ロボット掃除機を買おうかと心が動いているが、一流ブランドの円盤型掃除機の、まるでアルファベットスープのようにアルファベットを羅列した名称を山ほど目にして、恐怖のあまり気持ちが萎えてしまった人はいないだろうか。そんなときは、取っ手のない掃除機を自由に操れるようになるまで、消費者行動分析に頼るのもひとつの手だ。
Amazonは、AからZまでの「トップブランド」の製品リストを提供しているが、そこに記載されている名称は実は略称で、本当の名前はアルフェベットがもっと長く続く。ああ、恐ろしい。
ロボット掃除機は欲しいが、あまりよく知らないという人たちが、インターネットで長時間にわたる機種選定の情報収集に身を投じる覚悟を固めた先に見るものは、無限とも思われるロボット掃除機のレビューやまとめ記事の数々だ。
だが不幸なことに、機種が非常に多いために、これらの記事はすべて、貴重な時間を吸い込むブラックホールを成長させる餌にしかならないことが多い。そしてそれは、ロボット掃除機の記事を時間をかけてもっと読めと迫ってくる(そんなことをするぐらいなら、自分で掃除機をかけたほうが早い)。その結果、得られるものは空虚な情報ばかりで、ロボット掃除機の購入は本当に正しい選択なのだろうかと不安を抱くはめになる。
私にはよくわかる。なぜなら、私はその穴に落ちたことがあるからだ。地獄のようだった。なので、他の人たちが利便性に振り回されて決断できなくなる不幸に陥らないよう、先に謝っておくが、そうした記事の山の上に、ちょっとだけ比較レビューを載っけたいと思う。これが、ゴミのような情報をかいくぐって前に進む助けになることを願う(というか祈っている)。
結論はこうだ。安いロボット掃除機はナビゲーション能力が低く、率直に言って、代金に見合うだけの価値はない。まったくもって時間の無駄。安いとはいえ、ロボット掃除機は、まだまだ普通の掃除機に比べれば高価なのが現実だ。
だから安価な機種は、不必要に高すぎる掃除機ということになる。性能が低いために、人がやらなければならない仕事のほうが多い(例えば、普通の掃除機で掃除するとか)。これはまさに、ロボティクスの間違った最悪の応用例だ。
最も安い機種で、代金に見合う価値を少しでも得ようなどと期待してはいけない。私は実体験から言っているのだから間違いない。愚かにも私は、最終的に近くの有名量販店で売られていたものを選んでしまったのだ(言い訳になるが、実質的にゴミのような情報を調べまくった挙げ句に頭がおかしくなりかけて、いちかばちかの賭けに勝てる気がしてしまったのだ。それに、失った時間を取り戻したかった)。
それは、お買い得の安価な機種だったが、真面目な店員が頑張って、平均よりもよい機種を選んでくれたのだと私は自分に思い込ませた(というか祈った)。少なくとも、埃を吸うぐらいはやってくれるだろうと。
その掃除機(Rowenta)は、もっと有名な(そしてもうちょっと高い)iRobotと同じ棚に並んでいた。それだけの価値がある製品だと思うよね?深く考えなかった。思うツボだ。
iRobotの掃除機は個人的に使ったわけではないので、それと性能を比較することはできない。だが、180ユーロ(約2万2000円)もしないRowentaのロボット掃除機と、もっと高価な猫のおもちゃとなら胸を張って比較できる。
このロボット掃除機は、猫を楽しませることにおいては目覚ましい性能を発揮した。おそらく、そのお馬鹿な性質のためだろう。ナビゲーションにおけるインテリジェンスを完全に欠いたその掃除機は、家具に何度も頭をぶつけるというアホさ加減だ(ロボットがどれだけアホかを知るには、物へのぶつかり方が大きな手がかりになる。たとえ人間の姿をしていたとしても、頭をがんがんぶつけることがインテリジェンスの証とはならない)。
猫の目には、さらに興味を引く機能がある。そのロボットには、白くて猫のヒゲのようなサイドブラシが左右に付いている。それが前に突き出て、ちょうど猫がちょっかいを出しやすい距離で回転するのだ。つまり、完全なるロボットマタタビだ。
猫は、そのロボット掃除機が作業を終えるまでずっと、その「ヒゲ」を攻撃し続けていた。つまりそれは、進行方向にわざわざ障害物を招き入れる機能でもある。だが、本当に困った問題は、あまり埃を吸わないことだ。
最初の運転が「クリーン」ということで終了して、危なっかしい足取りで充電ハブまで戻ってきて、最初はぶつかり、やがてなんとかドッキングした後、私はゴミ容器を取りだして思わず笑ってしまった。中には小振りの猫の毛玉が入っていた。部屋の隅には、もっと大きな毛玉がごろごろ転がっている。つまり、猫のおもちゃという意味においては満点だが、掃除機としては最低ということだ。
この時点で私は、残念な不良品に対して良識ある消費者が当然とるであろう行動に出た。返品して返金してもらったのだ。もしかしたら、私と猫とロボット掃除機の相性の、問題だったのかもしれない。それでも、利便性の馬鹿馬鹿しいほどのわずかな差のために、大金や時間を費やすのは考えられない。猫の毛がどんどんまき散らされているとしてもだ。
ところがラッキーなことに、Roborockの担当者が、最新の最上位機種を使ってみないかとメールを送ってくれた。549ユーロ(約6万8000円)という、3倍の価格差で悲しきRowentaを圧倒するものだ。もちろん私は、ロボット掃除機をもう一度試すこのチャンスに飛びついた。もっとスマートな機種なら、猫を喜ばせるだけでなく、私も満足させてくれるのではないか。
一番高いものと、一番安い物との違いはハッキリしている。だけど、フェラーリの3分の1の価格の車を買ったとしても、当然、ハンドルがちゃんと付いているし、行きたいところにちゃんと運んでくれる。ひどい車酔いもなく早めに着けるだろう。
これに対してロボット掃除機を買うときは、もっと慎重にならなければいけない。
そして、最上位機種から得た結論はこうだ。ロボット掃除機は素晴らしい。現代の利便性の驚異だ。だが、ここが重要なのだが、望み通りの仕事をきちんとやってくれる機械に大枚を投じる覚悟があればの話だ。
Roborock S6は、モフモフのお友だちのフケをバリバリ食べてくれる獣だ
Roborock S6とRowenta Smart Force Essential Aqua RR6971WH(これが本名、名前も凄い)を比べるのは、最高級電気自動車と子ども用のゼンマイおもちゃを比べるようなものだ。
Rowentaの場合、よほど予算が厳しいのか、取り扱い説明書に文字を入れることすら惜しんだようだ。邪推するに、翻訳料を節約するためにわけのわからないイラストの漫画を製作した。何を表しているのか意味不明な図解は、それが完全な欠陥商品であると断定する購入者を、とりあえずなだめる役割しか果たさない。一方、Roborockの箱には言葉と明解な図解が使われた丁寧な説明書が入っていた。なんと贅沢なことか。
また、Roborockの操作を理解するために頭を悩ます必要もない。1回使えば、うれしくなるほど簡単に使えるさまざまな機能に慣れてしまう。ときどき声で、作業の状況を知らせてくれたりもする。たとえば、掃除が終わったのでベースに帰りますといった具合だ(これは、掃除機がベッドの下で迷っているのではないかと心配するユーザーへの配慮だと思われる。黙っているやつは、人間への奴隷的奉公に抵抗するロボット反乱軍のリーダーだ)。
ボタンひとつ押すだけで部屋は完全にきれいになる。それは、リアルタイムで部屋のマッピングを行う内蔵のレーザーナビゲーションのお陰だ。これにより、整然とした針路が割り出され、頭をぶつけることも最小限に抑えられて掃除のし忘れも減る(S6が見逃してしまった場所や、掃除中に汚してしまった場所を掃除させるためのボタンもある。ロボットを持ち上げて、掃除させたい場所に置くだけでいい)。
特定の部屋を掃除させたり、掃除のスケジュールを登録したり、入ってはいけない部屋を指定するといった追加機能を使いたいときはアプリが対応している。しかし、もっとうれしいのは、本来の仕事をさせたいだけならWi-Fiに接続する必要が一切ないことだ。基本の作業は、苦労してインターネットに接続しなくても行える。知らない誰かが自分の部屋のマッピングデータを盗み見るといった心配もない。プライバシーに敏感な人には、Wi-Fiもアプリも使わずに済む操作は、大きなプラス点だろう。
硬い床の小さなアパートなら、充電ケーブルや靴下が床に落ちていないかを確かめるだけで準備は完了だ。もちろん、椅子をテーブルの上に載せておけば、もっときれいに掃除してくれる。しかし、ナビゲーションがとても賢いので、椅子の脚の周りを回って掃除してくれるのを私は目撃した。残念なのは、ソファーの下に潜るには背が高すぎることだ。
S6には水拭き機能もある。リノリウムの床では、これが大活躍する(カーペットの部屋では使えない)。水拭きを行うには、タンクアタッチメントに水を入れて、湿らせたモップ布をその底に面ファスナーで取り付ける。これを本体後部にスライドさせて取り付けるだけだ。後は掃除開始ボタンを押すと、掃除機がけとモップがけを同時に行ってくれる。
私の狭いアパートでは、S6は1時間もかからず、問題なく掃除を終えてくれた。途中でベースに戻って充電することはなかった(Roborockによると、S6は1回の充電で6時間動けるとのこと)。
私のアパートの比較的暗い色の床でも、迷うことがなかったように思える。いくつかのレビューには、ロボット掃除機によっては暗い床で段差センサーが混乱することがあると書かれていた。
最初の掃除の後、私はS6の透明なゴミ容器を開いて内容物を確かめてみたところ、びっくりするほどの量の綿埃が、ほぼぎゅうぎゅうに詰まっていた。これはまさにロボット掃除機ポルノだ。しかし、ピカピカの床が、その掃除の質の高さを物語っている。
S6とRowentaが集めた埃の量を見れば、最高級品と最低価格のロボット掃除機の違いは明確だ
Rowentaのプラスティックの甲羅は、吸い込み損ねて巻き上げてしまった埃を瞬く間に吸着してしまう。一方、S6の輝く白いボディーは驚くほど塵が付かない。何日間か使った後で、わずかに猫の毛が付いた程度だ。だが、それが掃除してくれる床には、目に見える埃も猫の毛も落ちていない(猫がせっせと床を汚しにかかるまでは)。
高い吸引力、高性能なブラシ、高品質な一体型フィルターがすべての違いを生み出しているようだ。しかもS6は、掃除中の騒音もずっと静かだ。Roborockによれば、ひとつ前の機種(S5)の50%静かになったとのこと。現在あるロボット掃除機の中で一番静かだと自慢していた。
めちゃくちゃ静かというわけではない。床を掃除している間、同じ部屋での仕事や動画の視聴などを邪魔しない程度の静かさだ。だが、新しいものにはどうしても目が奪われる。
S6は、ロボット工学のスマートさも前面に押し出している。中央に出っ張ったレーザーのカバーは、細長いサイロンの目を思わせる。
さらに、ひと目見て驚いたのは、Rowentaの本体の下にはしっかりとしたブラシが2つ固定されていたのに対して、S6は、どちらかと言えば華奢に見えるブラシが1つだけ付いていたことだ。だが、ここでもS6は賢く作られている。掃除する状況に合わせて回転速度が変化するのだ。半端な糸くずや、猫の砂のような塊は、吸い込み損なうことがあった。とはいえ、床をきれいにする性能では突出している。
猫は、S6の回転ブラシにもちょっかいを出した。しかし、Rowentaのときに比べると、その攻撃回数は少なく、あまり積極的でもなかった。S6の適格なナビゲーションに対して、猫も敬意を払い、より慎重な行動を心がけているようにも見える。猫の目に、プレミアムなS6はお馬鹿なおもちゃとは違うとわかるようだ。
S6が床掃除をしてる間、別の待ち伏せ作戦を練る猫
実用面として、S6のゴミ容器は480mlの容量がある。Roborockでは、毎週、ゴミ容器とダストフィルターの清掃を推奨している(毎週、ロボット掃除機を使った場合)。フィルターの予備が付属してるので、水で洗って乾かしている間に、もうひとつのフィルターを使うというローテーションが組める。
水拭き機能を使うときは、モップ布も使用後に洗う必要がある(使い捨てのモップ布が数枚付属しているが、ちょっともったいない。再利用可能な布でも簡単に装着できるし、それなら洗濯機に入れられる。付属の布を手でさっと洗ってもいい)。そんなわけで、何から何までロボットが自動的に完璧に掃除してくれることを夢見ている人は、すべてを滞りなく行うには、まだ少しだけ人間の手間が必要であることに注意してほしい。それでも、S6のような最高級ロボット掃除機なら、間違いなく掃除の時間を節約してくれる。
最高級ロボット掃除機の購入への相当額の投資を正当化するなら、残った部分を効率的に掃除して、ロボットが与えてくれた時間を有効に使う方法を考えるべきだろう。くれぐれも、足を床から上げて、小さくて賢いロボット君が働く様子をずっと眺めていたい誘惑に負けないように。
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(翻訳:金井哲夫)