ネクストミーツが長岡技術科学大学と提携、マメ科植物を材料に代替⾁に適性のある原料の研究開発

ネクストミーツが長岡技術科学大学と提携、マメ科植物を材料に代替⾁に適性のある原料の研究開発

フェイクミート(代替肉)を展開するフードテック領域のスタートアップ企業「ネクストミーツ」は6月7日、長岡技術科学大学と共同研究に関する契約締結を発表した。同大の⼤学院⼯学研究科⽣物機能⼯学専攻、⻄村泰介准教授と連携して、同氏が専門とする「エピジェネティクス」などの先端的なバイオテクノロジー手法を用いた、代替⾁に適性のある原料の研究開発を行う。

ネクストミーツでは、メカトロニクスの知見を活用し、動物性原料と食品添加物を使わないオーガニックな食品を提供するかたわら、バイオテクノロジーを軸とした研究も進めてきたが、2021年からその研究体制を強化しているという。今回の共同研究の中心になるのが、エピジェネティイクス(後成遺伝学)だ。西村准教授はこう説明している。

「近年、植物でも様々な遺伝⼦の発現(スイッチのオン・オフ)がどのように制御されているかが明らかになってきており、それを操作することで新しい機能を持つ植物の開発が進められています。エピジェネティクスは⽣命の設計図であるゲノムDNAの塩基配列⾃体を変化させることなく、遺伝⼦の機能(スイッチのオン・オフ)を変化させる細胞⾃⾝が持つ遺伝⼦発現の制御システムです。これを応⽤できれば、⽣命の設計図であるゲノムDNAの塩基配列を改変することなく新しい機能を持った植物を開発可能となり、持続可能な技術として期待されています」

こうした最先端のバイオテクノロジーを用いて、ネクストミーツはマメ科植物から代替肉に適正のある原料を研究する。

ネクストミーツは、2017年から共同創業者2名が研究を始め、プロダクト完成の2020年6月に法人化した。2021年1月には米国市場にSPACスキームでOTCBBに上場、現在は日本だけでなく台湾やベトナムなど海外10か国以上での展開に着手している。「過剰な畜産を減らすことで気候変動問題の解決に貢献すべく」事業を展開し、世界初の焼肉用フェクミート「NEXT焼肉」や、100%植物性の⽜丼「NEXT⽜丼」などを発売している。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:長岡技術科学大学(組織)代替肉 / 植物由来肉(用語)ネクストミーツ日本(国・地域)

がん免疫細胞療法に向け細胞医薬品の開発に取り組む九州大学発スタートアップ「ガイアバイオメディシン」が1億円調達

がん免疫細胞療法に向け細胞医薬品の新規開発に取り組む九州大学発スタートアップ「ガイアバイオメディシン」が1億円調達

大阪大学ベンチャーキャピタル(OUVC)を無限責任組合員とするOUVC2号投資事業有限責任組合(OUVC2号ファンド)は6月4日、ガイアバイオメディシン(GAIA BioMedicine)に対し、1億円の投資を実行したと発表した。大阪大学以外の国立大学の研究成果を活用したスタートアップ企業に対する投資が可能になったOUVC2号ファンドでの初の他大学案件という。

ガイアバイオメディシンでは、調達した資金により、非小細胞肺がん患者を対象とした第I相臨床試験を完了させるとともに、2ndパイプラインの治験に向けた準備も進める。OUVCは、同社事業について、有効な治療薬が存在しない創薬の開発につながるものであり、医学的・社会的な意義が大きいと判断し、投資を実行したとしている。

2015年10月設立のガイアバイオメディシンは、九州大学大学院薬学研究院・米満吉和教授の研究成果を活用し、新規細胞医薬品の開発に取り組む九州大学発のスタートアップ企業。

細胞医薬品とは、近年注目されている新たな創薬モダリティ(手法)にあたる、細胞そのものを人に投与して治療効果を得る薬剤を指し、もともと人に備わるT細胞やナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞をベースにがん細胞への攻撃力を増強させた細胞が利用される。ガイアバイオメディシンでは、NK細胞と形質上類似するNK様細胞(GAIA-102)を開発し、患者本人の細胞ではなく健康なドナーから採取した細胞「他家細胞」を用いることによりスケーラブルな医療を可能とする新たながん免疫細胞療法の開発に取り組んでいるという。

GAIA-102は、死亡数の最も高い肺がんの中でも8割を占める「非小細胞肺がん」への高い有効性が見込まれており、T細胞を遺伝子改変したCAR-Tなど他の細胞医薬品に比べて固形がんに対し有望な免疫細胞療法となることが期待されるという。また、他の細胞医薬品と異なり、極めてシンプルな製造・投薬プロセスが可能となることから、商業利用の点でも優れた競争優位性を有するとしている。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療(用語)大阪大学ベンチャーキャピタル / OUVCガイアバイオメディシン(企業)がん / がん治療(用語)九州大学(組織)細胞療法資金調達(用語)日本(国・地域)

バイオテックの巨大インキュベーター「Bakar Labs」、カリフォルニア大学に誕生

独自のインキュベーターとアクセラレーターを運営するなど、州内のスタートアップエコシステムを育んできたカリフォルニア大学。このたび、同大学はバークレー校に巨大なインキュベーター「Bakar Labs(バカールラボ)」を開設することになった。年間80ものスタートアップ企業に、大学の施設やネットワークへのアクセスを提供する場となる。

かつてバークレー美術館だった美しいブルータリスト様式のWoo Hon Fai Hall(ウー・ホンファイ・ホール)に設置されるBakar Labsは、大学内で継続的に行われている分野を横断した取り組み「Bakar BioEnginuity Hub(バカール・バイオエンジニティーハブ)」の一環という位置づけで、大学全体で起業活動を管理しているQB3(キュービースリー)によって運営される。従来バークレー校で行われていたバイオテクノロジーに特化した小規模なプログラムは廃止されることになる。

Bakar Labsは、アクセラレーターのように製品の適合性やチームの構築などのカリキュラムを提供するのではなく、世界的な研究機関であり、優れた教授陣と豊富なリソースを有するバークレー校の最高のシステムをふんだんに提供する。インキュベーター内の企業は、それらを(限定的に)利用することができる。

Bakar Labs内の研究室のイメージ(画像クレジット:UC Berkeley)

このハブは、安価なオフィスや研究室、そして前述の豊富なリソースを提供することで、世界中の創業者を誘致できるように計画され、参加条件にバークレー校との提携は含まれていない。生命体を集め、たくさんの栄養を与えて成長を見守る、まさしくインキュベーター(培養器)だ。

財源にも比較的手間のかからないアプローチが採用されている。参加する企業はラボの利用料を支払うだけで、バークレー校やその関連施設に出資したり、それらが優先権を得たりする契約はない。QB3の担当者によると、提携するVCファンドを通じて投資が行われる可能性はあるが、プログラムに組み込まれているわけではない、とのことだ。

また、バークレー校の別の起業プログラムである「Skydeck(スカイデッキ、バイオテック分野の内外で高い評価を得ている企業を輩出している大学の起業プログラム)」との関連もない。Bakar Labsの企業選考を支援するチームは、Skydeckの応募者選考もサポートしており、今後は友好的に住み分けることになりそうだ。

エントリーに際しては、企業のポテンシャル(ビジネスと科学の両方)が審査されるものの、具体的な要件や優遇措置は柔軟に対応されることになるだろう。Bakar Labsのマネージング・ディレクターであるGino Segre(ジーノ・セグレ)氏は「企業は、買収や金稼ぎよりも、もっと多くのことを考えて欲しい」と説明する。

同氏からのTechCrunchへのメールには次のように記載されている。「私たちは、人々の健康を向上させることを目的とし、利益の出るビジネスモデルを追求するという、二重の目的を持つチームの応募を奨励します。起業家精神があれば大丈夫です」「すでに、治療薬、診断薬、研究ツール、フードテック、アグテックに関心が集まっています」。

「2~15人で、少なくとも6カ月間の運転資金を持ち、プログラムを進めるために研究室を必要とする革新的な技術にてこ入れしようとしているチームが最も理想的です」と彼は続ける。Bakar Labsの利用には期限はないが、数年経てば起業に成功したかどうかは自ずと知れる。スタートアップ企業が資金を調達して、自社のオフィスや研究室に移ることが理想だが、それが可能になるまでは、ガレージや貸し会議室よりもこのインキュベーターの方がはるかに優れているだろう。

カリフォルニア大学のCarol T. Christ(キャロル・T・クライスト)学長は、バークレー校のニュースリリースで次のように述べる。「やる気にあふれ、変化を起こそうとする学生や教員、私たちの強力な研究機関、そして利益よりも社会的利益を最大化するイノベーターのコミュニティが結集する場として、Bakar BioEnginuity Hubには大きな期待を抱いています」。

自分の会社(あるいは、今、予備のベッドルームで営業しているルームメイトの会社)にぴったりだと思ったら、ここから応募してみてはどうだろうか。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:カリフォルニア大学Bakar Labsインキュベーターカリフォルニア大学バークレー校

画像クレジット:UC Berkeley

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

クライオ電子顕微鏡による構造解析を活かした創薬事業を手がけるキュライオが約3.1億円を調達

クライオ電子顕微鏡による構造解析を活かした創薬事業を手がけるキュライオは6月1日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約3億1000万円を実施したと発表した。引受先はBeyond Next Ventures2号投資事業有限責任組合、Ono Venture Investment(小野薬品工業CVC)、旭化成ファーマ、Gemseki投資事業有限責任組合。

調達した資⾦は、パートナリング(共同研究創薬)事業、⾃社創薬事業の拡⼤、クライオ電⼦顕微鏡構造解析技術のさらなる創薬への有効活⽤のための基盤技術の開発を⽬的とした、設備投資や創薬研究開発事業の体制強化に用いる。

キュライオは2019年8⽉、生体内構造を染色することなく凍らせて観察できるクライオ電⼦顕微鏡による構造解析技術に特化した企業として設⽴。独⾃の解析ノウハウを⽤いた構造解析精度を強みとしており、現在は構造解析ベース創薬(SBDD。Structure-Based Drug Discovery)事業を展開している。「科学の力で、より安心で健康な人生の実現へ」の会社理念の下、人々に画期的新薬を提供することを使命とし、製薬会社や大学研究室との共同研究にも積極的に取り組んでいるという。

キュライオによると、現在は低分⼦医薬のみならず環状ペプチドに代表される中分⼦医薬や抗体医薬、核酸医薬などの医薬品の多様化が進み、それに伴って遺伝⼦治療なども含む新たなモダリティーの開発など、創薬のDXが起こっているという。同社はクライオ電⼦顕微鏡を利用したSBDDによる創薬事業を進めており、同⼿法により多様かつ⾰新的な医薬品創製事業の拡⼤と加速化を目指している。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:キュライオ(企業)創薬(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

病気と老化をハックする長寿テックGero AIが健康状態の変化を定量化するモバイルAPIを発表

スマートフォンやウェアラブルデバイスのセンサーデータにより、個人の「生物学的年齢」やストレスへの耐性を実用レベルで予測することができると語るのは、Gero AI(ジェロ・エーアイ)だ。

この長寿技術のスタートアップは、そのミッションを「Gero AIで複雑な病気と老化をハックする」という簡潔な目標に集約しており、モバイルユーザーの身体的活動を追跡する歩数計センサーデータのパターン認識に基づいた「デジタルバイオマーカー」を用いて、罹患リスクを予測するAIモデルを開発した。

単に「歩数」を計測しただけでは、個人の健康状態を予測するのに十分な差異を識別できない、というのが同社の主張だ。同社のAIは、大量の生体データを用いて学習し、罹患リスクに結びつくパターンを見つけ出す。また、生物学的ストレスからの回復の早さも測定するが、これも寿命に関連するバイオマーカーの1つだ。つまり、ストレスからの回復が早ければ早いほど、その人の全体的な健康状態が良くなるということだ。

査読付き生物医学誌Aging(エージング)に掲載されたGero AIの研究論文では、ディープニューラルネットワークを学習させてモバイル機器のセンサーデータから罹患リスクを予測する方法を説明している。そして、その生物学的年齢加速モデルが血液検査の結果に基づくモデルと同等であることを実証した。

また、2021年5月末にNature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)誌に掲載される予定の別の論文では、デバイスを用いた生物学的回復力の測定について詳しく説明している。

シンガポールを拠点とするこのスタートアップは、ロシアに研究のルーツを持ち、理論物理学のバックグラウンドを持つロシア人科学者によって2015年に設立された。そして、これまでに2回のシードラウンドで合計500万ドル(約5億4000万円)を調達している。

共同設立者のPeter Fedichev(ピーター・フェディチェフ)によると、出資者はバイオテック分野とAI分野の両方から参加しているという。投資家には、ベラルーシを拠点としAIに特化したアーリーステージファンド、Bulba Ventures(バルバベンチャーズ)のパートナーであるYury Melnichek(ユリー・メルニチェク)が含まれている。製薬分野では、ロシアの医薬品開発企業であるValenta(バレンタ)に関連する(匿名の)個人投資家数名からの支援を受けている(バレンタ自体は出資していない)。

フェディチェフ氏は理論物理学者で、博士号を取得し、10年ほど学術研究の世界に身を置いた後、バイオテックの世界に入り、創薬のために分子モデリングや機械学習に取り組んだ。そしてそこで老化の問題に興味を持ち、会社を設立することにした。

同社では、長寿に関するマウスや線虫を用いた生物学的研究に加え、モバイルデバイスで取得したセンサーデータを使って人間の生物学的年齢やストレスからの回復力を予測する、AIモデルの開発にも力を入れている。

「健康は、もちろん1つの数字だけで表せるものではない」とフェディチェフ氏は率直にいう。そして「そのことに幻想を抱くべきではない。しかし、人間の健康を1つの数字に集約するのであれば、多くの人にとって、生物学的年齢が最適な数字となる。自分のライフスタイルがどれだけ不健康であるのか、本質的に知ることができる。実年齢に比べて生物学的年齢が高ければ高いほど、慢性疾患や季節性の感染症にかかる可能性が高くなり、またそういった季節性の疾患から合併症を併発する可能性も高くなる」と語る。

Gero AIは最近、GeroSenseという(今のところ有料の)APIを公開した。このAPIは、健康やフィットネス関係のアプリを対象としており、AIモデリングを適用して、ユーザーに生物学的年齢とストレス耐性(ストレス状態から各個人の基準値への回復率)の個別評価を提供できる。

初期のパートナーは、長寿に注力する別の企業、AgelessRx(エイジレス・アールエックス)とHumanity(ヒューマニティ)だ。そして、このモデルをフィットネスアプリに広く搭載し、長期的な活動データをGero AIに安定的に送信してAIの予測能力をさらに高め、製薬会社との協業によりアンチエイジング薬の開発を進めるという広範な研究ミッションをサポートすることを意図している。

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フィットネスプロバイダーがAPIを導入するメリットは、楽しい上に価値のある機能をユーザーに提供できることだ。個人の健康状態を測定することで、ポジティブな(あるいはネガティブな)生物学的変化を把握することができ、利用しているフィットネスサービスの価値を定量化することが可能になる。

「ジムなどを含めた、あらゆるヘルス&ウェルネスプロバイダーは、自分のアプリに、例えば【略】ジムのすべてのクラス、ジムのすべてのシステムを、さまざまなタイプのユーザーに合った価値に応じてランク付けすることができる」とフェディチェフ氏は説明する。

「マウスではなく、人間の老化の仕組みを理解するために、このような機能を開発した。開発後は、遺伝子を見つけるための高度な遺伝子研究に使用し、見つけた遺伝子は研究室でテストしている。しかし、ウェアラブルデバイスから得られる継続的な信号から老化を測定するこのテクノロジーは、それだけでも優れた手法だ。だからこそ、このGero AIセンスプロジェクトを発表した」と続ける。

「老化とは、機能的能力が徐々に低下していくことであり、望ましいことではないが、ジムに行けば改善できる可能性がある。しかし、問題はこの回復力を失っていくこと、つまり、(生物学的な)ストレスを受けたときに、できるだけ早く通常の状態に戻ることができないということだ。そのため、回復力をフィードバックしている。この回復力が失われ始めると、頑健さを維持できなくなり、20代と同じレベルのストレスを受けたときに、ノックアウトされてしまうことになる。

この回復力の低下は、病気になる前の段階でも、近いうちに病気にかかる可能性があることを教えてくれるので、老化の重要な表現型の1つだと考えている。

社内では老化がすべてだ。当社は、老化の測定と介入に全力で取り組んでいる」とフェディチェフ氏は語り、「長寿と健康のためのオペレーティングシステムのようなものを作りたいと考えている」と付け加える。

Gero AIは「トップクラス」の保険会社と2件の試行的運用からも収益を得ている。フェディチェフ氏によると、この試行は、現段階では基本的にビジネスモデルの実証として行なっているとのことだ。また、Pepsi Co(ペプシコ)とも試行の初期段階にあるという。

さらに同氏は、健康転帰の分野で保険会社と連携することとElon Musk(イーロン・マスク)氏がセンサーを搭載したTesla(テスラ)の所有者に対して、その検知した運転状況に基づき保険商品を提供することとの関連性を説明する。両社はどちらもセンサーデータを利用しているためだ。(「イーロン・マスクが自動車に対して行おうとしていることを、当社は人間に対して行おうとしている」と、同氏はいう」)。

しかし、近い将来の計画は、さらに資金を調達し、APIの提供を無料に切り替えてデータ収集の機会を大幅に拡大することだ。

話を少し広げると、Googleが出資するCalico(キャリコ)が「死の克服」というムーンショットミッションを掲げて設立されてから、約10年が経過した。それ以来、小さいながらも成長を続ける「長寿」分野ではスタートアップが誕生し、(まず第1に)人間の寿命を延ばすための研究を行っている。(死を終わらせることは、明らかに、ムーンショットの中のムーンショットだ)。

もちろん死は避けられるものではないが、死神の襲来から逃れるための薬や治療法を見つけるビジネスはペースを上げ続けており、投資家からの資金も集まってきている。

研究データのオープン化や、健康状態把握のためのデジタルデバイスやサービスの普及により、健康や生物学的なデータがますます充実し、入手しやすくなっていることに加え、予測医療や創薬などに急速に展開されている機械学習の将来性も相まって、この傾向は加速している。

また、最近では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、健康やウェルネス、そして特に死亡率に関心が集まっていることから、長寿への関心の高まりも見られる。

しかし、そうは言っても、複雑で多分野にまたがるビジネスであることに変わりはない。これらのバイオテックでのムーンショットを狙う企業の中には、病気の診断や創薬を推進するためにバイオエンジニアリングや遺伝子編集に焦点を当てた企業もある。

また、Gero AIのように、AIやビッグデータ解析を利用して、生物学的な老化を深く理解し進行を妨げようとしている企業も数多くある。そういった企業では、物理学、数学、生物学の専門家を集めてバイオマーカーを探し、老化にともなう病気や機能低下に対処するための研究を進めている。

最近の例としてはAIスタートアップのDeep Longevity(ディープ・ロンジェビティ)が、2020年の夏にAI創薬企業Insilico Medicine(インシリコ・メディシン)からスピンアウトしステルスモードから姿を現した。同社は、AIによる「サービスとしての長寿」システムを謳い、個人の生物学的年齢を「従来の方法よりも大幅に正確に」予測できるとしている(また、科学者らが「老化に関連する疾患を引き起こす生物学的な原因」を解明するのに役立つと期待している)。

Gero AIは、包括的には同じ目標に向かっているが別のアプローチを取っている。つまり、人々が日常的に持ち歩いている(あるいは身につけている)モバイルデバイスに搭載された活動センサーが生成するデータに注目し、生物学的研究のための代用信号として活用する。

その利点は、自分の健康状態を把握するために、定期的に(侵襲による)血液検査を受ける必要がないことだ。その代わりに、人々のパーソナルデバイスを使って、生物学的研究のための代用信号を、受動的に大規模かつ低コストで生成することができる。つまり、Gero AIの「デジタルバイオマーカー」によって、個人の健康状態の予測に使うデータを民主的に取得できるようになる。

Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のような億万長者は、死の一歩手前でいられるよう、特注の医療モニタリングや医療介入に大金を払う余裕があるが、そのようなハイエンドのサービスは、一般の人々の手が届くはずもない。

Gero AIのデジタルバイオマーカーが同社の主張に沿うものであれば、少なくとも何百万人もの人々をより健康的なライフスタイルへと導くことができるだろう。そして同時に、長寿の研究開発のための豊富なデータを得ることができ、人間の寿命を延ばすことができる薬の開発の助けにもなる(そのような延命薬剤がいくらかかるかはまったく別の話だが)。

保険業界も当然関心を示しており、このようなツールを使って契約者に健康的なライフスタイルを促すことで、保険金の支払いコストを削減できる可能性がある。

健康増進に意欲的な人にとって、現在の問題は、どのようなライフスタイルの変化や医療介入が自分の生物学的特性に最も適しているのかを正確に知ることが非常に困難なことだとフェディチェフ氏はいう。

例えば、ファスティングは生物学的老化の防止に役立つという研究結果がある。しかし、同氏はこのアプローチがすべての人に有効であるとは限らないと指摘する。同じことが、一般的に健康に良いとされている行動(運動や特定の食品を食べたり避けたりすることなど)にも言えるだろう。

また、そういった経験則も、個人の特定の生物学的性質に応じて、さまざまな差異があるかもしれない。さらに、科学的な研究には、どうしても資金面での制約がある。(そのため、研究の対象では、女性よりも男性、中高年よりも若年層といったように、特定のグループに焦点が当てられ、他のグループが除外される傾向がある)。

そのような理由から、フェディチェフ氏は、基本的に個人の費用負担なしで健康に関する知識のギャップに対処できるように、評価基準を作成することに大きな価値があると考えている。

Gero AIは、研究パートナーの1つである英国のバイオバンクの長期間にわたるデータを用いて、同社のモデルによる生物学的年齢と回復力の測定値を検証した。しかし、もちろん、より多くのデータを取り込むことで、さらにモデルを進化させたいと考えている。

「技術的には、当社が行なっていることとそれ程違うものではない。ただ、UKバイオバンクのような取り組みがあるからこそ、今、当社ができることがある。政府の資金と業界のスポンサーの資金に加え、おそらく人類史上初めて、何十万人もの人々の電子医療記録、遺伝学、ウェアラブルデバイスが揃った状況になり、それが可能になった。技術的なものだけでなく、(英国のバイオバンクのような)『社会技術』と呼ばれるものも含めて、いくつかの開発が収束した結果だ」と同氏はTechCrunchに語る。

「想像してみて欲しい。すべての食事、すべてのトレーニング、すべての瞑想……ライフスタイルを実際に最適化するために、(それぞれの人にとって)どのようなことが効果的で、どのようなことが効果的でないのかを理解できることを。あるいは、すでに動物で寿命を延ばすことが証明されている実験的な薬が有効かもしれないし、何か違うことができるかもしれない」。

「100万件の追跡データ(100万人の半年分のデータ)が集まれば、それを遺伝学と組み合わせて、老化を解決できるだろう」と、起業家らしく語り「この計画の挑戦的なスケジュールでは、年末までにその100万件の追跡データを手に入れたいと考えている」と続ける。

フィットネスや健康のアプリは、データを必要とする長寿研究者にとってパートナーのターゲットとなることは明らかだが、お互いに関心を引く関係になることも想像に難くない。一方はユーザーを提供し、もう一方は高度なテクノロジーとハードサイエンスに裏付けられた信頼性のオーラをもたらすことができる。

「当社は、これらの(アプリ)が多くのユーザーを獲得することを期待している。そして、まず楽しい機能として、ユーザーのためにユーザー自身を分析できるだろう。しかし、その裏では、人間の老化に関する最高のモデルを構築する必要がある」とフェディチェフ氏は続ける。そして、さまざまなフィットネスや健康増進法の効果をスコアリングすることが、ウェルネスと健康の「次のフロンティア」になると予測している(あるいは、より簡潔に言えば「ウェルネスと健康は、デジタルで定量的なものにならなければならない」ということだ)。

「当社が行なっていることは、物理学者を人間のデータの分析に参加させることだ。最近では、多くのバイオバンクがあり、人間の老化プロセスを数年単位で表示するデバイスからのものを含め、多くのシグナルを入手している。つまり、天気予報や金融市場の予測のような、動的なシステムだ」と同氏は述べる。

「治療方法は特許を取得できないので自分たちのものにはならないが、パーソナライゼーション、つまり治療法を各個人に合わせてカスタマイズしてくれるAIは自分たちのものになるかもしれない」。

スタートアップの視点からは明確だ。長い目で見れば、パーソナライゼーションは、ここにある。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Gero AI健康長寿人工知能APIアプリウェアラブルデバイスムーンショット

画像クレジット:Gero AI

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

長寿スタートアップのLongevicaが長期研究に基づくサプリメントを発売予定

LongevicaのCEOであるアイナル・アブドラフマノフ氏

人間の寿命を延ばすサプリメントの研究に11年を費やしてきたバイオテクノロジー企業Longevicaは、2021年後半にサプリメントを発売する計画を立てている。Longevicaによると、同社は長寿技術に投資を行い同社の社長でもあるAlexander Chikunov(アレクサンダー・チクノフ)氏を含む投資家から合計1300万ドル(約14億円)を集めたという。

Longevicaによると、同社は実験用マウスの寿命を研究した後に、バイオテクノロジーのプラットフォームを立ち上げた。Longevicaは今後、延命のための医薬品と食餌療法サプリメント、食料品を生産していくとのことだ。

長寿はテクノロジースタートアップにとっても成長市場だ。Googleもこの分野でCalicoの立ち上げを支援した。2020年はHumanity Inc.がボストンのファンドOne Way Venturesがリードするラウンドで250万ドル(約2億7000万円)を調達しているが、その資金は、AIを使って人の健康期間を延ばす同社の長寿技術企業を支える。

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LongevicaのCEOであるAynar Abdrakhmanov(アイナル・アブドラフマノフ)氏は、長生きしたいという人たちの欲求に奉仕する彼の企業について、次のように述べている。「WHOによると、2050年には60歳以上の人が20億人に達する。2019年には17兆ドル(約1834兆4000億円)だったが、2026年までにはこの年齢層の人たち向けのサービスとプロダクトの売り上げがは約27兆ドル(約2913兆4000億円)になります」。

調査会社CB Insightsによると、寿命延長サービスのスタートアップは2018年だけで過去最高の8億ドル(約863億2000万円)を調達した。一部の高名な投資家および投資企業も、この投資に加わっている。

PayPalの共同創業者Peter Thiel(ピーター・ティール)氏は、加齢にともなう疾病の治療薬を開発するUnity Biotechnologyに投資している。Ethereumの創業者Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏は、若返りのためのバイオテクノロジーを開発している非営利団体SENS Research foundationに、240万ドル(約2億6000万円)相当のEtherを投資した。SENS Researchは、Aubrey de Grey(オーブリー・デ・グレイ)氏が最高科学責任者を務め、若返り技術のバイオテクノロジーを開発していることで知られている。

Longevicaのプラットフォームは、科学者であるアレクサンダー・チクノフ氏の業績に基づいている。彼は米国の特許を10件持ち、タンパク質生合成細胞の統制に関して長年、研究している。

「この分野でよく知られている科学者を集めて、問題への彼らのアプローチを議論したことがありあmす。そのときAlexey Ryazanov(アレクセイ・リアザノフ)氏が、長寿のマウスにある既知の薬理学的物質をすべて大規模にスクリーニングして、生命を延ばしているものを発見するという画期的なアイデアを提案しました」とチクノフ氏は語る。

Longevicaによると、同社はリアザノフ氏の指導の下、2万匹の長寿の雌のマウスと、62の薬理学的クラスの合成物質を表している1033種の薬品を使って、統計的に寿命を16〜22%と大きく延ばしているイヌリン、ペンテト酸、クロフィブラート、プロシラリジンA、D-バリンというた5つの物質を発見した。

この研究から、彼らは特定の重金属を体内から排除するという見解を形成し、体内の毒素を除去する能力を向上させた。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Longevicaサプリメント長寿資金調達健康

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)

血液ゲノム解析でがん再発を早期発見するソフトウェア開発のC2i Genomicsが108億円調達

もしあなた自身、あるいはあなたの愛する人ががん治療の一環で腫瘍摘出の手術を受けたことがあるのなら、その後にくる不安定な時期と不安な気持ちを知っているだろう。がんは再発するだろうか、再発するとしたら医師は初期段階で気づくだろうか。C2i Genomicsは残存病変(がん治療後に残存するごくわずかながん細胞)の感知で100倍敏感なソフトウェアを開発し、投資家らはそのポテンシャルに飛びついている。C2iは米国時間4月15日、Casdin Capitalがリードした1億ドル(約108億円)のシリーズBラウンドを発表した。

「がん治療の最大の疑問は、『うまくいっているのか』ということです。効果のない治療を受けて副作用に苦しむ患者もいれば、必要な治療を受けていない患者もいます」とC2i Genomicsの共同創業者でCEOのAsaf Zviran(アサフ・ズヴィラン)氏はインタービューで語った。

これまで手術後のがん検知の主なアプローチはMRIやレントゲンだった。しかしどちらの手法もがんがある程度進行するまで精度は高くない。その結果、患者はがんを再発するかもしれないが、医師がとらえられるまで少し時間がかかるかもしれない。

C2iのテクノロジーを使うと、医師はDNAをチェックするための採血であるリキッドバイオプシーをオーダーできる。そこから全ゲノムを解析してC2iのプラットフォームにアップロードできる。そしてソフトウェアが配列を調べてがんの存在を示すかすかなパターンを特定し、がんが成長しているのか、あるいは縮小しているのかを示す。

「C2iは基本的にがんの発見とモニタリングができるソフトウェアをグローバルスケールで提供しています。解析機械を持つあらゆるラボがサンプルを処理してC2iのプラットフォームにアップロードし、患者にがんの発見とモニタリングを提供できます」とズヴィラン氏はTechCrunchに語った。

C2i Genomicsのソリューションは、ズヴィラン博士が、ニューヨークゲノムセンター(NYGC)の職員でワイルコーネル医科大学(WCM)の助教授であるDan Landau(ダン・ランドウ)博士とともにNYGCとWCMで行った研究に基づいている。ランドウ博士はC2iの共同創業者であり、同社の科学諮問委員会のメンバーでもある。研究と発見は医学雑誌Nature Medicineに掲載された。

C2iのプロダクトはまだ米食品医薬品局(FDA)の承認を受けていないが、ニューヨーク大学ランゴーン医療センター、シンガポール国立がん研究所、オーフス大学病院、ローザンヌ大学病院での臨床研究と医薬品開発研究ですでに使われている。

もしFDAに承認されれば、ニューヨーク拠点のC2iは臓器保存の分野も含めてがん治療を大きく変えるポテンシャルを持つ。例えばがん再発を防ぐために機能する膀胱や直腸などの臓器を切除し、不自由になった人もいる。しかし不必要な手術を避けることができるとしたらどうだろうか。それは、ズヴィラン氏と同氏のチームが達成したいと考えている目標だ。

ズヴィラン氏にとって個人的な事情もある。

「私はがんや生物学とはかけ離れたところでキャリアをスタートさせました。そして28歳のときにがんと診断され、手術と放射線治療を受けました。私の父、そして義理の両親もがんに罹り、亡くなりました」と同氏は話した。

分子生物学で博士号を持つ同氏は以前イスラエル国防軍といくつかの民間企業でエンジニアとして働いた。「エンジニアとして自身の経験をみると、患者と医師の両サイドの不確実さは私をかなり不安にさせるものでした」と述べた。

今回調達した資金は、C2-Intelligence Platformの臨床開発と商業化の加速に使う。本ラウンドに参加した他の投資家にはNFX、デュケーヌ家のファミリーオフィス、シンガポールのSection 32、iGlobe Partners、Driehaus Capitalが含まれる。

カテゴリー:バイオテック
タグ:C2i Genomicsがん医療資金調達

画像クレジット:C2i Genomics

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(文:Marcella McCarthy、翻訳:Nariko Mizoguchi

マイオリッジが京都大学保有のiPS細胞由来心筋細胞製造方法について海外企業と初のライセンス契約

マイオリッジが京都大学保有のiPS細胞由来心筋細胞製造方法について海外企業と初のライセンス契約

京都大学発スタートアップ「マイオリッジ」は4月19日、iPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療関連製品を開発する米Avery Therapeutics(Avery)との間で、京都大学およびマイオリッジが保有するiPS細胞由来心筋細胞の分化誘導法について非独占的なライセンスをAveryへ共与するライセンス契約を締結いたしたと発表した。

この契約に基づきAveryは、同誘導法を使用した製品の製造・開発販売を北米において行う非独占的な権利を得る。現在Averyの製品は、非臨床試験の段階にあるという。

なお同契約は、公表されている限り、京都大学の保有するiPS細胞由来心筋細胞製造方法として、海外企業に対して臨床応用を目指した技術供与を行う、初めてのライセンス契約となる。マイオリッジは、京都大学よりライセンスを受けた同誘導法に加えて、iPS細胞などの幹細胞や中胚葉由来細胞(心筋細胞、間葉系幹細胞、血球系細胞など)の製造にかかる基盤技術を有している。今後も独自性の高い基盤技術を世の中へ送り出すことで、再生医療の普及に貢献するとしている。

マイオリッジは、京都大学の研究成果を基に2016年8月に設立されたスタートアップ。新規低分子化合物を用いることで高価なタンパク質を必要とせずに、浮遊培養にて多能性細胞を心筋細胞を含む分化細胞へ分化誘導できる基盤技術を保有している。同誘導法は京都大学よりライセンスを受け実施している。

同技術を活用したiPS細胞由来心筋細胞の販売のほか、自社で保有する低分子化合物データベース、特許出願中の培地成分探索技術を活用したオーダーメイドの培地開発支援、製造プロセス開発支援といった、再生医療等製品を開発する企業を対象としたサービスなどの事業を展開している。

Averyは、心血管疾患に苦しむ患者のため高度な治療法を開発している企業で、主要な開発パイプラインは、慢性心不全の治療を目的に開発中の同種再生医療製品MyCardiaとなっている。同社は、独自の製造プロセスを活用しMyCardiaの大規模製造を実現し、凍結保存することで即時使用可能な製品としてMyCardiaを販売する予定。さらに同社は、独自の組織プラットフォームを活用し、他の心血管系疾患を対象とした開発も進めている。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:iPS細胞(用語)医療(用語)京都大学(組織)再生医学・再生医療細胞療法マイオリッジ(企業)日本(国・地域)

研究以外の業務で疲弊する日本の研究業界の効率化を図るバイオインフォマティクス解析「ANCAT」が4000万円調達

研究以外の業務で疲弊する日本の研究業界の効率化を図るバイオインフォマティクス解析プラットフォームの「ANCAT」が4000万円調達

バイオインフォマティクス解析プラットフォーム「ANCAT」を開発・提供するアンプラットは4月15日、第三者割当増資による総額4000万円の資金調達を発表した。引受先はANRI、DEEPCORE。また現在ANCATのβ版ユーザーを募集中で、多種多様な研究領域に対応するため、様々な領域の研究者からの問い合わせを受け付けている。

アンプラットによると、海外では実験設備の共用化や、PIとは別に管理運営を主業とするラボマネージャーの存在など、日本にはあまり取り入れられていない方法で研究の効率化がなされているという。同社は、こういった、研究者が研究に没頭できる環境を整えることが研究成果に直結すると指摘。

2021年2月設立のアンプラットは、ANCATを通して研究以外の業務で疲弊する日本の研究業界の効率化を図るとともに、海外へ事業を展開することで、日本の研究者と海外研究者とのつながりを強化し、研究環境のグローバルスタンダードの普及を目指すとしている。

研究以外の業務で疲弊する日本の研究業界の効率化を図るバイオインフォマティクス解析プラットフォームの「ANCAT」が4000万円調達

アンプラットは、研究業界における叡智創出のエコシステムの形成をミッションに掲げ、急速なIT化による研究者の専門性の希薄化や、労働効率の低下、業界特有の人材流動性の高さによるノウハウ継承の困難性の解消にコミットするソリューションカンパニー。

ANCATでは、各研究チームで所有している解析手法を登録しクラウド上で管理することで、解析の簡便化を図れるという。また、遺伝子解析という大規模になりがちなストレージやコンピューティングのランニングコストを抑えるとともに、任意の公開設定によって施設間連携も可能だ。

解析プラットフォーム「ANCAT」のダッシュボード(左)と解析登録画面(右)

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タグ:アンプラット(企業)資金調達(用語)バイオインフォマティクス / 生命情報科学(用語)日本(国・地域)

野菜・果物など生ゴミ活用のオーガニックポリマー開発で水問題解決を目指すOIST発EF Polymerが4000万円調達

ビル&ミリンダ・ゲイツ財団も支援、生ゴミ活用のポリマー開発で水問題解決を目指すEF Polymerが4000万円を調達

野菜・果物の不可食部分の残渣など有機性廃棄物から開発したオーガニックポリマーを手がける「EF Polymer」(EFポリマー)は4月14日、シードラウンドにおいて、総額4000万円の資金調達を発表した。引受先は、MTG Ventures、Yosemite、Beyond Next Ventures、エンジェル投資家の鈴木達哉氏(Giftee代表取締役)。2018年から始まった沖縄科学技術大学院大学(OIST)のスタートアップアクセラレータープログラムから生まれたスタートアップとしては、初めての大型資金調達事例となる。

EF Polymerは、OISTの2019年度スタートアップ・アクセラレーター・プログラムを通じ、当時22歳のインド人起業家兼CEOのNarayan Lal Gurjar(ナラヤン・ラル・グルジャール)氏らが設立。

生分解性廃棄物(生ゴミ)を新興国でも利用しやすい低コスト・持続可能な農業資材に変換することで、水不足など農業に関わるグローバルな環境問題を解決することをミッションとして掲示しており、野菜・果物の不可食部分の残渣をアップサイクルした環境に優しいオーガニックポリマーの開発を行っている。

EF Polymerが開発するオーガニックポリマーとは?

現在オムツなどに使われ一般的に流通しているポリマーは、アクリル系ポリマーなど化学合成されたものが大多数であり、生分解せず土壌を汚染することや、土壌成分と化学反応し吸水力を失うことから農業利用に適していないという。

これに対してEF Polymerのポリマーは、柑橘系の果物やバナナの皮、サトウキビのバガスなど有機性廃棄物を基に開発を行っているそうだ。このポリマーは、自重の80~100倍の水を保持でき、土壌投入すると保水力と肥料保持力が高まり、40%の節水と20%の肥料削減が期待できるという。また100%オーガニックのため6カ月で完全生分解される。

インドではすでに累計1700kgを販売しており、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの支援を受けながら、500人以上の農家の協力の下パイロットテストを実施しているそうだ。

農業用水不足などの「水問題」を、生ゴミを「資源」として活用し解決

今日の地球上に存在する水のうち人類が利用可能な淡水は約0.01%しかなく、そのうち約7割が農業セクターにおいて消費されているという。これに加え、気候変動や環境汚染などに起因する農業用水の不足など、農家が直面している「水問題」は乾燥地域では特に深刻な課題となっているそうだ。

また、膨大に生み出される生ゴミも社会問題化しており、世界では毎年約2~3億トンの生ゴミを排出しているという。この生ゴミは、全体の30~40%しか利活用が進んでおらず、焼却インフラの少ない新興国では土壌埋設処分による汚染問題を引き起こしている。

そこでEF Polymerは、世界が抱える「水」と「生ゴミ」における社会課題を同時に解決するべく、生ゴミを「資源」として活用することでオーガニックポリマーを開発した。

またナラヤン・ラル・グルジャールCEOは、現在日本の有機農園は0.5%ヘクタールの土地しかなく、農林水産省は今後30年間で25%にまで有機農園を増やそうとしている点を指摘。バイオ廃棄物をリサイクルし、有機農産物を変換する同社のアプローチは、これらオーガニック農業の促進に役立つという。同社のEF Polymerは、有機農園を増やすというプロジェクトに貢献し得る大きな可能性を秘めているとした。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:農業 / アグリテック(用語)EF Polymer(企業)沖縄科学技術大学院大学 / OIST(組織)資金調達(用語)気候変動(用語)ビル&メリンダ・ゲイツ財団(企業)水(用語)日本(国・地域)

イーロン・マスク氏のNeuralinkデバイスを装着したサルが脳でピンポンゲームをプレイ

Elon Musk(イーロン・マスク)氏が率いるNeuralinkは、彼の数ある会社の1つで、現在、唯一マインドコントロールに焦点を当てている企業だ(私たちが知る限り)。Neuralinkは同社のハードウェアを使いサルが脳だけでピンポンゲームできるようになったといったことをまとめた最近のアップデートの詳細をブログと動画で公開した。

上の動画は、Neuralinkのセンサーハードウェアと脳インプラントを使って、マカクザル(「Pager」という名前の)の活動のベースラインを記録し、画面上でジョイスティックを使ってトークンを異なるマスに移動させるゲームをプレイしている様子のデモだ。Neuralinkはこのベースラインのデータを元に、機械学習を使ってマカクザルが物理コントローラーを動かす場所を予測し、最終的には実際に動く前にそれを正確に予測することに成功した。その後、研究者たちはスティックを完全に取り外し、ピンポンゲームと同じことを行った。マカクザルはもはや存在しないスティックで手を動かすことさえしなくなり、代わりにLinkハードウェアと埋め込まれたニューラルスレッドを介してゲーム内のアクションを完全に頭で制御するようになった。

私たちが最後にNeuralinkを見たのは、マスク氏自身が2020年8月にLink技術をライブで実演したときだ。ブタを使ってさまざまな刺激に応じて脳から信号を読み取る様子を見せた。マカクザルによる新しいデモでは、人間への応用という点で、この技術の方向性がより明確に示されている。なぜなら、同社はブログで同じ技術を使った、例えば麻痺のある患者によるコンピューター上のカーソル操作サポートを紹介しているからだ。またNeuralinkによると、この技術はiPhoneのタッチ操作やバーチャルキーボードを使ったタイピングなど、他のパラダイムにも適用できる可能性があるという。

関連記事:イーロン・マスク氏が脳インターフェイスNeuralinkの技術をライブ披露、脳モニタリング装置を移植した豚を使って

マスク氏はまた別のツイートで、Neuralinkの初期バージョンでは、スマホ操作ができない麻痺のある人でも、親指を使って入力する一般的な人よりもすばやくスマホを使えるようになると述べている。また、プロダクトの将来的な改良により、患者の体のさまざまな部位にあるNeuralink間の通信が可能になり、例えば、脳内のノードと脚の神経経路の間で通信を行い「下半身不随の患者が再び歩ける」ようにすることができるだろうとも付け加えています。

これらは明らかに大胆な主張だが、同社は既存の実証実験と近い将来の目標を裏づける多くの既存研究を引用している。しかしながら、マスク氏の野心的な主張は、彼のすべての予測と同じく十分に懐疑心を持って受け止めるべきだろう。彼は人間による臨床試験は「できれば2021年後半には開始したい」と付け加えているが、これは当初彼が予想していたものよりもすでに2年遅れている

関連記事:イーロン・マスクのNeuralinkは来年から人間の脳とのより高速な入出力を始める

カテゴリー:バイオテック
タグ:Neuralinkイーロン・マスク

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Katsuyuki Yasui)

細胞培養スタートアップ「インテグリカルチャー」が培養肉技術を活用し世界初のスキンケア化粧品原料を開発

細胞培養スタートアップ「インテグリカルチャー」が培養肉技術を活用した世界初のスキンケア化粧品原料を開発

細胞培養スタートアップのインテグリカルチャーは4月7日、スキンケア化粧品原料「CELLAMENT」(セラメント)を開発し、量産体制が整ったことから、2022年にセラメント配合スキンケア化粧品の上市を目指す化粧品会社と原料販売の商談を開始したと発表した。

セラメントは、原料素材にワクチン製造にも使われる安全性の高い卵(国産)を使用しており、卵由来「鶏胚膜(胎盤様)組織」の培養上清液化粧品原料として​は世界初としている。成長因子(グロースファクター)、アミノ酸、ビタミンなど、肌に有用な生理活性物質を豊富に含んでおり、線維芽細胞増殖促進・抗酸化・保湿・皮脂合成抑制などのエビデンスを確認しているという。

同社は、化粧品原料開発においても、細胞農業のアプローチにより動物細胞資源を有効活用し、多様で豊かな未来の実現を目指す。

細胞農業とは、生物を構成している細胞を体外で培養することにより、従来のような動物飼育をすることなく、肉や乳製品などの農産物とまったく同じものを作り出せる新しい資源生産の考え方。伝統的な農業に比べ環境負荷が小さく、持続可能な生産方式として期待されているという。

セラメント概要

  • 化粧品表示名称:ニワトリ胚体外膜細胞順化培養液
  • 特許出願番号:2018-210910
  • 製造国:日本
  • 8つの安全性試験クリア済み:ヒト皮膚パッチ試験、3次元皮膚1次刺激代替試験、3次元眼刺激代替試験、皮膚感作性代替試験(KeratinoSens、h-CLAT)、RIPT試験(アレルギーテスト・累積刺激)、アレルゲン分析、ウイルス検査、染色体異常
  • 公式サイトhttps://www.cellament.jp/

2015年10月設立のインテグリカルチャーは、細胞培養技術をベースに培養肉作りの研究開発からスタートした研究開発型スタートアップ。独自開発の低コスト・汎用大規模細胞培養技術「CulNet System」(カルネット システム)を中心とした事業展開をしている。

同社によると、培養肉研究開発の中で、CulNet Systemにおいて2種以上の細胞種・組織を一緒に培養する「共培養」を構成している細胞が、肌に有用な成分を作り出していることを見い出したという。化粧品用途に応用すべく約2年の研究を実施し、卵の胎盤様組織にある3種類の細胞(3mix細胞)の培養上清液を新規化粧品原料「セラメント」として開発・商品化した。3mix細胞とは、鶏卵の胚膜(胎盤に相当する部分)にある3つの細胞「羊膜」(ようまく)、「卵黄嚢」(らんおうのう)、「漿尿膜」(しょうにょうまく、漿膜と尿膜をまとめたもの)を指すそうだ。

細胞培養スタートアップ「インテグリカルチャー」が培養肉技術を活用した世界初のスキンケア化粧品原料を開発

採取した細胞を培養すると、その培養液中に細胞から成長因子(グロースファクター)が大量に分泌される。ここから、細胞を除いた上澄み液は培養上清液と呼ばれる。この培養上清液中には細胞活性のカギとなる情報伝達物質が豊富に含まれているそうだ

セラメントは、PCPC(Personal Care Products Council。米国パーソナルケア製品評議会)にて新規化粧品原料として登録済みで、卵由来の胎盤様組織の培養上清液化粧品原料としては世界初となる。

インテグリカルチャーのCulNet Systemは、同社独自の汎用大規模細胞培養技術(汎用細胞培養プラットフォーム)で、動物体内の細胞間相互作用を模した環境を擬似的に構築する装置(特許取得済み)。

動物体内を模した環境を構築することで、細胞培養の高コスト原因であった成長因子の外部添加を不要とし、コスメに使用可能なエキス成分から、食肉に用いる細胞成分まで、様々な利用範囲をもつ成分を安価で大量に生産できるという。理論的にはあらゆる動物細胞を大規模・安価に培養可能で、様々な用途での活用を想定しているそうだ。

すでにラボスケールでは、管理された制御装置下で種々の細胞を自動培養し、高コストの一因であった血清成分の作出を実現(特許出願済み)。血清成分の内製化実現により、従来の細胞培養が高コストとなる主因の牛胎児血清や成長因子を使わずに済み、細胞培養の大幅なコストダウンを実現するとしている。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:インテグリカルチャー(企業)細胞培養(用語)培養肉(用語)美容(用語)メイクアップ / 化粧(用語)日本(国・地域)

バイオテック関連スタートアップのY Combinatorが次世代の治療法とツールを開発中

先に開催されたY Combinator(Yコンビネータ)のデモデイでは医療分野とバイオテック分野が登場し、その中で10社近くの企業が筆者の目を引いた。最近のスタートアップはこの分野で特筆すべき実績をあげているため、来年のトップニュースでいくつかの企業について報道されても不思議ではない。

スタートアップが大手製薬会社に挑む

Atom Bioworks(アトム・バイオワークス)は、とても短いスケジュールで非常に大きな可能性を見せている企業の1つである。筆者がデモデイに登場した注目企業に関する2番目の記事で書いたように、同社はDNAのプログラミングが可能な解析装置の実現にかなり近づいているようだ。これは、生化学における究極の目標の1つでもある。このようなツールによって分子を実質的に「コード化」して特定の物質や細胞型に密着させることで、さまざまなフォローアップが可能となる。

一例として、あるDNA解析装置は、新型コロナウイルス感染症のウイルスに取りついて感染を示す化学信号を出してから、ウイルスを除去できる。がん細胞やバクテリアにも同じ原理を適用できるというわけだ。

アトムの創業者は、その技術の詳細をNature Chemistry(ネイチャーケミストリー)誌で発表している。新型コロナウイルス感染症の検査に加え、コロナウイルスやその他の疾患に対する治療法にも取り組み、同社では今のところ9桁台の売上を見込んでいるという。

LiliumX(リリアムX)も、このような方向性を持つ企業の1つである。リリアムXは、プレハブ式のDNA解析装置のような「二重特異的抗体」を目指している。ヒトの抗体は学習できるため、さまざまな病原体や老廃物、体内で不要な物を標的にできる。カスタマイズした抗体を注射すると、がん細胞にも同様のことが可能だ。

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リリアムXは、効果がありそうな抗体の構造を生成するのに、アルゴリズム的アプローチを採用している。これはAIに精通したバイオテック企業が採用する手法と同じだ。同社では、ロボットによる試験装置を使って抗体を間引きながら試験管で結果を出すことで、有望な候補を選び出している。見込み客を獲得するというのは困難だが、このような活動で同社の価値はさらに高まっている。

Entelexo(エンテレクソ)はその先を行っており、自己免疫疾患の治療に活用できるエクソソームという有望な治療法の開発に取り組んでいる。この小さな小胞(細胞間でやり取りするパッケージのようなもの)は、あらゆる種類の物質(他の細胞の挙動を変えられるカスタマイズされたmRNAなど)を運ぶことができる。

細胞の挙動を系統的に変更することにより、多発性硬化症のような疾患を軽減できる可能性があるが、その厳密なメカニズムに関する詳しい説明を同社は発表していない。簡潔に説明できるような内容ではないだろう。同社はすでに動物実験に入っている。スタートアップとしては驚くべきことだ。

さらに進んでいる企業をあえてもう1社挙げるとすれば、Nuntius Therapeutics(ヌンティウス・セラピューティクス)だ。同社は細胞特異的(骨格筋や腎細胞など)なDNA、RNA、CRISPRに基づく治療を提供する方法に取り組んでいるが、こうした最先端の治療には課題がある。このような治療法で標的とする細胞型と接触できれば的確に処理できるが、その細胞に治療薬が到達するかどうかは確実ではない。住所を知らない救急車の運転手のように、治療薬が目標とする細胞を見つけられなければ効果を発揮することはない。

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ヌンティウスは、多岐にわたる標的細胞に対して遺伝子治療のペイロードを届ける確実な方法を考案したと主張している。だとすれば、Moderna(モデルナ)のような大手製薬会社が開発した技術を上回る。同社は独自に薬の開発とライセンス供与も行っているため、この技術をヒトにも活用できれば、ある意味で遺伝子治療の包括的なソリューションを提供できる。

同社は治療薬だけでなく、人工臓器の分野でも成長を遂げている。生体適合性材料を使用しても拒絶反応のリスクがともなう場合があるため、人工臓器は実験段階にとどまっている状態だ。Trestle Biotherapeutics(トレッスル・バイオセラピューティック)は腎不全という特定の疾患に取り組んでおり、実験室で培養された移植可能な腎組織を使用して、腎不全の患者が透析を回避できるように支援している。

腎置換療法を開発することが最終的な計画ではあるが、腎不全の患者にとっての1週間や1カ月という時間はとても貴重である。透析を受けていれば、ドナーが見つかる可能性や待機リストの順位が繰り上がる可能性は高くなるが、誰も好んで定期的に透析に行っているわけではない。透析しなくてもよくなるのであれば、非常に多くの患者は喜ぶだろう。

幹細胞科学と組織工学に関する豊富な経験を持つチームから、今回のYale(エール大学)とHarvard(ハーバード大学)の協力関係が生まれた。共同で実施されたヒト組織の3Dプリントも、間違いなくこのアプローチの一環である。

治療以外の取り組み

YCバッチでは、さまざまな疾患に対処するための技術だけでなく、そのような疾患や技術を研究して理解するプロセスの改善にも、かなりの力を注いだ。

多くの業界では、Google Docs(グーグル・ドックス)のようなクラウドベースのドキュメントプラットフォームを利用して、共有やコラボレーションを進めている。コピーライターや営業担当者の場合は、おそらく標準のオフィススイートで十分である。だが、科学者には専門分野で固有の文書やフォーマットを使用する必要があるため、このようなツールが使えるとは限らない。

Curvenote(カーブノート)は、そのような分野に従事するユーザーのために構築された、共有ドキュメントプラットフォームである。Jupyter(ジュピター)、SaturnCloud(サターン・クラウド)、Sagemaker(セージメーカー)と連携し、さまざまな読み込み・書き出しオプションに対応している。さらに、Plotly(プロットリー)のような可視化できるプラグインを統合し、Gitでバージョンを管理している。あとは自分の部署の責任者に、お金を払う価値があることを納得だけだ。

画像クレジット:Curvenote

Pipe | bio(パイプ|ビオ)にアクセスすると、専門分野にさらに特化したクラウドツールを入手可能だ。パイプ|ビオはリリアムXと同じように、抗体薬物を開発するためのバイオインフォマティクスに取り組んでいる。バイオテック企業のコンピューティングおよびデータベースのニーズは非常に特殊であることに加え、すべての企業にバイオインフォマティクスの専門家が揃っているわけではないため、ここで詳しく説明するのは難しい。

データサイエンスが専門の大学院生に研究室で夜勤してもらう代わりに、お金を払うだけで使えるツールがあるというのは望ましいことだ(会社名に特殊文字を使わないのも望ましいのだが、これは実現しないだろう)。

専門分野に特化したツールはPCだけでなく作業台でも使用できる。これから紹介する企業はしっかりと現状を見据えている。

Forcyte(フォーサイト)もまた、デモデイで登場したお気に入り企業のニュースで紹介した企業の1つだ。この企業では、化学や分子生物学というより、細胞で発生する実際の物理現象を扱っている。この現象は体系的に観察するのが困難だが、重要な分野と言えるさまざまな理由がある。

同社では、非常に細かくパターン化された表面で細胞を個別に観察し、収縮やその他の形状変化を特に注視している。細胞の物理的な収縮や弛緩は、いくつかの主要な疾患とその治療における重要な要素であるため、その変化を観察・追跡できれば、研究者が有用な情報を入手できる。

フォーサイトはこうした細胞の特性に作用する薬剤の実験を大規模に実施できる企業として自社を位置づけており、すでに肺線維症に有効な化合物を発見したと主張している。同社のチームはNature(ネイチャー)誌に掲載され、NIHから250万ドル(約2億7500万円)のSBIR賞を受賞した。これは非常に珍しいことだ。

画像クレジット:Kilobaser

Kilobaser(キロベイサー)は、成長を続けるDNA合成の分野に参入することを目指している。企業は多くの場合、DNA合成に特化した研究所と契約してカスタムのDNA分子群を作成するが、作成する量が少ない場合は社内で作業したほうが効率が良い。

技術的な知識がない従業員でも、キロベイサーの卓上型マシンをコピー機のように簡単に使うことができる。アルゴン、試薬供給、ミクロ流体チップ(同社がもちろん販売している)があれば、デジタル形式で送信したDNAを2時間以内に複製できる。これにより、別の施設に依頼することで制約があった小規模ラボでの検査スピードを速めることができる。同社はすでに、1台につき15000ユーロ(約194万円)のマシンを15台販売したが、かみそりの替え刃にコストがかかるように、実際のコストは材料などを補充する際に発生する。

画像クレジット:Reshape Biotech

Reshape Biotech(リシェイプ・バイオテック)の取り組みは、おそらく最もわかりやすいと言えるだろう。研究室での一般的な作業を自動化するために、それぞれの作業に合わせたロボットを作成するというアプローチだけに特化している。口でいうほど簡単でないことは明らかだが、レイアウトと設備が類似している研究室が多いことを考えると、カスタムのロボットサンプラーや高圧滅菌器が多くの研究室で採用される可能性がある。定時制の大学院生を雇う必要がなくなるわけだ。

バイオテック分野と医療分野で注目すべき企業は他にもある。すべての企業を1つずつ紹介できるスペースが紙面にはないが、ハードルが高いために参入しにくかった分野でも、技術やソフトウェアの進歩により、スタートアップが参入しやすくなっているということを最後に付け加えておこう。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Y Combinator新型コロナウイルス

画像クレジット:Peter Dazeley / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

創薬および再生医療高品質化の研究開発を行うナレッジパレットは3月29日、シリーズAにおいて、第三者割当増資による総額約5億円の資金調達を発表した。引受先は、リード投資家の未来創生2号ファンド(スパークス・グループ)、きぼう投資事業有限責任組合(横浜キャピタル)、既存株主のANRI。創業以来の累計調達額は約7億円となった。

ナレッジパレットのミッションは、遺伝子の活性化パターン(遺伝子発現プロファイル)からなる細胞ビッグデータを「正確に・速く」取得する技術で細胞を診断し、製薬・再生医療業界の課題「開発・製造の困難さ」を解決するというもの。

人体を構成する基本要素である「ヒトの細胞」の状態について、同社の技術を基にした遺伝子発現プロファイルにより取得・診断し、「病因は何か」「薬の効果はあるか」「製造された細胞の品質」を特定。AI創薬により「開発効率の低さ」の解決、またAI再生医療による「製造の困難さ」の解決を目指している。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

調達した資金は、研究開発および人材採用にあて、さらなる技術開発と各領域における共同研究を加速し、より多くの難病に対処できる創薬・再生医療プラットフォームを構築する。

また今後2年間は、シリーズAで調達した資金をベースに業容を拡大。2023年にシリーズB調達の実施を目指しており、2025年にIPOを計画している。中長期的には、他社との協業のほかに、AI創薬事業、AI再生医療事業において自社での研究開発を進め、最終的には構築したデータベースを基とした新薬や再生医療プロダクトを他社にライセンスするなども目指すとした。

遺伝子の活性化パターン(遺伝子発現プロファイル)というビッグデータ

ヒトは約37兆個の細胞で構成されており、細胞1個は30億文字に相当するDNAを持つ。さらにその中に3万カ所の「遺伝子領域」があり「RNA」として転写され、細胞の構成物質であるタンパク質を作るもととなる。

一口に「細胞」といっても心臓や肝臓など臓器の違いが生まれる理由は、この遺伝子の種類・状態により3万種類の遺伝子の活性化パターン(遺伝子発現プロファイル)が存在していることによる。同様に、病気による違い、化合物(薬)の効果の違いなども遺伝子発現プロファイルとして現れるという。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

ナレッジパレットは、この遺伝子発現プロファイルを正確・高速・大量にとらえる技術を有しており、これを基にビッグデータとして分析・診断結果を蓄積し創薬・再生医療に活用するという。

国際ベンチマーキングの精度指標と総合スコアで1位を獲得したコア技術

同社のコア技術は、共同創業者兼代表取締役CEO 團野宏樹氏が理化学研究所在籍時に開発した「シングルセル・トランスクリプトーム解析技術」だ。このコア技術は、国際ベンチマーキングの精度指標(遺伝子検出性能・マーカー遺伝子同定性能)と総合スコアにおいて1位を獲得しており、トップ学術誌Nature Biotechnologyに掲載されている(2020年4月)。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

同技術は、精密な分子生物学実験術とAI技術を組み合わせて、1細胞レベルで全遺伝子発現プロファイルを取得するというもので、実験室で行う精密実験プロセス「精密分子生物学実験」と、コンピューター上で行う計算科学技術「AIによる大規模バイオインフォマティクス」により構成されている。

精密分子生物学実験では、解析対象となる細胞から多段階の分子生物学実験によりRNAを抽出し、次世代シーケンス技術により全遺伝子発現プロファイルを取得する。さらにAI科学計算・二次元マッピングといったバイオインフォマティクスを介し、どのような細胞がどの程度含まれているのか、また細胞に含まれる希少かつ重要な細胞(間葉系幹細胞など)も含めて、網羅的・高精度に細胞の状態を診断するという。

製薬会社と協業が進むAI創薬事業

近年、医薬品の開発現場では、薬のターゲットとなる体内物質(創薬標的)が枯渇しており(開発が容易な新薬・疾病はあらかた手が付けられている)、難病になるほど新薬開発の難易度が上昇、開発コストが急速に肥大化しているという。このため、新薬の開発効率を高める新たな創薬技術が必要となっている。

そこでナレッジパレットは、製薬会社との連携・協業の下、様々な病気の細胞や薬剤を投与した細胞の遺伝子発現データベースを構築し、これを活用したAI解析により新薬の開発を進めている。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

同社コア技術では、数多くの「微量な細胞サンプル」に対して、従来技術と比較して10~100倍のスループットで、どの化合物(薬品)が特定の細胞に効果が高く毒性が低いのかを選び出す「全遺伝子表現型スクリーニング」が可能という。

製薬会社では、薬剤の基となる数多くの化合物をまとめたライブラリーを持っており、対象の(かつ微量の)培養細胞などに対してそれぞれ処理を行い解析を行うことで、実際にどういった病気や細胞に効果があるのか特定する。ナレッジパレットは、これら大量の化合物サンプルと微量の細胞サンプルといった組み合わせでも、高精度・高速に遺伝子発現プロファイルの変化を捉えられる。これにより、従来技術と比べ1/10から数十分の1のコストで、大規模な全遺伝子表現型スクリーニングを可能としているという。

再生医療に関する3つの課題

現在の医薬品は、化合物合成で低分子化合物の製造を行う「低分子医薬品」、細胞の中でタンパク質を合成・製造する「バイオ医薬品」、ヒト由来の細胞を細胞培養により利用し機能の修復を行う「再生医療」に大別される。

再生医療では、「生きた細胞」をどう制御するかが医薬品として製造する上で大きなカギとなっているという。細胞のコントロールでは、大きく分けて「品質にバラツキが生じる」「培養液の未確立」「高い製造コスト」という3点の課題が存在しているそうだ。

品質のバラツキという点では、そもそも生きた細胞であることから個性が現れ、性質の制御が難しい。例えば同じ条件で培養した細胞、また違う研究機関が再現しようとしたところ別の細胞ができてしまったなどが起こりうるという。患者に移植予定の細胞シートが離職試験で剥がせず、移植に失敗するということもあるそうだ。

また、細胞を育てる培養液(培地)については、細胞の性質や増殖の機能を決定する生育環境にあたるものの、どのような化合物をどの程度の濃度で組み合わせると、特定の細胞に最適なのか、グローバルスタンダードが存在していない状況を挙げた。その理由として、細胞ごとに最適な生育環境を生み出すための培地調液は、高度なノウハウと手作業、多段階の実験プロセスが必要なため、試作可能なパターンが1年あたり約200種類と少なく、最適な培養液にたどり着けていないという。

これら品質のバラツキや培養液の課題が製造コストの高騰に結びついており、採算が取れない状況になっているそうだ。

同社は3つの課題の原因として、細胞がどのような性質を持っているのかという「細胞の診断技術」がなかった点を指摘。培養・製造の評価指標が不十分で、製造コストを下げられていないとした。

コア技術活用の「培養最適化」に基づく再生医療

ナレッジパレットは、コア技術(シングルセル・トランスクリプトーム解析技術)を用いることで、非常に多くの種類の培養条件で培養された細胞について、高速に全遺伝子レベルで診断することで、最適化された培養液を開発できる(培養最適化)という。

製造改善が必要な再生医療用細胞に対して、CTOの福田氏による独自のチューンナップを施した自動分注機・ロボットで多種類の培養液を作成。コア技術である遺伝子発現解析・分析により、どのような条件で培養された細胞がどのような性質を持つのか網羅的・高速に培養性能を評価しその情報を蓄積する。このデータベースとAIにより、最適な培養条件を選択できるようにするという。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

この取り組みにより、バラツキのない再現性の高い細胞製造をはじめ、さらに従来増殖が難しかった細胞についても10~100倍の収量を実現するといった生産性向上、製造コストの削減が可能になるという。再生医療を「製品」として確立させ、難病の治療に役立つものにするとした。

再生医療・細胞治療に関し、日本は国際的なトップランナー

創薬・再生医療領域において日本で起業したスタートアップというと、残念ながら耳にする機会はあまりない。TechCrunch Japanでも資金調達などの掲載例は数少ない状況にある。

国際ベンチマーキングの精度指標と総合スコアで1位を獲得(後述)という同社の技術力を考えると、海外での起業もあり得たのではないか。そう尋ねたところ、CEOの團野氏は、国内の製薬業界自体がそもそもグローバルに通じている点を挙げた。また同氏が理化学研究所においてバイオテクノロジーとAIの融合研究に従事したという経歴・人脈が、優れた人材をスピーディに採用する際に強みになると考えているそうだ。

また再生医療領域は、日本が力を入れている分野でもある。京都大学iPS細胞研究所所長・教授の山中伸弥氏が2012年のノーベル医学生理学賞を共同受賞したことから国として推している点が追い風となっており、民間企業やアカデミアが取り組むなか日本で起業する価値は高いという。

共同創業者兼代表取締役CTO 福田雅和氏は、日本では再生医療に関する新法が制定され、規制改革が大胆に行われた点を挙げた。法整備面では日本は進んでおり、海外から日本に参入する傾向も見受けられるという。再生医療・細胞治療に関しては日本は国際的なトップランナーといえるとした。

ナレッジパレットの技術、ナレッジパレットの事業で停滞を吹き飛ばし前進する

一方で團野氏は、「製薬の開発がすごく大変だという点は痛感しています。同時に、この領域が加速すると多くの方の幸せにつながると信じています。再生医療も同様です。再生医療だからこそ治る病気が多くあると期待されているにもかかわらず、日本では追い風があるにもかかわらず、承認された製品がまだまだ少ない状況です」と指摘。「私達の技術、私達の事業であれば、この停滞を吹き飛ばして前に進むことができると、強い気持ちで運営しています」と明かした。

福田氏は、「身近な人を治せるように、再生医療がそれが実現できるように、この領域でトップになることを決意して起業し、がんばっています」と続けていた。


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ヨーロッパ初の培養サケ、マス、コイの供給業者を目指すBluu Biosciences

ヨーロッパで誕生したあるスタートアップが、培養魚肉分野での最初の大規模供給業者を目指すレースに加わった。

Bluu Biosciences(ブルー・バイオサイエンセズ)は、資金調達ラウンドで700万ユーロ(約9億円)を調達した。このラウンドには、Manta Ray Ventures、Norrsken VC、Be8、CPT Capital、Lever VCが参加し、BluNalu(ブルーナル)、Wild Type(ワイルド・タイプ)、 Shiok Meats(シオク・ミーツ)といったスタートアップと培養代替魚肉の市場を巡って競合することとなった。

持続可能な魚肉の市場は巨大であり、ますます成長を続けている。魚の需要が高まるにつれて、乱獲や水産養殖による影響への懸念がすでに山積している。その問題は、他の動物由来のタンパク質が抱えているものと同じだ。数十億もの地球人口からの上質なタンパク源の需要に、今ある資源では持続可能な対応はできない。

そのため、細胞培養で食肉を作る企業の多くが、ビーフやポークやチキンなどの肉ではなく、魚に注目している。

「ヨーロッパには優れた才能を持つ人間が大勢いますが、その分野で設立される企業が少なすぎます。哺乳類分野と比較すれば、企業数はさらに少なくなります」と、Bluu Biosciencesの共同創設者にして業務執行取締役Simon Fabich(ジーモン・ファビシュ)氏は話す。

ベルリンを拠点とするBluuはサケ、マス、中国で人気の高いコイに焦点を当てている。他社はマグロやサケやエビと格闘しているが、Bluuは世界でも最大級の人口を抱える国で愛されているコイを、特に魅力的なターゲットと考えている。

創設者立ちは、Bluuが優位な点に、共同創設者Sebastian Rakers(ゼバスチアン・ラーカー)氏の魚の細胞培養というワイルドな世界での深い経験があると主張する。

ヨーロッパで最も有名な研究所の1つ、ミュンヘンのフラウンホーファー研究所に数年間勤務していた海洋学者であり細胞生物学者であるラーカー氏は、製薬業界が有効に使える構成成分としての魚の細胞の可能性を見極める研究を指揮した後、細胞培養肉の商業的な可能性を見据えた特別部隊を率いていた。

Bluu Biotechnologiesの共同創設者ゼバスチアン・ラーカー氏(画像クレジット:Bluu Biosciences

その研究でラーカー氏は、20種類以上もの魚の80種類の細胞の培養を行った。しかも、それらの細胞株を不死化することに成功した。

世界を圧倒するような無限に増殖し続ける魚の細胞の大量生産という夢を語る前に、ここで不死の細胞株とは何かを説明しておくべきだろう。実際、永遠に大量に自己増殖が可能な魚の細胞株の実現は、もう目の前に来ている。

通常、細胞株は、決まった回数増殖を繰り返すと死んでしまう。そのため、大量に肉を培養したい場合は、複数の細胞株を同時に培養するために、同じ動物の生体検査を何度も行わなければならない。Bluuではそのプロセスを排除できた、とラーカー氏は話す。すでに「不死」のサケ、マス、コイの細胞品種を開発しているからだ。

「これは実に大きな競争力になります」とファビシュ氏。「不死化していない通常の細胞の場合、細胞分裂は20回から25回ほどしか行えず、また新しい生検からやり直さなければなりません。不死化した細胞なら最大10万回の細胞分裂が可能で、しかも私たちは毎日2倍にできます」。

このテクノロジーを手に入れたラーカー氏は、これを使って自身のキャリアにどんな道が開かれるかを考えていたとき、インパクト投資家でありPurple Orange Venturesの創設者Gary Lin(ゲイリー・リン)氏に会うことにしたと話す。

リン氏は、ラーカー氏とファビシュ氏を引き合わせた。そして2人は、ラーカー氏の研究を、Bluu Biosciencesの名の下に商品化することを決めた。この市場にはすでにスタートを切っている(そして資金調達を行っている)企業がいくつもあったが、遅れて参入することには特別な利点があったとラーカー氏はいう。

「5年前は、メディア開発を検討する企業はほとんどなく、また非常に大きな規模でバイオリアクター技術に焦点を絞る企業もほとんどなく、細胞培養肉のための培養基材の代替品を探る企業は皆無でした」と彼は話す。だが今は存在する。

それらの技術を提供する企業が市場に参入してくれたおかげで、同社は急加速ができ、2022年末までにはプロトタイプ製品が発表できる見通しが立った。

ファビシュ氏とラーカー氏が商品化に向けて最後に残った障壁という規制当局への働きかけも、彼らは強めている。基本的に同社は、アジア市場を強く意識している。持続可能性において「それが大きな違いをもたらします」とファビシュ氏はいう。「当地の生産挙動を変えられたなら、私たちは非常に大きな影響力を持てるようになります」。

Bluu Biosciencesの共同創設者ゼバスチアン・ラーカー氏とジーモン・ファビシュ氏(画像クレジット:Bluu Biosciences)

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タグ:Bluu Biosciences培養魚肉細胞培養水産業

画像クレジット:Bluu Biosciences

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)

山口大学および国立がん研究センター発スタートアップのノイルイミューン・バイオテックが23.8億円調達

山口大学および国立がん研究センター発スタートアップのノイルイミューン・バイオテックが23.8億円調達

固形がんに対するCAR-T細胞療法の研究開発を行うノイルイミューン・バイオテックは3月22日、シリーズCラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約23億8000万円の資金調達を発表した。

引受先は、新規引受先の第一生命、Binex Holdings、澁谷工業、ヘルスケア・イノベーション投資事業有限責任組合、KD Bio Investment Fund 4、また既存株主のBinex、BiGEN。

ノイルイミューン・バイオテックは、山口大学および国立がん研究センター発スタートアップとして2015年に設立。同社のコア技術PRIME(proliferation inducing and migration enhancing)を利用したCAR-Tを主とする遺伝子改変免疫細胞療法の自社パイプライン事業および共同パイプライン事業を推進してきた。今回調達した資金により、自社パイプライン事業におけるリードパイプラインNIB-101の臨床開発を促進する。

NIB-101は、特定のがん細胞の表面に存在する糖脂質の一種であるGM2を標的としたPRIME CAR-T細胞であり、現在、年内の臨床試験開始を目指して準備を進めているという。

山口大学および国立がん研究センター発スタートアップのノイルイミューン・バイオテックが23.8億円調達

CAR-T細胞とは、遺伝子を導入する技術を用いて作製する細胞で、がんを高感度に見つけ出し、かつ強力に攻撃する能力を持つという。白血球の一種T細胞を血液から取り出して、そこにキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor: CAR)と呼ばれるがん細胞を見つけるアンテナの役割をもつ人工的な遺伝子を導入し、1~2週間程度体外で培養して増やした後に患者に投与する。すると、CAR遺伝子を導入されたCAR-T細胞は、がん細胞の目印となるがん抗原を認識し、これを標的として攻撃する。

ただ、CAR-T細胞療法はがんに対する有効な治療法となる可能性が示されているものの、血液がん以外の固形がんに関しては優れた治療効果を示せていないという。固形がんを標的としたCAR-T細胞療法は各国の研究機関や製薬企業において開発が進められているが、いまだ承認されたものはないそうだ。固形がんと血液がんでは特徴が異なる点があり、固形がん局所へのCAR-T細胞の送達性および固形がんの不均一性 (tumor heterogeneity)が課題となっているという。

この解決策として、ノイルイミューン・バイオテックはPRIME (Proliferation-inducing and migration-enhancing) 技術の研究開発を実施。CAR-T細胞およびその他の免疫細胞のがん局所への送達性を向上させ、生体内において宿主の免疫システムを活性化することにで、多様ながん抗原に対する免疫応答を誘導して固形がんの不均一性に対応するとしている。

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屋内農業向け水質・土壌管理システムを手がけるデンマークのNordetectが約1.6億円調達

屋内農業が拡がりを見せている中、屋内作物の効率と品質の向上を目指して、より優れたデータやモニタリングツールを事業者に提供する新しい企業が続々と誕生している。

そのうちの1つ、コペンハーゲンに本社を置くNordetect(ノルディテクト)は、政府系投資会社やSOSVのような伝統的なアクセラレータから約150万ドル(約1億6300万円)の資金を調達。垂直型農場における養分や水質の監視・管理の方法を改善するという技術を携え、米国市場に参入しようとしている。

温室や倉庫を使った管理農業は、植物が最適な生育条件で育つように、投入物のあらゆる側面を管理できるという利点がある。しかし、単に地面に種を蒔くよりもはるかにコストは高くなる。

このような農業の支持者たちは、水の使用効率を高めたり、農薬や肥料の使用を減らしたり、より品質の高い、美味しい農作物を栽培することで、追加費用を抑えることができると提案している。

そこで登場したのが、Keenan Pinto(キーナン・ピント)氏とPalak Sehgal(パラック・セーガル)氏によるNordetectだ。共同設立者の2人は、8年前にインドで大学生だった頃からの知り合いだ。2人は修士課程で一緒に学び、セーガル氏が植物の開花システム、ピント氏は根を専門に、植物のバイオエンジニアリングに取り組んだ後、2人はよりデジタルな分野に進んだ。だが、植物への強い興味は変わらず、お互いに連絡を取り合っていた。

セーガル氏は医療診断、ピント氏は研究機器の開発という専門的な仕事に従事し、2人とも多忙な日々を送っていたが、植物科学と土壌の健康に関する議論は続けていた。

約3年前、2人は水質監視と土壌の健康管理を組み合わせたツールキットのアイデアを思いついた。セーガル氏はそれまで勤めていたインド工科大学を辞め、コペンハーゲンでピント氏と合流し、Nordetectの事業案の核となる技術の開発を始めた。

同社の技術は、分析装置とカートリッジで構成されている。カートリッジとは、マイクロ流体チップのことで、ユーザーがこれを水槽に挿入してサンプルを採取する。この装置が収集したデータをもとに、農場主は水に入れる栄養素をコントロールして、色や味などの形質を最適化することができると、ピント氏は語っている。

画像クレジット:Shutterstock/Francesco83

Nordetectは2017年にSOSVのアクセラレーター「HAX(ハックス)」に受け入れられ、今回が初めての起業となる2人の創業者は、デンマークから深センに移って事業の開発を始めた。2018年末、同社はデンマークに戻り、SOSVとRockstart(ロックスタート)から少量の追加資本を調達した。

2020年になると、同社は垂直農法が拡大している状況を見て、当初は土壌モニタリングツールだったものに水質モニタリング機能を追加して、屋内農業をサポートするようにした。そこからビジネスが軌道に乗り始めたと、ピント氏はいう。

「興味深いのは、屋外と屋内の市場を比較したときのことです。屋外では少々保守的に感じられましたが、屋内はもっと積極的な印象を受けました。この牽引力のおかげで、今回の資金調達ラウンドでは150万ドルを集めることができました」と、ピント氏は語っている。

今回のラウンドには、Rockstart、Preseed Ventures(プレシード・ベンチャーズ)、SOSV、デンマーク政府の成長基金、そしてニューヨーク州ロチェスターの光エレクトロニクス技術に特化したアクセラレータであるLuminate(ルミネイト)が参加した。

Luminateの参加は、Nordetectが米国に進出する理由の1つだが、それだけではない。同国には、室内農業の企業に資金を提供する資本もある。米国で最大の垂直農法企業であるPlenty(プレンティ)とBowery Farming(バワリー・ファーミング)は、それぞれ5億4100万ドル(約589億円)と1億6700万ドル(約182億円)を調達している。

「垂直農法は、データファーマーズと呼ばれる人々を生み出しています」と、ピント氏はいう。「そこでは、生産物の各束は学習のために使われており、出力よりもデータの方が重要です。私たちはこの市場を足がかりとして利用しました」。

関連記事:垂直農園による果物や野菜の室内栽培を手掛けるPlentyが約147億円を追加調達、累計調達額は約526億円に

カテゴリー:バイオテック
タグ:Nordetect農業資金調達

画像クレジット:Bowery Farming Inc. under a license.

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ガン治療の改良からミツバチの保護、髪に似た植物由来の繊維までIndieBio最新クラスの参加企業を紹介

超正確なガン治療!植物から人間のもののような毛を生やす!ミツバチを救う!

IndieBio(インディーバイオ)の参加企業の幅は、いつだってワイルドだ。今回の顔ぶれも、決して期待を裏切らない。

SOSVのアクセラレータープログラムであり、アーリーステージのバイオテック企業に特化したIndieBioは、参加企業に25万ドル(約2700万円)以上の資金、メンターシップ、そしてアイデアを実現させるために自由に使える生物学研究室を提供する。

創設者のArvind Gupta(アルビンド・グプタ)氏は2020年このアクセラレーターを去り、ベンチャー投資企業Mayfield(メイフィールド)に移ったのをきっかけに、MayfieldとIndieBioは共同でGenesis Consortium(ジェネシス・コンソーシアム)を結成し、IndieBio参加企業に、オプション投資としてさらに25万ドルを提供している。

当初、IndieBioはサンフランシスコだけで運営されていたが、2020年にニューヨークでもコホートを募集するまでに拡大し、現在は並行して運営されている。サンフランシスコは執行取締役Po Bronson(ポー・ブロンソン)氏が、ニューヨークは執行取締役Stephen Chambers(スティーブン・チャンバー)氏が率いている。

デモデーはまだ先になるが、IndieBioは現在プログラムに参加している企業について少しだけ教えてくれた。断っておくが、IndieBioは多くがその基盤となる科学的概念の実現性がまったく白紙の状態の、非常に初期段階の企業に限って投資を行っている。「私たちのプログラムは、私たちの熱意です」とブロンソン氏は私に話した。目標は、数百万ドル(数億円)ではなく数百、数千ドル(数万、数十万円)の投資で各企業のコンセプトを実証し、大きなビジネスにつなげる道を探ることだ。「私たちはリスクを削り取り、次に構える投資家たちのためにディリスキングしているのです」。

ここに、ニューヨークとサンフランシスコ双方のプログラムに参加している企業をアルファベット順に紹介しよう。

ニューヨーク

Beemmunity(ビーミュニティー):人類が生き延びるためにはミツバチが必要だが、その数は激減している。大きな原因の1つに神経毒系農薬があるといわれている。「ミツバチのための農薬防護策」という触れ込みのBeemmunityは、ミツバチがそれを摂取することで、神経毒系農薬を吸収し、老廃物として排泄させる「マイクロスポンジ」の開発を進めている。間もなく実地試験を行う予定。

Brickbuilt Therapeutics(ブリックビルト・セラピュティクス):歯周病や口腔ガンジダなどの予防と治療を助ける生物療法のど飴。

Bucha Leather(ブシャ・レザー):バクテリア・ナノセルロースから培養される動物由来ではない合成皮革。同社の製造方法なら、数週間で「分厚いマット」素材を作れるという。

Free To Feed(フリー・トゥー・フィード):赤ちゃんに母乳アレルギーが出たとき、どの成分に反応しているかを探し当てるのは、大変な時間と根気のいる作業だ。Free to Feedは、母乳に含まれる食品タンパク質の種類を特定する試験紙を開発している。これにより母乳を赤ちゃんに与えている母親は、どのタンパク質がアレルギー反応を起こしているかを理解しやすくなる。

Gypsy Basin Genomics(ジプシー・ベイジン・ジェノミクス):HIVが原因の早期口腔ガンを、歯医者でうがいをするだけで簡単に検査できる方法を開発している。

Harmony Baby Nutrition(ハーモニー・ベイビー・ニュートリション):「乳成分不使用の、アレルギーを起こさない、環境に優しい唯一の乳児用粉ミルク」を謳うHarmonyは「ヒトの母乳にほぼ近い」乳児用粉ミルクを作っている。

MicroTERRA(マイクロテラ):ウキクサを使って養魚場の排水をタンパク質に変換する。ウキクサは、その発育過程で養魚場の排水を浄化する。成長すると、そこから採れる「ウキクサのタンパク質濃縮物」は動物の餌のタンパク源として利用できる。

Nyoka Design Labs(ナイヨカ・デザイン・ラブズ):生物発光を利用した、毒性のない、生分解性の、リサイクル可能なグロースティック。

Sequential Skin(シーケンシャル・スキン):同社の肌の検査キットで顔を拭い同研究所に送ると、その人の肌の微生物に適した製品に関する詳細なレポートを受け取ることができる。

Stembionix(ステムバイオニクス):個人的な幹細胞バンクを念頭に、扱いが複雑になり成育能力に悪影響を及ぼすこともある冷凍解凍の手順を踏むことなく、幹細胞を輸送できる「郵送可能な生物反応器システム」を開発する。

サンフランシスコ

Aja Labs(アジャ・ラブズ):「ヘアエクステのビヨンドミート」を売り言葉に、見た目も感触もヒトの髪の毛とよく似た繊維を植物から育てる。化学薬品を大量に使用する合成技術も人毛も使わずに、ヘアエクステンションを作れる可能性がある。

Avalo.ai(アバロ・エーアイ):解釈可能性のある機械学習を用いて、優れた作物の開発に役立つ植物の遺伝子(および遺伝子の働き)を高速に特定する。

California Cultured(カリフォルニア・カルチャード):実験室で育つカカオ。苦みが少ないため、少量の砂糖でもおいしく加工できるカカオを栽培できるという。

Canaery(キャネリー):「マシンビジョンが視覚に対して行うように、匂いに対して行う」ことを目指す同社は、対象物の「匂いの指紋」を分析するニューラルインターフェイスを構築し、港や検査場などで、X線やカメラを使わずとも(またはそれらと併用して)危険な化合物の特定が行えるようにする。

Capra Biosciences(キャプラ・バイオサイエンセズ):発酵過程で発生し、通常は邪魔者となる生物膜を、エンジンオイルや化粧品用のレチノールなどの製品に変換する方法を探る。

Lypid(リピド):動物の油と同じ温度で溶け、同じ食感を持つ動物の脂質のように振る舞うビーガン用のオイルを開発し、植物由来代替肉の品質向上を目指す。

OncoPrecision(オンコプレシジョン):患者から採取した細胞に薬剤を投与することで、ガン専門医が無数にある治療薬の中から迅速に最適なものを見つけられる手段を構築する。目標は7〜14日で最適な薬を探し出すこと。

Ozone Bio(オゾン・バイオ):死細胞培養(ゾンビザイム)を使い、グリーンな方法でナイロンを作り出す。

Panacea Longevity(パナシア・ロンジェビティー):断食せずに断食と同じ健康効果を再現する方法を探る。「断食時の体の自然な反応を模倣」する栄養素を特定し、サプリの開発を目指す。

Prolific Machines(プロリフィック・マシーンズ):細胞分化を高精度でコントロールする。たとえば培養肉では、この技術を使えば、ステーキ肉の赤身と脂身をそれぞれどこに作るかを決められる。

Proteinea(プロテイニア):ハエの幼虫を使い、医薬品用の「医薬品品質のタンパク質」を安価に早く作り出す。

Sundial Foods(サンダイヤル・フーズ):植物由来のチキンに「皮」を付ける。まずはそれをコーティングすることで、植物由来の鶏の手羽を作る。

Vertical Oceans(バーティカル・オーシャンズ):垂直農法の考え方をシーフードに応用し、積み重ねが可能なタワーで、高効率、低廃棄物、持続可能なエビの養殖を可能にする。

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タグ:IndieBioアクセラレータープログラム

画像クレジット:IndieBio

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(文:Greg Kumparak、翻訳:金井哲夫)

腸内細菌バイオスタートアップのメタジェンセラピューティクスが9000万円の資金調達

腸内細菌バイオスタートアップのメタジェンセラピューティクスが9000万円の資金調達

マイクロバイオームサイエンスを活用した創薬・医療事業を推進するメタジェンセラピューティクス(MGTx。Metagen Therapeutics)は3月17日、第三者割当増資による総額9000万円の資金調達を発表した。引受先はファストトラックイニシアティブおよび慶應イノベーション・イニシアティブが運営するファンド。

マイクロバイオームとは、微生物の集合(微生物叢。びせいぶつそう)、その遺伝情報の全体、微生物叢が存在する環境を含めた言葉。腸内細菌をはじめ人間の体にも共生的に存在しており、健康状態と密接に関連している。細菌(バクテリア)集団の場合は、バクテリオーム(細菌叢)と呼ばれることもある。

MGTxは、腸内細菌叢研究において国内有数の実績を有するチームからなるマイクロバイオームスタートアップで、腸内細菌移植療法(FMT)に用いる製剤を開発している。

現在FMTは、偽膜性腸炎を対象とした先進医療や炎症性腸疾患に対する臨床研究にて実施されているものの、FMT製剤の品質基準設計やそのサプライチェーン構築など、普及に向けた課題が存在するという。

MGTxはグローバルスタンダードに準じた安全なFMT製剤の安定的なサプライチェーンを構築し、国内におけるFMTの普及を促進するとしている。また、腸内細菌叢データを活用することで、マイクロバイオーム創薬へと事業分野を拡大する。

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同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を手がける大阪大学発スタートアップ「クオリプス」が20億円調達

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を手がける大阪大学発スタートアップ「クオリプス」が20億円調達

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を行う、大阪大学発スタートアップ「クオリプス」は3月16日、総額約20億円の第三者割当増資に関する契約を締結したと発表した。引受先は、JICベンチャー・グロース・ファンド1号投資事業有限責任組合(JICベンチャー・グロース・インベストメンツ)、ジャフコSV6投資事業有限責任組合、ジャフコSV6-S投資事業有限責任組合(ジャフコ グループ)、京大ベンチャーNVCC2号投資事業有限責任組合、阪大ベンチャーNVCC1号投資事業有限責任組合(日本ベンチャーキャピタル)、富士フイルム、セルソース他。

同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートとは、ヒトiPS細胞から作製した心筋細胞(iPS心筋)を主成分とした他家細胞治療薬で、シート状に加工したものを心臓に移植するという(他家とは、第三者提供のiPS細胞から作った細胞を使うことを指す)。有効な治療法がない重症心不全の患者を対象とし、心機能の改善や心不全状態からの回復等の治療効果が期待されている。

今回調達した資金により、同社はこの同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの実用化を一層加速化させ、様々な細胞製品の培養・加工を通じ、画期的な細胞治療薬の創生に貢献するとしている。

富士フイルムは、同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた心筋再生医療研究開発の促進を、またセルソースは、同種由来間葉系幹細胞および同種由来iPS細胞由来エクソソームの利活用を通じた再生医療分野での協業を期待し資本参加したという。

クオリプスは、大阪大学の技術・研究成果をベースに、同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの開発・事業化を行うことを目的とする、2017年3月設立の大阪大学発スタートアップ。同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの製造方法に関する研究開発を推進し、さらに効率的な生産技術を確立して、世界に先駆けて再生医療等製品として製造販売承認を取得することを目指す。

同社は2020年夏、同種由来iPS細胞由来心筋細胞シートの早期実用化を進めるべく、現在大阪大学で実施中の医師主導治験を支援するとともに、同製品の製造・供給体制を構築するため商業用細胞培養加工施設を大阪府箕面市において稼働させている。

また今後、3年後の上市に向けて、研究開発の加速化や商業用細胞製造施設の安定稼働を図り、事業化体制を構築するとともに、海外展開のための準備、第2、第3プロジェクトの探索研究を推進するため、第三者割当増資の実施に至ったという。

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