AppleのiOSが2007年に登場してから10年以上たつ。これほど長いあいだバージョンアップを重ねてきたOSをさらに改良するのは至難のわざだ。しかしiOS 11によってiPadはまったく新しいマシンに生まれ変わる。iOS 11はAppleにとってここ何年かで最大のOSアップデートだと思う。Appleはリスクを取ってもOSにイノベーションを持ち込むことにした。
私はここ数週間、iOS 11ベータ版を10.5インチのiPad Proに登載してテストしてきた。一般向け安定版が公開されるのはこの秋だが、今日(米国時間6/26)、AppleはiOS 11のベータ版を公開した。この記事でiOS 11版のiPadの作動の様子をプレビューしてもらえると思う。
iPadに慣れたユーザーはiOS 11にアップデートすると驚くことになる。iPadの作動が従来とまったく違ってしまうからだ。Appleはマルチタスクの導入によりユーザー体験を根本から変えた。すべての要素が関連し協調して動作する。たとえば、ファイル・アイコンを複数のアプリにドラグ&ドロップすることができる。またフルスクリーンでアプリを作動させている状態でホーム画面下部に新しく導入されたMac風のドックからアプリのアイコンを引き出し、窓状態で開くことができる、などだ。
何年か前にiPadを使ってみたものの不満を感じてスマートフォンとノートパソコンに逆戻りしたユーザーはiPadをiOS 11にアップデートしてフレッシュな気持ちで再スタートして欲しい。
iOS 11のすべての機能はとても挙げきれない。それについてはAppleのサイトで詳しく解説されている。ここでは私が特に重要だと思ったいくつかの機能にしぼって解説する。
iOS 11ではユーザーは右手の指でファイルのアイコンを押さえたままドラグし、同時に左手の指でドックを画面に呼び出すことができる。これはもう『マイノリティ・リポート』の世界だ
iOS 11をインストールして最初に気づくのは画面の下端にmacOS風のドックが表示されることだ。ドックには10数種類のアプリを設定できる。画面の下端から上にスワイプすればいつでもドックを引き出される。これは他のアプリを使っている場合でも同様だ。
アプリのアイコンをタップすればオープンすることができる。アイコンをスクリーンの横端にドラグすると狭いバージョンを開ける。たとえばフルスクリーンで何かの作業をしている場合でもMessagesアイコンをドラグしてメッセージを読み、すぐに閉じることができる。
iOS 9やiOS 10のスライドオーバーと似た機能だがユーザー体験はまったく異なる。
【略】
Mac風のドックや新しいアプリのスイッチャーの採用はOSそのものが根本的な変化を遂げたことの現れでしかない。Appleはドラグ&ドロップを全システムで可能とした。つまりファイルや実行可能アプリのアイコンをドラグ&ドロップで移動できるようになった。今後はファイル、アプリ、メニューを自由に操作できる。
こうした新機能にどのように対応するのか、サードパーティーのアプリの場合は秋を待たねばならない。しかし現在実現されている範囲でも変化は大きい。たとえばPhotosアプリ内の写真をドラグしてNotesアプリのアイコンに乗せるとNotesが開く。写真を指で押さえたまま望みのノートのところまでドラグし、そこでドロップするという使い方ができる。
iOS 11ではユーザーは右手の指でファイル・アイコンを押さえたままドラグし、同時に左手の指でドックを画面に呼び出すことができる。これはもう『マイノリティ・リポート』の世界だ。
またAppleはiPadに本格的なファイル・システムを導入した。iPadはDropbox、Box、それにもちろんiCloud Driveをサポートする。
小さなところではメインのキーボードでキーを下にスワイプすることで句読点や数字にアクセスできる。NotesアプリはEvernote的になり、ドキュメントをスキャンできるようになった。手書き文字も解読され、後で検索できる。
ただし正直に言って新しいシステムに慣れるには時間がかかりそうだ。残念ながら私はまだそこまで行っていない。何かをしようとして「これをするにはどうするのだっけ?」と迷うこともたびたびある。
AppleはiOS 9で画面分割などの機能を取り入れたが、iOS 11ではこれを大きく進め、iPadを「大きいiPhone」から仕事に使えるデバイスにしたといえる。
ARKitは驚くような能力
iOS 11は根本的なアップデートだ。上で紹介したようにユーザーがすぐにそれと気づく新機能も大きいが、真価を発揮するのはデベロッパーが新OSの新しいフレームワークを活用したアプリをリリースするのを待たねばならない。これにはある程度時間がかかる。【略】
その中でも重要だと思うのはARKitだ。これはiPhoneとiPadののカメラに拡張現実の能力を与えるもので、このフレームワークはたとえばテーブルを認識し、その上に3Dオブジェクトを表示することができる。ユーザーがiPadを持ってテーブルの周囲を回ればオブジェクトの裏側を見ることができる。カメラを近づけるとオブジェクトは自然に拡大される。まるでテーブルの上に本物の物体が載っているように見える。このフレームワークを利用すればiOSアプリのデベロッパーは一夜にしてARのエキスパートに変身する。ゲームを始めAR活用のオプションは非常に大きい。
じゃん! ARKitの測定アプリ#2 〔日本版:現実の物体をカメラで撮影し、きわめて高精度で寸法を測定している〕
Core MLも大きなアップデートだ。AppleはPhotosアプリ向けに以前から開発を続けていた機能だが、これが他のアプリからも利用できる汎用のフレームワークとなった。デベロッパーは機械学習による物体認識をあらゆるアプリで利用できる。
その他新機能多数
これはあくまでiOS 11のプレビューなのですべての新機能を紹介することはできない。目についた部分をざっと見ただけだが、それでもあまり知られていないアップデートが多数あった。
- 通知が表示される画面はデザインが変わり、ロックスクリーンそっくりになった。ちょっと混乱するかもしれない。
- Siriの音声が自然になった。
- PhotosアプリがとうとうGIF的動画をサポートした!
- App Storeがリニューアルされる。デザインは素晴らしいと思うが、アプリの発見に大きな変化が起きるのか、デベロッパーにどのような影響を与えるのかは今後の問題。
- iCloudを有効にしている場合、iMessageデータベースは自動的にiCloudにアップロード、同期される。暗号化はそのまま維持される。ただし iOSのバックアップ全般はiCloudでは暗号化されない。
- デバイスのメモリーに余裕がない場合、 iOS 11は使われていないアプリを自動的に削除する。データや設定は維持されるが、次回にそのアプリを利用するときには再ダウンロードする必要がある。
- 【略】
その他マイナーなアップデートも無数にある。しかし上で述べたように大きな変化が実感されるのはサードパーティーのデベロッパーが新OSの機能をアプリに実装してからだろう。
当初iOSのアプリはそれぞれ孤立してサンドボックスの中で作動していたが、Appleは次第にオープン化を進めてきた。iPhone、iPadいずれのユーザーもiOS 11ではAppleのオープン化戦略の恩恵を十分に受けることになりそうだ。
[原文へ]
(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)