リピート率59%アップ!電子カルテ軸の鍼灸プラットフォームで受療者、鍼灸院、見込み客それぞれの課題を解決

日本マイクロソフトが10月11日から14日にかけて開催中の「Microsoft Japan Digital Days 2021」では、生産性や想像力を高め、組織の競争力に貢献するソリューションや、その導入事例について学べるプログラムが提供されている。

Day 1の10月12日13時35分に行われたセッション「世界の人々の健康をサポートする鍼灸メーカーがSaaS事業を提供するに至るまで(真のDXとは何かについて)」をレポートする。

登壇したのは、鍼灸鍼をはじめ医療機器の開発・製造・販売を行ってきたセイリン ICTプロジェクトリーダー 菊地正博氏とAzureを使ったeコマース開発を得意とするシグマコンサルティング プロジェクトリーダー 木下浩之氏だ。

鍼灸業界の発展を阻む課題をプラットフォームで解決

「鍼灸業界の発展を支えるプラットフォーム」というサブタイトルで進められた当セッション。2020年9月に「鍼灸つながるカルテ」「はりのマイカルテ」をリリースした背景がセイリン菊地氏の口から語られた。

鍼灸治療を受ける人(受療率)は年間560万人で、国内人口の約5.6%。受療したことがあるもののリピートにつながらない人は約2000万人いる。

「肩こり 鍼」などで検索するような鍼灸に興味のある見込み客は約670万人、健康やボディケアに関心のある層は2400万人いるものの、実際に鍼灸治療を受けるに至っていなかった。

鍼灸業界の発展には、受療したもののリピーターになっていない人や見込み客をいかに呼び込むかが課題だが、それには、立ちはだかる負のスパイラルを断ち切る必要があるという。

負のスパイラルには、受療者、鍼灸院、見込み客、他業界の抱くイメージや体験などがある。

受療者側には「施術の効果を感じられない」「本音を言いづらい」「保険適用外で治療費が高い」というもの、鍼灸院側は「来てくれなくなった理由がわからない」「それゆえ施術や接客レベルを上げようがない」「サービス改善のモチベーションが上がらない」というもの、見込み客にとっては未経験ゆえ「怖い」「効果が不明」「マッチする鍼灸院を探せない」という負の感情が、医療施設や介護施設など他業界からは「鍼灸による成果のエビデンスがない」「信頼できる鍼灸師が少ない」「連携するメリットが見いだせない」ため紹介・連携できないという課題があった。

そこで、セイリンではそれらの課題を解決する最適解が電子カルテを軸とした鍼灸プラットフォームであると考えた。

単なる電子カルテであれば、すでにさまざまな医療機関で採用されているが、これは、施術側が治療を記録するためだけのものではない。治療内容とともに、日常生活で気をつけるべき点などのフィードバックを患者に提供し、鍼灸師は受療者からの満足度に関するフィードバックや相談を受けられるようになっている。これにより患者の満足度は上がり、鍼灸師もサービスや技術向上のモチベーションを上げられる。

さらに、患者の症状と施術内容を鍼灸データベースに蓄積することで、これから施術しようとしている鍼灸師には最適な施術のレコメンドを、医療施設や介護施設には鍼灸治療を使うことのメリットなどを含むエビデンスを提供可能になる。

患者から受け取った満足度評価や感じられた効果も蓄積され、その情報は4月1日にリリースした鍼灸院検索サイト「健康にはり with はりのマイカルテ」でいずれ検索可能になり、新規ユーザーが自分にマッチする鍼灸院を探すのに役立てられる。

つまり「鍼灸つながるプラットフォーム」のシステムを導入することで、これまで鍼灸業界の発展を阻害してきた負のスパイラルを断ち切れるというわけだ。

とはいえ、タッチポイントであるアプリの使い勝手が悪ければ鍼灸師も受療者も手間と感じてしまう。

鍼灸師が使う電子カルテ「鍼灸つながるカルテ」はPC、タブレット、スマートフォンのマルチデバイス対応なうえ、入力しやすさを確保しているという。

また、治療前後の変化、治療内容など、通常、自分のものであるのにアクセスできないカルテの内容を鍼灸院から患者へ患者側電子カルテ「はりのマイカルテ」を通じて共有することで、受療者が施術の効果を実感でき、通院のモチベーションを上げられるような仕組みを作っている。

さらに、通常であれば鍼灸院に到着後に記入する問診票の内容をアプリを通じて事前に伝える仕組みもあるため、現状を落ち着いて入力できるうえ、到着後の待ち時間が減るというメリットがある。鍼灸師にとっては、患者が来院する前に情報を得られるので、前もって施術準備を行える。

患者に記載してもらった情報も含めた電子カルテの情報は、ビッグデータという形で鍼灸データベースに蓄積するが、それは教科書にも記載されていない内容だ。師匠たちから受け継いできた「暗黙知」が、システムに入れるすべての鍼灸師に共有され「形式知」となることが、業界全体のメリットになる。

また、蓄積された情報はエビデンスとしても機能するため、鍼灸治療を選んでもらえるよう介護施設や医療施設に交渉できるようになるため、また見込み客の認知度が上がるため、新規受療者の増加も見込める。

リピート率アップについては、鍼灸院「ニイハオ鍼灸院」の導入事例が紹介された。「はりのマイカルテ」導入前後3カ月で比較したところ、アプリ利用患者50人の来院平均回数が2.09回から3.32回へ59%アップ。未利用患者43人の平均来院回数が1.66回から1.71回であったことを考えると、カルテ共有の効果が高かったことがうかがえる。

菊地氏は、4月にリリースした受療者向け鍼灸院検索サイト「健康にはり」内の情報を定期的にアップデートしていくことで「針灸初心者でも安心して治療を受けてもらえるようにしたい」という。

最後に「鍼灸つながるプラットフォームにより、鍼灸治療に関する知を次世代に伝えること、針灸業界の発展を支え、受療率5%を15%にアップさせることを行っていきたい」と今後の抱負を語った。

針灸業界の発展を支えるプラットフォームをさらに下から支える

シグマコンサルティングの木下氏は、同社がAzureを使ったeコマースの知見をどのように鍼灸つながるプラットフォームに活かしたかということについて解説した。

これまで、針灸業界には同様のサービスがなかったため、ニーズを聞き取りながらゼロベースで実装。Azureがあったからこそ、1年半という短期間で行えたことを強調した。

とはいえ、カルテ情報の取り扱いには高度な機密性が要求される。

ここで、シグマコンサルティングの知見が活きてくる。eコマースでは、クレジットカード情報など財産に関係する情報のやり取りが必要になる。シグマコンサルティングには、PCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard。クレジットカード業界のセキュリティ基準)といったセキュリティ事項に対応した実績あり。今回のプラットフォームのシステム構成にも、Azure AD B2Cの認証の仕組みを導入することで堅牢なシステムをすばやく構築した。

データベースにはSQLを利用することで拡張性を担保しつつ、SaaSビジネスで重要なランニング費用低減を図ったという。

これまで器具販売を中心に営業してきたセイリンがSaaSビジネスを成功させるための事業支援も行ってきた。その中にはセイリンだけでなく、導入する鍼灸院へのサポートも含まれる。

セイリンには、営業活動の目標値として「鍼灸院が同システムを導入することによって成功体験を得る」というものを設定した。そのうえで、営業活動を可視化し、営業プロセスを見直ししやすくして商談内容に一定の品質が保たれるようにした。

鍼灸院へは、プラットフォームを利用することで成功体験を得られるようカスタマーサクセスチームを立ち上げて対応した。カルテの電子化、受療者とのコミュニケーション促進、予約業務の効率化など、いくつかのポイントを押さえて支援。サクセスが明確化されたことで、KGI・KPIも明確になり、次なるカスタマーサクセスを実現するためにプロジェクトを改善する必要があり、その点でも支援したという。

「これらの支援により、組織は自走型へと変化する。シグマコンサルティングは、開発からビジネスの成功までをサポートしていける」と、木下氏は締めくくった。

東南アジアでメンタルヘルス支援アプリを提供するThoughtFullが約1.2億円を獲得

新型コロナウイルス(COVID-19)が流行する以前から、うつ病や不安神経症は人々の健康に深刻な影響を与えていたが、パンデミックをきっかけに、メンタルヘルス関連のスタートアップ企業への関心(およびベンチャーキャピタル)が高まってきている。Calm(カーム)Headspace Health(ヘッドスペース・ヘルス)のようなメンタルヘルス関連のスタートアップ企業の多くは米国に拠点を置いているが、世界各地でもエモーショナル・ウェルネスに注目が集まっている。例えば、東南アジアでは、メンタルヘルスケアやサポートへのアクセスを向上させるスタートアップ企業が増えている。その1つであるThoughtFull(ソウトフル)は米国時間10月12日、110万ドル(約1億2400万円)のシード資金を調達したことを発表した。これまでに東南アジアのデジタルメンタルヘルススタートアップが調達したシードラウンドの中で最大級のものだという。

関連記事:新型コロナを追い風に瞑想アプリのCalmが2080億円のバリュエーションで78億円調達

2019年に設立されたThoughtFullのアプリ「ThoughtFullChat」は、ユーザーをメンタルヘルスの専門家につなげてコーチングセッションやセラピーを受けさせたり、セルフガイドのツールも用意している。「ThoughtFullCare Pro」と呼ばれる同スタートアップのメンタルヘルス専門家向けアプリは、オンライン診療の管理と拡大を可能にしてくれる。ThoughtFullChatは、App StoreGoogle Playでダウンロードできる他、保険会社や従業員の福利厚生プログラムを通じても入手可能だ。

今回のシードラウンドの投資家には、The Hive SEA(ザ・ハイブ・シー)、ボストンを拠点とするFlybridge(フライブリッジ)、Vulpes Investment Management(バルプス・インベストメント・マネジメント)の他、アジア太平洋地域のファミリーオフィスやエンジェル投資家が名を連ねている。

ThoughtFullを立ち上げる前、創業者兼CEOのJoan Low(ジョーン・ロー)氏は、香港のJ.P.Morgan(J.P.モルガン)での6年間を含み、投資銀行家だった。ロー氏はTechCrunchに電子メールで「私が住み、働き、学んできた米国やヨーロッパなどでは、デジタルメンタルヘルスのイノベーションが猛烈なスピードで起こっているのに比べ、東南アジアではメンタルヘルスケアにアクセスするのがいかに難しいかを認識し、金融機関を辞めなくてはいけないと感じました」と語ってくれた。

ThoughtFullの主な運営市場はシンガポールとマレーシアだが、現在は43カ国にユーザーがいる。2020年にサービスを開始した同社のアプリは、5つの言語に対応している。英語、バハサ・マレーシア、バハサ・インドネシア、北京語、広東語の5つの言語に加え、タミル語、タイ語、ベトナム語、タガログ語にも精通したコーチがいる。

ロー氏は、ThoughtFull社が各市場に合わせたサービスを提供するために、現地のヘルスケアシステムと密接に連携していると述べている。例えば、The Hive Southeast Asiaやマレーシア財務省の100%子会社であるPenna Capital(ペンナ・キャピタル)と提携し、パンデミックの影響で対面での相談を含むケアへのアクセスが困難になったマレーシアのメンタルヘルスのエコシステムをデジタル化する予定だ。

「ヘルスケアシステムは、さまざまなステークホルダー、構造、結果が絡み合っているため、本質的に複雑です。しかし、アジアのヘルスケアは、文化だけでなく、ケア提供から支払者や研究モデルに至るまで、システムが多様であるため、特に複雑なのです」とロー氏はいう。「そのため、参入障壁が高く、アジアのヘルスケアに大々的に参入する外資系企業が少ないのです」。

東南アジアでメンタルヘルスの専門家へのデジタルアクセスを提供するアプリには、最近ベンチャー資金を調達したIntellect(インテレクト)がある。ロー氏は、ThoughtFullが他のメンタルヘルス関連のスタートアップ企業と異なる点として、エンド・ツー・エンドのサービスに焦点を当て、ユーザーにパーソナライズされた予防と治療のオプションを提供し「より質の高いメンタルヘルスケアを提供するための完全に閉じたフィードバックループ」を構築することを挙げている。

ThoughtFullのシードラウンドは、ディープテック技術の開発や臨床研究を含む製品開発に使用される。

関連記事:アジア全体で心のケアをより身近にしたい遠隔メンタルヘルスケアのIntellectが約2.4億円調達

画像クレジット:ThoughtFull

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(文:Catherine Shu、Akihito Mizukoshi)

メディカルノートによる医師向けの医療専門検索サービス「Medical Note Expert」の試験運用を開始

メディカルノートは10月11日、医師向けの医療検索サービス「Medical Note Expert」の試験運用を開始したと発表した。また利用登録者の募集も開始している。同サービスは、医師が必要とする医療情報を集約し検索しやすくすることで、デジタル時代に即した情報収集環境を構築したものという。試験運用版では一部コンテンツのみの掲載としているものの、今後コンテンツを拡充予定としている。

Medical Note Expertは、臨床や研究で必要となる多様な情報を、信頼できる医療情報に特化して素早くアクセスすることが可能な検索サービス。医学論文や診療ガイドライン、各医療学会が発信する最新情報、製薬会社の医薬品情報といった医療情報を集約しデジタル化している。さらに、一般向けの医療・ヘルスケアプラットフォーム「Medical Note」で培った医療学会との連携を元に、質の高いオリジナル記事も提供している。

専門的で最新の医療情報を必要とする医師にとって、現在は情報がインターネットに散在している状況にある。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、医療用医薬品の情報提供活動の規制強化もあり、医師が自ら情報を取得する機会も増加している。このため、医師の間ではインターネットを活用した情報収集の効率性が課題となっているという。

そうした医師による日常的な情報収集を支えるため、メディカルノートは「Medical Note Expert」開発プロジェクトを8月に立ち上げ、医療関連団体や製薬会社などの企業に協力を呼びかけ、試験運用がスタートすることとなった。

今後は、同サービスを利用する医師の意見を積極的に取り入れ、利便性を高めていくとしている。特に試験運用段階では利用実態の分析やアンケートを行い、医師の情報検索ニーズを明らかにすることを目的としている。収集したデータを元に、データソースの増強やユーザーインターフェース、検索性を向上させるとしている。

メディカルノートは、「すべての人が『医療』に迷わない社会へ」というミッションを掲げ2014年に設立。デジタルヘルスケアプラットフォーム「Medical Note」やオンライン医療相談サービス「Medical Note医療相談」を運営するほか、医療機関向けDX支援SaaS「Hospital Manager」を提供している。

日本のヘルステックBisuがアシックスなどから3.5億円調達、自宅でラボグレードの尿・唾液検査を可能に

マッキンゼーの報告書によると、2020年1月以降、遠隔医療サービスの導入は38倍に増加しており、パンデミックに後押しされブームとなっている。コンシューマーと臨床医の間の通信レイヤーを構築する企業が注目されている一方で、テレヘルス環境でモニターまたは対処できる内容を拡大するためのデバイスを開発する企業も増えている。

最近の動きとしては、東京に本社を置くヘルスケアスタートアップのBisu, Inc.(ビース)が320万ドル(約3億5000万円)の資金を調達した。Bisuは、自宅で使用できるラボグレードの検査機器を開発し、実用的な健康データに変換する診断を行っている。今回のシードラウンドは、簡単で正確な尿や唾液の検査を通じて、個人に合わせた栄養やライフスタイルのアドバイスを提供するポータブルホームヘルスラボ「Bisu Body Coach」の立ち上げに使用される。今回のシード資金により、同社の累計調達額は430万ドル(約4億8000万円)に達した。

今回の資金調達は、QUADが主導し、アシックスベンチャーズ株式会社、15th Rock Ventures、パシフィコ・インベストメンツ、SOSV Investmentsが参加した。スポーツシューズ大手のアシックスは戦略的に支援しており、健康・フィットネスサービスの取り組みでBisuと協業していく予定。Bisuは、フィットネス、ペットケア、バスルームなどの分野で他の企業との追加提携を検討していると、共同設立者兼CEOのDaniel Maggs(ダニエル・マグス)氏はTechCrunchに語った。

Bisuは2015年に設立され、2017年にHAXのアクセラレータープログラムに参加して事業を開始した。

Bisu Body Coachは、使い捨て型のテストスティックと、スマホアプリと連動するリーダーを使用する。これらのテストスティックは、マイクロ流体を活用した「ラボオンチップ(Lab-on-a-chip)」技術により、ユーザーがわずか2分でさまざまなバイオマーカーを測定することを可能にする。

マイクロ流体「ラボオンチップ」技術は、分光分析とリアルタイムのエンド・ツー・エンド測定を用いて、従来のテストストリップが抱える測定タイミングの問題を解消する。また、血液、尿、唾液、汗などのサンプルを微小な流路内で操作し、化学的または生物学的プロセスを実行する。

ラボオンチップ技術を採用している他の競合他社との差別化について質問されたBisuは、複数のバイオマーカーを同時に検査することで、ユーザーが医師の診察を受けることなく、食生活やライフスタイルを理解し、前向きに変化させることができることに焦点を当てていると答えた。競合製品は、新型コロナウイルスやインフルエンザなど、重要度の高い個別のバイオマーカーを検出して、ユーザーに医師の助けを求めるように誘導するものが一般的だ。

Bisuアプリは、水分補給、ミネラル、ビタミン、pH、尿酸、ケトン体などの主要な栄養指標に関するフィードバックを提供する。ユーザーの目標、プリファレンス、活動パターン、睡眠、体重などをもとに、Bisu Body Coachはパーソナライズされたアドバイスを表示する。Bisuは今後、亜鉛やビタミンBの測定機能を追加する予定で、犬猫用のペット健康診断キットの発売も見込んでいる。

Bisu Body Coachは現在、米国とEUでベータテストを行っている。2022年にこれらの市場での商品化を目指しており、2023年には日本や韓国などのアジア市場への参入も視野に入れて準備を進めていると、マグス氏は述べている。

同社の中核となる研究開発および生産チームは東京にあり、Bisuのソフトウェアおよびマーケティングチームは米国に拠点を置いている。

マグス氏によると、従来の在宅検査市場は、主に(何らかの疾患を持つ)患者が中心で、約50億ドル規模(約5580億円)と推定され成長を続けているという。

しかし、Bisuの在宅検査は、非患者、つまり、何か特別なことで医師などの治療を受けているわけではないが、自分の体の中で何が起こっているのか知りたいと思っている人たちにも市場を広げる可能性がある。マグス氏によると、非患者向けの在宅診断の市場は、現在約100億ドル(約1兆1160億円)と推定されている。

画像クレジット:Bisu / Bisu platform

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

WHOが初のマラリアワクチンを承認、アフリカやその他感染地域の子どもたちへの接種を推奨

WHOが初のマラリアワクチンを承認、アフリカやその他感染地域の子どもたちへの接種を推奨

panom via Getty Images

世界保健機関(WHO)が、サハラ以南のアフリカおよびマラリア感染率が中程度から高い地域の子どもたちを対象に、マラリアワクチンRTS,Sの広範な接種を推奨する声明を発表しました。

WHOのテドロス事務局長は「マラリアワクチンは長い間実現できない夢だった。30年以上かけて作られたRTS,Sワクチンが公衆衛生の歴史を変えることになる」とコメントしています。

WHOはガーナ、ケニア、マラウイで2019年以降、80万人を超える子供たちを対象に実施した先行調査プログラムの結果に基づき、このワクチンをサハラ以南のアフリカや、マラリアの感染率が中程度以上の地域で展開すべきだとしています。

RTS,S/AS01 (RTS,S)と呼ばれるこのワクチンは”Mosquirix”という名称で知られています。テドロス氏は「待望の子ども用マラリアワクチンは、科学、子どもの健康、マラリア対策にとって画期的なものだ」と述べ「このワクチンを既存のマラリア予防法に加えて使用することで、毎年何万人もの若者の命を救うことができるでしょう」とコメントしています。

上記のアフリカでの先行調査の結果によると、このワクチンはマラリアの発症を39%、重症化を29%防ぐことができるとのこと。

数字だけならこれはそれほど高い効果とは思えませんが、これに虫を寄せ付けないコーティングの蚊帳などその他のマラリア対策を組み合わせることで、WHOは毎年26万人以上とされるマラリアの犠牲になる子供たちから数万人を助けられると述べています。

The Guardianによれば、ワクチンを開発したグラクソ・スミスクライン(GSK)は、最大で年間1500万回分を、製造にかかる費用の5%以下で供給するとしています。そのかわりとしてWHOとGSKは、パートナー企業や各国政府からの追加資金の提供を求めています。

WHOのアフリカ地域ディレクターのMatshidiso Moeti氏は「マラリアはサハラ以南のアフリカで何世紀も猛威を振るい、甚大な苦痛を感染者に与えてきました。今回のWHO勧告によって、この病気に負担を強いられている大陸に希望の光を提供し、より多くのアフリカの子供たちがこの病気から護られ、健康に成長できることを期待します」と述べています。

ちなみにこのワクチンは、今後のマラリア用ワクチン対応強化の始まりにすぎないとされます。

英オックスフォード大学が開発した、R21/Matrix-Mと称するマラリアワクチンはまだ試験段階ですが、今年4月に発表された研究でブルキナファソの子どもたち450人を対象とした1年間の研究で、最大77%の有効性を示したとされます。このワクチンはRTS,Sとは異なり、新型コロナワクチンと同じmRNAベースの新しい技術を用いています。

(Source:WHO。Coverage:University of OxfordEngadget日本版より転載)

臓器調達におけるテクノロジーの推移

米国では毎年、10万人以上の人々が移植用臓器の提供を待っている。そして、臓器の提供を待っている間に、毎日10数人の患者が亡くなっている。臓器調達の世界で働くには、このような冷酷な計算と楽観的な考え方が必要となる。

この数十年の間に、57の臓器調達機関(OPO)が設立されたが、いずれも全米臓器分配ネットワーク(UNOS)と提携している。UNOSは、連邦政府との契約に基づき提供された臓器と患者(レシピエント)とのマッチングを行う非営利団体だ。

これは医療界のユニークな一面であり、また初めの印象より驚くほどテック系スタートアップに似ている。初期のベータ版製品から、より専門的かつ近代的な技術スタックに至るまで、UNOSのネットワークとそれに関わる企業は、臓器移植プロセスのスピードと信頼性を向上させるべく努力してきた。

ここでは、物流や分配計画のためのインフラ整備など、いくつかの団体における最新の取り組みを紹介するとともに、異種移植、ドローン配送システム、臓器生存プラットフォームなど、よりSF的なプロジェクトについても探ってみたい。そこでUNOSと2つのOPOの関係者数人にインタビューを行い、最先端の状況と将来の夢について聞いた。

ある電話番号の男

UNOSで30年近く働き、現在シニアコミュニケーションストラテジストを務めるJoel Newman(ジョエル・ニューマン)氏は「移植は、誰もがリアルタイムでコミュニケーションを取り、協力し合わなければならない。しかも常に知っている相手とは限らない。そういう意味では以前からずっとユニークだ」といい、臓器移植という生死にかかわる問題のわりには、意外かもしれないが「これらの段取りの多くは、驚くほど略式のものだった」と語る。

実際、初期の頃はあまりにも簡易的であり、ドナーとレシピエントのマッチングはボイスメールの受信箱を介して行われていた。

臓器調達機関Gift of Life(ギフト・オブ・ライフ)の現社長であるHoward Nathan(ハワード・ネイサン氏、1984年に代表に就任して以来、全OPOの中でも最も長く社長を務めている)によると、1980年代に臓器移植が活発に行われるようになってきた初期には、Don Denny(ドン・デニー)氏という1人の男性が協力体制の多くを運営していたという。

1977年にピッツバーグに移り住んだデニー氏は、レシピエントの状態を1~4の段階で評価する独自のシステムを構築した。同氏のシステムでは、「1」が最も臓器移植の緊急性が高いことを示していたが、現在の評価システムでは逆になっている。「デニー氏は毎日、ボイスメールにレシピエントの状態を録音し、ドナーを探す側ではその録音を聞く。そして、集中治療室で移植に適合する臓器のドナーが見つかった場合、家族の同意を得てデニー氏に電話する」とネイサン氏は当時を説明する。同氏によると、デニー氏は4年半の間に2700件の移植をコーディネートしたが、すべてはデニー氏の録音したボイスメールと電話を介して行われたという。

UNOSは1977年に設立され、1984年に法人化された。1986年には、当時の最新通信技術だったFAXを利用して、臓器移植のマッチングを行うためによりコンピューター化されたシステムを開発した。現在、ギフト・オブ・ライフの臨床サービス担当副社長であり、2022年にネイサン氏の後任として社長に就任するRick Hasz(リック・ハース)氏は、当時の技術はそれほど信頼できるものではなかったという。「入社した頃は、感熱紙のFAXを使っていた。早くマッチングしなければ、印字が消えてしまい、情報が失われてしまっていた」と同氏は語る。

もちろんUNOSは、ドナー、ドナー病院、レシピエント、移植センターのニーズに合わせて、時間とともにテクノロジーを進化させ続けてきた。UNOSは、ウェブベースのアプリケーションを利用しており、現在ではモバイルアプリも提供している。

同社でITカスタマー支援担当ディレクターを務めるAmy Putnam(エイミー・パットナム)氏は、間違いを減らすためにモバイルアプリを導入したことが大きなブレークスルーになったという。「2012年、UNOSはTransNet(トランスネット)と呼ばれる変革に取り組んでいた。トランスネットはiOS(アイオーエス)とAndroid(アンドロイド)上で動作するモバイルアプリで、OPOが臓器を電子的にパッケージ化し、ラベル付けすることができる。夜中の3時ともなると、大抵の人の手書き文字は読みづらく、データ入力のミスが多くなってしまう。だからトランスネットは本当に助けになった」と同氏は語る。

しかし、このシステムを構築したことによる真の成果は、すべてのOPO関連企業と協力して作業を進め、すべてのユーザーからのフィードバックに基づいてプロセスを改善できるようになったことだった。

臓器のエクスペディアを構築する

画像クレジット:aydinmutlu / Getty Images

移植の調整では、電話とコミュニケーションが重要となる。臓器提供は通常、突然発生し、ほとんどどこでも起こりうる。そして、ドナー病院から移植センターのレシピエントに臓器を届けるまでOPOに与えられる時間は、わずか数時間しかない。加えて、対象の臓器の提供を待つ可能性のある数十の移植センターの中から、どの患者が適合するか極めて迅速に判断しなければならない。そういった要件をリアルタイムで処理することが、UNOSの最新技術スタックの大きな強みとなっている。

ニューマン氏は、その複雑な作業の一部を説明してくれた。「腎臓は多くの場合、およそ24時間以内であれば移植できる。しかし、摘出した後は早く移植するほうが望ましいため、おそらくほとんどが12時間以内に移植されている。肝臓や膵臓の場合は8時間以内が理想的で、心臓や肺の場合は4~6時間程度にまで短くなる」と同氏は述べる。血液が供給されなくなった後、臓器が生存できる時間を「阻血時間」という。

この数年をかけ、UNOSは臓器の所在を把握するために、より精巧な追跡システムを開発してきた。OPOの1つであるLifeSource(ライフソース)の主任臨床役員を務めるJulie Kemink(ジュリー・ケミンク)氏は「今見ているものは、Amazon(アマゾン)のパッケージに似ている。出荷されたことはわかるが、正確にどこにあるかは必ずしもわかるわけではない」という。

しかし、UNOSのインフラが新しくアップデートされたことにより、すべての臓器のリアルタイムな位置情報が提供されるようになってきた。「これは、Uber(ウーバー)のようなもので、臓器が実際にどこにあるのかを常に確認することができる」と同氏はいう。

臓器ごとにGPS位置情報を持たせるのは簡単なことのように思えるが、膨大な調整が必要だった。ドナー病院、臓器調達機関、移植センターはそれぞれ異なる団体であるため、位置に関する共通基準を定義することには困難が伴った。さらに、基本的に臓器の輸送はランダムに起きるため、適切な機器と追跡装置を米国各地に設置することは、それだけでハードルが高かったのだ。

物流情報が充実した現在、移植外科医は臓器の到着時間をリアルタイムに把握できるようになった。臓器が飛行機の貨物室に入れられ空輸される場合でも、その飛行機が早く空港に到着すれば、医師に予定よりも早く進行していることが通知され、レシピエントの準備を早めることができる。逆に、車の渋滞で臓器の到着が遅れている場合、移植センターはレシピエントの術前処置を遅らせることができる。

UNOSでは、より多くのデータが得られるようになったことを受け、パットナム氏が「臓器のエクスペディア」と呼ぶ「トラベルアプリ」の開発を検討している。「そのアプリでは、OPOや移植病院が、ドナー病院とレシピエントセンターに関する具体的な情報を入力すると、オプションが表示され、飛行機の選択肢や、車で移動する場合の輸送に要する時間を確認してオプションを選ぶことができる」と同氏は述べる。また、このアプリは現在試験的に運用されているが、将来的にはアプリの操作だけで臓器の割当ができるようになるかもしれないと、同氏はいう。

このインフラは非常に重要だ。というのも、UNOSは臓器の距離を定義する方法を改定しているからだ。数十年にわたり、UNOSとそのOPO加盟団体は、地域の境界線に基づきシステムを運用していた。例えば、ミネソタ州にある臓器は、まずミネソタ州のレシピエントが対象とされ、その後、適合者が見つからなければ近隣の地域に対象を広げる、といった具合だ。

これは単純なシステムだが、富裕層を中心に利用される可能性があった。今から10年以上前、Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏がテネシー州に住んでいないにもかかわらず、テネシー州で臓器移植を受けたことが物議を醸した。同氏は、当時「マルチプルリスティング」と呼ばれていた方法を利用して臓器移植を受けた。これは、手段を持つレシピエントができるだけ多くの地域の臓器提供の順番待ちリストに登録することができる仕組みだ。米国内のどこかで適合する臓器が見つかれば、レシピエントはすぐにプライベートジェットをチャーターして臓器移植を受けに行き、リストを待つ時間を実質的に短縮することができたのだ。

現在、UNOSでは、恣意的な地域の境界線ではなく、実際の半径に基づいた距離アルゴリズムを使用している。しかし、それでもいくつかのバランスの悪さが残る。ミネアポリス地域を担当するOPOであるライフソースのケミンク氏は「ミネソタ州は東西どちらの海岸にも近いため、米国全土から臓器提供を受けるチャンスがある」という。これは、沿岸部では利用できないオプションだ。「カリフォルニアでは、ニューヨークから心臓の提供を受けることは基本的に不可能だ」と同氏はいう。

物流の改善に加えて、UNOSは統合のためにプラットフォームを最適化した。「一般に、多くの人は複数のユーザー名やパスワードを持つことを嫌い、複数のソリューションを持つことも嫌う。そのため、最も重要なことは統合だ。統合する必要がある」とパットナム氏は最近のアップグレードについて語る。

統合の一環として、レシピエントのデータや画像ファイルをアップロードする方法を増やした。「医師らは、アップロードされた冠動脈造影を実際に見て、[心臓が]レシピエントに適しているかどうかを確認できるようになった」とケミンク氏はいう。このことにより臓器のオファーを受けてから決定までの時間が短縮され、結果として臓器移植の成功率が高まることになる。

臓器におけるIFTTT(イフト)

画像クレジット:SIphotography / Getty Images

米国政府のデータによると、同国では3万9000件の臓器移植が行われた。臓器移植が頻繁に行われるようになったことで、配分ネットワークの戦略を細かく調整するために利用できるデータセットは次第に増加し、結果的に移植に成功する臓器の数は増えている。

「現在、当社は臓器提供プロセスに予測分析を導入するプロジェクトに取り組んでおり、レシピエントがこの臓器を受け入れた場合の生存確率に関する分析を検討している」とパットナム氏は述べる。逆に臓器提供を断った場合「同程度かそれ以上の臓器が提供されるまでの確率と期間」の予測も行う。UNOSは現在、これらの変更について顧客からのフィードバックを得るための導入試験に取り組んでおり、また、臓器提供という非常にセンシティブな面を考慮し、アルゴリズムにおける極めて明確な説明性を確保している。

また、2020年からは「オファーフィルター」と呼ばれる機能も試験的に導入している。これは、移植センターが、臓器適合の可能性に関する意思決定をより自動化するために使用するものだ。パットナム氏は「当社が行ったことは、過去の腎臓の受け入れデータを見て『移植センターが受け入れるはずがないとわかるオファーがあるかどうか』を調べることだった」という。

UNOSのニューマン氏は「これまでも、移植センターが設定できるスクリーニング基準はあったが、オファーフィルターにより『70歳以上のドナーを絶対に受け入れないということはないが、70歳以上に加え到着までに6時間以上かかる場合は、関心がない』というように、もう少し細かなフィルタリングができるようになった」と述べる。UNOSでは、2021年の後半には全米へ展開したいとしている。

臓器提供の未来

臓器調達のプロセスは非常に重要だが、過去10年間に得られた成果の多くは、結局のところITアプリケーションの進歩とその実装によるものだ。多くのスタートアップの創業者やベンチャーキャピタリストの強い関心を集めるテーマは、臓器を必要としている患者のためにその入手性を根本的に変えることができる「ムーンショット」となるアイデアの実現性だ。

ドローンを使って臓器を届けるというプロジェクトは、すでに試行が始まっている。ギフト・オブ・ライフのネイサン氏は「現在、ドローンを使った試みは行われており、実際に1件の例がある」といい、さらに「メリーランド州にも実験を行っているグループがある」と付け加える。同氏は、数百マイル(数百キロメートル)に及ぶ場合もある臓器の移動距離や、臓器が受ける損傷の可能性を考えると「臓器を危険にさらしたくはないから」と、このテクノロジーにはやや懐疑的だ。

また、臓器調達機関に登録されている患者の中でも最も移植が優先されるレシピエントに臓器を届ける時間を確保するため、阻血時間を長くする(あるいは完全になくす)ことを目的とした低温保存や温灌流保存などのテクノロジーがある。現在、いくつかの装置やシステムが米国食品医薬品局(FDA)の審理を受けており、今後10年の内には実用化されると予想されている。

ライフソースのケミンク氏は、臓器生存率向上を目的とするテクノロジーの進歩により臓器の分配を改善できる2つの要素として、血液型の一致と年齢を挙げている。同氏は「AB型は最も少ない血液型のため、その血液型の臓器を待っている患者はあまり多くない」とし、タイミングよく「適合するレシピエントがいないかもしれない」ため、適したレシピエントが現れるまで、低温保存技術で臓器を「氷漬け」にしておくことができるかもしれない、という。同様に、提供される臓器はレシピエントのサイズに合っている必要がある。「12歳の子どもから心臓を摘出しても70歳のレシピエントに移植することはできない」と同氏はいう。体の大きさが合わないからだ。そして「適合するレシピエントが現れるまで、保存することができるようになれば、それはすばらしい進歩だ」と同氏は続ける。

また、循環器死(DCD)と呼ばれる、循環死したドナーからの臓器調達も進んでいる。ネイサン氏は「米国では毎年280万人の人が亡くなっているが、そのうち医学的に臓器提供に適しているのは2万人程度だ」という。それが、臓器提供を非常に長い時間待たなければならない理由の1つだ。

ハース氏は、このような状況下でも、臓器調達の方法が進歩したことで、移植可能な臓器が見つかる可能性が高まったと述べる。同氏は「2、3年前までは何も変わっていなかった。肝臓や腎臓などに限られていた」とし、しかし「ここ数年、心臓や肺の移植でより多くの人を助ける機会が生まれ、200件の心臓移植が行われた」と述べる。そして最終的には、これらの新しいテクノロジーによって「DCDによる心臓のドナープールを30%拡大できると考えている」と続ける。

最後に「異種移植」と呼ばれる、動物から人間への臓器移植について見てみよう。このような実験は、何十年も前から行われているが、目立った進歩は見られない。ハース氏は「異種移植については、常に10~15年先といわれてきた」と述べる。とはいえ、CRISPR(クリスパー)のような新しい技術により、近年、この分野での進歩が見られ、人間の臓器の不足を動物の臓器で解決する道が開かれる可能性もある、と同氏は説明する。

しかし、このような変革や新しいテクノロジーがあっても、米国における臓器の根本的な課題は変わらない。命を救うためには、人々が「イエス」にマークする必要があるのだ。「最も必要としているのは、臓器提供にイエスと答えてくれる人を増やすことだ。臓器提供の意思表示をしてもらわないと、誰も移植を受けられないのだから」とケミンク氏はいう。現在、米国民の約半数が臓器提供の登録をしている。この課題を解決するためには、技術的な問題ではなく、人々に命の力、そして自分が他の人に提供できるものを思い出してもらうことが重要だ。

画像クレジット:PIERRE-PHILIPPE MARCOU / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テレビを利用する弱視の治療法を開発するスタートアップLuminopia

子どもの頃に「弱視(lazy eye、amblyopia)」と診断された場合、選択肢は限られている。眼帯をつける、目薬をさす、矯正レンズをつけるなどだ。FDA (米食品医薬品局)の承認待ちではあるが、将来的にはテレビを見ることが加わるかもしれない。

それが、Scott Xiao(スコット・シャオ)氏とDean Travers(ディーン・トラバース)氏が率いる4人組のスタートアップであるLuminopia(ルミノピア)の構想の核だ。シャオ氏とトラバース氏は、6年前にハーバード大学の学部生としてLuminopiaを立ち上げた。彼らは、子どもの頃に弱視に悩まされていた同級生から、初めて弱視について聞いた。弱視は、小児期の視力低下の中で最も一般的なもので、子どもの100人に3人の割合で発症すると言われている。

弱視は人生の早い段階で起こることがある。何らかの原因で、片方の目の機能がもう片方の目に劣っている状態になる。片目の筋力が不足している場合や、片目がはるかに良く見える場合、白内障などで片目の視力が低下している場合などがある。時間が経つにつれ、脳は片方の視力に頼ることを覚え、もう片方の目が弱くなり、最終的には重度の視力低下につながる。

弱視の一般的な治療法は、弱い方の目を強化する点眼薬、矯正レンズ、眼帯などだ。Luminopiaのソリューションは異なる。子どもたちはVRヘッドセットでテレビを見る。その際、番組のパラメーターを少しだけ変える(同社はSesame Workshop、Nickelodeon、DreamWorks、NBCと契約し、100時間以上のコンテンツを提供している)。コントラストを強くしたり弱くしたり、弱い目が強い目に追いつくよう、画像の一部を削除したりする。

「我々は、画像のパラメーターをリアルタイムで変更しています。弱い方の目を多く使わせるように促し、患者の脳が両目からの情報入力を組み合わせるよう仕向けます」とシャオ氏はいう。

9月には、105人の子どもを対象とした無作為化比較試験の結果が発表された。子どもたちは全員、常時メガネをかけていた。そのうち51人が、Luminopiaのソフトウェアで修正されたテレビ番組を週6日、12週間にわたって1時間ずつ視聴した。

全体として、治療グループの子どもたちは、標準的な目のチャートで1.8段階改善された(12週間後の追跡調査では、2段階以上改善された子どももいた)のに対し、比較グループでは0.8段階だった。

この研究はOphthalmology誌に掲載された。

Luminopiaはまだ小さな企業で、従業員はわずか4人だ。しかし、Sesame Ventures(Sesame Workshopのベンチャーキャピタル部門)や、Moderna(モデルナ)の共同創業者で現在はLuminopiaの取締役を務めるRobert Langer(ロバート・ランガー)氏、Sesame Workshopの元社長兼CEOのJeffrey Dunn(ジェフリー・ダン)氏などのエンジェル投資家からの投資により、これまでに約1200万ドル(約13億1000万円)を調達した。

同社の特徴は、弱視や医療全般に共通する問題であるアドヒアランス(治療方針の順守)に対する独自のアプローチにある。

弱視の治療法が継続しにくいことを示す証拠がいくつかある。サウジアラビアの病院で行われたある研究では、弱視治療のためにアイパッチを使用している子を持つ37家庭を対象に調査が行われた。研究の対象となった子どもたちは、指示されたパッチの使用時間の約66%しか装着していなかった。子どもたちの家族は、アイパッチの推奨時間を守れなかった理由として、社会的な偏見、不快感、本人がパッチの装着をまったく受け付けなかったことなどを挙げた。

2013年にInvestigative Ophthalmology & Visual Science誌に掲載されたある研究では、152人の子どもたちがどれだけアイパッチの処方を守ったかを分析した。それによると、子どもたちが期間中の約42%の間、アイパッチをまったく着用していなかった。

Luminopiaの創業者らは弱視の治療法開発にあたり、最初にアドヒアランスの問題に取り組んだ。消費者向け製品の世界から借りてきた戦略だ。

「我々は、消費者向け製品の世界と医療の世界とでは、得られるエクスペリエンスに大きなギャップがあると考えてきました。消費者向けの世界で提供さえるモノは非常に考え抜かれ、喜びをもたらすものですが、医療の世界におけるエクスペリエンスは貧しく、アドヒアランスの低下につながることが多いのです」とトラバース氏は語る。

子どもにとってテレビを見ること以上に魅力的なことはないとシャオ氏は語る。今回の試みで、その仮説が証明されたようだ。研究に参加した子どもたちは、必要とされるテレビ視聴時間の88%を達成した。また、94%の親が、アイパッチよりもこの治療法を使う可能性が高い、または非常に高いと答えた。

だが重要なのは、データを入手し、FDAの承認を得て、そのような「喜びをもたらす」治療体験が実際に機能し、アドヒアランスの問題を克服できると証明することだ。Luminopiaは最近、9施設で84人の参加者を対象にしたパイロット・シングルアーム試験について発表した。その第1段階として、10人の子どもを対象に実施したところ、子どもたちは定められた時間の治療を78%完了したことがわかった。また、子どもたちの視力は、標準的な視力表の約3段階に相当する改善が見られた。この結果はScientific Reportsに掲載された

ゲームや遊びをベースにした病気の治療法を検討を始めたのは、Luminopiaが初めてではない。FDAはすでに、同じ系統の他からの提案を多少なりとも支持している。

Akili Interactiveは2020年6月、子どものADHDの治療に使用するビデオゲームについて、De Novo申請(過去に同様の医療機器が存在しない場合の申請)を通じてFDAの承認を得た。この承認は、病気の治療にビデオゲームを承認した初めての例となった。Crunchbaseによると、Akili Interactiveは合計で約3億110万ドル(約331億円)の資金を集めた。

Akiliのゲーム「EndeavorRx」は、Luminopiaが真似できるかもしれない承認への道筋を示している。LuminopiaはEndeavorRxと同様、処方箋のみの治療サービスで、前例はない。LuminopiaもDe Novo申請により、2021年中にFDAの承認を得る予定だとシャオ氏はいう。最新のピボタル試験のデータは、2020年3月にFDAに提出されている。

「年内には審査結果が出ると思います。良い結果であれば、2021年発売できると考えています」とシャオ氏は述べた。

画像クレジット:Luminopia

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

3Dプリント義足事業を展開し日本発のグローバルスタートアップを目指すインスタリムが2.4億円のシリーズA調達

3Dプリント義足事業を展開し日本発のグローバルスタートアップを目指すインスタリムが総額2.4億円のシリーズA調達

3Dプリンティングおよび機械学習(AI)技術を活用し3Dプリント義足を海外で製造販売しているインスタリムは9月30日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額2億4000万円の資金調達を完了したと発表した。引受先はインクルージョン・ジャパン、Mistletoe Japan、慶應イノベーション・イニシアティブ、三菱UFJキャピタル、ディープコア。

インスタリムは、低価格・短納期の3Dプリント義足をフィリピンで製造販売する日本発のスタートアップ。単なる試供品の提供ではなく、事業化の前提となる「カスタム量産体制」(マス・カスタマイゼーション)が構築された3Dプリンター・CAD義足事業として世界初(同社調べ)としている。このカスタム量産体制とは、ユーザー個人のニーズに応じたカスタマイズと、大量生産並みの低コストな供給を両立する生産システムを指すという。義足の提供には患者ごとの断端(切断部)の形状に合わせた製造が不可欠であるため、世界的な普及には、低コストな大量生産とパーソナライズされた受注生産を兼ね備えた提供が不可欠としている。

同社は、今回の資金調達に加えて、経済産業省による事業再構築補助金、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による課題解決型福祉用具実用化開発支援事業などの支援を得ている。

これらにより、現在のフィリピンの首都圏に限られている販売網を地方都市にも複数拠点化し全国展開する。現地製造販売体制の強化やマーケティング施策を通じたグロースの実現も図る。また、より多くの層の人々が義足を購入し就業できるよう、初期出費を抑えたサブスクリプション販売形式を新たに構築するという。

さらに、次なる展開国としてインド(予定)での事業展開を目指す。アフターコロナの情勢に対応した、測定・試着・製品提供までを完全リモートによる非対面での義足製造販売システムの開発も進めるとのこと。

従来義足は、医学知識を持った義肢装具士がユーザーごとの体に合わせ医学的に最適な形状のものを手作りしていることから、価格30~100万円と高価で、また1カ月程度の納期を要しているという。このため、障害者への社会的支援が不十分な開発途上国においては、義足を購入できない方は仕事に就くなどの社会参画が困難となっており、深刻な社会課題となっているという。

そこでインスタリムは、3DプリンティングとAI技術により約1/10の水準の価格と納期を実現し、2019年よりフィリピンで製造販売を行なっている。コロナ禍による移動制限や経済状態の悪化が続いている中でもすでに400人以上のユーザーがおり、1600人以上(2021年8月現在。同社の義足が欲しいが、現在購入できないために引き続き情報提供を希望するという切断患者を掲載したウェイティングリストの患者数)が同社の義足提供を待っている状態という。

同社は、「必要とするすべての人が、義肢装具を手に入れられる世界をつくる」というビジョンの実現に向けて、日本発のグローバルスタートアップ、SDGsスタートアップとして社会課題の解決を目指すとしている。

 

発達障害支援施設向けVRプログラム「emou」が業界初の復職支援VRカリキュラムを精神科専門医と開発

発達障害支援施設向けVRプログラム「emou」が業界初の復職支援VRカリキュラムを精神科専門医と開発

発達障害者のためのVRを使ったソーシャルスキルのトレーニングプログラム「emou」(エモウ)を開発運営するジョリーグッドは9月30日、医療機関や施設向けに、精神障害のために離職・休職している人の再就職・職場復帰を支援する「リワーク特化型VRカリキュラム」を開発したことを発表した。復職支援にVRが使用されるのは、業界初とのこと。

行政独立法人労働政策研究・研修機構が2013年に発表した「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」によれば、精神障害のために離職した人のうち、復職できた人は平均45.9%と少なく、復職を果たした人でも、1年後には約半数が再び離職しているという。

https://youtu.be/EhjOJmS4v1w

精神障害で休職している方の復職率。行政独立法人 労働政策研究・研修機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査

ジョリーグッドは、精神障害を持つ人の就労移行支援を行うAAA suport(「emou」導入企業)の協力で2020年2月から9月に調査を行った。その結果、「emou」のVRカリキュラムを受講して復職した11人(就労経験あり)のうち、1年後も仕事を続けていた人は10人、つまり職場定着率91%と高い成績が示された。そこから、このカリキュラムの開発が始まった。

精神科医の中嶋愛一郎氏監修のもとで開発されたこの「リワーク特化型VRカリキュラム」は、職場での基本的なコミュニケーションスキル、上司や同僚への気づかい、飲み会の断り方、再就職面接の練習などが訓練できる12のコンテンツで構成されている。中嶋氏は「このプログラムでは、VRを使ったリアルな体験をもとに、再発を防ぐために重要なことを学ぶことができます」と話す。

今後は、精神障害で休職・離職中の人の復職・再就職の支援を行う医療機関、精神科デイケア、訪問看護ステーション、就労移行支援事業所などにサービスを拡大してゆくとのことだ。

医師が子供の肺の音を遠隔で聴くことができるStethoMeのスマート聴診器

自分や子どもが呼吸器系の病気になったとき、何が起きているのかを時々刻々と探り、そして治療がどの程度うまくいっているのかを把握することは、ストレスやフラストレーション、不安をともなう作業だ。現在のような呼吸器系疾患のパンデミックの中では、それは本当に大変なことだと思う。

今週開催のTechCrunch Disrupt Startup Battlefieldに参加するチームStethoMe(ステソミー)は、喘息持ちの子どもとその親のために、この問題を少しでも軽減しようと考えている。同チームが作成したのはスマートなコネクテッド聴診器だ。この聴診器は親が自宅で肺の検査を行う際に役立つもので、子どもの主治医に対して高音質の録音を送ったり、機械学習を利用して潜在的な懸念事項を発見したりすることができる。

これがその装置だ。

画像クレジット:StethoMe

デバイスの電源を入れ、携帯電話から検査内容を指示すると、ビルトインスクリーンが手順をガイドしてくれる。胸のどの位置に機器を置くか、部屋の中が静かかどうかなどをデバイスが教えてくれるのだ。6〜8カ所を測定した後で、呼吸数や心拍数、そしてウィーズ音(笛のような音)やラッセル音(液体によるゴボゴボした音)、クラックル音(ブツブツ、プツプツ、バチバチなどの破裂性、断続性の音)などの音声異常を検出したかどうかなどの詳細なレポートを提供する。

そこから、レポートへのリンクを子どもの主治医に直接送ることができて、医師は胸の各ポイントから録音された音声を聞くことができる。一方、音響分析グラフ(スペクトログラム)は、各録音の概要を視覚的に示し、システムが検出した異常をフラグとラベルで表示する。そのレポートは以下のようなものだ。

画像クレジット:StethoMe

この情報は、両親や医師が喘息発作をより早く、より正確に発見するのに役立ち、また薬の長期的な効果を判断するのにも役立つ。つまり、検知しにくい症状を緩和するために、ある薬が他の薬よりも優れているかどうかという判断だ。投与量を少し増やして効果はあっただろうか?

共同創業者のWojciech Radomski(ヴォイチェフ・ラドムスキー)氏によれば、彼らの製品は、すでにEUではAIとデバイスの両方に対してCEマークを取得して医療機器として認証されていという。また米国におけるFDA認証プロセスは現在進行中だ。

TechCrunch Disruptで同社は、ポーランドの保健省が1000台のデバイスを購入し、今後半年間で100人以上の医師とパイロットテストを実施するという契約を締結したことを発表した。ラドムスキー氏は「この1カ月間だけで、すでに7万回以上の録音が行われたました」という。

個人的な話になってしまうかもしれないが、私はこのアイデアがとても気に入っている。私は幼少期に喘息を患っていた。一時期私は喘息に支配されていて、たとえお医者さんが一旦喘息を鎮めてくれたとしても(ああ、科学の力に感謝します)、6歳の私は喘息の発作が起きているか、起きようとしているといつも思い込んでいた。息ができないという恐怖感が、押しつぶされそうな不安感を引き起こし、それが息ができないと思い込ませたのだ。現時点では、私がこの製品の効果について語ることはできないが(それはFDAの仕事だ)、私はこの製品を梱包してタイムマシンに入れ「これを使って、楽に息をしてくれ」というメモも添えて1993年の幼い私に送り返すことができたらと思う。(そしておそらく「追伸:ビットコインを早めに買うこと」とも書き添えて。まああまり過去を狂わせてはいけないだろう)。

StethoMeによれば、現時点で数回のラウンド(40万ドル[約4400万円]のプレシード、200万ドル[約2億2000万円]のシード、250万ドル[約2億7500万円]のシリーズA)を実施し、ポーランドの国立研究開発センターから300万ドル(約3億3000万円)近くの助成金を受けている。

画像クレジット:StethoMe

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(文: Greg Kumparak、翻訳:sako)

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

東京大学大学院工学系研究科は9月17日、世界最軽量でもっとも薄い皮膚貼り付け電極を開発し、1週間の心電計測に成功したと発表した。詳細は、米科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要」オンライン版で公開されている。医療、ヘルスケア分野での病気や体調不良を早期発見するウェアラブルデバイスへの応用が期待されるという。

東京大学大学院工学研究科の王燕特任研究員、李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授を中心とする研究チームが開発したこの皮膚貼り付け電極は、シリコンゴムの一種であるジメチルポリシロキサンを、数層のポリウレタンナノファイバーで強化して作られたナノシート(厚さは100万分の1mm以下)。伸縮性があり、日常的な摩擦にも耐えられる。糊や粘着性ゲルを用いず、物理的な力「ファンデルワールス力」(ヤモリが壁にへばりつくのと同じ原理)で吸着するため、皮膚への負担が少なく、ガス透過性が増し、汗が溜まったり皮膚が蒸れたりかぶれたりすることが防げる。このナノシートの上に薄膜金を形成して電極にしている。

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

ナノシートは、糊や粘着性ゲルを用いず、物理的な力「ファンデルワールス力」(ヤモリが壁にへばりつくのと同じ原理)で吸着するため、皮膚への負担が少ないという。この上に薄膜金を形成して電極にしている

左は肌に貼り付けたところ。右は拡大写真

左は肌に貼り付けたところ。右は拡大写真

ゲルを使って貼り付ける電極では、1日以上貼り付けると乾燥してしまい、貼り付けた直後と同等の信号計測ができなくなる。このナノシートでは、貼り付けた直後と1週間後に、貼り付けたばかりのゲル電極と同等の信号計測ができた。

発達障害支援VRのジョリーグッド社長が提言「職場・学校でもソーシャルスキルを学ぶ機会を」

ジョリーグッド代表取締役上路健介氏

少子高齢化に端を発する人手不足が深刻化する中、多様な人材に長く働いてもらうことが重要になってきている。発達障害や精神疾患を抱える人々も例外ではない。医療福祉系VRビジネスを開発・展開するジョリーグッドは、発達障害支援施設向けVRサービス「emou」(エモウ)を提供している。VRゴーグルを装着してバーチャルな環境でコミュニケーションを学ぶサービスだ。VR技術によって障害者支援はどう変わるのか。同社代表取締役の上路健介氏に話を聞いた。

「VRで発達障害支援」が事業化するまで

ジョリーグッドは2014年5月創業の医療VRサービス事業者だ。医師の手術を360度リアルタイムで配信・記録する医療VRサービス「オペラクラウドVR」、発達障害の方の療育をVRコンテンツで行う発達障害支援施設向けVRサービス「emou」、薬などを使わずにうつ病などの病気を治療するデジタル治療VRサービス「VRDTx」(未承認開発中)を中心にビジネスを展開している。

創業者でもある上路氏がテレビ業界出身だったことから、ジョリーグッドはメディアや制作プロダクション向けのVRコンテンツ作りのサポートから事業をスタートした。その後観光業向けのVRブームが起こり、それに関連したVR活用セミナーを開催したところ、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンから高い評価を受けた。それがきっかけとなり、2018年11月に同社と医療研修VRを共同開発することを発表。医療VRビジネスを開始した。

そうこうしているうちに、ジョリーグッドの医療VRサービスのことを聞きつけた発達障害支援施設の関係者などから「ジョリーグッドの技術は発達障害の人が苦手とするソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)に活用できるはず」と声をかけられ、emouを開発するに至った。

上路氏は「当時の私は発達障害のことをよく知りませんでした。ですが、こうして声をかけていただいて、VR技術の新しい活用方法を開拓することができました」と振り返る。

発達障害とソーシャルスキルトレーニング

では、発達障害とはどんな障害なのか。

厚生労働省によると、発達障害とは「生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態」だ。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが発達障害に含まれる。

発達障害の人はソーシャルスキルに課題を抱えることが多い。ソーシャルスキルとは、社会の中で周りの人と協調して生きていくための能力だ。コミュニケーションを取るためのスキルとも言い換えられる。

「ソーシャルスキルとひと言でいっても、その内容は多岐にわたります。声の大きさ、話し方、会話をしている最中の相手への配慮などが含まれます」と上路氏はいう。

ソーシャルスキルが試される場面は数多くあるが、仕事でミスをした時の対応の仕方、周りの人が噂話をしているときの立ち回りなど「気まずい空気」に対処する時を想像してもらえるとわかりやすいだろう。

さらに同氏によると、ソーシャルスキルを鍛える機会がなかったために、学校や職場などでコミュニケーションに失敗し、その経験がトラウマとなって社会に出たくなくなってしまう発達障害者もいるという。そのため、ソーシャルスキルを身につけ、強化する訓練であるSSTは重要なのだ。

上路氏は「大切なのは、発達障害を抱える人たちが学校や職場などの『社会』で経験するであろうさまざまな場面を事前に予習し、人やコミュニケーションに対する恐怖を取り除くことです。SSTはいわば『社会の予習』なのです。発達障害を抱える人の状況はそれぞれ異なりますし、症状の重さも多様です。『人に向き合うのがもう無理』という方もいます。1人ひとりに合わせて『まずは外の景色を見せる』『動物を見せる』『人を見せる』というように、段階的に、何回でも安全なVR空間でコミュケーションを練習してもらうことがSSTでは重要です」と話す。

「発達障害者支援」の課題

「VRでSSTを行う」と聞くと、それだけで画期的に聞こえる。しかし、実際のところ、発達障害支援施設ではVRを必要としているのだろうか。発達障害支援施設にはどんな課題があるのだろうか。

上路氏は「支援施設ではSSTを行いたくても、SSTのマニュアルがなかったり、カリキュラムがなかったりする施設は珍しくありません。また、SSTを行う指導員の育成にも時間がかかります。VRを使用しないSSTは、指導員による寸劇や紙芝居で行われます。『Aさんがこんな行動に出ました。Bさんがこんなことを言っています。あなたはどうしますか?』という具合に、特定の状況を再現し、適切な対応を学んでいきます。この時、発達障害を抱える方は想像することが苦手なため、受講者の理解の深さは指導員の演技力や個人の能力に依存してしまいます」と問題を指摘する。

それだけではない。寸劇や紙芝居でのSSTは、現実に起きるであろうあらゆるシチュエーションを発達障害者に見せ、イメージさせることで、実際の「その場面」に備えさせるものだ。しかし「その場面」にまだ遭遇していない発達障害者にとっては、イメージすること自体が非常に難しい。

「中にはイメージ作業そのものが負担になり、SSTを嫌いになってしまう方もいるんです」と上路氏。

だが、VRを使ったSSTでは、発達障害者はVRを通して「その場面」を擬似的に体験できるため「イメージする」という作業がなくなる。さらに、没入感の強いバーチャル空間をゲーム感覚で体験することもでき、SSTを楽しむ人もいるという。

支援施設の課題はSSTだけではない。発達障害支援施設の数は年々増しており、当事者やその家族がより良い施設を選ぼうとしているのだ。施設間の差別化や競争が始まっている。

「現状、支援施設は独自のツールとノウハウでSSTを行っています。そのため、支援施設の違いや個性が見えにくかったり、指導員の質にばらつきが出ます。emouのようなVRとSSTコンテンツがセットになったものを使えば、同じクオリティのコンテンツで何人もの施設利用者にSSTを行えます。指導員の教育コストを下げることもできます。さらに、『VRを活用している』ということでプロモーションにもなります。実際、emouを導入した支援施設で、導入をきっかけにメディアに取り上げられたところもあります。支援施設のビジネスというのは、定員を満たさないと十分な利益が出せません。なので、プロモーションや差別化というのは非常に重要な問題なのです」と上路氏はいう。

コミュニケーションで問題を抱えているのは障害者だけ?

emouは、SSTコンテンツのサブスクリプションサービスだ。360度のVR空間で「挨拶」「自己紹介」「うまく断る」「自分を大事にする」「気持ちを理解し行動する」「仲間に誘う」「仲間に入る」「頼み事をする」「トラブルの解決策を考える」など、100以上のコンテンツを利用することができる。

emouには指導員向けの進行マニュアルと導入マニュアルも含まれており、SSTの実績がない施設や、SSTの経験が浅い人材でも一定の質でSSTを実施できる。

導入開始時に導入初期費(5万5000円)、VRゴーグルにかかる機材費(3台で19万8000円、こちらは導入施設が買取る)、月々5万5000円のサービス利用費がかかる。翌月からはサービス利用費の支払いだけで良い。導入施設で準備するのはコンテンツ管理 / SSTの進行管理のためのiPadのみとなる。

ここまで見てきたように、emouは発達障害者の支援のために開発されたサービスだ。しかし、emouの開発と活用が進むにつれ「SSTが必要なのは発達障害を抱える人だけではない」と上路氏は気づいた。

「うまく断るとか、自分を大事にするとか、頼み事をするとか、トラブルの解決策を考えるというのは、発達障害を持っていない人でも十分に難しいですよね。胸を張って『得意です』といえる人は多くないと思います。また、今はコロナ禍で学校に通えない子どももいます。これまでは学校がソーシャルスキルを学ぶ場として機能してきましたが、そうもいかなくなってきています。ソーシャルスキルは今や発達障害を抱える人だけではない、大人も子どもも巻き込んだ課題なのです。なので、企業の研修や、学校教育の一環として、emouが役に立つ可能性もあると思っています」と上路氏。

こうして発達障害者ではない層にも目を向ける中で、今上路氏が注目しているのがリワーク市場だ。

2020年に内閣府が発表した『令和2年版 障害者白書』によると、精神障害者数(医療機関を利用した精神疾患のある患者数)は2002年から2017年まで増加傾向が続いている。さらに、精神疾患による休職者のうち、職場に復帰できているのは半数以下だ。

上路氏は「復職者支援のために1企業にemouを1セット設置したり、emouのノウハウを生かしてVR産業医のようなサービスを展開することで、ソーシャルスキルに関わる課題を抱える人を助けることができるかもしれません。今後はリワーク市場を視野にサービスを充実させていきたいですね」と語った。

マイキャン・テクノロジーズが1.89億円調達、新型コロナやデング出血熱などウイルス感染症の重症化予測キット開発を加速

マイキャン・テクノロジーズが1.89億円調達、新型コロナやデング出血熱などウイルス感染症の重症化予測キット開発を加速

バイオ領域スタートアップのマイキャン・テクノロジーズは9月17日、第三者割当増資による合計1億8900万円の資金調達を発表した。引受先は、リアルテックファンド3号投資事業有限責任組合(リアルテックジャパン)、グロービス・アルムナイ・グロース・インベストメント1号ファンド(グロービス)、京都市スタートアップ支援2号投資事業有限責任組合並びにこうべしんきんステップアップ投資事業有限責任組合(フューチャーベンチャーキャピタル)、360ipジャパンファンド1号投資事業有限責任組合(360ipジャパン)。

調達した資金により、iPS細胞由来不死化ミエロイド系細胞(iMylc細胞)製品を使用した感染症の重症化予測キットの製品開発を加速させる。特に、デング出血熱や新型コロナウイルス感染症などのウイルス感染症に焦点を当て、体内にある抗体の質を測定することで重篤化を予測する新しいタイプの重症化予測キットを重点的に開発する。

マイキャン・テクノロジーズは、再生医療技術を用いてヒトiPS細胞などから誘導した不死化ミエロイド系細胞(Mylc細胞。免疫細胞の1つ。単球・樹状細胞などが含まれる)を作製・供給する技術を有している。大量製造により安定的・継続的な供給が可能なため、研究用細胞として、デングウイルスや新型コロナウイルスなどの感染症や、免疫の研究などに使用されているという。

Mylc細胞は、ヒトの免疫反応を生体に近い状態で再現することが可能な細胞。ウイルスや微生物が存在すると、Mylc細胞に感染し微生物が増殖したり、逆にMylc細胞が防御のため炎症性サイトカイン(IL-6など)を産生したり、生体で起こる反応を示す。このような免疫反応において、被検体(血液・血清など、検査対象の抗体)があると、感染・防御の反応性が大きく異なることがわかってきたという。そこで同社は、これら反応を基にした、再生医療の技術を活用した世界初のウイルス感染症重症化予測キットの開発・製品化を目指すとしている。

2016年7月設立のマイキャン・テクノロジーズは、再生医療の技術を使用した研究用血球細胞の提供を通じ、治療薬・ワクチン開発を支援してきた。今後は、より患者に近い製品も開発・提供したいと考えているという。同社の独自技術を用いて重症化を予測する検査薬事業を展開することで、「感染症に怯えず暮らせる社会」実現にむけてさらに一層貢献するとしている。

ピルのオンライン診察アプリ「スマルナ」のネクイノとENEOSが次世代ヘルスケアブース「スマートライフボックス」共同開発

ピルのオンライン診察アプリ「スマルナ」のネクイノがENEOSから資金調達、次世代ヘルスケアサービス「スマートライフボックス」共同開発

ネクイノは9月15日、ENEOSホールディングス(ENEOS)を引受先とする資金調達とともに、協業を開始したと発表した。シリーズBラウンドにおける資金調達は合計で約27億5000万円、創業以来の累計調達額は約35億円となり、今回の資金調達でシリーズBラウンドを終了としている。

また、予防医療の領域から健康課題に対し総合的にサポートする、専用無人ブース「スマートライフボックス」を共同開発し、9月15日より実証実験を開始した。

スマートライフボックスは、室内に設置した検査機器による様々なバイタルデータの計測と、そのデータを一緒に参照できる医療専門家とのビデオ通信によるコミュニケーションが可能という。プライバシーが保たれた静かな環境で医療専門家が健康課題に応じ、地域の医療機関への適切な受診についてアドバイスを受けられるとしている。

また実証実験として、三井不動産がららぽーと柏の葉(千葉県柏市)でリニューアルオープンした、まちの健康研究所「あ・し・た」内にスマートライフボックスを設置し、一般の方に医療専門家とのオンライン健康相談サービスを無償提供する。利用の際は、スマートフォンやPCなどより専用アプリを通じ、本人確認と予約を行うと入室可能となる(ウイルス感染症対策として、室内には消毒除菌機器を装備している)。

内容については、ネクイノの女性向け健康相談サービスの提供からスタートし、実証実験地域の方の対象拡大と、提供サービスの内容拡充を2022年3月末まで順次実施する予定。

ネクイノが運営する婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォーム「スマルナ」(Android版iOS版)では、アプリ内で助産師・薬剤師が対応する「スマルナ医療相談室」において1日平均400〜500件の医療相談対応を行うほか、服薬指導も実施。健康への関心や受療行動の変容のきっかけとなる婦人科領域を中心にサービスを提供している。

医療の新しいスタンダードの実現を目指すネクイノは、医療DXへの動きを加速させるサービス展開を行うための次のステップとして、ENEOSが有する顧客基盤を活用し、医療へのアクセス改善および医療のコミュニケーションの質の改善など、各種ヘルスケアサービスを生活圏内の自宅以外の場所で提供すべく「スマートライフボックス」を共同開発した。

またENEOSは、利便性の高いサービスをトータルで提供するプラットフォームの構築を目指しているという。同プラットフォームでは、ヘルスケア分野で提供するライフサポートサービスの1つとして、各地域の特色や医療アクセスを考慮したサービスの検討を進めており、同実証がヘルスケアにおける第1弾の取り組みとなる。

今回の協業により、スマートライフボックス実証実験において中核となる、サービス基盤の開発に両社で取り組み、利用しやすく質の高いヘルスケアサービスの展開拡大を目指し、「新たな医療体験」を創出するという。

高度医療ロボのリバーフィールドが30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボのリバーフィールドが約30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧精密駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボット各種の開発を手がけるリバーフィールドは9月10日、第三者割当増資による総額約30億円の資金調達を発表した。引受先は、東レエンジニアリング、第一生命保険、MEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合(SBIインベストメント)をはじめ、事業会社、ベンチャーキャピタルなど。調達した資金により、同社独自の空気圧精密制御技術を用いた手術支援ロボットの上市を加速させる。

執刀医に鉗子先端にかかる力をリアルタイムで伝える力覚提示が可能な手術支援ロボットの上市を2023年1月に予定。またその他、次世代内視鏡把持ロボット、眼科用ロボットを2022年中に順次上市していく計画としている。

2014年5月設立のリバーフィールドは、大学で培ってきた技術を活かした医療ロボットを開発している大学発スタートアップ。東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の川嶋健嗣氏が創業者代表および会長、また東京工業大学准教授の只野耕太郎氏が代表取締役社長を務めている。

同社は、2003年から東京工業大学において手術支援ロボットの研究をスタート。当時、低侵襲外科手術支援用ロボットは優れたシステムである一方、操作を視覚に頼っており、触った感覚が操作者に伝わらないとの声が挙がっていたことから、空気圧システムによる精密駆動技術を手術支援ロボットに適用することでニーズに応えられると考えたという。

その後、先に挙げた力覚フィードバック実現のニーズと、研究室で有していた空気圧の計測制御技術のシーズを合わせ、空気圧駆動の手術支援ロボットを研究試作として完成させた。これらの研究成果を研究として終わらせず、社会・医療現場に実際に役立てたいとの思いから同社を起業したという。

独自光超音波3Dイメージング技術を手がけるLuxonusが約4.3億円調達、2022年中に医療機器の開発・生産および薬事申請準備

独自の光超音波3Dイメージング技術を手がけるLuxonusが約4.3億円調達、2022年に医療機器の開発・生産および薬事申請準備

Luxonusは9月10日、シリーズBラウンドにおいて、約4億3000万円の資金調達を発表した。引受先は、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタルなど。調達した資金により 2021年に研究機関向けの理化学機器の上市と、続く2022年中の医療機器の開発・生産および薬事申請の準備を行う予定。

Luxonusは、独自の光超音波3D/4Dイメージング技術(PAI-3D/4D。Photoacoustic 3D/4D Imaging)を用いて、疾患の早期発見および病勢診断が可能な汎用撮影装置の実用化を目指す大学発スタートアップ。科学技術振興機構(JST)による革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」(2014年度~2018年度に実施、慶應義塾大学と京都大学が参加)などの研究成果を基盤とし、2018年に設立された。

PAI-3D/4Dとは、生体にパルス光を照射した際に発生する超音波を超音波センサーで補足し、受け取ったデータをコンピューター解析し画像化する技術。既存撮影技術であるX線コンピューター断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像(MRI)などと比較して、造影剤を使用せずに無被ばくで血管を超高解像度3D/4D撮影することが可能としている。Luxonusは2019年から製品開発に取り組み、光超音波3D/4Dイメージング装置の製品プロトタイプの開発に成功し、3D画像に加え、リアルタイム3D(4D)画像の取得を実現した。血液の酸素飽和度などの3D/4D撮影、さらに色素造影剤を用いることでリンパ管を高解像度で3D/4D撮影可能。

また、慶應義塾大学病院および京都大学医学部付属病院は、ImPACT(内閣府・革新的研究開発推進プログラム「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」)で得られた臨床研究成果さらに発展させ、日本医療研究開発機構(AMED)「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」において、同装置を用いた疾患(末梢脈管疾患、リンパ浮腫、乳がんなど)と再建手術に関する臨床研究を進めており、今後研究成果を医学系学会などで発表予定としている。

・9月:第80回 日本癌学会
・10月:第17回 日本血管腫血管奇形学会
・12月:第5回 APFSRM2020 / 第48回 日本マイクロサージャリー学会

元Momentumの高頭氏、糖尿病患者向け海藻スーパーフードパウダーのTeatisで約7700万円のシード調達

シリアルアントレプレナーの高頭博志氏は、妻をがんで亡くしたことをきっかけに、重症患者の消費者のための便利で栄養価の高い食品の必要性を感じるようになった。

高頭氏は、2017年にステルスモードで糖尿病患者向けの植物性糖質制限スーパーフードパウダー「Teatis(ティーティス)」を立ち上げ、医師や管理栄養士のグループと手を組んで2021年4月に本格的に事業を開始した。

Teatisは米国時間9月9日、米国市場での成長を推し進めるために、シードラウンドで70万ドル(約7700万円)を調達したと発表した。このシード資金により、Teatisの資金調達総額は100万ドル(約1億1000万円)を超えた。

今回のシードラウンドは、Genesia Ventures石塚亮氏(メルカリの元CEOで共同創業者)、野口卓也氏(日本のスキンケアブランドBULK HOMMEの創業者兼CEO)が主導した。このほか、7名のエンジェル投資家が今ラウンドに参加した。

Teatisの共同設立者である高頭博志CEOはTechCrunchに、今回のシード資金は、1億2200万人の糖尿病患者および糖尿病予備軍が糖尿病に対する予防と治療に取り組んでいる米国での生産とマーケティングに使用されると語っている。同社は現在、生産拠点のある米国市場に注力しており、次の資金調達であるシリーズAは2022年に予定されていると同氏は付け加えた。

「当社商品を使用するお客様の大部分、約88%は糖尿病を疾患しており、当社のレシピは糖尿病患者の血糖値管理に役立つように作られています。膨大な数の米国人が糖尿病を患っており、栄養価が高く、便利で機能的な糖尿病患者向けの食品が求められています」と高頭氏は語る。

Teatisは、低糖質食品に関心のあるすべての消費者と、糖尿病予備軍のためにサプリメントを開発していると高頭氏はいう。Teatisの植物性パウダーは化学物質や甘味料を含まず、褐藻エキス(アラメ)などの日本では伝統的な原料を含んでおり、腸管からの糖の吸収を抑え、血糖値を下げることが証明されている。この低糖質パウダーは、お茶やラテにしたり、スムージーに加えたりすることが可能だ。

高頭氏は、米国の糖尿病向けミールリプレイスメント製品の市場規模は50億ドル(約5500億円)、米国の糖尿病患者向けパッケージ食品の市場規模は約3000億ドル(約33兆円)と推定している。

「当社は、食品科学とテクノロジーを融合し、食品とテレヘルスを通じて糖尿病患者の問題を解決します」と同氏は語る。

Teatisは、糖尿病患者の健康のための総合的なワンストップショップの構築を目指しており、2021年9月中に管理栄養士プラットフォーム「Teatis RD on Demand(オンデマンド登録栄養士)」を立ち上げ、食品、テレヘルス、レシピなど、糖尿病と闘う人々のためのフルサービスを提供開始する。

Teatis RD on Demandは、登録管理栄養士による1対1のプライベートセッションを提供する。従来の対面でのアポイントメントが30分あたり150ドル(約1万6500円)、遠隔アポイントメントが30分あたり90ドル(約9900円)であるのに対し、30分あたり29ドル(約3200円)からと、コストを抑えた設定になっている。

Genesia Ventures(ジェネシア・ベンチャーズ)投資マネージャーの相良俊輔氏はこう述べている。「この分野の既存プレイヤーの多くは、デジタルコンピテンシーやデータ主導方の生産方式を持たない古い企業です。高頭さんは、市場を掌握する資質と大胆さを備えた、実績あるシリアルアントレプレナーです。Teatisのすばらしいアイデアと製品が、今後、糖尿病やその他の慢性疾患に苦しむ多くの人々の助けになることを期待しています」。

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画像クレジット:Teatis

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

カケハシが薬局向け在庫管理・発注システム「Musubi AI在庫管理」提供開始、医薬品二次流通サービスPharmarketとも連携

カケハシが薬局向け在庫管理・発注システム「Musubi AI在庫管理」提供開始、医薬品二次流通サービスPharmarket」とも連携

調剤薬局向けクラウド「Musubi」(ムスビ)を開発するカケハシは9月8日、AIを活用し薬局の業務効率と在庫管理を効率化するシステム「Musubi AI在庫管理」の提供を開始した。

「Musubi AI在庫管理」は、Musubiのオプションサービスにあたる、AIを利用した薬局向けクラウド在庫管理・発注システム。薬局では、患者の症状の変化や処方内容の変更などにより、使用期限を迎えた医薬品の在庫を処分するリスクが常にあり、その損失額は年間280億円にものぼるという。

しかし、従来型の在庫管理・発注システムには在庫管理に適したコード体系がなく、適切な需要予測の難易度が高いことから、そうした調剤予定のない不動在庫を抱えないようにするには、これまでは薬剤師の勘と経験に頼って発注を行うしかなかった。

一方Musubi AI在庫管理では、AIを駆使した高精度な患者来局予測や独自コードによる在庫管理、患者ごとの処方情報の管理などを通じて、その問題に対処する。近く、店舗間在庫融通と受発注、在庫状況に関するレポート閲覧機能が追加される予定。これにより半自動化することで業務の属人化を防ぎ、「誰でも、より簡単に、より適切な」発注と在庫管理が可能になるという。

さらに、余剰在庫の買い取りや再販を行う医薬品二次流通サービス「Pharmarket」(ファーマーケット)と連携し、不動在庫を検知して、売却医薬品のレコメンドを行い、売却見積もりを作成する「らくトク売却」機能を追加したプランもある。これを利用すると、Pharmarketにおける医薬品の買取価格の割増、医薬品の購入価格の値引きといった特典が受けられる。実際の「らくトク売却」機能の提供は2022年からとなるが、申し込み時点から「Pharmarket」にて同じ特典が適用される。

このサービスは「Musubi」を導入している薬局が対象だが、未導入でもカケハシが提供する機器を設置することで利用が可能になる。

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円調達

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

ナノテクノロジー応用がん免疫薬(ナノ免疫薬)に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」(UI)は9月7日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による約5億円(4.995億円)の資金調達を実施したと発表した。引受先は、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、KISCO。

2017年11月設立のUIは、京都大学大学院工学研究科と三重大学大学院医学系研究科の長年の医工連携研究の成果を実用化すべく設立され、次世代ナノ免疫薬の基礎研究から臨床応用まで幅広く取り組んでいるという。

独自のナノ粒子型免疫デリバリーシステム(プルランナノゲルDDS)を活用した免疫活性化の基盤技術を活用し、難治性がんの治療薬や新型コロナウイルスワクチンの研究開発を手がけているそうだ。

調達した資金により、免疫チェックポイント阻害剤でも十分な薬効を示せない難治性がんの治療を目指す抗がん剤「T-ignite」、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験実施の準備(どちらもAMED CiCLE事業の支援で研究開発を推進中)、および他の自社研究開発プログラムの加速化を推進する。また、アステラス製薬子会社のXyphosと実施中の共同研究の加速、人材獲得を含めた経営体制の強化を推進する。

UIによると、今までの治療法が効かない免疫的難治性がん(cold tumor)の原因となっているがん組織内のマクロファージの機能をうまく調節できれば、免疫的難治性がんを治療感受性の(T細胞が豊富に存在し免疫的に活性化した)「hot tumor」に変換して、治療効果を発揮する可能性があるという。そこで同社は、治療成分を搭載したプルランナノゲル型ドラッグデリバリーシステム(DDS)を「T-ignite製品」と名付けて鋭意開発している。

例えば、静脈内投与されたT-igniteは、プルランナノゲル型DDSの働きによってがん組織内のマクロファージに選択的に取り込まれる。そこで、T-igniteに含まれる薬剤がマクロファージの機能で抗がん免疫を活性化する方向に調節することで、がん組織の中から免疫が活性化して、がんを難治性から治療感受性へ変換できると考えているという。搭載する薬剤や適応疾患の種類を変えることで、多様なT-ignite製品をシリーズ化するとしている。ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

放射線治療を最適化する「スマート放射線がん治療室」がNEDOの研究開発型スタートアップ支援事業に採択

放射線治療を最適化する「スマート放射線がん治療室」がNEDOの研究開発型スタートアップ支援事業に採択

「小型陽子線がん治療装置」の開発を進めるビードットメディカルは9月6日、国立成育医療センターとの共同研究「スマート放射線がん治療室の実用化開発」が、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発型スタートアップ支援事業「Product Commercialization Alliance」(PCA)に採択されたことを発表した。

陽子線治療は腫瘍をピンポイントで狙い撃ちにできる高度な治療法だが、誤って腫瘍周囲の臓器に照射すると大きなダメージをもたらすというリスクがある。そのため、治療前に照射位置を決める「患者位置決め」という作業が重要になる。しかし、それが治療時間の大部分を占め、治療室の占有時間も長い。特に子どもやお年寄りの場合は、さらに時間がかかる傾向にあるという。

ビードットメディカルによる「スマート放射線がん治療室」は、患者位置決めを治療室とは別の場所で行うという新たな試みで、AIスケジューラー、患者を自動走行で運ぶシャトル治療台、位置決めを行う3次元カメラなどの技術を組み合わせたシステムとなっている。これが実用化されれば、治療室の1人あたりの占有時間を短縮でき、より多くの患者の治療が可能になる。

今回、PCAに採択されたことで、ビードットメディカルはこの「スマート放射線がん治療室」の開発に着手し、同時に「小型陽子線がん治療装置」の開発も加速するとのこと。

放射線治療を最適化する「スマート放射線がん治療室」がNEDOの研究開発型スタートアップ支援事業に採択

ビードットメディカルは、量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所認定のベンチャー企業。開発中の「小型陽子線がん治療装置」の開発は、NEDOとAMED(日本医療研究開発機構)の支援を受けた事業で、既存のX線治療室に収まるよう、大幅に小型化され、低価格化されるという。