サービスとしてのガバナンス事業を展開する東京大学発Scrumyが約4500万円調達、プロダクト開発と組織体制強化

サービスとしてのガバナンス事業を展開する東京大学発Scrumyが約4500万円調達、プロダクト開発と組織体制強化

企業のガバナンスを構築・維持・強化するための情報ライフサイクル管理SaaS「Scrumy」を提供するScrumy(スクラミー)は1月6日、シードラウンドにおいて、約4500万円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、イーストベンチャーズ4号投資事業有限責任組合と個人投資家。調達した資金で、おもにプロダクト開発と組織体制の強化を行うとしている。

Scrumyは、ガバナンスと情報セキュリティーを強化する「情報ライフサイクル管理」のための総合ガバナンスプラットフォーム。システムやソフトウェア開発の情報を一元管理し、適切な権限管理にもとづいて流動的なステークホルダーとの協働を可能にする安全な開発環境を構築する。システムやソフトウェアの開発工程に「情報ライフサイクル管理」という考え方を取り込むことで、「これまでにない新しい開発文化を創造」するという。

そうした作業を、ScrumyはGaaS(サービスとしてのガバナンス。Governance as a Service)という形で提供している。それは、GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)、需要、リソース、契約、ワークフロー、ドキュメント管理のための総合ソリューションであり、「情報セキュリティ強化」と「業務効率化」を両立させるサービスとのこと。

Scrumy代表取締役CEOの笹埜健斗氏は、東京大学大学院学際情報学府でガバナンスと情報セキュリティを強化するための研究を行ってきた。Scrumyは東大発研究開発型スタートアップだ。企業の持続可能な経営の最大の基盤となるガバナンスに注目しているという笹埜氏は、「無意味な大量の『データ』から、意味のある『インフォメーション』、さらには知恵や文化のレベルにまで高められた『ナレッジ』に変換、さらには循環させていく仕組みをデザインし、企業の情報インフラを構築していくべきだ、というのが私たちの確固たる哲学です」と話している。

東北大学が電子のスピンをナノモーターの駆動力として提案、アインシュタインらによる実験で発見された磁気回転効果利用

東北大学が電子の「スピン」をナノモーターの駆動力として提案、アインシュタインが唯一かかわった実験で発見した磁気回転効果利用

東北大学は1月5日、アインシュタインが生涯で唯一かかわった実験で発見された磁気回転効果が、ナノモーターの動作原理に利用できることを量子論によって解明したと発表した。カーボンナノチューブと強磁性電極のハイブリッド構造で、ナノモーターの実現を目指すとしている。

ナノモーター(ナノ回転子)とは、電気モーターのように軸が回転するナノサイズの機構のこと。2層のカーボンナノチューブの外側のナノチューブを軸受けに、内側のナノチューブを軸にして回転させることでナノモーターを作る方法は以前から提案されていたが、その駆動方法については研究が進んでいなかった。そこで東北大学大学院理学研究科の泉田渉助教らによる研究グループは、磁気回転効果に着目した。

磁気回転効果は、20世紀初頭アインシュタインらにより検証・発見されたもので、磁石の磁気量を変えると、その変化量に応じて回転運動が生じるという現象。古典物理学では説明がつかず、後に量子論によって解明され、さらにそこから、電子には「スピン」という角運動量(回転の方向と大きさを表す量)があることがわかった。つまり電子は自転ができるということだ。量子力学的には、磁気回転効果は「電子の持つミクロな角運動量であるスピンと、マクロな物体の回転運動が相互変換される現象」となる。研究グループが提案したのは、2層構造のカーボンナノチューブと強磁性金属の電極を組み合わせ、電流を使ってスピンを回転運動に連続的に変換するという構造だ。

この機構は、ナノスケールの電気機械を回転駆動させるものだが、カーボンナノチューブだけでなく、小さな物体を回転させる技術に広く応用できるという。研究グループには、明治大学理工学部の奥山倫助教、仙台高等専門学校総合工学科の佐藤健太郎准教授、東京大学物性研究所の加藤岳生准教授、中国科学院大学カブリ理論科学研究所の松尾衛准教授が参加している。

NTT・東大・理研がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

NTT・東京大学・理化学研究所がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

日本電信電話(NTT)は12月22日、東京大学理化学研究所と共同で、ラックサイズで大規模光量子コンピューターを実現するための基幹技術となる光ファイバー結合型量子光源(スクィーズド光源)モジュールを開発したことを発表した。これは、冷凍装置や真空装置を必要とせず、実用的な小型化が可能な量子コンピューターとして期待される光量子コンピューターの実現に欠かせない技術だ。

光量子コンピューターは、時間的に連続的な量子もつれ状態を作ることで、集積化や装置の並列化なしに量子ビット数をほぼ無限に増すことができるというもの。光の広帯域性を活かした高速な計算処理が可能で、多数の光子で量子ビットを表す手法を使えば、理論的には光子数の偶奇性を用いた量子誤り訂正が可能になるという。

しかしこれまで、光量子コンピューターの実現に必要となる光ファイバー結合型の高性能な量子光源、つまりスクィーズ光源が存在しなかった。たとえば、大規模量子計算を実行できる時間領域多重の量子もつれ(2次元クラスター状態)の生成には、65%を超える量子ノイズ圧搾率が必要となる。

NTT・東京大学・理化学研究所がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

実際のサイズ感

そんな中、NTTなどからなる研究グループは、低損失な光ファイバー接続型量子光源モジュールを開発し、光ファイバー部品に閉じた系において、6THz(テラヘルツ)以上の広帯域にわたって量子ノイズが75%以上圧搾された連続波のスクィーズ光の生成に世界で初めて成功した。これにより、光ファイバーと光通信デバイスを用いた安定的でメンテナンスフリーの「閉じた系におけるラックサイズの現実的な装置規模」での光量子コンピューターの開発が可能になるという。この方式は光通信技術と親和性が高く、通信波長帯の低損失な光ファイバーや光通信で培われた高機能な光デバイスを用いることができるため、飛躍的な発展が期待できるとのことだ。

今回の実験では、1つ目のモジュールでスクィーズ光を生成し、2つ目のモジュールで光量子情報を古典的な光の情報に変換するという新しい手法を用いた。量子信号を光のまま古典的な光信号に増幅変換できるため、非常に高速な測定が可能になった。これは将来の全光型量子コンピューターに適応が可能で、「テラヘルツクロック周波数で動作する圧倒的に高速」な全光型コンピューターの実現に大きく貢献するという。

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

東京大学は11月30日、乾燥ワカメや紙おむつの吸水材などのゲルが吸水して膨らむ速度の温度による変化を決める物理法則を、世界で初めて解明したことを発表した。この発見には、アインシュタインが提案したブラウン運動の理論が糸口になった。

大量の水を含むことができる固形物であるゲルは、長いひも状の高分子(ポリマー)のネットワークでできている。乾燥ワカメやゼリーなどの食品のほか、紙おむつの吸水材や、ソフトコンタクトレンズなどの医療分野にも広く使われている。また光や温度によって水を出し入れして縮んだり膨らんだりできるゲルもあり、それらはバイオセンサーや薬物送達キャリアーなどに利用されている。そのため、ゲルが膨らむ速度を決める物理法則の研究がこれまでも多く行われてきたが、温度による速度の変化に関しては、影響し合う要素が多く、それぞれが異なる温度変化をするなどの問題のために解明されていなかった。

東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡教授らからなる研究グループは、様々なネットワークを持つゲルの膨らむ速度の温度変化を「世界最高水準の精度」で測定し、明確な物理法則を解明した。水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

ゲルの弾性率(固さ)とゲルの拡散係数(膨らむ速度)の温度変化の類似性。異なる高分子ネットワークを持つ4種類のゲルの結果となっている(各シンボルが測定データを表し、直線はデータを直線で近似したもの)。左図:ゲルの弾性率の温度変化を直線で近似すると、「温度軸上の1点で交わる」という性質がある。このとき、温度ゼロの切片が「負のエネルギー弾性」の大きさを表す。右図:ゲルの拡散係数(黒丸)の温度変化を直線で近似すると、「1点で交わる」が、温度軸上ではない。拡散係数を浸透圧に由来する成分(赤丸)と弾性率に由来する成分(青四角)に分離すると、弾性率に由来する成分は「温度軸上の1点で交わる」。つまり、弾性率に由来する成分は、負のエネルギー弾性と形式的に同一の法則に従う。ただし、拡散係数には水の粘度が大きな影響を及ぼすために、1点で交わる温度は、両者で大きく異なる

しかし、測定だけでわかったわけではない。解明の糸口となったのは、水中の微粒子の不規則な熱運動としてアインシュタインが提案したブラウン運動だった。ゲルの吸水も、高分子ネットワークの不規則な熱運動によって起こる。そこでアインシュタインの数式から着想を得て、実験結果を解析したところ、先に同研究グループがゲルの弾性率に関する定説を覆して提案した「負のエネルギー弾性」と形式的に同一なシンプルな法則が見出された。それは、「主として水の粘度の温度変化に由来する新しい非平衡系の法則」だという。

今回の研究により、ゲルの膨らむ速度の温度変化は「従来の想定よりもかなり大きい」ことが実証された。ゲルは食品や医療の分野で様々な温度で利用されるため、この法則の発見は、ゲルが利用されるすべての産業分野で大きく貢献することが期待される。

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

果実発色促進装置。山口県産業技術センター

東京大学山口県産業技術センター農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門は、リンゴや赤系ブドウの果実に青色LED光を照射して果皮の着色を促す装置を開発した。リンゴやブドウの生産者は、地球温暖化などの影響で果物の着色が不良になる商品価値が下がる現象に悩まされているが、この装置で改善が期待される。

「果実発色促進装置」と呼ばれるこの装置は、幅50×奥行き40×高さ15cmの箱形をしており、中に青色LEDチップを多数配置した基板が内壁と仕切りに貼り付けられている。果皮に含まれる色素アントシアニンが青色光によってさらに多く蓄積されるために、着色が進むとのこと。この中で、直径12cmまでのリンゴなら12個を同時に処理できる。また、装置内は着色促進に適した温度に保たれる。

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

東京大学の実験では、装置内の温度を15度に設定して、リンゴ品種「ふじ」に青色光を5日間照射したところ、赤身が少なかった部分が赤くなり、色むらが改善された。糖度が13度以上ある果実で、着色促進効果が認められたそうだ。また、農研機構果樹茶業研究部門でも、赤色系ブドウの「クイーンニーナ」「甲斐路」「赤嶺」で着色の改善が確認された。ただし、こちらも糖度が低いと効果は見られないという。

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

山口県産業技術センターの吉村和正専門研究員は、量産すれば、1台あたり2万6000円程度で販売できると試算している。「将来的には、海外へ輸出される果実を運搬中や貯蔵中に着色促進して商品価値を高める手段にも応用できます。流通事業者だけでなく、生産者が活用すれば農業所得の向上も見込めます」とのことだ。

東大発のソナスとJR東日本が鉄道架線の張り替え工事の信頼性確保に向け電化柱傾斜監視システムの本格運用開始

JR東日本と東大発ソナスが鉄道架線の張り替え工事の信頼性確保に向け電化柱傾斜監視システムの本格運用開始

JR東日本スタートアップは11月26日、東日本旅客鉄道(JR東日本)と東京大学発IoTスタートアップ「ソナス」が鉄道インフラ向け電化柱傾斜監視システムの本格運用を11月1日より開始したと発表した。同システムは、JR東日本スタートアップによるアクセラレータープログラム「JR東日本スタートアッププログラム2020」において協業を行ったもの。

同システムは、JR東日本の鉄道工事におけるニーズとソナスが持つ省電力無線技術によるシーズが合致し、JR東日本スタートアッププログラム2020で選定された。協業開始後は実際の鉄道電力設備を用いて、約3カ月のフィールド試験による通信品質・傾斜検測精度・作業効率などの検証を経て、同システムの短期間での運用を実現したという。

JR東日本では、鉄道の架線を張り替える工事を行う際に、工事の信頼性確保のため架線を支える電化柱の傾斜監視を必要により行っている。ただ、この従来のステムは、機器の運搬・設置に多くの労力を費やしており、終電後の深夜帯に作業を行う作業従事者にとって大きな負担となっているという。

ソナスが独自に開発した次世代IoT無線「UNISONet」(ユニゾネット)は、省電力ながら上下双方向での通信が可能。今回開発した電化柱傾斜監視システムではこの特徴を活かし、システム全体がきめ細やかに電源の入・切をコントロールすることで、小型電池での駆動を可能とし、機器の簡素・軽量化を実現したそうだ。これにより機器の構成品が5個から2個に削減され、従来システムと比較し機器の総重量比約90%の削減・約90%の作業労力を軽減し、短時間・容易に施工を行えるようになった。

東京大学、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発

東京大学、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号方式のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発

東京大学は11月24日、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発し、公開鍵のデータサイズを既存方式と比較して約1/3まで削減することに成功したと発表した。「多変数多項式問題の難しさ」を安全性の根拠にしているとのこと。多変数多項式問題とは、n個の変数を持つm個の2次多項式の共通解を計算する問題で、nとmを同程度の大きさで増加させた場合に計算が困難となることが知られている。

東京大学、量子コンピューターでも解読できない多変数公開鍵暗号方式のデジタル署名技術「QR-UOV署名」を開発

これは、東京大学大学院情報理工学系研究科の高木剛教授と古江弘樹氏、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所日本電信電話(NTT)の共同研究によるもの。現代の情報社会では、暗号技術はきわめて重要な存在だが、現在多く使われているRSA暗号(素因数分解の難しさを安全性の根拠とする暗号方式)と楕円曲線暗号(楕円曲線といわれる幾何的な構造を利用した暗号方式。ECDSAなど)という2つの技術は、大規模な量子コンピューターが実現すると解読されてしまうことがわかっている。そこで、量子コンピューターでも解読できない多変数多項式問題の難しさを安全性の根拠としたRainbow署名という方式が開発されたが、検証に利用する公開鍵のサイズが大きくなるという課題があった。

Rainbow署名は、多変数多項式問題を基にし、20年以上も本質的な解読法が報告されていない安全な方式とされるUOV署名を拡張したものだが、今回開発されたのは、数値の行列で表現されていたUOV署名の公開鍵を剰余環といわれる代数系の多項式で表現しデータサイズを削減した「QR-UOV署名」というもの。Rainbow署名と比較して、公開鍵のデータサイズは約66%削減できた。

QR-UOV署名は、大規模な量子コンピューターが普及した社会でも、安全で効率的なデジタル署名方式として利用でき、特に「長期的な安全性が必要であり通信負荷の低減が求められるセキュリティーシステムへの応用」が期待されるという。

研究グループは、安全な暗号方式の標準化プロジェクトを進める米国標準技術研究所(NIST)が2022年に行う予定のデジタル署名技術の公募に応募し、標準規格への採択を目指すとのことだ。

東京大学がヒトiPS未分化細胞培養における世界最高レベルの超高密度化に成功、細胞あたりの培養コストを8分の1に低減

iPS細胞で犬をはじめ動物再生医療に取り組む、日本大学・慶應義塾大学発「Vetanic」が総額1.5億円を調達

東京大学大学院工学系研究科は11月22日、未分化(特定の機能を持つ細胞に分化する前)の状態でiPS細胞を超高密度に培養する独自のシステムを開発し、培養コストを1/8に低減できたことを発表した。増殖因子(増殖を促すタンパク質)の量を変えずに8倍の増殖を可能にしたということで、その密度は1mlあたり細胞3200万個と、世界最高となった。

東京大学大学院工学系研究科の酒井康行教授らからなる研究グループは、カネカ、日産化学との共同で、ヒトiPS細胞の未分化増殖のコストを1/8に低減する小規模培養システムを開発した。透析膜で仕切られた上下2つの空間を持ち、その上部で細胞を培養する。そこに増殖因子を溜めておくが、栄養素や老廃物は下部と行き来できる。ここに多糖を添加することで、増殖を従来の8倍に高密度化できた。

再生医療で大いに期待されているiPS細胞だが、増殖因子の高い価格が、その未分化細胞の大量増殖のネックになっている。増殖因子を低分子化合物に置き換える研究も進んでいるが、コストを下げるまでに至っていない。透析膜を使った培養工学的手法も研究されているものの、増殖密度が低かったり、コストの削減は実現されていなかった。

同研究グループのシステムは、高価な増殖因子をフルに使える構造になっている。さらに、実験の結果、iPS細胞から「自己組織化能の現れ」として、iPS細胞自らが分泌する増殖因子「Nordal」の濃度が培養につれて増加するという現象が認められた。これが大量の細胞培養につながったと考えられている。

東京大学がヒトiPS未分化細胞培養における世界最高レベルの超高密度化に成功、細胞あたりの培養コストを8分の1に低減

今回のシステムは細胞培養部の容量が約2mlと小さいため、スケールアップが必要だと研究グループは考えているが、増殖密度が8倍になったことで、システムのサイズは1/10程度に小型化することが可能となる。今後はより高密度化を進め、さらに、未分化細胞の増殖に比べて数十倍のコストがかかる臓器細胞への分化誘導にこの方式が有効に働くかの検討を行うとしている。すでに、未発表ながら、肝臓や膵島分化の第一段階(内胚葉分化)で、増殖因子の使用量を1/8程度に低減させることに成功しているとのことだ。

東京大学が街路を歩行者専用にすると小売店と飲食店の売上げが向上することを証明

提供メニューの「仕込み」を発注できる飲⾷店向けアプリ「シコメル」を運営するシコメルフードテックが1.5億円調達
東京大学が街路を歩行者専用にすると小売店と飲食店の売上げが向上することを証明

オープンストリートマップ(OSM)から取得した歩行者空間の時系列変化の例。バルセロナ市とヴァジャドリッド市の2012年12月における歩行者空間の分布

東京大学先端科学技術研究センターは10月29日、街路を歩行者空間化することで、街路に立地する小売店や飲食店の売上げが、非歩行者空間に立地する事業者に比べて売上げが高くなることを定量的に示す研究結果を発表した。ウィズコロナに対応した街づくりにおいて、パンデミックへの備えと経済活動とを両立させる街路の有効活用といった政策立案や住民との合意形成に、強い根拠になりうるとしている。

この研究は、東京大学先端科学技術研究センターの吉村有司特任准教授、熊越祐介特任研究員(研究当時)、小泉秀樹教授のグループが、マサチューセッツ工科大学センセーブルシティラボのセバスティアーノ・ミラルド、ポスドク研究員、パオロ・サンティ主任科学研究員、カルロ・ラッティ教授、アーバン・サステイナブル・ラボのイーチュン・ファン博士課程、スーチー・セン教授、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のホアン・ムリーリョ氏らとの共同で行われた。

研究対象となったのはスペイン全土。2010年から2012年にかけて、毎月、歩行者空間の分布情報を取得、またBBVAからは、歩行者空間周辺に立地する事業者の匿名化された取引情報の提供を受けて調査が行われた。車が通れない歩行者と自転車専用の空間(歩行者空間)の周辺に立地した小売店や飲食店の売上げを、そうでない地域の小売店、飲食店と比較したほか、非歩行者空間から歩行者空間へと街路の用途変更が行われた地区での「周辺環境に及ぼす経済的影響」が調査された。その結果、どちらも歩行者空間での売上げが向上することが判明した。

以前から、生活必需品の購入は歩行者空間であるか否かはあまり影響しないが、ランチやディナー、お茶を飲むといった体験型の消費活動は「歩行者中心で編成される街路」が好まれるという推測はあったが、それがデータとサイエンスにより裏付けされる形となった。

東大COI開発の行動変容促進システム活用、日立システムズが特定健康保健指導を支援する「健康支援サービス(MIRAMED)」

東大COI開発の行動変容促進システム活用、日立システムズが特定健康保健指導を支援する「健康支援サービス(MIRAMED)」提供

日立システムズは11月1日、特定保健指導を受ける人たちに向けた業務支援サービス「健康支援サービス(MIRAMED)」(ミラメド)の提供開始を発表した。メタボリックシンドロームのリスクを図式化したり、日々の目標を示したり、専門家によるアドバイスや遠隔面談、チャットなどを提供することで、特定保健指導対象者の健康をサポートするサービスだ。

このサービスは、東京大学センター・オブ・イノベーション(COI)が開発した、AIを活用しメタボリックシンドロームのリスクや関連疾患のリスクを減らすための行動変容アプリ「MIRAMED」を通じて提供される。特徴としては、健康診断やアンケートの結果などから、生活習慣関連疾患のリスクを抱える人に、自分の体の状況を図式化などでわかりやすく伝えること、遠隔面談、チャット、ウェアラブルデバイスとの連携などで、指導担当者との情報共有ができること、簡便に濃厚な指導が受けられること、長期目標だけでなく日々のチャレンジも取り込めること、食事や運動に加え、飲酒、喫煙、睡眠、ストレスを毎日記録して1週間ごとの評価を受けられること、東京大学の専門家が科学的根拠のある内容を基に作成したアドバイスが受けられることなどがある。

自治体や健康保健組合など、健康指導を行う側にも、ユーザーの情報が把握しやすく円滑な指導が可能となり、遠隔面談やチャットなどで場所や時間を選ばず指導できることや、指導ポイントの自動集計などで、労力が削減できるといったメリットがある。

日立システムズでは、「医薬・ヘルスケア領域において、健診から治療支援、介護までのサイクルを包括した切れ目のないサービスの提供」を目指しており、これはその中の「未病分野」の取り組みにあたる。自治体、企業、健康保健組合が行う特定保健指導に着目した同社は、 Amazon Web Services(AWS)を利用し、クラウド基盤上で特定保健指導を支援するこのサービスの提供に至った。今後は、日本遠隔保健指導センターを運営し、機械学習による医療系データ解析などを行うLiDAT(ライダット)と連携し、「より先進的で高品質・高効率な特定保健指導の確立にも挑んでまいります」と話している。

筑波大学が「富岳」全システムを使い宇宙ニュートリノの数値シミュレーションに成功、ゴードン・ベル賞の最終候補に選出

筑波⼤学計算科学研究センターは10月28日、宇宙大規模構造におけるニュートリノの運動に関する大規模数値シミュレーションを、ブラソフシミュレーションというまったく新しい手法を用いて、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」上で成功させたことを発表し、その動画も公開した。この研究論文は、米国計算機学会(ACM。Association for Computing Machinery)のゴードン・ベル賞の最終候補(ファイナリスト)に選出されている。

これは、筑波大学、京都大学、東京大学、理化学研究所の共同による研究。宇宙の銀河の分布を示す宇宙大規模構造は、何も存在しない「ボイド」と、銀河が多く集まる領域が泡の集まりのような形で構成されている。この数値シミュレーションでは、その宇宙大規模構造の中のニュートリノとダークマターの運動が計算された。数十年も前から、N体シミュレーションに代表される粒子シミュレーションと呼ばれる手法での計算は試されてきたが、人工的な数値ノイズが入るなどの問題が解決できずにいた。そこで研究グループは、数値シミュレーションコードを開発し、数値ノイズの影響を受けない、「多数の粒子の集団的振る舞いを記述するブラソフ方程式を直接数値的に解く手法」であるブラソフシミュレーションを採用した。

ダークマターの空間分布。1 h-1 Mpcは約466万光年。

ニュートリノの空間分布。

ただし、この手法は計算量や必要なメモリーの量が膨大になるため、なかなか実現できなかったのだが、⽂部科学省の「富岳」全系規模⼤規模計算実施公募に採択されたことで、「富岳」の全システムが使えることとなった(通常、利用者には「富岳」の性能の一部が割り当てられる)。研究グループは、「ブラソフ方程式の数値解法としては、これまでになく高精度で、かつ演算量の少ないアルゴリズム」を開発し、「富岳」のプロセッサーに合わせてプログラムの実装を全面的に見直すことで、理論ピーク性能の15%という実行性能を達成。さらに「計算ノード間のネットワーク構成に合わせた並列化」により最大96%という高い並列化効率を達成した。その結果、「富岳」の全システムの93%にあたる14万7456ノードを用い、最大で約400兆個のメッシュを使ったシミュレーションに成功した。中国のスーパーコンピューター「天河⼆号」(Tianhe-2)で行われた過去最大の数値シミュレーションと同等の数値シミュレーションが、約1/10の時間で実行できたことになる。

この研究により、ブラソフシミュレーションの大規模な数値シミュレーションが、スーパーコンピューターによって高い並列化効率で実行できることが示された。このことから、核融合プラズマや宇宙の磁気プラズマの振る舞いの研究にも、この手法が適用できるとのことだ。

水を推進剤とする衛星用エンジンを開発する東京大学発のPale Blueが4.7億円調達、量産体制を構築

水を推進剤とする衛星用超小型推進機の実用化を手がけるPale Blueが7000万円を調達

環境にやさしい水を推進剤とする超小型衛星用エンジン(超小型推進機)の開発などを行う、東京大学発のスタートアップPale Blue(ペールブルー)は10月28日、シリーズAラウンドにおいて4億7000万円の資金調達の実施を発表した。

引受先は、既存投資家であるインキュベイトファンド、三井住友海上キャピタルに、今回新たに加わったスパークス・イノベーション・フォー・フューチャー、ヤマトホールディングスとグローバル・ブレインが共同で運営するCVCファンド「KURONEKO Innovation Fund」の4社。

同時に、商工組合中央金庫からの2000万円の融資契約を締結し、さらに経済産業省の令和2年度補正宇宙開発利用推進研究開発を受託(初年度予算最大3億円)。これにより、累計調達額は約10億円となった。

水イオンスラスター(水プラズマ式推進機)の作動の様子

水イオンスラスタ(水プラズマ式推進機)の作動の様子

Pale Blueの製品には、現在水蒸気で推進する高推力多軸の「水レジストジェットスラスタ」、水プラズマで推進する低燃費の「水イオンスラスタ」、水蒸気と水プラズマで推進する高推力、多軸、低燃費の「水統合スラスタ(ハイブリッドスラスタ)」という3種類の超小型推進機がある。これまでに同社は、大学や研究機関などと連携して、これらのエンジンの宇宙実証プロジェクトを進めてきている。すでにフライトモデルの開発が完了し、企業や政府からの受注も増えているとのことだ。

水レジストジェットスラスタ(水蒸気式推進機)

水レジストジェットスラスタ(水蒸気式推進機)

水統合スラスタ(水蒸気式+水プラズマ式推進機)。大きさは9cm×9cm×12cm

水統合スラスタ(水蒸気式+水プラズマ式推進機)。大きさは9cm×9cm×12cm

近年では、超小型衛星によるコンステレーション構築の機運が高まっているが、打ち上げの際に、大型衛星との相乗りの場合希望する軌道が選べないことがある。また、重力や空気抵抗で高度が下がり衛星の寿命が短くなってしまう問題もある。そこで、高性能な推進機が求められている。経済産業省が令和2年度補正宇宙開発利用推進研究開発で、モジュール型の推進機の開発と実証を行う企業を公募したのもそんな背景からだ。Pale Blueはその審査に通り、予算を獲得できた。

今回調達した資金は、グローバルも含めたチーム強化、量産体制の構築や新たな研究開発に使われる。「圧倒的な安全性・価格競争力・持続可能性を持つ、水を推進剤とした超小型推進機の社会実装を加速させ、宇宙空間における新たなモビリティインフラを構築することで、地球周辺及び地球以遠における持続可能な宇宙開発に貢献します」とPale Blueでは話している。

金沢大学などが乳がん発症の超早期兆候を作り出す仕組み発見、がん予防・超早期がんの診断治療への活用に期待

金沢大学などが乳がん発症の超早期の兆候を作り出す仕組みを発見、がん予防・超早期がんの診断治療への活用に期待

金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構などによる研究グループは10月19日、乳がん発症の際に必ず表れる超早期の微小環境を作り出すメカニズムを発見したと発表した。癌予防、超早期がんの診断治療への活用、ひいてはがん撲滅への寄与が期待される。

乳がん発症の超早期には、間質細胞、免疫細胞などが集まり、がん細胞を取り囲む微小環境が作り出される。その微小環境から生み出されるサイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質)が、がん幹細胞様細胞に影響を与えていることはわかっていたが、実態は不明だった。この研究では、そのメカニズムを分子レベルで明らかにした。さらに、この微小環境がFRS2βといいう分子によって整えられ、がん細胞の増殖が始まることも突き止めた。

FRS2βの影響で炎症性サイトカインが生み出され、細胞外に放出されると、そこに間質細胞や免疫細胞が引き寄せられる。マウスを使った実験では、この状態の乳腺に乳がん幹細胞様細胞を移植すると、1カ月以内に大きな腫瘍ができた。だが、FRS2βのない乳腺に乳がん幹細胞様細胞を移植しても、まったく腫瘍はできなかった。

この研究を発展させることで、乳がん発症前に整えられる乳腺微小環境を標的とした治療が可能になり、乳がんの発症予防、早期治療が実現するという。

研究グループのおもなメンバーは、金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授、東京医科大学分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、東京大学医科学研究所の東條有伸教授(研究当時)、東京大学特命教授・名誉教授の井上純一郎教授、国立がん研究センター造血器腫瘍研究分野の北林一生分野長、九州大学病態修復内科学の赤司浩一教授、慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門の佐谷秀行教授ほか。

サイバーセキュリティのFlatt Securityが2億円調達、海外市場ターゲットのプロダクト「Shisho」開発を加速

サイバーセキュリティ事業やウェブエンジニアのための学習プラットフォーム「KENRO」(ケンロー)を提供するFlatt Securityは10月18日、第三者割当増資による約2億円の資金調達(一部借入を含む)を発表した。引受先はB Dash Ventures、フィンテック グローバル、事業会社1社。既存事業の収益と調達した資金により、海外市場を念頭に置いたセキュリティプロダクト「Shisho」(製品のβ版を提供中)の開発速度の向上を目指す。累計調達額は約4億5000万円となった。

Shishoは、グローバルで「組織内のプロダクト開発・運用業務とセキュリティ業務との分断の解消」を実現すべく開発されたプロダクト。技術的な核となる脆弱性の感知・修正エンジンをオープンソースソフトウェア(OSS)としてGitHub上で公開しており、製品のβ版の提供を10月6日より行なっている。

2017年5月設立のFlatt Securityは、サイバーセキュリティ領域を手がける東京大学発のスタートアップ。「セキュリティの力で信頼をつなげ、クリエイティブな世界を実現する」をミッションに掲げており、ユーザーのシステムに情報漏洩やデータ改ざんにつながる脆弱性がないかを調査する「セキュリティ診断」(脆弱性診断)やKENROを提供している。また、インターネット上で利用可能なソフトウェア・ハードウェアの脆弱性を調査する「脆弱性リサーチプロジェクト」を実施している。

もうビデオ会議用の服装に悩まずにすむ!? 東京大学が体形・姿勢にリアルタイムで対応する仮想試着システムを開発

もうビデオ会議用の服装に悩まない!? 東京大学が体形・姿勢にリアルタイムで対応する仮想試着システムを開発

東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻五十嵐健夫研究室は10月8日、多様な体形や姿勢にリアルタイムで対応する高品質な仮想試着システムの開発を発表した。オンラインショップなどでも仮想試着や、体を動かしても違和感のない映像が作られるため、ビデオ会議に仮想衣服を着用して参加するといったことが可能になるという。

既存の仮想試着システムの研究には、3D CGを用いたものや、画像ベースのものがある。しかし、CGでは写実的な画像の生成が難しく、画像ベースのものは、1つの深層学習モデルで異なる衣服の試着画像を生成するため、リアルタイムで高品質な画像を生成するのが難しい。それに対して、五十嵐健夫研究室が提案するシステムは、「特定の衣服の画像の生成に対象を絞って深層学習モデルを構築」するという手法でこれらの問題を克服した。

大まかな処理の流れはこうだ。試着者は、特別な柄の服(計測服)を着てカメラの前に立つと、深度センサー付きカメラで撮影される。その色と深度情報から、試着する服の画像が、服の部分と体の部分に分けられる。次に試着服の部分の領域分割を行い、画素の値に対応するラベル付き画像に変換される。そこから、深層学習モデルの一種である画像変換ネットワーク(画像を入力すると色づけなどの変換を施した画像が出力される)を使って試着する服の画像が生成される。それを試着者の体の画像と合成する。

ここで使われる画像変換ネットワークは、膨大な量の入力画像で訓練する必要があるが、入力画像と出力画像は、体形と姿勢が同一でなければならないため、人を使って行うのが極めて難しい。そこで同研究室では、この目的のために、人の体形(胴体の厚さと横幅)や姿勢を数値的に制御できるロボットマネキンも開発した。

もうビデオ会議用の服装に悩まない!? 東京大学が体形・姿勢にリアルタイムで対応する仮想試着システムを開発

写真左3枚が体形の変化。右4枚が姿勢の変化

これにより、計測服を着た試着者の画像から、衣服のサイズやポーズに応じた衣服の詳細な変形の様子をリアルタイムで画像に生成できるため、オンライショップでの試着や、テレビ会議で仮想的な衣服を着るといった応用が可能になる。今後は、長袖と半袖など構造的に大きく異なる衣服への対応、光源などが異なる撮影条件での制御、より自由度の高いマネキンの開発、生成画像向上のための計測服の最適化などに取り組んでゆくとしている。もうビデオ会議用の服装に悩まない!? 東京大学が体形・姿勢にリアルタイムで対応する仮想試着システムを開発

この研究結果は、10月10日にバーチャル開催されるるユーザーインターフェース分野の国際会議「ACM UIST 2021」にて発表される予定。

東京大学がシンクロダンスの練習支援システムSyncUp発表、コンピュータービジョン技術でポーズ・動きのズレ可視化

東京大学がシンクロダンスの練習支援システム「SyncUp」発表、コンピュータービジョン技術でポーズ・動きのズレを可視化

SyncUpインターフェース全体図。画面上部左にダンス動画、上部右はポーズのズレを可視化する動画上にオーバーレイを示している。掲載写真の例では、左腕がダンサー間で大きくずれているため、赤色のオーバーレイが表示されている。また画面下部では、ポーズと動きのタイミングのズレをグラフで示したものがユーザーに提示している

東京大学大学院工学系研究科の矢谷浩司准教授、周中一(ジョウ・ツォンガイ。Zhongyi Zhou)氏、徐安然(ズ・アンラン。Anran Xu)氏は9月28日、コンピュータービジョン技術を応用したシンクロダンスのポーズのズレを可視化する練習支援システム「SyncUp」(シンクアップ)の構築を発表した(SyncUp: Vision-based Practice Support for Synchronized Dancing)。

SyncUpは、コンピュータービジョン技術により抽出されたスケルトンデータをもとに、体の各部位の相対的な位置の差異を定量的に検出することで、ダンサー間のポーズの類似性を推定する。またシンクロダンスでは、常に全員が同じ動きをするとは限らない。その場合はどれだけ同期性が高いかシンクロ感が出る。そこで、各ダンサーがどのタイミングで体の部位を動かしているかも定量的に推定するアルゴリズムを実装しているという。つまり、体の動きとタイミングの両方の差異がわかる。

特別な機器は必要とせず、ダンスの練習動画をアップロードするだけで使えるため、アマチュアのダンサーにも気軽に利用できるとのことだ。タイミングや動きのズレは、グラフ化されると同時に、実際の動画の上にオーバーレイとしてズレている体の部位やズレの程度が示される。

東京大学がシンクロダンスの練習支援システム「SyncUp」発表、コンピュータービジョン技術でポーズ・動きのズレを可視化

オーバーレイの例。ポーズのズレの大きさに応じて色が変化する。赤色に近い色ほど、ズレが大きいことを示す

実験を行った結果、SyncUpの認識結果がダンサーの主観的な評価とおおむね一致したとのこと。練習の効率が上がるほか、ダンサー同士のコミュニケーションが円滑になるという。また実験では、この技術を応用して、うまく踊れた部分だけを自動抽出し、ハイライト動画を生成してSNSなどで公開する方法の可能性も確認された。

同研究科では、SyncUpを「人々の芸術的表現を支援する人工知能技術の新しい応用を示すもの」としている。

糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

糖尿病患者・予備群向けに、低侵襲・低コスト・簡便に週次GA(糖化アルブミンによる週次平均血糖)を在宅測定できるIoT血糖モニタリングサービス「GlucoReview」を開発するProvigateは、総額9億1000万円の資金調達を発表した。引受先はSparx Group、ANRI、Coral Capital。

調達した資金により、GAセンサーの量産化開発、臨床研究、製造販売承認の準備を進める。まずはクリニックや薬局向けの血液GA測定システムの製造販売承認を目指し、並行して家庭向けの開発も加速する。人材採用や、生産パートナー・販売パートナーなど業務提携・資本提携先の探索も進めているという。

2015年3月設立のProvigateは、糖尿病の発症・重症化予防のためのバイオセンサーとアプリの開発を進めるスタートアップ。東京大学病院との連携のもと、週次GA測定×アプリによる血糖モニタリングの社会実装・世界標準化の実現を目指している。低侵襲・低コスト・簡便に週次GAを在宅測定できる本体・使い捨てカートリッジ・アプリを提供することで、1~3カ月の通院間隔中の在宅自己血糖管理を力強くサポートするサービスを提供するという。

Provigateによると、糖尿病の発症・重症化予防の重要な要素の1つは、日常的な血糖モニタリングという。しかし、ほとんど重症患者にしか使われていないそうだ。これは、現在の自己血糖モニタリングデバイスが「痛い」「高い」「難しい」という課題を抱えていることに加え、大半の糖尿病患者に対して保険適用外であることも要因の1つとしている。国によって割合は異なるものの、例えば日本では1000万人の糖尿病患者の9割程度は自己血糖測定が保険適用ではないと推察できるそうだ。

つまり、糖尿病患者の大半は1~3カ月に1度の通院時にしか血糖を測定しておらず、日々変動する血糖を測定することなく血糖管理をしようとしているのが、今日の糖尿病患者の大半ともいえるという。

そこでProvigateでは、糖尿病患者・予備群の方に、低侵襲・低コスト・簡便に使える在宅血糖測定の手段を提供する事を目指しているとした。糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

Provigateが注目するのは、血糖の管理指標の1つであるグリコアルブミン(糖化アルブミン、GA)。GAは日本で開発され普及したバイオマーカーであり、直近1~2週間の平均血糖や食後高血糖の変化をよく反映することが知られているそうだ(Endocrine Journal 2010, 57 (9), 751-762)。主に病院や献血時検査で使われ、年間に約1200万回(うち約300万回は献血時GA検査)ほど測定されていると推定されるという(臨床病理 2018(66):37-48、臨床検査 2019(63):1406-1413)。糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

現在、GAはマイナーなバイオマーカーであり、平均血糖指標のスタンダードであるHbA1c(糖化ヘモグロビン)の補助的な診断指標との位置付けという。今日の糖尿病診療では通院間隔が1~3カ月であることもあって、糖尿病の長期的な状況を診断するにはHbA1cが優れており、レスポンスが早いGAは、例えば治療の開始時や治療薬を変えた時など、短期的な血糖の改善を見たい場合や、透析患者等HbA1cが安定しない症例に限られているそうだ。

しかしGAは、数日~1週間程度の血糖改善にレスポンス良く応答するため、週次で測定したときに初めてその真価を発揮するはずとしている。Provigate・東京大学医学部附属病院・陣内会陣内病院の研究チームは、このGAの本質的な特徴から週次平均血糖指標としての可能性に改めて着目し、GAをHbA1cの代替診断指標ではなく、家庭での「行動変容指標」として再定義した。

GAを用いれば、一般的な血糖計(SMBG)のように数時間おきに指先から採血をする必要はないとしている。近年急速に普及してきた連続血糖計(CGM)のようにセンサー針を皮下に留置する必要や、数カ月に1度通院してHbA1cなどの血液検査を受けるのを待つ必要もないという。

Provigateによると、GAであれば、週に1度の在宅測定で週次血糖変動をモニタリングし、過去1週間の生活習慣を振り返るだけでよいとしている。測定頻度が週1で良く、直近数時間の血糖値で大きく上下することなく、直近1週間の行動変容を反映して数値が滑らかかつ鋭敏に変化するので、低侵襲・低コスト・簡便な血糖測定の手段となることが期待されるそうだ。HbA1cが病院で測定する「期末テスト」であれば、GAは家庭で週次の生活習慣の努力成果を計測する「小テスト」のような役割を持つとしている。糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達糖尿病患者・予備軍向けに低侵襲・低コストで簡便に利用可能なIoT血糖管理サービスを目指すProvigateが9.1億円調達

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

東京大学大学院工学系研究科は9月17日、世界最軽量でもっとも薄い皮膚貼り付け電極を開発し、1週間の心電計測に成功したと発表した。詳細は、米科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要」オンライン版で公開されている。医療、ヘルスケア分野での病気や体調不良を早期発見するウェアラブルデバイスへの応用が期待されるという。

東京大学大学院工学研究科の王燕特任研究員、李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授を中心とする研究チームが開発したこの皮膚貼り付け電極は、シリコンゴムの一種であるジメチルポリシロキサンを、数層のポリウレタンナノファイバーで強化して作られたナノシート(厚さは100万分の1mm以下)。伸縮性があり、日常的な摩擦にも耐えられる。糊や粘着性ゲルを用いず、物理的な力「ファンデルワールス力」(ヤモリが壁にへばりつくのと同じ原理)で吸着するため、皮膚への負担が少なく、ガス透過性が増し、汗が溜まったり皮膚が蒸れたりかぶれたりすることが防げる。このナノシートの上に薄膜金を形成して電極にしている。

東京大学が皮膚に貼り付ける世界最薄100ナノメートル以下の電極で1週間の心電計測に成功

ナノシートは、糊や粘着性ゲルを用いず、物理的な力「ファンデルワールス力」(ヤモリが壁にへばりつくのと同じ原理)で吸着するため、皮膚への負担が少ないという。この上に薄膜金を形成して電極にしている

左は肌に貼り付けたところ。右は拡大写真

左は肌に貼り付けたところ。右は拡大写真

ゲルを使って貼り付ける電極では、1日以上貼り付けると乾燥してしまい、貼り付けた直後と同等の信号計測ができなくなる。このナノシートでは、貼り付けた直後と1週間後に、貼り付けたばかりのゲル電極と同等の信号計測ができた。

東京大学と日本気象協会が人工衛星から観測した「重い水蒸気」が天気予報の精度向上に寄与することを実証

東京大学と日本気象協会が人工衛星からのリモートセンシングで観測した「重い水蒸気」が天気予報の精度向上に寄与することを実証

東京大学生産技術研究所芳村研究室(芳村圭教授)は9月14日、日本気象協会と共同で、人工衛星から観測された大気中の水蒸気同位体の比率から気温や風速の予測精度を改善できることを、世界で初めて実証したと発表した。天気予報の精度向上に直接貢献できる可能性がある。

原子には、原子核を構成する陽子と中性子の数によって、軽いものと重いものとがあるのだが、同じ原子番号のもので、軽いの重いのをくるめたのが「同位体」だ。たとえば水素には、原子核に陽子が1つの軽水素、陽子と中性子とが1つずつの重水素、陽子1つと中性子2つの三重水素という3つの安定同位体(放射性のない同位体)がある。また酸素には一般的な質量数16のものに対してと0.2%ほどしか存在しない質量数18という「重い」ものがある。これらの重い同位体で構成される水分子の水蒸気が、「重い水蒸気」ということだ。

重い水蒸気同位体は、気体よりも液体、液体よりも固体に多く含まれる性質があることから、古くから地球上の水の循環の指標に使われてきた。東京大学生産研究所では、重い水蒸気同位体と軽いものとの比率の実測値と、大気大循環(地球規模の大気の循環)モデルを使ったシミュレーションによる推定とを組み合わせること(データ同化)で、気象予測の精度が向上するという理論を2014年に発表していた。

さらに2021年、人工衛星からの水蒸気同位体比の観測情報を得たと仮定して、それを同研究所が開発した全球水同位体大気循環モデル「IsoGSM」によるシミュレーション結果とデータ同化し確認したところ、実測データではないものの、10%以上改善できることがわかった。

そして今回、同研究所は、欧州の人工衛星MetOp(Meteorological Operational Satellite Program of Europe)に搭載された分光センサーIASI(赤外線大気探測干渉計)の実測データを入手しデータ同化を行った。すると、実際に気象に関連する数値の解析精度が向上していることが実証された。4月1日から4月30日までのIASIのデータを使い、データ同化した場合としなかった場合の予測を比較したところ、結果はデータ同化したものが、していないものの成績を上回った。

今後は、観測データを増やし、モデルの性能を高め、「どのような状況でどのような効果が得られるのか」を詳細に調べてゆくという。そうすることで、例えば、台風や線状降水帯など、極端現象の予測性能の向上に繋がる可能性もあると考えているとしている。

高度医療ロボのリバーフィールドが30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボのリバーフィールドが約30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧精密駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボット各種の開発を手がけるリバーフィールドは9月10日、第三者割当増資による総額約30億円の資金調達を発表した。引受先は、東レエンジニアリング、第一生命保険、MEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合(SBIインベストメント)をはじめ、事業会社、ベンチャーキャピタルなど。調達した資金により、同社独自の空気圧精密制御技術を用いた手術支援ロボットの上市を加速させる。

執刀医に鉗子先端にかかる力をリアルタイムで伝える力覚提示が可能な手術支援ロボットの上市を2023年1月に予定。またその他、次世代内視鏡把持ロボット、眼科用ロボットを2022年中に順次上市していく計画としている。

2014年5月設立のリバーフィールドは、大学で培ってきた技術を活かした医療ロボットを開発している大学発スタートアップ。東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の川嶋健嗣氏が創業者代表および会長、また東京工業大学准教授の只野耕太郎氏が代表取締役社長を務めている。

同社は、2003年から東京工業大学において手術支援ロボットの研究をスタート。当時、低侵襲外科手術支援用ロボットは優れたシステムである一方、操作を視覚に頼っており、触った感覚が操作者に伝わらないとの声が挙がっていたことから、空気圧システムによる精密駆動技術を手術支援ロボットに適用することでニーズに応えられると考えたという。

その後、先に挙げた力覚フィードバック実現のニーズと、研究室で有していた空気圧の計測制御技術のシーズを合わせ、空気圧駆動の手術支援ロボットを研究試作として完成させた。これらの研究成果を研究として終わらせず、社会・医療現場に実際に役立てたいとの思いから同社を起業したという。