Masterworksが物理的なアートを細分化した証券として販売(ただしNFTではない)

トップクラスの伝統的な資産市場の中で、投資家が所有を多様化しようとするにつれて、より多くのテクノロジー対応プラットフォームが出現し、各自が有力なオルタナティブ投資プラットフォームであることを主張している。著名な芸術家の絵画やその他の作品を細分化した証券として販売するスタートアップ企業のMasterworks(マスターワークス)がユニコーンの評価を得た。同社は人びとのポートフォリオにファインアートを加えさせる市場を掌握しようとしている。

米国時間10月5日、Masterworksは、10億ドル(約1116億円)を超えた評価額の下でシリーズAラウンドを行い、1億1000万ドル(約122億7000万円)の資金調達を行ったことを発表した。今回のラウンドは、ニューヨークを拠点とするベンチャーファンドLeft Lane Capitalが主導し、Galaxy InteractiveやTru Arrow Partnersなどが参加した。

ここ数年、オルタナティブ資産は大きなビジネスになっている。これは、公開市場が沸き立ち、投資家があまり伝統的ではない市場でより大きなリターンを求めようとしているためだ。オルタナティブ資産クラスは多岐にわたるが、未使用のNINTENDO64のカートリッジ、ポケモンカード、エアジョーダン、NFTといったものが並ぶ市場の中では、ファインアートは比較的伝統的なセグメントを占めていて、その利点や欠点をより予測しやすい。

「資産クラスとしてのアートは、(年頭にファンドの空売りで有名になった)GameStopやNFTのようなものではなく、最終的なリターンがかなり予測可能なのです」とCEOのScott Lynn(スコット・リン)しはTechCrunchに語っている。「たとえばこれらの絵画に投資しても、投資額の10倍のリターンを得ることは決してできませんが、投資額の90%を失うこともないでしょう」。

つまり、Masterworksは新進気鋭の画家を支援するプラットフォームではなく、作品の価値がマーケットで認められたアーティストに全面的に投資しているのだとリン氏はいう。彼は「私たちは、美術品市場の中で投資可能なセグメントは、一般的にいって、100万ドル(約1億1000万円)以上の絵画だけだと考えています。この場合投資可能という言葉の意味は、予測可能なリターンを生み出すものという意味ですけれど」と説明した。

Masterworksは、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、ジャン・ミッシェル・バスキア、草間彌生などの著名な現代アーティストの絵画を多数購入・保管し、SECに登録された適格公募による証券として販売している。公募の終了後は投資家がその証券を二次市場で売買することができるようになる。証券保持者は、Masterworksが最終的に絵画を販売したときに支払いを受け取る。スタートアップは、それらの絵画を販売することで利益を得ているが、絵画が売れるたびに利益の20%を得るとともに、各作品に対して年1.5%の管理料を受け取っている。

スタートアップは、多額の投資資金を持った投資家を追いかけ続けている。リン氏によれば、平均的な投資家は、対象の絵画それぞれに5000ドル(約55万8000円)以上を投資し、生涯では約3万ドル(約334万8000円)を投資するという。

画像クレジット:Mike Steele / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Lucas Matney、翻訳:sako)

WebOpsプラットフォームのPantheonが予定より1年前倒しでSoftBank Vision Fundから約110億円調達

WebOps SaaSプラットフォームのPantheonは何年も前にDrupalとWordPressをホストする企業として発足した。Pantheonが2021年7月中旬、Softbank Vision Fund単独によるシリーズEラウンドで1億ドル(約110億)を調達したと発表した。このラウンドでPantheonの評価額は10億ドル(約1098億円)を超え、同社はユニコーン企業としての地位を手に入れた。

Pantheonの共同創設者兼CEOであるZackRosen(ザック・ローゼン)氏は、同社は特に急いで資金調達をする必要に迫られていたわけではなかったと語った。「今回得た資金は、現在私たちが取り組んでいることにさらに弾みをつけるのに役立てることになります。当社は銀行にたくさんの現金を持っているので、今後 1年か2年で資金調達する予定ではあったのですが、今すぐに資金調達が必要だったわけではありませんでした。しかし、私たちはこの業界がどこに向かっているのかについて確信を持っており、お客様のニーズもかなり明白であることから、資金調達の時期を6カ月から1年前倒しし、すでに遂行計画に入っている事柄を加速するチャンスとしてこの機会を活用することにしました」。

ローゼン氏のいう通り、企業ウェブサイトの役割はPantheonが約12年前に発足した当時とはだいぶ変容してきている。もともと企業ウェブサイトはブランドの確立やニュース発表の経路を確保する役割を果たしていたが、昨今ではウェブサイトはダイレクトに収益に結びついている。「最近では、企業の担当者がお客様と商談する前に、購入決定の大半がなされています。あらゆる調査がウェブサイトを閲覧することで完了しているのです。広告内のリンクや電子メール内のリンクも、お客様をウェブサイトにつなぎます。ウェブサイトは最も重要なデジタル製品なのです。マーケティング担当者はウェブサイトをこのように捉え始めています」。

このため、ホスティングとパブリッシングで問題が解決することがある一方で、Pantheonは今後、企業のウェブサイトを通じて収益を上げそれを測定する、という部分に多くのチャンスがあると見ている。もちろん、同社のサービスの中心は依然としてサーバーレスホスティングプラットフォームであり、サービスの主な対象者は開発者である。しかし、同社が現在投資している多くの事柄を促進しているのはマーケティングチームと開発者によるコラボレーションである。「最高クラスのデジタルサービスを日々繰り返しお届けし、さらにデザイナー、開発者、ウェブサイトの所有者、プロジェクトマネージャーとともに作業していくには、その作業を記録するシステムが必要です。そうしたチームには確実なワークフローが必要なのです」とローゼン氏は語った。

企業は、高性能ホスティング、CDN、およびウェブサイトをホストするための重要な要素に加え、そうしたワークフローを提供してくれる信用のおけるSaaSプラットフォームを探しているとローゼン氏はいう。「チームはそうしたことを考えるのをやめたいと望んでいます。彼らが必要としているのはパートナーであり、Stripe、Twilio、SalesforceといったSaaSアプリケーションです。彼らはそれらを機能させることを望んでいるのであり、そのために気持ちを煩わせることは望んでいません。ですから、それを管理してくれるサービスがあれば、チームが関心を持っている結果を促進する物事に力を注ぐことができます」。

画像クレジット:Pantheon 

SoftBank Vision Fundの投資先にはByteDance、Perch、Redis Labs、Slack、Arm(そして悪名高いWeWork)などがある。そうしたSoftBank Vision Fundからの資金調達について、ローゼン氏はPantheonには、投資元についていくつか選択肢があったのだが、最終的にSoftBankのチームが「このカテゴリーの有力な信奉者」であり、Pantheon がWebOpsカテゴリーを明確なものにしていくにあたり必要な規模に到達するのを、SoftBankがサポート可能であると判明したのだと述べた。

SoftBank Investment AdvisersのパートナーであるVikasParekh(ビカス・パレック)氏は次のように述べている。「デジタルトランスフォーメーションが重要なビジネスインフラのクラウドへの移行を加速しました。私たちは、Pantheonの一流のプラットフォームが、SaaSサービスを通しワークフローと自力での作業を自動化することによって、最新のウェブサイトエクスペリエンスがどのように生み出されるか、その方法を変革していっていると確信しています。私たちはローゼン氏およびPantheonチームと提携して、同社の志をサポートするのをとてもエキサイティングなことだと感じています。Pantheonは、企業が結果を生み出すウェブサイトを構築するための新たな、そしてより優れた方法を提供することを目指しているのです」。

画像クレジット:Pantheon

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Dragonfly)

Salesforceがインドの決済ユニコーンRazorpayに投資、世界2位のネット市場インドへの戦略的投資続く

2021年4月の資金調達ラウンドでの評価額が30億ドル(約3285億円)だったベンガルールを拠点とする創業6年のフィンテックRazorpay(レーザーペイ)は、またも著名投資家を獲得した。Salesforce Ventures(セールスフォース・ベンチャーズ)だ。

Razorpayは米国時間9月20日、米大企業Salesforceのベンチャー部門から「戦略的出資」を受けたと明らかにした。資金は「ビジネス取引向けの銀行業務分野でプレゼンスをさらに高める」のに役立つ、とRazorpayは述べた。

Razorpay、Salesforce Venturesいずれも出資の規模は明らかにしなかったが、Sequoia Capital Indiaの支援を受けているRazorpayは、今回の取引が「業界に効果的に貢献し、今後12カ月で十分なサービスが提供されていない零細事業者にサービスの浸透と経済成長をもたらす」と話した。

Razorpayは零細事業者や企業やのためにオンラインでお金を受け取ったり処理したり、支払ったりしている。つまり、Stripe(ストライプ)が米国やその他いくつかの先進国マーケットで行っているすべてのことを引き受けている。しかしRazorpayはそれ以上のものを提供している。同社は近年、法人クレジットカードを発行するためにネオバンキングプラットフォームを立ち上げた。また、事業運転資金も提供している。

世界の大企業Stripeがまだインドに進出していない中で、Razorpayは業界リーダーになるまでに成長し、東南アジアマーケットへ事業を拡大し始めた。

「Razorpayは、インドのデジタルの未来に投資し、新世界のために賢い決済・バンキングインフラを構築するというアイデアをさらに前進させたいと考えています。Salesforce Ventures、Salesforceとインドでさらに広範に提携することをうれしく思います」とRazorpaymp共同創業者でCEOのHarshil Mathur(ハーシル・メイサー)氏は述べた。

「この資金は、既存投資家からのサポートとともに、手間要らずで統合が簡単な決済・バンキングエクスペリエンスのためのエコシステムを構築するのに役立ちます。当社はまた、事業を拡大して新プロダクトを構築し、このエクスペリエンスを東南アジアの事業者にも届けることを願っています」。

今回の取引はSalesforce Venturesにとってインドのスタートアップへの2回目の投資となる。同社は2021年初め、ハイデラバードを拠点とするDarwinboxの1500万ドル(約16億円)の資金調達ラウンドをリードした

関連記事:Salesforce主導でインドのHRプラットフォームDarwinboxが15.6億円調達、アフリカ進出も検討

「『現金決済の機会がより少ない』経済に向けた動きはパンデミックで加速しました。デジタル決済における2020年の急速な成長はテクノロジーイノベーションの扉を開け、Razorpayは多くのeコマース事業者に選ばれる企業として頭角を現しました」とSalesforce Indiaの会長兼CEOのArundhati Bhattacharya(アルンダティ・バッタチャリヤ)氏は述べた。

「インドだけでなくグローバルでデジタル金融を変革させようとしているRazorpayをサポートすることを楽しみにしています」と2020年Salesforce Indiaに加わったばかりのバッタチャリヤ氏は付け加えた。

1年前にユニコーンになったRazorpayはこのところ毎月40〜45%成長しているという。情報筋によると、同社は現在、新たな資金調達ラウンドを計画しており、現在を大幅に上回る評価額を交渉している。

Google(グーグル)やFacebook(フェイスブック)、Microsoft(マイクロソフト)などを含む多くの大企業が、世界第2位のインターネット市場であるインドへの戦略的投資を追求し始めた。Microsoftはインドの格安ホテルチェーンOyo(オヨ)と戦略的取引を結んだと2021年9月、明らかにしている。

関連記事:マイクロソフトがインドのOyoへの出資を正式発表、旅行・ホスピタリティ製品の共同開発へ

Tiger Global、Falcon Edge Capital、Temasek、SoftBank Vision Fund 2、Coatue Managementといった数多くの著名なグローバル投資家がインドでの投資のペースを加速させているのにともない、インドは2021年これまでに過去最多となるユニコーン27社を生み出し、2020年の11社を上回っている。そしてユニコーンのリストは増え続けている。また、先にTechCrunchが報じているように、a16zのインド暗号資産スタートアップCoinSwitch Kuberへの投資の交渉はかなり進んでいるという

画像クレジット:Razorpay

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

コレクター向けのライブストリーミングショッピングアプリWhatnotが約165億円を調達、ユニコーン企業に

レアなポケモンカードやFunko Pop(ファンコ・ポップ)などのコレクター向けのライブストリーミングショッピングプラットフォームを提供している「Whatnot(ワットノット)」は、2021年だけで3回目の資金調達となるシリーズCの1億5000万ドル(約164億9600万円)を獲得した。今回のラウンドでWhatnotの評価額は15億ドル(約1648億9300万円)に達し、増え続けるユニコーン企業のリストに名を連ねることとなった。

では「Whatnot」とはどんなアプリなのか?このアプリは、米国でInstagram(インスタグラム)などのプラットフォームで人気が高まっていた(中国ではすでに大きな人気を博していた)ライブショッピングというトレンドに着目している。認証された出品者は、アプリを使っていつでも生中継を開始でき、その場で商品のビデオオークションを開催することができる。購入者が何を購入しているのか把握している場合もあれば、ときにはミステリーバッグのように何が手に入るのかわからない場合もある。例えば、ポケモンカードやスポーツカードの未開封の箱の一部をユーザーが購入し、その中身をライブで公開する「カードブレイク」というコンセプトが人気だ。

今回のラウンドでは、投資家のa16zとY Combinator(Yコンビネーター)のContinuity Fund(コンティニュイティー・ファンド)に加えて、新たにCapitalG(キャピタルG)(Google / Alphabetの社名変更前は「Google Capital」として知られていた)が出資した。また、エンジェル投資家として、Golden State Warriors(ゴールデンステート・ウォリアーズ)のAndre Iguodala(アンドレ・イグダラ)氏、New Orleans Pelicans(ニューオーリンズ・ペリカンズ)のZion Williamson(ザイオン・ウィリアムソン)氏、ユーチューバーのLogan Paul(ローガン・ポール)氏など、有名どころが加わっている。このラウンドに関する最初の情報は、先週、The Information(インフォメーション)で報じられた。

Whatnotはもともと、一般的な(ライブ感の少ない)再販用のプラットフォームとしてスタートし、当初は、Funko Popの公式コレクターズアイテムのみに絞っていた。しかし、パンデミックの影響で誰もが家に閉じこもりがちになったことを受け、同社はライブショッピングに力を入れ、その結果、急成長を遂げることとなった。

その間に、同社は急速に取り扱う範囲を拡大し、Funko Popだけでなく、ポケモンカード、ピンバッジ、古着、スニーカーなど、あらゆる種類のコレクターズアイテムを扱うようになった。Whatnotの共同設立者であるGrant Lafontaine(グラント・ラフォンテーヌ)氏によると、同社で最も人気なカテゴリーはスポーツカードであり、次にポケモンとFunko Popが続くという。Whatnotでは、各カテゴリーにおいて、それぞれのコミュニティですでに知られ、信頼されている販売者を採用することを重視している。参加している各ストリーマーは、ライブを開始する前に同社によって審査されているため、不正行為を最小限に抑えることができる。なにか怪しいことをすれば、同プラットフォームから追い出され、自分の評判を落とすことになるだけだ。

その他、ラフォンテーヌ氏との会話からいくつかのポイントを紹介する。

  • 展開できるカテゴリーは「数千」にのぼるという。今、取り組んでいるのは NFT(非代替性トークン)だ。ストリーマーは、自分のNFTをWhatnotに取り込み、画面に表示したり、ライブストリームの中に(静的またはアニメーションの)オーバーレイとして取り込むことができる。ユーザーは、画面に表示されたNFTをタップすると、そのメタデータが表示され、NFTの詳細を確認することができる。
  • 同氏によると、現在、このプラットフォームには「数千人のアクティブなライブストリーム販売者」がいるという。
  • 同社のGMV(プラットフォーム上で販売されたすべての商品の合計金額)は、2021年の初めに行われたシリーズAの時点から30倍に増加している。Whatnotは販売額の8%を受け取る。
  • 同社は現在「プレビッディング(事前入札)」機能の導入を進めている。これは、ライブストリームが始まる前に、ユーザーが欲しいと思っている商品に入札することができるというものだ。例えば、ユーザーがあるものを欲しがっていて、それを入札したいと思っているものの、ライブを見ることができない場合などを想定している。もちろん、他の人が入札に参加することも可能だ。
  • 同社は近日中に、iOSとAndroidの両方のアプリを全面的に再構築し、買い手と売り手の両方にとって利用プロセス全体がよりスムーズで簡単になるような、新しいUIを採用する予定だ。ラフォンテーヌ氏は「来週か再来週」にはすべてのユーザーにこのアプリが提供されると期待している。

今回のラウンドにより、同社の資金調達額は2億2500万ドル(約247億4600万円)となり、そのほとんどが2020年中に調達されたものだ。一方、この分野での競争は激化している。「Popshop(ポップショップ)」のような競合企業は、自社のプラットフォームのために数百万ドル(数億円)の資金を調達しており、マイアミの「Loupe(ルーペ)」は、スポーツカードのライブ販売に焦点を当て、6月に1200万ドル(約13億1900万円)を調達した(近日中に実店舗をオープンする予定)。さらに、既存の大手企業もこの分野に参入しようとしている。YouTube(ユーチューブ)はライブショッピングのコンセプトを取り入れており、Amazon(アマゾン)もライブセッションを開催するインフルエンサーを招いている。言い換えれば「この領域に注目せよ」ということだ。もしかしたら、この競争そのものもライブストリームで見られるかもしれない。

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画像クレジット:Whatnot

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(文:Greg Kumparak、翻訳:Dragonfly)

スマートニュースが約251億円調達、企業価値約2200億円超えの「ダブルユニコーン」に

東京拠点のニュース集約サイトアプリのSmartNews(スマートニュース)は、Apple Newsといった標準のニュースサービスとの厳しい競争にもかかわらず成長を続けている。米国時間9月15日、同社は2億3000万ドル(約251億4000万円)のシリーズFラウンドを完了したことを発表した。この結果、スマートニュースの総調達額は4億ドル(約440億円)を超え、会社評価額は20億ドル(約2200億円)に達した。同社は誇らしげに「ダブルユニコーン」だという

出資したのは米国のPrinceville CaptalとWoodline Partnersに加え、日本からJIC Venture Growth Investments、Green Co-Invest Investment、およびYamauchi-No.10 Family Officeが参加した。既存の出資者でこのラウンドに参加したのはACA InvestmentsとSMBC Venture Capitalだ。

2012年に日本で創業したスマートニュースは、2014年に米国に上陸し、2020年初めにローカルニュースの提供範囲を拡大した。同アプリのコンテンツチームには元ジャーナリストたちがいるが、読者の体験をパーソナライズするために機械学習を用いて記事を選別している。しかし、アプリの大きな差別要因の1つは、ユーザーのフィルターバブルを割るために、ユーザーがさまざまな政治的観点のニュースを読める「あらゆる立場からのニュース(News From All Sides)」機能を提供していることだ。

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同社は他にも、ワクチンのダッシュボードや米国選挙のダッシュボードといった新サービスを通じて重要な情報をひと目で見られるようにしている。追加された資金を使って、消費者の健康と安全に焦点を当てた機能を、米国ユーザー(日本以外では最大)向けにさらに開発するつもりだと同社はいう。新機能は今後数カ月のうちに公開予定で、山火事の最新情報や犯罪・安全レポートなどがある。ハリケーン追跡も最近始めた。

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スマートニュースのビジネスモデルは主として広告に焦点を当てている、と以前同社は語っており、米国ユーザーの85~90%はサブスクリプションを購入していない。しかしスマートニュースの信条は、有料無料に関わらずニュース利用者は質の高い情報をアクセスする権利があるということだ。

現在、スマートニュースは、全世界で3000以上のパブリッシングパートナーと契約していて、ウェブおよびモバイルアプリを通じてそのコンテンツを提供している。

収益を生むために、同社はインライン広告とビデオ広告を販売しており、収益はパブリッシャーと分配する。パブリッシングパートナーの75%以上が、同社の「SmartView(スマートビュー)」を活用している。これはアプリの速読モードで、Google AMPなどに代わるものだ。ユーザーはオフラインのときでも記事を読むことができる。同社はパブリッシャーに対して、稲妻アイコンがつけられたこれらのモバイルフレンドリーな記事は、高いエンゲージメントを得られると約束している。同社のアルゴリズムはこの種のコンテンツを多くの読者にむけて表示することでパブリッシャーに報いている。SmartViewのパートナーの中にはは、USA Today(ユーエスエー・トゥデー)、ABC(エービーシー)、HiffPost(ハフィントン・ポスト)などの有名ブランドも入っている。現在、スマートニュース全体のページビューのうち70%以上がSmartViewからのものだ。

スマートニュースのアプリは非常に粘着性があり、ユーザーの注意を引き寄せて維持する力が強い。同社はApp Annieの2021年7月のデータを引用して、米国モバイルデバイスでの月・ユーザー当たりの平均利用時間がGoogleニュースとApple Newsを合わせたよりも多かったという。

App Annieのデータ(画像クレジット:スマートニュース)

会社は月間アクティブユーザー数(MAU)の公表を拒んだが、2019年に米国と日本を合わせて2000万人に成長したという。そしてこの日、米国のMAUが2020年2倍に増えたと同社は述べた。

Apptopia(アップトピア)から提供されたデータによると、スマートニュースアプリは2014年10月の公開以来約8500万回ダウンロードされていて、うち1400万回は過去365日間に行われている。インストールが一番多いのは日本で、生涯ダウンロード数の59%を占めていると同社はいう。

「この最新の調達ラウンドを活かし、私たちのミッションの強さを一層確実にするとともに、とりわけ米国におけるプレゼンスを高め、米国のユーザーとパブリッシャーにアピールする機能を提供していきます」とSmarNewsの共同ファウンダーでCEOの鈴木健氏は語る。「私たちの米国や海外の投資家は、情報へのアクセスを民主化し、消費者、パブリッシャー、広告主全員の役に立つエコシステムを作るスマートニュースの取り組みの膨大な成長の可能性と価値を認めています」と付け加えた。

新たな資金は米国での成長を拡大し、会社のチームを強化するために投資すると同社はいう。2019年にユニコーンになった前回の資金調達以来、同社は従業員数を2倍以上に増やして全世界で約500名になった。現在米国内の人員100名を2倍にする計画で、エンジニアリング、プロダクト、および管理職を追加する。

The Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)は、スマートニュースがIPOを計画していると報じたが、同社はこれについてのコメントを拒んだ。

スマートニュースアプリはiOSとAndroidで世界150か国以上で利用できる。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ユニコーン企業のオンライン学習プラットフォームQuizletがIPOを準備中

10億ドル(約1099億円)と評価されてから約1年、人工知能で動く個別指導プラットフォームに変わったフラッシュカードツールのQuizlet(クイズレット)は新規株式公開を計画している。この件に詳しい人物によると、Quizletの株式公開の準備はかなり進んでいる。直近の求人情報では、同社は「IPOを目指すのにともない、財務システムとプロセスの構築をサポートする」上級職の人材を求めている。

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TechCrunchへの電子メールで、サンフランシスコ拠点のQuizletはコメントを却下した。同社は具体的な売上高や、収益をあげているかどうかなどについて多くを語らなかった。まだ未公開である同社は2020年、売上高は年100%成長していると述べた。ウェブサイトでは、月間の学習者は6000万人で、2018年の総数から1000万人増えたとしている。

Quizletはシェアするのも使うのも簡単なプロダクトで大規模なビジネスを構築した。同社の無料のフラッシュカードメーカーでは学生が試験に備えるためにトピックの学習参考書を回すことができる。そうした知見はQuizlet Plusにつながっている。Quizlet Plusは同社のサブスクプロダクトで、年額47.88ドル(約5300円)で個別指導サービスを含むその他の機能にアクセスできる。

同社のCEOであるMatthew Glotzbach(マシュー・グロッツバッハ)氏によると、Quizlet LearnというQuizletの個別指導部門は最も人気のサービスだ。学習者がシステムを使っているとき、Quizlet Learnは学習者がどこで間違えたのか、そしてどこで進歩したのかを常に査定する。

「明らかにこれは人間に取って代わっておらず、またそこに近づいてもいませんが、参考書を提供して正しい方向を示し、正しい場所で時間を費やせるようにサポートできます」とグロッツバッハ氏は話す。「目標を定めるのをサポートすることでさえ、学習における重要なステップです」。

直近では同社は、人気の教科書の問題セット向けのステップバイステップの解答ガイドを提供する「説明」の立ち上げを発表した。この機能は「専門家によって書かれ、検証されて」おり、「学生が演習し、学習したことを自分で応用できるよう、練習問題で根拠と思考過程の理解」をサポートすることを目的としていると声明文で説明した。全面的なブランド変更の中で、同社はまた不運な前任者からQを取り戻した

Quizletの新規株式公開に向けた静かな歩みは、ゆっくりとしたものだが着実だった。同社は15歳だったAndrew Sutherland(アンドリュー・サザーランド)氏によって2005年に創業された。2015年までは事業は自己資金で賄われた。その後、YouTubeの幹部だったグロッツバッハ氏が2016年に加わった。同社にはまだCFO(最高財務責任者)がいないようだが、これは株式公開しようとしている企業にとっては珍しいことだ。

Quizletはベンチャーキャピタル6200万ドル(約68億円)の大半をグロッツバッハ氏のもとで調達した。現在、同社の投資家にはGeneral Atlantic、Owl Ventures、Union Square Ventures、Costanoa Ventures、Altos Venturesなどがいる。

Quizletの株式公開の追求は、他のEdTech企業が市場の受容性をこの部門で示している中でのものだ。例えばDuolingo(デュオリンゴ)も消費者向け教育の会社だ。ただしQuizletが幅広い学習内容になっているのに対し、Duolingoは1つの分野にフォーカスしている。Duolingoは7月に株式公開し、現在は始値を上回る1株あたり169.75ドル(約1万8660円)で取引されている。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nariko Mizoguchi

カーシェアリングのTuroがユニコーンになり秘かにIPOを申請

ピア・ツー・ピアのカーシェアサービスTuroが、秘密裏に米国証券取引委員会(SEC)にIPOを申請した。

このIPOの発行株数や価格範囲は未定、と同社は声明で述べている。TechCrunchにも、それ以上の情報は明かしていない。

創業11年になるTuroのマーケットプレイスはAirbnbと似ており、クルマのオーナーがTuroのアプリやウェブサイトで自分のクルマの貸出を公示する。現在、Turoのカーシェアを利用できる都市は米国、カナダ、英国の計5500都市あまりだ。Turoは元々、Daimler AGのカーシェア子会社Crooveの買収と投資から生まれたドイツの企業だが、今はドイツにはない。

同社は2019年7月にシリーズEで2億5000万ドル(約276億6000万円)を調達し、それが同社をユニコーンに押し上げ、CEOのAndre Haddad(アンドレ・ハダド)氏はブログで「評価額が10億ドル(約1106億3000万円)のラインを超えた」と言っている。Turoは2月に、そのフォローアップとして3000万ドル(約33億2000万円)の拡張ラウンドを調達し、調達総額は5億ドル(約553億1000万円)を超えた。

Turoはパンデミックの間に、BirdやGetaroundなど、その他の交通系スタートアップと同様、かなり苦しんだ。2020年の3月には従業員の30%、108名をレイオフしたと調査会社Layoffs.fyiはいう。

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カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:カーシェアリングピア・ツー・ピアTuroIPOユニコーン企業

画像クレジット:Turo

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

コロナ学校閉鎖でEdTech激戦地と化したインドのupGradがユニコーン企業の仲間入り

ベンガルールを拠点とする、高等教育およびスキルアップコースに特化したEdTechスタートアップのupGrad(アップグラッド)は、インド時間8月9日に実施された1億8500万ドル(約204億円)の資金調達ラウンドで評価額が12億ドル(約1324億円)に達した。これは、世界第2位のインターネット市場であるインドで、グローバル投資家が同国の企業に記録的な資金を投入している中でのことだ。

今回の資金調達ラウンドは、シンガポールの政府系ファンドTemasek(テマセク)が主導し、世界銀行の国際金融公社(International Finance Corporation, IFC)とIIFLが参加した。シリーズが特定されていないこのラウンドの最初のトランシェ(約1億2000万ドル、約132億円)は、2021年4月に6億ドル(約661億5000万円)以上の評価額で完了していた。

upGrad共同創業者のRonnie Screwvala(ロニー・スクリューバラ)会長は、声明の中で「資金調達を開始して以来、投資家の方々の関心が高まっていることに満足しています。この60日間で、Temasekから最初の出資を得たのち、続いてIFC、IIFLからも資金調達を行いました」と述べている。

創業6年目のupGradは、ここ数カ月の間に国際市場での展開を推し進めており、ミシガン州立大学、インド工科大学マドラス校(IIT Madras)、インド工科大学デリー校(IIT Delhi)、Swiss School of Business Management(ジュネーブ)などの大学と連携して、データサイエンス、機械学習(ML)、人工知能(AI)、ブロックチェーン、金融、プログラミング、法律などの分野で100以上のコースを学生に提供している。

画像クレジット:upGrad

同社によればこれまでに、40カ国以上から100万人以上のユーザーがこのプラットフォームのコースにアクセスしているという。upGradのウェブサイトによると、6万2000人以上の有料受講者がいるとのこと。これらのコースの費用は3300~6750ドル(約36万〜74万円)で、期間は6カ月~2年だ。

インドではパンデミックによる学校閉鎖の影響で学習のオンライン化が進んでおり、upGradはインドの数多くの教育関連スタートアップの中でも、ここ数四半期で急成長を遂げている企業の1つだ。

ソフトバンクとTiger Global(タイガー・グローバル)が出資するUnacademyは、8月2日に発表した4億4000万ドル(約485億円)の資金調達で34億4000万ドル(約3795億円)と評価された。GGV Capitalが支援するVedantuは、同社がユニコーンの称号を得るであろう新ラウンドの最終調整に向けて交渉が進んでいると、先にTechCrunchが報じている。過去1年ほどで15億ドル(約1655億円)以上を調達したByju’s(バイジュース)は、インドで最も価値のあるスタートアップだ。

スクリューバラ氏は、upGradはこの新たな資金を活用して、M&Aの機会を探ると述べている。同氏は南アジア市場におけるケーブルテレビ事業の先駆者であり、ボリウッドの大ヒット作品もいくつか制作した人物だが、2013年には自身が所有するエンターテインメントコングロマリットUTVを企業評価額14億ドル(約1545億円)でディズニーに売却した。

2020年にユニコーンとなったインドのスタートアップ企業は11社あったが、それから増し、upGradは2021年21社目のインド発ユニコーンだ。最近では、Tiger Global、SoftBank Vision Fund 2(SVF2、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2)、Falcon Edge、Temasekなどの著名投資家が、インドへの投資を倍増させている。

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カテゴリー:EdTech
タグ:インドupGradユニコーン企業資金調達オンライン学習

画像クレジット:SUJIT JAISWAL / AFP / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】ドイツのベンチャーキャピタルが離陸するには政府がブレーキを解除する必要がある

編集部注:本稿の著者Uwe Horstmann(ウーヴェ・ホルストマン)氏は、ベルリンを拠点とするベンチャーキャピタルProject A Venturesの共同設立者兼パートナー。

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現在ドイツは、世界的な競争力を持つベンチャーキャピタル市場の構築において、ヨーロッパの近隣諸国に遅れを取っていると言える。しかし、今後の5年間はドイツのベンチャーキャピタルセクターにとって大変に大きな影響をもつと予想され、その将来は非常に明るいと筆者は考える。

ドイツのスタートアップが2020年に調達した金額は64億ユーロ(約8400億円)にのぼり、これはフランスの57億ユーロ(約7500億円)を上回っている。もう1つの好ましい点は、初期段階の市場に対する国内からの投資と国外からの投資のバランスが健全であることである。シードおよびシリーズAの段階では、ドイツのファンドがドイツのスタートアップへの投資のほとんどを占める。企業が成長すると、海外からの投資重要な役割を担う。5000万ドル(約55億円)以上の資金調達ラウンドの半分は完全に外国人投資家が主導しており、ドイツの投資家によるものはわずか5%で、残りの45%は外国人投資家と国内投資家の混合による投資となる。

筆者はこれをドイツVC市場にとって理想的な状態と考える。優れたイノベーションは、国内のファンドから資金を得、支援を受けている。これらの企業が成長して頭角を表すと、最高の投資家を世界中から引き付けるようになり、ドイツのローカル企業という立場から国際化への道が開かれる。これにより初期段階のスタートアップに投資を行うVCは報酬を獲得し、引き続きドイツ国内のスタートアップに投資する。今後市場が成熟していけば、初期段階だけでなく、成長段階に対しより多くのドイツのVC資金が投資されると筆者は確信している。

見通しは良好である。ドイツ市場は現在大変活発に発展しており、パンデミックでさえ、テクノロジーセクターの根本的上昇傾向にほとんど影響を与えなかった。

ドイツ市場は現在大変活発に発展しており、パンデミックでさえ、テクノロジーセクターの根本的上昇傾向にほとんど影響を与えなかった。

ドイツテックに対する国内外からの投資レベルの高まりに加え、政策立案者はドイツでスタートアップやVCファンドが発展できるような好条件を作り出している。

ドイツ連邦政府は100億ユーロ(約1兆3000億円)の未来基金を立ち上げ、ディープテック未来基金に追加で資金を投入した。これにより、ただちに成長段階の市場により多くの資本が投資されるだけでなく、このような政策はドイツが「ビジネスにオープンであることを示してもいる。イノベーションが社会における具体的な改善につながる、ということをドイツが理解していることを世界に伝える明確なシグナルになるのである。これは、世界中のファンドにとって力強い、歓迎すべきシグナルである。

ドイツは投資家にとってだけではなく、技術者にとっても大変魅力的な国である。ドイツが未来のモデルを提示する中、ますます多くの技術者がドイツへの移住を望むようになっている。

長期的視点からみても状況は良好である。ドイツは製造およびエンジニアリング部門で世界的に有名であり、国内生産を通じて貿易黒字を生み出している数少ない国の1つである。製造およびエンジニアリング部門はイノベーションを通した大々的な飛躍をまだ遂げていない。従って、ドイツのスタートアップは高まりを見せる「インダストリー4.0」イノベーションの活動から、メリットを享受できる大変有利な立場にあり、ドイツの製造業の中心地で生まれたスタートアップが、ベルリンとミュンヘンで増え続ける技術者のプールと融合する準備が整いつつある。

シェアオプションとスピンオフはドイツのスタートアップにとってのアキレス腱だ

ドイツのVCとテック市場は新たな飛躍を遂げる準備が整っている。しかし、大幅な改善が求められる領域が2つある。それは社員株オプションとスピンオフをめぐる規制である。

ドイツは官僚主義に陥っており、それはイノベーションにとっては脅威である。テルサの新しいギガファクトリーの例は、煩雑な行政プロセスがいかにあらゆることをスローダウンさせるかの最新の例である。

ドイツのスタートアップにとって、スタートアップで働く社員が会社の成功から利益を得、またスタートアップエコシステムが自力で発展していくためにも、従業員ストックオプションプラン(ESOP)の 改革は今すぐにも実行する必要がある。

税制上の優遇措置に関する現行法案は、業界のニーズを反映しているとは言えない。例えば、免税措置が適用されるのは設立から10年未満の会社の従業員のみである。従業員が別の会社に移る場合、事前に会社の株式に対する税金を払う必要があり、これは重大な破産のリスクをともなう。これは10年以上が経過していても利益をだすことができないでいるスタートアップが多いからであり、税金は従業員が持ち株から実際に利益を上げたとき、つまり株式を売却したときにのみ支払う形にすべきである。こうしたこともあり、スタートアップは従業員に対し新たなESOPを提供しない。

もう1つの問題はスピンオフである。ドイツはヨーロッパで最も特許出願数が多い国である。しかし、スタートアップが革新的テクノロジーを製品市場に適合させることができない場合が多い。ドイツの大手研究機関からのスピンオフを実行する場合、高額の機関固定費とライセンス料が課されるため、足場を固めるには非常な困難をともなうのだ。ドイツはもっと柔軟に対応し、スタートアップが必要とするスペースと資金を与えるべきである。

スピンオフ時に創設者が直面する固定費や膨大な行政手続きを削減すべきであるし、また投資家は、研究者から創設者に転向した人々に対して、より多くの運営上のサポートや組織上のサポートを提供する必要がある。さらに、VCは、成功するまでに多少時間がかかると目される革新的なアイデアやテクノロジーにもっと投資する勇気を持つべきである。BioNTechは、そうした長期間にわたるサポートが報われた最良の例といえる。

ドイツのユニコーン企業について

現状では、2021年にはすでにドイツで多数の新しいユニコーン企業が登場しておりPersonioMambuSennderGorillasTrade Republicは数十億ドル(数千億円)の評価を得ている。そしてこうしたユニコーン企業の数は今後も増える見通しである。

規制当局が最終的にストックオプションとスピンオフにまつわる官僚的形式主義を取り払うことができれば、ドイツの技術とVC業界は新たな高みに到達することができるだろう。筆者は今後数年間で前向きな変化が起きることを期待し、ドイツにたくさんのユニコーン企業が生まれることを楽しみにしている。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:ドイツVCコラムユニコーン企業

画像クレジット:Jorg Greuel / Getty Images

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(文:Uwe Horstmann、翻訳:Dragonfly)

インドのユニコーン「Zomato」のIPOに世界が注目

フードデリバリーのスタートアップで来週公開市場で取引を開始するZomatoは、ジャーナリストや業界の専門家から、インドで史上最大のテック系株式上場であると言われている。上場によって同社の時価総額は最大86億ドル(約9400億円)に達する可能性があり、投資家は早くから強い関心を示している

同僚のAlex Wilhelm(アレックス・ウィルヘルム)とAnna Heim(アナ・ハイム)がTechCrunchコラムに書いたように、ZomatoのIPO後の成り行きには、Paytm(ペイティーエム)とMobiKwik(モビクイック)という、同じく近日中の上場を目指しているインドのフィンテック・ユニコーンの2社を始めとする100社ほどのインド・ユニコーン、そしてもちろんリターンに焦点を合わせたベンチャーキャピタリストたちが注目している。Zomatoの成功は、追加の資金調達や今後のイグジットにつながり、法律や規制による緊張が続く中、成長投資の節目になるだろう。

関連記事:インドがMastercardに新規顧客の受付停止を命令、データ保存規則違反で

Zomotoには、公開市場で押しつぶされることがないようにというプレッシャーがかかっており、それは単なる根拠のない憶測ではない。TechCrunchの現地レポーター、Manish Singh(マニッシュ・シン)は、インドでこの上場に向けて起きているあらゆる兆候について、アーリーステージ・スタットアップで頻発している資金調達から、需要増加のおかげでエンジニアが突如力を得たと感じていることまで詳しく報告している。

Zomatoの成功によって、より多くの投資家がスタートアップ・シーンに注目する可能性があり、彼らは遅れを取り戻そうと躍起になるだろう。インドのスタートアップは2021年前半に新記録となる104億6000万ドル(約1兆1490億円)を資金調達した。2020年同時期の40億ドル(約4390億円)や2019年前半の54億ドル(約5930億円)から大幅に増加している、とデータ予測プラットフォームのTracxnがTechCrunchに伝えた。ちなみにインドのスタートアップは2020年通年で116億ドル(約1兆2740億円)を調達した。

重要なのは、人生においてもスタートアップ世界においても、「最初」の何かが単一の決断の結果で起きるのは稀だということだ。よく見てみると多くの場合、大きな節目はさまざまな勝利と成功や失敗さらにはそれまでの小さな節目の集大成である。これはインド最大のテック系スタートアップの上場(重要かつ稀!)、という偉業にケチをつけるものではなく、その波及効果は単なる資金調達イベントの副次効果ではなく、そもそもIPOを実行するにいたった推進力によるものであることを示唆している。

記事の後半では、新進ファンドマネージャー登用のトレンドについて、およびラウンド完了とは無関係な調達ラウンドに関するアドバイスについてお送りする。

新進ファンドマネージャーの台頭

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

多様な新進ファンドマネージャーたちによる一連のファンドストーリーは、これまで私が見たことのないものだった。先週、Female Founders Fund(フィーメール・ファンダーズ・ファンド)は5700万ドル(約63億円)の女性向けファンドFund IIIの募集を完了、Nasir Quadree(ナシーア・カドリー)氏は最大級のソロGPファンドを組成し、Peter Boyce II(ピーター・ボイス2世)氏はStellation Capitalでまもなく4000万ドルのファンドを完了 H Ventures(Hベンチャーズ)は1000万ドル(約11億円)の初ファンドを立ち上げた

ポイントはここだ:ますます多くの古参ベンチャーキャピタルが新進ファンドマネージャーにディールフローを依頼したり新規パートーとして勧誘している、と同僚のConnie Loizos(コニー・ロイゾス)は言っている。つい先週、 Initialized Partner(イニシャライズド・パートナー)はFounder Collective(ファウンダー・コレクティブ)からParul Singh(パルール・シン)氏を引き抜き、自社の新パートナーに任命した。このトレンドはすぐに止まりそうにはない。

調達ラウンドは珍しくないが、あなたのは違うかもしれない

画像クレジット:Mohd Hafiez Mohd Razali/EyeEm

資金を調達するほうが、資金調達を記事に取り上げてもらうよりも簡単だ。最近TechCrunchがForbes(フォーブス誌)のシニア・エディター、Alex Konrad(アレックス・コンラッド)氏を招いたEquityで話したように「調達ラウンド・ストーリー」へのハードルはかつてないほど高い。

ポイントはここだ:
注目を浴びるために、ファウンダーは競争や業界について率直に語り、記憶に残るような名言や話題を提供する必要がある。Equityでは具体的なアドバイスや、歴史的に見過ごされてきた人々がいかに麻酔効果の影響を受けたかを紹介している。

今週の注目記事

TechCrunch

カテゴリー:その他
タグ:Zomatoインドユニコーン新規上場

画像クレジット: Francesco83 / Shutterstock</>

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

新しいレーシングカーのためにF1がデータを収集した方法とは

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

こんにちは!立ち寄っていただいたことに感謝したい。今日は材料がてんこ盛りだ。資金調達ラウンドのダイジェストや、スタートアップ市場のデータ(DocSend[ドックセンド]に感謝する)などをお届けする。だが、最初は個人的に大好きなものから始めよう。レースだ。

The Exchangeは、テクノロジーマネーがF1の世界に流れ込むことに関する、さまざまなジョークを飛ばしてきた。Splunk(スプランク)、Webex(ウェベックス)、Microsoft(マイクロソフト)、Zoom(ズーム)、Oracle(オラクル)というた企業が、チームやレース、そしてリーグそのものを後援している。

F1のパートナーとして注目されているのがAmazon(アマゾン)だ。例えば同社のパブリッククラウドプロジェクトのAWS(アマゾン・ウェブサービス)は、F1中継の画面上に現れるグラフィックを動作させている。もちろん、ファンの目からはAWSグループの計算機クラスターがどのようにして特定の指標を出しているのかが正確にはわからないこともあるが、AWSによるタイヤの摩耗に関するメモは有用でタイムリーなものだ。

しかし、F1の世界の舞台裏では、Amazonがこれまで私が理解していた以上に活躍していたことがわかった。要するに、これまで述べてきたテクノロジー企業とF1のお金の話は、大きなパズルの一部に過ぎなかったのだ。それはどのようなものなのだろう?実はF1の新しい2022年型マシンの設計過程で、AWSが重要な役割を果たしていたことがわかったのだ。

マシンはこんな感じだ。

画像クレジット:フォーミュラ・ワン

なかなかいいんじゃない?

なぜこんなにスラリとした形状なのか気になっていると思う。その答えは、この車両が非常に特殊な空力目標を持って設計されているからだ。例えばF1マシンの後ろに流れる空気の影響で、後続車のコースどりが難しくなる「ダーティエア」現象を減らすことなどだ。

現在のF1マシンは、現行世代のF1ハードウェアとしては最後のシーズンを迎えているが、大量のダーティエアを発生させている(頑張れランド!)。そのため、大切なダウンフォースを失うことを恐れて、コース上のクルマ同士が近づくことができないという、少々厄介なレースになっている。ご存知のようにダウンフォースは、クルマが壁にぶつからずコース上に留まることを助ける。

F1が次の時代の競争で求めていた、ダーティエアを削減しよりクルマ同士が接近したレースを可能にするベースカーを設計するためには、CFD(Computational Fluid Dynamics、計算流体力学)に多くのコンピューターパワーが投入されなければならなかった。そのとき、AWSがF1のコンピューティングニーズに対応していることがわかったのだ。

今回、初めてAmazon Chime(アマゾン・チャイム、Amazonのウェブ会議システム)を利用して、F1のデータシステム担当ディレクターであるRob Smedley(ロブ・スメドレー)氏とこうした統合について話をすることができた。元フェラーリとウィリアムズのエンジニアだったスメドレー氏によれば、F1とAmazonは2018年から新型車のプロジェクトを進めているそうだ。F1には自社の問題を解決するための多くの頭脳が集まっており、一方Amazonはトリッキーな計算をするために大量のコアを提供した。

スメドレー氏によると、もし彼のチームが、個別のF1チームに許されているものと同じコンピューティングパワーを使っていたとしたら、2台の車が前後を走る新しいモデルを計算するのに1回あたり4日かかっていただろうという(なにしろF1レースというスポーツには、チームをある程度平等にするための、あるいはメルセデスの足を引っ張るための規制がたくさんあるのだ)。

しかし、Amazonが2500個の計算コアを提供したことで、スメドレー氏とF1のデータ科学者たちは、同じ作業を6時間または8時間で終わらせることができた。つまり、F1グループはより多くのシミュレーションを行い、より良いクルマを設計することができるのだ。時にはより多くの計算パワーを使用することもある。スメドレー氏は2020年のある時点で、彼のチームが十数種類の繰り返しシミュレーションを同時に実行したこともあるとThe Exchangeに対して語っている。これを可能にしたのは、約7500個のコアによるデータ処理だ。このシミュレーションの実行には30時間かかった。

つまり、F1にはテック系の資金が多く投入されていて、各チームが仕事をすることを助けて、財政的に余裕がある状態にさせていることは事実だが、しかし、F1の本質的な部分にも多くの技術が投入されているのだ。また、F1オタクの私にとって、自分の好きなことが仕事に結びつくのはとてもうれしいことだ。

さて、いつもの話題に戻ろう。

中西部の最新ユニコーン

M1 Finance(M1ファイナンス)は、私の取材活動の中に何度も登場する会社だ。その大きな理由は、彼らがずっと資金を調達し、新しいパフォーマンス指標を発表し続けているからだ。今週、同社は1億5000万ドル(約165億円)のラウンドを実施し、評価額は14億5000万ドル(約1595億7000万円)に達した。この消費者向けフィンテックスーパーアプリの最新の資金調達ラウンドは、ソフトバンクのVision Fund 2が主導した。

関連記事:フィンテックM1 Financeがソフトバンク主導のシリーズEラウンドでユニコーンに

さて、なぜ私たちがこの会社気にするのか?M1の超おもしろい点は、同社の収益の成長を時間軸に沿って追跡する方法を教えてくれたことだ。私がこのスタートアップを取材しはじめた頃、同社のCEOは、運用資産(AUM)の約1%程度の収益を挙げたいと語っていた。つまり、AUMの増加を追跡することで、会社の収益成長を追跡することができるのだ。

そして、同社はAUMの数字を発表し続けている(世の広報担当のみなさん、長期的なデータを提供することは、私たちにスタートアップへの興味を持たせ続けるためのすばらしい方法なのだ!)

M1のAUMを時系列で見てみよう。

1%の目標値で換算すると、年間収益はそれぞれ1450万ドル(約15億6000万円)、2000万ドル(約22億円)、3500万ドル(約38億5000万円)、4500万ドル(約49億6000万円)となる。言い換えれば、2020年6月から実質的に収益が3倍になっている。これはとても良い数字で、投資家が支持したいと思うような成長だ。それが今回のラウンドとなり、そして、M1の新しいユニコーン価格となった。

Truveta

Truveta(トゥルベータ)を覚えているだろうか? 以前、同社が計画を発表したときに、記事を書いている。Microsoft(マイクロソフト)の元幹部であるTerry Myerson(テリー・マイヤーソン)氏がチームの一員であり、私もかつてMicrosoftの取材を生業としていたため、このスタートアップには初期の頃から注目していた。Truvetaは「医療機関から大量のデータを収集し、それを匿名化して集計し、第三者が研究に利用できるようにしたい」と考えていることを、前回お伝えした。

今週、このスタートアップは、新しいパートナーシップと9500万ドル(約104億5000万円)の資金調達を発表した。これはかなり大きな調達額だ!このスタートアップは現在、17のパートナーヘルスグループを抱えている。

多くのデータを1カ所に集めることで、医療の世界をより良く、より公平にすることを目指している。そして今、その目標を達成するために大金を手に入れたのだ。この先何ができるあがるのかを見ていこう。

関連記事:データは米国の不公平なヘルスケア問題を解決できるだろうか?

その他の重要なこと

文字数を適度に抑えて編集の手間を減らしたために、他の記事では紹介しきれなかった重要なものを紹介しよう。

Cambridge Savings Bank(CSB、ケンブリッジ・セービング・バンク)がフィンテックに参入:Goldman(ゴールドマン)が一般庶民向けのデジタル銀行Marcus(マーカス)を立ち上げたことを覚えているだろうか?同じこと狙うのは1社だけではない。今回はCSBが独自のデジタル・ファースト銀行のIvy(アイビー)を構築しローンチを行った。率直に言って、長い営業の歴史と、古典的な技術スタックとサービス群を持つ銀行から始めるというアイデアを私は気に入っている。そして、そのすぐ隣にもっとモダンなものを建てるのだ。古い銀行そのものに新しい技術を習得させるよりも、その方が良い解決策となるだろう。また、多くの銀行がこのようなことをすれば、ある程度ネオバンクの勢いを削ぐこともできるだろう。だよね?

Code-X(コードX)が500万ドル(約5億5000万円)を調達、評価額を公表しても大騒ぎにはならないことを証明:「ラティスベースのデータ保護プラットフォーム」を構築したフロリダのスタートアップ、Code-Xが、最新の増資により4000万ドル(約44億円)の価値を持つことになった。いや「ラティスベースのデータ保護プラットフォーム」が何であるかは知らない。しかし、Code-Xがアーリーステージ ラウンドの一環として評価額を発表したことは知っている。それは拍手喝采に値する。よくやった、Code-X。

最後にDocSendのデータ:その名の通り「文書を送る」同社が今週新しいデータを発表したので、ご紹介しよう。以下がその主たる内容だ。

DocSendのStartup Index(スタートアップインデックス)中の2021年第2四半期のデータによると、スタートアップのピッチ資料に対する投資家の関心とエンゲージメント(需要の代名詞だ)は、前年同期比で41%増加している。一方積極的に資金調達を行っているファウンダーが作成したピッチ資料へのリンク(供給の指標だ)は、2021年第2四半期に前年同期比で36%増加している。

なぜこれがおもしろいのかって?需要が供給を上回っているからだ!あははっ!それがすべてを物語っているような気がする。

ここ数週間、ベンチャー企業の第2四半期決算を調べてきたが、どうにも簡潔にまとめることができなかった。なぜスタートアップの評価額が上がっているのか?なぜ スタートアップ企業はより多くの資金を、より早く調達しているのか?なぜなら、ベンチャーの後援対象となる企業たちに対して、投資家の需要が供給をはるかに上回っているからだ。

それが2021年だ。

きょうのみなさんは素晴らしく、楽しそうで、とてもすてきだ!

来週は、バッテリーに特化した2つのSPAC、つまりEvonix(エボニックス)とSESについてご紹介する。バッテリー技術、エネルギー密度、そして未来について、多くのことを語ることができるだろう。そして、もちろんお金についても。

ではまた。

カテゴリー:その他
タグ:The TechCrunch Exchangeレース自動車F1AmazonAWSユニコーンM1 Finance

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

フィンテックM1 Financeがソフトバンク主導のシリーズEラウンドでユニコーンに

7500万ドル(約83億円)のシリーズDを発表してわずか4カ月、M1 Financeは米国時間7月14日、ソフトバンクのVision Fund 2が主導する1億5000万ドル(約165億円)のシリーズEを明らかにした。

既存投資家らも参加した最新ラウンドにより、シカゴ拠点のフィンテックM1は14億5000万ドル(約1595億円)というバリュエーションでユニコーンのステータスを獲得する。また今回のラウンドはわずか13カ月と少しという期間で4回目で、2015年半ばの創業からの累計調達額は3億ドル(約330億円)を超える。既存投資家にはCoatue Management、Left Lane Capital、Jump Capital、Clocktower Technology Venturesなどが含まれる。

M1の創業者でCEOのBrian Barnes(ブライアン・バーンズ)氏によると、3月のシリーズDの時点で同社は「ユニコーンに近いステータス」だった。

M1は従来型の3種のフィンテックサービス(自動投資、借入、預入・引出し)を1つに集約していて、ここ数年、急速に成長している。2021年3月初めの資金調達時点で、運用資産(AUM)は35億ドル(約3850億円)に達した。そしてバーンズ氏によると、現在のAUMは45億ドル(約4950億円)で、これは18カ月前の5倍超だ。

2020年7月1日以来、同社はユーザーベースを2倍超に、AUMを3倍に増やした。

画像クレジット:M1 Finance

人々が自分のお金を「無料のコントロールと自動化」で管理して増やせるようサポートするプラットフォームを構築するというミッションの下、M1は2016年後半にサービス提供を開始した(M1がどのように収益を上げているか、詳細はこちらのブログをチェックして欲しい)。

今では「数十万人」という顧客がM1のプラットフォームを通じて投資したり、デジタルチェッキングしたり、あるいは最大貸付金額のポートフォリオにアクセスしたりしている、と同社は話す。

他の多くの企業と同様、M1にとってもパンデミックは追い風となった。

特に、ミレニアル世代の投資への関心が高まったようだとバーンズ氏は指摘する。

M1 Financeの創業者でCEOのブライアン・バーンズ氏(画像クレジット:M1 Finance)

「ロックダウン(都市封鎖)により多くの人が支出を減らし、その一方で不確かな将来によって投資を通じて長期的に富を築くことへの関心が高まりました」とバーンズ氏はTechCrunchに語った。「M1はこれを直に体験しました。パンデミックが始まった2020年3月以来、当社の運用資産は4倍になりました。2021年1月の利用申し込みは前月の3倍超となりました」。

2020年12月、M1は「Plus」の顧客があらかじめ設定したルールに基づいて財政目標を自動化できるようにするSmart Transfersを立ち上げた。そして2021年2月には、M1 Plusの親や保護者が若いユーザーのためにポートフォリオに投資できるようにするCustodial Accountsをリリースした。6月にはM1 Plus顧客が物理的な小切手をM1 Spend Plus当座預金口座から送れるようにするSend Checkの展開も開始した。

「毎日の取引の手入力や画一的なポートフォリオに背を向けたように、当社は常に変化を追求する企業でありたいと考えています」とバーンズ氏は述べた。「投資、借入、支出を刷新し続けて複雑なプロセスをシームレスにする方法を模索するというのが当社の計画です」。

SoftBank Investment AdvisersのマネージングパートナーのMunish Varma(ミュニッシュ・バルマー)氏は、M1が「投資、支出、借入のプロダクトを持つワンストップのスーパーアプリでユーザーの財務管理を支えるのにいい位置につけている」と確信している、と話す。

M1は調達した資金を新たなプロダクトや機能、さらに「イノベーティブ」なプラットフォームの構築と人材採用に使う計画だ。同社の従業員数は2020年初めの40人から現在は250人に増えた。

筆者の同僚Alex Wilhelm(アレックス・ウィルヘルム)氏がM1のシリーズDをカバーした記事で指摘したように、貯蓄や投資、支出の分野で2020年成長したのは同社だけではない。投資分野ではRobinhoodやPublicが好調で、支出や貯蓄の分野ではChimeが急成長した

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カテゴリー:フィンテック
タグ:M1 FinanceSoftBank Vision Fund資金調達ユニコーン企業

画像クレジット:Cattallina / Shutterstock

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

110兆円の馬たち、過剰な調達ラウンド、そしてFutureの未来

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

短い1週間が過ぎた。雑談のネタはあまりないが、お伝えしたいことはたくさんある。だが、それは楽しい話題ばかりなので、一緒に楽しむことにしよう!

まずは、高価な四足動物についての話題。

1兆ドル(110兆円)の馬とは?

The Echangeは、先週から2021年第2四半期のベンチャーキャピタル市場の調査を始めている。Anna(アンナ)の協力で、最初の記事はかなりいい感じに仕上がったと思う。他にもたくさんの記事が待ち構えている。しかし、ユニコーン関連の数字が、私の心を鷲掴みにした。考えてみて欲しい

  • 2021年第2四半期に生まれたユニコーンの数は136社で、過去最高を記録した。
  • CB Insights(CBインサイツ)が指摘するように、これは「1年前の2020年第2四半期に誕生した23社のユニコーンの約6倍であり、2020年全体で誕生した128社のユニコーンをすでに上回っている」のだ。

この角の生えた馬(ユニコーン)ブームの結果、現在世界には750頭のユニコーンがいることになった。元TechCrunch関係者で優秀な人間であるKatie Roof(ケイティ・ルーフ)氏がこの統計をツイートしたとき、私が最初に思ったのは、ユニコーンの価値が合わせて1兆ドル(約110兆円)を超えたということだ。

だがその直感は大きく外れていた。実際の数字は2.4兆ドル(約260兆円)近くなのだ(CB Insightsのデータによる)。これは驚くべき大きな数字だ。比較してみると、世界の未上場ユニコーンの合計は、現在のApple(アップル)の価値の2兆4200億ドル(約266兆円、Yahoo Finance調べ)とほぼ同額である。

ひょっとすると私は、現在ほとんど凍結された状態で非公開市場に置かれているユニコーン株式の量に、過剰反応しているのかもしれない。特にユニコーンのエグジットは増えているのだから。しかし、今日の高いエグジットレベルをもってしても、時間をかけてこの特別な状況を解消していくことは可能なのだろうか?いや、そうとは思えない。第2四半期に、週末を含めても1日あたり1.5社のユニコーンが増え続ける状況の中ではそれは無理な話だ。

資金調達ラウンド

先週は1つの資金調達ラウンド(非常に興味深かったこのr2cラウンド)についてしか書けなかった。その大きな理由は、他に噛み砕くべきことがたくさんあったからだ。しかし、より詳細な財務情報を掲載していないラウンドは取材しないと宣言してから、ベンチャーキャピタルからのピッチの入力がゆっくりになったのも事実だ。

先週の連休でピッチのボリュームが減ったのか、それとも私がみんなを怖がらせてしまったのかはまだはっきりしない。しかし、私は資金調達ラウンドのピッチのインバウンド量を、全体としても、業界別 としても、何が起こっているのかを判断するための材料に利用している。だから私は読者のみなさんに(1)私に何かネタを送ってもらえること、(2)それと同時にたくさんの情報も共有してもらえることを期待している。

宇宙のSPAC

Y Combinator(Yコンビネーター)はきちんとした組織だ。その最近の投資先の1つが、 Albedo(アルベド)だ。同社は地球の超高解像度写真を撮影する低軌道衛星のネットワークを構築することを目指すスタートアップである。それを実現するのはNatasha(ナターシャ)記者の言葉を借りるならクソ難しいことだが、既製の衛星部品や軌道上での燃料補給などの、さまざまな新しい技術を導入することで、可能になるかもしれない。

関連記事:10cmの高解像度衛星画像提供を目指すAlbedoが10.8億円調達

Albedoやそれに似た会社があるからこそ、私は毎年Demo Day(デモデー)を見に行くのだ。今後何が起きるかを目にする機会を持つことができるし、非常にわかりやすく楽しい体験だ。

だからこそ、今週、衛星画像処理会社2社がSPACで株式公開することを発表したときに、私は興味をそそられた。わかったことは、この両社が狙っているのは、低解像度の画像を提供することなので、真の意味でAlbedoとは競合しないということだ。しかし、彼らは……別の理由で注目されている。

Satellogic(サテロジック)は、このシンプルで芸術的な一連のチャートを提供している(各チャートの日付は必ず確認して欲しい)。

画像クレジット:Satellogic

また、Planet(プラネット)は下のグラフのように、衛星技術の経済がいかに未来にかかっているかを強調している。

画像クレジット:Planet

同社の長期的な粗利益率の目標は80~85%(資料によれば売上原価は15~20%)だが、そこに到達するまでにどれだけの時間がかかるかがここから読み取れる。これは、ベンチャーキャピタルの世界に興味深い問題を投げかけている。

つまり、Albedoのような企業が、十分なネットワークを構築し、スケールアップするためには多くの時間と資金が必要になるということだ。そして、普通のソフトウェア会社なら製品を販売した初日から得られるような粗利益を得るために、規模を拡大していくことにも時間がかかるだろう。

これが、たとえわずかでも持続的な成長が期待できるソフトウェア製品に多くの資金が集まっている理由の1つだ。利益率の高い経常収益は、価値創造のためのチートコードのようなものなのだ。そうして、投資家はだれでもそこに資金を投入したいと考えることになる。衛星技術は、一般に非常に重要なものなのだが、とにかくコストが高く、時間がかかる技術なのだ。

私の疑問は、ソフトウェア企業がベンチャーキャピタルへのリターンを生み出すことに長けているせいで、他の形態のスタートアップ企業が注目や資本を得るために苦労するのではないか?ということだ。すでにそうなのだろうか?

Future

最後に、取り上げるのはFuture(フューチャー)だ。正確にいえば、Future(未来)の未来だ。私はこのa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)によるサイトが気になっている。

このサイトが開設されて以来、私は毎週数回チェックしては、ベンチャーキャピタルの集合的意識を知りたいと思ってきた。私がそうするのは、私が変人だからというだけではない──まあ変人だけど!──またメディアがハイテクを嫌っているという記事を読んで心配したからでもあるが──率直に言えば──宇宙的に潤沢な資金を持つベンチャーグループがどんなサイトを作るのかに興味があったからだ。やはりすばらしい人材が採用されている。

私たちはFutureブログの発行サイクルの合間を縫っているようだ。メインコンテンツの最後の記事が出たのは約1カ月前で、最新のエントリーは6月25日付だ。そしてその最新記事は、7月にさらなるコンテンツを出す約束をしたメモに過ぎない。

これは予算、約束、派手なドメイン、そしてa16zの世界の中で何かを語るべき人の数を考えると、少々物足りないかも?もっとたくさんの言葉を尽くせばよいのに。7月がどうなるかに期待しよう。

さて今回はここまでとしよう。ではまた。

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タグ:The TechCrunch Exchangeユニコーン企業SPACa16z

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

アトランタが米国南東部でユニコーンを量産するテクノロジーハブに成長した理由

ここ5年間、米国南東部はアトランタを筆頭に、テック業界における「指折りの穴場の1つ」から、10億ドル(約1091億円)規模のテック企業が群がる活気あるエコシステムになった。ちなみに、このような10億ドル規模のテック企業は(その希少性から)投資業界では「ユニコーン」と呼ばれる。

アトランタに本社を置くValor Ventures(バローア・ベンチャーズ)のパートナーであるLisa Calhoun(リサ・カルフーン)氏によると、この5年間で米国南東部におけるベンチャーキャピタル投資額は急増して21億ドル(約2292億円)に達した。そして、そのうち10億ドル(約1091億円)は2020年1年間で投資されたものだという。

これは、ジョージア工科大学、アラバマ大学、オーバーン大学、ジョージア大学、バンダービルト大学、エモリー大学や、歴史的に黒人学生を対象として設立されたモアハウス大学、スペルマン大学、ザビエル大学など、南東部の私大と公立大学から才能ある起業家が生まれていることを示す兆候だ。また、地元の起業家への再投資が行われているサインでもある。地元への再投資は、アトランタをハブ都市としてマイアミ、バーミングハム、ナッシュビル、ニューオーリンズなどのスタートアップ都市を結ぶネットワークを作ることを目指す数十年来の取り組みだ。

カルフーン氏はメール取材に対して次のように答えてくれた。「アトランタは、次世代のグローバルなポストシリコンバレー型テクノロジーハブだ。今から10年後、米国社会ではマイノリティが全体として多数派になる。アトランタの現在の人口はその動態を先取りしている。南東部には米国人口の40%以上が南東部に住んでおり、有色人種の創業者や企業経営者の密度は米国一で、AirBnB(エアビーアンドビー)をはじめとする数多くのテック企業が拠点を置いており、地元でも昔からトップレベルのテック企業や人材が生まれていることを考えると、アトランタは未来のテクノロジーハブのあるべき姿を示していると思う。この地域の人口基盤は多様で拡大し続けている。これは、力のある創業者なら誰もが考慮すべき要素だ」。

とはいえ、ベンチャーキャピタル企業や投資企業に経済的なリターンをもたらす次なる主要地域の1つとして数えられるには、まだ課題が山積みである。

アトランタに本社を置く投資会社Tech Square Ventures(テック・スクエア・ベンチャーズ)の創業者兼ジェネラルパートナーであるBlake Patton(ブレイク・パットン)氏は次のように述べる。「米国のGDPのうち、南東部が占める割合は24%で、そのうちベンチャー投資が占める割合はわずか7%だ。しかし、南東部における最近の動向を見ると、その状況は変わり始めている。投資企業が南東部に注目してその地域の担当者をサポートし、その担当者が南東部の優れた才能豊かな起業家に投資する、というケースが増えている」。

アトランタにおけるドットコムバブルの到来と崩壊

1996年に夏季オリンピックを開催してから数年の間、アトランタは米国の次なる大型スタートアップハブの候補都市として飛ぶ鳥を落とす勢いを見せていた。

オリンピックを開催したことにより、アトランタは世界の表舞台に躍り出た。さらに、バージニア州のAmerica Online(AOL)をはじめとするインターネット企業の誕生により、企業活動が活発になり、注目度が上がり、投資家が集まるようになったのを見たアトランタの市議会と市長は、第一次ドットコムバブルの初期、アトランタをテレコム企業とスタートアップのハブ都市にしようと力を入れていた。

アトランタを拠点とする非営利団体Launchpad2X(ローンチパッド2X)の創設者で連続起業家および経営者でもあり、アトランタのエコシステムと深いつながりを持つChristy Brown(クリスティ・ブラウン)氏は次のように語る。「1990年代半ばにオリンピックを開催したことによって何かが起こり、アトランタは世界中で認知されるようになった。アトランタがサプライチェーンやロジスティクスのハブだったことが唯一の理由ではない。1990年後半にドットコムバブルがいよいよ盛り上がりを見せると、本来であれば表から見えるべき物事が舞台裏で進行した。Atlanta Gas Light(アトランタ・ガス・ライト)はオリンピックのためだけにアトランタ周辺に米国最大のダークファイバ―網(敷設されたが未使用状態の光ファイバー網)を敷設した。次世代の宇宙航空技術を研究しているはずのジョージア工科大学はコンピューターサイエンスにも力を入れ始めた」。

アトランタは初期の成功にある程度貢献した。第一次ドットコムバブル期の革命的な変化を引き起こした(が、その後はスキャンダルの泥沼にはまったり大企業に買収されたりした)優秀なテレコム企業やネットワーク企業を輩出したからだ。MCI Worldcom(MCIワールドコム)や、Cingular Wireless(シンギュラー・ワイヤレス)に買収されたAirtouch Cellular(エアタッチ・セルラー)は、最終的には再編後のAT&Tの傘下に収まった。

ブラウン氏は次のように説明する。「アトランタのテック業界ではさまざまな出来事が進行していた。これらの創業者の多くは机上の空論に基づいてドットコム企業を立ち上げており、それがドットコムバブルへと発展していった。このような状態が1990年代半ばから後半にかけて続き、ドットコムバブルが崩壊すると、アトランタとその周辺で数多くのドットコム企業が廃業した」。

初期のドットコム企業が2000年のドットコムバブル崩壊とともに崩れ去ると、その影響はアトランタのテックエコシステムに波及して、企業が手にしていた初期の好業績は消え去り、このバブル崩壊を何とか耐え抜いたいくつかの企業は成功したものの、アトランタは10年に及ぶ再建の道を歩むことになった。

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不況の日々

そのような企業の1つがMailChimp(メールチンプ)だ。テックバブル崩壊直後の2001年に創業した同社はメールマーケティング用サービスを提供する非上場のスタートアップで、Ben Chestnut(ベン・チェストナット)氏とDan Kurzius(ダン・カージアス)氏のウェブ開発企業が手がけたいくつかのプロジェクトのうちの1つである。

両氏はCox Interactive Media(コックス・インタラクティブ・メディア)で知り合い、初期のMP3製品の開発にともに携わった。このプロジェクトが下火になって結局は失業した両氏は一緒に事業を始めることにした。両氏は事業収益を元手にメールチンプのサービスを開発し、ベンチャー資本の投資を受けずにメールチンプ事業を一から立ち上げたのだが、この企業モデルは後に南東部の多くのテック起業家が見習うものになった。

数年後の2003年には、John Marshall(ジョン・マーシャル)氏という別の起業家がホスピタリティ業界の施設にインターネット接続用のホットスポットを設置する事業を始めて、最終的には他のネットワークインフラの監視と管理を含むWandering WiFi(ワンダーリングWiFi)というサービスへと成長させた。スタートアップの世界に勢いよく進出したワンダーリングWiFiはその後AirWatch(エアウォッチ)としてエグジットを達成し、アトランタ発の大型テックエグジット事例となった。

メールチンプは創業後6年間、共同創業者2人の副業だった。両氏とも同サービスに引き続き携わってはいたが、フルタイムでは関わっていなかった。2007年に1万ユーザーを達成してはじめて、両氏ともフルタイムでこの事業に従事するようになった。

起業当初はまとまりのなかったメールチンプが、両氏を億万長者に押し上げた。2018年のForbes(フォーブス)には、メールチンプの評価額は42億ドル(約4582億円)、収益額は6億ドル(約655億円)だと記されている。

アトランタのテック業界再生が本格的に始まった時期を挙げるとするなら、それは2006年だろう。世界的な金融危機が発生する数年前、テック業界で今よりも多くの企業がもっと安定した収益見通しを投資家に提示できていた頃だ。1990年代終わり頃にIPOを達成したアトランタエリア発のドットコム企業であるInternet Security Systems(インターネット・セキュリティ・システムズ)が13億ドル(約1418億円)でIBMに売却された年でもある。

インターネット・セキュリティ・システムズの共同創業者であるTom Noonan(トム・ノーナン)氏とChris Klaus(クリス・クラウス)氏も同じように長い道のりを経験した。1990年代半ば、クラウス氏がアトランタにあるノーナン氏の自宅のガレージに住んでいたときに立ち上げた事業は、IBMによる買収直前には年間収益4億ドル(約436億円)の企業に変身していた。

資本が流れ込んでくるようになると、アトランタはテック業界でいくらか体勢を立て直し、自分の事業に夢中になっていた創業者が地元の企業に再投資するようになった。さらにアトランタは起業家精神を育てるためのイベントを増やすべく行動を起こした。2006年には南東部出身の新しい人材や初期スタートアップを紹介する場となるVenture Atlantaというカンファレンスが創設され、アトランタのテック業界の未来を形作る起業家が数名、このカンファレンスを登竜門として飛び立っていった。

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新たなスタートアップシーンのモデル都市

2006年は、アトランタ企業のエグジットにとって重大な年だっただけでなく、新たなスタートアップが大量に生まれた年でもある。そのことが原動力となり、アトランタはその後の10年間で現在のように活発なスタートアップ都市になり、10億ドル規模のテック企業をいくつも生み出すようになった。

David Cummings(デービッド・カミングス)氏とAdam Blitzer(アダム・ブリッツァー)氏がマーケティングと営業の自動化ソフトウェアを開発するPardot(パードット)を創業したのも2006年だ。パードットは急成長し、ExactTarget(イグザクトターゲット)などの業界大手から注目されるようになった。Manhattan Associates(マンハッタン・アソシエイツ)の経営幹部だったAlan Dabbiere(アラン・ダビエーレ)氏がマーシャル氏と手を組み、ワンダーリングWiFiがエアウォッチに変わって、モバイル企業のネットワーク管理やセキュリティに関するサービスを提供するようになったのも、やはり2006年だった。

2006年以降の数年間、メールチンプはより活発に活動した。現在はSean O’Brien(ショーン・オブライエン)氏とともに投資会社Overline Ventures(オーバーライン・ベンチャーズ)の共同創業者であるMichael Cohn(マイケル・コーン)氏がCloud Sherpas(クラウド・シェルパス)を立ち上げたのも、動画配信サービスを開発するClearLeap(クリアリープ、2015年にIBMに買収され、評価額は1億1000万ドル(約120億円)だった)、サイバーセキュリティのDamballa(ダムバラ、後年アトランタ近郊に本社を置くCore Security[コア・セキュリティ]に買収された)、多くの大手銀行が顧客向けポイントプログラムの実施に利用しているCardlytic(カードリティクス、現在はNASDAQに上場しており時価は40億ドル[約4364億円])などの企業が起業したのも、すべてこの時期だ。

台頭するこれらのテック企業に鼓舞されて、他の起業家も次々とこの波に乗った。Kabbage(カベッジ、後に8億5000万ドル[約927億円]で買収された)、Calendlyカレンドリー、2021年の時点で事業規模30億ドル[約3273億円])、音声認識テクノロジーを開発するPindrop(ピンドロップ、2018年に9000万ドル[約98億円]を調達)などの企業がスタートアップシーンに姿を現したのも同じ時期である。

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これらの企業は、決済・金融サービス、クラウドベースのビジネスソリューション、インターネットセキュリティを中心とする多種多様なスタートアップが生まれる土壌を整えた。Scientific Atlanta(サイエンティフィック・アトランタ)のようなハードウェア製品に特化したテレコム企業やネットワーク企業は姿を消した。ちなみに、サイエンティフィック・アメリカは、Hewlett Packard(ヒューレットパッカード)がシリコンバレーでそうだったように、1950年代のアトランタにおいてハイテク企業の草分けとなった企業だ。

一方で、新世代の投資家がアトランタを視界に入れ始めた。その前兆となったのが、2006年のBIP Capital(BIPキャピタル)創設だ。これはアトランタの新米起業家にとっても重要な意味を持つ出来事だった。

アトランタの未来を信じた投資家たち

アトランタ出身の起業家が増えるにつれて、瀕死の状態にあった現地の投資コミュニティが活力を取り戻した。CrunchBaseのデータや数人の投資家および創業者への取材によると、ドットコムバブルの崩壊後、深刻な痛手を負いつつも何とか生き残ったアトランタエリアの投資会社は、レイターステージのスタートアップやアトランタ以外のエコシステムに属するスタートアップを探し始めたという。

例えばNoro-Moseley Partners(ノロ=モーゼリー・パートナーズ)はアトランタ発の投資会社の中では群を抜いて活発に投資を行っている。Crunchbaseのデータによると、同社はその長い歴史の中で123件を超える投資案件を取り扱ってきたが、直近5年間でアトランタを本拠とする企業へ投資した案件はわずか4件しかない。

対照的に、BIPキャピタルの創設以降、同社に飛びついた企業は、資本を展開し、連続して何度も巨額の資金調達を成功させてきた。ここ5年間でBIPキャピタルは最低でも15社のアトランタエリア企業に投資しており、現在は米国南東部と中西部を本拠とするアーリーステージのスタートアップを対象とする3億ドル(約327億円)規模のファンドPanoramic Ventures(パノラミック・ベンチャーズ)の設立を計画している。

BIPキャピタルの共同創業者兼CEOであるMark Buffington(マーク・バフィントン)氏はTechCrunchによるメール取材の中で次のように説明した。「アトランタや南東部の創業者が出資者を見つけることは昔から困難だった。以前は、テクノロジーハブの古株であるシリコンバレーや北東部の都市以外でテック企業を創業するのは不利だと考えられていた。投資資本を確保することがさらに難しくなるからだ。大手ファンドはハブ都市にあり、そのようなファンドが提供する豊富なチャンスをつかめるのは、地理的にそのハブに所在する企業だけだった。古参のハブ都市は、資本が集まるという意味では現在でも重要な存在だが、スタートアップも物理的にハブ都市に所在する必要性は変わった。イノベーションが進行している他の都市に拠点を移すベンチャーファンドが増えている。同時に、地元の都市や地域を本拠とする投資会社の投資額も増えている。その主な原因は、非公開市場に資金が流入していることだ」。

アトランタの投資シーンを変えつつあるこのような一連の新たな投資家の1人がパットン氏だ。同氏は、テック・スクエア・ベンチャーズや、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)投資を行うと同時にアトランタに本社を置く大企業数社の力を活用してスタートアップを支援する投資会社Engage(エンゲージ)のパートナーとして働くことにより、起業家たちを奮い立たせ、新たに芽生えたテック企業スタートアップへの関心を高めた。

パットン氏は次のように説明する。「南東部で最近高まっている機運の原動力となっているのは、イノベーションのエコシステム全体でつながりが強化されたこと、そして、この地域から生まれて成功しているスタートアップから輩出される起業家や人材の数がクリティカルマスに達したことだ。企業がデジタル変革とイノベーションに重点を置いている今、どの企業もある程度はテック企業にならざるを得なくなっており、そのことがスタートアップとテック企業との間で人材の流動を促し、つながりを強めている。この地域の最大の強みは多様性とHBCU(歴史的黒人大学)のトップ4校があることだ。5年間には、南東部が、多様性のある起業家により創業され、多様性豊かなチームによって運営されるスタートアップの成功例を生み出す点で主導的な存在になっていて欲しいと思う。単に人間としての責務に関する話ではない。米国の黒人人口の半分を擁する南東部には、チャンスに恵まれない起業家がリードする立場になれるようサポートする点で成功する義務がある。南東部で多様性の課題に取り組めないなら、米国全土で取り組めるわけがない」。

とはいえ、アトランタでスタートアップの活動を再び活性化させるには別の材料も必要だった。例えば、2012年にカミングス氏が立ち上げたAtlanta Tech Village(アトランタ・テック・ビレッジ)が提供するコワーキングスペース、Advanced Technology Development Center(ATDC、先進テクノロジー開発センター)による継続的な関与、Venture AtlantaカンファレンスやHypepotamus(ハイプポタマス)を中心に展開されたコワーキング環境などだ。Hypepotamusは今でも南東部におけるスタートアップ活動に関して一番頼りになるメディアである。

カミングス氏がアトランタで再投資することを決め、都心から少し離れた上品なバックヘッド地区の近くにテック・ビレッジを立ち上げたことが、アトランタの起業熱を再燃させた大きな要因の1つだと、どの起業家や投資家も口をそろえていう。カミングス氏はパードットを売却後、David Lightburn(デービッド・ライトバーン)氏とともに、起業家向けのコワーキングスペースとしてアトランタ・テック・ビレッジを設立した。このスペースは、大型スタートアップの次なる波を作り出すであろう新たなスタートアップ創業者を何人も引きつけた。アトランタのテックコミュニティで長年活動する人は次のように語る。「デービッド・カミングスがパードットを売却したのは、起業家たちのコミュニティになる場所を作りたかったからだ。スタートアップの創業者が一緒にランチを食べられる場所を作り、起業家たちがビジネスを作り上げていくのを強力にサポートしていた」。

それと同じくらい主要な鍵となったのは、ジョージア工科大学と関連したスタートアップ向けのハブとして長年活動してきた先進テクノロジー開発センターだと、起業家と投資家はいう。Venture Atlantaカンファレンスも、米国全土から投資家をアトランタに集めて地元の人材を紹介するという役割を果たした。CreateX(クリエイトX)とVenture Atlantaのプログラム、アーリーステージの起業家を対象とした4つのイニチアチブとワークスペースは、後にPartPic(パートピク)、Greenlight(グリーンライト、現在の評価額は23億ドル[約2507億円])、カバッジ、ピンドロップなどのような大輪の花を咲かせるための種をまいた。

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多様性のある創業者や投資家が活躍できる都市

アトランタのスタートアップエコシステムの初期において、多様性のある創業者や女性創業者にとって他の何よりもうれしかったサポートが、Hypepotamusが提供するコワーキング用スペースとオフィスだ。

連続起業家のMonique Mills(モニーク・ミルズ)氏も、2016年にパートピクをAmazon(アマゾン)に売却し、現在はGoogle(グーグル)の米国スタートアップ部門を統括するJewel Burks Solomon(ジュエル・バークス・ソロモン)氏も、Hypepotamusを利用していた。

バークス・ソロモン氏は当時を振り返ってこう語る。「Hyperpotamusが無料で提供していたスペースが私の初めてのオフィスになった。当時、手元にそれほど資金が残されていなかった私が次にまとまった額を調達できたのはATDCでのことだった。ATDCでジョージア州のインキューベーターに会えたからだ。ATDCはスペースを貸し出してくれるだけではなく、起業家を常駐させており、ATDC全体がアトランタ発のテック系スタートアップを支援する包括的なプログラムとなっていた」。

数人の創業者や投資家は、Hyperpotamusが提供していたスペースと、後続のOpportunity Hub(オポチュニティ・ハブ)やThe Gathering Spot(ザ・ギャザリング・スポット)などのコワーキングスペースが、アトランタの黒人起業家コミュニティが成功につながる化学反応を引き起こしたと述べている。

さらに、National Builder Supply(ナショナル・ビルダー・サプライ)から派生したHypepotamusのスペースが触媒の1つだとしたら、エンジェル投資家のMike Ross(マイク・ロス)氏もまた成功につながる化学反応を引き起こす役割を果たしたと言える。

起業家のCandace Mitchell Harris(キャンディス・ミッチェル・ハリス)氏が最近UrbanGeekz(アーバンギークズ)に語ったプロフィールの中で次のように述べている。「マイク(ロス氏)はアトランタのエコシステム内の成功した黒人創業者スタートアップの多くに投資してきた。マイクがいなかったら現在の私たちはない。私たちの多くは、から約束に振り回されたり、あからさまな拒絶を受けたりしてきた。そんな創業者に対して確信を込めて投資して創業者の背中を押してくれたのがマイクだった」。

モアハウス大学を卒業したロス氏は、建設・業務請負業界でコンサルティング業を営んで富を築き、Luma(ルマ)、パートピク、Monsieur(ムッシュ)、Axis Replay(アクシス・リプレイ)、Myavana(ミヤバナ)、TechSquare Labs(テックスクエア・ラブズ)、オポチュニティ・ハブザ・ギャザリング・スポットなど、黒人の創業者や投資家に出資してきた。

投資家のPaul Judge(ポール・ジャッジ)氏や、Joey Womack(ジョーイ・ウォマック)氏、Barry Givens(バリー・ギブンズ)氏、Mitchell Harris(ミッチェル・ハリス)氏などの起業家は皆、ロス氏による気前の良い投資の恩恵を受けてきた。

美容テック系スタートアップのミヤバナの共同創業者兼CEOであるミッチェル・ハリス氏はUrbanGeekzに次のように語っている。「マイク(・ロス氏)は当社を支援してくれた最初のエンジェル投資家で、当社が成功するきっかけを作ってくれた。2012年6月にBlack Founders Conferenceで初めてマイクに会ったときのことを今でも覚えている。彼は探求心があって、当時アトランタのテック系スタートアップシーンで生まれつつあった機運を高めたいという意欲にあふれていた」。

ロス氏は他の投資家のためにも道を切り開いた。例えば、Arian Simone(アリアン・シモーネ)氏、Ayanna Parsons(アヤナ・パーソンズ)氏、Keshia Knight Pulliam(ケシア・ナイト・プリアム)氏が運営する、女性投資家によるファンドFearless Fund(フィアレス・ファンド)だ。同社は2019年に最初のファンドを発表した。別の例はCollab Capital(コラブ・キャピタル)だ。2020年設立されたこの投資会社は、Burks Solomon(バークス・ソロモン)氏、Justin Dawkins(ジャスティン・ドーキンス)氏、Barry Givens(バリー・ギブンズ)氏によって運営されている。どちらの例も、ロス氏が最初に投資を始めてから10年近くたった後の出来事だ。

シモーネ氏は次のように述べている。「現在、有色人種の女性創業者は数の点では最も多いが、調達できる資金は最も少ない。アトランタは黒人起業家のメッカであり、私たちがベンチャーキャピタルやテクノロジーを利用できる場所であるはずだ。私たちがアトランタで行っていることを支援して欲しいと、アトランタ市、ジョージア州、そして各銀行に訴えたい。彼らの支援が必要だ」。

そのような支援は単に必要なだけではなく、成功に寄与する。TechCrunchによるリサーチの中で「アトランタエリアでアーリーステージ投資に力を入れている」と判明したベンチャーキャピタル36社のうち41%が、(1)全投資案件において多様性を重視している、(2)ファンドマネジメントチームが多様性に富んでいる、という2つの基準の片方または両方を満たしていた(Crunchbaseのデータによる)。

さらに、TechCrunchによるリサーチの対象としてサンプリングされたアトランタエリア拠点のプレシード、シード、シリーズAスタートアップ全158社のうち、48%が、(1)創業者チームの性別が多様、または(2)創業者チームの民族が多様、あるいはその両方の基準を満たしていた。創業者チームが自分たちについて紹介していないスタートアップも多かったため、多様性に富んだ創業者チームの数は現在公表されているデータよりも多い可能性がある。

UrbanGeekzが述べているように、アトランタのテック業界で働く従業員の約25%は黒人だ。対照的に、サンフランシスコではその割合が6%に下がる。

ロス氏はUrbanGeekzに次のように語った。「10年前は(黒人創業者のテック系スタートアップは)まだ始まったばかりだった。今ではアトランタが米国でトップレベルのテクノロジーハブになっており、そのエコシステムの多様性もトップクラスだ」。

今後の展望

「現在起きている出来事について考えると非常にワクワクする。資本を配置する能力を持つ人たち自身が多様性に富んでいる。この地域のテック業界の未来は明るいと思う」とバークス・ソロモン氏は語る。

そう感じているのはソロモン氏だけではない。コーン氏とオブライエン氏が共同で立ち上げたオーバーライン・ベンチャーズ、Panoramic(パノラミック)、以前はロサンゼルスで投資活動を行っていたPaige Craig(ペイジ・クレイグ)氏とLeura Craig(ローラ・クレイグ)氏が立ち上げたOutlander Labs(アウトランダー・ラブズ)なども、アトランタのスタートアップエコシステムは長い目で見て有望であると投資家たちが考えている証拠だ。

アウトランダー・ラブズの共同創業者であるローラ・クレイグ氏はメールで次ように説明してくれた。「南東部、特にアトランタは今後5年間で主要なテック系スタートアップハブになれる可能性がある。まるで5年前のロサンゼルスを見ているかのようだ。人材も地元にいる。ただし、昔から問題だったのは、メンターが少ないこと、アーリーステージ向けのキャピタルが少ないこと、成長・拡大したレイターステージ向けのキャピタルも少ないことだ。しかし、これらすべてが今、変わりつつある。非常に多くの投資家が米国各地に移転しており、以前には投資対象にならなかった地域での投資を検討し始めている。新型コロナウイルス感染症によって、カリフォルニアやニューヨークから転出する動きが大幅に加速されたが、この動向によって圧倒的な勝ち組になるのが南東部のテックシーンだ」。

大手テック企業もアトランタのエコシステムに多額の資金を投じることにより、同市のスタートアップシーンに期待を寄せていることを示している。直近では、Apple(アップル)がアトランタでの新たなプロジェクトに合計で約1億ドル(約109億円)を投じることを発表した。これには、2500万ドル(約27億円)を投じてアトランタの歴史的黒人大学の近くに多様性を促進し、起業家精神を育てるための施設を建設するPropel Center(プロペル・センター)プロジェクトが含まれている。

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このプロジェクトは、バーチャルプラットフォームと、Atlanta University Center(アトランタ大学センター)内の物理的キャンパスの両方で構成される予定だ。

学生たちは、人工知能、アグリテック、社会的公正、エンターテインメント、アプリ開発、拡張現実、デザイン、クリエイティブアート、起業など、さまざまなコースを選んで学ぶことができる。アップルはこのプロジェクトに対して金銭的な投資を行っているだけではない。アップルの社員がカリキュラムを開発し、メンターとしての助言も提供する。学生たちにはインターンシップの機会も与えられる。

アトランタの好調なテックコミュニティへの支援を表明している大手テック企業はアップルだけではない。Facebook(フェイスブック)はアトランタ市近況のデータセンター施設の拡大に数十億ドル規模の巨額投資を行う予定だ。また、Google(グーグル)は米国全土を対象とした雇用創出投資のために取り分けた90億ドル(約9811億円)の一部をアトランタエリアに投入することを決めている。

現在成長しているアトランタのスタートアップシーンは、台頭している他の都市エリアが参考にできる事例になるだろう。必要なのは、優秀な技術系の高等教育機関、コラボレーションを通してスタートアップを生み出すためのリソースへの投資、地元のコミュニティに再投資する意欲にあふれた投資家のネットワーク、非営利の活動やプロモーション活動を通じた地元自治体によるサポート、そして最後に、その都市が持つ多様な歴史を擁護することである。シリコンバレーをまねする必要はないが、急成長するテックコミュニティをさらに良くするためにシリコンバレーのツールを活用することは可能だ。

最後に、TechCrunchの取材に応じてくださったみなさんに御礼申し上げるとともに、今後も南東部からうれしいニュースが数多く届くことを期待したい。

【注記】本記事はTechCrunchのアナリストKathleen Hamrickの取材協力を得て執筆された。

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画像クレジット:Virendra Murumkar / Contributor / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、Kathleen Hamrick、翻訳:Dragonfly)

ファイナンシャル・アドバイザリーを再考するSmartAssetがユニコーンに

消費者とファイナンシャル・アドバイザーをつなぐマーケットプレイスであるSmartAsset(スマートアセット)は6月24日、シリーズDラウンドで1億1000万ドル(約122億円)を調達したと発表した。

Crunchbaseによると、この資金調達により、ニューヨークを拠点とするSmartAssetの価値は10億ドル(約1110億円)以上となり、2012年の創業以来の調達総額は1億6100万ドル(約1786億円)強となった。

TTV CapitalがこのシリーズDを主導し、Javelin Venture Partners、Contour Venture Partners、Citi Ventures、New York Life Ventures、North Bridge Venture Partners、CMFG Venturesも参加した。

SmartAssetが最後に調達したのは2018年6月、Focus Financial Partnersが主導した2800万ドル(約31億円)のシリーズCだった。それ以来、売上高を「10倍」に伸ばし、現在はARR(年間経常収益)が1億ドル(約111億円)に達しようとしているという。最近では、SmartAdvisorプラットフォームで100万組目の消費者とアドバイザーのマッチングが行われた。また2020年には、全米のファイナンシャルアドバイザーや企業のAUM(運用資産)100億ドル(約1兆1100億円)のクロージングに至ったという。

SmartAsset社は、Automated Financial Modelingソフトウェアを用いて消費者とアドバイザーを結びつけるだけでなく、パーソナルファイナンスに関するコンテンツやツール、「パーソナライズされた」計算機などを通じて、毎月1億人以上の人々にサービスを提供している、とうたう。

SmartAsset社を設立する前、Michael Carvin(マイケル・カービン)氏は金融業界で働いていた。同氏は、同社の投資家であるY Combinatorとのインタビューの中で、住宅購入や住宅ローンの組み方について、「有用で、正確で、偏りのない情報」を探す際に感じた不満が、Philip Camilleri(フィリップ・カミレリ)氏と共同でSmartAssetを設立するきっかけになったと語った。

「従来の計算機には明らかな誤りがありました。そして、コンテンツはすべて、できるだけ大きな住宅ローンを組ませたいと思っている人たちが書いているように思えたのです」と同氏は付け加えた。そこで2人はSmartAssetを立ち上げ、退職、税金、貯蓄、住宅購入、保険など、人々がより良い決断をするためのツールやコンテンツを提供することにした。

画像クレジット:SmartAssetのCEOで共同創業者のマイケル・カービン氏/SmartAsset

SmartAssetは、今回の資金調達により、新製品の提供、技術インフラ、データパートナーシップへの投資を行う。また、現在202人いる従業員を、今年中に75%以上増強する。

TTV CapitalのパートナーであるMark Johnson(マーク・ジョンソン)氏は、「同社は、消費者とファイナンシャル・アドバイザーの両方に非常に価値のあるリソースを提供することで、米国最大級の市場で急速にリードを拡大しています」と話した。

今回の資金調達とその華々しい評価は、成長を続けるユニコーン企業の世界においても、一定の重みを持っている。

SmartAssetによると、今回の資金調達により、共同創業者であるマイケル・カービン氏は、バリュエーション10億ドル(約1110億円)以上の企業の黒人創業者兼CEOとして3人目となるという。他にも、CompassのCEOで創業者のRobert Reffkin(ロバート・レフキン)氏は先日こちらで紹介したし、CalendlyのCEOで創業者のTope Awotona(トペ・アウォトナ)氏もこちらで紹介したばかりだ。

黒人主導のユニコーンが残念ながら少ないのは、黒人やアフリカ系米国人のスタートアップ創業者への資金提供が歴史的に不足していることの表れだ。Crunchbaseの試算によると、2020年には、ベンチャーキャピタルからの資金調達総額の1%、つまり10億ドル(約1110億円)が、この層の創業者に提供された。

カービン氏はTechCrunchの取材に対し、「成功した黒人創業者の姿を見ることで、より多くの有色人種が起業するようになり、いつしかこうしたことがニュースではなくなることを願っています」と語った。

昨年は、多くの黒人主導のベンチャーキャピタルが資金調達をクローズしており、上述の数字は変わる可能性がある。その中には、Collab Capitalの5000万ドル(約56億円)の投資ビークル、Harlem Capitalがクローズした1億3400万ドル(約149億円)のシードファンド、Cleo Capitalの2号ファンドの2000万ドル(約22億円)の目標額、MaC VCの1億300万ドル(約114億円)のデビューファンドなどが含まれる。

また、HBCUvcとGoogle for Startupsは今月、少数派出身のアーリーステージの創業者に希薄化しない資金を提供する2つの取り組みを発表した。

シリーズDを獲得したSmartAssetは、パーソナルファイナンスからバイアスを取り除くべく取り組んでいる。SmartAsset自身も、日常的にこのような現象に悩まされている見落とされがちな創業者がいかにして強力なビジネスをリードし続けているかを示すケーススタディとなっている。

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(文:Mary Ann Azevedo、Natasha Mascarenhas、翻訳:Nariko Mizoguchi

クラウド電話の仏Aircallがユニコーンに、リモートワークの普及が追い風

Aircallが、Goldman Sachs Asset Managementが率いるシリーズCラウンドで1億2000万ドル(約133億円)を調達し、評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるユニコーンのステータスを獲得した。フランスで16番目のユニコーンとなる。

同社は、企業のコールセンターや電話サポート、営業チームなどのためにクラウドベースの電話システムを開発、現在ではSalesforceやHubSpot、Zendesk、Slack、Intercom、そして広く使われているCRMやサポート、コミュニケーションシステムに統合されている。

Aircallの顧客は独自の番号を作り、音声による対話的な応答ディレクトリをセットアップする。同社のサービスは顧客に代わって起呼のキューを管理し、顧客側のユーザーはインバウンドの通話への応答を開始できる。ユーザーは通話を転送したり、顧客を待たせたりできる。アドミンはアナリティクスを見たり、通話をモニタしたり、各ユーザーが今、何を行っているのかを確認できる。

Goldman Sachs Asset Managementの他に、これまでの投資家であるDTCPやeFounders、Draper Esprit、Adam Street Partners、NextWorldCap、Gaiaなどが再度、今回のラウンドに参加した。

クラウドベースのソフトウェアであるため、Aircallはリモートやハイブリッド(リモート+リアル)のチームが便利に使える。2020年は世界中各地でロックダウンになり、企業は新しい電話システムを求めた。そしてAircallは、そんな顧客増加の波に乗った。

数字を挙げると、2020年に新規登録が65%増え、その中にはCaudalieやOpenClassrooms、Too Good To Goなどがいる。Aircallの顧客はおよそ8500社だが、その15%がフランス、35%が米国、そして50%がその他の国々となる。

新たな資金で同社は、プロダクト開発を継続してサードパーティツールの統合をもっと増やしたい、特に各業界固有のツールを統合の対象にしたい、と述べている。またロンドンとベルリンに新しくオフィスを開き、ニューヨークやパリ、シドニー、マドリッドなど既存のオフィスでは社員数を増やしたいという。

さらに同社技術基盤の拡大強化により、既存の通信企業とのコラボレーションの実現、通話の書き起こしや感情分析など、新しい機能も加えていきたいとのことだ。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:クラウド電話フランスAircallユニコーン資金調達

画像クレジット:Aircall

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(文:Romain Dillet、翻訳:Hiroshi Iwatani)

インドのフィンテック「Zeta」がソフトバンクのリードで約272億円調達、待望のユニコーンに

Zeta(ゼータ)は、銀行やフィンテックのサービス開発を手助けするスタートアップだ。このほど調達ラウンドを完了し、待望だったユニコーンの地位を獲得した。

このバンキングテック会社は、インドの連続起業家、Bhavin Turakhia(バーヴィン・トゥラキア)氏が共同設立した。現地時間5月24日に同社は、SoftBank Vision Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)がリードしたシリーズCラウンドで、2億5000万ドル(約272億円)調達したことを発表し、TechCrunchが4月中旬に報じた内容が確認された。既存出資者のSodexo(ソデグソ)もラウンドに参加した。

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この最新ラウンドによって、ベンガルールとドバイにオフィスを構える同スタートアップの企業価値は14億5000万ドル(約1576億円)となった。Zetaが2019年7月に報告した企業価値3億ドル(約326億円)を大きく上回る金額だ。(トゥラキア氏は前回のラウンドを誤ってシリーズCと呼んでいたことを話した)。

Zetaは、銀行やフィンテックスタートアップ、およびその他のオンライン消費者プラットフォームに提供するテクノロジースタック(ツールのセット)を開発した。背景には、現代の銀行の多くが旧態依然のテクノロジーで運用されており、膨大な数の顧客やフィンテック企業に最高の体験を与える時間も専門知識も持っていない、という現状がある。

「銀行は1980年代のままです。その多くがCOBOLプログラミング言語をまだ使っていて、貧弱なユーザー体験を提供しています」とトゥラキア氏がこの日の記者会見で語り、それを改善するために銀行は何十というベンダーや技術パートナーの協力を得なくてはならないことを付け加えた。「銀行向けスタックを1から作ることなど誰も考えませんでした。今までは」。

顧客に金融サービスを提供するライセンスを持つ銀行は、ZetaのクラウドネイティブなAPIとSDKを使って、クレジットカード、デビットカード、ローンなどのサービスを開発し、顧客のユーザー体験を改善する。フィンテックもこれらのサービスを利用できる。

「あなたが思いつくどんな金融サービスでも、Zetaなら今すぐ提供します」と彼は言った。

現在同社は10社の銀行と25社のフィンテック企業にサービスを提供しており、新たな資金を使ってさらに顧客を拡大するとともに人員も増やす計画だ。

Zetaの道のり(画像クレジット:Zeta)

ZetaはSoftBank Vision Fund 2にとってインドで最新の投資先だ。日本のコングロマリットは2021年4月にもソーシャルコマースのMeesho(ミーショウ)をユニコーンに育てあげた他、インドのフードデリバリー大手Swiggy(スウィッギー)と交渉中で、さらにはSaaSのスタートアップWhatFix(ワットフィクス)への出資も検討している。

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「バンキングソフトウェアは世界で3000億ドル(約32兆6151億円)の業界です。ほとんどの銀行は顧客よりはるかに遅れたテクノロジーを現在も使っているため、ユーザー体験や顧客維持に影響を与えています」とSoftBank Investment AdviserのマネージングパートナーであるMunish Varma(ムニシュ・ヴァーマ)氏が声明で語った。

Zetaは2021年ユニコーンになった14番目のインド発スタートアップだ。Tiger Global(タイガー・グローバル)、Falcon Edge(ファルコン・エッジ)、SoftBankなどのベンチャーキャピタルが、世界第2のインターネット市場であるインドで出資のペースを加速した結果だ。

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トゥラキア氏は、弟のDivyank(ディヴャンク)氏とともに初めてのベンチャー企業を1998年に立ち上げた。その後2人は4つのウェブ企業を1億6000万ドル(約174億円)でEndurance(エンデュランス)に売却した。Zetaはそれ以降バーヴィン氏が共同開発した3番目のスタートアップで、あとの2つはビジネス・メッセージング・プラットフォームのFlock(フロック)とRadix(ラディックス)だ。

「デジタル世界は銀行に対して、セキュリティ、プライバシー、データ保護に関してますます多くの課題を突きつけています。業界はシステムを再開発してセキュリティ、プライバシー、スケーラビリティー、そして信頼性を中心基盤に据える必要があります。ZetaのOmni Stack(オムニ・スタック)はそのニーズに答えます」とZetaの共同ファウンダーで最高技術責任者、Ramki Raddipati(ラムキ・ラディパティ)氏が声明で語った。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Zetaインド資金調達SoftBank Vision FundユニコーンTiger Global

画像クレジット:Zeta

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(文:Manish Singh、翻訳:Nob Takahashi / facebook

再び注目が集まる3Dプリント技術FormlabsがソフトバンクのVision Fund 2などから約160億円調達

3Dプリント業界で大規模な資金調達があった。マサチューセッツ州拠点のFormlabs(フォームラブズ)が5月19日、1億5000万ドル(約160億円)のシリーズEを発表した。同ラウンドはSoftBank(ソフトバンク)のVision Fund 2がリードし、Formlabsの評価額はユニコーンの2倍、20億ドル(約2180億円)となった。

このニュースは、かつて窮地に陥っていた産業がかなりの関心と資金を引き寄せて復活を果たす中でのものだ。注目すべきDesktop Metal、Shapeways、Velo3D、MarkforgedなどはすべてSPAC(特別買収目的会社)経由で上場する計画を発表した。Formlabsは、業界が2026年までに510億ドル(約5兆5570億円)超の規模に達すると予測する最近の研究に言及している。テクノロジーの進化、素材の多様化、そして企業が付加製造を大量生産に取り入れる方法を模索していることを反映している。

MIT Media Labの学生によって2011年に創業されたFormlabsは3Dプリント業界においては変わり種的存在だった。同社はそれまでの付加製造(光造形法)の手法をデスクトップのフォームファクタに変えた。それは業界がバブル崩壊する中で同社が存続し続けるのに十分なものだった。

「現代においては、大半の3Dプリント技術は幅広く浸透するにはまだ高価で扱いにくいものです」とCEOのMax Lobovsky(マックス・ラボフスキー)氏は資金調達に関するプレスリリースで述べた。「当社はユーザーエクスペリエンスとこれらの機器の質の向上にピンポイントでフォーカスしており、その一方で価格抑制は当社の成功ならびに業界の成長にとって重要です。今回調達した資金で、SLAとSLSのテクノロジーの現在のポートフォリオを拡大し、引き続き3Dプリント産業に注がれている期待に応えるために製品開発を加速させる計画です」。

大型ラウンドで獲得した資金は、世界の従業員数の増加、そして大半の3Dプリント技術にとって長い間障害だった大量生産向けテクノロジーの展開にも使われる。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:3DプリントFormlabs資金調達SoftBank Vision Fundユニコーン企業

画像クレジット:Formlabs

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(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

開発者向け動画プラットフォーム「Mux」が約115億円調達しユニコーンに

わずか8カ月ほど前に3700万ドル(約40億4000万円)の調達ラウンドを完了したビデオAPIのMuxが、さらに1億500万ドル(約114億8000万円)を獲得した。

そのシリーズDはCoatueがリードしたが、そのとき同社の評価額は10億ドル(約1093億円)を超えていたと思われる(Muxは金額を非公開)。既存の投資家であるAccelやAndreessen Horowitz、そしてCobaltも参加し、また新たな投資家としてDragoneerが加わった。

共同創業者でCEOのJon Dahl(ジョン・ダール)氏によると、同社はさらに多くの財源を必要としていたわけではないが、会社の上部と引き続き縁のあったCoatueとその他の投資家たちにその気があり、結局彼らが「ビデオの転換期」においてより迅速な成長を支援するにはさらなる投資が必要、と決めてしまった。

a16zの共同創業者Marc Andreessen(マーク・アンドリーセン)が流行らせた言葉を借りてダール氏は「10年前にソフトウェアが世界を食べていたのと同じように今は、ビデオがソフトウェアを食べている」と述べたた。つまり、それまではデスクやソファーの上で視るものであった動画が、今や至るところにあり、ソーシャルメディアのフィードをスクロールしても、Pelotonでエクササイズをしても必ず動画がある。

「現在は今後5年か10年かかる大きな移行期の最初期です。その間にビデオはあらゆるソフトウェアプロジェクトのメインのパーツになっていきます」とダール氏はいう。

ダール氏によるとMuxはこの移行期によくなじんでいる。なぜなら同社は「ソフトウェアの開発者のためのビデオプラットフォーム」であり、API中心のアプローチによりビデオを迅速にリリースでき、視聴者から見てストリーミングの信頼性も高い。同社の最初のプロダクトはMux Dataと呼ばれるモニタリングとアナリティクスのツールであり、その次がストリーミングビデオのプロダクトMux Videoだった。

ダール氏はこう説明する。「動画プラットフォームを作ってそれをデータファーストで運用したければ、大量のデータとモニタリングとアナリティクスが必要です。私たちはまず最初にデータのレイヤーを作り、次にストリーミングのプラットフォームを作りました」。

同社の顧客にはRobinhoodやPBS、ViacomCBS、Equinox Media、VSCOなどがいる。ダール氏によると、創業した2015年からMuxはデジタルメディア企業の仕事もしているが「メインの市場はソフトウェアだ」と話していた。その頃、動画はほとんどニッチであり「ESPNやNetflixのような企業にしか必要ないもの」だった。しかし2年前からは「動画がコミュニケーションを支える重要な部分」になり「すべてのソフトウェア企業が動画をプロダクトの主役」と考えるようになった。

Muxの創業者たち、Adam Brown(アダム・ブラウン)氏、Steven Heffernan(スティーブン・ヘファーナン)氏、Matt McClure(マット・マクルーア)氏、そしてジョン・ダール氏(画像クレジット:Mux)

当然ながらパンデミックの間、需要が急増した。この1年でMuxのプラットフォームを利用するオンデマンドのストリーミングは300%成長し、ライブのストリーミングは3700%成長、そして売上は4倍に増えた。

「大量の仕事です。2020年の大半は、顧客の急増と会社の規模拡大とプラットフォームへの投資に追われていていました」とダール氏は笑顔でいう。

今回のシリーズDで調達総額が1億7500万ドル(約191億3000万円)になるMuxは、投資をさらに続けるつもりだ。たとえばダール氏の計画ではチームを今の80名から200名に大きくし、買収も検討することになるという。

CoatueのゼネラルパートナーであるDavid Schneider(デビッド・シュナイダー)氏は、声明でこう述べている。「Muxが開発者のコミュニティに的を絞っていることはすばらしい。そして私たちの目に強い印象を残す顧客の維持拡大の様子は、同社のソリューションが強力な価値を提供していることを表しています。この投資でMuxは同社の顧客中心のプラットフォームの構築を継続でき、そして私たちは、ハイブリッドな未来への道を先導するMuxのパートナーであることを誇りとするものです」。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Mux資金調達ユニコーン動画制作API

画像クレジット:valentinrussanov/Getty Images

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(文:Anthony Ha、翻訳:Hiroshi Iwatani)

カナダのリーガルテックClioが約119億円を調達しユニコーンに

弁護士がクラウドベースのテクノロジーを使ってより効率的に業務を行うのをサポートしているソフトウェア企業Clio(クリオ)が現地時間4月27日、T. Rowe Price Associates Inc.とOMERS Growth Equityが共同でリードしたシリーズEラウンドで1億1000万ドル(約119億円)を調達したと発表した。

本ラウンドでブリティッシュコロンビア州バンクーバーを拠点とするClioの評価額は16億ドル(約1733億円)となり、ユニコーンステータスを獲得した。Clioの前回の資金調達は2019年9月で、そのシリーズDでは2億5000万ドル(約270億円)を調達した。最新のラウンドにより世界で「初の法務管理ユニコーン」となった、とClioは主張する。創業した2008年からの累計調達額は3億8600万ドル(約418億円)となった。

創業者でCEOのJack Newton(ジャック・ニュートン)氏は、2008年の不況のときに独立弁護士や小さな弁護士事務所が事業運営で苦労しているのを見て、Rian Gauvreau (ライアン・ゴーブロー)氏とともにClioを立ち上げた、という。歴史的に法務管理ソフトウェアは小さな弁護士事務所向けではなく企業を相手とする事業向けのサーバーベースのソリューションに限定されていた、とニュートン氏は話した。Clioはそれを変えるために設立された。

Clioの共同創業者ジャック・ニュートン氏とライアン・ゴーブロー氏(画像クレジット:Clio)

「MicrosoftのWindowsが数十年前にいかにPCのためのOSを定義したかということとよく似ていて、Clioは法律事務所やその顧客のためにクラウドベースで顧客中心のデザインのソフトウェアプラットフォームを開発しました」とニュートン氏は話した。

同社のプラットフォームは、クラウドベースの法務管理、顧客の獲得、法務CRMソフトウェアを提供する、弁護士のための「オペレーティングシステム」として機能することを目的としている。同社は世界100カ国に15万超の顧客を抱える。Clioを使っている弁護士の多くは小さな弁護士事務所所属か独立しているが、同社はLocks LawやKing Lawのような大手にもサービスを提供している。

業界特化型SaaSのClioは法律の専門家がより生産的になり、事務所を大きく育て「法律サービスをさらにアクセスしやすいものにする」のをサポートしているとニュートン氏は述べた。同社はまたクライアントが弁護士を、あるいは弁護士がクライアントを簡単に探し出せるようサポートすることも目指している。

画像クレジット:Clio

同社の財務状況についてニュートン氏は口を閉ざし、2019年の資金調達以来「爆発的」に成長してきた、とだけ述べた。この成長は新型コロナウイルスのパンデミックと、パンデミックによるあらゆるもののデジタル化によって加速した。現在の評価額は「相応」で「完全な」審査プロセスを経て成し遂げた、とニュートン氏は付け加えた。

Clioは、多くの場合において従来ペンと紙に頼っていた産業に向けたコアテクノロジーの構築にフォーカスしてきた。同社はまた法律テクノロジーを弁護士が使いやすいよう安価なものにすることも目指してきた。

変化は少しずつではあるが、新型コロナによって弁護士はどのように事務所を運営し、いかに法律サービスを顧客に提供するかについて根本的に再評価することを余儀なくされた、とニュートン氏は述べた。

「多くの事務所が、新型コロナでチームがバラバラになる中で、顧客データを事務所に保存することはもはや選択肢ではないと認識しました」と付け加えた。「過去にテクノロジーの受け入れをためらっていた弁護士や法律専門家は突然この新しい現実をすぐさま受け入れることを強制されました。このテクノロジー面での変更は危機対応である一方で、永続的な変化でもあります」。

2018年にClioは初めて買収した。ロサンゼルス拠点の法律テックスタートアップLexicataだ。ニュートン氏によると、Clioは新たに調達した資金でさらに買収する計画だ。同社はまた、引き続き同社のプラットフォームと戦略的提携にも新たな資金を注入する計画だ(同社は最近150以上のアプリと提携した)。

当然のことながら、Clioはスタッフも採用する。具体的には、プロダクトとエンジニアリングのチームを強化するために現在600人の従業員数を40%(250人)増やす計画だ。

「今後数年で当社は、法律サービスが提供される方法を完全に再定義し、クラウドという方法で法的支援へ誰でもアクセスできるようにします」とニュートン氏はTechCrunchに語った。「今回の資金によって計画を促進し、既存の顧客にさらに多くを提供できます」。

Clioは特にEMEA(欧州、中東、アフリカ)のマーケットで成長しており、現在は英国とアイルランドにフォーカスしている。

OMERS Growth Equityのマネージングディレクター、Mark Shulgan(マーク・シュルガン)氏は、同社がClioを何年もの間追いかけてきた、と声明で述べた。

「Clioは明らかにマーケットをリードする法務テック会社としての地位を確立し、今後数十年にわたって成長するでしょう」と話した。

カテゴリー:リーガルテック
タグ:カナダClio資金調達ユニコーン企業弁護士

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi