警察による残虐行為と体系的人種差別から生じる経済的不平等への抗議行動が米国で続くなか、テクノロジー業界がこの大義への支持を表明しており、ベンチャーキャピタル企業もこの輪に加わっている。
テクノロジー企業の経営陣や彼らを支持する投資家たちは、この抗議運動とBlack Lives Matter(黒人の命の大切さを訴える)運動を支持する声明を発表している。Benchmark(ベンチマーク)、Sequoia(セコイア)、Bessemer(ベッセマー)、 Eniac Ventures(エニアックベンチャーズ)、Work-Bench(ワークベンチ)といった企業、そして SaaSTR Fund(SaaSTRファンド)の起業家であるJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏などがこの大義を支持し、ベンチャーキャピタル業界での人種的偏りを改善する手立てを講じるとツイートした。
しかし、一部の黒人起業家および投資家は、テクノロジーおよびベンチャーキャピタル業界が歴史的不平等に対しこれまで何らのアクションも起こしてこなかった事実を踏まえ、これらの企業の動機に疑問を呈している。
「テクノロジー業界で黒人を見出し、雇用し、資金を融資するのは、他のグループを見出し、雇用し、資金を融資するプロセスと同じです。まずそのグループに属する人々と関係を築き、そのコミュニティーのオピニオンリーダーを探し、彼らから学んだ上で、採用チームや投資チームに対し融資の専門知識に欠けた部分があることを伝え、それを埋めるのです。一人の人物に形ばかりの関与をしたり、一度きりの取り組みに資金を提供したり、情報ルートの問題として処理するのは正しいやり方とは言えません」と、Cleo Capital(クレオキャピタル)のマネージングパートナーであるSarah Kunst(サラ・クンスト)氏はメール上でTechCrunchに語る。「これらのファンドが持つ有り余るスキルやリソースを使って学び、関係を構築し、資本を展開する。これこそが重要な点です」。
投資家の取るべきステップは主に2つに絞り込まれるという。人々を採用し、投資するというアクションだ。
Mediumへの投稿で、ニューヨークを拠点とする投資会社Work-Benchは黒人起業家や投資家への支援を確実に行うための詳細な手順を示した。
同社は、Equal Justice Initiative(イコールジャスティスイニシアチブ)、Southern Poverty Law Center(サザンポバティローセンター)、Color of Change(カラーオブチェンジ)といった組織への経済的支援に加え、 自社の事業が黒人起業家や投資家支援につながることを保証する新しいステップを導入中である。
同社は、「関心のある場合」に取るその他数々のステップについても詳しく述べている。そのステップには、他のエンタープライズVCのためにエンタープライズスタートアップに取り組んでいる黒人起業家の公開データベースを照合したり、HBCUvc(VCやテクノロジー産業でのキャリアのために黒人を訓練する非営利組織)や黒人が関与するその他のVC企業と協力したりするといったことが含まれている。
一部の企業は、HBCU(歴史的黒人大学)から発生した企業に独占的に焦点を当てる専門プレシード投資ファンドを創設するなど、さらに一歩進んだ手段を講じている。
これらのイニシアチブは始まったばかりの初期段階にあり、投資家たちは彼らの取るステップについて明らかにする準備が整っていないが、彼らは独占的ファンドの枠を大きく拡大している。投資家たちはHBCUやランドグラント大学での採用活動を強化し、多様な候補に目を向けポートフォリオ企業内での社内トレーニングに力点を置き、広範囲かつ強力な社内起業家プログラムを通じて新世代のマイノリティ起業家を生み出そうとしている。
またこういった企業らは、進捗状況を監視し、企業内やポートフォリオの足りない部分を見出すためにベンチマークを設けることや社内調査を実施することを検討している。これを開始するには、まず企業が今まで何人の黒人起業家に投資したかを年次フォローアップとともに透明性と説明責任をもって公開するとよいだろう。
投資家たちはこれらのデータに内々でアクセスできるが、こういった統計を一般公開している企業は稀だ。Initialized Capital(イニシャライズドキャピタル)は月曜日、 最新のファンドのうち、黒人の起業家に率いられている企業は7%であることを発表した。
Backstage Capital(バックステージキャピタル)の起業家Arlan Hamilton(アラン・ハミルトン)氏が我々へ送ってくれたメッセージの中で書いていたように、多様性の問題はファンド自体にも及んでいる。
「どこへ行っても投資家たちは、自分たちに何ができるだろうかと私に尋ねてきました。なにも複雑なことではありません。黒人の起業家に投資してください。『すべての』黒人起業家に投資する必要はありません。日頃のセオリーや、いわゆる『基準』を維持して、投資する黒人起業家を何人か見つければよいのです。必要とあらば私のところに130社のポートフォリオ企業がありますし、さらに雇用をおすすめできる数十人の黒人投資家をまとめた厳選リストを紹介することもできます。私のメールアドレスは、ARLAN@BackstageCapital.comです。もうこれで言い訳はできないでしょう」。
VCパートナーを採用する内部活動は、本質的に偏りのあるものだ。これをドミノ効果として考えていただきたい。LPが白人のGPだけに融資する場合、白人のGPは採用すべき他のパートナーを既存のネットワークの中で探すことになる。多様性に欠けるVC企業が、採用担当者または過小評価グループに属する起業家を通じて既存のネットワークを打ち破らない限り、このドミノ効果は今後も続いていくだろう。
「小切手を切りたい」
ベンチャー企業のパートナーたちは、黒人起業家のコミュニティを今後より強くサポートしていくことを約束している。
「私は一年の内そうたくさんの投資をする方ではありませんが(私はじっくり型の静かな投資家です)、あなたの会社の説明資料をメールしてください。6月は黒人起業家とだけ会う、またはZoomミーティングをするつもりです」とJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏はTwitterに投稿した。
ニーヨークを拠点とするEniac Ventures(エニアックベンチャーズ)の起業家Nihal Mehta(ニハル・メタ)氏はTwitterで、一対一のビデオ通話サービスを提供するSuperpeerを使用して、黒人起業家から無料でアポイントメントを受け付けると発表した。メタ氏のツイートから24時間以内に夏の間の予約がすべて埋まった。彼は黒人起業家と103回のミーティングを今後行う。
「これは相当な需要があり、黒人起業家とテックコミュニティーの間に埋めなければならない大きなギャップがあることを意味します」とメタ氏は言う。
Eniac Venturesチームは全社で、黒人起業家と話し投資を行うための無料の専用Superpeerコンサルティングスロットを設けている。
Spero Ventures(スペロベンチャーズ)のパートナー、Ha Nguyen(ハ・グエン)氏は金曜日に黒人起業家向けの朝食会とAMA昼食会を主催している。また、グエン氏は黒人起業家に対し、資金調達プロセス、会社説明、次のチェックのための紹介文について支援が必要なときには連絡を取るように提案した。「そして私は小切手を切りたいと思っています」とグエン氏はLinkedInに投稿している。
Hustle Fund(ハッスルファンド)のElizabeth Yin(エリザベス・イン)氏は同社のポートフォリオ企業の15%がネットワーク外の企業であると述べ、起業家に対し同社に今後も完全なインバウンドピッチを送るよう促している。
またイン氏は、Score 3で働いている同社のベンチャーアソシエイトインターンJasmin Johnson(ジャスミン・ジョンソン)氏、あるいはBackstageの元プリンシパルであり、自身の投資家マッチングプログラムを立ち上げたLolita Taub(ロリータ・タウブ)氏のような、多様なネットワークを持つ起業家と非公式な取引フロー関係を築こうとしているところであると伝えた。
タウブ氏は、固定ツイートにGoogleフォームを掲載し、そこでスタートアップからの投稿をレビューしている。その企業が彼女のお眼鏡にかなう場合には彼女から連絡し、他の投資家(Backstage Capital、Harlem Capital、Hustle Fund、WXR Fund)にふさわしいようなら、タウブ氏は両者を引き合わせる。
タウブ氏はテック業界とベンチャーキャピタル業界において華麗な実績を持っているため彼女のネットワークは広範囲に渡る。しかし彼女の投資プログラム自体はシンプルだ。これは多様なネットワークを持つバレーのスーパーコネクターなら、誰にでも再現可能な手法だ。
「才能はいつも身近にあった」
投資コミュニティーが黒人コミュニティーへのサポートを先を争って表明する中、黒人投資家やスタートアップ起業家はそうした動きに疑問を投げかけている。
抗議運動が長引き、数え切れないほどの黒人男性や黒人女性が警察の手によって命を失って後、やっと投資家がこの業界、そして国全体が直面する問題について行動を始めたという点にこの問題の深さが表れている。
黒人投資家が率いる企業、Precursor(プリカーサー)は日曜日次のような声明を発表した。
MaC Venture Capital(マックベンチャーキャピタル)のMarlon Nichols(マーロン・ニコラス)氏、Upfront Ventures(アップフロントベンチャーズ)の Kobie Fuller(コビー・フラー)氏といった投資家は、自らの投資活動とアフリカ系アメリカ人の人材ネットワークであるValence(ヴァレンス)のようなスタートアップの創設を通じて、優先事項として多様な起業家グループの育成を行ってきた。
ニコラス氏が本日の投稿で指摘したように、業界における不平等を示すデータは驚異的である:
- 黒人はスタートアップの幹部ランクにおいて82%過小評価されている
- 調達された全ラウンドの75%以上が白人の融資チームに渡っている
- 人種的に多様性のある創設チームおよび経営陣チームは、全員が白人の創設チームおよび経営陣チームよりも、買収とIPOにおいて高い実現倍数(RM)を生み出している(それぞれ3.3倍対2.5倍、および3.3倍対2倍)
ですから、心から人種差別に反対であるなら、今すぐに始めることができるのは、黒人男性や黒人女性が率いるスタートアップやファンドに投資しない理由についてあれこれ言い訳するのをやめることです。そのかわりに投資し、ネットワークを広げ、我々をリーダーシップ/意思決定ポジションで雇用し、白人が率いるスタートアップやファンドに適用している基準を我々にも適用してください。
改善への道のりは長く、投資家が現状を変えるためにできることは山程ある。
「あらゆるトップMBAプログラムには黒人の学生組織があり、あらゆるトップテック企業には黒人ERGがいます。まずはこの集団に対し採用活動を行ってください。黒人テックリーダーが率いるUlu(ウル)、Precursor、そして私自身のファンドCleo Capitalなど、とても有力なファンドがあります。 Chris Lyons(クリス・ライオンズ)、Ken Chenault(ケン・シュノー)、Adrian Fenty(エイドリアン・フェンティ)、そしてMegan Maloney(ミーガン・マロニー)といった非常に優秀な投資家もいます」とクンスト氏は書いている。
「私たちは皆、テック分野の黒人を見出しサポートするためどういったところで時間を費やしているか、熱心に発言しています。私たちはCulture Shifting WeekendやBlack Women Talk Techといったイベントで話し、Code2040やHBCUVC、Blck VCといった団体をサポートしています。簡潔に言うと、私たちは活動に尽力してきましたし、人材は常にそこあったのです。あとは何が残っているかというと、大規模ファンドがこの流れに乗って黒人のVCを雇用したり黒人の起業家に融資をするために真摯な取り組みを行ったりし、また彼らのポートフォリオ企業に対し、リーダーシップポジションに黒人を採用するよう促すことです」。
大規模なベンチャーキャピタル企業が過去数日間で発表した取り組みにより、過小評価グループに属する起業家がベンチャーキャピタル資金や意思決定者にアクセスする機会が拡大し、それが小切手につながるかもしれない。しかし、カレンダー上のアポやメールだけでは人種差別の問題は解決しない。黒人起業家に限定し、1ヶ月間独占的なミーティングを行っても、ベンチャーキャピタル業界に体系的に巣食った問題を解決するには至らない。
それゆえ、ベンチャーコミュニティーはより強固なアクションを取る必要がある。なぜなら言葉だけの声明は、小切手を切ったり採用を行うことほどの力を持たないからである。
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Category:パブリック / ダイバーシティ
Tag:差別 アメリカ
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(翻訳:Dragonfly)