Uberがドライバーの顔認識チェックの利用で圧力を受ける

Uberがドライバーの識別システムに顔認識テクノロジーを使用していることが英国で問題になっている。ドライバーが誤って識別され、ロンドン交通局(TfL)から営業ライセンスを取り消されたケースが複数見つかったことから、App Drivers & Couriers Union(アプリ運転手および配送業者組合、ADCU)とWorker Info Exchange(労働者情報取引所、WIE)は、Microsoft(マイクロソフト)に対しこの配車サービス大手へのB2B顔認識サービスの提供を停止するよう求めている。

同組合によると「顔認識やその他の身元確認の失敗」により、TfLによるライセンス取り消し処分を受け、ドライバーが職を失ったケースが7件確認されたという。

Uberは、2020年4月に英国で「リアルタイムIDチェック」システムを立ち上げた際「ドライバーのUberアカウントが、強化されたDBS(開示および禁止サービス、いわゆる無犯罪証明)チェックに合格したライセンス保持者以外に使用されていないことを確認する」としていた。またその際、ドライバーは自分の自撮り写真を「写真照合ソフトによる検証か、人間の審査員による検証かを選択できる」とも述べていた。

ADCUによると、ある誤認のケースでは、ドライバーはUberに解雇され、TfLにライセンスを取り消されたという。同組合は、この組合員の身元証明を支援し、UberとTfLの決定を覆すことができたと付け加えている。しかし、マイクロソフトが2020年夏のBlack Lives Matter(黒人の命の大切さを訴える)運動を受けて、米国の警察へのシステム販売を見合わせたことを挙げ、同社の顔認識テクノロジーの精度に対する懸念を訴えている。

顔認識システムは、識別の対象が有色人種の場合、特に高いエラー率になることが研究で明らかになっており、ADCUは、マイクロソフトのシステムが20%ものエラー率になる可能性があるという2018年のMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究結果を引用している(肌の色が濃い女性の場合に最も悪い精度となった)。

同組合は、ロンドン市長に書簡をお送り、ハイブリッドリアルタイム個人認証システムの結果を根拠としたUberの報告書に基づく、TfLのプライベートハイヤーに対するライセンスの取り消しを、直ちにすべて見直すことを要請しているという。

マイクロソフトは、Uberに対する顔認識テクノロジーのライセンスの停止が要請されたことについて、コメントを求められている。

【更新】Microsoftの広報担当者は「MicrosoftはFace APIのテストと改善に力を入れており、あらゆる年齢層における公平性と精度に特に注意を払っている。また、お客様がシステムの公平性を評価できるよう、最適な結果とツールを得るための詳細なガイダンスも提供しています」と述べた。

ADCUによると、Uberは英国の首都での営業ライセンス回復のために実施した対策パッケージの一環として、労働力の電子監視および識別のシステムの導入を急いだという。

2017年、TfLはUberに営業ライセンスの更新を認めないという衝撃的な決定を下した。当局はUberの営業形態に対する規制圧力を強め、2019年にはUberがプライベートハイヤーライセンスを更新するのは「適切ではない」と再び判断し、この決定を継続した。

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TfLは、Uberのライセンス更新を保留した主な理由として、安全性とセキュリティの欠如に言及した。

UberはTfLの決定に対して法廷で異議を唱え、2020年に別のライセンス停止に対する控訴で勝訴したが、その際に与えられた更新期間はわずか18カ月だった(正規の5年ではない)。しかも数多くの条件が並べ立てられており、Uberは依然としてTfLの品質基準を満たすよう強い圧力を受けている。

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しかしADCUによると、現在、労働運動家らは、TfLがUberに導入を促した労働力の監視テクノロジーにおいて、規制基準が設定されていないことを指摘するなど、別の方向からもUberに圧力をかけているという。また、TfLによる平等性インパクト評価も行われていないと、同組合は付け加える。

WIEはTechCrunchに対し、UberのリアルタイムIDチェックの後に解雇され、TfLから免許を取り消されたImran Raja(イムラン・ラジャ)氏というドライバーのケースで、同団体がUberを相手取り、同氏への差別的扱いに対する訴えを起したことを明らかにした。

同氏のライセンスはその後回復したが、それは、ADCUがこの措置に異議を唱えた後のことだ。

WIEによると、Uberの顔認識チェックで誤認された、他の何人かのUberドライバーらも、TfLによるライセンス取り消しを英国の裁判所に訴えるとのことだ。

TfLの広報担当者は、顔認識テクノロジーの導入はUberのライセンス更新の条件ではなく、Uberが十分な安全システムを備えていることが条件だと話す。

「ドライバーの身元確認」に関する暫定ライセンスの関連条項には、次のように記されている。

ULL(Uber London Limited、ウーバー・ロンドン有限責任会社)は、アプリを使用するドライバーがTfLからライセンスを取得した個人であり、ULLからアプリの使用を許可された個人であることを確認するために、適切なシステム、プロセス、手順を維持しなければならない。

また、TechCrunchでは、TfLと英国情報コミッショナーズオフィス(ICO)に、UberがリアルタイムIDチェックを開始する前に実施したというデータ保護影響評価のコピーを求めており、入手した場合にはこのレポートを更新する。

一方、Uberは、ドライバーの個人認証に顔認識テクノロジーを使用することは、失敗を防ぐために手動(人間)で審査するシステムを導入しているため差別を自動化する危険性がある、という組合の主張に異議を唱えている。

しかし、同社はそのシステムがラジャ氏のケースでは明らかに失敗したことを認めている。同氏は組合が介入したことでUberのアカウントを取り戻し、そして謝罪を受けた。

Uberによると、同社のリアルタイムIDシステムでは、ログイン時にドライバーが送信する自撮り写真の「画像照合」が自動で行われ、システムがその自撮り写真とファイルに保存されている(1枚の)写真を比較する。

自動照合で一致しない場合は、システムは3人の人間による審査委員会に照会し、手動でチェックが行われる。Uberによると、最初の審査委員が承認できない場合は、2番目の審査委員にチェックが委ねられるという。

このテクノロジー大手は声明の中で次のように述べている。

当社のリアルタイムIDチェックは、正規のドライバーや宅配業者が本人のアカウントを使用していることを確認することで、アプリを利用するすべての人の安全と安心を守るように設計されている。今回提起された2つの事例は、技術的な欠陥によって引き起こされたものではない。実際、そのうちの1つは当社の不正防止ポリシーに違反していることが確認され、もう1つは人為的なミスだった。

テクノロジーやプロセスに完璧はなく、常に改善の余地があるが、ドライバーの抹消を決定する前に最低2回の人間による手作業での審査を保証する徹底したプロセスと併用されるこのテクノロジーは、公正であり、当社のプラットフォームの安全性にとって重要であると考えている。

Uberは、ADCUが言及した2つのケースのうち、1つのケースでは、リアルタイムIDチェックの際に、ドライバーがライブIDチェックに必要な自撮り写真を撮る代わりに、写真を見せていたという。つまり、ドライバーが正しい手順に従っていなかったため、IDチェックが失敗したことは間違いではないと主張している。

もう1つのケースについて同社は、人手による審査チームが(二度にわたって)誤った判断を下したヒューマンエラーに責任を負わせている。ドライバーの外見が変わり、自撮り写真を送ってきた(現在はひげを生やした)男性の顔が、同社がファイルしていた、きれいにひげを剃った顔写真の人物と同一人物であると審査委員が認識できなかったと述べている。

Uberは、ADCUが言及した他の5つのIDチェックの失敗で何が起こったのか詳細を説明できなかった。

また、同組合がIDチェックで誤認されたとしている7人のドライバーの民族性についても明言を避けた。

Uberは、将来起こりうる人為的ミスによる誤認識を防ぐためにどのような対策をとっているのかという質問に対しては、回答を拒否した。

Uberは、ドライバーがIDチェックに失敗した場合、TfLに通知する義務があると述べている。これは、ラジャ氏のケースのように、規制当局がライセンスを停止することにつながる措置だ。したがって、IDチェックプロセスに偏りがあると、その影響を受けた人の働く機会に不均衡なインパクトを与える危険性があることは明らかだ。

WIEは、顔認識チェックのみに関連してTfLのライセンスが取り消されたケースを3件把握しているという。

また同団体は「[Uber Eats]の宅配業者には、他にも契約を解除された者もいるが、TfLのライセンスを取得していないため、それ以上の措置はとられていない」と話す。

TechCrunchもまた、Uberに、ドライバーの契約解除が何件行われ、TfLへの報告で何件が顔認識に基づいたかを尋ねたが、ここでもこのテクノロジー大手は回答を拒否した。

WIEは、Uberが地理的な位置情報に基づいて行う契約解除に、顔認識のチェックが組み込まれている証拠があると話す。

あるケースでは、アカウントを取り消されたドライバーは、Uberから位置情報のみに関する説明を受けていたが、TfLがUberの証人調書を誤ってWIEに送ってしまったことがあり、その証人調書には「顔認識の証拠を含めていた」と述べている。

このことは、UberのIDチェックにおける顔認識テクノロジーの役割が、同社がリアルタイムIDシステムの方法を説明する際に示したものよりも広いことを示唆している(やはり、Uberはこの件に関するフォローアップの質問には答えず、公式発表やそれに関わる背景以上の情報を提供することを拒否した)。

しかし、UberのリアルタイムIDシステムに限ってみても、機械の提案に加えて、より広いビジネス上の責務(安全性の問題で規制順守を証明する緊急の必要性など)の重さを前にして、Uberの人間の審査スタッフが実際にどれだけのことを言えるか疑問が残る。

WIEの創設者であるJames Farrer(ジェームス・ファラー)氏は、差別問題が指摘されている顔認識テクノロジーのセーフティネットとしてUberが講じている人間によるチェックの質について疑問を呈する。

「Uberは、自動化された意思決定に対して法的にもっともらしい否認機能を用意しているだけなのか、もしくは意義のある人間の介入があるのか」と同氏はTechCrunchに語り「これらすべてのケースで、ドライバーは停職処分を受け、専門家チームが連絡を取ると言われる。そして大抵、1週間ほど過ぎると、誰とも話すことなく永久に停止されてしまう」と続ける。

「顔認識システムが不一致と判断すると、人間には機械を追認するようなバイアスがかかるという研究結果がある。人間は、機械を無効にする勇気を持つ必要がある。そのためには、機械を理解し、その仕組みと限界を理解し、機械の判断を覆す自信と経営陣のサポートが必要だ」とファラー氏は述べ「ロンドンで仕事をするUberのドライバーには、Uberのライセンスに対するリスクが付きまとうが、その対価は何だろうか。ドライバーには何の権利もなく、過剰に存在する消耗品だ」と続ける。

同氏はまた、Uberが以前法廷で、疑わしいケースではドライバーに有利な判断よりも、顧客の苦情を避けられる判断を優先すると証言したことを指摘する。そして「そうであれば、Uberが顔認識についてバランスのとれた判断をすると本当に信頼できるだろうか」と問いかける。

さらにファラー氏は、UberとTfLが、アカウントを無効にする根拠とした証拠をドライバーに開示せず、決定の実際の内容について不服を申し立てる機会を与えないことに疑問を呈している。

同氏は「私見だが、結局すべてテクノロジーのガバナンスの問題だ」とし「マイクロソフトの顔認識が強力でほぼ正確なツールであることを疑っているわけではない。しかし、このテクノロジーのガバナンスは、知的で責任のあるものでなければならない。マイクロソフトは極めて賢明であり、この点に限界があることを認めている」と付け加える。

「Uberが自社の営業ライセンスを守るための代償として監視テクノロジーの導入を強いられ、94%のBAME(Black、Asian and minority ethnic、黒人・アジア人・少数民族)の労働者を不当解雇から守る労働者の権利を無力にする施策など本末転倒だ」と語気を強める。

この顔認識に関わるUberのビジネスプロセスへの新たな圧力は、ドライバーは英国法における労働者ではなく「自営業者」であるというUberの言い逃れに対する長年の訴訟の末、ファラー氏をはじめとする元Uberドライバーや労働権運動家が大きな勝利を収めた直後のことだ。

現地時間3月16日火曜日、Uberは、2021年2月に最高裁がUberの上告を棄却したことを受け、今後はドライバーを市場での労働者として扱い、同社からの福利厚生を拡大すると述べた。

関連記事:Uberは最高裁判所の判決を受けて英国のドライバーを「労働者」待遇にすると発表

しかし、訴訟当事者は、Uberの「取引」ではドライバーがUberアプリにログオンしたときから労働時間を算出すべきとの最高裁の主張を、Uberが無視していると即座に指摘した。対するUberは、ドライバーが仕事を引き受けたときに労働時間を計算する資格が発生すると述べている。つまり、Uberは依然として、運賃収入を待つ時間についてはドライバーへの支払いを避けようとしているのだ。

そのためADCUは、Uberの「オファー」は、ドライバーが法的に受け得る報酬から40~50%下回ると見積もっており、Uberドライバーが公正な取引を得られるように法廷で闘い続けると述べている。

EUレベルでは、EUの議員らがギグワーカーの労働条件を改善する方法を検討しているが、このテクノロジー大手は現在、プラットフォーム業務に有利な雇用法を作り上げるために動いており、労働者の法的基準を下げようとしていると非難されている

2021年3月のUberに関わる他のニュースとしては、オランダの裁判所が、ADCUとWIEの異議申し立てを受けて、同社にドライバーに関してより多くのデータを引き渡すように命じたことだ。ただし、裁判所は、さらに多くのデータを求めるドライバーらの要求の大半を却下している。しかし注目すべきことは、ドライバーらがEU法の下で保証されたデータ権を利用して情報をまとめて入手し、プラットフォームに対する団体交渉力を高めようとすることに裁判所が異議を唱えなかったことだ。これは、ファラー氏が労働者のためにデータ信託を立ち上げたことで、より多くの(そして、より慎重に言葉を選べば)挑戦への道が開かれたことを意味する。

請求人はまた、Uberが不正行為に基づくドライバー解雇の判断にアルゴリズムを使用していることについて、法的または重大な影響がある場合、自動的な決定のみに左右されない権利を規定する、EUのデータ保護法の条項に基づいて検証を求めた。このケースで裁判所は、不正に関わる解雇は人間のチームによって調査され、解雇の決定には有意な人間の意思決定が関与しているというUberの説明を言葉通りに受け入れた。

しかし、プラットフォームのアルゴリズムによる提案・決定から始まり人間による「有意な」ぬれぎぬ・見落としに至る問題は、新たな争点となりつつある。そこではユーザーのデータを神のように崇め、完全な透明性にアレルギーを持つ、強力なプラットフォームがもたらす人間への影響や社会的不均衡を規制するための重要な戦いが繰り広げられるだろう。

Uberの顔認識にともなう解雇に対する直近の異議申し立ては、自動化された判断の限界と合法性に対する調査が始まったばかりであり、審判が下るまでには程遠いことを示している。

Uberがドライバーのアカウント停止に位置情報を使用していることも、法的な問題として挙げられている。

現在、欧州連合の機関で交渉が行われているEU全体に適応される法規制は、プラットフォームの透明性を高めることを目的としており、近い将来、規制当局による監視やアルゴリズムによる監査さえもプラットフォームに適用される可能性がある。

2021年3月第2週、Uberの訴訟に判決を下したアムステルダムの裁判所は、インドの配車サービス会社Ola(オラ)に対しても、UberのリアルタイムIDシステムに相当する顔認識ベースの「Guardian(ガーディアン)」システムに関するデータの開示を命じた。裁判所は、オラは現在提供しているものよりも広範囲のデータを請求人に提供しなければならないとし、その中には、同社が保持しているドライバーの「詐称が疑われるプロファイル」や、同社が運営する「ガーディアン」監視システム内のデータの開示も含まれている。

こういった状況からファラー氏は「いずれにせよ、労働者は透明性を手に入れることができる」と自信を示す。それに、Uberの労働者への対応をめぐって英国の裁判所で何年も闘ってきた同氏のプラットフォームとのパワーバランスを正そうとする粘り強さは疑うべくもない。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Uberイギリス顔認証

画像クレジット:Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

英国の独禁監視当局がフェイスブックのGIPHY買収を調査中

GIFの流動性に対する潜在的な脅威が英国の競争監視当局を悩ませ続けている。

2020年発表された、Facebook(フェイスブック)の4億ドル(約443億円)でのGIPHY(ジフィー)買収は現在、デジタル広告に関連する競争上の懸念があるとしてCMA(英国競争・市場庁)の徹底的な調査を受けている。CMAは調査して9月15日までに報告書をまとめる。

関連記事:フェイスブックがGIFアニメのGIPHYを430億円相当で買収

当局は2020年夏この買収案件について調査に乗り出し、2021年になってもその調査は続いた。そして先週、CMAは(すでに完了した)FacebookとGIPHYの買収は、Facebookがすでに主要プレイヤーであるデジタル広告マーケットにおける競争をさらに抑制しうると述べ、懸念を示した(Facebookはディスプレイ広告マーケットで50%超のシェアを握っている)。

関連記事:英国の競争監視当局はフェイスブックのGIPHY買収を未だ検討中、2021年3月末に進展か

当局は、買収の前にGIPHYが自社のデジタル広告提携を英国を含め他国に拡大する計画だったという証拠を見つけた、と述べた。

「もしGIPHYとFacebookが合併したままだったら、GIPHYはデジタル広告を拡大するインセンティブをさほど持たず、ひいてはこのマーケットにおける潜在的な競争の逸失につながる」との考えを文書で示した。

CMAはまた、ソーシャルメディアのライバルに害をもたらし得るFacebook所有のGIPHYが、他社へのアニメーションピクセルの供給を搾る、あるいはライバルにそれまでよりも悪条件でのサインアップ(ライバルにユーザーデータの提出を求めてそれらを広告ターゲティングエンジンに使い、さらにマーケットパワーを得るなど)を求めるテック大企業になることが懸念されると述べた。

現実感3月25日にGIPHYとFacebookは懸念を解消するため5日の猶予が当局から与えられた。懸念を和らげるための法的拘束力のある提案の提出だ。

綿密な調査を行う「第2段階」は、当局に受け入れられる譲歩がなされていたら回避できていただろう。しかし明らかにそうではなく、CMAは4月1日、第2段階の委託を発表した。最後の通知から作業日5日経って発表されたことから、譲歩はなかったようだ。

TechCrunchはFacebookとCMAにコメントを求めた。

Facebookの広報担当は次のように述べた。「当社は引き続きCMAの調査に全面的に協力します。この合併は競争にとって良いものであり、デベロッパーからサービスプロバイダー、コンテンツクリエイターに至るまで、GIPHYや当社のサービスを使う英国のすべての人の利益にかなうものです」。

FacebookはすでにGIPHYの買収を完了した一方で、CMAの調査によってFacebookが自社のビジネスにGIPHYを深く統合する作業は凍結が続いている。

とはいえ、Facebookのデジタル広告分野における独占的な立場を考えると、プロダクトイノベーションを通じてすばやく動くビジネスの必要性は過去数年よりもはるかに差し迫っている。過去においては、当局の干渉なしに市場での優位性を構築していた。

近年、CMAはデジタル広告マーケットに細心の注意を払ってきた。2019年には広告テックを独占しているGoogle(グーグル)とFacebookのパワーに関して重大な懸念を報告した。だが最終レポートの中でCMAは、マーケットパワーの不均衡そのものを解決するために介入するより、政府の法律制定を待つと述べた。

英国は現在、デジタルマーケットでみられる「勝者がすべてを得る」の力学に対する懸念への対応として、テック大企業に的を絞った競争促進の規制を専門とする機関を立ち上げる過程にある。設置されるDigital Market Unitは「数年内に新たなコンプライアンス要件を課されるインターネットプラットフォームのための「競争促進」体制を監督する。

一方、CMAは引き続きテック企業の取引や戦略の変更などを精査する。ここには、他の業者からの苦情を受けてこのほど調査を開始したGoogleのChromeでのサードパーティのCookieに対するサポート打ち切り計画も含まれる。

またCMAは2021年1月にUber(ウーバー)のAutocab(オートキャブ)買収計画も調査していると発表した。しかし3月29日に、両社の間にあるのは「限定間接」の競争だけで、Autocabが将来Uberにとってかなりの、そしてより直接的な競合相手になる可能性が高いことを示す証拠は見つからなかったとして買収取引を認めた。

関連記事:UberのAutocab買収を英国の競争監視当局が調査

CMAはまた、AutocabとUberがタクシー会社に販売する予約と配車のソフトウェアの質を下げることで、Autocabの顧客であるタクシー会社を不利な状況に置こうとしているかどうかも考慮した。しかし第1段階の調査で、もしUberがそうした措置を取っても、タクシー企業は他の信頼できるソフトウェアサプライヤーと委託ネットワークに切り替えられることが明らかになり、これが買収取引を認めることにつながった。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookGIPHYイギリス買収独占禁止法CMA

画像クレジット:Muhammed Selim Korkutata/Anadolu Agency / Getty Images(Image has been modified

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

英オンライン中古車販売のCazooがニューヨーク証券取引所にSPAC上場へ、評価額は約7728億円

2020年に大規模な資金調達をした英国拠点の中古車販売ポータルCazoo(カズー)はSPAC経由でさらなる成長を追求する次の企業となる。同社は3月29日、ヘッジファンドの第一人者Dan Och(ダン・オック)氏がGlenn Fuhrman(グレン・ファーマン)氏らとの提携のもとに設立した特別買収目的会社AJAX Iとの事業合併を経てニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場すると発表した。

この取引によるCazooの価値は70億ドル(約7728億円)で、ここには追加の新規資金調達16億ドル(約1766億円)が含まれる。新規資金の内訳は、AJAX Iからの現金8億500万ドル(約888億円)と、AJAXのスポンサー並びにCazooの投資家D1 Capital Partnersがリードした8億ドル(約883億円)のPIPE(上場企業の私募増資)だ。PIPEにはAltimeter、BlackRock、Counterpoint Global (Morgan Stanley)、Fidelity Management、Marcho Partners、Mubadala Capital、Pelham Capital、Senator Investment Group、Spruce House Partnershipといった新規・既存投資家も参加する。取引はすでにCazooとAJAX Iの取締役会に承認された。

「今回の発表は、欧州でのクルマの買い方を変革し続ける当社の取り組みにおいて新しい主要マイルストーンです」とCazooの創業者でCEOのAlex Chesterman OBE(アレックス・チェスターマン)氏は声明で述べた。「当社は、デジタル化がかなり浸透していない最大の小売部門で最も包括的で完全に統合されたサービスを創造しました。この取引は、当社の成長を支える資金として約10億ドル(約1103億円)をもたらします。欧州中の消費者に最高の車購入エクスペリエンスを急速に拡大して提供するために、ダンそしてAJAXのチームと提携することをうれしく思います」。

Cazooを創業する前から有名だったチェスターマン氏はCazooのCEOとして残る(同氏はAmazonによって買収され、NetflixのライバルAmazon Prime Video構築に向けた最初のステップとして使われたLoveFilm、それから不動産販売サイトZooplaも創業した)。

「豊作の年」を経て、Cazooは今回の取引による資金を引き続き欧州でのサービス拡大に使う計画だ。2020年同社の売上高は300%成長し、2021年は年間売上高10億ドルに向けて順調だ。主に中古車販売をベースとするビジネスモデルで第一四半期の年間売上高ランレートは6億ドル(約662億円)だが、車サブスクサービスなど売上源を多様化させている。

Cazooの取引は、資本構成表にたっぷりと資金を持っている非公開企業にとって、従来のIPOよりも手っ取り早く次のステップを取るのにユビキタスなSPACが選択肢となることを示している。IPOは時間がかかり、これは企業の財務や時間の制約に合わないかもしれない。あるいは買収されることもあるかもしれない。また、Cazooの取引は米国外に拠点を置く企業が米国の証券取引所に上場するのに、どのようなルートを取っているかも示している。Cazooの場合、そうすることで英国で上場するよりも幅広い投資家にアクセスできるようになる。

SPACとの合併は、ただ資金支援者という以上に、投資家側のレバレッジが財務面、そして戦略面でのコントロールを企業にもやたらすことになる。実際、ダン・オック氏はCazooの役員会に加わる。

「Cazooでアレックス、そしてひと際優れたチームと提携する機会を得ることを非常に喜んでいます。アレックスは欧州で最も成功している連続起業家の1人であることを証明し、このワールドクラスのチーム、ブランド、そしてプラットフォームの成長をサポートすることを誇りに思います」とオック氏は声明で述べた。「Cazooのイノベーション、データ、顧客満足への絶え間ない注力で、同社がこの巨大で手つかずのマーケット機会において引き続き先頭を行くことは間違いなく、Cazooの役員会に加わってアレックス、そして彼のチームと働くことを楽しみにしています」。

しかし合併は、彼らに取って長期的に強固な事業になると思われるところに取り組む別の方法でもある。

「Cazooの長期投資家として、そして同社の経営陣を信じる者として、我々は引き続きCazooの公開企業としての成長をサポートし続けることをうれしく思っています」とD1 Capital Partnersの創業者Daniel Sundheim(ダニエル・サンドヘイム)氏は声明で述べた。「Cazooは戦略の資金を賄うのに多くの選択肢を持っていました。AJAXと合併してダン・オック氏やその他の有名なパートナーに加わるという決断は良いものであり、同社や同社の未来にとってポジティブな意味をもたらすでしょう」。

Cazooの場合、適切な時に適切な場所にいたようだ。

新型コロナウイルスパンデミックでは、英国の人々は店頭での買い物を控え、また他人との接触も減らし、そして移動するのに公共あるいは混み合う交通手段より自分の車を使うことを選んだ。Cazooはデジタルプラットフォームを通じて2万台超のクルマを販売・納車した。

同社は販売ポータルと、現在展開している車サブスクサービスのような他の事業ラインの両方を拡大する計画だ。サブスクは現在、英国、ドイツ、フランスに6000人超の利用者を抱える。同社は2018年に設立され、パンデミック真っ只中だった2020年、4億2700万ドル(約471億円)を調達した。まず2020年3月に1億1600万ドル(約128億円)、そして10月に3億1100万ドル(約343億円)を調達した。2回目のラウンドでは同社の評価額は25億ドル(約2759億円)超で、つまり今回のSPACとの合併では評価額が飛躍的に増加したことを意味する。

関連記事:英国のオンライン中古車販売プラットフォームCazooが320億円超を追加調達

プライベート投資家から多くの資金を調達したスタートアップの数が増え続ける中、SPACはあっという間に常道の選択肢となった。IPOを下調べして早く進められないことが明らかになったのちにSPACに走るいくつかのケースもあった。例えばWitness WeWorkは先週、90億ドル(約9933億円)のSPACを発表したが、2019年にはバリュエーション470億ドル(約5兆1875億円)でのIPOを試み、失敗に終わっていた。

他には何年も事業展開している企業にとってイグジットがオプションとなるが、従来のIPOよりぴったりくるものではないケースもある。実際、デジタル通貨と仮想通貨にかけてきた創業14年のイスラエルの取引プラットフォームeToroも2021年3月初めに評価額104億ドル(約1兆1481億円)でのSPACとの合併を発表した。

関連記事:投資プラットフォームのeToroがSPAC経由で1兆円企業として上場へ

他の企業は上場する手っとりばやい手段としてSPACを使い、スタンダードであるIPOの長期にわたり、かつ費用のかかるプロセスの一部を回避するためにそうしたチャンネルを通じて資金調達している(Cazooもこのカテゴリーに含まれるようだ)。東南アジアの大手オンデマンド乗車プロバイダーGrabもまた米国で上場する計画を加速させるためにSPACを検討していると報道されている。同社は「スーパーアプリ」としてサービスを拡大してきた。

究極的には、何十億ドル(何千億円)という評価額は、これから実行される、あるいはすでに実行された多くのSPACを通じて今後も生み出される一方で、SPACを選んだ企業がどのように長期に上場を維持し続けるのかは不透明だ。特にプライベート投資家は短期的な利益のために数億ドル(数百億円)を投入するとき、こうしたハイスケールだがおそらく(まだ?)黒字でないモデルを長期に支援することに興味があるが、果たして公開市場の投資家がそうなのかはわからない(もちろんSPAC合併した企業が上場会社としてどういいう方向に向かうのかも依然として不透明だ)。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Cazoo中古車SPACイギリス

画像クレジット:Cazoo

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

製品チームが簡単にユーザーインタビューを行い仮説を検証できるプラットフォームを英国Ribbonが開発

誰もが「ユーザー中心の企業や製品を作りたい」というが、具体的にそれをどうやって実現するのだろうか?もちろん、何よりもユーザーとの対話が大事……なのだが、それは無駄に時間がかかり組織化するのも面倒な作業であると、Axel Thomson(アクセル・トムソン)氏はいう。同氏は、英国のレシピ食材ボックス宅配サービスのユニコーン企業であるGousto(グスト)でプロダクトマネージャーを務めていた人物だ。

彼が起業したRibbon(リボン)という急成長中のスタートアップは、製品チームがユーザーを募集してインタビューを行い「継続的に仮説をテストして検証する」ことを容易にしたいと考えている。これによって、ユーザーにとってより良い製品になることが、期待できるというわけだ。このアイデアは、トムソン氏がGoustoでユーザーエクスペリエンスを専門とする製品チームを率いていたときに経験したニーズから生まれたものだという。

「私は当初、Goustoのグロースチームに所属し、ユーザーエクスペリエンスの向上とリテンションの増加に注力した製品とマーケティングの実験を行っていました。その後はプロダクトチームに移り、より総合的なユーザーエクスペリエンスの向上に取り組みました」と、トムソン氏は筆者に語った。

「これらの2つのチームでは、どのような機能や試みに賭けるかを常に決定しなければなりませんでしたが、それはつまり、ユーザーが何を求めているかを知るということです。そのための最善の方法は、ユーザーと実際に会話し、さまざまなコンセプトを試してもらうのが一番だということにすぐに気づきました。どの製品や機能がテストする価値があり、どの製品や機能が失敗する運命にあるのかについて、十分な情報に基づいた適切な判断を一貫して行うことがいかに難しいか、それは目から鱗が落ちる思いでした」。

トムソン氏によると、経営陣の間では、製品チームはユーザー中心であるべきで、製品はユーザーが「本当の問題」を解決するのに役立つように設計されるべきだというのが定説になっているという。しかし実際には、ユーザーが何を考え、何を求めているのかを知ることは困難であり、またユーザー調査やインタビューを継続的に行うことは非常に時間がかかる。

「製品チームは、インタビューの設定に何日もかかることが多く、結果的にフィードバックのループが遅くなり、製品の開発や実験が遅れることになります」と、同氏はいう。「あるいは、チームはAmplitude(アンプリチュード)やMixpanel(ミックスパネル)などの分析プラットフォームから得られる定量的なデータに頼ろうとしますが、これらは製品が出荷された後にユーザーがどのように使用したかを知ることができるだけです」。

Ribbonを使えば、創業者によれば「Uberで配車を頼むのと同じくらいの時間」でユーザーインタビューを始めることができるという。製品チームは、Ribbonのウィジェットを自社のウェブサイトにインストールするだけで、ユーザージャーニーにおけるどの段階でも、ユーザーを募集してビデオインタビューを行うことができる。

「私たちは、製品チームがユーザーインタビューや、最終的にはあらゆる種類の定性的なユーザーリサーチを、迅速かつ継続的に行えるようにしたいと考えています」と、トムソン氏は説明する。

Ribbonは、プロダクトマネージャー、デザイナー、ユーザーリサーチャーなど、ユーザーとの会話を通じて自分のアイデアを検証することがメリットになる人たちを対象にしている。しかし、トムソン氏によれば、ユーザーリサーチによるメリットは、これらの役割の人々だけに限るものではないという。企業にはユーザーインタビューの結果を「保有」する専門チームや担当者がいることも多いが「リサーチ結果をソーシャル化し、企業全体でユーザーリサーチに参加する」ことへの関心が高まっていると、同氏は主張している。

「ユーザーリサーチプラットフォームとしての私たちの目標は、私達のプラットフォームのユーザーが、すばらしいリサーチを行い、それをチームで共有することを容易にすることで、自分のチームや組織の中でリサーチの伝道師となることです」と、トムソン氏は付け加えた。

もちろん、その活動はまだ始まったばかりだ。Ribbonは2020年10月末にMVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)をProduct Hunt(プロダクトハント)のコミュニティに公開した。ロンドンを拠点とするこのスタートアップは、これまで自力での開発を行ってきたが、MMC Ventures(MMCベンチャーズ)、RLC Ventures(RLCベンチャーズ)、およびロンドンのエンジェルグループから、プレシード資金として20万ポンド(約3020万円)を調達したことを、現地時間3月25日に発表した。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Ribbonイギリス資金調達

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(文:Steve O’Hear、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ロンドンのDijaがケンブリッジのGenieを買収し10分で食料品を配達するサービスを英国でさらに拡大

Blossom Capital、Creandum、Index Venturesが支援するロンドンの食料品宅配スタートアップ企業Dija(ディジャ)は、英国ケンブリッジに拠点を置くGenie(ジーニー)を買収した。

買収条件は今のところ非公開だが、Genieの創業者であるTim Chan(ティム・チャン)氏とCallum MacBeth(カラム・マクベス)氏がDijaのチームに加わるほか、Genieの資産も含まれている。Genieを英国の大学都市として知られるケンブリッジで立ち上げた彼らは、ロンドン以外の地域でのDijaの成長をサポートする役割を担うことになる。

長年Deliverooで上級職を務めたAlberto Menolascina(アルベルト・メノラシナ)氏とYusuf Saban(ユーセフ・サバン)氏によって設立されたDijaは、今月初めにロンドンでサービスを開始した。Dijaは、グローサリーやその他のコンビニ商品をオンデマンドで配送する、乱立しているヨーロッパの新興企業のひとつだ。同社は、超ローカルな配送に特化したフルフィルメントセンター、いわゆる「ダークストア」を構築し、独自に配達要員を採用することでこれを実現している。このフルスタックまたはバーティカルなアプローチと、それによってもたらされる可視性によって、ユニットエコノミクスを実現するのに十分なサプライチェーンとロジスティクスの効率性が生み出されると考えられているが、それはまだ証明されていない。

他のダークストア事業者としては、ベルリンのFlink(フリンク)が株式と負債を合わせて5200万ドル(約56億6000万円)のシード資金を調達しているほか、ベルリン拠点のGorillas(ゴリラズ)がシリーズAで4400万ドル(約47億9000万円)の資金を調達しており、最近ではドイツとオランダに加えてロンドンにも進出している。それに加えロンドンで事業展開しているのは、Weezy(ウィージー)Getir(ゲッティアー)Zapp(ザップ)の3社で、Jiffy(ジフィー)も間もなくサービスを開始する予定だ。また、米国のユニコーン企業であるgoPuffも欧州への進出を目指しており、英国のFancy(ファンシー)を買収または投資する交渉を行っていると報じられている

Dijaは現在、サウス・ケンジントン、フルハム、イズリントン、ハックニーの4カ所で倉庫ハブを運営しており、グローサリーやその他のコンビニ商品を10分以内に配達しているという。夏までには、ロンドン中心部とゾーン 2をカバーする20のハブをさらにオープンする予定だ。各ハブでは約2000点の商品を取り扱っており、「推奨小売価格」での販売をうたっている。配送料は1回の注文につき一律1.99ポンド(約300円)だ。

Dijaの共同設立者兼CEOのAlberto Menolascina(アルベルト・メノラシナ)氏は、声明の中で次のように述べた。「当社の野望は、M25(ロンドンの周囲を繋ぐ環状高速道路)の中だけではありません。ティムとカラムがDijaファミリーに加わり、英国やヨーロッパでより多くの人々がこの信頼性と効率性の高いサービスを利用できるようになることを嬉しく思います」。

Genieの共同設立者兼CEOであるTim Chan(ティム・チャン)氏はこう付け加えた。「日用品を数分でお届けするという共通のミッションを継続するために、Dijaのチームと力を合わせられることを嬉しく思います。既存のお客様にとって、今回の取引は、より多くの商品、よりよい価格、そしてより速い配送時間へのアクセスを意味します。これまでにケンブリッジでは非常に大きな反響がありましたが、今後数カ月のうちに英国のより多くの地域にDijaを導入することを楽しみにしています」。

関連記事:ロンドンのJiffyが3.9億円のシード投資を調達しダークストア競争に参入

カテゴリー:フードテック
タグ:フードデリバリー 買収 イギリス

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(文:Steve O’Hear、翻訳:Aya Nakazato)

Uberは最高裁判所の判決を受けて英国のドライバーを「労働者」待遇にすると発表

Uber(ウーバー)は現地時間3月16日、英国で同社の配車アプリを利用し営業しているドライバーを「労働者」として扱うと発表した。これによりドライバーたちは、有給休暇などの福利厚生を受けられることになる。ただ、Uberは最高裁判所の2021年2月の決定に従ったかに見えるものの、アプリ上のドライバーの記録に関わらず、乗客を乗せた時点から就業時間を計算するという同社の決定に対して、新たな闘争ののろしはすでに上がっている。

Uberは、3月17日から英国のすべてのドライバーに、収入の12.07%を基準に算出された有給休暇中の給与を、2週間ごとに支払うと話している。またドライバーには、乗車を受け付けた場合、経費を差し引いた上で、少なくとも最低賃金(いわゆる国民生活賃金)が支払われるとUberはいう。さらに英国での年金受給資格を持つドライバーは、Uberの費用補助を受けた年金制度に自動的に組み込まれる。この補助額は、ドライバーの収入のおよそ3%に相当する。

英国では、働き方がSelf-employed(自営業者)、Employed(被用者)、Worker(労働者)の3つに分類されている。「労働者」は雇用されないものの、最低賃金、有給休暇、受給資格を持つ者には年金が保証される。

Uberが3月16日に話したところによれば、現在の予測に基づき、同社は先に発表した第1四半期または2021年の調整EBITDAの予測値は変更しないとのことだ。

Uberは、2016年から英国での「労働者」の定義を巡る争いに巻き込まれてきた。2021年2月、英国の最高裁判所は、Uberの控訴を棄却し、アプリを利用するドライバーは「労働者」であり、独立した業務請負人ではないという先の判断を再確認した。逆転の見込みはなく、Uberはある意味、しぶしぶ承諾するかたちになった。Uberは、ドライバーの就業時間はドライバーが業務開始をアプリに記録した時点からではなく、乗車を受け付けた時点からとしており、福利厚生も乗車を受け付けて初めて発生するとしている。すでに労働活動家たちは、その点に憤慨している。

「最低賃金と有給休暇と年金をやっと認めたことは歓迎しますが、Uberがこの提案の話し合いに応じた時期が遅すぎました」と、App Drivers & Couriers Union(アプリ運転手および配送業者組合)の声明は述べている。これには、Uberに対して訴訟を起こしたドライバーのJames Farrar(ジェームズ・ファーラー)氏とYaseen Aslam(ヤッセン・アスラム)氏が署名している。「最高裁判所は、ドライバーは労働者として認められるべきであり、最低賃金と有給休暇は、Uberが主張する乗客を乗せてから降ろすまでの時間ではなく、ドライバーの就業開始と終了の記録に基づく就業時間に応じて発生するべきだとの判断を下しました。つまり、Uberのドライバーは、いまだに40〜50%ほど釣り銭を誤魔化されているのです。さらに、最低賃金に基づいてドライバーの経費をUberが一方的に決めることも承諾できません。これは労働協約で話し合われるべき問題です。

今回、Uberが1つ前進したことに間違いはありませんが、法律に定められた最低要件に完全に準拠しない部分は、一切受け入れられません。また私たちは、Uberが労働組合の認定、公正な解雇不服申し立て手続き、データアクセスに関する合意に向けても前進することを期待します」。

ファーラー氏はTechCrunchに対して、この問題はまだ解決していないと話した。次なるステップは、労働裁判所に立ち返り、ドライバーが法的に与えられた権利に基づいて確実に給与が支払われるようにすることだ。

英国での労働問題への対応が継続しているUberだが、ヨーロッパの他の国々の裁判所で争われている問題にも注意を向けなければならない。裁判所の決定によっては、Uberの収益に大きく響く。その一方で、EUの議員たちはギグワーカーの待遇改善のための調査も行っている。英国でのUberの譲歩が、ヨーロッパ全体の協議に影響を及ぼす可能性がある。

カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:Uberギグワーカー労働イギリス

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(文:Kirsten Korosec、Natasha Lomas、翻訳:金井哲夫)

ロンドンのJiffyが3.9億円のシード投資を調達しダークストア競争に参入

また新たなオンライン食料品宅配と「ダークストア」を運営する業者が、米国時間3月16日に姿を現した。ロンドンを拠点とするJiffy(ジフィー)だ。生鮮食料品と生活必需品をほぼ15分以内に配達することを目指す同社は、260万スターリング・ポンド(約3億9000万円)のシード投資を調達し、サービス開始の準備を整えた。

すでに多額の投資に支えられた数多くの競合他社と対峙しているこの新興企業を支援するのは、ベンチャー投資ファンドLVL1 Group。その他、AddVenture、TA Ventures、Vladimir Kholiaznikov(ウラジミール・コリアズニコフ)氏そしてエンジェル投資家のOskar Hartmann(オスカー・ハートマン)氏、Alexander Nevinskiy(アレクサンダー・ネビンスキー)氏、Dominique Locher(ドミニク・ロッカー)氏がラウンドに参加している。

Jeffyは、この資本注入で、早ければ2021年3月中にロンドンに最初の店舗を立ち上げると話している。サービス対象地域はウェストミンスター、ウォータールー、ラムベス、バタシー、クラパム・タウン、ショアディッチ、ベスナル・グリーン、ハックニー、ホワイトチャペル、ステップニー・グリーン、レイトンストーンとなる。

同社はそれに続き、2021年後半には英国全土に20カ所のローカルフルフィルメントハブを開設する予定だ。すでに次の資金調達に動き出しているものと思われる。そのセールスポイントとして、Sainsbury’s(セインズベリーズ)やDeliveroo(デリバルー)の元マネージャーなど、オンラインおよびオフラインの小売り業に精通した幹部チームにスポットを当てているようだ。

「私たちは、火星行きチケットも買える2021年に暮らしていますが、欲しいときに欲しい食料品を手に入れることが、いまだにできません」とJiffyの創設者Artur Shamalov(アーター・シャマロフ)氏は話す。シャマロフ氏は、これまでに食料品と配達分野でいくつもの企業を立ち上げてきた人物だ。「食料品のオンラインショピングには、英国のほぼすべての消費者がフラストレーションを感じています。何日も何週間も予約枠が埋まっていたり、特別料金を取る高速サービスでさえ2時間も待たされることはざらです。それは間違っていると私たちは考えています。食料品は、実店舗で買うときと同じぐらい便利で安くなければいけません。そこに超高速配達サービスの利便性も不可欠です」。

それを実現するために、シャマロフ氏は、昔ながらの毎日利用する食料品店を一部肩代わりできると確信するサービスをJiffyが構築するのだと話す。つまり、多種多様な果物、野菜、肉、調理食品、人気ブランドや地元メーカーの生活必需品などを、1店舗につき総製品範囲2000SKUを「超える」商品を提供するということだ。

「私たちの目標は、仕事や子育てや社会活動に追われる忙しい親から、必要な買い物のために工面した時間が、心底楽しめる自由時間となる都会の忙しい職業人まで、非常に幅広いオーディエンスにとって、できる限り便利なもサービスを作ることです」とJiffyの創設者は話す。「また私たちは、近ごろスーパーに買い物に行くことを不安に感じる弱い立場の人たちのことも考慮しています。そうした人たちに、パンや牛乳が切れたときのことを心配させたり、注文したものが届くのを何時間も何日間も待たせたりしてはいけないのです」。

Jiffyは、食料品や日用品を購入してから10〜20分間で配達することを約束し資金調達したヨーロッパの数多くのスタートアップに仲間入りすることになる。それらの企業は、配達地域を小さく限定して、配達専用のフルフィルメントセンター、いわゆる「ダークストア」を設け、専属の配達要員を雇い入れることでそれに対処している。同社が提供するこのフルスタックまたは垂直アプローチと高い視認性が、まだまだ実証はされていないが、ユニットエコノミクスを実現する十分なサプライチェーンの創出と効率的な物流につながるものと期待される。

明確にはされていないが、そうした企業は増え続けており、その中には、エクイティーと融資の混合で5200万ドル(約56億7000万円)のシード資金を調達したベルリンのFlink(フリンク)、シリーズA投資4400万ドル(約48億円)を調達し、ドイツ、オランダに続いてこのほどロンドンに進出したベルリンに本社を構えるGorillas(ゴリラズ)、その他ロンドンで営業している企業には、Weezy(ウィージー)、Getir(ゲッティアー)、Dija(ディジャ)、Zapp(ザップ)がある。米国のユニコーン企業goPuff(ゴーパフ)もヨーロッパ進出を計画し、英国のFancy(ファンシー)の買収または投資を交渉中だと伝えられている。

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このモデルは何よりもインフラが重要な役割を果たすため、土地の確保だけでなく、資本の確保も欠かせない。店舗を建設し、ロスリーダーを使った集客キャンペーンには多額の資金が必要になる。すでにロンドンでは盛んに行われるようになっているが、そした競合他社と対照的にJeffyは、サービス開始前ながら資金が足りていないように見える。

「資金不足だとは思っていません」とシャマロフ氏は反論する。「資金提供者の希薄化を考慮し、また実現困難な約束でチャンスを逃すよりは一歩ずつ着実に会社を築いていくほうが効率的だとの考えからすれば、私たちは計画どおりの資金を調達しています」。

「多額の資金を調達し、企業買収と拡張に過剰なまでの支出を行えば、自動的にこの業界で大成功できるという考えには、必ずしも同意しません。ごく限定的な地域を対象とするビジネスモデルでは、あらゆるものが地域限定のアプローチとなります。そのため私たちは、グローバルな展開ではなく、1つの市場の中での拡大に重点を置いています」。

カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:Jiffyフードデリバリーイギリス資金調達

画像クレジット:Jiffy

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(文:Steve O’Hear、翻訳:金井哲夫)

企業のカード決済を支援するSumUpが977億円を調達して成長を加速

ロンドンを拠点とするスタートアップSumUp(サムアップ)は、物理的なカードリーダー、オンラインでの支払い、請求書払いなどに対するカード決済の提供によって、企業の収益向上を支援しているが、同時にSumUp自身も大きくパワーアップさせている。英国時間3月16日、同社は7億5000万ユーロ(約976億5000万円)の資金調達を発表した。新しい資金は事業の継続的な拡大に投入されるが、具体的には買収や、欧州、ラテンアメリカ、アジアの新市場への参入、一連の企業向けサービスの構築に利用される。同社はすでに33カ国で活動していて(最新のところではチリ、コロンビア、ルーマニア)、約300万社の企業を顧客として抱えている。

資金を提供しているのはGoldman Sachs、 Temasek、Bain Capital Credit、Crestline、そしてOaktree Capital Managementが管理するファンドだ。SumUpに確認したところ、今回の資金調達は株式ではなく融資のかたちで行われたため、公開できる正式な評価額はない。これまでのところ、この地域のスタートアップ企業(つまり、未上場のハイテク企業)にとって、融資であるかどうかの形式を問わず、最大の資金調達の1つとなっている。

注目すべきは、Goldman SachsとBain Capitalが2019年にも同社のために3億7100万ドル(約405億3000万円)の融資ラウンドを主導したことだ。

SumUpの共同創業者の1人であるMarc-Alexander Christ(マーク=アレクサンダー・クライスト)氏(同社は「CEO」のような正式な肩書きは使用していないようだ)は、同社が株式ではなく融資を選択したのは、それが可能だったからだと述べている。

彼は「借金をすることができるのは、私たちに非常に安定したキャッシュフローがあるからです」とインタビューに答えている。融資という手段は、より大きく成長していて、特に多くの現金を生み出している企業が採用することの多い手段だ。希釈化しないということは、資本コストも低くなるということである。

この会社は、いわゆるSquare(スクエア)クローンの1つとして2012年にスタートした企業だ。そうした米国内外で設立された「クローン」たちは、携帯電話やタブレットに取り付ける小型のカード決済ドングルを中心にサービスを提供しており、それまでコストがかかりすぎるとか、複雑すぎるといった理由でカード決済を採用してこなかった企業や、銀行が提供する高額な代替手段を使っていた企業たちに訴求してきた。

SquareやiZettle(アイゼットル、後にPayPalに買収された)などの同業他社と同様に、SumUpは時が経つにつれて、オンライン取引、請求書作成、ギフトカード、より幅広いPOSソリューションなど、ビジネス向けの他のカードや決済関連サービスにも手を広げて行った。

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また同社は、この分野での統合者としての顔も見せ始めている。2016年には、より大きな競合他社であるRocket Internet(ロケット・インターネット)傘下のPayleven(ペイレブン)を買収したことで、幅広い市場への進出が後押しされている。ここ数年にわたって、同社は数多くのスタートアップを買収してきたが、たとえば最近では、リトアニアでビジネス向けのモバイルバンキングプラットフォームを提供するPaysolut(ペイソルート)や、より大きな会場でのPOS展開を目的としたGoodtill(グッドティル)やTiller(ティラー)などを買収している。

こうした取引は、SumUpの製品拡大戦略への取り組みも物語っている。同社のビジネスモデルは、主にプラットフォーム上で行われる取引から手数料を徴収することを前提としている。そのため現在のところ、同社は企業向けのサービスを充実させ、その取引の割合の拡大というの戦略をとっている。消費者向けの金融サービス拡大ではない。

これは、Square Cash(スクエア・キャッシュ)によってこれまでに700万人以上の消費者を獲得したSquareや、消費者向けサービスを直接には開始しなかったものの、消費者向けデジタルウォレットの最大手であるPayPal(ペイパル)に買収されたiZettle(アイゼットル)などとは対照的だ。

また、SumUpは、他の2社が積極的に取り組んでいる仮想通貨にも関心がない。

クライスト氏は「Bitcoin(ビットコイン)投資についていえば、Squareは最も容易な入門体験手段となりました」という。「でもそれは、主にお客さま獲得のためのツールの1つなのです。彼らはBitcoinである程度のお金を稼いではいますが、それほど多くはありません。お客様にとって価値のあるものではないので、私たちがすぐにそこに手を出すことはありません。ユーザーの方々はアカウントが気になってログインするだけで、他のことは何もなさらないのです」。

こうした姿勢は、多くの取引がオンラインに移行し現金が忘れられていく流れの中で、同社の着実な成長を助けた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが引き起こしたこの2つの大きな流れは、多くの国で商店の閉店を余儀なくし、人びとに対面での購買を控えさせ、コミュニティへの感染を抑制するために現金使用を控えるようになったからだ。また同社の姿勢は今回の資金調達にも役立った。

Bain Capital Credit のTom Maughan(トム・モーガン)氏は声明の中で「過去2年間にSumUpが遂げた、目覚ましい発展を知っている私たちは、こうしてSumUpを再び支援できることを誇りに思っています。SumUpが、想像し得る限り最も困難な経済状況の中で、世界中の中小企業のために行っている、取引を継続し繁栄するための支援に、大きな賞賛を捧げます」と語っている。「今回、SumUpへの投資額を倍増させたのは、同社の現在の状況と強い将来性への信頼を示しています」。

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タグ:SumUp資金調達イギリス

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)

英国のチャレンジャーバンクStarlingが約4.4億円を調達、評価額は2063億円に

小規模で動きの速いテック系銀行スタートアップのチャレンジャーバンクに、多額の資金注入が続いている。強気の投資家たちが、そうしたチャレンジャーバンクには大手のライバル銀行から顧客を引きつけるチャンスがあると考えているからだ。その最新の動きとして、英国に拠点を置くStarling(スターリング)が、11億ポンド(約1653億7000万円)の事前評価額で、2億7200万ポンド(約408億9000万円)を調達したことを発表した。

このシリーズDラウンドによって、同社の事後評価額は13億7200万ポンド(約2063億円)となった。

旧来の銀行だけでなく、Monzo(モンゾ)やRevolut(リボルト)のような他のチャレンジャーバンクとも競合しているStarlingは、調達した資金を成長の継続のために使うと述べている。Starlingはすでに利益を出している。米国時間3月8日に投稿された最新の財務書類では、Starlingは2021年1月の収益が1年前に比べて400%増加した1200万ポンド(約18億円)だったと報告している。これは1年分に換算すると1億4500万ポンド(約218億2000万円)となる。4カ月連続で営業利益を計上し、1カ月あたりの純利益は現在150万ポンド(約2億3000万円)を超えている。

2017年に設立されたStarlingは、現在200万以上の口座を保持しており、その中にはビジネスアカウントも30万口座含まれている。これらの口座のうち、どれくらいの数がアクティブかははっきりしない。Starlingによれば、上の数字は開設された口座数だ。貸出残高は20億ポンド(約3010億円)を超え、預金残高は54億ポンド(約8126億円)となっている。

Starlingは、調達した資金を、英国での融資業務の拡大、欧州の他の地域への拡大、戦略的買収のために使用する予定だと述べている。

Starlingの創業者でCEOのAnne Boden(アン・ボーデン)氏は声明の中で「デジタルバンキングは転換点に達しました」と語る。「今やお客様は、これまでの銀行に代わるより公平で、よりスマートで、より人間的な代替手段を期待しています。それこそが、成長を続け新しいプロダクトやサービスを加える私たちが、ご提供しているものなのです。新しい投資家のみなさまは、次の成長段階に入る当社に豊富なご経験をもたらして下さいますし、既存の支援者のみなさまの継続的なご支援は、多大な信頼をお寄せ頂いている証拠です」。

今回のラウンドはFidelity Management & Research Companyが主導し、そこにQatar Investment Authority (QIA)、310億ポンド(約4兆6650億円)規模のRailways Pension Schemeの投資マネージャーであるRPMI Railpen (Railpen)、国際投資企業のMillennium Managementが参加している。またこのラウンドは私たちが11月に報告した少なくとも2億ポンド(約300億円)の調達に続いて行われた。

今回の資金調達は、消費者バンキングにとって非常に重要な時期に行われた。Starlingが活動している市場である英国では、ここ数年の傾向として、オンラインバンキングやモバイルバンキングへの移行が徐々に進んでいたが、それらの傾向が、新型コロナウイルス(COVID-19)の拡大を抑えるためのロックダウンや強制的なソーシャルディスタンスによって急速に加速した。

チャレンジャー(ネオ)バンクは、進化している消費者行動の中にあって、最大の勝者となっている。チャレンジャーバンクたちは、バンキングインフラプロバイダー(Rapyd、Plaid、Mambu、CurrencyCloudといった企業が含まれるまた別のスタートアップカテゴリー)から、APIを介してホワイトラベルサービスとして提供される手段を利用し、引き出しや預金などの基本的なサービスを提供するが、通常はその柔軟性はかなり高く、追加の貯蓄や財務のヒント、顧客への貯蓄サービスなどを、デジタルプラットフォーム上で提供している。

旧来の大手銀行たちは、こうしたイノベーションに追いつこうと躍起に努力してきたが、とりわけ過去10年間の銀行危機によって、既存銀行が世間で思われていたほど強力でも盤石でもなかったことが顕になったことによって、新しい世代のユーザーたちはそのブランドや権威への信頼感を弱めている。

またその大きな市場イメージによって、多くのネオバンクの急増も予想されている、つまりStarlingは旧来の銀行以外とも競合していくということになる。そうした競合相手には、Monese(マネーズ)、Revolut、Tide(タイド)、Atom(アトム)、Monzoなどがあるが、特に最後の企業はStarlingの元CTOによって設立された、手強い競争相手だ。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Starlingイギリスチャレンジャーバンク資金調達

画像クレジット:Starling

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)

10分で食料品を配達するDijaがロンドンでダークストアを正式立ち上げ

ロンドン拠点のグローサリー配達スタートアップDija(ディジャ)が現地時間3月4日、正式に事業を開始し、2020年12月のシードファンディングで2000万ポンド(約30億円)を調達したことを認めた。TechCrunchが最初に報じたこのラウンドの一部は2020年11月にクローズした。

関連記事:超迅速に食品配達を実現する英国デリバリースタートアップDijaが21億円を調達間近か

同社を支援したのはBlossom Capital、Creandum、Index Venturesで、Dijaはどうやら立ち上げ前に資金調達できたようだ。実際、急成長中の「ダーク」グローサリーストア業界における欧州の初期リーダーになるための競争がヒートアップする中で、ロンドンのベンチャーキャピタルコミュニティの間ではDijaが再び資金調達に動いているとの噂がすでに駆け巡っていて、とある情報筋はその額が最大1億ポンド(約150億円)にのぼり得るとしている。

画像クレジット:Dija

欧州では過去数カ月、多くのスタートアップがグローサリーや他のコンビニ商品を注文から10〜15分で届けるとうたってサービスを立ち上げた。そうしたスタートアップは超ローカルの配達に特化した自前のフルフィルメントセンター、いわゆる「ダークストア」を持ち、そして独自に配達要員を採用している。このフルスタックあるいは垂直アプローチ、そしてそれがもたらす見通しは、ユニットエコノミクスを機能させるために十分なサプライチェーンとロジスティクスを効果的に生み出すはずだ。ただし、それはまだ証明されていない。

今週初め、ベルリン拠点のFlinkは株式と負債によるシードファンディングで5200万ドル(約56億円)を調達したと発表した。同社は株式と負債の割合を明らかにしなかったが、とある情報筋はおおよそ半々だと筆者に語った。

この業界では他に、ベルリンのGorillas、ロンドンのJiffyとWeezy、フランスのCajooなどが事業展開していて、いずれも生鮮食品とグローサリーにフォーカスしていると主張する。また、まだステルスモードながら、米国のユニコーンgoPuffと同様、よりマージンが大きいコンビニ商品にフォーカスしているZappもある。蛇足になるが、goPuffは欧州進出も狙っていて、ミニgoPuffとあだ名がつけられている英国のFancyの買収あるいは出資を現在協議している。

関連記事:注文から15分でグローサリーを配達するCajooがパリでサービス開始

話をDijaに戻そう。Deliverooで上級職として何年も働いたAlberto Menolascina(アルベルト・メノラシナ)氏とYusuf Saban(ユーセフ・サバン)氏によって設立されたDijaはロンドン中心部に店舗を開設し、10分でグローサリーやコンビニ商品を買い物できるとうたう。サウスケンジントン、フラム、ハックニーにハブを持ち、ロンドン中心部とゾーン2をカバーする20のハブを2021年夏までに新設する計画だと話す。各ハブは2000種の商品を扱い、これらは「希望小売価格」で販売される、としている。一律の配達料金1.99ポンド(約298円)が注文ごとに課される。

「当社が照準を絞っているのは、世界12兆ドル(約1300兆円)の産業を独占している大手スーパーマーケットチェーンです」とDijaのメノラシナ氏は筆者が競合他社について尋ねた時に語った。「そうした競合他社から当社を際立たせているのは、スピードとテクノロジーに加えて当社のチームです。私自身、そしてユーセフを含め、当社のチームは全員この成長中の破壊的な業界での経験を持っています。ユーセフはDeliverooをゼロから立ち上げて成長させました」。

メノラシナ氏は大手テイクアウトデリバリー大企業で企業戦略・開発ディレクターを務め、その前にもいくつかの役職を歴任した。同氏はまた、Instacartスタイルのグローサリーデリバリー企業Everliをイタリアで共同創業し、Just Eatでも働いた。サバン氏はDeliverooの元CEO首席補佐で、投資銀行Morgan Stanleyでも働いた。

ソフトローンチの間、Dijaの典型的な顧客はアプリを使って週に1度食品を購入した。またDijaはかなり急ぎの買い物や深夜の渇望といった他の需要にも応えてきた、とメノラシナ氏は話す。「Dijaが解決を手伝っている課題はユニバーサルで、みんなが利用できるようにDijaを設立しました。だからこそ当社は小売店の価格で商品を提供し、10分で届けます。価値と利便性を組み合わせているのです。一例として、在宅ワークやホームスクーリングで時間のやりくりを迫られている親にとってDijaはすでに大事なサービスとなっています」。

この業界に何百万ドル(数億円)という資金が注がれているにもかかわらず、筆者がプライベートで話した多くのVCは生鮮食品の近距離即配がうまく機能することについて懐疑的だ。生鮮食品は悪くなってしまうためマージンは少なく、買い物量は配達のコストをカバーするほど十分なものではない、という考えだ。

「他の企業にもあてはまるかもしれませんが、Dijaのチームのほとんどがこの業界で経験があり、購入や商品化計画からデータ、マーケティングまで取り組んでいることを正確に理解しています」とメノラシナ氏は話す。「また、当社がフルスタックモデルをとっていて他社とマージンを分け合っていないことも特筆すべきことです。買い物量の平均に関しては、顧客のニーズによって異なります。Dijaを通じて買い物すべてを行う顧客もいれば、オムツやバッテリーなど緊急の時に当社を利用する顧客もいます」。

関連記事:ローカル配送のgoPuffが同業の英Fancy買収に向け協議中

価格については、他の小売業者と同様、Dijaは卸売価格で商品を購入し、希望小売価格で販売していると話す。「今後当社は戦略的提携、サプライチェーン最適化、テクノロジーの向上などを含め、どのようにさらに売上をあげるかについて明確なロードマップを持っています」と同氏は付け加えた。

画像クレジット:Dija

一方でアプリ立ち上げに先駆けてDijaが、ポテトチップスや処方箋なしに買える医薬品などコンビニで取り扱われている商品の販売などを含め、テイクアウトマーケットプレイスDeliverooで数多くの実験を行ったこともTechCrunchは把握している。もしあなたが「Baby & Me Pharmacy」でトイレ用品を注文したり「Valentine’s Vows」でチョコレート菓子を購入したりしたことがあるなら、おそらく無意識のうちにDijaでも買い物しているはずだ。それらのブランド、そしてその他の多くのブランドもサウスケンジントンの同じ住所から配達されている。

メノラシナ氏はDeliverooでのテストを認め「ピック&パックをきちんとテストすることなく直接消費者に向き合うことは大きなリスクです」と数週間前にWhatsAppメッセージで筆者に語った。「当社は何を売るべきか、どのように補充、ピック&パック、配達するかを純粋に学ぶために自由に使えるバーチャルブランドを作りました」。

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(文:Steve O’Hear、翻訳:Nariko Mizoguchi

英競争当局がアップルのApp Store独禁法調査を開始

Apple(アップル)はiOS App Storeについて欧州で新たな独占禁止法の調査に直面している。

英国の競争・市場庁(CMA)は現地時間3月4日、デジタル部門での不平等な条件とその結果についてデベロッパーからの数多くの苦情を受けて調査を開始した、と発表した

「CMAの調査は、Appleが英国においてAppleデバイスでのアプリ配信で支配的な地位にあったかどうかを考慮します。もしそうであるなら、Appleが不公正あるいは反競争の条件をApp Storeを使っているデベロッパーに課し、結果的にユーザーが選択肢を失ったりアプリやアドオンに高い料金を払うことになったのかが焦点となります」とプレスリリースで述べられている。

「これは調査の始まりに過ぎず、Appleが違反しているかどうかまだ決定は下されていません」と付け加えた。

声明の中で、CMAのトップAndrea Coscelli(アンドリア・コシェリ)氏は次のように述べた。「何百万という人が天気をチェックしたり、ゲームしたりあるいは持ち帰りを注文したりと毎日アプリを利用しています。Appleが不公正だったり競争や選択を阻害するような条件を課すのに市場での地位を使っているという苦情について、これは結果として顧客がアプリを購入したり使ったるする際に不利益を被っているかもしれず、注意深く精査します」。

Appleの広報担当は、CMAの調査開始に対し次のような声明をTechCrunchに出している。

当社は顧客が好きなアプリをダウンロードできる、そしてデベロッパーがすばらしい事業機会を得られる、安全で信頼できる場所としてApp Storeを作りました。英国だけでもiOSアプリの経済は数十万人の雇用を支えており、すばらしいアイデアを持っているデベロッパーは世界中のAppleの顧客にリーチできます。

あらゆるすばらしいアイデアが溢れている、活気があり競争が展開されているマーケットを当社は信じています。App Storeはアプリデベロッパーにとって成功のエンジンであり続けました。これは部分的には顧客をマルウェアから守り、同意なしの顧客データ収集の横行を防ぐために当社が定めている厳格な基準によるものです。基準はすべてのデベロッパーに公正平等に適用されます。当社のプライバシー、セキュリティ、コンテンツに関するガイドラインがいかにApp Storeを消費者とデベロッパーの両方にとって信頼できるマーケットプレイスにしてきたかを説明するために、英国の競争・市場庁に協力することを楽しみにしております。

EUは音楽ストリーミングサービスSpotify(スポティファイ)による2019年の苦情申し立てを受けて、すでにAppleの事業の多くの要素について独禁法調査を行っている。EUは2020年夏にApp StoreとApple Payについての調査を発表していた。

米国の議員もまたテック大企業に対する主要な独禁法調査の一環としてAppleを問いただしてきた。アリゾナ州ではちょうど、AppleとGoogle(グーグル)にそれぞれのスマホストアでサードパーティの決済オプションを認めることを強制する目的の法案に進展があった

一方、EUのAppleに対する調査はまだ継続中だ。ビデオゲーム開発のEpic Games(エピックゲームズ)は、Appleがデベロッパーに課している不平等な「税」と呼ぶものについてAppleと激しい論争を展開してきたが、2020年2月に欧州委員会に苦情を申し立ててEUの調査に加わろうとした。

関連記事:フォートナイトのEpic Games創設者、Appleとの闘争を公民権運動に例えて語る

Epicは以前、同様の苦情を英国でも申し立てた。なので同社はCMAが引用した不満のあるデベロッパーの1社だ。

英国はEUから離脱したことから、CMAは英国の当局として重要な役割を担うようだ。ブレグジット後、コミッションとして同じ問題を自由に調査できる(一方、EUの規則では各国の当局は重複を避けることが求められる)。

英国がEUの当局よりすばやく動くことができれば、テック大企業に適用する基準を形成する機会を得るかもしれない(CMAは3月4日「グローバルな懸念」と表現したものに取り組むためにEUや他の当局と「引き続き緊密に連携を取る」と述べた)。

また英国は2020年秋に、テック大企業のマーケット支配力に取り組むことを目的とする、競争促進の規制体制を確立する計画を発表した。これはCMAが実施したオンラインプラットフォームとデジタル広告についての主要な市場調査を受けてのものだ。CMAは2020年12月に規制体制の確立を政府に提言している

「現在の執行力を補うことになる提言についてCMAは政府と協業している一方で、こうした分野における競争を保護するために既存の力を引き続きフル活用します」とCMAは述べた。

「我々の継続中のデジタルマーケット調査ではすでに懸念すべきトレンドがいくつか見つかっています」とコシェリ氏は付け加えた。「もしテック大企業による反競争のプラクティスが野放しにされれば、事業者そして消費者が実害に苦しむことになります。だからこそ、我々は新たな機関Digital Markets Unitを設置し、必要に応じた新たな調査の立ち上げで前進しています」。

テック大企業を狙った最近の他の動きでは、CMAはGoogleのサードパーティ追跡のクッキーを廃止する計画について調査を開始した。またUberが予定している英国拠点のSaaSメーカーAutocabの買収についても調査を始めた。

関連記事:UberのAutocab買収を英国の競争監視当局が調査

CMAは2020年のオンライン広告マーケットについての最終レポートの中で、GoogleとFacebook(フェイスブック)のマーケット支配力はあまりにも大きく「広範で自己強化」の懸念と要約したものを解決するために、新しい規制アプローチと専従の監視機関が必要との結論を出した。間もなく立ち上がるDigital Markets Unitはテック大企業に対する英国の当局対応の主要部分を担う。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Appleイギリス独占禁止法App StoreEU

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

欧州全域への拡大を目指す英国発の花束ギフトサービスBloom & Wildが約106億円を調達

Bloom & Wild(ブルーム・アンド・ワイルド)は、花の注文と配達という非常に伝統的なビジネスで新しいオンラインのアプローチを採用するロンドン発のスタートアップだ。2020年好業績を記録した同社が米国時間1月18日、さらなるチャンスに大きく賭けるための大型資金調達ラウンドを発表した。

Bloom & Wildは今回、シリーズDで7500万ポンド(約106億円)を調達した。欧州全域へと拡大を続けるために使う計画だ(現在、英国に加えてアイルランド、フランス、ドイツ、オーストリアで営業している)。また、テクノロジーを活用したビジネスの構築も継続しており、新しい人材を雇用して、さらに多くのアイデアや、スーパーマーケット大手のSainsbury’s(センズベリーズ)と組んだ実店舗の開拓などの新たなパートナーシップを構想している。

Bloom & Wildの共同創業者兼CEOであるAron Gelbard(アロン・ゲルバード)氏はメールでのインタビューで次のように述べている。「これまでの9カ月ほど、多くの人にとってどれほど厳しい状況だったかを考えると、当社は事業を続けてくることができて非常に幸運だったと思っています。友達や家族と会えないでいるときに、お客様が大切な人とつながっていられるようお手伝いができて、本当にうれしく、また光栄です。確かに、当社が営業している各国で全国規模の規制が実施された時期に、売り上げは大きく伸びました。しかしそれだけでなく、規制が比較的緩和された時期になっても堅調な売り上げが続いています。新しいお客様を確保し、初めて当社のサービスを通じて花を受け取った人の多くもお客様に変えてきました」。

今回の資金調達はGeneral Catalyst(ゼネラル・カタリスト)がリードしており、Index Ventures(インデックス・ベンチャーズ)、Novator(ノベーター)、Latitude Ventures(ラチチュード・ベンチャーズ)、D4 Ventures(D4ベンチャーズ、Hanzade Doganが設立)や、Burda Principal Investments(ブルダ・プリンシパル・インベストメンツ)など、以前からの投資会社も参加している。

Bloom & Wildは評価額を公表していないが、Sky News(スカイ・ニュース)で報じられていた噂によると、情報筋の話では評価額は約5億ドル(約518億円)とのことだ。

いずれにしても、このスタートアップの資金調達ラウンドは、非常に好調な成長を受けて実施されたものだ。Bloom & Wildの収益は2020年に160パーセント増加し、その期間に取り扱った花の配達件数は約400万件にのぼった。これは、創業から2019年までに取り扱った配達の累計件数よりも多いという。これが力となって同社は黒字に転じ、2020年には初めて利益を計上した。

PitchBook(ピッチブック)によると、2014年創業のBloom & Wildが今回のラウンド前までに調達した資金は合計3500万ドル(約36億2000万円)程度だった。ピッチブックは、2018年に行われた前回のラウンドの直後、Bloom & Wildの資金調達前の企業価値をちょうど8800万ドル(約91億1000万円)と推定している。そのことを考えると、今回の5億ドル(約518億円)は大躍進である。

とはいえ「こんなときに、どうして花のことなんて考えられるのか。今は世界的なパンデミックの真っ最中じゃないか。何てことだ」と考える人がいるかもしれない。

確かにそのどおりだ。しかし、他の人のためであれ、ただ自分のためであれ、花やそれに類する贈り物には特別なポジションがあるように思う。それは、困難なときにこそ感謝される。

我々が実際に目にしてきたように、人々の関心は予備のトイレットペーパーやフェイスマスク、その他の日用品の購入から、絶対に必要というわけではない多くの嗜好品(手の込んだ食べ物や飲み物から、洗練された家具に至るまで)のオンラインショッピングへとすぐに移っていった。自宅で非常に長い時間を過ごしているからだ。しかし、花はご褒美や贈り物の殿堂で独自の位置を占めていると筆者は思う。

人と人とが互いに直に触れ合う機会をはなはだしく奪い、健康を脅かすパンデミックの最中にあって、人から花をもらうことは新たな、時にはより深い意味を持ち得る。花の色、匂い、サラサラと擦れ合う音といった、物理的な存在感は、我々が恋しく感じている人間どうしのふれあいの代わりになり得るのだ。

ゲルバード氏は次のように語る。「この困難な時期に人々がつながりを保てるよう、自分たちの役割を果たすことができて光栄です。そして、私は成長しているチームを誇りに思います。業務を拡大しつつも、1つ1つの注文に、当社ならではの思いと気遣いをこめて対応しているからです。今回General CatalystとIndexから得た支援により、新たな力を得て2021年のスタートを切った当社は、世界をリードする、また最も愛されるフラワーカンパニーになるというビジョンを今後も追求していきます」。

誰かのために、あるいは自分のために、花を注文したことがあるなら、そうするための選択肢があふれるほど存在していることを実感しているだろう。British Florist Association(ブリティッシュ・フローリスト・アソシエーション)によれば、英国だけでも約7500件のフローリストがあるが、これには、幾千ものオンライン専門の小売業者(Bloom & Wildのような)や、それらの業者をつないでInterflora(インターフローラ)やFTDのような広範な配達網にする多くのサービスは含まれていない。

FTDはこの分野でサービスを整備する役割を果たしてきた。FTDは2018年に、BloomThat(ブルームザット)という米国のフラワーデリバリースタートアップを買収した(ブルームザットは自らを花のUber(ウーバー)になぞらえている)。

花のように実際に触れられる物は対面販売で買うことを好む人もまだいるが、ここ数年で多くの人はオンラインに移行していった。誰かに届けるために花を注文する人は特にそうである。そのため、いくつかの点で、オンライン専門のフラワービジネスを始めて拡大することはずっと容易になっている。

Bloom & Wildは、生花を花束にして販売するアプローチを取っている。また、外箱を、英国の典型的な郵便物の投入口(例えば玄関のドアの投入口など)に入るデザインにすることにより、小さな花束であれば配達が非常に容易になる選択肢を用意している。

また、Bloom & Wildが売る花束は、インスタ映えするデザインで、Instagram(約25万の花の写真が投稿されている)で花束を探す人を対象に考案されており、我々が直面している困難な状況に訴求する説明が添えられている(例えば、上の写真の花束は「The Ezra(エズラ)」と名づけられており、その説明にはこうある。「鮮やかなオレンジ色と柔らかい薄紫色のこの組み合わせを見ると、太陽の下で過ごした休日と、その休日を一緒に楽しんだ人のことを思い出しますね。旅仲間が恋しいですか?この花束を贈って、その人の1日を一瞬で明るくしてあげましょう」)。

オフィス用の花を注文することも可能だ(もっとも、オンラインで注文する他のD2Cプロダクトほど頻繁に注文が入ることはないだろう)。また、サブスクサービスも利用できる。Bloom & Wildは顧客とその好みを認識すると、サービス対象のどの花をどのように贈るかを顧客に知らせる。同社はそのうち、花以外の商品も扱うようになった。今シーズンはクリスマスツリーを販売した。また、花束と一緒に贈れるギフトもいくつか用意しており、徐々に実店舗も展開し始めている。

しかし何よりも、Bloom & Wildに対する関心が急上昇している理由は、サービスの効率やターゲティングだけではなく、「顧客の好みにぴったり合う花を届ける」という的確なプロダクトを提供していることにある。

ゲルバード氏は、Bloom & Wildの「サプライチェーンは生花業界で最もダイレクトで、花は生産者から直接調達しています。そのため、お客様は優れた価値を手にし、花を長い間楽しめます。つぼみの状態で届き、通常は10日かそれ以上花が咲いています」と説明する。
同氏はまた、アプリやウェブサイトですばやく簡単に注文できるようにする「カスタムメイドのテクノロジーとデータサイエンスプラットフォーム」を構築したとも述べている。最後に、「広告連動型検索に依存するコモディティ化された従来型の業界で、当社はプロダクトとブランドの展開に関する革新的なアプローチを採用しました」と述べ、その一例として「letterbox flower(郵便受けに入る花束)」の発明に言及した。

General CatalystのAdam Valkin(アダム・バルキン)代表取締役は次のように述べる。「Bloom & Wildは、花を贈る伝統的な行動に予測分析とテクノロジーを取り入れて、より新鮮で運送期間の短い花束を大切な人に届けられるようにしました。アロンとそのチームに関して最も印象的なのは、創業以来、2つの取り組みを同時に進めてきたことです。彼らは、フラワーデリバリーのサプライチェーンが抱える複雑な課題に業界トップの効率性で対処すると同時に、ぜひまた利用したいと消費者に感じさせる顧客体験を、心を動かす方法で築いています」。

さらに、Index Venturesのパートナー、Martin Mignot(マーチン・ミニョ)氏はこう付け加えた。「Bloom & Wildのチームは、フラワーデリバリーとギフトのあらゆる側面を再発明しました。あらゆる段階で現状に満足せずに挑戦しています。アロンとそのチームによるたゆまぬ努力により、同社は消費者の喜ぶ体験を作り出し、欧州で最も急速に成長するフラワー企業になりました。我々はパートナーとして、同社が世界的な企業に成長することを楽しみにしています」。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:TechCrunch Japan)

互いの顔がパズルで隠されたところから始まるデートアプリを開発したJigsawが、約4億円の資金を調達

「反表面的」なデーティング(出会い系)アプリのJigsaw(ジグソー)が、270万ポンド(約4億円)のシード資金を調達し、米国での事業拡大に向け一歩先んじた。今回のラウンドは、オンライン・デーティング企業の潜在需要発掘を行うRelationship Corp(リレーションシップ・コープ)という会社が先導し、米国と英国の「主に」テクノロジー部門に投資するエンジェル投資家からの支援を受けている。

社名が示すように、Jigsawは出会いの化学変化を求めて他の独身者の写真をスワイプするという業務処理に、「表面的な要素を抑えた」体験を提供することで、少々謎めいた楽しみを追加する。

彼らの(特許を取得した)反表面的な仕掛けは、最初は策略じみているように見え、赤面してしまうかもしれない。これは文字通り、ユーザーの顔の上にデジタルジグソーパズルを重ね合わせ、対話を重ねるごとに徐々にピースが取り除かれていき、アプリ内であらかじめ設定された量のエンゲージメントを達成すると初めて顔が現れるというものだ。

アプリのFAQによると、写真にデジタルフィルターの類を使用することは禁止されており、「本当の」自撮り写真のみとなっている。そのため、可愛い猫耳などを追加したりすることはできない。

同社はまだいくつかのトリックを袖の下に隠しているが、将来の計画はその時が来るまで公開したくないようだ(そのアプリに例えて言うならば、今のところ同社の製品のロードマップは半分完成したジグソーパズルというところか)。

Jigsawは英国のスタートアップ企業で、最高経営責任者を務めるAlex Durrant(アレックス・デュラント)氏と、最高個人情報責任者のMax Adamski(マックス・アダムスキー)氏が、2016年に共同で創設した。彼らは当時、大学生の友人同士だった。数多くのデーティングアプリがあまりにも表面的であるため、人々が不満を抱いていることを発見した彼らは、2018年に仕事を辞めてプロジェクトに専念。2019年にパズルで顔を覆ったデーティングアプリを発表し、昨年11月には米国に進出した。

Jigsawは現時点で、これら2つの市場で約15万人以上の登録ユーザーを抱えており、米国では5万人が登録している。新しい資金が潤沢にある今、彼らは大西洋を越えて本格的な事業展開に乗り出そうとしている。

デュラント氏によると、チームは今後の6カ月間に米国で50万人のユーザーを獲得することを目標にしているとのこと。米国のデーティングアプリでは、表面的なスワイプが少ない傾向にあるため、Jigsawにとって参入の勝算があると彼らは考えている。

「私たちは頭がおかしいわけではないので、人の顔にパズルを重ねたほうがよく見えると思っているわけではありません。パズルは表面的なデーティング業界に向けて私たちが立てた中指です」と、デュラント氏は言う。「パズルはあなたが仰るように、ユーザーが外見を超えてお互いを見られるように、そして、より有意義で持続的な相互作用を推進するために存在しています」。

現在のところ、Jigsawの顔を覆う仕掛けは、16個のピースで構成されたパズルによるものだ。全ての写真は、まず「こっそり覗かれるように」1つのピースが取り外されるところから始まる。そして誰かがその写真を気に入ると(マッチングが成り立つと)もう1個のピースが取り除かれるので、2つのピースが開いた状態でチャットが始まることになる。

さらにお互いがメッセージを交換するごとにパズルのピースが取り除かれていき、最終的には全てのピースが消えて顔が完全に明らかになる。うまくいけば、その時点で会話が途切れることもないだろう。

「お互いに6つ以上のメッセージ(合計12個)をかわすことが、有意義な会話には最低限必要であると我々は考えています」と、デュラント氏は言う。「そのため、現在のジグソーパズルは、7回のメッセージが交換されると(合計14個のピースが取り除かれると)、その下にある顔が完全に見えるようになっています。この数字はテストによって決められたもので、今のところユーザーにとってのスイートスポットとなっています」。

デーティングアプリのユーザーが、心ないスワイプをせず、より多くのチャットをかわすように、顔のビジュアルを覆うというコンセプトは、Jigsaw独自のものではない。「デーティングアプリ疲れ」を軽減するために「公開を遅らせる」仕掛けを施したアプリはたくさんある。別のアプリであるINYNは、プロフィールが表示される速さを制限している。

また、チャットをするまでユーザーの写真をぼかしてしまうアプリには「Taffy(タフィ)」がある。イスラム教のマッチングアプリ「Veil(ベール)」では、「デジタルベール」機能(不透明フィルター)が用意されており、相互にマッチするまで男女ともすべてのプロフィール写真に適用される。

Willow(ウィロー)」のような他の「反表面的」なデーティングアプリは、Q&A形式のアプローチを試みており、互いの質問に答えていくと、さらに多くの写真が見られるようになっている。このように、全てが明らかになるまで時間が掛かるように作られたアプリは数多い。

しかし、Jigsawはこのような「ゆっくりと明らかにする」形式に、おそらく最も視覚的にわかりやすい(そしてゲーム的な)仕掛けを採用した。それは直ぐに明らかになるものの、しかし「恋は盲目」になりがちな他のデーティングアプリの平均に比べれば、ゆっくりと明らかになることは確かだ。

我々が確認したところによると、そのシード投資はユーザーを買うためでもないようだ。

Relationship Corp. は、デーティングアプリにユーザー獲得/トラフィック生成サービスを提供しており、投資先にもそれらのアプリが含まれる。だが、デュラント氏によれば、Jigsawの場合はストレートなエクイティ投資であるという。つまり、その成長する能力に自信を持っているようだ。

「彼らは非常に地味だが、業界ではよく知られています」と、デュラント氏はシード投資を先導した投資家について語る。「同社のCEOであるSteve Happas(スティーブ・ハパス)氏は、以前ProfessionalMatchを起ち上げた人物で、(投資の一環として)当社の諮問委員会のメンバーでもあります。私たちには彼らと協力してユーザーを獲得する選択肢もありましたが、そうではなく、彼らは私たちの内部チームを顧問としてサポートしてくれています」。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

再生可能ジェット燃料LanzaJetが英国航空と提携、年間7500トン供給へ

再生可能ジェット燃料のスタートアップLanzaJet(ランザジェット)は、British Airways(ブリティッシュ・エアウェイズ、英国航空)に年間7500トンの燃料添加剤を供給することで同航空と契約をかわした。LanzaJetは長年、再生可能・合成燃料に取り組んでいるLanzaTech(ランザテック)のスピンオフだ。

今回の契約は英国企業とのものとしては2件目で、その前の2019年8月にLanzaJetは英国企業Velocysとも契約を結んでいる。また、LanzaJetにとって2つめのオフテイク契約(長期供給契約)だ。同社は全日本空輸(ANA)との提携も発表している。

契約を通じて英国航空は、額は非公開ながらLanzaJetのジョージアにある初の商業規模施設に投資する。両社によると、2022年末までにLanzaJetが製造した燃料がフライトに使われるようになる。

LanzaJetが数年内に英国航空のために米国に商業施設を設置するという広範な拡張に向けた取り組みの一環だ。

2021年後半にジョージアの施設の建設が始まる計画で、同施設では化学反応を使ってエタノールをジェット燃料添加剤に変える。

植物由来の燃料は、従来のジェット燃料に比べ温室効果ガスの排出を70%減らす。同社によると、これはガソリンあるいはディーゼルで走るクルマ2万7000台を毎年減らすのに相当する。

契約は、LanzaJetの親会社LanzaTechと米エネルギー省のパシフィックノースウェスト国立研究所が数年にもわたって努力した結果だ。

2020年6月にスピンオフしたLanzaJetは親会社LanzaTech、三井物産、Suncor Energy(サンカー・エナジー)などから投資を受けている。そしてLanzaJetが2025年までに大規模展開するという野心的なプログラムを視野に入れている現在、英国航空が他の戦略的投資家2社に加わる。LanzaJetは再生可能燃料のパイプラインを作る大規模プラント4カ所を立ち上げる計画だ。

「低コストで持続可能な燃料のオプションは航空部門の未来にとって重要です。廃棄物や残留物を化石燃料を使用しないSAF(持続可能な航空燃料)にリサイクルすることで、LanzaJetのプロセスは最もフレキシブルな原料溶液を大規模に提供します。英国航空は英政府とともに長らく廃棄物を燃料に変える取り組みを展開してきました」とLanzaJetのCEOであるJimmy Samartzis(ジミー・サマーティス)氏は述べた。「廃棄物ベースの燃料への適切なサポートにより、英国はLanzaJetプラントを商業展開する上で理想的なロケーションになります。これを実現するために英国航空ならびに英政府と引き続きやり取りすることを、そして首相のJet Zeroビジョンを現実のものとすべくサポートを続けることを楽しみにしています」。

LanzaJetの燃料は従来の灯油に最大50%混ぜて商業フライトに使用することが認められている。「航空マーケットが年間900億ガロンのジェット燃料を使っていることを考えると、その半分の450億ガロンの生産能力、そして最大ブレンドレベルに達することは大きな問題です」とLanzaTechのCEOであるJennifer Holmgren(ジェニファー・ホルムグレン)氏は電子メールで述べた。

ホルムグレン氏によると、LanzaJetのジョージア州にある製造施設はゼロウェイスト燃料を生産するためのものだ。英国航空は今後5年間、LanzaJetのバイオ精製所から毎年7500トンの持続可能航空燃料の提供を受ける。

提携は英国航空、Hangar 51(国際航空グループのアクセラレーター)、その他の間でのものだ。

バイオ燃料の取り組みに加え、英国航空は水素燃料企業ZeroAvia(ゼロアビア)のような企業とも協業している。ZeroAviaはAmazon(アマゾン)、Shell(シェル)、Breakthrough Energy Ventures(ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ)から出資を受けている。

「過去100年、我々は英国と世界を、世界と英国を結んできました。そして今後100年の成功を確かなものにするために、我々は持続可能な方法でそれを行わなければなりません」と英国航空CEOのSean Doyle(ショーン・ドイル)氏は述べた。

「持続可能な航空燃料の開発と商業展開の推進は航空産業の脱炭素化にとって重要であり、LanzaJetとの提携はネットゼロ(温室効果ガス排出ゼロ)に向けた英国航空の取り組みの前進を示しています」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:LanzaJet再生可能エネルギーBritish Airwaysイギリス

画像クレジット:Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

後払い販売(Buy-Now-Pay-Later)が英国で規制対象に

政府による審査の結果、英国の金融サービス規制当局はKlarna(クラーナ)、AfterPay(アフターペイ、英国内ではClearpay)などの企業によって普及した「buy now, pay later(バイ・ナウ・ペイ・レイター、後払い販売)」業界を規制するよう指示された。

業界への聞き取りは継続中であり、その後議会の日程が合い次第「buy now, pay later」規制法案が可決される見込みだ。

これによって英国の金融行動監視機構(FCA)は、無利息のbuy now, pay later契約の規制を厳格化することを求められる。たとえば企業は融資の前に包括的な支払い能力審査を行い、顧客が公正に扱われることの確認を「特に返済に苦しむ弱者」について要求される。これまでこの業界は、クレジットカードなどの利付商品に含まれていないために規制対象から外れており、消費者は問題が起きた時に頼る術がなかった。

「多くの消費者は無利息のbuy-now-pay-laterを信用販売の一種であると認識していないため、信用販売と同レベルの監視が適用されず、サービス提供者によるチェックも企業にとってのリスクに焦点を当てたものであり顧客にとって購入可能であるかどうかの視点がありませんでした」と英国財務省は語った。

FCAのChristopher Woolard(クリストファー・ウーラード)氏による審査報告では、信用調査の問題および売買契約者間における透明性の欠如が適切に指摘されている。「通常の取引は比較的少額ですが、買い手は複数のサービス提供者と契約することが可能であり、審査結果によると、信用照会期間や主要金融機関から見えない状態で1000ポンド(約14万3000円)程度の負債が容易に生じます」と財務省は指摘する。

さらに審査結果によると、英国における後払い販売市場は27億ポンド(約3885億円)に上り、パンデミックでオンラインショッピングがブームになって以来、500万人が利用しており、その多くはすでにその他の信用販売で支払いを滞納している。

これまで小売業者が提供する無利息後払い販売は、英国の信用に基づく金融商品から消費者を守る目的の規制の対象外だった。英国の金融問題活動家であるAlice Tapper(アリス・タッパー)氏は2020年6月に「#regulateBuyNowPayLater(BuyNowPayLaterを規制せよ)」キャンペーンを開始し、これは「規制がテック巨人に追いついていない典型例」だと以前。私に話している。

「消費者信用法は1970年に制定されたもので、アルゴリズムや瞬時の融資判断を想定していません」と彼女は説明した。「これは事実上消費者保護がゼロであることを意味しています。消費者は購入あるいは広告を見た時点でリスクに関する情報を与えられていません。債務回収や責任ある支出についの言及もありません。これは、若者や脆弱な消費者など信用商品を使った経験のない人たちにとって特に深刻です」。

一方、たとえばKlarnaは規制強化に反対ではないという姿勢を貫いている。もちろん悪魔は細部に宿っていて、まだ決着はついていない。「有意義なかたちで作られた良い規制は意味をなすと思っています」とCEO・共同ファウンダーのSebastian Siemiatkowski(セバスチャン・シェミアトコフスキ)氏は2020年私に話した。「私たちはどの点についても反対ではありません、それが市場にいる全プレーヤーに公平である限り」。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Klarnaイギリス

画像クレジット:FCA

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(文:Steve O’Hear、翻訳:Nob Takahashi / facebook

「ブレインケア」という新分野に向けてサプリメントを販売するHeightsが、2.4億円の資金を調達

新しいウェルネス系スタートアップ企業のHeights(ハイツ)は先週、「ブレインケア」というカテゴリーに焦点を当て、正式にローンチすることになった。このスタートアップは、科学的なデータに基づくという「脳に栄養を与える、超高品質で持続可能な植物ベースのサプリメント」を販売する予定だ。

同社はクラウドファンディングのSeedrs(シーダーズ)を通じて170万ポンド(約2億4000万円)のシード・ファンディング・ラウンドを調達しており、これには機関投資家のForward Partners(フォワードパートナーズ)も参加している。エンジェル投資家には、New Look(ニュールック)の創設者Tom Singh(トム・シン)氏、WeTransfer(ウィートランスファー)のDamian Bradfield(ダミアン・ブラッドフィールド)氏、Shazam(ジャザム)のDhiraj Mukherjee(ディラジ・ムカージー)氏、Planet Organic(プラネットオーガニック)のRenee Elliot(リニー・エリオット)氏、イングランド代表のマンチェスター・ユナイテッド所属プロサッカー選手で投資家でもあるChris Smalling(クリス・スモーリング)氏などが名を連ねている。

この資金は、プロバイオティクス(有用菌)の一種で認知と精神的な健康を目的としたサイコバイオティクス(腸内細菌)サプリメントを間もなく発売するなど、顧客拡大と新製品開発のために使用される予定だ。

Heightsの顧客は最初に「脳の健康」の調査を受け、その後、1カ月、3カ月、または1年間の定期購入に申し込むことになる。

これは1日に2つのカプセルを摂取するだけで、定期的にビタミンを摂取する煩わしさを大幅に減少させることができる。

製品は郵便受けに入る形状の変わったボトルに入っており、これは有名なプロダクトデザインエージェンシーのPentagram(ペンタグラム)がデザインしたものだ。サブスクリプションに含まれているコンテンツとコーチングプログラムが顧客を支援し、1カ月後にもう一度、脳の健康調査が行われる。Heightsは使用者の「93%」が1カ月以内に脳の健康スコアを改善したと主張している。

「デザイナービタミン」と表現されることもあるこの新しい市場にいるのはHeightsだけではない。既にHims / Hers(ヒムズ/ハーズ)、Motion(モーション)、Vitabiotics(ビタバイオティックス)、Bulletproof(ブレットプルーフ)などの企業が参入している。

これらの企業は一般的に「ヌートロピックス(向知性)」と呼ばれるカテゴリーに分類される。これは健康な人の認知機能、記憶力、創造性、モチベーションを向上させるように設計されたビタミンやミネラルなどのことだが、市場は小さくない。「セルフケア」、「ヘルスケア」、「自己開発」といった市場は、1兆ドル(約104兆7000億円)以上の価値があり、サプリメントだけで少なくとも1000億ドル(約10兆4700億円)以上の価値がある。

Heights創業者のダン・マレー=サーター氏とジョエル・フリーマン氏、アドバイザーのタラ・スワート博士

しかし、Heightsは前述のプレイヤー達とは違うことをやろうとしていると、共同創設者のDan Murray-Serter(ダン・マレー=サーター)氏は言う。

テキストベースのインタビューで、同氏は次のように語った。「ヌートロピックスと呼ばれるカテゴリーは、実際のところ応急治療に焦点を当てています。それが私たちが『ブレインケア』というカテゴリーの創出に取り組んでいる理由です。なぜなら、人生に「応急治療」なんてないからです。また、この用語とカテゴリーは、人々に「一攫千金」のような誤った希望を抱かせてしまいます。私たちはそれとは違うやり方、つまり科学的に研究された記事やジャーナルの参照から始めています」。

彼は、Heightsがスキンケアやヘアケアのブランドのような位置づけになるだろうと述べている。「人々は、毎日の習慣と実践が長期的な効果を作るものであり、一日だけの奇跡ではないと理解しているからです」。

マレー=サーター氏によれば、科学的には私たちの脳が活性化するために20の重要な栄養素が必要だという。これらは主にマルチビタミン、オメガ3、そして「ヌートロピックス」を組み合わせて購入することで得ることができる。Heightsは、それを体が吸収しやすくする特許を取得したカプセルに入れて、最も「生物学的に利用可能な形」で「最高品質の」成分を供給すると、同氏は語っている。

「ビタミン剤を飲む習慣が定着しない最も一般的な理由の1つは、ボトルが食器棚の中に入ってしまい、無視されてしまうことです。だから私たちは、品質と同時にデザインから始めました」と彼は言う。Heightsのビタミンは独自の、リサイクル可能なボトルに入っており、ユーザーがそれを送り返せば、Heightsもそれをリサイクルして使う。

以前、モバイルコマースのスタートアップ企業であるGrabble(グラブル)を設立したマレー=サーター氏は、慢性的な不安と6カ月間の不眠症に苦しんだ後、Heightsのアイディアを思い付いたという。この問題を解決したのは、通常1日に推奨される最低レベルのビタミンしか入っていない標準的なサプリメントではなく、高品質で高密度のビタミンとサプリメントだった。

共同設立者のJoel Freeman(ジョエル・フリーマン)氏と、認識能力の最適化をテーマにしたニュースレターを開始すると、2人は6万人の読者を獲得した(www.yourheights.com/sundays)。

そして、実際の製品を発売することを思い付いた。

現在、同社のポッドキャスト「Braincare(ブレインケア)」は、ダウンロード数が10万を超えており、重要なチームの一員として最高科学責任者のTara Swart(タラ・スワート)博士(写真)も加わった。

現在の2つの状況がHeightsにとって追い風となる可能性がある。まず第一に、この新型コロナウイルスが流行している時代、世界中の公衆衛生当局や政府は、体の免疫システムを高めるためにビタミンDを摂取することを患者に推奨している。Heightsのカプセル2個には、他の多くのサプリメントと同様、ビタミンD3の「栄養基準値」(旧称:推奨摂取量)の400%が含まれていることは注目に値する。理論的に、これは通常の錠剤の4錠分で接種できるが、Heightsが提供する顧客体験や追加で含まれている他のビタミンは、多くの人にアピールするだろう。2つめは、メンタルヘルスへの意識と良好なメンタルヘルスを維持することへの関心が高まっており、公の場で日常的に話題となっていることだ。Heightsはこれら2つの波に乗るための良い位置にいるように見える。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

英国の競争監視当局はフェイスブックのGIPHY買収を未だ検討中、2021年3月末に進展か

Facebook(フェイスブック)によるGIPHY(ジフィー)の買収の精査を続けている英国の競争規制当局は、英国時間1月28日、この買収が競争の実質的な減殺(substantial lessening of competition)の「現実的可能性」(realistic prospect)をもたらすかどうかについて、3月25日までに決定を下すと表明した

公示には、「競争・市場庁(The Competition and Markets Authority、CMA)はここに、企業法(Enterprise Act)の第34ZA条3項b号に定義されている「初期期間」に従い、Facebook, Inc.によるGIPHY, Inc.の買収完了(合併)に関して、第二次審査のための照会を行うか否か決定する審査を開始するために十分な情報を有していることを通知する」と書かれている。

「したがって、本合併に関して(企業)法第34ZA条3項に定義されている初期期間は、本通知の日付の後の最初の営業日、すなわち2021年1月29日に開始される。初期期間が終了し、CMA が本合併を第二次審査に付すか否かの決定を発表する期限は2021年3月25日となる」ともある。

競争・市場庁は2020年6月に、FacebookがGIF共有プラットフォームであるGIPHYを4億ドル(約419億円)で買収したことに対する調査を開始した。

この調査により、すでに買収を完了しているにもかかわらず、製品やチームを統合したり、ともに取引や契約に取り組むなど、GIPHYをFacebookのより広いビジネス帝国に組み込んでいく活動は凍結状態となった。

Facebookは2020年5月にGIPHYを買収する計画を公表したが、それとともに、同社の写真・動画共有アプリであるInstagramにGIPHYプラットフォームを統合する計画も発表した。

しかし、これらの計画は、英国での競争監視当局による精査により今のところ保留になっている(2020年6月、FacebookとGIPHYは統合活動を一時停止するというCMAの命令に従っていることを確認した)。

これは、買収によって成長しようとするテック大手が直面する規制上の摩擦が増していることを示している。たとえば2020年、最終的には12月に取引を承認したものの、欧州の規制当局もGoogle(グーグル)によるFitbitの買収に数カ月を費やした。それも、Fitbitのデータがどのように使用されるか、そして競合相手のAPIアクセスに関連する数多くの誓約をGoogleから得た後にのみ可能となった。

FacebookとGIPHYのケースでは、英国の監視当局は、より深く、より広範な第二次審査を開始するかどうかについて2021年3月に決定する予定だ(その後、当局は最終決定を下す必要がある)。

その時点でCMAは、FacebookがGIPHYを買収することによる競争の実質的な減殺の「現実的可能性」はないと決定することもでき、そこで介入を終え、両社が統合を続ける障壁をなくすかもしれない。

規制当局はまた、他の理由で第二次審査を開始しないことを選択する裁量権も持っている。該当する市場はさらに掘り下げた調査に値するほどの重要性がないと判断するか、または合併による顧客の利益は、競争上のマイナス影響を上回ると考えられる場合などだ。

このケースでは買収されたビジネスがリアクションGIFをスワップするためのプラットフォームであることを考えると、確かにCMAは深入りする価値がないと判断する可能性があるように思える。いずれにせよ、数カ月後にもっと知ることになるだろう。

何が起ころうとも、ソーシャルウェブ上におけるFacebookの支配力に関連した規制上の懸念は、GIPHY統合の計画をすでに半年以上遅らせている。そしてこの調査はさらに長引く可能性もあり、同社のすばやく動く(そしてものを破壊する)能力に影響を与えることになる。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookGIPHY買収イギリス

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Aya Nakazato)

UberのAutocab買収を英国の競争監視当局が調査

タクシーやPHVのグローバルトリップマーケットプレイス「iGo」を運営するタクシーと自家用車業界向け予約・配車ソフトのSaaSメーカーことAutocabを買収するUberの計画は、英国の競争監視機関である競争・市場庁(CMA)によって調査されていることが米国時間1月29日に明らかになった。

競争監視機関はこの合併について、詳細な調査を行うかどうかを決定する期限を3月26日としている。

Uberは2020年8月、英国を拠点とするAutocabを買収する意向を発表した。

従来のタクシーや自家用車会社と競合する配車サービスを提供するUberが、Autocabの代替旅行予約市場を閉鎖したり、自社の配車サービスが展開されている一部の市場で閉鎖したりした場合、競争上の問題が生じる可能性がある。

買収を発表した時点でUberは、AutocabによるSaaSとiGoの国際展開をサポートする計画だと述べていた。この動きはまた、配車サービスが新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの間に需要が逼迫していることから、Uberのドライバーが自社のプラットフォーム以外から配送などの仕事を得る機会を増やすことを意図しているようだ。

それにもかからず、AutocabのマーケットプレイスであるiGoとUberの中核的な乗車サービスとの重複は、競争のリスクについての疑問が生じる可能性がある。

CMAはこの合併について、2月12日までにコメントを提出するように求めている

「この取引がもし実施されれば、CMAはEnterprise Act 2002の合併条項の下で、関連する合併状況を作り出すことになるかどうかを検討しており、またもしそうであれば、そのような状況が商品またはサービスに対する英国の市場内の競争を実質的に減少させることになると予測されるかどうかを検討しています。この評価を支援するため、CMAは利害関係者から取引に関するコメントを募集します」。

Uberの広報担当者はこの調査について「私たちは英国のCMAの調査に全面的に協力し、可能な限り迅速に調査を終了できるようにしています。この買収は消費者にとってプラスであり、地元のオペレーターの成長を助け、ドライバーに真の収益機会を提供すると私たちは確信しています」と述べた。

カテゴリー:シェアリングエコノミー
タグ:UberAutocab英国買収

画像クレジット:Carl Court / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:塚本直樹 / Twitter

Facebook Newsが英国でサービスを開始、キュレーションニュースポータルを初めて国際市場へ展開

英国が、大手テック企業をどのように規制すべきかの準備を整える中、Facebook(フェイスブック)は、英国の一般市民にメディアを提示する際の役割や、同国のメディア業界との連携方法について、大きなステップアップをとろうとしている。

英国時間1月25日、Facebookが、専用キュレーションニュースポータルのFacebook News(フェイスブック・ニュース)を英国でローンチした。米国以外では初のこととなるが、米国版と同様にAndroidまたはiOSのアプリメニューからアクセスすることになる。

ポータルは、多数のローカルメディアや、Channel 4 News(チャンネル4ニュース)、Daily Mail Group(デイリー・メール)、DC Thomson(DCトムソン)、Financial Times(ファイナンシャル・タイムズ)、Sky News(スカイ・ニュース)、Telegraph Media Group(テレグラフ・メディア)などの全国メディアを含む形でローンチする。昨年の早い時期に発表されたパートナーリストには、The Economist(エコノミスト)、The Guardian(ガーディアン)、The Independent(インデペンデント)、 STV、そしてArchant(アーチャント)、Iliffe(イリフ)、JPI Media(JPIメディア)、 Midlands News Association(ミッドランド・ニュース・アソシエーション) 、Reach(リーチ)といったローカルニュースサイト、そしてGQ、Cosmopolitan(コスモポリタン)、Glamour(グラマー)、Vogue(ヴォーグ)その他の「ライフスタイル」タイトルが含まれていた。

これも米国版と同様に、ユーザーにはその日のキュレーショントップストーリーリスト、すでにユーザーがフォローしているニュースソースや興味のあるニュースソースに基くパーソナライズされたストーリーのリスト(まだ自分がフォローしていないソースからのものも含まれる)、スポーツ、エンターテイメント、健康、科学、技術のための専用ニュースセクションが提供される。ユーザーは、ニュースを読みたいときや隠したい場合を指示することで、アルゴリズムをより良く訓練することができる。

Facebookは、Newsに表示されるストーリーをキュレーションするために、Upday(アップデイ)というサービスと連携することを認めた。「このプロダクトが提供するのは、キュレーションされたトップストーリーと、アルゴリズムによって選ばれたパーソナライズされたリンクのミックスです」と広報担当者は述べている。 Upday は、ドイツの出版社 Axel Springer(アクセル・スプリンガー)とSamsung(サムスン)による共同事業のようだ。Samsungはその事業によるニュースサービスを、自社のスマートフォンの上でも提供している

FacebookとUpdayの間に取り交わされた財務条件がどのようなものであるかははっきりしない。だが伝えられるところでは、FacebookがNewsに出版社のコンテンツを配置するためにライセンスする額は合計数千万ポンド(数十億円)に及ぶということで、最大の出版社が契約によって得る額は、1年で数百万ポンド(数億円)にも及ぶという。こうした数字は、Facebookが世界的な広告収入で稼いでいる額(四半期ごとに数百億ドル(数兆円)に達する)には及ばないかもしれないが、苦境にあえぐ英国のメディア業界にとってはかなりの金額となる。

人びとは長い間、Facebookや他のソーシャルサイトのニュースフィードを使用してニュースを読みながら、友人やグループ、フォローしているページからの投稿を閲覧してきた。Facebook Newsが目指すのは、それを一歩進めて、その時々の最新ニュースを、モバイルアプリユーザーが、国内の何百もの出版物からのキュレーションリンクや注目ニュースを、一箇所で読むことができる場所として提供することだ。

ソーシャルメディアは、消費者にとっての主要なニュースソースであり続けているが、私たちが気付いているように、そうした目的のためには、非常に偏って欠陥のあるソースだ。

Facebookは、そうした文脈の中におけるFacebook Newsの意図は、ユーザーの興味に合わせた調整を行いながらも、個人のニュースフィードでたまたま出会う可能性のあるものを超えて、よりバランスのとれた専用ニュースミックスを人びとに提供することだと述べている。

Facebook Newsはまた、個人のニュースフィードに飽きてきた人たちのために、ビデオや、エンターテインメントコンテンツ、 メンタリングや就職活動、近隣型コミュニティリスティング、ピアツーピア販売といった多様化を進めてきたFacebookを、また別の形で助けることになるだろう。これからは、ユーザーがニュースを読むためにFacebookアプリを開いてくれるようになるのだ。

とはいえ、この機能の国際展開には長い時間がかかった。Facebook Newsの米国でのテスト運用が始まったのは1年以上前の2019年10月であり、全米のユーザーに展開されたのは昨年6月のことだった

米国版Facebook Newsが、どれ位の数のユーザーを集めているのかに関してはFacebookからのコメントは得られていない。ただ広報担当者によれば、それは「着実に増加している」とのことだ。

米国での最初の取り組みから今日の英国でのローンチまでに、なぜこのような長い期間が必要だったのかは明らかではないが、Facebookはこの市場で展開を行うためのライセンス契約の確保に加えて、さらに多くのことを行ってきた。

Facebookが欧州での規制当局の標的にされていることを考えると、出版社を「助ける」ためにデザインされているというメッセージが添えられた新しいニュースポータルの立ち上げは、新たな次元へと踏み込むものだ。規制当局は大規模なハイテク企業の社会的な影響を精査するための長期的な使命を負っている。英国の場合、その動きは、FacebookやGoogleのような企業が広告やメディアなどで果たす役割を再検討する、新しい「競争推進型」Digital Market Unit(デジタルマーケットユニット)の形を取りつつある。

こうした規制の動きが、どのようにFacebook Newsのようなサービスに影響するのか、あるいは収益や利用データの、ニュースパートナーとの共有にどのような影響を与えるのかは、まだわからない。

一方で、それはさらなるスケーリングのために猛スピードで進んでいる。Facebookは昨年、ブラジル、フランス、ドイツ、インドなどを含む、国際的なFacebook News拡大のための、長期的な計画を持っていることを認めている。最新のブログ記事では、Facebookの欧州ニュースパートナーシップディレクターのJesper Doub(ジェスパー・ダブ)氏が、Facebook Newsの次のローンチは、期日は未定であるものの、フランスとドイツであることを発表している。

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画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch
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(翻訳:sako)

英Skyroraが複数回のエンジン停止・再点火が可能で一度の打ち上げで様々な任務をこなすロケット「スペースタグ」をテスト

英国の宇宙技術スタートアップ企業であるSkyrora(スカイローラ)は、現在のところ英国内からロケットを打ち上げることができる唯一の民間企業だ。2020年のクリスマスイブには、スコットランドのFife(ファイフ)にある同社の試験施設で、新しいロケットに搭載されたエンジンの第3段階の静的燃焼テストが行われた。このロケットは最終的に衛星を目的の場所まで運ぶことになる。しかし、さらに興味深いのは、このロケットが軌道上で何度もエンジンを再噴射し、1度の飛行で複数のミッションを行うことができるということだ。これは「Space Tug(スペースタグ)」と呼ばれ、宇宙ゴミを撤去したり、すでに衛星が軌道上にある場合にはメンテナンスをするなど、宇宙空間で様々な任務を行うことができる。

Skyroraは、Seraphim Capital(セラフィム・キャピタル)による初期の「Space Camp(スペース・キャンプ)」促進プログラムの1つに参加していた。

スペースタグは、英国で開発された初の「ミッション・レディ」なロケットであり、軌道に乗れば自力で任意の場所まで航行でき、複数回の停止なども可能だ。

このスペースタグには、3Dプリントで作られた推力3.5kNのエンジンが搭載されており、打ち上げ時の第1段階では、廃プラスチックから作られた環境に優しい燃料(エコセン)を使用する。

Skyrora社のCEOであるVolodymyr Levykin(ウォロジミール・レヴィキン)氏は次のようにコメントしている。「Skyrora XLロケットのこの面に関しては、我々はわざと沈黙を守っていました。この段階に到達させるためには大きな技術的課題があり、すべてのテストで満足のいく結果が得られるようにしたかったからです。それが今、達成しました。良いニュースが本当に不足している現在の状況で、私たちはこのことを世界に伝えるべき時だと感じています。【略】我々の目標は、英国の大地から最も環境に優しい方法で効率的な打ち上げを行うだけでなく、一度の打ち上げで、これまで複数回の打ち上げが必要とされてきたレベルの作業を行うことができるようにすることです」。

宇宙飛行士のTim Peake(ティム・ピーク)卿は、次のようにコメントしている。「Skyroraのような企業が、英国を『打ち上げ国』にするという野心を持ち続けているのは素晴らしいことです。前進し、そのエンジニアリング能力への投資を継続的に行うことで、彼らは見事なマイルストーンを達成し、英国はその恩恵を受け続けています。衛星を精密な軌道に送り込む軌道上作業機としての機能を実現する第3段階の完全燃焼試験を実施したことで、Skyroraは打ち上げ準備に一歩近づきました。この機体はまた、衛星の除去、燃料補給、交換、軌道上からのデブリ除去などの重要な業務もできるようになる予定です」。

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カテゴリー:宇宙
タグ:Skyroraイギリスロケット

画像クレジット:Skyrora

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(翻訳:TechCrunch Japan)