ソーシャルネットワークの世界では動画の重要性がますます高まっている。FacebookやTwitterをはじめとする各サービスが、トラフィックの獲得やエンゲージメント率の向上、さらにはテレビ業界の高額な広告料を狙って動画機能の拡充に努めている。Snapchatにいたっては開発時点から動画をサービスの中心に据えてきた。
Microsoft傘下のLinkedInもようやくその仲間に加わろうとしている。本日(現地時間8月22日)同社は、iOS・Androidアプリ経由で動画をアップロードできる機能を全ユーザーに対して公開すると発表した。
彼らの狙いは、進行中や完了したプロジェクト、製品デモなど、仕事の様子を動画でユーザーに共有させることだ。その様子はSnapchat系以外のソーシャルサイトの動画機能とよく似ている。動画に興味を持っているものの何から手をつければいいかわからないというユーザーに向けて、説明書まで準備されている(Snapchatとは大違いだ)。
実は今回発表された機能は全く新しいものではない。LinkedInは今年に入ってから対象を絞って動画投稿機能をローンチし、その結果は彼らの願い通りだった。動画コンテンツはそれ以外と比較して20倍以上もシェアされやすいということがわかったのだ。それ以前にも、同社は昨年インフルエンサーによるQuora風のQ&Aサービスがローンチしており、厳密な意味で言えばLinkedInは既に動画コンテンツの分野に足を踏み入れていた。
そう考えると、動画投稿機能の一般公開はようやくという感もあるが、5億人のLinkedInユーザーにとっては、流行りに乗り切れないLinkedInというのはそこまで驚くべきことではないのかもしれない。
これまでも同社は、比較的動きが遅いソーシャルサイトとして知られていた。「LinkedIn」と「ようやく(finally)」という言葉を組み合わせてGoogle検索してみれば、TechCrunchだけでなくさまざまなメディアで、同社がモバイル(AndroidやiPadへの対応、さらにはモバイル・ウェブ版の統一)やコミュニケーション・シェア機能の拡充、新興国への進出といった波に乗り遅れてきた様子が報じられているのがわかる。
なぜ動画機能のローンチにここまで時間がかかったのかという質問に対し、同社の広報担当者は「私たちはユーザーが仕事に関連したコンテンツを制作・シェアする手段の拡充に注力してきた。パブリッシングツール同様、動画機能の導入にあたっては、現状のコンテンツの投稿、共有、発見フローを変えず、さらにユーザーエクスペリエンスを向上するような形になるよう試行錯誤を繰り返した」と語った。
何はともあれ、ようやく動画機能がローンチされたことで、今後同機能がどのようなプロダクトへ進化していくのか、そしてこれまでにローンチされた機能や将来的に開発予定のものとどのようなシナジーを生み出していくのかに関して興味が湧いてくる。
そこでカギになるのがライブ動画だ。
今年LinkedInはFacebok Liveのプロダクトマネージャーを務めていたPeter Roybalを密かにチームに迎え、今後彼が動画ビジネスを率いていく予定だ。Roybalの上司は、LinkedInが去年買収したRun HopというスタートアップのファウンダーPete Daviesで、彼は現在LinkedInのコンテンツ・パブリッシング機能全体を管轄している。ソーシャル界の雄Facebookのライブ動画配信プラットフォームを管理していたRoybalの参画により、LinkedInが今後動画機能をどのような方向に導こうとしているのかある程度予想がつく。
会社のプロフィールページ、教育サービス、採用支援、プロフェッショナルネットワークといった、LinkedInがこれまでに構築してきたサービスとライブ動画の相性の良さは言わずもがなだ。
教育分野に関し、LinkedInはLynda.comを15億ドルで買収した後、LinkedIn Learningと呼ばれるサイトをローンチし、従業員向けの教材を探している企業や個人に向けてオンラインコースを提供している(さらに現在は個別指導機能のテスト中)。
これらの分野では、文字ベースでやりとりできる機能が付いた一対多数配信、そして一対一のビデオチャットの両方が有効活用できる。
特に長年LinkedInの収益の大部分を担ってきた採用ビジネスにおける一対一ビデオチャットの有効性(企業や求人の宣伝、候補者の面接など)は明白だ。
(ちなみに現在Microsoftが運営しているSkypeとLinkedIn間のコラボに関する話は全く聞かないが、Skypeも面接用のプラットフォームを開発中との噂を耳にしたことがある。Microsoftは本件に関するコメントを控えているが、既に企業の面接でSkypeが広く利用されていることを考えるとこの動きには納得がいく)
「ライブ動画やビデオチャットを利用することで、サービスに全く新しい側面が加わるため、将来的な可能性としては興味を持っている」と広報担当者も語っている。
その他に近い将来LinkedInが動画を活用するであろう分野としては、広告や企業動画が挙げられる。
企業動画の配信に関しては「近日中にローンチ予定」と広報担当者は話しており、別の情報筋によれば、企業動画はプロフィールページ以外にも掲載されるようになるとのこと。これに関連し、LinkedInはハッシュタグを使ってコンテンツが検索できるページ(例;#TED2017)を改良中で、今後このページが動画の拡散に使われることになるだろう。
上述の機能やサービスは全て、何のためにLinkedInが動画に力を入れはじめたのかということに繋がってくる。その目的は、ずばり広告だ。
Facebook、Twitter、Snapchat、YouTube、Yahoo/AOL/Oathといった企業が既に気づいた通り、今日のデジタル広告界では動画こそが王様だ。LinkedInも動画コンテンツを充実させることで、動画広告に近づける。
「現時点では動画広告は掲載しておらず、今はエクスペリエンスの向上やユーザーからの情報収集に努めている。しかし動画広告の導入は自然な流れであり、将来的なプランとして検討中。今のところ具体的な計画はないが、さまざまな可能性を模索していきたい」とLinkedInは語った。
多くの可能性が広がっていると同時にゴールが見えづらい動画ビジネスだが、LinkedIn(そしてMicrosoft)の次なる狙いであることは間違いないようだ。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)