マイキャン・テクノロジーズが1.89億円調達、新型コロナやデング出血熱などウイルス感染症の重症化予測キット開発を加速

マイキャン・テクノロジーズが1.89億円調達、新型コロナやデング出血熱などウイルス感染症の重症化予測キット開発を加速

バイオ領域スタートアップのマイキャン・テクノロジーズは9月17日、第三者割当増資による合計1億8900万円の資金調達を発表した。引受先は、リアルテックファンド3号投資事業有限責任組合(リアルテックジャパン)、グロービス・アルムナイ・グロース・インベストメント1号ファンド(グロービス)、京都市スタートアップ支援2号投資事業有限責任組合並びにこうべしんきんステップアップ投資事業有限責任組合(フューチャーベンチャーキャピタル)、360ipジャパンファンド1号投資事業有限責任組合(360ipジャパン)。

調達した資金により、iPS細胞由来不死化ミエロイド系細胞(iMylc細胞)製品を使用した感染症の重症化予測キットの製品開発を加速させる。特に、デング出血熱や新型コロナウイルス感染症などのウイルス感染症に焦点を当て、体内にある抗体の質を測定することで重篤化を予測する新しいタイプの重症化予測キットを重点的に開発する。

マイキャン・テクノロジーズは、再生医療技術を用いてヒトiPS細胞などから誘導した不死化ミエロイド系細胞(Mylc細胞。免疫細胞の1つ。単球・樹状細胞などが含まれる)を作製・供給する技術を有している。大量製造により安定的・継続的な供給が可能なため、研究用細胞として、デングウイルスや新型コロナウイルスなどの感染症や、免疫の研究などに使用されているという。

Mylc細胞は、ヒトの免疫反応を生体に近い状態で再現することが可能な細胞。ウイルスや微生物が存在すると、Mylc細胞に感染し微生物が増殖したり、逆にMylc細胞が防御のため炎症性サイトカイン(IL-6など)を産生したり、生体で起こる反応を示す。このような免疫反応において、被検体(血液・血清など、検査対象の抗体)があると、感染・防御の反応性が大きく異なることがわかってきたという。そこで同社は、これら反応を基にした、再生医療の技術を活用した世界初のウイルス感染症重症化予測キットの開発・製品化を目指すとしている。

2016年7月設立のマイキャン・テクノロジーズは、再生医療の技術を使用した研究用血球細胞の提供を通じ、治療薬・ワクチン開発を支援してきた。今後は、より患者に近い製品も開発・提供したいと考えているという。同社の独自技術を用いて重症化を予測する検査薬事業を展開することで、「感染症に怯えず暮らせる社会」実現にむけてさらに一層貢献するとしている。

Pivot Bioの改良型微生物は農家の費用と時間、さらに環境への負担の軽減させる

Pivot Bioは肥料を作るが、直接作り上げるのではない。同社によって改良した微生物が土壌に添加され、窒素を生成する。本来ならトラックで運ばれてそこに投棄されるような土壌が有益性を持つことになる。バイオテックを利用したこのアプローチは、農家の費用と時間を節減し、最終的には環境への負担の軽減にもつながり得る。この巨大な機会に投資家たちは、同社の最新の資金調達ラウンドを通じて4億3000万ドル(約473億6000万円)を投入した。

窒素は作物が生育するために必要な栄養素の1つである。農家が今日のペースの成長を維持するには、肥料を土に撒いて混合することが不可欠だ。しかしある側面において、何世代も前に先人たちが行っていたことが今でも続けられている。

「肥料は農業を変革し、前世紀において多大な成果を生み出しました。しかし、肥料は作物に栄養を与える完璧な方法とはいえません」とPivot BioのCEO兼共同創業者であるKarsten Temme(カルステン・テンメ)氏は語る。同氏は、何千エーカー、まして1万エーカーをも超える農地に肥料を散布することは、大量の人員、重機、貴重な時間を必要とする、機械的かつ物流上の大きな課題を含んでいるという単純な事実を指摘した。

いうまでもなく、大雨によって大量の肥料が吸収・利用される前に失われてしまうリスクや、肥料を施す過程で発生する温室効果ガスの多大な影響も懸念される(微生物学的アプローチは環境に対して相当に優れているようだ)。

もっとも、このアプローチを採用する根本的な意図は、土壌中に生息し、自然に窒素を産出する微生物の働きを模倣することにある。植物とこれらの微生物は何百万年も前から相互に関係しているが、単純に、小さな微生物では十分な産出に至らない。Pivot Bioが10年以上前にスタートしたときの洞察は、いくつかの微調整によりこの自然の窒素循環を強化できるというものだった。

「微生物に取り組むべき道があることを、私たちは確信していました」とテンメ氏は語っている。「元々根系の一部として存在する微生物に、肥料を感知するとエネルギーを蓄えるために窒素を生成しないというフィードバックループがあることを知っていました。その微生物に含まれる、窒素を生成する遺伝子の能力が、休眠状態になっていたのです。私たちが唯一行ったことは、それを覚醒させる作業でした」。

IndigoやAgBiomeのような、農業に特化した他のバイオテクノロジー企業も、植物の「マイクロバイオーム」、つまり特定の植物の近くに生息する生命体の改変や管理に着目している。改変されたマイクロバイオームは、有害生物に対して耐性を発揮したり、病害を減少させるなど、さまざまな利点をもたらし得る。

画像クレジット:Pivot Bio

これは、生きた発酵剤としての働きが広く利用されている、おなじみのイースト菌のようなものだ。イースト菌は、砂糖を消費し、ガスを発生させるように培養された微生物で、発生したガスの作用で生地の中に空気のポケットが作られる。同社が手がける微生物も同じように、植物から分泌される糖を継続的に消費し、窒素を排出するという作用により直接的に関わる改変が加えられている。そして土壌に固形肥料を加える必要性を大幅に減らす速度で、それを行うことができる。

「従来使われてきた何トンもの物理的な素材を、パン職人が使うイースト菌のように手になじむ粉末に圧縮したのです」とテンメ氏はいう(厳密には、この製品は液体として使われる)。「農家の経営が一気に楽なものへと変わっていくでしょう。トラクターに乗って肥料を畑に撒く時間から解放されます。種を植えるときに私たちの製品を加えればいいのです。そして、春に豪雨が襲っても、すべてを洗い流さないという確信を得ることができます。世界的な視点で言えば、肥料の約半分は流されてしまうのですが、微生物ならその心配はありません」。

そうした状況でも、微生物は土の中に静かに潜み、1エーカー(約4047平方メートル)あたり最大40ポンド(約453.6グラム)の割合で窒素を排出する。これは非常に古めかしい測定方法ではあるものの(1平方センチメートルあたりのグラム数でもよいのではと思う)、農業に時折見られる時代錯誤的な傾向に沿うものではあるかもしれない。作物や環境によっては、肥料を一切使わなくても十分な場合もあれば、半分以下という場合もある。

微生物によってもたらされるその割合がどのようなものであっても、同社の製品を採用することが魅力的なものであるのは確かなようだ。Pivot Bioは2021年に収益を3倍にしているからだ。なぜ2021年の半ばに過ぎないのにこれほど確実な結果が得られるのか不思議に思うかもしれないが、同社は現在、北半球の農家にしか販売しておらず、この製品は作付け時期の早い時期に適用されているため、2021年の売上はすでに終了していることになる。2020年の売上の3倍になることが確実視されている。

作物が収穫されると微生物は死滅するので、生態系への恒久的な変化とはならない。そして来年、農家がさらに多くのものを求めてきたときには、微生物はさらに改良されているかもしれない。窒素生成のために遺伝子のスイッチを切り替えるということにとどまらず、糖から窒素への酵素的経路の改善、微生物が休止状態からプロセスを開始すると決定するしきい値の調整も可能である。最新製品であるProven 40は前述のような生産性を備えているが、さらなる改良が計画されており、戦術変更に手間をかける価値があるかどうか決めかねている潜在顧客を引き付けることを同社は目指している。

経常収益と成長のポテンシャル(同社の現在の推定によると、総市場2000億ドル[約22兆円]の約4分の1に対応可能だという)は、DCVCとTemasekが主導した今回の巨大なDラウンドにつながった。同社のプレスリリースには、間違いなく極めて慎重に検討された秩序で、その他に存在する十数社の投資家の名前も記されている。

テンメ氏は、今回の資金をプラットフォームの深化と拡大、また同社の製品を試して魅力を感じているように思われる農家との関係強化に充てる予定だと述べている。同社の微生物は今のところ、トウモロコシ、小麦、米に特化されたものだ。もちろんこれらは多くの農業分野をカバーしているが、合理化され、強化された窒素循環の恩恵を受ける産業分野は他にもたくさん存在する。そしてそのことは、テンメ氏と共同創業者であるAlvin Tamsir(アルビン・タムシール)氏が15年前に大学院で抱いていたビジョンの強力な裏付けとなることは間違いないと同氏は話す。その発言には、同じようなポジションに今いる、そうしたことに価値があるのだろうかと考えている人たちに向けて、同社の実証が糧となって欲しいという願いが込められているようだ。

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画像クレジット:Pivot Bio

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

人工タンパク質素材「Brewed Protein」のSpiberが344億円調達、グローバルな量産・販売網を強化

人工タンパク質素材「Brewed Protein」のSpiberが344億円調達、グローバルな量産・販売網を強化

「クモの糸」で知られる構造タンパク質素材の人工合成に世界で初めて成功したSpiber(スパイバー)は9月8日、機関投資家カーライルおよび海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)を主な割当先とする第三者割当増資による244億円、また、三菱UFJモルガン・スタンレー証券をアレンジャーとした「事業価値証券化」(Value Securitization)による100億円、総額344億円の資金調達にかかる決議を行ったと発表した。

その他、Fidelity InternationalやBaillie Giffordといったグローバル投資家、既存投資家である東京センチュリー、山形銀行や佐竹化学機械工業といった国内企業も同資金調達ラウンドに参加する予定。また同ラウンドにおけるアンカー投資家であるカーライル、クールジャパン機構からそれぞれ1名ずつ取締役を受け入れる予定としており、両投資家の持つ知見やネットワークを最大限活用できる環境を整え、大規模なグローバル展開を一層加速していくとともに、数年内に計画するIPOに向けて、グローバルな機関投資家との対話を強化する。

Spiberは、人工タンパク質素材「Brewed Protein」(ブリュード・プロテイン)を開発する、⼭形県鶴岡市に拠点を置くバイオベンチャー。Brewed Proteinポリマーは、植物由来の糖類を主原料に使⽤し、微⽣物による発酵(ブリューイング)プロセスにより製造され、⽤途に応じて多様な特徴を付与することが可能。

そのため、アパレル分野や輸送機器分野など、様々な産業における脱⽯油・脱アニマルのニーズに対し⼤きな役割を果たせる可能性を秘めており、持続可能な社会の発展に資する次世代の基幹素材と⽬されているという。

2021年内にタイ・ラヨン県において同社初となる量産プラントの稼働を開始する予定。また、現在米アイオワ州で同社協業先のADMと新たに量産体制を構築しており、早ければ2023年に稼働を開始する予定という。

またBrewed Protein素材は、植物由来でアニマルフリーかつ環境分解性を併せもち、さらに、同社ライフサイクルアセスメントの結果によると、カシミヤをはじめとする動物由来繊維と比較して、温室効果ガスの排出量を大幅に軽減できる可能性が示されたとしている。

アパレル産業をはじめとする各産業セクターにおいて、持続可能な素材へのニーズが急速に高まる中同素材は高く評価されており、多数のグローバルアパレルブランドと共同プロジェクトが進行しているという。

カーライルは、高度な業界専門性や、サステナビリティに関する知見、ラグジュアリーブランドや繊維・素材を含む各産業セクターとの豊富なグローバルネットワークを持つ世界有数の機関投資家。同社は、これまでグローバルでジーノロジア(Jeanologia)やビューティーカウンター(Beautycounter)などのサステナビリティ関連企業や、モンクレール(Moncler)やゴールデングース(Golden Goose)などの世界有数のアパレルブランドに投資を行っている。またカーライルとしては、同案件は日本国内初のマイノリティグロース投資となる。

化学製品製造をコストを1桁削減する高速な酵素工学プラットフォームで変革するAllozymes

原材料を洗剤、化粧品、香料のような最終製品に変える複雑なプロセスの一端は、化学変換を促進する酵素に依存している。しかし、新規または開発中の薬剤や添加物に適した酵素を見つけるには、時間のかかる、ほとんどランダムなプロセスが必要となる。Allozymesは、業界に新たな基準を打ち立てる可能性の高い画期的な新システムでこのプロセスを変えようとしており、商用展開を見据えて500万ドル(約5億5000万円)のシード資金を調達した。

アミノ酸が鎖状に連結している酵素は、DNAにコードされている数多くの情報を含む「生命の構成要素」である。この大きく複雑な分子は、他の物質と結合して化学反応を促進する。例えば、細胞内の糖をより有用なエネルギーに変換する。

また、製造業の世界でも酵素発見のアプローチがなされている。大手企業は、安価な成分を取り込んでより有用なかたちに化学結合させるといった価値ある仕事をする酵素を特定し、単離している。自然界に豊富に存在しない特定の化学物質を大量に販売したり、必要とする企業は、おそらく、より多くの化学物質を作り出すのに役立つ酵素プロセスを有しているだろう。

しかし、すべてのものに対応する酵素があるわけではない。新薬や香料のような新しい分子をゼロから作り出そうとするとき、それらに反応したり、それらを生成したりする天然の酵素が存在すべき理由はない。アレルギー薬を細胞内で合成する動物は存在しないため、企業は必要なことを行う新しい酵素を見つけたり、生成したりする必要がある。問題は、酵素は一般に少なくとも100単位の長さがあり、その単位は20種類のアミノ酸から選ぶことができるという点にある。これは、最も単純な新規酵素を求めたとしても、数え切れないほど多くのバリエーションがあることを意味する。

既知の酵素を出発点として、直感的に有効であると思われるバリエーションを系統的に研究するという方法で、研究者は新しい有用な酵素を見つけるに至ってきた。しかし、そのプロセスは複雑で、完全に自動化されている場合でも時間を要する。最高レベルのロボット研究室を持っていても、1日に多くて数百程度である。

このことから、Allozymesが1日に最大1000万件のスクリーニングが可能だと主張するのを聞くと、その変革のレベルを想像できるだろう。

画像クレジット:Allozymes

Allozymesは2人のイラン人化学エンジニア、Peyman Salehian(ペイマン・サレヒアン)氏とAkbar Vahidi(アクバル・ヴァヒディ)氏によって設立された。サレヒアン氏はCEO、ヴァヒディ氏はCTOを務める。両氏はシンガポール国立大学(National University of Singapore、NUS)でPhD取得を目指す中で知り合った。商用製品に至るまでの3年間の研究は、特許を保有し同社に独占的にライセンスしているNUSでも行われた。

「この20年間、当技術の最高水準は変わっていません」とサレヒアン氏はいう。「大手の製薬会社と話をしてみると、製薬会社はこのための部署をたくさん有し、200万ドル(約2億2000万円)相当のロボットを抱えていながら、新しい酵素を手に入れるのに1年もの歳月がかかっているという現状があります」。

サレヒアン氏によると、Allozymesのプラットフォームはプロセスを数桁高速化し、コストを1桁削減するという。これらの推定が立証されれば、酵素の探索は効果的に矮小化し、数十億ドル(数千億円)もの投資やインフラは無効なものとなる。さらにお金をかけることで得られるメリットとはいかなるであろうか。

伝統的に、酵素は細胞にDNA鋳型を導入することを含む多段階プロセスを経て単離および選択される。細胞を培養して標的酵素を産生し、特定の増殖状態が達成されると、ロボットを用いた分析が行われる。有望な結果があれば、より多くのバリエーションでその道を進み、そうでなければ最初からやり直す。小さな培養皿を採集したり設置したりする作業を頻繁に行い、細胞が十分な量の素材を産生するのを待つ必要がある。

関連記事:新薬発見のために膨大な数の化学合成を機械学習でテストするMolecule.one

ヴァヒディ氏の他、NUSの研究者たちが設計したプロセスは、ベンチトップデバイスに完全に組み込まれており、無駄をほとんど発生させない。このデバイスは、培養皿を使用する代わりに、必要な細胞、基質、その他の成分をマイクロ流体システム内の小さな液滴に入れる。反応はこの小さな液滴の中で起こり、この液滴を培養し、追跡する。そして最終的に、より大きなサンプルが必要とする時間の何分の1かで採取され、試験される。

ただしAllozymesはこのデバイスの販売は行っていない。それはサービスとしての酵素工学であり、今のところパートナーや顧客はそのことに満足しているようだ。主なサービスは、プロジェクトのニーズに応じてサイズを調整できることにある。例えば、ある企業はすでに有効な酵素を保有しており、合成が容易であるか、特定の高価な添加物に依存しない変異体を望んでいるかもしれない。出発点はしっかりしていて、目標には柔軟性があり、小規模なプロジェクトになる可能性もある。また別の企業は、製造過程におけるハードな化学プロセスを完全に置き換えたいと考えており、そのプロセスの始点と終点を把握している一方で、ギャップを埋めるための酵素を必要としているかもしれない。より広範囲で費用のかかるプロジェクトになることも想定される。

左からペイマン・サレヒアン氏、アクバル・ヴァヒディ氏

目標は酵素工学を「民主化」することではない、とヴァヒディ氏は説明する。酵素工学は依然として、主に大企業が行うことになるような高価かつ大規模なものであるが、今や投入した研究開発費から10万倍に相当する成果をもたらし得る。Allozymesが提供するスピードと価値は競合他社よりも優れているとサレヒアン氏は語る。Codexis、Arzeda、Ginkgo Bioworksなども酵素バイオエンジニアリングを手がけているが、速度は劣り、優先順位も異なるという。

同社は、時には知的財産や製品の所有権を一部取得する契約を結ぶこともあるが、それは真のビジネスモデルではないとサレヒアン氏は語っている。初期の段階では実際に最終化合物を作ることもあったが、最終的にはコア製品はサービスであると目されている。(とはいえ、100万ドル[約1億円]の注文は侮れない)。

仕事をする過程で、Allozymesが何億もの酵素を選別する可能性もある、と思われたかもしれない。ご安心を、同社はそれらがもたらす価値を十分に認識している。このサービスは、必然的なデータ処理にシームレスに移行する。

「『このアミノ酸を変えれば、この機能が実現する』ということを示すビッグデータセットがあれば、工学的に解析する必要もなく、それを(検討事項から)排除できます。十分な情報を持ち合わせていれば、酵素を設計することさえ可能です」とサレヒアン氏はいう。

今回の500万ドルのシードラウンドは、Xora Innovation(シンガポールのソブリン・ファンドTemasekによる)が主導し、SOSVのHAX、Entrepreneur First、TI Platform Managementが参加した。サレヒアン氏によると、同社は米国のベンチャー企業の関心を受けて米国での法人化を計画したが、Temasekのアーリーステージの投資家が同社にそれをとどまるよう説得したという。

「バイオトランスフォーメーションは、世界のこちら側で大きな需要があるということです」とサレヒアン氏。「化学、農業、食品企業はこれを行う必要がありますが、そのためのサービスを提供できるプラットフォーム企業は存在しません。そこで、私たちはそのギャップを埋めることに取り組んだのです」。

画像クレジット:Allozymes

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

現在も成長する石油化学分野でバイオベースの代替品を創造するFabricNanoが13.7億円を調達

DNAを「ウェハー」と表現するのを耳にすることはあまりないが、セルフリーのバイオ製造企業FabricNanoの創業者であるGrant Aarons(グラント・アーロンズ)氏は、自社の主要製品を説明する際にアナロジー的な表現としてこれを使用している。このDNAが、化石燃料とその副産物に目下依存しながら成長を続ける世界の石油化学産業に資することを、同社は期待している。

FabricNanoはロンドンを拠点とする会社で、2018年にテクノロジースタートアップアクセラレーターのEntrepreneur Firstによって設立された。FabricNanoは、セルフリーのバイオ製造における創案に注力している。バイオ製造は、単純に、細胞または微生物内の酵素を使用して最終産物を産生する。FabricNanoのアプローチは、その酵素をDNAウェハー上に置くことだ(このプロセスは「酵素固定化」と呼ばれる)。

アーロンズ氏によると、これらの酵素は、薬品やプラスチックの製造に使用されるような化学物質を、細胞ベースのシステムに比べて高効率で生成できるという。化学物質の大量生産に現在使用されている化石燃料に依存することはない。同社の核となるのはDNAの骨格で、反応をスケールアップするのに十分な酵素を収容できる。

FabricNanoは先にシリーズAで1250万ドル(13億7000万円)を調達したことを発表した。このラウンドはAtomicoが主導し、Twitterの共同創業者であるBiz Stone(ビズ・ストーン)氏、女優で国連のSustainability Ambassadorを務めるEmma Watson(エマ・ワトソン)氏、そしてBayerの元CEOであるAlexander Moscho(アレクサンダー・モショー)氏が出資した。

「会社に適したエンジェル投資家を積極的に獲得しようと努めました」とアーロンズ氏。「また、テクノロジー界のエンジェル投資家にも目を向けました。つまるところ、私たちが作っているものは、製造業者にとって有効なテクノロジーとなるからです」。

「バイオマスプラスチックやバイオマスモノマーを十分な規模で製造することを意図してはいません」と同氏は続ける。「(製造業者が)十分な低コストで大量生産できるテクノロジーを提供することを私たちは目指しています。それは、バイオプラスチックのような低価額の分子を生産するための、スケーラブルで持続可能な方法です」。

FabricNanoのアイデンティティの一端は、成長する石油化学分野において、バイオベースの代替品を創造することにかかっている。

現在、世界の石油需要の約14%がプラスチックの製造に向けられている。国際エネルギー機関(International Energy Agency)による2018年の予測では、プラスチックやその他の材料の製造に利用し得る石油化学製品、すなわち石油とガスから得られる化学物質は、2050年までに世界の石油需要の約半分を占めると推定されている。

石油化学産業の主要な最終製品であるプラスチックは、石油やエタンを加熱して製造されることや、廃棄物として焼却されることなどにより、ライフサイクルのほぼすべての段階で気候変動に影響を及ぼしている。プラスチックの生産と利用が現在のペースで続けば、2030年までに排出量は1.34ギガトン(石炭火力発電所295基分)に達すると、国際環境法センター(Center for International Environmental Law)は予測している。

もちろん、プラスチックの生産量を増やせば、それがどのように生産されたものであっても、それ自体が生態系の破壊につながる(科学者たちは、2040年までに「未使用」プラスチックの生産を段階的に廃止するよう求めている)。

また「バイオプラスチック」という漠然とした用語は、生分解性プラスチックから、化石燃料を使わずに作られたプラスチック(生分解性でないものも含む)まで、あらゆるものを指すことができる。それゆえ「環境に優しいプラスチックの世界」をグリーンウォッシュに向かいやすくしている。

残された問いは、バイオ製造が石油化学による気候変動への影響をどの程度減らすことができるかということである。現時点ではそれは明らかではない。アーロンズ氏は、セルフリー製造が持つ強みの一端が、プラスチックなどの汎用化学品の製造に石油(あるいは米国ではエタノール)を使うことから業界を遠ざける可能性があると主張する。

「私たちが真に検討しているのは、コモディティセクターの大部分を掌握し、石油ベースの製品の多くを石油から切り離してバイオの領域に引き込むことにつながる、新しいテクノロジーです」とアーロンズ氏は語る。

とはいえ、プラスチック生産の現状には明らかな懸案事項も存在している。既存の石油化学産業に取って代わるだけの拡張性とコスト効率を実証できるなら、代替品を生み出す余地は残されるだろう。

セルフリー製造がすでに順調に拡大している証拠がいくつかある。例えば、高果糖コーンシロップはコーンスターチが酵素によってブドウ糖に分解されるときに生成される。最終段階にはグルコースイソメラーゼという酵素が必要である。アーロンズ氏は、高果糖コーンシロップ製造を「世界最大のセルフリー化」と評している。

そのコンセプトを踏まえて、FabricNanoはより多くの化学物質を提供しようとしている。Fabric Nanoは現時点ですでに「1,3-プロパンジオール」のような化学物質を作ることができる。1,3-プロパンジオールは、歯磨きやシャンプーに含まれるポリエチレングリコールの代わりに使用できる成分だ。この製品を作るのに必要な材料は、バイオディーゼル製造の主要な廃棄物であるグリセリンであり、コストの抑制、そして化石燃料の代替原料の提供に寄与する可能性がある。

アーロンズ氏によると、FabricNanoはさらに4つの製品を製造できることを実証済みだが、その種類は明らかにしていない。FabricNanoは「医薬品分野」と汎用化学品に注目していると同氏は述べている。「私たちが製造できる汎用化学品は数多くあります。1,3-プロパンジオールは氷山の一角にすぎません」。

それでも、FabricNanoの際立ったアプローチは、おそらく今までに開発した汎用化学品ではなく、実在するDNAの骨格であろう。DNAウェハーに付着して化学物質の生成を助ける酵素がソフトウェアなら、DNAの骨格はFabricNanoのハードウェアだ。

このハードウェアは、同社が汎用化学品の世界にセルフリーをもたらすための主要な道筋を形成するだろう。

「実際に欠けている部分、そして(セルフリー製造が)長い間ニッチなテクノロジーであった理由は、こうしたタンパク質をすべて固定化する一般化可能な技術が存在しなかったことにあります」とアーロンズ氏は語っている。

今回の資金調達で、FabricNanoは従業員を12人から30人に増員し、ロンドンの新しいオフィスに移る計画だ。同社への投資総額は1600万ドル(約17億6000万円)になる。

画像クレジット:chabybucko / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

波紋を呼んだアルツハイマー病治療薬「Aduhelm」への承認を皮切りに、米FDAの迅速承認経路への保健福祉省による審査開始

米国保健福祉省の監察総監室(HHS-OIG)は米国時間8月4日、米食品医薬品局(FDA)の迅速承認プロセスについての調査を開始すると発表した。Biogen(バイオジェン)が開発したアルツハイマー病治療薬「Aduhelm(アデュヘルム)」に対する承認が物議を醸してから、わずか2カ月後のこの事態である。

この審査では、FDAの迅速承認経路(既存の治療法がない重篤な疾患の治療薬が、サロゲートエンドポイントと呼ばれる一定の中間ベンチマークを達成すれば承認される経路)に焦点が当てられる予定だ。こういった薬剤は臨床的に有用であると考えられていても、その有用性が実際に証明されていない状態での承認となり、承認後には第Ⅳ相試験で臨床効果を実証する必要がある。

アルツハイマー病治療薬として2003年以来初めて承認され、大きな議論を呼んだAduhelmは、この経路によって承認された。そしてこの承認に対するHHS-OIGの審査プロセスが動き出したことが、監察総監室の8月4日の発表で明らかになったというわけだ。

関連記事:大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認

発表文には次のように記されている。「FDA内での科学的論争、諮問委員会による承認反対票、FDAと業界間の不適切な密接関係への疑惑、FDAによる迅速承認経路の使用などの理由により、FDAによるAduhelmの承認に対する懸念が生じています」。

「こういった懸念に対応し、FDAが迅速承認経路をどのように実施しているのかについて評価を行なっていきます」。

FDAはこの経路によるAduhlemの承認決定について防衛的な構えを見せているが、この薬の有効性やそもそもどのようにして承認されたのかという経緯については大きな反感が持たれている。

「Aducanumab(アデュカヌマブ)」としても知られるAduhelmは、脳内のアミロイド斑(脳細胞間のコミュニケーションを阻害する粘着性化合物)を減少させることができると実証されている。しかし、アミロイド斑を減らすことでアルツハイマー病の最も悪質な症状である認知機能の低下を実際に遅らせることができるかどうかは不明であり、実際に患者がこれによるメリットをどの程度得ることができるのかについては疑問が残っている

2019年3月、この薬に対する2種の第Ⅲ相臨床試験が実施されたが、独立監査委員会がこの薬が患者の認知機能の低下率を改善していないと判断したため中断されている。しかし、Biogenが10月に行った別の分析では異なる結果が得られており、1つの第Ⅲ相臨床試験では認知機能の低下の改善が見られなかったが、もう1つの試験では最高用量を投与された患者にわずかな効果が見られている。

2020年11月、FDAの独立諮問委員会はこの薬への承認支持を拒否。しかし2021年6月、この薬はどういうわけだか承認されたのである。

Aduhelmが承認されたことで、製薬業界ではFDAがバイオマーカーに基づいた承認を拡大するのではないかという楽観的な見解が広がった。しかし、このような楽観的な見方は科学コミュニティの大方の意見とは違っていた。

承認に反対していた独立諮問委員会の3名の委員が、抗議のために辞任するという事態に発展。またデータに一貫性がないとして、マウントサイナイ医科大学やクリーブランド・クリニックなどの主要な病院システムが、この薬を処方しない意図を表明したのだ。

Aduhelmの承認を巡っては、承認に至るまでのFDAとBiogenの関係性が特に密接であったのではないかとの疑惑が議論の中心となっている。STATが最初に報じたところによると、Biogenは規制当局を説得するための「Project Onyx」と呼ばれる社内活動を開始し、最終的には一部のFDA職員が外部の専門家の前で同社との共同プレゼンテーションを行うなど、薬の承認に対して積極的な役割を果たしている。

FDA長官代理のJanet Woodcock(ジャネット・ウッドコック)氏は、7月9日の書簡でHHS-OIGに対し、BiogenとFDAの関係性を調査するための外部調査を行うよう求めた。

「メーカーと当局の審査担当者との間で生じたやりとりが、FDAの方針や手順と矛盾していなかったかどうかを判断するには、独立した機関による評価が最善の方法であると考えています」と同氏はTwitterに書き込んでいる。

HHS-OIGによる今回の調査は、Aduhlemの問題に端を発しているものの、今回のレビューはAduhlem(あるいは他の医薬品)の科学的根拠を検証することに重点を置いておらず、むしろFDAがどのようにして、いつ、製薬会社に迅速承認を行うのかを評価するための、迅速承認に関する全体的な監査を行うためのものである。

HHS-OIGは今度、FDAと外部関係者間のやりとり、方針や手続きを検討し、FDAがそれらの手続きを遵守しているかどうかを調査。またAduhelmのレビュープロセスを対象とするだけでなく、他の医薬品の承認に対しても、この経路がどのように使用されてきたかを調査する予定だ。

また、ウッドコック氏はTwitterでの声明内で、FDAはHHS-OIGのレビューに対して「完全に協力する」と伝えている。

「HHS OIGが実行可能な項目を特定して何らかの提言を行った場合、FDAはそれを迅速に検討し、最善策を決定します」と同氏。

また、アルツハイマーの治療薬を開発している他の企業にとっても、この経路は魅力的な選択肢となっているため、今後の動きは治療薬の行先に大きな影響を与える可能性がある。

例えばEli Lilly(イーライリリー)は「Donanemab(ドナネマブ)」というアルツハイマー病治療薬を開発しており、この薬がアミロイドなどのバイオマーカーを低下させ、患者の改善につながることを示す第II相試験の結果を発表している。しかしこの結果の大部分は個々の患者の治療結果ではなく、アルツハイマー病のバイオマーカーに対する薬の有効性を示すものとなっている。

Eli Lillyのシニアバイスプレジデント兼チーフ・サイエンティフィック・メディカル・オフィサーのDaniel M. Skovronsky(ダニエル・M・スコブロンスキー)氏は、先に行われた第2四半期の決算説明会で、FDAによるAduhelmの承認は「政策の転換を反映し、米国におけるアルツハイマー病治療薬の承認に新たな道筋をつけるものである」と述べ、同社が年内にはFDAの迅速承認経路を利用してDonanemabの承認を申請する意向であることを明らかにした。

これは、これから正にHHS-OIGが調査を行おうとしている経路そのものである。

しかしすぐに結果が出るわけではない。「政策の転換」を利用しようとする将来のアルツハイマー病治療薬メーカーに今回のニュースがどのような影響を与えるかは不明である。この報告書は2023年に発表される予定だ。

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

タンパク質探索プラットフォームのAbsciが市場デビューを果たす

バンクーバーを拠点とし、多面的な医薬品開発プラットフォームを開発するAbsci Corpは米国時間7月22日、株式を公開した。一般的にリスクが高いと言われている医薬品開発事業だが、これはこの分野における新しいアプローチへの関心が著しく高まっていることを示唆するニュースである。

Absciは前臨床段階での医薬品開発の加速化に注力しており、薬の候補を予測し、潜在的な治療ターゲットを特定し、治療用タンパク質を何十億もの細胞でテストして、どれが追求する価値のあるものかを特定することができる複数のツールを開発、取得している。

Absciの創業者であるSean McClain(ショーン・マックレーン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じ「我々は医薬品開発のための完全に統合されたエンド・ツー・エンドのソリューションを提供しています。タンパク質創薬とバイオマニュファクチャリングのためのGoogle検索だと想像してみてください」と話している。

IPOの初値は1株あたり16ドル(約1760円)。S-1ファイリングによると、プレマネー評価額は約15億ドル(約1650億円)となっている。同社は1250万株の普通株式を提供し、2億ドル(約220億円)の資金調達を計画しているが、Absciの株式はこの記事を書いている時点ですでに1株あたり21ドル(約2300円)にまで膨らんでいる。同社の普通株は「ABSI」というティッカーで取引されている。

同社がこのタイミングでの株式公開を決めた理由は、新たな人材を獲得して維持する能力を高めるためだとマックレーン氏は話している。「急速な成長と規模拡大を続ける当社にとって、トップクラスの人材の確保が欠かせません。IPOによって、優秀な人材の確保と維持のために必要な知名度が得られることでしょう」。

2011年に設立されたAbsciは、当初から大腸菌でのタンパク質の生産に着目。2018年には複雑なタンパク質を構築できるバイオエンジニアリングされた大腸菌システムである「SoruPro」という初の商用製品を発売した。2019年、同社は「タンパク質印刷」プラットフォームを導入することで、このプロセスをスケールアップさせている。

創業以来、今では170人の従業員を抱えるまでになり、2億3000万ドル(約253億円)を調達した同社。Casdin CapitalとRedmile Groupが主導して2020年6月にクローズした1億2500万ドル(約138億円)のクロスオーバーのファイナンスラウンドが最近の資金流入だ。しかしAbsciは2021年になって2つの大きな買収を行い、タンパク質の製造・検査からAIを活用した医薬品開発まで、提供するサービスを完成形へと近づけたのである。

2021年1月、AbsciはディープラーニングAIを用いてタンパク質の分類と挙動予測を行うDenoviumを買収。Denoviumの「エンジン」は、1億個以上のタンパク質で学習されたものだ。また6月には、特定の病気に対する免疫系の反応を分析するバイオテック企業、Totientを買収した。買収当時、Totientはすでに5万人の患者の免疫系データから4500の抗体を再構築していた。

Absciはすでにタンパク質の製造、評価、スクリーニング技術を保有していたものの、Totientの買収により新薬の潜在的なターゲットを特定することが可能になった。また、Denoviumの買収によりAIベースのエンジンが追加され、タンパク質の発見がこれにより容易になったのである。

「我々が行っているのは、ディープラーニングモデルに(自社のデータを)投入することで、それがDenoviumを買収した理由です。Totientを買収する前は創薬や細胞株の開発を行っていました。今回の買収により統合が完全になったため、ターゲット発掘もできるようになりました」とマックレーン氏は話している。

この2つの買収によって、Absciは医薬品開発の世界でとりわけアクティブかつニッチな位置に身を置くことになったわけだ。

数十年もの間、医薬品の研究開発はローリターンとされてきたにもかかわらず、医薬品開発における新たなアプローチの開発には注目すべき財政的関心が寄せられている。Evaluateの報告によると、新薬開発企業は2021年上半期、欧米の取引所でのIPOで約90億ドル(約9900億円)を調達している。医薬品開発は一般的にハイリスクであるにもかかわらずだ。バイオ医薬品のR&Dリターンは、2019年に1.6%と過去最低を記録し、現在も約2.5%までにしか回復していないとDeloitteの2021年の報告書は指摘している

医薬品開発の世界ではAIの役割がますます大きくなってきている。「ほとんどのバイオファーマ企業が、AIを創薬、開発プロセスに統合しようとしている 」と、同じくDeloitteのレポートは伝えている。また、スタンフォード大学のArtificial Intelligence Indexの年次報告書によると、2020年に創薬プロジェクトはこれまでで最も多くのAI投資を受けていたという。

最近では候補化合物を前臨床開発の段階へと進められた企業によって、医薬品開発におけるAI活用の将来性が高められているようだ。

6月、香港のスタートアップInsilico MedicineはAIが特定した特発性肺線維症の薬剤候補を前臨床試験の段階にまで進めたことを発表。この成果により2億5500万ドル(約280億円)のシリーズCラウンドが成立した。創業者のAlexander Zharaonkov(アレクサンダー・ジャラオンコフ)氏はTechCrunchに対し、PI薬の臨床試験を2021年の終わりか2022年初めに開始する予定だと話してくれた。

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AIとタンパク質生産の両方をてがけるAbsciは、誇大広告が多く、混み合った空間ですでに確固たる地位を確立している。ただし、ビジネスモデルの詳細については今後詰めていかなければならないだろう。

Absciは医薬品メーカーとのパートナーシップによるビジネスモデルを追求している。つまり、自社で臨床試験を行うことは考えていないわけだ。医薬品の開発過程のある段階に到達することを条件とした「マイルストーンペイメント」や、医薬品が承認された場合に販売額に応じたロイヤルティで収益を得ることを想定している。

これにはいくつかの利点があるとマックレーン氏はいう。何百万ドル(何億円)もの研究開発費を投じて試験を行った後に新薬候補が失敗するというリスクを回避でき、また一度に「数百」もの新薬候補の開発に投資することができるのだ。

現時点でAbsciは製薬会社との間で9つの「アクティブなプログラム」を行っている。同社の細胞株製造プラットフォームは、Merck、Astellas、Alpha Cancer technologiesを含む8つのバイオファーマ企業の薬剤試験プログラムで使用されている(残りは非公開)。これらのプロジェクトのうち5つは前臨床段階、1つは第1相臨床試験、1つは第3相臨床試験、最後の1つは動物の健康に焦点を当てたものであると同社のS-1ファイリングに記載されている。

現在Absciの創薬プラットフォームを使用しているのはAstellasのみだが、マックレーン氏がいうように、創薬機能は2021年展開したばかりである。

しかしこれらのパートナーはいずれも、Absciのプラットフォームを正式にライセンスして臨床または商業利用しているわけではない。マックレーン氏は、9つのアクティブなプログラムの中には、マイルストーンやロイヤリティの可能性があると考えている。

確かに同社の収益性に関しては、まだ改善の余地がある。2021年の時点でAbsciは約480万ドル(約5億3000万円)の総収入を得ており、2019年の約210万ドル(約2億3000万円)から増加傾向にある。それでもコストは高止まりしており、S-1ファイリングによると過去2年間で純損失を計上。2019年には660万ドル(約7億3000万円)の純損失、2020年には1440万ドル(約16億円)の純損失を計上しているという。

同社のS-1によると、これらの損失は、研究開発費、知的財産ポートフォリオの構築、人材の雇用、資金調達、およびこれらの活動に対するサポートに関連する支出とされている。

マックレーン氏によると同社は最近、7万7000平方フィートの施設を完成させたという。今後事業規模を拡大していく可能性があるという意味なのだろう。

当面はIPOで調達した資金を使ってAbsciの技術を使用するプログラム数を増やし、研究開発に投資し、同社の新しいAIベース製品を継続的に改良していく予定だ。

画像クレジット:CHRISTOPH BURGSTEDT/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

サウナで「ととのう」を見える化。KDDI総合研究所関連プロジェクトにてVIE STYLEが開発開始

サウナで「ととのう」とは、サウナと水風呂を繰り返すことで訪れるある種のトランス状態のような感覚のこと。

感覚的な状態のため言葉で表したり共有するのが難しいのですが、これを可視化するシステムの開発をVIE STYLEがスタートしたと発表しました。

これは、KDDI総合研究所の研究拠点「KDDI research atelier」が実施する取り組み「FUTURE GATEWAY」のプロジェクト「Hoppin’ Sauna」からうまれました。「いつでもどこでも、呼べばサウナがやってくる」をコンセプトに、労働生産性の向上や医療費抑制への貢献を目的にしたものです。

VIE STYLEのイヤホン型脳波計「VIE ZONE」を活用して、脳波をはじめとするさまざまな生態情報を高精度に取得、「ととのう」プロセスを数値化して個人差や体調差を定量的に表現。さらに、被験者の視覚や聴覚、触覚に嗅覚などを刺激したときのフィードバックから「ととのう」プロセスの可能性を検証、最適化を目指します。

米食品医薬品局がファイザーとビオンテックの新型コロナワクチンを正式承認

米食品医薬品局(FDA)はPfizer(ファイザー)とBioNTech(ビオンテック)が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを正式に承認した。新型コロナワクチンの正式承認は初となる。mRNAベースのワクチンは緊急使用許可(EUA)を通じて2020年後半から使えるようになっていた。別の承認プロセスが終わるまでは12〜15歳への接種はEUAの下に行われるが、16歳以上向けにはPfizerワクチンは正式承認されたものとなる。

承認の取得は、PfizerとBioNTechが正式に米国内でワクチンを販促できることを意味する。そしてFDAはワクチンが「Comirnarty(コミナルティ)」というトレードドレスのもとに提供されることを明らかにした。このトレードドレスはさほどキャッチーな印象はないが、少なくとも「PfizerとBioNTechの新型コロナワクチン」よりは呼びやすい短さだ。FDAの承認はまた、臨床前データ、臨床試験データ、製造に関する情報、EUA期間の使用から集められたデータを含め、ワクチンが安全性と有効性の基準をすべて満たしていることを意味する。

今回の正式承認は、利用できるにもかかわらずワクチンをまだ接種していないことの言い訳として「正式に承認されるまで待つ」と言ってきた日和見主義者に接種を促すものになるという期待がある。少なくとも、パンデミックに向き合う中で接種を躊躇している人にとって理性的ではない無責任なスタンスを正当化することは難しくなる。

ComirnartyはFDAによって「優先審査」対象となっていた。これは実質的に当局が審査を進めるためにそのプロセスに全力を注いだことを意味する。Moderna(モデルナ)の承認については言及がなかったが、こちらも優先的に審査されている。

TechCrunchはTC Disrupt 2021でBioNTechのCEOで共同創業者のUğur Şahin(ウール・シャヒン)氏に話を聞く。9月21〜23日に開催されるバーチャルイベントをお見逃しなく。

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画像クレジット:JUSTIN TALLIS/AFP / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

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米食品医薬品局(FDA)はPfizer(ファイザー)とBioNTech(ビオンテック)が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを正式に承認した。新型コロナワクチンの正式承認は初となる。mRNAベースのワクチンは緊急使用許可(EUA)を通じて2020年後半から使えるようになっていた。別の承認プロセスが終わるまでは12〜15歳への接種はEUAの下に行われるが、16歳以上向けにはPfizerワクチンは正式承認されたものとなる。

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今回の正式承認は、利用できるにもかかわらずワクチンをまだ接種していないことの言い訳として「正式に承認されるまで待つ」と言ってきた日和見主義者に接種を促すものになるという期待がある。少なくとも、パンデミックに向き合う中で接種を躊躇している人にとって理性的ではない無責任なスタンスを正当化することは難しくなる。

ComirnartyはFDAによって「優先審査」対象となっていた。これは実質的に当局が審査を進めるためにそのプロセスに全力を注いだことを意味する。Moderna(モデルナ)の承認については言及がなかったが、こちらも優先的に審査されている。

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

NEDOがバイオ由来製品生産の実用化に向けスケールアップ実証と人材育成の場を関東圏に提供

NEDOがバイオ由来製品生産の実用化に向けスケールアップ実証と人材育成の場を関東圏に提供

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は8月23日、バイオ由来製品生産(物質生産)技術を産学で実証する拠点を関東圏に提供し、「バイオものづくり」に携わる人材を育成する事業を開始すると発表した。これは同機構の事業「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」の一環として実施され、「実験室レベルの生産性を、商業レベルを想定した環境で再現するスケールアップ検証の場を提供」するとしている。企業、大学、研究機関で行われている基礎研究と事業化とのギャップを埋めて、「商用生産まで到達するバイオ由来製品の増加」を目指すとのこと。

発酵技術に見られるように、微生物や植物の力を借りてものを作る物質生産は、日本が競争力を発揮できる分野だとNEDOはいう。しかし、こうした技術は現場担当者の勘と経験に依存するところが大きい上に、製造拠点の海外進出や熟練者の高齢化が進んでいる。その知見を継承するためには、言語化されていないその暗黙知をデジタル化して、形式知にすることが求められている。そこで2020年、政府の統合イノベーション戦略推進会議は「バイオ戦略2020」をまとめ、バイオとデジタルの融合のための基盤整備、世界の人材と投資を惹きつける拠点作りの推進を掲げた。NEDOはこれを踏まえて、今回の取り組みを開始するに至った。

具体的には、企業、大学、研究機関などで開発された有用な生産候補株(スマートセル)の商用生産を想定したスケールアップ検証の場を提供(2026年度まで整備を継続予定)、2022年度以降はそこでバイオ生産実証を行う企業、大学、研究機関を段階的に公募し、委託または助成を行う予定としている。

主な実施内容は以下のとおり。

バイオ生産実証拠点(バイオファウンドリ)の整備

30Lから300Lまでの発酵槽を備える既存設備(三井化学茂原分工場)に加え、この設備に隣接して最大3000Lの発酵槽を含む発酵設備や前処理および糖化設備、精製設備を含む一連のパイロットスケールのバイオ生産設備を新設。

バイオファウンドリ機能の検証

利用者の菌株や技術情報の機密保持を考慮した運用ルールを整備し、各種法令や規制を遵守する体制を構築。設備を安全かつ効率的に稼働させる。さらに、利用者には事業化に向けた有用なサービスも提供。

バイオファウンドリ機能のための技術開発・技術適用による機能拡張

低コストで省エネなバイオ生産プロセスの開発を可能にする以下の技術を開発。

  • 短期間、低コストで、最適条件決定やスケールアップを可能とする手法とシステム
  • バイオ生産プロセスの低コスト化、省エネ化、低炭素化
  • バイオ生産プロセスに適合したライフサイクルアセスメントによるCO2排出量算出モデル
  • バイオマス残渣の短時間および高効率の前処理

バイオ生産実証拠点での実証テーマの研究支援

上に掲げた項目を、すでに実用化に近いレベルの性能を示している生産菌を使用し、生産実証テストを実施予定。

バイオものづくり人材の育成

パイロットスケールのバイオ生産設備を用いた実習、同事業で開発する技術の研修プログラムを作成、実際に生産を担う人材の研修を実施。

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AIを活用した新薬開発を行うMOLCURE(モルキュア)は8月18日、第三者割当増資による総額8億円の資金調達を発表した。引受先は、ジャフコ グループ、STRIVE、SBIインベストメント、日本郵政キャピタル、GMOベンチャーパートナーズ、日本ケミファ。今後は、国内外の製薬企業との共同創薬パイプライン開発を推進するとともに、グローバルを主戦場とした事業展開をさらに加速する。

有効な治療薬のない疾患は3万以上存在するとされるものの、製薬業界では創薬の難易度が年々高まり、開発効率が下がっているのが現状だ。製薬企業が医薬品を市場に提供するまでには約10年という期間、また約1000億円という巨額なコストが必要といわれており、新たな技術や開発手法が求められている(How to improve R&D productivity: the pharmaceutical industry’s grand challenge)。

これに対して、MOLCUREが提供するバイオ医薬品分子設計技術は、AIとロボットを活用し自動的に大規模スクリーニングと分子設計を行えることから、既存手法と比較して、医薬品候補分子の発見サイクルを1/10以下に効率化すること、また10倍以上多くの新薬候補の発見、従来手法では探索が困難な優れた性質を持つ分子の設計を行えるという。現在同技術を活用し、製薬企業とパートナーシップを組んで新薬開発を行っているそうだ。AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速

特に、2021年に製薬企業と実施した共同創薬パイプライン開発では、既存のバイオテクノロジー実験ドリブンな手法と比較して100倍以上の結合力を持つ分子を大量に設計することに成功したという。また世界で初めて、ある創薬標的に対して効果を持つ分子の設計にも成功し、AIを活用した創薬事例で大きな成果を残したとしている。

MOLCUREが提供する技術は、圧倒的に多くの優れた医薬品分子を探索できる点や、業界トップの研究者集団が提供するAI×バイオ医薬品開発の質の高いノウハウが支持されているとしている。共同で創薬パイプライン開発を行っているパートナーとしては、これまでに米Twist Bioscience、日本ケミファをはじめ(2021年8月18日時点の例)、製薬企業・製薬バイオテック企業など累計7社10プロジェクトで利用されているそうだ。

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新規の酵素遺伝子や反応経路を探索可能なプラットフォームを手がけるdigzymeが約1.5億円のプレシリーズA調達

新規の酵素遺伝子や反応経路を探索可能なプラットフォームを手がけるdigzymeが約1.5億円のプレシリーズA調達

digzyme(ディグザイム)は8月10日、プレシリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による約1億5000万円の資金調達を7月30日に実施したことを発表した。引受先はDEEPCORE、ANRI、Plug and Play Venturesなど。

2019年8月設立のdigzymeは、「バイオインフォマティクスで物質生産プロセスに変革を起こし、環境と経済を両立する。」をミッションに、新規の酵素遺伝子や反応経路を探索可能なプラットフォーム「digzyme Moonlight」を展開している東京工業大学発スタートアップ。

酵素は、化学反応を引き起こす触媒として食品・化学品・日用品など様々な分野で活用されている。とりわけ化学品開発においては、生物が持っている酵素を利用し無機物から有機物を作り出す物質生産(バイオプロセス)が地球環境に対する負荷が少ないことから、近年その活用ニーズが大きく高まっている。

digzymeは、酵素の持つ「Moonlighting」と呼ばれる機能に着目し、生体内の本来とは異なる複数の用途に使用可能な反応を持つ酵素と、その反応経路を遺伝子解析を使って見つけ出すという。化合物生産・分解において、環境負荷の低い選択肢を効率よく提案することを可能にするとしている。

ただバイオプロセスの産業化には課題が多く、「人間の経験や偶然に頼っている割合が大」とdigzymeは話す。そこでdigzymeは、物質生産の開発コストの低減、多様なバイオ化学品の生産、より広い市場へのバイオプロセスおよびバイオ化学品の導入を可能にするソリューションとして「生命科学と情報科学を融合させたバイオインフォマティクスを中心としたプラットフォーム技術」を提供している。

今回調達した資金は、「酵素開発プラットフォームの強化として、収率を向上させるための酵素改変技術の拡張と、これを活用した具体的な開発パイプラインの立ち上げ研究」に向けられるという。

2021年度には、複数の開発パイプラインの立ち上げと「酵素探索研究」を予定しており、その中には「カンナビジオール合成」と「リグニン分解」がある。

このうちカンナビジオール(CBD。CannaBiDiol)は大麻草に含まれる成分で、期待が集まっている化合物。大麻および大麻草は、規制部位か否か、またテトラヒドロカンナビノール類(THCs)という向精神作用物質が含まれていることなどから、「大麻取締法」「麻薬及び向精神薬取締法」により厳しく取締が行われる一方、そのような作用のない、リラックス効果や癲癇治療効果があるカンナビノール類(CBDs)に関しては「大麻等の薬物対策のあり方検討会」において議論がなされているという。ただ、すでに複数企業がCBD合成系の開発を手がけているものの、経済的コストの低い持続的な生産に至らず高収率化が課題となっているそうだ。

また、CBDsとTHCsは1種類の酵素の微妙な違いにより合成経路が分岐するため、純粋なCBD合成には厳密な制御が必要となる。実際日本国内において、CBD製品の中に微量なTHCが混入が確認されたため販売が停止された例もある。これら課題について、digzymeは酵素開発技術を活かしその解決を目指すとしている。

リグニンは、木質バイオマスの約3割を占める物質ながら、同じ木質バイオマスのセルロースやヘミセルロースと比べて分解が難しいため利用されずに残ったり、使うにしても事前に化学薬品やエネルギーを投入して分解してやる必要がある。だが、「うまく分解できれば、さまざまな高付加価値なバイオ化学品の製造に利用できる可能性」を秘めているという。digzymeは、広い遺伝子資源の中から有効な酵素を探索し、改変を行うことで高効率なリグニン分解系の開発に着手する。

現在、digzyme Moonlightは共同研究を通じて解析サービスを提供しており、今後は委受諾契約などによる提供を行うとのこと。

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【コラム】カナダ人は穏やかながらも積極的に米国のバイオテクノロジー人材をリクルートしている

本稿の著者はMichael May(マイケル・メイ)氏とJayson Myers(ジェイソン・マイヤーズ)氏。マイケル・メイ氏はCentre for Commercialization of Regenerative Medicineの社長兼CEO。ジェイソン・マイヤーズ氏はNext Generation Manufacturing CanadaのCEO。

ーーー

米国のトランプ大統領の任期中、カナダはSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の労働者を自国に呼び寄せようと注力し、大きなニュースになった。トランプ氏は退任したが、カナダは隣国から人材をリクルートすることをやめてはいない。そして、この人材確保の戦いで最もホットな前線の1つがバイオテクノロジーだ。

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何世代にもわたり、カナダのエンジニアやプログラマー、研究者たちにとってシリコンバレーの給与水準と天候は魅力的なものだった。しかし、トランプ大統領による移民排斥の発言、政策、ビザ規制が行われた4年間は、カナダのテクノロジー企業や政府に競争上の優位性をもたらした。

2016年のトランプ大統領就任後、カナダ連邦政府は移民の受け入れを促進するプログラムを立ち上げ、トロントやモントリオール、バンクーバーといった都市のテクノロジーエコシステムを後押しした。カナダのテクノロジー界のリーダーたちは、より多くの労働者を同国に呼び込むキャンペーン乗り出した。ケベックでは、移民排斥的な空気が高いことで知られる同州政府に業界が働きかけ、新規移住者を14%増やすことに成功している。

パンデミックによるシリコンバレーからの大規模な流出により、多数の国外移住カナダ人が故郷に押し寄せている。米国のH-1 Bプログラム(特定のスキルを備えた外国人労働者のためのビザプログラム)に応募するカナダ人の数は劇的に減少しており、10年にわたる傾向に拍車をかけている。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を抑え、新しい経済への移行を促進する政府支出は、カナダ国民に広く支持されている。

それでも、カナダのテクノロジー界や政治界のリーダーたちは依然として、先進的な製造、クリーンテクノロジー、バイオテクノロジーといった主要セクターの人材のインバウンドフローについて懸念している。彼らは、米国の長年の優位性を切り崩すためにあらゆる手段を講じている。

その活動の大半はバイオテクノロジー分野におけるものだ。新型コロナウイルス感染症はワクチン製造能力の不足を露呈させたが、カナダには優れた大学のエコシステムと最先端の研究を行う数千のベンチャー企業が主導する、活気に満ちたバイオテクノロジーおよび生命科学の研究セクターが存在する。これらの企業の多くは、パンデミックに端を発するバイオテクノロジーへの投資ブームに乗じて、2020年には記録的な額のベンチャー資金を調達している。

しかし、この財源流入は資金調達の展望を変えたものの、多くのカナダ企業はなおも規模の拡大を模索している。カナダのテクノロジーエコシステムは人材に満ちているが、伝統的には、これらの企業がグローバルな強豪企業に成長するために必要な、十分な数の上級人材を育成、採用、保持していない。

科学者のみならず、ビジネスリーダーも必要とされている。トロント地域のハブやベンチャー企業を対象とした最近の調査によると、生物医学工学、再生医療、その他の関連企業は、米国産業界のより良い賃金と機会に引き寄せられる上級幹部、最高経営責任者、科学専門家といった人材の大幅な不足に苦しんでいる。

我々双方の組織も属するカナダのイノベーション経済協議会(IEC)の最近のサミットでは、産業界のリーダーたちが、世界的な規制問題やビジネス開発における未充足の仕事、さらには最高医療責任者について議論を交わした。これらは、学問的な訓練と職場での進歩的なリーダーシップの任務の両方から培われた、技術的およびビジネス的な洞察力を必要とするハイブリッドな役割を担っている。

カナダの大学、ハブ、ベンチャーキャピタル企業は、専門の研修機関やプログラムを設立することでこのニーズに対応している。また、規模拡大を目指すカナダ企業は、新たに調達した資金を使って米国内外で大量の人材を採用することでこのギャップを埋めようとしており、パートナーシップを構築し、未開発の人材プールを精査しつつ、リモートワークや柔軟な勤務時間を提供している。

このような背景の中、カナダの連邦政府は2年ぶりに予算を執行した。これは、同国がこれまでに展開した中で最も積極的なテクノロジー支出計画の1つであり、世界市場が同国の伝統的なエネルギー輸出や天然資源、工業製品から離れつつある中で、連邦政府が先進産業の育成とSTEM分野の雇用創出に真剣に取り組んでいることを物語っている。予算には、大学研究パートナーシップ、雇用奨励金、助成金、インキュベーターやハブへの支援が含まれている。重要なのは、ライフサイエンス分野の人材パイプラインを構築するための22億ドル(約2400億円)のコミットメントがあることだ。

新型コロナの影響を抑え、新しい経済への移行を促進する政府支出は、カナダ国民に広く支持されている。4月初旬に行われたIECとCampaign Researchによる世論調査では、中等後のSTEM教育への投資に対して3対1の支持が示され、バイオテクノロジーを含む先進的な製造業への政府投資に対しても同様に強い支持が見られた。10倍の広さの隣国と競争するには、まさに必要とされることである。

カナダの研究者や大手製薬企業のCEOの米国流出がすぐになくなるとは言い難い。しかし、投資資金の流入、テクノロジーエコシステムの急成長、自律的な人材エコシステムの構築、採用、維持に向けた協調的な政策努力などにより、カナダは業界が望むような存在になりつつある。

言い換えれば、米国は、自国のバイオテクノロジーの人材がカナダに積極的に惹きつけられようとしていることに留意すべきであろう。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:コラムカナダバイオテックアメリカ人材採用

画像クレジット:Ivan-balvan / Getty Images

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(文:Michael May、Jayson Myers、翻訳:Dragonfly)

DeepMindのAlphaFold2に匹敵するより高速で自由に利用できるタンパク質フォールディングモデルを研究者が開発

2020年末、DeepMind(ディープマインド)は、同社のAIモデルAlphaFold2(アルファフォールド2)がタンパク質の構造を正確に予測(一般的で非常に難しい問題だ)することで生物学界を驚かせた。数十年来の問題を「解決できた」と多くの人が宣言したからだ。今回研究者たちは、このときDeepMindが世界を飛び越えてみせたように、今度はRoseTTAFold(ロゼッタフォールド)でDeepMindを飛び越えたと主張している。RoseTTAFoldは、わずかな計算コストでほぼ同じことを行うシステムだ(しかも無料で使用できる)。

AlphaFold2は、2020年11月に開催されたCASP14(タンパク質を構成するアミノ酸の配列から、その物理的構造[フォールディング]を予測するアルゴリズムを競う仮想イベント)で競合他社を圧倒し、業界の話題となった。DeepMindのモデルは、他のモデルをはるかに凌駕し、非常に高い信頼性のある精度を誇っていたため、この分野の多くの人たちが(半ば真剣に、そしてユーモアを持って)新しい分野への転身を口にしていた。

しかしDeepMindによるこのシステムの計画だけは、誰も満足させていないように思えた。その内容が網羅的かつオープンに記述されていなかったため、(Alphabet / Googleが所有する)DeepMindが、秘密のソースを多かれ少なかれ独り占めしようとしているのではないかと心配する人もいたのだ。もちろんそれは彼らの特権ではあるものの、科学の世界における相互扶助の精神にはやや反するものだと思われた。

【更新】ちょっとしたサプライズだが、DeepMindは米国時間7月15日に、手法に関するより詳細な内容を「Nature」誌に発表した。コードはGitHubで公開されている。このことにより、前述の懸念はかなり軽減されたものの、以下に説明した先進技術の内容にはまだ十分意味がある。記事の最後にはチームからのコメントも付けておいた。

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この懸念は、ワシントン大学のDavid Baker(デビッド・ベイカー)氏とMinkyung Baek(ミンギヨン・ベイ)氏を中心とする研究者が、最新の科学誌『Science』に発表した研究によって、少なくとも部分的には解消されたようだ。ベイカー氏は、ご存知の方もいると思うが、人工的に作られたタンパク質を用いて新型コロナウイルス(COVID-19)に対抗する研究でBreakthrough Prize(ブレイクスルー賞)を受賞したばかりだ。

研究チームが開発した新モデルRoseTTAFold(AlphaFold2の手法を参考にしたとベイカー氏がメールで率直に答えている)は、AlphaFold2に匹敵する精度で予測を行うことができる。

ベイカー氏は「AlphaFold2グループは、CASP14ミーティングでいくつかの新しいハイレベルなコンセプトを発表しました。そうしたアイデアからスタートし、グループの仲間と一緒にブレインストーミングを重ねたことで、ミンギョンはわずかな時間で驚くほどの成果を上げることができました」と語った(「彼女は本当にすごいよ!」と彼は付け加えた)。

予測されたタンパク質の構造とその正解の例。90点以上は非常に良いとされている(画像クレジット:UW/Baek他)

ベイカー氏のグループはCASP14では2位という立派な成績を収めたが、DeepMindの手法が一般的なレベルで説明されたものだとしても、彼らの手法と競合するものであることに気が付いた。彼らは、(1)アミノ酸の配列、(2)残基間の距離、(3)空間上の座標を同時に考慮する「3トラック」ニューラルネットワークを開発した。その実装は非常に複雑で、この記事では紹介しきれないが、結果として、ほぼ同じ精度レベルを達成したモデルとなった。繰り返しになるが、1年前にはまったく存在しなかったレベルだ。

さらにRoseTTAFoldは、このレベルの精度をより速く、つまり、より少ない計算量で達成する。

DeepMindは、個々の予測を行うために複数のGPUを何日もかけて使用したと報告していますが、私たちの予測手法は、サーバーの利用と似たやり方で、ネットワークを介して1回のパスで行われます【略】RoseTTAFoldのエンド・ツー・エンドバージョンでは、400残基未満のタンパク質のバックボーン座標を計算するのに、RTX2080 GPUで10分以内で収まります。

聞こえただろうか?これは何千人もの微生物学者が安堵のため息をつき、スーパーコンピューターの利用を申請するメールの下書きを捨てた音だ。現在、2080を手に入れるのは容易ではないかもしれないが、重要な点はハイエンドのデスクトップGPUがあれば、ハイエンドクラスターを数日間稼働させることなく、数分でこのタスクを実行できるということだ。

RoseTTAFoldは要件が控えめなため、AlphaFold2では考えられなかったような、パブリックなホスティングや分散にも適している。

ベイカー氏は「私たちは、誰もがタンパク質の配列を投稿して、構造を予測できる公開サーバーを用意しています」と語る。「数週間前にサーバーを立ち上げてから、4500件以上の投稿がありました。また、ソースコードも自由に利用できるようにしています」。

これは非常にニッチな問題に見えるかもしれないが、タンパク質の折り畳みは歴史的に見ても生物学で最も困難な問題の1つであり、その解決のために数え切れないほどの時間がハイパフォーマンスコンピューティングに費やされてきた。タンパク質の構造を予測するために、人々が自分のコンピュータサイクルを寄付する分散コンピューティングアプリFolding@Homeが話題になったことを憶えている人もいるだろう。1000台のコンピューターで解決に数日から数週間かかっていたような問題(基本的に力任せに解を作り出し検証する)でも、今ではデスクトップ1台で数分で解決できるようになった。

タンパク質の物理的構造は、生物学の中でも最も大切なものだ。なぜなら、私たちの体の中で大部分の仕事をしているのはタンパク質であり、治療のために変更したり、抑制したり、強化したりしなければならないのもタンパク質だからだ。しかし、そのためにはまずタンパク質を理解する必要があるのだが、2020年の11月まではその理解を計算機を使って確実に行うことはできなかったのだ。CASP14ではそれが計算可能であることが証明され、そして今回それが広く利用できるようになったのだ。

だが残念ながらこれらは、タンパク質フォールディングの問題を解決するための「ソリューション」そのものではない。もちろん今回、中立的な状態で静止しているタンパク質のほとんどの構造を予測することができるようになり、複数の領域に大きな影響を与えるようにはなったものの、タンパク質が「中立的な状態で静止している」ことはほとんどない。他の分子をつかんだり離したり、ゲートを通して他のタンパク質をブロックしたりすり抜けさせたり、とにかくあらゆることをするために、タンパク質自身がひねったりねじったりされるのだ。こうした相互作用は、数が莫大で、複雑で、予測するのが難しく、AlphaFold2もRoseTTAFoldもそれを計算することはできない。

ベイカー氏は「この先、たくさんのエキサイティングなテーマが待ち受けています【略】物語は始まったばかりなのです」という。

DeepMindの論文について、ベイカー氏は大学人の仲間意識から次のようにコメントしている。

読んでみて、すばらしい業績を描いたすてきな論文だと思いました。

このDeepMindの論文は、私たちの論文をきれいに補完するものであり、私たちの研究が彼らの進歩に基づいていることを考えると、私たちの論文より前に発表されたのは適切なことだと思います。

読者のみなさまには、両論文を楽しんでいただけると思います。2つは重複するものではありません。私たちが論文で指摘しているように、彼らの手法は私たちの手法よりも精度が高く、その差の原因が彼らの手法のどのような特徴にあるのかを知ることは、非常に興味深いところです。私たちはすでに、RoseTTAFoldをタンパク質の設計やより体系的なタンパク質複合体の構造予測に使用していますが、DeepMindの論文から得られたアイデアを取り入れることで、従来の一本鎖のモデリングとともに、これらを急速に改善できると期待しています。

もし科学とその潜在的な影響について興味があるならば、CASP14におけるAlphaFold2のパフォーマンスを受けて書かれた、方法とあり得る次のステップについての、より詳細で技術的な説明を読んでみるとよいだろう

カテゴリー:バイオテック
タグ:DeepMindタンパク質RoseTTAFoldワシントン大学

画像クレジット:Ian Haydon, UW Medicine Institute for Protein Design

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(文:Devin Coldewey、翻訳:sako)

iPS細胞で犬をはじめ動物再生医療に取り組む、日本大学・慶應義塾大学発「Vetanic」が総額1.5億円を調達

iPS細胞で犬をはじめ動物再生医療に取り組む、日本大学・慶應義塾大学発「Vetanic」が総額1.5億円を調達

iPS細胞で動物再生医療を推進するバイオテック領域スタートアップVetanic(ベタニック)は7月15日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による総額1億5000万円の資金調達を発表した。引受先は、慶應イノベーション・イニシアティブが運営するKII2 号投資事業有限責任組合、QBキャピタルおよびNCBベンチャーキャピタルが共同で運営するQB第ニ号投資事業有限責任組合。

同社によると、ヒトで実用化が進む再生医療は、獣医療においても普及が望まれているものの、現在は設備要件を満たした少数の動物病院において実施されているのみで、品質のバラツキや治療開始までのリードタイム、また高額な治療費など、普及に向けた課題が存在するという。

そんな中Vetanicは、日本大学と慶應義塾大学との共同研究により、「世界で唯一の臨床応用に適したイヌiPS細胞の作製」に成功した(iPS細胞作製方法は両大学の共同出願として、PCT特許出願中)。これは「病原性となり得るウイルスを利用しない、免疫反応を惹起してしまう異種の動物成分を用いずに安定的・高効率で誘導できることから、安全性が高く高品質な真の『臨床グレード』と呼べるiPS細胞」とのこと。また、この独自のイヌiPS細胞を起原として、イヌの間葉系幹細胞(MSC)の誘導に成功した。同社はこのMSCを用いた再生医療の実用化を目指し、研究開発を推進するとしている。

iPS細胞で犬をはじめ動物再生医療に取り組む、日本大学・慶應義塾大学発「Vetanic」が総額1.5億円を調達

Vetanicの技術で構築した臨床グレードのイヌiPS細胞

間葉系幹細胞(MSC)とは、体にもともと備わっている幹細胞の一種で、増殖能が高く、神経、脂肪、骨、血管などに分化できる細胞。Vetanicの技術は、脂肪組織由来のMSCとは異なり、ドナー動物に依存しないため倫理的で、動物の身体的負担がなく、治療開始までのリードタイムも短縮できるなど、これまでの再生医療の課題の数々を克服している。

今後は、イヌiPS細胞由来間葉系幹細胞の開発を加速させ、「MSC以外の各種再生医療等製品の開発にも順次着手する」という。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:iPS細胞(用語)医療(用語)MSC / 間葉系幹細胞(用語)慶應義塾大学(組織)再生医学・再生医療(用語)日本大学(組織)Vetanic(企業)ペット(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

NASAが宇宙空間でゲノム編集技術「CRISPR」実施に成功、微重力下でのDNA損傷修復メカニズム研究

ASAが宇宙空間でのゲノム編集技術「CRISPR」実施に成功、微重力下におけるDNA損傷の修復メカニズムを研究する方法を開発

Sebastian Kraves and NASA

NASAの宇宙飛行士クリスティーナ・コック氏は、CRISPR-Cas9と呼ばれる遺伝子編集を宇宙空間で行うことに初めて成功しました。

この実験では、ISS内で培養した酵母の細胞のDNAに、二本鎖切断と呼ばれる特に有害なDNA損傷を生じさせ、放射線などによる非特異的な損傷では得られない、微重力状態におけるより詳細なDNA修復メカニズムを観察しました。コック飛行士は2020年2月に地上へ帰還しており、実験もそれ以前に完了していたものの、その結果が出るのについ最近までかかったとのこと。

重力のない、またはほとんどない場所での長期間の生活は、様々な場面で生命活動に変化をもたらす可能性があります。とくに地磁気による保護のない宇宙空間では飛行士は常に宇宙線(地球外の宇宙空間からの放射線で、生物へ大きな影響をもたらす重粒子線を多く含む)に晒されることになり、それによるDNAへの影響は避けられません。

そのため、この実験を足がかりに宇宙空間でのDNA修復にまつわるさらに多くの実験研究への道が開かれ、十分な知見が蓄積されれば、将来の有人火星探査やさらに深宇宙への有人探査が現実的なものになるかもしれません。

今回の研究は、宇宙でCRISPR-Cas9によるゲノム編集に成功した初めての例であり、生きた細胞に外部からの遺伝物質を取り込ませる形質転換に成功した初めての例でもあります。そして将来の研究で、電離放射線によって引き起こされる複雑なDNA損傷をよりよく模倣してさらに研究を重ねられるようになることが期待されます。人類が火星やその先へと向かうのに、CRISPR-Cas9が重要な役割を担うことになるかもしれません。

(Source:EurekAlertEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療(用語)宇宙(用語)宇宙開発(用語)CRISPR(用語)健康 / 健康管理 / ヘルスケア(用語)DNA / 遺伝子(用語)NASA(組織)

寒い季節でもミツバチの健康を保つ技術で収穫量を最大90%も増加させるBeeflow

ミツバチは私たち人間の農業や、地球上の生態系、そして地球上の生物種としての全体的な幸福のために、絶対的に必要不可欠な存在だ。しかしながら、ミツバチの個体数は減少しており、絶滅の懸念が大きくなっている

米国時間6月29日、スタートアップ企業Beeflowは830万ドル(約9億2000万円)のシリーズAラウンドの完了を発表した。同社はミツバチを救うことと、農家の経営効率を上げることの両立を追究している。

Beeflowは、独自の科学技術を用いて、特に寒い季節においてミツバチをより健康にする。膨大な研究の結果、ある種の植物性食品や分子をミツバチに与えると、ミツバチの死亡率が最大70%減少し、寒い気候での元気が増すことがわかった。

元気という表現は何のことを曖昧だと思うかもしれないが、それは当然だ。

ミツバチは地球上の天然の受粉媒介者だ。花を実らせるために、花粉をある場所から別の場所へと運んでいく。多くの農家では、養蜂家からミツバチを「レンタル」してもらい、農場で植物の受粉をやってもらっている。しかし、その効果はほとんどすべての面で測定することができず、ミツバチ自体を本当の意味でコントロールすることも不可能だ。

Beeflowの技術により、ミツバチは健康で丈夫になり、寒冷な気候の中でも、それがない場合に比べて最大7倍もの飛翔が可能になる。これは、ミツバチが農家のために効果的、効率的に作物を受粉させる可能性が高くなることを意味する。

同社は、ミツバチの死亡率を下げるだけでなく、ブルーベリーやアーモンドといった特定の作物を狙うようにミツバチを訓練する「ToBEE」という製品も提供している。

これらのBeeflowのプロダクトを組み合わせることで、農家は作物の収穫量を最大90%増加させられるという。

Beeflowのビジネスモデルは2つある。1つが自社で保有するミツバチを農家に貸し出して受粉させるというもの。もう1つが、養蜂家と協力して彼らをBeeflowのネットワークに参加させるというものだ。養蜂家はBeeflowの技術にお金を支払のではなく、農家との関係を権利として提供する。

アルゼンチン出身のMatias Viel(マティアス・ビエル)氏が設立したこのスタートアップは、主にラテンアメリカと米国西海岸で事業を展開しているが、今後は東海岸やメキシコにも進出する予定だ。

「最大の課題は、オペレーションとその実行です。非常に多くの需要があり、我々は今、チームとオペレーションの規模を拡大する必要があります」とビエル氏はいう。

今回の資金調達ラウンドはOspraie Ag Scienceがリードし、Future VenturesのSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベンソン)氏やJeff Wilke(ジェフ・ウィルク)氏、Vectr Ventures、SOSVのIndieBioとGrid Exponentialが参加した。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Beeflow農業ミツバチ資金調達

画像クレジット:Beeflow

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(文:Jordan Crook、翻訳:Hiroshi Iwatani)

開発期間も費用も短縮させるAI創薬プラットフォームのInsilico Medicine、大正製薬も協業

医薬品開発と創薬のためのAIベースのプラットフォームInsilico Medicine(インシリコ・メディスン)は現地時間時間6月22日、2億5500万ドル(約282億円)のシリーズC資金調達を発表した。この巨額のラウンドは同社の最近のブレイクスルーを反映している。そのブレイクスルーとは、AIベースのプラットフォームが病気の新たなターゲットを生み、その問題を解決するためにオーダーメードの分子を開発し、臨床試験プロセスを開始できると証明したことだ。

また、このラウンドはAIと創薬が引き続き投資家にとって特に魅力的であるという別のサインでもある。

Insilico Medicineは、1つの前提を中心に据えて2014年に創業された香港拠点の会社だ。その前提とは、AIがアシストするシステムが治療法のない病気のための新規創薬ターゲットを特定して新しい治療法の開発をアシストし、ゆくゆくはそうした治療法が臨床試験でどのような成果をあげるかを予想できるというものだ。Crunchbaseによると、同社は以前5130万ドル(約57億円)を調達した。

創薬を促進するためにAIを使うというInsilico Medicineの目標は特に目新しいものではないが、同社が実際に試験予知の初めから終わりまでを通じて新薬発見を実際に達成できるかもしれないことをうかがわせる、いくらかのデータがある。2020年に同社は特発性肺線維症という、肺の中の小さな気嚢が傷つき呼吸が困難になるという病気のための新薬ターゲットを特定した。

2つのAIベースのプラットフォームはまず可能性のある20のターゲットを特定し、そこから1つに絞った。そして動物実験で有望性が認められた小分子治療をデザインした。同社はFDA(米食品医薬品局)に新薬治験の開始届を提出しており、2021年後半あるいは2022年初めに臨床試験を始めることを目指している。

しかしここで注目すべきは薬ではなく、そのプロセスだ。プロジェクトは、通常複数の年にまたがり数億ドル(数百億円)もかかる前臨床医薬品開発のプロセスを期間18カ月、費用約260万ドル(約2億9000万円)に圧縮した。それでも創業者のAlex Zhavoronkov(アレックス・ザボロンコフ)氏は、Insilico Medicineの強みが主に前臨床医薬品開発を加速させたりコストを削減したりすることだとは考えていない。主な魅力は創薬における推測の要素をなくすことにある、と同氏は示唆する。

「現在当社はIPF(特発性肺線維症)だけでなく、16の治療に関する資産を持っています。それは間違いなく人々を驚かせました」と同氏は語る。

「成功の確率がすべてです。すばらしい分子で正しいターゲットを正しい病気につなげることに成功する確率は極めて低いです。当社がIPFやまだ話せない他の病気でそれを行うことができるという事実は、一般的にAIにおける自信を高めます」。

部分的にはIPFのプロジェクトとAIベースの創薬をめぐる熱狂によって展開された概念実証によって支えられて、Insilico Medicineは直近のラウンドでかなり多くの投資家を引きつけた。

ラウンドはWarburg Pincusがリードし、Qiming Venture Partners、Pavilion Capital、Eight Roads Ventures、Lilly Asia Ventures、Sinovation Ventures、BOLD Capital Partners、Formic Ventures、Baidu Ventures、そして新規投資家が参加した。新規投資家にはCPE、OrbiMed、Mirae Asset Capital、B Capital Group、Deerfield Management、Maison Capital、Lake Bleu Capital、President International Development Corporation、Sequoia Capital China、Sage Partnersが含まれる。

ザボロンコフ氏によると、このラウンドには4倍の申し込みがあった。

2009年から2018年にかけてFDAによって承認された63の薬にかかる2018年の研究で、薬をマーケットに投入するのに必要なR&D投資の中央値は9億8500万ドル(約1090億円)だったことが明らかになった。この額には失敗に終わった臨床試験の費用も含まれる。

そうした費用と薬が承認される可能性の低さは当初、創薬プロセスを減速させていた。2021Deloitteレポートによると、バイオ医薬品のR&Dの見返りは2019年に1.6%という低さを記録し、2020年にわずか2.5%に立ち直った。

AIベースのプラットフォームが、試験の失敗を減らすことができる豊富なデータで訓練されるのが理想だとザボロンコフ氏は思い描く。そのパズルの2つの主要なピースがある。ターゲットを特定できるAIプラットフォームのPandaOmicsと、ターゲットに結合するための分子を製造できるプラットフォームChemistry 42だ。

「我々をターゲット発見のための60超の原理を有するツールを持っています」とザボロンコフ氏は話す。

「あなたは斬新な何かに賭けますが、と同時にあなたの仮説を強化する証拠のポケットも持っています。それが我々のAIがうまくこなしているものです」。

IPFプロジェクトは論文審査のある専門誌で全文掲載されていないが、似たようなプロジェクトがNature Biotechnologyで発表された。その論文では、Insilcoの深層学習モデルは可能性を持つ化合物をわずか21日で特定することができた。

IPFプロジェクトはこのアイデアの拡大版だ。ザボロンコフ氏は知られているターゲットの分子を特定するだけでなく、新しいターゲットも見つけて臨床試験に導きたいと考えている。そして、将来の創薬プロジェクトを向上させるかもしれないそうした臨床試験のデータを引き続き集めている。

「これまで、提携して病気を治そうと誰も当社に申し込んでいません。もし実現すれば、かなりうれしいです」。

とはいえ、新しいターゲット発見へのInsilico Medicineのアプローチは断片的だった。例えばInsilico Medicineは新しいターゲット発見でPfizerと、小分子デザインでJohnson and Johnsonと、大正製薬とはこの2つで協業してきた。Insilico Medicineは6月22日にTeva Branded Pharmaceutical Products R&Dとの提携も発表した。Tevaは新薬ターゲットを特定するのにPandaOmicsを使うつもりだ。

2019年にNatureは、大手製薬会社とAI創薬テック企業の間で少なくとも20の提携があった、と指摘した。スタンフォード大学のArtificial Intelligence Index年次レポートによると、医薬品開発を追求しているAI企業の投資は2020年に前年の4倍の139億ドル(約1兆5390億円)に増えた。

創薬プロジェクトには2020年、民間AI投資から最も多い額が注がれた。これは部分的に、パンデミックによる迅速な医薬品開発に対する需要に起因している。しかしながら、創薬における過熱傾向は新型コロナ前からあった。

ザボロンコフ氏はAIベースの医薬品開発が現在やや誇大宣伝の傾向にあることに気づいている。「AIで動く創薬を支える実質的な証拠を持たない企業が迅速に調達できると主張しています」と同氏は指摘する。

Insilico Medicineは投資家の質で他社よりも優れている、と同氏は話す。「当社の投資家は賭け事をしません」。

しかし他のAIベースの創薬プラットフォームの多くと同じく、そうしたプラットフォームが臨床試験のふるいを抜けることができるのか、様子を見る必要がある。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Insilico Medicine資金調達創薬大正製薬人工知能

画像クレジット:phuttaphat tipsana / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

腸の免疫調節に作用するメカニズムを発見し免疫医薬品を開発するアイバイオズが7.7億円を調達

腸の免疫調節に作用するメカニズムを発見し免疫医薬品を開発するアイバイオズが7.7億円を調達

創薬バイオテック企業アイバイオズ(AIBIOS)は6月11日、第三者割当増資による総額約7億7000万円の資金調達を発表した。引受先は、リードインベスターのSBI インベストメント、既存株主のBeyond Next Ventures、アクシル・キャピタル。

調達した資金により、免疫学に基づき、消化器・オンコロジー (がん)・ニューロサイエンス(神経精神疾患)および希少疾患の4疾患領域という研究開発パイプラインの中長期的な開発を実施。同時に、慢性炎症性疾患が長期的に悪化すると悪性腫瘍に至るリスクが高くなることから、がん免疫分野も強化していく方針という。戦略的ビジネスパートナリングを通じ医療機関および製薬企業と共同研究・開発を継続して行い、アンメット・メディカルニーズ(Unmet MedicalNeeds)に応える技術革新を活用した新薬創出を目指す。

AIBIOSは、事業創立時より免疫システムの重要性を重視しており、岡山大学と有機合成プラットフォームを通じ新規低分子医薬品創出の共同研究を行い、また慶應義塾大学と免疫疾患モデルを通じて、腸における過剰な炎症を抑える新しいメカニズムを発見し、腸管粘膜の新たな免疫調節機構を解明した。炎症性因子の抑制と粘膜修復の可能性を持った作用機序のある低分子は、さまざまな慢性炎症性疾患の治療に多大な貢献をするものと期待されているという。

AIBIOSは、腸管内の免疫システムのバランスに着目しており、生体防御の最前線で働く腸粘膜で発症する炎症性腸疾患(IBD。Inflammatory Bowel Disease)を対象とした新薬候補物AIB-301のグローバル開発を手がけている。

IBDは、最も患者数の多い指定難病であり、大腸と小腸など消化管に炎症が起こり、腫瘍を合併することもある疾患という。原因は不明で、根治できる方法がいまだにないそうだ。IBDでは主に下痢や腹痛といった症状が起こり、悪化した「活動期」と落ち着いている「寛解期」を繰り返す、極めて治療が難しい病気という。

このIBDを対象とするAIB-301は、免疫システムを過度に抑制せず、中長期的に使用できる新規医薬品としての開発を目指しているという。そのため、安定した治療過程を観察しながら適した診断ができるように、遺伝的要素や腸内細菌といった新規バイオマーカーも併せ持ってグローバル臨床試験の実施を計画しているそうだ。

また近年の臨床研究では、腸は独自の神経ネットワークを持っており、脳腸相関を介してお互いに密接に影響することが明らかになりつつある。北海道大学遺伝子病制御研究所とAIBIOSとの共同研究では、脳内の特定血管に免疫細胞が侵入し、微小炎症(MicroInflammation)を引き起こす、新しい「ゲートウェイ反射」を発見した。この血管部の微小炎症は、通常は存在しない神経回路を形成して活性化し、消化管や心臓の機能不全を引き起こすリスクがあることを解明した。

これらの発症メカニズムは慢性的なストレスにも関連しており、AIBIOSでは、米国の神経外科医師との共同研究を通じて、多発性硬化症やパーキンソン病の新規治療薬の開発しているという。加えて、慢性ストレスが「睡眠障害」を誘導し、さまざまな臓器に対して悪影響をおよぼしていることもわかってきた。これらの研究成果をもとに、腸疾患のみならず、抗炎症作用と免疫調節を介して、中枢神経系、呼吸器系疾患、自己免疫疾患の治療薬の開発を目指しているとした。

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