発行も管理も全てオンライン完結、法人カードで企業の決済課題を解決するHandiiが3億円を調達

近年世界のFinTech領域の中でも急速な成長を遂げ、注目を集めているスタートアップ・Brex。

独自のモデルで法人用クレジットカードの概念をアップデートし、スタートアップへ新しい決済の仕組みを提供する同社は、サービスローンチから約1年半でユニコーン企業リストに名を連ねるまでになっている。

今回は国内でも大きな可能性を秘める「法人カード領域」に、Brexとは少し違った角度からアプローチしようとしている日本のスタートアップHandiiを紹介したい。

同社は6月25日、ニッセイ・キャピタルとCoral Capitalより総額3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。調達した資金を活用して今秋リリース予定の法人向けウォレットサービス「paild(ペイルド)」の開発を強化する計画。本日より同サービスの事前登録受付も開始している。

Handiiは2017年の設立。これまでニッセイ・キャピタルなどから約1億円を調達しており、今回のプレシリーズAラウンドを含めると累計の調達額は約4億円になる。

発行も管理も全てオンラインで完結する法人向けウォレット

Handiiが現在開発を進めているpaildは、法人カードをオンライン上ですぐに発行できるプリペイド式のウォレットサービスだ。

同サービスは従来の法人カードとは異なり、カードの発行や細かい権限設定が全てオンラインの管理画面から行えるのが特徴。追加発行や発行したカードの停止、個別の利用上限額の設定などをスピーディーかつ余計な手間をかけることなく実行できる。

カードは約5300万以上のVisa加盟店で使うことができ、バーチャルカードだけでなくプラスチックカードの発行も可能。使い方自体はクレジットカードの場合と変わらない。

プリペイドタイプのため与信審査やそれに伴う利用限度額の制約もなし。何枚でも発行できるので各社員に配布して立替経費精算にかかる時間やコストを削減するのにも使えるし、用途に応じて別々のカードを使い分けるというやり方もありだ。

ヒアリングで気づいた法人決済に関するペイン

Handii代表取締役社長兼CEOの柳志明氏は東京大学大学院を経てJPモルガンに入社。国内外のテック企業を中心にM&Aや資金調達のアドバイス業務に従事した後、2017年8月に創業している。

高校の同級生で三菱東京UFJ銀行のクオンツとして働いていた森雄祐氏(CTO/共同創業者)に声をかけ2人で事業案を検討し、当初は「無人ジム」事業を展開しようと動き出していたそう。最終的には事業ドメインを変更し、2人のバックグラウンドとも関連性の高いFinTech領域で再スタートを切った。

FinTechの中でも法人カード分野から事業をスタートしたのはなぜか。まさにBrexを始めとしたカード型のスタートアップが海外で急成長を遂げ「解決している課題が面白いと関心を持った」ことに加え、柳氏自身が起業後に直面した課題が大きな影響を与えているという。

「会社を設立した時に作った企業用のクレジットカードは上限金額が30万円。そのうち20万円くらいは固定で使っていたため『新しく広告を打ちたい』と思った時に上限枠を引き上げる必要があったが、結局60万円までしか上がらなかった。手元にお金自体はあったのにクレジットの上限の関係で十分に広告を打てない状況に陥って困った経験がある」(柳氏)

周囲に話を聞いてみたところ、どうやら同じような課題を抱える人が多いことがわかった。特にスタートアップの場合は資金調達をして手元にそれなりのお金があるものの、売上はまだ立っていないためクレジットの上限が限られてしまうケースがある。

その結果、30〜40社にヒアリングをしてみると「カードが止まってしまった経験のある企業」が一定数いたそうだ。

またヒアリングをする中で、スタートアップに限らず中堅規模の企業なども含めて「立替経費の精算」に関して課題を感じている企業が多いこともわかってきたという。

「経費精算に関するデータをエクセルなどに打ち込んで申請するのも、担当者がそれを個別で確認するのも大変。たとえば出張が多いような人だと金額も多くなり自腹で立て替えるのが苦しいので、(従業員側から)経費精算のスパンを短くして欲しいなど色々な要望もある」(柳氏)

柳氏によると、とある業界や企業では「仮払金」という形で会社から従業員に一定の金額をあらかじめ支給しておき、後からレシートなどを見て差し引きするような仕組みがあるそう。その場合もやはり担当者の負担が大きくなるほか、社員から盗まれるリスクも考慮しなければならない。

法人にとって最適な決済手段の開発へ

各社ごとにそれぞれ状況は異なれど「法人カードや法人決済」の領域に大きなペインと可能性があることはヒアリングを通じて明確になった。それらの課題を「プリペイド式の法人カードサービス」という形で解決しようというのがHandiiのチャレンジだ。

概要は上述した通りだが、プリペイド式にすることで入金した金額の分だけ使うことができるため与信枠で悩むことはない。またカードに関連するアクションを全てオンラインからスピーディーに実行できる仕組みを整えることで、各社のニーズに合わせた使い分けができるようになる。

「人の入れ替わりや紛失時のカード発行・利用停止はもちろん、各カードの上限金額の変更なども臨機応変にできる。経費精算もカードに置き換えればデータをすぐに飛ばせるので、面倒な業務の負担を軽減することにも繋がる」(柳氏)

経費精算については自社でプロダクトを開発するわけではなく、API連携などを通じて他社ツールと繋いでいく方針とのこと。この領域ではクラウド経費精算サービス「Staple」を運営するクラウドキャストが法人向けのプリペイドカードを準備していたりもするので、やはり大きなペインがある分野と言えそうだ。

今回Handiiでは資金調達と合わせて、paildのリリースに向けてオリエントコーポレーション(オリコ)と提携したことも発表している。今後は調達した資金を活用して組織体制の強化を進めるほか、オリコと共同でpaild の国際ブランド対応業務や、Handiiが今後提供する新しい金融サービスについても検討していくという。

「そもそも現在の法人用カードや決済サービスが最適なのか、本当にプロダクトマーケットフィットしているのかと常に考えている。たとえば日本は個人向けのカードの方が普及していることもあり、法人用のカードにも個人と同じポイントプログラムがついていたりする。でも本来企業が求めているのは複数のカードを管理したり権限を設定したりなど、個人用とは全く別の機能だ」

「そういった意味では法人の決済領域はまだまだ未開拓で、色々なチャレンジができる余地がある。従来の法人カードにはない機能や使いやすさを通じて、法人向けの新しい金融インフラを整備していきたい」(柳氏)

最短24時間で請求書を現金化、クラウドファクタリングのOLTAが25億円調達

右からOLTA取締役CFO 浅野雄太氏、取締役CSO 武田修一氏、代表取締役CEO 澤岻優紀氏、個人投資家として同社を支援する有安伸宏氏

既存の金融を“拡張”し、個人や企業に新たな資金調達の選択肢を提供する「オルタナティブファイナンス」は、近年FinTech界隈で注目を集めている領域の1つだ。

クラウドファンディングやP2Pのオンラインレンディングなどがその代表格だが、ABL(動産担保融資)やファクタリングを始め、テクノロジーの活用でこれまでにない資金調達手段を開発する、もしくは従来の仕組みを進化させようとするスタートアップが国内外で登場している。

今回取り上げるOLTA(オルタ)もまさにそうだ。同社が取り組むのは入金待ちの売掛債権(請求書)を売却することで資金調達ができる「ファクタリング」のアップデート。オンライン完結型のクラウドファクタリングサービス「OLTA」を開発する。

そのOLTAは6月24日、さらなる事業拡大に向けて総額で約25億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

内訳はSBIインベストメント、ジャフコ、BEENEXT、新生銀行を引受先とした第三者割当増資が約18億円。そこに三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など複数の金融機関からの融資が加わる。

OLTAではこれまで個人投資家の有安伸宏氏、ジャフコ、BEENEXTから5億円を調達済み。2017年4月の創業以来、累計で30億円を調達したことになる。

オンライン完結、特徴は「はやい・かんたん・リーズナブル」

最初にファクタリングとはどのようなシーンで使われる仕組みなのかを簡単にだけ紹介しておこう。

例えば中小の部品工場が取引先に製品を納品した場合、その瞬間すぐに現金で代金が支払われるわけではなく、請求書を発行して1〜2ヶ月後に入金されるのが法人間の一般的な契約パターンだ。

特に相手が大手企業だとある程度の取引金額になる一方で「早く支払って」と言える関係性にないため、「売上はあるけど手元に現金がない状態」が発生し、経営者が短期的な資金繰りに頭を悩ませるケースが多いという。

そんな時、いずれ入金される予定の請求書を売却することで運転資金を調達できるのがファクタリングだ。

この仕組み自体は決して新しいものではなく、以前から日本国内でも複数の事業者がサービスを展開していた。ただこれまではアナログの側面が多かったため、郵送または面談で申込書類を提出し、審査も対面で実施。請求書を買ってもらえるかわかるまでに数日かかっていた。

運営会社としても1件ごとにある程度の手間や人件費がかかるので、その分だけユーザーが支払うサービス手数料も増える。未回収リスクも含めると、結果的に手数料が20〜30%になるのが一般的なファクタリングだった。

この一連のフローをオンライン完結型にして、さらにテクノロジーを活用した審査モデルを組み込むことで圧倒的に使いやすくしようというのがOLTAのチャレンジだ。

OLTAのクラウドファクタリングではオンライン上で必要書類(代表者の本人確認書類、売却する請求書、直近7カ月の入出金明細、昨年度の決算書)を提出すると、独自システムによる審査が実施。通過した場合には指定の口座に買取金額が入金される。

ユーザーは売掛先から支払い期日に代金を受け取った後、買取金額と手数料をOLTAに返還する仕組みだ。

OLTAの特徴はスピード感と手続きの簡単さ、そして手数料の安さにある。会社にいながらファクタリングの申し込みができ、審査も最短で24時間以内。契約完了後は即日で買取金額が振り込まれる(時間によっては翌営業日になる場合もある)。

手数料も業界最安水準の2〜9%。100万円の請求書を売却する場合、90万円以上をスピーディーに調達できる計算だ。OLTAで取締役CSOを務める武田修一氏によると、もちろん手数料の安さはOLTAを選んでもらえる1つのフックになるものの「24時間以内に請求書を買ってくれるかわかるのが画期的で好評」だという。

「銀行に融資の相談をする場合、借りられるかどうかの結論が出るまでに数週間〜1ヶ月かかることがある。既存のファクタリングもオフラインの手続きと審査が必要なので、どうしてもある程度の時間が必要だ」

「ユーザーが困っているのは、入金日までの運転資金をどう集めるか。巨額の金額を調達したいというよりは困った時に困った分だけ資金提供してもらえる方法を探しているため、圧倒的に早いスピードで、なおかつ借金ではない形で資金を調達できる仕組みにはニーズがある」(武田氏)

申込総額は100億円を突破、独自のスコアリングモデルがカギ

2017年末からクローズドβ版の運用を始め、すでに申込総額は100億円を突破。OLTA代表取締役CEOの澤岻優紀氏の話では、主な利用者は社員数が10〜20人ほどで年商規模が1億円以下の中小企業とのこと。買取金額も数十万円〜数百万円がボリュームゾーンだ。

「そこまで大きな額ではないので、銀行から融資を受けたいと思っても審査の対象にならないことすらある。仕方がないので代表者が個人のカードで借金をしたり、親族借り入れで済ませたり。中小企業が短期で少額の資金を調達したいと思った際の選択肢が非常に限られていて、ペインが大きい」(澤岻氏)

アパレルのデザインに特化したある企業では、事業は好調だがキャッシュフローが回らず、大きな仕事の話が来た時に「入金待ちの状態で手元に現金がないこと」が原因で受けれないような状況に陥っていたそう。

特に中小企業ではそのような“機会損失”が生まれていることも多く、そんな場面で「あの入金待ちの請求書を売って次のチャレンジをしよう」とOLTAが活用されるわけだ。

また上述した特徴に加えて、OLTAの場合は「二者間ファクタリング」であることもポイントだという。

ファクタリングには売却対象となる請求書の取引先(売掛先)を当事者として巻き込む三者間ファクタリングと、巻き込まない二者間ファクタリングがある。長く運営されているタイプのサービスは、売掛先から資金を回収する三者間ファクタリングが多いが、そこに抵抗感のあるユーザーも一定数いるようだ。

「三者間でファクタリングを使いたいとなった場合、当然売掛先にも知られるので『あれ、この会社資金繰りが危ないのかな』と思われ、それ以降の取引に影響しかねない。だからこそ二者間ファクタリングには隠れた需要がある」(武田氏)

もちろん、サービス運営会社にとっては三者間タイプの方が売掛先から回収できるので未回収リスクを減らせるメリットがある。二者間の場合はいかに未回収リスクを減らせるか、「審査」の工程が重要。ここに手間をかけ過ぎたり、審査精度が低かったりすると結果的にユーザーの手数料に反映され使いづらいサービスになってしまう。

OLTAの場合はこの工程でテクノロジーを活用している。具体的には約20万社のデータに基づくAI(スコアリングモデル)を開発し、現在の手数料でも事業を拡大できる仕組みを整えた。

「中長期の融資のように3年後、5年後に貸したお金が返ってくるかを予測するのは簡単ではない。ただ自分たちの場合は、1〜2ヶ月後にちゃんと入金されるかどうかを見抜きたい。つまり非常に短期間の予測である点がポイントで、ここはAIでもかなり高精度で予測できると考えている」(武田氏)

これまでにデフォルトは一定程度発生しているそうだが、サービスを継続する上で大きな影響を与えるレベルではなく、ごく一部とのこと。「デフォルトじゃないデータだけでなく、デフォルトした場合のデータもしっかりと学習データとして活かすことで、より審査精度を高めていける」(澤岻氏)という。

中小企業に融資以外の資金調達手段を

海外では「BlueVine」や「Fundbox」など、数年前からオンラインファクタリングサービスに取り組むプレイヤーがいくつか存在している。

澤岻氏によると自社の事業ドメインをこの領域に決めたのは「海外ではすでに明確なニーズとマーケットがあることが証明されていて、スタートアップとしての戦い方で挑める領域だった」ことも1つの理由だ。

もともと澤岻氏は前職の野村證券で投資銀行部門に在籍し、大企業向けに資金調達のサポートを行ってきた。その仕事を通じて自身でも起業したいと奮い立ち、事業の方向性などを明確に決める前に独立したそうだ。

「大企業はビジネスアクションに合わせて融資や社債、株式など色々な資金調達手段を選ぶことができる。一方で中小企業の場合、ほとんどは融資だけ。自社の状態に応じて複数の選択肢の中から選べる状況を作ることは、単に融資をアップデートをするよりも価値があるのではないかと思った」(澤岻氏)

退職後、現在のクラウドファクタリングの事業モデルを立案。三菱UFJフィナンシャル・グループが主催するMUFGデジタルアクセラレータに選ばれたことをきっかけに、2017年4月にOLTAを創業した。

個人投資家として同社に出資する有安氏もマーケットのポテンシャルやファウンダーとの相性の良さを感じ、TwitterのDM経由で出会った後「プロダクトなし、会社も設立前」の状態から支援している。

「海外ではすでに急成長するスタートアップが出てきていて、社会的にもファクタリングという機能が必要とされているものの日本ではあまり浸透していない。伸びしろがある領域であり、なおかつファウンダーとマーケットのフィット感もすごく良かった」(有安氏)

澤岻氏だけでなく元ソニーの武田氏や、三菱商事・楽天を経てジョインした取締役CFOの浅野雄太氏をはじめ、金融業界を筆頭に大手企業出身のメンバーが多いことも特徴。スコアリングモデルを開発したメンバーも、過去に銀行の格付けモデルを開発していたデータサイエンティストだ。

国内でもマネーフォワードグループのMF KESSAIなどオンラインファクタリングサービスを手がける企業も徐々に登場し始めているが、まだまだ認知度も低く整備も進んでいない領域。ファクタリングと言いつつ貸付業務を行う悪質な事業者も一部では存在し、ファクタリングに対してマイナスのイメージを持っている企業もいるという。

そんな未成熟のマーケットだからこそまずは正しい認知を獲得していくのが重要だ。OLTAでもこれまではステルスでプロダクトを磨きつつ、弁護士同席の元で複数回金融庁に確認を取りながら事業を進めてきた。

他社との連携強化でゆくゆくは法人版クレジットスコアの開発も

そんな中で申込総額も100億円を超え、ある程度の手応えを掴みつつある段階で実施した今回の資金調達。集めた資金は組織体制の拡充に向けた人材採用と、ファクタリング事業のさらなる拡大に用いるという。

澤岻氏や武田氏がこれからの注力ポイントにあげるのが「金融機関や事業会社とのパートナーシップ」。すでにクラウド会計ソフトを展開するfreeeとは連携をしていて、今後はこのネットワークを広げていく計画だ。

クラウド会計ソフトや受発注管理システムなどと繋げることで「会計ソフト上で債権を売るといったように、よりシームレスで使いやすい体験を設計していく」(澤岻氏)のはもちろん、地銀など金融機関とも協業を図りユーザー体験の向上とデータの蓄積を進める。

「地域経済を支えているのは各地の金融機関。ただ彼らが抱えている法人の顧客は多いものの、実際の融資先となるのはその一部に限られる。(地銀とタッグを組むことで)これまで融資の対象にならなかった層にクラウドファクタリングを普及させていきたい。地方の事業者にとっては資金調達の選択肢が増えることになり、銀行にとっても新しい層と接点を作れることに繋がる」(武田氏)

その意味で、武田氏はクラウドファクタリングを既存の金融機関を“代替”するものではなく“補完”する存在だと捉えているそう。以前からゆくゆくはスコアリングモデルを地銀などに提供することも見据えて、自社で請求書の買取をしながら開発を進めてきた。

今後は様々なプレイヤーを「競合ではなく協業相手として巻き込んでいく」ことで、ファクタリングに限らず中小企業の資金調達環境を変えていくのが目標だ。

「『あらゆる情報を信用に変えあたらしい価値を創出する』ことをミッションとしているように、ファクタリングでナンバーワンになることだけを目指している訳ではない。方向性として考えているのは、アリババが手がけるクレジットスコアの法人版のような仕組みが作れるのではないかということ」

「中小企業の本当の状況をリアルタイムにきちんと評価できるようになれば、必ずしも請求書を買い取るだけでなく(他社と連携して)別のソリューションを紹介したり、自分たちで新たな仕組みを作って提供することもできる。スコアリングモデルを核に、中小企業や個人事業主が抱える課題の解決を目指したい」(澤岻氏)

優秀なロボットをフォローして仮想通貨を自動売買、efitが約9000万円を調達

仮想通貨の自動売買サービス「QUOREA(クオレア)」を展開するefitは5月27日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資により約9000万円を調達したことを明らかにした。

同社に出資したのは既存投資家であるKVPのほか、岡三キャピタルパートナーズ、社名非公開の東証一部上場企業とその他1社。累計の調達額は約1.2億円になるという。

QUOREAは“投資ロボット”をフォローすることで、手軽に仮想通貨の取引ができるサービスだ。以前“勝率の高いトレーダー”の注文を真似して全自動のシステムトレードができる「マネコ」を紹介したけれど、QUOREAの場合はトレーダーではなく他のユーザーが作成した投資ロボットをフォローする。

同サービスでは高度な数理モデルなどを組み込んだクオンツ運用やテクニカルトレードを自動で行う投資ロボット(アルゴリズム)を、プログラミングの知識なしで制作することが可能。現在登録されているロボットは1500を超えるという。

各ロボットについては累計損益などの運用成績、リターンやリスクといった概要、AIによる「オススメ度」がチェックできるので、ユーザーはその中から自分に合ったロボットを探す。

ロボットの成績をチェックしたりフォローする際には特に費用がかからず、実際に自動売買を行った場合に月間のトータル取引高に応じて手数料が発生する仕組み。またロボット制作者は自身が制作したロボットを使って他のユーザーが利益を得た場合、収益を得ることができる。

efitでは今後QUOREAの機能強化や新機能の開発に取り組むほか、仮想通貨に加えて株式やFXへの対応を進めていく計画だ。

Origami「半額」キャンペーン第二弾はDEAN & DELUCA、1月25日スタート

スマホ決済のOrigamiは1月23日、「Origami Pay」利用で対象店舗の商品が最大半額になる「オリガミで、半額。」キャンペーンの第二弾を発表した。

2019年1月25日から31日の期間中、惣菜などを販売する「DEAN & DELUCA」とカフェ「DEAN & DELUCA CAFE」のうちOrigami Payが利用できる店舗で、Origami Payでの支払いが何度でも即時で半額となる。

本キャンペーンの最大割引金額は1000円。税込2000円までの場合は半額となり、それを超える場合は割引額1000円が適用となる。ただし、Origamiクーポンとの併用はできない。

同社は昨年末の12月、PayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」やLINE Payの「Payトク」キャンペーンが開催されている中、このキャンペーンの第一弾を発表。吉野家の牛丼並盛が半額相当となっていた。

今後はケンタッキーフライドチキンを対象にした第3弾が2月に予定されており、ホームページ上では第6弾まで予告されている。

ロボアドバイザー「WealthNavi」が40億円を調達、預かり資産は1000億円を突破

資産運用を全自動で行うロボアドバイザー「WealthNavi」を運営するウェルスナビは11月9日、複数の株主を引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資などにより、総額で40億円を調達したことを明らかにした。

内訳は第三者割当増資が25億円、融資などが15億円。なお今回同社に出資したのはいずれも既存株主だ。

  • グローバル・ブレイン
  • SBIグループ
  • 未来創生ファンド
  • Sony Innovation Fund
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • みずほキャピタル
  • 三菱UFJキャピタル
  • 千葉功太郎氏

ウェルスナビは2月にも第三者割当増資と融資により45億円を調達。2015年4月の創業からの調達額は総額で107億円になる。

WealthNaviは2016年7月に正式公開されたロボアドバイザーサービス。世界の富裕層や機関投資家が利用する資産運用アルゴリズムを軸とし、自動で国際分散投資を実施する。そのため専門的な知識や時間がないユーザーでも使えるのが特徴だ。

「リバランス機能付き自動積立」機能や「自動税金最適化(DeTAX)」機能では中核となる技術について特許を取得。独自の機能でユーザーの資産運用をサポートする。

預かり資産の1%(年率・税別)を手数料として受け取るビジネスモデル(3000万円を越える部分は0.5%)で、8月23日に申込件数13万口座、預かり資産1000億円を突破。SBI証券や住信SBIネット銀行、全日本空輸を始めとしたパートナー企業を通じた利用も拡大している。

今回の資金調達は開発体制のさらなる強化や経営基盤の拡充、マーケティングの推進を目的としたもの。ウェルスナビでは「今後も『長期・積立・分散』による資産運用の普及に努め、働く世代の資産形成をサポートしていきます」とコメントしている。

最近はロボアドバイザーを含め、資産運用関連のサービスを手がけるスタートアップの大きなニュースが多い。

同じくロボアドバイザーを提供するお金のデザインは6月に59億円10月に7億円を調達。累計調達額は109.6億円にのぼる。スマホ証券のOne Tap BUYも先月19.5億円の資金調達を発表しているほか、テーマ投資型の資産運用サービスを展開するFOLIOはLINEとタッグを組み「LINEスマート投資」をスタートした(なお、FOLIOもつい先日よりロボアドバイザーサービス(おまかせ投資)を始めている)。

QR決済・無料送金アプリの「pring」が12.8億円を調達——“お金のコミュニケーション”軸に独自路線で拡大へ

「自分たちとしてはそこまでQRコード決済アプリなどを意識しているわけではなく『お金コミュニケーションアプリ』として新しい市場を作る挑戦だと考えている。もちろん加盟店の開拓なども進めていくが、今後注力したいのはユーザーを増やし、お金のコミュニケーションを活発にしていくこと」

そう話すのは無料送金アプリ「pring(プリン)」を運営するpring代表取締役CEOの荻原充彦氏だ。

QRコード決済機能を備えるため、最近はモバイル決済サービスのひとつとして取り上げられることも多いpring。この領域はメガベンチャーや通信大手企業が続々と参入し、かなり競争が激しくなってきているけれど、あくまで「お金コミュニケーションアプリ」という独自のコンセプトに沿って拡大を目指す方針は変わらないという。

そんなpringは11月5日、プロダクトを拡大するための軍資金として、日本瓦斯、SBIインベストメント、ユニー・ファミリーマートホールディングス子会社のUFI FUTECH、伊藤忠商事、SMBCベンチャーキャピタルなどから12.8億円を調達したことを明らかにした。

今回の資金調達によりpringはメタップスの連結子会社から持分法適用会社へと変わり(設立の背景は後述)、単体でのIPOを視野に入れながら事業に取り組む。

お金の通りみちの摩擦をゼロにする

pringはユーザー間の送金や実店舗での決済に対応した、お金のやりとりをスムーズにするサービスだ。銀行口座と直接繋がっているのが特徴で、ユーザーは無料で送金・QR決済ができるほか、やりとりしたお金を銀行口座に戻して現金化することもできる。

クレジットカードではなく銀行口座と直接紐づけていることは、加盟店側にとっても手数料が低いというメリットがある。今はPayPayやLINE Payが、特定の条件を満たせば加盟店の決済手数料が一定期間無料になる取り組みをやっているので少し特殊な状況だけれど、pringの手数料は0.95%と業界の中でもかなり低い(QR決済は手数料3~4%が多い)。

pringの始まりは2016年の10月にメタップスとみずほFG、みずほ銀行、VCのWiLがスタートした、新たな決済サービスを作るプロジェクト。アイデアの検討を重ねた後、2017年5月に原型となる新会社を設立している。

この新会社を率いることになったのが、当時メタップスのグループ会社で、決済サービス「SPIKE」を運営するSPIKEの代表を務めていた荻原氏だ。萩原氏はメタップス入社前にDeNAで新規事業などを担当。それ以前には大和総研に在籍し、新規事業として大和ネクスト銀行の立ち上げにも携わった経験もある。

萩原氏いわく、2017年5月の時点から決めていたのが「(チャージ方法を)クレジットカードやコンビニなどではなく銀行口座でやる、そしてローンチ時から資金移動業者としてサービスを運営すること」だったそう。同年10月17日にpringのベータ版をリリースするまでの期間は、プロダクトの開発と並行して資金移動業を取得するために奮闘していたという(10月11日に資金移動業を取得)。

「根本にあるのは『お金の通りみちの摩擦をゼロにする』こと。たとえば家族にお金を送るのにいちいち手数料がかかったりするのをなくしたい、そんな思いから始まっている。SPIKEの経験でそれを実現するにはクレカでは難しいと思っていたので、銀行口座と直接繋がることにこだわった」(萩原氏)

ATMでお金を降ろす時の手数料、振込時の手数料、クレカで支払いが遅れた時の遅延料、カードの年会費。普段お金を送ったり、払ったりする際に発生する“摩擦”をなくし、その分を消費者が使えるようにする。萩原氏は「小銭を消費者に取り戻す」という表現もしていたけれど、pringの背景にはそんな思想があるという。

ローンチ時にはすでに決済や送金に関するアプリが複数ある状況だったけれど、普段のちょっとしたお金のやりとりを、よりなめらかに、よりスマートにするべく、いろんな層のユーザーが親しみやすいように使い勝手や画面設計にはこだわった。

一例をあげると“言葉を動詞にする”ことだ。pringでは「送金」「入金」「支払い」といった言葉の代わりに「お金をおくる」「お金をもらう」「お金をはらう」という表現が使われている。これはかつて金融業界を経験している萩原氏が、金融業界と消費者の間に感じたギャップを感じたことが理由。「金融業界では難しい言葉を使いがち」だからこそ、よりわかりやすい言葉に変えたという。

またお金のコミュニケーションを作るアプリということで、初期よりもさらに人をベースにしたUIにアップデートした。たとえばpringはトップ画面にユーザーのアイコンが表示されているけれど、これも「お金のコミュニケーションをしようと思った時に『いくら』とか『送金』ではなく、まず『誰に』が最初にくる」ためだ。

左が旧デザイン、右がアップデート後のデザイン。アップデート後は言葉が動詞になった他、画面上部のアイコンをタップすることで、すぐに他のユーザーに対してアクションを取れる仕様になっている

B2Cの送金サービスに活路

このような流れの中で、2018年3月に正式版のローンチを迎えたpring。現在は福島や北九州でキャッシュレス構想の実証実験に採用されるなど、少しずつ利用のシーンを広げている。

今回の資金調達もpringの成長をさらに加速させるためのもの。組織体制の強化や、さまざまなキャンペーンなどマーケティング面の強化を進める。現時点で明確な取り決めがあるわけではないが、ファミリーマートでの導入や伊藤忠商事のネットワーク・サービス内での利用など、調達先との事業連携も見据えているようだ。

ただ冒頭でも触れた通り「ユーザーを増やしてお金のコミュニケーションをより密にしていくことにフォーカスしたい」というのが萩原氏の考え。その具体的な施策のひとつが先日正式にスタートしたB2Cの送金サービスだ。

これは法人から個人ユーザーへ送金が簡単に行える仕組みで、従業員の経費精算や報酬支払い、もしくは顧客に対する返金やキャッシュバック時にpringを活用するというもの。ユーザーは受け取った報酬を他のユーザーに送ったり、店舗での決済に用いたり、銀行口座へ出金したりできる。

同サービスはすでに日本瓦斯(ニチガス)のグループ会社で導入済み。日本瓦斯運輸整備、日本瓦斯工事の委託業者約350名を対象に、pringの送金サービスを利用した報酬支払いの運用を開始しているほか、年明けを目処にニチガスの検針員への報酬支払いにも導入する予定だ。

実は以前ある新聞配達所の協力で、配達員30人の報酬の一部をpringで受け取れる仕組みを試してもらったそう。その際にpring決済に対応した簡易的なオフィスコンビニのような環境を作ってみたところ、1ヵ月で400件の決済が発生した。加えて全員がpringをインストールしている状態のため、個人間の送金も活発に行われたのだという。

「みんなが使えるようになった時に、ものすごい量の決済と送金が始まるということが見えた。もともと大和ネクスト銀行を作った際も、銀行員は自行の口座で給与を受け取っているので、飲み会の精算も銀行振込だった。これと同じことで、みんなが同じプラットフォームを使っていたら、そこでお金を送り合う。『pringの財布にお金が入っていて、知り合いと繋がっている状態』を作ることが重要で、その観点で相性がいいのはB(法人)の領域だ」(萩原氏)

このようにpringでは今後お金×コミュニケーションというコンセプトに合わせた形で拡大を目指していく計画だ。ただそうは言ってもスマホ決済サービス周りは多額の資金やマンパワー、強力なキャンペーンを踏まえて一気に市場を取ろうという大手の動きも目立つ。この状況を萩原氏はどう考えているのだろうか。

そんな質問をしてみたところ「現金を減らす、QRコードで支払うといった習慣を作っていく上では、マーケットが大きくなるのは大歓迎。ただ単なるQRコード決済サービスにおいては、スイッチングコスト自体は高くない」という萩原氏の見解が聞けた。

「(SNSなどと違い)決済は単体なので、クレジットカードと同じように今以上に自分に合ったものや気に入ったサービスを見つけた際に、新しいものを使うハードルが低い。スピード勝負とよく言われるが、自分自身は勝負を決めるのはクリエイティブだと思っている。まずは認知度をあげて実際に体験してもうらうところがスタートになるが、pringならではの使い勝手や面白さを軸に勝負をしていきたい」(萩原氏)

pring代表取締役CEOの荻原充彦氏

数秒審査、翌月払いの決済サービス「Paidy」が伊藤忠らから約60億円を調達——対面決済サービスも予定

決済サービス「Paidy(ペイディー)翌月払い」を提供するPaidyは7月12日、伊藤忠商事やゴールドマン・サックスらを引受先とする第三者割当増資により、総額5500万ドル(約60億円)を調達したことを明らかにした。

同社の発表によると今回はシリーズCにあたるラウンドで、リード投資家である伊藤忠商事からは4200万ドル(約46億円)の出資を受けているとのこと。なお同社は2016年7月のシリーズBラウンドでSBIらから1500万ドルを調達。これまでのシリーズAからCラウンドまでの調達額は総額で8083万ドル(約 88 億円)になるという。

Paidyは2014 年10月のサービス開始。事前の会員登録が不要で、メールアドレスと携帯電話番号の入力だけでオンライン決済ができるサービスだ。わずか数秒でAIが審査を実行(平均では0.5秒なのだそう)。SMSもしくは自動音声で案内する認証コードによって本人確認を行う。

Paidy代表取締役社長の杉江陸氏は「インスタントクレジットサービス」や「オルタナティブクレジット」という表現をしていたが、まさに必要になったそのタイミングで面倒な審査なく決済に使えるのが最大の特徴となっている。

決済代金は翌月まとめてコンビニや銀行振込などで支払う仕組みになっていて、一括払いのほか分割払いにも対応。2018年6月末の時点でアカウント数は140万口座を超えた。

一方の導入企業にとってはクレジットカードを持っていない、もしくは利用したくないユーザーの新しい決済手段となり、新規顧客の獲得やコンバージョン率向上の施策にもなりうる。加盟店ネットワークは約70万サイトに上るという。

杉江氏の話ではもともとファッション分野で導入が進んでいたが、最近ではデジタルコンテンツなど物販以外の領域でも拡大。合わせてマガシークやDMMなど大型の加盟店が続々と加わるようになってきたため、ここ半年で売り上げが2倍に成長しているそうだ。

同社ではまず今年度中に300万口座の獲得を目指すほか、対面取引決済に対応するサービスも提供する予定。具体的には「QRコード決済への対応」(杉江氏)を考えているようで、調達した資金も活用しながら急ピッチで開発を進めていくという。

さらにもう少し先の目標に「2020年までに1100万口座の獲得」を掲げていて、いずれは決済以外の金融サービスに着手する意向もある。

「そのくらいの規模になると、単なる決済サービスではなくエコシステムプレイヤーとしての役割が求められてくる。お金を払う部分だけではなく、金融の別の側面もカバーしていきたい」(杉江氏)

今回の資金調達は杉江氏いわく同社の「成長のギアをあげるためのもの」であり「半年で2倍ではまだまだ足りない」と考えているそう。リード投資家である伊藤忠商事とは、同社が手がけるサービスとの相互送客や加盟店開拓などで連携を取っていく方針で、国外での展開も含めてさらなる成長を目指していくという。

レシートが1枚10円にかわるアプリ「ONE」公開、17歳起業家が新たに目指すのは“次世代の金券ショップ”

突然だがTechCrunch読者のみなさんは買い物をした際に渡されるレシートをどうしているだろうか?

面倒くさがりな僕はたいてい「レシートはけっこうです」と言ってもらうことすらしないのだけど、家計簿に記録するために丁寧に保管している人もいれば、なんとなく財布の中に溜め込んでしまう人、すぐに捨ててしまう人などそれぞれだろう。

そんなレシートは多くの人にとって日々の買い物(支出)の記録以上の価値はないかもしれないけれど、もしかしたら他の誰かからすればお金を払ってでも買う価値のあるものなのかもしれない。

前置きが長くなってしまったけど、ワンファイナンシャルが6月12日に公開した「ONE」はまさにそのような世界観のサービス。どんなレシートでも1枚10円に変わってしまうというものだ。

レシートが1枚10円になるカラクリ

「きっかけはスイスの友人から現地の小銭をもらったこと」——ワンファイナンシャルCEOの山内奏人氏によると、この出来事がONEのひとつのテーマでもある“価値の非対称性”に着目する契機になったという。

「日本にいる自分にとってはスイスの小銭もただの金属の塊と変わらない。その時に自分にとっては価値がないけれど、他の誰かには価値があるものが面白いなと思った。普段多くの人が日常的に使っているもので同じような例はないか考えた時に浮かんだのが、レシートだった」(山内氏)

先にいってしまうと、ONEはユーザーから「レシートという形をした決済データ」を買い取り、そのデータを手に入れたい企業に販売していく構造になっている。

近年パーソナライズという言葉が頻繁に使われるようになったように、大まかな統計データではなく個人個人の消費傾向を把握し、個々に最適な提案をすることが求められる時代だ。だからこそ「どんな人がどのタイミングで、どのような商品を買っているのか。その商品と一緒に買っているものは何か。といった購買データに価値がある」と山内氏は話す。

ONEの機能はシンプルで、ユーザーはアプリからレシートの写真を撮影するだけ。買い物の金額や購入した商品数などの違いはなく、どんなレシートも1枚10円に変わる(アプリ内のウォレットに10円が振り込まれる)。

ユーザー1人あたりが1日に撮影できるレシートは10枚まで。アプリ内に貯まったお金は300円から出金でき、メガバンクを始め国内ほぼ全ての民間金融機関に対応しているという。利用料等はかからないが、出金時の手数料200円についてはユーザーの負担となる。

出金時には本人確認が必要になるため、ONEの運営側から見ればこのタイミングで大まかな属性データが取得できる。これを送られてきたレシートのデータと合わせて、決済データが欲しい企業へ提供していく仕組みだ。

レシートからは金銭感覚や消費傾向がわかるため、マネタイズの方法としては取得したデータを純粋に企業へ売っていくというのがひとつ。そしてもうひとつ、特定のユーザーにクーポンを配信することで送客をするモデルも考えているという。

目指すのは次世代の金券ショップ

ワンファイナンシャルについては、同社が1億円の資金調達を発表した2017年10月に一度紹介している。当時16歳ながらすでに複数のサービス立ち上げを経験していた山内氏は、スマホ1台あれば数分でカード決済を導入できるアプリONE PAYを手がけていた。

その後ONEPAYMENTへと名前を変えサービスを伸ばしていたが、それに伴い不正利用も増加。2018年4月には不正利用リスクが原因でStripe社から出金APIの利用を止められ、サービスを停止せざるをえない状況に陥った。

一時は再開したものの不正利用のリスクは消えない。山内氏が「多くのユーザーに使ってもらっていたので申し訳ない気持ちはあったが、そのままの形で続けるのは難しかった」と話すように、最終的にはサービスの継続を断念。ユーザーへサービスの終了を通知していた(6月29日に決済機能を停止し、7月31日に出金を含むすべてのサービスを停止)。

ONEPAYMENTはクローズすることになったが、決済データを活用したビジネスへの関心や、新しい金融の仕組みを作りたいという気持ちは変わらなかったという山内氏。上述の通りスイスの小銭がひとつのけっかけとなって、新しいサービスを立ち上げるに至った。

ONEについてはどのような使われ方をされるのか予想できない部分もあるというが、将来的には「次世代の金券ショップのようなものを作っていきたい」という構想を持っているようだ。

「多くの人にとってレシートはものすごく身近なものでもあるので、まずは第一弾としてレシートから。いずれはたとえばギフト券など、もっと多くのものを扱えるようにしたい。データがたまっていけば、与信スコアのような形でレシートの買い取り価格を変えたり、レンディングなど別の展開も考えられる。ここを中心に新しい金融の仕組みを作れるように、サービスを作りこんでいきたい」(山内氏)

クルマを買えない世界の20億人を救う、新たな金融の仕組みーーGMSが11億円を調達

自動車の遠隔起動デバイスを活用したプラットフォームを通じて、これまで金融にアクセスできなかった人たちに向けた新たな金融サービスを提供しているGlobal Mobility Service(GMS)。同社は6月8日、イオンファイナンシャルサービスなど10社を超える東証一部上場企業から11億円を調達したことを明らかにした。

今回GMSに出資した企業は次の通り。

  • イオンフィナンシャルサービス
  • 川崎重工
  • 凸版印刷
  • 大日本印刷
  • 双日
  • G-7 ホールディングス
  • バイテックグローバルエレクトロニクス
  • そのほか非公開の一部上場企業

各企業とは資本業務提携を締結し、事業の拡大へ向けて取り組んでいくという。なお同社は2017年4月にもソフトバンク、住友商事、デンソー、クレディセゾン、グロービス・キャピタル・パートナーズ、SBI インベストメントなどから総額約7億円を、2015年8月にもSBI インベストメントから3億円を調達している。

与信審査の概念を変える新たなファイナンスプラットフォーム

GMSが取り組んでいるのは、既存の与信審査の仕組みでは自動車を手に入れることのできない人達を救うためのデバイスとプラットフォームの開発だ。

同社代表取締役の中島徳至氏によると「リースやローンといったモビリティファナンスが利用できない人が世界に20億人いる」とのこと。特に新興国では劣化した車両を長年使い回すことにもつながり、騒音や排気ガスといった新たな問題の原因にもなっているという。

前回の調達時にも紹介したとおり、GMSでは自動車を遠隔から起動制御できる車載IoTデバイス「MCCS」を開発。月額の料金支払いがないユーザーの自動車を遠隔で停止、位置情報を特定できる手段を作ることで、従来とは異なる新しい金融の仕組みを構築した。

これまでの与信審査を省略することで、より多くの人が自動車を手に入れるチャンスを掴めるようになる。

中島氏によると、現在GMSのサービスは2000台を超える車で利用されていて、毎月導入台数が200台ペースで増えているとのこと。中心となっているのはフィリピンの三輪タクシーで、日本やカンボジアでもすでに事業を展開している。

最近フィリピンではGMSの仕組みを利用して三輪タクシーを手に入れたユーザーが、1回目のローンを完済した上で、次は自動車を入手するべく2回目のローンを組む事例も増えているそう。新たなエコシステムが生まれてきているだけでなく、三輪タクシーから車に変わることで金額も一桁変わるため、ビジネス上のインパクトも大きい。

日本でも年間約190万人がローンやリースの審査に通過できないと言われている。従来は金融機関が保証会社を通じて審査をするのが一般的だったが、GMSの仕組みを使って自分たちでやってしまおうという企業もでてきた。

すでに西京銀行やファイナンシャルドゥとは業務提携を締結済み。今後も金融機関やメーカー系のディーラーと連携を深めていくという。

「今までは台数を重視するというよりも『この仕組みでビジネスが成り立つのか、そもそもユーザーからニーズがあるのか』を検証しながら関係者とのパートナーシップを進めてきた。結果として新興国のファイナンスではデフォルト率が15〜20%が一般的と言われている中で、(GMSでは)1%以内に押さえることができている」(中島氏)

事業会社10数社とタッグ

これまでは技術開発と市場開発に加え、金融機関からの理解を得るために話し合いや実証実験に時間を費やし、少しずつ体制が整ってきたという。たとえば今回出資しているイオンファイナンシャルサービスとは実証実験からスタート。手応えがあったため資本業務提携に繋がった。

同社以外にも今回のラウンドには東証一部に上場する各業界の事業会社が10社以上参加している。GMSによると「国内Mobility、IoT、FinTech の各業界における未上場ベンチャー企業の中では最多」とのことで、各社とは業務提携を締結し事業を推進していく方針だ。

「たとえば初めのベンチャー投資となる川崎重工は、GMSの中で最も取り扱いの多いバイクを開発している企業。今後はタッグを組むことでさらにサービスの価値を向上させていきたい。また当社の事業において『セキュリティや個人認証』が大きな鍵となる。凸版印刷や大日本印刷とはお互いのナレッジやリソースを活用しながらサービスを強化していく」(中島)

今回調達した資金をもとに、GMSでは組織体制を強化しプラットフォームの機能拡充とともに、ASEAN各国での事業開発を加速する計画。直近ではインドネシアでの展開を予定しているという。

「GMSが取り組んでいるのは『Financial Inclusion(金融包摂)』と呼ばれる、これまで金融にアクセスできなかった人たちをサポートする仕組み作り。その点では、導入台数を増やすというよりは、どれだけの雇用を創出していけるかを大事にている。20億人がローンを組めないという中で、まずは1億人の雇用を生み出せるようなサービスを作っていきたい」(中島氏)

スタートアップの資金調達をお膳立てするエメラダ、投資型CFに続きレンディングサービスを開始

2017年11月にリリースした株式投資型クラウドファンディング(以下株式投資型CF)「エメラダ・エクイティ」を通じて、スタートアップの資金調達をサポートしてきたエメラダ。同社は5月23日、株式投資型CFに続く新たな資金調達プラットフォームとして、オンラインレンディングサービス「エメラダ・バンク」をリリースした。

エメラダ・バンクの初期運営には、城北信用金庫、第三銀行、東邦銀行、大和信用金庫といった地域金融機関、金融機関向けにシステムのコンサルティングなどを手掛ける電通国際情報サービスが参画。将来的に法人向け金融システムのマーケットプレイスを目指すという。

決算書からは見えないデータも活用、多くの企業に借入の選択肢を

エメラダ・バンクは、スタートアップや中小企業がオンライン上で500万円から5000万円までの借入ができるサービスだ。

決算書に加えて銀行口座の入出金情報やオンライン上の定性情報などを分析。決算書から見えない情報もしっかりと評価することで、新規借入をしやすい仕組みを作る。合わせて企業ごとの事業計画や資金繰り状況も踏まえて返済計画をパーソナライゼーションすることで、デットファイナンスという選択肢をより使いやすい形で提供するのが特徴だ。

「従来は決算書の内容で審査が通らなかった企業でも借入のチャンスが得られる。一方で借入できたものの返済の負担が大きく苦労する企業も多い。資金繰りが安定しているのでコツコツ返済する、大きな投資で一時的に収支が悪化するため初期の負担を減らすなど、企業ごとに柔軟な返済計画を提案していく」(エメラダ代表取締役社長兼CEOの澤村帝我氏)

借入までのフローは一部対面での面談が含まれるが、申請から一連のコミュニケーション、契約締結まで基本的にオンライン上で完結。借り手が何度もオフィスまで足を運ぶ必要もない。

またエメラダ・エクイティと連携し、会社の状況に合わせて借入と増資どちらが適しているのかを提案。実際に資金を調達するところまで、エメラダのサービス上でサポートする。

「情報を登録しておきさえすれば、借入ができるタイミングでお膳立てしたり、投資型CFの提案もできる。部分的にではあるが『オンライン上の外部CFO』のような形で、創業期や成長期の企業のファイナンス面をサポートしていきたい」(澤村氏)

主なユーザーとしているのは20〜40代のネットに精通している経営者や財務担当者。今すぐに資金が必要なわけではないが、少し先のタイミングで資金調達を検討しているスタートアップも、一度情報を登録しておけばエメラダ側で分析しサポートを受けることも可能だ。登録料は無料となっている。

銀行APIの開放でオンラインレンディングの可能性が広がる

近年、日本のFintech界隈で注目されているのが銀行のAPI公開だ。口座残高を調べるといった「参照系API」にしろ、外部サービスから銀行振込をするといった「更新系API」にしろ銀行APIの開放が進む。エメラダ・バンクもまさにそうだが、銀行口座の決済情報にアクセスして、入出金情報を取得・分析することもできるようになってきた。

もちろんどんな事業者でも自由にできるというわけではない。この点については「改正銀行法の中で企業の口座情報を取得する要件を金融庁が定義している。エメラダ・バンクについては金融庁とコミュニケーションを取りながら準備を進めてきた」(澤村氏)という。

もうひとつ、サービスを立ち上げるにあたって同社が取り組んでいたのが金融機関との連携だ。「既存の銀行が貸せていない企業に貸し出す」のがエメラダ・バンクの特徴でもあるが、基本的には銀行と連携して運営する必要があるというのが澤村氏の考え。

「法律面の議論もあるが、(サービスの特性上)コンプライアンス基準やセキュリティ基準を満たしているかどうかが重要。その点でリリースのタイミングで複数の金融機関と連携できていることは大きい」(澤村氏)

創業期から成長期まで、企業のファイナンスを支える

これまで約半年にわたって株式投資型クラウドファンディングを提供してきたエメラダだが、今後は2つのサービスを密に連携させ、各企業を長い期間に渡り継続して支援することを目指していくという。

「スタートアップを含め未上場企業ではビジネスを回すのにリソースが割かれ、財務があと回しになりやすい。この役割をエメラダが補完することで、手間をかけずとも上手くいくようにしたい。その意味でローンとエクイティはセット。創業期はエクイティ、少しずつ事業が軌道に乗り始めた移行期でデットも検討し、本格的な成長期にはよりいい条件でデットを提供する、など企業のフェーズやニーズに合わせて最適な資金調達手段を選べるプラットフォームを目指す」(澤村氏)

今後はそれぞれのフェーズに合わせた機能の拡充や、AIを使ったレコメンデーション機能などの開発にも取り組む予定だ。

エメラダは2016年10月の設立。野村證券、ゴールドマン・サックス証券を経て起業した澤村氏を中心に、金融機関出身のメンバーも多い。2017年4月にはD4Vなどから2億円を調達している。

おつり投資の「トラノコ」が楽天、東海東京FHなどから資金調達、異業種間での連携進める

買い物のおつりで投資ができる「トラノコ」を運営するTORANOTECは4月12日、楽天キャピタル東海東京フィナンシャル・ホールディングスだいこう証券ビジネスパラカ東京電力エナジーパートナーを引受先とする第三者増資を実施したと発表した。金額は非公開(2017年6月のサービスリリース時の資本金1億3100万円から、現在は7億3788万円に増えている)。

先日、20代後半で同年代の友人たちと話していたら、「資産運用は、必要なのは分かるけど、難しいよね」という話になった。トラノコは、そんな資産運用のハードルを下げてくれるサービスだ。

トラノコでは、クレジットカードや電子マネーなどを使った買い物の“おつり”を、最低5円から1円単位で資産運用にまわすことができる。このおつりは仮想的なもので、サービスであらかじめ設定した金額(100円、500円、1000円)から、実際の支払額を引いた金額を資産運用に回せるという仕組み。たとえば、設定額が100円で、10円のお菓子を買ったら90円だ。

実際の資産運用は、100%子会社のTORANOTEC投資顧問が行う。同社はユーザーのリスク特性に応じて3種類のファンドを用意。組み入れアセットも米国株式や新興国債券など多岐にわたり、気軽に分散投資ができるようになっている。トラノコの利用料金は月額300円。そのほか、投資ファンドの運用に対する信託報酬の年率0.3%、ファンドの監査費用などの手数料(年率0.1%が上限)、ファンドの組み入れ証券の売買委託手数料がファンド資産から控除される。

事業会社との連携進める

今回の資金調達ラウンドで特徴的なのは、投資家リストに多くの事業会社を含む点だ。証券会社である東海東京フィナンシャル・ホールディングスなどをはじめ、コインパーキングのパラカ、東京電力エナジーパートナーなど、異業種の事業会社の名前もある。

TORANOTECはこれまでにも、ANAとのコラボレーションNTT東日本との提携など、異業種とのパートナーシップを積極的に推進し、トラノコユーザーに限定で割引特典を提供するなどのメリットを打ち出してきた。今回の資金調達後も、そのようなサービス連携がさらに進むことが予想される。

TORANOTEC代表取締役のジャスティン・バロック氏は、「「事業間協力および事業連携は、フィンテックの成功には欠かせない重要な要素。資産形成を人びとの日々の生活の一部にしていく上で、様々な業種の事業会社および金融機関との連携を幅広く深めていくことが大いなる力を発揮するものと確信している」と語る。

業界の異端児がイノベーションを生む――FinTechスタートアップたちの勝機とは

3月15日、16日で開催された「B Dash Camp 2018 Spring in Fukuoka」。2日目には、「フィンテックにいま参入その理由と勝機の可能性」と題して、フィンテックの第一線で活躍するプレイヤーたちが業界のいまを語った。登壇者は以下の通りだ。

モデレーターを務めたのは日経FinTech編集長の原隆氏だ。

幅広いフィンテック、どこに注目するか

Finance × Technologyだから「フィンテック」とひとくちに言っても、その領域はとても幅広い。本セッションではまず、各登壇者がフィンテック業界の中でもどの領域に注目しているのかという質問が飛んだ。

ソーシャルレンディング事業者の比較サイトを運営するクラウドポート代表取締役の藤田氏は、「注目しているのは中小企業のデットファイナンスと債権の流動化。中小企業の資金調達の選択肢が少ない。VCから出資を受けるのはひと握りだ。残りの大半は銀行融資を受けるが、審査が厳しい。それらの事業者から融資を受けられなかった企業に対してこれまで資金を供給していたのがノンバンクだ。しかし、1999年に3万社以上あったノンバンクは、2016年には2000社以下になっている。ここにビジネスチャンスがある」と語る。

メルペイ代表取締役の青柳氏は、「フィンテックのプレイヤーがひと通り揃ってきた。金融以外で活躍していた人たちが業界に参入するというのがグローバルなトレンドだと思う。そういうプレイヤーが入ったことで今後盛り上がると思うのが、まずは入口としての決済の部分。また、スコアリングやレンディングといった“信用を創造する”という分野が勃興すると思う」と話した。

青柳氏と同じく、スコアリングや与信の部分に注目するのがバンク代表取締役の光本氏だ。「企業でも個人でも、何かしらの取引をするときは必ず与信をとる。ただ、この与信はコストでしかない。そうであれば、それをとらずに成り立つビジネスができないかと僕たちは考えている。新しい与信のとり方、そして与信を使った新しいビジネスが今年はどんどん出てくると思う」(光本氏)

ところで、フィンテックという文脈でいつも話題にあがるのが、現金を使わないで買い物などを済ますキャッシュレス化の推進だ。日本は諸外国に比べてそのキャッシュレス化が遅れていると言われている。経済産業省が2017年に発表した資料によれば、米国、韓国、中国のキャッシュレス決済比率はそれぞれ40〜50%程度であるのに対し、日本は約18%と低い。なぜだろうか。

「日本の店員さんはまじめで、レジをちゃんと閉めるなど現金を扱うだけのモラルがある。他の国では現金を扱うとトラブルが起こるので、費用を払ってでもキャッシュレス化を進める動機がある」とヘイ代表取締役の佐藤氏は言う。

優秀な日本の金融インフラ、そこにイノベーションをどう生むか

日本が他国に比べてキャッシュレス化が遅れているのは、金融インフラが非常に整っているからだ、という意見もある。ただ、それは金融業界の既存プレイヤーにとってイノベーションの足かせになっているのかもしれない。

証券会社出身であるFOLIO代表取締役の甲斐氏は、「証券会社の反社チェックのシステムは、銀行に比べても厳しい。警察庁のデータを照合しなければならないが、リアルタイムでそれをしようとすると1回あたり数十件程度しか処理できない。もう少しそこを効率化するということは考えられる」と、現在の金融インフラの非効率性について述べた。

青柳氏は、「(イノベーションには)大きな社会インフラの組み換えが必要。既存プレイヤーはそこに大きな金額を投資してきて、それに合わせてオペレーションを最適化してきた。中国では色々なプレイヤーがインフラに大きな金額を投資をして、それを作り直した。そこから学べるのは、(金融インフラに対する)マッシブな投資はいずれにしろ必要で、それができたら色々なプレイヤーがどんどん出てくるということだ」と語る。

スーツ組と私服組が手を組むとき

金融インフラへの投資とともに、青柳氏が“必要なもの”として挙げたのが人材だ。「非金融業界の人が金融業界の人を引き込む採用力」が必要だと彼は話す。これまでスーツを着て毎日出社をしていた金融人からすると、スタートアップ業界というのは特異なものとして映るのかもしれない。でも、異業種の人間が交わることで生まれるイノベーションもある。

甲斐氏は、「FOLIOの場合、4割の社員が金融社員出身。基本的には、FOLIOでは金融用語は使わないということに非常にこだわっている。プロダクトの開発現場では、コンプラ担当と5人のデザイナーが毎日バチバチにやり合っています」と語った。些細なことかもしれないけれど、金融業界以外の人の視点で使いやすいUI/UXを金融商品に取り入れ、「冷たい」と言われがちなものに温かみをもたらす工夫だ。

一方、光本氏が率いるバンクには金融出身者が1人もいないという。「保守的な意見をすべてプロダクトに取り入れてしまうと、既存の金融機関のものと変わらないプロダクトが生まれてしまう。新しいサービスを作る場合、空気を読まずにやるのがちょうどいいのかもしれない」と光本氏は笑顔で話した。

どの業界もそうだけれど、お金を扱う金融業界は法令の順守が特に求められる領域だ。光本氏が言うように、まずは空気を読まずにプロダクトを作ってみるというイノベーションの方法論もあるが、法的なリスクに対しては気を配らざるを得ないのが現実だ。

それについて佐藤氏は、「ルール的にグレーな部分というのはトレードオフだと思っている。(多少プロダクトが不便になったとしても)それをやらなければ長期でみてユーザーの体験を毀損してしまうならやるべきだし、そうではないならユーザーのために取るべきリスクだと考える」と話す。

一方で、業界を取り巻く環境もここ数年で大きく変わったと青柳氏は話す。「フィンテックには追い風が吹いていると感じるようになった。ルールを作る金融庁などと話していても、20分間いろいろと話したあとに、『やりたいことっていうのは、例えばこういうものです』と直接UIを見せたりすると理解を得られることが多い」(青柳氏)。

世界中の金融業界にイノベーションが起こりつつある今、法的に可能な範囲で本当に便利なものは受け入れようという流れがあるのかもしれない。非金融と金融の視点を融合し、既存インフラの改善、または創造的破壊を起こすべきだと思っているのはスタートアップだけではないようだ。そのような流れのなかで、どのような新しいサービスが生まれるのか、注目したい。

ファンと資金を同時に獲得、お店の“会員権”取引所「SPOTSALE」が正式リリース

会員権を発行することで、店舗が資金や新たなファンを獲得できる「SPOTSALE(スポットセール)」。開発元で大分県発のスタートアップ、イジゲンは3月13日、同サービスを正式にリリースした。

サービスの概要については2018年1月にイジゲンが資金調達を実施した際にも紹介しているが、SPOTSALEは飲食店や美容室などの店舗と顧客をつなぐ会員権の取引所だ。リリース時点では以下の3つの機能を提供する。

  • 店舗が会員券の発行を行い、期間限定で公募販売をする
  • 一般公開された会員券はユーザー同士で売買できる
  • 会員券を所有するユーザーは発行店舗で優待を受けられる

イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏に前回取材した際「購入型のクラウドファンディングに(会員権を売買できるC2Cの)二次市場がくっついてるようなプラットフォーム」という話があった。

店舗にとっては会員権の発行(SPOTSALEに上場する)を通じて資金と顧客を同時に獲得できるのが最大の特徴。一方の会員にとっては優待を受けられるだけでなく、サービス内で会員権を売買できる点が従来のクラウドファンディングとの大きな違いだ。

正式リリースにあたって店舗情報が公開。会員権の価格や優待内容も閲覧した上で、公募に申し込めるようになった。

同社によると現時点で登録ユーザー数は約3000人、2018年3月までに会員券の発行を希望する店舗は飲食系や美容系を中心に約70店舗(初期上場店舗は10店舗で、60店舗が審査中とのこと)。総調達金額は約1.4億円を予定しているという。

今後は地域や特定の分野に貢献したユーザーによる会員券推薦機能や、評価の高い店舗の段階的な追加公募、日本以外へのサービス展開等も予定する。「SPT(会員権の購入に利用するポイント)は将来的に仮想通貨になることも視野に入れ、流通も可能にしたSPOTSALE経済圏の構築を目指していく」(鶴岡氏)

仮想通貨の確定申告サービスが続々公開――freeeが損益計算ツールをリリース、マネフォも支援プログラム

2018年に入ってもう1カ月が過ぎた。いよいよ今年もあのイベントがやってくる。そう、確定申告だ。

毎年この時期はバタバタする人が増えるけれど(まさに僕もその1人だ)、今年はビットコインを中心とした「仮想通貨」が急速に広がったことで、例年以上に混乱する年となるかもしれない。

国税庁は2017年9月に「ビットコインを使用することにより生じる損益は、原則として雑所得に区分する」という旨のタックスアンサーを発表。12月には所得の計算方法に関するガイドラインも公開した。

ただし大枠については見解が示されているものの、完全に制度が整っている段階とは言えず、「正直どうしたらいいのかわからない」という人もいるだろう。

詳しくは後述するが、そのような「仮想通貨の確定申告」の問題を解決しようとするスタートアップが、2018年に入り増えてきている。クラウド会計ソフトなどを展開するfreeeもそのうちの1社。同社は2月5日、仮想通貨の損益計算ツール「会計freee for 仮想通貨」をリリースした。

制度が追いついておらず、納税のハードルが高い

確定申告の対象者にとって大きな障壁となるのが、国税庁が示す方法に対応するために必要な「取引時のレートの取得」だろう。

「取引所ごとにレートが異なるため、正確な計算には各取引所で当時のレートを取得する必要がありかなりハードルが高い。また仮想通貨の課税制度も複雑。今後新たな技術がでてきた時にイノベーションを阻害しないためにも、もう少し制度や仕組みが追いついてくる必要がある」(freee 担当者)

国税庁のガイドライン公開などに伴って、freeeにも仮想通貨が絡んだ確定申告についての問い合わせが増加。対象者向けのセミナーの募集をしたところ、公開から2時間もたたない間に200人以上の申込みがあり、想定していた400人の枠が1日で埋まってしまったという。

「今まで自分で申告をやったことがないサラリーマンも多い。周りに話の聞ける専門家がいないケースも多く、そもそも確定申告が必要なのか把握できていない人もいる状況」とのことで、年明けから急ピッチで損益計算ツールを開発した。

会計freee for 仮想通貨は対応する取引所の履歴(CSV)をアップロードすると、国税庁のガイドラインに基づく形で仮想通貨の損益計算をしてくれるツールだ。売却と仮想通貨のトレードに対応し、取得価格の計算方法は総平均法を用いる(freeeが利用許諾を得ている外部サービスの過去レート情報をもとに計算)。仮想通貨を利用した商品購入については対象外となる。

現時点での対応取引所はbitFlyerとbitbankの2つで、今後は取引所の拡大や移動平均法での計算に対応することも検討するという。損益計算ツールの利用については無料。会計freeeのユーザーであれば、取得した結果を確定申告書類にも反映できるのが特徴だ。

無料で利用できる一方で、対応する取引所の数が限られるなど他のツールに比べて圧倒的に優れているとは正直言えないかもしれない。

ただその点については「損益計算ツールでマネタイズしたい、他社に負けないツールを作りたいというわけではなく、困っている人が多いので少しでも助けになればと開発した。会計ツールこそがウリなので、仮想通貨に関する申告が(初めて申告する人でも)わかりやすいような設計をした」としている。

マネーフォワードなど複数社が申告サポートサービス公開

冒頭でも触れたとおり、損益計算ツールを中心とした仮想通貨の税務関連サービスが増え始めている。TechCrunch Japanでは1月に「G-tax」を提供するAerial Partnersを紹介した。G-taxは10の取引所に対応する無料の損益計算ツール。これに加えて同社では仮想通貨税務に詳しい税理士を紹介する「Guardian」も手がけている。

ゴールドマン・サックス出身の起業家が手がかる「Cryptact」は13の取引所、1476種類の仮想通貨に対応。すでに8500人が登録していて、EY税理士法人との税務顧問契約も発表した。

また損益計算ツールではないが、マネーフォワードもAerial Partnersと連携した仮想通貨申告サポートプログラムを2月2日に始めたばかり。仮想通貨取引に関する確定申告者に対して、認定仮想通貨税理士が損益計算や申告書作成などを支援するという。

確定申告期間に向けて、この領域は今後さらに盛り上がっていきそうだ。

資産管理業の自動化ソリューションを提供するロボット投信が4億円を調達

金融機関向けに資産運用業務の自動化ソリューションなどを提供するロボット投信は2月1日、インキュベイトファンドテックアクセルベンチャーズ三菱東京UFJ銀行SMBCベンチャーキャピタルカブドットコム証券みずほキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、総額約4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

ロボット投信は2016年9月にもインキュベイトファンドから1億円を調達。今回はそれに続くラウンドとなる。

同社が手がけるのは、いわゆる金融機関向けの「RPA(Robotic Process Automation)」サービスだ。ここ半年ほどでも複数の大手企業に対して、テクノロジーを活用した資産運用業の効率化、自動化ソリューションを提供している。

  • カブドットコム証券へ投資信託の信託報酬実額シミュレーションツールと基準価額変動要因分析ツールの提供(2017年7月、9月)
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券へ「Amazon Alexa」に対応する情報配信サービス「投資情報」スキルの提供(2017年11月)
  • みずほ証券へ電話自動応答システムを用いた投資信託および市況概況情報のサービス提供(2017年12月)

これらのRPAソリューションに加えて、ロボット投信では投資信託データや株式データといった金融・経済データの提供、ロボアドバイザーエンジンの開発も行っている。

ロボアドザイザーといえば「THEO」のお金のデザインや、「WealthNavi」のウェルスナビなど、消費者向けのプロダクトを開発するスタートアップの活躍が目立つ。ロボット投信のように法人向けにロボアドバイザーエンジンを提供するスタートアップというのは、なかなか表に出てこない存在かもしれない。

今回調達した資金をもとに、今後はより幅広い事業領域で資産運用RPAソリューションの開発に着手。テクノロジーを活用した資産運用プラットフォームの構築を進めていくという。

LINEが仮想通貨事業などの金融事業への参入を本格化、新会社を設立

モバイル決済サービス「LINE Pay」がリリースされたのは、2014年12月のこと。3年を経過して、2017年には全世界での年間取引高が4500億円を超え、登録ユーザー数は4000万人となった。そのLINE Payに続き、LINEがついに、というか、ようやく、というべきか、仮想通貨取引所などをはじめとする金融事業に本格的に乗り出す。

1月31日、LINEは金融事業関連の新会社「LINE Financial」の設立を発表した。1月10日に資本金50億円で設立された新会社の代表取締役には、LINE代表取締役社長の出澤剛氏が就任している。

LINE Financialでは、仮想通貨交換や取引所、ローン、保険といった金融関連サービスを、コミュニケーションアプリのLINE上で提供すべく準備を進め、金融事業の拡大を図っていく。また、現在メッセンジャー運用で培ってきたセキュリティへの対応に加え、ブロックチェーン技術などの研究開発も推進することで、安全で便利な金融サービスの提供を目指すという。

仮想通貨事業関連に関して、同社は既に金融庁への仮想通貨交換業者登録のための手続きを開始し、審査中とのことだ。

店舗が資金やファンを獲得できる“会員権”の取引所「SPOTSALE」、開発元のイジゲンが6200万円を調達

店舗が会員権を発行することで、資金やファンを獲得できるプラットフォーム「SPOTSALE(スポットセール)」。同サービスを開発するイジゲンは1月26日、ANRI、インフキュリオン・グループ、モバイルクリエイト、バリュープレス創業者の大木佑輔氏を引受先とした第三者割当増資により、総額6200万円を調達したことを明らかにした。

2013年設立のイジゲンは、受託開発やITコンサルティングに加えて、自社で位置情報を活用したポイントアプリ「AIRPO」やグループ向けの写真共有アプリ「guild」を展開する大分発のスタートアップだ。

同社で現在開発している新サービスが冒頭でも紹介したSPOTSALE。飲食店や美容室などの店舗が会員権を発行、販売することで資金を調達できる「お店の会員権の取引所」だ。

会員権にはたとえば「1000円以上の注文でドリンク1杯目が無料」「来店時に20%オフ」のような優待が設定される。これを通じて店舗が新規顧客の開拓や、中長期に渡って応援してくれるファンの獲得も目指せるのがウリだ。

購入した会員権については他のユーザーと売買することもできるため、イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏は「購入型のクラウドファンディングに(会員権を売買できるC2Cの)二次市場がくっついてるようなプラットフォーム」だと話す。

たしかに店舗が複数の個人から資金を調達できることに加えて、顧客の獲得手段としても活用できる点ではクラウドファンディングに近い。また会員権をユーザー同士で取引できる仕組みや、店舗がSPOTSALEを活用する際に「SPOTSALEに上場する」という表現が使われているあたりは、ICOに似ている点もある。

ただし株やICOにおけるトークンの取引とは違い、C2Cで会員権を売買する際のオファーや価格の設定などは完全に1対1で決める。鶴岡氏も「(株のように)そこまで頻繁に売買が発生するわけではない」という考えで、たとえば引っ越しや違う店舗に浮気してしまった際などに使ってもらうことを想定している。

「継続して長いスパンで(店舗とユーザー間の)関係性が構築されるサービスを作りたい。そこに愛が生まれると、単発の取引ではなくもっと深い特別な関係性ができる。特に地方はICOができずIPOをやる規模でもないが、いいお店や企業がたくさんある。そのような企業が応援される、評価される仕組みを作り、店舗から『SPOTSALEに上場すること』を目標にしてもらえるようなサービスを目指したい」(鶴岡氏)

SPOTSALEのリリースは2月の予定だが、現在Webサイト上で先行してユーザーと会員権の発行店舗を募集中。現時点で登録ユーザー数は2000人、店舗数は50店舗、会員権の購入に利用できるポイント(SPT)の発行総額は200万円分を超えた。

現時点では飲食店が多いが、コワーキングスペースなど場所の運営をしている企業からの登録もあるそう。今後はNPO向けのサービス展開も準備していくという。

今回の調達先のうち、インフキュリオン・グループとモバイルクリエイトとは業務提携も締結。グループ内および出資先がFintech系の事業を展開しているインフキュリオン・グループとは知見やノウハウの共有のほか、共同で事業開発にも取り組む。IoTサービスや決済事業を展開するモバイルクリエイトについても同様だ。

「金と人は俺が集めるから、やろう」――辻庸介氏が語るマネーフォワードの創業ストーリー

2017年9月、家計簿アプリの「マネーフォワード」やお釣り貯金アプリの「しらたま」などを展開するマネーフォワードが東証マザーズへの上場を果たした。

2012年5月に創業したマネーフォワードは、その翌年に開催されたTechCrunch Tokyo 2013のスタートアップバトルに登場したこともある。それから4年が経ち、当時はまだ創業したばかりのスタートアップの社長だった辻庸介氏が、今度は上場企業の社長としてTechcrunch Tokyoに戻ってきてくれた。本稿は2017年11月17〜18日開催のイベント「TechCrunch Tokyo 2017」のセッションのレポートだ。

マネーフォワードの歴史は、恵比寿の小さなマンションの1室から始まった。辻氏は当時を振り返りながらマネーフォワードの創業ストーリーを語った。

始まりは、失敗から

辻氏がビジネスに目覚めたのは、大学時代のことだった。当時、彼は京都大学農学部で木材を溶かして発泡スチロールを作るという「今話しても誰一人として興味をもってくれない研究」(辻氏)に没頭する、研究者寄りの人物だった。だが、大学のテニスサークルで一緒だった先輩が起業し、その手伝いをしたことでビジネスの面白さに目覚めることになる。

辻氏は大学卒業後にソニーに入社。そこで経理担当として数年間務めたのち、2004年にマネックス証券へと転職した。

「(マネックスグループ代表取締役の)松本大さんには非常に影響を受けた。当時の日本では、インターネットバンキングは今ほど便利ではないし、サービスの質も悪かった。そんななか、松本さんは『日本の金融を変える。資本市場を民主化する』というビジョンを掲げていて、それに共感したことが転職のキッカケだった」(辻氏)

マネックス証券でマーケティング部長として務めた辻氏はその後独立し、2012年5月にみずからの会社を立ち上げた。これが後にマネーフォワードとなる。松本氏に影響を受けたと話す辻氏が独立後のビジネス領域として選んだのも、やはり金融だった。

「さまざまな人生において、お金の問題はすごく障害になっていると思う。例えば、お金のことを今後一生心配しなくてもいいと言われたら、何パーセントの人が今の仕事を辞めるのだろうとか、そんなことを考えていた。それぞれの家庭には教育費の問題や老後の不安があるし、中小企業の中には、融資を受けられさえすればもっと伸びるのにと思う会社がいっぱいある。そんな課題をサービスで解決できればと思っている」と辻氏は語る。

創業したばかりの辻氏が始めたのは「Moneybook(マネーブック)」と呼ぶサービスで、当時の社名もサービス名と同じマネーブックとしていた。Facebook創業者マーク・ザッカーバーグの本を読み、そのオープン思想に共感した辻氏は、「まずは家計が上手な人の事例をオープンにして誰もが見れるようにする。ユーザーがそれをマネすれば、勉強しなくても家計が上手くなるのではないか」と考えた。

Facebookのマネー版。だからマネーブックというわけだ。しかし、このサービスは残念ながら上手くいかなかった。「ユーザーはずっと10〜20人。しかも、10人中7人が僕の友だちというような状態だった」と辻氏は当時を振り返る。辻氏はマネーブックの運営で「『リーン・スタートアップ』(エリック・リースの著書)に書いてある失敗事例はすべて体験」し、結局、マネーブックは失敗のまま幕を閉じることとなった。

その後、会社の再起を懸けて作り上げたのが家計簿アプリの「マネーフォワード」だ。同社は2012年12月15日にマネーフォワードのベータ版をリリース。社名もそれに併せてマネーフォワードへと変更している。そして、このピボットが辻氏たちの運命を大きく変えることになった。

人をハッピーにするサービス

リリースの翌年にあたる2013年10月28日、マネーフォワードはJAFCOを引受先とする第三者割当増資を実施し、総額5億円の資金調達を完了したと発表した。今でこそ億単位の資金調達のニュースをよく目にするようになったが、2013年当時ではスタートアップが数億円の資金調達をするというのは珍しいことだった。その頃、マネフォワードに登録されたユーザーデータは1億件を超え、サービスが連携する金融機関の数も正式版リリース時の201件から1300件へと大きく増えていた。

提供するサービスの幅も広がった。5億円の資金調達を発表した翌月の2013年11月、マネーフォワードは法人向けの「マネーフォワード for BUSINESS(現:MFクラウド会計MFクラウド確定申告)」をリリースする。

法人向けサービスの開発に社内は猛反対だった、と辻氏は言う。当時はまだ人的リソースも少なく、個人向けのマネーフォワードの開発だけでも手が回らないほど忙しかった。終電の1本前で帰ろうとした辻氏に対し、社員が「辻さん、今日は早退ですか?」と言うほどだ。しかも、会計系サービスにとって外せない確定申告シーズンに間に合わせるためには、わずか3ヶ月でサービスを完成させる必要があった。

そのような反対意見に対し、辻氏は「このサービスは絶対に人をハッピーにする。金と人は俺が集めてくるから、やろう」と言い放つ。この強い熱意が社員を背中を押し、ついに法人向けサービスの開発が始まった。ソニー時代、経理部門で経理担当者のカスタマーペインを体感していた辻氏だからこそ出た言葉だった。

人と資金を集める

個人向け、法人向けと続けざまにサービスをリリースし、5億円という大型の資金調達も完了したマネーフォワード。端から見ればすごく順調そうに見えるけれど、もちろん、当人にとっては苦労の連続だった。当時の資金調達について辻氏はこう振り返る。

「当時、スタートアップが数億円規模の資金調達をするという事例はあまりなく、その規模で調達していたのはクラウドワークスの吉田さん(吉田浩一郎氏)やnanapiのけんすうさん(古川健介氏)くらいだった。お2人とはあまり面識はなかったが、厚かましく色々と聞きに行って勉強させてもらった。ああいうのがなければ、無理でした」(辻氏)。

「初めての調達の時はほぼすべてのVCを回った。でも、断られ続けた。マネーフォワードを見せたとき、『こんな怖いサービス、ユーザー1万人も集まらないよ』と言われたのを今でも覚えている。当時は自信もないので、有名な方にそう言われると『やっぱりダメなのかも』と思ったりもした」と辻氏は当時を振り返る。

スタートアップの創業者が集めなければならないのは資金だけではない。サービスが本当に成功するのかも分からないなかでも企業の黎明期を支えてくれるメンバーも集めなければならない。

従業員を集めるために、辻氏はまず知り合いから声をかけていった。知り合いのなかから、「こいつを選んで失敗するのであれば、しょうがない」と思える人たちをリスト化し、それを片っ端からあたっていった。でも、最初は上手くいかなかった。

「苦しいときはどうしても人手が欲しくなる。目の前で火が噴いていれば、それに水をかけて消さないといけないんです。でも、そうして急いで集めた人材がじつは油だったなんてこともあった。」(辻氏)

人材採用にまつわる失敗を重ねてきた辻氏は、その経験から今では「迷ったら採らない」と決めているそうだ。また、当時は10以上もあった“採用で重視するポイント”も今では3つに絞り込むことができた。地頭の良さ、チームワークができる人柄、ビジョンへの共鳴だ。「特に、ビジョンへの共鳴が最終的には一番重要」と辻氏は語る。

久しぶりのTechCrunch Tokyoの舞台で、辻氏は創業当初の資金調達や人材採用における失敗を赤裸々に語ってくれた。現在は上場企業となったマネーフォワードも、創業当初は苦労の連続だった。でも、当時の思い出を語る辻氏の表情はとても明るかった。

壇上で、「もう一度マネーフォワードを創業するとしたら、二度とやらないことは何か」と聞かれた辻氏は、笑顔でこう答えた。

「まず、マネーブックは作らなかったですよね」

SaaS/Fintechに特化した「マネーフォワードファンド」立ち上げ——メルカリ、ウォンテッドリーに続き

2017年7月にメルカリが立ち上げた「メルカリファンド」に続き、ウォンテッドリーが「Wantedly AI/Robot Fund」を立ち上げたと今日報じたばかりだが、今度はFintechスタートアップの雄、マネーフォワードがファンドをスタートしたとのニュースが入ってきた。

1月15日、マネーフォワードはSaaS/Fintech領域に特化した「マネーフォワードファンド」の立ち上げを発表した。マネーフォワードファンドは、対象領域でビジネスを展開する企業への出資、事業拡大に必要なノウハウ共有、送客やAPIなどのサービス連携、パートナーとのネットワークを活用した協業支援などを行うことを目的とした、投資プロジェクト。メルカリ、ウォンテッドリーと同様に「ファンド」と呼称してはいるものの、子会社設立やファンドの組成を伴わない、出資プロジェクトとしての位置づけだ。

マネーフォワードは、2015年12月にお金のデザイン、2017年10月にはCAMPFIREおよびLIFULL Social Funding、そして2018年1月にBASEと、これまでに4社との資本業務提携の実施を発表している。

今回のファンド開始の発表と同時にマネーフォワードは、インドネシアでクラウド型の会計ソフト「Sleekr Accounting」とHRサービス「Sleekr HR」を提供するSLEEKRグループへの出資を、前述の4社に加えたファンドプロジェクトの取り組みとして新たに発表。マネーフォワードが海外企業へ出資するのは、これが初めてとなる。

マネーフォワードでは、今後も同ファンドを通じて、国内外でシナジーが期待できるSaaS/Fintech企業との出資を含めた提携を進めていく考えだ。

国際送金サービスTransferWise創業者、Skype時代の経験を題材に破壊的イノベーションを語る

ロンドン発スタートアップ企業のTransferWiseの共同創業者で代表取締役のTaavet Hinrikus(ターヴェット・ヒンリクス)氏は、TechCrunch Tokyo 2017のGuest Session 「国際送金のヒドさに憤慨して起業―、英Fintechユニコーン創業ストーリー」で講演し、自ら関わった破壊的イノベーションについて語った。

TransferWiseは、移民のための国際送金サービスだ。銀行を使い国際送金をすると、手数料が高く日数がかかることに皆不満を持つ。この課題の解決に暗号通貨/仮想通貨が有効との議論があるが、現状では各国の法整備にはムラがあり普及の度合いも今ひとつ。TransferWiseは、既存の金融サービスの枠組みを使いながら国際送金に風穴を空けるサービスといえる(詳しくはこの記事参照)。

Skypeも最初は「オモチャだ」と笑われた

エストニア出身でSkypeの第一号社員だったHinrikus氏は「Skypeは電気通信のサーバをディスラプトする。TransferWiseも銀行業界を変える」と語る。

「2003年、エストニアの首都タリンにあるソビエト連邦時代の古いビルの一画でSkypeを作っていた」とHinrikus氏は振り返る。「優れた発明はオモチャと呼ばれて笑われる。Skypeはオモチャだ。AT&Tとは競争にならない、と言われていた」。これは、破壊的イノベーション理論の提唱者であるクリステンセンが語る通りの展開である。最初はオモチャに見えたイノベーションは市場で急速に洗練されていき、やがて既存のビジネスを打ち負かす力を持つようになる。

SkypeもTransferWiseも、移民であるHinrikus氏自身が必要としていたサービスだった。「高校時代にアメリカに留学した。国際電話料金が高すぎて、1カ月に1回しか電話をかけられなかった。今は毎日のようにSkypeで話をしている」。このような世の中の変化を作り出したいとHinrikus氏は語りかける。

「本当の問題を解決し、プロダクトを10倍良く、それを素早く」

Hinrikus氏は、講演のまとめとして次の3つのメッセージを伝えた。「第1に、マーケットの本当の問題を解決しよう。第2に、プロダクトを10倍良くしよう。第3に、それを素早くやろう」。

ここで強調したのは「10倍良い製品」というくだりだ。「クルマは馬車より10倍速い。『若干よい』ではなく、『数倍〜数十倍よい』を目指すべきだ。顧客はその10倍よい製品について話をし、噂で伝わっていく。TransferWiseも銀行送金より10倍安いと分かり顧客が広がってきた」。もちろん「素早くやる」ことも大事だ。「良い試みはすぐ模倣されてしまう。さらなる投資を迅速に行うことが重要となる」。

Hinrikus氏は「あなた自身がディスラプトされる可能性がある」と警告する。それを防ぐ方法は「(1) 欲深くならないこと、(2)カスタマーにフォーカスすること、(3)”What If”と問い続けること」だとHinrikus氏は続ける。収益の追求だけに気を取られると、カスタマーや自分達の動機を忘れてしまう。「もしコンピュータにマイクがあって簡単に電話できたらどうなるだろうか?」「金融危機の時、代替手段があればどうなっただろうか?」と常に問いを発することが、次のアクションにつながる。

締めくくりの言葉は「世界を変えたいと思うだろうか?」。Skypeで世界を変え、TransferWiseで国際送金ソリューションを立ち上げた経験者がスタートアップ関係者にエールを送る講演となった。