アマゾンが室温調整機器スマートサーモスタットを発表、グーグルより安い約6700円

Amazon(アマゾン)は米国時間9月28日、新しいスマートサーモスタットの発表でハードウェアに関するビッグイベントを開始した。同社はこのデバイス製造でHoneywell(そしてResideo)と協業したが、製品はAmazonブランドを冠している(Ring、Blink、そしてAmazonが所有するその他のスマートホーム企業とは異なる)。スマートサーモスタットは60ドル(約6700円)だが、多くの家庭は参加リベートでかなりの割引を受けられる、と同社は話す。

既存のAmazon / Alexaホームエコシステムを利用することでユーザーがプログラミングを可能な限りしなくてもいいようにする、というのがこのデバイスの概念だ。つまり、Energy Starの省エネ電化製品のラベルが貼られたこのデバイスは、あなたが家を出るときやベッドに向かうときを把握して、「Hunch」機能を使って適切に室温を調整することができる。もしそれ以上にコントロールしたいのなら、ユーザーはコネクテッドAmazonデバイスから直接調整できる。

このスマートサーモスタットは大半の24V HVACシステムで利用できる、とAmazonはいう。Google(グーグル)のNestサーモスタットに挑戦しているようだ。しかし60ドルという価格はNestの提示価格200ドル(約2万2000円)よりもずいぶん安い。もちろん、外観はGoogleの製品には及ばないが、サーモスタット購入を検討している、機能するデバイスが欲しいだけの人は注目するだろう。

大きくてはっきりとした温度の数字、矢印のボタン以外にはほとんど何もなく、Amazonがシンプルさにフォーカスしていることがわかる。その他の部分はコネクテッドEchoデバイスが引き受ける。

画像クレジット:Amazon

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(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

Apple Watchが心房細動以外の不整脈も検出できることを示す新たな研究結果

スタンフォード大学とAppleが2017年に実施した「Apple Heart Study」では、40万人を超える被験者の登録に成功し、この種の研究としては過去に実施された中でも最も大規模なものの1つとなった。継続的な研究により、Apple Watchは心房細動(AF)に加えて、その他の不整脈も検出できることが明らかになっている。Apple Watchは現在、心電図(ECG)センサーを追加したSeries 4アップデートにより、心房細動の検出と通知の機能をコアヘルス機能の1つとして提供している。

Apple Heart Studyの結果は、この機能の背後にある科学的根拠を証明している。Apple自身は、非常に正確な予測や実際の医療機器ではなく、自分の健康や心臓の健康に影響を与える可能性のある状態をより認識するための方法だと位置づけている。しかし何年も前からApple Watchユーザーの中には、心房細動の通知機能と医師によるフォローアップのおかげで無症状の問題を早期に発見できたという話が数多く確認されている。

今回のHeart Studyの追加調査では、収集したデータをさらに掘り下げ、Apple Watchから不整脈の可能性に関する通知を受けたものの、医療用心電図によるフォローアップ検査でAFが検出されなかった参加者の40%に、他の不整脈が存在していたことがわかった。これらの不整脈には、早発性心室複合体、非持続性心室頻拍などがある。これらの不整脈はごく一般的なもので、経験者の間では動悸として認識されることが多いが、特に早発性複合体は他の基礎疾患の指標となる可能性がある。

米国心臓協会の「Circulation Journal」に掲載された今回の研究では、通知を受けた後に心電図パッチを使って心房細動が検出されなかった参加者の約3分の1が、Apple Heart Study終了時には実際に心房細動と診断されていたことも判明した。これは、これまでの研究で示されたよりも、Apple製ウェアラブルデバイスの有効性が高いことを示唆している。

新世代のApple Watchに導入される新しいセンサーや技術的機能の可能性については、常にさまざまな憶測が飛び交っているが、Apple Heart StudyやApple Heart and Movement Studyといった大規模な研究から、既存のハードウェアやセンサーを利用した新機能への道筋が見えてきている。他の心臓の不整脈を検出するというApple Watchの有望な結果は、将来、より多くの「ヘルスケア」機能を生み出すかもしれない。

画像クレジット:Apple

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

東北大学がコバルトを使わないリチウムイオン電池の高電圧動作を実証

東北大学がコバルトを使わないリチウムイオン電池の高電圧動作を実証東北大学多元物質科学研究所は、9月27日、コバルトを使わないリチウムイオン電池の正極「LiNi0.5Mn1.5O4」(リチウムニッケルマンガン酸化物:LNMO)の高電圧動作に成功したことを発表した。政治的にもリスクの高いコバルトのサプライチェーンの回避や、5ボルト級リチウムイオン電池、全固体電池の高エネルギー密度化などが期待される。

リチウムイオン電池の電極にはコバルトが使われている。しかし、世界のコバルト鉱石生産量のうち半分以上を、政情不安定なコンゴ民主共和国1国が占めている。また、コバルト冶金の生産は世界の6割以上を中国が占めている。そのため、将来EVの生産量が急増したり、国際情勢が変化したときなどに、コバルトの供給が不安定になる危険性がある。

そこで、東北大学多元物質科学研究所の小林弘明助教、本間格教授らは、コバルトを含まないコバルトフリー正極の技術開発を進めてきた。これまで、スピネル型結晶構造のLNMOが高電圧、高エネルギー密度の正極活物質として期待されていたが、従来のリチウムイオン電池の動作電圧が3.7ボルトなのに対してLNMOは4.7ボルトと高く、そのため電解液の分解などにより充放電サイクルが困難になるという問題があった。そこで小林助教らは、耐電圧性の高いフッ化物固体電解質Li3AlF6を開発し、これを薄膜コーティングしてコアシェル構造正極を作ることで、安定した高電圧動作を実証した。

コーティングしていない正極は、高電圧動作で生じた電解液の分解物が堆積して電気抵抗が増加し劣化したが、コーティングしたものは電解液の分解が抑えられ、高いサイクル特性が示されたという。

これは、5ボルト級のリチウムイオン電池、コバルトフリー正極材料、全固体電池といった「ポストリチウムイオン電池」への応用が期待される。さらに、フッ化物固体電解質のリチウムイオン伝導度を高めることで、「車載電池の本命である全固体電池の高エネルギー密度化」も期待できるとのことだ。

クラウド化の進展が要求する接続の高性能化に応えるファブレスチップAstera Labsが約55.6億円調達

クラウドへ移行する企業が増えるとともに、アプリケーションの数も気楽に増やせるようになり、その結果、ワークロードとストレージのニーズが複雑化している。現在では、機械学習をはじめとする人工知能のアプリケーションが、複雑性をさらに増えている。そこで、その移行を高速化し効率化する技術を開発する企業が新たな資金調達ラウンドを発表し、進化する企業のニーズを支えようとしている。広帯域アプリケーションにつきもののボトルネックを取り除き、企業のデータのためのリソースの割当を改善するファブレス半導体メーカーAstera Labsが、5000万ドル(約55億6000万円)を調達した。

同社によると、このシリーズCでは、同社の投資後評価額が9億5000万ドル(約1056億3000万円)だったという。

Fidelity Management & Researchがこのラウンドをリードし、新たな投資家としてAtreides ManagementとValor Equity Partnersが参加した。以前からの投資家であるAvigdor Willenz GroupとGlobalLink1 Capital、Intel Capital、Sutter Hill Ventures、およびVentureTech Allianceも参加している。

2020年に最初の投資をしたIntelにとっては、それは戦略的投資であり、資金を投資するだけでなく、同社はAsteraの重要な顧客でもある。AsteraのチーフビジネスオフィサーSanjay Gajendra(サンジェイ・ガジェンドラ)氏によると、チップ業界の超大手企業が同社とコラボレーションするのはPCI ExpressとCXL(Compute Express Link)の技術および製品の開発のためであり、それにより「次世代のサーバーとストレージインフラストラクチャの、帯域と性能とリソースの可利用性を上げようとしている」。

関連記事:インテルが今年出資したスタートアップ11社紹介、年内に500億円超の出資を予定

特にAIのユースケースがIntelの次世代の成長戦略の中核にあるため、これらの目標はIntelのプロセッサーをベースとするAIシステムを構築するために不可欠だとガジェンドラ氏はいう。さらに氏によると、Intelの複数の参照設計と商用プラットフォームにはAsteraのリタイマーであるAries Smart Retimers for PCIeが組み込まれている。その他、TSMCやWistron、Samsung Electronics、Western Digitalなども同社の顧客だ。

これまでサンタクララに拠を置くAsteraは、3年間で調達した資金がわずか3500万ドル(約38億9000万円)で、それ自身同社の優秀な事業効率を物語ると同時に、収益も堅調であることを示している。

Astera LabsのCEOであるJitendra Mohan(ジテンドラ・モハン)氏は、今回の資金調達に関する声明で次のように述べている。「Fidelity、Atreides、およびValorと力を合わせて、インテリジェントなクラウドコネクティビティソリューションにおける当社のリーダーシップを確固たるものにして、Astera Labsを次の成長フェーズへ向けて誘うことには心踊るものがあります。今回の投資と、製造パートナーとのコラボレーションにより、弊社はその世界的なオペレーションを急速にスケールして、すばらしい顧客たちの要求を満たし、複数の新製品系統をローンチして、当業界のもっとも喫緊たるコネクティビティの課題を解決していけるでしょう」。

この最新の資金調達ラウンドは、より具体的にいうと、同社がパンデミックの最中でも比較的堅調を維持し、企業がクラウドへの移行を急ぐ中で行われた。

ガジェンドラ氏はTechCrunch宛のメールで次のように述べている。「自宅で仕事や勉強をするためクラウド上のSaaSアプリケーションに依存する人びとが徐々に増えているため、スケーラブルなハードウェアの展開が加速しています」。彼によると、そのソリューションは同じインフラストラクチャ上で、最大で従来の倍の帯域を提供している。「これにより私たちの、世界最大のクラウド事業者たちからの購買需要も推定25%から30%増加しています」。

Asteraはファブレスであり技術のスケールアップも比較的速く、帯域増を求める競争の中で、しかも限られた費用とリソースによりその需要に応ずることが比較的容易だ。しかしシステムの効率を改善するソリューションを構築している既存勢力の企業に対しても、市場と投資家の注目が増している。しかもこの問題は、エンタープライズITのさまざまな局面へと延伸している。たとえばFireboltは、ビッグデータ分析が必要とする帯域のニーズを抑える、アーキテクチャとアルゴリズムを構築している。

Avigdor Willenz(アビグドール・ウィレンズ)氏は、Astera Labsの創立投資家であるだけでなく、他にも有力なスタートアップを支援している。それらは後にAmazonが買収したAnnapurna Labsやインテルが買収したHabana Labsなどになる。そのウィレンズ氏は声明で「多様で混交的なコンピューティングと構成可能な非集積型インフラストラクチャという重要なニーズに対応する、複数の革新的なプロダクトのポートフォリオを開発するという、強大な仕事をAstera Labsは成し遂げました」という。現在のところ、Astera Labsは上場が目されているだけでなく、すでにその路線に乗っているともいえる。ただし、今後の大手たちの競争如何では、別の結果になるかもしれない。ウィレンズ氏は続けて「Astera Labsが作り上げた強力な実績と迅速な価値創造はたいへん喜ばしい。同社の前には複数のオプションが開いており、今後のIPOもその1つです」という。

Sutter Hills VenturesのマネージングディレクターでAstera Labsの取締役でもあるStefan Dyckerhoff(ステファン・ディッカーホフ)氏は「Astera Labsの成長と拡大はすばらしいものであり、同社の長期的なポテンシャルについても強力な楽観性を維持できます」と述べている。

画像クレジット:imaginima/Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ポストコロナ時代に向けDenizenが1人で仕事に集中できるハイテクなオフィスポッドを開発

タイニーハウス(小さな家)と呼ばれるムーブメントは、新型コロナウイルスが流行してから輝きを失ったかもしれないが、リモートワークの未来を改めて想像してみると、タイニーオフィスの必要性が浮かび上がってくる。

Denizen(デニズン)を創業したNick Foley(ニック・フォーリー)CEOによると、人々は最近、落ち着いて考え事ができる空間を求めており、そのためには喜んでお金を払うという。

フォーリー氏は、2018年にUber(ウーバー)が2億ドル(約220億円)で買収したレンタル自転車サービス企業「Jump Bikes(ジャンプ・バイクス)」の元チーフプロダクトオフィサー兼インダストリアルデザイン担当ディレクターを務めていた人物だ。同氏はDenizenで、ある疑問に答えることを目指している。それは「1人の人間が完璧な就業日を過ごすための驚異的な体験を提供する製品として、オフィス空間を構築することができるか?」というものだ。

フォーリー氏は、コワーキングスペース企業のWeWork(ウィーワーク)が仕事環境を最適化する方法に関して、いくつかの点で間違っていたと考えている。多くの人がコワーキングの社会的メリットを享受する一方で、異なるプロジェクトに集中しているワーカーで賑わう環境は、ある種の仕事に必要とされる精神的集中に有害となる可能性がある。

画像クレジット:Nick Foley and David Krawczyk

Denizenの考え出したソリューションは、10平方メールに満たないスペースに、コンセント、USBプラグ、カメラ(ビデオ会議用)、スピーカー、ルーター、ホワイトボードウォールなどがあらかじめ組み込まれた、小さな独立型オフィスの小部隊を作ることだ。Denizenのオフィスポッドは美しくデザインされており、プライバシーを守るために数秒で不透明にできる窓、リサイクル可能な素材、そして建築デザイン雑誌「Dwell(ドウェル)」に掲載されているような美的感覚を備えている(実際にDwellに掲載されたばかりだ)。

「天井はとても高く、ガラスが周りを取り囲んでいて、とにかく広々としていて巨大な感じがします」というフォーリー氏は、Denizenが人々に「インスピレーションを得て、生産的な仕事時間を過ごす」ために必要なツールを提供することを目的としていると付け加えた。彼らは単に美しいコンセプトイメージを見せただけではない。NASAのジェット推進研究所に勤めるフォーリー氏の友人が、Denizenで作られた自分のマイクロワークスペースのバーチャルツアーを披露してくれたのだ。

Denizenは当初、プレハブ式のオフィスポッドを企業に提供し、企業がそれらを月極めでレンタルできるようにする形を構想していた。しかし、自宅で仕事することに行き詰まっている人々からの要望が非常に多かったため、現在では個人向けに、自宅敷地内に設置できる車輪付きの独立型オフィスとして販売することを計画している。Denizenの美しくハイテクな小型オフィスは、個人で購入すると約5万5000ドル(約608万円)ほどの金額になる。

フォーリー氏は、Denizenのモデルが、新型コロナウイルス時代における企業の不動産計画に合致すると考えている。オフィスに通勤してくる従業員の数が減るにつれて、企業はこれまで長いこと「会社」というものを定義づけていた高価でむやみに広大な社屋を縮小し、未来の仕事のあり方に合った、より柔軟で専用に設計された選択肢を模索している。フォーリー氏によれば、企業が一括して契約する場合、スマートポッドのレンタル料は1台あたり月額1000ドル(約11万円)程度になると予想されるという。

画像クレジット:Nick Foley and David Krawczyk

このポッドは、従来のオフィスを補完し、刺激的な1人用のオフィス環境を提供するが、フォーリー氏は、いつか企業や市政府がDenizenのオフィスポッドを緑地に設置し、1日単位で予約できるようにしたいと考えている。

「本当の夢は、正直なところJump Bikesとよく似ています。本当にすばらしい共用施設を作るためには、近隣レベルでどのように協力し合えるかを考えることです」と、フォーリー氏はいう。

同社は現在、シードラウンドの資金調達を行っており、2022年初頭に複数ユニットのテストを開始するために、ベイエリアおよびカリフォルニア州内の企業と契約を結んでいるところだ。ゆっくりと規模を拡大していく方針で、来年には100台程度の販売を目指す一方、その間にも製品の製造工程を効率化していくという。

Denizenはこのスマートポッドを車輪付きにすることで、チームが泥沼にはまるような許認可の問題を賢く回避している。Jump Bikesでキオスクや駐車場を設置した経験を持つフォーリー氏は「それがどれほどビジネスモデルを複雑にするかを理解しています」と語る。

迷路のような地域の規制に入り込むことなく、約3.6メートル×2.3メートルほどのスペースと資金に余裕があれば、誰でもこの小さなポッドオフィスに入って仕事をすることができる。つまり規制の観点からは、基本的には美しい小さなRV車に、配管を施したものということになるわけだ。

フォーリー氏は、自分のビジョンが未来の仕事のスタイルにどのように適合するかということに興奮しているようだが、同時にDenizenの小さなオフィスがどのように組み立てられるかということにも興奮している。このポッドオフィスの製造には、大規模な自動制御CNC、3Dプリント、洗練されたプロダクトデザインが融合されており、西海岸の初期の顧客には、車輪も含め工場組み立て済みの状態で、そのまま出荷できる製品となっている。

画像クレジット:Nick Foley and David Krawczyk

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

UVC殺菌システムR-Zeroが「目と耳」となる室内の占有センサーCoWorkrを買収、「職場にとってのOS」を作る

パンデミック渦に誕生したバイオセーフティ企業のR-Zeroは2021年7月下旬、室内の占有センサーを開発する企業であるCoWorkrの買収を発表した。人々が職場に戻り、ワクチンが広がりを見せる今、新型コロナウイルスの出現によって生まれた企業たちはパンデミックの次の段階を見据えて適応し始めている。R-Zeroにとって今回の買収は、同社の焦点のシフトと言えるだろう。

2020年4月に設立されたR-Zero。同社は主に病院グレードのUVC殺菌システム、つまり特定の種類のウイルスを中和できる照明の開発に注力していきた(詳細は後述)。企業が建物内を除菌する方法を求めて奔走する中、同社は2億5650万ドル(約282億円)の評価額で合計5880万ドル(約65億円)の資金を調達。R-Zeroは現在、複数の矯正施設、Brooklyn Nets、Boston Celtics、サウスサンフランシスコ統一学区など、約1000の民間および公共部門の顧客を抱えている。

CoWorkrは2014年に設立され、Crunchbaseによると総額約20万ドル(約2200万円)のシードファンディングを調達している。

CoWorkrの買収により、R-Zeroは職場の人員と清掃の両方を管理するモノのインターネットのようなセンサーネットワーク開発を計画していると、R-Zeroの創業者であるGrant Morgan(グラント・モーガン)氏は話している。単に空気や物の表面を消毒するだけではなく、公共スペースにおける人(およびウイルスやバクテリア)の流れを管理する事に重点を置いていくようだ。

「職場のOSのようなモノです。健康と生産性を核とした室内環境の構築と維持を支援するツールを作っています」とモーガン氏はTechCrunchに話す。

CoWorkrの共同設立者であるElizabeth Redmond(エリザベス・レドモンド)氏とKeenan May(キーナン・メイ)氏は引き続きフルタイムで勤務することとなっており、企業の不動産関連の取り組みを運営し、IoT能力を開発していく予定だ。

「我々はお客様と多くの時間を過ごし、お客様の取り組みを理解できるよう努めてきました。中でも特に商業用不動産に対して注力しました」とレドモンド氏はTechCrunchに話している。

「大半の企業がハイブリッドな働き方に移行しているため、占有率情報はとても必要とされています。私たちがR-Zeroに加わったのは、ハイブリッドワークの未来、そして商業不動産の未来がどうなっていくのかという点が非常に注目されているためです」。

CoWorkr買収前のR-ZEROの主力製品はUVCライトの「Arc」というもので、これは清掃員が退社した後のオフィススペースに持ち込めるホイール付きの長方形のライトである。また、居住空間で使用可能な製品として提供されていた、同じくUVC光で除菌するエアフィルター「Arc Air」もある。

2020年半ばにUVCライトが脚光を浴びたのにはいくつかの理由がある。1つには共同スペースを消毒するための強力な手段だと考えられたこと、そしてもう1つには企業が新型コロナに対して技術的なソリューションを用いると一定のインセンティブが受けられたことなどが挙げられる。

UVCライトは何十年も前から病院で使用されており、スキャナーなどの表面を除菌したり、UVエアダクトに挿入して空気を除菌したりするために活用されてきた。研究によると、UVCは空気中のインフルエンザウイルスを不活性化することができるとされており、また限られた証拠しかないものの、UVCはウイルスの外側のタンパク質コーティングを破壊することで、SARS-CoV-2その他のコロナウイルスも不活性化できるという研究結果もある。

これらのライトは実際にパンデミック渦でも活用されていた。例えばニューヨーク都市交通局は、毎晩地下鉄車両を消毒するために100万ドル(約1億1000万円)相当のUVCライトを購入。2020年3月に可決されたCARES法は、企業や公的機関がUVライトなどの清掃サービスを購入する際に、政府の融資を利用できるようにするものだった。

しかし、消費者向けのランプの中には批判的な意見も存在した。1つは長時間照射すると目を傷つけたり、火傷をしたりする可能性があること。またUVC消毒に関するあるレビュー(UVC消毒会社と関係のある2人の科学者によって書かれたもの)では「性能に関する非科学的な主張」が広まっているとの厳しい評価がなされている。

一方で第三者機関によるテストを行なったところ、R-ZEROのArcは一般的な風邪のコロナウイルスと、表面に付着したノロウイルスの代替ウイルスの2種類のウイルスを99.99%減少させることが確認されている。また、大腸菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対しても99.99%の除菌効果があったという。

UVCライトの殺菌技術としての有用性については賛否両論あるものの、この業界が消え失せてしまうことはないと複数のアナリストが指摘している(例えばLGはUVベースのクリーニング分野に参入したところだ)。William Blairの商業サービス株式アナリストであるTim Mulrooney(ティム・マルルーニー)氏は、ワシントン・ポストに対し、人々の衛生に対する考え方が「パラダイムシフト」していると伝えている

2020年に行われた世論調査によると、衛生管理は従業員と顧客の両方にとって最重要事項であることが示唆されている。Deloitteが3000人を対象に実施した調査では、従業員の64%が共有スペースの定期的な清掃を重要視していると回答し、顧客の62%が毎接客ごとに表面を清掃して欲しいと回答している(新型コロナウイルスは表面接触では感染しにくいと考えられているのにも関わらずである)。

ワクチン接種の増加が、今後のオフィス衛生に対する認識にどのような影響を与えるかはまだわからない。しかしモーガン氏は、企業(および従業員)は身近な細菌の存在をパンデミック前よりも意識し、オフィス内の人の流れを管理することも含め、その蔓延を抑制する方法を模索し続けるだろうと考えている。

R-ZeroはCoWorkrを買収したことでUVC殺菌だけでなく、占有管理にも力を入れることになったわけだ。

モーガン氏はCoWorkrのセンサーをR-Zeroの「目と耳」と呼んでいる。R-Zeroは居住空間の空気清浄度に対応したUVCベースの2つの製品を発表する予定で、CoWorkrのセンサーを使って「完全な自動化」を実現していくという。

例えばCoWorkerのバッテリー式熱センサーを使えば、従業員はオフィスのどの部屋が使われているかを知ることができる。その情報をもとにUVベースのエアフィルターやその他の清掃用品を活用することができるという。

この情報をもとに、その日の晩にその部屋をより徹底的に掃除するよう清掃員に指示することができ、逆に一日中誰も触っていない部屋は掃除しなくてもよいことになる。

「お客様はすぐにROIを高めることができ、30〜40%の人件費を削減しています」とモーガン氏は話す。

パンデミックの「傷跡」が癒えることはまだなく、人々は今後も依然として衛生的な職場環境を求め続けるだろうと同社は考えている。

「ほぼ100%、お客様はこれを長期的な投資として考えています」とモーガン氏はいう。

画像クレジット:R-Zero

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

良い運転にご褒美、悪い運転にはリアルタイム通知を送るNetradyneの商業ドライバー向け安全性向上システム

Netradyne(ネトラダイン)は商業ドライバーの安全を向上させるためにカメラとエッジコンピューティングを使用するスタートアップである。今回シリーズCの資金調達で1億5000万ドル(約164億円)を達成した。CEOで共同設立者のAvneesh Agrawal(アヴニーシュ・アグラワル)氏によると、新鮮な資金が最新製品Driveri(ドライブライ)の強化につながる。

Agrawal(アグラワル)氏はTechCrunchに、良い運転には褒美を、悪い運転には運転手にリアルタイム通知を送るプロダクトに対する大きな自信を示し、現行の北米およびインドからヨーロッパへと、市場拡大に注力していると述べた。

2021年初めにネトラダインはそのハードウェアおよびソフトウェアを配送車にインストールするためAmazon(アマゾン)と提携を結んだ。このテクノロジー大手は、ドライバーの安全よりもスピードと効率を優先しながら、第三者企業を雇うことによって事故の法的責任を負わないようにしているとの非難を受けてきた。

他の会社には、それほどの道徳的に問題視される余裕がなかったのだろう。だからこそ、ネトラダインのサービスはフリート企業にとって妥当なのである。保険会社のAlera Group(アレラ・グループ)の報告書では、 2021年の商用車の保険料率は14.2%上昇することが予想されている。その大きな要因がスマートフォンに気を取られたドライバーによる死亡事故の増加だ。またその調査では、現代の自動車の修理費と医療費はインフレよりも速く上昇を続けている。費用削減を目指すフリート管理会社は、安全運転が約束される点に惹かれるのかもしれない。

「一部の統計によると、評決額が1000万ドル(約11億円)を超える「核兵器評決」は約500%増加しました」とアグラワル氏はTechCrunchに語る。「商業用フリート会社にとって、ドライバーと燃料に次ぐ最大の出費です。多くの商業保険会社が事業を撤退するか、リスクをフリート会社に押し付けています」。

アグラワル氏の話では、ネトラダインのサービスは需要が非常に大きく、契約者と年間経常収益は2020年に3倍増加した。基準値を明らかにしていないが、ネトラダインの今日の顧客数は1000人を上回るという。

ネトラダインはNational Interstate Insurance(ナショナル・インターステート・インシュランス)と、製品の助成金を払ってもらう合意を結んだが、本来のネトラダインの販売先はフリート会社だ。フリート会社の事故が減ることで、そのデータを保険会社に送り、請求額を交渉するのである。

ネトラダインはいかにそのカメラとソフトウェアにより運転が安全になるか平均を出していないが、アグラワル氏は製品を使用した企業2~3社の請求額が1年で最大80%減少したと述べた。

その仕組みは?

ネトラダインという名称は、サンスクリットで「ビジョン」を意味する「ネトラ」と、ギリシャ語で力の単位を意味する「ダイン」を組み合わせたものだ。アグラワル氏によると、純粋にビジョンを基にしたフルスタックシステムを構築したという。簡単な言葉にするとカメラだ。システムには2つのフォームファクターがある。D-210は小型から中型車両用に構築され、ドライバーと道路の両方を録画する内向きと外向きのカメラが特徴のデュアルダッシュカム。D-410は2サイドウィンドウビューを含めて360度撮影できる4つのHDカメラで、重量車に最適だ。

カメラは、急に割り込まれても正確に減速し前方の車と距離を空けられるドライバーから、メールを打つことに気を取られたドライバーまで何でも捉える。クラウドに接続したデバイスが車両に搭載され、デバイスのエッジでリアルタイムでコンピューティングを行う。ドライバーは「運転に集中していません」「減速してください」などのフィードバックや自動提案を受け取るのかもしれない。

「一番重要な点は、良い運転を追跡することです。それは当社がドライバーとの議論を変えたいと考えているからです」。アグラワル氏はいう。「ドライバーは罰せられることによく慣れており、ほとんどの場合、事が起きた後か顧客の苦情に基づきます。反対に、これは非常に積極的で前向きなのです」。

現在ドライバーへの報奨として、良い運転を続ける気になる、ちょっとしたドーパミン分泌を促す通知を行っている。ドライバーに授与されるドライバースターだ。これはポイント獲得を奨励し、仕事のための運転をゲーム化する試みで、ポイントはボーナスや他の報奨に換えられる。

「ドライバーはフリート企業の最大の資産です。これまでなら、フリート企業に最悪なドライバーが誰か尋ねたら、事故を起こし、顧客が文句を言ったドライバーを挙げたでしょう」。アグラワル氏はいう。「安全運転をするドライバーが誰か尋ねても、名前を言えない。しかし当社では事故を起こさなかったドライバーだけでなく、積極的に安全運転に取り組むドライバーも細かく特定しているため、フリート企業はそのようなドライバーに残留特別手当を設け、報奨金を与え、マネージャーやリーダー職に昇進さえることもできます」。

もちろん、ドライバーの行動にまつわるこのすべてのデータ収集にはもう1つ利点がある。アグラワル氏は彼の会社が1カ月分のデータでは7億ドル(約767億円)を集めたことについて、ドライバーのためのあらゆる潜在的なシナリオを特定するために分析している。そしてそれはすべてエッジで行われている。それにおける、またそれ自体の実験である。

「自動運転への投資は確かな可能性ですが、今の当社の関心事項ではありません」。アグラワル氏は述べる。

シリーズCラウンドはソフトバンク・ビジョン・ファンド2によりリードされた。既存の投資会社であるPoint72 VenturesとM12もラウンドに参加し、ネトラダインの資金調達総額を1億9700万ドル(約215億円)にまで増やした。アグラワル氏はTechCrunchに、年末までの目標収益を1億ドル(約109億円)とすると話した。

画像クレジット:Netradyne

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

理研が高温超伝導接合を実装したNMRで2年間の永久電流運転に世界で初めて成功

理研が高温超伝導接合を実装したNMRで2年間の永久電流運転に世界で初めて成功

理化学研究所は9月24日、高温超伝導線材の超伝導接合を実装したNMR(Nuclear Magnetic Resonance。核磁気共鳴)装置で、約2年間の永久電流運転に成功したことを発表した。これにより、高温超伝導接合が長期にわたり安定的な永久電流を維持できることが世界で初めて実証された。

この研究は、理化学研究所生命機能科学研究センター機能性超高磁場マグネット技術研究ユニットの柳澤吉紀氏をはじめとする、構造NMR技術研究ユニット山崎俊夫氏、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー斉藤一功氏、JEOL RESONANCE蜂谷健一氏、科学技術振興機構前田秀明氏らからなる共同研究グループによるもの。同グループは、2018年にこのNMR装置を世界で初めて開発している。

永久電流とは、超伝導状態のコイルが、外部から電流供給なしに電流を流し続ける現象のこと。その電流が発生する強力な磁場を利用したのがNMR装置というものだ。磁場中に置かれた原子核の核スピンの共鳴現象により、物質の分子構造の解析などを行う装置で、医療用のMRIはこの原理を応用している。

永久電流を実現するためには、コイルに電流を供給した後、スイッチで回路を閉じる必要があるが、このとき使われるスイッチや超伝導線材の接合部分も超伝導でなければならない。同研究グループは、その超伝導接合に成功したというわけだ。理論上はコイルを冷やし続けていさえすれば10万年間電流が流れ続ける計算になっていたが、実際に、「脆い銅酸化物が原子レベルでつながる接合部が長期間にわたり永久電流を保持できるか」は不明だった。

だが今回、400MHzの磁場を約2年間保つことに成功し、長期にわたる安定的な永久電流を維持できることがわかった。実験開始当初、磁場の変化率は1時間あたり10億分の1レベルだったものが、時間が進むにつれ小さくなり、2年目には1時間あたり300億分の1レベルにまでなった。そこから、理論的には300万年間電流が流れ続ける計算となった。これにより、高温超伝導接合を実装したNMR装置の実用化に大きく近づいた。

現在の超高磁場NMR装置は、外部から電流を供給し続ける必要があるが、この高温超伝導接合を実装した装置の場合は、冷却剤であるヘリウムの蒸発量が1桁以上少なくなるという。また今回の研究により、高価なヘリウムを使用しない小型で汎用性の高いNMR装置の開発も可能となり、医薬品検査用の定量NMRや、アルツハイマー病発症に関わるアミロイドβペプチドの構造がごく少ない試料わかる次世代超高磁場NMRが実現に期待が持てるとのことだ。

【コラム】フェイスブックのスマートグラスはGoogleのミスを乗り越える可能性が高い

Facebook(フェイスブック)は先日、ユーザー視点の動画を撮影できる待望のウェアラブルサングラスを発表した。この新製品に対して、多くの人たちから嫌悪的反応が寄せられているのはもっともだが、それにもかかわらず今回のローンチでFacebookが下した決断の1つにより、Google Glass(グーグル・グラス)が失敗した点を乗り越える可能性が高い。

Facebookは、ビジネススクールのカリキュラムを参考にしてRay-Ban(レイバン)と提携することで、効果的なアプローチを行った。新人のプロダクトマネジャーは、この教訓を忘れてはならない。

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このことをよく理解するためには、まず、Google Glassを見直す必要がある。それは2011年に、一部のユーザーのみを対象としたプロトタイプとして発売された。ベータ版を発表する際の当時のGoogleのアプローチと同様に、ユーザーは1500ドル(約16万6000円)を支払って、この未来のように見え、そして感じさせるデバイスで、遊んだり試したりした。

Google Glassは、Time Magazine(タイム・マガジン)のその年のベスト発明品に選ばれたにもかかわらず、問題が山積みで、まさに未完成の製品だった。これまでに多くの人が、Google Glassの主な失敗は、明確なユースケースを持たずに新しい技術を発表した典型例だとコメントしている。Google Glassで人は一体何をするのだろうか?

またデザインは自社で行い、マーケティングは共同創業者であるSergey Brin(セルゲイ・ブリン)氏が、シリコンバレーからファッションウィークまで、あらゆる場所で着用している姿を見せながら、意図せずして広報活動を行った点も、Google Glassのローンチのまた別の重要な側面だ。実際、Googleは成功の波に乗って、予想されていた新しいおもちゃを提供したものの、結局明確な用途は示せていなかった。

さて2021年9月初旬に時間を進めよう。Facebookは新しいウェアラブルサングラスを発表したが、すぐにそして繰り返しGoogle Glassと比較され続けている。誰もが気になっているのは(隣の人が勝手に私を録画していないかということ以外に)、Facebookの試みがGoogle Glassのように大失敗してしまうのではないかということだ。しかし、サングラスのトップメーカーであるRay-Banと提携し、最も認知度の高いブランドの1つであるWayfarer(ウェイファーラー)を実際のウェアラブルとして採用したことが、Facebook版の成功につながる可能性がある。

Facebookは起業から10年以上が経過しているが、多くの大規模テクノロジー企業と同様に、自社のプラットフォームを時代遅れにしないためには、必然的に製品やサービスにおけるイノベーションの先端を探らなければならない。つまり、Facebookが検討する製品の立ち上げの多くは、リスクがあったり未知の状況というだけではなく、そもそもあらかじめ知り得ない世界へ進む必要があるのだ。何が違うのか?

Facebookをはじめとする多くのテクノロジー予測者が直面している問題は「Knightian uncertainty」(ナイトの不確実性)と呼ばれるものだ。1921年、Frank Knight(フランク・ナイト)博士が、リスクと不確実性の重要な違いを強調する研究を発表した。たとえばリスクとは、Facebookが2022年の広告収入の市場シェアもGoogleより高く保ち続けるために収益をいかに管理できるかなどだ。

両社ともに収益の成長は記録しているので、過去のデータを活用して、将来をかなり正確に予測することができる。ここで重要なのは、そうした予測のツールには強みがあり、それが意思決定に活かされているということだ。

だがこの状況と、Facebookのグラスが成功するかどうかを比べようとしても、これらはまったく違う状況なのだ。どのような歴史的記録を探すことができるだろう。1年目のApple Watch(アップル・ウォッチ)のような需要があるのだろうか?それとも、MicrosoftがiPod(アイポッド)に対抗しようとしたZune(ズーン)のようになるのだろうか?要するに、この製品の需要は不可知なのだ。そして不可知の状況に対する予測にはほとんど価値がないということだ(これがナイトの不確実性と呼ばれているものでもある)。

では、なぜFacebookには成功する可能性が残されているのだろうか。なぜなら、Facebookはもはやスタートアップではないものの、そのチャンスを広げるために起業家としての重要な手法を活用したからだ。つまり、Facebookグラスのローンチに際して、Ray-Banと提携するという効果的なアプローチを行ったことだ。

Googleが人々が求めているものは何かに想像力を巡らせて、新しいメガネのデザインを発明しようとしたのに対し、Facebookはすでにある程度定着しているデザインを活用した。企業や起業家が新しい製品やサービスを立ち上げようとして、予測ツールが上手く働かないときに、結果をコントロールするためには共同作業が重要になる。起業家が自分でコントロールできる、あるいはコントロールできる側面を活用することを促すこうした起業家の手法は、エフェクチュエーション(Effectuation)と呼ばれる。

そのためには、自分が何者であるか、何を知っているか、誰を知っているかから始める必要がある。Facebookは、人々がどんなメガネを好むかを予測したり、そうしたメガネのマーケティングを自ら学ぶのではなく、市場最大手であるRay-Banのノウハウを活用することを選んだ。

Facebookは、新製品の重要な不確実性を回避する手助けのできるパートナーを見つけて、不可知の世界へと踏み出したのだ。それだけでも、成功の可能性は高くなる。

結局のところ、新しい消費者製品のイノベーションは、信じられないほど不確実(リスクではない)で、ほとんどのものが失敗するだろう。つまり、たとえRay-Banとパートナーシップがあったとしても、他の多くのパラメータによって簡単に失敗する可能性があるということだ。しかしFacebookは、優れた起業家のように、今回の製品のローンチに際して重要な起業家的アプローチを活用することで、成功の可能性を高めようとしているのだ。

編集部注:本稿の執筆者Ashish Bhatia(アシシュ・バティア)氏は、ニューヨーク大学スターン校の経営学と起業家学の特任准教授であり、ビジネス、テクノロジー、起業家学の学士課程のアカデミックディレクター

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画像クレジット:Lucas Matney/TechCrunch

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(文:Ashish Bhatia、翻訳:sako)

慶應が通信エラーフリーのプラスチック光ファイバー開発、データセンター通信の次世代標準PAM4伝送を誤り訂正なしで成功

慶應が通信エラーフリーのプラスチック光ファイバー開発、データセンター通信の次世代標準PAM4による通信に誤り訂正なしで成功

慶応義塾大学の慶応フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)小池康博教授らの研究グループは、通信エラーをほとんど発現しないプラスチック光ファイバー(エラーフリーPOF)を開発したことを発表した。100m以内の短距離通信において、データセンター通信の次世代標準となるPAM4(4値パルス振幅変調)方式による毎秒53ギガビットの信号の伝送を、誤り修正機能を使うことなくエラーフリーで実現した。

光ファイバーは、通信速度が上がるにつれ、光の拡散やノイズの影響が大きくなり、誤データを補正する誤り訂正機能や波形成型回路が必要となることから、それによる消費電力の増大や通信の遅延が問題になっている。大量の高速通信が求められるデータセンターなどでは、電線に比べて格段に低損失なガラス光ファイバーが使われているのだが、光ファイバーには光伝送固有のノイズや問題が存在し、PAM4導入のネックになっている。通常、デジタル通信は0と1の2値で行われるが、PAM4では0、1、10、11の4値で行うため、通信速度が格段に高くなる代わりにノイズの影響を受けやすくなるのだ。

光ファイバーにはガラスとプラスチックの2種類がある。プラスチック光ファイバーは、安価で柔軟性が高く、信号強度がガラス光ファイバーよりも高いという利点がある一方で、光通信で問題となる光の散乱はガラスのほうが低く、特に長距離通信ではガラスが優れている。しかしKPRIでは、かねてより「屈折率分布型プラスチック光ファイバー」を提案しており、それをさらに進めて「内部にミクロ不均一構造を形成し、前方光散乱を介して効果的なモード結合を誘起する」ことによりノイズや歪みを大幅に低減した。そうして、高速性と低雑音性を兼ね備えたエラーフリーPOFが誕生した。

エラーフリーPOFは、通信の遅延、発熱、コスト上昇の原因となる補正回路がいらなくなるばかりか、データセンターの省電力化、自動運転車や作業用医療用ロボット、さらには8Kなどの大容量映像データ伝送に欠かせないリアルタイム通信が実現し、「次世代情報産業を支えるコアテクノロジーになる」とKPRIは話している。
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サムスンとハーバード大学がヒトの「脳をコピペ」できる半導体チップの研究を発表

サムスンとハーバード大学が人間の「脳をコピペ」できる半導体チップの研究を発表

VICTOR HABBICK VISIONS/SCIENCE PHOTO LIBRARY via Getty Images

サムスンとハーバード大学の研究者らは、ヒトの脳の仕組みを半導体チップ上で模倣するための新しい方法に関する研究を発表しました。

Nature Electronicsに掲載された論文では、研究では人間の脳が持つ情報処理特性、たとえば消費エネルギーの低さ、学習効率の高さ、環境への適応力、自律的な認知プロセスなどといった仕組みを模倣するためのメモリーデバイスを作る方法が解説されています。

と言っても、われわれ一般人の脳みそではなかなか理解できない話であることは間違いないので、超絶簡略化して説明すると、そのデバイスは、ナノ電極アレイを用いて脳の神経細胞の接続状態をマッピング、複製し、高度に集積した3次元ソリッドステートメモリー網上に再現、各メモリーセルは、マッピングされたニューロンごとの接続強度を反映したコンダクタンス(電気の流れやすさ)を保持します。つまり脳の神経ネットワークをコピペする、というわけです。

脳の中で大量の神経細胞がどのように配線されているかはほとんどわかりません。そのため研究ではチップ上に脳を正確に模倣するのでなく”インスピレーション”によって設計しているとのこと。とはいえ、ナノ電極アレイ技術は神経細胞の電気信号を高感度で効率的に記録可能で、コピー作業、つまり神経の接続状態の抽出もかなり正確にできると研究者は説明しています。

このしくみがうまく機能するなら、自ら新しい概念や情報を吸収し、上京に適応していける本物の脳のようにふるまう人工知能システムの実現がぐっと近づく可能性もあると研究者らは述べています。ただ、人の脳は約1000億のニューロンと、その1000倍のシナプスがあるため、理想的なニューロモルフィックコンピューティングチップを作るには約100兆個ものメモリーセルを用意しなければなりません。もっといえば。それら全てにアクセスして動作させるために必要なコードも必要です。とはいえサムスンの研究は、実際に学習して自律的に思考するAIの実現へ歩を進めるものになるかもしれません。

(Source:Nature Electronics。Via SamsungEngadget日本版より転載)

「空飛ぶ」マイクロチップが風に乗り、大気汚染を調査するかもしれない

ニュースメディアのViceによると、ある研究チームが空を飛ぶデバイスとしては世界最小の可能性がある、翼の付いた砂粒ほどの大きさのマイクロチップを開発した。Natureに掲載された論文によると、このデバイスは風で運ばれるように設計されていて、疾病や大気汚染の調査など多くの用途が考えられる。また、環境汚染を防ぐために生分解性の材料で作ることもできる。

この飛行物のデザインは、コットンウッドなどの樹木の種子が綿毛で覆われ、くるくると回転する様子からヒントを得た。種子はヘリコプターのように回転するので落下が遅く、そのため風に乗って樹木から遠く離れたところまで飛んで、種の生息範囲を広げる。

米ノースウェスト大学の研究チームはこのアイデアをもとに改良し小型化した。John A. Rogers(ジョン・A・ロジャース)主任教授は「我々は生物学に勝ったと思います。同等の種子よりも遅い終端速度と安定した軌道で落下する構造を作ることができました。さらにヘリコプターのような飛行物の構造を、自然界で見られる種子よりずっと小さくすることもできたのです」と話す。

ただし空気力学が働かなくなるほどの小ささではない。ロジャース氏はViceに対し「ヘリコプターのデザインの利点は、ある長さのスケールを下回るとすべてなくなっていきます。そこで我々は可能な限り、あるいは物理学が許す限り突き詰めました。このサイズのスケールを下回ると、すべて球のようになり、落ちていきます」と語った。

このデバイスは電子部品、センサー、電源を運べる程度の大きさでもある。研究チームはアンテナなどを搭載できるバージョンをいくつかテストし、スマートフォンやデバイス間でワイヤレス通信をすることができた。空気の酸性度、水質、太陽放射などをモニターするセンサーも利用できる。

飛行物は現時点ではまだコンセプトで、環境に投入する段階にはなっていない。研究チームはデザインを変えてさらに知見を広げていく予定だ。その際に重要なのは、環境に残留しないように生分解性の材料を使うことだ。

ロジャース氏は「我々はこのデバイスを永続的にモニタリングをするための部品ではなく、一定の期間内で特定のニーズを解決するための一時的なものだと考えています。現時点で想定しているのは、1カ月間モニターし、その後デバイスが動かなくなり、溶けて消えて、新たに投入し直すようなものです」と述べた。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のSteve DentはEngadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Nature

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(文:Steve Dent、翻訳:Kaori Koyama)

空間オーディオのためのデザイン、元アップルデザイナーが興した高級オーディオスタートアップSyngが約54億円調達

オーディオスタートアップSyng(シング)は、平均的な新参のハードウェアスタートアップよりも少し華々しい。それは主に、同社を率いているチームのためだ。創業者でCEOのChris Stringer(クリス・ストリンガー)氏は、Jony Ive(ジョニー・アイブ)氏がApple(アップル)で最初に雇った人物であり、同社で21年間働いた。インタビューでストリンガー氏は、ステレオオーディオを初めて聴いた時のことを「最も感銘を受けたプロダクトデモだった」と述懐した。そして同氏の会社は、空間オーディオを使ってホームリスニング体験を刷新することができる「triphonic(トリフォニック)」オーディオハードウェアを作ることでその感銘を具体化しようとしている。

「究極的には壁にかかっている画像にすぎないステージ / オーディエンスの静的なエクスペリエンスから、実際にあなたの家の一角をステージにするという、ステージ変革なのです」とストリンガー氏は話す。

Syngはパロアルト拠点のEclipse Venturesがリードした4875万ドル(約54億円)の「組み合わさった」シリーズAをクローズした、とTechCrunchに語った。他の投資家には、Instagramの共同創業者Mike Krieger(マイク・クリーガー)氏とLionel Richie(リオネル・リッチー)氏、そしてAirbnbの共同創業者Joe Gebbia(ジョー・ゲビア)氏がいる。Syngは、デザインと高度なテックにかなり特化したオーディオハードウェアスタートアップを運営するためにこれまでに計5000万ドル(約55億円)を調達した。

同社のハードウェアは、消費者がHomePodのようなプロダクトで目にしているテックに似ているコンピューター計算のオーディオテクノロジーに頼っている。このテックではスピーカーは置かれた空間に合わせて音を調整することができる。しかしSyngのプロダクトは何よりもまず空間オーディオのためにデザインされている。同社の初のプロダクトであるSyng Cell Alphaは1799ドル(約20万円)する高級スピーカーで、20世紀中盤のモダンな宇宙船の仲間のような外観だ。Appleのデザイン精神は、Jony Ive(ジョナサン・アイブ)氏がデザインしたHarman Kardon SoundSticksにみられるように、プロダクトにはっきりと表れている。現在超ハイエンドなオーディオと区別されているブルータリストなタワースピーカーとしてよりも家具のように扱われることを意図している、とストリンガー氏は話す。

筆者はそのハードウェアが出す音を聴くチャンスはなかった。なので意見は控えておくが、1799ドルは確かにスピーカーとしてはかなり高価で、ほとんどのユーザーが1つのだけ購入しただけではその恩恵を最大限引き出せないことは明らかだ。Cell Alphaスピーカーは互いに連動するようになっていて、ユーザーのためにダイナミックなサウンドステージを作り出しながらフィードバックも受ける。自動調整の最大の長所は、スピーカーが完全に固定設置するタイプのものではなく、部屋の自然な音響よりも、スピーカーが置かれた場所であなたのデザイン指向を見せつけられることだ。これは、ある程度まではおそらくそうだろうが、壁にかけられた巨大なテレビの近くに固定されたオーディオシステムを減らし、多くの人が真に家庭で音楽を楽しめることにつながることをストリンガー氏は期待している。

同社は現在、1つの部屋で最大4台のスピーカーをサポートしている。Cell Alphaは今のところ1種類のみだが、今後展開するプロダクトでは価格やサイズに幅を持たせることをストリンガー氏はほのめかした。

超ハイエンドなオーディオ機器を家に設置するというのは通常、業者を雇ってスピーカー、ケーブル、レシーバー、アンプ、そして誰でも使えるようにするユニバーサルなリモコンの集合体を作りだすことを意味する。SyngのモデルはSonosのようなアプローチをとっており、偽装して隠される実用的な物体というより家財道具のようにデバイスを扱っている。

彼らがいうように、ハードウェアは難しい。消費者向けオーディオは参入するのに特に難しい分野だ。人々は往々にしてプレミアムなホームオーディオ製品を何十年も、少なくとも他のテックデバイスよりも長く維持できるため、インターネット接続オーディオでは大半の他のハードウェアよりもレガシーが重要だ。生涯にわたるファームウェアのアップデートの信頼性を新しいスタートアップに賭けるというのは、消費者にとってやや微妙だ。Cell Alphaのような高額なものになるとなおさらだ。大半のユーザーが空間オーディオを再生するのにはわずかなオプションしか持っていないこともSyngにとってはハードルとなっている。ほとんどの音楽ストリーミングサービスは空間オーディオに対応していない。ストリンガー氏が指摘するように、このテクノロジーを積極的に推進し始めたAppleのような大手にはあてはまらないが、ハードウェアスタートアップとマーケットのタイミングは常に複雑な関係にある。

Syngに出資する他の投資家にはBridford Group、SIP Global Partners、Renegade Partners、Animal Capital、Schusterman Family Investments、Vince Zampella、Alex Rigopoulosがいる。新たに調達した資金は将来展開するハードウェアとソフトウェアのR&Dに使われる、とストリンガー氏は話している。

画像クレジット:Syng

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(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

アマゾンが壁に取りつけられる15インチEchoを近々発表か

Amazon(アマゾン)は壁に取りつけられる15インチディスプレイのEcho、サウンドバー、新しいEcho Autoテクノロジー、ウェアラブルなど新しいデバイスをたくさん開発している。Bloombergが報じたところによると、そのうちの一部は同社が米国時間9月28日に開催するハードウェアイベントで発表されるようだ。

最も派手な製品は約15インチのディスプレイを備えたAlexa対応のEchoだろう。Hoyaというコードネームのこの製品は、通常のEchoデバイスのように立てて置くだけでなく、ウォールマウントにもできるようだ。スマートホームの中心として照明やカメラ、鍵などのデバイスを制御したり、天気やタイマー、予定、写真などを表示するのに使えるだろう。特にキッチンで使うと便利なように設計されていて、レシピやYouTubeの料理動画を表示できるし、Netflixなどのアプリでストリーミングも楽しめる。

発売が噂されているAmazonブランドのテレビと組み合わせて使う、Harmonyというコードネームの独自のサウンドバーも発表されるかもしれない。他社製のAlexa対応サウンドバーとは異なり、Amazonのサウンドバーは前面カメラを備え、FacebookのPortal TVと同様にテレビからビデオ通話をすることができる模様だ。

そしてEcho Autoの新バージョン(コードネームはMarion)も開発中のようだ。新しいバージョンではおそらくデザインが刷新され、電磁誘導でデバイスを充電できる。Amazonは現在、Ford(フォード)との提携でAlexaを70万台の自動車に搭載しているが、他の自動車メーカーとの提携も目指しているようだ。

開発中のアイテムは他に2022年に登場する新しいEchoスピーカー、キッズやシニア向けのウェアラブルがある(ウェアラブルには転倒検知機能が搭載される)。AIを向上させる専用プロセッサや、Fire TVやEchoなどのデバイスの連携を強化する新しいテクノロジーを開発中であるとも言われている。

Bloombergの記事によると、Amazonは他にちょっと風変わりな製品もいくつか開発しているらしい。Alexaのインターフェイスを使用するVestaというコードネームのホームロボットを手がけているようだ。Alexa搭載のカラオケマイクも開発していたが、このプロジェクトに関わっていたチームはすでに解散したと報じられている。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のSteve DentはEngadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Amazon

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(文:Steve Dent、翻訳:Kaori Koyama)

iPhone 13シリーズ最大の発明は「シネマティック」という命名だ

9月24日から、iPhone 13が発売になる。今回はデザイン変更ではなく「中身」が中心のターン。変化がカメラに集中しているので「別にまあいいか」と思っている人もいそうだ。

iPhone 13 Pro(シエラブルー)とiPhone 13(PRODUCT RED)

iPhone 13 Pro(シエラブルー)とiPhone 13(PRODUCT RED)

こちらもiPhone 13(PRODUCT RED)とiPhone 13 Pro(シエラブルー)

こちらもiPhone 13(PRODUCT RED)とiPhone 13 Pro(シエラブルー)

右がiPhone 12 Pro Max(パシフィックブルー)で、左がiPhone 13 Pro(シエラブルー)

右がiPhone 12 Pro Max(パシフィックブルー)で、左がiPhone 13 Pro(シエラブルー)

iPhone 13 Pro(シエラブルー)。かなり爽やかな色

iPhone 13 Pro(シエラブルー)。かなり爽やかな色

iPhone 13(PRODUCT RED)。昨年より濃い赤で光沢が映える

iPhone 13(PRODUCT RED)。昨年より濃い赤で光沢が映える

でも、ちょっとそれはもったいない。というのも、今回からiPhone 13シリーズに入ったカメラ機能はとても大きな可能性を秘めているからだ。

実機性能も含め、その辺をちょっとまとめてみよう。

今回のiPhoneも「カメラ」がポイント

今回のiPhoneも「カメラ」がポイント

誰でもスマホ1つでできるのが「シネマティックモード」の魅力

多くの人が記事にしているように、今回のiPhone 13シリーズにおけるカメラのポイントは「動画」、特にシネマティックモードだ。

シネマティックモードの正体はシンプル。静止画における「ポートレートモード」の動画版だ。写真に計算から生み出した「深度(奥行き)」の情報をセットして、適宜フォーカス(ピント)が合う場所を変えてそれ以外をボカす……というモードである。

性能が上がったら静止画から動画へ、というのはわかりやすい流れなのだが、その際には新しい配慮も必要になる。「フォーカスが合う場所を時間の変化によって変える」ことを助ける機能が必要なのだ。

その一番シンプルな形が、「人を認識して、動きに応じて変える」というものだ。以下の動画は、iPhone 13 Proを使って撮影したものを、音声カット以外は未編集で掲載したものだ。手前に入ってくる筆者から奥の矢崎編集長へのフォーカス切り替えは完全に自動だ。

▲iPhone 13 Proで撮影。音声カット・前後カット以外は撮ったままの無加工。人が入ってきたり、振り向いたりするとフォーカス場所が変わる
認識するのは人だけでなく物体も含まれるので、以下のような動画も撮れる。

▲せっかくなので「シネマティック・ドリンク」と「シネマティック・焼肉」も。どちらもiPhone 13 で撮影し、音声・前後カットと2本の連結以外は撮ったままだ
「輪郭のヌケが完全じゃない」「背景のボケ感が画一的で書き割りのように見える」
たしかに。この機能はまったく完全じゃない。適切なカメラとレンズを用意し、しっかりとフォーカス操作をしながらなら、もっとハイクオリティなものが撮れるのは間違いない。カメラに慣れた人ならあたりまえのテクニックであり、今なら「Vlog向けカメラ」などでもっと高品質に撮れる。

だが、これらの動画を「スマホ1つで」「特別な操作なしで」「撮って出し」で作れるのは大きな進化だ。iPhone 13シリーズを買えば、誰でもこんなことができるのだ。

ついでに、ちょっとこんな動画も撮ってみた。

▲テーブルを囲んで会議している様子をシネマティックに。撮影された側曰く「テラハっぽい」
どうだろう? 単にテーブルを囲んで話しているだけなのに、ボケの演出がついただけでなんとなくドラマチックに見えてこないだろうか。
この「誰でも日常を撮るだけでテラハっぽくなる」ことこそ、シネマティックモードの価値なのである。今回iPhone 13シリーズを買わなくても、これからiPhoneの新シリーズを買うと標準機能として付いてくるだろう。そして、似たことは他のハイエンドスマホメーカーもやってきて、ありふれた機能になっていく。

今回のアップルの最大の発明は、ボケ付きの映像を撮影する機能に「シネマティックモード」という印象的な名前をつけたことそのもの、と言ってもいい。簡単なことに思えるが、こういうところが糸口となって、機能は一般化していくものだ。

編集はiMovieがお勧め、シネマティックモードの視聴は「大型画面」向き

ちょっとネタバラシはしておこう。

実は、一番最後の最後の動画だけは「撮って出し」ではない。アップルの動画編集ソフト「iMovie」のiPad版を使い、フォーカス位置をかなり細かくいじって作ったものだ。

自動でもある程度はできるが、人が多いとフォーカスが頻繁に変わりすぎて見づらい映像にになる。なので、シネマティックモードのデータをそのまま再編集できるiMovieで編集をしているのだ。なお、ここに掲載した他の動画も、フォーカス位置はいじっていないものの、音と前後のカットにはiMovieを使っている。

iPad Proに画像を転送してiMovieで加工

iPad Proに画像を転送してiMovieで加工

編集に使う機種は、iOS 15/iPadOS 15が入ったiPhoneかiPadであれば、シネマティックモードを持っていない機種(要はiPhone 13シリーズ以外)でもいい。

ただし、編集する場合の動画データは、「シネマティックモード用の付加データがカットされてない」必要がある。

同じ1080p・30Hzの動画で比較すると、通常のモードで撮影した映像データとシネマティックモードで撮影した映像データでは、容量が倍近く違うこともあった。すなわち、1080p・30Hzのシネマティックモード動画の容量=1080p・60Hzの通常動画の容量、という感じになっている。

ここで注意すべきは、単に転送するとシネマティックモード用の「深度データ」が消えてしまうこと。

自分のアカウントである場合にはiCloudの「写真」データとして同期すればいいのだが、他人にAirDropなどで渡す場合には、シェアする際の画面上方にある「オプション」をタップし、次の画面で「すべての写真データ」をオンにしてから転送しよう。

AirDropで誰かに動画を送る場合には「すべての写真データ」(右画面の最下段)をオンにしないと、シネマティックモードの深度情報がなくなり、フォーカスなどの再編集はできなくなる

AirDropで誰かに動画を送る場合には「すべての写真データ」(右画面の最下段)をオンにしないと、シネマティックモードの深度情報がなくなり、フォーカスなどの再編集はできなくなる

また、フォーカス位置の変更などの再編集については、iMovieを使わず、iPhoneの「写真」アプリだけでも可能だ。とはいえ、操作はiMovieの方が簡単で、できることも多い。iPhoneユーザーであればiMovieは無料で使えるので、活用をお勧めする。

iPhone 13での撮影時や「写真」アプリからでも、フォーカスなどの変更は可能。でも、iMovieを使った方が操作は楽だ

iPhone 13での撮影時や「写真」アプリからでも、フォーカスなどの変更は可能。でも、iMovieを使った方が操作は楽だ

それからもう一つ。

前述の動画、「どうも効果が分かりづらい」と思った人はいないだろうか。そういう方々は、おそらく「スマホの画面」で動画を見ているのだろう。

実のところ、ボケはそこそこ繊細な表現であり、動画自体の表示サイズが小さいと分かりづらい。スマホの縦画面などではピンと来ないことも多いのではないだろうか。

お勧めは、MacやiPadなどで視聴することだ。10インチ以上の画面になれば、ボケの効果は驚くほどしっかり楽しめる。また、Apple TVを使ったり、iPhoneなどをテレビにつないだりして、より大画面で楽しむのもいいだろう。

そういう意味では、シネマティックモードは「スマホで撮れるが、楽しむならスマホ以外からの方がいい」機能でもある。

やはり「Pro」は速かった。A15は順当な進化

ベンチマークテストから見える性能についても触れておこう。

すでにご存知の通り、iPhone 13シリーズが採用しているSoCは「A15 Bionic」。アップル設計によるSoCの最新モデルだが、現時点でもバリエーションが3つ存在する。

1つ目は、「iPhone 13」「iPhone 13 mini」に使われているもの。これらに使われているのはクロックが最大3.2GHzで、GPUコアが4つ。メインメモリーは4GBだ。

iPhone 13/miniのSoC。メインメモリーは4GBになっている

iPhone 13/miniのSoC。メインメモリーは4GBになっている

2つ目は「iPhone 13 Pro」「iPhone 13 Pro Max」のもの。こちらもクロックは最大3.2GHzで、GPUコアが5つになる。メインメモリーは6GBだ。

こちらはiPhone 13 Pro/Pro MaxのSoC。メインメモリーは6GBになっている

こちらはiPhone 13 Pro/Pro MaxのSoC。メインメモリーは6GBになっている

そして3つ目が、先日レビューも掲載した「iPad mini」向け。こちらはクロックが最大2.93GHzで、GPUコアが5つ。メインメモリーは4GBだ。

参考記事:iPad mini 第6世代に死角なし iPhone 13 Pro同等の最新仕様で処理も通信も高速(西田宗千佳)

さて、これらの性能はどのくらいなのか? 数字を丸めて簡単な大小で表すと、

iPhone 13 Proシリーズ>iPad mini≒iPad Pro 11インチ(2020年モデル)≒iPhone 13シリーズ>iPhone 12 Proシリーズ>iPhone 12シリーズ

という感じだろうか。

メインメモリー量とクロックは違うが、同じ構成のiPhone 13 ProとiPad miniは、おおむね「クロック通り」の差。全体的にワンランク上だ。

iPhone 13とiPad miniは、CPUについてはほぼクロック通りの差で、GPUのコアが多い分、クロックが低くてもiPad miniの方が高性能。総合して考えると大体近い性能……という感じかと思う。

Geekbench 5によるiPhone 13/miniのCPUスコア

Geekbench 5によるiPhone 13/miniのCPUスコア

Geekbench 5によるiPhone 13 Pro/Pro MaxのCPUスコア

Geekbench 5によるiPhone 13 Pro/Pro MaxのCPUスコア

Geekbench 5によるiPhone 13/miniのCompute(主にGPU)スコア

Geekbench 5によるiPhone 13/miniのCompute(主にGPU)スコア

Geekbench 5によるiPhone 13 Pro/Pro MaxのCompute(主にGPU)スコア。コア数が1つ多い分、iPhone 13より数値がグッと高い

Geekbench 5によるiPhone 13 Pro/Pro MaxのCompute(主にGPU)スコア。コア数が1つ多い分、iPhone 13より数値がグッと高い

昨年モデルであるA14世代はもちろん、A12世代でコア数を増やしたハイエンド製品(主にiPad向け)を超えていくのだから、性能向上はいまだ「ちゃんと続いている」といっていいだろう。

iPad miniのレビューでも述べたが、A15は高性能とはいえ、それでも「よりパフォーマンス重視で作られたM1」にはまったく敵わない。コア数の考え方を含め、コストも狙いも違うのだ。

この辺からも、アップルが「スマホ向けで進める性能向上」と「Mac向けで進める性能向上」が違ってきており、使い分けが今後も進むであろうことが予測できる。

(西田宗千佳。Engadget日本版より転載)

【レビュー】2021年版miniは衝撃的だった初代以降、最も「iPad」らしいiPadだ

iPad miniを愛する人たちは、数年ごとにこの特別なデバイスが存続するのか、それとも切り捨てられるのかを固唾を呑んで見守ることになる。新しいiPad Proのようなデザイン、A15 Bionicチップ、新しいディスプレイ技術を採用して、大きくモダンに生まれ変わったばかりなので、しばらくはその心配をする必要はないだろう。

また、iPad miniは一部の市場で非常によく売れているため、それほど心配する必要もないだろう。パイロットや医療従事者、産業従事者といったプロフェッショナルは、仕事に欠かせないものとしてタブレット端末を活用している。基本的に、Apple(アップル)のiPadは十分な普及率と互換性を備えた唯一のデバイスだ。空の上のコックピットは、基本的にiPadがないと成り立たなくなっている。パイロットの脚や白衣の大きなポケットなど、スペースが限られている場所では、iPad miniが圧倒的な存在感を示している。

もちろん、iPad miniが旅行に最適なポータブルサイズであり、長時間の読書や視聴をする際に手に持ちやすいと感じる人も同じようにたくさん存在する。

今回の新しいiPad miniは、そのよう人たちのために、ハードウェアとソフトウェアを最新のものになっている。iPad AirおよびProのデザイン言語を取り入れたminiの再設計は、Appleの「トップエンド」のiPadデザイン理論が統一されたということであり、歓迎すべきことだ。

画像クレジット:Matthew Panzarino

エントリーモデルであるiPadも、同じ価格でありながら舞台裏でアップグレードされている。これはすばらしいことだ。新デザインの採用や新しいApple Pencilとの互換性はないが、それでもこの価格では非常に高性能なマシンだ。タブレット市場は基本的にAppleが独占しているため、エントリーモデルを大々的に投入することも可能だったが、価格の割には非常に優秀で、使ってみると速さと親しみやすさを感じることができる。IPSディスプレイとA13 Bionicは最先端ではないかもしれないが「iPadが欲しい」というニーズだけであるなら、このベーシックなモデルを購入してもまったく損をしないのはうれしいことだ。

しかし、iPad miniにはその両方が備わっている。価格もそれに見合うものだ。499ドル(日本では税込5万9800円)という価格は、Appleはこの製品でエントリーポイントを狙っていない。そのメッセージは明らかに「このサイズで作れる最高のiPad」というものであり「より小さく、より安く」ではない。

このメッセージは、フォームファクターは好きだが、1、2世代遅れているのが嫌なユーザーには理想的なものだろう。

画像クレジット:Matthew Panzarino

最大の新機能は、iPad Airで導入された上部に搭載されたTouch IDだ。ほとんどの場合、すばやく簡単に動作する。しかし「ロックを解除するために休んでいる」のに、誤って電源ボタンを押して電源を切ってしまうという厄介なループが発生する可能性もある。しかし、全体的にはAirよりも使いやすいといえるだろう。手がより小さなminiのエッジにフィットしやすいことを考えると。

使い勝手はこれまでとあまり変わらないものの、依然として残っているユーザビリティに対する指摘には、分割表示の実装でかろうじてクリアしている。機能的には問題ないが、時として少々窮屈に感じることもある。ここにもっと良い解決策があるかもしれない。アイコンのサイズも、縦方向では少し粗いが、横方向では完璧なものに感じられる。要するに、iPad mini専用に調整したバージョンのiPadOSが必要だ。リニューアルされたモデルを手に入れた現在、私はiPad miniを独自の使いやすさの次元に引き上げるために、2022年の進化を求めたいと思っている。

それ以外は、すべて本当に楽しい。スピード、軽さ、そして大きくなった画面サイズは、初代iPad移行、最も「iPad」らしいiPadの1つだと思う。初代iPadは、今思えばかなり重かったが、実際に使って触ってみたときは、本当に衝撃的だった。コンピュータの純粋な「スラブ(平板)」だった。今回のminiでは、その感動を思い出した。

ここ数日、iPadで読書やブラウジング、映画を観ているが、とてもいい感じだ。新バージョンのApple Pencil(側面のフラット化とマグネット式充電により実現)が追加されたのも良い点で、これによりすばらしいスケッチツールとなった。

iPad miniは、iPad Airが持つすべての機能とそれ以上の機能を、最新の技術を駆使して小さなパッケージに収めたものだ。全体的にとても魅力的だ。もし迷っている人がいるのであれば、まずそのことを知ってほしい。

画像クレジット:Matthew Panzarino

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(文:Matthew Panzarino、翻訳:Katsuyuki Yasui)

埋め込みエンジニアがハードウェア部品と簡単に繋がるためのAPIを作る「Luos」

今週TechCrunch Disruptのスタートアップ・バトルフィールドに参加しているLuos(ルオス)は、埋め込みハードウェア(embedded hardware)デベロッパーがモーター、センサーなどさまざまなハードウェア部品と簡単につながり、再利用可能な設定プロファイルを作ることで、ソフトウェア・エンジニアがマイクロサービスで得ているのと同様の柔軟性をもてるようにすることを目標にしている。

LuosのCEO・共同ファウンダー、Nicolas Rabault(ニコラ・ラボー)氏は、元埋め込みハードウェア・エンジニアとして、自分たちが歴史的に行ってきたやり方を簡易化するソリューションを作りたいと考えた。「Luosのアイデアは、埋め込みシステム・エンジニアがほかの人も簡単に再利用できるものを作れるようにして、毎回全部作り直すのではなく、既存のプロファイルを組み合わせるだけでよい方法を提供することです」とラボー氏が私に話した。

このアプローチのひらめきは、マイクロサービスの世界から得たと彼は言う。「私たちのテクノロジーはウェブ世界のマイクロサービスに基づいて作りました。マイクロサービスはウェブ・デベロッパーに、世界中の誰もがどこででも使える再利用可能なソフトウェア部品を作れるようにしているからです」と彼は言った。

「Luosはあらるゆる部品(ボタン、モーター、バッテリー、カメラ、Wi-Fiなど)の標準APIを公開することで、だれもが追加の開発をすることなくこれらのサービスを利用できるようにして、デベロッパーはポータブルで再利用可能なbehavior code(行動コード)[私たちはプロファイルと呼んでいます]を作ることができます」。つまり、バッテリー・プロファイルやモーター・プロファイルを一度作れば、どのメーカーが作ったどんなタイプのバッテリーやモーターにも適用できる。

この機能をあらゆる埋め込みハードウェア・エンジニアの元に届けるために、会社はオープンソース・ライブラリを作って、デベロッパーがさまざまなジェネリック・プロファイルを作れるようにした。初めにこのスタートアップは、モーターなどのよく使われるプロファイルをいくつか種として登録し、埋め込みデベロッパーはこのオープンソース・フレームワークをダウンロードして、いつでも自分のバージョンを作り、それをまたコミュニティーでシェアすることができる。

このフレームワークを作るために、エンジニアはボード上の各コンポーネントのためにカスタム・コードを書くのが普通で、それは時間のかかる面倒な作業だ。Luosのソリューションは、その複雑さを大部分取り除き、共通プロファイルを作ることでボード上のさまざまなパーツとつなぐ共通の方法を提供する。

プロファイルをシェアするためのマーケットプレイスや中央ライブラリはまだないが、系統的にシェアする方法ができたらそういう場を作る計画だ。現在同社は、コンサルタントやサポート役として、企業が開発ライブラリを使ったりプロファイルを開発したりするのをサブスクリプション・モデルを通じて支援することで収益を得ている。

Luosは、埋め込みエンジニアが出荷済みボード上の問題を解決するために、モーターなど特定の部品に何が起こったかをリモートで把握して修理を手配するためのSaaS(サービスとしてのソフトウェア)ツールの開発にも取り組んでいる。これが完成すれば新たな収益源が加わる。

ラボー氏は2名の共同ファウンダーと共に、2018年にスタートアップを設立したが、アイデアのルーツは14年前、ラボー氏がまだ学生だった頃に遡る。彼はキャリアのすべてを直接的間接的にこの問題に捧げてきたので、会社を始めた時には、このようなソリューションを実装するのに十分なほどテクノロジーは成熟していた、と話した。

現在従業員はファウンダー3名を含む12名で、今後はこの種の企業で重要な役割となるコミュニティ管理やユーザー体験の担当者を雇、さらには埋め込みシステムエンジニアも追加する計画だ。同氏は、多様な会社を作りたいと考えていて、現在はフランス在住の社員しかいないが、リモートワークの会社でどこに住む人でも受け入れているので、会社の発展とともに多様性を高められる可能性がある。

フランスのボルドーを拠点とするこのスタートアップ、これまでにシード資金140万ドルを調達している。この初期資金の主な目標は、ターゲットである埋め込みシステム・エンジニアの間で会社がやっていることを広めることだ。

本誌のバトルフィールドに参加することで彼らのミッションが強化されることは間違いないが、さらにファウンダーたちは、会社をユーザー、顧客、投資家たちに売り込み、米国の聴衆に自分たちを紹介するための実践的アドバイスを得た。ここ米国は、拠点であるヨーロッパよりもエンジニアがこの種の新しいツールを実験することに前向きだとラボー氏は信じている。バトルフィールドはそういう聴衆と出会う重要な場だと彼は考えている。

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(文:Ron Miller、翻訳:Nob Takahashi / facebook

マイクロソフトがWindows 11に先駆けて「Surface Laptop Studio」と「Duo 2」発表、5つの新Surfaceとアクセサリー

半年ぶりのWindowsのメジャーリリースが目前に迫る中、Microsoft(マイクロソフト)は新ハードウェアを大量に発表した。Surfaceシリーズは、最先端ハードウェアのブレークスルー対して常に刺激を与えてきたわけではないOSのコンセプトを証明するプロダクトだと考えられてきた。

このブランドは、ノートPCやタブレット、そして最近ではスマートフォンといったカテゴリー間の境界線を曖昧にすることにフォーカスし、コンシューマー向けハードウェアの可能性を押し広げる機会をMicrosoftにもたらしている。Surfaceの実績は全体的に見て堅実なものだが、フォームファクターに手を加えるということは、誰もが100%の確率で正しいことをするわけではない。

関連記事:Windows 11の提供開始は10月5日から、マイクロソフトが発表

画像クレジット:Microsoft

2020年の「Surface Duo」は、もちろん、より大きな兄弟機である「Surface Neo」を除けば、この現象の最も良い例の1つだ。この2つのデバイスは、2019年に同じイベントで発表され話題を集めた。大きく期待されていた2つのデバイスは、2つのまったく異なる理由で最終的に失望させられることになった。

Neoは単に発売されなかった。Microsoftが2021年初めにWindows 10Xをその後キャンセルしたことが、最後の釘となったようだ。Duoは発売されたが、その宣伝には応えられなかった。フォームファクターは発売時と同様に興味深いものだったが、会社は他のことに集中することを選択したため、精彩を欠いたスペックを実質的に認めることになった。私はこのプロダクトを1400ドル(約15万4000円)という価格を正当化するには至らない「未完成品」と呼んだ。

画像クレジット:Microsoft

もちろん、Microsoftははっきりと言わないだろうが、新しいSurface Duo 2は、何かをやり直すことを意味するものだ。例えばSamsungの初代フォルダブルのように、私たちが「こうあって欲しい」と願うプロダクトの延長線上にある。スマートフォンの世界では、約10年半の間、モバイルデバイスがずっと採用してきた基本的なフォームファクターを拡張するプロダクトの登場が切望されている。今回のデュアルスクリーンデバイスは、その可能性を示唆するものだといえる。画面の解像度は1344×1892、解像度は401ppiとなっている。Snapdragon 888プロセッサの搭載や、2020年モデルはLTEのみの対応だったが、5G接続が可能になったこともうれしいポイントだ。Duo 2では、(前面の1200万画素に加えて)背面に大型のカメラモデルを追加し、1200万画素のワイドと望遠、1600万画素のウルトラワイドという3つのレンズを搭載している。

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変わらないのは、価格だ。現在予約受付中で、価格は1500ドル(約16万5000円)からとなっている。

画像クレジット:Microsoft

今回の新製品の中で最も興味深いのは「Surface Laptop studio」だ。このデバイスは、Microsoftがずっと強気で取り組んでいる2in1のカテゴリーを巧みに利用したもので、その名前はSurface StudioとLaptopの両方に敬意を表しており、おそらく両者の違いを分けているものだろう。この製品は、14.4インチのタッチスクリーンが折り紙のようなスタンドに取り付けられており、さまざまな形に配置することができる。基本的には、キーボードケースの上に、タブレットのように動くように設計されたスクリーンを搭載したノートPC(非常にMacBook風なノートPC)だ。また、製品の下側にはマグネットが付いており、同社の新しいスタイラスを取り付けることもできる。

画像クレジット:Brian Heater

この製品は、Appleが長年にわたって追い求めてきたクリエイティブプロフェッショナルをターゲットにしている。Laptop Studioは、第11世代のインテルCore H35を搭載し、i5またはi7の構成となっている。価格は1600ドル(約17万6000円)からで、現在予約受付中だ(日本では2022年前半に発売予定)。

画像クレジット:Microsoft

今回はSurface Go、Pro、Pro Xのすべてがアップデートされている。「Go 3」には新しいIntel Core i3が搭載され、パフォーマンスが最大60%向上される。10.5インチのシステムは400ドル(日本では6万5780円)からで、今後数カ月のうちにLTEオプションも追加される予定だ。「Pro 8」は、13インチのスクリーン、第11世代のインテルCoreプロセッサー、2つのThunderbolt 4ポートを搭載した2in1モデルだ。価格は1100ドル(日本では14万8280円)からとなっている。一方、薄くて軽い「Surface Pro X」は、Microsoft SQ2 ARMチップを搭載し、価格は900ドル(日本では14万2780円)からだ。

画像クレジット:Microsoft

これらすべてのモデルが、より細いペン先、触覚フィードバック、磁気充電機能を備えた新しい「Surface Slim Pen 2」に対応している。価格は130ドル(約1万4300円)。さらに、海から回収されたプラスチックを20%使用した「Microsoft Ocean Plastic Mouse」も登場する。また「Surface Adaptive Kit」は、キーキャップラベル、バンプラベル、ポートインジケータ、デバイスオープナーなどを貼り付けて、デバイスのアクセシビリティを向上させることができる。

  1. Surface-Adaptive-Kit-Hero_under-embargo-until-September-22

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  2. Surface-Slim-Pen-2_under-embargo-until-September-22

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  4. Surface-Laptop-Studio-Inking_under-embargo-until-September-22

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  5. Surface-Laptop-Studio-Slim-Pen-2_under-embargo-until-September-22

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  6. Surface-Duo-2-Internals

    画像クレジット:Microsoft

全体的に見て、良いバランスだと思う。Surface Laptop Studioは、2in1スペースのもう1つの魅力的な居場所を探っている。それはニッチだろうか?そう、おそらく。しかし、Microsoftはこの種のプロダクトを長く手がけてきたため、その規模に応じた特性を理解している。また、OSのメジャーアップデートといっても、それを推進するためのハードウェアがなければ意味がない。

一方、Duo 2は、最初の頃はうまくいかなかった待望の新製品を改良したものだ。Microsoftは、このデバイスの欠点を率直に述べており、新製品でそれに対処しようとしている。このデバイスがもっと高い価格で提供されるべきだというかなり説得力のある議論をすることもできるが、多くの奇妙なコンセプトの製品(Neoの場合)がそこまで受け入れられなかったことを考えると、このように既成概念にとらわれない製品にこだわっているようなのは良いことだ。

画像クレジット:Microsoft

その他の新しいSurface製品は、Windows 11を見据えたより洗練された製品となっている。複雑なシステム要件が示すように、Microsoftは明らかにハードウェアをアップグレードして欲しいと考えている。

「Microsoft Ocean Plastic Mouse」は、確かに、ハードウェアのアップグレードを推進するためのちょっとしたギミックだ。さらに理想的な世界では、同社のすべての機器が同じような部品で作られているはずだ。海からプラスチックを救い出すことができるなら、それはそれで良いことだと思う。「Surface Adaptive Kit」は、これまで業界をリードしてきたアクセシビリティへの取り組みのうち、消費者向けの製品となる。

画像クレジット:Brian Heater

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(文:Brian Heater、翻訳:Katsuyuki Yasui)

【レビュー】iPhone 13 Proを持ってディズニーランドへ!カメラとバッテリー駆動時間をテスト

2021年のiPhoneレビューは、えーと、もちろん、数年ぶりにディズニーランドに戻ってくることになった。うれしいことに、iPhone 13 ProとiPhone 13は非常に良いパフォーマンスを見せてくれた。また、iPhone miniとiPhone 13 Pro Maxで行った限定的なテストでは、初めて、望遠レンズがなくても問題なければ、iPhoneをサイズの好みで簡単に選択できるようになったことがわかった。

私がこれらのiPhoneをいつもディズニーランドに持ち込む大きな理由の1つは、Apple(アップル)が主張する改善点を実際の環境で激しくテストするのに最適な場所だからだ。ディズニーランド内は暑く、ネットワーク環境は最悪で、写真やチケットのスキャン、食べ物の注文など、最近ではほとんどすべてのことに携帯電話を使わなければならず、かけたお金の分最大限楽しめるようできるだけ長く滞在することが多い。これは、人為的なバッテリー消耗や管理された写真環境を含まない、理想的な耐久テストと言えるだろう。

私の行ったテストでは、それほどではないケースもあったが、Appleの改良点のほとんどが、実際に旅先での生活の質に目に見える影響を与えてくれた。画面の明るさ、より長い望遠、そして長くなったバッテリーの持続時間は、いずれもうれしいポイントだった。

パフォーマンスとバッテリー

iPhone 13 Proのバッテリーは、園内での使用でちょうど13時間超えを記録したところで使い切った。2021年はビデオのテストが多かったため、カメラアプリが通常よりも長く画面に表示され「画面上」での使用時間が1時間強となり、システムに少し負担をかけてしまった。実際に標準的な使い方をすれば、それ以上の効果が得られると思うので、iPhone 12 Proのビデオ再生時間が1時間以上長くなったというAppleの見積もりは、おそらくかなり正確なものだと言えるだろう。

画像クレジット:Matthew Panzarino

私のテストでは、iPhone 13 Pro Maxに同じレベルの負荷を与えることは難しかったものの、iPhone 13 Proが充電を必要としたときにまだ余力があったことを考えると、iPhone 13 Pro Maxにはさらに多くのバッテリー駆動時間が期待できると言えるだろう。ただ、より大きなバッテリーで、より多くのバッテリー駆動時間が得られるというのは、大きな驚きではない。

開園一番に入園するつもりなら、午前6時くらいに充電器から外して、午後4時くらいまでには充電器を用意して、電池切れにならないように計画したほうがいいだろう。これは、厳しい環境下でカメラを多用するiPhoneにとって、全体的に悪くない稼働率だと思う。

Appleの新しいProMotionディスプレイもいい感じにアップグレードされていて、画面の明るさが増していることに気づいた。ただし、この明るさの向上は、iPhone 12 Proの画面にハイキーなコンテンツを表示した状態で並べてみて初めて実感できるものだった。ディズニーランドのアプリを起動してバーコードを読み取ると、読み取りの安定性が向上し、直射日光の下では全体的な明るさが増していることがわかる(はっきりとは言えないが)。直射日光が当たらない場所では、この違いほとんどわからないと思う。

ProMotionスクリーンの可変リフレッシュレートは、Safariをスクロールしているときに120Hzまで上昇するが、これは本当に生活の質の面ですばらしい向上だ。私はここ数年、コンピューティングのほとんどをiPad Proで行ってきたので、残念ながらこの分野には少し飽きているが、まだ経験したことのないiPhoneユーザーにとってこれは驚くべき進歩に映るだろう。Appleのシステム上で120Hzに固定されているわけではないため、写真やテキストなどの静止したコンテンツを見るとき、スクロールしないときなどは画面のリフレッシュレートを遅くすることで、バッテリー寿命を節約することができる。うれしいことに、スクロール中に大きなずれも発生せず、この切り替えの際にも、実に反応が良く、シームレスに処理されている。

新しいA15チップは、そう、2020年よりもパワフルになっている。この点が気になる人のために、以下いくつかの数字を紹介しよう。

画像クレジット:Apple

特に、バッテリー駆動時間が短くなったのではなく、むしろ長くなったという点で、非常に印象的だ。Appleデバイスのワットあたりの性能は、チップ担当部門の(あまり)知られていない偉業であり続けている。2021年のiPhoneやM1ラップトップが、単にめちゃくちゃ速いというだけでなく、充電器に接続せずとも、実際に膨大な時間使用が可能であるということだ。気になる方のために触れておくと、iPhone 13 Proには6GBのRAMが搭載されているようだ。

デザイン

画像クレジット:Matthew Panzarino

iPhoneのデザインは、相変わらずカメラと無線を中心に構成されている。カメラパッケージのセンサーとレンズをサポートするために必要なもの、そしてアンテナが5Gに対応できるようにするために必要なものが、iPhoneの現時点におけるデザインのハンドルをコントロールしており、それはごく自然なことだ。

iPhone 13 Proの背面にあるカメラアレイは、Appleが新たに搭載した3つのカメラに対応するため、より大きく、高くなっている。そう、全体で40%も大きくなり、高くなっているのだ。Appleの新しいケースには、非常に目立つ隆起がある。これは、ケースを表面に置いたときにレンズを保護するためのものだ。

他のすべての部分は、カメラと、ワイヤレス充電と無線性能の必要性を中心に作られている。しかし、Appleのつや消しガラスとスチール製の縁の外観は、2021年も宝石のような品質を維持しており、やはりすばらしい見た目のものに仕上がっている。多くの人がケースを付けずに長時間見ることはないと思うが、見ている間はイケてる携帯電話だと言えるだろう。

カメラのパッケージングを改善したことで、前面のノッチはわずかに小さくなり、動画視聴などの際の画面領域がわずかに増えたが、デベロッパーの人たちが浮いたピクセルをうまく利用する方法を見つけてくれるのを待たなければならない。

次に、カメラについて説明しよう。

カメラ

純粋に、ユーザーの選択肢や、見違えるほど画質を向上させるような改善を、Appleが毎年続けていくことはあり得ないことのように思える。にもかかわらず、カメラの品質と機能は、iPhone 11 Proから全面的に大きく飛躍しており、iPhone 12 Proからも顕著な改善が見られる。それら以前の機種を使っている人であれば、きっと気に入るであろう最高の画質を目の当たりにすることになるだろう。

カメラのパッケージと機能セットも、これまで以上にラインナップ全体で統一されている。Appleのセンサーシフト光学式手ぶれ補正システムは、すべてのモデルに搭載されており、iPhone 13 miniでさえも搭載されているのだが、このセンサーアレイの全体的なパッケージサイズを考えると、これは驚くべきことだろう。

2021年のディズニーランド内での私の経験では、どのレンズを選んでも、Appleによるカメラ改良の大きな違いを感じることができた。低照度から高倍率ズームまで、熱心な写真家の人たちにも満足してもらえる内容となっているはずだ。それと、シネマティックモードについても後で紹介しよう。

望遠

私が改善を期待していたレンズの中で、望遠レンズには実はそれほど大きな期待を寄せていなかった。しかし、このレンズの撮影範囲の広さと実用性の高さには、うれしい驚きを感じた。私は自他ともに認める望遠派で、iPhone 12 Proで撮影した写真の60%が、ワイドよりも望遠で撮影したものだ。後からトリミングしなくても、フレーミングをより綿密に選ぶことができるのが個人的に好きなのだ。

望遠レンズにナイトモードが搭載されたことで、以前のように暗闇の中でクロップしてワイドレンズに戻ることがなくなった。このように、本来の光学の望遠に加えて、ナイトモードの魔法も手に入れることができる。2年前にはまったく手が届かなかったことだが、黒の表現力が格段に向上し、手持ちでズームしても、全体的にすばらしい露出を生んでくれるようになった。

画像クレジット:Matthew Panzarino

より高いズームレベルでは、ポートレートはよりタイトにトリミングされ、ポートレートモード以外の有機的なボケ(ブラー)がより美しくなる。この新しいレンズを使えば、人物をより美しく撮影できるようになるだろう。

もしあなたがカメラ好きならわかると思うが、3倍ズームは私が愛用している105mm固定式ポートレートレンズによく似ている。このレンズのパッケージは、クロップ機能もあり、優秀な背景の分離機能もあり、そして光学品質がとにかく非常に優れている。今回、Appleは望遠で見事に成功したと言えるだろう。

画像クレジット:Matthew Panzarino

演出のときもあるが、基本的にはパンデミック対策のため、パフォーマーとゲストとの間に距離があることが多いディズニーランドでは、より長い光学レンジも非常に便利だった。カイロ・レンが観客を盛り上げているところを、手を伸ばして撮影できたのは楽しいことだった。

広角

Appleのワイドレンズは、センサー技術全体で最大の進歩を遂げている。ƒ/1.5の大きな開口部と新しい1.9µmのピクセルサイズにより、集光力が約2倍になり、その違いがよく表れている。夜間や車内での撮影では、黒の深みやダイナミックレンジが向上し、全体的な画質が著しく向上した。

画像クレジット:Matthew Panzarino

ナイトモードを有効にすると、集光範囲の拡大とSmart HDR 4の改善により、黒がより濃くなり、洗いざらしのような写りにならなくなる。あえて言えば、全体的に「より自然」ということになるが、これは今回のiPhoneのカメラに共通するテーマだと言えるだろう。

画像クレジット:Matthew Panzarino

ナイトモードを有効にしていない状態では、より多くの光を取り込むことで画質が向上していることが一目瞭然だ。ナイトモードをオフにしなければならない状況はほとんどないと思うが、光が少ない中で動いている被写体などはそのユースケースの1つであり、この新しいセンサーとレンズの組み合わせであれば、そのような場合でも数センチの余裕を得ることができる。

センサーシフト式OIS(光学式手ブレ補正)がiPhone 13に搭載されたことは、静止画と動画の両方に大きな恩恵をもたらす。私はiPhone 12 Pro Maxの手ぶれ補正機能でいろいろ遊べたことに満足しているが、まだ手ぶれ補正機能を使ったことがない人は、この機能がもたらす、レベルアップしたシャープさに信じられないほど満足することになるだろう。

超広角

Appleの超広角カメラは、しばらくの間、嫌われてきた。新しい視点を提供してくれるものの、発売以来、オートフォーカス機能の欠如や集光性能の低さに悩まされてきた。しかし今回のカメラでは、ƒ/1.8の大口径化とオートフォーカスを実現している。集光力が92%向上したとAppleは主張しているが、かなり厳しい照明条件でテストしたところ、全体的に大幅な改善が見られた。

ディズニーランドでは通常、ワイド撮影の方法は2つに1つだ。1つはポートレート撮影時に魚眼レンズのような遠近感を出すために接近して撮影する方法、もう1つは照明やシーンの設定が特に良いときに景色を撮影する方法だ。オートフォーカスを使えば、1つ目の方法は大幅に改善され、2つ目の方法も絞りを開けることで大幅に改善される。

月明かりに照らされたTrader Sam(トレーダー・サム)を撮影した写真を見て欲しい。照明と風景がちょうどよく、思わず手に取ってしまいそうなスナップだ。iPhone 12 Proも悪くないが、両者の露出には明らかな差があるのがわかる。絞り値の改善を比較するために、どちらもナイトモードをオフにして撮影している。

画像クレジット:Matthew Panzarino

この差は明らかで、Appleがこの超広角カメラを改良し続けていることに総じてかなり感心しているのだが、現時点では、このサイズの12MPセンサーがこのような広い視野を持つレンズにもたらすことができる限界に達しつつあることは明らかだと思われる。

新しいISP(画像信号プロセッサ)では、ナイトモードの撮影も改善されている。絞り値が大きくなったことで撮影可能な生の範囲が増え、ナイトモードの撮影では、明るいキャンディのような見た目が削ぎ落とされ、より深みのある有機的な感覚が得られる。

マクロ写真と動画撮影

また、iPhone 13 Proの新たな撮影機能として、2cmまで接近して撮影できるマクロモードがある。iPhone本体の超広角レンズに搭載されているだけあって、本当によくできている。

信じられないほど細かい部分まで撮影することができた。「物体の表面の質感」が見えるくらい細かく「蜂の胸部にぶら下がっている花粉」が見えるくらい細かく「露が….」、まぁこのあたりはもうなんとなくわかるはずだ。マクロアタッチメントを持ち歩かなくても、かなり接近して撮影でき、これだけで十分なのだ。

画像クレジット:Matthew Panzarino

撮影領域の中心となる40%程度の粗い領域では、マクロ画像のシャープさと鮮明さが際立っていた。マクロモードがウルトラワイドであるため、画像の周辺部にはかなりの量のコマ収差が発生する。基本的には、レンズが非常に湾曲しているため、超球面素子の端で過剰なボケが発生する。これは、焦点距離の最小値である非常に近い距離でのみ見えるものだ。数センチの距離であれば、気がつくと思うが、おそらくトリミングするか、我慢するだろう。10cm程度の「中マクロ」であれば、あまり気にはならないかもしれない。

これは、すべてのマクロレンズの特徴である「極めて」狭い焦点距離とは別の要素だ。基本的に、最大マクロでは精密さが求められるが、それは今に始まったことではない。

ディズニーランドのスケールの大きさを考えると、マクロの使い方を積極的に模索しなければならなかったが、他の場所ではもっといろいろな使い方ができるのではないだろうか。しかし、Radiator Springs(ラジエーター・スプリングス)のボトルのきめや、Galaxy’s Edge(ギャラクシーズ・エッジ)の人工的な菌類など、クールな写真を撮ることができた。

マクロ撮影も同様に楽しいものだが、本当に活用するためには、手をかなり安定させるか三脚が必要となる。手のわずかな動きが、焦点領域に比例してカメラを大きく動かすことになるからだ。基本的に、このモードでは小さな手の動きが大きなカメラの動きに繋がってしまう。しかし、これは非常に楽しいツールであり、私はこれを使ってGrand Californian Hotel(グランド・カリフォルニア・ホテル)の庭で花びらにいる虫を追いかけるのを楽しんだ。

画像クレジット:Matthew Panzarino

大きなスケールから超細かなディテールまで、さまざまな写真を撮影するのに最適な方法だ。

iPhone 13 Proでは、超広角カメラがマクロ撮影のホームグラウンドとなっているが、興味深い点として、マクロ撮影の範囲に入ると、広角カメラと超広角カメラとの切り替わりが確認できるという点が挙げられる。これは、1つのカメラがオフになり、もう1つのカメラがオンになるという、画像の素早い変化として現れる。これは、照明条件やiPhoneのカメラスタックによる画像判断によってカメラが常に切り替わるにもかかわらず、他の状況ではほとんど見られなかったことだ。

通常、ユーザーはこのことにほとんど気づくことはないだろうが、公式のマクロカメラが利用できるようになったことを考えると「1倍」撮影中に対象物に急接近すると「0.5倍」モードに切り替わり、超近接撮影が可能になる。これはこれでいいのだが「マクロの距離」(約10~15cm)に入ったり出たりしてカメラが切り替わると、少しハラハラする。

このカメラ切り替えの動作についてAppleに問い合わせたところ「今秋のソフトウェアアップデートで、マクロ撮影やビデオ撮影のための近距離での撮影時にカメラの自動切り替えをオフにする新しい設定が追加される予定です」とのことだった。

これにより、マクロ域に特化した作業をしたい人にとっては、この比較的小さなクセが解消されるはずだ。

フォトグラフィックスタイルとスマートHDR 4

コンピュテーショナルフォトグラフィー(デジタル処理によって画像を生成することを前提としたイメージング技術)に対するAppleのアプローチでよく対立することの1つが、高度に処理された画像に関しては、全般的に控えめになりがちだということだ。簡単に言えば、Appleは自分たちの画像が「自然」であることを好むのだが、Google(グーグル)やSamsung(サムスン)といった競合他社の同様のシステムでは、差別化を図るためにさまざまな選択を行い「よりパンチの効いた」、時には全体的に明るい画像を作り出している。

画像クレジット:Matthew Panzarino

画像クレジット:Matthew Panzarino

2年前にAppleがナイトモードを導入したとき、私はこれらのアプローチを比較した。

関連記事:iPhone 11 ProとiPhone 11で夜のディズニーランドを撮りまくり

2021年、Appleが発表した新製品でも、この「自然体」というテーマに大きな変化はなかった。しかし今回「フォトグラフィックスタイル」が導入され「トーン」と「ウォーム」と呼ぶ2つのコントロールを調整することができるようになった。これらは、基本的には「ヴァイブランス」と「色温度」だ(一般的にはの話だが)。調整なしを含む5つのプリセットと、-100〜+100のスケールで調整できるプリセットの2つの設定を選ぶことができる。

私は、長期的に人々がこれらの設定を使いこなし、特定の見え方を撮影するためのおすすめの方法などが出回ることを予想している。これらのプリセットの中で私が最も気に入っているのは「ヴァイブラント」だ。オープンシャドウと中間色のポップさが好きだからだ。しかし、多くの人が「リッチコントラスト」に惹かれると思う。一般的に、コントラストが高い方が人間の目には好ましいと映りがちだからだ。

画像クレジット:Matthew Panzarino

子どもサイズのスピーダーを撮影したこの写真では、シャドーとミッドトーン、そして全体の色温度に影響が出ているのがわかる。私は、これは状況に応じたフィルターというよりも、フィルムカメラでフィルムの種類を選ぶような、深い「カメラ設定」機能だと捉えている。コントラストを重視するなら「Kodak Ektachrome」、寒色系やニュートラル系なら「Fuji」、暖色系の肌色なら「Kodak Portra」、発色を重視するなら「Ultramax」といった具合だ。

この設定では、出したい色が出るようにカメラを設定することができる。この設定は、カメラアプリを閉じても保管される。これにより、カメラを開いたときにすぐ、思い通りの撮影ができるように設定されている。iOS 15では、ほとんどのカメラ設定がこのようになっている。これは、iPhoneのカメラを開くたびにリセットされていた昔と比べて、生活の質を向上させるものだろう。

なお、これらのカラー設定は画像に「埋め込まれて」おり、ポートレートモードのライティングシナリオのように後から調整することはできない。また、RAWの状態では有効ではない。これは理解できる。

また、スマートHDR 4は、フレーム内の被写体に基づいてスマートなセグメント化を行うようになったことも特筆すべき点だ。例えば、逆光で撮影されたグループ写真を撮影した場合、新しいISPでは、それぞれの被写体を個別にセグメント化し、カラープロファイル、露出、ホワイトバランスなどの調整をリアルタイムに行う。これにより、窓からの撮影や太陽の下での撮影など、暗い場所から明るい場所への撮影が格段に向上した。

2021年の自撮りカメラは、あまり改善されていないように思うが、いつもどおりだ。シネマティックモードを使用することができ、自撮りモードではそれほど便利ではないものの楽しい。

シネマティックモード

これは、一般に公開されている実験機能のようなモードだ。実験に参加しようとしている人たちにとっては、最高の舞台装置となるだろう。Appleの一般的なマーケティングに反して、これはまだ映画セットでの実際のカメララックフォーカスのセットアップに取って代わるものではない。しかし、これまでカメラやレンズ、機材といった多くの扉の後ろに閉じ込められていた巨大な撮影ツールセットを、新進の映画制作者やカジュアルユーザーに開放するものとなる。

シネマティックモードでは、カメラの深度情報、加速度センサー、その他の信号を使用して、合成ボケ(ブラー)を挿入し、フレーム内の被写体を追跡して、ユーザーの要求に応じて効率的に被写体間でフォーカスを「ラック」する映像を作成する。また、驚きのフォーカストラッキング機能が搭載されており、被写体をロックして追いかける「トラッキングショット」では、人混みや手すり、水辺などの障害物があってもピントを合わせ続けることができる。初期のテストでは、このような深度を利用したトラッキング機能は非常に印象的だったが、セグメンテーションマスキングでは、被写体を背景から分離するための鮮明な境界線を定義するのに苦労し、少し物足りなさを感じてしまった。ポートレートモードが静止画で行っていることを、複雑で混乱した背景で1秒間に30回行うのは、非常に困難であることがわかった。

この機能は1080p/30fpsに固定されているが、これはその使用目的をよく表している。この機能は家族映像をデバイス上で流したり、テレビにAirPlayしたり、ウェブに掲載したりするためのものだ。セレクティブフォーカスの新しいストーリーテリングツールを使って、すばらしい作品を作ることができるであろうTikTok(テイックトック)の映像制作者の間ではかなりウケるだろうと踏んでいる。

画像クレジット:Matthew Panzarino

子どもたちが人混みの中を歩いたり、メリーゴーランドに乗ったりしているところをテスト撮影してみたが、本当に衝撃的なほど良かった。以前は、一眼レフカメラでマニュアルフォーカスのレンズを使って動画を撮影する際に、すばやく連続的にフォーカスを調整することでしか得られなかった、映画のような、夢のようなクオリティの動画が撮影できた。

これこそが、シネマティックモードを理解するための大きな鍵だと思う。このモードは、マーケティング上はともかく、焦点距離の設定や膝を曲げてのスタビライズ、しゃがんで歩いてラックしてのフォーカシングなどの方法を知らない大多数のiPhoneユーザーに、新たなクリエイティブの可能性を提供することを目的としている。今までは手の届かなかった大きなバケツを開けるようなものだ。そして多くの場合、実験的なものに興味があったり、目先の不具合に対処したりすることを厭わない人は、iPhoneの思い出ウィジェットに追加するためのすばらしい映像を撮影することができるようになると思う。

画像クレジット:Matthew Panzarino

画像クレジット:Matthew Panzarino

この機能については、今週末に詳しく紹介する予定なので、お楽しみに。とりあえず知っておいてもらいたいのは、平均的な人が明るい場所でこれを使って撮影すれば、かなり楽しくて感動的な結果が得られるということ。しかし、本格的なプロ用ツールではないということ。そして、特定の被写体にピントが合わなかったとしても、レンズの焦点範囲内であれば、編集ボタンを押して被写体をタップするだけで、後から調整することもできる。

その場で即座にいつでも撮影したい世代のための映画制作ツールとして、これは非常に魅力的なコンセプトだろう。実際、映画製作のメカニズムに費やす時間と技術的なエネルギーを減らし、ストーリーテリングの部分により多くの時間を割くことができるのだ。映画製作は、常にテクノロジーと絡み合った芸術であり、アーティストは常に新しいテクノロジーを最初に採用し、その限界に挑戦するものであるという理想の真の例の1つと言えるだろう。

最近では、私たちのほとんどが映画の言葉に慣れてしまっているので、説明するのは難しいのだが、このようなツールを手に入れることは、今後数年間に私たち一般の人たちが作るホームビデオの見た目や雰囲気を大きく前進させることになるだろう。

Appleのポートレートモードが過去6年間で大幅に改善されたように、シネマティックモードも成長し続け、改善されていくことを期待している。低照度下でのかなり雑なパフォーマンスとロックされたズームは、来年に望む改善点のうちの上位に入っているし、セグメンテーションの改善もそのうちの1つだ。リアルタイムのプレビューだけでなく、撮影後の編集モードでもこのようなスライスや調整ができるのは、Appleの技術力の高さを感じるし、今後もその進化を楽しみにしている。

評価

今回のアップデートは、1日がかりの濃厚なディズニーランドへの外出でも、あらゆる面でユーザー体験を向上させるすばらしいものとなっている。明るさと画面のリフレッシュレートが改善されたことで、ディズニーランドシステム内の操作が容易になり、日中でも案内や待ち時間などの視認性が向上している。カメラの性能が向上したことで、行列での待ち時間や高さのある場所からの撮影など、暗い場所から明るい場所への撮影がしやすくなった。また、新たに追加された望遠では、最近は人混みから離れた場所にいるキャストをクローズアップして撮影することができ、ポートレートモードでなくても美しいポートレートレンズとして機能する。

全体的に、園内で携帯電話をテストした今までの経験の中で最も良いものの1つとなった。カメラを使って「すごい!」と思う瞬間が続き、自分のバイアスに疑問を感じたほどだ。上で紹介した「ナイトモード」の広角と望遠の写真のように、印象的な写真がたくさんあったので、ブラインドテストで他の人にこの2つの画像についてどう思うか聞いてみることにした。そのたびに、明らかにiPhone 13が勝っていた。本当に、全体的に画像作りが明らかに向上しているのだ。

他の部分もかなり良いものになった。A15 Bionicのパフォーマンスが大幅に向上したことで、バッテリー駆動時間に目立った影響がないばかりか、1時間も延長された。上述のパフォーマンスチャートを見れば一目瞭然かもしれないが、1日のチップの電力使用量のパフォーマンスは、まさにAppleのチップチームの最も印象的な偉業であり続けている。

2021年のiPhone 13は画質、バッテリー駆動時間、そしてありがたいことにスクリーンの改良など、この先また1年間にわたってAppleに貢献してくれるであろう強固な壁を提供してくれる、すばらしいプロダクトだ。

画像クレジット:Matthew Panzarino

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(文:Matthew Panzarino、翻訳:Akihito Mizukoshi)

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だった

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だったあくまで”個人的に”ではあるが、2021年秋のApple新製品発表会で、最も購買意欲を湧かせてくれたのはiPad miniだった。無論、iPhoneは今回も想像以上にこだわったカメラを搭載しているが、カメラは使いやすさや画質など絶対的な性能に加えて感性領域の評価もあり、必ずしもスペックやプレゼンテーションの内容だけでは結論づけられない部分もある。

しかし第6世代iPad miniは、スマートデバイスを日常的に使う上でそれらの使い方、あるいはiPhoneの買い替えサイクルや製品選びなどをも変える可能性がありそうだ。

例えば近年のスマートフォンは内蔵カメラの画質を訴求してきたが、カメラのアップデートにさほど興味がない、どちらかと言えば動画、電子書籍、ゲームなどを中心に端末を使ってる人にとっては大画面の最新スマートフォンに買い替えるよりも、iPhone SEなどのコンパクトな基本モデルとiPad miniの組み合わせの方が使いやすいかもしれない。

あるいはiPadシリーズをタブレットとして使いつつ、シームレスで相互の行き来ができるMacと組み合わせたいという人もいるだろう。MacBook Airが仕事のために必須だが、移動時や待ち時間にはコンパクトなiPad miniを活用したいなら、両方を持ち歩くというのも悪くはない。

iPad miniの300グラムを切る重量は、大型のスマートフォン2台ぶん程度。これをどう考えるかだが、コロナ禍で変化したライフスタイルの中で、スマートフォン、パソコン、タブレットの関係性、使いどころを考え直す機会になるかもしれない。

関連記事:5分でわかるiPhone 13シリーズまとめ。iPad mini(第6世代)やApple Watch Series 7も発表

当面は現役で活躍してくれそうなパフォーマンス

電源ボタンにTouch IDを搭載する

電源ボタンにTouch IDを搭載する

第6世代iPad miniのハードウェアとしての概観を、極めて大雑把に説明するならばiPad Airをほぼそのまま小さくしたものだ。パフォーマンスの面ではiPad Proに劣るもののiPad Airよりも強力で、1世代前のA12Zを搭載するiPad ProよりもSoC性能は高い。

12MP広角カメラを備える

12MP広角カメラを備える

搭載されるSoCは最新のiPhone 13シリーズと同じA15 Bionicとなるが、A15 BionicにはGPUが5つのバージョンと4つのバージョンがある。5 GPUバージョンはiPhone 13 ProシリーズとiPad miniに。4 GPUバージョンはiPhone 13(およびmini)に搭載される。

新しいGPUはコア数が増加しただけではなくアーキテクチャや動作クロック周波数も上昇してパフォーマンスが上昇。Neural Engineをはじめとした機械学習処理のアクセラレータも強化されている。このあたりはGeekBench 5とGeekBench ML(機械学習処理のベンチマーク)のスコアを掲載しておくので参考にしていただきたい。

興味深いのは同じ5 GPU版のA15 Bionicでも、iPad miniとiPhone 13 ProではCPUのスコアが違うこと。これはiPad miniではCPUが3GHzで動作しているのに対し、iPhone 13 Proでは3.2GHzで動作しているからだ。

これについてAppleは理由を明らかにしていない。熱の制御なのか、それとも意図しての制限か。しかし、過去の製品の例からすると、おそらくラインナップや価格差などを差別化したものではないだろう。

何らかの理由で、iPad miniではCPUとGPUの性能のうちGPU性能を重視したということなのだと推察されるが、ひとつにはiPad miniをAppleがポータブルゲーム機としても訴求していることと関係しているかもしれない。

現代のSoCは電力をどこに使うかを制御しながら全体のパフォーマンスを形作ることが多いが、iPad miniの場合は(スマートフォンに比べ)十分に高速なCPUパフォーマンスを確保しつつ、画面が大きなiPad miniの画面に見合うGPUパフォーマンスを割り当てたかったではないだろうか。

インターフェースはUSB-C

インターフェースはUSB-C

いずれにしろ、ミニタブレットというジャンルは低価格を意識した製品が大多数で、このモデルのようにパフォーマンスがトップクラスというモデルはない。言い換えればライバルは不在で、当面はパフォーマンス不足を感じずに済むと言える。

高価なミニタブレットと考えるか、最高のMac製品のパートナーと考えるかで評価が分かれる

ところで本機はiPadシリーズとしては初めて、ディスプレイの縦横比が4:3ではない製品となる。そのため縦横比4:3で固定されたアプリを使う場合は少しだけスクリーンが余るのだが、実使用上、気になる場面はほとんどなかった。

今後の話では縦横比が変化しても問題なく動作するアプリが順次増えていくだろう。さらに未来の話をすれば、iPad Proなどにも縦横比が異なる(今回のiPad miniは16:10よりも縦長で3:2よりも横長)サイズの製品が登場する可能性もありそうだ。

そうした従来のiPadシリーズと少し異なる部分はありつつだが、サイズやスピーカー構成の違いを抜きにすれば、前述のとおりiPad miniはiPad Airを小型化した上で最新のSoC搭載で高性能化した製品である。

12.9インチiPad Proと重ねたところ

12.9インチiPad Proと重ねたところ

となると、サイズが小さいとはいえ、約6万円からという価格も納得の設定だ。あらゆる体験がコントロールされた最高峰のタブレットと同等の品質をそのまま電子手帳ライクなフォーマットに落とし込んでいるのだから、大昔の電子手帳大好き世代にはたまらなく夢のある製品だろう。

ただ、ミニタブレットというジャンルに6万円は払いにくいという意見があることも理解はできる。実際のところ、Apple製品の中でも「mini」という名前が付く製品は、iPhoneを含めてかなり苦戦している。スタートダッシュは良いが、一部の小型製品ファンにはウケるものの、長続きしないのが現実。そうした人の目からは”高価なミニタブレット”と映るかもしれない。

しかし、冒頭で言及したようにMacとの連携は極めて良好で、それはiPhoneとの使い分けでも同じだ。Hand Offを使えば、それぞれの作業の続きを別の端末で継続できるし、Macを使っているならば外出先でのiPad miniとの連携は魅力的だと思う。いや、個人的にはそこがこの製品のキモだろうと。生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だった

これこそがAppleの狙いなのである。業界標準に準拠しつつも、自社製品の間は密にOSレベルで結合していく。高価なミニタブレットと考えるなら、大ヒット商品とはならないかもしれない。しかし、MacやiPhoneのオーナーが併用する端末として価格を考えずに評価するならば、バッテリー持ちが良く閲覧性の高い、そして5Gモデムを持つ端末として面白い位置付けにある製品だと思うのだ。

いにしえの電子手帳を最新の技術で作り直したなら

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だった古いAppleのファンならばNewtonという端末を覚えている人も少なくないだろう。Newtonは個人のあらゆる行動をサポートするコンパニオンになるはずだった。ちなみに開発に協力していたシャープは、Newtonと同じOSを導入したGalileoという端末を発売する予定だった。

Newtonとは何かといえば、それは電子手帳の発展版だ。手帳だけにさっと記録し、アイディアを書き留めておき、ほとんど意識しないうちにデータが同期されている。そんなイメージで考えればいいかもしれない。

一方で、iPad miniは全てのiPadアプリとiPhoneアプリが動作する手帳スタイルの高精度なペン入力が可能な端末。ペン入力といってもメモ書きを書くレベルではなく、絵を描くレベルの製品だ。

生まれ変わったiPad mini 第6世代は「いにしえの理想的な電子手帳」を超える存在だったもし、いにしえの電子手帳を最新の技術で作り直したなら──そんな想いがよぎるが、当時想像していた製品はこれほど完成度が高くなかった。本機が必要、欲しい人は、自分自身で判断できていることだろう。

iPad miniは唯一無二の存在だが、その重要性は使い方による。毎日持ち歩く電子ステーショナリーとしてならば買って損はない製品だ。

(本田雅一。Engadget日本版より転載)