ライブコマースからセキュリティへ、東大発のFlattが2.2億円を調達して新たな挑戦を加速

写真左からFlattに個人投資家として出資したメルカリCTOの名村卓氏、Flatt代表取締役の井手康貴氏

「ライブコマースアプリ『PinQul』を手がける東大発スタートアップ」としてこれまでにも何度か紹介してきたFlatt昨年8月には同サービスのクローズを発表していた同社だが、新たな資金調達を踏まえて次のチャレンジとして選んだサイバーセキュリティ事業をさらに加速させていくようだ。

Flattは7月11日、サイバーエージェント(藤田ファンド)、ディノス・セシール、メルカリCTOの名村卓氏を引受先とする第三者割当増資により約2.2億円を調達したことを明らかにした。名村氏については、投資家としてだけでなく技術顧問として技術・組織面でもFlattをサポートするという。

同社は2017年5月の創業。エンジニアとしてFiNCやメルカリに在籍していた代表取締役の井手康貴氏など東大生メンバーが中心となってスタートしたチームだ。過去には2017年5月にヘイ代表取締役社長の佐藤裕介氏やペロリ創業者の中川綾太郎氏らから数百万円、2018年4月にも複数の個人投資家から2700万円の資金調達を実施している。

Flattは最初のプロダクトとしてライブコマースアプリのPinQulを2017年10月にローンチした後、翌年8月にクローズを発表。現在は2019年から取り組むサイバーセキュリティ事業が同社の主力事業だ。

これまではWebサービス向けの脆弱性診断事業を展開してきたが、今後はSaaS型のセキュリティサービスなど自社プロダクトのローンチも控えているという。

若い世代を主なターゲットとしたコンシューマー向けのライブコマースアプリから、法人向けのサイバーセキュリティ事業への方向転換は随分と毛色が変わったようにも思う。ただPinQulがスタートする際に取材をした時から井手氏は「この2つの領域で迷った結果、最終的にライブコマースを選んだ」という旨の話をしていたので、彼らにとっては割と自然な選択だったのかもしれない。

改めて次の事業ドメインとしてセキュリティを選んだ理由について聞いたところ「マーケットが大きい上に将来性も見込めることに加え、テックドリブンな領域であり、社会的な貢献度も見込めるなど自分たちの中でいくつかポイントがあって最初から候補として考えていた」(井手氏)という。

「近年では車や家電など、あらゆるものがインターネットに繋がってより効率化されていく流れが進んでいる。この流れは不可逆のものであり、これによってネットワークに繋がる機器が今後さらに増えていく。繋がっていくポイントの1つ1つが脆弱性の穴になり、セキュリティの重要性やニーズはより高まっていく。業界自体もまだまだアップデートしていく余地が大きい」(井手氏)

これまで数ヶ月間に渡って展開してきた脆弱性診断自体は、自動(ツール)と手動を組み合わせたオーソドックスなもので、Webサービスを展開するITスタートアップを中心にレガシーな企業のサポートなどもしてきたそう。

大手企業や以前TechCrunchでも紹介したココンなどすでに既存のプレイヤーがいくつも存在する領域ではあるが、マーケット自体が大きく需要に対してプレイヤーも少ないため、単体でも事業としては成り立つそう。ただFlattとしては今夏を目処に自社プロダクトをローンチする計画で、そちらによりリソースを投下していきたいという。

新プロダクトは現在クローズドβ版で検証をしている段階で具体的な内容はまだ明かせないとのことだけれど、井手氏やCCOの豊田恵二郎氏の話を踏まえると「脆弱性診断を実際にやっていく中で感じた課題や『脆弱性診断だけではカバーできない領域』に対応していく法人向けのSaaS」になるようだ。

社名も近々Flatt SECURITYに変更し、今後はセキュリティ領域に注力していくつかのプロダクトを展開する方針。この辺りは今回加わった投資家の1人であり技術顧問にも就任している名村氏のサポートも受けながら進めていくようで、新プロダクトについてもアイデアのタネは名村氏とのディスカッションから生まれたものだという。

「インターネット上でのサービスが発展する一方で、サービスを脅かすことへの驚異は異常なスピードで増え、かつ高度化しています。セキュリティはもはや、如何なる会社にとっても手を抜くことのできない重要な要素となっています。Flattのような若く優秀なエンジニア集団であれば、きっとこんな世界の救世主になるようなサービスを生み出すことができるだろうと確信し、今回協力をさせていただくことになりました」(名村氏のコメント / Flattのリリースより)

調達した資金に関しても新プロダクトの開発・マーケティングに向けた人材採用への投資がメイン。中長期的にセキュリティ領域で複数のプロダクトを手がけることも見据え、R&Dも進めていく。

給与即日払いのペイミーが7億円調達、今冬に決済プラットフォームを実装へ

ペイミーは7月8日、7億円の第三者割当増資を発表した。引き受け先は、ミクシィ、サイバーエージェント、インキュベイトファンド。

同社は、給与即日払いサービス「Payme」を運営している2017年7月設立のスタートアップ。勤怠データとPaymeを連携させることで、実労働時間から給与計算を即時に実行して即日払いを実現するのが特徴だ。導入企業は、飲食チェーン、人材派遣、小売、コールセンター、 アミューズメント、物流など250社を超え、累計流通金額は15億円を突破、導入先従業員数は12万人に達しているとのこと。利用できる金額の上限は、その日までに稼いだ額の70%まで。この範囲内であれば1000円単位でいつでも即日払いを申請できる。

今回の資金調達で同社は、Payme上に決済プラットフォームとしての新機能を今冬をメドに実装する予定だ。従来の「口座受け取り」以外の受け取り手段を追加することで、キャッシュレス化を推進し、資金の偏りによる機会損失をなくすことを目指す。

なお現在同社は、エンジニア、セールス、PR、マーケティング、コーポレートの5つの職種で人材を募集している

化粧品ECのスタートアップ「NOIN」が総額8億円調達、メーカーへCRM解放へ

化粧品のECプラットフォーム「NOIN」を運営するノインは7月8日、DGインキュベーション、STRIVE、500 Startups Japan、みずほキャピタル、DK Gate、AGキャピタルなどから約8億円の資金調達(払込予定分を含む)を発表した。

今回の調達ともない、リードインベスターであるDGインキュベーションの上原健嗣氏が社外取締役に就任する。なお、3月にはGunosyで執行役員を務めていた千葉久義氏が取締役に就任している。

写真に向かって左から、DGインキュベーションの上原健嗣氏、ノインで社長を務める渡部賢氏、同社取締役の千葉久義氏、STRIVEの堤達生氏

経済産業省の調査「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、化粧品のオンラインでの購入率は約6%とオンラインストアが普及している現在でも未成熟な市場。同社は、オンラインストアと化粧品のミスマッチを解消するために化粧品ECプラットフォーム「NOIN」を立ち上げた。メディアとしての側面もあり、化粧品の購入だけでなく、メイク術や悩み解決といった記事をテキストや動画で手に入れることもできる。

今回の資金調達では、人材採用や育成、NOINのブランディングおよび認知拡大を目的としたプロモーションを強化。同時に、連携する化粧品メーカー各社への購買データ展開、CRMツールの解放など実施する予定だ。

今回の資金調達についてTechCrunchは以下の質問について同社から回答を得た。

——化粧品はやはり試してみないとなかなか購入につながらないと思うのですが、オンライン購入率を向上させる施策があれば教えてください。

実際に試すという点においては、店舗でテスターを用いて試せるものは数としては限られています。また、試すにあたっても直接顔につけるというよりも手元での色みやテクスチャーの確認というものが多いかと思います。当社では商品詳細のコンテンツに力を入れており、商品イメージの写真やタッチアップした際のスウォッチ画像、記事コンテンツ、動画コンテンツと1つの商品に対してのコンテンツがかなり充実しています。実際、商品詳細コンテンツを充実させた商品の売れ行きはないものと比較すると購入率は大きく違います。コンテンツのカバー率も高まっており、店頭よりもカバーできている商品は多いです。

また、ユーザーの平均年齢は25.8歳とかなり若いですが、1回あたりの購入単価が4000円を超えるほど高くなっています。当初は2000〜2500円程度を予想していましたが、かなり購入単価が高めです。コンテンツを通じてよいものであるという理解が深まると購入意欲も引き上げられるのだと考えています。

——ほかのコスメ系ECと差別化できるポイントを教えてください。

取り組み先のメーカー、ブランドに対して販売データを提供している点は差別化ポイントと考えています。アプリに溜まってきている「ユーザーがどのような商品と比較検討の末、その商品を購入したのか」「一緒に購入される商品にはどのような傾向があるのか」など、ブランドのマーケティング活動に有益となるデータをメーカーやブランドと共有しています。

「ブランドの商品をお気に入り登録しているユーザー」「過去購入経験のあるユーザー」というようなセグメントを切り、そこに対して各ブランドのCRMのツールとして使ってもらえるような機能提供も考えており、こちらも差別化ポイントとなるのではないかと思います。

——今回の資金調達で採用を強化するとのことですが、具体的なポジションや職種などあれば教えてください。

エンジニア採用を強化します。ユーザーの手元に届いて使ってもらうまでが我々のプロダクトでの体験だと考えているので、CSやロジスティクスの体制に関しては最重要と捉えています。多量の受注を受けても迅速にお客様に商品をお届けできるよう、ピッキングや配送などの倉庫管理のアプリケーションを完全に内製で開発しているほか、CS部門をツールを含めて充実させることにより、トラブルの際には利用者の問い合わせに対し、社内の配送データなども使って迅速なトラブル解決ができるフローを整えています。加えてメーカーに渡すマーケティングデータの解析ツールの開発も行わなければなりません。

――今回の資金調達で強化する、プロモーションについて具体的に決まっていることがあれば教えてください。

CMなどの大型のプロモーションも次の施策として進めていきます。リアルの場でのユーザー接点も重要と考えており、夏フェスのようなリアルなイベントへの協賛も行っていく予定です。プロモーション以外の資金使途としては 、化粧品メーカー・ブランド向けのマーケティングデータの解析ツールやCRMツールの開発に当てていこうと思っています。

――今回の資金調達で強化する、ブランディングついて具体的に決まっていることがあれば教えてください。オリジナルブランドなども検討されていますか?

オリジナルの商品に関しては検討していますが、完全にオリジナルということではなく、メーカーやアーティストと一緒に新しい商品やブランドを立ち上げていくという方向性で考えています。現在進行中のものとしては、ヘアメイクアップアーティストと一緒にヘアオイルの開発を進めているところです。

——新たにCOOに就任された千葉氏は、どのような組織改革を進められる方針ですか。

ノインはこれまでCEOの渡部を中心として対ユーザーに全力で向かい合い、toC向けのプロダクトを磨き上げるという方向に関しては素晴らしいものがあると思っています。一方でパートナーであるコスメブランドやメーカーとの関係構築はこれからの課題です。toBでのパートナーの課題解決ができる組織にしていきたいです。組織全体としては、やはりプロダクトや各種施策に対しての数値感覚の強い人を一人でも多く育てていきたいです。

自動運転技術開発のティアフォーが累計113億円の資金調達、本格的な商用化目指す

自動運転技術を研究・開発しているティアフォーは7月4日、シリーズAラウンドの累計資金調達額が113億円になったことを発表した。今回、新たに下記の企業を引受先とする第三者割当増資を実施。今回調達した資金は、人材の獲得と財務基盤の強化を利用される。今後、自動運転システムの本格的な商用化を目指すとのこと。

  • 損害保険ジャパン日本興亜
  • ヤマハ発動機
  • KDDI
  • ジャフコ(ジャフコSV5共有投資事業有限責任組合、ジャフコSV5スター投資事業有限責任組合)
  • アイサンテクノロジー

具体的に商用化を目指して注力する自動運転システムは、施設内移動・物流、過疎地域交通、市街地・高速道路における長距離貨客輸送の3分野。前述のように引き受け先には損害保険ジャパン日本興亜やKDDIが入っており、リスクマネジメントや5G対応ついてもパートナー企業を協力していくという。

関連記事:KDDIなどが一般公道で5G活用した複数台の遠隔監視型自動運転の実証実験へ

ティアフォーは今年2月に、KDDIなどと一緒に一般公道で5G活用した複数台の遠隔監視型自動運転の実証実験を行った

ティアフォーが開発を主導しているオープンソースの自動運転OS「Autoware」は、国内外200社以上で導入された実績があり、今後も政府機関から民間企業、大学まで幅広い協業を進めていくとのこと。そのほか同社は、米国運輸省(U.S. Department of Transportation)に属する連邦道路庁(Federal Highway Administration)が提唱する自動運転ソフトウェア「CARMA」など、世界各地で自動運転システム開発をサポートしている。

関連記事:全国初、愛知県で国産完全自動運転車を使った試験運用がまもなくスタート

今年の2月下旬から3月にかけて、同社が開発した完全自動運転EVの「Milee」(マイリー)と、そのモビリティサービス用ウェブプラットフォーム「Web.Auto)」を使った実証実験を愛知県内で実施した

ウォレットアプリの「Kyash」が約15億円調達、3大メガバンクと米VCが投資

左からKyash代表取締役の鷹取真一氏、CTOの椎野孝弘氏

Kyashは7月3日、サンフランシスコに本社を置くGoodwater Capitalならびに三菱UFJキャピタルをリードとするシリーズBラウンドにおいて約15億円の資金調達を実施したと明かした。同ラウンドには凸版印刷、ジャフコ、新生企業投資、SMBCベンチャーキャピタルも参加している。

Kyashは2016年12月に発表されたシリーズAでは約10億円を調達しており、累積資金調達額は約28億円となった。

Kyashは2017年4月にウォレットアプリの「Kyash」をリリース。今年の4月には法人向けの決済プラットフォーム「Kyash Direct」を提供開始し、決済技術を他社へ開放した。

今回のラウンドに三菱UFJキャピタルがラウンドに参加したことにより、Kyashの投資家勢に3メガバンクが揃うかたちとなった。Kyashはこれまでに三井住友銀行ならびにみずほキャピタルからの出資を受けている。

FacebookやTwitter、Spotifyなどに投資を実施してきたGoodwater CapitalのマネージングパートナーであるEric J. Kim氏は「Kyashは、従来の銀行が提供しているサービスをより合理的な方法で提供することができ、世界中で急拡大しているチャレンジャーバンクの類型に属している。プロダクトのリリースからわずか2年足らずで、決済領域におけるテクノロジーカンパニーのリーダーとして『価値移動のインフラ』を創りあげ、Visaからカード発行ライセンスを取得するまでにいたったKyashのさらなる成長を期待している」とコメント。

TechCrunch Japanでは、今回の調達に関してKyash代表取締役の鷹取真一氏に話を聞いた。

今回のラウンドには米のGoodwater Capitalが参加しているが?

鷹取氏「日本には巨大な小売市場があるけれど、キャッシュレス比率が諸外国と比べて圧倒的に低い。すなわち、ポテンシャルがまだまだある。日本では10月から政府がキャッシュレス還元を支援したり、来年にはオリンピックが開催される。更に、政府はキャッシュレスビジョンの中でキャッシュレス比率を40パーセントまで高めるという明確なコミットをしており、この大きな市場を魅力に感じる海外の投資家が増えてきている。とはいえ、日本の決済市場はかなりの飽和状態であり、『興味はある』という方は多くいるが、本当に出資にいたったのは今回のケースが初。Goodwater CapitalはFacebookやTwitter、Spotifyなど世界でも有名な企業の投資実績があり、これからの銀行になっていくような事業者に、グローバルに出資をしている。日本の中で可能性がありそうな事業者ということで、お話をいただき、ご縁にいたった。そしてKyashとしては、国内だけではなく、中長期としては海外も当然見ている」

日本の決済市場におけるKyashのポジションは?

鷹取氏「端的な答えとしては、金融領域のインフラを作っているというところ。KyashでもKyashというウォレットを出しているが、他の事業者もウォレットや自社のサービスとしてエンドユーザーに届けるところは色々とやっている。そのような中で、Kyashの強みは、プロセシングや送金などの仕組みのテクノロジーを他社に解放しているところ。プラットフォーム化をして、自社のサービスだけではなく他のサービスもそこに乗って収益化ができるような場を提供していく。そういう事業者であるという部分が他社との大きな違いだ」

日本のキャッシュレス化の現状をどう見ているか?

鷹取氏「僕の中で、『キャッシュレス1.0』が、ポイントばら撒きやインセンティブにより、まずは『経済的な便利』で使い始めてもらうというステージ。『キャッシュレス2.0』では、本当の意味での金融機能が価値を発揮してくる。支払いサイクルや受け取りのサイクルが短くなるなど、金融機能がより強化されることにより生まれる付加価値に、より強力なユーザーがユーザーが付いてくると思っている。現在はかなりの飽和状態で、ポイントや還元の話が盛り上がっている。だが、僕たちはその先を見ており、給料や報酬が即座に受け取れるとか、1ヵ月後にしか払われなかったものが1〜2週間で払われるとか、金融機能を強化していくことによって、人々がよりお金にアクセスしやすくなる仕組みを作っていきたい」

調達した資金をもとにKyashは開発体制強化のための人材を確保する。鷹取氏は「決済事業者という域を超えて、バンキング領域やそういうところに入っていく。新しいライセンスの取得やセキュリティーに対する投資を強めていきたい」と話していた。

ネット予約を軸に飲食店業務の自動化・最適化を進めるTableCheckが6億円を調達

TableCheckのボードメンバーおよび投資家陣。中央が代表取締役CEOの谷口優氏

飲食店向けにクラウド型レストランマネジメントシステム「TableSolution(テーブルソリューション)」などを提供するTableCheckは7月2日、DNX VenturesとSMBCベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額約6億円を調達したことを明らかにした。

同社では2017年12月にもSMBCベンチャーキャピタルから1.5億円を調達しているほか、これまでにジャフコ、出井伸之氏、山田進太郎氏などから4.65億円の資金調達を実施しており、累計調達総額は 10.65億円になる。

今回調達した資金を活用して海外拠点の新設と人材採用を加速させる計画。今年より本格稼働するオーストラリアとタイの2拠点に加え、2020年2月までに香港とドバイにも拠点を構える方針だ。また今後も継続的にテクノロジーの活用による飲食店業務の最適化・自動化に向けたプロダクトのアップデートを進めていくという。

なお同社では資金調達と合わせて福島純夫氏、倉林陽氏の2名が社外取締役に就任したことも明かしている。

導入店舗は19ヶ国約4000店舗まで拡大

TableSolutionはネット予約管理・顧客管理を軸とした飲食店向けのSaaS型プロダクトだ。予約の取りこぼしを防ぐ電話自動応答機能や着信と同時に顧客情報を表示するCTI連携機能、無断キャンセルを防ぐクレジットカード決済機能など、レストランの業務を効率化しつつ売上拡大も支援する仕掛けをいくつも用意している。

以前から積極的にグローバル展開を進めていて、現在は19ヶ国約4000店舗に導入済み。同サービスと連動したコンシューマー向けの飲食店検索・予約サイト「TableCheck」の月間予約人数も約100万人まで到達している。

SaaSの重要指標とされているチャーンレート(解約率)は1%以下を維持していて、海外の導入店舗数は前年比で2倍、国内も1.7倍になるなど比較的順調に成長しているようだ。

TableCheck代表取締役の谷口優氏によると、前回調達時からの約1年半は海外展開を積極的に進めてきたそう。「以前からグローバルに力を入れていくと言っていて、実際にシンガポールやオーストラリアなどに店舗を構えるグローバルチェーンからの引き合いが増えている。グローバルチェーンだからこそ徹底的にローカライズしなくても評価されるという仮説が実証されてきたので、今後はより広範囲で展開していきたい」という。

昨年韓国とシンガポールに拠点を開設し、今年の2月にインドネシアにも進出。7月より本格稼働するオーストラリアとタイを含めると海外拠点は5ヶ国に及ぶ。来年2月までには香港とドバイにも広げる予定で、これまで中心だったASEANから中東、ゆくゆくはアメリカなどへの展開も含めて検討していく計画だ。

とはいえ谷口氏が「申し込みの店舗数ベースでは日本とグローバルが5:1くらいの比率」と話すように、店舗数に関しては日本国内がいまだに中心。日本に関しては高級店だけでなくカジュアルな店舗への導入が進んでいることに加え、引き続き同業他社からのリプレイスが多いという(現在も新規申し込みの約半数ほどが別サービスからの乗り換えとのこと)。

TableSolutionの管理画面(フロア)

特に直近では個店だけでなく、20〜40店舗に予約台帳システムを導入しているような大規模店舗からのリプレイスが多いそう。この領域では同じくスタートアップのトレタを始め、国内だけでも複数のプレイヤーが事業を展開しているため「ある程度マーケットに浸透してきた中で、機能面などを踏まえてより自社に合ったプロダクトを選ぼうという流れになってきている」というのが谷口氏の見解だ。

「自分たちのフィロソフィーは『電話予約でできていたことはネット予約でも全部できないといけない。さらに電話予約ではできないことをネット予約で実現する』ということ。その部分をしっかりと評価してもらえている」(谷口氏)

たとえば人気店では電話予約時に人力で細かい調整が行われているそう。キッチンがパンクしないように、複数のテーブルに空きがあっても全席を同時刻に埋めるのではなく時間を微妙にずらしたり。ガラガラの月曜日には4人席で2〜3人の予約を積極的に受けつつ、客数が多い金曜日には4名の予約だけを受けたり。クリスマスには席数を増やしながら18時と20時半の2回転制にしたり。

このようなシーズンやニーズごとの飲食店側のオペレーションに細かく対応できるシステムは意外と少なく、場合によっては「売上を増やすため、業務効率化を進めるためにネット予約システムを入れたのに、席効率が悪くなることで却って売上が減ってしまったようなケースもある」(谷口氏)という。

結果的にネット予約に席をほとんど解放せず、電話予約で対応している店舗もあるとのこと。そこにペインを感じ、上述したような点を含めて柔軟にチューニングができるTableSolutionに行き着く顧客も多いようだ。

TableSolutionの管理画面(予約作成)

海外展開を加速、個人向けプロダクトの強化も見据える

電話予約でできることをネット予約でもスムーズにできるようにするという特徴に加え、ネット予約システムならではの機能も好評だ。

その1つが前回も紹介したカード決済機能「キャンセルプロテクション」。これは予約時に事前決済や与信をとることで無断キャンセルを抑止する機能で、ネット予約に加えて昨年11月には電話予約にも対応を始めた。

TableSolution導入企業は無料で使うことが可能で、適用される条件も予約人数や曜日、エリアなどに応じて細かく設定することができる(たとえば4人以上の場合は予約時にカード情報が必要など)。同機能は約1200店が活用しており、これらの特徴が顧客のニーズにマッチした結果として「原則ネット予約以外は受け付けない」という店舗も複数生まれてきているようだ。

このような店舗向けのソリューションを軸としつつ、直近では飲食店を訪れるコンシューマー向けの機能も少しずつ強化をしている状況。実運用は少し先になるとのことだが飲食店版クレジットスコアのような構想に向けた取り組みや、来店時にカードもスマホも一切使用せずに会計できる決済機能の展開も進めている。

今回の資金調達については海外展開を中心に導入店舗数を一層拡大することが大きな目的となるが、中長期的にはコンシューマー向けのプロダクト強化や新プロダクトも見据えているという。

「飲食店の『オートメーション』と『オプティマイゼーション』が2大テーマであることはこれからも変わらない。まずは国内外で飲食店の課題解決に向けた取り組みを強化しながら、世界中の飲食店とユーザーをシームレスに繋ぐプラットフォームとして機能拡充を進めていきたい」(谷口氏)

犬の気持ちがわかる「イヌパシー」開発のラングレスが1億円調達、牛やイルカ、ゾウに対象拡大へ

犬の感情を5つの色で表す犬用ウェアラブルデバイス「INUPATHY」(イヌパシー)を開発・販売しているラングレスは7月2日、リアルテックファンドMistletoe(ミスルトウ)から総額1億円の資金調達を発表した。

今回の資金調達により同社は、北米を中心としたINUPATHYの海外展開を目指すほか、犬以外の哺乳類全般の心の状態を可視化・表現する研究開発体制を新たに構築していく。

INUPATHYは、心拍センシング技術と動物感情解析技術を用いたハーネス型の犬用ウェアラブルデバイス。リラックス状態や好奇心状態といった犬の感情を5つのLED色で可視化できるのが特徴だ。同デバイスは、ノイズに極めて強く、体内の音声から心音のみを拾うことができる特殊な心拍センサーを内蔵。同社によると、同センサーから取得した犬の心拍情報から犬の状態を可視化できるとのこと。具体的には、心拍の分散値(HRV)から自律神経の活性状態を推測するというパターン分類アルゴリズムによって実現しているという。さらに、独自技術による心拍変動解析「HRVシステム」によって体調の変化を察知し、健康管理に役立てることも可能としている。

同デバイスは2018年11月より販売を開始しており、国内で600台を販売。同社ではペット産業はもちろん、畜産業における家畜の体調管理や研究分野での応用を期待している。

さらに同社は「Langualess LABO」(ラングレスラボ)を設立。INUPATHYで蓄積した、リアルタイムの心拍変動解析技術とデータの分析結果を他の動物へ応用することを考えており、今後は人や牛、イルカ、ゾウなどの大型動物や海洋生物を対象として他社との共同研究プロジェクトも進めていく。

建設職人シェアの助太刀が5億円を追加調達、アプリ会員数増加や課金率向上に注力

建設現場と建設職人のマッチングサービスなどを提供する助太刀は7月2日、スパークス・グループが運営する「未来創生2号ファンド」から約5億円の第三者割当増資による資金調達を発表した。

既報のとおり同社は、4月23日にJA三井リースと工機ホールディングスから約2億円の資金調達を済ませており、総額で約7億円の資金調達となる。

関連記事:建設職人シェアの助太刀が工機ホールディングスとJA三井リースから資金調達

助太刀といえば、先日の山形沖地震を受けて特設ページを開設したことが記憶に新しい。災害発生後の対応について同社は「今後も災害発生時は、通常有料で提供している機能の開放や災害地域専用の緊急現場募集機能をできるようにしていく予定。すでに全国に7万人の登録者がいる職人のネットワークを活用し、被災地の人手不足の現場にすぐに駆けつけられるような仕組みを作っていきたい」としている。

関連記事:建設職人マッチングの「助太刀」が新潟・山形震災の特設現場募集ページを開設

今回の資金調達は、プロダクト開発、人材の採用、マーケティング活動に活用にするとのこと。助太刀は、社名と同じマッチングサービス「助太刀」だけでなく、その日の報酬の即時受け取りを可能にするペイメントサービス「助太刀Pay」、傷害保険が付帯する職人向けプリペイドカード「助太刀カード」、請求書払いなどに対応した法人向けマッチングサービス「助太刀ビジネス」などを展開している。

なおペイメント関連では、流通額などは非公開だが、セブン銀行とのアライアンスのおかげで全国で多くの職人に利用されているという。現在は、アプリのリニューアルと独自の与信システムを構築中で、秋ごろから大規模プロモーション打っていく予定と教えてくれた。

具体的にプロダクト開発について同社は、「助太刀と助太刀Pay、助太刀Ads(アプリ内広告)の3つの事業が、アプリリリースから約1年半を経て収益化が始まったところ。今後は調達した資金を生かしてさらなるアプリの改善を進め、アプリの会員数、課金率向上に注力する」。さらに「今後は職人さんを手配する工事会社など、法人向けのプロダクトを拡充させていき、建設業界で働くあらゆる人にとってなくてはならないサービスを目指す」という。

スタッフの増強については同社は、エンジニア、サービスグロースできる人材を強く求めている。加えて、セールス、CS、BizDev、マーケティング、バックオフィスなど全ポジションで人材が足りていない状況で、今後の事業の拡大のためにも全ポジションで採用を進めていきたいとしている。

今回のファンドからの資金調達は、顧客データの共有やファイナンス機能の強化などの狙いがあった前回の調達とは若干意味合いが異なる。この点について同社は次のようにコメントしている。「私たちは『建設現場を魅力ある職場に』をビジョンとして掲げ、IT によって業界構造を再定義し、業界の人手不足問題の解決を目指す。我々は目指すビジョンに共感いただいた投資家に応援してもらっている。今後も事業会社、ファンド問わずここは大事にしていきたい」。

なお、今回の資金調達先である未来創生ファンドとは、スパークスを運営者として、トヨタ自動車と三井住友銀行を加えた3社によるファンド。2015年11月より運用を開始した1号ファンドの規模は総額約135億円で、最終的にはこの3社を加えた計20社からの出資を受けた。

同ファンドは、「知能化技術」「ロボティクス」「水素社会実現に資する技術」を中核技術と位置付けて、米国、英国、イスラエル、シンガポール、日本の約50社に投資。2018年下半期には、新たに「電動化」「新素材」を投資対象とした2号ファンドの運用を開始している。2019年5月末時点の運用資産残高は、1号と2号を併せて1093億円となっているとのこと。

AI画像解析でカロリーなどの栄養素を数値化する「カロミル」運営が1.7億円の資金調達

ヘルスケアアプリ「カロミル」運営のライフログテクノロジーは7月2日、アドバンテッジ リスク マネジメント、TIS、新日本科学、DGLab1号投資事業有限責任組合からの第三者割当増資による総額で1.7億円の資金調達を実施したと明かした。アドバンテッジ リスク マネジメント、TIS、新日本科学とは資本提携を締結している。

カロミルは食事や運動、体重などを記録し健康管理を行うためのヘルスケアアプリ。カロリー、脂質、炭水化物、糖質、食物繊維などの栄養情報を自動解析することで、不足・過剰な栄養素などの情報を把握することができる。また、体重や運動量の記録を記録し、健康改善も目標達成に役立つ機能も搭載している。

2016年2月創業のライフログテクノロジーは4月、カロミルに複数の食品を同時に画像判別し栄養素を自動計算するAIの搭載、そして画像判別が可能な食品が1万種類を超えたことを発表している。

本日、ライフログテクノロジーは、メンタルヘルスケアなどの事業を展開するアドバンテッジ リスク マネジメントとの業務提携を締結したことも併せて発表。 業務提携では「法人向けの従業員の総合的な健康管理プラットフォーム事業」などを展開する。

同社は、アドバンテッジ リスク マネジメントとの連携により、「より高い改善効果の見込める健康経営のソリューション」を提供できるようになるとコメントしている。

また、同社いわく、アドバンテッジ リスク マネジメントが展開する健康経営のコンサルティングサービスの一環としてカロミルが導入されることで、「食生活・体調・ストレスの状態・職場環境・仕事の生産性・エンゲージメントなどを総合的に判断する材料となる、これまで市場になかった貴重なデータ」を集積していくことが可能となる。

同社は今後もデータ活用に重きを置いた事業展開に注力。医療・介護・スポーツ・教育・美容・自治体など、より幅広い分野との提携を進めていく。同社は2018年5月、6000万円の資金調達を発表していた。

人材紹介エージェント支援のSCOUTERがROXXに社名変更、パーソルなどから3.7億円を調達

人材紹介エージェントのためのサービスを提供するSCOUTER(スカウター)は7月1日、総額約3億7000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。また同日、社名変更も発表。新たな社名はROXX(ロックス)となる。

今回の資金調達の出資者はパーソルキャリアおよびSMBCベンチャーキャピタルで、パーソルが約3億円を出資する。パーソルとROXXは今後、事業でも連携していく方針だ。

写真左からパーソルキャリア代表取締役社⻑ 峯尾太郎⽒、ROXX代表取締役 中嶋汰朗氏、パーソルキャリア執⾏役員 岩⽥亮⽒

データとツールでエージェントコストを下げ人材流動化を支援

ROXXは、個人が副業で人材エージェントとしてヘッドハンティングを行うためのサービス「SCOUTER」、そして中小規模の人材紹介会社をターゲットにしたクラウド求人データベース「SARDINE(サーディン)」を展開してきた。

個人向けのSCOUTERは、ソーシャルヘッドハンティングサービスとして2016年4月にサービスを開始。TechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトルでファイナリストに選ばれたプロダクトだが、現在はサービスを休止している。

一方、2018年5月に正式リリースされた中小法人向けのSARDINEは、求人データベースと業務管理ツールのクラウドサービスだ。月額利用料のみ、成功報酬に対する手数料が不要で約2000件の求人が利用できる。この料金設定により、小規模エージェントから好評を得ており、現在は、200社近いエージェントがSARDINEを利用しているという。

以前から、ROXX代表取締役社長の中嶋汰朗氏は「成果報酬を100%還元すれば、エージェントはインセンティブが高い(年収が高い)求人を優先するのではなく、転職者本人が希望する求人を選択してプッシュすることになるので、選択をねじ曲げず、マッチング率も高められる」と話していた。

中嶋氏は「求人流通システムを拡充し、中途採用市場の人材流動化をさらに支援したい」という。

人材紹介の成果報酬は一般に、紹介者の年収をベースに何%、と決められるため、年収が高い人を紹介すれば、エージェントへの報酬額は高くなる。人材紹介業では、実は求職者と求人がなかなかマッチしないため、エージェントが1件の紹介にかける時間、すなわちコストがかさむ傾向にある。そこで大手業者では、コスト率を下げるために年収の高い人材しか紹介案件として扱えない、という状況が生まれる。かといって、求人に合った人材が紹介できなければ、また決定率は下がり、コスト率は上がって悪循環となる。

一方、今はダイレクトリクルーティングが簡単に行える時代。能力が高い人材ほど、SNSなどさまざまなルートを使って、自力で求人にたどり着きやすくなっている。エージェントの力が求められるのは、むしろ自分の力だけでは転職が難しい、年収が低い層の求職者だと中嶋氏はいう。

中嶋氏は「エージェントのコストを下げ、転職に当たってサポートがほしい人たちの人材紹介決定率を上げていくことで、年収が低い層の人材も流動化しやすくなる」と話している。業務管理ツールの提供とデータの蓄積により、その決定率アップを狙う。

業務管理ツールについては、SARDINEユーザーには無料で提供。またデータについても、月に4000件近い案件紹介により、蓄積が進む。

「例えば『金髪NG』という採用基準があったとして、実は髪色の判断にもグラデーションがある。『A社の場合、どこからが茶髪としてOK』なのか、求人票ベースだと分からない。そうした『どのラインまでは受かり、どこで落ちたのか』をデータベース上で情報蓄積することで、エージェントの紹介確度を上げられる」(中嶋氏)

今回のパーソルとの提携により、さらに求人・求職者の案件増が見込まれ、またパーソルグループが有する人材プールを活用してエージェントが仕事をしやすくなる、と中嶋氏は期待を寄せている。

「中小エージェントはこれまで、大手企業からの求人を取ることができなかった。パーソルにはその接点がある。SARDINEへ大手の求人案件を供給してもらうことで、企業側もこれまでマッチングできなかった層の求職者と出会うことができるようになる」(中嶋氏)

「今後、副業を探す人のための人材紹介や、新卒紹介にも取り組む予定」という中嶋氏。「さまざまなサービスで小規模の人材紹介会社をエンパワーメントしていくつもりだ。全国展開や正社員以外の雇用形態にサービスを広げることも視野に入れている」と語っている。

「ちゃんと仕事をしてきた人が評価を引き継げるように」

ROXXではSARDINEのほかに、4月より月額制のリファレンスチェックサービス「back check」をクローズドベータ版として、事前登録のあった約200社へ提供開始している。

日本ではまだなじみがないリファレンスチェックだが、欧米企業では応募時に提出が必須となっているところもあるほど浸透しており、最近、外資系企業や大手ベンチャー企業の採用で取り入れが始まっている。「書類や面接で見える情報だけでは本人が部署に合うかどうか、業務の得意不得意はどこか、といったことまで分からないので、リファレンスはあったほうがいい」と中嶋氏はいう。

back checkは「人事の課題にも対応したもの」と中嶋氏。従来の短時間の面接では分かりにくい、採用候補者の適性や経歴、実績などの評価を、上司や同僚、顧客など、候補者のこれまでの働きぶりをよく知る第三者から得る仕組みだ。

リファレンスチェックの実施頻度に応じて月額費用で利用可能なback checkは、従来の調査会社によるチェック費用から比べると、およそ10分の1とかなり安価に利用できる。職種に応じて質問を自動生成し、設問はカスタマイズすることも可能だ。リファレンスは企業が複数の推薦者を企業が指定し、候補者本人から依頼して取るシステムとなっている。オンラインで完結することもあって、推薦者の回答率は93%。平均4営業日で回答を得られているという。

「転職する人が増え、フリーランスをはじめ、働き方が多様化する中で、履歴書や職務経歴書だけで採用を判断することが難しくなってきた」と中嶋氏はいう。短時間の面接の場では、候補者のこれまでの細かい業務内容まで追えないことも多い。また“よそ行き”モードで来る候補者の仕事への姿勢を、その場で判断するのも難しいことだろう。それを複数の目線から詳細に情報収集できることは、実は候補者にとってもメリットがあると中嶋氏は説明する。

「最近、面接では不採用となった候補者が、リファレンスチェックで合格したケースも出てきた。特別に優秀な上位2割の人や明らかにNGな下位2割の人は、企業も採用・不採用の判断がしやすいが、真ん中の6割の人を書類と面接だけで判断するのは困難だ。リファレンスチェックを行うことで、カルチャーフィットや相性などの面で『ウチに合うか』も分かる。候補者にとっても、なじまない組織に無理やり入るリスクを避けられる上、実績の裏付けを出せることでプラスになる」(中嶋氏)

「back checkにデータが蓄積されれば、ゆくゆくは企業ごとに入社後の活躍の可能性も見ることができるようになるだろう」という中嶋氏。近く予定されている正式公開後、まずは1万社の利用を目指す。「今回の調達資金もback checkの開発、強化に充て、よりサービスを伸ばしていきたい」と中嶋氏は述べている。

中嶋氏は「ちゃんと仕事をしてきた人が、次の会社にもキチンと評価を引き継げるように、そしてエージェントが求職者の意思決定を支援できるように」と目指す採用のあり方について話しており、back checkとSARDINE双方向での利用拡大と、求人・人材情報の質向上を図っていく構えだ。

IoTとAIを活用したシェア型コミュニティファームのプランティオが1.5億円の資金調達

アグリテック領域のスタートアップ、プランティオは6月27日、ジェネシア・ベンチャーズ、東急不動産が運営する「SHIBUYA Innovation Program」、キャナルベンチャーズ、JA三井リースから、約1.5億円の資金調達を実施したことを発表した。

プランティオは、センサーや通信モジュールを搭載した野菜栽培用IoTプランターの「PLANTIO HOME」、そしてIoTプランターと専用アプリを活用したシェア型コミュニティファームを開発している。そして本日、プランティオは前述のIoTファームのプロトタイプ、「SUSTINA PARK EBISU PRIME」を恵比寿プライムスクエアタワーに7月28日にオープンするとも併せて発表。同ファームでは、種蒔きから収穫まで、ライトな農業体験を、田舎に行かずとも都会で、日常の範囲内で楽しめる。

プランティオの代表取締役、芹澤孝悦氏

プランティオの代表取締役、芹澤孝悦氏いわく、アーバンファーミング(都市型農園)は海外だとニューヨークやロンドンではスタンダードになってきている。例えばロンドンでは2012年ロンドンオリンピックに合わせ、2012ヵ所に農園を設置している。日本では2018年3月にNPO団体のUrban Farmers Clubが発足し、2020年までに2020ヵ所の市民農園を設置することを目標としている。プランティオはUrban Farmers Clubの一員として、ハイテクを用いて日本のアーバンファーミング文化の普及に貢献する。

SUSTINA PARK EBISU PRIMEでは、試験運用中のアプリをダウンロードすることでファームに入るためのスマートロックのキーを取得。収穫時期は植物栽培特化型AIの「Crowd Farming System」によって予測される。アプリはSNSのようにコミュニティーとして機能し、プランティオはユーザー同士がファームフレンドとなり、イベントなどをファームや近隣の飲食店で開催する。

ファームには土壌センサー、カメラ、外気温計などが実装されており、植物の生育をモニタリングすることで、水やりや間引き、人工授粉が必要なタイミングでユーザーコミュニティーに通知される。

プランティオのファームの利用はサブスク式となり、どこのファームへも行き放題、かつ、アプリでは近くのファームを探すほか、お気に入りのファームや野菜をフォローすることが可能。夕飯の食材に困った際にはすぐに近くのファームを探し、立ち寄り収穫することができる。

プランティオは「屋上にグリーンを増やしヒートアイランド現象対策」「ユーザーが育て、収穫することによる持続可能性のある食と農」「有事の際はファームを開放し、野菜を取り放題にし災害対応」「サブスクリプションに入ってさえいれば最低限野菜はもらえるという貧困対策」といった観点から、2015年9月の国連総会で採択されたSDGsの達成に向けても貢献する。

プランティオは今後、資金調達の引受先各社との事業連携を進めていく。東急不動産とは、同社が運営する施設やビルなどの屋上や遊休施設でのIoTファームの展開やマンションへのIoTプランターの展開、JA三井リースとは、同社のファイナンス機能や食農分野におけるノウハウの提供を通じ、プランティオの事業展開を加速させる。

僕もSUSTINA PARK EBISU PRIMEを訪れ巨大なズッキーニを収穫してきたので、その時の写真をいくつか共有しよう。ハーブやパクチーなども多く育てられていて、何よりも、都心にいることが忘れられる穏やかな空気感が印象的だった。イベントに参加するのはもとろんのこと、息抜きにそこで仕事をするのもアリだな、と思った。

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日本酒接客支援ツール開発のSAKELOGYが総額4200万円を調達

日本酒接客支援ツールを開発・運営するSAKELOGYは6月26日、総額4200万円の資金調達を発表した。内訳は、インキュベイトファンド、ALL-JAPAN観光立国ファンド、個人投資家の曽我健氏を引受先とした第三者割当増資と、北國銀行からのデットファイナンス(借り入れ)となっている。

社名と同名のサービス「SAKELOGY」は、日本酒のデータベースを利用した日本酒メニューの作成システム。飲食店や小売店が自店の日本酒銘柄のメニューをクラウド上で簡単に作成できるのが特徴だ。

来店客は、スマホやタブレットを使って、店舗側が提供する日本酒に合った飲み方や酒の肴を選ぶことができる。なお、メニューは英語に切り替えることも可能だ。

ワインと同様に種類や産地が多岐にわたる日本酒の銘柄を詳しく説明するには、前提となる知識や経験が必要で、スタッフをトレーニングするにはかなりの時間がかかる。SAKELOGYではこういった問題を解消するために開発されたサービス。前述のように英語メニューへの切り替えにも対応しているので、インバウンドの需要も取り込める。同社は、日本酒の出荷量を現在の2〜3倍へ押し上げることをミッションに掲げている。

SAKELOGYでは今回の資金調達により、石川県内でのパートナーシップの拡大とSAKELOGYの導入を検討している顧客へのサポート強化を目指すとのこと。ちなみに石川県を重視しているのは、同社が2018年9月に石川県で開催されたビジネスコンテストで賞を獲得し、同県拠点の北國銀行や行政、酒販店の協力によって県内400銘柄の日本酒データベースを構築しているためだ。2019年後半には、石川県以外の北陸、関西にエリアを拡大してデータベースを充実させるとのこと。その後、順次全国をカバーして海外進出も目指す。

スキルシェアのミツモアがWiLやAngel Bridgeから5億円調達

ミツモアは6月26日、総額5億円の資金調達を発表した。第三者割当増資となり、引受先はWiL、Angel Bridge、東大創業者の会応援ファンド、個人投資家など。

同社が提供している社名と同名のサービス「ミツモア」は、カメラマンや税理士、弁理士、クリーニング業者など、主に対面型のサービスを提供する専門家と利用者をマッチングするサービス。190職種を超える専門家が同サービスに登録しており、2019年6月時点での累計依頼者数は​7万人以上、登録事業者数は2万人弱とのこと。クラウドソージングとは異なり、対面型のサービスを主軸にしているのが特徴だ。

今回の資金調達により、アルゴリズムの改善によるマッチング精度の向上と、現在は手動で作成している見積もりを自動化すること目指す。そのほか、エンジニアやプロダクトマネジャーなどの人材の増員による体制構築を進めるほか、サポートとカスタマーサクセスの強化も予定しているという。中期の目標としては、事業者への保険サービスや「集客以外の業務」の効率化も手がけるとしている。

ミツモアの具体的な依頼例としては、ホテルでのパーティー動画とスチール同時撮影、不動産会社から原状回復ハウスクリーニング、テレビ局からのドローン撮影などがある。依頼総額は、2017年6月のサービス開始から約24カ月で累​計60億円を突破したという。実際に仕事の依頼が多い業種は、カメラマン、税理士、動画制作、クリーニング、車のメンテナンスとのこと。

利用者はミツモアのウェブサイトから依頼したい仕事の内容を選ぶだけで、最大5人の専門家に相見積もりをとれるほか、仕事の正式依頼もウェブサイト内のチャット機能で済ませられるのが特徴だ。

ミツモアは、日本のローカルサービス市場の非効率を解消することをミッションとしており、ミツモアのプラットフォームによって営業活動かける時間や仲介業者にかけるコスト軽減を狙う。

月額300円のサブスクスマートロック開発のビットキーが約7.4億円調達

ビットキーは6月20日、森トラストおよび複数の事業会社経営者、エンジェル投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約7.4億円の資金調達を実施した。累計調達額は約10.8億円となる。

同社はスマートロックの「bitlock LITE」(ビットロック ライト)を手がけている企業。bitlock LITEは発売から2カ月で5万台以上を受注したとのこと。スマートフォンからBluetooth経由で施錠と解錠ができる製品で、製品本体は既存のドアの内側に強力な粘着テープで貼り付けることで固定できる。初期費用は0円で、年払い税別3600円(月あたり300円)、月払い税別360円のサブスクリプションサービスとして利用できる点が特徴だ。なお施錠/解錠については、別売りの専用ボタン「bit button」も利用できる。

今回の資金調達により、量産・供給体制を拡充するほか、営業人員体制およびカスタマーサクセス人員体制も強化するとのこと。これらの体制強化によって、2019年中に流通合計数20万台以上を目指す。なお今夏には、マンションや集合住宅向けのオートロック対応の新製品やbitlockの上位モデル、ICカードでの施錠/解錠を可能にするカードリーダーなどの周辺製品も順次販売するという。

ロボットの力加減を容易にする力触覚IC開発のモーションリブが総額1.8億円を調達

力触覚技術を搭載したICチップ「AbcCore」の開発元であるモーションリブは6月24日、慶應イノベーション・イニシアティブおよびDBJキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、総額1.8億円の資金調達を発表した。

同社の力触覚技術は「リアルハプティクス」と呼ばれており、機械の力加減を簡単に操れるようにする、慶應義塾大学が開発した技術。具体的には、DC/ACサーボモータを細かく制御することで、産業用ロボットがなどが得意な正確な位置制御と柔軟な力制御を両立することで、機械やロボットのアームなどに力の加減を持たせることができる。モータ2台を運動同期することも可能だ。AbcCoreは、この力触覚の制御を実現するICチップとなる。

今回の資金調達により同社は、現在50件以上あるさまざまな業種の企業との共同研究開発プロジェクトを推進し、製品への実装を進めていくとのこと。すでに一部の企業では、最終製品へのAbcCore の実装・販売が始まっているそうだ。

最短24時間で請求書を現金化、クラウドファクタリングのOLTAが25億円調達

右からOLTA取締役CFO 浅野雄太氏、取締役CSO 武田修一氏、代表取締役CEO 澤岻優紀氏、個人投資家として同社を支援する有安伸宏氏

既存の金融を“拡張”し、個人や企業に新たな資金調達の選択肢を提供する「オルタナティブファイナンス」は、近年FinTech界隈で注目を集めている領域の1つだ。

クラウドファンディングやP2Pのオンラインレンディングなどがその代表格だが、ABL(動産担保融資)やファクタリングを始め、テクノロジーの活用でこれまでにない資金調達手段を開発する、もしくは従来の仕組みを進化させようとするスタートアップが国内外で登場している。

今回取り上げるOLTA(オルタ)もまさにそうだ。同社が取り組むのは入金待ちの売掛債権(請求書)を売却することで資金調達ができる「ファクタリング」のアップデート。オンライン完結型のクラウドファクタリングサービス「OLTA」を開発する。

そのOLTAは6月24日、さらなる事業拡大に向けて総額で約25億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

内訳はSBIインベストメント、ジャフコ、BEENEXT、新生銀行を引受先とした第三者割当増資が約18億円。そこに三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など複数の金融機関からの融資が加わる。

OLTAではこれまで個人投資家の有安伸宏氏、ジャフコ、BEENEXTから5億円を調達済み。2017年4月の創業以来、累計で30億円を調達したことになる。

オンライン完結、特徴は「はやい・かんたん・リーズナブル」

最初にファクタリングとはどのようなシーンで使われる仕組みなのかを簡単にだけ紹介しておこう。

例えば中小の部品工場が取引先に製品を納品した場合、その瞬間すぐに現金で代金が支払われるわけではなく、請求書を発行して1〜2ヶ月後に入金されるのが法人間の一般的な契約パターンだ。

特に相手が大手企業だとある程度の取引金額になる一方で「早く支払って」と言える関係性にないため、「売上はあるけど手元に現金がない状態」が発生し、経営者が短期的な資金繰りに頭を悩ませるケースが多いという。

そんな時、いずれ入金される予定の請求書を売却することで運転資金を調達できるのがファクタリングだ。

この仕組み自体は決して新しいものではなく、以前から日本国内でも複数の事業者がサービスを展開していた。ただこれまではアナログの側面が多かったため、郵送または面談で申込書類を提出し、審査も対面で実施。請求書を買ってもらえるかわかるまでに数日かかっていた。

運営会社としても1件ごとにある程度の手間や人件費がかかるので、その分だけユーザーが支払うサービス手数料も増える。未回収リスクも含めると、結果的に手数料が20〜30%になるのが一般的なファクタリングだった。

この一連のフローをオンライン完結型にして、さらにテクノロジーを活用した審査モデルを組み込むことで圧倒的に使いやすくしようというのがOLTAのチャレンジだ。

OLTAのクラウドファクタリングではオンライン上で必要書類(代表者の本人確認書類、売却する請求書、直近7カ月の入出金明細、昨年度の決算書)を提出すると、独自システムによる審査が実施。通過した場合には指定の口座に買取金額が入金される。

ユーザーは売掛先から支払い期日に代金を受け取った後、買取金額と手数料をOLTAに返還する仕組みだ。

OLTAの特徴はスピード感と手続きの簡単さ、そして手数料の安さにある。会社にいながらファクタリングの申し込みができ、審査も最短で24時間以内。契約完了後は即日で買取金額が振り込まれる(時間によっては翌営業日になる場合もある)。

手数料も業界最安水準の2〜9%。100万円の請求書を売却する場合、90万円以上をスピーディーに調達できる計算だ。OLTAで取締役CSOを務める武田修一氏によると、もちろん手数料の安さはOLTAを選んでもらえる1つのフックになるものの「24時間以内に請求書を買ってくれるかわかるのが画期的で好評」だという。

「銀行に融資の相談をする場合、借りられるかどうかの結論が出るまでに数週間〜1ヶ月かかることがある。既存のファクタリングもオフラインの手続きと審査が必要なので、どうしてもある程度の時間が必要だ」

「ユーザーが困っているのは、入金日までの運転資金をどう集めるか。巨額の金額を調達したいというよりは困った時に困った分だけ資金提供してもらえる方法を探しているため、圧倒的に早いスピードで、なおかつ借金ではない形で資金を調達できる仕組みにはニーズがある」(武田氏)

申込総額は100億円を突破、独自のスコアリングモデルがカギ

2017年末からクローズドβ版の運用を始め、すでに申込総額は100億円を突破。OLTA代表取締役CEOの澤岻優紀氏の話では、主な利用者は社員数が10〜20人ほどで年商規模が1億円以下の中小企業とのこと。買取金額も数十万円〜数百万円がボリュームゾーンだ。

「そこまで大きな額ではないので、銀行から融資を受けたいと思っても審査の対象にならないことすらある。仕方がないので代表者が個人のカードで借金をしたり、親族借り入れで済ませたり。中小企業が短期で少額の資金を調達したいと思った際の選択肢が非常に限られていて、ペインが大きい」(澤岻氏)

アパレルのデザインに特化したある企業では、事業は好調だがキャッシュフローが回らず、大きな仕事の話が来た時に「入金待ちの状態で手元に現金がないこと」が原因で受けれないような状況に陥っていたそう。

特に中小企業ではそのような“機会損失”が生まれていることも多く、そんな場面で「あの入金待ちの請求書を売って次のチャレンジをしよう」とOLTAが活用されるわけだ。

また上述した特徴に加えて、OLTAの場合は「二者間ファクタリング」であることもポイントだという。

ファクタリングには売却対象となる請求書の取引先(売掛先)を当事者として巻き込む三者間ファクタリングと、巻き込まない二者間ファクタリングがある。長く運営されているタイプのサービスは、売掛先から資金を回収する三者間ファクタリングが多いが、そこに抵抗感のあるユーザーも一定数いるようだ。

「三者間でファクタリングを使いたいとなった場合、当然売掛先にも知られるので『あれ、この会社資金繰りが危ないのかな』と思われ、それ以降の取引に影響しかねない。だからこそ二者間ファクタリングには隠れた需要がある」(武田氏)

もちろん、サービス運営会社にとっては三者間タイプの方が売掛先から回収できるので未回収リスクを減らせるメリットがある。二者間の場合はいかに未回収リスクを減らせるか、「審査」の工程が重要。ここに手間をかけ過ぎたり、審査精度が低かったりすると結果的にユーザーの手数料に反映され使いづらいサービスになってしまう。

OLTAの場合はこの工程でテクノロジーを活用している。具体的には約20万社のデータに基づくAI(スコアリングモデル)を開発し、現在の手数料でも事業を拡大できる仕組みを整えた。

「中長期の融資のように3年後、5年後に貸したお金が返ってくるかを予測するのは簡単ではない。ただ自分たちの場合は、1〜2ヶ月後にちゃんと入金されるかどうかを見抜きたい。つまり非常に短期間の予測である点がポイントで、ここはAIでもかなり高精度で予測できると考えている」(武田氏)

これまでにデフォルトは一定程度発生しているそうだが、サービスを継続する上で大きな影響を与えるレベルではなく、ごく一部とのこと。「デフォルトじゃないデータだけでなく、デフォルトした場合のデータもしっかりと学習データとして活かすことで、より審査精度を高めていける」(澤岻氏)という。

中小企業に融資以外の資金調達手段を

海外では「BlueVine」や「Fundbox」など、数年前からオンラインファクタリングサービスに取り組むプレイヤーがいくつか存在している。

澤岻氏によると自社の事業ドメインをこの領域に決めたのは「海外ではすでに明確なニーズとマーケットがあることが証明されていて、スタートアップとしての戦い方で挑める領域だった」ことも1つの理由だ。

もともと澤岻氏は前職の野村證券で投資銀行部門に在籍し、大企業向けに資金調達のサポートを行ってきた。その仕事を通じて自身でも起業したいと奮い立ち、事業の方向性などを明確に決める前に独立したそうだ。

「大企業はビジネスアクションに合わせて融資や社債、株式など色々な資金調達手段を選ぶことができる。一方で中小企業の場合、ほとんどは融資だけ。自社の状態に応じて複数の選択肢の中から選べる状況を作ることは、単に融資をアップデートをするよりも価値があるのではないかと思った」(澤岻氏)

退職後、現在のクラウドファクタリングの事業モデルを立案。三菱UFJフィナンシャル・グループが主催するMUFGデジタルアクセラレータに選ばれたことをきっかけに、2017年4月にOLTAを創業した。

個人投資家として同社に出資する有安氏もマーケットのポテンシャルやファウンダーとの相性の良さを感じ、TwitterのDM経由で出会った後「プロダクトなし、会社も設立前」の状態から支援している。

「海外ではすでに急成長するスタートアップが出てきていて、社会的にもファクタリングという機能が必要とされているものの日本ではあまり浸透していない。伸びしろがある領域であり、なおかつファウンダーとマーケットのフィット感もすごく良かった」(有安氏)

澤岻氏だけでなく元ソニーの武田氏や、三菱商事・楽天を経てジョインした取締役CFOの浅野雄太氏をはじめ、金融業界を筆頭に大手企業出身のメンバーが多いことも特徴。スコアリングモデルを開発したメンバーも、過去に銀行の格付けモデルを開発していたデータサイエンティストだ。

国内でもマネーフォワードグループのMF KESSAIなどオンラインファクタリングサービスを手がける企業も徐々に登場し始めているが、まだまだ認知度も低く整備も進んでいない領域。ファクタリングと言いつつ貸付業務を行う悪質な事業者も一部では存在し、ファクタリングに対してマイナスのイメージを持っている企業もいるという。

そんな未成熟のマーケットだからこそまずは正しい認知を獲得していくのが重要だ。OLTAでもこれまではステルスでプロダクトを磨きつつ、弁護士同席の元で複数回金融庁に確認を取りながら事業を進めてきた。

他社との連携強化でゆくゆくは法人版クレジットスコアの開発も

そんな中で申込総額も100億円を超え、ある程度の手応えを掴みつつある段階で実施した今回の資金調達。集めた資金は組織体制の拡充に向けた人材採用と、ファクタリング事業のさらなる拡大に用いるという。

澤岻氏や武田氏がこれからの注力ポイントにあげるのが「金融機関や事業会社とのパートナーシップ」。すでにクラウド会計ソフトを展開するfreeeとは連携をしていて、今後はこのネットワークを広げていく計画だ。

クラウド会計ソフトや受発注管理システムなどと繋げることで「会計ソフト上で債権を売るといったように、よりシームレスで使いやすい体験を設計していく」(澤岻氏)のはもちろん、地銀など金融機関とも協業を図りユーザー体験の向上とデータの蓄積を進める。

「地域経済を支えているのは各地の金融機関。ただ彼らが抱えている法人の顧客は多いものの、実際の融資先となるのはその一部に限られる。(地銀とタッグを組むことで)これまで融資の対象にならなかった層にクラウドファクタリングを普及させていきたい。地方の事業者にとっては資金調達の選択肢が増えることになり、銀行にとっても新しい層と接点を作れることに繋がる」(武田氏)

その意味で、武田氏はクラウドファクタリングを既存の金融機関を“代替”するものではなく“補完”する存在だと捉えているそう。以前からゆくゆくはスコアリングモデルを地銀などに提供することも見据えて、自社で請求書の買取をしながら開発を進めてきた。

今後は様々なプレイヤーを「競合ではなく協業相手として巻き込んでいく」ことで、ファクタリングに限らず中小企業の資金調達環境を変えていくのが目標だ。

「『あらゆる情報を信用に変えあたらしい価値を創出する』ことをミッションとしているように、ファクタリングでナンバーワンになることだけを目指している訳ではない。方向性として考えているのは、アリババが手がけるクレジットスコアの法人版のような仕組みが作れるのではないかということ」

「中小企業の本当の状況をリアルタイムにきちんと評価できるようになれば、必ずしも請求書を買い取るだけでなく(他社と連携して)別のソリューションを紹介したり、自分たちで新たな仕組みを作って提供することもできる。スコアリングモデルを核に、中小企業や個人事業主が抱える課題の解決を目指したい」(澤岻氏)

シード期の資金調達はグローバルで行う時代になっている

CB Insightsによると、米国におけるシード期の資金調達件数は2018年に4年連続の減少となった。ディールの件数がどんどん落ち込む傾向は続いていて、その一方でディールの平均サイズは大きくなっている。これは新たな常態と言ってもいいだろう。しかし引き続き莫大な額の余剰金があり、かつてなく多くの資金がそこら中にある。

アーリーステージのスタートアップの起業を繰り返している創業者と同様、新たな起業家にとってこうした状況の変化は、どのように、どこで、誰から初期資本を調達するかに大きな影響を及ぼす。過去においては、シード期の資金調達はしばしば企業のアイデアに対して数十万ドルを投資するローカルのVCやエンジェルを探すことだった。実際の魅力や、ターゲットマーケットからのフィードバックというより、誰を知っているか、どこに立地するかという要素が大きかった。

しかし最良の投資ディールをめぐる競争が激しくなるにつれ、シリコンバレーのレガシー投資家はいま、世界中のスタートアップへの投資を模索し始めている。シリコンバレー外で操業している起業家には潜在的金鉱のようにみえるかもしれないが、創業者は投資家たちがスタートアップ、特に彼らの本拠地外のスタートアップについてどのように考えているかを理解する必要がある。

投資家が海外から問い合わせてきたときのために、起業家が知っておくべき3つのことを以下に挙げる。

チームの分散はもはや不利ではないが、マーケット近くに立地する必要がまだある

これまでの大多数の考え方は、スタートアップがうまくやっていくにはシリコンバレーか別の米国内のテックハブに立地する必要がある、というものだった。結局、投資家や才能ある人がいるのは米国なのだ。しかしながら、必ずしもそうではなくなってきている。確かに企業のビジネス面では米国に足がかりを持っておくのはまだ必須で、これは米国には多くの潜在客がいるからだ。しかしチームの分散は多くの投資家にとってもはや「リスク」ではない。

イスラエルのようなマーケットが優秀なテック人材を輩出してきたのは周知の通りだ。本部と創業者少なくとも1人(通常はCEOだ)を顧客や投資家に近い米国に置き、その一方でエンジニアリングのチームの大半をイスラエルに抱えている、多くの成功したスタートアップの例を我々は見てきた。

用心深い投資家はまだCEOを米国マーケットに置くことを企業に求めるだろうが、しかしそれはR&Dチームをスタートアップの本国に置いておけない、ということではない。これは、R&Dチームとともに本国に残る他の共同創業者やCTOがすべてをコントロールするのに必要なリーダーシップのスキルを持ち、その一方でCEOが米国の本部で事業を構築する、ということを意味している。

投資家はローカル共同投資家に頼りながら案件を探している

シリコンバレーのスタートアップの企業価値はここ数年うなぎ登りだ。ほぼ毎日のように5000万ドル超の資金調達が発表され、これに伴い企業価値も膨らんでいる。資金調達の熱狂は、資金を調達した企業だけでなく、小さなスタートアップにも大きな影響を与えている。シリコンバレーですさまじい資金獲得競争が展開され、多くのシード期の投資家は他のマーケットの過小評価されている起業を探し、資産の増大を抑えている。

最良の投資家が必ずしも大きいところは限らない

米国外のスタートアップの企業価値は概して小さく、初期に小切手を切ったりかなりの企業価値に吊り上げたりする大規模のVCファンドから圧迫されている投資家にとっては最良の機会となる。一般にレートステージの投資家はイスラエルや欧州など米国外のディールで“ギャンブル”をするが、競争によりシード期の投資家はアーリーステージの機会を探ることを余儀なくされている。

その結果、シード期のファンドは外資との共同投資にこれまでになくオープンになりつつある。上で述べたように、投資家はホームマーケット外のディールに目を向けているが、ファンドは米国外にはまだそんなに目を向けていない。選ばれたディールがいまさに始まろうとしている。海外マーケットで最良のディールを見つけるために、米国のファンドは、すでにディールを経験し地元のスタートアップ業界の裏表を知っている地元のVCとの協力を往々にして模索している。たとえ海外であっても彼らはしっかりしたプロセスを求めている。

すべての投資家が価値を付加するわけではない

創業者としては、誰から資金を調達するかは大きな問題だ。馴染みのない投資家から資金を調達するのはメリットがあるだろうか、それとも失敗の元になるだろうか。彼らはどう関わるだろうか。

スタートアップの創業者は投資家がもたらす資金以外の価値について長期的に、そして真剣に検討しなければならない。もし投資家が会社の日々の運営から除外され、会社が直面している困難に関知しないのなら、彼らを含める意味は何になるだろうか。

最近、大きなファンドによるシードレベルへの投資ラッシュが見られ、それらは長期的な価値やサポートを保障することなく多額の資金を提供している。この新たな“数撃てば当たる”的アプローチにより、こうした数十億ドル規模の投資では大型ディールのような注意を払わない。

最も良い投資家は必ずしも大規模の投資家とは限らない。その代わり、最良の投資家は事業が成長するのを実際にサポートするために常に価値を付加する。そして彼らはプレシードとシード期の企業への投資にフォーカスする。彼らは潜在的な顧客やパートナーにつなげて、新マーケットなどへのドアを開いてくれるだろうか。問題を乗り越えるとき実際にサポートしてくれる投資家は誰だろうか。誰がパートナーになるだろうか。

すべてのベンチャーキャピタルのように、シード期の投資は有意義に変化している。少なくとも投資先探しという点では、かつてローカルで、その地域だけで完結していたプロセスがいまはグローバルビジネスになっている。にもかかわらず、大半の投資家が、投資先の企業がビジョンを実行するのを真にサポートできることを確かめるために、創業者/CEOと社の本部が身近なところに存在することを求めている。

イメージクレジット: Kristin Lee / Getty Images

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【編集部注】著者のShuly GaliliはUpWestの設立パートナー。

(翻訳:Mizoguchi)

花嫁コミュニティ「maricuru」が1.6億円の資金調達、機能拡充・新サービス展開を目指す

花嫁コミュニティ「maricuru(マリクル)」運営のmaricuru620日、ジェネシア・ベンチャーズ、 YJキャピタル、 DGインキュベーションなどから総額1.6億円の資金調達を実施したと発表。

maricuru20183月に花嫁コミュニティmaricuruをリリース。同社は年間約3000人もの花嫁と面談を行う。maricuruのビジョンとマッチした2500名は「先輩花嫁アドバイザー」として、コミュニティ内で結婚式レポートの投稿や、 Q&A機能を通じた後輩花嫁の悩みへの回答を担当している。

同社はこの花嫁コミュニティのmaricuruを軸に、2018年11よりコミュニティスペースの「maricuru park」、2月より相談サービスの「maricuru相談カウンター」も展開している。

maricuru代表取締役の高木紀和氏は「我々のミッションはブライダルに関わるすべての人を笑顔にすることだ」と説明。

「結婚式はリピートが期待されるサービスではないため、 結婚式場としては結婚式の新規成約数をKPIに設定することが多く、 結婚式のサービス体験における満足度を最大化するインセンティブが働きづらい構造になっている。結果として、悲しい思いをする人がいる。結婚式を通じて不幸になりたい人はいないし、幸せになりたいが、不幸が生まれる構造をしている」(高木氏)

だが一方で、別の動きとして「結婚式に対するポジティブな気持ち、良い会場に出会えて良い結婚式を挙げることができた人たちの声が集客に繋がってきている」と同氏は加えた。

近年、InstagramなどのSNSを利用して花嫁コミュニティが形成され、 盛り上がりを見せているのだという。maricuruいわく、Instagram上で#プレ花嫁 のハッシュタグが使われたのは470万件以上。なんと、#パンケーキよりも多いのだという。

同社は「花嫁たちによる結婚式の口コミ情報が赤裸々に発信されるようになり、 実際に結婚式を挙げて高い満足度を得た花嫁さんがその式場のアンバサダーとなり、 ポジティブな情報発信を行うことで結婚式場の集客に繋がるという、 リファラルマーケティングが成り立つ素地が整った」と説明。

リリースから1年で、maricuruには結婚式レポートが8万件、写真が20万件ほど投稿された。 Q&Aの回答率は99%、 平均回答数は5件以上、 合計1.3万件以上の回答数を誇る規模のコミュニティへと成長。そして調達した資金をもとに、 maricuruの機能拡充、そしてコミュニティを活かした新サービスの展開を目指す。

高木氏は「Rettyのように『人のおすすめ』や『ソーシャル要素』が入ったメディア領域を僕らがポジションとして取りにいきたい」と話していた。

インスタリムが3Dプリント義足事業をフィリピンで開始、総額8400万円の調達も

インスタリムは、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)およびディープコアへの第三者割当増資により、総額8400万円の資金調達を実施したことを発表した。今回の資金調達により、フィリピンのマニラ首都圏で設立した現地法人を通じ、3Dプリントによる膝下義足事業を本格開始する。また、3Dプリントによる大腿義足などの新製品の研究開発も進めるという。

3Dプリント義足「Instalimb」

インスタリムは、義肢装具の製作に最適化された3Dプリンタや独自のアルゴリズムによる形状レコメンド機能などを備えた3Dモデリングソフトなどを活用して、義肢装具の低コスト・短期間での量産を可能にするソリューションを開発している、2015年12月設立のスタートアップ。

同社のソリューションにより、従来の約10分の1となるコストダウンや納期短縮を実現できるという。大幅なコストダウンによって、新興国や開発途上国を含む多くのユーザーに義足を提供することが可能となる。なお、アルゴリズムについてはAIを用いた全自動モデリング機能を開発中で、これが完成すればさらななるコストダウンと納期の短縮も目指せるという。

今回のフィリピンでの事業開始は、フィリピン大学総合病病院と共同で3Dプリント膝下義足の実証実験進めてきた成果。被験者50名に対する実生活試用などの各種テストや製造プロセスの検証を完了し、製品化準備を完了させた。

「日本酒を世界酒に」SAKEスタートアップのWAKAZEが1.5億円を調達、パリに醸造所設立へ

「世界の食卓において醸造酒と言えば、今まではビールかワインのどちらかが一般的だった。そこに第3の選択肢として『日本酒』というものを浸透させていきたい」

そう話すのは2016年1月に設立された“日本酒スタートアップ”のWAKAZEで代表取締役CEOを務める稲川琢磨氏だ。

同社では山形を拠点に「委託醸造」形式で、酒蔵とタッグを組みながら自社ブランド商品の開発・販売をスタート。昨年7月には東京の三軒茶屋で自社のどぶろく醸造所と併設飲食店もオープンし、事業の幅を広げてきた。

「日本酒を世界酒に」というビジョンを掲げるように、当初から海外へ輸出することを前提として「ビールやワインのように、洋食と合わせて楽しめる」独自の酒を開発。今夏にはパリで酒蔵を立ち上げ、現地に本格進出する計画だ。

そのWAKAZEは6月17日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額1億5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

この資金を活用してパリでの製造拠点の開設に向けた準備を加速するほか、国内事業においても自社製品のサブスクリプションサービスなど新たな取り組みをスタートする方針。人材採用の強化も進めるという。

なお今回WAKAZEに出資した投資家陣は以下の通り。

  • Spiral Ventures Japan Fund1号投資事業有限責任組合
  • ニッセイ・キャピタル9号投資事業有限責任組合
  • 中島董商店
  • 御立尚資氏(ボストン・コンサルティング・グループ 元日本代表)
  • 長尾卓氏(プロコミットパートナーズ法律事務所 代表弁護士)
  • 永見世央氏(ラクスル 取締役CFO)
  • 非公開の個人投資家1名

最初から海外展開を見据え「洋食に合った酒」を開発

WAKAZEでは現在大きく2つのブランドを展開している。1つがワイン樽を活用して熟成させた日本酒「ORBIA(オルビア)」、そしてもう1つが植物やスパイスを入れて風味づけをした新感覚の酒「FONIA(フォニア)」だ。

「日本酒と聞いて、透き通った飲みやすいお酒をイメージされる方も多いかもしれないが、WAKAZEの場合はそれよりも洋食との相性にこだわっている。そのためにオーク樽で寝かせたり、米の発酵中に柚子や檸檬、山椒など和のボタニカル原料を入れて薫りを調和させたり。脂身の多い食事にも合う酸味や甘味が効いた味わい、ワイングラスに注いで楽しめるユニークな香りなどが特徴だ」(稲川氏)

洋食に合わせることを意識しているということは、WAKAZEの各商品ページで相性の良い料理が紹介されていることからもわかる。たとえばフレッシュな酸味と赤ワイン樽由来のフルーティな香りがウリの「ORBIA SOL」は、ポークソテーなど油脂分や味の濃い料理とよく合うそう。シトラス・ハーバル系の爽快な香りが特徴の「FONIA SORRA」は白身魚のカルパッチョなど前菜とのペアリングも楽しめる。

「美味しい日本酒はたくさんあるけれど、海外にも広めようと思った時に、どうしても日本食などシーンが限定されてしまう。現状だと国内向けに作られた商品がほとんどで、それをそのまま海外に出しているケースが多い。自分たちは最初から海外用に洋食に合った商品を作り、同じものを日本でも楽しめますよという発想で取り組んでいる」(稲川氏)

前例もなく上手くいかないことも多いと言うが、常に新たな商品開発を続けていて2019年には日本酒とお茶を混ぜた「FONIA tea」を発売。サクラなどの花をボタニカルとして取り入れた酒を作ったりもしている。

次々と世にない酒を生み出す上で鍵を握っているのが、昨年三軒茶屋に開設した自社のどぶろく醸造所と併設飲食店だ。稲川氏いわく、この場所を使って「スタートアップで言うところの『リーンな体制』や『アジャイル開発のような思想』」で酒を作る。

4.5坪の限られたスペースの中に醸造用のタンクを4つ設置。普通の酒蔵なら数千リットルのタンクで酒を作るが、三軒茶屋の醸造所は200リットルと作れる量はすごく少ない。一方でこの4つのタンクを用いて年間に48回、1年を通して醸造できるのが特徴。これを活かし、まずは少量の新種を高速で作り続ける。

「量が少ないので予約販売でも売り切れちゃうレベルしか作れない。それを逆手に取って、新しい酒をどんどん作りフィードバックを得る。反応が良かったものは山形の委託先の酒蔵で本格的に生産する仕組みだ。このサイクルを回す上で、併設で飲食店を始めたのも大きい。ここでお客さんに試してもらい、直接感想が得られるようになった」(稲川氏)

まずは高速でベータ版を作り、実際にユーザーに触ってもらいながら改善して、筋が良くなったものを正式ローンチするような感覚に近いだろう。稲川氏によると毎回違うレシピの商品を作っていて、去年の夏からカウントすると現在作っているものは25作目くらいになるという。

事業も徐々に軌道に乗り始めているようで、実際に商品の販売をスタートした2017年の販売本数が1万本。2018年には3万本に増え、3年目となる今年は委託醸造と自社醸造を含めて7万本の販売を見込んでいる。

日本酒専門店や百貨店など国内にある約150軒の販売店が主な販売チャネルだが、Amazonや楽天、STORES.jpの自社ページなどオンライン経由の売上も全体の2割ほどを占めるそうだ。

三軒茶屋の店舗では桜を取り入れた製品など“プロトタイプ”段階のものを、一足早く楽しむことができる

寿司屋で飲んだ日本酒をきっかけに、日本酒プロジェクト始動

もともとWAKAZEは2014年にコアメンバーが集まり「週末起業」のような形からスタートしたのが始まりだ。

代表の稲川氏はボストンコンサルティング・グループの出身。前職時代に訪れた寿司屋で飲んだ日本酒に衝撃を受け「このような美味しい酒をなんとしても世界に広めたい」と思ったことが1つのきっかけになったと言う。

WAKAZEで代表取締役CEOを務める稲川琢磨氏

「原体験として(慶應義塾大学在学中に)2年間フランスに留学していた際、海外では日本酒を含めて日本文化のプレゼンスがあまり高くないと感じた。実家がカメラの部品工場をやっていることもあり『日本ではものすごく良いモノが作られているのに、全然世の中に知られていない。日本のいいモノを世界に届けていきたい』という考えは以前からもっていた」(稲川氏)

当時からの付き合いで、後に共同でWAKAZEを立ち上げることになる今井翔也氏の実家が酒蔵であったため、まずはプロジェクトベースでマーケティングや商品開発を手伝うことに。2015年はクラウドファンディングも活用しながら、飲み比べセットなどの企画などを少しずつ進めていた。

その後2016年1月にWAKAZEを正式に法人化し事業を開始。上述した通り、まずは自社で作ったレシピを協力関係にある酒蔵で作ってもらう委託醸造で実績を積み、昨年より自社の醸造所でも商品開発に取り組んでいる。

「自社で醸造所を持ったことが1つのターニングポイントになったのは間違いない。これによって事業が加速しただけでなく、業界からも『WAKAZEはどうやら本気らしい』と見られ方も変わった。『飲む人がワクワクする、独自の面白い酒を作る』という意味でも、自社ですぐに試せる場所があるのは重要だ」(稲川氏)

日本酒の多様性を取り戻す

もちろんそこに行く着くまでにも、ハードシングスの連続だった。これについては稲川氏のnoteに詳しい記述があるけれど、そもそも日本酒に関しては法規制が特に厳しく、新規で免許を取得し醸造所を開設するのがかなり難しい。

この辺りが近年国内でもベンチャーメーカーが増え、新陳代謝が進むと共に盛り上がりを見せているクラフトビールやワインのマーケットとは異なる部分だという。

WAKAZEの場合はどのようなアプローチを取っているのか。面白いのはボタニカル原料を用いたFONIAは清酒ではなく「その他の醸造酒」に分類されるということ。そして「その他の醸造酒」免許は清酒免許と比べて、一定の条件を満たせば新規取得できる可能性が大きいということだ。

創業メンバーの今井翔也氏。WAKAZEの醸造技術担当で、三軒茶屋醸造所の杜氏を務める

WAKAZEでは約2年に渡って委託醸造を通じた実績が積み上がってきていたため、生産要件と販売要件をクリア。加えてその間に今井氏が秋田の新政酒造などで蔵人として修行を積み、酒造りの知識と技術を取得していたことで、2018年7月にその他の醸造酒の製造免許を取得し新たな一歩を踏み出した。

少し時間はかかったが、稲川氏によるとチームも開発体制も徐々にではあるがバランスよくまとまってきたそうだ。

現在、醸造技術担当を務める今井氏はもともと東京大学の大学院農学生命科学研究科の出身。発酵学にも詳しく、新卒で入社したオイシックス(現 オイシックス・ラ・大地)で事業経験もある。また2017年にジョインした取締役COOの岩井慎太郎氏は楽天に7年間在籍。ネット事業に対する知見に加えて、実家が酒屋を営んでいることもあり、酒への熱量も他のメンバーに負けないという。

「日本にある酒蔵の数は、今でこそだいたい1500くらいと言われているが、20年前は約2倍の蔵があり、もっと昔に遡ると数万軒単位で存在していた。その時代は多様性があり、日本酒も今以上に活気があったように思う。『多様性を取り戻す』というのは自分たちの1つのテーマで、それこそ奈良時代の作り方などを取り入れてみるなど伝統的なやり方に原点回帰しつつ、クラフトビールのように新しい産業の考え方も掛け算しながら新しい酒づくりに挑んでいる」(稲川氏)

WAKAZEのメンバー

海外にローカライズしたSAKEで日本酒マーケット拡大へ

そんなWAKAZEはVCやエンジェル投資家から資金調達をして、今後どんなチャレンジを進めていくのか。稲川氏の話では、調達資金の使途は大きく2つあるようだ。

1つは冒頭でも触れた通り、フランスへの進出に向けた準備費用。並行して実施しているクラウドファンディングでもすでに500万円以上を集めているが、今夏を目処にパリで自社の蔵をオープンする計画だ。

ここでは蓄積してきたナレッジを活用しつつも「完全に現地向けにローカライズさせていく」方針。現地の米と水を用い、現地の食事に合わせた味わいの“SAKE”を開発する。パリで自社製造できる仕組みを作ることで、輸送コストや中間マージンを省き、手に取ってもらい安い価格で販売できるのもメリットだ。

「今まで日本の酒が30ユーロで販売されていたところを、半分の15ユーロで提供していくようなイメージだ。現在フランスではワイン市場がものすごく大きいものの、少しずつ落ちてきている。背景にあるのは新しいカテゴリのジンやクラフトビールなど新種の酒が台頭し始めていること」

「日本酒についてもハイクオリティの商品をミドルレンジの価格帯で提供できれば、爆発的に伸びる余地はあると考えている。ヨーロッパだけで数十兆円のワイン市場の半分ほどを占めるとも言われているが、この市場の一部でもリプレイスすることができれば、日本酒のマーケットももっと拡大できる」(稲川氏)

近年日本酒の輸出額は右肩上がりに成長しているものの、日本の「日本酒輸出額」とフランスの「ワイン輸出額」ではまだ大きな差があるという

投資家の1社である中島董商店が現地でのワイン事業を通じて飲食店や小売店とのチャネルを保有しているため、パリでの展開に関しては同社とも協力しながら進める。オープン前ではあるが「すでに何社かから取引の話はもらっている」そうで、将来的には少なくとも数十万本単位の生産設備も作っていく予定だという。

また海外展開と合わせて、日本でもデジタルを組み合わせた新しい取り組みを始める計画。具体的には自社ECサイトの立ち上げや毎月違うお酒を楽しめるサブスクリプション型のD2Cサービスを準備しているほか、広告を含めたデジタルマーケティング領域にも投資をしていくようだ。

「ビールやワインが世界で数十兆円の市場になっているのであれば、日本酒も数兆円規模になる可能性は十分に秘めているし、そこに対してチャレンジしていくのは自分たちの責務だと思っている。そのためにもまずは自社が大きなSAKEメーカーになり、業界を盛り上げていきたい」(稲川氏)

パリ酒蔵のイメージ図