「プログラミングは簡単に学べる」なんてことはない―女性CTOが体験からのアドバイス

編集部: 寄稿者のKate Rayは最近Wordpressに買収されたビジュアル・ウェブページ制作ツール、scroll kitの技術担当共同ファウンダー。

私の経験によると、これからプログラミングを始めようという人間にとってもっとも危険なことは「プログラミングなんて簡単だよ」と聞かされることだ。

このときあなたの頭の中では次のようなプロセスが進行する。

〔下は筆者のイラスト〕

プログラミングは第2の識字能力だ! 子供だってプログラミングできる。 誰だってできる。
それに私は頭がいい!
…なんでプログラミングがさっぱり学習できないんだ?

簡単だって言われたのに。
私は向いてないのかも。
それとも私は本当は頭が悪かったの?

お断りしておくが、私のプログラミングはイラストよりマシだ。

ほとんどの場合、プログラミングには特別な能力は必要ない。しかしプログラミングというのは他のあらゆる仕事に比べてはるかに苛立たしく、めちゃくちゃな作業だ。スマートですっきりした効率的なプログラミングが学べると約束するブログ記事、教室、アプリが溢れている。

そういうバラ色の約束には、プログラミングを始めるにはまず第一にそれに適した環境を設定するという大事業が必要だという注意が抜けている。はっきり言っておくが、どんなに親切なプログラマーの友人でもこの点では助けにならないはずだ。というのもこの作業は頭がおかしくなりそうなほど苛立たしい上に、一旦終えてしまえば誰も細かいこと覚えていないからだ。

誰も教えてくれない秘密は他にもいろいろある。たとえば、プログラミング能力の非常に重要な部分はGoolgeに正しい質問をし、発見したコードのうちどの部分をコピー&ペーストしたらいいか見分ける能力だ。プログラミングには「これで免許皆伝」などというレベルなどないことも誰も教えてくれないだろう。迷子になったような、自分がバカに思えるような精神状態はプログラミングに必然的に付随する。

この冬、私はiOSを勉強することにした。私は夏休みに独学でプログラミングを学んだので、新しい言語を習得する能力にはいささか自信を持っていた。問題は、それがどんなに辛いか忘れていたことだ。まずXcodeに面食らった(これ、なによ? 子供向けの絵本じゃあるまいし、こんなの本当のプログラミングじゃない)。その後で始めたいくつかプロジェクトはどれも私のレベルでは手に負えないものだとわかった。iOSはウェブ・アプリの開発とはまるで違うことが次第にわかってきた。私が「これは難しいだろう」と思う部分はやさしくて、やさしいはずの部分に際限なく手間取った。

私が忘れていたのはプログラマーの生活には「準備不足感」が付き物だという点だった。プログラマーが学ぶべきことには際限がない。一つの言語なりフレームワークなりに習熟することはできるかもしれないが、何か役に立つものを作りたかったら常に新しいツールが必要になる。絶えず自分の不慣れな分野に踏み込んでいかねばならない。自分がバカに思えるという状態に慣れておく必要がある。

著名な心理学者、ミハイ・チクセントミハイは学習過程を、退屈と不安の間のジグザグの歩みとして巧みにグラフ化した(どんな分野の学習にも当てはまるだろう)。

Adapted from an image in “Flow: The Psychology of Optimal Experience”

私がプログラミングを学んだ過程を思い出してみるとまさにこの通りだった。

  1. ステップバイステップのチュートリアルをよくわからないところがあっても忠実にフォローしていく。作家志望者が巨匠の文章を丸写しにタイプして勉強するようなものだ。これで言語/フレームワークがどう働くのか感じがつかめてくる。この段階は比較的やさしいが退屈である。[楽観的状態。進歩は速い]
  2. チュートリアルで作ったサンプルを少し変えてみる。すると分からないことだらけだと分かる。 [恐れが忍び寄る。進歩は遅くなる]
  3. ごくシンプルだが自分が作りたいものを作ろうとする。すると自分がほとんど何も理解できていなかったことを知る破目になる。 [絶望の海に投げ込まれる]
  4. 自分のプロジェクトにより関連の深い別のチュートリアルを見つける(うまくいけば背景となる学んでいる言語の知識を増やしてくれる)。またステップバイステップで学ぶ。[少し理解できた気がしてくる。多少の自信]
  5. サンプル・プロジェクトを少し変える。 [また恐怖]
  6. 新しいプロジェクトを始める。 [また絶望]
  7. 1に戻って繰り返す。

私はチュートリアルの大ファンだ。上記のプロセスを繰り返すうちに、私は推薦するプログラマーをベースにベストなチュートリアルをリストするアプリを作った。このアプリが自分に合ったチュートリアルを見つける手助けになればよいと思う。

フラストレーションに耐えて努力を続けていれば、やがて見晴らしのいい場所からそれまで登ってきた道を振り返ることもできるだろう。理解できないことが多くてもかまわない。自分が進歩しているのかどうか分からなくても、進歩していると信じて進もう。焦りは禁物だ。 幸運を祈る。

Teach Yourself To Codeで学ぶことを可能にしてくれた Shuttleworth Foundationとこの記事を書くのを助けてくれたCody Brownに深く感謝する。

Kate Ray – Scroll Kit from WeWork on Vimeo.

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


ガジェット紹介:スマートフォンを風力で充電するTrinity他

編集部注: Ross Rubinは、テクノロジー、メディア、および通信のコンサルティング会社、Reticle Researchの主任アナリストで、Backerjackのファウンダー。彼のブログはTechspressive。Backerjackは、毎週3件のIT系クラウドファンディングのニュースを紹介している。

Trinityは、スマホを充電するミニ風力発電機

誰もが体験したことがあるはずだ。バッテリーが切れ近くに電源がない。街中であればスターバックスを探すという選択肢もあるが、キャンプやハイキングに行った時には望めない。

Trinityは、携帯デバイスを充電できるポータブル風力発電システムだ。小型のタービンが15Wの発電機を回して内蔵バッテリーを充電する。microUSB経由で充電することもできる ― あまり風のない時は。足が3本あり三脚として使うことも、地面に平らに置くこともできる。Trinityは本体が12インチ(30 cm)、脚部が11インチ、色は白。

Kickstarterページはこちら

ALYTは、声で制御するスマートホーム

スマートホームの夢は、住んでいる場所に話しかけ、室温やセキュリティーを任せ、問題を発見してもらえるようになることだ。もちろん、スマートホームのテクノロジーが出現して以来、その目標に向かって前進を続けているが誰も到達していない。

ALYTはAndroidが走るハブで、これらの問題を解決しようとしている。オープンプラットフォームとしてありとあらゆる形式のワイヤレスデータを扱うことによって、ALYTは、音声およびビデオ認識を利用して家庭におけるあらゆる物ごとを制御できる ― デベロッパーがそのためのアプリを作りさえすれば。iOS、Android、Bluetooth、NFC、Z-Wave、3.5G等をサポートするALYTシステムの柔軟性は、様々な種類の創造的開発を可能にしている。

Indiegogoのサイトはこちら

Open-Meは24時間どこからでもガレージドアを制御できる

ホームオーナーは、常に何かをし忘れたのではないかと心配になる。オーブンがつけっぱなしじゃないか? 玄関のドアはロックしたか? ガレージのドアは閉まっているか? 今、あるハードウェアとアプリの組み合わせによって、最後の問題は問題ではなくなった。
Open-Meは、ガレージのドアに取付ける超音波センサーで、家庭のWiFiネットワークに接続する。アプリをチェックすることによって、ユーザーはガレージのドアがわずかでも開いているかどうかを確認し、リモートで開閉することができる。さらにGPSを利用することによって、同期されたスマートフォンやタブレットが、一定距離以内に近づくとドアを開き離れるとドアを閉じることができる。

Open-Meの詳細はこちら

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook


ガジェット紹介:スマートフォンを風力で充電するTrinity他

編集部注: Ross Rubinは、テクノロジー、メディア、および通信のコンサルティング会社、Reticle Researchの主任アナリストで、Backerjackのファウンダー。彼のブログはTechspressive。Backerjackは、毎週3件のIT系クラウドファンディングのニュースを紹介している。

Trinityは、スマホを充電するミニ風力発電機

誰もが体験したことがあるはずだ。バッテリーが切れ近くに電源がない。街中であればスターバックスを探すという選択肢もあるが、キャンプやハイキングに行った時には望めない。

Trinityは、携帯デバイスを充電できるポータブル風力発電システムだ。小型のタービンが15Wの発電機を回して内蔵バッテリーを充電する。microUSB経由で充電することもできる ― あまり風のない時は。足が3本あり三脚として使うことも、地面に平らに置くこともできる。Trinityは本体が12インチ(30 cm)、脚部が11インチ、色は白。

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ALYTは、声で制御するスマートホーム

スマートホームの夢は、住んでいる場所に話しかけ、室温やセキュリティーを任せ、問題を発見してもらえるようになることだ。もちろん、スマートホームのテクノロジーが出現して以来、その目標に向かって前進を続けているが誰も到達していない。

ALYTはAndroidが走るハブで、これらの問題を解決しようとしている。オープンプラットフォームとしてありとあらゆる形式のワイヤレスデータを扱うことによって、ALYTは、音声およびビデオ認識を利用して家庭におけるあらゆる物ごとを制御できる ― デベロッパーがそのためのアプリを作りさえすれば。iOS、Android、Bluetooth、NFC、Z-Wave、3.5G等をサポートするALYTシステムの柔軟性は、様々な種類の創造的開発を可能にしている。

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Open-Meは24時間どこからでもガレージドアを制御できる

ホームオーナーは、常に何かをし忘れたのではないかと心配になる。オーブンがつけっぱなしじゃないか? 玄関のドアはロックしたか? ガレージのドアは閉まっているか? 今、あるハードウェアとアプリの組み合わせによって、最後の問題は問題ではなくなった。
Open-Meは、ガレージのドアに取付ける超音波センサーで、家庭のWiFiネットワークに接続する。アプリをチェックすることによって、ユーザーはガレージのドアがわずかでも開いているかどうかを確認し、リモートで開閉することができる。さらにGPSを利用することによって、同期されたスマートフォンやタブレットが、一定距離以内に近づくとドアを開き離れるとドアを閉じることができる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


クラウドソーシングは特化型へ、海外のプレイヤーから見るクラウドソーシングの今

編集部注:この原稿は内藤サトル氏(@satoruitter)による寄稿である。内藤氏はEast Venturesアソシエートで、海外のテクノロジー情報を発信するブログ「シリコンバレーによろしく」を書くテクノロジー・ブロガーだ。

昨今、日本でもクラウドソーシング系の事業が話題になっており、ニュースで耳にする機会も増えた。クラウドソーシングを利用することで、依頼主は即座にプロフェッショナルへ仕事が発注できる、もしくは必要に応じて安価に労働力を確保できる点。依頼先は、仕事の場所や内容、量、労働時間などを自分でコントロールできる点がクラウドソーシングの魅力だ。このように双方のニーズに応える形で、様々な切り口のクラウドソーシング系の事業が国内外問わず誕生してきた。

今回は、そのクラウドソーシング分野の現状を、各海外プレイヤーのポジショニングを通じて考察していく。

(1) 仕事のジャンル多い×専門性低い+高い

oDeskElance
Freelancer

高度なプログラミングから単純な文章作成まで幅広いジャンルの仕事を引き受け、専門性の高いクラウドワーカーから専門性の低いクラウドワーカーまで幅広く揃えているのが、oDeskやElance、Freelancerだ。去年、oDeskとElanceの2社は上場を見据えて合併、Freelancerは上場を果たした。このような幅広いジャンルの仕事を扱う総合デパート型のモデルは、規模の経済をどれだけ活かせるかが重要になってくるため、今後もこの分野では買収や合併といった動きが活発になってくると思われる。

【国内プレイヤー:CrowdWorksLancersなど】

(2) 仕事のジャンル多い×専門性低い

TaskRabbit
Zaarly
ちょっとした家事やおつかいなどを代行するサービスの代表格がTaskRabbitやZaarly。報酬の価格はユーザーが自由に設定できるが、平均単価(※TaskRabbitの場合)は、日用品の買い物で35ドル、家の掃除で60ドル、日曜大工などのなんでも屋作業で85ドルと少々高い印象。

Amazon Mechanical Turk
オンラインでの入力作業や、簡単なアンケートなど汎用が利く仕事を発注できるのがAmazon Mechanical Turk。1つの仕事を1〜5セントという格安の値段で発注することができる。ここに集まるのは金銭目的ではなく、暇つぶしを目的にしているクラウドワーカーが多いというのが特徴。

Crowdflower
汎用が利く一連のタスクを、クラウドソースして管理できるのがCrowdflower。例えば、表示されている情報は適正か、入力されている情報に漏れがないかなど、ルーティン化されてる事務作業を一括で委託・管理できる。

【国内プレイヤー:ココナラnanapi worksshuftiなど】

(3) 仕事のジャンル多い×専門性高い

Marblar
大学の研究室で発明された現在使用されていない技術や特許を公開し、商業化や他の技術と組み合わせ、利用可能にするアイディアをアウトソーシングするためのプラットフォーム。

InnoCentive
特定の問題に対して、各分野の専門家に解決策となるアイディアをアウトソーシングすることができる。ジャンルはビジネス、社会、政治、科学、テクノロジーなど多岐に渡る。

【国内プレイヤー:Dmet ideaWemakeなど】

(4) 特定のジャンル×専門性低い

Scoopshot
依頼主が出すお題に対して、ユーザーがスマホで写真を撮り、依頼主が気に入ったものを買い取るという形のクラウドソーシング。

Homejoy
部屋の掃除を1時間20ドルで代行してくれるサービス。メイドをアウトソーシングするイメージで、洗濯や冷蔵庫の掃除もオプションで引き受けてくれる。

Mobee
一般消費者に対して、実店舗でのアンケートを依頼できるサービス。ユーザーは、近くの実店舗の接客態度や清潔さを調査をする代わりにポイントを受け取り、それらをギフトカードなどの商品と交換することができる。

【国内プレイヤー:BearsSansanなど】

(5) 特定のジャンル×専門性高い

SmartShoot
プロのカメラマンに、写真やムービーの撮影を依頼できる。AirbnbやYelp、Grouponはここに発注した多くの写真をサービスに利用している。

Directly
各分野のプロフェッショナルが、カスタマーケアを代行してくれるサービス。顧客が質問をフォームに記入して送信すると、その内容を自動に分析し、各プロフェッショナルに回答するタスクを振り分けるシステム。平均回答時間は8分。AT&Tやコムキャスト、ユナイテッドエアラインなどの大手企業も採用している。

Babelverse
モバイルを通じて、リアルタイムで通訳をしてくれるサービス。必要な時に必要な時間だけ通訳家を呼び出すことができる。本格的なビジネス英語から簡単な旅行向け英語まで、レベルに応じた翻訳家を用意している。

99designs
ロゴ作成やデザインをコンペ式で発注できる数あるプロダクトの中でも代表的なものが99designs。世界192カ国から25万人を超えるデザイナーがコンペに参加している。

LawPivot
弁護士版の99Designs。 法律に関する相談を、コンペ形式で一部回答してもらうといったもの。気に入った回答を提出した弁護士と引き続き相談ができる。

Bugcrowd
7600人を超える外部のリサーチャーに対してバグの発見を24時間いつでも依頼することができる。依頼の金額は300ドル前後から受け付けている。

Assembly
プロジェクトを公開し、外部のエンジニアやデザイナーとアプリを協働で開発するプラットフォーム。チームの投票によって貢献度を顕在化させ、その度合に応じて報酬を支払う。

Zirtual
プライベートアシスタント(秘書)をクラウドソーシングできるサービス。仕事内容は、スケジュールの調整、リサーチ、メールの代筆など幅広く引き受けてくれる。

GoodBlogs
会社のブログ執筆を外部のブロガーにアウトソーシングできる。依頼方法は、いちばん質の良いコンテンツをコンペ形式で採用するといったもので、依頼主は1日15分程度の作業時間でブログを運用することが可能になる。オウンドメディアを持ちたい企業にはうってつけのサービス。

【国内プレイヤー:ConyacVoip!MUGENUPdesignclueViibarなど】

上記のように、海外の各プレイヤーのポジションを整理してみると、幅広いジャンルの仕事を扱う総合デパート型の分野は、主要プレイヤー達がエグジットを迎え、ある種の収穫期に入ったことから、プレイヤーの拡大という点では一段落した印象を受ける。

また、苦戦するTaskRabbitやZaarlyのような専門性の低い多ジャンル型のプレイヤーを尻目に、ある仕事内容に特化したプレイヤーのいくつかは順調にスケールしており、新たなサービスも次々に生まれている(※今回紹介したプレイヤーはほんの一部に過ぎない)。では、なぜこの分野が順調なのか。

専門性の高い特化型のプレイヤーが伸びる理由

この分野は大きく分けて、99designやLawPivotのような「コンペ型」と、HomejoyやBabelverseのような「サービス提供型」に分類することができる。

「コンペ型」のプレイヤーは、仕事を特定の分野に絞ることで、クラウドワーカーとして用意するプロフェッショナルの量と質を高めることに集中できる。その結果、総合デパート型よりも、質の高いプロフェッショナルを多く提供することを可能にし、顧客体験の向上に繋がる。加えて、総合型より「この仕事内容なら、このサービスを使う」といったブランドイメージを確立しやすい点も特徴だ。例えば、デザインのアウトソーシングに特化した99Designsは、分野をデザインに絞ることで、質の高いデザイナーをより多く集めることに経営リソースを集中させることができる。そうすることで、総合型のoDeskやFreelancer等が用意できない量と質のデザイナーを提供でき、かつ依頼主に対して「デザインの依頼なら99Designs」というブランドイメージを印象づけることもできるのだ。

一方、「サービス提供型」のプレイヤーは、提供するサービス内容を1つに絞ることで、依頼主にとって最もネックとなるクラウドワーカーとのコミュニケーションコストを依頼主に代わって引き受けることが可能になる。その結果、依頼主は『発注→クラウドワーカーとのコミュニケーション→成果物 or サービスを受け取る』という手間のかかるプロセスから『発注→成果物 or サービスを受け取る』というプロセスのショートカットを享受できるようになる。例えば、先述した秘書業をクラウドソーシングできるZirtualは、サービス内容を「秘書業の提供」に絞ることで、本来自前で行わなければならない、通訳者の選別、労働時間の調整等の面倒なコミュニケーションを、Zirtualが引き受ける。そうすることで、ユーザーである依頼主は、ただZirtualにアクセスし、仕事内容をZirtualに告げるだけで面倒なコミュニケーションを行うことなく成果物やサービスを享受することができるのだ。

ジャンル特化型のサービスは、上記のような点で依頼主のニーズを満たしており、今後もそのニーズに応える形で、特化型のプレイヤーは国内外問わず誕生していくだろう。引き続き、クラウドソーシングの分野から目が離せない。


TechCrunch 海外ネタ週間まとめ 3/23-3/29


先週はFacebookのOculus VR買収、Googleのクラウド・サービス大幅値下げ、MicrosftのOfficeのiPadサポートと大きな出来事が続いた。またMt.Goxの破綻の原因についてさらに謎が深まった。これらの話題を中心に振り返ってみる。

Oculus VR買収

速報:Facebookが話題のVRヘッドセットRiftのメーカー、Oculusを20億ドルで買収

Oculus買収の動機を探る―Facebookが買ったのは来るべきバーチャル世界だ

Facebookはモバイルゲームで敗北した。だから自前のバーチャルリアリティーを持つためにOculusを買った。ゲームだけではない

Facebook’s Oculus Buy Signals A Hardware Land Grab, And Company Fit Isn’tA Concern FacebookのOculus買収はハードウェア戦争の陣地取り―当面のFacebookビジネスとは無関係(未訳)

この週の最大の衝撃はなんといってもマーク・ザッカーバーグがOculus VRを20億ドルという巨額で買収したことだった。Oculusは人気沸騰のバーチャルリアリィティー・ヘッドセットOculus Riftを開発したハードウェアスタートアップ。Kickstarterのプロジェクトとして2012年8月にスタートしてわずか1年半というシリコンバレーとしても記録破りのスピード・エグジットとなった。

TechCrunchではさっそくザッカーバーグの買収の動機を分析。短期的なビジネスプランは眼中になく、モバイル革命に匹敵する次のハードウェア革命に備えた長期戦を見据えたいわば「陣取り合戦の開始」だというのがその結論。

日本メーカーはソニーがPS4対応の没入型VRヘッドセット、モーフィアスを開発しているものの、10億人のプラットフォームであるFacebook陣営に入ったOculusに対しては苦戦を強いられることになりそうだ。個人的にはソニーこそOculusを買収して一挙に次世代ハードウェアのリーダーを目指すべきではなかったかという印象が強い。

Googleがクラウドで劇的値下げ攻勢

Google、クラウド・プラットフォームで全面攻勢―大幅値下げ、新サービスをローンチ

Googleのクラウド・コンピューティングとクラウド・ストレージの新料金表

Googleのリアルタイムビッグデータ分析サービスBigQueryが大幅値下げと能力アップ

Google App EngineのユーザにIaaS的な自由度を与える新フレームワークManaged Virtual Machines

Googleに負けじとAmazonがS3, EC2, ElastiCache, Elastic MapReduce, RDSを大幅値下げ

クラウドサービス事業で大きく先行するAmazonに対してGoogleがいよいよ本気の戦いを挑み始めた。3月中旬にGoogle Drive、激値下げ―1TBが月額49.9ドルからなんと月額9.99ドルというクラウド・ストレージの価格破壊を行ったのにつづいて、クラウド・コンピューティングでも値下げ攻勢をかけてきた。

さらに、だれでも手軽にテラバイト級のビッグデータの分析ができるBigQueryやApp Engineの使い勝手を高めるバーチャル・マシンなど新たなサービスもリリースされた。当然Amazonも大幅値下げでこれに対抗した。ユーザーにとっては朗報だが、Google、Amazon以外のクラウド・サービス・ベンダーにとっては深刻な打撃だ。中小ベンダーからはそろそろ脱落者が出るかもしれない。

Microsoftが無料のiPad版Officeをリリース

Microsoft、iPad版Officeを発表―マルチプラットフォームに舵を切る

Microsoft、iPhone版とAndroid版のOfficeを無料に

iPad版Officeヒット中:米国チャートでWordが1位、Excelが3位、PowerPointが4位を占める

Microsoftはサトヤ・ナデラ新CEOが登場してiPad版Officeのお披露目イベントを開催した。ビューワとして利用するのは無料だが、編集機能を利用するには有料のクラウド版Office365を契約しなければならない。

これは単にOfficeでiPadが使えるようになったというだけではなく、ナデラCEOもはっきり述べたように、MicrosoftがWindows事業を絶対の聖域とせず、クラウド化とマルチプラットフォーム化に大きく舵を切ったことを意味する。巨艦の方向転換には少なくとも数年かかるだろうが、その影響は絶大だ。

日本でのiPad Offcieのサポートは今年後半になるもようだが、いち早く林信行氏が日本語環境をテストしている。「Office for iPad」がついに登場――林信行のファーストインプレッション〔ITMedia〕

AmazonテレビとAndroidテレビ

Amazon’s Set Top Box Will Be A Dongle Like Chromecast, Could Feature OnLive-Style Streaming(AmazonテレビはChromecastのようなドングルと判明:未訳)

Amazonが準備中の居間のテレビ向けゲーム/コンテンツ・ストリーミング用デバイスはどうやらChromecast式のドングルになるようだ。リンク先記事の写真はChromecastを加工したイメージで、実際のデザインや機能は不明。

Philips Introduces Android-Powered 4K TVs Coming Later This Year(PhilipsはAndroid内蔵の4Kテレビを年内発売へ:未訳)

一方、フィリップスは4KテレビにAndroidを搭載する。Google PlayストアのアプリやYouTube動画、その他Googleサービスが居間で楽しめる。4Kテレビの高精細度体験は圧倒的だが、コンテンツ不足が課題といわれていた。スマートフォンで馴染んだAndroidのUIを通じてインターネットから多様なコンテンツが得られるなら4Kテレビ普及のハードルは大きく下がるかもしれない。日本メーカーも4Kテレビ事業では大胆にインターネット対応を図る必要があるだろう。

Mt. Gox破綻の謎更に深まる

Mt.Goxから「取引展性攻撃」で盗まれたBitcoinは74万ユニット中たった386ユニットだった

謎また謎のMt. Gox破綻。ハッカーにサーバを乗っ取られて秘密鍵を盗まれた、部内者による横領、投機的自己勘定取引の失敗など諸説飛び交っている。

IgCrunch Japan賞は食べ物絞り出し3Dプリンタに

Foodini Is A 3D Printer That Lets You Print Dishes With Fresh Ingredients Foodiniは食べ物を絞り出す3Dプリンタ(未訳)

大真面目なバカバカしい研究にノーベル賞のパロディーのIgNobel賞が贈られるが、それにならって大真面目でばかばかしいテクノロジー・プロダクトに賞を出してもいいかもしれない。

第1回の候補はこのFoodini3Dプリンタ。何をするのかとおもいきや、フードプロセッサーでどろどろにに潰した食べ物を皿に絞り出すというしろもの。暇があればリンク先のビデオを見てお笑いいただきたい。Kickstarterで999ドルだという。元記事コメントで誰かが「絞り出し袋と口金買え!」と忠告していたが、こういう斜め上のプロジェクにまで人材が大勢集まるというのが驚き。

滑川海彦 Facebook Google+


Oculus買収の動機を探る―Facebookが買ったのは来るべきバーチャル世界だ

Facebookが拡張現実のハードウェア・メーカー、Oculus VRを買収するという意外な展開に驚きの声が上がっている。Oculusがこれほど早い時期に買収されたことに対する嫉妬の混じった反感から、Facebookがバーチャル・リアリティーを使っていったい何をするつもりなのかという不機嫌なコメントまで反応はさまざまだ。

しかし最初に確認しておかねばならないが、Facebookのニュースフィードがバーチャル空間に展開されるなどというのはあまりに近視眼的な考えだ。誰かがニュースフィードをOculusで表示する仕組みを作るかもしれないが、そんなことはFacebookのビジョンとは無関係だ。Facebookの最終目的はゲームへの利用ですらない。もちろんOculusをめぐる当初の動きはゲームが中心となるだろう。Oculusがゲームへの応用を考えないとしたらその方がおかしい。

しかし、いかに巨大な市場であるにせよ、ゲームは最終目的ではない。Oculus Riftを中心としたプラットフォームを作ろうとしているのだというのは正しいが、それでもビジョンの半分にすぎない。

Facebookが最初にスタートした当時、現在のコンピューティング環境はまだその片鱗すら見せていなかった。当時のFacebookのコンピューティング環境とはデスクトップ上のウェブ世界であり、Facebookはその世界でいかようにも自由に振る舞うことができた。

そこにモバイル化の波が押し寄せ、大混乱が始まった。当初Facebookは対応にもたついたものの、大慌てでiOS版、Android版の開発にとりかかり、数年でかなり良いものを作ることに成功した。しかしモバイル化の地殻変動に対応するにはスマートフォンやタブレット使いやすいアプリを作るだけでは十分ではないことが明らかとなってきた。この地殻変動を起こしているのはインターネットの巨人―Apple、Microsoft、Amazon、Google―であって、その中にはFacbookは入っていなかった。

Facebookがインターネットのメジャー・プレイヤーでありたいならば(マーク・ザッカーバーグはもちろんそう望んでいるだろう)、Facebookに欠けているのはユーザーに直接つながるチャンネルだった。

AppleにはiOS、GoogleにはAndroid、Amazonには独自にカスタマイズしたAndroidであるFireOS、MicrosoftにはWindowsPhoneがある。

だがFacebookには? 

世界最大のソーシャルネットワークであり、世界でもっとも価値のある会社の一つであるFacebookが、その10億人のユーザーと会話するために他人の支配するチャンネルを使わねばならない。

タッチ・インターフェイスをメインとするモバイル環境はすでに成熟段階を迎えているので、後発プレイヤーがまったく新たなOSを作って割り込む余地はほとんどない(Samsungのように巧みに抜け穴を通ってAndroidを改造する余地は残っているにせよ)。

Facebookはモバイル世界によく順応して、十分な利益を上げている。しかしOculusを20億ドルで買収した真の動機は、没入的ゲームでもなければ友だちとバーチャル空間でチャットできるようにすることでもない。

Facebookのビジョンは、ハードウェア、OS、インターフェイスを総合したFacebook独自の次世代チャンネルの確立にある。

多くの専門家が予測するとおり、拡張現実は次世代のマン・マシン・インターフェイスの中核となるだろう。そして今度はFacebookはそこから閉めだされることはない。Facebookはいわばこの世界への「早期特別入場券」を入手したことになる。バーチャル・リアリティー・コンピューティングの波が押し寄せたとき、Facebookはその先頭に立っていたいのだ。

私の推測では、Facebookはモバイル、デスクトップを含めてすべての既存OSと互換性のあるバーチャル・リアリティー・チャンネルを作り上げるつもりだろう。どの既存OSからでもFacebookのVR世界にアクセスできるようになれば、逆に既存OSの重要性は薄れる。

人々がデスクトップを使う時間よりモバイルを使う時間の方が多くなったことにわれわれは驚いているが、Facebookは人々が現実の現実で過ごす時間より拡張現実で過ごす時間の方が長くなる時代に備えている。

最新のOculus Riftヘッドセットはモバイル・デバイスで使われているのとほぼ同様のハードウェアに大型のバーチャル・ディスプレイを組み合わせている。これほど高機能のハードウェアがこれほど小型化、軽量化されるとはわずか10年前には想像すら不可能だった。ではネットワークに接続したVRディスプレイが10年後にどれほど進歩を遂げているか考えてみるとよい。またクラウド・コンピューティングの発達も目覚ましいものがある。これらが結びついたとき、インターネットのユーザー体験は根本的に変わるはずだ。

われわれが仕事、交友、余暇の大きな部分をバーチャル世界で過ごすようになったらどうなるだろう? そんな生活は想像できない、いや、まっぴらだと感じる人も多いだろう。しかしこれは空想ではない。大いに有り得る未来なのだ。もちろん数年で実現はしないだろう。何十年も続く変化かもしれない。しかしそういう長期的なビジョンこそGoogleにGlassを作らせ、不老不死を研究させているものだ。Oculus買収はザッカーバーグもそうした遠大なビジョンに賭けるリーダーの一人であることを示したといえるだろう。

コンピューティングの次の革命が、ヘッドセットをかけたり外したりすることによってバーチャル世界に自由に出入りすることを可能にするものであるなら、Facebookは安い買い物をしたことになる。

画像: Shutterstock graphic

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


スタートアップが陥るIKEA効果の罠―MVPセオリーに固執するのは危険だ

イラスト: Marius Ursache

〔編集部〕 Bill AuletはMITのMartin Trust起業家センターの責任者であり、MIT Sloan ビジネス・スクールの上級講師。最近の著書はDisciplined Entrepreneurship: 24 Steps to a Successful Startup〔規律ある起業家精神:スタートアップの成功への24のステップ〕。Twitterはこちら

何かを闇雲に作るだけではスタートアップは成功できない。「でも素早く作ることが肝心なんでしょう?」と私はよく質問される。

それはそのとおりだ。昔、大企業が古臭いウォーターフォール型開発に固執していた頃、起業家はできるだけ速く実際に動くプロダクトを作ってしまうという「実用最小限のプロダクト」(MVP=Minimum Viable Product)手法を編み出し、開発のスピードを画期的に加速した。プロダクトの機能を本当に必要な範囲だけに絞り込み、いち早く製品をリリースしてユーザーからのフィードバックを得て、すばやく改良を加えていくというモデルだ。

しかし今や振り子は反対側に振れ過ぎている。ユーザーが何を求めているかを調べる時間を取らずにひたすらプロダクトを素早く作ることだけを考える傾向が見られる。そうした闇雲な開発の結果、プロダクトは方向性を失い、スタートアップは「IKEA効果」として知られる陥穽に落ち込むことになる。

IKEA効果は「人は自分で作ったものに本来以上の価値を与えてしまう」現象でMichael Norton、Daniel Mochon、Dan Arielyによって発見された。この3人は折り紙の愛好家を対象に実験を行った。愛好家に専門家が作った作品と自分たちの作品を評価させたところ、客観的に見て専門家の作品n方がはるかに質が高いにもかかわらず、愛好家は自分の作品の方を高く評価する傾向が見られた。IKEA効果という名前はもちろん誰でも知っているスウェーデンの組み立て式家具のメーカーにちなんでいいる。つまりわれわれは何かを自分で作るや否や、評価モードから擁護者モードに入ってしい、客観的な基準に基づく判断ができなくなる傾向がある。

われわれは何かを自分で作るや否や、評価モードから擁護者モードに入ってしい、客観的な基準に基づく判断ができなくなる傾向がある。

最近の私の教え子のチーム(次に述べるような事情から特に名を秘す)は、自分で開発したテクノロジーに心底夢中になってしまった。彼らはコンピュータ・インタフェースの改良に重要な貢献をなし得る画期的テクノロジーを開発した。デモを行うたびに強い関心が寄せられた。彼らは有頂天になり、デモの際に寄せられた要望にもとづいて新機能を追加していった。印象的なデモにより、このチームはビジネスプランのコンペと投資家から資金を得た。ところが結果的にこれが最悪の結果を招く原因になった。

カンファレンスでデモを見る人々、ビジネスプラン・コンペの審査員、ベンチャーキャピタリストは誰一人プロダクトに自分で金を払うユーザーではない。開発チームがMVP〔最小限実用的なプロダクト〕と称したものは、単に見栄えのするコンセプト・モデルだった。彼らは「仮説を実証している」と称したが、テクノロジー上のあるコンセプトが実現可能であることを示しているに過ぎなかった。そのうちに彼らは「ピボットした」。つまり有効なビジネス・プランを生み出せないままに金が尽き始めたのだ。結局彼らは現実的な成果を何も生み出すことができなかった。

なぜ彼らは貴重な時間と資源を無駄遣いする羽目に陥ったのか? それは自分たちで開発したためにそのテクノロジーに強過ぎる愛着を持ってしまったからだ。「きみたちはそのテクノロジーに金を払うユーザーを見つけるのに失敗している。ユーザーと会話して本当のニーズを調べなおすべきだ」と忠告しても聞く耳もたなかっただろう。彼らはまさにIKEA効果の犠牲者になっていた。

別の教え子チーム、FINsixはこれと別の道を行った。同社は従来のサイズの4分の1の超小型ノートパソコン用電源アダプターを開発し、先月CESで各種の賞を獲得し各方面から注目の的になっている

しかし彼らが私のクラスに入ってきたときに持っていたのは実験室で有望そうなテクノロジー・コンセプトに過ぎなかった。なるほどハードウェア・ギークには興味深いテクノロジーだった。従来のAC/DCコンバータより1000倍高速なVHF帯スイッチングを利用することによってサイズを10分の1にできる。また磁芯のような重い部品を使わずにすむ。物理的な衝撃、振動にも強い。

しかしながら、こういうテクノロジー上の特長は、一般消費者が金を払う動機にはならない。FINsixは賢明にもこの点を認識していた。そこでプロダクトの開発に突進する前に消費者のニーズを慎重に調査した。

「われわれは電子パンフレットを作って(VHFスイッチング)コンセプトに対する反応をさまざまな市場から収集した。広汎な調査の結果、われわれの新しい電源がもっとも受け入れられやすいのはノートパソコンの分野だと判明した」と共同ファウンダー、CEOのVanessa Greenは言う。パンフレット、というところに注目していただきたい。

実際に開発されたMVPに比べて電子パンフレットはIKEA効果を起こす危険性が格段に少ない。FINsixチームはスマートフォンからLED照明までさまざまな市場の可能性を探り、最終的にノートパソコンの電源がもっとも売れそうだと結論した。最初のプロダクトが売上をもたらせば会社を持続させ、さらに新しいプロダクトを開発することが可能になる。

自分が開発したプロトタイプに惚れ込んでしまって、それを誰も欲しがっていないことに気づかなければ、本当にユーザーが必要としている正しいプロダクトを開発するのは不可能だ。

優れたプロダクトを作るにはそれに見合った適切なユーザーグループの存在が不可欠だ。ところが自分が開発したプロトタイプに惚れ込んでしまって、それを誰も欲しがっていないことに気づかなければ、本当にユーザーが必要としている正しいプロダクトを開発するのは不可能だ。

「資金が尽きる前にテクノロジーに惚れ込んだ大企業に買収される」というのがスタートアップ設立の目的なら別だが、そうでなければテクノロジーに執着してプロダクトを作るのをひとまず措いて、ユーザーと虚心坦懐に会話して本当のニーズを探らなければならない。それはギークにとって開発に没頭するより面白くない経験かもしれないが、買収されるという運任せのルーレットに一喜一憂するよりずっと健全な方向だ。優れたテクノロジーと優れたマーケティングを基礎としなければ優れたプロダクトを作ることはできない。われわれはこれを「規律ある起業」と呼んでいる。テクノロジーとマーケティングを二律背反的に考えるのは近視眼的な誤りだ。

私の考えは東海岸の保守的な起業家精神を代表しているのだというように考える読者もいるかもしれない。しかし先週サンフランシスコを訪問して、T3 AdvisorsDavid BergeronRapt StudioのCory Sistrunk、Ed Hallらと話したところ、ぴったり意見が一致した。「行き過ぎたMVPメンタリティは、プロダクト・デザインにおいてもっとも重要jなユーザー中心主義を忘れさせる危険性がある。起業家は『どのように』開発する、『何を』開発するかを考える前に「なぜ」開発するかをを考えることが大切だ」と彼らは語った。

さらに言えば、起業家はMVPに執着するのを止めて、まず第一に「誰のために」開発するのかをを明確にさせることが大切だ。

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


アメリカ人の76%がインターネットを「社会にとって有益な存在」と評価(Pewレポート)

アメリカ人の多く(87%)が、いまやインターネットを利用している。また、半数の人(46%)が、インターネットなしではやっていけないと回答している。さらにかなりの多数派(76%)が、インターネットを人類に益するものだと評価している。これらのデータは、Tim Berners-LeeのWorld Wide Webに関する歴史的文書が登場して25周年になるのを記念して、Pewがインターネットに関する庶民感情をまとめてリリースしたレポートから引いたものだ。

昨今ではプライバシーや、個人情報に基づく広告広報活動などに疑問の目が向けられることも多く、また実質をともなわない「友人」関係が広がっていく可能性があるという危惧もある中、アメリカに住まう人々は「インフォメーション・スーパーハイウェイ」に対して一貫して好意的であるようだ。

面白そうなデータを、以下にグラフや表の形で転載しておいた。

20年間のインターネットライフ

この20年間で、Internetというものが「マイナーな趣味」から「日常」のものへと変化した(1995年には14%しか利用していなかったが、2014年には87%が利用している)。

Internetの利用状況について、いまや民族ないし性別による差異はないようだ。しかし世代ないし社会階級による差は存在する。年間の収入が3万ドルに満たない人の間では、インターネットを利用しているのは65%に過ぎない。一方で5万ドル以上の収入がある人は、ほぼすべての人がインターネットを活用している。

スマートフォンについてみると、この3年間で大いに普及したといえる(35%から58%に伸びている)。但し、比較的高価であるこのデバイスが、アメリカ人を2つのグループに分けているような面もみられる。とくに年齢による差異は明白で、65歳以上のグループでスマートフォンを所有しているのは、わずか19%に留まっている。

インターネットへの想い

アメリカ人のほとんどが、インターネットに対してかなり好意的であるようだ。90%の人がインターネットを社会にとってなくてはならないものと評価している。一方で無用の存在であるとするのは6%に過ぎない。

やめられないものについての調査で、「インターネット」と「テレビ」の比較が世相をうつしているようにも思える。2006年あたりからのウェブの発展をうけて、ついにインターネットがテレビを優位に上回る結果が出た(53%対34%)。

最後に。ソーシャルメディアが、人との関係強化に役立つのかどうかについてはさまざまな意見があるところだ。しかし回答者の67%が、インターネットは友人や家族との関係強化に役立っていると考えているようだ。

Pewのレポートはこちらから全文を読むことができる。

Image by neatoshop

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(翻訳:Maeda, H


Keen On:今やイノベーションの破壊力は悪夢のレベル―話題の新刊Big Bang Disruptionの著者インタビュー

〔日本版:現在このビデオの表示が不調のため、ビデオは原文でご覧ください〕

2年ほど前に私はハーバード・ビジネス・スクールの教授、クレイトン・クリステンセンをこの番組に迎えてかの有名なイノベーションのジレンマについてインタビューした。「イノベーターは自らのイノベーションの虜となって次のイノベーションに遅れる」というのがクリステンセンの理論だが、今度はその理論自身がAccentureのシニア・フェローLarry Downesとリサーチ責任者のPaul Nunesの新著Big Bang Disruption: Strategy in an Age of Devastating Innovation〔ビッグバン・ディスラプション:破壊的イノベーション時代の戦略〕によって破壊されることになったようだ。

Downesによれば、「イノベーションのジレンマは今やイノベーションの悪夢にとって代わられた」という。現在の新しいテクノロジー・プロダクトは最初から完成度が高く、古いプロダクトより機能が圧倒的に優れている上に価格もはるかに安い。そのためレガシー・プロダクトは文字通り一夜にして葬り去られてしまう。スタートアップはあっという間に成熟企業になり、起業家は急速な成功を目指すだけでは足りず、次のイノベーションの波に飲み込まれないうちに買収先を探すなどの出口戦略を考えねばならない(Snapchatは戦略を誤ったかもしれない)というのがDonwsの主張だ。

革命が連続する今日のテクノロジー市場を考えれば、既存の大企業がイノベーションを持続させるためには社内での開発より成功の兆候が見え始めたスタートアップを素早く買収する方が賢明だという。おそらくDownesは最近Googleが人工知能のDeepMindやロボティクスのBoston Dynamics、モノのインターネットのNestなどを矢継ぎ早にに買収したことを評価しているだろう。AppleがTeslaを買収することもデイスラプトのリーダーの地位を守る上で有効だと考えているかもしれない。

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


Y Combinatorに価値はあったか?

編集部注: Jarrett StreebinはY Combinatorの卒業生で、サンフランシスコ拠点の簡易配送APIのスタートアップ、EasyPostのCEO。Twitterアカウントは@jstreebin

Y Combinatorでの経験について質問された時、ほぼ間違いなく聞かれるのが「それだけの価値はあるのか?」だ。この種のプログラムの複雑さを考えれば、この質問に簡潔に答えることは難しい。Y Combinatorでは、多くの友達を作り、経験豊かな起業家に学び、投資家に売り込み、さらには価値あるアーリー・アタプターの登録まで受け付けることができた。

これらの利益の多くは定量化することが難しい。しかし、一つ数値化できるものとして資金調達がある。われわれは資金調達に関するデータを設立当初から集めてきており、幸いY Combinator入学の前にも後にも投資家たちの興味を引くことができた。われわれは、果たしてY Combinatorの価値を定量化できるかどうか、最近のデータを見直してみた。

資金調達の中間段階で、われわれは成功(銀行への入金)を示す唯一最大の指標は、われわれが投資家を紹介されたか(インバウンド)、あるいはわれわれが投資家に売り込んだか(アウトバウンド)の違いであることに気がついた。これを踏まえて、それぞれの投資家をインバウンドとアウトバウンドに分類した。

また、Y Combinatorの価値を測る目的から、投資家を2つのグループに分けた。われわれがY Combinatorへに受け入れられたことを知る前と後だ。前者をプレYC、後者をポストYCと呼ぶ。これは、ラウンドや条件に関する分類ではなく、われわれがY Combinatorに入る前か後かだけによる。

当社はこれまでに、以下の投資家から計300万ドルの資金を調達した。SV Angel, CrunchFund*, Mesa+, Kevin Barenblat, Lars Kamp, Rahul Vohra, Ullas Naik, Shawn Bercuson, Initialized Capital (Garry Tan, Harj Taggar, and Alexis Ohanian), Sherpalo Ventures (Ram Shriram), Alex Polvi, Google Ventures, Charlie Cheever, Mike McCauley, David and Ryan Petersen, Jenny Haeg, Jody Glidden, Dalton Caldwell, Funders Club, Adrian Aoun, Fritz Lanman and Hank Vigil, Charlie Songhurst, Bill Lee, David Sacks, RightVentures, Capricorn, A Grade, Matthew Cowan, Sean Byrnes, Founders Fund, Valor Capital, Greg Kidd, Jeffrey Schox、他。

ここにはYCおよひYCVC(General CatalystMaverickSequoia、およびStart Fundそれぞれから2万ドル)は含めていない。

YCに「受入れられる」ことは、YCからの出資が確定したのと同義なので、Y Combinatorに存在していることは、Y Combinatorが投資するかどうかに影響を与えない。

われわれは、投資候補者と計121回の電話またはミーティングを持ち、うち43社から小切手を受取った。これは、電話・ミーティング1回当たり平均2万5041.32ドルに相当する。

先に示したように、最も重要な違いは、投資家がインバウンドかアウトバウンドかである。改めて書くと、ここでインバウンドというのは、投資家が直接われわれに接触したり紹介を依頼した場合、あるいはわれわれのネットワークの誰かが、こちらに相談することなくその投資家を紹介した場合を言う。それ以外のすべて(こちらから投資家を紹介してもらう、あるいは接触する)は、アウトバウンドと考える。われわれは、これがいかに決定的に重要な要素であるかを資金調達の過程で気付き、それに適応して行動した。以下に2つのラウンドの詳細を示すことによってそれを説明する。

われわれの投資家全員が ― 43社一つ残らず ― 、彼らからわれわれに接触した、あるいは彼らのネットワークを通じて紹介を依頼した。もし友人に依頼して紹介してもらったとしても、単なるアウトバウンドの売り込みと同じように物事が運ぶだけだった。われわれが気付いたのは、誰かに紹介を依頼した場合、その紹介役は自発的にそうしのとは異なる行動をすることだった。もし、あなたのことをとっておきのスタートアップだと思っていれば、とっくに紹介していただろう。あなたは友人との関係だけでなく、その友人と投資家との関係も損うことになる。なぜなら投資が成立する見込みはないのだから(そして、とっておきを紹介した時ほど興味を持たれることもない)。われわれの体験によれば、唯一価値のある紹介は、いかなる依頼にもよらないものだ。それ以外はすべて、著しい時間の無駄である。

これに関して最後に強調したいのは、ほぼあらゆるVCが、ほぼあらゆる起業家とミーティングをするということだ。なぜか? 起業家と会うことが彼らの仕事だからだ。もうひとつの理由打、もし彼らが金曜日の午前11時にサンフランシスコでスケジュールを設定すれば、彼らは、a) サンドヒルに向かわずにすむ、b) タホ湖のリゾートで週末を過ごすのに丁度よい時間に着ける、のいずれかがだからだ。それ以上の何かを期待しないよう注意が必要だ。自分のアイデアも会社も軌道に乗っていないのに、あなたは貴重な時間を可能性のない資金源を追いかけることに費し、最も投資家を魅するための仕事 ― 価値ある会社を作ること ― を放棄している。

ミーティングから契約完了あるいは銀行への入金までの時間は追跡していないが、それは殆ど差がないからだ。約束して書類に署名したほぼ全員が、2週間以内に送金してくれた。そうでない場合は、コンプライアンスその他の手続きのためであることなどを知らせてくれた(大規模ファンドの場合)。

また、最初の接触から同意に至るまでの時間は、90%が2週間以内だった。決断まで、あるいは他の投資家の参加を待ったケースが10%ほどあったが、それは片手で数えられるほどの数であり、プレ/ポストYCで差はなかった。

プレY Combinator

最初のシードラウンドは、SV Angelから2012年9月にメールが送られてきた時に始まり、それはわれわれにとって最初の資金調達交渉だった。そしてY Combinatorに受け入れられた2013年4月28日に完了した。

SV Angelからは非常に初期段階から話を進め、その後別の何社かが加わったが、投資家8社から計53万ドルを調達するまでの期間は6ヵ月半だった。もし、3番目の投資家であるMesa+までで止めていれば、3ヵ月で45万ドルになっていただろうが、大した違いではない。

ポストY Combinator

2度目の調達ラウンドは、2013年4月28日にわれわれが正式にY Combinatorに受け入れられた日に始まった。そこで手早く25万ドルを調達した後、YC在学中は投資家との交渉をすべて中断し、デモデー数日前に交渉再開した。Y Combinator開催中は一切資金調達しなかったので、期間は約1月半しかにかった。おわかりの通り、Y Combinatorに受け入れられてからの方がずっと資金調達は簡単だった。

Y Combinatorの価値とは?

資金調達に関して、Y Combinatorの効果ははかり知れない。われわれの場合、Y Combinatorは、4倍以上の資金を1/4の時間で調達できることを意味している。より多くの投資家を呼びよせ、より高い確率で投資を受けることができる ― ミーティングにかける時間を減らし、EasyPostを立ち上げるための時間が増えた。

これは、もしY Combinatorに入れなければ運が尽きたことを意味するのか? もちろん違う。43社の投資家から300万ドルを調達する過程で、われわれは自分たちに有利にことを進める方法を数多く学んだ。そしてその多くはY Combinator入学以前に学んでいたため、YCの効果を劇的に高めることができた。

*CrunchFundは、TechCrunchファウンダーのMichael Arringtonが所有している。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


愛する任天堂への私の贈り物―ヒトリデハキケンジャ コレヲ サズケヨウ

「だからそう言っただろう」とは言いたくないが…

私が正しかったのはうれしいが、任天堂のためには悲しむべきことだ。私は任天堂が本当に好きだ。任天堂を愛している。それだけにこの現状を見るのが辛い。

そこで私なりのアドバイスをしたい。多くの識者は「スマートフォン対応を急げ」と言っているようだが、私の処方箋は違う。一部は前回述べたことの繰り返しになるが、読者からも支持が多かったので、ここでさらに敷衍してみたい。なぜなら私は任天堂の復活を心から願っているからだ。

現在任天堂が早急に必要としているのは新たなゲーム機だ。Wii Uのサポートは続けなければならないだろうが、ここで失敗は失敗として認め、新システムの開発に全力を集中しなければならない。

その内容はレトロな任天堂ゲームがプレイできる99ドルの新しい専用マシンだ。マリオ、ゼルダ、イカルス、ドンキーコング、ポケモン等々。任天堂にはまちがいなく数を売れる無数のヒットタイトルがある。相当の期間にわたって次々にリリースしていくことができるだけの蓄積がある。販売チャンネルは店売りではなくオンラインのみとする。

新ゲーム機用のゲームは物理的メディアでは販売しない。カートリッジなし、光学ドライブなし。ハードディスクとオンラインストアのみだ。ゲームの価格はタイトルの人気度によって5ドルから15ドル程度とする。ローンチ後数ヶ月で数百、1年後には千本くらいのタイトルをリリースできるはずだ。これはゲーム業界を震撼させるだろう。

ここまでが第一段階。

第二段階では古い人気ゲームタイトルを新しいハードウェアに合わせてアップデートする。グラフィックスを高精細度にし、ゲーム内に新しいレベルを追加する。新バージョンのマリオ、ゼルダ、イカルス、ドンキーコング、ポケモンを登場させる。新バージョンは1タイトルあたり15ドルから25ドルとする。これでまたライバルは震撼する。

ここで第三段階に入る。

他のクラシック・ゲームのメーカーと提携するのだ。つまりAtariやSegaなどとライセンス契約を結んで新ゲーム機で発売する。任天堂の旧タイトルと同様、グラフィックスをバージョンアップし、新しいレベルを追加する。こちらも15ドルから25ドルとしてオンラインストアで売る。金が奔流のように流れ込んでくる。

誰が考えてもこういうゲーム機が売れないわけがない。99ドルならライバルはすべて消し飛ぶだろう。

Wiiもバーチャル・コンソールで多少これに似たことをしているが、十分ではない。遅すぎるし、操作が直感的でない。しかもWiiという石臼に縛りつけられている。旧タイトルこそ主役でなければならない。

任天堂の圧倒的な強みはノスタルジアにある。任天堂はその強みを活かすべきであり、ソニーやMicrosoftとの競争に入り込むべきではない。私がここで提案しているような戦略はもちろんライバルも真似ができる。ただしライバルには任天堂の知的財産がない。

ライバルを棒立ちにさせたところで、最後のアッパーカットを食わせる。

任天堂は新ゲーム機のSDKを全デベロッパーに公開する。大手ゲームスタジオだけでなく、インディーのデベロッパーにも公開するというのが重要な点だ。そして大メーカーもインディーも公平に取り扱う。料金は1タイトルあたり5ドルから25ドル。任天堂は一律30%のコミッションを徴収し、デベロッパーが70%を得る。

と、ここまで書いてきて私は少しバカバカしくなってきた。もちろん、もちろん、これは任天堂にとって最良の戦略である。しかし任天堂はこの戦略を採用しないだろう。その代わりに最低のスマートフォンマーケティングアプリやらフィットネスなんとかにキャラをライセンスするといった方向に迷い込むだろう。なぜ彼らは正しい戦略が見えないのだろう?

困ったことに、誇りが高過ぎるのだ。任天堂はスマートフォンゲームのメーカーになりたがっている。それはそれでなんとかなるかもしれない。しかしその場合には以前の任天堂ではない。Atari、Segaなどと同様、往年の姿の抜け殻になって終わるだろう。

99ドルの任天堂ボックスはゲーム機が軒並み500ドルもする世界で間違いなく圧勝できる。最近のiOSゲームを見てもわかるようにARMチップはゲームに十分使えるようになった。あと任天堂に必要なのは本当に使い勝手のいいコントローラーの開発だが、任天堂にはそれをする能力が十分あるはずだ。

新しい任天堂ボックスが成功したら同じゲームをモバイルでプレイできるデバイスを投入すればよい。iPhoneもAndroidも気にすることはない。任天堂が自分の強みを活かせば十分に我が道を行ける。

そしてそこが鍵だ。任天堂はソニーでもMicrosoftでもAppleでもGoogleでもない。任天堂はゲーム会社であり、業界で最良、最大のゲーム資産を持っている。任天堂は軍拡競争に敗れつつあるが、それはそもそもそんな競争に参加したのが間違いなのだ。

そろそろ別の道を選ぶべき時だ。他の会社なら弱みとなるところを任天堂なら強みに変えることができる。新しい任天堂ボックスは起死回生の一手となりうる。

任天堂よ、ヒトリデハキケンジャ コレヲ サズケヨウ!

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


CrunchBaseデータで見る成功したスタートアップの動向(資金調達額とイグジット額の比較)

(本稿執筆はMark Lennon)

CrunchBaseにも、イグジット関連のデータが蓄積されてきた。成功を収めたスタートアップのデータを詳細に分析して、ベンチャー投資との関連などについて分析してみよう。

まず、アメリカ国内の成功したスタートアップについて見ると、平均で4100万ドルの資金を調達していて、そして2億4290万ドルでのイグジットを果たしている。また、より大きな資金規模でのイグジットを果たした企業は、より多くの資金を調達しているという相関を確認することもできる。ただしファンディングを行う期間の長短により、買収ないし公開というイグジットに繋がるかどうかを示す関連性は認められなかった。

買収と公開という2種類のイグジットで比較してみよう。成功裏に買収された米国スタートアップは、平均で2940万ドルの資金を調達して、1億5550万ドルで売却している。投資家側の利益は7.5倍になるという計算だ(もちろんこれは投資家が全てを所有しているとした場合の計算で、現実的にはあり得ない話だ)。IPOを果たしたスタートアップについては、はるかに多くの資金を受け入れている。しかしそれにともなって多くのベンチャーファンドからの資金を受け入れるようにもなり、リターンについてみれば希釈化の問題もあって一概にはいうことが出来ない。

取り敢えずIPO達成したスタートアップの平均値を出してみれば、調達資金は1億6200万ドルとなっている。最近の大規模IPOもあって、公開時の平均は4億6790万ドルになる。単純に計算すれば、投資家のリターンは2.9倍ということになる(もちろんIPO時点ですべての株式を売却するような投資家はいない)。

今回の分析は、2007年以降、イグジットを果たしかつ投資を受け入れたスタートアップを対象としたものだ。但し、他のデータベースでもそうなのだが、スタートアップとベンチャー投資の関係を示すデータは不十分ないし不正確である場合があることも念頭においておいていただきたい。CrunchBaseは、スタートアップのデータを蒐集する最大級の無料データベースではあるが、それでもやはり不正確な面はあるだろう。

データを見ると、Facebookが最高額となる23億ドルという資金をIPO前に受け入れていて、そして株式公開により、こちらも最高額である約184億ドルを調達している。Twitterの方もIPOにより18億ドルを調達しているが、IPO前の調達額も12億ドルという具合になっている。下の図のサークルにマウスを合わせると、それぞれ詳細なデータが表示さえっるようになっている。

ところで、企業の操業年数というのはイグジットの成否に直接の関係はないようだ。買収された企業の平均操業期間は7年間であり、またIPOを果たした企業はだいたい8.25年ということになっている。繰り返すが、平均がその辺りにあるというだけで、どのくらいの期間でイグジットするのが平均的なのかというトレンドは見えていない。

出資企業がイグジットした件数をベンチャー投資家側から見てみよう。するとSV Angelが首位に立つようだ。他にもSequoia CapitalIntel CapitalAccel Partners、あるいはBenchmarkなどの名前が上がってくる。

CB Insights Venture Capitalの公開しているData Comparisonとも比較してみた。下の表には掲載されていないが、Q3およびQ4期間において、CrunchBaseには255件のイグジットデータが追加されている。毎日のように新しいデータが登録されているのだ。

スタートアップと投資家の関係や、上に述べたような動向が続いているのかそれとも変化の兆しがあるのか。ぜひCrunchBaseのデータを活用して、自分でも確認してみてほしい。2013年11月までのデータはこちらからダウンロードできる。新たな発見があれば、ぜひ教えて頂きたい。

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(翻訳:Maeda, H


「コーディング教育など無用だ」。そう主張する人に伝えたいこと

久しぶりに、オバマ大統領が2つの話題でTwitterを賑わした。ひとつはもちろん追悼式典会場における自分撮り記念写真の可否問題で、もうひとつは「皆にコーディングを学んで欲しい」という発言だ。

Computer Science Education Week関連イベントの一貫として、オバマ大統領は「アメリカ人全員にコーディングを学んで欲しい」旨を訴えかけるビデオを投稿した。

「コンピューター関連のスキルを身に付けることは、皆さん自身の未来に係るだけではないのです。アメリカという国にとっても非常に重要なことなのです」と大統領は言う。「アメリカが最先端の国家であり続けるために、皆さんのような若いアメリカ人に、これから大きく変化していくコンピューター関連ツールおよび技術をきちんとマスターしてもらう必要があるのです」とのことだ。

前にもこういう話は出た。ニューヨーク市の市長であるマイケル・ブルームバーグが、2012年の抱負としてCodecademyを使ってコーディングを学ぶことにしたとツイートしたときだ。これはかなりの反論を招いた。

たとえば「コーディングの知識を持つことと、配管の知識を持つことの意味に大差はない」とDiscourseの共同ファウンダー兼CTOのJeff Atwoodは意見を表明し、標準的な教育シーンでは、少なくともコーディングと同程度くらいにはコミュニケーションスキルの学習が重要なはずだと述べている。コンピューティングの時代だからコーディングを学べという風潮に対し、多くの人がエンジンの作り方を知らなくても車は運転できると反論した。

今回も、たとえばSlateのMatthew Yglesiasは、アメリカには読み書きのできない人もまだ多くいて、コードリテラシーを高める云々よりも、本当のリテラシーを高める努力の方が必要なのだと主張している。

いろいろな意見があるが、しかし個人的には、やはりできるだけ多くの人がコードリテラシーを身につけるべきだと考えている。起きている時間のほとんどの時間を蛇口の前で過ごし、議会が将来的な蛇口の多様性に関する法案を熱心に審議しているような世の中なのであれば、確かに配管の知識を学ぶことが重要になるだろう。車の例で言うのなら、Program or be Programmedの著者であるDouglas Rushkoffの意見に与する。曰くコーディングのことを全く知らないというのは、車を運転できないということを意味するのではなく、目隠し運転をするようなものだとのこと。エンジンの組み立て方を知らなくても運転はできるという人がいるが、しかしエンジンの物理的な仕組みや内燃機関の動き方については、ほぼ全ての人が学ぶようになっている。車の世界とテックの世界を比較して言うのなら、確かに多くの人にとってFacebookを独力で構築するようなコーディングスキルをマスターする必要はないだろう。しかしどのように作られているのかといった知識程度はなるべく多くの人が知っておくべきことであると思う。

もちろん、プログラミング教育によって、読み書きや算数など、他の教科学習を犠牲にすべきだなどとは考えていない。そもそも他の教科学習を犠牲にする必要など全くないのだ。コーディング関係の知識というのは、他の教科学習と平行して身に付けることができるものなのだ。

たとえば算数や数学がコンピュータープログラミングと親和性の高いものであることは、誰もが認めるところだと思う。たとえばStephen Wolframの弟であるConrad Wolframは、算数・数学教育に、もっとコンピューターを持ち込むべきであると強硬に主張している。自ら運営するComputerbasedmath.orgでは、繰り返し学習で手順を暗記するようなことはやめて、計算はコンピューターにまかせて、手順の背後にある概念に思いを巡らせることをもって算数・数学教育とすべきなのだとしている。

「なぜコンピューターがはるかにうまく行えること(計算)ばかりを生徒にやらせるのでしょう。現在はまだコンピューターにまかせることのできない創造的思考や分析、問題解決のための方法などを学ぶようにすべきなのではないでしょうか」とブログでも書いている。またエストニア政府に協力して、同国の統計確率についての教育カリキュラムを新規に策定することになっているのだそうだ。この分野をコンピューターなしで行うのは馬鹿げたことだとも言っている。但し、話をこういう国家規模の話にもっていく必要もない。算数や数学の授業に、ちょっとしたプログラミングを伴う演習を入れるのははるかに簡単に行うことができる。

アメリカの高校教育で選択科目として人気なのは経済学だが、プログラミング講座の開講を真剣に検討すべきだろう。またプログラミングは他の科目との連携して学習することもできる。カレッジレベルの生物学や物理学を学ぶのに、プログラミングを通じて行おうとする本はいくつも出ているし、そうした内容を高校レベルに導入することもさほど難しくないはずだ。

もちろん算数/数学や理科といったいわゆる理系関連科目のみが、プログラミング技術との親和性を示すものではない。たとえば音楽理論の習得にSuperColliderPureDataを使っているところもある。音楽理論自体の学習も楽しくインタラクティブに行うことができ、同時にプログラミングについても学ぶことができるのだ。またNew York UniversityのAdam Parrishはプログラミングを通じた創造的文章講座を開設している。学生にPythonの基礎を教え、Twitter APIを使ってコンピューターに現代詩を生成させるといったことを行っているのだ。

さまざまな教科は、コンピューター科学などと融合させることで一層面白く学べるようになる。プログラミング、電子工学、数学、物理、そして音楽を教え、最終的にArduinoを使ったシンセサイザーを制作するコースなどといったものも面白そうではなかろうか。

学生たちに、学んで何かを実現する楽しみを教えるという意味もある。たとえばあるブログに「People Feel Dumb: That’s Why They Don’t Code」(プログラミングは頭の良い人にしかできないのだと諦める人々)というタイトルの記事があった。これは面白い論考で、確かに自分はもっと優秀になれるのだと考えている生徒こそが良い成績を残すという調査結果もある。自分は愚かだと考える生徒が、どんどん落ちこぼれていくことになるという話だ。これは個人的にもよくわかる話だ。作文や絵画など、創造性を問うような授業にて、自己否定してしまえばまったく良い成果を残せなくなってしまうのだ。

「ぼくには無理」とか「才能がないんだ」という諦めの気持ちを持たせないためには、なるべくはやい段階での成功体験を与えることもひとつの方法だ。プログラミングなどという、難しいものと考えられがちのことが「できる」喜びを伝え、音楽を作ることが出来ると体験させ、算数が楽しいものであることを経験させる。こうした体験は、その後の教育成果に繋がっていくはずだ。

すべてがうまくいきそうなスキームに思えるが、最も困難な問題は教師側にあるだろう。エストニアは昨年、小学校段階からコンピューター科学を教えていくことを決めた。このためにまず行っているのは、やはり教師側のトレーニングだ。アメリカにおいても、こうしたことを念頭において前に進んでいくべきだろうと思う。

Photo by Michael Himbeault

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(翻訳:Maeda, H


新刊「Apple対Google戦争」の著者に聞く―2500億ドル市場をめぐる死闘の記録

ノンフィクション作家のFred Vogelsteinによれば、シリコンバレーの2超大国、GoogleとAppleは2500億ドルに上るコンテンツ市場の支配権を巡って戦争状態にある。

新刊Dogfight: How Apple and Google Went to War and Started a Revolution〔ドッグファイト―AppleとGoogleはどのように戦争を始め、革命を起こしつつあるのか〕で、VogelsteinはAndroidとiOSをめぐる巨人の戦いは将来われわれがデジタル・コンテンツを消費するプラットフォームを決定するものになるという。

過去のApple対Microsoft戦争はパーソナル・コンピューティングの支配権をめぐる競争だったが、その教訓から学ぶなら、この種の戦いは「勝者総取り」となる可能性が高い。そしておそらくどちらかが決定的な勝利を収めることになるだろうというのがVoglesteinの予測だ。

「この戦争はテクノロジー産業全体に巨大な影響を与える。もし戦いが拡大して収拾がつかなくなるようなら政府の介入もあり得る。Googleが勝利してコンテンツ配信においても現在の検索と同レベルの独占を打ち立てるようであれば、反トラスト法適用の機運が高まるだろう」という。

〔日本版〕ただしこの後、Vogelsteinは「反トラスト法の運用は法律的というより高度に経済的、政治的な課題であり、有権者の支持がなければ政権は大掛かりな訴訟には踏み切れない。一般市民の間でGoogleの人気が高ければアグレッシブな反トラスト法の運用は難しくなる」と注意した。

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


果たして「ソーシャル・ネットワーク」が生まれたのはいつか? 2000年前だと主張する人もあり

ソーシャルメディアはいつからあるのだろうか。2004年2月、すなわちFacebookの誕生を歴史の始まりとするのが妥当だろうか。あるいは2002年のFriendster設立まで遡って考えるべきだろうか。あるいは、デジタル世界では創世記なみの昔になるのかもしれないが、1997年にまで時計の針を戻すのが適切だと考える人もいるかもしれない。すなわちReid HoffmanがSocialNetというサイトを開設した年だ。

しかし、こうした意見と全く異なる見解をもつ人もいる。ソーシャルメディアはFacebookやFriendsterなどよりはるか昔から存在すると主張する。10年や20年前というレベルではなく、実は誕生してから2,000年にもなると主張している人物がいるのだ。その人とはEconomistの編集者であるTom Standageだ。新たにWriting In The Wall: Social Media – The First 2,000 Yearsを出版し、ソーシャルメディアというものは形こそ違えどもローマ時代からあったのだという説を展開している。この150年ほどは、メディアが産業資本によるトップダウン方式のものばかりの時代となってしまい、これこそが異常事態だったのだとStandageは述べる。ソーシャルメディアは「先史時代からずっと、自分にもっとも関係のあるニュース、あるいはオピニオンやゴシップなどを伝え続けてきたのです」とのことだ。そうした観点から、TwitterやFacebookなどが時間の無駄とか、単純な娯楽であるというわけがなく、当然に人類のために必要な存在であるのだと主張している。

Standageは人類の歴史を背景に、ソーシャルメディアは新しい存在ではないと主張している。もちろん、規模が世界全体に広がり、即時性を持ち、そして検索可能になっているという面に新しさがあることは認めている。しかしローマ時代のパピルスで広まった社会知や、あるいは手書きながら広く社会に流布した宗教改革パンフレットなどを考えると、ソーシャルメディアの考え方は1997年などよりも遥かに遡るものだとしている。Standageは皮肉を込めて「ソーシャルメディアを全く新しいものであると考える人がいることこそ驚きだ」と述べている。

Standage流のソーシャルネットワーク論に興味のある人は、ぜひWriting In The Wall: Social Media – The First 2,000 Yearsを手にとって見ると良いだろう。ソーシャルメディアの功罪などを言うには、こうした歴史的な視点も必須だとの論理を展開している。

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(翻訳:Maeda, H


Twitterの歩みを記した『Hatching Twitter』、ハリウッドの注目も浴びつつ上場直前に販売開始

Twitterの誕生からこれまでを記した『Hatching Twitter: A True Story of Money, Power, Friendship, and Betrayal』が間もなく発売となる。どうやら既に映画化に向けての動きが活発になっているのだそうだ。こちらに入っている情報では、ソニーが名乗りを上げているということなのだが、どうやら他にもメジャーどころがチャンスをうかがっているらしいのだ。

うち、少なくとも一社は、映画ではなくケーブルテレビ番組ないしNetflix上でのシリーズものを企画しているそうだ。これはすなわちHatching Twitterの中に、ドラマとして面白そうなシーンがたくさんあるということなのだろう。Twitterの設立から成長、そして上場を成し遂げる物語がNetflixオリジナルのコンテンツとして提供されることになれば、確かに大いに注目を集めることとなりそうだ。

ちなみにソニーは、1989年にコロンビア映画を買収している。コロンビア映画は、ご存知、Facebookのドラマメンタリー(drama-mentary)である「ソーシャル・ネットワーク」を提供した。全てが実話というわけではなかったが、大いに注目を集めることとなり、またいろいろな賞にもノミネートされることとなった。

また、既にキャストについてもいろいろと話題になっているようだ。たとえばJack Dorsey役についてはElijah Wood以外にあり得ないなどと言う人もいる。

本の内容についてはNew York Timesに概要が掲載されている。どうやら草創期には方針や権力を巡ってさまざまな争いもあったようだ。以前にも書いたが、数々の人間臭いドラマがあったようだ。そして確かにそういう人間臭さは、面白い映画に欠かせない要素であるとも言えるかもしれない。Biltonは映画化の噂についてはノーコメントを貫いている。

『Hatching Twitter: A True Story of Money, Power, Friendship, and Betrayal』の発売は11月5日が予定されている。そしてTwitterの、111億ドル企業(評価額)としての株式公開が11月6日の予定だ。Biltonも言うように「非常に良いタイミング」で世にでることとなる。

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(翻訳:Maeda, H


「タッチジェネレーション」が求めるコンシューマーテクノロジー

編集部注本稿執筆者のJosh ElmanはGreylock Partnersのパートナー職にある。@joshelmanのアカウントでTwitterでも活躍中。

10年前、当時のヤングアダルト層(ティーンエイジ後半の層)に、ソーシャルネットワークというものが広がり始めた。Friendster、Myspaceなどが出てきて、そして結局はFacebookが標準的サービスとしての地位を掴むこととなった。他にもいろいろなソーシャル系サービスが出てきて、今の時代はもはやそうしたサービス抜きで語ることはできなくなっている。

これは現在でも同じことが言えるだろう。すなわちこれから10年後に、時代がどのような特徴を示すようになるのかを知るには、今の若者世代の間にどういう状況が生まれつつあるのかを見ることが大切だ。その若者世代は、これまでの大人世代とはずいぶんと異なった形で成長してきた。たとえば、生まれながらに、モバイルデバイスによって世界は繋がっていた。

ベビーブーマー世代が「テレビ」世代としての特徴を持ち、またその前の世代が「車」や(初期の)「電化製品」で特徴を示すように、現在の若者世代は「インターネット」、「モバイル」、あるいは「ソーシャルメディア」というものを、世代の特徴として持つことになる。そうしたものが「最初から」存在していた初めての世代なのだ。

10年前と現世代を比較するだけでも、テクノロジー面ではさまざまな変化を指摘することができる。そうした変化からも現代の若者たちの特徴を垣間見ることができよう。

  • 現在の若者世代は、デスクトップやノートパソコンなどよりも、携帯電話ないしスマートフォンに親しんでいる。
  • 最近の調査によると、ティーンエイジャーの65%が、車よりもスマートフォンの方が大事だと考えている。
  • インタフェースというものも大きく変化した。現代のインタフェースには「キーボードショートカット」や「保存」、ないし「クリック」といった概念も存在しなくなってきている。代わりに用いられるようになったのは「ジェスチャー」や「シェア」(共有)そして「タップ」といったものだ。
  • 常に繋がっている(ネットワークにも繋がっているし、個々人もソーシャルネットワーク経由で繋がっている)ことにより、プライバシーの概念も大きく変容している。

この時代の若者たちを「タッチジェネレーション」(Generation Touch)略してGenTと名づけておこう。GenTにとってのソフトウェアやテック関連プロダクトというのは以前の世代とは大きく異なるものとなっている。昔々の若者は、父親の車を借り出して、友達と一緒にドライブするようなことに「楽しみ」を感じていた。しかしGenTにとって「楽しみ」とは、ネットワークやデバイスを通して得られるものなのだ。ネットワーク系プロダクトは、すべてそうした方向性に則って進化しつつある。

たとえばすべて「タッチ」で動作するというのも、こうした「方向性」のひとつだ。また重要なのは「プライバシー」ではなく、情報の「共有」により生まれる「繋がり」こそが重要であるというのも、時代の目指す「方向性」だ。発信した情報に即座に反応しあうことにより、繋がりを強化していく。こうしたことが、他の世代からはなかなか理解し難い行動指針となっている。

アプリケーションないしデバイスが「タッチ」で動作するかどうかというのは細かい話に思えるかもしれない。しかし「タッチ」は非常に重要な要素だ。というのは、マウスやキーボードによって現実を「比喩的」に捉えるのとは異り、より直感的な振る舞いに繋がっているという点で大きな意味を持つ。人気を集めているアプリケーションは、いずれも「タッチ」動作を非常に有効に活用しているものばかりだ。

「タッチ」は、マウスやキーボードよりも遥かに直感的な操作スタイルを持ち込むもの

VineやInstagramは画面にタッチしてビデオキャプチャを開始して、そしてタッチしている間だけ撮影が続く。指を話すとそこで録画はいったん停止して、再タッチで続きを撮ることができるという仕組みになっている。Snapchatは指定制限時間以内で、画面をタップしている間だけ写真が表示される。Tinderでは右スワイプ(相手に興味があるという意思表示になる)することで、相手から何の反応もないうちに、ある意味で「触れ合う」ことになるわけだ。ここから出てきたものか、実世界でも「右スワイプしておくね」などという言葉を耳にしたことがある。実世界と直接つながる動作でソフトウェアを操作するようになり、以前とは異なる「繋がり」を生み出すようになっているわけだ。スマートフォンやタブレット用のプロダクトを開発しようと考えているのであれば、操作方法がどのような「繋がり」を生み出すのかを十分に考慮する必要がある。

また、GenTは「常に繋がった」世界にいるにも関わらず(それ以前の世代には当然の感情だったといえるだろうが)「世界から切り離されている」感覚を持つことがある。そこで「本物の繋がり」をもたらして「ちゃんとした会話」ができるプロダクトにも人気が集まることとなっている。

GenTにとっては、ソーシャルネットワークが所与のものとして存在し、そのネットワークを通じて、大勢と情報共有するというのは非常に簡単に行えるようになっている。ただ、そうした情報の共有が「コミュニケーション」の一環としてではなく、「人気投票」のような具合になってしまってもいるのだ。そこで、そうした人気投票風の情報共有スタイルから離れて、プライベートな、本当に有益な情報を伝え合いたいというニーズも出てきている。これは「ソーシャル」の次に出てくる流れだ。お互いに繋がりを保ちつつ、しかし膨大なノイズに埋もれない真のコミュニケーションを実現したいという動きになっている。

こうした流れに応じた動きは、いままさに始まりつつあると言って良いだろう。数多くの企業がサービスの開発に取り組んでいる。たとえばMessageMeKikViberLineWhatsAppSnapchatTango、そしてまたWechatなどが流行していることも、新しいスタイルのコミュニケーションツールが求められていることの証拠となるだろう。求められているのは即時性、プライベートな繋がり、そして内容のあるコミュニケーションといったものだ。もちろん、旧来の「直接会って会話する」ことの代替となるだけでなく、スタンプや自分撮り写真、ビデオなど、最新の技術を用いたさまざまな手段によるコミュニケーションを実装するのも大切なことだ。

FacebookやTwitterは人気だが、新たな「関係性」が求められる中でさらなる「工夫」が求められている

ちなみに、新しい世代は、少し前には大いに利用されていたツール類を全く使わなくなっているのも面白い(普通のことかもしれないが)。たとえば電子メールやインスタントメッセージの利用頻度は大いに下がった。また有料であることからSMSも忌避される傾向にある。電話による会話もあまりしなくなっている様子。新しいスマートフォンを手に入れると、まず行うのは電話番号の登録ではなく、アプリケーションをダウンロードしてアカウント登録をすることだ。8年だか9年ほど前に、大学からメールアドレスをもらって、いそいそとFacebookに登録していた様子が思い出される。

メールやIMアカウントを中心に位置づけていたYahoo、AOL、Microsoft/Windows Live、あるいはGoogle/Gmailさえも、GenTによる利用頻度は大いに下がっている。これからも利用者を拡大していきたいと考えるのであれば、「繋がり」を提供する新たな方式を構築する必要があるのだろう。また、新たなエクスペリエンスを実現するジェスチャーも含めて考えていく必要がある。現在人気を集めているFacebookやTwitterにしても油断はできない。この面では、ご存知かどうかはわからないがTencentが良い例になるだろう。Facebook同様に時価総額で1000億ドルを誇る人気企業だ。従来は中国国内におけるウェブ系コミュニケーションサービスをメインとしていたが、Wechatを開発してモバイル環境における新たな展開を狙っている。この試みはかなりの成功をおさめており、現在は世界中に4億の利用者を抱えるまでになっている。

投資家として見るならば、現在の動きは非常に興味深いものだ。従来から提供されていたエクスペリエンスも、モバイルの世界でまた新しい動きをみせてくれそうだ。GenTのニーズや欲求が、今後もさまざまな面における展開のベースを担うことになるのだろう。

情報開示:Greylock PartnersのポートフォリオにはFacebook、Instagram、そしてMessageMeが含まれている。またJoshは以前FacebookおよびTwitterで働いていた経験を持つ。

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(翻訳:Maeda, H


Twitter、「史上最悪にくだらない」から上場へと駆け上がったスタートアップ

個人的な思い入れが紛れ込んだ記事になるのをお許しいただきたい。

数日前、TwitterがIPOの準備作業に入った旨をアナウンスしたとき、少々センチメンタルな気持ちになってしまった。Twitterは2006年、ポッドキャスティングに関わるスタートアップのOdeoのサイドプロジェクトとして登場してきた。そのとき、ちょうど私は最初の職であった映画業界の仕事を辞め、テック業界に職を求めていた頃だった。日々の時間をウェブ開発に充てつつ、徐々にテックブロギングに興味が移りつつある時期だった。Twitterの登場はちょうどその頃であり、いろいろと記事を書いたものだった。

正確に言えば、Twitterの話題には少々乗り遅れてはいた。いったいTwitterというサービスがナニモノかになり得るのかと意見が割れていた頃に、いろいろとTwitterについての話題は仕入れていた。しかし実際に利用登録したのは2007年1月のことだった。Tweetbotによると、私のユーザーナンバーは652,193なのだそうだ。まあ若い方の番号だと言えるとは思う。ただ、標準的に見て「アーリーアダプター」であると名乗ることはできないかもしれない。

但し。Twitterを正しく理解するのは比較的早かったのではないかと自負している。2007年初頭の頃はGoogle Talk経由でTwitterに投稿していた。Gmailに保存されている過去のデータを見ると、数多くの投稿を発見することができる。どのような投稿をしていたかといえば、たとえば「うちに帰る」といったような内容だ。つまらない内容ながら、Twitterには頻繁に投稿していた。当時は確か2、3人のフォロワーしかいなかったはずだ。

Gmailで過去を探ると、他にもTwitter関連の話がいろいろと出てくる。たとえば数週間に一度、TwitterからはBiz Stone自身の手になるアップデート情報が流れてきたりしていたものだった(2007年2月20日のメールには興奮した。SXSWの参加を前に、Odeoを売却する旨が記されていた。Twitter社にとって、大きな分岐点であった)。

あるいは、友人がTwitterについて語るメールなども出てきた。友人は「これまでみたなかで最も間抜け(dumbest)なプロダクトだと思う」などと解説していたりした。

この友人はテックに詳しいわけでもなく、仕事も別方面のことをやっている。そういう人物なので、出てきたばかりのテック系サービスにうといのは当たり前のことだが、しかしさまざまな友だちから、繰り返し繰り返し「Twitterはくだらない」という話を聞いた(あるいはメールなどで読んだ)ものだった。Twitterが下らないものであるというのは通説だった。そしてそのTwitterを面白がっている私は、変人扱いだった。

時を経るにつれ、Twitterの評判は徐々に変化していった。「誰も使わない」「くだらないもの」であるという評価が少々ニュアンスを変えていったのだ。曰く「テック系の人以外」にとっては「くだらないものである」といった具合だ。

そんな中、Twitterはシステムダウンを繰り返す時期を迎えた。Twitterはシステム的に利用できない状況になっているという理由で、自らの運命に幕を引きそうになっていた。しかしそこからなんとかかんとか這い上がってきた。そしてついに、多くの人の人気を集めるようになっていったのだ。

もちろん、それからもTwitterについての疑問の声はあった。たとえば「マネタイズの方法が見えない」というものがあった。企業価値の算定については失笑を買ったりもした。Twitter人気などというのは砂上の楼閣であり、バブルに過ぎないと目されたわけだ。

そして話は現在に繋がる。

Twitterは、いろいろな低評価を被った時代を生き延びて成長してきた。政治の世界でも、また、私が以前に属した映画業界でも存在感を増している。スポーツ中継が行われれば、それについてのツイートも数多く投稿される。もはやTwitterが関係しないテレビ中継など存在しないかのようでもある。気ままなおしゃべりの場でもあり、あるいはニュース編集室であり、そしてまた自らがニュースになったりもしている。調査報告によると、来年の売り上げは十億ドルにも達する予定なのだという。利用者も数億人規模となっている。

Twitterが気に入っていた私の判断が正しかったのだと自慢するつもりはない。もちろん、少しはそう言いたい気持ちがないでもない。Twitterの企業買収を通じて、株式を保持することにもなったが、それでリッチになったからと、Twitterの成功を喜んでいるわけではない。馬鹿にされつつ、そしてピンチに陥り、さらにはもう駄目だと思われ、全く評価されず、ただ消え行くのみと思われたスタートアップのひとつであるということを面白く感じるのだ。あれよあれよと存在感を増し、生き残ったというだけでなく、非常に強力な存在と成りおおせたのだ。

ビジネスを遂行するには、シニカルな見方も必要ではある。この業界に関わるようになってから、数千は言い過ぎにしても、数百の企業が投資家やライターから「過去最大級にくだらない」という評価を受ける様子を見てきた。そしてそうしたスタートアップの多くは姿を消していくこととなった。しかしTwitterがある。数多のスタートアップの希望の星となり、そして数多くのアイデアがビジネスの世界に持ち込まれてきているのだ。

新しく、画期的なアイデアというのは、どこか愚かしく見えるものだ。難しい話をしているわけではない。誰にとってもわかりやすく、かつ利益のあるアイデアというのは、既にどこかで誰かが実現しているはずなのだ。つまり「史上最高にくだらない」という評価が、それがかならずしも本当に何の成功も勝ち取ることができないということを意味するのではない。誰もが思いもよらなかった素晴らしいものに発展する可能性があるという意味もあるのだ。

プロフェッショナルとして、最初にTwitterについての記事を書いたのは6年半も前のことだった。「プロフェッショナル」という部分は「記事」という部分に、何か意見したくなる人がいることは認めよう。ただ私は、Twitterと出会ったことで、この業界での地歩を固めることにも繋がった。非常な幸運であったと言えよう。Twitterの歴史を7文字でまとめるなら、「いろいろあった」という言葉がぴったりだろう。自分の経験とTwitterの「いろいろ」を重ねあわせつつ、ついノスタルジックになってしまっているのだ。

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(翻訳:Maeda, H)


出版社側には良いことずくめのKindle MatchBook。プログラム参加を躊躇う理由はなし!

少し前に、Amazonは電子書籍リーダーであるKindle Paperwhiteの新版をアナウンスした。これはこれでなかなか良さそうなものに見える。但し、この発表について世間の耳目を集めたのはMatchBookという新たなプログラムの方だった。紙の書籍を買った人に対し、電子書籍版を無料ないし安価で提供するというものだ。提供するかしないか、価格をどうするかについては作家や出版社側が決定する。

このプログラムについての要件等を確認してみると、紙の本や電子(Kindle)書籍を出版している作家にとって、なかなか魅力的なものであるようだ。Gooseberry Bluff Community College of Magicの作者であるDavid Schwartzも次のように述べている。「デメリットは何もないように思う。少なくとも私にとっては、良いことだらけに見える。ロイヤルティは変わらないし、(理論的には)販売のチャンスが増えることになるわけだ」とのこと。確かに良いことばかりのように思えるのだ。

Kindle Matchbookプログラムには、いろいろと参加要件が定められている。但し、厄介に感じるようなものはない。「これまでに書いた書籍の売り上げを伸ばす手段を提供する」という目的にしたがって運用されるものであるようだ。基本的に、Amazonで扱う紙の本を出版していて、かつKindle Direct Publishing(KDP)プログラムに参加していれば、誰でも使うことができるようだ。

Amazonにも確認したのだが、Kindle Direct Publishing Select(KDPセレクト)プログラムの方に参加している必要はないようだ。

つまり、紙の本を既に販売していて、それに加えてKindle版を販売したいと考えた場合、Amazonの独占販売期間を確保する必要はないということだ。KDPセレクトのメンバーは、90日程度の間、Amazonでの独占販売期間を設ける必要がある。

MatchBookでの提供価格については2ドル99セント、1ドル99セント、99セント、そして無料の4つから選ぶことになる。プログラムに参加するタイトルを選ぶのは非常に簡単で、リストからチェックボックスをクリックするだけだ。ほとんど手間のかからないオプトイン方式はいかにもAmazon風のもので、きっと数多くの作家がこのプログラムへの参加を検討するようになることだろう。ともかく参加する作品を決めれば、あとは価格を設定するだけだ。尚、これにともなって「プロモーション価格」の設定もする必要がある。これは通常価格の50%以上、割り引く必要がある。Amazonは「キャンペーンであるからには50%は割り引くことにしたい」としている。

現在用意されているロイヤルティレートは2種類ある。これは販売地域の差によって変わってくるものだ。電子書籍にも同じ率が適用されることになり、やはり35%あるいは70%を受け取ることになる。電子書籍を安価で配布するということは、当然にロイヤルティーの額も低くなる。しかし「新たな販路」が拓けたわけで、むろんプラスに評価すべきことだと思う。

まだこのMatchBookプログラムについての表示が現れないという人もいるだろう。まずは出版社レベルでのオプトインが必要であり、それが済まないと個々の書籍についての処理ができないこともある。ともかく10月に予定されているプログラム開始時には1万冊程度を準備するということになっている。ただしAmazon Publishingの利用者(標準でMatchBookオプションがオンになっている)およびインディーズ系の出版者は直ちにプログラムに参加することができるし、すべきであろうと思う。デメリットはほとんどないと言える。もちろん紙の書籍を販売していなければ参加できないのだが、実はこれについてもAmazonは解決策を提供している。電子書籍を紙化するプログラムの提供も行っているのだ。

また、New Island BooksのエディトリアルディレクターであるEoin Purcellは次のように言っている。すなわち、MatchBookプログラムの導入により、電子書籍化していないものを電子化しようという動機付けになるとのこと。売り上げのためのチャネルがひとつ増えることとなり、デジタル書籍化を躊躇っていた人が考えなおすきっかけとなることもあるだろうという話だ。

個人的には、このプログラムがむしろ紙の書籍の売り上げをも伸ばす方向に機能すると考えている。1ドルだか2ドルの追加料金でKindle版も入手できるのなら、紙の本をもっと買うようになるだろう。紙版があれば、電気のないところ、ないしは電子デバイスが使えないところでも本を読むことができる。手に触れる紙の感触も好きだ。さらに、コレクターアイテムとして将来的に価値を持つことになる可能性をもつのも、むろん紙の本の方だ。

また、本のコレクターであるわけではないのだが、Ozの初版などについてはやはり痛めてしまうのがもったいないとは感じる。それで再読する際にはKindle版を読むというようなことをしているのだ。Amazonの新プログラムがこうした古い本を対象にするものでないことは理解している。しかし豪華装丁本などについては、実際に読むためのものとして、電子版を欲しがったりする人もいるだろう。

一般の人が、紙版と電子版の双方を購入しようと思うのかどうか、それはわからない。

Schwartzは卑近な例に過ぎないとしつつ、自著のGooseberry Bluffについては紙版とKindle版の双方を買ってくれた人がいると話す。「Kindleを持っていない人や、紙版でないとダメだと言っている人もいます。但し、MatchBookプログラムのスタートにより、電子書籍を買うべきかどうか悩んでいる人にもきっかけを与えて、考えてもらうことができると思うのです。これまで通りに紙版を購入して、そして安価に電子書籍版も購入できるわけですからね。Amazonとしても、そういう層を取り込んで電子書籍の普及にはずみをつけたい意味もあるのでしょう」。

取り敢えずのところ、これまでに多くの書籍を出してきた出版者や著者にとって良いことずくめの話であるように思える。紙版の本のオーナーが、改めてデジタル版を買い足す動きも出てくることだろう。プログラムが発表になってから、これまでのAmazon利用歴をチェックしてみた(利用頻度にはかなりの波がある)。そして懐かしく思い出して、ぜひ読み返したいという本も見つけた。しかし箱か何かにいれて、どこかにしまいこんでしまって行方がわからない。きっとAmazonは、そういう人が多いはずだと考えたのだろう。躊躇っている出版者があれば、ぜひともプログラム参加を検討すべきだと思うのだ。

Image Credit: amy gizienski / Flickr CC

(訳注:本稿はすべて米国Amazonでの話です)

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(翻訳:Maeda, H)


iPhone 5cは「廉価版」にあらず。Jony IveがiOS 7搭載用としての理想を追求したデバイスだ

ご存知だろうか。iPhone 5cの「C」は「cheap」(安い)の「C」ではない。実は「clueless」(何も分かっちゃいない)という単語の頭文字なのだ。

部外者の誰もが、Appleがこのデバイスにこめた思いを見損じている。Appleはそれを見越して「clueless」を名前に組み込んだのだ。

(本当は「color」の「C」。記事を派手に初めてみたかっただけだ)。

新iPhoneの発表イベントを見て、さらにiPhone 5cのビデオを見てみれば、AppleがiPhone 5cに込めた思いを理解できるはずだ。その「思い」とは、すなわちJony Iveによるものだ。

これまでにJony Iveのビデオは数多く見てきた。その中で、iPhone 5cの説明をしているIveこそ(iPhone 5sに比べても)エキサイトしているように見える。もちろんIve(そしてApple)は認めないだろう。これまでのビデオも含め、Iveはすべて自分の子(Appleのプロダクト)について語ってきたわけだ。しかしiPhone 5sのビデオなどとも比較して、何度も見てみて欲しい。

双方のビデオにおける態度が対照的であると感じないだろうか。Appleが投入した次世代の主役はiPhone 5sだ。しかしiPhone 5sはiPhone 5とほぼ同じデザインを踏襲している。すなわち、Iveがハードウェアのみに関わり、ソフトウェアのデザイン面に関わるようになる前に生み出されたものであるのだ。

つまり、IveがiPhone 5を生み出す時点からiOSのデザインに関わっていたのなら、きっとiPhone 5をこのようにデザインしただろうというものが、まさにiPhone 5cであると思うのだ。昨年冬の組織改編から、より広い範囲でのデザインを担当するようになり、それでIveは思うままのデザインを実現してきたのではないだろうか。

「iPhoneというのは“エクスペリエンス”を提供するものです。そして“エクスペリエンス”は、ハードウェアとソフトウェアの生み出すハーモニーにより提供されるものです。ハードウェアとソフトウェアをより一体化することにより、さらに素晴らしい“エクスペリエンス”を提供していきたいと考えているのです」と、Iveはビデオ中で語っている。ハードウェアおよびソフトウェアのデザインを一手に引き受ける責任者としての発言であり、その責任者がiPhone 5cを世に問うているわけだ。

今年の夏、WWDCにてiOS 7がはじめてお目見えしたとき、そのカラフルなパレットUIに皆が驚いたものだった。しかし、長くApple製品を使っている人(あるいは長くAppleおよびIveに注目している人)は、初代iMacを思い出し、確かにこれもAppleないしIveのやり方だと納得したのだった。13種類のカラーバリエーションを用意して、Apple再生に大いに役立った。まさにカラーこそAppleのウリとなっていたのだ。

確かにIveはそれからしばらく、プラスチックからユニボディのアルミニウム(Iveの口調で言えばアリュミナムのように聞こえるだろうか)へと路線を変更していった。しかしそういう時代を経て、Iveは原点に戻ってきたのではないかと思うのだ。芸術家が、異なる時代を過ごすようなものとも言えるだろう。

ソフトウェア面にも関与できる立場となり、今ならば、色彩を一層活用できると判断したのだろう。ますます思いのままの「エクスペリエンス」を提供できるようになるからだ。

「一貫性のあるデザインとは、形状、素材、そして色合いなどのミックスによって生まれるものです。それぞれが関係しあって、お互いを求める関わりあいの中でプロダクトが成立するのです」とIveは言っている。Iveの上司でありまた仕事仲間でもあったスティーブ・ジョブス曰く、デザインというものは表面的なものではなく、あるいは見かけだけのものでもなく、実は機能面に強く関わっているのだとのことだった。そしてこうしたデザインを行うためにはハードウェアとソフトウェアの双方に関わる必要がある。IveはiPhone 5cにおいて、その地位を獲得し、そして理想を実現したわけだ。

しかし、果たしてこのiPhone 5cは中国やインドといった、普及途上国での売り上げを伸ばすのに役立つのだろうか。おそらくさほど役に立たないに違いない。実は、廉価なiPhoneを途上国に売り込むのが目的だというのは、何もわかっていないレポートによるミスリードなのだ。プラスチック素材であることを見て、なるほど新興国用の廉価版iPhoneだと騒ぎ立てたのだが、実はAppleの目的はそこにはない。

iPhone 5cは、iPhone 5に代わるものとして登場してきているのだ。Appleは、4Sの販売は続けるものの、iPhone 5は店頭から引き上げることになっている。Iveは、自分でデザインしたソフトウェアの入れ物としてのハードウェアをデザインし、iPhone 5にとってかわるiPhone 5cに自分の思いのたけを詰め込んだのだ。

iPhone 5cを投入したことで、Appleは「前年モデル」などよりもはるかに魅力的な(販売助成値引きして99ドルという、手に入れやすい価格)モデルを提供できるようになった。また、デザイン面でほとんど変更のないiPhone 5とiPhone 5sが(色こそ違うものの)混乱を招くような自体も避けることができる。すなわちiPhone 5cの投入はまさに良いことずくめな話なわけだ。

但し、テック系の「専門家」や、ウォール・ストリート方面には、Appleの選択を「良いことずくめ」とはみない人も大勢いる。そうした人はともかく「安いiPhone」を期待していたのだ。また、キーボードを登載したiPhoneの登場を待ち続けている人もいるらしい。

Appleは、ライバルに強いられて何らかの行動をとるといったことのほとんどない企業だ。周りの動向を気にしてばかりいては、戦略を見失うことになる。Appleは常に自らの戦略を大事に育んできた。もしAppleが「安い」iPhoneを出せば、Appleが収支報告で利益率の低下をアナウンスするまではAppleを「評価」するのだろう。そうした「評価」を受ける「イノベーション」は、実のところ誰も得をしない選択であるのだ。

もちろんAppleも、中国などの新興市場を無視しているわけではない。Tim Cookはなんども繰り返して新興市場に言及している。しかしAppleは、自分たちがここぞと思ったタイミングで、自分たちが良いと思うプロダクトを投入するだけだ。もしかするとそれは新興市場の獲得という面でみれば遅すぎる行動になるかもしれない。しかしそれはまだ評価すべき時ではないだろう。ともかく、iPhone 5cが新興市場向けの安価なデバイスというわけではないことは明らかだと思うのだ。

iPhone 5cは「Jony IveのiPhone」とでも言うべきデバイスだ。色彩豊かで、そして美しく、何らかの代替物としてではなく、プラスチックの魅力を前面に押し出したデバイスだと言える。

「ハードウェアとソフトウェアがお互いに高め合ってひとつのデバイスとして結晶しているのです」。

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(翻訳:Maeda, H)