大人も子どもも、モーションエンターテインメントで運動不足を解消するNEXのアプリ「Active Arcade」

運動不足が世界で認識されている。成人の4分の3が「体を鍛えることは健康上の利益のために非常に重要」だと考えている一方で、World Health Organization(世界保健機関)によると、成人の4人に1人、そして青少年の81%は身体活動が不十分な状態であるという。またCenters for Disease Control and Prevention(CDC / 米国疾病予防管理センター)によれば、新型コロナウイルス感染症が発生する以前においても、毎日60分間の身体活動を行っていたのは6歳から17歳の子どもで24%に満たなかった。

パンデミックの期間中、在宅勤務やステイホーム運動不足状態を助長した。ほとんどの人は、映画の鑑賞やライブコンサートのストリーミング、ビデオゲームのプレイ、バーチャルパーティーの開催など、動きが最小限に抑えられた座った状態で楽しむエンターテインメントを選んでいる。

誰もがアクティブな遊びへと促されるような新しい方法を生み出し、非アクティブという世界的な問題を解決に導く。サンノゼと香港に拠点を置くモーションエンターテインメントのスタートアップNEX(ネックス)は、それを実現するべく、身体の動きを促すコンテンツとしてモーションエンターテインメントの構築を進めている。同社は、その新しいモバイルAI対話型モーショントラッキングゲームActive Arcadeのローンチに合わせて、2500万ドル(約27億円)のシリーズBラウンドを発表した。

この新たな資金調達は、Blue Pool Capital(ブルー・プール・キャピタル)が主導し、Samsung Ventures(サムスン・ベンチャーズ)、SparkLabs(スパークラボ)、Susquehanna(サスケハナ)の参加を得た。また同ラウンドは、シャン・チーを演じたSimu Liu(シム・リウ)氏、ロサンゼルス・ドジャースのAlbert Pujols(アルバート・プホルス)氏、アーセナルのレジェンドThierry Henry(ティエリ・アンリ)氏、WNBA(米女子プロバスケットボール協会)選手のSabrina Ionescu(サブリナ・イオネスク)氏といったスポーツやエンターテインメント業界のインフルエンサー、そしてYouTube(ユーチューブ)、Dapper Labs(ダッパー・ラボ)、Alchemy(アルケミー)、OpenDoor(オープンドア)、WordPress(ワードプレス)のCEOや創業者、Zendesk(ゼンデスク)、Uber(ウーバー)、MasterClass(マスタークラス)、Facebook(フェイスブック)の幹部ら、ビジネス界のエグゼクティブたちを惹きつけた。

この最新のラウンドは、NEXが2019年にNBA(米プロバスケットボール協会)、Will Smith(ウィル・スミス)氏のDreamers Fund(ドリーマーズ・ファンド)、Alibaba Entrepreneurship Fund(アリババ・アントレプレナーシップ・ファンド)から850万ドル(約9億3300万円)のシリーズAを調達した後に行われたものだ。さらに2018年には、Charmides Capital(カルミデス・キャピタル)、Harris Blitzer Sports & Entertainment Ventures(ハリス・ブリッツァー・スポーツ&エンターテインメント・ベンチャーズ)、およびMandra Capital(マンドラ・キャピタル)、Steve Nash(スティーブ・ナッシュ)氏、Jeremy Lin(ジェレミー・リン)氏、およびMark Cuban(マーク・キューバン)氏から400万ドル(約4億3900万円)のシードラウンドも獲得している。他にもスポーツ、メディア、テクノロジー界の多くのリーダーたちがNEXに関心を寄せている。

今回のシリーズBラウンドで、NEXのこれまでの調達総額は4000万ドル(約44億円)となった。

NEXは、David Lee(デビッド・リー)氏、Philip Lam(フィリップ・ラム)氏、Reggie Chan(レジー・チャン)氏、Tony Sung(トニー・ソン)氏によって2018年に設立された。そのミッションは、Active Arcadeのようなアプリを通じて、受動的な活動を能動的な遊びに変換することにあった。同社の最初のアプリHomeCourtは、200を超える国々でプレイされている。

「座位中心のライフスタイルという、世界中ですでに広く深刻化している問題への関心が、パンデミックにより一層高まっています」と、NEXのCEOで共同創業者のデビッド・リー氏は語っている。「動きながら楽しむことは、遊びの最も純粋な定義の1つです。しかし、昔とは異なり、アクティブな遊びのためのエンゲージメントの基準は、最高のビデオゲームと同等である必要があります。アクセシブルなモーションベースのエンターテインメントが、身体活動を高めることへの世界的なニーズに対する答えであることは、私たちにとって明白でした」。

身体活動のための十分な時間がないという向きもある。だが、真の問題は「余暇時間というのは活動的に、楽しく快適なことをして過ごすもの」という概念が、高価で、時間を消費し、困難なものであると認識されていることにある。

NEXが新しくローンチしたActive Arcadeには、モーションゲームのコレクションが用意されており、子どもから大人まで、ゲームをすることを通じてより多くの動きを得られるようになっている。スマートフォン、タブレット、ノートパソコン、デスクトップなど、カメラを搭載したあらゆるコンピューティングデバイスを介して、誰もがどこからでもアクセスすることが可能だ。

VRヘッドセット、コネクテッドハードウェア、あるいはゲームコンソールのような、高価なギアを必要とする他のモーションベースのエンターテインメント企業のプロダクトとは異なり、NEXは特別な機器やモニター、またはサブスクリプションを必要とすることなく、モーションベースのエンターテインメントアプリを展開している。

誰でも自分の体の動きを使ってActive Arcadeをプレイできる。個々のゲームがそれぞれ異なるゲームプレイ、スタイル、深度を備えているため、どの年齢層や活動レベルのプレイヤーにも適したものが見つかるだろう。

「モーションベースのエンターテインメント業界には、グローバル企業が開発したハイテクのエクササイズプログラムが数多くありますが、そのほとんどは、高価な新しい機器や、険しい習熟曲線を要するものです」と語るのは、NEXで戦略、マーケティングコミュニケーションおよびパートナーシップ担当バイスプレジデントを務めるAlex Wu(アレックス・ウー)氏だ。

NEXは、モバイルおよびビジョンテクノロジーを使用したAIの独自の組み合わせにより、デジタルと物理の世界を融合させ、Active Arcadeのようなゲームを生成可能な携帯電話アプリケーションを構築している。

リー氏によると、同社は2021年夏にActive Arcadeの限定テスト版をローンチしたという。

NEXは2018年、同社初のAIベースのバスケットボールトレーニングアプリHomeCourtをローンチし、Apple(アップル)のiPhoneスペシャルイベントにおいて、スティーブ・ナッシュ氏とともに壇上でデモを行った。

Brooklyn Nets(ブルックリン・ネッツ)のコーチで2度のリーグMVPのSteve Nash(スティーブ・ナッシュ)氏は、次のように述べている。「私は常に、自分が支援できる、自分の価値観に合った企業やプロダクトに投資したいと考えています。子どもや大人の動きを促進し、活動をプレイに変換するNEXのアプローチは、私が心底支持しているミッションです」。

Harris Blitzer Sports & Entertainment VenturesのジェネラルパートナーであるChip Austin(チップ・オースティン)氏は「世界中の人々の活動を遊びに変換していく上で、重大なネクストステップを踏み出したNEXのチームは、これからも私たちの誇りであり続けるでしょう」と語っている。「私たちは、彼らの重要なビジョンを尊重し、そのリーダーシップとテクノロジーに感銘を受けています」。

画像クレジット:NEX

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(文:Kate Park、翻訳:Dragonfly)

ボールウェーブ・東北大学・豊田合成が空気中の新型コロナウイルスを1分以内に検出成功、高速ウイルスセンサー実現へ

ボールウェーブ・東北大学・豊田合成が空気中の新型コロナウイルスを1分以内に検出することに成功 、高速ウイルスセンサー実現へ

ボールSAWセンサー」の開発・製造を行う東北大学発スタートアップ「ボールウェーブ」は9月24日、東北大学東北大学大学院医学系研究科)、トヨタグループの電気機器メーカー豊田合成と共に、空気中のエアロゾルに含まれるウイルスを、抗体やアプタマー(特定の異物と結合してその機能を阻害する核酸分子)を使って捕捉し、「秒オーダー」でウイルス濃度を測定する新原理の確立を目指す「ボールSAWウイルスセンサの原理検証に関する研究」を進めている。その中で、エアロゾル中の新型コロナウイルス由来のタンパク質を、1分以内に捉えることに成功した。これにより、患者の呼気からウイルスが検出できる機器や、環境の空気中に浮遊するウイルスのモニターの開発の道筋が見えてきた。

将来的には、「情報通信機器に搭載して、ウイルスの拡散状況を実時間で可視化するシステム」の開発にもつなげたいとのこと。また豊田合成は、将来的には、新型コロナウイルスの除菌に有効な同社UV-C(深紫外線)LED技術との連携も視野に開発を進めるとしている。

2015年11月設立のボールウェーブは、その独自技術である「ボールSAWセンサー」の表面に抗体やアプタマーを固定しておくことで、水に覆われた状態のウイルスが付着すると、ウイルスのスパイク蛋白と反応してウイルスが補足されるというセンサーを考案した。この技術を核に、自動車部品の開発で培った表面処理技術を持つ豊田合成と、呼気中のウイルスや炎症蛋白を質量分析で検出する高精度診察法「呼気オミックス」の技術を持つ東北大学が協力して、このセンサーの開発を行っている。これを使えば、人からエアロゾルが放出されてから、1m以内であれば20秒以内(到達まで10秒、センサー応答時間が10秒以内)にウイルスを検出できるという。

ボールSAWセンサーとは、球の表面を繰り返し周回する弾性表面波(Surface Acoustic Wave)を利用したセンサーのこと。東北大学大学院工学科山中一司名誉教授らが開発した。現在、空気中のウイルス濃度をリアルタイムで検出できる方法は存在していない。また現在もっとも簡便な新規患者の検査方法であるイムノクロマト法抗原検査キットでも、検査に15分以上かかる。このボールSAWセンサーを使ったウイルス検出技術が確立されたなら、新型コロナウイルスの検査や予防が大きく進化するはずだ。

糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

糖尿病患者・予備群向けに、低侵襲・低コスト・簡便に週次GA(糖化アルブミンによる週次平均血糖)を在宅測定できるIoT血糖モニタリングサービス「GlucoReview」を開発するProvigateは、総額9億1000万円の資金調達を発表した。引受先はSparx Group、ANRI、Coral Capital。

調達した資金により、GAセンサーの量産化開発、臨床研究、製造販売承認の準備を進める。まずはクリニックや薬局向けの血液GA測定システムの製造販売承認を目指し、並行して家庭向けの開発も加速する。人材採用や、生産パートナー・販売パートナーなど業務提携・資本提携先の探索も進めているという。

2015年3月設立のProvigateは、糖尿病の発症・重症化予防のためのバイオセンサーとアプリの開発を進めるスタートアップ。東京大学病院との連携のもと、週次GA測定×アプリによる血糖モニタリングの社会実装・世界標準化の実現を目指している。低侵襲・低コスト・簡便に週次GAを在宅測定できる本体・使い捨てカートリッジ・アプリを提供することで、1~3カ月の通院間隔中の在宅自己血糖管理を力強くサポートするサービスを提供するという。

Provigateによると、糖尿病の発症・重症化予防の重要な要素の1つは、日常的な血糖モニタリングという。しかし、ほとんど重症患者にしか使われていないそうだ。これは、現在の自己血糖モニタリングデバイスが「痛い」「高い」「難しい」という課題を抱えていることに加え、大半の糖尿病患者に対して保険適用外であることも要因の1つとしている。国によって割合は異なるものの、例えば日本では1000万人の糖尿病患者の9割程度は自己血糖測定が保険適用ではないと推察できるそうだ。

つまり、糖尿病患者の大半は1~3カ月に1度の通院時にしか血糖を測定しておらず、日々変動する血糖を測定することなく血糖管理をしようとしているのが、今日の糖尿病患者の大半ともいえるという。

そこでProvigateでは、糖尿病患者・予備群の方に、低侵襲・低コスト・簡便に使える在宅血糖測定の手段を提供する事を目指しているとした。糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

Provigateが注目するのは、血糖の管理指標の1つであるグリコアルブミン(糖化アルブミン、GA)。GAは日本で開発され普及したバイオマーカーであり、直近1~2週間の平均血糖や食後高血糖の変化をよく反映することが知られているそうだ(Endocrine Journal 2010, 57 (9), 751-762)。主に病院や献血時検査で使われ、年間に約1200万回(うち約300万回は献血時GA検査)ほど測定されていると推定されるという(臨床病理 2018(66):37-48、臨床検査 2019(63):1406-1413)。糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

現在、GAはマイナーなバイオマーカーであり、平均血糖指標のスタンダードであるHbA1c(糖化ヘモグロビン)の補助的な診断指標との位置付けという。今日の糖尿病診療では通院間隔が1~3カ月であることもあって、糖尿病の長期的な状況を診断するにはHbA1cが優れており、レスポンスが早いGAは、例えば治療の開始時や治療薬を変えた時など、短期的な血糖の改善を見たい場合や、透析患者等HbA1cが安定しない症例に限られているそうだ。

しかしGAは、数日~1週間程度の血糖改善にレスポンス良く応答するため、週次で測定したときに初めてその真価を発揮するはずとしている。Provigate・東京大学医学部附属病院・陣内会陣内病院の研究チームは、このGAの本質的な特徴から週次平均血糖指標としての可能性に改めて着目し、GAをHbA1cの代替診断指標ではなく、家庭での「行動変容指標」として再定義した。

GAを用いれば、一般的な血糖計(SMBG)のように数時間おきに指先から採血をする必要はないとしている。近年急速に普及してきた連続血糖計(CGM)のようにセンサー針を皮下に留置する必要や、数カ月に1度通院してHbA1cなどの血液検査を受けるのを待つ必要もないという。

Provigateによると、GAであれば、週に1度の在宅測定で週次血糖変動をモニタリングし、過去1週間の生活習慣を振り返るだけでよいとしている。測定頻度が週1で良く、直近数時間の血糖値で大きく上下することなく、直近1週間の行動変容を反映して数値が滑らかかつ鋭敏に変化するので、低侵襲・低コスト・簡便な血糖測定の手段となることが期待されるそうだ。HbA1cが病院で測定する「期末テスト」であれば、GAは家庭で週次の生活習慣の努力成果を計測する「小テスト」のような役割を持つとしている。糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

外出先でのエクササイズもサポートする独Straffrのスマートレジスタンスバンド

スマートフィットネスギアは、固定されていて持ち運びができないという制約があることが多い。(Pelotonのスピンクラス用固定式自転車や、壁かけ式の筋力トレーニング機器「Tonal」などがそうだ)。自宅にいて、高級なホームジムに何千ドル(何十万円)も出す余裕があるならいいが、どこでもワークアウトをしたい場合はどうすればよいのか。

関連記事:Pelotonがエクササイズバイク上位モデルBike+とトレッドミルTreadを発売、価格はいずれも約26万円

今週のTechCrunch Disrupt Startup Alleyに出展しているドイツのスタートアップStraffr(ストラッファー)を紹介しよう。この会社は、バックパックに入れて外出時に持ち運べるスマートフィットネスバンドを販売している。

当初、ハードウェアスタートアップである同社は、2020年Kickstarter(キックスターター)でクラウドファンディングを選択した。2021年3月に製品を市場に投入して以来「数千個」のバンドを販売した。また、ビジネスエンジェルからも支援を受けており、フィットネスビジネスの拡大に向け、海外の投資家からの2回目のシードラウンドを完了したところだ。

Straffrのスマートレジスタンスバンドは、中強度と強強度の2種類のグレードがある。Bluetoothでコンパニオンアプリに接続し、伸身や屈伸を始めるとすぐにトラッキングを始める。CEOのStefan Weiss(ステファン・ワイス)氏によると、トレーニングセッションのフィードバックは、レップ数だけでなく、エクササイズの「質」にまで及ぶ。

バンド全体がセンサーになっており、伸縮可能なゴム製で導電性を持つ。Straffrのチームがこの素材を開発し、いくつかの特許を取得した。

「200%とか300%以上伸びる素材を探して開発するのは本当に難しい。そして壊れず、何も測定しません」とワイス氏はTechCrunchに話した。「Straffrフィットネスバンドを伸ばすと電気抵抗が変化するため、ある運動によってバンドがどれだけ伸びたかがわかります」。

「スマートでない」レジスタンスバンドを使って筋力トレーニングを試みたことがある人は、専門家の指導なしに集中して取り組むのはかなり難しいことだと知っている。基本的に、自分が最適な方法で動作を行っているのか、それともただ無心にゴムの音を鳴らしているだけなのかを知ることは困難だ。そこで、センサー機能が、この特別なフィットネスキットに大きな価値を与えてくれそうだ。

Straffrのスマートバンドは、トレーニングの回数、パワー、速度を記録し、アプリがトレーニング中にリアルタイムでフィードバックを提供する。また、ワークアウトの全体的な結果も表示されるため、フィットネスの数値管理が好きな方にもおすすめだ。

このアプリにはワークアウトビデオが用意されており、フィットネスバンドを使ったセッションの録画を見ることができる。セッションには、HIITを中心としたワークアウト、全身を使った筋力トレーニング、自宅での簡単なエクササイズなどがある。

画像クレジット:Image Credits:Straffr

ワイス氏によると、同社はプレミアムオンデマンドサービスの開発も進めている。最近では5人のパーソナルトレーナーを迎え、彼らによる1対1のトレーニングセッションを始めたという。これは将来、Pro機能として提供される予定だ。基本アプリは無料だが、ハードウェアは有料となる。

Straffrのバンドは99.99ユーロ(約1万3000円)強で「スマートではない」代替品(ベーシックなレジスタンスバンドは数百円で購入可能)と比較すると非常に高い。だが、これだけでは比較としてお粗末だ。というのも、この製品は、ただのゴムではなく、フィットネス全体のパッケージを手に入れることができるからだ。つまり、その追加金額は、関連するエクササイズのコンテンツやアプリ内でのパーソナライゼーション、ワークアウトの定量化、ライブフィードバックによるモチベーションの向上などに使われているのだ。

また、Straffrのスマートバンドは、Pelotonやその他のハイエンドのホームジムキット購入に比べ、かなり安いことも注目に値する。

そういう意味で、Straffrのスマートフィットネスは、お買い得のように見える。

これまでのところ、典型的な購入者は、ワイスによれば「自己の定量化」というトレンドにハマっているフィットネスに関心の高い男性か、ジムのフィットネスクラスの代わりを求めている中年女性だ。だが、地味でスマートなフィットネスバンドは、すべての人に何かを提供できる可能性がある。

「レジスタンスバンドを使ったトレーニングの将来は、パーソナルトレーナーとの組み合わせにあると思います」とワイス氏は付け加えた。「パーソナルトレーナーやプロのアスリート、オリンピック選手との1対1のデジタルトレーニングをオンデマンドで行い、ワークアウトルーティンの全体像やその効果を説明し、汗をかくようなトレーニングを一緒に行い、人々のモチベーションを高めます」。

レジスタンスバンドを使ったワークアウトが苦手な人向けに、Straffrはスマートフィットネスキットの追加開発を計画している。しかし、ワイス氏は、同社が開発している他のコネクテッドハードウェアの内容について詳しく語らなかった。

「現在、社内で開発中の製品があり、とても楽しみにしています」と同氏は話し「ただの縄跳びではないということは確かです」と付け加えた。

「私たちにとっては、機能的でポータブルなトレーニングと、トレーニングの質を追跡するという要素との組み合わせが常に重要です。例えば、自分の実力はどの程度か、実際に効果が出ているのか、といったことです。レップ数やステップ数を数えるだけでも、モチベーションを高めるという意味では良いと思いますが。私たちが知りたいのは、そのレップ数が本当に適切なのか、質は良いのか、今の自分の状態に合わせてベストを尽くしているのかということだと思います」。

画像クレジット:Image Credits:Staffr

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

医師が子供の肺の音を遠隔で聴くことができるStethoMeのスマート聴診器

自分や子どもが呼吸器系の病気になったとき、何が起きているのかを時々刻々と探り、そして治療がどの程度うまくいっているのかを把握することは、ストレスやフラストレーション、不安をともなう作業だ。現在のような呼吸器系疾患のパンデミックの中では、それは本当に大変なことだと思う。

今週開催のTechCrunch Disrupt Startup Battlefieldに参加するチームStethoMe(ステソミー)は、喘息持ちの子どもとその親のために、この問題を少しでも軽減しようと考えている。同チームが作成したのはスマートなコネクテッド聴診器だ。この聴診器は親が自宅で肺の検査を行う際に役立つもので、子どもの主治医に対して高音質の録音を送ったり、機械学習を利用して潜在的な懸念事項を発見したりすることができる。

これがその装置だ。

画像クレジット:StethoMe

デバイスの電源を入れ、携帯電話から検査内容を指示すると、ビルトインスクリーンが手順をガイドしてくれる。胸のどの位置に機器を置くか、部屋の中が静かかどうかなどをデバイスが教えてくれるのだ。6〜8カ所を測定した後で、呼吸数や心拍数、そしてウィーズ音(笛のような音)やラッセル音(液体によるゴボゴボした音)、クラックル音(ブツブツ、プツプツ、バチバチなどの破裂性、断続性の音)などの音声異常を検出したかどうかなどの詳細なレポートを提供する。

そこから、レポートへのリンクを子どもの主治医に直接送ることができて、医師は胸の各ポイントから録音された音声を聞くことができる。一方、音響分析グラフ(スペクトログラム)は、各録音の概要を視覚的に示し、システムが検出した異常をフラグとラベルで表示する。そのレポートは以下のようなものだ。

画像クレジット:StethoMe

この情報は、両親や医師が喘息発作をより早く、より正確に発見するのに役立ち、また薬の長期的な効果を判断するのにも役立つ。つまり、検知しにくい症状を緩和するために、ある薬が他の薬よりも優れているかどうかという判断だ。投与量を少し増やして効果はあっただろうか?

共同創業者のWojciech Radomski(ヴォイチェフ・ラドムスキー)氏によれば、彼らの製品は、すでにEUではAIとデバイスの両方に対してCEマークを取得して医療機器として認証されていという。また米国におけるFDA認証プロセスは現在進行中だ。

TechCrunch Disruptで同社は、ポーランドの保健省が1000台のデバイスを購入し、今後半年間で100人以上の医師とパイロットテストを実施するという契約を締結したことを発表した。ラドムスキー氏は「この1カ月間だけで、すでに7万回以上の録音が行われたました」という。

個人的な話になってしまうかもしれないが、私はこのアイデアがとても気に入っている。私は幼少期に喘息を患っていた。一時期私は喘息に支配されていて、たとえお医者さんが一旦喘息を鎮めてくれたとしても(ああ、科学の力に感謝します)、6歳の私は喘息の発作が起きているか、起きようとしているといつも思い込んでいた。息ができないという恐怖感が、押しつぶされそうな不安感を引き起こし、それが息ができないと思い込ませたのだ。現時点では、私がこの製品の効果について語ることはできないが(それはFDAの仕事だ)、私はこの製品を梱包してタイムマシンに入れ「これを使って、楽に息をしてくれ」というメモも添えて1993年の幼い私に送り返すことができたらと思う。(そしておそらく「追伸:ビットコインを早めに買うこと」とも書き添えて。まああまり過去を狂わせてはいけないだろう)。

StethoMeによれば、現時点で数回のラウンド(40万ドル[約4400万円]のプレシード、200万ドル[約2億2000万円]のシード、250万ドル[約2億7500万円]のシリーズA)を実施し、ポーランドの国立研究開発センターから300万ドル(約3億3000万円)近くの助成金を受けている。

画像クレジット:StethoMe

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(文: Greg Kumparak、翻訳:sako)

州の中絶禁止法に対する解決策を提供、バーチャルクリニックのHey Janeが約2.4億円調達

より多くの州が人工妊娠中絶を禁止するある種の法案を可決する中、遠隔医療による妊娠中絶ケアを提供するバーチャルクリニックのスタートアップHey Janeは米国時間8月26日、220万ドル(約2億4000万円)の資金調達を発表した。オーバーサブスクライブとなったこのラウンドには、Koa Lab、Gaingels、Foursight Capital Partnersを含む投資家グループが参加した。

リモートファーストを目指すHey Janeのアイデアは、2019年に同社の創業者でCEOのKiki Freedman(キキ・フリードマン)氏が数人の友人と交わした、ミズーリ州は妊娠中絶クリニックが残り1つとなっている6つの州のうちの1つだという会話から生まれた。中絶医療提供者への攻撃を避けるために仮名を使うフリードマン氏は、実際にはこのクリニックはその夏に閉鎖が予定されており、それはミズーリ州が中絶ケアをまったく持たない最初の州になることを意味していたと説明する。同クリニックは最終的には開業を続けることができた

「当時、私が目にした新興の遠隔医療クリニックの多くは男性のウェルネスに焦点を当てており、女性の健康については語られていませんでした」とフリードマン氏はTechCrunchに述べている。「このバーチャルモデルは、安全かつ慎重な中絶ケアに使えると考えました」。

匿名を希望するHey Janeの投資家の1人は「フリードマン氏とHey Janeに投資することに大いに期待を抱いた」のは、女性の健康が十分なサービス提供を受けていないカテゴリーであることに同意したからだと話す。男性の医療とは異なり、女性の医療では中絶ケアが分離されている。これは、レーガン大統領が中絶ケアを病院と切り離すよう義務付けたことに端を発している。

Planned Parenthoodによると、女性の4人に1人が45歳までに中絶するという。しかし、米国では2021年だけで90件以上の中絶に関する規制が制定されており、その数は総計1320件にのぼることが、Guttmacher Institute(性と生殖に関する健康と権利の向上に取り組む非営利の研究・政策組織)により明らかにされている。アーカンソー州とオクラホマ州では現在、患者の生命が危険にさらされている場合を除いて、中絶をほぼ全面的に禁止している。一方、アイダホ州、サウスカロライナ州、テキサス州では、妊娠6週以降、あるいはごく限られた例外を設けて中絶を禁止している。

2020年7月、連邦判事は女性が医師の診察を受けずに妊娠中絶薬を入手することを認めた。このことは、Hey Janeやその他の企業が妊娠10週未満の人々に「非接触」サービスの提供を開始する道を開いた。

249ドル(約2万7000円)の同社の治療には、医師によるスクリーニング、FDAが承認した薬の処方と患者の自宅への翌日配送、フォローアップのためのバーチャル訪問、そしてプロセス全体における医師とのチャットが含まれる。Hey Janeのチームも、テキストメッセージを通じて患者を頻繁にチェックする。

同社によると、金銭的な障壁を取り除くことは「Hey Janeにとって極めて重要な優先事項」であるという。同社はまだ保険を受け付けていないが、非営利の妊娠中絶基金パートナーReprocareを通じて経済的援助を行っている。この組織は、患者の負担が139ドル(約1万5000円)に抑えられるよう、249ドルの治療費のうち最大110ドル(約1万2000円)を助成している。

今回の資金調達により、Hey Janeは新たな州への展開を図り、7人のチームを増強してプロダクトおよび自動化プロセスの構築と法的調査を進めて、各州における遠隔医療の法制と遠隔医療の妊娠中絶に関する法制の動向を常に把握し、対応できるようにしていく。

Hey Janeが従うべき規制要件は州ごとに複数あり、その中には、臨床医が診療を行うのはライセンスを受けている州の患者に限定されることなどが含まれている。このため、同社は事業を展開する各州でライセンスを取得した臨床医を擁しており、適切な時期に薬を処方する準備ができている。また、必要に応じて精神的な苦痛を和らげる専門家も待機している。

Hey Janeは8月下旬からカリフォルニア全域で活動を開始し、ニューヨークとワシントンでもサービスを展開している。つまり、Hey Janeのサービスエリアは現在、米国で年間に行われる人工中絶の34%をカバーしているとフリードマン氏はいう。「カリフォルニア州とニューヨーク州では年間の中絶件数が最も多いため、これらの州が最初に選ばれました」と同氏は言い添えた。

「これらの州の人々はクリニックへのアクセスが比較的容易になっているかもしれませんが、Hey Janeによるケアは安全で効果的であり、クリニックでのケアの半分の費用で済むため、彼らはHey Janeの治療からより大きな恩恵を受けることができるでしょう」とフリードマン氏。「移動や育児のための費用や時間を必要とせず、プライバシーと裁量を確保し、精神的なサポートを追加することができます」。

フリードマン氏は、2021年末までに10州への進出を果たし、今後数年のうちに50州すべてで治療を提供できるようになることを期待している。しかしながら、19の州で遠隔医療による中絶へのアクセスを制限する規制上の障壁が存在する。Hey Janeは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のAdvancing New Standards in Reproductive Healthの研究グループと組んで、そのための情報を集めている。

「私たちは一流の研究者と協力して、この治療法が安全かつ効果的で、患者に好まれていることを示す、豊富にある既存の証拠の拡充に努めています」と同氏は続けた。「この研究が規制の厳しい州での議論をさらに前進させ、最終的には古い規制に対する、より必要とされる患者中心のアップデートにつながることを願っています。遠隔医療による中絶の安全性と有効性に関する既存のデータは、これが中絶医療の未来であることを明確に示しています」。

Hey Janeは現在、同サービスを利用する患者数を四半期ごとに250%増やしている。同社は成長に伴い、連携したケアや新プロダクトのための追加ツールに力を入れている。

妊娠中絶は、審判的な扱いや差別の心配から秘密にされることが多い。患者が慎重を期して自分の経験や感情を共有できるような、切望されていた手段をHey Janeは提供していくとフリードマン氏は語っている。

「私たちは利便性とプライバシーを重視しています。3分の2の女性が自分の経験について話すことを望んでいないため、私たちはそうした女性たちのためのスペースを提供したいと考えています」。

女性の健康問題は、極めて個人的なものである。あなたやあなたの知人が女性の健康に関する個人的な問題に悩んでいる場合は、主治医やかかりつけの地域医療クリニックに詳細を問い合わせて欲しい。

画像クレジット:Carol Yepes / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Dragonfly)

アップルがiPhoneのデータを使ったメンタルヘルスのモニタリングに取り組んでいるとの報道

Apple(アップル)は、iPhoneを使ってうつ病や不安症、認知機能の低下などの症状を検出・診断する方法を研究していると報じられている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、研究者たちは、動きやすさ、睡眠パターン、人のタイピングの仕方などのデータを分析することで、これらの状態に関連する行動を発見できるのではないかと期待している。

また、そのデータには顔の表情分析や心拍数、呼吸数などの測定も含まれているかもしれない。すべての処理はデバイス上で行われ、Appleのサーバーにデータが送られることはない。

Appleは、これらの機能の開発につながる研究プロジェクトを進めている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)では、2021年から始まる研究で、3000人のボランティアのApple WatchとiPhoneのデータを用いてストレス、不安、うつ病について研究を進めている。2020年に始まった試験フェーズでは、150人の参加者のデータを記録した。

研究者たちは、iPhoneやApple Watchのセンサーから取得したデータと、参加者が記入した気分に関するアンケートを比較するとのことだ。また、参加者の毛根に含まれるストレスホルモンであるコルチゾールのレベルも測定すると言われている。AppleとUCLAは、2020年8月に3年間の研究を発表した

今回のAppleのプロジェクトに関係しそうな別の研究プロジェクトも進行中だ。Appleと製薬会社Biogen(バイオジェン)は2021年1月、認知機能をモニターし、アルツハイマー病に発展する可能性のある軽度認知障害を発見するための2年間の研究に取り組んでいると発表した。計画では、約半数が認知機能障害のリスクが高いとされている約2万人の参加者を対象としている。

この調査で得られたデータがうつ病や不安神経症の症状と一致した場合、Appleはそのデータを、メンタルヘルス疾患の兆候が見られた場合にユーザーに警告する機能を作ることに使うことができる。iPhoneはユーザーに治療を受けるよう促すことができるようになり、早期発見が長期的には生活の質を向上させることにつながるため、この機能は重要な意味を持つことになる。

Appleとそのパートナーはこの研究の初期段階にあり、iPhoneにメンタルヘルスのモニタリング機能を追加するには、少なくとも数年はかかると思われる。また、この研究がそのような機能につながる保証はない。

先行研究では、特定の症状を持つ人は、他の人とは異なるデバイスの使い方をしているという結果も出ている。しかし、開発者がメンタルヘルスの状態を確実かつ正確に検知できるアルゴリズムを構築できるかどうかは定かではない。

しかし、火のないところに煙は立たない。ここ数年、Appleにとってヘルスは重要な分野であり、今回の研究に基づいた機能がいずれ登場する可能性はある。

編集部注:本稿の初出はEngadget

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(文:Kris Holt、翻訳:Yuta Kaminishi)

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

東京大学大学院工学系研究科は9月17日、世界最軽量でもっとも薄い皮膚貼り付け電極を開発し、1週間の心電計測に成功したと発表した。詳細は、米科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要」オンライン版で公開されている。医療、ヘルスケア分野での病気や体調不良を早期発見するウェアラブルデバイスへの応用が期待されるという。

東京大学大学院工学研究科の王燕特任研究員、李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授を中心とする研究チームが開発したこの皮膚貼り付け電極は、シリコンゴムの一種であるジメチルポリシロキサンを、数層のポリウレタンナノファイバーで強化して作られたナノシート(厚さは100万分の1mm以下)。伸縮性があり、日常的な摩擦にも耐えられる。糊や粘着性ゲルを用いず、物理的な力「ファンデルワールス力」(ヤモリが壁にへばりつくのと同じ原理)で吸着するため、皮膚への負担が少なく、ガス透過性が増し、汗が溜まったり皮膚が蒸れたりかぶれたりすることが防げる。このナノシートの上に薄膜金を形成して電極にしている。

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

ナノシートは、糊や粘着性ゲルを用いず、物理的な力「ファンデルワールス力」(ヤモリが壁にへばりつくのと同じ原理)で吸着するため、皮膚への負担が少ないという。この上に薄膜金を形成して電極にしている

左は肌に貼り付けたところ。右は拡大写真

左は肌に貼り付けたところ。右は拡大写真

ゲルを使って貼り付ける電極では、1日以上貼り付けると乾燥してしまい、貼り付けた直後と同等の信号計測ができなくなる。このナノシートでは、貼り付けた直後と1週間後に、貼り付けたばかりのゲル電極と同等の信号計測ができた。

発達障害支援VRのジョリーグッド社長が提言「職場・学校でもソーシャルスキルを学ぶ機会を」

ジョリーグッド代表取締役上路健介氏

少子高齢化に端を発する人手不足が深刻化する中、多様な人材に長く働いてもらうことが重要になってきている。発達障害や精神疾患を抱える人々も例外ではない。医療福祉系VRビジネスを開発・展開するジョリーグッドは、発達障害支援施設向けVRサービス「emou」(エモウ)を提供している。VRゴーグルを装着してバーチャルな環境でコミュニケーションを学ぶサービスだ。VR技術によって障害者支援はどう変わるのか。同社代表取締役の上路健介氏に話を聞いた。

「VRで発達障害支援」が事業化するまで

ジョリーグッドは2014年5月創業の医療VRサービス事業者だ。医師の手術を360度リアルタイムで配信・記録する医療VRサービス「オペラクラウドVR」、発達障害の方の療育をVRコンテンツで行う発達障害支援施設向けVRサービス「emou」、薬などを使わずにうつ病などの病気を治療するデジタル治療VRサービス「VRDTx」(未承認開発中)を中心にビジネスを展開している。

創業者でもある上路氏がテレビ業界出身だったことから、ジョリーグッドはメディアや制作プロダクション向けのVRコンテンツ作りのサポートから事業をスタートした。その後観光業向けのVRブームが起こり、それに関連したVR活用セミナーを開催したところ、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンから高い評価を受けた。それがきっかけとなり、2018年11月に同社と医療研修VRを共同開発することを発表。医療VRビジネスを開始した。

そうこうしているうちに、ジョリーグッドの医療VRサービスのことを聞きつけた発達障害支援施設の関係者などから「ジョリーグッドの技術は発達障害の人が苦手とするソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)に活用できるはず」と声をかけられ、emouを開発するに至った。

上路氏は「当時の私は発達障害のことをよく知りませんでした。ですが、こうして声をかけていただいて、VR技術の新しい活用方法を開拓することができました」と振り返る。

発達障害とソーシャルスキルトレーニング

では、発達障害とはどんな障害なのか。

厚生労働省によると、発達障害とは「生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態」だ。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが発達障害に含まれる。

発達障害の人はソーシャルスキルに課題を抱えることが多い。ソーシャルスキルとは、社会の中で周りの人と協調して生きていくための能力だ。コミュニケーションを取るためのスキルとも言い換えられる。

「ソーシャルスキルとひと言でいっても、その内容は多岐にわたります。声の大きさ、話し方、会話をしている最中の相手への配慮などが含まれます」と上路氏はいう。

ソーシャルスキルが試される場面は数多くあるが、仕事でミスをした時の対応の仕方、周りの人が噂話をしているときの立ち回りなど「気まずい空気」に対処する時を想像してもらえるとわかりやすいだろう。

さらに同氏によると、ソーシャルスキルを鍛える機会がなかったために、学校や職場などでコミュニケーションに失敗し、その経験がトラウマとなって社会に出たくなくなってしまう発達障害者もいるという。そのため、ソーシャルスキルを身につけ、強化する訓練であるSSTは重要なのだ。

上路氏は「大切なのは、発達障害を抱える人たちが学校や職場などの『社会』で経験するであろうさまざまな場面を事前に予習し、人やコミュニケーションに対する恐怖を取り除くことです。SSTはいわば『社会の予習』なのです。発達障害を抱える人の状況はそれぞれ異なりますし、症状の重さも多様です。『人に向き合うのがもう無理』という方もいます。1人ひとりに合わせて『まずは外の景色を見せる』『動物を見せる』『人を見せる』というように、段階的に、何回でも安全なVR空間でコミュケーションを練習してもらうことがSSTでは重要です」と話す。

「発達障害者支援」の課題

「VRでSSTを行う」と聞くと、それだけで画期的に聞こえる。しかし、実際のところ、発達障害支援施設ではVRを必要としているのだろうか。発達障害支援施設にはどんな課題があるのだろうか。

上路氏は「支援施設ではSSTを行いたくても、SSTのマニュアルがなかったり、カリキュラムがなかったりする施設は珍しくありません。また、SSTを行う指導員の育成にも時間がかかります。VRを使用しないSSTは、指導員による寸劇や紙芝居で行われます。『Aさんがこんな行動に出ました。Bさんがこんなことを言っています。あなたはどうしますか?』という具合に、特定の状況を再現し、適切な対応を学んでいきます。この時、発達障害を抱える方は想像することが苦手なため、受講者の理解の深さは指導員の演技力や個人の能力に依存してしまいます」と問題を指摘する。

それだけではない。寸劇や紙芝居でのSSTは、現実に起きるであろうあらゆるシチュエーションを発達障害者に見せ、イメージさせることで、実際の「その場面」に備えさせるものだ。しかし「その場面」にまだ遭遇していない発達障害者にとっては、イメージすること自体が非常に難しい。

「中にはイメージ作業そのものが負担になり、SSTを嫌いになってしまう方もいるんです」と上路氏。

だが、VRを使ったSSTでは、発達障害者はVRを通して「その場面」を擬似的に体験できるため「イメージする」という作業がなくなる。さらに、没入感の強いバーチャル空間をゲーム感覚で体験することもでき、SSTを楽しむ人もいるという。

支援施設の課題はSSTだけではない。発達障害支援施設の数は年々増しており、当事者やその家族がより良い施設を選ぼうとしているのだ。施設間の差別化や競争が始まっている。

「現状、支援施設は独自のツールとノウハウでSSTを行っています。そのため、支援施設の違いや個性が見えにくかったり、指導員の質にばらつきが出ます。emouのようなVRとSSTコンテンツがセットになったものを使えば、同じクオリティのコンテンツで何人もの施設利用者にSSTを行えます。指導員の教育コストを下げることもできます。さらに、『VRを活用している』ということでプロモーションにもなります。実際、emouを導入した支援施設で、導入をきっかけにメディアに取り上げられたところもあります。支援施設のビジネスというのは、定員を満たさないと十分な利益が出せません。なので、プロモーションや差別化というのは非常に重要な問題なのです」と上路氏はいう。

コミュニケーションで問題を抱えているのは障害者だけ?

emouは、SSTコンテンツのサブスクリプションサービスだ。360度のVR空間で「挨拶」「自己紹介」「うまく断る」「自分を大事にする」「気持ちを理解し行動する」「仲間に誘う」「仲間に入る」「頼み事をする」「トラブルの解決策を考える」など、100以上のコンテンツを利用することができる。

emouには指導員向けの進行マニュアルと導入マニュアルも含まれており、SSTの実績がない施設や、SSTの経験が浅い人材でも一定の質でSSTを実施できる。

導入開始時に導入初期費(5万5000円)、VRゴーグルにかかる機材費(3台で19万8000円、こちらは導入施設が買取る)、月々5万5000円のサービス利用費がかかる。翌月からはサービス利用費の支払いだけで良い。導入施設で準備するのはコンテンツ管理 / SSTの進行管理のためのiPadのみとなる。

ここまで見てきたように、emouは発達障害者の支援のために開発されたサービスだ。しかし、emouの開発と活用が進むにつれ「SSTが必要なのは発達障害を抱える人だけではない」と上路氏は気づいた。

「うまく断るとか、自分を大事にするとか、頼み事をするとか、トラブルの解決策を考えるというのは、発達障害を持っていない人でも十分に難しいですよね。胸を張って『得意です』といえる人は多くないと思います。また、今はコロナ禍で学校に通えない子どももいます。これまでは学校がソーシャルスキルを学ぶ場として機能してきましたが、そうもいかなくなってきています。ソーシャルスキルは今や発達障害を抱える人だけではない、大人も子どもも巻き込んだ課題なのです。なので、企業の研修や、学校教育の一環として、emouが役に立つ可能性もあると思っています」と上路氏。

こうして発達障害者ではない層にも目を向ける中で、今上路氏が注目しているのがリワーク市場だ。

2020年に内閣府が発表した『令和2年版 障害者白書』によると、精神障害者数(医療機関を利用した精神疾患のある患者数)は2002年から2017年まで増加傾向が続いている。さらに、精神疾患による休職者のうち、職場に復帰できているのは半数以下だ。

上路氏は「復職者支援のために1企業にemouを1セット設置したり、emouのノウハウを生かしてVR産業医のようなサービスを展開することで、ソーシャルスキルに関わる課題を抱える人を助けることができるかもしれません。今後はリワーク市場を視野にサービスを充実させていきたいですね」と語った。

オフィスでの新型コロナ感染リスク率を表示するATMOの空気モニタリングデバイス

2015年、TechCrunchは電子機器の見本市であるCESで発表されたのち、数々の賞を受賞した小型で革新的なポータブル大気質モニター「Atmotube(アトモチューブ)」を紹介した

Vera Kozyr(ヴェラ・コザー)氏が共同で設立したATMOは、企業向けの室内空気環境モニタリングシステム「Atmocube(アトモキューブ)」を発表した。Atmocubeは、オフィス内の空気環境が極めて重要となるポストCOVID時代に向けられており、小型で持ち運びができる以前の製品(この製品もまだ販売されてはいる)と異なり、目立つことでオフィスワーカーに良い空気環境であると安心感が与えられるようにもなっている。

その鍵となるのが、さまざまな指標とともに「Atmocube」の画面に表示される二酸化炭素レベルの測定値だ。

このデバイスには最大14個のセンサーが搭載されており、CO2、ホルムアルデヒド、PM1(空気中の小さな粒子)、PM2.5、オゾンなどの各種環境パラメータや相対湿度、温度、気圧、環境騒音、光量、色温度などを測定する。

ATMOによると、この新デバイスは、粒子状物質、湿度、CO2のレベルに基づいて、ウイルスの空気感染スコアを計算し、閉ざされた空間でウイルス疾患が感染する確率を推定する「スコア」を導き出すという。もちろん、これを検証するには独立したテストが必要だが、WHOが新型コロナウイルスは換気の悪い、あるいは混雑した室内環境で感染する可能性があると勧告しているのは事実だ。

「大気汚染は、気づかないうちに自分自身や健康に影響を及ぼすので危険です。私たちは、人々が自分の吸い込んでいるものを知り、その結果として変化を起こす助けになることを目指しています。企業がオフィスに戻る際には、室内の空気環境に関する情報を透明化し、従業員がその情報にアクセスできるようにするツールが必要です。多くの空気環境モニターは隠されることを前提に設計されています。そこで私たちは暖房、換気、および空調のパフォーマンス(HVAC)の安全性を強調する、より透明性の高いインターフェースを備えたデバイスを作り、オフィスにいる人々とビルのオーナーの間に信頼関係を築くことを目指しました」とコザー氏はいう。

この分野には、AirThingsAwair OmniKaiterraなどが参入しており、ATMOだけが唯一のプレイヤーではない。

関連記事:オフィスの新型コロナ対策を支援する空気品質監視プラットフォームのOpenSensorsが4.1億円調達

画像クレジット:Atmocube

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(文:Mike Butcher、翻訳:Yuta Kaminishi)

ピルのオンライン診察アプリ「スマルナ」のネクイノとENEOSが次世代ヘルスケアブース「スマートライフボックス」共同開発

ピルのオンライン診察アプリ「スマルナ」のネクイノがENEOSから資金調達、次世代ヘルスケアサービス「スマートライフボックス」共同開発

ネクイノは9月15日、ENEOSホールディングス(ENEOS)を引受先とする資金調達とともに、協業を開始したと発表した。シリーズBラウンドにおける資金調達は合計で約27億5000万円、創業以来の累計調達額は約35億円となり、今回の資金調達でシリーズBラウンドを終了としている。

また、予防医療の領域から健康課題に対し総合的にサポートする、専用無人ブース「スマートライフボックス」を共同開発し、9月15日より実証実験を開始した。

スマートライフボックスは、室内に設置した検査機器による様々なバイタルデータの計測と、そのデータを一緒に参照できる医療専門家とのビデオ通信によるコミュニケーションが可能という。プライバシーが保たれた静かな環境で医療専門家が健康課題に応じ、地域の医療機関への適切な受診についてアドバイスを受けられるとしている。

また実証実験として、三井不動産がららぽーと柏の葉(千葉県柏市)でリニューアルオープンした、まちの健康研究所「あ・し・た」内にスマートライフボックスを設置し、一般の方に医療専門家とのオンライン健康相談サービスを無償提供する。利用の際は、スマートフォンやPCなどより専用アプリを通じ、本人確認と予約を行うと入室可能となる(ウイルス感染症対策として、室内には消毒除菌機器を装備している)。

内容については、ネクイノの女性向け健康相談サービスの提供からスタートし、実証実験地域の方の対象拡大と、提供サービスの内容拡充を2022年3月末まで順次実施する予定。

ネクイノが運営する婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォーム「スマルナ」(Android版iOS版)では、アプリ内で助産師・薬剤師が対応する「スマルナ医療相談室」において1日平均400〜500件の医療相談対応を行うほか、服薬指導も実施。健康への関心や受療行動の変容のきっかけとなる婦人科領域を中心にサービスを提供している。

医療の新しいスタンダードの実現を目指すネクイノは、医療DXへの動きを加速させるサービス展開を行うための次のステップとして、ENEOSが有する顧客基盤を活用し、医療へのアクセス改善および医療のコミュニケーションの質の改善など、各種ヘルスケアサービスを生活圏内の自宅以外の場所で提供すべく「スマートライフボックス」を共同開発した。

またENEOSは、利便性の高いサービスをトータルで提供するプラットフォームの構築を目指しているという。同プラットフォームでは、ヘルスケア分野で提供するライフサポートサービスの1つとして、各地域の特色や医療アクセスを考慮したサービスの検討を進めており、同実証がヘルスケアにおける第1弾の取り組みとなる。

今回の協業により、スマートライフボックス実証実験において中核となる、サービス基盤の開発に両社で取り組み、利用しやすく質の高いヘルスケアサービスの展開拡大を目指し、「新たな医療体験」を創出するという。

スマホでできるパーキンソン病などの神経変性疾患のデジタル治療を開発するNeuroglee

シンガポールに本拠を置くNeuroglee Therapeutics(ニューログリー・セラピューティクス)は、神経変性疾患患者のためのデジタル治療処方を開発しているスタートアップ企業だ。同社はシリーズAの資金調達ラウンドを実施し、1000万ドル(約11億円)を調達したと発表した。この資金は、バーチャルな神経学クリニックの設立や、Neurogleeのボストンへの移転をサポートするために使用される。今回の投資ラウンドはOpenspace Ventures(オープンスペース・ベンチャーズ)とEDBIが主導し、Mundipharma(ムンディファーマ)の前CEOであるRamen Singh(ラマン・シン)氏、Biofourmis(バイオフォーミス)の共同設立者であるKuldeep Singh Rajput(カルディープ・シン・ラジプート)氏とWendou Liu(ウェンドウ・リウ)氏、そして2020年Neurogleeの前ラウンドを主導した日本の製薬会社であるエーザイが参加した。

創業者兼CEOのAniket Singh Rajput(アニケ・シン・ラジュプット)氏は、同社がボストンへ移転する理由について、メールでTechCrunchに次のように語った。「ボストンは世界最大のデジタルヘルスハブの1つです。アルツハイマー病のような治療が困難な神経変性疾患に関連する軽度認知障害を治療するための最初のソリューションを開発することに専念している企業として、ボストンはそのための戦略的支援を私たちに提供してくれると信じています」。

Neurogleeは現在、Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)と共同で、Neuroglee Connect(ニューログリー・コネクト)と呼ばれる新しいプラットフォームを開発している。これは、神経変性疾患の可能性がある軽度認知障害者を対象にメイヨー・クリニックが実施している10日間の対面式プログラム「HABIT(Health Action to Benefit Independence and Thinking、自立と思考のための健康行動)」をベースに、Neurogleeの技術でその規模を拡大し、患者や介護者が自宅で利用できるようにするものだ。Neuroglee Connectのユーザーは、24時間体制で対応するヘルスナビゲーターや、評価や干渉を行う臨床治療チームからも、サービスを受けられるようになる。

Neurogleeの製品パイプラインには、パーキンソン病や脳卒中のデジタル治療処方も含まれている。

Neurogleeは、2020年12月に前回の資金調達を発表して以来、アルツハイマー病向けのデジタル治療処方箋ソフトウェアである「NG-001」の製品開発に成功するなどのマイルストーンを達成してきた。現在はNG-001がFDA(連邦食品医薬品局)からBreakthrough Designation(画期的新薬指定)を獲得するための概念実証試験に着手したところだと、ラジュプット氏は語っている。

Neurogleeのアダプティブラーニング(適応学習)テクノロジーは、患者の認知機能、気分、行動に関連するバイオマーカーと機械学習を利用して、各患者にパーソナライズした治療プランを自動的に作成する。患者は自宅から、スマートフォンやタブレットを介してこのソフトウェアを利用できる。

「例えば、患者の指が動く速度、ゲームやタスクを完了するまでの時間、デバイスのカメラで確認した患者の顔の表情などに基づいて、タスクやゲームの数や種類が調整されます」と、ラジュプット氏は語る。「このソリューションには、患者の過去の映像を使ってポジティブな記憶や感情を呼び起こし、認知機能を向上させる回想療法も組み込まれています」。

画像クレジット:Neuroglee

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

フィットネスを「賭けごと」にして負ける恐怖を続けるモチベーションにするアプリCadooが約1.7億円調達

米国を拠点とするスタートアップ企業、Cadoo(カドゥー)は、この度Sam Altman(サム・アルトマン)と Max Altman(マックス・アルトマン)兄弟が率いるApollo VC(アポロベンチャーキャピタル)と、学生を中心としたDorm Room Fund(ドームルームファンド)から150万ドル(約1億6500万円)のシード資金を調達した。Cadooはフィットネスを賭け金を賭けられるようにゲーミフィケーション化して、賭け金を獲得できるという期待、または賭け金を失うかもしれないという恐怖を運動の動機にしようとしている。

同社のアプリ自体は2018年から存在していたが、2020年3月には「チャレンジモデル」を開始。ユーザーはお金を賭けて、10日で16km走る、3日で5km歩くなどのフィットネス目標を設定したチャレンジに参加することができる。

目標を達成した参加者には賭け金が返還され、目標を達成できなかった参加者の賭け金も比例配分で分配される。

このチャレンジモデルには「毎日の歩数」から「マラソンのトレーニング」まで、さまざまなフィットネスレベルが用意されていて、毎週約50の公開チャレンジが開催されている。

2021年7月からは非公開チャレンジも追加され、ユーザーは自分自身や家族、友人、さらには会社やクラブ、学校などの大規模なグループのためのフィットネスチャレンジを開催することができるようになる。

チャレンジのアクティビティは、アクティビティトラッカーやフィットネスアプリから取得したAPIデータをアプリが検証して確認する。犬にFitbitを装着してもばれてしまうという訳だ。

Cadooアプリは、Strava、Fitbit、Apple Healthなど、数多くのサードパーティ製フィットネスサービスに対応している。

CEOかつ創業者のColm Hayden(コルム・ヘイデン)氏は、このスタートアップを「自分のフィットネス目標を実現するためのDraftKings(ドラフトキングス、スポーツ賭博やファンタジースポーツを手がける米国の企業)」と表現する。

TechCrunchの取材に対し、ヘイデン氏は「25~50歳のフィットネス愛好家が、毎月/毎週のフィットネス目標を達成するためにCadooを利用しています」と話し、次のように続ける。「真剣に目標を達成するには、自分の情熱を支えてくれる強烈なモチベーションが必要です」。

ヘイデン氏によると、Cadooアプリはこれまで約7000人の賭けごと好きのユーザーに支持されてきたという。

Cadooのビジネスモデルは、チャレンジの敗者の賭け金を没収して、その賭け金を勝者に分配するというものだ。そのため、下手をすると、ユーザーがクリアできないような難しいチャレンジを設定してしまう可能性もある。

しかし、どのチャレンジに参加して賭け金を賭けるかを決定するのはユーザーだ。

同社によれば、Cadooのチャレンジに参加したユーザーの90%がチャレンジを成功させている、という。

ヘイデン氏は、将来的には、勝者にフィットネス製品を提供し、その製品からマージンを取ることで、マネタイズの可能性を広げることも考えている。さらに、ランニングやウォーキングだけでなく、(アプリで検証できる)他の種類のフィットネス目標にも拡大していきたいとのことだ。

「私たちは、誰もが目標に到達できるモチベーションプラットフォームの構築に取り組んでいます」とヘイデン氏。「金銭的なインセンティブは強烈なモチベーションになり、Cadooのチャレンジに参加したユーザーの90%はフィットネス目標を達成しています。ランニングだけではなく、将来的にはオンラインで検証可能なほとんどのフィットネス目標に対するインセンティブとなるようにしていきます」。

米国ベースのCadooアプリはPayPalを通じた支払いで利用できる。ヘイデン氏によれば、少なくともPayPalが利用できる場所であれば、海外からの参加にも対応できる、とのことである。

今回のシード資金調達ラウンドについて、Apollo VCのアルトマン兄弟は声明の中で次のようにコメントしている。「金銭的なインセンティブを用いるCadooアプリは、ユーザーのフィットネスに対するモチベーションを簡単に向上させることができます。Cadooが開拓しているモチベーション産業はデジタルマネーの重要なユースケースになる、と私たちは考えています」。

Cadooによると、同社は以前、Tim Parsa(ティム・パーサ)氏率いるCloud Money Ventures Angel Syndicate(クラウドマネー・ベンチャーズエンジェル・シンジケート )、Wintech Ventures(ウィンテックベンチャーズ)、Daniel Gross(ダニエル・グロス)氏率いるPioneer(パイオニア)から、エンジェルラウンドで35万ドル(約3900万円)を調達していた。

健康関連のゲーミフィケーションは目新しいものではない。歩数や距離、消費カロリーなどを簡単に記録できるウェアラブルデバイスによって、フィットネスの分野ではデータに基づく定量化や目標を掲げた動機付けが何年も前から行われている。

ここに「賭け金」という要素が加わると、さらに競争心を煽られ、賭けごとの好きなユーザーが健康を維持するためのモチベーションを高めることができる。

このような取り組みを行うフィットネスに特化したスタートアップ企業はCadooだけではない。ダイエットに限らず、アクティブに活動したユーザーに報酬を支払うアプリは数多く存在する(直接的な支払いではなく「報酬」と交換できるデジタル通貨を支払うアプリもある)。この分野の他の企業としては、HealthyWage(ヘルシーウェージ、2009年のTechCrunch50でも取り上げている)、Runtopia(ラントピア)、StepBet(ステップベット)などがある。

関連記事:Apple Fitness+はジムの代わりにはならないが汗を流すには十分

画像クレジット:Henrik Sorensen

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

サブスクベースの歯ブラシ交換サービスからフロス、マウスウォッシュなど製品を拡大、口腔内ケア市場に基盤を築くQuipが約110億円調達

個人および歯科医向けの大規模口腔ケアプラットフォームを目指すQuip(クイップ)が新たに1億ドル(約110億円)を調達し、目標実現に向けて資金源を獲得した。

Cowen Sustainable Investments(CSI)主導の今回のシリーズB新ラウンドは、2020年4月にQuipが黒字化を達成したことを受けて開始された。これで同社の2015年創業以来の資金調達総額は合計1億6000万ドル(約176億円)を超えることになる。前回発表された調達額は2018年の4000万ドル(約44億円)だった。Quipは2015年のTechCrunch Disrupt NYのStartup Alleyで同社のサービスをプレゼンテーションしている。

当時Quipはサブスクリプションベースの歯ブラシ交換サービスとして有名だったが、その後数年で、フロス、マウスウォッシュ、デンタルガム、スマート電動歯ブラシなどを製品ラインに追加し、4350億ドル規模の口腔内ケア市場で着実に基盤を築いてきた。最近では、歯列矯正医対応バーチャル歯列矯正器具サービスを4月に開始している。

Quipの共同創業者兼CEOであるSimon Enever(サイモン・エネバー)氏はTechCrunchの取材に答え、同社の長期ビジョンは「口腔ケアのカテゴリで持続的なグローバルビジネスを構築し、事業を適正な規模に維持すること」だと語っている。Quipは、成長、イノベーション、世界100カ国におよぶ750万人の顧客からなるコミュニティの構築に重点を置いている。

「この時期に新しいラウンドを実施し、このような大きな資金を調達したのは、意図的な戦略です」と同氏はいう。「我々は、口腔ケアアプリに必要な基本ピースをまず揃え、そして数カ月前に歯列矯正器具などのサービスを開始しました。こうして今、世界的に注目される利益を出すことができるコアビジネスを展開していることを証明したかったのです」。

6年前にQuipが創業し資金を調達した頃は、口腔ケアスタートアップはほとんどなく、同分野での資金調達もあまり行われていなかった、とエネバー氏はいう。そもそも同氏がQuipを起業しようと決断したのも、8年前の歯科検診で歯科口腔分野における投資が極めて低調であることを知ったからだ。その後、デンタルケアの分野に革新を起こすスタートアップが次々に登場し、個人と専門医の両方に向けた投資が行われるようになった。歯列矯正や予約システムなど、Quipが現在取り組んでいる分野は特に注目されている。

Quipは、今回調達した資金で、すでに750万人のユーザーがいる個人向け口腔ケアプラットフォームをさらに拡充し、そのユーザーを5万人を超える歯科医師のネットワークに接続できるようにする。また、新しい分野にも参入し、グローバル事業の拡大も図って、口腔ケアコンパニオンモバイルアプリに新しい機能を導入する予定だ。

アプリユーザー数は2022年には100万人を超えると予想している、とエネバー氏はいう。新機能により、コーチング、ヘルス監視による口腔ケア習慣の追跡という同社のミッションが補完されることになる。アプリのメンバーは習慣と健康を改善することでポイントを獲得し、獲得したポイントをQuipやパートナー各社の製品やディスカウント券と交換できる。

エネバー氏はQuipの従業員数(ニューヨークとソルトレイクシティー)を2022年末までに現在の200人から2倍に増やす計画だ。

「当社には野心的でやる気に満ちたチームがあります。現在の地位を築けたのもこのチームがあったからです。このチームを拡大して、次の段階への事業展開をサポートできることにワクワクしています」と同氏は付け加えた。「当社のチームのパフォーマンスには目を見張るものがあります。ここ数年で目標を達成し、4つの個人向けの口腔ケア新製品を導入して、Walmart(ウォルマート)への製品提供を開始して黒字化を達成しました。パンデミックの中、こうした実績を残した当社チームは本当にすばらしいと思います」。

小売売上高は2020年比で100%以上の伸びを達成しているという。また、Walmartへの製品提供に加え、Target(ターゲット)への製品提供も始まっており、提供先小売店舗数は1万店を超えている。

CSI社長のArtem Mariychin(アルチョーム・マリチン)氏は、今回の投資の一環として、Quipの取締役会に参加する。環境持続可能性を重視した成長投資戦略を掲げているCSIは、ゴミ対策など、世界の環境に好影響を与える企業をさがしている。同社がQuipに興味を持った理由もそこにある。

Quipでは、紙の包装とリフィル可能製品のリサイクルプログラムによって、1億個の使い捨て部品が埋立地に向かわずに済むと推測している。目標は、今後12カ月で約45万キログラムのプラスチックを削減または再利用することだ。

マリチン氏は他の消費財企業と比較したQuipの成長率、および同社の資本効率の高さと消費者中心型志向にも惹きつけられたという。これは口腔ケアビジネスにしかない特徴だ。

「Quip製品は高価ではないが、高品質で消費者ニーズに応え、難題を解決します」と同氏はいう。「サイモン氏のそもそもの目的はブラッシング効果を向上させることでした。現在、1日2回ブラッシングする人は50%しかいないからです。しかし、Quipは歯ブラシの製造だけではなく、フロスやマウスウォッシュにまで取扱製品を拡大しました。驚いたことに、サブスクリプション契約者は歯ブラシ以外の製品も購入するようになっています。Quipは歯列矯正器具など、他のデンタル製品も扱うようになっています。これはeコマース企業では例外的です」。

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画像クレジット:Quip

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(文:Christine Hall、翻訳:Dragonfly)

独自光超音波3Dイメージング技術を手がけるLuxonusが約4.3億円調達、2022年中に医療機器の開発・生産および薬事申請準備

独自の光超音波3Dイメージング技術を手がけるLuxonusが約4.3億円調達、2022年に医療機器の開発・生産および薬事申請準備

Luxonusは9月10日、シリーズBラウンドにおいて、約4億3000万円の資金調達を発表した。引受先は、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタルなど。調達した資金により 2021年に研究機関向けの理化学機器の上市と、続く2022年中の医療機器の開発・生産および薬事申請の準備を行う予定。

Luxonusは、独自の光超音波3D/4Dイメージング技術(PAI-3D/4D。Photoacoustic 3D/4D Imaging)を用いて、疾患の早期発見および病勢診断が可能な汎用撮影装置の実用化を目指す大学発スタートアップ。科学技術振興機構(JST)による革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」(2014年度~2018年度に実施、慶應義塾大学と京都大学が参加)などの研究成果を基盤とし、2018年に設立された。

PAI-3D/4Dとは、生体にパルス光を照射した際に発生する超音波を超音波センサーで補足し、受け取ったデータをコンピューター解析し画像化する技術。既存撮影技術であるX線コンピューター断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像(MRI)などと比較して、造影剤を使用せずに無被ばくで血管を超高解像度3D/4D撮影することが可能としている。Luxonusは2019年から製品開発に取り組み、光超音波3D/4Dイメージング装置の製品プロトタイプの開発に成功し、3D画像に加え、リアルタイム3D(4D)画像の取得を実現した。血液の酸素飽和度などの3D/4D撮影、さらに色素造影剤を用いることでリンパ管を高解像度で3D/4D撮影可能。

また、慶應義塾大学病院および京都大学医学部付属病院は、ImPACT(内閣府・革新的研究開発推進プログラム「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」)で得られた臨床研究成果さらに発展させ、日本医療研究開発機構(AMED)「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」において、同装置を用いた疾患(末梢脈管疾患、リンパ浮腫、乳がんなど)と再建手術に関する臨床研究を進めており、今後研究成果を医学系学会などで発表予定としている。

・9月:第80回 日本癌学会
・10月:第17回 日本血管腫血管奇形学会
・12月:第5回 APFSRM2020 / 第48回 日本マイクロサージャリー学会

元Momentumの高頭氏、糖尿病患者向け海藻スーパーフードパウダーのTeatisで約7700万円のシード調達

シリアルアントレプレナーの高頭博志氏は、妻をがんで亡くしたことをきっかけに、重症患者の消費者のための便利で栄養価の高い食品の必要性を感じるようになった。

高頭氏は、2017年にステルスモードで糖尿病患者向けの植物性糖質制限スーパーフードパウダー「Teatis(ティーティス)」を立ち上げ、医師や管理栄養士のグループと手を組んで2021年4月に本格的に事業を開始した。

Teatisは米国時間9月9日、米国市場での成長を推し進めるために、シードラウンドで70万ドル(約7700万円)を調達したと発表した。このシード資金により、Teatisの資金調達総額は100万ドル(約1億1000万円)を超えた。

今回のシードラウンドは、Genesia Ventures石塚亮氏(メルカリの元CEOで共同創業者)、野口卓也氏(日本のスキンケアブランドBULK HOMMEの創業者兼CEO)が主導した。このほか、7名のエンジェル投資家が今ラウンドに参加した。

Teatisの共同設立者である高頭博志CEOはTechCrunchに、今回のシード資金は、1億2200万人の糖尿病患者および糖尿病予備軍が糖尿病に対する予防と治療に取り組んでいる米国での生産とマーケティングに使用されると語っている。同社は現在、生産拠点のある米国市場に注力しており、次の資金調達であるシリーズAは2022年に予定されていると同氏は付け加えた。

「当社商品を使用するお客様の大部分、約88%は糖尿病を疾患しており、当社のレシピは糖尿病患者の血糖値管理に役立つように作られています。膨大な数の米国人が糖尿病を患っており、栄養価が高く、便利で機能的な糖尿病患者向けの食品が求められています」と高頭氏は語る。

Teatisは、低糖質食品に関心のあるすべての消費者と、糖尿病予備軍のためにサプリメントを開発していると高頭氏はいう。Teatisの植物性パウダーは化学物質や甘味料を含まず、褐藻エキス(アラメ)などの日本では伝統的な原料を含んでおり、腸管からの糖の吸収を抑え、血糖値を下げることが証明されている。この低糖質パウダーは、お茶やラテにしたり、スムージーに加えたりすることが可能だ。

高頭氏は、米国の糖尿病向けミールリプレイスメント製品の市場規模は50億ドル(約5500億円)、米国の糖尿病患者向けパッケージ食品の市場規模は約3000億ドル(約33兆円)と推定している。

「当社は、食品科学とテクノロジーを融合し、食品とテレヘルスを通じて糖尿病患者の問題を解決します」と同氏は語る。

Teatisは、糖尿病患者の健康のための総合的なワンストップショップの構築を目指しており、2021年9月中に管理栄養士プラットフォーム「Teatis RD on Demand(オンデマンド登録栄養士)」を立ち上げ、食品、テレヘルス、レシピなど、糖尿病と闘う人々のためのフルサービスを提供開始する。

Teatis RD on Demandは、登録管理栄養士による1対1のプライベートセッションを提供する。従来の対面でのアポイントメントが30分あたり150ドル(約1万6500円)、遠隔アポイントメントが30分あたり90ドル(約9900円)であるのに対し、30分あたり29ドル(約3200円)からと、コストを抑えた設定になっている。

Genesia Ventures(ジェネシア・ベンチャーズ)投資マネージャーの相良俊輔氏はこう述べている。「この分野の既存プレイヤーの多くは、デジタルコンピテンシーやデータ主導方の生産方式を持たない古い企業です。高頭さんは、市場を掌握する資質と大胆さを備えた、実績あるシリアルアントレプレナーです。Teatisのすばらしいアイデアと製品が、今後、糖尿病やその他の慢性疾患に苦しむ多くの人々の助けになることを期待しています」。

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画像クレジット:Teatis

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

検温をエンタメ化する!? HYTEKが体温入りフォトカードThermo Selfieのプロトタイプを開発

検温をエンタメ化!? HYTEKが体温入りフォトカードThermo Selfieのプロトタイプを開発認知されていないハイテクを娯楽コンテンツに「昇華」させて、その魅力を世界に発信するという「テックエンタメ」企業HYTEK(ハイテク)は、9月9日、検温をエンタメ化して思い出に変える写真プリント装置「Thermo Selfie」(サーモセルフィー)のプロトタイプ開発を発表した。この装置は、2021年9月10日から13日まで東京都千代田区有楽町で開催予定の「micro FOOD & IDEA MARKET」に設置される。検温をエンタメ化!? HYTEKが体温入りフォトカードThermo Selfieのプロトタイプを開発

新型コロナウイルスのまん延で、展示会や店舗などの入口には自動検温器が置かれている光景が日常になったが、HYTEKは、検温という「事務的」な行動を「来場者が笑顔で入場できる新たな検温体験」とするべく、博報堂アイ・スタジオと共同で「Thermo Selfie」を開発した。これは、検温と同時にその人の撮影を行い、体温と顔が入ったフォトカードをプリントするというもの。正常体温を証明する顔写真入り入場パスにもなり、思い出にもなるという。検温をエンタメ化!? HYTEKが体温入りフォトカードThermo Selfieのプロトタイプを開発

検温をエンタメ化!? HYTEKが体温入りフォトカードThermo Selfieのプロトタイプを開発

フォトカードのデザインは裏表ともカスタマイズ可能で、たとえば裏面にクーポンを印刷するなど、なんらかのご褒美を添えることができる。

「micro FOOD & IDEA MARKET」では、プロトタイプを設置して実証実験を行う。これをもとに、音楽フェスやアミューズメントパークなどへの展開を目指して製品版リリースのための改善を進めるとのこと。

新型コロナ変異株「デルタ株」の高い感染力の仕組みに関する研究結果が発表、スパイクの多さと複製の早さが作用

新型コロナ変異株「デルタ株」の高い感染力の仕組みに関する研究結果が発表、スパイクの多さと複製の早さが作用

数十人の科学者からなる国際的な研究チームが、新型コロナウイルスのパンデミックにおいてデルタ株と言われる種が急速に流行している理由を明らかにする研究結果を発表しました。Nature誌に掲載された研究によると、デルタ株は、これまでの新型コロナウイルスに比べ、免疫抗体に対する抵抗力が強いうえ細胞に感染して自己複製する能力も高いとのこと。

2020年12月にインドで初めて発見されたデルタ株は、日本を含め世界に驚異的な速度で感染を拡大しています。チームは、研究の第一段階において、デルタ株が過去の感染やワクチン接種で生成された免疫抗体をどれほど効果的に回避するのかを調べました。

実験室内での研究によると、新型コロナ感染から回復した人の免疫抗体に対するデルタ株の感受性はオリジナル株に比べて6倍低く、ワクチンで得た抗体では8倍も感受性が低いことがわかったとのこと。

第2段階では、デルタ株がどのように宿主となる細胞に感染し、自己複製するのかを、ヒトの気道の細胞モデルを作成して調べました。その結果、デルタ株は他の種類の株に比べてスパイクタンパク質(画像でいう棘の部分)が多くあり、細胞内への侵入能力が高いことがわかりました。研究者らはいくつかの重要な変異を模倣したシュードタイプウイルスと呼ばれるものを合成し、宿主細胞への侵入の様子を観察してウィルスの表面のスパイクの多さが侵入に効果的に作用しているのを確認しました。また、いったん宿主細胞に侵入したデルタ株は、以前の株よりも短時間で複製されることもわかりました。

これらの要因が、いま世界中でデルタ株が猛威を振るっている理由だと研究者らは考えています。ケンブリッジ大学の上席研究員であるRavi Gupta氏は、この研究でワクチンを接種した医療従事者のうち、その後デルタ株に感染した約100人も研究対象に含んでいたとして、デルタ株に特化したワクチン開発の検討をする必要性がありそうだと述べています。現在のワクチンでもすでに重症化、入院、死亡を防ぐのに非常に有効であることがわかっていますが、研究ではワクチン接種者がデルタ株に感染した際に以前の亜種よりもより高い確率で周囲に感染を拡げてしまっていることもわかったとしました。

インドのCSIR Institute of Genomics and Integrative Biology(CSIRゲノミクス・統合生物学研究所)のAnurag Agrawal氏は、このような感染は、大半がワクチンをすでに接種した地域で静かにウィルスが感染を拡げ、いつの間にか基礎疾患を持つ人たちを感染させて重大な結果を招く可能性があると指摘しています。なかでもワクチン接種済みの医療従事者がデルタ株に感染するのが大きな問題で、その場合医療従事者自身は軽症で済むものの、自身が診ている基礎疾患を持つ人を感染させ重症化させてしまう恐れがあるとのこと。

そのためAgrawal氏は、早急に医療従事者の変異種に対するワクチン反応を高める方法を検討する必要があるとしました。またパンデミックが終息したあとにも、静かな感染拡大を防止するために、感染対策を続ける必要性がある可能性を示唆しました。

(Source:Nature。Via University of CambridgeEngadget日本版より転載)

カケハシが薬局向け在庫管理・発注システム「Musubi AI在庫管理」提供開始、医薬品二次流通サービスPharmarketとも連携

カケハシが薬局向け在庫管理・発注システム「Musubi AI在庫管理」提供開始、医薬品二次流通サービスPharmarket」とも連携

調剤薬局向けクラウド「Musubi」(ムスビ)を開発するカケハシは9月8日、AIを活用し薬局の業務効率と在庫管理を効率化するシステム「Musubi AI在庫管理」の提供を開始した。

「Musubi AI在庫管理」は、Musubiのオプションサービスにあたる、AIを利用した薬局向けクラウド在庫管理・発注システム。薬局では、患者の症状の変化や処方内容の変更などにより、使用期限を迎えた医薬品の在庫を処分するリスクが常にあり、その損失額は年間280億円にものぼるという。

しかし、従来型の在庫管理・発注システムには在庫管理に適したコード体系がなく、適切な需要予測の難易度が高いことから、そうした調剤予定のない不動在庫を抱えないようにするには、これまでは薬剤師の勘と経験に頼って発注を行うしかなかった。

一方Musubi AI在庫管理では、AIを駆使した高精度な患者来局予測や独自コードによる在庫管理、患者ごとの処方情報の管理などを通じて、その問題に対処する。近く、店舗間在庫融通と受発注、在庫状況に関するレポート閲覧機能が追加される予定。これにより半自動化することで業務の属人化を防ぎ、「誰でも、より簡単に、より適切な」発注と在庫管理が可能になるという。

さらに、余剰在庫の買い取りや再販を行う医薬品二次流通サービス「Pharmarket」(ファーマーケット)と連携し、不動在庫を検知して、売却医薬品のレコメンドを行い、売却見積もりを作成する「らくトク売却」機能を追加したプランもある。これを利用すると、Pharmarketにおける医薬品の買取価格の割増、医薬品の購入価格の値引きといった特典が受けられる。実際の「らくトク売却」機能の提供は2022年からとなるが、申し込み時点から「Pharmarket」にて同じ特典が適用される。

このサービスは「Musubi」を導入している薬局が対象だが、未導入でもカケハシが提供する機器を設置することで利用が可能になる。

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円調達

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

ナノテクノロジー応用がん免疫薬(ナノ免疫薬)に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」(UI)は9月7日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による約5億円(4.995億円)の資金調達を実施したと発表した。引受先は、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、KISCO。

2017年11月設立のUIは、京都大学大学院工学研究科と三重大学大学院医学系研究科の長年の医工連携研究の成果を実用化すべく設立され、次世代ナノ免疫薬の基礎研究から臨床応用まで幅広く取り組んでいるという。

独自のナノ粒子型免疫デリバリーシステム(プルランナノゲルDDS)を活用した免疫活性化の基盤技術を活用し、難治性がんの治療薬や新型コロナウイルスワクチンの研究開発を手がけているそうだ。

調達した資金により、免疫チェックポイント阻害剤でも十分な薬効を示せない難治性がんの治療を目指す抗がん剤「T-ignite」、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験実施の準備(どちらもAMED CiCLE事業の支援で研究開発を推進中)、および他の自社研究開発プログラムの加速化を推進する。また、アステラス製薬子会社のXyphosと実施中の共同研究の加速、人材獲得を含めた経営体制の強化を推進する。

UIによると、今までの治療法が効かない免疫的難治性がん(cold tumor)の原因となっているがん組織内のマクロファージの機能をうまく調節できれば、免疫的難治性がんを治療感受性の(T細胞が豊富に存在し免疫的に活性化した)「hot tumor」に変換して、治療効果を発揮する可能性があるという。そこで同社は、治療成分を搭載したプルランナノゲル型ドラッグデリバリーシステム(DDS)を「T-ignite製品」と名付けて鋭意開発している。

例えば、静脈内投与されたT-igniteは、プルランナノゲル型DDSの働きによってがん組織内のマクロファージに選択的に取り込まれる。そこで、T-igniteに含まれる薬剤がマクロファージの機能で抗がん免疫を活性化する方向に調節することで、がん組織の中から免疫が活性化して、がんを難治性から治療感受性へ変換できると考えているという。搭載する薬剤や適応疾患の種類を変えることで、多様なT-ignite製品をシリーズ化するとしている。ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達