住宅ローン借換で浮いたお金を原資にリフォーム提案、日本のWhatzMoneyが新サービス開始

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住宅ローンの比較・検索サービス「WhatzMoney住宅ローン」を展開する日本のWhatzMoneyは本日、リフォーム会社比較サイトの「リショップナビ」を運営する株式会社アイアンドシー・クルーズ(以下、IACC)と業務提携をすると発表した。これにより同社は、住宅ローンの借り換え支援サービスの「ゼロカラリフォーム」をローンチする。

WhatzMoneyが展開中のWhatzMoney住宅ローンは、763社の金融機関が取り扱う1万7000件以上の住宅ローンを網羅するサービスだ。一方で、IACCが運営するリショップナビには1200社以上のリフォーム工務店が加盟しており、同サービスはこれまでに累計で3万人を超えるユーザーを獲得している。この2社が手を組んで新しくローンチするサービスが「ゼロカラリフォーム」だ。

WhatzMoneyは同サービスを通して、リショップナビに加盟するリフォーム工務店に、住宅ローンの借り換えシュミレーションやフォローアップサービスを提供する。工務店はゼロカラリフォームを利用してリフォーム希望者に住宅ローンの借り換えを促し、借り換えによって浮いた金利支払額の差を元に、リフォーム希望者の実質的な負担を抑えたリフォーム提案をすることが可能になる。

矢野経済研究所の調べによれば、2015年の日本の住宅リフォーム市場規模は約6.5兆円だった。既存の住宅を有効活用したいというニーズの増加を背景に、今後10年間でこのマーケットの市場規模は約7.4兆円まで拡大すると言われている。しかし、実際の現場におけるリフォームの受注には大きな壁がある。それは、高額なリフォーム費用だ。

平均的なキッチンまわりのリフォームでは100万円から150万円程の費用がかかり、より規模が大きなリフォームの住宅の増改築では、200万円から300万円程の高額な費用がかかることもある。実際のリフォーム受注の現場では、たとえ消費者にリフォームの希望があっても高額な費用を前に断念してしまうケースもあるようだ。

そこでゼロカラリフォームでは、消費者にローン借り換えによって得られるメリットを具体的に提示することで、実質的な負担を抑えたリフォーム提案を実現しているのだ。

ゼロカラリフォームではまず、IACCが運営するリショップナビによってリフォーム希望者とリフォーム工務店をマッチングする。消費者の住宅ローン情報を元に、工務店はWhatzMoneyに住宅ローン試算の申し込みをする。申し込みを受けたWhatzMoneyは、工務店に借り換えシュミレーションと住宅ローンプランについてのサポートを提供する。工務店はそのシュミレーション結果を利用して、借り換えによって得をする具体的な金額を消費者に提示し、それを原資にしたリフォーム提案を可能にするという仕組みだ。WhatzMoneyは借り換えを決断した消費者に対してフォローアップサポートも提供している。

WhatzMoney代表取締役社長の前田一人氏は、「不動産営業の方は、不動産の専門家であって、住宅ローンの専門家ではありません。そのため、多くの不動産営業の方が”どの住宅ローンがお客様に最適なのかわからない”などという課題を持っています。本サービスにより、不動産営業の方は住宅購入者に最適な住宅ローンの提案ができるようになります」と説明する。

同サービスにとって追い風となるのが、日本の金利水準だ。長期金利が継続的に低下を続ける日本では、住宅ローンの借り換えによるメリットが大きい。

10年以上の住宅ローンは、10年もの国債金利(長期金利)と連動する。過去10年間の長期金利を見てみると、2016年では1.5%を超す水準にあった長期金利はその後下落を続け、マイナス金利政策の導入が始まった今年は0%を切る水準で推移していた(11月中旬からは再び0%を上回る金利水準となっている)。

例として、借入残高が2000万円で、残りの借入期間が20年、金利1.5%の住宅ローンを組んでいる消費者を考えてみよう。工務店がゼロカラリフォームを利用して、その消費者に金利が0.5%の住宅ローンへの借り換えを提案できた場合、その消費者が手にする「借り換えによるメリット」は200万円となる。先ほども述べたように、平均的なキッチンのリフォームにかかる費用が100万円から150万円だということを考えれば、非常に魅力的な提案だと言えるだろう。

しかし、ここまでメリットの大きい住宅ローンの借り換えを検討していない消費者も多い。「住宅金融支援機構の調査によれば、およそ50%の住宅ローン利用者が自身の住宅ローンの内容を理解しておらず、日々の生活の中で、住宅ローンの見直しなどを行う機会がありません」とWhatzMoneyの前田氏は話す。そもそも借り換えによるメリットを消費者が理解していなかったり、知っていても面倒くさくて手がつけられない、というのが現状なのだ。

日本のスタートアップの中にも、MFS株式会社の「モゲチェック」など住宅ローンの借り換えを促すアプリやサービスなどはある。しかし、MFSが2つ目の有人店舗を11月にオープンしたことからも分かるように、消費者に借り換えのメリットを理解してもらうという点が各社にとって最大の課題となっているのだ。

その点、WhatzMoneyは今回の業務提携により、「この資金を利用すれば、このリフォームが可能になる」という具体的なメリットを消費者に提示することで、潜在的な借り換えのニーズを引き出す仕組みを構築したと言えるだろう。

freeeがマネーフォワードを提訴、勘定科目の自動仕訳特許侵害で

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注目を集めるFintech業界だが、スタートアップ企業が競合スタートアップ企業を提訴するというニュースが飛び込んできた。

クラウド会計を提供するfreeeが、同じく家計簿やクラウド会計を展開するマネーフォワードに対して特許権侵害を理由とした「MFクラウド会計」の差止請求訴訟を東京地方裁判所に提起したとことが明らかになった。freeeはマネーフォワードと協議を行ったものの進展が見られなかったことから止むを得ず今回の提訴に至ったとしている。

ここで問題となっている特許はfreee創業者で代表取締役の佐々木大輔氏らが2013年10月に出願して2014年3月に登録(成立)された、勘定科目の自動仕訳に関する特許「第5503795号」だ(参考リンク)。

この特許は「会計処理装置、会計処理方法及び会計処理プログラム」と名付けられたもので請求範囲は広い。まず各種金融機関やクレジットカード会社などからスクレイピングしてきた取引情報について、そこに含まれる文字列などから対応テーブルに基いて仕訳項目を自動判別する機能が含まれる。ほかに、中小企業や個人利用者の利用実体に即した機能についても言及がある。具体的には、企業会計の原則である「発生主義」について、個人事業主などでは時期的制約が緩やかであるという実情に沿ったプログラムを提供するとしている。freeeは2016年に入ってからもAIを用いた精度の高い自動仕訳機能で特許を取得したとしていて、TechCrunch Japanでも6月に記事にしている。一方マネーフォワードは8月末に「機械学習を活用した勘定科目提案機能」を発表している。

freeeは「企業が多くの試行錯誤を経ながら取り組んだ技術開発の成果は正当に保護され、尊重されるべきであり、スタートアップ業界においても各社が独自技術の開発に注力し、ユーザー便益を最大化するサービ スが淀みなく生まれていく環境を整えていく必要」とコメントしている。

具体的にどの機能や、特許の請求範囲が侵害であるとしているのか現時点では不明だ。マネーフォワード側は「特許侵害の事実はないと考えています。裁判の手続きの中で明らかにしていきたい」としている。

freee、マネーフォワードともそれぞれ累計約約52億円、約48億円と大型資金調達をして急成長しているとはいえ訴訟はリソースを食う。クラウド会計サービス市場を牽引してきたスタートアップ企業2社による訴訟は業界で波紋を呼びそうだ。

【追記】2社で「協議を行った」というfreee側の主張について、マネーフォワード側は「協議の日程候補をご連絡いただきましたが直近であったため、別途当社から日程をお送りいたしました。弊社からの候補日を取り合っていただけず、その後訴状が届き本件訴訟へと至っております」とコメントしている。一方、TechCrunch Japanからfreeeに対して具体的な「協議」の時期や回数、方法、協議参加者について問い合わせたところ、「代理人を介しての協議となります」との回答を得た。

ロボット資産運用のウェルスナビが総額15億円を資金調達—SBI証券、住信SBIネット銀行と業務提携

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テクノロジーによる資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」を提供するウェルスナビは、10月12日、SBIホールディングス、SBIインベストメント、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、DBJキャピタル、インフィニティ・ベンチャー・パートナーズを引受先とする、総額約15億円のシリーズBラウンドの資金調達を発表した。同時に、SBIホールディングス傘下のSBI証券および住信SBIネット銀行との業務提携も発表。それぞれの顧客向けにWealthNaviのサービスを提供していく予定だ。今回の調達で、2015年4月の設立後の資金調達の総額は約21億円超となる。

WealthNaviは、国際分散投資をソフトウェアで自動化して、クラウド経由で個人投資家向けに提供する“ロボアドバイザー”サービスのひとつ。2016年7月13日に一般公開された注目のFintechスタートアップによる資産運用サービスだ。

ウェルスナビでは今回の資金調達及び業務提携により、次世代の金融インフラを構築するため、積極的に金融機関に対してWealthNaviのシステムをパッケージで提供していくという。

SBI証券との業務提携では、資産運用のロボアドバイザーサービス「WealthNavi for SBI証券(仮称)」を口座数約360万のSBI証券の顧客に向けて提供し、さらにアプリ間連携などを通じて機能や利便性を強化していく予定。また2016年9月から連携を強めてきた、独立系フィナンシャル・アドバイザー、SBI証券、ウェルスナビの3者間連携により、リアルとネットを融合させた総合的な資産運用サービスを、主に富裕層向けに提供していくという。

住信SBIネット銀行との業務提携では、口座数約260万の住信SBIネット銀行の顧客向けに、やはりロボアドバイザーサービスの「WealthNavi for 住信SBIネット銀行(仮称)」を提供していく。さらに、預金・カード・資産運用が自動連携した、日本初の少額からの資産運用サービスを2017年春より開始する予定だ。d14586-11-912088-3

こうした取り組みを通じてウェルスナビでは、「銀行・証券・ロボアドバイザー」の連携モデルを実現・普及し、地方金融機関のFinTech導入を支援するSBIグループとも連携して、次世代金融インフラの確立を目指すとしている。

資産運用の「お金のデザイン」が総額8.1億円を調達、サービス向上に加え業務提携によるビジネス拡大も

THEOサイト

ロボアドバイザーによる資産運用サービス「THEO(テオ)」を提供する「お金のデザイン」は9月13日、総額約8.1億円の第三者割当増資の実施を発表した。引受先はちばぎんキャピタル株式会社、静岡キャピタル株式会社、株式会社ふくおかテクノロジーパートナーズ、株式会社丸井グループ、株式会社ベネフィット・ワン、東京短資株式会社ほかの各社で、2013年8月の創業時からの累積調達額は今回を含めると25億円超となる。

2016年2月に一般向けにも公開されたTHEOは、独自アルゴリズムに基づいたロボアドバイザーが資産を自動的に運用してくれる、個人顧客を対象にした資産運用サービス。年齢や投資経験、リスクに対する考え方など、9つの質問に回答することで、世界の約6000のETFの中から約40種類のETFを組み合わせ、ユーザーの嗜好性に応じたポートフォリオが作成される。PCのほかスマホだけでも手続きが完結し、最小10万円、運用手数料1%(年率)でグローバル資産運用が始められる。

THEOが提案するポートフォリオとシミュレーション

お金のデザインによると、今回の資金調達は、強い顧客基盤を持つ金融機関や事業会社との資本業務提携によるビジネス推進が目的とのこと。新規調達によるTHEOのサービス向上、新規顧客層の開拓に加え、金融機関向けOEMモデルの開発強化や個人向け確定拠出年金(日本版401k)へのビジネス展開も進めるとしている。

ヤマトがマネーフォワードと提携し、自社ポータルに請求業務支援サービスを追加

スタートアップ企業と大企業の提携は増えているが、多くはAPIによるつなぎ込みや、スタートアップ側が既存サービスをまるっとOEM提供するようなことが多い。今日ヤマト運輸とマネーフォワードが発表した提携は、もう少し互いに踏み込んだ共同開発による新サービスという意味でも興味深い「請求書業務支援サービス」だ。

ヤマト運輸は2012年から自社顧客向けに業務支援ポータルサイト「ヤマトビジネスメンバーズ」を提供している。送り状の発行や利用運賃履歴確認など、ヤマトの発送業務を支援する顧客向けポータルとして中小企業や個人事業主を中心に75万アカウントを持つサービスに成長している。

このヤマトビジネスメンバーズに新たに請求業務支援サービスとして「請求業務クラウドサポート」の提供を開始する。

サービスはフリーミアムモデルで提供し、見積書や納品書、請求書・領収書の発行などが無料でできる。月額980円の有料プランでは、さらにファクス送信(1通20円)や売上レポートなどの機能が利用できる。マネーフォワードは「MFクラウド請求書」のシステムを提供していて、要望の多かったファクス送信機能などは共同で開発したという。今も中小企業の物販の現場では請求書を手書きやExcelで作成してファクスで送受信する、煩雑で非効率的な作業が残っているという。

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ところでヤマト運輸はシステム開発や運用を行う子会社としてヤマトシステム開発をグループ企業に抱えている。だから今回のような機能開発を自社開発するという選択肢もあり得ただろう。あるいは他にも多くのソリューションがある。今回の提携を担当したヤマト運輸の中西優氏(営業推進部プロジェクトマネージャー)はTechCrunch Japanの取材に対して、請求書業務についてほかのソリューションやクラウドベースのプロダクトを比較したうえで、実績と実際に使ってみた印象からMFクラウド請求書に決めたという。

ヤマトではこれまでLINEで荷物問い合わせができるサービスや、メルカリでの自宅発送サービス、DeNAと自動運転による次世代物流サービスの実験など、B2C向けでスタートアップ企業と提携する例はあったが、今回のようなB2Bは初めて。

ヤマトでは今回の提携を機に自社顧客向けでスタートしていたヤマトビジネスメンバーズを広くヤマト非利用者にも開放。むしろ、「請求書業務もITで統合された宅配事業者」として同業他社と差別化、本業での新規顧客開拓という面でも期待しているそうだ。既存自社顧客向けサービスから、積極的なマーケティングツールへといったところだろう。「もともと請求関連業務をやってる人が、新たに宅配業務をやる、というときにヤマトを選んでもらうというのも考えている」。

最近でこそAPI利用が業務システムでも増えてきているが、かつてこうした業務システムや、その機能モジュールは、パッケージソフトウェアの納品やSIerの受託案件という形で提供されることも多かった。そう考えると、UI・UXに強くてスピード感のあるスタートアップ企業と提携して共同開発するというのは、ちょっと新しいソフトウェア流通のあり方と言えるかもしれない。

同様の取り組みとしてマネーフォワードはこれまでにも、2016年2月にアパート経営管理サービスを提供するインベスターズクラウド向けに確定申告機能を、3月にはアスクルが運営する日用品ECのLOHACOに対してEC連動型家計簿サービスを提供するなど、提携による外部へのサービス提供を加速している。

農産流通基盤「SEND」運営のプラネット・テーブルが4億円の資金調達、“農業×FinTech”の挑戦も

プラネット・テーブルのメンバーら。中央が代表取締役の菊池紳氏

プラネット・テーブルのメンバーら。中央が代表取締役の菊池紳氏

農産流通プラットフォーム「SEND(センド)」などを運営するプラネット・テーブルは8月31日、SBIインベストメント、Genuine Startups、Mistletoeを引受先とした第三者割当増資により総額4億円の資金調達を実施したことをあきらかにした。評価額、出資比率等は非公開。同社はこれまでに2015年3月にGenuine Startupsと個人投資家から3500万円のシードマネーを調達。同年12月にサイバーエージェント・ベンチャーズ、セゾン・ベンチャーズなどから総額約1億円のシリーズAの調達を実施している。

プラネット・テーブルは2014年5月の設立。代表取締役の菊池紳氏は外資系金融機関、コンサル、投資ファンドなどを経験したのちに起業した。農林水産省のファンド「農林漁業成長産業化支援機構」の立ち上げにも携わった。

SENDの登録飲食店は1000件、生産者は3000件以上に

同社は2015年8月から農産流通プラットフォームのSENDの提供を開始した。SENDは農作物、肉類の生産者と飲食店の間での直接取引を実現するプラットフォームだ。飲食店はプラットフォームに登録した生産者が生産する食材などをオンラインで取引できる。特長となるのは、取引のためのオンラインでのプラットフォームだけでなく、食材保管用の拠点を自ら持ち検品から配送までも自前で行っている点だ。

サービス開始から1年で登録飲食店は1000件、登録生産者数は3000件を突破した。また8月には東京都・目黒区にこれまでの10倍(約200平方メートル)の物流拠点「GATE Meguro(ゲート メグロ)」を新設している。この拠点と後述の物流機能の強化により、これまでの東京都心部(渋谷、広尾、恵比寿、六本木など)から、西東京、川崎、横浜北まで配送エリアを拡大するとしている。

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シェアリングやIoTを導入

今回の調達を受けて同社が進めているのは、いわゆる「シェアリング」モデルやIoTの導入による物流機能の強化、そして農業×FinTech領域への参入だ。

シェアリングに関しては、地域の生産者をネットワーク化し、トラックを共有して地域の集荷を行うモデルを導入するほか、中小配送業者の有休資産を活用したサービスの試験運用を行う。通常生鮮食品の配送は夜中が中心。それ以外の有休時間での配送を依頼できる配送業者をネットワーク化していく。

また、IoTスタートアップなどと組み、物流過程の滞留時間や温湿度変化といった物流ロス要因の可視化を進めるとしている。「物流ロスを減らし、物流によるモノの劣化を防ぐ。品質劣化の原因を追うと製造者の責任になりがちだが、物流の責任になることもある。それを可視化していく。売り手と買い手、どちらとも組んだプラットフォームでないとできない話だ」(菊池氏)。具体的な取り組みについては間もなく発表があるとしう。

今後は「Square Capital」ライクな生産者向け金融サービスも

先ほど「農業×FinTech」と書いたが、プラネットテーブルでは今後、生産者向けの決済やファイナンス支援サービスを手がける。菊池氏は、マーケットを改革するためには商流や物流だけでなく、お金の流れが変わらないといけないと語る。では農産取引においてのお金の流れを変えるというのはどういうことなのか。

生産者には、収穫期や出荷期においては人件費をはじめとした早期支払があったり、作付や生産拡大向けた資金需要があったりと、業界独自の資金ニーズがある。そこにたいしてプラネット・テーブルは金融機関と組み(実際、プラネット・テーブルでは複数の金融機関系VCからの支援を受けている)、独自の決済サービスを提供していくほか、、ファイナンスの支援をしていくのだという。

この話を聞いて思い出すのは、決済サービスのSquareが米国で提供している「Square Capital」というサービスだ。このサービスは、Squareを導入する小売店が事業拡大のための資金をSquareから借り受け、売上の一部から返済していくというプログラムだ。このプログラムをSquareが提供できるのは、小売店の売上や財務状況をビッグデータとして持ち、それを活用して独自の与信機能を持っているからに他ならない。

SENDは生産者と購入者、両方の情報を持っている。これを利用することでSquareと同じように生産者の財務状況を把握し、最適なファイナンス(の支援。自ら出資するのではなく、金融機関を繋ぐ予定)を行えると考えているようだ。「流通が見えるということは、お金の流れも見えるということ。(SENDも売買データから需給予測をしているので)売れることが分かっているのであれば、現物(生産物そのもの)で資金回収するというのでもいい」(菊池氏)

同社では今期中(2017年3月末まで)にもこれらの取り組みを進め、将来的にはプラットフォーム丸ごとをアジア地域にも展開したいと語る。また6月に発表していた生産者向けバックオフィスツールの「SEASONS!」については、当初7月頃の正式リリースを予定していたが、「ユーザーからのヒアリングを行って機能やUI/UXを改善しており、10月にもリリース予定」(菊池氏)としている。

Shopify、決済用カードリーダーとPOSアプリをイギリスで近日提供開始

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Shopifyは事業者向けクレジットカードリーダー(読み取り機)とPOSアプリをイギリスでまもなくローンチする。同社のリーダーは非接触式、ICチップ、磁気テープによる決済をサポートし、店舗側はAndroid PayやApple Payなどのコンタクトレス決済と、従来のカード読み取り式決済の両方に対応できる。アプリは無料で、iPhoneまたはiPadに接続したリーダーと連動する。

Shopifyのアプリとリーダーをセットで使えば、イベントや期間限定のポップアップ・ストア、固定店舗などで幅広い支払方法に対応できるようになる。さらにShopifyのeコマース機能で、実店舗でのショッピング・エクスペリエンスをオンラインストアと結びつけることも可能だ。

Shopifyのカードリーダー本体は、今なら期間限定で20ポンド引きの59ポンドで事前予約が可能。前述のようにアプリは無料で、決済手数料は1.6パーセントから。決済ごとの基本料金はかからない。

Shopifyのプロダクト・グロース・マネージャーHailey Colemanは「イギリスはShopifyにとって2番目に大きな市場」とTechCrunchに語る。「Shopify POSアプリとカードリーダーのローンチで、スモールビジネスオーナーはカード決済をいつでもどこででも、簡単かつ安全に受付可能になります。これでイギリスの事業者にもShopifyでビジネス全体を回してもらえます」。

今回イギリスで提供開始となるShopifyのリーダーとソフトウェアがあると、小売店側にとって最新のモバイル決済技術の導入もかなり容易になる。同社のカードリーダーはコンタクトレス(非接触/NFC)決済機能を内蔵し、Android PayとApple Payにも自動的に対応する。

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(翻訳:Ayako Teranishi)

Funding Societiesが750万ドルを調達、東南アジアで個人出資ローンサービスを展開

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また新たに東南アジアのフィンテック系スタートアップが、注目の投資ラウンドを終えた!シンガポールを拠点とするFunding Societiesが、同社のマーケットプレイスを介したローンサービスのため、シリーズAラウンドで750万ドルを調達したのだ。

本ラウンドでは、Sequoia Capitalが設立した、東南アジアを拠点とするスタートアップが対象のファンドであるSequoia Indiaがリードインベスターとなり、エンジェル投資家もそれに加わった。

2015年6月にローンチされたFunding Societiesは、Lending Clubを例としたアメリカに既に存在する企業のように、誰でも利子狙いで貸出資金を出資できるプラットフォームを運営している。Funding Societiesは、自分たちのプラットフォームを「Peer to Business(個人から企業へ)」プラットフォームと呼ぶことで、競合他社との差別化を図っている。つまり、現状彼らは消費者向けではなく、中小企業向けにローンを提供しているのだ。しかしターゲットについては、取引のボリュームが増加してくれば変わってくる可能性もある。

Funding Societiesは、シンガポールと(Modalkuと同じ)インドネシアで営業を行っている。シンガポールは、東南アジアの国々の中でも経済発展ではトップの地位にあり、インドネシアも経済規模では同エリアのトップだ。なお、両国にはCapital MatchMoolahSenseといった競合が既に存在する。

同社は、これまでに96件で合計870万ドルのローンを実行している。返済率は94%と発表されており、Funding Societies CEOのKelvin Teoは、返済率こそボリュームではなく信頼度を測れる意味で、重要なデータだと語っている。

「Funding Societiesは、シンガポールにある他社と比べ、サイズでは劣っていますが実行したタームローンの数では1番です。これには、度を越した貸付を行うといつか不渡りの形で返ってくるという私たちの考え方が反映されています」と彼は説明する。

詳細を説明すると、Funding Societiesは主に運転資金の貸出を行っており、シンガポールの平均ローン額は9万シンガポールドル(6万7000ドル)で、インドネシアは2万5000シンガポールドル(1万8500ドル)だ。

借り主にはローン組成費用(シンガポールで3〜4%、インドネシアで5〜6%)が発生し、貸し主は月々1%の利用料を支払わなければならない。同社によれば、ローン申請の審査通過率は15〜25%とのこと。

拡大と規制対応

Teoは、TechCrunchの取材に対し、Funding Societiesがマレーシアへの参入準備を進めていると語った。マレーシアには既に数人の従業員がいて、現地での営業許可に関する当局のフィードバックを待っている状況だ。

マレーシアへの展開と全般的な規制対応のふたつが、今回調達した資金の主な使い道だ。さらに彼は、東南アジアではP2Pローン市場がまだ成長過程にあり、Funding Societiesは新たな規制導入の需要を考慮して資金力を増強したと説明した。

また、コンプライアンスの重要性を強調し、投資家から資金を調達するのにも「信じられない程の」数の法律事務所に相談しなければならなかったと話した。

「私たちのいる業界に対する規制がシンガポールで発表されましたが、これに対応するには別途資金が必要になってくるでしょう」とTeoは語る。

Funding Societiesは、インドネシアでも同様に、当局と協力しながら個人出資ローンに関する規制のフレームワーク導入に取り組んでいる。

競争の激化

Teoは市場の競争激化を見越している。そのせいもあって、彼と共同設立者であるReynold Wijayaは、去年アメリカのハーバード大学を卒業する前に、100日間でFunding Societiesを立ち上げた。

「今年の卒業まで待っていたら、市場に遅れをとることになっていたでしょう」とTeoは話す。

素早く動く以外にも、商機を掴む上でタイミングがとても重要だったと彼は主張する。というのも、規制対応にかかる費用のせいで、資金力の無い会社は事業を続けられない可能性があるとTeoは考えているのだ。

「このタイミングで資金調達を行っていない企業は、東南アジアにあるプラットフォームで規制にのっとった営業を続けられなくなる恐れがあります。私たちは、今後6ヶ月のうちに競争が激化し、その後業界再編が起きると予想しています」と彼は付け加えた。

規制対応と拡大(ここにはインドネシアの首都ジャカルタ外の都市への拡大も含まれる)の他にも、Funding Societiesは製品への投資を考えている。現在、同社はiOSのアプリを貸し主向けに、そしてAndroidアプリを借入希望の企業に対して提供している。この決断は、アジア社会においてApple製品は富裕層に人気があるという無視しがたい状況に基づいている。しかし、今後借り主と貸し主向けのサービスを整備し、「個々の投資家のニーズに合った投資オプションをつくりだすような」サービスを増やしていく予定だとTeoは話した。

まだまだやるべきことは多いようで、Funding Societiesは既に約70人規模の企業に成長したが、Teoは同社のスタートアップらしい成長と、金融商品を扱うことの責任をすりあわせようとしていると強調した。

「私たちと投資家の方々は、爆発的な成長を推し進めて不渡りを発生させる代わりに、ゆっくりと確実に積み上げていくという姿勢をとっています。利益を生み出すためには、時間をかけてスケールしなければいけません」とTeoは、Funding Societiesが「2、3年」のうちの損益分岐点到達を目指すと説明しながら語った。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

日本のFinTechはいよいよ応用期に——その全体像を読み解く

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この原稿はFinTechスタートアップであるマネーフォワードの創業メンバーで取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄氏による寄稿である。マネーフォワードは自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」やビジネス向けのクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などを提供。4月には代表取締役の辻庸介氏と瀧氏の共著「FinTech入門」も上梓している。本稿では、いよいよ応用期を迎える日本のFinTech事情について論じてもらった。

本誌に2年前に寄稿した頃、FinTechはまだ、知る人ぞ知るテーマであった。その後、FinTechはスタートアップ界隈のみならず、金融業界をも含めた一大テーマとなり、今や誰しもが知るところとなった。本稿では、現在の問題意識とそのあり方について述べてみることとしたい。

産業政策となったFinTech

現在行われている様々な議論のルーツを紐解くと、FinTechの盛り上がりの火付け役となったのは、2015年2月5日に開催された金融審議会における決済高度化スタディグループである。同スタディグループでは楽天やヤフー、AmazonといったIT産業のプレーヤーが、ECなどの自社のプラットフォームで生まれる取引から決済事業や融資事業を展開する中で、同様のチャンスが既存の銀行業においても模索されるべきではないか、とする問題意識が取り上げられた。

この議論は2015年を通じて、銀行法をはじめとする様々な制度改定として結実しつつある。その内容は、銀行によるFinTech事業会社の保有規制の緩和や、ATMの現金引き出し機能をコンビニやスーパーのレジに持たせること、ビットコインの取引所における利用者保護の仕組みなど、多岐にわたる。このような制度改定の第一弾ともいえる銀行法等を改正する法案は2016年5月に国会を通過した。

制度変化の中で、メガバンクのみならず地域金融機関や、証券会社、保険会社などにおいてもFinTechに関する専門部署が立ち上がり、協業や新規事業開発に向けて異例ともいえるスピード感を発揮している。

このような既存の金融システムの高度化・利便性向上という観点に加えて、成長産業としてのFinTechにも関心が集まっている。2015年の後半に開始した経済産業省のFinTech研究会では、多種多様なプレーヤーを内外から招いた、総合的なFinTechに関する情報収集とあるべき政府の規制とサポートが議論された。そして、産業競争力会議における会合や、自民党政務調査会における戦略的対応としての取り上げなどを含めて、1つのベンチャー用語としてのFinTechから、産業政策としてのFinTechという位置づけへの昇華が見られた。

FinTechのインパクトは多様であるが、誰もが意識するべき2点として、(1)インターネットが持つ力学が金融の世界にも浸透し、ユーザー中心の社会が実現されていくこと、(2)新たな金融インフラのあり方に対して、先取りし、自ら考える経営姿勢が各ステークホルダーに求められていること、である。この2点を元に、未来像を描いていくことこそが重要である。

(1)ユーザー中心主義のサービス設計について

FinTechでは、Techを活かすことができるベンチャー企業が主語となっている。その理由は明確で、ベンチャー企業は顧客獲得競争において、失敗を通じた学習がより許容される環境に置かれているからである。その結果、「分かりやすいサービスであるか」「真の問題解決に近づくソリューションを提供できるか」「不安をなくすことができるか」「ペイン・ポイントに近い場所でサービス訴求ができるか」といった軸での競争がサービスレイヤーでは行われている。

FinTech産業の全体像と海外における主要なプレーヤー

FinTech産業の全体像と海外における主要なプレーヤー

 

個別の業態の詳細については拙著での記述に譲ることとしたいが、オープンソースの進展や、スマートフォンの浸透を通じて、海外ではゲームチェンジャーといえる規模まで普及するサービスが生まれてきている。そこでは、従来の金融機関が総合的なサービスを提供してきた中で、ある特定のニッチと思われる領域において段違いに効率的・効果的なサービスを提供し、横展開を通じて規模拡大を図っていく姿が見られている。

金融サービスへのニーズや背景は国ごとに異なるが、肝心なのは様々な試行錯誤と競争からプレーヤーが生まれてくるプロセスそのものである。そして、従来の金融機関が提供しえなかったUXを新規のプレーヤーが提供することが常態化するのであれば、ユーザビリティを自社サービスに取り込むオープンイノベーションのあり方が金融機関においても重要となっていく。

金融は「金融サービス産業」とも呼ばれるように本来、サービスへの満足度を求めた競争が行われる場所である中で、このレイヤーにおける戦略に向けて先手を打っていくことは、次に述べるインフラ面での変化を踏まえると、とりわけ重要である。

(2)インフラ面での変化について

日本における金融インフラにおけるキーワードは、(1)キャッシュレス化、(2)API化、(3)中期的な分散型の技術の活用である。

今後、キャッシュレス化は消費者の基礎的な行動の変化をもたらす一大テーマとなる。2020年の東京五輪を見据えて、インバウンド消費向けの決済インフラ(クレジットカード、デビットカード)の整備が進むと同時に、電子マネーの存在感もオートチャージ型の普及に伴って拡大し、現金利用はいよいよ減少していくこととなる。また、LINE Payやau WALLETカードのような、未成年も使うことができ、すでに大きなユーザーベースを抱える決済方法も誕生してきていることも、その一層の促進材料となる。

また、今般の制度改定でキャッシュアウト(小売店舗におけるレジにATMとしての機能を持たせ、現金引き出しが可能となること)が可能となる中、個人と金融機関の接点は一変していくこととなる。現金引き出しは今後、わざわざATMに行くのではなく、スーパーやコンビニ等のレジで、「買い物のついでに行われる」ものとなる。

キャッシュレス化とキャッシュアウトの二つで、ATMが使われる需要は激減する。筆者も米国に居住していた頃の明細では、1年間で銀行のATM自体を利用したのは2回であり、その金額は合計300ドルであった。ほとんどの現金需要はスーパーでの引き出しによって賄われている中で、同じような世の中が、もうすぐ日本でも実現しようとしている。

金融広報中央委員会による調査(2015年)によれば、日本の世帯の78.5%は取引金融機関を決める際に、店舗やATMの近さをその理由として挙げている(次点は経営の健全性で29.8%)。しかしながら、今後ATMの近さがキャッシュレス化の中で金融機関選択の軸としてのポジションを失っていく中では、純粋なユーザビリティに向けたサービス品質の追及が急務となっていく。

そのような中、銀行によるAPI提供は目下の重要テーマとなりつつある。APIの提供は、元々は欧州で預金者のためのデータアクセスを確保するべく生まれた背景があるが、結果的に、金融機関がオープンイノベーションを提供するにあたって必須のものとして台頭しつつある。従来、自社アプリとして提供が行われていた機能は、今後は、PFM(Personal Financial Management:個人資産管理)やECなど幅広い外部サービスに取って代わられていく。そうなると、データの閲覧や取引の実行も含めてこれまでの銀行機能自体がAPIとして提供されることとなる。そして、外部のサービスプロバイダにとって、メリットの高いプラットフォームとなることこそが、金融機関に求められるようになっていく。

銀行と預金者の接点のイメージ図

銀行と預金者の接点のイメージ図

 

最後に、ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳の技術の台頭がある。本テーマはすでに多くの言及がある中で詳細は割愛するが、金融システムがもつ根幹的な価値である「真実性」について、政府や規制が保証を提供するあり方から、参加者と技術的な仕組みが正しさを担保するあり方への転換を促すことのインパクトは計り知れない。

IoTなどの文脈で大量のデータが利用可能となっていく中、特定条件をトリガーとした金融サービスのあり方を、契約と検証コストではなく、技術によって担保することで、10年後の世界では、想像されている以上のインパクトや、インフラの変化をもたらしている可能性がある。

従来と比べて、圧倒的に時代の変化が早くなってきている中で、ベンチャーも含めて新しい状況に適応し、可能な限り先取りを行っていくことが求められている。結局のところ重要なのは、顧客を見つめ、必要とされるサービスを作り続けることである。これは「FinTech的アプローチなのか」という見方ではなく、実際にユーザーが求めているソリューションにおいて、新たな技術が使えるのではないか、という観点こそが求められている。

実証期に入ったFinTech

FinTechに向けた投資資金も、最近は数百億円を超える規模の専門ファンドを、SBIグループ楽天が立ち上げる動きも見られる。

資金面でのサポートに加えて、規制緩和もある中で、金融機関はいよいよ「どのようなFinTechビジネスが実際に役に立つのか」というシビアな検証へと入っていくフェーズといえるだろう。これまでが、「FinTech入門」というフェーズだったのであれば、今後はいち早く「FinTech応用」を行い、正しいユーザーに向けた訴求パスを見つけられるかが課題といえるだろう。

その際には、絶え間なく最新の技術動向を押さえつつも、ユーザーにサンドボックス的にサービスを提供し、それがユーザーに刺さるか否かを細かく検証していく地道なプロセスがある。その過程で元々の高い期待値に応えることができない、ハイプ・サイクルにおける幻滅期としての特徴も現れてくるだろう。FinTechとはなんだったのか? と思われるタイミングも訪れるのかもしれない。

しかし、生産性が発揮される頃には、その頃の苦労も忘れられ、新たな満足点にユーザーもたどり着いていくこととなる。このためのリスクテイクができる環境が、ベンチャー側にも金融機関側にも、まさに求められている。

FinTechではよく「アンバンドリング」という言葉が取りざたされる。この言葉は、「従来、金融機関が一手に担ってきた諸機能が分解される」というニュアンスを含んでいるが、これと同時に用いられる対義語が「リバンドリング」である。米国の例として、例えばJPモルガンがオンラインレンダーであるOnDeckと提携したように、適材適所での資源活用が行われ、各プレーヤーも自らの立ち位置を再構築する発想こそが重要といえるだろう。

おわりに

2年前の拙稿の言葉を引用してみたい。

日本の若年層は数十年前の日本人と比べて、所得の安定や、将来に向けた備えなど、様々な形での自己責任を求められるようになった。この社会的背景の中で、資産運用や将来設計などの米国型のソリューションに加えて、より分かりやすい貯蓄・節約方法や加入する保険の見直し、ローンの管理など、より問題解決につながるビジネスモデルが今後は求められているのかもしれない。

2年前と比べると、FinTechが捉える諸課題は金融インフラを含む広大なものとなった。とはいえ、このユーザー起点での発想の重要性は幾分も変わっていない。様々な社会のニーズを捉え、解決していくことは、ベンチャーに限らずすべてのビジネスが本来的に持つ課題である。

今や産業政策となった日本のFinTech。オープンに良いアイデアを取り込む枠組みをいかに維持し、ユーザーを見ながら育てていけるかが、今後の試金石となるだろう。

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サブプライム融資を行うElevateが5億4500万ドルをVictory Park Capitalから借入れ、IPOも視野に

Close-up of a broken piggy bank with coins

IPOの兆しが見えてきたサブプライムレンダーのElevateは、新たに5億4500万ドルの貸出枠を設定し、拡大する顧客層のサポートにあたる予定だ。

Elevateが現在融資のターゲットとしているのは、クレジットスコアが575から625の間にある借り主だ。拡大にあわせて、Elevateは現在の顧客層よりもさらにクレジットスコアの低い層への貸出を考えている。

Elevate CEOのKen Reesは、アメリカ人の65%がクレジットスコアが低いせいで、必要なサービスを受けることができていないと既に気づいている。貸出に関する追加情報のおかげで、もしかしたらこの65%にあたる人々に対しても自信を持ってローンを提供することが可能になるかもしれない。Elevateの誕生以前、現在の顧客にあたる人たちは、タイトルローン(車などの所有権を担保に借り入れるローン)かペイデイローン(短期の小口ローン)で借り入れを行わなければならなかった。

「タイトルローンを利用している人の20%が最終的に車を失っています」とReesは述べた。

年間借入コスト(APR)の顧客平均が減少しているにも関わらず、Elevateの売上ランレートは、5億ドル付近をただよっている。さらに、貸倒償却率が2014年初頭の17〜20%から今では10〜15%まで減少しているにも関わらず、ローン残高は昨年一年間で80%も増加した。貸倒償却率は、貸し出しを行っている企業が回収を見込めないと考えるローンの割合を示している。

このニュースが、サブプライム層を搾取するような貸し出しについて心配しているアナリストの気持ちを少し和らげることだろう。Reesが以前関わっており、SequoiaとTCVから資金調達を行っていたThink Financeは、昨年裁判沙汰に巻き込まれ、不法なローンの回収や脅迫で非難されていたのだ。

Elevateとその前身にあたるThink Financeの間には2つの大きな違いがある。ひとつ目は、Think Financeのモデルは、顧客への直接の貸し出しと、サードパーティーレンダーへのライセンシングの両方から成立していた。裁判で不良債権の原債権者として名前があがっていたペイデイレンダーのPlain Green, LLCは、Think Financeのサードパーティーレンダーだったのだ。一方、Elevateは顧客への直接貸し出しモデルのみで成り立っている。ふたつ目に、Elevateは、借り主の経済状況を向上させるような努力をすることで、持続可能な貸し出しを行っている。

Elevateの顧客は、金融リテラシーに関するビデオを見ることで、資金繰りの改善を目的とするRISEのような商品をより良い利率で利用できるようになる。同社はさらに、無料の与信モニタリングサービスも提供している。RISEの加重平均APRは160%と高いが、旧来のペイデイローンの500%という数字と並べると比較的低いといえる。RISEローンでは、借入開始から24ヶ月後にAPRが50%減少し、36ヶ月後には定額の36%までAPRが下降する。

ElasticやSunnyは、それぞれアメリカとイギリスで提供されている、その日暮らしをしているような人たちを対象とした商品で、Elasticも持続可能な金融を柱として作られている。借り主は、金融リテラシーに関する情報へもアクセスすることができ、実際に借入を行うまで手数料がとられることもない。

Elevateからお金を借りている人の65%がこれまでに利率の減少を経験している。このようなElevateの貸し出し方法で顧客の保持率が向上し、ローン返済を終えた人の60%が再度Elevateから借入を行っているのだ。そしてほとんどの場合、新しいローンの利率はさらに低くなる。

Elevateは以前にもIPOを考えたことがあったが、先送りにせざるを得なかった。最近の株式市場ではフィンテック恐怖症が巻き起こっており、C2Cの貸出プラットフォームを運営するLending Clubが、融資活動を行うスタートアップ固有のリスクを体現している。

しかしReesは、ElevateをLending Clubと比較するのは誤りだと考えている。Elevateと400人におよぶ従業員は既に上場企業のように機能しており、約1年にわたって定期的にディスクロージャー誌も発行されている。

「IPOで享受できる私たちにとっての主要なメリットは、デットファイナンスへの依存度が下がることです」とReesは付け加えた。「Victory Park Capitalは素晴らしいパートナーですが、無料で借入はできません。IPOでの資金調達によって、Elevateの成長をサポートすると共に資本コストを下げることができるのです」

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

MasterCardが11億ドルでVocaLinkを買収、イギリスの決済サービスへ参入

Cash savings

イギリス企業の動向を追っている人向けに新たなニュースが入ってきた。新たに一社、イギリスで生まれ育った大手テック企業が外国企業に買収されることが分かったのだ。本日(米国時間7月21日)MasterCard Inc.は、VocaLinkと株式の92.4%を取得することで合意に至ったと発表した。VocaLinkは、イギリス国内のATM、ダイレクトデビット、そして大手モバイル決済ネットワークを支える一大テック企業だ。買収額は総額11億4000万ドルにのぼり、全額現金で支払われる予定。まず7億ポンド(9億2000万ドル)が支払われ、さらにアーンアウトとして、業績に応じて最大1億6900万ポンド(約2億2000万ドル)が現金で支払われる。

残りの7.6%の株式については、少なくとも向こう三年間は引き続きVocaLinkの株主が保有するとMasterCardは発表の中で述べた。

VocaLinkは、2015年に1億8200万ポンド(2億4000万ドル)の売上と、110億件以上の決済処理数を記録している。

今回の買収は、今週発表されたイギリス企業のエグジットで2番目となる規模で、1位はソフトバンクが月曜日に発表した、半導体チップのリファレンスデザイン事業を行うARM Holdingsの320億ドルでの買収だった。

イギリスのEU離脱を決定づけたBrexitよるポンド安の影響で、多くの人が今後このような買収案件が増加するのではと問題視している。ソフトバンクCEOの孫正義は、ARM買収へのポンド安の影響を否定しており、MasterCardも同様の回答をしている。

「ご想像の通り、買収には何ヶ月もの時間をかけてきました」とMasterCardの広報担当者は今回の買収について語った。「MasterCardは、Brexitの投票が行われる何ヶ月も前からVocaLinkを買収したいと考えていました。そのためBrexitは買収の要因にはなっていません」

今のところ、MasterCardはVocaLinkの買収で「全ての種類の電子決済や、決済の流れに積極的に参画し、顧客やパートナーのためのサービス向上を行う」戦略を固めていくつもりだと話す。さらにMasterCardは、イギリスの決済エコシステム内で、重要な役割を担っていきたいとも語っている。

「イギリスという私たちにとって重要な決済市場で大きな役割を担うことができるという、今回の買収によって得られたチャンスに私たちは興奮しています」とMasterCardの社長兼CEOのAjay Bangaは声明の中で述べた。「VocaLinkは、素晴らしいテクノロジー、資産、社員を持つ類まれな企業です。私たちは、VocaLinkのテクノロジーを投資を通じて最大化し、イギリスそして世界中の私たちの製品やソリューションへ組み込むことをとても楽しみにしています」

今回の買収から、さらに多くの外国企業が、イギリスの決済サービスや、イギリスにおけるコンシューマリズムや消費文化の受容を利用しようとしていることがわかる。昨日のTechCrunchのニュースでも、Squareがようやくイギリスでの営業開始に向けて動いていることを示す証拠について報じられていた。

VocaLinkは、2007年に設立後も特にベンチャー投資を受けず、今ではATM、BACをベースとしたダイレクトデビット、そしてFaster Payments(モバイルテクノロジー)の3大決済ネットワークを運営しており、ほぼイギリス居住者全員分の決済をカバーしているほか、外国市場向けにもその他のサービスを開発してきた。

Fast ACH(高速小口決済システム)を利用したモバイル決済アプリのZAPPがそのうちのひとつだ。VocaLinkはソフトウェアをライセンシングし、スウェーデン、シンガポール、タイ、アメリカといった国々の小口決済サービスのサポートも行っている。

MasterCardは、今後もVocaLinkのビジネスではイギリスに焦点を当てていくつもりではあるものの、上記から今後どのように同社のビジネスを発展させていこうとしているか読み取ることができる。

「本日の発表は、私たちのパートナー、顧客、社員にとって前向きなニュースです」とVocaLinkのCEO David Yatesは声明の中で語った。「今後も、最高レベルの品質を保ち、イギリスの決済システムがスムーズに機能するよう注力していきます。同時に、これからはさらなるイノベーションへの投資を行い、世界中の企業や消費者向けの、高い競争力を持つ決済ソリューションを生み出していきます」

MasterCardは、株式取得後から最大24ヶ月間は株式の希薄化への影響があると予測しており、「VocaLinkの株式取得が2017年初旬に完了すれば、2017年と2018年の一株あたり当期純利益が、5セント分希薄化することを見込んでいる」と述べた。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Quiltが新しい保険の形を作り出すべく近日中にローンチ

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アメリカで新設されたQuiltは、これまでアメリカの保険制度で散々痛い目にあってきた人たちを救おうとしている。

消費者は、新しい保険オプションがすぐにでも誕生することを願っている。最近の60 Minutesによる暴露記事では、受取人に対して保険金を支払っていない生命保険会社の存在が明らかとなったのだ。そしてそれが業界の通例だという。

ハリケーン・カトリーナによる被災後も、その時点まででアメリカ市場最悪の自然災害に見舞われたにも関わらず、保険会社は最高益を記録していた。さらに、ハリケーン・サンディがニューヨークを襲ってから3年が経った後も、何100人もの被保険者が保険金を受取ることが出来ていない

もっと良いやり方があるはずだ。

今月末にまずフロリダでローンチ予定のQuiltは、はじめに旧来の賃貸人向け保険商品を提供する予定で、最終的には保険契約内容や保険金の払い出しにも全面的な変革を起こそうとしている。今のところは、既存の保険商品を販売すると共に、(とてもひどい)他社よりもずっと良いサービスを提供すると約束している。

「『俺は保険業界に参入したいんだ!』と言う人はいないと思います」とQuiltの共同設立者兼CEOであるBalir Baldwin氏は言う。

以前マーケティングやアドテック系企業の幹部を務めていたBaldwin氏は、ボストンを拠点とする自動車保険の見積もり比較サイトGojiのビジネスに携わってから保険業界に興味を持ち始めた。

「保険業界を覗いてみて、私のやりたいことが組み合わさった世界だということや、顧客がどれだけ本当にひどい体験をしてきたかということを知り、つい目を細めてしまいました」

Gojiのような企業は、今の保険会社が抱えているある問題を解決しようとしている。その問題とは、顧客が多くの時間を過ごしたいと考えているインターネットというプラットフォームを活用できていないということだ。

Baldwin氏にとってこの問題は根深く、「消費者がオンライン上や電話で連絡をとりたいと考えていることから、既存の連絡チャンネルは機能していない一方、その根底にある保険商品の改革なしに、連絡チャンネルの改革はありえません」と語っている。

彼は茨の道を進もうとしているのだ。

PolicyGeniusのCEO Jennifer Fitzgerald氏の推計によれば、保険業界はおよそ1兆ドルにのぼる契約を結んでおり、さらに年間7兆ドルもの投資を行っている。そのため、ベンチャー投資家には保険がとても魅力的なビジネスとして映っているのだ。しかし、この業界を縛っている法律は、保険業界が生まれた当初に作られた100年以上前のものを含む、これまでの規制が重なりあったつぎはぎ状態にある。

ベンチャー投資家はそんな苦労をいとわずに参入を進めており、確かに近年保険テクノロジー分野への投資は極めて活発だ。

Accentureの調査を引用したFinancial Timesの記事によれば、2015年の保険業界へのベンチャー投資額は26億ドルで、2014年に比べて8億ドル増加していた。その背景の一部として、大手保険会社もこれまでのやり方では、少なくとも新たな顧客をつかむという観点からは、上手くいかないと気づきはじめているのだ。

Quiltは保険サービスが提供される場を変えていくだけでなく、保険ビジネスのあり方さえ変えようとしているとBaldwin氏は語る。つまり、賃貸人向け保険契約内の、Quiltが変更を加えようとしている箇所について各州から個別に許可をとり、その後は生命保険やペット保険、旅行保険にも変革を起こそうとしているのだ。

賃貸人向け保険の顧客に対して恒常的に起きている支払保険金の不足について、彼は一例を挙げた。顧客である賃貸人は、保険で電子機器が全額保障されていると思っていながら、実際は電子機器に対する保険金は掛け金の一定額までと契約で決まっているのだ。

そのため、もしも電子機器が故障したり壊れたりした場合に、被保険者は買い換えに必要な金額のほんの一部となる保険金しか受け取ることができない可能性がある。

しかしBaldwin氏によれば、契約の内容を変更するためには、州ごとに異なる機関をたずねて許可を得る必要があるのだ。

アメリカ全土への拡大に向けて、QuiltはリードインベスターのNextView Venturesを含む複数の投資家から、325万ドルをシードラウンドで調達した。NextView Ventures以外の投資家には、Eniac Ventures、Founder Collective、Titan Partners、Basset Investment Group、さらには少数の重要なエンジェル投資家が含まれている。

Quiltが最初の商品をローンチ予定のフロリダでは、旧来の保険契約の処理や、新しい契約の作成にあたり、Security First Insuranceとパートナーシップを結んでいる。

Quiltが、実際に保険業界の他社とは違うことをやっていると証明できるようになるまでには時間がかかることが予想され、今の時点では、これまでと同じ商品にあたるもののパッケージングを一新しようとしている。

それでもQuiltは、保険ビジネスの難題に取り組んでいる成長目覚ましいスタートアップのひとつとして存在しているのだ。業界のビジネス慣習を変えようとしている他の企業としては、P2P保険のLemonadeや、マイクロ保険のTrov、そしてまだステルスモードにある、不動産・災害保険のJettyなどが挙げられる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

銀行業務をブロックチェーンで支える基幹システムVault OSを元Google社員がローンチ

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銀行には世界の富の圧倒的に膨大な量があるにも関わらず、あるいはそれゆえにこそ、最先端のテクノロジーが育つ場所にはなっていない。むしろ何十年も前からのシステムに頼って、日々の業務をこなしている場合が多い。そこで、Google出身のエンジニアPaul Taylorが率いるThoughtMachineは、ブロックチェーンを使った現代的で総合的な銀行オペレーティングシステムVault OSで、この状況を変えようとしている。

同社の勇ましいプレスリリースが発表している、同システムの2年間のステルス状態からの脱皮は、たくさんの約束を並べている: 同社はフィンテックの最大の課題を解決した;“Vault OS”は完全に未来志向である;自由性(柔軟性)が非常に大きい;破綻に瀕している銀行業界を再生し永遠の命を与える。

Vault OSのこれらの大言壮語が真実かどうか、それは今すぐには分からないし、銀行のレガシーなシステムは一朝一夕に変わるものではない。でも同社が指摘している問題が現実であることは、否定のしようがないし、同社が提供すると称するソリューションには、関心を持たざるをえない。

Profile - Paul Taylor

ThoughtMachineのPaul Taylor

Vault OSのメインの仕事は、銀行の中核的な機能を実行することだ。それは、巨大な台帳(元帳)を維持管理することに帰結する。そのために適している唯一の技術がブロックチェーンであることに、Taylorは固執している。Googleでは彼は、同社が今使っている音声認識のソフトウェア開発を率いていたのだが。

このOSは、一つ一つのインスタンスが自分のプライベートなブロックチェーンと暗号化された台帳を持ち、ThoughtMachineのサービスとしてホストされる。銀行は自分のもっとも基盤的なオペレーションを恒久的にアウトソースすることになるから、それに対する抵抗感も克服しなければならない。

でも、その利点が克服の契機になるかもしれない: ブロックチェーンはセキュアであり、スケーラビリティに富み、そして多用途である。通常のオペレーションの限界や遅延の原因となっているレガシーシステムを置換する動機に、十分なりうる。どんなトランザクションもリアルタイムで行われ、安全に集中保存される。銀行と消費者の両方が、詳細で深いデータ分析(deep data dives)をできるようになり、しかもそのためのAPIが提供されるだろう。

まだまだ未解決の細かい部分が多いし、顧客が納得する確実性も重要、規制もクリアしなければならない。銀行が開業にこぎつけるまでの過程は、ものすごくたいへんである。ThoughtMachineはコードを公開するのか、ホワイトペーパーや監察はどうなるのか、データのマイグレーションはどうやるのか、どんなタイムスケールで展開するのか、などなど、今同社に提示している質問に回答が得られたら、この記事をアップデートしよう。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

個人資産運用のデファクトになるか―ロボアドバイザー「ウェルスナビ」がローンチ

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テクノロジーによる自動運用を取り入れた個人向け資産運用サービス、いわゆるロボアドバイザーの「ウェルスナビ」が今日7月13日に一般公開となった。1月中旬から実運用を開始していたウェルスナビは、これまではクローズドな招待制だったが、今日から誰でもサービスの利用ができる。

財務省、マッキンゼー勤務を経て柴山和久氏が2015年4月に創業したウェルスナビは、2015年7月に5000万円のシード資金をIVPから、同10月にはSMBC、みずほ、三菱UFJの3大メガバンク系CVCなどから約6億円のシリーズA資金調達を行っている注目のFintechスタートアップだ。

日本でもロボアドバイザー市場は立ち上がるか

ロボアドバイザーについておさらいしておこう。

もともと機関投資家や富裕層向けプライベートバンクでは、現代ポートフォリオ理論に基づく金融アルゴリズムを使った国際分散投資が行われてきた。地理的にも性質的にも異なる複数の「資産クラス」に分散投資することで、予測不能なさまざまなイベントに関するリスクに対して比較的安定した資産運用ができる方法論だ。

この国際分散投資をソフトウェアで自動化してクラウド経由で一般消費者向けに「民主化」したのがロボアドバイザーだ。

ウェルスナビ自身は自社サービスをロボアドバイザーとは呼んでいないが、米国では同ジャンルのスタートアップとしてWealthfrontBettermentFutureAdvisorといったサービスが立ち上がっている。例えばWealthfrontはサービス開始以来3年半で預かり資産が26億ドル(約2700億円)となっていて、ロボアドバイザー市場全体では2015年末で600億ドル(約6.3兆円)となっている。2020年に2.2兆ドル(230兆円)を超えるという予測もある。

一方日本では、今回一般公開したウェルスナビのほか、お金のデザインの「THEO」(テオ)が2016年2月に本サービスを開始しているし、Finatextもある。現在1700兆円程度ある個人の現預金が投資へ大きく動くことになるのか、もしそうなったときロボアドバイザーが日本市場でどの程度受け入れられるのか注目される。ちなみに、規制や税金のことがあるのでFacebookのようなサービスと違ってロボアドバイザーのような資産運用サービスが国境を超えることはまずないだろう。

手数料1%で50カ国、1万1000銘柄以上に分散投資

ウェルスナビでは利用開始時に運用の目的や年収、年齢を始めとする簡単な質問にいくつか答えることで、リスク許容度を5段階で決めて資産運用を開始できる。運用ポートフォリオは6、7種のETF(上場投資信託)となり、50カ国、1万1000銘柄に分散投資が行える。手数料は預かり資産の1%。ETFの売買やリバランス時には手数料やスプレッドはかからない。

ウェルスナビではアメリカで上場しているETFを全部データベース化していて、それぞれのETFが「いかに良くインデックスに連動しているか」、「純資産総額が大きく、流動性があるか」(低いと長期運用に向かない)、「流動性を加味したコストが安いか」といった客観的基準で選んでいるという。ウェルスナビが選んでいるETFは、一番小さいもので5000億円規模、最大6兆円、平均3.5兆円規模という。

想定される運用パフォーマンスは個々人向けに用意されるポートフォリオによって異なるが、ウェルスナビは「世界経済の成長率を上回るリターンを目指す」という説明の仕方をしている(世界経済の成長率は近年3〜5%で推移している)。

将来のパフォーマンスは確率の話なので確実に言えることは何もない。代わりにウェルスナビでは「30%の確率で3000万円を超える」、「50%の確率で2000万円」、「70%の確率で1000万円」などと予測値を見ることができる。この予測シミュレーションは、初期投資額のほか積立額や運用期間、リスク許容度をユーザー自身で変えてみることで、たとえば退職時の30年後の総資産額を実験してみて直観的に把握しやすくなっている。

実際のサービス利用開始は、マネーロンダリング防止のための「犯収法」対応のために簡易書留による本人確認のステップが入るが、それ以外はきわめてシンプルだ。マイナンバーや免許証をスマホで撮影してアップロードしたら複雑な書類の記入などもなく、2営業日程度でアカウントが開設される。あとはユーザーごとに用意される専用口座に運用資金を振り込めば運用が自動でスタートする。

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追加投資でも随時リバランス、税金対策「デタックス」も実現

今回ウェルスナビの一般公開では2つの機能が加わっている。

1つは追加投資を行う際に、最適ポートフォリオと現実のズレを優先的に埋める形で各ETF資産の自動発注をする「リバランス付き追加投資機能」。機能的には似ているが、積立にもリバランス機能を持たせるという(積立機能自体は8月リリース予定)。

もう1つの機能は税負担を軽減する「DeTAX」(デタックス)と呼ぶもの。具体的には、分配金やリバランスから生じる税負担が一定額を越えた場合に、自動的に含み損を実現して税負担を繰り延べる。「含み損の実現」というのは、ユーザーが所有する含み損のある資産の一部をユーザー側からウェルスナビに売却し、0.1秒後にまたポートフォリオを元に戻すこと。多くの場合、これだけで年間0.4〜0.6%程度の負担減となるため、ウェルスナビの運用手数料1%というのは事実上その半額のようなもの、と柴山CEOはそのメリットを説明する。

「まさかの離脱」でも大きく動かなかったポートフォリオ

ぼくはウェルスナビを5月末から招待ユーザーの1人として使っている。だから6月末の「まさかの離脱」も経験することとなった。初めて乗ったジェットコースターがいきなり落下して内臓が5センチほど空中で動いた気分になるぐらいの金額を預けていたので、ちょっとした洗礼になった。1カ月半程度の1ユーザーの体験談で「長期」分散投資の何が分かるものでもないかもしれないが、個人的には分散投資の合理性を体感する材料となったので少し書いておこう。

Brexit直後には各地で株価は下がるし、為替も信じられない速さで円高に振れていく「市場の混乱」に直面した。あっという間に資産が1割ほど減って、正直「向かい風の中でのスタートになったな」と思った。その一方なるほどと思ったのは異なる資産クラスによる変動の相殺だ。

米国株や日本・ヨーロッパの株がガクンと評価額を下げて運用損が増えていくなか、ゴールド(金)のETFだけはグングンと値を上げて行き、ちょうど各資産評価額の上下動が相殺する形になっていたのだ。不動産評価額も微増していた。円建てで見ると1カ月ほどで10%近くも下げた評価額だが、実際にはほとんどは為替変動によるもの。ドル建てでは思ったほど影響を受けていなかったし、むしろトータルでは1カ月半たった今は資産額は増えている。ぼくのリスク許容度の診断は5段階中「4」で、そのポートフォリオには、米国株(VTI)、日欧株(VEA)、新興国株(VWO)、米国国債(AGG)、金(GLD)、不動産(IYR)というETF銘柄が入っている。このうち運用開始1カ月半でドル建ての評価損が今もかすかに出ているのは日欧株のみだ。

イギリスのEU離脱(の蓋然性の高い国民投票の結果)という大きなイベントがあったわけだが、それに対して株価と金では値動きに真逆の反応が起こった。ぼくは投資素人なので知らなかったが、そういうものらしい。市場が混乱すると安全資産への逃避が起こる。「金属は成長しないが企業は成長する。だから金や銀なんて買っても意味がない」と、これまでぼくは思っていた。だけど、これは素人の浅はかな考えだったようだ。負の相関のある資産クラス同士を組み合わせることで安定した運用を目指すという現代ポートフォリオ理論の基本を目の当たりにしたように感じたのだった。

市場が混乱する中でも分配金によって投資すべき元手が増えたら、ウェルスナビが淡々と追加で各ETFを買い増ししてくれていた。ロボなので当たり前だが、この「淡々と」というのが素人には頼もしく思えた。というのも、リバランスや買い増し時の微調整というのは理屈で理解していたとしても難しく思えるからだ。まず計算や実際の細々した売買が手間だ。それに加えて心理的に逆のアクションの誘惑にかられる、ということもある。値が上がった資産は一部を売却しないといけないが、調子が良さそうなものはもっと買いたくなるのが心情だ。逆に値が落ちていくものを買い増すのは慣れていないと抵抗感を覚える。でも、そうしないとポートフォリオの形が崩れることになって中長期にはパフォーマンスを落としてしまう。長期国際分散投資の運用は20年とか30年の話なので、実はBrexitレベルでも気にするような話じゃなく淡々とポートフォリオの形が崩れないように運用すればいいだけの話なのだろう。これは感情的バイアスのない機械がやるべきこと。皮肉なことに、ぼくはBrexit騒動によってロボアドバイザーのメリットを体感した気がしている。

5年後に1兆円の預かり資産、金融インフラとなることを目指す

一般公開に先立って都内で行われた記者向け説明会でウェルスナビの柴山CEOは、「次世代の金融インフラを構築して、働いている人たちが豊かさを実感できる社会を実現したい」とサービスの狙いを語った。

働き盛りの世代は金融商品を購入しようにも金融機関の窓口は週末行っても閉まっているし、就業後に行っても閉まっている状態だ。いま資産運用のための金融サービスの多くは60代以上をターゲットとしたものが多い。1700兆円ある個人金融資産のうち66%は60代以上が所有している(数字は総務省統計からウェルスナビが推計したもの)からだ。

これはこれで企業として合理的戦略だとしながらも、柴山CEOは20〜50代の働き盛りのための資産形成サービスが必要だと説く。ウェルスナビのアンケート調査によれば金融資産が1000万円を超えていて資産運用をしてない人のうち3割の人は「情報収集が大変そう」とし、4人に1人が「相談できる人がいない」「何を信じていいか分からない」と回答しているという。

従来の金融機関が提供するサービスと比べると、ユーザーと利益を一体化している「運命共同体」であるところがウェルスナビのポイントの1つという。「提供する側にとって一番良いものではなく、お客さん(ユーザー)にとって最適化されたものを提供していきたい」(柴山CEO)。ウェルスナビは金融商品の売り手ではなく、売買手数料も受け取らない。だから顧客の預かり資産を増やすことだけがウェルスナビにとっても収益増のインセンティブとなっている、というわけだ。

メガバンク系CVCからの資金も調達しているウェルスナビは、今後独立を保ったまま事業を推進するのだろうか、それともどこかのグループ傘下に入るエグジットを目指すのだろうか? そもそも顧客開拓チャネルとして、あくまで自前ブランドでやるのか、それともメガバンクや地銀の一商品としてOEM提供して行くのか?

「口座開設の3分の2以上は金融機関経由になっていくと見ています。提携先候補は預金を一番持っているところですよね、すでに提携の話は来ています」

独立したブランドにこだわるよりも、社会的インパクトを重視しているという。

「金融インフラとなっていくのが目標です。インフラというのは1度できてしまえば、例えば交通機関であれば事故の心配をしたりせずに利用できますよね。目標は数百億円とか数千億円という単位ではありません。預かり資産として1兆円を上回る金額になっていかないと社会が変わっていきません。5年後に1兆円の預かり資産を目指しています」

エグジットについては以下のように語った。

「VC出資なので株主に対する責任を果たしていく。その意味ではIPOが適していると思います。ただ、起業家として申し上げると引き裂かれる思いがあります。エグジット自体にエネルギーを割きたくない。足元でより良いサービスを目指したい、そのための文化作りをしたいと考えています」。

提携先やM&Aの可能性としてネット企業も候補になり得ることを柴山CEOは示唆する。「5年後や10年後となるとAmazonやGoogle、LINEが金融機関になってるかもしれませんよね。いまの金融のプレイヤーとは限りません。一番良いものをユーザーに提供していく、という理念が一致すれば積極的に考えていきたい」。

Brexitの悲劇はイギリスのフィンテックに必要な出来事だったのかもしれない

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【編集部注】執筆者のDamian Kimmelman氏は、企業情報データベースサービスを提供するDueDilの共同設立者兼CEO。

誤解しないで欲しいが、Brexitは悲劇だ。ヨーロッパの同盟国と課題に取り組んでいく代わりに、イギリスは正に誤った道を辿ろうとしており、経済に対して不必要に不透明感や否定感をもたらしている。

テック業界は特にBrexitで苦しむことになるだろう。国際的に活動するベンチャーキャピタルや、イギリスへ移住したいと考える技術を持った労働者たちに支えられてきたイギリスのスタートアップシーンは、グローバル企業や膨大な数の高給職を生み出そうとしているところであった。スケールするのに必要な資金調達や社員の雇用の問題から、その発展は今後行き詰まるだろう。

間近に迫ったロンドンテック業界の低迷に関する憂鬱な予測は、既に掃いて捨てるほどなされている。そして、イギリスを捨ててダブリン、パリ、ストックホルムやフランクフルトなど受け皿となる都市への移転準備を整えようとしている銀行やスタートアップの動きを受け、フィンテックに関する予測はとりわけ厳しい。

しかしこういった不安は大げさなものだ。実際のところ、Brexitはイギリスのフィンテック業界に必要な出来事だったかもしれず、同時にいくつかのイギリス企業を世界のリーダーへと成長させるきっかけとなる可能性を秘めているのだ。

その理由は簡単だ。ロンドンは世界の金融業界の中心地で、その背景には、銀行業界におけるイギリスの覇権や、外国為替の世界的なハブとしての役割、そして国際的な金融機関がEU各国でオペレーションを行うことを可能にするパスポート制度がある。

そのポジションが危ぶまれるということから、金融機関は社員やオペレーションを欧州にある他の金融センターへ拡散させることになるだろう。しかし、バックオフィスのテクノロジーや手厚く保護されている社員の観点から、移転は簡単ではない。大手銀行に関して言えば、どの機能をロンドンから移転するにしても膨大な時間と労力とお金がかかる。

対照的に、フィンテック企業はとても機動的だ。最小限の埋没費用かつ小さなチームと共に、スタートアップはすぐに方向転換することができ、日々変化する関連法令への対応や、新たな顧客・サプライヤーの発掘、データ解析を基にした意思決定など、Brexitによって新たに生まれるであろう様々な企業の課題を解決することができる。

そして、パスポート制度終了の可能性は、イギリスの金融セクターにとって大きな重荷となるが、銀行に比べればフィンテックへの影響は極めて小さい。

フィンテック企業のほとんどが拡大にあたって、EU各国の規制に対応した法人を作るのではなく、自分たちの製品を販売、トレード、決済できるような各国の金融機関と協業しようとしている。この戦略をとれば、規制変更にも大きく影響されないですむ。

つまり、動きの遅い銀行が形式主義的な規制に縛られる中、フィンテック企業は銀行の利益の大半を奪いながら、そのそばを通り過ぎて行くことができるのだ。Funding Circleのようなスタートアップは、制度からくる遅滞によって発生しているレンディング・ギャップを埋めようとしており、今後フィンテック業界中で、迅速に動ける企業が既存のプレイヤーを打ち負かす同様の動きが繰り返し発生するだろう。

ロンドンから世界を見据える

一方でフィンテック企業にとっても全てが簡単にいくわけではない。国ごとや企業ごとのデータ保護の考え方のすり合わせや、送金会社にとって大問題となる、ロンドンでユーロ建て証券の決済ができなくなる可能性など、大きな課題が残っている。スタートアップの中には、利益を生み出す仕組みが機能しなくなり倒産に追いやられる企業も出てくるだろう。

しかし、代表的な金融機関の全てが拠点を置いており、先進的でビジネス寄りな規制団体の下にある一大市場であることから、ロンドンは依然フィンテックの首都だと言える。さらに、EU圏内の技術をもった労働者が、マーケットを牽引する企業で働き、世界でも指折りの都市であるロンドンに住みたいと今でも思っていると私は考えている。

フィンテック業界の投資家は状況を理解し、一時的な混乱に対処する準備ができている。フィンテックへの投資に対するリターンは巨額だが長期的な目で見る必要があるのだ。ベンチャーキャピタルは辛抱強く耐え、強力なビジネスアイディアと明解なマーケットへの進出計画を備えた企業を支えていくことだろう。そういう意味では、うまく経営されている企業はこれからもスケールに必要な資金を手にすることができる。

Brexitがフィンテックにもたらす本当の影響は2つある。まず、投資家がリスクの高いスタートアップを避けて、ある程度名前の売れた企業に集中することで、各企業の質が重要になってくる。これに伴い、フィンテックバブルがはじけはしなくとも、しぼむことになるだろう。

次に、各企業はロンドン中心の考え方をやめ、海外に成長機会を見出すことになる。もはやイギリス国内向けの金融サービスを開発して、除々にその他の国へ展開していくという戦略は通用しなくなり、もっと早い段階で外国を意識する必要がでてくるのだ。この戦略の転換は、情報やデータなど簡単に国境をまたいで動かすことのできる商品を扱うフィンテック企業にとってはむしろ追い風となる。

結局、Brexitは市場に不透明感をもたらし規制の泥沼を生み出すだろう。これはイギリスや経済にとっては残念なことであるが、同時にフィンテック企業が成長するのに適した環境を作り出すことになる。イギリスのスタートアップが、金融機関の手の届かない分野で活動を行い、新たに生まれる問題に対しての解決策を提示することで、企業や消費者がもっと賢くお金が使えるようなサポートをしていくだろう。

以上が、なぜBrexitがイギリスのフィンテックにとって欠かせない出来事であったか、そうでなくとも総合的に見てイギリスにとって良いことであったと私が信じる理由だ。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Brexit + fintech―英国のEU離脱でフィンテックはどうなるのか?

LONDON, UNITED KINGDOM - MARCH 17:  In this photo illustration, the European Union and the Union flag are pictured on a pin badge on March 17, 2016 in London, United Kingdom. The United Kingdom will hold a referendum on June 23, 2016 to decide whether or not to remain a member of the European Union (EU), an economic and political partnership involving 28 European countries which allows members to trade together in a single market and free movement across its borders for citizens.  (Photo by Dan Kitwood/Getty Images)

この記事の筆者はCrunch Networkのメンバー、Shefali Roy。彼女はStripeの前ヨーロッパ担当コンプライアンス、マネーロンダリング監視責任者。Stripe以前はAppleで同様の職にあり、Christie’s Worldwideで最高コンプライアンス・倫理責任者を務めた。Goldman Sachsでも同様の役割を果たした。RMIT〔メルボルン工科大学〕、オックスフォード大学、LSE〔ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス〕で学び、学位を取得。現在はオックスフォードのサイード・ビジネス・スクールのEMBA〔エグゼクティブMBA〕課程で学んでいる。

最近、英国の有権者はEUからの離脱に賛成した。それが賢明な判断であったか否かは将来の歴史に待たねばならない。当面の問題は、これによって次になにが起きるのかだ。

この離脱にともなって多数の条約が白紙化され、さまざまな影響が生じる。金融およびテクノロジーのビジネス関係者はその詳細を把握する必要がある。最終的な結果を予測する前に、まずは当面何が起きるのかを知らねばならない。

英国.は離脱にあたって、 50条を発動することになる。EUの基本条約の修正条約であるリスボン条約の50条は過去に一度しか適用されたことがない。それはEUの前身であるEEAが加盟国の脱退の手続きを定めたもので、過去には1985年にグリーンランドが〔デンマークの自治州に昇格したのを機に〕脱退した際に一度適用されたのみだ。デビッド・キャメロン首相は、辞意を表明した演説中で10月に保守党大会で選出される次期首相がEUに対して50条に基づく通告を行うことになるだろうと述べている。

しかしEU官僚は英国が50条を発動すのはそれより早くなると観測しているという報道があった。欧州議会議長のマルティン・シュルツは6月28日までに50条通告が欲しいと述べた。欧州委員会委員長のジャン=クロード・ユンケルは離脱交渉はただちに始められるべきだと語った。50条の通告がなされると英国は2年以内にEU離脱手続きを完了しなければならない。

2年というのは長い時間に思われるかもしれないが、金融ビジネス関係者はEU指令(EU directives)がいかに長期間かけて準備されているかを知っている。通常の場合それは2年よりはるかに長い。たった2年で一国が(それも英国はEU経済で2番目に大きい)まるごとEUを脱退できるとは考えられない。

しかしEUが英国に対して即刻行動に移るよう要求するのには根拠がある。さまざまな不安定さが生じて市場が混乱することを最小限に止めるためには離脱プロセスを素早く、スムーズに実行する必要がある。

50条の通告後、離脱交渉が開始される。英国は離脱後も現在保持している特権を最大限維持したいと考えるはずだ。EUという単一市場に対するアクセス、労働力の自由な移動、金融サービス規制、輸出入規則、さらにはEU政策の決定に対する発言権などだ。英国の今後の地位に関しては3つのモデルが考えられる。

  • Tノルウェイ・モデル: 英国は貿易とEU単一市場に関してメンバーと同様の特権を保持する。ノルウェイはEUには参加していないがEFTA〔European Free Trade Agreement=欧州自由貿易連合〕のメンバーだ。英国はEUのさまざまな規則を順守する代わりにEU市場へのメンバーなみアクセスの権利を保持する。ただしEUがどのような政策を採用するかについては発言権がない。
  • スイス・モデル: スイスと同様、英国はEUの事実上のメンバーという地位にはとどまらない。英国はスイスのように独自の金融サービスの規則を制定し、実行する。EU諸国とは個別に二国間協定を結ぶ。
  • 非EU諸国モデル: 英国はEUに参加していない世界中の諸国と同様の地位となる。EU市場への参入に関してはゼロからの交渉となる。簡単にいえば、英国の地位はシンガポールやペルーと変わりなくなる。

現時点ではどれが英国にとってもっとも有利な選択であるかについては議論の余地がある。また交渉者の能力による部分も大きい。ボリス・ジョンソン(あるいはマイケル・ゴーヴ)、ナイジェル・ファラージ、ジェレミー・コービンのいずれかが交渉に当たるのが英国にとって有利だろうか? コンセンサスはノーのようだ。英国のテレビは明らかにノルウェイ・モデルが英国にとって有利だとしている。しかし離脱交渉の当事者からはこのオプションは選択肢に入っていないという情報が聞こえてくる。

それが賢明な判断であったか否かは将来の歴史に待たねばならない

そういった前提はあるものの、金融、フィンテックの関係者はおおまなかにいって以下のような側面を考え、対策を練る必要がある。ちなみにこの記事でいうフィンテックとはEUの定めた電子マネー機関(EMI、eMoney Institutions)や決済サービス機関(Payment Institution、PI) に属するとしてイギリスの金融行動監視機構( Financial Conduct Authority、FAC)の規制下にあるような組織を言う。具体的なビジネス内容としては決済手続き、ピア・ツー・ピア決済、電子マネーの発行、オンライン・ウォレット、クラウドファンディング、オンライン貸付、一般的送金、FX決済、等々だ(このリストは一例にすぎない)。

人材: ロンドンは金融サービスに関してEU中の優秀な人材を集めていることで知られている。EUが単一市場であり、人の移動も自由であることから、EU諸国の人材は誰であろうと最小限の雇用上の規則さえクリアすればロンドンで働くことができる。フィンテックの急成長に伴い。金融サービスの消長を決定するのは人材の質となった。もし英国が非EU諸国モデルを採用するなら、金融分野はEUとの競争上の不利益を被るおそれがある。英国金融機関の中には業務の一部を海外に移す動きが始まっている。当然、その業務に従事する人間も移ることになる。

スキル:フィンテック・ビジネスは エンジニア、デベロッパー、サイバーセキュリティー専門家、優れたソフトウェア・ビジョナリストを奪い合い、激しく競争している。. EU離脱は、英国が5億人に近い労働力の供給源から切り離され、これにより競争力を維持し、もっと重要なことだが、最新の状態を保つことが困難になる。

投資: 投資、ことにベンチャーキャピタリストのフィンテック・スタートアップへのアクセスが著しく阻害される。これに加えて、スタートアップのプレゼンや投資を受ける機会に税制の変化がもたらす悪影響が及ぶ。スタートアップは自らのベンチャーキャピタリストよりアメリカや中国のベンチャーキャピタリストから投資を受ける方が有利になるかもしれない。

単一市場とデジタル市場へのアクセス: これも離脱交渉のテーマだが、ノルウェイ・モデルないしスイス・モデルが採用されるのでないと、英国はEU市場へ従来のような自由なアクセスを失い、イノベーションを起こすような未来志向のデジタル市場へのアクセスにも悪影響が及ぶ。たとえばインターネットを通じた支払のセキュリティー・システムであるe-KYC、また住宅に関するe-residencyや企業に関するe-corporationsなどのプログラムといった市場へのアクセスだ。

プライバシー/データ保護/セキュリティー: EUで活動するアメリカ企業にとってEUからアメリカへ大西洋を移転するデータの保護のあり方を定めたセーフハーバー協定が2015年10月に欧州司法裁判所によって無効とされたのは大きな打撃だった。新たに合意されたプライバシー・シールド(EU-U.S.
Privacy Shield)はともかく正しい方向への一歩だった。しかし新たな協定は欧州人のデータ、セキュリティー、プライバシーを十分に守れるものとなっていないとする批判がEU内に強くあった。英国は個人データとプライバシーの保護に関して新たにEUと協定を結ぶ必要があるだけでなく、アメリカとも合意しなければならない。EUで活動しようとする英国企業はEU向けのデータ保護規則に従う必要が出てくるが、同時にアメリカで活動することを望むjならアメリカ独自の規則にも従わねばならない。

規制: 現在多数のEU指令案がEU諸国間で協議されている。こうした案は諸国レベルで合意を見たうえで、EU指令として採択され、各国を拘束する。EU各国はこの指令に応じた国内法を整備して強制力を持たせることになる。これらのEU指令には、PSD2〔改訂版支払サービス指令〕、2EMD〔改訂版電子通貨指令〕、 MLD4〔第4版マネー・ローンダリング指令〕などの重要な指令が含まれ、インターネットを通じた支払と電子通貨の処理の基本を定める根本的な規則となっている。英国の離脱に伴い、指令案に関する各国の協議は今後の新しい方向が定まるまで事実上棚上げされる可能性がある。

英国のフィンテックにとって非常に重要となるのは各種サービスを「パスポート」する地位を失うという問題だ〔EU加盟国内に営業拠点を持つ企業は他のEU諸国内に営業拠点をもたなくてもEU企業として扱われ、全域で活動できる。現在ロンドンがEU域外の多数の金融サービスに「パスポート」を提供している〕。「パスポート」の失効はEU全域に活動の場を広げようとする英国フィンテック企業にとって破壊的影響をもたらす可能性がある。そこで問題は最初にもどってどの国からライセンスを得ればいいのかが重要となる。

英国のフィンテック企業は従来、金融行動監視機構〔Financial Conduct Authorit=FAC〕の規制を受けてきた。FACは先進的かつイノベーション志向であり、ビジネスに理解のある規制者だった。断固とした姿勢であると同時に現実的でもあり、EU全域に影響を与える金融上の規制の方向を決める他の国家的規制組織に対して十分な影響力があった。#Brexit後はFCAのこうしたEU全域へ権威は失われる。英国のフィンテックにとって、当面もっとも重要となるのは、EUという単一市場で活動を続けるためにはいったいどの国の規則当局の監督に服せばよいのかを決めることだ。

英国の一部のフィンテック・スタートアップはスペイン、イタリー、アイルランド、オランダからライセンスを得ようと動いている。フィンテックがすでにこれらの国で活動している、その国の法制を熟知している、などによりライセンス取得のコストが低いことがそうした国を選ぶという「倍賭け」の理由になっている。しかし他の国にも有能な規則制定者は多い。以下に述べるようないくつかの理由により、はドイツという選択がもっとも常識にかなう。

  • ドイツのBaFin〔Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht、英語名はFederal Financial Supervisory Authority=連邦金融監督庁〕は未来志向であり、効率的かつ強力な規制機関だ。
  • BaFinは昨年、フィンテックに関する多数のレポートを公刊している。Bitcoin、支払、インターネット送金手法、クラウドファンディング、フィンテックの現状などが分析されている。
  • 優秀かつ効率的な規制当局の管轄下に入ることはスタートアップにとって長期的に大きな利益となる。つまりビジネスに理解がなく有能でもない監督機関の下にあるライバルに比べて大きな競争上の優位を得られる。またユーザーは信頼できる規制機関の下にあるサービスを好む。そうした要素を考え合わせるとBaFinという選択はますます動かないものになる。
  • EU各国の規制機関はEuropean Banking Authority〔欧州銀行監督庁〕を通じてEU全域の規制を形作ることを助ける。ここでもBaFinは強力な存在だ。BaFinはEU指令にもとづいて国内法を整備する際にも諸国のリーダーとなる。この点も英国のフィンテック・スタートアップにとって有利に働く。フィンテックはBaFinの制定した規制に従うことで〔他国も同様の国内法を整備する可能性が高いので〕迅速かつ低コストの運営が可能になるだろう。
  • またこれと並行して、ドイツはテクノロジーとしても先進的な成長中かつ強力なフィンテック・ビジネスを持っている。このコミュニティは英国のフィンテック・スタートアップの参加に対して友好的だ。

EU離脱には英国にとって破滅的な悪影響をもたらす可能性のある上記のような要素が多数あるが、最終的にそれらがどういう結果をもたらすかについてはまだ多くの不明点がある。圧倒的なコンセンサスは「まだ誰にも分からない」だ。さて、何が起きるのか?

本稿で示された見解は筆者個人のものであり、筆者の所属する組織、企業の立場を反映するものではない。本稿に述べられた意見、方針等を実際の行動にあたっては採用しようとするなら、事前に専門的な法律的、税制的な助言を受けることを強く勧める。

画像: Dan Kitwood/Getty Images

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

住宅ローン借換「モゲチェック」のMFSがシリーズAで2億円を調達

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MFS創業者の中山田明CEO

住宅ローン借換サービスを提供するFintechスタートアップのMFSが今日、グロービス・キャピタル・パートナーズからシリーズAラウンドとして、8.5億円のバリュエーションで総額2億円の資金調達をしたことを発表した。

MFSは2015年6月に住宅ローンの借換メリットをカンタンに計算してくれるアプリ「モゲチェック」をローンチし、その後の2015年9月にマネックス、電通デジタル・ホールディングス、電通国際情報サービス(ISID)の3社から総額9000万円の資金調達。2016年3月には専門家が借り換えのコンサルティングと、ローン申請代行をしてくれるリアル店舗窓口の「モーゲージ・ネクスト」を東京・京橋に開設している

今回の資金調達では、前回のCVCからの調達ラウンドと違って独立系VCがリードしている。これにはギアチェンジの意味もある。MFS創業者の中山田明CEOによれば、「明確に(エグジットのタイムリミットとなる)おしりが切られている。われわれは3年後の上場を目指します。2022年に上場のめどが立たなければ事業売却に同意するという投資契約になっている。独立系VCには経営的なサポートも期待している」と話している。

対人コンサルで借り換えのCVRは6〜7割

MFSのビジネスモデルはローンチ時から変化している。

もともとはアプリによる銀行へのローン申し込み顧客の送客により銀行側からフィーを受け取るビジネスモデルでスタートしたが、現在はリアル店舗へ収益モデルを変えている。以前TechCrunch Japanでも書いたことがあるが、住宅ローンにおける最も有利な借り換え条件の発見というのは面倒なシミュレーションを必要とする話。MFSでは随時金融機関の住宅ローン商品の情報を更新しているデータベースを使ったシミュレーションツールを自社開発して、このツールを見ながら借り換え希望者の相談に乗る窓口業務のモーゲージ・ネクストを3カ月ほど前に開始している。申請は複数行に対してMFSが代理で行ってくれるので、利用者は審査が通った最も条件の良い住宅ローンを選択できる。MFSのマネタイズは実際に借り換えをした顧客ごとに一律20万円のフィーを受け取るというもの。

中山田CEOによれば、4月から業務を開始した京橋店では、毎月50件前後の面談予約が入っていて、来店者で借り換えメリットがある人のうち6〜7割が実際に借り換えをしているという。来店者は日時を設定して専門家の話を聞きに来るくらいなので借り換える気があるのだ。コンバージョン率はかなり高い。残り3〜4割の離脱している人というのはローン審査に通らなかったか、自分で申請をする人ではないかという。

1件20万円、コンサル1人が5件やれば単店舗イーブン

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京橋の相談スペース

京橋の店舗では黒字化が見えている。

1カ月に50面接で30成約とすると600万円の売り上げになる。現在モーゲージ・ネクストの京橋店には、元銀行融資担当者など7人の専属コンサルがいる。人件費と店舗賃貸料で恒常的に月750万円ほどのコストがかかっている。つまり、1カ月で35件の成約が取れるとブレークイーブンだ。コンサル個々人で成約率に差はあるものの、コンサル1人あたり月5件という収益化ラインは、もう見えてきてるという。

第1号店の黒字化が見えていることもあり、調達した資金を使ってまずは東京各地、それから地方都市への店舗展開を進めていくという。「住宅ローンは地域性があります。各地の金融機関と密に連携していく」(中山田CEO)。支払いを残す住宅ローンは現在市場で1200万件あり、このうち600万件ほどが100万円以上の借換メリットがある潜在顧客層とMFSでは計算している。

アプリ収益化からリアル店舗へと軸足は移ったが、来店を促すのに一番効率的なのはモバイルアプリのモゲチェックであるため、今後も接客ボット搭載など機能強化を計画しているという。

個人の信用情報や審査ノウハウが蓄積

興味深いのは、銀行ローンの審査ロジックの知見や統計といったデータがMFSに蓄積しはじめていることだ。「これは実はどこも持ってないデータなんです」(中山田CEO)。年収や職業形態、勤続年数など「外形」によって審査に通りそう、通らないというのは、だいたい分かる。例えば、会社員で勤続5年で年収が600〜700万円のレンジなら変動金利で0.5%で、いくら借りられるといったように。

ただ、銀行によってローンの審査ロジックは結構ちがう。「無担保ローンが3つ」など一発で審査がアウトというのもあるそうだ。MFSは各銀行と話をしているうちに、そうした条件がだんだん分かって来たという。審査時に家族の構成を書かせる銀行もあれば、そうでないところもある。配偶者(多くは妻)の就業状況や子どもの年齢を聞いて家庭のキャッシュフローを推定しているところもある。

こうした審査基準に関する知見の蓄積があると、例えば60歳でローンを組む人が難しい人であっても、どういう条件を揃えると、どの銀行のどのローンの審査に通るといった「銀行への見せ方がより分かってくる」(中山田CEO)。これは結構おもしろいことで、MFSの顧客からみれば受験の合否判定のように、あらかじめ自分が通りそうな最も有利なローンが分かるということ。銀行からしても審査基準を満たさない申し込みが減って審査に受かる申込者が増えるのは良いことだ。借り換え申し込みの精度が上がっていくので、MFSは10月には借換だけでなく、新規借入時のコンサルへも業容を広げる予定という。いったんどこかの金融機関の審査にパスしている人に借り換えさせるのに比べると、新規借入のほうがずっと緻密な精度が必要。ハードルが高いそうだ。

ところでローン審査時に個人の信用情報を照会する先として、信用情報を扱うJICCCICKSCなどが従来からある。これらの機関は、カード、銀行など業界ごとに企業らが顧客情報を持ち寄って作ってきたデータベースと照会サービスを提供している。ただ、総量規制順守のために貸付総額上限を企業間でクロスチェックするためのデータ共有こそ一部で行っているものの、こうした機関が業界の壁を超えて情報を共有しあうインセンティブはない。一方、もしMFSのように独立した立場で個人の信用情報を蓄積していけるとすると、例えば顧客のクレジットに応じたプライシングなど将来的には違った価値を提供できる可能性がある。これはこれでFintech企業らしい発展もありそうだ。

(情報開示:MFS中山田明代表と、この記事を書いたTechCrunch Japanの西村賢は子どもを介した数年来の友人)

クラウド会計ソフトのfreeeがAIによる自動仕訳の特許を取得、ラボも開設

左からfreee執行役員プロダクトマネージャーの坂本登史文氏とfreee CTOの横路隆氏

左からfreee執行役員プロダクトマネージャーの坂本登史文氏とfreee CTOの横路隆氏

様々な領域で利用に向けた研究の進む人工知能(AI)。FinTechの領域もその例外ではない。クラウド会計ソフト「freee」などを提供するfreeeは6月27日、自動仕訳に関するAI技術の特許を取得したことを発表。同時に、AIによるバックオフィス業務効率化をすすめる「スモールビジネスAIラボ」を創設した。今週中にもクラウド会計ソフトにAIを用いた自動仕訳機能を提供する。

クラウド会計ソフトfreeeは、銀行口座やクレジットカードなどと連携し、出入金を自動で取得、勘定科目を仕訳してくれるというもの。このデータをもとにして帳簿や決算書を作ったり、請求書や見積書を作ったりできる。

データは銀行口座などと自動で同期されるとは言え、勘定科目については当初キーワード単位でのルールで仕訳を行っていた。1つの例だが、「さくらインターネット」や「インターネットイニシアティブ」といったクラウド・インフラ企業への支払いが「インターネット」というキーワードをもとに「通信費」として仕訳される一方、本来ほかの勘定科目に仕訳すべき内容も「●●インターネット」という名称がついていた場合、「通信費」となってしまっていた。これを防ぐには、結局のところ、最終的に人間が勘定科目を確認・選択する必要があった。

AIを用いた自動仕訳機能のイメージ

AIを用いた自動仕訳機能のイメージ

だが仕訳登録AIを導入するより最適な勘定科目を推測できるようになるという。AIは学習エンジンを搭載しており、利用ユーザーが増えれば増えるほどにその精度は高まるのが特徴だ。開発を担当したfreee執行役員プロダクトマネージャーの坂本登史文氏によると、その精度は現在70%弱。今後は数カ月のベータ版運用を経て、90%程度まで精度を引き上げていく予定だという。

freeeのスタッフは現在200人以上。エンジニアの10%はラボのメンバーとしてAI関連の開発に従事しているという。デジタルインファクトの調査やMM総研の調査によると、freeeはクラウド会計、給与計算でシェア1位だという(とは言えそもそもクラウド化率が会計で11.1%、給与計算で12.5%という数字だ)。freee CTOの横路隆氏はこの数字を挙げて、「(freeeには)個人事業主や中小企業のデータが集まっている。このデータを利用すればイノベーションを起こせる余地はまだまだある。また我々は会社設立から会計、給与計算までの機能を提供している。パッケージされた業務システムを1つ1つ最適化するのでなく、すべてのサービスを1つのデータとして最適化できることは強み」と語る。

今後ラボでは、AIをもとにした不正データの検知や、チャットサポートの自動化、消し込み作業の支援といった経理作業の効率化に向けた機能を提供していく。また将来的には資金繰りのシミュレーションや経営分析など、経営意思決定の支援に向けた機能を提供していく。

金融イノベーションにおいて、なぜ英国は米国を打ち負かしたのか

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編集部注:本稿を執筆したJeff Lynnは、Seedrsの共同創業者およびCEOである。

一般投資家によるスタートアップや小規模ビジネスへの投資を可能にする法案が、2011年に初めて米国議会に持ち込まれた。二大政党からの支持や、オバマ大統領からの承認があったにもかかわらず、それは今になってやっと現実味を帯びた。

アメリカで生まれ育ち、英国で働きながら生活するアングロ・アメリカンである私は、大西洋の両側にある両国に強い忠誠心を持っている。しかし、これまでの数年間を振り返り、これから始動する米国のクラウドファンディングを考えたとき、企業や自由競争市場、そしてイノベーションに対してともに似たようなコミットメントをしてきた両国が、これ程までに違った道を歩んできたという事実に私は驚きを隠せない。

英国はこれまで、エクイティ・クラウドファンディングだけでなく、他にも一般的な金融改革を推進してきた。現在、英国の金融セクターは繁栄を極め、小規模ビジネスや投資家、そして経済全体がそこから同様に恩恵を得ている。

一方、米国は時代遅れの規制システムによって身動きが取れず、英国に対してかなり遅れをとっている。そして、この状況はこれからも続きそうだ。

2つの規制システムの物語

金融改革へのアプローチが両国において異なる理由は、それぞれの規制システムの歴史にあると考えられる。

1929年に株式市場が崩壊したとき、米国では大勢の一般市民が多額の資産を失った。1920年代に米国の株式市場に参入してきた個人投資家は、自分たちが何に投資をしているのかすら分かっていなかった。投資に関するリスクが明らかにされないまま、玄関先で株式のやり取りが行われることもあった。

イノベーションが生まれるたびに新しい法律を必要とするような規制システムでは、それが持つスピードに追いつくことなど不可能だ。

それゆえに、一般投資家たちは株式市場の崩壊に驚愕しただけでは済まされず、自分たちが許容できる金額以上の投資を行っていた彼らは家や暮らしまで失うことになったのだ。

この事態に応じて、米国政府は世界初の包括的な金融規制システムを導入した。その内容のほとんどは、一般市民の理解を超えた投資行為から彼らを守るというものだった。このシステムは、1920年代および30年代に売買された投資商品や、当時の投資家の熟練度やコミュニケーションの相対的欠如に基づいてデザインされたものである。

そして立法者たちは、それらの投資商品や投資家の熟練度が今後に変化するとは考えなかったため、彼らは「ルール・ベース」と呼ばれるシステムを構築した。それはすなわち、投資行為のあらゆる側面において細かくルールを制定するというものだった。多少の変更は加えられたものの、今日でもアメリカではこのルール・ベースのシステムを採用している。

1929年の株式市場の崩壊は英国にも影響を与えた。だが、それは米国に与えた影響とは違う種類のものだった。他のヨーロッパ諸国と同様、当時の英国における投資行為というものは、一部の機関や裕福な個人が行うものに過ぎなかった。一般市民が株式市場に投入していた金額は少なかったため、彼らが失ったものも少なく、一般市民を保護するための法整備を求める大規模な活動は起こらなかった。それから何十年もの間、英国の金融セクターは比較的規制による干渉の少ない、自立的なセクターとして残った。

英国政府が包括的な金融規制システムの必要性を感じたのは、個人投資家が増え始めた1990年代になってからのことだった。その結果、Financial Service and Markets Act 2000(FSMA)が生まれ、それが今日でも採用されている。

FSMAが制定された時には既にインターネットが広く普及していた。しかし、恐らくそれよりも重要なことは、当時は投資やビジネスのやり方が日々進化しており、数年間のうちにテクノロジーが更なる変化をもたらすことが明らかだった事だろう。

それゆえに、FSMAはマーケットの変化に柔軟に対応できるようにデザインされたものであり、将来の変化にも耐えうるものだったのだ。米国による「ルール・ベース」のアプローチを採用する代わりに、FSMAは「原則ベース」のアプローチを導入した。英国の金融機関は投資家保護の原則(およびその他の原則)を守ることを求められる。しかし、その具体的な方法は彼らに委ねられていた。

金融のイノベーション

大西洋をかこむ両国における金融改革の進化を理解するためには、それぞれの国の規制システムのレンズを通して見なければならない。

原則ベースのアプローチは常にイノベーションと共存する運命にある。このアプローチでは、まったく新しい金融サービスを誕生させるために法律を改定する必要はなく、すでに存在する原則を適用することができるからだ。参加自由の市場だと言っているわけではない。ほとんどの場合、新しいビジネスモデルを開始するためには英国の規制機関(Financial Conduct Authority, FCA)からの認可が必要だ。しかし、米国で生まれるイノベーションには新しい法整備が必要であることに比べれば、そのプロセスは著しくシンプルでフレキシブルなものだ。

エクイティ・クラウドファンディングの歴史をひも解けば、このアプローチが実際にどう機能するのかが良くわかる。

私と共同創業者が、一般投資家が小規模ビジネスやアーリーステージの企業への投資に参加できるプラットフォームを立ち上げようとした時、まず私たちはFSMAやそれに関連する規制を調べることから初めた。私たちの投資サービスは、ハイリスクではあるが特に複雑だとは言えないものだ。しかし一番の問題点は、そもそもこの種の投資サービスを一般投資家に提供することが可能なのかというものだった。

この調査によって、私たちはある規則を発見した。それは、この種の投資サービスを提供するためには、投資家のリスクに対する理解とその受け入れを評価する必要があるというものだった。その評価方法は企業(私たち)に委ねられており、規制機関が私たちのプロセスを監視し、彼らがそのアプローチ方法に満足すれば認可が降りる。あらかじめ定められた評価方法のフォーマットは存在しない。

イノベーションは常に法整備の先を行く。

そこで私たちはイノベーターを見習い、新しい評価手段を創り出した。それまでの評価方法とは、金融機関が投資家の資産額とこれまでの投資経験を聞くというものだった。だが、エクイティ・クラウドファンディングにはこの方法は適さないと考えた。最低金額が10ポンド(約1600円)の投資において、投資家の資産額を知る必要はない。また、エクイティ・クラウドファンディングは特別に複雑な投資ではないことから(基本的なモーゲージや保険契約の方が企業の株式よりも複雑なものだ)、これまでの投資経験を聞く必要もないと考えた。

私たちが最も気にしたのは、投資家が裕福なのか、または豊かな投資経験を持つのかということではなく、彼らが実際にこの種の投資に関するリスクを理解しているのかということだった。そこで私たちはクイズを作成することにした。投資家たちは、このアセットクラスへの投資やリスクに関する理解度を示すためにオンラインの選択式クイズに合格しなければならない。

私たちは、認可のためのプロセスとしてFCAにこのクイズを提出した。彼らはそのアプローチが的を得ていると考え、私たちは認可を受けることができた。その後は皆様もご存じの通りだ。

それでは次に米国式のアプローチを考えてみよう。米国の法律には、投資家のリスク理解の保証に関する原則は存在しない。その代わり、投資家が裕福でなければ(定められた収入と資産のラインを超えなければ)、極めて稀な例外を除いて彼らが非公開企業の株式を取得することを認めないという明確なルールがある。そこには議論の余地はなく、規制機関(Securities and Exchange Commission, SEC)がケースバイケースの判断を下すという柔軟性もない。

その結果、エクイティ・クラウドファンディングを実現させるには以下の3つが必要だ。法律が議会を通過すること、大統領がそれに署名すること、そしてSECがそれを実施することだ。

驚くべきことに、最初の2つのプロセスは比較的早く実現した。両政党がエクイティ・クラウドファンディングを支持し、2011年から12年にかけた約7カ月間で法案が上下両院を通過、大統領の署名を得ることとなったのだ。

しかし、2つのプロセスが完了しただけでは十分ではない。規制機関がその法案を実装する段階になると、すべてが足踏み状態となったのだ。SECは2012年12月31日までにプロセスを完了する予定だった。結局、SECが必要とされる実装ルールを導入したのは期限を3年ほど超過した2015年10月30日だった(しかもそれが有効となるのは2016年5月16日である)。

しかし、そこで話は終わらない。2012年に議会を通過した最初の法案には多くの欠陥があった。その欠陥は、ヨーロッパにおけるエクイティ・クラウドファンディングのプラットフォームが成熟し、人々がそれに対する理解を深めてはじめて浮かび上がった。

SECはその欠陥を認識していた(だからこそ法案の実施にここまで時間がかかったと主張する者もいる)。しかし、彼らにはその法案を変える力がなかった。そして今ではその法案を修正するための法案が必要となってしまったのだ。

2016年3月下旬、2011年に最初のクラウドファンディング法案を議会に提出したPatrick McHenry議員は、シンプルに「Fix Crowdfunding Act」と呼ばれる新しい法案を提出した。そして例のプロセスのやり直しが始まったのだ(私はFix Crowdfunding Actを強く支持している。また、米国のエクイティ・クラウドファンディングは、この法案が導入されて初めて始動すると考えている)。

Innovation Initiative

エクイティ・クラウドファンディングにまつわる話は、両国の異なる規制システムが育んだ金融分野のイノベーション文化の一例にすぎない。それと似た問題が金融サービスやフィンテックの分野にも存在する。

それでは、米国における金融イノベーションという希望は失われたのだろうか?それは恐らく違うだろう。McHenry議員とKevin McCarthy下院多数党院内総務は、先日「Innovation Initiative」と呼ばれるプログラムを開始した。このプログラムには、米国の起業家がフィンテック・ベンチャーを起業しやすくするための数々の提案も盛り込まれている。とりわけ、小規模ビジネスや一般市民のニーズを満たすようなフィンテック企業が対象だ。

このような活動はまだ始まったばかりである。しかし、金融分野において米国と英国との差が開き続けているという事実に米国のリーダーたちが気づいたという心強いサインだ。また、ワシントンで開催された、フィンテック分野で英国が米国に対してもつ優位性についてのディスカッション・イベントでMcHenry議員がこのプログラムを発表したことは適切なことだ。

私はInnovation Initiativeを支持する。しかしながら、これが根本的な問題を解決したとはまだ言えないだろう。イノベーションは常に法整備の先を行く。イノベーションが生まれるたびに新しい法律を必要とするような規制システムでは、それが持つスピードに追いつくことなど不可能だ。

将来に起こる変化にも耐えうる金融規制を米国が構築しなければ、英国がもつ原則ベースのレジームによって、またはその他の要因によって、金融改革における両国の差は開き続ける一方だろう。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

フィンテックは銀行を破壊するだけではなく、プラットフォーム化する

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銀行から銀行へお金を移すのは簡単だ。厄介なのはアプリの移動だ。

フィンテック製品は、株取引、資産管理、支払い、ローン、送金、保険等様々な分野で急増している。それを支えているのは民間フィンテック企業へのベンチャー投資で、CB Insightsによると、2015年には総額190億ドルに達した。これは2014年と比べて58%増、2010年からは1000%増にあたる。

これらのスタートアップが、銀行の提供する特定のサービスを破壊することは間違いない。この分野で成功したスタートアップは、銀行の収益機会を侵食することができる。それでも銀行は、付加的サービスよりも消費者の資金を運用することによって主要な利益を上げることができる。

しかし、こうしたスタートアップに共通しているのは、彼らがいずれも、ユーザーの口座に入出金するために、既存の銀行との接続に依存している点だ。スタートアップを避けるのではなく、既存勢力はフィンテック製品が自分たちの銀行口座につながるための橋渡しをしている。

その結果、銀行が急速に変化する一方で、顧客は今使っている銀行を変えようとしない傾向にあるようだと、私の話したフィンテックの起業家やVCらは言っていた。

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クレジットカードやデビットカードのレベルでさえ、AmazonやUberのEコマースサービスは、銀行を変えることを面倒にしている。ユーザーはそれぞれのアプリに行って、口座を更新しなくてはならない。クレジットカードを失くしてしまった時でも、同じ銀行に連絡をして同じ番号のカードを送ってもらえば手間がかからずに済む。

今フィンテックでは、銀行口座と直接つながったアプリが同じことをしている。そうなることで銀行は、新規顧客の獲得や高額商品の販売や維持に専念できる。なぜならユーザーはフィンテックによって今の銀行に固定化されるからだ。

一方、個々のフィンテックスタートアップにとって、銀行は友であり敵でもある。個別のサービスを巡って競合することもあるだろうが、全体で見れば、銀行はパートナーである。将来、スタートアップが隣接市場に手を広げるにつれ、その稀薄な関係に変化が見られるかもしれない。しかし現時点では、理解ある銀行はあなたが想像する以上に、フィンテックスタートアップを大好きだ。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

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