フェムテックのパイオニアClueのデジタル避妊ツールが米食品医薬品局の認可を取得

高い評価を受けて約1300万人のユーザーが利用している月経周期予測アプリを運営するフェムテック分野のパイオニア企業Clue(クルー)が今、新しいデジタル避妊ツール用のサービスを立ち上げようとしている。このサービスは、排卵日を統計的に予測することによって避妊ツールとして機能する。

「Clue Birth Control」(クルー・バース・コントロール)と名づけられたこのサービスは「2021年中に」米国でローンチされる予定だが、具体的な日付についてはまだ発表されていない。

料金についても「プレミアム価格」になるそうだが、詳細はまだ不明だ。

ベルリンに本社を置くClueは米国時間3月1日、近く開始予定のこのサービスについて米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得したことを発表した。これで、同サービスを米国で2021年中にローンチする道が整った。

米国の次は欧州に展開していく計画だが、現地の規制当局の認可を取得する必要があるため、サービスの開始時期は国や地域ごとに異なる見通しだ。

今回の認可により、Clueは米国で医療機器メーカーと同等の規制を受ける企業になる。そのことを受けて、同社は最近、経営面でも(幹部の人事も含め)いくつかの変更を実施した。

一部を紹介すると、創業者兼CEOのIda Tin(アイダ・ティン)氏は理事長に昇格し、Audrey Tsang(オードリー・ツァン)氏(前製品担当マネージャ)とCarrie Walter(キャリー・ウォルター)氏(前相談役)がClueのCEOに就任した。

TechCrunchはこの3人と、Clueのチーフメディカルオフィサー(最高医学責任者)Lynae Brayboy(ライネ・ブレイボーイ)氏に最新の動向について話を聞いた。

「Clue Birth Control」アプリとは

妊娠しやすい日の統計的予測を行うアプリを提供する企業はClueが最初ではないが、この分野に最初に参入し2018年にFDAの認可を取得したNatural Cycles(ナチュラル・サイクルズ)とは違い、ClueのClue Birth Controlアプリは「完全デジタル方式」と呼ばれ、ユーザーが毎日体温を測定する必要がない。

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また、頸管粘液のモニタリングなど、他の身体的な変化を追跡する必要もない。Clue Birth Controlでユーザーが定期的に入力する必要がある唯一のデータは、月経の開始日だけだ。

これにより、Clueは「使いやすさ」という点で既存の早期参入組と大きな差をつけているように思える。しかも、有効性にはほとんど差がない(詳細は後述する)。

Clueはベイズモデルに基づく予測アルゴリズムを採用している。アプリには、月経周期中のある期間が「高リスク」期間として表示される。これはその期間に避妊具を装着せずに性交渉を持つと女性が妊娠する可能性が高いことを示している。一方「低リスク」期間は、その間に避妊具を装着せずに性交渉を持っても妊娠する可能性が低いことを示す。

  1. Android_Calendar_High_Risk

    画像クレジット:Clue
  2. Android_Calendar_Low_Risk

    画像クレジット:Clue
  3. Android_Cycle_High_Risk_300ppi

    画像クレジット:Clue
  4. Android_Cycle_Low_Risk

    画像クレジット:Clue
  5. Android_Onboarding

    画像クレジット:Clue

これらの期間の長さはユーザーによる入力データが増えるに従って変化する。各ユーザーの月経周期データに合わせてアプリがパーソナライズされるにつれて、最初は長かった期間が徐々に短くなっていくのが普通だ。

2020年の夏に、Clueの初代チーフメディカルオフィサーに任命されたブレイボーイ氏は次のように説明する。「ベイズモデルはさまざまな数多くの医療用アプリで使われてきました。基本的には、入力されたデータを取り込んで、それを数学のモデルに基づくアルゴリズムで処理します。そして月経周期と排卵日に関して入力データからわかった事実を利用してアプリをパーソナライズします」。

「妊娠しやすい期間を表示する機能[Clueの月経周期予測アプリで、月経周期のどの段階にあるかを示す機能]を導入する前は、避妊モデルとして信頼性が低く、テストも不十分でした。それで、ベイズモデルの概念を使用するようになりました。このモデルは時間の経過とともにパーソナライズされていきます。ユーザーが自分の月経周期の初日を入力すると、危険日と安全日の期間がパーソナライズされていきます」。

「危険日期間は、最初は長めに、月経周期内の16日間から始まり、徐々に短くなっていきます。11日未満になることはありません」。

避妊ツールとして機能させるには、危険日にはセックスを控えるか、コンドームなどの避妊具を使用する必要がある。他の避妊方法(避妊リングなど)と比べて面倒な方法になっている理由もそこにある。安全日には、ユーザーは妊娠の可能性が低いというアプリの統計的予測のみに頼ることになる。

Clueによると、このアプリは「通常の使い方(typical use)」をすれば望まない妊娠を92%の確率で「完璧な使い方(perfect use)」をすれば97%の確率で防ぐことができることがわかっているという。「通常(typical)」や「完璧(perfect)」というのは、避妊の有効性を計測する調査に使われる専門用語だ(後者は、性交渉を持つたびに指示どおりに製品を使用することを意味し、前者は、使い方にいくつかの誤りがあることを意味する)。

これらの確率の意味についてもう少し具体的に説明すると、通常の使い方では、100組のカップルがClueのデジタル避妊ツールを1年間使用した場合、8組が妊娠すると予測される。完璧な使い方では、同じく1年間の使用で100組中3組が避妊に失敗するということだ

ちなみに、Natural Cyclesは通常の使い方で93%、完璧な使い方で98%有効であるという。一方、Guttmacher Institute(グットマッハー研究所)が米国で行った調査によると、ピルは通常の使い方で93%、完璧な使い方で99%有効であり、男性用コンドームは通常の使い方で87%、完璧な使い方で98%有効であるという。

何人程度のユーザーが登録することを想定しているのか、Clueは明らかにしていないが、Clue Birth Controlを市場に投入するまでに要した期間から推測すると、持続可能なユーザーベースを確保する自信があるものと思われる(Clueは遅くとも2019年から密かにClue Birth Controlの開発作業を進めていたと思われるが、具体的な開発期間を尋ねても「長期間」という回答しか得られなかった)。

Clueがデジタル避妊アプリを市場に投入するまでの期間を考えると、すでに時間な時間が費やされたように思われる。例えば、Clue Birth Controlの基盤となる統計的手法は、市場投入前の厳格な臨床検査を受けている。これは予想有効性試験で、2019年に結果が報告されている。

「このアプリの開発にはかなり長い期間を費やしました。このような製品の開発や、その有効性を証明する作業には時間がかかるからです。製品としての観点からも、このアプリが提供するエクスペリエンスを、わかりやすいものにし、この種の製品の安全性および有効性と調和するようにしたいと思っています。その意味でも時間がかかります」とツァン氏はいう。

「使いやすさを検証し、ユーザーがどのように考えて使うかを正確に理解したうえで自信を持って送り出せるような製品を開発するには、長い期間を要します」とツァン氏は続ける。

排卵日予測アルゴリズムを検証するために、700人以上の米国人女性を対象とする1年間の本格的な臨床試験が実施された。同試験は、ジョージタウン大学のInstitute for Reproductive Health(IRH、リプロダクティブヘルス機関)とCycle Technologies(サイクル・テクノロジーズ)という第三者企業が共同で行い、試験には研究用アプリDOT(Dynamic Optimal Timing)が使用された。

Clueは、DOTのアセット(アルゴリズムとアプリの両方)を2019年に買い取ったという。DOTは臨床的に検証されたテクノロジーで、ClueはこれをClue Birth Controlという自社アプリとして実装したわけだ。

「これは正式かつ徹底的な臨床試験であり、純粋に治験を目的として設計された試験です。特定の製品が正しく機能するかをテストしてデータを収集する、といった類の試験ではありません。この試験は純粋に学術的な目的で実行されました。その後、当社はこのアルゴリズムとアプリを購入し、アプリの機能をClueの中核製品Clue Birth Controlとして実装しました」とウォルター氏は述べる。

「臨床試験では、アルゴリズムの処理内容とユーザーのアプリ操作方法が試験対象となります。アルゴリズムは製品のごく一部でしかないからです。重要なのは、女性が現在の状態を理解し、情報を追跡およびチェックし、それに基づいて行動できるかという点です」と同氏は付け加える。

Clue Birth ControlのFDA承認プロセスでは、アルゴリズムの統計的予測の有効性と、Clueからユーザーへの情報の提示方法が精査された。パッケージ全体が規制当局によって調査された(誤解のないように言っておくが、DOTのアプリはFDAの認可を受けていない。Clueが臨床試験済みのDOTのアルゴリズムを自社アプリとして実装し、そのアプリパッケージをFDAに提出して認可されたのである)。

ウォルター氏は次のように説明する。「医療機器としてFDAの認可を取得しても、特定の製品について承認されただけであって、それを持って帰って自由にいじってよいというわけではありません。ですから、Clue Birth Controlについては今後もさまざまな開発を続けていく必要があります。これは、新型の避妊ツールの初代バージョンです。現時点で当社のアプリに組み込まれるのは、FDAが検証・認可した機能です。私たちが他の何よりも知恵をしぼって力を入れたのは、すべてのユーザビリティインターフェイスについてユーザーテストを行い、安全であることを確認する作業でした」。

Clueのビジネスプロセスもいずれは、規制当局による継続的な精査の対象になるだろう。これはスタートアップとしては大きな方向転換であり、ティン氏はこれを「成熟に向けた重要なプロセス」という言葉で説明する。

「力を注いだもう1つの大きな仕事は、とにかく生き残って規制当局の適格企業になることでした。それ自体大きな変化ですし、膨大な作業が発生します。でもそれはどうしても必要な変化です。ですから、市場に製品を投入してユーザーに使ってもらうのはもちろん重要ですが、会社の運営方法はまったく切り替える必要があります。これは成熟に向けた非常に重要なプロセスでした」とティン氏はいう。

自分が創業したフェムテックスタートアップがFDAの規制対象となる適格企業になったのを見てどんな気持ちかという質問に対し、ティン氏は次のように答えた。「よちよち歩きでしゃべり始めたばかりの赤ん坊が、10代の若者になり、そして今、家から巣立っていこうとしているという感じです。『自分なら必ずできる』と自分に発破をかけているところです」。

鍵を握るのはユーザー適合性

禁欲を除き、100%有効な避妊方法などもちろん存在しない。妊娠調整が非常に個人的な選択であることを考えると、異なる避妊方法のさまざまな有効性パーセンテージを単純比較しても、それほど役に立たないかもしれない。

デジタル避妊法には当然、賛否両論があり、検討する必要がある。Clueは、この避妊アプリが万人向けではないことを率直に認めている。

Clueによると、Clue Birth Controlは、定期的に月経がある18~45歳までの女性のみ有効だという(また、自分の月経周期を追跡できること、セックスの後に必ずアプリをチェックすること、危険日にはコンドームを使うわないセックスをしないこと、などの条件もある)。

これからこのアプリを使う女性は、登録する前に、月経周期が安定しているかどうかという点以外にも、さまざまな点を考慮する必要がある。特に、明記されている程度の妊娠リスクがあるという事実を受け入ることは重要だ。

こうした点は、古くからある非デジタル方式の手動追跡バージョン(リズム方式またはカレンダー方式などと呼ばれることもある)も含め、すべてのFABM(fertility awareness based methods、妊孕性意識に基づく方法)による妊娠調整に当てはまることだが、それでもNatural CyclesやClue Birth Controlのようなアプリベースの製品によって、FABMを使用する女性の数が増えることは間違いない。そうなると、このカテゴリーにおいて責任ある製品開発を行うには、適合性についてユーザーにきちんと伝えること、場合によっては強制的な措置を取ることが重要になる。

FABMは、変化する妊孕性情報に基づいて行動するために、きちんと指示を守り細部に至るまで注意する必要があるため、その他の妊娠調整方式よりも複雑になる。例えば、避妊リングなら、いったん挿入してしまえば、あとは何もしなくても100%機能する。ピルはもっと簡単だ。1日1錠飲むのを忘れないようにすればよいだけだ。

とはいえ、ホルモン避妊法が、誰でも利用できるものではないことは明らかだ(グレイボーイ氏は、米国では特に、避妊法を利用すること自体が困難になってきていると指摘する)。また、アプリ形式のパーソナライズ可能な避妊ツールは利便性が高いため、最近の女性たちは、すぐに試してみる気になるようだ(Natural Cyclesは2020年、150万人のユーザーを獲得したという)。

しかし、アプリならではの利便性にはマイナス面もある。2017年に欧州でローンチされたNatural Cyclesは、ソーシャルメディアを利用した誤解を招きかねない前のめりなマーケティングを行い、あっという間に批判を浴びることになった。またスウェーデンでは、国内のある病院から、Natural Cyclesを使用していた女性の間で望まない妊娠が多数発生しているという旨の報告があり、取り調べに発展したこともある。結果的に、妊娠したケースは、Natural Cyclesが避妊失敗のリスクを明確にするために規制当局と同意した有効性の範囲内であることが確認された。

したがって、デジタル避妊ツールはユーザーへの見せ方をどうするかが極めて重要になる。

ClueはClue Birth Controlを使用する際のユーザー適合性を厳しくチェックして避妊に失敗するケースを最小限に抑えるようにしている。新規登録ユーザーは、適合性チェックを通過する必要があるのだが、このチェックでは単に自分は適格であると答えるだけでなく、月経周期も含め、重要な情報を提供することによって適格性を実証しなければならない。

適格であることを示すことができないユーザーはアプリによって「強制的にログアウトさせられる」とツァン氏はいう。いったん強制ログアウトされたユーザーは、すぐに戻ってきて別の回答を試すことができないように、一定期間ロックアウトされるようになっている。月経不順がひどくてアプリが正しく機能しないユーザーも同様に、継続的な使用を拒否される。

ツァン氏は次のように説明する。「Clue Birth Controlに新規登録するとすぐに、極めて詳細な査定プロセスが実施されます。ユーザーに一連の質問をするのですが、質問自体と回答方法(ドロップダウンリストから選択する形式)、質問の設定方法を工夫することで、ユーザーが自分は適格であると明示的に言わなければならいようにしてあります。『はい・いいえ』で答えられる質問ではありません。『あなたの年齢は?』といった明示的な質問によって、ユーザーから情報を実際に引き出すようにしています。そうすることにより、そのユーザーが使用規定に従ってアプリの機能を実際に使用する資格があるかどうかを確認できるようにしています」。

「このプロセス自体もFDAによって詳細に精査されました。このアプリはスマートフォンで誰にも見られずに使用できるツールです。他人が関わることはありません。ですから、新規登録時の適合性チェックを正確に行うことはとても重要で、その点については徹底的に議論しました」とウォルター氏は付け加える。

「1つ認識しておく必要があるのは、自分の月経周期についてある程度意識していなければ、これらの質問には答えることができないという点です。自分の月経周期は通常このくらい、といったことがわかっていなければ答えられないからです。一番長い周期はどのくらいかとか、過去12カ月で一番短い周期はどのくらいだったとか、そういった質問です」。

「FDAの認可は、提出した製品に対するものです。この製品は1回のデータ入力と統計予測に依存しているため、どうしてもある程度の『非正則性』が発生します。月経不順がかなりひどい場合、この方法は機能しません。当社の科学担当チームによると、現在規則的に月経のある女性の約7~8割が、このアプリでカバーできる範囲内に収まるといいます」。

「月経周期は20~40日で9日程度は前後します。ですから、1日も違わず把握している必要はありません」。

「完璧であることなど不可能ですから、ユーザーには通常の使用で92%は避妊できると必ず伝えており、決して誇大な宣伝はしていません。それと同時に、米国で一般的に行われている多くの避妊法よりも優れているとも伝えています」とブレイボーイ氏はいう。

「ピルや避妊リングでは妊娠のリスクは限りなくゼロに近いといえます」と同氏は付け加える。「ですから、こうした方法ほど有効性は高くないと率直にお伝えしています。それでも、何らかの理由でピルや避妊リングには耐えられないという人もいますから、当社のようなデジタル避妊法にもメリットはあります」。

「残念なことに、かなり多くの人たちが膣外射精に依存しています。また、コンドームに頼っている人たちも多く、それは良いことですが、コンドームの場合、毎回装着することが絶対条件になります。でも、月経周期のどのあたりなのかをある程度認識するだけで、そうした人たちにもメリットがあるかもしれません。このアプリがあれば、『ある程度認識する』どころか、厳密に計算されたアルゴリズムをプライバシーが確保された自宅で利用できます」。

「今、多くの米国人女性にとって、実際に妊娠調整手段を利用することが非常に難しくなっています。原因の1つは失業、もう1つは避妊具を保険適用外とする2020年の最高裁判決です。その点、このアプリなら医療サービス提供者に協力してもらうことで簡単に使えますし、いちいち薬局に出向く必要もありません。使いやすいと感じていただけると思っています。実際本当に使いやすいですから。自宅でもスマートフォンはいつも手元にありますから、失くすこともありません」。

もう1つ、デジタル避妊法の利用者にとって大きな問題がある。近年、米国ではSTD(性感染症)の感染率が高まっているが、避妊具を使わないセックスでは、STDから保護されないのだ。

このため、Clueでは、自社アプリを、パートナーと安定した関係にある女性、またはパートナーと一緒に定期的に性感染症の検査を受けている女性に勧めている。ベッドをともにする相手のセックス歴を知らない女性には勧めていない。

ティン氏は次のように説明する。「これは当初からの前提だったのですが、私たちはこのアプリを本当に適合性のある人にだけ使って欲しいと思っています。多くの人たちにメリットがあると思っているからこそこの製品を開発しているのです。実際このアプリが多くの人たちに必要とされているのを見てきました。これが最も重要なことです。私たちはみなさんのお役に立ちたいのです。適合性の低い人には使ってほしくありません。アプリもそのように設計してあります」。

Clue Birth Controlの「完璧な / 理想的な」ユーザーとはどのような人かという質問に対して、ブレイボーイ氏は次のように答えてくれた。「医師としてお答えすれば、今後2年ほどで妊娠したいと考えているが、今はまだ準備ができていない。かといってホルモン避妊法は理由があって使いたくない。コンドームはすでに使っている。そんな人ですね」。

「つまり、今すぐ妊娠したくはないが、妊娠の準備をしている / 計画している、そして効果持続時間の長い薬は使いたくないという人に向いています」。

最も効果が高い避妊方法(レボノルゲストレルIUDやミレーナなどは最大99.9%の効果)の多くにも、女性の子宮に着脱する必要があるという欠点がある。また、子宮内膜にも長期にわたり影響が及ぶ可能性がある、とブレイボーイ氏は指摘する。

「Clue Birth Controlは、今後数年で妊娠しても大丈夫と判断したら、そのときはすぐに用法に従って使用を止め、妊娠できます。同時に、自分の月経周期についての理解が深まるというメリットもあります。また、当社は対象年齢を18~45歳と指定していますが、理想的なユーザーとしては20代後半から30代の女性を想定しています」と同氏は付け加える。

ティン氏はまた、米国および世界で望まない妊娠が驚くほど増えており、多くの女性が現在、何らかの理由で妊娠調整を使用していないという現状を指摘する。そうした女性たちにとって、アプリベースの妊娠可能性予測ツールは、代替策となるかもしれない。

ブレイボーイ氏によると、米国での望まない妊娠は約45%だが、一部の民族グループでは69%にもなるという(American College of OBGYNの調べによる)。

「望まない妊娠がどのくらいあるのかを調査するのは難しいという事実もあります。計画して予定どおりに妊娠する人は普通いませんから。このアプリベースのFABMは1つの方法になり得ます。今後2年ほどの家族計画について真剣に考えることができます。親になることについて真剣に考え始めるための本当に優れた方法です」。

Clue Birth Controlのマーケティングは「真剣に」デジタル避妊法を選択する人たちを対象にする予定だ。

ツァン氏は次のように説明する。「100%有効な避妊法などないということを理解してもらうようにしています。このアプリは1つの選択肢です。ユーザーは真剣な選択をするわけです。当社は、マーケティング活動を通じて、それぞれの人が自分にとって正しい選択ができるようにお手伝いをするつもりです。妊娠のリスク、アプリの動作原理とその意味についても率直にお伝えしています」。

「ソーシャルメディアやインフルエンサーによるマーケティングを大規模に行う計画はありません。先ほども申し上げたとおり、製品について説明する方法を徹底するために、当社には標準の業務手順があります。また、製品の実態を正確に反映する形でマーケティング活動を行っています」と同氏は付け加える。

FDA認可に向けて社内体制を一新

Clueは、前述の経営幹部の変更にともない、内部プロセスも大幅に見直した。規制の対象となる適格企業としての新しいステータスを反映した見直しだ。

「この点は認識していない人が多いのですが、医療機器を販売する許可を得るには、会社全体をカバーする質の高い管理システムを運用する必要があります。TechCrunchはテック系スタートアップの専門サイトなのでご存じだとは思いますが、テック系スタートアップではそうしたシステムが整っていないことが多いのです」。

「ですから、健康について人生で重要な判断を下すためにアプリを使う場合、その開発会社が品質管理された方法で製品を作っていることを確認することがとても重要になります。当然ですが、市場に出ているアプリで医療機器として規制されていないものは、ほぼ間違いなく、そのような品質管理を行っていません。ですから、当社の場合は、設計、ソフトウェアの開発、テスト、ユーザーテストまで、すべてのプロセスにおいて、1つ1つの手順が品質管理されていることを示す必要がありました。製品が市場に出ると、そのような管理ができているかどうかが監査の対象になるためです。このシステムを確立させるために、当社はこの2年間で大きな変化を経験してきました」。

「これは本当に大きな変化です」とティン氏は付け加える。「当社の場合、チームを良い形でまとめること、自分たちの真の目的を見失わないことが重要でした。これは、いわば新しい忍者の技を取得するようなものだと思います。何か新しいことを学んで、自分の価値を高めた上で、それでもユーザーに焦点を合わせ、大切にしているすべての品質を維持し、今まで常に大切にしてきたものを、今度は一段高いレベル、つまりこの品質管理システムのもとで実行する、そういうことです」。

「これはClueという会社の本質とつながっていると思います。というのは、品質管理システムは、基本的に、ユーザーに対して、品質の保証、リスク回避、ケアを提供するものだからです。ユーザーに、妊娠や避妊といった、人生で本当に重要なことをコントロールするお手伝いをする製品を提供することに対しては大きな責任を感じます。ですから、当社のプロセスをその責任の大きさに見合ったものしたいと心から思います。そういう意味では、チームが団結するのは簡単でしたが、膨大な仕事をこなさなければなりませんでした」。

「FDAの認可を得るのに一体何千ページの技術文書を提出したのかわからないくらいです。全面的な見直し作業を行った感じでした。このようにオペレーションの面では一新したものの、Clueの本質は維持できていることに非常に満足しています。一歩間違えれば大企業的なつまらない会社になっていた可能性もあります。でもそれはClue本来の姿ではありません。これは重要な点です。私たちは常にユーザーを大切にしたいのです」。

このように余分なペーパーワークは発生したが、Clueの会社としての使命は、これまでも、そしてこれからも変わらないとツァン氏はいう。

「私たちの使命は私たちの価値観に基づいています。Clueの使命は、高品質で、リスクを評価・軽減するための明確な手順とプロセスをともなう製品を出すことです。これは、体に良い選択ができるよう女性を支援するフェムテック企業であるという価値観に沿ったものです」とツァン氏は語る。

「市場に製品を出して、『これから人々の健康を適当にもてあそんで稼ぐつもりだ』などという会社はありません。そんな会社はありませんが、第三者に監視してもらうことは有益です。規制対象の会社になるというのはそういうこと、つまり、いつもあなたを監視しチェックしている民主的責任のある政府機関が存在するということです」とウォルター氏が付け加える。

「最近フェムテックが直面している批判の中には、同意できるものもあります。というのは、まったく規制されておらず、どこから出てきたのか、どんなビジネスモデルなのか、そして実際に何をしているのか、誰も知らないようなさまざまなアプリが存在しているからです。これは、私たちが望んでいるのとは逆方向への強い動きです」。

「私たちはこうした批判によって生じる制約を真剣に受け止めています。アイダ(ティン氏)が言ったように、私たちはプロセスを楽しむことを忘れないようにしています」。

Clueは、FDAの規制対象企業になったことで、より広範な機会に恵まれるようにもなっている。

「これによって当社の使命も範囲が広がったと思います」とブレイボーイ氏はいう。「月経周期を追跡することは健康全般にも重要ですが、これによってユーザーはFABMを現代的な方法で使うことができるようになると思います。そもそもFABM自体に、月経周期に何か異常があることに気づくことができるというメリットがあります。例えば、長期的に受胎能力に影響を与える可能性のある要因が見つかるとか、何か重大な病気があることに気づき早く医師に相談して治療を受けることができるといった利点が考えられます。ですから、当社はユーザーおよび医療サービス提供者と連携していきたいと考えています」。

「他のタイプの避妊法と比較研究する予定はありませんが、市販後調査を行う予定はあり、関係協力者と研究を行う予定です。Clue Birth Controlをローンチする前から、すでに学界との協力関係は始まっていましたが、今後も引き続き協力していきたいと思っています。将来的には、医学関連の会議に参加して、出席者との協力関係を築いていきたいと思います。このように常に門戸を開いて、医学者、科学者、避妊研究者たちに継続的に注目してもらうことは本当に重要なことです。当社は科学を礎にしている会社ですから。私がClueのメンバーに加わったのも、その使命を果たすためです」とブレイボーイ氏はいう。

「また、当社にとっては、データでできる処理を継続的に高めていく能力も重要です」とティン氏は付け加える。「これは当然重要になります。というのは、ユーザーからは本当に多くのニーズがあり、それを満たすには段階的に対応するしかないからです。ニーズに対して段階的に対応するのは正しい戦略です。当社は規制対象の会社として運営する方法を身に付けました。現在当社は実際に規制対象の適格企業として運営しており、そのおかげでユーザーからのより深いニーズにも応え続けることができます」。

ウォルター氏は、規制されていないアプリが大量に存在する中で、医療機器として規制当局による監視の対象となるコンシューマー向けアプリであることは、競争上の優位性を確保することにつながることも強調する。

「平均的なヘルス・フィットネス関連アプリを見ると、大量の新規登録ユーザーを獲得して利益を上げることを主要KPIとして掲げています。もちろん当社も新規登録ユーザーを獲得して利益を上げたいとは思います。しかし、当社はFDA規制の対象となっているため、市販後調査の義務もあり、きちんと義務が遂行されているかどうかが監査されます。それが当社の現在のKPIです。KPIとしてはあまりぱっとしません。これは平均的なアプリ開発企業との大きな違いです。そしてこれこそ、消費者がアプリを使用するとき考えるべきことです。例えば、『この会社はどんなKPIを達成しようとしているのだろう』といったことを考えるべきだと思います」。

「あるいは、『そのアプリデベロッパーは他にどんなアプリを出しているのだろう』とか『ゲームアプリを15個出しているデベロッパーが1個だけ月経周期トラッカーアプリを出しているのはなぜなのか』とか『どのようなビジネスモデルに基づいているのだろう』などと自問してみるのもよいでしょう」。

「『経営幹部はどんな人たちだろう』という質問もいいですね」とブレイボーイ氏が割り込む。「このZoom画面に映っている私たちは全員、これまでも月経を経験してきたし、今後もそれが続くため、避妊に関する判断を下す必要があったであろう女性たちです。そのため私たちは、非常にユニークな立場にいることになります。Clueのメンバーとしてではなく、個人的な立場からある程度の共感や理解を示すことができるからです」。

「グローバルなヘルス関連産業の可能性について少し言わせてください。私はこの市場に大きな期待を寄せています。それは、私がこの会社に入ったもう1つの理由でもあります。私は西アフリカのマリ共和国でキャリアを開始しました。その地域で、個人が避妊することの難しさと、人々に押し付けられているさまざまな文化的な障害を目の当たりにしました。ですから、デジタル避妊法というのは私にとって大きな可能性を秘めているのです。さまざまな国で無限の可能性があると思います。これまで、ホルモン避妊法以外の避妊法を人々が使いたがる文化的な慣習や傾向について本当に考えたことがありませんでしたから」。

新しい共同CEO体制について、ティン氏は「経営陣が協力し合う」という、Clueで同氏が心がけてきたスタイルを自然な形で継承したものだという。

「Clueが大切にしている重要なことが2つあります。1つは規制当局の対象企業であること、もう1つは持続可能なビジネスを構築していることです。この2つの点に留意して経営を進めるのに、キャリー(ウォルター氏)とオードリー(ツァン氏)の2人ほど最適な人物は他にいません。Clueでは協力的な経営体制を敷いてきました。この体制でものごとを進めるのが気に入っているからです。これも会社としてアップグレードされた点のように思います。これからは2人のトップが経営を進めていくわけですが、これは私の考える未来のリーダーシップをよく反映していると思います。その意味で、共同CEO体制を選択するというのもやはり、Clueという会社の体質を表現していると言えます」。

「この体制になってまだ日が浅いですが、この2週間は本当に楽しかったです。その中心にあるのは、規律を重んじ、率直であるべき、という価値観です」とツァン氏はいう。「協力的で対等であるという価値観です。この価値観によって、Clueの価値の核心部にあるすべての行動について互いに責任を負うことができます。ですから私もアイダ(ティン氏)に全面的に同意します。このようなトップ体制を敷く会社が増えて欲しいと思いますし、個人的にもかなり楽しんでいます」。

「ヒーローのようなCEOなど必要でしょうか」とウォルター氏は付け加える。「私の出発点は、オードリー(ツァン氏)と会話しているときのほうが頭が冴えると気づいたことでした。それなら、頭の中の思考プロセスを会話にすればいいじゃないかと。これを認めると、ほとんどの意思決定は何らかの協力体制のもとで行ったほうが良い結果が得られるように思います。私たち3人の中には、他の人と話す必要がないほどのずば抜けた天才はいません。それを受け入れたら、あとの問題は、どのようにして協力するかということだけです」。

「アイダ(ティン氏)が言ったように、私たちはいつも協力的な経営チームとしてやってきました。そしてそれは芸術の分野と同じだと気づいたのです。つまり、最も生産的なものには、最も創造的なコラボレーションが存在するということです。キャリー(ウォルター氏)とオードリー(ツァン氏)の2人は本当に密接なマイクロチームです。であれば、その最高のチームを会社の中心に据えようということです。もちろん、経営チームやその他の専門知識があってのことですし、ライネ(ブレイボーイ氏)がいることもすばらしいことです。科学、データサイエンス、すべての専門知識も必要です。でも、私はこの2人の何かを生み出そうとするマインド、意思決定プロセスとしての会話が好きです。これなら、より大胆で、かつ思いやりのある会社にならないはずがありません」。

「私はこの体制をバックアップしていきたいと思います。私は本当にすばらしい人たちとClueを創業しました。その1人は私の一生のパートナーで、私たちは長年本当に親密な関係でした」とティン氏は付け加える。「互いを思いやる対等な関係で仕事をしてきましたが、それが今、組織の中でより明快な役割を果たすようになっています。私たちはClueの創業当時から培ってきたものを基盤として、次の一歩を踏みだそうとしています」。

【更新】Clueは最初、高リスク(危険日)期間は「9日間より短くなることはない」と説明していましたが、その後、これは11日間の間違いであると確認できたため、そのように修正した。

カテゴリー:フェムテック
タグ:Clue避妊FDA

画像クレジット:Clue

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

モバイル機器に搭載可能な新型コロナウイルス検出センサー開発でGE技術研究開発部門がNIHの助成金を獲得

モバイル機器に搭載可能な新型コロナウイルス検出センサー開発でGE技術研究開発部門がNIHの助成金を獲得

GE Research

世界最大の米総合電機メーカーGeneral Electric(GE)の技術研究開発部門GE Researchが、スマートフォンなどモバイルデバイスのディスプレイやテーブルなど、あらゆる表面上の新型コロナウイルスを検出できる小型センサーの開発で、米国立衛生研究所(NIH)の助成金を獲得したと発表しました。今後2年間のプロジェクトで、検出精度の向上などを行うとしています。

通常、ウイルスの検出には電子レンジサイズの分析器が必要となりますが、GE Researchが開発したのは、それと同じ検出機能を備えつつ指先よりも小さい小型のセンサー。この小型化は、もともと新型コロナウイルスを目的にしたものではなく、過去10年間の研究の成果とのこと。センサーの小型化により、スマートフォンの画面や指紋センサー、あるいはキーボードなどに組み込める可能性があるとしています。

実験室と違い、これらのデバイスが使われる環境では、様々な種類のウイルスや菌、微粒子などが存在しており、その検出精度が気になるところ。これについてGE Researchの主任科学者であるRadislav Potyrailo氏は、開発中のセンシング技術は、他の要素からの分離性能に優れ、信頼性が非常に高いとしています。

Potyrailo氏は「私たちのセンサーは一種のブラッドハウンド(嗅覚の鋭い猟犬)のようなものだ」とも述べています。「特定のものを検出するよう訓練されており、他のものに邪魔されることなく、うまく検出できるのです」

助成金を受け、今後2年間でセンサーを改良し、新型コロナウイルスに関連するような懸念される数個のナノ粒子を、一般的な環境の中で確実に検出できることを実証する予定だとしています。

2年後では、新型コロナ対策としてはやや遅い気もしますが、技術的にはインフルエンザやノロなど、他のウイルスにも活用できるなら実用性は高そうです。数年後には、ウイルス検出はスマートフォンで行う時代が来るのかもしれません。

(Source:GEEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
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「フランスの孫正義」も支援する女性のためのヘルスケアスーパーアプリ「Nabla」

フランスのスタートアップNablaは中央ヨーロッパ時間4月7日、女性の健康に焦点を当てた新しいアプリを発表した。同社は、ユーザーの健康維持に貢献するいくつかのサービスを提供している。要約すると、Nablaは医師とのチャットやコミュニティコンテンツを提供し、すべての医療データの一元管理を支援する。近々、遠隔医療の予約も提供する予定だ。

今のところNablaの主な機能は、医療従事者との会話を始められることだ。ユーザーは一般開業医、婦人科医、助産師、看護師、栄養士、理学療法士などにメッセージを送ることができる。

対面のアポイントメントに完全に代わるものではないが、テキストでのディスカッションは間違いなく参考になる。医療従事者との対話の回数を増やすことで、より健康的な生活を送ることができ、さらに対面の予約を増やすことにつながるかもしれない。

フランスの他のスタートアップも、医療従事者とのテキスト会話を提供している。例えば健康保険会社のAlanでは、一般開業医とメッセージのやり取りができるが、Alanの保険に加入している必要がある。また、Bilobaも医師とのチャットを可能にしているが、同社は小児科に特化している。

Nablaの場合は異なる位置づけで、この機能を無料で提供している。ただし、質問を送れるのは月に数回までという制限がある。よくある質問であれば、コミュニティから回答が得られるかもしれない。Nablaの医師がコミュニティコンテンツをキュレーションすることもある。

無料の製品を使って自分の健康について語るのは、怪しい感じがする。しかしそれが可能なのは、このスタートアップが潤沢な資金を持っており、プレミアム機能を立ち上げる予定だからだ。

画像クレジット:Nabla

同社は2020万ドル(1700万ユーロ、約22億円)の資金を調達しており、すでに医師のチームと協力して、同社の最初のユーザー(患者)たちからの質問に答える準備ができている。同社への投資家には、Station F(スタシオン・エフ)を創立しマクロン仏大統領に「フランスの孫正義」と呼ばれたXavier Niel(グザビエ・ニール)氏、Artemis、Zendeskに買収されたBIME Analyticsの共同創業者Rachel Delacour(レイチェル・デラクール)氏、Instagram(インスタグラム)の南ヨーロッパブランド開発リーダーであるJulie Pellet(ジュリー・ペレ)氏、エンジェル投資家でMatch.comに買収されたMeeticの元CEOであるMarc Simoncini(マルク・シモンチーニ )氏、そしてFirstminute Capitalなどが含まれる。

Nablaがアプリをリリースする前にこれだけの資金を調達できた理由の1つは、3人の共同創業者がテックエコシステムで実績を持っていることだ。

共同創業者でCEOのAlexandre Lebrun(アレクサンドル・ルブラン)氏は、これまでにNuanceに買収されたVirtuOzや、Facebook(フェイスブック)に買収されたWit.aiを創業してきた。最近では、FacebookのAI研究チーム(FAIR)に所属していた。

共同創業者でCOOのDelphine Groll(デルフィーヌ・グロール)氏は、2つの大手メディアグループ、AufemininMy Little Parisで事業開発とコミュニケーションを統括してきた。また、共同創業者でCTOのMartin Raison(マーティン・レゾン)氏は、Wit.aiとFacebookの両社でルブラン氏と肩を並べて仕事をした経験がある。

Nablaはテキストでの会話に加えて、過去のやり取りをすべてパーソナルログとして表示する。そのログを、Apple(アップル)のHealthアプリやClue、Withingsなどの他のアプリやサービスと連携させることができる。こうすることで、同じアプリからすべてのデータを見ることができる。

お察しの通り、このスタートアップは、予防医療やホリスティック・ケアに関して、機械学習が役立つと固く信じている。デフォルトでは、機械学習の目的でNablaと共有される情報はない。だがユーザーはオプトインして、プロセスやパーソナライゼーションなどの改善のためにデータを共有することができる。

いずれNablaは、医師とのやり取りを可能な限り最適化したいと考えている。医師に完全に取って代わるのではなく、医師が人間的で共感的な部分に集中できるように、医療現場でのやり取りを向上させたいと考えているのだという。

Nablaは、医師とリアルタイムで対話できる遠隔医療サービスや、より多くの機能を備えたプレミアムサービスの提供を予定している。それは意欲的なロードマップであり、Nablaが当初のビジョンを守り、忠実なユーザーベースを見つけられるかどうか、長い目で見守っていく必要がありそうだ。

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画像クレジット:Hush Naidoo / Unsplash

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

ガーミンのスマートウォッチが「血中酸素トラッキング」機能に対応、4月下旬以降ソフトウェア更新で適用

ガーミンのスマートウォッチが「血中酸素トラッキング」機能に対応、4月下旬以降ソフトウェア更新で適用

血中酸素トラッキング機能

Garmin(ガーミン)のウェアラブルデバイスが血中酸素トラッキングに4月下旬以降順次対応します。ソフトウェア更新を適用することで利用できます。

血中酸素トラッキングでは、血液中に取り込まれた酸素レベルを測定する事が可能。Garminによると、血中の酸素レベルは疲労と回復のバロメーターとなり、運動を続けるか休憩を取るかの判断に役立つほか、体力向上のベンチマークにできるという報告もあるといいます。

酸素レベルの測定には普段は心拍センサーとして用いている赤色LEDと赤外線ライトを活用。血中ヘモグロビンのライトの吸収状態をデバイスの裏に備え付けられたセンサーで読み取り、数値をデバイスの画面上で表示します。

血中酸素トラッキングに対応するデバイスは下記の通りです。

  • ForeAthlete 945/745/245 シリーズ
  • VENU/VENU SQ シリーズ
  • vivoactive 4/4S シリーズ
  • Legacy シリーズ
  • vivomove 3/3S シリーズ
  • vivomove Style/Luxe シリーズ
  • vivosmart 4
  • Approach S62
  • MARQ
  • fenix 6 シリーズ
  • Quatix 6X
  • Enduro シリーズ
  • fenix 5X Plus
  • Instinct Dual Power シリーズ
  • Descent Mk2/ Mk2i
  • Lily シリーズ

(Source:GarminEngadget日本版より転載)

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在宅・被災地などの医療現場でリアルタイム検査が可能な免疫センサー機器を開発するイムノセンスが1.3億円調達

在宅・被災地などの医療現場でリアルタイム検査が可能な免疫センサー機器を開発するイムノセンスが1.3億円調達

大阪大学発スタートアップ「イムノセンス」は4月5日、総額1億3000万円の資金調達を発表した。引受先はOUVC1号投資事業有限責任組合(大阪大学ベンチャーキャピタル。OUVC1号ファンド)、メハーゲングループ。

イムノセンスでは、2018年1月の創業以来、OUVCから調達した資金を活用して研究開発を進めた結果、同社が手がける免疫センサーの量産設計と上市に向けた薬事体制の構築が完了した。今回の調達資金により、医療機器(体外診断用医薬品)としての上市に向けた取り組みを一層加速する。

イムノセンスは、大阪大学産業科学研究所特任教授 民谷栄一氏が開発した「GLEIA法」という免疫反応と電気化学反応を組み合わせた独自の免疫測定技術を活用し、POCT(Point of care testing)向け免疫センサーデバイスの開発に取り組むスタートアップ企業。POCTとは、診療所・在宅・遠隔地・災害現場など様々な医療現場で行われるリアルタイム検査の総称という。

同社の開発する免疫センサーは、心不全や塞栓症など様々な疾患を迅速診断するための免疫検査デバイス。血糖値計のように一滴の血液から疾病マーカーを測定し、数分で検査が完了することから診療所などでの迅速診断に活用可能で、既存測定装置と比較して、小型・低価格・高感度という強みを有しているそうだ。

試作機では、手のひらサイズの測定器と使い捨て小型センサーを組み合わせ、大型の測定機器と同等の高感度であることが検証できているという。

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医療ICTのアルムが約56億円をシリーズA調達、コロナ禍拡大に対応するソリューション開発・研究開発に投資

医療ICTのアルムが約56億円をシリーズA調達、コロナ禍拡大に対応するソリューション開発・研究開発に投資

医療ICTベンチャーのアルムは4月5日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約56億円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、SOMPOホールディングス、三井物産、エーザイ、ロイヤル フィリップス、エヌアイデイ、CYBERDYNE、フィナンシャル・エージェンシー、ミクシィ、キャピタルメディカ、ベクトル、SBIインベストメント、Bonds Investment Group、みずほキャピタル、Asia Africa Investment and Consultingおよび個人株主。

調達した資金は、国内外における事業の拡大と成長に活用する。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対応するためのソリューション開発を含む研究開発投資を積極的に実施することで、医療・ヘルスケア業界のニーズに素早く応え、急速に変革する社会にさらに貢献する。

アルムは、2021年について、東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う人の移動の増加により、新型コロナウイルス感染症の拡大が課題となる中で、ワクチン接種の開始をはじめとする「新型コロナウイルス感染症の制御が本格化する年」と捉えているという。

そこで、地域包括ケア推進ソリューション「Team」および救命・健康サポートアプリ「MySOS」を連携させた、自宅・宿泊施設療養者向けモニタリングシステムや、PCR検査の結果がいち早く届くサービスを強化し、より一層の安全・安心の提供や経済活動の両立を目指したソリューションの開発・提供を推進するとしている。

また、医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」のネットワークを活用した治験サポートサービスの強化や、手術映像等を院外へ配信するストリーミングサービスを活用した教育・医療サポートサービスなどの新しい価値創造を加速。Joinのプラットフォーム化を強化し、医療AIサービスとの連携を強め、医療現場の働き方改革に貢献する。

さらに、医療データを活用した新型保険商品の開発など、新たな収益構造を構築するとしている。

Joinは、医療関係者がセキュアな環境でコミュニケーションをとれるアプリ。標準搭載のDICOMビューワーにより医用画像を閲覧、チャットに共有可能。夜間休日などに院外にいる医師へのコンサルテーションツールとしての活用や、救急患者の転院の際の病院間連携・情報共有などに利用できるという。日本で初めて保険収載されたプログラム医療機器(販売名は汎用画像診断装置用プログラム「Join」)。

Teamは、医療・介護サービスをシームレスにつなぎ、地域包括ケアシステムの推進をサポートするソリューション。介護事業所向けアプリ「Kaigo」や看護事業所向けアプリ「Kango」で記録した業務内容などを多職種間で情報共有・連携が可能。

MySOSは、患者自身や家族の健康・医療記録を行い、救急時などのいざという時にスムーズな対応をサポートするアプリ。健康診断結果やMRI・CTなどの医用画像をスマホで確認可能。PHR(Personal Health Record)としても活用でき日々の健康管理に役立てられる。

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「聞こえ」の課題に取り組み、日米韓で展開するデジタルヘルス領域スタートアップOlive Unionが7億円調達

「聞こえ」の課題に取り組み、日米韓で展開するデジタルヘルス領域スタートアップOlive Unionが7億円調達

テクノロジーで「聞こえ」の課題に取り組み、スマートフォンアプリで「音の最適化」が行える聴覚サポートイヤフォン「Olive Smart Ear」(オリーブスマートイヤー)を開発・販売するOlive Unionは4月5日、シリーズBにおいて、第三者割当増資と金融機関からの融資による総額約7億円の資金調達を発表した。引受先は、Beyond Next Ventures、Bonds Investment Groupが運営または関与するファンド。借入先は日本政策金融公庫など。累計調達額は約20億円となった。

調達した資金は、「聞こえ」に課題を持つ方をはじめ耳鳴りなどの耳鼻領域における新製品の研究開発および既存製品のマーケティング費用、デジタルヘルス領域で注目されているデジタルセラピューティクス(DTx。Digital Therapeutics / デジタル治療)を見据えたソフトウェア・アプリの研究開発および調査にあてる。DTxとは、デジタル技術を用いて、疾病の予防・診断・治療などの医療行為を支援するソフトウェア(SaMD: Software as a Medical Device)を指す。

なおOlive Unionは、現行製品ではカバーしていない、「聞こえ」に関してより重い課題を抱えている方向けに、2021年9月以降の新製品リリースを予定しているという。

2016年創業のOlive Unionは、デジタルヘルス領域における耳領域のひとつ、「聞こえ」に課題を持つ方と潜在的社会課題に向けて、Olive Smart Earの開発・発売に取り組むスタートアップ。同製品は、独自開発のサウンドアルゴリズムを搭載したアプリにより、人の手を介さず自動で音の調整が可能だ。

日本における「聞こえ」に課題を持つ人口は1500万人超とされ(日本補聴器工業会「JapanTrak 2018調査報告」)、高齢化とともに増加が進んでいるものの、補聴器普及率は約14%と主要各国における使用率の半分にも満たない状況という。

Olive Unionはこの課題の解決を図るべく、DTxを見据えたアプリ・サービス開発に取り組み、自宅にいながらにして耳領域におけるDTxが実現する未来をミッションのひとつとして研究・開発を進めているという。

使い心地やデザインを理由に、叔父が使用を止めたことがきっかけ

Olive Unionの創業は、創業者兼代表取締役Owen Song(オーウェン・ソン)氏が、叔父の家で高額な補聴器がごみ箱に捨てられていることに気が付いたのがきっかけという。叔父は難聴を患っていたものの、補聴器の使い心地やデザインなどを理由に、1週間程度で使用を止めたそうだ。

そこで、ソン氏が補聴器を分解したところ、要素技術や部品などで改善の余地が多いことがわかったという。「メガネをかけるように、自然に『聞こえ』をサポートする製品を作れないか」というアイデアが浮かび、プロダクトデザインこそ「聞こえ」の課題解決を実現できると確信した。

実はソン氏は、学生時代はサムスン直下のSamsung Art & Design Institute(SADI。サムスン アート&デザイン インスティテュート)でプロダクトデザインを専攻し学んでおり、日常生活での鍵の締め忘れを防止するプロダクトを手がけ、世界三大デザインアワードのひとつ「Red Dot Design Award」で「Best of Best」を受賞(2008年)したという経歴の持ち主。その知見が活きた形だ。

補聴器の世界では、開発から販売まですべてを一貫して手がけている企業がないため製品化プロセスの様々な面でコストが膨れ上がりやすく、開発側の観点では性能上大差がない場合でも高額になる傾向にあるという。

また補聴器は、他人から見えないように耳穴に入れる、また肌色にするといった「隠す」デザインが主流だったそうだ。これら複数の要因により、ソン氏は「聞こえ」に関連する市場、イメージなどについて閉鎖的な印象を受けた。

そこで「従来の聴覚サポートの概念を覆す製品をつくる」というコンセプトを掲げ、まず開発を始めたのがソフトウェアの開発。Bluetooth接続機能を搭載した聴覚サポートデバイスに、ユーザー自らが「聞こえ」の調整が行えるイコライジング機能を搭載した。Olive Smart Earは、音響工学とデザイン設計による聴覚サポート機能とサウンドを楽しめる製品として、2016年に米クラウドファンディング「Indigog」で予約を実施。開始1カ月で約1億円の資金調達を達成した。

ファッショナブルなメガネのように、プロダクトデザインで「聞こえ」の課題、社会課題を解決する

そして、2019年に発売を開始した製品が2代目Olive Smart Earだ。Olive Smart Earのデザインは一般的なイヤフォンと変わりなく、外観だけでは聴覚サポートイヤフォンなのかどうか区別がつかない。「聞こえ」に課題がある方が装着しても、第三者にはまったくわからないはずだ。

ユーザーは、Olive Smart Earを初めて装着した際に、専用アプリにより高音・低音が聞こえる状態について確認される。ここでは特定の音が聞こえるかどうかに対してタップ操作を行うだけでよく、面倒な設定などは必要ない。

「聞こえ」の課題に取り組み、日米韓で展開するデジタルヘルス領域スタートアップOlive Unionが7億円調達

Olive Smart Earを初めて装着した際には、専用アプリにより高音・低音が聞こえる状態についてユーザーに対して確認を行う(画面写真左)。この調整は、いつでもやり直せる(画面写真右)

「聞こえ」の課題に取り組み、日米韓で展開するデジタルヘルス領域スタートアップOlive Unionが7億円調達

Olive Smart Ear用アプリのホーム画面(画面写真左)。環境モードの変更、音量調整などが可能。イコライザー設定では聞こえる周波数の微調整が行える(画面写真右)

この調整アルゴリズムはOlive Unionが独自開発したもので、世界初という。補聴器の場合専門店などで定期的な調整が必要になるが、Olive Smart Earではアプリによりユーザー自身が調整可能とすることで、聴覚サポートに必要な人件費の抑制にも成功した。

またOliveUnionが強調している点に、「なぜ聴覚サポートデバイスはファッショナブルでないのか?」がある。視覚の課題を解決するメガネはファッション性に富み、身に着ける楽しみがあるように、同社は耳の領域における研究開発とともにプロダクトデザインの多様性を追求しているという。

「聞こえ」の課題に取り組み、日米韓で展開するデジタルヘルス領域スタートアップOlive Unionが7億円調達

この取り組みの理由は、ソン氏の開発における出発点のひとつに「着用を恥ずかしく感じさせない、格好良くしよう」という思いがあるからという。同氏は、「デザインが社会課題を抜本的に解決する」と信じているとした。

同氏は、人の心理にある「補聴器を身に着けることへの恥じらい」に答えがあると感じているという。補聴器のデザイン開発は、耳の中に隠すという流れが主流となっており、これに応える形で大きさやデザインが発展を遂げてきた。ただ小型デバイスは装着を隠す代わりに性能を低下させざるをえないことがあり、利用者の満足度が低くなる可能性があるという。この課題を突き詰めて、プロダクトデザインから「聞こえ」の可能性を最大化することに取り組んだそうだ。

アメリカでは、食品医薬品局(FDA)から医療機器認定を取得

Olive Smart Earは、すでに公式サイトや家電量販店などで販売しており、ユーザーのボリュームゾーンは40~60代という(男性が7割)。同社は、「聞こえ」に課題がある方にとって、デザイン面や価格面で手に取りやすいとしている。

ただOlive Smart Earは、米国では食品医薬品局(FDA)から補聴器として医療機器認定を取得しているものの、日本では医療機器関連の認証を得ていない。この点は、同社公式サイトの「よくある質問」でも明示している。

日本での取得の計画があるか確認したところ、まずはデザインや機能、価格の点でブレイクスルーを起こし聴覚サポート機器の普及率を向上させることを目指しており、マーケティング上日本では認定取得は最適ではないと考えているという。

同社はFDAからの医療機器認定取得という実績・ノウハウから、日本で申請した場合も数カ月で取得できるものと考えており、むしろ日本では(同社調査によると)補聴器・医療機器に対するイメージや補聴器の価格に関する印象について懸念しているそうだ。医療機器に関する認定の重要さは認めるものの、「聞こえ」に関する課題を抱える方に気軽に利用してもらう上で制約になる可能性を考慮しているとした。

「聞こえ」に課題を持つ方とともに、愚直に解決に取り組む

Olive Unionは、「聞こえ」に課題がある方に使ってもらうことに注力しており、日本においては3年以内に10万人ユーザーの獲得を目指しているという。世界マーケットではすでに2万台を販売しており、やがては5000万ユーザーを獲得したいとしていた。

ソン氏は、シリコンバレーに由来するスタートアップのトレンドなどは理解しているものの、本当にそれらが人々の生活に必要なのか疑問に考えており、必要性を問いかけたいという。同氏は「聞こえ」に課題を持つ方とともに、愚直にその課題解決に邁進したいとのことだ。

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スマホを臨床的に認められた血圧計にするアプリをSiri開発者と科学者の「Riva Health」が開発中

科学者のTuhin Sinha(トゥヒン・シンハ)氏とSiriの共同創設者であるDag Kittlaus(ダグ・キトラウス)氏が設立したRiva Healthは、臨床的に認められた方法で人々が血圧を測定できるようにしたいと考えている。血圧を測定し、心臓疾患の初期徴候を確認することで、リスクのある患者が実際のリスクが発生する前に問題に対応することができるからだ。市場に出回っている他のハードウェアソリューションも同じ目的を掲げているが、Rivaはエンドユーザーが持っていると同社が考えるハードウェア、つまりスマートフォンと統合する純粋なソフトウェアソリューションを目指している。

突然姿を現し、米国時間3月17日にローンチした同社は、Menlo Venturesが主導し、True Venturesが参加したラウンドで1550万ドル(約17億円)のシード資金を調達した。そのうちUC HealthとUniversity of Colorado Innovation Fundが500万ドル(約5億5500万円)を出資した他、GoHealthのBrandon Cruz(ブランドン・クルーズ)氏やMadison IndustriesのLarry Gies(ラリー・ギース)氏などのエンジェル投資家が参加している。投資前に3年間シンハ氏と交渉を行っていたMenloのGreg Yap(グレッグ・ヤップ)氏が取締役に就任する。

AIアシスタント「Viv」の創設者でもあるキトラウス氏は、自身が深刻な健康問題を経験した後、デジタルヘルスに変化をもたらす方法について考え始めたと述べている。キトラウス氏は2016年に膵臓の神経内分泌癌と診断されたが、これはAppleの最高経営責任者だった故Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏が患っていた癌と同じ種類のものだった。

「私は血液測定に関するアイデアを検討することに多くの時間を費やしていたのですが、そこには以前自分がいた両方の会社にあったものが欠けていました。世界を動かす力を持ったすばらしい技術的イノベーションが欠けていたのです」と彼はいう。

キトラウス氏は、友人のShawn Carolan(ショーン・カロラン)氏とこの夏に交わした内輪の会話について触れた。Siriに最初に投資したこの友人は、Rivaに使われている技術を長年開発してきた科学者トゥヒン・シンハ氏を紹介してくれた。

Rivaは、スマートフォンでアプリを開いて「Go」をタップするだけで利用できる。スマートフォンの背面カメラのフラッシュが起動し、ユーザーはその上に指をかざすように誘導され、適切な位置にロックされるまでアプリが調整してくれる。その後、Rivaはこのライトを使って血圧の変化を追跡し、画面上にそのレンダリングを生成する。

Riva Healthが計画しているデザイン。変更される可能性がある(画像クレジット:Riva Health)

「この技術でよく知られているのは、血管に光を当て、そこから波を取り出すことです」とシンハ氏は説明する。「当社の技術の新規性は波の形で、それが血圧とどのように関係しているかという点にあります。そして当社の企業秘密は、波の形の変化を厳密かつ包括的な方法で検証していることです」。シンハ氏はその検証方法については明らかにしなかったが、さまざまなシナリオ(立っている、座っているなど)で血圧を測定し、効果があるかどうかを確認することが鍵だと語った。

Rivaが心拍数5〜7回分のデータを追跡すると、測定対象者のその時点での血圧を包括的に把握できる。

データはHIPAAに準拠しており、高血圧をはじめとするリスクがあるかどうかを分析するためにかかりつけの医師または診療所に送ることができる。

「スマートフォンのようなプラットフォームへの移行は(健康と疾病管理の)測定と管理をモバイル型にするものです」 とシンハ氏はいう。Riva Healthは純粋なソフトウェアソリューションだ。

同社は現在Android携帯でそのソフトウェアを検証している最中だが、キトラウス氏は「今日あるどの携帯でも必要な信号を取得できるはずです」という。

ヘルステック企業、特にRivaにとっての大きなハードルは、臨床使用に関してFDAの認可を得ることができるかどうかである。同社は現在、FDAの承認手続きに取り組んでおり、2021年夏にリリース予定の無料アプリを試験利用するユーザーに対し、承認手続きを促進するための試験とデータ収集への参加を求める予定だ。

現在、Rivaはその技術を使って、臨床現場での血圧の変化を追跡しており、後半には自宅での使用データも集める。実世界でのシステムの使用状況を追跡することで、同社の病気管理技術が研究室や自宅の環境で動作し、有効であることを証明しようとしているのだ。

「血圧測定ができると主張する機械やガジェットはたくさんあります。それらはそれなりの血圧測定を行うことはできますが臨床基準は満たしてはいません」。とキトラウス氏は続ける。血圧カフや、iPhoneのようなスマートデバイスに接続するカフレスウェアラブルのようなその他のソリューションは、非臨床使用で血圧を測定するもので、精密なものではなく、血圧に関する明らかな問題を知らせるだけだ。

Rivaの目標は、医師も頼りにできるような正確さを日常にもたらすことであり、それは収益を上げる手段でもある。UC HealthのチーフイノベーションオフィサーであるRichard Zane(リチャード・ゼイン)博士はこの技術は「万全」であると述べている。過去3年間に700社以上の企業がゼイン氏のチームと協力しようとしてきたが、Rivaはその目標を達成した数少ない企業の1つだ。

「私たちのチームがテストしてみたところ、最初から問題なく機能していました。これは稀なことです」。とゼイン氏は述べている。同氏はさらに、参入への最大の障壁の1つはデバイスを必要としていたことであったことに言及し、Rivaは「患者がすでに持ち歩いているものに組み込まれ、心臓病や高血圧を管理できるようになる、実用的な新しい技術」をもたらすものだと付け加えた。

「Rivaのコアプロダクトは医療成果です」とシンハ氏は語る。同社は、成果に基づく医療が今後重要になってくると信じているスタートアップの1つであり、医師が1日に完了する診察回数ではなく、結果に対して報酬が支払われるようなモデルを念頭に置いている。このビジョンの下、Rivaは結果を病院のシステムやプロバイダーに販売することで収益化を図ろうと計画している。医師が患者を手術から遠ざけ、以前よりも早く問題を指摘できるツールを提供できれば、病院側がなぜそれを採用すべきかについて確固とした議論をすることができる。

価値ベースのモデルを採用しているのは医療機関のわずか20%であるため、同社の考え方が適切であったとしてもこれはビジネスの障害になるだろう。サービスを軌道にのせるために、当面は保険会社と協力していくとキトラウス氏は話している。Rivaは、高血圧の治療と管理に対して払い戻しを受ける。

「保険が適用され、消費者にも医師にも無料で利用できるようにしたいと思っています」と同氏は語った。

FDAがこの技術を承認しても、医師や医療従事者は「依然として懐疑的な姿勢を取る」と思われるが、最終的にはカフよりも正確で継続的な結果が得られることを納得するだろうとキトラウス氏は述べている。

「薬の代わりに、アプリを処方しているのです」と同氏はいう。

FDAの承認を待っているこのアプリは、2021年の終わりか2022年の初めに一般提供される予定だ。Rivaの今後数カ月が、その成功と有効性を決定する鍵となるだろう。チーフサイエンティストのシンハ氏は、厳格かつ迅速に作業を進めていると語る。同氏は、会社の成功と個人的なつながりを持っている。

シンハ氏は、59歳になる前に心臓病で5人の叔父と1人の叔母、そして父親を亡くしている。そしてこのアプリには、家族を失った状況を追跡する機能が搭載されている。

「胸に時限爆弾を抱えているような気がします」と同氏は吐露した。「どちらかといえば、私は自分のためにアプリの開発をしています」。

関連記事:VRの力を借りて人工網膜が進歩、人体臨床試験に向けて開発が進む

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Riva Health血圧計スマートフォン資金調達Siri

画像クレジット:Riva Health

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)

VRの力を借りて人工網膜が進歩、人体臨床試験に向けて開発が進む

視覚障害を持つ多くの人々にとって、人工網膜の開発はひと筋の光とも言えるが、いよいよその実現が現実味を帯びてきた。これまでとはまったく異なるアプローチを採用した最新のテクノロジーでは、光を電気に変換する極小ドットを用いる。そしてバーチャルリアリティを用いることで、この構想の実現性が高いことことが確認できている。

この光起電力人工網膜はスイス連邦工科大学ローザンヌ校によって開発されたもので、Diego Ghezzi(ディエゴ・ゲッツィ)氏がこのアイデアの実現に向けて数年前から取り組んでいる。

初期の人工網膜は数十年前に作られており、その基本的な仕組みは、体外に設置されたカメラ(例えば眼鏡など)からワイヤーを介して微小電極アレイに信号が送られるというものだ。微小電極アレイは、機能していない網膜の表面を貫通し、機能している細胞を直接刺激する多数の小さな電極で構成されている。

これの問題点は、アレイへの電源供給やデータ送信のために眼球の外側からワイヤーを通す必要があることだが、これは人工装具や身体全般において一般的に「すべきでないこと」とされている。また、アレイ自体の大きさによって配置できる電極の数が制限されるため、最良のシナリオでの効果的な解像度は数十から百「ピクセル」程度のものだった(視覚システムの仕組み上、このピクセルの概念は私たちがイメージするものとは異なる)。

光を電流に変える光起電力素材を使用することで、こういった問題を回避するというのがゲッツィ氏のアプローチだ。デジタルカメラの仕組みとさほど変わらないが、電荷を画像として記録するのではなく、電流を網膜に送り込むというわけだ。電力やデータを網膜インプラントに中継するためのワイヤーは必要ない。どちらも、網膜インプラントを照らす光によって提供されるためだ。

画像クレジット:Alain Herzog / EPFL

同校が開発中の網膜インプラントには何千もの小さな光起電力ドットが配置されており、理論的には眼球の外側にある装置がカメラからの検出結果に応じて光を送り込むことで、映像が映し出されるという。当然のことながら、これは非常に難しい技術だ。また、画像を撮影し、目を通して網膜インプラントに投影するメガネやゴーグルも必要である。

我々がこの方法を初めて耳にしたのは2018年のことだが、新たな資料によるとその後状況は多少変化しているようだ。

「ピクセル数を約2300から1万500に増やしました。そのため今では映像を個々に見るというよりは、連続したフィルムのように見えます」とゲッツィ氏はTechCrunchへのメールで説明してくれた。

当然、そのドットが網膜に押し付けられるとなると話は別である。何しろ正方形なら100×100ピクセルほどしかないのだから、高精細度と呼ぶには程遠い。しかし、人間の視覚を再現することが目的ではない。そもそもそれは不可能なことであり、特に最初のトライでそれを実現させることは現実的ではないだろう。

「技術的には、ピクセルを小さく高密度にすることは可能です。問題は、発生する電流がピクセルサイズに応じて減少するということです」とゲッツィ氏。

電流はピクセルサイズに応じて減少する。ピクセルサイズはもとより大きくはない(画像クレジット:Diego Ghezziその他)

そのためピクセルを増やせば増やすほど機能を果たすことが難しくなり、さらに隣り合う2つのドットが網膜の同じネットワークを刺激するというリスクもある(これはテスト済みだという)。しかし数が少なすぎると、ユーザーにとって分かりやすい画像が得られない可能性がある。10500個というと十分に聞こえ、またそれで十分なのかもしれないが、それを裏付けるデータがないのが実情だ。そこで同チームは一見まったく縁のなさそうな媒体に注目した。VRである。

研究チームが実験段階の網膜インプラントを人に装着してその効果を確かめるという「テスト」を正確に行うことはできないため、デバイスの範囲や解像度が物体や文字を認識するような日常的タスクに十分であるかどうかを判断する別の方法が必要だったのだ。

画像クレジット:Jacob Thomas Thornその他

これを実現するため、インプラントを介して網膜を刺激することで生まれるであろう光の「蛍光物質」が見える以外は真っ暗なVR環境に人々に入ってもらう(ゲッツィ氏はこれを、明るく移り変わる星座のようなものだと表現している)。そして蛍光物質の数や表示される範囲、画像が移り変わるときの光の「尾」の長さを変えて、被験者が文字や風景などをどの程度認識できるかをテストした。

画像クレジット:Jacob Thomas Thornその他

その結果、最も重要なのは「視野角」つまり映像が映し出される範囲の大きさであることが判明した。どんなに鮮明な画像でも、視界の中心部だけに映し出された場合理解しにくく、全体の鮮明度が損なわれたとしても、視野が広いほうが良いということが分かったのだ。脳内の視覚システムの強力な分析により、まばらな画像でもエッジや動きなどを直感的に理解することができる。

これにより、インプラントのパラメーターが理論的に正しいことが示され、同チームが人体臨床試験に向けて動き出すことが可能となった。このアプローチは以前のワイヤー式のものに比べて非常に有望なものの、広く利用できるようになるには早くても数年はかかるだろう。それでもこのタイプの網膜インプラントが実用化される可能性があるということは、非常にエキサイティングなことであり、我々もこのトピックから目を離さず見守っていきたいと思う。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:VR視覚網膜スイス

画像クレジット:Alain Herzog / EPFL

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

包括的メンズヘルスケア「Manual」が米国と欧州の投資家から33.1億円のシリーズAを調達

男性向けヘルスウェルビーイングのスタートアップManualは、米国のSonoma BrandsとWaldencast、および同社の欧州における既存投資家であるFelix CapitalとCherry Venturesから、3000万ドル(約33億1000万円)のシリーズAを調達した。このラウンドには、FJ LabsとGISEV Family Officeも参加した。今回の資金は、同社の製品開発および国際的な事業拡大に使用される。Manualは、診断、治療、継続的なケアを提供しており、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカでの展開を計画している。同社はすでにブラジルに進出している。

Manualは、同じく英国に拠点を置くNuman(1300万ドル / 約14億3000万円を調達)と競合している(ManualはNumanより1カ月早く立ち上げられた)。また米国では、Ro(8億7610万ドル / 約967億円を調達)やHims(上場)と競合している。これらのブランドはいずれも、ビタミンやED(勃起不全)などの問題に焦点を当てている傾向があり、男性がさまざまな面でよりよいセルフケアをすべきであるという考えを「ノーマライズ(一般化)」し、性的健康に関するスティグマを取り除くという、よくあるリフレインを掲げている。Manualは血液検査などを行い、心臓の健康、腸の健康、テストステロン、睡眠、エネルギー、免疫力を分析する。男性は歴史的に医者を敬遠する傾向があるため、Manualは大きな市場を狙っている。

Manualのアプリ

創業者兼CEOのGeorge Pallis(ジョージ・パリス)氏は、これまでWise(ワイズ)やDeliverooでマーケティングを担当していた人物だ。声明の中で同氏は次のように述べた。「幅広い年齢層の男性が、複数の健康問題を解決するためにManualを利用するようになってきたことは、我々にとって大きな励みとなっています。1つの健康問題には1つ以上の原因があることは明らかであり、当社はお客様に、より包括的な方法で健康を管理する能力を提供することができます。さまざまな治療法を用いて、お客様の健康状態を理解し、改善することができるのです」。

インタビューの中で、パリス氏はこう付け加えた。「当社は独自の遠隔診療製品を構築し、血液検査の提供にはさまざまなアプリケーションを用意しています。血液検査の結果が出たときには、臨床医がすべてのデータとその意味を説明します。また、進捗状況を確認したり、医療チームと定期的に連絡を取ることができるツールも用意しています」。

Felix Capitalの共同設立者兼パートナーであるAntoine Nussenbaum(アントワン・ヌッセンバウム)氏は次のように述べている。「男性が自分の健康に気を配り、健康上の懸念について率直に話すことに対するタブーを取り除くには、まだまだやるべきことがたくさんあります。しかし、消費者の間では変化が起き始めています」。

Sonoma Brandsのマネージングディレクター、Kevin Murphy(ケビン・マーフィー)氏はこうコメントしている。「Manualは、男性が自分自身をより大切にし、より充実した人生を送れるようにするために存在しています。ジョージ(・パリス)と彼のチームは、明確なビジョンとスキルを持っており、Manualをこのエキサイティングで重要な分野のリーダーにすることができるでしょう」。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Manual資金調達

画像クレジット:Manual

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

米国初の新型コロナワクチン接種デジタル証明をニューヨーク州が運用開始、IBMがブロックチェーン活用で協力

米国初の新型コロナワクチン接種デジタルパスをニューヨーク州が運用開始、IBMがブロックチェーン活用で協力

New York State

米ニューヨーク州は3月26日(現地時間)、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種あるいは、陰性であることを証明するデジタルパスポート「Excelsior Pass」の運用を開始しました。Android、iOSアプリで提供されており、読み取り側も同じくスマートフォンで対応します。同種のデジタル証明書の運用は、米国では初だとしています。

新型コロナのワクチン接種が開始されている国々では、ワクチンを接種したことや陰性であることを証明することで、徐々に経済活動を再開する動きが始まっており、そのための証明アプリの開発も盛んです。ただ、怪しげなアプリを規制する意味でも、Appleは、証明アプリについては信頼できる機関からのみ申請を受け付けています。

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その点、Excelsior Passはニューヨーク州の公式ということで、信頼性が高いもの。開発にはIBMが協力しています。医療情報を含む個人情報はブロックチェーンや暗号化により保護されており、開発元のIBMはもちろん、それを読み取って利用する企業側でも把握できないとしています。また、利用時には、QRコードとともに名前と生年月日の分かる写真付きの身分証明書の提示が必要とのことです。なお、QRコードをスマートフォンで表示するのではなく、紙に印刷したQRコードを提示することでも利用出来ます。

ニューヨーク州ではExcelsior Passを利用することで、スタジアムやアリーナ、結婚披露宴などのイベントへの参加が可能になるとのこと。マディソンスクエアガーデンやダイムズユニオンセンターなどの主要な施設では今後数週間でExcelsior Passに対応するとしています。

ただし、Excelsior Passの利用は強制ではなく、個人あるいは企業側も任意です。利用しない場合には、従来通りに紙の証明書を利用できるとのことですが、今後、事実上必須になっていく可能性はありそうです。

(Source:New York State、Via:USA TodayEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:IBM(企業)IBM Digital Health Pass(用語)新型コロナウイルス(用語)ブロックチェーン(用語)ワクチン(用語)ニューヨーク(国・地域)

在宅検査キットのEverlywellがヘルスケア企業を買収、親会社Everly Healthを設立し事業範囲を拡大

オースティンを拠点とする在宅検査キットのスタートアップEverlywell(エヴァリーウェル)は、2社の買収と、同社のCEO兼共同創業者であるJulia Cheek(ジュリア・チーク)氏が率いる新しい親会社の設立により、その活動範囲を大幅に拡大することになった。新会社はEverly Healthと呼ばれ、今後、在宅検査キットや健康教育、米国全土の臨床医ネットワークを通じた集団規模の検査、テレヘルス、支払者が自己負担する / 企業レベルの自己採取検査などのサービスを提供していく。

これは、2015年に設立されたEverlywellにとって大きな動きだ(同社は2016年、TechCrunchのDisrupt SF Battlefieldでファイナリストに選ばれている)。同社は着実に提供内容を反復しており、家庭での検査を不妊治療製品から食品の過敏症やアレルギーにまで拡大し、2020年は在宅新型コロナウイルス(COVID-19)検査も開始した。

これからEverly Healthの事業は、そのような家庭でのコンシューマー向け診断や個人の健康教育だけでなく、Everly Health SolutionsとリブランドされるPWNHealthが持っている、米国内のヘルスプラン、雇用者、ラボなどとの数多くの関係を含むことになる。

実はEverlywellはPWNHealthの長年のパートナーであり、今回の買収は両社にとって非常に理に適っていたと、チーク氏は筆者に語ってくれた。両社は何年も前から提携しており、新型コロナのパンデミックをきっかけに、その協力関係はさらに深まったという。

「2020年、当社はさまざまな企業とのパートナーシップを通じてソリューションを提供していました。その経緯から、両社の文化は非常によく一致しており、チームは緊密に協力し合えるとわかっていました」と同氏は語った。「私たちはともに人々を助け、命を救うという緊急の必要性を感じていただけでなく、診断を基盤とした、消費者の手に届きやすい、有効なケアに関する領域を共有しています」。

チーク氏によると、より包括的なケアを提供するために必要なパズルのピースを獲得するという決断は、パンデミックに後押しされた部分もあるが、実際にはコロナ禍以前からEverlywellが見始めていたことを単に加速させたものだったという。2020年12月に調達した1億7500万ドル(約192億円)の新資本により、Everlywellは、この瞬間を最大限に活用するために大胆な行動を取ることが可能な状態にあった。

「パンデミック前はもちろんのこと、特にパンデミック中、そしてパンデミック後に向けても、消費者が使いやすい検査サービスへのニーズが急速に高まっていることを実感しています」と同氏はいう。「当社のビジネスは、通常の診察が再開されてからも飛躍的な成長を続けており、300%という伸びを見せています。パンデミック以降、医療は大きな転換期を迎えていると思うので、この分野の成長に合わせて、フルサービスの診断ソリューションを提供できるようにするにはどうしたらよいか、と考えました。つまり、Everlywellは消費者向けのブランドであると同時に、企業レベルの在宅検査やさらに幅広い消費者向けの診断に対する大きなニーズを満たす企業になるのです」。

Everly Health SolutionsはEverlywellと競合すると考えられる多くの顧客にもサービスを提供しているため、今回の買収はEverly Healthのビジネスに複雑さをもたらす。チーク氏は、両事業ともHIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)基準に準拠したセキュリティとデータ保全の実績があることを指摘し、反競争的な行為の可能性がないことを保証するために、Everly Health Solutionsに「完全なデータの独立性」をもたらす厳格なファイアウォールを設定していると述べている。

しかし両社はカスタマーエクスペリエンス、デザイン、製品に関するリソースを共有し、高品質なカスタマーエンゲージメントに焦点を当てた統一ブランドを構築する計画だという。

Everly Healthは今回の取引の財務詳細を開示していないが、PWNHealthのCEOであるSanjay Pingle(サンジャイ・ピングル)氏が当面の間、統合会社で過渡的な役割を担い、Everly Healthの取締役を務めることを明らかにした。また、PWNHealthに出資しているSpectrum EquityおよびBlue Cross/Blue ShieldのコーポレートVCであるBlue Venture Fundは、Everly Healthの株式を保有することになる。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Everlywell買収

画像クレジット:Everlywell

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Aya Nakazato)

薬を使わない便秘治療ピルを開発したイスラエルのVibrantが8.2億円調達

慢性的な便秘の治療のために使い捨て振動ピルを開発した医療テクノロジー企業Vibrant(ビブラント)は米国時間3月26日、750万ドル(約8億2000万円)のシリーズEラウンドを発表した。同社はテルアビブに拠点を置き、スタートアップのベテランLior Ben-Tsur(リオール・ベン−ツール)氏が率いている。2007年の創業以来、同社は累計2500万ドル(約27億4000万円)を調達した。今回のラウンドはUnorthodox Venturesがリードし、Sequoiaが参加した。

3回目で最終となる米食品医薬品局(FDA)の試験を実施中の同社は、2022年に米国で事業を立ち上げる計画だ。カプセルはマルチビタミンのサイズだとベン−ツール氏は話した。

「患者は毎日毎日薬を服用するのに慣れています。なのでそうした意味ではこのピルは異なる体験にはなりません。しかしピルは薬を一切含んでいません」と同氏は述べた。同氏は創業者ではないが、CEOとして10年前に同社に加わった。

American Gastroenterological Associationに掲載された論文によると、米国の成人の約16%が便秘に悩まされており、60〜101歳に限ってみるとこの割合は33.5%に増える。また、便秘は女性の方に多く、男性の1.5倍だ。

便秘の対処法として最も一般的なのが店頭で販売されている薬または処方薬の服用で、これらの薬は排便を促す大腸の神経をターゲットとする。しかしVibrant Capsuleは「一度飲み込むと、化学物質を使うことなしに腸壁の自然の活動電位を促進し、リラックスさせ、通じをよくします」と同社は声明で述べた。

同社によると、薬不要であるのに加えて、下剤を上回るVibrantの価値は排便がコントロールされることだ。一方の下剤は予期せぬ下痢や長期の副作用を引き起こす。また、下剤は日常的に服用するようになっているが、使い捨てのカプセルは週2〜5回でいい。カプセルは、服用したときに自動的に記録するアプリとつながっている。そして患者は排便があればアプリに記録し、月次レポートを医師に送る。そうすることで治療をモニターし、必要に応じて治療のプロトコルを調整することができる。

Vibrantが2019年に実施した臨床試験では、患者250人がダブルブラインドテストに参加した(133人がVibrant Capsule、117人が偽薬を服用)。結果は、Vibrant Capsuleを服用した患者の方に3時間以内に排便を経験した人が多かった。試験と結果はジャーナルNeurogastroenterology and Motilityに掲載された。

数年前に医師とエンジニアのグループが生きている豚の結腸でテストを行い、誤って結腸壁を挟んでしまった。その結果、豚はすぐに排便したことに気づいた。テストは実際には便秘とはまったく関係のないものについてで、偶然の発見だった。効果を再現するために、チームは3時間装着したときに排便を引き起こす振動ベルトを作った。

「問題は、排便を得るために誰も3時間揺さぶられたくないということでした」とベン−ツール氏は話した。そのことを念頭に、似たような結果をもたらしつつ振動は感じられない、人間の便秘の治療開発に着手した。Smart Pillなど、メカニカルカプセルはすでにマーケットに存在する。Smart Pillは消化管を通過しながら消化管全体の動きをレポートし、医師が消化管運動異常を診断できるようにする診断カプセルだ。なのでVibrantのチームは人々が安全にカプセルを飲み込んで排泄することができるとわかっていた。

ベン−ツール氏によると、過去20年、便秘の治療はほとんど変わっていない。治療プロトコルはずっと薬の服用にフォーカスしてきた。マーケットの規模、この分野におけるイノベーションの欠如、そして将来性を認識したとき、同氏はVibrantを率いたいと思った。

Vibrantは今回調達した資金を、初のマーケットとなる米国でのカプセル提供に使う計画だ。同社は現在、カプセルが立ち上げ当初から保険でカバーされるよう、ヘルスケアプロバイダー、そして保険会社と協議している。診断テストにしか使われないSmart Pillはまだ保険でカバーされておらず、患者が負担するコストは平均で約1400ドル(約15万3000円)だ。ベン−ツール氏とチームはアクセスしやすいプロダクトの提供を目指している。「当初から我々は既存の薬よりも高価になりそうなものは作らないことを使命としてきました」と同氏は述べた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Vibrant医療資金調達

画像クレジット:Vibrant

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(文:Marcella McCarthy、翻訳:Nariko Mizoguchi

医療テックのRoは遠隔および自宅初期診療プラットフォームの拡大に544億円を調達

医療テックスタートアップRo(ロー)は、遠隔医療と自宅初期診療を提供する同社のハイブリッド型医療プラットフォームをさらに拡大するために、5億ドル(約544億円)を調達した。計画には、薬局事業も含まれている。同社は、薬の配達の最適化と患者の医療負担削減のための垂直統合戦略を追究している。今回の投資はシリーズDラウンドだ。これにより2017年の創設以来の調達額は8億7600万ドル(約870億円)を超えた。

かなりの金額に感じられるが、Roの共同創設者でCEOのZachariah Reitano(ザッカリア・レイタノ)氏が私に話したところによれば、医療業界ではほんの「はした金」だそうだ。最初に企業を立ち上げたのは、そのためでもある。

「テック企業が医療業界の土俵に上がることが、どれほどすごいことかと語る人がいます」とレイタノ氏は話す。「医療は4兆ドル(約435兆円)市場だ、大変な規模だよと言われます。しかし、そこは世界でいちばん過酷な場所なのです。とにかく大き過ぎます。私は、テクノロジーでそれを半分に分けることができると考えています」。

今回の資金調達の第1の目的は、そこにあるとレイタノ氏はいう。つまり、医療サービスとテクノロジーを垂直統合させる取り組みを加速し、その過程で実現される効率化によって患者の医療負担を軽くするという最終目標に向かうものだ。

「私にとって一番うれしいのは、そのインフラへの投資が続けられることと、さらに増資できることです」とレイタノ氏は私に言った。「私たちは今後も遠隔医療に投資を続け、流通と薬局業務に投資を続け、自宅医療に投資を続け、さらにその3つの結合に、その後は診療科目の拡大、患者の遠隔モニターに投資します。デバイスを集めて患者に配布し、受動的な医療から積極的な医療へと移行させます」。

Roのモデルは、保険者、雇用主の資金提供、ガイデッドケアプログラムを介さず、消費者に直接、初期診療を届けることに重点を置いている。目的は、垂直統合とその他の効率的なエンジニアリングの取り組みにより医療費を軽減し、実質的に一部負担額と自己負担額を同等にすることを目指す。レイタノ氏によれば、現在の米国の保険制度は、個人の負担額を巧妙に隠しているだけだという。そのため、税金で補われているにせよ、職場が手取りの給与を削って医療費に回しているにせよ、とにかく自分のポケットからどれだけ医療費が出ているのかが、わかりづらくなっている。

画像クレジット:Ro

それが、同社が独自の薬局事業を展開し、常に足がかりを広げようと力を入れている理由になっている。同社は、2021年末までに薬局を10店舗、来年末までに15店舗を米国のほぼ全土に開設し、すべて地上ルートでの患者宅への翌日配達が可能になる戦略的な地点に配置する予定だとレイタノ氏は話す。

こうした垂直方向の最適化により、Roは一般的な医薬品500種類を月5ドル(約540円)で提供できるようになった。これには心臓疾患、不安障害、うつ、糖尿病などの薬も含まれる。2021年末までには、同じ価格で1000種類の医薬品を買えるようにするとのことだ。これで、多くの保険会社が同等の薬代として請求する一部負担金と、ほぼ同額になる。

またレイタノ氏は、新型コロナのパンデミックにより、Roのモデルに都合がよい方向に医療システムの大変革が起こり、ハイブリッド医療プランが加速されたとも話している。

「パンデミックは、医療システムに有意義な影響を2つもたらしたといえます」とレイタノ氏。「1つは、私たち全員が気にかけていたまさにそのとき、パンデミックが国全体のあらゆる不公平を照らし出したことです。その影響を日々被っている人たちには、ある意味よく知られた問題でした。地理的不公平、経済的不公平、人種的不公平などです。そうした不公平を感じた人は、それを誰かに話したくなりますが、みんなが同じぐらい高い関心を持っているとは限りません。しかし、その巨大なスポットライトが医療システムに当たったのです。もう1つは、すべての人の医療がオンライン化に進み始めたことです。途中から対面の直接診療に移行するにしても、オンラインから始まるようになるでしょう」。

Roのモデルは、遠隔医療、ほぼ毎日必要となる予約管理、場合によってはそれに続く自宅での直接診療という今の医療提供のかたちを、ずっと進めてきた。これが医療を大幅に効率化したことは確かだ。同時に、高齢者や移動が困難な患者が家に居ながらにして、診療所の医師から15分間の診察が受けられる。これは動画では叶わないことだ。

左から、Roの共同創設者Rob Schutz(ロブ・シュッツ)氏、ザッカリア・レイタノ氏、Saman Rahmanian(サマン・ラーマニアン)氏

ほとんどの業界オブザーバーは、レイタノ氏の考えはほぼ正しく、パンデミックが終わっても医療はもう、初期診療から対面で行う昔ながらの非効率なモデルには戻らないだろうと考えている。新型コロナ禍がもたらした建設的な効果に、遠隔医療は、従来方式に比べて、特に遠隔モニターと継続的で積極的な健康対策を組み合わせることで、大勢の患者の大量の初期診療の需要に対処する能力が高いと証明された点がある。

現在、Roは保険会社とは協力体制にないが、レイタノ氏は、それを完全に拒んでいるわけではないと語る。ただ今ある医療保険が高額で、不確かで、希有な結果に対するリスクプールを目的としたものであり、彼の意図するように機能しないだけだという。いずれは、さまざまな形が組み合わされた医療全体に医療保険が参入できる場所ができると彼は信じている。しかしその前に、そのインセンティブ構造を、実際のコアカスタマー、つまり患者本人に再び合わせるための方策作りに正面から取り組む必要がある。

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タグ:Ro資金調達遠隔医療オンライン薬局

画像クレジット:Ro

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(文:Darrell Etherington、翻訳:金井哲夫)

アマゾンがオンデマンドの医療サービス「Amazon Care」を米国の他の企業にも提供すると発表

Amazon(アマゾン)は、シアトルで実施した「Amazon Care(アマゾンケア)」の試験運用の成果に満足しているようだ。2021年夏にはこのサービスを全米に拡大し、自社の従業員だけでなく、あらゆる規模の企業にも開放すると、米国時間3月17日朝に発表した。Amazon Careは、オンデマンドと対面式のケアを組み合わせた医療サービスで、雇用者負担のヘルスケアに不足している要素を補うためのソリューションとしてアマゾンが提供するものだ。

Amazon Careは、専用のアプリを使って、看護師や医師に直接オンラインで医療相談を受けられる。そのリモートによるテキストチャットやビデオ通話の機能によって、従業員とその家族がケアを受けるまでの時間を短縮できると、アマゾンは今回の事業拡大を発表したブログ記事の中でアピールしている。対面でのケアが必要な場合には「往診」にも対応し、医療従事者を自宅に派遣して、血液検査や胸部検査などを行ったり、処方箋も自宅に届けてくれる。

今回の拡大は、リモートと対面では展開が異なる。リモートによる医療相談サービスは、アマゾンの自社従業員だけでなく、顧客として契約した他の企業にも、2021年夏から提供を開始する。対面ケアの方は、よりゆっくりと展開していく予定で、まずはワシントンD.C.、ボルチモアで提供を開始し「今後数カ月のうちに他の都市にも拡げる」とのこと。

米国時間3月17日の時点では、Amazon Careは同社の本拠地であるワシントン州で、他の企業にサービスの提供を開始。これは、他の企業がAmazon Careを従業員のための総合的な福利厚生パッケージの一部として契約することを目指している。アマゾンはこのサービスの大きな強みとして、検査におけるスピードの優位性を謳っている。それは例えば、新型コロナウイルスをはじめとする検査結果の迅速な通達などが含まれる。

Amazon Careの仕組みには、アマゾンならではの工夫が凝らされている。対面ケアのオプションを利用すると、アプリを通じて医師や医療従事者の到着予定時刻が提供されるが、これはアマゾンのアプリが荷物の配送でやっていることと不気味なほどよく似ている。

ワシントン州におけるAmazon Careの試験運用は1年半前に開始されたばかりだが、アマゾンは以前から企業ヘルスケア業界を変革することを念頭に置いていた。同社は2018年の初めに、Berkshire Hathaway(バークシャー・ハサウェイ)およびJPMorgan(JPモルガン)との提携を発表し、民間企業のヘルスケアプロバイダー市場に見られるギャップに対処するための合弁会社を設立すると発表した。

関連記事:Amazon、JPモルガン、バークシャー・ハサウェイがヘルスケアへ――当面社員向けの福利厚生サービス

この財布の厚いオールスターチームは、その間の3年間で多くのことを成し遂げた後、2021年の初めに正式に解散することになった。アマゾンとパートナー企業が提携を解消した理由の1つは、それぞれが直面していた問題を独自に解決したことにある。その点におけるバークシャー・ハサウェイとJPモルガンの取り組みは目立たないものの、アマゾンは明らかにAmazon Careのことに言及していた。

関連記事:アマゾン、バークシャー・ハサウェイ、JPモルガンのヘルスケア合弁事業が正式に終了

バランスシートに潤沢な現金を持ち、優秀な人材を確保する必要のある大手ハイテク企業が、従業員のために独自の医療保険制度を立ち上げることは珍しくない。例えば、Apple(アップル)やGoogle(グーグル)は、医療専門家が常駐するウェルネスセンターを構内に設置している。しかし、アマゾンの野心は明らかに同業他社のそれを上回っており、自社の従業員ケアサービスを向上させるために行った作業を、事業化しようとしているように思われる。ちなみに、この戦略はAWSで行われたことと大して違わない。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:AmazonヘルスケアAmazon Care

画像クレジット:Amazon

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ITでがん治療を支援するフランスの意欲的なスタートアップ「Resilience」

新しいスタートアップのResilience(リジリエンス)は、がん治療施設とがん患者を、治療のあらゆる段階で手助けしたいと考えている。これはフランスの有名な起業家2人が立ち上げた意欲的なプロジェクトだ。彼らは自分たちのIT技術をこの新たな医療スタートアップに活用したいと思っている。

Céline Lazorthes(セリーヌ・ラゾルテス)氏とJonathan Benhamou(ジョナサン・ベンハモウ)氏の2人が共同CEOを務める。Nicolas Helleringer(ニコラス・ヘレリンジャー)氏とMatthieu Pozza(マシュー・ポッツァ)氏が残り2人の共同ファウンダーで、それぞれCTO(最高技術責任者)とCPO(最高人事責任者)に就いている。ラゾルテス氏は以前、フランスで有数の「Money Pot(個人がお金を集める仕組み)」の会社であるLeetchiを共同設立した。さら、スピンアウト企業としてマーケットプレイス決済ソリューションのMangoPayも立ち上げている。どちらの企業もCrédit Mutuel Arkéa(クレディ・ミュチュエル・アルケア)に買収された。

ベンハモウ氏は、クラウドベースの人事サービスPeopleDocを共同設立した。2018年、同社はUltimate Softwareに買収されている。同氏は、買収後も上場企業である同社の幹部を務めた。その直後、非上場株式投資会社のHellman & Friedman Capital PartnersがUlitimate Softwareを買収した。

2020年、2人はかなりの時間を割いてProtegeTonSoignantという非営利団体で一緒に仕事をした。140名の人々とともに、同組織は740万ユーロ(約9億6000万円)の寄付を集め、個人防護具を購入して必要としている病院に届けた。寄付金集めと物流面、両方の挑戦だった。

医療専門家と長い時間話す機会を得た2人は「少なくとも次の10年を命を救う人たちに自らを捧げる」決心をした、とラゾルテス氏はいう。

それは野心的な挑戦と思われ、彼らもそれを知っていた。「医療に関しては何も知りません、人事や金融のことを知らないのと同じように。私たちは非常に規制の厳しい市場に参入しようとしています」。

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だから彼らは1つの分野、がん治療に特化しようと決めた。研究機関が過去数年間に著しい進歩を遂げてきた結果、がん治療はますま複雑化している。例えば次の3年間に300種類の新たな治療法が出てくる、とベンハモウ氏は推測する。治療は広域療法から標的療法へと徐々に移りつつある。

現在、がん治療施設は3つの課題に直面している。第1に「人間の脳はこの全データを吸収できません」とベンハモウ氏はいう。第2に、平均余命が伸びるにつれ、がん症例は毎年増えている。腫瘍委員会は個々の患者の治療方針の決定に1分半から2分間費やすことになる。

第3に、前の2つの問題の結果、患者は自己裁量に任されることになる。例えば治療における投与量の調節がなされなかったために副作用に苦しむ患者もいる。

画像クレジット:Resilience

Resilienceは、医療チームと患者療法のためのがん治療の多面的ソリューションになることを目指している。開業医に対しては、Resilienceが治療決定を支援する「サービスとしてのソフトウェア」ソリューションになる。同社は科学文献を分類し、機械学習を利用して過去の症例との類似性を調べ、さまざまな条件に基づく臨床試験を見つけ出す。

患者に対しては、自分のがんに関するコンテンツや情報をアクセスできるウェブとモバイルアプリを提供する。具体的に、例えばResilienceは患者が副作用を理解して治療する手助けをする。

「私たちのゴールは、このアプリが患者のクオリティ・オブ・ライフを改善できると証明することです」とラゾルテス氏はいう。Resilienceはアプリを使って質問をして、治療を改善するためのデータを集めることも考えている。

すでに同社はデータサイエンスチームを結成している。そこでは自然言語処理を使って科学文献を解析する。さらに、医療チームと協力してあらゆる部分を二重チェックする。

患者間の類似性を見つけるために、同社は複数の病院と提携して過去の症例データを入手する予定だ。

Resilienceは、調達ラウンドで600万ドル(約6億5000万円)を調達した。元AlvenのパートナーであるRaffi Kamber(ラフィ・カンバー)氏とJérémy Uzan(ジェレミー・ウザン)氏が設立したVCのSingularがラウンドをリードした。テックビジネスのエンジェル投資家であるLa RedouteのNathalie Balla(ナタリーバラ)氏、Xavier Niel(グザビエ・ニール)氏、AlanのJean-Charles Samuelian(ジャン-シャルル・サミュリアン)氏、Sation FのRoxanne Varza(ロクサーヌ・バルザ)氏らも参加した。

同日の調達ラウンドには、医療投資家であるAstraZenecaのCharles Ferté(チャールズ・フェルテ)氏、BioclinicのPhilippe Dabi(フィリップ・ダビ)氏、OwkinのThomas Clozel(トーマス・クローゼル)氏などの名前もあった。

Resilienceはミッションに向かって行動する会社だ。同社は科学委員会、患者委員会と提携を結んでいる。世界有数のがん研究施設であるGustave Roussy(グスタフ・ルッシー)がん研究所もResilienceの共同ファウンダーに名を連ねている。

かなりの数の利害関係者がいるが、これは医療会社を作るためには正しい行動だ。Resilienceは今、自分たちのプロダクトを洗練し、がん治療を実際に改善する可能性のあるプロダクトを展開するために最適な抑制と均衡のシステムを手に入れた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Resilienceがん医療

画像クレジット:Resilience

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nob Takahashi / facebook

3DプリントのDesktop Metalが「健康」にフォーカスする事業を開始

3Dプリントの未来は大量生産かもしれないが、健康関連製品はまさに現在のトピックだ。歯列矯正から人工関節まで、医療ニーズはまさに積層造形のスイートスポットといえる。プロトタイピングは上限のあるカテゴリーだが、真の大量生産はこれらのシステムでまだ不可能な領域である。医療・歯科分野はより大きな市場でありながら、カスタマイズが必要な分野でもある。

米国時間3月15日にDesktop Metalは、医療関連製品に特化した事業であるDesktop Healthのローンチを発表した。このビジネスにはバインダージェッティング、3Dバイオプリンティングおよび各種材料などを含むさまざまな技術が含まれている。

画像クレジット:Desktop Health

「現在、世界では毎年850億ドル(約9兆3000億円)を超える医療用および歯科用インプラントが製造されています」とDesktop MetalのRic Fulop(リック・フロップ)CEOはリリース文で述べている。「2010年代の終わりまでにこれらの部品の大部分が印刷され、患者に合わせて作られるようになると考えており、この市場はDesktop Metalにとって重要な機会になると考えています」。

歯科 / 歯科矯正(リテーナーやインビザラインスタイルの歯列矯正など)は依然として最優先課題であるが、現在および将来の用途はそれだけではない。将来の事業としては組織や移植片のプリントなどが含まれており、Desktop Metalはこのプロセスがどのように成長するかを検討している。

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同部門を率いるのは、Michael Mazen Jafar(マイケル・マゼン・ジャファル)氏だ。Evolusの元COOであるジャファル氏はCEOとして参加する。「Desktop Healthは革新的な技術と科学的根拠に基づいたソリューションにより、患者がパーソナライズされたヘルスケアを体験する方法を変えることを使命としています」とリリースで述べている。

Desktop Healthは2020年8月にSPACを通じて上場する計画を発表した。また2021年1月にはEnvisionTECを3億ドル(約330億円)で買収している。EnvisionTECはドイツの企業で、歯科用の重要な新技術であるフォトポリマープリンティングを専門としている。同社はSmile Direct Clubを含む1000社の歯科関連顧客を有しており、その中には新部門の重要な基盤となるSmile Direct Clubも含まれている。

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タグ:Desktop Metal3Dプリント

画像クレジット:Desktop Health

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(文:Brian Heater、翻訳:塚本直樹 / Twitter

Apple Watchで心不全の悪化を検知できるか、トロントの研究病院グループが調査開始

トロント市にある研究病院グループUniversity Health Network(UHN)で実施している新しい研究により、ますます関心が高まっている健康分野の治療方法が変わる可能性がある。Heather Ross(ヘザー・ロス)博士が主導するこの研究では、心不全を発症した患者の健康状態が悪化する可能性をApple Watchで早期に警告できるかどうかを調査する。

この研究では、最終的に約200人の患者を対象に調査することを目指しており、すでに25歳から90歳という幅広い年齢層の参加者が多数登録している。研究では、Apple Watch Series 6とその内蔵センサーを使って、心拍数、血中酸素濃度、一般的な活動レベル、6分間歩行試験時の全体的なパフォーマンスといった信号を監視する。ロス博士率いる研究者たちは、このデータを、より正式な臨床試験から得られた測定値と比較する。この測定値は、通常の定期健診時に心不全患者の回復状況を観察するために医師が現在使用しているものだ。

ロス博士とそのチームが期待しているのは、Apple Watchのデータから見える兆候と、実証済みの医療診断および監視装置から収集された情報の相関関係を特定できることだ。Apple Watchが心不全患者の健康状態を正確に検知できることを検証できれば、Apple Watchは治療とケアの面で大きな可能性を秘めていることになる。

「米国には心不全を抱える成人がおよそ650万人います」とロス博士はインタビューの中で話した。「北米では40歳以上の5人に1人が心不全を発症します。そして心不全発症後の平均余命は2.1年ほどで、生活の質にも大きな影響が出ます」。

この統計は心不全が「蔓延しつつある疫病」であることを示しており、ロス博士がいうには、医療制度に「米国では現在1年間に約300億ドル(約3兆1877億円)」の費用がかかっているとのことだ。その大部分は、予防可能な原因によって生じる健康状態の悪化により、必要となる治療費用だ。こうした原因は、適切なタイミングで患者の行動を変えさえすれば回避できる。ロス博士によると、現在、心不全患者の治療法は「断続的」なものである。つまり患者は、3カ月から6カ月おきに通院し、診断看護師のような訓練を受けた専門家の監視下で、高額な機器を使用してさまざまなテストを受ける必要がある。

「治療法についてある程度考えてみると、私たちはそれを逆向きに捉えていました」とロス博士はいう。「私たちは、比較的自然な方法で患者を継続的に監視するにはどうすれば良いかということを考えています。継続的に監視すれば、患者が実際に入院する前に患者の状態変化を検知できます。これはApple(アップル)にとって大きなチャンスです」。

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ロス博士によると、現在の推定では、処方された薬の正しい服用、症状の正確な監視、食事摂取の監視といった適切なセルフケアを含め、患者が取る対策によって入院の半数近くを完全に回避できるということだ。アップルのヘルスケア担当副社長であるSumbul Desai(サンブル・デサイ)博士は、治療の水準を高め、良好な長期の治療成績を得るための重要な要素の1つは先を見越した行動である、という見方に同意している。

「医療の世界において、多くの治療では、状態に対する事後対応に焦点が当てられていました」と同氏はインタビューの中で語っている。「自分の健康にもう少し積極的に取り組むべきだという考えは、私たちを本当に力づけますし、その考えから生まれる成果を想像するとワクワクします。私たちは、まず、こうした研究から科学の基礎を身に付けることが非常に重要だと考えていますが、その可能性に取り組むことを心から楽しみにしています」。

デサイ博士は、約4年の間、アップルのヘルスイニシアティブを率い、それ以前もキャリアの大部分を、スタンフォード大学(現在も准教授として在籍)で学術的な取り組みと臨床的な取り組みの両方に費やした。継続的な治療の価値を直接知っている同氏は「この研究は、個人の日常的な健康管理においてApple Watchが果たす役割の中に可能性が見いだされたことを示している」と述べた。

「日常生活を送っている個人のある時点の記録を得ることができるのは非常に便利です」と同氏はいう。「医師であれば、診察の際に『日常生活でお変わりありませんでしたか?』と聞くこともあるでしょう。日常のデータが手元にあり、それを会話に盛り込むことができれば、患者との関わりが非常に強くなります。私たちはこれまでにない方法でインサイトを提供できると信じており、この特定分野でさらにどんな情報が得られるかを考えると本当にワクワクします。私たちはユーザーである患者と医師の両方から、そのようなデータがどれほど価値のあるものかをすでに聞いて知っています」。

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ロス博士とデサイ博士の両氏は、Apple Watchについて、設定と学習が簡単で、健康とフィットネス以外のさまざまな目的に適うことや、継続的な治療法における主要な要素であることに触れ、消費者が手軽に使えるデバイスとしての価値を強調している。

「私たちは、人々が自分の健康管理において、より積極的な役割を担うべきであると強く信じています。そして、Apple Watchは強力なヘルスケアツールであると自信を持って言えます。大切な人とつながったり、メッセージをチェックしたりできるデバイスで、安全をサポートしたり、もっと体を動かして健康を維持することを促したり、全般的な健康に関する重要な情報を提供したりできるからです」とデサイ氏はいう。

「Apple Watchは、デサイ博士が述べたようなすべての機能を必要とする人のための、デバイスに組み込まれた強力なヘルスケアツールです」とロス博士は付け加えた。「しかし、これは強力な診断ツールでもあります。このヘルスケアツールを正しく評価できれば、Apple Watchは無限の可能性を秘めたツールになります。このパートナーシップでは、まさにその評価を行っています」。

この研究では、前述のように200人の参加者を対象としているが、登録者数は毎日増えている。3カ月にわたり積極的なモニタリングを実施した後、患者の転帰に関連して収集されるデータを2年間継続して調査する予定である。収集されたデータはすべて完全に暗号化された形式で格納される(ロス博士は、アップルをパートナーにするもう1つの利点として、アップルのプライバシーに関する実績を挙げた)。そして登録者は参加後でも、調査の途中でいつでもやめることができる。

結果が出たとしても、それは大規模な検証プロセスの第一歩にすぎない。しかしロス博士は、心不全と治療についての基本的な考え方を変えることによって、最終的には「治療法が改善され、公平なケアを受けられるようになる」ことを期待していると述べた。

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タグ:医療AppleApple Watchコラム

画像クレジット:Apple

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

医師が処方する保険適用「ニコチン依存症治療アプリ」など研究開発のCureAppが21億円調達

医師が処方する保険適用「ニコチン依存症治療アプリ」など研究開発のCureAppが21億円調達

CureApp(キュア・アップ)は3月12日、第三者割当増資および融資による約21億円の資金調達を発表した。引受先は、ジャパン・コインベスト3号投資事業有限責任組合や既存株主をはじめとする10社。借入先は商工組合中央金庫。累計調達額は約64億円となった。

調達した資金により、2020年より販売を開始したニコチン依存症治療アプリの社会浸透をさらに促進する。また、現在治験中の高血圧治療アプリ、臨床試験中のNASH(非アルコール性脂肪肝炎)治療アプリ、アルコール依存症治療アプリとがん患者支援治療アプリの研究開発や薬事手続、その他新規領域におけるパイプライン拡大を加速させる。

健康保険組合や企業、自治体を主な顧客とする民間向けヘルスケア事業に関しても、引き続き拡大を目指すとしている。

CureApp「治療アプリ」の現在の状況

  • ニコチン依存症治療アプリ:慶應義塾大学医学部呼吸器内科との共同開発。2019年5月、日本初となる治療用アプリの大規模RCT(ランダム化比較試験)を終了。2020年8月に薬事承認を取得、同年12月に保険適用を受け禁煙外来での処方開始
  • 高血圧治療アプリ:自治医科大学循環器内科学部門との共同開発。2019年12月より治験を開始。2021年中の薬事申請を予定
  • NASH(非アルコール性脂肪肝炎)治療アプリ:東京大学医学部附属病院との共同研究。2016年10月より臨床研究、2018年4月より多施設での臨床試験を開始
  • アルコール依存症治療アプリ:国立病院機構 久里浜医療センターと2020年6月より臨床研究を開始
  • がん患者支援治療アプリ:第一三共と2020年11月より共同開発を開始

2014年7月設立のCureAppは、アプリそのものが病気を治療する治療法(デジタル療法)として「治療アプリ」の研究開発・販売を行っているスタートアップ。2020年8月には国内初の治療用アプリ「CureApp SC」の薬事承認、2020年12月に保険適用を受けた。すでに、医療機関において治療アプリを用いたデジタル療法が開始されているという。

また現在、4疾患を対象に治療アプリの研究開発を進め、これら医療機関向け「治療アプリ」の開発で蓄積した知見を活用した民間法人向けモバイルヘルスプログラム「ascure卒煙プログラム」も提供している。「日本発のデジタルヘルスソリューション」として、順次グローバルにも展開予定という。

ascure卒煙プログラムでは、医師開発アプリと医療資格を有する禁煙指導員のオンラインカウンセリングを組み合わせ、6カ月に渡って禁煙支援を提供。2017年4月の提供開始以来200超の法人で導入が進んでいるほか、特定保健指導に対応したプログラムも提供している。

治療用アプリは、海外ではDTx(Digital Therapeutics。デジタルセラピューティクス)と呼ばれ、従来の治療法では治療が難しかった疾患を治す可能性を秘めた最新治療として、国内外で研究開発を進められているという。

DTxは、医薬品と比べても遜色のない治療効果を有し、開発コストの低さ、スマートフォンを持っていれば誰でも平等に受けられるという特徴がある。

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病理医の仕事を模倣するAI利用の癌診断プラットフォームIbex Medical Analyticsが約41億円調達

イスラエルを拠点とするIbex Medical Analyticsはより効率的に生検中の癌細胞を検出するAI(人工知能)駆動の画像処理技術を有しており、Octopus Ventures83NorthがリードするシリーズBの資金調達ラウンドで3800万ドル(約41億円)を調達した。このラウンドにはaMoon、Planven Entrepreneur Ventures、Dell Technologiesのコーポレートベンチャー部門であるDell Technologies Capitalも参加している。同社は2016年の設立以来、これまでに合計5200万ドル(約56億円)を調達しており、Ibexは今回の資金を北米や欧州の診断研究所へのさらなる売却に充てる計画だ。

もともとKamet Venturesのインキュベーターから生まれたIbexの 「Galen」 プラットフォームは病理医の仕事を模倣しており、癌をより正確かつ迅速に診断し、生検標本から新しい洞察を引き出すことができる。

がんの発生率が上昇し、また医療処置が複雑化しているため、病理医の仕事量は増えている。さらにIbexによると、病理医は世界的に不足しており、診断プロセス全体に遅れが生じる可能性がある。同社はこのソリューションを使用することで、病理医の生産性を40%向上できると主張している。

IbexのCEO兼共同創業者のJoseph Mossel(ジョセフ・モッセル)氏はTechCrunchの取材に対し「これは病理医のアシスタントと考えることができます。そのため症例を事前に準備し、関心のある領域をマークし、病理医が効率を向上させることができます」と語った。

モッセル氏によると、Ibexはフランス最大の病理学ネットワークと、英国などで24カ所のNHSトラストにサービスを提供する5つの病理学研究所であるLDパスと提携したという。

Kamet VenturesのMichael Niddam(マイケル・ニダム)氏は、Ibexは「Kametが創業者と非常に早い段階から協力していることを示すすばらしい例」だと述べた。Ibexの創業者であるモッセル氏とChaim Linhart(ハイム・リンハルト)博士は、アイデアを開発する前にEntrepreneurs in ResidenceとしてKametに参加していた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Ibex Medical Analytics資金調達がん治療

画像クレジット:ForSight Robotics

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(文:Mike Butcher、翻訳:塚本直樹 / Twitter