黒人創設者に投資せずにチャンスを逃す投資家たち

本稿の著者Craig Lewis(ジョセフ・ヘラー)氏は契約社員向けに開発されたシンプルなフィンテック給与計算プラットフォームであるGig Wageの創設者兼CEO。

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黒人である私は、米国でとても苦労している。テクノロジー業界では特に珍しい黒人創設者として、まったく勝ち目のない戦いを強いられている。

ベンチャーキャピタルからの資金が1%に満たない投資先には、制度化されたシステムの影響が重くのしかかる。私は起業家として活動してきたこれまでの約10年間で、成功した分だけ挫折や失敗を経験してきた。

黒人の起業家コミュニティを苦しめている格差にも耐えながらも、私は前進してきた。資金を調達しにくい中で最小限の資本とチャンスを確保しながら、黒人は存在感を示し、力強く前進している。

ハンデを負いながらも、自分のベンチャー事業に1300万ドル(約14億円)近くの資金を意欲的に調達したCEOとして思うことは、黒人の創設者が損をしているわけではないということだ。むしろ、力強く前進する黒人創設者を過小評価していることに気づかず、儲け損なっている投資家が損をしているのだ。

ベンチャーキャピタルとテクノロジーの融合(つまりこの2つをどのように機能させるか)をエンジニアリングの視点から考えると、答えにたどり着く。開発者やプログラマーになりたい人は通常、特定の学校やカレッジに進学することで、成功への階段を上り始める。

多くの黒人学生(特に男子学生)は以前から、高等教育を受けるためにスポーツに打ち込んでいる。テクノロジーに関する能力を教育機関に認めてもらう必要はあまりない。

黒人学生の両親やコミュニティは、スポーツに打ち込むことを後押しする。これまでの歴史で作り上げられた固定観念があるため、成功への道がそれしかないと思い込んでいる。学生がテクノロジーの世界へつながるレールに乗らなければ、つまり、多くのテクノロジー企業の創設者を輩出しているCal Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)、Stanford(スタンフォード大学)、Harvard(ハーバード大学)などに進学できなければ、すぐに「輪」の外に追いやられてしまう。これが、テクノロジー業界の黒人創設者にとって第一関門となり、その後もさまざまな障害を乗り越えなくてはいけない。

しかし私は、このような「障害」が黒人創設者の行く手を阻む壁ではなく、非常に大きな力を発揮するための重要なきっかけであると言いたい。

私の家族に起業家がおらず、一流大学についての情報を得る方法もなかったのは事実だ。良い成績を収め、特待生として卒業したにもかかわらず、Ivy League(アイビーリーグ)の教育が非常に価値のあるものであるということをまったく知らなかった。

私のスキルと成績があれば、全額支給奨学金のオファーがあったYale(エール大学)、Brown(ブラウン大学)、Columbia(コロンビア大学)、Southern Methodist(サザン・メソジスト大学)のような大学で、バスケットボールのスター選手としてプレーし、卒業することもできたかもしれない。しかし、それが可能であることも知らず、アイビーリーグの「輪」の中にいるメリットに関する知識もなかったため、私はそうしなかった。

私が大学で過ごした2000年から2004年の間に、多くのすばらしい企業がエリート校で創立された。私を含む多くの黒人学生に対して情報が遮断されるという傾向により、黒人学生の全体的な視野が形成され、それが見えない障壁となった。

その見えない障壁を突き破り、ぶれることなくハンデを克服し粘り強く前に進みつつ、私が対峙してきたような投資家や、私が創立したのと同じような会社と対話を続けるためには、黒人としての経験でのみ培える異次元の存在感が必要だ。黒人創設者は2021年以降、資金調達やテクノロジー企業を成功に導くためにその力を認識するだけでなく、解き放つ必要がある。投資家、ベンチャーキャピタリスト、起業家のエコシステム全体がそうしたことに留意することは賢明なことであり、非常に有益なことだ。

黒人創設者は発想を転換し続けることが必要だが、以下の5つの方法を実践しなければそれを実現することはできない。

黒人創設者のみなさん、資金調達の効果は忘れよう

黒人創設者(特にテクノロジー業界)には、資金不足を強調する屈辱的な統計が引き合いに出され「適切な方法で」資金を調達するためにワンパターンの台本が準備されている。ほぼ自動的にそのようなアプローチが採用されるようだ。そして、投資家のプレイブックとルールに従って投資家から資金を調達することを意図した、型にはまった起業家になろうとしている。

黒人創設者はこれに見合った資金調達策として、社会が押し付けることを黙って受け入れている。自分が交渉権を握っていることに多くの場合気づかず、自分のスタートアップの命運を投資家に委ね、媚びている。投資家が用意したこのようなプレイブックでは、黒人創設者になんの利益もない。今日からは自分自身の力を引き出すべきだ。

圧倒的な力を身につけ、専門知識を生かす

プレイブックは脇に置き、自分の専門性と独自性をもっと信じなければならない。

数年前、Mark Cuban(マーク・キューバン)氏がDallas Startup Week(ダラス・スタートアップウィーク)で基調講演を行い、成功への道のりを語った。同氏の主な主張の1つは「自分のビジネスを知り、自分のビジネスの短所に気づく」ことだった。とてもシンプルながらも、非常にインパクトのある内容だった。

私はキャリアを歩み始めて間もなく、スタートアップ企業で働いていた経験からベンチャーキャピタルについて学んだ。この分野を知り尽くしていたわけではなかったが、数年後に自分の会社のために資金を調達する際に、そこで得た若干の知識を参考にした。ベンチャーキャピタルとの取引には制限があったが、自分の経歴と専門知識(当時は給与計算テクノロジーの営業職)には自信があったので、自分の権利を堂々と主張するために交渉の席についた。

ベンチャーキャピタルは70億ドル(約7500億円)で会社を売却したり、350億ドル(約3兆7000億円)のAUM(運用資産)を持っていたりするかもしれないが、給与計算や給与計算テクノロジーには私ほど精通していないことを知っていた。このような強いマインドセットがあったからこそ、投資家に媚びるのではなく、投資家に向き合うようになり、対等な立場で交渉することができた。

すばらしい目標を共有する

人とのつながりや、ビジネスに必要な資金調達に至るすべての過程で、私はテクノロジー業界の黒人創設者として不当な扱いを何度も受けてきた。同じテーブルにつく人たちの中でも、世界観、政治的志向、宗教観など、不和の種となるものは数多くあるが、目の前のすばらしいビジネスチャンスに関与するという共通の目標を、関係する全員で共有することが何よりも大切だ。

そうすることで、ベンチャーキャピタリストが私個人や多様性を歓迎しているかを過剰に意識しないようにすることができた。起業家としての意欲的な気概を見せ、私の長所である黒人としての輝きに意識を向けることで、投資したいと投資家に思わせることができた。一言で言えば、情熱をもって意欲的に利益を上げようとする創設者に資金を提供したいと、投資家は思っている。あなたをあるがままに評価してくれる投資家を見つけよう。

できるだけ多くの投資家と会う

黒人創設者は、投資家と十分に向き合っていない。ベンチャーキャピタル界は総じて、黒人創設者のコミュニティを軽んじており、包括的なネットワークを拡大することができていない。現在マイノリティは、ベンチャーキャピタル業界にほとんど進出できていない。投資パートナーの80%は白人が占め、黒人(アフリカ系米国人)の割合はわずか3%に過ぎない。

黒人起業家はそれでも前に進み、表舞台に上がらなければならない。起業家が資金を調達する段階で顔を合わせる投資家は非常に多いため、機会を逸するたびに振り回されていてはならない。

現実的なことを言えば、資金調達には時間がかかる。見込みがある多くの投資家と話をすることで、私は現在の会社のために1300万ドル(約14億円)近くを調達できた。黒人創設者であれば資金調達にはさらに時間がかかり、もっと多くの人と会わなければならないだろう。ここで私は「障壁を乗り越え、ベンチャーキャピタルの関心を集めるのに十分な期間持ちこたえるための持久力があるか」と問いたい。貧富の格差を考えると、答えは「ノー」だろう。

Gig Wage(ギグウェイジ)の起業に乗り出した当初、投資家からの質問で一番多かったのは「どのくらい準備が整っているか?」だった。私は「目的を達成するまでの準備が整っている」と答える。そうすると投資家はもっと具体的に「銀行にはどのくらいの資金があるのか?あなたの奥さんは、このプロジェクトをいつまで続けさせてくれるのか?」と聞き直す。そして私は「銀行の残高がいくらかは関係ない、目的を達成するまで続けるつもりだ」と答える。

投資家は口には出さないが、資金調達のプロセスを持ちこたえるだけの経済的な能力と体力が私にはないだろうということを差別的に予想しており、このことに私は何度も大きく落胆した。銀行口座を見せれば、おおよそ9カ月から12カ月分程度の準備資金があったからだ。

黒人がベンチャーキャピタルから調達できる資金が1%にも満たないのは、米国社会の根強い人種差別が起業家のエコシステムにも影響しているからだ。それでも私は、これまで多くの投資家と面会を重ねてきた。絶対に成功するという意欲的な信念を持って耐えてきた。もう一度いうが、これが黒人の強さだ。

強靱さを備え、自分自身の力を発揮する

私は黒人男性として、米国の他の黒人男性と同じように、困難に耐えることで強靱さを培ってきた。警察への対応であろうと、麻薬、暴力、貧困で家族が苦しむ様子を目の当たりにすることであろうと耐えてきた。「投資家の会議や条件規定書を怖がる必要があるものか」とよく考える。私はもっとひどい仕打ちを米国の社会で受けてきた。

黒人創設者は強靱さを備え、自分の経験から得た力を活用する必要がある。そこから生まれる勝利を得るためのメンタリティは、ベンチャーキャピタリストに投資したいと思わせる類のメンタリティである。投資をしないで損をするのは、間違いなくベンチャーキャピタリストだ。

投資に値するのは「私はこの世界で不利な状況ではあるが、やめるつもりはない。柔軟に対応していくつもりだ。たとえ大変な状況でもそうする方法を考え出すのだ」という不屈の集中力を備えた人物だ。そのような人が画期的なビジネスアイデアを持っているとは限らないが、一般的に黒人には情熱があり、他の人が持っていない視点で物事を見ることができる。これは、ベンチャーキャピタリストが見落としている無限の可能性だ。

だからこそ2021年以降、特にテクノロジー業界の黒人創設者は、パラダイムを転換し、起業家のコミュニティで存在感を発揮し、力を取り戻し、黒人として最大限に輝くことで活動し続ける必要がある。チャンスを逃しているのは投資家であって、創設者ではない。遠慮する必要はない。勇気を持って大胆に行こう。

私自身が今できる一番良いことは、話題を提供し続け、格差を浮き彫りにし、黒人の起業家や専門家として成功して、世界全体のために貢献し続けることだ。力を保ち続け、先駆者として黒人の存在感を引き出していくことに尽力していきたい。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:アメリカGig Wageコラム

画像クレジット:Nuthawut Somsuk / Getty Images

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(文:Craig Lewis、翻訳:Dragonfly)

米国が対ミャンマー貿易協定を停止、同国でのインターネットアクセスも不透明に

ミャンマー国軍が同国の大統領と事実上の指導者Aung San Suu Kyi(アウン・サン・スー・チー)氏率いる政権を転覆させるクーデターを起こしてから2カ月、ミャンマー国軍の攻撃に反対する抗議者少なくとも200人が殺された事態を受け、米政府はミャンマーとの貿易協定を停止した。

声明の中で、米通商代表部の代表Katherine Tai(キャサリン・タイ)氏は、貿易停止は「すぐに発効し」「民主的に選ばれた政府が復帰するまで」続くと述べた。

「米国は、ビルマの経済成長と改革の基礎だった民主的に選ばれた政府を取り戻そうとしているビルマの人々を支援します」とタイ氏は述べた。「米国はビルマの治安部隊の市民に対する残忍な暴力を強く非難します。平和的な抗議者、学生、労働者、労働運動の指導者、医師、子どもの殺害は国際社会の良心に衝撃を与えました。こうした行動は国の民主主義への移行、ビルマの人々が平和で豊かな未来を成し遂げるための取り組みに対する直接的な攻撃です」と声明にはある。

ミャンマー(ビルマとしても知られる)と米国は、スー・チー氏の党が選挙で圧倒的勝利を収め、米国が経済制裁が緩めたのちの2013年に貿易を開始した

貿易停止は独裁軍事政権をターゲットとしているが、米クラウド・インターネット企業が米政府の命令と争っているなかで、ミャンマー中の何百万人というインターネットユーザーを不確実な状態に陥れている。抗議者たちは軍事政権が国中のインターネットを遮断したことを受けてネット接続を確保するのに苦労している。

関連記事:ミャンマーの新軍事政権がFacebookに続きTwitterの遮断も命令

ミャンマーはすでにFacebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、Instagram(インスタグラム)を「次に通知するまで」閉鎖する措置を取った。

制裁は他国への商品、金、特定のサービスの提供を防ぐためのものだ。米国で事業を展開している企業は米国の制裁に従うか、厳しい罰金に直面する。ZTEは2017年に、故意にプロダクトをイランに出荷して米国の対イラン制裁に違反したことを認め、10億ドル(約1098億円)近くの罰金を払うことに同意した。

しかしクラウド企業はグレーゾーンで、異なるルール解釈がある。Quartzは2016年、IBMが米国の制裁対象国シリア、キューバ、イランからのビジターは自社のサービスにアクセスできないようにしたため、そうした国のインターネットユーザーはIBMがホストするサイトにアクセスできなかった、とレポートした

他の大手クラウドプロバイダーRackspace(ラックスペース)とLinode(リノード)は制裁対象国のユーザーへのインターネットトラフィックをブロックはしていないが、その代わり制裁対象国のユーザーが自社サービスにサインアップできないようにした。

ミャンマーのインターネットユーザーは同国の人口の30%ほどの約1700万人だ。

カテゴリー:その他
タグ:アメリカミャンマー

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

信用できない大手ハイテク企業の自主規制、今、米国議会の行動が必要とされている

本稿の著者Arisha Hatch(アリシャハッチ)氏はColor Of Changeのキャンペーン担当副社長兼チーフ。

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2021年1月に起きた米連邦議事堂での暴動事件を受け、Donald Trump(ドナルド・トランプ)氏がソーシャルメディア界から追放されてから2カ月以上が経った。前大統領の憎悪に満ちたコメントや偽情報は収束しつつあるものの、これからも引き続き警戒が必要である。

今こそ、トランプ氏や同氏の支持者、その他のトラブルメーカーが将来的に過激主義を助長しないようにするためにはどうしたらいいかを見直すべきである。誤報、陰謀論、嘘は情報インフラを破壊し民主主義を脅かす。こうした問題に社会としてどう対処すべきかを考える時なのではないだろうか。

Color Of Changeのバイスプレジデントとして、私と私のチームはこれまでにFacebookやTwitter、Googleといった数十億ドル(数千億円)規模のハイテク企業のリーダーたちと数え切れないほどの会合を持ち、彼らのプラットフォーム上の憎悪に満ちた人種差別的なコンテンツや偽情報に対して常に声を上げてきた。私たちはさらに、これらの問題に適切に対処するため、何百万人ものメンバーが求めている要求を提起してきたが、こういったソーシャルメディア企業にはユーザーや黒人コミュニティの安全を守るための緊急性や責任感が欠如していることがあまりにも多いのが実情である。

白人国粋主義者や極右過激派による連邦議事堂の襲撃は、ソーシャルメディアのプラットフォーム上で拡散されてきたヘイトスピーチや偽情報を何年もの間放置し適切に対処してこなかったハイテク企業にも責任の一端がある。多くのソーシャルメディア企業は、極右過激派や白人至上主義者、国内テロリストに対してプラットフォームを開放し、民主主義の破壊に加担してきたわけだが、この責任を追及し、二度と起こらないようにするためには相当な努力が必要である。

知識の共有システムを回復させ、オンライン上での白人国家主義者の組織化を排除するために、ビッグテックはこれまでのような受け身で表面的なアプローチを捨て、私たちのコミュニティや民主主義に害を及ぼしているこの問題に本気で対処しなければならない。同時に、ハイテク企業の動き監視するために、連邦政府による介入が不可欠なのは明らかである。

私は6年間にわたって企業が説明責任を果たすためのキャンペーンを展開し、ビッグテック企業のリーダーたちと関わってきたため、ソーシャルメディア企業には、民主主義とコミュニティを守るためのポリシーを実施するだけの力やリソース、ツールがあると断言することができる。しかし、これまで巨大企業のリーダーたちは、利益と成長を犠牲にしてまで、プラットフォーム上での危険な誤報、特定の個人や組織を標的にした憎悪表現、白人主義者の組織化を食い止めようとすることはなかった。

その上、巨大なPRチームを駆使し、こういった問題にあたかも対処しているかのように振る舞うのだ。例えばFacebookなどのソーシャルメディア企業は、その時々の問題に対処するため毎度一貫性のないポリシー変更を発表するという受け身な対応を続けている。今回の暴動が起こる前、白人至上主義者や極右陰謀論者、人種差別主義者たちが、こういったプラットフォームを利用して暴力を組織化、勧誘し、扇動することの危険性について、我々Color Of Changeのような提唱者の警告にFacebookのリーダーたちが耳を貸すことはなかった。私たちが長年推奨してきたにも関わらず、トランプ氏を追放することも、より強力なコンテンツ・モデレーション・ポリシーを導入することも、アルゴリズムを変更して誤った情報を広めるFacebookグループの拡散を止めることも彼らは行わなかったのである。

このような脅威は、国会議事堂への襲撃のずっと前から明らかなものだった。Color Of Changeと支持者たちが2020年夏に「#StopHateForProfitキャンペーン」を推進し、1000社以上の広告主がプラットフォームから数百万ドル(数億円)相当の広告を引き上げたときにも、また、Facebookが当組織とメンバーからの圧力を受けて2018年にようやく公民権監査を実施することに同意したときにも、そして2017年、死者を出したバージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者のデモが行われた前からも、ずっと明らかだったのである。

ソーシャルメディア企業が行動を起こし、差し迫った要求に目を向けるようになったのは、すでに大きな問題が起きてしまった後からのことだ。トランプ氏のアカウントを停止したのも、投票集計に不正があったと主張したグループを削除したのも、また2020年の選挙で投票所での暴力を扇動する投稿や新型コロナウイルスの誤報を積極的に削除したのも、すべて事が起きてからの対応である。しかし現在でさえ、これらの企業はFacebook監督委員会というとって付けたような組織を適切なポリシー実施の代替として立ち上げ、問題に取り組んでいる姿勢をアピールしつつ、トランプ氏のアカウント停止といった問題の最終決定を曖昧にし、責任を回避しているのである。

Facebook、Twitter、YouTubeをはじめとする多くのビッグテック企業は、自社の利益や評判が脅かされると行動を起こすものの、彼らのビジネスモデルはサービス利用の最大化のみを目的として構築されているため、行動が実際に起こされるのは常に問題が起きた後となる。コンテンツが偏向的であればあるほど、エンゲージメントが高まり、コメントやシェアが多ければ多いほど我々の注目を集め、広告主にアピールすることができる。ビッグテックのリーダーたちは、積極的に自主規制を行う意志も能力もないことを証明し、だからこそ議会が直ちに介入しなければならないのである。

議会はビッグテックの巨大な力を抑制するための連邦規制を制定すべきであり、議員は私たちの日常生活に現実的な変化をもたらすような政策、つまり、黒人をはじめとする社会的に弱い立場にいるコミュニティをオンラインとオフラインの両方で保護するような政策を策定しなければならない。

企業の説明責任をないがしろにし、黒人のビジネスや労働者に影響を与える大手ハイテク企業の独占状態を打破するため、より強力な独占禁止法が制定されるべきである。私たちのデータから得られる利益が搾取を助長するために使用されないようにするために、包括的なプライバシーおよびアルゴリズムによる差別禁止法を制定する必要があり、また黒人や低所得者のコミュニティにおける情報格差を解消するために、ブロードバンドアクセスを拡大する他、インターネットサービスプロバイダーがコンテンツや機器によって異なる料金を請求できないようにしてネットの中立性を回復させるべきである。そして、第230条が公民権法の遵守からプラットフォームを免除するものではないことを明確にすることで、情報操作やコンテンツの適正化を図る必要があるのだ。

Color Of Changeをはじめとする活動家やアドボカシーグループからの圧力により、すでに多くの進展が見られている。2020年だけでも、Zoomなどの大手ハイテク企業は多様性の専門家を雇い、Googleは右翼団体プラウドボーイズのウェブサイトとオンラインストアをブロックする措置を取り、TikTokのような主要なソーシャルメディアプラットフォームは、憎悪に満ちたコンテンツを禁止するためのより強力なポリシーを採用し始めた。

しかし、巨大テック企業がソーシャルメディアのプラットフォーム上で煽られた誤報、憎悪、暴力に対処するため、これまでしておくべきだった対策を今更始めたところで、さほど褒められたことではない。我々は次のPR活動や白々しい声明、あるいはFacebookがトランプ氏のアカウントを復帰させるかどうかを決めるのを単に待つつもりもなく、またさらに多くの人の命が犠牲になるまで傍観するつもりもない。

連邦政府と規制当局は、ただちに政策変更を実施してビッグテックに説明責任を負わせるべきである。我が国のリーダーには、ビッグテックが民主主義や地域社会に及ぼしている害悪から人々を守る責任があり、ソーシャルメディアのプラットフォームを規制し、デジタル経済における危険な誘因を変革すべきなのである。連邦政府の介入なしには、ハイテク企業は歴史をひたすら繰り返すことになるだろう。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ソーシャルメディアアメリカColor Of ChangeSNS

画像クレジット:Martin Barraud / Getty Images

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(文:Arisha Hatch、翻訳:Dragonfly)

燃費規制の罰金引き上げを延期する米国の決定にEVメーカーが反発

燃費基準を達成できなかった自動車メーカーに課せられる罰金の引き上げを延期する決定に、電気自動車メーカーが反発している。

従来の自動車メーカー(その多くは、現在ゼロエミッション車に多額の投資を行っている)を代表するロビー団体は、新型コロナウイルスによる大規模な混乱に業界が直面している時期に、罰金を引き上げ れば経済的に著しい影響があると主張。しかし、自動車産業に新規参入したEVメーカーは、罰金の仕組みが自動車の排出ガスを減らし、さらに低排出ガスまたはゼロエミッション(排出ガスをまったく出さない)技術への投資を促す強力で効果的な誘引になると述べている。

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2021年1月に発表したこの決定は、罰金の引き上げを、2019年モデルイヤーの初めから、2022年モデルイヤーまで延期するとしている。Tesla(テスラ)は、この延期が同社に「継続的かつ回復不能な損害を与え」、非遵守の重要性を軽減し「不公平な競争条件」を生み出しているとして、この判決の見直しを米国第2巡回区控訴裁判所に申し立てている。

CAFE(Corporate Average Fuel Economy:企業平均燃費)の罰金は、1975年に導入されて以来、一度だけ引き上げられた。自動車メーカーの平均燃費値が基準に満たない場合、1ガロンあたりの走行可能な距離が0.1マイル (約0.04km/L)増えるごとに生じる罰金が、5ドル(約546円)から5.50ドル(約601円)に上げられたのだ。米国議会はインフレの影響を是正するため、2015年に罰金の額を14ドル(約1530円)に引き上げることに決めたが、NHTSAと裁判所はそれをいつから適用するかについて議論を重ねてきた。2020年8月の第2巡回区の判決では、2019年モデルから罰金を引き上げることで決着がついたように思われたが、自動車メーカー各社は2020年10月、罰金引き上げの延期を求める申し立てを行っていた。

CAFE規制の罰金は、ゼロエミッションの自動車メーカーにとって大きな利益となる。排ガスを出さないクルマ(つまり電気自動車)を製造している自動車メーカーはクレジットを受け取り、燃費基準を達成できなかった他の自動車メーカーにそれを売ることができるからだ。テスラは規制当局に提出した最近の報告書の中で、他の自動車メーカーにクレジットを販売することで得られる金額は、2019年の5億9400万ドル(約649億円)から2020年には15億8000万ドル(約1726億円)に増えたと述べている。罰金の引き上げを遅らせることは、クレジットの増額を見込んで経済的意思決定を行った企業に害を与えると、テスラは主張している。

新規EVメーカーのRivian(リビアン)とLucid Motors(ルーシッド・モーターズ)も、CAFE罰金の引き上げ延期に反対すると、TechCrunchに語った。

Lucid Motorsの法務顧問を務めるKevin Vincent(ケビン・ビンセント)氏は、TechCrunchに次のように述べている。「クレジット市場はEV産業全体にとって非常に有益なものです。EVの製造を始めようとしているすべての企業は、新興企業であれ既存のメーカーであれ、EVを製造する際に確かなクレジットを得られることが恩恵となるからです。多くの既存メーカーは、結局自分自身でクレジットを売買することになるので、燃費を向上させている先見性のある企業には恩恵があります」。

Rivianのパブリックポリシー担当VPで規制法務責任者のJames Chen(ジェームズ・チェン)氏は、TechCrunchに送られてきた声明の中で、CAFEやその他の排出基準を後退させることは、排出削減(温室効果ガスおよび基準汚染物質)、燃料効率の向上、外国産石油への依存度の低減、技術面のリーダーシップ、およびEVの普及において、米国を後退させるだけだと述べている。また、同社は「より厳しい排出ガス基準と、基準を満たせなかった場合の罰則強化を含む、EVの普及を促進する取り組みを強く支持する」と続けている。

NHTSAは、すでに製造されたモデルイヤーに遡って罰金を適用すべきではないという理由で、引き上げを延期した。自動車メーカーはすでに製造済みの車両の燃費を向上させる手段を持たないため「抑止効果がなく、法律の遵守を促進することがないモデルイヤーにまで、修正された規則を適用するのは不適切である」とNHTSAは述べている。

自動車メーカー各社もまた、ロビー団体「Alliance for Automotive Innovation(自動車イノベーション協会)」が提出した嘆願書および補足コメントの中で、新型コロナウイルス感染流行による経済的苦難を引き合いに出している。Mercedes-Benz (メルセデス・ベンツ)は、パンデミックによりサプライチェーン、労働力、生産に混乱が生じたと、NHTSAに述べている。

「このような厳しい経済状況の中で、遡って罰金率の引き上げを適用することは非良心的であり、新型コロナウイルスの経済的影響を考慮して規制緩和を促進しようとする政権の取り組みとは相反すると我々は考えます」と同自動車メーカーは述べている。

テスラは、新型コロナウイルスの感染流行を根拠とすることは、遅延の理由を示す具体的な証拠がない限り「通用しない」と、裁判所に提出した訴状の中で主張している。

また、カリフォルニア州やニューヨーク州など16の州の司法長官や、環境保護団体のSierra Club(シエラ・クラブ)、Natural Resources Defense Council(天然資源防護協議会)も、この延期に異議を唱えている。

NHTSAの決定は訴訟番号NHTSA-2021-0001として公開されている。テスラは第2巡回区に案件番号21-593で申請している。

カテゴリー:モビリティ
タグ:電気自動車NHTSA地球温暖化環境問題アメリカ

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

製造業を立て直すために米国は中小企業技術革新研究プログラムを強化せよ

本稿の著者Sean O’Sullivan(ショーン・オサリバン)氏はMapInfo(マップインフォ)の共同創設者であり、現在はHAX(ハックス)、IndeBio(インディーバイオ)、Chinaccelerator(チャイナクセラレーター)、 MOX(モックス)、dlab(ディーラボ)といったスタートアップ・アクセラレーターを運営するベンチャー投資企業SOSVの創設者にして業務執行ジェネラルパートナー。

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私はニューヨーク州北部の貧しい地域で育ったが、幸運なことにレンセラー工科大学に進むことができた。私は会社を立ち上げ、28歳のときに上場し、そこで得た富をスタートアップに投資してきた。

企業創設者が次々と成功する姿を見るのは爽快だったが、ニューヨーク州北部に帰り、ずっと閉鎖されたままの工場を見るにつけ、テクノロジー改革が決して届かない場所があることを思い知らされる。

そうした空虚な建物の背後にある数字を見ると、これ以上悲惨なものはないと感じる。2019年後半、新型コロナウイルスに襲われる以前、すでに米国の製造業はGDPの11%にまで落ち込んでいた。この72年間で最低の数値だ。私たちはその基盤のほとんどを低コストなライバルであった中国に譲ってしまったことで、2011年には中国は世界最大の製造王国となった。米国の繁栄の基盤として製造業を復活させるための時間は、もうあまり残されていない。そこで大きな役割を果たすのが、優秀でありながら、あまり注目されていない米連邦政府の取り組みだ。

私の会社SOSVでは、技術的に実現が難しいアイデアを持つ企業創設者を対象に、研究から製品化までサポートするプログラムを実施している。その多くの企業が、特に工業の自動化や脱炭素といった国家的な優先分野において、米国の未来を代表している。

こうしたスタートアップには、今すぐにでもベンチャー投資家から資金投入されるものと思われるだろうが、現実には、彼らに流れるベンチャー投資金はほんのわずかしかない。それは単に、SaaSや消費者向け分野に比べてリスクが大きいという理由からだ。

だからこそ、1982年、米国連邦議会はSmall Business Innovation Research(SBIR、中小企業技術革新研究)プログラムを設立した。その発起人であるRoland Tibbetts(ローランド・チベッツ)氏の言葉によれば「初期段階の優れた革新的アイデア、つまり有望でありながらベンチャー投資企業などの民間投資家にはリスクが高すぎるアイデアに資金を提供する」ことを主眼としている。

年間30億ドル(約3270億円)をわずかに超える契約や助成金が連邦政府機関によって分配された結果、SBIRは7万件の特許認定、ベンチャー投資企業による410億ドル(約4兆4600億円)の追加投資、700の企業の上場が達成された。

見事にデザインされたSBIRによって、何千というテクノロジー志向の起業家たちは、研究段階と製品化、新規市場とベンチャー投資の間に横たわる谷を渡ることができた。この先の10年間をかたちづくるためには、さらに才気溢れる科学者、技術者、起業家が何千人も必要となる。自宅のガレージで研究を開始することはできても、元手がなければ続かない。連邦議会は、現在SBIRに求められている極めて重要な3つの改良点を盛り込んだ「SBIR 2.0」の策定に今すぐ取りかかる必要がある。

第1に、SBIRが提供する資金を少なくとも10倍に増やして欲しい。300億ドル(約3兆2700億円)にしたところで、高々ワシントンの予算の丸め誤算の範囲内だ。例えば2020年の防衛予算は6930億ドル(約75兆4500億円)。また、2020年に1560億ドル(約17兆円)に到達した米国のベンチャー投資額のほんの数分の1に過ぎない。それでも、米国の産業を救うためには、間違いなく最も有効な対策だ。

第2に、SBIRの投資先を脱炭素や先進的製造技術などの決定的に重要な戦略的分野に集中することだ。脱炭素は、地球上の人類の未来を救うものだ。先進的製造技術は、ロボティクス、バッテリー技術、人工知能デバイス、積層造形といった重要分野の主導権を確立し、製造業投資における失われた世代を跳び越える力を与えてくれる。これ以上に注目すべき市場はあるだろうか?

そして最後に、審査と報酬のプロセスを高速化すること。良い例を1つ挙げるならば、米国空軍が2019年と2020年に実施した画期的な「ピッチデー」プログラムだ。わずか1分間で、最も優れたプレゼンを行った企業創設者(厳しい事前審査があるが)に助成金を贈るというものだ。物事がほぼ支障なく流れるこの才能の市場では、審査や資金の供給に時間をかけていては勝利は望めない。

バイデン政権が2021年2月末に発行した米国のサプライチェーンに関する大統領令から、ホワイトハウスがすでに精力的に政策づくりを行っていることが見てとれる。この政権の取り組みは、間違いなく数多くのアプローチにつながるはずだが、成功の鍵は、米国で使われずにいる大切な燃料、つまり創意工夫と国民の意欲に、絶え間なく焦点を当て続けることにある。

とにかく、この国の不景気にあえぐ地域を貧困から救い出すためには、当事者たちが起業家精神を持ち、自らの手で米国の製造業を再建できる手段を与えることだ。

【米TechCrunch注】TechCrunchの元CEOであるNed Desmond(ネッド・デスモンド)氏は、現在SOSVの上級業務執行ジェネラルパートナーを務めている。

カテゴリー:その他
タグ:コラム製造業アメリカ

画像クレジット:elenabs / Getty Images

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(文:Sean O’Sullivan、翻訳:金井哲夫)

移民農業労働者が米国で就労資格を得て法的に保護されるサービスをSESO Laborが提供

Biden(バイデン)政権が、米国の移民制度を改革する際によく見られる問題に対処する法案を議会に提出しようとしている一方で、SESO Labor(SESOレーバー)というカリフォルニア州の小さなスタートアップが450万ドル(約4億8000万円)を調達して、農場が合法的に移民労働者の手を借りることができるようにした。

SESOの創業者Mike Guirguis(マイク・ギルギス)氏は、Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)やNFX(エヌエフエックス)などの投資家から資金を調達している。Trulia(トゥルーリア)の創業者であるPete Flint(ピート・フリント)氏が同社の取締役に就任した。同社は12の農場と提携しており、現在46の農場とも交渉中である。もう1人の共同創業者、Jordan Taylor(ジョーダン・テイラー)氏はFarmer’s Business Network(ファーマーズビジネスネットワーク)で最初の製品担当者として勤務した経験があり、以前はDropboxに所属していた。

SESOは1986年から施行されている規制の枠組みの中で、H-2Aビザの取得プロセスを合理化・管理するサービスを開始した。このサービスを利用すると移民農業労働者は、法的保護を受けながら米国に一時的に滞在できる。

現時点でSESOはビザ手続きを自動化し、労働者が必要とする事務手続きを整備することで、申請手続きを円滑化している。同社は労働者1人あたり約1000ドル(約10万6000円)を請求しているが、労働者自身へのサービスを徐々に提供していくことにより、安定した収益源を確保することをギルギス氏は想定している。「最終的には、農業経営者と農場労働者の双方に総合的なサービスを提供したい」とのことだ。

SESOは現在、2021年に1000人の労働者の受け入れを見込んでおり、現段階では収益が発生する前の段階である。ギルギス氏によると、就労ビザを扱う最大の業界関係者は今のところ1年間に6000人の労働者を受け入れているため、SESOは市場シェアを獲得するためにしのぎを削らなければならない。

米国における移民と農業労働者の複雑な歴史

国内での労働者不足を見込む農業雇用主が、移民ではない外国人労働者を一時的または季節的に農場で雇用できるように設立されたのが、H-2Aプログラムだ。労働者には米国の賃金法や労災補償の他、医療保険改革法(オバマケア)に基づく医療の利用を含むその他の基準が適用される。

ビザプログラムを利用して労働者を雇用する雇用主は、出入国時の交通費を支払い、住居を無償または有償で提供し、労働者に食事を提供する必要がある(給与からの天引きが可能)。

1952年に移民国籍法の一環として、H-2ビザ発給が開始された。これにより主に北欧への移住を制限していた出身国別割当制度が強化されたが、1924年に移民法が制定されて以来初めて、アジア系移民に米国の国境が開かれた。1960年代には入管法がさらに緩和されたが、1986年の大規模な移民法改革によって移住が制限され、企業による不法就労者の雇用が違法になった。H-2Aビザは、不法就労者の雇用にともなう罰則を受けずに農場で移民労働者を雇用する手段にもなった。

スタンフォード大学を優秀な成績で卒業し、労働政策に関する卒業論文を書いたギルギス氏によると、一部の移民労働者にとってH-2Aビザは最後の切り札だという。

ギルギス氏は給与計算関連のビジネスを展開するGusto(ガスト)を引き合いに出しながら、同社の最終的な目標について次のように語っている。「私たちは、農場と農業関連ビジネスのための人材派遣ソリューションを用意しています。農業の分野でガストのようになり、人材派遣の包括的なソリューションで農場を強力にサポートしたいと思っています」。

ギルギス氏が指摘するように、農業に従事する労働者のほとんどは不法滞在者である。「これまで食い物にされてきた労働者にとって、H-2Aは法的に就労することを可能にするビザです。雇用主が労働力を確保できるように私たちは支援しており、農業経営者が農場を維持するためのソフトウェアを構築しています」

難しい状況が続く中でも国境を開放する

労働力不足を指摘する最新の数字が現状を反映しているのであれば、農場には人材が必要だが、ロイターの記事を見てみると、問題の主な原因はH-2Aビザの発給不足ではなさそうだ。

ロイターの記事によると、農業機械を操作する労働者に発行されたH-2Aビザの数は、2019年10月から3月にかけて1万798件に増加した。ロイターが引用した米国労働省のデータによると、これは前年比49%の増加である。

H-2Aビザを取得できないということが問題ではなく、米国に渡航できないということが問題なのだ。国境管理の強化、収束しない世界的なパンデミック、パンデミックにともなう移動制限などにより、移民労働者は自分の国から出国できなくなっている。

このような状況でも適切な手段があれば、多くの農場がH-2Aビザを進んで利用できるため、不法移民を減らし、米国人労働者がやりたがらないであろう厳しい農作業に従事してくれる労働者を増やすことができる、とギルギス氏は考えている。

画像クレジット:Brent Stirton/Getty Images

David Misener(デビッド・ミーゼナー)氏は、オクラホマ州を拠点として農作物を収穫するGreen Acres Enterprises(グリーン・エーカーズ・エンタープライズ)のオーナーだが、通常雇用している移民労働者の代わりとなるふさわしい労働者を見つけるのに苦労している。

ミーゼナー氏は雇用しようとした米国人労働者について「収穫する方法や、収穫作業を仕事にするということを理解できませんでした」とロイターに対して語った。

「移民労働者がH-2Aを利用すると、自国で受け取る賃金の10倍を上回る賃金を受け取ることができます。手取りが時給40ドル(約4200円)相当になるため、誰もがH-2Aを欲しがっているのです」とギルギス氏はいう。

ギルギス氏は、適切なインセンティブと、農業経営者が申請・承認プロセスを管理するための簡単な方法を用意すれば、H-2Aビザを利用する雇用主の数が、国内の農業労働力の30%から50%にまで増加する可能性があると考えている。つまり、移民労働者が応募できる求人数が30万件から150万件に増える可能性があり、移民労働者がビザを取得して就労しながら、米国人と同じようにさまざまな法的保護を受けられるということだ。

事務処理を改善して農業労働者を保護する

創業者のギルギス氏は、いとこが農場を立ち上げるのをサポートした経験から、農場労働者のつながりとそれを取り巻く問題に関心を持つようになった。月に数回ギルギス氏が週末に手伝いに行ってたときにいとこの夫から、不法就労者として渡米した際の話を聞いた。

H-2Aプログラムを利用する雇用主は、不法労働者を雇用することで逮捕されることにともなう法的責任を負う必要がなくなる。トランプ政権下で実施されていた不法労働者に対する取り締まりが、ますます増えているのだ。

それでもこのH-2Aプログラムのルーツが、米国の移民政策の暗い過去にあることを否定することはできない。一部の移民擁護者は、H-2Aの制度が専門技術者向けのH-1Bビザと同じように、構造的な問題があると主張している。

移民労働者の支援団体であるResilience Force(レジリエンス・フォース)の創設者Saket Soni(サケット・ソニ)氏は、次のように述べている。「H-2Aビザは、雇用主が労働者を農業分野で受け入れるために使用できる短期の一時ビザプログラムです。すでに時代遅れとなっている移民制度の一部であるため、修正が必要です。米国に滞在する1150万人に市民権を与えるべきです。他国から来た労働者は必要に応じて、国内に滞在できなければなりません。H-2A労働者には市民権を取得する手段がありません。労働者たちが職場での問題について声を上げることができず、私たちのところにやって来るのです。H-2Aは労働者にとってありがたい贈り物であるだけなく、悪用される可能性もあります」。

ソニ氏がいうには、労働者が置かれている状況は非常に不安定であり、解雇されてもどこにも行けないため、仕事の問題について声を上げにくくなっている。合法的にこの国に滞在できるかどうかは、雇用主にかかっているからだ。

「労働力が必要なら、労働者を1人の人間として受け入れなければならないという考えを、私たちは強く支持しています。労働者が足りなければ、滞在を認めるべきです。H-2Aは移民が利用できる時代遅れの制度です」とソニ氏は語る。

ギルギス氏はこの制度についてはっきりと異議を唱えている。そして、SESOのようなプラットフォームが、今後このようなビザで入国する労働者の利便性とサービスを向上させるだろうと述べた。

「最終的に、移民労働者がもっと多くの給料を稼げるようなサービスを検討しています。今後、送金業務と銀行業務を開始する予定です。私たちのサービスは、このプログラムに参加する雇用主と労働者双方に利益をもたらすもので、搾取されるようなことはないと認識してもらう必要があります」とギルギス氏はいう。

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タグ:SESO Laborビザアメリカ移民農業

画像クレジット:Brent Stirton / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

電動キックボードのUnagiが新たに米6都市でサブスクサービスを展開

ポータブルでデザイン重視の電動キックボードを手がけるスタートアップUnagi(ウナギ)は調達した1050万ドル(約11億4000万円)を元にサブスクサービスを米国の6都市で新規展開する。

Beats Musicの元CEOであるDavid Hyman(デビッド・ハイマン)氏とMogの共同創業者が2018年に立ち上げたUnagiは米国時間3月17日、サブスクサービスをオースティン、マイアミ、ナッシュビル、フェニックス、サンフランシスコ、シアトルで開始すると明らかにした。同社はまたニューヨークとロサンゼルスの首都圏でもサービスを拡大する予定で、ここにはニューヨーク市の5区、ロングアイランド、ウェストチェスター、北部ニュージャージ、ウェストサイド、南東L.A.、サンフェルナンド・バレー、オレンジ郡などが含まれる。

これらのエリアは潜在消費者が計3000万人のマーケットだ。シリーズAのラウンドはEcosystem Integrity Fundがリードし、Menlo Ventures、Broadway Angels、Gaingelsなどが参加した。

今回のサービス拡大の6カ月前にUnagiは「All Access」サブスクサービスをニューヨーク市とロサンゼルスで試験していた

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同社はサブスクサービスを提供する唯一の電動キックボード企業ではないかもしれない。同社は急速に知られるようになり、米国で最大のリーチをもつサービスになりつつある。Bird(バード)も2019年に似たようなサービスを立ち上げたが、その後の展開はなかった。

数年前にTechCrunchが「キックボードのiPhone」と名づけたUnagiはデュアルモーター搭載のModel Oneという電動キックボードを月49ドル(約5300円)で提供している。電動キックボードを所有するのに990ドル(約10万8000円)も払いたくない広い階層の人々がにアクセスしやすくするのが狙いだ。ハイマン氏によると、スリークなデザインで頑丈、そして驚くほど軽量な電動キックボードの販売は35歳以上の男性を主なターゲットにしている。一方で、Unagiのサブスクサービスはすてきなものは好きだがコミットメントは好まないというミレニアル世代のヤッピーたちに重きを置いている。

「当社のマーケットは純粋に都市部であり、企業理念は『もしあなたが当社の電動キックボードを持って3階上れなかったら、それは我々がしたいものではない』というものです」とハイマン氏はTechCrunchに語った。「所有以外のアクセスを好み、責任やメンテナンスの懸念を抱えたくないという消費者の世代があると思います」。

これはキックボードで育った世代と同じであり、彼らは路上で見かける電動キックボードの乗り方を直感的に知っている。部分的にはこれが電動キックボードが近年大成功した理由だと同氏は述べた。

グローバルの電動キックボードマーケットは今後10年は年8%ほどで成長し、2030年までに420億ドル(約4兆5720億円)に達すると予想されている。Unagiとカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールが共同で行った調査に基づいて、シェアリングは電動キックボードマーケットの3分の1を占め、残りが所有とサブスクとなるとハイマン氏は推測している。サブスクモデルは、利用可能な電動キックボードを探したり、見つけても最後のライダーがそこら中にウイルスを咳で撒き散らしたのではないかと心配したりする必要がないため、シェリングモデルよりも魅力的だと同氏は話した。

Unagiのセールスポイントは、前もって価格が決められていること、そしていつでもサブスクをキャンセルできるため、心配いらずのエクスペリエンスとなることだ。月極料金にはメンテナンスや紛失・盗難・ダメージの保険が含まれている。ただ、いくつかの決まりもある。最低3カ月の利用、そしてセットアップ料金50ドル(約5400円)を払わなければならない。

ハイマン氏はサブスクモデルが成長するには少し時間がかかるが、成長すればUnagiの稼ぎ頭になると考えている、と話した。同氏によると、パイロット事業を展開した都市でサブスク電動キックボードの需要があり、2019年から2020年にかけてUnagiは450%成長した。しかし具体的な数字の公開は拒否した。

もしワクチン接種した人々が通常の通勤スタイルに戻ったら、電動キックボード熱は最終的に落ち着くかという質問に対して、同氏は「当社のプロダクトの主要なユースケースは通勤であるため、実際にはパンデミックで当社は打撃を受けたと考えています」と話した。

「都市では人々の乗車の大半は3マイル(約4.8km)以下です。そしてポータブルな電動キックボードを持っていることで何でもできます。持ち運びはかなり簡単で、施錠や盗難、あるいはアパートや地下鉄への持ち込みの心配をする必要はありません」と語った。

電動キックボードの重さは26ポンド(約11.8kg)で、畳んだときにどちらの車輪ででもバランスを取ることができる。ライダーの体重、そして1つのモーターで走行するかあるいは2つのモーターで他のライドシェア電動キックボードを追い抜くかにもよるが、フル充電で8〜15マイル(約12.8〜24km)走行可能だ。

サブスクモデルは電動キックボード販売とうまく噛み合っている。というのも、再利用できるからだ。サブスク利用者は新しい電動キックボードの提供は保証されず、前に誰かが所有していたものが回ってきがちだ。Unagiはハイエンドな材料での製造を約束しているため、定期的なメンテナンスで3〜5年、電動キックボードを利用できると同社は話す。

最終的にApple MusicになったMOGの音楽サブスクのようなサブスクビジネスモデルを作った経歴をもっているハイマン氏は、電動キックボードというかたちでハードウェア・アズ・ア・サービスを提供する個人的な理由がある。クルマより自転車が一般的なアムステルダムに同氏は3年間暮らしたことがある。

「通勤が3マイル以下の人がどれだけいるかを考えると、街にこれほど多くのクルマがあるという事実はばかげたものです。私たちは、街からクルマを追い出すことに夢中になっています」と同氏はいう。

【更新】以前の記事でUnagiは3カ月のサブスクリプションが必要とされていたが、同社はその要件を廃止することを決定した。

カテゴリー:モビリティ
タグ:Unagiアメリカ資金調達電動キックボード

画像クレジット:Unagi

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

新型コロナを追い風に米国のeコマース売上高は2022年までに109兆円超えか

Adobeのeコマース部門が米国時間3月15日に発表したレポートによると、新型コロナウイルスのパンデミックは米国のオンラインショッピングを1830億ドル(約19兆9980億円)押し上げた。この数字はパンデミックが米国で始まった2020年3月から2021年2月までの間のオンラインショッピングの増加額だ。

この期間、米国の消費者はオンラインで計8440億ドル(約92兆1500億円)を使った。一方、2020年の消費額は8130億ドル(約88兆7630億円)で、前年比42%増だった。1830億ドルという増加額は、2020年11月と12月にオンラインで使われた1882億ドル(約20兆5480億円)という2020年のホリデーショッピングシーズンの規模に近いとAdobeは指摘する。同社はこうした成長が今後も続き、2022年までに1兆ドル(約109兆1800億円)に達すると予想する。

パンデミックは多くの産業にとってアクセルとなって数年前倒しさせた。これはパンデミックがなければ成し得なかった。

eコマースもこのトレンドの恩恵を受けた。消費者は外出禁止命令に直面し、必要不可欠ではない小売店舗は休業を余儀なくされ、実在店舗での買い物の多くはオンラインコマースに取って代わられたからだ。パンデミックだけで「20%の押し上げに相当するオンライン支出の稀な段階変化」を生み出したとAdobeは話し、たとえパンデミックが数カ月内に終焉を迎えてもこの影響は続くと指摘した。

たとえば同社の分析では、2021年1月と2月に米国の消費者はすでに計1210億ドル(約13兆2130億円)を使っていて、これは前年同期比34%増だ。

またこの期間、オンラインショッピング向けの信用販売は前年比215%増で、注文数は18%増えた。これはパンデミックによる変化がもたらした売上増のもう1つの要因だ。

Adobeは、現在の成長率が続けば2021年の売上高は8500億〜9300億ドル(約92兆8250億〜101兆5615億円)に達すると予測する。そして2022年には米国のeコマースにとって初の1兆ドル台となるとみている。

eコマース売上高の増加意外にも、パンデミックは人々がどのように買い物し、何を購入するかという点で長期的変化につながったかもしれない。

実在店舗とカーブサイドでのピックアップサービスの浸透は2021年2月時点で前年同月に比べて67%アップした、とAdobeはいう。消費者はこの買い物のハイブリッドモデルにかなり受容的なようだ。例えばAdobeの直近の調査では、米国の消費者の30%が通常の配達よりもピックアップを好んでいることが明らかになった。

定期的なオンラインショッピングへのシフトは後に、典型的な「セールホリデー」に影響が出るかもしれない。過去においては、買い物行動は年の後半に活発になる傾向があった。2020年のメモリアルデー(戦没者追悼記念日)の買い物の増加は同じ週の他の日より20%少なく、売上高は3200万ドル(約34億9380万円)減ったとAdobeは指摘した。レイバーデーとプレジデンツデー(大統領の日)でも同様の傾向が見られた。そして注目すべきことに、2020年のサンクスギビングからサイバーマンデーにかけての5日間でも売上高は9%減、額にして6億ドル(約655億円)減った。

しかしながら、小売業者は新たなオンライン買い物客の波に十分に対応していないことを示す要素もあった。2020年7月のピーク時には「在庫切れ」のメッセージが一般的で、これはパンデミック前に比べて3倍の多さだった。2021年1月には在庫切れのメッセージはパンデミック前の水準の4倍に増えた。これは特にグローサリー、ペット用品、医薬品で顕著だったとAdobeは話した。

オンライングローサリーも消費者行動の変化の恩恵を受け、停滞する兆しはない。2021年2月にオンライングローサリーはパンデミック前の2020年1月に比べて230%成長した。

消費者調査と違い、Adobeのデータは1兆回を超す米国小売サイトへの訪問や1億超のSKU(在庫管理の最小単位)をカバーしているAdobe Analyticsで直接見られる傾向を元にしていて、米国のeコマース産業や消費者支出をより全体的にそしてリアルタイムにとらえている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:eコマースアメリカ

画像クレジット:Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

今、その役割が注目されている活動家的なデベロッパーの台頭

本稿の著者はBob Lord(ボブ・ロード)氏は、IBMでWorldwide Ecosystems and Blockchainを担当するSVP。IBMのブロックチェーンビジネスを監督し、開発者、グローバルシステムインテグレータ、独立系ソフトウェアベンダーにまたがる同社の主要なエコシステムを推進するなど、ビジネス全体に新しいオープンテクノロジーを浸透させている。

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この数カ月間、特に米国において、テクノロジーと社会におけるその役割が注目を集めている。

私たちは、テクノロジーの公正かつ倫理的な利用方法や虚偽情報の拡散を阻止するためにできることなどについて、真剣に話し合う必要がある。だが、こうした問題の解決に尽力する際、この話し合いによって、善行のためにテクノロジーを利用する活動家的なデベロッパーの台頭という、2020年現れた希望の兆しを曇らせることがないことを願う。

活動家的なデベロッパーはこれまでにないほどさまざまなグローバル問題に対応し、信じられないほどに困難な問題を解決するのを好むことだけでなく、そうした問題を大規模に、そして見事に解決できることを証明した。

彼らの起業家精神にあふれる成長型マインドセットをこのコミュニティで解き放ち、より多くの人々が、あらゆる人のために持続可能な未来を築く機会があるようにする責任は、私たち全員にある。私は、同僚や業界、政府などに、デベロッパーが主導するアクティビズムの新たな波をサポートし、今、存在しているスキルギャップを協力して埋めていくよう呼びかけている。

新型コロナウイルスのパンデミックから、気候変動や人種問題まで、デベロッパーは、人々が不安定な今の世界をうまく切り抜けることができるように新しいテクノロジーを作る重要な役割を担っている。こうしたデベロッパーの多くは、労働時間外に世界中で共有できるオープンソースのソフトウェアを使用して社会問題に取り組んでいる。この取り組みにより多くの命が救われている。ゆくゆくは何百万人もの命を助けることになるだろう。

国際的な研究者コミュニティは、いち早くオープンソースのプロジェクトによってデータと遺伝子配列を共有し合い、新型コロナウイルスの早期理解と感染を阻止する取り組みにおいて協力することに役立てた。研究者がほぼリアルタイムで世界中の遺伝子コードを追跡できることは、私たちの対応において極めて重要であった。

St. Jude Children’s Research Hospital(セントジュード小児研究病院)では、この重要な時期に、たった10日間で同意署名プロセスのデジタル化を成し遂げた。台湾、ブラジル、モンゴル、インドから集まった4名のデベロッパーチームは、気象データを使用して天候の変化を察知し、より情報に基づいた作物管理の意思決定ができるよう農業経営者を支援した

1950年代から1960年代の公民権運動と反戦運動から最近のブラックライブズマター運動を支持する集会まで、人々は情熱と抗議心を持って、より良い未来へと導く話し合いの場をかたち作ってきた。そして今、人々による活動の豊かな歴史に、新しく重要なツールが加わった。最大級の課題に世界的および地域的に協力して対応するために必要なデータ、ソフトウェア、テクノロジーのノウハウだ。

現代のソフトウェアデベロッパーは、1940年代や1950年代に橋や道路を設計し、非常に広範な進歩への道を開いたインフラストラクチャを作った土木技師に似ている。

オープンソースコードのコミュニティは、すでに協力・共有している。あらゆる人が共有できるイノベーションを生み出し、完璧ではなく完成を目指すことに焦点を当てているのだ。ハリケーンによってコミュニティが大きな被害を受けそうなとき、ただ土嚢を準備するだけではなく、オープンソースのテクノロジーを使用してコミュニティを支援し、ソリューションを拡張して他者を助けることができる。例えばDroneAID(ドローンエイド)は、視覚認識を利用して頭上を飛ぶドローンから地上のSOSの印を検知して数え、緊急救援のために地図上に救急ニーズを自動的にプロットするオープンソースのツールだ。

GitHub(ギットハブ)による最近の調査では、オープンソースプロジェクトの作成は2020年4月より25%増えている。デベロッパーは空き時間を利用してオープンソースコミュニティやバーチャルハッカソンに貢献し、より持続可能な世界を作ることに自らのスキルを活用している。

2018年、私はIBM、David Clark Cause(デビッド・クラーク・コーズ)、United Nations Human Rights(国連人権理事会)によるCall for Code(コール・フォー・コード)の立ち上げを手伝った。グローバルなデベロッパーのコミュニティを支援する取り組みだ。そのミッションの大部分を占めるのは、野心的な構想を実世界に取り入れるために必要なインフラストラクチャを作ること。IBMでは、エンタープライズクライアントによって使用されるものと同じテクノロジーへの2400万人のデベロッパーコミュニティアクセスを提供しており、これにはオープンハイブリッドクラウドプラットフォーム、AI、ブロックチェーン、量子計算などが含まれている。

Prometeo(プロメテオ)は消防士、看護師、デベロッパーのチームで、AIとモノのインターネット(IoT)を利用したシステムを開発した勝者であろう。これは消防士が火災に立ち向かう際に消防士を保護するシステムで、スペインの複数の地域ですでにテスト済みである。私たちはこれまで、自宅学習用に教師が仮想情報を共有できるようにしたデベロッパー、消費者の購入における二酸化炭素排出量の影響を計測できるようにしたデベロッパー、スモールビジネスに新型コロナウイルスに関するポリシーの最新情報を提供できるようにしたデベロッパー、農場経営者が天候の変化に対応できるようにしたデベロッパー、パンデミックの中でビジネスの生産ラインの管理方法を向上できるようにしたデベロッパーなどを見てきた。

2020年、Devpost(デブポスト)は世界保健機構(WHO)と連携し、健康、被害を受けやすい人口、教育などのカテゴリーで新型コロナウイルス感染症の緩和ソリューションを作成するという課題をデベロッパーに出した。Ford Foundation(フォード財団)とMozilla(モジラ)は技術者、活動家、ジャーナリスト、科学者をつなげて、技術と社会正義に取り組む組織を強化するためのフェローシッププログラムを先導した。U.S. Digital Response(米国デジタルレスポンス、USDR)では、無料奉仕する技術者を、危機に対応する政府や組織と結び付けた。

最も複雑な世界的かつ社会的な問題は、より小さく解決可能なテクノロジーの課題に分解できる。だが最も複雑な問題を解決するには、あらゆる国、あらゆる階級、あらゆる性別の頭脳が必要になる。スキルギャップの危機は世界的な現象であり、次世代の問題解決者に、すばらしいアイデアを影響力の高いソリューションに変えるために必要なトレーニングとリソースを準備することが重要だ。

2021年は、企業や州、国の境界を越えて連携し、世界で最も大きな問題のいくつかに取りかかる新しく活気に満ちたデベロッパーコミュニティが表れると期待できるだろう。

だが彼らは自分たちだけでは問題を解決できない。こうした活動家的なデベロッパーには私たちからの支援や励まし、対処すべき最も重要な問題を指摘する手伝いが必要だ。そしてソリューションを世界中すみずみまで提供するツールも必要になる。

テクノロジーの真の力は、この世界をより良いものに変えたいと考える人々のためにある。変化を生みたい人々がそれを成し遂げるためのツール、リソース、スキルセットを確保できるように、私たちはスキルギャップを埋め、社会の根深い格差を解消することを、改めて重要視する必要がある。

私たちの未来は、これを正しく理解できるかどうかにかかっている。

関連記事:誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラムアメリカ

画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

マイアミの投資家8人に聞く、米国最南端のテックハブの展望(後編)

サンフランシスコやニューヨークからの集団脱出が、ここ15年ほどで着実にテックハブへと成長してきたマイアミに大きな影響を与えている。私たちは今、マイアミにとって重要な「瞬間」を目撃しているが、多くの人はこれが一過性のブームではなくテック業界の傾向として定着することを望んでおり、そのために努力している。

1月下旬、SoftBank Group International(ソフトバンク・グループ・インターナショナル)は、マイアミで爆発的に成長しているテック業界を対象とした1億ドル(約104億円7000万円)のファンド設立を発表した。この記事で説明されているように、これはマイアミのテックブームが本物であることを裏付けている。この発表に先立ち、ソフトバンク・グループ・インターナショナルはTechCrunchに次のように語った。「ますます多くのスタートアップが拠点を置くようになり、マイアミは、増加する需要に素早く対応できるハブへと急成長している。新興分野であるエルダーテック(高齢者を対象としたテクノロジー)からバイオテックまで、マイアミは、起業家として商機を探す移民やマイノリティに唯一無二の機会を提供している魅力的な投資市場だ」。

パンデミックが変化を促進した。マイアミの住民たちは、サウスビーチに多くの人材が流入し、ひいては彼らの銀行口座も移動してくることを願いながら、新しい住人を歓迎し、彼らが新生活に慣れることができるようサポートした。TechCrunchは、マイアミの現状と今後の展望について、マイアミを拠点とする投資家にインタビューを行った。

後編では、以下の投資家からのインタビュー回答を掲載する(前編はこちらで読める)。

Kevin Cadette(ケビン・キャデット)氏、Black Angels Miami(ブラック・エンジェルス・マイアミ)、取締役

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

イノベーター、起業家、投資家の各コミュニティが急激な成長を経験して、互いのつながりをより深めていき、マイアミのエコシステムは拡張されていくでしょう。ひとつ言わせてもらえるとすれば、当社ブラック・エンジェルス・マイアミはコミュニティの基盤を固める重要な役割を担うと思います。マイアミやフロリダ州南部を拠点とするエンジェル投資家は現在でも数多くいますが、地域全体の人口増加に伴い、この傾向は今後も続いていくでしょう。ブラック・エンジェルス・マイアミは引き続き、投資機会を盛り立て、Black Angels U(ブラック・エンジェルス・ユー)のプログラムを通して新人投資家を教育し、加えて、ファンドのリミテッドパートナーになる機会を提供していく予定です。

マイアミは多様性に富む街です。エコシステムが成長してもこの多様性を確実に維持するために、多くの組織が積極的に動いています。マイアミのテック業界が現在の姿になるための基礎は何年も前から築かれてきました。例えば、ザ・ナイト・ファウンデーションはエコシステムの中でスタートアップをサポートする組織を牽引してきました。そのようにしてようやく、現在のような基盤ができあがったのです。

私たちが今見ているのは、マイアミが生み出すサクセスストーリーの表面的な部分にすぎません。マイアミは今後5年間に、起業家にとって重要な国内有数の都市として米国全土で認知されていくと思っています。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

リモートワークは既にくすぶっているテクノロジー革命に火をつけるでしょう。快適な生活ができる都市としての評判を確立していることは、リモートワークにおいても大きな強みとなります。誰もがマイアミに移住したいと思っています。他の都心地域と同様に、マイアミ都心部のオフィスは無くなるかもしれませんが、それでも企業はマイアミへ移転してきているのは事実です。マイアミとフロリダ州南部は、仕事と人生のどちらも妥協することなく両立できる場所であることを証明してきました。フロリダ州南部に移転してくる大企業や、そこで創業するスタートアップと地元投資家が増えるにつれて、マイアミのスタートアップシーンはますます力強く成長していくと思います。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

Black Angels Miami(ブラック・エンジェルス・マイアミ)はセクターにこだわりません。また、マイアミに限定することなく、全米各地で、アーリーステージのベンチャー企業を探しています。とりわけ、市場が未成熟で新規参入の余地が大きく、世界中の企業や個人に素晴らしい問題解決法を提案できる成長産業に注目しています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

地元ならではの課題は、この街が提供する最大の好機の1つでもあります。それは、結束が固く、本質的に協調性の高い街という点です。マイアミは協力し合うことが普通になっているコミュニティで、誰かにEメールを送れば返信が戻ってきて、それが正しい道しるべとなる場合が多いです。皆が意識して助け合おうとしており、これが皆にとって上げ潮になっています。誰もがこのコミュニティからサクセスストーリーが生まれるのを見たいのです。ですが、ここで創業する場合は、まだこのコミュニティに属していないことが障害になるかもしれません。マイアミに移住してきたばかりの人には、既に地元のコミュニティに属している人と連絡を取ることをお勧めします。ここに拠点を置き、今までと同じ仕事をオンラインで続けることは簡単なのですが、それでは興味深い機会を得損なうことになります。マイアミのエコシステムは人間関係を重視しており、門戸は広く開放されています。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。   

このエコシステムにはいわゆる「立役者」が数多くいます。私はこの機会に、マイアミのテック業界に多大なサポートを提供し続けているザ・ナイト・ファウンデーションへの感謝の意を述べたい思います。これまで彼らがサポートしてきた人を見れば、ザ・ナイト・ファウンデーションがマイアミのテック業界の基礎を据えるのにどれほど貢献してきたかがわかるでしょう。

Mark Kingdon(マーク・キングドン)氏、Quixotic Ventures(クイクゾティック・ベンチャーズ)、創業者

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

マイアミはここ数年、多様な人々を惹きつけてきました。また、最近になってテック業界や金融業界の企業がさらに増加しました。このように集まってきた人や企業が、単なる寄り集まりであることを超えて、どのように発展していくと思いますか。今後5年間に、マイアミが大企業を生み出せる場所であることを証明するような、注目を集めるイグジットが増えると思います。エコシステムを築くには時間がかかります。数十年かかることもあります。投資家、起業家、スタートアップの社員がマイアミに魅了され、大きな影響力を及ぼすイグジットが行われ、資金が新しいスタートアップへと再利用される。これが好循環です。マイアミは今、アーリーステージの段階にあります。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

リモートワークはマイアミでも重要なトレンドです。ここは既にラテンアメリカにとって主要なハブになっており、今後も大きく拡大していきます。その重要性を増しています。ニューヨークからのアクセスも便利で、自分自身がまさにそうなのですが、ニューヨークから南部へ移住してきて、その後もニューヨークとマイアミの間を頻繁に行き来している人が多くいます。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

eコマースとeコマースのイネーブルメントに注目しています。注目する分野はあえて絞り込むようにしています。ガッツがあって、決断が早く、優れたアイデアを持ち、できればいくらかのトラクションを獲得している創業者は有望だと思います。Sktchy(スクッチー)にはガッツと決断力がありますね。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。 

雇用が今の課題だと思います。求職者の動き方がニューヨークとは異なります。金曜日に求人広告を出せば月曜日には応募者が10人集まる、ということはありません。マイアミでは採用までに時間がかかります。この課題に対処することは可能ですが、どんな人材が必要なのかを創業者が早期に特定し、主要なポジションの採用プロセスにはより時間がかかることを創業者が理解していることが前提になります。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。   

非常にたくさんの名前が思い浮かびますね。それがマイアミの素晴らしいところです。このコミュニティは大変友好的で、新しく移住してきた人のために時間を割くことを厭いません。これはとても素晴らしいことで、私は今までに経験したことがありませんでした。マイアミへ溶け込むのを手助けしてくれた人々の名前をいくつか挙げるとすると、Nico Berardi(ニコ・ベラルディ)氏、Juan Pablo Cappello(ジョアン・パブロ・カペッロ)氏、Melissa Krinzman(メリッサ・クリンズマン)氏、Matt Haggman(マット・ハッグマン)氏、Raul Moas(ラウル・モア)氏、Jesse Stein(ジェシー・ステイン)氏です。マイアミ・エンジェルスの役員として、私、Melissa Krinzman(メリッサ・クリンズマン)氏、Juan Pablo Cappello(ジョアン・パブロ・カペッロ)氏、Raul Moas(ラウル・モア)氏、Nico Berardi(ニコ・ベラルディ)氏、Tigre Wenrich(ティグレ・ウェンリッチ)氏、Marco Giberti(マルコ・ギバルティ)氏はマイアミを拠点とする50以上の企業に投資しています。このマイアミ・エンジェルスの役員会は非常に良いコミュニティで、他にも36以上の企業に投資しています。マイアミ・エンジェルスは新しい投資家をこのエコシステムに惹きつけ、彼らと地元コミュニティとをつなぐ点で、重要な役割を果たしてきたと思っています。

Ana González(アナ・ゴンザレス)氏、500 Startups(ファイブハンドレッド・スタートアップス)、パートナーファンド最高責任者

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

マイアミがこの地域の、さらには世界的なスタートアップハブになるための、唯一無二の機会が開かれています。マイアミは、公共部門や民間企業が何年にもわたって投資してきたエコシステムの基礎を足がかりにしてさらに成長し、世界にアピールできる独自性やブランドを形作っていくことことでしょう。コアとなる強みをさらに強化し、成長する見込みのある新たなアセットを特定できます。多様性に富む人材が充実しており、地理的に恵まれた場所に位置する上、素晴らしいクオリティ・オブ・ライフや優遇税制の恩恵を享受できます。この街にはまた、ヘルスケア、物流、輸送業、フィンテック、ブロックチェーン、仮想通貨など、強力な存在感を放ち、世界規模で拡大している成長産業があります。クライメートレジリエンス(気候変動の影響からの回復力)やスマートシティ、サステナビリティなどは、マイアミの未来を担う新しい産業です。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

2020年のパンデミックは、その前の数年間に台頭してきたトレンドを加速させたにすぎません。人々は以前よりもっと、勤務先の所在地に関係なく住む場所を選択できるようになりました。マイアミはこの流れの先端かつ中心に位置しています。この街では極めて高いクオリティ・オブ・ライフを楽しめることに気づく人が増え続ければ、移住してくる人や、さらに良いことに、定住するためにマイアミで起業する人が増えるでしょう。これは、ひいてはこの地の人材の質と密度を強化し、マイアミが生活と仕事の両面でますます魅力的になるという好循環を生み出します。新型コロナウイルス感染症のワクチンによって、会議やイベントを再び対面で開催できるようになっても、私たちは皆、(オンラインと対面の)ハイブリッド型という新しい方法で対人関係を築き、営業活動を行い、生活全般を営んでいくことを学ばなければならないでしょう。そういう意味では、マイアミは優れた革新者です。例えば、安全かつ興味深い方法で鑑賞できる斬新な野外劇場システムが既に導入されています。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

ファイブハンドレッド・スタートアップスでは、今までにないソリューションを考え出し、業界の明日を作っていくテック系シードステージのスタートアップを支援し、投資しています。分野は特に限定していません。マイアミでは、フィンテックやヘルスケア、輸送業や物流などの業界の成長に注目しています。コロナ後の世界でセキュリティ、旅行・宿泊、金融サービスなどの分野において必要になる非接触ソリューションを開発しているスタートアップもあります。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

マイアミの創業者は、アーリーステージ期の資金調達(エンジェル投資からシードラウンド、プレシリーズAラウンドを含む)と、特にエンジニア、グロースマネジメント、プロダクトマネジメントの役割を担える優れた人材の確保に苦労することが多いようです。新しいエコシステムの発展途上時にはよく見られる現象です。でもマイアミの場合は、発展が速いスピードで進んでいて、人材と出資者が次々と移住してきているので、これからが楽しみです。

マイアミが特に優れている点は、他のエコシステムとの結びつきです。ラテンアメリカとは以前から深いつながりがありましたが、今ではベイエリアやニューヨーク、ヨーロッパとも、ラテンアメリカ以上に密接につながっています。そのため、より多くの企業が、マイアミで事業を営みつつ、グローバルなネットワークを活用して、求める人材、資本、参入市場を見つけられるようになっています。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。   

マイアミでは、非常にたくさんの優れた人々が見事な仕事をしています。素晴らしいのは、ここの人々は純粋に、すべての人の役に立つものを築こうとしていることです。まずは以下の方々の名を挙げたいと思います。

Refresh Miami(リフレッシュ・マイアミ)のMaria Derchi(マリア・デルチ)氏、Beacon Council(ビーコン・カウンシル)のMatt Haggman(マット・ハッグマン)氏 、Knight Foundation(ナイト・ファウンデーション)のRaul Moas(ラウル・モア)氏、Miami Angels(マイアミ・エンジェルス)のRebecca Danta(レベッカ・ダンタ)氏、そしてThe Lab Ventures(ザ・ラボ・ベンチャーズ)のTigre Wenrich(ティグレ・ウェンリッチ)氏です。

Tom Wallace(トム・ウォレス)氏、Florida Funders(フロリダ・ファウンダーズ、タンパ)、マネージング・パートナー

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

ここ数か月の間に、成長著しいマイアミのテックコミュニティに関する数多くの話題が報じられましたが、マイアミとフロリダ州全体をテックハブへ変貌させようという計画はここ数年継続して行われてきた取り組みです。テックのロジーエコシステムを形成するのに必要なものは、人材と資金の2つに集約されます。フロリダには以前から多くの資本がありましたが、カリフォルニアやニューヨークとは異なり、そのほとんどはテック業界を源泉とするものではありません。

しかし、実際にフロリダで素晴らしいユニコーン企業のいくつかが成長し売却されたことが、エコシステムを有機的な成長を促しました。ユニコーン企業が現金化されると、数多くの億万長者が新たに生まれます。そして、その億万長者たちがまた自身の事業を創業するのです。シリコンバレーのHP(ヒューレットパッカード)、シアトルのMicrosoft(マイクロソフト)、 オースティンのDell(デル)などのように、テクノロジーエコシステムはこのようにして築き上げられていくものです。ですから、マイアミとフロリダ全体は今後5年で全米有数のテクノロジーエコシステムになる可能性を秘めています。 

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

当社がリモートワークのトレンドから恩恵を受けていることに疑問の余地はありません。当社はずっと以前から、この地に優秀な企業を設立するために動いてきました。マイアミでの生活は非常に快適ですので、人に勧めるのに困ったことはありません。リモートワークへの移行は、マイアミ以外の場所にある企業に勤務するスマートな人たちがマイアミへと移り住むトレンドを加速させています。そのような人たちは、ゆくゆくはマイアミで起業したり、マイアミの地元企業に転職したりするでしょう。

また、私はオフィスが完全になくなるとは考えていません。Blackstone(ブラックストーン)やGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)のようにマイアミやフロリダ州に移ってきた企業の事例を見ると、そのような企業は手頃な面積のオフィスを設けていることがわかります。オフィスの在り方は永久に変わり、多くの企業では引き続き自宅からのリモートワークが可能となるでしょう。ですが、Zoom(ズーム)で代替することのできない、対面的な要素を持つ仕事も常に存在します。特に、アーリーステージのテック企業にはこの種の仕事が確実にあると、私は考えています。実りのある会話や技術革新のためには、チーム全員が1つの部屋に集まり、ホワイトボードを使いながら問題の解決方法を模索するのが一番です。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

(マイアミが)ラテンアメリカへの架け橋である点が、圧倒的な訴求力を持っているとフロリダ・ファウンダーズでは考えています。ラテンアメリカのテック市場はまだアーリーステージの初期段階なのですが、マイアミはラテンアメリカの企業が米国に進出する際の窓口となっていて、そのまた逆も然りです。物流やマイクロレンディング(小口融資)のプラットフォームには非常に興味をそそられます。私が本気で注目し始めている2つ目の分野はフィンテックです。ゴールドマンサックスやブラックストーンなどの大手金融企業がマイアミにオフィスを構えたことで、革新的なフィンテック企業も彼らの後に続くことでしょう。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

人材、特にテックの発展に寄与する人材はフロリダでは常に不足していました。現在はリモートワークの増加に伴い、より良い人材が見つけやすくなっています。しかしながら、まだ先は長いと思います。ボストンやシリコンバレーのようなエコシステムには世界レベルの教育機関があり、優秀なテック人材を輩出しています。私の出身地であるピッツバーグですら、そうです。フロリダ州にはそのような教育機関がまだありません。ただ、University of Florida(フロリダ州立大学)とFlorida Polytechnic Institute(フロリダ州立工科大学)が教育関連の優れた取り組みを新しく始めることにより、人材不足を補おうとしています。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。   

フロリダ・ファウンダーズがフロリダ州での資金調達の面で重要な役割を果たしていることを、この場を借りてお伝えしたいと思います。マイアミには、コワーキングスペースのCIC(シーアイシー)や最新のMana Development(マイアミのダウンタウン地区開発プロジェクト)のような、物理的にスタートアップハブになった素晴らしい場所がいくつもあります。また、当社が依頼している法律事務所Greenberg Traurig(グリーンバーグ・トラウリグ)、特にパートナー弁護士のJaret Davis(ジャレット・デイビス)氏は、何年にもわたりコミュニティの支援に尽力してくださっています。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:インタビュー アメリカ

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(文:Marcella MaCarthy、翻訳:Dragonfly)

マイアミの投資家8人に聞く、米国最南端のテックハブの展望(前編)

サンフランシスコやニューヨークからの集団脱出が、ここ15年ほどで着実にテックハブへと成長してきたマイアミに大きな影響を与えている。私たちは今、マイアミにとって重要な「瞬間」を目撃しているが、多くの人はこれが一過性のブームではなくテック業界の傾向として定着することを望んでおり、そのために努力している。

1月下旬、SoftBank Group International(ソフトバンク・グループ・インターナショナル)は、マイアミで爆発的に成長しているテック業界を対象とした1億ドル(約104億円7000万円)のファンド設立を発表した。この記事で説明されているように、これはマイアミのテックブームが本物であることを裏付けている。この発表に先立ち、ソフトバンク・グループ・インターナショナルはTechCrunchに次のように語った。「ますます多くのスタートアップが拠点を置くようになり、マイアミは、増加する需要に素早く対応できるハブへと急成長している。新興分野であるエルダーテック(高齢者を対象としたテクノロジー)からバイオテックまで、マイアミは、起業家として商機を探す移民やマイノリティに唯一無二の機会を提供している魅力的な投資市場だ」。

パンデミックが変化を促進した。マイアミの住民たちは、サウスビーチに多くの人材が流入し、ひいては彼らの銀行口座も移動してくることを願いながら、新しい住人を歓迎し、彼らが新生活に慣れることができるようサポートした。TechCrunchは、マイアミの現状と今後の展望について、マイアミを拠点とする投資家にインタビューを行った。

前編では、以下の投資家からのインタビュー回答を掲載する。

Marcelo Claure(マルセロ・クラウレ)氏、Softbank Group Intl.(ソフトバンク・グループ・インターナショナル)、CEO

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

ますます多くのスタートアップが拠点を置くようになり、マイアミは、増加する需要に素早く対応できるハブへと急成長しています。新興分野であるエルダーテック(高齢者を対象としたテクノロジー)からバイオテックまで、マイアミは、起業家として商機を探す移民やマイノリティに唯一無二の機会を提供している魅力的な投資市場です。2012年から2018年にかけて、マイアミ・デイド郡のテック部門は40%の成長を遂げました。これは、堅調な成長軌道に乗っていることを示しています。今後数年はこの成長トレンドが続くと予想しています。

さらに、「まず始めること」が最大の難関であることも理解しています。本社機能が集まる都市になるための第一歩は、優秀な人材の確保です。マイアミには、生活費の低さ、ライフスタイル、成長に資する機会など、いくつもの魅力的な側面があります。ラテンアメリカとの文化的な交流が盛んなマイアミは、ラテンアメリカの企業や創業者が事業を米国へとシームレスに展開するための自然な架け橋となる立ち位置にあります。ソフトバンクは、今こそ飛躍のチャンスと考え、マイアミ市場でテック業界のエコシステムを支援することにしました。

マイアミは常に、当社にとって大切な場所でした。当社が50億ドルを投じて設立したLatam Fund(ラテンアメリカ・ファンド)はマイアミで誕生し、本部もここにあります。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

リモートワークが世界中でニューノーマル(新しい常態)として急速に浸透しています。これはつまり、人材と起業に関する地理的な障害がなくなるということです。マイアミには、州所得税がないこと、アートや文化の振興に積極的であること、活発なライフスタイルに適した気候に恵まれていることなど、他の市場よりもはるかに優れた強みがあります。フロリダ州にはテック分野と金融分野の人材が大挙して押し寄せています。2020年9月の発表では、1日あたり1000人がフロリダ州に移転しているとのことでした。これは驚異的な数です。

リモートワークは今後のビジネスを支える基盤の一部となりますが、それでも、企業風土を構築するうえで対面のやり取りに代わるものはありません。企業は、従来型のオフィススペースを多少削減するかもしれませんが、主要な本社機能を置けるコワーキングスペースまたはレンタルスペースを探し続けるのではないかと思います。そのため、全体的にみれば。市内に位置するオフィスの数は大幅な増加傾向が続くと見込んでいます。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

ソフトバンクは、フィンテックからアグリテック、教育分野に至るまで、さまざまな分野のテクノロジー企業へ投資していますが、とりわけ、これらの分野のデジタルトランスフォーメーションを担う起業家や会社に投資しています。また、そうした起業家が拠点とする都市の勢力図が、昨年大きく変化したことも認識しています。起業家が多く集まる地域は、長い間シリコンバレーとニューヨーク市が二強でした。しかし、今では、ダラスやオースティン、そしてもちろんマイアミにも起業家が多く集まってきています。これにはマイアミ市のSuarez(スアレス)市長のたゆまぬ努力が大きく貢献しています。そのおかげでマイアミはイノベーションとテック産業の最前線に立っているのです。

マイアミで頭角を現しているビジネスの多くが、当社の求める投資対象条件に合致します。当社は、ラテンアメリカ・ファンドを通して、ラテンアメリカ地域に重点を置く企業へ投資しています。VCコミュニティにおける多様性とインクルージョンという積年の問題に本気で取り組むため、黒人やラテン民族、アメリカ先住民の起業家に焦点をあて、1億ドル(約104億7000万円)のOpportunity Fund(オポチュニティ・ファンド)を立ち上げました。これまでのところ、700社以上の審査を実施し、マイアミで台頭しているヘルスケア、SaaS、フィンテック、ゲームなど多岐に渡る分野で約20件の投資を行い、合計2000万ドル(約21億1000万円)を投入しています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

どの市場でも、その市場ならではの課題に直面するものですが、マイアミ、そしてフロリダ州は全体的に新規参入への障害がはるかに少ない市場です。実績があり多様性に富む地元の専門家たちのネットワークは、企業にとって非常に価値の高いリソースとなります。有名なテック企業やVCがマイアミに移転しており、後に続くよう他の企業にも促しています。

Keith Rabois(キース・ラボイス)氏がそのよい例です。ラボイス氏の今年の抱負は、シリコンバレーからマイアミへの大移動を支援することです。マイアミがテック業界におけるホットスポットであることをアピールする動きが増えています。ソフトバンクはマイアミと深いつながりがありますので、他の企業家をマイアミへ誘致できることをうれしく思っています。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。

Emil Michael氏(エミル・マイケル氏、元Uber(ウーバー))、Shervin Pishevar氏(シェルヴィン・ピシェヴァー氏。元Uberで、Sherpa Capital(シェルパ・キャピタル)の創業者)、Martin Varsavsky氏(マーティン・ヴァルサフスキー氏。元Jazztel(ジャズテル)で、FON(フォン)の創業者)、 Alexis Ohanian氏(アレクシス・オハニアン氏、Reddit(レディット)共同創業者)。

German Fondevila(ジャーマン・フォンデヴィラ)氏、Clout Capital(クラウト・キャピタル)、投資マネージャー

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。マイアミはここ数年、多様な人々を惹きつけてきました。また、最近になってテック業界や金融業界の企業がさらに増加しました。このように集まってきた人や企業が、単なる寄り集まりであることを超えて、どのように発展していくと思いますか。  

私は、2016年にスペインのバルセロナからマイアミへ引っ越してきました。そして、この都市の持つ可能性に気づき、この地に留まることを決めました。まず留意すべきなのは、マイアミのエコシステムまだ形成途中で、発展途上だということです。今後数年の間に、スタートアップシーンにおけるマイアミの存在感はより強くなると思います。より多くの才能がマイアミに移り住み、それによってもっと多くの企業がこの地へ本拠地を移すことを私たちは望んでいます。マイアミは文化的にも豊かで刺激的ですし、他の都市に比べて笑顔にあふれていると感じます。

重要なのは、「誇大広告」に飛びつかないことです。この地は可能性に満ちていますが、だからといって「ローマは一日にしてならず」です。強固なスタートアップコミュニティを築くためには、いくつかの層を積み上げる必要があります。簡単に解決することのできない、さまざま要素を含んだ複数の問題が絡み合っています。これはいわば、長期間にわたるゲームなのです。そのことを理解して期待値を調整する必要があります。マイアミをサンフランシスコやニューヨークと比較する人がいますが、それは滑稽に思えます。30年前のサンフランシスコやニューヨークが、すでに今日のようなスタートアップハブになっていたでしょうか。そんなことはありません。足りないものがたくさんあったはずです。起業家精神を持つ人々は「作られている途中」の場所に引き寄せられるのです。その都市の未来を形作る役割を担うことができて、それが自分自身の未来にもつながるわけですから。

私たちはまた、もっと頻繁に集って話し合いの場をもち、より計画的にマイアミの成長を支えていく必要があります。マイアミに移住した当時、私は創業者でした。衝撃的だったのは、マイアミのエコシステムではお互いに協力し合う人があまりいないということでした。みんながそれぞれ自分のことをしているように見えました。私は常々、何らかの形の「スタートップ協議会」を設けるべきだと考えてきました。関連性の高い、適切なステークホルダーたちが集まり、組織的に動いてマイアミの強みを活用するのです。Francis Suarez(フランシス・スアレス)市長の近年の活躍は素晴らしいですが、スアレス市長がシグナルに含まれるノイズを識別できるよう、彼をサポートする存在が必要だと思います。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。 

私はここ数年、リモートワーク、具体的には労働力の分配という考え方と、それを支えるインフラを支持してきました。リモートワークとはパジャマ姿で自宅から働くか、もしくはカリブ海のどこかのビーチで仕事をすることだと人々は考えています(実は両方とも経験があるのですが)。人々は柔軟性を求めており、それを避けて通ることはできません。私たちはついに、産業革命型モデルの組織から、知的労働者タイプの組織へと変容しようとしているのです。

マイアミからオフィスが全て消え去るとは思っていませんが、ダウンタウン周辺のオフィスの密度と、都市開発の手法は変わっていくと思います。コワーキング型スペースの人気が再燃し、より広く普及していくでしょう。人々は仕事をするためにオフィススペースへ行きますが、いつも同じ会社の人と一緒にいるわけではない、というだけなんです。通勤時間を短縮するため、住宅地の周辺地域へ均等に広がっていくことでしょう。拘束時間の減少が、生活における幸福感の向上につながり、それが生産性へと還元されるようになります。

スタートアップではチームが各地に分散しているのは普通のことです。しかしながら、都市の垣根を越えて投資するという習慣が根付くには長く時間がかかります。多くの投資家は創業者が同じ都市にいることを好むのです。そういった意味で資本分散が一般化するまでには時間がかかります。投資家は群集心理によって動くものです。そのため、何人かのトップ投資家が公の場で現状に疑問を投げかけてやっと、変化が生じ始めます。Founders Fund(ファウンダー・ファンド)のキース・ラボイス氏がマイアミに拠点を移したことが、最近の良い例です。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

当社が新しく設立した6000万ドル(約62億9800万円)のファンドを通して、ラテンアメリカやフロリダでシリーズAの資金を調達する創業者と手を組んでいく予定です。また、機会があれば、シードラウンドの案件にも参加します。   

当社は製品主導型の企業に注目することが多いと思います。「二番煎じ」の製品を作ろうとしないだけではなく、正真正銘の知的財産や付加価値を有する製品またはビジネスモデルを持つ企業を発掘するのは、刺激的な経験です。主に、SaaS、エンタープライズソフトウェア、不動産テック、フィンテック、インシュアテックに注目していますが、これら以外の企業に対してもアンテナを張っています。最終的には優れたチームと提携できればと思っています。

マイアミには、数社だけ名を上げるのはフェアではないほど数多くの素晴らしいチームがあります。個人的に心が動かされるのは、応用AIとAIインフラ、決済とeコマースのイネーブルメントなど、未来の働き方を可能にするコラボレーションツールへの投資です。また最近では、消費者サブスクリプションについてもっと知りたいと思うようになっています。SaaSのリカーリングモデル(継続収益モデル)とB2Cビジネスが持つ巨大市場を融合させる手法に勢いを感じています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

テック関連かどうかは問わず、有能な人材の獲得と資金調達が主な課題だと聞いています。マイアミへ人が流入していますし、リモートワークでの雇用がトレンドですから、人材確保はこの先障害ではなくなっていくでしょう。ここ数年の間に、より多くの大手企業がフロリダ州南部に支店を設け、それによってより広範囲でスタートアップの発展段階をサポートできるようになりましたから、以前より資金調達状況は改善されています。私はこの傾向がこの先も続いていくと見込んでいます。

マイアミは、あらゆる人を惹きつけて楽しませる魅力を持つ都市です。私は人々に「マイアミの好きなところを一つだけ選ぶとしたらどこですか」と尋ねるのが好きです。マイアミには、面白い背景や経歴を持つ、非常に賢い人々がたくさんいるのですが、そういう人はおそらくWet Willies(ウェットウィリーズ。凍ったカクテルで有名なバー)で飲んだり、シャンパンを片手にゴージャスなライフスタイルについて語ったりはしていません。移住直後は特に、マイアミについての先入観を持たないようにすることをお勧めします。心をオープンにして、良い面も悪い面も両方受け入れる心構えが必要です。私はここに移住してきたばかりの人と知り合い、マイアミのありのままの姿を紹介するのが好きです。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。

スタートアップのエコシステムが発展途上である他の場所と同じく、マイアミにも重要な役割を担っているプレイヤーが大勢います。The Knight Foundation(ザ・ナイト・ファウンデーション)、Miami Angels(マイアミ・エンジェルス)、CIC(シー・アイ・シー)、Refresh Miami(リフレッシュ・マイアミ)、Wyncode(ウィンコード)、 Next Legal(ネクスト・リーガル)、PAG Law(ピー・エー・ジー・ロー)、The LAB(ザ・ラボ)、Secocha Ventures(セコチャ・ベンチャーズ)、Animo Ventures(アニモ・ベンチャーズ)、Las Olas VC(ラス・オラス・ベンチャー・キャピタル)、The Venture City(ザ・ベンチャー・シティ)をはじめとする数多くのステークホルダーが、マイアミのエコシステムの発展に尽力することを表明しています。私は、あまり「目立たない」企業ほど、関係を築く価値がある場合が多いことに気付きましたので、他の都市から移住してきた方は特に、表面的なグーグル検索を超えたリサーチを行うようお勧めします。

Tigre Wenrich(ティグレ・ウェンリッチ)氏、LAB Ventures(ラボ・ベンチャーズ)、CEO

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

最近のバズりは1999年と非常によく似ているように思います。あの時はむしろラテンアメリカからの移住者が多くて、カリフォルニアからの移住者はそれほど多くなかったですけどね。私もまだここには住んでいませんでした(メキシコに住んでいました)が、マイアミが「シリコン・ビーチ」になりつつあるという報道がヒートアップし始めて、たくさんのスタートアップが多額の経費をかけてリンカーン・ロードにオフィスを構えるようになったことは覚えています。2000年にインターネットバブルが崩壊した後、そのうちの大半が廃業したか、もしくは、非常に成功していたけれどマイアミではビジネスを展開していなかったMercadoLibre(メルカドリブレ)のように、ラテンアメリカへ戻りました。

私は用心深い楽天家なのですが、今回は違います。大手VCが州税を節約するためにマイアミに移転してくることは大歓迎ですし、スアレス市長が大変活発にマイアミを宣伝してきたことに拍手を贈りたいと思います。地元コミュニティの発展に寄与していきたいと積極的に公言している人もおり、大変素晴らしいことだと感じています。しかし、マイアミがいずれテックハブになると私が確信している理由は他にあります。

私が楽観視している本当の理由は、過去8年から10年の間に、地元のテックコミュニティがゆっくりと、だが着実に成長を続けてきたことにあります。今では、非常に大きなテック企業(例えば、Chewy(チューウィ)、Magic Leap(マジック・リープ)、Reef(リーフ))がいくつもフロリダ州南部に拠点を置いており、地元の人材プールが大きく拡充され、Google(グーグル)、Facebook(フェイスブック)、 Uber(ウーバー)のような大手テック企業の重要な支社や、他分野の大企業(JetBlue(ジェットブルー)、Blackstone(ブラックストーン)など)もマイアミにテック関連の支社を開設するようになりました。そして最も重要なのは、イグジットを成功させることによって得た資金を投資し、新しいスタートアップの良き指導者となる起業家が、今は少なくても着実に増えていることです。

これは決して近年の現象ではありません。むしろ、2012年に私たちがマイアミにThe LAB(ザ・ラボ)を開設した時からずっと続いているトレンドです。コワーキングスペース、アクセラレーター、インキュベーター、学生起業家、コンピューターサイエンスプログラム、コーディングスクールなど、さまざまな組織が提供する起業サポートの増加は、長年にわたるプロジェクトの成果であり、次のシリコンバレーはマイアミだとツイッターマニアが盛り上がるようになりました。

シリコンバレーのようなテックハブは、それぞれの役割を果たすプレイヤーが互いに養い合い、増強し合うコミュニティという基盤があったからこそ成功したのです。昨今、食傷するほど多用されている「エコシステム」という言葉が使われているのはそのためです。20年前、いや10年前ですら、マイアミは、テックハブへと成長するためのクリティカルマスには達していませんでした。1999年の盛り上がりは一時的なものにすぎず、テックムーブメントではなかったのです。しかし現在は、飛躍的な成長への分岐点となるクリティカルマスに近づきつつあります。5年後には、マイアミがテックハブであることは現実のこととして受け入れられ、ハブになり得るかどうかという点は、議論の余地すらなくなると予想しています。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

私はマイアミからオフィスが消え去るとは思っていません。ですが、オフィスの利用の仕方は確実に変化していくでしょう、今後も全面的にリモートワークを続けていける職種も数多くありますが、弁護士、税理士、経営コンサルタント等、サービス業の多くは徒弟制を取っているためZoomなどでその形態を維持していくのは非常に難しいと思います。企業文化も、短期間でしたらリモートワークを通して維持することが可能ですが、新入社員にその文化を伝えることは困難でしょう。また、社会活動への欲求が強く抑圧されてきた反動で、ワクチンが普及し、安全が確認されたら、人々は急速にオフィスへ戻っていくと考えています。

ですが、未来のオフィスは今とは全く違った形になる可能性が高いでしょう。共有スペースやコラボレーションのためのスペースが増えると思います。固定オフィスが割り当てられることはめずらしくなり、週に2~3日はオフィス勤務で、残りの日にはリモートワークというような自由な勤務制度へ移行する人が増えます。このような変化が商用のオフィススペース需要に与える影響についてはまだはっきりしません。マイアミ都心部のオフィス密集地域は苦戦するかもしれませんが、郊外のオフィス需要は増加する可能性が高いです。また、2021年の後半には、コワーキングスペースへの需要が急速に戻ると予想しています。完全なリモートワーカーの拠点としての需要に加えて、通勤時間をかけてダウンタウンの「通常の」オフィスへ通いたくない人々の選択の一つとしての需要も増えるためです。自宅で非常に効率的に仕事をこなせる人もいますが、大半の人にとって自宅は気が散って集中しにくい環境ですからね。

パンデミックによって米国内の完全リモートワーカーの数は不可逆的に増加しました。どこに住んでもいいのなら、マイアミは明らかに魅力的な選択肢ですが、そのせいでマイアミの住宅価格が高騰しています。そのような理由で移住してくる人は地元コミュニティとの結びつきが比較的弱く、長期にわたって居を構える可能性は低いです。マイアミにとって本当の意味で好機となるのは、マイアミに事業拠点を移す企業が増え、それにともなって正規雇用枠が増えることであり、そうなることを目指すべきです。それに成功すれば、オフィス需要が減ることはなく、むしろ増えることでしょう。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

ラボ・ベンチャーズでは、マイアミだけでなく、世界中の不動産テック(不動産業や建築業界に特化したテック企業)に注目しています。

当社は、住宅用不動産の好機、とりわけ好調なシングル・ファミリー・ホーム市場に大きく期待しています。当社が投資する地元企業の中で、最も牽引力のある企業を挙げるなら、Beycome(ベイカム。消費者が自分で持ち家を売買し、本来は何十万円もかかるはずの手数料を節約するのを手助けするオンラインの不動産エージェント)やExpetitle(エクスパタイトル。不動産取引の最終的な決済の完全リモート化を実現した業者)などです。どちらもパンデミックの間にシードラウンドの資金調達を成功させ、堅調に成長し続けています。

建設テックもまた、確実な成長が見込める分野だと考えています。建設現場での労働時間追跡やプロジェクトマネージメントソフトウェア、オフサイトでのモジュール建設など、建設業界が抱える問題への解決法を提供しているいくつかの企業に投資しています。マイアミはそれらのテクノロジーを試すにはとても良い場所なのです。ここでは数多くの建設が活発に行われていて、技術革新に積極的な地元の業界関係者も多いためです。当社はまた、ラテンアメリカにも活路を見出しています。ラテンアメリカ地域のテクノロジーを米国に取り入れ、また米国の新しい革新的なテクノロジーをラテンアメリカの企業が取り入れる手助けをしています。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

他の皆さんが言われている通り、資金と地元人材の調達が(マイアミでの)実質的な二大チャレンジだと思います。ですが、どちらも改善に向かって大きく前進していますね。3つ目を足すとすれば、「詐欺師と変人の温床」というフロリダの評判でしょうか。客観的にみると、マイアミで不正行為に遭遇する頻度は他の場所より確かに高いのですが、文化の多様性とマイアミに浸透している移民精神が、クリエイティブで働き者の人材層を厚くしているのもまた事実なのです。また、マイアミのコミュニティは非常にオープンです。何しろ私たちの大半が元はよそ者ですから、新たな移住者を歓迎する雰囲気が他よりも強いと思います。地元のテックコミュニティはまだ規模が小さいので、何が起きているのかすぐに把握できます。

TC:マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、地元住民のみぞ知る注目すべきキーパーソンについて教えてください。   

たくさんの素晴らしい創業者たちがマイアミで重要な役割を担っていますが、あえて名を挙げるとすれば、次の方々でしょうか。

  • Aaron Hirschhorn(アーロン・ハーシュホーン)氏。アーロンはGallant(ギャラント。ペット向け幹細胞バンク事業)を立ち上げ、大手のベンチャー企業から巨額の資金を調達し、テレビ番組Shark Tank(シャーク・タンク)にも出演したことがあります。自身のスタートアップDogVacay(ドッグ・ベイケイ)をRover(ローバー)へ売却した後、数年前にマイアミへ移ってきました。     
  • Andres Moreno(アンドレ・モレノ)氏。経営するOpen English(オープン・イングリッシュ)に加えて、Endeavor Miami (エンデバー・マイアミ)の共同経営者であり、アーリーステージ期のスタートアップ(Longevo(ロンゲボ)とEscala(エスカーラ))に積極的に関わっています。
  • Maurice Ferré (マウリス・フェレ)氏。彼は、Paypalマフィアのマイアミ支部ヘルステック部門担当といったところでしょうか。マイアミではMako Surgical(メイコー・サージカル)を売却し、現在は本当に実力のある数多くのスタートアップに投資したり、相談に乗ったりしています。
  • Jose Rasco(ホセ・ラスコー)氏とJuan Calle(ジョアン・カレ)氏。2014年に.CO(ドットコー)を売却し、現在は、コワーキングスペースbuilding.co.(ビルディングドットコー)をはじめとする多くのプロジェクトに携わっています。
  • IronHack(アイロンハック)のAriel Quinones(アリエル・キノネス)氏。彼はマイアミを拠点としていますが、アイロンハックは欧州のマーケットリーダーで、先月また1000万ドル(約10億5000万円)の資金調達を行ったところです。何か大きな企画があるようです。
  • Felipe Sommer(フェリペ・ソマー)氏とEmiliano Abramzon(エミリアーノ・アブラムゾン)氏。Nearpod(ニアポッド)を設立しましたが、最近になって日々の管理業務からは退きました。彼らは近いうちに何か大きなことをやってくれると確信しています。
  • Marco Giberti(マルコ・ギバルティ)氏。マルコは創業者からエンジェル投資家へ転向した、「ビルダー型」もしくは「ベンチャースタジオ」モデルと呼ばれる手法の先駆者です。彼はLAB Ventures(ラボ・ベンチャーズ)の共同創始者で、イベントテックに関する著書を出版した経歴を持つ、イベントテックの専門家でもあります。
  • 法律事務所:PAG.LAW(ピーエージーロー)。マイアミのスタートアップ企業や、米国に支店や法人組織を持つ、もしくは今後持つことを考えているラテンアメリカのスタートアップの大多数の代理人を務めている法律事務所です。

Rebecca Danta(レベッカ・ダンタ)氏、Miami Angels(マイアミ・エンジェルス)、常務取締役

TC:今後5年間に、マイアミのスタートアップシーンはどのように変化していくと思われますか。

マイアミに移り住む人の数はますます増えると思います。現在盛りあがっているブームのいくつかは下火になっていくかもしれませんが、それでも、ここに住んで事業を営むことをことを積極的に選択する人が途切れることはないと思います。2020年より以前には、マイアミに住むということは、ライフスタイル面での選択であり、キャリア面では後退だとみなされることがありました。しかし、最近はそのようにみなされることはなくなってきています。今、この街はテック企業と投資家が繁栄する街へと確かな変貌を遂げているところです。数年前に創業したスタートアップが成熟し、拡大に伴って雇用を加速させ、そのうちに、それらの会社の社員たちが独立して自分の会社を興すようになるでしょう。

TC:リモートワークによって、グローバルな労働力が、まるで綱引きのように押し引きされています。つまり、さらに多くの企業がマイアミへ移転してきたとしても、「オフィス」自体が消失してしまうわけですよね。また同時に、マイアミ住民の多くが他の都市に拠点を置く会社のためにリモート勤務で働いていたりすることになります。このような要因は、マイアミのテック革命にどのような影響を与えると思いますか。

Pipe(パイプ)が先日発表したマイクロハブのように、パンデミック後の世界では、ハイブリッドな就労環境が不可欠になると思います。テック関連の業務や企業が100%リモートワークになるとは思いません(多くはそうなりますが)。同時に、100%オフィス勤務かつ週5日の対面業務に戻ることも絶対にないと思います。企業の本社機能をどこに置くか、創業者にはかつてないほどの選択肢があり、社員は仕事のために転居する必要はなくなります。創業者はクオリティ・オブ・ライフと就労環境の整えやすさの点で魅力的な街を選ぶでしょう。そして、マイアミを拠点にすれば、人材を容易に惹きつけることができると思います。

TC:マイアミでは(もしくはマイアミ以外でも)、どのような業界に注目していますか。今、マイアミで展開されているビジネスで、投資先として有望だと感じるものは何ですか。

当社マイアミ・エンジェルスは(アーリーステージのソフトウェア企業であれば)業界を特定していません。マイアミに拠点を置く企業への投資は2013年から始めましたが、マイアミの企業にのみに投資しているわけではありません。マイアミには大規模な学校や医療体制が整っているため、マイアミのエドテック業界とヘルスケアテック業界には常に注目してきました。また当社には、これらの分野に関する地元ならではの専門知識とイノベーションがあり、パンデミックによってその知識とイノベーションにさらに磨きがかかりました。当社は何年にもわたりそれらの分野に重点的に投資してきましたが、それは、その土地ならではの重要な分野に注力することが重要だと信じているためです。

TC:あなた自身が経験した、もしくは、周囲の創業者が苦戦した、地域特有の課題はありますか。もっと広い意味で言うと、マイアミでの雇用や投資、マイアミへの移住を検討している人は、この都市で事業を営むことについてどのように考えるべきですか。

既にいくつかのマイアミ発スタートアップが注目に値する成功を収めていますが、テック業界のエコシステムとしてはまだ発達途上の段階です。この街にあるスタートアップの大半はまだ小規模で、従業員数は50人以下です。つまり、大半の会社には、プロダクト、デザイン、エンジニアの大型チームがまだ形成されていないということです。地元の大学を卒業した優秀な人材はいますが、マイアミに、20歳そこそこのジュニアエンジニアを毎年採用できるスタートアップが増えない限り、それらの人材は他の都市へ流出するの止めることはできないでしょう。簡単に言えば、プロダクト、デザイン、エンジニアに関する最高峰の人材がまだこの街に集結していないということです。幸運なことに、マイアミはそのような人材を圧倒的に惹きつけることができる場所なのですが、重要なのは、創業者がそれを認識することです。

TC:投資家、創業者はもちろん、スタートアップのエコシステムを支える役割を担う弁護士、デザイナー、成長株の専門家など、マイアミの繁栄に最も影響を与えていると思うスタートアップ創業者を何人か挙げていただけますか。 

エコシステムの成功は全て創業者のおかげです。ですから、数年前にこの地にスタートアップを設立してマイアミに賭けた創業者たちこそ、特別な注目に値します。彼らは、外部の投資家から反対されながらも、マイアミを信じ、あえてマイアミで創業することを選びました。そのような創業者にはBlanket(ブランケット)のAlex Nucci(アレックス・ヌッチ)氏、WhereBy.Us(ウェアーバイ・アス)のChris Sopher(クリス・ソファー)氏、Rebekah Monson(レベッカ・モンソン)氏、Bruce Pinchbeck(ブルース・ピンチベック)氏、Nearpod(ニアポッド)のEmiliano Abramzon(エミリアーノ・アブラムゾン)氏とFelipe Sommer(フェリペ・ソマー)氏、 Caribu(カリブ)のMaxeme Tuchman(マキシム・タックマン)氏、Addigy(アディジー)のJason Dettbarn(ジェイソン・デットバーン)氏らが挙げられます。また、Kiddo(キドー)のEmma Harris(エマ・ハリス)氏、Kiddie Kredit(キディ・クレディット)のEvan Leaphart(エヴァン・リープハート)氏やDomaselo(ドマセロ)のEmil Hristov(エミール・フリストフ)にも注目しています。 

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(文:Marcella MaCarthy、翻訳:Dragonfly)

米国が1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチン緊急承認、通常の冷蔵庫で保管可能

FDAが1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチンを緊急承認、通常の冷蔵庫で保管可能

Leah Millis / reuters

米食品医薬品局(FDA)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した1回の接種だけですむ新型コロナウイルス用ワクチンに緊急使用許可を出しました。これは米国ではモデルナ、ファイザーに続いて3番目に認可された新型コロナワクチンで、通常の冷蔵庫で保管できます。

先発のモデルナおよびファイザー製新型コロナワクチンは、いずれもmRNAと呼ばれる種類のワクチンで、ウイルスの一部の遺伝物質を体内に直接送達する仕組み。ただし、遺伝子の構造が破壊されやすく、保管温度がマイナス20℃(モデルナ)、または−75℃(ファイザー)と指定されています。そのため、医療施設には専用の保管用冷蔵庫が必要となり、運搬時の温度管理をどうするかといった課題があります。またどちらも2回の接種が必要とされます。

これに対し、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは英アストラゼネカのワクチンと似た種類を採用、不活性化した風邪ウイルス(26型アデノウイルス)に新型コロナの遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンで、1回の接種で完了するうえに、通常の冷蔵庫に保管が可能と手間と管理コスト両方にメリットがあるのが特徴です。米国、南アフリカ、ブラジルで行われた治験では、85%の重症化予防効果があり、中程度の症状も66%を予防できたとされます。FDAが出した緊急使用許可は、米国の18歳以上を対象とします。

先発2社のワクチンは予防効果が約95%と言われており、その点でジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの効果が低いとする声も一部にはあるようですが、CNNは専門家の意見としてジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは治験が伝染性が高いとされる変異種も含む状況で行われたためとの見方を示しました。そして米国でも春頃から変異種の感染が急増する可能性があると指摘。「今日ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが打てて、明日モデルナのワクチンが打てるなら、待つ必要はありません。今日打つ方を選ぶべきです」との言葉を伝えています。

ちなみに、日本では2月17日から医療従事者を対象としてワクチンの先行接種が始まったばかり。3月1日にはファイザー製ワクチンの第3便が到着する予定で、第1便から数えると合計で68万人(x2回)分が到着するとのこと。今後は国内の医療従事者470万人に順次優先接種が行われ、高齢者も含めてそれぞれ2回接種可能な分のワクチンを全国に分配する見通しです。

また、アストラゼネカは日本政府との契約のもと厚生労働省にワクチンの日本国内生産を申請しており、承認され次第、最大9000万回分を国内から供給する予定です。一方で、他の製薬会社による日本独自の国産ワクチンの開発も進められてはいるものの、こちらは輸入(国内生産含む)ワクチンの接種が本格化すれば臨床試験の実施が難しくなる可能性も考えられ、いつ頃実用化できるのかはまだわかりません。

(Source:FDA。via:Ars Technica。Coverage:CNNBBCNikkeiEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
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バイデン大統領が半導体・EVバッテリーなど4品目のサプライチェーン見直しを要求する大統領令に署名

バイデン大統領が半導体・EVバッテリーなど4品目のサプライチェーン見直しを要求する大統領令に署名

バイデン米大統領が、4つの主要製品分野におけるサプライチェーンの見直しを要求する大統領令に署名しました。主要製品とは消費者製品向けコンピューターチップ、電気自動車用大容量バッテリー、医薬品とその有効成分、 電化製品で使うためのレアメタルの4種類。大統領令は即時の見直し作業開始を求め、100日間でこれらの入手先を外国、特に中国のサプライヤーに「過度に依存」していないかを判断します。

見直し作業は単なる調査と報告に終わらず「ギャップを埋め」「多様で回復力のある」サプライチェーンの構築に活用されるとのこと。

大統領令を出すきっかけには、パンデミックの初期にマスクなど個人用保護具が広範囲に不足した結果、最前線で対策に当たる医療従事者に必要な物資が行き渡らず、その場しのぎのマスクや手術着に頼らざるを得なくなったことが含まれます。そして、パンデミックが原因のひとつと言える昨今の半導体不足も、サプライチェーン見直しの理由のひとつとされます。

また、この命令は防衛、公衆衛生、通信技術、エネルギー、輸送、食料生産の6分野にひろくまたがるサプライチェーンについて1年間のレビューも要求しています。バイデン大統領は、サプライチェーン問題の解決策は、特定の産業について国内生産を増やすとともに、将来の不足を防ぐために同盟国との協力体制を築くことだとしています。

もちろん、この大統領令がすぐに半導体不足解決につながるわけではありません。ですが将来的に同じことを繰り返さないためにも、脆弱な部分を取り除く重要性はあります。大統領は「特定の問題がすぐに解決されないのは誰もがわかっていることで、いまあるボトルネックを解決するために、サプライチェーンになりうる同盟国の半導体企業などと連絡を取り生産増強に取り組んでいる」としました。

なお、ホワイトハウスはこの大統領令について中国外しが目的ではないことを強調、あくまで特定の供給元に依存していないかを判断するためだとしています。とはいえ、バイデン大統領はトランプ政権における対中政策は深刻な問題があったとしており、習近平国家主席との電話会談でも中国の「強制的で不公正な経済慣行」に「根本的な懸念」があることを伝えています。

大統領令が中国からのサプライへの依存を制限することはできると思われるものの、それを完全に断ち切れるかどうかはわかりません。資材の入手から加工、製品としての組み立てに至るまで一切を中国に依存している場合、企業がそこから脱却するのは難しいことも考えられます。

米国としては、政府と議会の協力でインセンティブや労働者訓練プログラムを用意し、サプライ元を米国内や同盟国に変えさせると言った対策も必要になるかもしれません。

(Source:CNBCPoliticoEngadget日本版より転載)

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「原神」や「Call of Duty」など中国のモバイルゲームは米国でも人気

米国では2020年来、新型コロナウイルス感染流行によって、外出を控えた人々が自宅でアプリを利用する機会が増えている。特にモバイルゲームがブームとなっており、その中でも中国のスタジオによって制作されたゲームが人気を集めている。

市場調査会社Sensor Tower(センサータワー)の新しい報告によると、米国のApp StoreとGoogle Play Storeでリリースされたゲームの第4四半期の収益は合計58億ドル(約6150億円)で、前年同期比34.3%増となり、世界のモバイルゲームの収益の4分の1以上を占めているという。

先の第4四半期には、米国におけるモバイルゲームの収益の20%が中国製のタイトルによるものだった。これにより、中国は事実上、米国におけるモバイルゲームの最大の輸入国となった。同期間中に米国で最も売れたゲーム上位100本の中で、中国のパブリッシャーは21本を占め、世界最大のモバイルゲーム市場であるこの国において、合計で7億8000万ドル(約827億円)の収益を上げた。これは2年前の3倍以上にも増えたことになる。

ランキングの上位には、Tencent(テンセント)とActivision(アクティビジョン)のコラボレーションによる一人称視点シューティングゲーム「Call of Duty:Mobile(コール オブ デューティ モバイル)」や、テンセントの「PlayerUnknown’s Battlegrounds(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ)」など、お馴染みの中国製タイトルが並ぶ。しかし、中国の小規模なスタジオも米国市場に急速に浸透している。

中国以外ではあまり知られていないゲーム会社のmiHoYo(ミホヨ)は、アニメ風キャラクターが登場するロールプレイングアクションゲーム「Genshin Impact(原神)」のヒットによって、同国のゲーム業界で注目を集めている。第4四半期には米国で6番目に高い収益を上げたモバイルゲームとなり、1億ドル(約106億円)以上の収益を記録した。

最も注目すべきことは、miHoYoが2011年の設立以来、独立したスタジオであることだ。テンセントのような業界の大物からの資金を欲しがる多くの新興ゲーム企業とは異なり、miHoYoこれまで、初期の段階からわずかな金額しか調達していない。また、テンセントや携帯電話ベンダーのHuawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)といった大手代理店を避け、中国の若者に人気の動画サイト「Bilibili(ビリビリ)」やゲームダウンロードプラットフォーム「Taptap(タップタップ)」で「原神」をリリースしたことでも物議を醸した。

2020年末から米国で最もインストールされたモバイルゲームの1つ、パズルゲーム「Project Makeover(プロジェクト・メイクオーバー)」の開発元であるMagic Tavern(マジック・タバーン)もまた、あまり知られていないスタジオの1つだ。清華大学の卒業生たちが設立し、世界各地にオフィスを構えるMagic Tavernは中国にルーツを持つスタジオの中で、米国のカジュアルゲーム市場に進出した最初のスタジオの1つとして認められている。KKRが出資するゲーム会社のAppLovin(アップラビン)は、Magic Tavernの戦略的投資家だ。

米国で人気が高い他のゲームにも、中国企業が直接所有しているわけではないにせよ、中国とのつながりを持っているものがある。「Shortcut Run(ショートカットラン)」と「Roof Rails(ルーフレールズ)」はフランスのカジュアルゲーム会社であるVoodoo(ヴードゥー)の作品だが、2020年にTencentから少額出資を受けている。Tencentはまた、若いゲーマー向けゲームプラットフォームであるRoblox(ロブロックス)の戦略的投資家でもあり、近日中にIPOを予定している。

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カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:スマホゲーム中国アメリカ

画像クレジット:Genshin Impact via Google Play Store

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(文:Rita Liao、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

シカゴ警察の武力行使における黒人警官と白人警官の差が新データで明らかに

シカゴ警察から抽出された莫大なデータを分析した結果、黒人警官と白人警官、男性警官と女性警官の間で、実際に法を執行する方法に大きな違いがあることが明らかになった。この貴重な同一条件での比較分析は、警察における多様性を拡大することで、警察の質も向上する可能性があるという考えを裏づけるものとなった。

従来、警察署からハードデータを入手するというのは、さまざまな理由から非常に困難とされてきた。今回の調査を行った研究者らは論文の中で次のように述べている。

警官の配置や行動に関する詳細なデータが十分になく、比較対象となる警官が職務中に共通の状況に直面していることを確認することが困難、または不可能であるという理由から、警察の多様性の影響に対する厳密な評価はこれまでなされてこなかった。

……現状、米国にある約1万8000の警察機関では記録の管理法がまちまちである。またその情報開示に対する慣習もあいまって、広範な評価の実施がさらに妨げられる結果となっている。

しかし、Bocar A. Ba(ボカール・A・バ)氏らによるこの研究は、3年間にわたってシカゴ市警察に依頼し続けたことが実を結び、非常に詳細な記録に基づいたものとなっている。本件はカリフォルニア大学アーバイン校、ペンシルバニア大学、プリンストン大学、コロンビア大学の研究者による共同研究で、本日Science誌に掲載された(アクセスは無料)。

同記録には2012年から2015年までの数百万件ものシフトとパトロール歴が含まれている。それを研究グループが慎重に選別し、分析を可能にする情報が浮き彫りになるまで削ぎ落とす作業を行った。その待ち望まれた分析とは、デモグラフィック以外のすべての点で似ている警察の仕事や行動を比較するというものだ。

たとえば3月のとある月曜日、同じ地区の同じ時間帯における黒人警官と白人警官の行動に深刻な差が見られなければ、警察の仕事ぶりに大きな影響を与えているのは人種ではないと暫定的に断定できる。一方、もしそこに深刻な差があったとすれば、制度的な偏りがある可能性を示唆しているとして、さらに掘り下げた調査が行われる。

この分析では、他のすべての変数を分離した結果、予想されたとおり、警官の人種のみに関連した大きな違いがあることが判明した。この結果を明白だと感じるか、微妙だと感じるかは人それぞれかもしれないが、この研究のポイントは仮説を推測したり確認したりするものではなく、人種に関連した格差が存在し、調査と説明を必要とするというをことをデータで明確に示すことである。

具体的な結果としては、以下のようなものがある。

  • 自称黒人およびヒスパニックなどのマイノリティー警官の「パトロール任務には大きな違い」がある。これは他の調査結果との効果的な比較を提供するためには、考慮しなければならない点である
  • 黒人警官が武力を使う確率は平均的に白人警官よりも35%少なく、その差の大部分は黒人の民間人に対して使われた武力によるものである
  • 「不審な行動」を理由にした黒人警官による「職務質問」は、はるかに少ない
  • ヒスパニック系の警官も同様、または黒人よりも少ない結果となった
  • 女性警官は男性警官と比べて武力を使うことが極端に少なく、またここでも黒人の民間人に対しての差は特に顕著である
  • 引き留め、逮捕、武力の行使における格差の多くは、特に黒人が多数派の地域での軽犯罪の取り扱いに対する違いに起因している

上記を言い換えると、データによると白人男性警官は特に有色人種に対して、引き留め、逮捕、武力行使をすることが多く、それは軽犯罪や正当性が曖昧な職務質問の結果として起きることが多い。

収集されたデータのサンプリング:シカゴのウェントワース地区で行われた警官による引き留め、逮捕、および武力行使を示している(画像クレジット:Science)

パターンは決定的に見えるものの、因果関係のメカニズムについては調査されておらず解明もされていないことを理解すべきであると研究者たちは指摘している。実際、同データは2つの方向に解釈される可能性があるという。

このような格差の説明の1つには、白人警官が黒人警官よりも黒人市民に対して不必要に強い扱いをする傾向が強いという人種バイアスが挙げられる。もう1つの説明は、進行中の犯罪の様子を観察している際、黒人警官はより寛大な対応をする、ということである。

さらなる研究が必要だが、黒人警官が軽犯罪に対してより寛大な対応をするという前述の説明は公共の安全にはほとんど影響がないと指摘されている(凶悪犯罪は、人種や性別に関係なくほぼ同じように対処されている)。一方、もう1つの説明である制度的人種差別は著しく有害である。この2つの説明は、データとしてみれば「実測的には同等」であるが、結果からみると同等ではない(同等である可能性もないし、お互いにまったく相容れない)。

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論文とその意味合いについての貴重な解説で、イェール大学のPhillip Atiba Goff(フィリップ・アティバ・ゴフ)氏は、この研究結果は我々が見落としがちな重要な意味合いを含んでいるという。

このデータから示された違いの大きさは、少なくともいくつかの都市では、マイノリティー警官の数は警官の行動を予測する上で重要であると証明している。これで問題が解決するわけではないが、この研究が、警官全体に対する同一条件での比較を示していることには間違いない(その原因は救命できていないものの)。

地域の暴力に対する警官の対応においては人口統計学的な違いはほとんどないことを考えると、職務質問でここまで大きな違いがあるという事実に、読者は自問することになるに違いない。白人警官によるこれらの過剰な職務質問は必要なのだろうか?社会的に弱い立場に立たされている地域社会に対し、権力の乱用の恐れがあることが実証されていることを考えれば、警察は警官たちに職務質問をさせるべきなのだろうか?

白人警官による過剰な武力行使は必要なのか?過剰な武力行使が公共の安全のために必要でないとしたら、なぜ白人警官はこれほどまでに黒人コミュニティを標的にして武力を使うのか?こういった質問は、警察活動とその制限を目的とした幅広い取り組みの中で答えを見つけて行く以外ないだろう。

つまり、こういった問題の核心に迫るためにはさらなる研究が必要なのかもしれない。しかし警察の方でもリソースを必ずしも効果的に使用できていないと言えるのではないか。実際、もしかすると警察の仕事の多くが地域社会にとってほとんど価値のないものである可能性(またはまったく価値のないもの、さらには逆にいない方が安全かもしれないという可能性)に直面するかもしれない。ゴフ氏は次のようにまとめている。

暴力は過去30年間で減少傾向にあり、そのほとんどは一定の地域で起きている。また暴力への対処が警察活動のごく一部しか占めていない可能性がある中で、警察の役割は今後どうあるべきなのだろうか。その答えが「飛躍的に減少させるべき」であるという可能性を真剣に受け止めない限り、ほとんどの研究者よりもはるかに長い間この問題を問い続けてきた一部の研究者や一般市民の両方を苛立たせることになるだろう。

この研究は、論文の著者達とシカゴの法務当局がシカゴ警察にデータを公開するよう圧力をかけたからこそ可能になったものである。上述したように、全国規模で分析するために複数の警察署から大規模なデータを収集するということは非常に困難である。著者らは、シカゴに特化して得られたこの知見が他の都市に同様に適用されない可能性があることを認めている。

しかし、これは行動を起こすための呼びかけにはなっている。いつか実際のデータへのアクセスを得ることができ、研究者がこういった大きな問題を発見した場合、国内すべての警察は不透明性を継続することの利点とリスクを、透明性と協力的に振る舞うことの利点と比較するべきなのである。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:警察アメリカシカゴ

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

通信品位法230条の改定法案に対し同法擁護者は重大な悪影響について警鐘を鳴らす

バイデン政権にとって最初の主要法案となる230条改正案が提出された。新しい法案の中で上院民主党のMark Warner(マーク・ワーナー)議員(民主党、バージニア州選出)、Mazie Hirono(メイジー・ヒロノ)議員(民主党、ハワイ州選出)、Amy Klobuchar(エイミー・クローブチャー)議員(民主党、ミネソタ州選出)は通信品位法230条(セクション230)の改正を提案しており、これは近代的なインターネットを育て上げたと評価されている1996年の法律を根本的に見直す内容となっている。

セクション230は、FacebookやTikTok、Amazonのレビューやコメントのセクションなどのユーザー生成コンテンツから、そのホスティングを提供するインターネット企業を法的に保護するものだ。SAFE TECH Actと称される新しい法案では、その仕組みを変えるためにいくつか変更が加えられている。

まず、この変更はセクション230の中核をなす言語を根本的に変更することになるだろう。そもそも、現行法にいかに簡潔な言語が使われていたかを考えれば、どのような変更も大きな変化である。新しい改正案の下では、230条は支払いをともなう場合には保護措置を提供しないことになる。

現行は以下のようになっている。

インタラクティブ(双方向性)コンピューターサービスの提供者または使用者は、他の情報コンテンツ提供者が提供する情報言論の発行者(Publisher)または表現者(Speaker)として扱われないものとする。

SAFE TECH Actによる変更点は次のとおりである。

インタラクティブコンピューターサービスの提供者または使用者は、他の情報コンテンツプロバイダーによって提供された情報言論の発行者または表現者として扱われないものとする。ただし、提供者または使用者が、言論を利用可能にするための支払いを受け入れた場合、または全体若しくは一部においてスピーチを作成、若しくはスピーチの作成に資金を提供した場合はこの限りでない。

(B) (c)(1)(A)は、他の情報コンテンツプロバイダーから提供された言論に関して、インタラクティブコンピューターサービスプロバイダーがその言論の発行者または表現者であり、インタラクティブコンピューターサービスプロバイダーが証拠の優位性により立証責任を有するとする主張に対する積極的抗弁となる。

大したことではないように思えるが、大きな変化をもたらす可能性がある。ワーナー上院議員は法案を推進するツイートの中で、オンライン広告を「あらゆる種類の詐欺や詐欺の主要な媒介物」と表現しており、広告におけるプラットフォームの乱用に焦点を当てることが表向きの目標となっている。しかし現在の文言では、SubstackやPatreonなどの有料オンラインコンテンツからウェブホスティングまで、他の多くの種類の有料サービスが影響を受ける可能性がある。

「優秀な弁護士なら、これは有料広告をはるかに超える多種多様な取り決めをカバーしていると主張できるでしょう」と、米海軍アカデミーのサイバーセキュリティ法教授でセクション230に関する書籍を執筆したJeff Kosseff(ジェフ・コセフ)氏はTechCrunchに語った。「プラットフォームは、言論を一般に『利用可能』にする過程で幅広い当事者からの支払いを受け入れている。法案はプラットフォームが表現者からの支払いを受け入れる場合の例外を定めていない」。

インターネット企業の大小を問わず、その運営はセクション230による保護に依存しているが、新法案で提案された規則が成立した場合、事業を再考しなければならない企業が出てくるかもしれない。セクション230の原執筆者の1人であるRon Wyden(ロン・ワイデン)上院議員(民主党、オレゴン州選出)は、新法案には善意の意図があることを指摘しながらも、その意図しない結果によって引き起こされる可能性のある反動に対して強い警鐘を鳴らした。

「残念なことに、すでに述べたようにこれはオープンなインターネットのあらゆる部分を破壊し、オンライン上の言論に大きな副次的損害をもたらすでしょう」とワイデン上院議員はTechCrunchに語っている。

「すべての商業的関係に責任を負わせることは、ウェブホスト、クラウドストレージプロバイダー、さらには有料の電子メールサービスまでもが、議論を呼ぶ発言をネットワークから一掃することになります」とワイデン上院議員は続けた。

Fight for the FutureのディレクターであるEvan Greer(エヴァン・グリア)氏も、法案は善意に基づくものだが、同じ懸念を持っているという意見を述べている。「……残念なことにこの法案は、すでに述べられているように、人権と表現の自由に甚大な意図せぬ結果をもたらすことになるでしょう」とグリア氏は語る。

「この変更によりセクション230は広告だけでなく、ウェブホスティングや(コンテンツ配信ネットワーク)などの有料サービス、さらにはPatreon、Bandcamp、Bandcamp、Etsyなどの小規模サービスにも多大な影響を与えるでしょう」。

その焦点が広告や企業による支払いの受け入れに当てられていることを踏まえると、この法案が効果的な改革を提供するには、規模が大きすぎると同時に狭すぎるかもしれない。オンライン広告、特に政治広告は最近のプラットフォームの取り締まりに関する議論でホットな話題になっているが、暴力的な陰謀や誤報、組織的な憎悪の大部分はオーガニックコンテンツによるものであり、有料コンテンツによるものではない。また、Anna Eshoo(アンナ・エシュー)下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)とTom Malinowski(トム・マリノフスキ)下院議員(民主党、ニュージャージー州選出)が下院で提案した小規模なセクション230改定提案で特に重視されているアルゴリズムの役割についても触れていない。

新たな例外

SAFE TECH Actの他の部分では、Anti-Defamation League、Center for Countering Digital Hate、Color of Changeを含む多くの市民権団体からの賛同を得て、名誉毀損防止や差別などの問題に対応しようとしている。セクション230に補遺を追加するこの新たな法案により、一部のケースではインターネット企業に民事責任を問うことが可能になり、サイバーストーカー、標的型嫌がらせ、差別、不法死亡の被害者が、訴訟を起こす機会を与えられるようになる。

またSAFE TECH Actは、インターネット企業が掲載するコンテンツが「回復不能な損害」を引き起こす可能性がある場合に、個人が裁判所の命令を求めることができるようにしたり、海外での人権侵害について米国のインターネット企業を相手取って米国の裁判所で訴訟を起こすことも可能にするだろう。

ワーナー議員はプレスリリースで、この法案は1996年の法律を最新のニーズに合わせて改正するものだと述べた。

「現行のセクション230は、サービスプロバイダーが効果的にコンテンツを規制するためのツールやポリシーを開発することを奨励するためのものでありながら、自社製品やサービスの悪用による、予見可能で明白かつ繰り返し起こる有害行為に何の対処もしない場合でも、オンラインプロバイダーに完全な免責を与えているのです」とワーナー議員はいう。

セクション230の改革についてのアイデアは数多くあり、党派を超えて議論されている。例えばBrian Schatz(ブライアン・シャッツ)上院議員(民主党、ミシガン州選出)とJohn Thune(ジョン・スーン)上院議員(共和党、サウスダコタ州選出)による超党派のPACT法は、コンテンツ規制の透明性に重点をおき、連邦政府や州の規制に対する企業への保護を狭めることに焦点を当てている。Lindsey Graham(リンジー・グラハム)上院議員(共和党、サウスカロライナ州選出)とRichard Blumenthal(リチャード・ブルメンタール)上院議員(民主党、コネチカット州選出)は広範な改革であるEARN IT法を提案しているが、この法案はセクション230の擁護論者とインターネットの自由の支持者からは、憲法違反なだけでなく過度に広範で重大な悪影響をおよぼすとものとみなされている。

セクション230の改正案がすでに数多く浮上している中で、SAFE TECH Actのような法案が優先される保証はまったくない。唯一確実なのは、私たちが今後、現代のインターネットに多大な影響を与える小さな法律の断片について、さらに多くの情報を耳にするだろうということである。

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カテゴリー:その他
タグ:通信品位法230条アメリカ

画像クレジット:画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

米国では未成年への電子タバコ「VAPE」販売にTikTokが使われている

TikTokは電子タバコVAPE(ベイプ)をめぐる問題に直面している。2019年に米国の法律で21歳未満の顧客への電子タバコの販売が禁止されたにも関わらず、使い捨て電子タバコやVAPE(フレーバーつき電子タバコ)の宣伝動画がTikTokアプリ内で今でも比較的簡単に探し出せる。ノリの良い人気の音楽が流れ、現在は(米国で)販売が禁止されているフルーツフレーバーやミントフレーバーなどの香りや味つきカートリッジを宣伝しているそれらの動画が、10代をターゲットにしていることは明らかだ。いくつかの販売業者は「用心深い」梱包サービスをウリにしている。彼らが購入者へ出荷するVAPE製品は、保護者による監視の目をすり抜けられるように詰め物の下に隠されたり、化粧ポーチやふわふわのスリッパなど、他の製品の内部に梱包されていたりする。

とりわけ未成年や若年層への訴求力が高いフレーバーつきの使い捨てVAPEへの関心が高まり、それがFDA(米国食品医薬品局)によるJuul(ジュール)取り締まりへの引き金となった

2020年2月、FDAは未成年者をターゲットにしている製品やタバコとメンソール味以外のフレーバーを提供する製品を含む、違法販売された電子タバコに対して、最初の執行措置を取った。Juulを取り締まる目的があったのは明らかだ。

その結果、バブルガムやピーチ、ストロベリーといったフレーバーを欲する若者たちはPuff Bar(パフバー)のような使い捨てVAPEへと走った。使い捨てVAPEは安価で簡単に見つけることができ、コンビニエンスストアやガソリンスタンドでも継続して合法的に販売されていた

それだけでなはい。TikTokにも使い捨てVAPEが溢れており、支払いさえできれば、誰でもすぐに手に入れられる。

もっといえば、それらの違法コンテンツがTikTokに報告されても、すべてが削除されるとは限らない。

TechCrunchは、TikTokでVAPEを販売している業者たちが顧客と連絡を取るのにアプリ内の動画とコメントの両方を活用していることに気づいた。さらに彼らは、TikTokの閲覧者を違法運営と思われるウェブサイトに誘導している。また、彼らのTikTok動画には、未成年者が好むフレーバーつきPuff Barのような使い捨てVAPEをはじめとするVAPE製品の在庫状況が頻繁に表示される。

要するに、販売業者たちはFDA規制の執行後もVAPEへの興味を失わなかった若年層の観客に対してVAPEを宣伝するための無料かつ効果的な広告手段として、TikTokを利用しているのだ。

タバコに関する規制のための非営利団体Truth Initiative(トゥルース・イニシアティブ)の最新調査によると、2019年から2020年にかけてJuulの使用量は減少したが、それでも10年生から12年生のVAPE愛用者の41%がJuulを好み、この年代が最も好む電子タバコブランドとなっている。調査結果から、同時期にPuff Bar(8%)やSmok(スモック、13.1%)といった使い捨て製品の売り上げが伸びているのが見て取れる。

2020年9月にTruth Initiativeは次のような声明を出している。「2020年のNational Youth Tobacco Survey(NYTS。全米若者のタバコ使用に関する調査)新しい電子タバコの売上統計データを合わせて見ると、現行の連邦法によってミント味の製品が市場で禁止された際に、若者たちがすばやくメンソールの電子タバコ(特にJuulのメンソールポッド)へ移行したこと、そして、Puff Barのような低価格のフレーバーつき使い捨て電子タバコの人気が急騰したことは明らかだ」。

同団体によると「綿菓子やバナナアイスのように子どもたちが思わず手を出したくなるような名称を使うことにより、使い捨て電子タバコ市場は2019年8月から2020年5月までのわずか10カ月間で2倍に成長した」という。

さらに、TikTokがこの問題に大きく加担している。

Statista(スタティスタ)に発表された第三者機関による推定によると、現在、米国内のアクティブなTikTokユーザーのうち32.5%は10代の若者が使用するアカウントだと想定される。また、TikTokが2020年公表した数字によると、米国にはTikTokの月間アクティブユーザーは約1億人いる。

一方、VAPEや電子タバコの人気ブランド名や関連するキーワードがタグづけされたTikTok動画は数億回のビュー数を稼いでいる。

たとえばVAPEブランドの代名詞であるJuulのハッシュタグ「#juul」がつけられたTikTok動画のビュー数は、本記事の執筆時点で6億2390万回に上っている。

中国初の使い切りVAPE製品メーカーであるPuff Barのハッシュタグ「#puffbar」がつけられた動画のビュー数は4億4980万回だ。他のブランドも多くのビュー数を獲得している。たとえば「#njoy」は5530万回、「#smok」は4010万回、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「#Vuse」は500万回のビュー数となっている。

これらのビュー数はあくまで単語1つのハッシュタグに対するビュー数なので、その単語が別の単語と組み合わされたハッシュタグが無数に存在する。たとえば「#puffbars」「#puffbarplus」「#puffbardealer」などのハッシュタグがあり、順にそれぞれのタグが6680万回、960万回、890万回のビュー数に達している。

これらのハッシュタグがすべてVAPE製品や電子タバコの販売業者に結びついているわけではないが、電子タバコに関連するかなりの量のコンテンツがTikTokアプリ内に存在していることは確かだ。例を挙げるなら、「#juulgang」(ビュー数5億9040万回)のようなタグは、VAPE関連のコンテンツに対抗するハッシュタグとしてVAPE嫌煙家のコンテンツ作成者たちが愛用している。

このようなトレンドは憂慮すべきものだ。TikTokを使用する若年層の多さを考えると、特にそうだといえる。実際のところ、米国のTikTokユーザーの3分の1はおそらく14歳以下だと思われる。

米国のApp StoreではTikTokの使用に際する年齢制限を12歳以上、Google PlayではTikTokのコンテンツに対する推奨年齢を「Teen(13歳以上)」としている。TikTokは若年層アカウントのプライバシーに関するデフォルト設定を変更し、過去に物議を醸し出したハッシュタグ(米大統領選での陰謀論のような)などはすばやく排除したが、その反面、VAPE製品に関するコンテンツへのアクセスはまったく制限されていない。

TikTokにおける電子タバコ喫煙に関するハッシュタクの普及に加えて、多数のVAPE販売者が「@puffsonthelow」や「@PuffUniverse」「@Puffbarcafe」などのわかりやすいアカウント名を販売時に使用していることをTechCrunchは突き止めた。それらのアカウントのページには、大胆にも現在販売している在庫一覧を含むVAPE関連動画が並び、「#puffbarchallenge」「#puffplus」「#vaperticks」といったVAPE関連用語でタグづけされている。

あろうことか、動画に「#kids」やその他のトレンドタグをつけていたVAPE販売者もいた。

ターゲット層の大部分が10代のVAPE愛好家であることを熟知しているため、販売者が投稿した動画の多くに、保護者に見つからないよう他の製品の中にVAPEを同梱する映像や、詰め物で隠して包装した状態で配送できることを伝える描写が含まれていた。キャンディの下、化粧ポーチの中、靴下の中、他の大きい製品の下などにVAPEを隠して梱包している動画がいくつも見つかった。

アカウントのプロフィールで公表されているリンクや、動画上に表示されるリンクを通して、TikTokのユーザーは販売者のウェブサイトや、ポップアップでの年齢確認のみで済むDiscordのチャンネルへ、自動的に転送されてしまう。

多くの場合、製品を買い物かごへ追加し、そのまま支払い手続きをすることによってすぐに購入できる。大半の販売者は、通常のクレジットカード支払いの代わりに、PayPal(ペイパル)やVenmo(ベンモ)またはCash Appなどを使って決済するよう顧客を誘導している。

米国で、特に若者の喫煙を減らす運動をしている非営利団体として有名なCampaign for Tobacco Free Kidsによると、これらの行為はすべて違法である。

Campaign for Tobacco Free Kidsの代表者であるMatt Myers(マット・マイヤーズ)氏はTechCrunchに次のように語った。「21歳未満の未成年に電子タバコ関連製品の販売をすることはもちろん、ダイレクトに訴求する行為も違法です。そして、年齢確認をせずに実際の販売手続きを行うことも違法行為です」。

画像クレジット:TikTokのスクリーンショット

さらに、マイヤーズ氏は、ウェブサイトで「私は21歳以上です」というボタンをクリックするだけでは、電子タバコ製品を販売する際の法的に有効な年齢確認にならないことをつけ加える。

FDAは未だにオンライン販売に際しての具体的なガイダンスを発表していないが、未成年者への販売を防止するため、小売業者による販売時の身分証明書(ID)確認が必須であることは、法律で明確に定められている

FDAはまた、オンラインの小売販売者からの電子タバコやその他タバコ製品の購入を減らす目的で、米郵便公社や他の宅配業者を通してこれらの製品を配送することについて米国議会が最近、新しい規制を制定したことを、TechCrunchに思い起こさせてくれた。

だが、マイヤーズ氏は現行のFDAガイドラインのせいで、「ソーシャルメディアを通した」VAPE販売を取り締まることが必要以上に難しくなった、と指摘する。

「ソーシャルメディアでVAPE販売のために使用される画像、インフルエンサーの使用、販売広告はFDAによって連邦基準に沿って統制されます。しかし、FDAの連邦基準は非常に広範で概括的です。FDAは、明確かつ具体的なガイドラインを提示していません。そのために、すべての人がまるで常に『もぐら叩き』ゲームをしているような状態です」とマイヤーズ氏は語る。

大抵の場合、FDAによる介入があって初めて取り締まりが行われるが、マイヤーズ氏によると、そのような介入は「非常に稀」だという。

「現在見られる態度、行為、製品すべてが、電子タバコに関する前述の法律に違反しています。それにも関わらず、先の政権下で導入された取り締まり体制は嘆かわしいほどに弱く、不十分です」とマイヤーズ氏はいう。

画像クレジット:TikTokのスクリーンショット

事態を複雑にしている別の要因として、Campaign for Tobacco Free Kidsのような公共的な健康支援団体が、他のソーシャルネットワークとの間で築けている適切な関係を、TikTokとは築けていないことがある。

過去数年にわたり、100以上の公共的な健康支援団体が団結してFacebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)、Snapchat(スナップチャット)などの代表的なソーシャルネットワークに対し、タバコに関連したコンテンツや販売においてインフルエンサーを利用することを厳しく取り締まるよう依頼してきた。そのような努力が実を結び、FacebookやInstagramは、ソーシャルメディアのインフルエンサーたちがタバコ関連製品を宣伝することや、それらのコンテンツを抽出するアルゴリズムの開発を禁止する新しいルールを制定した。

全体的には、健康支援団体は代表的なソーシャルメディアのプラットフォーム上でのタバコやVAPE関連コンテンツが減少したと発表しているが、TikTokはまだその中に含まれていない。

TikTokは比較的新しいアプリであるため、Campaign for Tobacco Free KidsはTikTokに関する包括的な調査ができていないことをマイヤーズ氏は認めている。だが、同団体がこれまで観察してきたところによると、TikTokに対する懸念は高まり続けている。

「インフルエンサーを起用する、TikTokに惹きつけられる若年層に対して直接販売を持ちかけるなど、TikTokには、今まで見た中でもかなり悪質な販売手法があふれています。そして、TikTok側がそれらの行為に対して何らかの措置を講じた形跡は確認できていません」とマイヤーズ氏は続けた。

TikTokが、この問題を認識していなかったと主張することはできない。

画像クレジット:TikTokのスクリーンショット

あるVAPE販売者が「身分証明書(ID)確認不要」と恥知らずにも宣伝したことがアプリ内の報告システムによって検知された際、TikTokのコンテンツモデレートチームは、「このコンテンツはTikTokのガイドラインに反していない」と述べた。別のVAPE販売者が報告された時も、同様の対応が取られている(下記参照)。

TikTokは、このようなことは起きてはならないと主張する。同社は、VAPEや電子タバコのコンテンツを掲載しているアカウントは見つけ次第削除し、タバコやVAPE関連の外部ウェブサイトへリンクするアカウントのプロフィールをリセットするとTechCrunchに述べた。

TikTokはまた、TikTokコミュニティガイドラインで、未成年によるタバコの保持または消費を提案、描写、模倣、推奨するコンテンツや、未成年を対象としたタバコの売買、や交換方法に関するコンテンツを禁止しているという。そして、同ガイドラインではタバコの広告も許可されていない。

画像クレジット:TikTokレポートのスクリーンショット

TikTokに関するこの問題を認識しているかどうかについてFDAのコメントを求めたところ、FDAの広報担当者は、コンプライアンスや法執行に関する具体的な措置は検討していないと回答した。

ただし、FDAは小売業者、製造業者、輸入業者、販売代理店による連邦タバコ規制のコンプライアンス遵守を厳重に監視し、違反が起きた際には是正処置を取ると述べた。加えてFDAは、インターネット上のものも含め、タバコのラベルや広告、その他の販促活動に対して常時モニタリングと監視を行っていると続けた。

事態をさらに複雑にしているのが、フレーバーつきVAPEの販売許可申請をFDAが受けつけていることだ。Puff Barなのか、別の会社なのか、どの会社が申請中なのかは公表されていない。つまり、健康支援団体はFDAがどの製品の販売許可を検討中なのかわからないのだ。

だがFDAは、販売許可申請書を提出したかどうかに関係なく、どの製品もその製造会社が「若年層がその製品を利用できないようにするための適切な方策を取っていない」場合は販売を許可することはないと、TechCrunchに述べた。

それならば、オンラインのPuff Bar小売店やTickTokでの販売活動も含まれるということだ。

FDAは先に、Puff Barに対して具体的な行動を取ったことをつけ加えた。

販売許可を受けるに達していない、低品質で不正表示された製品を販売していたことについて、FDAは2020年7月にCool Clouds(クール・クラウズ。正式名はCool Clouds Distribution, Inc. d/b/a Puff Bar)に対して警告を発している。

2021年1月には、FDAと米国税関国境保護局が、Puff XXLやPuff FlowをなどのPuff Barブランドに似た使い捨てのフレーバーつき電子タバコカートリッジを含む3万3681箱の電子タバコ関連製品を差し押さえたという。

TikTokはTechCrunchがこの記事に記してきたような行為がTikTokのガイドラインやポリシーに違反していると追認したが、ポリシーがあるのにそれを実践できていない理由については説明しなかった。

TikTokの広報担当者はTechCrunchに次のように語った。「私たちはTikTokコミュニティの安全性と健全性に対して責任があります。未成年者のタバコやドラックの保有、消費を誘発するもしくは描写するコンテンツは厳重に禁止しています。VAPE製品の販売促進に使用されていると確認できたアカウントは排除しますし、VAPE製品の広告は許可しません」。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:TikTokVAPEアメリカSNSFDA

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

ファーウェイが米商務省による「安全保障上の脅威」指定をめぐり提訴

今週初め、Huawei(ファーウェイ)のRen Zhengfei(任正非)CEOは、同社が望む米国の新政権との会談について、やや外交的な発言をした。このハードウェアの巨人はまた、FCC(米連邦通信委員会)が同社を国家安全保障上の脅威として指定したことに異議を唱え、あまり互譲的ではない路線をとっている。

Huaweiは今週、米国第5巡回区控訴裁判所に提訴し、FCCの裁定を「恣意的、気まぐれ、裁量の乱用であり、実質的な証拠に支えられたものではない」と主張した。

このスマートフォンメーカーと中国政府との関係には長年疑惑が渦巻いていたが、米国はDonald Trump(ドナルド・トランプ)政権時代にHuaweiに対する行動を大幅に硬化させていた。米国政府は、実質的に同社を狙い撃ちするための多くの路線を敷いてきた。中でも特筆すべきは、米商務省が同社を「Entity List(エンティティリスト)」に記載し、米国企業との取引を事実上禁止したことだ。

関連記事:ファーウェイCEOはバイデン新大統領との会談を歓迎

Huaweiは米国の政権移行を、権力者による再評価を受ける機会と捉えているようだ。同社は長い間、スパイ行為やその他の安全保障上の容疑を否定してきた。「私が歓迎するのは、共同開発や成功の共有を回復させる電話やメッセージです」と、今週初めに任氏はJoe Biden(ジョー・バイデン)大統領との会談を熱望していることをメディアに語った。「米国は経済成長を望んでおり、中国も同様に経済成長を望んでいます」。

しかし、FCCの広報担当者は、The Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)における声明の中で、2020年の決定に固執し「FCCは2020年、当委員会と多数の米国の国家安全保障機関によって示された実質的な証拠に基づき、Huaweiを国家安全保障上の脅威として特定する最終的な指定を発行しました。我々はその決定を引き続き守っていくつもりです」と述べている。

関連記事:バイデン政権のジーナ・ライモンド商務長官にはファーウェイをエンティティリストから外す理由がない

これまでのところ、バイデン政権はHuaweiに対する規制を緩和する計画を示していない。共和党議員の反対に対し、商務長官に指名されたGina Raimondo(ジーナ・ライモンド)氏は、「これらのリストに記載されている企業を、記載されるべきではないと考える理由は現在のところありません」と強調し、「もし承認されたら、これらの企業や懸念される他の企業についての説明が設けられる機会を楽しみにしています」と述べた。

バイデン政権は、トランプ政権時代に行われた中国企業に対する他の措置を見直しているようだ。なお、ホワイトハウスが安全保障上の懸念を再評価している間、計画されていたTikTok(ティックトック)の米国事業の強制売却は保留されている。

関連記事:TikTok米国事業のオラクルへの強制売却が棚上げ

カテゴリー:ハードウェア
タグ:HuaweiJoe BidenアメリカエンティティリストFCC裁判

画像クレジット:VCG / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

トヨタが米国市場に電気自動車3モデルを2022年に投入

米国時間2月10日、Toyota Motor North America(北米トヨタ、TMNA)は新しく電動自動車3車種を米国市場に投入すると発表した。多くの自動車メーカーが米国の排ガス規制やゼロエミッションをクリアする乗用車、SUVを提供して顧客を獲得しようとしているためだ。

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トヨタによれば、2車種は全電気式、1車種はプラグインハイブリッドだという。実車の販売開始は2022年になると予想されている。

TMNAのセールス担当上級副社長であるBob Carter(ボブ・カーター)氏 によると、顧客ニーズに適するパワートレインの選択肢を提供することが目的だという。トヨタはプリウスなどのハイブリッド、RAV4などのプラグインハイブリッド、ミライなどの燃料電池車の開発と販売を行っている。

同社によれば、2025年までにトヨタブランドと高級ブランドのレクサスの各モデルでオプションとして電動パワートレインが選択できるようになる。またトヨタはさまざまなニーズに適合するよう組み合わせることができるe-TNGAと呼ばれる独自のバッテリー電気プラットフォームを開発している。

こうした努力はすべて温室効果ガスの排出量を削減して市場シェアを獲得することを目的としている。トヨタは、この目標を達成するには多様性を提供する必要があると考えている。同社は2025年までに新車販売台数の40%を電動モデルに置き換える計画だ。EVの割合は2030年までに70%弱まで増加すると見込んでいる。

TMNAのCEOでToyota Research Institute(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)のチーフサイエンティストであるGill Pratt(ギル・プラット)氏は声明で次のように述べている。

運輸部門で温室効果ガスを削減する最も速い方法は、ドライバーのニーズに適合した低炭素パワートレインのオプションを提供することだと信じています。あらゆる価格帯で複数のパワートレインを提供することにより、北米全体でより多くの人々がよりクリーンな自動車に乗るようになり、もっとも短時間で炭素排出総量に最大の削減効果をもたらすことができるでしょう。

トヨタは、温室効果ガス排出削減にともなう所有コストの上昇というトレードオフを検証するツールを利用した調査を行ってきた。その結果、バッテリーの充電に使用される電力を生み出す際に米国の発電所から排出される温室効果ガスを考慮した場合、現在の完全電気式バッテリーモデルとプラグインハイブリッドモデルの温室効果ガス排出総量はほぼ同等であることを発見した。

トヨタの電気自動車戦略はバッテリー型とプラグインハイブリッド型の環境に対する負荷がほぼ同様であるという同社の調査に基づいている。

カテゴリー:モビリティ
タグ:トヨタ自動車EVアメリカ温室ガス効果

画像クレジット:Toyota

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(文:Kirsten Korosec 翻訳:滑川海彦@Facebook

Spotifyがようやく米国でも歌詞をリアルタイムで表示する機能のテストを開始

Spotify(スポティファイ)は米国時間2月9日朝、Engadgetの報道を受けて、米国市場で歌詞を同期させる新機能のテストを始めたことを認めた。このストリーミング音楽サービスは現在、27もの市場(最近サービスを開始した韓国も含む)で歌詞のライブ配信を行っているが、米国では何年も前から提供されていなかった。代わりにSpotifyはGenius(ジーニアス)と提携し、歌詞と再生中の曲に関するトリビアを合わせて閲覧できる「Behind the Lyrics」機能を提供している。

コメントを求められたSpotifyは、新しい歌詞機能は同日より米国の一部のユーザーを対象とするテストとして提供を始めたと述べた。

「現在、米国内の一部のユーザーを対象に歌詞機能のテストを行っていること認めます」と、同社の広報担当者はTechCrunchに語った。「Spotifyでは、ユーザー体験を向上させるために、定期的にいくつかのテストを行っています。これらのテストの中には、より広範なユーザーエクスペリエンスへの道を開くことになるものもあれば、重要な学習としての役目のみを果たすものもあります」。

同社は計画の詳細を公表することは拒否したが、米国における新しい歌詞機能のパートナーがMusixmatch(ミュージックスマッチ)であることは明らかにした。Musixmatchは、すでにこの機能が導入されている米国以外の市場で歌詞を提供している。

Spotifyが米国で歌詞表示機能を導入するのは、実は今回が初めてではない。もともとSpotifyは、2011年から2016年までの間、Musixmatchと提携していたのだが、その関係を終わらせ、代わりにGeniusと提携を結ぶことになったのだ。歌詞機能の復活を求めるユーザーの継続的な要求にもかかわらず、Spotifyはこの機能を米国で復活させることはなかった。

しかし近年、Spotifyは再びMusixmatchとの関係を復活させた。2020年、Spotifyは東南アジア、インド、ラテンアメリカにわたる世界26の市場でリアルタイム歌詞機能を導入すると発表した。このうち22の市場では、歌詞が提供されるのは初めてのことでタイ、ベトナム、インドネシア、メキシコだけは、他のプロバイダーを経由して、何らかのかたちですでに歌詞がサポートされていた。

米国でSpotifyが歌詞をサポートしていないことは、ストリーミング音楽の競合他社に優位性を与えてきた。たとえばAmazon Music(アマゾンミュージック)は、ユーザーが曲の再生に合わせて歌詞を表示することができ、その機能を音声プラットフォームのAlexa(アレクサ)に結びつけることで、Alexaに歌詞で曲を検索してもらうことが可能だ。一方、2018年のiOS 12で刷新されたApple Music(アップルミュージック)は、単にアーティスト名やアルバム、曲のタイトルだけでなく、歌詞で曲を検索する機能が搭載された。その後、iOS 13では歌詞をライブで同期する機能も追加。Siriに歌詞の一部を伝えれば曲を検索することもできる。

Musixmatchも、米国で行われる新しいテストでSpotifyと提携したことを認めた。

「Musixmatchは、10年間の継続的な投資を行ってきたおかげで、速いペースで成長しています。私たちは今、世界中でオーディオ体験を豊かにし続けるために、より多くのデータを提供することに注力しています」と、MusixmatchのCEOであり創業者であるMax Ciociola(マックス・シオシオラ)氏は、TechCrunchに語った。

今回の歌詞機能はテストに過ぎないため、対象者が限定されており、実際にSpotifyアプリで歌詞を見ることができない人もいるだろう。このテストが拡大される可能性はあるのか、もしあるなら、いつになればさらに多くの人が利用できるようになるのか、ということについて、Spotifyは明言していない。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Spotify音楽ストリーミングアメリカ

画像クレジット:Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Hirokazu Kusakabe)