オーストリアが今後ヨーロッパのスタートアップ投資の中心地となる理由

The Stephansplatz is a square at the geographical centre of Vienna. It is named after its most prominent building, the Stephansdom, Vienna's cathedral and one of the tallest churches in the world.

【編集部注】本記事はConrad Egusa氏とVictoria Stunt氏によって共同執筆されたもの。Egusa氏はPublicizeのCEO。Stunt氏はコロンビアを拠点に活動するPublicizeのライター。

多くの人にとってオーストリアは、栄光の時代が過ぎ去ったこと自体にまさにその魅力がある、過去の国として感じられることだろう。この陸地に囲まれた人口850万人を有する中央ヨーロッパの国家による世界制服の野望と共に、オーストリア=ハンガリー帝国は約100年前に崩壊した。

そのせいもあり、オーストリアのスタートアップシーンはこれまで注目されてこなかった。ドイツから北欧にかけてや、ハイテク国家オランダが話題になる一方、アルプス山脈の反対側で起きている急速な変化に目を向ける人はほとんどいなかったのだ。

しかし、歴史的な魅力に包まれたオーストリアは、現在新しい企業をはじめるのに世界中で最も魅力的な場所のひとつとして自国を売りだそうとしている。そして、オーストリアのスタートアップ界における歴史上最大のエグジットとなった、Adidasによる2億4000万ドルでのフィットネスアプリ企業Runtasticの買収を含む最近の盛り上がりを見る限り、ヨーロッパで将来オーストリアのスタートアップシーンが大きな役割を担うことになると考えるのには理由がある。

オーストリアはスタートアップシーンを盛り上げる上での優位性をもともと持っており、地元の起業家はその強みが持続性のあるインフラ整備に向けられることを願っている。まずオーストリアはヨーロッパの中心に位置しているため、ヨーロッパ大陸の各首都へ3時間以内で移動することができる。そして開発にかかるコストも低いため、企業にとっては初動での失敗に伴う資金流出を抑えることができる。そのため、様々な携帯電話のキャリアがオーストリアを試験国とし、他国へサービスを展開しているのだ。更には、これまで投資家はスタートアップ市場を受け入れるのに前向きではなかったものの、昔からの富裕国であるオーストリアにとって投資リソースに関する心配は不要であり、あとは投資家の気運が新興の起業家世代の勢いに追いつくのを待つのみだ。

オーストリア人の多くは、企業がアーリーステージの資金調達を行うのにオーストリアより良い場所はないと感じている。これは恐らく少々誇張された表現ではあるものの、最近のGlobal Entrepreneurship Monitorの調査によって、オーストリアはプレシードの段階にある企業への公共投資がヨーロッパで最も盛んであることが分かり、彼らの主張が正しいことが証明されている。

2015年に、政府は2億8900万ユーロ(約3億2500万ドル)を助成金として3715社のスタートアップに提供しており、この政府のコミットメントが、起業家を目指す人や学生の多くに新たなベンチャー企業を立ち上げる意欲を与えている。ウィーンを拠点とするオーストリアでもっとも有名なベンチャーキャピタルのSpeedinvestは、ふたつ目となるファンドの設立のために昨年9000万ユーロ(約1億100万ドル)を調達した。

オーストリアのスタートアップカルチャーは、特に歴史的な背景という観点から見るとまだまだ若いといえる。しかし、オーストリアの人々は、スタートアップカルチャーの質的飛躍が間近に迫っていると感じている。そして民間の支援者が政府のサポートに呼応した活動を続ける限り、彼らの感覚は全く正しいものなのかもしれない。

誕生秘話

以前までも、オーストリアのスタートアップシーンは協力の精神で溢れていたが、2011年にそれまでとは違う動きが見られはじめた。

その年に開催された、2日間の集中的なワークショップとベンチャーキャピタルへのピッチイベントからなるStartup Weekにて、オーストリアスタートアップシーンの最前線にいる起業家たちが顔を合わせたのだ。このイベントはSpeedinvestの協賛で開催され、同社の初となるファンド(1000万ドル規模)も同じ年に設立された。参加者はカンファレンス終了後それぞれの道をたどっていったが、第一線で活躍するスタートアップ設立者の中には、このイベントで初めてオーストリアのスタートアップシーンが本当のエコシステムを構成しているように感じたと後に語った人たちもいる。

2012年には次のマイルストーンとなる、Austrian Angels Investor Association(AAIA)を、Johann “Hansi” Hansmann氏がSelma Prodanovic氏と共に設立した。国民1人あたりが世界でも有数のお金持ちであるオーストリアにとって、資金は問題ではなかった。しかし「それ以前のオーストリアには、スタートアップに投資することに価値を見出している人があまりいなかったんです」とHansi氏は説明した。

設立当初のAAIAはスタートアップ投資の魅力を知っている少数の人々が集まる場でしかなかったが、その後拡大を続け、国中から200人以上の投資家を集めるまでになり、月次のミーティングでは有望な投資案件についての議論がなされている。

好むか好まざるかに関わらず、オーストリアに変化が訪れようとしている。

スタートアップに興味を持った投資家の数が増えるにつれ、オーストリアの新興企業を紹介するイベントの数も増えていった。2013年に設立されたAustrianStartupsという非営利スタートアップ団体は、現地における起業家文化の可視性を高め、スタートアップエコシステムを強化することを目指している。同団体は、当初Facebookのグループでメンバー同士をつなぎあわせ、後にオーストリアのエコシステムの将来について書かれた40ページにおよぶ「ビジョンペーパー」を発表した。

今日では、AustrianStartupsはオーストリア中の9つの州全てでその存在感を発揮しており、定期的に開催しているイベントには、何100人もの起業家や投資家、そして興味を持った一般の人たちが参加している。AustrianStartupsは、Christoph Jeschke氏Vlad Gozman氏Patrick Manhardt氏Adiam Emnay氏、そしてCan Ertugrul氏によって設立された。

Startup Weekはその後Pioneers Festivalに名前を変え、ウィーンのホーフブルク宮殿で開催される世界規模のカンファレンスとなった。今年は世界中から2500人以上の起業家が集まり、400人以上の投資家に自らのビジネスアイディアを売り込んでいた。Pioneers Festivalの協同設立者であるJürgen Furian氏Andreas Tschas氏Pioneer Venturesというベンチャーファンドをはじめており、オーストリアのエコシステムの中でも最も有名なメンバーの二人だ。

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ウィーンでのPioneers Festivalの様子

Adidasに昨年買収された、フィットネスアプリの開発を行うRuntasticは、2011年の時点では既に順調にビジネスを運営していたが、オーストリアの非常に勢いのある企業の多くはもっと最近設立されている。2013年に設立されたBitmovinは、Y Combinatorの支援を受け、オンラインビデオの品質向上に繋がるトランスコーディングのサービスを運営している。直感的なSQLインターフェースでデータベースクラスタの分散設置サービスを提供しているCrateは、2013年に設立され、その翌年にはTechcrunch Disrupt Europeで優勝を飾った。

さらに、昨年Harald Mahrer氏が国務大臣に任命され、オーストリアにおける起業家文化の発展を促進するという役目を担うこととなった。以前に彼自身がエンジェル投資家であったこともあり、オーストリアの進む道について野心的なプランを策定していたMahrer氏には「Mr. Startup」のニックネームがつけられた。今年のはじめには、彼の集めた400人を超える政治家や科学者、実業家、市民の代表者が参加したOpen Innovation Strategy Stakeholder Workshopにて、オーストリアにおけるイノベーションが将来とるべき方向性についての計画がたてられた。

ウィーン

180万人の人口を誇るオーストリアの首都ウィーンは、EUの中で7番目に人口が多い街だ。ウィーンでの臨床診療を通じて精神分析学の理論を確立した、心理学者のジグムント・フロイトに敬意を評し、夢の街(the City of Dreams)と呼ばれることもある。しかしその名は、国際都市ウィーンのビジネスシーンでの活躍を夢見る、オーストリアのスタートアップシーンの中の約3分の2を占める企業への言及としてとることも容易にできる。

経験豊富な投資家のOliver Holle氏が2008年にオーストリアに戻り、シリコンバレーの精神を受け継ぎつつもしっかりとローカルな雰囲気も持ったベンチャーキャピタルを設立しようと考えていたとき、その拠点をウィーンに置くのは理にかなった判断であった。2010年に彼が設立したSpeedinvestは、「株主利益のため」というアプローチとは一線を画しており、パートナーとなるスタートアップに対して、実践的な役割を担ったチームを派遣している。その一例が、同じくウィーンを拠点とするオルタナティブな投資プラットフォームを運営するwikifolioで、最近600万ユーロの資金調達を達成した。

イノベーションラボ、インキュベーター、そしてコミュニティセンターとしての顔を持つImpact Hubは、ウィーンへの進出で、国際的な観点を持った現地のもう一本の柱となった。同社はアクセラレータープログラムの運営から、スケールに関する指導、さらにはソーシャルインパクトアワードの開催まで行っており、スタートアップの起業家精神を活かして、差し迫った課題に対しての持続的な解決策を推進することに力を注いでいる。

起業家コミュニティーを擁するコーワーキングスペースの運営を行うsektor5も、ハッカースペースのMetaLabと共に、ウィーンのスタートアップエコシステムの中心的な存在だ。

ウィーンにはオーストリア国内のスタートアップに関連した公共インフラのほとんどが集まっている。

さらにウィーンのスタートアップコミュニティは、その協力的な姿勢で知られている。「みんな進んで自分たちの経験を共有し、お互いを助け合おうとしています。ウィーンの伝統的なコーヒーハウスに立ち寄れば、それに気がつくかもしれません」とAustrianStartupsの共同設立者のひとりであるCan Ertugrul氏は述べた。「外からみてもその様子はわかりませんが、中に入って『ヴィーナー・メランジェ』を飲んでいるうちに、気づけばあなたの隣で、起業家や投資家、実業家、さらに最近その数が増えている政府の役人が、スタートアップエコシステムの発展を促進する方法について議論を行っているかもしれません」

他の国の首都でもよく見られるように、ウィーンにはオーストリア国内のスタートアップに関連した公共インフラのほとんどが集まっている。オーストリア研究促進庁(FFG)は、国もしくはヨーロッパ規模での産業調査に対して国家資金を提供している。連邦政府の下にある金融機関のAustria Wirtschaftsservice(AWS)は、特定の科学・クリエイティブ分野に与えられる補助金を利用しつつ、ファーストステージ、プレシード、シードと各企業の段階に応じた資金を提供している。これらの助成金には少額(約5000ユーロ)のものもあるが、額の大きいものだと100万ユーロにまで達するものもある。AWSは、2015年に3613社のスタートアップに対して計2億1800万ユーロを提供し、一方FFGは102社に対して7100万ユーロの資金を供給した。AustrianStartupsがまとめた連邦政府の補助金のリストはこちらから確認できる。

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AustrianStartupsの設立者たち。(左から)Vlad Gozman氏、Christoph Jeschke氏、Patrick Manhardt氏、Daniel Cronin氏、Adiam Emnay氏、Can Ertugrul氏。

また、各地の地方公共団体にとっては、Vienna Business Agencyが外資・内資問わず企業に関する窓口となっている。

ウィーンのスタートアップコミュニティの牽引者には、CondaのDaniel Horak氏、i5investのStefan Kalteis氏Bernhard Lehner氏、DreamacademiaのHarald Katzenschläger氏、Product Hunt CTOのAndreas Klinger氏、sektor5のYves Schulz氏、Impact HubのMatthias Reisinger氏、PioneersのTim Röhrich氏、そして投資家のMichael Ströc氏やMichael Altrichter氏が名を連ねる。

リンツ(Linz)

オーストリアで2番目に重要なスタートアップハブが、規模で言えばオーストリアで3番目の街リンツだ。人口は20万人ほどだが、サイズで劣る点は工業都市としての深い歴史や、盛り上がってきているクリエイティブ経済が埋め合わせしている。2009年にUnescoから欧州文化首都に選ばれたリンツは、特にデジタルアートやインダストリアル・エンジニアリングの才能を擁していることで知られている。

そのため、他を圧倒してオーストリアで最大の成功を収めたアプリがリンツで誕生したのも驚きではない。2009年にローンチされたRuntasticは、アッパーオーストリア応用科学大学の研究課題としてその開発がはじまり、2014年に買収されるときには、1億4000万ダウンロード以上を記録していた。

RuntasticはAdidasによる買収後も依然、共同設立者のFlorian Gschwandtner氏Christian Kaar氏René Giretzlehner氏、そしてAlfred Luger氏によって運営されている。

同じくリンツを拠点としているのが、Michael Eisler氏とBernhard Lehner氏によって設立されたアクセラレーターのstartup300で、 リンツのエコシステムの中で活躍する100人近い起業家のネットワークを構成している。Tabakfabrikもスタートアップやクリエイティブ系の人たちに人気のハブだ。

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投資家のHansi Hansmann氏(左)とRuntastic CEOのFlorian Gschwandtner氏(右)

その他の地域

イノベーションと資金の集中という、ウィーンを起業家にとって魅力的な場所にした要因が、同時にその他の地域の大部分から有意義なスタートアップカルチャーを奪い去ってしまった。しかし、そこにも変化が訪れようとしている徴候が見られる。

リンツに規模で勝り、豊かさで劣るグラーツ(Graz)は、若さが溢れる古都だ。Unescoから世界遺産に選ばれたこの街には、6つの大学があり学生人口も多い。ここでは、現代風の建築物を歴史的な街並みにうまく取り入れるという課題から、世界的にも有名な都市デザインのイノベーションが生まれた。さらに、物理的な近さや文化的な深い繋がりから、スロベニアがグラーツのスタートアップにユニークなチャンスを与えている。Ideen Triebwerkはグラーツの起業家文化の成長を支える有名な団体で、Maria Reiner氏が運営するManagerieは、スタートアップや文化的活動のための人気スペースだ。

オーストリアのスタートアップカルチャーが直面している顕著な問題のいくつかは、どの発展途上にあるシーンでも見られるようなことだ。

インスブルック(Innsbruck)は、ロケーションという点で興味深いスタートアップの街だ。ミュンヘンから150km、イタリアとの国境から40kmに位置し、交易の要所とされている。さらにインスブルックの人々は、一年で冬が最も長い山間の出身で、生きることの厳しさを知っていることから、理想的な起業家精神を持っていると言われている。インスブルックで行われる、世界初のスキーに関するスタートアップイベントSkinnovationは、人気イベントとなった。

ドイツ国境付近に位置し、15万人の人口とRed Bullの本社を擁するザルツブルグ(Salzburg)州は、Romy Sigl氏によって設立されたコーワーキングスペースのCoworkingSalzburgで知られている。この地域の投資家コミュニティーの力は極めて限られているが、Startup Salzburgという最近はじめられたイニシアティブの下でその成長を目指している。ザルツブルグ出身の有望なスタートアップの例としては、医者の検索エンジンSymptomaが挙げられ、同社は最近ヨーロッパのe-ヘルススタートアップの最有望株に選ばれた。

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ザルツブルグにあるRed Bullの本社(Photo by Sergio Fernandez / Flickr CC BY-SA 2.0)

まとめ

オーストリアのスタートアップカルチャーが直面している顕著な問題のいくつかは、どの発展途上にあるシーンでも見られるようなことだ。Speedinvestを除くと、シードステージを脱却した大規模ベンチャーキャピタルの数は少ない。また、国際的なベンチャーキャピタルが求めるような企業の成長スピードを経験した起業家はほとんどいないため、新進気鋭の起業家は、見習うべき例や頼りにするソートリーダーシップ無しにそれぞれのやり方をみつけるしかない。

さらにオーストリアは、スタートアップの首都であるベルリンと競い合う必要があり、ドイツからも起業家を誘致しなければならない。Valentin Stalf氏のいるNUMBER26Christopher Kahler氏のいるQriouslyなど、オーストリア人の共同設立者がいる成功したスタートアップの多くが、現在ベルリンやロンドンを拠点としている。

Tech.euの創刊者兼編集者であり、ヨーロッパで最も有名なテック記者のひとりでもあるRobin Wauters氏は、「素晴らしい会社はどこでも設立できるという考えは段々と真実味を帯びてきましたが、今日のヨーロッパの現実として、小さなエコシステムの中にいるほとんどの企業にとっては、雇用対象となる才能ある人材のプールや、幅広い投資のオプション、シニアマネジメント層をひきつける力などスケールアップに必要な要素が揃っている近場の主要ハブに目を向けた方が良いと思っています」と語った。

オーストリアもその要素を兼ね備える力を持っているものの、もっと一般的な意味での成功体験が、逆説的にその動きを邪魔している。低い失業率は急速な経済的変化へのインセンティブを弱らせ、オーストリアにある豊富な資金は、比較的リスクの低い投資対象に固まって向けられてしまっているのだ。スタートアップシーンにいる多くの人が、オーストリア人は起業という茨の道を生き抜くために失敗を乗り越えるという経験を十分にしていないと控えめな自慢話をしている。

しかし、好むか好まざるかに関わらず、オーストリアに変化が訪れようとしている。2008年の金融危機からの復興は緩慢で今のところ不完全なため、これまでにない経済的苦難への新たな対抗策を求められている政治家には強烈なプレッシャーがかかっている。欧州難民危機もこの小さな山間の国にとりわけ長きに渡る影響を与えており、最近の大統領選での全面的な政治的混乱もそれに輪をかけている。

Impact Hub Viennaの投資先であるRefugees Workは、オーストリアの労働市場への参入を既に目指している3万人超の難民と雇用主を結びつける求人プラットフォームを運営している。彼らの活動は、イノベーションセクターが立ち上がることで、難民問題を含む様々な課題を解決することができるという事例のひとつに過ぎない。このような動きには、政府からの継続的なサポートだけでなく、民間セクターの積極的な参加が必要ではあるが、似たような事例が今後たくさん起きても驚かないでほしい。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ベンチャーキャピタルがみつめる中国のフィットネスブーム

This photo taken on June 19, 2016 shows Chinese enthusiasts practicing yoga at Futian sports park in Shenzhen, south China's Guangdong province.  
June 21 marks the International Yoga Day. / AFP / STR / China OUT        (Photo credit should read STR/AFP/Getty Images)

【編集部注】本記事はJenny Lee氏とHaojun Li氏によって共同執筆されたもの。Lee氏はGGV Capitalのマネージングパートナー。Li氏は上海を拠点に活動する、GGV Capitalのヴァイスプレジデント。

過去10年間で中国経済が急成長を遂げる中、無数の中産階級が誕生した。そして中国人はより豊かになっているだけでなく、より健康になっているのだ。どうやら中国ではフィットネスブームが巻き起こっており、ベンチャー投資家にとっては新興の健康系テック企業に投資する一世一代のチャンスだと言える。

健康にこだわる若者文化

とりわけ、18〜35歳の若者にあたる中国の巨大なミレニアル世代の人口(3億8500万人超)においては、記録的な数の人たちが、ジム通いやマラソンへの挑戦、エクササイズクラスへの参加やスポーツへの参加・観戦を行っている。彼らは、「新しい」資本主義下の中国で育った最初の世代で、親が体験したよりよっぽど多くのものを自分たちの人生に期待している

マズローの欲求段階説の通り、彼らは、共産主義の支配下で物不足に苦しんでいたこれまでの世代の人たちとは違い、住む場所と食べるものがあるという簡素な生活では満足できないのだ。高学歴で、インターネットに精通し、海外旅行を体験している中国の若者の欲求は、健康面を含めてとどまるところを知らない。特に若い女性は、健康的で引き締まった体型を保つことに必死で、そのスリムな体の写真をソーシャルメディア上で公開している。

中国の若者のフィットネスへの熱中具合は、中国のジム・フィットネスクラブ関連企業の売上が過去5年間で倍増し、今年はその額が50億ドル以上に達するという調査会社IBIS Worldの予測からも見て取れる。アメリカにおける同業界の市場規模である約250億ドルには届かないものの、中国の健康・フィットネス業界の方がずっと若く、成長スピードも桁違いだ。

「たった数年前までは、ウエイトリフティングに汗を流したり、きついエクササイズに息を切らす中国人女性はなかなかいませんでした」と中国のフィットネスブームに関する最近のWall Street Journalの記事には書かれている。それが今では、Nike、Under Armour、AdidasそしてThe North Faceといったブランドが、猛烈な勢いで中国に出店しその売上を伸ばしている。

多岐に渡る投資チャンス

中国で何かが流行すると、その人口サイズの影響から参加者は膨大な数になる。これが、ベンチャーキャピタルが特に3つのカテゴリーのスポーツ・フィットネススタートアップに強気の投資を行っている背景だ。

フィットネス・ヘルスアプリ。この大きなカテゴリーには、健康アプリや、フィットネストラッカー、健康に関する情報やコミュニティなど、モバイル主導の消費者向け健康プラットフォームが含まれる。これらのアプリは、特に2億8000万人に及ぶ中国の15〜25歳のスマートフォンと共に育った世代に人気だ。中国の若者は、ファッションに高い関心を寄せており、見た目を良くし、健康だと感じたいという一心からヨガ、ピラティス、マラソンなど世界のフィットネスの流行を追っている。

中国のミレニアル世代は、より健康で幸せになるための新たな手段を模索し続けるだろう。

彼らはアプリを使ってフィットネスのビデオを見て、グループエクササイズに参加し、進捗をトラッキングしながら食べるものを管理するのだ。特にゲームのようにゴール設定がされ、フィットネスを楽しめるアプリが中国のミレニアル世代の間で人気を博している。このカテゴリーには、ソーシャルエクササイズアプリのKeep(GGVの投資先)、Daily Yoga、ランニングアプリのCodoonやランニンググループの検索・スケジューリングができるYuepaoquanが含まれる。中国の若者は、段々とスポーツ鑑賞にも興味を持ちだしており、アプリを利用してお気に入りのチームの情報を追ったり、コメントしたりしている。

スマートフィットネスとスポーツデバイス。歩数や消費カロリーを計測するウェアラブル端末からゴルフスウィングやサッカーのキックフォームを向上させるためのデバイスまで、中国の消費者はフィットネスに参加するにあたって自分たちのデータを集めるのが大好きだ。投資家にとっては、このようなデバイスを開発する企業に投資することは「データ遊び」の一環だと言える。

デバイスを開発する企業が、集められたデータを使って健康や節約、減量といったユーザーにとってのゴールを達成する方法を解明できれば、「ガジェット」企業の枠を飛び出し、消費者・市場調査会社にその姿を変えることとなる。中国でこの業界を引っ張っているのが、FirbitMi BandMisfit、そしてNike+といったアメリカ・中国企業だ。

大自然と自由。今日の中国の若者は、自由の精神を信じている。彼らは、車や家を買うことで自由が奪われるのを恐れ、友人や趣味やキャリアにおける選択の自由を求めているのだ。この精神が、中国の若者のスポーツやアウトドアレクリエーションへの参加の仕方にも影響を与えている。

人々を「外出させる」のを促進するようなサービスを開発するテックスタートアップの市場は今後成長が期待できる。参加可能な地元のサッカーやバスケットのリーグを探すアプリや、短期集中トレーニングセッションの参加者をまとめるアプリがその例として挙げられる。

たった30年前の中国の若者は、十分な食料配給チケットがもらえるかどうかを心配していた。

さらに、このカテゴリーには最先端のテック企業も含まれている。GGVの投資先のひとつであるNiuは、中国都市部のミレニアル世代に人気の電動スクーターを製造しており、同社のスクーターは、入り組んだ北京の街中を移動するだけでなく、スモッグやストレスが溢れる環境から逃れるのにも使われている。週末には、山やビーチへNiuのスクーターを走らせる人の姿を見かけることがよくある。ハイキングやロッククライミング、サーフィンは全て、中国の若い消費者がどうしても体験したいと感じているスポーツなのだ。同様に台湾企業のGogoroは、スマートスクーターと専用のバッテリー充電インフラを販売している。

北京の街中に立ち並ぶジムやピラティススタジオ、さらにはThe North Faceのジャケットを着て山道でハイキングを楽しむ若者のグループを見ていると、たった30年前の中国の若者は、新しいLululemonのウェアを着れるくらい体が引き締まっているかよりも、十分な食料配給チケットがもらえるかどうかを心配していたという事実を忘れそうになる。

しかし、中国は驚くべきスピードで変化を遂げており、今日の中国の若者は他の先進国の若者となんら変わりなく、自己実現や個人の成功を求めているのだ。中国のミレニアル世代が、より健康で幸せになるための新たな手段を模索し続ける中で、投資家は中国のフィットネスブームが今後持続するだけでなく加速していくことをハッキリと見込んでいる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ドイツのBrillen.deがTCVから4900万ドル調達、今後は海外展開に注力

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Brillen.deは、家族経営の企業としてドイツで誕生後、地元に根づいた独立系眼鏡店のネットワークを活用し、オリジナル眼鏡のオンラインビジネスを立ち上げた。そして、初めてとなるベンチャーキャピタルからの資金調達で4500万ユーロ(4900万ドル)の獲得に成功した。資金は有名な投資会社、Technology Crossover Ventures(Facebook、Spotify、LinkedIn、WorldRemit、Zillowなどへの投資実績有)から単独で提供され、Brillen.de共同設立者のDaniel Thung氏によると、調達資金は、今後同社のモデルをヨーロッパ内そしてヨーロッパ圏外の外国市場へと拡大していくために利用される予定だ。

Brillen.deは、自社のバリュエーションを公表していないが、過去1年間に、ドイツ・オーストリア・イギリス・スペインで運営している既存ビジネスから「数1000万」ユーロの売上を記録したと述べている。しかし、SuperVista(Brillen.deの親会社のブランド)は、今年の売上が数億ユーロを超えると予測しており、さらにTCVのプリンシパルであるJohn Doran氏によれば、「Brillen.deは初日からずっと黒字を記録している」とのこと。

眼鏡の製造・販売方法に関しては、過去10年の間に様々な破壊的イノベーションが起きてきた。眼鏡ブランドのWarby Parkerは、オンライン企業が既存の業界に革新をもたらすために、垂直統合モデルのコンセプトが利用できるということを証明した典型例である。そして他にも、他社がつくったコンタクトレンズや、眼鏡、アイケアサービスをオンラインで販売している企業がたくさん存在し、街中の個人経営の眼鏡店は、巨大チェーン店に取って代わられようとしている。

さらには、眼鏡をつくる際にお店を訪れなくていいよう検眼の仕組みを直接顧客に届けようという動きや、そもそもの補正レンズの概念自体を捨てようとする動きも出てきている。

Brillen.deはこのような文脈においてはユニークな存在だ。同社は2012年に、視覚のスペシャリストで構成された一族(視覚関連の特許を複数持ち、Brillen.deの取締役を勤める眼科医を含む)出身の眼鏡技師たちによって設立された。Brillen.deの目的は眼鏡店を廃業に追い込むことではなく、むしろ個人の眼鏡店は、同社が製造販売している眼鏡のセレクトやフィッティングを行う上で欠かすことのできない要素である。

そして検眼医にとってもBrillen.deとの協業が、競争力をつけ、消費者との関係を保つために不可欠なものとなった。

「一般的に、個人の検眼医がひとつの店舗で獲得できる顧客数は1日で2〜3人程度なんです。私たちはもっと多くの顧客を彼らの店舗に誘導し、平均して1日あたりの顧客数を倍増させることができています。彼らとはwin-winの関係にあるため、検眼医の方々は私たちに対してかなり忠誠心を持ってくれています」」とThung氏は語った。眼鏡の自社開発の他、Brillen.deはさらに請求管理、顧客管理サービスを買い手に提供している。

一族に対する忠誠の話は別にして、Brillen.deが実際の店舗との協業にこだわっている主な理由は、販売しているレンズの種類にある。Brillen.deは主に累進レンズを扱っているのだ。累進レンズとは、最新の境目のない遠近両用レンズで、視線の角度によって度が変化するようになっている。累進レンズのための検眼や調整はバーチャルでは行うことができないため、物理的に眼鏡店を訪れる必要がでてくるのだ。現在Brillen.deと提携している眼鏡店の数は700軒に及ぶ。

個人の請負業者や専門家向けに新たな顧客を発掘するためのプラットフォームを運営するというアイディアは、HandyやThumbtackのような清掃・ハウスケアサービスから、ZocDocのような医者検索サービス、Uberのような移動サービスまで、他のマーケットプレースビジネスでもたくさんの類似例がある。しかし、このコンセプトはまだBrillen.deのいるセグメントでは大々的に利用されていない。

「私たちには直接の競合はいません。というのも、私たちのように個人の眼鏡店との提携ネットワークを持つ企業がヨーロッパにはないんです」とThung氏は述べた。「競争相手としては、主にFielmannやApolloなど、街の大通りにあるような眼鏡チェーンが挙げられます」

Credit Suisseによれば、2017年までにヨーロッパの補正レンズ市場は年間約300億ユーロに、世界全体で見ると年間約900億ドルに達すると予測されている。しかし、製造過程の複雑さから累進レンズがその総額の3分の2を占めるとTCVのDoran氏は教えてくれた。Brillen.deは、同社の累進レンズを使った眼鏡は他社のものより40〜50%程安いと言う。

コンセプトは上手く出来ており、TCVから調達した資金の一部は、他社が同じフィールドに進出してくる前に支配権を握るために使われるようだ。「Warby Parkerは、私たちのようなビジネスモデルに転換しようとしています」とDoran氏は言う。「彼らも累進レンズが儲かることに気づきましたが、同時にそのオンライン販売の難しさにも気づいたようです。だから実店舗をオープンしだしたんです」

今回の支援の一部として、Doran氏とTCVのベンチャーパートナーであるSimon Breakwell氏の二人がBrillen.deの取締役に就任した。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

インテリアサービスHomeeが500万ドルを調達、投資家にはFounders FundやTinder CEOの名も

homee

正直言って、HGTV Deam Homeに当選することはないだろう。私の家族は過去10年間エントリー可能数の最大限応募してきたが、その努力が報われることはなかった。ミレニアル世代の若者はみんなある地点で、自分のベッドルームが政府の書類保管室のようになってしまっている責任を受け入れなければならない。

Homeeは、対話ベースのビジネストレンドに飛び込んで、インテリアデザインのプロセスをPinterest中毒の人たちにとっては楽しいものに、残りの人たちからはデザインプロセスのめんどくささを取り去ってくれる。Homeeはスマートフォンを持った人全員に対して、パーソナルなデザインのプロを提供しようとしているのだ。

同社はシリーズAで500万ドルを調達したと本日(米国時間:7月4日)発表し、Peter Thiel氏率いるFounders Fundや、個人投資家としてのTinder CEOのSean Rad氏、その他のエンジェル投資家が支援者に名を連ねた。これで合計調達額は720万ドルに達し、Homeeアプリもベータ版を経て、本日から正式版が公開される。

デザイナーはどんな好みにも合うように家具を手動でキュレートし、ユーザーが自分の好みを把握していなくても問題ない。アプリをインストールした後、まずユーザーはボットと会話をしながら、インテリアデザインの好みについての基本的な質問に答えていく。すると、アプリの裏にいる人間が会話の内容を拾い上げながら、質問の回答を基に情報の穴を埋めていくこととなる。ユーザーはそれぞれの好み応じて、デザインの過程に関わる度合いを選ぶこともできる。

「コンセプトボードの見直しプロセスでは、一部の内容を変更したり、全て最初からやり直すこともできます」とHomee CEOのBeatrice Fischel-Bock氏は語った。「大体2回見直しを行うとほとんどのお客さんに満足してもらえます」

Homeeは、ユーザーが家具を購入した時点で収益を上げることが出来るため、デザイナーが最高品質のインテリアデザインを生み出そうとするインセンティブと合致する。ユーザーは部屋全体のデザインに含まれる商品全てを購入することもできれば、その中から選んだ家具をひとつだけ買うこともできる。

「Homeeはとても高いコンバージョンレートを誇っていて、2回目のデザイン提案をユーザーが気に入らないときは、ユーザー自身がちゃんと好みを伝えられていないことがその唯一の理由です」とFischel-Bock氏は付け加えた。

Fischel-Bock氏は、Homeeへと方向転換する以前にZoom Interiorsを創業していた。Zoom Interiorsは、Shark Tank(編集部注:アメリカ版マネーの虎)の中で、ウェブベースでユーザーが料金を前払いするインテリアデザインサービスについてのプレゼンを行った。当初Barbara Corcoran氏は投資を行おうとしていたが、番組収録後、結局その話がまとまることはなかった。

しかしこの2分間におよぶ名声から、実はFischel-Bock氏は重要な洞察やコネクションを持ち帰ることができていた。彼女自身、数日後にTinder CEOのSean Rad氏からいきなりメールが送られてくるまでは、Shark Tank出演の本当の価値について気づいていなかっただろう。Rad氏はHomeeに投資したいと考えており、Fishcel-Bock氏がCorcoran氏のオファーを受け取らないように祈っていたのだ。

結局彼女はCorcoran氏のオファーを受け取らず、Rad氏とのパートナーシップが結ばれることとなり、Rad氏はエンジェル投資家として資金を提供した上で、Homeeの取締役会に加わった。さらに、Rad氏がFischel-Bock氏をFounders Fundの友人に紹介した後でシリーズAが発生したのだ。

「これが私のエンジェル投資家としての2回目の投資でした」とRad氏は語り、「私は自分のことをエンジェル投資家とは思っていませんし、そうなるための十分な時間もありません。私にとっては、どちらかというと、自分自身で投資の痛みを感じようという側面が大きいですね」

Founders FundのPeter Thiel氏は、過去に家具関連のビジネスへ投資したことがあった。彼が共同設立したValar Venturesは、2012年にブラジルのスタートアップOppaが1300万ドルを調達したシリーズAに深く関わっていたのだ。

Homeeは現在ユーザー数増加に総力を挙げているが、Homeeのような会社にとっての大きな課題のひとつは、人的資本のボトルネックだ。ユーザーからの需要に応えるため、知識のあるデザイナーの供給量を保たなければならない一方、急速に拡大するプラットフォームの技術的な面にも目を向けなければならない。

Fischel-Bock氏は、この問題についてプラットフォームの効率性の向上に焦点をあてていると述べた。現在デザイナーは、一度に5〜10件のデザインに取り組んでいるが、デザイナーが複数の案件を効率的に進行できるようなバックエンドのサポート体制が構築できれば、この数が50〜100件に伸びると彼女は考えているのだ。現在Homeeで働く30人の従業員のうち半分がデザイナーで、なかにはデザインのバックグラウンドを持っていない人もいる。そのためHomeeでは、全てのデザイナーに対してユーザーとのやり取りを開始する前にトレーニングを行っている。

Homeeを早くから利用しているユーザーの一部は、App Storeのレビュー上でサービスにアクセスするための待ち時間が長いという苦情を掲載していた。そこでHomeeは、早くサービスを受けたいユーザーのために「割り込み」機能を9.99ドルで提供した。バージョン1.0が2015年11月19日にApp Store上で公開されてから進化を続け、Homeeは将来的にリクエストを受け付けてから24時間以内に最初のデザイン提案行えるようにしたいと考えている。

Fischel-Bock氏によると、Homeeの売上は過去10週間で700%の伸びを見せており、最終的には、デザインから商品の同日配送を含めた設置工程まで、インテリアデザインのプロセス全てを提供したいと考えている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

HTC Viveが100億ドル規模のVRベンチャーキャピタル・アライアンスを発表

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VR技術は、研究開発からマスに向けて市場に投入への転換するために大量の資本が必要となる。HTCも自社が開発するヘッドセット技術が広いエコシステムに落ち着くことができるよう、市場開拓の一端を担う。

本日上海で開催されたGSMA Mobile World Congressで、HTC ViveはVRに注力するVC、そして確立された著名VCであるSequoia CapitalRedpoint Venturesとともに100億ドル規模の投資を行い、投資の比重をHTCとHTCのパートナー企業の分野に持ってきたい考えだ。

合計27社がHTC Viveと共に VR Venture Capital Alliance (VRVCA)に参加する。HTCのVRで中国地域のプレジデントを務めるAlvin Wang Graylinがこの「アライアンス」を率いるという。

VRVCAは、HTCがVR投資において大規模なリーダーシップを発揮する取り組みとなる。HTCは今年の4月、VR分野のスタートアップに投資する1億ドルのVive X アクセラレーターファンドを立ち上げている

VRファンドとして100億ドルという数字が信じがたいと思ったのなら、それは正しい感想だ。確かにVRVCAは結構な金額をポートフォリオ内の企業に投入するが、100億ドルというのは各投資企業が持つ「投資可能な資本」を指していて、その額が全てVR投資に向かうのではないということだ。

VRVCAは2ヶ月毎にサンフランシスコと北京でミーティングを開催し、アイディアを実現するために資金を求める企業を受け付けるという。このアライアンスが投資可能としている100億ドルの一部を得たいVRスタートアップは今日からVRVCAにピッチデッキを提出してレビューを受けることができる。VRVCAには多様なVCが参加していることから、このアライアンスは、ミックスリアリティー、AR、VR分野における多様な業界に広く網を張ることを考えているようだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

活動家のShiza ShahidがAngelListと組んで「ミッション・ドリブンなスタートアップ」に投資するファンドを設立

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6月23日(米国)、スタンフォード大学で開催されたGlobal Entrepreneurship Summit (GES 2016)で、資金調達プラットフォームAngelListと活動家のShiza Shahidはパートナーシップを組み、NOW Venturesを設立すると発表した。「ミッション・ドリブン」なスタートアップを支援するファンドだという。

利益を確保しつつ、社会と世界環境に良い影響を与えようとする企業についた最新の名称のようだ。こういったスタートアップはこれまで営利慈善事業会社、ワールドポジティブやソーシャルベンチャー、ダブルボトムラインやトリプルボトムライン企業として知られてきた。

NOW Venturesは、創業メンバーにダイバーシティがあり、女性を含むスタートアップに投資することを約束する。

母国パキスタンに住み、14歳の時から女性の教育とジェンダー平等の提唱者で活動家であるShahidは非営利団体マララ基金の共同ファウンダーであることで有名だ。マララ基金はノーベル賞を受賞したマララ・ユスフザイと彼女の父親の教育者で活動家のジアウディン・ユスフザイと共に設立した。

少し説明すると、 2012年10月、まだ15歳だったマララ・ユスフザイはタリバンの襲撃を受けた。マララが狙われたのは、タリバンが彼女の住む町における支配力を強める中でも、彼女は屈せずに良い教育を受ける取り組みを発信しようと執筆したり、話をしたりしていたからだ。タリバンは彼女が学校から帰宅するバスを襲い、彼女は頭、首、肩に銃撃を受けた。幸いにも一命を取り留め、マララは活動を続けている。

2013年1月に退院した時、彼女と彼女の家族がパキスタンの法律を変えるための支援が世界中、そしてオンラインからも届いた。彼女の訴えは受け入れられ、国が無償の義務教育を受ける権利の法案に合意するに至った。

彼らのウェブサイトによると、マララ基金はパキスタン、ナイジェリア、ケニア、シエラレオネ、本国から離れたシリア難民のコミュニティーにおける女子が少なくとも12年間、安全で質の高い教育を受けられるよう支援する。

この問題に対する人々の認識を高め、非営利団体の設立に成功したものの、自分たちで利益を得て自立した運営をしている会社が他者を助ける方が、世界に大きな変化をもたらす可能性が高いとShahidは考えている。また、そういった影響を非営利団体や慈善活動家より早く実現できると考える。

「私たちが証明したい仮説は、ミッション・ドリブンな企業の方が営利目的だけの企業より良い投資になるということです。そういった会社はロイヤルカスタマーを獲得し、かわいいアプリを制作するより規模の大きい問題に取り組んでいると考えています」 とShahidは言う。

スタンフォード大学を卒業しているShahidは、自分で営利企業を運営したこともスタートアップに投資した経験もないことを認識し、AngelListのCEOであるNaval RavikantとCOOのKevin Lawsの協力を仰いだ。彼らに教わりながらファンドの運用を行なっていくという。

LawsとRavikantはLPからの資本金集め、案件の募集、投資を検討するスタートアップのデューデリジェンスの実施に関してNOW Venturesに協力するという。また、ファンドがどの企業にいくらで投資するかを決議するNOW Venturesの投資委員会にも加入するとLawsは話す。

Silicon Valley Bankもファンドのアドバイザーを務めるが、彼らはファンドの投資委員会にメンバーに加入していない。

Lawsは、NOW Venturesのファンド設立と投資案件の決定においてサポートする以外にも、ファンドが「ミッション・ドリブンな投資の何がうまくいき、何がうまくいかないか」を特定するために、AngelListと調査会社とで広範囲に及ぶファウンダーと投資家のデータを提供するという。

もちろん、NOW Venturesが自分たちの資本を入れる案件をAngelListのサイトに掲載し、彼らのネットワークを通じて適格投資家からのファンディングを募ることも可能だ。適格投資家は自分たちの資本をその案件に投資することができる。

NOW Venturesは最初の資本を506cに沿って調達する。そうすることでNOW Venturesは広く資金を募り、LPからの資本を求めていると告知することができる。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

Kelloggが新ファンド「1894」を設立、食品関連スタートアップに投資

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シリアルを掬っている間に、大きなニュースが入った。Kellogg Companyはベンチャー部門「Eighteen 94 Capital(1894)」をローンチし、食品と食品関連テクノロジー企業に投資する。

この名前はKellogg CompanyのファウンダーであるDr. John Harvey Kelloggと彼の兄弟W.K. Kelloggが、どう見てもローテクなシリアルを初めて開発した年に敬意を表し、命名された。

ベンチャー投資家は、これまでコンシューマー向けパッケージ製品に関心を示すことはなかったが、ソーシャルメディアから分子センサーに至るまで、食品の開発、製造、マーケティング、販売においてテクノロジーは大きな役割を担いつつある。

Kelloggの取り組みは、食品の巨大なグローバル市場で注目されるスタートアップ企業を押さえるために続々と設立されたファンドのうちの1つだ。

米国農務省のデータによると、グローバルな食品小売販売は年間4兆ドルに達するという。そして、2020年にはパッケージ食品だけでも3兆300億ドルの収益になるとAllied Market Researchは予測している。

食品関連企業に特化する最近のベンチャーファンドにはAccel FoodsCAVU VenturesS2G VenturesCircleUpなどがある。

コンシューマー向けパッケージ食品の大手企業でベンチャー投資をすでに定常的に行っているところにはGeneral Millsの301 INC ファンド、Campbell Soup Co.が単独のLPであるAcre Venture Partnersなどがある。

Canaan Partners、Andreessen Horowitz、Khosla Venturesといった確立されたテクノロジー投資企業も、食品や飲料メーカーに投資している。それぞれNatureBoxSoylentHampton Creek Foodsに投資している。

KelloggはサンフランシスコのTouchdown Ventures と協力して、新ファンドを設立したと1894のマネージング・ディレクターSimon BurtonとKellogg Companyの副会長を務めるGary Pilnickは伝える。

Kelloggがベンチャー投資を始めた理由についてBurtonは「私たちの業界におけるイノベーションは急激に加速しています。物事は素早く変わっていって、将来において何が重要になってくるかを見極めるためには投資するのが良い方法だと考えています」と話す。

1894は、500万ドルから1000万ドルの収益がある自然食品、オーガニック食品や飲料、新たなパッケージ食材、材料の製造企業や販売やマーケティングテクノロジーに関する北米企業を対象に投資を始めるとBurtonは話す。

1894の標準的な投資規模は、シリーズA、シリーズBステージのスタートアップ向けに100万ドルから300万ドルの間となる予定だという。ファンドでは、次の5年間で累計1億ドルをスタートアップに投資する準備を整えているという。国際的な投資もゆくゆくは行う予定だ。

Eighteen94 Capitalは、ミシガン州バトルクリークにあるKellogg Co.の投資部門

「もちろん食品企業にフォーカスを当てます」とPilnickは言う。「しかし、コンシューマーや販売パートナーへのリーチを助けるテクノロジー企業にも投資を検討します。私たちは買い物客が買い物をする接点も確保したいと考えています。当然のことのように思うでしょうが、そうするにはたくさんの方法があるのです」。

1894の投資資金はKelloggのバランスシートから引かれる。

Touchdown VCのマネージング・ディレクターRich Grantと会長のScott Lenetは、引き続き1894とKelloggに協力する。ミシガン州、バトルクリークにあるKelloggと広いVCコミュニティー、そして食品関連企業のアクセラレーターとをつなげていくと言う。また、Kelloggと共同投資家をつなげるだけでなく、1894に投資案件を持ち込み、それらを評価したり、スタートアップのデューデリジェンスを行う面でもサポートしていくという。

最終的にKelloggが独自の投資判断で、どこにいくらで投資するかを決定するとGrantは強調した。

Kelloggはシリアルを作っていることで有名だが、他にもMorningStarやGardenburgerといったベジタリアン向けブランド、PringlesやAustinなど塩気の多いお菓子ブランドなど多くの製品ブランドを保有している。

Burtonは、Kelloggが社内に持つ深く広い見識、特に食品小売業との関係や知識が、この新たなファンドに食品関連の起業家を惹きつける魅力になることを期待している。

Pilnickは「仕事を成し遂げるためにパートナーと組んで、協力するというアメリカ中西部の精神が私たちにはあります」と話す。

このファンドはまだ具体的な投資案件を発表していない。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

ビットコインはビットコインのままに、値上げ幅は1週間で30%、1年で200%と急騰中

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ビットコインが話題に上がるのは、価格が暴落しているか急騰しているときだけのように感じないだろうか。ちょうど現在価格が急騰していることなので、ビットコインの話をしよう!

この記事が書かれている時点(米国時間6月16日)で、ビットコインには一枚あたり745ドル前後の値がついている。ビットコインの価格が現在のレベルに達したことは、過去に2回しかない。初回は、2013年のクリスマスに起きたバブルのときに、これ以上の高値に届く途中で。そしてその次は、そこから値が落ちる途中でだった。

 

一年前に230ドル前後の安値で取引されていたビットコインは、数週間前までじわじわと値を上げ、その後急騰した。 Screen Shot 2016-06-16 at 1.21.31 PM

もちろん誰もがなぜ価格が上がったのかを知りたがっている。しかし、他の公開市場のように、実際に何が価格上昇の原因となっているのかを知るすべはない。それでも、原因を推察することはできる。以下に、ビットコイン急騰の背景にあると考えられる事象のいくつかを挙げてみた。

半減期

半減期という言葉を聞いたことがあるだろうか?もしもビットコインのニュースを追っているのに聞いたことがないなら、今後すぐにでもビットコイン関連のニュースが、半減期という言葉で溢れることになるので覚えておいたほうがいい。半減期のことを聞いたことがない人のために、私がここで説明しよう。まず、ビットコインはデフレ通貨としてデザインされ、この世に2100万枚しか存在しないため、時間が経つにつれて、採掘されるビットコインの数も少なくなる。

これは、ビットコインのコアとなるコードによって、21万ブロック採掘されるごとに、採掘報酬が半減するよう決められているからだ。1ブロックあたり50BTCではじまった採掘報酬は、2012年終わりに1ブロックあたり25BTCへと減少し、あと3週間ほどでさらに12.5BTCへと半減することが予想されている。

原則上、採掘者たちの利益が近いうちに半分になるため、今回の価格上昇は、その埋め合わせとしてのビットコイン経済の自然な(そしてそのように設計された)半減期に対する反応と考えられる。

ビットコイン・コアのアップデート

ビットコイン・コアとは、ビットコインの原動力となるコードのことで、信頼できる開発チームによって整備されており、ビットコインの方向性を決定づけるものでもある。

先週の記事で触れた通り、開発チームは、現在いくつかのメジャーアップデートの準備に取り組んでいる。もっと早く、そして多くの決済を処理できるようにするための、ネットワークのスピードと許容量の向上がアップデートの主な内容となっている。詳しいところはかなり技術的な話なので省くが、そろそろリリースされる予定の新たなビットコイン・コアのテクノロジーに対する期待感が、価格上昇の原因の可能性がある。

広がる経済の不透明感

最後のオプションが、ビットコイン市場に不透明感を漂わせている、世界経済で起きている出来事だ。Brexit(イギリスのEU離脱)の可能性や、アメリカの大統領選、アジア経済低迷の可能性などが、機関・個人投資家の警戒心をあおっている。

人々は、経済が不安定なとき、現在過去半年で最高値をつけている金など、安全資産の購入に走る傾向にある。一般的に、ビットコインは安定的で安全な投資先とは考えられていないが、特に中国の投資家が、政府の厳しい規制網の届かないような資産の保管場所を探していることもあり、その様相は代わりつつあるのかもしれない。

あくまで冷静に

最後に、この記事との別れのアドバイスとして、どんな形であれ、現実の資産価値が急騰する様子を見るのは、ワクワクするし魅力的であるが、冷静さを保つことを忘れないでほしい。

これまでビットコインに関わったことのある人のほとんどが、一年前、いや一週間前にでも、なぜビットコインを買い集めておかなかったのだろうと、自分自信を蹴りつけたい衝動に現在かられていることだろう。もしくは、今後も価格が上がり続けると考え、今からビットコインを買い集めようという誘惑を感じている人もいるだろうが、恐らくそうしない方が良いだろう。これまでに学んだ通り、ビットコインは既存の金融商品とは全く別物であり、その価格は気ままに変動する。どんな公開市場であっても、買い時を見定めようとすると逆に大きな損失を生み出す可能性が高い。

ビットコインは値上がりすれば、値下がりもする。そして私たちの人生は、ただ前に進むだけだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

コーディング・ブートキャンプFullstack Academyは卒業生が創ったスタートアップに投資する

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コーディング・ブートキャンプ(coding bootcamp, プログラミング猛特訓塾)が最近のアメリカで流行っている。そのひとつ、Fullstack Academyが今日(米国時間6/1)、卒業生が創った有望なスタートアップに投資をしていく、と発表した。

Fullstack AcademyのCEO David Yangによると、このニューヨークのスタートアップは自社の経営科目の一環として投資を行い、年に最大8社までの企業に、シード前ないしシード段階の資金提供をする。条件や額はその都度決める。

この投資を受ける資格としては、そのスタートアップの少なくとも一人の協同ファウンダーがFullstack Academyの13週間のJavaScript集中コースの終了者でなければならない。

Yangはこう語る: “これはうちの生徒たちに、あなたがたを信じていると伝える手段でもある。‘いつか会社を作りたい’という声をよく聞く。その「いつか」は「今」だ、と言いたい。せっかく、スキルを身につけたのだから”。

昨年の卒業生は300名だった。今年は450名を目標にしている。来月は、ニューヨークだけでなくシカゴにも進出する。それは今年初めの、The Starter Leagueの買収の結果だ。

すでに黒字なので、投資のためのファンドも、外部のパートナーに資金を仰ぐ必要はない、という。

同社の正社員は現在35名、卒業生たちが大手のテクノロジー企業に就職していることを、誇りとしている。とくに、GoogleとAmazonとFacebookが多い。でもVC的な要素が今回加わったことによって、大企業への就活を目指す若いデベロッパーだけでなく、起業家タイプも同社に関心を持つだろう。

Fullstack Academyは、同業者の中でもいちばん、入学基準が厳しいという。プログラムを完成させる能力のない人や、仕事に向かない人を、事前にふるい落とす、とYangは言う。

コーディング・ブートキャンプの格付けをやっているCourseReportによると、Fullstack Academyは37のレビューが5つ星だが、入学者数、終了率、就職率などは公開していない。一部のコーディング・ブートキャンプは、サードパーティの監査人にデータを開示している。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

「顔と名前が一致しない」を解決、人材管理ツールのカオナビが3億円調達

「顔と名前が一致しない……」

急成長中のスタートアップにありがちな悩みを解決しているのが、顔写真を切り口にした人材管理ツールの「カオナビ」だ。

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最大の特徴は、社員の顔写真がずらりと並ぶインターフェイス。顔写真をクリックすると、その社員のプロフィールに加えて、異動履歴、取得資格、評価といった項目が見られる。これらの項目は導入企業の環境に応じて自由に追加できる。

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顔と名前が一致するメリットは?

いたってシンプルなプロダクトだが、利用シーンはこんな感じ。

人事異動の会議。社員の名前がうろ覚えでも、「彼はこっちだ、あ、いや彼女はこっち」と組織全体の評価バランスを見つつ、最適な組織配置をドラッグ&ドロップ検討できるわけだ。

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カオナビを最初に導入したサイバーエージェントでは、入社年度を横軸、社員のグレードを縦軸に並べた上で、新規事業の責任者やチームを決めるような使い方をしている。

アパレルメーカーのトゥモローランドは、全店舗1200人のスタッフ情報に「身長」という項目を追加。スタッフを店舗異動させる際、身長をばらけさせている。身長の異なるスタッフが自社の洋服を着ることで、来店者が自分に似合うかイメージしやすくするためだ。

日本全国に店舗を構えるトゥモローランドは、エリアマネージャーが1日に数店舗を周ることも少なくない。そんな時は移動中にスマホアプリでスタッフの情報を把握し、一人ひとりに名前で声がけしているそうだ。

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「顔と名前が一致する」メリットは一見わかりにくいかもしれないが、「名前で呼ばれると、自分が認識されているという気持ちになる。その結果、やる気が出るだけでなく、ミスや不正も減る」とカオナビの柳橋仁機社長は語る。

メルカリから日清まで、前年2倍の200社超が導入

カオナビは2012年4月にサービスを開始。2016年5月末時点の導入企業は、前年同月比2倍の224社。社員数が数十人規模のスタートアップから、1万人以上の大企業までが導入する。

TechCrunch Japan読者にお馴染みの企業ではメルカリやgumi、Sansan、ピクスタなど、大企業では学研や日清食品など、意外なところでは、20歳以下のラグビー日本代表が選手選考のために活用している。

初期費用は無料、月額料金は3万9800円〜。IT・ウェブだけでなく、外食業やアパレル・流通業、スポーツ業界など、企業規模や業種を問わずターゲットが広がっていて、今後の成長が予想されそうだ。

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カオナビの柳橋仁機社長

国内の人事システムとしては、中小ベンチャー向けには「人事奉行i10」、大企業向けには数百万円の「OBIC7」、大企業向けには「SAP」などがあり、クラウド上でタレントマネジメントサービスを提供するスタートアップには「CYDAS」もある。

これらの人事システムについて柳橋氏は、顔と名前を一致させることに特化したツールはカオナビ以外になく、競合にはならないと見ている。既存の人事システムとの連携機能も用意していて、「顔と名前並べるだけで事業を伸ばす」と意気込む。

6月8日には、大和企業投資と日本ベンチャーキャピタル(NVCC)の2社から、総額3億円の資金調達を実施。調達した資金は新機能開発やマーケティング活動に当て、2019年3月までに1000社導入を目指す。

「シリコンバレーと日本をつなぐ」ルース元駐日大使や三菱商事が3億3500万ドルのファンドを立ち上げ

前駐日米国大使であり、Geodesic Capitalゼネラルパートナーのジョン・ルース氏

前駐日米国大使であり、Geodesic Capitalゼネラルパートナーのジョン・ルース氏

米カリフォルニア州に拠点を置くGeodesic Capital(ジオデシック・キャピタル)は5月17日、第1号ファンドの「Geodesic Capital Fund I」を組成したことを発表した。ファンドの総額は3億3500万ドル。三菱商事のほか、三井住友銀行、三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、損害保険ジャパン日本興亜、ニコン、日本政策投資銀行、東邦銀行などが出資する。

ジオデシック・キャピタルは、前駐日米国大使のジョン・ルース氏と、アンドリーセン・ホロウィッツ元パートナーのアシュヴィン・バチレディ氏、三菱商事で立ち上げた投資ファンド。

ルース氏は第1期オバマ政権下、2009年から2013年まで駐日大使を務めたが、それ以前はスタートアップのサポートにも積極的なウィルソン・ソンシーニ・グッドリッチ&ロサーティ法律事務所のCEOを務めていた。TechCrunchの過去記事にもあるが、Salesforce.comをはじめとしたIT企業の取締役も務めている。またアシュヴィン・バチレディ氏は米VCのアンドリーセン・ホロウィッツでFacebookをはじめ、Twitter、Box、Airbnb、Githubへの投資に関わってきた。

日本やアジアのマーケットを狙う米スタートアップに出資

Geodesic Capitalでは、グロースステージのシリコンバレーのスタートアップに対して、500万〜3000万ドルの範囲で投資を実行する。バチレディ氏いわく、投資の際に重要視するのは(1)Strong Leader、長期的なビジョンを持ち舵取りをするCEOがいること、(2)イノベーションを起こすプロダクトを持っている個と、(3)潜在市場、ポテンシャルがあること、(4)強い実行力と急速な拡大を実現できること——の4点。

投資の対象とするのは、日本やアジア進出を狙うシリコンバレーのスタートアップだ。ルース氏は大使としての日本赴任から米国・シリコンバレーに戻ってきて、あらゆる業種でITによる破壊的なイノベーションが起こっていること、また同時にシリコンバレー企業が日本の市場への関心が高まっていることなどを背景にこのファンドを立ち上げたと語る。現在公開されているポートフォリオは、セキュリティのTanium、メッセージングサービスのSnapchat、アプリケーション配信ネットワークのInstart Logic、ビットコインマイニングに特化したコンピュータを手がける21の4社。

こう聞くと——あまりにも使い古された表現だが——「黒船襲来」という印象を持つ人がいるかも知れない。だがルース氏らは、海外からのイノベーション、イノベーティブな企業が日本の市場に参入することこそが、日本経済に価値をもたらすと語る。「一方通行でなく、両方が通行できる『架け橋』を作る」(ルース氏)。シリコンバレーのスタートアップに対しては日本を玄関口にして、アジア進出を支援。一方、ファンドへ出資する日本企業に対してはシリコンバレーの拠点も用意しているという。

三菱商事もファンド組成の趣旨について「当然だが金融投資のリターンは大いに期待している」(三菱商事常務執行役員新産業金融事業グループCEOの吉田真也氏)とした上で、「狙いは中期経営戦略2018にうたっているとおりで、ビジネスにおける先端技術の利用や新規ビジネスの開発、既存ビジネスの変革。そのためにもシリコンバレーとのアクセスを深めていきたい」(吉田氏)と語る。

新しい市場へのチャレンジ、「One size fits all」になるな

ところで、米国で人気を博したサービスであっても、いざ日本市場に参入した際にはパッとしないなんて話は時々聞くものだ。そうならないためにも重要なのは、ローカルパートナーと組むなどして、カルチャライズすることだろう。例えば、今では日本人が数多く利用するTwitterも、デジタルガレージと組んで日本に参入している。

リース氏もこの点については意識しており、「米国企業に限らず、世界の多くの企業が日本やアジアの国々に進出する際に犯す過ちが『One size fits all』。つまりそのまま持ってくれば成功すると信じているところだ」と指摘する。これに対してGeodesic Capitalでは、投資先の日本参入支援を行う日本法人「ジオデシック・ジャパン」を設立しており、カントリーマネージャーには元オムニチュア・ジャパン カントリーマネージャーの尾辻マーカス氏、シニアアドバイザーに元ツイッター日本法人代表取締役会長の近藤正晃ジェームス氏を招聘。日本でも成功したそのノウハウを生かして投資先の支援を行うとしている。

Apple、中国最大のタクシー配車アプリ、滴滴出行に10億ドル出資

2016-05-14-applechina

今日(米国時間5/12)、Appleは中国最大のタクシー配車アプリ、 滴滴出行(Didi Chuxing)(以前の滴滴快的、Didi Kuaidi)に10億ドルを投資することを発表して世界を驚かせた。

滴滴出行はアメリカでは「Uberの中国版」と説明されることが多いが、中国ではすでにUberをはるかに引き離してトップシェアを獲得している。同社は昨年1年で10億回配車しており、中国のタクシー配車サービス市場の87%を占めた発表している。

Reutersのインタビューに答えて、AppleのCEO、Tim Cookは「われわれが投資を決めたのはいくつかの戦略的な理由による。これにはこうした中国市場についてさらに実地の知見を得たいという動機も含まれている。もちろん投資自体も十分な利益を生むと信じている」と述べた。

一方、滴滴出行はReutersに対し、「(Appleの投資は)わが社として過去最大の資金調達ラウンドだった」と認めた。このインタビューによれば、同社は毎日1100万回の配車を実施し、このプラットフォームを利用するドライバーは1400万人に上るという。Apple以外の大株主にはTencent、Alibabaという中国の2大インターネット企業に加えて日本のSoftBankが含まれる。

2月のWSJ記事によれば、当時、滴滴出行は評価額200億ドルで10億ドルの投資を受け入れる交渉の最終段階にあるということだった。同社の幹部はAppleがこの投資ラウンドのメンバーであることを認めたが、会社評価額を明かすことは避けた。TechCrunchはAppleにメールでさらに情報を求めていた。

プレスリリースで滴滴出行のファウンダー、CEOの程维(Cheng Wei)は「〔10億ドルの投資という〕Appleからの信任を受けたことはわれわれの過去4年間の努力に対する非常に大きな激励であり、インスピレーションの源だ。信頼性が高くかつ柔軟な移動手段をあらゆる人々に提供すべく、滴滴チームはドライバーや世界のパートナーと共に日々懸命に努力している。また中国の都市が抱える交通機関、環境、雇用の問題を解決するためにも協力している」と述べた。

中国はApple最大のiPhone市場となる途上にあったが、最近そこで激しい競争と若干の後退を経験している。Apple中国でアメリカ企業としては比較的自由に行動できていたが、中国政府はiBooks Store、iTunes、映画の各サービスを現地でのスタート後わずか半年で閉鎖を命令した

それに加えてAppleの中国市場での売上は依然伸びているとはいうもの、中国経済の成長の減速にともなって、伸び率は大きく減少している。またスマートフォン市場そのものにも需要の減退が感じられていた。Appleが中国市場に強く依存していることは、カール・アイカーンのような「もの言う株主」の懸念を高め、Appleの持ち株をすべて手放すという行動を取らせた。

滴滴出行への出資でAppleは中国におけるスマートフォン以外のテクノロジー市場への足場を築くことができた。もし滴滴出行がCarPlayを利用するならAppleは中国でソフトウェアやサービスを販売する有力なチャンネルを手に入れることができる。またソフトウェアやサービスを中国市場に適合させるために欠かせない中国のユーザーに関する貴重なデータを入手することもできるだろう。もしApple版の自動走行車が実現した際には滴滴出行は有力なユーザーになるはずだ。

画像:: August_0802/Shutterstock

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Appleの株価急落の原因を検討する

SAN FRANCISCO, CA - OCTOBER 22:  Apple CEO Tim Cook speaks during an Apple announcement at the Yerba Buena Center for the Arts on October 22, 2013 in San Francisco, California.  The tech giant announced its new iPad Air, a new iPad mini with Retina display, OS X Mavericks and highlighted its Mac Pro.  (Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

昨日(米国時間4/26)、Appleが第2四半期の決算を発表した後、時価総額は400億ドル減少した。これは深刻な事態だ。時間外取引でAppleの株価は最大で8%もダウンした。

事態は考えられる限り最悪のコースをたどった。まずAppleは売上と利益で予想を達成できなかった。iPhoneの売上はとうとう対前年比で崖から転落したように減少した。Appleが発表した第3四半期のガイダンスはきわめて生温いものだっった。簡単にいえば、良い四半期だったとはいえない。Appleはこの点について比較の対象となる昨年の四半期の業績が好調過ぎたことと世界経済のマクロな問題を指摘している。

まずは発表された数値をまとめておこう。

  • 売上:506億ドル。 昨年同期は580億ドル。アナリストは520億ドルを予想していた。
  • 利益:一株あたり1.90ドル。アナリストの予測は2ドル。
  • ガイダンス:第3四半期の売上予測は410億ドル、利益は43億ドル。前年同期は496億ドルでアナリストの予想は474億ドル。
  • iPhone販売:5120万台はアナリストの予測、5070万台を上回ったが、昨年同期の6120万台を下回った。
  • iPad販売:1030万台。アナリスト予測は940万台。昨年同期の実績1260万台に届かなかった。
  • Mac販売: 400万台はアナリスト予測の440万台、前年同期の実績460万台をいずれも下回った。
  • 中国本土:これまできわめて強い成長を遂げてきた地域だが、売上は125億ドルで昨年同期の実績、168億ドルを大きく下回った。

アナリストの予測を上回った点が多少はあったが、売上実績とガイダンスは低調で、市場の反応はAppleに大きな打撃となった。一日で8%の株価急落というのは同社として初めてのことだ。なるほどAppleは昨年1年で20%の下落を経験しているが、これほどドラマティックな株価の変動は過去になかった。ドラマティックな演出はAppleの得意分野だが、これはそれとは異質だった。

さまざまな数字に株式市場は反応する。プラスに働くのはまず利益だ。アナリスト予測の達成は良いニュースで、予測を上回るならなおさら良い。しかしApple、Twitter、Facebook、Alphabet(Google)のような大企業となると、成長性が株価の動きに占める割合がおそろしく大きくなる。Appleは過去13年で初めて売上の前年同期割れを発表しただけでなく、次の四半期の見通しも同様に暗いことを認めた。

同日に決算を発表したTwitterと比較してみよう。Twitterは売上でアナリスト予測を上回ることに成功した。さらにユーザーベースも意味ある成長を達成していた。Twitterの今期の月間アクティブ・ユーザーは3億1000万で、前年同期の3億500万を上回った。しかしTwitterの発表によれば、ガイダンスの売上予測は5億9000万ドルから6億1000万ドルの間で、アナリストの第3四半期の売上予測、6億7800万ドルを大きく下回った。着実に売上を伸ばしているものの、ユーザーベースの拡大が歯がゆいほど遅い(ときおり減少する)企業としてはまことに不本意な決算となった。

では別の企業と比較してみる。Alphabetはアナリストの予想をドラマティックに上回り、一時、時価総額でAppleを上回った。 クリックあたり単価(要するに1クリックの価値)が連続的に低下しているにもかかわらず、売上が健全な成長を見せたからだ。ところがAlphabetはc売上でも利益でもまったく弱気」であることが発表されて株価はただちに5%も下落した。

そこで話はAppleに戻る。前四半期、Appleの成績は業界関係者の期待に届かなかった。関係者は皆これが一時のことなのか、将来も続くのかいぶかった。その結果はやはり下落傾向が続いた。Appleは2期連続でウォールストリートの予測を下回った。これまでAppleの株価は健全な成長をもっとも長く続けてきた。単にIT分野の話ではなく、世界を通じてそうだった。もしAppleの株価が期待どおりアップしないなら、テクノロジー業界全体に(為替変動など)何か問題があるはずだと考えられていた。しかし最近の四半期では、Appleの成長の核心であるiPhoneに陰りがみられることがはっきりしてきた。

公開企業であることは一般投資家の意思に株価が左右される可能性を意味する。一般投資家は独自の利害にもとづいて行動する。 つまりカール・アイカーンのような「もの言う株主」はApple株を大量に取得することによって、一般投資家の利害を背景にAppleに強い圧力をかけけて不本意な行動を取らせることが可能となる。 なるほどAppleは群を抜いて巨大な企業だが、独自の戦略のみで行動することはできない。〔株式を公開している以上〕Appleはウォールストリートをハッピーにしておく必要がある。

ウォールストリート側からいえば、AppleにはもっとiPhoneやiPadsを売り、さらに新しいビジネス分野を発見してもらいたい。これに対してAppleはiPhoneとiPadをアップデートし、iPad ProやiPhone SEといった新製品を投入してきた。またサービス面でもApple Musicをスタートさせた。これは期待どおりに成長すれば売上の新しい柱のひとつなり得る。同社の発表ではApple Musicにはすでに1300万の有料ユーザーがおり、今期の売上は60億ドルに達したという。全体の売上からすればまだごく一部だが、すくなくとも新しい成長の可能性は見せたことになる。

今回の株価の下落はもうひとつ、人材の獲得という面でも問題となる。Appleのような企業に就職した場合、報酬のかなりの部分がストック・オプションで支払われ、いわば半凍結状態となるのが普通だ。株価が下落すれば、報酬は当初の期待を下回る。現実に報酬の目減りを経験している社員はAppleよりもっと安定した成長した成長が見込める企業への転職を考えるようになる―たとえばFacebookだ。あるいは成功すれば巨額のリターンが期待できる起業という道を選びたくなるかもしれない。Appleが今後も成長していくためにはきわめてイノベーティブな人材が必要だ。そうした人材を獲得し、保持するためには十分な報酬を支払えなくてはならない(Appleは貯めこんだ巨額のキャッシュに当面手を付けるつもりはなさそうだが)。

Appleにはウォールストリートを満足させるために打つ手がいつくかある。利益を株主に還元する、あるいは自社株買いによって株価をアップするのがその一つだ。しかし株価を投資に見合うレベルに引き上げるためにはAppleは本業で成長を続けなければならない。一株当たり利益のアップや自社株買いはたしかに役立つが、それは投資家の利益を真剣に考えていることを市場に向けてアピールするという効果が大半を占める。問題はAppleの成長であり、成長が続くかぎりウォールストリートは満足し、Appleもフリーハンドを得る。

それが実現できない場合、Appleは戦略の練り直しを必要とするだろう。さもなければ、ここ数年、Appleの実績に不満の声を上げてきた株式市場との危険な対決に踏み込むことになる。

〔日本版〕Appleの株価はこのページなどに掲載されている。4月28日早朝(JST)のAppleの株価は97.82ドル、時価総額は5386億ドルなどとなっている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Airbnbが成長を続けるインドの旅行市場にフォーカス

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中国市場へ参入するために投資家を募ってから1年も経たないうちに、Airbnbが次に狙ったのは、10億超の人口を誇るアジアの超大国インドだった。

Airbnbは中国のChina Broadband Capital(CBC)やHillhouse Capital、Sequoia Chinaといったファンドを頼りに、巨大メディア会社Times of India Groupとチームを組んで、サービスのローカライズと提供を目的とした投資を募った。ここには、Times of IndiaによるAirbnbへの出資も含まれている。

Times of Indiaは、自社が持つTimes of IndiaやEconomic Timesといった新聞やオンラインニュースサイトを含む、広範囲に及ぶメディアを武器に、「Airbnbが提供する宿泊施設についての啓蒙活動や、Airbnbがインドにおいて、本当の意味での現地ユーザー向けプレゼンスを創造していくためのサポートを行っていく」と発表した。

Time of Indiaにおけるデジタル事業子会社であるTimes Internet代表のSatyan Gajwani氏は、「私達は、サービスの運営だけでなく、人材獲得やビジネス戦略、広告活動等、Airbnbが可能な限り効率的にインド市場へ参入し、サービスを提供していくための手助けをしていくつもりです」と他ならぬEconomic Times上で語った。

昨年12月に投資家から15億ドルもの巨額の調達に成功し、少なくとも250億ドルに及ぶバリュエーションを記録したAirbnbをめぐる投資は、Times of Indiaがインド市場への参入を熱望する他のグローバルテック企業と、これまでに結んできたパートナーシップと似ている。その背景には、スマートフォンの売り上げ拡大を通じて、2017年までに5億人を超えると言われているネット人口がある。

Airbnbの目からも、インド市場の可能性は明らかだ。昨年、運営部門のトップであるVarsha Rao氏は、インドの旅行市場が今後5年間のうちに400億ドル規模へと発展していく可能性があると話していた。Airbnbは既にインドでのサービス提供を開始しており、昨年Flipkart傘下LetsBuy.com創設者のAmanpreet Bajaj氏を、同国のトップに置いていたが、更にインド市場の深掘りを進める狙いだ。

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インド国内でAirbnbが提供する宿泊施設の一部

Times Internetは、Uberのインドにおける協同出資者であり、その他にもBusiness InsiderやCoursera、Huffington Post等への出資を行っている。同社は、「Times Global Partners」を提唱しながら、インド市場参入およびローカリゼーションのサポートを行うための活動にそのリソースを投入し、グローバル化の中でインドへの進出を画策するテック企業のニーズに応えている。

Airbnb CTO兼共同創設者のNathan Blecharczyk氏は、Airbnbが「インド人旅行者の方々が、世界中どこへ行っても現地の人々と同じような体験ができるよう、我々のサービスのインド化に努めています」との声明を発表した。

中国のように、インドでは海外旅行だけでなく、国内旅行に対する需要も多い。そんな中、ソフトバンク主導の投資ラウンドで100万ドルを調達した、低予算旅行者向けホテルを運営するOYO Roomsによって、その競争は激化している。OYO Roomsや同様のサービスを提供している企業は、多くの地域でオフラインでのホテル探しが未だ主流であるインドにおいて、ある一定レベルの宿泊サービスを安価に提供することに特化している。一方Airbnbは、宿泊という体験を提供することを主な売りとしている。つまり、ひとつひとつの宿泊施設が良い意味でユニークな存在であるのだ。(少なくともAirbnbのマーケティング戦略によれば)

Airbnbは、インドの消費者を世界190ヶ国、3万4000を超える都市をカバーする、200万件もの宿泊施設を利用した旅行へと誘惑すると同時に、手頃な宿泊サービスも売りだしていく算段のようだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake 500px)

会員制宿泊予約サイトの「relux」、運営元がKDDIから5億円を調達——訪日対応さらに強化

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会員制宿泊予約サイト「relux」を運営するLoco Partners。3月にサービス開始から3周年を迎え、同時にミクシィ元代表取締役の朝倉祐介氏を社外取締役として迎えたという発表があったが、今度は大型の資金調達を実施したという。同社は4月18日、KDDIがグローバル・ブレインと運営する「KDDI Open Innovation Fund」を引受先とした5億円の第三者割当増資を実施したことをあきらかにした。

先日の記事でも紹介したとおりだが、relux は同社のスタッフや全国の旅館・ホテルに精通した審査委員会のメンバーが厳選した一流旅館・ホテルを紹介する会員制の宿泊予約サイト。満足度保証や宿泊プランの最低価格保証、relux会員限定の特別プランを提供してきた。

KDDIが提供する定額制スマートフォン向けサービスの「au スマートパス」においても、2012年3月からクーポン配布などを実施。現在では、au スマートパス会員向けの優待プログラムを提供しており、今後さらなる旅行サービス拡充を目的として、より広範な業務提携を進めるとしている。ただし今後の具体的な提携については「現在検討中。reluxのリソースをうまく用いた形で、KDDI国内4000万会員に旅行商品を何らか訴求できればと考えている」(Loco Partners執行役員の酒井俊祐氏)とのこと。

また3月時点でもインバウンド需要が急増している(訪日旅行売上比率は10%近くまで増加)と語っていたが、その割合はひと月でさらに増加して現在15%近くまで伸びているという。KDDIとの提携に加えて「さらに伸ばしていくポテンシャルがある。海外事業へも投資し、訪日旅行事業の成長を加速させる。国の訪日外国人数の政策目標(2020年に4000万人)にも乗っかっていければ」(酒井氏)

本当にバブル?2016年Q1、VCによるスタートアップへの投資額は120億ドル超

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ベンチャーキャピタリストはパッとしないIPO市場苦戦を強いられているテック株は、彼らが慎重に行動している証拠と説明するだろう。しかし、データは違うことを示している。National Venture Capital Associationのデータによると、2016年最初の四半期における投資額は121億ドルだった。これは第1四半期に137億ドルの投資があった昨年を除くと、 2001年のドットコムバブル以来、最も高い数値だ。

昨年の第4四半期の投資額は120億ドルだったので、同じ水準にある。また、今四半期で取引額が100億ドルに届いたのは9四半期連続となる。

「市場環境は不安定でしたが、取引は成立してきました」とBattery Venturesのジェネラル・パートナーを務めるNeeraj Agrawalは言う。「バブルは起きていないと思います」。

PricewaterhouseCoopersのパートナーであるTom Ciccolellaは「数字が出る前まで悲観的な観測が広がっていました」と言う。蓋を開けてみれば「堅調は四半期」だった。PwCはNVCAとMoneytreeと共にこのレポート制作を行った。

最大の投資案件はLyftで10億ドルの資金調達を行った。フロリダに拠点を置く拡張現実スタートアップのMagic Leapは飛び抜けた7億9400万ドルを調達した。続いてSunnova Energy、Uber 、Flatiron Healthが上位5社だった。勝者総取りの様相を呈し、第1四半期に投資された金額の25%を上位10社の案件が占めた。全体では969社が資金調達を行っていた。

ソフトウェア分野で376の取引があり、累計調達額が51億ドルと最も多くの投資金額を集めた。バイオテクノロジー分野ではIPOラッシュがあり、18億ドルを調達。メディア・エンターテイメント分野は3番目に人気のスタートアップのカテゴリーで109社に9億3000万ドルが投資された。

ただ、資金はより経験豊富なスタートアップの方へと流れた。アーリーステージの投資は前四半期と比較すると18%減少した。シードステージの取引数も10%減った。一方、拡大局面のスタートアップへの投資は25%増加し、レイトステージの案件も10%増加した。

このデータに驚いた投資家もいるだろう。多くの投資家は現実を直視すべきと彼らは考えている。「シリコンバレーにはとてつもなく多くのベンチャー資本が過剰供給されています」とGreylockのパートナーであるAshen Chandnaは注意を促す。「全体的にVCも慎重になっていますが、それでも資本の流入が早すぎます。実際、最も優良な企業はベンチャーキャピタルの資金を大量には必要としないのです」。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

元Evernoteのフィル・リビン、最初のベンチャー投資先はチャット・ボットのスタートアップ、Begin

Phil Libin, chief executive officer of Evernote Corp., poses for a photograph prior to an interview at the New Economy Summit 2015 in Tokyo, Japan, on Tuesday, April 7, 2015. The conference, organized by the Japan Association of New Economy, will be held through April 8. Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images

Evernoteの元CEOのフィル・リビンがGeneral Catalystのパートナーとなって最初のベンチャー投資を行った。現在はEngadgetの一部であるGDGTの共同ファウンダーで昨年9月にAOLを去ったRyan Blockが創立したチャット・ボット・サービスのBeginというスタートアップが投資先だ。

リビンとしては最初のボット企業への投資となるが、これが最後ではないはずだ。TechCrunchのインタビューに対して、リビンは「向こう数年、ボット企業に集中していく」と語った。メッセージ・プラットフォーム中で会話を効率化するボット・テクノロジーは波に乗っているが、Beginもそういうスタートアップの一つだ。Slackのケースでよく分かるように、リアルタイム・チャットの成長は目を見張るものがある。Facebook自身が今年のF8デベロッパー・カンファレンスでチャット・ボットのためのAPIを発表するものと見られている。

Beginはまだ小さいスタートアップで、われわれの主要な情報源はリビンだが、この会社について、「個人やチームが仕事を効率化するのを助けるチャット・ボットを開発している」という。Begin自身は投資情報も含め、会社の詳細についてまだ何も発表していない。

CEOのBlockは「むやみに仕事を増やすのがいいチームではない。いい仕事をするのがいいチームだ。Beginは今やっていることを何事によらずやりやすくする」とだけ述べた。

「Beginは規模の差はあれ、Slack、Facebook Messengerと同様にチャット・ボット・テクノロジーのパイオニアだ。会話のインターフェースの分野はまもなくビッグウェーブになる」とリビンは言う。Blockは「ボットのような会話的テクノロジーは伝統的なUIを置き換えることにはならないだろう。両者は相互補完的なものだ」と述べている。そうであっても「ユーザーがネットに接する時間の大半はボット・インターフェースを通じることになるだろう」とリビンはみている。「私の考えでは、ソフトウェア、特にボットはわれわれの代理としてコンピュータを動かし、われわれのストレスを大きく軽減してくれるはずだ」とBlockは述べた。

「ボットがアプリの新しい波だとよく言われるが、だからといって今までのアプリがなくなるわけではない。多くのボットがSlackやMessengerのような既存のチャット・プラットフォーム内で活躍するようになる。その一方でボット・テクノロジーをベースにした単独アプリも登場するだろう」とBlockは言う。

インタビューでリビンは今回の投資の背景とボット・テクノロジーに対する考えを詳しく述べた。【リビンのインタビューは原文参照】

画像:: Kiyoshi Ota/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

楽天とUTECが千葉大発のドローンスタートアップに出資、5月にもゴルフ場で実証実験

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Amazonが「空飛ぶ配達ドローン」の実現に向けて動いているようだが、国内でも楽天がスタートアップと組んで実証実験を開始する。実験のパートナーとなるのは、千葉大学発のドローンスタートアップである自律制御システム研究所(ACSL)だ。同社は3月28日、東京大学エッジキャピタル(UTEC)および楽天から総額7億2000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

ACSLは2013年11月の設立。千葉大学・野波健蔵研究室で1998年から行われている還元自立型ドローンの技術をベースに、産業利用可能な純国産ドローンの開発進めている。

両者は5月から千葉県御宿町のゴルフ場で実証実験を行う予定。ゴルフ場の利用者に対して,飲み物やゴルフボールなどを届けるサービスを提供するとしている。

またこれとは別に、楽天は千葉市が4月から国家戦略特区で実施する配達ドローン関連の実証実験にも参加する予定。この実験には楽天やACSLヤマト運輸なども参加する予定。

予約台帳のトレタがアイスタイル、伊藤忠、DDHから3億円を調達——アジア進出も本格化

トレタ代表取締役の中村仁氏

トレタ代表取締役の中村仁氏

予約・顧客台帳サービス「トレタ」の開発・運営を行うトレタは2月29日、アイスタイル、伊藤忠商事電通デジタル・ホールディングス(電通デジタル投資事業有限責任組合)の3社を引受先とした総額第三者割当増資を実施したことを明らかにした。トレタでは2015年12月にセールスフォース・ドットコムからも資金を調達しているが、同一ラウンドでの調達となる。また、今回の調達にともなってキャンバス取締役の加登住眞氏が非常勤監査役として同社に参画する。

トレタは2016年2月現在で登録店舗数で4900以上、最新の数字はまもなく5000店舗を達成するという。トレタ代表取締役の中村仁氏は「思った以上のペース」と語る。サービス利用継続率は99.5%、MAUは登録店舗の95%。累計の予約件数は665万件・3400万人に上るという。

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今回の調達はCVCであるDDHを除いて事業会社。資金ニーズもさることながら、各社との業務提携により、海外展開なども進めていく。アイスタイルとの展開についてはまだ話をできる段階にはないということだったが、伊藤忠商事については、同社の関連会社であるベルシステム24と組んで、飲食店の予約業務代行での協業を計画しているほか、台湾最大手の電気通信事業者である中華電信股份有限公司との営業提携を検討中だという。

「少子高齢化で日本の人口が減っていくということは、『胃袋』も『食べる量』も減ることになる。国内だけで見れば、外食産業は横ばいで決して成長する産業ではない。ただもちろんそこには変化は起きていて、(台帳)ツールは広がっている」——中村氏は国内の市場についてこう語る。またそんな状況だからこそ、「海外を見ないといけない」と語る。

海外と言っても、米国ではOpenTableが台帳・メディアとしても強いサービスに成長している。だがアジアを見てみれば、外食産業自体がまさに成長中。そこで今後は国内に次いで台湾やASEANを中心にサービスを展開していくという。「外食産業は日本からアジアのタイムマシン経営ができる。日本の外食産業のノウハウは価値があるもの。今まで(米国からタイムマシン経営のメリットを享受すること)とは逆の立場で取り切っていく」(中村氏)

また新たに監査役を加えるということでいよいよIPOの準備か、とも思ったのだが、中村氏は「もともと早く(IPOすることを)考えているわけではない。IPOするとして、大事なのは資金よりも信用だ。信用を持って永遠にサービスを続けていくという意志を保証する意味で重要。営業にもダイレクトに響いてくる。だが上場が目的になることで会社のあり方がゆがむのであれば意味がない。また市況で判断していればきりがない」としている。

組織化に苦しんだ1年——4億円を調達して自社プロダクト開発を強化するグッドパッチ

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏

ユーザーインターフェースデザインに特化したデザインスタートアップのグッドパッチ。同社は2月19日、DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNCを引受先とする総額4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。また資本参加した各社との事業連携も進める。

今回の資金調達をもとにプロトタイピングツール「Prott」のさらなる開発を行うほか、新サービスの提供を進める。また同社が拠点を持つドイツ・ベルリンを中心としたヨーロッパをはじめとして、Prottを世界展開していくという。

ニュースアプリの「Gunosy」や家計簿アプリ「Money Forward」、キュレーションアプリ「MERY」をはじめとしたユーザーインターフェースのクライアントワークを手がけつつ、自社プロダクトのProttの開発を進めてきたグッドパッチ。inVisionなど海外発のプロトタイピングツールがある中、Prottは現在世界140カ国・5万人以上が利用するまでになった。クライアントにはリクルートやヤフー、ディー・エヌ・エー、グリー、IDEOなどの名前が並ぶ。

「Prott」

「Prott」

会社は順風満帆、さらに調達して一気に自社プロダクト開発を進めるといった状況かとも思ったのだが、グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏いわく、この1年は「組織化に苦しんだ1年」だったという。

「フラットな環境」作れず、4カ月で10人が退社

「去年の今頃は社員50人がいたものの、役員は自分だけ。給与振り込みすら僕がやっていた。『伝言ゲーム』でなく、社長と直接話し合えるフラットな環境でいたいと思ったから。だがよかれと思ってやっていたことは、お互い不幸なだけだった」(土屋氏)

直接やりとりをするつもりが、スタッフの人数が増えすぎて結局1人1人とコミュニケーションを取ることができなくなった。採用を優先すると今度は現場のコミュニケーションができない状況になっていた。人材コンサルを入れて改めて組織作りを進めたが、昨年8月頃から4カ月で——転職や引き抜き、デザイナーとしての独立など様々な理由で——10人の社員が退社した。退職した社員の中には創業期からグッドパッチを支えたメンバーもいた。

前年比での成長はキープできたものの、スタッフが抜けたことで売上も下がった。だが苦しい時期だったが人材採用に関しては好調だった。経営陣を強化氏、事業責任者を置き、組織作りを進めて、80人規模の強い組織作りができているという。

「一番変わったのは『人に任せる』ということがやっとできるようになったということ。今までフラットさについて勘違いをしていた。たとえ組織が階層化されていたとしても、マインドセットがフラットであればそれでよかった」(土屋氏)。土屋氏はこれまでにFailconなどでも自身の創業期の苦悩を語ってきたが、昨年から今年のこの時期を越えて、「起業家」から「経営者」としての道を歩み出したと語る。このあたりの心境は土屋氏のブログで詳細に書かれている。

クライアントワークは継続、新サービスも開発

組織作りで苦労した1年だが、きっちりと成果も出した。例えばMERYなどは、日時利用者数ではブラウザのほうがユーザー数は多い一方、記事閲覧数では圧倒的にアプリが増えているのだという。グッドパッチがデザインしたアプリは、ウェブより回遊率の高い構造になっているというわけだ(ディー・エヌ・エーの決算資料より)。そのほか、コミュニティサービスの「ガールズちゃんねる」では、UI改善により1セッションあたりのPVで約124%増、PV数は約134%増という結果を残した。

「MERY」の成長(DeNA決算資料より)

「MERY」の成長(DeNA決算資料より)

調達では今後Prottの開発や世界展開に加えて、新サービスの提供も進める。新サービスはプロダクトマネジメントツール。プロトタイピングツールだけでなく、今後あらゆる開発工程を一気通貫で管理できるシステムの開発を目指す。「いわばAtlassian方式。BtoBのプロダクトは時間が掛かると思うが、3年後、5年後のインパクトは大きい。そのための調達だ」(土屋氏)

では今後、クライアントワークを捨てて自社プロダクトに注力するのかというと、そういうわけではないらしい。クライアントワークでデザインの価値を上げていきたいと土屋氏は語る。

「グッドパッチののミッションは『デザインの力を証明する』ということ。日本ではデザインが勘違いされてきた。ビジネスサイドが企画を立ててワイヤーフレームを書き、それをデザイナーがデザインして、エンジニアが実装するという世界だった。だがデザインへの投資を促さないといけない。海外では事業会社がデザイン会社を買収する流れが増えているが、日本ではやっとスタートアップで重要視されてきたというところ。『デザイン会社』という立場は捨てない。いかにプロダクトを主体的に作るデザイナーを育てるかは重要だ」(土屋氏)

海外ではデザイン企業のM&Aも増えている

海外ではデザイン企業のM&Aも増えている