廃棄木材を活用し二酸化炭素を大規模に除去するCarbo Cultureが6.7億円を調達

農業や林業から出る廃棄木材を使った大規模な二酸化炭素除去を構築するための工業工程に取り組んでいるCarbo Culture(カーボ・カルチャー)が、シリコンバレーVCのTrue Venturesがリードするシードラウンドで620万ドル(約6億7500万円)を調達した。本ラウンドは欧州のアーリーステージベンチャーファームCherry Venturesと共同でリードし、スイスの気候投資家Übermorgen Venturesも参加した。調達した資金はチームとプロダクト開発の拡大、そして欧州最大の二酸化炭素除去施設を建設するのに使われる。

太陽からのエネルギーは植物に光合成を促し、CO2を最終的に分解されて大気に再び戻る植物性物質に変える。Carbo Cultureはこの既存のプロセスを模倣していて、ただし早く行われるようにしている。

Carbo Cultureは自社のプロセスを「超急速コンバージョン」と表現する。このプロセスでは木質残留物が極めて高温で機能的なバイオカーボンに変わる。そして二酸化炭素を1000年間は分解されない木炭のようなものに「閉じ込める」。

木からCO2を除去するのと同様、廃棄木材からこのバイオカーボンを生み出す全プロセスは、文字どおり住宅を温めるのに使ったり発電するためにタービンを回したりするのに使うことができる再生可能な熱を生み出す。バイオカーボンの残りはバイオマテリアルや環境工学に使うことができ、他の汚染物質に置き換えたりガス化装置に使ったりし、また温室効果ガスの削減やおそらく土壌を改善するために農業で活用したりもできる。

このように、Carbo Cultureは主要プロダクトとして2つのものを販売する。二酸化炭素除去クレジットとバイオカーボンそのものだ。

CEOで共同創業者のHenrietta Moon(ヘンリエッタ・ムーン)氏は次のように述べた。「何十億トンという二酸化炭素を分離するために我々は時間との戦いを繰り広げています。そして我々は世界最大の削減メカニズムの1つである自然の炭素循環を完全に利用してすらいません。Carbo Cultureではバイオマスで二酸化炭素を分離し、1000年閉じ込めるものに変える画期的なテクノロジーで取り組んでいます」。

ラウンドをリードしたTrue VenturesのパートナーであるToni Schneider(トニ・シュナイダー)氏はこう語った。「ベンチャーキャピタルは持続可能な地球を作り出すという点で大きな役割を果たすべきだと信じています。そしてCarbo Cultureは地球が抱えている最も差し迫っている問題の1つを解決するために正しい要素を多く持っています。二酸化炭素の回収に対する需要は高まっていて、こうした需要に応えるには再考が必要です。ヘンリエッタと彼女のチームは経験、テクノロジー、情熱、そしてこの大きなアイデアを真に影響力のあるものに変える明白なビジョンを持っています」。

Cherry VenturesのパートナーであるSophia Bendz(ソフィア・べンズ)氏は次のように述べた。「Carbo Cultureは特許を取得したテクノロジーを通じて最も効果的なネガティブエミッション技術(二酸化炭素の排出を削減し、また過去に排出され蓄積している分も回収・除去する技術)の1つを作り出しました。同社が事業を拡大し、大量の二酸化炭素を大気から除去するのを心待ちにしています。ヘンリエッタとクリス、そしてチーム全体が創作力、テクノロジー面のノウハウ、スケール展開するのに必要な度胸、そして最も重要なものとして皆に影響を及ぼす大きな環境問題に取り組むという意思を持っています。このすばらしいチームと提携し、CO2を除去するという彼らのミッションをサポートすることにこの上なく心を躍らせています」。

Carbo Cultureの競合相手としてはClimeworks (1億4500万ドル、約158億円を調達)、Carbon Engineering、CarbFix、Charm Industrial、CarboFexなどがいる。

CTOで共同創業者のChristopher Carstens(クリストファー・カーステン)氏は「我々はなんとか生産能力をボリュームで8倍に拡大し、システムをさらに開発し、そして民間研究機関、顧客、大学とともにテストを開始することができました。現在、輸送用コンテナ規模のパイロットプラントをカリフォルニア州のセントラルバレーで動かしています。そこでは1時間あたり200ポンド(約90kg)超のバイオマスを処理できます」と述べた。

共同創業者2人は2013年にNASAのエイムズ研究センターであったシンガラリティ大学の3カ月のプログラムで出会った。

基礎的なテクノロジーはハワイ大学からライセンス提供されてきたが、共同創業者らはカーボンネガティブマーケットプレイスのPuro.earthによって独立して承認されてきたと話す。

Carbo Cultureはこのほど、初となるSouth Poleによる二酸化炭素除去クレジットの大規模(プレ)購入を発表した。

ムーン氏は「当社の二酸化炭素除去にかかるコストは現在、1トンあたり600ドル(約6万5000円)を上回っていて、2022年末までに400ドル(約4万3000円)に下げ、2024年までに200ドル(約2万1000円)を達成することを目指しています。当社は今後18カ月で大規模な施設を建設し、それは欧州最大の二酸化炭素除去施設の1つとなります」と説明した。

Carbo Cultureの新たな投資家にはAlbert Wenger(アルベルト・ウェンガー)氏、Gold&Green Foodsの創業者Maija Itkonen(マイヤ・イトコネン)氏、Geltor副社長Alex Patist(アレックス・パティスト)氏、既存投資家にはDavid Helgason(デビッド・ヘルガソン)氏、Moaffak Ahmed(モアファック・アーメド)氏、Lifeline Ventures、Paul Bragiel(ポール・ブラギエル)氏とDan Bragiel(ダン・ブラジエル)氏がいる。

科学者の大半は、二酸化炭素排出を抑制しながら大気から二酸化炭素を除去し、グローバルの気温上昇を摂氏2度以下に抑えて壊滅的な気候変動を避けるために2050年までにネットゼロエミッションを達成する必要があると信じている。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Carbo Culture資金調達木材二酸化炭素温室効果ガス

画像クレジット:Carbo Cultureの共同創業者。写真:Miikka Pirinen Copyright © 2021 Miikka Pirinen / Carbo Culture /

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

スタートアップにはバイデン大統領のインフラ計画を支持する110兆円分の理由がある

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領が2021年3月末に提案した膨大なインフラ投資計画概算で2兆ドル(約220兆円)の規模となり、大幅な増税もともなう。スタートアップとテクノロジー業界全体にとって、この計画の価値は実に1兆ドル(約110兆円)ほどになる。

テクノロジー企業は過去10年以上、農業、建設、エネルギー、教育、製造、運輸、流通といった昔からの業界に適用できるイノベーションの開発に取り組んできた。こうした業界は、非常に強力なモバイルデバイスの出現により、ようやく最近テクノロジー適応における構造的な障害が取り除かれた業界だ。

これらの業界は現在、より強固な経済再建を目指す大統領の計画の核となっている。バイデン政権が期待する取り組みの大半を実現するのは、スタートアップや大手のテクノロジー企業が提供するハードウェアサービスやソフトウェアサービスだ。米国を再び偉大にすべく費やされる何千億ドルもの資金は、直接的であれ間接的であれ、こうした企業にとって大きな後押しとなるだろう。

投資会社Energy Impact Partners(エナジーインパクトパートナーズ)のパートナーを務めるShayle Kann(シェイル・カン)氏は「バイデン氏の新計画に織り込まれている環境重視の投資は、ARRA(American Recovery and Reinvestment Act、米国復興・再投資法)における投資額のおよそ10倍の規模となる。これは、クリーンな電気や炭素管理、車両の電気化など、環境テクノロジーを扱う幅広い部門にとって大きな機会となるはずだ」と話している。

この計画の感触は多くの面でグリーンニューディールに似ているが、目玉は米国が切実に必要とするインフラの最新化、そしてサービスの改善だ。事実、エネルギー効率化はもはや新時代の建設の一部となっているため、グリーンニューディールの核であるエネルギー効率や再生可能エネルギーの開発計画を無視してインフラに投資することは難しい。

関連記事:バイデン次期大統領の気候変動対策はグリーンニューディールに依存しない

予算案のうち7000億ドル(約77兆円)以上は自然災害への耐性強化に用いられる。例えば、水道、電気、インターネットといった重大なインフラの改修や、公営住宅、連邦ビル、老朽化した商業不動産や住宅不動産などの復旧・改善だ。

また、別途4000億ドル(約44兆円)ほどの資金が、半導体など国内の重要な製造業の強化、将来のパンデミック対応、そして地域のイノベーションハブの立ち上げに投じられる。地域ごとのイノベーションハブは、ベンチャー投資とスタートアップ育成の促進を目指したもので「有色人種のコミュニティやサービスが行き届いていないコミュニティにおける起業家精神の向上を後押しする」ものとなる。

気候への耐性

2020年に米国を襲った数々の災害(および合計で推定1000億ドル、約11兆円ほどの被害額)を鑑みると、バイデン計画の焦点がまず災害対策に向けられていることにも納得できる。

バイデン計画の概要としては、まず500億ドル(約5兆5000億円)を融資に投じ、Federal Emergency Management Agency(連邦緊急事態管理庁)とDepartment of Housing and Urban Development(住宅都市開発省)のプログラム、またDepartment of Transportation(運輸省)の新たな取り組みを通じて、サービスが不十分で災害リスクが最も高いコミュニティにおける強化・保護・投資を行う算段だ。スタートアップに最も関係する点として、大規模な山火事や海水位の上昇、ハリケーンなどを阻止してこれらに備え、農業の新たなリソース管理を実現し「気候に強い」テクノロジーの開発を促進するための取り組みやテクノロジーには、積極的に資金が提供される。

バイデン氏の大がかりなインフラ戦略の大部分と同様、これらの問題にも解決に向けて取り組んでいるスタートアップが存在する。例えば、Cornea(コルネア)Emergency Reporting(エマージェンシーレポーティング)Zonehaven(ゾーンハーヴェン)などの企業が山火事におけるさまざまな側面の解決に取り組んでいる他、洪水予測や気候監視を行うスタートアップもサービスを展開し始めている。また、ビッグデータ分析、監視・感知ツール、ロボティクスといった分野も農場に欠かせない存在となりつつある。大統領がてがける節水プログラムやリサイクルプログラムについては、Epic CleanTec(エピッククリーンテック)をはじめとする企業が住宅ビルや商業ビル向けに廃水のリサイクル技術を開発したところだ。

米国再建物語

バイデン氏のインフラ投資計画で圧倒的な額を占めているのが、エネルギー効率の向上と建物の改修だ。実に4000億ドル(約44兆円)もの資金が、丸ごと住宅やオフィス、学校、退役軍人病院や連邦ビルの改修に充てられる。

Greensoil Proptech Ventures(グリーンソイルプロップテックベンチャーズ)Fifth Wall Ventures(フィフスウォールベンチャーズ)が立ち上げた新たな気候重視の基金は、バイデン氏の計画によってさらにその理論の信頼度を高めることとなる。2億ドル(約220億円)の投資手段を確立し、エネルギー効率と気候テックのソリューション事業に力を入れている基金だ。

フィフスウォールに最近参加したパートナーであるGreg Smithies(グレッグ・スミシーズ)氏は2020年、エネルギー効率の分野で建物の改造とスタートアップのテクノロジーに大きなビジネスチャンスが広がっていると述べている。

「この分野では、実入りが良く、すぐに着手できる案件が数多くある。これらの建物の価値は260兆ドル(約2京9000兆円)にも上るが、ほとんど近代化されていない。こうした老朽化物件に注力すれば、ビジネスチャンスは格段に広がるだろう」。

不動産の脱炭素化もまた、住民の暮らしの質と満足度を高められるだけでなく、世界的な気候変動への取り組みを大きく変える分野だ。フィフスウォールの共同設立者、Brendan Wallace(ブレンダン・ワランス)氏は、声明の中で「エネルギー全体の40%を不動産が消費している。世界経済は屋内で動いているのだ。不動産は炭素問題に大きく関与しているため、気候関連のテクノロジーへの出資が特に多い分野となるだろう」と述べている。

手頃な価格での住宅建設が難しい現状を鑑み、バイデン計画では、この障壁を取り除くための具体的な方策を講じる地域に報酬として柔軟な財政支援を行うよう、新しい補助金計画の議会成立を求めている。その一部に含まれるのは、米国の公営住宅のインフラ改修に使われる400億ドル(約4兆4000億円)の資金だ。

このプロジェクトには、すでにBlocPower(ブロックパワー)などのスタートアップが深く関わっている。

ブロックパワーの最高責任者兼設立者、Donnel Baird(ドネル・ベールド)氏は次のように述べている。「まさにヒーローの登場だ。バイデン・ハリス政権が発表した気候対策は、まさに米国の経済と地球を救うプランで、 「Avengers: Endgame(アベンジャーズ / エンドゲーム)」の現実版を見ている気分だ。過去5年間はやり直せなくても、スマートで大がかりな投資をして未来の気候インフラを整備することならできる。200万軒もの米国の建物を電気化し、化石燃料から完全に切り離す取り組みは、まさに米国への投資だ。新しい業界を生み出し、外国に流出しない雇用を米国人のために創出し、将来的には建物が排出する温室効果ガスを30%削減することにもなるのだ」。

連邦政府によると、スタートアップに直接影響する投資計画の中には、Clean Energy and Sustainability Accelerator(クリーンエネルギーおよび持続可能性促進法)の取り組みとして、270億ドル(約3.0兆円)を投じて個人投資を集める提案書が含まれている。この取り組みで重視されるのは、分散型エネルギー資源、住宅・商業ビル・庁舎の改造、そしてクリーンな運輸だ。サービスが行き届いておらず、クリーンエネルギーへの投資機会がなかったコミュニティに重点が置かれる。

未来のスタートアップ国家への資金提供

連邦政府は次のように発表している。「半導体の発明からインターネットの誕生まで、経済成長の新たな原動力となっている分野は、研究や商品化、強力なサプライチェーンなどを支える公共投資によって成長してきた。バイデン大統領は議会に対し、研究開発、製造、地域単位での経済成長、さらにはグローバル市場での競争に勝つためのツールやトレーニングを従業員と企業に提供する人材育成といった分野について、スマートな投資を行うよう呼びかけている」。

これを実現すべく、バイデン氏は別途4800億ドル(約53兆円)を費やして研究開発を促進する予定だ。このうち500億ドル(約5兆5000億円)は半導体、高度通信技術、エネルギー技術、およびバイオ技術への投資として国立科学財団へ、300億ドル(約3兆3000億円)は農村開発、さらに400億ドル(約4兆4000億円)は研究基盤の強化に充てられる。

また、インターネットを生み出したDARPAプログラムをモデルに、Advanced Research Projects Agency(国防高等研究計画局)の一機関として、気候問題に主眼を置いたARPA-Cの設立を目指す動きもある。気候専門の研究・実証プロジェクトに対する資金としては、200億ドル(約2兆2000億円)が投じられる。こうしたプロジェクトに該当する分野は、エネルギー貯蔵をはじめ、炭素の回収・貯留、水素、高度な核燃料、および希土類元素の分離、浮体式洋上風力発電、バイオ燃料・バイオ製品、量子計算、電気自動車などである。

製造業に資金投入するバイデン氏の取り組みでは、さらに3000億ドル(約33兆円)の政府財政援助を行う用意がある。このうち300億ドル(約3兆3000億円)はバイオプリペアドネスとパンデミックへの準備、500億ドル(約5兆5000億円)は半導体の製造・研究、460億ドル(約5.0兆円)は連邦政府による新たな高度原子炉、核燃料、自動車、ポート、ポンプ、クリーン物質の購買力向上に使われる。

これらすべてで強調されているのは、国内全体で公平かつ均等に経済を発展させるという点だ。そこで、地域のイノベーションハブに加え、刷新的なコミュニティ主導の再開発事業を後押しするCommunity Revitalization Fund(コミュニティ再生基金)に200億ドル(約2兆2000億円)が割り当てられ、農村部の製造業およびクリーンエネルギーの促進を目標にして、国内の製造業投資に520億ドル(約5兆7000億円)が割り当てられる。

さらに、スタートアップ関連では、スモールビジネスがクレジットやベンチャーキャピタル、研究開発費用を獲得できるよう支援するプログラムに310億ドル(約3兆4000億円)が投じられる。予算案では特に、有色人種のコミュニティやサービスが行き届いていないコミュニティの発展を後押しすべく、コミュニティベースのスモールビジネスインキュベーターやイノベーションハブへの資金提供を呼びかけている。

水道と電力のインフラ

米国のC評価のインフラが抱える問題は国内のいたるところで見受けられ、その内容も、道路や橋の崩壊、きれいな飲料水の不足、下水設備の欠陥、不十分なリサイクル施設、発電・送配電設備の増加し続ける需要に対応しきれない送電網などさまざまだ。

連邦政府の声明によると「配管や処理施設が全国で老朽化しており、汚染された飲料水が公衆衛生を脅かしている。推定では、600~1000万軒の住宅への飲料水配給でいまだに鉛製給水管が使われている」とのことである。

この問題に対処するため、バイデン氏は450億ドル(約4兆9000億円)をEnvironmental Protection Agency’s Drinking Water State Revolving Fund(環境保護庁州水道整備基金)とWater Infrastructure Improvements for the Nation Act(水道インフラ改善法)を通じた助成に充てる計画だ。こうしたインフラ交換のプログラムはスタートアップに直接影響することはないかもしれないが、飲料水・廃水・雨水の処理設備や水に含まれる汚染物質の監視・管理システムの改善にさらに660億ドル(約7兆2000億円)が費やされれば、水質検査やフィルタリングなどを扱うさまざまなスタートアップがここ10年以上市場にあふれていることを考えると、恩恵は大きい(事実、水道技術に特化したインキュベーターもあるほどだ)。

悲しい事実ではあるが、米国内の水道インフラの大部分は維持が追いついておらず、こうした大規模な資金投入が必要となっているのである。

また、水道に関して言えることは、近年電力に関しても言えるようになってきている。連邦政府によると、停電による米国の経済損失は年間700億ドル(約7兆7000億円)以上にも上る。この経済損失と1000億ドル(約11兆円)の出費を比較すれば、どちらがいいかは一目瞭然だろう。スタートアップにとって、この計算式で浮く金額はそのまま会社の利益につながる。

より耐久性のある送電システムを構築することは、Veir(ヴェイル)をはじめとする企業にとっては実にうれしい話だろう。ヴェイルは、送電線容量の増加に向けた新しい技術の開発に取り組んでいる企業だ(このプロジェクトは、バイデン政権も計画内で明確に言及している)。

バイデン計画には資金提供だけでなく、Department of Energy(エネルギー省)内部に新しくGrid Deployment Authority(送電網配備局)を設置する案も盛り込まれている。連邦政府はこれを、同局の設置について、道路や鉄道沿線の敷設用地をより有意義に活用し、資金提供手段を通じて新たな高圧送電線を開発するためとしている。

同政権の取り組みはこれだけにとどまらない。エネルギー貯蔵技術と再生可能技術を後押しするため、これらの開発には税額控除が適用される。つまり、直接払いの投資税額控除と生産税控除が10年延長され、その後、徐々に控除が減額されるというわけだ。この計画では、クリーンエネルギーの包括的補助金を捻出する他、政府の連邦ビルについては再生可能エネルギーのみを購入することが盛り込まれている。

バイデン政権下では、クリーンエネルギーとエネルギー貯蔵に対するこの支援に加え、廃棄物の浄化と汚染除去の分野で予算を大きく拡大し、210億ドル(約2兆3000億円)が投じられる予定だ。

Renewell Energy(レネウェルエナジー)をはじめとする企業や、放置された油井を塞ぐ取り組むを続けるさまざまな非営利団体は、この分野に携わることができるはずだ。また、その他の鉱床の回復や、こうした油井から出る排水の再利用といった取り組みの可能性も考えられる他、ここでも投資家はビジネスチャンスを狙うアーリーステージの企業を見出だせるだろう。バイデン計画から出される資金の一部は、汚染されて利用できなくなった工業用地を再開発し、より持続可能なビジネスに変えるために用いられる。

屋内での農業をてがけるPlenty(プレンティ)、Bowery Farms(バワリーファームズ)、AppHarvest(アップハーヴェスト)などの企業は、利用されていない工場や倉庫を農場として再利用することで、大きな利益を上げられるかもしれない。送電網に関する需要を考えれば、閉鎖された工場をエネルギー貯蔵やコミュニティベースの発電に使うハブ、あるいは送電設備に生まれ変わらせることもできる。

連邦政府の声明によると「バイデン大統領の計画は、Appalachian Regional Commission(アパラチア地域委員会)のPOWER補助金プログラム、エネルギー省による(セクション132プログラムを通じた)閉鎖工場の改革プログラム、さらにはコミュニティ主導の環境正義活動を後押しする専用の資金を通して行われる、持続可能な経済開発の取り組みを促進するものである。コミュニティ向けの支援としては、旧世代の環境汚染や蓄積された環境への影響を最前線や工場に隣接する地域で経験してきたコミュニティがこうした問題に対応できるよう、能力構築助成金やプロジェクト助成金が給付される」。

こうした再開発事業の鍵は、スチール、セメント、および化学製品の大規模な製造施設向けに炭素の回収・修復の実証実験を行うパイオニア施設の設立だ。とはいえ、バイデン政権が望めば、さらに一歩先へ進んで低排出の製造技術開発に取り組む企業を支援することもできるだろう。例えば、Heliogen(ヘリオゲン)は大規模な採掘作業用に必要な電力を太陽光発電でまかなっている他、BMWと提携しているBoston Metal(ボストンメタル)は炭素排出量がより少ないスチール製造プロセスの開発を進めている。

関連記事:持続可能な自動車製造を目指すBMWが二酸化炭素を排出しない製鉄技術を開発したBoston Metalに投資

また、これらの資金を使うために不可欠な前提条件として、開発前の段階にある事業に投資する必要がある。これには250億ドル(約2兆7000億円)が割り当てられており、Forbes(フォーブス)誌のRob Day(ロブ・デイ)はこの資金について、比較的小規模のプロジェクトデベロッパーを後押しするだろうと述べている。

デイ氏は次のように述べている。「他の記事でも書いたように、持続可能性に関するプロジェクトを最も有意義な形で、つまり現地の環境汚染や気候変動による打撃を最も受けたコミュニティで実施するには、地元のプロジェクトデベロッパーが鍵となる。比較的小規模のプロジェクトデベロッパーは、単に民間企業のインフラ整備投資を受けるだけでも、多額の出費が必要となる。持続可能性政策に携わる人は皆、起業家の支援について話すが、現状の支援対象の大半は技術開発者で、実際にこうした技術革新を展開する小規模のプロジェクトデベロッパーには支援が向けられていない。インフラの投資家も通常、プロジェクトの建設準備が整ってからでないと資金を提供したがらないものだ」。

より良いインターネットの構築

連邦政府は次のような声明を出している。「広帯域インターネットは、新時代の電気のようなものだ。米国人が仕事をして、平等に学校で学び、医療サービスを受け、人とつながるには広帯域インターネットが欠かせない。それにもかかわらず、ある調査によると、3000万人以上の米国人は最小限必要な速度の広帯域インフラがない場所で生活している。また、農村部や部族の所有地で暮らす米国人のインターネット環境はとりわけ貧弱だ。さらに、OECD諸国の中で米国の広帯域インターネット料金が特に高いこともあり、インフラが整っている地域に暮らしていながら実際には広帯域インターネットを利用できない人も多く存在する」。

バイデン政権は、広帯域インターネットのインフラ整備のために1000億ドル(約11兆円)を支出するにあたり、高速の広帯域インターネットのカバレッジを100%に引き上げる他、地方自治体、非営利団体、および共同組合が所有・運営・提携するネットワークを優先することを目標としている。

新たな資金投入にともない、規制政策にも変化が生じる。これにより、地方自治体が所有または提携するプロバイダーや農村部の電気協同組合が民間のプロバイダーと競合することになり、インターネットプロバイダーは料金形態をさらに透明化する必要が生じる。競争の激化はハードウェアベンダーにとってもメリットとなり、最終的には独自のISP立ち上げを目指す起業家の新事業も生まれる可能性がある。

そうしたサービスの1つが、ロサンゼルスで高速のワイヤレスインターネットを提供するWander(ワンダー)だ。

連邦政府の声明によると「米国人は他の国の人と比べてもインターネット料金を払いすぎている。そこで、大統領は議会に呼びかけて米国人全員のインターネット料金を引き下げ、農村部と都会の両方のインフラを強化し、プロバイダーに説明責任を課し、納税者のお金を守るためのソリューションを全力で探している」とのことだ。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ジョー・バイデンインフラ環境問題災害農業炭素脱炭素電力持続可能性公共政策アメリカ

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

Polestarが2030年までに温暖化ガスの排出量をすべて見直して初の「クライメートニュートラル」なEV開発を目指す

Volvo(ボルボ)からスピンアウトしたスウェーデンのEVブランドPolestar(ポールスター)は中央ヨーロッパ時間4月7日、2030年までに初のクライメートニュートラルな自動車を開発するという「ムーンショット・ゴール」を発表した(moonshot=困難だが実現する価値のある壮大な取り組み)。そのためには、植林などの一般的に行われているオフセット手段ではなく、新型EVの製造方法を根本的に変えていくという。

それは、材料の調達から製造、さらには車両のエネルギー効率の向上まで、サプライチェーンのあらゆる要素を見直すことを意味する。

Polestarのサステナビリティ部門の責任者であるFredrika Klarén(フレデリカ・クラレン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じ次のように述べた。「当社は、今日多くの人が頼りにしているようなオフセットではなく、排ガスを削減し、除去することでこれを実現しようとしています。オフセットは憂慮すべき戦略だと考えています。製品を生産する際の排出量をオフセットできるかどうか、科学的な裏付けは実際ありません」。

直接的な成果となるのは「Polestar 0(ポールスター0)」と呼ばれる新型車だが、製造工程を全面的に見直す必要があり、最終的にはPolestarの他のモデルにもプロセスが適用される可能性がある。Polestarの全車両が2030年までにクライメートニュートラルになることはないが、同社と親会社のVolvoは、2040年までにPolestarを含む全事業でクライメートニュートラルになるという目標をすでに設定している、とクラレン氏は語った。

Polestarの現行モデルであるPolestar 1(ポールスター1)とPolestar 2(ポールスター2)は、いずれも中国で生産されている。Polestar 0の詳細はまだ決まっていないが、同様に中国製となることを希望しているとクラレン氏は述べた。中国はいまだに石炭への依存度が高いものの、持続可能な技術や製造業は大きく発展していると同氏は指摘した。

「もし私に投票権があるのなら中国での生産を継続しますが、そうは言ってもPolestar 0はどういったソリューションを用いるのかまだ特定されておらず、どこで生産するのか、どんな材料を取り入れるのかなど、以前は考えられなかった新しい方法で考える必要があります」とクラレン氏は述べている。

また、内部システムも定まっていない。Volvo CarsとPolestarの親会社であるGeely AG(ジーリー、吉利汽車)は独自の内部コンピューター・バッテリプラットフォームを開発しているが、Polestarの新モデルにこのシステムを採用するかどうかは決まっていない。

EVの製造工程の中で、クライメートニュートラルに移行するために最も困難な部分は素材であり、具体的にはアルミ、鉄、バッテリー部品がそれにあたると同氏は語った。

「我々は、生産にともなう排出物に取り組む必要があります」と彼女は説明している。鉄やアルミ、そしてリチウムバッテリーに使われる基本的な材料を生産する際の環境負荷は依然として大きい。

Polestarはこの新型車の発表と同時に、Polestar 2および今後発売されるすべてのモデルのカーボンフットプリントを明示するという製品サステナビリティ宣言も発表した。

PolestarのCEOであるThomas Ingenlath(トーマス・インゲンラート)氏は声明の中でこう述べた。「オフセットは言い逃れでしかありません。完全にクライメートニュートラルなクルマを作るために自分たちを奮い立たせることで、当社は今日の可能性を超えることを余儀なくされます。ゼロに向かってデザインするためには、すべてを疑ってかかり、革新し、急成長技術に目を向けなければなりません」。

カテゴリー:モビリティ
タグ:Polestar電気自動車二酸化炭素Volvoカーボンオフセット

画像クレジット:Polestar

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:TechCrunch Japan)

全日空や三井物産が支援する再生可能ジェット燃料のLanzaJetにShellも出資

アルコールをジェット燃料に変えるプロセスの商業化を図っているLanzaJet(ランザジェット)には全日空、Suncor Energy、三井物産、British Airwaysなどが戦略投資家として出資している。その投資家リストにエネルギー大手Shell(シェル)も加わった。

LanzaTechからのスピンオフで、最初のクリーンテックブームの最後の生き残り企業の1社である未上場企業LanzaJetは、法人から段階的に出資を受けるアプローチを取っている。これにより、LanzaJetが生産施設を拡大するにつれ、投資家は追加でLanzaJetに出資することができる。

Shellの出資の取引条件、出資後のLanzaJetの評価額は明らかにされなかった。

LanzaJetは、航空業界がネットゼロエミッションを達成するのをサポートできると主張する。パリ協定で設定された温室効果ガス削減目標を世界が達成するのを支えるための長い道のりだ。

「LanzaJetのテクノロジーは、ATJプロセスを使ったSAF(持続可能な航空燃料)生産に向けた新しいエキサイティングな道を切り開いていて、航空部門の差し迫ったSAF需要を解決します。これは、我々が力を合わせた時に業界が機敏に動いてより多くのSAFを供給できることを意味します」とShell Aviationl社長のAnna Mascolo(アンナ・マスコロ)氏は声明で述べた。「需要と供給の両方を推進するための適切な政策メカニズムと規制に関して業界、政府、社会が協業するこで、航空業界はネットゼロエミッションを達成できます。LanzaJetと戦略が一致するのはすばらしいことです」。

関連記事:再生可能ジェット燃料LanzaJetが英国航空と提携、年間7500トン供給へ

LanzaJetは現在、アルコールをジェット燃料に変える施設をジョージア州ソパートンに建設中だ。完成すると、持続可能な合成ジェット燃料のための初の商業規模プラントとなり、年間1000万ガロンを生産できる。

燃料はエタノールを使って作られる。エタノールはShellが詳しいものであり、供給する用意も整っている。ブラジルの合弁企業Raízenを通じてShellはバイオエタノールを10年以上生産してきた。

LanzaJetは、二酸化炭素の排出を抑制する方法で飛行機を飛ばすために、持続可能燃料を従来の化石ジェット燃料に混ぜることを想定している。生産する燃料の約90%が航空燃料で、残り10%は再生可能ディーゼルだと同社は話した。

LanzaJetのSAFは化石ジェット燃料に最大50%混ぜることがASTM(米試験材料協会)に認められていて、エンジンや航空機、インフラに変更を加える必要のないドロップイン燃料だ。加えて、LanzaJetのSAFは従来の化石ジェット燃料と比べ、ライフサイクルベースで温室効果ガスの排出を70%超削減する。エタノールの汎用性、そして低炭素でゴミを材料とし、食品や餌をソースとしないこと、またエタノールが世界どこでも入手できることと併せ、LanzaJetのテクノロジーはSAFの永続的な解決策となっている。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:LanzaJet投資全日空三井物産Shell二酸化炭素二酸化炭素排出量

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

二酸化炭素ゼロの再エネ100%電力を提供するCleenTechの「アスエネ」が3億円調達、脱炭素社会を目指す

(左から)グロ ラクマツーラ/VPoE、西和田浩平CEO、岩田圭弘COO、江森靖紘Sustainable Leader

(左から)グロ ラクマツーラ/VPoE、西和田浩平CEO、岩田圭弘COO、江森靖紘Sustainable Leader

再生可能エネルギーの電源を特定し、電力の地産地消を進めるCleenTechスターアップのアスエネ(旧リフューチャーズ)が事業展開を加速させている。地元産の再生可能エネルギーから電力をまかなえるサービスが企業に評判がいい。

クリーン電力サービス「アスエネ」を提供するアスエネは4月2日、シリーズAラウンドで第三者割当増資により3億円の資金調達を行ったと発表した。引受先はインキュベイトファンド、環境エネルギー投資、STRIVEとなる。2019年10月に創業したアスエネは、同年12月に行ったシードラウンドの資金調達と合わせ、今回で累計調達額が3億7500万円となった。なお、同社は2020年8月に会社名をアスエネに変更したことに合わせ、サービス名も「アスエネ」に統一している。

アスエネは二酸化炭素排出量ゼロとなる再生可能エネルギー100%の電力を、製造業の工場や企業の店舗・施設などに提供してコスト削減を図るサービスとなる。また、再生可能エネルギーの供給元となる地域・発電所を選べるようにして、地域貢献をするサステナブルな企業としてのブランディングに繋げている。

この他、アスエネは顧客施設の電力使用量や二酸化炭素削減量などを見える化し、パソコンやスマホ経由でブラウザからいつでもデータを確認できるようにしている。電力料金が高い月や時間帯を予測して事前に通知するアラート機能などもある。

サービスの特徴は、再生可能エネルギー100%の電力を地産地消できる仕組みだ。これまでは、発電所から工場に電気が流れる過程で電力が混ざってしまうため、再生可能エネルギーなどの電源特定は難しかった。つまり、企業は地域の再生可能エネルギーを使おうにも、どこの電気がどこで使われるかをトラッキングできていなかったのだ。

アスエネは、パブリックブロックチェーンを活用した非改ざん性の高い独自のトラッキングシステムを用いて、この課題を解決している。同システムにより、発電所側と顧客施設のスマートメーターで測定される電力使用量データを30分毎にマッチングさせることで、どこからどこに電力が流れたかをトラッキングし、電源を特定できるようにした。

二川工業製作所が持つ太陽光発電所

アスエネは2020年5月にサービスを始めてからの10カ月間、導入契約・受注数は毎月平均で約100%の成長率を記録し、20以上の業界で導入されるなど急成長している。サービスの対象エリアは東京電力エリア(関東地方)のみでスタートしたが、現在は東北電力エリアと中部電力エリア、関西電力エリア、中国電力エリア、九州電力エリアが加わり、全国6エリアにサービスを展開。今後は北陸電力エリア、四国電力エリアへの進出も視野に入れている。

直近では、アスエネは兵庫県の建設機械装置・部品メーカー二川工業製作所と連携し、同県にある二川工業製作所の全8工場の電力を、再生可能エネルギー100%の電力でまかなえるようにした。同県の二川工業製作所が持つ太陽光発電所2カ所からの電気をアスエネ独自のトラッキングシステムで電源特定することで、電力の地産地消を実現させている。二川工業製作所は約600万キロワットの電力をアスエネに切り替えたことで、年間の二酸化炭素排出削減量が約2900トンに上るという。

今回の調達資金は、人材採用や組織強化やシステム開発、販促・広告費などに充てる。アスエネの西和田浩平CEOは「次世代に向けた脱炭素社会の創造に挑戦していきます」と意気込みを語った。

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カナダ最高裁が炭素税を支持、関連スタートアップの爆発的な増加に期待

カナダ最高裁判所は2021年3月第4週、政府による炭素排出に課税する計画を合法であると裁定した。気候変動に焦点を当てているこの国のスタートアップにとって極めて大きい意味を持つ決定だ。

この裁定は、約2年にわたった法廷闘争に終止符を打ち、温室効果ガス排出削減技術を開発するカナダのスタートアップに対する投資と商業支援の基盤を作るものだと、世界最大級の公益事業・石油化学企業の投資家や起業家は述べている。

「炭素にかかる費用の増加は、カナダを脱炭素のブレークスルー技術のスケールアップや炭素捕捉などのソリューションの展開、産業の電化、電気分解による水素生成などの重要拠点にする可能性があります」と、大手エネルギー企業を代表してスタートアップを支援するファンドに関わる投資家はいう。

この2018年温室効果ガス価格づけ法案は、Justin Trudeau(ジャスティン・トルドー)首相が推進するカナダ気候政策の中心をなすものだ。同法案は全州が従うべき最低基準価格を設定しているが、州はさらに高い価格を設定することもできる。これまでに同国の13州のうち7州が、国の設定した「最低税額」を設定している。

その価格は1炭素トン当たり30カナダドル(約2620円)だが、2030年までに170カナダドル(約1万4830円)まで上がることが決まっている。この数字はカリフォルニア州民が州の炭素価格プランの下で支払う金額より少し高く、Northeastern Regional Greenhouse Gas Initiative(北東地域温室効果ガスイニシアチブ)が設定している炭素価格の約4倍だ。

画像クレジット:Gencho Petkov / Shutterstock

この計画では、カナダ政府が課税した金額のほとんどが、温室効果ガス排出を削減するプロジェクトや技術の支援、および業界の持続可能な取り組みの推進に用いられる。

「気候変動は現実です。これは人間の活動による温室効果ガス排出が原因であり、人類の未来に深刻な脅威をもたらします」と、最高裁判所のRichard Wagner(リチャード・ワグナー)長官が判決文に書いた。

アルバータ州、オンタリオ州、サスカチュワン州の3州では、温室効果ガス政策の合法性に対する異議申し立てがなされており、アルバータ州では訴えが最高裁判所に持ち越され、国の価格政策の施行を停滞させていた。

障壁が取り除かれたことで、世界の起業家や投資家は、この炭素政策がカナダのスタートアップの未来を直ちに後押しすることを期待している。

「これは政府による根本的な支援と多額の資金調達の可能性を意味しています。気候変動緩和に取り組むテック企業の意義を立証、支援するであろう分野別開発に向けた包括的支援を望むなら、政府がその重要性を公言し、金の心配はいらないと言ってくれるほどすばらしいことはありません」とBeZero CarbonのファウンダーであるTommy Ricketts(トミー・リケッツ)氏はいう。「カナダのスタートアップにとってこれ以上の条件はありません」。

カナダ炭素税の恩恵を直接受ける企業の中には、廃熱発電を含む脱炭素プロジェクトを進めているKanin Energyや、現在、Xprize炭素コンテストに参加中で二酸化炭素をエチレンに変換する方法を研究しているCERT、おなじく二酸化炭素変換技術に取り組んでいるSeeO2などがある。

地熱技術のQuaiseとEavorや、カナダの輸送産業の電化に焦点を当てている企業も後押しを受けるだろう。

さらに別の分野では、Panetary Hydrogenのように水素生成と炭素捕獲を組み合わせることで海洋の脱酸に寄与しようとしている会社も好影響を受けるだろう。

「スタンドで売られるガソリンのことを考えてみてください。そこには追加料金がかかることになります」と世界最大級の石油・ガス会社のベンチャー部門で働く投資家が非公式な発言として語った。「クリーンなエネルギーは、間違いなく価格が下がります。そしてこの税金の行き先を考えてみてください。そのほとんどは政府によるクリーンエネルギー技術や気候変動技術会社への資金提供に使われます。つまり、炭素排出削減分野のスタートアップは二重に恩恵を受けるのです」。

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nob Takahashi / facebook

2025年までにすべての自動運転車に二酸化炭素排出量ゼロを義務づけるカリフォルニア州の法案

自動運転車を電動化する期限を設定する最初の州が、カリフォルニア州となる可能性がある。

2025年までにすべての自動運転車に二酸化炭素排出量ゼロを義務づける法案が、2021年2月中旬のカリフォルニア州議会にひっそりと提出された。提案されたSB 500法案は、Dave Min(デイブ・ミン)上院議員によって提出され、Union of Concerned Scientists(憂慮する科学者同盟、UCS)が賛同した。この法案は、配車サービス、配送、トラック輸送などのかたちで新たに登場しようとしている自動運転車業界に対して、直接的な影響を与えることが考えられる。

この修正案は、カリフォルニア州で取り組んでいる二酸化炭素排出を削減するさまざまな目標と一致しており、可決されれば自動車に関連する州の法律に加えられる。現在、州の法律では、Clean Vehicle Rebate Project(クリーン自動車補助金プロジェクト)やCharge Ahead California Initiative(電動化促進カリフォルニアイニシアチブ)など、ゼロエミッション車を奨励するプログラムが施行されている。

Gavin Newsom(ギャビン・ニューサム)知事は、今後販売される新車はすべて、2035年までに二酸化炭素排出量ゼロにする意向であると述べている。ただし、商用車は除外される。この法案が否決されれば、この意向が適用されることはない。提案された法案は初期段階にあるため、却下される可能性も十分ある。しかし、急成長する自動運転車業界や、カリフォルニアで自動運転技術を開発および商業化しようとする企業に対して、この法案が一石を投じている。また、電気自動車だけを使用する企業を後押しすることにもなり得る。

「気候変動に積極的に向き合っているカリフォルニアでは、重要な基準を定めてきました。私の提案したSB 500はこのような動きと一致しており、自動運転車が広く普及する前の段階でゼロエミッションを義務づけるための重要な一歩となります」とミン氏はTechCrunchに述べた。

法案の提案者たちは、今後開発されるであろう交通手段にこれまでの技術を活用することを望んでおらず、二酸化炭素を削減するうえで自動運転車が役立つ可能性と役立たない可能性を指摘している。カリフォルニア州では、他の州に先駆けて電気自動車を採用したり、二酸化炭素排出に関連するその他の政策を推進したりしているため、この法案の成否が国全体に波紋を広げる可能性もある。

「配車サービスや配送などの分野で自動運転車が登場するのは間違いないと思います。だからこそ、そのような分野で使用されるのが電気自動車であるというは、非常に重要です。平均的なドライバーは、走行距離が年に1万8000から2万1000kmになりますが、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)のフルタイムドライバーの走行距離は、4万8000kmを超えます」とUCSの輸送担当シニアアナリスト、Elizabeth Irvin(エリザベス・アービン)氏は述べた。

戦略

カリフォルニアの温室効果ガス排出量の半分近くが、交通手段から発生している。スモッグがかかるロサンゼルスの夕暮れはとてもユニークだが、自動運転車の業界に規制を課さないなら、商用車が自動運転となり、その動力源は化石燃料になるのは目に見えていると、法案の支持者たちは考えている。

自動運転車が普及することで楽な生活に慣れると、車に乗る人が大幅に増える結果として、排出量も劇的に増加する可能性があることを示す研究があることを、UCSがこの法案を支持する声明の中で指摘している。2040年時点で自動運転車がワシントンD.C.の都市圏の輸送システムに及ぼす影響を調べた研究によると、自動運転車によって車の走行量が2040年の基準に比べて66パーセントも増加することがわかった。

アービン氏がTechCrunchに語ったところによると、カリフォルニアですべての自動運転車に二酸化炭素排出量ゼロを義務づける政策が本格的に導入される前に、その政策を推進する戦略に関して、ソフトバンクが支援する自動配送スタートアップのNuro(ニューロ)や、General Motor(ゼネラルモーターズ)の自動運転子会社のCruise(クルーズ)などのさまざまな利害関係者との話し合いがUCSと重ねられてきた。

「業界のクリーンエネルギーへの移行を推進する取り組みを支持しています。このような取り組みはニューロが掲げる目標や価値と一致しています。自動運転車が自動車業界の礎となることを楽しみにしており、この取り組みが環境にも健康にもやさしい未来につながると考えています」とニューロの広報担当者は述べた。

画像クレジット:Nuro

2020年にOrigin(オリジン)という無人運転車を発表したCruiseも、同じ方向に向かっている。オリジンは、カーシェアリング向けに設計されており、GMが開発した全電動プラットフォームが動力源で、ホンダとの何年にもわたるパートナシップにより生み出された。Cruiseの自動運転車オリジンは、サンフランシスコでのテストが開始されていない。バッテリーのプラットフォームがGMの試験場でテスト段階であるが、自動運転車を本格展開するという熱い思いに変わりはない。テストの初期段階では、全電動のChevrolet Bolt(シボレー・ボルト)を使用する。これは、サンフランシスコの配車サービスや一部の配送サービスで展開される可能性がある。

関連記事:GMとホンダが協業開発した配車サービス用電動無人運転車が登場

「この業界は発足して間もないので、誰でも電気自動車をオプションに入れられます。既存の車両を改造するということではありません。最初に電気自動車を選択すると、現状を維持し続けて後で変更を強いられるということがありません」とCruiseの政府業務担当副社長、Rob Grant(ロブ・グラント)氏はTechCrunchに語った。

ハイブリッド自動車と電気自動車

自動運転車が電気自動車であるとは限らない。Ford Fusion(フォード・フュージョン)のハイブリッドやChrysler Pacifica(クライスラー・パシフィカ)のプラグインハイブリッドミニバンは、Argo AI(アルゴAI)、Aurora(オーロラ)、Waymo(ウェイモ)、Voyage(ボヤージュ)などの自動運転車開発企業に人気のある選択肢だ。

テクノロジープラットフォーム企業のアルゴAIでは、Volkswagen(フォルクスワーゲン)やフォードなどの大手自動車メーカーと共同で自動運転システムを開発している。フォルクスワーゲンのID.Buzz(アイディーバズ)は、同社初の全電動自動運転車になる予定だ。フォードの手法はもう少し慎重で、ハイブリッドのフォード・フュージョンをベースに開発している。

「バッテリーを原動力とする電気自動車に最終的には移行したいと考えていますが、実行可能で収益性が高いビジネスモデルを開発するための適正なバランスも必要です。結果として、手始めにハイブリッド車を開発することになりました」とFord Autonomous Vehicles(フォードオートノマスビークルズ)のチーフエンジニア、John Davis(ジョン・デービス)氏は述べた。

デービス氏が概略した全自動の電気自動車を開発する際の課題には、車載技術で電気を使用することにともなう航続距離の減少、充電にともなう車の使用率の低下、バッテリーの劣化などがある。

「テスト結果よると、バッテリーを原動力とする電気自動車では、自動運転システムの計算処理に航続距離の50パーセント以上が消費されています。加えて、配車サービスでは乗客が快適に乗車できるように、エアコンやエンターテインメントのシステムが必要だと思われます。バッテリーが化学的に向上しており、コスト面でも改善が続いているので、このような問題に前向きに取り組んでいます」とデービス氏は述べた。

 DPAの画像(画像クレジット:Andrej Sokolow/Getty Images)

Waymoはロボタクシーのテスト完了後に、Phoenix(フェニックス)郊外でエリアを調整しながらサービスを開始した。カリフォルニアでのサービス提供に関して、Waymoからの公式な発表はないが、サービスを提供する方針であることを何年にもわたる活動が示している。カリフォルニア州Mountain View(マウンテンビュー)に本拠を置く同社は、サンフランシスコとその周辺で車のテストを周期的に実施しており、電気自動車のJaguar I-Pace(ジャガー・I-PACE)の試験も進められている。Waymoは、ニューサム氏が発出した直近の行政命令を支持すると述べたが、ミン氏の法案で言及されている文言を支持するまでには至らなかった。

「カリフォルニアで将来的にすべての自動車を電動化するという包括的な取り組みである、ニューサム知事が発出した直近の行政命令N-79-20で概略されている目標を、完全自動運転の技術を市場に初めて展開する企業として強く支持します。Waymoには、配車サービスからトラック輸送、地域の配送にわたる事業分野とパートナーシップがあります。電気自動車に関するカリフォルニアの政策が、さまざまな問題や政策の影響を受ける業界に適合したものとなることを願っています。現時点でこの法案は初期段階です。尽力されているミン上院議員と取り組んでいけることを楽しみにしています」とWaymoの広報担当者はTechCrunchに語った。

法案に詳しい業界情報筋の指摘によれば、現在の文言は単語を置き換えただけのかなり簡素な内容で、この会期で大きな進展を見る見込みはなさそうだ。同じ情報筋は賛同者や起草者を批判し、インフラの整備や小型車と大型車の区別に関する計画の規定が滞っていると述べた。自動運転が最初に普及する車種は、貨物を運ぶトラックであると予想されるが、自動運転トラックの開発はカリフォルニアではなく、アリゾナやテキサスなど規制が緩い州で進められている。自動運転の電動トレーラーも開発されてはいるが、テストされているのはディーゼル車がほとんどだ。このため、カリフォルニアで開発を進める企業は、大型車の適用除外を設けるように上院議員に直訴する可能性もある。

「プロセスの進展とともに法案の詳細が決定していくかどうかに注目していますが、この法案の目的が電動化の義務づけとなることが、UCSの願いです」とアービン氏は述べた。

カテゴリー:モビリティ
タグ:カリフォルニア二酸化炭素電気自動車ハイブリッドカー

画像クレジット:Cruise

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

Energy Impact Partnersが気候変動対策関連企業の指標を作成、NASDAQ総合を大幅に上回る

気候変動に焦点を当てた企業が公開市場に溢れている中、誰が何をしているのか、どこで取引されているのか、どのように業績を上げているのか、把握するのは難しくなっている。そこでEnergy Impact Partners(エナジー・インパクト・パートナーズ)は、持続可能性やエネルギー効率、温室効果ガス排出量の削減に注力しているハイテク企業を追跡するインデックスを設定した。

世界最大級のエネルギー消費者や電力会社を投資家に持つ同社は、過去数カ月間、公開市場で取引されている代表的な気候変動対策技術を対象としたインデックスの設定に取り組んできた。その結果、これらの企業が市場全体と比較して大きなリターンを上げていることが判明した。

2020年に入ってから、EIP Climate Index(EPI環境指標)はNASDAQ(NASDAQ総合指数)を約2.8倍上回っており、NASDAQ総合の45%に対し、127%の上昇となっている。リストに掲載されている企業27社のうち約20社が公開後1年未満の新規上場で、その間にNASDAQ総合を上回った。中でも約16社は、その間に100%以上の上昇を見せている。それは、この指数全体が1月のピーク時から約20%下がった状況になっても変わらない。

このインデックスは、実際には株式投資のためではなく、何よりも教育的なツールとして考えられたものだが、気候関連のソリューションに取り組んでいる企業の幅広さと、これらの企業を支援したいという公開市場の投資家の圧倒的な意欲がそこには示されている。

「SPACに限らず、公開市場における気候変動関連技術の動向は、本当に信じられないほど好調です」と、Energy Impact PartnersのパートナーであるShayle Kann(シャイル・カン)氏は述べている。「この気候変動技術インデックスを作成した動機の1つは、どれだけ多様な企業を集められるかを、確認することでした」。

EIPのインデックスには、持続可能性の観点から注目を集めるBeyond Meat(ビヨンド・ミート)のような企業や、水素燃料電池のBallard Power(バラード・パワー)やBloom Energy(ブルーム・エナジー)のように、やや歴史が長い企業も含まれている。このインデックスに含まれる企業は、電力貯蔵、再生可能エネルギーの生産、電気自動車の充電とインフラ、代替タンパク質の提供など多岐にわたる。

「考え方としては、このような企業をすべて含めた場合、全体のパフォーマンスはどうかということでした。私たちはこのインデックスを作成し、包括的なものにしようとしました。その結果、市場全体を劇的に上回ることになったのです」。

EIPのリストは情報提供を目的としているが、誰かがこのインデックスを利用して、この業界のETF(上場投資信託)を作らない理由はない。現在市場にあるETFのほとんどは、エネルギー生産やインフラに焦点を絞ったものだが、EIPのインデックスは、気候変動の影響を緩和し、温室効果ガスの排出を削減することに焦点を当てた企業の幅広い多様性を追う初めての指標となる可能性が高い。

Desktop Metal(デスクトップ・メタル)のような3Dプリント(積層造形)の会社もあるが、カン氏によると、同社の技術には多大な気候変動要素が含まれているという。

「積層造形技術は、廃棄物の削減、輸送の削減、製造工程の電化など、かなり強力な気候変動対策になります」と、カン氏は語った。

また、この指標は、初期段階の個人投資家が注目するためのシグナルでもあるとカン氏はいう。

「公開市場への道筋が広がります。ここで株価が上昇する企業がわかります。これが我々やベンチャーキャピタルの世界にいるすべての人に示唆するのは、この指標が好調なときには、イグジットまでの道筋が好転するということです」と、同氏は述べている。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Energy Impact Partners気候変動持続可能性二酸化炭素燃料電池3Dプリント

画像クレジット:Energy Impact Partners

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

持続可能な自動車製造を目指すBMWが二酸化炭素を排出しない製鉄技術を開発したBoston Metalに投資

Boston Metal(ボストン・メタル)が開発した二酸化炭素を排出しない鉄鋼生産技術を支援する投資家グループに、BMWが加わった。

ボストンを拠点とするこのスタートアップ企業は、TechCrunchでも報じたように、2021年初めに5000万ドル(約54億5000万円)の資金調達を目標としていたが、同社の関係筋によると、BMWが加わったことでこのラウンドは終了したとのこと。

関連記事:ビル・ゲイツ氏が支援するBoston Metalが金属産業の脱炭素化を目指し51.6億円調達

自動車メーカーの投資部門であるBMW iVentures(BMW iベンチャーズ)の支援を受けることで、Boston Metalはより持続可能な製造方法を大規模に求める企業と関係を築くことになる。例えば、欧州にあるBMWグループのプレス工場では、年間50万トンを超える鉄鋼を加工しているという。

「当社は、サプライヤーネットワークにおいて、生産時のCO2排出量が最も多い原材料や部品を体系的に特定しています」と、BMW AGの取締役会メンバーであり、購買およびサプライヤーネットワークを担当するAndreas Wendt(アンドレアス・ヴェント)博士は、声明の中で述べている。「鉄鋼もその1つですが、自動車の生産には欠かせません。そこで私たちは、鉄鋼のサプライチェーンにおけるCO2排出量を継続的に削減することを目指しています。2030年までに、CO2排出量を現在よりも約200万トン削減する必要があります」。

従来の鉄鋼生産では、二酸化炭素を排出する高炉が必要だが、Boston Metalによると、同社が開発した方法では、電気分解セルで鉄鋼に加工される銑鉄を生産することができるという。

Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏が率いるBreakthrough Energy Ventures(ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ)をはじめとする既存の戦略的・財務的投資家とともに、BMWは業界に莫大な影響力を持つ企業パートナーとしてこの投資家グループに加わり、今回の資金調達プロセスを締めくくることになった。

「当社の投資家は、上流の鉱山・鉄鉱石会社から下流の最終的な顧客まで、鉄鋼のバリューチェーン全体に及んでおり、高品質の鉄鋼を競争力のあるコストで大規模に生産できるBoston Metalの革新的なプロセスを評価してくれています」と、最高経営責任者で創業者のTadeu Carneiro.(タデウ・カルネイロ)氏は述べている。

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タグ:BMW二酸化炭素Boston Metal資金調達環境問題投資持続可能性

画像クレジット:aydinmutlu / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Carbon Engineeringが「サービスとしての二酸化炭素除去」でShopifyと提携

Carbon Engineering(カーボンエンジニアリング)は二酸化炭素除去サービス事業を進めている。この事業では、直接空気回収(DAC)技術を使用して大気からの二酸化炭素除去を顧客が購入できるようにする。

サービスの開始と、Shopify(ショッピファイ)が同社の最初の顧客になるという発表は、同社の最も直接的な競争相手であるClimeworks(クライムワークス)が、スウェーデンの隔離サービス会社であるNorthern Lights(ノーザンライツ)と契約を結び、独自の直接空気回収をサービスとして始める動きと時を同じくして行われた。

Carbon Engineering(CE)はShopifyとの契約により、大規模なDACプロジェクトによる1万トンの恒久的な炭素除去能力に対価を払う最初の顧客を獲得した。除去と隔離は、CEのプラント開発パートナーである1PointFiveが行う。同社はCEの最初の産業規模の施設を現在設計している米国の開発会社で、施設は2024年に完成する予定だ。

「DACの初期の顧客、特に気候に関する野心的な目標を持つ企業には大きな影響を与える可能性があります。DACサービスを購入することで、企業が『ネットゼロ』宣言をより早く達成できるだけでなく、DAC技術の学習曲線が進み、将来的にはコスト削減が推進され、DACサービスに手頃な価格で幅広い顧客がアクセスできるようになります」と気候分野の市民団体であるCarbon180の創設者で社長のNoah Deich(ノラ・デイヒ)氏は述べた。「動きの早いリーダー企業や、望むらくは早期にこの動きに追随する複数の企業が、気候変動への支出の多くをDACに向ける方法を、Carbon Engineeringが発表したのを見て非常に興奮しています」。

Carbon Engineeringが市場に打って出る時間軸はClimeworksとほぼ同じだ。両社にとって幸運なことに、何十億トンもの二酸化炭素排出量を回収・隔離する必要があることを考えると、両社にとって間違いなく十分な大きさの市場となる。

Shopifyはそのコミットメントにより、直接空気回収ベースの二酸化炭素除去に関して公に発表された最大の購入者になった。

「Carbon Engineeringの使命は、大気から二酸化炭素を除去する拡張性が高く手頃なソリューションを提供することでした」と同社CEOのSteve Oldham(スティーブ・オールダム)氏は声明で述べた。「私たちはCarbon Engineeringのテクノロジーを大規模に展開しようとしています。次の重要なステップは市場の関心を集め、顧客を確保することです。この新しいサービスでそれが可能になります。また、企業や政府がネットゼロ計画に恒久的な二酸化炭素除去を含めることも容易になります。Shopifyとの関係を拡大し、最初の二酸化炭素除去の顧客として迎えることに興奮しています。大規模な二酸化炭素除去をまとめて実現できるよう支援することを楽しみにしています」。

二酸化炭素除去ユニットの購入は、Occidentalの子会社であるOxy Low Carbon Ventures, LLCRusheen Capital Managementなど資金力のある投資家が投資し、CEの開発パートナーでもある1PointFiveが展開する分散型空気回収施設によって実現される。

CEはまた、英国のPale Blue Dot Energyと協力して、大西洋全体に直接空気回収技術を導入している。

「このニュースを歓迎し、Shopifyの気候リーダーとしての地位を称賛します」と1PointFiveのRichard Jackson(リチャード・ジャクソン)会長は述べた。「気候変動に関する政府間パネルのような気候の専門家と並び、持続可能な低炭素世界のビジョンを達成するためには、恒久的な二酸化炭素除去が必要になると認識しています。1PointFiveは、CEのテクノロジーに基づく大規模な炭素除去機能を市場に投入し、世界中の顧客の気候に関する目標達成を支援することを楽しみにしています」。

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タグ:Carbon Engineering二酸化炭素Shopify

画像クレジット:Luke Sharrett/Bloomberg / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

欧州企業2社が二酸化炭素隔離のための直接空気回収サービスへ道を開く

スイスを拠点とし、ベンチャーキャピタルに支援された直接空気回収技術を開発するClimeworks(クライムワークス)は、ノルウェー政府とヨーロッパの大手エネルギー企業数社とによる合弁事業と提携し、大気中の二酸化炭素の直接回収に加え、二酸化炭素の地下隔離と貯留を事業化する道筋を探ることになった。

Climeworksと、新しく創設された企業Northern Lights(ノーザン・ライツ)との合弁事業がうまくいけば、この契約により、世界中の営利企業に向けた二酸化炭素回収と隔離のサービスを提供する新規事業への道筋が開かれる可能性が生まれる。つまりこれは、地球の気候変動を逆転させるためには必要不可欠だとこの2社が主張する、完全な二酸化炭素除去サービスが実現することを意味している。

Northern Lightsは、回収した二酸化炭素の処理、移動、地下隔離を目的に、Equinor(エクイノール)、Shell(シェル)、Total(トータル)の合弁事業として2021年3月に創設された。その事業は、ノルウェー政府が「Longship Project(ロングシップ・プロジェクト)」と名づけた回収した二酸化炭素を地下に貯留するための取り組みの1つの柱になっている。

「大気中から二酸化炭素を除去して2050年までに実質ゼロを実現するには、その能力を構築しなければならないという認識が広まっています。私たちはClimeworksとの共同事業に大変に期待を寄せています。安全性と恒久的な貯留を両立させる直接空気回収には、炭素循環のバランスを取り戻せる可能性があります」と、Northern Lightsの業務執行取締役Børre Jacobsen(ボーレ・ヤコブセン)氏は声明で述べている。

この2つの企業は、Northern Lightsの施設とClimeworkの直接空気回収技術との合体がネガティブエミッション技術の開発推進につながり、非工業分野の企業にも、カーボンニュートラルやカーボンネガティブになるチャンスを与えることになればと願っている。

だがこの事業には注意すべき点が数多くあり、直接空気回収の取り組みや、隔離および監視プロジェクトの可能性と落とし穴の両方が露呈されている。

第1の問題は、二酸化炭素排出量の国際価格を設定する必要があることだ。それによってこのプロジェクトは、経済的に実行可能となる。

「二酸化炭素の直接空気回収に料金を支払う法律が、世界に1つだけあります。それが、カリフォルニア州の低炭素燃料基準です」と、Climeworksの共同最高責任者であり共同創設者であるChristoph Gebald(クリストフ・ゲバルド)氏はいう。「1トンあたり最大200ドル(約2万1800円)が支払われます。【略】これは、まさに、大気、直接空気回収、地下貯留、監視をひとつなぎにした完全なシステムを成り立たせるために必要となる価格帯です。そのインフラを整備し資金面を支えるために必要な価格帯です」。

さまざまな二酸化炭素回収技術に関連するコストの内訳。上から植林、BECCS、二酸化炭素を吸着するケイ酸塩岩を土壌に撒く方法、直接空気回収(画像クレジット:Climeworks)

この価格は、世界の指導者たちが議論して算出した炭素排出産業の潜在的コストの中でも最上ランクのものだ(特筆すべきは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの中国の排出量を考慮すると、中国が設定した二酸化炭素排出に対する価格は低すぎる)。

直接空気回収と貯留のための技術を実用化する価格設定の心配の他にも、このプロジェクトをどれだけの規模で展開すれば地球全体の二酸化炭素を目に見えて減らせるのかという問題がある。

ここでもまたゲバルド氏は、同社の能力と規模の問題について明確な評価を与えている。

「科学的に示された排除すべき二酸化炭素の量は100〜200億トンです」とゲバルド氏。「直接空気回収の場合、ギガトンの規模に拡大させる必要があります。この予定地区では、メガトン規模に発展できる可能性があります。これはNorthern Lightsと協力すれば必ず実現できる範囲です。私たちは、メガトン規模を目指します」。

Climeworksでは、再生可能エネルギーを使用し、排熱はさまざまなサイズで機械に装着できるモジュラー式回収装置の動力源となる。同社の二酸化炭素回収能力で、唯一足かせになるのが電力だとゲバルド氏はいう。

同社はすでに、アイスランドの企業Carbfix(カーブフィックス)と協力関係にあり、Climeworksの技術で玄武岩が二酸化炭素を鉱化し貯留している。声明で同社が述べたところによると、二酸化炭素を永久貯留する候補地を世界中で探しているが、Northern Lightsが深地層隔離の場所として提案した、北海の海底にある塩水帯水槽が理想的な代替地とされているという。

Climeworksは、その技術開発のために、1億5000万ドル(約163億円)をスイスのチューリッヒ州立銀行などの投資家から調達した。

今回のプロジェクトの一環として、Northern Lightsは、二酸化炭素排出の点源であるオスロの工業地帯でその回収を行う計画を立てていたのだが、ノルウェーの海岸に拠点を移すことになった。そこに建設される施設で二酸化炭素を液化し、北海の沖合、海底から深さ約2.6キロメートルの地層の貯留地点へパイプラインで送り込む。

「Nortthern Lightsは、二酸化炭素回収と隔離をサービスとして提供しています。このプロジェクトを実行に移そうと考えたときから、また政府に協力してきた初期のころから、【略】最大の驚きは、ヨーロッパの二酸化炭素排出業者の回収と隔離に対する関心の高さでした」とヤコブセン氏。「この意識、この関心、そして解決策を探し出す必要性がますます高まっています。議論は、どんな可能性があり、どんな解決策があるかに移っています。Northern Lightsは、このバリューチェーンで大きな役割を担うことになります」。

すでに一部の企業が、同プロジェクトの最初の顧客になりたいと関心を示しているとヤコブセン氏は話す。「顧客企業からたくさんの覚書や秘密保持契約書、それに支援の書簡を受け取っています。私たちと話がしたいという、強い興味を感じます。大切なのは、この対話を契約に結びつけ、事業を前進させることです」。

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タグ:ClimeworksNorthern Lights二酸化炭素ノルウェー

画像クレジット:Northern Lights

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)

Noya Labsは200万本の冷却塔をCO2回収装置に変え産業に二酸化炭素を販売する

企業創設者は、みんなが地元の爆弾処理班と名前で呼び合う親しい間柄というわけではない。しかもすべての企業がNoya Labs(ノヤ・ラブズ)であるわけでもない。この会社は、米国内の工業地帯や建物に備えられているおよそ200万本の冷却塔を、二酸化炭素吸着兵器に転換して、世界的な気候変動と戦おうとしている。

同社が最初に水冷器に接続するデバイスのプロトタイプを開発し始めた頃は、善良な企業創設者がみなそうであるように、自宅の庭で工作作業を行っていた。

55ガロンの石油用ドラム缶と低温調理用のコンテナに入った黄色い冷却水のタンクに赤と青のケーブルがつながっている。ご近所さんには異質な代物だ。そこでJosh Santos(ジョシュ・サントス)氏とDaniel Cavero(ダニエル・カヴェロ)氏は、何度も爆弾処理班のふりをしたと、同社の最高責任者であるサントス氏は話す。

「それでCO2が回収できることを、私たちは実証しました。スタートアップにあるまじき手法でしたが」とサントス氏はインチキ爆弾処理班の功績を称えた。

サントス氏とカベロ氏がこの直接空気回収法の実験を始めたのは、2019年、サントス氏が職場に向かうカリフォルニアの通勤列車カルトレインの中で読んだ、植物の二酸化炭素吸収能力が低下しているという研究報告がきっかけだった。この記事が、起業家を目指す彼とそのルームメイトを触発し、炭素の化学実験へと突き動かしたのだ。

最初の製品は、消費者向けの空気清浄器だった。家の中の二酸化炭素を捕らえて回収するというものだ。回収した二酸化炭素は、その家の人間がサントス氏とカベロ氏に売ることができ、彼らはそれを転売する。しかし、このビジネスモデルは経済的ではないと2人はすぐに気がついた。そして原点に戻ることにした。

やがて彼らは、その技術を1日に500キログラムから1トンまでの二酸化炭素を回収できるように発展させ、工場の冷却塔を応用することを考えた。

Noyaの技術では、CO2を吸収する化学物質を混ぜた冷却水が使われる。そして、冷却塔にアタッチメントを取りつける。これはサントス氏が再生プロセスと呼ぶ、取り込んだCO2を気体に戻す処理を行うものだ。回収したCO2は、産業用CO2として販売することにしている。

CO2は隔離されず、再利用に回されることから、今の段階ではまだ完全にグリーンとはいえない。だがサントス氏は、アンモニアとエタノールを使った現在の二酸化炭素製造方式よりはグリーンだと話す。

Noya Labsの共同創設者ジョシュ・サントス氏とダニエル・カベロ氏(画像クレジット:Noya Labs

「5年後には、二酸化炭素の回収と隔離の垂直統合を可能にしたいと強く願っています。第1のステップは、その場で低コストに空気からCO2を回収することです」とサントス氏。「二酸化炭素回収に全面的に向かうには、技術開発の時間がもっと必要です。この第1のモデルは、市場参入への長期戦略を練りながら、私たちの回収技術を洗練させることが目的です」。

サントス氏はそれを「テスラ・ロードスターのアプローチ」と呼ぶ。資本を積み上げて、利益を出し、その技術の1つをMVPとして成功させ、それを計画に沿った次のステップの成功に繋げるというものだ。

Noya Labsはすでに、家族経営のオーガニック農場Alexandre Family Farm(アレクサンダー・ファミリー・ファーム)と共同でパイロットプラントの建設を行っている。そこでは、500キログラムから1トンの二酸化炭素の生産が見込まれている。

この初のパイロットプラント建設と人材集めのために、同社は120万ドル(約1億2700万円)の資金調達に成功した。出資を行ったのは、Ela Madej(エラ・マデイ)氏とSeth Bannon(セス・バノン)氏が設立した先端技術を対象とする投資会社Fifty Years、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏のLowercarbon Capital(「地球をフ●ックしない」ための時間稼ぎができる企業に投資するというこの投資会社の企業理念は最高)。また同社はY Conbinatorにも参加している。

「この技術で大いに期待できることの1つに、米国だけでも冷却塔が200万基もあるという点があります。控えめに見ても、最初のパイロットプラントの処理量を1日1トンとすると、50万トン教のCO2が回収できることになります」。

しかも、Noyaが市場に向けて販売を予定しているCO2を買いたいという企業が、すでに何社も手を挙げている。CO2から製品を作るスタートアップも数多く成長している。これらの中には、Aether Diamonds(イーサー・ダイヤモンド)のようにCO2を原料に、なんとダイヤモンドを作るという冗談のような企業から、CO2から合成燃料を作るPrometheus Fuels(プロメシアス・フュエルズ)や、石油化学製品の代替品にCO2を使うOpus12(オーパス・トゥエルブ)などがある。

サントス氏によれば、産業用CO2の価格は、1トンあたり125ドル(約1万3000円)から5000ドル(約53万円)。Noyaは1トンあたり100ドル(約1万600円)以下で生産する予定だ。既存の直接空気回収各社は、1トンあたり600〜700ドル(約6万4000〜7万4000円)で販売している。

Noyaの導入初期費用は25万ドル(約2650万円)程度になるとサントス氏はいう。これなら、バノン氏が提唱する「ミスター・バーンズ・テスト」にパスできる。

持続可能性企業に「ミスター・バーンズ・テスト」を。ミスター・バーンズ(典型的な自己中で利己的で強欲な資本家)が買いたがる製品、つまり持続可能などではなく、良質で最安で最も便利なものを製造しているか。それが大規模なインパクトをもたらすカギになる

「私たちは直接空気回収(DAC)を模索してきましたが、これまで見てきたテクノ経済は好きになれませんでした。従来のアプローチでは、資本支出と運営コストがかかりすぎて、十分な収益が望めません」とバノン氏は電子メールで語ってくれた。「Noyaが解決したのはそこです。既存の工場設備を利用する彼らのモデルには収益性があります。しかも、二酸化炭素回収のパートナーにも収益をもたらすため、急速なスケールアップが可能です。これにより、年間100万トン以上の二酸化炭素を収益性のあるかたちで回収するという機会が創出されるでことしょう」。

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)

農業監視と管理のFlurostatが土壌炭素のエキスパートDaganと合併しRegrowに、炭素排出市場に貢献

FluroSatとDaganの2社は、持続可能な農業が温室効果ガス排出削減に果たす役割をより良く理解するために、農業投入物と生産物の監視と管理に取り組んでいるスタートアップだ、両社はこの度、合併して新しいブランドRegrowの下で一連のサービスをローンチしている。

合併は米国時間2月22日に発表された。共同声明では、FluroSatのデータドリブンな農業経営サービスと、Daganの土壌の生物地球化学的モデリング技術を結びつけた会社を設立すると述べている。

合併により生まれた企業は、異なる作物、畑、農場および地域のための特異的分析およびカスタム介入とともに、作物管理および保全慣行の採用を最適化するための衛星収集データを提供する能力を有している。

Daganの共同創設者であるWilliam Salas(ウィリアム・サラス)博士は、合併した会社は、Daganの土壌炭素に関する研究のおかげで、炭素排出の市場でより良い対応ができるようになるだろうと述べている。

サラス氏は声明で次のように語る。「土壌炭素固定は、最終的に過剰な大気中の二酸化炭素を除去するための世界的に関連する戦略として台頭しつつあります。安易な近道や誤謬、誇大宣伝は土壌炭素の途方もない可能性の邪魔をする可能性があります。しかしFluroSatとDaganの合併により、業界は確信と誠意をもって土壌の健康の最良のデータに取り組み、そこから得られるサイト固有の戦略により、企業が炭素市場で成功するための正確さと透明性を提供することができるでしょう」。

合併の条件は公表されていないが、FluroSatはこの前およそ860万ドル(約9億1000万円)の投資資金と助成金を、MicrosoftのM12ベンチャーファンドのリードにより調達したとCrunchbaseのデータにはある

MicrosoftのAzure GlobalのチーフサイエンティストであるRanveer Chandra(ランヴィール・チャンドラ)氏は「次の10年間で我々人類は100億人の世界人口を十分養える食料を世界中で生産する必要があり、しかもそれは、土地を保護し気候変動の進展を抑止する方法でなければなりません。Regrowの計算農業は機械学習と科学的モデリングを利用して、土壌炭素の収支計算の精度を上げることができます」と述べている。

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タグ:Regrow農業二酸化炭素

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Shellの気候計画における柱はEV充電ステーション、バイオ燃料、水素転換、化学物質

世界最大の上場石油製造会社の1社であるRoyal Dutch Shell Group(ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ)が、温室効果ガス排出ゼロの気候に配慮した社会の中で同社がいかに生き残って行くかについての計画を発表した

この計画は、「電気自動車充電ステーションの大規模な展開」「潤滑油、化学品、バイオ燃料の重視」「大幅に拡大した再生可能エネルギー発電ポートフォリオとカーボンオフセット計画の策定」「水素・天然ガス資源の開発を継続し、石油生産を年間1〜2%削減」「二酸化炭素の回収と貯留への多額の投資」という5つの主要な柱に基づいている。

これらは同社の事業全体にわたるもので、大手石油会社による、最も包括的でハイレベルな計画となっている。低排出、そして究極的にはゼロエミッションのエネルギーと電源への移行によって石油業界が次の犠牲者となることを防ぐごうとする内容となっている(石炭産業を指している)。

ロイヤル・ダッチ・シェルのBen van Beurden(ベン・ヴァン・バーデン)最高経営責任者は声明で、「私たちの力強い戦略は、炭素排出量を削減し、株主、顧客、そして社会全体に価値を提供することになるでしょう」と述べた。

同社はまた、株主の離脱を防ぐため、コスト削減を実施し1株当たり年間約4%の配当の増加を約束した。これは高価な石油・ガス探査事業に投資した投資家に資金を還元することを意味する。さらに、同社は負債を返済し、営業キャッシュフローの20〜30%を株主に支払うことも約束した。とても……思いやりがある。

画像クレジット:Bryce Durbin

計画

同社の推計によると、シェルは100万社以上の商工業顧客と約3000万人の顧客を擁し、4万6000の小売サービスステーションに顧客が毎日訪れる巨大企業である。同社は成長の機会、エネルギー転換の機会、そしてアップストリームの’掘削作業と石油生成作業が徐々に衰退していく状況について考えを整理した。

成長が見込まれる分野について、シェルは約50億から60億ドル(約5300億から6400億円)の投資を計画している。2025年までに50万カ所の電気自動車充電施設を整備すること(現在の6万カ所からの拡大)およびそれにともなう充電促進の小売・サービス拠点の強化などが計画に盛り込まれている。

同社はまた、バイオ燃料や再生可能エネルギーの生産拡大とカーボンオフセットにも重点的に投資すると述べた。同社は年間560テラワット時を2030年までに発電したいと考えており、これは現在の発電量の倍に相当する。シェルが独立系発電事業者として事業を展開し、1500万の小売および商業顧客に自然エネルギー発電をサービスとして提供することを期待したい。

さらに同社は、水素関連事業も成長可能な分野だと捉えている。

低炭素経済に移行できる資産をすでに保有しているシェルは、そこにさらに力を入れる意向だ。つまりゼロエミッションの天然ガス生産と化学品製造の3倍の削減を目指す(ダウとBASFに着目)。同社は100万トンのプラスチック廃棄物を処理して循環型化学製品を製造する方針を固めており、これはリサイクル率の向上にもつながる。

アップストリームは長年にわたって石油・ガス事業の中心だったが、同社は声明で「量よりも価値に焦点を当てる」と述べている。これが実際に意味するのは、掘削が簡単で低コストの油井を探し求めることであろう(これは石油経済において、当分の間中東が重要であり続けることを示している)。同社は石油生産量を年間約1%から2%削減する予定である。また、カナダのQuest CCS開発、ノルウェーのNorthern Lightsプロジェクト、オランダのPorthosプロジェクトなどを通じて、年間2500万トン相当の二酸化炭素の回収と貯留に投資を行う考えだ。

「私たちは、顧客が求め、必要としている製品とサービス、すなわち環境への影響が最も少ない製品を提供する必要があります」とヴァン・バーデン氏は声明で語っている。「同時に、これまでの強みを活かして競争力のあるポートフォリオを構築し、社会と歩調を合わせたゼロエミッション事業への転換を図っていきます」。

米ドル紙幣による貨幣または財務のグリーンパターン。銀行、キャッシュバック、支払い、Eコマース。ベクトルバックグラウンド(画像クレジット:Svetlana Borovkova / Getty Images)

マネートーク

同社は、主要事業からの収益が削減される中で生き残っていくために、営業経費を抑え、もはや意味のない事業の大きな部分を売却しようとしている。

つまり、年間の支出を350億ドル(約3兆7200億円)未満に抑え、年間売上高は約40億ドル(約4250億円)で、投資家への配当と現金の流れを維持していることになる。

「長期的には、資本投資のバランスは成長の柱の事業にシフトし、新たな設備投資の約半分はこれらの分野に行われるようになる」と同社は説明している。「キャッシュフローも同じ傾向をたどり、長期的には石油やガスの価格との関連性が少なくなり、より広範な経済成長との結びつきが強まることが期待される」。

シェルは、全従業員に支払われる給与の一部として炭素集約度の削減目標を設定しており、その目標は目を見張るものがある。2016年を基準とする炭素集約度の削減率を6〜8%(2023年)、20%(2030年)、45%(2035年)、100%(2050年)と想定している。

同社によると、同社の炭素排出量は2018年に年間1.7ギガトンでピークに達し、石油生産量は2019年にピークに達している。

背景

シェルがこうした措置を取っているのは、同社が望んでいるからではなく、そうする必要があるからだ。化石燃料の汚染と気候変動を止めるために何か劇的なことをしない限り、世界は深刻な結果に直面することが予測される。

今週初めに発表された調査で、化石燃料による大気汚染で世界の人口の18%が亡くなっていることが示された。ハーバード大学が率いる研究者らの報告によると、化石燃料を燃やすことはガンと同じくらい致命的だということだ。

化石燃料に直接結びついた人的代償以外にも、気候変動には膨大な損失が見込まれている。米国では、これを逆転させるための措置を取らない限り、2090年までに損失は年間5000億ドル(約53兆円)のに上ると推定されている。

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タグ:Shell電気自動車二酸化炭素充電ステーション

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:TechCrunch Japan)