クリエイターの“お金に換えられない価値”を評価・支援する暗号通貨「CLAP」

個人の価値をお金やモノなど別の価値に換える「評価経済」。これまでのYouTubeやInstagramといった、インフルエンサーが発信する“コンテンツ”が評価されるプラットフォームに加え、2017年は、自分の価値を模擬株式として発行し、ビットコインで取引ができる「VALU」が5月にスタート、ユーザーが提供する時間を10秒単位で取引する取引所「タイムバンク」も9月にアプリを公開するなど、評価自体を取引できるサービスのローンチが相次ぐ年だった。

そうした中、新たに独自の暗号通貨を使ったサービスでクリエイターの価値を可視化して、支援しようと2017年8月に設立されたのがOnokuwa(オノクワ)だ。オノクワが開発した独自通貨「CLAP(クラップ)」は、ビットコインなどと同様にブロックチェーン技術を活用した暗号通貨(仮想通貨)。CLAPをやり取りすることで、ミュージシャンやイラストレーター、漫画家などのクリエイターが活動できる場を提供する「CLAP経済圏」の構築を、オノクワは目論んでいる。

そのCLAPの第1弾サービスが4月19日、リリースされた。ベータ版として登場したiOSアプリ「CLAP」は、この独自通貨CLAPを獲得するためのツールだ。

クリエイターが活動するライブハウスや劇場、ギャラリー、グッズショップなどの「CLAP SPOT」に設置されたQRコードを読み取ることで、1カ所につき1日1回CLAPが獲得できる。つまりファンがクリエイターを応援するために実際に足を運ぶことで、CLAPが増えていくという仕組みだ。

4月時点では、都内約25カ所のCLAP SPOTにQRコードが設置される。CLAP SPOTがどこにあるかは、CLAPアプリ内で確認することができる。

オノクワではCLAPを使ったクリエイター支援のための経済圏を作りたい、としている。CLAPアプリでは、ファンが獲得したCLAPを好きなクリエイターの支援に使ったり、CLAPと引き換えにクリエイターのオリジナル特典(会員証)を手に入れたりできる。

第1弾クリエイターとして音楽制作ユニット「Mili(ミリー)」が参加することが決定、キャンペーンの実施も発表された。ユーザー(ファン)は、4月25日にリリースされるMiliの3rdアルバム『Millennium Mother』の関連グッズ購入やライブ来場でCLAPを入手できる。またスペシャルイベントの開催も予定されているという。

さらに今後オノクワでは、クリエイター側がファンから支援されたCLAPを使い、自身の創作活動を行うために利用できるサービスなどのリリースも予定している。

クリエイターが与える感動の総量をブロックチェーンで可視化する

オノクワを立ち上げた代表取締役CEOの石谷優樹氏と、共同創業者CSOの森川夢佑斗氏は、学生時代のインターン時代に知り合った。石谷氏は、関西学院大学在学中に700人規模の音楽フェスを成功させたこともあり、クリエイターがやりたいことをできる表現の場を用意することに関心があった。

一方、森川氏は「資本主義の『お金を稼ぐだけ』の拝金主義的な評価だけでなく、社会への貢献やYouTuberに対する評価なども評価軸としたい」と考える中で、ブロックチェーンに興味を持ったという。京都大学在学中にブロックチェーン技術を活用したプロダクト開発やコンサルティングを行うAltaAppsを創業。仮想通貨ウォレットを開発するGincoの代表取締役でもあり、1月31日には1.5億円の資金調達実施を発表している。

2人は昨年の初夏、森川氏が書籍『ブロックチェーン入門』を出版したことをきっかけに連絡を取り合い、久しぶりに会う機会があった。そこで、森川氏の1軸から多軸による価値評価へ、という思いと、石谷氏のクリエイターを支援したい、という思いを重ね合わせたときに「影響力、すなわちクリエイターが与える感動の総量を可視化できていないことが課題だ」との共通認識を持つ。

これを解決するためにツールとしてブロックチェーンを使い、ビジネスとして仕組み化することにしたのが、オノクワ設立のいきさつだ。

森川氏は「新しい価値指標としてのCLAPには、透明性と特定の機関に依存しないことを求めて、ブロックチェーンを使うことを選んだ。ブロックチェーンを利用することで、指標をグローバルに広めることもできる」と話している。「またブロックチェーンは個人間のP2P取引に用いられる仕組み。たまったCLAPをファンからクリエイターへ、クリエイターが別の才能を持つクリエイターへ、という形でやり取りすることで、価値を個人間で流通させることも目指している」(森川氏)

ブロックチェーンの活用により仮想通貨(CLAP)を基盤としたプロダクトを開発し、アセットとなるデータを扱うアプリを用意する。この仮想通貨を流通させることで、歌手の世界でいえば「オリコンチャート」のようなものに当たる指標を、音楽でも絵でも文字でも横断的に、クリエイター分野全体で把握できるデータとして持ち、指標の提供をビジネスとして展開する。これがオノクワの想定する収益モデルだ。つまり、売上ランキング、あるいはYouTubeやInstagram、Twitterなどのフォロワー数に代わる、クリエイターの評価指標を提供しよう、ということのようだ。

実際、森川氏はCLAPについて「お金とフォロワー数の間ぐらいに位置するものと認識している」と言う。そして「それこそが、評価経済プラットフォームとして先行するVALUとの違いだ」と説明する。「VALUでは、最後には評価が金銭として価値化される。CLAPは円やビットコインとはつながない。CLAPは、クリエイターの活動場所に、足を運んで参加するファンの行動に対して与えられる。これにより、投機的な行動が入らなくなる。純粋にファンが『いい』と思ったものに入る仕組みだ」(森川氏)

「CLAPではこれまでの仕組みと比べて、よりピュアな評価が見える」と森川氏は考えている。「例えば『Twitterのフォロワーは少なくても、ライブに足しげく通うコアなファンが付いている』というような、本来の“人を動かす力”が可視化できる。影響力の可視化という点ではCLAPもVALUと同じだが、アプローチが違う。副次的な価値は人気の実態とは乖離する。だから、独立した指標を作りたい」(森川氏)

ヤフーが仮想通貨とブロックチェーン事業参入へ、子会社がビットアルゴ取引所東京へ資本参加

ヤフーは4月13日、100%子会社であるZコーポレーションを通じて、ビットアルゴ取引所東京へ資本参加することを明かした。

Zコーポレーションではビットアルゴ取引所東京からの第三者割当増資と、親会社であるシーエムディーラボからの株式譲渡を引き受ける。出資額は非公開だがZコーポレーションでは株式の40%を取得する方針。ビットアルゴ取引所東京は同社の持分法適用会社となる。出資時期は2018年4月中の予定だ。

ビットアルゴ取引所東京はすでに仮想通貨交換業者として登録を認められている企業の1社。ヤフーでは同社に資本参加することで、ブロックチェーン関連領域と仮想通貨事業に参入する。まずは同社が持つサービス運営やセキュリティのノウハウを活用して、ビットアルゴ取引所東京による取引所サービスを強固にしていく方針。サービスの開始は2018年秋の予定だ。

つい先日マネックスがコインチェックを36億円で買収したニュースを報じたばかり。GMOグループやDMMグループのようにすでに自社で事業を展開しているケースもあるが、一方では大企業が仮想通貨事業を運営するスタートアップへの資本参加を通じて、新たに参入してくるケースが増えていくのかもしれない。

なおZコーポレーションは、ヤフーの既存事業とは異なる領域へ挑戦するために設立された子会社。宮坂学氏が代表取締役を務めており、2018年3月にはシェアサイクル事業を展開するOpenStreetへ出資することも発表済みだ。

Salesforceはブロックチェーンプロダクトに取り組んでいる

Salesforceは、モバイル、ソーシャル、IoT、人工知能といった、次の大きなテクノロジーにいつでも目を向けている企業である。セールスフォースの共同創業者Marc BenioffとParker Harrisは、3月末に行われたBusiness InsiderのJulie Bortとのインタビューの中で、様々なテーマについて語ったが、そのうちの1つは次のホットテクノロジーであるブロックチェーンプロダクトへの取り組みについてだった。

Benioffは、スイスで行われた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に参加したときに得たセレンディピティ(偶然のひらめき)について語った。このひらめきがBenioffにブロックチェーンと、それがSalesforceの製品ファミリーの中にどのように組み込まれるかを考えさせ始めたのだ。

開催時になって認識されたのだが、世界経済フォーラムと並行して、とある暗号通貨会議が開催されており、SalesforceがIntercontinental Hotelで開催したイベントでその2つの世界が交流することになったのだ。その際に、暗号通貨会議の参加者の1人がBenioffに声をかけたことが「何か」の始まりだった。

「私はそれまでにSalesforceのブロックチェーン戦略とは何かについて、そしてSalesforceの暗号通貨関連の戦略とは何かについて、そしてそれら全部をどのように関連付けて行けば良いかについて、ずっと考えていたのです」とBenioffは語った。実際彼はセレンディピティの力を強く信じている人物であり、そのイベントでの会話をきっかけに、この発展途上技術に対するSalesforceの役割をより真剣に考え始めたのだという。

彼は、考えを深めれば深めるほど、SalesforceがBlockchainを利用できるという信念が固まったと言う。そして突然新たなひらめきが訪れ、ブロックチェーンと暗号通貨をSalesforceに組み込む方法が見えたのだという。「それはどのように機能するかに関するアイデアです。Dreamforceイベントまでにはブロックチェーンと暗号通貨ソリューションをまとめられたら良いなと思っています」。

Benioffはもちろん先見性のある人物だが、ダボスで交わした会話に対して注意を向けた結果、多くの事に気がついたのだという。そのことで、Salesforceを有意義に拡張できるチャンスを見出したのだ。「沢山のこうしたアイデアは、注意深く聴くことによってもたらされています。常に新しいアイディアが生まれていますよ」と彼は語った。彼は、自分たちでは手が回りきれないほど沢山のアイデアがあることに気がついているが、彼の仕事の一つは、その中でSalesforceの顧客にとって最も重要なものはどれかを見出すことだ。

ブロックチェーンは、Bitcoinやその他の暗号通貨を追跡に使われる電子元帳であるが、さらに一般的なビジネス上の役割も担っている。動かぬ証拠を伴う改竄不可能な記録として、いかなる価値も追跡することができるのだ。

なおDreamforceとはSalesforceの大規模な年次顧客向け会議である。今年は9月25日から28日にかけてサンフランシスコで開催されるが、もし予定通りにプランがまとまったならば、今年はブロックチェーンプロダクトが発表されることになるだろう。

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Salesforceの創業者Parker HarrisMarc Benioffに対する、Business InsiderのJulie Bortによるインタビュー全体の様子はこちら。

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(翻訳:sako)

bitFlyerがObjective-C共同開発者Tom Love氏を顧問に、ブロックチェーン向け言語開発に取り組む

bitFlyerは、プログラミング言語Objective-Cの共同開発者であるTom Love氏を顧問として迎え入れた。同氏の協力により開発体制の強化と技術レベルの向上を図る。またブロックチェーン向けのクエリ言語やスマートコントラクト向け言語の開発に取り組む。bitFlyerは仮想通貨取引所を運営するとともに独自プライベートブロックチェーン技術miyabiを開発するテクノロジー企業でもある。

Tom Love氏

Tom Love氏はBrad J. Cox氏と共にObjective-Cを提供するStepstone社を1983年に設立(のち1995年にNeXTに売却)。その後General Electric、ITT、IBM、Morgan Stanleyで経験を積んだ。bitFlyer代表取締役の加納裕三氏は「プログラミング言語の設計者の知見を持っている人は大勢はいない。言語の設計をお願いしたいと考えている」と話す。

同社が作ろうとしているブロックチェーン向けクエリ言語やスマートコントラクト向け言語とはいったい何か? 加納氏は「ブロックチェーンには標準的なクエリ言語(問い合わせ言語)がまだない。クエリ(問い合わせ)のための統一的な手法がないのは不便だ」と指摘する。「RDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)のクエリ言語SQLは過去30年使われている。複数の製品で共通に使えるSQL言語があったことはRDBMSの普及に大きく貢献した」。そこでSQLをイメージしつつ、ブロックチェーン向けの問い合わせ言語を作っていく。

ISO(国際標準化団体)ではブロックチェーンのインタオペラビリティ(相互運用性)に関する議論が始まっている。「時間はかかるだろうが、そこでクエリ言語の仕様が決まるといいと考えている」と加納氏は語る。クエリ言語の標準仕様が決まり、複数のブロックチェーン技術で共通に使えるようになれば、ブロックチェーン技術の普及に貢献するはずだ。

「Hyperledger Fabricでも、miyabiでも、他の製品でも、共通に使えるクエリ言語があれば、ブロックチェーンの相互運用性が高まる。例えば犯罪収益移転防止のためKYC(本人確認)のさい世界中の複数のブロックチェーンの情報を参照したい場合、共通に使えるクエリ言語があればシステムを作りやすくなる」と加納氏は説明する。

クエリ言語とは別に、スマートコントラクト(ここではブロックチェーンの管理下で実行するプログラムという意味でこの用語を使う)を記述するプログラミング言語にも取り組む。「ブロックチェーン分野の開発で頻繁に発生する処理がある。それをライブラリにするか、あるいは言語仕様に取り込めば、開発がしやすくなる」と加納氏は話す。

スマートコントラクト用のプログラミング言語としては、EthereumのSolidity言語がよく知られている。プライベートブロックチェーン技術では、Hyperledger FabricはGo言語やJava言語を使って開発できる。miyabiではC#言語で開発する場合が多い。この分野でより使いやすい言語を作り出そうという試みである。

課題が多い分野でもある。Ethereumのスマートコントラクトは、過去にハッキングによるThe DAOの資金流出事件やParityウォレット凍結事件を引き起こした。そこでEthereum Foundationではバグや脆弱性を未然に防ぐためプログラムを厳密に検査する形式検証手法に取り組んでいる。また米Blockstream社は、スマートコントラクト用言語Simplicityをオープンソースソフトウェアとして公開した。Simplicityはバグの可能性を極力排除した言語仕様を持つが、一方で「人間のプログラマには向いていない」との意見もある。このようにスマートコントラクト向けのプログラミング言語は議論が多い。この分野にbitFlyerが参入することで、新たな技術的知見が生まれる可能性もある。

今回bitFlyerの顧問に就任したTom Love氏は、1980年代前半にBrad J. Cox氏と共にプログラミング言語Objective-Cを開発したことで知られる。Tom Love氏は最近はブロックチェーン技術に関心を持っているという。bitFlyerの発表文にTom Love氏は次のコメントを寄せている。「今、仮想通貨とブロックチェーン技術の世界は刺激的な時期ですが、これはまだ始まったばかりです。今後数ヶ月から数年の間にこの分野ではさらなる破壊と創造が起きることでしょう。特に向こう1年は今後のマイルストーンとなる年であり、bitFlyerで働けることを楽しみにしています」。

Objective-Cは1980年代前半と最も初期に登場したオブジェクト指向言語のひとつ。C言語にSmalltalk言語のオブジェクト指向プログラミング機能を取り入れた言語仕様を持つ。Steve Jobs氏率いるNeXT(設立時はNeXT Computer、後NeXT Softwareに社名変更)はObjective-C言語を開発環境として採用。1996年にApple ComputerがNeXTを買収した後には、Objective-CはMacOS X(現在の表記はmacOS)やiOSの開発言語として使われた実績を持つ。

フェイスブックのない世界を目指して

親愛なるブロックチェーン派のみなさん。今はみなさんの時代だ。透過的で、強欲で、一攫千金型のスキームを捨て去り、現代の事実上の投機的安物株の賭博場から手を引いて、分散型の力を、世界の人々が求めているものに向けるのだ。ブロックチェーンの人々よ! あのフェイスブックの災厄から我らを救い給え! すべてを分散化し給え!

というのは、もちろん冗談だ。今のところは。

毎年、新しい「新たなるフェイスブック」が現れては、膨らんで、しぼんで、消えていく。どれもほぼ数週間の単位でだ。Diaspora、Ello、Mastodon、Veroを覚えておいでだろうか? 彼らは「ゲーム・オブ・スローンズ」の「壁」に挑んだ盗賊団だったと想像しよう。メンローパークの「冥夜の守人」に気づかれたが……、立ち去るまで完全に無視された。クリティカルマスを握った、200億人に貴重な機能を提供するための強力な兵器一式を生み出す高価で複雑なインフラ、それがフェイスブックの高さ210メートルに及ぶ氷と魔法の「壁」なのだ。

しかし、ConsensusやTokenFestといった人たちの会合では、陰でこう囁かれている。壁には秘密の抜け穴がある。それは根本的な欠陥だと。ユーザーが自分自身のデータを所持し、自分で暗号化し、自分で決めた場所に保管し、自分の意志によってのみ、また明確な許可の元においてのみそれを共有する分散型という黒魔術に直面したとき、フェイスブックの巨大なスケールによる優位性は溶けて流れてしまうという。それはピアツーピアで接続され、無数のノードを通してトークン型のプロトコルで仲介され支払いが行われる。そう、ご想像のとおり、これはある種のブロックチェーンだ。

今はまだホラ話だ。その根本的な欠陥は、非常に大規模な分散型ブロックチェーンという考え方にある。つまり、それは過剰であり、過大であり、誇大妄想的であり、時期尚早なのだ。彼らは、現存する秩序を丸ごと奪い取ろうとしている。金だろうが、金融セクターだろうが、民主的な統治だろうが、ソーシャルメディアだろうが、ともかく今みんなが頑張っている分野だ。おそらくその分野に関する白書では、トークンベースの分散型システムが、私たちがこれまで積み重ねてきたものに取って代わると書かれているに違いない。

親愛なるブロックチェーン派のみなさん。どうかやめてほしい。私もみなさんと同じく大きなことを考えるのが好きだが、物事を叩き壊すだけでは現実は変えられない。新たなビッグバンで何年間も燃え続けている松明を吹き消すことは不可能だ。現実的に考えるなら、熱心な仲間を集めて、小さく始めて、より大きな社会が目を向けてくれる魅力を身につけるまで、もしかしたら長期間にわたるだろうが、技術を磨き続けることだ。宿屋に冒険家たちを集めて、即席の軍団を作り「壁」に立ち向かうなどという行為を繰り返すのは、やめていただきたい。

とくに、一般消費者向けのアプリでそれを行うのは危険だ。「ブロックチェーンは新しいLinuxであって、新しいインターネットではない」と私は主張している。この数カ月間、そう主張する私の声は次第に強くなっている。ブロックチェーンの愛好家たちは、財布が膨らむ様子を見て、またどれだけの数のERC20トークンが存在するかを数えては楽しんでいるだろうが、実際、それには使い道がない。せいぜい投機的安物株ぐらいなものだ。一般人にとっては、何も面白くない。

比較的「マシ」なトークンであるUXも、根本的な問題を解決することはできない。インターネットでの少額取り引きは、分散型のトークンがまだ使い物にならなかったために失敗を繰り返したわけではない。その認識的負荷が大きすぎて、使用を継続できなかったからだ。トークンがあったからといって、それは一寸とも変わらない。もし、あなたが作った一般消費者向けの分散型のアプリを使って、一般のユーザーが意図的にトークンの貯蓄、消費、やりとりをし始めたら、その分散型アプリは失敗する。

しかし、それだけだろうか? この記事の冒頭に書いたことは単なる悪ふざけではない。親愛なるブロックチェーン派のみなさん。もしそれに気づいてさえいれば、今はあなたたちの時代だ。だが、みなさんの目的は中央集権型サービスに対抗することでも、それに取って代わることでもない。それは目的にはなり得ない。それでいいのだ。むしろ、現在目指すべきは、既存の中央集権型サービスを使いたくない人のための有効な受け皿だ。その人数の多い少ないは関係ない。

そもそもビットコインは、そういうものだった。中央集権的な金融に対する風変わりでちっぽけな代替手段だったのだ。それが10年の間に、びっくりするほどの生存力を得て、便利になり、自給自足が可能になり、世界的に成功した。しかし、それは今でも風変わりでちっぽけな代替手段に変わりはない。この先、想像できる範囲の将来にわたって、そうあり続けるだろう。

そんな、ビットコインが立てた波の中で、私たちは決済だけに留まらない分散型のアプリを開発するためのツールを得た。たとえばブロックスタックは、入門用チュートリアルの中に「分散型のマイクロブログ・アプリ」を含んでいる。COSMOSは、ブロックチェーン同士の相互運用が可能になるようデザインされている。チェーンの分散型ウェブ、つまり彼らが呼ぶところの「ブロックチェーンのインターネット」だ。そしてもちろんイーサリアムは、信じるか信じないかは別として、ICO専用ではない。任意の分散型コードを実行できる。さらに重要なことに、スループットを大幅に拡大できるように計画されているのだ。

私たちは、こうしたツールが集まって、たとえば小規模な分散型ソーシャルネットワークを構築するっといった状況を迎えつつある。いや、もうその時が来ているのかもしれない。それでも、クリティカルマスの問題にはぶち当たるだろう。しかし、それはアート集団、教会、マニアたちといった熱烈な支持者やコミュニティにフォーカスすることで解決できる。また、「一般人はトークンなんて使わない」問題もある。しかしそれも、各ノードにトークンを扱う管理者を置くことで対処できる。オンライン・コミュニティにかつて電子メール管理者やローカルのUsenetシスアドがいたのと同じことだ。一般ユーザーに必要なのは、URLとユーザーIDとパスワードのみ。そして、有料会員になるか広告を表示してもよいかを決断するだけだ。

荒唐無稽に聞こえるだろうか? そうかもしれない。しかし、私はかなりの量の最新の分散型システムのコーディングを行ってきたから言えるのだが、ツールもネットワークも、かなりいい線を行っている。もう一歩のところだ。もうすぐだ。ユーザーが自分のデータを自分で管理できるローカルなソーシャルネットワークが構築されたなら、それがノードの高次分散型ネットワークの一部となれば、すべてのコミュニケーションが共通のトークン化されたプロトコルで行われるようになる。それでやっと、まったく新しい、面白い世界が訪れる。そこではスケーリングの問題に頭を悩ませることがない。

だが私が思うに、実用的な代替手段になるために、フェイスブックほどのスケールを持つ必要はない。小さく考えよう。「壁」は動かない。しかし、その壁を乗り越える必要もないかもしれない。これからもフェイスブックは世界に君臨するだろうが、フェイスブックにみなさんの世界の一部を奪わせる必要はない。とくに、風変わりで、不格好で、可愛らしいほどボロボロの代替手段が現れ、そこに大きな感情的価値や実用的な価値が見い出せたなら、そしてそれがきちんと働いてくれたなら、「壁」を乗り越えなくても向こう側の人たちと会えるようになる。そのうち、あっちからも訪れてくるだろう。

[原文へ]

(翻訳:Tetsuo Kanai)

CryptoKitties、1200万ドルを調達してスピンアウト―Andreessen Horowitz他が大人気の暗号化ゲームに投資

バーチャル世界でブロックチェーン・テクノロジーを用いてネコを集めるゲーム、CryptoKittiesがバイラルな旋風を巻き起こしていることを報じたが、同社が1200万ドルの資金調達に成功していることが判明した。これによりCryptoKittiesはAxiom Zenからスピンアウトして独自の企業となる。ゲームを開発したAxiom Zenはバンクーバーとサンフランシスコにオフィスを持つデザインスタジオだ。

資金調達ラウンドはAndreessen HorowitzとUnion Square Venturesがリードした。両社はCoinbaseのような急速に成長しつつある暗号通貨スタートアップを支援することで注目をあつめている。またラウンドにはNaval Ravikant(AngelListのCEO、ファウンダー)、Mark Pincus(Zyngaのファウンダー)、Fred Ehrsam(Coinbaseのファウンダー)など多数の著名なエンジェル投資家が参加している。

簡単にいえば、CryptoKittiesとはポケモンカードのような仕組みでネコを集めるゲームだ。Ethereumブロックチェーンを利用しているため、それぞれのネコは「世界でそれ一匹」というユニークさを備える。いわばビーニーベイビーズのデジタル版だ。ユーザーはバーチャル・ネコを購入するために大金を投じている。もっとも人気の高いネコは10万ドルを集めたという。

同社は将来の計画について明らかにすることを避けているため、調達した資金を何に使うのかも今のところ不明だが、プロダクトをバーチャル・ネコ以外のグッズの収集に拡大するつもりなのは間違いない。この場合にもEthereum ERC-721コレクティブル規格が利用されるだろう。同社のゲームは暗号通貨に詳しくない一般ユーザーでもプレイしやすいことが特長だ。

Union Square VenturesのFred WilsonはCryptokittiesに投資した狙いを説明し「ブロックチェーン・テクノロジーの各種の応用の中でもデジタル・コレクティブル・ゲームはきわめて重要な分野だと考えている。このテクノロジーが普及しつつあることで以前は不可能だった数々の機能が実現した。われわれはデジタル・コレクティブル・ゲームは、ブロックチェーンのマスマーケットへの適用として、唯一ではないにせよ最初の大型プロダクトの一つになると考えている」と述べた

CryptoKittiesについては冒頭のリンク先のTechCrunchのこの記事が詳しく紹介している。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

「今回のディスラプトはデカい」――仮想通貨とブロックチェーンでビジネスが変わる

3月15日から16日にかけて開催中の招待制イベント「B Dash Camp 2018 Spring in Fukuoka」。開幕セッションでは、仮想通貨業界の最前線で活躍する経営者が仮想通貨やブロックチェーンの未来を語った。セッションの登壇者は以下の通りだ。

モデレーターはB Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏が務めた。

過渡期を迎えた取引所ビジネス

この数年間、仮想通貨ビジネスの中心にいたのは取引所だった。コインチェックから580億円相当のNEMが流出した事件をきっかけに、世間から大きな注目も集めている。

メタップスは2017年11月、韓国の現地子会社を通して仮想通貨取引所の「CoinRoom(コインルーム)」を開設した。ICOを実施し、約11億円の資金も調達している。そのメタップスを率いる佐藤氏は、現在の日本の取引所ビジネスについて、FX業界の強いプレイヤーが参入してきており、手数料やレバレッジ倍率などもFX業界の慣習に近くなってきていると評した。FX業界の枠組みに、仮想通貨取引所を運営する新しいプレイヤーが飲み込まれてしまうといった危惧もあるという。

ステージ上にはGMOクリック証券を設立した高島氏もいる。同社はFX取引高が1兆円に達する、佐藤氏が言うところの“FX業界の強いプレイヤー”の1つだ。2006年に創業したGMOコインを通してFX業界から仮想通貨ビジネスに参入した高島氏は、現在の取引所ビジネスをどのように見ているのだろうか。

仮想通貨の取引所では、取り扱い通貨を増やすごとに別の管理システムを作らなければいけない点がFX業界との大きな違いだ、と高島氏は話す。異なるプログラムによって作られたビットコイン、イーサリアム、リップルなどの各通貨は、必要になる管理システムもまったく異なる。取り扱い通貨数の分だけ監理システムが必要だ。その取り扱いが雑になってしまうと、今回のコインチェックの流出事件のような問題につながりかねない。

こうした事件を受け、金融庁は仮想通貨交換業者に対する規制を強化するという姿勢を強めている。佐藤氏は、取引所ビジネスにはまだ伸びしろがあるが、通常のスタートアップが規制に対応できるだけの体力を備えられるかは疑問だと話す。「ファイナンス、人材など上場企業なみのものが求められている。それができるスタートアップは少ないだろう。(取引所ビジネスは)大人の戦いになってきたと感じる」(佐藤氏)。

規制強化を受け、取引所を運営するスタートアップは新しい生き残りの道を模索する必要があるのかもしれない。

ブロックチェーンは何を変えるか

急速な盛り上がりを見せた取引所ビジネスが変革を迎える一方、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術があらゆるビジネスに影響をもたらそうとしている。セッションでは、今後2〜3年における有望な仮想通貨ビジネスの領域はなにかという質問が渡辺氏から飛んだ。

gumiの国光氏とメタップスの佐藤氏は、エンターテイメントが最も有望だろうと答えた。スマホ向けゲーム開発のgumiを率いる国光氏は、「インターネットの時代では、データというものはコピー自由なものだった。データそのものには価値がなかった。なので、SpotifyやNetflixなどもコンテンツではなくサービスを売っていた。対して、ビットコインはただのデータなのにそれが価値をもっている。それは、ビットコインはブロックチェーン上にあってコピーができないのでユニーク性が担保されており、かつトレーダブルだからだ。ゲームのアイテムなどがそれと同じような特徴を帯びるようになれば非常に面白いと思う」と話す。

それに関連して、佐藤氏は「これまでネイティブアプリをAppleやGoogleなどのプラットフォームで公開していた人たちが、ブロックチェーンのプラットフォームに流れてくる。そうなったときに、既存のプラットフォーマーがどのような対策を打つのかに興味がある」と語った。

DAS Capitalを通して仮想通貨領域への投資を行う木村氏は、「注力分野として考えているのは、仮想通貨、シェアリングエコノミー、人工知能。ユーザーを集める、というところ以外は、基本的にはすべてブロックチェーンでやれる。現在は20%や30%というプラットフォーム手数料はザラだけれど、そういう手数料は減っていくだろう」と話す。佐藤氏も、「これまでのモデルは場をつくって手数料を徴収するというモデルだったが、これからは通貨発行益を軸にしたモデルがどんどん生まれる」とコメントした。

GMOコインの高島氏は、「取引所が盛り上がる前、仮想通貨ビジネスは国際送金が一番伸びると言われていた」として国際送金ビジネスへの参入を示唆した。「外国に資金を送金するには、送金元と送金先の両国で銀行口座を持っている必要がある。為替手数料、取引手数料も高い。少額でも送りやすいビジネスをつくりたいと思っている」と自社の展望も交えながら注目分野について語った。

モデレーターを務めたB Dash Ventures代表取締役の渡辺洋行氏は、ブロックチェーンの破壊力を「今回のディスラプトはデカい」と表現した。ブロックチェーン技術の台頭は、現在ではすっかりインフラとなったインターネット黎明期以来のパラダイムシフトだと言う人もいる。もしかすると、今を生きる僕たちはそんな時代の移り変わりを見ているのかもしれない。

デジタルガレージと弁護士ドットコム、りそな銀、ローン業務にスマートコントラクトを使う実証実験

デジタルガレージ弁護士ドットコムりそな銀行の3社は、個人向けローン業務の効率化をブロックチェーン技術およびスマートコントラクトにより効率化する実証実験を開始した(プレスリリース)。ブロックチェーン技術として、ビットコインの技術を利用した製品であるElementsを利用する。

従来の個人ローン業務では、契約内容の確認や、取引の執行、途上管理などに人の手が多く介在していた。スマートコントラクトを活用し、顧客と銀行間であらかじめ設定した条件に基づき、取引とそれに付随する手続きを自動執行するシステムを構築する。実証実験でスマートコントラクトの対象となる業務には「自動借入」「自動返済」を含む。

スマートコントラクトの活用により業務効率の向上、シームレスな取引を目指す。実証実験の期間について、デジタルガレージは「実験的な取り組みで走らせながら期間イメージを図っていく。最初のフェーズは2〜3カ月程度と考えている」と話している。実証実験ではプライベート型/コンソーシアム型のブロックチェーンとするが、将来は「ブロックチェーン本来のメリットを引き出す構成であるパブリック型ブロックチェーンでの展開を見据えている」としている。

図は3社の役割分担を示したもの。デジタルガレージ(および同社が出資する研究開発組織DG Lab)と弁護士ドットコム、研究開発組織ブロックチェーン技術の開発と運用を、また弁護士ドットコムはそれに加えて契約内容の精査、実用面における法的観点からの検討・検証を、りそな銀行は従来の個人ローン業務の知見を元にした検証・提言および業務設計を担当する。デジタルガレージと提携する米Blockstream社は後述するElementsの提供という形で協力する。デジタルガレージにとって、スマートコントラクトとElementsによるリーガルテック分野のサービス開発は、同社がBlockstream社に出資した2年前から暖めてきたアイデアとなる(関連記事)。

「信用を見直す」アプローチに基づく新たなシステム構築手法を採用

今回の実証実験は、技術面から見ても興味深い。業務執行を自動化することだけが目的なら、ブロックチェーンやスマートコントラクトを使わずとも従来型のシステムで可能だと考える人もいるかもしれない。だがその場合はシステムを信用して利用する使い方となる。システム開発の常識からは当たり前の話だと思われるかもしれない。だが、金融分野の大規模システム開発の失敗事例が続き、サイバーセキュリティの脅威が激化している現状を見ると、別のアプローチに基づくシステム開発を検討する意味はあるだろう。

業務システムに対してビットコインのブロックチェーンやスマートコントラクト技術を適用することの意味は次のようになる。従来型のやり方はシステムを信用するアプローチであり、重厚な開発プロセスや厳重なテストにより不具合を取り除く(別の言い方をすれば「信頼性を作りこむ」)。一方、この分野でのブロックチェーンと(オンチェーンの)スマートコントラクトのイノベーションは、機械的、暗号学的に検証することが可能である点だ。この両者の違いを表す言葉として象徴的なのが、今回採用する技術であるElementsの開発元、米Blockstream社のスローガンである “Rethink Trust”(信用を見直そう)、それに”Don’t Trust. Verify.”(信用せず、検証しよう)だ(関連記事)。

今回の実証実験では、ブロックチェーン技術としてビットコインのブロックチェーン技術を応用した製品であるElements(米Blockstream社の製品)を利用する。Elementsは、ビットコインのブロックチェーンと2-way Pegするサイドチェーンを構築することを狙う技術として開発し、オープンソースソフトウェアとして公開している。DG Labでは「セキュリティと安全性で最も厳しい要件が求められる銀行業務システムにおいて、ビットコインをベースとするブロックチェーン技術は、その実績から他のブロックチェーン技術に比べ大きな優位性を持つと考えている」と説明している。9年間の連続稼働の実績、数千というノード数、世界最速スーパーコンより何桁も高いハッシュ計算能力を背景とするビットコインは、今のところ安全性という点で最も高い評価を得ているパブリックブロックチェーンであるといえる。

スマートコントラクトは、今回の発表の文脈ではブロックチェーンと連携して自動執行するプログラムを指す概念である(なおスマートコントラクトという用語をNick Szaboが提唱した時期は1990年代でビットコインより早いことには注意しておきたい)。今回の実証実験では、当面は「Elementsをベースにしながら、スマートコントラクトのロジック部分は別機能として実装する。金利など変動要素が大きいものはオフチェーン(ブロックチェーンの管理外)、それ以外は基本的にオンチェーン(ブロックチェーンの管理下)にする想定」(デジタルガレージ)としている。

近い将来、Elementsがスマートコントラクト用のプログラミング言語Simplicityを搭載する予定だ。「そうなれば、順次そちらに移していく計画」(デジタルガレージ)としている。Simplicityは米Blockstream社が開発しオープンソースソフトウェアとして公開しているプログラミング言語で、安全なスマートコントラクト開発に向けて特化したシンプルな言語仕様を持つ。Simplicity言語のホワイトペーパーも公開されている(専門家向けとなるが、日本語で読める資料として「暗号通貨輪読会#13」のびりある氏のスライドがある)。

先端技術企業を立ち上げる際に避けるべきこと、やるべきこと

【編集部注】著者のShahin FarschiLux Capitalのパートナー。

強力なツール、すばらしい才能、そして熱心な投資家からの際限のないドルの流れによって、明日のテクノロジー企業を始めるには、今は素晴らしいタイミングである。好奇心に溢れ野心的な創業者チームたちが、現実の問題を解決するためにそのスキルを注ぎ込んでいる。以下に述べるのは、私たちの未来を明るく照らす、9つのエキサイティングなスタートアップカテゴリの中で、共通する落とし穴を避けながら、堅実な価値を構築する方法についてである。

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拡張そして仮想現実(ARとVR)

仮想現実と拡張現実は、もうすぐ来ると言われ続けてほぼ10年が過ぎている。しかし、新しいVRコンテンツ、ポータル、ハードウェアが目白押しなのにもかかわらず、従来の2Dコンテンツが相変わらず主役の座を占めている。

避けるべきこと:コンシューマーハードウェアを開発してはならない。その通り、仮想現実ヘッドセットは高価で嵩張るものである。一方、拡張現実の忠実度はまだ低いままだ。Magic Leapは、ハードウェアの製造とマーケッティングに必要な膨大な資金を調達するという素晴らしい仕事を成し遂げた。しかし、コンシューマエレクトロニクスの設計、製造、販売、マーケティングのビジネスは、一般にはスタートアップの対象外である。

Sony、Google、Samsung、LG、Lenovo、HTC、そしてAppleのような企業は、そうした機械から利益を得ることができるし、まるで際限がないかのように、資金をそれらの作業に注ぎ込むことができる。その一方で、他のスタートアップたちは、VR/ARコンテンツを消費させる場所になろうとしている。そしてスタートアップたちと同様に、Amazon、Netflix、Apple、Google、そしてFacebookといった大手企業たちも、自身のプラットフォームのためのマーケティングに資金を投入し、それを育てるためにコンテンツに資金を提供している。

やるべきこと:消費者を引きつけて、彼らがお金を払い、時間を捧げてくれるような魅惑的なコンテンツを作り上げることに向けて努力しよう。Atariは、消費者が約800ドル(インフレ調整済み​​)を支払っても良いと思わせるだけの、魅惑的な体験を生み出すことに成功した。そのグラフィックとサウンドはいまではお話にならない位貧弱だが、Atariの初期のタイトルの成功は、イマドキのコンテンツに惨めな思いをさせるほどのものだ。

2Dのコンテンツに化粧を施してよしとするのではなく、ARならびにVRネイティブな体験を生み出すクリエイティブな才能が必要とされているのだ。パン、ズーム、そしてセリフなどで動画と写真が区別されるようなものだ。ゲームセンターや映画館に相当する、VRコンテンツを消費する場所が必要とされているのだ。残念ながら、人々が携帯電話をヘッドセットとして使用したり、家庭内に機器を設置したりすることは、もはや狙うべき戦略ではない。 ARとVRのコンテンツはまだPong時代を迎えてもいないのだ(PongはAtariが最初期に出したシンプルなビデオゲーム)。

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AI

学者や大企業は、AIをPRの材料に使っている。計算コストの低下によって、この何十年も前から存在する技術は実用的なものとなった、そして小切手を読み取り、写真の中から猫を見つけ出すアルゴリズムなどが拡大解釈されて、やがて殺人ロボットが世界を支配するのでは、という恐れにつながっている。

避けるべきこと:最高を目指すAI企業を立ち上げてはならない。投資家たちと才能がこのセクシーなキャッチフレーズに向けて引かれ合った日々は、終わりに近づいている。ユニークな実現技術で新たな数十億ドルベンチャーを始めて成功するよりも、AIが既存の製品やビジネスをより良くできる可能性の方が遥かに高い。

「AI企業」をスタートさせることは、クラウド企業、モバイル企業、インターネット企業を設立することに相当する。Salesforce、Facebook、Amazonの陰には、数千もの失敗したスタートアップがあった。また、自分たちの利便性のために、この技術を活用した多くの既存企業も存在している。失敗したスタートアップたちは、なんとか資金を調達し、誇大広告で人を集めることはできたものの、実際のビジネスを構築するための戦略に欠けていたために、それほど前には進むことができなかったのだ。

やるべきこと:AIを製品の改善や新しい市場へのアクセスのために用いる、多くのツールの1つとして活用する方法を探そう。理想的には、AIを優れた製品を支える秘密の武器として使ったり、特定のカテゴリの顧客にリーチして効率的に獲得するための道具として利用したりすることが望ましい。実際に、マーケットから会社を「AI企業」だとは見て欲しくない筈だ、その代わりに(見えない所でAIが支えている)魅力的な製品で新しい市場を切り拓く企業だとみてもらおう。

ハードウェアアクセラレーションAI

AIチップ企業は白熱している。IntelによるNervanaの4億ドルでの買収と、Nvidiaの株価の急騰が触媒となって、データセンターや、携帯ならびに組込機器上で、ディープニューラルネットを訓練するチップを開発するスタートアップたちが続出した。

避けるべきこと:従来のデジタルチップ設計をAIに向けて最適化しようとしてはならない。チップ会社を作ることは本当に難しい。多くのチップ会社が売上を増やすまでにあまりにも長い時間がかかったことで失敗している。チップ企業たちは複雑な製品を、気紛れで、保守的で、果てしないサポートを要求してくるエレクトロニクス企業に対して売っている。チップ会社が、少量しか購入してくれない顧客のサポートで手一杯になって、潰れてしまうことはありがちだ。チップのスタートアップたちは、より良い経済性を達成するために、新しいテクノロジーを追求して、より多くの資金を調達しなければならなくなり、顧客との間に一大転機でも起きない限りはその動きが繰り返される。

やるべきこと:顧客たちに対して、あなたのチップを使えばできることは何かを尋ねよう。さもなくば、現在のサプライヤー(Intel/QCOM/Nvidia/TIなど)のチップではできないことについて尋ねてみよう。もしパフォーマンス、コスト、サイズなどの改善が10倍に及ばない場合は、キッチンナイフで銃撃戦に臨むようなものだ。どうすれば、あなたの桁違いの改善が、新しいカテゴリーの製品につながる可能性が出てくるのかを考えよう。Broadcom、Qualcomm、InvenSense、Atherosなどの成功したチップ企業は、どれもみな新しい製品カテゴリー(ケーブルモデム、携帯電話、モーションセンシングビデオゲームコントローラ、ラップトップと携帯電話のWi-Fi)を可能にした。あなたのチップはどんな魅力的な製品を可能にするだろうか?

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宇宙技術

インターネットから宇宙に目を向けた起業家Elon Muskは、航空宇宙関係者でなくても奇想天外な会社を作ることができることを世界に証明した。

避けるべきこと:宇宙経済のインフラ整備に焦ってはならない。Mark Twainの言葉として引用されるものに「歴史はそのまま繰り返されることはないが、しばしば韻を踏む」というものがある。投資家たちは、産業革命が進行している最中、鉄道建設のために何十億もの損失を抱えたが、 鉄道輸送に依存した産業たちに莫大な利益をもたらした。また投資家たちはインターネットのインフラを整備する間にも、何十億ドルという金を失ったが、eコマース、ソーシャル、モバイル、そしてSaaSたちがそれを活用して利益を得た。衛星打ち上げ事業、宇宙通信、鉱業、マイクログラビティ実験室などの見通しはそれとは全く違うものになるのだろうか?

やるべきこと:大規模な既存市場および将来の市場に対応するための宇宙を活用したビジネスを構築しよう。SpaceXは、政府および商用衛星事業者の既存のニーズに対応するために、事業を開始した。Planet頻繁に地理空間画像を安価に取得する新しい市場を創出するために、新しいデザインの衛星を開発し運用している。

通信衛星を開発、打上げ、サービス、あるいは提供する計画をまとめる前に、宇宙そのもののことはとりあえず忘れて欲しい。いま事前のコスト(衛星を設計し、製造し、打ち上げるなどのコスト)が必要な総括的な事業を立ち上げていると仮定してみよう。そしてそれにはロングテール型のキャッシュフローが伴っているとする。このキャッシュフローは、その事業が地道なものであろうと奇想天外なものであろうと、他のどのプロジェクトよりも実質的に高い収益(財務用語では、IRR:内部収益率)を達成しなければならない。その収益率は、まだ成功することが証明されていない製品や、新興市場のリスクを補うのに十分なほど高い必要があるのだ

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自動運転車

自動運転車への道のりに横たわる、数々の問題に打ち勝っていく会社を始めたいという誘惑に逆らうのは難しい。ではその問題とは…

避けるべきこと:1点もののソリューションを提供する会社を立ち上げてはならない。およそ50程の大企業が、様々なレベルの技術を追いかけている。コンピュータービジョン用のセンサーから、人間と物との弁別、振舞予測、運転計画、他の車や道路との通信などまで、様々なものがある。一方バックエンドには、開発ツールや地図、そして車を安全に保つためのサイバーソリューションを開発する企業がたくさんある。

残念なことに、自動運転技術はあまりにも初期段階であるため、これらの要素をどのように組み合わせるかということも未定である。私が好きなたとえ話は1960年代の計算機事情だ:そのころIBMはなんでもやっていた。チップや回路基板の製造から、メタル・キャビネットの折り曲げ、そしてマシン上で実行される、プログラミング環境、コンパイラー、およびアプリケーションに至るまで全てを提供したのだ。もしIBM謹製の、スクリーンやキーボード用の掃除用具があっても私は驚かないだろう。

やるべきこと:あなたが売り込もうとしているサプライチェーンの流れを、近くで真剣に観察しよう。もし従来の自動車向けの運転支援機能を提供しようとしているのなら、既存の自動車業界のサプライチェーンの性質を理解しなければならない。なお伝統的にそれはスタートアップにとっては非常に過酷なものである。他のスタートアップたちが討ち死にをしたマーケットで、会社が生き残り繁栄できる程の、ユニークで特別な何かを、あなたの会社は持っているのだろうか?

もしロボットカーの技術を開発しているのなら、多くのスタートアップたちや大企業のR&Dグループによって開発されているシステムに、あなたの技術はどれくらい簡単に適用することができるのだろうか?私の予想:それは簡単ではないだろう。テクノロジーの開発を始めるずっと前に、顧客について知っておかなければならない。各顧客ごとに設計し直さなけれなならないような製品を、追い求めることは避けるべきだ。残念ながらそれは急速に成長しようとするベンチャーの足を引っ張るばかりなのだ。

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マンマシンインタフェース

心で機械を制御したり、機械で心を制御したりすることは、SFの領域に任されてきた。それが最近では、科学者は現代のAIツールを活用して私たちの心の奥底を覗き込み、病気の治療や、機械に対する未来のインターフェイスの開発に応用しようとしている。

避けるべきこと:私たちの心で制御できたり、あるいは心を制御したりする機械(恐ろしい)を作ろうとしてはならない。私たちは信じられないほど洗練された脳-機械インターフェース、すわなち私たちの体、を持って生まれてきた。私たちはおそらく、車輪が発明される前から、話したり、歌ったり、踊ったり、描いたり、書くたり、音楽を作ったり、そして物語を語ることができた筈だ。棒の先の泥で描かれた単純な絵文字は、おそらく洗練された深層学習に裏打ちされた最高級のヘッドセットよりも、より良く感情を伝えることができるだろう。そして、私たちの幅広い視覚、聴覚、嗅覚、そして触覚は、私たちの直感と組み合わさって、私たちの脳に飛び込んでくる超高速道路の機能を果たしている。

やるべきこと:私たちの体に既に備わる、豊かな入出力システムと連携して、忘れられない体験を生み出そう。このアドバイスは聞いたことがあるって?その通り、AR/VRの創業者たちがすべきことと同様のものだ。ジョイスティックはAtariの成功の鍵となったが、ゲームセンターのユーザーに積み上げた硬貨を次々と投入させたり、親たちに800ドル以上(インフレ調整済)の金をAtari 2600に払わせたのはパックマンとPongというゲームそのものだったのだ。

視覚、聴覚、嗅覚と組み合わせ、おそらく個々人の履歴によって訓練された脳のインターフェースは、忘れられない経験をもたらすことができるだろうか?それぞれの個人に合わせて調整されて、他にはない官能的な体験につながるような、刺激の組み合わせを人工ニューラルネットによって生成することは可能だろうか?

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教育

私たちの教育システムは変革の時を迎えている。edXとCourseraが世界最高の教育者たちを、地球上のあらゆる場所に連れて来ているが、そこにはまだ革新の余地がある

避けるべきこと:私たちの古典的な教育モデルの範囲内で構築してはならない。現在使われているシステムは大恐慌直後に発明されたものだ:それが生み出された時代は現在とは社会規範も、キャリアプロフィールも、雇用主も、そして学生からの期待も大きく異なっていた。私の父親の世代では、4年間の教育で生涯のキャリアのための準備を整えられると考えられていた。それに2年から5年間の大学院教育を加えることで、追加の収入とより強い雇用保証が約束されていた。

今日、学部で必要な25万ドルという学費に対して、それに見合った収入につながるという見通しは確実なものではない。伝統的な教育の要素を、電子プラットフォーム上に移植するだけでは、すでに混雑している教育用「製品」の市場に、単に別の選択肢を提供するだけのことだ。

やるべきこと:常に変わり続ける職場のニーズに必要とされるスキルを、常に予想し学生たちに与えることができるようにしよう。テクノロジーは労働のあらゆる側面に急速に浸透しており、ニュースで一般的に叫ばれていることとは異なり、それは労働者たちを置き換えようとはしていない。その代わりにそれぞれの能力を拡大しようとしているのだ(さらに詳しく後述する)。

学生と一緒に進化し、彼らのキャリアを通して寄り添い続ける教育ツールを発明しよう。価値ある生涯教育ツールは、職場の変化するニーズを予測し、自動的にトレーニングを提供する。このコンセプトは、医療従事者たちには新しいものではない。文献を追い続け、常に再認定され続ける必要がある。残念なことに、規制の緩い分野の専門家たちは、訓練を追求する先見性を個々人が持たなければならないが、年齢と共に家族への責任が重くなってくることがそのことを困難にして行くのだ。

さらに、医療以外の分野では知識は効果的に広められていない。AIを使用して、特定の分野のベストプラクティスを特定し、それらを広めることは可能だろうか?未来の教育ツールは、変化する労働に必要とされるスキルセットを予測し、パーソナライズされたトレーニングを提供できるだろうか?

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ブロックチェーン

暗号通貨(仮想通貨)の背後にある不安定性と投機性は、ブロックチェーン技術の力そのものと並んで、多くの起業家たちに、暗号通貨を使ったスタートアップの起業について真剣に考えさせている。

避けるべきこと:投機の勢いに飲み込まれて踊ってはいけない。多くの人が1990年代のIPOバブルを忘れてしまったようだ。その当時のことを振り返ってみれば、何らかの形で「インターネット」とつながりがある「いかなる」企業も、値上がりが期待されるという理由で公開を勧められていたのだ。間違って株式を買ってしまった者たちもいた。彼らの買った株はみるみる急上昇して行った…音楽が止まるまでは。なので、あなたの提供するコインが、ただコインだという理由だけで、適切だと考える投機家たちを食い物にしてはいけない。

やるべきこと:単純な質問をしてみよう:ブロックチェーン技術があなたのビジネスをどのように支えてくれるのか?それを使うことでユニークな製品は提供できるのか?それを使うことで、既存製品の売上は改善するのか?それを使うことで、市場への浸透性が増したり、ネットワーキング効果は高まるのか?

もしコインオファリングをやりたいと思っているのなら、ビジネスの成長に合わせてどのようにあなたの暗号通貨の価値が増えていくのかについての、はっきりとしたシナリオを描くべきだ。ブロックチェーンのどのような性質が、この価値創造の中核となってくれるだろうか?より多くのユーザーが参加し多くの取引が行われることで、どのように通貨の本質的な価値が生まれるのかについての、しっかりとした仮説を立てておこう。

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ロボット

ロボットが仕事を創造するのかそれとも破壊するのかについては、盛んに議論されてきた。パワフルな計算力、アルゴリズム、安価なセンサーとアクチュエーターは、創業者たちに面白い自動化企業を立ち上げるチャンスを与えてきた。このことによってより生産的で競争力のある人間の労働力が生み出される。

避けるべきこと:人間を置き換えようとしてはならない。歴史を通して、発明家たちは人間を模倣する巧妙なガジェットを作り上げてきた。しかし、最も成功したマシンたちは、人間の力を拡大するもので、それらを置き換えるものではなかったのだ。ロボット執事として働く、2足歩行のヒューマノイドを作ろうとしてはいけない。工場の床で、人間のいた場所に立つ仕掛けを作ろうとしてはいけない。受注処理センターの中を走り回り、人間よりも速く箱をピッキングするようなロボットを作ってはいけない。

やるべきこと:人間に力を与えよう。組立ライン技術は工場労働者の生産性をより高めたために、普及することができた。コンベヤーベルトとバーコードは、人間による仕分けや注文の取りまとめをより速くすることができたので、すべての受注処理センターに導入された。

工場や倉庫にはすでに多くの自動化が導入されている。これ以上人間を支援するにはどうすれば良いのだろう?そのロボット支援によって、収益にはどのような影響があるのだろうか?事業者の投資回収率はどのくらいだろうか?その回収された利益は、広く顧客に分配されるのだろうか?あるいは特殊なニーズを持った少数の見込み客に対して限られるのだろうか?

それが、車やiPhoneの組立であろうが、Amazonの受注処理であろうが、部屋の掃除だろうが、皿洗いであろうが、はたまたルームメイキングやグルメ調理であったとしても、尋ねられるべきことは以下の問いだ(1)そのロボットはどのように労働者の人生を良い物にできるのか?、(2)労働者の生産性の定量的な改善率はどのくらいになるか?要するに人間が中心なのだ。

ここでのアドバイスは一貫している:人間を重んじること。素晴らしく多様な人びとを引きつけて、強力な文化で絆を作り上げることで、あなたのスタートアップはわずかなリソースで予想以上の結果を生み出す力を得ることができる。投資家たちはこのような予想以上の業績達成動向を素早く把握し、より多くの人材を引き寄せるための資金を注入し、そのことが更に多くの売上を引き寄せる。こうして好循環が生み出され、あなたのスタートアップは競合相手より1歩先を行き、既存の大企業はバックミラーの中に小さくなって行く。そして新しい市場に力を与える新しい製品を可能にする新技術が創造され、すべての人類がその素晴らしい未来に近づくことになるだろう。

[原文へ]
(翻訳:Sako)

Lightning Networkで電気自動車充電の支払いを──中部電力、インフォテリア、Nayutaが実証実験

今回の実証実験の背景にあるEVオンデマンド販売の課題(中部電力プレスリリースより)

世界的に見ても、かっとんだ──失礼、非常に早い段階にある取り組みといえるだろう。ビットコインのパブリックブロックチェーンの2nd Layer(第2層)に当たるLightning Networkを使い、電気自動車に充電するための電力をオンデマンドで販売する実証実験が、この2018年3月1日から行われている。IoT(Internet of Things)とLightning Networkの組み合わせは、おそらく世界でも最も早い段階の取り組みとなる。

実証実験に取り組んでいるのは中部電力(プレスリリース)、インフォテリアNayutaの3社。Lightning Networkの実装は複数あるが、今回の実験ではNayutaが独自にオープンソースソフトウェアとして開発を進めているソフトウェアを利用する(同社の取り組みは以前に紹介しているが、今回はLightning Networkへの対応を果たしている点が大きく異なる。同社は2017年7月にジャフコらから1.4億円の資金調達を行っている)。

オンデマンドで電気自動車を充電する実証実験で実用性を確認

今回の実証実験の内容は、次のようになる。まず中部電力が電気自動車などの充電に関わる集合住宅向けの新サービスを構想。それを実現する形で、インフォテリアがビットコインのパブリックブロックチェーンを活用したスマートフォンアプリケーションを構築した。Nayutaは2種類のスマートコンセントを実験に提供する。スマートコンセントのうち1台は、ビットコインのパブリックブロックチェーンを活用して充電を制御、その履歴を管理する。もう1台は、Lightning Networkによる支払いを受けて充電を制御する。つまり1st Layer(パブリックブロックチェーン)と2nd Layer(Lightning Network)の2種類の実験が同時に行われている形となる。

実証実験での2種類の技術を使う意味だが、まずビットコインのパブリックブロックチェーンはすでに実用段階にあり、知識も普及しつつある点が開発者、利用者を集める上で有利だ。ただしパブリックブロックチェーンを普通に使う場合にはリアルタイム性は実現できない。そこでよく使われる手法は「Zero Confirmation」だ。この手法はビックカメラ店頭のビットコイン決済などですでに使われていて実績がある。ただし、Zero Confirmationではブロックチェーンの本来の性質である耐改ざん性(二重支払いの防止)のメリットを享受することはできず、別のやり方で安全性を保証することになる。

2nd LayerのLightning Networkは、複数の技術(マイクロペイメントチャネルと)の組み合わせにより、リアルタイムかつセキュアな決済を可能とする。まだ登場間もない新しい技術なので、今のところ複数の実装による相互運用性のテストが行われている段階である。新しい技術なので普及の前段階といえるが、ビットコインの将来動向を考える上では非常に重要な技術だ。登場後間もないこの段階で電気自動車への充電という実証実験を行う事例は、前述したように世界でも珍しい。

電気自動車への充電にLightning Networkを使うと、何がうれしいのか? Nayuta代表取締役の栗元憲一氏によれば「リアルタイム性と、膨大な取引をこなせる」ことだ。以下は、もう少し詳しく栗元氏の話を聞いてみた上で、筆者がまとめた内容となる。

Lightning Networkはブロックチェーンのジレンマを解決する

ブロックチェーン技術に関する技術的な議論はあちらこちらで繰り広げられている。だが、2nd Layerによって課題の種類と解決法が大きく変わることは、まだ周知が進んでいないようだ。

ブロックチェーン技術では、(1)セキュアかつ第三者への信頼を前提としない取引、(2)少額の手数料、(3)スケーラビリティ、(4)リアルタイム性(高速な取引の確定)、(5)P2Pの柔軟性、これらのすべての特性を満たすことは難しい。トレードオフの関係にある複数の要素のどれかを選ばないといけない。

これらの特性の中でも、リアルタイム性はブロックチェーン技術とは相性が悪いことで知られている。特にビットコインのパブリックブロックチェーン上の取引は、「取引が覆る確率が時間と共に0に収束する」という確率的な挙動をする。金融分野ではこの挙動を指して「決済の確定性(ファイナリティ)がない」と否定的に解釈される場合もある。IoT分野でもリアルタイム性は必ず求められる性質だ。

また、ブロックチェーン技術はスケーラビリティでも不利だ。現在のビットコインのブロックチェーンはすべての取引を1つの台帳に記録し、それをすべてのノード上で共有する。処理を分散する設計思想は取り入れられていない。したがってスケーラビリティ(規模拡大性)には限界がある。

Lightning Networkでは「取引に参加する者が、パブリックブロックチェーンの上で確率的な承認に合意し、Lightning Networkを構成する基本的なプロトコルであるMicro Payment ChannelとHTLc(Hashed Time-Lock contracts)に基づく手続きを行う」という条件のもとで、上記すべての条件を共存させることが可能となる。例えばビットコインのブロックチェーン上の支払いが「挙動は確率的であることを知った上で、6承認で決済確定とみなす」というルールに納得している人どうしであれば、Lightning Networkによる取引は事実上リアルタイムであるとみなすことができる。

そしてLightning Networkは、高速高頻度の取引をあちらこちらで独立に同時並行で進めることが可能だ。この仕組みは大きな可能性を秘めている。「IoT分野ではものすごい数のトランザクションが発生する。それをクラウドで処理するよりも、Lightning Networkを使う方が、より大きな数のトランザクションを処理できる可能性がある」(栗元氏)。ブロックチェーンは処理性能の上限が低いとよく指摘されるが、その2nd LayerであるLightning Networkではブロックチェーンどころか既存技術を上回るスケーラビリティを実現できる可能性があるというのだ。

このような可能性を秘めているLightning Networkだが、今回の実証実験で取り上げた電力系サービスへの活用には大きな期待がかかっている。「電力、シェアエリングエコノミー、ブロックチェーン」という3題噺は、世界中で検討が進んでいるテーマだ。太陽光発電の設備や大容量の充電池搭載の電気自動車などを結び、peer-to-peer(P2P)で電力売買を行う構想が世界中で同時並行で進んでいる。このような構想をVPP(Virtual Power Plant、分散したリソースを統合制御して一つの仮想的な発電所のように機能させるシステム)と呼ぶ。このVPPを作り上げるために「信用できる第三者機関を必要とせず取引する技術」であるブロックチェーン技術を使うアイデアが出てくるのは自然なことだ。実際、世界各地で同時並行的にブロックチェーンを利用したP2P電力プラットフォーム取り組みが進んでいる。そして、ここにリアルタイム性とスケーラビリティというブロックチェーンの弱点を解決できるLightning Networkを適用できたなら、世界を変える発明になるかもしれないのだ。

ブロックチェーンとトークンエコノミーで“データ流通革命”を——「Datachain」が始動

これからの時代、ビジネスのカギを握るのは「データ」だ。そんなことを言うとTechCrunch Japanの読者からは「当たり前のことをいまさら言うな」と総ツッコミをくらうかもしれない。

ビッグデータという概念はもはや当たり前のように使われていて、「データは新しいオイル(石油)」と言われるほど重要視されている。最近でもヤフーが新体制の発表で「データの会社」になることを目指すと目標を掲げ、注目を集めたばかりだ。

とはいえ当然ながらデータの世界にも解決すべき課題もあるし、今後さらに進化できるポテンシャルもある。

この領域にブロックチェーンを活用したアプローチで変革を起こそうとしているのが、デジタルマーケティングやメディア開発に取り組むSpeeeの「Datachain」構想だ。

ブロックチェーン×DMPで、新たなデータ流通の仕組みを

DatachainはブロックチェーンとDMP(Data Management Platform)を組み合わせたプロダクトだ。ビジョンは「世界中のデータをブロックチェーンによって安全に共有できるようにする」こと。

詳しくは後述するが、「ブロックチェーン」と「トークンエコノミー」という切り口から従来のDMPの概念、データ共有・活用の方法をアップデートしようとしている。

「ブロックチェーン技術を活用することで、データの格差をなくし、世界をもっとフラットにしていきたい」――Speee創業者でDatachainの責任者を務める久田哲史氏は、同プロジェクトにかける思いをそのように話す。

「ビッグデータやAIが浸透してきている現在でさえ、実は本当に重要なデータは共有されずに死蔵されてしまっているのではと考えた。データの性質上、第三者には気軽に出せないデータはたくさんある。もしそれを安全に共有し解析することができれば、さまざまな産業が前に進むきっかけになるのではないか」(久田氏)

ここで「不動産×マーケティング」という領域におけるデータ活用の事例を考えてみたい。

今あるデータを見るだけでも「どの賃貸情報サイトでコンバージョンしたのか」は測定できるし、そのデータ自体は第三者にも共有することは可能だろう。だが「30歳の男性が六本木のワンルームの15万円のマンションを契約した」など、購買データや来店データ、会員情報といった「基幹データベース」に含まれる情報の中には、第三者に共有するのが難しいものもあった。

これはなにもマーケティングに限った話ではない。たとえば医療などの分野でも、複数の病院がデータを持ち寄り解析することができれば、研究のスピードが加速する可能性もある。

これらのデータを、ブロックチェーン技術をもとに安全に活用するというのがDatachainの構想だ。

「最初はマーケティング領域から入り、ブロックチェーンなら重要なデータがセキュアに共有できるという文化を作る。ゆくゆくは医療や行政など、実現のハードルは高いがインパクトも大きい分野にもチャレンジしていきたい」(久田氏)

データを安全に共有し、さまざまプレイヤーが活用できるようになれば一部のIT大手企業によるデータの独占・支配を緩和することにもつながる。実際GAFA、ないしビッグ4とよばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonに膨大なデータが集中しているのが現状。この「データ格差」をなくすのもDatachainの目的だ。

ブロックチェーンによる安全性と透明性の実現

上述したとおり、Datachainのコンセプトはブロックチェーン×DMPだ。DMPとは広告主やメディアからオーディエンスデータ(クリックや購入といったWeb上の行動ログなど)を収集・解析し、広告やマーケティングに活用できるようにするデータ管理プラットフォームのこと。

久田氏はDMPの4要件として「Data」「Science」「Security」「Cost」をあげている。つまりどれだけ広く深いデータを保有し、インテリジェントな解析がなされているか。そしてそのデータがいかに安全に、低コストで取引されているかが重要だという。

そしてこの4点をブロックチェーンとトークンエコノミーによって新しくする、というのがDatachainのキモだ。

まずブロックチェーンによって何が変わるのか。端的には「自社の機密データを第三者に閲覧されることなく、また意図しない形式・相手に利用されない状態で取引できるようになる」(久田氏)という。

第三者であるDMPの中央集権的サーバにデータをそのまま共有する形では、基幹データベースにあるような情報を渡すハードルが高い。そこでまず暗号化、匿名加工情報化によってプラットフォーマーが直接データの中身を読み取れない形式にする。

その上でデータを提供する「データプロバイダ」がノードとしてブロックチェーンに参加し、共有するデータの範囲や相手をスマートコントラクトによってコントロールする仕組みを構築。データの取引履歴も透明化し、データ提供者が正当な報酬を受け取れるようにする。

たとえばあるビール会社がデータプロバイダとして参加する場合、競合のビール会社には使われたくないデータがあるだろう。自分たちのデータが「誰に、どこまで」使われるかをコントロールでき、実際に使われた場合は履歴が残る。これがブロックチェーンを活用することによる価値だという。

またオンデマンドで理論的には無限の組み合わせの解析が可能。さまざまなアプリケーションとの連携も実現する。

価値あるデータをトークン化して取引するトークンエコノミー

Datachainにおいて、もうひとつ重要となる概念がトークンエコノミーだ。Datachain Tokenを発行しデータ取引の基軸通貨をつくることで「本当は価値があるのに、現在の法定通貨には反映されないものをトークン化し、貨幣や証券の特性をもたせることができる」(久田氏)という。

今のシステムでは、重要なアセットにもかかわらず財務諸表にはデータの価値が反映されない。久田氏いわく「金本位制、国家信用本位制ならぬデータ本位制」という考え方で、データのあり方を変えることを目指している。

昨年リリースされた「VALU」や「タイムバンク」は個人や個人の時間の価値を可視化し、取引できるようにしたことで話題を集めた。Datachainはこの対象が企業の保有する「データ」になったものだ。

DMPにトークンを用いることで具体的に何が変わるのか。ここでも「Cost Free」「ZERO Margin」「Fair Trade」「Token Policy」という4つのポイントがあるという。

法定通貨をなくすことによって「データでデータを買う仕組み」を作り、エントリーのハードルを下げる。そのうえで実際に活用しやすいようにデータ取引のマージンを一切とらない。取引履歴やフィードバックをもとに適正価格を導き出し、安定的なプラットフォームを実現するべくトークンの発行政策を行う。

興味深いのが取引のマージンを0にするということ。既存の枠組みで考えるとこれでは運営元が利益を出せない気もしてしまうが、トークンを介することで「通貨発行益」によりマネタイズできるようになる。Datachain Tokenをある程度保有しておけば、Datachainを利用したいユーザーが増えるほどトークンの価値があがり、その値上がり分が利益になるということだ。

利用者を増やすためには、前提としてデータの価値をきちんと評価できる仕組みが必要になる。この点については久田氏とともにDatachainプロジェクトを牽引するSpeee執行役員の木村淳氏の担当だ。

木村氏は2017年にKDDIグループの子会社となったMomentumでCTOを務めていた人物。同社はアドフラウド(不正広告)対策ソリューションを提供していたスタートアップということもあり、テクノロジーを活用した評価アルゴリズムの構築などは得意分野だということだ。

アプリケーションプラットフォームが世の中を変えてきた

「これまでもアプリケーションプラットフォームが世の中を変えてきた」と久田氏が話すように、蓄積されたデータを利用したDApp(分散型アプリケーション)開発が可能なプラットフォームとしての構想もある。

「優れたアイデアや技術があるのに十分なデータがなくて精度があがらず、プロダクトが使われないという事例は多い。保有するデータの格差によってデベロッパーの開発機会が失われる、という現実を変えていきたい」(久田氏)

Datachain Application Platformではデータを保有しないデベロッパーに対して、最初は無償でデータを提供。プロダクトが育った後に決済手数料からデータプロバイダにレベニューシェアしていくモデルを考えているという。こちらもまずは広告、CRM、MA、SFAといったマーケティング領域からはじめ、購買データを利用したクレジットスコアなどの金融分野へと広げていきたいという。

2018年中に実証実験を開始予定

Datachainの構想が実現すれば、データ流通の仕組みが一変しさまざまな化学反応が起こるかもしれない。ただ個人情報保護やデータ保護の問題など、懸念点もある。実際この原稿を書いている途中にも、EUでは個人データ保護を強化する目的で5月に新たな規制が施行されるという報道が話題になった。

この点について久田氏は「Datachainではデータを消して欲しいと思った時に消せるなど、透明性と主体性をしっかりと設計に組み込んでいる」と話す。リーガル、技術双方の側面から専門家のレビューを受けながら取り組んでいるそうだ。

またDatachainにはデジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏、エス・エム・エス創業者の諸藤周平氏、エウレカ創業者の赤坂優氏、元Googleの及川卓也氏がアドバイザーとして参加しているという。

今のところICOの予定はなく、「ブロックチェーン技術をデータ流通の分野で社会実装すること」を軸にする。仮想通貨交換業については登録申請の準備中だ。

2018年中を目処に、まずは実証実験という形で始める予定。プロジェクトの子会社も検討しているという。

「Speeeの母体とは少し離れて、スタートアップ的な文化でコミットしていく。『データがつながるを新しく』というミッション、『世界中のデータをブロックチェーンによって安全に共有できるようにする』というビジョンの実現に向けて、全力で取り組んでいきたい」(久田氏)

写真左からSpeee創業者でDatachainの責任者を務める久田哲史氏、同社代表取締役の大塚英樹氏、同社執行役員でDatachainの中心メンバーである木村淳氏

ジャパンネット銀行が2種ブロックチェーンの連携に挑戦、mijinとHyperledger Fabricで実証実験

ジャパンネット銀行は、2018年2月6日から2種類のプライベートブロックチェーン技術を連携させた業務システムの実証実験(PoC)を開始した。2種類のブロックチェーン技術のひとつは日本のスタートアップ企業テックビューロが開発するmijin。もうひとつは大手ITベンダー(後述)が推進するHyperledger Fabricである。この2種類のブロックチェーンの連携を実証するのはこれが初めてである。検証の対象となる業務は、社間の契約書管理のシステム化である(図を参照)。実証実験の期間は3月30日まで。

「実証実験」と聞いても、その意味づけをイメージしにくいと思われるかもしれない。今回の実証実験について、ジャパンネット銀行 執行役員 IT本部副本部長の坪川雅一氏は次のように話す。「オモチャを作っても検証にならない。今回の実証実験では実用化へ向けて課題を洗い出すことを目指す。個人的な意見だが、将来は契約管理のシステムだけでなく、見積もり、契約、発注、検収、請求・支払いまで一連の流れを効率化したい。商取引の透明性を劇的に高めることができる」。実験のための実験ではなく、現実のシステム開発に向けたステップとしての実証実験という位置づけだ。

同社によれば、業務効率化やペーパーレス化を進める上で、契約書をデータとして扱うことは以前から課題だった。そこにテックビューロから「ブロックチェーン製品を試してみて欲しい」との声がかかり、取引先として契約書のやりとりが多い富士通も一緒になって今回の実証実験を進める運びとなったとのことだ。

Hyperledger Fabricとmijinという対照的な2製品を連携

ブロックチェーンとは、利害を共にしない複数の当事者(企業など)が、信頼できる第三者を用いずに、信頼できる台帳を共有できる技術だ。今回の実証実験では、図にあるようにジャパンネット銀行と富士通という2者が契約書を交換する手続きをペーパーレス化、デジタル化することを想定している。これが発展すれば、複数の企業間の手続きの多くをデジタル化でき、効率化が図れる。

なぜ2種類のブロックチェーン技術を使うのだろうか。同社は大きく2つの理由を挙げている。1番目の理由は、契約先企業が使っているブロックチェーン技術に合わせるには複数のブロックチェーンを活用できた方がよいという考え方だ。2番目の理由は、複数のブロックチェーン技術に共通の情報を記録することで、万一障害が発生した場合にもバックアップの役割を果たすと期待できることだ。ブロックチェーン技術は可用性が高く障害が発生しにくいと期待されているが、実際のシステム運用ではなんらかの落とし穴が見つかるかもしれない。それを洗い出すことも同社は実証実験の目的としている。

実証実験で構築するシステムの内容は、まず契約書をデジタル化して、そのハッシュ値をブロックチェーンに記録し、「誰がいつ作成した契約書なのか」を改ざんできないようにする。従来はこのような処理には認定を受けたタイムスタンプサーバーを使うやり方があったが、ブロックチェーン活用を使うことで、より低コストに実現できると期待されている。

今回の実証実験は「絶妙」に見える部分がある。連携させる2製品、Hyperledger Fabricとmijinがきわめて対照的だからだ。大企業が推す製品とスタートアップが推進する製品という点でも性格が違うが、それだけではない。

Hyperledger Fabricは、IBMが開発したソフトウェアをLinux FoundationのHyperledgerプロジェクトに寄贈したものに基づき開発を進めている。富士通、日立、NTTデータ、アクセンチュアなどIT大手を巻き込んで普及推進活動を展開しており、世界中で多くの取り組みが進行中だ。その作りはブロックチェーンのビルディングブロックとも言うべきもので、必要な処理はGo言語やJava言語により開発するスマートコントラクト(Fabric用語では「チェーンコード」と呼ぶ)として開発することが基本となる。作り込みにより幅広い要求に対応できる可能性を秘めている半面で、システム構築の手間は大きくなる可能性がある。Hyperledger Fabricは認証局によりノードを管理する作りや、ファイナリティ(取引の確定)を重視する設計が特徴である。性能面はコンセンサスレイヤーをどう作り込むかで変わるが、Fabric v1.0では毎秒1000取引以上の性能を出せるとしている。

一方、mijinはテックビューロが開発、推進するプライベートブロックチェーン技術で、仮想通貨NEMの開発者らが参加していることで知られている。NEMと共通のAPIを備え、NEMと同じくマルチシグ、マルチアセットに対応する。最近ではmijinとNEM(つまりプライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーン)を連携させたシステム構成も視野に入っているもようだ。

mijinの特筆すべき点は早い段階で処理性能が高いことを実証していることだ。プライベート環境向けにチューニングすることにより毎秒4000取引以上の性能を出せることを、2016年12月時点で実証して発表している(プレスリリース)。mijinはブロックチェーンを操作するAPIを提供し、APIの機能範囲内であれば短期間でシステムを構築できるといわれている。半面、APIの範囲にない部分は新たに作り込む必要が出てくるともいえる。

このように対照的な2製品だが、特に意図して2製品を選んだという訳ではなく、たまたまこの組み合わせになったらしい。「複数のブロックチェーンの連携」は地味に聞こえるしれないが、実は最先端のニーズを取り入れた取り組みといえる。パブリックブロックチェーン上の仮想通貨の分野では、最新の話題として複数のブロックチェーンの間で価値を交換する「クロスチェーン技術」の試行が進んでいる。また、パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンを連動させたシステムの取り組みの機運もある。プライベートブロックチェーン2製品を連携させる今回の取り組みからは、はたしてどのような知見が得られるのか。

ICOで資金調達を発表したKodak、株価89%アップ

創業以来130年の歴史を誇るEastman Kodakは昨日(米国時間1/9)、ICOを行うことを発表した。2018年にはなんでもありを感じさせるこの発表に、株価は89%アップして現在11.90ドルを付けている。Kodak株がこの水準になったのは2017年3月以来だ。

もちろん、暗号通貨による資金調達を発表して株価が高騰した会社はKodakが最初ではない。Veltyco、LongFin、それに(覚えているだろうか?)Long Island Iced Tea Corpまで暗号通貨ブームに参入して株価を2倍以上にしている。

KodakのICOによる資金はブロックチェーン・テクノロジーを利用した安全なデジタル写真の著作権認証システムの開発に充てられる。このシステムによって写真家は著作権料を得ることができる。KodakはさらにCES 2018で暗号通貨のマイニング装置も発表した。

このぶんでいけば、どこでもいいが経営が傾いている有名会社を買ってICOを実行すると発表すれば手っ取り早く荒稼ぎができそうだ。

画像: spDuchamp/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

マネーフォワード、ブロックチェーンや仮想通貨関連新サービス開発に向けてラボ立ち上げ

個人向け家計管理ツールの「マネーフォワード」や自動貯金アプリの「しらたま」などを提供するマネーフォワードは12月29日、ブロックチェーン技術や仮想通貨を活用した送金・決済領域の研究を目的とした「MF ブロックチェーン・仮想通貨ラボ」を設立したと発表した。

2012年に創業して以来、個人向けと企業向けにさまざまなタイプの金融サービスを提供してきたマネーフォワード。同社がこれまで注力してきたのは、“お金の見える化と経営の見える化“だった。そのうちに、マネーフォワードは「個人間および企業間の送金・決済領域において、既存の金融システムでは解決できない課題が存在している」ことに気づく。同社がその解決策として期待するのがブロックチェーン技術だ。

日本は全世界におけるビットコイン取引高の大部分を占めるなど、仮想通貨先進国として知られている。マネーフォワードは、「日本はFintechの市場規模では世界に遅れを取ってきたが、仮想通貨・ブロックチェーン分野では世界に先進できる可能性をもつ」と語る。

MF ブロックチェーン・仮想通貨ラボを設立することにより、マネーフォワードはブロックチェーン技術を活用した新サービスの開発に着手する。その具体的な内容はまだ分からないものの、同社から入手した資料によれば、個人間と企業間、そして国をまたぐ海外送金にかかる手数料を削減すること、そして、送金にかかるストレスを軽減することがこの新サービスの目標となるようだ。

写真左より、執行役員CTOの中出匠哉氏、執行役員 渉外・事業開発担当の神田潤一氏

研究開発の中心となるのは、2017年12月に執行役員と渉外・事業開発担当に就任した神田潤一氏、そして執行役員CTOの中出匠哉氏の2人だ。神田氏は日本銀行と金融庁を経てマネーフォワードに入社した人物。ブロックチェーン技術や仮想通貨の分野は規制がいまだ不十分という声も聞かれるなか、新サービス構築にあたって必要となるであろう各省庁との“会話”では神田氏がキーマンとなる。

同社は今回の研究機関設立にともない、ブロックチェーン技術に興味・関心をもつ人材の採用を進めるとともに、仮想通貨交換業者登録を検討するとしている。

ICO時代の新しい企業のカタチ「自壊企業」

【編集部注】筆者のEden SchochatはイスラエルのベンチャーキャピタルAlephのパートナー。

数々の投資家や起業家は、トークンを基点としたネットワークが企業の誕生や運営を左右する世界に突入しようとしている。ネットワークビジネス(ネットワークが根幹にあるビジネスの意。連鎖販売取引とは異なる)のモデルを根源から変えるこの変革についていけない企業は、いずれ取り残されることになるだろう。

ネットワークビジネスのなかでも、特にスケールやマネタイズが困難でこれまで広告に頼ることの多かったものは、一企業が顧客にサービスを提供するというモデルよりも、「トークンネットワーク」を活用した方が得るものが多い。このトークンネットワークによって、私たちのスタートアップの捉え方も、単に顧客がサービスに対して対価を支払う企業体のモデルから、経済の計画、構築、維持などに関する決定権を参加者が持つネットワークへと変わっていくだろう。さらにトークン経済においては、ネットワーク内で生み出された価値が、ファウンダーや開発者、顧客、サービスプロバイダー、投資家といったさまざまなステークホルダー(=トークンホルダー)の間でより効率的に共有できる可能性もある。

しかしここ最近、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)には逆風が吹き荒れている。

相対するふたつの恐怖がトークンネットワークの普及を妨げているのだ。ひとつはガバナンスの欠如に対する恐れ、そしてもうひとつが規制に対する恐れ。

その一方でトークン時代の今、矛盾しているようにも見えるこのふたつの恐怖を同時に解消するような起業の手段がある。

その手段とは、企業を完全に崩壊させてしまうというものだ。まずは従来の企業のように株式と引き換えに資金を調達してから事業をスタートさせ、ある地点で企業という名の「殻」を破り、ガバナンス体制を非中央集権的なものへと転換させるというのがその概要だ。

ICOが抱える問題のひとつは、トークンネットワークの構築や資金調達に関するルールが現在作られている最中だということ。今年はICOを通じて何億ドルという資金を手にする企業が何社も生まれたが、ほとんどの場合、ICO時に確認できたのは笑顔のファウンダーの写真と、簡単には読みこなせないホワイトペーパーだけだった。

多くのICOが成功をおさめる背景となったのが、仮想通貨という近代史上類を見ない速度で価値が上昇した資産を通じて大金を手にしたクリプト・エンジェルの「金余り」状態だ。ビットコインやイーサリアムをはじめとする仮想通貨の過去10年間の値動きを見てみると、5000億ドルもの資産がたった10年未満で生まれたとわかる。しかもそのうち4500億ドルは過去1年(2017年12月22日現在)のうちに誕生したのだ。

ビットコインの驚異的な値上がりの様子

こうして生まれた資金が市場に流れこんだ結果、初期のICOにおいてはガバナンス体制など問題にならなかった。さらに、どんな分野であれ黎明期には詐欺行為が横行する。ペニーストック(1株当たり1ドル未満で取引される株式)のIPOが同じような道をたどったのを覚えている人もいるかもしれない。ペニーストックをめぐる詐欺行為が増えた結果、1930年代には何千万ドルという売上が上場の必須条件となった。歴史はそのまま繰り返すことはなくとも、このように時代を超えて同じパターンを目にすることはある。今日のICO周りの動きは、ペニーストックのそれに似ていると言っても過言ではないだろう。

さらに先日、米証券取引委員会(SEC)は初期にICOを行ったThe DAOに関する調査レポートを発表した。同レポートの焦点はプリンシパル・エージェント問題にあり、利害関係の一致しない少数のマネージャーによって管理されるネットワークの構造が、SECの調査のきっかけとなったのだ。これを受けて、現在規制強化に対する恐れが高まっており、実際にSECは最近何件かのICOをストップさせた。

規制当局がICOに関与しだしたことで、最近ではICOを検討している企業の代理人を何十万ドルという料金で務めようとする法律事務所を見かけることもある。同時に、以前は創業チームとビジネスアイディアだけを材料に積極的な姿勢を見せていた投資家の勢いもおさまり、既にトークンネットワークの構築を終えたような、ある程度成熟したプロジェクトに注目が集まるようになった。要するに、これまでのようにICOを実施するだけでは、大金を集められなくなりつつあるのだ。

これは、最初の資金作りにICOを活用するというモデルが、もはや(比較的最近ながらも)過去のものになろうとしている、と言い換えることもできる。この変化自体は必ずしも悪いこととは言えない。というのも、アイディア段階にあるにもかかわらず必要以上の資金を調達したスタートアップが失敗しがちということは、過去の例を見れば明らかだからだ。新しいテクノロジーが登場したところで、この傾向が変わる兆しはない。

そもそもトークンの価値とは、早い段階でどれだけの資金を調達できるかではなく、トークンネットワークが公開された時点でのバリューフローや生み出された価値によって決められるべきだ。プロダクトが完成する前にICOを実施するということは、多くの企業の存在を脅かすことにもつながる。もしもプロダクト完成前にトークンの価格が急騰すれば、ローンチ前にもかかわらず企業がトークンホルダーに提供しなければいけない価値も当然上昇する。これを望むファウンダーはいないだろう。

上記から、「トークンネットワークは起業において大きなメリットを持つ」そして「ICOで『上場』するというのは、ビジネスモデルとして成立し、資金調達上のメリットもあるが、ICOにかかるコストは上がってきており、投資家を保護しようとする規制当局の意向にも反する」ということがわかる。

SECによるThe DAOのレポートには、ポジティブな面があるということも忘れてはならない。トークンホルダーが資金使途を自分たちで決められるような、完全に非中央集権化したトークンネットワークでは、プリンシパル・エージェント問題が発生しえないため、(SECのような)中央集権的組織が不要になるのだ。しかし残念なことに、プロダクト開発の初期段階においては、非中央集権的な組織よりもむしろ中央集権的な組織の方が課題を乗り越える上で効率が良い。LinuxにはLinusがいたように、FacebookにはMarkが、イーサリアムにはVitalikが、ビットコインにはSatoshiがいたのだ。TravisなしにUberがこれほどまでに成長していたかどうか考えてみるといいだろう。

この点に関しては、興味深いことに、インターネットや自動運転車など今日のさまざまなテクノロジーの母とも言える米国防高等研究計画局(DARPA)から学べることがある。

DARPAは、当初の課題を解決した後も主導権を握り続ける「Kingdom Builders(王国の建国者)」になることを良しとしない。それを防ぐために、DARPAはプロジェクトを率いるプログラムマネージャーに対して、具体的な責任区分と時間制限を設けている。

そのため、各プログラムマネージャーはプロジェクトの成否にかかわらず、いずれは自分がプロジェクトから手を引かなければならないということを理解している。さらに任期はIDバッジにも明記されており、彼ら自身そして彼らの同僚も、大事な仕事を完遂するまでの時間は限られているということを意識せざるをえない。つまりプロジェクトマネージャーにとって、各プロジェクトはいずれ「消え去る」ものなのだ。実際にほぼ全てのOpen Sourceプロジェクトで、特定の創始者と協力者がいるフェーズを過ぎると、プロジェクトの運営主体がコミュニティへと変化していった。

もしも特定のネットワークを構築するという明確なミッションと、それを達成するまでの期間、そしてネットワークが完成した後は権限を移譲するということが予め定められた企業があったとしたらどうだろうか?

これこそが「自壊企業」のアイディアの根幹だ。

自壊企業のアイディアのもとでは、企業のライフサイクルを次の3つに分けることができる。まずはネットワーク構築に向け、企業が「ネットワーク主体」として機能する段階。この段階では、影響力のあるファウンダーが先頭に立ち、当局の認可を受けた投資家(ベンチャーキャピタルや仮想通貨億万長者のような人たち)からさまざまな形(株式、SAFEのようなコンバーチブルノート、SAFTのような将来的なトークン入手権など)で資金を調達するというモデルが考えられる。その次がトークンと株式が共存する第2段階だ。

第2段階はトークン経済のテストからスタートする。ファウンダーはネットワークを構築し、初期の顧客に対してトークンを「エアドロップ(無料配布)」したり、預入金に応じて配布(「預金者」に対してある種の資産を提供しつつも、トークンを販売しているわけではないので規制を避けられる)したりする。そうすることで、企業は規制対応にコストをかけず、将来についての意思決定ができる自己統制機能を備えた存在としての第一歩を踏み出せるのだ。そして最終段階として、予め決められた時期もしくはマイルストーンに到達した時点で、ネットワークはトークンだけで動きだすようになる。もともとネットワークの運営主体であった中央集権的な企業は、ICOを通じて権利をコミュニティに移譲し、設立当初に組み込まれた「時限爆弾」がその終わりを告げる。面白いことに、このステップをたどればICOがIPOに代わってレーターステージにおける資金調達の代替手段となりえるのだ。

最後にトークンオンリーの段階を設けることで、株主価値とトークン価格のどちらを最大化すればいいのかということについて、経営層の衝突を避けることができる。その一方で、株式とトークンが共存するハイブリッドな段階では、異なる(ときには衝突するかもしれない)利害関係が生まれることになる。

企業を解体するにはいくつかの方法が考えられる。そのうちのひとつが、ICO時に株式とトークンを等価交換するというもの。つまり株主は配当金のように株式の保有割合に応じてトークンを受け取るということだ。税金のことを考えると、保有割合に応じて各株主へのトークンの販売価格を割り引くという方法もありえるだろう。いずれにしろ、株式とトークンを交換する場合には、交換用のトークンが別途必要になる可能性があるため、経営陣はスマートコントラクトを作る前にこのステップについて十分に理解し、綿密な計画を練らなければいけない。

本稿で紹介したモデルには、何百年間もほぼ変わらずに生き続ける従来の企業構造と比較して以下のようなメリットがある。

  • プロジェクト開始時に必要な資金をトークン販売以外の方法で調達するため、規制環境をそこまで気にしなくてもよい
  • 各段階で重視すべき価値が明確化されるため、株主とトークンホルダーの板挟みにあわない
  • ベンチャーキャピタルの投資を受け、ファウンダーが旗振り役を担う企業であれば、ネットワークを十分なレベルまで成長させられるため、規制に準拠し自己統制ができるようになった段階でICOを迎えられるようになる
  • 自壊企業は最終的にトークンオンリーの構造へと変化することから、勝者が全てを獲得するネットワークの世界において、トークンホルダーがネットワーク効果を生み出し、口コミでバイラルにネットワークを広げるインセンティブを生み出せる

このように、自壊企業はネットワークをベースとしたビジネスモデルの未来にウィンウィンの状況をもたらす存在であるとともに、時代遅れの起業メカニズムを加速化させるトークンというエンジンの活用法としても魅力的なモデルなのだ。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake

1兆ドルの物流業界の未来を、ブロックチェーン技術に賭けるUPS

【編集部注】執筆者のDeep Patelは、連続起業家、マーケター、そしてA Paperboy’s Fable: The 11 Principles of Successの著者である。

世界は取引(トレード)で運営されている。米国だけでも、貨物と物流にかかる費用は毎年約1.5兆ドル( 2015年のデータ )にも及んでいる。世界の経済規模が拡大するにつれて、その数字は増加の一途をたどることが予想されている、私たちが製品やサービスに関して、国際的なサプライチェーンにさらに依存するようになるからだ。

しかしながら、物流業界そのものは、その成長に耐えられる構造になっていない。現状では、構造的な非効率性と不正行為に晒されやすい、脆弱な基盤の上に載っているからだ。数え切れないほどの仲介業者が手数料を徴収し、輸送価格を引き上げている。問題は、こうしたプロセスの複雑さと不透明さが、適切な価格を算出することを困難にしているということだ。

FBIの推定によれば、貨物盗難により、米国では毎年約300億ドルの損害が発生していて、その平均盗難額は19万ドルに及んでいる。実際に、貨物盗難により、消費者にとっての製品コストは最大20%も増加しているのだ。こうした問題に関しては既に何十年にわたって、十分にレポートされているが、責任が分散していることよって、業界のステークホルダーたちには説明責任がほとんど生じていない。

しかし、いまやブロックチェーンテクノロジーの形で、大変革が業界に起きようととしている。この技術によって、より安く、より効率的な物流システムの登場が約束されているのだ。主要な既存企業たちだけでなく、革新的なスタートアップたちが、ブロックチェーンの開発に膨大な時間とリソースを投入している。

最近UPSは、ブロックチェーン技術標準の開発と貨物業界向けの啓蒙のためのフォーラムであるBlockchain in Transport Alliance(BiTA:輸送業向けブロックチェーン同盟)に参加することを表明した。BiTAは、セキュアなブロックチェーンシステムを導入することにより、運送業界全体向けの標準の開発を促進することを狙っている。

なぜ今なのだろう?なぜUPSは他の何百もの主要企業とともに、ブロックチェーンに賭けているのだろうか?

答:彼らは革命の一部になりたいから。彼らは、将来のスマートな物流ネットワークが構築される中で、重要な役割を果たすことを望んでいるのだ。そして彼ら自身が、自分たちで手を下さなければ、誰かがその役割を果たしてまうことを理解しているからだ。

物流と貨物の将来は、ブロックチェーンに大きく依存することになる。

ブロックチェーン技術の主な魅力は、分散されていて改竄(かいざん)されない台帳を作成できる能力にある。これは単一障害点を持たず、複数の関係者によって維持され、情報がハックされたり破損したりすることのないネットワークである。これにより、1つのトランザクションのライフサイクル全体が1つのブロックチェーンに格納されて、それら全ての情報に対するセキュリティと透明性が向上することになる。

現在貨物および物流業界は、大勢のブローカーと、複雑なサプライチェーンの中に隠された情報を、大量に抱え込んでいる。このチェーンのすべての側面にアクセスすることができる単一の事業者は存在しない。現在、貨物および物流業界は、荷主から運送業者への荷物の引き渡しを、円滑かつ容易にするために存在する、貨物ブローカーたちによって支配されている。ブローカーは荷物を探し出し、利ざやを乗せて、運送業者へと引き渡す。これは、運送業者のコストを上げるだけでなく、消費者に直接影響を与える下流価格の上昇にもつながっている。

現行のグローバルネットワーク全体にわたる効率性、透明性、セキュリティの欠如は、まさにブロックチェーンテクノロジーが解決するのにうってつけの問題なのだ。もしブロックチェーンが適切に活用されれば、より自由で透明性の高い世界的取引に参加する機会が顧客たちに与えられ、ブローカーの必要性が減り、仲介コストが削減される可能性がある。

こうした理由から、UPSのエンタープライズアーキテクチャならびにイノベーションディレクターLinda Weaklandは、ブロックチェーンにとても期待している。彼女は「物流業界の中での沢山の応用が考えられます。特にサプライチェーン、保険、支払い、監査、通関業務などがその対象となります」と語っている。この技術は、荷主、運送業者、ブローカー、消費者、ベンダー、その他のサプライチェーン関係者の間で、透明性と効率性を高める可能性を秘めていいる。

透明性と効率性を向上させる効果的な方法の1つが、Ethereumブロックチェーンを支える重要なイノベーションであるスマートコントラクトを活用することだ。スマートコントラクトは、本質的に、所定の規約が満たされたときに履行される自己実行型契約である。これによって、関連する仲介業者を排除または制限することが可能になり、途中で発生する利ざやを抑え、エスクロー(預託金)の運用効率性を向上させ易くなる。

ブロックチェーンはまた、サプライチェーンの追跡と透明性を高めることができる。荷主は、サプライチェーン全体の可視性を高めることができ、荷重、通過地点、そして基本的なコンプライアンス情報などの重要な情報を、運送業者との間で共有することができる。

一度出荷が確認され、ブロックチェーンに記録されると、それは不変である。つまり、誰も取引の正当性に異議を唱えたり、記録を不正に操作したりすることはできない。トランザクションがログに記録されると、スマートコントラクトはエスクローからの支払いを即座に行い、仲介処理に関連する時間とコストを削減する。

ブロックチェーンテクノロジーはまだ萌芽期であるため、世界中の企業やコンソーシアムが、商用化に先立ってソリューションをテストするために、実証技術を開発しているスタートアップたちに投資したり協業を始めたりしている。こうしたことに取り組むスタートアップの一例がShipChainだ。同社はブロックチェーン技術を物流業界に適用することを目指している。

BiTAの一員である同社は、現在物流プロセスの各段階についての洞察を与える、完全に統合されたサプライチェーン管理システムを構築している。さらに同社は、分散型の仲介システム(本質的に、荷主と運送業者のための公開市場)を構築することを目指している。ブロックチェーン上の情報の透明性を利用することで、荷主は各出荷のコストと時間を、公開市場の中で最適化できるようになる。

言い換えれば、荷主は、市場での決定を下す前に、特定の貨物について異なるルートの許容量、コスト、および推定納期を追跡することができるということだ。同時に、運送業者たちは、所有する輸送車両と輸送航路の、輸送能力に関する情報を継続的に入力し、供給と需要に基づいて最も公平な価格設定を動的に調整することができる。ブロックチェーンによってもたらされる透明性と効率性は、利潤を追求するブローカーによる人為的な利ざやを排除することで、最も効果的な方法でリソースを割り当て、すべての関係者に利便性をもたらす。

現行のグローバルネットワーク全体にわたる効率性、透明性、セキュリティの欠如は、まさにブロックチェーンテクノロジーが解決するのにうってつけの問題なのだ。

このプロセス全体を通しての可視性の向上は、業界を悩ましている盗難やハッキングを大幅に減少させる。ブロックチェーンテクノロジーと切り離せない特徴が、重要な輸送データの全てを記録する、分散型で暗号化された台帳を作成できる能力である。重要な情報を変更または削除することが誰にもできないため、ハッカーによって改変することもできないのだ。

ブロックチェーンの特徴は、非効率のはびこる業界に対しては有望だが、そのテクノロジーはまだ初期段階に過ぎない。現時点の実装では、東アフリカからヨーロッパへの出荷には、最大30箇所の異なる業者たちからの承認が必要となる可能性があり、また目的地に到達するまでには、最大200回の異なる相互作用が発生する可能性がある。

これらの相互作用の多くは、荷主と運送業者との間だけでなく、規制当局、小売業者、卸売業者、さらには顧客との間でさえも発生する。グローバルな物流ブロックチェーンネットワークが効果的に機能するためには、すべてのステークホルダーの参加が必要だ。

物流と貨物の将来は、ブロックチェーンに大きく依存することになる。世界各地の荷主たちは、現在でも、とりあえず輸送コンテナを追跡するための既存の手段は持っているし、ブロックチェーンに批判的な人びとは貨物輸送業界の追跡機能を完全に作り変えることは、大変過ぎる作業だと主張している。それでも業界のリーダーたちは、サプライチェーンを追跡するためのブロックチェーンの可能性を、既に認識している。

世界最大のコンテナ運送会社Maersk Lineは、既にIBMを提携を行い、それぞれの出荷に伴う膨大な事務処理を削減するために、貨物輸送の追跡へブロックチェーンを適用しようとしている。

荷主と運送業者たちは、ブロックチェーン技術の進歩が、この先何年もの間業界の成長を支えてくれるだろうと、楽観視している。

[原文へ]
(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGES

Ethereumブロックチェーン上で仮想仔猫の売買が流行、わずか数日で100万ドル以上の取引が行われた

わずか数日前にリリースされたCryptoKitties(暗号仔猫)は、基本的にはポケモンカードのデジタル版のようなものだが、Ethereumブロックチェーン上に構築されていることが特徴だ。ハイテク世界でよく見られるバイラル拡散のように、極めて急速に拡大している。

バンクーバーとサンフランシスコに拠点を置く、デザインスタジオAxiomZenによって開発されたこのゲームは、暗号通貨(仮想通貨)世界の最新の流行であり、おそらく近い将来には一般的な技術となるだろう。

人びとは途方もない額のリアルマネーを、このゲームに投入している。これまでに、およそ130万ドルが取引されているが、何匹もの仔猫がおよそ50ETH(約2万3000ドル)で取引され、そして「始祖の仔猫」は約246ETH(約11万3000ドル)で販売されている。このサードパーティのサイトが、このゲームでこれまでに行われた最大の取引を追跡している。そして、良いバイラル流行の常のように、取引価格は上昇しており、急激に変動している。現時点では、ゲームで最も安価な仔猫の価格は0.03 ETH(約12ドル)である。

ということで、おそらくわずかな現実的な価値しかもたないEtherを使って、疑いなく全く現実的価値のない資産を購入する人びとが現れたわけだ。2017年のインターネットへようこそ。

真面目な話、これは人びとがぬいぐるみの動物に対して、狂ったような金額を注ぎ込んでいたビーニーベイビーズの流行を少し思い起こさせる。しかし、この先もし人気が上がり続けるならば、現在買っている人たちは、転売したり、希少な仔猫を繁殖させたりすることで、収益を得ることができるかもしれない。もしくはビーニーベイビーズの末期に起きたように、程なく市場が崩壊し仮想的なレア仔猫に対する大量の暗号鍵を抱えることになるのかもしれない。

それでもゲームそのものについては、いくつかクールな点がある。そして価格の馬鹿さ加減を脇に置くことができるなら、これは実際初心者がEthereumブロックチェーンとやりとりをするためのクールな手段なのである。

まず、Ethereumブロックチェーン上でプレイしているので、ゲームを管理している中心的な存在はないことを理解することが重要だ。これは、ユーザーが文字通り自分の仔猫を所有していることを意味する。すべてが中央データベースに保存されていて、会社が倒産したときにはペットが削除されるようなNeopetsをプレイするのとは異なり、CryptoKittiesは分散されていて、Ethereumブロックチェーンの上で永遠に生き続ける。

このゲームは、AxiomZenによって書かれた5つのEthereumスマートコントラクトのセットを経て実行され、ユーザは自分自身のEthereumアドレスを使ってインタラクションを行う。現時点での最も簡単な方法は、Chrome拡張機能のMetaMaskを使うことである。これによってブラウザから直接Ethereumを送受信することができるようになる。そしてCryptoKittiesサイトに移動する。このサイトは基本的に彼らのスマートコントラクトと取引をする場所であり、仔猫たちを売買したり、繁殖させたりすることができる。

現時点ではEthereumネットワークの全トラフィックの約15%がこのゲームに利用されており、ネットワーク上で最も人気のあるスマートコントラクトとなっている。参考までに、ネットワークトランザクションの約8%を占める第2位は、人気のある分散型トークン取引所であるEtherDeltaのものだ。

このトラフィック量のために、CryptoKittiesで遊ぶことは難しくなっている。そして多くのトランザクション(仔猫の売買)が、通常の取引よりも長時間かかったり、複数のリトライが必要となっている状況だ。

このスケーリングの問題は、ゲームをすることを難しくしているだけでなく、Ethereumネットワーク一般の、真の懸念事項なのだ。ハイテク世界の中で流行っているだけの、たった1つのバイラルゲームがネットワークを遅くしてしまうとしたら、もしブロックチェーンは実世界アプリに広がったらどうなってしまうのだろうか?

ともあれ、ゲームそのものの話に戻ろう。まだわけがわからないって?私たちもそうだ。以下にそれがどのようなものかを説明しよう:

遊び方

ゲームは100匹の “Founder Kitties”(始祖仔猫)たちで始められた。そして15分おきに新しい”Gen 0″(世代0)の仔猫が生み出されている。それには最後に売れた5匹の仔猫の平均価格プラス50%の価格が付けられる。しかし販売価格誰かがその仔猫を買うまで、24時間に渡って下がり続ける。

そして誰でもオークションで仔猫を売ることができる。オークションに際しては、開始価格と終了価格を選ぶが、誰かが購入するまでやはり価格は下がり続ける。たとえば、私が1匹の仔猫をある日オークションに出すとする。開始価格は1ETH、終了価格は0ETHとしよう。もし誰かがオークション開始後12時間の時点で購入した場合、私は0.5ETHを手にすることになる。

仔猫は繁殖によって生み出すこともできる、これはゲームの中ではSiring(親になること)と呼ばれる。自分の仔猫を繁殖のために提示することができる。他の誰かがその仔猫を繁殖に使うことで、彼らは新しい仔猫を得て、こちらは手数料(ether)を手にする。あるいは、逆に自分の仔猫と誰かの仔猫を掛け合わせるために支払いを行うことも可能で、この場合にはetherを支払い、仔猫を得ることになる。

新しい仔猫を繁殖させるには、「クールダウンタイム」に従って1時間から最大1週間ほど時間が掛かる可能性がある。この時間は短ければ短いほど良い。なぜなら仔猫をすぐに売ってまた繁殖を行うことができるからだ。これは、これは「クールダウンタイム」が短い仔猫ほど、一般的に高く売れることを意味する。

それぞれの仔猫には、仔猫たちが持つことのできる違いの組み合わせを表現するための、256ビットのゲノムシーケンスが与えられている。それらが表しているのは、背景色、クールダウンタイム、鼻の横のヒゲ、顔の毛、縞模様などが含まれる。これらの遺伝子のいくつかは劣性である。すなわちストライプのない仔猫でもストライプを持つ仔猫を生み出すことができるということだ。

大事なことは、ゲーム側では遺伝シーケンスに希少価値を割り当てる、「希少度」は規定していないということだ。つまり、コミュニティは独自にどのような形質が希少なものであるかを、それに対して支払うプレミア価格によって決定しているのだ。たとえば、金色の背景を持つ仔猫は、その他の背景色の子猫よりも高く販売されている。

ユーザーが自分でカスタマイズすることができるのは、自分の仔猫の名前だけだ。しばしばその名前の部分が、珍しい属性(色とか世代とか)を宣伝するために使われている。

現時点では、あるCryptoKittiesサイト上の仔猫の実際の遺伝子シーケンスを知るための手段は存在しない。とはいえ、それはEthereumコントラクトの中にある完全にオープンなコードなので、誰かが仔猫の遺伝シーケンスを「読む」手段を発見して、それに基づいて繁殖の推奨をするようになるのは時間の問題だろう。またある程度のランダム性も加味されている。これによってあまり希少でない仔猫を持つ人でも、レアな仔猫を得るチャンスが出てくるので面白みが増す。

猫は繁殖するたびに世代が1つ増える。したがって、Gen 0(世代0)の子孫はGen 1(世代1)となり…以下同様だ。早い世代の仔猫たちは、単純に希少であるという無形の価値と、早い世代の方が一般にクールダウン時間が短いという有形の特性によって、より高額で取引されているように見える。

Axiomは、最初の100匹の仔猫を売ったことで回収したetherと、15分ごとに新しく生まれて売られる仔猫によって収益を得ている。また彼らは、すべてのオークションまたはSiring取引で、3.75%の手数料を徴収している。CryptoKittiesのウェブサイトを経由せず、スマートコントラクトと直接インタラクションして仔猫を売った場合には、3.75%の料金を支払う必要はない。

次は何だろう?

他の多くのバイラルプロジェクトとは異なり、CryptoKittiesのチームは、この大騒ぎには振り回されずに、このプロダクトを育てていくつもりだ。このゲームを主導するMack Flavelleは、チームは少なくとも1年分の改善プランを抱えていると私に説明した。その中で直近のものはウェブプラットフォームのUIの改善である。

彼らはまた、参加プロセスをより簡単なものにしたいと考えている。なぜなら、結局のところ、現在でも平均的な人にとってはMetaMaskをセットアップして、etherを売買し、そしてそれをネットワーク上で使用することは簡単ではないからだ。

このプロジェクトには、ゲームの現在の仕組みと、もう少し詳しい将来の計画についての説明を行う素敵なFAQが用意されている。

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(翻訳:sako)

AWSには当面、ブロックチェーンを利用するサービスを提供する意思がないようだ

Bitcoinがついに10000ドルの大台に乗せたが、そのベース技術であるブロックチェーンをAWSが何らかのサービスに利用することは、当分なさそうだ。ラスベガスで行われているAWSのデベロッパーカンファレンスre:InventでAWSのCEOAndy Jassyは、ブロックチェーンサービスの計画に関する記者たちの質問に、そう答えた。

Jassyは、今後の見通しについても、醒めた目で見ているようだ。彼によると、ブロックチェーンには、“分散台帳であること以上の”多様なユースケースがない。さらに彼は強調して、AWSは、特定の技術を、“それがクールだと思うから作ることはない”、と言う。

彼の見方では、ブロックチェーンが解決を目指してる問題は、ほかにも解決方法がたくさんある。それに、今使われている分散台帳の多くは、能力がきわめて限られている。

とは言え彼は、ブロックチェーンによるプロダクトの将来的な可能性を、まったく排除しているわけでもない。彼は曰く: “しかし今後の顧客の動向には、しっかり関心を持ち続けるだろう”。

AWSのコンペティターであるMicrosoftやIBMなどは、ブロックチェーンを用いるサービスや分散台帳に対して、かなり積極的だ。過去数か月の動きを見ても、彼らは既存の顧客を対象にさまざまなブロックチェーンサービスやパイロットプロジェクトを立ち上げている。しかし今のところAmazonに、その仲間に加わる気はないようだ。



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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

解説アニメ「4分でわかるブロックチェーン」をマイクロソフトが公開、日本語字幕付き

eng-logo-2015解説アニメ「4分でわかるブロックチェーン」を米マイクロソフトが公開しました。

この動画は、Microsoft Story Labsが提供する解説アニメシリーズ「Explanimators」の最新エピソードです。YouTube上から日本語字幕を選択して視聴することができます。

ブロックチェーンとは、インターネットに繋がっていれば、世界中どこからでも、知らない人や組織同士で、信頼できる方法でオンラインで複雑な取引を行うことができる技術です。解説動画は下記となっています。

Engadget 日本版からの転載。

bitFlyerが全銀協ブロックチェーン実証実験でNTTデータら大手3社と競争へ

bitFlyerが、全国銀行協会(全銀協)が推進する実証実験プラットフォームを提供するベンダーの1社に選ばれた(発表資料)。同社のブロックチェーン製品「Miyabi」を、新たな決済・送金サービスや本人確認・取引時確認(KYC)、金融インフラの分野での実用化に向けた実証実験に投入していく。今回選ばれた選ばれた他のベンダーはNTTデータ、日立製作所、富士通の各社で、日本の最大手システムインテグレータとスタートアップ企業が並ぶ形となった。

全銀協は日本の銀行のほとんどが加盟する団体で、銀行間ネットワーク「全銀システム」や電子債権記録「でんさいネット」の運営主体としても知られている。全銀協は銀行間ネットワークを視野に入れた実証実験のための「ブロックチェーン連携プラットフォーム」をこの10月にも立ち上げようとしている(発表資料)。今回、このプラットフォームに実証実験環境を提供するパートナーベンダーのとしてbitFlyerが選ばれた。この分野の有力スタートアップとして米Rippleと米R3がある。全銀協に選ばれた時点で、彼らのプロダクトと同等以上の評価を受けたといってもいいだろう。

今後、複数の国内銀行がMiyabiを用いた新たな金融プラットフォームの実証実験に乗り出す見こみだ。それに伴い、銀行の開発パートナーとなる開発会社もMiyabiに基づく環境構築やアプリケーション構築の経験を積むことになる。実証実験でMiyabiが良い実績を出し続ければ、将来的な銀行間ネットワークの構築技術の候補となるかもしれない。

なお、今回選ばれたbitFlyer以外の3社はLinux Foundationが推進するHyperledgerプロジェクトに賛同する立場にある。特に富士通は、全銀協向けにHyperledger Fabricと同社クラウドを組み合わせた検証プラットフォームを提供する予定を明確に打ち出している(発表資料)。Hyperledger FabricとMiyabiが次世代金融プラットフォームの座を競うことになるかもしれない。

Miyabiと銀行といえば、2016年11月の3大メガバンクが参加したブロックチェーン実証実験が思い浮かぶ(関連記事)。全銀協がMiyabiを選んだ背景に、この実証実験の成果があったことは想像に難くない。

Miyabiは「ファイナリティを備えるブロックチェーン/DLT製品中で世界最速」

Miyabiとはどのようなプロダクトなのだろうか。詳細な資料は現時点では公開されていないが、Miyabiは、もともと金融機関での送金をターゲットに開発してきた経緯があるとのことだ。「ファイナリティを備える製品中では世界最速だ」とbitFlyer代表取締役社長の加納裕三氏は胸を張る。「もちろん、対改ざん性、ビザンチン障害耐性あり、単一故障点なしとブロックチェーンとしての特徴をすべて備えたうえでの話だ」。「日本以外の銀行にも、働きかけていきたい」と加納氏は話している。

bitFlyerが公開した資料を基に、ブロックチェーン/分散型台帳(DLT)技術としてのMiyabiの特徴について説明してこう。

まず、ブロックチェーン全体の特徴からだ。下の図は、ブロックチェーン技術、分散型台帳技術、分散データベースに関して、bitFlyerが整理した図である。

ここで改めてブロックチェーン技術の特徴を振り返ると、データをネットワーク上に分散させて保持できること(高可用性に結びつく)は当然として、(1) 改ざん不可能、(2)ビザンチン障害耐性、(3)単一障害点(SPOF)なし、という特徴を兼ね備えることが特色だ。Miyabiは、これらのブロックチェーン技術としての特徴を満たした上で、ファイナリティと処理性能を兼ね備える点で独自のポジションにいるとbitFlyerの加納氏は話す。

この特徴から導かれるメリットは、ハッキング行為でデータを不正に操作される可能性がきわめて小さく、また単一のノードがダウンしてシステムが止まる危険性がないことだ。ブロックチェーン技術とは、信頼できる共有台帳(あるいはデータ格納手段)として考えうる最も高度なスペックを備えている。ただし実績作りはこれからなので、ブロックチェーン技術全般に懐疑的な意見の専門家もまだいる段階ではある。

ブロックチェーンの特徴に加え、ファイナリティと性能を追求

ブロックチェーン技術に銀行が求める要件は先の高可用性、対改ざん性、ビザンチン障害耐性、単一障害点なしというブロックチェーン技術の特徴だけではない。(1)確定的な合意形成アルゴリズムと(2)処理性能が大きい。

(1)について少し説明する。ブロックチェーン技術の場合、ビットコイン、Ethereum、mijinで用いられているPoW(Proof of Work)やPoS(Proof of Stake)は「ナカモト・コンセンサス」、あるいは確率的ビザンチン合意と呼ばれている。合意形成が確率現象となり、取引がくつがえる確率が時間とともに0に収束する。ただし、厳密にゼロにはならない。メリットは巨大な分散型システムに適用できることだ。ビットコインやEthereumを見れば分かるように確率的な合意形成アルゴリズムにより実用上は問題なく取引できるのだが、銀行側は「ファイナリティ(決済の確定性)」を重視する立場から確率的な挙動は受け入れられないと考えている模様だ。

そこで銀行側が求めるファイナリティの要件を満たすのは、確定的な合意形成アルゴリズムに基づく製品ということになる。Miyabiの場合、BKF2と呼ぶ独自設計の確定的な合意形成アルゴリズムを採用する。

確定的な挙動の合意形成アルゴリズムのルーツは、分散システム研究から生まれたアルゴリズムであるPaxosかPBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance)である。MiyabiのBKF2は「Paxosに近い」とbitFlyer CTOの小宮山峰史氏はコメントしている。

bitFlyerの説明では、Miyabiは、Hyperledger Fabric、R3やRippleの技術よりもビットコインの技術により近いとのことだ。「我々はビットコインの開発者サトシ・ナカモトを尊敬している。安全に資産を移転するため『通貨型』の概念も取り入れている。承認の仕組みも、単一障害点かつ単一信頼点となる認証局に頼るのではなくマルチシグを導入している」(加納氏)。ここで注釈を加えると、Hyperledger FabcirにはビットコインのUTXOやMiyabiの「通貨型」のように通貨特有の制約を持つデータ型の概念はない。またHyperledger Fabricでは認証局の存在が、単一障害点/単一信頼点となる懸念が指摘されている。

処理性能に関してだが、ブロックチェーン技術の単体の処理性能はブロック容量、取引記録の容量、ブロック生成間隔が基本的なパラメータとなる。またPaxosやPBFTのような確定的な合意形成アルゴリズムはプロトコルの負荷が大きく、ノード数が増えると合意形成の時間が増える形で性能に影響する。

Miyabiの場合は、1500〜2000件/秒の処理性能を確認しており、より高速なハードウェアを投入すれば4000件/秒以上の性能が得られるとしている。Hyperledger Fabric v1.0では合意形成をグループ分けして分散することでトータルの処理性能(スループット)を高めるアプローチも可能となっているが、「それでは処理を振り分ける部分(ディスパッチャ)が単一障害点になる」と加納氏は指摘する。Hyperledger FabricやCordaがオリジナルのビットコインを大幅にアレンジした技術であるのに対して、Miyabiはビットコインの技術を研究して得られた知見を追求した技術との立ち位置といえる。

Miyabiはまだ公開情報が乏しく、多くの読者からはベールに包まれた製品に見えているかもしれない。ただ、3大メガバンクが実証実験を実施し、全銀協が実証実験プラットフォームに選んだことで、銀行業界から高評価を得ていることは確かだ。今後の実績の蓄積を期待したい。