独立系VCのANRIが総額60億円規模の新ファンド、シードステージとハイテク領域に注力

ANRIパートナーの佐俣アンリ氏(左)と鮫島昌弘氏(右)

YouTuberの支援やマネジメントを手がけるUUUMが8月30日に東証マザーズ市場に上場し、買い注文殺到で取引が成立せずに初日を終えたことが話題になったが、そんなUUUMにもシード期(創業期)から出資しているのが独立系ベンチャーキャピタルのANRIだ。そのANRIが第3号となる総額60億円規模のファンドを立ち上げる。

新ファンドの名称は「ANRI 3号投資事業有限責任組合」。LP(Limited Partner)としてミクシィやグリー、アドウェイズ、VOYAGE GROUP(いずれも2号までに出資している)、ヤフーといったネット企業に加えて、中小機構、みずほ銀行、西武信用金庫などが出資。現時点で約50億円を集めており、最終的に60億円規模までファンドを拡大する予定だ。すでに3号ファンドからの投資もスタートしており、これまで14社に対して投資を完了している。

シードステージのスタートアップに注力

UUUMのほかにも、クラウドワークスやペロリ、コネヒト、コインチェック(当時の社名はレジュプレス)、U-NOTEといったイグジット済み企業のほか、ラクスル、コイニー、スマートドライブ、CLUE、ハコスコなどに対してシードステージから投資を行ってきたANRI。新ファンドでも引き続き、シード、アーリーステージのスタートアップに対する投資に注力するという。

「60億円もあればミドル、レイターステージの投資もやると思われるが、あくまでシードに特化する。シードマネーというのはまだまだ足りない。歯を食いしばって投資をしているシードVCというのは少ない」(ANRIパートナーの佐俣アンリ氏)。大規模な独立系VCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、大学系VCなどがこの数年で立ち上がってスタートアップに流れる資金は全体としては増加しているが、その一方でイグジットまで時間がかかり、成功確率で言えば低くなるシードステージの投資についてはより一層の資金が必要だと語る。

シード投資とは言え、投資額については最大5億円(フォロー投資含む)までを想定しているという。「『シード投資は500万円』と誰が決めたわけでもない。たとえばイグジットした起業家がもう一度起業にチャレンジしたいとなった時などには、『1億円投資する』と言えるようにしたい」(佐俣氏)

本郷に拠点、ハイテク領域の支援も

またシード投資とあわせて強調するのが、大学や学術機関発のハイテク系スタートアップへの投資だ。元UTEC(東京大学エッジキャピタル)で、自身も東京大学の大学院で電波天文学を修めた研究畑出身の鮫島昌弘氏が昨年からパートナーとしてファンドに参画。これまで拠点としていた東京・渋谷に加えて、東京大学のある本郷にも拠点を立ち上げて、大学発のハイテクスタートアップへの投資やインキュベーションを進めている。今後は20代を対象としたアソシエイトの採用も検討しているという。

「Y Combinatorも数年前からバイオ領域への投資を進めているが、最近では日本でも宇宙やバイオといった領域での投資を進めているファンドがある。米国ではハイテクノロジーとインターネットが結びついてきている。日本では今までこれが分断されていたが、いよいよ(結びつく時期が)来る」(佐俣氏)

「ハイテク領域にもまだまだシードマネーが足りない。それはPOC(Proof of Concept:概念の実証)を越えるまでの研究は、あくまで公的な研究費などで行っていたから。『ここから1000万円あれば(実用化まで)いけるのに……』という事例は多い」(鮫島氏)

とはいえウェブサービスなどとは違い、ハイテク領域はピボットが難しい領域。倒産率だって高くなる。これについてはANRIでも想定しており、「基本的には死屍累々の領域。(リスクをとって)挑戦するための投資をしていくことをファンドの設計に組み込んでいる」(佐俣氏)としている。

さらに弁護士や弁理士、クラウド会計サービスなどと連携。シード期では社内に持ちにくいバックオフィス機能や法務などを支援していくほか、投資家が起業家予備軍の人材に対してビジネスプランを提案するインキュベーションプロジェクトなども展開する予定だとしている。

Y Combinatorが10億ドルのファンドを調達している

Axiosの今朝の記事(米国時間7/21)によると、シリコンバレーのスタートアップアクセラレーターY Combinatorが最大10億ドル規模のVCファンドを調達している。同社は2年足らず前にも、最初の大規模ファンドとして、Y Combinator Continuityファンドと名付けたグロウスファンド(成長段階向けファンド)7億ドルを調達し、その担当者としてAli Rowghaniを迎えた

RowghaniはそれまでTwitterのCOOで、さらにその前はPixarのCFOだった。

今YCに確認を求めているところだが、最近の同社の投資のペースや、一般的にベンチャー投資家のファンド形成サイクルが短期化している傾向から見ると、同社の動きは意外ではない。

Axiosが着目するのは: YCはもはや、成長段階の投資を特別扱いして別立てにすることを、やめるつもりだ。今回の新たなファンドは、サイズや段階を問わずあらゆるスタートアップへの投資に充てられる、という。また、YCが後期段階の企業に投資するときは、対象をもはや、前のようにYC出身企業に限定しない。

Axiosの言う第三の変化は: YCの投資委員会の規模を、これまでの数年間に比べてやや小さくする。YCの社長Sam Altman, Rowghani, そしてContinuity FundのパートナーAnu Hariharan, そしてそのほかのパートナー代表、という4名構成になるようだ。それは、意思決定過程を迅速化するため、と言われている。

YCの有限投資家、すなわち機関投資家や資本をスタートアップに投じたいと考えている個人投資家には、Stanford University(スタンフォード大学), Willett Advisors, TrueBridge Capital Partnersなどが含まれる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Toyotaが別会社としてVCを立ち上げ、AIスタートアップの育成をねらう

今やToyotaは、AIのためのVCファンドを立ち上げた最新のFortune 500社だ。初期のファンドの総額は1億ドルで、VC稼業はToyota Research Instituteの子会社という形になる。この自動車メーカーは自らの戦略的位置づけを、企業戦略としての戦略的投資を行うファンドではなく純粋にROI指向としており、つまりふつうのVCとして営利を追うよ、という意味だ。

ファンドのマネージングディレクターはJim Adler、彼はToyota ResearchのVPだったが、プロダクトを担当した経歴がある。AdlerをトップとするToyota AI Venturesは、すでに3つの投資をしている:

Nauto — 自動運転技術

SLAMcore — ヴィジュアルトラッキングとマッピングのアルゴリズム

Intuition Robotics — 高齢者のお相手をするコンパニオンロボット

彼らが主張するVCとしての優位性は、経営に関する実戦的なアドバイスもできる、という点。そしてもちろん、Toyota Research InstituteがAIに関する本格的なアシストをするから、スタートアップのコア技術を磨ける。

ぼくがこれまで会った業界上位のファウンダーたちの多くは、資金調達に何も問題はないから、コーポレートベンチャーはなるべく避けたい、と言う。コーポレートベンチャーは、戦略的投資家ではなくてROI追求型だと約束しても、なんとなく眉唾感がある。とりわけ、流動的なシード段階では、小さなIPや戦略的リスクをめぐってすら、コーポレートの関与には不安がある。

Adlerはしかし反論する: “この種の議論に関してはスタートアップに主導権を持たせる。これらの投資からIPを取り出すためにVCをやるのではない”。

Toyotaは、上記不安感不信感の源泉となる利益相反を避けるために、ファンドを自己のバランスシートに載せずに、独立の企業にする。独立のVC企業として、主にシード段階とシリーズAをねらう気だ。

大企業のベンチャー部門を効果的に経営するのは難しいし、しかもAIスタートアップが対象となると、さらに難しい。資本が満ち足りたAIスタートアップのエコシステムが必要とするのは、データであり、本格的な企業顧客であり、そしてプロダクトに関する経験と専門知識を持つアドバイザーだ。企業のベンチャー部門、という形のVCは全世界で4兆あると言われるが、誰もそのことを真剣に考えない。成功を夢見るToyotaは、今から自分がどんな世界に飛び込んでいくのか、よく知っているはずだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

LA-SF間の寝台バスCabinが$3.3Mを調達、飛行機より高いけど人気

寝台バス(上図)のCabinが、330万ドルのシード資金の獲得を発表した。この投資をリードしたのはFounders FundのFF Angel、これに半ダースほどの投資家が参加した。この新たな資金でCabinは、その夜間運行サービスの国内供用地を増やすことができる。

ご覧のようにこの“走るホテル”は、ふつうのバスを改造して、中央に廊下のある寝台車にしている。列車みたいに。社交的で不眠症の人たちのために、小さなラウンジもある。孤独好きな不眠症の人たちには、Wi-Fiがある。耳栓と紅茶は全員にサービスされる。乗務員が待機しているし、バスルームもある。手荷物は二個まで無料だ。

今は、ロサンゼルス|サンフランシスコ便しかない。中心市街地で午後11時に乗車、翌朝7時に着く。会議なんか、十分に間に合う。料金は片道115ドルだ。飛行機なら100ドル足らずだが、Cabinならベッドがあるし、アームレストの取り合いもない。

CabinはTesloopのような企業に参加しているので、飛行機よりも快適な長距離の路上の旅を共有できる、お急ぎでなければ。けっこう、関心を集めている。Cabinが2016年に行ったパイロットプロジェクトSleepBusは、チケットが三日で売り切れた。予約リストには20000名が載り、予想の15000名を超えた。ロサンゼルス|サンフランシスコ間の運行は、毎日だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

ICOファンドとは?――業界に先駆け1億ドルのファンドを設立したVCに聞いてみた

多くの投資家がイニシャルコインオファリング(ICO)に関する情報をかき集めている。テック業界で野火のように広がるこの資金調達方法に、さまざまな人が期待すると同時に、困惑や恐れを感じているのだ。

簡単に説明すると、ICOとは独自の仮想通貨の発行・販売を通じて、ユーザーから資金を集める資金調達方法だ。ユーザーは購入した通貨を将来的に販売元のスタートアップのサービスに使ったり、取引所で売却したりできる。

まだ規制環境が整っていないため、ほとんどのVCはICOへの参加に慎重な姿勢を示している。自分たちのビジネスが脅かされようとしているにもかかわらずだ(顧客が喜んで出資してくれるというのに、わざわざ投資家に株式を売り渡す人はいないだろう)。

しかし、サンフランシスコに拠点を置くあるVCはICO投資に積極的に取り組んでいる。そのVCの名はPantera Capital。以前Tiger Managementに在籍していたDan Moreheadが14年前に設立したこのVCは、ビットコインをはじめとする仮想通貨に特化したファンドを業界に先駆けて立ち上げたことでも知られている。

他社が手を出せないでいる領域に、Panteraがいち早く進出するというのは、もはや驚くべきことではない(彼らは現在1枚あたり約2500ドルの値がついているビットコインに1枚65ドルの頃から投資し始め、大きな成功をおさめた)。しかし、常に前のめりなPanteraとはいえ、今回のファンドのサイズ(今年の夏中に1億ドルの調達を予定しており、既に3500万ドルが集まった)は大きすぎるようにも感じられる。

新しいファンドの詳細を知るため、MoreheadとPanteraパートナーのPaul Veradittakit、そして最近チームに加わったJoey Krug(Augur共同ファウンダー)に話を聞いたので、以下にその様子をお伝えしたい。なお、Augurは分散型の未来予測プラットフォームで、ICOという言葉が知られるずっと前の2015年にICOで530万ドルを調達している。

昨年Thiel FellowにもノミネートされたKrugは、Panteraの新しい投資ビークルでMoreheadと共に共同チーフインベストメントオフィサーを務める予定だ。

TC:ICOの件数は今年一気に増え、特にここ数か月はかなり盛り上がっています。ICOに特化した新しいファンドの準備にはどのくらいの期間をかけましたか?

DM:ファンドの骨子をつくるのに数か月かかり、その一部としてJoeyをチームに迎えました。彼は私と一緒にファンドの運用を行い、Paulは資金調達を担当する予定です。

TC:投資家の顔ぶれはいかがでしょうか? 個人投資家と機関投資家だと、どちらの方が多いですか?

DM:大手の戦略投資家は1社のみですが、名前を伝えることはできません。残りは仮想通貨に手を出したいと考えている個人・機関投資家の両方ですね。

TC:機関投資家の中にはVCも含まれていますか?

PV:はい、含まれています。皮肉なことですが、多くのVCはファンドの規約のせいで仮想通貨へ直接投資できないことになっています。しかし、仮想通貨やICOについてもっと知るため、そして(この新しい資産に)実際に投資するために、ICOファンドに参加しているVCやベンチャーファンドはたくさんあります。

TC:AngelListはICOでの資金調達を考えているスタートアップのために、新たなプラットフォームを他社と共同でローンチしましたし、仮想通貨に投資しているファンドも存在します。ただ、これだけICOに特化したファンドというのは聞いたことがありません。そもそも似たようなファンドは存在するんですか? また、ファンドの仕組みについても教えてください。

DM:ICOに特化したファンドが他にもあるかどうかはよくわかりません。ファンドの仕組みについては、まず一般販売が始まる前にトークンを購入し、その後販売が始まってから再度追加でトークンを購入するようにしています。

PV:つまり私たちは、創業チームとホワイトペーパー(プロダクトの技術的な部分や、スタートアップが取り組もうとしている問題、その解決策などについて書かれた文書)しか揃っていないような企業のICOにできるだけ早い段階で関わることで、トークンを安く手に入れようとしているんです。逆に私たちはそのような企業に対して、マーケティングや人材採用、ビジネス開発などに関するコネクション作りの手助けをしています。

TC:今のところ規制当局はICOの動向を傍観しているようですが、そのうちこの分野にも規制がかかってくると思います。ICOで販売されるトークンは、発行主体の情報開示や事業者登録が必要な証券ではなく、サービスや製品のような存在として扱われていると理解していますが、もしこの考え方が変わった場合はどうしますか?

DM:トークンの性質はさまざまで、商品先物取引委員会(CFTC)や内国歳入庁(IRS)を含む世界中の規制団体が、既に仮想通貨に対する明確なスタンスを示しています。まだ判断を下せていない団体も存在しますが、仮想通貨の売買と同じように、既存のルールに当てはめられるのか、もしくは新たなルールを導入しなければいけないのか、ということを判断するのにはある程度の時間がかかると思います。

TC:これまでにICOファンドから投資したスタートアップの数はどのくらいですか? また、投資先を決める際の基準について教えてください。

DM:これまでの投資先はKik(ICOはこれから行われる予定)、OxFunFairOmiseCivicの5社です。Civicに関しては、以前からエクイティ投資も行っています。

JK:投資先を選ぶ基準のひとつとして、仮想通貨がサービスに欠かせないような仕組みになっているかという点を重視しています。サービスネットワークの中で使われているのがその通貨のみかどうかということです。

TC:トークンの保有割合ついては目標値を設けていますか?

DM:特に具体的な基準は設けておらず、それぞれのICOを個別にチェックしています。出来る限り保有割合を大きくしたいとは考えていますが、トークンの発行数にもよります。KikとFunFairに関しては、恐らく私たちが筆頭”トークン主”ですが、他の企業に関しては私たちより多くのトークンを購入した投資家がいます。

PV:現状、トークン市場の規模はおよそ40億ドルと言われています。Kikは従来の方法で十分な資金を調達しながらも、ビジネスモデル全体をトークンベースに変えようとしており、今は彼らにとって大きな転換期だと考えています。もしもKikの試みがうまくいけば、グロースステージにある企業でもトークンの導入が進んでいくでしょう。そして彼らがトークンを使って何億ドルという資金を調達し始めれば、市場規模は一気に拡大していくと思います。

TC:エグジットに関してですが、Panteraではまず一般販売前にトークンを購入し、スタートアップがIPOに向けてプロダクトを開発する手助けをしていくということでしたよね。最終的には最近増えてきている取引所で、値上がりしたトークンを売却するんですか?

DM:その通りです。現在(Panteraが利用する可能性のある)取引所はKrakenPoloniexBittrexを含めて10か所ほどですが、今後新たな取引所が設立され、取引価格が妥当であればそこもオプションに加えていく予定です。

TC:一度に大体どのくらいの数の企業に投資していますか?

DM:10〜20社です。

TC:何か特定のバックグラウンドを持つファウンダーに投資するようにしていますか? というのも、かなりの数の企業がトークンを導入しているため、その中から有望な企業を見つけるのは難しいですよね。

JK:私たちがこれまでに話をした何百という数の企業のうち、今は30社の動向を追っています。トークンベースのビジネスを行う上で、起業経験は必ずしも必要ではありません。起業経験があるというのは、何かしらのビジネスのやり方を知っているという意味では価値がありますが、私たちが投資しているようなビジネスでは、そこまで重要なことではないんです。

トークンベースのビジネスは、普通のビジネスとは大きく異なります。トークンは株式と違いコミュニティーが保有するものなので、意思決定やガバナンスのプロセスもかなり違うんです。

TC:学歴に関してはどうですか?

JK:全ての条件が同じであれば、恐らく大規模なオープンソースコミュニティの構築経験があるかというのが重要なポイントになると思います。

TC:いずれICOの規模が株式を対価とするベンチャー投資の規模を上回ると思いますか?

DM:長期的に見れば、VCが資金調達を仲介する必要がなくなる可能性はあると思います。ウェブブラウザを開発するBraveのICOでは、24秒で3500万ドルが集まりましたからね。

2017年第二四半期のブロックチェーン企業による資金調達の様子を見てみると、ICOへの投資総額(2億1000万ドル)がVCの投資総額(1億8000万ドル)を上回っていました。この傾向が今後強まると考えているからこそ、私たちはICOファンドを立ち上げたんです。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

アーリーステージでの大型資金調達の弊害――フラットラウンドが普通になる日

【編集部注】執筆者のDuncan DavidsonはBullpen Capitalのジェネラルパートナー。

スタートアップエコシステムにとって、2017年は苦難の年になるだろう。2016年にクローズされたシリーズCの約半分が、ダウンもしくはフラットラウンドだった(評価額が直近のラウンドと同じ、もしくはそこから下降した)のだ。シリーズBの段階にある企業はこれから痛みを覚悟しなければいけない。要するに、フラット(ラウンド)は新しいアップ(ラウンド)なのだ。頭字語で溢れるテック界にあえて新しい語を投じるのであれば、「FITNU: Flat Is The New Up」ということになる。

しかも、この変化はシリーズBで止まることはないだろう。もしもあなたの会社がシリーズAを既にクローズしていて、今年新たに資金を調達しようとしているのであれば、この記事の内容があなたの会社を救うことになるかもしれない。あなたの企業がシードステージにあれば、もっとこの記事が参考になるだろう。

何が起きたのか?

複数の投資家によれば、2017年は転換期になるはずだった。アメリカでは2016年のVCファンドの調達総額が過去最高の420億を記録し、私たちは既にバブルを乗り越えたはずではなかったのか?

実はそうではなさそうなのだ。ユニコーン企業をいわゆるプライベートIPOに仕向けていたVCが動揺しはじめた2015年にバブルが弾け、彼らの投資意欲が下がってしまった。これにより、VCコミュニティ全体が勢いを失い、膨大な数のシードラウンドと高い評価額を支えきれなくなったのだ。その結果、少数の企業に投資が集中することになった。

PitchBookの調査によれば、アメリカにおけるシードラウンドの数は、2015年Q2の1537件から2016年Q4の872件へと43%も落ち込んだ。これは過去4年間で最低の水準だ。アーリーステージのラウンド(シリーズA、B)もこれに続き、2014年Q2の830件から2016年Q4は524件まで減少した。

その一方で、ひとつひとつの調達額は膨れ上がっている。2016年に行われたシードラウンドのうち、100〜500万ドル規模の割合は42%で、これは過去10年間におよぶPitchBookの調査史上最高だった。さらに、2016年にアーリーステージ企業に投じられた資金のうち、約半分が2500万ドル以上の規模のラウンドに流れこんでいた。

PitchBookの調査を裏付けるように、Redpoint VentureのTomasz Tunguzも2010年から2016年の間に、シードラウンドの調達額の中央値が27万200ドルから75万ドルへと約3倍に増えたと指摘している。Crunchbaseのデータをもとにした彼の分析では、同じ期間にシリーズAの調達額の中央値が300万ドルから660万ドルへ、シリーズBについては1000万ドルから1500万ドルへと増加したとされている。

なぜフラットラウンドが増えているのか?

バブル期には、シードステージの企業をターゲットとするVCが急増したため、シード資金を獲得できるスタートアップの数も増加した。しかし、シリーズAの企業をターゲットにしたVCの数はほとんど増えなかったので、ファンドの調達額だけが増大した。そして、VCは自分たちのビジネスのニーズに応えるため、1件1件の投資額を吊り上げたのだ。

しかし残念なことに、1000〜200万ドル規模の”超大規模な”シリーズAに値するスタートアップはほとんど存在しない。その結果、シードラウンドを越えてシリーズAまでたどり着く企業の数が急減したのだ。シードラウンドに続いてシリーズAでの資金調達に成功した企業の割合は、2012年の約25%から2014〜2016年にかけて10%以下に下がったとPitchBookは発表している。その後、多くのシード企業が追加資金を調達することに成功したので、恐らく現在の割合は20%といったところだろう。これでも、かつての45〜50%という水準に比べるとかなり低い。

早過ぎる段階で巨額のシリーズAをクローズした企業の多くが、シリーズBでも大金を手にして現金を食い尽くし、シリーズCに至る頃には評価額がそのままか、最悪の場合落ち込んでしまうという現象も起きている。先述の通り、2016年Q3に行われたシリーズCの約半数がダウンもしくはフラットラウンドだったのだ。

この理由は次の通りだ。例えば、シリーズAで投資家が25〜30%分の株式と引き換えに1000万ドル投資したとする。そうすると、ポストマネーの評価額は3300〜4000万ドルになる。シリーズBへの参加を考えている投資家は、シリーズBのプレマネー評価額がシリーズAのポストマネー評価額の少なくとも2倍になることを望んでいるが、もしもその水準に達していなければ、シリーズCまで投資を待った方が良いと考えるのだ。

バブル期であれば、評価額を2倍にするのは何ら難しいことではないので、当時のスタートアップは流れに乗ってシリーズBをクローズした。しかし、市場が冷静さを取り戻した結果、シリーズCでの彼らの評価額はシリーズBと同等、もしくはそれ以下になってしまったのだ。この流れは、今後シリーズCからB、A、シードへと侵食していくだろう。つまり、Mark Susterの見解とは逆に、まだ冬の時代は終わりを迎えていないのだ。

“リシード”ステージ

今年、シリーズA企業は、シリーズBを開催できるレベルまでプレマネーの評価額を上げるのに苦労するだろう。万が一、フラットもしくはダウンラウンドになってしまった場合は、”リシード”のタイミングだ。つまり、シードラウンドをクローズした直後の企業のような姿を目指し、できるだけコストを抑えるようにしなければいけない。

多くのファウンダーが、フラット/ダウンラウンドがスタートアップの”死”を意味するかのように考えている。この理由には、株式の希薄化と対外的な意味での数字のインパクトの両方がある。

しかし、株式の希薄化によって倒産に追い込まれた企業は存在しないし、外からの評価はフラット/ダウンラウンドの後に、その会社がどういう対応をとったかで決まる。新しい現実に沿って組織を改変できたのであれば、その会社は魅力的に映るのだ。ダウンラウンド後に組織の贅肉を落とし、より持続可能なモデルを構築できれば、ダウンラウンド自体は問題ではなくなる。

しかし、シリーズAでの優先株の発行数を考えると、資本構成はもっと難しい問題だと言える。もしも、あなたのスタートアップがシードラウンドで200万ドルを調達し、株主は200万ドル分の優先株を手に入れたとする。さらにシリーズAで1000万ドルを調達し、ここでも調達額分の優先株を発行したとしよう。すると、合計1200万ドル分の優先株が発行されたことになり、さらにここに返済しなければならない負債が加わってくる。

まともな投資家であれば、シードラウンド後の評価額で1200万ドル分もの優先株を発行した企業を好ましくは思わないだろう。さらに、シリーズBをクローズした後に”リシード”の必要性がでてくると最悪だ。そうなると2500万ドル分、もしくはそれ以上の優先株を発行したことになる。何としてでもリシード期間中に、優先株の割合を減らしたいところだ。これはバーンレートを下げるよりもずっと難しい。

次は誰の番?

「フラットは新しいアップだ」というのは、バブル後の状況を表すひとつの表現だ。2014、2015年に期待されていた企業は、シリーズCでフラット/ダウンラウンドを経験した。そして、シードラウンドで100万ドル、シリーズAで1000万ドル調達したような企業が、現在シリーズBに臨もうとしている。しかし、そのうちの多くは、シードラウンド後の企業の姿を目指し、社員を減らし、キャップテーブル(各株主の保有割合や株価などが記載された表)を見直すことになるだろう。廃業に追い込まれるよりは、リシードの道を選んだ方がマシだ。矛盾しているようにも思えるかもしれないが、従業員が少ない方が争いが減り、成長スピードが上がる可能性もある。結局のところ、まだ準備ができていない状態で大規模なシリーズAを敢行したのがそもそもの間違いだったのかもしれない。

シード企業も、明日は我が身と気を引き締めなければならない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ビジネスとして成立するまで資金調達は不要――自己資金経営のススメ

【編集部注】執筆者のZach AbramowitzはReplyAllの共同ファウンダーでCEO。

Yaron Ben ShaulがCEOを務めるHometalkは、もともと業者検索サービスNetworxのユーザー向けのエンゲージメントプラットフォームとしてはじまった。

その後、HometalkはDIY(日曜大工)コミュニティのためのソーシャル・ネットワークへと変化していき、今ではニューヨークにオフィスを構え、イスラエルに開発センターを置いている。

「テクノロジーの力によって、人は手で何かを作ったり直したりする能力を失いつつあります」とBen Shalは話す。「Hometalkはテクノロジーを利用して、逆にDIYのスキルを共有できるような場をつくろうとしているのです」

DIY好きな人は、Hometalkで自分の家のプロジェクトに関する情報を投稿すれば、気の合う仲間からフィードバックをもらったり、掲示板で質問を投げかけたりできる。そのようにして集まったユーザージェネレイテッドコンテンツがPinterestのような見た目のサイト上に並べられ、誰もがDIYのアイディアを見つけられるHometalkを構成しているのだ。

DIYは一見ニッチ分野のように映るが、現在のHometalkのアクティブユーザー数は1500万人で、月に3億PVを記録しているほか、昨年7月からの動画のオーガニック再生数は6億回におよぶ。Yaronによれば、2016年の売上は数百万ドルで、2017年は1500〜2000万ドルの年間売上を予定しているという。また、現在Hometalkは主にプログラマティック広告から収益をあげているが、今後はスポンサードコンテンツの制作やオンラインショップの開設も行うとのこと。

Hometalkはどのようにして自己資金だけでここまで成長できたのか? そしてHometalkとDIY業界の未来はどうなるのか? CEOのYaron Ben Shaulに話を聞いてみた。

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Zach Abramowitz(以下ZA):今日は取材に参加してもらって、ありがとうございます。

まずHometalk以前に、YaronはAlfyというスタートアップを過去に立ち上げていて、実はこの会社はVCから何千万ドルという資金を調達していましたよね。Alfyでのどういう経験から、Hometalkでは外部調達に頼らずに自己資金で全てを賄おうと思ったんですか?

Yaron Ben Shaul(以下YBS):こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。

Alfyを立ち上げた頃は、まだ起業家としての経験が足りなかったこともあって、「従業員数・調達金額=会社の成功度合い」と考えていました。しかし問題だったのは、資金調達前にプロダクト面でもビジネスモデルの面でもまだまだやれることがあったのに、私たちは焦ってスケールしようとしていたんです。もし、しっかりとした基盤を当時築けていれば、もっと大きな成功をおさめていたと自信を持って言えます。

そんな経験があったので、Hometalkではリーンスタートアップモデルを採用し、外部調達について考える前に、プロダクトマーケットフィットを目標にテストや改良を続けました。

ZA:なるほど。でもプロダクトマーケットフィットはどんなスタートアップにとっても課題だし、プロダクトマーケットフィットに至ったと勘違いして、早過ぎる段階でスケールしようとする企業もたくさんいますよね。

Alfyはプロダクトマーケットフィットに到達していたと思いますか? それとも全くそんなこと考えていませんでしたが? また、早過ぎる段階でのスケールを避けるために、プロダクトマーケットフィットを客観的に判断できるような指標や定義はありますか?

YBS:良い質問ですね。Alfyは”プロダクトマーケットフィット”には達していたと思いますが、”ビジネスマーケットフィット”には届いていなかったと思います。

顧客は私たちのプロダクトを気に入って使ってくれていましたが、会社を長期的に支えるほどの売上には繋がっていませんでした。月のバーンレートは約100万ドルで、Alfyが持続可能な企業へと自然に成長するのに十分なほど、マネタイズがしっかりできていませんでした。

ZA:もしも起業家がスケール前のビジネスマーケットフィットを意識するようになれば、スタートアップが失敗する確率は下がると思いますか?

YBS:間違いないでしょうね。ビジネスマーケットフィットとは、カスタマーエクスペリエンスとビジネスモデルが両立している状態を言いますから。

具体的な数字があるわけではありませんが、ビジネスマーケットフィットを目指している企業が成功する確率は、そうでない企業よりも高いと思います。もちろんイテレーションは必要になりますが、持続可能な売上モデルが構築できなければ、究極的にはそのビジネスは単なるバブルでしかありません。カスタマーエクスペリエンスの向上に注力しているスタートアップはたくさんありますが、ビジネス面がおろそかになると、いずれ行き詰まってしまいます。その結果、業績が落ちて従業員を解雇せざる得なくなり、ギリギリのタイミングで必死に新たなモデルを模索するようになってしまうんです。これは本当に残念なことです。顧客価値を中心に据えながらも、最初からビジネスマーケットフィットを目指せば、企業が長期的な成功をおさめる可能性は高まります。

ベンチャーキャピリストは、その逆を言うことが多いですけどね。Hometalkでは、ビジネスモデルのことは忘れてユーザーのことだけを考えろ、と投資家に言われたこともありましたが、自らの経験からそのアドバイスには従いませんでした。

ユーザー価値の向上という、企業の目的の半分にしかあたらないことに全ての力を注ぎ込み、いつかビジネスとしても成り立てばいいなという考え方で何年間も無駄にしている起業家を、私はこの目でたくさん見てきました。しかし、最適なビジネスモデルを構築するには、現存するプロダクトを段階的に改善するだけでは不十分なことが多く、実際はかなり大きな変化が必要になるということに彼らは気づけていないのです。そして、それに気付くのが遅すぎると、会社の存続さえ危ぶまれることになります。

ZA:では、多くの起業家が誤った指標を追ってしまっているということですか?

YBS:多くのB2C企業のファウンダーは、WhatsAppやSnapchatのように、ビジネスマーケットフィットに達しないままデカコーン企業(評価額が100億ドル以上の非上場企業)になった特別な企業を例に出し、プロダクトファーストの姿勢を正当化しています。そうすると、顧客価値だけを気にしながらつかみどころのない評価額を追い求めるのは間違っていないんだ、と感じてしまうんです。しかし、統計的に見れば、WhatsAppやSnapchatのような企業は例外中の例外です。私は、起業家が成功する確率が高まってほしいと考えているのであって、彼らに100万分の1の確率を追い求めてほしいわけではありません。彼らには、まず本当に1億ドルの価値があるビジネスを構築して、それから10億ドル企業を目指すようにしてほしいんです。

つまり私は、長い時間をかけてでもきちんとビジネスマーケットフィットを目指そうとする企業ほど、長期的な成功を早く手に入れられると考えています。

ZA:外部資金を調達せずに企業を経営する上で、B2BかB2Cかは関係ありますか?

YBS:関係ありません。

ZA:HometalkはNetworxの一部としてローンチされましたよね。いつ頃、Hometalk単独でもやっていけると気づきましたか?

YBS:ご存知の通り、HometalkはNetworxのためのエンゲージメントプラットフォームとして開発されました。もともとは、工事業者の人たちが家や庭の改修プロジェクトに関して書いたり、DIYのコツをサイト上で共有してくれるのでは、と考えていたんです。

実際どうだったかと言うと、コンテンツ面で工事業者の人たちはあまり頼りにならず、むしろコミュニティメンバーが生み出すDIY関連のコンテンツの方が価値があることがわかりました。それに気づいてからは、すぐにHometalkをNetworxから切り離し、ユーザー同士が自分たちの経験談を共有し合うユーザージェネレイテッドプラットフォームへと方向転換したんです。

ZA:その後、外部から資金を調達しようとは思わなかったんですか?

YBS:以下の理由から、資金調達はしたくなかったんです。

1. 当時私たちにとってもっとも価値のあった資産は、会社の自主性と俊敏さでした。外部から(特にアーリーステージで)資金を調達していたら、その資産を手放すことになっていたでしょう。ビジネスマーケットフィットに到達してから資金を調達すれば、自分たちが何者かを解明するためではなく、会社のスケールのためにお金を使うことができます。

2. これは個人的な理由ですが、私は評価額に見合ったビジネスを構築できたと自分で100%の自信を持って言えるようになるまで、他人のお金をリスクにさらしたくないんです。誰かに投資してもらうということには、とてつもない責任がつきまといます。他人のお金よりも自分のお金をかける方がずっとマシです。リスクが桁違いに大きいアーリーステージでは尚更そうです。

3. 早期に資金調達を行っていたら、目の前のことしか見えなくなっていたでしょう。というのも、VCはすぐに結果を求めますからね。しかし私の経験から言えば、自分の会社を長い間存続させたいと思うのなら、長期的な視点を持たなければいけません。

ZA:自己資金だけで夢を叶えようとしている人たちに何かアドバイスはありますか?

YBS:以下が私からのアドバイスです。

・アーリーステージでは、スケールしようとする前に顧客価値と売上が両立するようなビジネスを模索し(スケールのタイミングが早すぎると基盤となるビジネスが安定しなくなる)、顧客とビジネスモデルだけに集中する。

・コストは可能な限り低く抑える。私たちがオフィスをロサンゼルスからワイオミング州のキャスパーに移したときは、引っ越し業者に頼むお金がなかったので、私がトラックを借りて自分で引越し作業をしました。交通費を抑えるために、長い時間かけて陸路で移動し、一泊30ドルのモーテルに泊まったことも何度もあります。今では美しいオフィスや素晴らしい業績を披露できますが、その裏側には10年間におよぶ苦労が隠れているんです。

・形だけの指標にとらわれず耐え忍ぶ。Networxを設立してから3年間は、従業員が1人しかいませんでした。

余計なリソースがなければ、コアビジネスに集中せざるを得なくなり、顧客とビジネスモデルに直に取り組むようになります。つまり、外部資金を調達しない場合、組織のための長期的な展望(投資家との関係性や従業員数など)よりも、ビジネスの中核について深く考えなければいけないのです。

そして最後に、恐らくこれが1番重要なことだと思いますが、全ては最高のメンバーを見つけられるかにかかっています。

ZA:予算が限られている中、どうやって優秀な人材を集めることができたんですか?

YBS:ハイテク人材を雇うお金がなかったので、そもそも彼らのことは狙っていませんでした。人柄を中心に候補者を選別していくしかなかったんです。そのためNetworx・Hometalkのどちらに関しても、高く評価されている社員のほとんどは、いわゆる輝かしい履歴書の持ち主ではありません。しかし、一般に良いとされる経歴を持っていない人の中には、自分の価値を高めようと必死に頑張って成功をおさめる人もいます。

まだオフィスがウェストハリウッドにあったころは、8:00から東海岸の業者とコンタクトをとるために、朝の4:15に私が社員第一号を迎えに行き、こちらの時間の5:00には彼がコンピューターを立ち上げていました。彼の履歴書はなんら特別なものではありませんでしたが、彼の運転スキルはすさまじかったですよ。

ZA:自己資金経営のデメリットは何でしたか?

YBS:創業から数年間はプライベートの時間がとれません。1日中働き詰めで、全て自分でやらなければいけないのです。

しかし、それとは比較にならないほど大きなメリットがあります。私は初めて75ドルのクレジットカード決済を(FAXで!)したときのことを今でも覚えています。誰かが私たちのサービスのために、本当にお金を出してくれたんだというのがわかった瞬間でした。ひとつめのスタートアップで経験したどんな資金調達ラウンドのクローズよりも、その決済の瞬間の方が嬉しかったですね。

ZA:VCからにしろ別の手段にしろ、いつかHometalkでも資金調達を行うと思いますか?

YBS:ちょうど今、VCだけでなくプライベートエクイティファンドからの調達についても考えているところです。ようやくビジネスマーケットフィットを達成できたと感じられたので、現在はスケールの手段を模索しています。

ZA:Hometalkに話を移すと、これまでにローンチされたさまざまなニッチ分野のソーシャルネットワークとDIYソーシャルネットワークの違いは何ですか?

YBS:DIY市場のニーズは極めて細分化しており、ユースケースも多岐にわたります。そこが1番大きな違いですかね。ある人は簡単に掃除したいだけだと思っていれば、ある人は家全体を改築したいと考えていることもあります。また、ある人はニューヨークに、別の人はアトランタに住んでいて、それぞれの家の素材や気候、地形が違うということもあるでしょう。

そのため、誰に対しても価値あるアイディアやツール、知識を提供できるようなプラットフォームを構築するには、ユーザー全員が自分の経験や知識をコミュニティのために共有するクラウドソーシングモデルしかないんです。簡単にいえば、DIYコミュニティのニーズは常にあったということです。

さらに、自分の手を使って何かをするという人間の能力は、かなりのスピードで衰えていっています。Hometalkのゴールは、コミュニティのメンバーがお互いのスキルを高め合えるような場をつくるということなんです。

私の経験上、たとえ数か月の間であっても、脳のある部分を使わなければその能力は無くなってしまいます。例えば、私はWazeを使い始めてから、方向感覚を失ってしまいました。それと同じように、人間は自分の手を使う能力を失いつつあるんです。私たちは、Hometalkのユーザーが金銭的なメリットを享受するだけでなく、自信とノウハウを取り戻す姿を見てきたため、色んな人にDIYを勧めたいと考えています。DIYで学んだことは、他の分野でもきっと役立ちます。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

GoogleがAIスタートアップ育成専門のVCを立ち上げたらしい

Axiosの記事によると、Googleは人工知能にフォーカスした新しいベンチャーキャピタル事業を立ち上げたようだ。

Googleがコメントを拒否したその記事は、新しいVCの立ち上げは長年Googleのエンジニアリング担当VPだったAnna Pattersonが指揮し、Alphabet Inc.のVC部門GVで仕事をしているベンチャー投資家ではなく、エンジニアたちの輪番制で起業にあたった、という。

GoogleのCEO Sundar Pichaiが先日のI/Oカンファレンスで“モバイルファースト”から“AIファーストへ”、と宣言したぐらいだから、同社がAI専門の投資部門を立ち上げても不思議ではない。

今年のI/Oでは、発表されるもののほとんどすべてが、AI絡みだった。Tensor Processing Unit(TPU)のアップデートがあり、研究用にも企業用にもAIのモデルの教育訓練と実行が速くなったと謳われた。Google HomeやPixelスマートフォンから提供されるパーソナルアシスタントGoogle Assistantは、新しいAI技術のおかげで会話の能力が一層充実すると約束された。

データサイエンスと機械学習のコンペを主催するKaggleを買収したことも、今回のAI投資部門の新設と無縁ではないだろう。

Axiosによると、PattersonとGoogleは、必要ならGVからの共同投資も行う、という。投資案件のサイズは、当初100万ドルから1000万ドルまで程度、ということだが、全体で年間どれぐらいの投資規模になるのか、その話はまだない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

アクセラレーターとフィンテックが鍵を握る南米のスタートアップ界

【編集部注】執筆者のNathan Lustigは起業家で、チリのサンティアゴに拠点を置くシードステージ投資ファンドMagma Partnersのマネージングパートナーでもある。

南米のスタートアップは、クリエイティブなプロダクトを生み出し、現地だけでなく世界中の問題を解決しようとしている。しかし、外から南米のスタートアップシーンを見ている投資家の中には、同地域の魅力に気づきながらも手が出しづらいと感じている人もいるようだ。実際に、南米でのアーリステージ投資にはいくつかの課題があるが、そのハードルを越えるだけの価値があると感じられるような例を私はいくつも見てきた。

私が初めてチリのサンティアゴを訪れたのは、Start-Up Chileのパイロットプログラムに参加した2010年のことだ。当時チリではスタートアップに関する議論がほとんど行われておらず、スタートアップが何かを知っている人もほぼいないような状態だった。その後アメリカに戻って9か月くらいの間に、共同設立した会社が買収されたため、私は新興市場に眠るチャンスを求め、チリに戻ることを決めた。

それから数年の間、アントレプレナーシップに関する授業を行ったり、地元の起業家のメンターとして活動するうちに、気づけば私自身が南米企業に投資するようになっていた。これまでに30社以上のアーリーステージ企業へ投資してきた私は、南米のアーリーステージ投資の環境が現在これまでで1番良い状態にあると考えている。以下がその理由だ。

先陣を切ったVCのおかげで投資家の不安感が和らいでいる

アルゼンチンのNXTP LabsやブラジルのVox Capitalのように、南米で早くから活動を開始したVCのおかげで、他の投資家の参考になるような前例ができた。もともと南米の人々には、リスクを嫌い失敗をとがめる傾向があったが、彼らは誰よりも早く南米にスタートアップカルチャーを芽吹かせようとしたのだ。

しかし数多くの困難が、そんな先駆者的VCを待ち受けていた。まず彼らは、現地の起業家が南米とシリコンバレーは別物だと理解できるように、教育を施さなければいけなかった。VCの数にしても、企業の評価額にしても両地域の間には大きな隔たりがある。しかし彼らの経験が、最近増加傾向にあるアーリーステージ投資を考えているファンドや企業への良い教訓となっているのだ。

また、南米のスタートアップエコシステムが成長するにつれて、アーリーステージ投資のフローが大きく改善され、不安感もかなり和らいできているため、投資の数自体も増えている。2011〜2015年の南米の投資傾向についてまとめた、Latin American Venture Capital Association(LAVCA)のレポートによれば、VCが5年間で集めた資金の総額は23億ドルにおよぶという。

さらに過去数年の間に、以前VCから投資を受けたファウンダーが、エンジェル投資家やファンドのリミテッドパートナーとして、他の企業に投資するケースも見られている。コロンビア系アメリカ人で、起業家から投資家に転身したAndrés Barretoもそんなファウンダーの1人だ。GroovesharkやPulsoSocialなど、いくつものスタートアップを立ち上げた彼は、2012年にSocialatom Venturesを設立して投資活動をスタートさせた。コロンビアに拠点を置き、Firstrock Capitalと呼ばれる2つめのファンドの資金調達を最近終えた同社は、アーリステージ企業への投資を行うと共に、彼らの成長を促すような手助けをしている。

現在も積極的な活動を行っているSocialatom Venturesは、最近では南米でプロダクトを開発しながらアメリカ市場を狙うアーリーステージ企業への投資に力を入れている(注:私がマネージングパートナーを務めるMagma Partnersは、これまでに2度、Socialatom Venturesと共同出資を行ったことがある)。

南米に投資を呼び込むアクセラレーター

増加を続けるアクセラレーターや、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、サンティアゴ(チリ)、メデジン(コロンビア)といった南米の主要スタートアップハブで日々経験を積んでいる起業家の影響は、南米の投資エコシステム全体におよんでいると言って間違いないだろう。

南米のスタートアップシーンに入りこむなら今がチャンスだ。

2014年の調査では、アクセラレーターが存在するだけで、その地域のシード・アーリーステージ投資の数が増えることがわかっている。確かに私もこの”波及効果”を南米で目の当たりにしてきた。Start-Up ChileWayraをはじめとする、アーリステージ企業向けアクセラレータープログラムの数が増えるにつれて、南米のスタートアップ界自体が注目を集めるようになってきている。つまり、このようなプログラムの存在が、外部の投資家に南米の魅力を伝えているのだ。

投資活動を盛り上げるフィンテックスタートアップ

通常スタートアップは業界を問わず経済全体に影響をおよぼすが、南米でもっとも大きな変化が起きているのが銀行業界だ。というのも、南米では銀行口座を持っていない人の数がまだ多く、フィンテック企業にとってはそれが大きなチャンスになっているのだ。

Finnovistaによれば、南米のフィンテックスタートアップの数は最近1000社を突破した。フィンテック企業が南米、そしてグローバル市場でスケールする上で、既存企業との戦略的パートナーシップや政府からの認証、そして初期の活動を支える資金は欠かすことができないが、投資家は彼らの活動を支えている。

LAVCAの調査では、南米で2015年の資金調達額がもっとも大きかった分野はフィンテックだということがわかった。2015年の時点で、同分野はITセクター全体の投資額の30%を占めており、2016年前期を見てみるとこの数は40%に伸びている。

世界中でアクセラレータープログラムを運営しているStartupbootcampは、最近南米への進出を発表し、メキシコではFinnovistaと共同でフィンテックに特化したプログラムをローンチした。Finnovistaは、過去4年間にフィンテックスタートアップがどのように南米の金融サービスを変えてきたかを目撃しつつも、彼らは自分たちの力だけではスケールできないと考えているのだ。当該プログラムでは、メキシコをはじめ世界中から選ばれたフィンテックスタートアップに対し、資金面や運営面でのサポートを提供している。

ここ数年南米を飛び回り、優秀な起業家と世界中の投資家をつなぎ合わせてきたSeedstarsも、今年は南米のフィンテック市場に注目している。現地でのイベントを勝ち抜いた、コロンビアのクラウドファクタリング(売掛債権買取)企業Mesfixと、ブラジルのフィナンシャルプランニングサービスQueroQuitarは、ファイナリストとしてSeedstars Summitでプレゼンテーションを行う予定だ。

500 Startupsも南米でのシードステージ投資に力を入れており、International Finance Corporation(IFC)と共同で設立した1000万ドルファンドでは、今年中に現地のアーリーステージ企業120社へ出資しようとしている。

Googleも負けてはいない。南米のスタートアップ十数社がGoogleのLaunchpad Acceleratorに参加し、同社のネットワークやリソースを使いながら、自分たちの可能性を最大限発揮しようとしている。MicrosoftはブラジルでBR Startupsファンドを立ち上げ、アーリーステージとレーターステージのギャップを埋めることを目標に、これまで70社への投資を行った。決済サービス大手のVisaも、独自のアクセラレータープログラムをローンチし、ブラジルのフィンテックスタートアップに資金とノウハウを提供している。

少し前まではVCが他の地域に注目していたため、南米のスタートアップはアーリーステージでの資金調達に苦しんでいた。しかし同地域に対する見方が変わり、スタートアップエコシステムの成長を促そうとする動きが南米全体の民間・公的組織の間で広まっていった結果、資金調達のチャンスやスタートアップの数は継続的に増えている。さらに、ブラジルのNubankアルゼンチンのIguanaFixをはじめとする、スタートアップのサクセスストーリーが増えるに連れて、業界全体が勢いづいてきている。南米のスタートアップシーンに入りこむなら今がチャンスだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

DellのVC部門Dell Technologies Capitalは市場に独自の視点で臨み27のエグジットを経験

エグジットを27も抱えたVCがステルスであることは、めったにない。それどころか、今日のVCの多くは、そんなにたくさんのエグジットを経験していない。しかし、今日(米国時間5/8)までステルスだったDell Ventures(正式名: Dell Technologies Capital)は、各年1億ドルという着実なペースで投資を続けてきた。同グループは、マーケットが何を買いたがっているのかを、よく知っている。これまで同社では、70あまりの投資案件のうち、その37%近くがエグジットした。もちろん、その結果はさまざまだが。

今日まで、Dellの投資のうち、エンタープライズ方面で話題になり名前が知れたのは、ごくわずかだ。中でもいちばん目立ったのは、NutanixとJoyentだろう。前者はクラウドコンピューティング企業で、昨年40億ドルでIPOしたが、最近は出血気味で、その価値はほぼ半減した(ロックアップ期間が終わった途端)。Joyentはクラウドサービス企業で、1億3100万ドルを調達したが、その後1億7000万ドルでSamsung Electronicsへ売られた。

とはいえ、Dellのエグジットだけで計13億ドルに達している。同グループはそのスタートアップのポートフォリオに、企業のVC部門が従来から持つ利点を、うまく持ち込んでいる。それらは、データへのアクセス、戦略的営業チャネル、そしてエンジニアリングとリサーチ方面のさまざまなコネだ。

さらにDell Technologies Capitalは、マーケットに対して中立的(偏らない)である点でも他のVCとは差別化される。とくにクラウドが支配するエンタープライズでは、マーケットリーダーであるGoogleやMicrosoftからお金を取るやり方は、自分の活動を制限することに近い。

Dell Technologies CapitalのトップScott Darlingは、ほかの企業のVC部門と同社が重要な点で違うのは、そのフラットな構造だ、と言う。DarlingはCEOのMichael Dellとたえず連絡を取り合うし、投資についても率直に差し向かいで議論する。

なぜ今日、ステルスを脱けるのか、と問うと、Darlingは、現在の規模では、身を隠すための費用や活動がたいへんすぎるし、その意味も価値もない、と答えた。同社の現在のポートフォリオの中では、とくに大きく賭けているのがMongoDBとRichRelevanceであり、今後の大きなリターンで報われ、同グループにスポットライトが当たり続けることを期待している。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

ベストセラー‘Hillbilly Elegy’で白人貧困層の実態をリベラル層にも知らしめたJ.D. VanceがRevolution LLCでシリコンバレー以外のスタートアップを育成

出版から2か月でThe New York TimesのベストセラーリストのトップになったHillbilly Elegy〔仮訳: 「白人極貧層の悲歌」〕の、その強烈な著者J.D. Vanceは今、ややためらいがちにスポットライトを浴びている。同書の出版は、そのタイミングが絶妙だった。Vanceの成長回想録は民主党寄りのアメリカ人に、ドナルド・トランプの上昇を支えた側のアメリカ人たちの実態への、もっと早くから必要だったリアルな理解を与える。

本の出版から9か月後となる今日まで、Vanceは左右両勢力にとって、真っ先に引き合いに出される人物になっていた。そして彼は、そんな有名人としての立場を有効に利用すべく、AOLの協同ファウンダーSteve CaseがワシントンD.C.で創業した投資企業Revolution LLCに加わった。そこで彼が任されるのは、同社のRise of the Restイニシアチブの普及活動だ。「その他大勢の上昇」、その他大勢とは、シリコンバレーやニューヨークのテクノロジーバブルの外にいるスタートアップ、そしてこのイニシアチブは、彼らへの投資を振興しようとする。

Vanceはこう語る: “自分がメディアが望むスポークスパーソンであるか、自信はないけど、誰もが問題について話すことはできるし、また、この問題を理解し、解決のために何かをすることはできると思う。ここでのぼくの目標は、理解の喚起と何らかの行動、その両方だ。今そのための機会とプラットホームが与えられたのも、あの本のおかげだ”。

昨年の4月以来Vanceは、Peter ThielのVC企業Mithril Capital Management LLCでプリンシパルを務めた。Revolutionのパートナーになりサンフランシスコから故郷のオハイオに戻った今も、同じ役職だ。

Caseは語る: “J.D.とは、本が出た直後の6か月前に知り合った。彼はオハイオで育ち、その後各地を転々として最近はシリコンバレーに落ち着き、それからコロンバスに戻った。そこの地域社会を助ける仕事をしたい、と思ったからだ。彼はうちのイニシアチブにぴったりの人物だし、だから仲間になってもらった”。

Vanceの最初の仕事はRise of the Restの認知度を高めることだ。そしてその後徐々に投資の仕事も手掛ける。そのためにはまず、現在VC資金の80%近くの行き先であるカリフォルニアやニューヨーク、マサチューセツ以外の、スタートアップへの認知と関心を高めることが必要だ。

“シリコンバレーの投資家の多くは、自分の車を運転して来る者以外は投資に値しない、と見なしている”、とCaseは述べる。

でもこの前の選挙の打撃と衝撃のトラウマが、一部の投資家たちに新しい自覚を促しているようだ。彼らも西海岸の青の州〔民主党寄り〕の多くと同様に、Vanceの本などから、11月の選挙で決定的な役を果たした中部の、民主党政権に失望している人びとについて、理解を持つようになった。Washington PostはVanceを“ラストベルトの声”と呼び、New Republicはもっと地味に、 “リベラルメディアお気に入りの貧乏白人解説者”、とタイトルしている。

急に著名人になったVanceだが、まだワシントンからのお呼びはないそうだ。“政府の人からのアプローチはない。問題解決にはもちろん政策も必要だが、でも本当に重要なのはプライベートセクター(民間部門)の要素だ”、と彼は言う。

両方の掛け持ちは困難だ。Vanceが全国的に有名になった時期は、Thielが投資家から激しい政治マニアに変身した時期と一致している。6月の共和党全国大会におけるスピーチがその変化を決定づけ、そして最後に彼は、トランプの政権移行チームに加わった。

Vanceは、Mithrilの協同ファウンダー〔Thiel〕について語るときも、政治には深入りしない。“Peterは友だちだし、ぼくは彼の大ファンだ。でも彼とトランプ政権との関係の部分は、ぼくにとって遠い世界だ。本当はどんな仲なのか、よく分からないけど、彼自身が宣伝している部分は、良いと思うね”、とVanceは語る。

Vanceによると、今現在はRise of the Restにかかりっきりだ。数週間後に同社は、DCでサミットを開催し、彼がキーノートを担当する。“目的は、Rise of the Restを本格的に離陸させることだ”、と彼は述べる。“すでにSteveたちとトロッコを押し始めているけど、本格的に走りだすためにはメディアの協力も必要だ。今やろうとしていることが、全国的に知れ渡るようにすることが、ぼくの重責のひとつだ”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Dymon Asiaが東南アジアにフォーカスしたFintechファンドの1stクローズを発表 ― 組成額の目標は5000万ドル

以前、ヘッジファンドのDymon Asiaは同社初となるベンチャーファンドの組成を目指すと発表し、ベンチャーキャピタル業界への仲間入りを表明していた。

Dymon Asia Venturesはフィンテック企業に特化したファンドで、組成額のターゲットは5000万ドルだ。そして今日(現地時間9日)、同ファンドはタイのSiam Commercial(SCB)などから2000万ドルを行って1stクローズを完了したと発表した。SCBは傘下のDigital Venturesを通してDymon Asia Venturesに出資しているが、その金額は非公開だ。Dymon Asiaによれば、同ファンドのファイナルクローズは今後12ヶ月以内に行なわれる予定。

シンガーポールを拠点とするDymon Asia Venturesでは、ファンドの組成期間中に12〜15社に投資を行う予定だ。同ファンドはすでに5社への投資を行ったと発表している:ブロックチェーンのOtonomos、金融のCapital Match、外国為替にフォーカスする4XLabs、トレーディング・プラットフォームのSpark Systems、そしてマーケティングサービスのWeConveneだ。

TechCrunchは、Dymon AsiaのパートナーであるJinesh Patel氏とChristiaan Kaptein氏に取材を行った。その取材で彼らは、同社がベンチャーキャピタル業界に参入したのは、マーケット内での競争力を維持するため、そして、アジアに新しく誕生したチャンスを掴むためだったと説明している。彼らがフォーカスするのは主に東南アジア地域だ。GoogleとTechCrunchによる共同調査によれば、東南アジアにおけるインターネットユーザーは現在2億6000万人。そして、その数字は2020年には4億8000万人にまで拡大する。その結果、デジタルエコノミーの経済規模は2000億ドルにものぼる見込みだ。

「現状を考えれば、この地域のフィンテックが注目される可能性は非常に高いと思います。私たちがフォーカスするのは主にB2B向けにビジネスを行うフィンテック企業です。なぜなら、B2Bにはまだ手のつけられていないチャンスが転がっていると思うからです」とPatel氏は説明する。

フィンテック企業のシリーズAラウンドに参加するファンドは数多くあるが、Dymon Asiaでは同社のリソースや知識を有効活用できるいくつかのカテゴリーに投資先を絞り、それらの企業に対して出資を行っていくという。

「シリーズAからシリーズBに進むのは難しいと考えています」とPatel氏は話す。「そのための資金を集めるのももちろんですし、規制や人材などの問題もあります」。

Dymon AsiaはシードステージからシリーズBの投資案件にフォーカスしていく。投資規模については、一般的には30万ドルから300万ドルの範囲だという。今回取材したパートナーたちによれば、その後のラウンド用に「大規模のリザーブ」も用意しているそうだ。

Dymon Asiaは単に投資家としての役割だけでなく、アイデアのインキュベーションも行っていく。同社はこれまでにも投資先のSpark Systems(FXのトレーディング・プラットフォーム)に対してインキュベーションを行ってきたが、今後の投資先にも同様の支援を行っていく。

また彼らは、VCの数は過去よりも急激に増えてはいるが、東南アジアにはフィンテックのスペシャリストが少ないとも感じているようだ。

「フィンテック企業、特にこれまでVCから注目されてこなかったB2B向けのフィンテック企業に必要なアテンションを与えてあげたいと考えています」とKaptein氏は話す。ちなみに彼には以前、TechCrunchにも東南アジアのフィンテックについてまとめた記事を寄稿していただいている。

「私たちに出資するのは戦略的な視点を持った投資家が多く、このファンドもそのネットワークの拡大版であるとも言えます。私たちは、長い間このセクターで戦ってきました。そのため、私たちが古くからもつネットワークを今回組成したファンドにも利用することができます」とKaptein氏は語っている。

[原文]

(翻訳:木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

ヨーロッパ史上最高額 ー Rocket Internetが10億ドルのファンドを組成

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Rocket Internet自分たちの事業や投資先企業を黒字化できないでいるため、将来的には資金を調達しづらくなるのではないかと考えている人がいるとしたら、考え直した方が良い。今週、ベルリンに拠点を置くRocket Internetが、これまでにヨーロッパのVCがテック系ファンドとして調達した中で最高額だと同社が言う、10億ドルのファンドを組成したと発表した

Rocket Internet Capital Partnersファンドと呼ばれるこのファンドでは、アーリー・レイターどちらのステージにある企業へも投資を行っていく予定で、これはRocket Internet自体の方向性の転換も示唆している。

Rocket Internetは、他の企業が作り上げたビジネスモデルを利用した(”クローン”という言い方をされているのを聞いたことがあるかもしれない)世界中のEC企業の成長をサポートするインキュベーターとして知られており、今回組成したファンドでは既存の投資先企業のほか、新しいスタートアップへも投資を行っていく予定だ。

今月に入ってからRocket Internetは、ロンドン発のソーシャルレンディングスタートアップであるFunding Circleの1億ドルのラウンドに参加していた。担当者によれば、同社はRocket Internet Capital Partners(RICP)を通じた投資を既に1年以上行っている。

「RICPは、2016年1月に第一号ファンドのクロージングをむかえて以降、いくつかの企業へ投資してきました。このファンドでは、マーケットプレイスやEC、フィンテック、ソフトウェア、旅行といった分野に集中して投資を行っています。投資先には、Rocket Internetの傘下にある企業もそうでない企業も含まれています」と担当者は話す。

現在どんな企業がRICPのポートフォリオに含まれていて、今後どんな企業を狙っていくのかということについて彼女は話してくれなかったが、一部の情報は既に公に知られている。最近の話で言えばFunding Circle以外にも、RICPはリクルートサービスUShiftのシードラウンドに参加し、Rocket Internet傘下のオンラインファション企業を統括するGlobal Fashion Groupへは3億6500万ドルという大金をつぎ込んでいたほか(ファッションもRocket Internetの問題のある事業のひとつで、結果的にこのラウンドもダウンラウンドとなった)、エンタープライズ向けにケータリングサービスを提供しているCaterWingsの小規模ラウンドにも参加していた。

これまでにも、投資先企業や上場企業であるRocket Internet自体の財政状況が問題になったことはあったが、投資家は今でも長期的にはそれなりのリターンが見込めると考えているようだ。いくつかの企業が大ヒットすれば状況は大きく好転する可能性があり、実際にRocket InternetはこれまでにもGrouponやeBayなどに対して、巨額の売却を行ってきた。

今回のファンドの組成にあたり、Rocket Internetは全体の14%にあたる1億4000万ドルを投じ、残りの資金は「金融機関や年金機構、資産管理会社、基金、個人の高所得者といった世界中のさまざまな投資家」から集められた。

「10億ドルの壁を越えたということが、RICPが提供する魅力的な投資チャンスに熱意を感じている一流投資家の強い興味を表しています」とRocket Internet CEOのOliver Samwerは声明の中で語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

VCファンドの組成額が大幅に増加ーースタートアップ投資の現状を投資家が語る

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11月17日から18日にかけて渋谷ヒカリエで開催されたTechCrunch Tokyo 2016。初日の夕方に、「変化するスタートアップ投資、その最新動向」と題し、村田祐介氏(インキュベイトファンド 代表パートナー) 、有安伸宏氏(コーチ・ユナイテッド ファウンダー) 、中西武士氏(KSK Angel Fund パートナー)のパネルディスカッションが行われた。モデレーターは、TechCrunch編集部の岩本有平が務めた。

村田氏は、”First Round, Lead Position” を投資哲学とし、スタートアップへの投資を行うインキュベイトファンドの代表パートナーを務めながら、JVCA(一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)の企画部長も務め、ベンチャーキャピタル業界の調査や業界地位向上に関わっている。

有安氏は、プライベートコーチサービス「cyta.jp」を運営するコーチ・ユナイテッドのファウンダーで、同社をクックパッドに売却する以前から、個人でエンジェル投資を行っている。また、IPOやM&A等でイグジットした起業家が8名から成る「TOKYO FOUNDERS FUND(TFF)」のメンバーでもある。

中西氏はプロサッカー選手の本田圭佑氏が設立したKSK Angel Fundのパートナーを務める。日本ではまだ馴染みのない、セレブによる投資ファンドに注目が集まっている。彼らは「貧困をなくす」という思いのもと投資活動を行なっているという。2016年6月に正式にファンドを設立し、すでに中高生向けのプログラミング教育事業を展開するライフイズテックを始め、6〜7社に対し、500万円〜1億円程度の投資を実施している。

スタートアップ投資にそれぞれ異なる角度から関わる3人を迎え、スタートアップの動向を見ようというのが本パネルディスカッションの趣旨だ。JVCAを通してスタートアップの投資関連レポートを発表している村田氏のスライドに沿ってディスカッションを行った。

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そもそもスタートアップに投資するお金、つまりベンチャーキャピタルファンドに流れるお金はどのように推移しているのか。最近ではスタートアップの大型調達のリリースを耳にする機会も増えているので、ベンチャーキャピタルの資金も増えているはずだ。1年間のベンチャーキャピタルファンドの組成額は、ここ数年2000億円付近を推移している。ピークと言われる2006年は3500億円に達していたが、その後2008年のリーマンショックから続く金融危機の影響を受け、2009年、2010年は250〜300億円と10分の1まで落ち込んだ。

そのような時期を経て、やっと回復してきているという。村田氏の調べによると、2016年上半期の組成額はすでに2500〜2600億円程で、今年度は3500億円に達するのではと予想する。一方、アメリカの組成額はおよそ2兆円と、やはり大きく規模が異なる。日本とアメリカの差は絶対値で見ても、GDP対比で見ても大きい。

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スタートアップに目を向けると、起業という選択肢が身近になったと肌感覚で感じている人も多いと思う。大企業出身者が起業したり、東大の学生が進路としてスタートアップを選んだりする方向に変わってきていると村田氏は言う。「ベンチャーキャピタルファンドは、基本的に8年で運用する。その期間の半分の4年で組入れを完了しなければならないというルールがあるので、直近の組成額から7000億円程度は数年以内にスタートアップへ投資される」と村田氏は言う。

注目すべきは、調達額は増えているが、社数は減っている点だ。今年100億円以上の大型ファンドがすでに10本以上も発表されており、ポートフォリオ管理の観点から少額の投資はできず、1社に対しての投資額が増えていると村田氏は説明する。つまり、創業期の会社よりも、より後のステージの会社に投資が集中しやすいということだ。

調達額のグラフを見ると、10億円を超える超大型調達が一昨年は20社、昨年は25社だった。メルカリの84億円調達も記憶に新しいが、今年上半期に超大型調達を実施したスタートアップは30社を超えているという。

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投資家の属性は5つに分けられるが、これは日本特有のことだという。日本では金融機関の1つの機能としてのエクイティ投資が発達してきた背景があるが、アメリカでは金融系という分類は一般的ではない。日本における金融系VCの存在は変わらず大きいが、リーマンショック後から変化を見せている。様々なバックグランドの投資家が設立した独立系、そして事業会社が自社の既存事業とのシナジー投資などを行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が台頭し、昨年には金融系、独立系、CVCのファンドレイズ額が均衡するまでになっていると村田氏は話す。

それらに加え、エンジェル投資も増えてきている。パネルディスカッションに登壇した有安氏をはじめ、数は少ないが、起業家として成功した人たちが投資を行うという流れもある。また学内の技術や研究成果の事業化を目指し、旧四帝大(東京大学、京都大学、東北大学、大阪大学)などの大学系・政府系VCも広がってきている。このように数年で大きな変化を遂げた業界だが、2016年の変化としては「金融系VCが大型のファンド組成を行ったことだ」と村田氏は言う。

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独立系VCも引き続き勢い付いている。このスライドにある独立系VCの3分の2以上は、ベンチャー投資の谷であったリーマンショック以降に設立された。金融系VCやCVCで力をつけたキャピタリストが独立し、ジェネラルパートナーとなって設立している独立系VCが多いそうだ。

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2000年前後、大企業のCVCが50〜100億円ファンドの組成が活発で、その後、上場したインターネット系の事業会社がCVCを組成する流れがあったと村田氏は言う。一時期低迷していた大企業系CVCだったが、近年勢いを取り戻しているという。「少し前のガラケー時代は自社サービスとうまく紐付けられず、大企業がスタートアップと手を組み、オープンイノベーションを目指すということに消極的だった。だが、今ではスマホが普及したことによりIoT分野との相性がよくなってきている」と村田氏は説明する。

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産業革新機構などは独立系VCなどに多くの金額を出資しているが、大学・政府系VCの中にはスタートアップに直接投資する人もいるという。また前にも触れたように、エンジェル投資家の盛り上がりも著しい。個人としてスタートアップに投資する場合にも、5000万円〜1億円という規模感で投資したり、ベンチャーキャピタルにLPとして出資したりしているエンジェル投資家もいる。

「エンジェル投資家のコミュニティがあり、協調投資をするケースも多い」と有安氏は言う。有安氏は、自身の経験からコンシューマー向けのウェブマーケティングでサービスを伸ばせる会社に関わることが多く、投資額は250〜2000万円と幅広いそうだ。投資先との関わり方は、株主のメンバーや投資額により様々だという。

エンジェル投資の日本とアメリカの環境の違いについて、有安氏はスピード感をあげた。「アメリカは洗練されていて早い。優先株、法務面のチェックなど日本では非常に時間がかかるが、アメリカではフォーマットが決まっていて、乗る/乗らないの選択のみでシステマチック」と言う。エンジェル投資に関する話は、昨年のTechCrunch Tokyo 2015でコロプラ元取締役副社長の千葉功太郎氏と有安氏の対談記事もあるので、気になる方は是非見てほしい。

エンジェル投資において、日本とアメリカの違いを挙げるとすれば、存在感と注目度の大きいセレブ投資の存在もある。俳優のアシュトン・カッチャーはAirbnbなど名だたるスタートアップに投資していることでも有名だ。アメリカのセレブ投資について中西氏は「SNSの存在が大きい。セレブは自分たちでモノを売ることができるようになった。セレブには2つのタイプがあり、1つはアシュトン・カッチャーのように、スタートアップと他の企業を繋ぐなど、BizDevも担うタイプ。もう1つはセレブをフォローしている人向けに商品を訴求するタイプ」と言う。

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アメリカには芸能人、スポーツ選手などで投資を行う人がいるが、日本にはごくわずかだという。共同での投資実績もある村田氏は本田氏について「投資家が使うような言葉も使うし、会社の価値判断基準もほぼ同じ。スポーツ選手としてバリューアップしやすそうな会社だけでなく、VRやAIなども面白いと言っていた」と話す。中西氏いわく、本田氏は関心分野があるとすぐに大学教授などにもコンタクトを取ったり、関心分野に関する本を何冊も読んだりして投資先について勉強するそうだ。

日本においてセレブリティ投資がまだ未熟な点について中西氏は、セレブがスタートアップに投資するための情報が足りていないという。「アメリカでは各分野にセレブ投資を行う人がいるというのが広まった。日本でも時間の問題だと思う」と話した。

SV Angelが5300万ドルの第6号ファンドを組成

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シードステージのスタートアップに特化したVCがさらなる資金調達を完了したようだ:SECに提出された資料により(情報源はDan Primack)、ベイエリアを拠点とする著名なアーリーステージVCのSV Angelが、第6号ファンドを組成したことが明らかとなった。資金規模は5300万ドルだ。ただ、今年3月にSECへ提出された資料では、同社はこのファンドの規模を4600万ドルと予定している。また、それ以前に行なわれたインタビューでは、彼らは新ファンドの規模が4000万ドル程になるだろうとも話していた。

同ファンドを運営するRon ConwayとTopher Conway(写真の人物)親子は、2015年9月のインタビュー時点で今後はより小規模のビジネスやアーリーステージの投資にフォーカスしていきたいと語っている。おそらく、彼らは当時同社が行っていた投資の規模と比較してこのように話していたのだろう。前回組成したファンドの規模は7500万ドルで、同ファンドではPinterestのラウンドのような大規模投資も行っていた。

しかし、第6号ファンドが当初の予定よりも多い5300万ドルを調達したところを見ると、SV Angelを支援する投資家たちはアーリーステージ投資よりも大きなチャンスを望んでいるようだ。

また、最近ではシードラウンドにおける調達金額が上昇傾向にあることも、彼らがこの金額を調達した理由の1つだと考えられる。以前と同規模の投資を行うには、より多くの金額が必要となる。

1つだけ確かなことは、SV Angelはあまり多くを語りたがらないということだ。以下のコメントを除いては:「資金調達に関するコメントは控えさせてください」。これは、私のEメール取材に対するTopher Conwayからの返信だ。この後、彼は同ファンドが5312万5000ドルを調達したことを認め、「これまでのファンドと同じように、私たちは今後もアーリステージのスタートアップへの投資にフォーカスしていきます」とコメントしている。

2009年創立のSV Angelは、テック業界の中でも投資案件の多さで有名なVCであり、CrunchBaseにリスト化されている投資案件は695件にものぼる。SV Angelのポートフォリオ・リストは、さながらスタートアップ業界の名士録のようだ。なかでも有名なのが、Airbnb、Pinterest、Dropboxに対する投資だろう。IPOを果たした投資先企業は11社、買収によるエグジットは200件を越している。

現在、同ファンドを運営するのはTopher Conwayであり、SECに提出された最新の書類には彼の名前しか記載されていない。General Partnerを務めるのは、Brian Pokorny、Kevin Carter、Robert Pollackの3名だ。Ron Conwayと共にSV Angelを設立したDavid Leeは、今年3月に自身の投資会社であるRefactor CapitalをLAで立ち上げている。同社は5000万ドルの資金調達を目標に活動中だ。

アップデート:SV Angelからのコメントを追加

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

Draper Nexusが1億7500万ドルの第2号ファンドを組成:LPにパナソニックやキヤノンなど

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アーリステージVCのDraper NexusでManaging Directorを勤めるQ Motiwalaは、同社が総額1億7500万ドルの第2号ファンドを組成したことを明らかにした。第1号ファンドは2013年に組成され、その規模は5000万ドルだった。

世界中のテクノロジー・コングロマリットがLPとしてDraper Nexusに参画しており、その多くは日本企業だ。

第2号ファンドには、パナソニック、日立、京セラ、清水建設、NEC、キヤノンなどを始めとした20社がLPとして参加している。どのような分野のアーリステージ・スタートアップでも、ぜひクライアントに加えたいと思うような企業ばかりが揃っている。

Draper Nexusは、マーケティングのLiveRampや、AIベースのサイバーセキュリティのCylance、自動運転車のNauto、商業ビル向けスマート電気システムのEnlightedなどに出資していることで知られている。

比較的若いVCであるにもかかわらず、エグジットを果たした投資先企業の数はすでに8社になる。その中でも特に有名なのは、2014年に東証マザーズに上場したソフトウェア・テスティングのSHIFTだろう。同社のビジネスは好調で、Draper Nexusは今でもSHIFTの株式を保有したままだ。

より大規模かつ歴史のあるシリコンバレーのVCとDraper Nexusとの違いは、大企業とスタートアップをつなげる力だ。

Motiwalaは、「Draper Nexusが投資する際には、単に私たちが面白いと感じたかどうかという事だけではなく、ファンドに参加する大企業を取引先や流通パートナーとして紹介することで、スタートアップに優位性を与えられるかどうかという事を考えます。私たちのファンドに参加している大企業とスタートアップは、痛みを分かち合う仲なのです」と語る。

Draper Nexusは1社の投資先に複数の大企業を紹介し、起業家と大企業の役員を引きあわせている。Draper Nexusがいなければ、起業家が会うことすらも難しい相手だ。

第2号ファンドでは、モビリティ分野やサーバーセキュリティ分野、そしてビックデータをロボティクス、AI、ロジスティクス、保険などの分野に適用している企業などに投資していく予定だ。

Draper Nexusのチームの3分の1は東京におり、残りのメンバーはSan Mateoを拠点としている。同社は日本地域にフォーカスする企業に投資をすることもある。

Motiwalaによれば、同社が日本で探しているのはマーケティング・オートメーションやアドテック分野のスタートアップだという。日本のB2B向けソフトウェアは、まだまだアメリカほど活発ではない。

Draper Nexusが出資した金額の8割はアーリーステージ企業への投資に向けられており、今後もそこにフォーカスしていくことは変わらない。

彼らは他のVCと共同で出資をすることが多く、シリーズAでは最高で500万ドルまで投資する。Motiwalaによれば、有望な企業のシリーズAを逃した場合にはシリーズBに参加することも考えるという。シード投資は全体の約5%程で、そこでは通常、25万ドルを出資する。

同社の期待の新星、Senior AssociateのDeepak Jagganathanは、第2号ファンドの組成とあわせて動き出した新しいプログラムの運営に携わっている。

Dubbed GoPilotと名付けられたこのプログラムは言ってみれば、すでに企業としての形が出来上がっていたり、資金調達も済んでいるようなスタートアップ向けのアクセラレーターのようなものだ。

このプログラムでは、企業向けソフトウェア、サービス、ハードウェアを提供するアーリーステージのスタートアップが招待され、5社から10社の大企業に対してピッチを行う。クローズドで行なわれるデモデイのようなイメージだ。

このプログラムで優秀な成績を残すことができれば、2社の大企業とパートナーシップを結ぶことが許される。さらに5万ドルが創業者に有利な条件でDraper Nexusから出資される。この資金を利用することで大企業とのジョイント・プロジェクトを進めていくことが目的だ。

「このプログラムから、すでに50ものパイロットプロジェクトが誕生しています。スタートアップと大企業との共同プロジェクトを、通常よりも短い期間で実現させるためのテンプレートをつくり上げてきたのです。このような共同プロジェクトは、スタートアップにとって非常に重要な通過点なのです」とJagganathanは話す。

大企業が単独でパイロットプロジェクトを始めるためには内部資金を用意しなければならず、そのせいでプロジェクトの開始が遅れかねない。それを考えれば、他社と共同してパイロットプロジェクトを進めることには大企業にとってもメリットがあると言える。

また、Draper Nexusを通しらスタートアップと大企業との各種契約は、スタートアップに不利なものになることがないよう徹底されている。スタートアップが自らの知的財産を守ることを可能にしたり、独占契約によって彼らの成長が妨げられることを防ぐためだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

VCマネーの過剰接種:71社のIPOから学べること

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編集部注: 本稿はFounder Collectiveのマネージング・パートナーであるEric PaleyとJoseph Flahertyによって執筆された。

 

ベンチャー・キャピタルは劇薬だ。適切に利用すれば、過去50年間そうであったように、素晴らしい企業を元気づけるアドレナリンのような働きをしてくれる。不適切に利用すれば、有害な依存症を引き起こす。

スタートアップのコミュニティに浸透している社会通念とは、素晴らしい企業がより大きな資本を活用することで成長を加速させることができるというものだ。しかし、この「どでかくやるか、家で寝てるか」というアプローチは、緻密な調査にも耐えうることができるのだろうか?すべてが理想的に進んだ場合、VCマネーを豊富に蓄えた企業は限られた資本を効率的に使う企業よりも本当にパフォーマンスが優れているのだろうか?その答えを見つけるため、私たちは過去5年間に新規上場した71社のテック系スタートアップを対象に調査を実施した

「Efficient Entrepreneurship」

Founder Collectiveでは、「効率的アントレプレナーシップ(Efficient Entrepreneurship)」と呼ばれる美徳について話し合ってきた。最近、私たちはスタートアップが豊富な資本を抱えることのデメリットを伝えるレポートを発行している。そのデメリットには、エグジットの選択肢が制限されることや、不安定なバーンレートを引き起こす危険性などが含まれる。しかし、積極的な資金調達の良い面として考えられるのは何だろうか?VCの成功例を調べることで、多額の資金調達をすることの意義について私たちは何を学べるのだろうか?

調査結果は驚くべきものだった。過去5年間のテック系スアートアップのIPO事例を調べることで分かったのは、IPO以前のパフォーマンスを比べてみても「富める者(豊富な資本をもつ企業)」が「貧しき者(限られた資本しかもたない企業)」をアウトパフォームすることはなかった。それどころか、IPO後のパフォーマンスを見てみると実際には富める者のパフォーマンスの方が悪かったのだ。

巨額の資金調達は「ユニコーン企業」という称号を受け取るための必要条件だ。しかし、テクノロジー業界の成功例を調べてみると、豊富な軍資金が成功と正の相関を持つわけではないことが分かる。

公開株式市場で取引されているスタートアップの上位20社(現時点の時価総額が高い順に選出)を見てみると、合計で1億ドル前後の資金を調達した企業は14社だった。5000万ドル以下を調達したのは6社であり、そのうちの1社は資金調達を行ってすらいない。非上場のユニコーン企業が調達した金額の中央値が2億8400万ドルであることを考えれば、この数字は驚くべきものだ。

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調査手法

スタートアップのパフォーマンス計測は厄介な作業だ。当然のことながら、レーターステージの企業は情報をあまり開示していない。企業が買収されていた場合、より厄介なことに実際の買収金額が不明瞭になるように考慮されていることが多い。IPO市場のデータは他に入手可能な数字のなかでも最も透明性の高い価値尺度である。不完全なデータではあるが、そこから学べることは多い。例外はあるものの、ベンチャー・キャピタルが獲得する成果の大部分はIPOから生まれるリターンなのだ。過去5年間のIPOとベンチャー・キャピタルとの関係性を調べることで、優秀な企業に多額の出資をすることが良いリターンを生むのかどうか調べることができる。

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  • 調査対象である71社の資金調達額の合計は102億ドル。
  • 71社合計の時価総額は5660億ドル。つまり、総投資金額の55倍。
  • 71社合計の調達金額の平均は1億4400万ドル、時価総額の平均は79億ドル。
  • 71社合計の調達金額の中央値は7900万ドル、時価総額の中央値は18億ドル。

Facebookを除外する

この世にFacebookという会社は1社しかなく、その1社がもつ数字が極端な異常値であることを理由に、私たちはFacebookを本調査から除外することにした。Facebookを除外した後も統計結果は以前として素晴らしいものであるが、たった1つの企業がこれほどまでに全体のデータを歪めていたことには驚かされるばかりだ。

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  • 調査対象の70社の資金調達額の合計は96億ドル。
  • 70社合計の時価総額は2020億ドル。つまり、総投資金額の21倍。
  • 71社合計の調達金額の平均は1億3700万ドル、時価総額の平均は28億ドル。
  • 71社合計の調達金額の中央値は7900万ドル、時価総額の中央値は18億ドル。

調査対象

本調査の対象となる企業は、2011年から2015年のあいだに新規上場をした企業とする。5年以上さかのぼった調査結果も興味深い物ではあるが、非公開企業が前代未聞の資金額を調達する「ユニコーン企業の時代」と呼ばれた時代に焦点をあてて調査することで、そこから私たちが学べることも多いだろう。また、本調査では2000年以前に創立された企業(GoDaddy、FirstDataなど)、通常とは違った資金調達方法をとってきた企業(Match Group、RetailMeNot)、欧米とはまったく異なる金融市場をもつアジア諸国、およびロシアの企業を除外している。71社を対象とした調査結果のデータセットはここで公開している。いくつかの例外を除き、データの大部分はCrunchbaseから取得している。

レーターステージのプライベート・エクイティ、セカンダリー・オファリング、借入金に関しては、スプレッドシート上には掲載しているが調査結果の計算からは除外している。また、私たちはIPOによって調達した資金にはあまり注目していない。その資金はベンチャー・キャピタルゲームの終点であり、企業の規模がその調達額の大小を決める最も大きなファクターであるからだ。できる限りの注意を払ってデータを集めてきたものの、データセットには以前として不完全な部分は残っている。データセットへのフィードバックは大歓迎であり、それがデータセットを公開している理由だ。

「Big VC」にとってのベスト・シナリオ

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データを見てみると、「どでかくやるか、家で寝てるか」というアプローチは特に投資家サイドにとっては機能しているように思われる。多額の資金を調達した企業群は、ドルベースで見れば確かに大きなリターンを生み出している。調達額の上位20社は合計で67億ドルをVCから調達し、時価総額は20社合計で620億ドルだ。つまり投資金額の約9倍のリターンを生み出したことになる。

下位20社のデータを見てみると、VCからの資金調達額は合計で6億2300万ドルだ。しかしながら、時価総額の合計は480億ドルであり、これは投資金額の77倍のリターンを生み出したことを意味する。

リターンの絶対額だけをみると、その違いは140億ドルだ。VCにとってこの差はささいな数字ではない。しかし、調達額が10億ドルに少し満たない程度だったTwitterを除外してみると、140億ドルの差のうち120億ドルがその1社によって生み出されていたことが分かる。つまり、FacebookとTwitterを除いて考えてみると、VCは20億ドルのリターンを得るために約50億ドルを費やしたことになるのだ。株式市場の変動は激しく、この記事の執筆中も、調達金額上位20社の時価総額は大きく変動していることは留意しなければならない。しかし、そうだとしてもその変動は1社か2社の異常値によって引き起こされることが多いのだ。

毎年多くの企業が誕生するなか、そのうちの数社によって多額のリターンが生まれることは確かだ。また、そのような異常値(FacebookやTwitter)が生まれた場合には、その企業に最も多く賭けていた投資家が勝つことも事実だ。しかし、VCが常にそのような企業を見つけられるとは限らず、たとえその企業が優秀であったとしても資金を必要以上に投入してしまっているということも考えられる。

これはVCモデルの根底を揺らがすものではない。VCはリスクを伴うものなのだ。ハイリスクな状況下であっても、本当に優秀なVCはいくつものファンドを成功させている。

しかし、起業家はこの結果から学ばなければならない。FacebookやTwitterといった企業はエコシステム全体にとって無くてはならない存在だが、すべてのスタートアップに彼らのモデルが当てはまるわけではない。次なるFacebookを生み出すことができると確信している場合は別として、起業家がフォーカスすべきなのはIPOによって生み出される金額の絶対値ではなく、収益率なのだ。

VCにはポートフォリオがある一方、起業家に与えられたチャンスは(一回の起業につき)一度きり

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VCは何度失敗したとしても、一度のホームランでその損害を取り返すことが可能だ。しかし、起業家に与えられたチャンスは一度きりである。起業家にとって、最良のケースでも24%しかないプレミアムを得るために4倍以上のリスクをとる価値があるだろうか?実際はどうだったのか調べてみると、資金調達上位の企業はそのプレミアムを得るためにリスクをとっていた:

  • 「富める者」が調達した金額の中央値は1億9300万ドル、時価総額の中央値は21億ドル
  • 「貧しき者」が調達した金額の中央値は3700万ドル、時価総額の中央値は17億ドル

しかも、起業家が実際に受け取るリターンはこの数字よりも悪い。数度にも及ぶ資金調達は起業家の持ち分比率を希薄化させるだろう。それに、スタートアップの快進撃が止まって結局IPOまで辿りつかなかった場合には、IPO以前に発行された優先株はVC側に有利に働くことになる。そのようなリスクがあるということ以上に、多額の資本をもつことはエグジット時の選択肢を狭めることになる。資本が少ないスタートアップの創業者たちは、満足のいくリターンを得られるのであれば、いつでも事業を売却することができる。その一方で、多額の資本を抱えるスタートアップの創業者たちは、エグジットすることで何十億ドルものお金を生み出さなければならず、しかも投下された資本が増えるごとに収益率は逓減していく。

これはVCにとって本当に最良のモデルなのだろうか?

VC業界に浸透する社会通念とは、投資家は勝ち組企業により多くの資金を投資するべきだというものだ。だが、リターンが逓減していく勝ち組への投資金額を抑える一方で、その分を10倍、20倍、30倍のリターンを得る可能性のある他のスタートアップへの投資にまわしたほうが良いのではないか?

ダビデ vs ゴリアテ

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極めて少ないサンプル数ではあるが、2億ドル以上を調達した企業(このサンプルでは9社)とリストの下位にいる同じ数の企業を比べてみよう。結果は驚くべきものだった:

  • 「富める者」は5億6700万ドルを調達し、その6倍となる35億ドルのリターンを生み出した。
  • 「貧しき者」は1290万ドルを調達し、その218倍となる28億ドルのリターンを生み出した。
  • 「富める者」は「貧しき者」の44倍の資金を調達したが、そこから得たリターンは「貧しき者」の1.25倍である。

少ない資本 = 良い企業?

新規上場時のスタートアップの市場価値は重要な指標である。その価値はベンチャー・キャピタルにとってリターンの源泉だからだ。しかし、上場して公開企業となった「富める者」と「貧しき者」を比較してみるのもおもしろい。「貧しき者」はVCから調達した資金によってではなく、徹底した顧客獲得戦略によって企業を成長させなければならない。企業をそのような状況下に置くことは、よりサステイナブルなビジネスを構築することにつながるのだろうか?

IPO以降の「貧しき者」と「富める者」を比べてみた結果、「貧しき者」のパフォーマンスの方がはるかに優れていた:

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極めて少ないサンプル数ではあるが、2億ドル以上を調達した企業(このサンプルでは9社)と、リストの下位にある同じ数の企業を比べてみよう。結果は驚くべきものだった:

  • IPO以降、「貧しき者」の株価は89%上昇した。
  • 同期間における「富める者」の株価は22%しか上昇していない。

この結果に対する私たちの仮説は、必要以上に資本をもつ企業では、クリエイティビティや経営上の規律よりもその豊富な資本に頼ってしまう企業カルチャーが生まれるのではないかというものだ。大きなバランシートをもつ企業はたとえ非効率であっても成長できてしまう。なにか問題が生じた場合、価値の創造というスタートアップのコア・エンジンによって問題を解決するのではなく、豊富な人員と資金によってその問題をカバーしてしまうのだ。一方で、資本をもたない企業は早い段階から難しい決断を迫られ、切らなければいつまでも残ってしまう経営のムダを省こうとする。「貧しき者」がもつ、効率性を追求する精神はやがて高いパフォーマンスを生み出す企業カルチャーとなる。効率的な経営の仕方を知らない「富める者」が同様の企業カルチャーを育てあげるのは困難だろう。

これに対する主な反論として、「富める者」はIPOの時点ですでに高いバリュエーションをもっており、しかもそのバリュエーションは公開市場の投資家によってではなく、非公開市場の投資家によって決められたものだというものがある。この反論は正しいかもしれないが、起業家やVCはこの反論自体が示唆していることを考慮しておかなければならない。つまり、IPO以前から多額の資本を抱えるユニコーン企業に対して、公開市場の投資家は相当な割引率を適応しているということだ。

正の相関があるべきではないのか?

この調査結果がどれだけ驚くべきものなのか、深呼吸してもう一度認識する必要がある。VC業界で広く信じられている仮説とは、最良のシナリオにおいては、より多くの資金を投入すれば企業の成長をより加速させることができるというものだ。真の勝ち組企業には「過剰な資本」という言葉など存在しないと主張する人もいるだろう。結局そのような企業は投下された資本を再投資して、彼らの企業エンジンをさらに加速することができるという主張だ。企業に資本が注入されることで、ビジネスの原動力である人材やR&Dなどへの投資が可能になる。直感に従えば「富める者」が「貧しき者」よりも有利な立場にあると考えるのは当然のことだ。

もしそれが本当だとすれば、資本量と成長との間にある正の相関をこのレポートで示し、その相関を引き起こす要因となっているのがVC業界なのだろうという推測を立てていてもおかしくはない。言い換えれば、成功する企業は多額の資金調達がしやすい企業であるということを考慮に入れながら(原因と結果の関係が不明瞭な相関関係)、多額の資本が果たして本当に成功を引き起こしているのかという因果関係について考察するのがこのレポートの目的だっただろう。

驚くべきことに、データはその正の相関が存在することを示してはいない。パフォーマンスが優れている企業ほど多額の資金を調達しやすいにもかかわらず、パフォーマンスと資金の調達額とのあいだに正の相関は見られなかったのだ。

数社の例外を除き、多額の資金を調達をしたからといって高いパフォーマンスを発揮するわけではなく、IPO以降の株価のパフォーマンスを比べてみると、実際には多額の資本をもつ企業のパフォーマンスの方が悪い事ことが分かった。確かに、VCは「異常値」を探しだすビジネスであり、ボラティリティを前提とする職業だ。しかし、「富める者」が「貧しき者」よりも高いパフォーマンスを出していないところ見ると、たとえ優秀な企業であってもどこかの時点で投下資本に対するリターンが逓減してしまうことが分かる。データが示すのは、VCがリターンが逓減していく分岐点を知るのは難しいということだ。VC業界に伝わる格言のなかに、毎年多くのスタートアップが誕生するなかで、本当に重要なのはそのうちの15社だけだという格言がある。資金を企業に投入することがVCの仕事だとしよう。そのうえでVCの格言が本当に正しいのか調べてみると、実際にはその「本当に重要な企業」は過去5年間においてたったの2社しか存在しなかったことが分かる。勝ち目のない戦いだ。

企業買収の場合はどうか?

データを見てみると、時価総額上位20社のなかで資金調達額が1億2500万ドル以下の企業は15社だった。(この計算にはWayfairのデータも含まれている。同社は創業後10年間は資金調達を実施しておらず、どちらかというとレーター・ステージにおけるプライベート・エクイティ投資に近い形で資金を調達している)。Four、Atlassian、shutterstock、Textura、SkullCandyにいたっては資金調達をまったく実施していない。SplunkとPalo Alto Networksの調達金額を合計すると約1億500万ドルであり、この2社の時価総額の合計は約200億ドルだ。GrouponとZyngaは1億ドル以上もの資金何度も調達しており、この2社の調達金額を合計すると約20億ドルにもなる一方で、時価総額の合計は50億ドル以下だ。

この分析が不完全なものであることは承知している。2015年に上場した企業のなかには上場後1年未満の企業もおり、1年分の決算資料がまだ出揃っていない企業もある。また、たとえVCマネーを豊富にもつ企業であったとしても、もっと長期的な目線で見れば高いパフォーマンスをあげるという可能性もある。それでも、このデータはVCと起業家に重要な示唆を与えるものだ。ユニコーンの時代には時代遅れのことを言うようだが、5000万ドルかそれ以下の投資で何十億ドル規模の公開企業を生み出せる可能性はとても高く、そして恐らくはそれが賢いVC投資のあり方なのだろう。

資金調達額は虚栄の指標

製品戦略、マーケティング戦略、人事戦略などと同じように、資金調達は企業の戦略的なオプションの一つである。それゆえ、資金調達を行うべきなのかどうか、事前に慎重な検討を重ねる必要がある。だが残念ながら、起業家は日和見的に資金調達を実施する傾向があり、さらに悪いことに、彼らのプライドや間違ったバリデーションを理由に資金調達が実施されることもある。

経営が順調であれば、資金は勝手に近づいてくる。資金調達ができるということは喜ばしいことであるし、大きなバランスシートを持つことは時として良いことだ。しかし、それがエグジット時の選択肢を狭めてしまうのも事実だ。企業とって資本とは、最大の制約でもなければ、最大のチャンスでもないのだ。彼らにとって何よりも悪いニュースなのは、バランスシートが企業の長期的なパフォーマンスを支えるのには限界があるとデータが証明していることだ。データをよく見てみると、多額の資金を調達してきた「富める者」のパフォーマンスが悪いことは確かだが、それでも現存するユニコーン企業は彼ら以上の資本を抱えていることが分かる。「富める者(データ中の時価総額上位20社)」の非公開市場での資金調達額の中央値は1億9300万ドルだった一方で、ユニコーン企業2億8400万ドルだ。しかも、ユニコーン企業は非公開企業であることから上場するまでにさらなる資金調達があってもおかしくはない。

私たちは企業に自給自足を勧めているわけでもなければ、のろのろとした成長を奨励しているわけではない。VCからの資金の申し出には「ただNOと言っておけ」と主張しているわけでもない。だって、私たちもVCなのだから。資金調達をまったく実施しなくても成功を収めた企業がいることは確かだが、それはとても珍しいケースだ。誰にも頼らずにスタートアップを創りあげたからといってボーナスポイントが貰えるわけではない。

起業家はみな同じように野心をもって企業を立ち上げ、みな同じように成功を渇望している。それは「貧しき者」も「富める者」も同じだ。「貧しき者」はただ効率的に事業を運営してきただけだ。何十億ドル規模のグローバル企業をつくりあげるために「貧しき者」がとったリスクは「富める者」よりも非常に少なく、かつ企業の持ち分も多い。この調査によって新たに分かったのは、資本の制約は企業に悪い影響を与えるわけでなく、逆に良い影響を与えるということなのだ。

これはVCに対する宣戦布告ではない。起業家への祝辞なのだ。

かつて、人々はゼロから何かを創り出すという起業家精神の神秘性に魅了されていた。しかし今では、まるで銀行のようにVCから多額の資金を調達する起業家が賞賛される時代となった。この状況は健全ではなく、変えていく必要があると私たちは思う。スタートアップ市場に大量の資金が流れ込んでいる一方、起業家が成功するために多額の資金を調達する必要はなく、少ない資本がより良いパフォーマンスにつながることが調査結果から明らかになった。それでも、今日の起業家の多くはそれとは逆のアプローチを取ろうとしているのだ。

私たちが批判しているのはVCマネーそのものではなく、VCマネーの非効率な使い方である。VCは多くのスタートアップにとって成功の原動力ではあるが、追加的に多額の資金を調達することを正当化できることはほとんどない。薬と同じように、VCマネーも服用すべき時と場合があり、それが持つ副作用には注意する必要がある。

私たちのポートフォリオには、大きな資本をもつ「富める者」も、ガソリンの匂いだけでエンジンを動かしているのかと思うほど効率的な「貧しき者」もいる。私たちが彼らに与えるアドバイスは同じだ。もし、追加の資金調達が不可能で、銀行口座に残っている資金が最後の資金だとしたら、あなたはどのように経営の仕方を変えるべきか?この答えまでたどり着くことができたとすれば、億万長者への入口はすぐそこかもしれない。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

 

IPO市場が活気を取り戻す一方、VCは慎重な姿勢を崩していない

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編集部注:本稿はBen NarasinとJeremy Abelsonによって執筆された。25年のベテラン起業家であるBen Narasinは、これまで8社に対してシード投資を実施しており、現在はCanvas VenturesのGeneral Partnerとして勤務する。Jeremy AbelsonはIrving Investorsの創業者であり、ポートフォリオ・マネージャーとして活躍している。

 

荒涼としたQ1と静かな夏が終わり、IPO市場はほぼ180度の方向転換をしようとしている。JPMorganは、同社が幹事を務めるものだけでも20社の新規上場を予定していると話し、そのうち9社をすでに米国株式市場に送り出した。おなじく市場全体(S&P500)も復活を遂げている。今年前半には1810にまで下がっていたS&P500だが、その後最高値(に近い)レベルの2193(9月時点)を記録し、その上昇幅は21%にもなる。

それとは対象的に、IPO市場とともに昨年の後半から冷え込み始めたVC投資市場はまだ静かなままであり、量から質への転換というスタンスを変えていない。少ないラウンド数、ハイクオリティな企業への集中投資などがその例だ。

公開市場とは違い、非公開市場の活気はすぐには戻らない。IPOのパーティーには音楽が鳴り響く一方で、プライベート・マーケットの調整は永遠に続くかもしれないのだ。18か月前であれば、初年度に100万ドルの収益をあげるようなSAAS企業はシリーズAで相当な額の資金調達が可能だっただろう。しかし、今ではそのような企業でも「第2シードラウンド」や「インサイドラウンド」といったものに頼らざるを得なくなっている。

公開市場

BETRRUNが上場した時のパフォーマンスからも分かるように、2015年8月以降IPO市場は急激に冷え込んでいった。BETRとRUNの上場時には、2社ともに募集枠以上の申し込みがあったにも関わらず、いざ上場すると株式が取引されることはほとんどなかった。本当の意味での買い手/株主が見つからなかったのだ。

買い手が疲れ果てていたのは明白だった。IPOの案件は急速に減り、買い手有利の市場が始まった。

それ以降、2015年度中に新規上場を果たしたのは数社のみ。テック系の目立った企業にいたってはSQTEAMの2社だけだ。そして、2016年初旬になるとIPO市場は完全に凍ってしまった。

この状況は各メディアで大々的に取り上げられた。専門家たちは大統領選挙や石油価格の下落、連邦準備銀行による利上げ、英国のEU離脱、中国とブラジルの不況などによってマーケットのボラティリティが上昇したことがIPO市場の冷え込みの原因であると主張した。これらの問題が完全に解決したわけではないが、それでも今では投資家はIPO市場への興味を取り戻しつつある。

関係者によれば、投資家たちは企業の成長ではなく、その価値に焦点をあてるようになったという。より具体的に言えば、すでに利益を出していたり、少なくとも黒字化までの明確な道筋を示している企業に投資をするようになったのだ。つまり、価値をともなう成長へのシフトだ。また、負債を多く抱える企業への投資にも慎重になった。このメッセージはシリコンバレー全体に響き渡った。シリコンバレーでは、バーンレート(利益が出る前に資本を消費する割合)を下げ、そして収益をあげる能力をみせて持続可能なビジネスであることを示すべきだと語られるようになった。

テック企業の株価収益率は今年はじめに下落し、その後回復してきてはいるものの、まだ2015年初めの水準には達していない。

  • Cybersecurity(最もダメージを受けた): 2015年7月の9.11倍に対し、現在は5.19倍
  • SaaS: 2015年7月の6.21倍に対し、現在は4.61倍
  • Internet Names: 2015年7月の5.69倍に対し、現在は5.83倍
  • Adtech: 2015年7月の4.26倍に対し、現在は2.13倍

2ヶ月前の一般的なコンセンサスは、少なくとも2017年までIPO市場は閉鎖したままになるだろうというものだった。つまり、17カ月ものあいだ新規上場案件が1つもないだろうという事だ。

そこにTwillioが現れた!

2016年6月22日、その日上場したTwillio(TWLO)は15ドルだった公募価格を92%も上回る初日終値を叩き出した。その後TWLOの株価は278%上昇。IPO市場は活気を取り戻した。

そんな具合に、IPO市場に再び注目が集まるようになり、それまでの恐怖はどこかに行ってしまった。市場が冷え込む原因となった数々の問題はいまだ解決していないにもかかわらず、IPOに対するためらいは完全に消え去ったのだ。おそらく、必要だったのはひとまずの休憩だけだったのだろう。「先の不況以来の深刻なIPO不足」という形をした小休止だ。

非公開市場

IPO市場の後を追うように、非公開市場における資金調達量は2015年3Qで1333を記録したあと、Q4には1137へと下落していった。2016年Q2までその傾向は続き、今年の資金調達量は2012年よりも少なくなる予定だ。

大衆に逆らう意思のあるVCにはチャンスが訪れている

1回の資金調達ごとの調達金額は増えてはいるが、資金調達の案件の数はそこまで増えていない。より規模が大きく優秀な非公開企業を対象に、より金額の大きな出資が行われているということだ。

IPO市場が冷え込むにつれて、「質へのシフト」は非公開市場でより顕著に見られるようになった。2016年のVCによる投資金額の合計は米国市場全体で318億ドルという状況のなか、UberとSnapの2社が調達した金額だけで45億ドルだ。急速に成長するSlack、Airbnb、Spotifyなどの企業もまた多くのラウンドを実施し、そのほとんどにおいて相当な金額を調達している。

また、人工知能、保険テクノロジー、自動運転技術、バーチャル・リアリティなどの分野には2015年初頭と同じレベルの注目が集まっている。だが、こういった分野以外での投資案件においては、VCはデューディリジェンスを重視する慎重な姿勢を崩していない。彼らは過去にユニコーン企業に熱中しすぎたという苦い経験を忘れていないのだ。VCマーケットは未だに買い手市場である。

ユニコーン企業に対するバイアスによって、2016年に誕生したユニコーン企業の数は劇的に減った。2015年のQ2、Q3に新しく生まれたユニコーン企業は49社だったのに対し、今年のQ1、Q2では12社だ。

今後はどうなるのか

株価が最高値をつけ、IPO市場も回復している(そして、パフォーマンスも良い)ところを見ると、公開市場が復活を遂げたことは明らかだ。2017年までIPO市場の活気は続くだろうと各投資銀行は話している。

一方で、ベンチャー投資業界に生じたひびはすぐには埋まらない。VCの慎重な姿勢がイノベーションを減速させているわけではない。しかし、VCから調達した資金によって誕生するイノベーションがあることも確かなのだ。

VCは企業がもつテクノロジーよりも、企業そのものに興味を持つようになった。彼らは企業がもつインフラ、トラックレコード、信頼性を見るようになり、次なるビックアイデアを持っているだけでは不十分なのだ。「どうやって数十億レベルのビジネスを育て上げるのか教えてくれ」というレトリックは、「どうやってこのアイデアをサステイナブルなビジネスにするのか教えてくれ」というものに変わった。

こうして、大規模で明らかな勝ち組である企業には買い手がこぞって集まる一方で、大多数の企業が、特に小規模の企業が資金調達をすることはとても難しくなった。しかし、大衆に逆らう意思のあるVCにとってはチャンスが訪れている。

より多くの時間、そして大きな価格競争力を利用して次のユニコーンを見つけ出すチャンスなのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

Greylockが15番目のファンドを組成、新たに10億ドルをスタートアップに投資する

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Greylock Partnersは、新たに10億ドルをスタートアップに投資する。この息の長いベンチャーキャピタルは15番目のファンドを発表した。彼らは累計35億ドルを管理していることになる。

約50年の投資経験があり、Greylockは法人向けITとコンシューマー向けインターネットカテゴリーを牽引する企業に投資してきた。その中にはLinkedIn、Dropbox、Facebook、Airbnbが含まれる。彼らのリミテッドパートナーは、過去の成功事例と同じように、Greylockが次に大成するスタートアップを見つけることを期待している。

「割と一貫した戦略をとってきました」とGreylockのパートナーであるJosh ElmanはTechCrunchに話す。彼らのチームは常に「人々の暮らしを良くするプロダクト」を探してきたという。

Greylockはシードラウンドからレイターステージまで、どのタイミングでも投資することができるが、たいていの場合、その中間で投資を行ってきた。14個のファンドの95%以上の投資案件はシリーズAかBでの投資で、15番目のファンドでもこのアプローチを変えるつもりはないという。

探しているのは、「30人から1000人」に倍増しようと転換期にあるスタートアップとElmanはいう。Greylockは「小規模な若い会社から本当に大きく成長し、スケールが得られる」ような拡大しているチームに投資するという。Greylockは最近、注目を集めるGoFundMemusical.lyに投資した。

また、法人やコンシューマー向けビジネス以外にもGreylockは、メッセージング、仮想現実、機会学習、ロボティクスといった新興分野にも目を向ける計画だという。ElmanはAmazon Echoのようなボットや音声関連のプロダクトには特に期待しているという。

しかし、最も良いスタートアップに投資しようと同じように考える投資会社が多いと、その中で目立つのは難しくなる。Greylockの投資チームにはLinkedInの共同ファウンダーReid HoffmanやMozillaの前CEOであるJohn Lillyがいる。Greylockは彼らの業績と経験が他社との差別化になることを期待している。

他の最も優秀なベンチャー投資企業と同じように、Greylockも社内に人材パートナーグループを持っていて、このグループはスタートアップのチーム作りを助けている。 Jeff MarkowitzとDan Portilloが率いるGreylockの人材グループは、プロダクト、デザイン、開発で経験のある採用候補者やCXOクラスの役員に適した人材を探す。

「Greylockは会社と本当にパートナーシップを結ぶというアプローチを取ります。採用、プロダクト計画、戦略面を含めてです」とNextdoorの共同ファウンダーであるSarah Learyは言う。Learyは、Greylockでアソシエイトとして勤めた経験があり、Greylockは「私たちと同じ起業家として、同じような状況を経験したことがあるパートナーを多く抱える数少ない投資会社のうちの1つ」と話す。

170のIPOと120の「有益」な買収があり、Greylockの投資案件のいくつもが身を結んだ。近年のエグジットにはApptioPure StorageQuipTellApartがある。

しかし、どのベンチャーキャピタル同様、いくつかの投資がうまくいかないことも勘案し、多様性のある投資先ポートフォリオを築くことが成功の鍵だ。Greylockが投資した中で報われなかったものの中にはDigg、Cuil、ArsDigitaなどがある。

困難に直面した時、Greylockはスタートアップが助けを求めることができる存在になりたいと考えている。「どんな時も、1日の中でいつでも、連絡できる相手になりたいと考えています」とElmanはいう。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website

アーリーステージの企業がShippoのシリーズAから学ぶべきこと

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シリーズAのクロージングは難しいことで有名だ。その厳しさから”シリーズA危機”という言葉が生み出されるほどである。また、シードラウンドで資金調達に成功したスタートアップのうち、25%しかシリーズAをクローズできないとも推定されている。

複数の配送会社に対応したAPIを提供しているShippoは、その苦難を乗り越えたスタートアップのひとつだ。先月同社は、USVをリードインベスターとするシリーズAで700万ドルを調達したと発表し、今後USVのAlbert Wengerを取締役として迎える予定だ。

他の起業家がShippoの経験から学べるよう、彼らは特別な計らいとして、シードラウンドとシリーズAで使われたプレゼン資料を一般公開することを決めた(記事の末尾参照)。プレゼン資料からは機密情報が取り除かれているものの、Shippo CEOのLaura Behrens Wuはそれぞれの資金調達の詳細について話をしてくれた。

TC:2014年にシードラウンドで資金調達をしようとしていたときの話からはじめましょう。いつ頃資金調達の必要性を感じましたか?また、その時はどんなゴールに向かって進んでいましたか?

Wu:Shippoをはじめてから7ヶ月経った頃に資金調達を決断しました。最初の4ヶ月は手持ちの資金を使い、残りの3ヶ月は500 Startupsのプログラムに所属していて、Shippoの成長に関する数字を確認したとき資金調達の必要性に気づきました。機能しているプロダクト・満足している顧客・取引量の増加という、ビジネスに最低限必要なものはその頃既に揃っていたんです。一方で、その当時私たちのプロダクトがヒットしていたとも、市場にフィットしていたとも言えないんですけどね。その頃から何度も何度もプロダクトの改良を行ってきましたし!

新米ファウンダーだった私たちは、Shippoのビジネスに参加して会社の成長を手助けしてくれるような支援者を探していました。また、事業の成長に専念できるよう、資金調達のプロセスは本業とは全く別のスケジュールで捉えるようにしていました。

TC:あなたと共同ファウンダーのSimonはどちらも外国人ファウンダーですよね。アメリカではどのように投資家とのネットワークを作っていったんですか?

Wu:当初は500 Startupsを通じてでしたが、その後は自分自身の評判を高めることでネットワークを築いていきました。さまざまな場面で会う投資家(や他のファウンダーなど全員)に、自分のことを、信頼に値し責任感がある人だと考えてもらいたいですよね。そのためにも、自分が約束したことを必ずやり遂げるということが大切です。アドバイスをもらって人の時間を使っておきながら、なにもアクションを起こさないなんてことは、絶対にしてはいけません。

TC:当時のShippoの段階において、投資家はどのような指標を重要視していたんですか?

Wu:投資家はトラクションの兆候を見たがっていました。私たちは、ユーザーが常にShippoを利用し、気に入っている(利用率・継続率の増加、低い解約率などを指標として)ということを投資家に証明することができました。また、常に議論にあがっていたのが市場規模で、支援先企業にとって十分な可能性がその市場にあるのかというのを彼らは知りたがっていました。

TC:シードステージにある企業には、何も指標がなかったり、あったとしても価値ある洞察が得られるほどではないという場合が多いと思いますが、彼らにはどのようなアドバイスをしますか?

Wu:ひとつのKPIを重視するということですね。指標を得たいがために複数の指標を準備する必要はありません。本当に意味のある数値だけに集中するんです。もしもそれが何か分からない場合(もしくは目標に到達しない場合)は、お客さんが自分たちのプロダクト無しでは生きていけないと思うほど、彼らを満足させることに集中すればいいんです。

TC:投資家を説得させるのが最も難しかったことはなんですか?

Wu:マーケットプレイスやECが盛り上がっている一方、配送業に注目している投資家はあまりいませんでした。配送業に隠された問題を知らない人にとっては、とても地味な業界ですからね。しかし、そのうち問題の深層や、私たちのプロダクトがどのようにその問題を解決できるか、さらにはそこからどのようなデータが得られるか、といったことにある人が気づきはじめると、段々と興奮が高まっていったんです。

TC:ラウンドはクローズまでにどのくらいかかりましたか?また、ラウンド自体はどのように構成されていたんですか?

Wu:私たちが資金調達に注力しようと決めてからは、全部ひっくるめて約4ヶ月程度かかりました。その間に125もの投資家と話をしました。一旦勢いづくと、とても上手く進んで行き、全てが3週間のうちにまとまりました。当時はYC Safeがまだなかったので、法律事務所が用意した通常のコンバーティブル・ノートの書類を準備して、Jeff Clavierがそれを基にプライスドラウンドを計画しました(これはとても一般的な書類とプロセス)。

他社とちょっと違っていたのは、シード段階のプライスドラウンドで取締役のポジションを投資家に渡したことですかね(これは一般的なアドバイスに反する動き)。しかしこれは私たちにとって、とても価値のあることでした。シード段階で取締役になるということは、私たちが成功するまで支援し協力するという覚悟をその投資家が持っているという表れですからね。私たちがシリーズAで資金調達した際に、Jeffは取締役のボジションをはずれ、通例に従ってシリーズAの投資家が取締役になれるよう席を空けてくれました。

TC:会社をシードステージからシリーズAで資金調達ができるようになるまで成長させる上で、1番大変だったことはなんですか?

Wu:ファウンダーに期待される役割がすごい速さで変わっていくことです。もともとは全て自分たちでやっていたのに、専門家を雇って権限を委譲していなかければいけません。そしてファウンダーとしての私たちの役目は、会社がスケールするにつれて目まぐるしく変わっていきます。チームが出来上がってくると狂乱状態がおさまってきて、より大きな課題に取り組めるようになるんですが、それでもプレッシャーは変わらずそこにあります。ただ、そのプレッシャーは当初のものとは少し性質が違うような気がします。

TC:スタッフの雇用というのはどのファウンダーも直面する課題のようですが、どうやって効率的に人を雇う術を学んだのですか?

Wu:当初は、以前自分の下で働いていた人や一緒に働いていた人など、知り合いを当たるのが1番の手段でした。しかしそれでは数が稼げません。

私たちは、大規模な雇用方法についてはまだまだ模索している最中です。雇用は、一時期私が自分の時間の約80%を費やしていた程、シリーズA後のShippoにとって大きな焦点のひとつとなっています。現在私たちは、リクルーターや紹介ボーナス、ブランディング、カンファレンス参加など、さまざまな方法を試しているところです。近いうちに新しい情報を共有できればと思っておりますのでお楽しみに!

TC:シリーズAでは、どのようにアプローチ先となるVCを決めましたか?シードラウンドと比較して話をしたVCの数に変化はありましたか?

Wu:シリーズAでは25社のVCと話をしました。さらに私たちは、組織としてのVCだけでなく、その中にいるパートナーという存在に重きを置いていました。また、これまでに大型のマーケットプレイスやEC企業の立ち上げに関わったことがあり、願わくばECショップが日々直面している配送に関する問題点を理解しているような投資家と仕事をしたいと考えていたんです。結果的に、シードラウンドの投資家の支援を引き続き受けると同時に、USVのAlbert WengerがShippoに参加することとなり、私たちは興奮しました。Albertが持つTwilio(別のAPI企業)とEtsyでの経験は、非常に貴重ですからね。

シードラウンドに比べるとずっとタイトな日程でしたが、自分たちのスケジュールに沿って、プロセスに振り回されるのではなく、私たちの方からプロセスを進めていきました。

TC:プレゼン資料以外に、デュー・デリジェンスの一環として何か別の資料を準備しましたか?

Wu:シリーズAのミーティングに向けて、Shippoのフィナンシャルモデルと収支予測が正確かつ完全かというのをチェックし、顧客からの推薦状も持っていきました。さらにはSocial Capitalのmagic 8-ball分析を行い、これは投資家だけでなく私たちにとっても大変有益な情報でした。今でも会社の状況を確認するために分析結果を使っています。

TC:シリーズAでの資金調達前に知っておけばよかったと思うことは何ですか?

Wu:数週間の間でシリーズAの投資家について深く知ることはできないため、彼らとは資金調達のプロセスを開始するずっと前から関係性を築きはじめなければいけません。そして資金調達の段階で、既にどの投資家に参加して欲しいかというのが分かっていれば、彼らとの会議がもっと効果的なものになります。

TC: Shippoの投資家であるAlbert Wenger(USV)やJeff Clavier(SoftTech VC)とはよく話をしているようですが、積極的なアドバイザーの存在はどのくらい重要だと思いますか?

Wu:Jeffとは月次の電話ミーティングをしていますが、それだけでなく必要に応じて彼とは連絡をとっています。何かあればどんなときでも彼にテキストを送っていますし、Albertについても同じことが言えます!

私は定期的に連絡をとることで信頼関係が構築されると強く信じています。投資家は(悪い)ニュースを聞いたときに驚くべきではないと思いますし、彼らとは常に会社の動向に関する最新情報を共有すべきだと思います。つまり、取締役会の場にサプライズがあってはいけません。

Version OneのBoris WertzFundersClub、500 Startups、Jeff、Albertは、大企業との交渉の場や、見込み顧客への紹介、採用者候補の選定、オペレーションに関するアドバイスなど、さまざまな場面で私たちにとってかけがえのない存在でした。

TC:シリーズAに到達するのは大変ですが、シリーズBに到達するのも同じくらい大変ですよね。今後Shippoの成長を持続または改善するにあたって、どんなことを考えていますか?

Wu:成長を続けるには、繰り返しになりますが人材の雇用が不可欠です。Simonと私しか会社にいなかった頃は、私たちが全部やらなければいけませんでした。でも今は、自分たちのやっていたことを他の人ができるようにしなければいけません。そのためには、仕組みやプロセスが必要で、現在専門家の力を借りながらそのシステムを構築しようとしています。最高の幹部陣を揃えるのは本当に重要です。

また、私たちは話をした全ての投資家から資金を調達したわけではありません。その代わり資金調達のプロセスで、たくさんの素晴らしいフィードバックを得ることができました。そのフィードバックを持ち帰って、私たちの事業のさまざまな点を改善するのに使おうとしているところです。

TC:Shippoの次の一手は何でしょうか?

Wu:私たちはどんな企業や人に対しても、よりスマートにものを送ることができるテクノロジーを提供したいと考えています。

Shippo Seed Deck

Shippo Series A Deck

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter