共同創業者でCEOのニキル・ヴィスワナサン氏とCTOのジョー・ラウ氏(画像クレジット:Alchemy)
半年前に5億500万ドル(約575億円)の評価額で8000万ドル(約91億円)を調達したSaaS(Software as a Service、サービスとしてのソフトウェア)スタートアップ企業、「Alchemy(アルケミー)」。ブロックチェーンおよびWeb3の開発を手がける同社は、このたびシリーズC資金調達ラウンドで2億5000万ドル(約285億円)を調達し、評価額は35億ドル(約3990億円)となった。
詳細を知る関係筋によると、Andreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)が主導したこの資金調達には、多数の大手ベンチャー企業がラウンドに参加するだけでなく、主導することを求めて群がり、非常に競争の激しいものとなった。
今回の資金調達は、Alchemyの評価額が半年間で7倍という驚異的な伸びを示したことの他にも、いくつかの点で注目を集めている。1つは、a16zがこれまでに実施したWeb3 / ブロックチェーン関連の投資の中でも最大規模のものであること。a16zは、2021年6月に22億ドル(約2500億円)の暗号化ファンドを発表し、この分野に本格的に取り組んでいることを示した。参考までに、Web3とはブロックチェーンを中心とした一連のプロトコルのことで、インターネットのバックエンド機能に改革を起こすことを意図するものである。
さらに興味深いのは、Alchemyが多くのスタートアップ企業にとってなかなか実現できないもの、つまり収益性を達成したことである。
AlchemyのCEOで共同設立者のNikil Viswanathan(ニキル・ヴィスワナサン)氏によると、同社は「実際に非常に収益性が高い」という。この数カ月間で、同社の提供するサービスに対する需要が爆発的に増加し、前回4月の資金調達時と比べて収益が15倍になったことで高い収益性を実現できたそうだ。CTOで共同設立者のJoe Lau(ジョー・ラウ)氏は「シリーズBラウンドで調達した8000万ドル(約91億円)には手をつけていない」と話す。
「(シリーズBの)資金はすべて銀行に残っています」とラウ氏。「資金は必要ではありませんでしたが、私たちは、ブロックチェーンの分野で深い技術的専門知識を備えたチームを所有するホロウィッツ氏のようなすばらしいパートナーと手を組むことに価値があると考えました」。
簡単に説明すると、AlchemyはAWS(Amazon Web Services)がインターネットで実現したものを、ブロックチェーン / Web3で実現したいと考えている。Alchemyの目標は、ブロックチェーン上のサービスを検討している開発者のスタート地点となること、すなわちブロックチェーンアプリケーションのメインストリームになることである。Alchemyの開発者ツールは「必須の」開発者ツールを使ってアプリケーションを改良することで、インフラ構築の複雑さを解消し、コストを下げることを目指している。Alchemyは2020年8月にサービスの提供を開始した。
現在、Alchemyは、金融機関、取引所、1000億円規模の分散型金融プロジェクト、ユニセフを含む多国籍組織など、ほぼすべての業界におけるブロックチェーンのさまざまな取引を強力にバックアップしている。同社のテクノロジーはMakersPlace(メーカーズプレイス)、OpenSea(オープンシー)、Nifty Gateway(ニフティゲートウェイ)、SuperRare(スーパーレア)、CryptoPunks(クリプトパンクス)など、あらゆる主要なNFTプラットフォームを支える技術としても急速に普及している。その他にも、Dapper Labs(ダッパーラボズ)、Axie Infinity(アクシーインフィニティ)、最近契約したAdobe(アドビ)のようなブロックチェーン上に(サービスを)構築しているフォーチュン500企業、PricewaterhouseCoopers(プライスウォーターハウスクーパース)などが顧客として名を連ね「DeFi(Decentralized Finance、分散型金融)の大部分」にもサービスを提供している。
4月の増資時は300億ドル(約3兆4100億円)であったAlchemyと世界中の企業との取引は、現在450億ドル(約5兆1200億円)以上に増加。同社がサポートするブロックチェーンの数も拡大している。
「私たちのプラットフォームは、多少なりともEthereum(イーサリアム)に絞って対象としていましたが、多くの需要に支えられ、ポリゴン、アービトラム、オプティミズム、フローにまで拡大しています」とラウ氏は話す。
画像クレジット:Alchemy
ヴィスワナサン氏は新しい開発者も増えている、と指摘する。
同氏は次のように続ける。「Alchemyに参加するチームや企業が増え、チームや企業ごとに多くの開発者が私たちのプラットフォームを利用するようになりました」「つまり、すべての方面で成長しているのです」。
爆発的な成長にもかかわらず、Alchemyはまだ小規模なチームである。現在の従業員数は37名、本社をサンフランシスコに置き、ニューヨークオフィスの他、世界各地でリモートスタッフが業務にあたっている。
Alchemyは、新たな資本のほとんどを、ブロックチェーンを中心としたコミュニティの構築への投資に利用する予定である。同社の幹部は、市場がまだ小さく、この分野が持つチャンスが不透明だった2017年という適切な時期に事業をスタートさせることができた、と考えている。
ラウ氏は次のように話す。「私たちの究極の目標は、ブロックチェーンが持つ可能性を実現することです」「リソースを増やして、開発者がこの分野に参入し、より効果的かつ迅速にブロックチェーン上のサービスを構築できるようにすることで、これを実現したいと考えています」。
ヴィスワナサン氏は「Alchemyは近年のブロックチェーンの盛り上がりと人気に重要な役割を果たしている」と考えている。
同氏はTechCrunchの取材に対し、次のように話す。「ブロックチェーンの成長とともにAlchemyが成長しただけではありません。私たちはブロックチェーンのエコシステムの成長にも貢献しています」「私たちが良いツールを提供すれば、開発者はもっとサービスを作りやすくなります。それをより多くのユーザーが利用し、さらに多くの開発者がサービスを開発し、私たちはさらにツールを改良する……好循環ですね。Alchemyはこのサイクルの回転を支援している、と考えています」。
画像クレジット:Alchemy
a16zのジェネラルパートナーであるAli Yahya(アリ・ヤヒヤ)氏は、Alchemyをブロックチェーン / Web3の成長における「重要な推進者である」と表現し、AlchemyはすでにWeb3の「事実上(デファクト)の開発者プラットフォーム」であると話す。
ヤヒヤ氏はメールに「Microsoft(マイクロソフト)やAWSがコンピューターやインターネット業界をサポートするプラットフォームを構築したように、Alchemyのプラットフォームは、世界中で何百万、何千万もの人々が利用するブロックチェーンサービスの構築を可能にします」と記し、Alchemyの成長は関連するすべての指標で「驚異的」だと付け加えた。
Alchemyの前回のラウンドに投資した、Google(グーグル)の会長であり元スタンフォード大学学長のJohn L. Hennessy(ジョン・L・ヘネシー)氏は、ヤヒヤ氏の意見に同意し、さらにもう1つ、注目すべき比較を行った。
ヘネシー氏は「Alchemyは、AWSがクラウドを実現したのと同じように、ブロックチェーン業界の成長を後押ししています」「Alchemyのテクノロジーに対する興奮を見ていると、Googleの初期の頃を思い出します」とメールに記す。
シリーズC資金調達ラウンドには、Lightspeed Venture Partners(ライトスピードベンチャーパートナーズ)とRedpoint(レッドポイント)も新たな投資家として参加した。すでに投資を行ってきたCootue(クートゥー)、Lee Fixel’s Addition(リー・フィックセルアディション)、DFJ(ディーフェフジェー)、Pantera Capital(パンテラキャピタル)は、Alchemyへの投資を倍増させた。Alchemyは2017年の設立以来、合計で約3億4500万ドル(約393億円)を調達したことになる。
Alchemyにはこれまで、Chainsmokers(チェインスモーカーズ)のMantis(マンティス)ファンド、俳優のJared Leto(ジャレッド・レト)、Glazer family(グレイザー家、タンパベイ・バッカニアーズやマンチェスター・ユナイテッドFCのオーナー)、ヤフーの共同設立者で元CEOのJerry Yang(ジェリー・ヤン)、Coinbase(コインベース)、SignalFire(シングルファイヤー)、Samsung(サムスン)、スタンフォード大学、Charles Schwab(チャールズ・シュワブ)、LinkedInの共同設立者Reid Hoffman(リード・ホフマン)などが出資を行ってきた。
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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)