ロシアのウクライナ侵略支持を宣言したContiランサムウェアグループの内部チャットがネットに流出

ランサムウェアグループConti(コンティ)のチャットログのキャッシュが、ロシアのウクライナ侵攻を支持するグループに異議を唱えると主張している内部関係者らによって、オンライン上に流出した。

情報は、マルウェアのサンプルやデータを収集するマルウェア研究グループであるVX-Undergroundに共有された。流出したデータセットには、Contiグループの母国語であるロシア語での数万件の内部チャットログを含む約400のファイルがある。このファイルには、2020年半ばにグループが初めて結成されてから約半年後の2021年1月までさかのぼる約1年分のメッセージが保存されている。

ランサムウェアの専門家は、グループの内部運営についてより詳しく知るために、すでにこのファイルに目を通している。セキュリティ研究者のBill Demirkapi(ビル・デミルカピ)氏はファイルを英語に翻訳した。

「ウクライナに栄光あれ」と、リーク者はメッセージで述べている。

Contiはランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)グループで、関連機関はContiのインフラへのアクセスを借りて攻撃を仕掛けることができる。専門家によると、Contiはロシアを拠点としており、ロシアの諜報機関とつながりがある可能性があるという。

今週初めにContiは、ロイターが最初に報じ、TechCrunchも確認したブログ投稿の中で、ロシアの隣国ウクライナへの侵攻を「完全に支持している」と述べ、ロシアがサイバー攻撃や軍事攻撃を受けたら、重要インフラに報復すると宣言した。更新された投稿では、同グループはどの政府とも手を結んでいないと主張したが、改めてこう述べた。「平和な市民の幸福と安全がアメリカのサイバー攻撃のために危険にさらされる場合、反撃するために我々のリソースを使用する」。

Contiは、Fat Face(ファットフェイス)やShutterfly(シャッターフライ)など数十の企業、そして緊急通報センターや救急隊ネットワークなどの重要インフラを標的としたランサムウェア攻撃で非難されてきた。2021年5月には、Contiはアイルランドの医療サービスのネットワークを攻撃し、これによりアイルランドはITシステムの全国的な停止を余儀なくされ、国中で深刻な遅延が発生し、復旧するのに1億ドル(約115億円)超かかった。

クラウドソーシングによるランサムウェア追跡サイトのRansomwareによると、Contiはこれまでに3010万ドル(約34億円)超の身代金を回収した。

「今回の情報流出は、Contiにとって大きな痛手です。同社の関連会社やその他の関係者が、Contiのオペレーションに対する信頼をなくしただけではありません」と、Emsisoftのランサムウェア専門家で脅威アナリストのBrett Callow(ブレット・カロウ)氏は述べた。「彼らは間違いなく、作戦がいつ危険にさらされたのか、法執行機関は関与しているのか、そして自分たちにつながる手がかりがあるのか、と考えていることでしょう」。

「多くのRaaSオペレーションは、ロシアに拠点を置くものを含め、ウクライナとつながりがあります。従って、作戦の内部を知る人物を怒らせる危険があるため、作戦を公にするのは戦術的には失敗です」とカロウ氏は話す。

Contiのファイルの流出は、ロシアの侵攻に対応してロシアのサイト、サービス、インフラを標的としたウクライナの「IT軍」の結成など、ハクティビストとセキュリティ同盟による幅広い取り組みの一部だ。

関連記事:ウクライナがロシアにハッキングで対抗する「IT部隊」を募集し反撃、テックリーダーにも参加を呼びかけ

画像クレジット:NurPhoto / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

核融合炉の心臓部(ブランケット)において900度で機能する液体金属の合成に成功、腐食に耐える構造材も発見

核融合炉の心臓部(ブランケット)において900度で機能する液体金属の合成に成功、腐食に耐える構造材も発見

高純度リチウム鉛合金合成装置(量子科学技術研究開発機構との共同研究)

東京工業大学は2月24日、核融合炉の心臓部であるブランケットの冷却に使用する革新的な液体金属、リチウム鉛合金の大量合成に成功し、さらにその摂氏900度に達する液体金属に耐えられる構造材の候補物質としてクロムアルミニウム酸化物分散強化合金の発見にも成功したことを発表した。

ブランケットとは、核融合炉の中で超高温なプラズマを、文字どおり「毛布」のように包み込む装置のこと。核融合反応で発生する中性子の遮蔽、燃料となる三重水素の増殖、冷却を目的としている。冷却に使われる冷却液は、発電タービンを回して電気を起こす。日本で開発されている原型炉では、摂氏約300度の高圧水で熱を取り出す方式が採られている。これを900度近い高温で使える素材に置き換えることができれば、より高効率化が期待でき、さらにその高温を利用して水から水素を作り出すことも可能となる。そのため、世界各国では液体金属の研究が進められているが、ほとんどは摂氏600度以下の温度域に留まっている。そこで、東京工業大学(近藤正聡准教授、畑山奨大学院生・研究当時)、横浜国立大学(大野直子准教授)、量子科学技術研究開発機構(野澤貴史氏)からなる研究グループは、摂氏900度で機能する液体金属と、その腐食性に耐えられる構造材の研究に取り組んだ。

液体金属は、純度によって性質や腐食性が大きく変化するため、高純度でなければならない。研究グループは、リチウムと鉛を混ぜ合わせた液体リチウム鉛合金の合成を試みたのだが、水の半分の密度のリチウムと、水の約10倍の密度の鉛を均一に混ぜるのは大変に困難だった。そこで開発したのが、蒸したジャガイモをつぶす器具から着想を得たというマッシュポテト式攪拌法を応用したものだった。原料を摂氏350度という低温で一気に攪拌し、減圧環境で混合することで、水分などの不純物を昇温脱離させて高純度のリチウム鉛合金を合成する。今回の試験では、鉛が84%、リチウムが16%のリチウム鉛合金10kgの合成に成功した。鉄、クロム、ニッケル、マンガンといった金属不純物を、これまでの研究に比べて大幅に抑制できたうえ、中性子を吸収して放射性物質を生産してしまうビスマスの濃度や、構造材料の腐食を促進してしまう溶在窒素の濃度も従来の1/10に抑えることができた。

摂氏900度の液体リチウム鉛合金を冷却剤として使う「液体増殖ブランケット」の構造体には、高温下でも腐食しない材質が求められる。研究グループは、一般的に使われる耐食性構造材316Lオーステナイト鋼、耐高温材料シリコンカーバイド、鉄クロムアルミニウム(FeCrAl)酸化物分散強化合金、FeCrAI合金APMTを、摂氏600度、750度、900度で耐食性の調査を行ったところ、750度まではどれもほぼ変化がなかったものの、900度になると、腐食しないのはFeCrAl酸化物分散強化合金のみとなった。さらに調べると、FeCrAI酸化物分散強化合金は、酸化皮膜を形成しながら液体金属から身を守っていることが明らかになった。さらに、この酸化皮膜は人間の皮膚のように破壊されても再生が可能であるため、優れた耐食性を保つことができるという。

今回の成果により、「日本国内のみならず、液体増殖ブランケットの開発を進めている欧州や中国、インドを中心として世界中の液体金属研究が一層活発になり、実現へ向けた課題の解決が加速されると期待できる」という。また研究グループは、これは「水素製造機能を備える核融合炉のような革新的エネルギーシステムの成立を促進するものであり、ゼロカーボンエネルギーに基づくカーボンニュートラル社会の実現に大きく寄与する」としている。

小中学校の先生の悩みを解決するプログラミング教材、Scratch用拡張ボード「AkaDako」

小中学校の先生の悩みを解決するプログラミング教材、Scratch用拡張ボード「AkaDako」

学校教育向けハードウェア教材の開発と提供を行うティーファブワークスは2月28日、小学校でのプログラミング授業における担当教員の様々な悩みを解決することを目的に開発した、Scratch用拡張ボード「AkaDako」(アカダコ)の販売を開始した。本体価格は999円(税込)。

2020年から小学校のプログラミング教育が始まったが、担当する教師たちには数多くの悩みを抱えている。たとえば、教材の習得が大変、授業前の教材の準備(インストール、ユーザー登録、設定など)が大変、授業中のトラブル(Bluetoothのペアリング、ダウンロードなど)の対応が大変などだ。40人学教では、先生1人がそれらに対処しなければならない。また、教材は高価なためすべての生徒に配布することはできず、授業が終わると回収することになり、せっかく生徒に興味が芽生えても、授業以外で学ぶことができない。教科書にはAIやIoTなども紹介されているが、先生の準備やスキルが追いつかない、または授業時間が短いなどの理由で教えられないといった残念な問題もある。さらに、購入した教材が使用できる単元は「電気の時間」のみと限られるため、使われずに仕舞われている時間が長い。

ティーファブワークスは、これまでmicro:bitを中心としたプログラミング教育で学校と協力してきた経験を活かし、こうした現場の悩みを解決できるプログラミング教材「AkaDako」を開発した。これには、次の6つの特徴がある。小中学校の先生の悩みを解決するプログラミング教材、Scratch用拡張ボード「AkaDako」

  • 事前準備を限りなくゼロへ:先生も生徒も経験があるScratchを採用。アプリのダウンロード、組み立て、電源が不要(USB給電)
  • 授業中のトラブルを限りなくゼロへ:Bluetoothのペアリング不要(USB接続)、Scratchで「緑の旗」をクリックするだけで設定完了
  • 低コスト:本体価格は999円(税込)なので、各生徒に配布できる。安価なGroveシールド(拡張部品)にも対応
  • 多くの授業で利用可能:「電気の利用」以外の理科の実験、図工、技術家庭の教材としても利用できる
  • AIと簡単に連携できるXcratch(Scratch互換環境)、Scratch3に対応し、画像認識や音声認識などのAIを使ったフィジカルコンピューティングを簡単に学べる

ティーファブワークスでは、4月から「AkaDako」の学校、教育委員会向けに無料レンタルを開始する。また、そのコア技術をOEM提供する準備も整えているとのことだ。問い合わせは、同社の「お問い合わせ」フォームから行える。

「AkaDako」の仕様

  • 対応端末:Windows、Chromebook、Mac、Raspberry Pi
  • 対応ウェブブラウザー:Chrome(モバイル版除く)、Edge(chromium版)
  • 入出力USB micro-B、アナログ1系統5V(Grove端子兼用)、デジタル1系統5V(Grove端子兼用)、5V、GND
  • Grove端子:アナログ2系統、デジタル2系統、I2C 2系統
  • サイズ:縦65✕横50✕高さ12mm
  • 重さ:10g

ファームノート、乳牛ごとの遺伝子解析情報をクラウドで提供し理想の牛群を追究できる酪農家向けサービスFarmnote Gene

ファームノート、乳牛個体ごとの遺伝子解析情報をクラウドで提供し理想の牛群を追究できる酪農家向けサービスFarmnote Gene

酪農・畜産特化IoTソリューションの開発・提供を行うファームノートは2月25日、乳牛の遺伝子情報(ゲノム)を採取し、その解析結果をクラウドで提供するサービス「Farmnote Gene」(ファームノート・ジーン)の提供を3月より開始すると発表した。個々の乳牛の特性を遺伝子レベルで確認し、「理想の牛群の追究」を実現させるというものだ。遺伝子情報を解析することで乳量や乳質、生産寿命、繁殖成績といった牛の各個体の遺伝由来の能力を把握しやすくなり、データに基づく飼養管理、意思決定を実現し、速やかな牛群改良を可能にするという。

Farmnote Geneでは、乳牛個体ごとの遺伝子情報を専用のインターフェイスでわかりやすく提示するため、酪農家は、専門知識がなくとも解析結果を直感的に理解し利用できる。具体的には、次の特徴がある。ファームノート、乳牛個体ごとの遺伝子解析情報をクラウドで提供し理想の牛群を追究できる酪農家向けサービスFarmnote Gene

  • わかりやすい画面と項目表示:気になる項目ごとのデータ表示などで、乳牛の個体特性を判断できる。良い牛かどうかの判別が容易になる
  • ひと目でわかる牛のランキング画面
    牛のランキング表示機能により、細かいデータ表を読み込んだりデータ加工を行うなどの手間をかけることなく、牛ごとの遺伝子データの全体像が把握できる
  • 牧場がすべき次のアクションを確認:データに基づく後継牛の提案を受けることができ、牧場の短期から長期の繁殖目標を確認できる

具体的な活用例としては、後継対象外となった母牛に和牛受精卵を種付けして子牛を育成し販売する、疫病リスクが少ない母牛を選んで種付けして病気が少ない子牛の誕生確率を上げる、搾乳ロボットに適した体型補正で搾乳作業を効率化するなどが挙げられている。

Farmnote Geneは、PCやタブレットで解析結果を見るための「Farmnote Gene Webサービス」(無料)と、実際のゲノム検査とで構成される。ゲノム検査の料金は応相談。また、解析結果をもとにしたアドバイスが受けられる「定期レビュー」サービスも提供が予定されている。

心疾患診断アシスト機能付き遠隔医療対応聴診器など手がけるAMIが1.5億円調達、日清紡HDと資本提携し社会実装を加速

心疾患診断アシスト機能付き遠隔医療対応聴診器など手がけるAMIが1.5億円調達、日清紡HDと資本提携しサービス提供目指す

心疾患診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器「超聴診器」や遠隔医療サービスの社会実装で医療革新を目指すAIMは2月28日、日清紡ホールディングス(日清紡HD)と資本業務提携を締結し1.5億円の資金調達を行ったと発表した。両社の技術やノウハウを合わせ、誰もが・どこにいても・質の高い医療を受けられる世界の実現を目指す。

AIMは、医療従事者の経験と聴覚に頼らざるを得なかった聴診器にイノベーションを起こすため、心疾患診断アシスト機能を搭載した「超聴診器」の開発に取り組んでいる。さらに、遠隔医療領域では、AIMの掲げるクラウド総合病院構想を実現するため、アフターコロナ時代の医療DXを推進する新たなDtoD(Doctor to Doctor:医師-医師間)遠隔医療サービスの社会実装、医師の偏在や地域医療課草を解決するソリューションの展開を目指している。

また日清紡HDは、「ライフ&ヘルスケア」を戦略的事業領域の1つに定め、無線通信技術を使った医療機器や介護領域での製品を開発している。そうした中で、ライフ&ヘルスケア事業におけるさらなるイノベーションを実現すべく、遠隔医療事業の開発を目的とする資本業務提携に至ったという。

今後は、日清紡HDの情報通信技術、センシング技術、医療機器製造などのノウハウ、またAIMが持つAIやデータ解析の技術・臨床研究フィールドを通じて両社共創による質の高い遠隔医療サービスの社会実装を加速する。心疾患診断アシスト機能付き遠隔医療対応聴診器など手がけるAMIが1.5億円調達、日清紡HDと資本提携しサービス提供目指す

2020年度に熊本県水俣市で実施された委託事業「遠隔システムを活用した予備健診実施実証事業~クラウド健進~」の報告書より

2020年度に熊本県水俣市で実施された委託事業「遠隔システムを活用した予備健診実施実証事業~クラウド健進~」の報告書より

2015年11月設立のAIMは、遠隔医療サービスの社会実装を目指す研究開発型スタートアップ。「急激な医療革新の実現」をミッションに掲げ、医療機器の開発や遠隔医療サービスの提供を事業としている。

レブコムの音声解析AI電話MiiTelが受発信用電話番号として主要都市の市外局番を追加、03・06以外の地元の番号が利用可能に

レブコムの音声解析AI電話MiiTelが受発信用電話番号として主要都市の市外局番を追加、03・06以外の地元の番号が利用可能に

RevComm(レブコム)は2月28日、音声解析AI電話サービス「MiiTel」(ミーテル)において、従来より市外局番として提供している03(東京)と06(大阪)に加えて、主要都市の市外局番を追加することを発表した。これにより、主要都市の市外局番をMiiTelでの受発信用電話番号として利用できるようになる。

MiiTelは、会話の内容を解析し高精度のフィードバックを行う音声解析AI電話サービス。営業電話やコンタクトセンター業務において利用されており、商談獲得率・成約率の向上に寄与している。また、顧客と担当者が「何を」「どのように」話しているのかわからないというブラックボックス化問題を解消するほか、自動文字起こし機能によりアナログな議事録作成においても活躍している。

RevCommは、MiiTelでの受発信に利用できる電話番号として、050や0120、0800、また市外局番としては03と06で始まる番号を提供しており、2月28日より主要都市の市外局番の提供も開始した。そうした主要都市に本社や拠点を持つ企業・団体は、該当する市外局番をMiiTelの受発信用電話番号として利用できるようになる。

すでに利用している電話番号を変更せずにそのままMiiTelでの受発信用電話番号として使える可能性があり、その場合は地元で慣れ親しまれている電話番号を変更せずMiiTelを導入できるという。

MiiTelが市外局番を提供開始した主要都市一覧

  • 北海道:札幌市
  • 宮城県:仙台市
  • 埼玉県:狭山市、所沢市、入間市、さいたま市、川口市、戸田市、朝霞市、鳩ケ谷市、志木市、新座市、草加市、越谷市、三郷市、春日部市、和光市、八潮市、川越市、富士見市、ふじみ野市
  • 神奈川県:相模原市、川崎市、横浜市、平塚市、綾瀬市、鎌倉市、藤沢市、茅ケ崎市
  • 千葉県:千葉市、船橋市、浦安市、市川市、松戸市、習志野市、柏市、我孫子市、流山市
  • 東京都:あきる野市、昭島市、稲城市、清瀬市、国立市、国分寺市、羽村市、西多摩郡、多摩市、東大和市、日野市、八王子市、福生市、立川市、武蔵村山市、狛江市、三鷹市、小金井市、町田市、小平市、西東京市、調布市、東村山市、府中市、武蔵野市
  • 愛知県:名古屋市、清須市、日進市、みよし市、愛知郡、瀬戸市、春日井市、一宮市
  • 京都府:京都市
  • 大阪府:摂津市、門真市、八尾市、茨木市、池田市、堺市、箕面市、高石市、寝屋川市、枚方市、和泉市
  • 兵庫県:尼崎市、明石市、神戸市、三田市、西宮市、宝塚市
  • 広島県:広島市
  • 福岡県:福岡市、春日市、太宰府市、筑紫野市、大野城市、北九州市

産業用熱の取り組みで10年後の全世界におけるCO2排出量1%削減を目指すRondo

気候分野を扱う界隈では、二酸化炭素の排出削減につながる製造や発電のあり方について多くの議論がなされている。世界的な炭素排出をゼロにするという目標を掲げ、実際に明確なロードマップを策定している企業に出会うことは非常にまれだが、それを実践しているのがRondo Energy(ロンド・エナジー)である。同社は投資家と顧客に向けて炭素排出の取り組みを発表し、熱心な環境保護活動家らを沸き立たせた他、2200万ドル(約26億円)の資金調達に成功した。

同社の売り込みはかなり直球だ。産業では恐るべき量の熱が消費されており、従来、その多くが天然ガスから生成されている。ところが、ここ10年の間に非常に興味深い変化が生じている。炭素クレジットの拡大と天然ガスの価格上昇を受け、大量の熱を必要とする業界が他のエネルギー源に目を向け始めたのだ。これらの業界には、食品加工、石油生産、セメント製造、水素製造、原料精製などが含まれる。先述した価格の上昇に伴い、主に太陽光や風力などの再生可能エネルギーのコストは急落している。カリフォルニア州の一部ではこの動きが顕著になっており、1日のうち一定の時間帯ではエネルギー生産量が需要を上回り、余剰電力を吸収する送電網の容量が大幅に不足しているほどだ。その結果、ある時間帯では電気代を格安ないしは無料で使えるにもかかわらず、電力が消費されずに余ってしまっているのである。

そこで登場するのがRondo Energyだ。同社は電力ではなく、熱の形でエネルギーを貯蔵する新たな方法を開発した。熱には速さという大きな強みがあり、リチウム電池の充電も圧倒的な速さで可能だ。大まかに説明すると、電力を巨大な抵抗器に送り込み、あり得ないほどの高温になるまで加熱する。あとはその熱を取り込み、電力として使うだけだ。

「レンガをかまどに放り込んで加熱してみてください。熱は長時間持続しますよね」そう話すのは、Rondo EnergyのCEO、John O’Donnell(ジョン・オドネル)氏だ。同社のテクノロジーについて、5歳児でもわかるようにかみ砕いて説明してくれた(テクノロジージャーナリストである筆者は40歳だが、朝のコーヒーをまだ飲んでいなかったので非常に助かった)。オドネル氏によると、実際の貯蔵はさほど複雑ではないものの、テクノロジーの神秘はその「レンガ」の形と、原料を加熱して法人顧客の需要に合わせて熱を抽出するAI主導の制御システムにあるという。

「私たちは、固体のなかに熱を超高温のエネルギーとして貯蔵しています。実のところ、私が使っているコーヒー用の魔法瓶は、ノートパソコンのバッテリーよりも多くのエネルギーを格安で貯蔵できるんです。熱については特別な技術は必要ありません。みなさんが使っているトースターやヘアドライヤーも、私たちと同じテクノロジーで熱を発生させています。貯蔵については、新しい配合の素材を開発しました。その素材のなかで空気を循環させ、過熱状態の熱を抽出していけば、継続して熱を発生させることができるというわけです」とオドネル氏は話す。「その後、その熱を従来型のボイラーを使って蒸気に変えるか、ガラス製造やセメント製造の顧客など、高温の熱を必要とするユーザーに直接届けています。このテクノロジーでは化学バッテリーと比較してほんのわずかなコストしかかからないうえ、どの水素システムと比較しても効率は約2倍、コストは半分です」。

余剰電力を抽出し、世界最大サイズのヘアドライヤーを作って、レンガの山に向けてエネルギーを飛ばす。熱が必要になったら、レンガに空気を送り込む。もちろんこれが全容ではないが、偉大なアイデアの概略は至ってシンプルだ(画像クレジット:Rondo Energy)

長い間、市場に存在した唯一のオプションは水素システムだったため、これとの比較は意義深い。水素システムの場合、電力を取り込んで水素を生成し、エネルギーが再び必要になったら水素を燃やすことができる。ただ、オドネル氏の主張によると、こうしたシステムの効率性は最大でも50%程度だ。一方、Rondo Energyのシステムは98%の効率性を掲げており、バッテリーや水素の貯蔵と比較して数倍シンプルだ。

これが大きな意味を持つのは、業界の熱需要が膨大だからだ。現在、Rondo Energyの拠点であるカリフォルニア州では、電力よりも多くの天然ガスが産業用の熱生成に使われている。エネルギーの価格が変化し、余剰天然資源の熱貯蔵がさらに発展すれば、脱炭素化に大きな影響を与えることができるかもしれない。世界的には温室効果ガスの36%が産業から発生しているため、炭素を削減し、ガソリン駆動の熱から炭素捕捉を行う手間を取り除くことができれば、大きな効果が出るはずだ。

「私たちのイノベーションは、物理的な貯蔵に使う素材と、AIによる監視制御の2点が組み合わさったものです。10年前では不可能だったさまざまなことが、現在は可能になっています。私たちが今実践していることは、5年前なら『ばかげている』と言われるようなことです。電力が今より高額だったころには想像もできなかったイノベーションですね」とオドネル氏は笑って話す。「ですが、私たちが進めている事業が今後産業用熱の大半を担うことになる可能性は大いにあります。10年後には、全世界の排出量が1%削減されるでしょう」。

Rondo EnergyのCEOジョン・オドネル氏(画像クレジット:Rondo Energy)

競合他社には、液体塩に約570℃(1050℉)の熱を貯蔵する技術を持つ企業がいる。Rondo EnergyのCEOは、同社の高温電池と類似の規模で熱貯蔵ができる企業としては、これが最大の競合だという。一方、Rondo Energyでは1200℃(2200℉)の熱を貯蔵できる。産業用熱や製造用熱として応用する際のニーズにはるかに近い数字だ。

同社は、シリーズAでBreakthrough Energy Ventures(ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ)Energy Impact Partners(エナジー・インパクト・パートナーズ)から2200万ドル(約26億円)の資金調達に成功した。この資金をもとに、Rondo Energyは製造に着手し、2022年の後半には顧客システムを提供する予定だ。

「私たちは、Rondo Heat Battery(ロンド・ヒートバッテリー)ソリューションが、頑固な排出ギャップを埋めるうえで重要な役割を果たすと確信しています」と、ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズのCarmichael Roberts(カーマイケル・ロバーツ)氏は話す。「再生可能エネルギーのコストは着実に低下してきていますが、高温の加工熱を必要とする業界では再生可能エネルギーの使用は不可能でした。再生可能な電力を高温の熱エネルギーに効率的に変換する方法がないからです」。

もちろん、Rondo Energyの成功は、時代の流れが同じように続くかどうかによって左右される。核融合電力の供給が突然豊富になれば、産業用のこうした種類のエネルギー貯蔵は核融合電力に置き換えられるだろう。また、他の業界も、余剰の太陽光熱から供給される日中の格安電力に目を付け、電力会社の需要が増加する可能性もある。とはいえ、膨大な量のエネルギーを高速で貯蔵する革新的なテクノロジーが登場したのはしばらくぶりのことだ。地球も、これ以上炭素に対応できなくなっている。今のところは、Rondo Energyがウィンウィンのソリューションを見つけたといえるだろう。高温加工産業には安価な熱を、投資家には短期間のROIを得る絶好のチャンスを、というわけだ。個人的な意見だが、炭素排出量を大幅に削減する可能性をある程度持つソリューションにはすべて、投資の価値があるはずである。

画像クレジット:Rondo Energy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

Zero Acre Farmsが微生物(と約43億円)を使って植物油の代替品開発に取り組む

キャノーラ油やパーム油などの植物油は、否でも応でも私たちの食生活の主要な部分を占めるようになった。有用な物質ではあるが、体に良いとは言い難く、森林破壊の大きな原因になっている。Zero Acre Farmsは、微生物と発酵によって生産される、改良された代替品を提供することを目指す新しい企業で、その目標のために3700万ドル(約42億9600万円)を調達した。

調理に油を使うのは新しいことではないが、私たちの消費量は増えている。確かに私たちは何世紀にもわたって、オリーブ、アボカド、乳製品などの油性の食品を、脂肪として、また調理のために使用してきた。しかし、100本のトウモロコシの穂、あるいは同量の大豆、ひまわりの種などから1カップの油を絞り出すという技術革新が、その方程式を変えてしまった。

他の加工食品と同様、植物油は便利で持ち運びもできるが、体に良いということはほとんどない。フライパンの油引きに小さじ1杯、クッキーのレシピに大さじ1杯を使っても害はないが、これらの油は私たちが食べるカロリーのかなりの部分(5分の1にもなる)を占めるまでに浸透してしまっている。冷蔵庫やスナックの入った引き出し、あるいはファストフード店に行ってみると、いたるところに植物油が使われているが、それは最終的な材料として使われているわけではない。

マヨネーズは何からできているのだろうか?植物油だ。アルフレッドソース(チーズクリームソース)のとろみは何なのか?植物油だ。ポテトチップスを食べた後、指につくのは何か?ご想像のとおりだ。

体に悪いだけでなく、大量に、しかも無駄な工程を経て作られるため、大豆やパームなどの油糧作物が育つ熱帯地域の森林破壊の主な原因になっている。そしてそれを使って調理すると、有害なガスが発生することもある。要するに、植物油はナパーム弾ではなくとも、すばらしいものではない。より健康的で、より資源を必要としない代替品があればありがたい。

Zero Acreは、同じように「自然」でありながら、より健康的で環境に優しいまったく新しい油の開発に取り組んでいる。それは発酵によって行われるもので、基本的には微生物に餌を与え、微生物が出したものを収穫する。

「ビールをつくるようなものですが、エタノールをつくる代わりに、微生物が油脂を作るのです。それもたくさん」と、CEOで共同創業者のJeff Nobbs(ジェフ・ノブス)はいう。

もちろん、発酵は多くの産業でよく知られ、頻繁に利用されているプロセスである。微生物は、入力(通常は糖分やその他の基本的な栄養素)と出力(微生物の自然な傾向か遺伝子操作によって決定される)のある小さな工場のようなものだ。例えば、パン作りに使われる酵母は、二酸化炭素とエタノールを生産する。前者は生地を膨らませるのに十分な量だ。しかし、遺伝子操作された酵母は、新薬のような、より複雑な生体分子を作り出すかもしれない。

画像クレジット:Ashwini Chaudhary

この場合、微生物はエネルギーを油脂として蓄える能力を持つものが選ばれている。「こうした微生物はそれが好きで、得意なのです」とノブスはいう。

このような試みをしたのは彼らが初めてではない。C16 Biosciences(Y Combinatorの2018年夏のバッチで紹介した)は発酵によってパーム油を複製しようとしているし、Xylomeは現在のバイオ燃料生産技術に代わるものを探している。合成生物学は、いわゆる微生物を特定の目的に合わせて調整することだが、それを支えるバイオテクノロジーのインフラが進歩するにつれて、ますます実行可能になっている。

Zero Acreの場合、自分たちが市場で戦いやすくなるように工夫している。コーンビジネスやパームビジネスに対抗するのは難しい命題だ。その代わり、食料品店で倫理的な買い物をしようとする消費者をターゲットにしている。オーガニックの卵、フェアトレードのコーヒーなどを買う消費者だ。価格は高くなるが、ノッブスは、当社が社会的善の側面だけに傾いているわけではないことを注意深く指摘した。

彼は次のようにいう。「私たちは、環境に良い『だけ』の合成油をつくっているわけではないのです。これは新しいカテゴリーの油脂です。私たちはより食品に適した、人間にとってより良い組成物を作ることができるのです」。しかし、一部の代替品とは異なり、レシピの修正などは必要ないとも付け加えている。「小麦粉の代わりにアーモンド粉を使うようなものではなく、1:1の置き換えです。代替しようとしている製品の代わりに、それを使うだけなのです」。

それだけでなく、高温で変なガスを発生させないし(260度の熱に耐える生体分子を進化させる理由は植物にも動物にもないと彼は指摘した)、他の油のような加工や矯味を必要としないため、実は味もさっぱりしている。

しかし、このような合成油に多くの利点があるのなら、なぜ多くの資源を持つ他の企業は、今までこれを試みなかったのだろうか?

「もし、あなたが大企業なら、これは本当に些細なことに思えるでしょう」とノブスは説明した。油は食料品店だけでなく、ファストフードチェーンや基本的な材料として必要とする生産者に、1000ガロン(約3785リットル)のタンクで売られている。家庭用の高級食用油は、油の最大の供給源にとっては誤差のようなものなのだ。それに「私たちのメッセージは植物油は良くないものだということです」と彼は続けた。「大企業はそういうことはできません。彼らは経済的にそのように自分たちの首を絞めることはしません」。

Zero Acreのアプローチに関連して、最近、技術面でもいくつかの進歩があった。

「発酵プロセスには、温度、pH、酸素の量、餌など、たくさんの要素があります。共同創業者がジョークで言っていたように、実験室でどんな音楽を聴くのかというようなものです。些細なことが大きな効果を生みます。私たちには、そのような最適なパラメーターを見つけるためのプラットフォームがあります。まだ多くの研究が必要ですが、いくつかの進歩がありました。そして私たちはこれに対し、世界最高の生物を使っていると思います」とノブスはいう。

より変わった分子の精密発酵と比較すると、製造工程が比較的単純であるため、同社はすでに製造工程を「何千何万リットル」まで拡大し、2022年後半には消費者向けにデビューする予定だ。最終的なブランディングや包装については、まだ明らかにされなかった。公開は実際の発売に近い時期になるだろう。

この3700万ドル(約42億9600万円)のAラウンドは、継続的な研究と商業的立ち上げに充てられるもので、Lowercarbon CapitalとFifty Yearsが主導し、S2G Ventures、Virgin Group、Collaborative Fund、Robert Downey JrのFootPrint Coalition Ventures、そしてシェフのDan Barber(ダン・バーバー)が参加した。

画像クレジット:Tolgart/Zero Acre Foods

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

マンガ特化型AI翻訳システムのMantra Engineが新バージョンをリリース、14カ国語・縦スクロール作品に対応開始

マンガ特化型AI翻訳システムのMantra Engineが新バージョンをリリース、14カ国語・縦スクロール作品に対応開始

「Mantra Engine」を用いた縦スクロールコミックの翻訳作業 ©︎table桌子

マンガに特化した機械翻訳技術の研究・開発を行うMantraは2月28日、マンガ翻訳システム「Mantra Engine」の新バージョンをリリースしたことを発表した。新バージョンでは、縦スクロールコミック(Webtoon、SMARTOON)の翻訳対応、14カ国語への多言語翻訳対応が実装された。

Mantra Engineは、出版社やマンガの制作・配信事業者を対象にした法人向けクラウドサービス。Mantraが独自に開発したマンガ専用の機械翻訳技術と、プロの翻訳者による修正・校閲を組み合わせることで、高速な多言語展開・翻訳版の制作を行える。マンガの翻訳版制作に関する様々な作業をウェブブラウザー上で行えるほか、進捗をリアルタイムに把握することも可能。Mantra Engineは、国内外10社以上のマンガ配信事業者や翻訳事業者、出版社に導入されており、月間約2万ページ(単行本換算で約100冊分)のマンガ多言語化に活用されているという。

マンガ特化型AI翻訳システムのMantra Engineが新バージョンをリリース、14カ国語・縦スクロール作品に対応開始

「Mantra Engine」を用いた日本語組版 ©︎朽鷹みつき

「世界の言葉で、マンガを届ける。」をスローガンに掲げるMantraは、国内外のより多くの作品の多言語展開を支援するため、今回のMantra Engineの大規模アップデートを行なった。新バージョンでは、「ルビ・縦中横・禁則処理などCJK言語特有のレイアウト処理」「合成フォントや自動カーニング、ベースラインシフトの組版処理」といった柔軟な編集機能を採用。

また、14カ国語の多言語翻訳をサポート。入稿対応言語は、日本語、英語、中国語(簡・繁)、韓国語。翻訳対象言語は、日本語、英語、中国語(簡・繁)、韓国語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ポーランド語、ロシア語となっている。

・入稿対応言語:日本語、英語、中国語(簡・繁)、韓国語
・翻訳対象言語:日本語、英語、中国語(簡・繁)、韓国語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ポーランド語、ロシア語

マンガ特化型AI翻訳システムのMantra Engineが新バージョンをリリース、14カ国語・縦スクロール作品に対応開始

「Mantra Engine」での英語組版 ©︎table桌子

【コラム】フィンテック創業者の教訓、B2BでCを解決する

消費者にとっての大きな問題を解決しようとするフィンテック企業の創業者は、ほとんどの場合「人を助けたい」という善意でスタートを切る。しかし、その目標を大きく外してしまうことがあり、その結果他のフィンテック企業の創業者は消費者にどれだけ効果的に役立つことができるのかに疑問の目が向く。ベンチャー企業で営利を目的としたフィンテックのスタートアップ企業に「Altruis(利他主義)」という名前をつけるとしたら、ある種の健全な懐疑論がつきまとうことは確かだ。

フィンテックの世界は、さまざまな意味で内部対立の上に成り立っているため、その懐疑的な見方は理解できる。フィンテックの創業者の大半は、収益性の低い目標を達成するための超高収益ビジネスモデルの力と価値を深く理解している。また、金融機関出身者が多いため、金融ツールや金融機関が消費者の利益にならず、時には搾取している点を見抜くことができるという内部者的な強みがある。

創業者たちは問題をすばやく特定し、それを解決するスキルを持っているため、人々を支援するためのソリューションを構築し始める。彼らの意図は、概して利他的だと言える。

しかし、フィンテックの創業者にとっては、ここからが複雑だ。解決しなくてはいけない問題の特定に役立った業界のノウハウやビジネスへの理解がきっかけで、多くの人が当初の使命を放棄する道に走るからだ。

では、利他的なフィンテック創業者はどこで道を踏み外すのか。どんな市場の力によって、彼らの「破壊」が同じ古風なビジネスモデルに変わってしまうのだろうか。そして、最も重要なことだが、それらをどのように避けることができるのだろうか。

搾取の道を回避

フィンテックの創業者が取るべき最初のステップは、対応可能な市場規模を適切に設定することだ。これは単に広範なニーズを特定することではない。「人々が貯蓄を始めるのをサポートしたい」というのはすばらしいミッションステートメントだが、創業者はこのニーズを実現する方法については現実的でなければならない。

もしビジネスモデルが、対応可能な市場から200ベーシスポイント以上の収益を上げなければならないというものならば、サポートを提供する顧客に対してコストが大きすぎるかもしれない。要するに、正しい計算をしなければならないのだ。

ビジネスのユニットエコノミクスは、あまりにも多くのお金がかかるためにその顧客の資産に基づいて顧客を獲得することができなくなっている。その計算を成り立たせるためには、膨大な顧客生涯価値を生み出さなければならず、助けたい顧客は十分なお金を持っていないため、巨額の手数料を徴収しなければならない。

多くの消費者向けフィンテック、特に貯蓄型商品のビジネスモデルを実際に見てみると、その手数料は実質的に年率5%であることが多い。それは略奪的な融資に近いものだ’。

事実上彼らは「私たちの製品を使ってもらい、あなたが本当は利益を得ることができないことに気づかない程度の少額の取引手数料をいただきます」と言っているのだ。

さらに悪いのは、多くの創業者がこのような搾取的な道を、気づかないうちに進んでいることだ。正しく計算することが最初のステップだが、別の道がないか、もう一度じっくりと検討するのに悪いタイミングはない。

ベンチャー企業のプレッシャーと注意を逸らすもの

対応可能な市場の「計算」が間違っていると、フィンテック創業者の次の危険な罠、つまり「手っ取り早い成長」プログラムに巻き込まれる可能性がある。

ベンチャー市場によって、フィンテック事業は浅薄なものとなった。そして同じ作戦で組織をスケールアップし、多くの資金を集めなければならないという大きなプレッシャーがある。残念ながら、このアプローチでは、しばしば顧客が干からびてしまう。

例えば、投資、購入、消費を自動化するある大手フィンテック企業は、崇高な使命を掲げており、全資産に対して1%の収益を見込んでいることも公言している。これは高額な手数料であり、多くの非デジタル・プラットフォームのほぼ2倍である。

しかし、本当に計算して、正に「破壊的な」4分の1の手数料を取るなら、50億ドル(約5775億6250万円)の資産は1200万ドル(約13億8615万円)のビジネスにしかならない。投資家は小さな会社を作りたがらないし、1,200万ドルは小さな会社なのだ。だが1%になると、突然、世界を変える力を持ったユニコーンになれる。

このようにすばやく大きくなることは、消費者の足を引っ張る高値の製品や「ミッションクリープ」につながる可能性がある。人々がお金を貯めるのを助けようとした創業者が高額の暗号資産投資サービスを製品に付加する創業者になってしまうかもしれない。なぜか?暗号資産は、その当時、成長と資金調達への近道を提供したからだ。

資金調達に躍起になることも、道を踏み外す早道だ。創業者が迅速な資金調達ラウンド(金庫証券や従来の優先株式の調達)を何度も行うと、気がつけば自分の会社の最小限の割合しか所有していないことがよくある。

その時点で「どんな犠牲を払ってでも成長する」ことに縛られてしまい、利益を得るためにはモンスターを作り上げなければならなくなる。

B2B化でCを解決する

もちろん、このコラムを読んでいる創業者の中には、すでに計画の真っ最中である人もいるだろう。可能な限り市場規模を把握し、必要な資金を調達し、投資家を選択したことだろう。上記のようなリスクを管理するために、あなたができることはほとんどないかもしれない。

しかし、利他的な創業者が消費者を支援するための無視されがちな道もある。結果ではなく、原因にアプローチするのだ。

消費者のお金との関係ほど複雑で個人的な問題はない。多くの企業が、消費者が抱える1つの苦悩を切り離すことで、何らかの形でシステム的な変化をもたらし、誰かのためにより良い金融生活を実現できると考えている。彼らは消費者の問題を特定し、その解決策は消費者との直接取引でなければならないと考えているのだ。

貯蓄、予算、投資のどれをとっても、これらの解決策は善意に由来し、上手く実行されているが、これは不眠症を布団で「解決」するのと同じようなものだ。

消費者の問題を無視しろとは言わまいが、一般的な人が日常生活で対処していること以外にも視野を向けることで、最も消費者を助けることができるかもしれない。

お金を貯めることの難しさは、新しい銀行システムを開発することで解決できるかもしれない。給料日に振り込みを間に合わせるのが難しい人は、雇用者と協力して給与計算のソリューションを改善することで解決できる可能性がある。資産運用の苦労は、アドバイザーが顧客を支援するための優れたテクノロジーを提供することで軽減することができる。

そして何より、ビジネス上の問題を解決することは、フィンテック創業者が陥りがちな問題を回避することにつながる。B2Bソリューションの対応可能なマーケットを適切な大きさにすることで、誇大妄想に陥る可能性は低くなる。B2Bの世界には、注意を逸らすような美味しい話や「急成長」の罠がはるかに少ないのだ。B2Bフィンテックを支援する投資家は、ランウェイやARRに対して、より忍耐強く、合理的な期待を持っている傾向がある。

いずれは消費者向け製品をリリースすることになるかもしれないが、その時までには消費者に効果的にサービスを提供するための適切な安定性と規模を獲得しているだろう。

多くの場合、消費者を支援するための最良の道は、消費者以外を見つめることなのだ。

編集部注:Jason Wenk(ジェイソン・ウェンク)はAltruistのCEO兼創設者。

画像クレジット:sorbetto / Getty Images

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(文:Jason Wenk、翻訳:Dragonfly)

Firewallaがギガビットの家庭用ファイアウォール「Purple」を発売

この数年で、Firewalla(ファイアウォーラ)のファイアウォール / ルーター兼用デバイスは、頼りになるハードウェアセキュリティツールとして、マニアや中小企業で有名になった。そのファイアウォーラがこの程、最新型デバイスFirewalla Purple(小型のギガビットファイアウォール兼ルーター、現行小売価格319ドル[約3万6000円])の出荷を開始した。

2015年創業のファイアウォーラが、Purple(パープル)で既存の製品ラインナップの穴を埋めようとしている。ファイアウォーラの現行ラインナップは、自宅および中小企業向けの100Mbpsおよび500Mbpsデバイス(価格帯は129~199ドル[約1万4000~2万2000円])、および大企業向けの3Gbps以上のデバイス(458ドル[約5万2000円])だ。しかし、多くの家庭でギガビットインターネット接続にアクセスできるようになったため、既存のラインナップの間にちょうどはまる機種としてパープルが登場した形だ。

画像クレジット:Firewalla

他の機種同様、パープルの中核機能もファイアウォールだが、デバイスにネットワーク監視機能があるため、当然もっとたくさんのことができる。インターネット使用状況の監視と管理に加えて、パープルでは、広告のフィルタリング、ペアレンタル・コントロールによるアダルトコンテンツへのアクセスのブロック、指定された時刻以降Xbox(エックスボックス)をオフラインにするなどの機能を用意している。また、VPNサーバーおよびクライアントとしても使用でき、ネットワークのあらゆる側面を詳細に管理する必要がある場合は、ファイアウォーラアプリを使用してネットワーク管理やトラフィックシェーピングなども行える。これを容易に実現するために、デバイスをネットワークと使用状況に合わせて分割またはグループ化して管理することもできる(筆者はすべてのデスクトップとIoTデバイスのグループを作成している)。

パープルのありがたい機能の1つに、Wi-Fiが内蔵されている点が挙げられる。これにより、トラベルルーターとして使える他、少し変則的だが、電話にテザリング接続することで、通常のインターネット接続がダウンしているときにもインターネット接続を維持することができる。

ファイアウォーラの共同創業者兼CEOであるJerry Chen(ジェリー・チェン)氏によると、このWi-Fi機能はもともと、同社のエンジニアたちが遊び感覚で試してみたかったものだという。そしてこれこそ、ファイアウォーラのデバイス開発に対する考え方を表す良い例だと思う。「すべて偶然の産物なのです」とチェン氏はいう。「トラベルルーター機能も本当に偶然に思いついたものです。[パープルに]フォールト・トレランス機能を組み込んでいたところ、エンジニアたちが『これも試してみたい』と言い出し、同じWi-Fiチップに別のチャネルを追加したのです」。

USB Cから電源を取るパープルは、ネットワークの設定に応じて、モデムとルーターの間に接続したり、他のイーサネット接続デバイスと同じように単純にルーターに接続することもできる。ファイアウォーラでは、これを非常に簡単に行うためのガイドを用意している。どちらの接続方法を選択しても、すべて稼働させるのに5分もかからない。

画像クレジット:Firewalla

ただし、1つ例外がある。Google Wifi(グーグルワイファイ)またはGoogle Nest(グーグルネスト)メッシュルーターでは、すべてのネットワークトラフィックを監視および管理するためにファイアウォーラで必要となる多数のネットワークモードがサポートされていない。そのため、これらのメッシュルーターを使用する場合は、設定が若干複雑になる。あるいは、メッシュネットワーク上のトラフィックについて一部の詳細情報を見ることができない場合もある。

チェン氏によると、ファイアウォーラはグーグルと話し合いの場を持とうとしたという。「グーグルワイファイの問題は、ユーザーフレンドリさが低いという点です」と同氏はいい、メッシュルーターは単純にブリッジモードやAPモードにすることができないため、少し面倒な回避策が必要となる理由について次のように説明した。「当社としてはグーグルワイファイを使わないで欲しいと思っています。グーグルワイファイはネットワークの王様になろうとしますが、そのようなデバイスは設定を複雑にするため、できれば避けたいのです」と率直な物言いのチェン氏は言った。

チェン氏によると、大半のファイアウォーラユーザーはプロ仕様の製品の購入者、すなわち、より高度なネットワーク機能を必要としている(必要だと思っている)ユーザーだという。こうしたユーザーは、これらのデバイスを中小企業でも使おうとすることが多い。Cisco(シスコ)などのベンダーのユーザーはいつでも複雑なネットワーク設定を好みがちだが、ファイアウォーラの利点は極めて簡単に設定できるところだ。

画像クレジット:Firewalla

「そうしたテック系の人たちからよく聞くのは『自宅で使えるものが欲しい。と言っても、職場で行うようなことを自宅でもやりたいというわけではない。それは複雑過ぎる。もっと使い勝手がシンプルで、なおかつ超簡単仕様ではないデバイスが欲しい』という声です」とチェン氏はいう。超簡単仕様とは「安全」と書いてあるボタンが用意されているようなデバイスだ。そんなボタンがあれば良いが、そもそもセキュリティはそんな風には実現できない。ファイアウォーラのユーザーが求めているのは、簡単にルールを作成でき、ニーズに応じてネットワークをチューニングできるような機能だ、と同氏はいう。「一番よいのはボタンなしのデザインです。ですがセキュリティに関してはそれは不可能です。セキュリティはボタンなしで実現できるようなものではありませんから」。

こうしたユーザーの要望を実現しているのは、慣れるのに少し時間はかかるものの、ほとんど直感的に操作できるデバイス管理用アプリだ。しかも、このアプリは、より詳細な設定が必要なら、カスタムのルートを設定したり、さらに掘り下げてネットワークの内部機能までカスタマイズできる。とはいっても、いつでも手取り足取り教えてくれるわけではない。すぐにわけが分からなくなってしまう可能性もある。最初の数日間は、大量のアラームが出る。これはあなたのネットワーク上で起こるトラフィックの何が正常で何が異常なのかをルータに教えてあげる必要があるからだ。

画像クレジット:Firewalla

ハードウェアに関しては、半導体不足と物流の危機的状況のためファイアウォーラとその生産ラインも影響を受けたものの、現在はパープルルーターを出荷できる状態にはなっている。だが、チェン氏によると、数年前はデバイスの製造に3週間、出荷に20日、関税の通過に数日程度だったが、今では数カ月を要することもある。その上、前金を支払ってチップの製造ラインを前もって確保しているものの、半導体製造業者の製造期間は以前より長くなることが多く、価格も上昇している。イーサネットMACチップは以前は数セント(数円)だったが、現在は数ドル(数百円)にまで上がっている、とチェン氏はいう。

チェン氏は、こうした状況がファイアウォーラにとってかなりのプレッシャーとなっていることを認めており、こうした遅延のため資金繰りも悪化しているという。パンデミックによって、自宅でもネットワークのセキュリティを確保したいという人が増え、同社は大きく成長できたが、その反面、さまざまな面で多くの課題にも直面することになった。しかし、その独創的な戦略で、この難局もうまく切り抜けることができた。例えば数台のパープルをベータテスター向けに確保したかったが生産ラインのフル稼働を開始できなかったため、100ユニットを少量生産することにした。少量生産はコストが高くなるが、サンプル生産として潜り込ませることができたため早く実施できた。

チェン氏が当座は実施しないだろうと思われるのは、外部資金の調達だ。ファイアウォーラはクラウドファンディングを早期に採用したスタートアップの1つだ。同社が創業当初、資金調達のためVCを回ったところ、VC各社は自宅でセキュリティツールを使う需要があることを理解していなかった。

「当社がVCから資金を調達しないのは、私がエンジニアだからです。テーブルに座ってVCと交渉し、何も分かっていない彼らに話を合わせることなど私にはできないのです」。

画像クレジット:Firewalla

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Dragonfly)

中国の「データの罠」に陥るのを避ける方法

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

米国人事管理局(OPM、Office of Personnel Management)、航空会社の乗客リスト、ホテルの宿泊客データのハッキングなど、最近の顕著なデータ侵害事件によって、公共システムと民間システムの両方がスパイ行為やサイバー犯罪に対していかに脆弱であるかが明らかになっている。それほど明白ではないのは、外国の敵対者や競合相手が、国家安全保障やスパイ活動の観点からはあまり明確ではないデータを標的にする方法である。今日、広告主が消費者の選好分析に使用する種類のデータなどの国民感情に関するデータは、従来の軍事目標に関するデータと同じくらい戦略的に価値のあるものになっている。戦略的に価値のあるものに対する定義がますます曖昧になるにつれて、戦略的データを識別し保護する能力は、より一層複雑かつ死活的な国家安全保障上のタスクとなるであろう。

これは特に、戦略的データへのアクセスを求め、それを敵対国に対するツールキットの開発に利用しようとする中国のような国家主体に関して当てはまる。2021年11月、MI6の長官であるRichard Moore(リチャード・ムーア)氏は、中国の脅威を「データの罠」と表現し、次のように論を唱えた。「自国の社会に関する重大なデータへのアクセスを他国に許せば、やがて主権が損なわれることになり、もはやそのデータをコントロールすることはできなくなるだろう」。ほとんどの政府はこの脅威を把握し始めたばかりである。

2021年11月の議会証言で筆者は、今日民主主義を守るためには、外国、特に中国が特定のデータセットをどのように収集し、使用しているかについてよりよく理解する必要があることを主張した。また、将来的に戦略的データを適切に保護する(そして保護すべきデータセットを定義して優先順位づけを行う)には、敵対者がそれらをどのように利用するかを想定する創造的な取り組みが必要となる。

中国国家による権威主義的支配を強化する目的での技術の使用は、近年かなり注目されている話題である。新疆ウイグル自治区のウイグル人を標的にすることは、監視技術の侵略的で強制的な利用に後押しされ、この議論の焦点となっている。そのため、当然のことながら、中国の「技術独裁主義」がグローバル化するリスクについて考えるとき、大部分の人々は同じように侵略的な監視がグローバル化する可能性について考察する。しかし、実際の問題は、デジタルやデータ駆動の技術の性質ゆえに、はるかに重大であり、検出しにくい。

中国の党国家機関はすでにビッグデータ収集を利用して、グローバルな事業環境を形成、管理、コントロールする取り組みを推進している。それだけでは重要ではなさそうに見えるデータが、集約されたときに莫大な戦略的価値をもたらすことを同国は理解している。広告主は、私たちが必要としているとは認識していなかったものを売り込むために国民感情に関するデータを使うこともあるだろう。一方、敵対的な行為者は、そのデータを利用して、デジタルプラットフォーム上の民主的な議論を覆すようなプロパガンダ活動を発信する可能性がある。

米国をはじめとする各国は、前述のOPMMarriott(マリオット)、United Airlines(ユナイテッド航空)のような、中国を拠点とする関係者に起因する悪意のあるサイバー侵入のリスクに焦点を当ててきたが、データアクセスはデジタルサプライチェーンにおける悪意のある侵入や改変から導き出す必要はない。それは、中国国家のような敵対者に、下流でのデータ共有につながる通常の、そして合法的なビジネス関係を悪用することを求めているだけである。これらの経路はすでに発展しており、最近制定されたデータセキュリティ法や中国における他の国家セキュリティ慣行などのメカニズムを通じて、目に見える形で展開されている。

データにアクセスするための法的枠組みを作ることは、中国が国内および世界のデータセットへのアクセスを確保するための唯一の方法となっている。別の方法として考えられるのが、市場を所有することだ。最近のレポートで筆者と共著者は、調査した技術領域において、中国は他の国と比較して出願された特許の数が最も多いが、それに対応するインパクトファクターは高くないことを見出した。

ただし、これは中国企業がリードできていないという意味ではない。中国では、研究開発インセンティブ構造によって、研究者は特定の政策目的を持つアプリケーションを開発することになる。つまり、企業は市場を所有し、プロダクトを後から改良することができる。中国の指導者たちは、世界市場での優位性を確立し、世界的な技術標準を確立しようとする努力が、海外でのより多くのデータへのアクセスを促進し、最終的には異なるプラットフォーム間での統合につながることを十分に認識している。

中国は、そうでなければ注目に値しないデータを組み合わせて、全体として極めて明確な結果をもたらす方法を模索している。結局のところ、いかなるデータでも、適切な処理を行えば、価値を生み出すことができるのである。例えば、筆者は2019年のレポート「Engineering Global Consent」の中で、機械翻訳による翻訳サービスを提供する宣伝部門統括会社であるGlobal Tone Communications Technology(GTCOM、グローバルトーン・コミュニケーション・テクノロジー)のケーススタディを通じてこの問題を取り上げた。同社の広報によれば、GTCOMはHuawei(ファーウェイ)やAlicloud(Alibaba Cloud、アリババクラウド)などの企業のサプライチェーンにもプロダクトを組み込んでいる。しかし、GTCOMは翻訳サービスを提供しているだけではない。同社の役員によると、同社が事業活動を通じて収集するデータは「国家安全保障のための技術的なサポートと援助を提供している」という。

さらに中国政府は、将来的により優れた技術力を想定して、明らかに有用ではないデータも収集している。日常的な問題解決と標準的なサービス提供に貢献するのと同じ技術が、中国の政党国家の国内外における政治的支配力を同時に強化する可能性がある。

この増大する問題に対応するためには、中国との「技術競争」について異なる考え方をする必要がある。問題は、単に競合する機能を開発することではなく、将来のユースケースを想定して、どのデータセットを保護する価値があるかを知ることにある。国と組織は、自らのデータの価値と、現在または将来そのデータにアクセスする可能性のある潜在的な当事者にとってのデータの価値を評価する方法を開発しなければならない。

私たちはすでに、世界がよりデジタル的に相互接続されるようになるにつれて、中国のような権威主義体制が弱体化すると考え、その脅威を過小評価している。民主主義国家は、技術の権威主義的な適用によって生じる問題に、対応して自己修正しようとしているとはいえない。私たちは、現在の脅威の状況に合わせて、リスクを再評価しなければならない。そうしなければ、中国の「データの罠」に陥る恐れがある。

編集部注:本稿の執筆者Samantha Hoffman(サマンサ・ホフマン)博士は、オーストラリア戦略政策研究所国際サイバー政策センターのシニアアナリストで、独立したコンサルタント。

画像クレジット:PM Images / Getty Images

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(文:Samantha Hoffman、翻訳:Dragonfly)

インターネットの未来を守るために米国主導のテック外交は変革が迫られている

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

米国は最近の民主主義サミットにおいて「志を同じくする民主主義国」が「インターネットの未来に向けた連合」を新たに形成し、オンラインのオープンで自由な価値観を擁護することを提案した。協調を目指す構想の長い系譜の中で最も新しいこの構想は、前進を実現する有望株である。しかし現在の様相からすると、その構想は不足をきたす恐れがある。当局者間の意見の不一致で始動が遅延している今、米国はこれを再考の機会とする必要がある。

この連合の背後にある基本的な論理は理に適っている。インターネットの自由は世界中でますます危機にさらされ、諸政府は競って自らの権限を主張し、幾十年にもわたって形成されてきたボランティア団体の統治システムからは今やきしみ音が聞こえているのだ。バイデン政権のテクノロジー政策担当アドバイザー、Tim Wu(ティム・ウー)氏は最近「我々は間違った道を進んでいる」と述べた。こうした背景をふまえると、インターネット時代のオープンで自由な価値観を奨励し、擁護する新しい構想が切に必要とされている。

しかし、現実には、米国は「志を同じくする民主主義国」による協調を重視することによって、自らの目標をむしばむ危険を冒している。なぜなら、自分たちだけで話し合う民主主義国の小さなクラブや強制だけでは、オープンなインターネットの未来は保証されないからだ。そうではなく、連合というものは、もっと包摂的で、経済や安全保障のインセンティブを適正な位置に置くことを最初から重視し、広範で持続可能な連合を長期にわたって構築するものでなければならない。

このことは、インターネット政策に対して米国が通常採用する必要のあったアプローチよりもずっと国際主義的なアプローチが必要なことを示している。何十年もの間、オープンなインターネットモデルはアメリカの並外れた管轄権限によって支えられてきた。世界のインターネットユーザーのうち、米国にベースがあるユーザーはわずか7.1パーセントにすぎないが、世界のインターネットの核となるインフラストラクチャーサービスの61パーセントは米国にある。使用許可の必要ない革新的で相互運用可能なネットワークと「ダムパイプ」(自らは伝送内容を知ることができないインフラストラクチャー)のモデルは、米国の優位性によって支えられてきたのだ。このことによって、巨大な経済的・社会的価値が生み出されてきた。世界のインターネットユーザーの19パーセントがいる中国だけが、地政学上比較可能な位置を占めている。

しかし、米国の覇権に依存して自由なインターネットを維持することはもうできなくなった。インターネットの統御の仕方において多くの国が転換点を迎えており、検閲、監視、遮断などの権威主義的なインターネットモデルが急速に勢いを増している。加えて、今日、37億の人々が依然としてインターネットを利用できない。

接続状況が向上するにつれ、このグループのほとんどの人がいる発展途上国がインターネットの未来を決めることになるだろう。そして、今のところ、それらの国は必要な資金を他のどこよりも中国から調達する可能性が高い。多極的なインターネットへのシフトは既定路線だが、その方向は、つまり開かれているか閉ざされているか、自由か権威主義的かは、定まっていない。

この傾向をふまえると、今日の民主主義国間の協調だけを重視することは、インターネットの先細りの部分を指標として過度に重視することになる。また、価値観だけで協調すると、インターネット規制のいくつかの分野に関するEUと米国の協定など、従来の協定がまだ合意されていない分野が目立つようになる。したがって、どんな連合も成功のためには「志を同じくするパートナー」という決まり文句を乗り越え、2本立てのアプローチを採用する必要がある。経済および安全保障のインセンティブの優先と、インターネットの遮断の禁止など、インターネットの開放性の確約である。そうすることで、参加国の幅を広げることができる。

この戦略は、ますます制限的なインターネット政策を検討している国を納得させる上で特に重要になる。例えば2015年以来、アフリカの54か国のうち31か国がある程度ソーシャルメディアへのアクセスをブロックしている。明らかに、こうした遮断の一部はあからさまな弾圧に起因しており、国際的に強い対応で応じる必要がある。それでも、比較的イデオロギー色の薄い介入もある。暴力的なオンラインコンテンツのために指導者が公共の安全に懸念を持つ場合、政策の混乱、国の許容度の低さ、主要なソーシャルメディアサービスによるコンテンツモデレーションへの投資の不足が相まって、もっと支援があれば回避できた可能性のある残念な行動につながってきた。

この傾向をとどめ、インターネットの核心となる自由を守るのに遅すぎることはない。しかし、そうした努力は強制だけでは成功しないだろう。権威主義に対する戦いは極めて重要であるが、あらゆる議論をひとまとめにして「民主主義対権威主義」という二極化した言葉にしてしまうと、実際には協調の機会が閉ざされて、制限と分断が加速されるだけになる可能性がある。この徐々にむしばむ過程の影響は、すでにアフリカで見ることができる。西側はアフリカの国々を米国と中国の大規模な「冷戦」の「委任状争奪戦」の現場としてしか扱わないことがあまりにも多い。こうした思考はどれも役に立たない。

中国は西側のパートナー、競合相手、対抗者のどれかなのではなく、そのすべてなのだ。米国、EU、その他の国は、中国を世界のインターネットのインフラストラクチャー市場から強制的に締め出すことはできないし、それを望むべきでもないし、そうする必要もない。どの国も供給を独占したり費用を全部負担したりすることのない、インターネットインフラストラクチャーの世界的な競争市場があれば、アフリカも米国も中国も皆、その方がメリットがあるだろう。

同様に、アフリカ諸国だけに独自の政治的な優先順位や課題があるのではなく、支援を提供することが西側自身の経済的利益になることもよくある。例えばインターネットを利用できない37億の人々をすべてつないだとしても、コストは米国、英国、韓国、日本などOECD諸国の国民総所得のわずか0.02パーセントにすぎないが、利益は25倍にもなる

それでも、G7が2022年、中国のインフラストラクチャー構想に対抗するために策定した「Build Back Better World(より良い世界再建)」プロジェクトに乗り出したとき、新たな金銭的裏付けはなかった。また、米国が影響力を持つはずの世界銀行やIMFの開発プログラムを刷新する努力もほとんど払われていない。それらのプログラムは競争がなく官僚的、リスク回避的であり、脆弱な開発過程と差し迫った雇用創出の要求に直面しているアフリカの多くの指導者にとって高くつくにもかかわらず、である。

長年にわたって我々は、この種のプログラムに関して必要な政治的リーダーシップと熱意に欠けてきた、しかし、インターネットの未来に向けた連合はリセットのための力を秘めている。成功のためには、インターネットの核心となる自由がむしばまれるままにして繫栄の道はないことを示し、同時に、さまざまなアプローチを可能にする適切なガイダンスとインセンティブも提供する必要がある。参加しようとしない国は常に存在するだろうが、こうした強力なインセンティブがあれば、インドネシア、ケニヤ、ブラジルなど、多くの「態度を決めかねている国」を参加するよう説得することができる。経済と安全保障の面で皆の持続的な利益になる幅広い国際主義的な連合を構築することでのみ、オープンで世界的なインターネットを長期にわたって真に守ることができるのだ。

編集部注:本稿の執筆者Andrew Bennett(アンドリュー・ベネット)氏はトニー・ブレア地球変動研究所のシニア・ポリシー・アナリスト。インターネット政策と地政学を専門とする。最近、共著で「The Open Internet on the Brink: A Model to Save Its Future.」を上梓。

画像クレジット:metamorworks / Getty Images

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(文:Andrew Bennett、翻訳:Dragonfly)

米国政府はドル支配を維持するためにステーブルコインを受け入れなければならない

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

繁栄しているWeb3業界に懐疑的な人々は、さまざまな理由でWeb3を攻撃している。ワシントンで反響を呼んでいる批判の1つは、デジタル通貨は米国の現行の通貨制度、ひいては米ドル自体をも弱体化させ得るというものだ。

しかし、デジタル資産が伝統的な金融サービスを破壊したことは否定できないとしても、それらは決してドルの敵ではない。実際、デジタル資産の一種であるステーブルコインは、世界的な米ドルの支配を強固にするポテンシャルを有している。しかし、米国がステーブルコインのポテンシャルに乗じようとするなら、政策立案者や規制当局は規制に対して慎重なアプローチを取らなければならない。

ステーブルコインは、長期にわたって安定した価格を維持するように設計されたデジタル資産である。他のデジタル資産とは異なり、価格は多くの場合、米ドルなどのフィアット通貨に連動している。Facebookが2年前に独自の「Libra(リブラ)」ステーブルコインを立ち上げようとして以来、ステーブルコインも実質的に進化してきた(あまり評判の良くなかったこのプロジェクトは後にブランド名を「Diem(ディエム)」に変更した)。

Facebookは当初、Libraを単なる1つの通貨ではなく、フィアット通貨や証券で構成されたバスケットに連動させる新しい通貨として設計した。政策立案者らはLibraを世界中で批判し、世界の金融安定を脅かし、データのプライバシーを悪用し、金融政策を弱体化させる可能性があると指摘した。Donald Trumpドナルド・トランプ)前大統領は、Libraは「存続性も信頼性もほとんどない」とし、アメリカで「唯一の真の通貨」はドルだと述べた。

現在に早送りすると、ステーブルコインはドルと特別な関係にあるため、ドル支配を脅かすのではなく拡大する可能性がある。しかし、その可能性は、十分な米国の政策立案者がステーブルコインの有望性を理解し、イノベーションを阻害するのではなく促進する合理的な規制を通過させることによって初めて実現される。

ステーブルコインの指数関数的成長

ステーブルコインの市場は2019年12月の50億ドル(約5739億円)から、2021年12月には1580億ドル(約18兆1350億円)を超えるまでに成長している。

この成長の理由の1つは、現在の金融テクノロジーに対するステーブルコイン固有の優位性にある。例えば、ステーブルコインは、取引コストがほとんど、あるいはまったくかからずに、世界中の誰にでも瞬時に転送することができる。

ステーブルコインのインパクトの具体的な例として、移住労働者による使用を考えてみよう。一般的に、労働者は伝統的な金融機関を通じて母国に送金する。このプロセスには数週間を要し、平均して従業員の給与の7%に相当する送金手数料や変換手数料がかかる。一方、ステーブルコインを使えば、移住労働者は賃金をほぼ無料で即座に母国へ送ることが可能になる。

ステーブルコインは米ドルの需要を増加させる

主要なステーブルコインはすべて米ドル建てであるため、世界中で指数関数的に採用されていることから、米ドルによる支配を拡大する重要なオポチュニティが米国にもたらされている。一方、Circle(サークル)のような主要なステーブルコイン発行体は、米ドルと短期米国債で準備金を保有している。これにより、米ドルの需要が増加し、世界中のバイヤーがドルを入手しやすくなる。これらの発展は、米国がこの新テクノロジーに対する消費者の関心を利用するのに他のどの国よりも有利な立場にあることを示している。

ステーブルコイン市場では、ネットワーク効果により米ドルが裏付けとなったステーブルコインの既存の人気が高まっていることから、米ドルに対する過大な需要が維持される可能性が高い。これは特に、政府がハードカレンシーへの国民のアクセスを制限しているアルゼンチンのように、米ドルに対する需要が満たされていない国で当てはまる。

米国にとって何が問題なのか?

そのポテンシャルにもかかわらず、十分に練られていない規制は、海外でこの業界が隆盛する中、米国のステーブルコインセクターをつぶしかねない。ブロックチェーン企業の規制が明確ではないことから、米国の創業者たちはすでに、シンガポールやポルトガル、ケイマン諸島など、より明確かつ / またはより寛容な規制が適用される法域に事業を移すことを余儀なくされている。顕著な例として、米国で最も有名な投資顧問会社の1つであるFidelity Investments(フィデリティー・インベストメンツ)は、規制当局が米国で同様のオファーを認可していないことを受けて、カナダでBitcoin(ビットコイン)ETFをローンチしている。

さらに、最近可決されたインフラ法案には、非現実的なデジタル資産税の報告義務が含まれており、このままではブロックチェーン企業がオフショアに移転する傾向が強まることになる。政策立案者は、超党派の「Keep Innovation In America Act(米国のイノベーションを維持するための法案)」などを通じて、これらの要件を修正しようとすることでこの脅威に対応しているが、時機を逸している可能性がある。

特にステーブルコインについては、政策立案者は分裂している。ステーブルコインに関する最近の上院銀行委員会の公聴会は厳しい論調だった。上院議員らはLibraへの懸念の多くを挙げ、各種のステーブルコインに対する理解や関心の欠如を示した。一方、超党派の議会委員会は2021年12月初旬の重要な公聴会でステーブルコインへの熱意を示し、オブザーバーを驚かせた。同様に驚きをもって受け止められたのが、米連邦準備制度理事会のJerome Powell(ジェローム・パウエル)議長が同月に述べた「ステーブルコインは、適切に規制されれば、金融システムの有用で効率的な消費者サービスの一部になり得る」というコメントだった。

米国でステーブルコインのイノベーションを維持するためには、政策立案者や規制当局はイノベーションを阻害しない明確なガードレールを業界に提供する必要がある。規制は、分散型積立金のようなイノベーションを通じて成長する可能性を制限することなく、安定性と透明性を確保すべきである。

政策立案者は、米国と競合できない国に対してステーブルコインがもたらし得る負の外部性についても考慮に入れる必要がある。ステーブルコインは、独裁的で腐敗した政府を市民が無力化するのに役立つ一方で、弱い通貨を持つ友好国の通貨統制を同様に弱体化させる可能性がある。

もし米国が、意図的に、あるいは不注意にステーブルコイン発行体を追い払うなら、オフショア産業と外国政府は喜んで市場シェアを奪うだろう。

外国の発行体はすでに、ユーロやカナダドルなど他の通貨でステーブルコインをローンチしている。米ドル建てのステーブルコインの需要は今後も続くだろうが、米国の不合理な規制が業界をオフショアに追いやった場合、米国は米ドルの準備金と透明性に関する要件を設定するための影響力を失うことになるだろう。

中国、南アフリカ、韓国、スエーデンなどは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)として知られる各国の中央銀行が支援するステーブルコインを試験的に導入することで、米国よりも積極的に安定コインの開発と促進に取り組んでいる。CBDCが消費者の間で普及するかどうかは定かではないが、特にプライバシーへの懸念から、現在米国が享受しているステーブルコインの支配を侵食する可能性がある。

世界的な通貨競争がここにあり、急速に拡大している。それを受け入れない国は取り残されるであろう。米国も例外ではない。

編集部注:本稿の執筆者Connor Spelliscy(コナース・ペリスシー)氏は、政策とガバナンスに焦点を当てたブロックチェーン研究者。DAO Research Collectiveを設立し、米国とカナダでブロックチェーン擁護団体を共同設立した。

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(文:Connor Spelliscy、翻訳:Dragonfly)

イーロン・マスク氏率いるスペースX、ウクライナの要請に応じスターリンク通信と端末提供―ただし有効性に疑問の声も

イーロン・マスク氏率いるスペースX、ウクライナの要請に応じスターリンク通信と端末提供―ただし有効性に疑問の声も

ロシア軍が侵攻してその動向が世界に注目されているウクライナ情勢に絡んで、イーロン・マスク氏はSpaceXの衛星インターネットサービスStarlinkをウクライナに導入したことを明らかにしました。マスク氏いわく「すでにウクライナでStarlinkサービスは有効になっている」「さらに多くの端末を送る用意がある」とのこと。

ウクライナではロシアによるサイバー攻撃でインターネット環境が利用できなくなるとの観測が出ており、ウクライナ副首相兼デジタル担当相のムィハーイロ・フョードロフ氏はTwitterでマスク氏にStarlinkによる支援を呼びかけていました。

実際にすでにStarlinkはウクライナで利用可能になっており、この動きに対して、熱狂的なマスクファンなど一部の人々は反射的にSNSで称賛しているようすです。しかしその一方、専門家らからは、Starlinkの有効性について疑問の声もあがっています。

The VergeはStarlinkをレビューした際、安定した通信を得るにはヒマワリのようにアンテナを衛星の方に向け、さらに間に遮蔽物がないようにしなければならず「誇大に宣伝されたミリ波5Gと同様」に建物はおろか電柱や立木ですら、簡単に信号を遮断してしまうと報告していました。つまり、人々がインターネット環境を利用したいであろう都市部は、遮蔽物がそこかしこにあり、衛星インターネットが効果を発揮するのは難しいだろうということです。

また「さらに多くの端末を」とは言っても、それをどうやってキエフなど都心に持ち込むのかが問題です。ウクライナの主要な都市にはロシア軍が集結しており、持ち込む途中で奪われ、逆に利用される可能性も否定できません。

インターネットの通信状況を監視するサイバーセキュリティ企業NetBlocksは、ウクライナのバックボーンプロバイダーGigaTransの通信状況をTwitterで報告し、一時的にそのトラフィックが20%程度にまで落ち込んだと伝えました。しかしその直後には通常レベルまで復旧したことも報じているため、少なくともウクライナ国内ではまだインターネット通信は生きており、大規模な停電なども発生していない模様です。

もちろんStarlinkのサポートも、ないよりはあるに越したことはありません(トンガでもStarlinkが離島で開通したと報じられています。ただ海底ケーブルもすでに復旧していますが)。いずれにしても、ウクライナの人々が家族や大切な人々と連絡を取り合うのが困難になるかわからない状況に変わりはなさそうです。

(Source:Elon Musk(Twitter)Engadget日本版より転載)

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反体制派をスパイウェアから守れるのは民主主義国家だ

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

スパイウェアを購入するような政府には「公共の安全を脅かすテロなどの脅威と戦う必要性」という共通の口実がありがちである。しかし、独裁政権が最先端の監視テクノロジーを手に入れるとき、それは活動家、ジャーナリスト、学者など、脅威とみなされる反対派の声に対して使われる場合があるというのも周知の事実である。所有者の知らないうちに携帯電話やその他のハードウェアを感染させ、動きを追跡して情報を盗むために使われるスパイウェアプログラムは、銃と同じように確実に弾圧の道具となるのである。

21世紀に起きているこの現実を無視するには、あまりにも多くの事例が立証されている。しかし企業らは、それが何を意味するのかをあたかも知らないふりをしてスパイウェアを専制君主制の政府に売り続けている。この傾向は、世界中の政治的反体制者コミュニティを揺るがし、彼らを逮捕、さらにはもっと悪い事態に追いやっているのである。

我々はこういったテクノロジーの被害者になったことがあるため、この事実をよく知っている。サウジアラビアから帰化したアメリカ人と、イギリス人の学者として、同記事の共同筆者2人は、多くの同僚とともにこういったテクノロジーの被害にあったのである。

私たちの1人、Ali Al-Ahmed(アリ・アル・アハメッド)は、サウジアラビア政府がTwitter(ツイッター)から個人情報を盗み出し、それを使ってアハメッドのTwitterのフォロワーを追跡し、投獄し、拷問するのを目撃した。

もう1人のMatthew Hedges(マシュー・ヘッジス)は、アラブ首長国連邦に研究に来ていた大学院生で、後に入国前から当局に携帯電話をハッキングされていたことが発覚している。ヘッジスは2018年に逮捕された後にスパイ容疑で起訴され、当初は終身刑の判決を受けている。最終的には6カ月間拘束されたのだが、その間も手錠をかけられ、衰弱させる薬物が投与されていた

こういった痛々しい体験は未だどこかで繰り広げられている。今私たちは米国や英国に住んでいるため比較的安全だが、これらの体験はあまりにも一般的なものなのになっている。権威主義的な政権が国際法や人権のあらゆる原則に反して、日々人々に与えている継続的かつ体系的な虐待を、これらの体験が浮き彫りにしているのである。

独裁政権が市民の行動を逐一追跡できるのは、それを可能にしているスパイウェアベンダーの責任でもある。自社の製品がこのように利用されていることに目をつぶっている企業を民主主義政府が確実に取り締まるまで、世界中の反体制派は背中を狙われることになるだろう。

米国を含む民主主義諸国は今、この乱用を抑制するために断固とした行動をとるべきなのである。西欧の民主主義国の指導者たちはビッグテックを抑制する必要性について議論を続けているが、政府の規制とテック企業の果てしない綱引きの中で「ユーザーが一番の犠牲者になっている」と、監視組織のFreedom House(フリーダムハウス)の新たな報告書は伝えている。いつでも自国の政府の餌食になるのは一般のオンライン市民なのである。

中国やロシアは国家ぐるみのハッキングや弾圧を行い、その規模の大きさから世界的にも注目されている。しかし、サウジアラビアのような米国の同盟国も、しばしば最悪の犯罪者であることが少なくない。

例えばサウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーンなど、反体制派に対して最も冷酷な扱いをする中東の国々は、イスラエル企業のNSO Group(NSOグループ)からスパイウェアを購入している。これらの政府はNSOのPegasusソフトウェアを使って人権活動家や批評家の電話を次々とハッキングしており、その多くは自国の国境をも越えている。

ドバイの支配者、Sheikh Mohammed bin Rashid Al Maktoum(シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥーム)氏のように、こうした政権を支配する独裁者が純粋に個人的な動機で動いている場合もある。イギリスの裁判所は、同氏がPegasusを使って元妻とその子どもたち数人をスパイしていたことを明らかにした

これは、NSO Groupの関係者がある夜遅くにイギリスの著名な弁護士に電話をして、監視について密告したため世間に知られることになった。首長がPegasusを悪用したこともそうだが、同氏が自分たちの技術を不正に使っていたことをNSO Groupが認知していたというのはそれ以上に穏やかでない。このケースでは、上級管理職の人間も内部告発をするのに十分な露出度を感じていたようだが、同社は顧客による他の不正行為について明かしていない。

人権侵害で有名な警察や諜報機関にスパイウェアを売っているのは何もNSO Groupだけではない。イスラエルのCandiruやCyberbitも同様のビジネスをしているし、ドイツのFinfisherやイタリアのHacking Team(2015年のスキャンダルを経て現在はMemento Labsに改名)の製品も、虐待との関連が指摘されている。

NSOは、サウジアラビアアラブ首長国連邦がPegasusを悪用したとして契約を打ち切ったと報じられているが、企業の自己強化だけでは十分ではない。民主主義国家はこれらの企業に対し、製品が人権侵害に使われれば輸出禁止の制裁が下り、企業幹部も制裁を受けることになるという明確なメッセージを送るべきだ。

もう1つの重要なステップとして、米国商務省と英国や欧州連合(EU)などの民主主義諸国が、乱用を可能にしている企業との取引を制限するためのブラックリストを拡大することが挙げられる。米国商務省はすでに、NSO Group、Candiru、ロシアのPositive Technologies、シンガポールのComputer Security Initiative Consultancyを「Entity List」に登録しており、これらの企業は特別なライセンスなしに米国の販売者から部品を購入することができない。しかし、こういったことを世界規模で行えば、さらなる効果を発揮するはずだ。

また、民主主義国はスパイウェアの使用に関するオープンで統一されたルールを確立すべきである。先週、ホワイトハウスでは、権威主義と戦い、人権を促進することを目的とした、世界のリーダーたちによるバーチャル「Summit for Democracy(民主主義サミット)」が開催された。この連合が活動を開始するにあたり、スパイウェアはその最重要議題となるべきだ。

電子諜報活動とデジタル抑圧の新時代に突入した今、規制や法的保護を強化することによってのみ、民主主義国家はその存続を確保することができ、言論の自由を実現し、市民の福利を守ることができるのである。

編集部注:Ali Al-Ahmed(アリ・アル・アーメド)氏はInstitute for Gulf Affairsの創設者でありディレクター。Matthew Hedges(マシュー・ヘッジ)博士は、エクセター大学の博士研究員として教鞭をとっている。

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(文:Ali Al-Ahmed、Matthew Hedges、翻訳:Dragonfly)

脅威ではなく機会、すべてに対して安全なネットを構築するためのサイバーセキュリティ再構成

TechCrunch Global Affairs Projectとは、ますます複雑に絡み合うテクノロジー分野と世界政治の関係性を検証するためのプロジェクトである。

2021年を通して、新型コロナウイルスの新たな反復の急速なまん延とサイバー犯罪との間で、世界的なニュースが飛び交ったように思われる。いずれも、生き残りをかけた戦いの中で変化するにつれて、ますます創造的かつ破壊的になっている。新型コロナウイルスのロックダウンによる急激なデジタル化からサイバー犯罪者は利益を享受しており、両者は相互に関連し合っている。サイバーセキュリティ業界のある著名な幹部は最近のインタビューで、出生、死、税金と並び、私たちの現在の生活においてもう1つの確実なものは、デジタル脅威の指数関数的な増加であると指摘した。

それにもかかわらず、サイバーセキュリティについての誤解、特にそれが複雑で費用がかかり、面倒かつ無益でさえあるという誤った認識により、多くの新興経済国が第四次産業革命への参加を模索する中でサイバーセキュリティを置き去りにした。だが、成熟したサイバーセキュリティ政策の存在なくしては、デジタルエコノミーのポテンシャルを十分に実現することが困難な状態に各国は陥るであろう。

イノベーションエコシステムの開発における機会と競争優位への道筋としてサイバーセキュリティを再構成することは、個々の国家のサイバーレジリエンスを向上させると同時に、すべてに向けた世界的なデジタルエコシステムを強化する鍵となる可能性を秘めている。

イノベーションかセキュリティか?

2025年までに100億台ものデバイスがモノのインターネット(IoT)に加わることが予想される中、新興のデジタルエコノミーはこの革命の中心になろうと競い合っている。2020年には、約24億ドル(約2775億円)相当の投資がアフリカのスタートアップへと展開され、アフリカのeコマース売上は2025年までに750億ドル(約8兆6713億円)に達すると予測されている。同地域は、急速に成長している新興国・発展途上国40カ国の半分を擁し、現在最も起業家精神に富んだ大陸である。この傾向は、2030年までにデジタルディバイドをなくすことを目指す取り組みにより、人口の残りの78%がインターネットに接続されることで加速するであろう。

しかし、インターネットアクセスの拡大に伴い、世界的なサイバー犯罪も増加することになる。専門家は、サイバー犯罪が2025年までに世界経済に年間10兆5000億ドル(約1214兆円)の損失を与えると推定している。デジタル先進国はサイバー防衛を強化することで対応してきたが、アフリカのイノベーションエコシステムは依然として世界で最も保護されていない状況にある。

アフリカ55カ国のうち、データ保護とサイバーセキュリティに関するアフリカ連合条約(通称:マラボ条約)を批准しているのは10カ国のみであり、アフリカは国際電気通信連合(ITU)のグローバルサイバーセキュリティインデックスで最も低いスコアを記録している大陸であり続けている。ITUと世界銀行のイニシアティブにもかかわらず、アフリカにおいてサイバーセキュリティに関する何らかの法律を設けている国は29カ国に過ぎず、サイバーインシデントと緊急対応チームを置いているのはわずか19カ国である。このため、アフリカの経済は危険にさらされており、アフリカの指導者たちは世界的なサイバーセキュリティ政策を形作る組織体の枠外に取り残されている。

世界的に見ると、セキュリティへの同時投資を伴わないイノベーションシステムへの急速な投資は、デジタル成熟のセキュリティにおけるパラドックスを生み出す。このパラドックスでは、攻撃者が成熟度の2つのレベルの間のギャップを悪用し得る。そして、国家間のこうしたエンティティと各国家自体が二重の形で無防備かつ脆弱性を放置された状態となり、機会主義的で悪意のあるサイバー犯罪者の攻撃を受けやすくなる。

画像クレジット:Garson

ワクチンの地政学を連想させるような動態の中で、このことは、まだ黎明期にあり脆弱なイノベーションシステムを抱える国家を無防備にするリスクを冒すことになる。

サイバーセキュリティの争いか、それとも飛躍か?

サイバーインシデントの増加とそれに付随する衝撃的に高い代償が、サイバーセキュリティの強化を導くと考えるのは理に適っている。しかし、直感に反して、西側諸国における行動を促すサイバーセキュリティのナラティヴは、政策の麻痺や制限的な反射的反応にもつながっている。

ゲーム理論家でノーベル賞受賞者のThomas C. Schelling(トーマス・C・シェリング)氏は次のように指摘している。「私たちは計画を立てるとき、馴染みのないことを起こりそうにないことと混同する傾向がある【略】起こりそうにないことを真剣に検討する必要はないと判断する」。多くのデジタル発展途上国は、悪意のあるサイバー活動の基盤となっている大国政治の枠外にあると考えている。ロシアと米国のサイバースペースでの対立、デジタル覇権をめぐる中国と米国の競争、あるいはイランとイスラエルのデジタル消耗戦で見られたような、大規模な行動の犠牲者になることは、そうした国々には起こりそうにないことのように感じられる。その政策上の必須事項のリストにおいて、このようなサイバー攻撃からの保護は低い位置に置かれている。

デジタル先進国は、サイバー脅威の急速な拡大に対応するために、サイバーセキュリティの機構を導入している。サイバーインシデントやランサムウェアの支払いを報告しなかった場合に厳しい罰則を科す新たな法律の制定、REvilのようなランサムウェア集団を麻痺させるための国際的なイニシアティブの調整などがその例である。一方、デジタル発展途上国では、こうした脅威に対処するために必要とされるサイバーセキュリティ対策の複雑さを理解する上でのインセンティブや能力が不十分であることが多い。

これは、多くが潜在的な技術的新植民地主義の一形態として見ている、欧米のサイバーセキュリティパラダイムへの警戒感によって悪化している。欧米のサイバーセキュリティ技術の規制遵守、規範の採用、購入に対する要求は、これらの国家の成長機会を抑圧していると受け止められることが多い。また、国家をサイバーセキュリティコンプライアンスの対象に加えようとする試みは、国家の主権に対する攻撃と受け取られる場合もある。それは裏目に出ることになり、自由でオープンかつ相互運用可能なインターネットの利益へのアクセスを最終的に脅かすかもしれない、インターネットのシャットダウンのような代替パラダイムを求めるように国家を駆り立てる可能性がある。

しかし、それよりも頻度が高いのは、圧倒的な脅威に対して麻痺状態で反応し、行動を起こすことがまったくできないことであろう。

サイバーセキュリティはチームスポーツ、というのがCISO(最高情報セキュリティ責任者)のモットーである。グローバルなコンテキストでは、これは発展途上のデジタルエコノミーがチームの一員に加わる意思を確実に持つことを意味する。そのためには抜本的な改革が必要となる。

サイバーセキュリティの抜本的再構成

サイバーセキュリティの支持者たちは、サイバーセキュリティを、負担や制約というものではなく、活力に満ちたレジリエンスの高いイノベーションエコシステムを構築する機会として捉え直すことから始めることができる。サイバーセキュリティの魅力と価値を際立たせる新たなナラティブが、イノベーションを抑圧する不合理な基準の認識を払拭するために必要である。

例えば、サイバーセキュリティとデータプライバシーは小売業者の競争力の主要な源であり、価格の敏感性さえも上回ることが調査で示されている。時を同じくして、新設の米国務省サイバー局や英国の国家サイバー戦略2022のような米国と英国における最近のイニシアティブは、強固なサイバーエコシステムを戦略的優位性として強調している。

成熟したデジタルエコノミー、多国間機関、サイバーテックプロバイダーを持つ政府は、自らを守ることができる国家がデジタル革命において最も求められるパートナーであることを、強く主張すべきである。また、サイバーセキュリティに関する世界的な対話を形作ることもできよう。

すべてに対してより安全なネットという価値

すべてに繁栄をもたらす活発で競争力のあるデジタルエコノミーには、信頼でき、安全かつセキュアな、オープンで相互運用可能なネットワークが必要である。ベストプラクティスを活用して自らのイノベーションエコシステムを確保できる国家は、ディスラプションをもたらす開発を先導することになるであろう。ただし、国家や中小企業、個人がサイバーセキュリティを真剣に捉えるように導くためには、脅威から構築された政策を支持するのではなく、サイバーセキュリティの楽観的な論拠に基づいた政策にシフトする必要がある。

ナラティブを変えるには、デジタル的に成熟した国家が、より脆弱な国家に継続的な支援を提供する必要もある。これは、デジタル技術の輸出や、サイバーセキュリティ戦略の青写真のための単なる市場としてのデジタル発展途上国家という枠を超えて、サイバーセキュリティの恩恵を地域的にも世界的にも解き放つインフラの開発を支援するコミットメントを示すものである。サイバーセキュリティを機会として抜本的に再構成することを通じて、安全なデジタルインクルージョンの上に構築されたイノベーションシステムによる、すべてに対してより安全なネットの創出を、国家と社会が協働して確保することができる。善に向けた原動力としてのインターネットのポテンシャルが実現に向かうであろう。

編集部注:執筆者のMelanie Garson(メラニー・ガーソン)博士はTony Blair Institute for Global ChangeのInternet Policy Unitでヨーロッパ、イスラエル、中東の政策責任者。また、University College Londonの政治学部で国際紛争解決と国際安全保障の講師を務め、サイバー戦争とデジタル時代の紛争の未来、および国際交渉について教えている。

画像クレジット:LeoWolfert / Getty Images

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(文:Melanie Garson、翻訳:Dragonfly)

国内生産の食用コオロギによる商品開発・販売など手がける徳島大学発グリラスが2.9億円達、累計調達額約5.2億円に

国内生産の食用コオロギによる商品開発・販売など手がける徳島大学発グリラスが2.9億円達、累計調達額約5.2億円に

徳島大学発スタートアップ企業「グリラス」は2月28日、約2億9000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、既存株主のBeyond Next Ventures、HOXIN、産学連携キャピタルなど、新規株主のいよぎんキャピタル、近鉄ベンチャーパートナーズ、食の未来ファンド(kemuri ventures)、地域とトモニファンド(徳島大正銀行、香川銀行、フューチャーベンチャーキャピタル)。累計資金調達金額は約5億2000万円となった。

グリラスは、徳島大学における30年に及ぶコオロギ研究を基礎に、食用コオロギに関連する品種改良・生産・原料加工・商品開発・販売を一貫して国内で行うフードテック領域スタートアップ企業。徳島県美馬市の2つの廃校をそれぞれ生産拠点・研究拠点として整備し、コオロギの品種改良を目的とした研究開発から、食用コオロギの生産、食品原料や商品の開発・販売までを一貫して国内で行っている。調達した資金は、「生産体制の拡充」「研究開発の加速」「PR・広報・マーケティング活動の推進」「採用の強化」にあてる。

生産体制の拡充

現在グリラスは、同社コオロギを使用した食品原料については、他社との協業商品のほか、自社ブランド「C. TRIA」(シートリア)などに使用している。前回のラウンドでは徳島県美馬市にある廃校(旧芝坂小学校)を食用コオロギの生産拠点・食品原料への加工拠点として整備することで、既存のファームと合わせて2022年2月時点で年間10トン以上のコオロギパウダーを生産する体制を確立した。

しかし、他社との協業商品や自社ブランド商品の売り上げ拡大に対して、食用フタホシコオロギを加工した食品原料の生産が追い付いていない状況が続いているという。

この状況を受け今回のラウンドでは、調達した資金を自社の新規ファームの立ち上げと、生産パートナー制度の整備に活用することで、2023年12月時点で累計年間約60トンのコオロギパウダー生産体制を目指す。

研究開発の加速

現在の食用コオロギは、野生の品種を採取して養殖しているにとどまり、コオロギの大量生産において、品種改良による家畜化が急務となっている。また、コオロギをはじめ、昆虫は甲殻類に類似したアレルギーを引き起こす可能性があり、食用コオロギの一般化に際して数多くの課題が残されているという。

グリラスでは、これら課題をテクノロジーの力で打破すべく、2021年夏に徳島県美馬市の廃校(旧切久保小学校)を、大学で蓄積されたゲノム編集技術を用いてコオロギの高効率な品種改良を行う研究施設として整備した。現在は、高生産性コオロギの開発や、アレルゲンの少ない品種の確立などをテーマとして研究を進めているそうだ。

今回のラウンドでは、人員および設備への投資を行うことで、2023年内で上記2品種の上市を目標として研究開発を加速させる。また、コオロギの持つ独自の栄養成分や特徴を活かした商品の開発を並行して行うことで、食用コオロギの普及に寄与する。

ウクライナがロシアにハッキングで対抗する「IT部隊」を募集し反撃、テックリーダーにも参加を呼びかけ

ウクライナがロシアの一方的な侵攻に対抗するために現地の一般市民を動員し武器を与える中、ウクライナ国外で力になりたい人々は、バーチャルワールドでの戦いに参加するよう要請されている。G7(米国時間2月27日に日本も参加)が結集して国際銀行システムのSWIFTからロシアの銀行を締め出そうとしている一方で、ウクライナ政府はデベロッパーたちに向けて、具体的なサイバー攻撃の任務を負ったIT部隊への参加を募るキャンペーンを行っている。政府はテック企業のリーダーにも、それぞれの役割を果たすよう名指しで呼びかけている。

IT Army of Ukraine(ウクライナIT部隊)」は26日に発表され、すでに同部隊のメインTelegram(テレグラム)チャンネルに集まった18万4000近いユーザーは(人数は伸び続けており、本稿執筆時点で1万人近く増えている)、アカウントを使って特定目的のプロジェクトを複数立ち上げ、ロシアのサイト、ロシアのスパイ、ロシアと共謀して行動する人々を封鎖し、ウクライナに住む人たちを動員して自分たちにできる行動をするよう呼びかけている。(Telegramを使っていない人たちのためのGmailアドレス、itarmyura@gmail.com も用意されている。TechCrunchはこのアドレスに連絡を取り、主催者がプロジェクトの詳細について話してくれるよう尋ねている)。

そしてその効果は現れているようだ。ロシア最大級の銀行であるSberbank(ズベルバンク)のAPIを封鎖するためのチャンネルの呼びかけがすでに実行に移されたようで、サイトは現在オフラインになっている。同様に、ベラルーシの公式情報ポリシーサイトも、対応するチャンネルで呼びかけがあったあと、オフラインになったと報告されている。彼らのとっている単純なアプローチは、Anonymous(アノニマス)をはじめとする活動家ハッカーグループが特定のターゲットを攻撃する際に用いているものと類似している。

「信じられないサイバー攻撃がロシアの政府サービス・ポータル、官邸、議会、チャンネル1、航空宇宙、鉄道などのサイトを襲った」と、ロシアメディアを引用して同部隊は指摘した。「『50を超えるDDosアタックが1テラバイト以上の容量を飲み込んだ』誰のしわざ:)?なんと悲しい事故でしょう」。

この取り組みは口コミで広がっているだけでなく、政府担当者もリンクをツイートして支援している。(ただし、政府が実際に背後にいるかどうかはわからない)。

「私たちはIT部隊を作っています。私たちはデジタル人材を必要としています」とウクライナの副首相兼デジタル変革相、Mykhailo Fedorov(ミハイロ・フェドロフ)氏がTwitterで呼びかけた。「誰にでも任務があります。私たちはサイパー前線で戦い続けます。最初の任務はサイバー専門家のためのチャンネルに書いてあります」。

フェドロフ氏はTwitterで言葉を無駄にしていない。同氏はMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏とElon Musk(イーロン・マスク)氏も指名して、それぞれのプラットフォームと既存の製品を使ってプロジェクトを支援するべく、ロシアでのFacebookへのアクセスを禁止し、ユーザーがデータをバックアップできるようにStarlink(スターリング)のアクセスをウクライナに拡大するよう呼びかけた。しかし、Facebookの行動は少々遅れているようだ(広告は禁止されたが、今のところアクセスは禁止されていない)。

フェドロフ氏は、NFT(非代替性トークン)などのバーチャル商品の取引に使われているDMarket(ディーマーケット)が、ロシアとベラルーシのユーザーのアカウントを凍結したこともとり上げて称賛した。それらのアカウントの資金は対ウクライナ攻撃に使われる可能性があったからだ。

この国の暗号資産プラットフォームに対する立ち位置は概してかなり積極的であり、ウクライナ公式Twitterアカウントは26日、Bitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、およびTether (テザー、USDT)による寄付を受け付けるためのアドレスを公表した。多くの人々はアカウントがハックされたものだと思ったが、現在このツイートはピン留めされており、真剣であると思われる。しかし、寄付された資金がどのように集められ、どのように使われるのかは明確にされていない。

一連の出来事は、テクノロジーの動きの速さと、そこへの依存性の高さを物語っている。これを銀行間ネットワークSWIFTの閉鎖と対比すると興味深い。「swift(迅速)」の名前とは裏腹に、この制裁の動きはあまり速くない。なぜなら効果を得るためには各国が名乗りを上げるだけでなく、メンバーの金融機関(SWIFTには200カ国にわたる1万1000社の銀行その他の金融機関が加入している)もスイッチを切る必要があるからだ。

「SWIFTは中立的国際協力機構であり、200か国、1万1000以上の機関からなる共同体の総合的利益のために運営されています。国や個人を制裁するあらゆる決定は、適格な政府機関および適用される立法機関に委ねられています。ベルギー法の下に法人化されている私たちの義務は、EUおよびベルギーの関連規則を遵守することです」とSWIFTがTechCrunchに提供した声明で述べた。「私たちは欧州委員会、フランス、ドイツ、イタリア、英国、カナダ、米国の指導者による、ロシアの銀行に対して近々新たな規制実施を言明した共同声明を認識しています。私たちは欧州当局と協力して、新たな規制の対象となる実体の詳細を理解し、法律を遵守する準備を進めています」。

誤解のないようにいっておくが、SWIFTのアクセスを失うことは一大事であり、ロシアとロシア企業から商品売買のための取引機会を奪うものだ。しかし、この種の封鎖が最後に実施されたのはイランに対するもので、最大の効果を得るまで数年を要した。

「SWIFTを禁止されたりそこから排除されることは確実な影響があります、なぜならポイント・ツー・ポイント・ネットワークに関して、代替手段は多くないからです」とフィンテックコンサルタント会社、Firebrand Research(ファイアブランド・リサーチ)のアナリストファウンダー、Virginie O’Shea(バージニー・ オーシェイ)氏がTechCrunchに語った。彼女は、ロシアはかつてロシア国内銀行ネットワークを独自に構築しようとしたが、現時点で海外へは拡大していないことを指摘した。「SWIFTのような仕組みを作るには多くの時間と手続きが必要です」。

イランのときと同様、他国にも莫大な影響がありガスなどのエネルギー製品をロシアに依存している国々は特にそうだ。SWIFT決議の実施に時間がかかる理由の1つがそれだ。「石油とガスの視点で考えれば、これらのサービスへの支払いを妨げているのであり、ロシアだけでなく取引国にも影響を与えることになるのです」。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nob Takahashi / facebook

家庭での血液検査ネットワークを構築するGetlabsがシリーズAで約23億円を調達

次に玄関のベルが鳴ったら、それはDoorDash(ドアダッシュ)の配達かもしれないし、食料品配達の覇権を争うスタートアップの1社かもしれない。あるいは、あなたのリビングルームの快適さの中で血液検査をする準備ができている、フレボトミスト(採血の資格を持つ看護師または医療従事者)である可能性もある。

この移動フレボトミストは、Getlabs(ゲットラボ)の心臓部となっている。同社は、1年足らず前に発表されたシードラウンドを経て、シリーズAで2000万ドル(約23億円)を調達したばかりのスタートアップだ。

2018年に設立されたGetlabsは、遠隔医療の現場での伴奏者になることを目指している。例えば、あなたが遠隔医療の訪問を受けたところで、医療提供者が血液検査の時期かもしれないと考えたとしよう。診療所に行く代わりに、Getlabsが家にやってきて血液採取をしてくれる。自己負担料金は、25ドル(約2870円)からの(会社の言い回しを使えば)「コンビニエンスフィー」となっている。

現在、同社はサンプルを収集し、Labcorp(ラボコープ)、Quest Diagnostics(クエスト・ダイアグノスティクス)、Sonora Quest(ソノラ・クエスト)と協力してテストを行っている。

TechCrunchはこちらの記事で、Getlabの起源にまつわるストーリーを詳しく紹介した。端的にいうと、同社は創業者のKyle Michelson(カイル・マイケルソン)氏自身の経験に基づいている。同氏はY Combinator 2016でStreamup(ストリームアップ、ミュージックビデオのストリーミングアプリ)に取り組んでいたとき、自身の診療予約時間に合わせるのに苦労していた。当時同氏は、定期的な臨床検査が必要な健康状態に苦しんでいたという。

遠隔医療プラットフォームは急増していたが、同氏が必要とした対面サービスを実際に提供する企業はなかった。Getlabの命題は、次のようなものである。Direct-to-Consumer(D2C)医療の次のバージョンでは、より臨床的に複雑な病態に取り組むことになる。このような病態では、定期的な血液検査や、診断を確定するための検査が必要になるかもしれない。

Getlabsの時間選択画面(画像クレジット:Getlabs)

「既存の遠隔医療企業の中には、こうした状況に注力するようになっているところもありますが、ハンズオンの医療を必要としないものです」とマイケルソン氏はTechCrunchに語った。「新しいタイプの遠隔医療企業が、患者に物理的にリーチする方法を追求して、ゼロから構築されたのです」。

「当時私が考えていたのは、もし患者の自宅で検査を受ける方法があれば、遠隔医療は今日のものをはるかに超える能力を一気に解き放つだろうということでした」と同氏は語る。

臨床検査は、臨床的意思決定の重要な部分である。一般的に引用される統計は、臨床判断の約70%が臨床検査に基づいているというものだ。誰もその数字の出所を実際には見つけられないと指摘する科学者もいるが、この統計はMayo Clinic(メイヨー・クリニック)からCDC(米国疾病予防管理センター)のウェブサイトにまで反映されている。

CDCによると、米国では年間約140億件の臨床検査が発注されている。また、さらに多くの臨床検査が毎年発注されているというエビデンスも存在する。学術雑誌Implementation Scienceに2020年に掲載された論文によると、2013年から2018年の間に米国での臨床検査への支出は15%超増加している。この傾向は主に、医療提供者がより多くの検査を発注したことによる。同様の傾向は英国のような他の地域でも見られており、2000年代初頭には、平均的な英国国民は年に1〜2回の臨床検査を受けていた。2018年には平均的な国民の検査回数は5回に達している。

重要なことであるが、臨床検査の数が増えたからといって、必ずしも臨床検査の質が向上するとは限らない。だが、臨床検査の利用が増えていること、そして同時に遠隔医療サービスが拡大していることを考慮すると、Getlabsが埋めるべきギャップがあるかもしれない。

遠隔医療の利用はパンデミック前の約38倍の規模で安定しているが、一般的に遠隔医療の受診は、対面での受診よりも検査依頼が少なくなる傾向がある。しかし、遠隔医療の範囲が、緊急医療や遠隔治療から、検査に大きく依存する他の領域へと拡大するにつれて、この様相は変わる可能性がある。

Amwell(アムウェル)のような遠隔医療企業の中には、ハイブリッド医療モデルが慢性疾患治療管理などの領域への遠隔医療の流入を促進することを認識し始めているところもある。Amwellだけではない。投資家の間でも、遠隔医療の未来はバーチャルなものだけではなく、バーチャルな予約と自宅での遠隔患者モニタリング、あるいは訓練を受けた専門家の訪問を組み合わせたハイブリッドモデルになるのではないかという見方が広がっている。

Getlabsはシードラウンド以来、ハイブリッド医療モデルの対面部分としての役割を果たすために、フレボトミストの育成に投資してきた。同社はこれまでに100人を超えるフレボトミストをW-2従業員(源泉徴収の対象となる従業員)として雇用している。マイケルソン氏によると、同社の離職率は5%に満たないという。

Getlabs初の患者、フィラデルフィア在住(画像クレジット:Getlabs)

こうした人員を擁し、同社は米国人口の約45%にサービスを提供する体制が整っているとマイケルソン氏は述べている。わずか4カ月前にはその割合は約6%であった。同社は2022年末までに60%のカバー率を目指している。ただし、注意しなければならないのは、このようなフレボトミストの重点領域は比較的都市中心的な傾向があるということだ。(試しにニューヨーク州北部の田舎の住所をいくつか検索してみたが、Getlabsはまだその地域に到達していなかった。だがブルックリンで検査を受けたいと思う場合には、予約の可能な場所がたくさんあった)。

同社の人員の大半は、農村部あるいは都市部というより、郊外の人々に対応しているとマイケルソン氏は語る。「私たちが最も価値があると考える場面は、郊外に住んでいる患者の状況です。彼らには育てなければならない子どもがいて、診療所に行くのに不便な環境があります」。

その焦点が、この遠隔医療企業次第ではあるが、同社の2つの企業目標の真の整合性を左右するかもしれない。遠隔医療は、そもそも専門家や診療所にアクセスできない農村地域にとって、とりわけ強力な治療介入となる。したがって、これらの地域でも実際に活動してみることで、そうした地域社会への支援が特に重要であることが明らかになるであろう。

究極的には、Getlabsは、医療を官僚的な骨折り仕事ではなく、消費者プロダクトのように扱っている企業に分類される。同社のサービスが自分の地域を対象としているなら、プラットフォームのフロントエンドを使って予約するのは簡単だ。しかし同社は、消費者向け医療のバックエンドにも関心を持っている。

Getlabsは、患者が自分で検査訪問の予約をするのではなく、APIをローンチすることによって、完全に遠隔医療プラットフォームに統合されることを目指している。このAPIを使えば、企業は患者のバーチャルセッションの直後に臨床検査をスケジュールすることができる、と同氏は説明する。

「口頭でイエスかノーかの返事をもらうだけでいいのです。それ以外はすべてシームレスに行われます」と同氏は語った。

このラウンドはEmerson Collective(エマーソン・コレクティブ)とMinderoo Foundation(ミンデルー・ファウンデーション)が主導した。その他の出資者には、Tusk Venture Partners(タスク・ベンチャー・パートナーズ)、Labcorp、Healthworx(ヘルスワークス)、Byers Capital(バイヤーズ・キャピタル)、Anne Wojcicki(アン・ウォシッキー)氏(23andMe[23アンドミー]の共同創業者兼CEO)、Susan Wojcicki(スーザン・ウォシッキー)氏(YouTube[ユーチューブ]のCEO)、Eric Kinariwala(エリック・キナリワラ)氏(Capsule[カプセル]の創業者兼CEO)、Mattieu Gamache-Asselin(マチュー・ガマッシュ・アセラン)氏(Alto Pharmacy[アルト・ファーマシー]の創業者)などが含まれている。

今回のラウンドの主な目標は、同プラットフォームで雇用される医療従事者の数を増やすことにあるとマイケルソン氏は述べている。この資金調達によって同社は、より多くのフレボトミストを雇い入れてカバレッジを拡大し、対面式のコンポーネントを求める新興の遠隔医療企業とのより多くのパートナーシップを推進していくことが期待される。

画像クレジット:Getlabs

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)