ホテルの市場分析・料金設定を支援する「ホテル番付」の空が1.7億円を調達

ホテル・旅館向けに、AIを使った市場分析と料金設定支援サービスを提供する空(そら)は7月12日、約1.7億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先はベンチャーユナイテッドふくおかフィナンシャルグループのVCであるFFGベンチャービジネスパートナーズ、エースタートマネックスベンチャーズ、ほか数名のエンジェル投資家。

空は2015年の設立以来、2016年7月にシードラウンドで数千万円の調達2017年10月に8000万円の調達を行っており、今回の調達は3回目、シリーズAラウンドに当たる。

空が最初にリリースしたプロダクトは、ホテルや旅館などに自動で最適な宿泊料金を提示するBtoBサービス「MagicPrice」だ。MagicPriceはホテルが持つ過去の宿泊予約データと、公開されている旅行予約サイトなどから得たデータを分析し、適正な宿泊料金を提案。ホテル側は自社の方針に合わせて日ごとの料金ランクを決定し、サイトコントローラー経由で予約サイトに自動で反映することができる。

MagicPriceに続いて2017年8月にリリースされたホテルの経営分析サービス「ホテル番付」はTechCrunch Tokyo 2017のスタートアップバトルで最優秀賞を獲得した。空 代表取締役の松村大貴氏は「今回投資に参加したマネックスベンチャーズについては、スタートアップバトルで審査員だった松本大氏(マネックスグループ 代表執行役社長CEO)と会話したことがきっかけとなった」と話している。

ホテル番付は当初、ホテル業界向けの効果測定・経営分析ツールとして登場したが、2018年4月からはエージェント型サービスにリニューアル。旧バージョンでも予約サイトに公開されている価格・室数情報を自動収集し、周辺ホテルの市場分析データをユーザーに届ける機能を備えていたが、新バージョンでは分析結果に基づく気づきや提案を、必要なタイミングでユーザーへ通知するスタイルに変わった。

リニューアルに伴い、基本無料で追加機能の使える有料版を月額1万円で提供してきた料金体系も変更。月額8000円の基本料金に、ホテルの規模に応じて部屋数で課金する形となっている。

2018年4月現在、ホテル番付とMagicPriceを合わせた利用ホテル数は1500件。松村氏は「利用が増えたことでフィードバックを得て、プロダクトの質も上がっている」と話す。

「料金体系の変更もよい決断だった。顧客の売上だけでなく単価もアップしており、我々もSaaS事業では重要なカスタマーサクセスに投資できるようになった。ひとつひとつ、相手に合わせたサポートプランを用意でき、満足度も向上し、ビジネスとしても成長している」(松村氏)

ホテル番付のリリースから1年弱、プロダクトの内容について模索してきたという松村氏。「今、いい型にはまったところで、サービスをよりスケールさせたい」と資金調達の意図について語る。

「調達資金はもっとチームを強くするために投資していく。プロダクトに自信が付いたところで、新しい顧客も集めたい。投資の半分はプロダクト強化のための技術開発へ、残りはセールスやマーケティングに使い、より顧客満足度を上げていきたい」(松村氏)

また、かねてから取材に対し松村氏が述べていることだが、価格決定に関わる技術を活用して、ホテル業界以外への事業展開も検討しているとのこと。

松村氏は「ホテル業界にビジネスモデルが近い業界、つまり価格決定がビジネスの成否に大きく影響し、かつプライシングのソリューションがない業界というのはいろいろある。実は他業界からも問い合わせがあり、1つ1つをプロジェクトとして検討し、見定めた上で進出したい」と話している。

「具体的にはホテル以外の旅行業界やイベントチケット、さらに飲食・小売業についても話があり、適用範囲は限りなく広いと考えている。各業界のすばらしい企業と組み、新規事業として展開することも狙っていく」(松村氏)

“持たない自由”実現するレンタルプラットフォーム「Alice.style」開発が3.5億円を資金調達

高額家電など、機能は気になるけれども「買って失敗したらどうしよう」と手が出せなかった経験、誰でも一度はあるのではないだろうか。また、ママ、パパの皆さんなら、子どものためにできる限りハイスペックなベビーバギーを手に入れたい、と思えども「どうせすぐに使わなくなるからなあ」と諦めた経験を持つ人もいるかもしれない。

ピーステックラボが現在リリース準備を進めている「Alice.style(アリススタイル)」は、そうした商品をメルカリのようなフリーマーケットでなく、個人対個人、企業対個人の「レンタル」でシェアするためのプラットフォームだ。

ピーステックラボ代表取締役社長の村本理恵子氏によれば、Alice.styleがターゲットとするのは、20代から40代の女性。美容家電や生活家電、マタニティーウェアやグッズ、ベビー用品などを対象商品として想定しているそうだ。

CtoCでは週単位での貸し借りを、BtoCではトライアルで商品貸し出しを行い、「気に入ったら買う」というインターフェイスを設けることで、ECにつなぐという。

村本氏は前職のエイベックスグループで、dTVサービスを手がけていた人物だ。デジタルコンテンツを月額500円で“シェア”する、というビジネスを進めるうちに「デジタルだけでなく、リアルでも同じようなサービスができないか」と考えるようになり、ピーステックラボを2016年6月に創業した。

「持たない自由、シェアリングエコノミーをリアルなモノにも展開したい、と考え、そのためのインフラとしてAlice.styleの開発を始めた」(村本氏)

ピーステックラボでは、8月にAlice.styleの正式ローンチを予定している。そのサービス開始を前に、7月11日、リコーリースとアスクルを引受先とした第三者割当増資により、総額3.5億円の資金調達を実施したことを発表した。

今回の資金調達は、2017年9月に実施したエンジェル投資家からの6000万円の調達に続くもので、シードラウンドに当たる。同社は創業から累計で4.1億円を調達したことになる。

同社では、アスクルについては物流の、リコーリースとはリースに関するノウハウの共有を検討しており、資金調達とは別に業務提携契約の締結を予定している。調達資金は事業拡大、開発体制の強化とマーケティング活動への投資に充てるという。

「すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」を目指すJobRainbowが5000万円を調達

後列一番左がJobRainbow代表取締役、星賢人氏

五反田駅から歩いて数分の場所にあるfreeeの本社は7月8日、日曜日なのにもかかわらずとても賑わっていた。日本最大の規模を誇るLGBTフレンドリー企業の合同説明会、「Real JobRainbow」が開催されていたからだ。

LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それぞれの頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティの総称のひとつだ。

2016年創業のスタートアップJobRainbowが運営する同説明会ではスターバックス、LUSH、そしてfreeeを含む約10社の参加企業が名を連ね、訪れた約150名の就職・転職希望者たちに対し「自分らしく」「自然体」で働ける職場環境が整っていることを約束した。

2016年創業のJobRainbowは「すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」を目指し、合同説明会のReal JobRainbow、求人サイト「ichoose」、企業口コミサイト「JobRainbow」、研修・コンサルティング事業などを展開している。

そんな同社が7月10日、ジェネシア・ベンチャーズを引受先とする、5000万円の第三者割当増資を実施したと発表した。今回の資金調達により、プロダクト開発・セールスチームの強化、及び企業向けコンサルティング事業の強化を実施し、年間約70万人存在すると言われているLGBTの就活生・転職希望者が自身のセクシュアリティに関わらず、「自分らしく働ける職場」に出会える社会を目指すという。

同社の代表取締役、星賢人氏は13人に1人(約7.6%)、日本の人口に換算するとおよそ950万人がLGBTに該当すると説明。

星氏は、東京大学大学院に在学中、起業し、孫正義育英財団正財団生として選抜されるとともに、Forbes 30 under 30 in Asiaに日本人唯一、社会起業家部門で選出されている。自身もゲイとしてこれまでいじめや差別を経験し、人生に絶望したこともあったという。

同氏は「求職時に、困難を感じていない人が6%なのに対して、LGBだと44%、トランスジェンダーの方だと70%の方が困難を感じていると答えている」と問題を指摘した。

「職場でカミングアウトしたいと思っている方は約半数いるが、実際にできている方は4%しかいないということが博報堂などによる調査によってわかっている。背景として、7割の方が職場で差別的言動を経験しているということがある」(星氏)

企業側には「人材不足の中、理解がないことで知らず知らずのうちにLGBTの方が離職してしまう」ことがあったり、「理解があるのにも関わらず、それを当事者に伝え切れていない。雇用がしたくても受け入れ方を知らない」といった課題があるのだと同氏は説明する。

そのソリューションとして、今では同社のメインサービスとなっており、当時は世界初であったというLGBTのための求人サイト、ichooseを2017年にリリース。性別関係なく働くことができ、かつ「服装髪型が自由」「トイレや更衣室に配慮」「福利厚生が同性パートナーにも適応される」など自分にあった求人に応募できるのが同サービスの特徴だ。エントリーシートに求職者が自由にセクシュアリティを記入できるほか、入社後の配慮項目を事前に登録することで、求職者と企業とのより良いマッチングをサポートする。同サービスのユーザー数は累計で約35万人、MAU(monthly active user)はおよそ7万5千人にも及ぶという。

星氏は「現在、年間で言うとLGBTの求職者は約67.5万人いることがわかっている」と市場規模に関して説明した。「人材の市場規模的に言うと、人材サービス産業はおよそ8兆円なので、だいたい7.6%と考えると6000億円。その中で我々が狙うべきなのは求人広告市場と人材紹介事業なので、そこで言うとおよそ1000億円が我々のビジネスのポテンシャルとして存在している部分だと考えている」と語った。

今後、出資をもとにプロダクトを磨くため、エンジニアやデザイナーを増員し、2025年までに認知度を100%近くまで高め、売上高は300億円規模を目指しているという。

また、星氏はTechCrunchで紹介しているようなベンチャーやスタートアップなど若い中・小規模の企業は「理解や柔軟性」があり、「特に受け入れ土壌がある」と述べた。

Real JobRainbowでブースを出し、ichooseにも求人を掲載しているfreeeでダイバーシティ推進室 室長を務める吉村美音氏は「freeeを含むスモールビジネスやスタートアップの会社は、様々な施策を行う上で小回りがきく。自由に働ける環境を整えることができるのはスモールビジネスやスタートアップの強みだと考えている」と語った。

写真右がfreeeダイバーシティ推進室 室長、吉村美音氏

人の創造性を定量化するイノベーションテックのVISITS Technologiesが5億円を調達

独自のアルゴリズムによって創造性を可視化する「ideagram」やOBOG訪問サービス「VISITS OB」を提供するVISITS Technologies。同社は7月9日、CAC CAPITAL、未来創生ファンド、FFGベンチャービジネスパートナーズ、みずほキャピタル、個人投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約5億円を調達したことを明らかにした。

VISITS Technologiesは2014年の設立。2017年7月にパーソルホールディングス、ベクトル、三菱UFJキャピタル、グローブアドバイザーズなどから5.7億円を調達しているほか、それ以前にも代々木ゼミナールグループ、ウィルグループインキュベートファンドなどから資金調達を実施。

これまでの累計調達額は今回も含めて約14億円になるという。

共感を軸に人のつながりを生みだすOB・OG訪問プラットフォーム

VISITS Technologiesでは現在大きく2つのサービスを展開している。そのひとつが前回調達時にも紹介したVISITS OBだ。

VISITS OBは「ビジョンに共感し合える人のつながり」を生み出すことを特徴とした採用サービス。よくありがちな同種のサービスとは違い、OB・OGは会社の紹介などではなく、自分がこれまでどんなことをしてきたのか、これからどんな挑戦をしていきたいのかといった個人的なエピソードをプロフィールとして記入する。

社会人と学生双方のプロフィールをディープラーニングにかけることで「人が何に興味を持つのか、どんなことに共感するのか」を抽出。共感をベースにしたマッチングの実現や、企業のブランディング最適化のサポートを行う。

サービス開始から2年半でユーザー数は約10万人。掲載企業数も約2000社に上り、マッチング数は100万件を越えた。昨年からはユーザー専用のコミュニティスペース「HELLO,VISITS」を複数のエリアで設立するなど、新しい取り組みも始めている。

クリエイティビティを科学しイノベーションを創出する新サービス

VISITS Technologiesが展開するもうひとつのプラットフォームが、2017年10月に発表した「ideagram」だ。

このサービスはこれまで定義することが難しかった人の創造性や目利き力、アイデアの価値を定量化することで企業内の人材発掘や育成、イノベーションの創出を支援するというもの。具体的には「アイデア創造」と「アイデア評価」という2つの試験をオンラインで実施。参加者のデータを独自のアルゴリズムで分析する。

おもしろいのは単なる多数決などではないということだ。ideagramではアイデア創造の結果によって各メンバーの目利き力を予測し、アイデア評価の際に各々の目利き力を考慮する(ウエイトを加重する)。これによって「多くのメンバーがイマイチだと言っていたとしても、目利き力が高いとされるメンバーがおもしろいと言ったアイデア」が評価されるようになる。

つまり従来は多くのメンバーに理解されずに埋もれしてしまっていたような「破壊的イノベーションに繋がるようなアイデア」に、個々のクリエイティビティやアイデアの価値を可視化することで気づけるようになるかもしれないということだ。

もちろん社内で誰がクリエイティブか定量的にわかるようになれば、人員配置を考える際にも役に立つし、研修用のツールとしてクリエイティビティをトレーニングすることもできるという。

少し説明をはしょってしまったけど、厳密には上述したプロセスを経て「参加者全体として『どのような創造性と目利き力の確率分布に従っていれば、全体として最も納得性の高い合意形成が成立するか』という『説明力最大化問題』を数学で解き明かしている」とのこと。

この独自の合意形成アルゴリズムがideagramの特徴となっている。

AI時代に必要なクリエイティビティを数式で可視化する

VISITS Technologiesで代表取締役を務める松本勝氏は元ゴールドマンサックスのトレーダーであり、その後人工知能を用いた投資ファンドの設立にも携わってきた人物。AIに関わってきた歴も長いからこそ「AIは決して万能ではない」と話す。

基本的にAIは過去のデータから学習して判断を行うもの。つまり「教師データ」がある場合に、一層そのパワーを発揮する。

一方で破壊的イノベーションと呼ばれる類のものは、そのほとんどが前例のないアイデア。AIが生み出したり、見つけたりするのが苦手だけれど価値があるものだと言える。

「AIが進化することで、人に求められる能力や人がフォーカスする領域も変わる。そこで重要なのが(AIには難しい)クリエイティビティであり、その源泉となる共感。これこそが1番のフォーカスポイントだと以前から言われているのに、これまではそのスキルが定義されることもなく、育て方もわからないままだった。ideagramではこのクリエイティビティを科学する」(松本氏)

共感を科学するという点では、以前から運営してきたVISITS OBから一貫するテーマだ。

VISITS OBは共感という軸で、共に新しい社会価値を創造する仲間を見つけるためのサービス。ideagramは、社会価値に繋がるアイデアを見つけたり、必要なスキルを磨くためのサービスという位置付けだという。

松本氏によるとideagramはすでに大手企業を中心に約20社に導入が決まっていて(運用を開始している企業も含め)、今後も引き続き展開を加速させていく予定だ。

また企業向けのプロダクトだけでなく、同社のエンジンとブロックチェーンを組み合わせたオープンな社会課題解決プラットフォームを開発しているそう。登録された社会課題とさまざまな企業が持つ技術などのシーズの組み合わせから最適なものを自動抽出することで、社会課題の解決と同時に、新たなイノベーションの種を発掘するエコシステムの構築を目指しているようだ。

生体認証システムのLIQUIDが33億円を調達、オンラインで完結する本人確認サービスも

LIQUID代表取締役の久田康弘氏

生体認証システムやそれを応用したさまざまなプロダクトを提供するLIQUID。7月6日、農林中央金庫、東京海上日動火災保険、森トラスト、大和証券グループ本社、上田八木短資株式会社、SBI AI & Blockchain投資事業有限責任組合、その他国内事業会社を引受先とする第三者割当増資等による総額33億円の資金調達を実施したと発表した。

同社は今回の資金調達でエンジニアを確保し、新製品を視野に開発体制を強化するという。

LIQUIDでは生体情報にフォーカスした画像解析と機械学習を利用したビックデータ解析により、高速処理を可能にした認証アルゴリズムを独自に開発。パスポートやパスワード・暗証番号の代替手段まで、次世代の社会インフラを支える技術開発を進めてきた。

たとえば、3指センサーによる指紋スキャナー「LIQUID Sensor」は同社開発の生体認証エンジンを用いることで高精度な本人照合を実現。また、一般小売店舗向けに開発された「LIQUID Regi」は通常のレジ機能に同社の指紋センサーを追加することで、カードや現金不要の”手ぶら決済”を可能にした。

同社のプロダクトはハウステンボスなど多くの商業施設で利用されている。また、2017年11月にはイオン銀行にLIQUIDの本人確認サービスが導入された。指紋と静脈の2要素による生体認証により、ATMでの現金引出しや入金・住所変更等の手続きを高セキュリティが維持された状態で行うことができるという。

そして本日、同社は住信SBIネット銀行との間で、オンラインで本人確認を完結する「LIQUID KYC」の導入検討を開始したと発表した。

LIQUID KYCは同社がこれまで開発してきた画像解析・機械学習を用いた認証技術をベースとし、犯収法施行規則の改正案に準拠した、オンラインで完結する本人確認サービスだ。利用者が直ちに住信SBIネット銀行における銀行口座の開設・振込等のサービスを利用できるようになることを目指すという。

同社いわく、これまで、オンラインでの口座開設等における本人確認の方法として「顧客から身分証の送付を受け、顧客宅に転送不要郵便を送付する方法」が規定されており、口座開設をオンラインで申し込んだ場合、最終的には転送不要郵便を送付する必要があった。

しかし今回の改正により、「本人確認書類の画像の送信を受けるとともに、顧客の顔画像の送信を受ける方法」が導入され、オンラインのみで本人確認を完結することも可能に。時間とコストをかけることなくセキュアな本人確認が実現する見込みだ。

LIQUID KYCを用いて顔データを撮影するイメージ

久田氏によると、同サービスは利用者がアップロードした本人特定事項、顔写真付き本人確認書類、および本人の顔写真をクラウドサーバーで照合。本人確認を通過した場合はそのまま銀行口座が開設できるようになるのだという。

同サービスの導入により、たとえば「夜中にオンラインで事業者が銀行口座を開設し、その日から銀行口座を持って使っていける」ようになり「ユーザーの利便性が上がっていく」と同氏は説明した。

「アートとブロックチェーンは相性がいい」美術家が創業したスタートバーン、UTECから1億円を調達

アート×テクノロジーを軸に複数の事業を展開するスタートバーン。同社は7月5日、UTECを引受先とする第三者割当増資により、約1億円を調達したことを明らかにした。

同社では今回の調達も踏まえ、以下の3つの事業に取り組む方針だ。

  • 文化・芸術品の管理に特化したアート×ブロックチェーンネットワークの構築
  • ネットワークと連動する自社サービス「Startbahn BCM(仮称)」の開発
  • アート領域以外の事業者も含めたブロックチェーン事業の共同開発

ブロックチェーンネットワークは9月末より試験運用を開始、Startbahn BCMも同様に9月末より提供を開始する予定だという。

油絵専攻の現代美術家が立ち上げたアートスタートアップ

スタートバーンが今後取り組む事業には、同社がこれまでやってきたことが大きく関わっている。ということで、まずは同社の成り立ちや手がけてきたプロダクトについて紹介したい。

スタートバーンは現代美術家として活動していた施井泰平氏が、東京大学大学院に在学していた2014年3月に立ち上げたスタートアップだ。施井氏は多摩美術大学の絵画科出身。大学で油絵を専攻した後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作活動を行ってきた。

ギャラリーや美術館での展示に加えて、複数のオンラインプロジェクトも発表。東京藝術大学では教鞭をとった経験もある。

そんな施井氏が起業するきっかけとなったのが、かねてから構想を進めていた「Startbahn」のアイデアだったという。

「テーマとしていたのは『アートの民主化』。インターネットの時代では、様々なジャンルで名もない多くの人たちが業界を盛り上げ、それが中心となって新たな市場を開拓してきたという背景がある。ただしアートに関しては限られたトッププレイヤーだけしか市場に関わっていなかった。結果的に一部の作品だけがやりとりされ、情報も広がっていかない。そんな状況を変えたいと思っていた」(施井氏)

たとえば毎年1万人以上が美術大学を卒業するのに、マーケットに流通するアーティストになるのはわずか1〜2人程度なのだそう。そう考えるとほんの一部の人だけがチャンスを掴めるシビアな市場だ。もちろんネットによる民主化が進まなかったのには、アート市場特有の理由もある。

「通常、多くのマーケットでは基本的に中古市場より新品市場の方が商品価値が高い。一方でアートは新品が最も値段が安いというケースがほとんど。アーティストのキャリアや、その作品がどんな人に買われたか、どんな展覧会に展示されたかによって価値が高まっていく。そのような情報を管理するのが困難だったため、簡単にネット上で自動化もできず、アートをやりたい多くの人たちの作品が流通してこなかった」(施井氏)

転売されるごとにアーティストへ還元金が分配

2015年12月にリリースした「Startbahn.org」は、これらの課題を解決するために作ったプロダクトだ。

同サービスはアート特化のSNSとオークション組み合わせたような仕組み。アーティストが自身の作品を掲載したり、レビュワーが作品のレビューを投稿するSNS機能に加え、アーティストとコレクター間だけでなくコレクター同士でも作品を売買できるオークション機能を備える。

特徴は再分配システムを搭載していること。Startbahn.orgでは作品の来歴がトレースされるほか、コレクター間で作品が売買されるごとに(n時販売時に)オリジナル作者へ還元金が支払われる仕組みになっている(日米間で特許を取得済み)。

これは上述した「トッププレイヤー以外の作品が流通しやすくなるための仕掛け」のひとつだ。

「まず作品の価格決定の仕組みを変える必要があった。従来の仕組みでは若手のアーティストの作品が高いと感じられがち。たとえば30日かけて作った作品が30万円で売られていても、多くの人は高いと思うはずだ。そこで初期の価格を落とす一方で、転売されるごとにアーティストに還元されるようにすれば、ひとつの作品から同じくらい、もしくはそれよりも多くの収益が得られるのではと考えた」(施井氏)

ブロックチェーンを活用すれば課題を解決できる

ところが実際にサービスの運用を続けていると、いくつかの課題が明確になった。特に頭を悩ませていたのが、外部サービスで作品が売買されてしまった場合、来歴のトレースも還元金の徴収もできなくなってしまうことだ。

どうすればこの問題を解決することができるのか。ずっと打開策を考え続けていた時に施井氏が出会った技術こそが、ブロックチェーンだったという。

還元金や証明書の情報はブロックチェーンに記録し、かつブロックチェーンネットワークを通じて外部サービスとも連携できる仕組みを作れば、サービスをまたいで来歴の管理や還元金の徴収も可能になる。

約2年に渡ってその考えを磨き続けた結果生まれたのが、現在開発を進めているアート×ブロックチェーンネットワーク構想であり、自社サービスのStartbahn BCMだ。

アート×ブロックチェーンネットワークでは、アートマーケットの発展のために共有すべき「作品のタイトルやサイズ、制作年度、作者情報、来歴情報」といったデータをブロックチェーン上でオープンにする。

一方で所有者の個人情報や販売管理者のための管理情報など、共有したくない情報については自社で管理できる仕組みを整備。双方のバランスをとりつつ、ネットワークを活用すれば参加機関が独自の作品証明書発行サービスを立ち上げたり、既存のプロダクトをアップデートできる環境を作る。

ネットワークの参加機関として想定しているのは、アーティストやクリエイター、ギャラリー、オークションハウス、管理業者など、文化や芸術作品に携わるあらゆるプレイヤー。まずは第一段階として9月末から一部のパートナー企業と共に試験運用を始め、2019年初には正式版を公開する予定だという。

同じく9月末の公開を予定しているStartbahn BCMは、アート×ブロックチェーンネットワークに参加するサービスのひとつという位置付け。Startbahn.orgのコンセプトや特徴を引き継ぎながら、従来抱えていた課題をブロックチェーンの活用で解決し大幅にアップデートしたものだ。

Startbahn BCMでは外部サービスとの連携だけでなく、独立性やカスタマイズ性を重視。作品や商品管理機能をバージョンアップし、ギャラリーやショップ、イベント、教育機関での利用も視野にいれている。

施井氏いわく「イメージとしてはBASEやSTORES.jpにも近い」部分があるそう。それぞれのユーザーが独自性のある作品サイトを作成でき、裏側では各サイトがStartbahn BCMに紐付く仕組みだ。

またスタートバーンではアート×ブロックチェーンネットワークの構築を通じて培った知見を、文化や芸術以外の領域にも応用していく方針。来歴管理や証明書発行、真贋鑑定技術などを必要とする事業者と共同で、オリジナルのブロックチェーンネットワークを開発していきたいという。

アート界隈でも注目度の高いブロックチェーン

海外ではすでにブロックチェーンをアート市場の課題解決に用いたスタートアップが増えてきた。特に作品の真贋鑑定や来歴管理はブロックチェーンと相性がよく、「Codex」や「Verisart」を始めとしたサービスが注目を集めている。

施井氏の話ではアート界隈の人と話していても「トレーサビリティだけでなく国際送金やエスクローの仕組みなど、ブロックチェーンへの関心度や期待値は高い」そう。特にアート業界は贋作が多いと言われていて、それが業界の透明性を下げてきた部分もあるからだ。

その一方でギャラリーやオークションハウスとしては自分たちの情報を守りたいという思いもあり、従来は双方のバランスをとりながら情報公開を進めることができていなかった。

スタートバーン代表取締役の施井泰平氏

「自分たちの強みがあるとすれば、このような問題をもう何年も前から現場で考えてきたこと。(各プレイヤーに)ヒアリングを重ねながら、どのようなインセンティブ設計や再分配の仕掛けがあればみんなが参加したくなるのか、どうすれば機関を横断して情報共有ができるかずっと模索してきた」(施井氏)

それだけにブロックチェーン技術が台頭してきたことは、スタートバーンにとっても大きな追い風だ。同社では今回調達した資金も活用して、アート×ブロックチェーンネットワークの構築、展開の加速を目指す。

荷物待ちや再配達のストレスから解放、“置き配”バッグ「OKIPPA」—— 東京海上と盗難保険も開発

「こんなにも多様な商品をネットで買える時代になっているのに、受け取る方法は未だに自宅、コンビニ、宅配ロッカーと少ないまま。もっと新しい選択肢があってもいいと思った」——そう話すのは、置き配バッグ「OKIPPA」を開発するYperの代表取締役、内山智晴氏だ。

置き配という言葉からもぼんやりとイメージできるかもしれないけれど、OKIPPAは専用のバッグを通じて不在時でも自宅の玄関前で荷物を受け取れるサービス。2018年4月からクラウドファンディングサイト「Makuake」で始めた先行販売プロジェクトには約1800人が参加(2000個以上売約済み)するなど、大きな反響を呼んだ。

8月下旬には一般販売も予定しているOKIPPA。それに向けて開発元のYperは7月5日、東京海上日動と共同でバッグ専用の盗難保険「置き配保険」を開発したことを明らかにした。合わせて7月7日より東京23区にて約1ヶ月間の実証実験を実施することも発表している。

不在時でも専用バッグで荷物受け取り、アプリとも連動

近年ECサイトやフリマサービスなどの普及に伴い、宅配物の取扱件数が年々増加している。その中で課題とされているのが再配達率の高さだ。6月25日に国土交通省が発表した資料では、宅配便の再配達率は約15.0%。特に全体を押し上げている都市部(16.4%)において、この数値を下げる方法が求められている。

自宅以外でもコンビニや宅配ロッカーで荷物を受け取ることができるものの、内閣府の世論調査などを見る限りではそこまで使われていないのが現状。これらを補完する新しい選択肢としてYperが提案しているのが、冒頭でも紹介したアプリ連動型の置き配バッグOKIPPAだ。

普段はバッグを玄関口などに吊り下げておき、荷物収納時に地面まで引き下げて使用する。耐荷重は13kgと容量の大きいものも収納できるが、使っていない際には手のひらサイズに折りたためるため余計なスペースをとらないのが特徴だ。

盗難対策として玄関口に固定する部分には専用のロック、内鍵に南京錠を付属。撥水加工の生地、止水ファスナーによって雨から荷物を守る(完全防水ではない)。一般販売では3980円(税抜)で提供する予定だ。

合わせてOKIPPAではバッグと連動するアプリを開発。OKIPPAに荷物が配送されると通知を受けとれるほか、Amazon、ZOZOTOWN、楽天で購入した商品の配送状況を管理することも可能。配送業者5社(ヤマト運輸、日本郵便、佐川急便、西濃運輸、Amazonデリバリープロバイダー各社)に対応し、もし再配達が必要になった場合もアプリから依頼できる。

OKIPPAを使う1番のメリットは、荷物を待つストレスから解放されることだろう。

通常荷物の受け取り時間は「14時から16時」など一定の範囲を指定する。この場合14時に届くのか16時に届くのかまではわからないから、その間ずっとそわそわし続けなければいけない。トイレに行くのでさえもなぜか緊張するし、たとえほんの数分だとしても家から出るとなればかなりの勇気がいる。

「いろいろな商品をネットで買えるのだから、商品に応じて受け取り方をもっと柔軟に選べてもいいはず。たとえばパソコンのように高価なものは、土日の午前中を使ってでも受け取りたいが、ちょっとした日用品を受け取るのに貴重な時間を使うのは無駄に感じてしまう。受け取りの選択肢が増えるだけでストレスも軽減される」(内山氏)

すでにMakuakeで初期に購入したユーザーを含めた50世帯以上で試験的に運用を始めていて、今のところは盗難などの被害も報告されていないそう。内山氏自身も以前は平日に受け取ることができず再配達の常連だったが、OKIPPAを使うことでその問題は解決。ユーザーからも同様の反響が多いという。

ちなみにOKIPPAのバッグ自体はIoT化していない完全にアナログなもの。その一方でアプリを作り込むことにより、少しでもIoTロッカーに近い機能を、なるべく安価かつ使いやすい形で実現することを目指している(荷物の受け取り通知も、配送員が行う配送管理処理をサーバー側で取得してアプリに通知する仕様)。

東京海上日動と共同で「置き配保険」開発

置き配サービス自体は何もOKIPPA固有のものではなく、FANCLやAmazon、アスクルを始め複数のECサイトが実践してきた。ただ内山氏の話ではダンボールをそのまま丸裸で置くのが一般的だそうで、ニーズはあるものの盗難や個人情報がさらされることを不安に思う人もいるようだ。

OKIPPAの場合は上述したバックと、新たに東京海上日動と開発した専用の置き配保険を通じて「置き配をインフラ化したい」(内山氏)という。

置き配保険は宅配物がバッグに預入された時点から一定時間(24時間の予定)を対象とし、盗難があった場合に補償してくれるというもの。もともとMakuakeの購入者にアンケートをとったところ、約半数が盗難保険を希望していたため開発に至ったそうだ。

一定金額以上に補償に関してはアプリのプレミアムプランとして提供することを予定していて、バッグが納品される8月末を目処に適用を開始する計画。なおOKIPPAバッグに預入後は、配送会社は輸送中に宅配物に付保する運送保険とは切り離すことができるという。

5000万円の資金調達も実施、インフラとなるサービス目指す

Yperは2017年8月の設立。代表の内山氏は伊藤忠商事の出身で、同社で航空機の販売や改修などに携わった後にYperを立ち上げた。

物流に関心をもったのは、前職でフランスに滞在した時。「フランスに比べて日本の物流はシステムもインフラも整備されていてすごいと感じた。その一方で物流が高度化されている日本ですら再配達など問題が発生している。これをスタートアップとして解決したらおもしろいのではと思った」(内山氏)ため、この領域でビジネスをすることに決めたそうだ。

当初はIoTロッカーを検討したものの、ヒアリングを重ねる中でコストや利用頻度、使い勝手(常に外に置いておくと雨ざらしになる上に、整備費用も発生。配置にはある程度のスペースも必要)などを考慮して方向性を転換。現在のOKIPPAのモデルに行き着いた。

2018年2月にはニッセイ・キャピタルのアクセラレーションプログラム「50M」に採択。5月には同社から5000万円の資金調達も実施している。

今後は一般販売に向けてプロダクトの改良を進めるほか、今年中にマネタイズのモデルを構築することが当面の目標。こちらはまさに進めている段階で「現時点で詳しい話まではできない」とのことだが、「独自の配送網から収益を得るモデルも検討している」(内山氏)という。

内山氏によると、MakuakeでOKIPPAを購入したユーザーの約6割が週に1回以上ECサイトを利用するヘビーユーザー。同じく約6割が半分以上の荷物で再配達を依頼している(そのうちの約4割はほぼすべての荷物で再配達を依頼)。まずはこういったユーザーを中心にOKIPPAを広げていく方針だ。

「再配達の利用率が高いECのヘビーユーザーから反響が大きいので、OKIPPAを普及させることができればB2Cの再配達率は効率的に下げていくことができると考えている。まずは日本でインフラとなるようなサービスを目指していきたい」(内山氏)

ウェブ接客ツールのエフ・コードが1.4億円を資金調達、新ツール「CODE」をリリース

ウェブマーケティングツール提供とコンサルティング事業を展開するエフ・コードは7月4日、複数の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約1.4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回の調達はシリーズAラウンドに当たり、同社にとって外部からの初の調達となる。

また、エフ・コードは同日、新プロダクトとしてウェブ接客ツール「CODE Marketing Cloud(以下CODE)」を7月中旬よりリリースすることを発表した。

エフ・コード創業者の工藤勉氏は、外交官志望で東京大学法学部に入ったが、やがて「ビジネスをやった方が“世界を幸せにしたい”という願いがかないやすいのではないか」と考えるようになり、経営戦略コンサルティングの道へ進む。その後、自動車学校のポータルサイト運営会社に役員として参画。集客からサイト作りまで取り組むインターネットマーケティング事業が当たり、創業1年で業界トップクラスの実績をつくった。

ここで培ったメディア運営の知見を「自動車学校にとどまらず、業界を超えて提供していきたい」と工藤氏は考え、2006年3月にエフ・コードを立ち上げた。

エフ・コードはウェブコンサルティング事業からスタートし、大手企業のウェブ広告運用やコンバージョン改善などを人力で支援してきた。そのノウハウをより多くの企業に提供したい、と4年ほど前からSaaS事業を開始した。

「EC、教育、金融などさまざまな業界のウェブコンサルを手がけてきたが、どの業界にも共通して言えるのは『入力フォームでの離脱が多い』そして『そもそも入力フォームが使いにくい』ということだった」(工藤氏)

そこでまずは入力フォーム最適化ツール「f-tra(エフトラ)EFO」をリリース。その後、ウェブ接客ツール「f-tra CTA」、プッシュ通知ツール「f-tra Push」を加え、3つのツールを提供してきた。集客支援からコンバージョン改善、再訪促進までをf-traシリーズでカバー。述べ500社以上に利用されるツールとなっている。タイ、インドネシアにも拠点を置き、アジアにもサービスを展開している。

f-traシリーズではCookieを使ってターゲティングを行ってきたエフ・コード。新製品のCODEではCookieによる行動履歴データに加えて、既存顧客データやGoogle Analytics、他社マーケティングオートメーション(MA)ツールなどの外部データソースを利用して、ウェブサイト内のユーザーに対し、より緻密で最適化された1to1接客を実現しようとしている。

CODEでは、業界別にオファーバナーや接客のテンプレートが用意されている点も特徴だ。ウェブ接客ツールを利用するに当たっては、シナリオ設計やクリエイティブ制作に工数がかかり、導入してから実際に運用が始まるまでに時間がかかることが多い。CODEでは導入からすぐに運用を開始することができるという。

工藤氏は「ウェブマーケティングのツールで部分改善は進んでいるが、細分化が進み、企業内のマーケティング担当者の間で課題感が共有できていないことも。マーケターの先にいるユーザーはハッピーなのか?ということを考えなければいけない」と話す。

「インターネットを通じたサービスは、ウェブ、メールだけで完結する時代から、SNSやアプリ、実店舗など、さまざまなチャネルに広がっている。CODEでは、これらのチャネルを網羅して、顧客情報などのインプットも管理しつつ、1to1でのコミュニケーションを実現する機能を包括的に提供していく」(工藤氏)

ウェブ接客ツールの競合には、SprocketKARTEなどがあるが、エフ・コードでは「広告運用時代から培ったコンサルティング力をベースとした、運用コンサルティングによる顧客との“併走”が当社の武器」という。

「マーケティングオートメーションツールの導入企業も増えているが、使いこなすのは大変で、オンボーディング(担当者がツールやサービスに慣れるプロセス)が必要。ソフトウェアの開発力と営業力に加えて、優れたコンサルによる支援があることで、当社は特に中堅企業への導入では強みを持っている」と工藤氏は述べる。

資金調達について工藤氏は「創業以来、調達がなくても収支は成り立つように事業を行ってきたが、ベンチャーへの投資が活発になっているこの機会に、先行投資で顧客に貢献できる範囲を一気に広げ、成長をスピーディーに進めるため、増資を決めた」と話している。

今回のラウンドに参加した投資家は「以前からトータルに力添えをもらっていた個人」とのこと。本ラウンドはクローズしておらず、引き続き調達を進めるそうだ。

調達資金は、新プロダクトであるCODEの開発に充てる予定。「リリース直後のCODEには、これから顧客のニーズもいろいろと出てくるはず。今後も機能拡張を順次行い、細分化されたウェブマーケティングツールの統合を進める」と工藤氏は話す。

CODEの開発にはTwitterやChatworkでも使われているScalaをベース言語として採用。既に国内Scalaコミュニティの第一人者がエンジニアとして参加し、開発にも力を入れているという。「引き続き、優れたエンジニアとの開発を大切にしていきたい」(工藤氏)

また、国内外でのマーケティングも強化。「プロモーションもきちんと行っていく」と工藤氏は話している。

「アジアでは、デバイス普及率やローカライズの問題もあって、マーケティングツール導入が欧米より遅れている。しかし2025年にはツール利用の6割がアジアになる、という予測もある。導入の課題を解決して、中国や韓国、ASEAN地域で欧米発のツールと肩を並べるプレイヤーとなることを目指したい」(工藤氏)

カスタマーサクセス管理ツールのHiCustomerが総額6000万円の資金調達

前列右がHiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏

サービスの定額化が加速している。SaaSの普及により企業向け製品の多くはサブスクリプションモデルを採用するようになり、個人向けのサービスも定額制のものが増えてきた。

音楽はSpotify、映画はNetflixとAmazon Prime Video、読書はKindle Unlimited…僕の生活も定額化されつつある。最後にタワーレコードを訪れたのはいつだっただろうか。

世の中がそのようなシフトを迎えている中、SaaSを始めとするサブスクリプション経済の興隆の重要性にいち早く注目していたと自負し、「HiCustomer」というカスタマーサクセス管理ツールを開発しているのがHiCustomerだ。

カスタマーサクセスを簡単に説明すると、顧客の潜在的な悩みに対し積極的にアプローチし、解決すること。顧客からの問い合わせを待つ受動的なカスタマーサポートとは異なり能動的に対応を行うのが特徴だ。顧客によるサービスの断続的利用が不可欠なサブスクリプションモデルにとってカスタマーサクセスは特に重要だと言えるだろう。

同社いわく、2018年4月にクローズドβ版をリリースして以来、100社以上が利用事前登録を行ったという。導入済み企業として、アライドアーキテクツ、スクー、Wovn Technologiesなど、法人向けサブスクリプション事業を営む企業を挙げている。

そんな同社が7月4日、500 Startups Japan、BEENEXT、アーキタイプベンチャーズよりシードで総額6,000万円の資金調達を実施たと発表。同社に外部資本が入るのはこれが初めてだ。

HiCustomerはサービスの利用状況に応じて顧客をスコアリングするツールだ。解約兆候を検知し、顧客の意思決定前にフォローアップすることで売上の低下を予防することができる。一方、サービスをフル活用しているファン層を特定することでアップセルやクロスセルのコミュニケーションもスムーズに行うことが可能だ。

一般にはまだ公開されていないが、ダッシュボード機能を提供するサービスとなっており、活動・利用頻度や満足度などをもとに顧客のプロダクトとの関係性を「Good」「Normal」「Bad」といったステータスで表示することができる。

代表取締役の鈴木大貴氏は「フリートライアル、オンボーディング、契約更新前、みたいに、カスタマーが自分たちのプロダクトとのライフサイクルにおける今どこにいるのか、絞り込んで見れる」ことが同サービスの強みだと語った。

例えば「オンボーディングだと使い始めてから日が浅く、定着させるために利用開始してから一ヶ月以内でこの設定まで終わっていないと使っていかなくなる可能性が高くなるので、コミュニケーションをしよう」と判断できる、と同氏は説明した。

「お客さんに買ってもらうというだけでなく、ちゃんと活用してもらうことができないとSaaS系のサブスクリプションサービスはどんどん顧客基盤を失うことになる。なのでこのプロダクトの開発に踏み切った」(鈴木氏)

同社は今回の資金調達をもとに開発体制を強化、人員を増やすために使うのだという。

Wordの法務書類をワンクリックでクラウドに自動共有、履歴管理も自動化する「hubble」が先行リリース

Wordで作ったファイルを複数人で管理していると、やがていろいろな箇所にちらばっていき「最新版はどこにあるんだっけ」問題が発生する。TechCrunch読者のみなさんも、一度くらいはそのような体験があるかもしれない。

特に契約書など法務関連の書類は、IT系のベンチャーでもいまだにWordを使って作成することが多いと聞くから、その共有方法や管理方法はもっと改善できそうだ。

7月2日に先行リリースとなったリーガルテックサービス「hubble」を開発するRUCは、まさにその課題に取り組むスタートアップ。hubbleを通じてWordファイルの共有方法を変えることで、バックオフィスの業務効率の向上を目指している。

ローカルのWordを使いながら、クラウドの恩恵も受けられる

hubbleを使ってできることは大きく3つ。ローカルのWordファイルを従来よりも簡単に共有・管理できること、ドキュメントの編集履歴やコメント履歴を自動で記録(バージョン管理)できること、複数人で同時に並行編集できることだ。

hubbleではPC上で編集したWordを、保存ボタンひとつでクラウドに自動共有できる仕組みを構築。そのため毎回いちいちファイルをダウンロードしたり、アップロードしたりすることもなく、常に最新版がhubbleに残る。最大の特徴は「ローカルのWordを使っているけど、クラウドの恩恵も受けられる」(RUCのCEO早川晋平氏)ことだ。

「弁護士事務所や企業の法務部にヒアリングをしてみてもWordの文化が根強く、そこを一気に変えるのは難しい。GoogleドライブやDropboxのような使い勝手をいかにWordでも実現するかを追求してきた」(早川氏)

特に複数の契約書や法務書類を扱うようなフェーズの企業では、ファイルがチャットツールやGmailなど複数のチャネルに散らばってしまうことも多い。hubbleは特に難しい操作や面倒な作業なく、ファイルを保存さえすれば最新版が常に一箇所に集約されることがウリだ。

書類の作成や編集はなじみのあるWordを呼び出して実行。ファイルを保存すると最新版が自動でhublle上に共有され、ローカルには何も残らない

契約書や利用規約の作成過程を蓄積

早川氏によると現在クローズドな形で複数の企業(弁護士事務所や企業の法務部など)がhubbleを導入しているそう。そこでファイルの自動共有機能に加えて反響があるのが、バージョン管理機能だという。

hubbleではブランチと呼ばれるコピーのようなものを作ってファイルを作成し、そのファイルを原本(マスターブランチ)に統合するというフローを採用。毎回の変更履歴は編集者の名前とともに自動で記録されるため、必要に応じてこれまでの道のりを振り返ることもできるし、ファイルにコメントを入れることで変更の意図も確認できる。

たとえばサービスの利用規約を例に考えてみたい。複数人で利用規約を作る場合、メンバー間でその都度フィードバックしながら内容を磨いていくことが多いはずだ。法律の改正や機能の追加があった場合には、本文をアップデートすることもあるだろう。

その時に「誰が、どんな意図で編集したのか。どんなことを考慮する必要があるのか」といった情報が一箇所にまとめられていた方が、内容に手を加える際にもスムーズに進むはずだ。

「法務担当者が変更になってしまった場合、利用規約や契約書がなぜ現在の内容になっているのか、どのようなリスクがこれまで検討されてきたのかが新しい担当者にはわからない。hubbleを見れば作成過程をナレッジとして残すことができる」(早川氏)

変更部分(差分)もわかりやすい仕様になっている

それ、GitHubなら簡単にできるかも

RUCは2016年4月の設立。CEOの早川氏はもともと会計事務所の出身だ。ちょうどその頃にマネーフォワードやfreeeの手がけるプロダクトが界隈でも広がり、業務効率が大きく向上する場面を目の当たりにしたのだという。

「専門スキルのある会計士が領収書の入力に時間をかけているのはもったいない。専門家の方々が本来やるべき仕事により多くの時間を使えるように、その他の業務を簡単にするサービスを作りたいと考えた」(早川氏)

CTOの藤井克也氏がAI領域に詳しかったこともあり、最初は紙の書類をスキャンして保存すると、自動で整理してくれるプロダクトを考案。2017年7月にはANRI、TLM、CROOZ VENTURESから資金調達もして開発を進めていたが、データの不足などいくつかの課題もあり、そこから軌道修正をしてhubbleのアイデアに行き着いた。

hubbleのきっかけは、現在RECのCLO(最高法務責任者)で当時は同社の顧問弁護士だった酒井智也氏とのブレスト。酒井氏から「書類のバージョン管理に困っている」という話を聞いた早川氏が、「GitHubのような仕組みがあれば簡単にできるのに」と思ったことから具体的にプロジェクトが始まったのだという。ブランチの概念などはまさにGitHubからきたものだ。

数千万円の資金調達も実施、8月の正式リリースへ

RECでは2018年6月に既存株主のANRI、CROOZ VENTURESから数千万円を調達。まずは書類管理などに課題を抱えているようなステージの企業の法務部と、スタートアップ企業の2軸を中心にhubbleの導入を進めていく。

なんでもスタートアップに関しては、CLOの酒井氏が以前あるM&A案件に携わった時、事業は評価されているものの「契約書の管理などがきちんとされておらず、法務のリスクからバリエーションが下がってしまった」ことがあったそう。

将来のエグジットも見越して初期からhubbleを導入してもらうことで、「全ての法務書類がhubble上できちんと管理されている」という使い方を広げていきたいという意向もあるようだ。

本日より問い合わせベースで少しずつ企業への提供を開始。ユーザーの反応も見ながら、8月を目処にWeb上での正式リリースを予定している。機能面については現状のものに絞って強化しつつ、他サービスとのAPI連携に取り組みながら利便性の向上を目指す。

「(社員数が数名の)自分たちですら、ファイルがどこにいってしまったのか探すのに時間がかかるということはありがち。同じような課題を抱える企業のバックオフィスをサポートしていきたい。まずは契約書などの管理や内容調整ならhubbleという立ち位置の確立を目指していく」(早川氏)

ドローンで設備点検や災害対策を効果的に、ブイキューブロボティクスが12億円を調達

企業や自治体向けにドローンを活用した業務用ソリューションを提供するブイキューブロボティクス。同社は6月29日、Eight Roads Ventures Japan、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、Drone Fundから総額で約12億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

調達した資金をサービス開発投資や組織体制の強化に用いて、さらなる事業成長を目指す方針。合わせて7月1日より社名をセンシンロボティクスへ変更することも発表している。

以前Drone Fund代表の千葉功太郎氏に日本のドローン市場について聞いた時、インフラ検査などB2B領域でのドローンの活用が大きく発展していくという話があった。インフラの老朽化などが進むとより多くの人材が必要になる一方で、今後国内の労働力人口が減っていくからだ。

ブイキューブロボティクスが展開しているのは、まさに設備点検や災害対策、警備・監視といった業務における課題を、ドローンなどのロボティクス技術を活用して解決する事業。たとえば主要サービスのひとつである「リアルタイム映像コミュニケーションサービス」では、ドローンで撮影している映像を、遠隔かつ複数の拠点でリアルタイムに共有する。

災害が発生した際やインフラ周りの設備点検をする際も、共有された映像を見ながらコミュニケーションをとることで、現場に人が近づくことなく状況判断や意思決定を行えるのが特徴だ。

その他にも機体や搭載するカメラ、定期メンテナンス、部品交換、ドローン保険など“ドローンを業務に活用する場合に必要となるもの”をパッケージ化したサービスや、ドローンを用いて太陽光発電施設の点検に関する一連の業務を自動化する「SOLAR CHECK」などを提供している。

ブイキューブロボティクスは2015年にブイキューブの子会社として設立。2016年にもグロービス・キャピタル・パートナーズとツネイシキャピタルから資金調達を実施している。

90秒で加入できるスマホ保険のjustInCaseが1億5000万円調達ーー少額短期保険業の登録受け、7月より新アプリ公開

スマホファーストな少額保険サービスを提供するjustInCaseは6月29日、既存投資家の500 Startups、グロービス・キャピタル・パートナーズ、LINE Venturesなどから総額1億5000万円の資金調達を実施したと発表した。また、同社はこれまで「保険業法の適用除外規定」を適用することで保険サービスをテストリリースしていたが、6月25日に関東財務局から少額短期保険業者として登録を受けたことも明かしている。

TechCrunch Tokyo 2017卒業生のjustInCaseは、スマホネイティブの世代にも受け入れられやすいようにこだわったUI/UX、約90秒で加入できる手軽さなどをウリにした少額保険サービスを提供するスタートアップだ。同社が初めて手がけた、スマホの故障を保証する「スマホ保険」については前回の記事も参考にしてほしい。

少額短期保険業者となったjustInCaseは今回、これまでテストリリースをしていたスマホ保険に代わり、新アプリ「ジャストインケース」をリリース。2017年6月末をもってスマホ保険の更新は取り扱わず、保険金請求についてもjustInCaseが“受け皿”として設立した新会社のP2Pが受付となる。

ジャストインケースで加入できる新しいスマホ保険には、以下のような特徴がある。

  • スマホに搭載されたセンサーから、ユーザーが端末をどれだけ丁寧に扱っているかをアプリが自動で計測。そのデータは「安全スコア」としてアプリに表示されるだけでなく、更新時の割引率にも影響する
  • 保険金請求がなかった場合、更新時に保険料が平均30%割引される。安全スコアが高い場合にはそれ以上の割引も。
  • 新しいスマホ保険は盗難や紛失にも対応
  • カメラ、ノートPCなどに1日単位で保険がかけられる「1日モノ保険」を特約として追加可能

justInCase代表取締役の畑加寿也氏は、「今後さまざまな事業者と連携し、1日モノ保険や1日ケガ保険などのオンデマンドの保険商品や、データ分析によってパーソナライズした保険商品などを提供する予定」だと話す。新アプリのジャストインケースは7月1日にAppStoreで公開予定だ。

モバイル管理サービス運営のアイキューブドシステムズが4億円調達——財務強化でIPO目指す

法人向けにモバイルデバイス管理(MDM)サービスを提供するアイキューブドシステムズは6月29日、総額4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。引受先はNCB九州活性化ファンドジャフコと、経営陣、個人投資家など。ジャフコは2014年にも3億円を出資した既存株主。同年6月のTNPパートナーズからの1億円調達以降、アイキューブドシステムズにとっては4年ぶりの億単位の調達となる。

アイキューブドシステムズが提供する主力プロダクトは、企業でスマートフォンやタブレット、ノートPCなどのモバイルデバイスを安全に、かつ効率よく活用するために必要な環境を実現するためのプラットフォーム「CLOMO」。デバイス管理のMDMに加え、モバイルアプリケーション管理(MAM)や情報漏えい対策、セキュリティ強化などの機能を備えた、いわゆるエンタープライズモビリティ管理(EMM)のためのサービスだ。

働き方改革の推進もあって、モバイルデバイスやクラウドの活用により場所を選ばずに働ける環境が整う一方、ビジネス用途のデバイスの盗難・紛失対策や、ウイルス・マルウェア対策、企業内ネットワーク接続時の認証などセキュリティへの対応が企業には求められている。またOSやハードも多種多様で大量のデバイスを、ITポリシーに基づいて効率的に管理・運用できなければ、モバイル活用によるビジネスメリットを運用負荷が上回ってしまう。

こうした背景から、MDMおよびEMMプロダクトの市場は拡大している。中でもCLOMOは日本国内では数年にわたってトップシェアを誇るプラットフォームだという。

アイキューブドシステムズ代表取締役の佐々木勉氏は、シェア拡大の理由についてこう述べる。

「外資系ベンダーが提供するEMM製品と違って、CLOMOでは必要な機能に合わせてそれぞれのサービスを利用できる価格体系を取っている。また我々は福岡を拠点にした開発メンバーが、サービスを独自に開発。他社の提供するOEM製品ではプラットフォームが単一でない場合も多いが、当社では一貫したプラットフォーム上で提供している。このため、スケーラビリティが高く、デバイスの運用規模に合わせて利用しやすいのではないか」(佐々木氏)

このスケーラビリティの高さは、同社にとっても、顧客が利用するデバイス数に応じて収益を得やすいというメリットがあるようだ。

「企業が求める品質に応えるために改良を続け、かつiOS、AndroidなどモバイルOSのメジャーバージョンアップ対応にも投資しているほか、災害などによる障害発生時のリカバリー時間が1時間程度と短いこと、稼働状況を常時確認できる『StatusDashboard』を公開するなど、サービス・品質向上に力を入れてきたことで、顧客の継続率は高い」と佐々木氏は話している。

資金調達については「4年前の調達では製品開発に投資したが、今回は財務基盤の強化が主な目的だ」と佐々木氏は説明する。今回同社では、第三者割当増資と同時に資本金を減資、利益余剰金の累損解消に充てた。IPOを視野に、財務の健全性を確保したいとの思惑からだという。

アイキューブドシステムズでは4月1日より、取締役CFOに元スカイマーク代表取締役社長、前エアアジア・ジャパン副社長を務めた有森正和氏を、社外取締役にジャフコ九州支社長の山形修功氏を迎えている。

佐々木氏は「財務戦略についてさまざまな経験を持つベテランがCFOとして合流したことに、非常に期待している」と発言。今後さらに経営体制を強化し、上場を目指す構えだ。

またプロダクトについても、MDMサービスの付帯機能強化のための開発に投資するということだ。

「CLOMOのMDM製品では、モバイルでも働く時間が制限できる『ワーク・スマート』機能を取り入れるなど、アプリでも働き方改革の実現を支援してきた」と佐々木氏は語る。

「働き方改革実現に向けて、今後ユーザーの行動データを集める仕組みも作ることで、CLOMOを理想の形へアップデートしていきたい」(佐々木氏)

Second Lifeの共同開発者によるVRブロックチェーンスタートアップが3500万ドルを調達

「ブロックチェーンベースのVRプラットフォーム」というフレーズに驚いてしまうようなら、今すぐタブを閉じてラッダイト運動を続けた方がいいだろう。

Second Lifeのクリエイターが立ち上げたソーシャルVRスタートアップのHigh Fidelityは、この度ブロックチェーンに特化した投資会社Galaxy Digital Venturesがリードインベスターを務めたシリーズDで3500万ドルを調達した。同ラウンドには、Breyer Capital、IDG Capital Partners、Vulcan Capital、Blockchain Capitalも参加していた。

High Fidelityは、ユーザーが作る世界をつなぎ合わせた宇宙のようなプラットフォームを開発している。プラットフォーム上ではユーザーが自由に交流でき、同社によれば市場に流通するVRハードウェアが彼らの期待に追いつけば、早急にスケール化が狙えるのだと言う。

最近ではゲーム内決済やその他の機能を推進するために、ブロックチェーン部分の開発に多大なリソースを割いており、レイテンシーや3D音声、背景の高画質化などに注力しながらも、プラットフォームの用途で差別化を狙っているようだ。現在60名いる従業員のうち、7、8人のエンジニアがブロックチェーンテクノロジーの開発にあたっていると、共同ファウンダーのPhilip Rosedaleは語る。

他方、Second LifeはLinden Dollarと呼ばれる通貨をベースにしたゲーム内経済の活発さで知られており、Rosedaleによれば、実は現在でも年間7億ドルものP2P決済が行われているのだという。

High Fidelityに関して言えば、ブロックチェーンを活用することで、ユーザーは購入したデジタルグッズを実際に所有した上で、アバターに装着できるようになる。そしてすべての決済は、同プラットフォームのデジタルアセット台帳に非中央集権的な形で記録されるのだ。さらにHigh Fidelityは、Virtual Reality Blockchain Alliance(VRBA)という団体を立ち上げた。先進的企業が集まるこの団体の目的は、ユーザーのアバターが購入物を持ったまま異なるプラットフォームを自由に行き来できるような環境を構築することだ。

VR上であればブロックチェーンを中心に据えたクローズドな環境を構築できるため、実用範囲が決まっていることの多いブロックチェーンサービスにとって、試験場のような役目を果たせるかもしれない。

High Fidelityが実現しようとしている未来は仕組みだけでなく、見た目にもかなり違いがある。Facebook SpacesやMicrosoftのAltspace VRでは、頭が体から切り離されて浮いているようなアバターが登場するが、High Fidelityはもっとリアリスティックなデザインアプローチをとっており、見ていて若干不安になるようなSecond Lifeのアバターとかなり共通点があるように感じられる。

Lineden Labが開発したVRプラットフォームSansar

Second Lifeの開発元であり、High Fidelityの株主でもあるLinden Labは、すでに独自のVRプラットフォームSansarのベータ版をローンチ済みだ。High Fidelity同様、Sansarでは各ユーザーが作り上げたスペースが、ゲームエンジン版のワールドワイドウェブのように統合され、それぞれのスペースをユーザーが行き来できるようになっている。Linden Lab自体もSansarのことを「VR版のWordPress」と呼んでいるように、現状のプラットフォームはそこまで洗練されているとは言えないものの、High Fidelityのような三次元仮想空間を使った構想が秘められているであろうことは察しがつく。

利用状況に関する情報が公開されておらず、まだベータ版のプロダクトしかないVRスタートアップのHigh Fidelityにとって、7000万ドルという累計調達額はかなりの金額だと言えるだろう。競合相手のFacebookが何十億ドルという資金を投入していることを考えるとなおさらだ。

Rosedale自身も状況の厳しさは認めつつも、Facebookにつきまとうプライバシーに関する不安は、今後VRが普及するにつれて、ますます高まっていくと考えているようだ。

「VRが一般化すれば、Facebookのようなサービスに関連したプライバシーやセキュリティ、アイデンティティ絡みの人々の不安は、現状のそれとは大きく変わってくるだろう」とRosedaleは弊誌のインタビューに答えた。「そのため私は、Facebookの広告頼みの収益構造や中央集権的なサービスには付け入るスキがあると見ている。だからこそHigh FidelityはソーシャルVR市場に進出しようとしているのだ」

彼らのゴールはいたってシンプルだが、Rosedaleを保守的だと非難する人はいないだろう。なぜなら彼は、今後10年間のうちにVRユーザーは10億人を超え、ゲーム内グッズの市場規模は1兆ドルに達すると予想しながら、自らの会社をその先頭に立たせようとしているのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

Lyft、6億ドル資金調達し時価総額151億ドルに

Lyftは、Fidelity Management & Research社主導のシリーズIラウンドで6億ドルの資金を調達し、調達後の企業価値は151億ドルになった。企業価値は過去14カ月で2倍超になっている。

今回の資金調達にはSenator Investment Group LPが加わっている。Fidelityはこのライドシェアリングの会社に8億ドル超もの資金を注入していて、これによりFidelityはLyftへの最大の出資者のひとつとなった。

Lyftはこの18カ月、米国内での積極的なマーケット拡大とカナダ進出、そして自動運転の開発に資金を使ってきた。Lyftはこうした取り組みによりーこの間、ライバルのUberには重大な過失があったー米国でのマーケットシェアを35%に押し上げることに成功した。2017年1月の米国でのシェアは22%にとどまっていた。

もちろん、事業拡大にはコストがかかる。ゆえにLyftは昨年、出資してもいいという投資者を探していた。Lyftは今回の6億ドルを含め、2017年4月以来、一次資本を29億ドル調達した。

当初からの資金調達は累計で51億ドルとなる。前回のラウンドでの投資者はAllianceBernstein、Baillie Gifford、KKR、Janus CapitalG、楽天、オンタリオ州教職員年金プランとなっている。

イメージクレジット: Photo by Jaap Arriens/NurPhoto via Getty Images / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

空席情報配信サービスのバカンが資金調達、海外展開に向け加速

前列左から2人目がバカン代表取締役社長の河野剛進氏

レストランなどの空席情報配信サービス「VACAN」を提供するバカンが、サンフランシスコを拠点にベンチャー投資を行うスクラムベンチャーズおよびREALITY ACCELERATORから資金調達を実施した。

調達金額は非公表とされているが、これまでの累計調達額は約1億円程度だと思われる。

同社は2016年10月にトイレ空席検索サービス「Throne」、2018年1月に空席検索プラットフォームVACANのサービス提供を開始。

VACANはレストランなどの混雑状況をセンサーやカメラを使って解析し、電子看板に表示するサービスだ。すでに商業施設の相鉄ジョイナスや日比谷シャンテに提供されているほか、駅ナカ施設などへの試験導入も行われている。相鉄ジョイナスと高島屋横浜店では、スマホやパソコンでも空席情報を確認することが可能だ

河野氏はVACAN開発の理由を「世の中から混雑や行列をなくすため」だと説明。「家族で出かけた時、ランチタイムでどこの店もいっぱいで、待っているうちに子供が泣いてしまい帰宅することに。そういうことを技術で解決できないかと思い、開発をスタートした」とそのきっかけについて話している。

河野氏いわく、「Throneは有楽町マルイや企業のオフィスにも採用されているが、類似サービスが出てきてしまった」とのこと。しかし同社は他にはない技術を持つことで、サービスを評価され採用されているという。

バカンが保有するのは混雑の条件によって表示を最適化する「VDO(Vacant-driven Display Optimization)」という技術の特許だ。この技術により、混雑の状況をフックに、デジタルサイネージの表示をリアルタイムに切り替えることができる。

例えば「レストランであれば、空きがあればそのまま表示し、混雑しているのであれば持ち帰りをおすすめする」ということができるそうだ。また「広告コンテンツに切り替えたり、リアルタイムでクーポンを発行したり」といったことも可能。「これは他社には真似できない」と河野氏は言う。

同社は今後、調達した資金をもとに海外展開に向けた準備を加速させていくという。

「開発体制を整えていくというのが大きなところ。あとは海外展開を見据えて例えば海外特許を出願していくということもあるし、営業も強化していく」(河野氏)

ロボアドバイザー「THEO」を提供するお金のデザインが総額59億円を調達——東海東京フィナンシャルの関連会社へ

AIを活用した個人向け資産運用サービス「THEO(テオ)」を提供するお金のデザインは6月27日、東海東京フィナンシャル・ホールディングスを引受先とする50億円の第三者割当増資と、三井住友銀行、りそな銀行からの融資により、総額59億円の資金調達を実施することを発表した。

東海東京フィナンシャル・ホールディングスは今回の出資により、お金のデザインの株式の20%を取得。お金のデザインは同社の持分法適用関連会社となる。第三者割当増資の発行予定日は6月29日。

お金のデザインは2013年8月の創業。2015年12月より、複数のVCや銀行、銀行系VC、事業会社から資金調達を実施しており、今回の資金調達で、創業からの累計資金調達額は104.8億円となる。

これまでにお金のデザインが実施した資金調達については、以下の通り(カッコ内は出資者)。

  • 2015年12月 約15億円(東京大学エッジキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、電通デジタル・ホールディングス、伊藤忠商事など)
  • 2016年9月 約8.1億円(ちばぎんキャピタル、静岡キャピタル、ふくおかテクノロジーパートナーズ、丸井グループ、ベネフィット・ワン、東京短資など)
  • 2017年2月 15億円(Fenox Venture Capitalなど)
  • 2017年7月 5億円(新生銀行)
  • 2017年10月 7.8億円(NTTドコモ、第一生命保険、OKBキャピタル)

今回の第三者割当増資はお金のデザインにとってシリーズEラウンドのファーストクローズとなる。同社はシリーズEラウンドで追加の資金調達も進めているという。また同社は、東海東京フィナンシャル・ホールディングスと別途、業務提携契約の締結も予定している。

THEOは5つの質問に答えると、ユーザーの年齢や金融資産額、投資傾向に基づき、世界の約6000種類のETF(上場投資信託)の中から最適な組み合わせを提案、運用するというロボアドバイザーサービスだ。月々1万円という少額から始められ、運用報酬は1%(年率・税抜)。20代・30代を中心に利用が広がり、5月末現在で運用者は4万3000人を超えたという。

2017年4月からは、地方銀行と協業してロボアドバイザーサービスを提供する「THEO+(テオプラス)」を開始。2018年5月にはNTTドコモのユーザー向けに、運用額に応じてdポイントが貯まり、dカード利用の「お釣り」相当額を自動積み立てできる「THEO+ docomo」の提供もスタートした。

お金のデザインでは今回の調達資金を、開発体制の強化やマーケティング活動へ投資。THEOのサービス向上と新しい金融プラットフォームの構築に取り組むとしている。

「地球に持続可能な水産養殖を実装する」9.2億円調達のウミトロンが開発する養殖テクノロジー

海の持続可能な開発を、IoTなどのテクノロジーを使った水産養殖により実現を目指す——6月21日にシードラウンドで総額約9.2億円の資金調達を発表したウミトロン。水産分野のアーリーステージ投資では、世界でも過去最大級となる規模の調達となった。

「我々はアジアを起点に、はじめからグローバルを狙っている」こう話すのは、シンガポールに本社、日本に開発拠点を持つウミトロンの共同創業者でマネジングディレクターの山田雅彦氏だ。TechCrunch Japanでは山田氏に、ウミトロン創業の背景や展開するサービス、今回の調達について話を聞いた。

リアルインダストリー、水産業にデータ活用を

ウミトロンは2016年4月の創業。創業メンバーは代表取締役の藤原謙氏、マネジングディレクターの山田雅彦氏、画像処理と機械学習を専門とするエンジニアの岡本拓磨氏の3人だ。

藤原氏は、東京工業大学で宇宙工学を専攻し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で人工衛星の研究開発に従事した。その後カリフォルニア大学バークレー校へ留学し、三井物産にキャリア入社。衛星データを活用した農業ベンチャーへの投資などを担当してきた。

その中で藤原氏は、今度は新たな食料源としての水産養殖に興味を持つ。中でもアジアでは昔から魚を食べる習慣があり、全世界の魚の消費の3分の2を占める。アジアを起点にグローバルも狙える——そう考え、藤原氏はウミトロンの創業に至る。

平成28年度水産白書より

山田氏もまた、大学では宇宙工学を専攻し、衛星開発を研究していた。藤原氏と同様にデータ利用に関心があり、九州大学卒業後は三井物産へ入社。オーストラリアで気象情報を活用して電力の需給情報を予想し、電力先物取引や電力会社の収益モデル構築などに従事した。

その後山田氏は、AIベンチャーのメタップスへ転職。メタップスではデータのマネタイズ、具体的にはスマートフォンユーザーの決済や行動履歴から消費行動を予測する、といったことを行っていた。メタップスの東証マザーズ上場を機に、新しいことを始めたい、との思いから、ウミトロン創業に参画。再びリアルインダストリーを舞台にデータを活用する道を進むこととなった。

岡本氏は東京理科大学で画像解析を専攻。グリーでソーシャルゲームのフルスタックエンジニアとしてゲームのプラットフォームを開発していた。その後メタップスへ移り、アプリや動画の解析システムのネイティブアプリ・SDK・サーバーサイド開発に従事。リアルインダストリーでのデータ活用に興味を持ち、ゲームアプリ開発の世界からウミトロンへ参画した。

山田氏は「水産養殖の市場は人口増加率をはるかに上回る速度で成長を続けている、成長分野だ」と話す。「昔から人手をかけられてきた農耕・牧畜と比較して、魚だけは漁獲(漁猟による漁業)中心のまま。テクノロジーの発展にともない、漁業にも技術を適用できるのではないかということで、ウミトロンを立ち上げた」(山田氏)

成長産業の水産業を持続可能にする養殖テクノロジー

日本では少子化が進んでいるが、世界的には人口増は続いていて、国連の発表によれば2050年には97億人にもなることが予想されている。そうした中で、アジアを中心に動物性タンパク質の需要は拡大を続けている。

一方、食料を生産する耕地の面積や単位面積あたりの収穫量には限界がある。漁獲中心だった水産業でも、マグロをはじめとした水産資源の減少が危惧され、近畿大学のマグロ完全養殖の研究に注目が集まるなど、水産養殖への期待は高まっている。

実際、漁獲による水産物の生産量は1980年代後半から頭打ちの状況だ。それに比べ、養殖による生産量は拡大を続けている。

平成29年度水産白書より

「ウミトロンのミッションは地球に持続可能な水産養殖をもたらすこと」と山田氏は語る。「今までは生産者の経験やノウハウに頼っていた養殖を、コンピュータで置き換えられるのではないか」ということで、同社のファーストプロダクトとして、2017年6月に開発されたのが「UmiGarden(ウミガーデン)」だ。

上の写真はウミガーデンが養殖いけすの中央に設置(山田氏は“デプロイ”と表現していた)されている様子だ。イメージセンサーを海中に設置して魚群をストリーミングし、スマートフォンアプリから魚に餌やりができる。

水産養殖では餌やりが大きな課題となる。養殖業者にとって餌やりは毎日行うもの。しかし気象などの海洋条件によってはいけすに近づけないこともある。これが陸地で行う農耕・牧畜とは大きく異なる点だ。

また、餌代は生産コストの5割以上を占める。山田氏によると、5割というのは比較的餌代がかからないサーモンでの数字で、マダイやブリ、マグロではもっと高くなるとのこと。マダイのいけす1つあたりで年間1000万円、1事業者あたり30〜100のいけすを持つので、多いところでは年間10億円が餌代として費やされているという。

ウミガーデンのコンセプトは「家から魚を育てられる」こと。養殖業における作業は餌やり以外にもあるが、まず最初のステップとして餌の課題を解決するところからウミトロンは着手した。

「餌やりの回数は従来1日2〜3回で、人間の生活サイクルに合わせた形だった。でも野生の魚は食べたいときにはいつでも食べられる状態。そこで1時間おき、30分おきなど、高頻度で少量ずつ餌を与える試みも行っている」(山田氏)

ウミトロンでは「餌やりソリューション」としてウミガーデンを提供しつつ、バックエンドでは機械学習による遊泳解析も実施。魚がお腹がすいているかどうかを知るための分析を進めている。「解析精度が向上すれば、お腹が減っているときだけ餌をやることも可能になってくる。現在はタイマーを生産者が設定して、半自動で餌やりを行っているが、将来は技術的には自動化も可能となるだろう」と山田氏は述べている。

餌やりについては、生産者以外にも影響を及ぼす課題がほかにもある。地球規模で問題視される「過給餌」、餌のやり過ぎによる生態系の破壊だ。

2016年、南米のチリで起きた記録的な赤潮。赤潮はプランクトンが大量増殖することで起きるが、原因の一つとして、サケ養殖のため必要以上に餌を与えたことが挙げられている。チリの例では生態系全体に被害を及ぼし、養殖場だけでも2000万匹を超えるサケが窒息死、その被害額は約1000億円にも上っている。

山田氏は「魚が欲しいときにだけ餌やりをすることで、養殖を最適化することが可能になる」という。「過給餌をなくして養殖を最適化できれば、漁業は農業に比べてよりサステナブルなタンパク質の供給源となる産業だ。ただし漁獲のままでは、例えばマグロの取り過ぎでサバ・イワシが増え、餌となる小魚が減少するなどの問題は起こる。海でも農牧業と同様に、自然界から切り離して漁獲から養殖にシフトすることが持続可能性につながる」(山田氏)

山田氏は「生産者の餌やりの動向も分析・学習することで、魚の生存率を高めたり、育成を早めたりする餌のやり方も将来可能になるだろう」と話し、「魚のデータ、水産者のデータ、海洋データを利用して、養殖コンピュータを作ることをウミトロンでは目指している」と語る。IoT、衛星リモートセンシング、AIをはじめとしたテクノロジーを使い、持続可能な水産養殖のコンピュータモデルの開発を進めるという。

デザインシンキングで消費者・生産者のユーザー体験を変えたい

6月8日付けで実施されたウミトロンの資金調達では、産業革新機構D4V、藤代真一氏、松岡剛志氏ら個人投資家が出資に参加した。

出資した産業革新機構について山田氏は「成長産業である水産分野でプロフィットを目指すことに加えて、海のサステナブルな利用という面での公益性も評価してもらっている」と述べている。

また、D4Vについては「デザインファームのIDEOの共同創業者トム・ケリー氏も参画するVCで、デザインシンキングでプロダクトの価値向上を図りたい我々の意思と一致するところが大きい。水産はIT分野では珍しい産業なので、ユーザー体験を変えたい」と山田氏は話している。

「ユーザーとして想定しているのは2方面」と山田氏。ひとつは最終消費者のユーザー体験だ。

「天然水産物より養殖のほうが良い点はいくつもあるが、それが理解されていない。養殖では餌がコントロールできることで、水銀のない、妊婦さんでも食べられる魚や寄生虫のいない魚ができる。魚だけが『野生のほうがいい』というのは建設的ではない。養殖のプラスの要素をより知ってもらえるようにしたい」(山田氏)

もうひとつは生産者のユーザー体験。「ゲーム業界などと比較すると、水産業と新しいテクノロジーとの間にはギャップがある。テクノロジーを取り入れることで経済性も生産効率も上がる。これを分かってもらうため、ユーザー体験を変えていきたい」と山田氏は語る。

調達資金について山田氏は「技術をコアに成長していくための採用強化と、既存事業のデータ解析や産業のデジタル化を強化し、ハードウェアの開発、量産化も進める」と話している。また研究開発も強化していくということだ。

民泊を含めた400万件以上の宿泊施設を検索できる「Stayway」が正式リリース

写真中央がStayway代表取締役の佐藤淳氏

6月15日に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、日本でも民泊ビジネスが盛り上がりの兆しを見せている。

最近では民泊分野のメインプレイヤーとも言えるAirbnbが新たなパートナーシップ制度を発表し、宿泊予約のReluxが民泊施設の取り扱いを始めた。

そんな中「トラベルをシンプルで、フレンドリーに」をミッションとするStaywayが6月26日、民泊とホテルを含めた宿泊施設検索・比較サービス「Stayway」を正式にリリースした。

また、同社はエウレカ創業者の赤坂優氏からの出資、および元Expedia日本代表、三島健氏のアドバイザー就任を併せて発表した。出資額は明らかにされていない。

同社いわく「Stayway」は民泊とホテル等の宿泊施設を同時検索・価格比較できる国内初のサービスだ。Booking.com、Expedia、Agoda、Ctrip、HomeAway、楽天トラベル、じゃらん、一休、Hotels.com、Wimduなど国内・海外の大手予約サイトの最新情報をもとに、3ステップで簡単に最安値を検索できる。現時点で世界100か国・2万都市以上の400万件を超える宿泊施設が対象になるという。

同サービスは2018年1月のベータ版ローンチ以降、同社運営の「Stayway Media」と合わせて約5か月で10万人のユニークユーザーを達成した。正式リリースを終え、代表取締役の佐藤淳氏は年内に月間50万ユニークユーザーの獲得を目指す。

「競合のTRAVELKOは月間のユニークユーザーが約400万。そこにどんどん追いついていきたい」(佐藤氏)

同氏は競合としてTRAVELKOやtrivagoなどをあげつつも、「合法的な民泊を含めたかたちで横断検索」できるのがStaywayの強みだと説明した。また、若い世代に使いやすいよう、UIをシンプルにし、どんなワードでも検索できるようにしたという。

政府が2020年に4000万人の訪日外国人客数を見込むなか、同社は今後、外国語対応に向けた準備を加速させるという。加えて、「Stayway」とは別に、2018年7月には旅行領域に特化したインフルエンサーを活用した高品質動画・ドローン撮影サービスをリリースするそうだ。

時間や場所の制約越えるオンラインのライブヨガ教室「SOELU」が8000万円を調達

前列中央がワクテク代表取締役CEOの蒋詩豪氏

近年エンタメやコマースをはじめ様々な領域で「ライブ動画」というフォーマットが広がってきているが、これからはフィットネスのレッスンもライブ動画化される時代になっていくのかもしれない。

女性限定のオンラインヨガサービス「SOELU(ソエル)」を展開するワクテクは6月26日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により8000万円を調達したことを明らかにした。

同社では今回調達した資金をもとにプロダクトの開発体制を強化するとともに、SOELUブランドの構築や会員の最大化を目指すほか、インストラクターやトレーナーの人材育成にも力を入れる方針。

なお今回のラウンドに参加した投資家は以下の通りだ。

  • KLab Venture Partners
  • iSGSインベストメントワークス
  • ANRI
  • THIRDPARTY
  • 赤坂優氏
  • takejune氏
  • 大湯俊介氏
  • 花房弘也氏
  • 安田直矢氏
  • 水谷寿美氏
  • 飯田くにこ氏

ビデオチャットを活用、いつでもどこでもヨガレッスン

オンライン英会話サービスがマンツーマンの英会話レッスンをWeb上で手軽に受講できるようにしたように、SOELUはジムやスタジオで開かれる少人数のヨガ教室をオンライン化したサービスだ。

レッスンはビデオチャットシステムのZoomを使ってリアルタイムに実施。インスタラクターが画面越しに受講者の様子を見てフィードバックをくれるため、オンラインではあるものの孤独を感じづらく、臨場感も味わえる。

初級〜上級までレベルに応じたヨガレッスンの他にも、マタニティヨガや産後ケアヨガ、ママ&ベビーヨガ、ピラティス、骨盤トレーニング、全身引き締めトレーニングなど約30種類のプログラムを用意。オンラインの利点を活かし、これらのレッスンを朝5時から深夜24時台まで開催している。

レッスン時間は1回あたり30分〜60分ほど。多くても10名程度の少人数レッスンとなっていて、月に8回受講できる月額3980円(税抜)のプラン、1日2回を上限にレッスンが受け放題となる月額7980円(税抜)のプランがある。

長く継続できるフィットネスサービスを作る

「自分たちが作りたい健康サービスは、ライフステージが変わっても長く続けられるもの。一過性ではなく、継続できる仕組みこそ価値があると考えている」——そう話すのは、ワクテク代表取締役CEOの蒋詩豪氏だ。

ワクテクは2014年4月の設立。当初運営していたオタクコンテンツを扱うキュレーションメディア事業を2017年に譲渡し、同年9月頃から現在手がけるオンラインヨガサービスを検証してきた。その中で体験レッスンを受講した女性約100名にヒアリングしたところ、既存の手段における課題が見えてきたのだという。

「できればジムやスタジオに行きたいけど、時間などの制約があって継続して通うのが難しいという声が多い。その一方でyoutubeの動画やDVD教材ではよほどストイックな人でなければ、孤独で飽きてしまう。特に仕事や家事、育児をしながら美容や健康にも気を配りたい女性には、同じような悩みを抱えている人が多いにもかかわらず、しっかり解決できるソリューションがなかった」(蒋氏)

何もオンラインでヨガのレッスンを受ける仕組み自体は真新しいものではない。試しに「ヨガ オンライン レッスン」などのキーワードで検索すると、いくつか該当するものがでてくる。

ただそれらの多くは録画したレッスンを配信するオンデマンド型のものか、パーソナルトレーニングに近いマンツーマン型のもの。何よりも「楽しく、続けられること」を重視した結果、蒋氏は少人数のライブレッスンという方式が最適だという結論に行き着いた。

「もちろんマンツーマンのレッスンもニーズはあると思うが、レッスンフィーが変わらなければ必然的に生徒が支払う単価は高くなり、負担も大きい。自分たちがやりたいのは一部の人をターゲットにしたものではないので、コスト面も含めて続けにくくなる要因をとにかく取り除いていきたい」(蒋氏)

複数人制をとることで価格を抑え、ライブレッスンにすることで安心感だけでなく多少の強制力を持たせる。

他にも子どもを寝かしつけてから参加できるように予約なしで途中入室できる仕組みや、赤ちゃんが泣いてしまってレッスンが続けられなくなったら無償でチケットを補填する制度を導入。使い切れなかったチケットは繰り越せるなど、忙しくても続けやすい環境を整えている。

レッスンの時間帯も大きく影響するポイントのひとつ。SOELUに多くの受講者が集まるのは、子どもが起きていない早朝や深夜のレッスンなのだそうだ。

この時間帯でも受けられるプログラムはリアルな場だとなかなかないだろうし、仮にあっても自宅を抜け出して通うのは困難。実はインストラクター側にもこの時間帯で講師業をしたいというニーズがあるため、双方にとっていい仕組みだ。

今後は自作のライブレッスンシステムも

SOELUは誰でもインストラクターとしてヨガを教えられるC2Cのプラットフォームではなく、B2C型。仮に予約が0名でもSOELU側で賃金を保証するため、インストラクターは安定的な収入が見込める。集客面でも自分ひとりでやるよりかなり楽だ。

現在SOELUには研修中も含めて約30人のインストラクターが在籍。プログラムのラインナップも30種類ほどで、1日平均15〜20のレッスンが開催されている。

今回調達した資金も活用しながら今後はプログラムを100種類くらいまで増やし、ユーザーが好きな時間に好きなレッスンを受講できるような体制を目指す。また現在はZoomを活用しているが、今後は自社で独自システムを構築する計画だ。

ちなみにSOELUは女性限定のサービスだが、ライブ×フィットネスという軸で他のターゲット層向けのサービスも展開できそうな気もする。その点について蒋氏に聞いてみたところ、直近はSOELUに集中しながらも「ゆくゆくは男性向けのフィットネスサービスなども検討していく予定」(蒋氏)とのことだった。