イスラエル国防軍出身CTO開発、企業向け標的型攻撃シミュレーション・訓練プラットフォームのAironWorksが9000万円調達

サイバーセキュリティSaaS「AironWorks」を提供するAironWorksは11月12日、第三者割当増資による約9000万円の資金調達の実施を発表した。引受先は、リード投資家のALL STAR SAAS FUND、また日本ベンチャーキャピタル、京都エンジェルファンド。調達した資金により、AironWorksの特徴である企業分析により高度に最適化された標的型攻撃を生成・実行するAIの開発強化と、日本市場でのデファクトスタンダードとなることを目指して事業成長を加速させるとしている。

AironWorksサービスは、イスラエル国防軍「8200部隊」(Unit 8200)出身のエンジニアが開発した、「企業向け標的型攻撃シミュレーション・訓練プラットフォーム」。従来のような標的型メール訓練ではカバーできないSNSやSMS攻撃などの、多様なベクトルからの攻撃に対する訓練が可能。標的に応じて個別最適化された現在のサイバー攻撃に対応できるよう、継続的でより実践的な訓練を行なえるシステムとなっている。

さらに、イスラエル国防軍の教育メソッド+ゲーミフィケーションを活用した「オリジナル教育プログラム」を実装しており、高い教育効果を実現しているという。

AironWorksは、イスラエルと日本を拠点にイノベーションプラットフォーム・アドバイザリーサービスを提供するAniwoによる支援のもと、2021年8月創業。「働く人々・チームをエンパワーメントすること(Enhancing Teams with AI)」 をミッションに掲げ、イスラエルで開発した先進的な技術をコアに、日本から世界市場を目指している。

なお、共同創業者兼CTOのGonen Krak氏は、イスラエル国防軍のインテリジェンス部隊Unit 8200においてサイバーセキュリティ実務に取り組み、複数の重要プロジェクトのマネジメント、若手ハッカーの育成に従事したという。大学在学中に独自アプリ開発、フルスタックエンジニアとしてのスキルも有する。AironWorksでは、コアとなる技術開発、アルゴリズム設計、AIの開発責任者も兼任している。

イスラエル国防軍出身CTOが開発、企業向け標的型攻撃シミュレーション・訓練プラットフォームのAironWorksが9000万円調達

Matterが誰もオススメに追いついていない現在に合わせたリーディングアプリの構築に向けて7.9億円調達

現在のインターネット用に高品質のリーディングアプリを構築することを目的とするスタートアップMatterが、非公開ベータテストの段階を終えて、GV(前Google Ventures)主導で実施された700万ドル(約7億9000万円)のシリーズAラウンドのクローズを発表した。Instapaper(インスタペーパー)やPocket(ポケット)といった記事を保存しておいて後で読むというテクノロジーは、現在のオンラインリーディングのやり方(例えばニュースレター、他のアプリのパーソナライズされた推薦記事、ソーシャルプラットフォームでの同僚からの推薦などを利用するリーディング)に追いついていない。Matterはその領域に参入するものだ。人々はリーディング素材を単にテキストとして読みたいわけではない。記事を音声で聞いたり、重要カ所を強調したり、読書仲間と議論したいと思っている。

こうした現在のリーディングアプリに対する不満を解消するため、Matterの共同創業者 Ben Springwater(ベン・スプリングウォーター)氏とRobert Mackenzie(ロバート・マッケンジー)氏(両氏はNextdoor在籍中に出会った)オンラインリーディングのための新しいツールの構築に取り組むことにした。

「オンラインリーディングはこうしたさまざまな問題点やユーザーの不満を抱えていましたし、メディアエコシステムは変化していました。ニュースレター、個人クリエーター、代替メディアが台頭してくると同時に、eリーディングに対する改善の可能性も取り沙汰されるようになりました。オンラインリーディング素材は画面に表示された単語の羅列ではありますが、さまざまな機能をオーバーレイしてもっといろいろなことができます」とスプリングウォーター氏は説明する。「より良いリーディング製品を開発する絶好のチャンスがやってきていることは明らかでした」。

2人の共同創業者は、エンジェルラウンドで資金を調達した後、2020年初めにMatterの開発を開始した。その後、スタートアップアクセラレーターY Combinatorの2020年夏のバッチに参加する。

Matterの当初の目的の1つは、何を読むかについてより良い意思決定ができるよう支援することだった。

最近は、新しいヘッドライン、ツイッターやその他のソーシャルアプリ、受信箱に届くニュースレターなど、実にさまざまな場所で読み物を見つけることができる。だが、Matterのいう「レコメンデーション(推薦)」グラフ(最善の読み物がフィルタリングおよびキュレートされて前面に表示される)と呼ばれるものを作成するアプリはない。

Matterが目指しているのは、次のようなことだ。アプリのホームページに、ツイッター上の「パブリックシンカー(Public Thinkers)」グループ(興味深いニュースやリンクを共有していることが多い)によって推薦された一連の記事の推薦コンテンツが表示される。Matterのチームが彼らのツイートに掲載された推薦記事をさらにキュレートして、アプリで共有する最善の記事を手作業で選択する。Matterのユーザーは、自身の推薦コンテンツをアプリにフィードすることもできる。ユーザーからの推薦コンテンツはアプリのチームによってキュレートされ、その一部がホームページに掲載される。

画像クレジット:Matter(ホームページから)

他の「後で読む」アプリ(PocketやInstapaperで提供されているものなど)と同様、MatterのユーザーもChrome拡張機能をインストールすることでアプリ内にリーディングリストを構築できる。あるいは、モバイルアプリ内に直接レコメンデーションを作成することもできる。ユーザーのリーディングリストはデフォルトではプライベート(非公開)になっているが、Matterのコミュニティに公開する記事をリストから選択することもできる。

この共有機能により、Matterはソーシャルネットワークに近い感じになる。つまり、ユーザーは記事を強調したことを非公開のままにしておくのではなく、記事を強調した上で共有できる。

「これは自分の読んでいるものをブロードキャストする方法の軽量版のようなものです」と強調機能についてスプリングウォーター氏は説明する。

Matterで誰かをフォローすると、その人と同じ記事を読むとき、その人が強調したカ所と注釈を付けたカ所が記事上にそのまま表示される。これは、デジタルパブリッシングプラットフォームMediumがそのウェブサイトとアプリで提供している機能に似ている。ただし、Matterでは、共有されているすべての読み物でこのオプションを利用できる。こうした強調カ所はユーザーのプロフィールにも保存されるため、自分がフォローしている人のサイトにアクセスして、その人が注釈を付けたり共有しているカ所を確認できる。

画像クレジット:Matter(ユーザーの非公開キュー)

Matterのユーザーは、Twitterなどのソーシャルネットワークに似たモデルで、他の人をフォローできる。これにより「この人の提案は気に入ることが多い」という人の共有を追跡できる。この機能は最近サービスを終了したNuzzelを思い起こさせる(Nuzzelは、ツイッターが2021年前半Scrollを買収したときいっしょに買収された)。Nuzzelには、ツイッターベースのリーディング推薦を行うためにちょっとした専用のフォロー機能が用意されていた。ツイッターに完全に依存しているわけではないが、他の人およびその人の読んでいるものや共有しているものをフォローするというMatterの考え方はNuzzelのフォロー機能と感覚が似ているような気がする。

また、コメント機能を使用すると、共有されている記事について議論できるが、ここでどの程度活発な議論が行われるかは、フォローしている相手によって異なる可能性がある。非公開ベータ期間中にモデレーションが問題になったことはなかったが、今後Matterの利用者がより広範に拡大していくにつれ、モデレーション機能に対応していく必要が出てくるだろう。

このアプリはオンラインリーディングおよび既存のリーディングアプリが抱える多くの問題点にも対応している。

例えばMatterを使えば、ニュースレターを2通りの方法で取得できる。メールが転送されるようにフィルターを設定する方法とMatter専用の特別なメールアドレスを使用する方法だ。

これにより、個々の記事を音声として聞くことができる。しかも、現在入手可能なリーディングアプリのロボットのような音声よりもはるかに聞きやすい音声だ。リーディング素材の収集場所であるTwitter、Notion、Readwiseといった他のアカウントと同期することもできる。また、ニュースサイトやニュースレターを有料定期購読している場合は、有料購読者限定コンテンツ全体を表示および保存できる。さらには、忙しくて記事を読む時間がないときには「スタッフのお勧め」で一週間の総まとめを読むこともできる。

画像クレジット:Matter(音声を聴く)

Matterは今後、サービスのパーソナライズを強化を進めていく予定だ。これには、共有されている記事のトピックを把握するためバックエンドで動作するセマンティックテクノロジーに投資するといったことも含まれる。ただし、具体的な導入方法については検討中だ。

「パーソナライゼーションの強化といっても限度はあります。ユーザーが何に関心を持っているのかを絞り込む一方で、ユーザーがシグナルを送って示唆している『読みたい記事』についても考慮して、目新しさとセレンディピティ(偶然の出会い)的な要素も十分に取り込むようにする必要があるからです」とスプリングウォーター氏は説明する。「人の関心は変わります。常にそこに正確に焦点を合わせ続けることは絶対にできません」。

Matterは非公開ベータ期間を終えると、誰でもApp Storeからダウンロードできるようになる。

M.G. Siegler(M.G.シーグラー)氏主導のGVからの投資の他にも、Outliers(アウトライナー)、Shrug(シュラッグ)、James Beshara(ジェイムス・ベシャラ)、Calvin French-Owen(カルビンフレンチオーウェン)など、多くのエンジェル投資家がMatterに投資している。また、200万ドル(約2億2600万円)のシードラウンドにはStripe(ストライプ)の共同創業者兼CEOのPatrick Collison(パトリック・コリソン)氏、前Stripeプロダクトマネージャーで現在は投資家のLachy Groom(ランシー・グルーム)氏、Eventbrite(イーブンブライト)の共同創業者Kevin Hartz(ケビン・ハーツ)氏とJulia Hartz(ジュリア・ハーツ)氏が参加した。

MatterはシリーズAラウンドで調達した資金を、経験の蓄積と成長、エンジニアとデザイナーの雇用、ウエブクライアントとAndroidクライアントの開発に充てる予定だ。

「第一世代の『後で読む』サービスはすばらしいものでした。多分、私自身、このサービスを誰よりも多用したと思います。ですが、こうした初期のサービスは古い時期に作られたものです」とシーグラー氏は今回のGVの投資の背景について話してくれた。「私たちは今、さまざまな方法で、さまざまなデバイスを使ってコンテンツを読んでいます。ですから、それに合わせた新しい専用のサービスを基礎から構築し直す必要がありました」。

「それに加えて、今はかつてないほどリーディングコンテツが豊富にあり、大半のコンテンツは以前に比べて質も大きく向上しています。ですが、そうしたコンテンツを見つけて提供する効率的な方法が必要です。これがMatterの最初の前提でした。ベンとロブがこのサービスをゼロから構想し、チームが成長を続ける中、現在の堅牢なアプリが構築されるまでの経緯をずっと見てきましたが、それはすばらしい仕事でした。ですから、私たちはチャンスに飛び付き、彼らが今のままのペースで成長を続けられるよう資金を提供したのです。Matterが一般ユーザーにどのように受け入れられ、より多くのスタッフの力でこのサービスがどのように成長していくのか、本当に楽しみです」と同氏は付け加えた。

MatterのiOSアプリは現在は無料だが、将来は、サブスクリプションモデルによって収益化を図る予定だ。Matterアプリは公開ベータの段階に入っており、招待を受けなくても実際に使ってみることができる。

画像クレジット:Matter

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

公的介護保険では支援が受けられない在宅介護ニーズと介護士をマッチングする「イチロウ」のLINKが1億円調達

オーダーメイド介護サービス「イチロウ」を提供するLINKは11月11日、プレシリーズAラウンドとして、政策金融公庫の融資を含め総額1億円の資金調達の実施を発表した。引受先は、既存投資家のブラッククローキャピタル、三井住友海上キャピタル、マネックスベンチャーズに、コムレイズインキュベート、LITALICOが加わっている。調達した資金により、オペレーション構築・システム開発といったサービス基盤とマーケティングの強化を加速する。

イチロウは、公的介護保険では支援が受けられない在宅介護ニーズに対して、オンライン上で介護士をマッチングし派遣するサービス。インターネットを活用した効率的なオペレーションで最短5分という素早いマッチングに加えて、公的介護保険適用外への対応に特化することで、利用制限のない介護サービスを提供する。これまで4500回以上のマッチングを行ない、99%というマッチング率を実現しているという。

同社によると、公的介護保険による訪問介護サービスは、介護保険法により内容が定められており介護を希望する本人や家族の求めるニーズに応えきれていないという。例えば、1時間以上の介護を受けたりできず、電球の交換など介護保険法で認められていないサービス内容は利用できない。またアナログな仕組みにより、サービスを利用するまでに1週間以上かかるなど、リアルタイム性が求められる在宅介護におけるニーズに応えられていない。イチロウは、こうした公的介護保険では対応しきれなかった介護のラストワンマイルをかなえるための取り組みを続けていくとしている。

LINKは、介護現場を10年以上経験した水野友喜氏が2017年4月に設立したスタートアップ。「年間10万人の介護離職の課題」「介護士の低所得・人材不足の課題」といった介護の社会問題をインターネットを活用したデジタル視点で解決することを目指し、介護業界のDXに取り組んでいる。

ARグラス用ディスプレイ・モジュール開発などのCellidが5億円調達、研究開発強化や量産開始に向け組織・開発体制の強化

ARグラス用ディスプレイ・モジュールや空間認識ソフトウェアの開発などを手がけるCellidは11月11日、第三者割当増資による総額5億円の資金調達実施を発表した。これにより累計調達額は7億円となった。引受先はアクサ生命、エプコ、一般事業会社(社名非公開)。調達した資金により、ディスプレイ・モジュール研究開発の強化、本格的マーケティング活動の開始、量産開始に向けた組織体制・開発体制の強化にあてるという。2022年には、ディスプレイ・モジュール試作品の製造から、量産化へと開発フェーズの移行も予定している。

Cellidは、独自AR技術「Cellid SLAM」の2020年12月ローンチ以後、SLAMを応用した「Position Finder」や「AR Tag」の実用に向けた技術検証を建設業や製造業など領域で進めているという。Position Finderは、単眼カメラの映像から、作業者の3次元位置情報を可視化できるサービスで、AR Tagは3Dモデル上にデジタル情報を付与できるサービスだ。

また2021年11月に、薄型化・広視野角化を達成できる表示方式「Waveguide」(ウェイブガイド)を用いて、対角視野角(FOV)60度を実現したシースルー・ディスプレイと、約1.2cm立方センチの超小型プロジェクターを組み合わせたディスプレイ・モジュール「Cellid Waveguide 60」をサンプル出荷。国内外の顧客へ販売を開始した。2022年1月5日(現地時間)から開催のCESにおいて、Cellid Waveguide 60を内蔵したメガネ型モックアップの出展を行う。米国を中心とした本格的なマーケティングを予定しているという。

ARグラス用ディスプレイ・モジュール開発などのCellidが5億円調達、研究開発や量産開始に向けた組織体制・開発体制を強化

「Cellid Waveguide 60」

在宅ヘルスケア大手Roが家庭用精子保存サービスDadi買収に向けて交渉中

ヘルスケアのD2CであるRoは今やユニコーンで、投資家たちの評価額は50億ドル(約5710億円)に達する。同社に近い筋によると、現在Roは家庭で精子を保存できるサービスのスタートアップDadiを買収するという。これはRoにとって、Workpath、KitそしてModern Fertilityに続き、過去12カ月で4度目の買収になる。

買収は完了に近いが、それでもまだ不安材料はある。額面は明かされていないが某筋によると1億ドル(約114億円)に近いという。RoとDadiにコメントを求めたが、返事はない。

Dadiは2019年に創業し、温度管理された家庭用不妊検査と精子採取キットを発売した。共同創業者でCEOのTom Smith(トム・スミス)氏によると同社は「不妊は女性の問題ではない、男性と女性双方の問題である」というミッションを掲げている。Crunchbaseによると、同社はこれまでfirstminute Capital、Third Kind Venture Capital、そしてChernin Groupなど著名なベンチャーキャピタルから1000万ドル(約11億円)を調達している。

Dadiと並ぶ競合他社のLegacyも、精子の検査と冷凍保存で同様にベンチャー資本を調達している。Legacyは2018年のTechCrunchTechCrunch主催Disrupt Berlin 2018のStartup Battlefieldで優勝し、これまでにFirstMark、Y Combinator、Justin Bieberなどから約2000万ドル(約23億円)を調達している。

この買収は、Roの社内で緊張が高まっている時期にやってきた。同社では今、以前の社員と現社員が問題を提起し、成長目標にこだわりすぎると不平を述べている。従業員の一部は会社を辞めたが、我慢が限界に達したのは、成長のための買収が立て続けに行われるようになったときだという。同社に長く在籍する者たちは、企業文化と仕事の改善が先決だと主張した。

最近辞めた社員がTechCrunchのインタビューに応じ、同社の買収の頻度について「得体のしれない買収ばかりだった。買収した企業との統合は何もなかった。会社は一体、何をしてたのだろう?買収のせいでフォーカスは変わってばかりいた。上司たちは『成長企業ってこういうものだよ』という」と語る。

しかしRoの最近の2つの買収は、戦略としてDadiと合いそうだ。Roが6月に買収したKitは在宅診断を提供する企業で、指を刺して採血する血液検査キットや体重測定ツールなど、カスタマイズできるプロダクトがいろいろある。同社はDadi同様、消費者が気楽な自宅で楽に、予防や早期発見のための検査を行なう。

Roの共同創業者でCEOのZachariah Reitano(ザカリア・レイタノ)氏は、Kitの買収について「ヘルスケアには細分化現象があり、ケアのプロバイダーは分断化したデータの全体を把握できません。そのため、私たちのようなところの仕事が増えますが、Kitはそんなインフラの中では重要で不可欠なピースです。同じ屋根の下の患者たちに、さらに多くのケアを提供できる」。

2億2500万ドル(約257億円)でModern Fertilityを買収したことが示すように、このところRoは不妊治療にも力を入れているようだが、Dadiはその方面でも貢献するだろう。Carly Leahy(カーリー・リーヒー)氏とAfton Vechery(アフトン・ヴェチェリー)氏が率いるModern Fertilityは、女性用の在宅不妊検査を提供し、妊娠と出産に関わる健康の問題に、個人化されたサポートを多数提供している。

そしてもちろんRoは、勃起不全(erectile dysfunction、ED)をターゲットとする男性の健康問題でも事業を拡大しようとしている。今やこのヘルステックユニコーンの売上の半分が、ED関連だ。

画像クレジット:Dadi

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

コロナ禍・破産申請を乗り越え、VR体験スタジオSandbox VRが約42億円調達、グローバル展開進める

集英社がXR事業開発課を新設し「集英社 XR」開始、NianticとLightship ARDKでパートナーシップも

新型コロナの影響をまともに受け、ロケーションベースのバーチャルリアリティ(LBVR)スタートアップ各社にとって過去1年は厳しい環境だったが、Sandbox VRはカムバックを果たしただけでなく、さらにグローバルに事業を拡大する計画だ。

Sandbox VRは、フルボディモーションキャプチャとVR技術を組み合わせることで、没入感のあるソーシャルエクスペリエンスを目指している。プレイヤーは別世界に足を踏み入れ、友達と一緒にどこにでも行くことができる。

サンフランシスコと香港に本社を置く同社は、Alibaba(アリババ)やCraft(クラフト)とともに、変曲点にあるスタートアップに資金を提供するグロースファンドを通じて、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)が主導するシリーズBラウンドで3700万ドル(約42億2000万円)を調達したと発表した。

今回の資金調達により、累計資金調達額は約1億1900万ドル(約135億7500万円)となる。同社は7月にオースティン、ラスベガス、上海の3カ所に新店舗をオープンしたばかりだ。

Sandbox VRは、今回の資金調達をもとに、2022年にパラマス(ニュージャージー州)、ロンドン、トロントなど世界各地に新たなロケーションを10店舗オープンする他、法人向けに2店舗、フランチャイズロケーション2店舗を開設する予定だという。

また、社内のスタジオを拡張してコンテンツリリースの頻度を増やし、ソフトウェア開発キット(SDK)を開発してSandboxプラットフォームをサードパーティ開発に開放すると、共同創業者兼CEOのSteve Zhao(スティーブ・ザオ)氏はTechCrunchに語った。また、プレイヤーにとって重荷となるVRハードウェアのバックパックを取り除くためのワイヤレス技術を構築する予定であるとも。

Sandbox VRは、ヘッドマウント型VRヘッドセット、バックパックコンピュータ、モーションキャプチャーセンサー、ハプティックベストなどのハードウェアをプレイヤーが着用する。

画像クレジット:Sandbox VR

ザオ氏はこう語っている。「今後、さらに多くの店舗を展開していくために、社内のスタジオを強化するとともに、SDK(ソフトウェア開発キット)を構築して、まもなくパブリッシングを(サードパーティに)開放する予定です」。

Sandbox VRは、他の競合他社がライセンスゲームで運営しているのとは異なり、独自のゲームと技術を開発しているとザオ氏は指摘する。同社は5つのVRゲーム「Curse of Davy Jones」「Amber Sky 2088」「Star Trek Discovery:Away Mission」「Deadwood Mansion」「Unbound Fighting League(UFL)」を提供している。

パンデミックが発生したのは、同社が予定していたシリーズBの資金調達を2020年初頭に締め切る直前だったとザオ氏は語る。従業員の約80%が退職しなければならず、新型コロナの危機の中で破産申請を余儀なくされたと彼は付け加えた。Sandbox VRは、コロナ禍を経てこれまで以上に強くなっている。2021年の4月にグローバルオフィスを再開した後、その収益は2021年の初めに比べて20倍になった。

a16zのジェネラルパートナーであり、Sandbox VRの取締役でもあるAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏はこう述べている。「パンデミックの最中にスティーブ(・ザオ)と彼のチームが示した気概と強固な意志は賞賛に値するものであり、それが今日、最強の、最も技術的に進んだロケーションベースVRサービスであると当社が信じるものにつながっています」。

ザオ氏によれば、同社は10月時点で全世界で35名の社員を抱えている。Sandbox VRは現在、米国、カナダ、アジアで12のロケーションを運営している。

Verified Market Researchのレポートによると、ロケーションベースVRの世界市場は、2021年から2028年にかけて32.9%のCAGRを示しており、2028年には263億ドル(約3兆3億円)に達すると予測されている。

Sandbox VRは、人々がSFで見るような、可能な限り没入感のある体験をどうやって作り出すかというアイデアから始まった。VRはあくまでも1つのコンポーネントであり、同社のビジネスをVR分野に限定するつもりはないとザオ氏は語る。

テクノロジーを利用して人的交流を拡大することを使命とするSandbox VRは、この先メタバース分野に参入する野心を持っているが、そこに至るまでにはあと3~5年ほどかかると同氏はいう。

「VR業界でイノベーションを続けていくうちに、いずれは物理的な空間のバーチャル化に向かっていくでしょう。いつの日か、プレイヤーが永続的なバーチャルアバターを具現化できるポータルに気軽に足を踏み入れるような感じになるでしょうね」とザオ氏は語った。

画像クレジット:Sandbox VR / Sandbox VR

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

Slackでセールスと他部署のコラボを自動化するMomentumが約5.7億円調達

営業(セールス)という仕事は、いろいろなところからデータが入ってくるし関係者の数も多いため、混沌とした状態になりがちだ。2020年、Salesforceが270億ドル(約3兆845億円)でSalesforceがSlackを買収したのも、それが人やデータを整理してまとめる接着剤になると考えたからだ。アーリーステージのスタートアップMomentumは、そうした関係を利用して、営業と会社の他の部分とのコラボレーションを自動化するレイヤーを作りたいと考えている。。

同社は米国時間11月10日、Basis Set Venturesがリードするシードラウンドで500万ドル(約5億7000万円)を調達したことを発表した。これにはInovia CapitalやLeadout Capital、South Park Commons、そして業界のエンジェルたちが参加した。

MomentumのCEOで共同創業者のSantiago Suarez Ordoñez(サンティアゴ・スアレス・オルドニェス)氏によると、同社は当初、Slackを利用した商談室を作りたいと考えていたが、SalesforceがSlackを統合する最初の段階で作ってしまったため、また違う課題に取り組もうと決めた。

「おもしろく、しかもSalesforceにできることとは違うことをやるには、最初に考えた商談室とコラボレーションというアイデアにもっと固執してみるべきだ、と私は考えました。そしてだんだんわかってきたのは、コラボレーションと営業は奥が深いということです」とスアレス・オルドニェス氏は語る。

彼によると、企業のトップが認識しているのは、営業の人たちはSlackとSalesforce以外のものにも接続する必要があることです。たとえば彼らはGoogleカレンダーやAsanaやJiraなどのツールに接続して1つの場所からフォローアップを自動化したいと考えている。

「Momentumは当初の構想から変更して、上記のような一連の仕事を効率化するプラットフォームになりました。Jiraへ行ってセキュリティチームのためのチケットを提出するやり方を知るのではなく、Momentumへ行って手を挙げ、単純に『セキュリティレビューが必要なんだ』といえばいい。そしてMomentumは、行き先を見つけたり、チケットを作ったり、その営業のためのチケットの中にある商談に関するすべての状況を共有したり、営業は現時点では何もすることがない、といったこともコードにしている」とスアレス・オルドニェス氏はいう。

彼によると、商談室の機能はまだ存在しながらも、タスク駆動型の機能もある。計画では、このことをベースとしてSlackの中に同じく自動化されたワークフローの完全なプラットフォームを作る。例えば割引率の承認を得たり、営業のための支援を技術の部門に求めるといったワークフローだ。

同社は8月にシードラウンドを終えた後、14人目の従業員を迎えた。同社の創業メンバーはダイバーシティに富んでおり、COOのAshley Wilson(アシュリー・ウィルソン)氏はCEOであるスアレス・オルドニェス氏の妻、それにCTOのMoiz Virani(モイズ・ビラーニ)氏なども含め、同社はチームのダイバーシティに極力気を遣っている。

「ダイバーシティとインクルージョンについては、上からも指示されている。投資家のうち1社は、投資条件にそれを含めている。同社を投資家に迎えるためには、それに従わざるをえなかった」とスアレス・オルドニェス氏。まだ初期である現時点でも取締役会の半分は女性であり、またラウンドに参加した投資家のパートナー3名のうち2人は女性だ。

同社はパンデミック中の2020年にローンチした。「最高にクレージーなのは、そのときすでに社員は6名いたし、顧客もいました。数百万ドル(数億円)を調達していました。それで、本社はどこだったかというと、自分の家のキッチンテーブルだったんだ。ひどいもんだね」とスアレス・オルドニェス氏は回想している。

現在、同社は共有スペースも利用しているが、キッチンのテーブルのようにみんなが一緒にいる方が実感があると彼はいう。「半年前にはリモートもやったけど、みんなが一緒にいないと、どうも仕事の実感がないね」。

関連記事:セールスフォースへのデータ入力をシンプルにするScratchpadがシリーズAで13.7億円獲得

画像クレジット:Visual Generation/Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

地球のデジタルツインを開発する豪Blackshark.aiが約22億円を調達、MSのFlight Simulatorにも採用

オーストリアのスタートアップであるBlackshark.ai(ブラックシャーク・エーアイ)は、「Microsoft Flight Simulator」に搭載されている「デジタル地球」を開発した企業だ。同社は、地球のレプリカ技術の開発と拡張のために2000万ドル(約22億円)を調達した。地球の「デジタルツイン」の潜在的な用途は多様で、同社はGoogle(グーグル)のようなマッピング大手より先行している。

2020年の「Flight Simulator」では(100%ではないにしても)完全に横断可能で、驚くほど正確な地球を世界に見せてくれた。TechCrunchは「技術的な驚異」と表現し、それがどうやって作られたのか後に詳細を報じた。

Blackshark.aiは、ゲームスタジオBongfish(ボンフィッシュ)からスピンアウトした会社で、創業者でCEOのMichael Putz(マイケル・プッツ)氏によると、世界構築技術をゲーム環境以外にも応用することを目指している。Blackshark.aiの技術の基本は、機械学習とちょっとした賢い推測、そして大量のコンピューティングパワーを使って、広く利用可能な2D画像を正確な3Dに変えることだ。

基本的にBlackshark.aiのシステムは、最適ではない照明や不完全な画像であっても、さまざまな建物が上からどのように見えるかをしっかりと理解する。Blackshark.aiが構築した機械学習システムは、近隣の環境(住宅地と商業地)、屋根の種類(傾斜した屋根と平らな屋根)、空調設備の有無などの要素を考慮して、不完全な輪郭を推定する。これらすべての情報をもとに、建物のもっともらしい3D再現を行う。

難しいのは、一度だけではなく、定期的に何億回も繰り返して、地球上のすべての建物の最新の3D表現を作成することだ。プッツ氏は次のように説明する。「その作業のためのコンピューティングパワーをすべて購入できたとしても、それを動かすためのバックエンドを構築するのは大変なことです。これは私たちが直面した現実的な問題でした」。

プッツ氏らの解決策は、AIを搭載したサービスによく必要とされるように、最適化だった。同氏によると、地球上のすべての建物の3Dモデルを計算するプロセスは、もともと約1カ月の時間を要していたが、今では約3日で済むようになり、約300倍の加速を実現している。

人工衛星からの新しい画像をもとに定期的に更新できるこのような機能は、Blackshark.aiのビジネス提案にとって非常に重要だとプッツ氏は説明した。GoogleやApple(アップル)の地図に見られるような3D地図データの多くは写真測量をベースにしている。これは、複数の航空写真を組み合わせて、目のように視差データを比較して大きさや奥行きを判断する航空写真で、写真が撮影された時点ではすばらしいデータとなる。

2年前ではなく先週のシカゴのある一角の様子を3Dマップで表現したい、そしてそのレベルの最新情報をできるだけ多くの地球上の人々に提供したい、と考えた場合、現在では衛星画像しか選択肢がない。しかし、そのためには前述の2Dから3Dへの変換が必要になる。

パッツ氏は、Blackshark.aiの3DマップとGoogleやAppleの3Dマップは、表面的には似ているが、実際には競合するものではないと指摘する。リアルな「キャンバス」を提供するという点では同じだが、その意図は大きく異なる。

「Googleマップは、ローカルビジネスのためのキャンバスです。同社とそのユーザーの両方にとって重要なのは、場所、レビュー、道順などです」とパッツ氏は話す。「私たちは、たとえば気候変動のユースケースである洪水についてシアトルの3Dデータを提供していますが、水の物理学や流体シミュレーションを専門とする人たちは、現実世界をキャンバスとして描くことができます。私たちの目標は、検索可能な地球の表面になることです」。

画像クレジット:Blackshark.ai

サンディエゴのとある地区で利用できる平らな屋上の総面積はどれくらいか? 4000平方メートルのスペースが空いている地方空港は? 山火事のリスクがあるエリアは、更新された風モデルとどのように重なっているか? このように、活用法を思いつくのは難しいことではない。

「これは、考えれば考えるほどユースケースが出てくるアイデアの1つです」とプッツ氏は話す。「政府機関、災害救助、スマートシティ、自動車や飛行機などの自律型産業などで応用できます。これらの産業はすべて人工的な環境を必要とします。単に『これをやりたい』ということではなく、必要とされていることでした。そして、この2D-3Dは巨大な問題を解決する唯一の方法なのです」。

今回の2000万ドルのラウンドは、M12(Microsoftのベンチャーファンド)とPoint72 Venturesがリードした。プッツ氏は、アドバイザーとしておなじみの顔ぶれが参加したことに感激した。Google Earthの共同創業者であるBrian McClendon(ブライアン・マクレンドン)氏、Airbus(エアバス)の元CEOであるDirk Hoke(ダーク・ホーク)氏、Y Combinator(Yコンビネーター)の元COOで現在はApplied Intuition(アプライド・インチュイション)のCEOであるQasar Younis(カサール・ユーニス)氏らだ(これらの人々は助言をしているのであって、取締役会に参加しているわけではない)。

事業の拡張はプロダクトを作り上げるというより、市場投入のことだ。もちろん、エンジニアや研究者を増やすことは必要だが「賢いスタートアップ」から「3D合成地球の世界的プロバイダー」になることを急がなければ、他の賢いスタートアップに美味しいところを持っていかれるかもしれない。そこで、営業とサポートのチーム、そして「ハイパースケーリング・コンパニオンの残りの部分」も編成する、とプッツ氏は話した。

同氏が挙げた明白なユースケースの他に、想像できるかと思うが、メタバースアプリケーションの可能性もある。ただし、これはでたらめではなくアイデアだ。ゲームから旅行ガイドまで、おもしろいAR/VR/その他のアプリケーションが、最近レンダリングされた地球のバージョンをベースに、仮想体験をしたいと思えばそれが可能になる。それだけでなく、地球以外の世界も同じ方法で生成することができるため、もしあなたが地球のレイアウトを崩して新しい惑星を作りたいと思ったら(誰がそれを非難できるだろう)、今週中にはそうすることができる。すばらしいことではないか?

新しい資金が使われるようになれば、地球の表面で行われている複雑なマーケットやプロセスの新世代のより詳細なシミュレーションに「Powered by Blackshark.ai」などと表示されるようになるだろう。

画像クレジット:Blackshark.ai

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

やりたいことを提案してくれる「ポケットの中のコンシェルジュ」を目指したシティガイドアプリ「Welcome」

旅行先でも自分が住むエリアでも、街を探索する際にはGoogleマップやYelp、TripAdvisorなど、訪れるべき場所やするべきことを教えてくれるツールが役に立つ。しかし、今日のツールはよりスマートで、よりパーソナライズされたものであるべきだと考えたスタートアップがWelcome(ウェルカム)だ。同社の新アプリは「リアルタイム」テクノロジーを活用し、ユーザーの好みの他、天気、季節、交通量、話題になっていることなど、その時の状況にまつわるさまざまな詳細情報を考慮して、より厳選されたお勧め情報を提供してくれる。

Welcomeの共同設立者であるMatthew Rosenberg(マシュー・ローゼンバーグ)氏は「ポケットの中のコンシェルジュ」のようなシティガイドを目指していると話している。

画像クレジット:Welcome

ローゼンバーグ氏自身が設立した最初の会社であるモバイル動画作成アプリCameo(カメオ)が、Vimeo(ビメオ)に買収されたのはパンデミック前のこと。その後、当時のガールフレンド(現在の妻)とともに旅行をしたことがWelcomeを作るきっかけになったという。旅行中2人はヨーロッパ、ラテンアメリカ、米国の各地を訪れた。すばらしい経験であり、結果的に2人の距離を縮めることになったと同氏は振り返る。

「しかし、たとえ美しい場所やすばらしい美術館にいても、すてきなランチをしていても、携帯電話にかじりついて次はどこに行こうかと考えている自分に気づきました」と同氏は話す。Googleマップや友人からのおすすめ情報を調べたり、レビューを読んだりして、常に次の目的地を探すのに必死になっていたのである。

この経験がきっかけとなり「単純な場所のおすすめという枠を超え、自分の生活や身の回りで何が起こっているかを観察して、よりスマートな提案をしてくれるような賢いツールはないのだろうか」と考えるようになった同氏。

画像クレジット:Welcome

これが今のWelcomeの開発へと繋がった。Welcomeは、インテリジェンス、レコメンデーション、パーソナライゼーション、さらには写真や動画などのメディアを組み合わせて、ユーザーがやりたいことを見つけられるようにするシティガイドアプリだ。

ローゼンバーグ氏はVimeoの社員であるPeter Gerard(ピーター・ジェラルド)氏、Mark Armendariz(マーク・アルメンダリス)氏、Mark Essel(マーク・エッセル)氏と同スタートアップを共同で設立。2019年にはWelcomeの初期バージョンを市場テストのような形で発表した。アイデアがみとめられてAccelからのシードマネーを獲得することができ、これが彼らが思い描いていたアプリのバージョンを構築するための十分な資金源となった。

そしてついにそのバージョンがApp Storeに登場した

Welcomeを最初に起動すると、自分の興味に関する情報を提供する項目や、Condé Nast(コンデネスト)、Lonely Planet(ロンリープラネット)、Eater(イーター)、Culture Trip(カルチャートリップ)、Food & Wine(フードアンドワイン)などの中から自分がフォローしたい出版社を選択できるというオプションが用意されている。こういったコンテンツがWelcomeのおすすめ機能を賢くしていくという仕組みとなっている。

画像クレジット:Welcome

アプリのホームフィードをスクロールすると、現在調べている都市の関連記事を見ることができる。地図上には、レストランならチーズバーガー、バーならマティーニグラス、ファーマーズマーケットなどの屋外イベントなら木といったように、その場所に関連したアイコンが候補として表示されるようになっている。

それぞれの場所をタップすると写真やビデオが表示され、道順やウェブサイト、電話番号へのリンクの他、UberやLyftを発注するためのボタンなどが表示される。また他のWelcomeユーザーに向けてアドバイスを残したり、リストをお気に入りとしてマークしたりタグを追加したりすることもできる。

地図の上部にあるボタンで、フード、ドリンク、アクティビティ、アートなどから選択肢をフィルタリングすることも可能だ。

アプリ自体は、ユーザーインターフェースも上手くデザインされているが、企業の評価やレビューなどのユーザー生成コンテンツの収集に重点を置いたアプリに比べると使い勝手はあまりよくない。

例えば自分が撮った写真や動画をどのようにその場所に掲載できるのか、すぐには理解することができなかった。自分のメディアをアップロードするための「追加」ボタンが目立つように設定されているカ所もあるが、そうではないところもある。実際には「追加」ボタンがないわけではなく右にスクロールしないと表示されないようになっていたのだが、その画面がスクロール可能かどうかさえもよく分からないようになっており、単に「追加」ボタンが存在しないように見えるのである(以下の例を参照)。

Welcomeのスクリーンショット

それでも、Welcomeの基礎となるデータや解析エンジンは非常に興味深い。チームが開発したカスタムツールは、出版社の記事に含まれるキーワードを拾い上げてタグに変換されるようなっており、最終的にはこの技術をローカルブログなどのあらゆるサイトに拡張し、ウェブブラウザーの拡張機能などを使ってユーザーがクリックして保存できるようにしたいと考えている。さらに同社はスプレッドシートやメモ、電子メールなど、意外な場所で人々が集めている旅行リストやメモを取り込む方法を提供したいとも考えている。

将来的には旅行コンテンツの制作者からの提案やガイドを統合して、より充実した提案をしていきたいと考えている同社。これにより、特定のクリエイターや出版社のプレミアム旅行ガイドを有料で提供するというビジネスモデルも可能になるだろう。また、チケットの予約など、アプリ内での取引を増やしていくことで、レベニューシェアの実施も計画している。

Welcomeは、一般公開前から世界350以上の都市で5万人以上のベータユーザーを獲得し、現在では650万を超える場所がデータベースに登録されている。公開時には、世界中の30万件以上の厳選レコメンデーションが提供されるという。

同スタートアップは、Accelが主導し、Lakestar Ventures(レイクスター・ベンチャーズ)が参加した350万ドル(約3億9300万円)のシードラウンドによって支えられている。このラウンドは2020年にクローズしたものの、まだ発表されていなかった。プレシード資金を含めてWelcomeはこれまでに420万ドル(約4億7200万円)を調達している。

Welcomeのアプリは当分の間、iOSでのみ無料でダウンロードが可能だ。

画像クレジット:Welcome

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

モバイルゲームでオーディオ広告を配信するAudioMobがシリーズAで約16億円調達、グーグルなどが支援

AudioMobは「押しつけがましくない」オーディオ広告をモバイルゲームに配信するスタートアップだ。ポップアップするようなちょっとした広告はプレイヤーの気に障るようなものではなく、AudioMobはそのメカニズムをどうにかして解明したようだ。

AudioMobは、Makers FundとLightspeed Venture Partnersが主導するシリーズAで1400万ドル(約15億9500万円)を調達した。Sequoia Scout ProgramとGoogleも参加した。これまでの調達金額の合計は1600万ドル(約18億2200万円)となった。

AudioMobは今後も実験的なオーディオテクノロジーの開発、複数の国での特許申請、ロンドンとアブダビにあるオフィスの拡大を続ける計画だ。同社は、評価額が1億1000万ドル(約125億3000万円)程度であると主張している。

筆者は2020年にCEOのChristian Facey(クリスチャン・フェイシー)氏とCTOのWilfrid Obeng(ウィルフリード・オベン)氏に会った。同社が活発に動き出し早期のトラクションを得て、Ed Sheeran(エド・シーラン)やNas(ナズ)、そしてIntel、Jeep、KitKatなどのブランドと協業したころだ。

AudioMobは現在、中国を除くすべての国のモバイルゲームにオーディオ広告を配信し、特にアラブ首長国連邦、ドイツ、カナダでは成長が目覚ましい。

フェイシー氏は「我々は、AudioMobのビジョンに対して長期的な成功と我が社の未来を期待する投資家の熱い思いに感動しています。我々はオーディオで業界全体に革新を起こそうとしています。業界を適切なやり方でディスラプトする技術とチームを作り、最終的にはテック業界の新たなユニコーンになるでしょう」と述べた。

オベン氏は「利用者は邪魔をされたくない、広告主は広告を聞いてもらいたい、ゲーム開発者はリテンションに影響を及ぼさずに収益を上げたいと考えるものです。我々はこの3つのニーズをすべて満たすプロダクトを開発しました」と述べた。

Googleは2021年6月に、ヨーロッパの黒人ファウンダー基金の対象とする30社のスタートアップの1つとしてAudioMobを選出した

画像クレジット:AudioMob、共同創業者のクリスチャン・フェイシー氏(左)とウィルフリード・オベン氏(右)

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

悪条件下でも使える短波長赤外線を利用するセンサーの商業化を目指すTriEye、インテル、サムスン、ポルシェが支援

イスラエルのスタートアップ企業TriEyeは、悪条件下での自律走行システムや運転支援システムの視認性向上に役立つセンシング技術を商業化するため、7400万ドル(約84億円)を調達した。

その技術は、波長の短い赤外線、すなわち短波長赤外線(Short-wavelength infrared、SWIR)を利用する。赤外線なので人間の可視波長域にはない。SWIRによるセンシング技術は以前から存在するが、コストが高くつくため航空宇宙や防衛産業に限られていた。TriEyeによれば、同社はそのコストを大幅に下げて、今日のスマートフォンや自動車で使われているカメラ程度の費用にし、また市場にある他のタイプのセンサーよりも高性能だという。

そのイノベーションはCTOのUriel Levy(ウリエル・レビー)氏がヘブライ大学に在籍していた10在職中の10年以上の間に研究、開発したもので、TriEyeはそのSWIR技術の商用化と市場化を目指している。

CEOのAvi Bakal(アヴィ・バカル)氏によると、SWIRはこれまでの視覚システムにさらにもう1つの情報のレイヤーを加える(tri-eyeは「3つの目」の意)ので、それにより人は「可視物以上のもの」を見ることができる。

「センシングは至るところにあります。どのような産業でも、それは工程を編成し分析するための必須の部分です。しかし現在では、全体的なパフォーマンスと意思決定の向上に役に立つような、必要不可欠なデータの提供能力が視覚システムの市場にはありません」とバカル氏はいう。

TriEyeの創業者ウリエル・レビー氏、アヴィ・バカル氏、Omer Kapach(オメル・カパック)氏(画像クレジット:TriEye)

TriEyeはSWIRと同社独自の光源技術を使って、sedar(spectrum enhanced detection and ranging、 スペクトル強化検出測距)と呼ぶセンサーを開発した。同社によるとsedarは、高度な運転者補助や自動運転のシステムが必要とする像と深さに関するすべてのデータを提供する。ゆえにそれは、今日の高度な運転者補助や自動運転システムが利用しているカメラやレーダーやLiDARなどを使う従来的なセンシング系をリプレースできる。

TriEyeの技術は、カメラやライダーに比べてコストが安いことも大きなアドバンテージだ。バカル氏によると「マスマーケットが採用するためにはその点が欠かせません。最もシンプルなクルマから高級車まで、すべてに対応することが目標です」。

TriEyeのSWIRセンサーはCMOS半導体を使っている。同社はすでに大手のCMOSファウンドリ数社と提携して、今後の年産数百万という市場のニーズに備えている。また大手OEM数社とも、sedarを共同で商用化し搭載する具体的な車種の話し合いに入っているが、詳細はまだ明かされない。

同社のメインのターゲットは自動車業界だが、狙っているのは自動車だけではない。SWIRによるセンシングの性能は食品の検品や素材の検出にも向いている。また、バイオメトリクスや監視システムにも適している。

TriEyeがSWIRの市場を非常に大きく捉えているので、大手の投資家たちも関心を持ち始めた。その中にはIntelやPorscheの投資部門もいる。どちらも、2019年のTriEyeのシリーズAに参加した。

今回の最新の投資ラウンドはM&G InvestmentsとVarana Capitalがリードし、Samsung VenturesとTawazun SDF、Deep Insight、Allied Group、Discount Capital、そしてこれまでの投資家であるIntel CapitalやPorsche Ventures、Marius Nacht、そしてGrove Venturesが参加した。これでTriEyeの調達総額は9600万ドル(約109億円)になった。

画像クレジット:TriEye

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Cascade Labsが現場が使えるノーコードのデータ自動化プラットフォームで約6億円調達

Cascade Labsは、オペレーションチームによるデータワークフローの自動化を助ける。そのときチームは同社のノーコードツールを使って、さまざまなデータソースからデータを取り込み、必要に応じて変換し分析する。そしてその結果に基づいて、特定のプロセスが起動される。同社は米国時間11月9日、First Round Capitalがリードするシードラウンドで530万ドル(約6億円)を調達したことを発表した。このラウンドには、Redpoint PartnersやSusa Ventures、それに多くのエンジェル投資家が参加している。

Cascade Labsは、CEOのJake Fuentes(ジェイク・フェンテス)氏とCTOのJon Brelig(ジョン・ブレリグ)氏が共同で創業した。フェンテス氏は以前、パーソナルファイナンスサービスLevel Moneyを共同で創業しているが、同社は2015年にCapital Oneが買収している。ブレリグ氏は以前、InfoScout(現Numerator)を共同で創業。CTOだったが、2019年9月にCascade Labsの創業に参加した。

画像クレジット:Cascade Labs

ブレリグ氏によると、InfoScoutでは多くのOpsやアナリストたちがデータの分析に関しては高度なスキルを持っているが、その後、ワークフローの自動化に関しては技術がないことを見てきた。たとえばそれは、各週の複雑な報告書を、大量の手作業なしで作る、といった技術だ。

一方、フェンテス氏は、同じ問題をやや違う視点で見ていた。「自分の最後の企業をCapital Oneに売ったが、ご想像どおりそこは、分析が重視されるところです。しかし、仕事をよく知っている現場の人間が、我々にはアクセスできた大量のデータにアクセスできる範囲は、依然として限られていました。そこで私はCapital Oneを辞めた後、ジョンとこの問題を話し合うようになった。InfoScoutとCapital Oneで企業は違うけど『たぶんこれは実際には同じ問題なんだ』という認識からCascadeがスタートしました」。

企業がデータにアクセスして探求するツールは、当然ながらすでにたくさんあったが、フェンテス氏たちのチームは、データを調べることと実際にそれを活かすことの間に断絶がある、と主張している。「たとえばCapital Oneで必要とされていた偽のオペレーションが、まさにそのタイプだ。そしてInfoScoutは顧客に正しく奉仕することが必要だった。データをオペレーションに正しく活かすには、現在そこらにあるのとはやや違ったツールが必要だと思っている」とフェンテス氏は語る。

画像クレジット:Cascade Labs

きれいなダッシュボードをいくら作っても、データツールを作ることはできない。たとえばそのデータはスクーター企業を助けて、充電や修理のための夜間ピックアップをやることになるかもしれない。Cascade Labsでは、オペレーションのチームが、最もありふれたソースからデータを取り出すことができる。必要ならそれは、CSVのファイルでもよい。そしてそれを軸に、ワークフローを作る。それはごくベーシックなDXかもしれないし、その他の標準的なデータ操作かもしれない。Cascade Labsは、ちょっとした予測能力も提供する。通常は、それらのワークフローの終わりにはアクションがある。それは、修理が必要なスクーターの車種をメールで尋ねるというアクションかもしれない。

投資家を代表してFirst RoundのパートナーであるBill Trenchard(ビル・トレンチャード)氏は次のように語る。「今も進行中のトランスフォーメーションの先頭にはLookerがいたと思う。それは、実際にビジネスを動かしている組織の適切な人たちに、適切なデータをどうやって届けるか、という問題だ。その点でCascade Labsがやってることは、進化だと思う。彼らが今いる場所は、ノーコードのツールと、非技術系のクリエイターがまるでエンジニアのように作れるという、2つの動きの交差点だ。それが、モダンなデータスタックの勃興です。両者の組み合わせで企業はデータを、これまでありえなかったまったく新しい方法で活用できます」。

彼によると、ダッシュボードを作るような統合ツールは今たくさん出回っているが、Cascade Labsの仕事は正しいデータを正しい人に届けることだという。

画像クレジット:Cascade Labs

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

微生物を活用した最先端のバイオテックソリューションPluton Bioscienceが7.4億円調達

現在、我々が生物学と農業の分野で直面している問題の多くは、実は以前、人間ではないある生物体が経験していたものである。自然界のどこかには、科学者や生物工学者が再現するのに悪戦苦闘しているプロセスを、自然かつ効率的に実行してしまう微生物が存在している。Pluton Biosciences(プルトンバイオサイエンス)は、そうした微生物またはそれに類する生命体を見つける方法を開発したという。同社はすでに、アンチモスキート(蚊の駆除)および二酸化炭素隔離の手法をデモしており、その他のデモも準備中である。

地球上には、動物および植物の体内外、および土中に、科学でも解明されていないバクテリアやその他の微生物が存在している。人間が培養して制御できるようになった乳酸菌や大腸菌といったひと握りの微生物は革新的な変化をもたらし、さまざまな新しい食品が生まれ、さまざまな発見がなされ、産業プロセスが実現された。そうした微生物は、人類にとって極めて有益ではあるが、ほとんど無限に存在する微生物種のわずか一握りに過ぎない。

「微生物は1兆種類存在しており、人類が利用しているのはわずか数個に過ぎません」とPlutonの創業者兼CEOであるBarry Goldman(バリー・ゴールドマン)氏はいう。ゴールドマン氏は、Monsanto(モンサント)で約20年間、この未知の微生物たちを利用する方法を考えていた。「私たちは地球上の生物の計り知れないほどの多種多様性を利用して大きな問題を解決しようと試みています。自然に答えを見つけてもらおうというわけです」。

もちろん、地球が保有しているこうした未開拓の知的財産を何とか見つけ出して活用することを考えたのはゴールドマン氏が最初ではない。実際、Plutonのアプローチは驚くほど保守的なものだ。基本的には、微生物が大量に含まれている土やその他の媒体を一握り持ち帰って、何かおもしろいことが行われていないか調べるというものだ。

なんとも曖昧なやり方だと思われたかもしれない。実際にその通りだ。だが、体系的に行えば、土は膨大な微生物の供給源となるのだ。しかし、問題は、文字通り土を掘り起こして次のペニシリンを見つけ出そうとしていた頃は「その中から単一の生命体を特定したり、シーケンス解析(同定)することは決してできませんでした」とゴールドマン氏は説明する。1立方センチの土の中で微生物が抗生物質を生成したり、窒素固定を行ったり、インシュリン生成効果を発揮していることはわかっていた。そうした作用は計測できたからだ。だが、それらの微生物を分離するツールはなかった。

この微生物を分離するという次の段階は、研究者たちが数十年前に放置してしまい、まったく進んでいなかった。Plutonはその壁を突破したのだという。

「中核となる技術は、個別に生育させる方法はわかっていないが、その作用をテストすることはできる有機体の小集団を形成するというものです」とCEOのSteve Slater(スティーブ・スレーター)氏はいう。「この方法で、現在培養も、そしてもちろんシーケンス解析もできていない微生物の99.999%を生育させることが可能です」。

ゴールドマン氏とスレーター氏がこのプラットフォームの具体的な内容について話したがらないのは理解できるが、彼らの初期の成功は、このアプローチの有効性を証明しており、660万ドル(約7億4000万円)のシードラウンドが実施されたことから、投資家たちも納得していることが伺われる(PlutonはIlluminaのアクセラレーターが選択したスタートアップの成功ケースの1つだ)。

「鍵は、二酸化炭素の隔離、害虫や菌の殺傷など、関心のある表現型(遺伝子型の一部が目に見えるかたちで現れる生物組織の特質)をすべて選び出す方法を知ることです。そうすれば、その特定の作用を持つ有機体または遺伝子のセットをすぐに特定できます」とスレーター氏は説明する。独自のプロセスにより、彼らはこの分離プロセスを実行し、関心のある生命体のシーケンス解析を実行できる。

この「微生物マイニングエンジン」の有効性を証明するため、彼らは、蚊に効く天然の殺虫剤を探すことにしたという。蚊はもちろん、多くの地域で重大な驚異となっている。「蚊を殺す作用のある同定されていない新しい微生物を見つけることができるかと自問してみました。それは可能でした。しかも実に単純でした。実際数カ月で見つけることができました。バリーの家の裏庭で採取した土から見つかったのです」。

このような発見が創業者の極めて身近な所に眠っているのは驚くべきことだと思う人は、微生物の生物多様性の程度を過小評価しているかもしれない。これは、我々があまり注意を払わないような「驚くべき科学的事実」の1つであり、ショベル一杯の土には、何億兆の未知の有機体や百万の種が含まれているといったことは、よく耳にする話だ。私達はそうしたことを理解して「そう、生命はどこにでも存在する。すごいことだ」と思う。

耐抗生物質バクテリアの生物膜。棒状バクテリアと球状バクテリア。大腸菌、シュードモナス菌、ヒト(型)結核菌、クレブシエラ菌、黄色ブドウ球菌、MRSA。3Dイラストレーション(画像クレジット:Dr_Microbe/Getty Images)

だが、これらは、ゲノムがわずかに異なるだけの生命体ではない。バクテリアなどの微生物は驚くほど多様性に富み迅速に変化する。そうして、我々が存在することさえ知らなかった多様性の隙間をあっという間に埋めることで、植物の果糖製造の過程で捨てられた微粒子を食べたり、表面下のちょっとした暖かみや腐食有機物を利用して生き延びる方法を見つける。こうしたさまざまな生命体はいずれも、人類の食糧生産、薬品製造、農業などを一変させる可能性のある新しい化学経路を独自に発達させている可能性が高い。

Plutonが心配しているのは農業だ。農業分野は、他の分野と同様、CO2排出量を削減する方法を探している(動機はいくつもある)。PlutonはBayer AGと提携して土壌添加剤の開発に取り組んでいる。これが成功すれば、すでに存在する可能性が高い有機微生物の作用を単純に増幅させるだけで、さまざまなことを成し遂げられる可能性がある。

Plutonは次のように説明する。「私たちの概念実証研究によれば、微生物を適切に組み合わせて、種まきと収穫時にスプレー散布すれば、0.4ヘクタールの農地で年あたり約2トンのCO2を空中から除去できます。同時に、土中の栄養分も補給できます」。

蚊の駆除剤も商用化可能だ。また、害虫が耐性を獲得してしまっている現在市場に出ている殺虫剤よりも効果的な天然由来の殺虫剤も実現できる。

同じ方向性で製品開発に取り組んでいる企業は他にもある。Pivot Biosciences(ピボットバイオサイエンス)は、基本的に土中の微生物に肥料を作らせるために膨大な資金を調達した。Hexagon Bio(ヘキサゴンバイオ)も薬品の開発に使える自然に存在する微分子を特定するという同じような提案を行い資金を調達した。つまり、自然の金庫からは次々に財産が盗まれているが、財産が枯渇することはない。

「これが投資家に説明するのが最も難しい点です」とゴールドマン氏はいう。「1兆種というとてつもない多様性規模をどうすればわかってもらえるでしょうか」。

それでもPlutonは、シードラウンドで660万ドル調達したことからもわかるように、ある程度成功を収めているようだ。シードラウンドはオークランドのBetter Ventures(ベターベンチャーズ)が主導し、Grantham Foundation(グランサムファウンデーション)、Fall Line Capital(フォールラインキャピタル)、First In Ventures(ファーストインベンチャーズ)、Wing Venture Capital(ウイングベンチャーキャピタル)、およびYield Lab Institute(イールドラボインスティチュート)が参加した。今回調達した資金で、Plutonは、パートタイムから正規雇用への移行、ラボの設置などを実施して正規の会社として運営を開始できるはずだ。ゴールドマン氏の裏庭の生物多様性から抜け出すこと(実験施設の拡充)も考えているかもしれない。

画像クレジット:TEK IMAGE/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

コードとドキュメントの同期を自動化するSwimmが約31.1億円調達

開発チームはプロジェクトの細部を理解したり、新人に仕事を任せるときなどにドキュメントが必要だ。公開するAPIを作っているときには、それらの実装の仕方を述べた良質なインストラクションがますます重要だが、伝統的にドキュメントとそのメンテナンスは多くのプログラマーに愛されない仕事だ。

イスラエルのスタートアップSwimmは、ここに着目した。同社は、デベロッパーにドキュメントを含めるよう促し、その作成を容易にし、古くなったら教えるソリューションを開発した。米国時間11月8日、同社は、そのソリューションの今後の成長のために、2760万ドル(約31億1000万円)という大きなシリーズAを発表した。そして同時に、Swimmのベータをリリースした。

このラウンドはInsight PartnersとDawn Capitalがリードし、これまでの投資家である Pitango FirstとTAU Venturesも参加している。Swimmによると、同社の総調達額は3330万ドル(約37億6000万円)になるという。

SwimmのCEOで共同創業者のOren Toledano(オレン・トレダーノ)氏によると、デベロッパーはドキュメントを軽視することが多い。彼らはコーディングに集中することが好きなので、同社はドキュメンテーションワークをコーディングの工程と容易に統合できる方法を考えた。

「Swimmの目標はデベロッパーがドキュメントを楽に作れる方法、それらがコード自体と一体化しているような方法を作ることだ。そして私の考えによると、そのもっとも重要な部分は、コードドキュメントにくっつけたときに、コードベース本体にある変化を見つけて、何かが変わったからお前は古い、と告げられることだ」とトレダーノ氏はいう。

そんなことをするSwimmは、当然ながらIDEやGitHubなどの上でデリバリーパイプラインの一部になる。そして、変化があればフラグする。それはワードプロセッサーのコメント機能に似ていて、ユーザーはその変化を受け入れたり、必要な変更を加えたりする。そのソリューションはプログラミング言語を特定せず、すべてのタイプのコードに対応する。

トレダーノ氏によれば、ひと言でいえば同社はドキュメントをコードとして扱う。

コードが所在するユーザーのリポジトリにコードも同居し、コードのように振る舞う。つまりコードをプッシュすると、Swimmのドキュメントもプッシュされる。ドキュメントはコードと同じ工程と、CIのパイプラインと、コードをデプロイする同じアプリケーションを通る。そしてこのような環境を使うと、ドキュメントが常にアップツーデートになる。

同社の社員は今30名で、米国に2人、ベルリンに1人、その他はテルアビブにいる。従業員の40%は女性だが、今後の雇用によって男女半々にしたいという。同社は、同社のための雇用のインフラストラクチャが確実にダイバーシティを実現していくものにしたい、という。

「そしてそうなればうちは、人事に関する知識やインフラがオープンになり、私たちが作っている人のインフラは、イスラエルで恵まれていない階層の人びとを今後加えていくものになる。そのやり方は、イスラエルのいろいろな機関とパートナーして、その階層の人たちをハイテクの世界で昇進させていくものになるだろう」とトレダーノ氏はいう。

同社は2019年にローンチし、2020年4月に570万ドル(約6億4000万円)のシード資金を獲得した。今回のラウンドは5月に締め切られた。

画像クレジット:Swimm

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

検索エンジンをよりユーザー中心なものに再構築するYou.comが約22億円のシードを獲得

元SalesforceチーフサイエンティストであるRichard Socher(リチャード・ソッハー)氏と、同氏のYou.com共同設立者たちは2020年来、これまでとは異なるタイプの検索エンジンを構築するというミッションに取り組んできた。そして米国時間11月9日、You.comはパブリックベータ版を公開するとともに、2000万ドル(約22億円)という多額のシード投資を発表した。

この新しい検索エンジンは、そこらにある検索エンジンに見られるような、縦にスクロールする検索結果のセットは使用しない。ソッハー氏とチームは、思い込みを捨て、まったく新しいものを考え出したかった。

「デザインは実際に何度も繰り返し行われました。私たちは初心者のような考え方で、検索に革新をもたらそうとしました。ある意味ではクレイジーなことですが、縦型リストでは(広告のような)他のものがどんどん散らばってしまい、20年間変わっていませんでした」とソッハー氏は筆者に語った。

You.comのチームはこの状況を打破するために、まったく違うものを作った。まず、検索結果のページは、Medium、Yelp、Redditといったさまざまなアプリにリンクされている。それらのアプリの重要度をカスタマイズすることも、特定のアプリをまったく使わないようにすることも、思いのままだ。

検索結果は、ウェブ検索結果のカテゴリーとともに、アプリ別のカテゴリーで表示され、左から右にスクロールすると、特定のアプリやカテゴリーの検索結果を見ることができるようになっている。さらに、実際に新しいタブを開かなくても、ビデオやコードスニペットなどの結果を見ることができ、タブのオーバーロードを減らしつつ時間とキー入力を節約すことができる。

気に入った検索結果があれば、それを上位に移動させられる。そうしたことをYou.comは記憶し、次回はユーザーがもっと気に入るような検索結果を提示する。

You.comで検索したサンクスギビングの添え物料理(画像クレジット:You.com)

創業者らがYou.comという名称を選んだのは、ユーザーとしてのあなたが検索エンジンに何を求めているかを表しているからだ、とソッハー氏は話す。「我々はこの名称に忠実です。それはあなたのことです。だから、あなたはここで、『もっとRedditを見たい』とか『Redditをさほど見たくない』とか選ぶことができるのです」と説明した。

近くのタイ料理店を探しているときのように、Redditからの検索結果を表示することに意味がない場合は、代わりにYelpの検索結果がトップに表示される。Yelpの検索結果が気に入らなければ、単にウェブの検索結果を表示することもできるが、このようにカスタマイズできることで、表示される検索結果にかなりの柔軟性とコントロールが生まれる。

特にニュースソースを選ぶとき、このレベルのカスタマイズによって結果が一面的になりすぎるのではないかと懸念するかもしれないが、目立たせたくない項目は消えてしまうのではなく、結果のリストの下に移動するだけだ。カスタマイズ機能を気にしないのであれば、検索エンジンに結果を表示させることもできる。

You.comはまず、開発者やプライバシーを意識したユーザーに焦点を当てている。ソッハー氏らはショッピングを主要ユースケースとして考えていたが、テストの結果、小売業者の製品カタログにリンクした場合、検索結果が実際にはカタログのページであるにもかかわらず、初期ユーザーは広告だと思ってしまうことがわかった。そこで、他のユースケースを検討することにした。

開発者は、コードスニペットのようなものを検索することができる。スニペットのセットを水平方向にすばやくスクロールし、何かを見つけてコピー&ペーストすると、Googleや、DuckDuckGoのようなプライバシーを重視した検索エンジンよりもはるかに早く作業を終えることができる。

プライバシーを気にする人のために、ソッハー氏が「真のシークレットモード」と呼ぶ機能では、IPアドレスを含むあなたに関するすべての情報が隠された状態にすることができる。この検索エンジンは、シークレットモードへの出入りが簡単にできるように設計されており、レストランを探すのに位置情報をオンにする必要がある場合は、プライバシーモードをオフにして、すぐにオンに戻すことができる。

収益化については、ユーザーのデータを第三者に売らないことを誓っているが、今は単にデザインを落ち着かせてユーザー数を増やすことを目指している。ソッハー氏は、収益化は後回しにすると話す。おそらく、いずれ広告が表示されることになるだろうが、その際には検索結果とユーザーを結びつけることなく、また検索結果があちこち散らばることがないようにするという。

例えば、空気清浄機を検索すると、その広告が表示されるかもしれないが、その広告を出している企業は、現在展開されているほとんどのオンライン広告と同様、ユーザーのデータに直接アクセスすることはない。もちろん詳細は不明だが、ソッハー氏はそのように説明する。

同社はまた、2000万ドルのシード投資を発表した。これは、ソッハー氏の元上司であるMarc Beniof(マーク・ベニオフ)氏のプライベート・ベンチャー・ファンドであるTime Venturesが主導したもので、Breyer Capital、Sound Ventures、Day One Ventures、そして業界のエンジェル投資家たちが参加した。

これまで、この検索エンジンは数千人のユーザーを対象としたプライベートベータ版だったが、11月9日からは誰でも試すことができる。Chromeを使っている人は拡張機能をダウンロードできる。

画像クレジット:you.com

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

地上のRF信号を衛星で受信して地球を分析するHawkEye 360

Solafuneと日本マイクロソフトが衛星画像データを超解像度化する技術コンテスト実施、英語版リリースしグローバル展開も開始

地球観測業界の大手企業各社は、画像処理衛星を使って情報や分析を提供しているが、スタートアップ企業のHawkEye 360(ホークアイ360)はそれとは異なる方針を採っている。目に見えない電磁スペクトルは、目に見える世界と同じように情報に満ちているという前提のもと、同社は船舶用無線機や緊急用ビーコンが発するような無線周波数(RF)信号を監視・分析している。

投資家もこれに同意する。HawkEyeのシリーズDラウンドでは、1億4500万ドル(約164億円)もの新たな資金が集まった。このラウンドは、Insight Partners(インサイト・パートナーズ)とSeraphim Space Investment Trust(セラフィム・スペース・インベストメント・トラスト)が主導し、アラブ首長国連邦を拠点とするStrategic Development Fund(ストラテジック・デベロップメント・ファンド)が追加資金を提供。また、新規の投資家としてJacobs(ジェイコブズ)、Gula Tech Adventures(グラ・テック・アドベンチャーズ)、116 Street Ventures(116ストリート・ベンチャーズ)、New North Ventures(ニュー・ノース・ベンチャーズ)が加わった他、既存投資家のAdvance(アドバンス)、Razor’s Edge(レーザーズ・エッジ)、NightDragon(ナイトドラゴン)、SVB Capital(SVBキャピタル)、Shield Capital(シールド・キャピタル)、Adage Capital(アデッジ。キャピタル)も参加した。

2015年の設立以来、HawkEyeはすでにパートナーとの大きなネットワークを築き、9機の衛星を軌道上に打ち上げてきた。同社のコンステレーションの特徴は、衛星が3機1組のクラスターに分かれて飛んでいることで、これはJohn Serafini(ジョン・セラフィーニ)CEOによると、RF信号の地理的な位置情報を取得するためのアーキテクチャだという。現在はさらに7つのクラスター(計21機)の衛星を開発中で、2023年中頃までに軌道に乗せることを目指している。

画像クレジット:HawkEye 360

地理空間情報産業の多くは、衛星を所有してデータを収集する企業と、そのデータを購入して情報に変換する企業に二分されていると、セラフィーニ氏は説明する。しかし、HawkEyeは当初から完全な垂直統合型の企業として自らを位置づけており、自社で装置を構築し、衛星を運用し、データを処理して独自の分析を行い、その情報をSoftware-as-a-Service(サービスとしてのソフトウェア)モデルとして顧客に販売している。

また、HawkEyeは政府機関のアプリケーションに特に力を入れており、米国政府や国際的な防衛・情報機関を顧客としている。

「私たちは、防衛、セキュリティ、インテリジェンス、および一部の民間アプリケーションに適している商用RFの価値提案を、非常に明確にしたいと考えました。そして、政府関係の顧客を成功に導くために、当社のDNAを独自に構築したかったのです」と、セラフィーニ氏は語る。「私が言いたいのは、米国政府を相手にセールスするなら、片手間では無理だということです。全力で取り組まなければなりません」。

HawkEyeは、衛星メーカーであるトロントのUTIAS Space Flight Laboratory(トロント大学航空宇宙研究所スペース・フライト・ラボラトリー)と協力して、衛星に自社の装置を搭載している。直近では、6月末に3機の衛星をSpaceX(スペースX)のFalcon 9(ファルコン9)相乗りミッションで打ち上げ、Space Flight(スペースフライト)の軌道輸送機「Sherpa-FX(シェルパFX)」を使って軌道に到達させた。

2021年に入ってから、HawkEyeは合計5000万ドル(約56億4000万円)分の契約を獲得している。将来的には、今回調達した資金を利用して、計画中のコンステレーションの規模を10クラスタから20クラスタに倍増させ、地球上のほぼすべての場所を約12分で再訪できるようにしたいと、セラフィーニ氏は述べている。さらにHawkEyeは、コンステレーションの規模をより早く拡大するために、Space Flight Labとの提携と並行して、衛星の組み立てに乗り出すことも計画している。

画像クレジット:HawkEye 360

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

世界中どこでも10cm単位の精度で正確な位置情報を提供するPoint One Navigationの技術

現在販売されている新型車で通勤している人なら、いわゆる「ピンポン現象」というものを経験したことがあるかもしれない。これは先進運転支援システムを搭載したクルマが、車線の中央を維持することができず、その位置を見つけるまで何度も往復してしまう現象だ。

この問題は、クルマが本来いるはずの場所にいない場合に発生する。Point One Navigation(ポイント・ワン・ナビゲーション)は、2016年にこのような問題を解決する技術を発表して注目を浴びた。サンフランシスコを拠点とするこのスタートアップ企業は、都市部のエアタクシーやドローンから、ADAS搭載車や自動運転車、さらにはスクーターや農機具まで、移動するあらゆる車両 / 機体に適用可能な、正確な位置情報を得るためのAPIを開発した。

「位置把握は、ロボット工学において解決しなければならない柱の1つです」と、CEO兼共同設立者のAaron Nathan(アーロン・ネイサン)氏は、最近のインタビューで語っている。「畑で雑草を刈り取るロボットを作ろうとしている企業でも、高速道路を走る自動運転車を作ろうとしている企業でも、エンジニアたちのチームは、それがどこにいるのかを把握するために苦心しています。ならば、我々がこの問題を解決し、すべてのユースケースに全般的に対応できるようにすれば、私たちの顧客はアプリケーションに集中できるようになるのではないか、と私たちは考えました」。

具体的には、Point Oneの技術は拡張された全地球航法衛星システム(GNSS)、コンピュータービジョン、センサーフュージョンをAPIに統合したものだ。これはつまり、ドローン製造会社やロボット工学スタートアップ企業、トラック運送会社などが、APIを通じて自社の車両や機体がどこにいるのかを、10cm単位で知ることができるということだ。Point Oneは10月に開催された自動運転車のイベントで、サンダーヒル・レースウェイ・パークのコースを逆走する自律走行車を使って、その技術を披露した。

2020年に出荷が始まった同社の製品は、交通機関だけでなく、家電製品などの他の産業にも、幅広く応用できると見た多くの投資家から注目を集めている。Point Oneは最近、UP.Partners(UPパートナーズ)が主導したシリーズAラウンドで、1000万ドル(約11億3000万円)の資金を調達した。このラウンドには、BOLT(ボルト)、IA Ventures(IAベンチャーズ)、Ludlow Ventures(ラドロー・ベンチャーズ)などの既存投資家も参加した。

既存のテクノロジーにも、ネイサン氏の表現によれば「部分的な位置情報サービス」を提供するものはある。それは広大な農地でロボットがいる場所を教えてくれるかもしれないが、ある地域では使えても他の地域では使えないかもしれない。Point Oneは、世界のどこでも、10cm単位の精度で顧客に位置情報を提供することができる。

約1年前に出荷が始まったPoint Oneの製品は現在、名前が明かされていない2つの自動車メーカーで量産されている。このような自動車向けアプリケーションでは、最近の新型車にはすでに必要なハードウェアが搭載されているため、Point Oneはこの技術をソフトウェア製品として展開することができる。他の顧客、例えばスクーター会社などでは、車両にチップセットを搭載する必要があるかもしれない。

Point Oneは当初、レベル2の先進運転支援システムに適用するなど、自動車分野に集中していた。20名の従業員を抱えるようになった現在、同社はマイクロモビリティをはじめとする新しい分野への拡大に力を入れている。農業分野の顧客とも生産契約を結んでおり「スマートな」トラクターや、ドローン配送の分野にも取り組んでいる。

同社はまた、ネイサン氏が「エマージングデベロッパー」と呼ぶ、まだ完全には開発されていない製品に携わる人々もターゲットにしている。

「問題は、これらの市場に迅速に拡大していくためには、どうすればよいかということです。Point Oneがこの問題を解決することができる、だから自分たちで無理なことをやらなくても済むのだと、皆に気づいてもらわなければなりません」と、ネイサン氏は語る。

画像クレジット:Point One Navigation

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

5〜15歳対象のオンライン読書教育「ヨンデミーオンライン」のYondemyが1億円調達、教材拡充・保護者向けアプリを開発

スマートニュース子会社スローニュースがノンフィクション特化のサブスク型サービス「SlowNews」で立花隆作品配信

児童向けオンライン読書教育の習い事サービス「ヨンデミーオンライン」を提供するYondemyは11月9日、第三者割当増資による総額1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先はXTech Ventures、D4V、W ventures、F Ventures。

調達した資金は、ヨンデミーオンラインへの開発投資と人材採用にあて、児童UX・保護者UXそれぞれの改善と組織体制の強化へと活用する予定。具体的には、児童向けウェブアプリにおける新機能開発や動画コンテンツなどの教材拡充、保護者向けウェブアプリの開発、今後の組織拡大を見据えた人材採用などへと投資し、事業基盤・経営基盤を強化することで、中長期的な成長を加速する。

ヨンデミーオンラインは、5~15歳を対象とした月額定額制のオンライン読書教育の習い事サービス。「児童それぞれの興味・読む力に寄り添った選書指導」「『本の楽しみ方』などが学べるチャット形式の対話型学習コンテンツ」「ゲーミフィケーションやコミュニティを活かしたモチベーション設計」の3点を特徴とする。

また同サービスの「AI司書ヨンデミー先生」では、好み・興味に合わせるだけではなく自然にステップアップしていけるように本を薦めるという。独自分析した1000冊以上の児童書データについて、ヨンデミー講師の選書ノウハウを再現した独自開発アルゴリズムにより活用しているそうだ。これにより、読む前の本を手に取るきっかけ作りから、読んだ後のコミュニティでの感想シェアや親子の会話まで、児童の読書体験サイクルを一気通貫で支え、習慣化をサポートする。

さらに、学校では教わることのない本の楽しみ方や感想の書き方を学べるレッスンを提供。レッスンは選択式のクイズ形式になっており、文字入力の必要がない上24時間いつでも受講可能。読書をより楽しくするため、読んだ本の表紙や獲得したバッジを蓄積することで読書へのモチベーションを高めるゲーミフィケーション要素も備える。ヨンデミー生同士による感想シェアにより、読書意欲を刺激すると同時に、新たな本との出会いも生み出すとしている。

2020年4月設立のYondemyは、「日本中の子どもたちへ豊かな読書体験を届ける」というミッションを掲げる、現役東大生によるスタートアップ。「読書を習う」という新しい文化を広めるとしている。習い事の選択肢として「読書」が当たり前にある社会を作ることで、読書教育を通じて日本中の児童を「自立した読み手」へと育て、1人1人の一生にとって読書がかけがえのない武器となることを目指す。

Landing AIがデータセントリックMLOpsツールで次世代AIを実現するため約64.5億円の資金を確保

Landing AI(ランディングAI)は、主力製品の発売からわずか1年余りで、製造業者がより簡単かつ迅速に人工知能システムを構築・導入できるツールの開発を続けるために、5700万ドル(約64億5000万円)のシリーズA資金を獲得した。

元GoogleとBaiduのAI第1人者であるAndrew Ng(アンドリュー・ン)氏が立ち上げた同社は、AIとディープラーニングを応用して製品の欠陥をより迅速かつ正確に見つけることができる目視検査ツール「LandingLens」を開発した。

ン氏は、産業界はAIの構築にデータセントリック(=データ中心)アプローチを採用すべきだと述べている。これは、メーカーがAIモデルに何をすべきかを教えるためのより効率的な方法を提供するもので、マウスを数回クリックするだけで高度なAIモデルを1日足らずで構築できるノーコード / ローコード機能を備えている。

「我々はデータセントリックAIのムーブメントをキックオフし、他の企業がそれを話題にし始めたことを非常に喜ばしく思っています」。と同氏はTechCrunchに語った。「製造業では、工場ごとに異なることをしているので、多くのマンパワーを雇うことなく、1万社のメーカーが1万種類のモデルを作るのをいかに支援するかが問題になります」。

創業者兼CEOのアンドリュー・ン氏(画像クレジット:Landing AI)

マッキンゼーの調査によると、AIは2030年までに世界の経済に13兆ドル(約1470兆円)の実現価値を生み出すと予想されている。ン氏は、さまざまなAIモデルを構築することが依然として困難であるため、まだその多くが実現されていないと語る。

同氏は、Landing AIがこれらのモデルを構築するためのコードを解明したと考えており、製品のマーケットフィットを確認し、製品をより良くするためにチームを拡張できるようにしたいと考え、シリーズAラウンドを調達した。

インダストリアルIoT(IIoT)に特化した投資会社であるMcRock Capitalがこのラウンドを主導し、Insight Partners、Taiwania Capital、Canadian Pension Plan Investment Board(CPP Investments)、Intel Capital、Samsung Catalyst Fund、Far Eastern GroupのDRIVE Catalyst、Walsin Lihwa、AI Fundが参加した。

Landing AIは製品の構築に向けて前進しているが、ン氏は、同社がデータセントリックAIムーブメントの初期段階にあることから、さらなる進歩を遂げ、まだ不足している技術を革新していきたいと述べている。

例えば、以前、3億5千万のデータポイントを持つ音声認識システムを構築した際、それだけ多くのデータポイントのために発明されたAI技術は、欠陥を見つけるための画像が限られている製造現場ではうまく機能しないことがわかったという。データセントリックな動きの一環として、50枚以下の画像を活用して、何が欠陥なのかを明確に示すことで、ドメインエキスパートを支援するツールを開発している。

ン氏は次のように述べている。「当社はこれが機能する段階に達しており、すべてをスケールアップしたいと考えています。どうやってレシピを解読してAIを他の業界に持っていくか、何年も前から関心を持ってきましたが、データセントリックAIでようやくそれが実現しつつあります」。

画像クレジット:Landing AI

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(文:Christine Hall、翻訳:Aya Nakazato)

暗号資産取引所の新グローバル規制対応を支援するNotabeneが約11億円を調達

米ニューヨーク市を拠点とする暗号資産コンプライアンスSaaSスタートアップのNotabene(ノタベネ)は、F-Prime CapitalとJump Capitalが共同でリードしたシリーズAラウンドで1020万ドル(約11億円)を調達した。今回の資金調達により、Notabeneの評価額は4500万ドル(約51億円)となった。

新たな投資家には、資金調達前にNotabeneの顧客であった暗号資産取引所のLunoBitsoの他、BlockfiとGemini Frontier Fundのベンチャーキャピタル部門が含まれる。また、シリーズAではIlluminate Financial、CMT Digital、Fenbushi Capital、ComplyAdvantageのCEOであるCharlie Delingpole(チャーリー・デリングポール)氏も新規投資家として、Castle Island VenturesやGreen Visor Capitalなど既存投資家の輪に加わった。Notabeneは、会社設立から半年後の2020年10月に176万ドル(約2億円)のシードラウンドを実施した。

Notabeneのソフトウェアは、その多くが暗号資産取引所である50社以上の顧客が、2019年に課せられた金融活動作業部会(FATF)の「トラベルルール」を遵守するのをサポートしている。トラベルルールは、FATF加盟国の暗号資産取引所に対し、本人確認(KYC)やマネーロンダリング防止(AML)の規制を確実に守るよう、1000ドル(約11万円)以上の送金について顧客を特定する情報を交換することを求めている。FATFは10月にトラベルルールに関する新たなガイダンスを発表し、取引所がルールを遵守するために必要な事項を明確にした。

Notabeneは、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、取引当事者間での情報伝達を可能にする技術を求める取引所のニーズに応えている。識別検証プロセスでは、ブロックチェーン上の匿名のウォレットアドレスを実際の顧客とリンクさせる必要がある。NotabeneのCEOであるPelle Brændgaard(ペレ・ブランドガード)氏はTechCrunchに、取引の当事者とNotabeneだけがこの情報を見えるようにすることが重要だと話した。

また、Notabeneが提供する本人確認サービスは、コンプライアンスを確保するだけでなく、適切な相手との取引を確実に行い、詐欺のリスクを回避したいと考えている消費者の間で暗号資産取引の信頼を築くのにも役立つ、と同氏は付け加えた。

Notabeneは今回の資金調達で得た資金を新規顧客の増加に対応するための技術開発に充てる予定だ。

Notabeneの取締役会に加わるJump Capitalのパートナー、Peter Johnson(ピーター・ジョンソン)氏がTechCrunchに語ったところによると、投資家であるJump Capitalが実施した調査に回答した25の暗号資産取引所のうち、90%がトラベルルール遵守のためにNotabeneを利用する予定だ。ジョンソン氏は、Notabeneの製品が暗号資産業界の重要な問題を解決しているという「市場からの圧倒的なフィードバック」が、Jumpの投資の部分的な動機だったと述べた。

Notabeneの最大の競合相手は、コンプライアンスのための一元化されたプロトコルを導入している業界のワーキンググループだ。Fidelity InvestmentsやStandard Charteredなどの銀行がメンバーに名を連ねるTravel Rule Protocol(TRP)ワーキンググループは、その代表的なものの1つだ。このような一元化されたプロトコルにより、メンバーである機関や取引所はデータを共有し、ユーザーはコンプライアンスに則った取引を簡単に行うことができる。

これらのグループのメンバーは米国拠点の取引所に集中していることから、排除を助長する可能性がある、とブランドガード氏は話す。

「例えば、当社はナイジェリアを拠点とする会社をいくつか顧客に抱えていますが、ナイジェリアには暗号資産に関する規制の枠組みがありません。ですので、この分野のゲートキーパーがいて、『完全に規制に則った企業のみを対象とする』と言えば、顧客企業は自動的に排除されてしまいます」とブランドガード氏はTRPのようなグループについて述べた。

同氏によると、Notabeneの創業チームと初期従業員の多くは、分散型アイデンティティのスタートアップ企業UPortの出身だという。UPortでの経験を生かしたNotabeneの分散型フレームワークによって、会員数を制限することなく、取引所全体の信頼性を高めることを期待している、と同氏は述べた。

画像クレジット:Notabene Team

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi