95%のVCが目標未達――投資エコシステムの現在とこれから

【編集部注】執筆者のTomer Deanはテルアビブを拠点に活動する連続起業家で、Bllushの共同ファウンダー兼CEO。

最近、イスラエルの有名ベンチャー投資家と話す機会があった。最初はシード資金の調達を考えている私のスタートアップについて話していたが、そのうちベンチャーキャピタル(VC)についてのマクロな話や、いかにVCという仕組みが機能していないかということに話題が移っていった。

「95%のVCが儲かっていない」と彼は言い放ち、しばらく経ってからようやく、私はこの言葉の意味を理解した。

正確に言うと、95%のVCは、彼らにとっての投資家(リミテッドパートナー=LP)が負うリスクや手数料、非流動性に見合ったリターンをあげられていないのだ。

いったい誰が儲けているのか?

3倍のリターン(1億ドルのファンドであれば3億ドルのリターン)を生み出すVCファンドであれば、「ベンチャー投資のリターン」をあげている妥当な投資対象として認められる。下の円グラフは、どのくらいの割合のVCがこの基準に達しているかを示している。実際はグラフが示す通り、緑でハイライトされたほんのわずかな数のVCしか基準を満たせていないのだ。残りの95%は収支がとんとん、もしくは赤字を出している(インフレを考慮に入れるのもお忘れなく)。

出典: Money Talks, Gil Ben-Artzy

この事実はなかなか受け入れがたいが、実際に数字を確認してみると納得がいく。本記事では、ほかの業界にいる人からは理想化されがちなVCの世界で起きている、この理解しがたい現象を解き明かしていきたい。それでは、早速はじめよう。

前提条件

まずは、成功と失敗の定義と前提条件を確認してみよう。

成功=年率12%のリターン

VCの資金源であるLPは、銀行や政府系機関、年金ファンドをはじめとする従来の投資家であることが多い。彼らからすると、株式や不動産のように手数料が安く、流動性があって、年率7〜8%のリターンが”安全に”得られる他のオプションへの投資に比べ、5000万ドルをスタートアップファンドに投じるというのは”リスキー”に映る。リターンが12%であればリスクをとる価値も生まれてくるが、それ以下だと彼らはリスクに見合った投資だとは考えなくなる。

つまり…

運用期間が10年のファンドであれば、出資額の3倍のリターンが必要

VCには年率12%のリターンが必要というのは既に示した通りだ。そして、ほとんどのファンドに関し、積極的に投資を行うのは3〜5年間だが、運用期間は10年に設定されている。調査を見るかぎり、最近は12〜14年程度の運用期間が一般的なようだが、VCにチャンスをあげるためにも今回は10年のままにしておこう。年12%のリターンは、複利の力によってどんどん大きくなる。計算式は以下の通りだ。

パレートの法則も忘れないでほしい。リターンの80%は、全体の20%にあたるスタートアップから生まれる。

現実問題として、スタートアップの経営は難しく、損益分岐点に到達するのさえ大変なことだ。利益を生み出すのも難しいし、毎年利益を伸ばしていくとなるともっと大変だ。10社のスタートアップがあったとしても、後述の通り大成長してエグジットを果たし、VCにリターンをもたらすのは、そのうちたった1、2社だ(残りのスタートアップの中からも少額でエグジットを果たす企業が出るかもしれないが、全体のリターンに対する影響はあまりない)。

それでは計算に入っていこう

10社のスタートアップと運用期間10年で資金を3倍にしなければならないファンドを思い浮かべてみてほしい。ファンドの規模は1億ドルで、それぞれのスタートアップに合計1000万ドルずつ投資しながら、最終的には3億ドルのリターンを狙っているとする。さらに、VCはシリーズAから投資に加わりシリーズBにも参加したため、各企業の株式の25%を非参加型優先株で保有しているとしよう。

以下では、10社あるスタートアップの10年後の姿を変化させながら、それぞれの違いを見ていきたい。

全てのスタートアップが「そこそこ」うまくいって5000万ドルでエグジットした場合

緑色の棒がエグジットの規模、紫色の棒がVCの持つ25%分の株を売却したときの金額を表している。

10社全てが5000万ドルでエグジットした場合、VCのリターンは1社あたり1250万ドルで、総額は10×1250万ドル=1億2500万ドルとなる。目標は3億ドルだったのでこれでは足りない。もっとうまくいった場合を考えてみよう。

半分はそのままで、もう半分のエグジット額が上昇した場合

次の例では、5社が5000万ドルでエグジット(1社あたりのリターンは1250万ドル)し、残りの5社は1億ドルでエグジットを果たしたとしよう。ファウンダーたちは一夜にして百万長者になり、彼らの写真は新聞にも掲載されるだろう。しかしVCの状況は違う。この場合のリターンは、(5×1250万ドル)+(5×2500万ドル)=1億8750万ドルとなり、まだ3億ドルには届きそうもない。

おおかたは「平均的」な成績で、1社だけ大成功した場合

先程の例とほぼ同じ状況で、1社だけがスター企業になった場合を考えてみよう。上の例では1億ドルで売却されたこのスタートアップが、今回は5億ドルでエグジットしたとする。5社のエグジット額は依然として5000万ドルで、4社が1億ドル、最後の1社が5億ドルだ。するとVCのリターンは、(5×1250万ドル)+(4×2500万ドル)+(1×1億2500万ドル)=2億8750万ドルになる。もう少しで目標達成だ!

もう次は何がくるかおわかりだろう。ユニコーン企業の登場だ!

十分な利益をあげるには、爆発的な成長を遂げた企業が1社必要になる。10社のうち9社が5000万ドル、1社が10億ドルで売れればいい感じだ。(9×1250万ドル)+(1×2億5000万ドル)=3億6250万ドルでついに目標達成! これでみんながハッピーになれる。

しかし、このシナリオは本当に起こり得るのだろうか? 本当に10社全てが無事エグジットできるのか? 100%のエグジット率はさすがにありえないだろう。もっと現実的なシナリオは、10社中5社が完全な失敗に終わり、3社が小〜中規模のエグジットを果たし(上記の通り全体的なリターンへの影響は軽微)、1社か2社がユニコーン企業として10億ドル以上の規模でエグジットするくらいだろう。

現実的なケース

5社が潰れ、3社が2500万ドル、1社が2億ドル、そしてスーパースター的な存在の1社が10億ドルでエグジットしたとする。

そうするとリターンは、(5×0ドル)+(3×600万ドル)+(1×5000万ドル)+(1×2億5000万ドル)=3億1800万ドルとなる。

試行錯誤の結果、ようやく現実的なシナリオで目標を達成できた。しかし、各ファンドのポートフォリオに、少なくとも1社のユニコーン企業が含まれているという前提は妥当なのだろうか? 恐らく現実は異なるだろう。どうやらほとんどのVCの状況は、私たちが議論してきた「現実的なケース」よりも悪く、上位5%(4分の1にも達しない!)というほんの一握りの優れたVCだけが上記のような状況にあるようだ。さらに、もしもファンドの規模が時折見かけるような10億ドルといったスケールだとすると、さらに数字は悪化し、3倍のリターンを達成できる確率も低くなる。

では、どのVCもうまくやっているように見えるのは何故なのか?

「うまくやっている」の定義にもよるが、3倍のリターンを実現できないでいる残りの95%は、投資活動ではなく手数料で全てを賄っているのだ。ほとんどのVCは、投資家から受け取る手数料(ファンド額の2%)を主要な収入源としており、それだけで十分やっていける(1億ドル規模のファンドであれば、年間手数料は200万ドルになる)。

つまり、もしも投資成績が芳しくなくても(ほとんどの場合そうなのだが)、彼らの収入は手数料によって保証されているということだ。もし手数料だけでは十分じゃないとしても、投資先の企業が1社でもエグジットを果たせば、彼らには利益の20%がボーナスとして入ってくる。うまくいったときは全員がハッピーだが、うまくいかなくてもVCには最低ラインが保証されているのだ。起業家の私にもそんな保証があればいいのだが。

まだ望みはある

ファンドとして許容範囲のリターンを得るためには、次なるUber、Facebook、Airbnbを見つける以外に方法がないという事実を、私はまだ受け入れられないでいる。もしもこれが現実なのであれば、ユニコーンになれそうなスタートアップ以外には、VCが投資しなくなってしまう。5億ドル以下の水準でのエグジットを求めている「普通の」企業が入り込む余地はないということだ。少なくともVCにとっては。

数字だけを見ると、無謀なゴールを掲げているファウンダーしか成功をおさめられないような気がしてくる。VCも自分たちの生き残りに必死で、なんとか次のファンドに繋げようとしていることを考えるとなおさらだ。泣き目を見るだけのLPのことは、もはや触れるまでもない。彼らこそが、手数料を払って自分のお金をリスクに晒し、10年後(実際に現金化するには15年かかるが)の運用終了時に気が落ち込むようなリターンを受け取ることになる人たちなのだ。

これ以外に何か方法はないのだろうか? 前提について考え直してみれば、何かわかるかもしれない。前提は以下のように考え直すことができるし、むしろそうあるべきなのだ。

    • なぜ運用期間は10年なのか。6年ではダメなのか? 運用期間を10年から6年に短縮すれば、求められるリターンも3倍よりは現実的な2倍に下がる。VCも目標額が3億ドルから2億ドルに下がることで、プレッシャーがかなり軽減されるだろう。以前よりも短い期間でどうやっていけばいいのだろうか? シリーズA企業を10社探しだすのに1〜2年、投資先の成長に4〜5年にかけ、投資直後から常にM&Aを勧めるようにしてはどうだろうか。しかし、VCは投資先のエグジットを完全にコントロールできるわけではなく、(UberやAirbnbのように)ファウンダーが主導権を握っているため、この方法で現金化が早まるというのは考えづらい。
    • 従来の投資家のことは忘れて、”クラウド”に移行する。きっと、12%ものリターンを約束しなくても資金を調達できるはずだ。何百社ものスタートアップに分散投資して、年率8%のリターンを安定的に出している10億ドル超の規模のファンドがあったとしたら、興味を持つ投資家はいないのだろうか? 目標年率が12%から8%に下がれば、求められるリターンも3分の1減る。さらに、寛容な投資関連法(Jobs Act)によって、今後さらにP2Pネットワークやクラウドファンディングの仕組みを利用する投資家が増えてくるだろう。これが8%の年率と合わされば、投資家の顔ぶれにもきっと違いが出てくるはずだ。この程度のリターンであれば、株を購入して保管するだけでいいと言う人もいるかもしれない。しかし、普通の株式投資では、ベンチャー投資独特の「ディスラプションによる興奮」の瞬間を味わえないのだ。
    • もっと多くのスタートアップに少額投資する。今日の前提として、VCは全ラウンドを合計して20〜25%の株式と引き換えにスタートアップに投資するのだが、もちろんVCにはそれだけの資金力がある。そしてエグジットのことを考え、彼らは1社1社に大きく賭けるのだ。そこで、例えばシード投資の数を増やして、10社それぞれに1000万ドルずつ投資するのではなく、50社に100万ドルずつ投資してはどうだろうか。そして、その3分の1にシリーズAで300万ドルずつ投資し、約1億ドルの投資に対して各スタートアップの株式の10%を受け取るとする。シリーズAをクローズした企業の半分が1億ドルでエグジットすれば、VCのリターンは1億2000万ドル(8社x1億ドルx0.15%=1億2000万ドル)となるという計算だ。
    • 方向性を合わせる。VCとLPの利害関係は一致していない。現状のスタンダードだと、VCは「2%+20%」の原則に沿って報酬を受け取っている。つまりVCの収益は、ファンドの規模の2%に設定されている手数料(給与のようなもの)と、エグジット額の20%のボーナスから成り立っているのだ。そのため、VCが十分なリターンを生み出すのに”失敗”したとしても、彼らの給与は保証されている。その一方で、LPはVCが素晴らしい成績を残さないと(稀にしか起きないが)リターンを得られない。結果として、両者の方向性にズレが生じてきてしまうのだ。古くさい「2%+20%」ルールから脱却し、もっとVCとLPが一丸となれるような報酬体系を築いていかなければならない。VCにも自分たちの食い扶持を稼がせなければいけないということだ。
    • VCをもっと厳しく選ぶ。VCにとっては耳の痛い話かもしれないが、巷にいるVCの多くは廃業するべきだ。パフォーマンスの低いファンドには、追加資金が集まらないようにしなければならない。今の状態だと、その負担がLPにかかってしまっている。LPもLPで、単にリターン率(IRR)をチェックするだけでなく、パブリック・マーケット・エクイバレント(PME)から、各ファンドと市場全体のパフォーマンスを比較しなければいけない。例えば、あるファンドの2014年のIRRが13%だったとして、同じ年の市場全体のリターンが14%だったとすると、そのファンドは高パフォーマンスだったと言えるのか? もちろん言えない。LPはもっと頭を使って実際のリターンをチェックしながら、先が見込めないファンドに何度も追加投資するようなことがあってはならない。

以上をまとめると、ベンチャーキャピタルとは大変なビジネスだということだ。LPはベンチャー投資のリスクや手数料、流動性の低さに見合うだけのリターンを得られないでいる。また、起業家は高評価額でエグジットを果たすために、自分の会社をスケールさせるのに苦しんでいる。経験の浅いファウンダーが、事業をゼロから立ち上げ、10億ドル規模まで成長させるための方法を知っているわけがない。だからこそ、企業が成長する過程ではさまざまな変化があるのだろう。そしてVCも約束したリターンを生み出すのに苦戦しており、実際には一握りのVCしか投資家の期待に応えられていない。

しかし、VCだけがある種の保証で守られている。運用成績がパッとしなくても、彼らの給与は手数料でカバーされるのだ。さらにフィードバックサイクルが長いため、ネガティブな情報が業界全体に広がる前に、もう何個かファンドを組成できて(VCが収入源を獲得できて)しまう。

その一方で、LPと起業家にはセーフティネットが準備されていない。私たちの生死は投資のリターンにかかっている。つまり、VCではなくLPと起業家こそがリスクを背負っている主体なのだ。

参考情報:

以下の皆さまに感謝致します。

この記事を書き上げるにあたり、とてもためになるアドバイスやフィードバックをくれたGil Ben-Artzy。記事の校正をしてくれたDiane Mulcahy(Kauffman Foundationのプライベート・エクイティ部門ディレクター)。VC業界の基礎を網羅したZell Entrepreneurship Programで、何時間にもおよぶ授業を通じてVCについて教えてくださったLiat AaronsonとAyal Shenhav博士。そして、記事を形にするのを手伝ってくれたTechCrunchのJonathan Shieber。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

LGBTQコミュニティ向けのAirbnb、Misterb&bが850万ドルを調達

ターゲットを絞った小規模な企業が、Airbnbの競合として生き残っていくだけの余地はまだ残っているのだろうか? この問いにイエスと答えようとしているのが、フランス発のスタートアップMisterb&bだ。この度、Project AVentechから850万ドルを調達した同社は、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア)ユーザーに特化した民泊プラットフォームを運営している。

名前からもわかる通り、もともとMisterb&bは男性の同性愛者向けサービスとして始まったのだが、今ではLGBTQコミュニティ全体を包括するようなプラットフォームに変わろうとしている。Airbnbも、いわゆるゲイ・タウン(同性愛者が集まる地域)の物件をたくさん扱っているが、ホストの素性についてユーザーは事前に判断することができない。

Misterb&bファウンダーのMatthieu Jostは、パートナーとの旅行時にホスト絡みで苦い経験をしたこともあり、この状況に警鐘を鳴らしている。さらに、同性愛が禁じられている国への旅行となると、リスクは一層高まってくる。

しかし、Misterb&bを利用する人たちは、全員がこの状況を理解しているので、わざわざホストに嘘をつく必要もない。また、現地で直接情報収集するタイプの人であれば、地元に住むホストにオススメ情報を尋ねるのが1番だろう。

現在彼らは135か国でサービスを展開しており、ホストの数は10万人にのぼる。ウェブサイトの見た目や雰囲気はかなりAirbnbに近いので、ユーザーが利用時に戸惑うこともない。

ここで、冒頭の問いについてもう一度考えてみたい。まず、Airbnbはこれまでに幅広い層をターゲットにした全方位型のサービスへと成長した。今となっては、彼らは潰れるには大きすぎるほどのサイズにまで成長し、別の企業がAirbnbを丸々代替するようなことは恐らくないだろう。しかし、Airbnbが力を入れていない分野やターゲットが存在するというのも事実で、新興企業にもまだ勝機が残されている。

だからこそ、Onefinestayは超ハイエンド版のAirbnbとして成功をおさめ、後にAccorHotelsに1億7000万ドルで買収されたのだ。Misterb&bも、ターゲットを絞りながら業界を先導する企業の類似サービスを提供しているスタートアップの良い例だ。

以上より、民泊市場には複数の企業がやっていけるだけの余地が残されていると個人的には考えている。市場が細分化しすぎない限りは、選択肢が増えるという意味で消費者には喜ばしいことだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

アーティスト向け収益管理プラットフォームのStem――運営元が800万ドルを調達

音楽配信サービスが一般に広がり、SpotifyやYouTube、Apple Musicなど、楽曲の流通チャンネルも増えてきたが、アーティストへの支払いプロセスにはまだ問題が残っている。

同じ曲に複数人のアーティストが関わっていると状況はさらに複雑化し、それぞれのプラットフォームでの収益から、誰にいくら支払うべきなのかというのがわかりづらくなってしまう。さらにアーティストは収入が予測しづらいという問題を抱えており、Milana RabkinをはじめとするStemの共同ファウンダーはそこに商機を見出した。そして同社は、アーティスト向け収益管理プラットフォームの更なる改善を目指し、この度Evolution MediaとAspect Venturesが中心となったラウンドで800万ドルを調達した。今回のラウンドには、他にも複数の戦略的投資家と既存株主のUpfront Venturesが参加していた。

Stemでは、各音楽配信サービスからの収益がエスクロー口座のようなものに一旦集められるようになっている。その後、事前に決められた割合に応じて、それぞれのアーティストに収益が分配される。Rabkinによれば、ある楽曲の制作に関わった全てのアーティストや共同制作者は、予めそれぞれが受け取る収益の割合に合意しなければならない。その後楽曲がアップロードされ、代表となるアーティストがそれぞれの分け前をプラットフォーム上で設定すると、従来のプロセスよりもかなり速く支払いが行われる。作品の公開後、だいたい30〜60日程度で収益データを確認できるようになるとRabkinは話す。

「これまでに誕生したフィンテック関連のツールは、小規模事業者のビジネスを支えるようなものばかりでした」とRabkinは語る。「アーティストやクリエイターも彼らと何ら変わりないはずなのですが、クリエイティブな人たちのニーズに合ったツールはこれまで存在しませんでした。IntuitはMintで小規模事業者の手助けをしていますが、収入が不安定で収益源の追跡が難しいアーティストの状況は彼らとは違うのです。Mintのアカウントに銀行口座を紐付けるだけであれば簡単なことですが、iTunesやYouTube、Spotifyといったサービスとの連携となると話は別です」

Stemが取り組もうとしている別の問題が、発表したコンテンツから収益をあげられない可能性のある共同制作者への支払いの徹底だ。業界経験の少ない人たちをはじめに、アーティストの中には純粋に販促やマーケティングの目的でコンテンツを公開する人たちもいるのだ。彼らがツアー資金を貯めるので手一杯にならなくてもいいように、Stemは新人アーティストも最初から収益を得られるような仕組みを構築しようとしているのだとRabkinは言う。

それぞれのプラットフォームからStemが収集するデータ自体に価値を見出す人もいるかもしれない。アーティストであれば、当該データからファンの情報を調べ、ターゲットの好みにあった楽曲制作に取り組むことができる。ツアーの計画や他のマーケティング施策に役立つ情報が得られる可能性もある。しかし、ここに収益関連の情報が加わることで、これまでよりもハッキリとファンのエンゲージメント度合いを掴めるようになるだろう。

「サプライチェーンと深く関係しているロイヤルティーの問題は、音楽業界の中でもなかなか解決の目処が立っていませんでした」とRabkinは話す。「しかし、新たなフレームワークや関係データベース内のデータを正規化するための素晴らしいツールが最近誕生しました。そのおかげで、昔は不可能だった方法で支払いに関する情報を簡単に追跡できるようになったのです」

また、Stemはアーティストへの支払いを管理するためにデータやお金を一か所に集めているだけなので、音楽配信サービスとは競合しないと彼女は言う。今のところは同社がこの収集プロセスを担当しているが、今回調達した資金を使って、Stemは既存のツールを音楽配信サービスの運営企業が使えるような形に変えていこうとしている。

そうは言っても、この業界でも今後競争の激化が予想されている。Kobaltも先月、7億7500万ドルの評価額で7500万ドルを調達したばかりだ。さらに、iTunesやSpotifyといったサービスが将来的にアーティスト向けのツールを簡略化することで、Stemのようなサービスがなくても各アーティストにきちんと支払いが行われるようになるかもしれない。しかし、シームレスなツールを構築することで、Frank OceanやChildish Gambino、DJ Jazzy Jeff、Anna Wise、Chromatics、Poolsideなど、さまざまなアーティストを顧客に迎えられることをRabkinは祈っている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

AIを活用したリクルーティング・サービス「Clustree」が790万ドル調達

フランスのClustreeは米国時間5日、シリーズAラウンドでCreandum、Idinvest Partners、Alven Capitalなどから790万ドル(700万ユーロ)を調達したと発表した。Clustreeは機械学習を利用して、今の仕事に閉塞感を感じている人と、募集中のポジションに適した社内の人材を見落としているHR部門の手助けをするスタートアップだ。

Clustreeは様々なソースから250万通り以上の求人を集めている。そして、フランスの企業はClustreeがもつデータを利用して募集中のポジションのために誰を雇えば良いのかを知ることができる。Clustreeはこのデータセットと内部データを組み合わせ、HRマネージャーたちのフィードバックも逐一取り入れている。

募集中のポジションに適した人材が社内にいることもある。新しい人材を雇う余裕がない企業にとっては願ってもないケースだ。Clustreeは内部人事だけでなく、外部から人材を雇う時にも利用することができるのだ。

「私たちのサービスは、入社から社内での成功プランまで、従業員ライフサイクルのすべてをカバーします」と語るのは創業者兼CEOのBénédicte de Raphélis Soissan氏だ。「リクルーティングのフェーズでは、Clustreeは社内にある人材プールにフォーカスします:つまり、社員のプロファイルや入社時に受け取ったレジュメを分析し直すのです。Clustreeに搭載されたAIは、会社ごとに存在するユニークな人材プールを分析し、おもしろい候補者を見つけ出します」。

これまでに、Orange、 Crédit Agricole、SNCF、Carrefour、L’Oréalなどの企業がClustreeを利用している。そして、それらの企業がClustreeが提供するソリューションに大きな金額を支払っているのだ。

「私たちの顧客はすべてフランスの企業ですが、彼らは世界中に従業員を抱えています。私たちのソリューションは世界30カ国で利用されているのです」とSoissan氏は語る。「つまり、私たちはフランスのリーディングカンパニーで働く、アメリカ人、日本人、中国人、ドイツ人など様々な人々の就職活動とキャリアマネジメントの手助けをしているのです」。

同社は今回調達した資金を利用してチームの拡大を図るとしている。彼らはまず、フランス国内の基盤を強化して顧客を増やし、その後に海外展開を目指すようだ。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

スマートフォンで秘密鍵を保護――Krypt.coが120万ドル調達

2人のMIT卒業生と同校の教授によって創業されたセキュリティー・スタートアップのKrypt.coは米国時間5日、「Kryptonite」という無料プロダクトをローンチした。スマートフォン・アプリを利用してディベロッパーの秘密鍵を守るプロダクトだ。

また、同社はシードラウンドで合計120万ドルを調達したことも同時に発表した。本調達ラウンドをリードしたのはRough Draft VenturesとGeneral Catalystで、その他にもSlow Ventures、SV Angel、Akamai Labsなどが出資に参加している。初めての資金調達ラウンドにしては立派な出資者リストだろう。

Krypt.coは、2人のMIT卒業生が行っていた研究から生まれたスタートアップ。暗号化理論に情熱を捧げるAlex Grinman氏とKevin King氏がその生みの親だ。従来のものよりもセキュリティ性が高い、暗号鍵の保護方法を考えついた彼らは、教授のDavid Gifford氏にその話しを持ち込んだ。Gifford教授はこのアイデアを気に入り、Krypt.co創業のサポートをすることとなった。

Kryptoniteでは、ネットワークにリモート接続するためのSSHプロトコルを利用した公開/秘密鍵の暗号化技術を利用している。通常、秘密鍵はラップトップに保存されるが、この方法ではセキュリティ性に問題があるとKrypt.coの創業者たちは考えた。ラップトップのアプリはスマートフォンのものと違ってサンドボックス化されておらず、それぞれが隔離されていないからだ。

そこで、このプロセスをスマートフォンに移行すれば、より便利でより安全な鍵の保護が可能だと彼らは考えた。Kryptoniteを利用するにはまず、ダウンロードしたアプリと自分のコンピューターをペアリングする。あとは普段と同じようにSSHを利用するだけだ。例としてGithubなどのリモートサービスに接続すると、その旨を伝える通知がスマートフォンに表示される。もし、そのリクエストを送ったのがユーザー自身ではない場合は暗号鍵が漏えいした可能性がある。ユーザーはKryptoniteを通してアクセスの拒否と暗号鍵の無効化を行うことができる。何も問題がなければ、アプリにサインインしてアクセスを許可すればいい。

ユーザーがスマートフォンを紛失する可能性があることは彼らも認識している。その場合、秘密鍵をつかって各種サービスへのアクセスを遮断することができるため、その暗号鍵をスマートフォンを拾った(盗んだ)人にとって実質的に無価値なものすることができる。

今回ローンチしたKryptoniteの利用料金を無料にしたのは、ディベロッパー・コミュニティとの関係性を構築するためだ。同社は将来的に拡張サービスへの課金というかたちでマネタイズを図っていくという。

現在Krypt.coは管理アーキテクチャに取り組んでいるが、彼らはそこにチーム全体の管理者を導入することを考えている。その管理者はシステムの中心となるダッシュボードにアクセスでき、デバイスごとに制限を与えたり、チーム全員の公開鍵を閲覧することができる。

将来的に、同社はこのテクノロジーをコードサイニングの分野に適用して不正コミットメントの防止に役立てることを考えている。また、一般ユーザーでも簡単にEメールの暗号化を利用できるようになるかもしれない。

Krypt.coは今回調達した資金を利用してチームの拡大を図るとともに、無料プロダクトの先にある拡張サービスの開発を目指すとしている。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

「one visa」で外国人採用者のビザを一括管理、運営元が総額3600万円を調達

外国人が日本に滞在し、就労するには適切な在留資格が必要だ。必要情報を記入した申請書とその他添付書類を揃えて入国管理局に在留資格の申請をするという流れなのだが、初めての人にとって揃えるべき書類は多岐にわたり、申請書類の書き方も分かりづらいという課題があった。

Residenceは、この在留資格の申請と管理を簡潔にするone visaのオープンベータ版を本日より提供する。また、同時にプライマルキャピタルとSkyland Venturesを引受先とする、総額3600万円の第三者割当増資を発表した。

one visaは企業が採用する外国人の在留資格の申請と管理を行うためのサービスだ。企業側はアカウントを作成したら、在留資格を申請する外国人をメールで招待する。企業側は企業情報を入力し、外国人は個人情報などの申請に必要な情報をフォームに従って入力する。すべての情報が揃うと在留資格の申請書が自動で作成され、PDF書類としてダウンロードできる仕組みだ。

また、one visaでは企業と社員が入力した情報を元に、在留資格を取得するのに最適な書類を一覧で表示する。ダッシュボードからは申請の状況も管理でき、在留資格の更新時期が来ると適宜ユーザーに通知する機能もある。

one visaの利用料は登録する外国人社員の人数によって異なるが、5人までだと月額3980円だ。また、one visaでは1件4万円で行政書士に代理申請を依頼することも可能だ。

Residenceの代表取締役を務める岡村アルベルト氏は、日本人の父親とペルー人の母親を持つ。10代の頃に友人の強制送還を目の当たりにしたことをきっかけに、在日外国人の環境を整備する仕事をしようと決心したという。その後、入国管理局の受付窓口責任者を経て、Residenceを起業した。

入国管理局に勤めていた頃、申請書類に不備が多いことを問題に感じたと岡村氏は話す。そもそも申請書類の書き方はルールが細かく定められていることに加え、使われている用語が初めて申請する人にとって分かりづらいことが多かった。また、行政の制度は度々変わるにも関わらず、個人や企業への周知ができていない。one visaはこうした課題を解決し、企業の担当者も外国人も簡単に申請書類が作成できるようにするために開発したという。

厚生労働省のデータによると、2016年の外国人労働者を雇用している事業所数はおよそ17万3000社で前年比13%増だった。年間2万社が新しく外国人を雇用している。初めて外国人を雇用する企業は、当然ながら、在留資格の申請も初めてということになる。そうした企業にとっても使いやすいサービスを提供すると岡村氏は話す。

今回調達した資金は、サービス開発のための人員強化を予定しているそうだ。現段階ではone visaは法人向けだが、個人向けでもサービスを提供していきたいと岡村氏は言う。

将来的にone visaの在留資格の情報を不動産の賃貸契約や銀行口座の開設の際の与信情報として活用できるようにすることを岡村氏は考えているそうだ。在留資格の申請は、個人情報をはじめその人の収入、納税、課税情報を元に申請しているため、正しい情報が揃っている。日本では外国人が部屋を借りたり、口座やクレジットカードを開設するのが難しいという課題があるが、そうした問題も解決できるようにしたいと岡村氏は話している。

 

子ども向けデビットカードのGreenlightが750万ドル調達

僕が子供のとき、両親からお小遣いとして現金をもらっていた。デパートで欲しいものを買ってもらう時にも現金をもらっていた。でも、今や現金を使う人などいるのだろうか?

Greenlightは子供向けのデビットカードを提供するスタートアップだ。モバイルアプリを使ってこのカードの残高をチャージすることができ、子供が購入するものに制限をかけることも可能だ。

サービス開始からまだ6ヶ月にも満たないが、同社はすでに1万人の有料ユーザーを獲得している。そんなGreenlightは今回、Relay Ventures、Social Capital、New Enterprise Associates(NEA)、TTV Capitalなどから750万ドルを調達したと発表した。同社は今回調達した資金を人材採用と顧客獲得のための投資に充てるとしている。

Greenlightの共同創業者兼CEOであるTim Sheeran氏は、彼自身が感じていた不便さを解決するために同社を立ち上げた――その不便さとはつまり、自分の財布に現金がない時には子供にお金を与えることができないというものだ。親世代に向けたアンケートを行ったところ、この不便さを感じているのは彼だけではないことが分かった。また、子どもにお金に関する教育をしながら、お小遣いの使い道を監視する方法を親たちが探していることも分かった。

Greenlightのデビットカードを使うことで、親たちはコントロールがきいて透明性の高いお小遣いを子どもたちに与えることができる。口座情報や取引情報を管理できるモバイルアプリ付きだ。

比較的安価な月額料金を払えば、即座にデビットカードの残高をチャージしたり、子どもが買い物したときに通知を受け取ったり、子どもの買い物にお店レベルで制限をかけたりすることができる。お小遣いをあげるという行為を自動化したり、紛失したときにカードを停止することも簡単にできる。

Greenlightがターゲットにしているのは、8歳から18歳の子どもがいる家庭だ。月額料金は4.99ドル(約550円)で、1家族につき最大5枚のカードを発行できる。大抵、子ども1人ごとに専用の銀行口座を開設するよりも簡単で、しかも安い。銀行口座の開設には年齢制限や要求される残高基準があったり、思いもしなかった手数料が後からかかったりもする。

Greenlightが得る収益は、カードの月額料金とカードの利用に際するインターチェンジ・フィーだ。しかし、ATMの利用手数料やユーザーが負担する取引手数料はかからない。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

更新系APIを利用した自動貯金アプリ「finbee」が2億円調達

自動貯金アプリ「finbee」を提供するネストエッグは6月2日、SBIインベストメントの「FinTechファンド」、三菱UFJキャピタルSMBCベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施し、総額2億円を調達したと発表した

同社の親会社であるインフキュリオン・グループは、2016年4月に同じくFinTechファンドから金額非公開の資金調達を実施しているが、ネストエッグとしてはこれが初の調達となる。

ネストエッグが2016年12月よりサービス開始したfinbeeは、銀行の更新系APIを利用した自動貯金アプリだ。貯金の目的や目標金額、貯金のルールが簡単に設定でき、ユーザーのライフサイクルに合わせて貯金を自動化することができる。更新系APIを利用したfinbeeでは、銀行の認証基盤でユーザーの口座契約を認証。ネストエッグがユーザーのIDやパスワードを保有することなしに口座間の振替を行う。

カード決済で発生したおつりを貯金できる「おつり貯金」、設定した曜日に決められた額を貯金する「つみたて貯金」などをはじめ、目標として設定した歩数を歩いたら貯金する「歩数貯金」や家族やカップルで協力して貯金できる「シェア貯金」などユニークな機能がある。

また、ネストエッグは2016年2月にポイント還元機能の「finbeeポイント」を開始している。この機能では、finbeeで貯金した毎月の合計金額に対し0.1%分のポイントを還元。貯まったポイントは1ポイント=1円としてAmazonギフト券と交換することが可能だ。

サービス開始から約半年が経過したfinbee。ネストエッグはその具体的なユーザー数を公開していない。だが、代表取締役社長の田村栄仁氏は、「現在の会員数は数万人規模で、その内ヘビーユーザーが数千人程度いる。今はそのヘビーユーザーからの声をもとにアプリをより良くしていくフェーズだと思っている」と語る。

5月26日に成立し、2018年春にも施行される予定の改正銀行法には、銀行のAPI公開を推進する内容が盛り込まれている。そのため、今後は銀行のAPIを活用して銀行の残高照会や取引明細照会、振替や振込などのサービスを行うサードパーティアプリが増えてくるだろう。

実際、3月6日にはMUFGがAPIを開放し、その数週間後の31日にはマネーフォワードがメガバンクの更新系APIを活用したサービスを発表するなど、その動きは活発だ。田村氏も、「『どうせやるなら早く』というマインドをもつ金融機関が増えているように感じる」と話す。

しかし、現在のところfinbeeと連携可能な金融機関は住信SBIネット銀行のみ。同アプリが本格的に普及するためには連携する銀行を増やしていく必要がある。だが、今回の資金調達にはMUFGとSMBCが参加していることを考えると、これらのグループとfinbeeが連携する日は近いのかもしれない。同社はプレスリリースのなかで、今回調達した資金を利用して「API接続先を拡大するための人材採用や開発を加速していく」としており、田村氏は「今後5年間で50行との連携を目指す」と話している。

Mozilla前CEOが設立したBraveが30秒で3500万ドル調達――テック界に広がるICOの可能性

暗号通貨の売却を通じて資金を調達するイニシャル・コイン・オファリング(ICO)に関しては、さまざまなニュースを目にするが、昨日の出来事ほど衝撃的なものはなかった。Mozilla前CEOのBrendan Eichが立ち上げたブラウザ開発企業Braveが、ICOで3500万ドルを調達したのだ。しかも、30秒以内に。

ICOでは投資に対して暗号通貨が配布されるようになっており、投資家は従来の株式よりも多様な形で資産を保有することができる。Braveは資金調達にあたり、独自の通貨Basic Attention Token(BAT)を10億枚売却した。その総額は15万6250ETH(=3500万ドル強)。同社によれば、さらに5億万枚のBATがユーザー獲得や「BATの開発」のために発行されたが、将来的な追加販売は考えていないという。

BraveのICOは過去最高額にあたり、彼らのビジネスはブロックチェーン技術のユースケースとしてはかなり興味深い。JavaScriptの考案者で2014年の疑惑のあとにMozillaを去ったEichは、Founders Fundをはじめとする投資家からこれまで700万ドルをBraveのために調達してきた。現状のネット広告のシステムに本質的な問題があると考えている彼は、ブロックチェーン技術を使って広告システムを効率化し、広告主や出版社、ユーザーという全ての関係者がメリットを享受できるような仕組みを提唱している

北米の若者に人気のメッセージングサービスKikも、モノやサービスの購入に使える”Kin”と呼ばれる仮想通貨の構想を最近発表し、Braveの後に続こうとしている。BraveはBATを広告システム内で流通させようとしており、同社によればBATの導入によって、広告詐欺を抑制できるとともに、出版社や広告主の効率性も向上するという。さらに彼らは、将来的にマイクロペイメントや電子商品の購入にもBATが使えるよう研究を重ねている。

また、Braveは同社のブラウザのメリットとして、短い読み込み時間、強固なプライバシー管理機能を挙げているほか、ユーザーはBraveのブラウザ上でコンテンツを読むだけでお金を稼ぐことができるようになるかもしれない。

直近では、ICOで調達した資金を使って広告プラットフォームの開発を進める予定だ。

ところで、BraveのICOで気になったのは参加者の少なさだ。Coindeskによれば、実際にBATを購入した人は130人しかおらず、中にはひとりで460万ドル(=2万ETH)分のBATを購入した人もいた。全体で見ると、投資総額の約半分がたった5人の投資家によるもので、投資額上位20人が発行されたBATの3分の2を手にしたとCoindeskは報じている。

この状況は、暗号通貨を使った資金調達によって、日常的に使っているサービスの開発元や気になっている企業の所有権を誰でも得ることができるという、Ethereumの哲学に反しているように映る。もちろん、何億ドルという金額の仮想通貨を販売するためには、冒険心溢れる企業や先見性のあるVCのように、多額の資金を運用している投資家も必要だが、個人投資家が入り込める余地を残しておくというのは、ICOが一般化するにつれて重要な課題になってくるだろう。

ICOのスケジュールについては明かしていないKik以外にも、アジアのペイメント企業Omiseが2000万ドル弱規模のICOを今月行う予定で、暗号通貨を使った資金調達に規模の大きな(そしてVCからの投資を受けている)テック企業も興味を持ち始めているようだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

アーリーステージでの大型資金調達の弊害――フラットラウンドが普通になる日

【編集部注】執筆者のDuncan DavidsonはBullpen Capitalのジェネラルパートナー。

スタートアップエコシステムにとって、2017年は苦難の年になるだろう。2016年にクローズされたシリーズCの約半分が、ダウンもしくはフラットラウンドだった(評価額が直近のラウンドと同じ、もしくはそこから下降した)のだ。シリーズBの段階にある企業はこれから痛みを覚悟しなければいけない。要するに、フラット(ラウンド)は新しいアップ(ラウンド)なのだ。頭字語で溢れるテック界にあえて新しい語を投じるのであれば、「FITNU: Flat Is The New Up」ということになる。

しかも、この変化はシリーズBで止まることはないだろう。もしもあなたの会社がシリーズAを既にクローズしていて、今年新たに資金を調達しようとしているのであれば、この記事の内容があなたの会社を救うことになるかもしれない。あなたの企業がシードステージにあれば、もっとこの記事が参考になるだろう。

何が起きたのか?

複数の投資家によれば、2017年は転換期になるはずだった。アメリカでは2016年のVCファンドの調達総額が過去最高の420億を記録し、私たちは既にバブルを乗り越えたはずではなかったのか?

実はそうではなさそうなのだ。ユニコーン企業をいわゆるプライベートIPOに仕向けていたVCが動揺しはじめた2015年にバブルが弾け、彼らの投資意欲が下がってしまった。これにより、VCコミュニティ全体が勢いを失い、膨大な数のシードラウンドと高い評価額を支えきれなくなったのだ。その結果、少数の企業に投資が集中することになった。

PitchBookの調査によれば、アメリカにおけるシードラウンドの数は、2015年Q2の1537件から2016年Q4の872件へと43%も落ち込んだ。これは過去4年間で最低の水準だ。アーリーステージのラウンド(シリーズA、B)もこれに続き、2014年Q2の830件から2016年Q4は524件まで減少した。

その一方で、ひとつひとつの調達額は膨れ上がっている。2016年に行われたシードラウンドのうち、100〜500万ドル規模の割合は42%で、これは過去10年間におよぶPitchBookの調査史上最高だった。さらに、2016年にアーリーステージ企業に投じられた資金のうち、約半分が2500万ドル以上の規模のラウンドに流れこんでいた。

PitchBookの調査を裏付けるように、Redpoint VentureのTomasz Tunguzも2010年から2016年の間に、シードラウンドの調達額の中央値が27万200ドルから75万ドルへと約3倍に増えたと指摘している。Crunchbaseのデータをもとにした彼の分析では、同じ期間にシリーズAの調達額の中央値が300万ドルから660万ドルへ、シリーズBについては1000万ドルから1500万ドルへと増加したとされている。

なぜフラットラウンドが増えているのか?

バブル期には、シードステージの企業をターゲットとするVCが急増したため、シード資金を獲得できるスタートアップの数も増加した。しかし、シリーズAの企業をターゲットにしたVCの数はほとんど増えなかったので、ファンドの調達額だけが増大した。そして、VCは自分たちのビジネスのニーズに応えるため、1件1件の投資額を吊り上げたのだ。

しかし残念なことに、1000〜200万ドル規模の”超大規模な”シリーズAに値するスタートアップはほとんど存在しない。その結果、シードラウンドを越えてシリーズAまでたどり着く企業の数が急減したのだ。シードラウンドに続いてシリーズAでの資金調達に成功した企業の割合は、2012年の約25%から2014〜2016年にかけて10%以下に下がったとPitchBookは発表している。その後、多くのシード企業が追加資金を調達することに成功したので、恐らく現在の割合は20%といったところだろう。これでも、かつての45〜50%という水準に比べるとかなり低い。

早過ぎる段階で巨額のシリーズAをクローズした企業の多くが、シリーズBでも大金を手にして現金を食い尽くし、シリーズCに至る頃には評価額がそのままか、最悪の場合落ち込んでしまうという現象も起きている。先述の通り、2016年Q3に行われたシリーズCの約半数がダウンもしくはフラットラウンドだったのだ。

この理由は次の通りだ。例えば、シリーズAで投資家が25〜30%分の株式と引き換えに1000万ドル投資したとする。そうすると、ポストマネーの評価額は3300〜4000万ドルになる。シリーズBへの参加を考えている投資家は、シリーズBのプレマネー評価額がシリーズAのポストマネー評価額の少なくとも2倍になることを望んでいるが、もしもその水準に達していなければ、シリーズCまで投資を待った方が良いと考えるのだ。

バブル期であれば、評価額を2倍にするのは何ら難しいことではないので、当時のスタートアップは流れに乗ってシリーズBをクローズした。しかし、市場が冷静さを取り戻した結果、シリーズCでの彼らの評価額はシリーズBと同等、もしくはそれ以下になってしまったのだ。この流れは、今後シリーズCからB、A、シードへと侵食していくだろう。つまり、Mark Susterの見解とは逆に、まだ冬の時代は終わりを迎えていないのだ。

“リシード”ステージ

今年、シリーズA企業は、シリーズBを開催できるレベルまでプレマネーの評価額を上げるのに苦労するだろう。万が一、フラットもしくはダウンラウンドになってしまった場合は、”リシード”のタイミングだ。つまり、シードラウンドをクローズした直後の企業のような姿を目指し、できるだけコストを抑えるようにしなければいけない。

多くのファウンダーが、フラット/ダウンラウンドがスタートアップの”死”を意味するかのように考えている。この理由には、株式の希薄化と対外的な意味での数字のインパクトの両方がある。

しかし、株式の希薄化によって倒産に追い込まれた企業は存在しないし、外からの評価はフラット/ダウンラウンドの後に、その会社がどういう対応をとったかで決まる。新しい現実に沿って組織を改変できたのであれば、その会社は魅力的に映るのだ。ダウンラウンド後に組織の贅肉を落とし、より持続可能なモデルを構築できれば、ダウンラウンド自体は問題ではなくなる。

しかし、シリーズAでの優先株の発行数を考えると、資本構成はもっと難しい問題だと言える。もしも、あなたのスタートアップがシードラウンドで200万ドルを調達し、株主は200万ドル分の優先株を手に入れたとする。さらにシリーズAで1000万ドルを調達し、ここでも調達額分の優先株を発行したとしよう。すると、合計1200万ドル分の優先株が発行されたことになり、さらにここに返済しなければならない負債が加わってくる。

まともな投資家であれば、シードラウンド後の評価額で1200万ドル分もの優先株を発行した企業を好ましくは思わないだろう。さらに、シリーズBをクローズした後に”リシード”の必要性がでてくると最悪だ。そうなると2500万ドル分、もしくはそれ以上の優先株を発行したことになる。何としてでもリシード期間中に、優先株の割合を減らしたいところだ。これはバーンレートを下げるよりもずっと難しい。

次は誰の番?

「フラットは新しいアップだ」というのは、バブル後の状況を表すひとつの表現だ。2014、2015年に期待されていた企業は、シリーズCでフラット/ダウンラウンドを経験した。そして、シードラウンドで100万ドル、シリーズAで1000万ドル調達したような企業が、現在シリーズBに臨もうとしている。しかし、そのうちの多くは、シードラウンド後の企業の姿を目指し、社員を減らし、キャップテーブル(各株主の保有割合や株価などが記載された表)を見直すことになるだろう。廃業に追い込まれるよりは、リシードの道を選んだ方がマシだ。矛盾しているようにも思えるかもしれないが、従業員が少ない方が争いが減り、成長スピードが上がる可能性もある。結局のところ、まだ準備ができていない状態で大規模なシリーズAを敢行したのがそもそもの間違いだったのかもしれない。

シード企業も、明日は我が身と気を引き締めなければならない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

EC向けMAプラットフォーム運営のピアラが総額5億円を資金調達

EC向けのマーケティングオートメーション(MA)プラットフォームを提供するピアラは5月31日、B Dash Venturesが運営するファンド、三菱UFJキャピタルが運営するファンド、エボラブルアジアオークファンほか個人投資家を引受先とする、総額約5億円の第三者割当増資の実施を発表した。

ピアラは2004年に広告代理事業・プロダクション事業会社として設立。アパレルブランド「Marblee(マーブリー)」(2016年にアイ・エム・ユーへ事業譲渡)の運営や、アフィリエイトASPの提供などを経て、現在はAIを搭載した統合マーケティングオートメーションシステム「RESULT MASTER」のほか、ECカート、アフィリエイトシステム、AI搭載接客ツールなどのEC企業向けツール群を展開している。また、これらのソリューション運用により新規集客から顧客育成までを行う、KPI保証型を基本としたコンサルタントによるマーケティングサービスを提供している。

ピアラは4月にも、アジアでITオフショア開発事業などを手がけるエボラブルアジアと戦略的資本業務提携を締結し、ECサイトやキャンペーンページの制作コスト軽減やリソース提供による、顧客企業のマーケティング業務の最適化支援を目指すと発表していた。

今回の資金調達によりピアラでは、KPI保証型マーケティングサービスに必要な売上効率を上げるためのマーケティングオートメーションプラットフォームの機能強化、ビックデータから人のプランニング領域もサポートするAIの開発、グローバルへの対応などに投資していくとしている。

VRソーシャルアプリを正式開始したclusterが、エイベックスやDeNAから2億円を資金調達

VRスタートアップ企業のクラスターは今日、エイベックス・ベンチャーズユナイテッドDeNASkyland Venturesおよび個人投資家らからシリーズAラウンドで2億円を資金調達したことを明らかにした。これでクラスターの累計調達額は2.6億円となる。過去のラウンドで投資しているVCにはEast Venturesも含まれる。Skyland Venturesは今回追加投資しており、新たにエイベックスやDeNAが投資家として加わった形だ。エンタメ系コンテンツを持つエイベックスや子会社にネットアイドルのライブ配信サービス「SHOWROOM」を持つDeNAとは事業シナジーを見込む。

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クラスターについては、過去にTechCrunch Japanでもお伝えしている通り、リビングやオフィスの打ち合わせスペースなどをVR空間上に3Dで再現して場を共有するサービス「cluster.」を提供する。ユーザーはVRデバイスを使うか、通常のPCを使って、このVR空間に「入る」ことで利用する。別地点から入ってきているほかの参加者と音声や身振りによるコミュニケーションが可能だ。今日正式ローンチしたclusterには10弱の部屋が用意されていて、誰でも無料で利用できる。また、clusterには有料・無料のチケット決済システムが実装されていて、オンライン・イベントにも活用できる。


clusterの特徴は多くの同時接続が実現できることのほかに、きわめてシンプルな3Dモデルで表現されるアバターを使った他のユーザーとのインタラクションができることが挙げられる。アバターは比較的簡素なポリゴンで表現されている。これは意図的なデザインチョイスで、仮想空間内で実際に交流することを考えたときに重要なのは「精巧な3Dモデル」ではないというのがクラスター創業者の加藤直人CEOの考えだそうだ。

「FacebookのSpacesはインタラクションがありません。例えばVR空間にあるペットボトルには触れない。これが3Dモデルだと触れるのです。会うとか集まるといった体験を提供するにはインタラクションが重要です」

想定しているのはアイドルや声優のファンイベントだが、どの程度本人に似た3Dアバターを用意するのだろうか?

「テレプレゼンスで実際に会っているような感覚を得るためには、3Dモデルがどれだけクオリティーが高いかよりも、どれだけインタラクションが可能かのほうが大切なんです。人間そのものじゃなく、キャラクターだけでも明確にコミュニケーションは成立する、というのが私の大きな仮説です」

「ひきこもりを加速する」を会社のスローガンに掲げる加藤CEOは、アイドルのファンは生身の人間そのものではなく、キャラクターに恋しているのではないかと、さらに踏み込んだ仮説を語る。「アイドルもキャラクターだと思っています。キャラクター文化の一環だと思っているんです」(加藤CEO)

数少ないポリゴンでアバターを表示するのは、帯域やクライアントの処理性能の制約を考えるとエンジニアリング上のテクニックなのかもしれないが、実際には「それで十分」ということらしい。一方で、今回調達した資金は、VR空間やアバターをリッチにしていくコンテンツ制作に使っていくという。3Dモデルはコンテンツもノウハウも流用が効くため、ここで差別化をはかり、そのことでコミュニティーを育てていきたい考えだ。

2次元のカメラ映像や音声を使った従来の「テレプレゼンス」とは一線を画すVR空間ソーシャルサービスとして、ユーザーが納得するものが作れるのか、あるいは実際にチケット代を払って「VR空間に会いに行く体験」を作っていけるのか。エイベックスという強力なコンテンツパートナーと、DeNAというオンラインコミュニティービジネスで知見を持つパートナーを得たことでクラスターは良いスタートラインに立ったと言えそうだ。

ビジネスとして成立するまで資金調達は不要――自己資金経営のススメ

【編集部注】執筆者のZach AbramowitzはReplyAllの共同ファウンダーでCEO。

Yaron Ben ShaulがCEOを務めるHometalkは、もともと業者検索サービスNetworxのユーザー向けのエンゲージメントプラットフォームとしてはじまった。

その後、HometalkはDIY(日曜大工)コミュニティのためのソーシャル・ネットワークへと変化していき、今ではニューヨークにオフィスを構え、イスラエルに開発センターを置いている。

「テクノロジーの力によって、人は手で何かを作ったり直したりする能力を失いつつあります」とBen Shalは話す。「Hometalkはテクノロジーを利用して、逆にDIYのスキルを共有できるような場をつくろうとしているのです」

DIY好きな人は、Hometalkで自分の家のプロジェクトに関する情報を投稿すれば、気の合う仲間からフィードバックをもらったり、掲示板で質問を投げかけたりできる。そのようにして集まったユーザージェネレイテッドコンテンツがPinterestのような見た目のサイト上に並べられ、誰もがDIYのアイディアを見つけられるHometalkを構成しているのだ。

DIYは一見ニッチ分野のように映るが、現在のHometalkのアクティブユーザー数は1500万人で、月に3億PVを記録しているほか、昨年7月からの動画のオーガニック再生数は6億回におよぶ。Yaronによれば、2016年の売上は数百万ドルで、2017年は1500〜2000万ドルの年間売上を予定しているという。また、現在Hometalkは主にプログラマティック広告から収益をあげているが、今後はスポンサードコンテンツの制作やオンラインショップの開設も行うとのこと。

Hometalkはどのようにして自己資金だけでここまで成長できたのか? そしてHometalkとDIY業界の未来はどうなるのか? CEOのYaron Ben Shaulに話を聞いてみた。

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Zach Abramowitz(以下ZA):今日は取材に参加してもらって、ありがとうございます。

まずHometalk以前に、YaronはAlfyというスタートアップを過去に立ち上げていて、実はこの会社はVCから何千万ドルという資金を調達していましたよね。Alfyでのどういう経験から、Hometalkでは外部調達に頼らずに自己資金で全てを賄おうと思ったんですか?

Yaron Ben Shaul(以下YBS):こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。

Alfyを立ち上げた頃は、まだ起業家としての経験が足りなかったこともあって、「従業員数・調達金額=会社の成功度合い」と考えていました。しかし問題だったのは、資金調達前にプロダクト面でもビジネスモデルの面でもまだまだやれることがあったのに、私たちは焦ってスケールしようとしていたんです。もし、しっかりとした基盤を当時築けていれば、もっと大きな成功をおさめていたと自信を持って言えます。

そんな経験があったので、Hometalkではリーンスタートアップモデルを採用し、外部調達について考える前に、プロダクトマーケットフィットを目標にテストや改良を続けました。

ZA:なるほど。でもプロダクトマーケットフィットはどんなスタートアップにとっても課題だし、プロダクトマーケットフィットに至ったと勘違いして、早過ぎる段階でスケールしようとする企業もたくさんいますよね。

Alfyはプロダクトマーケットフィットに到達していたと思いますか? それとも全くそんなこと考えていませんでしたが? また、早過ぎる段階でのスケールを避けるために、プロダクトマーケットフィットを客観的に判断できるような指標や定義はありますか?

YBS:良い質問ですね。Alfyは”プロダクトマーケットフィット”には達していたと思いますが、”ビジネスマーケットフィット”には届いていなかったと思います。

顧客は私たちのプロダクトを気に入って使ってくれていましたが、会社を長期的に支えるほどの売上には繋がっていませんでした。月のバーンレートは約100万ドルで、Alfyが持続可能な企業へと自然に成長するのに十分なほど、マネタイズがしっかりできていませんでした。

ZA:もしも起業家がスケール前のビジネスマーケットフィットを意識するようになれば、スタートアップが失敗する確率は下がると思いますか?

YBS:間違いないでしょうね。ビジネスマーケットフィットとは、カスタマーエクスペリエンスとビジネスモデルが両立している状態を言いますから。

具体的な数字があるわけではありませんが、ビジネスマーケットフィットを目指している企業が成功する確率は、そうでない企業よりも高いと思います。もちろんイテレーションは必要になりますが、持続可能な売上モデルが構築できなければ、究極的にはそのビジネスは単なるバブルでしかありません。カスタマーエクスペリエンスの向上に注力しているスタートアップはたくさんありますが、ビジネス面がおろそかになると、いずれ行き詰まってしまいます。その結果、業績が落ちて従業員を解雇せざる得なくなり、ギリギリのタイミングで必死に新たなモデルを模索するようになってしまうんです。これは本当に残念なことです。顧客価値を中心に据えながらも、最初からビジネスマーケットフィットを目指せば、企業が長期的な成功をおさめる可能性は高まります。

ベンチャーキャピリストは、その逆を言うことが多いですけどね。Hometalkでは、ビジネスモデルのことは忘れてユーザーのことだけを考えろ、と投資家に言われたこともありましたが、自らの経験からそのアドバイスには従いませんでした。

ユーザー価値の向上という、企業の目的の半分にしかあたらないことに全ての力を注ぎ込み、いつかビジネスとしても成り立てばいいなという考え方で何年間も無駄にしている起業家を、私はこの目でたくさん見てきました。しかし、最適なビジネスモデルを構築するには、現存するプロダクトを段階的に改善するだけでは不十分なことが多く、実際はかなり大きな変化が必要になるということに彼らは気づけていないのです。そして、それに気付くのが遅すぎると、会社の存続さえ危ぶまれることになります。

ZA:では、多くの起業家が誤った指標を追ってしまっているということですか?

YBS:多くのB2C企業のファウンダーは、WhatsAppやSnapchatのように、ビジネスマーケットフィットに達しないままデカコーン企業(評価額が100億ドル以上の非上場企業)になった特別な企業を例に出し、プロダクトファーストの姿勢を正当化しています。そうすると、顧客価値だけを気にしながらつかみどころのない評価額を追い求めるのは間違っていないんだ、と感じてしまうんです。しかし、統計的に見れば、WhatsAppやSnapchatのような企業は例外中の例外です。私は、起業家が成功する確率が高まってほしいと考えているのであって、彼らに100万分の1の確率を追い求めてほしいわけではありません。彼らには、まず本当に1億ドルの価値があるビジネスを構築して、それから10億ドル企業を目指すようにしてほしいんです。

つまり私は、長い時間をかけてでもきちんとビジネスマーケットフィットを目指そうとする企業ほど、長期的な成功を早く手に入れられると考えています。

ZA:外部資金を調達せずに企業を経営する上で、B2BかB2Cかは関係ありますか?

YBS:関係ありません。

ZA:HometalkはNetworxの一部としてローンチされましたよね。いつ頃、Hometalk単独でもやっていけると気づきましたか?

YBS:ご存知の通り、HometalkはNetworxのためのエンゲージメントプラットフォームとして開発されました。もともとは、工事業者の人たちが家や庭の改修プロジェクトに関して書いたり、DIYのコツをサイト上で共有してくれるのでは、と考えていたんです。

実際どうだったかと言うと、コンテンツ面で工事業者の人たちはあまり頼りにならず、むしろコミュニティメンバーが生み出すDIY関連のコンテンツの方が価値があることがわかりました。それに気づいてからは、すぐにHometalkをNetworxから切り離し、ユーザー同士が自分たちの経験談を共有し合うユーザージェネレイテッドプラットフォームへと方向転換したんです。

ZA:その後、外部から資金を調達しようとは思わなかったんですか?

YBS:以下の理由から、資金調達はしたくなかったんです。

1. 当時私たちにとってもっとも価値のあった資産は、会社の自主性と俊敏さでした。外部から(特にアーリーステージで)資金を調達していたら、その資産を手放すことになっていたでしょう。ビジネスマーケットフィットに到達してから資金を調達すれば、自分たちが何者かを解明するためではなく、会社のスケールのためにお金を使うことができます。

2. これは個人的な理由ですが、私は評価額に見合ったビジネスを構築できたと自分で100%の自信を持って言えるようになるまで、他人のお金をリスクにさらしたくないんです。誰かに投資してもらうということには、とてつもない責任がつきまといます。他人のお金よりも自分のお金をかける方がずっとマシです。リスクが桁違いに大きいアーリーステージでは尚更そうです。

3. 早期に資金調達を行っていたら、目の前のことしか見えなくなっていたでしょう。というのも、VCはすぐに結果を求めますからね。しかし私の経験から言えば、自分の会社を長い間存続させたいと思うのなら、長期的な視点を持たなければいけません。

ZA:自己資金だけで夢を叶えようとしている人たちに何かアドバイスはありますか?

YBS:以下が私からのアドバイスです。

・アーリーステージでは、スケールしようとする前に顧客価値と売上が両立するようなビジネスを模索し(スケールのタイミングが早すぎると基盤となるビジネスが安定しなくなる)、顧客とビジネスモデルだけに集中する。

・コストは可能な限り低く抑える。私たちがオフィスをロサンゼルスからワイオミング州のキャスパーに移したときは、引っ越し業者に頼むお金がなかったので、私がトラックを借りて自分で引越し作業をしました。交通費を抑えるために、長い時間かけて陸路で移動し、一泊30ドルのモーテルに泊まったことも何度もあります。今では美しいオフィスや素晴らしい業績を披露できますが、その裏側には10年間におよぶ苦労が隠れているんです。

・形だけの指標にとらわれず耐え忍ぶ。Networxを設立してから3年間は、従業員が1人しかいませんでした。

余計なリソースがなければ、コアビジネスに集中せざるを得なくなり、顧客とビジネスモデルに直に取り組むようになります。つまり、外部資金を調達しない場合、組織のための長期的な展望(投資家との関係性や従業員数など)よりも、ビジネスの中核について深く考えなければいけないのです。

そして最後に、恐らくこれが1番重要なことだと思いますが、全ては最高のメンバーを見つけられるかにかかっています。

ZA:予算が限られている中、どうやって優秀な人材を集めることができたんですか?

YBS:ハイテク人材を雇うお金がなかったので、そもそも彼らのことは狙っていませんでした。人柄を中心に候補者を選別していくしかなかったんです。そのためNetworx・Hometalkのどちらに関しても、高く評価されている社員のほとんどは、いわゆる輝かしい履歴書の持ち主ではありません。しかし、一般に良いとされる経歴を持っていない人の中には、自分の価値を高めようと必死に頑張って成功をおさめる人もいます。

まだオフィスがウェストハリウッドにあったころは、8:00から東海岸の業者とコンタクトをとるために、朝の4:15に私が社員第一号を迎えに行き、こちらの時間の5:00には彼がコンピューターを立ち上げていました。彼の履歴書はなんら特別なものではありませんでしたが、彼の運転スキルはすさまじかったですよ。

ZA:自己資金経営のデメリットは何でしたか?

YBS:創業から数年間はプライベートの時間がとれません。1日中働き詰めで、全て自分でやらなければいけないのです。

しかし、それとは比較にならないほど大きなメリットがあります。私は初めて75ドルのクレジットカード決済を(FAXで!)したときのことを今でも覚えています。誰かが私たちのサービスのために、本当にお金を出してくれたんだというのがわかった瞬間でした。ひとつめのスタートアップで経験したどんな資金調達ラウンドのクローズよりも、その決済の瞬間の方が嬉しかったですね。

ZA:VCからにしろ別の手段にしろ、いつかHometalkでも資金調達を行うと思いますか?

YBS:ちょうど今、VCだけでなくプライベートエクイティファンドからの調達についても考えているところです。ようやくビジネスマーケットフィットを達成できたと感じられたので、現在はスケールの手段を模索しています。

ZA:Hometalkに話を移すと、これまでにローンチされたさまざまなニッチ分野のソーシャルネットワークとDIYソーシャルネットワークの違いは何ですか?

YBS:DIY市場のニーズは極めて細分化しており、ユースケースも多岐にわたります。そこが1番大きな違いですかね。ある人は簡単に掃除したいだけだと思っていれば、ある人は家全体を改築したいと考えていることもあります。また、ある人はニューヨークに、別の人はアトランタに住んでいて、それぞれの家の素材や気候、地形が違うということもあるでしょう。

そのため、誰に対しても価値あるアイディアやツール、知識を提供できるようなプラットフォームを構築するには、ユーザー全員が自分の経験や知識をコミュニティのために共有するクラウドソーシングモデルしかないんです。簡単にいえば、DIYコミュニティのニーズは常にあったということです。

さらに、自分の手を使って何かをするという人間の能力は、かなりのスピードで衰えていっています。Hometalkのゴールは、コミュニティのメンバーがお互いのスキルを高め合えるような場をつくるということなんです。

私の経験上、たとえ数か月の間であっても、脳のある部分を使わなければその能力は無くなってしまいます。例えば、私はWazeを使い始めてから、方向感覚を失ってしまいました。それと同じように、人間は自分の手を使う能力を失いつつあるんです。私たちは、Hometalkのユーザーが金銭的なメリットを享受するだけでなく、自信とノウハウを取り戻す姿を見てきたため、色んな人にDIYを勧めたいと考えています。DIYで学んだことは、他の分野でもきっと役立ちます。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

子ども向けアクティビティ・習い事のマーケットプレイスKidPass――運営元が510万ドルを調達

子ども向けのアクティビティや習い事を検索・予約できる月額制会員プログラムKidPassは、この度シリーズAで510万ドルを調達したと発表した。現在ニューヨークでサービスを提供している同社だが、今回の調達資金を使って今後ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、ボストン、フィラデルフィア、ワシントンDC、シカゴをはじめとするアメリカの主要都市へ進出していく予定だ。

Javelin Venture Partnersがリードインベスターを務めた今回のラウンドには、CoVentureやY Combinator、TIA Ventures、Bionic Fund、Cocoon Ignite Ventures、FJ Labsなど既存・新規投資家が入り混じって参加した。

また、この資金調達を受けて、Javelin Venture PartnersのマネージングディレクターJed Katzと、Zola社長のRachel JarrettがKidPassの取締役に就任した。

KidPassのアイディアは、ヨガやサイクリング、ピラティス、ダンスといった大人向けのアクティビティを予約できる会員制サービスClassPassに似ている。名前も似ている両社だが、特別な関係はない。

しかし、サービス内容についてもKidPassとClassPassには類似性が見られ、ユーザーは月々の料金を支払うだけで街中のさまざまなアクティビティに参加できるようになっている。

KidPass共同ファウンダーのSolomon Liouは、一緒会社を立ち上げたAaron Kaufman、Chhay Chhun、Olivia Ballvéそして彼自身が親になり、子ども向けの良いアクティビティを探すのがとても大変で時間がかかることに不満を感じたため、KidPassを設立することにしたと説明する。

「レストランや医者、タクシーなどをすぐに予約できるモバイルアプリが存在する一方で、子どものアクティビティ用のアプリはありませんでした」とLiouは話す。「ほとんどの場合、親御さんは未だに口コミやGoogleの検索結果を頼りに子ども向けのアクティビティや教室を探しています。これはとても時間がかかる作業ですし、有用な情報を見つけるのも難しい上、そもそもウェブサイトを準備していない団体もたくさんあります」

さらに、もし好みのアクティビティや教室を見つけられたとしても、ほとんどが対面での入会手続きのみ受け付けているほか、子どもが気にいるかどうか知る前の段階で、ひと学期分の料金を前払いしなければならないこともあるとLiouは付け加える。

KidPassでは現在3種類のプランが準備されており、1番安いプランは月額49ドルだ。ユーザーはプランに応じて配布されるクレジットを使って、ダンスや図画工作、スポーツ、美術、キャンプ、科学・テクノロジー、水泳、料理、フィットネス、勉強などさまざまなアクティビティに参加できる。

また、Gymboree、Kidville、Music Together、Super Soccer Stars、Physique Swimming、The Craft Studio、Chocolate Works、the Museum of Modern Art、YMCA、JCCなど900以上の団体がKidPassのプラットフォームに参加している。

2016年1月のローンチ以降、KidPassの登録世帯数は2万に達し、同プラットフォームを介したアクティビティの予約数は10万件以上にのぼる。ニューヨークには3000人の登録者がおり、KidPassは毎月20〜30%のペースで成長しているとLiouは話す。

同社のサービスでは、アクティビティ参加時に必要なクレジットが毎月配布されるようになっており、基本プランだと月に10クレジット使え(サポートしている子どもの数は最大2人)、真ん中のプランだと最大5人までサポートされており、月々25クレジット使える。そして一番上のプランでは、利用できる子供の数に制限はなく、毎月50クレジットが配布される。

1、2クレジットで参加できるアクティビティもあれば、中にはキャンプなど10クレジット以上必要なものもある。忙しくて全てのクレジットを使い切れなかったときのため、使っていないクレジットは3か月間持ち越しが可能だ。

このクレジット制度のおかげで、KidPassはClassPassを苦しめた問題を避けることができるかもしれない。ClassPassは利益を確保するために、利用料の値上げ、そして無制限プランの廃止を余儀なくされたのだ。

「(クレジット制度のおかげで)私たちはアクティビティごとに値段を変えられるので、親御さんにお得な料金を提示しつつも、パートナーである運営団体とユーザーである家族を支えるマーケットプレイスとして、ユニットエコノミクスを成り立たせることができるのです」とLiouは語る。「このビジネスモデルのおかげで粗利は黒字ですし、採算の取れない無制限プランは意図的に導入していません」

親が各アクティビティを運営する団体へ直接コンタクトせずに、KidPassのようなサービスを使う理由はいくつかある。

しかし、もっとも重要なのは、KidPassを使うことでさまざまなアクティビティに関する情報を簡単に入手できるという点だ。子ども向けの習い事やアクティビティの数はかなり多いため、親はどんなオプションがあるのか把握しきれていない可能性がある。さらに、お試し期間なしに複数回分の参加費を支払うのを敬遠する親もいるだろう。

KidPass以外にも、SawyerPearachuteが同じ業界でしのぎを削っている。

新しい都市への進出だけでなく、KidPassは今回の調達資金を使って、アクティビティを運営している団体向けにクラス管理やオンライン登録、スケジュール、決済まわりのソフトの開発を行っていく予定だ。なお、既にいくつかの団体がプライベートベータ版のソフトを利用している。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

不眠症を解消するゴーグル「Sana Sleep」――開発元のSana Healthが130万ドルを調達

Solar ImpulseのパイロットBertrand Piccardは、太陽光発電の電力だけで世界一周を目指す旅に出たとき、移動中はあまり休むことができないだろうと覚悟していた。機内で睡眠自体はとれるものの、飛行中の睡眠時間は1日最大3時間、それも20分ごとに1回起きなければいけなかった。というのも、1人乗りのSolar Impulseでは、20分ごとにシステムが正常に動いているかチェックしなければならないのだ。

そこでPiccardは、短い休憩時間にできるだけ深い眠りにつけるよう、Sana Healthのプロダクトを一部の区間で採用した。

Sana Sleepと呼ばれるこの”スマートゴーグル”は、2018年のQ2には睡眠障害に悩む一般ユーザー向けにも販売される予定だとSana HealthのファウンダーでCEOのRichard Hanburyは話す。なお、最近同社はFounders FundMaveronSOSVらが参加したシードラウンドで130万ドルを調達した。さらにHanburyによれば、Sana Sleepの小売価格は400ドル前後になるという。

CEOのHanbury自身が慢性疼痛に伴う睡眠障害に苦しんでいたことをきっかけに、このプロダクトの開発はスタートした。彼は、1992年にイエメンでJeepを運転中に事故に遭って障害を負い、それ以後慢性疼痛を患っていたのだ。しかし、もともと彼のために開発されたテクノロジーを必要とする人は他にもたくさんいる。元気な幼児を除けば、誰もが快適な睡眠を求めているということだ。

Sana Healthのファウンダー・CEOのRichard Hanbury。

CDCの最近のデータによれば、アメリカの成人の3分の1が十分な睡眠を取れていない。そしてピッツバーグ大学医学部の研究から、不眠症は人の気分や記憶力に悪影響をおよぼすだけでなく、その他にも様々な症状を引き起こすことが分かっている。

多くのスタートアップは、膨大な数のターゲットがいる不眠症対策ビジネスのチャンスに気づき、近年快適な睡眠を実現するためのプロダクトの開発に力を注いでいる。新しい素材で作られたマットレス種々ウェアラブルデバイス睡眠トラッキングアプリそのほかIoTデバイスなど、プロダクトの種類はさまざまだ。

投資家もこのビジネスの可能性を信じているようだ。Crunchbaseのデータによれば、昨年以降少なくとも30社(うち6社がハードウェア企業)の睡眠関連プロダクトを開発しているスタートアップが、シードもしくはベンチャーラウンドでの資金調達に成功している。

Sana Sleepは一見パッド付きのゴーグルか、シンプルでかけ心地の良いVRヘッドセットのように見える。現在行われているテストでは、トレーニング期間中で移動の多いアスリートが、Sana Sleepを使うことでどのくらい効率的に休めるかということが調査されている。

Hanburyはこのデバイスの仕組みについて次のように説明する。「Sana Sleepは、音と光を使って脳の特定の動きを引き起こすデバイスです。ナイトクラブに遊びに行って、ストロボライトを眺めながら早いテンポの音楽を聞いているときのように、このデバイスは脳を一旦興奮状態にさせ、リラックスモードに入るために必要なパターンを人工的につくり出しているのです」

ゴーグルからは音と光がビートを打つように発せられ、毎回かけ始めはそれを認識できるが、やがて眠りに入ってくるうちに気づかなくなってくる。さらに、Sana Sleepはユーザーの脈拍や呼吸を計測し、バイオメトリクスの反応をもとに音や光を自動的に調節できるようになっている。

そのため、最初はゴーグルを”トレーニング”しなければならない。だいたい4回ほど使えば、それ以降ユーザーは(慢性疼痛に悩む人たちでも)ゴーグルをかけてから10分以内に眠りにつけ、一晩中ぐっすり寝られるようになる。

シードラウンド以前にも、Sana HealthはSOSVが運営するハードウェアアクセラレーターのHAXを含む複数の投資家から45万ドルを調達していた。SOSVのジェネラルパートナーを務めるCryril Ebersweilerは、Sana Healthが深刻な不眠症の解決に繋がるテクノロジーを開発していることから、シードラウンドで再び彼らに投資したと語っている。

「Sana Sleepには、24年間におよぶ研究と大規模なテストに裏付けられた性能が備わっています。今後もプロダクトの継続的な改良が必要ですが、どの流通チャンネルがプロダクトに合っているかについてもそろそろ考え始めなければいけません」と彼は語る。

初期のテストでSana Sleepの有効性が認められたため、現在Sana Healthはアメリカ食品医薬品局(FDA)から医療機器の認証を取得しようとしている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

法人向けクラウドサービスの比較サイト「ボクシル」が総額3億円の資金調達

法人向けクラウドサービスの比較サイト「ボクシル」を運営するスマートキャンプは5月29日、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ三菱UFJキャピタルSMBCベンチャーキャピタルおよび既存株主を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額3億円を調達したと発表した。

同社は2015年11月に1億5000万円の資金調達を実施しており、ボクシルをリリースした2015年4月以降の累計調達金額は約5億円となる。

スマートキャンプが手がけるボクシルは、いわば“BtoBクラウドサービスの価格.com”のようなサービス。会計ソフトやマーケティングオートメーションなど様々な種類の法人向けクラウドサービスの特徴や価格などを比較したり、口コミをチェックすることができる。現在、サービスの掲載数は2400件以上で、口コミの掲載数は1万件以上だ。

ユーザーが気になるサービスの資料請求を行うと、サービスの提供元には資料請求をした企業の担当者のプロファイルが提供される。クラウドサービスを提供する企業にとって、ボクシルは見込み客獲得のための1つの手段だ。一方のスマートキャンプは資料請求1件あたり1万円〜の報酬を受け取る。

なお、以前は専用のチャットで直接サービス提供企業の担当者とやりとりを行うことができるという機能があったが、現在その機能は提供されていない。

リリースから約2年が経過した今、月間PV数は120万PVを超え、ボクシルを通した資料請求の数は累計で約6万件を数える。同社は今回調達した資金を利用して、このボクシルの更なる開発と採用強化を進めるとしている。

それに加えて、スマートキャンプは新サービスのリリースも同時に発表している。見込み客のマネジメントプラットフォーム「BALES(ベイルズ)」だ。

ベイルズの最大の特徴は、見込み客の“興味度”を可視化して管理ができるという点だ。スマートキャンプ代表取締役の古橋智史氏は、「資料請求を行ったユーザーに対して検討具合などのヒアリング(オンラインおよびオフライン)を行い、それにメールの開封率などのデータを組み合わせることで見込み客ごとの興味度を可視化する」と話す。また、その興味度をもとに、どの見込み客に対して対面営業を行うべきかなどを教えてくれるリコメンド機能も備えられている。

ベイルズのマネタイズ方法について古橋氏は、「今後1年間くらいで月額課金方式が良いのか、もしくは有料課金方式が良いのかを見定めていく」と話す。

これまで、グリーベンチャーズなどインターネット色が強いVCから資金調達を行ってきたスマートキャンプだが、今回のシリーズBでは、伊藤忠テクノロジーベンチャーズなどBtoB領域でも名の通った投資家が加わっている。古橋氏は、「私たちはまだ社歴が浅く(2014年創業)、BtoBの領域ではそれだけで受け入れられないこともあった」と語る。今回のラウンドに参加した投資家のおかげで、この領域でも通用する知名度を手に入れたと言えるかもしれない。

見込み客を“獲得”するためのボクシル、そして見込み客を“管理”するためのベイルズをリリースしてきたスマートキャンプ。同社は今後もマーケティングの各フェーズで利用できるサービスをリリースしていき、それらを1アカウントで利用できるサービス網を構築することも計画している。

ナノルクスがASUSらから1.3億円調達、真っ暗闇でカラー撮影ができるスマホ発売へ

いっさい光が入らない真っ暗闇の暗室でもカラー撮影が可能な「赤外線カラー暗視技術」を持つ、つくば発のスタートアップ企業「ナノルクス」が今日、台湾に本社を置くスマホ・PCメーカーであるASUSおよび筑波銀行グループから合計約1.3億円の資金を調達したと発表した。

ナノルクスの暗視技術は産業技術総合研究所(産総研)が発明したもの。この特許を技術移転によって製品に活用することを目指して2010年に設立されたベンチャー企業がナノルクスだ。これまでにもシャープとの協業で産業用途で監視用カメラを2014年に発売したことがあるものの、結果は芳しくなかった。

創業7年目にして資金調達による「再起動」をかけた形だが、その立役者である祖父江基史氏は2015年末にナノルクスにジョインしている。祖父江氏は日銀からキャリアをスタートし、これまでインテルやデルなど外資系企業でファイナンスや戦略の役員を務め、直近ではベンチャー支援機関TEPの副代表を務めていた人物だ。米デューク大学で経済学修士号を、早稲田大学では工学修士号を取得して商学の博士後期課程修了と、スタートアップの第二創業に参画する以外にも、いくらでも選択肢があったはず。祖父江氏はTechCrunch Japanの取材に対して、スタートアップ支援を続ける中で「技術とか(日本の)強みでできることがあると感じていた。最大の問題は経営者だという思いが常にあった。自分がやらなければと考えていた」と語る。「そういうときに出会ったのがナノルクス。技術が世の中で使えて役立つというのを見せたい」(祖父江氏)

ナノルクス代表取締役社長の祖父江基史氏

祖父江氏は今回、新たにグローバル市場でスマホ、PCともに有力な製品を持つASUSから1億円の直接投資を受けて共同開発する道筋をつけた。うまく行けばZenFoneなどコンシューマー向け製品にナノルクスを搭載して広く世に問うことになる。

ナノルクスの技術は「すごく暗い場所で撮れる」ということとは違う。全く光のない場所で普通に写真や動画が撮れるのだ。これは消費者の誰も体験したことがないものだし、そんなことが可能だと知っているのはごく一部の技術者だけだろう。「真っ暗闇でも撮影できるスマホ」に市場があるかどうかは分からないが、ナノルクスが挑戦するのはそういう未知の市場だ。

モノクロでは分からない立体感を伝えるという意味でもカラー化の意義があるという

3種の赤外線からRGB成分を推定

赤外線を照射して反射光からカラー画像を再現する技術は、もともと産総研が開発したものだ。2015年に特許が成立した赤外線カラー暗視技術は、(少なくともぼくにとっては)にわかに信じがたい原理の発見に基づく。

以下の説明図にあるとおり、ナノルクスのカラー暗視技術では3種類の異なる周波数の赤外線を被写体に照射し、その反射光から、可視光のある環境でのRGB成分を再現する。このとき、図中にあるIR1〜3の反射光と、可視光の場合の反射光のRGB成分とが緩やかに対応しているのだという。

ナノルクスの技術は、経験的に発見した「3種の赤外光←→RGB」という対応原理を理論的に解き明かして、それを実装したものだという。

実際にぼくは取材の席でプロトタイプ実装のデモを見せてもらった。若干、目で見た色より淡い色に再現されるものの、ほぼ完全な暗室の中を30フレームの動画でも遅延なくカラー撮影が可能であるのには驚いた。以下はデモそのものではないが「十分な光→暗室での赤外線カメラ→ナノルクスによるカラー撮影→暗室での通常撮影(真っ暗)」を順に示した比較動画だ。

いわゆる超高感度カメラと違って、比較的安価な既存の画像センサーがそのまま使えるのがメリットだ。また、暗いところで撮影できるというのとは違い、光がなくても撮影ができる。言い方を変えると、光を出してはいけない状況でフラッシュや補助光などを使わずに暗いまま撮影したり、モノを見たりすることができるということだ(逆に、まぶしすぎる環境でも撮影ができるそうだ)。

従来モノクロだった映像がカラーになるというと、最近話題のニューラルネットワークによる着色技術を思い出す人もいるかもしれない。しかし、例えば折り紙やマグカップの色なんかはモノクロ画像から元の色を推定しようがないし、リアルタイムでの処理は現実的ではないので、これも全く違う話。

ナノルクスの技術が活用できる領域として祖父江氏は、以下の3つの市場を挙げる。

社会インフラ(トンネル、高速道路、鉄道、警察など):1000億円(ナノルクスによる2020年予想)
産業用途(警備、自動運転やアシストビュー、医療用カメラなど):2000億円(同)
消費者(シニア・子ども・ペットの見守り、スマホなど):2000億円(同)

単に映像を記録するだけでなく、何が映っているかを判別するコンピュータービジョンの適用領域拡大の流れの中で、モノクロよりもカラーのほうが精度が良いということはあるだろう。防犯カメラで窃盗犯の着ていたジャケットの色、海外であれば肌の色が分かるといったこともある。社会インフラや産業用途での利用は想像が付きやすい。赤外線を照射するための技術も同時に開発を進めていて、500メートル程度の距離まで撮影可能だという。

シャープに技術共用した際に監視用暗視カメラが売れなかったのは、市場ニーズから逆算するマーケティングをせずに、作れるものを作って出したプロダクトアウト型のアプローチだったことにある、というのが祖父江氏の見立てだ。

ミーティング後10分で出資決定のスピード感

今回ナノルクスに出資したASUSは、年間売上高が1.58兆円(2016年)のスマホ・PCの一大メーカーだ。PCでは5位の出荷数実績(IDC調査、2016年第4四半期)、スマホでもグローバルでは5位圏内にこそ入っていないものの2016年には2000〜2500万台の出荷実績を持つ。IDC Japanによれば2016年の日本国内スマホ出荷台数は2923万台だから、日本のスタートアップ企業からみればASUSのプレゼンスは巨大といっていいだろう。

PC市場の急速な縮小と、スマホ市場シェアでHuaweiやOPPO、Vivoといった中国勢に押され気味のASUSにとっては「世界初」をうたえること自体が十分な魅力なのかもしれない。実際、GoogleのAR(Tango)とVR(Daydream)の両方を搭載した世界初の端末「ZenFone AR」も今夏発売ということで、TechCrunch Japan読者にも待ちわびている人が少なくないだろうし、ASUS製品は話題には事欠かない。

今回のナノルクスへの投資について、祖父江氏が口にするのはASUSのスピード感だ。知人のVC経由で紹介され、日本から台湾に飛んで朝10時から11時半までASUS役員と技術者らへプレゼンと質疑。終了後に10分ほど席を外しただけで、彼らは会議室に戻って投資の意思決定を祖父江氏に伝えたそうだ。

ナノルクスにとってASUSと協業できることは、イメージセンサーなど部材の仕入れの面でも、カメラモジュール納品先の大口顧客という面でも魅力という。ただ、ナノルクスとしてはASUSとは排他的契約をしておらず、他社との協業も進めていくとしている。

競争激化が進むアメリカのバイクシェアリングサービス――Spinが800万ドルを調達

中国に続き、アメリカでもバイクシェアリングサービスが盛り上がってきている。特別な駐輪場を設置せずに、街中やキャンパス上のさまざまな場所に自転車を配置する「ドックレス」と呼ばれるタイプのサービスが現在の主流だ。自転車の位置はGPSで把握できるようになっているため、ユーザーはスマートフォンを使って自転車を見つけられる上、解錠や支払いも全てモバイルアプリを通じて行える。何と言っても、使い終わった後に(法律で認められているエリアであれば)どこにでも自転車を停められるのがこのサービスの魅力だ。

以前TechCrunchでも報じた通り、現在VCはアメリカ国内でドックレス・バイクシェアリング・サービスの普及を目指すスタートアップに大金を投じている。しかし新興企業は、当局の規制や資金力で勝る中国企業の進出といった困難に苛まれてほか、彼らの競合にあたるMotivate Co.の”ドック有”・バイクシェアリング・サービスは、さまざまな都市に導入され始めている。

そんな中、テック界での経験豊富なDerrick Ko(CEO)、Euwyn Poon(社長)、Zaizhuang Cheng(CTO)によって設立されたサンフランシスコ発のSpin(登記上の企業名はSkinny Labs Inc.)は、最近800万ドルを調達した。Grishin Roboticsがリードインベスターを務めたこのシリーズAラウンドには、Exponent.VCCRCM、そしてエンジェル投資家のMatt BrezinaとCharlie Cheeverが参加した。

Euwyn Poonによれば、今後Spinは調達資金を使って人員を増強しながら、”波風を立てずに”同社のバイクシェアリングサービスを国内に広げるため、各都市との交渉に入っていく予定だという。

というのも、ドックレス・バイクシェアリング・サービスが一般に認知されるようになるにつれて、歩行者の安全確保を求める声や景観を損なうのではないかという不安の声が市民の間に広がっているのだ。この点に関しSpinは、規制当局や各都市との関係性を悪化させないために、Airbnbのポリシーチームを創設したMolly Turnerをアドバイザーに迎えた。

サンフランシスコ ー Spinの共同ファウンダーたち。

Grishin RoboticsのファウンダーDmitry Grishinは、Spinのサービスが大気汚染の改善や渋滞の解消ばかりか、市民の運動促進にも繋がる可能性を持っているため、各都市には導入のメリットがあると言う。「ライドシェアリングサービスが一般に普及しても、サンフランシスコのような都市では渋滞が解消しなかったのには驚きました。むしろ渋滞は悪化するばかりです。そこで私は、短距離移動に適したシステムの導入が不可欠で、バイクシェアリングサービスには効果があると考えています。通勤者だけでなく旅行者にとっても便利ですしね。全て合わせて考えると、市場規模もかなり大きくなると思います」と彼は語る。

Spinの競合にも既に資金調達を終えた企業がいくつかある。アメリカで初めてドックレスサービスを開始したSocial Bicyclesは、これまでに700万ドルを調達しており、既に黒字化も果たしている。新興スタートアップのZagsterは、今年の1月にシリーズBで1000万ドルを調達したと発表しており、春にはLimeBikeがAndreessen Horowitzを中心とするシリーズAで1200万ドルを調達した。

以前Lyftでプロダクトマネージャーを務めていたDerrick Koは、乗り心地がよく自動的に施錠される自転車と使いやすいモバイルアプリがSpinの差別化のポイントだと話す。現在同社はApple PayやAndroid Pay、クレジットカードでの支払いを受け付けているが、将来的には支払いオプションを増やしていこうとしている。

CTOのZaizhuang Chengは「私たちのゴールのひとつは、クレジットカードやスマートフォンが普及していないコミュニティにも、他の都市と同じようにバイクシェアリングサービスを提供することです。既に台湾には前例があり、電車に乗ったユーザーは目的の駅で降りると、自転車に乗って移動を続けています」と話す(つまり、地下鉄に乗るときに使うICカードを自転車でも使えるようにすればいいのかもしれない)。

今年の6月にSpinはシアトルに進出する予定だが、何台の自転車を設置するかや、シアトルの次に狙っている都市については明らかにされなかった。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

SoftBankのNvidia株は時価40億ドルと報道――Vision Fundのプレスリリースから推定

先週末、日本のソフトバンクはVision Fundの最初の資金調達をクローズしたことを発表した。今回の出資コミットメントの総額は930億ドル〔約1兆円〕で、出資者にはApple、Qualcomm、Foxconnらが並んでいる。同時にソフトバンクがすでにNvidiaの株式を所有していることも何気なく発表されていた。

今日(米国時間5/24)のBloombergの記事はソフトバンクが所有するNvidia株式は時価40億ドル相当と推測している。これは持ち分が4.9%とした場合の価格で、Nvidiaの第4位の株主となる。

土曜日に発表されたVision Fundのラウンドのクロージングに関するプレスリリースには、同ファンドが「SoftBank Groupが買収した(あるいは買収が承認された)投資対象を買収する権利がある」旨書かれている。

この一節には投資対象としてNvidiaに並んでARMの24.99%の株式(昨年ソフトバンクが310億ドルで買収している)、 OneWeb、SoFiなども記載されていた。

われわれの取材に対し、ソフトバンクの広報担当者はNvidiaへの投資あるいはBloombergの記事についてコメントすることを避けた。

TechCrunchが最近報じたとおり、NvidiaのGPUは機械学習の爆発的な発達を支えるハードウェアの重要な柱となっている。AIはソフトバンクのVision Fundがもっとも力を入れている分野の一つで、孫正義CEOは、今年初めに、「次の30年はスーパー・インテリジェントなAIの時代になる」という見解を明らかにしている。孫CEOによれば、このことが1000億ドルのファンドをこれほど大急ぎで組成する理由なのだという。そうであれば、Nvidiaに大口投資を行ったのもこのビジョンの一環なのだろう。

そうであるにせよ、ソフトバンクが近年、巨額の投資を行っていることは事実だ。インドのフィンテックのユニコーン企業、Paytmに14億ドルを投資したことが発表されている。ロンドンのVRスタートアップ、Improbableが5億200万ドルを調達したラウンドではリーダーを務めた。、また50億ドルを中国におけるUberである配車サービスのDidi Chuxingに、17億ドルをOneWeb,に追加投資している(ソフトバンクは衛星コミュニケーションのOneWebに10億ドルを昨年出資した)。

NvidiaやARMの持ち分を含めてソフトバンクの投資のかなりの部分は直ちにVision Fundに移管されるだろう。ファンドはまたWeWorkにも投資する可能性がある。

Vision Fundは巨大だが、孫CEOは「普通のファンドだ」と語っている。なるほど規模も前代未聞のサイズだが、ビジネスモデルも詳しく検討する価値があるだろう。孫氏は今年初め、Bloombergのインタビューに答えて 「これらの会社のに対するわれわれの投資の大部分は20%から40%の利益をもたらすと同時に、筆頭株主、取締役会メンバーとして会社のファウンダーたちと将来戦略について話合うチャンスを与えてくれる」と語っている。

どうやら孫氏は金で買える最上のスーパー・インテリジェントAIの能力を最初に試せる少数の人間の1人になりそうだ。

画像: David Becker/Getty Images/Getty Images

〔日本版〕上場企業の株式取得にあたって情報公開義務が生じるのは5%であるところ、ソフトバンクのプレスリリースにはNvidiaの株式を所有していると記載されていたものの、これまで詳細が公開されていなかったことからBloombergは4.9%と推定したもの。なおVison Fundに対する出資者はソフトバンク・グループ他、以下のとおり。 SoftBank Group Corp (“SBG”) 、Public Investment Fund of the Kingdom of Saudi Arabia (“PIF”)…Mubadala Investment Company of the United Arab Emirates (“Mubadala”)、Apple Inc. (“Apple”)、Foxconn Technology Group (“Foxconn”)、Qualcomm Incorporated (“Qualcomm”)、Sharp Corporation ("Sharp")。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

レンタル店舗スペースのBulletinが220万ドル調達

みずからを「リテール店舗のWeWork」と表現するBulletinは5月24日、シードラウンドで220万ドルを調達したと発表した。

彼らのアイデアは、オンラインショップのオーナーなどに従来型店舗へのアクセス手段を提供するというもの。リース契約などのコミットメントやコストなしでだ。ユーザーはBulletinがもつ店舗内のスペースを月ごとに借りることができる。そして、その店舗の中でどのプロダクトを販売するのか、それをいくらで販売するのか、どのように展示するのかなどを決める。

同社は現在、2つの地域でビジネスを展開している。ニューヨークのSoHo地区とWilliamsburgの周辺地域だ。Williamsburgの店舗はもともと家庭用品にフォーカスしたものだったが、現在はBulletin Broadsとして「女性向けプロダクトを販売する30のブランド」(共同創業者兼CEOのAlana Branston氏)が商品を出品している――フェミニストTシャツ、ピンバッチ、書籍などの商品だ。

Broadsにも従来のBulletinのモデルが継承されている。ブランドが店舗のスペースを月ごとに借り、自分たちのイベントを開催することもできる。しかし、共同創業者兼COOのAli Kriegsman氏によれば、このBroadsの取り組みによりBulletinはより「トレンディングな」アプローチを実験的に行うことができるという。最新のニュースや政治動向によってプロダクトのラインナップを変えるという方法だ。

この結果、BroadsはBulletinのなかでも最も成功した店舗になったと彼女は話す――そして、売上の10%はニューヨーク市のPlanned Parenthoodに寄付されている。

「フレキシブルなシェアリングモデルによって、私たちはタイムリーでリアクティブなコンテンツをもった店舗をつくることができます」とBranston氏は加える。

今回のシードラウンドには、Flybridge、Kleiner Perkins Caufield & Byers、Afore Capital、Tim Draper、Kevin Hale、Y Combinator(BulletinはY Combinatorの卒業生)、Liquid 2 Venturesなどが参加している。Bulletinは今回調達した資金を利用して今後9ヶ月間に5つの新店舗をオープンする予定だ――ニューヨークに3店舗、ロサンゼルスに2店舗だ。

また、Branston氏によれば、ブランドが店舗スペースの契約と売上管理をより簡単にできるようなシステムの改良を進めていくという。

今後の展開についてBranston氏は、「消費者の購買行動が大きく変わっている」という今の状況に適した方法をBulletinはリテール業界に示していくという。そして、リテール・アポカリプスを防ぐため、BulletinはプロダクトではなくユーザーエクスペリエンスにフォーカスするとBranston氏は話す――これは、AppleがApple Storesでプログラミング教室を展開するのと同じことだと彼女は言う。

彼女の見方では、このユーザーエクスペリエンスへのフォーカスは、Bulletinのアプローチに「もともと織り込まれている」ものだという。出品するブランドが絶えず変化し、そして、それらのブランドが独自のイベントやパーティーを開催しているからだ。

「私たちの店舗を”良い体験ができる場所”として顧客に認識してもらいたいと思っています」とBranston氏は話す。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter