東大・松尾研発AIスタートアップACESが資金調達、画像認識アルゴリズムをパッケージ化して提供へ

AI研究で著名な東京大学松尾研究室発のAIスタートアップACES(エーシーズ)は5月22日、AI技術に特化したVCファンドのDeep30と経営共創基盤を引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

具体的な調達額は非公開だが数千万円規模になるとのこと。調達した資金は本日公開した画像認識サービス「SHARON(シャロン)」の研究開発や人材採用の強化に用いる計画だ。

合わせてACESでは東京大学工学系研究科教授の松尾豊氏と経営共創基盤パートナーの川上登福氏が顧問に就任したことも明かしている。

ディープラーニングを用いた画像認識技術を社会実装へ

ACESは2017年11月の設立。同社のCEOで現在も松尾研究室(以下 松尾研)の博士課程に在籍中の田村浩一郎氏を含む6人のメンバーが立ち上げた。6人中3人が松尾研に所属、5人はエンジニアとしてのバックグラウンドを持つなど、AI領域への知見と技術力が強みだ。

田村氏自身、起業前から松尾研を通じて複数の企業との共同研究プロジェクトに参画。当初は研究者への道も考えたそうだが、ディープラーニングの可能性や社会へのインパクトなども踏まえ、自分たちでこの領域に特化した会社を作ることを決めたという。

ACESのメンバー。左から3番目がCEOの田村浩一郎氏

創業からこれまでの期間はディープラーニングを用いた画像認識技術を社会実装するべく、企業と共同研究を実施。同社のコアとなるヒトの行動や感情を認識、検出するヒューマンセンシングのアルゴリズムを中心にプロジェクトを進めてきた。

たとえば共同研究パートナーの1社である電通とは、姿勢推定・行動認識技術を用いてスポーツ選手の動作分析を行うプロジェクトに取り組んでいる。このプロジェクトでは野球中継動画から選手の体の位置や行動を抽出し、細かく定量化。取得されたデータを分析することで個々の特徴や傾向を割り出す。

具体的には「ある投手の各球種ごとの姿勢(フォーム)や体の使い方の違いなどからクセを見つける」といった用途をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれない。

「以前から球界では言及されていたこと。ただこれまでは知見や経験を基にしていて、身体情報を定量化することによる科学的なアプローチは十分にできていなかった。大量のデータ・画像を処理できるディープラーニングの力を使えば、このようなアプローチも可能になる」(田村氏)

この事例のように、ACESではこれまでディープラーニングと繋がっていなかった領域を始め、様々な分野で共同研究やアルゴリズムの研究開発に取り組んできた。大手企業では電通のほかエムスリーやテレビ東京、SOMPOホールディングスなどが同社のクライアントだ。

主な流れとしてはビジネス課題を踏まえたAI導入の要件定義フェーズから顧客に伴走。データの収集や初期実験、モデルの開発・検証、システムへの導入に至るまで一連のフローをサポートする。

磨いてきたアルゴリズムをパッケージ化して外部提供

これまでACESでは1年以上に渡って企業との共同研究開発を軸に事業を運営してきた。その中で田村氏が意識していたと話すのがアルゴリズムのパッケージ化だ。

「AIのプロジェクトは1件1件が典型的な受託開発になりがちで、過去にやった研究開発を次の案件で活かしづらい側面がある。それを避けるため、自社では当初から顧客との共同研究を担当するエンジニアと基盤のアルゴリズムを開発するエンジニアを分け、強みとなる複数のアルゴリズムがパッケージとして社内に蓄積されていく仕組みを作った」(田村氏)

秘匿性の高い顧客データの管理には配慮した上で、コアとなる各アルゴリズムについては社内の各プロジェクトで共通して使える体制を整備。それによって毎回ゼロから時間をかけて学習モデルを生成する必要がなくなった。

田村氏いわく「社内的には受託の最適化」を続けることで、各顧客に対してより本質的なサポートを提供できたという。

そしてこのアルゴリズムパッケージを外部の企業が使いやすいようにプロダクト化したものが、まさに本日ACESが新たに公開した画像認識サービス「SHARON」だ。

同サービスでは物体認識、顔・表情認識、姿勢推定・行動認識といった画像認識アルゴリズムをパッケージとしてAPIなどで提供する。

ACESが開発したアルゴリズムを用いて手軽に、かつ安価に実ビジネスへのAI導入を実現できるのが特徴。各アルゴリズムは定期的にアップデートされるので常に先端のモデルを活用できるほか、社内でデータを蓄積して個別に学習することで、使えば使うほど精度の向上も見込める。

ユースケースとしては工場での作業など身体動作を伴う業務のパフォーマンス分析や、マーケティング用途における人の心の動きを可視化する技術の活用を始め、健康状態の管理や防犯、3Dの生成、異常検知など多様な応用例が考えられるという。

「SHARONは人の行動や表情など、これまではぼやっとしていたものをデータ化し、よりクリアに見通せるようにする仕組み。そのための画像認識アルゴリズムを(個々で共同研究をするのに比べて)よりリーズナブルで楽に導入できる形にすることで、いろいろな企業に活用してもらいたい」(ACES取締役COOの與島仙太郎氏)

SHARONでは個々の企業に対して導入時のヒアリングや要件定義などを含めたシステム構築サポートを行っていく計画。今の所は「月額数万円から誰でも使えるSaaS型のプロダクト」という訳ではないが、それでも個別で共同研究をする場合に比べると、コスト面では1/5〜1/10くらいになるそうだ。

ゆくゆくは特定の領域に特化した自社プロダクトの展開も

冒頭でも触れた通り、今回の資金調達はSHARONの研究開発や組織体制の強化を主な目的としたもの。顧問に就任した松尾氏と川上氏のサポートも受けながら、さらなる事業成長を目指すという。

田村氏によると自身の中では会社のフェーズを大きく3つに分けてイメージしているそう。松尾研のネットワークや知見も活かしながら、他社と共同でAIプロジェクトを進めてきたこれまでは第1フェーズに当たる。

第2フェーズは開発してきたアルゴリズムの中で共通化できるものをパッケージとして外に出していくと共に、会社としても共同研究事業に次ぐ新たな柱を作っていくタイミング。現在のACESはまさにこの段階に差し掛かっている状況だと言えるだろう。

そして同社が中長期的に見据える第3フェーズでは、業界特化など特定の用途に合わせたバーティカルな自社プロダクトを展開していく計画だ。

具体的な領域に関しては今後検討を進めていくが「ディープラーニングを用いることで課題が解決されるような産業・領域に対して、独自のアルゴリズムを活かした製品を自社で作っていきたい」(田村氏)という。

200兆円の間接費市場を変えるコスト削減SaaS「Leaner」ローンチ、5000万円の資金調達も

「200兆円にのぼる間接費市場はブラックボックスすぎて、全然適正化が進んでいない。そこにコンサル時代の知見を基に開発したプロダクトとデータを持ち込み、現場の購買担当者が『最適な商品を適正な量だけ、適正な価格で』調達できる仕組みを提供したい」

そう話すのはLeaner Technologiesで代表取締役CEOを務める大平裕介氏だ。同社は5月21日、間接費の無駄を徹底的に見える化し、コスト削減をサポートするSaaS型のプロダクト「Leaner(リーナー)」を公開した。

間接費とは個々の製品やサービスに紐付けることが難しい費用のことで、コピー用紙からシステム機器まで扱う費目は多岐に渡る。いわゆる総務や経理といった部門のメンバーが様々な商品・サービスを調達しているのだけれど、この領域は不透明なことが多くブラックボックス化しているという。

それゆえに経営層や現場の購買担当者が抱えている課題を「テクノロジーとコンサル流のナレッジ」で解決していくのがLeanerの役割だ。

ブラックボックスすぎる間接費市場を透明化する

Leaner Technologiesは2019年2月の創業。学生時代に起業経験もある大平氏は大学卒業後にコンサルティングファームのATカーニーに入社し、幅広い企業のコスト改革を支援してきた。

Leaner Technologiesで代表取締役CEOを務める大平裕介氏

そこで大平氏が痛感したのが、「マーケットの不透明さ」と「経営者の課題」だったという。

「個人におけるAmazonのような存在がないため、費目ごとに無数の商品から最適なものを選ぶ難易度が高い。多くの費目では見積もりをとらなければ価格がわからず、しかも合見積もりと交渉によって価格が変動するため適正な価格を判断するのも困難。加えて他社と比較することも難しいので自社のタクシー代やコピー費が使いすぎなのかどうかも判断しづらい」(大平氏)

まさに最適な商品、適正な価格、適正な調達量を見極める上で必要なものがほとんど透明化されていないので、最適化をしようと思ったところで「自社だけではどうしようもない」という状況に陥ってしまう企業も多い。

そこで重宝されるのがATカーニーなどコスト削減のプロフェッショナル集団だ。

「自社の間接費が他社や業界水準と比べて多いか少ないかを比較したり、ビッグデータを活用して現在の調達条件が適正価格とどのくらい離れているかを分析して見える化したり。実際の実行支援も含めて、コスト削減に関する一連のサポートを行っている」(大平氏)

ただ、どんな企業でもこのようなサポートを受けられるわけではない。相場観としてはだいたい数千万円半ばあたりからのオーダーになることが一般的で、その場合コスト削減額が1億円を超える規模くらい見込めないと発注しづらいのだという。

大平氏によると、ATカーニー在籍時に企業の経営層と話をしていて「株主からイノベーションを期待されたり、事業改善を求められたりするが、そのために必要な原資がない。そもそもの原資を生み出すためにコスト削減をお願いしたい」というリクエストが多かったそうだ。

本来このようなニーズは大企業に限らず中小企業でも抱えているもの。だが一定の予算や事業規模がないとマッチせず「(中小企業の経営者には)コンサルティングファームに相談したけど、費用が見合わず断られた人も少なくない」(大平氏)という。

間接費市場を抜本的に変革でき、かつより多くの経営者が挑戦できるように原資を生み出すサポートができないか。最終的に大平氏が行き着いたのが、それまでATカーニーでやってきたようなことをプロダクト化し、より安価に提供することだった。

大手コンサルの約1/10の価格でコストを適正化する

大平氏いわくLeanerは「めちゃくちゃ簡単なプロダクト」だ。

既存の財務・購買データ(3年分くらいのデータがあると望ましいとのこと)をアップロードするだけで、データを基に自社のこれまでや他社の動向と比較して割高な間接費目を一覧できる仕組みを構築。そこに専門的なナレッジを用いて「各費目がどのくらいコスト削減できる余地があるのか」を試算し、最優先で手をつけるべきポイントを示す。

つまり自社の間接費の中で「どの費目を、どのように改善するのがいいのか」を提案してくれるわけだ。

コスト削減の手順とサプライヤーについてもオススメのプランをレコメンドする機能を備え、トータルのコスト削減効果を定量的に評価するまでの工程をサポートする。

同業他社や業界水準との比較、削減余地の算出などはデータを基に機械的に対応。一方で各費目の改善プランなどはベースとなる部分は人間が作り、顧客の状況や条件に合わせて最適なものをテクノロジーでマッチングする。

ただしプロダクトを渡して終了という類のものではないので、カスタマーサクセスチームが定期的に担当者とコミュニケーションをとり、細かいチューニングを行っていく。

Leaner上にデータを蓄積することで、担当者が変わった際の引き継ぎや経営陣による確認がよりスムーズになる効果も見込める。

一般的にこのようなデータはほとんどの企業がエクセルを使って管理しているそう。担当者ごとに名寄せが変わることもしばしばで、そういった意味でも非常に属人化しがちな業務と言える。そこをクラウド上でわかりやすく、かつ統一したルールで管理・把握できる点はメリットだ。

Leanerではこれらの仕組みをミニマムで月額10万円から提供する。「ほとんど手間なく、既存のコンサルの1/10くらいの価格でコストを適正化できるのが最大の特徴」(大平氏)で、同サービスとコンサルティングファームの関係性は「税理士事務所とfreeeの関係性にも似ている」という。

またLeaner Technologiesには創業メンバー兼アドバイザーの1人としてクラウドワークス取締役社長兼COOの成田修造氏が参画している。

今回成田氏にも話を聞くことができたのだけれど「『SmartHR』などと近しい存在なのではないか。本来もっと効率的にやれるはずなのに、膨大な手間がかかっている領域。そこにテクノロジーを用いて、シンプルに、かつ安価にやれる仕組みを作った」のがポイントだと話す。

コンサルティングファームで培った知見とクラウド上に蓄積されるデータを活用して、導入企業の間接費管理とコスト削減を効果的にサポートする

総務担当者が正しく評価される仕組みとしても活用

当初こそマーケットの現状と経営者の課題に着目してLeanerの開発を始めたが、実際に現場の声を聞いたりトライアル版を試してもらったりする中で、大平氏はもう1つの大きな課題と提供できる価値に気づく。現場で必死にコスト削減に向き合う購買担当者の悩みだ。

「経営者からコスト削減してと言い渡されるが、何をやっていいかもわからなければ、トラッキングする仕組みもないので(成果を出しても)なかなか正当な評価を受けられない。結果的に頑張っても報われない傾向になりがちで、モチベーションが上がりづらい構造だ」(大平氏)

Leanerの場合だとどうなるか。誰にでもわかる形でコスト削減効果が見える化されるので、営業が顧客を獲得して売り上げをあげれば評価されるのと同じように、総務のメンバーも正当に評価されやすくなる。

実際Leanerの問い合わせの約半数は経営者から、そして残りの半数が総務担当者からなのだそう。コスト削減の正しいやり方がわかるのはもちろん、評価される軸ができるという点に対する反応は良いという。

間接材マーケットプレイスの展開も見据えて事業拡大へ

今回Leaner Technologiesではプロダクトのローンチと合わせて、インキュベイトファンドから5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

資金は主にプロダクト開発チームとカスタマーサポートチームの体制強化に用いる計画だ。同社には大平氏やCOOの田中英地氏などATカーニー出身のメンバーに加えて、成田氏とともにVapes創業者の野口圭登氏が創業メンバー兼アドバイザーとして参画している。

Leaner Technologiesのメンバー

初期のスタートアップとしてはなかなか豪華な顔ぶれだが、今回の調達を機に、かつてMonotaROの創業投資にも携わっていたインキュベイトファンドの本間真彦氏が投資家として加わったことも大きいという。

今後Leanerでは間接費の管理と最適な改善プランのレコメンドを軸にプロダクトを磨いていく方針。水平的に全ての間接費の状況がしっかりと管理された上で、担当者にとって1番良い製品やサービスが出てきたときに教えてあげられるようなプラットフォームにしていくのが直近の目標だ。

「アメリカの大企業だとCPO(最高購買責任者)という役職の人がいて、コストに対してものすごくシビアに向き合う。それが企業の営業利益や株価の差にも繋がっている。今まではコンサルにお金を払える企業だけがコスト削減を導入できたが、そうではない企業でも使える仕組みを通じて、日本企業を強くするサポートもできる」(成田氏)

大平氏や成田氏によると、中長期的にはLeaner自体にコマースの機能を組み込み「間接材全体のマーケットプレイスを担うこと」も考えているそう。大平氏も認めるように「なかな地味な領域」ではあるが、これからLeanerがどのようなポジションを確立していくのか。今後の動向にも注目だ。

AI駆使で要介護者見守りや在宅透析治療管理、学生スタートアップが8000万円調達

METRICA(メトリカ)は、インキュベイトファンドとライフタイムベンチャーズ、およびエンジェル投資家を引受先とした第三者割当増資などにより、総額8000万円の資金調達を完了した。

METRICAは、慶應義塾大学に通う現役学生である西村宇貴氏らが立ち上げた医療系スタートアップ。高齢化により医療に対する需要が高まっている半面、国内の約40%の病院が赤字経営。しかも医師や看護師、介護士の労働時間は一般企業に比べて極めて長時間。そのため人件費がかさむ。同社は、この悪循環をAIを駆使して解決することを目指す。

人手不足を補う手段の1つとして海外からのスタッフの受け入れがあるが、言語の問題で情報の共有が難しい。そこでMETRICAは、外国人介護スタッフ向け電子介護記録を開発。具体的には、医療・介護向けにチューニングした自動翻訳機能を備えた介護記録アプリと、サーバーサイドでの翻訳精度の学習機能により、情報の共有を容易にする。

要介護者がベッドにいるか、部屋にいるか、どれぐらいの速度で歩いているか、きちんと歩けているかなどをカメラとAIを駆使して分析し、転倒や夜間の離室、認知症による異常行動を検知するシステムも開発中だ。これにより、介護士が常時監視しなければならない精神的負担を軽減するという。

さらに近年増加傾向にある透析患者向けのソリューションもある。知的財産権を申請中とのことで具体的な仕組みは不明だが、在宅での腹膜透析をAIを利用して効率的に管理するシステムを開発中とのこと。

METRICAでは今後、これらのプロジェクトを提携パートナーと進めていくとのことで、今回の資金調達は開発チームを強化するための人材募集にあてる。

入社した学生の奨学金を企業が肩代わりするマッチングサービス

ソーシャルアントレプレナーズアソシエーション(SEA)が運営するSEAソーシャルベンチャーファンドは5月16日、Cronoへのシード投資を発表した。金額は非公開。また今回の投資に併せて、SEA代表理事の荻原国啓氏がCronoの新取締役に就任する。

Cronoは、若年層向けの奨学金提供、および貸与型奨学金の返済を肩代わりする企業との人材マッチングサービス事業を計画している。同社によると近年、大学・専門学校に通う学生の約40%が貸与型奨学金を借入しており、数百万円の債務を抱えた状態で卒業。返済が困難にケースが増えているという。同社は、奨学生の生活圧迫や自己破産を防ぐだけでなく、債務が挑戦の障壁になっている問題を解決する。

Crono奨学金の仕組み

具体的には、債務のために挑戦を諦めざるを得ない若年層の学生に対して、Cronoが奨学金を貸し付ける。学生が将来的に加盟企業に入社・勤続することで、貸し付けた奨学金の返済を企業が肩代わりする仕組み。

Cronoのサービスを利用する学生の応募資格としては、就職活動に近い年制大学の2、3年生もしくは大学院生など。もちろん、同社のサービスの「本気で挑戦する人を支援したい」という理念を理解していることが最低条件となる。この奨学金システムを立ち上げた背景には、同社のスタッフが学生時代に経済的な理由で留学できなかった経験が基になっているそうだ。将来的には、就活解禁によって各種ルールが取り払われたあと、大学1年生や高校生・中学生などに奨学金を提供する環境を作る考えもあるとのこと。

奨学金返済支援マッチング

企業と奨学生のマッチングについては、オフラインとオンラインの両方がある。オフラインでは、奨学金をサポートする企業を集めた就職イベントなど開催。オンラインでは、企業側から学生側にオファー、学生側から企業への応募、Cronoシステム内で双方へレコメンドする仕組みなどを準備しているそうだ。

なお、Cronoの奨学金を受けている学生が就職後に離職した場合、奨学金はその学生自身が返済を続けることになる。加盟企業への入社によって債務が企業に移るわけではなく、あくまで肩代わり。ただし、転職先の企業がCronoの加盟企業であれば、奨学金の返済は引き続き企業側が請け負ってくれる。加盟企業は非公表だが、すでに約10社程度が賛同しているという。

なお、奨学金の返済方法は企業ごとにカスタマイズ可能にする予定とのこと。例えば20年間で完済の奨学金の場合、入社時に総額の半分を一括返済、10年後に残りの半分を一括返済とすることで、同じ企業に長く働いてもらうためのインセンティブにすることもできる。企業奨学金の提供条件として、加盟企業のインターンシップに参加することが条件になるケースも考えられるそうだ。

今後は、海外留学のプログラムを提供している機関やエンジニアスクール、資格取得専門学校とアライアンスを組み、経済面で諦めざるを得ない学生にCronoが資金面をサポートし、各スクールがコンテンツを提供する座組みも進めていく予定とのこと。

京都を拠点とする農業スタートアップの坂ノ途中が総額6億100万円を調達

京都を拠点として持続可能な農業の普及を目指すスタートアップである坂ノ途中は5月16日、第三者割当増資により総額6億100万円の資金調達を発表した。調達額は累計で約8億4700万円となる。

引受先は、農林漁業成長産業化支援機構、Impact and Innovation、セラク、ナントCVC投資事業有限責任組合、京信イノベーションC投資事業有限責任組合、京都大学イノベーションキャピタル、NECキャピタルソリューション、みずほキャピタルなど。今回の資金調達により、生産者との連携強化、有機農産物のオンラインマーケット拡大、そして東南アジアのコーヒー事業の活動にあてる予定とのこと。

今回の資金調達は、農林水産省から認定を受けた取り組みに関わるもので、大半を出資する農林漁業成長産業化支援機構は、農業の6次産業化事業を支援するために設立された官民ファンドだ。

坂ノ途中は、新しく農業に就く人材をパートナーとした野菜中心のECを展開。現在、9割が新規就農者だという。同社が販路を担うことで参入障壁を下げつつ、付加価値のある有機野菜の栽培に特化することで持続可能な農業を目指す。具体的には今回の資金調達により、栽培管理システム、農作業アシスト機器、自社便やネットワーク物流便の拡大などを計画しているほか、旗艦店出店などによる集客の強化、需要の安定化に取り組むとのこと。

同社は有機農産物の生産者とバイヤーのマッチングサービスも運営している。2019年5月現在、424件の生産者と224件のバイヤーが登録している。こちらも資金調達により、2019年に受発注機能、将来的には請求・決済機能も組み込みたいとしている。

調達した資金は2016年にラオスでスタートした、コーヒー事業の拡大にも使われる予定だ。現在、ミャンマーとフィリピンにも進出しており、2019年にはタイ、イエメ ン、バリ、ネパール、中国と産地を広げる計画とのこと。同事業では、各地域のニーズに合わせて栽培方法や精製プロセスの見直しと高度化、資金面や販路構築をサポートしている。

目標は“Indeedのレコメンド版”、AI転職エージェント「GLIT」が6300万円を調達

AIエージェントサービス「GLIT(グリット)」を提供するCaratは5月16日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により、6300万円を調達したことを明らかにした。

プレシリーズAとなる今回のラウンドに参加したのは求人サイトなどを展開するキャリアインデックスのほか、杉山慎一郎氏、高梨大輔氏、マイナースタジオ代表取締役の石田健氏、元リクルートキャリア執行役員の山本剛司氏。キャリアインデックスとは業務提携も締結し、サービス間の連携を深める計画だ。

Caratは2016年12月の創業。これまで2017年6月にスカイランドベンチャーズとCandle創業者の金靖征氏から1500万円を調達するなど複数回の資金調達を実施済みで、累計の調達額は約1億円となる。

AIが自分に合った求人を推薦してくれるTinderライクな転職アプリ

GLITはAIを活用することで求職者と企業双方の効率的な転職・採用活動を支援するマッチングサービスだ。

iOS版とAndroid版を合わせたユーザー数は約1万人。シリーズAから上場後くらいのITベンチャーを中心に200社近くの企業が活用する。現在は東京エリアに絞ってサービスを展開中だ。

前回「TinderライクなUIが特徴の転職アプリ」と紹介した通り、求職者のプロフィール情報やアプリ上での行動データを基に、AIが個々に合った求人情報を自動でレコメンド。求職者は各求人を左右にスワイプすることで「興味のあり or なし」を示す。

自分で求人情報を検索する手間がかからないので、隙間時間でも手軽に転職活動を始められるのが1つの特徴。プロフィール登録時にシェアリングエコノミーやAIなど「希望テーマ」やエンジニア、マーケターなど「希望職種」を入力しておくことで、レコメンドされる求人をある程度調整することもできる。

マッチングした企業からのみスカウト届く仕様になっているため、自分が全く興味のない企業から立て続けにスカウトが送られてくる心配もない。

一方の企業側に対しては、採用担当者が複数の求人サービスを使うのがごく普通の時代において、人的なコストや手間を抑えつつ新たな人材にアプローチできる仕組みを提供する。

企業が最初にやることは求人情報を登録するだけ。AIが公開した求人に合いそうなユーザーに向けて求人情報を配信し、興味を示したユーザーの中からマッチング率の高い人を自動で選定する。担当者にとってみれば、求職者の抽出業務はAIに任せ、最終的な判断とスカウトを含めたコミュニケーションに時間を使えるいうことだ(もちろんAIの抽出精度が高いことが前提にはなるけれど)。

スカウトの対象となるのは自社の求人に対して興味を示した求職者のみのため母数は絞られるが、その分スカウトに対してはある程度良い反応を期待することもできる。今のところ開封率は平均で約90%、返信率も約20%ほどだという。

なお求職者は一連の機能を無料で使うことが可能。企業側は初期の導入費に加えて、採用が決定すれば1人あたりにつき90万円を支払うモデルだ。

企業版のアップデートでSlack上で採用活動が進められるように

今回Caratでは資金調達と合わせて、企業版の大幅なアップデートとキャリアインデックスとの業務提携についても発表した。

企業版については新たにビジネスチャットツール「Slack」との連携を開始。GLITの管理画面を開かずとも、Slack上で候補者の確認やスカウトメッセージの送信ができる仕組みを整えた。

「今まではメールの通知を確認したり、管理画面にアクセスして行なっていた業務をSlack上でできれば採用活動をより効率化できると考えたのがきっかけ。採用担当者だけでなく経営層や現場のメンバーを巻き込んで採用活動をすることが主流になってきている中で、普段から使い慣れているSlackを使って一連の業務ができれば余計な負担を増やさずに済むし、隙間時間に使いやすくもなる」(Carat代表取締役の松本直樹氏)

特にGLITのユーザーはIT系のベンチャー企業が多いこともあり、Slackとの相性が高いと考えて複数社にテスト版を提供したところ、かなり反応が良かったそう。それを踏まえて、この機能を一般開放することに決めたという。

目指すのは「Indeedのレコメンド版」

また企業の採用活動の支援だけでなく、引き続き求職者のサポートを加速させるための取り組みも進めている。

調達先でもあるキャリアインデックスとの提携も「GLITが膨大な求人情報から各求職者ごとに最適な求人をレコメンドすることで、ワンストップで転職活動が完結できる仕組みを作る」(松本氏)という世界観の実現に向けた、新たな一歩だ。

具体的には今後キャリアインデックスが扱う約50媒体・60万件超の求人にGLITが対応することで、より多くの求人情報をカバーできるようにしていきたいという。

現在GLITでは同サービスに登録されている求人情報に加えて「Green」と「Wantedly」の情報をアグリゲーションして求職者に届けているので、サービス間の連携が進めばここに上述した50媒体がプラスされる形になる。

合わせて求人情報を閲覧してから面接の実施・採用に到るまでのフローをGLIT上のみで完結する仕組みの構築にも力を入れていく計画。現時点でGLIT独自の求人についてはマッチング以降の工程もワンストップで実施できるので、他媒体の求人についても同様の体験を提供するのが目標だ。

「求職者は転職活動をする際に複数媒体を使うことも多いが、各媒体に情報を登録したり、都度チェックするのは大変。最終的にはGLITがWeb上に公開されている求人情報を全て網羅することで『GLITに登録しておきさえすれば大丈夫』という状態を目指したい。イメージしているのは『Indeedのレコメンド版』のようなサービスだ」(松本氏)

今回調達した資金もプロダクトの機能拡充や事業拡大に向けた人材採用の強化と、求職者獲得のためのプロモーションに用いる方針だという。

知識なしでも最短1分で動画作成、「RICHKA」が2.1億円を調達

SaaS型の動画生成ツール「RICHKA(リチカ)」を運営するカクテルメイクは5月14日、ベンチャーキャピタルのNOWなど6社を引受先とする第三者割当増資により総額で2.1億円を調達したことを明らかにした。

今回の資金調達はカクテルメイクにとって昨年9月にNOWや佐藤裕介氏などから5000万円を調達して以来のラウンドで、シリーズAに該当するもの。需要が高まっている動画広告用途を軸に、5G時代到来に向けてプロダクトの機能拡充やパートナー企業との連携、人材採用など組織基盤の強化を通じてさらなる事業拡大を目指す。

なおシリーズAに参加した投資家陣は以下の通りだ。

  • NOW
  • みずほキャピタル
  • 新生企業投資
  • ドリームインキュベータ
  • マネックスベンチャーズ
  • FFGベンチャービジネスパートナーズ

素材とテキストのみでサクッと動画生成

RICHKAは専門知識がないユーザーでもパフォーマンスの高い動画を作れる動画生成サービスだ。

必要なのはシーンに合わせて素材(動画や画像)とテキストを入れるだけ。動画の制作経験がなくても、ドラッグ&ドロップで用意した素材を配置して、表示させたいテキストを入力すればブラウザ上でスピーディーに動画が完成する。

素材についてはRICHKA上にある100万点以上の動画や画像素材を使うことも可能。素材を選択すると画像認識システムを通じて最適な切り抜き位置を判定するなど、AIを用いた制作サポート機能も搭載されている。

細かいポイントはいろいろとあれど、RICHKAの大きな特徴となっているのがバラエティに富んだ動画フォーマットだ。

約100人のクリエイターが毎月100種類以上の動画フォーマットを作成していて、ユーザーはその中から目的や業種、配信先などに合わせて最適なものを選び動画を作る。

現在用意されているフォーマットはだいたい1000種類ほど。RICHKAで蓄積されたナレッジを反映してどんどん新しいものが追加される仕組みが構築されていて、これが高いパフォーマンスを実現することにも繋がっているという。

この領域では昨年9月にリリースされた「VIDEO BRAIN」のように動画制作をAIで自動化するようなプロダクトも登場してきているが、今のところRICHKAではユーザーがツールを活用して自身で動画を作成する。AIは一部の工程を補助する位置付けだ。

この点についてカクテルメイク代表取締役の松尾幸治氏に話を聞いてみたところ「自分たちもAIで全自動化するような実験にも取り組んでみたが(現段階では)多様なニーズをAIだけで捌くのは難しいと判断した」結果、今の仕組みで提供しているという。

「ユーザーの視聴態度はSNSや年齢層によっても異なり、ものすごく細分化される。ただ広告という数秒〜長くても30秒くらいの尺の中で、かつ業種業態が限られているという条件下であれば自動化できる余地はある。それも見据えて今はフォーマットの種類を増やしている段階。トレンド自体は人が作るものなので、そこはクリエイターに担ってもらうことは変わらない」(松尾氏)

今後はフォーマットのレコメンドなどにも力を入れていく計画。サービスのサービスの業種業態や特徴を入れたら適切なものを推薦したり、もう一歩進んで出来上がりの状態まで提示するような仕組みも検討しているという。

動画広告用途を中心に累計200社以上が導入

松尾氏によると、RICHKAはこれまでで累計200社以上に導入され月間の動画生成数は5000本を突破。トータルで生成された動画数は10万本を超えたそうだ。

2018年9月の調達時に話を聞いた際は「動画広告用のクリエイティブ、Webメディアやプラットフォームでの利用、その他の用途がそれぞれ3分の1ずつ」ということだったけれど、直近では動画広告用途が増加。現在は全体の約7割を占める。

「広告事業者や事業会社において高速で(動画クリエイティブ作成の)PDCAサイクルを回したいという声がものすごく増えてきている。特に以前に比べて広告代理店からの引き合いが強くなってきた。クライアントからの動画広告のニーズを無視できない状況である一方で、制作会社に頼るとコスト感が合わなかったり、PDCAを回すスピードが遅くなってしまったりする」(松尾氏)

そこでRICHKAの登場というわけだ。RICHKAの場合は動画制作経験のない広告運用者でも手軽に動画を作ることが可能。料金も月額10万円からの定額モデルのため、コストを抑えながら何本もの動画を試すこともできる。

実際RICHKAのユーザーの9割ほどは動画を作ったことが一度もないような人たちだが、上述した機能とフォーマットの助けを借りることで、成果を出しているケースも多いようだ。

「フォーマットを介して各業界や用途ごとに今の動画のトレンドを知れるのも特徴。(各フォーマットの)パフォーマンスなどを把握した上で動画を作れるため、ゼロから自分でナレッジを貯めていくよりも効率が良い」(松尾氏)

2月には広告代理店向けの「RICHKA for Agency」をリリース。サービス上の動画フォーマットを営業資料として持ち歩き、自社のオリジナルWebカタログ(自社のロゴを入れることが可能)として使えるような仕組みも整えた。

カクテルメイクでは今回調達した資金を用いてRICHKAのさらなる機能拡張やマーケティングの強化、人材採用などを進めていく計画。培ってきたノウハウやデータを活かしながら、5Gの本格的な商用化が見込まれる2020年末までに、ハイクオリティでリッチな動画を100万本生成することを目指すという。

中古建機販売プラットフォーム「ALLSTOCKER」運営のSORABITOが9億円を調達

中古建機の売買プラットフォーム「ALLSTOCKER」を運営するSORABITOは5月13日、住友商事および伊藤忠建機から総額約9億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

SORABITOは2014年5月、建機の買取販売などに携わっていた経験のある青木隆幸氏が創業したスタートアップ。オンライン上で建設機械や重機、運搬車両など「働く機械」を売買できるプラットフォームとしてALLSTOCKERをローンチし、2015年11月には正式リリースを行った。

現在はマーケットプレイス形式の「ALLSTOCKERマーケット」とオークション形式の「ALLSTOCKERオークション」を運営。また、世界中のバイヤーのオファーを集約し買取価格を提示する相見積サービスも提供している。

マーケットプレイスは日本全国の建機レンタル会社以外にも、運営初期から海外、特に中国、台湾、ベトナムといったアジアを中心とした地域でも取引に活用されている。現在では海外向け取引の割合が約半分を占めるまでに至っているという。

SORABITOでは、既存サービスの磨き込み・普及だけでなく、建機業界の課題を先進情報技術を駆使して解決したいとしており、今年夏ごろには新サービスの展開も予定している。こうした中、「業界における確かな知見やネットワーク、強固な財務基盤を持つパートナーの存在が不可欠である」として、建機ビジネスをグローバルに展開する住友商事、1年半にわたり業務提携関係にある伊藤忠建機との連携により、世界を視野に入れた建機プラットフォームの構築を目指す構えだ。

同社では、2015年11月にGMO VenturePartnersらから約1億円を調達、2016年5月にGMO VenturePartners、グリーベンチャーズ、JA三井リース、オプトベンチャーズ、SMBC ベンチャーキャピタル、個人投資家の小泉文明氏や高野秀敏氏らから5億円を調達した。また、2018年5月にはSpiral Ventures Japanらから3.6億円を調達している。

新たな資金調達によってUnityの評価額はほぼ倍増して約6600億円に

世界で最も人気のあるゲームエンジンの1つを支えているUnity Technologiesは、新しい資金調達を経て、伝えられるその評価額を倍増させるかもしれない。

Prime Unicorn Indexによって発見され、TechCrunchによって確認された、デラウェア州への株式申請書によれば、同社はシリーズEラウンドによる、最大1億2500万ドルの株式承認申請を行った。もしUnityが、承認される満額の調達を行った場合、評価額は59.6億ドル(6600億円弱)に達する。

Unityの広報担当者は、文書の内容を認めている。

このサンフランシスコの会社は、ゲームメーカーたちが、タイトルを開発して、コンソールやモバイル、そしてPC上に展開するための開発者ツールを提供している。新しいゲームの半数以上がこのプラットフォームを使って開発されている。プロジェクトが一定の規模に達したなら、顧客たちはプラットフォームの代金を、開発者の人数に応じて支払う。

Unityの競合他社としては、Fortniteを開発したEpic Gamesが挙げられる。同社は大ヒット作の利益に支えられて、過去2年間の間に素早くスタートアップやゲームスタジオを買収することができた。

Unityが最後に行った調達は、Silver Lakeが主導したシリーズDで、そのときの調達額は4億ドルだったが、その大部分は永年勤続者と初期の投資家の持つ株式の購入にあてられた。このときのラウンドで、同社の評価額は30億ドルを超えた。2003年に設立された同社は、現在までに6億ドル以上を調達している。

同社に対してこれまで投資を行った者の中には、Sequoia、DFJ Growth、およびSilver Lake Partnersなどが含まれる。

今年のはじめにCheddarが、Unityは2020年のIPOを目指しているというレポートを出したが、同社はこのレポートについてコメントしていない。

Facebook mulled multi-billion-dollar acquisition of gaming giant Unity, book claims

[原文へ]

(翻訳:sako)

チャット小説アプリ「peep」が2.7億円を調達、縦型動画×小説の“シネマ小説”強化へ

スマートフォンからチャット型のUIで小説を楽しめるチャット小説アプリ「peep」。同サービスを展開するtaskeyは5月10日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資にて2.7億円を調達したことを明らかにした。

同社にとっては2018年7月に1.5億円を調達して以来の資金調達ラウンド。今後は新しいコンテンツの制作やプロモーションの強化、海外展開などを進めながらpeepの事業をさらに加速させる。なお今回同社に出資したのは以下の企業だ。

  • グローバルブレイン
  • Global Catalyst Partners Japan
  • 三井住友海上キャピタル
  • VOYAGE VENTURES
  • 三生キャピタル

peepは2017年12月ローンチのチャット小説アプリ。もともとtaskeyでは同名の小説投稿SNSを2015年にスタートしていて(2018年11月にクローズ)、そこで培った作家とのネットワークやナレッジを活用して開発されたのがpeepだ。

チャット小説アプリにはユーザー投稿型のものもあるが、peepで扱う小説コンテンツはすべて公式作家が執筆したオリジナル作品。代表取締役CEOの大石弘務氏自身も以前から作家として活動していて、同サービス上で人気を集めるホラー作品「監禁区域レベルX」などを生み出している点も面白いポイントだろう。

現在はホラーや恋愛を中心に1000以上の作品が掲載。ダウンロード数はリリース1年半弱で70万件を突破し、プレミアム会員数も1万名を超えているという(peepは無料プランに加えて、従量課金プランや無制限に作品を楽しめる定期購読プランを提供)。

2018年12月からはチャット小説に縦型の動画を組み合わせた「シネマ小説」という新しいフォーマットの作品も開始。このフォーマットではチャット小説を進めていくとシーンに合った短尺動画が流れる仕組みになっていて、今後はタレントや俳優を起用したコンテンツを増やしていく計画だ。

2019年にはアメリカ版のリリースも予定。コンテンツの拡充やプロモーション強化も含め、調達した資金を活用しながらpeepの事業を一層強化するという。

「今スマホで楽しまれている読み物のエンタメは、そのほとんどが紙のコンテンツに依存しており、スマホならではの特性をうまく活かせていないように感じています。手塚治虫がハリウッド映画を見て、それを紙に描き起こし『漫画』を作り出したように、我々もスマホで表現する新しいエンタメのフォーマットを作り出したいと思っています」(大石氏)

チャット小説(チャットフィクション)は数年前から国内外で広がっているフォーマットで、日本発の関連サービスとしてはpeepの他に「Balloon」や「TELLER」などがある。

エンジニア版NewsPicks目指す「AnyPicks」が1200万円を調達

エンジニア向けの情報共有コミュニティ「AnyPicks」を展開するロケッタは5月9日、複数の投資家より1200万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのは、nanapiの創業者で現在はアルの代表取締役を務める古川健介氏など6名の個人投資家とプログラマー起業家ファンドのMIRAISE。ロケッタでは調達した資金を活用してプロダクトの開発体制を強化する。投資家陣は以下の通り。

  • MIRAISE
  • 古川健介氏
  • 和田修一氏
  • 柄沢聡太郎氏
  • 高野秀敏氏
  • 樫田光氏
  • 梶原大輔氏

ロケッタが2018年12月にローンチしたAnyPicksはエンジニア向けのソーシャルメディアだ。各ユーザーは気になったテクノロジー関連のニュースを自身のコメントと共に共有(ピック)したり、他のユーザーをフォローすることで最新の情報や有益な見解をチェックすることができる。

機能面などを踏まえると「エンジニア版のNewsPicks」と言えるサービスで、代表取締役の清水風音氏も自身のnoteで「ギークのためのNewsPicksを作りたい」と書いている。エンジニア向けの情報収集サービスとしては「TechFeed」などもあるが、エンジニアによるコメントを軸としたテックコミュニティを目指している点がAnyPicksの特徴になりそうだ。

冒頭でも触れた通り、今後ロケッタでは調達した資金を用いて開発体制を強化するほか、テクノロジー有識者のピッカー採用なども予定しているという。

左からロケッタ共同創業者の鳴瀬涼氏、代表取締役の清水風音氏

仲間への感謝の気持ちをコインで伝える、コミュニティ運営ツール「KOU」がアカツキから資金調達

コミュニティプラットフォーム「KOU(コウ)」を提供するKOUは5月8日、モバイルゲーム事業などを展開するアカツキからの資金調達を発表した。金額は非公開。また、これと同時にアカツキCEOの塩田元規氏がKOUの社外取締役に就任したことも発表した。

KOUは、スマホを使ってコミュニティを作り、そのコミュニティ内で利用できる「コイン」を発行することができるサービスだ。例えば、会社の同僚同士でコミュニティを作り、後輩の初契約を祝うためにコインをプレゼントしたり、地域単位のコミュニティを作って街のパン屋さんを応援したりなど、工夫次第によってユースケースは広がりそうだ。

同社はプレスリリースのなかで、「私たちは、コミュニティ内でのやり取りには、現在の資本主義的な経済システムでは可視化しにくい大切な価値があると考えています。そのような捉えにくい価値がより生み出されていくために、コミュニティがより円滑に運営できるためのスマホアプリとしてKOUを開発してきました」と同サービスの開発背景について語る。

同サービスは2018年9月にスタート。これまでに1500以上のコミュニティがKOUから生まれたという。同社はこれまでコミュニティへのヒアリングやサポート、機能拡張に注力してきたが、今回の調達により、採用を行いプロダクト開発チームを強化する予定だ。

自由な働き方を支援する人材事業のキャスターが3.6億円を資金調達

オンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ(キャスタービズ)」などを展開するキャスターは5月8日、Gunosy Capital、およびSMBCベンチャーキャピタルが運営するファンドからの第三者割当増資などにより、合計約3.6億円の資金調達を行ったことを明らかにした。

キャスターは「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げ、2014年9月に創業したスタートアップだ。同社はオンラインで経理、人事、秘書、WEBサイト運用などの業務を行うCASTER BIZを2014年12月にリリース。その後、リモートワーカーの派遣サービス「在宅派遣」や、副業・時短・在宅など新しい働き方に特化した求人サイト「Reworker」、オンライン採用代行サービス「Caster Recruiting」といった、柔軟な働き方を支援する、さまざまなサービスを展開してきた。累計利用社数は1000社を超えたという。

2018年8月には、Basecampが運営していた、SNSを利用したソーシャル募集サービス「bosyu」事業を譲受。また2019年に入ってからは、「会食手配」や「会議室リサーチ」など、個人が日常業務を500円からオンラインアシスタントに依頼できる「My Assistant」や、安全なリモートワーク環境を実現するためのクラウド型デスクトップ仮想化サービス「Caster Entry」など、関連サービスも拡大している。

キャスターは、2016年8月に大和企業投資から1億円、2017年12月にWiLや既存株主を引受先とした3億円の資金調達を実施している。今回の調達で、これまでの累計資金調達額は約10億円となる。

現在、700名以上が自由な働き方を求めて契約するというキャスター。今回の資金調達により、さらに採用強化に向けた投資を行い、クライアントのニーズに応えていくとしている。また法人向けマーケティングも強化し、認知度の拡大を図るという。

AI活用でインフルエンザの早期発見へ、アイリスが12.5億円を調達

AI医療機器を開発するアイリスは5月7日、塩野義製薬とBeyond Next Venturesを引受先とする第三者割当増資により12億5千万円を調達したことを明らかにした。

塩野義製薬側の発表によると両社では4月25日付で資本業務提携を締結済み。塩野義製薬がアイリスに12億円を出資し株式の約14%を取得するとともに、アイリスが開発するAI医療機器を対象とした将来のライセンス契約に関する優先交渉権を得たという。

アイリスではインフルエンザ患者ののどにできる「インフルエンザ濾胞(ろほう)」と呼ばれる腫れ物に注目。撮影したのどの写真をAIで解析することで、インフルエンザの高精度・早期診断をサポートするAI医療機器を開発中だ。

同社によると、2018年の国内インフルエンザ患者数は2000万人を越え、過去10年で最大の流行となった。現状の検査方法では発症してから24時間以上が経過しないと診断精度が十分ではなく、6割程度にとどまるとの研究報告もあるそう。検査法の改善は進んでいるが、抜本的な解決には至っていない段階だという。

この問題へのアプローチとしてアイリスが目をつけつけたのが、上述したインフルエンザ濾胞だ。風邪をひいている場合や健康な状態でものどの奥には膨らみが存在するものの、インフルエンザ濾胞には「インフルエンザの場合にだけ」現れる特徴があることを日本の医師が発見した。

表面の色調や艶やかさ、大きさや盛り上がり方などからインフルエンザ特有の特徴を見分けるのは、その道に精通するベテラン医師だからこそ成し得ること。アイリスでは画像解析AIを通じてこの技術の再現を目指している。

具体的には鼻の奥に綿棒を入れて行う検査の代わりに、のどの写真を撮影。その写真を解析することで高精度かつ早期にインフルエンザを診断できる機器を作る。

アイリスによると臨床研究法に則った臨床試験を既に実施しているそうで、今後は治験や薬事承認に向けて開発を加速させていく計画だ。

左からアイリス代表取締役社長の沖山翔氏、取締役副社長CSOの加藤浩晃氏

 

映像解析AIを民主化するフューチャースタンダードが4億円を調達

映像解析AIプラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を展開するフューチャースタンダードは5月6日、複数の投資家を引受先とする​第三者割当増資により約4億円を調達したことを明らかにした。

既存投資家のインキュベイトファンドなど複数のVCのほか、2018年9月に発表したSCORERパートナープログラムのパートナー企業であるTISや東洋通信工業らから資金調達を実施。事業面での連携を強化するほか、地方企業へのサービス展開やプロダクト基盤のアップデートに取り組む。

今回フューチャースタンダードに出資した企業は以下の通り。なお過去にも紹介している通り、同社では2016年1月に1.3億円2017年7月に2.1億円を調達済みで、今回のラウンドを含めた累計の調達額は約7.3億円になる。

  • TIS(パートナー企業)
  • 東洋通信工業(パートナー企業)
  • インキュベイトファンド
  • スパイラル・ベンチャーズ・ジャパン
  • AGキャピタル
  • ハックベンチャーズ
  • 広島ベンチャーキャピタル
  • その他社名非公開の投資家

フューチャースタンダードは2014年3月の創業。当初より映像解析AIをより簡単に利用できるようにする基盤技術の開発に取り組んできた。

同社が展開するSCORERの特徴は、カメラや映像に関する最新の解析技術をブロックのように組み合わせることで、映像解析システムを開発する難易度やコストの負担を大幅に削減すること。ユーザーはこのプラットフォームを活用することで、ゼロから開発環境やアルゴリズムを構築せずともAIを活用した映像解析を始められる。

SCORERは交通量解析や視線・顔検知、異常検知など様々な用途で活用できる

以前「カメラで顔を検知するとLINEで通知してくれるようなアプリであれば15分程度の時間で作れる」と紹介したが、現場(エッジ)での映像データ収集と解析向けの「SCORER Edge」に加えて2017年12月にはクラウド版の「SCORER Cloud」をスタート。

同サービスでは「解析したい映像を選択」「解析アルゴリズムを選択」「解析結果を確認・出力」という3ステップのみで手軽に映像解析AIを利用できる環境を整えた。

同社によると2018年には約25社の企業がSCORERを導入。半数以上がリピート利用に至っていて、サポートしたプロジェクトを50件以上に及ぶそう。TISや東洋通信工業を始め、パートナープログラムに申し込んでいる企業に関しても約15社ほどまで増えているという。

2018年9月にロボットプラットフォーム分野における協業を発表したTISとはすでに共同開発に取り組んでいるほか、東洋通信工業ともSCORERを活用した各種サービスのインテグレーションにおいて、協業を開始済みだ。

今後は地方のパートナー開拓にも取り組みながら、地方企業のAI活用サポートや地方発の映像解析AIサービス創出を目指す計画。調達した資金は人材採用や新サービスの立ち上げ・展開強化に用いる方針で、パートナー企業向けにセミオーダー型の映像解析AIパッケージ「SCORER Ready」の提供も予定しているという。

テスラが資金調達目標を440億円超に増額、イーロン・マスクが16.6億円購入へ

Tesla(テスラ)は近く株式の売却によって4億ドル(約444億円)を追加調達する予定であり、共同ファウンダーでCEOのElon Musk(イーロン・マスク)氏が1500万ドル(約16.6億円)相当の株式を購入することを約束している。証券取引委員会(SEC)提出資料による。 証券取引委員会(SEC)提出資料による

電気自動車、エネルギー・ストレージ、ソーラーパネル製造を手がける同社は、310万株を1株当り243ドルで売却すると発表した。引受会社は、ゴールドマン・サックスおよびシティグループ(Citigroup)。同社は、1億ドルの転換社債を追加発行することも発表した。

当初Teslaは、株式とワラント23億ドル分を販売する予定だったが、最新データによると合計金額は27億ドルに引き上げられ、Elon Musk自身が購入する金額も増えた。同社の発表によると、マスク氏はこの株式売却にあたり購入額を1000万ドルから2500万ドルに引き上げた。

株式売却拡大のニュースは、Teslaが不振の第1四半期決算のわずか1週間後に資本市場でさらに資金調達すると発表したその翌日のことだった。

Zachary KirkhornはこれをTesla史上「最も困難な四半期の一つ」とまで評した。

Teslaは今年の第1四半期に7.02億ドルの損失を計上したが、直面する課題と資金不足にも関わらず、投資家の株式購入の意欲に陰りは見られしない。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

VR/MR技術で医療現場のコミュニケーションを革新するHoloEyesが2.5億円を調達

VRやMR技術を用いて医療現場のコミュニケーションを支援するHoloEyesは4月26日、SBIインベストメント、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルの各社が運用するファンドを引受先とした第三者割当増資により、総額約2億5千万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

HoloEyesが手がける「HoloEyesXRサービス」は患者のCTスキャンデータやMRIデータから3次元のVR/MRアプリケーションを生成し、 医療分野におけるコミュニケーションを革新するサービスだ。

同社によると、医療現場では3次元的立体構造物である人体の状態を把握する際、CT/MRIなどによって撮像された2次元の状態にあるデータを閲覧し、医師の脳内で3次元に変換しているという。この作業は医師にとっても大きな負担となるだけでなく、医学生らが学習する際や患者が理解する際にも多くの労力がかかる原因になっていた。

この状況をXR(VR/MR)などのテクノロジーによって改善できないか、というのがHoloEyesのアプローチだ。

HoloEyesXRサービスはCT映像から作成したポリゴンファイルをアップロードすれば、最短10分でVR/MRアプリを自動生成してくれるのが特徴。価格は1ケース1万円から提供する。2018年4月の発売以降、39の医療施設が導入していて、444のケースで活用事例があるとのこと。発売以前のPoC事例も含めると50以上の医療施設が500を超えるケースで利用しているようだ。

今後HoloEyesでは医療機器対応を中心とするHoloEyesXRサービスのアップデートを進めるほか、調達した資金を活用して事業基盤の拡張や組織基盤の強化に取り組む計画。合わせて「新たな時代における知識や手技の優れた継承方法としての可能性が感じられるVR教育配信サービスの開発(主な用途)」にも着手するとしている。

AIで素材産業の研究開発を効率化、MI-6がBEENEXTや11人のエンジェルから資金調達

素材産業における研究開発を効率化する技術(マテリアルズ・インフォマティクス)を手がけるMI-6は4月24日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資した投資家陣は以下の通り。なお具体的な調達額については非公開だが、関係者によると数千万円後半になるという。

  • BEENEXT
  • 金城聖文氏
  • 坂本達夫氏
  • 杉山全功氏
  • 須田仁之氏
  • 高野秀敏氏
  • 千葉功太郎氏
  • 永見世央氏
  • 藤家新一郎氏
  • 舛屋圭一氏
  • 松本浩介氏
  • 氏名非公開の個人投資家1名

MI-6はその社名の通りマテリアルズ・インフォマティクス(以下MI)技術の研究開発と社会実装に取り組むスタートアップだ。

MIはテクノロジーを用いて新素材や代替素材を効率的に探索する手法のこと。さまざまな産業でテクノロジーの導入が進む中、素材開発の現場では研究者の「経験と勘」が多く存在し、未だに非効率な部分が多く残っているのが現状だ。この非効率さを解消し、開発にかかる時間やコストを削減する技術として近年MIが注目を集めている。

MI-6では2017年11月の設立以来、MI専業のスタートアップとしてAIを活用したMIの研究開発に着手。東京大学の津田教授を中心としたMI技術研究チームによって関連技術の開発を推進しながら、MIプロジェクトの受託解析やコンサルティングにも取り組んできた。

今回のラウンドではSaaSビジネスの支援経験が豊富なBEENEXTの前田氏のほか、研究開発型スタートアップに関する深い知見を持つペプチドリーム取締役副社長の舛屋氏など、強力な投資家陣から資金調達を実施。同プロダクト開発体制を強化し、彼らの支援も受けながら事業をさらに加速させていく計画だ。

MI-6のメンバー。中央が代表取締役の木嵜基博氏

“人”を軸にイノベーションが生まれるエコシステムの構築へ、スローガンが1.9億円を調達

スローガンの経営陣と投資家陣。前列右から2番目が代表取締役社長を務める伊藤豊氏

人材採用支援を軸に、新産業を生み出すエコシステムの構築を目指すスローガンは4月24日、XTech Ventures、ドリームインキュベータ、一般社団法人RCFを引受先とした第三者割当増資により総額で1.9億円を調達したことを明らかにした。

2005年の創業期よりベンチャー企業の採用支援をメインの事業としている同社だが、近年は若手経営人材向けのコミュニティメディア「FastGrow」やフィードバックに特化したクラウドサービス「TeamUp」など新たな事業にも取り組んできた。

同社の目標はこれらのサービスを繋ぎ合わせることで、新産業やイノベーションが生まれるエコシステムを作ること。スローガンで代表取締役社長を務める伊藤豊氏いわく今回の調達は「共創パートナーを増やすことが大きな目的」で、調達先との連携も見据えながら事業を加速させていきたいという。

なお先に開示しておくと、僕は2011年から2012年にかけて数ヶ月ほどスローガンの京都支社で学生インターンとして働いていたことがある。

2016年の外部調達を機に単一事業からの脱却へ

現在もスローガンの核となっているのが、スタートアップやベンチャー企業などの新産業領域に対して人材を供給する採用支援事業だ。

Goodfind」ブランドを中心に学生インターンから新卒採用、中途採用までの各層でサービスを展開。人材紹介に加えてメディアやイベント、コンサルティングを通じて事業を成長させてきた。

僕がインターンをしていたのもまさにそんなフェーズだったので、ベンチャー企業の採用支援に注力している人材系ど真ん中の企業という印象が強い。少なくとも当時はベンチャーキャピタルなどから出資を受けてエグジットを目指す「スタートアップ」のイメージはなかった。

そんなスローガンにとって1つの転機とも言えるのが2016年8月に実施した初の外部調達だ。

「ベンチャー向けのHR事業という単一領域で約10年にわたってサービスを展開していたが、本気で『新事業創出エコシステムを構築すること』を目標に掲げるのであれば、そもそも自分たち自身が新事業を作れないとダメだという考えもあった。外部から資本を入れることで経営体質を変え、会社として本格的にギアチェンジをしていくきっかけとなったのが2016年の資金調達だ」(伊藤氏)

その際はエス・エム・エス創業者の諸藤周平氏が立ち上げたREAPRA Venturesのほか、社員持株会や数名の個人投資家から1.4億円を調達。そこから既存事業のアップデートに加え、別軸の新サービスが複数生まれることになる。

HR領域のSaaSやコミュニティメディアが成長

フィードバックの仕組みを変えるTeamUpはまさに前回のファイナンス以降にリリースされたプロダクトだ。

もともと社内でインターン生のマネジメントをしていた中川絢太氏が一度会社を離れ、再度戻ってきた際に自身が感じていた課題を解決するツールとして立ち上げたのがきっかけ。スローガンでは同サービスの運営に特化した新会社チームアップを2016年10月に設立し、起案者でもある中川氏が代表を務める。

「(中川氏のアイデアと)当時会社として抱えていた問題意識がちょうど合致した形。採用支援を頑張ってクライアントが優秀な人材を採用できたのは良かったけれど、それ以降のフォローや人材育成のサポートまでは十分にやりきれていないという課題を感じていた」(伊藤氏)

プロダクトとしては360度フィードバックと1on1ミーティングにフォーカスしたニッチなSaaSで、目標管理やOKRの要素を入れる話も出たが、それを捨てて機能を絞り込み開発してきた。スプレッドシートやエクセルに記録していたような情報をクラウド上で効率的に管理できる仕組みを提供することで、営業開始から1年半の間に有料課金社数が100社を超えるところまで育ってきているそうだ。

同じく2017年4月にスタートしたFastGrowも独立した事業部で社内スタートアップ的に運営している。

若手経営人材向けにスタートアップやイノベーションに関する題材を扱った取材記事や考察記事を配信。コンテンツを届けるメディアとしての役割をベースにしつつも、コミュニティとして会員向けのイベントなども定期的に実施している。

最初はてっきりGoodfindにユーザーを送客するためのオウンドメディア的にスタートしたのかと思っていたのだけど、当初から1事業としてグロースさせる目的でスタート。企業がスポンサードする記事広告や有料イベントなどを通じてビジネスとしての土台は積み上がってきているそうで、すでに単月では黒字化も達成しているという。

投資家のXTechともFastGrowを通じて関係性を深めてきたそうで、1月には起業家向けのブートキャンプを実施。1泊2日で13万円の合宿費用がかかる本格的なイベントだが、なかなかの反響だったようだ。

「もともとスローガン自体がベンチャー領域を対象に、マス向けというよりもある程度限られた層の企業・人材に対してどれだけ質の高いサービスを提供できるか追求してきた。FastGrowに関しても根本は変わらない。すでにメディア自体はいろいろなものがあるので、立ち位置を明確にするためにもニッチな層に対して良質なコンテンツを届けることを重視している。最初は本当に事業として成立するのかという声もあったが、思っていた以上に軌道に乗っている」(伊藤氏)

パートナーとの連携で新産業創出エコシステムの強化目指す

前回ラウンドから約2年半、社内で新規事業の創出に向けて取り組んできたことが徐々に成果に結びつき始めた中での今回の資金調達。スローガンでは調達した資金やパートナーとの連携も通じて、新産業が生まれるエコシステムの強化に向けた取り組みを加速させる。

創業時から手がけてきた採用支援領域(キャリアマッチング創出)を軸にしつつも、イノベータ人材自体を増やすための場所としてFastGrowにさらに力を入れる。また企業内でのイノベーションを支えるサービスとしてTeamUpを含む複数プロダクトを手がけていく計画だ。

基本的には上の図の右側にはTeamUp同様に特定のシーンに合わせたプロダクトが複数マッピングされるようなイメージ。反対に左側の部分ではたとえば「FastGrow ◯◯」のような形で、事業を拡張していく構想を持っている。

伊藤氏の中では将来的にFastGrowが1つの大きな基盤に育っていく考えのようで、このコミュニティをより強固なものにしていきたいとのこと。中長期的には月額課金制の有料コミュニティやスクール、法人向けの研修など、オンラインとオフラインを融合させたサービスも検討する。

また複数事業の共通基盤として、Goodfindを始め各サービスで蓄積されたデータや知見を基にイノベータ適性を可視化できるテクノロジーの研究開発も進める方針。研究開発ラボのような機関の設立も考えているようだ。

「Goodfindは就活時や転職活動時など、その時々で使うユーザーが多い。一方でFastGrowはユーザーと日常的に接点を持ち続けられるコミュニティとしてポテンシャルが高いと思っている。現時点では人材採用領域が売上のほとんどを占め、ようやく他の事業が育ち始めた段階。ただ新産業創出エコシステムの構築に向けて、前回の調達から確実に前進できている」(伊藤氏)

今回同社に出資するXTech Venturesやドリームインキュベータのインキュベーション部門は起業家やスタートアップだけでなく、大手企業とのネットワークも豊富。社会事業コーディネーターとして活動するRCFは政府や自治体、大学との繋がりもある。

「本当の意味で新産業創出のエコシステムを作っていく上では、大企業やパブリックセクターと連携していく必要がある。(今回の調達先は)スローガンに足りないパーツを持っているので、その力を借りながら雇用市場における社会課題の解決やイノベーションの創出に取り組んでいきたい」(伊藤氏)

超小型ドローンで屋内設備を点検、Liberawareが1.3億円をDrone Fundらから調達

産業用小型ドローンによる事業を展開するLiberaware(リベラウェア)は4月24日、Drone FundおよびFFGベンチャーファンドを引受先として、総額1億3000万円の第三者割当増資を実施したと発表した。

Liberawareが展開するのは、小型ドローンの開発・販売と、ドローンにまつわるさまざまなサービスだ。特に今年の4月からは、屋内の点検用ドローンをレンタルするサービスも開始している。

煙突やボイラー、天井裏、ダクト内や配管などの点検を大規模な工業施設で行う場合、狭い場所や粉塵・高音などの過酷な環境下で、足場を組んで作業する必要がある。Liberawareではリモートで作業を行うことができる、超小型の産業用ドローンを開発し、製造。クラウド型の点検ソリューションとパッケージにして提供している。

同社では今回の資金調達により、これら小型産業用ドローンを活用した点検ソリューションの開発・提供を加速させるとしている。

Liberawareは2016年8月の設立。今回の資金調達は、同社にとってプレシリーズAラウンドに当たり、Drone Fund、ORSO、Aerial Lab Industriesから実施した、前回2018年2月の資金調達に続くものとなる。