Snapがマインドコントロールヘッドバンドのメーカー「NextMind」を買収

Snapは米国時間3月23日朝、NextMindを買収したことを確認した(買収額非公開)。パリに本拠を置く同スタートアップは、脳の信号を利用してPCのインターフェイス上で画像を動かす、自らの名前を冠したコントローラーで知られている。CESで399ドル(約4万8000円)の開発キットを発表した後、2020年第2四半期に出荷を開始している。TechCrunchは同年末に試す機会があり、このハードウェアを「稀にみる『すごい』もの」と評した。

「NextMindは、Snap Lab内で長期的な拡張現実の研究活動を推進するためにSnapに参加しました。Spectaclesは進化し、反復する研究開発プロジェクトであり、最新世代は、拡張現実の技術的限界を探る開発者を支援するように設計されています」と同社はブログで述べている。

このニュースは、同社がソーシャルメディア企業のハードウェア研究部門Snap Labに統合されたことを示している。また、NextMindの開発キットのスタンドアローン版も終了する。この技術の一部は「Camera」や「Spectacles」といったAR機能を含む、将来のSnapの製品に搭載されることはほぼ確実だ。

神経科学者とハードウェアエンジニアのチームによって2017年に設立されたNextMindの技術は、脳波計を内蔵したウェアラブルヘッドバンドを利用して、大脳皮質の神経活動を検出して読み取れる。装着者がディスプレイ上の画像を見ているときに、ヘッドセットがそれを動かしたいかどうかを判断することが可能だ。このようなマインドコントロールのインターフェースは、拡張現実にとって非常に理に適ったものだ。特にヘッドマウントディスプレイは、長い間コントローラーの問題に悩まされてきたが、このような技術はその解決への道筋をつけることができるだろう。

「この技術は、神経活動をモニターして、コンピューティングインターフェイスと対話するときのユーザーの意図を理解し、それに集中するだけで仮想ボタンを押すことができます。この技術は、思考を『読む』ことも、脳に向けて信号を送ることもありません」とSnapは付け加えた。

NextMindは、2018年半ばに460万ドル(約5億6000万円)のシードラウンドを調達している。引き続きチームはパリで活動し、その従業員のうち20人(主に技術系)がSnap Labsに加わり、より長期的な研究開発に注力する予定となっている。2021年5月、SnapはARヘッドセットに使用される部品を製造するWaveOpticsを買収した。同月、同社は第4世代のSpectaclesを披露し「拡張現実を実現する初のメガネ 」と称している。

画像クレジット:NextMind

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(文:Brian Heater、翻訳:Katsuyuki Yasui)

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

開発したマイクロLEDアレイ。写真左:マイクロLEDアレイ中空構造。写真右:マイクロLEDアレイ極薄フィルムの発光像

豊橋技術科学大学(関口寛人准教授)、獨協医科大学(大川宜昭准教授)、沖縄科学技術大学院大学(福永泉美准教授)は3月18日、脳を覆って神経細胞を光で操作する、柔軟で極薄の生体適合性フィルムに多数のマイクロLEDを埋め込んだ光遺伝学用デバイスを開発したと発表した。

近年、特定波長の光で活性化するタンパク質を使って神経細胞の活動をコントロールする「光遺伝学的手法」が注目されている。特に、複雑な脳の神経ネットワークの包括的な理解に役立つことが期待されているが、それには広範囲に分布する特定の神経細胞の部位を自在に制御できる光刺激技術が必要となる。従来の光ファイバーや顕微鏡を用いる方法では、複数の部位に同時に光をあてることが難しく、また自由に行動する動物への適用も限られる。そこで、生体に埋め込めるLEDデバイスに期待が集まっているのだが、通常のLEDでは大きすぎてこの目的にはそぐわない。

そこで研究グループは、サイズが100μm(マイクロメートル)以下、厚さが数μmというマイクロLEDを、生体適合材料である極薄のパリレンフィルムの上に格子状に配置する手法を編み出した。化学薬品で半導体結晶の特定方向だけを溶かす「異方性ウェットエッチング」という技術を使い、シリコン基板の上に形成されたマイクロLED層の下側を溶かして浮かせ、マイクロLED層だけを剥がした後、パリレンフィルムに転写した。こうすることで、曲げても光照射特性が劣化しないフィルムができあがった。これをマウスの脳の表面に貼り付けたところ、明るい青い光を放った。

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

マイクロLEDを埋め込んだ極薄フィルムで脳を覆う光遺伝学用デバイスを開発、脳神経の包括的な理解に道

マウス脳に密着したマイクロLEDアレイ極薄フィルムにおいて、3点の狙ったLEDを点灯させた光照射の様子

脳の広い範囲を覆うことができるこのデバイスを使えば、光を使った複雑な脳活動の制御が可能になる。計測技術を組み合わせれば、脳の活動と、行動や疾患との関係が包括的に理解できるようになり、新しい神経科学研究の道が拓かれることも期待される。さらに、光に反応する生体内機能分子の開発が進めば、光をあてることで薬剤を狙った部位に好きなタイミングで効かせることができる生体埋め込みデバイスによる光治療技術への応用も期待できるということだ。

冠動脈疾患・脳梗塞治療に向け医師がX線被曝なしにトレーニングできる血管内治療シミュレーター開発、小型化・コスト削減

冠動脈疾患・脳梗塞・脳動脈瘤の治療に向け医師がX線被曝なしにトレーニングできる血管内治療シミュレーター開発、小型化・コスト削減を実現

血管モデルの可視光による画像(左)と、非被爆血管内治療シミュレーターによるX線模擬画像(右)

理化学研究所は2月25日、通常は、医師がX線透視像を見ながら行う血管内治療のトレーニングを、放射線被曝しない形で簡便に行える「非被爆血管内治療シミュレータ」を開発した。テーブル上に設置でき、従来方法よりはるかに安価なため、いつでもどこでもトレーニングが行えるという。

冠動脈疾患、脳梗塞、脳動脈瘤などの治療には、血管内にカテーテルやステントを通す血管内治療が行われることが多い。奥行き情報のない2次元的なX線透視像で、器具の先端の動きを見ながら血管の中に器具を通しゆくため、高度な技術を要する。しかしそのトレーニングは実際にX線を使って行う必要があり、医師は放射線被曝が避けられない。また、実際のカテーテル室で行わなければならないため、時間的な制約があり、同時に複数の医師がトレーニングできないといった課題があった。

血管内治療の模式図。(A)術部へのカテーテルの誘導。(B)脳動脈瘤に対する血管内治療。(C)頚動脈狭窄に対する血管内治療。(D)脳血管閉塞に対する血管内治療。(E)心臓冠動脈梗塞に対する血管内治療

白色光源とビデオカメラを使ったトレーニングシステムもあるが、それでは血管の分岐部やガイドワイヤーの上下の動きなどが陰影から推測できてしまうため、平面的な映像だけが頼りの実際の治療とは条件が違ってしまう。そこで、理化学研究所(深作和明氏)は、琉球大学病院(横田秀夫特命教授、岩淵成志特命教授、大屋祐輔教授)と共同で、「非被爆血管内治療シミュレータ」を開発した。

このシミュレーターの特徴は、X線透視像と同じく、奥行き情報のない画像で訓練ができる点にある。このシステムでは、高感度カメラと波長選択フィルターを使い、透明な血管モデルを可視光で撮影するという方式を採っている。造影剤には液体の蛍光色素を使い、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、ステントにも同じ波長の蛍光色素を塗り、血管内と器具の特定の部位だけが発光するようにした。それにより、X線透視像と同じく奥行きのない映像を作ることができるようになった。さらに、リアルタイムで画像処理を行い、実際の手術の際に用いられる、複数の映像を重ねたり輝度を反転させたり差し引いたりして作られるサブトラクション血管造影と同等の、デジタル化したサブトラクション血管造影(DSA)の機能も実現させた。

(A)造影剤を入れた血管の画像。(B)ガイドワイヤーとカテーテルの画像。(C)血管とカテーテルを重ねた画像。(D)一般のカメラで撮影した画像

そしてもちろん、X線を使わないため、トレーニングを行う医師に放射線被曝の心配は一切ない。装置は60cm四方の場所に設置できるため、いつでもどこでも安全にトレーニングが行える。コストも、従来方法よりもはるかに安価になるという。

研究グループは、同グループが開発した患者個体別血管モデリングシステムと組み合わせ、実際の患者の血管形状を反映した3Dモデルや、統計的に多発する病態モデルでのシミュレーションへの展開を目指すと話している。

進化したヒトの脳はサルより回転が遅い? 新潟大学脳研究所が霊長類4種類で検証

進化したヒトの脳はサルより回転が遅い? 新潟大学脳研究所が霊長類4種類で検証

新潟大学脳研究所は、音を聞いてから大脳がそれを分析するまでの時間を、霊長類4種類で測定したところ、ヒトがもっとも遅かったという研究結果を発表した。サルよりも発達した脳を持つ人間のほうが、脳の処理に時間がかかるということだが、これは退化ではなく、むしろ進化の結果だという。

新潟大学統合脳機能研究センターの伊藤浩介准教授、京都大学霊長類研究所の中村克樹教授、京都大学野生動物研究センターの平田聡教授らによる研究グループは、ヒト、チンパンジー、アカゲザル、コモンマーモセットの4種類の霊長類を使って、音に対する大脳聴覚野の応答時間を脳波で無侵襲で計測した。音によって大脳の聴覚野から誘発されるN1という脳反応が、何ミリ秒後に生じるかを調べたものだ。その結果、コモンマーモセットが40ミリ秒、アカゲザルが50ミリ秒、チンパンジーが60ミリ秒、そしてヒトが100ミリ秒ともっとも遅かった。

脳は大きいほど、つまり脳細胞が多いほど発達しているという。脳細胞が多いので、ヒトの場合はその他の動物にくらべて、N1反応が現れるまでに多くの脳細胞を通過して多くの処理が行われているわけだ。そのために遅れる。決して、伝達速度が遅いわけではない。

N1反応は、無音から音が鳴ったり、鳴っていた音が消えたり、音の高さが急に変化したりするなど音が「変化」したときに誘発されるのだが、変化を検出するには、その前後の音と比較する必要がある。瞬間の音を認識するというよりは、時間軸上に開いたある程度の長さの「時間窓」で、音を一連のつながりの中で分析を行う。研究グループによれば、ヒトは「音を分析する時間窓が長い」のだそうだ。音の時間窓が長いということは、視覚で言えば視野が広いのに相当する(音の変化をストロボのように瞬間ごとでなく、一連のものとして大局的に捉える)。これは「言語音のように時間的に複雑に変化する音の分析に有利」なのだという。

処理に時間がかかるのはデメリットだが、時間窓が広がり複雑な刺激を処理できるようになったことは、「デメリットを補って余りあるメリット」だと研究グループは話す。また、それがあるからこそヒトの脳は大きくなり進化したというのが、この研究成果に基づく新仮説とのことだ。

今後は、様々な感覚や認知を、長い時間窓でじっくりと大局的な処理をすることで、動作が遅くても高度な機能を獲得したのがヒトの脳、とする仮説の検証を目指すという。

NTTドコモ、脳・身体の情報をネットワークに接続し人間の感覚を拡張する6G時代の「人間拡張」のための基盤を開発

NTTドコモ、脳や身体の情報をネットワークに接続し人間の感覚を拡張する6G時代の「人間拡張」のための基盤を開発

NTTドコモは1月17日、ネットワークで人間の感覚を拡張する「人間拡張』を実現する基盤の開発を発表した。これは、「ドコモ6Gホワイトペーパー」で示した6G時代の新たな価値提供の1つ。H2L、FCNT、富士通の協力により、世界で初めて開発した。

「人間拡張」とは、脳や身体の情報をネットワークに接続し、人間の感覚を拡張するというもの。6Gでは通信速度が人間の神経の反応速度を上回るようになるため、これが可能になるとされている。NTTドコモはそこで、「身体のユビキタス化」「スキルの共有」「感情の伝達」「五感の共有」「テレパシー・テレキネシス」という目標を掲げており、今回「身体のユビキタス化」と「スキルの共有」という身体的な動作を共有するための基盤を開発した。

具体的には、人の動作を「センシングデバイス」で取得し、その動作データを駆動機器「アクチュエーションデバイス」を通じて人やロボットにリアルタイムで伝えるというものだ。動作を送る側と受け取る側とで身体の大きさや骨格が異なる場合、そこを調整して自然な動作が伝わるようにもしている。また動作の大きさも調整が可能だ。しかも、動作データは基盤上に蓄積しておくこともできる。そのため、熟練工の動作を保存しておき、後に後継者に反映して技術を継承するといったことも可能になる。

さらに、パートナー企業が提供するさまざまなデバイスの相互接続も行える。デバイス開発者に向けてこの基盤に簡単に接続できる開発キット(SDK)を提供し、関連する技術を持つパートナーを増やし、付加価値を向上させて商品化に取り組むとのことだ。

今後は、感情の伝達や五感の共有にも拡張し、「多様性の享受や、ハラスメントなどの社会的課題の解決」にも貢献したいとNTTドコモでは話している。

現在オンライン開催されている「docomo Open House’22」にて、この基盤で人やロボットが腕や手の動きを共有する様子が見られる。

 

脳ドック用ソフトウェアBrainSuiteを手がけるCogSmartが3.5億円のシリーズA調達、事業拡⼤・国内外での研究開発推進

脳ドック用ソフトウェアBrainSuiteを手がけるCogSmartが3.5億円のシリーズA調達、事業拡⼤・国内外での研究開発推進

脳ドック用ソフトウェア「BrainSuite」(ブレーン スイート。受信者向け医療機関向け)を手がけるCogSmart(コグスマート)は1月6日、シリーズAラウンドにおいて、総額3億5000万円の資⾦調達を実施したと発表した。引受先は、オムロンベンチャーズ、アイロムグループ各社、DG Daiwa Ventures、アイティーファーム、MAKOTOキャピタルが運営・関与するファンド、個⼈投資家。累計調達額は4億1000万円となった。調達した資⾦により、国内外でのさらなる研究開発の推進や事業拡⼤に取り組み、社会課題の解決に挑み続けるとしている。

2019年設⽴のCogSmartは、「早期段階からの認知症予防」の普及を目指す東北大学発の医療テクノロジー系スタートアップ。「脳医学とテクノロジーの⼒で、⼀⼈ひとりがいつまでも健やかに、⼼豊かに暮らすことができる社会を作る」をビジョンに掲げ、認知症の早期段階からの予防や、認知機能の改善・維持のための医療・ヘルスケア機器の製造販売事業、またこれらに関する解析・データサイエンス事業を手がけている。

同社が手がけるサービスの1つがBrainSuiteで、首都圏の病院・健診施設を中心に提供。さらに、東北や⻄⽇本エリアの病院でも提供を開始しており、今後全国各地での展開を予定している。

同サービスは、30代から70代までを対象に、頭部MR画像のAI解析技術などを利用することで、海馬の体積や萎縮程度を測定・評価し、同性・同世代と比較した脳の健康状態を可視化するものという。これにより行動変容のための「気づき」を提示し、脳の健康状態の維持・改善方法について受診者に合ったアドバイスを提供することで、「認知症にならない生涯健康脳」の実現を脳医学の観点から支援する。脳ドック用ソフトウェアBrainSuiteを手がけるCogSmartが3.5億円のシリーズA調達、事業拡⼤・国内外での研究開発推進

またCogSmartは、⼤規模頭部MRIデータベースを⽤いた医⽤画像分析に関する研究にて⻑い蓄積を持つ東北⼤学医学研究所 瀧研究室をはじめ東北大学と密に連携し、画像解析ソフトウェアなどの開発を実施。⼈⼯知能技術を活⽤した頭部MR画像解析プラットフォームを構築していることから、企業・医療機関様などの要望に応じて、認知症分野以外にも脳疾患・症状などに関する画像解析ソフトウェアの受託開発、またそのデータ分析を柔軟に⾏うことが可能という。

認知症領域の課題解決を目指す医療AIスタートアップSplinkが11.2億円調達、脳ドック用AIプログラムの全国普及・拡大推進

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

認知症領域の課題解決を目指す医療AIスタートアップSplinkが11.2億円調達、脳ドック用AIプログラムの全国普及・拡大を推進認知症領域の課題解決を目指す医療AIスタートアップSplinkは11月17日、総額約11億2000万円の資金調達を発表した。引受先はジャフコ グループ、東京海上日動火災保険、三菱UFJキャピタル、博報堂DYホールディングス、個人投資家。調達した資金により、引受先とのシナジーを活用するとともに製品化・事業化を加速する。

Splinkは、2017年の創業以来、認知症予防の促進を目指し、脳ドック用AIプログラムとして「Brain Life Imaging」の提供を進めてきた。都内を中心に様々な医療機関が利用しており、今後全国への普及・拡大を推進するという。また、この先行サービスで得られた知見を活用し、開発を進めてきた「脳画像解析プログラムBraineer」では、診断・治療フェーズにおける認知症見逃しを防ぐ医療機器プログラムとして2021年6月に薬事認可を取得した。

同社は、今回の増資により主力製品Brain Life ImagingおよびBraineerの製品強化を引き続き進めるという。さらに、複数アカデミアとの共同研究を通じて開発パイプラインの製品化に向けた投資も実施する。認知症という高齢化社会における課題に対し、健常段階の予防から発症後の病気と共生できる社会に寄与すべく、認知症の予防から診断まで一貫したソリューションをワンストップで提供するとしている。

障がい者向け脳モニタリングヘッドセットを開発するCognixion、Alexaと統合しスマートデバイスのハブにもなる

身体障がい者向けの直感的な脳モニタリングヘッドセットとインターフェースを設計しているスタートアップCognixionが、アクセシビリティの向上を追求するため、1200万ドル(約13億8000万円)のAラウンドを実施した。今回の資金調達により、同社は医療機器や支援機器が広く普及するために必要な長い要件を満たすことができるはずだ。

5月に詳しく紹介したように、同社は脳波を検査して脳の活動パターンを見つける。そしてそれがカーソルをコントロールして、画面上を行き来するための完全なインターフェースを構成する。現在の対象機器はiPhoneとそのディスプレイだが、そこからさらにスピーカーやアクセシビリティデバイスに信号を送り、単一のUIで必要なことはすべてできる。

その基盤となっているのは、新しいタイプの(人体に傷を付けない)電極と、ヘッドセットに埋め込まれた電極から発生する信号をすばやく解釈する機械学習システムだ。脳波は有用ではあるが一般的には遅くてノイズが多いが、Cognixionのアプローチだと、脳を使って最新のUIを確実にナビゲートできるほど、迅速で比較的正確なものとなる。

この脳波によるUIコントロールシステムは、ジョイスティックや視線追跡デバイスといった従来から存在するアクセシビリティの手法が使えない人にも向いている。そんな状態の人のための選択肢はほとんどなく、あっても遅くて面倒なものばかりだ。

ステルス状態を脱してから以降のCognixionは、支援デバイスを市場に出すための、さまざまな困難な仕事に追われていた。アーリーアダプターたちによるパイロットテストは何度か行ったが、保険やメディケイドなどの対象になるためには、もっといろいろなことが必要だった。また支援者にとっても、使いやすく、人にすすめたくなるものでなければならない。

関連記事:考えるだけで操作できる脳モニタリングデバイス「Cognixion One」、重度障がい者の円滑な意思疎通をアシスト

CEOで共同創業者のAndreas Forsland(アンドレアス・フォースランド)氏によると「最近では臨床と規制という2つの方面で仕事が多く、最適化と効率アップが重要でした。開発に参加してくれたユーザーや医療関係者や支援要員は150名近くに達し、彼らを顧問としてとても充実したフィードバックが得られた。ハードウェアの改良は何度もやったのsで、そろそろ最終設計に近いといえるでしょう。今後は、ユーザーインターフェースと言語システムで細かい改良がたくさん必要になりそうです」という。

2つの新しい機能にも取り組んでいる。1つは、予測的発話認識のアルゴリズムで、ユーザーの断片的な発話から完全な文を構成し、そのニーズに対応すること。もう1つは、Amazon Alexaとの直接的な統合だ。CognixionはAmazonと強力して、ヘッドセットに強化された真のスマートデバイスのハブを統合した。直接的な統合であるため、ヘッドセットからの脳波信号が言語に翻訳されてAlexaへ入力されるというわけではない。

画像クレジット:Cognixion

「この工程のサポートに関して、Amazon Alexaのチームにすごく感謝している。また企業としてのAmazonがこのような例外的な開発努力を認めてくれたことにも、深く感謝したい。重要なのは、そのコンテキストだ。現在、ホームオートメーションのシステムやツールはたくさんあるが、それらとのコミュニケーションを補助したり、それらに直接インターフェースする支援技術はほとんど存在しない。そのためAmazonの尽力は、アクセシビリティ業界にとって最初の大きな第1歩であり、ユニバーサルデザインにとっても初めてのことです」とフォースランド氏は語る。

1200万ドルのラウンドはPrime Movers Labが主導し、Northwell Health、Amazon Alexa Fund、Volta Circleが参加した。

Prime Movers LabのゼネラルパートナーであるAmy Kruse(エイミー・クルーゼ)氏は同社のプレスリリースで次のように述べている。「Cognixion ONEは、まだ存在していなければ、SFの世界のものだと思うでしょう。私たちは、脳性麻痺、脳幹の脳卒中、ALSをはじめとする言語障がいや運動障がいを抱えて生きるあらゆる年齢層の人々を支援するために、AIソフトウェアプラットフォームとハードウェアを融合させた、根本的に人生を変える不可欠なものになると信じています」。

ONEのヘッドセットが購入できるようになるまでには、まだ少し時間がかかりだが、フォースランド氏によると、ほぼすべての研究大学と提携しているリセラーとディストリビューターをすでに確保しているという。この革新的なアクセシビリティへの取り組みは順調に進んでおり、近い将来、必要とする人の頭に届いて欲しい。

画像クレジット:Cognixion

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

光を当て記憶を消去?京都大学、学習結果が長期記憶に移行する細胞活動を解明

京都大学は、光を当てることで記憶を起こしたシナプスのみを消す、つまり記憶を消すことに成功した。映画のように光を当てれば人の記憶を消せるというような単純な話ではないものの、この研究が重要な脳の働きを解明することにつながった。

京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授らからなる研究グループは、海馬に保存された短期記憶が皮質に長期記憶される、いわゆる「記憶の固定化」がなされるときに起きるシナプス長期増強(LTP)という現象について調べている。このLTPが、いつどこで誘発されるかがわかれば、記憶がどの細胞に保持されるかがわかる。研究グループは、それを検出する技術の開発を目指した。

実は、この光によって記憶が消せる手法は、LPTがいつどこで起きるかを検出する手法として開発されたもの。LTPが起きるとシナプス後部のスパインという構造が拡大するのだが、これにはコフィリン(cofilin)という分子が関わっている。このコフィリンとイソギンチャク由来の光増感蛍光タンパク質SuperNovaを融合させ、特定の波長の光を当てると、SuperNovaから活性酵素が発生し、近隣のコフィリンだけが不活性化される。するとLPTが消去され、記憶が消える。

この手法を使うと、薬剤を使った場合と異なり、狙いどおりの場所と時間にLTPの消去が行える。これを利用して、学習直後と学習後の睡眠中の海馬に光を当てたところ、それぞれの記憶が消えた。このことから、学習直後と、その後の睡眠中の2段階でLTPが起き、短期記憶が形成されることがわかった。さらに、神経細胞の活性を調べたところ、細胞は学習により特異的に「発火」(スパイク信号を出力)し、学習後の睡眠中にはLTPによって細胞同士が同期して発火することが認められた。これにより、記憶を担う細胞が形成される過程が詳細に見られるようになった。また、記憶が皮質に移り固定化される時間を知るために、前帯状皮質でのLTP時間枠を調べたところ、学習翌日の睡眠中に前帯状皮質でのLTPが誘導されていることもわかった。

この研究により、LTPが誘発される時間枠を解析する技術が開発された。これは、記憶に関連する多くの脳機能を細胞レベルで解明できる可能性を示すものだ。LTPに関連するシナプスの異常は、発達障害、外傷性ストレス障害(PTSD)、認知症、アルツハイマーといった記憶・学習障害だけでなく、統合失調症やうつ病の発症にも関わることが示唆され、こうした病気の治療にもつながるという。

この研究は、京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授、理化学研究所脳神経科学研究センター村山正宜チームリーダー、Thomas McHughチームリーダー、大阪大学産業科学研究所永井健治栄誉教授らの研究グループによるもの。

認知機能障害検出のソフトウェアを開発するBrainCheckが約11億円調達

世界的に高齢化が進むのにともない、脳の健康に関する研究が進んでいて、スタートアップがテクノロジーを活用して認知障害を軽減する方法を模索している。

ヒューストンとオースティンを拠点とするBrainCheck(ブレインチェック)は、認知障害の検知とケアを専門とする医師をサポートする認知ヘルスケアソフトウェアの開発を手がけている。同社はアルツハイマー病や関連する認知症に対する新しいデジタル治療法の研究開発と市場開拓のために、シリーズBで1000万ドル(約11億円)を調達した。

このラウンドは、Next Coast VenturesとS3 Venturesがリードし、Nueterra Capital、Tensility Ventures、True Wealth Venturesが参加した。さらに、UPMC EnterprisesとSelectQuoteが戦略的投資家として加わった。今回の資金調達により、2016年の300万ドル(約3億4000万円)のシードラウンド、2019年の800万ドル(約9億1000万円)のシリーズAを含め、BrainCheckがこれまでに調達した資金総額はおよそ2100万ドル(約23億9000万円)となる。

BrainCheckの技術は、患者と米国内の約1万2000人という限られた数の神経内科医との橋渡しをする。対面または遠隔(スマートフォン、タブレット、コンピューターを介して)で行う10〜15分のテストを通じて、認知機能障害を早期かつ正確に検出することができる。

検査結果に基づき、患者にはCognitive Quotient(CQ)スコアが割り当てられ、これをもとに数分以内にパーソナライズされた認知機能ケアプランが作成される。現在、400以上の神経科、プライマリーケア、老年医学の診療所がこの技術を使用していて、マウントサイナイの臨床医も新型コロナウイルス感染症による認知障害の追跡と管理に活用している。

BrainCheckの共同創業者でCEOのYael Katz(ヤエル・カッツ)博士は、パンデミックがヘルスケアのエコシステム全体のすべてを変えた、とTechCrunchに電子メールで語った。

同社は、シリーズAの2年後に新たな資金調達を行うことを常に考えていたが、世界的な大流行がその方針にどのような影響を与えるかを見極めるために一旦停止したとカッツ氏は話した。しかし、新型コロナが人々の医療に対する認識に光を当て、リモートケアに慣れてきたことで、継続する機会を見出した。

今回の資金調達により、同社はチームの拡大と研究開発への投資を継続することができる。同社はすでに、患者との関係を深めるためのいくつかの新しい取り組みを行っており、これらは間もなく市場に投入される予定だと同氏は付け加えた。

BrainCheckは2020年、前年比で3倍という収益増を達成したが、カッツ氏は2022年も同様の成長を見込んでいる。今回のシリーズBでは、2年前と同じように成長させることを目標としている。

「リモートワークへの移行やメンタルヘルスの重要性の高まり、予防医学への投資、高齢化社会への対応など、これらすべての要因が重なって、私たちが行っていることが重要であり、今後も重要であり続けることが証明されました。医師がBrainCheckのようなツールに投資して患者の治療の質を向上させることが、かつてなく重要になっています」と述べた。

画像クレジット:Jorg Greuel / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

睡眠中の脳卒中を早期に警告するZeitのウェアラブル、実用化に向けシード約2.3億円調達

睡眠中の脳卒中を早期に警告するシステムを開発しているZeit Medicalは、Y Combinator(Yコンビネータ )のSummer 2021コホートを卒業した直後に、シードラウンドで200万ドル(約2億2800万円)を調達した。同社の研究によると、脳モニタリング用ヘッドバンドは、脳卒中の可能性を数時間前に警告することで命を救うことができると考えられており、今回の資金調達は、実用化に向けた推進力となる。

同社のデバイスは、軽量の脳波計(EEG)が内蔵されたソフトなヘッドバンドだ。スマートフォンのアプリと連動して、脳の活動を分析し、人間の専門家によって訓練された機械学習モデルを使って、差し迫った脳卒中の兆候を監視することができる。

共同創業者でCEO(そして現在はFerolynフェロー)のOrestis Vardoulis(オレスティス・バルドゥリス)氏は、使用状況の調査で、CPAPマシンを使用している人も含め、90%の夜にヘッドバンドを装着して、装着感や快適性に関する不満はほとんどなかったと述べている。脳卒中の影響を軽減するという目標を達成するためには、継続して使用することが重要であり、不快なヘッドバンドやかさばるヘッドバンドは確実に悪影響を及ぼす。

「当社は、製品を最終的に完成させ、今後の研究でテストできるようにすることに加えて、入院患者へのAIのさまざまな応用を試してきました。集中治療室の患者の多くは、綿密な虚血モニタリングを必要とします」とバルドゥリス氏は語る。本来であれば専門家や専用のシステムでなければ診断できないような様々な状態を、Zeitが作成したモデルで警告できる可能性がある。「くも膜下出血の患者を脳波でモニターしているいくつかの大規模な国立学術センターに、当社の技術が許容可能なアプリケーションであるかどうかを確認するためにアプローチしました」とも。

バルドゥリス氏によると、脳卒中患者のコミュニティはこの装置に非常に興味を持っており、我々の以前の記事でも、コメント欄にこの装置が自分にどれほど役に立つかを指摘する人がいたという。ZeitはFDA(米国食品医薬品局)の認可に向けて進んでおり、「Breakthrough designation(ブレイクスルー指定)」という一種のファストトラックを取得しているが、広く普及するまでにはまだ1〜2年かかるかもしれない。

これは、医療機器としては非常に短いリードタイムであり、投資家たちは明らかにこの製品がインパクトとROIの両方をもたらす機会であると考えた。

200万ドル(約2億2800万円)のラウンドは、SeedtoBとDigilifeが共同で主導し、Y Combinator、Gaingels、Northsouth Ventures、Tamar Capital、Axial、Citta Capital、そしてエンジェルのGreg Badros(グレッグ・バドロス)氏、Theodore Rekatsinas(テオドール・レカツィナス)氏をはじめとする医療関係者数名が参加した。

この資金はご想像のとおり、事業の継続と拡大、チームの構築、FDAの検討と承認に必要な研究のために使用される予定だ。運がよければZeitのデバイスは、早ければ2023年には、脳卒中のリスクを抱える人々に標準的に使われることになるだろう。

画像クレジット:Zeit

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】今こそ米国兵士は帰還後の外傷性脳障害との戦いから解放されるべきだ

戦争は終わった。米国軍は、多くの兵士が複数回の軍務を経て帰還した。帰還すると、次の段階の職務が始まる。子どもの世話や親の介護などの家族に対する奉仕や、学校に戻ったり新しい仕事を始めたりする地域社会への奉仕だ。

しかし、多くの戦士にとって戦いは続く。43万人以上の米軍兵士がイラク戦争とアフガニスタン戦争の代表的な負傷とされる外傷性脳損傷(TBI)を負っている。TBIの中で最も多いのは「軽度」TBI(mTBI、または脳震盪)というやや誤解を招きやすい名称のもので、TBIと診断された米軍兵士の82%以上が罹患している

多くの人は負傷から回復したが、何千人もの人が、負傷してから何年も経っているにもかかわらず、思考の速さ、注意力、記憶力などに影響を及ぼす持続的な認知機能の問題に悩まされており、仕事や学校、家族としての役割への復帰が困難になっている。また、TBIの既往歴がある人は、特に認知症予備軍や認知症などの他の疾患を併発するリスクが高いと言われている。

これは軍人やその家族にとって負担であると同時に、米国軍人の才能や経験が十分に生かされていないため、国にとっても負担となっている。

米国防総省は10年以上前にこの問題を認識し、この新しい種類の戦傷に対する新しい種類の治療法を見つけるために、学界や産業界の研究者に呼びかけた。多くの研究グループがこの要請に応えた。私がCEOを務めるPosit Science(ポジット・サイエンス)では、全米の軍病院や退役軍人医療センターから一流の臨床医を集めたチームを結成し、新しいタイプのコンピューターによる脳トレーニングをテストする提案をした。

TBIを罹患する軍人たちを支援するためには、2つの問題を解決しなければならないことがわかった。

まず、脳トレーニングのプログラムが機能する必要があった。幸いなことに私たちは、米国国立衛生研究所が資金提供した複数の研究により高齢者の認知機能を向上させることが示された脳トレプログラム「BrainHQ」を構築できたが、これを若い軍人にも使えるようにする必要があった。BrainHQの脳トレは、従来の認知機能トレーニングとは異なり、脳の可塑性(学習や経験によって脳が脳自身を再構築する能力)を利用して、脳の情報処理機能の基礎を向上させるように設計されている。

第二にこの脳トレプログラムは、彼らの生活圏内で実施する必要があった。現役の軍人や退役軍人の多くは、派兵を控えていたり、学校や仕事に復帰したり、一流のクリニックがある大都市以外の地域に住んでいたりするため、週に数回、数カ月にわたってクリニックに通い、対面で治療を受けることができない。そんなときに役立つのが、コンピューターを使った脳トレだ。インターネットを介して配信されるため、自宅で自分のスケジュールに合わせて、どこにいても、時間のあるときにいつでも使用できる。

この夏、Brain誌に掲載されたBRAVE研究では、5つの軍人病院と退役軍人病院で、認知障害とmTBIの既往歴があると診断された83人の患者を二重盲検法による無作為化対照試験に登録した。この研究に参加した平均的な患者は、この介入の前に、7年以上にわたって持続的な認知機能の問題を抱えていた。

BRAVE研究では、可塑性を利用したBrainHQのエクササイズの介入に対し、注意力を必要とするビデオゲームを対照した。その結果BrainHQを使用した患者は、ビデオゲームを使用した患者と比較して総合的な認知能力が大幅に向上したことがわかった。この介入によって、各患者が天才になったわけではないが、平均して約24パーセンタイルポイント(50番目のパーセンタイルから74番目のパーセンタイルへ移動するようなものだ)の改善が見られた。これは、mTBIのゴールドスタンダード研究において、スケーラブルな介入が有意な向上を達成した初めての例だ。

この結果は、ニューヨーク大学で行われた2つ目の研究でも正しいことが確認され、さらに拡張されて学術誌NeuroRehabilitationに掲載された。この研究は、軽度、中等度、重度のTBIを罹患している48人の一般人を対象としたものだ。その結果、BrainHQを使用した患者では、客観的計測値による認知機能の向上が認められた。また、認知機能の自己評価を行ったところ、患者自身が認知機能の有意な向上を実感していることがわかった。

成功を収めたのは私たちだけではない。訓練を受けた臨床医が対面で認知機能補償技術を用いて研究を行った他のいくつかの学術研究グループや軍の研究グループ(特にテキサス大学ダラス校のCenter for Brain Healthで開発されたSMARTトレーニングや、UCSDとVAサンディエゴヘルスケアシステムで開発されたCogSMARTトレーニング)が良い結果を収めた。

しかし、現在、これらの科学技術の多くは棚上げされている。議会と国防総省は、TBIの基礎科学と臨床試験に何億ドルも費やしてきたが、私が軍人病院や退役軍人医療センターを訪れると、献身的に人々を助けようとしている医療従事者がいる一方で、研究結果を実践するためのスタッフやスペース、技術などが不足していることが分かる。国防総省と退役軍人省が一丸となって、実証された科学技術を研究室から世の中に送り出し、必要としている人々を助けることが必要だ。

海外での戦争が終結しても、私たちは、自国の戦士のために、戦士に代わって行われた研究から利益を得られるようにする義務を忘れてはならない。私たちは、軍人そして米国全体が、研究が提供するすべてのものから恩恵を受けることができるように、研究の成果を解き放つ必要がある。

編集部注:本稿の著者Henry Mahncke(ヘンリー・マンケ)氏はUCSFで神経科学の博士号を取得。脳トレプログラム「BrainHQ」を開発したPosit ScienceのCEO。

画像クレジット:bubaone / Getty Images

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(文:Henry Mahncke、翻訳:Dragonfly)

夜中目覚めたユーザーを再び眠りに誘うMuseの「脳感知」瞑想用ヘッドバンド最新版

瞑想ハードウエアは難しいものだ。マインドフルネスを追求して挫折したことのある人は誰もが間違いなく、練習をなんとか簡単に、あるいは少なくともジャンプスタートする方法を切望しているはずだ。私は、初代Museヘッドバンドがこのカテゴリーに加わり、ゲーム感覚でフォーカスできるようになったことをとても気に入っている(聞こえは悪いが、想像するよりも良いものだった)。

2020年のCESで発表された「Muse S」は、さらに基本的なもの、つまり「より良い睡眠」を約束するものだった。その当時に記事を書いた際、私はまだテストを始めたばかりで、正直なところ、頭にガジェットをつけたまま眠るのは難しいと思っていた。本当に使い続けられるだろうか、と声高に考えたものだ(ネタバレ:できなかった)。米国時間10月20日、同社はそれに続く、わかりやすいネーミングの「Muse S(Gen.2)」を発表した。

今回の製品は「眠ること」と同じくらい「眠り続けること」を重視している。後者の方が苦手な私にとっては、この点は高く評価できる。確かに今回のパンデミックでは、変に早く寝てしまったり、夜中に1〜2時間(あるいはもっと長い時間)目が覚めることが多かった。頭の一部では、人間は夜通し眠れるようにはできていないと確信している。

CDCによると、米国の成人の3分の1以上が7時間の睡眠をとれていないと言われているが、正直なところ、この数字は少ないように感じる。新しいMuseは「Digital Sleeping Pills(デジタル睡眠薬)」と呼ばれるものを利用している。これは、バンドの脳波(EEG)測定値を利用して、起床時に睡眠コンテンツを配信し、着用者を眠りに誘おうとするものには奇妙なネーミングだ。コンテンツには、以下のような選択肢がある。

  • オリジナル、クラシック、そしてアドベンチャー「スリープストーリー(Sleep Stories)」は、おなじみの童話や、新しいオリジナルの物語を音声でナレーションする
  • 「アンビエント・スリープ・サウンドスケープ(Ambient Sleep Soundscapes)」は、癒しのアンビエントミュージックとハーモナイズされたサウンドを音声ナレーションなしで提供する
  • 自然音やバイオフィードバックに対応する音楽を収録した「バイオフィードバック・スリープ・サウンドスケープ(Biofeedback Sleep Soundscapes)」(音声ナレーションなし)
  • 「ガイド付きスリープ・メディテーション(Guided Sleep Meditations)」は、瞑想インストラクターがあなたをリラックスさせるスリープ・メディテーションで眠りに導く

このコンテンツは、ソフトウェアアップデートによって第1世代のユーザーにも提供される。この他にも、新しいヘッドバンドには、精度の向上やバッテリー寿命の改善など、いくつかの微調整が施されている。今回も、400ドル(約4万5700円)という価格が大きな障害になると思われる。その数分の1の価格であれば、多くの人が睡眠ガジェットを試してみたいと思うのではないだろうか。

画像クレジット:Muse

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

家庭用治療器で脳卒中患者のリハビリに変革をもたらすBrainQが44億円調達

肘を痛めた場合は手術が効果的で、脚を失った場合は義足という手段がある。しかし脳に問題があった場合の治療は非常に難しく、脳卒中の場合リハビリは身体の修復メカニズムに委ねられることが多い。そんな中、脳の損傷部分に刺激を与えて自己修復を促進する装置でこの状況を変えようとしているのがBrainQだ。試験で十分な改善が見られたため、FDA(米国食品医薬品局)から画期的医療デバイス指定を受けたこの装置。同社は最近、この製品を市場に投入するため、4000万ドル(約44億円)を調達した。

最初に言っておくが、脳波を発する奇跡のデバイスの効果を疑うのは当然のことだ。実際、BrainQの創設者であるYotam Drechsler(ヨータム・ドレクスラー)氏と話した時、2017年に我々が対談した際に筆者が「強い疑いの念を表明した」と同氏が思い出させてくれたのも事実である。

悪気があったわけではない。当時の技術はほとんど概念的なものだったと同氏も認めるほどだ。しかし、以来チームは研究を続け、資金を調達し、当時は単なる有望な論文とされていたものが、実際のデータと臨床結果に裏付けられたものに変わったのである。このようにして完成したシステムは、ここ数十年あるいはそれ以上変わることのなかった、脳卒中治療を大きく改善するものになるかもしれない。

関連記事:AIを利用して神経障害を治療するBrainQが$5.3Mを調達、世界最大の脳波データベースを持つ

脳卒中になると、握力や調整能力などさまざまな障害を招くが、当然、損傷は手や足そのものではなく、それらの部位を司る脳内のネットワークに起きている。しかし、医学的にはそのネットワークを直接再構築する方法はなく、脳は自分の力で、自分のペースで再構築していかなければならない。

これをサポートするため、定期的な理学療法と脳の健康診断を時には何年も続けて行い、脳がまだ働いているかどうか、体の各部分自体が衰えていないかどうかを確認するのである。

近年このプロセスに加えられた改良の中でも最も興味深いのは、例えばバランスが片側に偏っていることなどを即座にフィードバックし、それを修正することを目的とした刺激を提供するテクノロジーである。ただしあくまでもこれはフィジカル・セラピーである。

関連記事:音楽を利用して脳卒中患者の歩行能力を改善させるMedRhythms

ドレクスラー氏とBrainQの問題の捉え方はこれとは少し違う。脳卒中は単なる怪我ではなく、脳が慎重に培ってきたホメオスタシス(恒常性)を乱し、それに対抗する手段を持たない状態であると考え、脳卒中を怪我ではなく、早産で生まれた赤ちゃんが体を温めることができない状態にあることに例えている。このような場合何をすべきか。より低い温度で活動できるように体を「修理」したり、熱の生産活動を増強したりするのではなく、その子どもを保育器に入れて、すべてを正常に機能させようとするのが通常である。

これと同様に、脳内の環境を変化させることで脳の働きを良くしようとしているのがBrainQのデバイスだ。

「健康な脳とそうでない脳のチャンネルをマッピングして比較します。これらを見つけたら低強度の磁場療法で脳に共鳴させ、内因性の回復メカニズムを促進させるのです」とドレクスラー氏は説明する。

このような刺激は、中枢神経系が自らを再プログラムする能力である神経可塑性を向上させることが他の状況でも明らかになっている。脳卒中の患部に絞って刺激を与えることで、BrainQのデバイスは患部の神経可塑性を促進し、早期の回復を目指すのである。

しかし「脳卒中の影響を受けたのは右後頭葉の腹側半分だから、そこに磁石を当てたら良い」というわけではない。脳は複雑なシステムであり、脳卒中は特定のエリアだけでなくあらゆるネットワークに影響を与えてしまう。BrainQでは機械学習と膨大なデータを駆使して、これらのネットワークをどう狙えば良いのかを理解しようとするのである。

脳がどう機能するかについてここでは深く掘り下げないが、脳波を測定すると、特定のネットワークが非常に特殊なスペクトルサインや周波数で局所的に機能していることがわかる。例えば左手と左足が運動皮質の同じ領域を占めていても、手は22Hz、足は24Hzで動作していることがある。

「問題はこのサインをどうやって見つけるかということです」とドレクスラー氏はいう。説明するのはやや難しいので、対談後に同氏自身の言葉で書いてもらうことにした。

BrainQの治療法は、データに基づいてELF-EMFの周波数パラメータを決定するところに特徴があります。パラーメータを選択する際、中枢神経系における運動関連の神経ネットワークを特徴づける周波数や、脳卒中やその他の神経外傷後の障害に関連する周波数を選択するというのが弊社の目指すところです。そのために、健康な人とそうでない人の大量の脳波(電気生理データ)を解析しました。弊社のテクノロジーは説明的な機械学習アルゴリズムを用いて、自然なスペクトルの特徴を観察し、独自の治療的インサイトを導き出します。これらはBrainQの技術によって、損なわれたネットワークを回復するために使用されます。

この治療のために開発された同デバイスは一風変わった様相である。全脳磁界発生装置のため、かなりかさばる円筒形のヘッドピースが付いているが、その他の部分は背中のブレースとヒップパックのようなものに収まっている。一般的な脳磁気イメージング技術であるMRIとは異なり、発生する磁場や電流が非常に小さいためこういったデザインが可能となったのだ。

画像クレジット:BrainQ

「通常の脳活動と同程度の、非常に低強度のものを使用しています。活動電位や活動のジャンプを起こすのではなく、回復メカニズムに適した条件を整えるのです」とドレクスラー氏は話している。

この刺激に関する結果は、小規模(25人)ながらも決定的な研究結果として証明され、近日中にレビューと出版が予定されている(査読前の原稿の抄録はこちら)。通常の治療に加えてBrainQの治療を受けた患者は、バランス感覚や筋力の改善などの指標である回復評価が大幅に改善し、92%が通常の治療に比べて大幅に改善し、80%が回復と呼べる結果を得ることができた(ただし、この言葉は正確なものではない)。

一般的には、1度の治療につき約1時間、デバイスを装着したままさまざまな運動を行い、それを週に5日、2カ月ほど繰り返す必要がある。ヘッドセットが患者のパターンをBrainQのクラウドベースのサービスに送り込み、必要な処理とマッチングを行ってオーダーメイドの治療パターンが作成される。操作はすべてタブレットアプリで行われ、外来看護師などの介護者が操作することも、内蔵の遠隔医療プラットフォームを利用することも可能だ。

関連記事:考えるだけで操作できる脳モニタリングデバイス「Cognixion One」、重度障がい者の円滑な意思疎通をアシスト

ドレクスラー氏によると、このアプローチは初期の段階では評判が悪かったという(筆者だけではなかったようだ)。

「2017年、私たちは患者がどこにいても治療できる、クラウド型の治療機器の基盤を整え始めました。当時は病院という管理された環境の外で患者を治療することについて、意欲的な人などどこにもいませんでした。しかし2020年に新型コロナウイルスが登場しすべてが変わりました」。

今回のパンデミックにより、通常であれば病院で定期的なケアを受けることができた脳卒中の患者の多くが、同様のケアを受けることができなくなった(未だできていない人もいる)と同氏は話す。低リスクで大きな成果が期待できる在宅療法は、現在脳卒中から回復しつつある何千人もの人々にとって非常に有益なものである。そして重要なのは、既存の治療計画を変更することなく、その結果の改善に寄与することができるという点だと同氏はいう(「我々は誰の邪魔をするつもりもありません」と同氏)。

通常であれば「しかし、FDAが保険適用を承認するまでにはまだ5年かかるかもしれない」というような内容をここらで書くだろう。しかしBrainQは先日、画期的医療デバイス指定を取得したのだ。これは迅速承認プロセスで、2021年に入ってからはメディケアの適用を受ける資格も与えられている。つまり、BrainQは1〜2年先にはこのデバイスを出荷できている可能性があるということだ。

次のステップとして同社はより大規模な試験を行おうと考えており、最近の資金調達額の大部分(Hanaco Venturesが主導し、Dexcel PharmaとPeregrine Venturesが参加した4000万ドル)をこの試験に充てる予定である。

「これだけの資金を集めたのは、12の施設でとてもユニークな研究を行おうとしているからです」とドレクスラー氏は話す。提携先の病院や研究機関の名前はまだ公表できないようだが、基本的には脳卒中リハビリテーション分野のトップレベルの施設であり「これらトップレベルの施設が同じ研究に参加してくれて、これ以上のことは望めません。何か新しいことが起こるのではないかという大きな期待に胸を躍らせています。脳卒中の回復分野においてはこの20~30年ほとんど進歩がなく、理学療法が200年前から標準的に行われてきたのです」と話している。

もちろん保証はできないが、このような研究は障害を軽減するだけでなく、元に戻すための医学につながる可能性があるため、その価値には計り知れないものがあると同氏は期待に胸を膨らませている。

「2016年の自分のピッチデッキを見返していました。CEOとしての初期段階では大きな夢を持っていましたし、プロセスの初期には多くの懐疑的な意見を聞きましたが、その夢の多くが今、実現しつつあることを心から誇りに思います」とドレクスラー氏は語っている。

画像クレジット:BrainQ

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

脳卒中のAI予測診断を救急医療サービス「Smart119」に実装、千葉消防局が実用化へ

脳卒中のAI予測診断を救急医療サービス「Smart119」に実装、千葉消防局が実用化へ

千葉大学発の医療スタートアップSmart119は10月18日、脳卒中AI予測診断アルゴリズムの研究論文がイギリスの科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されたことを発表した。この論文は、急性期の脳卒中にAI予測アルゴリズムを確立し、有効性を実証したことを報告している。

三大疾病の1つである脳卒中は、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血、主幹動脈閉塞などが含まれ、突発的に発病する傾向が強い。救命はもちろんのこと、片麻痺などの後遺症を抑えるためにも緊急の治療が求められる。しかし、救急隊員の判断は医療機関と共有されず、病院に到着してからの診断によって病状が特定されるのが現状だ。

そこでSmart119は、救急隊員の判断の精度を高め、専門医や設備を持つ医療機関での的確で迅速な治療を実現するために、救急隊と医療機関とで診断結果が共有できるAI予測診断を開発した。これは、容態、疾患履歴、気象状況など、患者の個別の背景条件から脳卒中の症状を診断できる。

実験では、千葉市内の医療機関と千葉市消防局の協力で、脳卒中の可能性のある救急患者約1500人の、容態、年齢、性別、気象状況のデータを収集。そのうち約1200人分(80%)のデータは機械学習の分類アルゴリズムモデルの設計に利用され、残る約300人(20%)のデータはテストに用いられた。分類アルゴリズムをテスト用300人のデータで検証した結果、評価指標AUC(Area under the curve)値で高い精度(0.980)が示された(AUCは、分類のアルゴリズムの精度を示す曲線値。閾値「0.8」を上回ることで高精度とされる)。

このアルゴリズムは、本年度中に緊急医療情報サービス「Smart119」に実装される予定とのこと。これを導入している千葉市消防局の救急車に装備されているタブレット端末アプリで利用できるようになる。

掲載した画面写真はデモ版のため、正式リリースでは変更になる場合がある

救急隊員は、患者に脳卒中の可能性がある場合に「脳卒中診断ボタン」をタップし、診断専用ページで患者の容態を選択肢に従って入力する。すると、AI予測診断で病状が確定し、受け入れ先の自動選択とともに、受け入れ要請が実施される。受け入れ先病院では、この情報を基に、救急車が到着する前に専門医の召集や緊急手術に関する準備を整えることができる。

このアルゴリズムは、他の病状への応用も期待されている。またこれは、Smart119により特許申請がなされている。

【コラム】イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズ、「独創的」な考え方を持つ脳多様性な人たちも活かすソフト設計とは

ホモ・サピエンスは実に多様性に富んだ種である。地球上のさまざまな地域に起源を持つ私たちは、出自に基づく区別を呈する姿をしており、コミュニケーション手段には何千もの言語が存在する。そしてそれぞれの経験、伝統、文化に基づいた異なる思考パターンを持ち合わせている。私たちの脳は、そのすべてに独自性がある。このような特性をはじめとするあらゆる機能を駆使して、私たちは問題を分析し、意思決定を行う。

これらの要素はすべて、私たちがビジネスを行う方法と、職務を遂行するためにツールを使用する方法に直接影響している。ビジネスを上手く進めることは、ほとんどの人にとって課題をともなうチャレンジングなものだ。しかし、ニューロダイバース(神経学的に多様)の特性を有する人々、故Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏がかつて述べたような「think different(異なる考えを持つ)」プロフェッショナルたちは、その才能が企業内でしばしば過小評価されるか、未開拓である、独自の類型となっている。こうした企業は、標準化に価値を置き、通常のワークパターンからの逸脱は限定的であることを好む傾向にある。

ニューロダイバーシティ(神経多様性 / 脳の多様性)の役割

ニューロダイバースな資質を持つ(ニューロダイバージェント)人々は、主流派とは異なる方法で情報を処理する。自閉症スペクトラム、失読症、注意欠陥障害(ADD)を持つ人々もその例として挙げられるが、専門家は全人口の40%がニューロダイバージェントであると考えている。

優秀なセールスパーソンほど粘り強さを発揮し「独創的」な考え方をすることが多いことを勘案し、このパーセンテージはセールス専門職ではさらに高くなると思う人も少なくない。あるセールスチームの誰かがスーパースター級のセールスパーソンであっても、彼らが情報や他者とどのようにやり取りするかに影響を与える神経学的変異を持っているという可能性は低い。こうしたことから、ニューロアティピカル(神経学的に非定型)な人々をセールス組織に統合し、彼らを成功に導く知恵についての非常に興味深い議論が生じている。

例えば、セールスパーソンはCRM(Customer Relationship Managementm、顧客関係管理)ソフトウェアシステムを利用している。このシステムでは、すべての記録、ワークフロー、アナリティクスが標準化されており、ユーザーエクスペリエンスはシステムに設定された1つの方法に限定されている。

だが、このような複雑で柔軟性に欠けるシステムを誰もが最適に使用できるわけではない。特に、ユーザーインタラクションレイヤーが非常に厳しく制限されている場合はなおさらだ。ニューロダイバースな人々の多くは、特に「独断的」なアプリケーションを使うことに困難を感じる。このようなアプリケーションでは、ユーザーに特定の作業方法を押し付ける傾向があり、ときにユーザーの人間性のすべての面、つまり情報を処理し、ワークフローをナビゲートするユーザー独自の方法を考慮しないこともある。そのため、ほとんどのセールス組織において、最も高いパフォーマンスを発揮するセールス担当者は、CRMを最低限しか更新していないことが多い。ノートテイキングアプリケーション、タスク、スプレッドシートなどの基本的なツールで取引のパイプラインを管理しているセールス担当者が多いのも、こうした理由からだろう。

ニューロダイバースなプロフェッショナルは、異なる視点と強みをもたらし、しばしば現状に挑戦する。思考の多様性が、特別なやり方で組織に力を与えるのだ。

企業はニューロダイバースの人材から何を得るべきだろうか?

JP Morgan(JPモルガン)は、2015年にニューロダイバーシティのパイロットプログラム「Autism(自閉症)at Work」を立ち上げた。その結果は注目に価するものであった。このプログラムに参加した従業員は、同僚よりも48%早く仕事を完了し、92%生産性が高かった。オーストラリアのDepartment of Human Services(福祉省)の別のパイロットプログラムの結果によると、同組織のニューロダイバースなソフトウェアテストチームは、ニューロティピカル(神経学的に定型)なチームよりも30%生産性が高くなっていた。

自閉症の人の多くは細部にまで強いこだわりを持つことが知られている。例えば、自閉症スペクトラムの7歳の少年は、歴史上のあらゆる難破船の詳細を暗記している。この種の情報への集中と欲求は、適切な役割に利用されることで、驚くべきポテンシャルが生み出される。自閉症の人材は、データアナリティクス、技術サービス、ソフトウェアエンジニアリングなど、知識経済の急成長分野の一部に理想的に適していることも多い。実際、Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、自身が自閉症の一種であるアスペルガー症候群であることを最近明らかにしている

ニューロダイバーシティの別の領域として、独創的な考え方をする人は失読症であることが多い。世界を変革した失読症の人々について考えてみよう。Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏、Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏。これはほんの一部の例にすぎない。彼らに共通しているのは、世界を違った目で見る能力である。

ソフトウェアのジレンマ

企業はこうしたメッセージを意識し始めている。ニューロダイバージェントの従業員は才能と貢献の巨大な源泉として評価されるべきであるという認識である。同時に、2020年の出来事をきっかけに、あらゆる種類の社会的不公平に対する意識が高まり、より多くの組織がニューロダイバーシティを多様性、公平性、インクルージョンの取り組みの一環として認識するようになった。

しかしこれまでのところ、焦点が当てられているのは、雇用、トレーニング、オンボーディングプロセス、さらにはオフィス設計(私たちがオフィスに復帰した場合)がどのようにしてニューロダイバージェントの人々にとってより包括的になることができるのかということだ。例えば、SAP(エスエイピー)とMicrosoft(マイクロソフト)は、ニューロアティピカルの従業員をより多く雇用する取り組みを拡大している。

こうしたイニシアティブは重要であるが、ソフトウェア企業は一歩進んで、中核的な設計レベルでアプローチを変える必要があると私たちは考えている。

多くのソフトウェアは、ユーザーの視点からすべてのものがどのように感じられ、どのように流れるかについてほとんど、またはまったく配慮することなく、ユーザーに特定の作業方法を課している。そしてその過程で、この硬直的なシステムは、ニューロダイバースな人々を排除してしまう。その結果、ユーザーは日々の業務で課題に直面することになる。これまで提供されてきたツールは、標準化という名の下に、情報の処理方法やワークフローの操作方法に適合していないのである。そして、組織はツールやシステムの適用状況が不十分であることに悩まされている。

このようなことを意図的に行っているベンダーは存在しない。ただ、実行して良い結果を出すのは難しいということである。しかし、あらゆるユーザーを念頭に置き、すべてのユーザーが同じように効率的かつ生産的になれるような、共感できるソフトウェア設計を追求することは、すべてのソフトウェア企業にとってコアバリューとなるはずだ。それは、すべての「ユーザー」が同じではないことを認識し、尊重することから始まる。そうすることで、より多くの人々が自然に利用できる、より柔軟でアプローチしやすいソフトウェアを設計する道が開けてくるだろう。

セールス組織がニューロダイバージェントの人材を多く擁しているとしたら、間違った種類のツールがもたらす影響を想像してみて欲しい。例えば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)を持つ人に大量の単調なデータ入力タスクを要求するCRMソフトウェアのようなものだ。熟練した、ニューロダイバースなセールスパーソンが、自分の潜在能力を十分に発揮するには不適切なツールを与えられたために、フラストレーション、潜在能力の喪失、士気の低下が生じてしまうことを想像して欲しい。

業界全体として、ソフトウェアのユーザーエクスペリエンスについての考え方を広げ、柔軟性を主要な設計原則として組み込む時期がきているといえるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Pouyan Salehi(プーヤン・サレヒ)氏は、Scratchpadの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(文:Pouyan Salehi、翻訳:Dragonfly)

チームが極度の集中状態「ゾーン」に入り高パフォーマンスを発揮する「チームフロー」の脳活動を豊橋技術科学大学が解明

チームが極度の集中状態「ゾーン」に入り高いパフォーマンスを発揮する「チームフロー」状態の脳の活動を豊橋技術科学大学が解明

チームフロー時の中側頭皮質のベータ、ガンマ帯域の脳波。脳波解析の結果、チームフロー時に左側頭葉が特異的に活性化することがわかった

豊橋技術科学大学は10月6日、スポーツチームなど、複数の人間が協調して「ゾーン」(極度の集中状態)に入り、チームとして特別に高いパフォーマンスを発揮する「チームフロー」に関係する脳波と脳の領域を発見したことを発表した。チームフロー時の心理状態を客観的に研究する世界初の試みということだ。

これは、豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所モハンマド・シェハタ(Mohammad Shehata)准教授が率いる研究チームと、カリフォルニア工科大学、東北大学の研究者との共同研究によるもの。チームフロー状態を調べるには、その状態を研究室で再現し、客観的に測定する必要があるが、それが長年の課題だった。研究チームは、それを可能にする方法を発見し、世界で初めてチームフローの神経科学的な証拠を明らかにした。

研究では、チームフローの状態を測定するために、チームフローではない状態も再現して、これらと比較した。被験者に2人1組で音楽ゲームをプレイしてもらい、通常のチームフローの状態、仕切りで互いの顔を見えなくしたソロフローの状態、音楽を編集してランダムな音列にしてフローになれないようにしたチームワークの状態をそれぞれ再現し、実験後、被験者に質問に答えてもらってフロー状態のレベルを評価した。

その結果、チームフロー状態のとき、中側頭皮質でベータ波とガンマ波が増加していることがわかった。またチームフロー状態では、通常のチームワーク状態に比べて、チームメイトの脳活動がより強く同期することもわかった。

研究チームは、この研究を「ビジネス、スポーツ、音楽、舞台芸術、ゲーム、エンターテインメントなど、人のパフォーマンスや喜びが重要な分野において、脳神経モデルに基づいたより効果的なチームビルディング戦略に活用できる方法論を提供するもの」だとしている。

今後は政府機関や産業界と協力して、チームのパフォーマンスのモニターや強化、効果的なチーム構築に、この研究を役立ててゆくという。また、「楽しさを維持しながらパフォーマンスを向上させることは、うつ病やパニック障害、不安症の発生率を低減するなど、生活の質の向上につながる可能性があります」とも話している。

NTTが数学の真理探求と長期的研究開発強化に向け「基礎数学研究センタ」設立、量子コンピューティングの速さの根源解明

NTTが数学の真理の探求と長期的研究開発強化に向け「基礎数学研究センタ」を設立、量子コンピューティングの速さの根源など解明

NTTは10月1日、長期的視野に立った基礎数学研究を推進するための組織「基礎数学研究センタ」(Institute for Fundamental Mathematics)を、NTT研究所内に新設した。現代数学の基礎理論体系構築に取り組みつつ、「量子コンピューティングの速さの根源」の解明や、未知の疫病の解明、新薬の発見などにおいて、「現代数学の手法を駆使した今までにないアプローチの提案を通じた貢献」を目指すという。

同センターのミッションは、「現代数学の多様かつ広範にわたる未知なる課題」に取り組み、「数学の真理の探求」を推進することであり、以下のような課題解決に貢献することだとしている。

  • 現代数学の未解決問題への挑戦を通じて新たな基礎理論体系を構築し、量子コンピューティングの速さの根源の解明、量子計算機でも破れない暗号方式の考案など、「デジタルを超える量子技術の革新に向けた研究」の加速
  • 生命科学、脳科学、社会科学などにおける現象の相互作用や未解明な振る舞いに関する、トポロジーと幾何学、数論、関数解析などの現代数学の発展と各研究領域の研究者との連携
  • 各研究分野での現代数学の数理的な記述方法を探索し、未知の疾病の解明、新薬の発見、超大規模シミュレーションとAIの融合による災害予測、災害救助を本格的に担えるアバターやロボットの構築
  • 人間の脳のダイナミクスや人の行動メカニズム、記憶、思考、意識が生まれるメカニズムの解明、新たな脳型計算機実現に向けた理論の発展への寄与

今後は、基礎数学分野の第一級の研究者を招き学術貢献すると同時に若手を育成し、NTTが提唱する光による高速大容量通信のネットワークと情報処理基盤を構築する「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現にまつわる諸問題の解決を目指すという。

サムスンとハーバード大学がヒトの「脳をコピペ」できる半導体チップの研究を発表

サムスンとハーバード大学が人間の「脳をコピペ」できる半導体チップの研究を発表

VICTOR HABBICK VISIONS/SCIENCE PHOTO LIBRARY via Getty Images

サムスンとハーバード大学の研究者らは、ヒトの脳の仕組みを半導体チップ上で模倣するための新しい方法に関する研究を発表しました。

Nature Electronicsに掲載された論文では、研究では人間の脳が持つ情報処理特性、たとえば消費エネルギーの低さ、学習効率の高さ、環境への適応力、自律的な認知プロセスなどといった仕組みを模倣するためのメモリーデバイスを作る方法が解説されています。

と言っても、われわれ一般人の脳みそではなかなか理解できない話であることは間違いないので、超絶簡略化して説明すると、そのデバイスは、ナノ電極アレイを用いて脳の神経細胞の接続状態をマッピング、複製し、高度に集積した3次元ソリッドステートメモリー網上に再現、各メモリーセルは、マッピングされたニューロンごとの接続強度を反映したコンダクタンス(電気の流れやすさ)を保持します。つまり脳の神経ネットワークをコピペする、というわけです。

脳の中で大量の神経細胞がどのように配線されているかはほとんどわかりません。そのため研究ではチップ上に脳を正確に模倣するのでなく”インスピレーション”によって設計しているとのこと。とはいえ、ナノ電極アレイ技術は神経細胞の電気信号を高感度で効率的に記録可能で、コピー作業、つまり神経の接続状態の抽出もかなり正確にできると研究者は説明しています。

このしくみがうまく機能するなら、自ら新しい概念や情報を吸収し、上京に適応していける本物の脳のようにふるまう人工知能システムの実現がぐっと近づく可能性もあると研究者らは述べています。ただ、人の脳は約1000億のニューロンと、その1000倍のシナプスがあるため、理想的なニューロモルフィックコンピューティングチップを作るには約100兆個ものメモリーセルを用意しなければなりません。もっといえば。それら全てにアクセスして動作させるために必要なコードも必要です。とはいえサムスンの研究は、実際に学習して自律的に思考するAIの実現へ歩を進めるものになるかもしれません。

(Source:Nature Electronics。Via SamsungEngadget日本版より転載)

発達障害支援VRのジョリーグッド社長が提言「職場・学校でもソーシャルスキルを学ぶ機会を」

ジョリーグッド代表取締役上路健介氏

少子高齢化に端を発する人手不足が深刻化する中、多様な人材に長く働いてもらうことが重要になってきている。発達障害や精神疾患を抱える人々も例外ではない。医療福祉系VRビジネスを開発・展開するジョリーグッドは、発達障害支援施設向けVRサービス「emou」(エモウ)を提供している。VRゴーグルを装着してバーチャルな環境でコミュニケーションを学ぶサービスだ。VR技術によって障害者支援はどう変わるのか。同社代表取締役の上路健介氏に話を聞いた。

「VRで発達障害支援」が事業化するまで

ジョリーグッドは2014年5月創業の医療VRサービス事業者だ。医師の手術を360度リアルタイムで配信・記録する医療VRサービス「オペラクラウドVR」、発達障害の方の療育をVRコンテンツで行う発達障害支援施設向けVRサービス「emou」、薬などを使わずにうつ病などの病気を治療するデジタル治療VRサービス「VRDTx」(未承認開発中)を中心にビジネスを展開している。

創業者でもある上路氏がテレビ業界出身だったことから、ジョリーグッドはメディアや制作プロダクション向けのVRコンテンツ作りのサポートから事業をスタートした。その後観光業向けのVRブームが起こり、それに関連したVR活用セミナーを開催したところ、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンから高い評価を受けた。それがきっかけとなり、2018年11月に同社と医療研修VRを共同開発することを発表。医療VRビジネスを開始した。

そうこうしているうちに、ジョリーグッドの医療VRサービスのことを聞きつけた発達障害支援施設の関係者などから「ジョリーグッドの技術は発達障害の人が苦手とするソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)に活用できるはず」と声をかけられ、emouを開発するに至った。

上路氏は「当時の私は発達障害のことをよく知りませんでした。ですが、こうして声をかけていただいて、VR技術の新しい活用方法を開拓することができました」と振り返る。

発達障害とソーシャルスキルトレーニング

では、発達障害とはどんな障害なのか。

厚生労働省によると、発達障害とは「生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態」だ。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが発達障害に含まれる。

発達障害の人はソーシャルスキルに課題を抱えることが多い。ソーシャルスキルとは、社会の中で周りの人と協調して生きていくための能力だ。コミュニケーションを取るためのスキルとも言い換えられる。

「ソーシャルスキルとひと言でいっても、その内容は多岐にわたります。声の大きさ、話し方、会話をしている最中の相手への配慮などが含まれます」と上路氏はいう。

ソーシャルスキルが試される場面は数多くあるが、仕事でミスをした時の対応の仕方、周りの人が噂話をしているときの立ち回りなど「気まずい空気」に対処する時を想像してもらえるとわかりやすいだろう。

さらに同氏によると、ソーシャルスキルを鍛える機会がなかったために、学校や職場などでコミュニケーションに失敗し、その経験がトラウマとなって社会に出たくなくなってしまう発達障害者もいるという。そのため、ソーシャルスキルを身につけ、強化する訓練であるSSTは重要なのだ。

上路氏は「大切なのは、発達障害を抱える人たちが学校や職場などの『社会』で経験するであろうさまざまな場面を事前に予習し、人やコミュニケーションに対する恐怖を取り除くことです。SSTはいわば『社会の予習』なのです。発達障害を抱える人の状況はそれぞれ異なりますし、症状の重さも多様です。『人に向き合うのがもう無理』という方もいます。1人ひとりに合わせて『まずは外の景色を見せる』『動物を見せる』『人を見せる』というように、段階的に、何回でも安全なVR空間でコミュケーションを練習してもらうことがSSTでは重要です」と話す。

「発達障害者支援」の課題

「VRでSSTを行う」と聞くと、それだけで画期的に聞こえる。しかし、実際のところ、発達障害支援施設ではVRを必要としているのだろうか。発達障害支援施設にはどんな課題があるのだろうか。

上路氏は「支援施設ではSSTを行いたくても、SSTのマニュアルがなかったり、カリキュラムがなかったりする施設は珍しくありません。また、SSTを行う指導員の育成にも時間がかかります。VRを使用しないSSTは、指導員による寸劇や紙芝居で行われます。『Aさんがこんな行動に出ました。Bさんがこんなことを言っています。あなたはどうしますか?』という具合に、特定の状況を再現し、適切な対応を学んでいきます。この時、発達障害を抱える方は想像することが苦手なため、受講者の理解の深さは指導員の演技力や個人の能力に依存してしまいます」と問題を指摘する。

それだけではない。寸劇や紙芝居でのSSTは、現実に起きるであろうあらゆるシチュエーションを発達障害者に見せ、イメージさせることで、実際の「その場面」に備えさせるものだ。しかし「その場面」にまだ遭遇していない発達障害者にとっては、イメージすること自体が非常に難しい。

「中にはイメージ作業そのものが負担になり、SSTを嫌いになってしまう方もいるんです」と上路氏。

だが、VRを使ったSSTでは、発達障害者はVRを通して「その場面」を擬似的に体験できるため「イメージする」という作業がなくなる。さらに、没入感の強いバーチャル空間をゲーム感覚で体験することもでき、SSTを楽しむ人もいるという。

支援施設の課題はSSTだけではない。発達障害支援施設の数は年々増しており、当事者やその家族がより良い施設を選ぼうとしているのだ。施設間の差別化や競争が始まっている。

「現状、支援施設は独自のツールとノウハウでSSTを行っています。そのため、支援施設の違いや個性が見えにくかったり、指導員の質にばらつきが出ます。emouのようなVRとSSTコンテンツがセットになったものを使えば、同じクオリティのコンテンツで何人もの施設利用者にSSTを行えます。指導員の教育コストを下げることもできます。さらに、『VRを活用している』ということでプロモーションにもなります。実際、emouを導入した支援施設で、導入をきっかけにメディアに取り上げられたところもあります。支援施設のビジネスというのは、定員を満たさないと十分な利益が出せません。なので、プロモーションや差別化というのは非常に重要な問題なのです」と上路氏はいう。

コミュニケーションで問題を抱えているのは障害者だけ?

emouは、SSTコンテンツのサブスクリプションサービスだ。360度のVR空間で「挨拶」「自己紹介」「うまく断る」「自分を大事にする」「気持ちを理解し行動する」「仲間に誘う」「仲間に入る」「頼み事をする」「トラブルの解決策を考える」など、100以上のコンテンツを利用することができる。

emouには指導員向けの進行マニュアルと導入マニュアルも含まれており、SSTの実績がない施設や、SSTの経験が浅い人材でも一定の質でSSTを実施できる。

導入開始時に導入初期費(5万5000円)、VRゴーグルにかかる機材費(3台で19万8000円、こちらは導入施設が買取る)、月々5万5000円のサービス利用費がかかる。翌月からはサービス利用費の支払いだけで良い。導入施設で準備するのはコンテンツ管理 / SSTの進行管理のためのiPadのみとなる。

ここまで見てきたように、emouは発達障害者の支援のために開発されたサービスだ。しかし、emouの開発と活用が進むにつれ「SSTが必要なのは発達障害を抱える人だけではない」と上路氏は気づいた。

「うまく断るとか、自分を大事にするとか、頼み事をするとか、トラブルの解決策を考えるというのは、発達障害を持っていない人でも十分に難しいですよね。胸を張って『得意です』といえる人は多くないと思います。また、今はコロナ禍で学校に通えない子どももいます。これまでは学校がソーシャルスキルを学ぶ場として機能してきましたが、そうもいかなくなってきています。ソーシャルスキルは今や発達障害を抱える人だけではない、大人も子どもも巻き込んだ課題なのです。なので、企業の研修や、学校教育の一環として、emouが役に立つ可能性もあると思っています」と上路氏。

こうして発達障害者ではない層にも目を向ける中で、今上路氏が注目しているのがリワーク市場だ。

2020年に内閣府が発表した『令和2年版 障害者白書』によると、精神障害者数(医療機関を利用した精神疾患のある患者数)は2002年から2017年まで増加傾向が続いている。さらに、精神疾患による休職者のうち、職場に復帰できているのは半数以下だ。

上路氏は「復職者支援のために1企業にemouを1セット設置したり、emouのノウハウを生かしてVR産業医のようなサービスを展開することで、ソーシャルスキルに関わる課題を抱える人を助けることができるかもしれません。今後はリワーク市場を視野にサービスを充実させていきたいですね」と語った。