WHOがようやく乗り出すヒト遺伝子編集に関するルール作り

米国時間3月19日、WHO(世界保健機関)は新しい諮問委員会の最初の会議を閉会した。人間の遺伝子編集に対する世界的な統制と監督基準を作成するために設立されたものだ。

その委員会は、昨年12月に急遽招集された。昨年、中国の科学者が、CRISPR技術を使って2つの胚の遺伝子を組み換えたことを明らかにしたことを受けたものだ。その研究の目的は、さまざまな形状のHIV(AIDSを発症させる)ウイルスが細胞に感染する際に重大な役割を果たすCCR5遺伝子を除去することだった。

深圳に本拠を置く遺伝学者He Jiankui氏が、結果を公表するやいなや、その研究は中国の内外を問わず、世界中から非難された。

同氏は今、その研究を行った大学敷地内の複合施設内に軟禁されているという。中国政府は、彼の研究が違法であると宣言するために、遅ればせながら行動に出た形だ。

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そしてWHOも、ようやくその技術の使用を規制するための最初の一歩を踏み出した。

「遺伝子編集は、著しい治療効果を示すものですが、倫理的にも医学的にも、いくつかのリスクを抱えています」と、WHO事務局長のTedros Adhanom Ghebreyesus博士は、その声明の中で述べている。

WHOの専門家委員会は、ヒトの遺伝子編集に関する研究を統制するために取るべき最初のステップについて、2日間に渡って徹底的に討議した。そこには、臨床応用に取り組むのは無責任である、という基本合意が含まれている。

また委員会では、ヒトゲノムの編集に関して行われているすべての研究を一元的に登録する仕組みを作ることを、WHOに提言している。進行中のすべての研究を1つのデータベースで管理するというものだ。

「この委員会は、この新しい技術に取り組むすべての人々にとって不可欠なツールとガイダンスを策定し、人間の健康に対する最大の利益と最小のリスクを確実なものとします」と、WHOのチーフサイエンティストであるSoumya Swaminathan博士は、声明の中で述べた。

画像クレジット:VICTOR DE SCHWANBERG

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

世界で初めての遺伝子を編集された赤ちゃん、深圳の病院は関わりを否定

世界初の遺伝子を編集された人間の赤ちゃんという中国生まれのニュースは、月曜日(米国時間11/26)にMIT Technology ReviewAssociated Press(AP通信社)がそのプロジェクトを報じて以降、大騒動になってしまった。とくに中国の外にいる人びとは、その先端的科学の倫理的含意を激しく疑問視した。それは、深圳の大学の中国人研究者Jiankui Heのプロジェクトだ。

この話には、もうひとつの側面がある。

AP通信によると、Heは深圳の病院Shenzhen HarMoniCare Women’s and Children’s Hospitalにそのプロジェクトの開始を承認された。MIT Technology Reviewの記事には、HarMoniCareの医療倫理委員会からHeの研究が承認されたことを述べている文書のリンクがある。

しかし本誌TechCrunchの取材に対してHarMoniCareのスポークスパーソンは、Heの遺伝子テストについては何も知らなかったし、病院は今広まっている文書の正当性を調査している、と言った。これに関し、今後新たな展開があればこの記事を更新したい。

病院のスポークスパーソンはHeのプロジェクトについてこう言った: “確実に言えることとして、遺伝子の編集は当医院で行われていない。赤ちゃんが生まれた場所も、当医院ではない”。

アメリカのライス大学とスタンフォード大学で学んだHeは、深圳のSouthern University of Science and Technology(南方科技大学)で研究チームを率い、MIT Technology Reviewによると、そのチームは遺伝子編集ツールCRISPRを使って、HIVや天然痘、およびコレラに結びついている遺伝子を排除することに取り組んだ。胎児の遺伝子を変えると、その変更は今後の世代にも伝わっていくので、倫理的に危険である。Heの向こう見ずな先走りは、近く香港で行われHeも出席するSecond International Summit on Human Genome Editing(人の遺伝子編集に関する第二回国際サミット)で議論される。

もうひとつ注目すべきは、HarMoniCareが福建省莆田(Putian)から広がった約8000の民間ヘルスケアプロバイダーの広大なネットワーク、莆田ネットワークに属していることだ。ヘルスケアのプロフェショナルのための中国のオンラインコミュニティDXY.cnが作ったリストでは、そうなっている。莆田の病院群はここ数年で中国全土に急速に拡大し、大学生の死亡事故があるまではほとんど政府の監督下になかった。2016年のその事故では21歳のWei Zexiが、莆田の病院でいかがわしい治療を受けたあと、癌で死亡した。またその事故は、中国最大の検索エンジンBaiduに対する激しい抗議を呼び起こした。Baidu上のオンライン広告の、大型広告主のひとつが、莆田の病院なのだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

高栄養価の代替食品でチリから革命を起こすNot Company

食料のグローバル化と工業化によってもたらされる栄養不良、資源不足、公害という三重の危機に出資する機会を味わいたい技術系の投資家たちは、新しい持続可能な資源を謳い、スタートアップに投資している。

この5年間、ベンチャー投資家や投資企業は、全世界で2100件、95億ドル(約1兆550億円)を投資しているが、CB Insightsのデータによれば、すべては食料の従来型の栽培、飼育、生産、加工、流通に置き換わるか、それを補完するものを目指している。

サンディエゴのダウンタウンから22分の、街の南東の隅に本社を置くNot Companyは、そうした巨大な代替食品ビジネスの中に現れた有望な新顔たちとは、ちょっと毛色が違う。CEOのMatias Muchnickと2人の共同創設者は、食品革命の恩恵を中南米に、そしてゆくゆくは全世界にもたらしたいと考えている。

いくつもの企業を立ち上げてきたMuchnickにとって、Not Companyは2つめの食品関連事業だ。その前に創設したのは、植物ベースのドレッシングとマヨネーズを販売するEgglessという会社だ。

Egglessで食品関連事業に参入し、その味を知ったMuchnickは、あることを学んだ。食品業界での研究開発が、じつに原始的で非効率であることだ。

その問題を解決しようと、Muchnickはカリフォルニア大学バークレー校で食品業界について研究を始めた。

「バークレーで、そのデータと科学について学ぼうと生物化学学部に入ろうと決めた」とMuchnickは話す。「しかし薬学のほうが、うまく解決してくれるとわかりました。そこで私は、医薬品業界で今何が起きているのかを調べまくり、それを食品業界で研究しました」

バークレーからハーバードに移ったMuchnickは、恒星内部の動きをデータ科学と機会学習とで探っていた宇宙物理学者のKarim Picharaを引き抜いた。データ科学者を仲間に入れたMuchnickは、次にカリフォルニア大学デイビス校で植物のゲノミクス研究をしていたPable Zamoraを第三の共同創設者に加えた。

こうして、Not Companyのドリームチームが結成された。

Not Companyの共同創設者、Karim Pichara、Matias Muchnick、Pable Zamora。

 

Not Companyの活動の中心は、驚くほど潤沢な資金を持ち、一度はトラブルに陥ったアメリカの競合相手Just(かつてはHampton Creekと呼ばれていた)と同じく、機械学習技術を使い、植物の遺伝子的な類似性をマッピングして、その動物体内での結果を調べることにある。

「レンズ豆でもなんでも、遺伝子をマッピングできます」とMuchnick。「どんな種類の豆も、動物性タンパク質をエミュレートできるかどうかを簡単に調べて予測できます」

3人の創設者は、みなアメリカに住んでいるが、故郷のチリに戻ってビジネスを立ち上げることを決めている。Muchnickにとって、サンティアゴに拠点を置くことは、費用も安く済み、研究者も豊富に揃っているところが強みだった。シリコンバレーから離れているから、それを好む求職者もいる。

「我々は目立つ存在となりました」と彼は言う。

しかし、サンティアゴの拠点は、中南米の市場を支配して、喉から手が出るほど欲しがっている人たちに、健康な食品を届けるというNot Companyの最初の戦略的目的を叶えるものでもあった。

栄養不足の形を変える

Muchnickが故郷に拠点を置いた理由は、中南米に溢れている高カロリー、低コストな食品と戦うためでもある。それが世界の国々の栄養不足の原因であり、そこを改善したい。

この新興市場で、栄養不足の問題がどのように作用しているかを知るには、ネスレ、ゼネラル・ミルズ、ペプシコ、ファストフードのマクドナルドやKFC傘下のヤム・ブランズといった企業の状況の変化を見るとよい。

アメリカやヨーロッパではすでに遍在している大手の栄養不足食品企業は、成長を求めて新興市場に目を向け、低収入層の顧客に合わせた製品やビジネスモデルを売り込んでいる。

そうした企業の製品は安価だが、栄養価値はほとんどない。飢えないだろうが、他の健康上の問題が引き起こされる。

「広く信じられている話です。安い食べ物がどこでも手に入るという、実現しうる最高の世界。深く考えなければ、筋が通っています」と、カナダ・オンタリオ州のゲルフ大学食品経済学教授のAnthony Winsonはニューヨークタイムズに語っている。現実はもっと難しいと、Winsonは言う。「厳しい言葉で言えば、食事に殺される、ということだ」

調査結果がそれを示している。The New England Journal of Medicineの2017年の調査によれば、世界人口のおよそ10パーセントが肥満だという。6億400万人の成人と、1億800万人の子どもだ。そして、新興市場では、人の肥満率が急速に増加している。

栄養不足は、工業化された食品ビジネスが新しい土地に進出したときの副作用に過ぎない。それらの企業は、サプライヤーの工業化も目論んでいるとタイムズは伝えている。それは大規模農場への転換を促し、森林伐採を進める。

こうした問題は、ネスレやゼネラル・ミルズといったお菓子メーカーだけに限らない。ファストフード業界の肉の需要は、新興市場の国々の牧畜の工業化も進め、それが地球温暖化の大きな原因となる。

そのような問題を、環境への悪影響がずっと小さい低コストな食品で 、Muchnickの会社は解決しようとしているのだ。

Not製品

Muchnickたちは、2015年の会社設立以来、数多くの製品を開発してきた。同社の当初の目的は、既存の製品に代わる健康な食品を研究開発して企業にライセンスすることにあった。

「私たちは技術系企業です。食品会社ではありません。他の企業のための研究開発に資金を投入したいのです」とMuchnickは2016年に語っていた。

いろいろな製品を熱心に開発するようになったのは、それからだとMuchnickは言う。

「マヨネーズを作りました。チョコレートを作りました。ミルクを作りました。ソーセージ、バーガー、シュラスコ(ローストビーフみたいなものだが、まずい)などの肉の代替品も」と、製品開発に熱くなっておいたころを振り返ってMuchnickは話す。ついには、ハンプトン・クリークの後を追う形で、Not Companyはマヨネーズの販売に乗り出した。

チリは、世界で3番目に大きなマヨネーズの市場なので、そこで販売を始めたのは理にかなっていたとMuchnickは言う。彼らのロードマップに描かれた、より意欲的な製品よりも、簡単に製造できたという点もある。

Muchnickによれば、店に置かれるようになってわずか8ヶ月で、(あまり大きいわけではないが)チリのマヨネーズ市場の10パーセントを獲得したという。ロードマップの次なる製品は、9月に発売を予定しているミルクの代替品だ。2019年にはNotヨーグルトとNotアイスクリームも登場する。

2020年までには、Not Companyはソーセージとひき肉の代替日も発売すると、彼は言っている。

これらの製品の陰では、PicharaとZamoraが開発した、動物と植物のタンパク質のつながりを探る機械学習ソフトウエア「Guiseppe」(ジュゼッペ)が活躍している。

「私たちは7000種類の植物をマッピングしました。もうこれで十分だと思っています」とMuchinickは話す。「それをアミノ酸構造にマッピングしたところ、動物性タンパク質によく似ていました」

Guiseppeは、7つの異なるデータベースと7つの異なるアプローチを操るとMuchnickは説明する。食品とその材料の分子データ、食品とその材料のスペクトル画像、それに、社内の味覚テスターが収集した、味、食感、後味、刺激、酸味といったデータがある。「山ほどのパラメータがあります」とMuchnickは話している。

ロードマップが完成したことで、同社は市場拡大のための追加投資を受けた。チリ国内だけでなく、中南米全体に打って出る。

Not Companyはこのほど、Kaszek VenturesとSOS Venturesから、工場の拡張のための資金として300万ドル(約3億3300万円)の投資を受けた。

ほんの2年前には、あからさまに否定していた方向への大転換だ。「私たちはブランドカンパニーを目指しています」と今のMuchnickは言う。「Not Companyにはソーシャルカレンシーがあるんです」

それを実現させるには、サプライチェーンの開拓が必要だ。同社はすでに毎月64トンのマヨネーズを生産しているが、ミルクやヨーグルトやアイスクリームや、さらには肉の生産を視野に入れると、工場を拡大し続けなければならない。

「私たちは、現地生産のための工場を建てようと決めました」とMuchnickは話している。「これから、ブラジルとアルゼンチンに製品の輸出を始めます。市場シェアが5パーセントから8パーセントに達したら、現地生産に切り替えることにしています」

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(翻訳:金井哲夫)

23andMeの祖先判定ツールが黒人や黄色人種に対しても詳しくなった

遺伝子検査サービスの23andMeが、これまで大まかだったアフリカ、東アジア、およびアメリカ先住民の子孫たちの祖先判別機能を、より細かくした。とくにアフリカと東アジアに関しては、12の新しい地域を加えた。私が数年前に23andMeを試したときには、71%が西アフリカと言われだけで、具体的にどの国か分からない。それが、今度から変わる。もっとも私はすでに、Ancestryにも調べてもらったんだけどね。

[2017/10月Ancestryの結果]

23andMeのシニアプロダクトマネージャーRobin Smithによると: “今回のアップデートで重要なのは、とくにアフリカとアジアではもっと詳しいデータが得られるようになったことだ。それはAfrican Genetics ProjectGlobal Genetics Projectなどの先行プロジェクトのおかげだ”、という。

これまで23andMeは、サハラ以南のアフリカをわずか三つの地域に分けていた。これからは地域が8つ増え、また東アジアも地域が4つ増えた。

以下が、今回増えた12の地域ないし人種だ:

  1. Southern East African 南東アフリカ
  2. Congolese コンゴ
  3. Coastal West African 沿岸部西アフリカ
  4. Ethiopian & Eritrean エチオピアとエルトリア
  5. Senegambian & Guinean セネガンビアとギニア
  6. Nigerian ナイジェリア
  7. Somali ソマリア
  8. Sudanese スーダン
  9. Chinese Dai 中国傣族
  10. Vietnamese ベトナム
  11. Filipino フィリピン
  12. Indonesian, Thai, Khmer & Myanmar インドネシア, タイ, クメール, ミャンマー

23andMeは2007年にローンチしたが、完全な祖先系統情報の提供までには時間を要した。TechCrunch Disrupt SF 2017で23andMeのCEO Anne Wojcickiは、顧客のほぼ75%がヨーロッパの出自だ、と言った。だからSmithによると、もっとデータが必要なことは十分承知していたのだ。

Smithによると、23andMeでこれまでご先祖チェックをやった顧客には、再テストを勧めている。今回のアップデートは、対象者が、もっとも最新のジェノタイピングチップを装着することが必要だからだ。23andMeの今のチップは第五バージョンで、“世界の多様性をよりよく反映できる”そうだ。

つまり顧客は、新しいキットを買うか、今後予定されているアップデートプログラムに参加するか、どちらかを選ぶ。それ以降は、定期的にチップのアップデートを行い、新しい地域/人種を継続的に加えていくそうだ。

アップグレード: これまで23andMeで遺伝子検査をしてもらって、Ancestry Compositionレポートをもらっている人は、無料で第五バージョンのチップによる検査にアップグレードできる(来年以降)。それ以降のさらに新しいバージョンのチップに関しては、新しい健康情報なども含まれるので、アップグレードは有料になる。

昨年の9月に23andMeはおよそ17億5000万ドルの評価額で2億5000万ドルを調達した。そのときWojcickiは、今後もっと、データの多様性を図りたい、と述べた。

今23andMeは、祖先系統の判別のほかにも各種の健康情報を提供している。2017年の初めにはFDAの許認可により、23andMeは、パーキンソン病やアルツハイマー病など10種類の遺伝子リスク検査ができることになった。また23andMeは、DNAがユーザーの容貌や好みや肉体反応に及ぼしている影響、というお楽しみ情報も教えてくれる。

私も近く23andMeのテストを再受診してみて、結果を読者にお教えしよう。なお、下図は、23andMeの研究者がくれた、私の[アップデート前]と[アップデート後]の検査データだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

古代の絶滅種マストドンのグミ菓子を作ったGeltorは屠殺に依存しない動物性蛋白質を目指す

[筆者: Paul Shapiro](”Clean Meat: How Growing Meat Without Animals Will Revolutionize Dinner and the World“の著者)

古代食といえば、われわれ人類の農業以前の遠い祖先たちが食べていた、と考えられる食物による、一種の食養生や食餌療法を指すことが多い。しかしながら、祖先たちが本当に何を食べていたのか、に関する議論や研究は未だに乏しい。でもシリコンバレーのVCたちが支援するサンリアンドロのスタートアップGeltorにとっては、合成生物学(synthethic biology)が、そのような古代食の、その文字通りの理解〔==本物の古代の食べ物〕を作り出すための手段になった。

人類が初めて北アメリカへ来たとき、われわれが目にしたのは巨大な動物たちがたくさんいる大陸だった。マストトドンが最大の動物だったと思われるが、しかしこれらの、アジア象の牙の長い親戚たちは、ホモ・サピエンスが登場するころまで進化を続けることができず、したがってわれわれの獲物になることもなかった。きわめて急速に、彼らやそのほかのいわゆる大型動物相(megafauna)は絶滅危惧種となり、そして完全に絶滅した。しかし、その消滅した四足獣たちの一部は、氷の墓地に閉じ込められ、その肉体は数千年を経た今でも腐敗変質せずに保存されている。

そして、古代の有機体がみなそうであるように、彼らの肉体にタンパク質がまだあれば、それらはおそらくコラーゲンの形で残っている。それはわれわれの肉体にも豊富にある分子だ。いや、それどころか、人類は今や、遠い昔の動物たちのタンパク質をシークエンシングすることにより、われわれの祖先たちが満喫した巨大生物の、少なくとも分子レベルでの採掘に向かう第一歩を踏み出したばかりなのだ。インターネットに接続できる人なら誰でも、ほんの数秒で、マストドンのタンパク質のシークエンス(アミノ酸配列)に無料でアクセスできる。

そこでGeltorだが、同社は基本的には、発酵を利用してバクテリアのような微生物からコラーゲンを逆行分析(reverse engineer)し、またその副産物としてゼラチンを得ている。パン屋さんのイースト菌がCO2を作ってパンを膨らまし、醸造所のイースト菌がアルコールを作るように、Geltorは微生物を使って本物のコラーゲンのストランドを作り出している。協同ファウンダーのAlex LorestaniとNick Ouzounovが遺伝子コードをプログラミングしてそれを微生物中に植えることにより、目的とするタンパク質を大量に作り始める。

LorestaniとOuzounovは、地球上に現存する動物のDNAシークエンスでこの能力をマスターしたあと、2015年の終わりごろ、彼らの実験を先史時代に適用する決心をした。Geltor はDNAをプリントしてくれる企業に注文して、マストドンのコラーゲンをエンコードしているDNAのバイアルを入手した。それらを確保した二人の科学者は、マストドンのゼラチンの現物を作り出す(微生物利用の)プロセスを開始した。

画像提供: PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Getty Images

LorestaniとOuzounovはグミベアを作ることもできたかもしれないが、しかし二人の協同ファウンダーはEtsyで象の抜き型を買った方がクールだ、と考えた。さすがにマストドンの抜き型は見つからなかったが、ふつうの象さんでも同じだ、と彼らは考えた。グミエレファントで十分じゃないか。すぐさま、彼らのゼラチンに砂糖とペクチンを混ぜ、世界初のマストドンのゼラチン・キャンデー〔いわゆるグミ菓子〕が完成した。その小さなグミエレファントをOuzounovが自分の口に運ぶのを見たLorestaniは思った: “おいおい、人類がマストドンのタンパク質を食べるのは、ものすごく年月が経って、今がやっと初めてだな”。

別の言葉で言えば、それが今日の世界では唯一の、本物の古代食だ。

その後同社は数百万ドルの資金を調達して、化粧品などにも使われている今のふつうの動物のDNAから本物のコラーゲンを作り出す研究開発を開始した。そのコラーゲンを、本物の革に成長させることもできた…もちろん、牛を一頭も使わずに。そして、世界で初めての、実験室で育てた皮革を使った革表紙の本まで作った。

Geltorは、クリーン・アニマル・プロダクトの分野を開拓しているスタートアップたちのグループに属する。それは、本物の動物性食品を、動物を繁殖したり殺したりせずに入手する技術だ。この用語は“クリーン・エナジー”をもじっているが、動物性食品を今の畜産のように資源浪費型で作るのではなく、ずっと少ない資源消費量で得ることに加え、クリーン・ミートやクリーン・ゼラチンは、食べ物の安全性という見地からもずっとクリーンだ。

今日の食肉産業は、つねに病原性大腸菌のリスクにさらされているが、食肉(やゼラチンなどの)の生産を家畜の肥育に依存しないようにすることができれば、真に安全な食品が現実のものになる。また動物から動物性タンパク質を得ることに比べて、それにはありえない、ずっと多様な機能性食品が得られる。

写真提供: Flickr/Mike Licht

“食べ物のコミュニティとしてのわれわれ人間は今、安易に稼働できるタンパク質製造プラットホームに甘んじている”、とLorestaniは彼の見解を述べる。同社は仲間のスタートアップMemphis Meatsとオフィスを共有しているが、こちらは、屠殺からではなく細胞の培養から本物の食肉を育てようとしている。Lorestaniは、彼のトレードマークであるグレーのフーディーで頭と顔を覆ったまま、話を続ける: “多くの場合それは動物の搾取であるだけでなく、豊富な植物にも危機を及ぼしている。人間は大量の動物を作り出す名人だが、しばらくは、それでもよかった。しかし今日では、動物を作物とする農業はわれわれの文明に大きなストレスをもたらしている。しかも、それよりも良いやり方があるのにね。われわれは、そのことを世の中に示したい”。

絶滅した動物のタンパク質を食べることは、古代食愛好家である/ないを問わず、必ずしも万人にとって魅力的ではないだろう。しかし今日の、動物製品の作り方は、われわれの惑星に現在住んでいる種にとってまったく持続可能性がない。もちろん、人間も含めてだ。食肉や、そのほかの動物製品への高い需要が、今日の野生種絶滅の主な要因であることは、今や周知の事実だ。

Geltorのようなフードテック企業の活躍によりわれわれはもうすぐ、もっと安全でエコフレンドリーで人間的な方法で動物製品を食卓に運ぶことが、できるようになるかもしれない。そしてそれはまた、多くの種がかつてのマストドンの道をたどることを、防ぐ方法でもある。

トップ画像: James St. John/Flickr CC BY 2.0のライセンスによる

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

23andMeの消費者直送型がんリスク遺伝子検査キットをFDAが正式認可

遺伝子検査の最強スタートアップ23andMeが今日、さまざまな形のがんに結びついている遺伝子を調べる、消費者直送型のテストキットにFDAの公式の認可が下りたことを発表した。近く発売されるそのキットは処方箋不要で使用でき、卵巣、乳房、および前立腺のがんの高いリスクに結びついているとされるBRCA1とBRCA2遺伝子をテストする。

“初めてのそして唯一の消費者直送型遺伝学企業として、処方箋不要のがんリスク検査にFDAの認可を得たことは、23andMeと消費者の両方にとって大きな前進である”、と同スタートアップのCEO Anne Wojcickiがその発表を告げるプレスリリースで述べている。“一般消費者がこの、自分の生命に関わるかもしれない情報に低料金で直接アクセスできることは、きわめて重要であるとわれわれは信ずる。われわれは今後も継続して、健康情報へのアクセスを拡大する道の開拓者であり続けたい。そしてさらに、ヘルスケアへの消費者の意思による予防医学的アプローチを推進していきたい”。

ただしもちろん、この検査はがんのリスクに関する最終的決定的な結論となるものではなく、また正しい検診に代わるものでもない。遺伝学者のEric TopolがThe Vergeで述べているように、これで検査される三つの遺伝子変種は、知られている数百もの変異体のわずかなパーセンテージでしかない。したがってこの検査には、消費者に虚偽の安心感を与えるおそれがある。

Topolの警告は、FDAが2013年に同社に送った書簡を反映している。その書簡は23andMeに、同社の唾液採取キットとパーソナルゲノムサービス(Personal Genome Service, PGS)を中止するよう、勧告している。

“PGSに意図されている一部の用途がとくに気がかりである”、とFDAは書いている。“たとえばBRCA関連の遺伝子リスクと薬物反応(たとえばワルファリン過敏性、クロピドグレル反応、そしてファイブ・エフユー毒性)の評価は、これら高リスク指標の擬陽性または擬陰性の評価から結果する健康状態の可能性がある”。

遺伝子のその三つの変種はアシュケナージ系ユダヤ人の子孫に多く見られ、その系統の人びとでは40人に一人の割合で検出される。女性では、その変種の一つが存在すると70歳までに乳がんになるリスクが85%高くなる。同社の注記にもあるように、ある研究では、医療履歴を提供したBRCA陽性者の約半数は、近い親戚にがんの履歴がない、と報告している。

というわけで同社のサービスは、ユーザーに赤信号を提供し、今後の検診を勧めるものだ。しかしもちろん、この検査の結果を絶対に、実際に医師を訪ねることと同等、と見なしてはならない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

CRISPRがDNA鎖を切るとき何が起きているのか…分子レベルの3Dアニメーションが完成

CRISPR-Cas9遺伝子編集テクニックは、今日のバイオテクの進歩について知るべき重要な概念だが、それを正しく視覚化することは難しい。それは、分子の鋏(はさみ)のようなものか? DNAはどこにあるのか? それは大きな分子かそれとも小さな分子か? 今回、幸いにもあるグループが、そのプロセスを分子のレベルで見せる3Dアニメーションを作った。

ご覧いただくアニメーションを作ったのは、ロシアのSkoltech Instituteの生物学者たちとVisual Science社だ。ビデオは後者のWebサイトにある:

これは、どれだけ正確なのか? なんと、ほかならぬJennifer Doudnaがこのアニメを賞賛している。彼女は、CRISPRのテクニックを発見して磨き上げた人びとの一人だ:

分子レベルのアニメーションは、複雑な生物学的システムの謎を解き、説明するための必要不可欠な方法だ。驚異的な画像技術と細部への注視により、Visual ScienceとSkoltechはCRISPR-Casプロテインの動的メカニズムを捉え、その研究用ツールとしての用途を示した。

これらのアニメーションは“非営利的教育プロジェクト”の一環として作られているので、ライセンスも、変様も、そしてそのほかの教育的利用も自由である。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

遺伝子検査種目の増えた23andMeが研究開発拡大のため$200Mを調達

複数の情報筋によると、一般消費者向け遺伝子分析サービスの23andMeが、Sequoiaがリードするラウンドにより、2億ドル近い資金を調達している。このラウンドには、Fidelityも参加しているようだ。

ここしばらく、このパーソナル・ジェネティクス企業が研究部門の拡大と新製品開発のために資金を求めている、という噂が漂っていた。

新たに得られたキャッシュによって、23andMeはIPOのプレッシャーからも当面自由になり、成長のための努力に邁進できる。ふつう、どの企業も、上場は最後の資金調達ラウンドから一年以降後に行われることが多い。協同ファウンダーでCEOのAnne WojcickiはIPOにあまり乗り気でないらしいが、そうやって初期の投資家や社員たちに流動性を提供するのが、後期段階のベンチャー支援企業がたどる標準的な道筋だ。しかし23andMeに関しては、大手製薬企業などによる買収、という線もありうる。

23andMeは2013年に、同社の個人に対する遺伝子検査を売り物にすることをやめるよう、FDAに命じられて行き詰まった。それ以降同社は、研究努力に注力してきた。当時FDAは、同社のやり方がFDAの基準に合わない、と言った。その結果23andMeは、新たな顧客たちに遺伝子健康情報を売ることをやめ、別の売上源を探した。

その後同社は医学研究に力を入れ、科学者の雇用を増やし、複数の遺伝子関連企業とパートナーして高度な研究活動を続けた。たとえば女性の受胎能力について研究している遺伝子企業Celmatixは、同社と協働して女性の妊娠能力に影響を及ぼす遺伝子について研究している。

FDAは2015年に規制をやや緩め、ブルーム症候群のための遺伝子検査を認めた。そして今年初めには、唾液検査が許される疾病リスクが、後発性アルツハイマー病やパーキンソン病など、10種類に増えた。少なくとも一つの情報筋によれば、今同社は、乳がん関連の遺伝子BRCA-1とBRCA-2も検査に加えられるよう認可を求めている。認可が下りれば、同社はColor Genomicsなどと競合することになる。

23andMeはほかにも、たとえば家系調査のための遺伝子検査企業Ancestry.comなどとも競合している。

FidelityとSequoiaにコメントを求めているが、Sequoiaはコメントを断(ことわ)った。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

遺伝子検査のColorが、これまでのガン検査に加えて心臓血管も検査対象に

ガンと心臓病は、米国における主要な2つの死因だ。これまでのところ、Color Genomicsは、特定のガンに対する高いリスクにつながっている、遺伝子の突然変異検査に焦点を当ててきた。しかし、本日よりこの創業4年の会社は、心臓血管の健康検査のために、遺伝子検査の新しいカテゴリーを導入する。

新しいColor Hereditary High Cholesterol Test(遺伝性高コレステロールテスト)は、冠状動脈性心疾患につながる、高いコレステロールレベルを引き起こす遺伝的状態である家族性高コレステロール血症(FH)と呼ばれる遺伝子変異を特定する。

世界中では約3400万人の人びとが、この病気の影響を受けている可能性がある。高コレステロールの50人中1人はこの突然変異を持っている。問題は何か?遺伝子突然変異を持つほとんどの人は、致命的になる可能性のある心臓発作を起こすまで、自分自身がそれを持っていることを知らないのだ

ガン検査と同様に、早期に突然変異を検出することで、疾患を予防し、生存率を改善し、医療費を削減することができる。そして、そここそがColorが新しいテストで支援しようとしているところだ。

Colorのマーケティング責任者であるKatie Jacobs StantonはTechCrunchに対し「私たちがまずガン検査から始めたのは、それが主たる死因の1つだったからということと、遺伝とガンの関係の科学が良く確立されていたためです」と語った。「同様に、遺伝学心血管疾患に関する確立された科学もあります…心臓血管疾患も主要な死因であること(そしてガンと合わせると1兆1000億ドルを超えるコストがかかっていること)を考えると、これから私たちは遺伝的な心臓疾患状態の進行リスクを人びとに知ってもらい、心臓の健康状態を積極的に管理できるようにしてもらうお手伝いができると考えています」。

23andMeのような自宅で行える遺伝子検査とは異なり、この検査は医師を通して依頼を行う。新規顧客向けのテストの価格は249ドルだ。しかし、既にColorのガン検査を受けた人は、この心臓血管検査を150ドルの追加で購入することができる。

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(翻訳:Sako)

米国の科学者たちがCRISPRを使い、人間の胚から遺伝性心臓疾患の要因を取り除いた

先週、米国の科学者グループが、初めてヒト胚に対してCRISPRを行なったという報告が出てから、様々な憶測が渦巻いた。その最初の研究成果が公表されたが、その発見は極めて驚くべきものだ。

オレゴン健康科学大学のShoukhrat Mitalipovと彼の同僚は、CRISPR Cas9遺伝子編集技術を用いて、胚の中の遺伝性の心臓変異の要因を取り除いたのだ。

これまで、CRISPRを人間に使用した研究の報告はいずれも国外からのものであり、その結果はいずれも良好なものではなかった。中国はこの技術を人間に使用することについて特に大胆だった。中国の科学者たちは、2015年に人間の胚にCRISPRを用いた同様の実験を行ったが、これらの胚への適用は、DNAへの変更が一部の細胞だけに適用された際に見られる「モザイク現象」という標的外遺伝子変異(off-target genetic mutations)の結果に終わったと言われている。この問題は、この技術の人間に対する使用に関する、国際的な倫理的議論を呼び起こした。

そして、畏れを知らない四川大学の科学者たちは、今度は完全に成長した成人を対象にして、悪性の癌の治療に対するCRISPRの使用を試みている。

しかし、オレゴンの実験における胚の結果は、遥かに優れているようだ。

「この結果は、アプローチが効果的であり、CRISPR-Cas9の対象選択が非常に正確であることを示していて、安全上の懸念に関するいくつかの裏付けを提供するものである。さらには、標的外変異(off-target mutations)の形跡もなかった。これらの知見が示すものは、このアプローチは、着床前遺伝子診断(PGD)と組み合わせることにより、胚の中の遺伝性変異の修正への応用の可能性があるということである」。本日(米国時間8月2日)出版されたNatureの中では、科学的発見がこのように述べられている。

Mitalipovと彼の同僚たちは、Cas9酵素(DNA断片に対してハサミのように働く酵素)を精子と卵子に同時に注入することで、中国の科学者たちが既に犯していたミスを回避することができた。どの位の数の胚を上手く扱うことができたのかは不明だが(問い合わせ中)、この手法は上手く行ったようだ。

このリリースによれば「標的外変異はなかった」ということだ。

しかし、CRISPRを用いた生殖細胞系編集の実践は、依然として激しい論争の的だ。昨年、米国議会は、臨床試験で胚を編集するために、CRISPRを使用することを禁じた。オレゴンのチームは、議会による禁止にもかかわらず、胚を数日間成長させただけで、この発見をすることができた。彼らは、胚を子宮内に移植することや、人間の赤ちゃんに成長させることは決して意図していなかった。

しかし、多くの科学者たちは、モザイク現象への懸念を超えて、生殖細胞系編集そのものを非倫理的とみなし、デザイナーベイビーの誕生につながる可能性があると主張している。

そしてその対極には、赤ん坊が最初の呼吸をする前に、致命的な疾患を消し去ることができる可能性がある。Mitalipovの研究室で取り除かれた心臓疾患である、肥大性心筋症(HCM)は500人に1人の割合で影響を及ぼしている。

これらの初期結果に続く、CRISPRを用いた実験を、米国内でさらに見ることができるだろうか?それは分からない。しかし、この研究が有望であり、ハクスリーの「すばらしい新世界」(Brave New World)にさらに近付くものであることは間違いない。

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(翻訳:Sako)

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CRISPRで改変された人間の胚が実験室で作られた、だがデザイナーベイビーへの道はまだ遠い

今週の初め、科学者たちが、ヒトの胚を米国内で初めてCRISPR技術を使って改変したという発表で私たちを驚かせた。だが、デザイナーベイビーの誕生まであと1歩というところまで来ていると考えるのは早計だ。

もちろん私たちはそれを行なうことはできる。しかし科学界の大部分はそうした仕事には反対の立場だ。オレゴン健康科学大学のShoukhrat Mitalipovが率いるチームは、CRISPRを施された人間の胚をほんの数日の間だけ成長させたが、それを完全な人間の胎児にまで育てる意図は全く持っていなかった。

もちろんそれは、そうした実践を人間に対して許すことに対して、議論の余地がとても大きいからだ。中国の科学者たちは、2015年に胚に対して同様の実験を行ったが、世界中の科学コミュニティの怒りを買い、その結果CRISPR技術の人間の胚への適用が、国際的に中止されることになった。

しかしその中止の合意をを無視して、中国の研究者たちはさらに2回実験を進めた。とは言え、これらの実験の結果ははかばかしいものではなく、この技術を人間に使用するのは、こうしたやり方ではないという議論に、一層油を注ぐ結果となった。

米政府関係者らは、CRISPR技術を国家安全に対する脅威だと呼んでいる。なぜなら、その簡便さと技術の急速な進歩によって、科学者たちがハサミのように振る舞う酵素をプログラミングした上で、DNAの任意の区画を切り取ることができるようになるからだ。

このプロセスは、生殖細胞系編集や、個体の遺伝的構成の変更に利用され、個体の子孫たちに病的遺伝子が受け渡されないようにすることができる。

批評家たちは、CRISPRはデザイナーベイビーを作ることに利用できると警告を発している。そこで描き出される暗い未来は、富裕層は着床まえに胚の遺伝的欠陥を全て取り除くことができる一方、貧困層は遺伝的に不利な立場に置かれ続けるというものだ。

多くの科学者は、生殖細胞系編集は非倫理的であると考えている。なぜなら永続的な変更の決定は、1人の個人の遺伝子構成に関わるわけではなく、その人間に連なる全ての子孫たちの遺伝子構成にも、許可なく影響を与えてしまうからだ。

しかし私たちが映画「ガタカ」の世界に近付く道のりはまだ遠い。1つには、上で述べたように科学界は人間に対する(特に胚に対する)CRISPRの適用には慎重だからだ。また別の理由として、仮に私たちがその適用を人間に許すとしても、おそらく致死的な病気の治療と根絶に対して用いられることになるからだ。

この技術はまた、数日程度の限られた日数を越えて、胚の移植と育成も行なう必要がある。私たちが知る限り、中国人もしくはアメリカ人を問わず、これを成し遂げられた科学者はいない。

もう一つの考慮すべき点は、人間に対するCRISPRに関する特許を誰が所有しているのかということだ。現段階では、特許を所有しているのはブロード研究所(MITとハーバード大学)だが、今週バークレー大が、ブロード研究所に対して有利に下された裁判所の判決に異議を申し立てた。バークレーが当初取得していた特許はこのテクノロジーの幅広い適用を許すものであり、ブロード研究所は人間への適用のための独立した特許を所有してはいないという主張だ。

こうした法的および倫理的なハードルを考えれば、将来誰かがアインシュタインの頭脳を持つスーパーモデルベイビーを作ることを考える前に、解決しなければならないことが山ほどあることは明らかだ。

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(翻訳:Sako)

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科学者たちが馬のGIFを生きている細菌に書き込んだーーえっ、何の話をしているの?

Natureに掲載された新しい研究によれば、ハーバード大のある科学者グループが、生きている細菌(正確には大腸菌)に、GIFを保存することに成功したということだ。そうあの動画のGIFだ。

それは、とても奇妙なアイデアだが、科学者たちはこれまでも時折、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)という名で知られる、驚異の遺伝学ツールを用いてデータ保存トリックをやって見せて来ていた。

CRISPR(やや詳しい解説はここ)は、様々な野心的なものを可能にし、人びとを興奮させてきた。そうした発見は、しばしば遺伝学者や医学研究者たちによって行われてきたが、このハーバード大の実験のように、広大な未開拓な医学の世界をさらに超えたところでCRISPRの有用性を示してきた者たちもいる。

非常に簡単に述べるなら、CRISPR関連タンパク質(この例では、Cas1およびCas2として知られるタンパク質)が、コンピューターのCtrl-X(カット機能)ツールのDNA版として働き、科学者たちが特定のDNAの部分を特定して切り取ったり、変更したり、置き換えたりすることが可能になる。

簡単ではあるものの、その動的な性質により、この歴史的な馬をエンコードすることは、単に静的な画像を生きている最近に貼り付けることよりも、更に独特な課題を突きつけた(研究チームは静的な画像の貼り付けも行っている)。Cas1とCas2のシーケンシング能力を利用することで、研究者はGIFをフレーム毎に時間順にエンコードし、そのあとデータを抽出し90%の正確さで再現することができている。

論文では次のように述べられている:

「このシステムを利用することで、任意の情報をゲノムに書き込める可能性がある。ここでは、CRISPR-Casシステムを使用して、白黒画像のピクセル値と短いムービーを、生きた細菌集団のゲノムにエンコードする。それを行なうことで、我々はこの情報ストレージシステムの技術的限界に挑戦し、その限界を最小限に抑えるための戦略を最適化する」

注目すべきことに、この細菌集団は、その書き込まれたデータには全く影響されることなく増殖を続け、遺伝物質を介してデータを未来の世代に引き渡し続けた。

これは分子規模のものだが、そのアイディアは巨大だ。主眼は私たちの休暇の写真を保存するコンピューターのハードドライブのスケールアップではない(そうすることも可能だが)。

インタビューでは、第1著者であるSeth Shipmanが、これは細胞が細胞自身の生存記録などを残すことができるような未来を描き出すための、コンセプトの実証であることを示唆している。その記録は、その細胞が時間の経過とともに、どのように行動してきたか、またはその環境内でどのように相互作用しているかを知りたい者なら、誰でもアクセスして再生することができるかもしれない。

もしその細胞がニューロンである場合、人間の脳に記録することのできる洞察の可能性は、研究者たちが215ペタバイトのデータを1グラムのDNAに詰め込んだもののように膨大なものになるだろう。もしそれでも感心しないなら、科学者たちは同じテクニックを使って、これまで人類が生成したすべてのデータを1つの部屋に理論上は保存することもできる。

「DNAはデータを保存するためのとても優れた媒体である」と研究者らは書いている。冗談抜きだ。

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(翻訳:Sako)

遺伝子編集でマンモスを再生する研究にハーバード大学が取り組んでいる、それらしき胚ができるのも近い

ST. PETER-ORDING, GERMANY - MAY 31:  Two replicas of mammoths are seen during the "Giganten Der Eizeit" exhibition opening on May 31, 2011 in St. Peter-Ording, Germany. Europes biggest ice age exhibition opens on 3rd of June.  (Photo by Krafft Angerer/Getty Images)

マンモスはとっくに絶滅したけど、でも、もしかしたら戻ってくるかもしれない。ただしそれは、象の遺伝子を編集してマンモスの形質を持たせる、というお話なのだ。今週行われたAmerican Association for the Advancement of Scienceの今年の年次大会で、ハーバード大学の研究者たちが、その研究の進捗状況を発表した。チームリーダーのGeorge Church教授によると、その進捗は意外と早かったそうだ。

4000年前に絶滅したとされるマンモスを再生する話は、これまでもあった。とくに、遺伝子編集技術の進歩を語るときには、よく持ち出される例だ。Churchのチームも、実は遺伝子編集技術CRISPR Cas-9を使って、象のゲノムの遺伝子にマンモスの形質…長い体毛や厚い皮下脂肪の層、そのほかの寒季耐性特性などを導入しようとしている。

研究者たちは、あと2年ぐらいでマンモスふうの象の胚を作れる、と言っている。The Guardianによるとそれは、一般大衆が絶滅種の再生という言葉に期待するものとは違って、実際には、マンモスの復活というよりもむしろ、何か新しいものだ。

しかも胚は、まだ実際の動物ではない。発生して、胎児、新生児、と育っていく胚はまだ得られていない。チームは、それまでには多くの年月を要する、と気の長い話をしている。現段階の研究は、発生の複雑な段階を、少しずつでも前進した有機体が得られるような、編集技術にフォーカスしている。最初それは細胞だったが、今やっと胚の段階に来ているのだ。

チームの話の中で興味深いのは、この研究からアジア象の保全のための知見がいくつか得られるかもしれない、という点だ。アジア象も、今は絶滅危惧種だ。また、彼らの研究からは、地球温暖化に抗してツンドラの溶解を防ぐための、永久凍土層の曝気技術が見つかるかもしれない。

もちろんこのような研究には、倫理の方面からの批判もある。生きるために社会を必要とする種を個体として再生することの意味。そして、遠い昔の動物を再生することよりも、今人間の介入によって危険に瀕している種の保全に、そのぶんのリソースを回すべきではないか。などなど。

しかしこのプロジェクトは、科学的にはすごくおもしろいし、研究が中断されることもないだろう。倫理的懸念は、確かにあるとしても。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

この遺伝子操作を受けたサイボーグトンボは「誘導受粉」に使うこともできるだろう

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今や私たちは、サイボーグ昆虫の話を聴いた位では驚くことはなくなってしまった。なにしろキットを注文することだってできるのだ!しかし、そうした中でもこのサイボーグ昆虫はとりわけ興味深い。このトンボは遺伝的な改造を受けた上に、爪の大きさほどの太陽電池付きバックパックを装着され、プログラムされたコースに従って飛行する。

この分野でこれまで行われていた実験は、一般的に次に示す2つのうちのいずれかの方法をとっていた。1つは、動く方向だけを指示し、それ以外は自由に動くような、高いレベルの駆動刺激を生体に与えるやりかた。もう1つは脚自身の筋肉または神経を刺激することによって、直接的な動きを活性化するやりかたである。最初のケースでは、やがて昆虫はそれらの刺激に慣れてしまい、最終的には無視するようになってしまう。2番めのやり方では、効率的な自然の動きが、ぎこちない人工の動作に置き換えられてしまう。

ドレイパー研究所およびハワード・ヒューズ医学研究所が連携して生み出したDragonflEyeが採用したのはこれらの中間的な道だ。

トンボの中にはいくつかの介在ニューロン(interneurons)が存在している。これはメッセージを伝達する役割を担うニューロンで、感覚や運動を直接司るものではない。介在ニューロンは、翅に対して高レベルの方向変換命令を伝えている。これらに直接刺激を与えることで、研究者たちは昆虫がインパルスに慣れてしまうことや、個々の翅を正確にどのように動かせば良いかを心配する必要がなくなる。

しかしそこにはまだ問題が残されていた。ニューロンを刺激するのに電気パルスを用いるのは少々乱暴なやり方なのだ。そこでトンボは、そのニューロンへ、オプシン(opsin)と呼ばれる感光性タンパク質を付与する遺伝子を与えられた。これによって、対象となるニューロンが特定の波長の光で活性化されるだけでなく、オプトロード(光化学センサーの総称)と呼ばれるインターフェイスから光を送ることも可能になる。さらに、別の遺伝子操作によって、対象ニューロンは活性化時に本当に発光するようになっている。このためオプトロードは飛行経路に影響を与え、同時にモニタリングを行うことができる。

dragonfleye2これに超軽量の太陽電池とナビゲーションシステム(ドレイパー研究所はその詳細については公表していない)を加えれば、1グラムを切る重さのトンボ制御システムのできあがりだ。

この手法は「誘導受粉、物体の配送、偵察、さらに高精度の投薬や診断にも利用できる」とドレイパー研究所は示唆している。

「DragonflEyeは、 人工装置の何よりも、小さくて軽くステルスな、全く新しいマイクロ飛行装置の一種です」と、ドレーパーニュースの中で語るのは、プロジェクトの主任研究者Jesse J. Wheelerである。「1匹の昆虫が着用できるほどシステムを十分に小さくするために、エネルギー獲得、モーションセンシング、アルゴリズム、そして小型化技術と光遺伝学の限界を押し広げることに挑戦しています」。

なお、他の多くの技術的詳細がWheelerによって、IEEE Spectrumのインタビューで紹介されている。

この10億年以上に渡って自然によって形作られてきたものに、わたしたちのナノ・マイクロマシン技術が少しでも近付けるようになるまでは、自然が生み出したものに私たちの苦労を肩代わりして貰うことの方が、自分たちでなんとかしようとするよりも良いオプションのように思える。

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(翻訳:Sako)

ゲノム学がもたらす遺伝子情報革命

DNA microarray, computer artwork. DNA (deoxyribonucleic acid) microarray technology allows biologists to study thousands of genes at once. An array of DNA sequences for a particular set of genes is created, fixed to a supporting slide or chip. Samples of genetic material are then labelled with fluorescent markers and added to the chip. The genetic material in the samples binds to sites on the array which have a matching (complementary) sequence, producing a pattern for analysis The double helix structure of DNA that enables the complementary binding. It comprises a sugar-phosphate backbone and paired bases.

【編集部注】著者のMahni GhorashiはClear Labsの共同創業者である。彼はそこで戦略、マーケティングおよび事業開発を含む商業活動を統括している。共著者のGaurav GargはWing Venture Capitalの創業パートナーである。

私たちは、全ゲノムシーケンシング(WGS)の歴史の、新たな段階に入った。トロント大学の研究者たちが、年に1万人分の全ゲノム配列を決定する大規模なプロジェクトを立ち上げたことを考えて欲しい。最初の1人分のゲノムの配列を解析するのに13年の年月と30億ドルのコストがかかったことを考えると、これは本当に驚くべきことだ。2012年の段階ですら、わずかに69人分の全ゲノム配列が決定されていただけなのだ。

最初にWGSが患者の治療の際の参考として用いられた2010年から、私たちはWGSを医療のパーソナライズのために利用してきた。

今では私たちの公的および私的レファレンスデータベースが成長し、より多くのゲノムデータにアクセスできるようになったことで、WGSの潜在能力を最大限に発揮するための機械学習の利用が始まろうとしている。機械学習能力と利用可能な処理能力の増加は、遺伝子研究だけでなく、多くの産業にまたがるゲノム学の幅広い応用を促進している。私たちは今まさに、農業と食品の安全性のような他の産業分野で、次世代シーケンシング(NGS)のような最先端WGS技術が始まっているのを目撃している。

特に機械学習のような技術的治療法と組み合わせるに当たり、応用科学としてのWGSの重要性をより深く理解し、今後数年間にWGSが様々な産業をいかに迅速に変えていくかをよりよく理解するために、基本的なシーケンシングと分析技術がどのように発展して来たかを理解しておくことは役に立つだろう。

WGSの簡単な歴史

WGSとヒトDNAの研究を関連付けることが普通になっているが、もちろんWGSは、あらゆる生物の完全なDNA配列を明らかにするために利用できる実験室プロセスだ。実際その全ゲノム配列が決定された最初の生物はヒトの気道に生息するインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)であった(なおインフルエンザ菌はその名前に関わらずインフルエンザの真の原因ではない)。 このブレークスルーは1995年に達成された。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のゲノム配列が研究者たちの手で解析されたのは、丸5年後の2000年のことだ。

ヒトゲノム計画プロジェクトがヒトゲノムの全配列を発表したのは、3年後の2003年だった。科学の歴史の中で、他の最も重要なブレークスルーたちと比べても引けをとらないこの重大な成果には、およそ30億ドルの費用と13年の超人的労力が必要とされた。

2005年に次世代シーケンシング(NGS)が導入されるまで、WGSの商業化には多くの疑問が残されていた。NGSとは、従来のサンガーシーケンシング技術の大部分を置き換える、様々なシーケンシング技術を総称する用語である。

WGSが示す可能性は、人間の健康の未来に大きな影響を与える。

Illumina、Roche、Life Technologiesなど多くの企業で開発されたこれらの技術は、DNAとRNAのシーケンシングの時間とコストを大幅に削減し、ゲノム学と分子生物学の研究と応用に革命をもたらした。この1年ほどの動きを見ると、私たちは間もなく1人の人間の全ゲノムを1000ドルで解析することができそうだ。実際Veritas Genetics1000ドル以下で人間のゲノムの配列を決定し、解析し、解釈できた初の企業として賞賛されている

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出典:米国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute)

1000ドルという数字自体には大きな意味はない。本当に重要なことは、私たちは今や、例えばトロント大学で構築されているデータベースのような、研究者が必要とする大規模なデータベースを構築するために、人間のゲノムの配列を素早く安価に決定することができるということだ。こうしたデータベースを用いることによって、複雑な疾病をより良く理解することができ、遺伝子がお互いにどのように関係しているのか、遺伝子が環境の変化にどのように反応しているのかを知ることができる。

配列決定は、最初の一歩にすぎない:現代のゲノム学におけるデータ科学の役割

NGSの導入以来、WGSの時間とコストの削減は、主にコンピュータエンジニアリングの問題となっている。ヒトゲノムの生データを医学的に有用かつ理解可能な情報に変換することは、歴史的に見て大きな技術的ボトルネックだったが、過去10年にわたって、実験室の技術ではなく計算の進歩が、WGSに関わる時間とコストを最大に削減してきた。ムーアの法則は死んだかも知れないが、光学コンピューティングがゲノム処理を改善し続けている。

例えば、カンザスシティのChildren’s Mercy病院は、2015年に行われた遺伝子疾患の緊急管理に関する研究の中で、完全な解析を含む完全ゲノム配列を使用したことを詳細に報告している。LlluminaのHiSeqマシン、そしてEdico GenomeのDRAGENプロセッサとカスタマイズされたソフトウェアを用いて、病院のチームはわずか26時間で配列を決定し解析したのだ。DRAGENプロセッサだけでも、解析時間は15時間から40分に短縮された。

さてここで言う解析とは何だろう。まず初めに、第1、第2および第3の解析が区別される。今日の近代的なシーケンサーは、生の化学的および物理的サンプルを、最初の生の配列データへと変換する。この最初の変換プロセスを、私たちは1次解析と呼ぶ。

私たちはデータを取り込むが、そのままでは分かりにくい。

2次解析は、ゲノムを組み立てるプロセスだ。10億ピースのジグソーパズルを解こうとしていると想像して欲しい。シーケンサーは全ての塩基対を示すが、それらは正しい順序では並んでいない。想像できるように、これは計算集約型のプロセスだ。2次解析の最終結果は、全ゲノムに相関したデータとなる。

例えばある疾病に対する突然変異を特定するといった、遺伝子データから意味を抽出するためには、3次解析が必要となる。ゲノム学の応用が始まるのはここからだ。これは無数のソフトウェア・ソリューションが考えられるビッグデータ問題でもある。

将来の技術革新のための最も肥沃な土地は、全ゲノムから意味を抽出するための新しい方法とワークフローを工夫する場所に広がっている。私たちはデータを取り込むが、そのままでは分かりにくい。

健康に対するWGSの未来

WGSは、ヘルスケアシステムの運営方法、そして消費者が自身の健康を管理する方法の両面で、人間の健康の未来に大きな影響を与える。

制度のレベルで考えた場合、ゲノム学の力は納税者たちや為政者に、人びとの健康を増進する上で興味深い役割を果たす。ほとんどのヘルスケア提供者は依然として、愁訴データおよび電子カルテにある治療履歴情報にほぼ依存している。こうした履歴情報は、本来予防可能な慢性疾患を既に発症している人びとの10から15%を教えてくれるものの、残りの人びとの中で、発症の条件が高まっているリスクに瀕している人に関しては、何も教えてくれない。ゲノム学は、特定の疾患を発症するリスクが高い人の特定を助け、早期に介入できるようにする。

消費者レベルでは、パーソナライズ医療が引き続きWGSの主要な焦点になる。特に、人間の遺伝的変異の大部分が未だ解釈されていないことを思えば、やるべきことはまだまだ沢山ある。私たちは、他の参照ゲノムと比較することで、個人の遺伝子データから意味を抽出することができる。そしてより多くの参照ゲノムを扱えば扱うほど、私たちのソフトウェアとプロセスも改善されて行く。遺伝子データの巨大なデータベースを構築するための計画が、この仕事の将来にとっての基礎なのだ。

この研究が切り拓く、他のヘルスケア上の応用も考えられる。最も興味深いものの一つは、個々人の微生物叢構成の理解に基づく高精度の栄養管理だ。いわゆる善玉菌(さらには善玉菌によい食物)は、固有の微生物叢に基づく大きな影響を個人に及ぼすことができる。パーソナライズ医療が既存のNGS手法から現れたように、個人向けの最適化された栄養管理を行うための、人間の微生物叢を分析する新しい実験的NGS手法の出現が期待できる。

WGSによる可能性のスペクトルは、医師のオフィスから在宅ケアをカバーする幅広い医療に影響を持っている。

健康を超えて

NGSと高性能コンピューティングの革新がゲノムシーケンシング全体のコストを引き下げ続けているため、ゲノムのデータと洞察は、医療や医薬品以外の産業にも変革をもたらす。

農業ゲノム学は、シーケンシングと解析の革新によって拓かれつつある新興市場の1つだ。例えばDe novoシーケンシング法は、位置合わせのために利用可能な参照シーケンスがない場合でも、新たなゲノムを配列決定することができる革新的なNGS技術だ。農業ゲノム学研究者はすでに植物または動物の遺伝的変異を発見し、機能と環境との相互作用の遺伝的基盤を明らかにするためにDe novoシーケンシング法を用いて、ゲノムの組み立てを行っている

DNAを用いてデータを保存する実験を始めている研究者たちもいる。昨年の初め、Microsoftとワシントン大学の研究者らは、200MBのデータを合成DNA上へエンコードし、それを再び読み出してみせた。実はDNAは、究極の記憶媒体だ。耐久性が高くコンパクトだというのがその理由だ。全世界のデータを1キロのDNAでエンコードできると考える専門家もいる。

遺伝子情報革命

ゲノム学が約束する未来は、まだ現れ始めたばかりだ。私たちはシーケンシングと解析技術がもたらす、遺伝子情報革命の最先端にいる。

WGSは、私達の世界全体を、分子レベルで理解するための扉を開いた。こうした情報に恵まれた私たちは、私たち自身並びに自然界との対話方法を、単に理解するだけではなく、影響を与え最適化するようになるだろう。

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

CRISPR-Cas9の特許権を巡る口頭弁論、いよいよ来月開始

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驚異の遺伝子編集技術であるCRISPR-Cas9の特許権の所在を巡る、口頭弁論の始まる日程が決定した。

バークレーのJennifer Doudnaと彼女の同僚でマックス・プランク研究所のEmmanuelle Charpentierは12月6日に裁判所へ出廷、MITのFeng Zhangと対峙する。彼女たちは米国特許商標庁の3人の審査員の前で、なぜZhangではなく自分たちが特許権を持つにふさわしいか、その論拠を提示する予定だ。その特許は、すべての遺伝性疾患を根こそぎ根絶できる可能性を秘めている。

CRISPRに関しては幾つかの特許が存在しており、MITはそれらにおける最大のシェアを誇っている。しかし、DoudnaとCharpentierはそのうちの特定の特許に対してのクレジットを主張しており、それは彼女の示した、CRISPR Cas9システムを使えばバクテリアのDNAを編集できるという成果に基づいたものだ。

しかし、MITによると、Zhangはその一歩先を行き、ヒト細胞においてDNA編集が可能であることを示した。

Doudnaと彼女のチームによると、それは論理的な帰結であり、それ自体が彼女の仕事に基づいたもので、その特許の根拠となる彼女の思いついたアイディアから十分に異なっているとは言えない、と主張している。

これまで血なまぐさい争いが続いており、そこには何千万ドルもの費用がつぎ込まれてきたが、この抗争の決着がつくのには、まだ何年もかかるかもしれない。

しかし、この争いに関しては単に業績のクレジットがかかっているだけではない。 CRISPRは、産業界全体を変革させる可能性を秘めており、CRISPRを使うことで、ガン、糖尿病、パーキンソン病および他の多くの衰弱性疾患を、それが遺伝性疾患である限り、一掃できる可能性があるのだ 。そしてその技術のライセンス権を保有する人にとって、それは数十億ドルの価値があるのだ。

これらの訴訟を行う命令は4ページの手紙として11月5日付けで発表され、それについてはここで読むことができる。訴訟は一般に公開され、バージニア州・アレクサンドリアに拠点を置く審査員たち(訳注、アレクサンドリアは米国特許商標庁の所在地)がそれぞれの当事者を尋問し、主張の整合性を詳しくチェックすることになる。
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(翻訳:Tsubouchi)

ゲノム配列を読んで、しかも謝礼が貰える遺伝解析スタートアップGenos

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最初のヒトゲノム配列の決定には、驚異の27億ドルがかかった。しかも、遺伝子疾患に関してそれが飛躍的な進展につながる兆しもなかった。幸いに、それ以来ゲノム配列決定のコストは劇的に低下し、新しいタイプの消費者向けの遺伝子解析スタートアップが登場し、個人のDNA二重鎖配列を詳細に決定する業務を請け負うようになる。

Genosはそのようなスタートアップの一つで、次世代シークエンシング技術を使い、個人の遺伝情報の詳細を明らかにし、クラウドソーシングによって集めた遺伝マップを研究者に提供することにより遺伝子疾患の原因解明に寄与することを目的とする。

同社によれば、近い将来個人の全ゲノム配列を読む計画だが、現在はまずエキソームを読むサービスを開始する予定だ。エキソームとは、ゲノム中でタンパク質に翻訳される領域の全遺伝子のことだ。エキソームは稀な遺伝的変異によって生じる遺伝子疾患の同定に極めて重要だ。

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よって、SNP(いわゆるsnips)形式と比較して、得られる情報量は膨大で、個人の遺伝情報の極めて細かい部分までが取得される。

23andMeは最近、この手の次世代シークエンシングサービスを中止したが、創始者のAnne Wojcickiは先週開催されたWSJD Live conferenceで、その技術を「ホットで、きらびやかなもの」と呼んだ。しかし彼女は「得られる情報のすべてを処理するのは極めて複雑」と言い、同社はその結果に関して曖昧な点を残したくないと考えている、と付け加えた。

次世代シークエンシングを使えば、例えば、あなたがある種の乳がんにかかる危険が僅かにある、といったことが判る。しかし、Wojcickiが指摘した通り、その情報を使ってすることがあるにしても、一体何をする必要があるのか、という点を明確にすることは困難だ。

しかしながら、このレベルの詳細なデータを提供することに取り組む企業は、その気になればたくさん見つかる。Genos同様に、Color GenomicsHelix、Veritasはみんな、この新しくより進歩的な塩基配列決定テクニックに賭けており、この手法を使って有用な情報を掘り出し、我々が病気にかかる可能性についてよりよく理解するための情報を提供しようとしている。

これらの新規の遺伝情報解析のスタートアップはデータ収集とその実装の為に独自のアプローチを採っている。Genosの場合は、参加者それぞれが研究のプロセスを援助することを奨励することで遺伝マップの作成を行っている。同様に、23andMeや他のスタートアップも、ある程度は参加者に任意で質問に答えてもらったりある種の研究への参加の了解を取り付けたりしている。しかし、Genosの場合は、参加者一律に同意書へのサインを要請する代わりに、毎回情報提供の報酬として参加者にインセンティブを与える計画だ。

その方法で経済的にうまく行くのだろうか。その部分に関しては明確ではない。Genosがいくら払うかについては現時点で議論の余地があるが、同社によれば今から数ヶ月後、そのサービスが公式にローンチされる日が近づけば明らかにされる予定だ。対照的に現在、遺伝解析関連企業の多くは任意で得ている情報に対して報酬を支払っていない点は注目に値する。

その間、Genosは前述のサービスのローンチへの動きを加速し、ガン発見の為のプラットホームであるNantOmicsから600万ドルの戦略的投資を調達した。同社の諮問委員の中には以下の著名人が含まれる。George Churchはヒトゲノム計画の始動を助けたゲノム研究のリーダーであり、Alvin E. Rothはノーベル経済学賞受賞者、Mina RadhakrishnanはUberの幹部を務めた後、現在Redpoint VenturesのEIRである。

他のゲノミクスのスタートアップはより多くの資金を集めており、製品の展開においてはずっと先を行っているが、Genosの、謝礼を支払って情報を収集する、というアプローチは興味深いもので、同社はそのための良いチームを擁している。そのアプローチが上手くいくかどうか注視するとしよう。
[原文へ]

(翻訳:Tsubouchi)

23andMe、次世代シークエンシング路線からは撤退

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23andMeは次世代シークエンンシングのサービスを継続せず、報道によればそのプロジェクト担当の人員を解雇したということだ。

約6人の社員が同社のユタ州ソルトレークに拠点を置く研究所から解雇されたとBuzzFeedが最初に報じている。LinkedInで我々独自に数えたところによると研究所の少なくとも5人のメンバーが解雇され、その中には2014年にプロジェクト・リーダーとして雇用され、同社の医務部長を務めていたJill Hagenkord博士が含まれる。

 

同社はその主力商品である、199ドルの遺伝マーカー・テストキットの販売は続ける予定だ。同キットを使えば健康状態と系統解析の情報が得られ、同社は世界中のより多様な人種の遺伝情報を積極的に収集、その質、量ともに拡充させる方針だと、同社の創業者であるAnne Wojcicki9月にTechCrunchに対し述べた。

しかしながら、DNA配列のより現代的な決定法で、一般に次世代シークエンンシングと呼ばれる技術に対しては、同社の主眼からは外れるようだ。

次世代シークエンンシングというのは、遺伝コードの細部に至るまでの詳細を調べるいくつもの方法に対して使われる、いわゆる総称だ。この新しいテクノロジーはこの数年間で価格が劇的に低下し、研究者は病気と思しき対象に対してより詳細な情報を得ることが出来るようになっている。結果として、Helix、Color Genomics、Genosといった企業がこの領域に参入し、この遺伝情報を詳細に調べるアプローチを使って、あなたをあなたたらしめているものは何かといった問いや、また自分の遺伝子関連で知りたいことに関しての答えを提供してくれる。

23andMeは2012年にそのテクノロジーに着目し、エクソーム・シークエンシングの予備的な研究を始めた。同社は当時、研究の成功とともに、「全ゲノム配列決定のコストが低下し、それが皆の手の届く選択肢となった時に備える」と述べた。<

TechCrunchは23andMeに対し、なぜその方向性を取りやめることにしたかについて問い合わせたが、それについての回答は今の所、得られていない。しかしながら、同社創業者のAnne WojcickiはBuzzFeedに対して、今回の件はサービスに対する需要の低下、金銭的要因や規制といったこととは一切関係ないと語った。代わりに、彼女によれば、「我々は現在手一杯」であり、それは恐らく現在扱うには少し複雑すぎるだけ、ということのようだ。

「シークエンシングに関しては多くの時間を費やしましたが、それに関しての理解が進めば進むほど私たちはその複雑さも理解したため、取り敢えず今は中心となる事業に集中すると判断するに至ったのです」と、彼女はBuzzFeedに語った。

この件に関して何か進展があれば続報をお届けする。

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(翻訳:Tsubouchi)

九州大学の研究グループがマウスの皮膚細胞からマウスの赤ちゃんを作った

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【抄訳】
日本の九州大学の研究グループが、マウスの皮膚の細胞を、卵細胞を使わずに、赤ちゃんマウスにすることに成功した

その技術は、卵子に精子を受精させる通常の方法ではなく、発生に必要な染色体ペアにより細胞を成長させる方法を使っている。

このような方法の成功はこれが初めてであり、今回も、それほどたくさんのマウスの細胞で‘誕生’が見られたわけではない。Natureに発表された論文には、そう書かれている。

今は話がマウスで済んでいるが、今後はたとえば、年齢的に卵子を生産できない女性が、この技術で自分の“生物学的な”子を作ることも考えられる。ドナーの卵子がなくても、二人の男性が自分たちの子を作ることもできるだろう。

この研究は、2007年のノーベル賞受賞者Shinya Yamanaka(山中伸弥)の、幹細胞に関する研究がベースだ。Yamanakaは、大人の皮膚細胞から多能性幹細胞を作れることを示した。多能性とは、体内で使われているそのほかのどんなタイプの細胞でも作れる、という意味だ。それは、人間の受精卵を破壊しなくてもパーキンソン病などの治療や研究に必要な幹細胞を作り出せるという意味で、画期的な発見だった。

多能性細胞は文字通り多能だから、性を担う細胞も作れるだろう。それを2012年に、当時京都大学にいたKatsuhiko Hayashi(林克彦)が試みた(2014年から九大)。しかしそれは、きわめて困難な研究で、今でもまだ研究者たちは、卵子や精子に似たようなものは作れても、それらが実際に胎児へと発生したことはない。

やがて彼らは、マウスの皮膚細胞から成熟した卵細胞を作れることを発見した。それには条件があり、その皮膚細胞は、マウスの胎児の卵巣または精巣から取られた細胞に包まれて(収容されて)いなければならない。この操作により幹細胞を卵巣や精巣らしきものへと形成できるが、この実験ないし実証を人間の胎児の細胞と人間の皮膚の細胞で行うことは、規制や反対意見のため、現段階では困難である。

そこでHayashiによると彼は現在、胎児の細胞に代わるものとして、何らかの人工的な試材の利用を検討している。

しかし、法律等の規制があるかぎり、この方法でも、簡単に人間を作り出すことはできない。日本の法律は、人工的にないし加工によって作った人間の細胞を受精させることを、研究目的であっても、禁じている。

【中略】

しかし、研究や実験のプロセスそのものも、まだきわめて初期的段階である。この日本の研究では、マウスの皮膚細胞を上記のように加工した胚からの発生成功率がわずか3.5%だった。対して、今日の一般的な体外受精の成功率はほぼ30%、(受精卵の)体外培養の成功率はほぼ40%である。

【後略】

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

未来的遺伝子工学技術CRISPRはノーベル賞をもらえなかったがテレビのホラードラマのテーマにはなった

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CRISPRは、万能の奇跡的革新的技術ともてはやされるところが、グラフェンに似ている。それは、科学オタクたちが異口同音に、あらゆる産業を変えると騒ぎ立てる、エキサイティングな新技術なのだ。しかもこの遺伝子編集ツールは、蚊からマラリアを取り除くとか、HIVの感染状態を非感染状態にするなど、なかなかすごい生命変更の成果を上げつつある。

しかし中には、優秀な科学者たちですら予見できなかった応用もある。それは、Jennifer Lopezがプロデューサーを務めるNBCの未来的バイオ恐怖犯罪ドラマに、アイデアとヒントを提供することだ。

このようなプロジェクトを正当に評価する才能は、ぼくにはなさそうなので、Hollywood Reporter誌の紹介記事から引用しよう。そのNBCの連続ドラマの題が、なんとCRISPRなのだ。世界を変えると言われる技術の名前を、そのディストピアなドラマの題名に、いただいちゃってるのだ。

<引用>

この番組の主役は、国立疾病管理センター(CDC)の科学者と、その相方、FBIの捜査官だ。Castleと同じパターンで、二人がチームを組み、自分が神だと信ずる悪魔的な天才、主人公の科学者の以前のボスをやっつけようと頑張るとき、二人の間に恋が芽生える。

えー、そして、二人はどうやら、“人間のゲノムのコントロールをめぐって悪と戦い、未来における人類の種の保全と、すべての疾病の根絶を目指す”、らしいのだ。

これぞ、科学でございます!

脚本はBates MotelのAnthony Cipriano。前作の舞台がホスピタリティー産業〔とくにモーテル〕だったように、今回は遺伝子科学が、たまたま舞台なのだ。

良い点は、CRISPRがアメリカ人大衆の日常的雑談の話題になり、言葉が大衆化し普及すること。良くない点は、SpringfieldでBurns氏が太陽をブロックしようとしたり、鮫をレーザーでやっつけようとしたのと同じように、遺伝子科学が俗悪なエセ科学のネタになってしまうことだ。

CRISPRは、ノーベル賞をもらいそこねたけど、今度はなんか、別のものをもらったようだね。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))