【編集部注】執筆者のHans TungはGGV Capitalのマネージングパートナー。
超巨大企業に勝つにはどんな手を使えばいいのか? 中国とアメリカという世界最大級のEC市場で戦う企業は、日々この問いに頭を悩ませている。
AmazonとAlibabaの大成功(時価総額はどちらも4000億ドル以上)をもってEC市場の戦いは終わった、と考えている人は多い。Amazonが本や家庭用品、電子機器、服、食料品など次々と新しいカテゴリーを制覇していく傍ら、Alibaba傘下のTmallとTaobaoもシェアを伸ばし、何百万という数のSKUを確保するなど、両社は本当の意味で世界中の消費者にとっての”何でも揃う店”になろうとしている。
しかし、ここで戦いを放棄するのは早計だ。最新の動向を注意深く見ていくと、まだまだグリーンフィールドと呼べるような分野があるとわかる。ミレニアル世代が中心の大衆市場にサービス開発時点から注目することで、新たなECユニコーンになれる可能性がまだ残されているのだ(ミレニアル世代の購買行動に関する詳細はこちらを参照してほしい)。
新しいトレンドを理解する上で大事なのは、”大衆市場”の再定義だ。売り手と買い手が各地域に留まっていた昔の経済では、大衆市場を狙うというのは、さまざまなカテゴリーの商品を可能な限り安い価格で販売するということを意味していた。つまり”毎日特化”でものを売る”何でも揃う店”になるということだ。
しかし、スマートフォンの普及に伴い状況は大きく変わった。今や世界の大衆市場は、ミレニアル世代の消費行動や好み、さらには中国で起きているライフスタイルの”アップグレード”に大きく影響されている(このアップグレードは旅行や家庭用品、ファッション、食事などさまざまな分野で発生しており、中国の消費者は安価でユニークなプロダクトを求めている)。
そんな中、個々のニーズにあったサービスを提供することで大きな成長を遂げているのが、Dollar Shave Club(ひげ剃り)や73Hours(中国の婦人靴ブランド)をはじめとする新しいeブランド、さらにはHouzz(インテリア・DIY)、DarbySmart(ものづくり)、Red(中国名Xiaohongshu、ビューティープロダクト)などの分野を絞ったマーケットプレイスだ。彼らはキュレーションとパーソナライゼーション、そしてコミュニティの力を使ってアメリカ・中国市場を席巻している。
キュレーションVS巨大倉庫
巨大企業と彼らの違いは「検索VSディスカバリー」という構図にまず表れる。AmazonやTaobaoは巨大な仮想倉庫のようなもので、明確な目的を持ったユーザーのニーズに応えている。消費者は自分が欲しいものを安く買うためにAmazonやTaobaoのサイトを訪れているので、欲しい商品を検索し、購入してサイトを去る、というのが一般的な流れだ。無料配送や翌日配達といったメリットもあるが、このようなサービスは消費者がスマートフォン上で明確な目的なしに楽しむには、あまりに無機質で情報量も多すぎる。
先述のeブランドや分野を絞ったマーケットプレイスは、このような巨大倉庫と真っ向から戦おうとはしていない。その代わりに彼らは、消費者の興味をひきそうなカテゴリーの商品をキュレートするなど、ディスカバリー要素に注力している。モバイルショッピングはある種のエンターテイメントになろうとしており、消費者は巧みに選び抜かれた商品群を眺めること自体をも楽しんでいるのだ。キュレーションのやり方はさまざまだが、その人気はアプリストアのランキングを見れば明らかだ。
インテリアやDIYが中心のHouzzのように、その道のプロがキュレーションを行う場合もあれば、ファッションがテーマのPoshmarkのようにKOL(キー・オピニオン・リーダー)をはじめとするユーザーがその担い手となるケースもある。また、価格が基準のサービスも存在する。HollarやWishは激安商品を販売しているほか、LetGoやOfferUpはCraiglist風の中古品売買プラットフォームをモバイルフレンドリーな形で運営している。
彼らは、色んなカテゴリーの商品を今すぐ買いたいという消費者をターゲットにはしていない。その代わりに、彼らは(カテゴリーや価格ごとに)商品をキュレートし、消費者が手頃でユニークな商品をスマートフォン上で楽しみながら見つけられるような環境を提供しているのだ。
ネット上の自己表現としての消費
消費者はAmazonやTaobaoのことも気に入っているかもしれないが、それはあくまでツールとしてであり、サービスのキャラクターにひかれているわけではない。つまり、消費者は便利だからAmazonやTaobaoを使っているに過ぎず、自己表現のためにこれらのサイトを何度も訪れているわけではない。
AirBnBやRed(Xiaohongshu)、Pinterest、Houzzといったeブランドやマーケットプレイスは、ソーシャルサービス上のファンや、消費者に憧れを持たせると同時に刺激を与えるようなコミュニティの構築がとてもうまい。彼らはコミュニティや自分たちが提供している価値を文化的文脈に落とし込み、サブカルチャーの入り口のような存在になることで、ユーザーのロイヤルティーを高めているのだ。プロダクトのパーソナライゼーションとコミュニティの構築がうまくいけば、ソーシャルメディア上で口コミが広がる。これが現在アメリカと中国の両方で起きていることだ。
高級志向のEC企業も特定の価値観を反映したブランディングを通じて同じことをやっている。さまざまな体型に合う、”女性による女性のための”下着を販売しているLively、健康飲料のDirty Lemon、自分の髪にあったシャンプーやコンディショナーが購入できるFunction of Beautyなどがその一例だ。
ユーザーの好みに沿って提案商品を変えるサービスも存在する。ファッション系サブスクリプションサービスを提供しているStitchFixやDiaは、ユーザーがどの服を購入してどの服を返却したか、という情報をもとに次に送る商品を変えている。AIを使って消費者の好みを反映した商品を販売・提案しているブランドは、詳細なパーソナライゼーションを差別化の柱にできるだろう。
業界や個別の戦略はさまざまだが、上述の企業に一貫して言えるのは、AmazonやAlibabaではなく彼らのアプリ上でプロダクトを購入したいと消費者に思わせるほどのパーソナル、そしてソーシャルなインセンティブを創り出しているということだ。これはオンラインに限った話ではなく、オフラインの小売企業も日々変化する消費者行動に手を焼いている。今後Walmartのように生き残りのためにM&Aを繰り返す企業が出てくるかもしれない。
これからどうなるのか?
では、スタートアップはこの記事で触れたような強みを活かして、本当にAlibabaやAmazonに勝てるのだろうか? この質問に対する私の答えはイエスだ。EC市場にはまだまだ成長の可能性が残されている。
確かにAmazonとAlibabaはアメリカと中国それぞれの市場でかなりのシェアを握っているが、未だ両国のECの市場規模は、最大9兆ドルとも言われる小売市場の8%(アメリカ)、16%(中国)でしかない。まだまだEC市場には発展の余地があるということだ。将来的には昔の小売市場のように専門店が立ち並ぶようになるかもしれないが、そこにはエクスペリエンスとしての買い物という概念やAR・VR技術、AIを活かしたひねりが加わってくるだろう。
そんなEC市場で勝ち残っていくためには、これまで以上にミレニアル世代の価値観やコミュニケーションチャンネルに注目しなければならない。今後EC市場がさらに成長し進化していく中、キュレーションやパーソナライゼーション、コミュニティの創出に力を入れた企業こそが、ますます大きくなるパイの取り分を増やしていくことになるだろう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)