チームの目標達成を支援するOKR管理サービス「Resily」が5000万円を調達

クラウドOKR管理サービス「Resily」を運営するResilyは2月13日、DNX Ventures(旧 Draper Nexus Ventures)より5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

近年チーム内の目標管理手法のひとつとして、OKR(Objectives and Key Results)が注目を集めている。この手法は元インテルCEOのアンディ・グローブ氏が提唱したもの。グーグルやメルカリを始め、それこそTechCrunchで紹介しているようなテック系の企業を中心に国内外で広く採用されている(ちなみにGoogleが運営する「Google re:Work」ではOKRに関するナレッジがかなり具体的に公開されている)。

OKRではまずO(Objectives / 簡単には達成できない高いレベルの目標)とそれを達成するための鍵となるKR(Key Results / 定量的な成果指標)を設定。出来上がったOKRは組織全体に共有して、お互いの状況をいつでも把握できるようにしておくこと、そして月に1回など比較的短いスパンでレビューすることがポイントだ。

チーム内でOKRを活用する場合、通常はまずチーム(会社や部署など)のOKRを設定し、各メンバーはそれに基づく形で個々の目標と成果指標を決める。そうすることで組織全体で同じ方向を向いてプロジェクトを進めることにも繋がる。

今回紹介するResilyは「マップ」「コミュニケーションボード」「タイムライン」という3つの機能を軸に、チーム内でのOKRの管理とそれにまつわるコミュニケーションをスムーズにするサービスだ。

全体のOKRをマップビューで一覧できる「マップ機能」は、中期と短期の目標の整合性を確認したり、それぞれの進捗度をパッと把握したりする際に便利な機能。単にOKRが階層状に並んでいるだけでなく、問題のある箇所や達成の自信がない箇所については赤や黄色で色付けされるため、一目で気づくことができる。

マップが高いところからチーム内のOKRの全体像を捉えるための機能であるとすれば、反対に「ミーティングボード機能」は1つ1つのOKRに関する細かい粒度のコミュニケーションを集約するための機能だと言えるだろう。

上述した通りOKRは設定したら終わりではなく、頻繁に振り返ることで初めて効果が出る。そのためには定期的に各目標に関連するアクションや気づきなどの情報を蓄積しておくことが重要だ。ミーティングボードはまさに各OKRごとの“掲示板”の役割を担い、この場所に来れば各メンバーの最新の進捗や課題、考えなどを一通り把握できる。

もし部下を持つような立場であれば、自身の進捗だけでなく部下の進捗も頻繁に確認したくなるだろう。そんなマネージャー層向けの機能が自分の成果に関連するメンバーの動向をチェックできる「タイムライン機能」だ。

ここでは各メンバーの最新動向に加え、KRの変更履歴なども見ることができる。部下がどんな課題を抱えているのか、何に悩んでいるのかをスピーディーに把握する際にも活用できるだろう。

Resilyのアイデアは、創業者の堀江真弘氏が前職のSansanでプロダクトマネージャーとして働いていた際に感じた課題をきっかけに生まれたもの。チームを横断して一緒に仕事をする際に、それぞれのチームが「何を優先事項に掲げているのか」「どんな目標を設定しているのか」を把握するのに時間がかかって大変だった経験から、その状況を改善する事業を始めるべく2017年8月にResilyを創業している。

会社を立ち上げて半年ほどはOKRのコンサルティングなどを通じて、色々な企業が目標管理をする上でどのような課題を感じているのかを探った。結果的には「お互いの目標を一箇所で把握でき、適切な意思決定をするのに十分な量の情報が集約された情報基盤」の必要性を感じ、2018年の8月にResilyをローンチした。

OKRに対応した目標管理ツールとしては以前紹介している「HRBrain」などもあるが、堀江氏いわくResilyは「コミュニケーションツールに分類されるもの」であり、人事評価などに重きを置いた他のソリューションとは方向性が異なるという。

Resilyは現在Sansanやパソナの関連会社、大手新聞社や消費財メーカーなど約50社で導入済み。今後はセールスフォースなど外部ツールとの連携なども強化しながら、プロダクトの拡充を進める計画だ。

ワンクリックで勤務シフトを自動作成する「Shiftmation」運営が8000万円の資金調達

勤務シフト作成自動化サービス「Shiftmation」運営のアクシバースは2月13日、Archetype Ventures、Draper Nexus Venturesおよび個人投資家を引受先とするCE型新株予約権の発行により、 総額で8000万円の資金調達を実施したと発表。同社は調達した資金をもとに開発ならびにマーケティングを強化する。

Shiftmationは毎月のシフト作成を自動化するサービス。人工知能が試行錯誤を繰り返すことで最適な解を求めようとする技術を応用し、複雑な条件を満たすシフトを自動生成する。クラウド型のサービスなので、パソコンからもスマホからも利用できる。

スタッフの希望シフトはスマホから簡単に提出でき、シフトが集計されたらスケジュール生成ボタンを押す。すると複数のシフトが提案されるので、ベストなものを選ぶ。するとそのシフトはスタッフ用のカレンダーに表示される。

アクシバースいわく、複数の勤務形態に加え、様々な役割の方の出勤条件を考慮して自動作成できるため、医療機関や介護施設などの専門職の出勤バランスをとることが必要な業態で特に便利だという。

Shiftmationは「複雑なシフトの作成には、管理職の方が数日から数週間をかけるケースもあり、貴重な時間が費やされている」「シフト作成のノウハウが属人化して、異動・退職時にシフト作成の質が下がり、スタッフにとって働きづらい環境になってしまう」といった課題を解決するために開発されたソフト。初期費用は無料、月額600円からシフト自動作成の対象ユーザー数に応じた料金で利用できる。

2018年6月のβ版リリース以降、500を超えるシフトがShiftmationで自動生成され、シフト希望提出リマインド機能、複数事業所統括ダッシュボード機能、タイムカード機能(β版)などの新機能が追加されてきた。

同社は今後の展開として、これまで通りに“シフト作成の時間を短縮する”だけでなく、“シフト作成者が考慮できていなかったような要素を自動判別して提案する”ことで、より働きやすいシフトを短時間で作成できるように開発を進めていく、とコメントしていた。

原因不明の難病診断、研究者を支援したいとの想いから生まれたクラウド購買システム「reprua」

研究業界に特化したクラウド購買システム「reprua(リプルア)」を提供するInner Resourceは2月13日、DNX Ventures(旧 Draper Nexus Ventures)、Archetype Ventures、ANRI、リバネス、バイオインパクトから8000万円を調達したと発表した。

研究分野の購買は活動のために欠かせない要素だが、その実態はとてもアナログだ。下の写真は、ある大学が購買用につけている紙のノート。研究器具を扱う商社に電話やメールで問い合わせ、どんな機材をいくつ、誰から、いつ買ったのかを紙に記録している。ほとんどの場合、これらの購買業務は研究者自身が行うといい、本来の研究以外の業務に多くの時間が割かれてしまっているのが現状だ。

そこで、Inner ResourceはシンプルなUIで誰もが簡単に使えるクラウド型購買システム「reprua」を開発した。研究に必要なビーカーなどの器具や顕微鏡などの機材、薬品などを揃えることができ、購買業務から購買後の管理業務までを一括して提供。これにより研究者はこれまでのアナログな購買活動から開放され、支出・予算管理もよりクリアになる。

repruaは研究機材を扱う商社やメーカーにとってもメリットがあるサービスだ。これまで電話やメールで来ていた問い合わせをクラウドベースで管理できるほか、同サービスには受注者と発注者をつなぐメッセージング機能も備わっているため、Web上の営業促進ツールとして活用することもできる。

Inner Resources代表取締役の松本剛弥氏によれば、研究業界の購買市場は年間4兆円の巨大市場。VC投資の熱も高まるなか、他の業種に比べてハイリスクとされるバイオベンチャーにも資金が集まりつつあることもrepruaにとっては追い風だ。サービスのリリースは約5ヶ月前の2018年9月だが、すでに民間企業30社、80の研究機関がrepruaを導入済み。1つの研究機関あたり月間400万円ほどの発注があるほか、数千万円規模の機械受注もあるという。

Inner Resourceは研究機関に対してrepruaを無料で提供する一方、受注する商社・メーカー側から数%の手数料を受け取る。しかし、今年の3月をめどに在庫管理機能、毒劇物・危険物の管理機能などを月額数万円の料金で有料開放していく予定だという。

Inner Resourceは2017年6月の創業だ。家族の1人が難病にかかり、原因不明・解決策不明と宣告されたことから「研究者を広く支援したい」という想いを抱いた松本氏。起業以前は研究機材の専門商社で働いていたが、そこで現状の購買システムが持つ大きな課題を感じ、同社を立ち上げた。

Inner Resources2018年1月にANRIからシード資金を調達しており、今回を含む累計調達金額は約1億円となった。同社はその資金を足がかりに、これまで関東を中心としていた営業活動を日本全国に広げ、アジア各国をターゲットとした海外進出も目指していくという。

Inner Resources代表取締役の松本剛弥氏

定額で複数のシェアハウスに住める「ADDress」がエンジェル投資家らから資金調達

定額で全国複数の拠点に住めるコリピング(co-living)サービス「ADDress」を提供するアドレスは2月13日、エンジェル投資家を中心とした20名以上を引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。資金調達額は非公開だが、総額数千万円規模となるようだ。

12月20日に発表されたADDressは、定額で全国複数の登録拠点にどこでも住み放題になる、サブスクリプション型の住居シェアサービスだ。空き家や別送など、使われていない物件を活用してコストを抑えながら、快適に利用できるようにリノベーション。シェアハウスと同様に、リビングなどの共有スペースのほかに個室が用意され、アメニティや家具、共有スペースの清掃などもコミコミで、月額4万円から利用できる予定だ。

ADDressでは会員同士の交流や地域との交流の機会も提供し、移住ではなく、短期的な観光でもなく、さまざまな地域と都心部とが人口をシェアリングする多拠点居住のサービスを低価格で提供していくという。

2019年4月のサービス第1弾開始に向け、12月20日の発表と同時にサービスを利用したい会員を募集したところ、2カ月弱で30名の募集に対し、1000名以上の応募が殺到したというADDress。第1弾物件は東京都心から1〜2時間圏の5物件から始める予定だったが、こちらも拡大して展開し、提携先も含めて全国に10カ所以上の拠点を用意することとなった。

ADDressでは今後も引き続き、会員希望者や遊休資産を活用したい不動産オーナー、拠点運営希望者を募集していくという。また企業や自治体との提携による拠点拡大や、クラウドファンディングの活用、第1号社員としてリノベーションディレクターの採用も計画しているようだ。

アドレスでは設立時に、同社代表取締役社長の佐別当隆志氏が所属するガイアックスと「東京R不動産」を運営するR不動産、プロダクトブランド「ONFAdd」(オンファッド)などを提供するニューピースの各社と複数のエンジェル投資家からの出資を受けている。

今回新たに株主として加わった投資家のうち、公開されている人物は以下のとおりだ。

  • 磯野 謙(自然電力 代表取締役)
  • 遠藤 健治(ピクスタ 取締役)
  • 太田 直樹氏(NEW STORIES 代表、前総務省大臣補佐官)
  • 荻原 国啓(ゼロトゥワン 代表取締役社長)
  • 小林 俊仁(ukka 代表取締役)
  • 佐宗 邦威(BIOTOPE 代表取締役)
  • 佐藤 純一(カヤック 執行役員 / そろそろ 取締役)
  • 白木 夏子(Co Inc. 代表)
  • 高橋 大就(東の食の会 事務局代表 / オイシックスドット大地 海外事業担当執行役員)
  • 遠山 正道(スマイルズ 代表)
  • 長谷川 敦弥(LITALICO 代表取締役社長)
  • 林 篤志(COMMONS CEO)
  • 藤井宏一郎(マカイラ 代表取締役)
  • 日比谷 尚武(PR Table co-founder/at Will Work 理事)
  • 村岡 浩司(一平ホールディング代表取締役社長)
  • 松本 龍祐(メルペイ取締役CPO / メルカリ執行役員)
  • 山口 義宏(インサイトフォース 代表取締役)
  • 吉井 秀三(フリーランス)

日本のコリビングサービス、サブスクリプション型住居サービスの動きは、最近になって活発になっている。長崎発のKabuK Styleが提供する「HafH(ハフ)」はクラウドファンディングのMAKUAKEプロジェクトで支援者300人以上、目標金額の5倍を超える1000万円以上を集め、2019年1月には長崎市に初の拠点をオープン。提携により、国内外7カ所の拠点を今春にもオープンし、今後も拡大していくとしている。

アバター×ゲーム実況で世界へ挑むミラティブが35億円を調達

ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏

「アバターとゲーム実況の融合に強い手応えを感じている。今回の資金調達は国内において圧倒的なポジションを確立するとともに、グローバル展開に向けた礎を作っていくためのものだ」

スマホ画面共有型のライブ配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」を手がけるミラティブの取材は、代表取締役の赤川隼一氏のそんな力強い言葉でスタートした。

同社は2月13日、JAFCO、グローバル・ブレイン、YJキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRIを引受先とする第三者割当増資により31億円を調達したことを明らかにしている(2月12日契約完了時点の金額であり、当ラウンドでのクローズ予定調達金額は35億円)。

Mirrativはもともと赤川氏が前職のディー・エヌ・エー(DeNA)に在籍していた2015年8月に、同社の新規事業としてスタートしたサービスだ。2018年2月に実質的にはMBOに近い形で新たに会社を設立し、事業を承継。同年4月にはグロービス・キャピタル・パートナーズや複数のベンチャーキャピタル、個人投資家から10億円以上の資金調達を実施した旨を明かしていた。

当時は個人投資家の名前は公開されていなかったが、佐藤裕介氏や古川健介氏、中川綾太郎氏らから出資を受けているという。

ミラティブでは今回調達した資金を用いてマーケティングの強化や「エモモ」を中心としたアバターに関する機能の研究開発、新規事業の推進、グローバル展開などに取り組む計画。2月15日からは初となるテレビCMも実施する。

ビジネスモデルを証明するための1年

赤川氏いわく、ミラティブにとって前回の資金調達からの約1年間は「ビジネスモデルを検証するための1年」だった。

「前回調達時点でユーザーが増えるモデルになっているのはある程度見えていた。一方でゲーム実況は本当にマネタイズできるのか、ビジネスとして成立しうるのか、そんなダウトが色々あったのも事実だ。1年を通して内部的な要因と外部的な要因の両方からクリアになってきた」(赤川氏)

外部的な要因としては、中国のゲーム実況サービス「Huya(虎牙)」が2018年5月にニューヨーク証券取引所に上場。ライブストリーミングの先進国とも言える中国でもゲーム実況領域だけが伸び続けているなど、市場が明確に存在することを実感できたという。

ミラティブ内部の変化としてはMirrativとエモモが順調に伸びた。スマホの画面を共有することで手軽にゲーム実況ができるMirrativにおいて、KPIとして重視している配信者の数が100万人を突破。全体のユーザーが増えてもなお配信者の比率は20%以上を保っている。

2017年9月にiOS端末からの配信に対応したことで配信者数が一気に拡大。2018年の秋からはプロモーションにも力を入れることで継続的に配信者の数を増やしてきた。

そしてMirrativユーザーをよりエンパワーするためのアイテムとして“上手くハマった”のが8月にリリースしたアバター機能のエモモだ。スマホ1台だけでVTuberのように配信・ゲーム実況ができる同機能を活用し、すでに数十万人がアバターを身につけてライブ配信を実施済みだという。

現在存在するVTuberの数は約7000人(ユーザーローカルでは12月にVTuberが6000人を突破したという調査データを公開している)ほどと言われていることも考慮すると、単純な比較はできないながらエモモの数字はかなりのインパクトがあると言えそうだ。

赤川氏としては、特に「結果的にエモモとMirrativが自然な形で融合したこと」に大きな手応えを得たという。

「もともと顔出し文化がなかったMirrativにアバター文化が上手く乗っかり、自分でもびっくりするぐらいに何の反発もなくユーザーに受け入れられた。昨年3Dアバターアプリの『ZEPETO』が流行った動きなどを見ていても、バーチャル化やアバターの流れがきている。ミラティブとしてはこの流れを汲み取りながら“いかに爆発させるのか”、2019年はさらに仕掛けていきたい」(赤川氏)

このアバターを活用した事業に加えて、秋にはついにライブ配信者が収益化できる仕組みとしてギフト機能も公開している。

「これまでのミラティブは、配信者がお金を稼ぐ仕組みはないのにただ面白いからという理由でコミュニティが盛り上がって、日本で1番スマホゲームの配信者が集まる場所になった。そこにモチベーションをアドオンする収益化の仕組みが加わったのが去年の11月。かつてYoutubeではアドセンスの仕組みが入ったことで『動画でマネタイズして、食べていけるぞ』となり、ヒカキンなどの個性的なYoutuberが続々と出てきた。今のミラティブはまさにそんなフェーズだ。収益化以降の成長カーブが加速していることにも手応えを感じている」(赤川氏)

アバターの世界観をさらに拡張し、国内外でさらなる成長へ

ミラティブの経営陣と投資家陣

今回の資金調達は直近1年の流れをさらに加速させるためのもの。まずは3つの方面に投資をしていくという。

1つ目がミラティブの成長を支える組織体制の強化。つい先日には元Gunosy取締役CFOの伊藤光茂氏が同社にジョインしているが、今後も経験豊富なメンバーの参画が決まっているようだ。同社では現在22人の人員体制を2019年中には100人規模まで拡張させていく予定だという。

2つ目の投資ポイントは冒頭でも触れたCMだ。「1番の競合は中国勢だと思っている。昨年TikTokが一気に拡大した例もあるので、まずは国内マーケットで圧倒的に突き抜けるところまで行きたい」(赤川氏)という。

そして3つ目はグローバル展開だ。これについては「本気でグローバル展開をやるなら今回の調達額でも足りない」というのが赤川氏の見解で、今のフェーズでは色々な国で今後展開することを見越した土壌作りを始める。最初の足がかりとしてはすでにMirrativが存在し、若い年代のネットリテラシーも高い韓国での展開を計画しているという。

合わせて土台となるプロダクトについても継続的に新たなアップデートを加えていく予定。そのひとつとして、現在はまだ開発段階であるが以前から話にあった「ボイスチェンジャー」機能にも着手済みだ。

僕も開発中のものを少しだけ見せてもらったのだけど、スマホから見た目だけでなく声までも気軽に変えられるのは、思った以上にインパクトがあった。目の前にいる赤川氏が実演してくれた様子は少しシュールだったけど、画面越しの配信だけを見ていると声が変わるだけで相手の印象も全く違うものになる。

「ミラティブとしてやりたいのは、人類の可能性を解放すること。たとえば才能がある人が容姿の問題で活躍できないような状況があるのであれば、アバターやボイスチェンジャーを通じてその人の可能性を解放したい。まだニッチではあるが、アバターだけの現段階でもすでに数十万人が配信をしている。そこにボイスチェンジャーが加わればより障壁が下がり『スマホ上での人格の仮想化』も加速すると考えている。この領域は偶然にも日本から出てきたものであり、グローバルで勝てるチャンスも十分あるので今後さらに力を入れていきたい」(赤川氏)

“日本未発売”のオーガニック商品が買える「ナチュラカート」運営が2.6億円を調達

世界中の質の高いナチュラル&オーガニック商品を、日本にいながら“日本語”で、“日本の決済手段”を使って購入できるマーケットプレイス——cartが運営する「ナチュラカート」を簡単に紹介するとそんなところだろうか。

近年日本でも健康面や安心面に気を使う消費者を中心に、オーガニック商品が注目を集めている。ただcart代表取締役の橋本雅治氏いわく、日本は関連商品の流通量が非常に少ない「オーガニック後進国」だ。

予防医療の発達などの影響もあり良質な商品が豊富に出回っている欧米やオセアニアに比べ、日本では様々な規制なども影響して購入できる商品の数が限られているそう。そんな状況を変えるために橋本氏は2016年にcartを創業し、ナチュラカートを立ち上げた。

そのcartは2月13日、SMBC ベンチャーキャピタル、りそなキャピタル、三菱UFJキャピタル、アライドアーキテクツ、BEENOSを引受先とする第三者割当増資により総額約2.6億円を調達したことを明らかにした。

今回調達した資金を活用して開発面やデザイン面を中心に組織体制を強化するほか、プロダクトの改善やマイクロインフルエンサーと連携した集客モデルの構築などを目指す方針。cartは2016年11月にもジャフコなどから3億円を調達していて、累計の調達額は約5.6億円になる。

海外で注目浴びる“日本未発売”のオーガニック商品を掲載

ナチュラカートは海外在住の個人や国内外のメーカーが出品するさまざまなナチュラル&オーガニック商品を購入できるプラットフォームだ。C2CとB2Cを組み合わせたハイブリッドモデルを採用していて、商品の出品者は大きく個人のバイヤーとメーカーの2タイプに分かれる。

C2CのモデルはファッションECの「BUYMA(バイマ)」を知っている人にはわかりやすい。海外にいるバイヤーが自分の気に入った商品を出品し、購入者から注文が入ったものを実際に買い付けて配送する。買い物代行にも近い仕組みで、ナチュラカートは双方を仲介する役割を担う。

一方のB2Cはブランドと消費者を繋ぐシンプルなマーケットプレイス。現在はオーガニック食品やコスメ、ナチュラルサプリなどを扱う国内外のメーカー約150社が出店している。橋本氏によると海外メーカーについてはほとんどが日本に進出していない企業なのだそう。「規制や流通面の複雑さなどが障壁になって、進出したくてもできなかった」メーカーが日本へ参入する際の選択肢として、ナチュラカートを選んでいるのだという。

サイト全体では約2000ブランド、3万点以上の商品を掲載。幅広いジャンルを扱っていて日本では未発売の商品も多い。マヌカハニーやハーブトニック、オーガニック粉ミルクなど海外で人気を集める商品を、現地に行かずともネットを介して気軽に購入できるのが特徴だ。

創業者はイデアインターナショナルを立ち上げた連続起業家

cart創業者の橋本氏はインテリア雑貨などを扱うイデアインターナショナルの創業者でもあり、2014年まで同社の代表取締役を勤めていた人物。上場も経験している、いわゆる連続起業家(シリアルアントレプレナー)だ。

イデアインターナショナル代表時には自社でオーガニックのコスメブランドを立ち上げたりもしていたが、「今に至るまでいろいろな参入障壁があり、なかなか日本国内に良質な商品が流通していかなかった」(橋本氏)ことを課題に感じ、cartを設立した。

創業時からcartに関わっているエグゼクティブ・アドバイザーの田中禎人氏は、上述したBUYMAを運営するエニグモの共同創業者。田中氏もオーガニック商品の流通面における日本と海外のギャップに目をつけ、BUYMAと同じようなモデルでこの問題を解決できたら面白いと考えていたのだという。

結果的にはB2Cモデルに知見がある橋本氏と一緒に、両者の得意領域を組み合わせるような形でスタート。ナチュラカートがC2CとB2Cの両方を取り入れているのはそんな背景があるからだ。

そのようにして始まった同サービスはもう少しでローンチから丸3年を迎える。その間にも「マーケットは間違いなく拡大している」というのが橋本氏の見解。たとえばイオンが食品やコスメの領域を中心にオーガニックのブランドを立ち上げたり、フランスのオーガニック専門スーパーであるビオセボンに出資したニュースなどは話題に上った。

オーガニックブランドを扱うアメリカ発のECサイト「iHerb(アイハーブ)」などの地名度も若い世代を中心に高まってきてはいるが、まだまだ海外の良質な商品が十分に流通しているとは言えない。cartでは今後もその土壌作りを継続していく計画だ。

今後はウェルネス視点を融合、将来はD2Cの展開も

cartのメンバー。前列左から2番目が代表取締役CEOの橋本雅治氏、後列左から2番目がCOOの越智幸三氏

今回の資金調達はまさにナチュラカートを一層拡大させるためのもの。調達した資金を活用して組織体制の強化やプロダクトの改善を測るほか、調達先のBEENOSとは越境ECノウハウの提供や海外の倉庫機能と連携した物流⾯での効率化など、事業上の連携も見据える。

合わせてこれまで着手していなかった新しい取り組みも計画中だ。ひとつは従来のナチュラカートで中心となっていたナチュラル&オーガニックジャンルに、ウェルネスの要素を取り入れること。cartでCOOを務める越智幸三氏は「近年オーガニック商品を求める消費者のニーズが変わってきている」ことがこの背景にあるという。

「家族や自分自身の健康を考えて、体に良い商品を使いたい。そんな健康志向でオーガニック商品を買う人たちが増えていて、(オーガニック商品を)ファッションで買う時代ではなくなってきている」(越智氏)

その要望に応える形で、ナチュラカートではより医療や科学的な視点から商品を選別する取り組みを考えている。具体的には「たとえばこの商品には水溶性食物繊維がどのくらい含まれていて、それにはどのような作用がある」など専門家の正しい解説を加えることで、各ユーザーが本当に欲しい商品を見つけやすい仕組みを目指す。

「医者やアスリートなど、エキスパートと連携することでユーザーにとってより価値のあるサイトにしていきたい。今まではユーザーの顕在化したニーズに依存していた側面が強かったが、何かぼんやりとした悩みがあった時に訪れても適切な解決策が見つかる場所を目指す」(越智氏)

この点については共同創業者の湯本優氏が医師/医学博士で、なおかつスポーツ医科学トレーニングやフィットネスの専門家であるため、湯本氏の知見やネットワークも活用できそうだ。

またもうひとつ、さらに将来的な構想としては「日本にない良質なものを取り扱うだけでなく、そもそも世にないものを作るというアプローチ」も検討していくという。いわゆる「D2C」的なアプローチだ。

もともとcartのメンバーはものづくり系のバックグラウンドを持つメンバーが多い。橋本氏はもちろん、COOの越智氏もユニリーバや西友でリアルな商品の企画や製造、販売に携わってきた。そこにナチュラカートで蓄積された販売データと、原料メーカーなどとのネットワークを合わせることで、cartオリジナルの商品を作ることも橋本氏の頭の中にはあるようだ。

「ナチュラカートはリサーチの場にもなる。どんな商品が人気なのか、どんな商品が求められているのか。その要望に十分に応えるものがないのであれば、自分たちで作ってしまってもいい。まだ会社として具体的な話が決まっているわけではないが、自分としては世の中にないものを作るチャレンジもしたい」(橋本氏)

独自デバイス活用し「尿検査で高精度のがん診断」実現へ、日本発のIcariaが資金調達

Icariaのメンバー。左から岸田和真氏、市川裕樹氏、代表取締役CEOの小野瀬隆一氏、共同創業者で技術顧問も務める安井隆雄氏

1年間で約37万人ーー。2017年にがんが原因で死亡した日本人の数だ(厚生労働省が発表している平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況より)。がんは日本人の死因の第1位であり、同年には実に全死亡者の約3.6人に1人がこの病気によって亡くなった。

がんは発見が遅れることが生存率の低下にも繋がるため、いかに早い段階で発見できるかが重要。近年はテクノロジーを活用して従来とは異なるアプローチから「がんの早期発見」を実現しようとしている、バイオテック系の企業が国内外で登場している。

今回紹介するIcariaもその1社。同社は尿検査を通じて早期のがん診断を目指す、日本発のスタートアップだ。独自のデバイスを用いて尿から「miRNA(マイクロRNA)」と呼ばれる物質を抽出。miRNAはがん患者と非がん患者で発現しているものが異なるため、得られたmiRNAを網羅的に解析することで対象者が肺がんにかかっていないかどうかを診断できる仕組みを開発中だ。

そのIcariaは2月13日、ベンチャーキャピタルのANRIとJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)を引受先とした第三者割当増資にNEDOからの助成金を合わせ、総額で数億円前半の資金調達を実施したことを明らかにした。

ナノワイヤ×尿中miRNA×機械学習で高精度な肺がん検査実現へ

Icariaが開発するがん診断サービスの仕組みを理解する上では「ナノワイヤ」「尿中miRNA」「機械学習」という3つのキーワードを押さえておく必要がある。

ストレートに表現すると「ナノワイヤを活用した独自デバイスによって、尿中miRNAを効率よく抽出し、がん患者特有のmiRNAプロファイルを機械学習で網羅的に分析する」仕組みなのだそう。とはいえ、これでは流石に書いてる僕自身でさえよくわからないので少し補足していきたい。

まず軸になるのが遺伝子発現をコントロールする役割を担うmiRNAという物質だ。近年このmiRNAの異常が、がんを始めとした様々な疾患に関係することがわかり、研究者たちの間でも注目されているのだという。実際Icariaでもがんの診断時にこのmiRNAをバイオマーカー(指標)としている。

ただ同社代表取締役CEOの小野瀬隆一氏によると、人間のマイクロRNAは2000種類以上も見つかっているとされているように種類が豊富で多機能なのだそう。そのため1つのmiRNAを分析して「がんかどうか」を判断するのは難しく、個人差もあって高精度の検査は実現できない。

それならば「より多くのmiRNAを集めて網羅的に解析してしまおう」というのがIcariaのコンセプト。同社のコアテクノロジーもまさにこのmiRNAを高効率で抽出できる酸化亜鉛ナノワイヤデバイスにある。

より正確には、まずナノワイヤデバイスを通じて尿中に含まれるエクソソームという小胞体を捕捉。このエクソソームはmiRNAを内包しているので、そこからmiRNAを取り出すような流れだ

このデバイスは、共同創業者で技術顧問も務める安井隆雄氏(名古屋大学大学院工学研究科の准教授も務める)の研究をベースとしたものだ。使っている素材自体は特殊なものではないが、ナノワイヤを“生やす”(生成する)工程に特徴があるそう。特殊な生やし方をすることで、捕捉できるmiRNAの数も大きく変わるという。

実際のところ、従来の方法では尿から検出できるmiRNA数は約200〜300種類。一方のIcariaのデバイスならその数は数倍の約1300種類だ。Icariaのサービスではそのように検出されたmiRNAをプロファイル化し機械学習によって解析することで、診断結果を算出する。

同社では肺がん患者と健常者それぞれ数百個の尿検体から肺がん診断アルゴリズムを生成。もちろんまだ数は限られているものの、小野瀬氏の話では今の所かなり高い“正答率”を叩き出しているようだ。特に肺がん患者の半分近くはステージI、Ⅱに該当し「現時点では、従来難しかった肺がんの早期発見が高い精度でできている」(小野瀬氏)という。

国内外で注目浴びる「リキッドバイオプシー」

バイオテックやヘルステック界隈に関心がある人は「リキッドバイオプシー」という言葉をご存知だろう。日本語では「液体生検」などと訳されていたりもするが、従来の生検方法ではなく血液や尿などの体液を用いてがんなどの疫病を診断するテクノロジーのことだ。

この領域ではビルゲイツやジェフベゾスらからこれまでに10億ドル以上も調達しているGRAILが特に有名。血液検査を通じてcfDNA(セルフリーDNA)を解析することでがんの早期発見の実現を目指す同社には、日本の電通ベンチャーズも出資している。

そのほか海外ではソフトバンク・ビジョン・ファンドなどが出資するGuardant Health、国内ではディー・エヌ・エーとPreferred Networksの合弁企業であるPFDeNA、広島大学発スタートアップのミルテルなどがある。

それぞれアプローチは異なるが、リキッドバイオプシーが注目されている理由として「早期発見が可能になりうること」に加えて「診断を受ける患者側の負担が少ないこと」もあげられる。少量の血液や尿を採取するだけで正確にがんの診断ができるのであれば、それに越したことはない。

もちろんこれらのテクノロジーが今以上に普及していくためには、大前提として高い診断精度が求められる。小野瀬氏も「リキッドバイオプシーにおいてはバイオマーカーを正確に、高効率で抽出することが不可欠。機械学習が発達しても、正確なデータが取得できないと診断は難しい」と話す。

Icariaは独自のデバイスを通じて「競合より多くのmiRNAを抽出、解析できる仕組み」を構築することで、精度面においても優位に立つことが目標。現在もデバイスの性能検証やコストダウンも見据えた改良に取り組んでいる。

ゆくゆくは1回の尿検査で多様ながん種を発見できるサービス目指す

Icariaは代表の小野瀬氏が三菱商事を経て2018年5月に立ち上げたスタートアップ。当初は「セカンドオピニオンを遠隔で取得できるような事業」を考えていたそうだが、今回株主となったANRIを通じてがんの課題を解決する大学のシーズ(安井氏が研究していた技術)の話を聞き、最終的には意気投合して現在の事業モデルに決めた。

創業からはまだ9ヶ月ほどで現在はPoC(概念実証)前の研究開発フェーズ。今後はデバイスだけでなくアルゴリズムの精度検証や、まだまだ未知数なmiRNAの生物学的な妥当性検証などに力を入れる計画だ。

プロダクトのローンチは2020年頃の予定。最初はリスクチェックという立て付けで、人間ドッグなどの検査シーンに診断サービスを提供していきたいという。

「最初は肺がんからスタートするが、ここできちんと精度を証明できれば他がん種や糖尿病など他疾患の検査へ横展開もできる。同じように、がんになる前の状態から“がんを予測する”超早期の発見など縦方向へ深化させていくことにも取り組みたい。ゆくゆくは簡単な検査を1回受けるだけで、様々ながん種を発見できるサービスの実現を目指す」(小野瀬氏)

コードレビュー支援SaaSのSiderが資金調達、エンタープライズ版の提供も

ソフトウェアエンジニア向けのコードレビュー支援サービス「Sider」を運営するSiderは2月13日、オプトベンチャーズを引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。調達額は非公開だが、関係者の話を総合すると数億円規模の調達ではないかとみられる。

Siderでは資金調達と合わせて、GitHub Enterpriseに対応したオンプレミス版のSider Enterpriseを正式リリースしたことも発表。調達した資金も活用しながら大手企業への普及を目指していく。

同社は2012年にアクトキャットという社名でスタート。プロダクトも以前は「SideCI」という名称だったけれど、現在はどちらもSiderに変更している。今回の資金調達はSBIインベストメントなどから2.1億円を調達した2017年4月以来のもの。前回までの累計調達額は約2億8600万円だ。

「カスタムルール」を通じてチーム内の暗黙知を共有

Siderはコードレビューを自動化するサービス。コーディング規約違反がないか、セキュリティーやパフォーマンスの観点で問題のある書き方をしていないかなどをチェックする。標準的な規約やベストプラクティスだけでなく、「カスタムルール」機能を通じて“自分たち独自のルール”に基づいたレビューもできるのが特徴だ。

Siderによると、実にソフトウェア開発者の業務の15%以上をこの「コードレビュー」が占めているそう(Siderの利用企業に対するインタビュー結果の平均値)。このプロセスを自動化することで、業務時間の削減やソフトウェアの品質向上をサポートするのがSiderの役割だ。

現在はRubyやPHP、Java、Python、Swift、Goなどの言語に対応。Siderが開発したツールも含めて20以上の解析ツールをカバーする。現在数百社に導入されていて、企業規模はスタートアップから上場企業までさまざま。日本を中心にアメリカやイギリス、インドなど数十ヶ国にユーザーがいる。

Sider代表取締役の角幸一郎氏によると、以前までは「コードレビューの自動化」を特徴として打ち出していたが、今はそれに加えて「チーム内やプロジェクト内で暗黙知となっているナレッジを共有できるサービス」であることを訴求しているようだ。

「特定の誰かは知っているけれど、他のメンバーは知らない知識やルールをSiderに蓄積することで共有できる。それらの情報はソースコードを読めば全てがわかるようなものでもなく、社内のWikiにも書かれていなかったり、書かれていたとしても情報量が多くて埋もれてしまっていたりする」(角氏)

この“暗黙知の共有”をサポートするのが、独自のルールをSiderに取り込めるカスタムルール機能だ。

たとえば障害が起きてしまった時のコードをSiderに組み込んでおけば、次回以降は自動で検知され、再発を防ぐことができる。新しいメンバーが効率よくチーム内のルールを把握することにも役立つし、重大なミスを事前に防ぐためのチェックリスト的な役割にも使える。

角氏の話では、携わるメンバーが多い大規模なプロジェクトや、定期的にメンバーの入れ替わりがあるような組織では特に効果的ではないかとのこと。実際のところ、大手企業の担当者とも話をする機会が増えてくる中で、チーム内での情報共有に関する課題とその解決手段に対するニーズが見えてきたのだという。

エンタープライズ版もスタート、大手企業への導入加速へ

大手企業のニーズへの対応という観点では、オンプレ版のSider Enterpriseを正式にスタートする。これまでも正式にアナウンスはしていなかったものの取り組み自体は着手していたそうで、KDDIやDMM.comなどがすでに導入済みだ。

今回の資金調達を経て、プロダクトの改善や販売活動の拡大を進める計画。エンタープライズ版のリリースを機に、これまではリーチできなかったような大企業への展開にも力を入れる。

またチーム内でのナレッジの暗黙知化や属人化は「グローバルで共通する課題」(角氏)でもある。コードレビューを自動化できるツールとしては「Codacy」や「Code Climate」などがあるが、カスタムツールを軸にコードレビューの領域にフォーカスした支援ツールとして、引き続きグローバルでの普及を目指す方針だ。

物置き版Airbnbの「モノオク」が資金調達、年内に全国1万箇所目指す

物置のシェアリングサービス「モノオク」運営のモノオクは2月12日、エンジェル投資家の杉山慎一郎氏ならびに高梨大輔氏より第三者割当増資による資金調達を実施したと発表。調達額は非公開。同社は2018年7月にベンチャーキャピタルのANRIを引受先とし数千万円を調達していた。

モノオクは荷物を預けたい人と、空いたスペースを活用して荷物を預かりたい人をマッチングするC2Cの物置シェアリングサービス。収納・保管に悩むものを手軽に預けられることが可能だ。2017年9月にサービス提供を開始し、現在の登録ユーザー数は5000人を突破。

モノオクには部屋の押し入れやクローゼット、使っていない倉庫や空き部屋など個人が保有しているスペースを登録することができる。ホストと呼ばれる荷物の預かり手となるユーザーは、これらの空きスペースを活用して荷物を預かることで収益をあげることが可能だ。契約期間の縛りは特になく、ホストと相談して必要な期間だけ荷物を置くことができる。

モノオクは2月6日、引越しシェアリングサービス「Hi!MOVE」との業務提携も発表していたことも記憶に新しい。Hi!MOVEはトラックをシェアすることで「少しでも引越し料金を抑えたい」というユーザーに新たな選択肢を提供するとともに、荷物の写真を撮ることで手軽に見積もりを算出できるサービス。Hi!MOVEに関しては以前にも紹介しているので、こちらの記事を参考にしてほしい。

同業務提携ではHi!MOVEは「処分はしたくないが、収納場所に困る荷物がある」などの悩みをかかえたユーザーに対し、モノオクをリコメンド。また、引越し日を分散し、引越しのトータルコストを抑える手段の1つとしてもモノオクを紹介する。モノオクは荷物の配送を検討中のモノオク利用者に対し、「Hi!MOVE」を紹介する。

モノオクは今回の調達のリリースで、年内に全国1万箇所までスペースを広げるとコメントしている。

小売・飲食企業のアプリ開発支援を手がけるエンターモーションが2億円調達

ファミリーレストランや商業施設向けにアプリの開発・運営サポートを行うエンターモーションは2月12日、XTech Ventures、SKY-AZ酒類飲食活性化1号ファンド、かんしん未来第2号ファンドから2億円を調達したと発表した。

エンターモーションは、実店舗をもつ小売流通、外食企業などに向け、スマートフォンアプリのプランニング、開発、運営のサポートを行うスタートアップ。「Insight Core」というサービス名のもと、O2Oアプリに必要な機能をモジュールとして用意し、それと追加開発機能を組み合わせる形でアプリを開発することで、作業時間と開発コストを低く抑えているという。

最近では、居酒屋ブランド「金の蔵」の公式モバイルアプリの開発支援、レディースファッションブランド「BE RADIANCE」の公式アプリの開発支援などの実績がある。

エンターモーションは2003年の創業。もともと企業のO2O(オンラインからオフラインの購買行動を促進する施策)を推進するオウンドメディアの受託開発事業を10年以上に渡り展開していたが、2017年11月頃に現在の事業モデルへとピボット。今回の資金調達を足がかりに、今後もInsight Coreのサービス充実に注力していくという。

スバル「アイサイト」のカメラ発明者が率いるITD、資金調達で開発環境を強化

自動運転車などに用いるステレオカメラを開発するITD lab(以下、ITD)は2月5日、電子部品の専門商社である富士エレクトロニクスを引受先とする第三者割当増資を実施したと発表した。金額は非公開であるものの、2018年6月に発表した前回ラウンド(4.8億円調達)と合わせて6億3000億円を調達したということなので、今回のラウンドでの調達額は1億5000万円ほどと推測される。

ITDが手がけるのは、「小型軽量」「低消費電力」「高速応答性」などの特徴をもつ「ステレオカメラ」と呼ばれる製品だ。2つのイメージセンサーから得られる視差を使って物体までの距離を計算する。自動車、ドローン、建機、ロボットなどに取り付けることで衝突防止をしたり、自動運転を実現したりなどの用途に用いられる。

自動運転車に取り付けるデバイスには、ステレオカメラの他にも「LiDAR」や「単眼カメラシステム」などがあるが、ステレオカメラはLiDARに比べてコストが抑えられてかつ応答速度が早く、単眼カメラとは違って学習モデルにない物体でも距離計算ができるというメリットがある。

ITDの代表取締役会長CTOを務めるのは実吉敬二氏。彼は、元東工大の准教授であり、スバルの運転支援システム「アイサイト」に採用されたステレオカメラの発明者でもある。実吉氏は1998年にスバルを退社した後、東工大へ。それから約20年に渡ってスバルとは独立してステレオカメラ技術の研究開発に従事。この研究を引き継ぐ形で2016年5月に創業されたのがITD Labだ。

ITDのステレオカメラのアルゴリズムは、アイサイトのステレオカメラと同様に「SAD(Sum of Absolute Difference)」方式を採用。一方で、現在商品化されているステレオカメラの多くは「SGM(Semi Global Matching)」方式を採用している。SAD方式はSGM方式に比べ、アルゴリズムの簡素化によってシステムコストや消費電力を大幅に抑えられる、視差画像の中に映る物体の輪郭がよりハッキリと表現されるなどのアドバンテージがあるという。コストや消費電力を抑えながら毎秒60〜160フレームの超高速処理を実現可能だ。

また、ITDのステレオカメラにはアイサイトでも実現できていない「リアルタイム自動調整機能」が搭載されており、例えば温度変化や衝撃などでカメラ本体の組み立て精度が変動してしまっても、システムが自動的に視差画像を調整・補正するそうだ。

ITDはプレスリリースのなかで、「(ITD製のステレオカメラは)毎秒60〜160フレームの超高速で物体の輪郭と距離情報を極めて正確に確定するため、自動運転車の “眼” の役割を担う事ができる。ディープラーニングのAIと組み合わせる事で真の意味 (レベル4、レベル5) の自動運転システムを構築する事ができる」とコメントしている。

ITDは今回調達した資金を利用して、人材の確保、研究環境の整備、外部開発会社を巻き込んだ大規模開発などを進める。

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お店ではなく料理1品ごとにレビューできる「SARAH」が2.5億円調達、データ販売事業開始

お店ではなくメニュー単位で料理のレビューを閲覧できる「SARAH(サラ)」を運営するSARAHは2月4日、三井物産、ハウス食品グループ、ハウス食品グループイノベーションファンド、Hedden Gems、東松山起業サポートから2億5000万円を調達したと発表した。

会食、デート、友人との食事会などのために、レストランやカフェをインターネットで探す機会は多い。食べログやぐるなびなど、レビューや評価をもとにレストランを探して予約できるサービオスはすでに僕たちの生活の中に浸透している。

そんななか、他とはちょっと違った方法でグルメレビューサービスを提供するのがSARAHだ。同サービスの一番の特徴は、お店単位ではなく、そこで提供される料理1品ごとにレビューを閲覧できることだ。例えば、すごく美味しいラザニアが食べたくなり、評価の高いイタリアンレストランを検索したとしても、時にレストラン自体の評価は高くてもラザニアはあまり美味しくなかったということもある。その点、SARAHでは自分が食べたい料理単位でレビューを確認できるので、自分が食べたい料理が決まっているのならば、”ハズレ”は少なくなる。

SARAHは2015年のリリース以降、これまでに約42万件のレビューがサービスに投稿され、MAU(月間アクティブユーザー数)は50万人を超えるという。

そのSARAHは今回新たに2億5000万円を調達し、グルメレビューアプリの運営に加えて新たな事業を開始する。企業向けに料理データを提供する「Food Data Bank」だ。これは、SARAHに蓄積されたレビューの点数データや、ユーザーが投稿した文章を言語解析したデータを企業に販売するというもの。

他のグルメサイトとは違い、SARAHには料理ごとのレビューデータが蓄積されている。だから、今特に注目されていて評価の高い「唐揚げ」がどんな特徴を持っているのか、などを分析することが可能だ。例えば、最近になってレビュー数が急上昇した唐揚げに、ユーザーが「大きくてジューシー」、「スパイスが効いていておいしい」などと投稿していれば、今は大きくて、スパイシーな唐揚げがウケるなどと分析することができる。これは常に新メニューを作り続けなければならないコンビニや外食チェーンなどにとっては貴重なデータだ。

SARAHはこのFood Data Bankをまずは分析済みのデータを個別販売するという形でスタートさせるが、将来的にはデータ抽出ツールを開発し、それに対してサブスクリプションモデルを展開するなどを検討しているという。

大学発、量子コンピュータ用ソフト開発のJijがANRIから資金調達

従来型のコンピュータに対して、より効率よく計算ができる量子コンピュータは、カナダのD-Wave が実機を開発し、2013年にNASAとGoogleが共同で導入を決めたことで、広く注目されるようになった。機械学習や物流、金融など、さまざまな分野で「実際に使えるもの」として認識が進んだのだ。

しかし、D-Waveの量子コンピュータを使って実社会にある課題を解くためには、これまでのコンピュータのプログラミングとは異なる形で課題を定式化して、アプリケーションやアルゴリズムを用意しなければならない。

そうした実業務向けに、量子コンピュータのためのアプリケーションやアルゴリズムを開発する大学発スタートアップが、Jij(ジェイアイジェイ)だ。Jijは2月1日、ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円規模の資金調達を実施したと明らかにした。

D-Waveマシン実現で可能性が開けた「量子アニーリング」

そもそも、量子コンピュータは従来のコンピュータと何が違うのだろうか。

「0」か「1」のいずれかの状態を取る「ビット」を使って計算を行う従来型のコンピュータに比べて、量子コンピュータでは0と1の状態を同時に取る「重ね合わせ」状態が取れる「量子ビット」を使うため、効率よく計算ができる。

例えば30枚のコインを地面に投げる場合。1枚のコインは「表」と「裏」の2つの状態を取る。2枚では「表・表」「表・裏」「裏・表」「裏・裏」の4つ、3枚では8つと状態が増えていき、30枚では約10億にもなる。ここで量子ビットが30個あり、それぞれが「表」と「裏」の重ね合わせ状態にあるとしたら、約10億の状態を同時に表せる。「表」「裏」どちらの可能性も持つ重ね合わせ状態から計算をスタートすることで、状態を1つずつ計算して確認していくより、効率よく、高速で計算が行えるという仕組みだ。

量子コンピュータには、従来のコンピュータの論理回路(論理ゲート)の代わりに「量子ゲート」を使う量子ゲート方式と、自然現象を借用したアルゴリズムのひとつ「量子アニーリング」を使う量子アニーリング方式とがある。D-Waveが採用しているのは、この量子アニーリング方式だ。

D-Waveの量子コンピュータ「D-Wave 2000Q system」

量子ゲート方式の量子コンピュータはあらゆる目的で使えるという意味で「汎用型」と言われるが、量子ビットの重ね合わせ状態が壊れやすく、安定して動作させることが難しい。一方、量子アニーリング方式では、汎用性はないが、特定の問題なら高速に解くことができる。また、量子ゲート方式よりもシステムを安定して動作させることが可能だ。

量子アニーリングが得意とする「特定の問題」とは、組み合わせ最適化問題やサンプリングだ。組み合わせ最適化問題の例としては、巡回セールスマン問題が有名だ。

巡回セールスマン問題は、宅配便のドライバーやセールスマンが、複数の訪問地をどのようなルートで回れば距離が一番短くなるか、コストが最も低くなるか、というもの。訪問数が増えれば増えるほどルートの組み合わせが指数的に膨大になっていく。訪問数が5カ所の時にはルートの組み合わせが120だったものが、訪問数30カ所の場合ではすべての組み合わせは2.7×10の32乗になり、従来型のコンピュータですべての可能性をしらみつぶしに調べようとすると、高性能なスーパーコンピュータでも計算に何億年もの時間がかかる。つまり事実上、計算が終わらない。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

こうした計算を、量子アニーリングマシンではより現実的な時間で行うことができる、とされている。「ほかにもスケジュール調整や、ディープラーニングで必要となるサンプリングなど、量子アニーリングマシンを使った計算で解決できる課題にはさまざまなものがある」とJij代表取締役CEOの山城悠氏は説明する。

Jij最高技術顧問で東北大学 兼 東京工業大学量子コンピューティング研究ユニット准教授の大関真之氏も「人口縮小や人員削減にともなう生産性向上や、即時即応のサービスが求められていることを背景に、組み合わせ最適化問題の解決は社会の問題解決につながる」と語る。

「例えばUBERで、ドライバーがユーザーからの経路リクエストに瞬時に応えられ、また『ついでに買い物がしたい』といった思いつきのニーズにも対応できれば、サービスの密度が上がる。こうした問題にも量子アニーリングは使えると考えている」(大関氏)

量子アニーリングのためのアプリ開発

さて、組み合わせ最適化問題を量子アニーリングの手法で解くためには、問題を物理学でよく知られている「イジングモデル」という数学的モデルに書き換え、マッピングすることになる。Jijが行っているのは、このイジングモデルを使ったマッピングによる、アプリケーション開発だ。

Jijホームページより

イジングモデルは、磁石(強磁性体)の磁力が表れる様子を模した数学的モデル(模型)だ。格子上の点の上に「電子スピン」が配置され、スピン(自転)の右回り・左回りがそれぞれ「0」「1」に対応する。スピンが同じ方向にそろうと、強い磁力が生み出される。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

それぞれの格子のスピンの向きには、ほかのスピンとの相互作用がある。ペアになったスピンが同じ方向になった場合と、反対の方向になった場合とでどちらが安定する(エネルギーが低い、低コスト)かが、相互作用の値によって決まる。

各格子のスピンの最適な組み合わせを見つけるに当たり、量子力学の重ね合わせ状態を初期状態として使うのが、量子アニーリングだ。

D-Waveの量子アニーリングマシンは、計算手法として考案された量子アニーリングを、超伝導回路で実際のチップに実装したものだ。

D-Waveのマシンに組み込まれた格子状のチップ

Jijでは、クラウド契約でD-Waveの量子アニーリングマシンを利用している。実際の課題をイジングモデルに落とし込んでマッピングし、量子アニーリングマシンに送り込む。これが普通のコンピュータではプログラミングに相当する作業となる。マシンでは量子アニーリングを実際の物理現象として実行し、解を得ることができる。

山城氏によれば、「現実で起きている問題をイジングモデルに当てはめるのが難しい」とのことで、そこがJijのもつ技術力であり、優位性だということだ。

「量子アニーリングの手法には、リバースアニーリングや不均一量子アニーリングなど、いくつかの亜種があり、問題によって処理がより速くなる方法が研究されている。この量子アニーリングマシンの性能をフルで引き出すための調整が難しいところだ」(山城氏)

Jijでは、組み合わせ最適化問題の抽出、イジングモデルへのマッピング、シミュレーションと実機での実証実験、そして結果をもとにした性能評価を行っていくという。

アニーリングマシンのためのシミュレータをOSSで開発

D-Waveの量子アニーリングマシンは、NASAやGoogleに導入されたほかにも応用研究が行われており、日本の企業もリクルートが広告掲載順の最適化、デンソーが工場内の無人機の交通最適化などで、共同研究や実証実験に取り組んでいる。

また海外では、1QbitQC Wareといったスタートアップが、量子コンピュータのためのソフトウェアやアルゴリズムを開発。日本でも2018年設立のスタートアップQunaSysが量子ゲート方式のマシンのためのソフトウェア開発を行っており、同年4月に、Jijと同様にANRIから数千万円を資金調達している。

このように量子コンピュータ周辺の事業が盛り上がりを見せる中、これまでは計算が難しかった大規模な課題に、量子コンピューティングで取り組みたいという事業者は増えている。Jijでも他の事業会社と連携し、共同研究開発やコンサルティングによるソフトウェア開発を行っていくそうだ。

また、量子アニーリングマシンのD-Wave登場に触発されて、デジタル処理により、従来のコンピュータで用いられるアルゴリズム「シミュレーテッドアニーリング」に特化したハードウェアも誕生。より現実的に使えるアニーリングマシンとして、日本でも、富士通のデジタルアニーラや日立製作所のCMOSアニーリングマシンといった技術が開発されている。

量子アニーリングマシンでも、シミュレーテッドアニーリングマシンでも、組み合わせ最適化問題を今までのコンピュータより高速に解けることが期待されている。組み合わせ最適化問題の抽出とイジングモデルへのマッピングが利用のカギとなることにも変わりはない。

そこでJijでは、量子アニーリングマシンに限らず、シミュレーテッドアニーリングマシンも含めて、アニーリングを包括的に使えるシミュレータとして「OpenJij」を準備している。これはアニーリングマシン向けの開発を行う際に、異なるマシンでも、同じインターフェイスで同じベンチマーク機能が扱えるというもの。

OpenJijは、オープンソースソフトウェア(OSS)としてGitHub上にプロジェクトが公開されており、世界中の開発者からの貢献を得ながら、アニーリングマシンを使った開発に使用してもらうことを想定している。山城氏は「プロジェクトを進め、問題解決に最適なマシンが選定できるようにする予定だ」と話す。

世界的に注目される量子アニーリングにスピード感を持って取り組む

量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題を解くための量子力学を使った計算手法のひとつ。金属やガラスを高温に熱してからゆっくり冷やすことで、内部のひずみが除去できて構造が安定する、という自然現象「焼きなまし(アニーリング)」をシミュレートすることで解を得ようというものだ。この計算手法は1998年、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生だった門脇正史氏によって提案された。

Jijは、西森研究室で学んだ大関氏を代表研究者として、2017年度、科学技術振興機構(START)の大学発新産業創出プログラムに採択されたプロジェクトの成果として設立された。2018年11月のことだ。

大関氏によれば、プロジェクト採択に当たってのヒアリングでは「量子アニーリングが世界的に注目されているタイミング。スピード感を持って取り組んでもらえるか」と問われ、支援期間が原則3年間のところを1年半で結果を出すよう求められたとのこと。「結局、それをさらに短縮して、1年強で成果を出すことができた」という。

このプロジェクトに参加していた代表取締役の山城氏は、現在も西森研で修士課程に在学中。同じく西森研に在学中の西村光嗣氏が研究・開発を担当し、東京工業大学、東北大学からのメンバーが中心となってチームに参加する。

今回のANRIからの調達資金により、Jijでは開発と人材強化に投資すると山城氏は述べる。「量子アニーリングは専門性の高い分野だ。その高い専門性の中でも技術力の高い人たちとやっていきたい」(山城氏)

大関氏は、量子力学を使った組み合わせ最適化問題の探索法と、シミュレータを使った探索法との違いについて「シミュレータを使った探索法では、スピンの配置(0か1か)はランダムでスタートして、移動しながら解を探索する。このため試し打ちが必要で無駄が出る方法だ。量子力学を使った探索法では、重ね合わせ状態からスタートして(スピーディーに)解を1つに絞ることができる」と説明する。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

現状ではシミュレータを使った計算のほうが安価で効率がよいケースも多いことは事実だが、大関氏は「今後のハードウェア、ソフトウェアの開発が進むことにより、こうしたコスト面の問題はいずれ解消できる」と考えている。このため「注力したいのは量子アニーリングのための開発」として、量子アニーリングに焦点を当てつつ、ほかのアニーリングマシンでも使えるソフトウェアを開発していくと述べている。

OCR、自然言語処理、データ予測などAIプロダクトを複数提供するCogent Labsが資金調達

手書き文字をデータ化するOCRプロダクトの「Tegaki」などを提供するCogent Labsは1月30日、SBIインベストメント、京都電子計算、TIS、野村ホールディングス、みずほ銀行、三井住友信託銀行、および個人投資家から資金調達を実施したと発表した。金額は非公開。

Cogent Labsが手がけるサービスは3つある。金融機関や自治体向けに導入が進む手書き文字の読み取りサービス「Tegaki」、ニュース分析などに利用する自然言語文章の分析エンジン「Kaidoku」、金融業界などで利用できる時系列データ予測エンジンの「TSF」などを展開している。

このようにAI関連技術を応用して複数のプロダクトをCogent Labsは国内外から優れたAI人材を採用し、技術の研究開発にも積極的だ。世界20カ国からAI人材を採用し、従業員は現在66名となっている。また、2018年10月にはイギリスのUniversity College Londonとのパートナーシップを発表。人間の脳と同じ仕組みでAIが思考する「モジュラーAI」という次世代AI技術を共同で研究していくという。

同社は今回調達した資金を利用して、既存サービスの強化、および上記のようなAI技術を応用した新規サービスの開発を進めるという。

国内外の民泊・ホテルを一度に検索できる「Stayway」が資金調達、インバウンド対応を加速

前列中央がStayway代表取締役CEO佐藤淳氏

民泊とホテルを含めた宿泊施設検索・比較サービス「Stayway」を運営するStaywayは1月30日、エボラブルアジア、VOYAGE VENTURES、および元マネーフォワード取締役の浅野千尋氏を引受先とした第資金調達を実施したと発表。調達した額は非公開とされているが、数千万円規模になるという。

日本での民泊元年、2018年の6月にリリースされたStaywayは民泊とホテル等の宿泊施設を同時検索・価格比較できる、同社いわく国内初のサービスだ。

同サイトではBooking.com、Expedia、Agoda、Ctrip、HomeAway、楽天トラベル、じゃらん、一休、Hotels.com、Wimduなど国内・海外の大手予約サイトの最新情報をもとに、3ステップで簡単に最安値を検索できる。現時点で世界100か国・2万都市以上の400万件を超える宿泊施設が対象になるという。

Stayway代表取締役CEO佐藤淳氏いわく、同社は今回調達した資金をもとにStaywayのシステム開発とサービス提供体制強化のために体制を強化する。価格予測機能を2019年上半期中に実装することを目指す。

加えてインバウンド対策として、英語、中国語、韓国語に対応できるようにする。まずは英語を先行し、2019年中にはリリースする予定だ。

インバウンド市場は急拡大しており、2017年の訪日外国人旅行者数は過去最多の2869万人、東京でオリンピックが開催される来年2020年には年間4000万人まで増加すると言われているが、Staywayのようなサービスは宿泊施設不足の問題解決に大いに貢献できるのではないだろうか。

また今後、検索サイト事業以外でも、よりオンラインとオフラインを融合させた宿泊関連事業を展開するというStayway。佐藤氏いわく、宿泊施設を同社のブランドでプロデュースする事業を強化させるそうだ。

GIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」が3億調達、コミュニケーション領域におけるGIF利用の加速を目指す

右がGIFMAGAZINE代表取締役社長の大野謙介氏、左がCTOの中坂雄平氏

日本最大級のGIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」運営のGIFMAGAZINEは1月30日、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資、ならびにみずほ銀行などからの借入により総額3億円の資金調達を実施したと発表。

GIFMAGAZINEはこれまで、gumi venturesおよびジャフコから資金調達を実施しており、今回の調達により累計調達総額は約7億円となった。

GIFはSNSやチャットとも相性が良く、アメリカや中国を筆頭に、海外では既にGIFを使ったコミュニケーションが広く普及している。たとえばアメリカではGIFのGoogleと呼ばれるGIPHYや2018年3月にGoogleに買収されたtenorなどのGIF検索サイトが有名だ。

ここ日本では盛り上がりにまだまだ伸び代がある状況。そんな中、「世に新たなポップカルチャーを生み出す」というミッションのもと、GIFMAGAZINEは国内を中心にGIFカルチャーのさらなる普及を目指している。

「映画やアニメはMP4でもMOVのファイルでも見られる。だがGIFは一種のカテゴリーだ。約3秒くらいの一瞬で終わる映像体験だからこそ見せられる表現やループの面白さがたくさんある」そう話すのは同社の代表取締役社長、大野謙介氏。

「GIFは非常に手作り感があり、長い間、紆余曲折ありながら生き残ってきた。その紆余曲折があったからこそ、ファイルフォーマットなのに人間味のあるストーリーが付与されている」(大野氏)

2013年7月設立のGIFMAGAZINEのメインの事業はGIFプラットフォームのGIFMAGAZINE。GIFクリエイターや一般ユーザーの投稿、企業やコンテンツホルダーが発信する公式動画など、200万点を超えるGIFが集まるエンタメ動画メディアだ。GIFMAGAZINEにはウェブ版iOS版アンドロイド版がある。

アート性の高いクリエイターによる作品のほか、映画、ドラマ、アニメ、スポーツなど、あらゆるジャンルの公式コンテンツを見たりシェアすることができる。最近だと映画「十二人の死にたい子どもたち」や奈良県マスコットキャラクター「せんとくん」の公式のものなども。

同社は加えて「GIFMAGAZINE STUDIO」という、100名を超える公式GIFer(作家)と共に企業のブランディングやプロモーションをサポートするサービスも展開している。

また同社は2018年12月に開催された「theGIFs2018」などのイベント開催にも注力。同イベントはGIFMAGAZINEとAdobeが共催というかたちで開催したGIFコンテストで、応募総数は1700点超。

渋谷HUMAXシネマで開催された表彰式は巨大スクリーンでGIFを鑑賞し日本一のGIF作品を決めるというものだった。最優秀賞を受賞したのはPercolate Galacticさんの「Ramen Stall」。

Ramen Stall

受賞理由は「ループ感すら感じさせない、ループしている事以上に勢いを感じる、LIVE感がある」作品であったから、など。

また、会場のロビーや階段には合計100台のiPadが配置され、合計500点を超えるGIFアニメが展示されていた。

「私たちが売り上げを伸ばしていくには、ユーザー、クリエイター、企業や広告主、そのコミュニティーを広げていくことが重要だ。企業がきちんとした価値を受け取れて、クリエイターがそれを通じて色んな仕事を受け取り、娯楽をユーザーに提供するというエコシステムを私たちは作っている」(大野氏)

そんな同社は調達した資金をもとに「コミュニケーション領域におけるGIFコンテンツ配信サービスへ投資を行い、新たなビジュアルコミュニケーションのうねりを創り出す」のだという。

同社は本日、GIFMAGAZINEに投稿されている200万点以上の作品の中から厳選したGIFを「LINE」のトークルームで送り合う事ができる「ジフマガ」というサービスに関しても発表している。LINEトークルームの「+」ボタンからGIFを呼び出しスタンプ感覚で送信することができる同サービスは、2018年12月よりオープンβというかたちで提供されているそうだ。

大野氏は「スタンプの次がGIFだとは思わないが、GIFには実写の持つ雰囲気やスタンプでは表現できない“間”があり、また、“ハロー”と“こんにちは”のあいだの絶妙な挨拶なども可能だ。そういう意味でGIFはスタンプよりもある意味で幅広いとも言えるのでは」と話していた。

「友人の友人」までの副業・転職意欲を確認できる「YOUTRUST」が資金調達

副業・転職のリファラル採用プラットフォーム「YOUTRUST」運営のYOUTRUSTは1月28日、シードラウンドでの第三者割当増資を実施したと発表。

引受先はTLMおよび個人投資家の中川綾太郎氏。調達額は総額数千万円と発表されている。

2018年4月にリリースされたYOUTRUSTは「友人の友人」までの副業・転職の意欲がリアルタイムで閲覧できるヘッドハンティングのためのプラットフォームだ。アカウントは副業・転職希望者向けのユーザーアカウントと採用を希望する企業向けのリクルーターアカウントの2種類。

副業・転職希望のユーザーは「転職含め検討中」「今すぐ手伝える」「まずは相談から」「今は難しい」の4つから意欲を選択。意欲の公開範囲は友人や共通の友人がいるユーザーにも意欲が見える「パブリック」、もしくはつながっている人にしか意欲が見えない「プライベート」から選べる。その後は友人とつながったり、「自己紹介」や「できること(Ruby on Rails、広報、ライティングなど)」を追加したりしてプロフィールを充実させ、スカウトを待つだけ。

「友人の友人」にまでスカウトなどのアプローチができるリクルーターアカウントは審査制で、利用料はアカウント毎に月額3万円。その他にも雇用形態によって異なる成果報酬を支払う必要がある。

YOUTRUSTいわく、あえて「『友人の友人』までのネットワークに制限する」ことで「信頼性を担保し、58%と非常に高いスカウト返信率を維持している」のだとか。また、リリースから約半年だが、ノンプロモーションながら全体のユーザー数が約4000名、うちリクルーターアカウントは120社171名。登録者はインターネット業界のユーザーが95%。

同社は今回の資金調達により、サービス運営体制の強化やプロモーション推進に注力する。具体的にはフルタイムメンバーを増やし、PR活動やイベント・セミナーの開催などプロモーションに力をいれる予定だ。

登録から内定まで最短1日、士業の転職を変えるヒュープロが資金調達

士業・管理部門に特化した転職支援サービス「最速転職 HUPRO」を運営するヒュープロは1月28日、XTech Venturesを引受先とした第三者割当増資により6000万円を調達したことを明らかにした。

調達した資金をもとにプロダクトのさらなる機能拡充と、エンジニアを中心とした人材採用の強化に取り組む計画。今回のラウンドはヒュープロにとってプレシリーズAという位置付けで、同社はこれまでウェイビーやコロプラネクスト、数名の個人投資家より資金調達を実施している。

ITを活用して士業や管理部門の転職をスピーディーに

ヒュープロの主力サービスである最速転職 HUPROは税理士や公認会計士などの士業と、経理・財務や法務など管理部門の人材に特化した転職支援サービス。ITを活用しながら転職フローの効率化を進めると同時に、マッチングの自動化などを行うことでサービス名の通り“最速転職”をサポートすることを目指している。

大まかな仕組み自体は転職サイトと同様だ。転職を希望するユーザーがアカウント登録をした後に気になる求人をチェックし、選考に進む。ただ各ユーザーにはエージェントがつくため、立ち位置としては「転職求人媒体とエージェントの中間のような存在」(ヒュープロ代表取締役の山本玲奈氏)だという。

特に士業や管理部門の転職に関してはまだまだレガシーな側面が多いのか、従来の転職サービスでは登録後にエージェントと対面での面談が続き、膨大な数の求人を紹介されるなど内定までに時間がかかるケースも少なくない。

最速転職 HUPROの場合は数分でユーザー登録が済み、公開されている中で興味のある求人があればそのまま申し込むことが可能。職歴や学歴などのプロフィールを入力しておけば、その情報をもとにマッチング率の高い求人を絞ってレコメンドしてもらうこともできる。

そのほかキャリア相談や条件交渉のサポートなど、エージェントとのやりとりを電話やオンラインで実施する「クラウドエージェント」機能や、面接アポイントメントの自動化機能などを搭載。ユーザーにとっては従来に比べて時間や場所の制約を受けずに支援を受けられる点がポイントだ。

サービスのローンチは2018年の4月。現在までに延べ1200名を超えるユーザーが利用していて、非公開も含めると登録企業数は約3000社に上る。

山本氏の話では企業と転職者双方にとって1番価値を感じてもらえているのがスピードとのこと。過去にはエントリーから面接アポイントメントまでが最短5時間、会員登録から内定まで最短1日で完結した事例もあるという。

直近では、よりスピーディーな転職を支援するべく転職者向けの「職務経歴書のカンタン作成機能」や「内定通知書・内定承諾書をクラウド化する機能」のリリースも予定。職務経歴書の作成は転職者にとって1番時間的な負担がかかる作業であり、この工程が電車の中でも10分でサクッと完結できるような機能を開発中だ。

また内定通知書の作成や承諾するための捺印、スキャンデータや紙を送る作業など一連のフローは企業にとっても転職者にとっても面倒な作業になっている。これについては4月を目処に労働条件通知書に関する規制が緩和されるため、それに合わせてクラウド上で内定通知書の作成と送付に対応し、ワンクリックで内定承諾できる機能を提供していく方針だ。

将来的には士業全体のプラットフォーム化目指す

左からヒュープロ代表取締役の山本玲奈氏、XTech Ventures共同創業者の手嶋浩己氏

最速転職 HUPROはまだ始まってから1年も経っていないサービスだが、運営元のヒュープロ自体は2015年の11月に設立されてから約3年が経過している。

もともと代表の山本氏は学生時代に弁護士を目指していたそう。そんな時、予備校に入学するための資金稼ぎも兼ねてビジネスプランコンテストに参加。そこから上場企業内で子会社を立ち上げるプロジェクトに関わる機会も得るなど、徐々にビジネスの方向へとシフトしていった。

自分で創業したヒュープロでは当初は営業代行事業をメインにしていたが、山本氏自身が以前から取り組みたかったという士業の領域で自社サービスを手がけることに。最初は学生が士業事務所や企業の管理部門でアルバイトやインターンができる「ヒュープロアシスタント」からスタートし、初めての資金調達も経験した。

並行してエージェント業も展開する中で税理士事務所で働く40代のシングルマザーから受けたキャリア相談がひとつの転機となり、最速転職 HUPROが生まれたのだという。

現時点の最速転職 HUPROはまだまだテクノロジーを活かせる部分も多く、マッチングアルゴリズムの改善や上述したスピーディーな転職を支える新機能などにこれから取り組んでいく計画。ニーズが顕在化していて「いろいろとチャレンジできる余地がある」という考えは山本氏だけでなく、今回単独で出資したXTech Ventures共同創業者の手嶋浩己氏にも共通する。

「士業の領域はスキルの明確化がしやすいので、特にオンラインで進めやすく(従来の工程を)スキップできる余地が大きい。加えて士業特化のエージェントがあるなど、市場やニーズがあることも明確。全く新しい概念というわけではないかもしれないが、テクノロジーを活用することで掘れる井戸はたくさんあり、その一歩目が最速転職 HUPROだと考えている」(手嶋氏)

まずは最速転職 HUPROに注力するが「ゆくゆくは士業全体のプラットフォーム化に向けて新たなサービスを展開していくことも計画している」(山本氏)という。

スマホやスピーカーで住宅をまるっとスマート化、「住宅のOS」手がけるSOUSEI Technologyが4.5億円調達

家の状態管理アプリなどを提供するSOUSEI Technologyは1月25日、あいおいニッセイ同和損害保険、京都大学イノベーションキャピタル、信金キャピタルから4億5000万円を調達したと発表した。リードインベスターは調達総額のうち3億3000万円を出資したあいおいニッセイ同和損保だ。

SOUSEI Technologyは、奈良県で注文住宅事業を行うSOUSEIのIT部門を2018年8月に分社化したことで誕生したスタートアップだ。現在、同社は住宅領域で2つのサービスを手がけている。マイホームアプリの「knot」は、マイホームに関する様々な情報を一括して管理できるアプリ。建築図面、住宅の取扱説明書などの書類やアフターメンテナンスなどの情報を管理できる。アプリには住宅の完成予定日までの日数や、次にいつ定期点検があるのかなどを確認できる機能もある。

同社はknotのほかにも「v-ex(ベックス)」と呼ばれるプロダクトも展開している。これは、専用デバイスを自宅に取り付けることで、家電の遠隔コントロールや住宅の状態管理などが行えるようになるというもの。スマホやスマートスピーカー経由でリモコン起動の家電(テレビ、エアコン、照明など)を操作できるようになるほか、温度・湿度・気圧をスマホアプリ上でチェックできるようになる。

v-exは2018年7月に販売開始。今後もさまざまな機能を追加することで様々なアプリケーションを備えた「家のOS」デバイスとして進化させていくという。

HOME OSデバイスの「v-ex」。写真は同社Instagramアカウントより。

SOUSEI Technologyは今回調達した資金を利用して、各サービスのマーケティングと開発能力を強化していく。特に、今回の資金調達ラウンドでリードインベスターを務めたあいおいニッセイ同和損保とは、本ラウンドを期に「InsurtechとReal Estate Techの新たなビジネスモデル実現を目的に共同で研究開発を行っていく」としている。

場所の“時間貸し”普及へ、スペースマーケットが8.5億円を調達——東京建物やJTBらから

さまざまなスペースを1時間単位から貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」。同サービスを展開するスペースマーケットは1月23日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資により、総額8.5億円を調達したことを明らかにした。

今回は同社にとってシリーズCという位置付けで、11月に紹介した東京建物を含む複数社からの資金調達もこのラウンドに含まれる。参加した投資家は以下の通りだ。

  • 東京建物(新規)
  • JTB(新規)
  • 広域ちば地域活性化投資事業有限責任組合(広域ちば地域活性化ファンド / 新規)
  • XTech Ventures(新規)
  • マイナビ(既存)
  • オプトベンチャーズ(既存)
  • みずほキャピタル(既存)
  • SBIインベストメント(既存)
  • 千葉功太郎氏(既存)
  • その他社名非公開の事業会社数社と投資ファンド1社(いずれも新規)

2016年にオプトベンチャーズなどから4億円を調達した際に比べて、今回のラウンドでは東京建物やJTBなど事業会社の名が目立つ。

スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏によると「場所の時間貸しをもっと当たり前にしていくことを目指し、(特に新規の投資家については)親和性の高い事業会社と連携を深めることを重視した」とのこと。各事業会社とは資本面だけでなく業務面でもタッグを組み、サービスのさらなる拡大を目指していくという。

業界活性化に向けてCM実施、法人とのアライアンスも強化

スペースマーケットは2014年4月のローンチ。個人や企業が保有する遊休スペースを時間単位で貸し借りできるこのプラットフォームには現在1万件を超えるスペースが掲載されている。

スペースのジャンルもイベント会場や会議室から、撮影スタジオ、映画館、住宅など幅広く、借り手となるユーザーの用途も会社のイベントやプライベートの女子会、本格的なロケやCMの撮影スポットなど、どんどん多様化している状況だ。

特にここ1〜2年で様々な領域でシェアリングエコノミー関連のサービスが広がったこともあり、スペースマーケット内でも貸し借りのサイクルが回るようになってきたというのは11月に紹介した通り。一方で重松氏が「まだまだ認知度は低い」と話すように、直近では「スペースの時間貸し文化」自体をさらに広めるための取り組みを進めてきた。

実際に見かけたという人もいるかもしれないが、11月からはテレビCMを実施。マス向けにレンタルスペースの概念や利用シーンのイメージを訴求するとともに、並行して法人とのアライアンスにも力を入れてきた。

今回資本業務提携を締結した東京建物とJTBはその代表例だ。東京建物との連携については前回の記事で紹介しているので詳しくはそちらに譲るが、重松氏いわく「サプライサイドを強化する」ための取り組み。

簡単に説明すると東京建物が保有する遊休スペースをスペースマーケットで扱うことによって、魅力的なスペースを拡充するだけでなく、時間貸しが根付いていない不動産市場に変化を加えようという試みだった。

一方でJTBとの提携は「特に法人を軸にしたデマンドサイドを強化する」こと、つまりスペースマーケットに並ぶスペースの利用をより活性化させることが目的だという。

JTBとは大きく2つの軸で協業する計画。1つは法人営業連携によるビジネスシーンでの利用の拡大で、JTBが顧客のニーズに応じてスペースマーケット上の場所を提案するというものだ。

背景にあるのはJTBが日本全国のクライアントへ実施しているMICE支援(Meeting : 会議・研修、Incentive tour : 招待旅行、Conference : 国際会議・学術会議、Exhibition : 展示会)においてニーズが多様化していること。オフサイトミーティングや社内イベントの満足度を向上させるためにユニークなスペースを活用したいというエンドユーザーの要望と、法人の利用を促進したいというスペースマーケットの考えが一致した。

「スペースマーケットはもともと法人向けのサービスとして始まったが、近年は個人ユーザーの利用が急速に伸びてきている状況。一方で法人のニーズは十分に取りきれておらずポテンシャルはあるものの、自社だけでは取りこぼしてしまうような部分もあった。(JTBは)法人向けの営業が強く、今後強化しようとしていることもあり、自社にとっては力強いパートナーだ」(重松氏)

スペースマーケットには廃校や古民家など特徴的なスペースも多い。たまには気分を変える意味も込めて、このような場所で社内の行事やミーティングをやってみるのも面白そうだ

2つ目として地域交流事業における連携を通じた地方の遊休スペース活用も進める。JTBグループが展開する地域交流事業のメニュー内でスペースマーケットの時間貸しスキームを用い、短時間のイベントや会議時の場所としてスペースの提供を行っていく計画だ。

サービスの成長とともにスペースの活用方法も多様化

こうした枠組みに加えて、企業の商品サンプリングなどマーケティングやプロモーションの文脈で遊休スペースを活かそうという動きも加速している。

12月にはプロジェクターやスピーカー機能を搭載したスマートライトを開発するpopInとコラボし、全国20のスペース内で同社のライトを体験できるプロジェクトを実施。同様に独自のコンセプトで開発された家具や家電製品を扱う企業を中心に、自社製品を実際の生活に近しい環境の中で試してもらいたいというニーズが増えてきているという。

たとえば炊飯器やオーブンなどを探している場合、店頭では実際にご飯を炊いたり調理をして使い勝手を試してみるといったことは難しい。パブリックなスペースではなくプライベートな利用シーンに近い形で友人や家族と製品を手にとって試せる機会はこれまであまりなく、企業としても「体験」にフォーカスした新たな商品訴求の場となり得る。

このようにシェアされた遊休スペースを企業のブランディング用途で活用するという取り組みは、重松氏自身もサービスローンチ当初から明確に思い描いていたものではない。まさにスペースのシェアエコが少しずつ広がる中で、その利用方法もどんどんアップデートされていっているような形だ。

「会社としてはこの1月で5周年を迎えるが、立ち上げ当初は自分自身もこのマーケットが存在するのか、存在するとしても国内でレンタルスペースの活用が根付くのか不安もあった。ただここにきて時間貸しが徐々に一般化しつつある。『akippa』など周辺ビジネスも盛り上がってきているほか、大企業も巻き込めるようになり手応えも感じている。この流れを加速させ、時間貸しを当たり前の選択肢のひとつにできるように、さらなる事業拡大を目指したい」(重松氏)