2年ほど前、フランスのEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)大統領はTech for Good Summit(善のためのテック・サミット)を主催した(未訳記事)。50社のテック企業のCEOが招かれ、テック業界の課題が話し合われ、声明が発表された。
通常ならテック企業のCEOたちは、パリで開催される技術系見本市Viva Technology(ビバ・テクノロジー)に先立って顔を合わせることになっている。しかし、2020年のViva Technoloyは中止を余儀なくされたため、テック企業のCEOたちは一堂に会して、みんなで記念写真を撮って、よりよい世界を作ろうと宣言することができなかった。
そこで数十社のテック企業CEOたちは、共通の誓いを立てることにした。一部の技術革新が良いインパクトを社会に与えている一方で、テック業界が完璧ではないことを彼らは自覚している。
「そうした進歩が、独占や組織的地位の悪用、インターネットの断片化といった不公正な競争を含む、外部へのネガティブな影響によって妨げられていることを考慮するに、適切なセーフガードがなければ、テクノロジーによって基本的な自由や人権が脅かされたり、民主主義が弱体化させられることもあり得ます。それに対抗する適切な手段がなければ、一部の個人や団体が、紛争に乗じるなどして犯罪目的でテクノロジーを悪用する事態は避けられません」と誓約には語られている。
この誓約に署名した企業は、たとえば児童の性的虐待やテロリスト関連のコンテンツなどの有害コンテンツに対処する際に力を合わせることになっている。彼らは「ヘイトスピーチ、誤情報、言論操作に責任を持って対処する」と約束している。
また興味深いことに「事業を行う国の税制に適正に従うこと」という同意も含まれている。これは、フランス政府と米国政府との間に現在進行形で横たわっている問題だ。OECDとEUは、事業を行う各国の税務当局への報告義務を負わせるために、巨大テック企業に課税する案も検討されている。
この他、あらゆる種類の差別などに対抗するためのプライバシー、社会的包括性、多様性、公正性に関する誓約もある。その名が示すとおり、この誓約はテクノロジーを善なる目的に使用することを中心に据えている。
それでは、この誓約に署名した人たちを紹介しよう。Alphabet(アルファベット)、Google(グーグル)のSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏、Facebook(フェイスブック)のMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏、 Microsoft(マイクロソフト)のBrad Smith(ブラッド・スミス)氏、Snap(スナップ)のEvan Spiegel(エバン・スピーゲル)氏、Twitter(ツイッター)とSquare(スクエア)のCEO、Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏といった有名どころも名を連ねている。その他の企業には、Cisco(シスコ)、Deliveroo(デリバルー)、Doctolib(ドクトリブ)、IBM、OpenClassrooms(オープンクラスルーム)、Uber(ウーバー)なども参加している。
Mozilla Foundation(モジラ財団)、Simplon(シンプロン)、Tech fo Good Fance(テック・フォー・グッド・フランス)といった非営利団体もいくつか署名した。
だがもっとおもしろいのは、ここに名前が載ってない企業だ。Amazon(アマゾン)とApple(アップル)は誓約に署名しなかった。アップルとは交渉が持たれたが、結局同社は参加しないことを選んだ。
「アマゾンは署名を拒んだ。あなたたちから、その理由を直接聞いて欲しい」とフランス大統領に近い情報筋からいわれた。フランス政府は、特にアマゾンのケースを非難している。
拘束力のない誓約なのに、これは奇妙だ。「税金には適正に応じます」と口でいっておいて、自分は払うべきものはきちんと払っていると主張するのは自由だ。節税と脱税は違うのだから。もっといえば、「デザイン段階からプライバシーを考慮した」製品を作っていると公言しつつ、実際はパーソナライズ広告やマイクロターゲティングで企業全体を支え続けるなどということもできてしまう。
いい換えれば、Tech for Good Summitは、記念写真を撮るため会だ(下の2018年の写真のように)。テック企業のCEOたちは、政府首脳のように扱われたいと願い、マクロン大統領はテクノロジーに通じた大統領という地位に身を置きたい。そんな彼らにとって、これはWin-Winの関係であり、その他全員にとっては時間の無駄ということだ。
一部の非営利団体やガバナンスグループは、実際にデジタルコモンズの設立に向けて努力している。しかし、巨大テック企業はその同じ言葉を、イメージアップのための形だけの環境保護キャンペーンに利用している。
2018年、数百の団体がパリコールに署名した。2019年、ソーシャルメディア最大手企業がクライストチャーチコール(未訳記事)に署名した。そして今度は「the Tech for Good Call」だ。これらのコール(宣言)は、決して適切な規制に置き換わるものではない。
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画像クレジット:Charles Platiau / AFP / Getty Images
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(翻訳:金井哲夫)