2022年に発売予定のMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)EQSを1日試乗して過ごし、このドイツの自動車メーカーが、電動化に数十億ドル(数千億円)を投じて成し遂げたことの詳細を間近で見ることができた。
EQSは、メルセデス・ベンツのMBUXインフォテインメントシステム、新しいエレクトリックプラットフォーム、および性能の向上を組み合わせた入念に設計されたフラッグシップセダンだ。EVであることを付加的な要素とするフルサイズの高級セダンの新たなベンチマークを確立することは、容赦ない探求といえよう。
この高級セダンは、メルセデスがEVで将来何を提供できるか、そしてその先のさらなる可能性を米国の消費者に示そうとしている。大きな賭けだが、同社は北米でのEQSの展開が成功すると見込んでいる。
画像クレジット:Mercedes-Benz
「これは完全なる新時代の始まりです。当社はこれまでに、ハイブリッド車、ICE、BEVで完全にフレキシブルなプラットフォームを構築してきたからです」とEQブランドの責任者であるChristophe Starzynski(クリストフ・スタジンスキ)氏は語り、メルセデスは2025年までにEQEと2台のSUVを含む3台の電気自動車を米国のポートフォリオに追加すると付け加えた。「私たちが徹底して設計、開発し、すべての技術をバッテリー電気自動車に搭載したのは、これが初めてです」。
EQSは、メルセデス・ベンツの最高級ラグジュアリーセダン、Sクラス(基本価格11万ドル、約1200万円)から派生した全長17フィート(5m超)のフラッグシップモデルだ(これまでのところEQSの価格は公表されていない)。このクルマには同社史上最高の技術が搭載されている。多くの顧客は搭載されているあらゆるオプション機能に関心がないかもしれないが、すべてが広大なインフォテインメントクラウドに保存されているか、1度のソフトウェアアップデートで実現するというのは知って損のない事実である。
ファーストドライブ
フル装備のEQSは飛躍的な前進を遂げており、この新しいSクラスはもはや次の時代を感じさせる。
筆者が試乗したEQS 580 4MATICモデルは、56インチ(142cm)のHyperscreen 、ヘッドアップディスプレイ、音響ガラス、後部座席のエンターテインメント、空気濾過システムを搭載していた。スタジンスキ氏によるとこれらの仕様は新型コロナウイルスのパンデミック発生前から存在したそうだが、その新鮮な輝きを感じずにはいられない。
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本稿執筆時点では、この車の外観の詳細は4月15日に公開されるまで非公開となっている。筆者が試乗した車両には部分的に覆いがかけられていたため、Aピラーの彫刻的なニュアンスについてはあまり説明できない。
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5歳の娘を連れて、EQSが店頭に並べられたメルセデス・マンハッタンのディーラーに足を運んだ。試乗車に近づくと、運転席のドアが自動的に大きく開いた。ブースターシートの見晴らしの良い場所から、娘は目の前に浮かぶ後部座席のスクリーンで遊び、そして「キラキラした虹の乗り物」と娘が称するピンクと紫の環境照明をキャビンに選んだ。
今後10年のEV販売の中心となる中国において、運転手付き車というのは高級車の前提条件でもあるため、後部座席での体験がどうなのかはかなり重要な要素だ。
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その一方で、筆者のような背の高い者にとっては、首の付け根を支える枕がアクセントになっている広々とした運転席はこれまでで最も快適な乗り心地だった。シートベルトを締めると車の雰囲気が一気に盛り上がる。照明とサウンドのデザインの魅力にぜひ注目して欲しい。
EVの控えめな駆動音を補うためのソフトな音響の波を楽しむこともできたが、私たちはほどなくして、15台のBurmesterスピーカーから5歳児のお気に入りのBarbieのサウンドトラックを聴くことにした。(5歳の子どもを連れてくることには残念な妥協がともなう。)
EQSで起きていることすべてが56インチのHyperscreenのOLED(有機EL)で映し出される。スクリーンはドアからドアまでの間に3つのディスプレイに分かれているが、実際に見てみると写真で見るほど邪魔には感じない。楕円形の輪郭はゲーマーのコックピットのような雰囲気を醸し出している。
MBUX機能は、ハンドルの右側にある17.7インチ(45cm)のメインOLEDスクリーンに組み込まれている。自分でタッチスクリーンをカスタマイズすることも可能だ。この高性能コンピューターシステムには、24ギガバイトのRAMと46.4ギガバイト / 秒のRAMメモリ、8個のCPUコアが搭載されている。
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ユーザーエクスペリエンス
Apple製品が象徴するように、シンプルさは優れたデザインの特徴である。それとは対照的に、メルセデスは常に驚くほど多様なユーザーエクスペリエンスのオプションを提供し、情報にアクセスするための複数のアプローチを提供することに力を入れてきた。この傾向は、ハンドル、アームレスト、メインスクリーンのコントロール機能を通じてEQSに引き継がれている。テストドライブでは、コントロールに関する複数のオプションが気になった。スマートフォンの新機能に慣れるのに2週間かかるのと同じように完全に適応する時間がなかったからなのか、それとも単純にやり過ぎなのかはわからない。ヘッドアップディスプレイには気づいたが、車の中で見るには多すぎる感があった。
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筆者が興味をそそられたのは、MBUXシステムが時間の経過とともにドライバーの行動を学習していることだ。乗車が終わる頃に、スクリーンモジュールがアクティブシートのマッサージをもう一度使いたくないかと筆者に思い出させてくれた。つまり、他のコントロール機能を無視して、最も使いたいものに集中することができた。音声コマンドはまずまずだったが、筆者の高音テノールはこのシステムの足を引っ張った。筆者を常に理解してくれる自動車の音声システムにはまだ出会っていない。
EQSのエクスペリエンスにはアナログの空間は存在しない。グラフィックスはシャープで、立体的かつ鮮明だ。残念だったのは、タッチスクリーンに指紋がついてしまったことだ(写真を撮る前に良質のスクリーンスプレーとクロスを持ってくること)。もう1つの難点は、ハンドルが筆者よりも大きな手を持つ人向けに設計されているようで、ハンドルに内蔵されているすべての機能にアクセスするのが少し面倒に感じられたことが挙げられる。そのため、筆者は下を向いて適切な場所を探さなければならなかった。最終的にはMBUXのセンター画面で設定を調整することに落ち着いた。
EQSのユーザーエクスペリエンスで筆者が最も気に入った点は、レンジに関するメッセージングだ。ダッシュボードの多様なスクリーンには常に残りの走行距離、目的地までの計算が現実的かどうか、充電可能な場所などが表示されていた。
レンジ
そのバッテリーについて。筆者が運転したモデルには107.8kWhのバッテリーパックが搭載されており、全輪駆動システムで使用される2つの電気モーターに電力を供給していた。欧州のテストによると航続距離は470マイル(約750km)だが、米国EPAのテスト基準ではこれより低くなる可能性がある。マンハッタンからビーコンという小さな町まで往復125マイル(約200km)ほど運転し、充電する心配もなく戻ってくることができた。
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スクリーンを開いてクリック1つで表示されるChargePointオプションを見てみた。200kWのDC急速充電器が設置されているステーションも識別でき、それによると充電時間は15分ほどだという。バッテリー寿命に関する消費者の不安を解消するために、メルセデスは購入後10年間、または15万マイルまでバッテリーの容量低下を補償する保証を付けている。
各種の機能
このドライブ自体は、517馬力と406ポンドフィートのトルクが作動したかのようなパワフルな性能を発揮した。EQSは空気抵抗係数0.20を実現し、競合他社を凌駕している。これはクルマ愛好家にとってうれしい事実だが、一般ドライバーには必須の知識ではないかもしれない。
長いセダンを快適に操れるようになるには往々にして時間がかかるものだが、Sクラス同様、EQSはそのプロポーションを優雅に扱い、標準的な後輪ステアリングのおかげで簡単に方向転換できる。これはSクラスの安全機能とADASシステムを反映している。ドライブの設定にはクラシックとスポーツが用意されていて、ハンドルコントロールやアームレストを介して実現できる。筆者は概してスポーティなドライバーであり、このモードがもたらす軽快なフィードバックが気に入った。
「もちろん、さらに進化させていくつもりです」とスタジンスキ氏は述べ、ADASの機能はソフトウェアアップデートによって改善される予定であると付け加えた。ライト設定などのカスタマイズ可能な更新もダウンロードできる。
EQSドライブの最大の差別化要因は、バッテリー回復システムだろう。インテリジェント回復モードは、バッテリーを最適化し、ドライバーの動作を制御する。通常の回復でインターフェアレンスが減少している。筆者は高速道路でワンペダルドライブを楽しんだ。このサポートをまったく選択しないことも可能である。
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米国でEVが主流になる時期は間近に迫っており、バイデン大統領のインフラ計画が承認されれば、予想以上に急速に普及する可能性がある。しかし、自動車メーカーが米国の消費者の注目を集め、売り上げを伸ばそうとするなら、テスラを追い抜く以上のことをする必要があるだろう。Automotive Newsに掲載されたExperianの調査によると、2020年の米国自動車販売台数に占めるEVの割合はわずか1.8%だったという。
抜本的な変革には、時間と資金、そして長期的なコミットメントが必要だ。次世代のメルセデス・ベンツEQSは、EVの部分はもはやニュースバリューではなく、ラグジュアリー車への期待という転換点に一歩近づいている。
【追記】筆者は2018年にメルセデス・ベンツが主催したサミットシリーズのプログラムでメルセデス・ベンツEQフェローを務めており、EQのホームページでも紹介されている。
画像クレジット:Tamara Warren
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(文:Tamara Warren、翻訳:Dragonfly)