フードデリバリー会社のDoorDash(ドアダッシュ)が今週鮮烈な市場デビューを果たし、多くの人々に困惑をもたらした。紛れもなく急成長はしているものの、採算が取れていない同デリバリー会社は雇用慣行をめぐって幾度となく炎上しており、他のギグエコノミー企業と同様、そのIPOは多くの経済問題を未解決のままにしている。
それではなぜ、2019年に6億6700万ドル(約693億円)、パンデミックによる超成長期のはずであった2020年最初の9か月間に1億4900万ドル(約155億円)の損失を出した会社が、公開市場で投資家から558億ドル(約5兆8000億円)の評価を受けているのか。気でも狂ったのだろうか?
Saar Gur(サール・ガー)氏がその答えを知っているという。アーリーステージのベンチャー企業、CRVで長年ジェネラルパートナーを務めているガー氏は、シード、シリーズA、シリーズBを含む初期の資金調達ラウンドでDoorDashに小切手を切っているが、この小切手の元になった多くのCRVファンドは利益となって戻ってくると我々も踏んでいる。簡潔に言うと、同氏の意見は偏ったものではない。同氏と今日電話で話した際、DoorDashは今後利益を生むどころか、現在の10倍もの規模になると同氏は見込んでおり、非常に興味深い話を聞くことができた。以下の会話は長さの関係上論点を明確にするためにも、多少の編集が加えられている。
TC:DoorDashにシード資金を提供されていますが、DoorDashのことはガー氏が見つけたのですか?それとも同社のチームがCRVに売り込んだのですか?
SG:DoorDashのCEOのTony Xu(トニー・シュー)氏を自ら探しに行きました。[デリバリーサービスのライバル会社である]Postmates(ポストメイツ)は2年半から3年早く事業を開始していましたし、創業者も良いとは思ったのですが、投資するまでにはいたりませんでした。もう一社、パロアルト市で一時期話題になっていたアダムという非常に強気な起業家が経営していたFluc(フルック)という企業があり、チームと会う機会がありました。私は食品ビジネスに携わっており、私の妻は食品起業家でFraiche(フレッシュ)という自家製ヨーグルトのチェーン店を手掛けていることもあり、多くの飲食店オーナーを知っていたのでとても興味があったのです。
そこで、パロアルトのユニバーシティアベニューにあるOren’s Hummus(オレンズ・フムス)のジェネラルマネージャーをしていた友人のミスティにメールをしてみました。「Flucへの投資を考えているんだけど、彼らって実際にどんな感じ?」と訊いてみると、「Flucのチームはまずまずで、技術的にも競合他社より優れている部分はあるけど、本当の意味で我々の問題を理解してくれるわけではない。スタンフォード出身の数人が始めたDoorDashと話してみたら?」と彼女からアドバイスをもらいました。
投資のスキルということでもありませんが、Fluc[後に創設者は立ち去った]への投資に対し確証バイアスに陥ることなく、方向性を変えたおかげでDoorDashチームを探し当てることができました。パロアルトのFraicheで初めて彼らと出会った瞬間から、相手の言いたいことが手にとるようにわかる、ぴったりな感覚がありました。
TC:何について話したのですか?
SG:チームは初日から物流会社を構築するということについて話をしていました。例えば同社はOren’s Hummusのケースをよく理解できていたのですが、当時この店はかなり人気があり、客席には限りがあったものの店内には大きなキッチンを備えていました。そこで[共同創業者兼CEOの]シュー氏と[共同創業者からVCに転身した]Evan Moore(エヴァン・ムーア)氏は「席数が限られていてキッチンが大きいという人気のコンセプトを好む顧客をターゲットにして、キッチンと直接統合することでフロントスタッフとのやりとりが不要になるようにしたい」と言ったのです。
当時PostmatesはiPhoneを手に入れるために列に並ぶというようなサービスから、Fraicheを含む食品デリバリーサービスの会社に転換していましたが、どちらにしても誰かを店舗に送り、実際に注文をして待たなければなりません。一方でDoorDashはキッチンにiPadを置こうと考えたのです。
TC:CRVはUber(ウーバー)を逃したと言っていましたよね。Travis Kalanick(トラビス・カラニック)氏が貴社から去って、Benchmark(ベンチマーク)に向かってしまったと。契約書にサインするまで放してもらえなかったようですが。UberはDoorDashのような企業になれた、またはなるべきだったと思いますか?私はまだDoorDashが創業される前の2011年にカラニック氏に会いましたが、その時同氏はUberは食品やその他様々なものを運ぶ物流会社だと言っていました。現在のDoorDashの圧倒的な市場シェアを考えると、Uberはデリバリー事業に参入するまでに時間がかかりすぎたと思いますか?
SG:当初Uberは飲食とは全く関係ない事業で、配車サービスを変わらず続けていました。UberのシリーズAのプレゼンテーション資料にはタクシーをつかまえようとする男の写真が載っていましたし、飲食に関するビジョンは一切ありませんでした。少なくとも私はそう記憶しています。しかし時と共に、Uberは何でもやるようになりました。
DoorDashはパロアルトでローンチしましたが、多くの企業がサンフランシスコで事業を行っていたため、トニーとチームは次にサンフランシスコを目指すべきか、または別の都市にするべきかを決めなければなりませんでした。私も多くの議論に参加しましたが、その結果サンノゼに焦点をあてることにしたのです。
ほとんどの人は知らないと思いますが、サンノゼはアメリカで10番目に大きな都市で、サンフランシスコよりも他の中堅都市やアメリカ郊外の都市によく似たレイアウトをしています。これは戦略上とても重要な決断だったと思います。当時、[より大きな競合の] Grubhub(グラブハブ)やSeamless(シームレス)が密集した都市での成功を証明していました。サンノゼや郊外でそのビジネスモデルが成功するかはよく分かっていませんでした。
TC:明らかに投資家たちはDoorDashが築き上げたものに対して非常に好意的に感じており、昨日は株価が急上昇しましたね。Bill Gurley(ビル・ガーリー)氏と同様に、出資者によって資金を集め損ねていることに不満を感じていますか?従来型のIPOは崩れてしまっていると思いますか?
SG:私はLehman Brothers(リーマン・ブラザーズ)の投資銀行チームでキャリアを開始しました。そこでIPOのプロセスを見てきたので、企業が価格に基づいて資金を取り損ねてしまったことへ不満を感じるのは理解できますが、戦術的な課題としては予測が非常に難しいということです。個人投資家の手に渡れば市場がどうなるかはわかります。
DoorDashの資金調達は始まったばかりなので今後がとても楽しみですし、5000億ドル(約52兆円)以上の企業になる可能性があると思っています。将来とても有望です。今回の資金調達イベントに関しては、銀行家にとって市場全体のどこに着地するのかを知るのはとても難しいと思うので、私は他の人ほど否定的ではありません。
TC:5000億ドル(約52兆円)とは大きな数字ですね。この数字はどう算出したものですか?
SG:フードデリバリーだけ見ても、DoorDashの郊外市場シェアは60%以上に成長し、米国全体の市場シェアは52%を超えており、フードデリバリーで市場を制覇したと言って問題ないでしょう。[中国のショッピングプラットフォームである]Meituanやその他世界規模のフードデリバリー事業を見てみると、DoorDashが現在の道を歩み続けるとすれば、それだけで1000億ドル(約10兆4000億円)の価値を生み出せるということになります。
しかし、私にとってもっと大きな話は、USPS(アメリカ合衆国郵便公社)が手紙を届けるのに2週間かかっていましたが、FedExの登場によりそれがすごく遅く感じるようになったということです。USPSのネットプロモータースコアはFedExが登場するまでとても高かったのです。インターネットのダイアル回線も同じことで、ブロードバンドの登場までは素晴らしいサービスに感じられました。
画像クレジット:CRV
消費者は即時性を望んでおり、ボタンを押すと25分以内にアイスクリームや牛乳、その他様々なものが届くという魔法のような能力を好むのです。そこから商品の幅を広げて行くことができます。例えば12月にはMacy’s(メイシーズ)と提携しているため、シャツやワンピースを購入すると製品が1時間後には自宅に届くようになります。このビジョンを実現するためにDoorDashが構築したインフラを見ると、同社はむしろAmazon(アマゾン)のようにも感じられます。
夢のまた夢のようなビジョンですし、ましてやライドシェアやUberの本業とは程遠い事業体です。
TC:DoorDashとAmazonを比較されていますが、Amazonはより資本集約的なビジネスで、多くのハード資産を持っています。DoorDashもその方向に進むと思いますか?また、DoorDashはどのような買収に興味があると思いますか?
SG:DoorDashは常にテクノロジーを第一に考えています。DoorDash Driveはまだあまり理解されていない製品ですが、これは独自の配送ネットワークを展開するつもりのない企業を支援するものです。例えばWalmart.comで食料品を注文すると、DoorDashがこのための配達を担います。Macy’sは1時間以内の配達を希望していますが、DoorDash Driveがこれを可能にします。またDoorDashは現在、自社のドライバーによる配送と共にエクスペリエンス全体をコントロールしたいと望む大規模チェーンに対して、純粋なSaaSビジネスのような製品も提供しています。[サンドイッチチェーンの]Jimmy John’s(ジミージョンズ)はDoorDashソフトウェアを活用し、自社のドライバーを用いて注文と配送ビジネス全体を運営しています。
DoorDashにはAWSのようなソフトウェアビジネスの要素もあれば、[DoorDashが所有、運営し、今年の夏に展開したコンビニエンスストアの]Dashmart(ダッシュマート)のように資本集約的な要素もあります。7-Eleven(セブンイレブン)やその種のものを買収する可能性があるか否かに関しては、先月[デリバリースタートアップの]goPuff(ゴーパフ)がBevMo(ベヴモ)を買収したのを見ましたが、そうすべき理由がまったくないことはありません。Dashmartを通し、彼らは人々がすぐに手に入れたいものの多くをデータに基づいてすでに把握しています。
TC:DoorDashはゴーストキッチン市場にも参入し、サンフランシスコの南に位置するレッドウッドシティに施設をオープンさせました。これは大きく展開されていく可能性があるのでしょうか?
SG:間違いなくその可能性はあります。DoorDashのデータを活用すれば、[顧客の近くにいられるよう]Long John Silver(ロングジョンズシルバー)や Taco Bell(タコベル)のような新店舗をわざわざ作る必要がないと知ることができますし、その場合レッドウッドシティのキッチンを利用すれば良いわけです。通常なら1時間かかる配達を15分でできるようにする方法を浮き彫りにしたデータをすでにお見せすることもできます。同社はこういったコンセプトにおける収益拡大を促進しています。
他にも、例えば起業家が「パロアルトにはピザ屋がないからそこを狙って『Saar’s Pizza Company』を立ち上げよう。費用対効果を考えると、イートインスペースを備えた店舗や建物なんていらないね」といった具合にデータを役立てることができます。
TC:一方で、DoorDashとの提携に際して、その手数料の高さにレストランオーナーから不満の声も出ているようですが?
SG:私自身レストランを経営した経験があるからこそ言えることですが、ウォートンのMBAを持っている私の妻にとってさえ経営における数字を把握するというのはとても難しいことです。味方がいないような気分にもなりますし、中小企業を経営するというのはとても大変なことです。DoorDashによって増分収益を得ることができていて、限界利益の概念を理解できているのであれば、食品のマージンで儲けることができ、キッチンのキャパシティもあるということが把握できるため、物を売り続けても問題ないということになります。
これこそがDoorDashがクイックサービスの上位50のレストランのうち約45店と契約できている理由です。これはかなりの数字であり彼らがうまくいっていなければ、彼らがこれほど長くサービスを利用したり、このパートナーシップに大金を投資したりするわけはありません。
ただし、もちろん価格の高さに驚かれるというのは常について回るでしょう。
TC:クイックサービスやゴーストキッチンなどは非常に効率的なシステムのため、それによって家族経営の飲食店などが淘汰されてしまうのではという懸念もあります。これに関してはどう考えていますか?
SG:私たち人間は社会性を求める存在であり、誰かと食事を共にするという習慣がなくなるとは思えません。実店舗とオンラインショップを両方持つ小売店のように、より賢いブランドは[オフラインとオンラインの両方を持つように]なると思います。よりスマートなコンセプトはチャネルを越えてブランドを構築する方法を理解していくことでしょう。私は世の中のパブやThe French Laundry(フレンチランドリー)などのレストランがポストコロナの世界で再び調子を取り戻すと信じています。多くの人々がこういった体験を心待ちにしているからです。
TC:DoorDash自体はどのようにして黒字化していくのでしょうか?
SG:実際よく見てみると、この夏DoorDashは利益を出しています。それどころか同社はCOVIDで影響を受けた中小企業を支援するため1億2000万ドル(約125億円)を捻出しているため、これさえなければむしろ結構な額の現金を生み出しているはずです。
DoorDashのような会社では大きなビジョンを掲げて採用を進める必要があり、同時に高度な数字による裏付けも求められますが、シュー氏は常に正確な数字を算出し非常に定量的な目標を設定することができています。また新しい市場では[成長中のため]利益を上げられていませんが、古い市場での利益だけでなく、新市場で時間の経過とともに利益がどのように拡大していくのかを示したコーホート分析が存在します。
既にいつでも成長から利益を得ることにフォーカスを切り替えることもできますが、それは同社の戦略ではありません。
関連記事:
[原文へ]
(翻訳:Dragonfly)