日本のよいものを定期購入でアジアへ——越境EC支援のアジアンブリッジが3億円を資金調達

日本の商品を台湾・ASEAN諸国に販売したい企業へ越境EC支援を行うアジアンブリッジは6月5日、ニッセイ・キャピタルと事業会社1社から総額3億円の第三者割当増資を実施したことを発表した。今回の資金調達は同社にとって外部からの初めての調達で、シリーズAラウンドにあたる。

アジアンブリッジが提供するサービスは大きく分けて2つだ。1つは日本企業が通信販売で海外展開する際の越境EC支援で、台湾をテスト拠点とした事業が軌道に乗り、現在の利用企業は約50社。資金調達を機にASEAN各国への事業拡大を目指すという。

もう1つはクラウド型の現地法人通販システム「bamb(バンブ)」だ。bambはいわゆる「カート」をベースにした通販システムとは異なり、在庫管理と会計処理をベースとするシステムで、通販事業を行う国に会社を設立することなく、その国に在庫を置いて通信販売ができるというものだ。

アジアンブリッジ代表取締役社長の阪根嘉苗氏によれば「現地に在庫を置かずに海外向け通販事業をやろうとすると制限が多い」という。「アジアでは通信販売の決済方法は、まだまだ代金引換が一般的だが、EMS(国際郵便)を利用した発送では代引きを選択することができない。せっかくのいい商品でも買える人が少なくなってしまう」(阪根氏)

「では現地にパートナー企業を見つけて商品を仕入れてもらおう」となっても、今度は商品の買い取りリスクを恐れてパートナーがなかなか見つからないのが現状だと阪根氏は言う。「そこに課題を感じ、日本の海外通販進出が進まない実情を見て、bambを2年前にリリースした」(阪根氏)

bambでは、商品を販売したい企業の商品を現地に置き、委託で販売する形を取っている。現地からの発送となるため、代引きでの販売も可能となる。現地で発信する広告のローカライズや許認可、申請などもアジアンブリッジがサポートすることで、日本企業の海外通販進出のハードル、リスクを下げている。

またアジアンブリッジでは、アジアではまだ浸透していないが日本では当たり前となっているサブスクリプション(定期購入)の手法を、越境ECでも提供できるよう支援を行っている。定期購入の仕組みがアジアで浸透していない理由について阪根氏は「リピート通販を成立させるには、日本流の丁寧なフォローが必要だから」と話している。

「定期購入はメールや電話、手紙などでコミュニケーションをどう取るかがカギ。これをサブスクリプションの概念がない現地の企業で対応するのは難しい。でもアジアでは、そういったきめ細かいフォローをしてもらうのがうれしくない人はいないはず。日本のよいものを、長く使ってもらえるように当社でサポートしていく」(阪根氏)

とはいえ、定期購入というものがどういう仕組みか知らない人々に、そのメリットを伝えるのは簡単ではない、と阪根氏は言う。

「ウェブでも大きくわかりやすく説明を書くようにしているけれども、2回目の商品が届いたときに『クレジットカードが不正利用された』とか『詐欺会社だ』といったクレームが来ることも。苦労はある。でもウェブやメール、手紙などでフォローすることで、徐々にサブスクリプションのスタイルは浸透してきている」(阪根氏)

阪根氏は台湾出身で日本育ち。第二の故郷・日本のものが大好きで「日本と台湾、そしてアジアとの架け橋になって日本のよいものを届けたい」と6年在籍したリクルートを退職し、2010年にアジアンブリッジを設立した。

「今はスキンケア用品やサプリメントなどを定期購入で販売する企業を中心にサービスを提供しているが、定期的に届いてうれしいものは、ほかにも日本にたくさんある。地方特産のおいしいものが月替わりで届くとか、地酒が順番に届くといった頒布会形式の通販もサポートしていきたい。日本に来なくても、日本のものを手に取ってもらえるようになればいいと思う」(阪根氏)

アジアンブリッジでは調達資金により、現在ベータ版で提供しているbambの機能強化を行い、台湾以外の拠点へも展開していく。来月にもベトナム、シンガポール、マレーシア、タイへパイロット展開を行い、ブラッシュアップを図る。2年以内にASEAN全域へのサービス提供を目指す。

アジアンブリッジ代表取締役社長 阪根嘉苗氏

チャットボットの“スマホ店長”がバイトのシフト管理を半自動化する「CAST」公開

近年ビジネスの現場ではSlackやチャットワークのような、業務用のチャットサービスを活用するシーンが少しずつ増えてきた。特にTechCrunch読者のまわりではその傾向が強いのではないだろうか。

ただこれは僕自身もそうだったのだけど、数年前を思い返すとFacebookのグループやメッセンジャー、LINEのグループといった普段プライベートで使うツールがその役割も担っていたように思う。

今でもこれらのツールが業務で使用されるケースも多く、その典型例が飲食店なのだそう。つまり「お店とアルバイトとの連絡」を専用のLINEグループなどで行うのだけど、公私が分けられないなど抵抗を覚える人もいるという。

ビジネス用のチャットツールが現場のコミュニケーションを円滑にしたように、課題が残るお店とアルバイトのコミュニケーションも改善できないか。6月5日にhachidoriがリリースした新サービス「CAST(キャスト)」はまさにそのような思いから生まれたサービスだ。

アルバイトに関するすべてのことが完結するアプリを目指す

CASTは主に飲食店などを対象とした、店舗とアルバイトのコミュニケーションアプリ。チャット機能はもちろんのこと、店長やバイトリーダーにとって大きな負担となっていたシフト管理を、チャットボットのスマホ店長が半自動化する機能を搭載している。

5月21日にアルバイト向けの機能を先行リリース。自分のカレンダーと同期することでシフト管理が簡単にできるほか、登録した時給とシフトを元に給与を自動で算出できる環境を整備。またシフトの登録数などに応じてバッチがもらえる仕組みを導入し、ちょっとしたゲーム要素も加えている。

本日からは店舗向けの「SHOPプラン」も公開した。事前に設定した期日に沿って自動でシフトの提出依頼ができるほか、提出の催促やシフトの作成、メンバーへの周知なども極力スマホ店長が代行。店長として各メンバーの時給や役割を設定できる管理機能も備える。

アルバイトユーザーは無料で利用可能、店舗向けには無料プランと月額500円からの有料プランを提供していく方針だ。

hachidoriでは2017年よりCASTのプロジェクトをスタート。アルバイト400人、飲食店40店舗へのヒアリングとテスト運用を重ねてきた。

アルバイト400名へアンケートを実施した結果わかったのが、冒頭でも触れた飲食店におけるチャットを介したコミュニケーションの実情。アルバイト先でLINEグループがあると答えた割合が63%だった一方で、全体の57%がそもそもバイトのグループに否定的な意見を持っていることがわかったという。

hachidori代表取締役の伴貴史氏の話では「公私が分けられない」「シフトの管理が煩雑になる」など多数の要因があがったそうだが、中には「最終的にはバイト先のLINEグループを見なくなった」人もいた。そのような影響もあってか、バイトリーダーや店長は毎月のシフト調整に多大な労力を割かなければならない状況にある。

「店舗にヒアリングをしてみると、グループでシフトの提出を呼びかけて返ってくるのは6割くらい。再度催促をしても反応があるのは2割ほどで、残りの2割には個別で連絡をする。苦労して集めたシフトをエクセルに入力し、スクショをしてグループで再度共有すると『やっぱり難しい』と言われ、シフトを組み直すことも珍しくない」(伴氏)

伴氏によるとある店舗ではアルバイト1人あたり月に1時間程の時間を要していたが、CASTを使うことでこの作業が5分程に軽減された事例もあるそう。また店舗からはバッジ機能がアルバイトのモチベーション向上につながるとして、評判がいいという。

今後は8月を目処に他店舗のヘルプを管理できる機能や、タスク管理機能を追加する予定。また2018年中には勤怠管理や給与振込、タイムラインといった仕組みも取り入れる計画で、「アルバイトに関するすべてのことが、CASTひとつで完結することが目標」(伴氏)としている。

今後見据えるのは「金融」と「求人」領域での展開

hachidoriは2015年の設立。プログラミング不要のチャットボット開発ツール「hachidori」と法人向けソリューション「hachidori plus」を軸に展開してきた。hachidoriで作られたチャットボットは約5000個、hachidori plusのアカウント数も企業と学校を合わせて90ほど立ち上がっているという。

2017年2月にはベクトル、コロプラネクスト、エボラブルアジア、オークファンと島田亨氏を含む個人投資家数名から1億円を調達。直近では自社プロダクトに加え、OEM提供のような形で他社と組んで事業を拡大している。

今回リリースしたCASTの原型は、工場向けに提供していたLINE上でシフトの申請や有給の申請をできるサービス。飲食店などとも話をする機会が多い中で、単価や機能面を中心にブラッシュアップするような形でCASTが生まれた。

CASTではこれから2018年末にかけて複数の機能を追加していくが、伴氏はその先に2つの展開を見据えている。それが金融と求人の領域だ。

現時点では構想段階のものもあるそうだが、金融では給料の前払い、そして長期的にはマイクロローンのような分野にも参入する可能性があるという。

「お金に困っているからアルバイトをしているという人も多いので、その人たちをサポートする仕組みを作る。給料の前払いは特に個別の手数料はとらず、システム利用料に含まれる形で提供したい。またCAST上に蓄積される過去の勤怠データや平均時給などから『今後どのくらい働ければ、いくらぐらい返済できるか』を割り出し、ローンに活用するといった展開も将来的には検討したい」(伴氏)

求人領域も同様だ。CASTに溜まった情報をもとに、アルバイト希望者と人員を欲している店舗をうまくマッチングする仕組みを構築。採用面談から採用後にCASTのグループに追加されるまで、入り口から出口までをカバーしていく計画だという。

「hachidoriが軌道に乗りサービスとして形ができあがってきた中で、継続して成長させつつも、2次関数的に成長するようなサービスを新たに作りたいという思いがあった。金融や求人は時間がかかる領域ではあるが、まずはCASTのアップデートをしながら、この事業に力を入れて取り組んでいきたい」(伴氏)

 

DMM.comがクルマの即時買い取りサービス開始、3枚の写真ですぐに現金化

仮想通貨から競走馬のシェアまで、幅広い領域で事業を展開するDMM.comグループ。次に彼らが手がけるのは、クルマの即時買い取りサービスだ。DMM.comは6月5日、クルマの写真を撮るだけで簡単にクルマの査定と売却ができる「DMM AUTO」のサービスを開始した。

DMM AUTOでクルマを売るときに必要なのは、スマホ、車検証、クルマの3つだけだ。ユーザーがクルマ本体、メーターパネル、車検証の写真をスマホで撮り、クルマのカラーや事故歴などの簡単な質問に答えると、即座にクルマの査定額が表示される。TechCrunch Japan読者のみなさんには、DMM AUTOは「CASHメルカリNOWのクルマ版」と説明すると分かりやすいだろうか(ちなみに、DMMが買収したCASHのチームはDMM AUTOに関わっておらず、AUTOの開発が始まったのも買収前のことだという)。

ユーザーが提示された買取価格に納得すれば、すぐに交渉成立だ。最短で3日後にクルマを引き渡したあと、銀行口座にお金が振り込まれる。査定するのはAIなので24時間365日好きなときにクルマを売却できる。

一度提示されたクルマの査定価格は7日後までは変化せず、査定価格が有効な間はいつでもその価格で売却することが可能だ。だから、まずは手軽に査定してみて、ざっくりと自分のクルマの価値を調べてみたり、他の業者と比較するなんて使い方もできそうだ。

DMM AUTO事業部マーケティング部長の出村光世氏は、「これまでのクルマの買い取り業界は『1円でも高く買い取る』というのが訴求ポイントだった。しかし、クルマを売ろうとして業者を回ると休日が潰れてしまうなど、クルマを売却するまでの手間が大きすぎる。DMM AUTOは、その手間を無くし、かつユーザーが納得する価格で買い取るというサービスだ」と同サービスについて説明する。

即時買い取りサービスというとよく耳にする疑問に「(故意に傷を隠すなど)悪い人がいたらどうするの」というものがある。DMM AUTOについても同様だろう。その点について同社は、土地や店舗を持たないからこそ実現可能な運営コストの低さ、そして買い取り価格に含まれた“バッファ”でカバーできると考えている。また、車検証にプリントされたQRコードにはその車両についての細かなデータが含まれているので、他の製品と比べると比較的リスクが低いとも考えられるだろう。

でも、DMM AUTOに関して言えば、浮かぶ疑問はそれだけではない。出村氏が上で述べた「納得できる価格」は何を根拠にしているのか。例えばメルカリNOWの場合、同グループにはフリマアプリの「メルカリ」を通して集められた価格データがあった。だからこそ、ユーザーも買い取り価格に納得できるとも考えられる。しかし、DMMはクルマの相場データを社内に持ち合わせていない。

その点についてDMM AUTO事業責任者の西小倉里香氏は、「具体的なデータの入手の仕方は非開示だが、年間600万台とも言われる中古車売買の価格データを独自に集計し、最適価格を計算している。ただ、本当に納得できる価格を実現するために、初年度は価格データベースをつくることに注力すべきだと考えている」と話す。

異業種への参入だからこそ、信頼獲得や価格決定アルゴリズムの強化は超えるべきハードルであることは確かだが、実際にクルマを売却したことがある身からすれば、このイノベーションは非常にありがたい限りだ。

僕の場合は、クルマを売るために週末を2日とも潰すという苦い経験をした。そういった経験がある人の中には、たった3枚の写真を撮るだけなら「とりあえず査定してみよう」という人も多いはずだし、それだけでもアルゴリズムの精度向上にはつながる。また、個人的には、CASHが世に広めた即時買い取りサービスが単価の高いクルマにも通用するのかどうかにも注目したいところだ。

「クルマをライフスタイルに合わせて気軽に買い換えられる、そんな世界を目指したいと思っています」(出村氏)

写真左より、マーケティング部長の出村光世氏、事業責任者の西小倉里香氏、開発リーダーの有馬啓晃氏

田舎に移住したい人と、移住してほしい地域をつなげる「SMOUT」リリース、運営は鎌倉のカヤックLiving

カヤックLivingのメンバー。左から4番目が代表取締役の松原佳代氏

Googleで「田舎 移住」と調べると、数えきれないほどの情報サイトやブログが出てくる。それだけ、毎日の満員電車から解放されてのびのびと暮らしたいという人が多いのだろう。カヤックグループで、本社を神奈川県鎌倉におく“田舎のインターネット企業”のカヤックLivingが本日発表したサービスは、そんな人たちの願いを実現する手助けをしてくれる。

カヤックLivingは6月4日、移住したい人と移住してほしい地域をつなげる「SMOUT」のリリースを発表した。SMOUT、移住したい人が自分の興味や得意分野といったプロフィールを登録しておくことで、移住者を探す地域から直接スカウトが届くというサービスだ。

例えば、近所に美容院が1つもないという地域があるとする。これまでは、その状況に嫌気がさした思春期の若者はその街を離れるしかなかった。でも、SMOUTがあれば、田舎に移住したい美容師を探してスカウトするという選択肢が生まれるわけだ。これはちょっと極端な例だったかもしれないけれど、もっと現実的な例で言えば、医師の数が不足する地域の自治体がSMOUTで医師を探すということも考えられる。

もちろん、企業がSMOUTを利用することもできる。だから、エンジニアを探しているけれど、会社が田舎にあるので採用が難しいという場合などでも同サービスを活用できそうだ。また、移住したい人は受け身にスカウトを待つだけでなく、地域が求める人が書かれた“プロジェクト”にみずから応募することもできる。

SMOUTはスカウトする側からマネタイズを行う。まだ詳しい料金プランの内容は未定だが、無料プランを用意するほか、スカウトできる人数や送信可能なメッセージ数などに応じた有料プランを用意する予定だという(2018年8月頃に有料プランを導入予定)。

リリース時点において、長崎県佐世保市や広島県尾道市など、SMOUTを導入予定の自治体は合計で32市区町村ある。SMOUTはまず自治体への導入に注力するようで、カヤックLiving代表取締役の松原佳代氏は「年内に100以上の市区町村への導入を目指し、うち50は地方自治体への導入を目指す」と話した。

アメリカ農務省に海軍も、3万社が使う日本のVRアプリ作成ツール「InstaVR」が5.2億円を調達

VRコンテンツの制作・配信・分析プラットフォーム「InstaVR」を提供するInstaVR。同社は6月4日、YJキャピタルなど日米のVC複数社を引受先とした第三者割当増資により総額5.2億円を調達したことを明らかにした。

今回のラウンドに参加した投資家陣は以下の通り。

  • YJキャピタル(リード投資家)
  • 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
  • みずほキャピタル
  • グリーベンチャーズ
  • コロプラネクスト(Colopl VR Fund)
  • The Venture Reality Fund

上記VCより、グリーベンチャーズのジェネラルパートナーである堤達生氏、YJキャピタル取締役副社長の戸祭陽介氏がInstaVRの社外取締役に就任する。

同社では調達した資金をもとに開発体制および事業体制を強化し、人材育成VRプラットフォームを中心にさまざまな事業用途に特化したプラットフォームの開発を進める方針。また機械学習や人工知能の研究開発を推進し、蓄積してきた視聴データの活用にも力を入れていく予定だ。

InstaVRは2015年11月の設立。2016年8月にもグリーベンチャーズとColopl VR Fundから約2億円を調達している。

世界で3万社が利用、海外売上比率が9割

InstaVRはビジネスの現場でVRコンテンツを活用したい事業者向けのプラットフォームだ。プログラミングなど専門知識は不要で、ブラウザ上からVRアプリをスピーディーに作成できる。

さまざまな種類のVR動画、画像フォーマットに対応するVR再生プレイヤーを自社で開発。コンテンツは幅広いVRデバイスへ出力可能で、配信方式もアプリへの埋め込み、クラウドやイントラネットからのダウンロード、ストリーミングなど柔軟性に優れる。

世界最大のサーフィンリーグであるワールド・サーフ・リーグ (WSL)では1名の担当者がInstaVRを活用。2週間でiOS、Android、Daydream、Gear VR、Oculus Riftなどの主要なVRヘッドセットに、自社VRアプリを配信した事例もあるそうだ。

現在までに世界140ヶ国、3万社で導入。トヨタやサンリオ、エルメスを始めとした大企業のほか、少し変わったところではアメリカ合衆国農務省やアメリカ合衆国海軍、スタンフォード大学、イギリス政府、国連なども含まれる。海外での利用が多く、売上の約90%が海外企業によるものだ。

当初は不動産の内見や観光案内などの目的で使われることが多かったそうだが、現在は配信されたコンテンツも約20万本となり、利用用途も広がってきた。特にInstaVR代表取締役の芳賀洋行氏も意外だったというのが「90%がマーケットプレイスを利用せず、社内配布している」こと。

中でも直近では人材育成や人材採用用途での利用が増えてきているという。

人材育成に特化したプラットフォームの提供を開始

そのような背景も受けて、InstaVRでは人材育成VRプラットフォーム「InstaVRセントラル」の提供を始めた。これは簡単にいうと「OJTや職場体験をVR化」するようなイメージだ。

最大の特徴は専門知識や、実際に撮影した時間の10倍〜20倍の時間が必要となる「VR撮影後の現像工程」を不要にしたこと。InstaVRの独自再生プレイヤーを機能拡張することによって、ユーザーが360度カメラで撮影したデータをアップロードしさえすれば、自動でVRコンテンツが生成されるようになった。

「(以前から提供していたInstaVR本体でも)プログラミングスキルは不要で、ドラッグアンドドロップなどで直感的に作れるようにしていた。そのため十分簡単だとは思っていたが、それでもITになじみのない人からすれば難しいと言われたこともある。その作業を自動化し、ボタンをカチカチ押すだけでVRコンテンツができるようになった」(芳賀氏)

僕も実際にデモを見せてもらったのだけど、承認ボタンを押すような感覚で、順を追ってボタンをただ押すだけ。UIもエディタという感じはなく、かなりシンプル。Googleのトップページのようなイメージに近く、中央にボタンのみが設置されているような設計だった。

従来コストがかかっていた編集作業の自動化に加えて、InstaVRでは導入企業の担当者が自身で撮影できるように機材のマニュアルや講習を提供。専門のスタッフを派遣せずに済むようなフローを構築している。

これらによって「専門の制作会社に頼むと数百万円かかっていたようなVRコンテンツを、月額30万円から定額で作れるようになる」(芳賀氏)という

とはいえ、そもそもVRコンテンツにする必要性があるのか疑問に思う読者もいるはずだ。

芳賀氏自身も当初はEラーニングで十分ではないかと思っていたそうだが「VRは没入感がすごく、自身が現場を体験しているような感覚になれるのが大きい。業務が完全にマニュアル化されていない複雑な業務や、実地訓練を必要とするものに向いている。熟練従業員の技術を実際に体験するといった使い方もできる」という。

InstaVRセントラルは2017年より一部の企業向けに先行して導入済み。アメリカ合衆国農務省では、食肉加工工場のライン作業の訓練をすべてVR化したところ、訓練時間が1/3に短縮。年間研修費用が1/5に削減されるほか、離職率も10%以上低下できたそうだ。

すでに国内においても大手企業から中小ベンチャーまで導入実績があるが、今後は調達した資金も活用して組織体制を強化し、InstaVRセントラルを本格的に広げる計画。

またInstaVRではこれまで約1億再生分の視線データ、視野内の物体を人口知能によって認識した100億個超のタグデータを蓄積している。これらのデータを事業に活用するべく、人工知能の研究開発にも力を入れる方針だ。

不眠症治療用アプリ開発のサスメドが7.2億円を資金調達——医療機器としての承認目指し、治験開始へ

医療機器として不眠症治療用アプリの研究開発を行うヘルステックスタートアップのサスメドは6月4日、総額7.2億円の第三者割当増資を実施したと発表した。引受先は既存株主のBeyond Next Venturesに加え、SBIインベストメント第一生命保険エムスリーSony Innovation Fund東京センチュリーの各社。

サスメドは2016年2月の設立(2015年7月に合同会社として創業)。2017年2月にはシリーズAラウンドでBeyond Next Venturesから約1億円を調達しており、今回の資金調達はシリーズBラウンドにあたる。

写真右から3人目:サスメド代表取締役 上野太郎氏

サスメド代表取締役の上野太郎氏は、睡眠医療を専門とする医師で、診療のほか睡眠の基礎研究も行ってきた。サスメドが開発する不眠症治療用アプリは薬を使わず、プログラムで睡眠障害の治療を行うというもの。ソフトウェア医療機器としての承認を目指して、2016年9月から複数の医療機関との臨床試験を進めてきた。

上野氏によれば開発・検証は順調に進んでいるとのこと。臨床試験の結果を受け、PMDA(医薬品医療機器総合機構)との協議や厚生労働省への届出を経て、6月からアプリの治験を開始する予定だ。

今回の調達資金の使途はこの治験実施にかかる割合が大きいということだ。そのほかにエンジニアを中心とした開発体制を強化し、アプリ開発やデジタル医療の開発を進めるという。

また上野氏は治験で得る実データを活用して、ブロックチェーン技術を臨床応用する実証実験も行っていくと話している。「医療データは重要なデータだが、過去に医薬品開発などで改ざんが行われたケースもあり、厚生労働省による規制が厳しくなった。ブロックチェーンを活用することで、データの信頼性を低コストで担保することができる。これは医療費の低減にもつながると考える」(上野氏)

上野氏は「ICTを医療の現場へ取り入れることで、医療の質を保ちつつコストを最適化し、持続可能な医療を目指していく」と語る。サスメドでは2020年をめどに、不眠症治療用アプリの医療機器としての承認を目指す。また治療効果のあるプロダクトを実現した上で、健康経営など法人向けサービスの提供にも応用していきたい考えだ。

医療機器としての治療用アプリ開発では、医療機関向けのニコチン依存症治療用アプリなどを開発するキュア・アップが2月に15億円の資金調達を実施している。また医療機器ではないが、法人向けに睡眠改善プログラムなどを提供するニューロスペースは2017年10月に約1億円の資金調達を行っている

「服作りをもっと自由に軽やかに」CAMPFIREとワールドが新たなファッションの仕組み作りへタッグ

写真左からCAMPFIRE代表取締役社長の家入一真氏、ワールド代表取締役 社長執行役員の上山健二氏

「イメージとしてはファッション業界版のインキュベーションのような仕組みに近い。もっと自由に、軽やかに、ファッションやブランド作りに挑戦できる環境を作りたい」――CAMPFIRE代表取締役社長の家入一真氏は、これから老舗アパレル企業と始める取り組みについて、そのように話す。

このアパレル企業とは、約60年に渡ってさまざまなファッションブランドを世の中に展開してきたワールドのこと。CAMPFIREは6月1日、ファッションの領域で新たなチャレンジをしたい個人やクリエイター、企業、自治体を支援するべく、ワールドと資本業務提携を締結したことを明らかにした。

双方のノウハウをクリエイターに還元、ブランド作りの支援を

CAMPFIREではこれまで資金集めの民主化をテーマに掲げ、クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」を軸に複数のプロダクトを運営してきた。特にクラウドファンディングと相性がいい分野については領域ごとに特化型のサービスを展開。たとえば社会貢献分野の「GoodMorning」や地域に関する「CAMPFIRE×LOCAL」がそうだ。

同じようにファッションに特化したプラットフォームとして2016年10月に「CLOSS(クロス)」をスタート。コンテスト型のFashion Forwardも実施し、選ばれたブランドにはPRや流通面なども含め、ブランドを育てていくために必要なサポートも行ってきた。

「(ファッションに限らず)それぞれのジャンルにおいて僕らにできることは何かを突き詰めていくと、すでに各業界で事業を展開されている大手企業と組むという選択肢もでてきた。ワールドの上山社長と話をしていく中で『一緒にできそうなことがいろいろありそうだよね』となり、ファッションの領域で共に仕組み作りをしていくことになった」(家入氏)

具体的な取り組みについては今後詰めていく部分も多いそうだが、軸となるのはクラウドファンディングを始めとするCAMPFIREの資金調達ノウハウと、ワールドの持つファッションのアイデアを形にしていくノウハウやアセット。これらを掛け合わせてクリエイターや企業に提供し、ファッション産業全体の活性化を目指していくという。

「ファッションは受注から製造、販売までのサイクルが長いビジネス。若手のデザイナーに話を聞くと入金までの期間がながいことがネックで、資金繰りでつまずくことも多い。その点クラウドファンディングは先にお金を集められる仕組みなので、クリエイターにとって助かる部分もある。ワールドがブランド立ち上げのノウハウ面で強みを持っている一方で、僕たちはレンディングなど他の手段も含めた資金調達の仕組みを使ってクリエイターを支えたい」(家入氏)

ファッションをもっと自由で軽やかに

家入氏によると、ワールドではパターンを作るノウハウや流通、PRに至る知見まで、自社の保有する資産をオープン化し、ファッションプラットフォームの構築を進めているそう。今後はこのような双方が持つナレッジに加えて、ワールドが青山に持つスペースの提供など、リアルな場も絡めた支援を進めていく方針。この点で冒頭でも触れたように、ITスタートアップのインキュベーションに近い側面もあるという。

「さまざまな業界において、産業構造や市場、経済状況が変化する中で、高度経済成長時に作られたモデルが成り立たなくなってきている。そこで1番大変な思いをしているのは、末端にいる個人のクリエイターやアーティスト達。(彼ら彼女らが)それでも声を上げたいと思った時に、どんな支援をできるのかということが、ずっと取り組んできたテーマでもある」(家入氏)

フレンドファンディングサービスの「polca」もこのような文脈で生まれたサービスであり、幻冬舎と取り組む新しい出版のモデル作りについても同様だ。

実はCAMPFIREでもすでに新しいファッションの形が生まれてきているそう。一例として家入氏があげるのが、隔月で新たなクラウドランディングプロジェクトを立ち上げ続けているブランド「ALL YOURS」。同ブランドでは小さなコミュニティの中で熱量を高め、その中で自分たちの思いやアイデアを発信し、実現している。

家入氏は「オンラインサロンなどのファンコミュニティとも共通するような、今っぽい感じの服の作り方」と表現するが、このようなモデルがこれからどんどん広がっていくのかもしれない。

「ITスタートアップのように、少人数で作りたいものをぱっと作って、ファンに直接届けるという形がもっと増えるとおもしろいと考えている。近年、起業のイメージがだいぶライトになって、それこそバンドを組むようにスタートアップをする人たちも増えてきた。ファッションやブランド作りも同じように、もっと自由で軽やかなものにしていきたい」(家入氏)

AIでラストワンマイルの配送ルートを最適化、名古屋大発のオプティマインドが数億円を調達

名古屋大学発の物流AIスタートアップであるオプティマインドは6月1日、自動運転ソフトウェアを開発するティアフォー寺田倉庫を引受先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。調達額は公開されていないが、関係者によると数億円規模になるという。なお調達を行ったのは5月とのこと。

オプティマインドが取り組むのは、物流業界におけるラストワンマイルの配送最適化だ。具体的には組み合わせ最適化や機械学習、統計の技術を用いて「どの車両が、どの訪問先を、どの順に回るべきか」を効率化するクラウドサービス「Loogia」を開発中。7月のリリースを予定している。

近年、物流業界ではドライバーの高齢化や人材不足が課題となっている一方で、AmazonなどECの拡大によって物流量の増加や配送の複雑化、小口化が進行。今後この流れがさらに加速する可能性も踏まえると、限られたリソースを最大限に生かすためのシステムは不可欠だ。

オプティマインドで開発を進めるLoogiaでは、2段階のプロセスを経て最適な配送計画を割り出す。

まず機械学習や統計の技術を用いて、取得したデータから物流に特化した地図を構築するのが第1段階。たとえば「マンションの出口はどちらにあるか、車幅はどれくらいか、走行速度はどのくらいになるのか」といった規則や傾向が溜まった地図のようなものだ。そして第2段階でその地図データと核となるアルゴリズムを用いて、個別の条件下における最適な配送ルートを提示する。

同社代表取締役社長の松下健氏によると、これによって「配送ルートを作る時間の削減と(人力で作成していた時よりも効率的なルートが作れることで)実際の配送にかかる時間の削減が見込める」という。

オプティマインドは2017年秋から2018年にかけて日本郵便とサムライインキュベートが実施したインキュベーションプログラムに採択され、Demo Dayでは最優秀賞を受賞。その際に郵便局で実証実験を実施したしたところ、特にノウハウや経験が少ない新人配達員の業務時間が大きく削減されたのだという。

日本郵便との実証実験の結果。資料はオプティマインドより提供

「配達員はまず配送ルートを作成した上で、それが最適なのか不安を抱えながらも配送しているというのが現状。Loogiaではルート作成という属人的な業務を人工知能を使って効率化するとともに、(組み合わせ最適化技術により)人間では考慮できないレベルでの最適化を実現することで、配送業者をサポートする」(松下氏)

もちろん配送効率化を支援するシステム自体は以前からあるが、松下氏によると買い切り型で導入コストが高く、かつアップデートがされない仕様のものも多かったそう。

Loogiaのターゲットは宅配に限らず、弁当や食材、メンテナンスや引っ越しなど、ラストワンマイルの配送を手がける幅広い業者。小口の配送業者でも継続して使いやすいように、SaaSモデルで車両台数に応じて課金する仕組みを用いる。

名古屋大学の研究をプロダクトに落とし込んで展開

オプティマインドのシステムは名古屋大学の組み合せ最適化技術を活かしたもの。特に配送最適化の分野では高レベルの研究実績とアルゴリズムを持っているそうで、社員の中には松下氏を含め同大学院の博士課程に在籍するメンバーも多い。また技術顧問という形で情報学研究科の柳浦睦憲教授も参画している。

同社はもともと2015年に合同会社としてスタート。当初は物流に限らず、最適化技術を活かしたコンサルティング事業をやろうとしていたそう。松下氏いわく「その時に1番属人的で、変えるのが難しそうだったのが物流業界だった。だからこそ業界が抱える課題を自分たちが解決していきたいと思った」ことと、自身が研究していた領域が配送計画問題だったこともあり、物流領域に絞った。

今までは個別の企業ごとにコンサルという形で配送ルートの効率化サポートをしていたそうだが、より多くの企業の課題を解決するため、これからはクラウドサービスとして広く提供する。また「新しいサービスを展開したい人に対して配送計画というノウハウを提供する会社(プラットフォーム)」を目指し、SaaSに限らず計算エンジンのAPI連携やR&D事業も進めていく方針だ。

「今は最適システムの基盤作りの段階。その上に実配送データを収集・解析してGoogleなどがもっていないような『物流に特化した生データの地図』を構築していく。将来的にはライドシェアや自動運転が普及した時に、どのように回ればいいのかという部分においては、プラットフォーマーとしての立ち位置を確立したい」(松下氏)

今回の調達元である寺田倉庫では物流APIを企業やスタートアップに提供。エアークローゼットサマリーなどにも資本参加をした実績もある。同社にとっても配送ルートの最適化は重要で、オプティマインドとは事業シナジーもあるだろう。また松下氏の話す自動運転が普及した後の展望も踏まえると、このタイミングで自動運転ソフトウェアを開発するティアフォーから出資を受けている点も興味深い。

「今はぐっとアクセルを踏むタイミング」(松下氏)ということで、まずは調達した資金と元に組織体制も強化し、Loogiaの開発と導入企業の拡大に取り組むという。

「十分まわる組織になった」ーーAnyPayが新体制を発表、木村氏は取締役会長として投資事業に専念

わりかんアプリの「paymo」などを提供するAnyPayは6月1日、経営体制の変更を発表した。現代表取締役社長の木村新司氏は新たに取締役会長に就任し、現取締役COOの大野紗和子氏(写真右)とペイメント事業責任者の井上貴文氏(写真左)の2名がともに代表取締役へと就任する。

「既存事業は安定し、十分まわる組織になった」と話す木村氏は今後、シンガポールを拠点として投資事業に注力するという。一方で、大野氏はブロックチェーン領域と新規事業の創出を、井上氏は既存のペイメント事業をそれぞれ管轄するという。

木村氏は、「投資も事業もできる会社が理想。純粋な投資家はPLを見て投資をするしかないが、事業会社は既存事業がもつケーパビリティを生かして投資することができる」と語り、この新体制により彼が理想とする企業のかたちへと進化することができると説明した。

これまでにも投資会社のDas Capitalを通して投資事業を行なってきた木村氏。現在、同社は累計で約40億円もの出資を実施済みで、そのポートフォリオには2017年に上場したWantedlyや2018年上場のSpotifyも含まれるなど順調にエグジットを重ねている。木村氏は今後もブロックチェーンやシェアリングエコノミー、フィンテックなどの分野をテーマに投資を続けていくという。

「シェアリングエコノミーを例にとっても、先進国と新興国ではその広がり方はまったく異なる。先進国ではあまった時間やモノをシェアするという意味でのサービスが生まれているが、もともとモノが足りない新興国では、サービス提供者がモノを提供し、ユーザーがそれを複数人でシェアするというかたち。そういったトレンドを掴むためにも、シンガポールを拠点として投資を行うことが重要だと考えた」(木村氏)

2017年9月よりICOコンサルティング事業を開始し、大野氏の管轄分野も「ブロックチェーンや新規事業」と説明するなど、これまでもブロックチェーン領域へ熱い視線を向けてきたAnyPay。同社は現在、ペイメントを軸にした新規事業開発を複数件進めていて、その中には「仮想通貨系のもの」(木村氏)も含まれているという。その新サービスは、早ければ今年7月のローンチを目指しているという。

Canon、フィルムカメラの販売を終了――時代は過ぎゆく

カレンダーに書き込んでおくといいかもしれない。あるテクノロジーが終わりを告げた―もっともこのテクノロジーはここ10ほど死にかけてはいたのだが。日本の巨大カメラメーカー、Canonは今週、フィルムカメラの最後の1台を販売したことをひっそりと発表した。日本語サポート・ページの内容に気づいたのはPetaPixelだった。

問題の機種はEOS-1Vで、製造はなんと8年前に打ち切られており、以後Canonは在庫を販売していた。その在庫がとうとなくなったらしい。突然驚きのニュースというより長いことかかって徐々に消えていったという雰囲気だ。そうではあっても一時代の終わりといえるだろう。1930年代の創業以来、Canonの販売ラインナップからフィルムカメラが消えるのはこれが始めてだ。Canonの前身の会社は初めて売り出したカメラを〔観音菩薩にあやかって〕KWANON(カンノン)と名付けたという。

突然ノスタルジーを起こしてEOS-1Vが欲しくなる向きもあるだろうが、中古の購入は比較的簡単だ(もっともこのニュースで多少プレミアがアップするかもしれない)。この分だとKickstarterにフィルムカメラの復活プロジェクトが登場するのもそう遠くないだろう。

Nikonを始めフィルムカメラをサポートし続けているメーカーはいくつかある。CanonではEOS-1Vの修理サポートを2025年10月31日まで受け付けるとしている。しかし規約で定められた修理対応期間(2020年10月31日)の終了以降は部品の在庫状況により修理を受け付けることができない可能性があるという。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

AI特化型インキュベーターのディープコアが60億円ファンドを設立へ、LPには親会社のソフトバンクも

写真左より、ディープコア代表取締役の仁木勝雅氏と、新ファンドの第1号案件となったVAAK代表取締役の田中遼氏

AI特化型インキュベーターであるディープコアは5月31日、シード・アーリー期のスタートアップ投資を目的としたファンド「DEEPCORE TOKYO」を設立したと発表した。同社が目標とするファンド規模は総額60億円だ。

設立時にも紹介したディープコアは、主にディープラーニングを中心とするAI領域でビジネスを行うスタートアップを対象としたインキュベーターだ。同社は2018年夏に東京の本郷にコワーキングスペース「KERNEL HONGO」をオープンする予定となっている。

ディープコアが今回立ち上げたファンドは、シードラウンドやシリーズAラウンドでの投資を目的としたもので、今年12月のファイナルクローズまでに約60億円の出資金を集めることを目指しているという。現時点で、LPにはディープコアの親会社であるソフトバンクグループのほか、ソフトバンク、ヤフーが参加することが決定している。

ディープラーニングを活用するスタートアップがまず必要とするのは、計算資源を整えるためのまとまった資金だ。ディープコアはその資金を直接スタートアップに供給するとともに、ソフトバンクグループが出資するNVIDIAの計算資源と技術コンサルティングを提供するとしている。これは、ディープラーニングを活用してビジネスを立ち上げたい起業家にとって大きなメリットとなるだろう。

ファンド運営を担当する渡邊拓氏は、「当社の調べでは、ディープラーニングを活用したビジネスを行う日本のスタートアップは、米国と比べて10分の1程度の数しかない。コワーキングスペースの運営から出資まで一貫して行うことで、その数を増やしていくことが目的だ」と語る。

ところで、ディープコアはソフトバンク子会社であるものの、彼らはその事実を積極的にアピールはしていない。その理由として、同社CFOの雨宮かすみ氏は「ディープコアのミッションは、ソフトバンクグループとシナジーを生み出すスタートアップを発掘することではなく、日本におけるAIスタートアップのエコシステムを活性化すること」だと語り、“ソフトバンクグループ色”を前面に出さずによりオープンな支援を行なっていくためだと説明する。

ディープコアによれば、同社はすでに防犯カメラの映像解析を手がけるVAAK(約5000万円)と、名称非公開のスタートアップ1社への出資を実施済みだ。同社は今後も1社あたり数千万円程度の出資を続け、最終的には100社近くのAIスタートアップに出資を行っていくという。

ランチ難民救う、月額定額制のランチテイクアウトサービス「POTLUCK」

ランチの時間くらいゆっくりして、午後の仕事に備えたいーー会社に出社すればなかなか息をつく暇もないからこそ、ランチタイムをリフレッシュの時間として大事にしている人も多いだろう。

ただオフィス街では、なかなかそう簡単にはいかない。特に12時すぎはどのお店も混み合っていて、店の外まで並んでいる所も珍しくない。席が確保できたとしても、待っている人が大勢いればくつろぐのも気がひける。

「ランチ難民(昼食難民)」なんて言われることもあるけど、この問題を少しでも解決することはできないか。そんな思いから生まれたのが、月額定額制でさまざまな飲食店のランチをテイクアウトできる「POTLUCK(ポットラック)」だ。

SNSでもちょっとした話題になっていたので目にした人もいるかもしれないが、開発元のRYM&COは5月23日より同サービスの事前登録受付を開始。まずは今夏〜今秋を目処に、渋谷や恵比寿など一部エリアにてβ版を提供する計画だ。

サブスクリプション型のランチ持ち帰りサービス

POTLUCKは今風に言えば、サブスクリプションモデルのランチ持ち帰りサービスといったところだろうか。

ユーザーは30日間有効のチケットを月額料金で購入し、登録されている店舗の中から好きなお店を選んで事前にランチを注文。あらかじめ指定した時間に店舗まで足を運べば、行列に並んだりする必要なく食事を受け取れる仕組みだ。もちろん各店舗で決済をする手間もない。

テイクアウトの事前予約・事前決済という点では、海外で拡大する「モバイルオーダー&ペイ」サービスと共通する部分もある。関連するサービスとしてTechCrunchでも先日「PICKS」を展開するDIRIGIOを紹介した。

POTLUCKの場合はそこにサブスクリプションの仕組みを取り入れている点が特徴だ。価格は利用頻度にもよるが、1食あたり600〜680円。前日17時〜当日10時までにメニューと受け取り時間を指定する(平日限定)。

RYM&CO代表取締役の谷合竜馬氏によると「(飲食店とユーザーが)継続的に関係性を構築していけるような仕組みを作りたかった」ことからサブスクリプション型を採用。ある種ファンクラブに近いようなコミュニティサービスをイメージしているそうで、シンプルなテイクアウトの事前予約・決済ではなくあえて継続課金モデルを選んだ。

「新規でオープンしたお店や、もっとランチに力を入れていきたいという店舗にとっては、新しい顧客との最初の接点にもなる。試食のような感覚で、飲食店が顧客と関係性を築くきっかけとして使えるサービスにしていきたい」(谷合氏)

POTLUCKであればユーザーは30日間有効のチケットをすでに複数枚持っているので、それを使い切ろうと積極的にサービス内の店舗をチェックするユーザーは多そうだ。単発のテイクアウト予約サービスに比べ、新しい店舗が目を向けてもらえるチャンスは増えるだろう。

ランチタイムの混雑から解放され、有意義な時間を過ごせるように

RYM&COは2017年11月の創業。フリーランスとしてCAMPFIREの運営やNPOの支援に携わっていた谷合氏が立ち上げたスタートアップだ。

もともと谷合氏自身が冒頭でも触れたような、ランチタイムの“混雑萎え”を経験。当時のオフィスでは弁当のデリバリサービスのようなものがあったが、あまり利用しなかったという。

「とにかく空腹を満たしたい、外にでる時間がないけど何か食べたいといった場合には便利だった。ただランチタイムにリフレッシュしたい、食の時間を大切にしたいと思った時には、もっとさまざまな弁当から選べた方が良いと感じた。(デリバリーではなくテイクアウトにすることで)あえてオフィスから少し出てみると、気分転換にもなる」(谷合氏)

米国では同様のモデルで成長する「MealPal(ミールパル)」というサービスもある。オフィスから外にでる手間は発生するので面倒に感じる人もいるかもしれないが、それでもテイクアウトへのこだわりは強いようだ。

ボックスやクラフト紙にもこだわりがあるという

3月には3店舗と約20人のユーザーを対象に1ヶ月のテストを実施。特に食へのこだわりが強い女性からの反響が大きかったという。また店舗からも大きな手間がかかることなくテイクアウトを導入できるという点で、反応が良かったそうだ。

「外食中心で混雑疲れしている人や健康面が気になっている人には相性がいい。店舗にとっては予定の時間に合わせて作っておけば、あとは手渡すだけ。だいたい数秒で終わるので、そこにちょっとした“余白”ができ、お客さんとの間にコミュニケーションが生まれるきっかけになりうる。単にオーダーをして受け取るだけでなく、双方の関係性を育めるようなサービスにしていきたい」(谷合氏)

発表から3日でユーザーの事前登録数はすでに100人を超え、店舗からの問い合わせも数件合ったそう。今後はサービスの改良と飲食店の開拓を進めながら、まずは渋谷、恵比寿、代官山、表参道あたりからエリアを絞り、β版の提供を目指す。

古着ファンメディア「古着女子」運営のyutoriが元エウレカ赤坂氏らからエンジェルラウンドで資金調達

古着情報メディア「古着女子」を運営するyutoriは5月30日、エウレカ創業者の赤坂優氏、クラウドワークス元CFOの佐々木翔平氏、フリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏から、エンジェルラウンドで資金調達を実施することを明らかにした。調達金額は公開されていない。

古着女子は、おしゃれに古着を着こなす女性をピックアップして紹介する、Instagramアカウントだ。開設から5カ月でフォロワー10万人を突破、月間のいいね数は50万を超え、現在もフォロワー数は月1万人ずつ増えているという。

yutori代表の片石貴展氏はアカツキ出身。高校時代から古着がずっと好きだった片石氏が、趣味の延長線上でInstagramのアカウントを作成したところ、思ったより反響が大きく、4月にサムライインキュベート出身の副代表・松原俊輔氏らと合同会社を設立した(資金調達にともない6月26日に株式会社へ改組予定)。

事業は自己資本で進めるつもりだった、という片石氏。今回のラウンドに参加した投資家について「エグジットありきではなく、事業に共感し、投資してもらえた」と話している。

6月7日には古着をテーマにしたECサービスのリリースも予定しているyutori。「古着はそもそも1点もの。大量生産・大量破棄でなく、1着に物語を込めて扱っていく。時代とは逆行しているが、古着の持つ本質的な価値に出会えるサイトにしていきたい」と片石氏は語る。

yutoriでは今後、下北沢エリアをキーにメディアと連動したポップアップ出店の準備も進める。またネット通販だけでなく、古着を通した人との出会いづくり、リアルなコミュニティ運営にも力を入れていくという。

コミュニティ運営については、古着屋さんと自身の関わり方が原体験となっている、と片石氏は述べている。「古着屋さんというのは特殊な場所で、服を買うのより店員さんと仲良くなるのが先にあって、結果として服を買っているようなところがある。そういったコミュニティやリアルなつながりの原点となる体験を、古着屋にあるそのままの形ではなくて、Instagramなどで広めたくなるような場として作りたい」(片石氏)

さらに「古着が好き、という子にとって、クラスに同じような格好をしている子はそんなにたくさんいない。マイノリティであることは、ある種大変なこと。そうした古着好きの子が『私たち間違ってないよね』と確かめ合える場所でもありたい」とも片石氏は話す。

下北沢をキーエリアとするのは「yutoriや古着女子の持つ世界感と合っているから」と片石氏。「下北沢はプラスの部分を大きく見せる原宿系とも違い、日常的で、いいところも悪いところも含めて表現しているところがある。そんな下北沢カルチャーを巻き込んで、世の中に存在感を放っていければ」と語っていた。

写真左から、エウレカ創業者 赤坂優氏、yutori代表 片石貴展氏、副代表 松原俊輔氏、フリークアウト・ホールディングス代表取締役社長 佐藤裕介氏

「僕には必勝パターンがある」、gumiがブロックチェーン特化の30億円ファンド設立

スマホゲームの開発などを行うgumiは5月30日、仮想通貨およびブロックチェーン技術に特化した投資ファンド「gumi Cryptos」を設立すると発表した。ファンド規模は3000万ドル、日本円にして約30億円だ。

「投資には、僕なりの必勝パターンがある」ーー gumi代表取締役の国光宏尚氏は、TechCrunch Japanの取材でこう語った。

gumiはこれまで、モバイル動画とVRの領域においてスタートアップ投資とインキュベーションを行ってきた。モバイル動画ではCandeedelyなどに出資を行い、VR領域ではインキュベーションプログラム「Tokyo VR Startups」からInstaVRよむネコなどを輩出した。

モバイル動画とVR。それぞれ領域は違えど、gumiによるスタートアップ支援はきれいにパターン化されている。スタートアップにシード・アーリー期から深く関わることでコミュニティを作り、そのメンバー全員で、ある問いに対する答えを見つけるというものだ。

「まず、3〜5年後にくるであろう領域を見つける。それから、その領域で有望なスタートアップのインキュベーションやシード・アーリー期の投資を行う。僕は何についても“〇〇ファースト”なプロダクトやサービスが最後に勝つと思っている。だから、出資先の起業家たちとお互いの成功体験、失敗体験を共有しながら、『何がスマホファーストなのか、何がVRファーストなのか』というのを検証していくんです」(国光氏)

そして、このインキュベーションと投資によって得た知見を自社プロダクトの開発に活かす、というのが国光流必勝パターンの最終形態なのだという。VR領域で言えば、2017年3月に発表されたよむネコのグループ会社化などがその例だ。

そのgumiが、次の“3〜5年後にくる”と読んだのが仮想通貨とブロックチェーンの領域だ。gumiは米国の仮想通貨取引所「Evercoin」の創業者であるMiko Matsumura氏を共同事業者に迎え、2018年2月にgumi Cryptosを設立。3000万ドル(約30億円)規模のファンドを立ち上げた。合同会社であるgumi Cryptosの業務執行社員には、gumi Ventures(グループ傘下のVC)とMiko Matsumura氏が就任する。

同ファンドはすでに、ゲームの配信プラットフォームを開発するRobot Casheや動画配信プラットフォームのTheta(いずれも米国)など5社に出資を実施済みだ。1社への出資額は25万ドル〜100万ドルだという。

「この領域でも同じく、ブロックチェーンならではのモノとは何かを検証していく。その仮説の1つが、ブロックチェーン上ではデータがトレーダブルであり、かつコピー不可という特徴をもつという点だ。これまで、インターネット上のデータはコピーされてしまうものなので、価値を持たなかった。だから、Spotifyも音楽データを販売するのではなく、“音楽に囲まれた日常”というサービスを売ってきた。でも、これからは、ゲーム内のデータがコピー不可でユニークなものとなり、資産性を持つという世界になるかもしれない」(国光氏)

ちなみに、詳細はまだ不明ではあるものの、これまでのパターン通り、gumiはすでにブロックチェーン技術を活用した自社プロダクトの開発に着手しているようだ。

auが「Netflixプラン」夏開始、月25GB+通話定額で月5500円〜

eng-logo-2015auが、「auフラットプラン25 Netflixパック」を2018年夏以降に提供します。

KDDIの高橋誠社長が「Netflixプラン」と語る同プランは、月間25GBのデータ定額に「Netflixベーシックプラン」(通常税別650円)と「ビデオパス」(通常562円)がセットになったもの。

5分間の通話定額「スーパーカケホ」と組み合わせても、月額料金が初年度5500円〜に収まる点をアピールします。(※永年1000円割引のauスマートバリュー、翌月から1年間1000円割引のスマホ応援割適用時。2年目以降は月6500円〜)

なお、NetflixのベーシックプランはSD画質、同時視聴も1ストリーミングに限られます。HD画質・2ストリーミングの「スタンダードプラン」、および4K画質・4ストリーミングの「プレミアムプラン」を利用する場合には、それぞれ月300円、月800円の追加料金が必要です。

通常プランと比べた優位性について高橋社長は『通常の20GBプラン(auフラットプラン20)に5GBを追加し、(中略)さらにビデオパスとNetflixのベーシックプランを個別契約するのに比べて、月1000円もお得になる』とアピール。

ゼロレーティングは「差し控えている」

また、Netflixプランにゼロレーティング(Netflixの通信量カウントフリー)を導入しなかった理由については「(カウントフリーを)通信会社としてあまりやるべきではないという風に、ガイドラインとしておっしゃられているので、我々は差し控えている。ゼロレーティング以外のやり方として、20GBをベースに5GBを追加した」(高橋社長)とコメントしました。

(追記)高橋社長は発表会後の囲み取材で、ゼロレーティングに関する発言を訂正。前述のようなガイドラインの記載はないものの、公平性の観点から総務省がMNOによるゼロレーティングについて「グレー」であるという認識を示しているとしています。

そのほか『私が最初にNetlifxのオフィスに伺ったのが7年前で、ようやく同プランが実現した』と、Netflixとの提携が7年越しであることをアピール。続けて『これからの5G時代において、エンタメと通信がいかにコラボレーションしていくかが重要になっていく。この提携は非常に意義がある』とコメントしました。

Engadget 日本版からの転載。

誰でも3ステップでWebページが作れる「OnePage」がリリース、「Wovn.io」や「formrun」との連携も

イベントの開催、新サービスの発表、セミナーの参加者募集などのためにWebページを作成したいが、時間もないし予算も限られている。そんな時に利用できるのが、ベーシックが5月29日に発表した新サービスの「OnePage(ワンページ)」だ。

OnePageの利用に必要なのは3ステップだけ。ページの新規追加ボタンを押し、「セミナー募集」などのWebページの利用シーンを選択する。あとは、その利用シーンごとに用意された全20種のデザインの中から好みのものを選択するだけでいい。ユーザーがHTMLやCSSを理解している必要はないし、サーバーも不要だ。

Webページのデザインには、ユーザーが選択した利用シーンに沿って画像や文章がプリセットされている。画像やテキストをWebブラウザ上で変更すればオリジナルのWebページが完成するので、短時間でページを公開することが可能だ。

「(Wixなどの)競合サービスと比べたOnePageの利点は、ユーザーが迷わないように、画像や文章を含めたWebページのデザインが用意されている点だ」とOnePageプロダクトオーナーの福田ひとみ氏は話す。もちろん、あらかじめフォーマットが決められているので、デザインの自由度は低くなる。自分でCSSをいじってWebページを作りたいという人には不向きなサービスだろう。

でも今の時代、 HTML/CSSの知識をまったく持ち合わせていない人が個人イベントの集客のためにWebページを作ったり、個人事業主がセルフブランディングのために限られた予算の中でWebページを作ったりするケースはある。そのような人向けの、必要十分な機能を備えたWebページ制作ツールがOnePageだと言える。

実際に僕もデモページを見せてもらったけれど、大抵のことはOnePageで実現できそうだ。「WOVN.io」でページの自動多言語化もできるし、ベーシックが2017年12月に買収した簡易CRM付きフォームの「formrun」も簡単に埋め込むこともできる。モバイルにも自動で対応し、簡易なアクセス解析ツールも付いている。Webページはあくまで、その奥につながるサービスやプロダクトに通じる玄関であり、ページを“公開する”ことこそが最も重要であるときもある。OnePageはその公開までにある障害を取り除いてくれるサービスだ。

OnePageは1アカウントにつき3ページ、総PV数が5万ビューまでといった制限が設けられた無料版を本日公開。2018年夏には、独自ドメインでの運用も可能な有料版のリリースを予定している。

LINEや電話で最適な施設を提案、Reluxが民泊物件などのコンシェルジュサービスを開始

昨年からスタートアップ界隈でも注目を浴びていた「民泊新法(住宅宿泊事業法)」が施行される6月15日まで、1ヶ月を切った。

2017年から2018年にかけて、民泊領域の新会社や新サービスの発表が相次いだ。TechCrunchでもリクルート住まいカンパニーがAirbnbと提携して民泊事業を展開することを始め、関連する話題を紹介してきたが、新法の施行を皮切りに各サービスが事業を本格化していくことになるだろう。

宿泊予約サービス「Relux(リラックス)」を運営するLoco Partnersもそのうちの1社だ。2017年の時点で新法施行後に新たなサービスを展開することを発表し、2018年1月には町家や古民家などを紹介する「Vacation Home」をリリース。6月15日以降は、このサイトに民泊物件も掲載されるようになる予定だ。

それを見越して同社では本日5月29日より、Vacation Homeに掲載される施設を対象としたコンシェルジュサービスを開始した。

ユーザーの要望に応じた宿泊施設を提案、代理予約まで

今回Loco Partnersが始めたのは、コンシェルジュがユーザーの要望にあったVacation Homeを提案し、代理予約(一部店舗を除く)までしてくれるというサービスだ。

ユーザーはReluxの公式LINEの他、電話や専用の依頼フォームを通じてコンシェルジュに無料で相談が可能。以前からRelux内で提供していた「Reluxコンシェルジュ」の対象をVacation Homeの施設にまで広げる形で運営する(少なくともリリース時点ではReluxコンシェルジュと切り分けず、ひとつのサービスとして提供)。

今回コンシェルジュサービスの対象を広げるに至った背景には、旅行者と宿泊施設のベストマッチを実現するという意図はもちろんのこと、旅行者が民泊物件に対して危険や不安といったイメージを抱いていることがあるという。

たとえばマクロミルが全国の20~69歳の男女1000名を対象に実施した「民泊に関する意識調査」では、民泊に対して「安い」、「外国人向け」、「利用者のマナーが悪い」といった印象を持つ人が多いという結果がでている。

そのイメージもあってか、全体の7割が民泊利用に抵抗感を示しているようだ(民泊の利用意向について、43%が全く利用したくない、27%があまり利用したくないと回答)。これはあくまで参考程度にしかすぎないが、口コミなどが少なければ余計に不安を覚えるユーザーも多いことが想定されるため、安心して宿泊できるようにコンシェルジュサービスの拡張を決めた。

現在Vacation Homeでは旅館業法における簡易宿所の許可を取得した町家や古民家、貸別荘など約200施設を掲載。家族旅行など大人数の宿泊客や外国人観光客から特に人気があるそうで、価格帯はだいたい1万円〜20万円と幅も広い。

今後はここに民泊物件も掲載される予定だが、Loco Partnersの広報担当者によると「通常のホテルや旅館では100項目にもおよぶ審査基準をクリアした施設のみが掲載されている。民泊物件の場合は別途独自の基準で審査をすることになる」ため、当初から膨大な数の民泊物件が並ぶということはないという。

“チャットでまるっと旅行相談” のニーズが広がる

普段からスタートアップやWebサービスのトレンドを追うのが好きな人なら、もしかすると最近話題になった「ズボラ旅(ズボラ旅 by こころから)」に似ていると感じたかもしれない。

ズボラ旅は旅行へ行きたい日付と出発地を伝えれば、専門のスタッフが旅行プランを提案してくれるというLINE@のチャットサービス。リリースから数時間で数千件の相談が寄せられ、運営がパンクしたことも記憶に新しい。

Loco Partnersの広報担当者にズボラ旅について聞いてみたところ、やはり社内でも話題になったそう。実際Reluxコンシェルジュのユーザーもある種丸投げに近い形で、ふわっとした要望から自分にあった施設を探して欲しいというニーズが多いとのこと。

ただ「Reluxの場合は厳選された宿泊施設のみを紹介しているのが特徴。また年間100泊以上している審査委員会とコンシェルジュが密に連携をとっているため、その知見も生かした提案ができるのが強み」(Loco Partners広報担当者)であり、民泊などに対象が広がってもこの特徴を軸にしていきたいということだった。なおReluxでは2015年5月よりLINE@でのコンシェルジュサービスを開始。電話とメールではそれ以前より、同様のサービスを提供している。

民泊新法が施行された後の民泊市場の行方はもちろん気になるところだが、チャットなどをベースにした新しい旅行サービスの形も今後広がっていきそうだ。

副業ヘッドハンティングのSCOUTERが人材紹介会社向けサービス「SARDINE」を提供開始

個人が副業で、知人や友人などの身近な転職希望者を企業に紹介して報酬を得られる——ソーシャルヘッドハンティングサービス「SCOUTER」はユーザーが人材エージェントとして登録する、というちょっと変わった切り口の人材紹介サービスだ。このサービスを運営するSCOUTERが5月29日、個人ではなく人材紹介会社が求人情報を利用できる、月額制の法人向けサービス「SARDINE(サーディン)」を正式リリースした。

2016年4月のSCOUTER運営開始から、約2年。SCOUTER代表取締役社長の中嶋汰朗氏によると、「スカウター」と呼ばれる個人の紹介者(ヘッドハンター)は順調に増えていて、審査応募数では約9000人となっているとのこと。求人を掲載する法人も約1000社となり、幅広い業界の大手からスタートアップまで求人がそろう。

そうした中、副業でなく本業として人材紹介を行っていた元エージェントや現役エージェントにも、スカウターとして登録するユーザーが現れてきた、と中嶋氏は話す。

有料職業紹介、つまり人材紹介を行う事業所は日本全国で約2万カ所。有効求人倍率が増え続け、紹介免許の許可基準が緩和されたこともあって、さらに増加が見込まれる。そして、そのうちの約85%が従業員数10名以下の小規模事業者と言われている。

しかし、中小規模のエージェントでは求人がそろえられず、転職希望者に紹介できる案件がないケースも多いという。そうした中小エージェントから「SCOUTERを会社で使いたいという要望が出てきた」と中嶋氏。しかしSCOUTERでは紹介者が得られる報酬は転職者の年収の5%に限られる。このため、法人向けにより高い報酬が得られるサービスが求められていた。

新サービスのSARDINEは「月額利用料のみ」「紹介手数料は100%還元」というモデル。毎月利用料を支払えば、SCOUTERと共通でサービス上に掲載されている約1000社の求人を、自社が抱える求人と同様に転職希望者に紹介することが可能になる。

「紹介免許の取得が容易になったことで、人材紹介会社は個人や小規模にシフトし、数も増えている。ただし、どこも同じような業務になっていて、求職者が分散している。SARDINEではクラウドサービスとして個人・小規模業者を一カ所に集めることで、管理コストを減らすことができる」(中嶋氏)

特に中小規模の紹介会社では、求人開拓のリソースが不足していることが課題となる、と中嶋氏は言う。「求人開拓をしなくてもいい、集客しなくてもいい、となれば、その分の時間を企業と求職者のマッチングに充てることができる。アナログ作業も多い業界だが、面談以外の時間を無くせば、人と向き合う時間が増え、求職者に満足いくサポートもできる。結果として採用される確率も高くなり、求職者の満足度も高くなる」(中嶋氏)

SARDINEでは、これまでSCOUTERで蓄積したノウハウをもとに、選考管理に関する機能もエージェントへ提供。面接スケジュールの調整や選考結果のメール・電話連絡などのアナログ作業を削減できるようにしている。

また求人を行う企業にとってのメリットも増える。「求人をサービスに載せるだけで、SCOUTERに加えて複数の紹介会社から一括で紹介を受けることができるので、効率的に採用ができるようになる」(中嶋氏)

SARDINEと同じように中小規模のエージェントと企業をマッチングするサービスでは、groovesが運営する「Croud Agent(クラウドエージェント)」などがあるが、これらのサービスでは月額課金に加え、成約時に成功報酬の30%を利用料として支払うことになっている。

SARDINEは月額利用料のみで利用できる。月額利用料は公表されていないが、3カ月に1人紹介が成立すれば収益化できる金額だということだ。SARDINEはこれまでにクローズドベータ版として、数十社の人材紹介会社向けに運用されていたのだが、既に1000万円を売り上げたところも出ているという。

中嶋氏は成果報酬を100%還元することで「エージェントがインセンティブが高い求人を優先するのではなく、転職者本人が希望する求人を選択してプッシュすることになるので、選択をねじ曲げず、マッチング率も高められる」と話す。

さらに成果報酬の還元でエージェントの利用が増えれば、データの集約・蓄積も進むと中嶋氏は考えている。「求人、エージェントをひとまとめにすることで、紹介数が増え、紹介が増えることでフィードバックがたまり、紹介の精度が上がる。レジュメが蓄積されるだけでは、採用されるかどうかはハッキリわからないが、選考が進めば情報がたまる。そうしたデータはSCOUTERでも共通で使える。利用が増えて、情報がアセットとしてたまるのが我々としては理想だ」(中嶋氏)

サービス名のSARDINEはイワシを意味する。イワシは群れで泳ぐことで生存確率を高め、泳ぐエネルギーを節約できるとも言われる。中嶋氏は「SARDINEは小規模な紹介会社をグループ化して、個の力を集めて大手にも対抗しうる存在となることを目指している」と言う。

「紹介が多く情報が集まる大手と中小エージェントとの差は開きっぱなしだった。しかし小さいからこそきめ細かくできる、というクオリティもある。(クラウドサービスは)中央集権的ではあるけれど、集まる情報を使って、大手だからできていたことを小さいところでもできるというのが大事。それで格差を埋めることができる」(中嶋氏)

「小さなエージェントがビジネスとして成立することで、求職者にも選択肢を提供できる。そのために(成果報酬を手数料に入れない)サブスクリプション型に振り切った」と中嶋氏は、新サービスで求職者へのメリットも増えると話す。

「サービスを通して、どの人がどの分野で成約率が高いかといった、エージェントに関する情報も持つことができ、それを求職者に提供できる。いいことをやっているエージェントに次の仕事が来るように、適切な評価軸を提供することも大切」(中嶋氏)

中嶋氏は「サービスはプロダクトを作る力と、企業の人事担当に営業して説明する力、両方がないと成り立たない。2年間のSCOUTER運営を通じて、そのバランス感覚がわかってきた」と話している。

SCOUTERとSARDINE双方で相互協力も進め、人材紹介カテゴリーでトップを取っていきたい、という中嶋氏。そのために「エージェントが仕事をしやすいように効率化し、データを活用しつつ、求人が集まり、求人が集まれば紹介も増える、といういい循環を作っていきたい」と語った。

「ごっこ遊び」のその先へーーオープンイノベーションのための“知財”活用

(編集部注:本稿は、経済産業省特許庁の企画調査課で企画班長を務める、松本要氏によって執筆された寄稿記事だ。なお、本稿における意見に関する箇所は、経済産業省・特許庁を代表するものではなく、松本氏個人の見解によるものである)

「オープンイノベーション」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。技術や特許を誰でも使えるように開放する、スタートアップと組んで自前主義を脱却する、オープンソース、産学連携、はたまた、多様な属性の人材が集まり、デザイン思考的に潜在的ニーズを掘り起こして顧客体験を創造したり社会課題を解決したりするなど、さまざまなイメージが思い浮かぶことだろう。

昔ながらの知的財産に関わってきた人たちは、自社のコア・コンピタンス以外の部分を開放し、市場を創出しつつ利益を享受するという、いわゆる“オープン・クローズ戦略”との関係を強調するかもしれない。

オープンイノベーションという言葉自体は少なくとも2003年には生まれていたが、ここ数年でこの言葉がバズワード化しているように思う。このブームに乗り遅れまいと、さまざまな企業や団体がオープンイノベーションに取り組み始めているが、その様子を「オープンイノベーションごっこ」と揶揄される時もある。さらには、経るべき過程としての「ごっこ」の是非まで論じられるようになってきている。

オープンイノベーションという言葉に対する概念は、上で述べたように論者によって様々であり、それこそがオープンイノベーションに取り組もうとしている人々の議論がかみ合わない要因のようにも思えてくる。

オープンイノベーションに取り組もうとしている人たちは、その活動自体を「達成すべきもの」として自己目的化してしまってはいないか自分自身に問うてほしい。重要なのは、オープンイノベーションを目的ではなく、「単なる手法」として認識することだ。そして、その手法により何を得ようとするかの目的を明確にする。そこからがスタートである。

オープンイノベーションの本質は「知識の共有・創造・社会実装」

目的を明確に、という話はよく聞く話だ。では、目的さえ明確にすれば、すべてが上手くいくのかといえば、そんな簡単な話ではない。さまざまな定義を持ちうるオープンイノベーションにおいて、唯一共通かつ本質的なポイントは、複数の企業・大学や個人によって”知識の共有”が行われ、そこから新たな“知識が創造”され、さらには“知識が社会実装”されていくことである。つまり、知識をどのように共有し、どのように活かしていくか、ここが最も重要なカギになるのではないだろうか。

特許庁では、2018年4月、オープンイノベーションのための知的財産ベストプラクティス集 である「IP Open Innovation」と、企業間連携を行う際に必須となる、知的財産デューデリジェンスの標準手順書の「SKIPDD」をとりまとめ、同時に新規開設したスタートアップ向けサイトに掲載した。

なぜ特許庁がこのタイミングでこれを行ったか。それは、オープンイノベーションというバズワードが一人歩きし始めているなか、その本質たる「知識」を取り扱うための効果的なツールとして、「知的財産(必ずしも知的財産「権」のみに限らない)」を活用できるという気づきを広めたい、という思いからである。

ベストプラクティス集 「IP Open Innovation」

IP Open Innovationでは、目的が不明確で、ただ集まるだけといった「オープンイノベーションごっこ」は取り扱わない。「新規事業の創出」または「既存事業の高度化」のいずれかを目的とし、主にスタートアップとの連携によりその目的を達成しようとする企業の事例を対象としている。この2つの目的に応じた手法としてのオープンイノベーションを類型化した上で、知的財産の取り扱いや知財部門を含む組織体制のモデルなどをベストプラクティスとしてまとめている。本稿では、「新規事業の創出」を目指すケースについて、概要を紹介したい。

(1)「パートナーシップ型」からのスタート
当然ながら、新規事業には明確な技術的課題は存在し得ない。つまり、ニーズとシーズのマッチングという手法が通用しないのだ。そこで、まずアクセラレーションプログラムを開催したり、CVCによるマイノリティ出資を行ったりすることで、連携相手との緩やかな関係(パートナーシップ)を構築し、潜在的な顧客ニーズや社会課題、そして、それに対する回答を共に見いだせるスタートアップを発掘・評価することから始めることが考えられる。

発掘ステージでは、スタートアップの売り込みを待つだけでなく、積極的にみずから発掘していくことで成功の可能性を高めることができる。その手段として、技術・アイデアが集約された膨大なビッグデータである特許情報の活用は一考に値しよう。

知財部門には、主に先行技術調査を目的とした特許情報分析のノウハウが既にある。また、最近の特許情報分析ツールは急激に高機能化している。特許以外の情報、たとえば企業のIR情報などと組み合わせた分析も不可能ではないだろう。これらを活用しない手はない。

アクセラレーションプログラムなど「パートナーシップ型」の連携で生まれる知的財産は、連携先であるスタートアップに帰属させることが望ましいと考える。また、できるだけ早い段階から知財部門が事業部門やオープンイノベーション担当部門と密に関わり、簡易な秘密保持契約(NDA)やマイルストーンごとの契約見直しなど、進捗に伴うコミュニケーションを重視した条項の設定をサポートすることも重要だ。プロダクト開発だけでなく、契約においてもアジャイルな進め方によりスピード感を持って対応することが求められる。

(2)「共生型」または「コミット型」の選択
パートナーシップ型での連携によって新規事業が創出される可能性が高まってきたら、次のステージが待っている。事業化に向けて、増資や共同研究開発の拡大、人材交流の強化などを進めるとともに、連携先のデューデリジェンスを行うフェーズだ。この段階で、新規事業の展開にあたって、将来にわたって対等な関係で相互依存関係を深めていくのか(共生型)、もしくは、知的財産だけでなく人材をも取り込むためにM&Aなどによって連携先の経営に責任を持って関与していくのか(コミット型)を選択することになる。

ここでも、新規事業に関わる知的財産の取り扱いがポイントとなる。共生型とコミット型のいずれにおいても、少なくとも、下請け的に連携先を扱い、知的財産を全て自社側に帰属するようなやり方は通用しないだろう。共同保有とすることも妥協点としてあり得るが、利益配分やライセンス先の選定などにおいて調整が必要となり、双方とも自由度や迅速性が低下してしまう欠点がある。

そこで、原則として、アクセラレーションプログラムの時と同様、連携先のスタートアップに帰属することとし、共生型においては、自社が将来的に実施する可能性のある事業領域や進出先地域に関わる場合に限り独占的ライセンスを受けるなどの手法を検討してはどうだろうか。一方、コミット型を選択した場合、M&A後は基本的にすべての知的財産が自社のものとなることから、連携先への帰属についてはより容易に判断できるだろう。

(3)知財リスクテイクとサポート
本格的な連携に移行する前に実施するさまざまなデューデリジェンスの1つが「知財デューデリジェンス」だ。これは、価値評価およびリスク評価をハイブリッドした観点で実施される。ここで、特にシード・アーリー期のスタートアップは、知的財産の管理や戦略の策定と実行に十分な資金的・人的リソースを割けていない可能性がある。この点について、過度にリスクとして評価することなく、将来的なリターンを期待して一定程度リスクを取ることを検討する必要があろう。

情報の非対称性を悪用して強い立場から交渉を進めたり、スタートアップに過度の要求をしたりすることは、スタートアップが集まるベンチャー・コミュニティでの悪評につながる可能性もある。大企業やCVCが「選ばれる側」になりつつあるということを考えれば、それは大きな損失に繋がりかねない。

そして、その知財面のリスクを低減するために、自社がこれまで培ってきた知的財産に関する知見を活かし、スタートアップに対して冒頭で述べた知的財産のオープン・クローズ戦略や知的財産の管理体制などについて積極的に助言・支援することが有益である。スタートアップが第三者から侵害訴訟を提起された場合には、カウンターとして自社知財ポートフォリオを提供することなどもあり得るだろう。

オープンイノベーションでは、ベースとなる知財だけでなく、協業により創出される知財が非常に重要となってくることを考えれば、スタートアップの「これから」に期待したサポートの充実が、後にみずからの利益にもつながるのだ。

知財デューデリジェンスの標準手順書”SKIPDD”

SKIPDD(Standard Knowledge for Intellectual Property Due Diligence)は、その知財デューデリジェンスの具体的な進め方を説明した手順書だ。

オープンイノベーションの過程では、スタートアップへの出資や事業提携、M&Aを行う際、法務・財務・税務・ビジネスなどの観点から、対象会社の事業継続に関するリスクや投資額に見合う将来価値をもつか否かを判断するデューデリジェンスが行われる。知的財産に関しては、法務やビジネスに関するデューデリジェンスの一部として扱われることがあるが、オープンイノベーションの本質が「知識の共有・創造・社会実装」であるとすれば、知的財産の観点からの対象会社のリスク評価及び価値評価に正面から取り組む知財デューデリジェンスの必要性が理解されよう。

しかし、知財デューデリジェンスは他のデューデリジェンスと同様、その実施自体にコストや時間を費やす必要があることから、費用対効果を踏まえて調査範囲を絞り込むことが必要となる。そこで、知財デューデリジェンスの一般的なプロセスを理解し、調査すべき事項や相手方に開示を求めるべき資料などを精査して、知財デューデリジェンスを効率的に実施するための助けになることを目的として作成したものがSKIPDDなのである。

このSKIPDDは、利用者として知財デューデリジェンスを行う側だけを想定したものではなく、将来、知財デューデリジェンスを受ける可能性のあるスタートアップなどにも幅広く手にとってもらいたいと考えている。そもそも知財デューデリジェンスとは何か、どのように進められるものかについて概要を把握するとともに、調査される可能性のあるポイントについて評価を高めるための準備を行い、みずからの企業価値をPRする根拠として活用できるはずだ。

より洗練されたオープンイノベーションに向けて

本稿で紹介したIP Open InnovationとSKIPDDは、決して机上の空論から作られたものではない。さまざまな関連情報を収集するとともに、国内外企業の実務家や有識者、知財や法律などの専門家に対する幅広いヒアリングを行うことで生まれた極めて実用的なツールである。さらに、SKIPDDについては、オープン検証のプラットフォームであるGitHubを活用するなど、できるだけ実態に基づいた内容となるように作成した。

しかし、これらのツールは新規事業の創出や既存事業の高度化に向けたオープンイノベーション、そして知財デューデリジェンスについて、すべてのケースを網羅して確実に成功するモデルを提示するものではない。これら2つのツールをきっかけとしながらも、大企業やスタートアップ、知財専門家、投資家など、エコシステムを構成する当事者らがみずからのケースに合わせて独自の手法を編み出し、ひいてはオープンイノベーションの手法が洗練されていくことに期待したい。

freeeにAIが会計上のエラーを自動チェックする新機能、今後は修正提案の自動化も

近年さまざまなWebサービスの登場によって、これまで手間のかかっていたアナログな作業の効率化、自動化が進みはじめている。「クラウド会計ソフト」の知名度が増してきている会計の領域は、まさにこの代表的な例といえるだろう。

クラウド会計ソフトといえば、銀行口座と連携することで入力や仕分けを自動化したり、領収書などのデータをスキャンすることで電子化したりなど、「入力業務」の負担を大きく削減してきた。それだけでも大きな効果があるが、会計業務にはテクノロジーによってさらに効率よくできる部分がまだまだ残されている。

クラウド会計ソフト freee」を提供するfreeeが5月28日にリリースしたのは、会計上のエラーを自動でチェックする「AI月次監査」機能だ。同機能は試算表の作成に必要な月次監査業務を効率化するもので、まずは会計事務所向けに提供する。

会計上のエラーを自動でチェック

月次監査とは、会計士や税理士が毎月顧問先の企業に対して行っている業務のひとつだ。残高試算表や仕訳帳をチェックし、請求書や領収書、立替経費などと照合を行った上で、月次試算表を確定。それをもとに経営や経理処理上のアドバイスを行い、月次報告書としてまとめて顧問先に送付する。これらの一連のプロセスを指す。

税務においてはもちろん、経営状況を把握するという意味でも重要な業務である一方で、freeeの担当者によると「これまではアナログかつ属人的な側面が強く、効率化のニーズがあった」という。具体的には資料のチェックがひとつひとつ目視で行われ、スタッフによって知識のレベルやチェックの質がバラバラであることも珍しくないそうだ。

「たとえばあまり知見のないスタッフが担当すると、同じような間違いを複数繰り返してしまっていることもあるが、それをアナログで見つけるのはかなり難しい。あらかじめルールを設定することで、ある程度機械的にチェックをすれば負担は軽減できる」(freee担当者)

AI月次監査機能では、貸借対照表や損益計算書の各勘定科目について「税務上のルールとの相違」「freeeを利用する際に発生しやすい作業漏れや誤り」「過去との変動率が大きいなどの異変」に基づいて、修正の必要がありそうな仕訳を自動で探し、ハイライトする。

また該当する仕訳を修正すると「類似の仕訳」も自動で判定。これによって知識のスタッフが誤った仕訳をまとめて登録してしまっていたとしても、漏れなく修正点を探しやすくなる。

「入力業務」だけでなく「チェック業務」も自動化

今後は会計事務所がチェック項目を柔軟にカスタマイズできるようにするほか、エラーをチェックするだけでなく「どのように修正すべきか」を提案するところまで対応する予定。従来力を入れていた「入力業務」の自動化に加え、「チェック業務」の自動化をさらに進めていくという。

「ユーザーからも『データの電子化や自動仕訳など入力業務は自動化されていて楽だけど、それ以降のフローはまだまだ効率化できそう』といった声はあるし、会社としても強化していきたいという思いは強い」(freee担当者)

今回のAI月次監査機能については会計事務所向けとなっているものの、今後は一般ユーザー向けに機能を調整して提供していくを検討している。また、たとえば資金繰り計画の自動化など、経営の意思決定をサポートする機能にもAIを活用していく計画もあるという。

今後はこれまで以上にAIが会計業務をサポートする時代へと突入していきそうだ。