顧客データパイプラインを企業戦略向けに拡大するRudderStackが約64.4億円調達

企業が経営分析やマーケティングを改善するための独自データプラットフォームの開発を支援するRudderStackが米国時間2月2日、Insight PartnersがリードするシリーズBのラウンドで5600万ドル(約64億4000万円)調達したことを発表した。これまでの投資家であるKleiner PerkinsやS28 Capitalも、このラウンドに参加し、2019年に創業した同社の総調達額は8200万ドル(約94億3000万円)になった。

データウェアハウスの急激な増大と機械学習の進歩により、企業はデータを有効活用するますます複雑なアプリケーションを作ろうとしている。しかしRudderStackのCEO、Soumyadeb Mitra(スーマイヤデブ・ミトラ)氏から以前聞いた主張によると、顧客データパイプラインの既存のソリューションの多くがマーケティングのチームに売り込むために作られており、企業が今求めている先進的なアプリケーションを作るのが困難なアーキテクチャを使用している。それに対してRudderStackのアーキテクチャは最新のデータスタックの上に置かれ、データウェアハウスをアーキテクチャの核にしている。

画像クレジット:RudderStack

また同社は、市場に別の角度からアプローチしている。ミトラ氏によると「従来的な顧客データプラットフォームはマーケティングの費目になるので、マーケティングに合った形をしている。しかしAmazonのような最先端の企業を見ると、顧客データのインフラストラクチャを作っているのはマーケティングチームではなくて、ほとんどエンジニアリングのチームと、データのチーム、ときにはグロウスのチーです。グロウスチームの中にもデータチームがいて、彼らがインフラストラクチャを作っている場合もある。私たちは、そのやり方を採用しています」という。

過去数年間でRudderStackは、Mitraが「配管工事層」と呼ぶものを整備した。すなわちすべての要素および統合がデータをデータウェアハウスから出し入れする。さらに今後については、チームは今、データのトランスフォーメーションや、ユーザーデータをセグメントに分けてオーディエンスを作るなど、その上に来る機能の構築に専念している。

多くの点でそれはまた、今ではTwilio傘下であるSegmentの最初のビジョンだが、しかしMitraの主張では、彼らのフォーカスは今ではもっぱらマーケティングにある。「私たちでもセグメント化は競合で優位に立つための機能だが、しかしバイヤーがマーケターではなくデベロッパーの場合は、他社との競合でつねに高い勝率を得ている」とミトラ氏はいう。

画像クレジット:RudderStack

ミトラ氏によると、2020年から2021年にかけては、同社の売り上げがおよそ4倍半に伸び、顧客ベースは3倍増した。今の顧客の中には、AllbirdsやWealthfront、Crate & Barrelなどがいる。チームの人員は3倍増して115名になったが、2022年はさらに増やすつもりだ。

新たに得た資金は主に、プロダクトの機能の増強と、市場開拓努力に投じられる。

Insight PartnersのマネージングディレクターPraveen Akkiraju(プラビーン・アキラジュ)氏は、これから彼が取締役会に加わるRudderStackについて次のように述べている。「RudderStackがユニークなのは、顧客データのエンド・ツー・エンドのデータパイプラインが、データウェアハウス向けに最適化されていることです。クラスで最良のアーキテクチャにより、データエンジニアは、複数のチームによるデータサイロの形成を防ぎ、データパイプラインを構築する能力を加速して先進的なアナリティクスと機械学習のユースケースを開拓できます。そのためのラウンドをリードして、Souymadeb(ソウイマデブ)氏と彼のチームがすばらしい顧客データプラットフォームと企業を構築していく仕事に参加できることは、ゾクゾクするような体験です」。

画像クレジット:Mint Images/Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

自律走行車の知覚能力アップのためのソフトウェアを開発するAnnotellが約27億円調達

自動車業界が自動運転車への道をゆっくりと歩む中、現在の自律走行システムの技術的ギャップを埋めようとするスタートアップが出現している。最新の動きとしては、自律走行システムの知覚能力の性能とその改善方法を評価するソフトウェアを手がけるスウェーデンのスタートアップ、Annotell(アノテル)が現地時間2月3日、事業拡大のために2400万ドル(約27億円)を調達したと発表した。

Annotellの共同創業者でCEOのDaniel Langkilde(ダニエル・ランキルド)氏はインタビューで、同社が行っていることを「自動車が運転免許を取得するための視力検査、あなたが運転に適しているかどうかを判断するために試験を受けるようなもの」と例えた。「Annotellのプラットフォームは、システムの性能を理解し、それを上げることを支援します。どうすれば改善できるかを顧客に指導しています」。つまり、Annotellの製品は、企業のデータの品質をテストし、測定する分析、およびそれらのデータセットを改善するための「正解データ」の生産を含んでいる。

その目的は完璧さではなく、予測可能性であり、現在すでに存在する半自律プラットフォーム(先進運転支援システムなど)にとっても、多くの企業が将来の構築を目指している完全自律型自動車にとっても同様に重要だと、ランキルド氏は付け加えた。「システムが常に正しいとは限りませんが、システムを安全に使用するためには、何ができて、何ができないかを知る必要があります」。

シリーズAラウンドは、Skypeの共同創業者Jaan Tallinn(ジャン・タリン)氏が率いるエストニアのVC、Metaplanetと、日本企業などが出資しているディープテック投資家のNordicNinjaが共同でリードしている。Metaplanetは直近ではStarship Technologiesに投資し、 Googleが買収したDeepMindの初期投資家でもある。AnnotellのシリーズAラウンドには、以前の出資者であるErnström & CoとSessan ABも参加した。ヨーテボリを拠点とするAnnotellの累計調達額は3100万ドル(約35億円)で、評価額は公表していないが、同社の顧客には世界最大の自動車メーカーとその主要サプライヤー、そして自動運転に特化している大手自動車会社が含まれる。

Annotellが埋めようとしている市場のギャップは、かなり重要なものだ。自律走行システムは、膨大な量の走行データと、その情報を処理してプラットフォームに運転の基本を「教える」のに使われている機械学習で成り立っている。

コンピュータビジョンを使って、これらのシステムは赤信号や停止している車、曲がるべき時などを認識することができる。問題は、これらのシステムの反応が与えられたデータに基づいていることだ。自律走行システムは通常「推論」することができず、自動車が実世界で必然的に遭遇するような未知の変数にどう対応するかを決めることができない。

「機械学習は、稀だが重要なことを処理するのが苦手です」とランキルド氏はいう。

Oscar Petersson(オスカー・ペターソン)氏と共同でAnnotellを設立したランキルド氏は(2人とも深層学習を専門とする物理学者)、以前別の会社(脅威インテリジェンスのスタートアップRecorded Future)で働いたときにこの問題に遭遇したと述べた。Recorded Futureでは、脅威をより識別するためにプラットフォームに与える情報データを収集することを任務としていた。悪意のあるハッカーは、隙間を見つけて脆弱性を作り出すことに注力するため、ランキルド氏のチームが将来の攻撃を軽減するためのパターンを特定するために行っていた作業の多くが、事実上台無しになった。

「ミッションクリティカルな仕事をする上で、ブルートフォース(総当り)方式の機械学習には限界があることが浮き彫りになりました」と述べた。

自律走行システムも同じような問題に直面しているが、正しく動作させることがより重要だ。というのも、何か問題が発生した場合に人命が危険にさらされるからだ。また、正しい動作により、企業が製品を市場に投入し、消費者に信頼してもらい、購入・使用してもらうために通過しなければならない安全性と制御のレベルがより高くなる。

「人々が機械学習やAIを信頼するためには、安全性に非常に真剣に取り組まなければなりません」と同氏は述べた。「映画サービスで間違ったレコメンドをすることと、一時停止の標識を無視したり人にぶつかったりすることは、大きな違いがあります。私たちはそのことも真剣に受け止めています。だからこそ、この問題にフォーカスしたかったのです」。安全規制の強化は、Annotellにとって、特定の使用例や市場機会を示すものでもある。顧客のためにシステムを改善するだけでなく、特定の製品の使用許可を与えるために、機関や規制当局が信頼できるデータ群を作成する。

機械学習がシステムに教えることを補完するAnnotellのアプローチは、今日の自律走行システムと同様に進歩的で、その性質上、完全な自律走行に設計されていないシステム(ドライバーに代わるものではなく、アシストするためのシステム)の限界を試し、形式化するものだ。やがて完全自律走行は、因果推論アルゴリズムの構築に用いられるベイジアンネットワークのような、他の種類のAIアプローチも取り込むかもしれない、とランキルド氏はいう(先週TechCrunchが取り上げた因果AIスタートアップはもっとドラマチックで、因果AIこそが自動運転の実現に向けた唯一の希望であり、それは大きな飛躍ではあるが、実現にはかなりの時間がかかると主張していた)。

しかし、今のところAnnotellは、大きなチャンスである、ある程度の自律性がすでに組み込まれたシステムの安全性に技術を注いでいる。

Metaplanetのジャン・タリン氏は声明で「自律走行車の商業展開においては、安全性の確保が主な制約となりますが、Annotellは短期間で大きな進歩を遂げました。我々はAnnotellのソフトウェアだけでなく、それを構築したチームにも感銘を受けており、彼らとこの旅をともにすることに興奮しています」と述べた。

画像クレジット:Jae Young Ju / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

Scale AIが人工知能関連で最もホットで新しい合成データゲームに参入

Scale AI(スケールAI)が73億ドル(約8400億円)企業になるまでの道には、画像、テキスト、音声、動画などのリアルデータが敷き詰められていた。現在、その基盤を利用し、AIで最もホットで新しいカテゴリーの1つであるシンセティック(合成)データゲームに参入する。

同社は米国時間2月2日に、機械学習エンジニアが既存の実世界のデータセットを強化するために使える製品「Scale Synthetic」の早期アクセスプログラムを発表した。同社は、この新しい部門を立ち上げるために2人の幹部を採用した。Nines(ナインズ)で機械学習の責任者を務め、Apple(アップル)で3Dマッピングのコンピュータビジョンエンジニアを務めたJoel Kronander(ジョエル・クロナンダー)氏をシンセティックデータ部門の新責任者として、また、Vivek Raju Muppalla(ビベク・ラジュ・ムッパラ)氏をシンセティックサービス部門のディレクターとして採用した。ムッパラ氏は、Unity Technologies(ユニティ・テクノロジーズ)でAIとシミュレーションのエンジニアリングディレクターを務めた人物だ。

シンセティックデータとは、その名の通り、現実世界の情報を使わず、機械学習アルゴリズムによって作成された偽のデータのことだ。医療用画像など、プライバシーが重視されるデータを作成する際に、強力で便利なツールになり得る。開発者はシンセティックデータを使って学習モデルをより複雑にし、収集された実世界のデータセットに散見されるバイアスを取り除くことができる。

Scaleは当初、人がラベル付けした実際の画像、テキスト、音声、動画データとソフトウェアを組み合わせ、自動運転車メーカーに機械学習モデルの学習に必要なラベル付きデータを提供していた。機械学習モデルは、ロボタクシー、自動運転トラック、倉庫やオンデマンド配送に使われる自動ボットの開発と配備に使われる。その後、このスタートアップは、政府、金融、eコマース、自動運転車とエンタープライズ産業などを顧客とするデータ管理プラットフォーム企業へと変貌を遂げた。

創業者でCEOのAlexandr Wang(アレクサンドル・ワン)氏は、この新しいサービスをデータへのハイブリッドアプローチだと表現し、実験室で育てられた肉にたとえた。

「研究室で育てられた肉が本物の動物の細胞から始まるように、私たちは本物のデータから始まり、そこから製品を育て、開発・構築していきます」と同氏はTechCrunchに語った。実世界のデータをベースにしてシンセティックデータを作成することで、実にユニークで強力なサービスを顧客に提供することができると同氏は述べ、同社は市場にそうしたギャップがあると見ていると付け加えた。

Scaleの顧客も、そのギャップを感じていたようだ。同社がシンセティックデータに力を入れたのは、顧客からの需要に応えるためだったとワン氏はTechCrunchに語った。この製品の開発を始めてから、まだ1年経たないという。自動運転車技術開発企業のKodiak Robotics、Tractable AI、米国防総省はいずれも、Scaleの新しいシンセティックデータ製品を採用していると同氏は述べた。

現在、約450人の従業員を抱えるScaleは、シンセティックデータを2022年の最優先事項として捉えており、製品ラインを充実させるために投資を続ける分野だとしている。しかし、それはリアルデータ事業を引き継ぐことを意味するものではない。ワン氏はシンセティックデータを、開発者が「アルゴリズムなどのAIや、特にエッジケースでより多くの利益を得られるようにするための補完的なツール」と考えている。

例えば、自動運転車の会社は通常、シミュレーションを使って現実世界のシナリオを再現し、その環境で自動運転システムがどのように対処するかを確認する。現実世界のデータでは、彼らが求めているシナリオは得られないかもしれない。

「例えば、100台の自転車が一度に横断するようなシナリオは、現実世界ではあまり遭遇しません」とワン氏は説明する。「現実世界のデータから出発して、すべての自転車や人を合成的に追加することで、アルゴリズムを適切に訓練することができるのです」。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

LeapMind、エッジデバイス上でのリアルタイム動作と高画質を両立させた高精細AI画像処理モデル発表

LeapMind、エッジデバイス上でのリアルタイム動作と高画質を両立させた高精細AI画像処理モデル発表

ハードウェアとソフトウェアの両面で機械学習技術の開発を行うLeapMind(リープマインド)は1月31日、エッジデバイス上でリアルタイムで動作し、ノイズ除去によりスマートフォンレベルの高画質を実現したAI画像処理モデルを発表した。これまでエッジデバイスで挙げられてきた性能面と画質面の課題を同時に解決し、高性能・高画質・軽量化を実現するものとなった。

エッジデバイスでは、計算コストの高いAIによる画像処理は、リアルタイム動作が困難であるとされてきた。またAI画像処理においては、アナログ信号をデジタル化する際の精度を示す量子ビット数を小さくすると画質が低下するとされてきた。しかしLeapMindは、同社独自の「極小量子化」技術と、超低消費電力AI推論アクセラレータIP「Efficiera」(エフィシエラ)を組み合わせることで、動画カメラのリアルタイム動作を可能にし、「Pixel embedding」(ピクセル・エンベッディング)技術で高画質化を実現させた。

これにより、高価な高感度センサーや大型レンズを使わずとも、32bit浮動小数点モデルと同等の画質が得られるようになった。監視カメラや検査用カメラなど産業用カメラを高画質化できるため、物体認識や検査の精度が向上する。LeapMind取締役CTOの徳永拓之氏は、「低ビット量子化モデルによるAI画像処理技術の製品化は我々が調べる限りでは世界初です」と話す。

LeapMindはこのモデルの特徴を、Raw-to-rawによるノイズの低減と既存画像処理パイプラインへの影響の最小化、ディープラーニングベースのノイズ低減処理、センサー固有のノイズ再学習で最適化が行える学習済みモデルの提供、リアルタイム動作可能な軽量処理としている。

入力画像。左:ISO51200、1/800sec, F4.0で撮影。右:ISO102400、1/320sec、F8.0で撮影

入力画像。左:ISO51200、1/800sec, F4.0で撮影。右:ISO102400、1/320sec、F8.0で撮影

出力画像:32bit浮動小数点モデルの出力

出力画像:32bit浮動小数点モデルの出力

出力画像:LeapMindの極小量子化モデルの出力

出力画像:LeapMindの極小量子化モデルの出力

 

分析や開発にも使えるリアルさを持つ合成データをAIで作り出すMOSTLY AIが約28.6億円調達

オーストリアの合成データデータスタートアップであるMOSTLY AI(モーストリー・エーアイ)は米国時間1月11日、シリーズBラウンドで2500万ドル(約28億6000万円)を調達したことを発表した。英国のVCファームMolten Ventures(モルテン・ベンチャーズ)がこのオペレーションを主導し、新たな投資家であるCiti Ventures(シティ・ベンチャーズ)が参加した。既存の投資家には、ミュンヘンの42CAP(42キャップ)と、MOSTLY AIの2020年の500万ドル(約5億2700万円)のシリーズAラウンドを主導したベルリンのEarlybird(アーリーバード)が名を連ねている。

合成データ(シンセティックデータ)はフェイクデータであるが、ランダムではない。MOSTLY AIは人工知能を利用して、顧客のデータベースに対する高い忠実度を達成する。同社によると、そのデータセットは「企業の元の顧客データと同じくらいリアルに見え、そこには多くの詳細情報が含まれているが、元の個人データポイントは存在しない」という。

MOSTLY AIのCEOであるTobias Hann(トビアス・ハン)氏はTechCrunchに対して、調達した資金について、プロダクトの限界の拡張、チームの成長、そして欧州と米国での顧客獲得に活用する計画であると語った。米国ではすでにニューヨーク市にオフィスを構えている。

MOSTLY AIは2017年にウィーンで設立され、その1年後にEU全域で一般データ保護規則(GDPR)が施行された。プライバシー保護ソリューションに対するこうした需要と、それに付随する機械学習の台頭は、合成データに向けて大きな勢いを生み出している。Gartner(ガートナー)の予測では、2024年までに、AIおよびアナリティクスプロジェクトの開発に使用されるデータの60%が合成的に生成されるようになるという。

MOSTLY AIの主な顧客は、Fortune 100(フォーチュン100)に名を連ねる銀行や保険会社、通信事業者などである。これら3つの高度に規制されたセクターは、ヘルスケアと並んで、シンセティック表形式データに対する需要の大部分を牽引している。

競合他社とは異なり、MOSTLY AIはこれまでヘルスケアに主力を置いていなかったが、それも変わる可能性がある。「ヘルスケアは確かに私たちが注視しているものです。実際、2022年はいくつかのパイロットプロジェクトの開始を予定しています」とCEOは話す。

AIの民主化は、合成データがいずれはFortune 100企業の枠を超えて使われるようになることを意味する、とハン氏はTechCrunchに語っている。したがって、同氏の会社は今後、より小規模な組織や、さらに幅広いセクターに向けてサービスを提供する計画である。だがこれまでの取り組みにおいて、MOSTLY AIがエンタープライズレベルのクライアントに注力することは理にかなうものであった。

現在のところ、合成データを扱うための予算、ニーズ、高度な技術を有しているのはエンタープライズ企業であるとハン氏は語る。その期待に適合するために、MOSTLY AIはISO認証を取得した。

ハン氏と話をする中で、明確になったことが1つある。同スタートアップは確かな技術的基盤を備える一方で、その技術の商業化と、自社がクライアントに提供し得る付加的なビジネス価値にも等しく労力を注ぎ込んでいる。「MOSTLY AIは、顧客デプロイメントと専門知識の両面で、この新興の急成長領域をリードしています」とMolten Venturesの投資ディレクターであるChristoph Hornung(クリストフ・ホルヌング)氏は述べている。

GDPRやCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などのプライバシー法を遵守する必要性は、明らかに合成データに対する需要を促進するが、それだけが効果を現す要因ではない。例えば、欧州の需要は、より広い文化的コンテクストによっても牽引される。一方、米国では、それはイノベーションの追求からも生じる。そのユースケースとして、アドバンストアナリティクス、予測アルゴリズム、不正検出、プライシングモデルなどが挙げられるが、そこには特定のユーザーに遡ることのできるデータを含まない、という要素が求められる。

「多くの企業がこの領域に積極的にアプローチしているのは、顧客のプライバシー重視を理解しているからです」とハン氏。「これらの企業は、プライバシーを保護する方法でデータの処理と取り扱いを行う場合、競争上の優位性も得られることを認識しています」。

より多くの米国企業が革新的な手法における合成データの採用を求めている様相は、MOSTLY AIが米国でのチームの成長を目指す主要な理由となっている。一方で、同社はウィーン勤務とリモート採用の両方でより一般的な人材開拓も進めている。年末までに人員を35人から65人に増やす計画である。

ハン氏は、2022年は「合成データが軌道に乗る年」であり、その先は「合成データにとって実に堅調な10年」になると予想している。これは、AIの公平性や説明可能性といった重要な概念を中心に、責任あるAIに対する需要が高まっていることに支えられるであろう。合成データはこれらの課題の解決に貢献する。「合成データは、エンタープライズが自らのデータセットを増強し、バイアスを取り除くことを可能にします」とハン氏は語る。

機械学習を別にして、合成データはソフトウェアテストに活用されるポテンシャルが十分にあるとMOSTLY AIは考えている。これらのユースケースのサポートには、データサイエンティストだけではなく、ソフトウェアエンジニアや品質テスターも合成データにアクセスできるようにする必要がある。MOSTLY AIが数カ月前に同社のプラットフォームのバージョン2.0をリリースしたことは、彼らのことを考慮したものである。「MOSTLY AI 2.0はオンプレミスでもプライベートクラウドでも実装でき、それを使用する企業のさまざまなデータ構造に適応できる」と同社は当時記している

「当社は明らかにB2Bソフトウェアインフラ企業です」とハン氏は語る。シリーズAとBの両ラウンドで、同社はそのアプローチを理解する投資家を探し求めた。

筆者の質問に対してハン氏は、Molten Venturesは上場しているVCであり、通常の資金調達サイクルに縛られないこともかなりの重みがあることを認めている。「パートナーからこのような長期的なコミットメントを得られることは、私たちにとって非常に魅力的でした」。

Citi VenturesはCitigroup(シティグループ)のベンチャー部門であり、米国に本部を置いている。「当社は米国内のチームを大幅に拡大しており、米国内のネットワークや関係を支援可能な米国拠点の投資家を持つことは、あらゆる側面で大きな意義があります」とハン氏は語っている。

新たに2500万ドルの資金を調達し、米国でのプレゼンスを強化することで、MOSTLY AIは今後、合成データ領域の自社のセグメントで他の企業と競争するためのより多くのリソースを手にすることになる。そうした企業には、2021年9月にシリーズBで3500万ドル(約40億1000万円)を調達したTonic.ai(トニック・エーアイ)、同年10月にシリーズBで5000万ドル(約57億3000万円)を集めたGretel AI(グレテル・エーアイ)、シードラウンドを行った英国のスタートアップHazy(ヘイジー)の他、特定の垂直市場に特化したプレイヤーたちが含まれている。

「私たちはこの領域、そして市場全般でますます多くのプレイヤーが出現しているのを目にしており、そこに多くの関心があることが確実に示されています」とハン氏は語った。

画像クレジット:yucelyilmaz / Getty Images

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(文:Anna Heim、翻訳:Dragonfly)

【コラム】アジャイルなスタートアップモデルに倫理観を導入する時代がきた

アイデアを得て、チームを作り、「実用最小限の製品(MVP)」を完成させてユーザーに届ける。これは誰もが知っているスタートアップの事業の進め方である。

しかし、人工知能(AI)や機械学習(ML)がハイテク製品のいたるところに導入されるようになり、意思決定プロセスにおいてAIが人間を補強、または代替することの倫理的意味を市場がますます意識するようになった現在、スタートアップはMVPモデルの再考を迫られている。

MVPモデルとは、ターゲット市場から重要なフィードバックを収集し、製品の発売に向けて必要な最小限の開発に反映させるというもので、今日の顧客主導型ビジネスを推進する強力なフィードバックループを生み出している。過去20年間で大きな成功をもたらした、スマートでアジャイルなこのモデルは、何千社ものスタートアップを成功に導き、その中には10億ドル規模に成長した企業もある。

しかし、大多数のために機能する高性能な製品やソリューションを構築するだけでは、もはや十分ではない。有色人種に偏見を持つ顔認識技術から、女性を差別する信用貸付アルゴリズムまで、ここ数年間でAIやMLを搭載した複数の製品が、その開発とマーケティングに何百万ドル(何億円)も注ぎ込まれた後に倫理的ジレンマが原因で消滅している。アイデアを市場に出すチャンスが一度しかない世界でこのリスクはあまりにも大きく、安定した企業であっても致命的なものになりかねない。

かといってリーンなビジネスモデルを捨て、よりリスク回避的な代替案を選ばなければならない訳ではない。リーンモデルの俊敏性を犠牲にすることなく、スタートアップのメンタリティに倫理性を導入できる中間領域があるのだが、そのためにはスタートアップの最初のゴールとも言える初期段階の概念実証から始めると良い。

そして企業はMVPを開発する代わりに、AI / MLシステムの開発、展開、使用時に、倫理的、道徳的、法的、文化的、持続可能、社会経済的に考慮するアプローチであるRAI(責任ある人工知能)に基づいた倫理的実行可能製品(EVP)を開発して展開すべきなのである。

これはスタートアップにとってだけでなく、AI / ML製品を構築している大手テクノロジー企業にとっても優れた常套手段である。

ここでは、特に製品に多くのAI/ML技術を取り入れているスタートアップがEVPを展開する際に利用できる、3つのステップをご紹介したい。

率先して行動する倫理担当者を見つける

スタートアップには、最高戦略責任者、最高投資責任者、さらには最高ファン責任者などが存在するが、最高倫理責任者はそれと同じくらい、またはそれ以上に重要な存在だ。さまざまなステークホルダーと連携し、自社、市場、一般の人々が設定している道徳的基準に適合する製品を開発しているかどうかを確認するのがこの人物である。

創業者、経営幹部、投資家、取締役会と開発チームとの間の連絡役として、全員が思慮深く、リスクを回避しながら、正しく倫理的な質問をするよう、とりはからうのもまたこの人物の仕事である。

機械は過去のデータに基づいて学習する。現在のビジネスプロセスにシステム的な偏りが存在する場合(人種や性別による不平等な融資など)、AIはそれを拾い上げ、今後も同じように行動するだろう。後に製品が市場の倫理基準を満たさないことが判明した場合、データを削除して新しいデータを見つけるだけでは解決しない。

これらのアルゴリズムはすでに訓練されているのである。40歳の男性が、両親や兄妹から受けてきた影響を元に戻せないのと同様に、AIが受けた影響も消すことはできない。良くも悪くも結果から逃れることはできないのだ。最高倫理責任者はAI搭載製品にそのバイアスが染み込む前に、組織全体に内在するそのバイアスを嗅ぎ分ける必要がある。

開発プロセス全体へ倫理観を統合する

責任あるAIは一度きりのものではなく、組織のAIとの関わり合いにおけるリスクとコントロールに焦点を当てた、エンド・ツー・エンドのガバナンスフレームワークである。つまり倫理とは、戦略や計画から始まり、開発、展開、運用に至るまで、開発プロセス全体を通じて統合されるべきものなのだ。

スコーピングの際、開発チームは最高倫理責任者と協力して、文化的、地理的に正当な行動原則を表す倫理的なAI原則を常に意識するべきである。特定の利用分野において道徳的な決定やジレンマに直面したとき、これらの原則はAIソリューションがどのように振る舞うべきかを示唆し、アイデアを与えてくれるだろう。

何より、リスクと被害に対する評価を実施し、身体的、精神的、経済的に誰も被害に遭っていないことを確かめる必要がある。持続可能性にも目を向け、AIソリューションが環境に与える可能性のある害を評価するべきだ。

開発段階では、AIの利用が企業の価値観と一致しているか、モデルが異なる人々を公平に扱っているか、人々のプライバシーの権利を尊重しているかなどを常に問い続ける必要がある。また、自社のAI技術が安全、安心、堅牢であるかどうか、そして説明責任と品質を確保するための運用モデルがどれだけ効果的であるかも検討する必要がある。

機械学習モデルの要素として重要なのが、モデルの学習に使用するデータである。MVPや初期にモデルがどう証明されるかだけでなく、モデルの最終的な文脈や地理的な到達範囲についても配慮しなければならない。こうすることで、将来的なデータの偏りを避け、適切なデータセットを選択することができるようになる。

継続的なAIガバナンスと規制遵守を忘れずに

社会的影響を考えると、EUや米国などの立法機関がAI/MLの利用を規制する消費者保護法を成立させるのは時間の問題だろう。一度法律が成立すれば、世界中の他の地域や市場にも広がる可能性は高い。

これには前例がある。EUで一般データ保護規則(GDPR)が成立したことをきっかけに、個人情報収集の同意を証明することを企業に求める消費者保護政策が世界各地で相次いだ。そして今、政界、財界を問わずAIに関する倫理的なガイドラインを求める声が上がっており、またここでも2021年にAIの法的枠組みに関する提案をEUが発表し、先陣を切っている。

AI/MLを搭載した製品やサービスを展開するスタートアップは、継続的なガバナンスと規制の遵守を実証する準備を整える必要がある。後から規制が課される前に、今からこれらのプロセスを構築しておくよう注意したい。製品を構築する前に、提案されている法律、ガイダンス文書、その他の関連ガイドラインを確認しておくというのは、EVPには欠かせないステップである。

さらに、ローンチ前に規制や政策の状況を再確認しておくと良いだろう。現在世界的に行われている活発な審議に精通している人物に取締役会や諮問委員会に参加してもらうことができれば、今後何が起こりそうかを把握するのに役立つだろう。規制はいつか必ず執行されるため、準備しておくに越したことはない。

AI/MLが人類に莫大な利益をもたらすというのは間違いない事実である。手作業を自動化し、ビジネスプロセスを合理化し、顧客体験を向上させる能力はあまりにも大きく、これを見過ごすわけにはいかない。しかしスタートアップは、AI/MLが顧客、市場、社会全体に与える影響を強く認識しておく必要がある。

スタートアップには通常、成功するためのチャンスが一度しかないため、市場に出てから倫理的な懸念が発覚したために、せっかくの高性能な製品が台無しになってしまうようではあまりにももったいない。スタートアップは初期段階から倫理を開発プロセスに組み込み、RAIに基づくEVPを展開し、発売後もAIガバナンスを確保し続ける必要がある。

ビジネスの未来とも言えるAIだが、イノベーションには思いやりや人間的要素が必要不可欠であるということを、我々は決して忘れてはならないのである。

編集部注:執筆者のAnand Rao(アナンド・ラオ)氏はPwCのAIグローバル責任者。

画像クレジット:I Like That One / Getty Images

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(文:Anand Rao、翻訳:Dragonfly)

中国のスマート製造業に注力するAInovationが香港でIPOを申請、李開復氏やソフトバンクも支援

中国では、人工知能に金銭を支払う顧客を見つけようとする情熱が続いている。中国のコンピュータビジョンと機械学習のスタートアップ企業で、Kai-Fu Lee(カイフ・リー、李開復)氏のSinovation Ventures(シノベーション・ベンチャーズ)とSoftBank(ソフトバンク)が出資するAInnovation(エーアイノベーション、創新奇智)は、中国の巨大な製造業を自動化しようとしている。設立からまだ4年しか経っていないこのスタートアップは、香港で株式公開の申請を行っており、その目論見書では、今後数年のうちに中国の産業お青写真で重要な位置を占めるスマートマニュファクチャリングの商業的実行可能性を垣間見ることができる。

2010年代、SenseTime(センスタイム)やMegvii(メグビー)などのコンピュータビジョン企業は、中国の公的なセキュリティのインフラに顔認証技術を提供することで、大成功を収めた。しかし、競争によって価格が下がり、監視技術をめぐる米国の制裁による圧力が強まるにつれ、中国の初期のAIスタートアップ企業は多角化を模索している。SenseTimeは教育分野に進出し、Sinovation Venturesの支援を受けるMegviiは無人倉庫保管ソリューションを事業に加えた。

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AInnovationは、AIアプリケーションの分野では若い企業に入る。目論見書によると、IBM、SAP、Microsoft(マイクロソフト)での経験を持つCEOのXu Hui(シュー・フイ)氏が共同で設立したこのスタートアップは、2021年9月までの9カ月間に、収益の半分を製造業の顧客から得ているとのこと。同社のコンピュータビジョンモジュールとカスタマイズされたサービスは、溶融した鉄の輸送(写真)、自動車の生産ラインにおける異常の検出、半導体製造での欠陥発見などの場面で使用されている。

収益の3分の1は金融サービスによるもので、残りは小売業、通信業、その他の産業から得ている。

AInnovationのような企業は、研究室で機械学習モデルを実行する博士号取得者を雇うだけでは不十分だ。文字通り自ら身体を動かし、実際に顧客の工場を訪問して、鉄鋼メーカーや衣料品メーカーにとってどのような自動化が最も良い利益を生むのかを学ぶ必要がある。そこで同社は、主要なパートナーである大手製鉄グループのCISDIおよび国有建設会社のChina Railway No.4(中鉄四局集団有限公司)と、それぞれ2つの合弁会社を設立した。

AInnovationのコンピュータビジョン技術を用いてネジの欠陥を検出する(画像クレジット:AInnovation)

AInnovationはまだ、スマートシティの先行企業ほどの収益を上げていない。2020年の売上は4億6200万元(約83億2000万円)だったが、SenseTimeは同年に34億元(約612億円)を得た。しかし、AInnovationは急速に成長している。2021年9月までの9カ月間で、その収益は5億5300万元(約99億6000万円)に達し、2020年の合計額を上回った。

とはいえ、課題もある。1つは、同社がいくつかの重要な顧客に大きく依存していることだ。2019年と2020年に同社が5つの大口顧客から得た収益は、それぞれ約26%と31%を占めている。

中国の初期のAI参入企業が顔認識に集まったのには理由がある。そのほとんどがソフトウェア事業であるため、儲かるからだ。例えばSenseTimeの利益率は、2018年の約57%から2020年には70%以上に上昇した。

AInnovationも、かつてはソフトウェアファーストの企業だった。目論見書によると、同社の売上総利益率は、2018年には63%だったが、2019年には31%、2020年にはさらに29%まで急落している。これは、同社がソフトウェアの販売を中心としていたビジネスから、より多くのハードウェア部品を含む統合ソリューションに軸足を移したことが原因だ。ハードウェアは一般的に材料費がかさむ。また、収益性が低下したのは、顧客基盤を拡大するために「競争力のある価格で提供」したためだという。AIビジネスでは、データがその燃料となる。

どちらもまだ不採算事業である。AInnovationは、2019年に約1億6000万元(28億8000万円)、2020年に約1億4400万元(25億9000万円)の調整後純損失を計上している。これに対してSenseTimeは、同時期に10億元(約180億円)、8億7800万元(約158億円)の調整後純損失を計上している。

中国の製造業の各分野は、簡単に数十億規模の市場機会となる。問題は、AInnovationが持続的な成長と健全なビジネスモデルへの道を見つけることができるかどうかだ。

Bloomberg(ブルームバーグ)による事前の報道によると、AInnovationの株価は仮条件レンジ下限の1株あたり26.30香港ドル(約385円)で設定されているという。この価格であれば、同社は香港でのIPOによって約1億5100万ドル(約172億円)を調達することになる。

画像クレジット:AInnovation

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(文:Rita Liao、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

グーグルが脱クッキー技術「FLoC」を廃止、代わる新機能「Topics」を公表

(訳註:英語で「flock」は羊など動物の群れ=刈り上げられ毛がなくなった「FLoC」)

Google(グーグル)のプロジェクトであるFLoC(Federated Learning of Cohorts)は、インタレストベース広告のため利用されていたサードパーティークッキーの代わりに、ユーザーを同じような興味を持つ人々のグループに分類するというもので、物議を醸した。Googleは米国時間1月25日、それに代わる新しい提案を発表した。「Topics」である。

これは、ユーザーがウェブ上を移動する際に、ブラウザがユーザーの関心事について学習するというものだ。現時点では過去3週間分の閲覧履歴データが保存され、トピック数は300に限定されているが、順次拡大していく予定だという。Googleは、これらのトピックには、性別や人種などのセンシティブなカテゴリーは含まれないとしている。

Googleはユーザーの関心事を把握するために、ユーザーが訪れたサイトをこれら300のトピックのいずれかに基づいて分類する。これまで分類されていなかったサイトについては、ブラウザに搭載された軽量の機械学習(ML)アルゴリズムが、ドメイン名に基づいてトピックを推定する。

画像クレジット:Google

広告目的でTopics APIをサポートしているサイトにアクセスすると、ユーザーが興味を持っている3つのトピックがブラウザによって共有される。これらのトピックは、過去3週間のそれぞれの週につき1つずつ、各週の上位5つのトピックからランダムに選択される。そして、サイトはこの情報を広告パートナーと共有し、どの広告を表示するかを決めることができる。理想的には、どの広告を表示するか決定するためのよりプライベートな方法となるが、Googleは、現在の標準的な方法よりもはるかに優れたコントロールと透明性をユーザーに提供することになると述べている。ユーザーは、自分のリストにあるトピックを確認したり、削除したりすることができ、Topics API全体をオフにすることもできる。

GoogleのPrivacy Sandboxプロジェクト代表であるBen Galbraith(ベン・ガルブレイス)氏は、25日の発表に先立って行われたプレスブリーフィングでこう述べた。「Topicsの設計は、以前のFLoCトライアルから得た知見に基づいて行われました。その結果、コミュニティから多くのすばらしいフィードバックが寄せられたことはご存じの通りです。私が強調したいのは、提案を共有し、トライアルを行い、フィードバックを集め、設計を繰り返していくという一連のプロセスは、我々がサンドボックスに求めていたオープンな開発プロセスそのものであり、このプロセスが意図したとおりに機能していることを示しているということです」。

画像クレジット:Google

ガルブレイス氏は、Googleはこの新しい提案に対するフィードバックを集めるために多くの関係者と話をしてきたが、今日がエコシステムと協力するプロセスの始まりであると述べている。他のブラウザベンダーがTopics APIの追加に興味を持つかどうかは、今後の課題だ。他社はみなすぐにFLoCに冷ややかな対応を示したので、Topics APIを採用したいと思うかどうかはやや疑問だが、エコシステムがどのように反応するかは興味深いところだ。

また、広告主にとっては、Topicsは特定のユーザーにどの広告を表示するかを決定するための潜在的なシグナルの1つに過ぎないということも言及するに値する。例えば、ユーザーが現在読んでいる記事に関するデータや、ユーザーに関するその他のコンテクストデータなどで補強することができるが、ある意味、単なるもう1つのシグナルとなる。

Topics APIのトライアルは今期末に開始される予定だが、それに向けてGoogleは25日、提案の詳細を少し掘り下げた技術的な解説も公開した。

画像クレジット:Images by Christina Kilgour / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

天気予報AccuWeatherが大気汚染データのスタートアップ仏Plume Labsを買収

天気予報会社のAccuWeather(アキュウェザー)がフランスのスタートアップPlume Labs(プルームラブズ)を買収する。買収条件は非公表。2014年の創業以来、Plume Labsは徐々に提供プロダクトを拡大し、大気汚染データに特化した3種類のプロダクトを展開している。

Plume Labsはまず、iOSとAndroid向けに、空気の質に関する情報を提供するモバイルアプリを立ち上げた。当初は、シンプルな都市レベルの大気汚染予測アプリだった。さまざまなソースからのデータを集約し、大気汚染が時間とともにどのように変化するかを予測していた。

その後、同社は予測能力を向上させ、現在では数日先の大気環境を予測することができる。同社は、予測にいくつかの機械学習モデルを使用している。また、通りごとの情報を含む詳細な地図も提供するようになった。これにより、自転車や原付バイクで通勤している人は、避けた方がいい特に交通量の多い通りがわかるようになった。

そしてPlume Labsは、空気質のトラッキングを視覚的かつ実用的にすることで、ユーザーが行動に移せるようにしたいと考えた。そこでBluetooth Low Energyを利用してスマートフォンに接続する、独自の大気質トラッカーを設計した。

この第2世代の装置は、粒子状物質(PM1、PM2.5、PM10)および汚染ガス(二酸化窒素、揮発性有機化合物)を追跡することができる。現在、政府が支援するモニタリングステーションよりもPlume Labsのデバイスは多く使用されており、比較的成功している。

最後に、Plume Labsは大気汚染データをAPIとして提供し始めた。同社は、世界中の何千もの環境モニタリングステーションを集約し、このデータに機械学習モデルを適用している。こうすることで、Plume Labsの顧客は、自社の製品に大気汚染データを統合したい場合に一歩先に進められる。異なるデータソースを扱い、これらのデータセットを1つのセットに統合する必要はない。同様に、大気汚染に適用する機械学習にリソースを割り当てる必要もない。

AccuWeatherは2020年1月にPlume Labsのデータを自社の天気予報プロダクトに統合した。AccuWeatherはその機会を利用してPlume Labsの株式を取得した。そして今回はさらに一歩踏み込んで、残りの株式を買収する。

「大気質は、人命救助と人々の繁栄を支援するというAccuWeatherのミッションにおいて本質的な役割を担っています。今回の買収により、ユーザーや顧客に、よりパーソナライズされた体験と、天候が健康に与える影響に関する360度理解を提供することができます」と、AccuWeather社長のSteven R. Smith(スティーブン・R・スミス)氏は声明で述べた。「2社の提携は、ユーザーが健康をこれまで以上にコントロールできるようサポートするという約束を実現し、この新しい戦略的方向性によって、目標にさらにしっかりとコミットしています」。

Plume Labsは、AccuWeatherの気候・環境データのセンターとなる。この買収は、大気汚染が多くの産業にとって重要な指標になりつつあることを証明している。

Plume Labsの共同創業者でCEOのRomain Lacombe(ロメイン・ラクーム)氏は「7年前、David Lissmyrと私は、誰もが大気質情報を利用できるようにするためにPlume Labsを設立しました。それ以来、私たちの活動は、気候変動の健康への影響を身近なものにすることで、きれいな空気を求める闘いに刺激を与えてきました。今、AccuWeatherと力を合わせることは、私たちの影響を地球規模で増幅し、世界中で15億人が大気汚染を回避するのを助ける特別な機会です」と声明で述べた。

今後、Plume Labsのチームと技術の運用は続き、山火事など他の環境リスクにも取り組む予定だ。気候リスク予測はまだ初期段階だが、今回の買収は時間の経過とともにその重要性が増していくことを裏付けている。

画像クレジット:Plume Labs

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

農作物の防虫をセンサーと機械学習で実現するFarmSense

かじる、潜る、感染させる。米国農務省農業研究局によると、マメコガネ(上記写真)などの害虫が農業に与える被害は毎年1000億ドル(約11兆6730億円)を超えるという。また、節足動物は植物の病気も媒介するため、世界の農業生産の年間40%が節足動物によって失われているといわれている。

カリフォルニア州リバーサイドに拠点を置くAgTechのスタートアップ企業、FarmSenseは、害虫問題の解決に挑んでいる。同社は、光学センサーと機械学習アルゴリズムに基づく新しい分類システムを構築し、リアルタイムで昆虫を識別・追跡する。ここでポイントとなるのは「リアルタイムの情報」だ。

彼らによると、センサーが提供するリアルタイムの情報は早期発見に役立ち、殺虫剤やバイオコントロールなどの害虫管理ツールをタイムリーに配備することができる。現在、モニタリングに使われている機械式トラップは、虫がやってきてから10〜14日後にしか重要な情報を得られない場合もある。

「このような虫の中には、成虫として5日間しか生きないものもあります。そのため、問題を発見したときには、すでに問題が根付いてしまっており、より大きな問題になっているのです」と、FarmSenseの共同設立者であるEamonn Keogh(イーモン・キーオ)氏はいう。「リアルタイムで知っていれば、介入する場所を1カ所に絞り、農薬の節約、労働力の節約、作物の損傷を防ぐなど、より良い結果を得ることができたはずです」。

より良い結果を得るための重要な情報の提供方法は、少し複雑だ。

ファームセンスの新型光学センサー「FlightSensor」の圃場での様子。このセンサーは、農家にとっての害虫の被害を軽減するために、リアルタイムのデータと管理戦略を提供することを約束する(画像クレジット:FarmSense)

現在、中小企業技術革新研究プログラムの助成を受け、南カリフォルニアのアーモンド園で試験・研究が行われているFlightSensorと呼ばれる同社の最新センサーは、キーオ氏がこのセンサーのアイデアを得た場所について考えると、最もわかりやすい。つまり、ジェームズ・ボンドと冷戦時代のスパイ活動だ。

キーオ氏は、ロシアのスパイがガラス窓にレーザーを当てて、人の声の振動を拾っていたことを説明した。そしてセンサーがその情報を翻訳し、部屋の中で何が起こっているのか、おおまかな情報を提供してくれる。

「同じような仕掛けを考えて、レーザーの前を虫が飛んだらどうなるかを想像してみました。虫の音だけが聞こえて、他の音は聞こえないでしょう」。

しかし、FlightSensorは振動を読み取るのではなく、小さなトンネル内のライトカーテンと影を利用し、誘引物質によって昆虫を引き込む。センサーの片側には光源、もう片側には光学センサーが設置されている。昆虫が飛んできたときに、どれだけ光が遮られたか、あるいはどれだけ光が通り抜けたかをセンサーが測定する。そのデータを音声にし、クラウド上の機械学習アルゴリズムで解析する。

このセンサーは生産者が使いやすいように昔のアナログ機器のようなデザインになっているが、FarmSenseによると、風や雨などの周囲の音は拾わない。

キーオ氏によれば「シグナルの質はとてもクリアで、通常畑で聞こえる周囲の音は聞き取りません。本質的には昆虫の音を聞く異なったモダリティですが、ヘッドフォンをつけてセンサーからの音声クリップを聞くと、まるで蚊や蜂が飛び回っているように聞こえます」。

カリフォルニア大学リバーサイド校のコンピューターサイエンスとエンジニアリングの教授であるキーオは、データマイニングを専門としており、FarmSenseが識別目的で採用した新しい機械学習アルゴリズムに取り組んでいる。共同設立者のLeslie Hickle(レスリー・ヒックル)氏をはじめ、昆虫学者や分野のスペシャリストが開発・配備を支援している。

ハードウェア面では、当社CEOであり、無線・携帯電話ネットワークやセキュリティのシステム開発を手がけるShailendra Singh(シャイレンドラ・シン)氏が担当している。シーズンごとに課金される各センサーの価格は300ドル(約3万4000円)とのことだ。

この技術がもたらすインパクトは明らかだ。大小の畑を管理する農家にとって、昆虫に関するリアルタイムの情報は経済的な安全性にとって重要なだけでなく、土壌の健康状態など重要な資源の保全・保護につながる可能性もある。

しかしFarmSenseは、昆虫による被害で不当に影響を受けているという地方の農家を支援したい考えだ。

だが、センサー1つにつき1シーズン300ドルというのは高額であり、この技術の採用にあたるリスク、ひいては虫害という問題をそもそも解決できるかどうかというリスクもある。

小規模農家にとって最も難しいことの1つはリスク管理だと語るのは、米国農務省が資金提供する「市場、リスク、レジリエンスのための未来のイノベーションラボ(Feed the Future Innovation Lab for Markets, Risk, and Resilience)」の所長で、カリフォルニア大学デービス校農業・資源経済学の著名教授であるMichael Carter(マイケル・カーター)氏だ。

「リスクは人々を貧しいままにしてしまうことがあります。リスクは将来を不透明にするため、平均所得を向上させる技術への投資を抑制します。富の少ない人々は、当然貯蓄が多くありません。しかし彼らは、彼らの収入を向上させるかもしれないし、彼らの家族を餓死させることになるかもしれないものに投資するために貯蓄を危険にさらすことはできません」とカーター氏はいう。

しかし彼は、FlightSensorのような技術が、特に小規模農家をさらに保護する保険のようなものとなる場合、小規模農家の投資の恐怖を軽減することができると考えており、この点に関しては楽観的であった。

シャイレンドラ・シン氏(左)とイーモン・キーオ氏は、カリフォルニア州リバーサイドで昆虫の監視に革命を起こそうとしているアグテックスタートアップ企業、FarmSenseの共同設立者だ(画像クレジット:FarmSense)

この技術について、こんな疑問も浮かぶ。リアルタイムでの識別は、害虫管理にとって本当に最良の選択なのだろうか?米国農務省森林局の昆虫学者Andrew Lieb(アンドリュー・リーブ)氏によれば、そうではないかもしれないとのことだ。リーブ氏は、農業や森林にとって最も破壊的な害虫である侵入昆虫の主な原因は、移動や貿易であると説明した。

彼は、昆虫の定着制御のためのテクノロジーに関しては賛成しているが、究極的には、この問題をより早期に解決することが最適な戦略であると考えている。現在の輸出入に関する法律や、害虫駆除製品の処理方法、さらには渡航の制限の制定などに取り組むべきだろう。

こうした懸念はあるものの、FarmSenseの技術がインパクトを与える態勢にあることは間違いない。農家の経済的な不安やグローバルなフードチェーンへの脅威だけでなく、蚊のような病気を媒介する昆虫の追跡や重要な情報の拡散に役立つかもしれない。

新型コロナウイルス感染症による混乱が続く中、バイオセキュリティの成功や失敗が、私たちの無数のシステムにどのように波及していくのか、それを強く意識しないわけにはいかない。

2050年までに外来種の昆虫の侵入が36%増加すると予測されていることや、人口増加により食糧生産がより一層圧迫されることを考えると、私たちが脅威を理解し思慮深く対応する能力を高めてくれるFlightSensorのような革新的技術は、むしろ歓迎すべきことだ。

カーター氏がアグテックが農業に恩恵をもたらす可能性のあるあらゆる方法について語る通り「私たちはその可能性においてクリエイティブになる必要がある」。

画像クレジット:Chris Sorge / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

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(文:Matt Marcure、翻訳:Dragonfly)

Metaの研究者が画像・音声・文字を同じように学習するAIを開発

AIの領域には常に進歩が見られるが、それは1つの分野に限定される傾向がある。例えば、合成音声を生成するためのクールな新方法は、人間の顔の表情を認識するための方法とはまた別の分野だ。

かつてのFacebook(フェイスブック)から社名が変わったMeta(メタ)の研究者たちは、もう少し汎用性のあるもの、つまり話し言葉、書かれた文字、視覚的な認識を問わず、自分でうまく学習することができるAIの開発に取り組んでいる。

AIモデルに何かを正しく解釈させるための伝統的な訓練方法では、ラベル付けした例を大量(数百万単位)に与えて学習させる方法が採られてきた。猫の写真に猫とラベル付けしたものや、話し手と言葉を書き起こした会話などだ。しかし、次世代AIの学習に必要な規模のデータベースを手作業で作成することは、もはや不可能であることが研究者たちによって明らかにされたため、このアプローチはもはや流行遅れとなった。誰が5000万枚の猫の写真にラベルを付けたいと思うだろうか?まあ、中にはそんな人もいるかもしれないが、しかし、一般的な果物や野菜の写真を5000万枚もラベル付けしたい人はいるだろうか?

現在、最も有望視されているAIシステムの中に「自己教師型」と呼ばれるものがある。これは、書籍や人々が交流している様子を撮影したビデオなど、ラベルのない大量のデータを処理し、システムのルールを構造的に理解するモデルだ。例えば、1000冊の本を読めば、単語の相対的な位置関係や文法構造に関する考え方を、目的語とか冠詞とかコンマが何であるかを誰かに教えてもらうことなく、学ぶことができる。つまり、たくさんの例から推論して得るということだ。

これは直感的に人間の学習方法に似ていると感じられ、そのことが研究者が好む理由の1つになっている。しかし、このモデルも依然としてシングルモーダルになる傾向があり、音声認識用の半教師あり学習システムを構築するために行った作業は、画像解析にはまったく適用できない。両者はあまりにも違いすぎるのだ。そこで登場するのが、「data2vec(データトゥベック)」というキャッチーな名前が付けられたFacebook/Metaの最新研究だ。

data2vecのアイデアは、より抽象的な方法で学習するAIフレームワークを構築することだった。つまり、ゼロから始めて、本を読ませたり、画像をスキャンさせたり、音声を聞かせたりすると、少しの訓練で、それらのことを学習していくというものだ。それはまるで、最初は一粒の種だが、与える肥料によって、水仙やパンジー、チューリップに成長するようなものだ。

さまざまなデータ(音声、画像、テキスト)で学習させた後にdata2vecをテストしてみると、その分野のモダリティに対応した同規模の専用モデルと同等か、あるいは凌駕することさえあったという(つまり、モデルがすべて100メガバイトに制限されている場合は、data2vecの方が優れているが、専用モデルはさらに成長すればdata2vecを超えるだろう)。

「このアプローチの核となる考え方は、より総合的に学習させるということです。AIは、まったく知らないタスクも含めて、さまざまなタスクを学べるようになるべきです」と、チームはブログに書いている。「data2vecによって、コンピュータがタスクを遂行するためにラベル付きデータをほとんど必要としない世界に近づくことも、私たちは期待しています」。

Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOはこの研究について「人は視覚、聴覚、言葉を組み合わせて世界を体験しています。このようなシステムは、いつの日か私たちと同じように、世界を理解することができるようになるでしょう」とコメントしている。

これはまだ初期段階の研究であり、突如として伝説の「総合的なAI」が出現すると期待してはいけない。

しかし、さまざまな領域やデータタイプに対応する総合的な学習構造を持つAIを実現することは、現在のような断片的なマイクロインテリジェンスの集合体よりも、より優れた、よりエレガントなソリューションであるように思われる。

data2vecのコードはオープンソースで、事前に学習されたいくつかのモデルも含めてこちらで公開されている

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】ヒートアイランド現象による影響を軽減するため、今、世界はAIを活用すべきだ

人類がこのまま何もしなければ、地球の温暖化はあとわずか数十年の間に少なくとも過去3400万年間前例のないレベルにまで達し、氷河が溶け、洪水がかつてないほど発生し、都市の熱波が我々に悲惨な影響を与えることになる。

米海洋大気庁によると、2021年には米国だけでもすでに18件の気候関連の異常災害が発生しており、それぞれに10億ドル(約1149億円)を超える損害が発生しているという。

世界中で起きた自然災害を結果や頻度の観点から見ると、洪水や地震は人や経済により大きな影響を与えるのものの、熱波よりも発生頻度は低い。熱波は一般的に都市ヒートアイランド現象(UHI)の形で発生し、ヒートポケットとも呼ばれているが、これは都市中心部の気温が周辺部より高くなる現象である。

都市部が急速に温暖化する中、世界各地のさらに多くの人々がヒートアイランド現象による致命的な被害を受けており、都市公衆衛生における格差が浮き彫りになっている。世界保健機関によると、2000年から2016年の間に熱波に影響を受けた人の数は1億2500万人急増し、1998年から2017年の間に16万6000人以上の命が奪われているという。

米国の市当局は現在、住民の中でも特に弱い立場にいる人々の生活レベルや状況が猛暑によって低下することを懸念しているが、影響を軽減するために活用できるようなデータは用意されていない。

デザイン主導のデータサイエンス企業で働く私は、組織のための持続可能なソリューションの構築や、ビジネス、社会、社会経済の複雑な問題は、高度な分析、人工知能(AI)技術、インタラクティブなデータ可視化を用いて解決できることを知っている。

とはいうものの、こういった新テクノロジーは、公衆衛生の専門家、企業、地方自治体、コミュニティ、非営利団体、技術パートナーの協力なくしては展開することができない。この分野横断的な介入こそが、テクノロジーを民主化し、都市ヒートアイランド現象の惨状を改善する唯一の方法なのである。それでは前述のプレイヤーは、都市ヒートアイランド現象を軽減するためにどのようにして協力しているのだろうか。

どの国が大きく貢献しているかを把握する

世界中のあらゆる企業、政府、NGOが熱波による問題の解決に取り組んでいる。

しかし、カナダでは1948年から2012年の間に平均1.6℃の上昇と、世界平均の約2倍の温暖化が進んでいるため、AIを使った熱波予測にはどこよりも力を入れている。もともとカナダの都市はテクノロジー主導で技術に精通しているため、世界中の都市はカナダの綿密な分析と革新的なアイデアから学べることが多くあるだろう。例えば、MyHeatは各建物における太陽光発電の潜在性を追跡し、熱波を持続可能なエネルギーの創出に利用している。

ヘルシンキやアムステルダムなどの欧州の都市もこの課題に積極的に取り組んでいる。EUの資金提供を受けているAI4Citiesは、カーボンニュートラルを加速させるAIソリューションを追い求めている欧州の主要都市を集結させるためのプロジェクトである。資金総額は460万ユーロ(約6億円)で、選ばれたサプライヤーに分配される予定だ。

こういったプロジェクトがAIを活用して気候変動問題を解決しようとしているが、二酸化炭素排出量の削減などのニッチな分野に集中して注目されているのが現状だ。気候変動の影響ではなく、原因の軽減に焦点が当てられているのである。

そのため、熱波の影響は依然として未解決のまま手つかずの状態だ。これは、すぐに甚大な被害をもたらす洪水など他の自然災害の方が注目されやすいからでもあるだろう。熱による不快感、エネルギー使用量の増加、停電などの問題を忍ばせたサイレントキラーとも言える熱波。最大の課題は、熱波に立ち向かうためのテクノロジーが自治体やNPOにオープンにされていないということだろう。

AIを用いたソリューションを活用

回復力のある都市を構築し、気候リスクを軽減することを目的とした非営利団体Evergreenとの協働を通じて、私たちはカナダの都市ネットワークを紹介された。調査と研究を重ねた結果、洪水や地震に対しては多くのデジタルインフラやデータ駆動の政策が存在しているが、熱波に対してはまったくと言っていいほどソリューションがないことが判明した。

依然として未解決の問題が多い熱波だが、拡張性の高いツールであるAIが都市に情報を提供し、それにより根拠に基づいた意思決定を行うことができたらどれだけ効果的だろうか。

Evergreenは地理空間解析、AI、ビッグデータを、MicrosoftのAI for Earthによる助成金で作成したデータ可視化ツールとともに使用して、あらゆる都市における都市ヒートアイランド現象を調査したさまざまなデータセットを統合・解析している。これにより自治体は、不浸透性の表面を持つエリアや植生の少ない問題地域をピンポイントで特定し、日よけの屋根や水飲み場、緑の屋根を設置することでヒートアイランドの影響を緩和することができるのである。

Microsoft Azure Stack上に構築された、AIを活用した解析・可視化ツールはさまざまな機能を備えている。マップ(地形図)を活用すれば地上30メートルブロックごとの地表温度を取得することができ、建物の数や高さ、アルベド値など、都市スプロールのパラメータを変更して将来の都市スプロールのシナリオを生成できるシナリオモデリングビューもある。

温室効果ガスをトラッキングできるこの多目的ツールは、すでにカナダ国内の気候変動に対する自治体の取り組みに良い影響を及ぼしている。今後は世界中の温室効果ガスや二酸化炭素の排出をめぐる政策転換にもプラスの影響を与えていくことだろう。

Sustainable Environment and Ecological Development Society(SEEDS)はMicrosoft Indiaと共同で、インドにおける熱波リスクを予測して費用対効果の高い介入策を提供するAIモデルの第2弾を発表した。熱波が発生した場合に、政府が市内のどの地域に対して特に支援や注意が必要かを知ることができるというものだ。SEEDSはグラウンドトゥルースデータを使用し、AIモデルは熱センサーなどのデバイスを使用して地上で検証した結果を生成する。

AIはスケーラブルな上、世界各地のどんな地域にでもすばやく採用できるため、各自治体は熱波対策への経済的な方法として積極的に活用すべきある。また、AIはデータソースを抽出するツールにパッケージ化できるため、部門や主要なステークホルダー間で知識を簡単に共有することができ、意思決定者にとっても状況が把握しやすい。

現実的なソリューションを提供し、ストーリーテリングモードで生き生きと伝えることができる一般向けアプリを作ることにより、AIがもたらすインパクトを地域社会に伝えたいというのがEvergreenのアイデアである。例えば、緑の屋根によって気温が下がるということをアプリで紹介すれば、ユーザーはデータ情報を分かりやすいストーリーとして見ることができ、彼らが取り組んでいる問題を取り巻く複雑な仕組みを理解することができるようになる。

信頼のスピードでAIの民主化とスケールアップを図る

AIや機械学習(ML)プロジェクトで複数のデータソースを扱うには、分野横断的なソリューションが欠かせない。テクノロジー関係者、企業、他の非営利団体、政府、コミュニティ、都市計画者、不動産開発業者、市長室などをつなぐパイプ役として、非営利団体やコミュニティビルダーが関与することが極めて重要である。

テクノロジーパートナーが突然AIソリューションを持って都市にやってきて、市の職員がそれにすんなり賛同してくれるというシナリオはまずない。さまざまな分野が関わり合い、ビジネスケースを作成し、すべての関係者が会話に参加しなければならないのである。

同様に、革新的なテクノロジー使うことになるステークホルダーも「ここにはヒートポケットがあるので緑の屋根を設置してください」と言われただけでは、自動的にそのツールを採用することはないだろう。

MicrosoftのAI for Earthの取り組みと連携して開発された、地理空間的ソリューションの良い例がある。ある都市の全人口をマッピングし、40メートルグリッドで100平方メートルのブロック内にリリースポイントを設け、病気を媒介する危険な蚊を退治するために遺伝子を組み換えた蚊を放つというソリューションが発案された。

これは、デング熱や黄熱病に苦しむ地域社会に解決策をもたらすことができるという、AIを活用したスケーラブルなソリューションなのだが、もし誰かが突然自分の家に来て、遺伝子組み換えの蚊を氾濫させると言ったら、ほとんどの人はノーと答えるのではないだろうか。地域が蚊で溢れかえるという発想に対しても抵抗がある上、進化するAIに対する世界的な抵抗感も反対理由の1つである。AIが進化することで個人情報の利用が拡大し、プライバシーの侵害が懸念されるからである。

成功するプロジェクトのほとんどが、コミュニティを教育した上で実行されるというのはこれが理由である。エネルギーを節約して環境にやさしいAI技術を採用することで気温を下げるというポジティブなメッセージを広めるには、地域社会とのパートナーシップが重要な鍵を握っている。

例えばカナダでは各都市が独自の気候チームと気象モデルを備えており、都市部の要所要所にセンサーを設置している。大規模なデータ会社やテクノロジー会社がこういった気象データを入手するのは難しく、都市が進んで共有する必要がある。高解像度・高品質の衛星画像で雲量を調べるのも同様だ。人口データや社会経済的な考慮事項については、データプロバイダーから情報を得る必要がある。

そのためプロジェクトには「信頼のスピード」感が不可欠だ。信頼性が確立されていれば、都市は現実的でスケーラブルなソリューションを提供できるテクノロジー企業にデータポイントを共有する傾向が強くなる。信頼関係がなければ、企業はNASAやCopernicusから入手可能な、一般的なオープンソースデータに頼らざるを得なくなる。

では、企業のプレイヤーやCEOにとってこのことは何を意味するのだろうか。都市向けのAIソリューションは自治体の気候チームやコミュニティを対象としているが、石油やガス会社はどうだろう。この業界の企業は都市の排出量の多くに貢献しているため、二酸化炭素排出量を報告するという大きな圧力がかかっている。

この分野へのAIソリューションでは、製油所や貨物が排出する二酸化炭素量をリアルタイムで追跡できるコマンドセンターが必要だ。製品ごと、従業員ごとの二酸化炭素排出量を減らすようCEOらは義務づけられているが、AIソリューションを導入することで環境への影響に対する説明責任を果たすと同時に、熱波の問題の一端を担っていると認識していることを示すことができるだろう。

熱波に注目が集まるようになったのは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によりオフィスで働くことよりも自宅で生活することの方が多くなったためというのもある。一般設備や快適なオフィスから離れた場所で、より顕著に不快感を感じるようになったからだ。

社会変革コミュニティのリーダーたちは企業、NGO、政府、テクノロジーパートナー、コミュニティリーダー間のコラボレーションを促進することにより、気候変動や熱波によるこうした悲惨な影響を逆転させることができるのである。もしかすると、事態が手遅れになる前に、AIとMLから生まれる潜在的なソリューションを実際に展開させることができるかもしれないのだ。

画像クレジット:instamatics / Getty Images

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(文:Shravan Kumar Alavilli、翻訳:Dragonfly)

データ分析企業Databricksが同社初の業界特化型レイクハウスを発表

クラウドインフラストラクチャのプロジェクトがどんどん複雑になっている中で、特定の業界に向けてあらかじめパッケージ化したソリューションを提供することが業界のトレンドとなっている。米国時間1月13日、潤沢な資金を持つデータ分析企業のDatabricksが、同社初の業界特化ソリューション「Lakehouse for Retail」を発表してこのトレンドに参戦した。同社は小売業者に対し、これまでの分析ツールやDatabricksのAIツールによって生成される膨大な量のデータから価値を抽出するのに役立つ、完全に統合されたプラットフォームを提供するとしている。

Databricksの共同創業者でCEOのAli Ghodsi(アリ・ゴディシ)氏は「これは我々のジャーニーにおける重要なマイルストーンで、企業がリアルタイムで事業を運営し、より正確に分析し、顧客のすべてのデータを活用して有意義なインサイトを明らかにするものです。Lakehouse for Retailは小売業における企業やパートナー間でのデータドリブンのコラボレーションと共有を推進します」と述べている。

このプラットフォームを早期に利用している企業には、Walgreens、Columbia、H&Mグループなどがある。これらのユーザー企業はDatabricksのプラットフォーム全般を利用できるが、特に重要なものとしてLakehouse for RetailのSolution Acceleratorsがある。Solution Acceleratorsは、Databricksが「データ分析と機械学習のユースケースとベストプラクティスに関するブループリント」と呼んでいるもので、うまくいけば新規ユーザーが開発にかかる時間を何カ月も節約できる。これには、リアルタイムストリーミングのデータインジェストのテンプレート、需要予測、レコメンデーションのエンジン、顧客のライフタイムバリューを測定するツールが含まれる。なおDatabricksには以前にも同様のブループリントがあったが、Databricksが統合ソリューションとして提供していたわけではなく、利用者が自分たちで構成しなくてはならなかった。

Walgreensの医薬・ヘルスケアプラットフォームテクノロジー担当バイスプレジデントであるLuigi Guadagno(ルイージ・グアダーニョ)氏は次のように述べている。「Walgreensでは毎年、膨大な数の処方箋を処理しています。DatabricksのLakehouse for Retailを利用することで、このすべてのデータを一元化し、1カ所で保管して分析や機械学習のワークロードをフル活用できます。複雑さやコストのかかる旧式のデータサイロを廃することにより、インテリジェントで一元化されたデータプラットフォームでクロスドメインのコラボレーションが可能となり、柔軟に適応し、スケールし、お客様や患者様により良いサービスを提供できるようになりました」。

ここ数年、Databricksは「レイクハウス」の概念を普及させようとしてきた。その概念とは、分析のためのデータウェアハウスと、まだ活用されていない膨大な生データを保管するデータレイクの利点を組み合わせるということだ。

画像クレジット:Boy_Anupong / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Kaori Koyama)

AIの利用が加速するなか、韓国のデータラベリング企業AIMMOがシリーズAで13.8億円調達

人工知能モデルのほとんどは、監視下での学習を通じて訓練される。すなわち、生データへのラベル付けを人間が行う必要がある。データラベリングは人工知能と機械学習の自動化における最も重要な部分であるが、時間のかかる面倒な作業でもある。

韓国のスタートアップAIMMO(エイモ)は、ソフトウェアと人間を使って、画像、ビデオ、音声、テキスト、センサーフュージョン(複数センサーのデータを融合する)データのラベル付けとカテゴリー分けを行なってており、企業が高速でデータラベリングを行えるAIデータ・アノテーション・プラットフォームも開発した。

AIMMOは2022年1月2日、データラベリングテクノロジーの強化と世界進出の加速を目指し、1200万ドル(約13億8000万円)のシリーズAラウンドを完了したと発表した。ラウンドにDS Asset Management、Indsutrial Bank of Korea、Hanwha Investment & Securities、S&S Investment、Toss Investment、Korea Asset Investment & Securities、およびVenture Fieldというは7社のベンチャーキャピタルが参加している。AIMMOは企業評価額を明らかにしていない。

「パンデミックは、非接触テクノロジーへの転換と、情報監視、スマートシティ、無人運転車、スマートファクトリー、ロボティクスなどAIデータが不可欠な分野でのAI利用を加速しました」とAIMMOノグローバルセールス責任者、Doyle Chung(ドイル・チャン)氏はメールインタビューで答えた。「さまざまな方向性や業界がある中、当社の焦点は主として、スマートシティと自動運転です」。

2016年に、CEOのSeung Taek Oh(オ・スンテク)氏が設立したこのスタートアップは、3種類のデータアノテーションツールを持っている。AIMMO DaaSは自動運転車企業向けセンサーフュージョンデータを管理する。AIMMO GtaaSは、ビッグデータのためのターンキー方式のプラットフォーム、そして2020年に公開されたAIMMO Enterprisesは、クラウドアーキテクチャを使ったウェブベースのSaaSアノテーションラベリングツールだ。

同スタートアップは、これらのツールを使うことでデータアノテーションプロセスを効率化し、顧客はAIモデルに集中できる、という。プラットフォームの使用料はなく、コーディングのスキルやAIMMO Enterprisesのインストールも不要で、ユーザーはChromeなどのウェブブラウザーを使ってデータのラベリングができる。AIMMO GtaaSでは、ユーザーが生データをAIMMOに送ると、検査結果が戻される、とチャン氏は話した。

AIMMO DaaSプラットフォームを使ったデータラベリングの件数と売上は2021年に対前年比200%成長した。同社のIR資料によるとAIMMOの2021年の売上は1000万ドル(約11億5000万円)だった。自動運転分野の世界的需要の高まりを受け、2022年の売上が成長することを同社は予測している。

画像クレジット:AIMMOウェブサイトのスクリーンショット

データ収集とラベリングの市場規模は、2021年に16億ドル(約1843億円)で2028年には82億ドル(約9445億円)になるとGrand View Researchの市場分析レポートは予測している

AIMMOは幅広い企業にサービスを提供しており、顧客には自動車メーカーのHyundai Motor(現代自動車、ヒョンデ・モーターズ)、自動車部品製造メーカーのHyundai Mobis(ヒョンデ・モビス)、ライドシェアリングのスタートアップ、Kakao Mobility(カカオ・モビリティー)、カー・シェアリングのスタートアップSoCar(ソーカー)、自動運転貨物輸送デベロッパーのThoreDrive(トアドライブ)などがいる。AIMMOは自動運転車以外でも、ロボティクス、光学文字認識(OCR)、スマートファクトリー、インテリジェント監視、eコマース、ロジスティック業界、通信会社のSK Telecom(SKテレコム)、インターネット巨人のNAVER(ネイバー)、Kakao(カカオ)そして日本のKomatsu(コマツ)などとも仕事をしている。

韓国拠点のスタートアップは、英国、米国、日本、ベトナムに事業所がある。チャン氏によると、2022年にはドイツとカナダにも事業所を開く予定だ。AIMMOのが今後世界市場へ進出していけば、Scale AI(スケール・エーアイ)、Playment(プレイメント)、Understand.ai(アンダースタンド・エーアイ)、Deepen AI(ディープン・エーアイ)などがライバルになる。現在同社には世界で200名の社員と1万人以上のデータ・ラベラーがいる。

画像クレジット:ScreenShot | AIMMO

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(文:Kate Park、翻訳:Nob Takahashi / facebook

突然文章が書けなくなる……、Sudowriteの強力なツールがあなたに代わって筆を走らせる

オフィスビルや工場、高層ビルが林立し、光と影が織り成す光景は、夜の街に生命の息吹を感じさせる。この都会のジャングルに生息するのが我々の卑劣なヒーロー、Amit Gupta(アミット・グプタ)だ。彼から漂うのは洗濯物とヘアジェル、そしてかすかなペパーミントの香り。シルクのスーツにはたっぷりのコロンと、革とムスクの柔らかくて暖かな香りがブレンドされている。ウールハットは明るいトーンのベージュ、ネクタイはダークトーンのピンク色だ。スタートアップ創業者である彼の肌は、生まれたての赤子のように柔らかで温かい。握手は力強く、物腰は柔らかである。深い信念を持つ彼の会社の名はSudowrite(スドウライト)だ。共同創業者の名はJames Yu(ジェイムス・ユー)。ユー氏はParse(パース)を設立し、後にFacebook(フェイスブック)に売却した人物でもある。同社は名だたるエンジェルの数々を投資家として持ち、資金調達額は3百万ドル(約3億4000万円)におよぶ。

クルマの騒音、子どもの遊ぶ声、テレビの音、ラジオの音、火災報知器の音、パトカーのサイレンの音、酔っぱらいのつぶやきなど、都会の不協和音と膨大なシンフォニーが流れる中、グプタは血も涙もないニュースを受け取った。白血病と診断されたのだ。彼の人生は完全に狂ってしまった。自分の人生を見つめ直し、自分にとって何が大切なのかを真剣に考える時が来たのだ。彼は深呼吸をしてみる。自分にはもう時間が残されていないのか、それともこれは単なる警告なのか。

Sudowriteにスタートアップとは何かを説明してもらうと、息が止まるほど笑える結果となった。実におもしろい(画像クレジット:Sudowrite)

ドローンのレンタルカメラ用の奇妙なアクセサリークリエイティブな写真マウントのアイデアで知られていた既存のスタートアップ、Photojojo(フォトジョジョ)もいまや昔のこと。会社を売却した彼は、次に何をすべきかを考えなければならなかった。会社を売却して得たお金は、薄い黒い葉のように貧弱で、悪魔の翼のようによじれている。紙のように薄く、煙のように薄く、絹のように薄く、まるで蜘蛛の巣のようだ。

ここまでの記事が奇妙に感じるのは、筆者がSudowriteというツールを使って説明文を書いたからだ。爆笑ものだが、信じられないほど強力なツールでもある。常に意味をなすとは限らないが、重要なのはそこじゃない。このツールはライターに完全に取って代わるものではなく、要約したり拡大したり、時には執筆過程で不足している創造力に火をつけるためのものなのである。この記事の最初の部分が完全に狂っていることからもわかるように、そういう意味でこのツールは非常に良く機能している。

「2014年に病気になり、人生を見つめ直すことになった時にPhotojojoを売りました。私はシリコンバレーを完全に離れて旅に出ました。自分の死ぬまでにしたいことリストにあったことはすべてやりました。しかし移植から5年が経過し、おそらく白血病で死ぬことはないだろうということになったのです」とSudowriteの創業者でCEOのグプタ氏は振り返る。「それで、じゃあこれから人生で何をしようかと考えました。しばらくはコーチングをしていました。そして、ここ数年はSF小説を書いていて、それに夢中になっていました。どん底から這い上がっていくのはとても楽しいことでしたし、私にとってはとても新しいことでした」。

SF作家としての道を歩む中で、グプタ氏はほとんどの作家が経験する問題に直面した。「ライターズブロック」である。書くという作業はここまで難しいことだっただろうか?

「Sudowrite はさまざまな問題を解決してくれると思いますが、その具体的な内容は作家ごとに異なります。私が感じるところの執筆作業における問題点の1つは、非常に孤独であるということでした。すべてが協力的なスタートアップの世界から来たためなおさらでしょうか。役に立っているのかもよくわからない週に一度の読書グループ以外には何の出口もなく、キーボードの前にただ座って行き詰まると机に頭を叩きつけ、とても孤独に感じていました。私たちが最初に考えたのは、隣に座っている創造的なパートナーのような役割を果たすものを作れないか、ということでした。行き詰まったときに彼らに向かって『これが解明できないしうまくいかない。アイデアをくれないか』と相談できる何か。それが当初の目的でした」とグプタ氏は説明する。

創業者のアミット・グプタ氏とジェイムス・ユー氏は、山頂で発見された。彼らは一般的な家猫よりも少しだけ大きく成長することで知られている。墓というよりはゴミ山のような土の中に人骨がごちゃごちゃと横たわっていて、眼窩はまっさらな空を見つめている。創設者らは下駄についた泥を払い、戦いに備えて知恵を絞る。ドラゴンの息づかいがすぐそこに迫っている(写真のキャプションはSudowriteによるもの。キャプションの正確性については確認していない)

「人間のリーディングパートナーのように、うまくアイデアを出し合える相手を作りたいと考えたのです。また、脚本家などのエンターテインメント業界の人々と話をしているうちに、特定のニーズがあることに気がつきました。例えば自分が書いた脚本があって、それの1ページ版と3ページ版を作成しなければならない場合などがあります。非常に特殊な業界の仕事ですが、AIにとってはとても簡単なことです。これはあまりクリエイティブな作業ではないため、Sudowriteのようなツールを使えば彼らがしなければならない嫌な作業を何時間も省くことができるのです。用途はたくさんあると思いますが、インスピレーションを刺激して仕事の流れを良くするのが主な目的です」。

1つの文章をSudowriteによって創造的に膨らませてみた。より細かく描写したものや、心の葛藤を表したもの、またはより簡潔に説明したもの(筆者の最も苦手とするもの)など、AIの力によってシンプルな文章からいくつものバージョンが出来上がる

グプタ氏は作家の孤独感を解消するためにSF小説のライティンググループに参加していたのだが、そこで出会ったのが共同創業者で元Parse創業者のユー氏である。2人はGPT-3をベースにしたアプリの初期バージョンをともに作りあげ、有料の顧客を獲得し始めたところで資金調達を決意した。

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「当初このプロジェクトを立ち上げるために100万ドル(約1億1300万円)程度の資金を集めようと考えていました。最終的には300万ドル(約3億4000万円)を調達しましたが、そのほとんどが個人投資家によるものでした。これは意図的なものです。ベンチャーキャピタルからのプレッシャーを感じることなく、自分たちのペースで実験したり、奇妙なことに挑戦したりするのを許容してくれる人たちが欲しかったのです」とグプタ氏は話している。

同社のエンジェル投資家リストはそうそうたる顔ぶれで、Medium(ミディアム)およびTwitter(ツイッター)の創業者であるEv Williams(エヴァン・ウィリアムズ)氏、Gumroad(ガムロード)の創業者であるSahil Lavingia(サヒール・ラヴィンギア)氏、Parse(パース)の創業者であるKevin Lacker(ケヴィン・ラッカー)氏、WordPress(ワードプレス)の創業者であるMatt Mullenweg(マット・マレンウェッグ)氏、Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)の創業者であるPatrick Lee(パトリック・リー)氏などが名を連ねている。また、Big Fish(ビッグフィッシュ)やAladdin(アラジン)の脚本家であるJohn August(ジョン・オーガスト)氏、Bourne Ultimatum(ボーン・アルティメイタム)やOceans Twelve(オーシャンズ12)の脚本家兼監督であるGeorge Nolfi(ジョージ・ノルフィ)氏など、エンターテインメント界の名だたるメンバーが揃っている。

現在、同社のユーザー数は300人から400人で、プラットフォームの利用料は月額約20ドル(約2300円)だ。今回の資金調達ラウンドにより、創業チームはチーム規模を少し拡張することができたようだ。

「今回の資金調達で実現したことは、何といっても人材の確保です。当社にとって初となる機械学習担当者、開発者、リードデザイナーを採用しました。この3つのポジションを確保することができましたが、しばらくはこの規模を維持するつもりです。当社のユーザーは皆、口コミで集まってきた人たちで、幅広いジャンルの方がいます。小説や脚本を書いている人もいれば、Substack(サブスタック)のニュースレターを作っている人もいます。また、職業として文章を書いているユーザーもいます。変わった使用例もあります。Sudowriteを使って説教を作る宗教指導者や、瞑想のための文書を書く人、また、ロールプレイングゲームを作るユーザーもいます。非常に幅広い層に支持されています」。

Sudowriteは、これまでクローズドベータ版を提供していたが、これからは自身でベータ版に登録して試すことが可能だ。

以下に、グプタ氏が記録したデモビデオを添付しておく。数カ月前のものだが、このツールがどう機能するのかをより詳しくおわかりいたけると思う。

画像クレジット:Sudowrite

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

何かと忙しい会議をスマート化、行動につなげやすくするAvomaが13.7億円調達

Avomaの共同創業者。左からアルバート・ライ氏、ディベンドラ・ロールカー氏、アディチャ・コタディア氏(画像クレジット:Avoma)

会議中にメモをとるのは、聞きながら入力し、その2つをしながら次にいう気の利いたことを考えるマルチタスクが求められる芸術的な技だ。アプリを3つか4つ準備して使い、会議後の行動につなげなくてはならない。

パロアルトを拠点とするAvomaは、会議中にやることや使うアプリが多すぎて抜けてしまうことがあるはずだと考えた。同社は会議のワークフローを自動化し、話し合いを行動につなげやすくするソフトウェアを開発した。

米国時間12月22日、AvomaはシリーズAで1200万ドル(約13億7000万円)を調達したと発表した。このラウンドを主導したのはHeadlineで、Storm Ventures、Global Founder Capital、Zoom Apps Fund、Operator Partners、Industry Venturesが参加した。これまでに投資していたK9 Ventures、Dragon Capital、Twin Venturesも参加した。Avomaのこれまでの調達金額は1500万ドル(約17億1000万円)になった。

2017年にAditya Kothadiya(アディチャ・コタディア)氏、Devendra Laulkar(ディベンドラ・ロールカー)氏、Albert Lai(アルバート・ライ)氏が創業したAvomaは、AIを活用した会議アシスタントを開発した。このアシスタントは議題のテンプレート、メモとビデオの記録、リアルタイムの文字起こし、メモの要約、参加者に対する行動喚起の機能を備えている。

CEOのコタディア氏が以前に創業したShopalizeが2013年に顧客獲得およびエンゲージメントのソフトウェアとサービスを提供する[24]7.aiに買収され、同氏は[24]7.aiに在籍した。同氏は、Avomaを使うと週に数時間を節約でき、会議の成果は平均 30%向上するという。

同氏は次のように語る。「私はプロダクトリーダーとしてしょっちゅう会議に出席し、メモを取るのに時間を費やしていました。新しいプロダクトはお客様やプロダクトマーケティングチームの手に渡りますが、会議中はメモを取るのに忙しくてどうなっているかを聞いていませんでした。これを解決するためにテクノロジーを使って何も取りこぼさないようにしたいと思ったのです」。

Avomaの会話メモ(画像クレジット:Avoma)

生産性向上ツールは新しいものではなく、世界的なコロナ禍でみんなが在宅勤務をするようになって注目を集め、採用されている。しかしコタディア氏は、Avomaは会議管理、AIアシスタント、会話インテリジェンスを1つのツールにまとめたところが他との違いで、いくつものツールを購入し続けることがなくなると考えている。

企業のCRMと統合して情報を追加したり、会議中にいつ、誰が主に話したかを見ることもできる。さらにキーワードで検索し、その時点から録音を聞く機能もある。

コタディア氏は「AIが最初の下書きをして、その後はメモを振り返って重要なところを見つけ、必要に応じてさらに補足できます」と説明した。

Avomaは新たに得た資金をAI、ユーザーインターフェイス、ワークフロー統合の3つの柱に使う計画だ。機械学習と自然言語理解機能の改善を続けて、メモを取る機能などの利用ケースを会議のライフサイクル全般にわたって自動化していく。

プロダクト開発にも投資して、フリクションの少ない優れたユーザーエクスペリエンスを提供していく。さらにAIアシスタントや企業の既存システムとの統合についても開発を続ける。

今回はAvomaが順調に成長しているタイミングでの新たな資金調達となった。同社の売上は過去3年間で毎年400%以上成長しており、顧客数は300社を超える。

同社はこの成長を小規模なチームで実現してきた。現在の従業員数は15人で2020年12月と比べると倍増しているが、コタディア氏は今回の資金により、今後1年間で北米とインドのさまざまなポジションで従業員数を4倍にするとしている。

HeadlineのパートナーであるJett Fein(ジェット・ファイン)氏は「夢中になっている顧客」を持つプロダクトに特に関心があるという。同氏はGopuffやAvomaをそうしたプロダクトと見ており、Avomaは中堅企業に選ばれ、新しいリモートの世界でセールスのプロセスをまとめる接着剤になるだろうと考えている。実際、Headlineは社内で投資としてAvomaを使い始め「たいへん気に入りました」という。

ファイン氏は次のように述べた。「Avomaによって我々のプロセスが改善されました。我々が話をしたAvomaのお客様は夢中になっていて、多くの人がこれなしではやっていけないと言っています。お客様はAvomaを使うことで仕事の効率が大幅にアップしたと言います。そうした声を頻繁に聞いて、我々の興味は大いにかきたてられました」。

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(文:Christine Hall、翻訳:Kaori Koyama)

【コラム】非営利団体にはソーシャルメディアを改善する答えがあり、ビッグテックにはそれを実現するリソースがある

ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響についての議論は目新しいものとはいえないが、この秋、Facebook(フェイスブック)が自社プラットフォームの10代向けのメンタルヘルスに対する悪影響を十分に認識していたことを示唆していた報告が出されたことで、議論は再び世界の注目を取り戻した。

このデータ(およびFacebookがこれらの懸念を無視したという事実)は厄介な話だが、ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響を理解することはそれほど簡単ではない。実際、ソーシャルメディアは若者が自分自身や自分のアイデンティティを発見するための安全で肯定的な空間やつながりを提供できるとする強い主張も存在している。

ソーシャルメディアへの怒りがもたらす暗い結論の一方で、こうした利点はあまりにもしばしば片隅へと押しやられてしまう。事実、Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)、Facebookといった現在の人気ソーシャルネットワーキングプラットフォームは、収益化を最優先事項としてデザインされている。これらのアプリは、アプリのユーザー時間が増えることで広告収入も増えるため、基本的に過度の使用を促すものなのだ。

最近の反発に応えて、Instagramのような場所は厳格に大人用とすべきだと主張する人もいるが、筆者は10代の若者にとって有益なソーシャルメディア環境を構築することは可能だと強く信じている。それは彼らが自己発見をできる場所であり、アイデンティティを自由に探求できる場所であり、暗闇の中で彼らを慰め、彼らが1人ではないことを知る手助けをする場所なのだ。

この未来が反応的な機能だけで育成できるかどうかはわからないが、ソーシャルメディアの巨人には、他の組織や非営利団体と協力して、ソーシャルメディアをすべての人々にとってより安全な場所にできる可能性がある。

広告型かつ非営利型のソーシャルメディアのためのスペースの創出

営利目的のソーシャルメディアが独占しない世界を想像するのは難しいが、独占は必然ではない。広告収入型のソーシャルメディアアプリを完全に排除するのは現実的ではないかもしれないが、テック業界には広告収入に依存しないプラットフォームのためのスペースを作る機会と責任がある。

もし閲覧数、クリック数、広告数が人々の欲求やニーズに対する二次的なものであれば、ソーシャルメディアプラットフォームの仕組みに革命を起こすことができるだろう。他のアプリからのプレッシャーから逃れたり、仲間と交流したり、自分自身が受け入れられる場所を見つけたり、目的はどうであれ私たちはユーザーが自由に参加できるコミュニティを構築することができる。

Ello(エロ)や、LGBTQ+の若者向けのTrevor Project(トレバーブレロジェクト)のソーシャルネットワーキングサイトであるTrevorSpace(トレバースペース)など、広告なしのソーシャルメディアスペースはすでにいくつか存在しているが、それらの規模は小さく機能も少ないため、 Instagramなどのソーシャルメディアアプリに備わる機能に慣れているユーザーを大量に引き付けることはできていない。

また、若者が匿名で自分のアイデンティティを探求できるオンラインスペースも必要だが、ソーシャルメディア企業がユーザーの精神的健康や健康よりも広告支援を優先する場合には、それはほぼ不可能だ。広告主は年齢、性別、行動、アイデンティティに基づいてユーザーをターゲットできるように、ソーシャルメディアに時間を費やしているのは誰かを正確に知りたいと考えているからだ。これは、ソーシャルメディアを自分が何者なのかを知るための手段として使いたいが、あまり慎重には行動できない若いユーザーにとって特に問題となる。

これを克服するためには、業界全体として利益を目的としないソーシャルメディアスペースへの投資を増やす必要がある。ここ数年、テック大手はプロダクトのイノベーションで驚異的な進歩を遂げており、これを、ユーザーが安心して自分を表現したり、協力的なコミュニティを見つけたりできるサイトにも応用できる可能性がある。

Facebook、Instagram、TikTok(ティックトック)、その他の広告付きアプリにはふさわしいタイミングと場所があるが、収益に左右されないオンラインスペースに対する明確なニーズと要望も存在している。どちらか一方である必要はなく、両方のためのスペースを確保するために私たちは協力することができる。

たとえばTrevorSpaceに対しては、私たちは特定の収益目標を達成するというプレッシャーを与えることなく、ユーザーの要望やニーズをよりよく理解するための研究に投資してきた。この調査を通じて、私たちはユーザーが自分のアイデンティティを探求し、自分を表現できる安全な空間を持つことに価値を見出そうとインターネットを利用していることを学んだ。

AIをずっと使用したらどうなるだろう?

より多くの非営利のソーシャルメディアプラットフォームに投資することに加えて、テック企業たちには、その最先端のAI開発を応用することで、ソーシャルメディア上のユーザー体験を改善し、オンラインに時間をかけすぎたことによる精神衛生上のストレスを軽減できる機会もある。

ソーシャルメディアサイトは現在、機械学習を使用して、人々がオンラインでより多くの時間を過ごすことを促すアルゴリズム生み出しているが、機械学習の可能性はそこに留まるものではない。テクノロジーには、人びとのメンタル不調を悪化させるのではなく、メンタルヘルスをサポートする力があることを私たちは知っている。ではAIを使用して、ユーザーにソーシャルメディアを制御できる新しい力を与えたらどうなるだろうか。

AIが、特定の瞬間に本当に必要としているものを見つけるのに役立てたらどうなるのかを想像してみて欲しい。例えばユーザーが笑いたいときには笑えるコンテンツへ、泣きたいときには泣けるコンテンツへとガイドしてくれたり、志を同じくするユーザー間の前向きな関係を築く手伝いをしてくれたり、または、彼らの生活にプラスの影響を与えるスキルや知識を彼らに与えてくれるリソースを提案したりということだ。

今日のソーシャルメディアアプリの大多数は、AIを使用して、私たち向けのフィード「あなたのための」ページ、そして私たちのためのタイムラインを決定している。しかし、もし私たちがAIを使って、ソーシャルメディア上での自分自身の旅をガイドできるようにすれば、根本的に異なる感情体験を育むことができる。それは、単に時間と注意を独占するのではなく、自分自身の欲求やニーズを支えるものなのだ。

これは簡単なことのように聞こえるし、すでに起きていることだと考える人さえいるかもしれない。しかし、最近Facebookの元プロダクトマネージャーFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏の証言によって裏付けられたように、現在私たちが大手ソーシャルメディアで見ているコンテンツは、そのようにはキュレーションされていない。その状況は変わる必要がある。

ソーシャルメディアにおける前例のない革新と研究のおかげで、私たちは私たちの幸福に貢献するサイトを作成するために必要な技術は持っている、あとはその開発に時間とリソースを投資して、非営利アプリが主要な広告利用アプリと共存できるスペースを作ればいいだけなのだ。

将来的には、ユーザーが自身の見るコンテンツやそのコンテンツとのやり取りを制御できるようなAIを、ソーシャルメディア企業が非営利企業と提携して開発する可能性があるが、そのためには両者からの多大な時間投下、投資、協力が必要になるだろう。また、ソーシャルメディア大手は、この分野で切望されている代替アプリが入り込む余地を十分に確保する必要がある。

ソーシャルメディアをすべての人にとってより安全で健康的なものにすることは、The Trevor Projectを含む多くの非営利団体が実現に向けて取り組んでいる目標であり、ソーシャルメディア企業の支援によって私たちはその実現に大いなる助けを得ることになるだろう。

編集部注:著者のJohn Callery(ジョン・カレリー)氏はThe Trevor Project(トレバー・プロジェクト)の技術担当上級副社長。

画像クレジット:mikroman6 / Getty Images

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(文:John Callery、翻訳:sako)

純粋数学もタンパク質生成も、人工知能におまかせを

人工知能(AI)が興味深い分野である理由の1つに、AIは何が得意なのかを誰も知らない、ということがある。12月2日号の「Nature」に掲載された最先端の研究所による2つの論文では、機械学習(ML)は、タンパク質生成のような技術的に難しい作業、純粋数学のような抽象的な作業のどちらにも対応し得ることが示されている。

最近話題になった、Google(グーグル)が買収したDeepMind(ディープマインド)やワシントン大学David Baker(デビッド・ベイカー)研究室による、タンパク質の物理的構造(フォールディング)の予測に対するAIの利用の実証結果を見れば、タンパク質の話はさほど驚くことではないかもしれない。偶然ではないが、この記事で紹介する論文を発表したのは、そのDeepMindとベイカー研究室である。

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ベイカー研究室の研究によると、タンパク質配列がどのようにフォールディングされるかを調べるために作成したモデルは、本質的に反対(逆)のことをさせることができるという。つまり、特定のパラメータを満たす新しいタンパク質配列を生成し、in vitro(試験管内)のテストで想定通りに機能させることができるというのだ。

タンパク質の構造を予測するために作成されたAIが、逆に新しいタンパク質を作ることもできるという発見は重要である。なぜなら、絵の中のボートを検出するAIがボートを描けないとか、ポーランド語を英語に翻訳するAIが英語をポーランド語に翻訳することができないという例はあっても、逆のことができるかどうかは必ずしも明らかではなかったからだ。

逆方向の可能性の研究は、SalesForce Research(セールスフォースリサーチ)のProGen(プロジェン)など、すでにさまざまなラボで行われている。しかし、ベイカー研究室のRoseTTAFoldとDeepMindのAlphaFoldは、プロテオームの予測の精度という点では圧倒的に優れており、これらのシステムのテクノロジーを創造的な活動に活かせるというのは喜ばしいことだ。

AIの抽象化

一方、Natureの表紙を飾ったDeepMindの論文は、AIが数学者の複雑で抽象的な作業を支援できることを示している。これは数学の世界を覆すものではないが、機械学習モデルが数学をサポートできるということを示す、実に斬新で、これまでになかった成果だ。

この研究は、数学とは主に関係性とパターンの研究である、という事実に基づいている。例えば、あるものが増えれば別のものが減り、多面体の面が増えればその頂点の数も増える。これらの事象はシステマチックなので、数学者はこれらの正確な関係性を推測することができる。

中学校で習う三角関数は、そのシンプルな例だ。三角形の内角の和が180度になることや、直角三角形の斜辺以外の辺の二乗の和が斜辺の二乗になるというのは三角形の基本的な性質である。しかし、8次元空間にある900辺の多面体ではどうだろう。a2 + b2 = c2のような公式を見つけることができるだろうか?

結び目の幾何学的表現と代数的表現という2つの複雑な性質の関係を示す例(画像クレジット:DeepMind)

観察された事象が偶然のものではなく普遍的なものであることを確信するためには、多くの例を調べる必要があるが、数学者による作業には限界がある。DeepMindはここにAIモデルを導入し、省力化を図ることにした。

オックスフォード大学のMarcus du Sautoy(マーカス・デュ・ソートイ)教授(数学)は、DeepMindのニュースリリースの中で「コンピューターは人間が追随できない規模のデータを出力することに長けているが、(今回の場合)異なるのは、人間だけでは検出できなかったであろうデータのパターンを拾い出すAIの能力である」と説明している。

このAIシステムにサポートされて得られた実際の成果は筆者が理解できる範囲をはるかに超えているが、読者の中に数学者がいれば、DeepMindから引用された以下の内容を理解してもらえると思う。

ある有向グラフと多項式の間には関係があるはずだという「組み合わせ不変性予想」は、40年近く進歩を拒んできました。MLの技術を用いて、そのような関係が実際に存在するという確信を得ること、そしてその関係が、破れた二面体の間隔や極値反射などの構造に関連しているのではないか、という仮説を立てることができました。この知識をもとに、Geordie Williamson(ジョーディー・ウィリアムソン)教授は、組み合わせ不変性予想を解決する、驚くべき美しいアルゴリズムを予想することができました。

代数学、幾何学、量子論には(結び目について)独自の理論があります。これらの異なる理論がどのように関係しているかというのは長年の謎でした。例えば、結び目の幾何学は代数学について何を教えてくれるのでしょうか?私たちは、そのようなパターンを発見するためにMLモデルをトレーニングしました。驚くべきことに、これにより、ある特定の代数的な量(表現)が結び目の幾何学と直接関係していることがわかりました。これまで明らかではなく、既存の理論でも示唆されていなかったことです。私たちはMarc Lackenby(マーク・ラッケンビー)教授と協力し、MLの帰属手法を使って、これまで見過ごされていた構造の重要な側面を示唆する、自然な傾きと呼ぶ新しい量を発見しました。

この予想は、何百万、何千万もの例で裏づけられているが、自分の仮説を厳密に検証するよう指示するのにピザやコーヒーをおごる必要がない、というのもコンピューターの利点である。

上述の例は、DeepMindの研究者たちと教授たちが緊密に協力して(MLの)具体的な利用方法を考え出したものなので「(AIは)普遍的に純粋数学のアシスタントである」といえるものではない。しかし、ルール大学ボーフムのChristian Stump(クリスチャン・スタンプ)教授がNatureのSummaryで述べているように、これが機能するということは、そのようなアイデアに向けた重要な一歩である。

スタンプ教授は次のように記す。「どちらの結果も、その分野の研究者にとって必ずしも手の届かなかったものではありませんが、どちらも、これまで研究者が見つけられなかった真の洞察を提供しています。従って、今回の成果は、抽象的な枠組みの概要以上のものです」「このようなアプローチが広く適用できるかどうかはまだわかりませんが、Alex Davies(アレックス・デイビス)等(ら)の論文は、数学研究における創造的プロセスをMLツールにサポートさせる手法の有望性を示しています」。

画像クレジット:DeepMind

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

コンピュータービジョンを利用するStreetlogicの電動自転車用衝突警告システム

Streetlogic(ストリートロジック)は、電動アシスト付きスポーツ自転車のライダーがより安全に道路を走行できるようにしたいと考えている。同社は、210万ドル(約2億3800万円)のプレシード資金を調達するとともに、主力製品であるサラウンドビューカメラの発売を発表した。このサラウンドビューカメラは、前方、側方、後方からの衝突を予測してライダーに知らせ、事故を未然に防ぐというものだ。

米国、カナダ、欧州では、2021年11月23日より、Streetlogicの電動自転車用先進運転支援システム(ADAS)の先行予約を30ドル(約3400円)の頭金で開始した。Streetlogicの創業者でありCEOでもあるJonathan Denby(ジョナサン・デンビー)氏によると、最終的な小売価格は300ドル(約3万4000円)から400ドル(約4万5000円)程度になる予定で、同システムの最初の量産ロットは2022年末までに納品される予定だ。Streetlogicの拠点であるサンフランシスコの購入者は、2022年初頭から招待制の限定的なベータ展開プログラムを通じて、いち早く同システムを試すことができる。

マイクロモビリティのADASシステムを考案したのは、Streetlogicが最初というわけではない。2020年、イスラエルのスタートアップであるRide Vision(ライドビジョン)は、同様のAIベースのシステムを発表した。このシステムは、ライダーの周囲の交通状況をリアルタイムに分析し、前方衝突警告、ブラインドスポットモニタリング、後方からの近接車両の警告などを提供する。Streetlogicと同様に、ライドビジョンのシステムは、走行を記録するだけでなく、安全に関わる事故の記録を保存して後から見直すことができるドライブレコーダーとしても機能する。

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最近では、Luna(ルナ)やDrover AI(ドローバーAI)などのコンピュータービジョン企業が、同様のテクノロジーをVoi(ヴォイ)やSpin(スピン)などのシェアマイクロモビリティ事業者が運用するeスクーター向けに開発している。このテクノロジーは似通っているが、ターゲットとする市場が異なる。

デンビー氏はTechCrunchに対し「違いは、当社がビジョンシステムをカスタマイズして、電動自転車のライダーにスマートな安全機能を提供しているのに対し、LunaやDrover AIはビジョンシステムを使って、eスクーターのライダーが街中をより快適に走行できるようにしていることだ」と説明する。また「それらの機能は、歩道の検知や駐輪システムのルールを守ってもらうためのものであり、eスクーターのライダーが適切にシェアシステムを利用していることを示すために必要なものだ。一方、当社のADASシステムの機能は、ライダー自身の安全を重視している。例えば、交通量の多い道路を走っているときに、自分と衝突する恐れのある車を検知した場合には、早期の警告によりライダーは安全を確保できる」と述べる。

もう1つの大きな違いは、ライダーが歩道を走るなど不適切な走行をしていると、LunaやDrover AIのシステムはスクーターのOSに接続し、減速して停止させることができることだ。Streetlogicの製品は、厳密には衝突警告システムだが、特に都市部では非常に有用なツールとなる。

「安全の面では、常に周りを見ているわけではありません。無理ですよね。また、通勤途中は、自分のめい想時間のようなもので、よく考え事をしてしまいます。少なくとも私の場合、安全については考えていません。仕事に行くことや、その日にすべきことに思いを巡らしています」と、Streetlogicの初期のベータテスターの1人で、毎日電動自転車で通勤しているTaylor(テイラー)氏は、同社のウェブサイトに掲載されている体験動画の中で述べている。

米国における回避可能だった自転車の死亡者数は、2010年の793人から2019年には1089人と6%増加しており、そのうち843人は自動車との事故で亡くなっている。電動自転車の販売が伸びても、自転車に関わる死亡事故の78%が発生する都市部では、自動車は依然としてマイクロモビリティの導入を妨げる脅威だ。自動車から電動自転車への乗り換えを検討している消費者は、ADASシステムのような安全機能が備わっているかどうかを確認するとよいだろう。

デンビー氏はTechCrunchに対し「道路や都市部に自動車よりも多くの電動自転車が走っているようなすばらしい世界、ユートピアのようなビジョンを持っている」と述べる。そして「ある程度の自動車は必要だが、大部分は自転車に置き換えることができるはずだ。電動自転車を日常生活における主要な移動手段として、より頼りになるツールにすることが、ユートピアを実現するための鍵になると考えている」と続ける。

Streetlogicのシステムは、自転車の前部と後部の両方に実装されており、すべてデバイス上で処理されるコンピュータービジョンに基づいている。ライダーを取り巻く車両の動きを追跡し、ライダーが車両と衝突する可能性がある場合には早期に警告を発する。これらの処理や警告は、完全にローカルなデバイス上のシステムで行われるため、クラウドへ接続する必要はない。また、サービスが提供されていない地域にいても機能する。

ライダー目線で見たStreetlogicのコンピュータービジョン製品。自動車との衝突を警告している(画像クレジット:Streetlogic)

ライダーはまず、デバイスが発する音声による警告を聞くことになる。これは、例えばライダーの後ろにクルマが急接近してきた場合に「Car Back(後方にクルマ)」といった内容のものだ。ライダーのスマートフォンには、障害物となる可能性のある方向がひと目でわかるシンプルな視覚的警告が表示される。ただし、この機能は、ライダーがハンドルバーのホルダーにスマートフォンを装着している場合にのみ有効になる。

LunaやDrover AIは、すでに歩行者や車線などの物体を検知するシステムを持っているが、eスクーターのライダーに衝突の可能性を積極的に警告することはない。しかし、両社のテクノロジーを持ってすれば、不可能ということはないだろう。

ドローバーAIのCEOであるAlex Nesic(アレックス・ネシック)氏は、TechCrunchに対し、電動自転車の警告システムは、ハイエンド市場における「次のレベル」の機能としては意味があるものの「当社が現在注力しているシェアマイクロモビリティ用途に必要な低いコストに抑えることは難しい」と述べる。

Streetlogicにとってはまだ始めたばかりだが、デンビー氏によると、アルファテストではこのテクノロジーは「驚くほどうまく機能した」という。また、サイクリストにとって自動車との衝突やニアミスが最も多い問題であるため、今のところシステムは自動車のみを追跡しているとのことだ。

「しかし、コンピュータービジョンの良いところは、後から機能を追加できることだ」と同氏はいい「例えば、他の自転車や歩行者、道路にできた穴やひび割れ、道路に飛び出す動物などを追跡することができるようになるだろう。これらはすべて、そのうち組み入れることができる。自動車の追跡だけでも、大部分の事故を防ぐことができた」と述べる。

Streetlogicでは、これらの検知機能を組み入れるために、さらに多くのデータを収集して機械学習モデルを学習させる必要がある。今回の資金調達の主な目的はそのためだ。同社によると、プレシードラウンドには、LDV Capital(LVDキャピタル)、Track Venture Capital(トラック・ベンチャー・キャピタル)、およびLyft(リフト)の元自律走行担当副社長であるLuc Vincent(リュック・ビンセント)氏などのエンジェル投資家らが参加し、調達した資金はチームの規模拡大のために使用されるという。先週、2名のチームメンバーを新たに雇用し、現在はフルタイムの従業員6名で構成されているが、予約注文に対応することに加え、システムの成熟度向上に向けた生産性確保のために、従業員を拡充したいと考えている。

「ハードウェア面ではApple(アップル)とUber(ウーバー)から、ソフトウェア面ではCruise(クルーズ)から、精鋭が集まっている」と、デンビー氏は語る。

デンビー氏自身もUberの出身で、後にLime(ライム)に買収された同社のスクーター「Jump(ジャンプ)」のコンピュータービジョンシステムのアドバイザーを務めた他、360度アクションカメラ「Rylo(ライロ)」の開発チームを率いていた。

Streetlogicは、早期に軌道に乗せるためにB2C製品として立ち上げたが、将来的には自転車メーカーとの統合を進めていきたいと考えている。

画像クレジット:Streetlogic

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

気候変動に強い作物づくりの技術を開発するPhytoformが6.5億円調達、人工知能を使ってゲノム編集

気候変動は農家の作物栽培に影響を及ぼしており、英国の厳しい栽培条件を知り尽くしたPhytoform(ファイトフォーム)は、作物をより気候変動に強いものにすることを目指している。

ロンドンとボストンに本社を置くこのバイオテクノロジー企業は、作物の改良を目的とした人工知能ゲノム編集技術の拡張のために、Enik Venturesがリードするラウンドで570万ドル(約6億5000万円)を調達したと発表した。

Phytoformは、William Pelton(ウィリアム・ペロトン)氏とNicolas Kral(ニコラス・クラール)氏が博士号を取得する過程で2017年に興した会社だ。CTOのクラール氏は植物発生生物学を研究し、CEOのペロトン氏は作物科学者だ。祖父が農家で、英国の天候などで作物が失敗する話を聞いて育った、とペロトン氏はTechCrunchに語った。

Phytoformの共同創業者ウィリアム・ペロトン氏とニコラス・クラール氏(画像クレジット:Phytoform)

「私たちは、遺伝学の分野で幸運に恵まれています」とペロトン氏は話す。「数百ドル(数万円)で植物全体のゲノムができ、ゲノムの合成もできるのですから。ニックと私は博士課程の学生だったのですが、技術を取り入れ、私たちが目にするいくつかの問題に適用してみることにしました」。

現在の作物改良のための育種法は、通常、開発に数十年かかり、遺伝子組み換え生物の技術も限られている、と同氏はいう。

気候変動に強い新しい作物を開発するPhytoformのアプローチでは、機械学習とゲノム編集技術で植物のDNA配列の組み合わせの可能性数を決定し、新しい特性を特定しつつ、農業の気候変動への影響を軽減している。そして、それらの特性は、フットプリントフリーのCRISPRゲノム編集を用いて作物品種に直接実装される。

農業におけるCRISPR技術の成功は、植物ゲノムを操作して害虫や気候への耐性を高め、より安定した製品を栽培する方法として、長年にわたってよく知られている。

国連食糧農業機関は毎年世界の食糧の14%が失われていると推定しており、今後数年間は干ばつや酷暑、害虫が増加する中で気候変動が悪化する一方のため、この技術を植物に活用することが急がれるとペロトン氏とクラール氏は話す。

今回のラウンドに参加したのは、Wireframe Ventures、Fine Structure Ventures、FTW Ventures、既存投資家のPale Blue Dot、Refactor Capital、Backed VC、そしてJeff Dean(ジェフ・ディーン)氏、Ian Hogarth(イアン・ホガース)氏、Rick Bernstein(リック・バーンスタイン)氏を含むエンジェル投資家のグループだ。

「Eniacは、これまでVenceやIron Oxなどに投資しており、持続可能な農業の未来を大いに信じています。気候危機が深刻化する中、我々は、計算ゲノム学を活用することで食料廃棄を減らし、より質の高い多様な農産物を市場に送り出すことができることを目の当たりにしてきました。我々は、Phytoformの創業者であるウィルとニックの、植物の遺伝学に関する深い機械学習とゲノム編集を組み合わせて消費者に最適な農産物のポートフォリオを提供するというアプローチにすぐに惹かれました」とEniac Venturesのゼネラルパートナー、Vic Singh(ヴィック・シン)氏は述べた。

今回の資金調達により、Phytoformはチームを拡大し、トマトやジャガイモに特性を導入し、食品サプライチェーンに沿ってより大きな収穫量と作物の損失を少なくするための取り組みを強化することができるようになる。

2人の創業者は、トマトとジャガイモのプログラムを市場に投入する準備をしており、2022年は同社にとって「すばらしい年になる」と話す。また、他の3つのプログラムにも取り組んでいて、地域も米国だけでなくオーストラリアと英国にも広げている。

加えて、種苗業者や生産者といったサプライチェーンの初めに位置する個人や企業とのパートナーシップに力を入れており、将来的にはそれを食品製造業者にも広げていく計画だ。

一方、初期ビジネスモデルは種子の販売によるロイヤルティ収入となるが、顧客基盤が消費者まで進化するにつれてビジネスモデルが変化することを期待していると、ペロトン氏は述べた。

Phytoformは2021年、従業員6人でスタートしたが、現在その数は倍増していると、クラール氏は話す。さらに、ソフトウェアとウェブラボの機能の両方でAIプロセスのコンセプトを実証し、技術的にも良い成長を遂げた。

「トマトプログラムの開発後期にたどり着くには、まだかなり大きなプロセスが控えていますが、今後もさらに試行錯誤を続けます。現在の技術では新品種の生成に10年かかっていますが、我々はそれを短縮できることを証明しています」と同氏は付け加えた。

画像クレジット:Pgiam / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi