ち上げ以来、クルーソーは、ビットコインマイニング、レンダリング、人工知能のモデルトレーニング、さらには新型コロナウイルス感染症の治療法研究のためのタンパク質のフォールディングシミュレーションなどのエネルギー集約型コンピューティングによってフレアを削減する、スケーラブルなソリューションとして登場した。

クルーソーは、メタンガスの燃焼効率が99.9%であることを誇っており、さらにデータセンターやマイニング現場でのネットワーク構築という新たなメリットももたらしている。将来的にはクルーソーの事業所周辺の農村地域の接続性向上にもつながる可能性がある。

現在、同社の業務の80%はビットコインマイニングに関するものだが、データセンター業務での使用の需要も高まっており、ロックミラーの母校であるMITをはじめとするいくつかの大学が、自校のコンピュータのニーズのために同社の製品を検討している。

ロックミラーはこう述べている。「今はまだ潜伏期の段階です。プライベート・アルファ版には、何人かのテストを行う顧客がいますが、2021年後半には一般のお客様にもご利用いただけるようになるでしょう」。

クルーソー・エナジー・システムズのデータセンターの運用コストは世界で最も低いはずだと、ロックミラーは述べている。同社は、データを顧客に届けるために必要なインフラ構築をサポートするために費用をかけるつもりだが、エネルギー消費量に比べれば、それらの費用は無視できるレベルだという。

これはビットコインマイニングにおいても同様で、中国で石炭を使ったマイニングを行う代わりに、(送電網の整備に使用されるのではない)再生可能エネルギーを使った新たな設備の建設という選択肢を提供できる。暗号資産業界は、その生成と流通にともなうエネルギー使用に対する批判をかわす方法を探しており、クルーソーはすばらしいソリューションとなる。

また、制度や規制面での追い風も同社を後押ししている。最近では、ニューメキシコ州が来年4月までにフレアリングとガス放散を事業者の生産量の2%以下に制限する新しい法律を可決した一方で、ノースダコタ州は現場でのフレアガス回収システムを支援するインセンティブを推進し、ワイオミング州はビットコインマイニングに適用されるフレアガス削減のインセンティブを設ける法律に署名した。世界最大の金融サービス企業もフレアガス対策に取り組んでおり、BlackRock(ブラックロック)は2025年までに日常的なフレアガスの発生をなくすよう呼びかけている。

ロックミラーは「電力消費量については、プロジェクトの評価段階で、石油・ガスプロジェクトの排出量を削減するための明確な線引きをしています」と語った。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Crusoe Energy温室効果ガス暗号資産データセンター資金調達電力

画像クレジット:Spencer Platt / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

よく聞くマルチ商法的なサービスを批判するWest Tenthはアプリで女性の在宅ビジネスえの起業を支援する

シードファンドから150万ドル(約1億6400万円)の資金提供を受けたWest Tenth(ウェストテンス)という新しいデジタルマーケットプレイスは、女性が在宅ビジネスを始め、拡大させていくためのプラットフォームの提供を目的としている。女性は、モバイルアプリを使って、自分のビジネスを地域の人々に宣伝し、アプリに統合されたメッセージングプラットフォームにより問い合わせやリクエストに対応し、アプリの決済機能で取引を完了させることができる。

このスタートアップは、Lyn Johnson(リン・ジョンソン)氏とSara Sparhawk(サラ・スパーホーク)氏により共同で設立された。両氏は、金融機関で働いていたときに出会い、ジョンソン氏は金融業界に残ったが、スパーホーク氏は後にAmazon(アマゾン)に転職した。

ジョンソン氏は、自分の経験から、米国における女性の経済的不平等について理解を深めることができたという。男性が所有する金融資産1ドル(約109円)あたり、女性は32セント(約35円)しか所有していない。その大きな要因となっているのが、女性が育児のために離職し、それに伴い、数年間収入が得られなくなるためだと説明する。

「私たちの社会は、育児のために離職する女性を支援するのは得意だが、復職する女性を支援するのはひどく苦手だ」とジョンソン氏は言い「女性はこのことが分かっていて、当てにならない雇用の代わりに、次々とビジネスを始めている」と話す。

画像クレジット:West Tenth

West Tenthは、こういった起業を奨励することを目的としている。さらに広く言えば、女性たちが家庭で培った多くの才能が、実際にはビジネスになる可能性があることを理解してもらうことも目的としている。

このアプリでは、ホームベーカリーや調理師、フォトグラファー、ホームオーガナイザーやデザイナー、ホームフローリスト、乳幼児睡眠コンサルタント、パーティープランニングやイベントサービス、クラフト教室、フィットネストレーニング、ホームメイドグッズなど、さまざまなビジネスの入口を用意している。

同社は、このアプリが必ずしも男性を閉め出している訳ではないとしているが、子育てのために仕事を辞めるのは女性が多いため、現在の米国のホームビジネス市場は、女性向けになっている。しかし、同社のプラットフォームには男性もいる。

現在、これら起業家の多くはFacebook(フェイスブック)でホームビジネスを展開しているが、地元のグループに積極的に参加したり「いいね!」のリクエストに応えたりしなければ、顧客を獲得する機会を逃すことになる。対してWest Tenthでは、地元のビジネスを1つの場所に集中させることで、発見を容易にしている。

画像クレジット:West Tenth

このアプリでは、顧客は画面上部のボタンを使ってカテゴリー別に地元の店舗を閲覧し、買い物をすることができる。検索結果は提供される商品やサービスの写真、説明、開始価格とともに距離順に表示される。また、アプリのメッセージング機能により、見積もりや詳細情報を直接問い合わせることも可能だ。そして、顧客は、アプリに統合されたStripe(ストライプ)の決済機能を介して購入を完了することができる。West Tenthは、これらの売上に対して9.5%の手数料を取る。

West Tenthのもう1つの重要な側面は、教育部門のThe Foundry(ザ・ファウンドリ)だ。

ビジネスオーナーは、四半期ごとに100ドル(約1万900円)、または年間350ドル(約3万8200円)のサブスクリプション会員になることで、月2回のイベントに参加できる。イベントには、在宅ビジネスを立ち上げるための基礎知識、マーケティング、顧客獲得などに焦点を当てたクラスが含まれている。また、これらのクラスは、セッション単位の支払いとしたい顧客のために、1セッションあたり約30ドル(約3270円)のアラカルトでも提供されている。

さらに、参加者は在宅ビジネス市場での経験を持つゲストスピーカーから話を聞くことができ、同社のマスターマインド・ネットワーキング・グループに参加して会員同士で意見交換をすることもできる。

画像クレジット:West Tenth

教育やネットワーキングとビジネスオーナーシップを組み合わせたこのシステムは、よく見られるMLM(マルチレベルマーケティング、マルチ商法)企業に加入するのではなく、在宅ビジネスの起業家になる女性が増える可能性を秘めている。

「このビジネスを始めた時、MLM企業は、米国における未開拓な巨大人材プールである、離職した女性層に焦点を当てた数少ない産業の1つであることは認識していた」とジョンソン氏は述べ「しかし、MLM業界は非常に搾取的だ。儲かるのは上位1%のディストリビューターだけで、残りの人は損をする。そして、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)も失ってしまう。当社は、さまざまな面でMLMに代わる存在になりたいと考えている」と付け加える。

当然のことながら、West TenthのプラットフォームではMLMは許されていない。

画像クレジット:West Tenth

2020年夏にカンザスシティでのTechStars(テックスターズ)のプログラムを終えたこのスタートアップは、今回、プラットフォームを軌道に乗せるためにシードファンドから150万ドル(約1億6400万円)の資金を調達した。今回のラウンドには、主導したBetter Ventures(ベター・ベンチャーズ)に加え、Stand Together Ventures Lab(スタンド・トゥギャザー・ベンチャーズ・ラボ)、Kapital Partners(キャピタル・パートナーズ)、The Community Fund(ザ・コミュニティ・ファンド)、Backstage Capital(バックステージ・キャピタル)、Wedbush Ventures(ウェドブッシュ・ベンチャーズ)、およびGaingels(ゲインジェルズ)が参加している。

West Tenthは、この資金を製品開発とユーザー基盤の拡大に充て、より地域ビジネスに重点を置いた製品機能の拡充を目指している。これには、友人が購入したものを見ることができるといったショッピング支援機能や、動画によるデモンストレーションなどが含まれる。

2019年以降、West Tenthは、アプリに掲載されたわずか20のショップから、現在では主にロサンゼルス郊外とソルトレイクシティにある600以上のショップへとその対象地域を広げている。現在は、フェニックス、ボイシ、北カリフォルニアで展開中だ。

画像クレジット:West Tenth

West Tenthの事業拡大は、女性の従来型の雇用形態を悪化させ続けている新型コロナウイルス感染症危機に遅れて行われた。

学校や保育園の閉鎖と、女性の職に大きな影響を及ぼす雇用の喪失が相まって、これまで男性に比べてより多くの女性が失業に追いやられているMcKinsey(マッキンゼー)によると、パンデミックが始まって以来、労働人口に占める女性の割合は48%しかないにもかかわらず、離職者では約56%を女性が占めている。誰かが名付けた、この新型コロナウイルス感染症による「シーセッション(shecession:女性雇用の不況)」は、有色人種の女性に偏った影響を与えていることも研究で明らかになっている。

「500万人もの女性が職を失っている。解雇や一時解雇を余儀なくされた人もいれば、育児の負担が重くのしかかってきたために離職を選んだ人も数多くいる」とジョンソン氏はいう。

「育児を理由に女性が離職すると、なぜかそれは軽視され、復職がより困難になるという現実がある。そのため、今後1年半から2年の間に、在宅ビジネスを営んで収入を増やそうとする女性たちによる、自宅での経済活動が急増すると思う」と同氏は語った。

West Tenthのアプリは、iOSAndroidの両方で利用できる。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:West Tenth資金調達リモートワーク女性、MLM

画像クレジット:West Tenth

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

緊急通報対応を効率アップさせるクラウドベース開発のRapidDeployが約32億円調達

2020年のパンデミック禍での暮らしは現実世界であり、ときに悲惨なもので、効率的かつ万全の緊急対応サービスを利用できる状態にあることがいかに重要かを証明した。緊急対応サービスは必要とされればリモートで人々をサポートできる。そして遠隔からサポートできないときは、医療的な措置などを必要とする状況においてスタッフがすばやく派遣されるようにしている。このプロセスをサポートするクラウドベースのツールを構築している企業が米国時間4月29日、引き続き成長するための資金調達ラウンドを発表した。

911センター(日本の119番、110番通報センター)向けにクラウドベースのサービスとしてコンピューターを活用した出動テクノロジーを提供しているRapidDeploy(ラピッドデプロイ)は2900万ドル(約32億円)のシリーズBラウンドをクローズした。この資金は事業の拡大と顧客に提供しているSaaSツールの拡張の継続にあてる。RapidDeployの考えでは、最も効率的な方法で緊急対応を展開するのにクラウドは必要不可欠だ。

「911通報対応は初期においてはトランシーバーで行われていました。そして今、クラウドが信号の結節点になりました」とRapidDeployの共同創業者でCEOのSteve Raucher(スティーブ・ローチャー)氏はインタビューで述べた。

オースティン拠点のRapidDeployは911センターにデータと分析を提供している。助けを求めている人との重要なつながりであり、そうした通報を最寄りの消防救急や警察とつなげている。現在同社のプロダクトのRadiusPlus、Eclipse Analytic、Nimbus CADを使っている顧客は約700を数える。

この数字は米国の911センター(計7000)の約10%にあたり、人口の35%をカバーしている(都市部や人口の多いエリアにはより多くのセンターがある)。同社のプロダクトが利用されている州はアリゾナ、カリフォルニア、カンザスなどだ。また同社の元々の創業の地、南アフリカでも展開している。

今回の資金は、金融および戦略的投資家という興味深い組み合わせからのものだ。Morpheus Venturesがリードし、GreatPoint Ventures、Ericsson Ventures、Samsung Next Ventures、Tao Capital Partners、Tau Venturesなどが参加した。PitchBookのデータによると、直近のラウンドの前にRapidDeployは約3000万ドル(約33億円)を調達していたようだ。評価額は公開されていない。

EricssonとSamsungは、通信産業の主要プレイヤーとして、何が次世代の通信テクノロジーとなるのか、必要不可欠なサービス向けにどのように使われるのか、という点で利害関係がある(実際、かつての、そして現在の911通信の主要リーダーの1社はMotorolaで、EricssonとSamsungの競合相手となるかもしれない)。AT&TもまたRapidDeployのGTM戦略(物流と販売)パートナーで、同社はデータをシステムに送るのにApple、Google、Microsoft、OnStarを統合している。

緊急通報対応テクノロジーの事業は細分化されたマーケットだ。それらを「パパママ」事業だとローチャー氏は表現した。緊急対応サービスの80%が常時対応スタッフ4人以下という規模で(米国の町の大半が、あなたが思うような巨大な大都市よりもかなり小さいという事実の証だ)、多くの場合こうした町は昔ながらの古い設備で対応している。

しかし米国では過去数年、Jediプロジェクトや次世代の公共セーフティネットワークのFirstNetのようなイノベーションが盾となって状況は変わってきた。RapidDeployのテクノロジーは、人々の正確な位置の特定とサポート改善を支えるために携帯電話テクノロジーのイノベーションを利用してきたCarbyneRapidSOSのような企業と同じものだ。

関連記事:救急サービスを改善する次世代プラットフォーム開発のCarbyneが26億円調達

RapidDeployのテックはRadiusPlusマッピングプラットフォームをベースとしていて、これはスマートフォンや車両、ホームセキュリティシステム、その他のコネクテッドデバイスからのデータを使っている。データストリームにその情報を流し、911センターが位置だけでなく、通報した人の状態に関する潜在的な他の要素を判断するのをサポートできる。一方、Eclipse Analyticサービスはセンターが状況に優先順位をつけたり、どのように対応すべきか洞察を提供したりと、アシスタントのように機能する。そしてNimbus CADは出動して対応をコントロールすべき人を見つけ出すのを手伝う。

長期的には、新しいデータソース、そして通報者とセンター、緊急ケアプロバイダーの間の新しい通信方法をもたらすためにクラウドアーキテクチャを活用する、というのがプランだ。

「メッセージのスイッチというより、トリアージサービスです。ご覧の通り、プラットフォームは顧客のニーズとともに進化します。戦術的なマッピングは究極的にニーズをカバーするのに十分ではありません。当社は通信サービスの統合について考えています」とローチャー氏は述べた。実際、それはこうしたサービスの多くが向かおうとしている方向であり、消費者にとって良いことづくめだ。

「緊急サービスの未来はデータにあります。これまでよりも速く、対応が細やかな911センターを作ります」とMorpheus Venturesの創業パートナー、Mark Dyne(マーク・ダイン)氏は声明で述べた。「RapidDeployが構築したプラットフォームは、次世代911サービスを全米の過疎地や都市部のコミュニティで実際に使えるようにすることができると確信していて、スティーブやスティーブのチームと未来に投資することを楽しみにしています」。今回のラウンドの一環としてダイン氏はRapidDeployの取締役会に加わった。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:RapidDeploy資金調達SaaS緊急通報

画像クレジット:Spencer Platt / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

ゲーム的アプローチでギターやピアノ、歌などの音楽教育をもっと身近にするYousicianが30.6億円調達

自身が認めているように、Chris Thür(クリス・トゥール)氏はいかにも音楽教育の企業を始めそうな人物ではなかった。

レーザーの研究者だったトゥール氏は、ある投資家との初期のミーティングを思い出す。その投資家は、トゥール氏と共同創業者で電気系エンジニアであるMikko Kaipainen(ミッコ・カイパイネン)氏が音楽の指導者か、あるいはミュージシャンなのかと聞き、最後には「2人がその世界に適しているかどうかを判断する項目をすべて」尋ねた。すべての項目に2人はいちいち「ノー」と答えなくてはならなかった。

トゥール氏は「我々はただ、楽器を演奏したいがその機会がなかったと感じていただけでした。もちろん、そう思うのは我々だけではありません」という。

トゥール氏とカイパイネン氏はあの時の投資家を説得することはできなかったが、Yousicianを始めた。今では音楽教育アプリのYousicianとギターチューニングアプリのGuitarTunaの2つで月間ユーザー数が2000万人に達している。米国時間4月28日、ヘルシンキに拠点を置く同社はシリーズBで2800万ドル(約30億6000万円)を調達したと発表した。

YousicianのCEOであるトゥール氏は「ちょっとした旅」を経てここに至ったと語る。以前はOvelinという社名だった同社が創業したのは10年前で、もともとは子どもにターゲットを絞っていたが、その後年齢を特定しない戦略で成功した。

YousicianのCEOクリス・トゥール氏(画像クレジット:Yousician)

トゥール氏は、Yousicianアプリではインタラクティブなゲーム的アプローチでギターやピアノ、ウクレレ、ベース、歌を練習できるが、ゲーム性はそれほど強くないと説明する。ユーザーは1日に15〜20分練習するという標準的なカリキュラムで上達していく。アプリがユーザーの演奏を聞き取り、間違いの回数に応じて1〜3個の星で評価する。1日に1レッスンは無料で受けられるが、それ以上受けたい場合や曲のライブラリをすべて利用したい場合、あるいは複数の楽器を練習したい場合は、月額19.99ドル(約2180円)からのプレミアムまたはプレミアムプラスのサブスクリプションに登録する必要がある。

トゥール氏は、Yousicianを活用すると自分のスケジュールに合わせて対面のレッスンよりもずっと安い費用で音楽を学べるという。同時に、これは音楽指導者との「ゼロサム」の競合ではないとも指摘する。レッスンとレッスンの間に練習や学習を続ける手段としてYousicianを生徒に勧める指導者もいるという。

Yousicianがユーザーに役立っている事例として、トゥール氏はKaren Gadd(カレン・ガッド)氏のストーリーを挙げる(以下の動画)。ガッド氏は楽器をまったく演奏したことがなかったが、1年後にはバンドメンバーとしてステージに立つまでになった。ただし、人前に立って演奏する機会がなくてもこのアプリは有用であるとトゥール氏は補足した。

トゥール氏は「我々は音楽を読み書きの能力と同じぐらい普通のものにしたいのです。誰もが時々演奏して楽しむべきです。(中略)指導者のもとで学ぶことは多くの人にとって有効ですが、残念ながらすべての人にとって有効なわけではないと思います」と語る。

同氏は、この1年は「我々にとって困難な年であり興味深い年」でもあったという。学生がほとんどリモート学習に移行して「音楽のレッスンはほとんど実施されなかった」ため、実施されなかったレッスンの一部に代わるものとして、Yousicianは10万人以上の指導者と学生に対してプレミアムのサブスクリプションを無料で公開した。

同時に、コロナ禍で自己啓発全般に注目が集まったことの一環として多くの人が楽器の習得に関心を示すようになり、利用が「大幅な自律的成長」を遂げた。月間ユーザー数は1450万人から2000万人に増え、サブスクリプションは80%増加して同社の2020年の売上は5000万ドル(約54億6500万円)となった。

Yousicianはこれまでに合計で3500万ドル(約38億2500万円)を調達した。今回のシリーズBはTrue Venturesが主導し、新たな投資家であるAmazonのAlexa FundとMPL Venturesの他、Zynga創業者のMark Pincus(マーク・ピンカス)氏、LAUNCH Fund創業者のJason Calacanis(ジェイソン・カラカニス)氏、Unity Technologies創業者のDavid Helgason(デビッド・ヘルガソン)氏、Trivago共同創業者のRolf Schrömgens(ロルフ・シュレームゲンス)氏、Cooler Future創業者のMoaffak Ahmed(モアファク・アフメド)氏、Blue Bottle Coffee Company会長の Bryan Meehan(ブライアン・ミーハン)氏が参加した。

True Ventures共同創業者のJon Callaghan(ジョン・カラハン)氏は発表の中で「Yousicianは10年近くにわたって音楽指導をリードするプラットフォームであり、人々は新たな活力を得てこれまで以上に創造性と音楽の追求に目を向けています。我々は楽器を演奏する喜びと興奮を多くの家庭と家族にもたらす企業およびチームを支援できることを誇りに思っています」と述べた。

トゥール氏は、今回調達した資金をチームの拡大、ブランドマーケティングの向上、製品のローカライズ、音楽アーティストとの関係構築にあてると語った。

カテゴリー:EdTech
タグ:Yousician音楽資金調達

画像クレジット:Yousician

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(文:Anthony Ha、翻訳:Kaori Koyama)

南ヨーロッパのペット向けウェルネススタートアップ「Barkyn」がシリーズAで約10.5億円を調達

Barkyn創業者のAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏とRicardo Macedo(リカルド・マセド)氏

ペット用のフードと遠隔獣医サービスを組み合わせたヨーロッパのサブスクリプション「Barkyn」が、フードテック投資家のFive Seasons Venturesから300万ユーロ(約3億9000万円)を調達した。これにより、以前から実施していたシリーズAが800万ユーロ(約10億5000万円)に増え、これまでの調達金額の合計は1000万ユーロ(約13億1000万円)となった。Five Seasons Venturesは、これまでに投資していたIndico Capital Partners、All Iron Ventures、Portugal Ventures、Shilling Capitalに続く投資家となった。Barkynは、Nestléに買収されたTailsや2800万ドル(約30億6000万円)を調達した英国のButternut Boxと同じジャンルの企業だ。

2017年に創業したポルトガルのBarkynは現在、ポルトガル、スペイン、イタリアでサービスを展開し、南ヨーロッパの主要な「ペットウェルネス」ブランドとなることを狙っている。

Barkynによれば、同社のサブスクリプションサービスは「新鮮な肉を使ったヘルシーなフード」と専任のリモートオンライン獣医を提供している。犬の栄養状態に合うようにフードをカスタマイズしていることが顧客を引きつけている部分だという。同社はペット向け抗炎症サプリで商標登録済の「Barkyn Complex」や、ポルトガルの顧客を対象としたペット保険商品も開発した。

Barkynの共同創業者でCEOのAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏は発表の中で「栄養や体の状態を考えれば1つですべてのペットに合う製品はありません。我々の知識、既存の製品、継続的な研究開発によってこれを解決します」と述べている。

Barkynにとってはチャンスの扉が開かれている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、世界中がロックダウンの辛さと闘う中でペットを飼う人が増えたことは広く知られている。

同社によれば、2020年には南ヨーロッパ全体で四半期ごとに40%ずつ成長したという。

Barkynへの投資に関してFive Seasonsの創業パートナーであるNiccolo Manzoni(ニコロ・マンゾーニ)氏は「ペットを飼う人が多いのに魅力的なデジタルペットウェルネスブランドがない南ヨーロッパにおいて、Barkynは類のない企業です。フードのカスタマイズと遠隔獣医サービス、ポルトガルでは保険も組み合わせることで、顧客にペットの健康と安心を1カ所で提供しています」とコメントした。

ジョルダン氏はTechCrunchに対し、Barkynは既存のペットフードブランドを超えることに挑戦していると述べ、その背景を「テクノロジーを活用したペット市場はどうあるべきかを再考し、ペットフードのサブスクリプションだけではなくペットケアサービスを構築しています。我々は360度全体にわたるエクスペリエンスを開発しました。自分の犬に最適なフードと遠隔医療のサブスクリプションです。我々はモデルを成長させながらも極めて緊密な関係を獲得できます」と語った。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:ペットBarkyn資金調達ポルトガルヨーロッパ

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

南ヨーロッパのペット向けウェルネススタートアップ「Barkyn」がシリーズAで約10.5億円を調達

Barkyn創業者のAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏とRicardo Macedo(リカルド・マセド)氏

ペット用のフードと遠隔獣医サービスを組み合わせたヨーロッパのサブスクリプション「Barkyn」が、フードテック投資家のFive Seasons Venturesから300万ユーロ(約3億9000万円)を調達した。これにより、以前から実施していたシリーズAが800万ユーロ(約10億5000万円)に増え、これまでの調達金額の合計は1000万ユーロ(約13億1000万円)となった。Five Seasons Venturesは、これまでに投資していたIndico Capital Partners、All Iron Ventures、Portugal Ventures、Shilling Capitalに続く投資家となった。Barkynは、Nestléに買収されたTailsや2800万ドル(約30億6000万円)を調達した英国のButternut Boxと同じジャンルの企業だ。

2017年に創業したポルトガルのBarkynは現在、ポルトガル、スペイン、イタリアでサービスを展開し、南ヨーロッパの主要な「ペットウェルネス」ブランドとなることを狙っている。

Barkynによれば、同社のサブスクリプションサービスは「新鮮な肉を使ったヘルシーなフード」と専任のリモートオンライン獣医を提供している。犬の栄養状態に合うようにフードをカスタマイズしていることが顧客を引きつけている部分だという。同社はペット向け抗炎症サプリで商標登録済の「Barkyn Complex」や、ポルトガルの顧客を対象としたペット保険商品も開発した。

Barkynの共同創業者でCEOのAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏は発表の中で「栄養や体の状態を考えれば1つですべてのペットに合う製品はありません。我々の知識、既存の製品、継続的な研究開発によってこれを解決します」と述べている。

Barkynにとってはチャンスの扉が開かれている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、世界中がロックダウンの辛さと闘う中でペットを飼う人が増えたことは広く知られている。

同社によれば、2020年には南ヨーロッパ全体で四半期ごとに40%ずつ成長したという。

Barkynへの投資に関してFive Seasonsの創業パートナーであるNiccolo Manzoni(ニコロ・マンゾーニ)氏は「ペットを飼う人が多いのに魅力的なデジタルペットウェルネスブランドがない南ヨーロッパにおいて、Barkynは類のない企業です。フードのカスタマイズと遠隔獣医サービス、ポルトガルでは保険も組み合わせることで、顧客にペットの健康と安心を1カ所で提供しています」とコメントした。

ジョルダン氏はTechCrunchに対し、Barkynは既存のペットフードブランドを超えることに挑戦していると述べ、その背景を「テクノロジーを活用したペット市場はどうあるべきかを再考し、ペットフードのサブスクリプションだけではなくペットケアサービスを構築しています。我々は360度全体にわたるエクスペリエンスを開発しました。自分の犬に最適なフードと遠隔医療のサブスクリプションです。我々はモデルを成長させながらも極めて緊密な関係を獲得できます」と語った。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:ペットBarkyn資金調達ポルトガルヨーロッパ

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

リモートワークに必要なツールとサポートを提供するFirstbaseが約14億円調達、フィンテックから方向転換

FirstbaseのファウンダーTrey Bastian(トレイ・バスティアン)氏とChris Herd(クリス・ハード)氏(画像クレジット:Firstbase)

将来、 筆者がきちんと頻繁に通勤する可能性はゼロだ。あまりに非効率的である。従業員と雇用主は、リモートワークの問題に関して立場が若干違うものの、新型コロナウイルスのパンデミックは将来にわたり職場環境を揺るがした。新型コロナ以前のノーマルな状態には戻らないだろう。

Firstbase(ファーストベース)は、オフィスに戻らず遠隔地から働き続ける従業員らを支援するために、ソフトウェアとハ​​ードウェアのソリューションを開発して、リモートの従業員に必要なツールとサポートをすばやく提供している。同社は米国時間4月29日、Andreessen Horowitz(アンドリーセンホロウィッツ)がリードする1300万ドル(約14億円)のシリーズAをクローズしたと発表した。B Capital GroupとAlpaca VCもこのラウンドで資本を投入した。TechCrunchがFirstbaseの風を最初に捉えたのは、同社が2020年半ばにAcceleprisのアクセラレーターコホートに参加したときだった。

注目すべきはFirstbaseが、現在特化している製品から始めたわけではないということだ。スタートアップの間では一般的だが、同社もまったく違うものとして生まれた。元々はフィンテック寄りだったが、2018年にリモートワークに関わり始めた。だがそのエクスペリエンスは輝かしいものではなかった、とFirstbaseの共同創業者でCEOのChris Herd(クリス・ハード)氏がTechCrunchに語った。従業員に必要なテクノロジーを提供するのは難しいし、会社を辞めてしまうとそれを取り戻すのも難しいと彼は説明した。

同社はその後、フィンテックへ注ぎ込む資金と時間は少ないままに、リモートスタッフのハードウェアとソフトウェアのニーズをサポートするために開発した社内の技術の一部が幅広い用途を持つ可能性に気づいた。Firstbaseは2019年後半に方向転換し、2020年3月の時点でハード氏はTechCrunchに、同社の順番待ちリストは600社に上ると語った。以来、その数は数倍になった。

同社の製品は二重構造になっている。これは、リモートワーカーが利用するハードウェア資産を企業が追跡・管理するのに役立つソフトウェアサービスだ。また、ハードウェアにソフトウェアをプレインストールしたうえで従業員に渡し、リモートITサポートを提供できるハードウェアサービスでもある。特に、顧客は、FirstbaseのソフトウェアのみをSaaSベースで料金を支払い利用することも、ソフトウェアとハ​​ードウェアの両方を利用することもできる。

Firstbaseの粗利益には2つの源泉がある。ソフトウェア事業はもちろんソフトウェア収入を生み出すが、ハードウェア事業からも粗利益を生み出すことができるとハード氏は説明した。同社のモデルのハードウェア部分は、ソフトウェアコンポーネントに比べ、まだ初期段階にあるように見える。Firstbaseは2020年11月に顧客のオンボーディングを開始したばかりであり、まだ物事を理解する段階にいることが許されている初期のスタートアップだと言える。

TechCrunchはハード氏に、リモートワーカーに必要な機器を提供するのに現在いくらかかるか尋ねた。同氏は、それはさまざまだが2000〜5000ドル(約22〜55万円)の間に落ち着くだろうと述べ、Firstbaseは顧客に対し、そのコストを長期にわたり均等払いで支払うことを可能にする予定だと付け加えた。

会社の今後の見込みは?CEOによると、同社は現在わずか10人の会社で、そのうち3人はパートタイムであり、2021年はスタッフを4〜5倍に増やしたいと考えている。当然、Firstbaseはそのリモートのルーツに立ち返るつもりだ。つまり、単一の地理的地域で従業員を探すことはない。採用予定のスタッフの一部は、ハード氏がインタビューで述べた販売組織に所属する。同社はまた、新しい資本で法人向けのソフトウェア機能を開発し、より大規模な顧客をターゲットにする準備を整える。

FirstbaseがシリーズAでどこまで成長できるのか、そして年末までに投資家から投資をオファーされるのか、注目したい。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:リモートワークFirstbase資金調達

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko MIzoguchi