フォードが人の助けなしにロボットだけで3Dプリンターを操作することに成功、生産ラインのボトルネックを解決

Ford(フォード)のAdvanced Manufacturing Center(先端技術製造センター)は、異なるサプライヤーの機械同士が同じ言語で会話し、生産ラインの一部を自律的に操作できるようにするインターフェースを開発した。

自動車メーカーは何十年も前から、コスト削減と効率化のために製造工程にロボティクスを取り入れてきた。しかし、フォードの特許出願中のシステムは、ロボットが夜通し人手を介さずに3Dプリンターを操作することで、生産ラインの重要なボトルネックを解決するものだ。

この自律システムは、Carbonの3DプリンターとKUKA製ロボットが初めて同じ言語で会話できるようになり、生産工程に関わる他の機械とのコラボレーションの可能性を限りなく広げる。

これまでこの試みは、パフォーマンスパッケージを装着したMustang Shelby GT500(マスタング シェルビーGT500)スポーツカー用のブレーキラインブラケットなど、少量生産のカスタムカー部品の生産に役立っている。

「この新しいプロセスは、当社の製造施設におけるロボティクスの使い方を変える力を秘めています」と、グローバル製造技術開発ディレクターのJason Ryska(ジェイソン・リスカ)氏は述べている。

サプライヤーであるKUKAの車輪付きロボット「Javier」は、従業員が夜間に帰宅した後も、人間の介入なしに3Dプリンターを継続的に稼働させることができる。Fordによると、ロボットはプリンターのデータから常に学習し続け、自動車メーカーがより高い精度を達成し、誤差を減らすのに役立っているという。

「Fordの先端技術製造センターでは、Javierは完全に1人で3Dプリンターを操作する任務を負っています」とFordは声明の中で述べている。「彼は常に時間を守り、非常に正確な動作をし、充電のために短い休憩を取るだけで、ほぼ1日中働いています」。

通常、異なるサプライヤーの機器は、別々の通信インターフェースを使用しているため、相互作用することができない。Fordのシステムでは、異なるサプライヤーの機器同士が会話し、リアルタイムでコマンドやフィードバックを送ることが可能になる。

Carbon 3DプリンターがJavierに印刷物の準備ができたことを伝えると、Javierはそれを回収し、後で人間のオペレーターが回収できるように置いておく。

Fordは、通信インターフェースとロボットの正確な位置決めを支える技術について、複数の特許を申請している。このプロセスは自律的に行われるが、人間のオペレーターが3Dデザインをプリンターにアップロードし、機械のメンテナンスを行う必要がある。

画像クレジット:Ford

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(文:Jaclyn Trop、翻訳:Den Nakano)

1カ月ほどで家を建てる住宅建築ロボットのDiamond Ageが58.6億円を調達

ほんの数カ月前に800万ドル(約9億4000万円)の資金調達行ったばかりのDiamond Age(ダイアモンド・エイジ)が、シリーズAで5000万ドル(約58億6000万円)を追加調達した。3Dプリントとロボット技術を利用して住宅建設を大幅に安くすることで、住宅購入をより手頃なものにするというのが同社のミッションだ。

自らを「フルスタックロボットスタートアップ」と称する同社は、新しい家を建てる際の半分以上の手作業を置き換えるためのツール群を開発している。ロボットという要素を加えることで、これまで9カ月かかっていた住宅建築が、1カ月ほどで可能になるという副次的な効果もある。同社は現在、外装、内装、屋根構造のコンクリートをプリントできる3Dプリントシステムに加えて、26種類のエンドオブアーム型ロボットツール(ロボットアームの末端に装着してさまざまな仕事をこなすアタッチメント)を開発している。

今回の資金調達ラウンドは、科学駆動型イノベーションに注力するPrime Movers Labが主導した。Prime Movers Labは特にエネルギー、交通、インフラ、製造、人間能力拡大、アグテック(アグリテック)などを革新するスタートアップに注目している。シード投資家のAlpaca VC、Dolby Family Ventures、Timber Grove Ventures、Gaingelsは予定以上の投資を行い、Signia Venture Partnersも加わった。創業者たちにとって最も心強いのは、このラウンドの20%が住宅建設業者や土地開発業者であったことだろう。潜在顧客がスタートアップに投資するのは、常に良い兆候だ。

前回の資金調達以来、 Diamond Age は技術を大幅に進歩させ、今では2000平方フィート(約190平方メートル、約56.2坪)の平屋をプリントして建てることができるようになった。それが投資家たちを感心させ、評価額の火種に油を注いだことは間違いない。同社は最初のスケールアップ版システムと、フルスケールの3ベッドルーム+2バスルームの住宅を、予定より4カ月早く11カ月で納入した。このことによって、同社はとある全国規模の住宅メーカーと初めて契約を結んだ。この契約について、創業者たちは今のところ詳細を明らかにしていないが、この発表も近いうちに行われることだろう。

Diamond Ageの共同創業者Jack Oslan(ジャック・オスラン)CEOは次のように語る。「手頃な価格の住宅建設は、世界規模で人々に影響を与えています。初めて家を購入する人の平均年齢が20歳代半ばから30歳代半ばに移行したことで、賃貸物件に対する需要が高まりました。このため『質の高い住宅』を求めて賃貸市場の競争がますます激化しています。次世代の住宅購入者が最初の家に早く住めるようにすることは、住宅のエコシステム全体に貢献することができます」。

Diamond Ageは、ロボットプラットフォームの拡張を継続し、住宅建設に関する初の商業契約を締結するために調達した資金を使用する。同社はすでに規模を2倍に拡大し、さらにエンジニアリングと製作の人材を加える予定だ。これにより、Diamond Ageは住宅メーカーやデベロッパーと提携し、住宅建築をオンデマンド商品化し、住宅購入者が住宅を設計する際に、より多くの選択肢を提供することができるようになる。

Prime Movers LabのジェネラルパートナーであるSuzanne Fletcher(スザンヌ・フレッチャー)氏は「Diamond AgeのFactory in the Field(ファクトリー・イン・ザ・フィールド、現場の工場)システムは、建設現場に自動化をもたらし、住宅建設業界における大規模な労働力不足を補うものです」と述べている。「ジャックと彼のチームは、予定より早く重要なマイルストーンを達成し、分譲住宅の建設方法を変革していましたので、Prime Movers Labが同社のシリーズAを主導することは容易に決断できました」。

画像クレジット:Diamond Age

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

MITスピンオフ企業OPT Industriesが3Dプリントによる鼻腔用綿棒の生産拡大に向けて約17億円を調達

OPT Industries(オプト・インダストリー)という社名を耳にしたことがあるならば(ない人がほとんどだと思うが)、それはこのMITのスピンオフ企業が、新しい鼻腔用綿棒を3Dプリントで作ったからだろう。例年ならあまり話題にならないような種類のものだが、昨今の世界的な新型コロナウイルス感染流行によって大きな注目を浴びたのだ。

この「InstaSwab(インスタスワブ)」は、髪の毛の幅にも満たない極細のポリマー繊維で構成された複雑な幾何学模様の構造が、デザイン界でも注目されている。

OPTの3Dプリントシステムは、開発に7年の月日がかかっているが、このタイミングで「細菌サンプルの溶出に最大20倍の効果がある」という綿棒が誕生したことは、確かに幸運だった。もちろん、このようなデバイスの必要性は新型コロナウイルスより前からあり、コロナ禍が(幸いにも)過ぎ去った後も確実に残るだろう。

画像クレジット:OPT Industries

アーリーステージのスタートアップが、大規模な資金調達を始める時に、まさに夢見るような報道のされ方であったことは間違いない。同社は米国時間3月1日、1500万ドル(約17億円)のシリーズA資金を調達し、再び注目を浴びることになった。このラウンドはNorthpond Ventures(ノースポンド・ベンチャーズ)が主導し、既存投資家のCrosslink Capital(クロスリンク・キャピタル)と、MITと提携しているE14 Fund(E14ファンド)が参加した。

InstaSwapは当面、この会社にとって不可欠な製品であり続けるだろうから、同社はこの綿棒の代替製品の生産拡大を計画している。今回の資金調達と同時に、OPTはLumiraDx(ルミラ・ダイアグノスティクス)が、InstaSwapを承認済み綿棒のリストに加えたことを認めた。3Dプリント製品がこの栄誉に浴するのはこれが初めてだ。

「先進的な製造企業として、私たちはマクロスケールの課題を解決するマイクロスケールの技術を構築することに価値を見出しています」と、創業者兼CEOのJifei Ou(欧冀飞、オウ・ジーフェイ)氏は述べている。「OPTは顧客と協力して、ヘルスケア、自動車、化粧品、消費財、その他の業界向けの斬新なメタマテリアルと製品の設計・製造に取り組んでいます。私たちはこの新たな資金を使って、InstaSwabの需要に対応し、製品開発を促進して、事業を拡大させ、チームを成長させるつもりです」。

画像クレジット:OPT Industries

その点から見れば、この綿棒はコンセプトの証明を超えたものであることは間違いない。しかし、これはOPTのアディティブ・マニュファクチャリング(付加製造・積層造形)を支える基盤技術の出発点のようなものでもある。同社の「RAMP 3D」と呼ばれる3Dプリンターは、エッジからエッジまでロール状にプリントするため、従来の方法よりもはるかに速い規模で高解像度のプリントを作成することができる。また、24時間プリント可能であるため、アディティブ・マニュファクチャリングの長年の目標であるサプライチェーン問題の対処において、極めて重要な役割を果たすことができると、同社は確信している。しかし、従来は規模を大きくすることに問題があった。

そこでOPTは、2021年後半に、InstaSwabの需要拡大に対応するため、最初の本社があるベッドフォードに近いマサチューセッツ州メドフォードに、1万4000平方フィート(約1300平方メートル)の製造施設を新設した。

画像クレジット:OPT Industries

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

金属3Dプリンターで超硬合金の金型開発と連続成形に成功、冷却配管・センサー用内部構造を持たせ製造管理が可能に

金属3Dプリンターで超硬合金の金型開発と連続成形に成功、冷却配管やセンサーを組み込む内部構造を持たせ製造管理が可能に

名古屋大学は2月28日、金属3Dプリンターによる超硬合金製の金型の製造と、それを使った連続成形に成功したと発表した。これまで超硬合金の金型では製作が困難だった、冷却配管やセンサーを組み込むための内部構造を持たせることが可能になり、成形製品の性能と品質の向上や軽量化などが期待できる。

自動車のエンジンの酸素センサーやハイブリッド車のリチウムイオン電池用ケースなどは、1枚の金属板を型に押し込みながら成形する「深絞りプレス成形法」によって作られた、つなぎ目のない底付き容器が用いられるが、高精度な製品を高速で成形するために、その金型には超硬合金が使われる。しかし、超硬合金は大変に硬いために加工が難しく、複雑な形状が作りにくいという課題がある。その一方で、製造コストを抑えて製品の品質を保つためには、金型を効率的に冷却するための配管を配置したり、温度や荷重の状態をリアルタイムでモニターするセンサーを取り付けるための複雑な内部構造を設ける必要がある。

そこで、名古屋大学(小橋眞教授、高田尚記准教授、 鈴木飛鳥助教)を中心とする研究グループは、金属3Dプリンターに注目し、金属の粉末をレーザー光線で溶かして積層する「レーザー粉末床溶融結合」(LPBF。Laser Powder Bed Fusion)プリンターを使った超硬合金による3Dプリント技術の開発に着手した。まずは、精密研磨剤メーカーのフジミインコーポレーテッドが、3Dプリントに適した超硬合金の粉末について、最適な原材料の調合、粒度分布、粒子密度、流動性の調整などを経て開発した。そして名古屋大学とあいち産業科学技術総合センターは、造形条件と造形後の熱処理方法を検討。最適条件を見つけ出した。

これを受けて、フジミインコーポレーテッドは3Dプリンターによる造形試験を重ね、超硬エンドミルや超硬ラティス構造体など、さまざま形状を造形できるようにした。さらに、旭精機工業がこの成果をもとに、内部に冷却配管やセンサーを内蔵できる空間構造を持つ深絞りプレス成形金型を製作した。金属3Dプリンターで超硬合金の金型開発と連続成形に成功、冷却配管やセンサーを組み込む内部構造を持たせ製造管理が可能に

完成した金型を実際の製造ラインに組み込んで連続成形の試験を行ったところ、金型にも製品にも問題はなく、製品製造に適用可能であることがわかった。3Dプリントによる超硬合金金型の成功例は、世界にも類がない「非常に画期的な成果」とのことだ。これにより、金型の内部冷却による製品の品質向上と、プレス成形を行いながらインラインで金型の圧力や温度計測を行い成形工程に反映させ、稼働状況の把握による製品精度を向上させる画期的な製造管理が可能になるという。

3Dプリントによる次世代小型バイオリアクターの開発でStämm Biotechが約20億円調達

この1年、細胞を使った食肉加工や微生物を使った医薬品製造など、バイオマニュファクチャリングが盛んに行われるようになっている。しかし、合成生物学は、バイオリアクターという重要な装置なしには成り立たない。生物学を利用した製造業の実現に向けて、世界中でさまざまな議論が行われているが、ある企業ではすでに最も重要な装置を再考に取り組んでいるしている。

2014年に創業されたStämm Biotechは、工業用やベンチトップのバイオリアクターにすら見られるタンクとチューブとつまみの集合体とはかなり異なっているデスクトップ型のバイオリアクターを開発している。ブエノスアイレスに拠点を置く同社はこのほど、1700万ドル(約20億円)のシリーズAを発表、これまでのシードとプレシードのラウンドを合わせると総調達額は2000万ドル(約23億円)になった。

Stämmが行っていることを理解するために、バイオリアクターは通常どのような形状で、その中で何をしているのかをまず知ろう。基本的には、工業用のバイオリアクターは、巨大な滅菌タンクだ。タンクの中に、特定のタイプの細胞や微生物を育てるための培地があり、それらが目的の製品を生産したり、あるいはそれ自体が製品そのものだ。

これらの細胞培養の工程はまず全体がモーターで撹拌され、冷却液を使って正しい温度を維持し、正しい量の酸素を供給、または無酸素状態を維持してその成長を促す。この工程はタンクではなく使い捨ての袋を使っても行うことができ、別のものを育てるときのタンクの滅菌作業を省略できる。

Stämmの方法は要するに、以上の工程からタンクと撹拌とチューブをなくしてしまう。その代わりに同社は、独自に開発した3Dプリントの基本装置を利用して、微小な流路の稠密なネットワークをプリントし、そこを細胞が通過する間に必要な栄養と酸素を供給される。そしてこの動きが、撹拌の役をする。

液体の流路が3Dプリントされる様子。細胞と酸素と栄養はさまざまな場所で加えられる。(画像クレジット:Stämm Biotech)

流路の設計はStämmのソフトウェアを使って行う。Stammの共同創業者でCEOのYuyo Llamazares(ユヨ・ラマザレス)氏によると、その工程全体を、クラウド上のCDMO(医薬品製造受託機関)と考えることができる。

「バイオ製品を開発する意志と、現在、市場に出回っているツールの能力との間に、大きなギャップがあることに気がつきました。そこで、それを自分の問題として解決しようと考えたのです」とラマザレス氏はいう。

バイオマニュファクチャリングは、製薬や化学、テキスタイル、香料、そして食肉に至るまで、多様な分野で、その細胞からものを作るという考え方が、次世代の生産技術として大きな関心を寄せられている。

たとえば150億ドル(約1兆7275億円)の評価額でIPOに至ったGinkgo Bioworks(時価総額は72億4000万ドル[約8338億円])は、製薬とそれ以外の分野の両方でバイオマニュファクチャリングの応用に積極的に取り組んでいる。しかしそんな、世界を変えるような製造技術も、エビデンスは少しずつ漏れてきている。

バイオマニュファクチャリングが約束していることはどれも、バイオリアクターがなければ実現しない。Stämmのアプローチは、マイクロ流体力学を利用してリアクターのサイズを小さくする。

3Dプリントされた部品の中を流れていく液体をCGで表現(画像クレジット:Stämm Biotech)

現在の同社の技術では、バイオマニュファクチャリングを行う設備の大きさを従来の数百分の一程度に縮小できる。しかしそれでも、これまでの大きなバイオリアクターに比べるとかなり小さい。Stämmのバイオリアクターの最大出力は約30リットルで、工業用に多い数千リットルではない。しかし、同社によると、そのプリントされた微小流路方式でも、理論的には約5000リットルまで可能だという。

技術のポテンシャルは大きいが、Stämmはまだ、その技術の商用化を始めたばかりだ。現在、同社はバイオシミラーの生産にフォーカスしているヨーロッパのバイオ製剤企業と協働しているが、他に検討しているパートナー候補は5社いる。計画では、同社が「パイロットスケール」に移行するのは2022年中となっている。

今は、パートナー企業が増えることがStämmの主な成功の証だとラマザレス氏はいう。「できるだけ多くのパートナーと直接の関係を持ちたいと考えています。それによって、私たちが開発した製品の有用性を確認したい」。

ビジネスの面では、まださまざまな問題がある。装置のコストについてラマザレス氏に確認すると、彼はコメントしなかった。そして彼は、クライアントが従来のマシンではなくマイクロ流体力学方式のリアクターを使い慣れて欲しいという。マシンとサービスの価格は未定だ。

「今は勉強の段階です。いろいろなビジネスモデルを理解し、クライアントとの対話に努めたいと考えています」とラマザレス氏はいう。

Stämmは、今回得た資金で社員数を倍増して200名にし、国際的なプレゼンスを拡張、さらに同社のマイクロ流体力学によるバイオリアクターとその制御に必要なツールの改良や開発を進めたいという。

このラウンドの新たな投資家は、リード投資家がVaranaで、他にVista、New Abundance、Trillian、Serenity Traders、Teramips、Decarbonization Consortium。そして彼らが仲間に加わった既存の投資家は、Draper Associates、SOSV、Grid Exponential、VistaEnergy、Teramips、,Cygnus Draper、そしてDragones VCもこのラウンドに参加した。

画像クレジット:Stamm Biotech

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(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

3Dプリントで「弾力性とエネルギー効率の高い住宅」を建てるICONが213億円調達、評価額は約2300億円に近づく

3Dプリントで家を作るICON(アイコン)は、Tiger Global Managementがリードするラウンドで1億8500万ドル(約213億円)を追加調達した。TechCrunchの独占情報だ。

この資金調達は、2021年8月に発表されたICONの2億700万ドル(約238億円)のシリーズBの延長線上にあるという。

オースチンに拠点を置く同社は、今回の資金調達について認めたものの、バリュエーションなどの詳細についてはコメントを拒否した。しかし、取引に詳しい匿名の情報筋はTechCrunchに対し、同社の評価額は「今や20億ドル(約2300億円)に近づいて」おり、一部の既存投資家も追加で資金を投入したと語った。

広報担当者は電子メールでこ「私たちは、世界クラスの投資家、役員、あらゆるレベルの組織と引き続き提携する機会をとてもうれしく思っています」と述べている。

これまでの投資家には、Norwest Venture Partners、8VC、Bjarke Ingels Group(BIG)、BOND、Citi Crosstimbers、Ensemble、Fifth Wall、LENx、Moderne Ventures、Oakhouse Partnersなどが含まれている。これらの投資家のうち、どこが今回の延長ラウンドに参加したかは明らかではない。今回の資金調達で、ICONは総額4億5100万ドル(約519億円)を株式で調達したことになる。

ICONは2017年末に創業。2018年3月のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト、毎年3月にオースティンで行なわれる大規模イベント)期間中に、米国で初めて許可された3Dプリントの家を発売した。350平方フィート(32.5平方メートル)の家のプリントには(25%の速度で)約48時間かかった。ICONがあえてコンクリートを素材に選んだのは、共同創業者でCEOのJason Ballard(ジェイソン・バラード)氏がいうように「地球上で最も弾力性のある素材の1つ」だからだ。

同社は前回の資金調達時、米国とメキシコの全域で、3Dプリントによる住宅や建造物を20数軒引き渡したと発表した。その半数以上は、ホームレスや慢性的な貧困状態にある人々のための住宅だ。例えば2020年、ICONは非営利団体のパートナーであるNew Storyとともに、メキシコで3Dプリントによる住宅を納入した。また、テキサス州オースティンでは、非営利団体Mobile Loaves & Fishesと共同で、長期にわたりホームレスとなっている人々のための住宅を完成させた。

2021年初頭には、テキサス州オースティンのデベロッパー3Strandsのために、米国初の3Dプリント住宅を販売し、住宅市場の主流に躍り出た。

そして2021年10月、ICONは、米国最大の住宅メーカーの1つであるLennarとの提携を発表した。Lennarは投資家として、ベンチャー部門を通じてスタートアップのLENxに投資している。両社が「これまでで最大の3Dプリント住宅のコミュニティ」と表現する100軒の住宅を建設する計画で、2022年中に着工する予定だ。ICONのロボット工学、ソフトウェア、高度な材料が用いられる。

ICONは、その3Dプリント技術により、従来の建築方法よりも早く、廃棄物も少なく、設計の自由度が高い「弾力性とエネルギー効率の高い住宅」を実現できると宣伝している。米国では多くの都市で深刻な住宅不足に陥っている。手頃な価格の住宅、特にオースティンのように住宅価格の中央値が過去1年間で46%も上昇したような市場では、その必要性がこれまで以上に顕著になっている。

今週初め、Homeboundは、Khosla VenturesがリードするシリーズC資金調達ラウンドで7500万ドル(約86億円)を調達し、その技術で住宅在庫不足に対処する独自の取り組みに着手したことを発表した。

画像クレジット:ICON

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

フォード、車内アクセサリーを自分で作れる3Dプリント用CADファイルを公開

Ford(フォード)は、ハイブリッド・ピックアップトラック「Maverick(マーベリック)」を発表した際に、3Dプリントで自分のオリジナルなアクセサリーを作成できるようになる可能性を予告した。その約束は守られたようだ。3D Printing Industry(3Dプリンティング・インダストリー)とNewsweek(ニューズウィーク)によると、フォードはマーベリックのセンターコンソール後方に備わるFord Integrated Tether System(FITS、フォード・インテグレーテッド・テザー・システム)スロットと、シート下の収納ボックスに対応する追加アクセサリーを3DプリントするためのCADファイルを公開した。これを使ってオーナーは、お気に入りの飲み物に合わせたカップホルダーや、所有する最新型スマートフォンに合った電話機ホルダーなどを、自分で作ることができる。

もっとも、フォードの動きは遅れていると言ってもいいだろう。マーベリックが発売されてから数カ月の間に、すでに愛好家たちがFITSに合わせたアクセサリーをデザインしている。ダッシュボードの棚や、フォード車以外でFITSアクセサリーを使うための非公式なFITSスロットさえ見つけることができる。とはいえ、公式ファイルがあれば、それだけアクセサリーの作成は容易になるはずで、ユーザーによるデザインが急増しても不思議ではない。

画像クレジット:Ford

同社は既製のFITSアクセサリーの販売にも積極的だ。しかし、デザインマネージャーのScott Anderson(スコット・アンダーソン)氏がNewsweekに語ったように、フォードが3Dプリントをサポートするということは、同社のユーザーに対する態度の「かなり大きな変化」を意味する。これは、自分でアクセサリーを作る人が増えていること、そして自動車のカスタマイズには、性能向上のためのチューニングや、見た目のドレスアップだけではなく、それ以上のものが含まれると、同社が認知していることの表れだ。フォードがアクセサリーの販売で失うものは、同ブランドの車を再び購入してくれる忠実なファンとして還ってくるかもしれない。

画像クレジット:Alex Kalogianni

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(文:Jon Fingas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

フォード、車内アクセサリーを自分で作れる3Dプリント用CADファイルを公開

Ford(フォード)は、ハイブリッド・ピックアップトラック「Maverick(マーベリック)」を発表した際に、3Dプリントで自分のオリジナルなアクセサリーを作成できるようになる可能性を予告した。その約束は守られたようだ。3D Printing Industry(3Dプリンティング・インダストリー)とNewsweek(ニューズウィーク)によると、フォードはマーベリックのセンターコンソール後方に備わるFord Integrated Tether System(FITS、フォード・インテグレーテッド・テザー・システム)スロットと、シート下の収納ボックスに対応する追加アクセサリーを3DプリントするためのCADファイルを公開した。これを使ってオーナーは、お気に入りの飲み物に合わせたカップホルダーや、所有する最新型スマートフォンに合った電話機ホルダーなどを、自分で作ることができる。

もっとも、フォードの動きは遅れていると言ってもいいだろう。マーベリックが発売されてから数カ月の間に、すでに愛好家たちがFITSに合わせたアクセサリーをデザインしている。ダッシュボードの棚や、フォード車以外でFITSアクセサリーを使うための非公式なFITSスロットさえ見つけることができる。とはいえ、公式ファイルがあれば、それだけアクセサリーの作成は容易になるはずで、ユーザーによるデザインが急増しても不思議ではない。

画像クレジット:Ford

同社は既製のFITSアクセサリーの販売にも積極的だ。しかし、デザインマネージャーのScott Anderson(スコット・アンダーソン)氏がNewsweekに語ったように、フォードが3Dプリントをサポートするということは、同社のユーザーに対する態度の「かなり大きな変化」を意味する。これは、自分でアクセサリーを作る人が増えていること、そして自動車のカスタマイズには、性能向上のためのチューニングや、見た目のドレスアップだけではなく、それ以上のものが含まれると、同社が認知していることの表れだ。フォードがアクセサリーの販売で失うものは、同ブランドの車を再び購入してくれる忠実なファンとして還ってくるかもしれない。

画像クレジット:Alex Kalogianni

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(文:Jon Fingas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

極小3Dプリント技術のScronaは大規模な製造業向けのプランを立ち上げる

Scrona AGは2015年に「最小のインクジェットプリントカラーイメージ」でギネスの世界記録になり、ちょっとした話題を呼んだ。80×115マイクロメートルのカクレクマノミの絵は、Kickstarterでキャンペーンときも話題になった。

ETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)からスピンオフした同社は、さらに大きな志を抱き、積層造形 / 3Dプリントを大量生産の世界に導入するために、極小プリント技術の規模を拡大することを計画、特にディスプレイ、PCB、半導体などのエレクトロニクス分野への応用を視野に入れている。後者は、チップ不足が続く中、多くの人が破壊を切望している分野であることは間違いないだろう。

Scronaの共同創業者でCEOのPatrick Galliker(パトリック・ガリカー)氏は、プレスリリースで次のように述べている。「Scronaを使えば、これまで不可能だったものをデジタルでプリントできます。それはどのような素材でも、スケールでもよいため、今日の製造技術と明日の革新的な製品の両方で速さと精度とコストを改善します。今回、Scronaのスケーラブルなプリント技術のディスラプティブなポテンシャルを理解しているエキスパートの投資家たちのシンジケートに支援されることに、私たちはとてもエキサイトしています。私たちの技術には、製造工程の工程数を1/10に減らす能力があり、また素材やエネルギーや水の使用量も大幅に減らすことができます」。

彼らのプランは、新しい投資という形でゴーサインをもらった。670万ドル(約7億8000万円)のシリーズAはAM Venturesがリードし、またスイス政府からの290万ドル(約3億4000万円)の助成金を加えると、合わせて1000万ドル(約11億6000万円)ほどのラウンドになる。

同社によると、3Dプリントは、従来の方法と比べて、速くてしかも解像度100倍のはるかに精密なプリントが可能になる。そのシステムは静電吐出を用いるので、金属や生物素材など、さまざまな素材を使うプリントが可能だ。

AM VenturesのJohann Oberhofer(ヨハン・オーバーホーファー)氏は、リリースで「Scronaの技術には大きなポテンシャルがあります。特に添加物の製造では、この技術で、これまでのプリントヘッドで処理できなかった素材も処理できます。最高の解像度と、高性能な素材をめぐる処理のこれまでの制約がなくなることの両方があることは極めてユニークなことです」と述べている。

画像クレジット:Sittikan Raingkhun/EyeEm/Getty Images (画像を加工した)

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

3DプリンティングのCarbonが主力ラインをアップデート、M3とM3 Maxの新モデルが登場

3Dプリンティングの大手Carbon(カーボン)は米国時間1月27日、同社の次世代3Dプリンティング主力製品である「Carbon M3」と「Carbon M3 Max」を発表した。ハイエンドのプロトタイピングと製造プロセスを対象としたこのプリンターは、サブスクリプションベースのパッケージで提供され、前世代のプリンターに比べて多くのアップグレードや改良が施されている。

新シリーズのハイライトの1つとして、簡素化されたプリンター体験が挙げられ、プリントプロセスの制御性が向上し、障害モードの低減が図られている。同プリンターはデザインスペースが広いため、旧世代のプリンターでは作れなかったパーツを作成でき、新しい形状や高強度のパーツをさらに開放する。熱管理(加熱と熱拡散の両方)が改善されたことで、プリンターのプリント速度が上がり、解像度が高くなってより滑らかなパーツの造形が可能になり、3Dプリントによる表面仕上げの精度が向上している。また、より再現性の高いプリントが可能なため、各パーツのばらつきを抑えることができる。

M3 Maxプリンターはビルド領域も拡大し、ピクセルサイズと密度はM3と同じでありながら、ビルド領域は事実上M3の2倍を実現。大型パーツの成型や小型パーツの量産に適している。

同社はこの新しいプリンターの価格について奇妙なことに堅く口を閉ざしている。市場が持ちこたえる分だけ顧客に課金するというエンタープライズの駆け引きを進めているためであろう。

「Carbonは工業用プリンターを製造しており、M1は月額約2100ドル(約24万円)からで、36カ月間の保証付きです」とCarbonのプロダクトマーケティング責任者であるRob L’Heureux(ロブ・ホイルー)氏は説明する。「価格について話す前に(私たちの顧客が)何を求めているのかを知り、彼らのために適切なデバイスを推奨していることを確認したいと思っています。一般的に、システムの規模と性能が向上するにつれて、パーツあたりの価格は下がっていきます」。

読者が今自宅で電卓を操作しているなら、旧世代のプリンターの3年間の価格は7万5000ドル(約863万円)になることがわかるであろう。つまりこれは、いとこのために風変わりなポケモンのフィギュアをプリントするのに時折使うような戸棚にあるプリンターではなく、本格的な産業用の仕事道具だということである。

「パーツあたりのコストを削減し始めると、対応可能な市場が拡大します」とCarbonの最高プロダクト責任者兼最高ビジネス開発責任者のPhilip DeSimone(フィリップ・デシモン)氏は説明した後、価格が下がっても、製造ミックスに射出成形向けの余地があることを強調した。「価格設定の観点で(3Dプリンティングが)射出成形と競合する時期については、さまざまな議論があります。プラスチック製のフォークやスプーン、Kカップなどに関しては、価格面で射出成形と競合することは決してないでしょう」。

高額な値札が付けられたプリンターは、製造を迅速に実施する必要がある場合や、小さな変更を継続的に行う必要がある場合、あるいはカスタマイズが重要となるプロダクトの場合に特に有用である。現在市販されているカスタマイズプロダクトの例としては、座面がライダーの体型にフィットするようにカスタマイズされた450ドル(約5万円)のSpecialized(スペシャライズド)のバイクサドルや、アディダスのカスタム3Dプリント製「4D」シリーズなどがある。

「製造におけるボトルネックは、多くの場合、従来の製造技術にあります。自動運転センサーに必要な電気コネクターを作るとしたら、その射出成形ツールに50万ドル(約5750万円)かかり、自分の仕事の物理的な部分を見るまでに6カ月から8カ月を要するでしょう」とデシモン氏は嘆き、3Dプリンティング技術について説得力のある主張を展開した。「私たちにとって、そのボトルネックのあらゆる小さな断片を切り詰めることに意義があります。人々がより早く生産ツールを手に入れることに私たちが貢献できたなら、それは私の考えでは勝利を意味します。革新的なプロダクトをいち早く市場に投入することを支援するという当社の目標は達成されたことになります」。

製造スペースでCarbonの技術を活用する上での主な推進力は、プリンターを使用することにある。何もしないで無為に時を過ごすプリンターはお金の無駄使いとなる。

「3Dプリント技術を採用した施設の多くで、設置されているプリンターが使用されていないのを目にします。私たちにとってそれは望ましいことではありません。こうしたプリンターが確実に使用されるようにしたいという思いがあります。その思いが主軸になって、あらゆる業界にまたがるインストールベース全体で、業界をリードする週40時間以上のプリント時間を確保しています」とデシモン氏は語っている。「当社の『Design Engine』ソフトウェアと『Carbon DLS』素材を組み合わせた、業界をリードするこの次世代プリンターを使用することで、さまざまな業種の設計チームはこれまで以上に迅速かつ効率的に、エンドユースのパフォーマンスを備えた極めて高品質なプロトタイプを作成することができます」。

2016年にM1が発売されて以来、Mシリーズのプリンターはしばらく存在している。これらのプリンターは現在も生産が続けられていて、今でも同社から入手可能である。だが真新しいM3にはさらに多くの付加機能が追加されており、特定のプロトタイピングや生産要件により適している。

1つには、M3の方がはるかに優れたユーザー体験を提供することが挙げられる。タッチスクリーンは、消費者向けプロダクトに期待されるユーザーフレンドリーさを加えている。同社によると、M3 Maxは4K DLPライトエンジンを採用した初めての3Dプリンターで、これまでのマシンと比べてほぼ2倍の解像度を維持しながら、プリント速度を犠牲にしないという。

「従来の3Dプリントでは、プリントサイズが大きいことが問題でした。ビルド領域が大きくなるにつれて、精度、プリント速度、一貫性が低下します」とデシモン氏は説明する。「そのため、新しいプリンターのローンチを心から喜ばしく思っています。ユーザーにとって既知のことや愛着のあることをすべて維持しながら、より大きなビルド領域を実現できるのは今回が初めてです。それを可能にするために、膨大な数のエンジニアリングが行われました」。

プリント速度はCarbonチームが特に誇りにしている領域の1つであり、M3シリーズはそこで顕著な改善を見せている。それはユーザーが必ずしも予期していないかもしれない角度からの速度増加である。

「このプリンターは2つの要因で高速になっています。1つはフォースフィードバックと呼ばれる技術です。従来のプリンターでは、マニュアルスクリプトと呼ばれるものを使って最適化していました。生産を最適化する方法に基づいて、さまざまな領域でパーツのプリント速度を変化させることも可能です。私たちがそうしたことを排除しようと考えたのは、それがプリントプロセスのダークアートのようなものであったからです。フォースフィードバックは、そのすべてをリアルタイムで行います。ビルドプラットフォーム上には、z方向への上昇に対応する高感度センサーが装備されています」とデシモン氏は説明する。プリンターが追加の吸引力を感知すると、プリンターは自動的に減速する。「閉ループのフィードバックシステムを採用しているため、可能な限り高速にプリントすることができます」。

「2つ目の主要なプロダクト機能は、完全に再設計されたウィンドウテクノロジーです。ご想像の通り、材料のプリント方法は熱によって大きく左右されます。材料によっては、発熱反応が非常に高いために冷却して熱を逃がした方が効果的なものもあります。また、樹脂によっては、加熱して粘度を下げた方がより良い結果が得られます」とデシモン氏は述べ、加熱と冷却によってプリントプロセスの制御性がさらに向上することを説明した。「これは、従来のテクノロジーでは実現できなかった方法でプリントプロセスを最適化することを意味します。必要に応じて熱を逃がすだけではなく、熱を加えることができるため、非常に効果的です。これらの技術革新が一体となって、速度の向上を実現しています」。

画像クレジット:Carbon

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

豪Fertilisが体外受精胚培養の自動化に向け約2億円調達

Fertilis共同創業者のジェレミー・トンプソン教授(画像クレジット:Fertilis)

体外受精(IVF)を患者と臨床医にとってよりストレスの少ないものに、そしてIVFをより成功させようと世界の多くの企業が取り組んでいるが、アデレード拠点のスタートアップFertilis(ファーティリス)はその輪に加わった最新の企業だ。

創業2年のFertilisは、超小型医療機器を使って細胞培養を自動化する技術で投資家から支持を取り付けた。香港の大物Li Ka-shing(李嘉誠)氏のベンチャーキャピタルで、Facebook(フェイスブック)やSpotify(スポティファイ)の初期投資家でもあるHorizons Venturesはこのほど、Fertilisの275万豪ドル(約2億円)のシードラウンドをリードした。他の投資家は明らかにされていない。

英国の国民保健サービスによると、2019年に出産に至った体外受精治療の割合は、35歳以下の女性でわずか32%だった。患者の年齢や精子・卵子の質といった要因が、成功率に影響を与える可能性がある。

胚の選別の改善に取り組むスタートアップが相次いでいる。例えば、TechCrunchが取り上げたイスラエル拠点のEmbryonics(エンブリオニックス)がある。生殖生物学者のJeremy Thompson(ジェレミー・トンプソン)氏と連続起業家のMartin Gauvin(マーティン・ゴービン)氏が創業したFertilisは、胚の培養という別の角度からこの問題に取り組んでいる。

体外受精のクリニックは「非常に忙しい場所」であり、専門家は「やらなければならないことすべてについて訓練を受けている」とトンプソン氏はTechCrunchのインタビューで語った。標準的な体外受精のプロセスでは、胚の発育に合わせてシャーレの中で細胞をさまざまな環境に移し替えていく。しかし、採卵からシャーレをラボに運び、胚を生殖器官に入れるまで「うまくいかないことがいろいろある」と同氏は指摘した。

「胚が臨床医に取り出されるたびに、環境は悪影響を受けるのです」とトンプソン氏はいう。「患者の希望や夢は文字通り、臨床医の一挙手一投足にあります」。

Fertilisのソリューションは、特許取得済みの3Dプリントのクレードルに各胚を入れることで、体外受精のプロセスを標準化し、自動化することだ。髪の毛ほどの幅のこの装置により「より人体に近い環境」で細胞を培養することができる、とトンプソン氏はいう。このクレードルはシャーレの上に置かれるため、臨床医は胚を直接扱う必要がない。

生殖技術に関する規制という点で、同社はユニークな立場にある。人間ではなく細胞に作用する医療機器を製造しているため、直面する規制は「一部の国ではもっと簡単なもの」だとゴービン氏は話す。同社は現在、FDA(米食品医薬品局)の承認を申請中だ。

Fertilisが調達した新しい資金は、継続的な科学的開発を支える。2022年後半には、カリフォルニア州の不妊治療クリニックと共同で臨床試験を開始する予定だ。また、欧州やアジアのパートナーとも話を進めており、今後数カ月以内に契約を締結する見込みだ。2023年までには、最初の市販製品を発売することを目指している。

技術的には、Fertilisの粒子サイズの装置は、他の種類の細胞の培養にも使用することができる。受精はスタート地点にすぎない。

「Fertilisの技術は、診断や治療から特定の細胞培養製品の製造に至るまで、幅広いヘルスケア用途に変革的な影響を与えると確信しています」と、Horizons Venturesのオーストラリアを拠点とする投資家Chris Liu(クリス・リュウ)氏は述べた。

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

ダブルユニコーンとなったFormlabs、新型3Dプリンターで最大40%のスピードアップを約束

FormlabsがKickstarterに登場したのは約10年前のこと。当時、混雑していた3Dプリンティング分野のスタートアップの中で、高解像度の光造形を身近に楽しめるアプローチを提供したことで注目を集めた。

それまで高価な工業用機械にしか使われていなかった技術をより手軽に導入できるようにしたことは、大きな話題となった。これが功を奏し、競合他社の多くが撤退していく中、同社は2022年初めにダブルユニコーンの地位を獲得した。同社によると、これまでに9万台以上のプリンターを販売しているという。

米国時間1月4日のCESで、MITからスピンアウトした同社は「Form 3+」と「Form 3B+」という2つの新しいプリンターを発表した。その名が示すように、新しいプリンターは、2019年に発表された「Form 3」と「3B」のアップデート版だ。ここでの主な更新点はスピードで、露光と印刷が初期モデルよりも最大40%速くなることを約束している。これは、レジンの硬化プロセスに使われるレーザーがよりパワフルで高出力になったことによるものだ。また、新しい「Build Platform 2」ベースで、プリントの取り出しがより速く簡単になった。

CEOのMax Lobovsky(マックス・ロボフスキー)氏は、CESのニュースに関連したリリースの中でこう述べている。「Formlabsはプロフェッショナル向けのデスクトッププリンター市場を創造し、当社のForm 3はベストセラーになりました。Form 3+は、ユーザーがアイデアからパーツを手にするまでのプロセスを、可能な限り迅速かつ簡単に行えるように設計された次の世代の製品です」。

また、今回の展示会では、電子機器製造、自動車、航空宇宙などの用途に特化した、プリンティング用の新しい静電放電(ESD)レジンも発表された。

画像クレジット:Formlabs

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】10年前のCES 2012を振り返る「Ultrabook、Noka Windows、全家庭に3Dプリンターを!」

家電製品(consumer electronics)は時間の経過を図る「ものさし」としてはよろしくない。そして、正直にいってConsumer Electronics Show(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)はさらによくない。これまで私がCESに行った回数はゆうに2桁に達しているが、だいたいが同じような体験だった。1週間続くニュースとピカピカのガジェットの山。トレーラーやプレスセンター、ホテルの部屋、コンベンションセンター会場などからは、ときとして非現実的なその年のトレンドを決めようとするニュースが飛び込んでくる。

ラスベガス・コンベンションセンターと数多くの博覧会会場とホテルのスイートルームは、善意と計画的陳腐化の亡霊で溢れかえる。それはこの業界の特質だ。今や日常となったデバイスのいくつかは、過去10年にCESでデビューしたものだが、ほとんどの場合、デバイスは現れては消える、そもそも店の陳列棚にたどりつけばの話だが。

CES 2022は奇妙なイベントになりそうだ。その理由はフロアで起ころうとしているどんなことでもなく、世界的にやむを得ない状況によるものだ(ただし、聞くところによるとBackstreet Boys[バックストリート・ボーイズ]のメンバーの1人は自宅のボクシング器具を見せびらかすために登場するらしい)。新型コロナウイルス感染症が蔓延する前の対面カンファレンスの意義を問う声はもちろんある。もっとも、いつだってCESは例外的であり、それはハードウェアが発表されるのと同じ部屋にいることの重要性によるものだ。

関連記事:CES 2022会場出展を断念する企業が続出、オミクロン株感染拡大受け

2020年のパンデミックるによるイベント中止をかろうじて逃れたCES 2021は、オールバーチャルの未来を予見するためのリハーサルだった。その結果はといえば、中途半端なものだった。それに対して、CES 2012にそんな問題は一切なかった。その前数年間の(世界同時不況による)わずかな落ち込みの後、その年の参加者は史上最多の15万3000人を記録した。成長はその後数年間ラスベガスを席巻し続け、2019年には18万2000人と再びピークを迎えた、と主催者であるCTA(全米民生技術協会)は述べている。

2012年のCESは、もはや存在しない形の携帯電話ショーのようだった。Mobile World Congress(モバイル・ワールド・コングレス)を翌月に控え、多くの大物企業はApple(アップル)にならって主力製品を自分たちの時間に発表するようになった結果、CESはかつてのような携帯電話の中心地ではなくなった。しかし、その後の10年間、その空間は別の分野の製品によってすぐに埋められた。中でも最も目立っているのが自動車で、今やショーの中心となっている。

Sprint Corporationの通信機器8T8Rの無線ユニットに接続されたカラーコードケーブル。1つの基地局の8基の受信機と8基の送信機を組み合わせて、SprintのLTE TDD 2.5 GHz回線の性能を向上させる。2014年8月13日水曜日、イリノイ州シカゴのビルの屋上にて。Sprintは7月に6年ぶりの四半期黒字を報告し、予測以上の契約者を獲得してアナリストの売上予測を上回った(画像クレジット:Daniel Acker/Bloomberg via Getty Images)

LTEはCES 2012会場のいたるところにあり、数年前の5G襲来のようだった。CNETは「4G騒動」とまで見出しに書いた。SprintがラスベガスのショーでWimax(ワイマックス)をデモしてから5年、会社はLTEの世界に踏み込む準備を整えた。Sony Xperia S(ソニー・エクスペリアS)が見出しを飾り、初代iPhoneがBlackBerryの時代の終焉の幕開けを運命づけた5年後、Motorola(モトローラ)はDroid 4(ドロイド4)で勇敢にも物理的キーボードを復活させた。

画像クレジット:TechCrunch

しかし、実際のところこのショーは、発表された2種類のLTE対応Windows携帯端末のうちの1台のものだった。HTC Titan II(HTCタイタン2)は、次世代ワイヤレステクノロジーを同OSで採用した最初のデバイスだったが、4.3インチAMOLED(アクティブマトリクス有機EL)ディスプレイ、8メガピクセル背面カメラ、512MB RAMと人目を引くデザインで参加者の興味をかきたてたのはNokia Lumia 900(ノキア・ルミア900)だった。

その1年前、Nokiaの歯に衣着せぬCEOだったStephen Elop(スティーブン・イロップ)氏は、会社の苦悩を氷の海に取り残されて燃え上がる船になぞらえた。Microsoft(マイクロソフト)との提携はNokiaの決断だった。1年後、Nokiaはモバイル部門をMicrosoftに売却した。

QWERTYキーボードにしがみつこうとしたDroid 4の勇気(結局運は尽きたとしても)に似て、Sony(ソニー)のbloggie(ブロギー)は、スタンドアロン型ブロギングカムコーダーの最後のあがきだった。それはCisco(シスコ)が、2009年に当時絶大な人気だったポケットカムコーダーを5億900万ドル(約509億円)で買収したFlip Video(フリップ・ビデオ)事業から撤退してから1年後のことだった。死んでいくカテゴリーの最後の燃えさしを「どうにでもなれ」とばかりに拾うのはSonyに任せた。

画像クレジット:TechCrunch

そして、あのUltrabook(ウルトラブック)があった。このカテゴリーの時代があったとすれば、それはラスベガスでの5日間だった。その年の半ばまでに、カテゴリーの終焉に関する話題はすでに始まっていた。Intel(インテル)が命名し、Copmutex 2011(コンピュテックス2011)で発表されたそのカテゴリーは、最新の薄くて軽い分類だったが、実際のところPCメーカーそれぞれによるMacBook Air対抗の試みだった。

Intelはそのカテゴリーに厳格なガイダンスを設け、薄さ、軽さ、バッテリー寿命などに焦点を当てた。結局、法外なコストと絶え間なく変わるゴールとスペックに加え、スマートフォンとタブレットの台頭によってUltrabookの運命は尽きた。

画像クレジット:TechCrunch

CES 2012では、デスクトップ3Dプリンティングは未来であり、MakerBot(メーカーボット)はその中心だった。ニューヨーク市拠点でオープンソースプロジェクト、RepRap(レップラップ)のスピンアウトだった同社は、ショーの場を利用してReplicator(リプリケーター)を発表した。前機種のThing-O-Matic(シング・オー・マチック)を飛躍的に改善したシステムは、Star Trek(スター・トレック)に由来する名前を擁し、すべての家庭に3Dプリンターをという夢に向かう大きな一歩を感じさせた。

価格、技術的限界、そしてFormlabs(フォームラブス)などのライバルのより高度なテクノロジーの到来によって、この分野の多くの企業が財を失い、結果的にかなりの規模のテック・ハイプ・バブルを明確に示すことになった。1年後、MakerBotは3Dプリンティングの巨人、Stratasys(ストラタシス)に買収された。同社は教育市場向けの3Dテクノロジーに焦点を合わせていた。

いつものことだが、CESはコンセプトであり続ける運命と思われる多数のコンセプトをもたらす。Samsung(サムスン)のSmart Window(スマート・ウィンドウ)も当然のごとくその1つだった。透明な窓型ディスプレイにタッチスクリーンを備えたデバイスは、誰もがあらゆるものを巨大スクリーンにしたがっていると思われた時代に多くの参加者の目を引いたが、CESブースの飾り以上にはなることはなかったようだ。付け加えておくと、それ以来同社は社内インキュベーター「C-Lab」の一環として、人工スマートウィンドウに投資している。なぜなら、繰り返しになるが、消費者エレクトロニクスはこと前進に関する限り、異様なほど繰り返しの多い業界だからだ。

10年がすぎ、CES 2012は成功よりも失敗に見えるかもしれない。たしかに、最も騒がれた製品は、後々最もダメージを受けている。すべての家庭に3Dプリンターもスマート・ウィンドウもまだない。でも、そうだ、LTEはちょっとした成功だろう。

画像クレジット:MANDEL NGAN/AFP / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ポリウス開発の建築用3Dプリンターを利用し排水土木構造物製造の実証試験を実施、産官学が国内初連携

建設用3Dプリンターを開発するポリウスが排水土木構造物製造で実証試験を実施、産官学が国内初連携建設用3Dプリンターを開発するスタートアップ企業Polyuse(ポリウス)は12月21日、国土交通省が主導する「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」(PRISM)において、加藤組と共同で建設用3Dプリンターによる施工DXの共同実証の実施を発表した。これは、国土交通省中国地方整備局広島国道事務所と広島大学も参画した、産官学による日本初の取り組みとなった。

この実証は、2021年12月13日から17日まで、令和2年度安芸バイパス寺分地区第4改良工事の現場にて行われた。加藤組の施工管理のもと、実際の工事現場で建設用3Dプリンターを使い、排水土木構造物を製造。そしてこの構造物に対して、広島大学大学院先進理工系科学研究科 半井健一郎教授主導のもと、硬化環境(外気温)による初期硬化の変化、経年劣化の推定検査、強度発言の変化に関する調査などが実施された。今後国内における建設用3Dプリンター施工での必要データの蓄積・公表を進めるという。

加藤組の加藤修司代表は、これまで日本の建設現場を支えてきた「スーパーマンのような職人たち」が時代とともに年老いて建設業から離れてゆく中、新たな感性を持ったクリエイティブ集団との協業が欠かせないと感じていたときにPolyuseと出会ったと話している。同代表によれば、Polyuseは、海外では主流のロボットアームを採用せず、単純な構造のものを提供しているとのこと。それは「強い単純な構造で安価なものこそ日本の中小建設企業のニーズにあっていることを理解しているからだ」という。

広島大学において造形した構造物に対し各検証を実施

広島大学において造形した構造物に対し各検証を実施

また半井教授は、型枠を組んで打ち込むという現在のコンクリート工法とは異なり、型枠を必要としない3Dプリントでは、「あらゆる形が自由に造形」でき、廃棄物も減ると話す。また、現在の工法では硬化後に型枠を外さなければ表面の品質がわからないが、3Dプリントなら施行中に確認でき、問題があれば硬化前に補修できることから、「施工手順も自由度が飛躍的に増加」するという。さらに、「施工方法は建設用3Dプリンターによって劇的に変化する」ものの、セメント系材料を使うために、従来のコンクリート工学分野の知見が活用できるとのことだ。

曲がった笑顔を矯正、3Dプリントされたカスタムメイドの歯列矯正用ブラケットを提供するLightForce Orthodontics

歯並びは人それぞれ異なることから、従来の歯科矯正学は芸術性と医学的な魔術性を兼ね備えるものだった。1990年代後半、インビザラインはカスタマイズ可能なアライナーで業界を一変させたが、結局アライナーは歯科矯正患者の30%にしか対応していないことがわかった。それ以外の患者には、あまり革新的な技術はなかったーだがLightForceが登場し、状況を一変させた。LightForce Orthodonticsは「あなたにフィットするカスタムサイズ」という洒落たスローガンを掲げ、3Dプリントされたカスタムメイドの歯列矯正用ブラケットと装着トレーを製作している。カスタマイズの程度が大きければ大きいほど良い。患者にとっては治療期間が短縮され、矯正医にとっては1000分の1mm単位の精度の矯正治療計画を提案できるようになるからだ。

LightForce Orthodonticsは、過去1年間で収益が500%、チームが300%成長するなど高度な成長を遂げた。これには投資家も注目しており、特にある投資企業は、この会社に食いつき、資金調達に参入したがった。その名もKleiner Perkinsで、同社は25年前に歯科矯正ビジネスに参入し、インビザラインへの投資で巨額の資金を得た。同社は今回のチャンスにも参加しており、今回のシリーズCラウンドでは、Matrix Partners、Tyche Partners、AM Venturesなどの過去の投資企業の参加を得て、LightForceに5000万ドル(約56億7300万円)を投入した。

LightForceのCEO・共同設立者であり、今でも矯正歯科医として月に4日診療しているAlfred Griffin III(アルフレッド・グリフィンIII)博士(DMD、PhD、MMSc)はこう説明する。「当社でいつも話していることは、すべての決定において患者さんを第一に考えるということです。私たちが行うすべてのことは、常に『患者さんにとって最善かどうか』という観点で考えられています。全員参加のミーティングでさえも患者さんから始まり、どうやって誰かを助けたのかを考えます。私たちが開拓している市場は、米国の全症例の75%を占める10代・思春期の市場です。思春期の心理を考えてみてください。子どもたちは自己意識を形成する時期です。矯正歯科医として個人的に見てきた中で、母親があれやこれやのせいで『うちの子がいじめられているんです』といってくるケースをどれだけ見てきたかわかりません。LightForceを使えば、そのような患者さんをより早く治療することができ、診療回数や学校を休まなければならない期間を減らすことができます。テクノロジーを活用することで、より良い結果を得ることができるのです」。

同社はちょうど1年前に1400万ドル(約15億8800万円)のシリーズBラウンドを実施したばかりで、さらなる資金を求めていたわけではなかった。しかしKleiner Perkinsからの連絡を受け、LightForceはその声に応え、資金調達の可能性があるかどうかを探ることにしたのだ。

LightForceのカスタムブラケット(左)は、歯に合った形状であることに加えて、サブミリ単位の精度で配置・整列できる。右は従来のブラケット(右)(画像クレジット:LightForce Orthodontics)

グリフィンによると「当社は、計画していたよりも少し早く資金調達を行いました。過去に当社を知った非常に有名なベンチャーキャピタルが見守ってくれていましたが、彼らと取引するのは私たちには少し早すぎました。Kleiner Perkinsは、ぜひ一緒に仕事をしてみたいと常に思っていた会社の1つです。特にWen Hsieh(ウェン・シェー)氏は、3Dプリンティングやハードテクノロジーに精通しており、ハードテック分野の優れた案件を数多く手がけています。Kleiner Perkinsは、歯科矯正分野で大きな実績を残している唯一のベンチャーキャピタルグループでもあります。20年前のことですが、Align Technologyは歯科矯正を良い方向に変えたと思います。Align Technologyでは2つの価値が生まれました。1つは審美的なメリットで、これにより成人層の需要が高まりました。2つ目は、彼らが行っていることのデジタル性です」。

「このようなイノベーションの多くは、業界の人間ではない人から生まれます」と、今回の投資を主導したKleiner Perkinsのパートナー、シェー氏はいう。「アルフレッドは自分自身が歯科矯正医であり、それが世界を変えることになりました。アルフレッド自身が歯科医であるため、ワークフローのどこに導入すればいいのかをすでにわかっているのです。通常のワークフローのどの部分が不要になるのか、どの部分が強化されるのか、時間配分をどうするのか、歯科技工士にどのような影響を与えるのか、クリニックの面積にどのような影響を与えるのか、患者さんの来院頻度にどのような影響を与えるのか、などなど。一方でアルフレッドは、シミュレーションや3Dプリントなど、他の分野の知識も取り入れています」。

なぜインビザラインだけを使って矯正を終わらせることができないのかと頭を悩ませている人がいるかもしれない。私も非常に似たような疑問を持っていた。分かったのは、アライナーは押すだけで、引っ張ることはできないということだ。歯を引っ張って他の歯と並べるのは、歯科矯正が得意とするところだが、アライナーにはそれができない。もう1つはコンプライアンスの問題だ。アライナーは1日22時間装着しなければなりませんが、人間にとってはこれは苦手なことだ。グリフィンは次のように指摘する。「母親は、治療が遅々として進まない場合、子どもを怒ることはありません。親子して、歯科矯正医を責めるでしょう」。

LightForceのブラケットやトレーは3Dプリントされる。これにより、矯正医はブラケットを歯の上の必要な位置に正確に装着することができる。新しいブラケットは半透明であるため、歯と同じ色に見え、目立ちにくくなっている(画像クレジット:LightForce Orthodontics)

この投資は、歯のある人にとって朗報だが、3Dプリントファンにとっても朗報だ。歯科矯正は、3Dプリント技術の世界最大の商用ユーザーの1つであり、現在、インビザラインは世界最大の3Dプリント企業だ。LightForceが膨大な数のプリンタを自ら購入できるだけの資金力を手にした今、この傾向は変わらないだろう。

今回の5000万ドル(約56億7300万円)の資金投入により、歯科矯正のための戦いが本格的に始まる。この新しい資金は、LightForceの運営と市場開拓のために使用される。当社は米国内の多くの歯科矯正医院が、アライナー治療のデジタルな利点と、歯列矯正の歯を動かす効率と質を組み合わせることができるように取り組んでいく予定だ。これはワクワクするが、複雑な過程になるだろう。ハイブリッドのセラミック矯正装置を顧客ごとにカスタムプリントする事業を拡大することは、論理的にも運営的にも非常に困難だ。

「規模拡大やマスカスタマイゼーションは、理論的には語られることはあっても、実際に取り組んだことのある人はほとんどいない、非常にユニークな問題です」とグリフィンは認める。「今、当社には約200人の社員がいますが、来年にはおそらく倍になるでしょう。営業とエンジニアリングが最大の経費となるでしょうが、人員の面では、物理的な製造とデジタル製造の両方において、製造技術者を一番に増やす必要があります」。

画像クレジット:LightForce Orthodontics

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

培養したヒトのリンパ節で医薬品開発貢献を目指すPrellis Biologicsが約16億円を調達

3Dプリント臓器を作成するツールを開発しているPrellis Biologics(プレリスバイオロジクス)は米国時間12月15日、1450万ドル(約16億円)のシリーズBラウンドを発表した。Prellisは何年もかけて組織エンジニアリング能力を開発してきたが、最近は特にある種の構造の開発に注力してきた。

これまで同社は、企業が薬物試験や最終的には移植のために健康で酸素の豊富な人間の臓器(またはオルガノイドと呼ばれるミニチュア版)を育てられるよう、スキャフォールド(細胞培養などの基盤となる足場)を3Dプリントすることにフォーカスしてきた。しかし最近、EXIS(Externalized Immune Systemの略)と呼ばれる新製品を発表した。これは、実験室で培養したヒトのリンパ節だ。

関連記事:3Dプリント臓器の商用化まであと数歩

リンパ節は人間の免疫システムの重要な部分であり、特定の免疫細胞を貯蔵し、体が免疫反応を起こすのを助ける。このリンパ節オルガノイドが、新しい治療法に対する人間の免疫システムの反応を模倣することで、医薬品開発に貢献するというのが理想だ。そして、おそらく、その過程で新薬の開発にも役立つ。

創業者でCEOのMelanie Matheu(メラニー・マテュー)氏は「この免疫システムを培養することで、治療薬が人間に投与される前に免疫反応を引き起こすかどうかを実際に試すことができます」とTechCrunchに語った。

「当社の強みは、(EXISが)箱から出て、完全に人間に使えるということです」。

2016年に設立されたPrellis Biologicsは、これまでに約2950万ドル(約33億円)を調達している。今回のシリーズBラウンドは、Celesta Capitalと既存投資家のKhosla Venturesがリードした。さらに、CelestaのアドバイザーでBerkeley Lightsの元CSO、Kevin Chapman(ケビン・チャップマン)氏を最高科学責任者として招く。また、元J&J Innovation社員のYelda Kaya(イェルダ・カヤ)氏がビジネス最高責任者として加わる。

薬物や病原体に対するリンパ節の反応は、免疫システム全体がどのように反応するかを予測する方法として知られている。それに応じて、チップ上のリンパ節から扁桃組織からのリンパ球オルガノイドの成長まで、ヒトリンパ節の体外モデルの開発に取り組んでいる学術研究機関は多い。

Prellisは、リンパ節オルガノイドの成長に必要な酸素と栄養の交換を促進するためにスキャフォールドを用いることで、この争いに参入した。マテュー氏によれば、この方法によってPrellisは「ヒトの免疫システムをヒトの外で再現する」ことができるのだという。

このようにリンパ節に注目することで、Prellisは抗体医薬の開発という新たな切り口を手に入れた。

新しい抗体医薬を開発し、臨床試験でどのように作用するかを予測することは、競争が激しい分野になってきており、現在、いくつかの異なるアプローチが進行中だ。

その中には、計算機によるものもある。1100万ドル(約12億円)を調達したばかりのNabla Bioは、自然言語処理を使って抗体を設計している3億7000万ドル(約422億円)のシリーズB資金を調達したばかりのGenerate Bioも機械学習によるアプローチをとっている。

Prellisのアプローチは、免疫システムをミニチュアでモデル化し、免疫反応をマイニングして薬剤候補の候補を開発するというものだ。マテュー氏は、これを人工知能ではなく「自然知能」と呼んでいる。

1回の採血で1200個のオルガノイドを作り、それらの免疫システムに特定の抗原を投与し、各免疫システムから何が出てくるかを見ることができる。このプロセスは、異なる免疫システムの特徴を持つ異なる血液ドナーを用いて行うことができ、分析するために多くの反応を作り出すことができる、と同氏はいう。

「このタンパク質と結合するかどうかという問題に対して、10人全員が同じ抗体のソリューションを出すことは非常に稀です。そのため、1人の人間から平均して500〜2000のユニークな抗体が得られ、それを人数でかけ合わせると、これらはすべて標的結合抗体になります」。

Prellis Biologicsの資料によると、採血から「抗体ライブラリー」作成まで約18日かかる。

画像クレジット:Prellis Biologics

マテュー氏によると、同社はSARS-CoV-2、インフルエンザA、マールブルグ出血熱に反応する抗体を開発している(これらの結果は公表されていない)。また、製薬会社5社と提携したが、マテュー氏は社名を明かさなかった。

Prellisは今回のラウンドで、研究開発主導型から製品重視型に移行することを計画している。つまり、より多くの医薬品会社との提携を進め、プラットフォームの能力を実証することを意味する。

成功に向けた大きな指標は、抗体治療を臨床に持ち込むことだとマテュー氏はいう。そのためには、製薬会社との提携が必要だが、自社で医薬品パイプラインを作ることも否定はしていない。

同氏は具体的なこと明らかにしないが、Prellisは治療用パイプラインをサポートする「内部技術」を開発中だと話す。

「技術開発が進めば、その方向へ進んでいくでしょう」と同氏は述べた。

画像クレジット:PIXOLOGICSTUDIO/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

3Dプリンティング企業のEssentiumが、SPAC経由で株式公開する計画を発表

アディティブマニュファクチャリング(⾦属3Dプリント、⾦属積層造形)の世界も、SPAC(特別買収目的会社)ブームと無縁ではいられない。Desktop Metal(デスクトップ・メタル)、Shapeways(シェイプウェイズ)、Markforged(マークフォージド)、Velo3D(ベロ3D)の各社は、いずれもSPACによる株式公開を完了したか、またはその計画を発表している企業だ。オースティンを拠点とするEssentium(エッセンティアム)は米国時間12月1日、Atlantic Coastal Acquisition Corporation(アトランティック・コースタル・アクイジション・コーポレーション)との逆さ合併により、この増え続ける企業リストに自社の名前を追加する計画を発表した

この取引が完了すると、合併後の企業価値は9億7400万ドル(約1100億円)となり、そのうち3億4500万ドル(約390億円)をAtlantic Coastalが現金で受け取ることになる。Essentiumは、アディティブ・マニュファクチャリングや3Dプリンティングへの関心が高まっている要因として、現在も進行中のサプライチェーン問題を挙げている。

「既存のグローバルサプライチェーンモデルの根本的な欠陥が、貿易不均衡や新型コロナウイルスの世界的大流行のような障害の増大によって悪化し、流通のボトルネックを長期化させています」と、同社CEOのBlake Teipel(ブレイク・タイペル)氏は述べている。「本日の発表は、これらのグローバルな課題に正面から取り組むことができる新しい製造パラダイムのために、長期的かつ持続可能なソリューションを提供する当社の取り組みにおける重要なマイルストーンを象徴するものです」。

TechCrunchがタイペル氏から話を聞いたのは2017年のこと。Essentiumは当時、プラスチックの3Dプリント素材をプリントしながら融合させ、従来のFDMプロセスよりも強度の高いオブジェクト作り上げるプラズマベースのシステムを発表していた。同社はまた、標準的な押出成形に比べて5倍から15倍の速度を誇ると言われる高速押出成形プロセスも活用しており、既存の顧客には米国国防総省、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)、Ford(フォード)などがいる。

今回発表された合併は、2022年第1四半期に完了する予定だ。

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

巨大な電子レンジを使って短時間かつ安価に金鋳物を製造するFoundry Lab

Easy Bake Oveenを覚えているだろうか?色のついた粉と水を混ぜて生地を作り、それを型に入れてオーブンに入れると、いつの間にか「チーン!」と鳴って気持ちの悪いお菓子ができあがる。ニュージーランドを拠点とするスタートアップ企業のFoundry Lab(ファウンドリー・ラボ)は、化学物質と「オーブン」の代わりに、金属と電子レンジを使って同じようなことをする方法を発見した。

Rocket Lab(ロケット・ラボ)のPeter Beck(ピーター・ベック)氏から支援を受けているFoundry Labは、米国時間11月29日に800万ドル(約9億900万円)のシリーズA資金を調達してステルス状態を脱した。同社は「文字通り、巨大な電子レンジ」を使って、金属の3Dプリントよりもはるかに早く金属部品を鋳造すると、創業者兼CEOのDavid Moodie(デイヴィッド・ムーディ)氏は述べている。

「ユーザーにとっては非常に簡単です。文字どおりの型を取り、冷たい金属の粉末や金属の鋳塊を投入し、電子レンジに入れてボタンを押して立ち去るだけです」と、ムーディ氏はTechCrunchに語った。「出来上がったときには、チーンと音も鳴ります。電子レンジで夕食を温めるのと同じくらい簡単です」。

(Foundryの電子レンジは、ニュージーランドの典型的なミートパイの調理にも使用されたことがある。わずか数秒で出来上がったものの、ムーディ氏によるとすばらしい味ではなかったそうだ)

インベストメント鋳造、3Dプリント、ダイキャストなどの一般的な鋳造方法では、製造に1週間から6週間かかる。Foundryによると、同社ではコンピューター支援設計(CAD)で3Dプリントした金型と巨大な電子レンジを使って、自動車用のブレーキシューを8時間足らずで完成させたことがあるそうだ。現在は亜鉛とアルミニウムに対応しているが、ステンレススチールの試作にも成功しており、将来的には銅や真鍮などの他の金属にも挑戦したいと考えているという。

Foundryの技術は、将来的には金属の3Dプリントがカバーできない製造業に適用することが考えられるものの、当面の目標は、自動車メーカーの研究開発チームが量産に入る前のテストや試作に使用できる、量産型と同じように機能する金属部品を開発するのに役立つことだ。

「私たちが交渉中のある企業では、1台の自動車が市場に出るまでに600台もの試作車を作っています。その間に変更や改良を繰り返すため、あっという間に費用がかさむことになります」と、ムーディ氏は語り「そのための工具の費用は5万ドル(約560万円)から10万ドル(1120万円)以上になることもあります」と付け加えた。

ムーディ氏は、Foundryを設立する前、工業デザインのコンサルタント業を営んでおり、大量生産のための製品を設計していた。試作品では3DプリンターやCNCマシンで製造された部品を使用しているため、量産品とは物理的な構造が違っている可能性があるという理由で、試験機関から常に申請を却下されることに、同氏は不満を感じていた。

「そこで私は、ニュージーランド人らしく物置に行き、運良く機能する方法を見つけたのです」と、ムーディ氏はいう。最近のニュージーランドでロックダウンが行われていた期間には、ムーディ氏が作業場に入れなかったため、実験の多くは一般的な電子レンジを使って行われたという。「我々が解決しようとしているのは、実際の鋳造であり、ダイキャストをシミュレートしながら、それをより速く、安く行うことです。ダイキャストを作るために工具で機械加工をすると、3~6カ月かかってしまうのが普通です」。

Foundryはまだ設立から間もない会社だ。現在はその超大型の電子レンジを数台しか所有しておらず、潜在的な顧客に試用してもらっている段階だ。今回のシリーズAラウンドは、オーストラリアで設立されたVCのBlackbird(ブラックバード)を中心に、GD1、Icehouse(アイスハウス)、K1W1、Founders Fund(ファウンダース・ファンド)、Promus(プロマス)、WNT Ventures(WNTベンチャーズ)が出資している。同社ではこの資金を使って、2023年末までに生産体制を整える予定だ。

さらに資金の一部は、スタッフの増員にも充てられる。同社はここ数カ月で急速に成長しており、資金調達を開始した当初は6人だったスタッフが、現在は17人のフルタイム社員を擁するまでになっている。さらに今後数カ月で35人に増やすことを目標としているものの、ニュージーランドでは新型コロナウイルス感染拡大の影響で国境が閉鎖されているため、難しい状況だ。

「国境が閉鎖されていることが、私たちに打撃を与え始めています」と、ムーディ氏はいう。「この国にはマイクロ波の専門家が2人いますが、2人とも仕事を持っています。これが特に大変です。だから、誰かに助けに来てもらおうとしているところです」。

ニュージーランドでは、今週オークランドがロックダウンを解除し、12月中旬には都市の境界線が国内の他の地域に開放されるなど、内部的な開放が始まっている。オミクロンの新種が事態を悪化させない限り、2022年4月30日からワクチンを接種した旅行者の受け入れを始める予定だ。そうすれば、Foundryをはじめとするニュージーランドのスタートアップ企業は、海外から人材を採用するチャンスを得ることができる。

Foundryはニュージーランドを拠点に開発を進めながらも、米国や欧州の市場をターゲットにしている。同社のロングゲームは、電子レンジの研究を続け、大量生産に必要な台数を製造できるようにすることだ。

画像クレジット:Foundry Lab

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ハードウェア設計プラットフォームが投資家の注目を集める、nTopologyが多額の資金を調達

ハードウェア設計のためのソフトウェアは、最近VC投資の世界で人気が高い。Flux(フラックス)やBild(ビルド)による最近のラウンドに続き、nTopology(エヌトポロジー)が6500万ドル(約74億円)もの大規模なシリーズDの実施を発表した。Tiger Global(タイガー・グローバル)が主導したこの資金調達により、ニューヨークを拠点とする同社の資金調達総額は1億3500万ドル(約154億円)に達した。既存投資家のRoot Ventures(ルート・ベンチャーズ)、Canaan Partners(カナーン・パートナーズ)、Haystack(ヘイスタック)、Insight Partners(インサイト・パートナーズ)もこのラウンドに参加している。

nTopologyは、工業デザイン、航空宇宙、自動車、医療など、幅広い分野のエンジニアが使用することを想定したCADソフトウェアを効果的に提供している。同社は従来のシステムよりもエレガントなソリューションを約束し、特に3Dプリント / 付加製造技術の世界に力を入れている。

画像クレジット:nTopology

「私はキャリアの初期に、CADのようなエンジニアリングソフトウェアのほとんどが、革新的な設計を推進する上でボトルネックになっていることに気づきました」と、共同設立者兼CEOのBradley Rothenberg(ブラッドリー・ローゼンバーグ)氏は、このニュースに関連したリリースの中で述べている。「特にエンジニアの問題を解決するために設立された当社は、エンジニアが積層造形プロセスのパワーを十分に活用し、これらの旧態依然とした設計ツールによって残されたギャップを埋めることができるようにします」。

同社は最近、社名と同名のソフトウェアのv3.0をリリースした。現在はFord(フォード)、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)、Honeywell(ハネウェル)など、約300社の顧客を抱えている。また、最近では、3Dプリンター大手のStratasys(ストラタシス)と提携し、積層造形ワークフロー用のソフトウェアプラットフォーム「FDM Assembly Fixture Generator(FDMアセンブリ・フィクスチャー・ジェネレーター)」を開発した。

nTopologyによれば、今回調達した資金は、国際的な事業拡大とソフトウェアの追加機能の開発に充てる予定だという。

画像クレジット:nTopology

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

東北大学が擬似固体リチウムイオン電池の光造形3Dプリント製造技術を開発、室温・短時間でオンデマンド製造

東北大学が擬似固体リチウムイオン電池の光造形3Dプリント製造技術を開発、様々な基板上に室温・短時間でオンデマンド製造

東北大学は11月11日、インク化した正極、電解質、負極を光造形方式3Dプリンターで成型して固体リチウムイオン電池を製造する方法を開発した。燃えにくい擬似固体電解質膜を室温で、数分間で作れるため、車載用から体内埋め込み用まで、応用の幅が大きく広がる。

東北大学多元物質科学研究所の小林弘明助教と本間格教授らの研究グループが開発した方法は、擬似固体電解質材料となるリチウムイオン伝導性イオン液体と酸化物ナノ粒子の比率を調整し、ゲル状にしたものを紫外線効果樹脂に混ぜ、光造形3Dプリントで成型するというもの。これにより、室温でごく短時間で製造可能な、難燃性の電解質膜が生成できる。正極はコバルト酸リチウム、負極はチタン酸リチウムをそれぞれインク化してプリントする。

室温でプリントできることから、ポリマーなどの熱に弱い基板上にも直接プリントできるため、ウェアラブルデバイスへの応用も可能となる。また3Dプリントで製造できるため、医療用インプラント機器、生体適合性マイクロ電池のような小さなものから、車載用電池や設置型の電源などの大型のものまでオンデマンドで対応できる。

今後は、素材のインク化技術を活かして、マグネシウム蓄電池などの次世代、次々世代の二次電池への応用も期待されるとのことだ。