LINEトーク上で決済まで完結する“チャットコマース”拡大へ、チャットボット開発のZEALSが3.5億円を調達

LINEやFacebook Messengerを活用したチャットボット広告サービス「fanp(ファンプ)」を展開するZEALS。同社は4月1日、サイバーエージェント(藤田ファンド)および既存投資家を引受元とする第三者割当増資により3.5億円を調達したことを明らかにした。

ZEALSは2018年1月にJAFCOとフリークアウト・ホールディングスから4.2億円を調達しているほか、2017年5月にも8000万円の資金調達を実施。今回のラウンドも含めた累計の調達額は約8.5億円となる。

同社では調達した資金を活用してコマース領域でのサービス展開を拡大させるほか、代理店様との提携やグローバル市場での取り組みを推進する計画。また音声関連の新サービスの準備も進めていくという。

チャットボットでの会話でニーズをあたためる

ZEALSが “会話広告” パッケージと謳っているfanpは、チャットボットとの会話を通じてユーザーのニーズを把握すると共に商品やサービスへの理解を深めてもらい、商品購入や会員登録といったコンバージョンへ導く広告サービスだ。

具体的にはLINEやFacebook上のインフィード広告からLINEのトークやFacebook Messengerを活用したチャットボットへとユーザーを集客。会話を通じてヒアリングした内容を踏まえて、商品を提案する。

ZEALS代表取締役の清水正大氏いわく、ネット広告のパラダイムシフトが起こり、サーチからフィードの時代へと変わっていく中で「全く変化してこなかったのがランディンページ(LP)の構造」だ。

「サーチが主流だった時は自分から検索してくる人、つまりニーズが顕在化してた人たちが(広告の)対象だった。一方でフィード広告の場合はニーズが顕在化していない人にも表示される。そういう人をいきなりLPに集客して何かを提案しても、“ユーザーのニーズがあったまっていない”状態なのでコンバージョンしづらい」(清水氏)

その課題をインフィード広告×チャットボットで解決しようというのがfanpのアプローチだ。特に人材業界とEC業界への導入が進んでいて、前者ではパソナやアトラエ、ビズリーチなど、後者ではロート製薬やオイシックス・ラ・大地、バルクオムなどがクライアントとなっている。

これまでにfanpを通じて解析してきた会話データは1億3000万を突破し、直近半年の売上成長率は月次平均で127%、単月の売上は約1年前の前回調達時から3.5倍に成長。チャットボットの利用ユーザー(チャットボットを利用しているエンドユーザーの数)も40万人を突破した。

実際、導入企業の平均値ではランディングページのCVRに比べてfanpのCVRは5倍を超えるそう。清水氏はこの要因として「ヒアリングファースト」「チャットボットCRM」「パーソナライズPUSH」という3つの特徴を挙げる。

「広告をクリックしたユーザーをLPに誘導していきなり提案するのではなく、チャットボットでユーザーからヒアリングをした上で商品の提案をする。特に“チャット”というUIではそれを違和感なくやれるのが特徴。従来、広告は押し付けのイメージが強かったが、ヒアリングの結果を基にパーソナライズした提案ができる」(清水氏)

ヒアリングしたデータがきちんと管理されていなければ意味がなくなってしまうので、取得したユーザーのインサイトを管理・活用できるCRM機能も重要な要素。また清水氏は、CVRを高めるという観点においては「提案のパーソナライズに加えて、PUSH通知を打てることも大きい」と言う。

「これまでWebのLPではそもそもユーザーにPUSH通知を打つことができなかった。fanpでは仮にその場でCVに至らなくても継続的なPUSHを通じてユーザーにサービスを訴求できる。平均値ではPUSHからのコンバージョンが4割を占めるほど影響が大きく、これは今までのLPからは生み出せなかったものだ」(清水氏)

今後はチャットコマース強化、新サービス展開も予定

上述したように、現在fanpは人材業界とEC業界を中心に展開している。元々は人材業界が1つの柱となっていたが、コマース領域での活用が拡大し新たな柱へと成長しつつあるという。

つい先日にはLINE Payと連携し、LINEのトーク上からタップするだけで商品の購入・決済までを完結できる仕組みをスタート。スマホ時代の新たな「チャットコマース」体験を実現した。

清水氏によると、EC事業者はより多くの顧客にリーチするべく常に新たなマーケティング用のチャネルを探していて「LINEを使って何かできるのではないか」という認識自体が広がってきているそう。

中国のメッセンジャーアプリ「Wechat」では、同アプリ上で機能するミニプログラム(ミニアプリ)が急増していて、Wechat上でECサイトやゲームアプリなどを利用する体験も増えている。同じように日本でも“LINEのトーク上で商品を買う”というチャットコマースの流れが今後広がっていく可能性は十分にあるだろう。

ZEALSでもまさにこのチャットコマース領域を今後の注力ポイントのひとつに掲げていて、決済機能以外にもカート機能や受注管理画面機能などを充実させていく方針だ。

合わせて清水氏がこれからの展望として話していたのが「代理店との提携強化」と「グローバル展開」。代理店向けプログラムをスタートすることでfanpの普及を加速させるほか、これまで蓄積してきたナレッジやデータを基にアジアでのビジネス展開にも着手する。詳細は非公開だが「革新的な音声サービス」も準備中とのことだ。

「人の持つ対話の力を機械に授けることができれば、次なる産業革命が起こると考えてこれまで取り組んできた。またそれを通じて企業理念にも掲げているように“日本をぶち上げて”いきたいという思いが強い。その点ではコマースを始め次の領域やアジア展開、新サービスなどまだまだ挑戦したいことばかり。チャットボットと音声サービスを通じて、コミュニケーションテックのパイオニアを目指していく」(清水氏)

好みを踏まえて室温を自動調整、自宅をスマートにする「LiveSmart」が三菱地所らから3億円を調達

アプリやスマートスピーカーを通じて家電を操作できるサービス「LiveSmart」を運営するLive Smartは3月29日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資により約3億円を調達したことを明らかにした。

同社に出資したのは三菱地所、みずほキャピタル、三井住友海上キャピタル、イノベーション・エンジン、加賀電子の5社。三菱地所とは住宅やマンションなどの住環境における「スマートライフの実現」に向けて業務提携も結んでいる。

Live Smartでは調達した資金を活用して開発体制やビジネスサイドの組織体制を強化するほか、プロダダクトの販売拡大やスマートホームの認知度向上に向けたマーケティング施策を展開する計画。なお今回を含めると、同社の累計調達額は5億円を超えるという。

スマートホームコントローラーを軸に快適な生活をサポート

Live Smartは現在個人向けと法人向けにそれぞれスマートホームサービスを展開している。

個人向けには自社開発のスマートホームコントローラー「LS Mini」を軸に、アプリやスマートスピーカーを介して家電を操作できるプラットフォームを提供。たとえば外出先からアプリやLINEを使ってエアコンを操作したり、Amazon Echoなどを用いて音声でテレビや照明を操作したり。ユーザーの日常生活を便利にする。

「各家電を一度の操作で全部オン/オフにする」「毎日7時に自動的に照明をつける」などのルールを設定すれば操作を自動化できるほか、独自のAI(Adaptive Intelligence)機能を搭載。この機能を通じて身長や体重を始めとしたパーソナルなデータと、自分が心地いいと感じる温度など“個々人の好み”を考慮した上で最適な環境を整えてくれる。

現在はエアコンのみに限られるが、AI機能をオンにしておくと「夜間に外の気温や日射量低下の影響で室温が変化するのを察知して、ユーザーが快適な温度を保つべく自動でエアコンを稼働する」といった使い方が可能だ。

一方で法人向けにはLS Miniの上位機種である「LS Hub」を中心に、主に不動産ディベロッパーに対して管理画面やライフアシスタントボットを用いたサービスなどを提供している。

Live Smart取締役の上田大輔氏によると「通信規格のバリエーションの多さ」と「オープンプラットフォームであること」が大きな特徴とのこと。個人向けのLS Miniでは赤外線とWi-Fi、法人向けのLS Hubではそれに加えてBluetooth、ZigBee、Z-Wave対応のデバイスと接続できる。

これによって家電を遠隔操作できるだけでなく、Wi-Fiカメラやスマートロックの「Sesame」に繋ぐことも可能。子どもやペットの見守り用途としてはもちろん、中長期的には不在時の荷物受け取りや家事代行サービスなどにも対応していきたいという。

またサービスだけでなくデバイスについても他社製品と積極的に連携していく方針だ。特に法人向けのサービスについては「Hubは自分たちで作るが、そこに繋がる他のデバイスについては気に入ったものを直接メーカーから買ってもらって構いませんという発想で進めている」(上田氏)そう。今後もオープンなプラットフォームを維持していく。

個人のスマートライフを支える社会インフラ目指す

Live Smartはエンジニアのバックグラウンドを持つ代表取締役CEOのロイ・アショック氏や、Amazon Japanにて玩具事業部の商品戦略部部長を勤めていた上田氏ら4名が2016年に創業したスタートアップだ。

元々アショック氏は海外のパートナーと共同で現在のLS Hubのプロトタイプを作っていたそう。ヒアリングの結果、日本の企業で一定のニーズがあることがわかり国内で会社を作ることを決断したという。

ちなみにアショック氏と上田氏が初めて出会ったのは、近所のレストランとのこと。「偶然隣の席で食事をしていた時に、『こっちの方が美味しいから食べてみなよ』と話しかけられたことがきっかけ」(上田氏)で仲良くなり、最終的には一緒に起業するに至ったのだという。

左からLive Smart代表取締役CEOのロイ・アショック氏、取締役の上田大輔氏

今回の資金調達を踏まえ、Live Smartではプロダクトの開発や他社との連携をさらに加速させる計画。これまでAmazon上でのみ販売していたLS Miniを家電量販店でも販売しチャネルの拡大を図るほか、三菱地所との協業や今後展開予定のライフアシスタントサービスの開発も進める。

三菱地所とは共同で住宅向けのサービスを作っていく方針で、三菱地所グループの住宅開発事業に対するスマートホーム機能の実装に加え、チャットボットやアプリを活用したマンション居住者向けサービスの拡充などを見据えているという。

そしてそこにも関わってくるのが、Live Smartが現在仕込んでいるライフアシスタントサービスだ。

これは上田氏の言葉を借りれば「(様々なサービス、デバイスと繋がった状態で)1人1人にコンシェルジュがつくようなもの」。LINEやFacebookメッセンジャーといたコミュニケーションプラットフォームを介して、家事代行サービスや宅配便受け取りが不在時でも簡単に利用できたり、チャットボット経由で地域のセール情報や便利な情報を入手できる仕組みを考えているようだ。

上田氏自身、Amazon在籍時に物流業務に関わることがあり、その時感じた再配達や不在時の荷物受け取りに対する課題感が起業にも繋がっているのだそう。「LiveSmartをきっかけに、いろいろな社会課題を解決できるのではないか」という考えは以前から持っていたという。

「自分達の中では『スマートホーム』よりも『スマートライフ』という表現をしている。(ライフアシスタントサービスなどの提供を通じて)人々の快適な生活を支える、新しい社会インフラの実現を目指していきたい」(上田氏)

音声フィットネスアプリ「BeatFit」が総額2億円を資金調達

写真:BeatFit CEO 本田雄一氏(右から3人目)、COO 宮崎学氏(右から2人目)、CPO 永田昌一氏(左から3人目)

フィットネストレーナーによる音声ガイドでトレーニングをサポートするアプリ「BeatFit」。プロのトレーナーが音声でコーチするこのアプリでは、筋トレやランニング、ウォーキング、ランニングマシンやインドアバイクなどのマシントレーニングにヨガ・瞑想、ストレッチなど、多様なジャンルのクラスを提供し、ジムやアウトドア、自宅など、独りで運動する際の力強い味方となっている。

このアプリを開発・運営するBeatFitは3月29日、シリーズAラウンドとして総額約2億円の資金調達実施を発表した。2019年1月末に行われた第三者割当増資の引受先は、既存株主のSGI Japanと新たにラウンドに参加した大和企業投資。今回は2018年9月のシードラウンドに続く調達で、2018年1月の創業からの累計調達額は約3億円となる。

音声コーチでトレーニングが継続できるアプリ

BeatFitの特徴は「音声」ガイドのみでトレーニングが進められること。詳しい内容については以前の記事でも紹介しているので、ぜひご覧いただきたいが、動画メインのコンテンツでは画面を確かめながら運動することになりがちなところを、トレーナーが横について励ましながらトレーニングしているのに近い感覚になり、運動に集中できる。

さらに最近のバージョンでは、トレーニング前に運動の内容を短い動画で「チラ見」できるようにソフトウェアがアップデートされ、動きをチェックすることも可能になっている。

アプリを運営するBeatFit代表取締役CEOの本田雄一氏は「創業以来、音声でフィットネスのコンテンツを提供することに集中してきたが、市場もよい反応だ。2019年はさらにこれを推し進め、数万人から数十万人規模のユーザーを狙っていく」と話している。

代表取締役COOの宮崎学氏によれば、リリース当初は運動好き、トレーニング好きで激しいトレーニングを求めるユーザーの利用が多いのではないかと予想していたそうだが、実際には「女性ユーザーの割合が約7割と多く、運動強度も低めのクラスが人気だった」とのこと。ボディメイクだけでなく、運動不足解消やストレス軽減など、幅広い目的で利用されており、ダイエットや質の良い睡眠につながるメニューは特に人気が高いという。

本田氏も「日本ではゼロから運動習慣をつけたい人が『音声コーチがあるから続けられる』と利用してくれている。より多くの層へユーザーを広げたい」という。

2018年4月にベータ版、9月に正式版アプリをリリースしたBeatFitは、リリース以来、トレーナー14人を採用し、掲載クラス数は300を超えた。各クラスは定額制でいつでも、いくらでも利用可能。月額980円と有料ではあるが、順調に有料会員数を増やしているという。

パーソナライズ機能追加と提携で利用者拡大目指す

宮崎氏は、今回の調達の目的をアプリの機能強化とコンテンツ強化に充てるため、と話している。機能面では、AIを活用してアプリにパーソナライズ機能を追加し、レコメンドコンテンツの表示ができるようにしたい、とのことだ。

「アプリをしばらく使ってみて、『もう少し運動強度の強いトレーニングにトライしたい』『次にどんなトレーニングを取り入れればいいだろう』となったときに、現状のジャンルから探すメニューだと面倒なので、オススメのトレーニングを表示できるようにしたい」(宮崎氏)

代表取締役CPO(Chief Product Officer)の永田昌一氏も、米国と日本とのフィットネス環境の違いを引き合いに「自分にフィットしたトレーニング探しが日本では難しい」と説明。その人に合ったトレーニングクラスを、クラスの再生履歴(途中でやめてしまったか、最後までやれたか、といった行動履歴)やクラスの属性(ジャンル、強度などプロパティ)をもとにオススメを出す機能を開発する、と話している。初めて利用する人にも、初回に利用目的や普段の運動状況などをアンケートして、クラスを提案していく。

コンテンツについては著名人を採用したトレーニングを取り入れるなどの施策で、競争力強化を図るとしている。

またBeatFitでは、資金調達発表と同時にフィットネスクラブなどを運営するルネサンスとの事業提携開始も発表している。提携により、ルネサンスの運営するジム内でのプロモーションにも取り組んでいく。

「ルネサンスは入館システムやユーザー個々の接客の好みに合わせたパーソナライズなどでは、デジタル化やテクノロジーへの理解が進んだ企業。一方で、スタッフ不足に悩みがあり、セルフトレーニングを補える当社のメニューには期待されている。短時間でもしっかりトレーニングする層、若年層を取り込み、長期継続を促したい思惑もある」(宮崎氏)

本田氏も「ハウツーコンテンツや動画は多いが、分からなければ続かない。BeatFitなら『寄り添って一緒にトレーニングしてくれる』と評価されている」と

宮崎氏は「トレーニングをする場があることでアプリの解約防止に、トレーナーコンテンツがあることでジムの解約防止につながる」と提携で期待される効果を説明する。また法人営業に力を入れるルネサンスの営業力にも注目しているという。

将来的にはルネサンスの会員のデモグラフィック属性と、アプリ利用状況を踏まえた行動データとの掛け合わせにより、さらに開発を進めることも検討している、ということだった。

提携によるアプリの販売促進は、まずルネサンスの運営する関東20店舗でスタート。全国展開も予定しているという。

また、生命保険会社やほかのジムなど、提携企業はさらに加えていきたいと宮崎氏は述べている。

近年は「健康経営」に取り組む企業も増え、各社からもこれを支援するサービスが出ているが、本田氏は「健康診断結果から情報管理・コメントまでのサービスはあるが、続けて支援するサービスを組み込むところまでBeatFitでは考えている」と話す。

宮崎氏も「年に一度の診断や単発の取り組みではなく、本当に効果を上げるには日常化がカギ」と話す。BeatFitについては「ユーザーの声を聞いていると、ダイエットや睡眠の質を上げるなどで効果を現しており、カスタマーサクセスを実現してきている」といい、これまでの展開に自信を見せる。

「我々のサービスの価値は『やる気になっている人がトレーニングを継続できること』に加えて、『やる気がなかった人の行動を変えること』。これまでのアプリ提供でデータが増えてきたので、これを実証してビジネスへ取り入れたい」(宮崎氏)

さらに同社では、大学などの学術機関や医療機関からアドバイザーを招いて、共同研究の推進も予定している。

「独りで」から「みんなで」トレーニングできるアプリへ

独りでトレーニングができるアプリとして開発されたBeatFitは、今後どのようなアプリに進化していくのだろうか。宮崎氏は「現在はパーソナライズへの開発が始まっているところ。2019年後半にはさらにモチベーションを維持する機能、コミュニティ機能などを追加したい」と話している。

永田氏も「開発から1年、個人がトレーニングやケアを楽しめるように作ってきた。これからは『誰かと/みんなで』楽しんだり、がんばったりできるような機能を強化して、オープンなアプリにしていく」と述べる。

具体的には、目標をコミュニティで共有して励まし合う機能や、心拍計測などを同時に行うライブ機能による同時体験、ゲーミフィケーションの取り入れなどが検討されているそうだ。

宮崎氏は「僕たちが目指しているのは、運動をさせよう、ということではなく、『世界から不健康をなくす』ということ。世の中のすべての人が肉体的にも、精神的にも健康に暮らせるようにしたい。また、単に運動、健康、ケアを手がけるのではなく、テクノロジーを使ってそれを実現するのがミッションだ。創業から1年経ち、アプリを提供してきてそれがよりクリアになった」という。

世界的にもヘルスケア関連のアプリ市場は、ゲーム以外にもアプリ販売が伸びている中でひときわ大きく成長している分野だ。

米国ではフィットネスバイクの販売とバイク向け中心のクラス配信を行うユニコーン企業・Pelotonが2018年、8億ドルを売り上げたとみられている。またメディテーション・睡眠コンテンツ配信アプリのCalmも2017年時点で1億ドルを売り上げている。

同じく米国のAaptivはBeatFitと同じくオーディオ特化型アプリでフィットネスクラスを配信するスタートアップ。20万人以上の有料会員を抱え、ディズニー、ワーナー、BOSEなどと提携しており、2018年6月にはAmazonやディズニーから2200万ドルを調達した。時価総額は2億ドル以上と推定される。

本田氏は、BeatFitの海外展開についても視野に入れている、として「(ローカライズなどの)ハードルはそれほど高くない。アジアを皮切りに海外へも打って出たい」と語っていた。

READYFORが4.2億円を調達、新たな資金流通インフラ確立目指す——8年でプロジェクト数は1万件を突破

写真右からREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏、Salesforce Ventures日本代表の浅田慎二氏

クラウドファンディングサービス「Readyfor」を展開するREADYFORは3月29日、セールスフォース・ドットコムの投資部門であるSalesforce Venturesを引受先とした第三者割当増資と、みずほ銀行を含む金融機関からの融資(当座貸越契約の極度額を含む)を合わせて約4.2億円を調達したことを明らかにした。

今回は2018年10月に実施したシリーズAラウンドの追加調達という位置付け。10月時点ではグロービス・キャピタル・パートナーズなどから約5.3億円を調達していた。

またREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏が「シリーズAは次の事業を作ることに向けて、経営力をあげるのが大きな目的のひとつ」と話すように、前回に続き同社に強力な助っ人が加わった。

具体的にはアドバイザーにSalesforce Ventures日本代表の浅田慎二氏、技術アドバイザーにディー・エヌ・エー執行役員の小林篤氏、ソーシャルプロデューサーにGOの砥川直大氏が就任している。

READYFORでは「社会を持続可能にする新たな資金流通メカニズムの確立」に向けて経営体制を整えつつ、クラウドファンディング事業のシステム強化やSaaS事業の立ち上げを進めていく計画だ。

お金が流れにくい領域に、資金が行き渡る仕組みを作る

Readyforは「CAMPFIRE」などと共に、日本のクラウドファンディング市場を黎明期から支えてきたサービスと言えるだろう。ローンチは2011年の3月29日。今日でちょうど8周年を迎えたことになる。

これまでのReadyforの変遷については、10月の記事で詳しく紹介したのでそちらを参照頂ければと思うが、マーケットの拡大と共に同サービスもまた、様々なアップデートを行ってきた。

特に近年、資金調達の方法が多様化し国内でもプレイヤーが増加する中で、Readyforでは「社会的な意義はあるが、既存の金融サービスではなかなかお金が流れにくい領域」に注力。具体的には地域や医療、大学、裁判などの分野にクラウドファンディングを通じてお金を流通させる仕組みを作ってきた。

たとえば地域との取り組みについては、2016年に自治体向けの「Readyfor ふるさと納税」をローンチ。返礼品合戦が問題視されていた旧来のふるさと納税に、新しい仕組みを持ち込んだ。直近ではこの仕組みを活用して広島県呉市と起業家支援プロジェクトにも取り組んでいる。

医療領域では前回も紹介した国立がん研究センターがん研有明病院など、医療施設がクラウドファンディングを活用して資金を集める事例が増加。大学関連では2017年1月に立ち上げた「Readyfor College」を通じて、複数の大学と包括提携を結んだ。

これらは今まで補助金や助成金といった形で国がサポートしてきた領域。そこを補完するような形で、Readyforが使われることもここ1〜2年で増えてきているのだという。先日紹介した名古屋大学医学部附属病院のプロジェクトや、すでに1000万円以上の資金が集まっているエボラ出血熱の新薬開発に向けたプロジェクトはまさにその一例だ。

今後もパブリックセクターの支援強化へ

サービスローンチから8年間でReadyfor上に掲載されたプロジェクトは1万件を突破。57万人から80億円以上の資金が集まった。提携パートナー数も新聞社や金融機関、自治体など約250機関に及ぶ。

READYFORが8周年記念に公開している特設ページに詳しい記載があるが、ジャンル別では病院や医療施設への寄付が累計で約1億円、大学や研究が約1.5億円、ガバメントクラウドファンディングが約1億円、裁判や社会的活動の費用が約1500万円ほど集まっている。

まだまだ全体に占める割合は大きくないものの、こういった領域にお金を流通させる仕組みとしてクラウドファンディングが機能し始めているとは言えそうだ。米良氏も「(ここ数年の間に)パブリックセクターにおいてもお金が必要になった際に、1つの選択肢として検討されるようになったのは大きな変化」だという。

「(補助金などでは)カバーできない部分を補うということに加え、補助金の対象にはならないような“ちょっとチャレンジングな取り組み”のために資金を集めたいという新たな需要が生まれている。クラウドファンディングが社会に広がってきた中で『数百万円でもあれば何かしら新しいことが始められる』というプロジェクトに対して、以前よりもお金が集まりやすくなってきている」(米良氏)

READYFORとしては、今後もパブリックセクターの支援を強めていく方針。その一環として3月には裁判費用やアドボカシー、社会実験、政治活動などを目的としたプロジェクトを応援する「Readyfor VOICE」をスタートした。

過去にもこういった形でクラウドファンディングが利用されるケースはあったが、たとえば裁判費用を調達する場合、弁護士法などに照らした法的整理が必要となることもある。Readyfor VOICEではそのような専門的な知識が求められる領域を、弁護士資格を持つ法務担当者らがしっかりとサポートするのが特徴。すでに1件目のプロジェクトも始まっている。

「自分たちの特徴は『これまでお金が流れにくかった領域』に対して、民間の人たちの応援金を通じてお金が流れる世界を作っていること。これからも医療や大学の研究費、裁判費用などこれまでは国が支援していた公的な分野を中心に、必要な資金が行き渡る仕組みを開発していきたい」(米良氏)

ソフバンとトヨタ共同出資のMaaS企業「MONET」、ホンダと日野自動車から資金調達

ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資で誕生したMaaS事業のMONET Technologies(以下、MONET)は、日野自動車と本田技研工業(以下、ホンダ)から資金調達を実施したと発表した。両社はそれぞれMONETに対して2億4995万円を出資し、9.998%の株式を取得する。これにより、MONETの株主構成は以下のようになる。

今回の出資に関して、MONET代表取締役の宮川潤一氏は「この提携によって、日野のトラックやバスから得られる人や物の移動に関する車両のデータと、Hondaの乗用車などを活用したモビリティサービスから得られるデータが連携できるようになり、MONETのプラットフォームはさらに進化する」とコメント。

また、トヨタ自動車とは競合関係に位置するホンダ代表取締役の八郷隆弘氏は「Hondaは、MONETとの連携を通じて、モビリティサービスの社会受容性・顧客受容性獲得のための普及活動、モビリティサービスの実証実験、関連法令整備に向けた渉外活動などをよりスピーディーに推進し、日本のモビリティサービス産業の振興と日本における交通関連の社会課題の解決を目指してまいります」と話し、業界をあげたモビリティサービスの普及や渉外活動の重要性について触れている。

元DeNAの起業家が立ち上げた“営業を科学する”Buffが資金調達

写真右からBuff代表取締役社長の中内崇人氏、サイバーエージェント・キャピタル インベストメント・マネージャーの北尾崇氏

「多くの企業において、営業の教育は直感に基づいて行われていると考えている。そこでBuffでは『データ計測と再現性を生み出す仕組み』をプログラムに落とし込むことで営業を科学し、組織を強化するサポートをしている」

そう話すのはBuff代表取締役CEOの中内崇人氏。2018年12月に同社を創業し、営業組織を強くするプログラム「Buff Sales」を運営している。

そのBuffは3月28日、サイバーエージェント・キャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。具体的な金額は非公開だが、数千万円規模の資金調達になるという。

同社では調達した資金を活用して人材採用やプロダクト開発を強化する計画。Buff Salesのサービス内容の拡充を進めるとともに、テクノロジーを活用した営業力育成ツールの開発を加速させる。

「データ計測・再現性を生み出す仕組み」を組織に定着

冒頭でも触れた通り、Buff Salesは営業組織を強化するためのプログラムだ。

現時点ではテクノロジーを絡めたものではなく、人手を介したコンサルティングに近い。具体的には、成果を出している営業マンの属人的なノウハウを他のメンバーが再現できるような形に落とし込んだり、それらを細かいKPIに分解し数字で計測する仕組みによって各メンバーの長所や課題を可視化する。

たとえば社内で成果を出している営業マンに、よく売れる理由を聞いてみると「トークがうまいから」「なぜか可愛がられるから」など曖昧な答えが返ってきて、そのままでは周囲のメンバーが再現できないケースも多い。

ただ、中内氏の話では彼ら彼女らを注意深く観察すると「度胸があるためいきなり決裁者にリーチできていたり、他の人の同席をお願いできている」「仲良くなるのがうまいので他の部署や他社の人材を紹介してもらえている」といったより細かい要因が見えてくるという。

「この例だけでも数値にすると、KPIに落とせるものが4つある。実際にKPIを基に計測してみると、売れている営業マンは異様に数値が高い。そこまで落とし込んだ上で再度『なぜ決裁者率が高いのか』を尋ねれば、毎回訪問前に特別な電話をしているなど、周囲のメンバーが真似できるレベルのナレッジが見つかる」(中内氏)

このように営業チームが目標を達成する上で“道しるべ”となるKPIの設定(BuffではプロセスKPIと呼んでいるそう)から、その指標に基づいて成果が出る組織を作るまでのプロセスを一気通貫でサポートしているのがBuff Salesの特徴だ。

「10人の営業担当者がいると、仮に売上自体は5番目だとしても、特定のKPIの達成率がものすごく高いようなメンバーもいる。KPIごとの達成率が見えるようになれば『各メンバーが何に優れているかがわかり、お互い学び合うことで高め合う』こともできる。そんな営業組織を作れるプログラムを目指している」(中内氏)

Buff Salesは2018年8月のスタート。現在はTechCrunchでも何度か紹介しているPOLなど3社の顧問を担っていて、営業マン1人あたりの売上が3ヶ月で3倍になったような事例も生まれているそう。まずは今後10社までこのプログラムを広げていく計画だという。

テクノロジーを用いた営業力育成サービスをローンチ予定

Buffの創業者である中内氏は神戸大学を卒業後、新卒でディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。同社では一貫してゲーム事業に携わってきた。

Buff Sales自体は、繋がりのあったキーエンス出身の営業マンに話を聞く中で「同社で成果をあげている営業マンに共通しているのは、一見個人技のように見えて実は組織を上手く生かしていること。営業組織の環境がすごく重要であると感じた」ことが着想のきっかけだ。

聞けば中内氏自身も、もともとDeNAでゲームのディレクターをしていた際に「あるイベントが発生すると、ユーザーはどのように動くのか」という1つ1つのユーザー体験を徹底的に数値ベースで記録に残し、上手くいった事例を再現できるように意識してきたそう。

そんな経験が組み合わさって「営業組織」と「データ計測と再現性を生み出す仕組み」を掛け合わせたBuff Salesのアイデアが生まれた。

もっとも、「スケーラブルな教育サービスを作りたい」と中内氏が話すように、Buff Salesは最初のとっかかりにすぎない。特許の関係もあり現時点で具体的な内容は明かせないとのことだが、これまで蓄積してきたナレッジとテクノロジーを活用した「営業力育成サービス」を開発している真っ只中だという。

同サービスは今後のBuffにとって柱となる事業のひとつであり、早ければ5月〜6月にもローンチ予定とのこと。一体どのようなサービスが誕生するのか、またローンチの際に詳しく紹介したい。

オンライン完結のインテリアコーディネート「KAREN」運営が数千万円を資金調達

3Dイメージでインテリアコーディネートを提案する「KAREN」は、1部屋あたり7980円で、プロのコーディネーターによる個別のプランニングが受けられ、部屋のイメージはオンラインで受け取ることができるサービスだ。

今年1月16日にローンチしたKARENでは、コーディネート提案された家具が購入できるサイトをプランと一緒に教えてくれて、5〜30%オフのKAREN特別価格で購入することも可能だ。3月6日には、レンタル家具サービス「CLAS」との連携により、レンタル家具もコーディネートに加えられるようになっている

オンラインで依頼から提案、家具の入手までを完結できる便利さもあって、KARENは30代女性を中心に利用が広がり、ローンチから現在までに数百件の依頼をこなしたという。

KARENを運営するASHBERYは3月27日、個人投資家でエウレカ創業者の赤坂優氏、西川順氏、Fablic創業者のtakejune氏から、数千万円規模の資金調達を実施したと発表した。調達資金はサービス向上のために投資し、さらなる成長を目指すという。

ASHBERY代表取締役の武藤諒俊氏は、調達にあたって以下の通りコメントしている。

「適切なインテリアを選ぶことがいかに日常を良くするか、KARENを使ってもらえれば身をもって実感してもらえるだろうという自信がついてきました。
信じてくださるステークホルダーの方々のため、インテリア業界のため、そして何より使ってくださるユーザーのためにこれからも尽力してまいります」

美容師のためのアプリ「LiME」がアイスタイルから2.2億円を調達

LiMEのメンバー。写真右端が代表取締役の古木数馬氏

美容師のための顧客カルテ・予約管理アプリ「LiME(ライム)」を提供するLiMEは3月27日、「@cosme」などを運営するアイスタイルを引受先として、2億2000万円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。LiMEは2018年2月にもアイスタイルから7000万円を調達しており、今回の増資はこれに続くものとなる。

美容師アプリのLiMEは、これまで紙で管理されてきた顧客のヘアスタイルやヘアケア情報などを記録したカルテを電子化してスマホで管理できる、基本無料のツールだ。アプリ内に写真やメモで顧客の髪型履歴を残すことができるので、美容師からは「サロンに残って施術情報を書かなくても、帰宅時やちょっとした空き時間に入力ができて効率的」と評価されているそうだ。

LiMEからは連絡先が分かる顧客に「そろそろカットにいらっしゃいませんか」といったメッセージを送信することも可能。また予約管理ツールとしての機能もあり、ウェブまたは顧客用予約アプリの「RiZM(リズム)」経由で、顧客から直接予約を受け付けることもできる(オンラインの予約受付は有料機能)。

RiZMを利用する顧客とは、写真やメッセージなど、カルテの一部を共有することもできる。

LiME代表取締役の古木数馬氏は、自分のサロンで美容師をしながらLiMEを2014年8月に設立した人物だ。現場で働く美容師としての視点から開発したアプリLiMEを2016年4月にリリース。現在は1万7000人以上の美容師が登録するツールとなっているという。

顧客とのヘアスタイル履歴共有やオンライン予約機能は、2018年10月に追加されたものだ。この追加により顧客がレビューの投稿もできるようになり、カルテや予約管理ツールとして利用しているうちに、自然と口コミや感想を蓄積することも可能となった。

また、これまでLiMEは美容師がスマートフォンで、個人個人で使うツールとして展開されてきたが、サロン全体で俯瞰してカルテ管理・予約管理ができるPC・iPad用のサービス「LiMEsalon」も開発している。LiMEsalonでは、LiMEアプリと連携することで、サロン全体の予約表や顧客管理、売上レポート機能を利用することが可能。今後LiMEでは、サロン向けサービス展開についても強化を図る。

さらにLiMEでは、今回の資金調達をきっかけに、アイスタイルが運営する@cosmeとの事業提携も検討していくということだ。

“VR会議”で遠隔でもリッチな対話体験を実現、SynamonがKDDIのファンドらから2.4億円を調達

遠隔会議などの用途で活用できるビジネス向けのVRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」を手がけるSynamonは3月26日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資と金融機関からの融資により、総額で約2億4000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはKDDI Open Innovation Fund、三井不動産のCVCファンドである31VENTURES Global Innovation Fund、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタルおよび個人投資家ら。Synamonにとってはジェネシア・ベンチャーズなどから5000万円を調達した2017年11月以来の外部調達となる。

熱量や空気感が伝わるVR会議

前回も紹介した通り、SynamonはXR(VR/AR/MR)領域におけるプロダクトの研究開発をしているスタートアップだ。

同社ではVR空間内で最適なユーザー体験を実現するべく、マルチデバイス対応や複数人の同時接続機能などを搭載したベースシステム「NEUTRANS」を開発。これを軸にNEUTRANS BIZやVR関連の受託事業を展開している。

4月に正式ローンチを予定しているNEUTRANS BIZは複数人がVR空間でコラボレーションできるサービス。昨年5月から運用してきたクローズドベータ版に管理画面の追加やシステム面の強化、料金体系の変更など大幅なアップデートを加え、改めて正式版としてスタートする形だ。

Synamon代表取締役社長の武樋恒氏によると、今の所はブレストなども含めて「会議」での利用が多いのだそう。コンシューマー向けのサービスとは違い、ビジネス向けに特化したサービスとしてユーザー体験に磨きをかけてきたという。

これは僕もそうだったのだけど、“VR会議”と聞いて「別にテレビ会議(ビデオ会議)で十分なのでは?何が違うの?」と思う人も多いはずだ。VRの場合はそもそも専用端末を準備する必要があり、PCさえあればすぐに始められるビデオ会議に比べて最初のハードルも高い。

ただ、武樋氏によると「テレビ会議をやっている人ほど、VR会議にも興味を抱く」ようだ。

「顔の動きや身振り手振りを交えてコミュニケーションをすることで、熱量やその場の空気感を感じやすいというのは1つの特徴。3DCGのビジュアルデータなどを用いてインタラクティブな対話ができるのはもちろん、『空中にペンで絵を書く』といったように現実を超えたVRならではの体験もできる」(武樋氏)

今回実際に試させてもらったのだけど、確かにビデオ会議とは違うメリットがあるように感じた。特に複数人で会議をする場合、武樋氏が話していたように身振りや手振りに加え、相手の顔や体の向きがわかるのは大きい。

ビデオ会議ではリアルな表情がわかる反面、複数人だと誰が誰の方を向いて話しているのかが掴みづらい。その点、NEUTRANS BIZの場合はアバター越しではあるもののお互いの体の向きがわかるから「今、この人は自分の方を向いて話してくれている」ことが良くわかった。

もちろん“VR会議室”の中に3Dデータを持ち込んだり、仮想的なホワイトボードや空間にペンでアイデアを書きながらディスカッションできるのもVRならではの特徴。一方で相手の表情をしっかりと見たい場合などはビデオチャットの方が向いているので、この辺りは「VR会議 VS ビデオ会議」のような構図ではなく、両者が共存していくことになりそうだ。

武樋氏自身もこれまでNEUTRANS BIZを展開する中で、VRが刺さる場面と刺さらない場面がわかってきたそう。「ただ単に情報を伝えるだけの会議のような場面だと、VRは手間やコストがかかりすぎてマッチしない」一方で、実践型の研修やブレストスタイルの会議、グループインタビューなどとは相性がいいという。

「テレビ会議とリアルな会議の間に新しいレイヤーが加わるようなイメージ。どれが1番優れているかという話ではなく、VRでしかできないコミュニケーションを実現することで、新しい選択肢を提供していきたい」(武樋氏)

NEUTRANS BIZはOculus、VIVE、Windows MRに対応していて、同時接続人数は1部屋10人まで。月額課金モデルで提供する計画で、料金はライセンス数やサポートのレベルによっても異なる。

KDDIと協業、他の投資家とも事業面で連携

写真右からSynamon代表取締役社長の武樋恒氏、KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏

武樋氏によると今回出資を受けた投資家陣とは事業面での連携も見据えているそう。KDDIとは
NEUTRANS BIZの拡販を目指した顧客開拓サポート、および5G×VRの先進事例創出に向けての協業を実施。三井不動産とは同社が運営するコワーキングスペースでNEUTRANS BIZを導入する予定だ。

特にKDDIはアクセラレータープログラム「KDDI∞Labo」を通じてSynamonのビジネスを支援してきた。KDDI∞Labo長を務める中馬和彦氏によると以前からこの領域には注目していたそうで、非公開のものも含めると今年度だけでXR領域には5社以上投資しているという。

「営業面のサポートや今後どのようにマーケットを広げるかなども一緒にディスカッションする中で、結果としてKDDIのラインナップにSynamonのコラボレーションツールを加え、自社でも売っていくことになった。それならば資本も入れてより密に連携できればと出資に至った」(中馬氏)

実際にKDDIのチームではNEUTRANS BIZを社内で活用しているが「ブレストにおいては、オブジェクトやアバターを活用するという“非日常感”がプラスに働くことを実感した」という。アバターを介すことでシャイなメンバーでも話しやすく、役職や年齢関係なく議論が円滑に進められたそうだ。

なおKDDIではコンシューマー向けのVRプロダクトにも出資しているが「(VR体験が)B2B2Cで広がっていくことを考えると、企業側の一定のパーセンテージを抑えることでコンシューマー側のパイも取れる」という考えもあるという。

今後SynamonではKDDIとも連携を取りながらNEUTRANS BIZの提供を加速させる計画。まずはビジネス領域におけるVR技術活用の一般化を目指すとともに、今年春に発売予定のOculus Questを始めとする各端末への最適化も進めていく。

また中長期的にはツールキットやSDKの提供を通じて、「NEUTRANS BIZ for ◯◯」のように特定の用途や領域に特化したプロダクトをパートナーが作れる仕組みを考えているようだ。

「あくまで『XRという技術を使って、どのように世の中に新しい価値を提供できるか』ということに焦点を当てて、今後も技術開発に注力していく。NEUTRANS BIZはそのひとつの形であり、自分たちは基盤を作る役割。その基盤を基に顧客がより自分たちにあったツールを作れるような展開も考えている」(武樋氏)

建設プロジェクト管理アプリ「ANDPAD」開発のオプトが14億円を調達

写真左からオクト代表取締役社長 稲田武夫氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ 今野穣氏

クラウド型施工管理アプリ「&ANDPAD(アンドパッド、以下ANDPAD)」を提供するオクトは3月26日、グロービス・キャピタル・パートナーズをリード投資家として、DNX Ventures(旧Draper Nexus Ventures)をはじめとする既存株主の追加投資も合わせて、総額約14億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

この調達ラウンドではさらに追加の投資も予定されており、クローズ時点での予定調達金額は全体で約20億円になる見込み。今回の調達は2018年3月に実施された第三者割当増資に続くもので、これまでの累計調達総額は約24億円になる予定だ。なお、資金調達に伴い、グロービス・キャピタル・パートナーズ ジェネラルパートナーおよび最高執行責任者の今野穣氏が社外取締役に就任する。

建設現場をアプリで効率化するANDPAD

ANDPADは、建築施工管理が現場から社内業務まで一元で行える、クラウド型の建設プロジェクト管理サービスだ。その強みはスマートフォンアプリで、現場で利用できること。現場写真や図面資料を集約して一覧でき、工程表も共有できる。職人と監督とのやり取りはチャットで行え、作業日報もその場でアプリから作成できる。

また営業管理、顧客管理のための機能も追加され、見積もり作成や定期点検管理、受発注機能などもオプションで提供されるようになった。

利用企業からは、リアルタイムに近いスピードで現場の疑問を確認・解消できる、チャット機能が重宝されているようだ。工事が大規模になればなるほど、現場で発生する問題や施主への対応の遅れは、積み重なることで大幅な工期遅れにつながる。対応レベルが担当の経験値によりマチマチにならないようにするためにも、リアルタイムな情報共有ができる点は重視されているという。

また職人からはGoogle マップと現場情報が連携している点が喜ばれているとのこと。現場への道順はもちろん、現場近くのコンビニ、ホームセンターや駐車場など、必要な場所をすぐ自分で調べられることが評価されているそうだ。

利用は新築からリフォーム、商業建築など、さまざまな種類・規模の施工現場にわたっており、2019年3月の時点で1600社を超える企業に導入されているという。ちょうど1年前、2018年3月の取材時には導入社数800社と聞いていたので、倍ぐらい伸びたことになる。

オクト代表取締役社長の稲田武夫氏は、導入社数の増加に合わせた同社組織の強化を行い、顧客体験の向上を図りたい、と資金調達の目的について述べている。そのための施策のひとつが、プロダクト向上のための開発だ。

「利用企業は、一口に建設会社といってもいろいろな業務の集合になっている。それぞれの業務に合った、セグメントされたオプションを提供していきたい」(稲田氏)

例えば、トイレや足場組みなど、1日で終わる短工事を担当する業者では、「ANDPADで1件ごとに毎回案件を作成するのが大変」といった声も出ているということで、短工事に特化したツールを準備しているという。ほかにも分譲住宅の建設会社のための機能や、建材流通会社が施工を行うケースへの対応、商業施工への対応など、「業界をメッシュで理解して、プロダクトに反映していきたい」と稲田氏は話す。

調達資金の使途として稲田氏がもうひとつ挙げたのは、カスタマーサクセスの強化だ。現在、月に50〜70回のペースで説明会を開催し、オンボーディングでリアルに使い方を伝えているというが、稲田氏は「使う人のリテラシーにもばらつきがある建設業界で、ITを取り込もうというなら、オンボーディングでの説明は不可欠。愚直にやっていく」と語る。

こうした施策のかいもあって、顧客の多くが、ほかのユーザー企業などからの紹介でANDPADの利用を始めるようになってきたそうだ。よい顧客体験が反響にも重要な影響を与えるとして、さらにカスタマーサクセスを強化していくという。

オープンな取り組みでANDPADを建設IT化の入口へ

ユーザーから「工期遅れがなくなり、予定通りに完工するようになった」と効率化に対する評価を得ているというANDPAD。建築業界でのプロジェクト管理ツールとして、ITにおけるGitHubやBacklogと同様、工程の効率向上に寄与してきている。だが一方で、ANDPADを「施工品質の向上に寄与するプロダクトにしていきたい」という稲田氏は「効率化の先で施工品質は上がっているか」と自問しているという。

しばしば社会問題ともなるずさんな施工について、稲田氏は「企業規模にかかわらず、大規模な現場では管理もしっかりしているが、中小規模の現場ではリソースが行き届かないことも多い。効率化と品質向上とはトレードオフになる部分もあるが、そこをテクノロジーの力で何かできないだろうかと考えている」と話している。そこで、施工検査を行うプレイヤーと組んで、サービスをリリースすることなどを検討しているそうだ。

またこれまでに蓄積したデータの利活用による、建設業界全体への貢献も考えていると稲田氏はいう。現在、130万件の施工案件が入力され、4万人の職人が登録、1日当たり6万件の施工写真がアップロードされるというANDPAD。さらに受発注情報で会計データも蓄積するようになっており、「建設現場のデータとしてこれだけの蓄積がある例はほかにはない」と稲田氏は自負する。

他業界でも同じ傾向にあると思うが、特に建設業界では人材不足が大きな課題となっている。稲田氏は「データの活用で人材の流動性を高めるなど、貢献できないか。特に災害などで需要が集中した場合に、マッチングができるような仕組みを考えている」と述べている。

ほかに建築資材の流通の仕組みも、まだまだアナログだとのこと。「データは取れていくので、こうした建材流通の面でも流れを良くしたい」と稲田氏はいう。

総額20億円の調達について、稲田氏は「建設業界は大きな産業。現場の『はたらく』を幸せにしたい、というのが我々のミッションだが、それを実現しようと考えて逆算すると、この金額が必要だった」と話す。

今後、建設現場のテクノロジー導入に積極的な建設会社をパートナーとして、中長期的なR&Dも図っていくというオプト。これは「顧客の建設会社からの要望があってのこと」と稲田氏は説明する。例えば「通信環境が良くない現場など、スマホが開けないところでもANDPADを使いたい」といったニーズにウェアラブルデバイスなどのハードウェアを取り入れるようなことも、建設会社と提携して取り組んでいきたいという。

また、基幹業務のクラウドサービスを提供するシステム会社などとも連携したいと稲田氏。「ANDPADが、建設産業IT化への入口となればいい。API連携などオープンに取り組むことで、現場の幸せと施工の品質向上につながれば」と話している。

ニュースからAIで業績予測を行うゼノデータが7.8億円を資金調達

写真前列中央:ゼノデータ・ラボ 代表取締役 関洋二郎氏

金融情報のAI分析サービス「xenoBrain(ゼノブレイン)」を開発するxenodata lab.(ゼノデータ・ラボ)は3月25日、総額7億8000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

同社が展開するxenoBrainは、経済ニュースや決算情報を自然言語処理により解析し、企業の業績への影響を予測するサービス。2018年11月から提供開始された。ウォール・ストリート・ジャーナルなどで知られるダウ・ジョーンズの持つ過去10年分以上のグローバルニュースデータを中心に、30万本を超える記事に含まれる過去の経済事象の連関から企業の利益影響を自動で分析し、業績予測を行う。

金融機関出身者を中心に開発されたxenoBrainには、ニュースをリアルタイムに分析し、ニュースに関連して将来影響を受ける企業や経済情報が把握できる機能や、上場企業3600社超の決算内容を発表後1分で分析し、レポートする機能などが搭載されている。

ゼノデータ・ラボは2016年2月の設立。MUFG Digitalアクセラレータの第1期に採択され、グランプリを受賞し、三菱UFJ銀行、帝国データバンクなど9社と資本提携を行っている。また2018年7月にはBloombergとのデータ連携、ダウ・ジョーンズとの業務提携も実施し、同年xenoBrainをリリースした。

今回の調達金額のうち6億8000万円は第三者割当増資、残りは融資によるもの。第三者割当増資の引受先は慶應イノベーション・イニシアティブ、第一生命保険、時事通信社、ジャパンインベストメントアドバイザー、ナントCVCファンドなど合計13社と、レオス・キャピタルワークス代表取締役社長の藤野英人氏ら4名の個人投資家だ。

■出資先一覧

<第三者割当増資>
慶應イノベーション・イニシアティブ
第一生命保険
時事通信社
ジャパンインベストメントアドバイザー
帝国データバンク
DBJキャピタル
内藤証券
ナントCVCファンド(南都銀行とベンチャーラボインベストメントの共同設立によるファンド)
フリービットインベストメント
横浜キャピタル
三井住友海上キャピタル
静岡キャピタル
山梨中銀経営コンサルティング
他、藤野英人氏含む個人4名

<融資>
商工組合中央金庫

調達資金により、ゼノデータ・ラボではxenoBrainの機能・コンテンツ拡充を図る。xenoBrainの分析対象ニュースの拡充やサプライチェーン分析といった機能開発を行う。機能拡張により、現在は大手金融期間を中心に展開されているxenoBrainの対象ユーザーを一般の事業会社にも広げ、より幅広い利用を目指す。また、出資先各社との業務提携、連携も順次発表するとのことだ。

趣味やスポーツなどのサークル検索・運営サービス「つなげーと」が資金調達、マーケティングツールへと進化めざす

スポーツなど同じ趣味をもつ仲間同士(サークル)のコミュニティプラットフォーム「つなげーと」を運営するつなげーとは3月22日、朝霞伸管工業、バリトゥード、個人投資家の宮嶌裕二氏、SEA ソーシャルベンチャーファンド、名古屋テレビ・ベンチャーズから資金調達を実施したと発表した。調達額は非公開。

つなげーとは、ウェブやアプリで、サークルを探す人とメンバー募集をするサークルをつなぐサービスだ。メンバー用のページでは、日々の活動を記録できる「ウォール」や個人メッセージの送信機能などのコミュニケーション機能が備わっている。また、サークルが何らかのイベント(例えばお花見大会など)を行う際には、サービス上で日程管理や参加申し込みなどができるのも特徴だ。同サービスには現在、1万3000以上のサークルが登録されている。

つなげーとは今回調達した資金を利用して、同サービスをマーケティングプラットフォームとして進化させる。企業のアカウントと既存のサークルをつなげ、リアルな顧客接点をもたせる「コミュニティマーケティング・プラットフォーム」を目指すという。

毎日のつまらない業務を自動化、RPAのUiPathが440億円超を調達

IT企業向けのロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)プラットフォームを展開しているUiPathはシリーズDでベンチャーキャピタルから4億ドル超(約440億円)を調達中で、評価額は70億ドル超(約7750億円)になる見込みだ。Business Insiderの報道後、TechCrunchに対し認めた。

我々はUiPathにコメントを求めていた。

2005年創業のUiPathはこれまでに4億900万ドルを調達していて、つまりこのスタートアップにこれまで投資された資金の累計額、そして評価額を今回のラウンドは倍増させることになる。2億2500万ドルを調達したシリーズCは6カ月前に行われたばかりで、PitchBookによるとその時点での評価額は30億ドルだった。UiPathはプロ中のプロの投資家であるCapitalGとSequoia Capitalに支援されていて、この2社とシリーズCを共に主導したのはAccel、Credo Ventures Earlybird Venture Capitalなどだ。

今回のシリーズDは機関投資家が主導している。

UiPathは、事業を展開する中で毎日のつまらない業務を簡単にするのを目的とする自動化ソフトウェアのワークフローを作っている。RPAというのはおそらく間違った名称だろう。というのも、必ずしも我々が今日思い浮かべるようなロボットではないからだ。どちらかというと、買掛け金の勘定のような日々の作業でかなり繰り返し行われることをコンピューターでさばくようにする、より洗練されたマクロレコーダーか、ワークフロー自動化ツールに近い。

たとえば、プロセスは小切手をスキャンすることから始まり、そして支払人や金額をOCRを使って読み取り、Excelのスプレッドシートにその情報を追加し、これまでその作業を行なっていた人に確認のために電子メールを送る。それでも人はまだ役割を担っている。特に例外のものを処理する場合だが、過去のシステムに比べるとオートメーションと言ってもいいくらいのレベルだ。そうでなければ現代的なツールから何の益も得られない。

UiPathは2015年に民間資本の調達を始めた。以来、評価額と経常利益は急成長している。2018年3月にシリーズBで評価額を11億ドルにし、シリーズCでその数字を倍以上にし、さらには最近のラウンドでまた倍にしようとしている。これは膨張しつつある経常利益のおかげだ。

経常利益が2年足らずの間に100万ドルから1億ドルになった、とUiPathは話す。シリーズC時点で1800社のクライアントを抱え、1日あたり6社増えていた。UiPathの昨年の経常利益は1億8000万ドルで、順調にいけば2019年の経常利益は4億5000万ドルとなる、と情報筋は語っている。

イメージクレジット: Busakorn Pongparnit / Getty Images

 

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(翻訳:Mizoguchi)

PCゲーム配信者のマネジメント事業を手がけるROFL、CACからシード資金調達

PCゲームをプレイする様子を配信するストリーマーのマネジメント事業を展開するROFLは3月22日、サイバーエージェント・キャピタル(CAC)から1000万円のプレシード資金を調達したと発表した。

同社代表の角谷瞭氏も「カウンターストライク」や「PUBG」などのタイトルを配信するストリーマーの一人。マネジメント事務所の立ち上げの背景について、角谷氏は「YouTubeなどで動画を配信するクリエイターはすでに事務所に所属していることが多いが、Twitchなどのプラットフォームで配信するストリーマーはまだ手付かずの状態だ」と話す。

また、「ライブストリームであれば、いろいろなものが広告になりうる。飲んでいる飲み物、使っているヘッドセットなども立派な広告案件にもなりうる。現状のストリーマーの収入源であるいわゆる『投げ銭』以外の可能性も探っていきたい」と角谷氏は話す。

ROFLは2017年2月設立のスタートアップ。マネジメント事業自体は2019年の2月にスタートし、現在は2人のストリーマーをメインにマネジメント事業を展開。今年中には所属ストリーマーの人数を50〜100人まで増やしていきたいとしている。

ROFL代表取締役の角谷瞭氏

介護施設マッチングサービス「KURASERU」運営が1.3億円を調達

写真前列中央:KURASERU代表取締役 川原大樹氏

病院から退院する要介護者を介護施設とマッチングする「KURASERU(クラセル)」は、医療ソーシャルワーカーの退院調整にかかる業務負担の軽減をサポートするサービスだ。サービスを提供するKURASERUは3月21日、DBJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、500 Startups Japan、個人投資家らから総額1億3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

介護施設マッチングサービスKURASERUは、2018年1月にリリースされた。病院から退院できることになっても自宅や家族のもとでの在宅療養が難しい要介護者に対し、症状や状況に合った介護施設を探す医療ソーシャルワーカーの業務をサポートする。

従来は医療ソーシャルワーカー、または患者や家族の知識の中から、電話やFAXを駆使して空きを探す、という世界だった介護施設探しに、ITを取り入れて効率化を進めてきたKURASERU。さらに今回、タブレットやスマートフォンに対応したネイティブアプリ化で、より現場の業務に寄り添ったサービスに進化しようとしている。

KURASERU代表取締役の川原大樹氏は「病院の中にはPCが1台しかないというところもあり、使える場所や使用者のアカウントが制限されていることも多い。実際に退院後の介護施設を決める現場では、患者さんや家族とはミーティングルームなどで打ち合わせをすることになるため、持ち運べるタブレットで使えるアプリの形でシステムを提供することにした」とネイティブアプリ開発の理由について語る。

「これまでは電話で施設の空きを確認し、パンフレットを取り寄せて患者さんの家族に確認してもらい、次のミーティングのスケジュールも押さえて、3日がかりぐらいで調整して退院後の介護施設を決めてきた。ブラウザベースのサービスでも、ITによる効率化という意味では意義があったけれども、業務フローの中では使えない。タブレットなら、空き状況や施設のホームページを患者や家族と確認しながら、その場で決められるようになる」(川原氏)

従来のブラウザベースのシステムも、タブレット上のブラウザ経由で利用できないことはなかったそうだが、「手入力が必要な項目が多かったところを、タップで完結できるようにした」と川原氏は話している。

またアプリをインストールしたタブレットを渡すことで、医療施設の関係者にはシステムの存在を物理的に分かってもらえるようになった、とのこと。介護施設向けには、職員個人のスマートフォンにインストールし、どういう条件の入居希望者がいるか、個人情報は伏せた状態で検索することができるアプリが提供される。

現在は、神戸市北区でベータ版アプリを使った実証実験がスタートしている。病院の協力の下、実際に使いやすいものを開発できる環境が整った、と川原氏。調達資金も使って、病院と介護施設だけでなく、病院間の転院や、在宅から介護施設への入居する際のスムーズなマッチングも検証。よりよいユーザー体験を追求し、医療介護連携ツールとしてブラッシュアップしていくという。

調達資金はほかに、開発・サポート体制の強化にも投資していく、という川原氏。今回の調達では、同社が参加していた神戸市アクセラレーションプログラムでメンターとして支援を行った尾下順治氏、山下哲也氏がエンジェル投資に参加している。「マーケティングや経営戦略などで、深い見識を持つ2人の出資参加は心強い」とコメントしている。

また今回は、既存株主の500 Startups Japanに加え、銀行系ベンチャーキャピタルが出資に参加した。川原氏は「病院と銀行とは融資で強いつながりがある。全国ネットで病院とのつながりを押さえている銀行系VCの参画は、当社への信頼感醸成にもなる。これを今後予定している全国展開にもつなげたい」と話す。

実際に、サービス展開中の神戸や関西エリアだけでなく、関東からもサービスへのオファーが来ているとのことだが、川原氏は「今は神戸でトラクションを積み重ねて、それから関東や全国にも展開していきたい」と述べている。

KURASERUは、現状では病院・介護施設ともに無料で利用できるようになっている。収益化について川原氏は「我々は、プラットフォーマーとして医療介護連携ツールをつくるスタートアップ。患者さんがどういう経緯で入院し、退院、在宅医療、施設利用をしたのか、その流れをデータとして持っている。これは他にはない情報で、データを生かして違う分野のビジネスにできると考えている」と語る。

「目の前の収益を考えれば、みんな手を出しにくいことをやっていると思う。だが、今やっている医療・介護施設の市場だけでも全国で2500億円以上と推定される。プラットフォーマーとして広く捉えれば、もっと市場規模は大きいと考えている」(川原氏)

KURASERUは2017年10月創業。2018年6月には500 Startups Japanなどから5000万円を調達している。

2017年12月には神戸市が主催するスタートアップコンテスト「KOBE Global Startup Gateway」の第5期に採択され、神戸市アクセラレーションプログラムにも参加。2018年11月開催のTechCrunch Tokyo 2018スタートアップバトルではファイナリストに進出し、富士通賞を受賞した。

ディップが完全無料の学生向け教育サービス「TRUNK」を関連会社化、同社のビジネスモデルとは?

写真左より、TRUNK CEOの西元涼氏、同CTOの布田隆介氏

求人情報サイトなどを運営するディップは、3月13日に学生向けの就業トレーニングサービスを提供するスタートアップのTRUNKを持分法適用関連会社化すると発表した。出資比率や取得金額などは非公開。

ところで、このTRUNKというスタートアップを知っているという読者は少ないだろう。彼らはこれまで外部調達などを行っておらず、メディアへの露出も極端に少なかったからだ。そこでTechCrunch Japanでは、TRUNKの代表取締役である西元涼氏、同CTOの布田隆介氏に同社のビジネスモデルを聞いた。

企業が提供する生のトレーニングを受けられる

TRUNKは学生に向けてエンジニアやデザイナーなど12職種の養成コースを提供するスタートアップだ。コースは現在12種類あり、それらはすべてオフラインで提供される。また、コースの中には企業との提携によって提供するものもあり、それらのコースを受講する学生は実際にその企業のオフィスに行って教育を受けることになる。そのため、TRUNKは単なる教育コンテンツだけでなく、「職業体験」の機会を学生に与えていると言える。

加えて、TRUNKは学生のために就職活動で使えるWebレジュメも発行。コースを修了することで、学んだことを「自分がもつスキル」としてアピールすることができる。提携済みの企業へのインターンも準備しており、学ぶだけではなく、就職することにも重点を置いている。一方の企業は、TRUNKと手を組むことで自分が提供する教育コースに来たやる気のある候補者を効率的に探すことができる。

TRUNK代表取締役の西元涼氏は、「TRUNKの提携先企業には2つのタイプの企業がある。1つは、インターンに応募してくる学生の数は多いが『少人数のやる気のある学生と会いたい』という企業。もう一方は、そもそも知名度がなくインターンの数が集まらない企業です。TRUNKはそれらの企業の課題を解決できる」と話す。

「学生完全無料」という信念

そんなTRUNKの最も大きな特徴は、同社は学生に対してこれらのコースを完全無料で提供しているという点だ。収益源は、提携先企業から受け取る年間180万円のサービス利用料だ。聞けば、「完全学生無料」というTRUNKの創業当初からの信念は、西元氏の原体験に基づいているという。

西元氏が学生のとき、父親が経営する企業が破綻。西元氏は自身で学費を負担しながら大学に通った。「生まれた環境に関係なく、やる気次第で誰でも活躍できるサービスを作りたいと思った」(西元氏)

この信念を守るため、これまでのTRUNKはあえて「外部資金を入れない」という選択をした。今回のディップによる株式取得が同社にとって初めての外部調達だ。

もちろん、学生にも月額で課金するほうがマネタイズ面では良い。しかし、外部からの圧力などで信念を曲げたくなかったとTRUNK取締役CTOの布田隆介氏は話す。

「創業当時のメンバーは西元と私を含め3名。当初は西元だけが正社員で、他のメンバーは副業社員だった。会社の売上が上がって給料が払えるようになったら徐々に2人を正社員化すると最初から決めていた」(布田氏)

TRUNKの創業は2015年7月。現在では提携企業数はmixi、GMO、エウレカなど約50社、受講する学生数は年間5000人にまで成長した。「ビジネスもやっと安定し、『お金さえあれば解決できる課題』が増えてきたため、外部調達を行うことにした」(布田氏)

今回新たな資金を調達したTRUNKは今後、受講できるユーザーの対象年齢を29歳にまで広げたり、オンライン講座を導入することで遠隔の学生でも教育を受けられるようなサービス開発に取り組むという。また、自治体との連携で主婦層への職業訓練を提供するサービスもはじめる予定だ。

ゲーム仲間を簡単に見つけて、上手さも可視化する「e-mode」開発中のクロスシェアがシード資金調達

写真左より、クロスシェアCEOの荒木稜介氏と、同COOの佐野奨太氏

e-Sportsプレイヤー向けのWebサービス「e-mode」を開発するクロスシェアは3月19日、NOWとインキュベイトファンドからシード資金を調達したと発表した。調達額は非公開。

同社が開発するe-modeは、e-Sportsの大会などで採択されるゲームタイトルをプレイする人々が一緒にプレイする仲間を見つけるためのサービスだ。まだ開発中のサービスということもあり、詳細は不明だが、Twitterへの「フレンド募集」と書かれた投稿を利用したり、そのプレイヤーの強さを可視化するという機能が利用できるサービスだという。

クロスシェア代表取締役の荒木稜介氏は、サービス開発の背景について「日本のe-Sports業界が盛り上がるためには、そのタイトルをプレイする一般ゲーマーが、一緒に競い合える仲間を簡単に見つけられる環境を作る必要がある。そうすれば、おのずとプロシーンのレベルも高まる」と話す。

そのため、e-modeではプロ選手/上位ランカーや有名ストリーマーだけでなく、人口の多くを占めるライトゲーマーが気軽に使えるサービスを目指すという。同サービスは2019年4月頃にリリース予定だ。

同社の設立は2018年11月。同社のCEOを務める荒木稜介氏と同COOの佐野奨太氏は共に10代後半の学生起業家だ。

農業用ドローンのナイルワークスが16億円を調達、“空からの精密農業”推進へ

農業用ドローンを手がけるナイルワークスは3月14日、INCJ、住友化学、住友商事、クミアイ化学工業、未来創生ファンド、Drone Fundを引受先とする第三者割当増資により、総額で約16億円を調達したことを明らかにした。

2015年創業のナイルワークスは「空からの精密農業」をビジョンに掲げる日本発のドローンスタートアップ。2017年10月にも産業革新機構などから8億円を調達していて、累計の調達額は約24億円になる。

同社ではセンチメートル精度でドローンを完全自動飛行する技術を保有していて、この技術を取り入れた農業用ドローンの開発や生育診断サービスの事業化を進めている。

作物上空30~50cmの至近距離をドローンが飛ぶことで、薬剤の飛散量を大幅に抑えられるのが特徴。搭載したカメラから作物の生育状態を1株ごとにリアルタイムで診断し、散布する肥料・農薬の量を最適化する技術にも取り組む。

事前に圃場の形を測量することで、タブレットから開始ボタンを押せば経路に沿って離陸から散布、着陸までを自動で行うため、特別な操縦スキルも不要だ。

ナイルワークスによると、2018年夏には全国各地で75回におよぶ実証実験を実施。農作業の省力化を検証し、地域や水稲の品種ごとの生育データをもとに診断技術を磨いてきた。

並行してVAIOを委託先とした量産化体制を住友商事と共に構築し、量産化モデル第1弾である新型機「Nile-T19」の開発にも着手。2019年6月の販売開始に向けて準備を進めているという。

同社では今後も各出資企業・ファンド・組合と連携しながら「保有する技術を水稲以外の作物に展開し、日本のみならず海外にも進出することで、精密農業のリーダーになることを目指します」としている。

スタートアップ資金調達を効率化「smartround」にエンジェル投資

スタートアップと投資家向けに、資金調達管理プラットフォームを提供するスマートラウンドは3月6日、自社開発の「smartround」ベータ版を一部利用する形で、エンジェル投資家20人あまりから資金調達を実施したと発表した。投資家らからの第三者割当増資と日本政策金融公庫からの融資を合わせて、総額5500万円を調達したという。

今回、出資に参加した投資家は以下の通り、そうそうたるメンバーだ。

赤坂優氏、朝倉祐介氏、有安伸宏氏、伊藤英佑氏、漆原茂氏、海老根智仁氏、荻原国啓氏、片尾英和氏、久保泰一郎氏、佐藤裕介氏、島田亨氏、杉山全功氏、関喜史氏、孫泰蔵氏、高梨大輔氏、高野秀敏氏、中川綾太郎氏、三木寛文氏、山木学氏、脇丸俊郎氏 ほか

smartroundはスタートアップとその投資家向けに特化したファイナンス管理基盤だ。スタートアップ向けには、ファイナンスに詳しくない起業家のために、ガイドに沿って必要事項を入力するだけで、適切な資金調達ラウンドを準備し、増資をシミュレーション・実行できる機能を用意。増資実行後も株主への情報共有やコミュニケーションをサポートする。

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    資金調達ラウンドの計画
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    資本政策のシミュレーション
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    ライブラリの管理

投資家には、投資案件・投資先企業の管理を、抜け漏れの起きやすいスプレッドシートに代えてクラウド上で行えるようにした。スタートアップが自社用の画面で入力したマスターデータを、権限を付与される形で投資家・株主が共有でき、必要な情報を入力する手間なく集計・管理することができる。

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    スタートアップ一覧
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    会社情報
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    資金調達ラウンドへの参加

スマートラウンドでは、今回の資金調達により、商用サービスのローンチと機能改善、利用者拡大と、人材の強化を図る。

スタートアップと投資家に向け、ファイナンス業務の効率化を支援するサービスとしては、投資家向け未上場株の管理ツール「FUNDBOARD」がある。FUNDBOARDを提供するケップルは、2018年4月に3000万円を調達、同年12月には日本経済新聞社と資本業務提携を締結している。

配車サービスのGrabがソフトバンク・ビジョン・ファンドから1630億円超を調達

シンガポールを拠点とするGrab Holdings(グラブ・ホールディングス)は3月6日、ソフトバンク・ビジョン・ファンドから14.6億ドル(約1634億円)の調達を発表した。GrabのシリーズHの資金調達ラウンドの合計調達額は45億ドル(約5035億円)を超える。

同ラウンドのそのほかの出資企業は、トヨタ自動車、オッペンハイマーファンズ、現代自動車グループ、ブッキング・ホールディングス、マイクロソフト、平安保険、ヤマハ発動機など。トヨタは2018年6月にトヨタ本体から10億ドル(約1110億円)を出資したほか、2017年には次世代技術基金(Next Technology Fund)を通じて資金を投入している。

Grabは、東南アジアでUberやLyftのようなオンデマンドの配車サービスを運営している、2012年設立のスタートアップ。自家用車向けにGrabCar、オートバイ向けにGrabBikeの配車サービスを提供するほか、相乗りサービスのGrabHitch、配送サービスのGrabExpressも手がける。決済サービスとしてGrabPayも提供している。2018年3月には、Uberの東南アジア事業を買収するなど勢いが止まらない。

同社は調達した資金で、アクセスや利便性の向上を目指してサービスを拡充。東南アジアにおいて掲げた「スーパーアプリ」のビジョンを推進している。具体的には、金融サービスやフードデリバリー、配送サービス、コンテンツ、デジタルペイメントなどの事業領域の拡充を続けている。今回調達した資金については主に、Grabが2輪車市場の60%、4輪車市場の70%の市場シェアを占めるインドネシアに投下する予定だ。

さらにオープンな「GrabPlatform」を基盤として、オンデマンド・ビデオサービス、デジタルヘルスケア、保険サービス、オンライン予約サービスなども始める。それぞれ、ストリーミングプラットフォームを手がけるシンガポールのHOOQ、総合健康プラットフォームを提供する中国・平安好医生、保険のIT化に取り組む中国・衆安国際、おなじみ「ブッキングドットコム」のブッキング・ホールディングスと連携する。

東南アジアを席巻し、ケタ違いの資金調達を連発しているGrab。配車サービスに留まらず、ここ数年でフードデリバリーやモバイル決済にも進出するなど、猛スピードで事業を拡大している。東南アジアの次はどこに焦点を定めるのだろうか。