非白人女性がシリコンバレーでベンチャー投資を獲得した秘訣

世界のデジタル化が進むと、生身の付き合いがより渇望されるようになる。Squad(スクワッド)は、Z世代やミレニアル世代のための密接な人間関係をキュレートすることにより、招待者専用のコミュニティーとアプリで、オフラインでのつながりを満たそうとしている。

「リアルな人生で人間関係を築く方法を模倣しています」と創設者でCEOのIsa Watson(イーサ・ワトソン)氏は言う。

このアイデアには、すでに投資家のバックアップがついている。Squadは350万ドル(約3億8000万円)のシード投資を手にし、2020年の初めにはシリーズA投資が確定する予定だ。ポッドキャスト「How I Raised It」(私はいかにしてそれを調達したか)で、ワトソン氏は、苦難の末に資金調達を実現した独特な方法の話を聞かせてくれた。

資金調達の前に数年間かけて信頼関係を築く

彼女は、家族からの支援も含めた自己資金を元手に事業を立ち上げた。そして、公式にシードラウンドを開始する前の段階で、シリコンバレーで200回を超えるミーティングを行い、企業創設者としての信用を積み重ねていった。そこが何よりも重要だと彼女は強調する。

「MITを卒業していても、JPモルガン・チェイスで10億ドル規模のプロジェクトのマネージャーを務めていても、巨大なデジテル製品を作り上げていても、私はまだシリコンバレーではよそ者でした」とワトソン氏は話す。

米国の一流大学の卒業生なら、シリコンバレーに行けば即座に受け入れられると考る人もいるが、実際にはそんなことはないとワトソン氏は言う。

「苦労に苦労を重ねて高い信用を築かなければなりません」と彼女。「公式にシードラウンドを始める前の数年間に、私たちが実際に行ったことです。シードラウンドを始めるときには、すでに私の評判が、いわば私に先回りしていて、すっかりおなじみになっていたんです」。

SquadのCEOであるイーサ・ワトソン氏

冷たい売り込みはしない、必ず温かい紹介を通す

シリコンバレーに割って入るためのに200回以上ものミーティングを重ねたワトソン氏だが、血の通わないミーティングは一度もなかった。「多くの企業創設者は、無機的な売り込みを戦略にしているようですが」と彼女。「有効な関係は、人と人のつながりから生まれます」と語る。

自分で築いた人脈が、ワトソン氏が実際の投資家たちとのつながりを得る上で決定的な役割を果たした。「みんなが、次に会うべき3人を紹介してくれます」とワトソン氏。「それが木の枝のように広がって、人脈が乗法的に成長するのです」

Squadに最初に投資したのは、当時GoDaddy(ゴーダディー)で最高製品責任者を務めていたSteven Aldrich(スティーブン・アルドリッチ)氏だった。アルドリッチ氏もワトソン氏も、ともに北カリフォルニアで子ども時代を過ごしていて、アルドリッチ氏の父親が、彼女と同じ街の出身だった。それが最初のつながりを作るきっかけとなった。

「そうした人脈作りを、私はずっと続けてきました」と彼女は話す。「スティーブンは3人の人に私を紹介してくれました。そしてその3人は、それぞれ2人の人に私を紹介してくれました。基本的にそうやって私はボールを回してきたのです」。

すべてのミーティングがコーヒーやランチを必要としていたわけではない。ワトソン氏は電話も大いに活用してネットワークを広げていった。しかし重要なのは、まずそのような人に出会う段階だ。そのため最初の2年間は「まさに粉骨砕身で突き進みました」という。

助言を求めるときは可能な限り具体的に

シリコンバレーの人たちに会ったり、投資してくれそうな人たちの人脈を広げようとするとき、ワトソン氏は投資をねだったり、目的のあやふやな会合を求めたりはしなかった。

ネットワーク作りでは、彼女はまず、鍵となる2つの要素のリサーチを心がけた。本当に強力な製品を作るために必要となる人は誰か、そして、安定した供給とグロースマーケティングを実現するために必要となる人は誰かだ。そのような人を特定すると、個人的に接触し、その人たちの専門分野の具体的な助言を求める。

「『お金が欲しいときは助言を求めろ、助言が欲しいときはお金を要求しろ』とよく言われます」とワトソン氏は話す。「非常に重要となる彼らの時間と頭脳の利用方法を、実にわかりやすく説明した言葉」であり、「ちょっとお知恵を拝借」などという曖昧な要求に付き合っていられるほど、彼らは暇ではないということだ。

誰かとつながりが持てたなら、グロースマーケティングや製品など特定分野の専門家への推薦を必ず依頼する。何人かの名前を挙げてもらえたら電子メールを送るので、紹介状を添えてその人たちに転送してくれないかと頼む。

紹介をもらっても、それで一件落着ではないと彼女は言う。紹介をもらって、その人に会えたなら必ず相手にミーティングの感想と感謝の気持ちを伝える。

「これは本当に本当に親密な人間関係のマネージメントなのです。そしてこれは、心の知能指数がとても高い人たちが得意とすることです」とワトソン氏。「私は、必要なことを特定して具体的な質問をします。そして、力になってくれそうな私たちがやっていることに興味を強く持ってくれそうな3人を紹介してもらえなかったとき、必ずはっきりと聞きます」

秘密兵器は資金調達のクォーターバック

Squadの資金調達を開始する時期だと感じたとき、彼女の最初の一手は資金調達のクォーターバック(司令塔)を見つけることだった。同社の場合は、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)のCharles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏がその役を担った。 ワトソン氏によれば「キッチンには料理人は多すぎないほうがいい」という。意見が多すぎて収集が付かなくなるからだ。

その当時、ハドソン氏はすでに同社に少額の投資をしていたが、それからすぐにワトソン氏は、自分のピッチの感想をハドソン氏に聞くようになった。ハドソン氏は、プロセス実行に関するさまざまな側面で彼女にアドバイスしてきた。

「資金調達について、そのときチャールズが教えてくれたのは、成功を目標の核心に据えることで成功に近づくということでした」とワトソン氏。「受け身ではできないことです」。

そこでハドソン氏とワトソン氏は、ターゲットとする35人のベンチャー投資家のリストを作成した。彼は、話が合わないと彼女が考えていた5人の投資家を紹介した。彼らはまず、その完璧な組み合わせにはなりそうもない投資家たちに会った。スクワットが実際に投資対象として準備ができているかどうかを見極めるために、その投資家たちの意見を参考にしようとしたのだ。

この最初の5つのミーティングでは、1人か2人は「ぜんぜんダメだった」という。あからさまにSquadは拒絶された。しかしワトソン氏は、残る3人とのミーティングを、パートナーミーティングにすることができた。その投資家たちが同社を真剣に考えてくれた証だ。

そのフィードバックをもとに、ハドソン氏はワトソン氏に10人のベンチャー投資家を紹介した。その直後に、シードラウンドを主導したHarrison Metal(ハリソン・メタル)のMichael Dearing(マイケル・ディアリング)氏と出会った。

シード投資家は慎重に選べ

ディアリング氏が300万ドル(約3億3000万円)の条件規約書を提示すると、すぐさま他の投資家からもオファーが届くようになった。

「おかしいですよね。私は2か月半ほど、資金調達で市場を必死に走りまわって、やっとマイケルからイエスを引き出せたんです。それまでお金の話は一切なかったのに」と彼女。「それで、300万ドルの条件規約書を受け取ったと人に話してからほんの数日後に、600万ドルとかの話が来たんです。ベンチャー投資家って、ほんとうに追随型なんですね」。

ディアリング氏に続いて数多くのオファーが出そろうと、彼女はまさにシードラウンドに参加する投資家を選ぶ側になった。どうやって選んだのだろう?

「まずは付加価値です」とワトソン氏は言う。彼女はこう自問した。「必要とする価値はきちんと揃っているだろうか。製品にものすごく強い人が欲しくなるかもしれない。グロースハックに、マーケティングにすごく強い人が欲しくなるかもしれない」。

選択のための2つめの基準は、レジュメから少し離れることだった。単純に、自分の感覚を信じることだ。「投資家たちが、本当に本当に軽視しているのは、その人が人間として善良であるか? ということです。私は、いちばん気持ちよくやっていける人たちを選ぶことにしました。人間関係を通して信頼できると感じられる人たちです。いつでも力になってくれる人たちです」。

【編集部注】著者のNathan Beckord(ネイサン・ベコード)氏は2016年より20億ドル以上の資金調達を行った起業家のための資本調達と投資家管理のためのプラットフォームFoundersuite.com(ファウンダースイートコム)のCEO。また、ファウンダースイートのポッドキャスト『How I Raised It』のホストも務めている。

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(翻訳:金井哲夫)

Global Brain Alliance Forrum 2019のピッチバトル審査員賞はクラウドポートに決定

ベンチャーキャピタルのグローバルブレインは12月6日、東京・六本木にてGlobal Brain Alliance Forrum 2019を開催した。同社が出資するスタートアップ企業のブースや関連するセッションなどで構成されているイベントで、今回で通算13回目となる。

Global Brain Alliance Forrum 2019の最後を飾るセッションが、スタートアップ企業が熾烈な戦いを繰り広げるピッチコンテスト「Startup Pitch Batte 2019」だ。今年登壇したのは同社の出資先から選ばれた以下の7社。審査員賞はクラウドポート、GBAF賞はSynamon、オーディエンス賞はライバーが獲得した。

Autify

AIを用いてソフトウェアテストを自動化するプラットフォーム「Autify」(オーティファイ)を開発・提供。近年、市場の急速な変化に対応すべく「アジャイル開発」という開発サイクルを素早く回す手法が一般的だが、Autifyによると、すでに92%がアジャイル開発を採用。そのうち71%が週1回以上のリリースを希望している。だが、そのようなサイクルでは、ソフトウェアの検証作業(QA)を人手に頼ると時間が掛かりすぎ、早期リリースのボトルネックとなってしまう。Autifyは、非エンジニアでも簡単にウェブアプリの検証作業を自動化でき、また、AIがアプリケーションコードの変更を監視し、検証シナリオの修正を自動で行うため、メンテナンスコストを大幅にカットすることができたという。従来のテスト自動化サービスでは困難だったJavaScriptを多用した複雑なアプリケーションの検証自動化も可能で、Slack、Circle CI、TestRailなどとも連携できる。

Autifyは、TechCrunch Japanが11月に開催したTechCrunch Tokyo 2019のスタートアップバトルのファイナリストだ。

関連記事:AIでソフトウェアテストを自動化する「Autify」が約2.6億円の資金調達、公式グローバルローンチへ

クラウドポート

貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds(ファンズ)」を運営。個人が1円から貸付ファンドの取引ができるマーケットプレイスで、「資産形成したい個人」と「事業資金を借りたい企業」とを結び、スマホで貸付ファンドの取引ができる。このサービスでは、金融業者であるクラウドポートが資金を集め、定められた基準を満たすファンド組成企業へ送金。ファンド組成企業が自社グループ内で事業資金を必要とする会社に貸付を行うというスキームになっている。2019年1月23日の正式ローンチ時には、3つのファンドで募集が開始され、募集開始から約15分で総額8000万円超の申し込みを完了。その後も1億円のファンドが募集開始1分39秒で満額申し込みを達成するなど、7社10ファンドで即日完売が続いた。現在でも、ほとんどの企業のファンドが1分かからずに即売している。企業側からすると、申し込みから3週間で資金調達が可能な点も特徴だ。

関連記事:IVS Summer 2019のLaunchPad優勝者はクラウドポートの「Funds」に決定

ファインディ

AIを活用したエンジニアのスキル評価と、それを活用したエンジニアのキャリア支援を核として事業を展開。主要なプロダクトは転職サービスの「Findy転職」とフリーランスや副業の案件をマッチングする「Findy Freelance」の2つ。エンジニアとITベンチャーやデジタルトランスフォーメーションを進める大企業などをつなぐのがファインディの役割となる。Findy転職は現在約2万人のエンジニア、100社超の企業が利用するサービスに成長。また、この評価アルゴリズムを組織評価に使いたいというニーズが多かったことから、年明けに技術組織診断サービスを開始する予定だ。

関連記事:GitHubをAIで解析して「スキル偏差値」を算出、エンジニアのキャリア選びを支援するFindyが2億円調達

Ridge-i

AIを活用した産業用のソリューションを開発・提供。具体的には、千葉県船橋市で自動クレーンとして稼働中の「ごみ自動分類AI」やNHKで放送実績のある「白黒画像カラー化AI」、JAXAから受託した「土砂災害検出AI」など、実用段階まで到達した複数の事例がある。AIについての知見のない経営陣の説明から課題・目的の整理、パイロット検証、システム稼働、運用・改善までをワンストップで支援できる体制が特徴。

Synamon

VRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」を開発。会議などのビジネスシーンで使えるVRコミュニケーションサービスで、VR空間の中でアバターを介して対話をする仕組みとなっている。3Dデータを共有したり過去の体験を持ち込んだりといったかたちで、リアルを超えた体験を実現できるのが特徴。すでにKDDIで導入されており、VRを利用して拠点間をつないだディスカッション、ブレインストーミング、デザインレビューなどに活用されているという。

関連記事:「VR会議」で遠隔でもリッチな対話体験を実現、SynamonがKDDIのファンドらから2.4億円を調達

ライバー

リアルタイムにコメントを書いたり、投げ銭などでプレゼントを贈るなど、一般的な動画に比べて熱量がより高いライブ配信向けのライバーのマネジメント事業などを運営。現在、完全な専属50人をはじめ、さまざな条件で提携する3000人のライバーが在籍しており、企業と組んだ生放送なども手掛けているそうだ。生放送配信サービスの1つであるツイキャスのトップ10はすべてライバーの所属タレントとのこと。オンランだけでなく、リアル会場を借り切ってのライバーのワンマンライブや複数のライバーが出演するイベントなども開催している。今後はフラットフォームの開発も検討しており、投げ銭システムなどを実装していくという。

KOSKA

原価管理の自動化サービス「GenKan」(ゲンカン)を開発・提供。実績データとして現場のスタッフと製造機械の作業時間を「加速度センサ」「カメラセンサ」「重量センサ」を用いてリアルタイムに自動で収集。取得したデータや蓄積された生産データを基に、工場・製品・ライン・工程など細かい粒度で実際原価の計算を行う。GenKanでは現場の生産量や稼働状況を反映した実際原価がリアルタイムに更新されるため、1日単位で収支管理を行うことが可能。何か大きな問題が起こる前に危険なシグナルに気づき、早めに対応できるようにもなる。またそれらのデータを基に、現場に沿った形で改善のポイントを自動で提案するのも特徴だ。

関連記事:原価管理の自動化で製造業をエンパワーする「GenKan」のβ版がローンチ

政治問題をよそにSequoia Capitalが米中投資向けに約3700億円を調達

米証券取引委員会に12月3日に提出された文書によると、シリコンバレーのベンチャーキャピタルファンドであるSequoia Capital(セコイアキャピタル)が、米国でのレイターステージの投資に約10億ドル(約1100億円)、中国でのベンチャーおよびグロースステージ投資に向けに約24億ドル(約2600億円)を調達した。

Google、Instagram、Dropbox、LinkedIn、Snap、WhatsAppなどの米国企業への投資で知られる同社は、中国で成功したスタートアップにも投資している。具体的には、Amazonに代わる中国eコマースのAlibaba、数十億ドル(数千億円)規模の金融サービスを提供するAnt Financial、もう1つのeコマースの巨人であるJD.com、米国で議論を巻き起こしているソーシャルメディアTikTokを保有するByteDance、機械学習アプリケーションの開発における国内リーダーの1つであるYituなどだ。

中国での投資先は、中国国外で常に論争を巻き起こしている。Yituは、新疆(新疆ウイグル自治区に)に張り巡らされた最新技術による監視網とのつながりが指摘されている。新疆では推定100万人の宗教的・民族的少数派が現在抑留されている。米国で人気のTikTokは、投稿の検閲が非難の的になっている。新疆で投獄された人々や香港の政治に対する中国の支配強化に抗議する人々を支持するような投稿を検閲しているとの批判があるのだ。米国の上院議員らはすでにTikTokの調査を求めている。米商務省も10月、Yituが新疆での人権侵害への関与したとしてブラックリストに載せた。

こうした政治問題にも関わらず、米証券取引委員会に提出された文書によると、SequoiaはSequoia Capital China Growth Fund Vに18億ドル(約2000億円)、Capital China Venture Fund VIIIに約5億5000万ドル(約600億円)を用意した。

ByteDanceだけで780億ドル(約8兆5000億円)の価値があるとの報道もあり、バリュエーションを考える時に中国と政治の問題は落とし穴になり得るし、投資家はそれを見落とす可能性がある。

Doug Leone(ダグ・レオーネ)氏、Michael Moritz(マイケル・モリッツ)氏、Roelof Botha(ロエロフ・ボサ)氏などが率いるSequoiaは、過去最大の資金調達である80億ドル(約8700億円)のグローバルファンドを最近募集し、2018年6月に60億ドル(約6500億円)となる最初のラウンドをクローズした。Sequoiaは、Sequoia Capital Indiaも傘下に持ち、メンロパーク、バンガロール、ムンバイ、ニューデリー、シンガポール、テルアビブ、北京、香港、上海にオフィスがある。

Sequoiaのニュースは、今年好調だったベンチャーキャピタルの資金調達を象徴するものだ。そのほか、創業41年のNEAが単一のファンドで36億ドル(約3900億円)もの資金を調達する申請を提出している。Norwest Venture Partners、DCVC、Accelはいずれも、5億ドル(約550億円)を超える資金調達をクローズした。

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(翻訳:Mizoguchi)

ダイバーシティ重視のVCファンドHarlem Capitalがファンド規模約44億円でデビュー

Harlem Capital(ハーレムキャピタル)は、エンジェルシンジケート(エンジェル投資家とスタートアップをつなぐ資金調達プラットフォーム)から本格的なベンチャーキャピタル(VC)ファンドにアップグレードし、初めての資金調達を応募超過の4030万ドル(約44億円)でクローズした。

2015年にニューヨークのハーレム地区でマネージングパートナーのHenri Pierre-Jacques(アンリ・ピエールジャック)氏とJarrid Tingle(ジャリッド・ティングル)氏が設立した。2人はその後、ハーバードビジネススクールを卒業し、Brandon Bryant(ブランドン・ブライアント)氏とJohn Henry(ジョン・ヘンリー)氏の2人をベンチャーパートナーに迎え、アソシエイトも2人雇い 、ポートフォリオ拡大に向け陣容を整えた。ダイバーシティを念頭に今後20年間で1000人の創業者に投資するという長期的な目標を掲げる。

「我々はインパクトファンド(社会的事業に投資するファンド)ではなく、インパクトを与えるベンチャーファンドだと思っている」とピエールジャック氏はTechCrunchに語った。「インパクトを生み出す方法は、女性とマイノリティの起業家にオーナーシップを持ってもうらうことだ」

Harlem Capital Partners Venture Fund Iは業界を問わず既に売り上げを計上している米国企業に投資するビークル。想定する投資は、1件25万〜100万ドル(約2700万円〜1億900万円)のシードやシリーズAのリードまたは共同リード、あるいはラウンドへの単なる参加だ。これまでに、B2B女性用衛生製品のAunt Flow、ギグエコノミーマーケットプレイスのJobble、ペットウェルネスプラットフォームのWagmoなど、14社を支援してきた。同ファンドからさらに22の事業に投資する予定だ。

VC業界に均衡をもたらすには、我々のようなダイバーシティファンドが必要だ

–Harlem Capitalマネージングパートナー、ジャリッド・ティングル氏

Harlem Capitalは最初のファンドの資金調達を終え、ダイバーシティを使命とする最大のVCファンドの1つとなった。VC業界の男女間、人種間格差を露呈するばつの悪いデータが次々に明らかになっているにもかかわらず、マイノリティ出身の創業者らが調達できる資金は相変わらずごくわずかだ。今年初めに発表されたRateMyInvestor and Diversity VCレポートによると、ほとんどのVCマネーは大学の学位を持つ白人男性経営の会社に投資されている。最近の別のデータによると、創業者が女性のみのスタートアップが2018年に調達した金額は、VCからの調達総額のわずか2.2%で、2019年にはわずかに増加するペースだった。2018年に黒人女性創業者が調達した金額の中央値に至ってはゼロだった。

女性起業家と男性起業家、または白人女性と黒人女性創業者の間の資金調達に関する際立った対照は、VCファンドのゼネラルパートナー(GP)とVCファンドに資本を拠出するリミテッドパートナー(LP)にまん延するダイバーシティの欠如を示している。LPのダイバーシティに関する利用可能なデータはほとんどないが、2018年時点でVC企業の81%は資金を拠出する黒人投資家が1人もいなかった。

「この問題を正当化する理由はない」とティングル氏はTechCrunchに語った。「一般的にVCファンドは互いに地理的に密接し、シリコンバレー周辺に集まっているため、そうなりがちだ。VCファンド関係者は、特定のネットワークを持つ特定の学校出身の限られた人数で構成されており、頻繁に入れ替わることはない。一部のファンドは、戦略的に何人かのパートナーを異なる地域から採用したが、組織を変えるまでには至っていない。VC業界に均衡をもたらすには、我々のようなダイバーシティファンドが必要だ」

「多くの投資家が単に機会を逃している」とティングル氏は付け加えた。

新世代のリーダー人材を見出す非営利組織「明日の経営リーダーシッププログラム」で出会ったティングル氏とピエールジャック氏は、Harlem Capitalにインターンシッププログラムを設けた。毎四半期に最大6人のインターンを受け入れ、将来の有色人種投資家を育てることが目標だ。

Harlem Capital Partners Fund IのLPには、TPG Global、State of Michigan Retirement Systems、Consumer Technology Association、Dorm Room Fundなどが名を連ねている。

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(翻訳:Mizoguchi)

成長企業に「収益ベース」の資金を提供するUncappedが約14億円調達

英国ロンドンに本社を置きワルシャワにも拠点を持つスタートアップのUncappedは、欧州の成長企業に「収益ベース」の資金を提供すべく、12月1日に正式に活動を開始し、デット(融資)とエクイティの組み合わせで1000万ポンド(約14億円)の資金調達を発表した。

Rocket InternetのGlobal Founders Capital、White Star Capital、Seedcampが資金を提供した。エンジェル投資家も多数参加した。Passion CapitalのパートナーであるRobert Dighero(ロバート・ディゲーロ)氏、GoCardlessのCOOのCarlos Gonzalez-Cadenas(カルロス・ゴンザレス=カデナス)氏、Butternut Boxの共同創業者であるDavid Nolan(デビッド・ノーラン)氏とKevin Glynn(ケビン・グリン)氏などだ。

同社は、シリアルアントレプレナーでMidriveのCEOだったAsher Ismail(アッシャー・イスマイル)氏とベンチャーキャピタル(VC)出身のPiotr Pisarz(ピオトル・ピサルス)氏が創業した。融資先となる若い企業のマーケティング、営業、会計データを分析し、現在と将来の売上(収益)に基づき融資を決定する。

具体的には6%の定額料金で1万ポンド〜100万ポンド(約140万円〜1億4000万円)の運転資金を調達できると同社は説明する。成長企業にとって資金調達の賢い代替手段となるとして売り込む。成長に向けた資金需要はあるが、株式を発行したくない企業を狙う。

「起業家が資金調達する際に最初に判断を迫られるのは、株式(エクイティ)と負債(デット)のいずれで調達するかだ」とイスマイル氏は説明した。「エクイティは成長への資金供給手段としては時間がかかりコストも高い。デットはリスクが増える。当社は、エクイティとデットファイナンスの間に位置する代替手段として、両方のメリットを提供する。起業家が会社の一部を切り売りしたり、家を担保に入れたりする必要がないようUncappedを創業した」。

Uncappedは起業家が「個人保証、信用調査、新株予約権、株式」を提供しなくても資金調達できるようにする。エクイティへの投資家や伝統的な形態のデットファイナンスよりはるかに迅速に対応することも約束する。

「事業計画、キャップテーブル(株主ごとの持ち株要約表)、会社売り込み資料を提示する必要はない」とイスマイル氏は語る。「当社に必要なのは業績の確認だけ。Stripe、Shopify、Facebookなど、会社が使う販売やマーケティングのプラットフォームに接続する。収益ベースで融資することで、創業者は、売り上げが落ちたときや販売市場が低迷したときに返済額を減らせる柔軟性を得る」。

唯一のルールは、企業が各種支払いをオンラインで行っており、少なくとも9カ月の取引履歴があること。そのためUncappedは、eコマース、SaaS、消費者向け直販、ゲーム、アプリ開発企業に向いている。「最初の顧客はオンラインメンズウェアブランドのL’Estrangeだった」とピサルス氏は言う。「eコマースビジネスの場合、通常12月が資金需要が生じる最も困難な時期。クリスマスセールが始まる前に仕入れとマーケティングのコストがピークに達するからだ。当社は3日以内に融資できる」。

イスマイル氏は、Uncappedがこの手のビジネスではヨーロッパで最初の会社であり(多少言いすぎ)、非常に異なる形態ではあるものの、VCがおそらく最も近い非伝統的資金調達手段だと主張する。

「今年欧州でVCによる投資は350億ドル(約3兆8000億円)に上ったが、多くの企業はベンチャーモデルに適合していない」とイスマイル氏は述べた。「投資先は持ち分を売る気がない家族経営の企業、ニッチな市場で勝負する起業家、伝統的な資金提供者が見落としがちな少数派かもしれない。典型的なVCは年間1500社と会って、そのうち5社しか支援しない。当社は何百もの企業に成長資金を均一料金で迅速に提供できる。企業はアーリーステージで持ち分を犠牲にする必要はない」。

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(翻訳:Mizoguchi)

Accelがインド向け新規ファンドを約600億円でクローズ

世界で最も影響力のあるベンチャーキャピタルの1つであるAccelがインドでさらに積極展開する。アーリーステージの投資を専門とする米シリコンバレー拠点のAccelは米国時間12月2日、インドにおける6回目となるベンチャーファンドを5億5000万ドル(約600億円)でクローズしたと発表した。

これはAccelがインドで募集したファンドとしてはかなりの額となる。Accelは15年前にインドで事業を開始し、これまでにおおよそ10億ドル(約1090億円)を投じた。インドのAccelでパートナーを務めるAnand Daniel(アナンド・ダニエル)氏はTechCrunchとのインタビューで、シードステージとアーリーステージのスタートアップの発掘と投資に今後もフォーカスすると語った。

しかしAccelは、同社のポートフォリオにあるスタートアップのその後のラウンド(レイターステージのラウンド)に積極的に参加するにはさらなる資金が必要であることを認識していた。今回の発表の前にAccelは、欧州とイスラエルで積極展開するために5億7500万ドル(約630億円)のファンドをクローズしたことを明らかにしていた。

「我々は対象は限定ながら、Swiggy、UrbanClap、BlackStone、Bounceのような規模を拡大している企業にグロース投資も行っている。シリーズB、Cラウンドを通じてそうした企業を支援してきた」とダニエル氏は述べた。

他の多くのマーケットでの展開と同様、Accelのインドでの投資額もかなりのものだ。AccelはeコマースFlipkartのシードラウンドに参加し、Flipkartのバリュエーションはポストマネーで400万ドル(約4億4000万円)となった。Walmart(ウォルマート)は昨年Flipkart株の過半数を160億ドル(約1兆7500億円)で購入した(これによりAccelはFlipkartからの見返りとして10億ドルの益を上げた)。

インドでパートナー9人、スタッフ50人を抱えるAccelは、今やバリュエーションが30億ドル(約3300億円)超となったSaaS大手のFreshworksのシードラウンドや、こちらもバリュエーションが30億ドルを超えるフードデリバリースタートアップのSwiggy、それから最近ユニコーンになったBlackBackにも投資した。Accelは同社のポートフォリオにあるスタートアップの85%にとって最初の機関投資家だ。

インドで投資している100あまりのスタートアップのうち44社は、バリュエーションがそれぞれ1億ドル(約109億円)を超えている。Flipkartの市場価値210億ドル(約2兆3000億円)を含め、全社合計で440億ドル(約4兆8000億円)のマーケットバリューとなっている。

Accelのインドでの投資先

「我々が2005年に初めてインドでファンドを開始したときは、今とはまったく異なっていた。インド人50人のうち1人しかインターネットにアクセスできず、携帯電話の所有はこれからという状況だった。にもかかわらず、我々はインドが大きな変化に直面していると確信していた」とAccelは声明文で述べた。

「今後のポテンシャルは、我々が2005年にインドで展開を始めたときよりもかなり大きなものになっている。インドは国民13億人をデジタルで識別でき、インターネットユーザーは6億人で、毎月200億ドル(約2兆2000億円)を処理する国家支払いプラットフォームに1億5000万人の顧客がいる」

ダニエル氏は、Accelが引き続き消費者や企業間取引、フィンテック、ヘルスケア、グローバルSaaSの部門にフォーカスすると語った。「Accelにはそれぞれの専門分野を持つパートナーが9人いる。彼らはそれぞれの考えとファイナンスシードラウンドに基づいて投資する。新たなセクターが出てくれば、我々は深い論証作業を行う」

「そうした特定の分野に関し、我々は一層理解を深める。例えば、Uberがインドに参入するずいぶん前に我々はモビリティスタートアップのTaxiForSureに投資した。この件は我々がモビリティについて深く理解するのに役立った。そこで学んだことを生かして、我々はさらにいくつかのモビリティスタートアップに投資した」

Accelの中でインドへの関心が高まっているが、時期を同じくしてソフトバンクやProsus Venturesといった他の大手もインドで積極的に動いている。ただ、他社はレイターステージのラウンドに出資する傾向がある。今年すでに十分な資金を調達したインドのスタートアップにとってはいいニュースだろう。

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(翻訳:Mizoguchi)

スタートアップ売却前に知っておくべきこと

あなたは今、自分の会社をイグジット(投資を回収)する手段として売却を検討しているだろうか。売るのは今か、1年後か、それとも5年後か。筆者自身の20年以上にわたる起業家、アドバイザー、投資家としての知見と、1ダース以上の会社を買収した経験から、買収は常に大がかりで複雑な取引になり、100%準備したという状況には絶対にならないとはっきりと言える。実際、仲間から何度も聞かれたのは、契約サインの時に期待していたほどには、買収後にリターンが得られなかったという後悔の言葉だ。

創業者か株主かにかかわらず、スタートアップの売却前に知っておくべきことがたくさんある。筆者は先週、会社売却を真剣に​​検討している友人と話す機会があった。友人の最初のスタートアップと聞いていたので、売却プロセスの概要を説明した。その話に筆者自身の経験を補足したものが本稿だ。

いつ売却すべきか

会社を売却する理由は基本的に4つだ。

  1. 物事がうまく運んでいない:これは明らかに良くない。売却の必要に迫られていなければ、売却しないことを勧める。筆者なら会社立て直しをあらゆる方法で試み、その後再考する
  2. 物事が極めて順調に運んでいる:最高のポジションだが、こういう時は創業者が売却にあまり興味を持たない。このケースで売却するなら最高の条件でなければならない
  3. 外部要因:会社の外部で何かが起こり、売却が魅力的なオプションになった時。筆者は2つの会社を同時に経営していて、小さい方はイグジットして大きい方に集中することにした
  4. できる限りのことはした:ほとんどの場合、創業者が会社売却を選択する主な理由がこれだ。潜在的な買い手の方が会社成長の機会を多く見出し、活用できると判断する時だ

通常、売却は以上の理由の組み合わせによって判断する。

どう売却を決断すべきか

売却には基本的に3つの方法がある。

  1. 大企業に売る: 同業かそれに近い業界の会社が、技術か顧客を買いにくる。最も一般的なオプションだ
  2. プライベートエクイティ(PE):彼らは通常、既存のオーナーと投資家の持ち分をすべて買い取り、経営陣に利益計画を示し、達成するよう働きかける。PEによる買収では通常、数十億ドル(数千億円)といった高いバリュエーションになる
  3. 新しい投資ラウンド:もっとバリュエーションが低い場合、新しい投資家が単独または複数で、PEの場合と同様に、既存のオーナーと投資家の持ち分をすべて買い取る選択肢もある

売却を決断する前にすべきことが2つある。まず、交渉における自身の立場を最も強いものから弱いものまで検討することだ。

現在少なくとも1つの買収提案があるか、最近買収提案を断ったばかりというのが理想的で立場は一番強い。1つの買収提案がより多くの提案を引きつけることがよくあるからだ。

正式な買収提案がない場合、買収の意思を誰かが持っていないか調べる。ヒントや手がかりは、ビジネスパートナー、顧客、競争相手のみならず、投資家やPEとつながりを持つアドバイザーからもたらされることもある。

買い手のめどが立たない場合、会社売却は一段と難しくなるが、不可能ではない。こうなると売却は資金調達と似た様相を帯びてくる。買収提案やその見込みがない場合は、つながりと関係を築く必要がある。基本的には、売り込み資料を携えて飛び込みをかける。忍耐強さが必要で、それがなければ会社の株式価値の相当な部分を諦めることになってしまう。

フィクサーを使うことを考えてもいい。フィクサーは、経験豊富なCEOとして会社に入り、それなりの割合の株式を取得し、外部の関係構築と経営の双方で会社をより良い売却ポジションに導く。極めてまれだが、実際にこのケースを見たことがある。株式価値を高めることを期待して、フィクサーにいくらか株式を渡すわけだ。

最後に、会社を引き継ぎたいという個人が見つかるかもしれない。ただバリュエーションはかなり低くなってしまう。ファイアセール(残りものを極めて安く売ること)と言っていい。

もう1つ、売却を決める前にすべきことは、取締役会、既存株主、経営陣、アドバイザーに相談することだ。全員が議論に参加して方向性を揃える必要があり、適切な期待値を設定した上で合意する必要がある。

会社の売却準備

会社の売却価格を計算するには、基本的に3つの方法がある。

  1. サービスを提供する企業は通常、「年間売上高の1〜2倍」の価値がある。会社に分割可能なプロダクトやスピンオフするかもしれない知的財産がある場合、3倍かそれ以上になる可能性がある
  2. プロダクトを扱う会社は通常、「年間売上高の2〜10倍で評価される。評価は、プロダクトの市場、競争から身を守る独自性のある差別化要因、技術の難易度、成長機会など多くの要因によって変わる
  3. 成長機会とイノベーションの見込みが極端に高い場合、プロダクトを扱う会社は「20〜50倍で売却できる

会社売却のために必要なことが2つある。会社には売却価格に見合う価値があると示すこと、経営の適法性を証明することだ。

会社に1000万ドルの売上があり、バリュエーションがその10倍、つまり1億ドルになった場合、向こう3〜5年の青写真を描いて見せ、確かに1億ドルの価値があると買い手に示す必要がある。客観的に示すほど、よい買収価格を引き出せる可能性が高くなる。

方法はいくつかあるが、買い手に財布を開かせるにはスプレッドシートとホッケースティックチャート(将来急成長する想定の事業計画)だけではおそらく不十分だ。ある案件では、実際に1カ月間実験プロジェクトを実施し、買い手が指定した特定のマイルストーンを達成する必要があった。別の案件では、3カ月間アクセルを床まで踏み込み、3カ月連続で対前月成長率100%を達成した。

会社の適法性を証明するには、デューデリジェンス(投資先の価値やリスクの調査)を実施する必要がある。これは、オファーシート(買収条件を記載した書面)をまとめた後に行う。買い手が買収から撤退する場合は、ペナルティ条項の適用が望まれる。

デューデリジェンス中、会社が組織として誠実かつクリーンであることを明らかにする必要があり、次のようなことを行う。

  • 会社の過去、現在、未来のすべての持分を考慮したクリーンなキャップテーブル(各株主の持株数を要約した表)を開示する
  • 財務数値の調査のため帳簿を開示する
  • 双方の弁護士立ち会いの下、債務とリスクを洗い出し、知的財産が適切に保護されていることを確認する
  • 経営陣にインタビューを実施し、バックグラウンドチェック(犯罪や不正の履歴などの身元調査)にかけ、すべてを明るみに出す。重要な経営者には全員、売却後会社に残ってもらう

買い手が最初に関心を表明した後、デューデリジェンスによる詳細調査までは時間がないため、会社を市場に出す前にすべての準備を整えておく必要がある。

時間軸

おそらくあなたの予測の精度は筆者と同じくらいだから、あなたの最善の予測を2倍にしてちょうどいいくらいだ。筆者がこれまでに経験した買収案件で最速は4カ月、最長は7カ月だった。繰り返しになるが、会社売却は資金調達ラウンドに似ている。時間軸は会社の中身と交渉ポジションの強さによって決まるが、それだけではなく、対処すべき外部要因も常に存在する。

買い手と45日間連絡が取れなくなったことがあった。30日経った頃、筆者らはこの案件は成立しないと諦めつつあった。だが、その案件は成立した。求婚者をそろえるのに1〜2か月、正式な買収提案を得るのに2〜3か月、デューデリジェンスに1〜2か月は想定してほしい。迅速とは言えないが、これ以上長引くことは少ない。上記の筆者の経験談はともかく、通常売り手と買い手双方に迅速に事を進めるインセンティブがある。それでも時間がかかる。

スタートアップ後の生活に備える

筆者が友人と最後に話したことは、友人のスタートアップが買い手の企業グループに組み込まれた後に友人が何をすべきかだった。あらゆる選択肢のうち、素敵な給料がもらえる心地いいVPのポジションを考えていて、実際それを選ぶことは可能だった。問題はいつまで続けるかだった。

筆者の会社が最後に買収された時に、筆者は初めて会社に残り次のマイルストーンを達成するために努力した。結局達成はできなかった。2年経ち、精神的な壁にぶつかり、立ち直ることはなかった。最後の数カ月間、自分自身に真剣に向き合ったにも関わらずだ。筆者自身の心の変化と外部の要因が入り混じったものだったが、何かが終わってしまったような感覚だった。毎朝仕事に行く時に、レンガの袋を引きずっているように感じた。

もう一度同じ状況に置かれれば再び同じように頑張ると思う。筆者はスタートアップからスタートアップに飛び移ることは一度もなかったし、自分自身に何ができるか学ぶためにビジネスの世界に没頭してきた。買い手が通常2年間、経営陣を会社に拘束するのには理由がある。それが売り手と買い手の落としどころなのだ。

買収された後に会社に残ると決めたのは初めてだったため、会社に残ったらどうするかについて事前に計画を立てていなかった。そのツケを後で払うことになった。会社を去ってから自信を取り戻すまでに3カ月かかった。

同じような境遇にいる人々が、回復するのにもっと時間がかかったのを見てきた。何人かは回復の過程でクレイジーなことをした。お金があることをいいことに、やりたいと思っていたばかばかしい会社を始めたが、誰も彼らに意見せず悲惨だった。

会社に残るか悲鳴を上げて逃げるかはともかく、次のステップをを考える時間を確保してほしい。時が来れば何でも好きなことができる。新しいプロジェクトを始めたり、新しい仕事に就くこともできる。スタートアップとはまったく関係がない世界かもしれない。だが可能性はある。起業家は中毒者のようなものだ。いつ止めるべきなのかがわからない。

画像クレジット:Don Mason / Getty Images

【編集部注】筆者のJoe Procopio(ジョー・プロコピオ)は、複数のイグジット、複数の失敗の経験がある起業家。現在Spiffyを立ち上げ中だ。これまでにAutomated InsightとExitEventを売却し、Intrepid Mediaを創業した。

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(翻訳:Mizoguchi)

NYSEが直接上場で資金調達を可能にする提案申請を提出

ニューヨーク証券取引所(NYSE)は米国時間11月26日午前、直接上場(Direct listings)での資金調達を可能とする提案申請を米証券取引委員会(SEC)に提出した。

直接上場は、従業員や投資家が保有する既存株式を市場に直接売却することにより、企業が株式を公開する方法であり、新株を発行する従来の方法とは異なる。直接上場が支持を集めるようになったのはSpotifyが2018年にイグジットしてから。従業員の持ち株の流動性が上場後すぐに確保され、銀行(日本では証券会社)による売り出し株式への優先的なアクセスがなく、市場メカニズムによる価格決定が可能なためだ。Spotifyのように直接上場を選択する企業は、ロードショー(IPO前に会社説明のため機関投資家を回ること)を割愛できるため、ウォールストリートに払う法外な手数料の一部を回避できる。だが、これまで直接上場では資金調達はできなかった。

NYSEの新しい提案はそれを変えようとするものだ。具体的には、上場企業マニュアルの第1章を修正する予定。第1章は新規公開または直接上場を目指す企業に求めるNYSEの上場要件を規定する。修正がSECに承認された場合(NYSEはSECの規制監督対象)、NYSEへの上場を目指す企業は直接上場時に資金を調達することができる。

申請によると、提案された変更により「1934年証券取引所法に基づき普通株式を過去に登録したことがない会社は、有価証券届出書が発効すると同時に、取引所に普通株式を上場することができる。会社は有価証券届出書に基づき、取引所における取引初日のオープニングオークションで株式を売り出す(プライマリー直接上場)。この提案により、会社は売出株主直接上場(資金調達を伴わない従来の直接上場)に加え、またはその代わりに、プライマリー直接上場を実施することができる」。

提案されたハイブリッドモデルはシリコンバレーのテクノロジースタートアップの関心を集めることが予想される。SpotifyとSlackの直接上場を受けて、今や多くのスタートアップが公開市場への新ルートに詳しい。2社のイグジットに後押しされ、テクノロジー業界のリーダーらは、直接上場が公開市場への最新かつ最大の道だと喧伝している。特にベンチャーキャピタリストのBill Gurley(ビル・ガーリー)氏は、企業にこの方法を検討するよう勧めている。2020年に公開する意向を表明したAirbnbは、従来のIPOではなく直接上場を検討中とみられる。

銀行がIPOで適切な株価を設定できないことに不満を表明したガーリー氏は最近「直接上場:IPOに代わるシンプルで優れた方法」と題し、直接上場をテーマに終日のカンファレンスを開催した。このイベントには、Sequoia CapitalのMichael Moritz(マイケル・モリッツ)氏やSpotifyの最高財務責任者Barry McCarthy(バリー・マッカーシー)氏など、テクノロジー業界のエリートメンバーが参加した。

「ほとんどの人は銀行からの反発を恐れて発言しない」とガーリー氏は今年上旬、直接上場を公に擁護すると決めたことついてCNBCに語った。「自分のキャリアの中で、今が批判に耐える時だ」。

関連記事:直接上場はIPOよりも「絶対に」効率的とモルガンスタンレーのグライムズ氏

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(翻訳:Mizoguchi)

グロービスのアクセラレーションプログラム「G-STARTUP」の1st Track選出のスタートアップ14社

グロービスは11月27日、「G-STARTUP」のデモデイを東京・麹町で開催した。グロービスのアクセラレーションプログラム「G-STARTUP」の第1期の参加企業が約3カ月の支援プログラムを経て、事業開発の成果を発表する場だ。

グロービス・キャピタル・パートナーズ/代表パートナーの今野穣氏

G-STARTUPはユニコーン企業を00 社輩出するプラットフォームを目指して2019年4月に立ち上がったプログラムで、外部メンターが審査に入るなどオープンかつニュートラルな環境が特徴。イベントにはエンジェル投資家を始め約50名の出資検討者も完全招待制で参加した。今回のデモデイのピッチコンテストは以下の5名が審査員を務めた

■審査員長
川田尚吾氏(DeNA/共同創業者)

■審査員
有安伸宏氏(エンジェル投資家)
立岡恵介氏(グローバルブレイン/ジェネラルパートナー)
堀新一郎氏(YJキャピタル/代表取締役社長)
今野穣氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ/代表パートナー)

Spornia.

現在はスポーツ選手のひと握りしか、スポーツによってマネタイズできない現状を打破するサービスを開発・提供。スポーツによって稼げる環境を構築するサービスを提供する。具体的には、サッカー教室などのイベント、YouTubeなどに動画を公開した際の広告収入(アドセンス)、オリジナルグッズ販売、スポーツ選手を広告などに使いたい企業とのマッチなどを通じて、選手のマネタイズをサポートする。まずはミドル層のプロアスリートをターゲットとして、イベント支援などを進めていくという。

Crossborders Innovation

求人の案件と登録した人材をワンクリックでマッチングさせるAIアシスタント「hachico」を開発・運営。プレゼン内容は非公開。

オリジナルライフ

結婚準備の情報収集を便利にするスマートポータル「WeddingNews」を運営。プレゼン内容は非公開。

Liigo

アジアにフォーカスしたツアーやアクティビティの検索サイト「Liigo」を運営。ベルトラやBooking.com、アソビューなどアクティビティサイトを串刺し検索可能で、宿泊先や観光情報、レストランなどの情報も調べられるほか、独自のチケットやクーポンの配布も実施している、エアトリなどの大手旅行メディアとの提携を済ませており、Liigoを経由することで独自の旅行プランを短時間で組み立てることができる。今後はLiigo独自のプランなども提供も検討しているという。

ユノ

ビジネスケータリング専門のマーケットプレイス「Chefs Cater」を運営。通常は電話で予約や見積もりが必要なケータリングサービスを、ネットだけで完結できるのが特徴。一般的なケータリングでは、セントラルキッチンなどでライン作業で調理が進むため、料理のバリエーションが乏しいが、Chefs Caterでは街中のレストランなどが調理した料理を、Chefs Caterが依頼した配送専門のドライバーが指定場所まで運ぶ。調理と配送を分けることで飲食店側の業務負担を減らせるほか、配送を専門に請け負うドライバーにはビルなどの建物の入館方法、搬入場所などの情報が蓄積されるので、利用者側も安心して配送を任せられるというメリットがある。

ガラパゴス

AIを使ったデザインシステム「Air Design」を開発・運営・大手広告代理店と提携して、各社が所有する広告データをAIが取り込むことで、ウェブサイトのさまざまなランディングページ(LP)を自動生成できる。LPで使われるテキストデータも収集・分析しており、よく使われるワードなどを一覧できるのでキャッチコピーを考案する際の参考にもなる。
生成したLPは、フォントの種類や大きさ、背景色などカスタマイズすることも可能だ。

Grune

xR技術を活用した展示場のシミュレーションシステムを開発。現在の住宅展示場は、3億円程度の建設費用がかかり、しかも数年で立て替える必要がある。しかし現在では、契約数が下落傾向にあるという。同社はまず、この現状を解決するため住宅展示場に同社のVR技術を持ち込み、実際の建物の中で壁紙や家具などをVR空間上で入れ替え見られるようにする。これにより、住宅展示場でのコンバージョンレートを上げることを目指す。将来的には住宅展示場をVRでリプレースすることを目指す。

ダイバーシーズ

民住サービス「Homii」を運営r。同サービスは現代版の下宿で、空き部屋のマーケットプレイス。一般的な民泊とはことなり、あくまでも下宿という形態なので、民泊新法で定められている年間提供日数180日以内という制限が適用されない。利用者はHomiiから下宿先を選んで、家主に謝礼を支払うだけで長期滞在が可能になる。ダイバーシーズでは謝礼の10%程度を手数料として徴収することでマネタイズする。

QCCCA

位置情報ベースのセーフコミュニティサービスを開発・運営。現在QCCCAでは、「痴漢レーダー」というサービスを提供しており、痴漢被害に遭った、もしくは被害を目撃した利用者が場所や時間などを書き込める。このサービスを発展させて、安全な街作りを支援する。現状では、自治体がメールなどで配信している不審者情報は一方的に情報が送られてくるだけで利活用しづらい。同社は利用者からの書き込みなどによる危険と安全のデータを蓄積しつつ、交番やコンビニの数や距離などの地理情報を掛け合わせて分析。分析されたデータを基に、地域パトロールのルートや監視カメラの設置場所の最適化、地域コミュニティの活性化などを計画している。これらの危険・安全のデータを企業向けに販売するほか、災害時になどには支援物資の受け渡しのインフラとしての整備も計画している。

MORGHT

YouTuberのファンコミュニティーサービスを開発・運営。YouTuber本人ではなくコミュニティリーダーが運営するファンクラブのようなもので、メンバーは共通の話題で盛り上がれる。コミュニティリーダーは、広告表示やアイテム課金、グッズのフリーマーケット運営などを通じた収益化も可能。またYouTuberが所属する事務所との連携も検討しており、YouTuber本人の売上を分配するスキームも検討中とのこと。

Curio

スペース貸しサービス「Daysk」を運営。景色のいいレストランやバー、カフェ、神社など一般的なスペースレンタルサービスで借りられない物件を多数取りそろえているのが特徴。席単位で予約が可能なので、物件所有者は、閑散期の飲食店の一区画などを気軽に貸し出すことが可能だ。利用者は1時間100〜200円程度で、コワーキングスペースなどとは異なる環境を利用できるうえ、カフェなどの飲食店では席があらかじめ確保されているので安心だ。夜しか営業しないバーを日中丸ごと借りることも可能だ。

expeet

スキルシェアサービス「expeet」を運営。今回、掃除部分野にフォーカスしたマッチングサービス「clin」を開発し、清掃員と企業や民泊業者などをマッチングする、。申し込みから見積もり、注文までをすべてオンラインで済ませることができるのが特徴。清掃員は運営元があらかじめ面接してスキルをチェックしたスタッフが派遣される。

buzzreach

治験のマッチングプラットフォーム「buzzreach」を開発・運営。現在の治験は、製薬会社が病院を指定して実施するのが主流で、治験を受ける患者などが不足しているほか、治験の情報がオープンになっておらず新薬を必要とする患者に届いていないという問題がある。この問題を解決するのがbuzzreach。製薬会社が治験の情報を登録できるデータベースを構築しており、登録された治験情報を必要とする患者に共有される。今後は、服薬管理や医療機関との連携なども検討するという。

dreamstock

スマートフォンを活用して、世界中の子供がサッカーでプロを目指せるサービスを提供するサッカー版LinkedI。ブラジルのマーケットにフォーカスしており、ヨーロッパのトップリーグで活躍する選手だけでなく、2部リーグやヨーロッパ以外でプレーする選手の発掘を目指す。当初はサッカー専門の動画共有サイトとして誕生したサービスだったが、投稿される動画のクオリティーが高かったことから、サッカーチームとのマッチングを思いついたという。すでに数人のプロ選手がサービスに登録しており、選手が移籍した際は移籍金の10%を程度を手数料として徴収する。アマチュアの選手は、dreamstockと提携する世界各国のチームが開催するセレクションに動画を投稿し審査を受けることで,プロチームへのキャンプへの参加などの特典が得られる。

宇宙とトンネルと超音速旅客機と幻覚剤の将来性

11月13日にサンフランシスコで開催されたStrictlyVC(ストリクトリーVC)のイベントにおいて、私たちは、Future Ventures(フューチャー・ベンチャーズ)を設立した投資家であるMaryanna Saenko(マリアンナ・サエンコ)氏とSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベットソン)氏とともに登壇した。両名がそろって公の場に登場するのは、2億ドル(約217億円)の資金調達を公表して以来だ。まず手始めに、ジャーベットソン氏が古巣のDFJを去った話題の1件について聞いてみた。彼は「人生は、自分の仕事の転位を強要することがある。それによって私は、長い経歴の中で初めて投資家になった」と答えてくれた。

次に、2人がどのようにして出会い、他の企業よりも制約が少ない状況で、どこでショッピングをしているのかを聞いた。この話は、どちらもジャーベットソン氏が取締役会に加わっているSpaceXから、規模は小さいもののTeslaまで広範に及んだ。また私たちは、Future Venturesと利害関係のあるThe Boring Company(ボーリング・カンパニー)について、企業間(および国家間)のAI競争の深刻な危険性、さらに幻覚剤のアヤワスカ(またはそれに準ずるもの)に投資価値があるかについて語り合った。これらの中には、「見たこともない」とジャーベットソン氏が言う「最大の金儲けの機会」が潜んでいるという。

ここに、詳しい話の内容を紹介しよう。長さの都合で一部編集を加えさせていただいた。

TechCrunch(TC):お二人は投資期間が15年という新しいファンドを設立されましたが、二人の興味が大きく重なっていますね。マリアンナ、あなたはカーネギーメロン大学で学位を取得したロボット工学の専門家で、DFJに入る前はAirbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)に在籍して、後にKhosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)に移りましたね。お二人の得意分野は何ですか?

スティーブ・ジャーベットソン(SJ):「彼女はあらゆるものに長けている」というのが答えですが、私たちがペアを組むことで、より有能になれると思っています。小さなチームの利点は、一人でやるより大きな力を発揮できることです。最初からそれがわかっていたので、ひとりではやりたくないと思っていました。この20年以上の間、一緒に仕事をしてきた人たちは、私に大きな力を与えてくれました。DFJで私が実施した中で最高の投資は、その当時一緒に働いていたジュニア・パートナーに帰するところが大きいのです。一人だったら、あのような素晴らしい仕事はできなかったと思います。

貴重な意見を出してくれる尊敬できる人との弁証法的な対話であったり、意見交換話であったり、討論であったり、「あなたはこれ、私はこれ」と役割分担をするのではなく、「やりとり」が大切なのです。なので私たちは、定期会議だけでなく、常にパートナー会議を開いています。

たしかに、マリアンナはロボット工学と並んで、あらゆる航空宇宙関連分野での豊富な経歴の持ち主です。ちなみに、私が最初に彼女に面接したとき(そもそもジャーベットソン氏が彼女をDFJに雇い入れている)、彼女がすでに、量子コンピューターから人工衛星のためのフェイザーアンテナから(聞き取れなかったが宇宙関連のもの)といった特殊な分野に投資していることに仰天しました。

TC:もちろん、聞いたこともないようなものに投資するのですよね。

マリアンナ・サエンコ(MS):それはかならず意味を持ってきます。

TC:航空宇宙と言えば、お二人ともすでにSpaceXに投資されていますね。DFJもこの会社を支援していました。SpaceXは果たして公開企業になりますか?

SJ:最新の公式Twiterでは、火星への飛行が定期的に行われるようになったら株式公開すると言っていたと思います。

TC:それはいつ?

SJ:そう遠くないかも知れません。おそらく、私たちが行っている15年の投資サイクルの間でしょう。このビジネスは、今と比べてもっとずっと劇的になっているはずです。それは地平線の先の、大勢の興味を引く巨大な嵐のようなものですが、短期的にも、数十億ドル規模の収益が見込めます。利益を生むビジネスなのです。実は彼らは、私が生涯見たこともないような最大の儲けを生むビジネスを立ち上げようとしています。それは、ブローバンド衛星データ・ビジネスです(SpaceXが推進中の衛星インターネット通信を実現させる衛星コンステレーション「スターリンク計画」)。

なので、火星に着陸するまでの間にも、いいことがたくさん起きるのです。それは、あらゆる投資銀行を遠ざける手段でもあります。彼らは「いつ公開する?いつ公開する?」としつこく聞くばかりですから。

TC:SpaceXは17年目になりますが、投資家としてこれまでに利益は得られましたか?

SJ:もちろん。私たちの前の会社では、セカンダリーセールによって10億ドル(約1080億円)を超える利益に与っています。

TC:コンステレーション衛星が非常に明るいために、天文観測に支障が出るという科学者たちの心配をどう考えますか?SpaceXは色を塗ろうとしましたね。またSpaceXだけでなく、例えばAmazon(アマゾン)もコンステレーション衛星を打ち上げようとしています。しかし、あなたたちの会社はミッションドリブンですよね。これらの衛星が空を汚してしまうことは、心配しなくてもよいのでしょうか?

MS:テクノロジーに投資する際に、まず考慮すべきことの中に、今わかっている副作用と今の私たちの頭では想像ができない副作用には何があるかという問題があります。それらを全体像として考えなければなりません。

何よりも重要なのは、おっしゃるとおりSpaceXだけではないことです。今では多くの企業が、地球の低軌道や中軌道に、さらには増加傾向にある静止軌道にも、コンステレーション衛星を打ち上げようとしています。私たちはよくよく考え、科学コミュニティーとともに、こう言わなければなりません。「必要としているものは何なのか?」と。なぜなら、通信量は増加を続けていて、もし米国が打ち上げなければ、ヨーロッパやアジアの国々がやるという現実があります。なので科学コミュニティーは、「テクノロジーを宇宙に持ち込むな」と機械化反対運動的な言論に対して目を覚ます必要があると考えます。彼らは「私たちが共に前進を続ける上で、選択できる指標がこれだけあります」と提言すべきなのです。

私たち自身で、そのスペックを設定できるのが理想です。それを経ることで、明るく光り輝く道を発見し、先へ進むことができるのだと私は基本的に信じています。正直言って、楽しい未来は、低軌道を超えて月面基地の建設が始まるころにいろいろ見えてくるのだろうと私は考えています。そのとき、今日の数多くの問題が解決されるでしょう。

TC:前回のStrictlyVCのイベントでは、私たちは超音速ジェット旅客機の企業Boom(ブーム)を招いて話を聞きました。その分野で競合している企業もいくつかありますね。

MS:ええ、両手に余るほどあります。電動旅客機の企業だけでも、私は、おそらく200社から300社ある中の55社に会いました。その中で、超音速機を扱う企業は少数ですが、それでも数十社あります。

TC:そんなに?超音速旅客機の需要は再び高まっているのですか?

MS:復活組のエンジニアで科学者である私は、80年代に挑戦して断念したときよりも、今の方が理にかなったビジネスモデルに即しているかどうかを見ています。もし、「今回は頭のいいソフトウェアの申し子たちが航空宇宙関連デバイスを作るから、心配はいらない。飛行機の作り方ぐらいすぐにわかる」と言う人がいれば、そう思うようにはいかない理由を、私はいくらでも話せます。

電動飛行機の場合、バッテリーのエネルギー密度と、フライトの使命プロファイルとの比率が採算レベルになるのがいつかといった、答を出さなければならない疑問がたくさんあります。長距離の場合、私たちはSpaceXが2点間カプセルでやろうとしていることに注目できます。そこまでの段階に超音速旅客機がありますが、この領域に近いと思われるビジネスモデルに合致するエンジニアリング上の進路が、まったく見えてきません。なので、銀行がどう出るかは不明です。

SJ:それに、米連邦航空局の規制のサイクルは非常に長いのです。しかし、そうした理由の他に、このセクターに55社からおそらく200社の企業があると知った瞬間から、私たちの方針は大変に単純になりました。小型衛星の打ち上げや電動垂直離着陸航空機も同じですが、それはとても広大な領域です。このスペースに3つ以上の企業があるときは、何が起きているのかを理解できるようになるまでは、どの企業とも会いません。130位の小さな衛星打ち上げ企業に、誰が投資をするでしょうか。私たちなら、その時点で過去にない独創的な企業を探します。

TC:そう言えば、私が知る限り、地下方式の交通システム用トンネルを掘っている新興企業は、The Boring Companyひとつしかありません。そこにもフューチャー・ベンチャーズは投資してますね。それは役員の椅子とセットだったのですか?

SJ:いいえ、私たちは最初のラウンドの投資に加わっています。

TC:それって現実の企業なのですか?トンネルを1マイル掘るのに10億ドルかけていると何かで読みましたが。

SJ:どこを掘るかによります。それは最悪のケースでしょうが、それくらいの費用になることはあり得ます。The Boring Companyはラスベガスの短距離交通機関の工事を受注しましたが、競争入札では、たった1マイルで4億ドルなんてことにもなっていました。「ウソでしょ」って感じ。

SpaceXの航空宇宙全般にわたるパターン、テスラのモーターの問題、そして可能性として現在の建築、フィンテック、農業のことを思うと、長い間大きなイノベーションがなかった業界がいくつもあります。米国でトンネルを掘っている上位4社は、みな1800年代から続く企業です。The Boring Companyが違うのは、連続して掘れるようにディーゼルから電気に切り替え、ソフトウェアとシミュレーションの考え方ですべてを再構築したことで、スピードと経費削減において劇的な変化をもたらした点です。少なくとも2桁は安くなっています。

TC:スティーブ、以前あなたは、投資家人生全体を通じて行った投資のほとんどすべては、競合他社がないことが唯一のチェックポイントだったと話していました。しかし、未来にフォーカスすることを投資テーマとする企業が増えた今、他とは違う企業を探すのが難しくなっていませんか?

SJ:少し難しくなっています。複数のチェック対象があるときはいつも、新規市場の兆候を示すサインとして、それを利用しています。それがひとつのカテゴリーになっているとき、それに関するカンファレンスがあるとき、他のベンチャー企業がそのことを話しているときは、とっくに別の場所に移っているべきだったことを示す十分なサインです。

MS:また単純な事実として、業務用ソフトウェア、消費者向けインターネットなど、その業界がわずかなセクターにフォーカスしているときは、ひとつかふたつのエッジケースの投資を行っている素晴らしいファンドが存在していることがよくあります。それは良いことです。そうしたファンドは私たちも大好きで、一緒に仕事をしたいと思います。しかし、その軌跡が直線的で、基本的な主張が狭小なところでは、ファンドの数はとても少ないのです。

TC:ハイテク企業のCEOたち、ヘッジファンド、ベンチャー投資会社から2億ドルの資金を調達しましたが、他の企業と同じような制約はありますか?

MS:何に関しても特別に細かい制約があるとは思っていませんが、私たちの信念、言葉、品位については、私たち自身が制約を課しています。今回の資金調達に際して私たちが定めた制約のひとつに「人の弱みにつけ込まない」というものがあります。なので、中毒性の物質、ソーシャルメディアのインフルエンサーは扱いません。冷血なハンターにはなれないという理由だけではないのです。それは私たちの意図するところではありませんし、この世界に築きたいものでもないからです。

TC:AIにも興味をお持ちですね。それは何を意味していますか?創薬への投資をお考えで?

SJ:どこから聞いたんですか? ご明察です。

TC:何百という企業がAIを使って薬品の候補を見つけ出そうとしていますが、私が期待しているほど早くは進歩していないし、十分なレベルにも到達していないように思えます。

SJ:現在、それに関連する契約を進めているところです。面白いことに、私たちは10件の投資契約を交わしました。その他に3件が進行中で、2件が条件概要書にサインをした段階にあります。4件は、エッジインテリジェンスの分野です。

MS:私はよく、大変に重要な仕事をさせるために、このロボットをどうしたらこの世界に作り出せるかという観点から考えるのに対して、スティーブは、チップやパワーや処理に注目して、アルゴリズムをどのようにシリコンに埋め込むかという視点から考えます。その中間で、スタックを上下しながら、私たちはとても面白いテーマに辿り着くのです。そうして私たちは、エッジインテリジェンスチップの企業、Mythic(ミシック)の投資を決めたのですが、同時に、こうしたAIを世界に送り出すために、基本的にそれをエッジデバイスに焼き付けるというアイデアは最悪だと感じました。うまく機能しないからです。

問題の本質は、どこか知らない場所のクラウドの中で訓練されたAIをエッジデバイスに詰め込んで、後は知りませんというやり方にあります。しかし、次第に私たちは、リアルタイムで使用することで、それらのAIは継続的に改善されると考えるようになりました。そして、母艦のデータセンターにデータを送り返す方法に気を配るようになりました。私たちは継続的な改善と学習の加速化が可能になることを期待しています。そのスタックの上から下までの数多くの企業が、私たちのポートフォリオに入っています。私はそれに、ものすごく胸を踊らせています。

TC:大局と比較すると、それらすべてが心地よいほど平凡に聞こえます。そこでは企業の小さなグループが、AIを訓練するための豊富なデータを蓄積し、日ごとにパワーを増していく。スティーブが前に話してくれましたが、いつか企業の数が非常に少なくなって、収入の不均衡が増長されると心配していましたね。それが気候変動よりも深刻な社会問題になると。Facebook、Amazon、Googleなどの企業は解体すべきだと思いますか?

SJ:いえ、解体すべきだとは思いません。しかしそれは、企業内に、また企業間に「べき乗則」が作用するテクノロジー業界の避けられない流れです。資本主義と民主主義を保とうとすれば、自己矯正が効かず、事態は悪化の一途を辿ります。最後にこれを話した2015年当時と比較して、状況はずっと悪くなっています。データの一極集中も、その使い方も。

中国のセンスタイムを考えてみてください。現在のところ、地球上のどのアルゴリズムよりも正確に顔認証ができます。そこに、米国のべき乗則と、国家間のべき乗則が働きます。それは、AIと量子コンピューティングがエスカレートする中で生まれた新たなる価値の下落に他なりません。

そのため、テクノロジー業界のすべての人間と、そこへ投資する人間は、それが何を意味するのか、そして私たちが望む未来の起業家の道について、よくよく考える必要があります。ここからそこへ通じる道は、明確ではありません。市場は、ある程度は影響力を持つものの、そのすべてを操れるわけではありません。とても心配なことです。気候変動よりも深刻だと私が言ったのは、今後20年間に人類が存続できるか否かに、それが大きく影響するからです。気候変動は、今から200年後ぐらいには私たちの存続に影響してくるでしょうが、これは今後20年間という喫緊の問題なのです。

TC:巨大企業の分割は解決策にならないということですね。

それは、人間の知性を超えたAIを制御するという考えに近いものがあります。そんなものを、どう制御できると思いますか? 内部で何が行われているのかを想像できますか? つまり、自然独占は業界を支えるあらゆるものが作り上げたものなのに、その自然独占を規制で解体するという考えは、モグラ叩きと同じことなのです。

TC:答えはなんでしょう?身の回りにあるものでは、何に投資して人々に衝撃を与えようとしているのですか?幻覚剤のアヤワスカですか?その市場はありますか?すでにいたるところに存在しますが。

SJ:(驚いて見せて)2つの企業があります。ひとつには今朝、投資金を送金しました。もうひとつは条件概要書にサインしたところです。それらは、あなたの質問に関連しています。

MS:オフィスが盗聴されてないか、調べないとね(笑)。

SJ:たくさんのことが進められています。精神疾患の理療。代替療法など。

MS:最も大規模な世界的流行は、うつ病です。この10年間の米国での思春期の自殺者の増加率は300%です。私たちには、情報も、技能も、テクノロジーも、有資格療法士もいませんが、よく植物の蔓などから採れる医薬品化合物に、うつ病の治療抵抗性に驚くほどの価値を示しながら、中毒性も乱用の危険性もない物質があることを、私たちは知っています。その恩恵が受けられるれらのは、もっぱら社会の中の特別なグループの人たちだけであるため、いかにして心の健康のためにその利用を民主化するかです。

TC:待って、私の推測が当たってたなんて。あなたたちは、アヤワスカのスタートアップに投資するつもりですか?

SJ:惜しいけど、ちょっと違います(笑)。

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(翻訳:金井哲夫)

直接上場はIPOよりも「絶対に」効率的とモルガンスタンレーのグライムズ氏

Michael Grimes(マイケル・グライムズ)氏は、自身が勤めるMorgan Stanley(モルガン・スタンレー)が喉から手が出るほど欲しいディール取引を次々に獲得し「ウォールストリートの『シリコンバレーをあやつる者』」と呼ばれる。最近では、Facebook、Uber、Spotify、Slackの主幹事を同銀行が務めた。グライムズ氏はバンカー歴32年、うち25年はモルガン・スタンレーで働いた。Google、Salesforce、LinkedIn、Workday、その他数百社のIPOにも関与した。

提供するサービスの優位性から、モルガン・スタンレーなどの投資銀行にスタートアップと投資家から直接上場を求めて声がかかることが多くなった。直接上場はSpotifyが開拓した手法で、Slackも利用した。上場時に株式の一定割合を一般に売り出すのではなく、すべての既存株式を非公開市場から公開市場に一気に移す手法だ。

直接上場の方が銀行手数料が安いし、IPOと異なり希望する既存株主は誰でも上場直後から株式を売却できることもあり、Bill Gurley(ビル・ガーリー)氏やMichael Moritz(マイケル・モリッツ)氏などのベンチャーキャピタリストが好む。通常のIPOでは投資家が会社の手元資金を株主に還元するよう要求することもある。ガーリー氏はIPOの欠点として、過去30年間で新規公開企業が低すぎる株価設定で失った価値は1700億ドル(約19兆円)に上ると語った。

グライムズ氏は先週StrictlyVCイベントで珍しく姿を見せ、直接上場の「価格設定メカニズム」は効率的であり「強く」支持すると述べた。同氏にはこの新しい銀行商品を支持する理由がある。SpitifyとSlackはいずれもモルガン・スタンレーに直接上場を依頼した。直接上場のプロセスには需給両側で同時にオークションを実施して需給を満たす価格を決定し、上場がスムーズに進むための十分な流動性を確保する仕組みがある。

両社の直接上場を成功に導いた実績から、同行は現在AirbnbやDoorDashなどの直接上場予備軍を支援する候補の最右翼にいる(グライムズ氏はモルガン・スタンレーが支援する会社を明かさなかった)。

先週のイベントで、TechCrunchは他の銀行がどう動くのか探った。手数料が少ないとはいえ、モルガン・スタンレーを何とか阻止すれば、同行の優良顧客から仕事がもらえるかもしれない。従来のIPOで銀行は、市場の投資家に先立って手にした株式で儲けていた。

グライムズ氏は約40分間、質問に辛抱強く答えた。Extra Crunch購読者は、質疑応答の内容を11月22日にExtra Crunchで読むことができる。ここでは、質疑応答のハイライトをいくつか紹介する。

TechCrunch(TC):モルガン・スタンレーはUberの主幹事を務めた。Uberの公開があまりに遅すぎたと思わないか。昨年は非常に勢いがあり、IPOすれば1200億ドル(約13兆円)の価値がつくと銀行から言われていたようだ。今の価値のほぼ3倍だ。その金額で公開できると思ったか。

Michael Grimes(MG):今この瞬間に、企業の価値評価を行うとする。成長見通しがある公開企業で、利益率もこの先もっと高くなりそうだとしよう。銀行のアナリストと買い手サイドの投資家それぞれの価格予想を平均すると、2倍から4倍くらいの開きが出ることは十分にある。それくらいが普通だ。ある会社の3年後の株価予想として、30ドル、60ドル、80ドルのいずれも十分あり得る。そのくらい変動は大きい。

TC:その変動性は将来起こる事象のタイミングの違いによるものではないのか。

MG:市場浸透度によるものだ。Uberの月間アクティブユーザーが世界中で1億人くらいだとする。それは人口の何%にあたるのか。1%に少し届かないとしよう。その1%は2%、3%、6%、10%、20%になりそうか。それとも、みんながUberをやめて空飛ぶタクシーを使い始めたら0.5%になってしまうのか。

変動する要素、つまり発生し得る事象をすべて考慮に入れると、結果の予想に大きなばらつきが生じる。すべてが毎日同じように取引されるべきだ言うのは簡単だが、Googleで起こったことを見てほしい。同じことが別の企業にも起こり得るいう人もいれば、起こり得ないと言う人もいる。通常は市場の飽和点に達するか、新しい競合他社に直面する。

評論家として「本来はもっと高い」とか「もっと低い」と言うのは実に簡単だが、投資家は毎日実際に意思決定しなければならない。

TC:株価設定に関して可能な限り楽観的になるのがあなたの仕事なのか。すべての変数を前にして、どのように数字を見込むのか。

MG:我々の仕事は「現実的に」楽観的でいることだと思う。テクノロジーが今後何も変化をもたらさず、ソフトウェアがもう世界に浸透しないのなら、おそらく楽観的なバイアスは少なくなる。だが、当たり前のように聞こえて、よく忘れる原則がある。持ち金を失う限度は100%だが、増やす方には上限がない。ところで、ベンチャーキャピタル(VC)は彼らが言うほどリスク回避的ではないと思う。投資の約80%か90%が最後は損になり、5%か10%が10倍、20倍、30倍になる。ポートフォリオアプローチと呼ばれるものだ。IPOに投資する機関投資家ほど顕著ではないが、同じ考え方。お金は失っても100%までだ。

5つの会社に等しく投資し、1社への投資価値が10倍になったとする。お金を稼いだことを理解するために、他の4社に何が起こったのかを知る必要があるだろうか。最悪でも投資資金は倍になったからには、また投資を始めたいと思うはずだ。このように、一般的にバイアスは上向きに働くが、我々の仕事は現実的でいること、そう試みることだ。我々はそれを神聖な義務だと思っている。株価は変動するだけでなく、変動の度合いの問題もある。我々が心掛けるのは、投資家にどう受け取られるかに関して本当に良いアドバイスをすること。プロセスが意図したとおりに進めば、もともとの見立てが正しかっただけでなく、会社が高い変動性の範囲内にとどまることができる。

TC:この夏、CNBCの番組でビル・ガーリー氏が視聴者に、銀行によるIPO価格設定の誤りが、過去3年間で金額にして1700億ドル(約19兆円)に上ると語った。これは、企業が取りこぼした金額だと言える。直接上場は必要なのか。なぜ直接上場の方が良いと思うのか​​説明できるか?

MG:もちろん。ガーリー氏は、直接上場にスポットライトを当て素晴らしいサービスを提供したと考えている。Spotifyでイノベーションを起こし、Slackでも上手くいった。我々は直接上場が気に入っているし、今後の見込みにも強気だ。「直接上場がどう機能するか」というのが質問か。

TC:そうだ。適正価格の「発見」に関わることだからだ。直接上場では、株の所有者と潜在的購入者それぞれから話を聞いて、需給を満たす価格を見つける。ただこれなら、従来のIPOと違いはないように思える。

MG:実際のところは技術的に異なる。従来のIPOでは仮条件価格に幅がある。例えば8〜10ドルだとする。目論見書提出後2週間、我々は毎日、その価格レンジ内で購入を希望する株数について機関投資家から注文を取って回る。機関投資家は通常そのレンジ内で購入する。拘束力はないが機関投資家はまず従う。投資家が望む価格がレンジの外にある場合は、出直してもう一度聞く。需要が非常に多いのに売り出される株式数が固定されている場合、供給量が固定されてしまう。上場する会社は株価上昇を望むから、基本的には応募超過を狙う。かといって上場後に株価が上がり過ぎるのも嫌う。本来会社が得られた金額がもっと多かったことを意味するからだ。上場後に株価が下がるのはたとえ少しでも嫌がる。上場後に株価が変わらないのも良くない。実質的には下がったと受け止められかねないからだ。そこで会社としては、上場後に穏やかに株価が上昇するのがいい。例外はGoogleのIPOで、上場後の株価が変わらないように公募価格が設定されたが、ふたを開けたら株価が緩やかに上昇した。14%程度だったと思う。

価格レンジは1回か2回変わる可能性がある。規制当局のレビューが入るため、あまり時間がなく、そうは変えられない。例えば、8〜10ドルのレンジを10〜12ドルに上げても、まだ需要が供給を上回っているとしよう。ここで判断が要る。結局いくらで値がつくのか。14ドル、15ドル、あるいは12ドルなのか。一部の投資家は25ドルだと考え、別の投資家は12ドルだと考える。変動性が問題になるわけだ。取引が始まると、IPOの前夜に売り出された株式かそのまた一部が取引されるだけだ。他の株はすべてロックアップ(IPO後、特定既存株主の売却を一定期間禁止する制度)され、売却できない。6カ月間は、ロックアップ対象外の投資家や元従業員以外の株主が保有する同じ株が何度も取引される。

TC:直接上場の話を聞きたい。

MG:直接上場では、会社は株式を発行しないし、銀行も株式を引き受けない。すなわち、銀行(日本では証券会社)が株式をいったん購入し、すぐに機関投資家や個人投資家に売却するプロセスはない。だがマーケットメイキングはあり、そういう意味で取引の開始方法は似ているが、規模は完全に自由だ。ロックアップもない。原則として上場前株主の全員が株を売却できる。一方IPOでは、上場前の株式の平均16%がIPO時に売られる。この割合は15年前から半減した。

TC:そうすると、誰でも初日に売ることができるが、全員が初日に株を売らないようにするための契約などはあるのか。

MG:そういった密約のようなものはない。既存株主は好きなだけ株式を売ることができるが、価格次第だ。直接上場の重要な仕組みのひとつは、取引の開始方法だ。直接上場開始時にはオーダーブック(売買注文の数量と価格の情報)がない。IPOと違い、誰も2週間注文を取らない。当社は投資家と会い、投資家を教育してきた。目論見書などの作成を支援したが、注文はないし価格レンジもない。SlackとSpotifyのおかげで、当社は取引を担当する銀行になった。タイムズスクエアのトレーディングフロアで、当社のヘッドトレーダーのJohn Paci(ジョン・パシ)氏のチームが、売却を希望する既存株主と購入を希望する機関投資家それぞれと連絡を取り、同時にオークションを行った。

従来のIPOでは、多少の変更の可能性はあるものの、仮条件のレンジ内で注文を取っていたが、直接上場では任意の価格となる。買い手側を考えてみよう。誰が8ドルを払い、誰が12ドルを払うだろうか。16ドルも払う買い手はいるか。買い手の需要を聞いて回って、価格順に整理する。同時に売り手側でも同じことをする。「VC No.1、いくらなら売る気があるか」と聞く。「20ドルなら」という答えが返ってきて、我々にその価格の買い注文が手元になければ、18ドルで売れる株主がいないか探す。VC No. 2が株の5%を18ドルで売ると言うかもしれない。 買い手は常にいるが、十分な流動性を確保して取引を開始するだけでは不十分だ。VCを1社、買い手を1人それぞれ連れてきても、その買い手は参加しない。その買い手は「あなたは『自分自身と取引することになる』とは言わなかった」と言うだろう。だから、需要(買い手)サイドのオークションで最高価格を把握し、供給(売り手)サイドの逆オークションで最低価格を把握し、両方が一致し決済できるポイントを探す必要がある。10億ドル相当の株を14ドルで売却する売り手がいて、それに対し需要があれば、それが売買価格になる。

需給の情報は取引所に送信される。取引所は、需給の情報を持っている他のマーケットメーカーや銀行を取引に参加させることができる。例えば他のブローカーからさらに30%を取引に加える。それが最初の取引となる。

画像クレジット:Dani Padgett / StrictlyVC

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(翻訳:Mizoguchi)

英国の教科書サブスク「Perlego」が約10億円を調達

教科書のサブスクリプションサービスを運営するPerlegoが、シリーズAで900万ドル(約9億7800万円)を調達した。このラウンドは、Charlie Songhurst(チャーリー・ソンハースト)氏とThomas Leysen(トーマス・レイセン)氏(MediahuisとUmicoreのチェアマン)が支援した。ADV、Simon Franks(サイモン・フランクス)氏、Alex Chesterman(アレックス・チェスターマン)氏も、これまでの投資に応じた比率で再び投資している。

ロンドンを拠点とするPerlegoは、新たに調達した資金で同社の次の段階として「スマートな学習プラットフォーム」を構築するとしている。具体的には、学習体験を強化しシンプルにする新機能や、英国以外のヨーロッパの「戦略的」市場へ進出するための英語以外のコンテンツライブラリを計画している。

「教科書のSpotify」としてスタートしたPerlegoは、学生や専門家がサブスクリプションで教科書を利用できるようにしてきた。現在では専門家がユーザーの30%を占めている。同社は2300社以上の出版社の30万冊以上の電子書籍を扱っている。ウェブ、iOS、Androidと複数のデバイスで利用でき、複数の言語にも対応している。英国の出版社だけでなく、ドイツ、北欧、イタリアの主要な出版社のコンテンツも利用できる。

学生にとっての魅力は明らかだ。教科書の価格は上昇し、公共の図書館には十分な本がそろっていない。英国では、Perlegoの読者は月に12ポンド(約1700円)でデジタルライブラリをすべて利用できる。必要な教科書がこのサービスにあるなら極めてお値打ちだ。

出版社にとっては違法コピーと古本市場の活況による売上の損失を防げると、Perlegoは説明している。つまりSpotifyの位置付けと同じようなことだ。Pearson、Wiley、SAGEなどの出版社はすでにPerlegoに参加している。Perlegoは新規購読者が月に116%増えているとしているが、購読者数は公表していない。

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(翻訳:Kaori Koyama)

Founders Fundのサイアン・バニスター氏、ベンチャー投資、サンフランシスコ問題について語る

Cyan Banister(サイアン・バニスター)氏はアメリカンサクセスストーリーそのものだ。TechchCrunch Disruptでもたびたび語っているとおり、家出して路上で手編みのネックレスを売っていたホームレスの少女が独学でプログラミングを学び、 SNSのパイオニアのひとつZivityを創業、セキュリティー企業であるIronPortの経営に加わるまでになった。

2007年にIronPortが8億3000万ドル(約900億円)でCiscoに売却され、最初の資産を築きくと同時に同社の共同創業者であるスコット・バニスター氏と結婚した。2人は共同、ないし独立にスタートアップへのシード投資を始めた。これにはUber、SpaceXを始めとして今や世界的に知られるようになった企業が多数含まれている。

シート段階のスタートアップの会社評価額が急上昇するにつれて2人はシード投資から距離を置くことにした。自他ともに認める仕事中毒のバニスター氏はシード以前の最初期のスタートアップを支援する投資ネットワークのAngelListにエバンジェリストとして参加し多くの投資家をこのプラットフォームに加わるよう説得した。その後バニスター氏はPayPalマフィア(PayPal出身の起業家グループ)のドンであるピーター・ティール氏のFounders Fund に招かれ、やがてパートナーの地位を提供された。

11月13日にサンフランシスコで開催したStrictlyVC イベントにバニスター氏を招き、ベンチャーキャピタリストになるまでの道筋、投資のスタイル、ビジョンなどについて幅広く話を聞くことができた。バニスター氏はFounders Fundのパートナーとなった後もさまざまなスタートアップに150万ドル(約1.6億円)以下の少額投資、いわゆるエンジェル投資を続けていること、またそれはスタートアップ・エコシステムのために必要であると語った。投資先の目標は極めて未来的で野心的なこともあれば、退屈なくらい現実的であることもあるという。バニスター氏は(これらの投資先は)、「平均するとバランスが取れているのです」とジョークを言った。

我々はまたounders Fundについても話し合った。2005年の創立以來、大きく変化しているが、依然としてトップクラスのファンドとして名声を維持している。バニスター氏は創立時のメンバーの多くがサンフランシスコを離れた理由についても語った。

ベンチャーキャピタルでは月曜日の朝にパートナー会議が開かれるのが普通だ。ところがFounders Fundにはこれがないという。それどころか毎週の定例会議さえない。その代わりに運営は高度の自立的、分散的だ。バニスター氏によれば「Founders Fundにはそもそも会議がごく少ない。2、3週間に一度1時間から1時間半くらいのブランチがある。我々150万ドルは議題をSlackで交換する。ときには議題がぜんぜんないこともある。そういう場合にはブランチはすぐに終わる。皿に料理を取り、ひとつか2つの問題について議論すればそれでおしまいだ」と述べた。

「Founders Fundは四半期ごとに場所を社外に移してミーティングを行う。たいてはパートナーの家に集まる。これは1日がかりのイベントだ。メンバーは特定の投資案件について話すわけではない。このときの話題は未来だ。つまりエキサイティングになりつつある分野は何か、それに対して我々が取るべき戦略はどうあるべきか、などを話し合う」と述べた。

投資のの意思決定の方法は投資額によって異なる。バニスター氏によれば「[スタートアップへの投資]ステージに応じて話し合う必要があるパートナーの人数は変わってくる。1人でいいこともあるし3、4人のこともある。ごく初期のステージで、投資額も小さければ大勢のパートナーに会う必要はない。投資額が大きくなればジェネラル・パートナー全員の審査が必要だ。Brian Singerman(ブライアン・シンガーマン)氏やKeith Rabois(キース・ラボア)氏のような投資業務のトップに会わねばならず、エンジェル投資の場合よりは手間がかかる」という。

ピーター・ティール氏自身が投資の意思決定にどの程度関与しているかを尋ねると、バニスター氏は「ある額以上になると常に関与する」と述べた。正確な額については「多額といっておきましょう」と笑った。

ファンドの上級メンバーは多くの場合ティール氏のアドバイスなしで意思決定できるが、ある特定の問題に関してはティール氏は投資先スタートアップの創立メンバーと会うことになる。投資先は最初期のステージで我々が発見し、共に成長し、すでにティール氏と共同創業者たちとの関係も築かれているのが理想的だ。また、年に一度オフサイト・ミーティングを開く。これはピーター・ティール氏)がファンドのポートフォリオに関係する全員と会ういい機会になっている。

ともあれ彼は非常に積極的に関与している。四半期ミーティングにもブランチにも必ず出席する。実のところ「サンフランシスコを出て行く」と宣言してロサンゼルスに移ってからは、サンフランシスコにいた頃よりもティール氏と会う機会が増えた」という。バニスター氏は「だってロスに住んでいたんではサンフランシスコに来ても行くとこはオフィスしかない」と冗談を言った。

バニスター氏は「Founders Fundは総額30億ドルのコミットメントとなる2つのファンドを組成中だ」とする最近のウォール・ストリート・ジャーナルの報道について確認を避けた。ひとつはFoundes Fundのフラグシップとなるファンドで、他はポートフォリオ企業が上場を望まない場合、非公開の期間を延長するため、臨機に投資を行うファンだだという。

私は最後にバニスター氏にFounders Fundの創立メンバーの多くが別の道に進んだことについて尋ねた。Founders Fundはティール氏に加えてKen Howery(ケン・ハワリー)氏、Luke Nosek(ルーク・ノセク)氏、Sean Parker(ショーン・パーカー)氏によって創立された。しかしHowery氏は現在米国のスウェーデン駐在大使だし、ノセク氏はテキサス州オースティンでGigafundという別のファンドを運営している。パーカー氏も多彩な活動をしているが、ロサンゼルスに住んでいる

バニスター氏は「誰もがしたいことををする」のがFounders Fundの気風だと説明した。 例えば、「ケンは以前から政治に関心があった。そこで(その一環としてスウェーデン大使という)新しい職に就いた」と述べた。

その一方で、こうした転職には「サンフランシスコという問題が共通しているかもしれない」と認めた。「生活費が高騰しすぎている。これは大きな問題だ。住める場所がもっと必要だ。都市に欠かせない各種のサービスを提供してくれる人々ですらサンフランシスコでは生活できず、近郊から通勤してくる。普通の人がここに住むのは不可能なのだ。これは投資家にとって重大問題だ。特にシリコンバレーとその周辺がスタートアップの中心であり、投資もこの地区に集中させたいと考えているならなおさらだ。実際Founders Fundでは すでに(投資先として) 中西部など他の地域の可能性を探り始めている」とバニスター氏は述べた。

サンフランシスコの創業者に対する援助、逆に創業者のサンフランシスコに対する貢献について、バニスター氏は「どちらもまったく不十分だ」と述べた。サンフランシスコ市は「AirbnbとUberを生んだ町だ。世界で最も先進的なテクノロジーを活用する都市になれる。東京のように(安全、清潔に)運営できない理由はないはずだ。ところが私たちの町はごらんのように運営されており、その結果もご覧のとおりだ。つまりめちゃくちゃだ」と批判した。

テクノロジー・スタートアップの創業者や社員は大変奇妙な状況に置かれている。「サンフランシスコの住民の多くがテクノロジー・スタートアップを嫌い、我々を嫌っている。Salesforceのファウンダーであるマーク・ベニオフ氏などはサンフランシスコ市に多額の資金援助をしているが、私には効果が少しも見えない」という。バニスター氏は「例えばホームレスの状態が改善された証拠をまだまったく見つけられない」と述べた。逆に「犯罪は増加している。地方検事は犯罪者を訴追するのが仕事のはずだが、なすべきことをやっていない。サンフランシスコ市が実際にやっているのは生活環境の改善の努力ではなく、(車上荒らしに)車の窓を割られたらUberの割引券をくれるといったことばかりだ」と述べた。

聴衆は「窓ガラス」の部分をジョークだと思って笑ったが、実態はひどいものだ。「我々は間違った方向に進んでいる。思考の多様性が求められるのは今だ。しかしサンフランシスコの政治はそうなっていない。我々(住民は)もっと政治に参加する必要がある」とバニスター氏は結論した。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

老舗VCのNorwestが過去最大の2000億円超のファンドを設立

Norwest Venture Partnersは、設立58年のベンチャーキャピタルでWells Fargoが支援している。このたび同社は15回目となる20億ドル(約2170億円)のファンドを完了した。前回は2018年初めに設立した15億ドル(約1630億円)のファンドだった。現在同社は全ファンド合わせて95億ドルの資金を管理している。

TechCrunchは数日前にマネージングパートナーであるJeff Crowe(ジェフ・クロウ)氏をインタビューし、同社の大胆なファンド形成のスピードについて話を聞いた。同社は業界では標準的な3~4年ごとではなく、ほぼ2年サイクルで新たなファンドを形成しているが、その2年よりも早く15億ドルを投じたことは注目に値する。

クロウ氏は同社のグロース・エクイティ・チーム(500万~1000万ドルの小切手を発行できる)が非常に活発であり、ここ数年の間にCority、Vuori、SmartSignなどに高額の小切手を書いてきたことを説明した。Corityは、カナダ、トロント拠点のEHSQ(環境、健康、安全、品質)ソフトウェアを開発する会社だ。Vuori(ビュオーリ)はロサンゼルス発のアパレルブランドで環境保護に力を入れている。SmartSignはデジタルサイネージを作っている。

グロース・エクイティー・チームは、自己資金で会社を立ち上げた創業者に注目することが多い。これは伝統的な民間投資会社のやり方でもある。同社は「後期ステージベンチャー」と彼らが呼ぶ投資も行っており、伝統的なシリーズB、C、Dやそれ以降のラウンドに参加している。

Norwestの最近のファンドでは、パーソナル融資アプリのDave、スマートホーム製品のWyze(家庭用防犯カメラを作っている)、住宅購入のOpenDoor、コワーキングスペースのKnotelなど、多岐にわたる消費者向けブランドに投資している。

この数年、同社の投資先が「イグジット」を果たした例も数多い。ユタ州ソルトレイクシティの分析会社であるHealth Catalystは今年の夏に上場した。カリフォルニア州サニーベール拠点の医療機器スタートアップで、経頸動脈血行再建術に使用される神経保護およびステントシステムを開発するSilk Road Medicalもそのひとつだ。

NorwestはUberとSpotifyの投資家でもあった(ただしクロウ氏はその後Norwestが両社の株をどれだけ売却したかは明かさなかった)。

同社の投資先企業の中には比較的最近買収されたところもある。例えば、今年6月に上場企業のWorkDayは、ビジネスプランニング向けクラウドベースプラットフォームのAdaptive Insightsを15億ドルで買収したと発表した。従業員エンゲージメント・プラットフォームのGlintは、約1年前に金額非公開でLinkedInに買収された

この新ファンドに関してもチーム(パートナーのPriti Choksiが昨年加わった)は変わらない、とクロウ氏は言った。消費者、大企業、医療などさまざまな分野のさまざまなステージの企業を支援していくというミッションも変わらない。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

「ディープテック」に投資するシードVCのAngular Venturesが約45億円のファンドを組成

DFJ EspritのパートナーだったGil Dibner(ギル・ディブナー)氏が立ち上げた「ディープテック」を投資対象とするベンチャキャピタル(VC)であるAngular Venturesは、デビューとなる4100万ドル(約45億円)のファンドレイジング完了を発表した。

ヨーロッパとイスラエルのスタートアップをターゲットにするAngular Venturesはほぼ2年間、いわゆる「ステルスモード」で事業を進め、投資先は12社までに拡大した。同社の投資規模は通常25万ドルから150万ドル(約2700万円から1億6000万円)、ステージはスタートアップの最初の資金調達からシリーズAまでだ。年に5〜7回の新規投資を目指している。

Angularの投資先には、「サービスインテリジェンス」のスタートアップであるAquant.io、職場不正行為プラットフォームVault、ナノテクノロジーセキュリティテクノロジープロバイダーのDust Identity(Kleiner Perkinsも投資)、食品サプライチェーン最適化のTrellisなどがある。

ディブナー氏はAngular Venturesの唯一のGP。同氏は以前AngelListでエンジェルシンジケート(エンジェル投資家とスタートアップをつなぐ資金調達プラットフォーム)を運営していたが、ベンチャービジネスに関する経歴はそれ以前に遡ってかなり長い。

シンジケートを率いる前、ディブナー氏はロンドンに拠点を置くDFJ EspritというVCのパートナーだったが、2015年3月に辞めた。それ以前はロンドンのIndex Venturesのプリンシパルであり、さらに前はいずれもテルアビブのVCであるGemini Israel VenturesとGenesis Partnersに在籍していた。

ディブナー氏は、ヨーロッパとイスラエルにおけるシードVCを再定義したかったと言う。セクター重視のベンチャーキャピタルを作り、地理的な境界を意識せずヨーロッパとイスラエルの両方に投資して、さらに米国でプレゼンスを確立してグローバルに展開する投資先のスタートアップを支援する。

この構想に独自性を見出すかどうかは人によるが、いずれにせよ、ディブナー氏が素晴らしい投資実績を持っていることは間違いない。

これまでの経歴で、ディブナー氏は40社に投資したという。その内28社が米国のVCから資金調達したか、米国企業に売却された。同氏はこれまでの投資のうち8件でイグジットに成功しており、2件(JFrogとSiSense)は「ユニコーン」、すなわちバリュエーションが10億ドル(約1090億円)以上に達した。

ディブナー氏は、そうした実績にかかわらず、このファンドを組成するのに足掛け4年かかったと述べた。

「コンセプトから資金集め完了までに4年近くかかった。最終的には大幅な応募超過になったが、ここに至るまでにかなり断られた」と同氏はTechCrunchに語った。「ファンドの資金集めと企業の資金調達には多くの違いがあるが、今回の経験で、資金調達に苦しみ耐えるスタートアップの創業者に非常に共感を覚えた。アイデアが野心的になればなるほど、資金集めも困難になる」

AngularのLPはすべて民間企業だ。ヨーロッパの多くのファンドとは異なり、納税者のカネは入っていない。GPはディブナー氏のみ。案件のソーシング、デューデリジェンス、投資先企業の支援にはアドバイザーを使っている。

アドバイザーの顔ぶれは以下の通り。JFrogの創業者であるFred Simon(フレッド・サイモン)氏。SiSenseの創業者であり、Angularの投資先であるFireboltのEldad Farkash(エルダッド・ファーカッシュ)氏。BBDOのニューメディア担当EVPだったGuy Poreh(ガイ・ポレー)氏。同氏は、Wixの米国市場での立ち上げを主導し、Playgroundを創業した。Google検索とYouTube検索のプロダクト責任者のJerry Dischler(ジェリー・ディッシャー)氏。Sozo Venturesを設立し、カウフマンフェロープログラムの議長を務めるPhil Wickham(フィル・ウィッカム)氏などだ。

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(翻訳:Mizoguchi)

名門VC・a16zが暗号通貨スタートアップのための無料スクールを開校

先月、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)のジェネラルパートナーであるChris Dixon(クリス・ディクソン)氏がTechCrunch Disruptで、ベンチャーキャピタル企業である同社が暗号通貨を扱うスタートアップを育てる無料のスクールを開くと発表した。そして米国時間11月8日に同社は、そのスクールを公式に立ち上げた。すでに願書を受け付けており、受付期間は4週間だ。

この事業でa16zは、暗号通貨を大衆的に普及させたいと願っている。ディクソン氏とa16zのチームは暗号通貨とブロックチェーンに7年間関わっており、これからはその間に学んだことを起業家たちと共有したいと考えている。

これによって暗号通貨のコミュニティが育ち、今後のa16zの投資機会も創出されるだろう。ただしa16zは「暗号通貨のスタートアップスクールに参加したことはa16zからの投資を受けることを意味しない」と言っている。暗号通貨スタートアップへの投資に関してはa16zは思慮深い投資家であり、暗号通貨スタートアップスクールに参加した者だけを対象とせず、暗号通貨のコミュニティ全体が対象だ、と言っている。

そのa16zのCrypto Startup Schoolは7週間の課程を2020年2月21に開始する。授業料は無料であり、a16zは何ら所有権を有しない。

授業はメンローパークで行われるので、シリコンバレー周辺に住んでいない人はおよそ2カ月あまり下宿する必要があるだろう。「それでは大変すぎる」という人たちのためにa16zはすべての授業を録画する。そして誰もがそのビデオを見たり、スクールのカリキュラムや教材をダウンロードできる。

以下がコースの概要だ。

  • 暗号通貨のネットワーク(クリプトネットワーク)とは何か、なぜそれが重要なのか?
  • ブロックチェーンコンピューティングの基礎: 暗号技術とコンセンサス
  • アプリケーション開発ツールの概要
  • アプリケーションの現状と2025年
  • 暗号通貨のビジネスモデル
  • 暗号通貨の経済学
  • ユーザー体験、製品開発、セキュリティ
  • マーケティングとデベロッパーリレーション
  • コミュニティと参加と統治
  • 規制の現況と配慮
  • 資金調達ガイド

ご覧のようにこれらは、暗号通貨にフォーカスした授業と、資金調達やマーケティングなど一般的なスタートアップ入門のミックスだ。スクールが対象とするのは20から25ぐらいのチームで、40名前後の参加者総数を想定している。ソフトウェア開発の経験者であることが条件だが、暗号通貨のエキスパートである必要はない。授業内容は一週間に12〜15時間の講義とワークショップ、個人指導、そしてネットワーキングの実技だ。

最後に参加者は、プロジェクトのアイデアやプロトタイプのデモをを披露しなければならない。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

IoTセキュリティのスタートアップ「Particle」が約43億2000万円を調達

IoTデバイス向けプラットフォームのParticle(パーティクル)が、最新のシリーズCで4000万ドル(約43億2000万円)を調達した。

Smart city and connection lines. Internet concept of global business in Sydney, Australia(Getty Images)

このラウンドを主導したのはQualcomm VenturesとEnergy Impact Partnersで、これまでに投資していたRoot Ventures、Bonfire Ventures、Industry Ventures、Spark Capital、Green D Ventures、Counterpart Ventures、SOSVも支援した。このラウンドまでの累計で、Particleは8100万ドル(約87億5000万円)を調達した。

サンフランシスコを拠点とするスタートアップのParticleは、顧客が自社のソフトウェアインフラに多大な投資をすることなくIoTデバイスを市場に出すためのバックエンドを提供する。暗号化とセキュリティ、データの自律性とスケーラビリティを実現し、IoTデバイスのためのオールインワンのソリューションを目指すプラットフォームだ。

つまり古いやり方をしている企業が、センサーや監視用のデバイスを揃え、機械の準備を整えたら、Particleのインフラで監視することができる。

Particle最高経営責任者のZach Supalla(ザック・スパラ)氏は、これが一般的な使われ方と見ているという。同氏は「我々の顧客としては、雨水の管理、工業設備、配送、あるいはコンプレッサーやポンプ、バルブの監視といった古くからある企業が増えている。さまざまな企業があるが、共通する特徴はミッションクリティカルな機械の監視と制御が必要ということであり、こうした機械、乗り物、デバイスを21世紀型にすることが我々のミッションだと考えている」と語る。

Particleは、企業向けプラットフォームの売上が前年比150%と「急速に成長」していることから今回の資金調達をしたという。同社には現在100人のスタッフがいて、農業、自動車関連、スマートシティなどの業種にわたり85社の顧客をサポートしている。

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(翻訳:Kaori Koyama)

B Dash Camp 2019 FallのPITCH ARENA優勝は複数のSaaSをつなぎ合わせるiPaaSのAnyFlow

独立系ベンチャーキャピタルのB Dash Venturesは10月30日、31日の2日間、福岡にてB Dash Camp 2019 Fall in Fukuokaを開催した。目玉企画の1つであるピッチイベント「Pitch Arena」(ピッチアリーナ)は2日間に渡って熱戦が繰り広げられた。参加できるスタートアップは、創業が2016年1月1日以降であること、株式などによる資金調達額が累計2億円未満であること、大企業の子会社でないこと、デモが可能なプロダクトがあることが条件。本戦に出場したスタートアップ企業は以下の16社。

  • Anyflow
    複数のSaaSをつなぎ合わせることで定型業務を自動化・効率化できるiPaaS
  • Bespo
    LINEで友だちになって希望条件をチャットで伝えることで予約できるサービス
  • Boulder
    エンプロイーサクセスプラットフォーム「Well」を運営
  • bunch
    ゲームしながらのグループビデオチャットサービスを提供
  • ウェルネス
    パーソナルドクターによるヘルスリテラシーコーチングサービス
  • Elaly
    家具のサブスクリプション型サービス「airRoom」を運営
  • cookpy
    使われていない店舗のキッチンを間借りできるクラウドキッチンサービスを提供
  • estie
    物件探しのプロとのマッチングによって企業のオフィス探しをサポート
  • Tippsy
    日本酒のサブスクリプション型サービス「Tippsy Sake」を運営
  • トークンポケット
    スマートフォン仮想通貨ウォレットアプリ「tokenPocket」を提供
  • Tsunagu.AI
    デザインされたサイトを自動コーディングしてくれる「FRONT-END.AI」を提供
  • Antway
    共働き世帯向けフードデリバリーサービス「つくりおき.jp」を運営
  • スペースエンジン
    商品をオフラインで展開したいブランドと売りたい店舗をマッチング
  • OsidOri
    ミレニアル世代の共働き夫婦向け、家計簿・貯金アプリ
  • ロジレス
    自動出荷を実現したいネットショップと日本全国の物流倉庫を繋げるサービス
  • ラックベア
    不動産に関わる仕事・作業をアプリで受発注できる「タテカン」を提供

初日のファーストラウンドの審査により以下のAnyflow、Bespo、cookpy、ラックベア、スペースエンジン、Tsunagu.AIの6社が2日目のファイナルラウンドに選出された。

ファイナルラウンドは以下の5人が審査員を務めた。

  • 江幡智広氏(mediba代表取締役社長)
  • 千葉功太郎氏(Drone Fund代表パートナー/千葉道場ファンドジェネラルパートナー)
  • 木村新司氏(Das Capital SG取締役会長)
  • 國光宏尚氏(gumi代表取締役会長)
  • 守安 功氏(ディー・エヌ・エー代表取締役社長兼CEO)

最終的にこの6社の中で優勝を勝ち取ったのはAnyFlow。スペシャルアワード(特別賞)はスペースエンジンが受賞した。

そのほかスポンサー各社からの賞も授与された。パーソル賞(TECH PLAY利用150万円相当)はAnyFlow、ラクスル賞(テレビCM制作&放映サービス)もAnyFlow、さくらインターネット賞(さくらのクラウド or 高火力コンピューティングの1年間無償利用権)はTsunagu.AIとなった。

Anyflow

複数のSaaSをつなぎ合わせることで定型業務を自動化・効率化できるiPaaSを提供。iPaaSは、integration Platform-as-a-Serviceの略で、SaaSのようなクラウドサービスとオンプレミス型のサービスを統合するプロダクトを指す。Anyflowの場合はプログラミングなしで複数のSaaSを簡単に繋ぎ合わせ、業務を効率化できるのが特徴だ。

関連記事:プログラミングなしで複数SaaSを連携、定型作業を自動化するiPaaS「Anyflow」が資金調達

Bespo

「LINEで友だちになって希望条件をチャットすると、店を提案してくれて最終的には予約もできる」というサービス。LINE公式アカウントの「ビスポ!(@bespo)」と友だちになるだけで利用できるのが特徴。メニューの「かんたん予約」では、チャットボットのガイドに合わせて希望日時、人数、予算、ジャンル、場所などを選べば、希望日時に席が空いている店が候補としてリアルタイムで表示されるので、好きな店を選んで予約できる。 現在、LINEアカウントを持つ食品や飲料のメーカーと、飲食店への送客についての取り組みも進めているという。

関連記事:LINEチャットでレストラン予約の「ビスポ!」にLINE、本田圭佑氏らが出資

cookpy

使われていない時間帯の店舗のキッチンを間借りして、フードデリバリーサービスを開業できるクラウドキッチンサービスを提供。利用者は注文が入った料理を作って容器に詰め、配達員に渡すだけいい。配達員については、Uber Eats、出前館、dデリバリー、finDine、樂天デリバリー、LINEデリマ、ごちクルなどと連携しており、利用者が配達員を手配する必要はない。もちろん、店舗を貸す側は営業時間外の利用料を徴収できるというメリットがある。

ラックベア

不動産に関わる仕事・作業を、アプリで受発注できる「タテカン」のサービスを提供。依頼者は不動産の所在地・作業内容を投稿するだけで働き手を募集できる。依頼・受け取り金額は固定制なので報酬によって仕事を選ぶことも可能。不動産関連の業務は、法定管理から清掃、草刈り、空き物件の内覧、不動産サイトに物件を掲載する際の写真の撮影など多岐にわたる。賃貸物件では、通常はオーナーがこれらの業務を管理会社に委託し、管理会社が業務ごとに専門業者に仕事を依頼するという流れとなり、中間マージンが発生していた。

スペースエンジン

オフラインで商品を売りたいブランドとリアルな拠点を持つ店舗をマッチングし「ECのような感覚で、簡単に店頭で自社商品を販売できる体験」を提供する。具体的には、商品をオフラインで展開したいブランド(サプライヤー)と、その商品を扱いたい店舗を委託販売形式でマッチングする。大まかな流れとしては店舗側がサービス内にあらかじめ登録した店舗情報を基に、サプライヤー側のユーザーが自分たちの商品を売って欲しい店舗を探し、販売を申請。店舗がそのリクエストを受け付けた場合にマッチングが成立する。商品が実際に売れた場合は35%が店舗の収益、15%がSpaceEngineの利用料となり、残りの50%がブランドに入る仕組みだ。

関連記事:商品をECのように簡単に店舗で売れる「SpaceEngine」公開、ブランドとリアル店舗をマッチング

Tsunagu.AI

複数のディープラーニングのモデルを独自に結合して、フロントエンド開発に特化した学習を行ったAIサービス「FRONT-END.AI」を提供。具体的には、プロがデザインしたページ全体のデザインカンプと、ウェブ用素材をアップロードするだけで、HTMLの構造および、デザイン要素の分析・自動でコーディングしてくれる。

ManiMeが3Dモデルで顧客の爪に合わせたネイルシールを販売開始

ハイテクなネイルシールを開発したスタートアップのManiMe(マニミー)が、VCファンドで260万ドル(約2億8000万円)を調達し、ビジネスを開始した。

このラウンドを主導したCanaan PartnersのMaha Ibrahim(マハ・イブラヒム)氏はこれまでに、The RealRealや高級eコマースサイトのCuyana(クヤナ)に初期投資している。ManiMeは機械学習で顧客ひとりひとりの爪の3Dモデルを制作し、ジェルをレーザーカットして完璧にフィットするネイルシールを作る。同社の共同創業者でCEOのJooyeon Song(ジョヨン・ソン)氏によれば、ネイルシールは「家でできる最も簡単なマニキュア」として消費者に直接配送されるという。

ManiMeの共同創業者、David Miro Llopis氏(左)とJooyeon Song氏

先週から販売を始めたManiMeは、サブスクリプションのビジネスモデルを採用してネイルシールを定期的に届ける。価格は1セットあたり15〜25ドル(約1600〜2700円)で、デザインの複雑さによって価格が異なる。シールは10〜14日間もつ(再利用はできない)。ManiMeのネイルシールは必ずしもお金の節約にはならないが、月に2回ネイルサロンに行って1時間ずつかかるとすれば時間の節約にはなる。ManiMeのネイルシールを貼るのはわずか5分だ。

ソン氏は、COOのDavid Miro Llopis(デビッド・ミロ・ロピス)氏と共同でManiMeを創業した。2人はスタンフォード大学のMBAのクラスで知り合い、ここ2年間でManiMeのための3Dテクノロジーを開発してきた。Statistaの調査によれば米国で2018年にネイルサロンのサービスに支払われた金額はおよそ85億ドル(9250億円)とのことだが、一般にネイルのイノベーションにVCは投資しない。

ManiMeのネイルシールを実際に試したわけではないが、創業者たちの話のとおりの優れたものであるなら米国のネイル市場を変えるチャンスがあるだろう。ソン氏は「カテゴリーキラー」になる野望はあるものの、ManiMeは最終的には既存のネイルサロンを補うものとなり、いずれネイルサロンはManiMeのネイルシールを顧客に貼るサービスをするかもしれないという。

ソン氏はTechCrunchに対し「わが社のミッションは、私たちのテクノロジーを使って女性の生活を快適にすることだ」と語る。

ManiMeのネイルシールを購入するには、ショップのメンバーカードのような大きさがわかっているカードに爪を乗せて写真を5枚撮って送り、同社のギャラリーからアートを選ぶ。すると3〜4日で配送される。韓国製のジェルを素材として使っていて有害な化学物質を含まない。これは危険な化学物質でいっぱいの多くのネイルサロンとの差別化ポイントだ。米国では有害物質が原因でネイリストに健康被害が出ているとニューヨークタイムズが報じて問題となっている。

ManiMeは、販売サイトでネイルのインフルエンサーがデザインしたネイルアートを紹介する計画だ。顧客がインフルエンサーのデザインを選んだら、同社は契約に基づいて売上の一部をインフルエンサーに支払う。インフルエンサーにとっては自分の作品をマネタイズするチャンスであり、ManiMeを自分のソーシャルメディアプラットフォームでプロモーションすることになる。

Trinity Ventures、Techstars、NFXもManiMeを支援している。

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(翻訳:Kaori Koyama)

Slackに投資したIndex VenturesがSlackのライバルも支援

Slackは仕事場のコミュニケーションの新しいソリューションを作った。そのソリューションは、Microsoft(マイクロソフト)をも含む、多くの会社にマネされている。Slackは個人や企業が共同作業をするのに役立つように作られた製品だが、通知が多すぎると批判され、生産性を下げるとも言われてきた。

Stripeの元クリエイティブディレクターでデザイン畑のLudwig Pettersson(ルートヴィヒ・ペッターソン)氏が率いるスタートアップのQuillは「チームを邪魔しない有意義な会話」を提供するという。同社はシードラウンドで200万ドル(約2億1800万円)を調達した。このラウンドはSam Altman(
サム・アルトマン)氏が主導し、General Catalystが参加した。その後、シリーズAでは評価額が6250万ドル(約68億円)で、1250万ドル(約13億6000万円)を調達した。TechCrunchの調べによれば、シリーズAはIndex VenturesのパートナーでSlackの元ボードオブザーバーのSarah Cannon(サラ・キャノン)氏が主導した。Quillとキャノン氏はコメントを避けた。

米国サンフランシスコを拠点とするQuillは、シンプルなメッセージング製品を作っている。まだベータだが、情報筋がTechCrunchに語ったところによると、Quillはスレッドを重視し会話を減らして集中できるような製品を計画しているという。Y Combinatorの元プレジデントであるアルトマン氏によれば、ダイレクトメッセージ、スレッド、チャンネルのフィルタリングで長時間スタックすることがあるSlackに比べると、この製品は流れてくるデータの量が少ないという。

アルトマン氏はTechCrunchに対し「この製品はコミュニケーションのバンド幅を広げ効率を上げることに厳密に的を絞っている。技術的には驚くほどうまくいっている。フィードには適切な情報が表示され、適切な人々がインテリジェントに参加できる」と語った。

ペッターソン氏は、以前にアルトマン氏の現在のベンチャーであるOpenAIで一緒に働いていた。OpenAIは、AIを「親しみやすい」方向に導く開発を研究する企業だ。ペッターソン氏は2016〜2017年に同社の技術スタッフとして働き、OpenAIの初期デザインを作った。

Index Venturesはというと、成長している仕事用コミュニケーションソフトウェアのカテゴリーにさらに資金を投じているようだ。同社は2015年にSlackに最初に投資し、その後、今年6月にSlackは待望の上場を果たした。Slackは数億ドルを調達し、2018年の評価額は70億ドル(約7600億円)を超えていた。

上場後、Slackは市場で地位を築くのに苦戦している。その大きな要因は、大手のMicrosoft(マイクロソフト)が2016年にリリースしたSlack風の製品であるTeamsの成長だ。マイクロソフトは多くの企業に愛用されるツールを集めた便利な製品パッケージを提供して急速にシェアを獲得した。7月の時点でTeamsのデイリーアクティブユーザー数は1300万人で、マイクロソフト史上最も成長の早いアプリとなった。Slackは今月初めにデイリーアクティブユーザー数は1200万人と発表した。

QuillのようなスタートアップもSlackにとっては脅威だ。同社は仕事用チャットソフトウェアの新しい形を作り、このようなツールのニーズが高いことを証明した。一般に企業は何年にもわたってモデルを反復しなくてはならない。

Quillは、OpenAIのチェアマンで最高技術責任者のGreg Brockman(グレッグ・ブロックマン)氏と、Twitter元幹部でColor Genomics共同創業者のElad Gil(エラド・ギル)氏の支援も受けている。

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(翻訳:Kaori Koyama)