「心より深くおわび」WELQを契機にした“キュレーション問題”でDeNAが謝罪

左からDeNA執行役員経営企画本部長の小林賢治氏、代表取締役CEOの守安功氏、創業者で取締役会長の南場智子氏
左からDeNA執行役員経営企画本部長の小林賢治氏、代表取締役CEOの守安功氏、創業者で取締役会長の南場智子氏

左からDeNA執行役員経営企画本部長の小林賢治氏、代表取締役CEOの守安功氏、創業者で取締役会長の南場智子氏

ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がけるキュレーションプラットフォーム「DeNA Palette」。中でも医療・ヘルスケア領域を対象にした「WELQ」の記事の信頼性に端を発した大騒動についてはTechCrunch Japanでもこれまで複数の記事でお伝えしてきた。

これを受けるかたちでDeNAは12月7日、東京・渋谷にてDeNA Paletteの全記事非公開化および第三者調査委員会の設置に関する記者会見を開催した。会見にはDeNA代表取締役CEOの守安功氏のほかDeNAの創業者であり取締役会長の南場智子氏、DeNA執行役員経営企画本部長の小林賢治氏の3人が出席(南場氏については、本日になって追加で出席する旨の案内があった)。これまでの経緯を説明したのち、来場したメディアとの質疑応答を行った。

会見の冒頭、守安氏は改めて一連の問題に対して、自社サービスのユーザー、インターネットユーザー、取引先や株主、投資家などの関係者にして、「多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことを、心より深くおわび申し上げます。また、直接私からご説明する機会が遅くなってしまったことを、重ねてお詫び申し上げます」として謝罪した。

これまで本件について伝えてきた記事は以下の通り。

信頼性なき医療メディア「WELQ」に揺れるDeNA、MERYを除く全キュレーションメディアを非公開に

DeNA守安氏「認識が甘かった」——WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動

DeNA、ファッション系キュレーションメディアの「MERY」も12月7日より全記事非公開に

改めて今回の経緯を説明すると、DeNAは2014年9月にiemoおよびペロリを買収。加えて2015年4月にはFind Travelを買収。DeNA Paletteとして合計10のキュレーションメディアを立ち上げた(WELQに関しては2015年10月のローンチ)。

だがその後はリンクした記事にあるとおりで、WELQを中心にして医学の知識に乏しい・誤った内容や薬機法に抵触する、もしくはその可能性が高い内容の記事が掲載されているにも関わらず、専門家の監修がなかったことが発覚した。

さらにはDeNA側が既存コンテンツのリライトを指示するようなマニュアルを用意し、クラウドソーシングなどを用いて記事を発注しているといったことなどが報じられた。会見で小林氏は記事作成のプロセス(記事作成は社内のプロデューサーが指示し、実際は社外のディレクターが外部パートナーやライターには中していた)を説明した上で、その品質等について最終的な責任を負う機能が明確に存在してなかったと説明。さらに前述のマニュアルの存在についても明らかにした。

「DeNA Palette」の記事作成プロセス

「DeNA Palette」の記事作成プロセス

そこで11月29日にWELQの全記事を非公開化。12月1日にはそれに加えてMERYを除く8媒体の全記事を非公開化。MERYに関しても、12月7日をもって全記事を非公開化している。

今回の騒動を受けてDeNAでは、WELQを読んだ結果の健康被害や記事の出展などの相談を受け付ける窓口を開設。コーポレートサイトのトップページに掲載するとした。また既報の通り第三者調査委員会を設置。これと並行して社内でプロジェクトチームを発足し体制の健全化に努めるとした。

続いて南場氏が「批判が組織や企業風土のあり方にまで及んだ。取締役会長そして創業者として、責任のある立場にあり、直接おわびを申し上げたく参りました」と謝罪した。これに続き守安氏が冒頭と同じくユーザーや取引先、株主などに対する謝罪の言葉を述べた。このあと2時間以上の質疑応答が続いたが、その様子はのちほど紹介する。

DeNA、ファッション系キュレーションメディアの「MERY」も12月7日より全記事非公開に

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先日のインタビューの内容とはどうも状況が異なるようだ。キュレーションメディア「WELQ」の記事公開停止に端を発したディー・エヌ・エー(DeNA)のキュレーションプラットフォーム「DeNA Palette」の公開停止騒動。DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏は残る8つのキュレーションメディアの記事公開停止と自身の役員報酬の減額などを発表していた。

経緯をまとめた記事はこちら

信頼性なき医療メディア「WELQ」に揺れるDeNA、MERYを除く全キュレーションメディアを非公開に

本件に関する守安氏のインタビューはこちら

DeNA守安氏「認識が甘かった」——WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動

当初は子会社であるペロリが運営するファッション系キュレーションメディア「MERY」に関しては、運営体制も異なるため記事の非公開は行わないとしていたが、現時点ではかなりの割合の記事が非公開化されている状況だ。そして本日12月5日、DeNAはMERYに関しても12月7日に全記事非公開とすることを発表した。加えて取締役会の委嘱を受けた社外取締役を含む外部専門家による第三者調査委員会を設置し、事実関係の調査を行なうとしている。

TechCrunch Japanでは現在改めてDeNAへの取材を打診している。状況が確認でき次第、記事をアップデートする予定だ。

DeNA守安氏「認識が甘かった」——WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

 

ディー・エヌ・エー(DeNA)は12月1日、ペロリが運営する女性向けキュレーションメディア「MERY」を除く、キュレーションメディアプラットフォーム「DeNA Palette」9媒体の全ての記事を非公開にすることを明らかにした。

先日から情報の不正確さや制作体制について各所で問題視されていた、医療・ヘルスケア情報のキュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」を含め、MERY以外すべての運営が一次ストップするかたちとなる。その経緯は以下の記事にまとめた。

信頼性なき医療メディア「WELQ」に揺れるDeNA、MERYを除く全キュレーションメディアを非公開に

この一連の騒動に対してDeNAはどう考えているのか? 代表取締役社長兼CEOの守安功氏に話を聞いた。

「あとから監修」は認識が甘かった

–今回の一連の騒動について、どうお考えですか?

守安氏: WELQに端を発した一連の騒動に関しまして、多くの方々にご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げたいと思っています。

私自身、今回の騒動の問題点は2つあると考えています。1つめが医療・ヘルスケア情報の取り扱いに関して認識が甘かった点です。数カ月前から(WELQについて)医療関係者の監修がない状態で記事が公開されている事実を把握していました。当時、「後で監修をつければいいのではないか」と思っていたのですが、この認識が甘かったと思っています。医療・ヘルスケアというセンシティブな情報を取り扱うメディアとして、あるべき姿ではなかったな、と。監修をつけるプロセスは進めていましたが、もっと早い段階で取り入れるべきだったと思います。

2つめはWELQに限らず、私たちが運営するその他のキュレーションメディアも含まれることなのですが、記事の作り方に問題があったと思っています。BuzzFeed( Japan)が公開した記事を見まして、マニュアルや指示の内容、例示の仕方など記事を作る一連のプロセスがクリーンであったか、モラル的に問題がなかったかと考えると、決してそうではない。記事の作り方に問題があると感じました。

現場にも確認したところ、組織的に独立した形でやっているMERYを除き、私たちが運営している9つのキュレーションメディアは似たような体制で記事を作っていることが判明しました。最初、アップされている記事で問題があるものを順次非公開にしていくという方法も考えたのですが、それではWELQの医療記事と同じように判断が遅れてしまうと思ったので、MERY以外に関してはいったん記事を非公開にすることを決めました。現在公開されている記事の中には問題がないものも含まれていると思うので、その記事に関しては社内の管理委員会で内容を精査した上で、問題がなければ再度アップしていこうと考えています。

MERYに関しては組織が違うこともあり、運営ポリシー、記事の作り方も我々とは異なります。代表の中川(ペロリ代表取締役の中川綾太郎氏)にも問題がないことを確認しており、基本的には非公開措置はとらず、現状の運営方法でやっていってもらえればと思っています。

–最近の決算発表などを見ていると、ゲーム事業の次の柱にとしてキュレーションメディア事業を据えていましたが、事業を見直す必要性が出てきました。

当然、事業には大きな影響が出ると思っています。ただ、どれくらいの影響が出るかは分かっていないので、まずは今回の問題に誠意を持って対応した後で見直すつもりです。

–WELQに関しては、サイト終了前に広告販売を停止していたのですが、その他の媒体に関しても広告販売は停止するのでしょうか。

これから広告販売を停止していきます。これに関してはクライアント・代理店にご迷惑をお掛けしてしまったなと思っています。

–MERYはサービスを継続するということですが、今回の騒動の影響は出ているのでしょうか。

細かく把握はしていないのですが、今後は影響が出る可能性は高いと思っています。

–東京都福祉保健局から呼び出しがあったとITmediaが報じています。

DeNA広報:呼び出しといいますか、「WELQの内容に関してヒアリングしたい」という連絡があって、今後お会いする予定です。

グロースに注力する現場、どこまで把握していたか

–以前から「Medエッジ(メドエッジ)」というヘルスケアメディア(現在はWELQにリダイレクトされているため、実質的にはWELQの前身のメディア)を運営して言いました。どういった経緯でDeNA Paletteで医療やヘルスケア領域に参入することになったのでしょうか。

守安氏:もともとは「ヘルスケア」というジャンルで、医療よりも少しライトテーマで立ち上げたメディアです。サイトを運営していく中で、グロースを意識し始めた結果、医療情報が少しずつ入ってきて、今の形になりました。その変遷は認識していたのですが、(直近のような体制になるまで)止めることができなかった。

–「止めることができなかった」ということですが、どの程度DeNA Paletteの運営実態を把握していましたか。

DAU(デイリーアクティブユーザー)やMAU(月間アクティブユーザー)、売上といった数字の把握はしていました。あとは「SEOを重視していく」という方針は(自身が)出していたので、SEOを軸にしてメディアをグロースさせていく運営手法も知っていました。

ただ、どうやって記事を作っているのか、どういったオペレーションで回しているのか…現場に近い部分は「クラウドソーシングサービスを使っている」こと程度で、細かい部分までは把握していませんでした。

–WELQの記事の一部は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に抵触しているとの指摘もあります。それでも監修は後付けでも問題ないという認識だったんでしょうか?

薬機法がどうかは知らなかったのですが、「医療情報を取り扱っているけれどもエビデンスがない」という状況は認識していました。「あとの対応でもいい」と思ったのはすごく甘かったですね。

–この騒動によって、子会社のDeNAライフサイエンスが手がける遺伝子検査サービス「MYCODE」など、グループのヘルスケア事業のブランド毀損にもなり得ます。現時点での影響や今後の対策などを教えて下さい。

ヘルスケア事業自体は、非常にセンシティブな領域でもあるので、立ち上げ時から社内に倫理委員会を設けるなど高い倫理観を持って運営していました。ただし、WELQに関しては違う意識で運営することになってしまった。そこは私たちの責任です。

事業自体は切り分けられているので、WELQが(ヘルスケア事業の運営に)直接的に関わってはいません。ですが、医療関係者からは「DeNAどうなってるんだ?」という声はいくつも頂いているので、そこは真摯に受け止め、信頼回復に努めていきたいと思っています。

–DeNAがキュレーションメディア事業に参入したのが約2年前。当時から守安氏の「肝入りの事業だった」と聞いています。

そうですね、ヘルスケア事業は南場(取締役会長の南場智子氏)が見ているので別ですが、それ以外のほとんどの事業を私が見ていますので、どの事業も肝入りです。ただ、その中でも注力したい分野だったことは間違いありません。

–しかし一方では、iemo、MERYの買収にあたってDeNAの法務部門から反発があったとも聞いています。

金額的に2社で50億円。規模的にはアメリカのゲーム会社(ngmoco)に次ぐものだったので、重要な事業になるだろうと思っていました。

反発……というよりは「著作権的に黒か白か分かりづらい」という話がありました。法律的には大丈夫という認識のもとで買収を行ったのですが、曖昧な部分もあった。そこは運営していく中でクリーンにしていこうと考えていました。

–その買収やDeNA Paletteの構想を発表して、健全なメディアが生まれると思いきや、実情は結構違っていました。この原因についてどう分析していますか。

「モラルを守って適切に運用する」という認識が私を筆頭に足りていなかった。そこに尽きると思います。

著作権無視のバイラルメディアが関与

–DeNA Palette構想でできた内製メディアには事業を統括するDeNA執行役員、キュレーション企画統括部長でiemo代表取締役CEOの村田マリ氏と親交のある元WebTechAsiaの人材が大きく関与していると伺っています。同社はかつてBUZZNEWSというバイラルメディアを運営しており、盗用問題に端を発した炎上騒動があったのですが、その経緯は把握していましたか。

はい、把握していました。立ち上げ期に関わっていて、メディアが一通り立ち上がった今年の頭に退職しています。

–上場企業のメディア運営において、著作権まわりでトラブルを起こした人材を登用する狙いとは。

メディアを立ち上げるノウハウを持っていたので、彼らを登用することにしました。そこは上場企業として問題ないという判断を下しました。

–過度とも言えるSEOによるグロース施策を実行していた人物として、キュレーション企画統括部の部長の名前が具体的に挙がっています。

それぞれのメディアには担当者がいて、グロースハック部とメディア部がどう絡み合っていたのかは分からないのですが、私を含め「SEOを重視しよう」という方針で運営していました。村田が責任者でいて、配下の部長が数名いる中の二人だったという認識です。

–事業のキーマンの採用は現場の采配によるところが大きかったということでしょうか。

メディア全体の方針やモラル的な問題に関しては私に責任があると思っていますが、現場の判断に関しては村田の判断が大きいです。

–ただ、社内外からSEOの手腕に関して「ちょっと強引じゃないか」という声も挙がっていたと伺っています。

報道を見るとそういう面もあったのかなと思いますが、社内の中では把握していませんでした。

— 今回の記事非公開という決断で組織体制の変更はありますか。

(今日の)朝決めたことですので、今後の体制に関してはまだ考えてないです。

DeNA Palette、再開のめどは

— ヘルスケア事業は南場氏が担当しているとのことでしたが、今どういったコミュニケーションを取っていますか。

(南場氏は)毎日会社に来ていますし、週1回経営会議もやっているので、普通に常勤役員としてコミュニケーションしています。

–今回の騒動について何か話し合いがあったのでしょうか。

いくつかありましたが、多くの方々に迷惑をお掛けし、これまで積み上げてきた信頼を全て失ってしまったと思っているので、まずは失った信頼を取り戻していくという話を今はしています。

— ネット上では本事業について「南場さんが舵をとるべき」という意見も見かけました。

外部で色々と言われていることがあるのですが、現時点で何か体制を変える、といったことは考えてないです。

— 今後、健全化のスキームを考えるとコストが1記事あたり10倍以上の単位で変わってくると思っています。すでに医療従事者などに1記事1万円以上でWELQの記事の監修を依頼しているというもあります。今後のコンテンツ制作コストに関して同お考えでしょうか。

今回の問題では、SEOを主体に考えすぎていたと思っているので、まずはユーザーに喜ばれるコンテンツ作りをやっていきます。それにあたって、方針や手法は変えていかなければいけない。その過程で発生するコストはやっていかなければ分からない部分もあるので、何とも言えません。

–WELQも問題さえクリアになれば再開するのでしょうか。

そうですね、ユーザーにとって役立つサイトになれたら再開したいと思っています。信頼できる医療情報を求めている人たちは多くいるので、コンセプト自体が間違っているとは思っていません。ただ、記事の作り方や監修が問題でした。それをちゃんとやったときにビジネスとして成り立つかどうかは別の話。ユーザーにとって役に立つ記事が出せて、ビジネスとして成り立つのであればやっていきたいと思っています。

–SEOによって「検索結果を汚した」という声もあります。インターネット事業を手がける会社の一個人として、どうお考えでしょうか。

DeNAは1999年からインターネット事業を手がけています。、私自身もインターネットがすごく好きですし、インターネットサービスを多くの人たちに必要と思ってもらいたいので、そう言われてしまうのはつらいし、変えていきたい。

ただSEOそのものが悪いと思っておらず、ユーザーにとって役立つコンテンツを作り、その記事の検索順位を上げていければ、社会的にも良いことだと思っています。ただ、今回はテクニックに頼りすぎてしまっていたのではないかと思います。

信頼性なき医療メディア「WELQ」に揺れるDeNA、MERYを除く全キュレーションメディアを非公開に

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ここ最近、その情報の不正確さや制作体制について各所で問題視されていたディー・エヌ・エー(DeNA)のヘルスケア情報キュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」。DeNAは11月29日夜に発表したプレスリリースで、同日午後9時をもってすべての記事を非公開とした。同時に、現在WELQで取り扱いのある全ての広告商品の販売を停止したと発表。ユーザーや広告主への謝罪を行っている。加えて、DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏を長とした管理委員会を設置。チェック体制の強化や信頼性の担保できる仕組みを整備していくとした。

さらに12月1日、今度は「DeNA Palette(ディー・エヌ・エー パレット)」の名称で展開するキュレーションメディアプラットフォームで運営する特化型のキュレーションメディアのうち、「MERY」(女性ファッション)を除く「CAFY」(飲食)「iemo」(インテリア)「Find Travel」(旅行)「JOOY」(男性向け情報)「cuta」(妊娠、育児)「PUUL」(アニメ、漫画)「UpIn」(お金)「GOIN」(自動車)の8つについて(WELQもこのDeNA Palette内のメディアの1つだ)、記事をいったん非公開にすると発表。また同時に、守安氏の役員報酬の減額(月額報酬の30%を6ヶ月間減額)を発表した。先行するWELQ同様に、広告販売も終了し、チェック体制などを強化して再掲載の体制を作るという。

「WELQ」のトップページ

「WELQ」のトップページ

TechCrunch Japanでは11月30日夜の時点でDeNA広報部からWELQについて「(薬機法上の問題だけでなく、他媒体の記事のリライトではないかとう)指摘も含めて、社内のチェック足りなかった。そこは変えなければいけない。そういった点も合わせて、どうやったらこのようなことが起きないか、指摘を受けないコンテンツ作りのためのフローの見直しをやる。そのためにリリースの最後にあるように管理委員会を立ち上げている」という回答を得ていたが、結果的にDeNA Paletteの中でも比較的独立性高く運営していたMERYを除き、全てのコンテンツを見直すことになった。

WELQの何が問題だったのか

DeNAがDeNA Paletteを発表したのは2015年4月のこと。WELQは一歩遅れて同年10月にスタートした。ニールセンの発表によると、2016年7月の利用者数は631万人。直近3カ月で2倍のユーザーを集めるまでに成長した。そんなWELQについて、この数カ月(特にここ数日)に渡ってオンラインメディアやブログが問題提起をしていた。その概要と当該の記事は次の通りだ。

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

(1)医学の知識に乏しい、もしくは誤った内容の記事が掲載されている。また薬機法に抵触する、もしくはその可能性が高い内容が含まれていること。

(2)DeNA Paletteはユーザーが自由に記事を投稿できるキュレーションプラットフォームであり、DeNAは記事の責任を負わないとしながら、実際にはDeNAがクラウドソーシングなどを用いて記事を発注していること。またその発注に際して、「コピペ(コピー&ペースト)」で他サイトのコンテンツをそのまま無断転載するのではなく、他サイトのコンテンツの語句を一部変えるような「リライト」や、責任追及回避のために「○○と言われています」といった伝聞形式の文章にするなど、ライターにマニュアルを用意して指示をしていたこと

(3)毎日大量の記事を投稿し(1日100本程度)、SEOの知識を駆使することで、(2)のような問題のあるコンテンツでGoogleの検索結果上位を取り、集客を行っていること(またはこういったコンテンツに対してGoogleが正しい評価をできていないこと)

医療情報に関わるメディアは「覚悟」を – 問われる検索結果の信頼性(医学部出身のライター、朽木誠一郎氏のYahoo! ニュース 個人)

DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言(BuzzFeed Japan)

DeNAがやってるウェルク(Welq)っていうのが企業としてやってはいけない一線を完全に越えてる件(第1回)(永江一石氏のブログ「More Access! More Fun!」)※第4回まで続く

決算が読めるようになるノート:Welq問題は(DeNAだけじゃなくて)Googleも批判されるべきだと思う(Searchman Co-Founder柴田尚樹氏のnote)

また、WELQの執筆や運営に関わったと見られる人物のブログや、SEO手法について解説するブログなどもいくつか確認できた。信ぴょう性の高い内容に見えるのだが、実際に当事者だったのかは確認できていないことは注意して欲しい。

元welqライターからの告発

WELQの面接で落とされ、その後WELQが炎上して、思うところ

命に関わるヘルスケア、医療の情報である以上、その信頼性が担保できていないだけでなく、媒体側が「コンテンツの内容に責任を負わない」と明示しているのは大問題だ。現役の医師からも、ライターの知識不足により、リライトによって本来とはまったく異なる意味になってしまっているコンテンツもあるという話も聞いた。そんな問題のあるコンテンツが検索結果としては上位に来るものだから、患者が自身の治療法を勘違いしてしまって認識しているといった、医療の現場でのトラブルも現実に起きたという。

コンテンツ制作の実態についてはリンクしたBuzzFeed Japanの記事が詳しいが、キュレーションプラットフォームとうたいながらも、その実態は信頼性の担保できないコンテンツによる、SEO超重視のメディア運営であったことが露呈したと言っていい。「SEO=悪」ではないが、Googleの裏をかくことで検索結果の上位を目指したのは事実。それこそ以前にGENKINGが「Googleで検索しない」と言っていた言葉を思い出してしまう。確かにキュレーションメディアの登場以降、商品名やブランド名でググると、キュレーションメディアが上位に来ることが多い。

TechCrunchでは、DeNAが住まい領域の「iemo」とファッション領域の「MERY」を買収した際や、旅行領域の「Find Travel」の買収、DeNA Paletteを立ち上げた際にニュースとして紹介してきた。スタートアップの動向を伝える僕たちとして言えば、いわゆるイグジット事例としては喜ぶべき話だと思っている。

ただし買収後の各キュレーションメディアも、初期のYouTubeのように…と言えばきれいごとかも知れないが、記事や写真の転載にまつわるトラブルなどを聞かないわけではない状況だった。しかし——YouTubeがGoogleに買収され、著作権管理の仕組みが整い始めたように——DeNAという上場企業の傘下に加わることで健全な運営がなされていくと思っていた。例えば2014年11月にハフィントンポスト・ジャパンがDeNA創業者で取締役会長の南場智子氏へのインタビューをしているのだが、その最後にも、キュレーションメディアのライツ健全化に向けての取り組みに言及している。だが実態として、そういった状況にはなっていなかったというわけだ。

薬機法無視、低品質コンテンツ大量生産は誰が指示したのか

WELQの騒動を受けて、MERYを除くDeNA Paletteのキュレーションメディアがいったんクローズすることになった。ここで関係者から聞いたMERYの状況をお伝えすると、自社内に出版社出身を含めたライター・編集者を採用し、写真も自社スタジオで撮影するなどして、オリジナルコンテンツに注力し始めているのだそうだ。もちろんいまだ品質に疑問を持つような内容もあるようだが、カスタマーサポートも独自で持っていると聞いた。少なくともDeNA Paletteの全てのメディアの運用がまったく同じ状況という訳ではないようだ。

ではこのWELQが薬機法を無視し、盗用と言っても過言ではないコンテンツをクラウドソーシングで大量に生産するように指示した人物は誰なのだろうか? WELQは「編集部」を名乗っているが、実態として編集長を置いていない。DeNA社員を含む関係者からは、事業を手がけるのはパレットの事業を統括するDeNA執行役員、キュレーション企画統括部長でiemo代表取締役CEOである村田マリ氏に加えて、同氏が管掌するキュレーション企画統括部のグロースハック部の部長であるY氏、メディア部部長であるH氏が実質的に指示を出していたという声が上がった。特にY氏は前職でのSEOの知識を買われてDeNAに入社しており、DeNA内製のキュレーションメディアのグロースハックを担当していたという。だが結果として薬機法への抵触などをいとわない手法を取っていたため、DeNA Palette関係者内では違和感を持つ声もあったという。

炎上バイラルメディアの元社員らも関与

関係者から話を聞いてさらに驚いたのが、このDeNA内製キュレーションメディアの立ち上げに関わっていた「ある会社」の元社員たちの存在だ。

読者の皆さんは「BUZZNEWS」という名前を覚えているだろうか。2014年にライターのヨッピー氏がコンテンツの盗用問題を指摘。謝罪と和解金の支払いを行ったのちに閉鎖したバイラルメディアだ(経緯はTHE PAGEのこの記事に詳しい)。

このBUZZNEWSの運営元であったシンガポール・WebTechAsia社の複数人の元社員がDeNAに入社し、DeNA Paletteのキュレーションメディア群の立ち上げに従事していたのだ。元社員らは2016年に入ってDeNAを退社しているということだが、公器であるべき東証1部上場企業・DeNAのメディア立ち上げは、盗用問題でサイト閉鎖に追い込まれた人物らに教えを受けた、「クラウドソーシングでの終わりなきコピペとSEOノウハウの融合」(関係者)からスタートするという残念なものだったのだ。

ただ一方で、これはDeNAに限定した問題でもないと僕は思っている。前述のヨッピー氏は「ウェブメディアの信頼に対する瀬戸際ではないか」と語っていたのだけれどもまさにそのとおりで、気軽にメディアを作れるようになった今だからこそ、その情報の正確さやモラルなどを考えていかないといけない段階に来ているのではないだろうか。

DeNAでは今後、守安氏直轄の管理委員会を通じてコンテンツの健全化を図った上でDeNA Paletteを再開する見込みだ。

“正しい”医療情報はまだまだネット上に少ない。だからこそそういった情報を発信してもらえるのであればそれは本当に価値のあるメディアになるだろう。だが、信頼性の低いコンテンツを安価かつ大量に生産してきた体制を変えるのは決して簡単な話ではない。11月4日に開催された2016年度 第2四半期決算説明会では、キュレーションプラットフォーム事業が9月時点で事業の単月黒字化、第3四半期の黒字化予定を発表していたが、今回の動きは業績への影響も小さくない話だ。今後は健全化に向けた同社の動向が問われることになる。

なおTechCrunchでは今回の発表に関して、DeNA代表取締役の守安功氏に独占個別取材を実施している。その内容は以下のリンクから確認して欲しい。

DeNA守安氏「認識が甘かった」——WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動

キュレーションプラットフォーム事業の業績について

キュレーションプラットフォーム事業の業績について

DeNA、Preferred Networksと組んでAIベースのソリューション事業に参入——合弁会社「PFDeNA」を設立

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1年ほど前にはZMPと組んで、自動運転技術を使ったタクシーを手がける「ロボットタクシー」を設立したディー・エヌ・エー(DeNA)。新領域のビジネスを続々と手がける同社が、今度はAIをベースにしたソリューション事業に参入する。

DeNAとPreferred Networks(PFN)は7月14日、合弁会社「PFDeNA(ピー・エフ・ディー・エヌ・エー)」を設立したことを発表した。資本金は3000万円で(出資比率はDeNA:50.0%、PFN:50.0%)、代表取締役社長にはDeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏が就任。取締役にはPFN代表取締役社長 CEOの西川徹氏、PFN取締役副社長の岡野原大輔氏、DeNA取締役の川崎修平氏ほか1名が就任する。

PFNは検索やレコメンドなどを開発するPreferred Infrastructureから2014年にスピンオフした技術系のスタートアップ。現在はIoT領域を中心に機械学習技術を用いたソリューションを手がけている。2015年12月にはトヨタ自動車が出資。モビリティ領域でのAI技術の共同研究を行うと発表したことでも話題を集めた(提携自体はPFN設立時の2014年に発表されていた)。

PFDeNAでは、AIを活用した企業向けのソリューション提供をする予定。対象領域はゲームやヘルスケア、自動車・交通関連をはじめ、大規模データを扱うあらゆる産業としている。両社は発表で「DeNAがインターネットサービスの運営を通じて蓄積してきたデータや複数事業領域での経験と、PFNのAI技術を組み合わせることで、DeNAあるいは顧客企業の持つ様々なデータの価値の最大化を図る」とコメントしている。

“企業向けのソリューションを提供”なんて聞くと、「DeNAがSIerにでもなるの?」なんて疑問も出たりするのだけれど、PFDeNAのサイトを見る限りはまだ具体的な内容は何も分からない状態。まずは今後の展開を待ちたい。

日本のDeNAがEasyMile製自動運転電気バスの運行開始へ

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単なるFOMO(fear of missing out 取り残されるのが怖い)かもしれないが、最近あらゆるインターネット企業が自動車・交通ビジネスに参入を図っている。日本のDeNAも例外ではなかった。ソフトウェア・メーカーとして有名なDeNAは東京でイベントを開催し、運輸事業を展開することを発表した(Reuters記事)。これには12人乗りの自動運転電気バスが用いられ、まず千葉の幕張地域のショッピングモールで来月から営業を開始する。

DeNAの名前はTechCrunch読者にはおなじみだろう。同社がTechCrunchでもっとも注目を集めたのはモバイルで人気の同社のゲーム・キャラクターとブランドが任天堂にパートナーとして選定されたことだったかもしれない。しかしDeNAはしばらく前からオートモーディブ事業部をスタートさせており、今回フランスの自動運転電気自動車メーカー、EasyMileのバスを使って営業を開始する運びとなった。投入されるのはEZ10ロボット・シャトルと呼ばれるコミュニティー・バスで、世界各地でテスト・プロジェクトが進められている。

EasyMile EZ10は最高時速40kmで、カメラ、GPS始め各種のセンサーを搭載している。ただし制約なしに公道を走るようにはデザインされていない。EasyMileの自動車は限定された私有地構内での運行を前提としており、大量の歩行者や他の交通などが引き起こす困難を避けている。.

DeNAの今回のプロジェクトの目的は主としてフランス製自動運転車が既存システムおよび現行の各種規制の範囲内で正常に運行できることを地元規制当局と協力しつつ確認することにある。また損害保険や自動運転電気自動車を購入したユーザーのための保守契約の提供も手掛ける。

AlibabaLGと同様、DeNAも自動車関連ビジネス参入にあたってスクラッチでハードウェアを製造する道を選ばず、経験豊富なサードパーティーと提携することとした。自動車製造がきわめて複雑であり膨大な資金を要する作業であることを考えれると賢明な選択だろう。

音楽が止まったときに空いている椅子を奪い合うゲーム同様、自動車ビジネスへの参入は非常に大きな賭けだ。ただしサードパーティーとの提携であれば、初期投資は少なくてすむし、賭けに失敗したと判明したときの撤退でも大きな損害を被らずにすむ。各種要素の正しい組み合わせを早期に発見した企業は大きな利益を得られるだろう。DeNAとEasymileが賭けに勝つことになるのか注目だ。

〔日本版〕国内のメディアの記事では自動車事業におけるDeNAとDoCoMoとの提携も報道されている。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

DeNAが個人間カーシェア「Anyca」を開始、1日3000円の低料金も「痛車」もある

所有するクルマを個人間で貸し借りできるC2Cカーシェアリングサービス「Anyca」(エニカ)を今日、DeNAが開始した。すでにテストマーケティング的にサービス自体は2、3カ月前から開始していて、登録済みのクルマの台数は約200台。当面の注力エリアは東京ではあるものの、全国で利用可能だ。1台を1日借りると車種によって3000〜5000円となる。5人乗りのプリウスという乗用車で比べると、Anycaで5500円(うち保険料が1000円)のところ、レンタカーだと1万2000円、B2Cカーシェアだと8300円というのが1日の利用料の相場だ。タイムズカープラスなどのカーシェアは6時間という短時間で4000円とか夜間のみ2000円といった柔軟性もあるので単純な比較はできないものの、1日出かける、ということならAnycaはレンタカーやカーシェアよりも価格競争力を持ちそうだ。

もっとも料金はクルマを提供する所有者が決めることができ、高級車やスポーツカーだと7000円とか1万円というのもある。この料金にはドライバーがかける1日限定の保険料も含まれる。保険は東京海上日動とのシステム接続で実現していて、マッチングが成立した契約時に保険も同時購入となる。サービスを提供するDeNAは手数料10%を取り、残り90%をクルマの提供者であるオーナーが受け取る。

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実際の貸し借りはオーナーがクルマをサービスに登録し、それを借り手がカレンダーから予約。カギの受け渡しは対面で行うというもの。現在、物理的なカギの受け渡しを不要とするためにODB2ポート(クルマのメンテ用のデータ通信ポートでハンドル下部にあるのが一般的)経由で開錠・施錠コマンドを車載システムに発行して、スマートキーが実現できるデバイスを準備中という。

DeNAのAnyca責任者で立ち上げを担当するオートモーティブ事業部の大見周平氏(カーシェアリンググループグループマネージャー)によれば、今回のサービスは法的な分類上は道路運送法でいう「共同使用」となっていて、「有償貸渡業」と呼ばれるレンタカーの規制対象となるサービスではないそうだ。この共同使用という枠組みは2006年までは許可制だったが、2007年に撤廃されている。

中国やアメリカでも伸びるC2Cカーシェアサービス

法規制上は違う分類とはいえ、C2CカーシェアのAnycaはマーケットとしてはレンタカー、B2Cカーシェアリングなどと近い領域のサービスだ。東京や大阪といった都市部でクルマの保有率が下がるなか、これらの市場は近年大きく伸びていて、レンタカー市場は矢野経済研究所が8月末に発表した資料によれば2014年は前年比4.1%増の6350億円となっていて、まだ今後も同様のペースで伸びるとの予想だ。カーシェア市場も右肩上がりを続けていて、2011年に50億円規模だったものが2014年には約154億円規模に成長、2015年は200億円を突破するとしている。

DeNA自身の調査によれば、日本の自家用車の台数は6000万台。これは、レンタカーの28万台やB2Cカーシェアリングの1.5万台に比べて圧倒的に規模が大きい。そのうえ自家用車の稼働率は低く、DeNAによれば1年で10日間(約3%)というレベルだそうだ。

これは日本に限った話ではなく、海外でもC2Cカーシェアリングのサービスが立ち上がっている。米国ではRelayRidesGetaroundが、中国ではAtzuche.com、シンガポールからはiCarsclubというスタートアップが登場している。この辺の市場調査をした大見氏によれば、特に中国の立ち上がりの勢いが「意味が分からない」というレベルで、Atzuche.comは2014年5月に上海でローンチして1年で100万ユーザー、3万台の登録というハイペースでの普及を見せているという。

当初は尖ったクルマを集めて「乗ってみたい」出会える楽しさを

今日の正式サービススタート時点で、Anycaに登録されている200台のクルマのうち、約半分が一般車で、残り100台は「尖ったクルマ」だ。

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Anyca責任者のDeNA 大見周平氏

「始まりは(ユーザー規模が)小さいので、多種多様なクルマというのでサービスを尖らせています。C2Cサービスは、ある程度密度が高まらないとサービスの利便性が上がりません。最初のうちは近所の駅に登録されてるクルマは1台にしかならない。だから、2、3駅ぐらい出向いて取りに行っていいと思えるような、そういうクルマを集めています。クルマっていいよねという体験を提供していきたいですね」

確かに、アプリでクルマをブラウズすると、特にクルマ好きでもないぼくでも1度くらいは乗ってみたいと思うようなスポーツカーや、ネタとして借りてみたい「痛車」、パンダの顔のスクールバスみたいものが目に付く。以下のような感じだ。

これは古くはAirbnbが当初にインパクトのあるお城の写真やジャングルの中のツリーハウスの写真を掲載して「泊まってみたい」と思うようなアイテムを揃えたのと同じで、サービス初期の立ち上げ時にトラクションを作る方法の定石となってきた感もある。日本だとB2Bの場所貸しサービス「スペースマーケット」が球場やお寺などをトップページで見せているが、実際のビジネスのボリュームゾーンは退屈な空き会議室だろう。

同様に、Anycaも「乗ってみたい」を当初は強調するのだろうし、これはこれでまた違ったニーズとニッチ市場があるのは間違いない。軽自動車ばかりが売れ、クルマが経済合理性だけで選ばれる傾向が強まる一方で、クルマ好きのファンたちは個性派のクルマの維持費用を正当化できずに頭を抱えている。だから、大見氏らはこれまでAnycaでクルマ好きのコミュニティーに事前登録を依頼するようなことをしてきたのだという。

レンタカーやB2Cカーシェアサービスではコストダウンのために車種を絞る力が強く働く。大見氏によればレンタカーで稼働率が70%、カーシェアリングでも稼働率30%あたりがブレイクイーブンではないかといい、たとえ高級車などを一部に取り入れても、これを下回るようだと「銀色のプリウス」に置き換えざるを得ない事情がある。C2Cの場合は、すでに市中にあるクルマ好きの多種多様な車種を扱えるのが強みとなる。

普及した先にはC2C売買や横展開、新しい所有モデルの提供も

「初年度は一定地域で密度を高めて利便性を検証していく計画です。これが都内で2000台とか3000台になってくると、だいぶ密度が高くなってくる。23区で数千台、3年後に数万あるいは数十万というのが目標です」

「ある程度普及してCPAやLTVが見えてきたら、横展開していくことも考えています。所有とシェアは近づいてくるはずと考えているので、第二ステップとしては、例えば、新車を買うときにシェア前提で共同所有するオーナーたちのために新しいオートローンを作るというのもあり得ます」

サービス提供で集まってくるデータを使った事業の展開というのはDeNAのようなネット企業の得意とするところ。「例えば、われわれには車検がいつ切れるのが分かります。珍しいクルマを持っている人をディーラーに送客するとか、C2Cの売買を導入することも考えられます」

スマホの画面をそのままリアルタイムに配信、DeNAの新アプリ「Mirrativ」

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国産サービスのツイキャスやTwitterが買収したPeriscopeをはじめ、スマートフォン1つで動画のリアルタイム配信を実現するサービスに注目が集まっているが、本日ディー・エヌ・エー(DeNA)がリリースした「Mirrativ(ミラティブ)」が面白い。このサービスは、スマートフォンの画面をそのまま配信できるのだ。

Mirrativの配信用アプリはAndroidでのみ提供しており、利用は無料。iOSアプリも「Coming Soon」となっているが、アップルの開発者向け規約の関係からAndroidとまったく同じ機能を提供するというのは難しいかもしれない。ただし閲覧についてはウェブブラウザでも可能なため、AndroidだけでなくiOS端末でも閲覧可能だ。ただしPCからの閲覧は現時点では許可していない。またサービス開始当初は、配信時間を20時〜24時に限定するという。

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動画の配信者は、アプリを立ち上げて3タップで画面の配信が可能。音声のオン・オフ設定のほか、インカメラの映像も同時に配信可能(テレビの中継などにある「ワイプ」を思い浮かべて欲しい)。また一時的に動画を表示せずに音声だけで配信するといった機能も備える。

閲覧者は配信を見ながらコメントを投稿できるほか、画面をタップして、星のようなキラキラとしたエフェクトのついた「スタンプ」を飛ばすこともできる。画面は配信する内容に合わせて縦横どちらでも閲覧可能。リアルタイム配信の内容は、Mobageでのサービス監視を行ってきた新潟のカスタマーサポートセンターが担当するという。

サービスのデモを見せてもらった際はゲームのプレイ実況を配信をしていたのだけれども、それ以外にも用途はいろいろありそうだ。

DeNAでもプレスリリースで「ゲームアプリで遊びながらの実況やEコマースのサイトで視聴者のアドバイスをもらいながらの買い物、さらには新しいアプリの使い方解説など」と提案している。事業を手がけるDeNAの赤川隼一氏も「ニコ生やUstreamとは少し使い方が違って、よりパーソナルなところを見せられるのではないか。ただ最終的にはユーザーに使い方を提案してもらえばいい」と語っていた。

どんなゲームでもアプリでもライブストリーミングできるDeNAのMirrativ、Androidにまず登場

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ゲームなどのアプリをライブストリーミングするサービスを今週開始したのは、YouTubeだけじゃなかった。YouTube Gamingが公開されてから、ほんの数日後に、日本のゲーム多産企業DeNAが、Mirrativという名前で同様のサービスを開始した。

当初はAndroidのみだが、そのアプリを使うと、ユーザの画面に映るものなら何でもライブでストリーミング(ブロードキャスト)できる。話がDeNAだから、まっさきに心に浮かぶのはゲームだが(同社はNintendoのモバイルゲームの制作も担当する)、でも同社によれば、Mirrativはどんなアプリでもサポートする。だから、いろんな使い方がありそうだ。

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このアプリは、ライブストリーミングから面倒で難しい部分をほとんど取り去り、TwitchなどではブロードキャストするためにPC用のケーブルやアタッチメントが要るところを、Mirrativならスマホ本体だけで、わずか3クリックでブロードキャストが始まる。

しかも、ブロードキャストするときに、ストリームに自分の声や顔を含めるオプションもある。しかし基本的にはこのアプリはバックグラウンドで動き、今ユーザのスマートフォンの上で(画面上で)行われていることを何でも放送する。ゲームだけでなく、今読んでるニュース、今やってるショッピングなども、友だちなどに見せることができる。これまでの画面ブロードキャストアプリよりも、ずっと多様な用途がありえるだろう。

Android上のゲームのライブストリーミングでは、Kamcordが良くできているが、現時点では一定の高度なゲーマーしか使えない。Mirrativは、Android機を持ってる人なら誰でも使える。

一般大衆用のライブストリーミングといえば、自撮りビデオの放送で人気を高めたPeriscope(Twitter傘下)やMeerkatが先輩だが、Mirrativeはそれらの大衆的気軽さをユーザインタフェイスや使い勝手に引き継いでいる。ストリームはユーザのフォロワーとシェアされるし、見ている人はコメントしたりお気に入りのスターをつけたりできる。今んところブロードキャストの保存ができなくて残念(一回見終わったら再度は見れない)だが、 きっとそのうち…(この件DeNAには未確認)。

DeNAに確認したところ、iOSバージョンももうすぐ出るが、ストリームを見るだけでブロードキャストはできない。KamcordもやはりiOSはだめだから、iOSでライブストリーミングをサポートすることには、何か、克服困難な問題があるのだ。でもiOS 9ではデベロッパがネイティブのリプレイ機能を実装できるためのSDK、ReplayKitが提供されるから、ライブストリーミングのサポートも可能になるかもしれない。

Mirrativは今はまだベータで、本番ローンチは来月だ。今ベータをダウンロードして使ってもよいが、同社は日替わりのライブストリーミングのデモを提供している。Twitterの@mirrativをフォローすると、各ブロードキャストの詳細が分かる。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

オークファンがDeNAのBtoBマーケットプレイスを12.5億円で買収

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オークファンが5月26日、ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がけるBtoB向けのマーケットプレイス事業(仕入れや卸向けのマーケットプレイスだ)法人向けの商材を売る「DeNA BtoB Market」を買収すると発表した。

DeNAがDeNA BtoB Marketの事業承継会社である「NEATSEA株式会社」を設立。同社の全株式をオークファンが取得する。取得額は12億5500万円(アドバイザリー費用500万円を含む)。ちなみにDeNAは2013年1月に自社サービスのブランドを「DeNA ○○」という名称に再編しているのだけれど、NETSEAというのは、再編前のサービス名だ。

NETSEAは2006年11月にサービスを開始。現在25万人のバイヤー(ユーザー)を抱えており、年間流通総額は卸売価格ベースで60億円。2015年3月期の売上高は5億2000万円、営業利益は2億5000万円となっている。ちなみにオークファンの2015年9月期業績予想では、売上高は15億円、営業利益は1億7000万円となっている。

オークファンでは今回の買収によって、自社サービス間の相互誘導でのユーザー拡大や、フリーマーケット事業などの関連事業での相乗効果が期待できるとしている。加えて、同社がユーザー向けに提供している取引データの拡充にも繋がりそうだ。オークファンではこれまでヤフオク!や楽天市場など、BtoC、CtoCのコマースサイトについて、販売価格・落札価格といった取引データをとりまとめてユーザーに提供してきた。今回これにNETSEAのBtoBのデータが加わることになる。

BtoBの市場については海外を見てみると、Amazon.comが「Amazon Business」を既存サービスと統合して、機能を強化する動きがあったり、中国には「Alibaba.com」のような巨人がいる状況。日本でもファッション・雑貨を中心にしたラクーンの「スーパーデリバリー」や間接資材に強いMonotaROの「MonotaRO」、ヤフー子会社で、オフィス用品を中心に取り扱う「アスクル」などがある。

ロボットタクシーの実現に向けて—DeNAとZMPが合弁会社設立へ

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遺伝子解析からアイドル、キュレーションメディアまで新規事業を続々と発表しているディー・エヌ・エーだが、今度はZMPと組んで、ロボットタクシーの実現に向けて動き出した。両者は5月29日をめどに、合弁会社を設立。自動運転技術を活用した旅客運送事業の実現に向けた研究・開発を進めると発表した。

合弁会社の社名は「ロボットタクシー」(仮称)。資本金は7億円で、出資比率はDeNAが66.6%、ZMPが33.4%となっている。ZMP代表取締役社長の谷口恒氏が取締役会長に、DeNA執行役員 新規事業推進室長の中島宏氏が代表取締役社長にそれぞれ就任する。

ZMPは2001年の創業。当初はコンシューマ向けのロボットの開発・販売を手がけていた。30代以上の人であれば、同社のロボット「PINO」をアーティスト、宇多田ヒカルの「Can You Keep A Secret ? 」(2001年のヒット曲だ)のプロモーションビデオなんかで見たことがあるかもしれない。

そんな同社は現在、ロボットの技術を応用した自動運転技術開発用プラットフォーム「RoboCar」シリーズやセンサシステムの開発・販売を主力事業としている。IPOが間もなくと噂されたり、直近ではビジネスメディアへの露出も多いロボット関連の注目企業だ。

発表によると、合弁会社では DeNAのネットサービス運営ノウハウとZMPの自動運転に関する技術を連携させることで、ロボットタクシーやロボットバスなどの旅客運送事業の実現を目指すという。まずは自動運転技術の向上やサービスモデルの仮説検証などの実証実験を重ねていく計画だという。

DeNAはプレスリリースで次のように説明している。

過疎化や高齢化の進む地域のお年寄りや子ども、障がいのある方など不便な生活を送られている方々のサポートの役割なども担う新たな交通手段を実現させることでもあると考えており、ロボットタクシー事業の実現を通じて、将来的には日本の地方創生・地域再生の一助にもなれればと考えています。

また今回の発表にあわせて、DeNAでは「DeNA AUTOMOTIVE」のサイトをローンチしている。

ついつい「だら見」し続けるサービスに——オタク特化のニュースアプリ「ハッカドール」にウェブ版、アニメ化も

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4月のGunosy上場でさらに注目の集まるニュースキューレーションアプリ。その中でもひときわ異彩を放つのが、ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がける「ハッカドール」だ。これまでiOSアプリでサービスを展開してきたが、5月3日にはウェブ版をリリース。あわせて、10月からのテレビアニメ化を発表した。

オタク系コンテンツ特化のニュースキューレーションアプリ

ハッカドールは2014年8月にリリースされたスマートフォン向けアプリで、アニメやマンガ、ゲームなどいわゆるオタク系コンテンツに特化したニュースを閲覧できる。ユーザーが閲覧したり、記事の評価をしたりして、好みのコンテンツを学習。朝、昼、夜の1日3回、25件のニュースをプッシュして配信してくれる。

遊び心も満載だ。ハッカドール1号、2号、3号という美少女キャラクター(それぞれ声優もついている。厳密には3号は男の娘…つまり男性なんだそうだ)がアプリの機能を紹介したり、ログイン時などに入手できる仮想通貨「ハッカ」でプレイできるミニゲームも用意する。

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また、ユーザーの好むコンテンツを「成分」として表示できるが、通常表示だけでなくお弁当風(食品の原材料表示のように表示)、レシート風といった表示形式を用意。そのほかユーザーのさまざまなアクションに応じてのバッジ取得といった要素も盛り込んでいる。さらに同人誌へのキャラクターの利用を認めており、その旨を示す「同人マーク」もサイトに表示していることで話題となった。

こんな風に1つずつ書くとちょっとカタい印象もあるのだけれども、テキストの内容1つとってもネットスラングを使っていたりと、ネット好き、オタクカルチャー好きのツボを抑えた作りになっているのだ。

現在のダウンロード数は約60万件、月間8000万ページビューほど。ユーザー層は20代から30代の男性が中心。アクティブユーザーは非公開だが、とにかくリターンレートや1人あたりの記事閲覧率が高いのだそうだ。ニュースアプリとしてダウンロード60万件という数字は決して多いとは言えないが、ざっくり60万ユーザーで月間8000万PVという数字を見ればヘビーユーザーの多さは理解できるんじゃないだろうか。オタク系というジャンル特化型ということもあるのか、冒頭のGunosyや競合のSmartNewsなどと併用しているというユーザーも多いそうだ。

リリース時にこのアプリを見て、「上場企業が提供するニュースアプリにしてはずいぶんととがったものを出すなあ」という印象があった。プロダクトを手がける岩朝暁彦氏に聞いたところ、リリース当初は社内でも評価はさまざまなだったのだそうだ。「そもそも最初は社内のサークル活動程度だった。だが今ではサービスもチームも認識されている」(岩朝氏)

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岩朝氏はMBAホルダーで外資系コンサルティング会社の出身。英語と中国語にも堪能だという。もともとは海外向けの事業のためにDeNAに入社したが、一方プライベートではラノベ(ライトノベル)やアニメといったオタクカルチャーが大好き。当初は別の事業を手がけていたものの、最終的に趣味が高じてハッカドールのプロジェクトを立ち上げるに至った。「僕がやりたかったのはベンチャーがチャレンジするような(立ち上げの)フェーズ。どうせやるなら汗をかくような仕事をしたかった。そんな中で社内のアニメやゲーム好きのグループに誘われたのがきっかけ」(岩朝氏)

ウェブ版は「だら見」での利用を提案

ウェブ版では、アプリの「記事25本配信」という仕組みではなく、ユーザーごとに最適化された最新のオタク系コンテンツが常に表示される(オートリロードを備えるほか、新着記事があればページ上部に表示する)ほか、検索にも対応する。アニメやゲームオタク関連のキーワードを網羅している辞書を持っているのもウリの1つだそうで、検索のサジェスト機能が(オタク系コンテンツに限定して)非常に優秀だそう。

画面を見ていてSmartnewsの前身のサービス「Crowsnest」をちょっと思い出したのだけれども、岩朝氏いわく同サービスは多少意識しているそうだ。開発については「もともとMobageをやっていて、大規模運用やセキュリティ分かっているチーム。気心も知れているので、アジャイル風に素早く回している」(岩朝氏)

アプリのリリース直後からウェブ版のニーズはあったそうで、開発陣も将来の提供を見越して処理をサーバ側に集中させていた。だが岩朝氏をはじめとしたメンバーは、ウェブ版のハッカドールをどういう形で提供するのが最適か迷っていたのだという。

岩朝暁彦氏

 

「アプリ版は1日3回プッシュ通知でニュースを教えてくれるが、スマホとPCではユースケースが違う。ウェブ版に向けて出した答えは『だら見』。頭を空っぽにしても、なんとなくだらだらと見続けてしまう、そんなものにしたかった」(岩朝氏)。ユーザーの趣向に合わせてレコメンドされる記事は延々閲覧できるし、ユーザーが能動的に求める情報もキーワード検索や「あとで読む」機能で取得できるのが強みだ。

目指すは「初音ミクパイセン」—アニメやIP戦略も強化

マネタイズについてはECのほか、IPの展開も検討している。実はこのハッカドール、今回発表されたテレビアニメ化以前にも複数のソーシャルゲームに「ゲスト出演」しているほか、DeNAのマンガアプリ「マンガボックス」でもマンガ化されている。さらにさかのぼればコミケやアニメ関連イベントへの声優の出演などもある。岩朝氏は「(他プラットフォームとの)相互送客に関してはいろいろと仕込んでいるところ」と語る。

こういう話を聞くと、僕はクリプトン・フューチャー・メディアが生んだボーカロイドの「初音ミク」を思い浮かべたのだけど、岩朝氏も「まさに初音ミクパイセンですよ(笑)」と同意する。「(声優による)歌やトークなども含めて、全方位で作品として成長させていきたい。二次創作なんかも相互浸透性があると思っている」とのことだった。今後は独自コンテンツの展開も検討するとのことだ。

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リリース時にもプロモーション用の短編アニメを制作しているハッカドールだが、テレビアニメも短編アニメと同じく気鋭の制作会社「TRIGGER」が担当する。放映は10月2日23時から。放送局はTOKYO MX。

岩朝氏は「今後ウェブとアプリ、IPの2つでビジネスを作っていく」なんて語っていたのだけれど、もともとIPでのビジネスまでを考えていたのか。最後にそれを尋ねると「『キャラが一人歩きする思っていた』と言えたらいいが、そんなものではなかった。そもそも名前すら決めなかったから最後まで『ハッカドール1号(仮)』となっていて、そのまま1号という名前になったくらい」と答えた。

オタク系のカルチャーを取り入れたゆるい空気を作ってファンを集めているハッカドールだが、決してその中身がゆるいわけじゃない。バックグラウンドには大規模サービスを運営してきたDeNAのノウハウがあるし、オートリロードや検索のサジェスト、パーソナライズなど、ウェブのトレンドやテクノロジーを積極的に取り入れている。ウェブ版のリリースやIPのマルチメディア展開でどこまでサービスを拡大できるのだろうか。

[速報]DeNAがキュレーションメディアをさらに強化——Find Travelを買収、6月には自社で2サービスを開始

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これまで住まい・インテリア特化の「iemo」と女性向けファッションの特化「MERY」と2つのキュレーションメディアを買収し、さらに自社で飲食特化の「CAFY」を立ち上げたディー・エヌ・エー(DeNA)が「DeNAパレット」と銘打ってキュレーションメディアのプラットフォームを拡大する。

DeNAは4月6日、旅行特化のキュレーションメディア「Find Travel」を手がけるFind Travelを2月に買収し子会社化したことを明らかにした。あわせて男子ファッションの「JOOY」、妊娠・出産。子育ての「cuta」の2つのキュレーションメディアを6月にも立ち上げる。2015年12月末までには合計10サービスまで拡大するとしている。

DeNAは現在サービスに関する発表会を開催中。詳細は追ってレポートする。

IPの価値を最大化する–任天堂がDeNAと組んでスマートデバイス市場に参入

ゲーム業界に大きな衝撃の起きる発表があった。任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)は3月17日、資本業務提携を実施すると発表した。

既報のとおりだが、両社はグローバル市場を対象にしたスマートデバイス向けゲームの共同開発・運営および、多様なデバイスに対応した会員制サービスの共同開発を行うという。

また両社の株式を持ち合うかたちで、第三者割当によりDeNAが保有する自己株式1508万1000株(発行株式数の10%、約220億円)を任天堂が取得。同時に任天堂が保有する自己株式175万9400株(同1.24%、約220億円)をDeNAが取得する。

同日開催された会見には、任天堂代表取締役社長の岩田聡氏、DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏が登壇。提携の経緯について語った。

任天堂のIPの価値を最大化する

両社の出会いは2010年6月。DeNAが任天堂に対して、「Mobage向けにIPを供給してもらえないか」というオファーをしたところからスタート。以後交流を続けてきたという。

これまで1983年のファミリーコンピューター発売以降、ケータイ、スマートフォン向けゲームには目を向けずにゲーム専用機ビジネスを手がけてきた任天堂。プラットフォーム移行期が円高と重なり収支バランスを崩したこと、プラットフォーム移行自体がスムーズに進まなかったといったこともあったため、岩田氏は「スマートデバイスの普及により、ゲーム専用機ビジネスで様々なご意見、それもどちらかと言えば悲観的なご意見を頂戴することが増えてきた」と語る。

また音楽プレーヤーやカメラなどがスマートデバイスに飲み込まれてきたように、「ゲーム専用機もスマートデバイスに飲み込まれるのでは?」と言われる状況だとした上で、それらのデバイスと違って、「任天堂のゲーム専門機上で動くソフトの最大の供給者が任天堂自身である」と、ゲーム、コンテンツメーカーとしての強みを持っていると語った。

岩田氏はゲーム専用機ビジネスについて「未来を悲観していない」とした上で、自社の強みであるゲームソフトやキャラクターといったIPの価値最大化に向けてスマートデバイス向けのIP活用を決めたのだそうだ(2014年1月の経営方針説明会でもスマートデバイス活用に触れている、その延長ということだった)。

「テレビの存在しなかった125年前に創業した任天堂が、テレビを積極的に活用したのと構造的に同じ。様々な手段を柔軟に活用していく」(岩田氏)

だが、「かたくなに」と言って過言ではないほどスマートデバイス向けゲームからは距離を置いていた任天堂だ。岩田氏もそういった意見があることに触れた上で、「デジタルの世界ではコンテンツ価値が容易にデフレ化し消耗しがち。コンテンツの新陳代謝も激しく、寿命が短くなりがち。どうすればIPの価値を維持発展させながら、ビジネスができるか考え続けてきた」とその理由を振り返った。

黒子になっても構わない—DeNAをパートナーに選んだ理由

もちろん任天堂にスマートデバイス戦略で提携を持ちかける事業者は多かったのだそうだ。そんな中で2010年からコミュニケーションを続けてきたDeNAと組んだ理由は、「トップレベルのサービス構築、運営ノウハウにある」(岩田氏)という。

さらに、Q&Aセッションでは、繰り返し提案をしてきたDeNAの情熱、さらには「言葉は極端だが『黒子になって構わない』と言ってくれた。サービス開発に協力をいとわない。エース級人材を当てて頂けるというコミットメントがあった」(岩田氏)とその理由を付け加えた。

今回の発表では、任天堂がこれまで提供してきた会員向けサービス「クラブニンテンドー」に変わるデバイス間をまたぐ会員サービスを共同で開発するほか、共同でのタイトル開発について触れられたが、ゲームタイトルなど具体的な内容については、それこそ任天堂の人気IPの名前1つ出ない状況だった。ただしスケジュールについては、「少なくとも今年アウトプットがないスピードでは意味がない」(岩田氏)とだけ語っていた。

両社の役割については、IPごとに変わるものの、「多くの場合はフロントサイドが任天堂、DeNAがサーバサイドやバックエンドを担当する」(守安氏)ことになることが多そうだ。レベニューシェアなどもその工数により分配するということだった。

また岩田氏はスマートデバイスと並行して、任天堂がゲーム専用機ビジネスを継続することを強くアピール。そのため、ゲーム専用機とスマートデバイスで同一タイトルを提供しないこと、また新ハード「NX」について来年にも詳細を発表する予定であると説明した。同時にDeNAも、任天堂との提携だけでなく、オリジナルIPの提供を続ける。「これまでもDeNAは様々な会社とIPタイトルを作ってきた。そこは力を入れてやっていく。一方で自社IPへの思いも持っているので並行して進める」(守安氏)

射幸心をあおる課金、しない

会見の最後にはQ&Aセッションがあったのだが、そこで記者やアナリストから言葉を変えつつ2度質問があったのが、ソーシャルゲームなどにつきものだった射幸心の話題だ。2人の質問はざっくり言えば「子どもにも信頼されてきた任天堂が、射幸心をあおるような課金ビジネスをやっていくのか」ということだ。

これに対して岩田氏は「任天堂の納得しないままサービスを提供することはあり得ない。(DeNAと)両社が納得して提供するし、お客様が納得して頂けるようにする」と説明。アイテム課金については一律に否定する気はないとしつつ、「世の中で『ビジネスとして行き過ぎ』『子どもに提案していいのか』ということを任天堂IPで使うことは望まない」(岩田氏)とした。さらには、今回の提携を通じて「新しいビジネスモデルの発明ができたら最高」と語った。


DeNA、ヘルスケア領域での”次の一手”は健保向けサービス-住友商事と合弁で

2014年には遺伝子解析サービス「MYCODE」を開始してヘルスケア領域に踏み込んだディー・エヌ・エー(DeNA)だが、今度は健康保険組合向けの事業を開始する。DeNAは2月3日、住友商事と合弁会社を設立し、新サービス「KenCoM(ケンコム)」を4月から提供することをあきらかにした。

合弁会社の社名はDeSC ヘルスケア(ディーエスシーヘルスケア)、3月設立予定で、資本金は3億円。出資比率はDeNAは51%で住友商事が49%。代表者代表取締役社長にはディー・エヌ・エー ヘルスケア事業部事業部長の大井潤氏が就任する。大井氏はMYCODEを運営するDeNAライフサイエンスの代表も兼任する。

KenCoMでは、利用者の健康データを一元管理し、利用者の健康度に応じた情報提供を行うという。具体的には、健康診断情報を取り込んで時系列で管理・閲覧したり、その健康データや興味・関心もとにユーザーごとに最適なコラムやニュースを提供する。DeNAいわく「これまでに培ってきたゲームや各種サービスのノウハウを活用し、より健康に関心を持って飽きることなく続けていただく仕掛けが随所に盛り込まれます」とのことだ。

厚生労働省では現在、健康保険組合に対してレセプト(医療報酬明細)等のデータの分析、そしてその分析に基づく組合加入者の健康保持増進にむけた「データヘルス計画」の策定と実行を求めているという。DeNAで現在、複数の健保組合に対して導入を提案している。


DeNAがキュレーション事業加速、MERYとiemoのノウハウ注入で「食」分野に進出

10月1日に女性向けファッションまとめサイト「MERY」と住まいに特化したまとめサイト「iemo」を運営する2社を約50億円で買収し、キュレーション事業に参入したディー・エヌ・エー(DeNA)。次なる展開は「食」をテーマとしたキュレーションサイトだ。

12月19日に正式公開した「CAFY(カフィー)」は自宅で手軽に作れるレシピなど、食に関するテーマの情報を紹介するサイト。レシピに加えて、「クリスマスの厳選スイーツ9選」や「ホームパーティーを華やかに演出するテーブルウェア7選」など、食卓に関するリスト記事が多い印象だ。

すでに掲載されているコンテンツの一部は、外部のライターが有償で執筆したもの。今後はMERYやiemoと同様に、一般ユーザーに無償で投稿してもらう。隙間時間にスマホで雑誌をめくるような感覚で見てもらうコンテンツを充実させていく方針だ。

「50億円効果」で買収から2カ月でローンチ

コンテンツ以外で特筆すべきは、サイト立ち上げの早さだろう。CAFYはMERYを運営するPeroli、iemo、DeNAの3社連携によるサービス。10月の買収直後からDeNAのメンバーを中心にチームを発足し、それからわずか2カ月あまりでサービス開始に至っている。

具体的な連携効果としては、CAFYのターゲットでもある主婦層向けの記事を手がけるiemoが、主婦に受けがいいコンテンツの編集方法を助言するとともに、人材面でもディレクターを派遣。Peroriはサイトの見せ方をアドバイスするなど、開発面で協力している。実際にCAFYはMERYのサイト構造を移植したかのようにも見える。

「iemoとMERYが1年かけて踏み固めてきたことを端的に注入している。iemoは1年で150万MAU(月間アクティブユーザー、9月時点)、MERYは1年半で1200万MAU(同)と急成長カーブを描いているが、両社のノウハウがあればさらに短期間で成長するのでは」(iemo代表取締役CEOの村田マリ)。ノウハウについては「企業秘密」とのことだが、これを獲得するためにDeNAは約50億円で両社を買収したと言えそうだ。

激戦区のグルメ分野キュレーション、勝算は?

DeNAはCAFYによって、読者層が大きい衣食住すべてのジャンルを網羅することになる。ただ、iemoとMERYの成長の背景には、圧倒的競合が不在たったことがあるのも事実だ。グルメ分野では食べログが「食べログまとめ」、ぐるなびが「メシこれ」、クックパッドが「クックパッドニュース」を展開するなど、すでにネット大手が参入済み。ほかにも堀江貴文プロデュースの「テリヤキ」「マカロニ」といったサービスもある。

食ジャンルのキュレーションは激戦区と言えそうだが、村田マリは勝算をこう語る。「食べログやぐるなび、クックパッドは自社サイトの集客のために事業をやっている。それに対してCAFYは、iemoとMERYが成長してきたように、メディアとして読者が求めるコンテンツを作る意識が強い。ユーザーの隙間時間を獲得できるメディアを目指している。」

左からPeroli中川綾太郎氏、DeNA牛尾正人氏、iemo村田マリ氏

外部コンテンツとの提携で著作権対策

ところで、キュレーションメディアで問題になりがちなのが著作権(パクリ)だ。実際、MERYは一部のコンテンツでは、外部サイトの画像や文章を無断転載した事例もあったりする。著作権的にグレーだとしても、上場企業であるDeNA傘下となると、これまで以上にコンプライアンスの風当たりが強くなってきそうだ。

この点について、DeNAでキュレーション事業を率いる牛尾正人は、「新しいサービスなので想定外のことが起きるかもしれないが、社会のコンセンサスを得ながら進めるしかない」と説明する。その一環として外部サービスと提携し、各社のコンテンツをMERYやiemo、CAFYの記事に「お墨付き」で利用できるようにする。第一弾としては「レシピブログ」「Snap dish」「ミイル」と提携する。

キュレーションサイトで国内最大級のアクセスを誇るNAVERまとめでも、サービスの成長に伴い、著作権侵害が指摘されるようになった。NAVERまとめは人的なチェックだけでなく、ゲッティイメージズやAmazon.co.jp、食べログなどと提携し、無許諾で各社が指定するコンテンツを記事に利用できるようにしてきたが、DeNAも同様にキュレーションの著作権対策を強化する動きを見せている。

「めちゃくちゃ美しいM&A」

DeNAが2社を買収した10月以降、各社の間では活発な交流が続いているという。買収当時、社員数が8人だったiemoは、DeNAからの出向で20人に拡大。Peroriも買収当時12人だった社員が倍増している。さらに、専属ではないが、広告営業や採用、マーケティング業務もDeNAが担当していることから、「一気に組織がスケールした」と村田マリは振り返る。

組織がスケールしたことで、iemoは「マネタイズの本丸」(村田マリ)でもある、建築家やリフォーム、インテリアメーカーなどの事業者とユーザーのマッチングを前倒しできると、DeNAとの相乗効果を語る。同様に、MERYも記事で紹介した商品を購入できるECによる収益化を早期に実現できるようになりそうだ。

「DeNAの出向社員は、配属の初日からスペシャリストとして働いてくれた。数億円を調達したスタートアップでも、こんな短期間でDeNAクオリティの人材はそうそう獲得できない。その恩返しとして、iemoとMERYのようなスタートアップからDeNAにノウハウを提供できたのは、めちゃくちゃ美しいこと。一般的に『M&Aはうまくいかない』と、うがった見方をされやすいが、うまくやってやろうって思う。」(村田マリ)


DeNAがiemoとMERYの2社を計50億円で買収、キュレーション事業に参入

遺伝子にマンガ、動画ストリーミング……と、苦戦のゲームに変わる新事業を模索するディー・エヌ・エー(DeNA)が次に目を付けたのはキュレーションメディアだ。10月1日、住まいに特化したまとめサイト「iemo」を手がけるiemoと、女性向けファッションのまとめサイト「MERY」を運営するペロリの2社を合わせて約50億円で買収した。それぞれの買収金額は非公表。

自社事業との相乗効果を狙ったベンチャーへの投資に力を入れているDeNAだが、日本企業を買収するのは、実に横浜ベイスターズを95億円で買収した2011年12月ぶり。両社を傘下に収めることで、キュレーションプラットフォーム事業を始動する。収益の大半を依存するゲーム事業は引き続き注力する一方、キュレーションを新たな稼ぎ頭にしようとしている。

iemoの村田マリ氏(左)とペロリの中川綾太郎氏(右)

iemoはインテリアやリフォームに関する数万点の写真の中から、気に入ったものをクリッピングしたり、まとめ記事を作成できるサイト。「☆IKEA☆¥1000でおつりがくる?!オシャレな家具5選」「水を入れるだけなんてもったいない!製氷皿のいろんな使い道教えます。」といった「住」に関する記事が数多く投稿されている。サイトには毎月、25〜40歳の主婦を中心とする約150万人がアクセスしている。

2014年4月には建築家やリフォーム業者、インテリアメーカーといった事業者向けの「ビジネスアカウント」を開設し、無料でiemoに自社の商品を掲載できるプラットフォームを構築。現在は約400事業者が登録している。

11月以降、ユーザーがリフォーム業者に仕事を発注できる機能をリリースする。同機能では今後、不動産販売業者とマッチングすることも視野に入れている。現在展開中のネイティブ広告に加えて、マッチングに応じて事業者が支払う報酬がiemoの収益の柱となる見込みだ。

買収後は、iemo創業者の村田マリを含めた全人員と、DeNAからの出向社員が共同で、これまで通りサービスを継続していく。

 

創業からわずか9カ月でイグジット

村田マリは、早稲田大学卒業後にサイバーエージェントの新卒1期生として入社し、新規事業を立ち上げに参画。退職後の2005年3月、1社目の創業となるコントロールプラスを設立した。結婚と出産を経て、2012年1月にソーシャルゲーム事業をgumiに譲渡し、2億円弱の売却益を得ている。iemoは、彼女がシンガポールに移住して第二の創業として2013年12月に設立した。

過去のインタビューで、スマホ向けメディアで「衣食住の『住』だけが未開拓だった」という理由からiemoを創業したと語った村田マリは、「買収までに想定外だったことはなく、完全に事業計画通り」と振り返る。創業からわずか9カ月でイグジットを果たしたのは、シリアルアントレプレナー(連続起業家)ならではの手腕と言えそうだ。DeNA傘下に入るに至った経緯については次のように語る。

「ここまでは過去の経験でやってこれても、今後、億単位の金額を投資するのは未知の領域。DeNAであれば経験も豊富で、失敗の確率も減る。私自身、IPOに夢がある経営者ではなく、サービスをたくさんの人に使ってもらい、家の作り方を圧倒的に変えたいという思いが強い。絶対にIPOをしなければいけないプレッシャーから解放され、サービスに注力できるのが魅力だった。」

月間ユーザー1200万人のMERYはEC強化へ

MERYは、ファッションに特化した女性向けまとめサイト。美容師やネイリスト、編集者をはじめとするキュレーターがまとめ記事を投稿している。2013年4月にサービス開始から1年半で、月間アクティブユーザー(MAU)は1200万人を突破。創業者の中川綾太郎によれば、ユーザー層は18〜25歳の女性が中心。夜10時以降がアクセスのピークタイムで、「雑誌を読むようなテンションで暇な時間や寝る前に見られている」という。

投稿されている記事は、「ロングブーツ履く前に!にっくき膝上の肉にさよならダイエット◎」「プチプラ&シンプルで着回し力抜群!GUデニムアイテムで一週間コーデ」といったように、ファッション雑誌にありそうな内容が多いのが特徴。「オンラインで圧倒的なファッションメディアがない中、スマホでファッション誌を読むような体験ができるのが上手くはまった」と分析する。

現時点で収益面は「広告を一応やってますという程度」だが、今後はEC化を進める。具体的には「まだモヤモヤしている」が、ユーザーが読んだ記事から商品を購入できるイメージだと話す。「ブランドを指名買いするECは発達しているが、実際のショッピングでは絶対にパンツを買うつもりでも、ニットを買っちゃうようなことが多い。そんな新しいコマース体験をやっていければ」。なお、iemoと同様、MERYも引き続きサービスを継続する。

2社のノウハウでキュレーションメディアを横展開

今回買収された両社がメリットとして口を揃えるのは、スタートアップならではの課題である採用面での恩恵だ。

「買収前のiemoは8人の会社だったが、10月1日にはDeNAからの出向を受けて20人体制になる。アプリエンジニアやデザイナーなど、不足している人材をバッと出してもらえるのはありがたい。こうした人材は簡単に取れないし、(iemoではDeNAみたいに)東大卒の人材なんていない。」(村田マリ)

「うまくいっているスタートアップでも、さらに伸びれば人が必要になる。MERYは『見てもらう』メディアの部分では順調に成長したが、今後は別領域のECを組み込んでいくことになる。DeNAからコマース経験のある人材をサポートしてもらえるのは大きい。売却思考はなかったが、理想をどれだけ早く実現できるかを大事にしたかった。」(中川綾太郎)

iemoとMERYは、「スマホでダラダラ見られるキュレーションメディア」という点で共通している。iemoは「スマホ × 住」、MERYは「スマホ × 衣」という圧倒的な勝者不在のジャンルでユーザーを増やしてきた。そして、キュレーションの枠にとどまらず、「住」と「衣」という巨大産業のECを変えようとしている。

DeNAとしては、2社の人材を抱えてノウハウを得ることで、スピーディーに他のジャンルのキュレーションメディアを構築する思惑もありそうだ。各メディアで相互送客を行い、数年後にはキュレーションプラットフォーム全体でMAU5000万人を目指すという。


縁の下の力持ちでいい–DeNA原田氏が描くベンチャー投資戦略

ソーシャルゲームのプラットフォーマーとして君臨していたディー・エヌ・エー(DeNA)。2013年3月期までは好調な売上を達成した同社だが、直近の決算発表ではゲーム事業の売上減が続いている。だがそれを甘んじて受け入れる同社ではない。急ピッチでゲームの次の柱となる事業を模索している。8月6日の決算でも、新事業や投資についての説明があった。

同社では遺伝子検査の「MYCODE」や電子コミックの「マンガボックス」、動画ストリーミングの「SHOWROOM」といった事業を展開。また一方では、事業シナジーを狙ったベンチャー投資にも積極的な姿勢を見せている。2014年1月には社内に戦略投資推進室を設置。その動きをさらに加速させている。

DeNAのコーポレートサイトで開示しているのはゲーム動画共有プラットフォームを手がける米Kamcordやカップル向けアプリ「Between」を開発する韓国VCNCだけだが、クラウドソーシングサービス「Any+Times」のエニタイムズ、中高生向けIT教育のライフイズテック、駐車場の持ち主と一時利用者のマッチングサービス「あきっぱ」を手がけるギャラクシーエージェンシー、鮮魚流通サービス「八面六臂」の八面六臂、バイラルメディア「CuRAZY」のLAUGH TECHなどさまざまなスタートアップに出資しているのが分かる。

同社の投資事業について、元ミクシィ取締役であり現在DeNA戦略投資推進室 室長を務める原田明典氏に聞いた。

–改めてDeNAの投資スタンスを教えて下さい。

原田氏(以下敬省略):戦略投資なので、事業シナジーがベースになります。ですがDeNAもある意味ではまだまだベンチャー。次のコアとなる新事業を作り続けています。

そのため、戦略投資といってもゲーム事業とのシナジーだけを考えてやるわけではありません。ヘルスケアやマンガなどの領域でも投資をやっていきます。基本的には「ネットかつコンシューマー向けのモノ全部」です。マイナー投資をやる場合もあれば、マジョリティーを取る場合もあります。ケースバイケースです。

立ち上げをサポートするような投資もやりますし、ユーザー規模がある程度大きくなって、DeNAでサポートできることが見えてきたものにも投資します。VCNCやKamcordのように、すでに比較的ユーザーも多くなっているサービスのビジネスをどう成長させるかということも支援しています。

DeNAでは自社でもさまざまな分野の新事業を手がけています。そこ(新事業の方針)に乗っ取ったサービスであればM&Aもあり得ると思っています。ただし、M&Aに関しては、戦略投資推進室を設置した1月からの実績は今のところありません。

–投資する事業領域についてはどうお考えですか。

原田:内部的にはいろいろと(目標を)持っているのですが、詳細は社外に公表していません。大きくはプラットフォームやコミュニケーション、リアル産業変革という領域になります。

こう言ってしまうと「何でもアリ」というように聞こえてしまうかも知れませんが、モバイルやスマートフォンの登場によってチェンジするもの、FacebookやTwitterなどソーシャルメディアの普及後だからこそ成立するバリューに投資したいと考えています。

例えばPinterestやInstagramといった画像SNSはまだ日本ではそこまで普及していません。ここで海外で流行しているのと同様のサービスを持ってきてもはやりません。スマートフォンがはやっていないときにメッセージングサービスを持ってきても成功は難しい。環境の変化を見て、今から旬になるものを考えています。それで今の旬が何かというのは今は話せないのですが。

–ポートフォリオは一部しか公開していません。これまでの投資件数や投資額について教えて下さい。

原田:契約、入金前の段階の会社も含めて国内外で20〜30社というところです。ほぼ毎週ペースで投資の意思決定を実施しています。投資先が公開せず、DeNAの業績への影響が軽微なものについては、ステルスで(発表せずに)投資しています。前述の通り規模感はいろいろあるので、小さい金額であれば数カ月のデューデリジェンスをして……というのではなく、素早く関係構築するようにしています。投資額はアーリーステージで1000万円程度からです。大きい案件になると当然交渉もありますので、今後に期待頂ければと思います。

ベンチャー投資で重要なのは起業家のマインドです。我々は事業とチームの相性がよければ投資したいと思いますが、一方で投資を受ける側がファイナンスについてどう考えているかというとさまざまなケースがあります。投資についても今日明日で考え方が変わることがあります。なので先方の状況に合わせていかに対応できるか、柔軟さを維持できるようにしています。M&Aも同じです。ジャンルによってはスタートアップとしてやるより、(M&Aして)マスプロモーションやマーケティングで勝負する方がいいこともあります。

最近はスタートアップがマスに出て勝負するまでのリードタイムが短くなっている傾向にありますし、そういうところでバトンタッチ先を探している場合もあります。DeNAには社内のリソースもありますし、グロースステージの支援をするのは得意です。

–投資先がVCではなくDeNAに資金を求める理由をどうお考えですか。

原田:海外のプレーヤーは分かりやすいですね。彼らは日本やアジアに参入したいというニーズがあります。先日もKamcordは国内でゲームデベロッパー向けに勉強会を開催しましたが、資料1つとっても(自分たちだけで)日本向けに作るのは難しい。またBetweenのVCNCも国内のマーケットを分からないところがありました。例えばデザイン1つとっても、韓国は「かわいい系」でシリコンバレーは「クール系」が主流。日本はその中間といった国ごとのトーンがあります。そこでUIやデザインのトーンをチューニングするお手伝いなどもしています。

自社の新事業であるマンガボックスやMYCODEは、初期投資も大きく、スタートアップとは違う戦い方をしています。同様にこれまでプロダクトで勝負してきて、(マーケティングなどで)ぐっとスケールするときにお声がけ頂けると我々も支援しやすいと思っています。

一方で「これから起業する」という方もいます。そういう場合、インキュベイトファンドや川田さん(DeNA創業者の川田尚吾氏でエンジェル投資家)などのインキュベーターを紹介して、共同で投資することが多いです。例えばですが、創業期のオフィスを選ぶ場合であっても、「渋谷駅から南東50mくらい、築30年の物件の坪単価」といった具体的な情報を彼らは理解してています。

キャリアなんかもグロースステージの支援をすると言っていますが、私もキャリアに居た経験から(筆者注:原田氏はNTTの出身だ)すると、ネットベンチャーに対してキャリアができることは限られてきています。2005年頃にはもう公式サイトからのリンク、i-modeの規制緩和といったことしかできなくなっていました。あとはいかに料金を下げるかでしょうか。キャリアが手伝えることは世界的に減ってきています。なので、こういう(DeNAのような)クラスのネット企業が支援すれば、かつてのキャリアのように貢献できることがあるのではないでしょうか。

また、どれだけ「縁の下(の力持ち)」になるかがポイントになると思っています。DeNAが投資することがマイナスにならないように考えて、あまり前に出ないようにしています。例ですが、(ジャニーズ事務所の創業者である)ジャニー喜多川さんなどはメディアには出ず、徹底してタレントを輝かせていますよね。私も表に出てパフォーマンスをするのは違うと思っていますし、得意ではありません。

タレントプロダクションの話をしたので続けますが、実はプロダクションに学ぶことはいろいろあります。例えば楽曲提供1つとっても「このチームだからこのプロダクトだった」ということをよく考えていますよね。Snapchatだってスタンフォードの学生がやっていなければここまではやらなかったのではないでしょうか。私が「週末起業で作りました」といって提供していたら、「サラリーマンのチャットなんて使いたくない」となっていたかも知れません。どういうタレントがどういう事業をやるかを考えるのは重要ですよね。

–DeNAではどういう起業家やチームを求めているのでしょうか。

原田:人と事業との組み合わせで投資をします。日本にない事業、フロンティアタイプの事業であれば、右脳的なセンスというか直感的なセンスが必要で、エグゼキューション(実行、実現)力はその次です。

一方でそこそこ市場が見えていて、フォロワー戦略でも勝てる、実行力勝負をするという場合、エグゼキューション力が大事になります。そうなるとリードしている人と事業の相性、事業のフェーズというところを見ます。

例えばGunosyの木村さん(木村新司氏)やFablicの堀井さん(堀井翔太氏)、笠原さん(ミクシィ創業者の笠原健治氏)などもそうですし、DeNAの投資先で言うとVCNCのジェウク(パク・ジェウク氏)は学習力と実行力があります。プロダクトファーストではありますが、カカオトークなど競合サービスからもよく学習しています。このあとはマーケティング勝負です。スタートアップにはプロダクト勝負でいけるフェーズと、(競合が追いついてきて)プロダクト勝負ではなくマーケティング勝負になるフェーズがあります。ここで彼らがギアチェンジできれば、チームとして面白くなるでしょう。

–投資している地域について教えて下さい。

原田:(日本のほかは)ベイエリアが中心になります。USでの投資には、リサーチの目的もあります。単純にグロースしている会社をM&Aすると1、2ビリオンドルになるので、“ヘビー級の勝負”をするのはこれからですね。

米国を担当するのは、元カカクコムの安田(安田幹広氏)です。実は守安(DeNA代表取締役社長の守安功氏)と安田と私の元COOトリオで投資事業をやっています(筆者注:守安氏はDeNA、安田氏はカカクコム、原田氏はミクシィでそれぞれCOOを務めていた時期があった)。投資対象としては、自分たちで作れない、かなわないというようなサービスを見ています。安田はコマースが得意ですし、ソーシャルであれば僕、ゲームだと守安というように分担しています。

–投資は別として、原田さんが一番興味を持っているテーマを教えて下さい。

原田:シェア、シェアリングエコノミーです。地球の資源は有限で、それをなるべく共有化するものが一番興味あります。

コミュニケーションサービスをやっている中でシェアという概念に出会いました。ITよりもっとリアルな——既存の産業の中で——共有によって変わっていくものごとに興味を持っています。

最近ではIoTというテーマもよく挙がりますが、私は(世の中と)少し考えが違っていて、「いかにモノを最小化にとどめるか」ということこそがIoTなのだと思っています。専用機を増やすのではなくて、「これだけ最低限あればいいよね」というものを提供するということです。

IoTのバックボーンにIoL(Internet of Legacy)という考えがあると思っています。レガシー産業の専用機なんかもう必要ないのではないでしょうか。例えば駐車場で(発券したり、車をロックするような)専用機は必要ありません。投資先のあきっぱのようなサービスがあればいいでしょう。リクルートやSquareが手がけるレジサービスもPOSや専用機を必要としません。彼らはハードウェアをミニマイズしています。


ヤフーもDeNAもスタートアップも、みんな「DNA」ビジネスに興味アリらしい

DNA検査キットを販売している「23andMe」が米国で立ち上がったのは2006年の話だし、オンラインでなければDNA検査をすることはできないわけではなかった。でも今、スタートアップから大手まで、国内IT企業がDNA関連ビジネスに注目している。

5月末に開催された招待制イベントの「Infinity Ventures Summit 2014 Spring」。同イベントの恒例企画ともなっているスタートアップのプレゼンイベント「Launch Pad」では、遺伝子検査に加えて、血液検査や生活習慣や食習慣のデータをもとに、スマートフォンアプリでダイエットを指導するFiNCの「REPUL」や、届いたキットに唾液を入れて返送すれば、疾患リスクや体質など約200項目についての遺伝子を調べてくれるゲノム解析サービス「ジーンクエスト」が登壇した。特にジーンクエストは、従来の遺伝子検査と異なり、ゲノムの全体をスキャンしてデータ解析をするため、一生に一度検査を受けると、医学の知見が増えるつれて遺伝子から分かるデータが増えるそうだ。

またヤフーでは、6月2日にYahoo! JAPANの利用規約のうち、プライバシーポリシーの項目について改定を実施している。具体的には、(1)カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社との情報連携開始に伴う改定、(2)「HealthData Labo」の開始に伴う改定、(3)外部研究機関等との共同研究におけるデータ取り扱いへの対応に伴う改定、(4)官公庁に対して行う任意の情報提供への対応に伴う改定‒‒の4点だ。このうちの(2)が、DNAに関連する話となる。最新の規約には次のような文言がある。

また、当社は、お客様が利用されたサービスやソフトウエア、購入された商品、ご覧になったページや広告の履歴、お客様が検索された検索キーワード、ご利用日時、ご利用の方法、ご利用環境(携帯端末を通じてご利用の場合の当該端末の通信状態、ご利用に際しての各種設定情報なども含みます)、お客様のIPアドレス、クッキー情報、位置情報、端末の個体識別情報、病気予防のためのエビデンス(根拠)情報の収集、獲得、創出のためのプロジェクトおよびその一環としてなされるゲノム解析サービスに申し込まれたお客様から提供いただいた試料を検査し、解析した結果得られるお客様の遺伝子に関する情報等(以下「遺伝子情報」といいます)などの情報を、お客様が当社や当社の提携先(情報提供元、広告主、広告配信先などを含みます。以下「提携先」といいます)のサービスをご利用になったりページをご覧になったりする際に取得します。

(2)の項目で挙げられているとおり、ヤフーでは今秋にもHealthData Laboと呼ぶ、遺伝子情報解析をもとにした生活習慣の改善支援サービスを展開する予定だ。このサービスは、前述のジーンクエストと提携したものになる。そういえばヤフー副社長COOの川邊健太郎氏などは、1年以上前から医療分野への興味を語っていた。

ただ規約の変更を読み解く限りは、遺伝子情報をビッグデータとして扱うことも想定しているようで、単なる生活習慣改善にとどまる話ではないことが想定できる。

さらには6月3日、ディー・エヌ・エー(DeNA)が新会社の「DeNAライフサイエンス」にて、一般消費者向け遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」を提供すると発表した。

ネット上では「DeNAがDNA検査事業を開始」とダジャレのようにも言われたが、新会社では東京大学医科学研究所と共同で事業を展開するという。サービスは7月下旬にはお披露目される予定だ。

冒頭にあった23andMeは、米国では食品医薬品局(FDA)から販売停止の命令が出たり、法整備の議論も進んでいるそうだ。果たして国内ではどのように受け入れられるのか。


スマホゲーム動画の録画共有を実現するKamcord、DeNAとKLabが出資して日本進出を支援

YouTubeのチャンネル登録数を見ると、実は「ゲーム」カテゴリの登録が7924万人と、音楽(8578万人)に次いで多いことに気付く。

その動画の中には、PCゲームから家庭用ゲーム機、モバイルゲームの攻略動画から解説動画まであるのだが、1つのジャンルとして、モバイルゲームのプレイ動画がアップされているのに気付く。そのモバイルゲームのプレイ動画を録画し、共有するという仕組みを提供するのが、Y Combinator出身の米Kamcordの「Kamcord」だ。

同社は、モバイルゲーム向けのSDKをゲーム開発者に提供している。このSDKを組み込んだゲームでは、ゲームのプレイ中にバックグラウンドで動画を録画。ゲーム終了後などにその内容を即座にKamcordのプラットフォームやソーシャルメディアに投稿できるようになっている。導入デベロッパーは160以上、導入ゲームは200以上、Kamcordを通じてネット上に投稿された動画数は、合計20億件に上るという。国内でも、バンダイナムコゲームズやコロプラをはじめとしたデベロッパーがすでに導入している。投稿された動画が視聴、共有されることは、新規ユーザーの獲得やリテンション(利用継続)といった観点で強力なツールとなる。

そんなKamcordが米国時間5月1日に、TransLink Capitalなどから合計710万ドルに上る資金調達を実施したことを明らかにした。その中には国内のディー・エヌ・エーKLab Venturesも含まれている。両者の出資額は非公開。

まだ具体的な取り組みは明らかにされていないが、DeNA、KLabの両社は今後、Kamcordの日本およびアジア進出をサポートしていくようだ。すでに両社で提供するモバイルゲームの一部にはSDKの導入が開始されているそうで、今後は検証のほか、国内デベロッパーへの導入を進めていくという。

実はKamcordの競合サービスである「Everyplay」を提供するフィンランドのApplifierが3月、Unity Technologiesに買収されたばかり。今後開発環境にUnityを選択した場合はEveryplayがバンドルされることになるが、KLab Venturesの楠田雄己氏は「KamcordがEveryplayの2倍のリテンションを記録した事例もある。バンドルされているから使うのではなく、クオリティが重要」としている。なおKamcordの収益化だが、当面は検討していないとのこと。「まずはデベロッパーに導入されないことには始まらない」(楠田氏)