編集部:この記事はコンサルティング企業、Digi-Capitalのマネージング・ディレクター、Time Merelの寄稿
拡張現実(Augmented Reality)と仮想現実(Virtual Reality)が離陸するのは来年に入ってからだろう。しかし現在すでに初期の市場の制覇を目指すプレイヤーの間で激しい競争が起きている。
こうした内部での競争は必然的なものだが、AR/VRにとって本当に重要なのはスマートフォンとタブレットという現在普及しているモバイルデバイスとの競争だ(パソコンはむしろVRの普及を助ける存在なのでライバルではない)。
現在世界では40億台のスマートフォンとタブレットが使われており、2020年には60億台になるものと見込まれている。この期間に期待されるAR/VRの販売台数は数億台だろう。
2020年のAR/VR市場の規模は1500億ドル(18兆円)と予測されている。これは大きな数字だが、モバイル・デバイス全体の数兆ドルという規模に比べれば微々たるものだ。つまりAR/VR企業のライバルはお互い同士ではなく、Apple、Samsung、Huawei、Lenovo、Xiaomiといった巨大メーカーだということに注意しておく必要がある。
現実はタフだ
AR/VRが2016年のアーリー・アダプター段階から2020年までにメインストリーム市場に移行するために必須な7つの条件がある。
条件の一部はすでに現実化している。一部は困難な課題だ。一部はここ1年から1年半で実現するだろう。そして生産へのくロードマップがまったく見えていない課題もある。われわれはAR/VR市場の初期のリーダー企業をリアリティー・マトリックスとして下の図のように整理してみた。これはあくまで2015年第2四半期時点でのスナップショットであり、半年程度で大きく変わっていく可能性がある。
このマトリックスでは用語を以下の意味で使っている。
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仮想現実(Virtual):現実(外界)はユーザーに対して遮断される(ユーザーは仮想現実が表示するコンテンツだけを見る)。
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拡張現実(Augmented): 現実(外界)は遮断されない(ユーザーは現実と重ねてバーチャルな対象を見る)。
- 没入的(Imersive):いくつかのテクノロジー(下で述べる)を総合し、ユーザーの脳に仮想現実があたかも現実の体験であるかのように思い込ませる状態。
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環境的(Ambient): 没入的となる条件のいくつかを欠き、ユーザーが現実(外界)との区別を意識できている状態(拡張現実の場合、環境的であることが重要になる場合がある)。
上の図では、これらの要素によって4つの領域を設け、現在の主要プレイヤーを分類してある。
没入的VRはバーチャルなクジラが水中を突進してくるとユーザーが思わず避けようとするような体験を提供することを目指す。システムとしては、 HTC ViveやOculusなどがこれにあたる。このレベルの没入性をもたない拡張現実としてはSamsung Gearなどがある。
一方、拡張現実のデベロッパーは映画『アイアンマン』に登場したホログラフィック・ディスプレイのようシステムを目標としている。つまり半透明なバーチャル対象の向こうに外界が透けてみえるような体験だ(Meta)。 混合現実(Mixed Reality)の分野 では、明るい外界にいてもユーザーの目に現実そっくりに見える対象が描写されるテクノロジー(Microsoft HoloLens、Magic Leap)と ARとVRを簡単に相互に切り替えられるテクノロジー( ODG)がある。
7つカギ
AR/VRの将来を形づくるカギとなる要素はどのようなものだろうか? われわれは以下の7つの要因を決定的なものと考えている。
可搬性(Mobility): これはARの場合、特に重要となる。外界を遮断しないという特性上、ARはどんな場所でも利用できなければならない。実際、この移動の自由性がARの大きな優位性となる。そのためARでは可動性、携帯性がポイントになるが、これは同時に既存のモバイル・デバイスと直接に競争しなければならないことを意味する。親機にテザリングする必要がないこと、バッテリーが少なくとも1日の活動時間中はもつこと、音声とデータの通信が途切れずに行えることなどが必要だ。Wi-Fiが使えないとコミュニケーションができなくなってしまうのではスマートフォンには勝てないだろう。
一方、VRの場合は外界をブロックしてしまうので安全な場所(家、オフィス、飛行機)などでしか使えない。そこでVRの場合、可搬性はさほど重要ではないが、Samsung Gear VRのように手軽に持ち歩きができればメリットではある。
画質(Vision):AR/VRは基本的に視覚メディアだ。ユーザーはすでにスマートフォンでRetinaクラスのディスプレイ(個々のピクセルが肉眼で弁別不可能)に慣れてしまっている。そのため低い解像度ではユーザーの脳は不満を訴えるだろう。『アイアンマン』に登場したくらいの画質でなければメインストリームの消費者がVRデバイスに飛びつくことはないだろう。ここでは画像技術の詳細には立ち入らないが、画角(視野)、遠近感(3D)、解像度、明るさなどが重要な要素となる。
没入(Immersion):真の没入感が得られるとユーザーの気分は高揚し、さらに体験を続けたくなる。この感覚を与えられるかどうかが没入的VR、混合現実のどちらでも決定的だ。没入感を与える上でカギとなるのはユーザーの頭の位置のトラッキングだ。これは空間内の移動と回転とを同時にトラッキングできなければならない。トラッキングに対する画像表示の遅延やブレを最小限に押さえる必要がある。また音声の3D化も必要だ。
使い勝手(Usability): AR/VRが広く普及するためには、現在のモバイル・デバイスなみの使い勝手が実現される必要がある。ここではCPUパワー(ARの場合、ベッテリー駆動時間とトレードオフになる。VRの場合デバイスのコストに影響する)、快適さ(VRでは船酔い症状を起こさないこと、ARではなるべく軽いこと)、ユーザー入力(専用コントローラー、音声、視線、手や身体のジェスチャー、ユーザーの位置、その他環境情報)に特に考慮が払われねばならない。AR/VRは特有の処理を必要するので、Intel、Qualcomm、Nvidia、ARMなどのCPUメーカーにとっては大きなビジネス・チャンスだろう。
柔軟性(Flexibility):ARは汎用的コンピューティング・デバイスの一種と考えねばならない。つまり現在スマートフォンやタブレットに求められている機能の大部分を代替できる必要がある。AR/VRのための膨大なアプリケーション群が必要であり、デベロッパーの負担を軽減するためにクロス・プラットフォームの標準的OSとSDKが求められる。混合現実はARとVRを必要に応じて簡単に切り替えられるという点でさらに汎用性が高い。
装着性(Wearability): マス消費者にアピールする製品は見て美しく、利用感が自然でなければならない。特に顔に何かを装着するという行為はポケットからスマートフォンを取り出して操作するようよりも個人性が高い。消費者は自分がこっけいに見えることは望まないものだ。デザインと装着感はなによりも優先する。特にARは路上など公共の場所で利用することになるのでハードルが高い。さらにサイズ、重量、バッテリー駆動時間、CPUとGPU能力、すべての面で高いレベルが要求される。.
価格(Affordability):誰も語りたがらないが、厄介な問題は価格だ。没入的VRの普及シナリオはパソコンやゲーム機と似たものになるだろう。環境的VRは特に求めやすい価格であることが重要になる(GoogleがOnePlusを無料で配っているのもそのためだ)。Verizon、AT&T、T-MobileなどのキャリヤにARや混合現実のデバイスに販売補助金を出させるよう説得するというのも一つの方法だろう。キャリヤにとっても新たなプラットフォームでシェアを確保することは将来の売上につながる。
シリコンバレーから上海まで、世界中で最優秀の起業家と投資家がARとVRの離陸のために日夜努力している。高いハードルもいくつかあるが、それを乗り越えたものが次のAppleとなるかもしれない(もっともそれがApple自身である可能性もある)。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)