Elon Musk(イーロン・マスク)氏が先に発表した、人間型で「人間レベルの手」と特徴的に楽観的な納期を備えたTesla Bot(テスラ・ボット)は、当然のことながらそれなりの批判を集めている。
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このロボットは最終的に、単独で食料品店に行くなどの用事をこなすことができるようになるとマスク氏は述べている。Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は、これまでで最も高度なヒューマノイドロボットを開発中だが、Atlas(アトラス)プラットフォームへの取り組みに10年以上を費やしてきた。Atlasは、何千万人ものYouTube視聴者の前で走ったり、ジャンプしたり、踊ったりするなど、目覚ましい進歩を遂げているものの、同社はこのロボットが複雑なタスクを自律的に実行するにはまだ長い道のりがあることを即座に認めている。
ロボットの進化のポテンシャル、そして果されていない約束に関する最も良い例の1つが、2010年にPLOS Biology(プロス・バイオロジー)誌に発表された研究である。この研究の執筆者たちは、モーターとセンサーを搭載した物理的なロボットを使って(単なるシミュレーションではなく)、衝突のないナビゲーション、ホーミング、捕食者と被食者間の共進化など、いくつかの進化モデルとフィットネス目標を実行した。
彼らは結論の中で「これらのロボットによる実験的進化の例は突然変異、組み換え、自然選択による進化の力を証明している。すべての場合において、ロボットはそのゲノムにランダムな値があるために、最初は完全に非協調的な行動を示した」と記している。
要約すると、この研究は「広範囲の環境条件下で効率的な行動の進化を促進するには、数百世代にわたるランダムな突然変異と選択的複製が必要にして十分である」と結論づけている。
この非常に多くの世代にわたる進化の必要性は、Alphabet(アルファベット)が最近リリースした、Google(グーグル)のオフィスの清掃作業を行う100台を超えるEveryday Robot(エブリデイ・ロボット)のプロトタイプに示されている。そのぎこちなく、たどたどしい動きは、依然として進歩途上の域を出ない。
「進歩」対「完全」
マスク氏がロボティクスのフィールドで競争に勝つことは実際にあり得るかもしれないが、ロボット自身の助けが必要になるだろう。進化的コンピューター分野の多くの専門家によれば、一定のフィードバックや学習ループを必要とする複雑なタスクを実行できるロボットは、人間が自ら直接設計するには複雑すぎるという。それよりむしろ、ロボットによる開発と設計の未来は、特定の結果に最も役立つ機能をロボットが選定する「進化」の産物になる可能性を秘めている。
進化的ロボティクスはSFのように聞こえるが、新しいコンセプトではない。1950年代初頭でさえ、Alan Turing(アラン・チューリング)氏が、インテリジェントな機械の創造は人間の設計者には複雑すぎるだろうと考え、より良い方法はそのプロセスに「突然変異」と選択的複製を導入することかもしれないと仮定していた。もちろん、進化的ロボティクスの背景にあるアイデアはかなり前から形になっていたが、そのコンセプトを実行に移すために必要なツールが利用できるようになったのは最近のことにすぎない。
現代史上初めて、私たちは進化的ロボティクスを促進する上で必要なあらゆるビルディングブロックを手にしている。3Dプリンティングを使った迅速なプロトタイピングと物理的な複製、学習と訓練のためのニューラルネットワーク、改善されたバッテリー寿命と安価な材料などだ。
例えば、NASAはすでに人工進化技術を使って衛星用アンテナを開発している。それ以上にエキサイティングなのは、バーモント大学とタフツ大学のクリエイターが2020年に「xenobot(ゼノボット)」を発表したことだ。これは「進化的ロボティクスの技術を使ったコンピューターシミュレーションで初めて設計された小さな生物機械」である。
この自己修復型の生物機械はカエルの幹細胞を使って作られたもので、ペイロードを動かしたり押したりする能力を示している。この「ナノロボット」は、いつの日か血流に注入されて薬を運ぶことに使えるようになると考えられている。
しかし、これらすべてのブレークスルーが存在するとしても、物理的ロボットの進化的反復は依然として時間を要するものであり、その理由の一部は、それにともなうリスクに起因している。食料品を買いに行くような作業でさえ、信じられないほど複雑で、クルマが往来する道路を横断してしまうようなロボットのさまざまなミスが人間を危険にさらしかねない。
多くの可能性
マスク氏が既存のTesla(テスラ)車を単なる車輪付きロボットだとするのは間違ってはいないが、あまりにも単純化しすぎている。Teslaは1つのタスクに特化しており、直接的な監督なしでは複雑な世界をナビゲートする自己学習はできない。同氏はスーパーコンピューターを自由に使えるようにし、すでに高度なロボットと驚異的なAI専門家チームを手に入れているかもしれないが、独立して人前に出ることのできるヒューマノイドロボットの実現はまだ遠い先のことだろう。
自力で動けるロボットを作るためには、ロボットが突然変異を起こし、2つの異なる親の最も望ましい特性を組み合わせていく、数百「世代」の進化が必要となるであろう。
有用な現実世界のアプリケーションを空想するなら、セキュリティと偵察のラインに沿って想定してみよう。安全検査やコードコンプライアンスの構築、消防支援、さらには捜索救助支援なども考えらえる。
2021年6月、フロリダ州サーフサイドのビーチフロントにあるコンドミニアムの塔が崩壊し、100人近い命が奪われた。ドローンの大群が有用であることを示す好例は、建物の建築とコード検査かもしれない。老朽化したマンションの最上階から最下部、内部、外部まで、センサーやカメラを使って防水性の問題、コンクリートのはく離やひび割れ、沈下などの問題をチェックする、より定期的で頻度の高い検査を行うことができる。これは、人間のエンジニアチームの何分の1かのコストで実現可能である。
他にも、警備や医療支援など、イベントに役立つアプリケーションがある。ヒューストンのアストロワールドの悲劇を思い出して欲しい。10万人規模のイベントでは、人間の警備員が広大で混雑した地帯をカバーするのは難しいことが多い。ドローンやロボットの群れは、セキュリティ上の問題や闘争、発作を起こしている人あるいはその他の医療上の緊急事態を監視したり、自動体外式除細動器のような医療機器を人間のスタッフよりもはるかに迅速に運んだりするといった点で、極めて有用である。
なぜドローンは群れを成し、1機ではないのか。多くの理由があるが、主としてレジリエンスと冗長性が挙げられる。1機のドローンが故障しても、オペレーションは途切れることなく継続する。これは「ミッション」を中断できない高リスクの状況で特に有用である。
より良いロボットの創造
「進化的ロボティクス」という用語は、有機的な進化から学んだプロセスを非有機的なデバイスに複製することを意味しているため、少し誤解を招きやすい。より良い記述子は「人為的進化」あるいは「具現化進化」かもしれない。ロボットが進化しているというよりも、プロセスそのものが進化を生み出しているのである。
同じアプローチは、2つ以上の親由来の突然変異とそれに続く組み換えの両方を介して「子孫」を生成するニューラルネットワークと進化アルゴリズムを装備可能な、任意のエンティティに適用することができる。実際、進化には物理的な形さえ必要ない。これらと同様のプロセスをスーパーコンピューターの内部に配置して、大規模な問題を解決することもできる。進化のより良い理解は、私たちが何を成し遂げるのに役立つだろうか?
1つは、自律的な現実世界のインタラクションである。進化的ロボティクスは、複雑かつ自律的な現実世界でのインタラクションを可能にする唯一の方法だ。そのようなロボットの利点は列挙するには長すぎるが、ユースケースは、ロボット消防士、捜索救助ロボットから、核廃棄物浄化ロボットや在宅介護ロボットなどにまで及ぶ可能性がある。
私たちはまた、有機的進化についてもさらに理解を深めることができる。進化についてのより微細な知識は、推し量るのが難しいほど幅広いアプリケーションを生み出す可能性がある。病気の治療や免疫の確立、寿命の延長、生態系へのインパクトの軽減など、地球上の未来をより正確に把握するための最善の方法について、信じられないほどの洞察を得られるかもしれない。
生命の起源を知る手がかりを得る可能性も秘めている。人工的な進化を研究し、習得することにより、他の惑星で生命が形成され進化し得るあらゆる方法について理解を深めることができるだろう。科学の専門家の多くは、宇宙の他の場所に生命が存在する可能性は低いとしているが、進化に関するより深い理解と、ミクロスケールで大進化を再現する能力は、地球外生命の探索の指針となることは間違いない。
もろ刃の剣
最後に太陽系の探査について考えてみよう。完全に自動化され、自己複製し、進化するロボットがあれば、これまでの想定をはるかに超える距離で、宇宙の奥深くまで無人ミッションを送ることが可能になる。これらのロボットは、着地した惑星に適応し、コンポーネントを再利用し、環境に応じて進化し、最終的にはデータや子孫を地球に送り返すことができるかもしれない。
ロボットが街を歩き回るというアイデアが「ターミネーター」のようなロボットの蜂起のイメージを想起させるのであれば学習、再生、環境観察、進化が可能なロボットが現実からまだ遠いという事実に慰めを得ることができる。
むしろ、複雑な現実世界のインタラクションが可能で真に自律的なロボットを習得する上での最大の難点は、人間のワークフォースが必然的に移動することだ。マスク氏は、この問題の解決策はベーシックインカムの普及であり、将来の仕事は完全に任意だと考えている。
同意できそうにない。人間は仕事と創造から自尊心と価値を得ており、それを取り除くことは、潜在的な経済的影響に加えて、広範囲にわたる心理的インパクトが生じる可能性がある。これは複雑な問題だが、進化的ロボティクスは、最大の成果の1つとなり得るとともに、人類が直面しなければならない最大の課題にもなり得るだろう。
編集部注:本稿の執筆者Gideon Kimbrell(ギデオン・キンブレル)氏は、InListの共同設立者兼CEO。
画像クレジット:NanoStockk / Getty Images
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(文:Gideon Kimbrell、翻訳:Dragonfly)