セーフィーのウェアラブルカメラSafie Pocket2を千葉県八千代市消防本部が試験導入、訓練形式の人命救助実証試験

セーフィーのウェアラブルカメラ「Safie Pocket2」を千葉県八千代市の消防本部が試験導入、訓練形式の人命救助実証試験

クラウド録画サービスを展開するセーフィーは3月8日、ウェアラブル・クラウドカメラ「Safie Pocket2」(セーフィー ポケット ツー)が千葉県八千代市の消防本部に試験導入され、訓練形式の人命救助実証試験を実施したことを発表した。千葉県は近年、豪雨による甚大な被害を受けたことから、その経験を教訓として活かし「災害に強いまちづくり政策パッケージ」を策定、最新テクノロジーを積極的に採り入れている。

Safie Pocket2は、バッテリーとSIMを搭載し、電源を入れるだけで現場と本部とを映像と音声で結ぶことができる小型カメラ。2021年3月にも、キヤノンマーケティングジャパン、シーデーシー情報システムと連携して行われた千葉市の災害対策実証試験において採用された。これまで数回にわたる実証試験を通してSafie Pocket2の仕様と機能は最適化され、災害現場の状況を正確に迅速に把握できるようになっている。

この実証試験で検証できた内容は、以下の4つ。

要救助者の重症度などの状況を現場と本部とでリアルタイムに共有

隊員のカメラとドローンの映像を組み合わせて本部が状況確認・情報共有し、活動方針を判断。担架で運び出される救助者の様子を接写映像で把握。他機関とも映像をリアルタイム共有して連携した。

要救助者を遠隔からフォロー可能に

要救助者が閉じ込められた狭い空間に隊員が入り、内部の詳細な状況を収集・伝達。音声だけでは伝わりにくい状況を映像で共有。救助されるまでの間、要救助者とカメラを通して声かけし、監視した。

カメラの位置情報を確認し、各活動場所にいる隊員に的確な指示出し

災害現場に投入した消防力を確認しつつ、隊員を適正に配置した。

隊員による消防活動の行動の振り返りに利用

事後検証、隊員の教育にカメラの映像を利用した。

また、火災現場では無線機やマイクが水滴や粉塵で使えなくなってしまうことがあるが、Safie Pocket2なら現場の状況を「映像と音声の二軸で判断」でき、通常業務に支障をきたすことがなかったとのことだ。セーフィーのウェアラブルカメラ「Safie Pocket2」を千葉県八千代市の消防本部が試験導入、訓練形式の人命救助実証試験

沿岸部などに住む人のために正確に住宅のリスクを予測する保険会社Kin Insuranceが約94億円調達

カリフォルニアの家とネブラスカの家では、保険のニーズが異なる。Kin Insurance(キンインシュアランス)は、データとテクノロジーによって、保険に加入しにくい家の最適な保険加入方法を判断できると考えている。

シカゴを拠点とする消費者直販の住宅保険会社Kin Insuranceが400万ドル(約4億6000万円)を調達してから数年が経つが、CEOのSean Harper(ショーン・ハーパー)氏はTechCrunchに、1100億ドル(約12兆6400億円)の住宅保険市場のうち、半分の住宅は異常気象や火災にさらされる地域にあると語った。

「そういう場所に移住する人が増えているため、大きな保険需要があります」とハーパー氏は付け加えた。「米国には、防波島やこれまで洪水が度々起こっている平野のような、住むべきでない場所があります。しかし、そこに住むことを選択すると、保険は高額になります。技術の特殊ソースを使うことで、郡は広大で、すべての家を同じ筆で描くべきでないということをうまく理解できます」。

Lucas Ward(ルーカス・ワード)氏、Jason Heidkamp(ジェイソン・ハイドカンプ)氏、Sebastian Villarreal(セバスチャン・ビラレアル)氏と共同で会社を設立したハーパー氏は、従来の保険会社は、どの家がリスクがあり、どの家がそうでないかを判断するのに必要なデータを持っていないため、往々にして大胆な価格設定になり、結果として引受額が高くなると説明する。

しかし、データを使ってリスクを正確に見積もることで、Kin Insuranceの引受額は常に最安値とは限らなくとも平均すると結果的に安くなる。これは、同社がリスクの細分化に優れており、代理店のようにテクノロジーを使ってコストの一部を排除しているためだ。代理店を通して保険を販売する場合、継続的に保険料総額の20%のコストがかかると同氏は推定する。

また、ハーパー氏は、50年前はローカルの代理店を持つことが理にかなっていたが、テクノロジーの進歩により、保険会社が消費者に直接アプローチすることができなくなり、電子メール、テキスト、チャット、電話などで同様の顧客サービスを提供することができるようになったとも話す。

2021年4月にシリーズCで8000万ドル(約92億円)の資金を調達したKin Insuranceは、特別目的買収会社Omnichannel Acquisition Corp.と合併して上場する予定だった。しかし1月、同社はこの取引を進めないことを決定したとハーパー氏は述べた。

「株式公開の市況が良くなかったことも理由としてあります。SEC(米証券取引委員会)の手続きを踏みましたが、テック企業にとって1年前のような市場ではありませんでした。将来、再びテック企業にとって良い市場になるときが来るでしょうし、Kinも上場するでしょう」と同氏は付け加えた。

同社が非公開にするかどうかを決定する間、非公開を選んだ場合に備えてベンチャーキャピタルは列をなしていた。

同社は3月1日、シリーズDラウンドで8200万ドル(約94億円)を調達したと発表したが、ハーパー氏は1億ドル(約115億円)で正式にクローズすると予想している。QED Investorsが同ラウンドをリードし、既存投資家のCommerce Ventures、Flourish Ventures、Hudson Structured Capital Management Ltd.(HSCM Bermuda)、Alpha Edison、Allegis NL Capital、Avanta Ventures、August Capital、そして新規投資家のGeodesic CapitalとPROOF.VCも参加した。ハーパー氏によると、Kin Insuranceはこれまで株式で1億3300万ドル(約152億円)、負債で5000万ドル(約57億円)を調達した。

同社は、急成長を遂げているインシュアテック企業の1社で、同社の保険料は2020年の2500万ドル(約28億円)から2021年には1億500万ドル(約120億円)に増加し、それに伴い新たな資本が集まっている。その成長軌道は2022年も続き、2022年の保険料は2億5000万ドル(約287億円)超に達するとハーパー氏は予想している。

この1年で保険料が増えたのに加え、同社は従業員数を2021年初頭の250人から450人にまで増やした。

同社はすでにフロリダ、ルイジアナ、カリフォルニアで事業を展開していて、ハーパー氏によれば、この3州だけで250億ドル(約2兆8700億円)近い保険市場となっている。今回の資金調達で、2022年さらに6州に進出できるという。同社はマーケティング、データサイエンス、テクノロジーへの投資にも注力する予定だ。

「保険金請求に関するデータが増えれば、引受額の精度が向上します」とハーパー氏は付け加えた。「それが、従来企業と当社の引受方法の大きな違いであり、その違いを広げたいのです」。

画像クレジット:Kin Insurance / Kin Insurance co-founders Lucas Ward and Sean Harper

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

スペースX、スターリンク衛星コンステレーションによるサービスをインターネット断絶のトンガに提供すべく活動中

SpaceXがStarlink衛星コンステレーションによるサービスをインターネット断絶のトンガに提供すべく活動中

New Zealand Defense Force via Getty Images

SpaceXは、1月15日に発生した大規模噴火で甚大な被害を受けたトンガのインターネット環境回復のために、Starlinkの衛星コンステレーションによるブロードバンドサービスを提供すべく協力していると報じられています。

現在、SpaceXはフィジーに衛星インターネット通信局を設置している最中で、ここを中継点としてトンガへインターネット回線を延伸させようとしているとのこと。インターネットが通じたとしてトンガの人々がどのようなサービスを期待すれば良いかはよくわかりませんが、現在世界25か国でパブリックベータサービスを提供しているStarlinkサービスにとって、トンガやフィジーへの接続は、回線敷設の手間が大きく省ける衛星ブロードバンドの利点を広く宣伝する良い機会になると考えられます。

噴火で途切れた海底インターネットケーブルの復旧にはまだ数週間ほどかかるとされており、トンガ政府にそれまで通信環境の回復を待てない事情があるのであれば、SpaceXにさらなる支援を求めることもありそうです。また海底ケーブル復旧後も今回の災害のような不測の事態に備えるためのバックアップとして、衛星インターネット環境はトンガのような絶海の島国でこそ求められるインフラとも言えそうです。

ただし、トンガは1月下旬に契約の解釈のもつれからサービスを提供していなかった衛星通信企業Kacific Broadband Satellitesに対して通信開通の許可を出しており、SpaceXがそこへ割り込む格好になることであらぬ競争が発生することになる可能性もないわけではありません。

(Source:Wall Street JournalEngadget日本版より転載)

スペースX、スターリンク衛星コンステレーションによるサービスをインターネット断絶のトンガに提供すべく活動中

SpaceXがStarlink衛星コンステレーションによるサービスをインターネット断絶のトンガに提供すべく活動中

New Zealand Defense Force via Getty Images

SpaceXは、1月15日に発生した大規模噴火で甚大な被害を受けたトンガのインターネット環境回復のために、Starlinkの衛星コンステレーションによるブロードバンドサービスを提供すべく協力していると報じられています。

現在、SpaceXはフィジーに衛星インターネット通信局を設置している最中で、ここを中継点としてトンガへインターネット回線を延伸させようとしているとのこと。インターネットが通じたとしてトンガの人々がどのようなサービスを期待すれば良いかはよくわかりませんが、現在世界25か国でパブリックベータサービスを提供しているStarlinkサービスにとって、トンガやフィジーへの接続は、回線敷設の手間が大きく省ける衛星ブロードバンドの利点を広く宣伝する良い機会になると考えられます。

噴火で途切れた海底インターネットケーブルの復旧にはまだ数週間ほどかかるとされており、トンガ政府にそれまで通信環境の回復を待てない事情があるのであれば、SpaceXにさらなる支援を求めることもありそうです。また海底ケーブル復旧後も今回の災害のような不測の事態に備えるためのバックアップとして、衛星インターネット環境はトンガのような絶海の島国でこそ求められるインフラとも言えそうです。

ただし、トンガは1月下旬に契約の解釈のもつれからサービスを提供していなかった衛星通信企業Kacific Broadband Satellitesに対して通信開通の許可を出しており、SpaceXがそこへ割り込む格好になることであらぬ競争が発生することになる可能性もないわけではありません。

(Source:Wall Street JournalEngadget日本版より転載)

スペースX、地磁気嵐でスターリンク衛星40基を失う

SpaceX(スペースX)のFalcon 9ロケットで米国時間2月3日に大気圏外に運ばれたインターネット衛星Starlink(スターリンク)のほぼすべてが、目的の軌道に達しない。SpaceXは、打ち上げの翌日に発生した地磁気嵐により衛星に深刻な影響があり、最大で40基が地球の大気圏に再突入するか、すでに突入していることを明らかにした。米地質調査所は、地磁気嵐を、一般的に太陽風の強いうねりによって引き起こされる「急激に磁場が変動する」期間と説明している

こうした嵐は、電子機器や軌道上の人工衛星にダメージを与える可能性がある。今回のケースでは、大気が暖み、大気抵抗(衛星の動きに対する摩擦)がこれまでの打ち上げに比べて最大で50%増えた。SpaceXの説明によると、Starlinkチームは、新たに配備された衛星を救おうと、抵抗を最小限に抑えるためにセーフモード(紙のように飛ぶよう動きを調整するモード)にした。しかし、抵抗が増し、セーフモードを終了できなくなった。

軌道から外れた衛星は衝突の危険はなく、大気圏に再突入する際に完全に燃え尽き、軌道上のデブリも発生しない、とSpaceXは説明している。また、衛星の部品が地上に落下することもない見込みだ。「この特殊な状況は、Starlinkのチームが、軌道上のデブリ軽減の最先端を行くシステムを確実なものにするために、多大な努力を払ってきたことを示しています」と同社は発表文に書いている。

SpaceXは2022年1月時点で、第1世代のStarlink衛星を2000基以上打ち上げている。Starlink衛星をペイロードとする打ち上げは、同社にとって日常的なものとなっていて、世界をカバーするインターネット提供を目的とした最大3万個の衛星からなる第2のコンステレーション形成が承認されれば、さらに頻繁に行われるようになるはずだ。

Starlinkは遠隔地にいる人々にもインターネット接続を提供することができるが、天文学者たちは、巨大なコンステレーションは都市の光害よりも研究にとって深刻な脅威になっているという。実際、国際天文学連合は「衛星コンステレーションの干渉から暗くて静かな空を守るためのセンター」を設立したばかりだ。望遠鏡が衛星コンステレーションによって反射された光を拾い、宇宙の観測を困難にすることが大きな問題であるため、センターは観測所が実行できるソフトウェアや技術的な緩和策に焦点を当てることにしている。SpaceXは2020年にStarlink衛星に「サンシェード」を追加し、明るさを抑えている。Sky & Telescopeによると、現在は確かに暗く見えるが、望遠鏡ではまだ見えるという。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のMariella MoonはEngadgetの共同編集者。

画像クレジット:Starlink

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(文:Mariella Moon、翻訳:Nariko Mizoguchi

海賊、麻薬、汚染、違法漁業など海上監視に最適化された産業ドローン用AI特化のTekeverが約26億円調達

産業用ドローンは、消費者が余暇に楽しむ無人航空機を事業用に補完するものである。その市場は、バッテリー寿命やリーチ、パフォーマンスを向上させるソフトウェアおよびハードウェアテクノロジーの新しい波と、データオペレーション活動の強化を目的にこれらのサービスに投資する企業の増加を追い風に、急速に拡大している。米国時間1月25日、海上展開向けドローンのAI開発に特化した企業が、そのデバイスとサービスに対する強い需要を見据えて、資金調達ラウンドを発表した。

水上の活動を監視および検知するAIを組み込んだドローンを手がけるTekever(テクエバー)が、2000万ユーロ(現在のレートで2300万ドル[約26億円]弱)を調達した。このラウンドをリードしたのはVentura Capital(ベンチュラ・キャピタル)で、Iberis Capital(イベリス・キャピタル)と海洋産業からの複数の匿名の戦略的投資家が参加した。同社は今回調達した資金を、人材の雇用拡大とテクノロジー開発の継続に活用する予定である。

歴史的な海洋大国ポルトガルのリスボンに本拠を置くTekeverは、2001年に設立され、2018年から商用サービスを開始した。だが同社はすでにかなりの期間にわたって収益性を確保しており、今後3年間でCAGR(年平均成長率)60%の成長を見込んでいる。そして実際、これは同社にとって初めての外部資金調達であり、ビジネス機会の増大にともない、テクノロジーの拡張、そしてより広範な組織への販売を視野に入れたものである。

Tekeverの顧客には、違法行為に備えて水域を監視する目的で同社のサービスを利用している各国政府および政府機関が含まれる。また、民間の船舶会社やその他の海洋関連会社も、気象パターンや水上交通など、事業にインパクトを与える可能性のある物理的活動をドローンで追跡している。

Tekeverを創業したのはインテリジェンスとAIの専門家チームで、共同創業者兼CEOのRicardo Mendes(リカルド・メンデス)氏は、自社を垂直統合ビジネスとして位置づけている。同社はドローンと塔載テクノロジー両方の設計と構築を手がけており、そのテクノロジーは、機体の下に広がる水上で起きていることの監視と「読み取り」、さらには次に何が起こるかの予測を行う。

垂直統合されたドローン会社はそれほど珍しいものではないが、より独自性のある側面として、Tekeverがそのスタックを構築した順序を挙げることができる。

「私たちは、ドローン業界の他のどの企業とも正反対の方向からスタートしました」とメンデス氏は冗談交じりに語った。同社はまず地形(同社の場合は水域)を読み取るテクノロジーの構築に着手し、その後、自社のソフトウェアを動作させる目的に適したドローンを構築した。それには機体自体に組み込まれる特別仕様のアンテナ、センサー、電力機能などが含まれている(このことは、現時点では、同ソフトウェアが他の航空機で動作することを本質的に不可能にしている)。一方でこのソフトウェアは、エッジAI、衛星通信、クラウドコンピューティングを組み合わせて使用するように設計されている。

ドローン専用のハードウェアを自前で構築するのは難しい(そして費用がかかる)。しかし、それは同社にとって意図されたものであった。Tekeverは両方のコンポーネントを販売しているが、最も広く展開されているのは、自社フリートのオペレーション、そして「Atlas(アトラス)」というブランド名の、メンデス氏が筆者に「サービスとしてのインテリジェンス」と形容した、ドローンを使った監視サービスの販売である。同氏によれば、このアプローチは同社のプロダクトを可能な限り広範にアクセス可能にするために特別に取り入れられたもので、翼幅2メートルから最大8メートル、飛行時間が20時間にも及ぶドローンは、最大規模の顧客以外にはコストが高すぎることが背景にあるという。

「私たちが答えを出そうとした問いは『富裕国に限らず、世界中で手軽にこれを利用できるようにするには、何をする必要があるだろうか』というものでした」と同氏は語っている。「ドローンはバリューチェーンの一部にすぎません」。

Tekeverがどのように利用されているかの例として、欧州海上保安庁(EMSA)と英国内務省の両方が顧客である一方、アフリカの小さな共和国も顧客に含まれている。こうした機関では、海賊行為、麻薬、人身売買、移民の密入国、汚染、違法漁業、インフラの安全上の脅威に関与する船舶を監視する目的で、同社のテクノロジーが幅広く使用されている。

The Guardian(ガーディアン)紙が最近報じたところによると、欧州の政府機関は難民グループの監視体制強化に向けて、ドローンやその他の軍事技術に数百万ユーロ(約数億円)を投資しているという。これらの投資は不法移民を抑止するものではなく、脆弱な人々に対してさらに危険なルートを取るよう促すだけであるという明確なメッセージがそこには記されている。この分野の他の企業の中には、Anduril(アンドゥリ)のように、彼ら自身の論争を踏み台にして莫大な金銭的報酬を得ていると思われる企業もある。しかし、TekeverのCEO兼創業者は、自身の会社が市場の特定の技術的ギャップを埋めるということだけではなく、その利用は害をもたらすよりも利益をもたらすものであることを確信している。

関連記事:Oculus創業者が起ち上げたAI防衛企業Andurilの評価額が約5000億円超に

「海のような広大な領域では、何が起きているのかわからないことが多く存在します」と同氏はいう。一般的に、組織は水上で起きていることの状況把握を衛星画像に頼ってきたが、ほとんどの衛星画像はユーザーが見るときには数日経過しているため、その方法は理想的ではない。「漁業、密輸、人身売買、移民、これらはすべて、リアルタイムのインテリジェンスが必要な分野です。当社のソリューションは単なる映像にとどまらず、問題解決の糸口になるものです。その目的は、悪い事象が発生する前に行動できることに置かれています」。Tekeverは予測的アナリティクスも使用しているため、何が起こるかを予見することができる。

「私たちが行っているのは、問題発生時にその問題を解決する膨大な量のデータを収集することです」と同氏は述べ、対応に5分余分に時間がかかっただけでも、水の状態が変化する速度のために違いが生じる可能性があると指摘した。例えば、英国内務省の場合、イギリス海峡で移民船を特定し、彼らを岸まで送る手助けをし、潜在的な悲劇的事故を回避することが優先事項の1つであると同氏は指摘した。「メディアは移民問題そのものに焦点を当てていますが、これは大きな人道的問題でもあると思います」と同氏は語る。

Tekeverが今後、そのテクノロジーを発展させる可能性のある方法は山ほどある(方法の海であふれている、ともいえようか)。水域を観察してその意味を理解するには膨大なデータを処理する必要があるが、同時にそれによって同社は大量のデータセットを利用できるようになる、とメンデス氏は説明する。遠洋航海用船舶に搭載されているライダーやレーダーで識別するような、海底での活動を読み取ることはまだできていない。だが同社はこの分野を開拓し始めている。他にも、原油流出の特定と分類が考えられる、と同氏は述べている。

Tekeverは現在、メンデス氏が筆者に「ブルーエコノミー」と表現したものに注力しているが、同社はまた地上においても地歩を固めつつある。その焦点は、極めて複雑な地形を観察する新しい方法の創造を追求し続けることに置かれているようである。同氏はさらに取り組みたい分野として、森林、特に熱帯雨林に言及している。同社は数年前にブラジルのドローン会社Santos Lab(サントス・ラボ)に投資しており、その分野に足場を築いている。

「Tekeverはとても型破りなUAS(無人航空機システム)企業であり、卓越したテクノロジー、何千時間ものオペレーション経験、経験豊富なリーダーシップチーム、そして急成長する市場において驚異的かつ収益力が強いビジネスビジョンを有するマーケットリーダーです」とVentura CapitalのマネージングパートナーであるMo El Husseiny(モ・エル・ハッシニー)氏は声明で述べている。「これらの特性は、VenturaがTekeverをフラッグシップ投資として位置づけた背景をなす要素であり、テクノロジー分野のディスラプターで構成される私たちのポートフォリオと整合するものです」。

「Tekeverは欧州で最も注目されているディープテックスケールアップの1社であり、このチームと協働し、彼らがグローバル市場のディスラプションを創出するのを支援していくことを大変誇りに思います」とIberis CapitalのパートナーであるDiogo Chalbert Santos(ディオゴ・チャルバート・サントス)氏は続けた。「Tekeverがすでに自力で成し遂げていることは驚くべきものであり、今回のラウンドで空は果てしなく広がる(可能性は無限に広がる)といえるでしょう」。(サントス氏は言葉遊びを使わずにはいられないようで、私の心にかなった投資家の1人である)。

画像クレジット:Tekever AR5

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

みんなの銀行、トンガ王国支援の取り組みとして「みんなのCheer Box」と「みんなのCheerコード」を開始

スマートフォンで完結するデジタルバンク「みんなの銀行」(Android版iOS版)は、火山噴火の被害を受けたトンガ王国を応援する「トンガにつなげよう、Cheer Box」と「トンガにつなげよう、Cheerコード」という2つの取り組みを1月25日に開始した。みんなの銀行、トンガ王国支援の取り組みとして「みんなのCheer Box」と「みんなのCheerコード」を開始

「トンガにつなげよう、Cheer Box」は、誰か応援したい人を、「みんなの銀行」アプリの目的別貯蓄機能である「Box」を利用して支援できるシステム「みんなのCheer Box」の特別版。自分で口座にBoxを作り、それに「トンガにつなげよう」の9文字を含む名前を付けると、そこから日ごとの末残平均の1%が寄付される(1円未満切り捨て。顧客の口座からお金が引き落とされることはない)。計算期間は2022年1月25日~3月31日。寄付先は、日本財団「トンガ救援基金」。

「トンガにつなげよう、Cheerコード」は、「お友だち紹介プログラム」を応用したもの。みんなの銀行に口座を開くときに、対象コード「PjWTNkfZ」を入力すると、トンガ王国に1500円が寄付され、利用者の口座にも応援特典として1500円が入金されるというものだ。

こちらも計算期間は3月31日まで。寄付先は、日本財団「トンガ救援基金」となる。

みんなの銀行は、1月18日に利用者から寄せられた「口座からスグに義援金を振りだせる仕組みがあったらスゴい」との意見に「奮い立たされ」てこれを開始した。「みんなに価値あるつながりを。」とのミッションを掲げるみんなの銀行は、その思いをトンガ王国に「つなぐ」取り組みとして形にしたとのことだ。

情報通信研究機構(NICT)が世界最高性能の分解能15センチの航空機搭載用合成開口レーダーを開発、技術実証に成功

情報通信研究機構(NICT)が世界最高性能の分解能15センチの合成開口レーダーを開発、技術実証に成功

情報通信研究機構(NICT)は、分解能15cmの航空機搭載用の合成開口レーダー「Pi-SAR X3」(パイサー・エックススリー)を開発し、実証実験に成功した。2008年に開発した「Pi-SAR2」の分解能は30cmだったので、その2倍の性能となる。高精細画像が得られるようになり、自然災害時の被災状況のより詳細な把握や、効果的な救助活動や復旧作業に貢献できるという。

合成開口レーダー(SAR)とは、航空機や人工衛星などに搭載し、移動することで仮想的にレーダー直径(開口面)を大きくする仕組みのレーダーのこと。電磁波を送受信し、主に地表の観測に使われている。NICTの合成開口レーダーでは、X帯の電波(8〜12GHz)を使用しているが、Pi-SAR X3ではそのうち、従来の2倍となる9.2〜10.2GHzの帯域を使用。帯域幅を拡大することで、分解能を向上させた。また、観測データの記録装置は、従来比で書き込み速度は10倍、容量は8倍となった。2021年12月に能登半島上空で初めて行った試験観測では、田んぼに残されたトラクターの轍(わだち)もはっきりと写し出され、その高い性能が示されている。

2021年12月にPi-SAR X3で観測された輪島市近郊の画像と白枠内(田圃)の拡大図。拡大左図:15cm分解能、拡大右図:30cm分解能(Pi-SAR2相当)。Pi-SAR X3は、Pi-SAR2では計測困難だった田圃内の轍(わだち)を鮮明に観測することに成功。地震などで発生する地表面の変化をこれまで以上に詳細に観測可能となった

2021年12月にPi-SAR X3で観測された輪島市近郊の画像と白枠内(田圃)の拡大図。拡大左図:15cm分解能、拡大右図:30cm分解能(Pi-SAR2相当)。Pi-SAR X3は、Pi-SAR2では計測困難だった田圃内の轍(わだち)を鮮明に観測することに成功。地震などで発生する地表面の変化をこれまで以上に詳細に観測可能となった

今後はシステムの最適化による性能の向上を目指し、2022年度からは、地震などの自然災害のモニタリング、土地利用、森林破壊、海洋油汚染、海洋波浪、平時の火口観測などの環境モニタリングに関する技術の高度化を実施する予定とのこと。

地球温暖化が進み気温が4度上昇すると、「大気の川」による「経験したことのない大雨」が春には約3倍に増えると判明

地球温暖化が進み気温が4度上昇すると、「大気の川」による「経験したことのない大雨」が春には約3倍に増えることが判明筑波大学は1月18日、熱帯から中緯度へと大規模な水蒸気が川のように流れ込む現象「大気の川」(atmospheric river)と東アジアでの豪雨との関係を、気象庁気象研究所との共同研究で明らかにした(筑波大学生命環境系 釜江陽一助教、気象庁気象研究所 川瀬宏明主任研究官)。気温が4度上昇すると、大気の川によって生じる「経験したことのない大雨」は、春には約3倍に増えるという。

北米西岸や欧州では、大気の川が豪雨を引き起こすことはわかっていたが、それ以外の地域で大気の川が生じるメカニズムや、地球温暖化が進行したときの活動の変化に関する理解は進んでいなかった。これまでに研究グループは、東アジアにおける過去60年間の日々の大気の川の振る舞いを調査し、降雨強度のデータとの比較を行い、その発生頻度と強度を明らかにした。また、大気大循環モデルを用いた大規模アンサンブル実験で、地球温暖化が進行すると、大気の川がより頻繁に東アジアを通過するようになることも突き止めていた。

東アジアを通過する「大気の川」の例。2021年4月3日21時に北日本に接近した温帯低気圧(等値線)に伴って、大量の水蒸気が流れ込む(色と矢印)「大気の川」(赤線の範囲)が通過した際の様子

東アジアを通過する「大気の川」の例。2021年4月3日21時に北日本に接近した温帯低気圧(等値線)に伴って、大量の水蒸気が流れ込む(色と矢印)「大気の川」(赤線の範囲)が通過した際の様子

これらの成果を踏まえ、研究グループは、東アジアを対象とした高解像度(水平解像度20km)の地域気候モデルを用いた解析により、大気の川たもたらす豪雨の特性が、地球温暖化によってどう変化するかを調査した。その結果、現在よりも気温が摂氏4度上昇すると、豪雨の発生頻度が、春には約3.1倍、夏には約2.4倍に増えることがわかった。

水平解像度20kmの地域気候モデルを用いた、春季におけるシミュレーション結果例。地球温暖化時に豪雨に相当する強い雨の頻度が増え(左図)、そのうちの大部分が「大気の川」によってもたらされる(右図)

水平解像度20kmの地域気候モデルを用いた、春季におけるシミュレーション結果例。地球温暖化時に豪雨に相当する強い雨の頻度が増え(左図)、そのうちの大部分が「大気の川」によってもたらされる(右図)

大気の川は、標高の高い山地の南西斜面にぶつかり強い雨を降らせる。その際の降雨強度を検証すると、気温が4度上昇した地球温暖化時に発生する豪雨のうち、春は77%、夏は46%が大気の川によって生じるものであることもわかった。北アルプスの上空を通過する水蒸気の流れは、地球温暖化時には「経験したことのない大雨」を振らせるが、その大部分が大気の川の通過によるものとなる。特に台風の接近が少ない春においては、「経験したことのない大雨」のうち大気の川によるものの割合は89%にのぼるという。

この研究により、地球温暖化にともない「経験したことのない大雨」が増えることが予測され、そこに大気の川が重要な役割を果たすことが、世界で初めて解明された。大気の川がもたらす降水特性について、また台風や線状降水帯との相互作用について解明を進めることで、豪雨災害の予測の精度を向上させ、対策に役立てることができるということだ。

画像クレジット:Clay LeConey on Unsplash

【コラム】ヒートアイランド現象による影響を軽減するため、今、世界はAIを活用すべきだ

人類がこのまま何もしなければ、地球の温暖化はあとわずか数十年の間に少なくとも過去3400万年間前例のないレベルにまで達し、氷河が溶け、洪水がかつてないほど発生し、都市の熱波が我々に悲惨な影響を与えることになる。

米海洋大気庁によると、2021年には米国だけでもすでに18件の気候関連の異常災害が発生しており、それぞれに10億ドル(約1149億円)を超える損害が発生しているという。

世界中で起きた自然災害を結果や頻度の観点から見ると、洪水や地震は人や経済により大きな影響を与えるのものの、熱波よりも発生頻度は低い。熱波は一般的に都市ヒートアイランド現象(UHI)の形で発生し、ヒートポケットとも呼ばれているが、これは都市中心部の気温が周辺部より高くなる現象である。

都市部が急速に温暖化する中、世界各地のさらに多くの人々がヒートアイランド現象による致命的な被害を受けており、都市公衆衛生における格差が浮き彫りになっている。世界保健機関によると、2000年から2016年の間に熱波に影響を受けた人の数は1億2500万人急増し、1998年から2017年の間に16万6000人以上の命が奪われているという。

米国の市当局は現在、住民の中でも特に弱い立場にいる人々の生活レベルや状況が猛暑によって低下することを懸念しているが、影響を軽減するために活用できるようなデータは用意されていない。

デザイン主導のデータサイエンス企業で働く私は、組織のための持続可能なソリューションの構築や、ビジネス、社会、社会経済の複雑な問題は、高度な分析、人工知能(AI)技術、インタラクティブなデータ可視化を用いて解決できることを知っている。

とはいうものの、こういった新テクノロジーは、公衆衛生の専門家、企業、地方自治体、コミュニティ、非営利団体、技術パートナーの協力なくしては展開することができない。この分野横断的な介入こそが、テクノロジーを民主化し、都市ヒートアイランド現象の惨状を改善する唯一の方法なのである。それでは前述のプレイヤーは、都市ヒートアイランド現象を軽減するためにどのようにして協力しているのだろうか。

どの国が大きく貢献しているかを把握する

世界中のあらゆる企業、政府、NGOが熱波による問題の解決に取り組んでいる。

しかし、カナダでは1948年から2012年の間に平均1.6℃の上昇と、世界平均の約2倍の温暖化が進んでいるため、AIを使った熱波予測にはどこよりも力を入れている。もともとカナダの都市はテクノロジー主導で技術に精通しているため、世界中の都市はカナダの綿密な分析と革新的なアイデアから学べることが多くあるだろう。例えば、MyHeatは各建物における太陽光発電の潜在性を追跡し、熱波を持続可能なエネルギーの創出に利用している。

ヘルシンキやアムステルダムなどの欧州の都市もこの課題に積極的に取り組んでいる。EUの資金提供を受けているAI4Citiesは、カーボンニュートラルを加速させるAIソリューションを追い求めている欧州の主要都市を集結させるためのプロジェクトである。資金総額は460万ユーロ(約6億円)で、選ばれたサプライヤーに分配される予定だ。

こういったプロジェクトがAIを活用して気候変動問題を解決しようとしているが、二酸化炭素排出量の削減などのニッチな分野に集中して注目されているのが現状だ。気候変動の影響ではなく、原因の軽減に焦点が当てられているのである。

そのため、熱波の影響は依然として未解決のまま手つかずの状態だ。これは、すぐに甚大な被害をもたらす洪水など他の自然災害の方が注目されやすいからでもあるだろう。熱による不快感、エネルギー使用量の増加、停電などの問題を忍ばせたサイレントキラーとも言える熱波。最大の課題は、熱波に立ち向かうためのテクノロジーが自治体やNPOにオープンにされていないということだろう。

AIを用いたソリューションを活用

回復力のある都市を構築し、気候リスクを軽減することを目的とした非営利団体Evergreenとの協働を通じて、私たちはカナダの都市ネットワークを紹介された。調査と研究を重ねた結果、洪水や地震に対しては多くのデジタルインフラやデータ駆動の政策が存在しているが、熱波に対してはまったくと言っていいほどソリューションがないことが判明した。

依然として未解決の問題が多い熱波だが、拡張性の高いツールであるAIが都市に情報を提供し、それにより根拠に基づいた意思決定を行うことができたらどれだけ効果的だろうか。

Evergreenは地理空間解析、AI、ビッグデータを、MicrosoftのAI for Earthによる助成金で作成したデータ可視化ツールとともに使用して、あらゆる都市における都市ヒートアイランド現象を調査したさまざまなデータセットを統合・解析している。これにより自治体は、不浸透性の表面を持つエリアや植生の少ない問題地域をピンポイントで特定し、日よけの屋根や水飲み場、緑の屋根を設置することでヒートアイランドの影響を緩和することができるのである。

Microsoft Azure Stack上に構築された、AIを活用した解析・可視化ツールはさまざまな機能を備えている。マップ(地形図)を活用すれば地上30メートルブロックごとの地表温度を取得することができ、建物の数や高さ、アルベド値など、都市スプロールのパラメータを変更して将来の都市スプロールのシナリオを生成できるシナリオモデリングビューもある。

温室効果ガスをトラッキングできるこの多目的ツールは、すでにカナダ国内の気候変動に対する自治体の取り組みに良い影響を及ぼしている。今後は世界中の温室効果ガスや二酸化炭素の排出をめぐる政策転換にもプラスの影響を与えていくことだろう。

Sustainable Environment and Ecological Development Society(SEEDS)はMicrosoft Indiaと共同で、インドにおける熱波リスクを予測して費用対効果の高い介入策を提供するAIモデルの第2弾を発表した。熱波が発生した場合に、政府が市内のどの地域に対して特に支援や注意が必要かを知ることができるというものだ。SEEDSはグラウンドトゥルースデータを使用し、AIモデルは熱センサーなどのデバイスを使用して地上で検証した結果を生成する。

AIはスケーラブルな上、世界各地のどんな地域にでもすばやく採用できるため、各自治体は熱波対策への経済的な方法として積極的に活用すべきある。また、AIはデータソースを抽出するツールにパッケージ化できるため、部門や主要なステークホルダー間で知識を簡単に共有することができ、意思決定者にとっても状況が把握しやすい。

現実的なソリューションを提供し、ストーリーテリングモードで生き生きと伝えることができる一般向けアプリを作ることにより、AIがもたらすインパクトを地域社会に伝えたいというのがEvergreenのアイデアである。例えば、緑の屋根によって気温が下がるということをアプリで紹介すれば、ユーザーはデータ情報を分かりやすいストーリーとして見ることができ、彼らが取り組んでいる問題を取り巻く複雑な仕組みを理解することができるようになる。

信頼のスピードでAIの民主化とスケールアップを図る

AIや機械学習(ML)プロジェクトで複数のデータソースを扱うには、分野横断的なソリューションが欠かせない。テクノロジー関係者、企業、他の非営利団体、政府、コミュニティ、都市計画者、不動産開発業者、市長室などをつなぐパイプ役として、非営利団体やコミュニティビルダーが関与することが極めて重要である。

テクノロジーパートナーが突然AIソリューションを持って都市にやってきて、市の職員がそれにすんなり賛同してくれるというシナリオはまずない。さまざまな分野が関わり合い、ビジネスケースを作成し、すべての関係者が会話に参加しなければならないのである。

同様に、革新的なテクノロジー使うことになるステークホルダーも「ここにはヒートポケットがあるので緑の屋根を設置してください」と言われただけでは、自動的にそのツールを採用することはないだろう。

MicrosoftのAI for Earthの取り組みと連携して開発された、地理空間的ソリューションの良い例がある。ある都市の全人口をマッピングし、40メートルグリッドで100平方メートルのブロック内にリリースポイントを設け、病気を媒介する危険な蚊を退治するために遺伝子を組み換えた蚊を放つというソリューションが発案された。

これは、デング熱や黄熱病に苦しむ地域社会に解決策をもたらすことができるという、AIを活用したスケーラブルなソリューションなのだが、もし誰かが突然自分の家に来て、遺伝子組み換えの蚊を氾濫させると言ったら、ほとんどの人はノーと答えるのではないだろうか。地域が蚊で溢れかえるという発想に対しても抵抗がある上、進化するAIに対する世界的な抵抗感も反対理由の1つである。AIが進化することで個人情報の利用が拡大し、プライバシーの侵害が懸念されるからである。

成功するプロジェクトのほとんどが、コミュニティを教育した上で実行されるというのはこれが理由である。エネルギーを節約して環境にやさしいAI技術を採用することで気温を下げるというポジティブなメッセージを広めるには、地域社会とのパートナーシップが重要な鍵を握っている。

例えばカナダでは各都市が独自の気候チームと気象モデルを備えており、都市部の要所要所にセンサーを設置している。大規模なデータ会社やテクノロジー会社がこういった気象データを入手するのは難しく、都市が進んで共有する必要がある。高解像度・高品質の衛星画像で雲量を調べるのも同様だ。人口データや社会経済的な考慮事項については、データプロバイダーから情報を得る必要がある。

そのためプロジェクトには「信頼のスピード」感が不可欠だ。信頼性が確立されていれば、都市は現実的でスケーラブルなソリューションを提供できるテクノロジー企業にデータポイントを共有する傾向が強くなる。信頼関係がなければ、企業はNASAやCopernicusから入手可能な、一般的なオープンソースデータに頼らざるを得なくなる。

では、企業のプレイヤーやCEOにとってこのことは何を意味するのだろうか。都市向けのAIソリューションは自治体の気候チームやコミュニティを対象としているが、石油やガス会社はどうだろう。この業界の企業は都市の排出量の多くに貢献しているため、二酸化炭素排出量を報告するという大きな圧力がかかっている。

この分野へのAIソリューションでは、製油所や貨物が排出する二酸化炭素量をリアルタイムで追跡できるコマンドセンターが必要だ。製品ごと、従業員ごとの二酸化炭素排出量を減らすようCEOらは義務づけられているが、AIソリューションを導入することで環境への影響に対する説明責任を果たすと同時に、熱波の問題の一端を担っていると認識していることを示すことができるだろう。

熱波に注目が集まるようになったのは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によりオフィスで働くことよりも自宅で生活することの方が多くなったためというのもある。一般設備や快適なオフィスから離れた場所で、より顕著に不快感を感じるようになったからだ。

社会変革コミュニティのリーダーたちは企業、NGO、政府、テクノロジーパートナー、コミュニティリーダー間のコラボレーションを促進することにより、気候変動や熱波によるこうした悲惨な影響を逆転させることができるのである。もしかすると、事態が手遅れになる前に、AIとMLから生まれる潜在的なソリューションを実際に展開させることができるかもしれないのだ。

画像クレジット:instamatics / Getty Images

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(文:Shravan Kumar Alavilli、翻訳:Dragonfly)

SNSを情報解析し事故・災害情報をリアルタイム配信するスペクティが「Yahoo!防災速報」アプリと連携開始

Spectee(スペクティ)は1月11日、Yahoo!JAPANが配信するアプリ「Yahoo!防災速報」(Android版iOS版)と連携を強化しSNSより解析された災害情報の提供開始を発表した。

2021年2月よりSpecteeは、「Yahoo!リアルタイム検索」(スマートフォンウェブ版)において、SNSに投稿された災害状況を表示する機能を提供。スマホで同サイトにアクセスした際に表示されるスマートフォンウェブ版の「事故・災害」タブでは、スペクティが収集・解析したツイートを表示しており、これらの位置情報については動画・画像・投稿内容やその他の情報を基に付加している。

今回はその連携をさらに強化し、「Yahoo!防災速報」内のユーザー同士が災害状況を共有できる「災害マップ」上において、「Yahoo!リアルタイム検索」から位置情報を取得できる気象災害に関する投稿のみを抽出し情報を表示する。

この「災害マップ」では、災状況を取材する報道機関や被災地で防災・救助活動を行うNPOと防災士による情報も閲覧可能となっており、自治体や気象庁などの公的機関から発信される情報とあわせて参照することで、ユーザーの防災行動を支援する。

SNSを情報解析し事故・災害情報をリアルタイム配信するスペクティが「Yahoo!防災速報」アプリとの連携開始

機能の特徴としては、写真や動画付きのSNS投稿を表示し、災害状況を視覚的に理解できるようにした点が挙げられる。台風や大雨といった風水害、地震や大雪など様々な災害の状況が確認可能になったうえ、投稿内容がどの地点のものなのかがわかるようマップ上で表示できるようにし、正確な災害発生地点の把握が行える。

Specteeは、「最先端の情報解析技術で、世界のあらゆる『危機』から人々を守る。」をミッションとして掲げており、災害や緊急時の被害を減らすため、AIを活用して被害状況をリアルタイムに可視化し予測する防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」を提供している。2021年12月末時点で、全国600社の企業や100以上の自治体や官公庁に導入されており、防災や企業のBCP、交通の安全、店舗管理、物流やサプライチェーンのリスク管理などに活用されているという。

超高層マンションへのドローン配送に国内初成功、災害時の物流網途絶を想定し千葉市とJP楽天ロジスティクスが実証実験

超高層マンションへのドローン配送に成功、大規模災害による地上物流網の途絶に備え千葉市とJP楽天ロジスティクスが実証実験

楽天グループ日本郵便の合弁会社であるJP楽天ロジスティクスは、国内で初めて、都市部の超高層マンションへのドローンを活用したオンデマンド配送の実証実験を行い成功させた。大規模災害により地上の物流網が途絶えるといった緊急時を想定しているという。

これは、都市部でのドローン配送の実現を目指す千葉市ドローン宅配等分科会技術検討会の取り組みの一環として行われたもの。2021年12月1日から16日にかけて、千葉県市川市の物流施設「プロロジスパーク市川3」から千葉市内の高さ100m以上の超高層マンション「THE 幕張 BAYFRONT TOWER & RESIDENCE」の屋上ヘリポートまで、住民が専用サイトで注文した救急箱や非常食などの物資を輸送する実験を行った。ドローンは、東京湾や公道の上空を片道約12km飛行した。

使用されたドローンは、Coretronic Intelligent Robotics Corporation(CIRC)とJP楽天ロジスティクスが共同開発したもの。機体サイズは長さ175×幅175×高さ90cmで、最大積載量は7kg。

北陸先端科学技術大学院大学が最先端ナノ素材を用いた電界センサー素子で雷雲の電界検出に成功、落雷予測の実現に期待

北陸先端科学技術大学院大学が最先端ナノ素材を用いた電界センサー素子で雷雲の電界検出に成功、襲雷予測・落雷検出の実現に期待

北陸先端科学技術大学院大学は11月26日、最先端のナノ素材グラフェンを用いた超小型電界センサー素子を開発し、雷雲が生み出す大気電界の検出に世界で初めて成功したことを発表した。襲雷予測のための広域雷雲監視ネットワークや落雷検出ネットワークの実現に期待が寄せられる。

グラフェンとは、炭素原子が蜂の巣状の六角形結晶格子構造で配列された単原子シートのこと。北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科のアフサル・カリクンナン研究員、マノハラン・ムルガナタン講師、水田博教授らによる研究グループは、音羽電機東京工業大学地球インクルーシブセンシング研究機構と共同で、これを使った微細センサー素子「グラフェン電界センサー」を開発。雷雲が生み出す大気電界(大気中の微弱な電流)の時間的変化を検出することに、世界で初めて成功した。大気電界の極性も判別できるため、雷雲内部の電荷分布も推定でき、「複雑な雷現象のメカニズム解明に大きく寄与する」という。

(a)フィールドテストの様子、(b)グラフェン電界センサーの検出信号と既存のフィールドミル電界計の検出信号の比較、(c)検出地点から10キロメートル以内での雷発生状況

研究グループは、このセンサーをモジュール化して屋外で雷雨時に動作試験を行ったところ、20km以上離れた地点での落雷を電界ピーク信号として捉えることができた。このとき同時に既存の電界検出装置(フィールドミル型)も使用したが、その検出タイミングの精度がほぼ一致した。また、測定結果の解析により、5km圏内の落雷を32分前に予測できることもわかった。重量が1kg以上と重く、外部電源も必要とするフィールドミル型と比較して、グラフェン電界センサーは太陽電池で駆動できる超小型であるため、これを広域に数多く配置すれば、落雷検出ネットワークが容易に構築できるという。

【コラム】不安定化が進む気候環境における分散型保険の重要性

「一生に一度」のような気象現象が毎年発生するようになっている状況は、経済、政府、地域社会にとってどのような意味を持つだろうか。

世界中でまったく新しい規模の自然災害が見られるようになっている。これまでは、新興経済諸国が誘発的な気候災害の打撃にさらされてきたが、現在では地球のどの地域に住んでいても、気候変動による壊滅的な影響を無視することはできない。

カリフォルニアにおける山火事は、毎年数千人と報告されている大気汚染による死亡者数に拍車をかけている。一方、ドイツでは2021年、記録的な洪水のために数百人が命を失った。このような極端かつ危険な気象条件への準備は、今や私たちすべてにとっての優先事項である。

このような異常気象の増加により浮かび上がる多くの疑問の1つは、誰が費用を負担するのかということだ。AON(エーオン)の報告によると、2021年上半期の自然災害による経済的損失の総額は約930億ドル(約10兆6000億円)と推定されている。2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、気候変動がもたらす経済的意味合いは、解決すべき多くの問題の中に重くのしかかっている。

気候変動は世界経済にとって最大のリスク要因であり、2050年までに経済価値全体が10%下落すると予測されている。これまでと同様、マレーシア、タイ、インド、フィリピン、インドネシアといった国々を含む新興経済圏が最も経済的にマイナスの影響を受けるとされており、2050年までに世界経済はGDPの18%を失うことになるという。

気候変動の影響を緩和するための代替アプローチを評価する時期にきている。新興経済国に住む何十億人もの経済的に疎外された人々は、これらの破壊的な影響にどのように対処しているのだろうか。

ブロックチェーンの善用

暗号資産と非代替性トークン(NFT)は、エネルギー消費に関して相応の精査を受けているものの、多くの未解決の領域が依然として注意と解決を必要としている。しかし、これらのユースケースの先に目を向けると、気候変動により不当に影響を受ける人々を保護するために特別に設計された、ブロックチェーンベースのソリューションが現れつつあることが見えてくる。

関連記事:【コラム】暗号資産とエネルギー消費をめぐる議論

ブロックチェーンは、環境再生型農業(リジェネラティブ農業)の促進から意識的な消費の促進まで、すでに建設的な役割を担っている。急成長を遂げている別の領域として、分散型パラメトリック保険が挙げられる。この保険は世界経済フォーラムでも注目されており、異常気象による混乱が一層深刻化している、伝統的にサービスが行き届いていない地域社会にライフラインを提供する手段として認識されている。

分散型パラメトリック保険の優れた点は、そのシンプルさにある。それは、スマート契約を通じて自動的に実行される「if/then(もし〜ならば〜する)」方程式として理解できる。例えば、ある地域で24時間以内に5インチ(127mm)の雨が降った場合、保険加入者である農業者は、合意済みの洪水関連損害賠償契約に従って直ちに支払いを受ける。実にシンプルである。

高額な保険評価プロセスを排除し、これを自動支払いプロセスにおける有意なイノベーションと組み合わせることで、パラメトリック保険は取引コストと請求サイクルを大幅に削減している。パラメトリック保険の請求はネットワーク接続された基本的なスマートフォンを介して行えるため、遠隔地にいる人や、おそらく意外なことに、基本的なテクノロジーにしかアクセスできない人でも、ブロックチェーン方式の保険を利用することができる。

世界的な食物連鎖の保護

気候変動が近い将来、食料価格を上昇させ、多くの人々の特定の食料を購入する能力を損なうことはほぼ確実である。天候リスクに対する作物保護のケースでは、パラメトリック保険により、通常は従来の保険商品にアクセスできない農家に対して追加の保護レイヤーが提供される。

農作物の収穫量の運命は、農家自身の過失ではなく、二酸化炭素排出量の増加と絡み合っている。これは、世界の食料安全保障と小規模農家の雇用保障に重大な脅威をもたらす。5ヘクタール(5万㎡)未満の土地を所有する小規模農家が世界の食料生産の平均50%を担っていることを考えると、世界の食料供給の観点から保護措置を講じることは必要不可欠である。

今日の新興経済諸国においては、2億7000万もの小規模農家が十分な保険に加入しておらず、農業保険を利用できるのはわずか20%である。この数字は、サハラ以南アフリカでは3%にも満たない。

世界の人口は2050年までに100億人近くに達すると予測され、新興経済国の農業者が直面する危機とも相まり、小自作農産業は保護強化に向けた新たなアイデアを切実に必要としている。分散型パラメトリック保険のような、ブロックチェーンを利用したデータ駆動型のイノベーションは、多方面にわたる解決策として機能する。厳しい気象条件に苦しむ人々を救済し、意識的な消費を奨励するとともに、大規模な資本を気候変動適応策に導き、小規模農家と世界規模の食糧生産に利益をもたらす。

ユースケースと投資家の拡大

地球の気候の不安定化が進む中、破壊的な事象を管理し、その影響の規模を縮小する取り組みにおいて、技術的なイノベーションが果たす役割は大きくなっている。

海面上昇により洪水の危険にさらされている人々の保護を強化する必要性については、英国をはじめとする複数の国がすでに報告書を委託している。洪水リスクの評価と保険料の計算方法を再考し、再構築するオポチュニティが生まれているのである。洪水の深さの報告と正確でタイムリーな支払いを行うための十分に根拠のあるデータが、パラメトリック契約を通じて保険会社に備わることになるだろう。

分散型保険は、保険適用の恩恵を受けている人々にとってより包括的であるだけではなく、リスク資本の定義を再定義し得るまったく新しいタイプの投資家にも保険に関するオポチュニティをもたらす。この形態の保険ははるかにオープンであり、従来の市場における高資本投資家の閉鎖的な場所に留まらず、より幅広い投資家グループの関与を可能にする。

さらに、ブロックチェーンはクラウドファンディングと保険の媒体として機能するポテンシャルを有しており、善意の社会的および環境的影響の名の下に交差する。CSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)への投資意欲は高まっている。

ESGファンドは、2020年に500億ドル(約5兆7000億円)を超える新規資金を獲得した。これは前年の2倍以上である。加えて、米国のESGファンドの数は2020年400近くに増加しており、2019年から30%の伸びとなっている。

今すぐ行動し、後から話そう

世界のリーダーたちがCOP26に集結し、国内および国際レベルで気候変動に取り組むための長期的な戦略とアプローチを決定しようとする中で、世界中の何百万もの人々が、長年にわたる無行動と現実的な変化の遅れがもたらした結果に目下苦しんでいる。

現在、分散型パラメトリック保険などのブロックチェーンソリューションは、気候変動の影響を最も受ける人々への圧力を軽減する上で目に見える進歩を遂げている。結束したグローバルなアプローチへの政治的合意が待たれる一方で、ブロックチェーンは、最も必要としている人々を支援するための、容易に実装できるソリューションを提示しているのである。

編集部注:本記事の執筆者Michiel Berende(ミシエル・ベレンデ)氏はEtheriscのチーフ・インクルーシブ・オフィサー。インクルーシブ保険を通じて、最も金融サービスを必要としている人々に、より良い金融サービスへのアクセスを提供したいと考えている。

画像クレジット:Peter Dazeley / Getty Images

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(文:Michiel Berende、翻訳:Dragonfly)

山火事後の森林再生にカスタムメイドのドローンで取り組むDroneSeedが約40億円調達

DroneSeed(ドローン・シード)は、大規模な植林という過酷な作業に代わる技術的な代替手段としてスタートした。しかし、この重要な作業は森林再生のほんの一部にすぎず、そのインフラは山火事によって限界点に達しつつある。新たに3600万ドル(約40億円)の資金を調達した同社は、近代的で垂直統合された方法により、森林再生を根から樹冠に至るまで再考しており、カーボン先物とAIを100年の歴史を持つ機械や物流に移植しようとしている。

筆者がDroneSeedのことを最初に記事にしたとき、同社はちょうどデビューしたばかりで、カスタムメイドのドローンや森林再生の取り組みを加速するシステムを披露していた。記事で取り上げたすべての問題とソリューションは進行中である。同社は事業を拡大しているが、そのコアプロダクトであるドローンを使って山火事で被害を受けた森林に種を届けることは(名前から想像できるように)決して変えていない。

種子、ドローンに出会う

左からDroneSeed共同創業者のGrant Canary(グラント・カナリー)氏(CEO)とBen Reilly(ベン・ライリー)氏(CTO)。手にしているのは自社のドローンのペア(画像クレジット:DroneSeed)

簡潔に述べると、DroneSeedは、貴重な仕事を行い、それを見事にこなしている人間の植樹者に取って代わるものである。しかしながら、彼らは仕事の難しさと低賃金のために次第に数が少なくなっており、またその一方で、遠い昔に発生した火災による荒廃の規模は肉体労働の能力を超えるものであった。同社は、人間の代わりに、特別に設計された種子パケット(種子に肥料などを混ぜた特殊カプセル)とディスペンサーを装備した自動ドローンを採用している。地表の低高度を飛行し、種子パケットに最適な場所、つまり岩が多すぎず、傾斜が浅い場所など、さまざまな条件を特定して、種子パケットを発射する。ドローンは何十個もの種子パケットを運ぶことができ、さらに攻撃的な負荷をかけて、火災の後、木が根付く前に必ず現れる侵入植物に除草剤などを散布することもできる。

このアプローチには無数の利点がある。低高度ヘリコプターでの作業が恐ろしく危険である植樹作業員と操縦士の望ましくない危険な仕事を置き換えるものだ。遺伝子操作された種子パケットは、進取的なリスのような捕食者に耐性がある。ドローンを積んだトラックは人間のオペレーションより迅速に(年単位ではなく1カ月のうちに)動員でき、はるかに広い範囲(約6倍)をカバーできる。データ量の多いプロセスは、容易に監査と追跡を行うことができる。

当時、チームはまだ初期のパイロットプロジェクトに取り組んでいたが、今ではこのモデルはいくつかの大規模な展開で実証されている。それだけではなく、技術面、研究面、規制面の改善によって、その方法はさらに強化されている。データ処理能力の向上、種子「パック(puck)」のためのより大きな貯蔵所、そしてドローン群や視界外への飛行に対するFAA(連邦航空局)の認可は、同じ数のドローンが最初に空を飛んだときよりもはるかに多くの仕事を、より速く、より良くできることを意味している。

しかし、共同創業者のGrant Canary(グラント・カナリー)氏とBen Reilly(ベン・ライリー)氏、そして増え続けるチーム(筆者が最後に話をしたときは10人ほどだったが、現在では60人以上に増えている)は重要なことに気が付いた。ドローンを使った植栽は、その効果の程度にかかわらず、継続的に発生し激しさを増す山火事により限界まで引き伸ばされている多くの産業が関与する複数年のプロセスにおいて、唯一無二のステップであるということだ。

火災による平方マイル数は過去20年間で倍増しており、火災自体は、折れた枝や枯れ木を一掃し、森林の自然発生的な回復メカニズムを活性化する過去の健全な自然発生火災をはるかに超えて、より強力なものとなっている。今日猛威を振るっているものは、より多くの地面を覆い、灰と炭以外は何も残さない。「ある時点で自然は枯渇してしまいます」と、DroneSeedで成長部門責任者を務めるMatthew Aghai(マシュー·アガイ)氏はいう。

消防士の英雄的な仕事が終わる頃には、森林当局や民間の植林業者による何年にもわたる追跡調査が始まるが、彼らの努力は予想外の障害、すなわち木の不足によって妨げられている。

火災発生後の苗床

画像クレジット:DroneSeed

公的にも民間にも存在するシードバンクや苗床業者は、ここ何年も需要に追いつけていない。この記事の範疇を超えた市場価格(そしておそらく操作や放置)のために、数え切れないほどの土地を毎年伐採し直すのに必要となる数百万本の苗木が手に入らないのだ。

官民の関係と市場を研究したDroneSeedは、結局のところそれが真実であると判断した。仕事をきちんとやり遂げたいなら、自分でやらなければならないこともある。そこで彼らは、約150年間太平洋北西部でビジネスをしてきた種子と樹木のサプライヤー、Silvaseed(シルバシード)を買収した。

Silvaseedは、1世紀前から世界中の顧客に供給しており、常に成功を収めてきたものの、この分野の資本が限られているため控えめな運営を続けていた。つまるところ、ごく最近まで、苗木を育てている企業が利益を上げて事業を2倍、3倍にすることを示唆するような動きは見られなかった。

同社の種子選別施設は、技術的な機械であふれている……20世紀半ばからのものだ。だが、DroneSeedのチームはそれでも驚きを隠せなかった。産業規模の種子選別・貯蔵施設は、分解、洗浄、油処理をただ待つばかりであった。そして、21世紀に向けていくつかの改良が加えられた。彼らはSilvaseedのチームを維持すること、さらに実質的に拡大することをコミットしており、そこが彼らのゴールではなかった。それにしても、最初のクルー以外に誰が機械の中身を知っているだろうか、何十年もの買い物を追跡する年代ものの包括的なカードカタログはあるだろうか?

画像クレジット:DroneSeed

しかしながら、さらに重要なことは、これはDroneSeedが単なる植栽プロバイダーになるだけでなく、彼らが取り組もうとしている国内、おそらく世界規模の森林再生活動における唯一のワンストップショップになるための一歩であるということだ。今日、もしあなたが大きな森林の所有者あるいは管理者であり、5000エーカー(約2000万平方メートル)の森林を破壊しようとする野火が猛威をふるっているとすれば、おそらく1、2年をかけて、州政府機関、保険会社、種子ども給業者、植林業者、その他の半ダースほどの機関に電話をかけ書類を提出することになるだろう。DroneSeedはワンコールを目指しており、すべてがうまくいけば、数カ月以内に種子(栄養分をたっぷり含んだ、リスに耐性のあるパックに詰め込まれたもの)が地面に降り注ぐことになる。

「気候変動の深刻な影響を緩和するために森林再生を真に活用するには、全国で6倍の採種スペースと2倍の苗床スペースが必要だという研究結果が最近報告されました」とカナリー氏。「私たちはその仕事をしています。Silverseedを西海岸最大の民間シードバンクにまで拡大しました。また、毎年数百万本の苗木を育てており、生産能力を倍増しています」。

もちろん資金がなければ木は存在し得ない。また、森林再生のための既存のパイプラインは、何十年も前の官民パートナーシップと同じように遅くて手間のかかるものだ。ただし、その作業自体が最近燃え上がったばかりの遠隔地や野生地域で行われているという付加的な問題は別である。道路を再舗装するのは大変なことだろう。一世紀前に開拓された方法で1万エーカー(約4000万平方メートル)の荒野を再植林することを考えてみよう。

事前カーボン

画像クレジット:Ryan Warner / DroneSeed

森林を焼失した土地所有者は、過去には、これらの森林が15〜20年で再生すればその評価額が実現することを期待して、再植林のために国の資金と保険金に頼ってきた。多くの人々は森林をまったく復元せず、代わりに残った森林を皆伐して牧草地にすることで、火災で始まった仕事を完了することを選んだ。

近年、これらのプロジェクトの新たな資金源としてカーボンクレジットが登場している。排出量を相殺することを目指しており、自らのプロセスを変えることを望んでいないか、変えることができない企業が、植林のための費用を支払うというものである。問題は、これらのクレジットの量が非常に限られていることと、成熟するまでに数年から数十年かかることにある。企業はそれらの購入をめぐって競い合い、隔離された二酸化炭素1トン当たりの価格を押し上げている。

世界最大手の富裕企業各社は、自分たちがどれだけ環境に配慮しているかを示そうと躍起になっており、資金さえあれば、現在の10倍以上の金額を二酸化炭素削減プロジェクトに投じるだろう。

DroneSeedが確信している金融イノベーションであり、同社の仕事を支え、倫理的に見せかけようと奮闘する業界の膨大な金庫を空にするだろうと考えられるのが、カーボン先物、つまり「事前」クレジットだ。「今日の資金調達のために、未来の森をあなたのために喜んで育てます」というものだが、多くの独立した監視が存在する。

Climate Action Reserve(クライメート・アクション・リザーブ、CAR)のような組織が標準的なアプローチを開拓し、普及させてきた。事前クレジットは、成長や確認を待つ必要なく、今すぐ植林を開始するための努力に対して支払われる。木が植えられ、その土地は伐採されないことを法的に保証するために長期の地役権が与えられる。植林した木の本数や健全性を確認するために、1〜2年後に独立した森林管理チームが調査を行う。DroneSeedは、このプロセスをさまざまな方法で改善している。主に、種を採取した瞬間から(種の位置、種類、標高などの属性が記録される)、種が植えられた時間と場所、分単位、メートル単位まで、文字通り膨大な量のデータを収集して追跡する。その後、そのデータを使用することで、成長と植栽の成功をより簡単に測定できるようになる。

筆者は当初、ここでの貨幣の動きを理解するのに苦労した。金融商品は私の得意分野ではなく、何といっても抽象的である。だが、森林再生のために費やされるのを待っている何十億ドル(約何千億円)もの資金が、それを行うための構造化された方法がないために保留されているという事実があるようだ。確かに、Appleは苗木や林業に5000万ドル(約56億円)を寄付することもできるが、それは単なる昔ながらの慈善事業であり、5000万ドルが確実に有効に使われるようにするための監視はほとんど行われていない。誰かがやってきて、そのお金で何ができたのかと尋ねると、彼らは責任を転嫁するしかないのだ。

コンプライアンスと規制の目的においては、公的なカーボンクレジットは依然として唯一の選択肢であるが、事前クレジットはLEED(米国グリーンビルディング協会が開発・運用する環境性能評価システム)やUL規格(米国保険業者安全試験所が策定する製品安全規格)のようなものを目指している。例えば、CARのClimate Forward計画で認証されたプロジェクトは、成長と監督の保証を満たしているため、5000万ドルが費やされると、LEED認証を受けた建物が一定レベルのエネルギー効率を持つのと同水準の二酸化炭素削減に確実に向かっていくことになる。

このようにして、企業はグリーンウォッシング予算からもう少し具体的なものを得ることができる。自社が何千エーカー(何千万平方メートル)もの森林再生をカバーし、その過程で何百万トンもの二酸化炭素に相当するものを取り除いたことを伝え、証明できることは、有意義なバリュープロポジションである。そして、実際の採種、選別、栽培、植栽、検査などを行う人々は、より大規模に行うための手段を切実に必要としている。そうでなければ、破壊の速度が回復の速度を上回ることになる。誰も遭遇したくない転換点だ。

一方、土地所有者は、火災で破壊された土地を引き受け、それを債務から資産に転換することができる。それは、基本的には、元の信用購入者に復旧資金を提供させ、その結果として得られる樹木を20年間、50年間、100年間そのままにしておくことに同意することである。その間、保険や助成金は、土地を失って手放すことのないように、先手を打つべきであろう。

DroneSeedにこうしたことすべてを可能にする3600万ドルのAラウンドは、Social Capital(ソーシャル・キャピタル)とSeven Seven Six(セブン・セブン・シックス)が主導し、他の多くの企業も参加した。Tesla(テスラ)とSpaceX(スペースエックス)の初期投資家だったDBL Partners(ディービーエル・パートナーズ)は、Shopify(ショッピファイ)のCEOのTobi Lütke(トビー・リュトケ)氏、Resilience Reserve(レジリエンス・リザーブ)、Marc Benioff(マーク・ベニオフ)氏のTIME Ventures(タイムベンチャーズ)、Spero Ventures(スピロ・ベンチャーズ)、Marc Tarpenning(マーク・ターペニング)氏らと並ぶ大手投資家だ。また、Gaingels(ゲインジェルズ)はFlight.vc(フライト.vc)、HBS Lady Angels(ハーバード・ビジネス・スクール・レディ・エンジェルズ)、Julia Lipton(ジュリア・リプトン)氏のAwesome People Ventures(オーサム・ピープル・ベンチャーズ)、そしてAshley Mayer(アシュリー・メイヤー)氏を含むCoalition angels(コアリション・エンジェルズ)と提携している。これはいい考えだと思っている人が多くいるようだ。

「木は気候変動への特効薬ではありませんが、時間を稼ぐことができます」と林業サービスのベテランであるアガイ氏は語っている。それでも、太陽光発電や自動車の電化、その他の気候に焦点を当てた取り組みと同様に、森林再生に対し、失われた時間を補うための巨額の先行投資が必要であるといえよう。

画像クレジット:DroneSeed

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

農村部や遠隔地の何十億人たちにラストワンマイルのインターネット接続を提供するMesh++が約5.6億円調達

もしあなたがサンフランシスコ湾の水際に立って眺めたとしたら、おそらく6つほどの高速インターネットプロバイダーがあなたにギガビットのインターネットを提供しようと躍起になっていることを知ることになる。しかし、世界の農村地域に住む何十億もの人たちは、もしあるとしても、それ以下のサービスしか受けられないことが多い。その市場こそがMesh++(メッシュプラスプラス)が狙う場所で、同社はこのたびその構想を実現するための資金を獲得した。シカゴとナイロビに本拠地を置くこのチームは、農村や十分なサービスを受けていないコミュニティにインターネット接続を提供することに注力している。

計画されているソリューションはエレガントだ。利用者が無線LANルーターを電源に接続すると、そのルーターは近くにある他のMesh++ルーターを探す。そしてメッシュネットワーク上で利用可能なインターネット接続が共有されるのだ。それぞれのルーターがノードとなって、Wi-Fiの恵みをその土地に広げていくということだ。同社は、1つのノードで10エーカー(約4万500平方メートル)の広さのWi-Fi接続を実現し、最大100人をサポートできるとしている。接続性の問題や停電などで局所的にインターネット接続がダウンしても、ネットワークの他の部分がそれを補うことができる。また、インターネット接続が完全にダウンした場合でも、ネットワーク内のメッセージングやニュースのアラートなどを使った内部のコミュニケーションに利用することができる。

インターネットへの接続は、イーサネット、携帯電話モデム、複数のポイントなど、さまざまな場所を経由して行うことができる。イーサネットや携帯電話モデムのセットをネットワークに配置し、すべてのソースからの帯域を集約することができる。そのため、そのうち1つが故障しても他が補うことができる冗長なネットワークを構成することになる。このやり方が、別途接続を確保する分離したネットワークに比べて賢いのは、とても信頼性の高いネットワークを構成できることだ。例えばファイバーのインフラがすでに故障し始めているような古い街にファイバーネットワークを敷設する場合などにも使うことができる。また、ソースを集約できるこのようなネットワークを持つことで、通常は信頼できないようなソースでも、失敗しても大ごとにはならないので、信頼して使うことができる。このようにして、非常に弾力性のあるネットワークを作ることができるのだ。

すべてが計画どおりに動いている日常的な接続性はもちろん、ネットワークは災害時にも耐えられるものでなければならない。これは2年前に実証されることになった、当時ハリケーン・アイダによってニューオリンズの広大な範囲で接続性が失われた事象が発生したが、同社のネットワークはダウンタイムなしに継続したと主張されている。

もちろん、農村部や遠隔地でのインターネット接続にはさまざまな課題があるが、Mesh++のソリューションは、アクセスと平等の観点から課題に取り組んでいる点が印象的だ。Elon Musk(イーロン・マスク)氏のStarlink(スターリンク)に比べれば、こちらの方がより平等性が高いのは確かだが、同時にインターネットのゲートウェイとして宇宙とつなぐStarlinkと、農村部のインターネット接続のローカル配信のためのMesh++の組み合わせも容易に想像することができる。

Mesh++のCEOであるDanny Gardner(ダニー・ガードナー)氏は「世界中のどこでもギガビットのインターネット接続を提供できる企業はいくつもあります」と語り、Starlinkが実際良い組み合わせであることを示唆している。「そうなれば理想的なパートナーシップですね。そうした企業の多くが直面している課題は、理論上は衛星1基につき数百人の人々にサービスを提供することができるものの、ラストマイルのインターネット接続が課題となっているのです。彼らにとっては、どこへでも接続できる私たちのような技術とパートナーを組むことで、世界に残る30億人の人びとをつなぐことができるでしょう」。

Mesh++は、大手携帯電話事業者さえ凌駕することができると考えていて、LTEや5Gネットワークとの競争にもまったく臆することがない。

「いいですか、T-Mobile(Tモバイル)は6GHz以下の5G接続で米国の大半をカバーすると約束したのです。しかし実際には、4Gでも経済的に見合わないまだカバーが終わっていないとすれば、当然5Gでもそうはならないでしょう」とガードナー氏はいう。

同社は米国の数多くの都市にテストネットワークを構築している他、ナイロビにも5人の子会社を設立している。

「最初に会社を設立したときは、主にインターネットへのアクセスを必要としている新興市場を対象としていました」とガードナー氏はいう。「最初のころ、この問題が米国内でどれほど大きな問題であるかを認識していませんでした。しかし時間の経過とともに、私たちは自分の家の周辺の接続性の問題を解決することにシフトして行ったのです」。

Mesh++は、インパクトインベスターであるWorld Withinが主導する490万ドル(約5億6000万円)の資金調達を行い、新規投資家であるLateral Capital、Anorak Ventures、First Leaf Capital、既存投資家であるSOSV、GAN Ventures、TechNexus、Illinois Venturesが参加した。

「今回の資金調達は、過去数年間の純粋な研究開発主導型の会社から、より販売に注力し、より成熟した組織に変えるという、会社の大きな転換を意味します」とガードナー氏はいう。「資金調達により、お客様や販売店と提携して、できるだけ多くの人とつながり、製品を世に送り出すことができるようになりました」。

同社は、米国のすべての家庭をインターネット接続でカバーできるようにするという、大きな経済の流れに乗っている。特に米国では、ラストマイルネットワークに多くの資金が投入されており、ここ数年では800億ドル(約9兆1000億円)を超えている。しかしそれでもすべての家庭に光ファイバーを届けるには十分ではない。そうしたやりかたは経済的にも物流的にも、人口密度の高い地域でなければうまくいかないのだ。そこで、鍵を握るのはメッシュネットワークになるかもしれない。Mesh++は、同社の技術によって、1世帯あたり400ドル以上かかっていたインフラ設置コストを29ドル程度に削減できるとしている。節約されるのは、オンサイトに設置する必要のあるハードウェアのコストではなく、主に設置のしやすさによる人件費だ。

画像クレジット:Mesh++

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

スペクティ・日本気象協会・トランストロンがトラックの運行データから路面・周辺気象情報を抽出する実証実験

スペクティ・日本気象協会・トランストロンがトラックの運行データから凍結・積雪など路面情報や周辺気象情報を抽出する実証実験

AIリアルタイム危機管理情報ソリューション「Spectee」を提供するSpectee(スペクティ)は10月18日、日本気象協会、ネットワーク型デジタルタコグラフのメーカー「トランストロン」と共同で、AIなどの先端技術を活用したトラックの運行データの解析から、路面情報、周辺気象情報などの抽出を目的とする実証実験を行ったことを発表した。

2021年2月から6月にかけて行われたこの実証実験では、トランストロンのデジタルタコメーターを導入している札幌市の幸楽運輸、富山市の池田運輸の協力のもと、走行中に取得した路面の画像データ、日本気象協会の気象データをスペクティのAIで分析し、乾燥、湿潤、凍結、積雪などの路面状況を判定した。これにより実用化に向けた有効なデータが得られたことから、さらに精度を高め、スペクティ、日本気象協会、トランストロンの3者で実用化に向けた検討を進めてゆくという。

ウェザーニューズが周囲50キロを30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

ウェザーニューズは10月14日、高頻度観測小型気象レーダー「EAGLEレーダー」を千葉県内に設置し、レーダーの有効性を確認する実証実験を開始したと発表した。2022年6月にかけてレーダーの精度評価と最終調整などを行う。

EAGLEレーダーは、周囲360度を高速スキャンし雲の立体構造を高頻度で観測するというもの。半径50km以内の積乱雲の発達状況をほぼリアルタイムに捉えられるため、ゲリラ豪雨や線状降水帯・大雪・突風・ヒョウなど、突発的かつ局地的に発生する気象現象をより正確に把握できるとしている。

道路の管理事業者における除雪作業判断の支援など新サービスも開発するほか、2年以内に日本を含むアジアの計50カ所への設置を計画。グローバルにおける気象現象の監視体制を強化する。

高頻度観測小型気象レーダー「EAGLEレーダー」

ウェザーニューズは、2009年に小型気象レーダー「WITHレーダー」を開発し、全国80カ所に設置・運用してきた。10年以上にわたり、ゲリラ豪雨や突風などの観測実験を行った結果、小型気象レーダーの有効性を確認できたという。しかし、従来のWITHレーダーでは、全方位を3次元で観測するには5分程度かかるため、雲が急激に発達する過程やその変化を詳細に捉えることは困難だった。

そこで、より高頻度な観測を可能にするため、WITHレーダーの後継機としてEAGLEレーダーを開発。同レーダーは、360度全方位を高速スキャンすることで、雨粒の大きさや雲の移動方向を立体的にほぼリアルタイムで観測できる独自の気象レーダーという。最短で5秒ごとに1回転し、半径50kmの詳細な3次元観測データを30秒で取得できる。これにより、ゲリラ豪雨や線状降水帯、大雪、突風、あられ、ひょうなど、局地的に発生する気象現象の把握が可能としている。

ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

千葉県内八街市に設置し実証実験を開始

同社は、同レーダーを千葉県八街市に設置し、実証実験を開始した。2022年6月にかけて、レーダーの精度評価と感度の最終調整などを行う。

レーダーの活用方法として、まずはウェザーニューズの予報センターでレーダーを監視し、観測データを数時間先の予報精度向上に活用する。また、従来のWITHレーダーと同様に雲の様子を3次元的に把握するだけでなく、実証実験と並行して、道路の管理事業者における除雪作業の判断支援や迂回ルートの推薦など、企業向けのサービスを開発する。

また同レーダーの展開を進めるため、総務省(情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 気象レーダー作業班)と無線免許の新制度策定について検討しているという。新制度が実現すると、同レーダーの設置が加速するとともに、観測データの販売も可能となる見込みとしている。気象データを扱う企業・研究機関などに活用してもらうことで、サービスへの利用や技術の発展に寄与できるとしている。ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

2023年までに50台設置、日本・アジアの気象現象の監視体制を強化

同社は、2014年よりオクラホマ大学と共同でEAGLEレーダーの開発を進めてきたという。2017年6月には、航空宇宙向けの電子機器やシステムを設計・製造しているカナダNANOWAVE Technologiesとレーダーの量産に関する覚書を締結した。

気象レーダーの仕様変更や生産ラインの変更のほか、世界的な半導体不足による影響を受けて当初の計画からは遅れが生じたものの、現在の計画では、今後2年以内に日本を含むアジアの計50カ所にレーダーを設置する予定。引続きレーダーの設置を進め、観測データが十分ではないアジア地域における気象現象の監視体制を強化するという。

米幹線道路交通安全局がテスラのバッテリー管理システム公式捜査の請願を却下

幹線道路交通安全局(NHTSA)は、ネット経由アップデートの欠陥が5台の車の火災を引き起こしたとする申し立てを巡り、Tesla(テスラ)のバッテリー管理ソフトウェアの公式調査を要求した2019年の請願を却下した。

同局が公式捜査を行わない理由の1つは、該当事象の過半数が米国外で起きているためである、と同局のウェブサイトに掲示された文書で述べられている。

NHTSAは評価の一環として、請願書に記載された2012年から2019年のModel SおよびModel X6万1781台に対する59件の苦情申立を検討した結果、却下を決定した。59件の苦情のうち、52件がバッテリー容量の減少を、7件がソフトウェアがアップデートされた後に充電速度が低下したことをそれぞれ主張していた。車のログデータによると、苦情の58%で車両の電圧制限ファームウェアが有効になっていたが、その後のアップデートによって当該車両のバッテリー容量は部分的あるいは完全に復旧したと報告書概要に書かれている。

同局は、最悪の事態が重なって2019年に中国で発生した2件の火災を引き起こしたことは認識している。それらの車両は直近に高速充電処理を完了し、バッテリーは高い充電状態にあり、バッテリー冷却システムが切断された状態で駐車されていた。2台の車には高負荷下で利用されていた履歴もあった。

Teslaのバッテリー管理システムに詳しい筋によると、もし本当に系統的なソフトウェア問題が存在したなら、5台をはるかに越える車が火災を起こしているだろうと語った。そのような稀少な事故は、製造上の物理的欠陥あるいは利用中の物理的損傷が原因である可能性が高い。例えばこの種の火災が発生した中国ではよくあるとNHTSAが指摘する、高速充電されたばかりの車に高い負荷をかけるような行為だ。

米国でも2件火災が起きているが、1件は高速充電の履歴がなく火災発生時に走行中だった車両によるものであり、もう1件は高電圧バッテリーシステムとの関連性がなかった。5番目の火災はドイツで発生し、車両は低い充電状態で長時間駐車されていた。

「米国内で高速充電に関連する事象が起きていないこと、および2019年5月以降同様の事象が世界中で起きていないことを踏まえると、この請願を許可した結果実施された捜査によって、安全に関係する欠陥の通知と改善に関わる命令が発行される可能性は極めて低い」と裁定は結論づけた。「よって、請願書に記載された情報、および安全に関わる潜在リスクを十分に検討した結果、本請願は却下された」。

報告書は、今回の請願が却下されたことに関わらず、将来安全に関わる欠陥が認められれば、同局がさらなる措置をとる可能性があることを示唆している。

NHTSAはこの請願を拒否したものの、これとは別にTeslaのソフトウェア「Autopilot」の捜査を今も継続している。高度な運転支援システムを有効にした車両が、非常灯を点滅させて駐車していた緊急自動車に衝突するなど、2018年以来死者1名負傷者17名を生む事故を起こしたのを受けたものだ。Teslaは10月22日までに詳細なAutopilotのデータを提出しないと1億1500万ドル(約128億5000万円)の罰金を課せられるが、同社の第2四半期の純利益11億4000万ドル(約1273億9000万円)を考えると軽いお仕置きだ。

関連記事:米交通安全局がテスラに運転支援システム「Autopilot」の詳細な情報提供を命じる

画像クレジット:PIERRE-HENRY DESHAYES/AFP / Getty Images

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nob Takahashi / facebook

フィリピンの環境情報プラットフォーム「Komunidad」が約1.1億円のシード資金調達

フィリピンは台風、洪水、火山、地震、干ばつなどの災害に見舞われやすい地理的条件を備えており、世界で最も災害が多い国の1つだ。Felix Ayque(フェリックス・アイク)氏は、IT業界で働いていた頃、サイクロンのレポートをまとめ、Eメールでコミュニティに警告を送る仕事を始めた。彼の仕事はその後、環境情報プラットフォーム「Komunidad(コムニダッド)」へと発展した。Komunidadは、政府や民間の情報源からデータを収集し、カスタマイズ可能な分析結果に変え、顧客が潜在的な災害に迅速に対応できるようにしてくれるものだ。

マニラとシンガポールを拠点とするこのスタートアップは、アジアでの事業拡大と2022年1月にリリースを予定しているセルフサービス版を含むプラットフォームの機能追加のために、100万ドル(約1億1000万円)のシード資金を調達したことを発表した。Wavemaker Partners(ウェイブメーカー・パートナーズ)が主導し、アジア開発銀行のベンチャー部門であるADB Ventures(ADB ベンチャーズ)が参加している。

2019年に設立されたKomunidadは、フィリピン、インド、カンボジア、ベトナムに顧客を持ち、公益事業、農業、鉱業、教育、地方自治体、ビジネスアウトソーシングセンターなど、複数のセクターにサービスを提供している。スタートアップを立ち上げる前のアイク氏は、国有のニュージーランドMetService(メットサービス)を含む複数の気象機関でIT開発者として働いていた。2013年に、少なくとも6300人の犠牲者を出した台風18号(通称スーパータイフーン・ヨランダ)がフィリピンを襲った後、コンサルタントとしてサイクロンレポートの作成を始めるようになった。

もともとこのレポートは、企業が自然災害に対してより迅速に対応できるようにするためのものだった。台風18号が襲ったのは、フィリピンでビジネス・アウトソーシングの分野が急成長していた時期で、当時多くの外国企業がフィリピンに複数のオフィスを設置していた頃だった。台風の際には、企業は通常、業務を被災していない地域のオフィスに移管する。アイク氏が最初に送ったメールは、サイクロンの可能性を手動で分析したものだった。

しかし、エネルギー供給会社をはじめとする企業が気候変動への対応を迫られる中、アイク氏のレポートに対する需要が高まっていった。Komunidadは、事業を拡大するのに十分な収益を上げるようになり、アイク氏は、気象学者、データサイエンティスト、ソフトウェア開発者、インドや東南アジアを拠点とするビジネス開発チームなどの従業員を雇用するようになった。今回の投資は、スケーラブルなプラットフォームの構築に使用される。

Komunidadのデータソースには、2015年にIBMが買収したThe Weather Company(ザ・ウェザー・カンパニー)や、ウェザーインテリジェンスプラットフォームのTomorrow.io(トゥモロー.io)などの大手企業の他、いくつかの小規模な環境・気象データプロバイダーが含まれている。

フィリピン・マンダルヨン市のプロジェクトで作成されたKomunidadダッシュボードの一例

このプラットフォームは、データを悪天候、太陽、海洋、土壌水分、大気の質など、顧客のニーズに関連するダッシュボードに変換してくる。「私たちは、関連するデータだけを持ってきて、これが最も重要なデータであると顧客に伝えるシステムインテグレーターの役割を果たしています」とアイク氏は述べている。Komunidadでは、顧客が独自の警報システムを構築することも可能だ。例えば、フィリピンでは、多くの顧客が、フィリピンで最も人気のあるメッセージングアプリの1つであるViber(バイバー)や、インターネット接続が不安定な地域に届くようにSMSを使ってアラートを送信している。

エネルギー分野の顧客には、Komunidadのツールを使って、気温に基づいて電力使用量などを予測することもできる。また、地方自治体が学校の休校を決定する際にも利用されている。パンデミックの際には、Komunidadは都市が人の密集度をモニターし、どの地域でより多くの人をコントロールする必要があるかを判断するのに役立った。

Komunidadの競争力の1つは、さまざまな分野でどのようなデータが重要であるかを理解しているということだ。例えば、Komunidadは最近、アッサム州災害管理局(ASDMA)と契約を結び、インドで最も雷が発生しやすい州の1つであるアッサム州の雷と雷雨に関する警報に焦点を当てて協働することとなった。

「すべての国がそれぞれ異なる状況を持っており、私たちのアプローチは、コミュニティに焦点を当てたものでなければならず、その上でビジネスに拡大していかなければならないということを理解しています」とアイク氏は語っている。

Komunidadの顧客は迅速に対応しなければならないため、技術的なバックグラウンドを持たない人には理解できないことが多い生のデータレポートから、わかりやすいビジュアライゼーションを作成している。例えば、シンプルな棒グラフ、緑、黄、赤の警告、6時間以内に大規模な気象・環境イベントが発生すると予想される場合は赤に変わる地図などがある。

Komunidadの資金の一部は、Wix(ウィックス)やWordPress(ワードプレス)でウェブサイトを作成するのと同様に、顧客がウィジェットをドラッグ&ドロップすることができるセルフサービス型のカスタマイズ可能なダッシュボードを来年開始するために使用される。今回の資金調達により、Komunidadは、インド、タイ、カンボジアなどでの新たなビジネスチャンスの獲得、営業チームの増強、データソースの追加などを行えるようになる。

画像クレジット:John Seaton Callahan / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Akihito Mizukoshi)